(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-12
(54)【発明の名称】単結晶型多元正極材料、その製造方法、及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240305BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240305BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560160
(86)(22)【出願日】2022-12-30
(85)【翻訳文提出日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 CN2022144086
(87)【国際公開番号】W WO2023169064
(87)【国際公開日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】202211659558.1
(32)【優先日】2022-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517232741
【氏名又は名称】ベイジン イースプリング マテリアル テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】フー,イーサァン
(72)【発明者】
【氏名】リー,シャンシャン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,シュンリン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,ヤーフェイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,イェンビン
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB01
4G048AB04
4G048AB06
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD07
4G048AE05
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA08
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、単結晶型多元正極材料、その製造方法、及びリチウムイオン電池を開示する。前記単結晶型多元正極材料の単結晶粒子についてSEMにより測定された最長対角線の長さと最短対角線の長さとの比が真円度Rとして定義され、かつRは1以上であり、前記単結晶型多元正極材料の単結晶粒子のD10、D50、及びD90が、K90=(D90-D10)/D50を満たし、K90とRとの積が1.20~1.40である。前記単結晶型多元正極材料は、形態がより丸く規則的であり、その単結晶粒子は、サイズが均一で、凝集が少なく、粘着が少なく、圧縮密度が高く、レート特性が良好で、サイクル特性に優れるという特徴を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶型多元正極材料であって、
前記単結晶型多元正極材料の単結晶粒子についてSEMにより測定された最長対角線の長さと最短対角線の長さとの比が真円度Rとして定義され、かつ、Rは1以上であり、
前記単結晶型多元正極材料の単結晶粒子のD
10、D
50、及びD
90が、K
90=(D
90-D
10)/D
50を満たし、K
90とRとの積が1.20~1.40である、ことを特徴とする単結晶型多元正極材料。
【請求項2】
Rは、1~1.2であり、及び/又は、
K
90とRとの積が、1.25~1.35であり、及び/又は、
K
90は、1.18~1.25、好ましくは、1.20~1.22である、請求項1に記載の単結晶型多元正極材料。
【請求項3】
式Iで表される構造を有する、請求項1に記載の単結晶型多元正極材料。
Li
1+a(Ni
xCo
yMn
zG
b)M
cO
2-d 式I
(式中、-0.05≦a≦0.3、0≦b≦0.05、0≦c≦0.05、0.5≦x<1、0<y<0.5、0<z<0.5であり、dは正電荷と負電荷の数を等しくする値であり、Gは、Ti、W、V、Ta、Zr、La、Ce、Er、Sr、Si、Al、B、Mg、Co、F、及びYのうちの1種又は複数種であり、Mは、Sr、F、B、Al、Nb、Co、Mn、Mo、W、Si、Mg、Ti、及びZrのうちの1種又は複数種であり、
好ましくは、式中、0≦a≦0.2、0.0001≦b≦0.005、0.0001≦c≦0.005、0.5≦x≦0.95、0.01≦y≦0.4、0.01≦z≦0.4であり、及び/又は、
Gは、Ti、W、Zr、Sr、Si、Al、B、及びFのうちの1種又は複数種であり、及び/又は、
Mは、Sr、F、B、Al、W、Si、及びTiのうちの1種又は複数種である。)
【請求項4】
凝集率をBとし、
Bは、0~3.0%、好ましくは、0.8~2.4%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の単結晶型多元正極材料。
【請求項5】
前記単結晶型多元正極材料の単結晶粒子の最長対角線の長さと最短対角線の長さとの平均値は、結晶粒サイズP
50であり、P
50は、1.5~3.0μm、好ましくは、2.0~2.4μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の単結晶型多元正極材料。
【請求項6】
単結晶型多元正極材料の製造方法であって、
ニッケル・コバルト・マンガン前駆体とリチウム源を含有する混合物を第1焼結に付し、得た生成物を破砕して、単結晶正極材料中間体を得るステップ(1)と、
前記単結晶正極材料中間体を第2焼結に付し、単結晶型多元正極材料を得るステップ(2)と、を含み、
前記第1焼結は、順次行われる昇温段階Iと保温段階Iを含み、前記昇温段階Iは酸素ガス雰囲気下で行われ、前記保温段階Iは空気雰囲気下で行われ、
前記第2焼結の温度が前記第1焼結の温度以下である、ことを特徴とする単結晶型多元正極材料の製造方法。
【請求項7】
ステップ(1)では、前記ニッケル・コバルト・マンガン前駆体は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含有する酸化物及び/又は水酸化物から選択され、及び/又は、
前記リチウム源は、炭酸リチウム及び/又は水酸化リチウムから選択され、及び/又は、
前記混合原料は添加剤をさらに含み、前記添加剤は、Gを含有する化合物から選択され、好ましくは、Gを含有する酸化物、水酸化物、炭酸塩、及びフッ化物のうちの少なくとも1種、より好ましくは、ジルコニア、炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、三酸化タングステン、酸化チタン、フッ化アルミニウム、及び酸化ホウ素のうちの少なくとも1種である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
ステップ(1)では、前記昇温段階Iの条件は、昇温時間が2~10h、好ましくは、6~8hであることをさらに含み、及び/又は、
前記保温段階Iの条件は、保温温度が600~1100℃、好ましくは、900~1000℃であること、保温時間が6~12h、好ましくは、8~10hであることをさらに含み、及び/又は、
前記ニッケル・コバルト・マンガン前駆体の中央粒度D
50と前記単結晶正極材料中間体の中央粒度D′
50とが、式IIを満たす、請求項6又は7に記載の製造方法
|(D
50-D′
50)/D
50|<5% 式II
【請求項9】
ステップ(2)では、まず、前記単結晶正極材料中間体と被覆剤を混合し、次に、得た混合物を前記第2焼結に付し、
前記被覆剤は、Mを含有する化合物から選択され、好ましくは、Mを含有する酸化物、水酸化物、炭酸塩、及びフッ化物のうちの少なくとも1種、より好ましくは、炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、三酸化タングステン、酸化チタン、フッ化アルミニウム、及び酸化ホウ素のうちの少なくとも1種である、請求項6~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
ステップ(2)では、前記第2焼結は、空気雰囲気下で行われ、及び/又は、
前記第2焼結は、順次行われる昇温段階IIと保温段階IIを含み、及び/又は、
前記昇温段階IIの条件は、昇温時間が2~10h、好ましくは、4~7hであることをさらに含み、及び/又は、
前記保温段階IIの条件は、保温温度が500~900℃、好ましくは、600~800℃であること、保温時間が6~12h、好ましくは、8~10hであることをさらに含む、請求項6~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
単結晶型多元正極材料の結晶粒サイズ変化値を△P(単位:μm)、同一の焼結ステップの温度の変化値を△T(単位:℃)とし、同一の焼結ステップの時間の変化値を△t(単位:h)として定義すると、これらの3つは、△P=ω△T+γ△t(ここで、ω=0.02μm/℃、γ=0.1μm/h)を満たす、請求項6~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項6~11のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された単結晶型多元正極材料。
【請求項13】
請求項1~5又は12のいずれか1項前に記載の単結晶型多元正極材料を含有する、ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2022年12月22日に提出された中国特許出願202211659558.1の利益を主張しており、当該出願の内容は引用により本明細書に組み込まれている。
【0002】
技術分野
本発明は、正極材料の製造分野に関し、具体的には、単結晶型多元正極材料、その製造方法、及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、電圧が高く、エネルギー密度が大きく、サイクル特性が良く、自己放電が小さく、メモリ効果がないなどの優れた利点がある。正極材料は、リチウムイオン電池の重要な構成部分として、電池の容量、特性やコストに対して決定的な役割を果たす。ニッケル・コバルト・マンガン複合材料は、最も人気のあるリチウムイオン電池の正極材料の1種であり、高い1グラムあたりの容量と良好なサイクル安定性を持っている。多元正極材料は、粒子の存在状態によって凝集型と単結晶型に分けられる。凝集型多元正極材料は、ロールプレス時に球状粒子が割れやすく、割れた粒子間から電解液が浸透し、一連の副作用を引き起こすため、加工プロセスに大きな課題をもたらしている。正極材料をより安定な単結晶構造に設計することは上記の問題を有効に回避することができる。
【0004】
従来の単結晶型正極材料は、製造過程中の条件の制限、特に焼結雰囲気の影響を受け、単結晶粒子の角が明らかで、真円度や規則度が悪く、あるいは単結晶の結晶粒間の粘着が深刻で、結晶粒の独立性が悪く、さらに前駆体のような形態を保持してしまう。従来技術では、単一の雰囲気(空気又は酸素ガス)を用いて焼結することが多いためである。純粋な空気で焼結すると、加工コストを下げることができるが、空気条件下でリチウム塩が粒子に溶融浸透しにくく、粒子表面を被覆し、昇温成長段階で不規則な一次粒子を形成しやすく、保温融合段階では、粒子の表面を覆うリチウムは表面で粒子間を融合させ、粒子を急速に成長させ、焼結した単結晶粒子の角が明らかで、真円度や規則度が悪く、極板のロールプレス過程で不規則な粒子が、より割れやすく、又は組み立てる時にセパレータを突き抜け、電池のサイクル特性を劣化させ、容量の突然低下を招く。一方、純粋な酸素での焼結を採用すると加工コストが増加するだけでなく、酸素ガス雰囲気下でリチウム塩が粒子内部に融着するため、昇温段階では一次粒子は比較的丸く規則的に形成されるが、保温段階では粒子間の融合が困難であり、粒子が単結晶に成長しにくいか、あるいは、形成された結晶粒子間の粘着が深刻で、結晶粒の独立性が悪く、さらに前駆体のような形態を保持してしまう。
【0005】
そのため、形態が丸く、サイズが均一で、凝集が少なく、粘着が少ない単結晶型正極材料及びその工業的生産に適した製造方法を提供することが重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来技術に存在する、単結晶正極材料の結晶粒サイズが不均一で、粒子同士が粘着しやすく、単結晶の真円度や規則度が悪いという問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成させるために、本発明の第1態様は、単結晶多元正極材料の単結晶粒子についてSEMにより測定された最長対角線の長さと最短対角線の長さとの比が真円度Rとして定義され、かつ、Rは1以上であり、
前記単結晶多元正極材料の単結晶粒子のD10、D50、及びD90が、K90=(D90-D10)/D50を満たし、K90とRとの積が1.20~1.40である、単結晶多元正極材料を提供する。
【0008】
本発明の第2態様は、
ニッケル・コバルト・マンガン前駆体とリチウム源を含有する混合物を第1焼結に付し、得た生成物を破砕して、単結晶正極材料中間体を得るステップ(1)と、
前記単結晶正極材料中間体を第2焼結に付し、単結晶多元正極材料を得るステップ(2)と、を含み、
前記第1焼結は、順次行われる昇温段階Iと保温段階Iを含み、前記昇温段階Iは酸素ガス雰囲気下で行われ、前記保温段階Iは空気雰囲気下で行われ、
前記第2焼結の温度が前記第1焼結の温度以下である、単結晶多元正極材料の製造方法を提供する。
【0009】
本発明の第3態様は、第2態様に記載の製造方法によって製造された単結晶型多元正極材料を提供する。
【0010】
本発明の第4態様は、第1態様又は第3態様に記載の単結晶型多元正極材料を含有するリチウムイオン電池を提供する。
【0011】
上記の技術案によれば、本発明による製造方法は、焼結工程を最適化させることから、第1焼結過程において、昇温段階では酸素ガス雰囲気、保温段階では空気雰囲気を用いることで、単結晶形態を最適化させ、また、第2焼結と組み合わせて得られた単結晶型多元正極材料は、特定の真円度や均一性を持ち、その単結晶粒子は、形態がより丸く規則的で、サイズが均一であり、凝集が少なく、粘着が少なく、これを用いて電極を製造する場合に圧縮密度がより高くなり、また、加工や電池のサイクル中に割れや脱落が生じにくく、これによって、電池のエネルギー密度、レート特性、及びサイクル安定性を向上させる。
【0012】
さらに、単結晶正極材料は、非単結晶正極材料よりも、サイクル寿命、レート特性、安定性、安全性や加工性により優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例1で製造された単結晶型多元正極材料のSEM像である。
【
図2】本発明の実施例2で製造された単結晶型多元正極材料のSEM像である。
【
図3】本発明の実施例3で製造された単結晶型多元正極材料のSEM像である。
【
図4】本発明比較例1で製造された単結晶型多元正極材料のSEM像である。
【
図5】本発明比較例2で製造された単結晶型多元正極材料のSEM像である。
【
図6】本発明比較例3で製造された単結晶型多元正極材料のSEM像である。
【
図7】本発明比較例4で製造された単結晶型多元正極材料のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書で開示される範囲の端点及び任意の値は、正確な範囲又は値に限定されず、これらの範囲又は値に近い値を含むと理解されるべきである。数値範囲の場合、各範囲の端点値の間、各範囲の端点値と個々のポイント値の間、及び個々のポイント値の間は、互いに組み合わされて1つ又は複数の新しい数値範囲を得ることができ、これらの数値範囲は、本明細書で具体的に開示されるものとみなされるべきである。
【0015】
本発明では、明示的な説明がない限り、「第1」及び「第2」はいずれも順序を表すものではなく、個々の材料又は操作を制限するものでもなく、個々の材料又は操作を区別するために過ぎず、例えば、「第1焼結」及び「第2焼結」の「第1」及び「第2」は、同一の焼結操作ではないことを表すものに過ぎない。
【0016】
特に断らない限り、本発明の室温は25±2℃を意味する。
【0017】
本発明の第1態様は、単結晶型多元正極材料を提供し、前記単結晶型多元正極材料の単結晶粒子についてSEMにより測定された最長対角線の長さと最短対角線の長さとの比が真円度Rとして定義され、かつ、Rは1以上であり、前記単結晶型多元正極材料の単結晶粒子のD10、D50、及びD90が、K90=(D90-D10)/D50を満たし、K90とRとの積が1.20~1.40である。
【0018】
単結晶正極材料では、その単結晶構造の優劣は正極材料の電気化学的特性に直接影響し、本発明者は、研究をした結果、上記の特定のパラメータを満たす単結晶型多元正極材料では、その形態がより丸く規則的で、粒子のサイズが均一で、凝集が少なく、粘着が少なく、正極材料を用いて電極を製造するときの圧縮密度がより高くなり、加工や電池サイクル中に割れや脱落が生じにくく、電池のエネルギー密度やサイクル安定性の向上に有利である。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記単結晶型多元正極材料の単結晶粒子についてSEMにより測定された最長対角線の長さと最短対角線の長さとの比が真円度Rとして定義され、かつ、Rは1以上であり、R値が1に近いほど、単結晶粒子の最長対角線と最短対角線の長さが近く、材料の形態がより丸く規則的であることを示す。より丸く規則的な単結晶粒子は、極板のロールプレス中の正極材料の割れを防止したり、電池を組み立てるときに正極材料の不規則的な角部がセパレータを突き刺すことを防止したりすることに有利であり、電池の安全性やサイクル特性の向上に有利である。本発明では、Rは、SEM像から300個の単結晶粒子をサンプルとしてランダムに選択して得た統計結果である。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、Rは、1~1.2である。上記の好ましい実施形態による単結晶型多元正極材料の単結晶粒子は、形態がより丸く規則的で、電池の安全性やサイクル特性の更なる向上に有利である。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記単結晶型多元正極材料の単結晶粒子について粒度試験を行って得られた体積分布10%に対応する粒度をD10、体積分布50%に対応する粒度をD50、体積分布90%に対応する粒度をD90として定義し、前記単結晶型多元正極材料の均一性をK90として定義すると、K90=(D90-D10)/D50であり、K90とRとの積が1.20~1.40である。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、K90とRとの積は1.25~1.35である。上記の好ましい実施形態による単結晶型多元正極材料は、高い容量とサイクル維持率を持ち、また、正極材料の圧縮密度の更なる向上に有利である。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、前記単結晶型多元正極材料の粒度D10は1.5~2.5μmである。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、前記単結晶型多元正極材料の粒度D50は3~5μmである。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、前記単結晶型多元正極材料の粒度D90は6~8μmである。
【0026】
本発明では、前記粒度試験は、Marvern社のHydro 2000mu型番のレーザー粒度分析装置を用いて行われる。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態によれば、K90の値が小さいほど、単結晶粒子の均一性に優れ、K90の値が大きいほど、単結晶粒子の均一性が悪い。好ましくは、K90は、1.18~1.25、好ましくは、1.20~1.22である。上記の好ましい実施形態による単結晶型多元正極材料は、単結晶粒子の均一性により優れ、グラデーションを増大し、材料の圧縮密度を高めるのに有利である。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、前記単結晶型多元正極材料は、式Iで示される構造を有する。
Li1+a(NixCoyMnzGb)McO2-d 式I
(式中、-0.05≦a≦0.3、0≦b≦0.05、0≦c≦0.05、0.5≦x<1、0<y<0.5、0<z<0.5であり、dの値は、正電荷と負電荷の数を等しく確保し、Gは、Ti、W、V、Ta、Zr、La、Ce、Er、Sr、Si、Al、B、Mg、Co、F、及びYのうちの1種又は複数種であり、Mは、Sr、F、B、Al、Nb、Co、Mn、Mo、W、Si、Mg、Ti、及びZrのうちの1種又は複数種であり、
より好ましくは、式中、0≦a≦0.2、0.0001≦b≦0.005、0.0001≦c≦0.005、0.5≦x≦0.95、0.01≦y≦0.4、0.01≦z≦0.4である。
より好ましくは、式中、Gは、Ti、W、Zr、Sr、Si、Al、B、及びFのうちの1種又は複数種であり、及び/又は、Mは、Sr、F、B、Al、W、Si、及びTiのうちの1種又は複数種である。)
【0029】
上記の好ましい実施形態によれば、電池のエネルギー密度、レート特性、及びサイクル安定性の更なる向上に有利である。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態によれば、式I中、G及びMのいずれもカチオンであれば、d=0であり、G及びMのいずれもアニオンであれば、d=b+cであり、Gがアニオンであり、Mがカチオンであれば、d=bであり、Mがアニオンであり、Gがカチオンであれば、d=cである。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、前記単結晶型多元の正極材料の凝集率をB、SEMにより測定された該単結晶型多元正極材料の単結晶粒子の任意の300個のうち凝集形態を有する単結晶粒子の個数をnとして定義すると、B=n/300*100%であり、かつ、Bは、0~3.0%、好ましくは、0.8~2.4%である。凝集率Bが大きいほど、正極材料の単結晶化のレベルが低く、逆には、単結晶化のレベルが高い。電池の高電圧又は長いサイクルの場合、粘着されている正極材料粒子に脱落又は割れが生じやすく、その結果として、電池パックの故障が生じる。一般には、凝集率Bの値が小さいほど、サイクル特性に優れる。上記の好ましい実施形態による単結晶型多元正極材料は、単結晶粒子の凝集率が小さく、単結晶化のレベルが高く、粘着が少なく、高電圧又は長いサイクルの場合に脱落又は割れが生じにくく、電池のエネルギー密度、レート特性、及びサイクル安定性の更なる向上に有利である。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、前記単結晶型多元正極材料についてSEMにより測定された任意の300個の単結晶粒子の最長対角線の長さと最短対角線の長さとの平均値を結晶粒サイズP50として定義すると、P50は、1.5~3.0μm、好ましくは、2.0~2.4μmである。P50の値が大きすぎると、正極材料の内部でのリチウムイオンの移動距離が増大し、容量の発揮が影響を受け、P50の値が小さいほど、材料が凝集し、単結晶材料の形成ができない場合もあり、材料のサイクル特性が影響を受ける。上記の好ましい実施形態の単結晶型多元正極材料を用いると、前記単結晶型多元正極材料の容量及びサイクル特性の更なる向上に有利である。
【0033】
本発明では、前記単結晶型多元正極材料の製造において、2段焼結プロセスが使用されており、第1焼結では、昇温段階は酸素ガス雰囲気、保温段階は空気雰囲気を用いることによって、単結晶粒子は、形態がより丸く規則的で、サイズがより均一で、凝集や粘着がより少なく、圧縮密度がより高く、電池的エネルギー密度、レート特性、及びサイクル安定性の向上に有利である。
【0034】
本発明の第2態様は、単結晶型多元正極材料の製造方法を提供し、前記製造方法は、
ニッケル・コバルト・マンガン前駆体とリチウム源を含有する混合物を第1焼結に付し、得た生成物を破砕して、単結晶正極材料中間体を得るステップ(1)と、
前記単結晶正極材料中間体を第2焼結に付し、単結晶型多元正極材料を得るステップ(2)と、を含み、
前記第1焼結は、順次行われる昇温段階Iと保温段階Iを含み、前記昇温段階Iは酸素ガス雰囲気下で行われ、前記保温段階Iは空気雰囲気下で行われ、
前記第2焼結の温度が前記第1焼結の温度以下である。
【0035】
従来の単結晶正極材料の製造方法のほとんどは、単一雰囲気(空気又は酸素ガス)を用いて焼結を行うため、単結晶粒子は、角が明らかで、真円度や規則度が悪いか、又は単結晶粒子同士の粘着が深刻で、独立性が悪く、さらに前駆体のような形態を維持している。一方、本発明者は、研究を行った結果、ニッケル・コバルト・マンガン前駆体とリチウム源の混合物の固相反応が成長段階と融合段階の2つの段階に分けられ、成長段階は温度の低い昇温段階で、すなわち、リチウム源が前駆体粒子の内部に溶融浸透し、初期反応が起こり、前駆体を構成する繊維を微細な一次粒子に成長させ、融合段階は温度の高い保温段階で、すなわち、リチウム源が微細な一次粒子とさらに反応し、微細な一次粒子を大きな粒子に融合させるプロセスであることを見出した。ニッケル・コバルト・マンガン前駆体とリチウム源の反応の昇温核形成段階(第1焼結の昇温段階I)では酸素ガス雰囲気を用いることによって、繊維による一次粒子をよりふっくらと丸くし、保温焼結成長段階(第1焼結の保温段階I)では空気雰囲気を用いることによって、単結晶粒子が融合して大きな単結晶粒子になることを容易にし、二次焼結(第2焼結)によって正極材料粒子の完成品をより丸く規則的にし、得られた単結晶型多元正極材料の形態をより丸く規則的にし、粒子のサイズが均一で、凝集が少なく、粘着が少なく、圧縮密度が高く、レート特性が良好で、サイクル特性に優れるという特徴を有する。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ステップ(1)では、前記ニッケル・コバルト・マンガン前駆体は、本分野に公知の正極材料の製造に適したニッケル・コバルト・マンガン前駆体であってもよく、これについて特に限定はなく、いずれも本発明の発明目的を所定の程度まで達成できる。好ましくは、前記ニッケル・コバルト・マンガン前駆体は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含有する酸化物及び/又は水酸化物から選択される。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ステップ(1)では、前記リチウム源は、本分野に公知の正極材料の製造に適したリチウム源であってもよく、これについて特に限定はなく、いずれも本発明の発明目的を所定の程度まで達成できる。好ましくは、前記リチウム源は、炭酸リチウム及び/又は水酸化リチウムから選択される。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、ステップ(1)では、化学量論比によると、前記リチウム源の使用量は、1.02≦[n(Li)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦1.06を満たす。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、ステップ(1)では、前記混合原料は添加剤をさらに含み、前記添加剤は、Gを含有する化合物から選択され、好ましくは、Gを含有する酸化物、水酸化物、炭酸塩、及びフッ化物のうちの少なくとも1種、より好ましくは、ジルコニア、炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、三酸化タングステン、酸化チタン、フッ化アルミニウム、及び酸化ホウ素のうちの少なくとも1種である。Gは、上記のように選択すればよく、ここで詳しく説明しない。本発明では、前記添加剤は、材料の単結晶形成、内部抵抗低下、材料のサイクル安定性向上に有利である。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、ステップ(1)では、化学量論比によると、G元素換算の前記添加剤の使用量は、0.0001≦[n(G)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦0.005を満たす。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ステップ(1)では、前記昇温段階Iは酸素ガス雰囲気下で行われ、ニッケル・コバルト・マンガン前駆体とリチウム源の反応の昇温核形成段階(すなわち、第1焼結の昇温段階I)では酸素ガス雰囲気を用いることによって、繊維による一次粒子がよりふっくらと丸くなる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、ステップ(1)では、前記昇温段階Iの条件は、昇温時間が2~10h、好ましくは、6~8hであることをさらに含む。前記昇温段階Iでは、上記の昇温時間かけて保温段階Iの保温温度まで昇温する。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ステップ(1)では、前記保温段階Iは空気雰囲気下で行われ、保温焼結成長段階(第1焼結の保温段階I)に空気雰囲気を用いることによって、単結晶粒子同士が融合して大きな単結晶粒子になることがより容易になる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、ステップ(1)では、前記保温段階Iの条件は、保温温度が600~1100℃、好ましくは、900~1000℃であること、保温時間が6~12h、好ましくは、8~10hであることをさらに含む。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、ステップ(1)では、前記ニッケル・コバルト・マンガン前駆体の中央粒度D50は3~5μmである。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、ステップ(1)では、前記単結晶正極材料中間体の中央粒度D′50は3~5μmである。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、ステップ(1)では、前記ニッケル・コバルト・マンガン前駆体の中央粒度D50と前記単結晶正極材料中間体の中央粒度D′50は、下記式IIを満たす。
|(D50-D′50)/D50|<5% 式II
【0048】
上記の好ましい実施形態によれば、単結晶粒子の粒度D10、D50、D90、及び均一性K90が上記の要件を満たす単結晶型多元正極材料が容易に得られる。
【0049】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ステップ(1)では、前記第1焼結と前記破砕とを組み合わせることによって、得た単結晶正極材料中間体の中央粒度D′50は上記の要件を満たす。前記破砕に使用される装置について特に限定はなく、中央粒度D′50が上記の要件を満たす単結晶正極材料中間体を得ることができればよく、好ましくは、前記破砕に使用される装置は、豆乳製造機、ジョークラッシャー、ダブルローラー、コロイドミル、メカニカルミル、及びジェットミルから選択される少なくとも1種である。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、ステップ(2)では、まず、前記単結晶正極材料中間体と被覆剤を混合し、次に、得た混合物を前記第2焼結に付し、前記被覆剤は、Mを含有する化合物から選択され、好ましくは、Mを含有する酸化物、水酸化物、炭酸塩、及びフッ化物のうちの少なくとも1種、より好ましくは、炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、三酸化タングステン、酸化チタン、フッ化アルミニウム、及び酸化ホウ素のうちの少なくとも1種である。Mは、上記のように選択してもよく、ここでは詳しく説明しない。本発明では、前記被覆剤は、遊離リチウムの減少、材料の高温・高電圧環境でのサイクル安定性の向上に有利である。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、ステップ(2)では、化学量論比によると、M元素換算の前記被覆剤の使用量は、0.0001≦[n(M)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦0.005を満たす。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記ニッケル・コバルト・マンガン前駆体、前記リチウム源、前記添加剤、及び前記被覆剤の使用量は、得た単結晶型多元正極材料中、n(Li):n(Ni):n(Co):n(Mn):n(G):n(M)=(1+a):x:y:z:b:cであるようにし、ここで、a、b、c、x、y、zの値は、上記のように定義、選択してもよく、ここでは詳しく説明しない。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、ステップ(2)では、前記第2焼結は、空気雰囲気下で行われる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、ステップ(2)では、前記第2焼結は、順次行われる昇温段階IIと保温段階IIを含む。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、ステップ(2)では、前記昇温段階IIの条件は、昇温時間が、2~10h、好ましくは、4~7hであることをさらに含む。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、ステップ(2)では、前記保温段階IIの条件は、保温温度が、500~900℃、好ましくは、600~800℃であること、保温時間が、6~12h、好ましくは、8~10hであることをさらに含む。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態によれば、好ましくは、単結晶型多元正極材料の結晶粒サイズの変化値を△P(単位:μm)、同一の焼結ステップの温度の変化値を△T(単位:℃)、同一の焼結ステップの時間の変化値を△t(単位:h)として定義すると、これら3つは、△P=ω△T+γ△t(ω=0.02μm/℃、γ=0.1μm/h)を満たす。例えば、第1焼結の保温段階Iの保温温度がT1(℃)、保温時間がt1(h)である場合、得た単結晶型多元正極材料の結晶粒サイズP50はP1(μm)であり、第1焼結の保温段階Iの保温温度がT2(℃)、保温時間がt2(h)である場合、得た単結晶型多元正極材料の結晶粒サイズP50はP2(μm)であり、すなわち、△Tは、T1とT2との差の絶対値(即ち、|T1-T2|℃)であり、△tは、t1とt2との差の絶対値(即ち、|t1-t2|h)であり、△Pは、P1とP2との差の絶対値(即ち、|P1-P2|μm)であり、かつ、△P=ω△T+γ△tである。
【0058】
本発明の第3態様は、第2態様に記載の製造方法によって製造された単結晶型多元正極材料を提供する。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記単結晶型多元正極材料は、本発明の第1態様に記載の単結晶型多元正極材料と同様又は類似であるため、ここでは詳しく説明しない。
【0060】
本発明の第4態様は、第1態様又は第3態様に記載の単結晶型多元正極材料を含有するリチウムイオン電池を提供する。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明について詳細に説明する。
【0062】
以下の実施例及び比較例では、特に断らない限り、使用される原料はすべて市販品である。
【0063】
以下の実施例及び比較例では、関連するパラメータは、以下の方法によって測定される。
【0064】
(1)形態の測定:日本日立HITACHI社製のS-4800型番の走査型電子顕微鏡を用いて測定され、真円度R、凝集率B、及び結晶粒サイズP50は、いずれもSEM像によって測定される。
【0065】
(2)粒度D10、D50、D90:Marvern社製のHydro 2000mu型番のレーザー粒度分析装置によって測定される。
【0066】
(3)圧縮密度:バクスター社製のBT-30型番のタップ密度試験機によって測定される。
【0067】
(4)電気化学的特性の測定
以下の実施例及び比較例では、単結晶型多元正極材料の電気化学的特性は、CR2032ボタン型電池を用いて測定される。
CR2032ボタン型電池の製造工程は、具体的には、以下の通りである。
極板の製造:単結晶型多元正極材料、導電性カーボンブラック、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を95:2:3の質量比で適量のN-メチルピロリドン(NMP)とよく混合し、均一なスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して、120℃で12h乾燥した後、100MPaの圧力を用いてプレス成形し、直径15.8mm、厚さ3.2mmの正極板を得る。単結晶型多元正極材料の担持量は15.5mg/cm2である。
電池の組み立て:水含有量と酸素含有量のいずれも5ppm未満の、アルゴンガスで満たされたガスグローブボックス内で、正極板、セパレータ、負極板、及び電解液を組み立ててCR2032ボタン型電池にした後、6h静置する。負極板は、直径15.8mm、厚さ1mmの金属リチウムシートを用い、セパレータは、厚さ25μmのポリプロピレン微多孔膜(Celgard 2325)を用い、電解液は、1mol/LのLiPF6、炭酸ビニル(EC)と炭酸ジエチル(DEC)を等量で混合した液体を用いる。
電気化学的特性測定
以下の実施例及び比較例では、深セン新威爾社製の電池測定システムを用いてCR2032ボタン型電池について電気化学的特性測定を行い、0.1Cの充放電電流の密度を100mA/gとする。
充放電の電圧区間を3.0~4.4Vに制御して、室温で、ボタン型電池を0.1C及び0.3Cで充放電測定をそれぞれ行い、単結晶型多元正極材料の充放電比容量を評価する。
高温サイクル特性測定:充放電の電圧区間を3.0~4.4Vに制御して、60℃で保温しながら、ボタン型電池を0.1Cで2サイクル充放電し、次に、1Cで80サイクル充放電し、単結晶型多元正極材料の高温サイクル容量維持率を評価する。
レート特性測定:充放電の電圧区間を3.0~4.4Vに制御して、室温で、ボタン型電池を0.1Cで2サイクル充放電し、次に、0.3Cで1回サイクル充放電し、0.1C初回放電比容量と0.3C放電比容量との比によって多元正極材料のレート特性を評価する。
【0068】
実施例1
(1)ニッケル・コバルト・マンガン前駆体、リチウム源、及び添加剤を含有する混合物を第1焼結に付し、得た生成物を破砕して、単結晶正極材料中間体を得た。
ニッケル・コバルト・マンガン前駆体は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含有する水酸化物であり、その化学式が表2に示され、リチウム源、及び添加剤の種類及び各原料の使用量が表1に示され、破砕に使用される装置は豆乳製造機である。
第1焼結は、順次行われる昇温段階Iと保温段階Iであり、具体的な条件が表1に示される。
ニッケル・コバルト・マンガン前駆体の中央粒度D50と単結晶正極材料中間体の中央粒度D′50は表1に示される。
(2)この単結晶正極材料中間体を第2焼結に付し、単結晶型多元正極材料を得た。
第2焼結は、空気雰囲気下で行われ、順次行われる昇温段階IIと保温段階IIであり、具体的な条件が表1に示され、反応中の各生成物の化学式が表2に示される。
【0069】
実施例2
ステップ(1)では、第1焼結の保温段階Iの保温温度及び単結晶正極材料中間体の中央粒度D′50は具体的には表1に示される通りである以外、残りは実施例1の方法と同様にして、単結晶型多元正極材料を得た。
【0070】
実施例3
ステップ(1)では、第1焼結の保温段階Iの保温温度及び単結晶正極材料中間体の中央粒度D′50は具体的には表1に示される通りである以外、残りは実施例1の方法と同様にして、単結晶型多元正極材料を得た。
残りの実施例では、表1に示される点以外、実施例1の方法と同様にして、単結晶型多元正極材料をそれぞれ得た。
【0071】
比較例1
ステップ(1)では、第1焼結は空気雰囲気下で行われる以外、残りは実施例1の方法と同様にして、単結晶型多元正極材料を得た。
【0072】
比較例2
ステップ(1)では、第1焼結は酸素ガス雰囲気下で行われる以外、残りは実施例1の方法と同様にして、単結晶型多元正極材料を得た。
【0073】
比較例3
ステップ(1)では、第1焼結は空気雰囲気下で行われる以外、残りは実施例2の方法と同様にして、単結晶型多元正極材料を得た。
【0074】
比較例4
ステップ(1)では、第1焼結は酸素ガス雰囲気下で行われる以外、残りは実施例3の方法と同様にして、単結晶型多元正極材料を得た。
【0075】
比較例5
ステップ(1)では、得た単結晶正極材料中間体のD′50は3.64μmであり、|(D50-D′50)/D50|=13.3%である以外、残りは実施例3の方法と同様にして、単結晶型多元正極材料を得た。単結晶型多元正極材料の均一性K90は表3に示される。
【0076】
比較例6
ステップ(1)では、得た単結晶正極材料中間体のD′50は4.49μmであり、|(D50-D′50)/D50|=6.9%である以外、残りは実施例3の方法と同様にして、単結晶型多元正極材料を得た。単結晶型多元正極材料の均一性K90は表3に示される。
【0077】
【0078】
【0079】
測定例1
実施例及び比較例で得られた単結晶型多元正極材料のそれぞれについて、凝集率B、粒度D10、粒度D50、粒度D90、均一性K90、及び真円度Rの測定を行い、その結果を表3に示す。
【0080】
【0081】
測定例2
実施例及び比較例で得られた単結晶型多元正極材料について、結晶粒サイズP50と圧縮密度、及び電気化学的特性の測定を行い、その結果を表4に示す。
【0082】
【0083】
本発明は、実施例1~3、及び比較例1~4で得られた単結晶型多元正極材料の走査型電子顕微鏡(SEM)図を例示的に示し、それらは、それぞれ
図1~7に示される。図から分かるように、実施例2~3で得られた単結晶型多元正極材料(
図2、3)、及び比較例1~2で得られた単結晶型多元正極材料(
図4~5)と比べて、本発明の実施例1で得られた単結晶型多元正極材料(
図1)では、単結晶粒子は、より丸く規則的で、形態により優れていた。
【0084】
実施例2で得られた単結晶型多元正極材料(
図2)、及び比較例2で得られた単結晶型多元正極材料(
図5)では、単結晶粒子の結晶粒サイズP
50は、1.8μmであり、電子顕微鏡像から明らかに、粒子の一部が前駆体形態を維持しており、また、粒子間に粘着が存在し、一方、比較例2で得られた単結晶型多元正極材料と比べて、本発明の実施例2では、一次焼結において、酸素ガスと空気とを組み合わせた焼結プロセスにより得られた単結晶型多元正極材料では、粒子の独立性及び規則度がより優れていた。
実施例3で得られた単結晶型多元正極材料(
図3)、及び比較例1で得られた単結晶型多元正極材料(
図4)では、単結晶粒子の結晶粒サイズP
50は2.6μmであり、結晶粒子は大きく、独立性が良好であるが、規則度が劣るが、比較例1で得られた単結晶型多元正極材料と比べて、本発明の実施例3で得られた単結晶型多元正極材料では、単結晶粒子はより丸い。
【0085】
実施例1で得られた単結晶型多元正極材料、及び比較例3、4で得られた単結晶型多元正極材料では、単結晶粒子の結晶粒サイズP50は、すべて2.2μmであるが、比較例3、4で得られた単結晶型多元正極材料と比べて、本発明の実施例1で得られた単結晶型多元正極材料の単結晶粒子は、真円度及び独立の度合がいずれも優れていた。
上記の結果から明らかに、本発明による単結晶型多元正極材料は、形態がより丸く規則的で、単結晶粒子のサイズが均一で、凝集が少なく少、粘着が少なく、圧縮密度が高く、レート特性が良好で、サイクル特性に優れるという特徴を有する。
【0086】
実施例1~3及び比較例1、2の比較から分かるように、単結晶粒子の結晶粒サイズP50が2.0~2.4μmである場合、総合的特性が最も優れており、圧縮密度が最も高く、レート特性及び高温サイクル維持率が最も良好であり、容量が高レベルに維持された。P50<2.0μmである場合、圧縮密度が低下し、レート特性及び維持率が悪くなるものの、結晶粒子が小さくなって、粒子内部のリチウムイオンの移動経路が短くなるので、容量がわずかに向上した。P50>2.4μmである場合にも、圧縮密度が低下するが、低下の程度がP50<2.0μmの場合よりも小さかった。
【0087】
実施例2と比較例2、及び実施例3と比較例1の比較から、一次焼結に亘って空気雰囲気が使用される条件では、リチウム源が溶融した後、粒子の表面において結晶が外側から成長し始めるので、低温でも成長が可能である。一方、一次焼結に亘って酸素ガス雰囲気が使用される条件では、結晶が多く、粒子の内部から成長し始めるので、成長に必要な温度が高かった。単結晶型多元正極材料の圧縮密度及び電気化学的特性の比較から分かるように、本発明による一次焼結昇温段階の酸素ガスによる焼結と保温段階の空気による焼結を組み合わせた方式で得られた単結晶型多元正極材料では、単結晶粒子は、より優れた圧縮密度、及びより優れた電気化学的特性を持つ。
【0088】
実施例1と比較例3、4の比較から分かるように、様々なプロセスで製造された単結晶型多元正極材料では、結晶粒サイズが同じであるとしても、これらの特性が異なり、一次焼結には、昇温段階の酸素ガスによる焼結と保温段階の空気による焼結を組み合わせた方式で製造された単結晶型多元正極材料では、圧縮密度及び電気化学的特性は、単一の雰囲気を用いて製造された多元正極材料よりも明らかに優れていた。
【0089】
さらに、凝集率も材料のサイクル特性に影響を及ぼし、上記の表から分かるように、結晶粒サイズは凝集率に直接関係しており、結晶粒サイズが大きいほど、凝集率が小さく、サイクル特性が優れた。また、焼結雰囲気も凝集率やサイクル特性に一定の影響を与え、結晶粒サイズが同じである場合、本発明の一次焼結において酸素ガスと空気を組み合わせた焼結方式によれば、製造された単結晶粒子は、一次焼結を酸素ガス又は空気雰囲気単独で行って製造された粒子よりも凝集率が明らかに低く(酸素ガス雰囲気の場合の凝集率は空気雰囲気の場合の凝集率よりも低い)、対応する多元正極材料のサイクル特性は、酸素ガスと空気の組み合わせ>酸素ガス>空気である。また、真円度指標からも、本発明による方法で得られた単結晶型多元正極材料では、単結晶粒子は、より丸くて規則的で、同一の結晶粒サイズでは、酸素ガス雰囲気単独の場合の真円度が、空気雰囲気単独の場合の真円度よりも優れることが分かった。
【0090】
実施例4及び実施例5の比較から分かるように、本発明による方法は、高ニッケル製品にも適用できる。ニッケル含有量が増加し、コバルト含有量が低下するに伴い、多元正極材料の真円度及び圧縮密度は高レベルに維持され、電気化学的特性に関しては容量が明らかに向上するが、レート特性及びサイクル特性はその分悪くなった。
実施例1と比較例5、及び6から分かるように、同一の焼結方式で製造された、粒度分布の異なる多元正極材料では、真円度は本発明による範囲の条件を満たす場合、K90が多すぎたり小さすぎたりして、K90とRとの積が本発明による範囲外になる場合と、程度が異なるが、圧縮密度、容量及びサイクル寿命は低下していた。
【0091】
以上は、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されない。本発明の技術的構想の範囲を逸脱することなく、各技術的特徴を適切に組み合わせることを含め本発明の技術案について様々な簡単な変形を行うことができ、このような簡単な変形や組み合わせも本発明で開示された内容とみなされるべきであり、すべて本発明の特許範囲に含まれるものとする。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶型多元正極材料であって、
前記単結晶型多元正極材料の単結晶粒子についてSEMにより測定された最長対角線の長さと最短対角線の長さとの比が真円度Rとして定義され、かつ、Rは1以上であり、
前記単結晶型多元正極材料の単結晶粒子のD
10、D
50、及びD
90が、K
90=(D
90-D
10)/D
50を満たし、K
90とRとの積が1.20~1.40である、ことを特徴とする単結晶型多元正極材料。
【請求項2】
Rは、1~1.2であり、及び/又は、
K
90とRとの積が、1.25~1.35であり、及び/又は、
K
90は、1.18~1.25、好ましくは、1.20~1.22である、請求項1に記載の単結晶型多元正極材料。
【請求項3】
式Iで表される構造を有する、請求項1に記載の単結晶型多元正極材料。
Li
1+a(Ni
xCo
yMn
zG
b)M
cO
2-d 式I
(式中、-0.05≦a≦0.3、0≦b≦0.05、0≦c≦0.05、0.5≦x<1、0<y<0.5、0<z<0.5であり、dは正電荷と負電荷の数を等しくする値であり、Gは、Ti、W、V、Ta、Zr、La、Ce、Er、Sr、Si、Al、B、Mg、Co、F、及びYのうちの1種又は複数種であり、Mは、Sr、F、B、Al、Nb、Co、Mn、Mo、W、Si、Mg、Ti、及びZrのうちの1種又は複数種であり、
好ましくは、式中、0≦a≦0.2、0.0001≦b≦0.005、0.0001≦c≦0.005、0.5≦x≦0.95、0.01≦y≦0.4、0.01≦z≦0.4であり、及び/又は、
Gは、Ti、W、Zr、Sr、Si、Al、B、及びFのうちの1種又は複数種であり、及び/又は、
Mは、Sr、F、B、Al、W、Si、及びTiのうちの1種又は複数種である。)
【請求項4】
凝集率をBとし、
Bは、0~3.0%、好ましくは、0.8~2.4%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の単結晶型多元正極材料。
【請求項5】
前記単結晶型多元正極材料の単結晶粒子の最長対角線の長さと最短対角線の長さとの平均値は、結晶粒サイズP
50であり、P
50は、1.5~3.0μm、好ましくは、2.0~2.4μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の単結晶型多元正極材料。
【請求項6】
単結晶型多元正極材料の製造方法であって、
ニッケル・コバルト・マンガン前駆体とリチウム源を含有する混合物を第1焼結に付し、得た生成物を破砕して、単結晶正極材料中間体を得るステップ(1)と、
前記単結晶正極材料中間体を第2焼結に付し、単結晶型多元正極材料を得るステップ(2)と、を含み、
前記第1焼結は、順次行われる昇温段階Iと保温段階Iを含み、前記昇温段階Iは酸素ガス雰囲気下で行われ、前記保温段階Iは空気雰囲気下で行われ、
前記第2焼結の温度が前記第1焼結の温度以下である、ことを特徴とする単結晶型多元正極材料の製造方法。
【請求項7】
ステップ(1)では、前記ニッケル・コバルト・マンガン前駆体は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含有する酸化物及び/又は水酸化物から選択され、及び/又は、
前記リチウム源は、炭酸リチウム及び/又は水酸化リチウムから選択され、及び/又は、
前記混合原料は添加剤をさらに含み、前記添加剤は、Gを含有する化合物から選択され、好ましくは、Gを含有する酸化物、水酸化物、炭酸塩、及びフッ化物のうちの少なくとも1種、より好ましくは、ジルコニア、炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、三酸化タングステン、酸化チタン、フッ化アルミニウム、及び酸化ホウ素のうちの少なくとも1種である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
ステップ(1)では、前記昇温段階Iの条件は、昇温時間が2~10h、好ましくは、
6~8hであることをさらに含み、及び/又は、
前記保温段階Iの条件は、保温温度が600~1100℃、好ましくは、900~1000℃であること、保温時間が6~12h、好ましくは、8~10hであることをさらに含み、及び/又は、
前記ニッケル・コバルト・マンガン前駆体の中央粒度D
50と前記単結晶正極材料中間体の中央粒度D′
50とが、式IIを満たす、請求項6又は7に記載の製造方法
|(D
50-D′
50)/D
50|<5% 式II
【請求項9】
ステップ(2)では、まず、前記単結晶正極材料中間体と被覆剤を混合し、次に、得た混合物を前記第2焼結に付し、
前記被覆剤は、Mを含有する化合物から選択され、好ましくは、Mを含有する酸化物、水酸化物、炭酸塩、及びフッ化物のうちの少なくとも1種、より好ましくは、炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、三酸化タングステン、酸化チタン、フッ化アルミニウム、及び酸化ホウ素のうちの少なくとも1種である、請求項6
又は7に記載の製造方法。
【請求項10】
ステップ(2)では、前記第2焼結は、空気雰囲気下で行われ、及び/又は、
前記第2焼結は、順次行われる昇温段階IIと保温段階IIを含み、及び/又は、
前記昇温段階IIの条件は、昇温時間が2~10h、好ましくは、4~7hであること
をさらに含み、及び/又は、
前記保温段階IIの条件は、保温温度が500~900℃、好ましくは、600~800℃であること、保温時間が6~12h、好ましくは、8~10hであることをさらに含む、請求項6
又は7に記載の製造方法。
【請求項11】
単結晶型多元正極材料の結晶粒サイズ変化値を△P(単位:μm)、同一の焼結ステッ
プの温度の変化値を△T(単位:℃)とし、同一の焼結ステップの時間の変化値を△t(
単位:h)として定義すると、これらの3つは、△P=ω△T+γ△t(ここで、ω=0
.02μm/℃、γ=0.1μm/h)を満たす、請求項6
又は7に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1~
3のいずれか1
項に記載の単結晶型多元正極材料を含有する、ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【国際調査報告】