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特表2024-511314シール組立体およびそのような組立体を備える転がり軸受
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  • 特表-シール組立体およびそのような組立体を備える転がり軸受 図1
  • 特表-シール組立体およびそのような組立体を備える転がり軸受 図1A
  • 特表-シール組立体およびそのような組立体を備える転がり軸受 図2
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  • 特表-シール組立体およびそのような組立体を備える転がり軸受 図4a
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  • 特表-シール組立体およびそのような組立体を備える転がり軸受 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-13
(54)【発明の名称】シール組立体およびそのような組立体を備える転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3232 20160101AFI20240306BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20240306BHJP
   F16J 15/324 20160101ALI20240306BHJP
   F16J 15/3256 20160101ALI20240306BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
F16J15/3204 201
F16J15/324
F16J15/3256
F16C33/78 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554361
(86)(22)【出願日】2021-03-23
(85)【翻訳文提出日】2023-10-20
(86)【国際出願番号】 FR2021050498
(87)【国際公開番号】W WO2022200693
(87)【国際公開日】2022-09-29
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591272686
【氏名又は名称】ユチンソン
【氏名又は名称原語表記】HUTCHINSON
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・ロール
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・ブラン
(72)【発明者】
【氏名】クレマン・ロビン
(72)【発明者】
【氏名】エリエッテ・エレーヌ・セリーヌ・ピネル
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J216
【Fターム(参考)】
3J006AE04
3J006AE12
3J006AE19
3J006AE20
3J006AE23
3J006AE30
3J006AE34
3J006CA01
3J043AA17
3J043CA02
3J043CA04
3J043CA05
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA01
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA16
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC33
3J216CC40
3J216DA01
3J216DA11
3J216EA07
(57)【要約】
固定要素(11)、回転可能要素(12)、およびシーリング部材(13)を備える、シール組立体(10)。第1のリップ(15b)は、第1のリップの端部に環状平滑領域を備える。第1のリップおよび第2のリップは、それぞれ、摺動面に向けられる面上に不規則領域を備える。組立体は、5パーセント以上のブリーディング率を有するグリースであるグリースを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定要素(11)と、
回転軸線(X)を中心として前記固定要素に対して回転可能であるように意図された回転可能要素(12)と、
前記固定要素および前記回転可能要素のうちの一方に一体的に取り付けられた剛体環状フレーム(14)、ならびに、弾性材料で作られかつ前記固定要素および前記回転可能要素のうちの他方の要素の摺動面(16)と接触するシール(15)を含む、シーリング部材(13)と、
を備え、
前記シール(15)が、どちらも前記環状フレーム(14)から前記摺動面(16)に向かって延在する第1のリップ(15b)および第2のリップ(15c)を備え、
前記第1のリップおよび前記第2のリップ、ならびに前記摺動面が、少なくとも部分的にグリースで満たされる内部体積を画定する、
シール組立体(10)であって、
前記第1のリップが、前記第1のリップの端部において、および前記摺動面に向けられる面上に、環状の平滑領域(ZL)を備え、前記平滑領域が、前記回転軸線(X)を中心とした前記第1のリップの全周囲に沿った前記摺動面との持続的な接触を確実にするのに適していること、
前記第1のリップおよび前記第2のリップが、それぞれ、前記摺動面に向けられる前記面上に不規則領域(ZB)を備えること、ならびに、
前記グリース(G)が、5パーセント以上のブリーディング率を有するグリースであること
を特徴とする、シール組立体(10)。
【請求項2】
前記グリースが、6パーセント以上のブリーディング率を有する、請求項1に記載の組立体。
【請求項3】
前記グリースが、40℃の温度において7mm2/s~20mm2/sの間の動粘性率を有するベースオイルを含む、請求項1または2に記載の組立体。
【請求項4】
前記不規則領域(ZB)が、3.5~5μmの間の算術平均粗さ(Ra)を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の組立体。
【請求項5】
前記第1のリップおよび/または前記第2のリップが、0.1~2MPaの間の圧力を前記摺動面に及ぼすのに適した可撓性を有し、前記シーリング部材が、前記摺動面に取り付けられる、請求項1から4のいずれか一項に記載の組立体。
【請求項6】
前記環状平滑領域(ZL)が、0.05mm~0.2mmの間の幅を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の組立体。
【請求項7】
前記不規則領域(ZB)が、前記シーリング部材(13)を作り出すために使用される型の対応する表面のレーザ加工またはスパーク腐食によって得られる、請求項1から6のいずれか一項に記載の組立体。
【請求項8】
前記第1のリップ(15b)が、前記環状フレーム(14)から前記摺動面(16)に向かって軸方向に延在し、前記第2のリップ(15c)が、前記環状フレーム(14)から前記摺動面(16)に向かって軸方向に延在する、請求項1から7のいずれか一項に記載の組立体。
【請求項9】
前記他方の要素と一体の環状リング(17)をさらに備え、前記摺動面(16)が、前記環状リング(17)上に形成される、請求項1から8のいずれか一項に記載の組立体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のシール組立体(10)と、前記回転軸線を中心とした前記固定要素に対する前記回転可能要素の相対的回転を可能にするために軸受空間内に配置された回転体(4)と、を備える、転がり軸受(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール組立体に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、シール組立体であって、
固定要素と、
回転軸線(X)を中心として固定要素に対して回転可能であるように意図された回転可能要素と、
固定要素および回転可能要素のうちの一方に一体的に取り付けられた剛体環状フレーム、ならびに、弾性材料で作られかつ固定要素および回転可能要素のうちの他方の要素の摺動面と接触するシールを含む、シーリング部材と、
を備え、
シールが、どちらも環状フレームから摺動面に向かって延在する第1のリップおよび第2のリップを備え、
第1のリップおよび第2のリップ、ならびに摺動面が、少なくとも部分的にグリースで満たされる内部体積を画定する、
シール組立体に関する。
【背景技術】
【0003】
このタイプの組立体の例が知られている。
【0004】
そのようなシール組立体は、例えば軸受において使用され、また例えば自動車の車輪軸受において使用される。このシール組立体は、特に、軸受が低摩擦で動作することを確実にするために軸受の内側に潤滑流体を収容することを可能にする。
【0005】
残念なことに、このシール組立体は、摩擦、すなわち回転摩擦トルクの増大の一因となる。この現象は、回転中の力学的エネルギー損失の一環である。これらの損失を少なくするために、シールを維持することを可能にする低摩擦の解決策が求められている。
【0006】
特許EP2687761(特許文献1)は、リップが1.0~3.0μm Raの間の凹凸を有し、低粘度グリースが使用され、前述のグリースが40℃において10~40mm2/sの間の動粘性率を持つベースオイルを有する、そのようなシール組立体の例を説明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第2687761号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このタイプのシール組立体に関し、具体的には、優れたシーリングを維持しながら摩擦トルクを減少させるために改善されたシール組立体に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のために、シール組立体は、
第1のリップが、第1のリップの端部において、および摺動面に向けられる面上に、環状の平滑領域を備え、前述の平滑領域が、回転軸線を中心とした第1のリップの全周囲に沿った摺動面との持続的な接触を確実にするのに適していること、
第1のリップおよび第2のリップが、それぞれ、摺動面に向けられる面上に不規則領域を備えること、ならびに、
グリースが、5パーセント以上のブリーディング率を有するグリースであること
を特徴とする。
【0010】
これらの構成により、第1に、シール組立体による非常に良好なシーリングが確実とされ、具体的には、デバイスの内部と外部との間での潤滑剤のいかなる漏れをも防ぐ、優れた静的シーリングと、固定要素に対する回転可能要素の回転中の優れた動的シーリングとが確実とされる。
【0011】
第2に、従来技術の解決策と比較して、減少した摩擦トルクが保証される。第1のリップと第2のリップとの間の体積内に収容される高ブリーディンググリースは、摺動面上での前述のリップの無摩擦摺動を保証する。具体的には、不規則領域は、摺動面上での極めて減少した摩擦を有する。
【0012】
この技術的特徴の組み合わせは、シール組立体におけるシーリングを犠牲にせずに摩擦トルクを減少させることを可能にし、これは、このタイプのシール組立体デバイスにとって不可欠なことである。
【0013】
シール組立体の様々な実施形態では、以下の構成のうちの1つまたは複数も場合により使用され得る。
【0014】
1つの態様によれば、グリースは、6パーセント以上のブリーディング率を有する。
【0015】
1つの態様によれば、グリースは、40℃の温度において7mm2/s~20mm2/sの間の動粘性率を有するベースオイルを含む。
【0016】
1つの態様によれば、不規則領域は、3.5~5μmの間の算術平均粗さを有する。
【0017】
1つの態様によれば、第1のリップおよび/または第2のリップは、0.1~2MPaの間の圧力を摺動面に及ぼすのに適した可撓性を有し、シーリング部材は、前述の摺動面に取り付けられる。
【0018】
1つの態様によれば、環状の平滑領域は、0.05mm~0.2mmの間の幅を有する。
【0019】
1つの態様によれば、不規則領域は、シーリング部材を作り出すために使用される型の対応する表面のレーザ加工またはスパーク腐食によって得られる。
【0020】
1つの態様によれば、第1のリップは、環状フレームから摺動面に向かって軸方向に延在し、第2のリップは、環状フレームから摺動面に向かって軸方向に延在する。
【0021】
1つの態様によれば、組立体は、他方の要素と一体の環状リングをさらに備え、摺動面は、前述の環状リング上に形成される。
【0022】
本発明はまた、上記の特徴によるシール組立体と、回転軸線を中心とした固定要素に対する回転可能要素の相対的回転を可能にするために軸受空間内に配置された回転体と、を備える、転がり軸受に関する。
【0023】
本発明の他の特徴および利点は、非限定的な例として与えられる本発明の実施形態のうちの1つに関して添付の図面を参照しながら以下に説明することから、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本開示の第1の実施形態によるシール組立体の断面図である。
図1A図1の一部分の拡大図である。
図2】本開示の第2の実施形態によるシール組立体の断面図である。
図3図1または図2によるシール組立体を備える転がり軸受の図である。
図4a図1または図2によるシール組立体のシーリングリップを示す写真である。
図4b図4aのリップの輪郭の図である。
図5】従来技術によるシール組立体および本開示によるシール組立体のための干渉距離の関数として摩擦トルクを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
様々な図において、同じ参照番号は、同一のまたは類似の要素を示す。
【0026】
図1は、
- 固定要素11と、
- 回転軸線Xを中心として固定要素に対して回転可能である回転可能要素12と、
- 剛体環状フレーム14およびフレームと一体のシール15を含むシーリング部材13であって、前述のシール15が、弾性材料で作られており、かつ、摺動面16と摺動接触している、シーリング部材13と、
を備えるシール組立体10の第1の実施形態を示す。
【0027】
具体的には、固定要素11は、外部要素であってもよく、すなわち、回転軸線Xから最も遠いものであってもよく、すなわち、内部要素である回転可能要素12の周りに配置されてもよい。これは、回転シャフトである回転可能要素12を使用する事例である(図1)。
【0028】
逆に、固定要素11は、内部要素であってもよく、すなわち、回転軸線Xに最も近いものであってもよく、すなわち、外部要素である回転可能要素の内側に配置されてもよい。
【0029】
この説明を簡単にするために、本発明者らは、フレーム14を外部の固定要素11に接続されるものと考え、また、摺動面16を他方の要素、すなわち内部の回転可能要素12に接続されるものと考えるが、当然ながら、他の使用も本開示のシール組立体に適している。
【0030】
シール15は、
- 例えばフレーム14上にオーバモールドすることにより、また有利にはフレームの少なくとも1つの表面上に予め被覆された接着剤により、前述のフレーム14の表面に固定される取付け部分15aと、
- 1つのリップ端部15b*において摺動面16の第1の部分と接触するように例えば環状フレーム14から摺動面16まで軸方向に延在する第1のリップ15bと、
- 1つのリップ端部15c*において摺動面16の第2の部分と接触するように例えば環状フレーム14から摺動面16まで径方向に延在する第2のリップ15cと、
を備える。
【0031】
第1のリップ15b、第2のリップ15c、および摺動面16は、体積Vの、閉鎖されかつ密閉された環状空洞を形成し、シール組立体10が製造されるとき、またはシール組立体10がデバイスに取り付けられるときに、この環状空洞内にグリースGが導入され得る。
【0032】
図1の実施形態では、摺動面16は、他方の要素(回転可能要素12)と一体の環状リング17上に形成される。このリングは、例えば、金属部品である。リングは、回転可能要素12とシール15との間に配置される。シール15のリップ端部15b*は、回転可能要素12と一緒に回転するこのリングの表面と摺動接触している。
【0033】
図2の実施形態では、摺動面16は、回転可能要素12の、特に回転可能要素12の外部円筒面12aの、一体部分である。摺動面16は、円筒面12aの環状部分に対応する。摺動面部分16は、シール15のリップ端部15b*が摺動面16と接触するように、シーリング部材13と(長手方向位置において)一致して位置決めされる。
【0034】
図2に示されるように、シール15は、3つ以上のシーリングリップを備えることができる。図2では、シール15は2つのシーリングリップを備えるが、シール15は、2つ、3つ、4つ、またはそれより多くのシーリングリップを備えることができる。したがって、図2では、第1のリップ15b、第2のリップ15c、および摺動面16は、体積V1の、閉鎖されかつ密閉された第1の環状空洞を形成する。第2のリップ15c、第3のリップ15d、および摺動面16は、体積V2の、閉鎖されかつ密閉された第2の環状空洞を形成する。前述の環状空洞(V、V2)のそれぞれは、シール組立体10が製造されるときまたはシール組立体10がデバイスに取り付けられるときに導入される前述のグリースを収容することができる。
【0035】
図1における第1の実施形態に戻ると、環状リング17は、回転可能要素12と一体である。環状リング17は、回転可能要素12とシール15との間に配置される。シール15のリップ端部15b*は、回転可能要素12と一緒に回転するこのリング17の少なくとも1つの表面と摺動接触している。
【0036】
この第1の実施形態では、環状リング17は、より具体的には、
- 例えば回転可能要素12の円筒面12a上にしっかりと適合させることにより前述の回転可能要素12と一体であるように取り付けられた円筒部分17aと、
- 前述の円筒部分17aの1つの端部から回転軸線Xに対して径方向に延在するフランジ部分17bと、
を備える。
【0037】
シール15は、環状フレーム14からフランジ部分17bまで軸方向に延在する第1のリップ15bと、環状フレーム14から円筒部分17aまで軸方向に延在する第2のリップ15cとを備える。
【0038】
したがって、摺動面16は、ここでは回転可能要素12に固定された環状リング17の一体部分である。摺動面16は、例えば、フレーム14に向けられる環状リング17の外側面の全てまたは一部に相当する。
【0039】
摺動面16は、例えば、
- 環状リング17の円筒部分17a上の第1の部分であって、回転軸線Xの長手方向において、および第2のリップ15cに対応して(面して)長さc1に沿って延在する、第1の部分と、
- 環状リング17のフランジ部分17b上の第2の部分であって、回転軸線Xの長手方向に実質的に垂直な方向において、および第2のリップ15cに対応して(面して)長さc2に沿って延在する、第2の部分と、
を備える。
【0040】
したがって、第1のリップ15bの端部15b*および第2のリップ15cの端部15c*は、摺動面16と摺動接触している。
【0041】
図1および図2では、参照記号Iは、シール組立体10によって封止されることになる製品の内側に相当し、この内側は、保存されるべきオイルまたはグリースを収容することができる。参照記号Eは、製品の外側、すなわち流体および/または粉塵によって攻撃を受ける可能性もある外側環境に相当し、シール組立体は、そのような流体および/または粉塵に対する保護も提供する。
【0042】
本開示によれば、シール組立体10は、以下の特徴、すなわち、
- 第1のリップ15bが、第1のリップ15bの端部15b*において、および摺動面に向けられる第1のリップ15bの面上に、環状の平滑領域ZLを備え、前述の平滑領域ZLが、回転軸線Xを中心とした第1のリップ15bの全周囲に沿った前述の摺動面16との持続的な接触を確実にするのに適していること、
- 第1のリップ15bおよび第2のリップ15cが、それぞれ、摺動面に向けられる前述の面上に不規則領域ZBを備えること、ならびに、
- グリースGが、5パーセント以上のブリーディング率を有するグリースであること
をさらに含む。
【0043】
図1Aは、摺動面16に向けられかつ第1のリップの端部15b*を発端に平滑領域ZL、次いで不規則領域ZBを備える第1のリップ15bの面を概略的に表す、図1の第1のリップ15bの拡大図である。
【0044】
図4aは、摺動面16に向けられる第1のリップ15bの面の拡大された端部15b*の写真を示す。この写真の非常に暗い下方部分は、何もない空間に相当する。第1のリップ15bは、この写真の上方部分にあり、様々なグレーの色調における起伏を含む。
【0045】
図4bは、図4bのリップの輪郭を示す。この輪郭は、回転軸線に対して径方向に延在する面におけるリップの断面図に対応する。
【0046】
図4aの写真では、第1のリップ15bの端部15b*における連続的なストリップでありかつ第1のリップ15bの全周囲に沿って延在する平滑領域ZLが認められるであろう。平滑領域ZLはまた、「隆起なし」と見なされ得る。したがって、平滑領域ZLは、第1のリップ15bの全周囲に沿った持続的な接触を保証する。したがって、第1のリップ15bは、良好なシーリングを有し、環状空洞内に封入されたグリースまたは任意の流体は、静止位置にある間または動的動作(回転要素12の回転)中にこの空洞内に留まる。
【0047】
平滑なまたは隆起のない領域ZLは、0.05mm~0.2mmの間の平滑な幅LLを有する。例えば、平滑な幅は、0.1mm~0.2mmの間である。
【0048】
場合により、シール15の第2のリップ15cまたは任意の他のリップは、そのような平滑なまたは隆起のない領域を備えることができる。
【0049】
場合により、第1のリップ15bまたは任意の他のリップは、いくつかのこのタイプの平滑領域を備えることができる。
【0050】
この写真では、摺動面に向けられる面の不規則領域ZBも見ることができる。不規則領域ZBは、多数の隆起を含む領域であり、それらの隆起は、例えば、不規則な形状を有する。それらの隆起は、例えば、リップから外向きに延在しかつ凸形状を有する突出部であり、すなわち、凹部の反対のものである。これらの隆起はまた、不定の直径の半球状突出部であり得る。不規則領域ZBはまた、専門用語では「点刻」と呼ばれ得る。
【0051】
不規則領域ZBは、例えば、3.5~5μmの間の算術平均粗さRaを有する。
【0052】
不規則領域ZBは、摺動面に向けられる面上で不規則領域幅にわたって延在し、不規則領域幅は、リップのサイズに依存し、例えば、1mm~2mmの間または1mm~4mmの間に含まれ得る。この不規則領域幅は、その取付け位置にあるときにリップと摺動面16との間の接触の任意の領域を覆うのに特に適し得る。
【0053】
不規則領域ZBは、例えば、シーリング部材13を作り出す/形成するのに適した型の対応する表面のレーザ加工またはスパーク腐食によって得られる。型のこの対応する表面の形状は、摺動面に向けられるリップの面の形状を有するネガティブスペースである。
【0054】
したがって、摺動面に向けられるように意図されたリップの面上の不規則領域ZBには追加の厚さが存在する。言い換えれば、不規則領域ZBに対応する型の対応する表面は、凹んだ表面、またはネガティブスペースの表面である。逆に、平滑領域ZLは、摺動面に向けられるように意図されたリップの面に対して後退されており、すなわち、その輪郭の断平面内で不規則領域上に配置された外線に対して後退されている。
【0055】
型の対応する表面を作り出すための他のプロセス、すなわち、型または型の一部分の3D印刷、型内へのインサートの追加などが可能である。
【0056】
シール15のリップは、図1および図2に示されているように取付け位置において湾曲し、これは、これらのリップ(15b、15c、15d)の端部と摺動面16との間の接触を確実にする。このリップの湾曲により、平滑領域ZLおよび不規則領域ZBは、摺動面16と接触する。不規則領域ZBは、隆起または突出部と摺動面16との間の空隙内にある量のグリースを捕捉する。これは、従来技術のシール組立体におけるよりも低い摩擦トルクで摺動が起こることを確実にする。
【0057】
さらに、摺動面上のシーリングリップの湾曲は、干渉距離Diに相当する。干渉距離Diは、摺動面上の単純な接触の場合、すなわちリップの湾曲がない場合は、ゼロである。干渉距離Diは、リップが摺動面に向かって押しつぶされるほど、すなわち前述のリップの湾曲が大きいほど、増大する。
【0058】
第1のリップ15bおよび/または第2のリップ15cは、製品上での取付け位置において、すなわちシール組立体10の取付けのために定められた公称干渉距離のための取付け位置において、例えば0.1~2MPaの間に含まれる圧力を摺動面16に及ぼすのに適した可撓性を有する。
【0059】
グリースは、増粘剤を含むベースオイルと、グリースの特性を強化する添加剤とで主に構成される。グリースの粘稠度は、増粘剤のタイプおよび濃度、ならびに動作温度に依存する。
【0060】
グリースのブリーディングとは、所定の条件下で、より具体的には静止時に、ベースオイルから分離するグリースの傾向である。例えば、標準的なIP 121/75の方法では、タイプ240(61μmメッシュ)のコーンの形態をした底部スクリーンを有する容器内にある量のグリースが入れられ、100gを超える負荷の作用によりグリースから分離されるベースオイルの質量が、40℃の温度において42時間または168時間の継続時間にわたって測定される。
【0061】
ブリーディング率は、分離されたベースオイルの質量の最初に容器に入れられたグリースの質量に対する比であり、したがって、この比は、パーセンテージとして表され得る。
【0062】
様々な手順による他のブリード測定基準が存在する。例えば、ASTM D1742基準の方法では、75μmのメッシュまたは篩の底部を有する容器内にある量のグリースが入れられ、1.72kPaを超える加圧空気下でグリースから分離されるベースオイルの質量が、25℃の温度において24時間の継続時間にわたって測定される。当業者は、経験に基づいてこれらの基準間の同等性を確立することができるであろう。
【0063】
本開示によるシール組立体10において使用されるグリースGは、高ブリーディンググリースである。「高ブリーディング」は、従来技術によるシール組立体のリップ間に一般に使用されるグリースよりもはるかに高い水準のブリーディングを意味すると理解される。実際には、シール組立体の静的動作および動的動作中の経時的なグリースの特性の劣化を避けるために、そのようなグリースに対して低いブリーディング値を有することが、通常は望ましい。
【0064】
より具体的には、グリースGは、例えば、上記のIP 121/75基準による5パーセント以上のブリーディング率を有するグリースである。このブリーディング率により、シール組立体10のグリースGは、その動的回転動作中に適切な量のベースオイルから分離し、このオイルは、摺動面16上でのシール15の摩擦トルクを減少させるために、不規則領域ZBに向かって流れることができる。
【0065】
試験は、例えば、グリースGの特性および例えばそのブリーディング率を不規則領域ZBの特徴(形状)に、また、製品およびシール組立体10のための技術仕様に適合させることを可能にするであろう。
【0066】
場合によっては、例えば、6パーセント以上、さらには8パーセント以上のブリーディング率のグリースGを有することが望ましい。すると、摺動面16上でのシール15の摩擦トルクが減少される。
【0067】
動的シール組立体用途では通常ではない、具体的には軸受には通常ではない、そのような高ブリーディング率を得るために、グリースGは、例えば、低い動粘性率のベースオイルを有する。実際には、動粘性率が低いほど、ブリーディング率は高くなる。さらに、グリースGは、「グリースソープ」とも呼ばれる高粘稠度を有する増粘剤を含む。この粘稠度が高いほど、ブリーディング率は高くなる。
【0068】
例えば、グリースGにおいて使用されるベースオイルは、40℃の温度において7mm2/s~20mm2/sの間の動粘性率を有する。
【0069】
この高ブリーディング率を有するグリースGの選択は、機械分野における通常の選択とは反対である。この選択は、グリースGをシール組立体10のリップ15b、15cからの低い接触圧により適したものにすることを可能にする。それにより、摩擦トルクを減少させることが可能になる。
【0070】
図5は、
- 従来技術による第1のシール組立体J1、すなわち平滑領域ZL、不規則領域ZB、および高ブリーディンググリースGを含まない第1のシール組立体J1、ならびに、
- 本開示による第2のシール組立体J2、すなわち上述の技術的特徴を含む第2のシール組立体J2
に対する干渉距離Diの関数としての摩擦トルクCのいくつかの曲線を示す。
【0071】
第2のシール組立体J2の摩擦トルクは、第1のシール組立体J1の摩擦トルクよりもはるかに低い。
【0072】
第1のシール組立体J1に比べて、干渉距離Diによる第2のシール組立体J2の摩擦トルクの増大は少なくなり、これは、第2のシール組立体により干渉距離Diの変動に逆らってより低い摩擦トルクおよびより高い頑健性を提供することが可能になることを意味する。
【0073】
したがって、本発明によるシール組立体10は、従来技術よりも大いに改善される。このシール組立体は、同じシーリング性能を維持しながらより低い摩擦トルクを得ることを可能にする。
【0074】
図3は、転がり軸受の内側空間を密閉するために少なくとも一方の側に上記のシール組立体10を備える、前述の転がり軸受1を示す。転がり軸受は、例えば、自動車の転がり軸受であり、より具体的には、例えば、図3に示されるように、自動車の車輪の転がり軸受である。
【0075】
転がり軸受1は、具体的には、
- 固定部材2と、
- シャフト5によって回転され、また、例えば車輪が固定される、回転可能部材3と、
- 固定部材と回転可能部材との間のかなりの力を吸収するとともに回転軸線Xを中心とした固定部材2に対する回転可能部材3の相対的回転を可能にするように、固定部材2と回転可能部材3との間に形成された軸受空間4e内に配置された回転体4と、
を備える。
【0076】
シール組立体10の固定要素11は、まさに固定部材2であるか、または、転がり軸受1の固定部材2に固定される。
【0077】
シール組立体10の回転可能要素12は、まさに回転可能部材3であるか、または、転がり軸受1の回転可能部材3に固定される。
【0078】
回転体4は、ボールもしくはローラ、または任意の他の知られたタイプのものであってよい。
【0079】
本開示によるシール組立体10により、転がり軸受1は、従来技術よりも低い摩擦トルクを有する。したがって、そのようなデバイスを備えた車両は、前進しているときに消費するエネルギーが少なくなるであろう。
【符号の説明】
【0080】
1 転がり軸受
2 固定部材
3 回転可能部材
4 回転体
4e 軸受空間
5 シャフト
10 シール組立体
11 固定要素
12 回転可能要素
12a 外部円筒面
13 シーリング部材
14 剛体環状フレーム
15 シール
15a 取付け部分
15b 第1のリップ
15b* リップ端部
15c 第2のリップ
15c* リップ端部
15d 第3のリップ
16 摺動面
17 環状リング
17a 円筒部分
17b フランジ部分
C 摩擦トルク
c1 長さ
c2 長さ
Di 干渉距離
E 製品の外側
G グリース
I 製品の内側
J1 第1のシール組立体
J2 第2のシール組立体
LL 幅
Ra 算術平均粗さ
V 体積
V1 体積
V2 体積
X 回転軸線
ZB 不規則領域
ZL 平滑領域
図1
図1A
図2
図3
図4a
図4b
図5
【国際調査報告】