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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-13
(54)【発明の名称】癌を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/27 20060101AFI20240306BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240306BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240306BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240306BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 35/13 20150101ALI20240306BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C12N15/27 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/113 130Z
C12Q1/68
A61P35/00
A61K38/19
A61K31/713
A61K48/00
A61P37/04
A61K35/13
A61P35/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554876
(86)(22)【出願日】2022-03-09
(85)【翻訳文提出日】2023-10-18
(86)【国際出願番号】 US2022019492
(87)【国際公開番号】W WO2022192357
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】63/159,341
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522278176
【氏名又は名称】グラダリス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ネムナイティス
(72)【発明者】
【氏名】アーネスト ボグナー
(72)【発明者】
【氏名】イリッサ スリヒート
(72)【発明者】
【氏名】モリー ロビンソン
(72)【発明者】
【氏名】スーザン モランド
(72)【発明者】
【氏名】ローラ ネジェドリク
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ53
4B063QR32
4B063QR33
4B063QR35
4B063QR36
4B063QR40
4B063QR62
4B063QS05
4C084AA13
4C084DA19
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB271
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZB27
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087MA66
4C087NA05
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
癌患者における癌の応答性を予測するための方法、及び該患者における1つ以上の遺伝子の遺伝子型を同定することによって癌を治療するための方法が本明細書に開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌患者の癌治療に対する癌の応答性を予測するための方法であって、前記癌患者由来の試料においてBRCA1及び/又はBRCA2の遺伝子型を判定することを含み、
前記癌治療が、前記癌患者に、(a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、(b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与することを含み、
以下の遺伝子型:(1)BRCA1wt、(2)BRCA2wt、並びに(3)BRCA1wt及びBRCA2wtのうちの1つ以上の判定が、前記癌患者が前記癌治療に応答性であることを示す、
方法。
【請求項2】
BRCA1、BRCA2、TP53、PIK3CA、NF1、ARID1A、MYCNOS、及びMUTYHからなる群から選択される2つ以上の遺伝子の遺伝子型を判定することを含み、前記2つ以上の遺伝子のうちの1つがBRCA1又はBRCA2である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下の遺伝子型のペア:TP53m及びBRCA1wt;TP53m及びBRCA2wt;BRCA1wt及びPIK3CAwt;BRCA1wt及びNF1wt;BRCA1wt及びARID1Awt;BRCA1wt及びMYCNOSwt;BRCA1wt及びMUTYHwt;BRCA2wt及びPIK3CAwt;BRCA2wt及びNF1wt;BRCA2wt及びARID1Awt;BRCA2wt及びMYCNOSwt;並びにBRCA2wt及びMUTYHwtのうちの1つ以上の判定が、前記癌患者が前記癌治療に応答性であることを示す、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
3つの遺伝子の遺伝子型を判定することを含み、前記3つの遺伝子のうちの2つがBRCA1及びBRCA2である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
以下の遺伝子型の三つ組:TP53m、BRCA1wt、及びBRCA2wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びPIK3CAwt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びNF1wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びARID1Awt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びMYCNOSwt;並びにBRCA1wt、BRCA2wt、及びMUTYHwtのうちの1つ以上の判定が、前記癌患者が前記癌治療に応答性であることを示す、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
癌患者の癌治療に対する癌の応答性を予測するための方法であって、前記癌患者由来の試料において第1の遺伝子及び第2の遺伝子の遺伝子型を判定することを含み、
前記癌治療が、前記癌患者に、(a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、(b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与することを含み、
前記第1の遺伝子がARID1Aであり、前記第2の遺伝子が、CTNNB1、MUTYH、NF1、PIK3CA、及びUVSSAからなる群から選択され、
以下の遺伝子型のペア:CTNNB1wt及びARID1Am、MUTYHwt及びARID1Am、NF1wt及びARID1Am、PIK3CAwt及びARID1Am、並びにUVSSAwt及びARID1Amのうちの1つ以上の判定が、前記癌患者が前記癌治療に応答性であることを示す、
方法。
【請求項7】
前記癌患者が相同組換え能を有すると同定される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記癌患者の前記癌治療に対する応答性を示す遺伝子型の判定後に、前記癌治療で前記癌患者を治療することを更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記試料が、生検試料である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記生検試料が、腫瘍細胞の生検試料、又は循環腫瘍細胞の生検試料である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
癌の治療を必要とする癌患者において癌を治療するための方法であって、前記方法が、前記癌患者に、
a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、
b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、
を含む発現ベクターを投与することを含み、
前記癌患者が、以下の遺伝子型のペア:TP53m及びBRCA1wt;TP53m及びBRCA2wt;BRCA1wt及びPIK3CAwt;BRCA1wt及びNF1wt;BRCA1wt及びARID1Awt;BRCA1wt及びMYCNOSwt;BRCA1wt及びMUTYHwt;BRCA2wt及びPIK3CAwt;BRCA2wt及びNF1wt;BRCA2wt及びARID1Awt;BRCA2wt及びMYCNOSwt;並びにBRCA2wt及びMUTYHwtのうちの1つ以上を含む、
方法。
【請求項12】
癌の治療を必要とする癌患者において癌を治療するための方法であって、前記方法が、前記癌患者に、
a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、
b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、
を含む発現ベクターを投与することを含み、
前記癌患者が、以下の遺伝子型の三つ組:TP53m、BRCA1wt、及びBRCA2wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びPIK3CAwt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びNF1wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びARID1Awt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びMYCNOSwt;並びにBRCA1wt、BRCA2wt、及びMUTYHwtのうちの1つ以上を含む、
方法。
【請求項13】
癌の治療を必要とする癌患者において癌を治療するための方法であって、前記方法が、前記癌患者に、
a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、
b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、
を含む発現ベクターを投与することを含み、
前記癌患者が、以下の遺伝子型のペア:CTNNB1wt及びARID1Am、MUTYHwt及びARID1Am、NF1wt及びARID1Am、PIK3CAwt及びARID1Am、並びにUVSSAwt及びARID1Amのうちの1つ以上を含み、前記癌患者が前記癌治療に応答性であることを示す、
方法。
【請求項14】
前記癌患者が相同組換え能を有すると同定される、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
癌の治療を必要とする癌患者において癌を治療するための方法であって、
前記癌患者を遺伝子型判定して、前記癌患者由来の試料においてBRCA1wt及び/又はBRCA2wtを含む遺伝子型を同定すること、
前記癌患者に、
a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、
b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、
を含む発現ベクターを投与し、それにより前記癌患者を治療すること、
を含む、方法。
【請求項16】
ステップ1)が、以下の遺伝子型のペア:TP53m及びBRCA1wt;TP53m及びBRCA2wt;BRCA1wt及びPIK3CAwt;BRCA1wt及びNF1wt;BRCA1wt及びARID1Awt;BRCA1wt及びMYCNOSwt;BRCA1wt及びMUTYHwt;BRCA2wt及びPIK3CAwt;BRCA2wt及びNF1wt;BRCA2wt及びARID1Awt;BRCA2wt及びMYCNOSwt;並びにBRCA2wt及びMUTYHwtのうちの1つ以上を更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップ1)が、以下の遺伝子型の三つ組:TP53m、BRCA1wt、及びBRCA2wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びPIK3CAwt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びNF1wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びARID1Awt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びMYCNOSwt;並びにBRCA1wt、BRCA2wt、及びMUTYHwtのうちの1つ以上を更に含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
癌の治療を必要とする癌患者において癌を治療するための方法であって、
前記癌患者を遺伝子型判定して、前記癌患者由来の試料において以下の遺伝子型のペア:CTNNB1wt及びARID1Am、MUTYHwt及びARID1Am、NF1wt及びARID1Am、PIK3CAwt及びARID1Am、並びにUVSSAwt及びARID1Amのうちの1つ以上を同定すること、
前記癌患者に、
a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、
b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、
を含む発現ベクターを投与し、それにより前記癌患者を治療すること、
を含む、方法。
【請求項19】
前記試料が、生検試料である、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記生検試料が、腫瘍細胞の生検試料、又は循環腫瘍細胞の生検試料である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記GM-CSFが、ヒトGM-CSF配列である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記発現ベクターが、プロモーターを更に含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記プロモーターが、サイトメガロウイルス(CMV)哺乳動物プロモーターである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記発現ベクターが、CMVエンハンサー配列及びCMVイントロン配列を更に含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記発現ベクターが、第1の核酸インサートと第2の核酸インサートとの間にピコルナウイルスの2Aリボソームスキップペプチドをコードする核酸配列を更に含む、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記発現ベクターが、前記発現ベクターをトランスフェクトされた自家癌細胞内にある、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記自家癌細胞が、約1×10個の細胞~約5×10個の細胞を1回分として個体に投与される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記自家癌細胞が、前記個体に月に1回投与される、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
前記自家癌細胞が、前記個体に1~12ヶ月間投与される、請求項26~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記自家癌細胞が、前記癌患者に皮内注射によって投与される、請求項26~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記第1のインサート及び前記第2のインサートが、前記プロモーターに作動可能に連結されている、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記癌が、HRD陰性野生型BRCA1/2癌である、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記癌が、充実性腫瘍癌、卵巣癌、副腎皮質癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管癌、結腸直腸癌、食道癌、膠芽腫、神経膠腫、肝細胞癌、頭頸部癌、腎臓癌、白血病、リンパ種、肺癌、黒色腫、中皮腫、多発性骨髄腫、膵臓癌、褐色細胞腫、形質細胞腫、神経芽細胞種、前立腺癌、肉腫、胃癌、子宮癌、甲状腺癌、及び血液癌からなる群から選択される、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記充実性腫瘍癌が、子宮内膜癌、胆道癌、膀胱癌、肝細胞癌、胃/食道癌、卵巣癌、黒色腫、乳癌、膵臓癌、結腸直腸癌、神経膠腫、非小細胞肺癌、前立腺癌、子宮頸癌、腎臓癌、甲状腺癌、神経内分泌癌、小細胞肺癌、肉腫、頭頸部癌、脳癌、淡明細胞型腎細胞癌、皮膚癌、内分泌腫瘍、甲状腺癌、原発不明腫瘍、及び消化管間質腫瘍からなる群から選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記癌が、卵巣癌である、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記癌が、乳癌である、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記癌が、黒色腫である、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記癌が、肺癌である、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記癌が卵巣癌であり、前記方法が実質的に根絶された卵巣癌の再発を予防又は遅延させる、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記実質的に根絶された卵巣癌が、ステージIII又はステージIVの卵巣癌である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記癌患者が初期療法を受けていた、請求項1~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記初期療法が、腫瘍減量手術、化学療法、又はそれらの組み合わせを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記化学療法が、白金系薬剤及びタキサンを投与することを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記白金系薬剤がカルボプラチンを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記タキサンが、パクリタキセルを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
追加の治療剤を投与することを更に含む、請求項1~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記追加の治療剤が、前記個体に対する血管新生阻害剤、PARP阻害剤、及びチェックポイント阻害剤からなる群から選択されるメンバーである、請求項46に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2021年3月10日に出願された米国仮特許出願第63/159,341号の優先権を主張するものであり、あらゆる目的のためにその全体が本明細書に参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
相同組換え(HR)経路が適切に機能している場合、DNAは効果的に修復され得、エラーがなく、ゲノム安定性を維持する。遺伝子変異、プロモーターのメチル化、又は未知の原因によってHR経路が破壊されると、HR経路は機能を停止し、これによりゲノム不安定性又は相同組換え修復欠損(HRD)につながる。BRCA遺伝子は、HRを介したDNA修復の役割を担っており、この遺伝子の変異はHRDを引き起こす可能性がある。
【発明の概要】
【0003】
一態様では、本開示は、癌患者の癌治療に対する癌の応答性を予測するための方法であって、癌患者由来の試料においてBRCA1及び/又はBRCA2の遺伝子型を判定することを含み、該癌治療が、癌患者に(a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、(b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与することを含み、以下の遺伝子型:(1)BRCA1wt、(2)BRCA2wt、並びに(3)BRCA1wt及びBRCA2wtのうちの1つ以上の判定が、該癌患者が該癌治療に応答性であることを示す、方法を特徴とする。
【0004】
この態様のいくつかの実施形態では、本方法は、BRCA1、BRCA2、TP53、PIK3CA、NF1、ARID1A、MYCNOS、及びMUTYHからなる群から選択される2つ以上の遺伝子の遺伝子型を判定することを含み、2つ以上の遺伝子のうちの1つはBRCA1又はBRCA2である。
【0005】
この態様のいくつかの実施形態では、以下の遺伝子型のペア:TP53m及びBRCA1wt;TP53m及びBRCA2wt;BRCA1wt及びPIK3CAwt;BRCA1wt及びNF1wt;BRCA1wt及びARID1Awt;BRCA1wt及びMYCNOSwt;BRCA1wt及びMUTYHwt;BRCA2wt及びPIK3CAwt;BRCA2wt及びNF1wt;BRCA2wt及びARID1Awt;BRCA2wt及びMYCNOSwt;並びにBRCA2wt及びMUTYHwtのうちの1つ以上の判定は、癌患者が癌治療に応答性であることを示す。
【0006】
この態様のいくつかの実施形態では、本方法は、3つの遺伝子の遺伝子型を判定することを含み、3つの遺伝子のうちの2つは、BRCA1及びBRCA2である。いくつかの実施形態では、以下の遺伝子型の三つ組:TP53m、BRCA1wt、及びBRCA2wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びPIK3CAwt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びNF1wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びARID1Awt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びMYCNOSwt;並びにBRCA1wt、BRCA2wt、及びMUTYHwtのうちの1つ以上の判定は、癌患者が癌治療に応答性であることを示す。
【0007】
別の態様では、本開示は、癌患者の癌治療に対する癌の応答性を予測するための方法であって、癌患者由来の試料において第1の遺伝子及び第2の遺伝子の遺伝子型を判定することを含み、該癌治療が、癌患者に(a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、(b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与することを含み、該第1の遺伝子がARID1Aであり、該第2の遺伝子がCTNNB1、MUTYH、NF1、PIK3CA、及びUVSSAからなる群から選択され、以下の遺伝子型のペア:CTNNB1wt及びARID1Am、MUTYHwt及びARID1Am、NF1wt及びARID1Am、PIK3CAwt及びARID1Am、並びにUVSSAwt及びARID1Amのうちの1つ以上の判定が、癌患者が癌治療に応答性であることを示す、方法を特徴とする。
【0008】
本明細書に記載される方法のいくつかの実施形態では、癌患者は、相同組換え能を有すると同定される。ある特定の実施形態では、本方法は、癌患者の癌治療に対する応答性を示す遺伝子型の判定後に、癌治療で癌患者を治療することを更に含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、試料は、生検試料である。特定の実施形態では、生検試料は、腫瘍細胞の生検試料、又は循環腫瘍細胞の生検試料である。
【0010】
別の態様では、本開示は、癌の治療を必要とする癌患者において癌を治療するための方法であって、癌患者にa)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与することを含み、該癌患者が、以下の遺伝子型のペア:TP53m及びBRCA1wt;TP53m及びBRCA2wt;BRCA1wt及びPIK3CAwt;BRCA1wt及びNF1wt;BRCA1wt及びARID1Awt;BRCA1wt及びMYCNOSwt;BRCA1wt及びMUTYHwt;BRCA2wt及びPIK3CAwt;BRCA2wt及びNF1wt;BRCA2wt及びARID1Awt;BRCA2wt及びMYCNOSwt;並びにBRCA2wt及びMUTYHwtのうちの1つ以上を含む、方法を提供する。
【0011】
別の態様では、本開示は、癌の治療を必要とする癌患者において癌を治療するための方法であって、癌患者にa)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与することを含み、該癌患者が、以下の遺伝子型の三つ組:TP53m、BRCA1wt、及びBRCA2wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びPIK3CAwt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びNF1wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びARID1Awt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びMYCNOSwt;並びにBRCA1wt、BRCA2wt、及びMUTYHwtのうちの1つ以上を含む、方法を特徴とする。
【0012】
別の態様では、本開示は、癌の治療を必要とする癌患者において癌を治療するための方法であって、癌患者にa)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与することを含み、該癌患者が、以下の遺伝子型のペア:CTNNB1wt及びARID1Am、MUTYHwt及びARID1Am、NF1wt及びARID1Am、PIK3CAwt及びARID1Am、並びにUVSSAwt及びARID1Amのうちの1つ以上を含み、該癌患者が該癌治療に応答性であることを示す、方法を特徴とする。
【0013】
本明細書に記載される方法のいくつかの実施形態では、癌患者は、相同組換え能を有すると同定される。
【0014】
別の態様では、本開示は、癌の治療を必要とする癌患者において癌を治療するための方法であって、1)癌患者を遺伝子型判定して、癌患者由来の試料においてBRCA1wt及び/又はBRCA2wtを含む遺伝子型を同定すること、2)癌患者に(a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、(b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与し、それにより癌患者を治療すること、を含む、方法を提供する。
【0015】
この態様のいくつかの実施形態では、ステップ1)は、以下の遺伝子型のペア:TP53m及びBRCA1wt;TP53m及びBRCA2wt;BRCA1wt及びPIK3CAwt;BRCA1wt及びNF1wt;BRCA1wt及びARID1Awt;BRCA1wt及びMYCNOSwt;BRCA1wt及びMUTYHwt;BRCA2wt及びPIK3CAwt;BRCA2wt及びNF1wt;BRCA2wt及びARID1Awt;BRCA2wt及びMYCNOSwt;並びにBRCA2wt及びMUTYHwtのうちの1つ以上を更に含む。
【0016】
この態様のいくつかの実施形態では、ステップ1)は、以下の遺伝子型の三つ組:TP53m、BRCA1wt、及びBRCA2wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びPIK3CAwt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びNF1wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びARID1Awt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びMYCNOSwt;並びにBRCA1wt、BRCA2wt、及びMUTYHwtのうちの1つ以上を更に含む。
【0017】
別の態様では、本開示は、癌の治療を必要とする癌患者において癌を治療するための方法であって、1)癌患者を遺伝子型判定して、癌患者由来の試料において以下の遺伝子型のペア:CTNNB1wt及びARID1Am、MUTYHwt及びARID1Am、NF1wt及びARID1Am、PIK3CAwt及びARID1Am、並びにUVSSAwt及びARID1Amのうちの1つ以上を同定すること、2)癌患者に(a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、(b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与し、それにより癌患者を治療すること、を含む、方法を提供する。
【0018】
いくつかの実施形態では、試料は、生検試料、例えば、腫瘍細胞の生検試料、又は循環腫瘍細胞の生検試料である。
【0019】
本明細書に記載される方法のいくつかの実施形態では、GM-CSFはヒトGM-CSF配列である。いくつかの実施形態では、発現ベクターは、プロモーター、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)哺乳動物プロモーターを更に含む。いくつかの実施形態では、発現ベクターは、CMVエンハンサー配列及びCMVイントロン配列を更に含む。いくつかの実施形態では、発現ベクターは、第1の核酸インサートと第2の核酸インサートとの間にピコルナウイルスの2Aリボソームスキップペプチドをコードする核酸配列を更に含む。ある特定の実施形態では、発現ベクターは、発現ベクターをトランスフェクトされた自家癌細胞内にある。ある特定の実施形態では、自家癌細胞は、約1×10個の細胞~約5×10個の細胞を1回分として個体に投与される。特定の実施形態では、自家癌細胞は、個体に月に1回投与される。いくつかの実施形態では、自家癌細胞は、個体に1~12ヶ月間投与される。いくつかの実施形態では、自家癌細胞は、癌患者に皮内注射によって投与される。本明細書に記載される方法のいくつかの実施形態では、第1のインサート及び第2のインサートは、プロモーターに作動可能に連結されている。
【0020】
いくつかの実施形態では、癌は、HRD陰性野生型BRCA1/2癌である。ある特定の実施形態では、癌は、充実性腫瘍癌、卵巣癌、副腎皮質癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管癌、結腸直腸癌、食道癌、膠芽腫、神経膠腫、肝細胞癌、頭頸部癌、腎臓癌、白血病、リンパ種、肺癌、黒色腫、中皮腫、多発性骨髄腫、膵臓癌、褐色細胞腫、形質細胞腫、神経芽細胞種、前立腺癌、肉腫、胃癌、子宮癌、甲状腺癌、及び血液癌からなる群から選択される。特定の実施形態では、充実性腫瘍癌は、子宮内膜癌、胆道癌、膀胱癌、肝細胞癌、胃/食道癌、卵巣癌、黒色腫、乳癌、膵臓癌、結腸直腸癌、神経膠腫、非小細胞肺癌、前立腺癌、子宮頸癌、腎臓癌、甲状腺癌、神経内分泌癌、小細胞肺癌、肉腫、頭頸部癌、脳癌、淡明細胞型腎細胞癌、皮膚癌、内分泌腫瘍、甲状腺癌、原発不明腫瘍、及び消化管間質腫瘍からなる群から選択される。特定の実施形態では、癌は、卵巣癌である。特定の実施形態では、癌は、乳癌である。特定の実施形態では、癌は、黒色腫である。特定の実施形態では、癌は、肺癌である。
【0021】
本明細書に記載される方法のいくつかの実施形態では、癌は卵巣癌であり、該方法は実質的に根絶された卵巣癌の再発を予防又は遅延させる。ある特定の実施形態では、実質的に根絶された卵巣癌は、ステージIII又はステージIVの卵巣癌である。
【0022】
本明細書に記載される方法のいくつかの実施形態では、癌患者は初期療法を受けていた。ある特定の実施形態では、初期療法は、腫瘍減量手術、化学療法、又はそれらの組み合わせを含む。ある特定の実施形態では、化学療法は、白金系薬剤及びタキサンを投与することを含む。ある特定の実施形態では、白金系薬剤はカルボプラチンを含む。ある特定の実施形態では、タキサンはパクリタキセルを含む。
【0023】
本明細書に記載される方法のいくつかの実施形態では、本方法は、追加の治療剤を投与することを更に含む。ある特定の実施形態では、追加の治療剤は、個体に対する血管新生阻害剤、PARP阻害剤、及びチェックポイント阻害剤からなる群から選択されるメンバーである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本開示の新規な特徴は、添付の特許請求の範囲に詳細に記載されている。本開示の特徴及び利点のより良い理解は、本開示の原理が利用される例示的な実施形態について記載する以下の発明を実施するための形態、及び添付の図面を参照することによって得られるであろう。
【0025】
図1】全ての患者の変異プロファイルの視覚的表示を示す。
【0026】
図2】セット全体における各遺伝子の次数を表す棒グラフを示す。黒色の棒の遺伝子は、近い距離行列に含まれる遺伝子に対応する。これらの遺伝子は、STRINGネットワークの構築においてより多くのタンパク質間相互作用を可能にする。灰色の棒は、距離行列に表されなかった遺伝子セット全体からの遺伝子である。
【0027】
図3】距離行列を示す。この距離行列は、完全に接続されたネットワークのサブセットである23個の遺伝子のみを含む。短い距離は、遺伝子間の高度な相互作用を示す。長い距離は、遺伝子ペア間の相互作用がより少ないことを示す。対角線は、遺伝子のそれ自体との相互作用を表し、0に等しい。
【0028】
図4】TP53m-BRCAwt集団の無作為化時点からのRFSを示す(HR=0.44、p=0.01)。
【0029】
図5A】TP53m-BRCAwtかつHRP集団の無作為化時点からのRFS(HR=0.26、p=0.001)(図5A)及びOS(HR=0.33、p=0.02)(図5B)を示す。
図5B】TP53m-BRCAwtかつHRP集団の無作為化時点からのRFS(HR=0.26、p=0.001)(図5A)及びOS(HR=0.33、p=0.02)(図5B)を示す。
【0030】
図6】それぞれがmiR-30aループを有する2つのステムループ構造を含むbi-shRNAフーリン(配列番号2)であって、第1のステムループ構造は完全に相補的なガイド鎖及びパッセンジャー鎖を有する一方で、第2のステムループ構造はパッセンジャー鎖の9~11位に3つの塩基対(bp)ミスマッチを有する、bi-shRNAフーリンを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
ある特定の実施形態では、1)癌患者を遺伝子型判定して、癌患者由来の試料においてBRCA1wt及び/又はBRCA2wtを含む遺伝子型を同定すること、2)癌患者に、(a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、(b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与し、それにより癌患者を治療すること、によって癌の治療を必要とする癌患者において癌を治療する方法が本明細書に開示される。他の実施形態では、本方法は、癌患者を遺伝子型判定して、以下の遺伝子型のペア:CTNNB1wt及びARID1Am、MUTYHwt及びARID1Am、NF1wt及びARID1Am、PIK3CAwt及びARID1Am、並びにUVSSAwt及びARID1Amのうちの1つ以上を同定することを含む。
【0032】
特定の定義
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、特許請求される主題が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0033】
本明細書で使用される場合、範囲及び量は、具体的な値又は範囲に「約」を付けて表すことができる。約には正確な値も含まれる。したがって「約5μg」は、「約5μg」を意味するとともに「5μg」も意味する。概して、「約」という用語には、実験誤差内であると想定される量が含まれる。いくつかの実施形態では、「約」は、記載されている数又は値、その数又は値の「+」又は「-」20%、10%、又は5%を指す。
【0034】
「有効量」又は「治療有効量」という用語は、本明細書で使用される場合、治療中である疾患若しくは状態の症状の1つ以上をある程度緩和するか、又は治療中である疾患若しくは状態の1つ以上の症状の発症若しくは再発を予防するのに十分な投与される薬剤又は化合物の量を指す。いくつかの実施形態では、結果は、疾患の徴候、症状、若しくは原因の低減及び/若しくは軽減、又は生物系の任意の他の所望の変化である。例えば、治療的使用での「有効量」は、過度の有害な副作用を伴わずに疾患症状を臨床的に有意に減少させるのに必要とされる発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンの量である。別の例では、治療的使用での「有効量」は、過度の有害な副作用を伴わずに疾患症状の再発を予防するのに必要とされる本明細書に開示される発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンの量である。任意の個々の症例における適切な「有効量」は、用量漸増試験などの技術を使用して決定することができる。「治療有効量」という用語には、例えば予防有効量が含まれる。本明細書に開示される化合物の「有効量」は、過度の有害な副作用を伴わずに、所望の効果又は治療上の改善を実現するのに有効な量である。いくつかの実施形態では、「有効量」又は「治療有効量」は、発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンの代謝、対象の年齢、体重、全身状態、治療中である状態、治療中である状態の重症度、及び処方医の判断が様々であるため対象毎に異なることが理解される。
【0035】
本明細書で使用される場合、「対象」、「個体」、及び「患者」という用語は互換的に使用される。これらの用語のいずれも、医療専門家(例えば医師、看護師、医師助手、病棟付き職員、ホスピス職員)の監督を必要とすると解釈されるべきではない。本明細書で使用される場合、対象は、哺乳動物(例えばヒト又は非ヒト動物)及び非哺乳動物などの任意の動物である。本明細書で提供される方法及び自家腫瘍細胞ワクチンの一実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0036】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療すること」、又は「治療」という用語、及び他の文法上の等価物は、疾患若しくは状態の1つ以上の症状を軽減、緩和、若しくは改善すること、疾患若しくは状態の1つ以上の更なる症状の出現、重症度、若しくは頻度を改善、予防、若しくは減少させること、疾患若しくは状態の1つ以上の症状の根底にある代謝的原因を改善若しくは予防すること、疾患若しくは状態を阻害すること、例えば、疾患若しくは状態の進行を停止させること、疾患若しくは状態を緩和すること、疾患若しくは状態の退行を引き起こすこと、疾患若しくは状態によって引き起こされる状態を緩和すること、疾患若しくは状態の再発を予防すること、又は疾患若しくは状態の症状を予防的及び/若しくは治療的に阻害することを含むが、これらに限定されない。非限定的な例では、予防的ベネフィットのために、本明細書に開示される発現ベクター又は自家癌細胞ワクチン組成物は、特定の疾患若しくは状態を発症するリスクがある個体、特定の疾患若しくは状態を発症する素因がある個体、又は疾患若しくは状態に以前に罹患し、その疾患若しくは状態を治療された個体に投与される。
【0037】
本明細書で使用される場合、「応答性」又は「応答」という用語は、療法に対する疾患の陽性反応又は変化、例えば癌療法に対する癌の陽性反応を指す。癌療法に対する癌の応答性は、癌の症状の出現、重症度、及び/又は頻度を評価することによって測定することができる。いくつかの実施形態では、癌療法に対する癌の応答性は、癌患者の全生存期間又は無再発生存期間によって測定することができる。
【0038】
本明細書で使用される場合、「トランスフェクション」という用語は、真核細胞への外来DNAの導入を指す。いくつかの実施形態では、トランスフェクションは、任意の好適な手段、例えば、リン酸カルシウム-DNA共沈殿、DEAE-デキストラン媒介性トランスフェクション、ポリブレン媒介性トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、レトロウイルス感染、又は遺伝子銃によって達成される。
【0039】
本明細書で使用される場合、「核酸」又は「核酸分子」という用語は、ポリヌクレオチド、例えばデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)、オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生成される断片、並びにライゲーション、切断、エンドヌクレアーゼ作用、及びエキソヌクレアーゼ作用のいずれかによって生成される断片を指す。いくつかの実施形態では、核酸分子は、天然に存在するヌクレオチド(例えばDNA及びRNA)、又は天然に存在するヌクレオチドの類似体(例えば天然に存在するヌクレオチドのα-鏡像異性体型)、又は両方の組み合わせであるモノマーから構成される。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、糖部分及び/又はピリミジン若しくはプリン塩基部分に改変を有する。糖修飾は、例えば、1つ以上のヒドロキシル基をハロゲン、アルキル基、アミン、及びアジド基で置換することを含み、又は糖はエーテル若しくはエステルとして官能化され得る。更に、いくつかの実施形態では、糖部分全体は、立体的及び電子的に類似した構造、例えばアザ糖及び炭素環式糖類似体で置換される。塩基部分における修飾の例としては、アルキル化プリン及びピリミジン、アシル化プリン若しくはピリミジン、又は他の周知の複素環式置換体が挙げられる。いくつかの実施形態では、核酸モノマーは、ホスホジエステル結合又はこのような結合の類似体によって連結される。ホスホジエステル結合の類似体としては、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレノエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート(phosphoroanilothioate)、ホスホロアニリデート(phosphoranilidate)、ホスホロアミデートなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、「核酸」又は「核酸分子」という用語はまた、ポリアミド骨格に結合した天然又は修飾核酸塩基を含むいわゆる「ペプチド核酸」を含む。いくつかの実施形態では、核酸は、一本鎖又は二本鎖である。
【0040】
本明細書で使用される場合、「発現ベクター」という用語は、宿主細胞において発現される遺伝子をコードする核酸分子を指す。いくつかの実施形態では、発現ベクターは、転写プロモーター、遺伝子、及び転写ターミネーターを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子発現はプロモーターの制御下に置かれ、そのような遺伝子はプロモーターに「作動可能に連結されている」と言われる。いくつかの実施形態では、調節エレメント及びコアプロモーターは、調節エレメントがコアプロモーターの活性を調整する場合、作動可能に連結されている。本明細書で使用される場合、「プロモーター」という用語は、宿主酵母細胞において構造遺伝子と会合した場合、その構造遺伝子について、適切な増殖条件下で、1)転写、2)翻訳、又は3)mRNA安定性のうちの1つ以上を、プロモーター配列の非存在下での転写、翻訳、又はmRNA安定性(mRNAのより長い半減期)と比較して向上させる任意のDNA配列を指す。
【0041】
本明細書で使用される場合、「二機能性」という用語は、2つの機構的作用経路、すなわちsiRNAの作用経路とmiRNAの作用経路とを有するshRNAを指す。「従来の」shRNAという用語は、siRNA作用機序によって作用するDNA転写由来RNAを指す。「ダブレット」shRNAという用語は、それぞれが2つの異なる遺伝子の発現に対して、但し「従来の」siRNA様式で作用する2つのshRNAを指す。
【0042】
本明細書で使用される場合、「相同組換え修復欠損陽性」、「HRD陽性」、及び「HRD」という用語は互換的に使用され、それらはHRが欠損した状態を指す。逆に、「相同組換え修復欠損陰性」、「HRD陰性」、「相同組換え能を有する」、及び「HRP」という用語は互換的に使用され、それらはHRが欠損していない状態を指す。
【0043】
本明細書で使用される場合、遺伝子名の後に「wt」が続く場合、その遺伝子の遺伝子型が野生型であることを意味する。
【0044】
本明細書で使用される場合、遺伝子名の後に「m」が続く場合、その遺伝子の遺伝子型が変異していることを意味する。
【0045】
癌を治療する方法
Vigil(登録商標)は、GM-CSFと、フーリンに対する二機能性低分子ヘアピン型RNA阻害剤とをコードするプラスミドをトランスフェクトされた自家腫瘍DNA免疫療法薬である。フーリンは、TGF-βをその活性型に切断するために必須の酵素である[19]。Vigil(登録商標)は、3つの方法で癌に対する免疫系の効力を増強するように設計された:第1に、Vigil(登録商標)は、個々の腫瘍ネオ抗原レパートリーを免疫系に導入する。第2に、Vigil(登録商標)は、末梢及び骨髄レベルの両方での免疫活性化に重要なサイトカインであるGM-CSFを介して免疫細胞の分化及び活性化を増強する。最後に、Vigil(登録商標)は、TGF-βを発現する癌を阻害し、それによりTGF-βの免疫抑制活性を減少させる。臨床的ベネフィットと相関するVigil(登録商標)の機能的免疫活性化は、ELISPOTアッセイを介して実証されている[20、21]。更に、Vigil(登録商標)は、進行した充実性腫瘍患者においてCD3+/CD8+T細胞の循環を増加させ、臨床的ベネフィットと相関してNanoString解析によるMHC-IIの発現活性を拡大すると考えられている[22、23]。Vigil(登録商標)の安全性及び有効性は、卵巣癌に加えていくつかの腫瘍タイプにおいて評価されている[20、21、24~28]。
【0046】
フロントラインのステージIII/IV卵巣癌の維持療法としてVigil(登録商標)とプラセボを比較した無作為化二重盲検プラセボ対照試験(VITAL試験)により、最近、BRCAwt腫瘍を有する患者における無再発生存期間(RFS)及び全生存期間(OS)において無作為化時点からの臨床的ベネフィットが実証された[19]。本発明者らは、BRCAwt、HRP卵巣癌のインタクトなDNA修復機構がVigil(登録商標)の有効性にとって重要であり得、これはBRCA変異体(BRCAm)及び/又はHRD分子プロファイルに関与する不十分なDNA修復とは対照的に、抗癌免疫刺激に利用可能なクローン性ネオ抗原がサブクローン性ネオ抗原に対しより高度に関連している可能性があると仮定する[29、30]。
【0047】
本開示では、フロントラインのステージIII/IV卵巣癌を治療するための無作為化二重盲検試験での、Vigil(登録商標)又はプラセボを投与された患者におけるゲノムバリアントデータの分子解析について説明する。本開示は、有意なゲノムバリアント、有意味なバリアントの組み合わせ、及び卵巣癌経路の交点又は「ハブ」における関連遺伝子を同定する。
【0048】
本開示は、癌患者の癌治療に対する癌の応答性を予測するための方法であって、癌患者由来の試料においてBRCA1及び/又はBRCA2の遺伝子型を判定することを含み、該癌治療が、癌患者に(a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、(b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与することを含み、以下の遺伝子型:(1)BRCA1wt、(2)BRCA2wt、並びに(3)BRCA1wt及びBRCA2wtのうちの1つ以上の判定が、該癌患者が該癌治療に応答性であることを示す、方法を提供する。
【0049】
いくつかの実施形態では、本方法は、2つの遺伝子の遺伝子型の判定を含む。第1の遺伝子がBRCA1である場合、本方法は、BRCA2、TP53、PIK3CA、NF1、ARID1A、MYCNOS、及びMUTYHからなる群から選択される第2の遺伝子の遺伝子型の判定を更に含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、本方法は、2つの遺伝子の遺伝子型の判定を含む。第1の遺伝子がBRCA2である場合、本方法は、BRCA1、TP53、PIK3CA、NF1、ARID1A、MYCNOS、及びMUTYHからなる群から選択される第2の遺伝子の遺伝子型の判定を更に含む。
【0051】
癌患者における癌は、患者が以下の遺伝子型のペア:TP53m及びBRCA1wt;TP53m及びBRCA2wt;BRCA1wt及びPIK3CAwt;BRCA1wt及びNF1wt;BRCA1wt及びARID1Awt;BRCA1wt及びMYCNOSwt;BRCA1wt及びMUTYHwt;BRCA2wt及びPIK3CAwt;BRCA2wt及びNF1wt;BRCA2wt及びARID1Awt;BRCA2wt及びMYCNOSwt;並びにBRCA2wt及びMUTYHwtのうちの1つ以上を有すると判定される場合、癌治療に応答性であると予測される。
【0052】
ある特定の実施形態では、本方法は、癌患者において3つの遺伝子の遺伝子型を判定することを含む。いくつかの実施形態では、3つの遺伝子のうちの2つは、BRCA1及びBRCA2である。いくつかの実施形態では、癌患者における癌は、患者が以下の遺伝子型の三つ組:TP53m、BRCA1wt、及びBRCA2wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びPIK3CAwt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びNF1wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びARID1Awt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びMYCNOSwt;並びにBRCA1wt、BRCA2wt、及びMUTYHwtのうちの1つ以上を有すると判定される場合、癌治療に応答性であると予測され、癌患者が癌治療に応答性であることを示す。
【0053】
本開示はまた、癌患者の癌治療に対する癌の応答性を予測するための方法であって、癌患者由来の試料において第1の遺伝子及び第2の遺伝子の遺伝子型を判定することを含み、該癌治療が、癌患者に(a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、(b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与することを含む、方法も提供する。
【0054】
特定の実施形態では、本開示はまた、癌患者の癌治療に対する癌の応答性を予測するための方法であって、癌患者由来の試料において第1の遺伝子及び第2の遺伝子の遺伝子型を判定することを含み、該癌治療が、癌患者に(a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、(b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与することを含み、該第1の遺伝子がARID1Aであり、該第2の遺伝子がCTNNB1、MUTYH、NF1、PIK3CA、及びUVSSAからなる群から選択され、以下の遺伝子型のペア:CTNNB1wt及びARID1Am、MUTYHwt及びARID1Am、NF1wt及びARID1Am、PIK3CAwt及びARID1Am、並びにUVSSAwt及びARID1Amのうちの1つ以上の判定が、癌患者が癌治療に応答性であることを示す、方法も提供する。
【0055】
癌患者は、相同組換え能を有すると同定され得る。遺伝子型の判定が、癌患者の癌治療に対する癌の応答性を示すと、該方法は、癌患者を癌治療で治療することを更に含むことができる。
【0056】
癌治療に対する癌の応答性を予測するための方法に加えて、本開示はまた、癌患者にa)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与することによって、癌の治療を必要とする癌患者において癌を治療するための方法も提供し、該癌患者は、以下の表Aに示される遺伝子型のセットのうちの1つ以上を含む。
【表A】
【0057】
ある特定の実施形態では、癌治療(例えば、a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクター)を受ける癌患者は、遺伝子型:BRCA1wt、BRCA2wt、又はBRCA1wt及びBRCA2wtを有する。
【0058】
ある特定の実施形態では、癌治療(例えば、a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクター)を受ける癌患者は、以下の遺伝子型のセット:TP53m及びBRCA1wt;TP53m及びBRCA2wt;又はTP53m、BRCA1wt、及びBRCA2wtのうちの1つを有する。
【0059】
ある特定の実施形態では、癌治療(例えば、a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクター)を受ける癌患者は、遺伝子型ARID1Amを有する。いくつかの実施形態では、癌患者は、1つの遺伝子型がARID1Amである一対の遺伝子型を有する。いくつかの実施形態では、癌患者は、以下の遺伝子型のセット:CTNNB1wt及びARID1Am;HTR2Cwt及びARID1Am;MUTYHwt及びARID1Am;NF1wt及びARID1Am;PIK3CAwt及びARID1Am;並びにUVSSAwt及びARID1Amのうちの1つを有する。
【0060】
上記の実施形態のいずれかにおいて、本方法のある特定の実施形態では、癌患者は、相同組換え能を有すると同定される。
【0061】
本開示はまた、癌の治療を必要とする癌患者において癌を治療するための方法であって、1)癌患者を遺伝子型判定して、癌患者由来の試料においてBRCA1wt及び/又はBRCA2wtを含む遺伝子型を同定すること、2)癌患者に(a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、(b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与し、それにより癌患者を治療すること、を含む、方法も提供する。ある特定の実施形態では、ステップ1)は、癌患者を遺伝子型判定して、表Aに提供される遺伝子型の1つ以上のセットを同定することを含む。
【0062】
具体的には、ある特定の実施形態では、ステップ1)は、癌患者を遺伝子型判定して、以下の遺伝子型のペア:TP53m及びBRCA1wt;TP53m及びBRCA2wt;BRCA1wt及びPIK3CAwt;BRCA1wt及びNF1wt;BRCA1wt及びARID1Awt;BRCA1wt及びMYCNOSwt;BRCA1wt及びMUTYHwt;BRCA2wt及びPIK3CAwt;BRCA2wt及びNF1wt;BRCA2wt及びARID1Awt;BRCA2wt及びMYCNOSwt;並びにBRCA2wt及びMUTYHwtのうちの1つ以上を同定することを含む。具体的には、ある特定の実施形態では、ステップ1)は、癌患者を遺伝子型判定して、以下の遺伝子型の三つ組:TP53m、BRCA1wt、及びBRCA2wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びPIK3CAwt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びNF1wt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びARID1Awt;BRCA1wt、BRCA2wt、及びMYCNOSwt;並びにBRCA1wt、BRCA2wt、及びMUTYHwtのうちの1つ以上を同定することを含む。
【0063】
特定の実施形態では、本開示は、癌の治療を必要とする癌患者において癌を治療するための方法であって、1)癌患者を遺伝子型判定して、癌患者由来の試料において以下の遺伝子型のセット:TP53m及びBRCA1wt;TP53m及びBRCA2wt;又はTP53m、BRCA1wt、及びBRCA2wtのうちの1つ以上を同定すること、2)癌患者に(a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、(b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与し、それにより癌患者を治療すること、を含む、方法を提供する。
【0064】
特定の実施形態では、本開示は、癌の治療を必要とする癌患者において癌を治療するための方法であって、1)癌患者を遺伝子型判定して、癌患者由来の試料において遺伝子型ARID1Am及び1つ以上の他の遺伝子の遺伝子型を同定すること、2)癌患者に(a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、(b)配列番号2に記載の配列を含む第2のインサートと、を含む発現ベクターを投与し、それにより癌患者を治療すること、を含む、方法を提供する。ある特定の実施形態では、ステップ1)は、癌患者を遺伝子型判定して、癌患者由来の試料において以下の遺伝子型のセット:CTNNB1wt及びARID1Am、MUTYHwt及びARID1Am、NF1wt及びARID1Am、PIK3CAwt及びARID1Am、並びにUVSSAwt及びARID1Amのうちの1つ以上を同定することを含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、1つ以上の利用可能なシークエンシング技術を使用して、癌患者において1つ以上の遺伝子の遺伝子型を判定することができる。いくつかの実施形態では、シークエンシングは、サンガーシークエンシング又は次世代シークエンシングを含む。いくつかの実施形態では、次世代シークエンシングは、超並列シークエンシングを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子型の判定は、個体から抽出された核酸のアレイへのハイブリダイゼーションを含む。いくつかの実施形態では、アレイはマイクロアレイである。いくつかの実施形態では、遺伝子型の判定は、個体から抽出された核酸のアレイ比較ゲノムハイブリダイゼーションを含む。
【0066】
本明細書に記載される方法において、いくつかの実施形態では、試料は組織試料であり得る。いくつかの実施形態では、試料は、患者由来の生検試料、例えば腫瘍細胞の生検試料、又は循環腫瘍細胞の生検試料であり得る。
【0067】
いくつかの実施形態では、個体がHRD陽性又はHRD陰性であるかどうかを特定するために、HRDスコアを決定することができる。いくつかの実施形態では、HRDスコアは、ヘテロ接合性の喪失(LOH)、テロメアアレルの不均衡(TAI)、及び大規模な状態遷移(LST)についてのスコアに基づいて計算することができる。いくつかの実施形態では、LOHは、単一アレルの存在によって示される。いくつかの実施形態では、LOHは、15Mbより長いヘテロ接合性領域の染色体喪失の数として定義される。いくつかの実施形態では、TAIは、染色体の末端における1:1アレル比の不一致によって示される。いくつかの実施形態では、LSTは、異常なDNA領域と正常なDNA領域間、又は2つの異なる異常な領域間の遷移点によって示される。いくつかの実施形態では、LSTは、3Mbより短い領域を除外した後の10Mbより長い領域間の切断点の数として定義される。ある特定の実施形態では、HRDスコアは、LOH、TAI、及びLSTスコアの合計として計算される。HRDスコアを決定する方法は、当該技術分野において利用可能であり、例えばTakaya et al.,Sci Rep.10(1):2757,2020,Telli et al.,Clin Cancer Res 22(15):3764-73,2016、及びMarchetti and McNeish,Cancer Breaking News 5(1):15-20,2017に記載されている。更に、HRDスコアを決定するための商業的サービス、例えば、Ambry Genetics、Caris Life Sciences、Counsylgenetic、Foundation Medicine、GeneDX、Integrated Genetics、Invitae、Myriad Genetics、及びNeogenomicsによって提供されるサービスも利用可能である。いくつかの実施形態では、遺伝子型BRCA1wt、BRCA2wt、又はそれらの組み合わせを有する個体は、HRD陰性であってもHRD陽性であってもよい。他の実施形態では、BRCA1及び/又はBRCA2における変異は、HRDをもたらし得る。換言すれば、BRCA1及び/又はBRCA2における変異は、HRD陽性状態を有する個体をもたらし得る。いくつかの実施形態では、遺伝子型BRCA1wt、BRCA2wt、及び/又はTP53m(例えばBRCA1wt及びBRCA2wt、BRCA1wt及びTP53m、BRCA2wt及びTP53m、並びにBRCA1wt及びBRCA2wt及びTP53m)を有する個体は、HRD陰性であってもHRD陽性であってもよい。いくつかの実施形態では、遺伝子型BRCA1wt、BRCA2wt、及び/又はTP53m(例えば、BRCA1wt及びBRCA2wt、BRCA1wt及びTP53m、BRCA2wt及びTP53m、並びにBRCA1wt及びBRCA2wt及びTP53m)を有する個体は、HRD陰性である。特定の実施形態では、HRD陽性状態を有すると同定された個体は、42以上(例えば、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60以上)のHRDスコアを有する。
【0068】
発現ベクター
いくつかの実施形態では、発現ベクター中の顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)は、ヒトGM-CSF配列である。いくつかの実施形態では、発現ベクターはプロモーターを更に含み、例えばプロモーターはサイトメガロウイルス(CMV)哺乳動物プロモーターである。いくつかの実施形態では、哺乳動物CMVプロモーターは、CMV最初期(IE)5’UTRエンハンサー配列及びCMV IEイントロンAを含む。更なる実施形態では、発現ベクターは、CMVエンハンサー配列及びCMVイントロン配列を更に含む。
【0069】
発現ベクター中の第1のインサート及び第2のインサートは、プロモーターに作動可能に連結され得る。特定の実施形態では、発現ベクターは、第1の核酸インサートと第2の核酸インサートとの間にピコルナウイルスの2Aリボソームスキップペプチドをコードする核酸配列を更に含む。
【0070】
いくつかの実施形態では、発現ベクターは、少なくとも1つの二機能性shRNA(bi-shRNA)を含む。いくつかの実施形態では、bi-shRNAは、siRNA成分を含む第1のステムループ構造と、miRNA成分を含む第2のステムループ構造とを含む。いくつかの実施形態では、二機能性shRNAは、2つの機構的作用経路、すなわちsiRNAの作用経路とmiRNAの作用経路を有する。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に記載される二機能性shRNAは、従来のshRNA、すなわちsiRNA作用機序によって作用するDNA転写由来RNAとも、それぞれが2つの異なる遺伝子の発現に対し、但し従来のsiRNA様式で作用する2つのshRNAを指す「ダブレットshRNA」とも異なる。いくつかの実施形態では、bi-shRNAは、siRNA(切断依存性)及びmiRNA(切断非依存性)モチーフを組み込む。
【0071】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのbi-shRNAは、フーリンをコードするmRNA転写物の1つ以上の領域にハイブリダイズすることができる。いくつかの実施形態では、フーリンをコードするmRNA転写物は、配列番号1の核酸配列である。いくつかの実施形態では、フーリンをコードするmRNA転写物の1つ以上の領域は、配列番号1の塩基配列300~318、731~740、1967~1991、2425~2444、2827~2851、及び2834~2852から選択される。いくつかの実施形態では、発現ベクターは、フーリンmRNA転写物のコード領域、フーリンmRNA転写物の3’UTR領域配列、又はフーリンmRNA転写物のコード配列及び3’UTR配列の両方を同時に標的とする。いくつかの実施形態では、bi-shRNAは配列番号2を含む。いくつかの実施形態では、フーリンをコードするmRNA転写物の1つ以上の領域にハイブリダイズすることができるbi-shRNAは、本明細書においてbi-shRNAフーリンと称される。いくつかの実施形態では、bi-shRNAフーリンは、それぞれがmiR-30a骨格を有する2つのステムループ構造を含むか、又はそれからなる。いくつかの実施形態では、2つのステムループ構造のうちの第1のステムループ構造は、相補的なガイド鎖及びパッセンジャー鎖を含む(図6)。いくつかの実施形態では、2つのステムループ構造のうちの第2のステムループ構造は、パッセンジャー鎖に3つのミスマッチを含む。いくつかの実施形態では、3つのミスマッチは、パッセンジャー鎖の9~11位にある。
【0072】
発現ベクターは、a.顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと、b.それぞれがmiR-30aループを有する2つのステムループ構造を含む第2のインサートであって、第1のステムループ構造は完全に相補的なガイド鎖及びパッセンジャー鎖を有する一方で、第2のステムループ構造はパッセンジャー鎖の9~11位に3つの塩基対(bp)ミスマッチを有する、第2のインサートと、を含むことができる。miR-30aループ及びその配列の説明は当該技術分野で公知であり、例えばRao et al.,Cancer Gene Ther.17(11):780-91,2010;Jay et al.,Cancer Gene Ther.20(12):683-9,2013;Rao et al.,Mol Ther.24(8):1412-22,2016;Phadke et al.,DNA Cell Biol.30(9):715-26,2011;Barve et al.,Mol Ther.23(6):1123-1130,2015;Rao et al.,Methods Mol Biol.942:259-78,2013;及びSenzer et al.,Mol Ther.20(3):679-86,2012を参照のこと。いくつかの実施形態では、miR-30aループは、GUGAAGCCACAGAUG(配列番号6)の配列を含む。いくつかの実施形態では、第1のステムループ構造中のガイド鎖は配列番号4の配列を含み、第1のステムループ構造中のパッセンジャー鎖は配列番号3の配列を有する。いくつかの実施形態では、第2のステムループ構造中のガイド鎖は配列番号4の配列を含み、第2のステムループ構造中のパッセンジャー鎖は配列番号5の配列を有する。
【表B-1】
【表B-2】
【0073】
いくつかの実施形態では、発現ベクタープラスミドは、配列番号7の配列と少なくとも90%(例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%)同一である配列を有することができる。ベクタープラスミドは、プロモーターに作動可能に連結された第1の核酸インサートであって、GM-CSF cDNAをコードする、第1のインサートと、プロモーターに作動可能に連結された第2の核酸インサートであって、フーリンをコードするmRNA転写物の領域にハイブリダイズすることができ、それによってRNA干渉を介してフーリン発現を阻害する1つ以上の低分子ヘアピン型RNA(shRNA)をコードする、第2のインサートと、を含むことができる。
配列番号7
GGCCATTGCATACGTTGTATCCATATCATAATATGTACATTTATATTGGCTCATGTCCAACATTACCGCCATGTTGACATTGATTATTGACTAGTTATTAATAGTAATCAATTACGGGGTCATTAGTTCATAGCCCATATATGGAGTTCCGCGTTACATAACTTACGGTAAATGGCCCGCCTGGCTGACCGCCCAACGACCCCCGCCCATTGACGTCAATAATGACGTATGTTCCCATAGTAACGCCAATAGGGACTTTCCATTGACGTCAATGGGTGGAGTATTTACGGTAAACTGCCCACTTGGCAGTACATCAAGTGTATCATATGCCAAGTACGCCCCCTATTGACGTCAATGACGGTAAATGGCCCGCCTGGCATTATGCCCAGTACATGACCTTATGGGACTTTCCTACTTGGCAGTACATCTACGTATTAGTCATCGCTATTACCATGGTGATGCGGTTTTGGCAGTACATCAATGGGCGTGGATAGCGGTTTGACTCACGGGGATTTCCAAGTCTCCACCCCATTGACGTCAATGGGAGTTTGTTTTGGCACCAAAATCAACGGGACTTTCCAAAATGTCGTAACAACTCCGCCCCATTGACGCAAATGGGCGGTAGGCGTGTACGGTGGGAGGTCTATATAAGCAGAGCTCGTTTAGTGAACCGTCAGATCGCCTGGAGACGCCATCCACGCTGTTTTGACCTCCATAGAAGACACCGGGACCGATCCAGCCTCCGCGGCCGGGAACGGTGCATTGGAACGCGGATTCCCCGTGCCAAGAGTGACGTAAGTACCGCCTATAGACTCTATAGGCACACCCCTTTGGCTCTTATGCATGCTATACTGTTTTTGGCTTGGGGCCTATACACCCCCGCTTCCTTATGCTATAGGTGATGGTATAGCTTAGCCTATAGGTGTGGGTTATTGACCATTATTGACCACTCCAACGGTGGAGGGCAGTGTAGTCTGAGCAGTACTCGTTGCTGCCGCGCGCGCCACCAGACATAATAGCTGACAGACTAACAGACTGTTCCTTTCCATGGGTCTTTTCTGCAGTCACCGTCGTCGACGGTATCGATAAGCTTGATATCGAATTCCGCTGGAGGATGTGGCTGCAGAGCCTGCTGCTCTTGGGCACTGTGGCCTGCAGCATCTCTGCACCCGCCCGCTCGCCCAGCCCCAGCACGCAGCCCTGGGAGCATGTGAATGCCATCCAGGAGGCCCGGCGTCTCCTGAACCTGAGTAGAGACACTGCTGCTGAGATGAATGAAACAGTAGAAGTCATCTCAGAAATGTTTGACCTCCAGGAGCCGACCTGCCTACAGACCCGCCTGGAGCTGTACAAGCAGGGCCTGCGGGGCAGCCTCACCAAGCTCAAGGGCCCCTTGACCATGATGGCCAGCCACTACAAGCAGCACTGCCCTCCAACCCCGGAAACTTCCTGTGCAACCCAGACTATCACCTTTGAAAGTTTCAAAGAGAACCTGAAGGACTTTCTGCTTGTCATCCCCTTTGACTGCTGGGAGCCAGTCCAGGAGTGAGACCGGCCAGATGAGGCTGGCCAAGCCGGGGAGCTGCTCTCTCATGAAACAAGAGCTAGAAACTCAGGATGGTCATCTTGGAGGGACCAAGGGGTGGGCCACAGCCATGGTGGGAGTGGCCTGGACCTGCCCTGGGCCACACTGACCCTGATACAGGCATGGCAGAAGAATGGGAATATTTTATACTGACAGAAATCAGTAATATTTATATATTTATATTTTTAAAATATTTATTTATTTATTTATTTAAGTTCATATTCCATATTTATTCAAGATGTTTTACCGTAATAATTATTATTAAAAATATGCTTCTAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAACGGAATTCACGTGGGCCCGGTACCGTATACTCTAGAAGATCTGGCAGCGGAGAGGGCAGAGGAAGTCTTCTAACATGCGGTGACGTGGAGGAGAATCCCGGCCCTAGGATGTCTAGAGCGGCCGCGGATCCTGCTGTTGACAGTGAGCGCGGAGAAAGGAGTGAAACCTTAGTGAAGCCACAGATGTAAGGTTTCACTCCTTTCTCCTTGCCTACTGCCTCGGAAGCAGCTCACTACATTACTCAGCTGTTGACAGTGAGCGCGGAGAAAGATATGAAACCTTAGTGAAGCCACAGATGTAAGGTTTCACTCCTTTCTCCTTGCCTACTGCCTCGGAAGCTTAATAAAGGATCTTTTATTTTCATTGGATCCAGATCTTTTTCCCTCTGCCAAAAATTATGGGGACATCATGAAGCCCCTTGAGCATCTGACTTCTGGCTAATAAAGGAAATTTATTTTCATTGCAATAGTGTGTTGGAATTTTTTGTGTCTCTCACTCGGAAGGACATATGGGAGGGCAAATCATTTAAAACATCAGAATGAGTATTTGGTTTAGAGTTTGGCAACATATGCCCATTCTTCCGCTTCCTCGCTCACTGACTCGCTGCGCTCGGTCGTTCGGCTGCGGCGAGCGGTATCAGCTCACTCAAAGGCGGTAATACGGTTATCCACAGAATCAGGGGATAACGCAGGAAAGAACATGTGAGCAAAAGGCCAGCAAAAGGCCAGGAACCGTAAAAAGGCCGCGTTGCTGGCGTTTTTCCATAGGCTCCGCCCCCCTGACGAGCATCACAAAAATCGACGCTCAAGTCAGAGGTGGCGAAACCCGACAGGACTATAAAGATACCAGGCGTTTCCCCCTGGAAGCTCCCTCGTGCGCTCTCCTGTTCCGACCCTGCCGCTTACCGGATACCTGTCCGCCTTTCTCCCTTCGGGAAGCGTGGCGCTTTCTCATAGCTCACGCTGTAGGTATCTCAGTTCGGTGTAGGTCGTTCGCTCCAAGCTGGGCTGTGTGCACGAACCCCCCGTTCAGCCCGACCGCTGCGCCTTATCCGGTAACTATCGTCTTGAGTCCAACCCGGTAAGACACGACTTATCGCCACTGGCAGCAGCCACTGGTAACAGGATTAGCAGAGCGAGGTATGTAGGCGGTGCTACAGAGTTCTTGAAGTGGTGGCCTAACTACGGCTACACTAGAAGAACAGTATTTGGTATCTGCGCTCTGCTGAAGCCAGTTACCTTCGGAAAAAGAGTTGGTAGCTCTTGATCCGGCAAACAAACCACCGCTGGTAGCGGTGGTTTTTTTGTTTGCAAGCAGCAGATTACGCGCAGAAAAAAAGGATCTCAAGAAGATCCTTTGATCTTTTCTACGGGGTCTGACGCTCAGTGGAACGAAAACTCACGTTAAGGGATTTTGGTCATGAGATTATCAAAAAGGATCTTCACCTAGATCCTTTTAAATTAAAAATGAAGTTTTAAATCAATCTAAAGTATATATGAGTAAACTTGGTCTGACAGTTACCAATGCTTAATCAGTGAGGCACCTATCTCAGCGATCTGTCTATTTCGTTCATCCATAGTTGCCTGACTCGGGGGGGGGGGGCGCTGAGGTCTGCCTCGTGAAGAAGGTGTTGCTGACTCATACCAGGCCTGAATCGCCCCATCATCCAGCCAGAAAGTGAGGGAGCCACGGTTGATGAGAGCTTTGTTGTAGGTGGACCAGTTGGTGATTTTGAACTTTTGCTTTGCCACGGAACGGTCTGCGTTGTCGGGAAGATGCGTGATCTGATCCTTCAACTCAGCAAAAGTTCGATTTATTCAACAAAGCCGCCGTCCCGTCAAGTCAGCGTAATGCTCTGCCAGTGTTACAACCAATTAACCAATTCTGATTAGAAAAACTCATCGAGCATCAAATGAAACTGCAATTTATTCATATCAGGATTATCAATACCATATTTTTGAAAAAGCCGTTTCTGTAATGAAGGAGAAAACTCACCGAGGCAGTTCCATAGGATGGCAAGATCCTGGTATCGGTCTGCGATTCCGACTCGTCCAACATCAATACAACCTATTAATTTCCCCTCGTCAAAAATAAGGTTATCAAGTGAGAAATCACCATGAGTGACGACTGAATCCGGTGAGAATGGCAAAAGCTTATGCATTTCTTTCCAGACTTGTTCAACAGGCCAGCCATTACGCTCGTCATCAAAATCACTCGCATCAACCAAACCGTTATTCATTCGTGATTGCGCCTGAGCGAGACGAAATACGCGATCGCTGTTAAAAGGACAATTACAAACAGGAATCGAATGCAACCGGCGCAGGAACACTGCCAGCGCATCAACAATATTTTCACCTGAATCAGGATATTCTTCTAATACCTGGAATGCTGTTTTCCCGGGGATCGCAGTGGTGAGTAACCATGCATCATCAGGAGTACGGATAAAATGCTTGATGGTCGGAAGAGGCATAAATTCCGTCAGCCAGTTTAGTCTGACCATCTCATCTGTAACATCATTGGCAACGCTACCTTTGCCATGTTTCAGAAACAACTCTGGCGCATCGGGCTTCCCATACAATCGATAGATTGTCGCACCTGATTGCCCGACATTATCGCGAGCCCATTTATACCCATATAAATCAGCATCCATGTTGGAATTTAATCGCGGCCTCGAGCAAGACGTTTCCCGTTGAATATGGCTCATAACACCCCTTGTATTACTGTTTATGTAAGCAGACAGTTTTATTGTTCATGATGATATATTTTTATCTTGTGCAATGTAACATCAGAGATTTTGAGACACAACGTGGCTTTCCCCCCCCCCCCATTATTGAAGCATTTATCAGGGTTATTGTCTCATGAGCGGATACATATTTGAATGTATTTAGAAAAATAAACAAATAGGGGTTCCGCGCACATTTCCCCGAAAAGTGCCACCTGACGTCTAAGAAACCATTATTATCATGACATTAACCTATAAAAATAGGCGTATCACGAGGCCCTTTCGTCTCGCGCGTTTCGGTGATGACGGTGAAAACCTCTGACACATGCAGCTCCCGGAGACGGTCACAGCTTGTCTGTAAGCGGATGCCGGGAGCAGACAAGCCCGTCAGGGCGCGTCAGCGGGTGTTGGCGGGTGTCGGGGCTGGCTTAACTATGCGGCATCAGAGCAGATTGTACTGAGAGTGCACCATATGCGGTGTGAAATACCGCACAGATGCGTAAGGAGAAAAT
ACCGCATCAGATTGGCTATT
【0074】
GM-CSFをコードする第1の核酸と、フーリンをコードするmRNA転写物の領域にハイブリダイズすることができる少なくとも1つの二機能性低分子ヘアピン型RNA(bi-shRNA)をコードする第2の核酸と、を含む発現ベクターは、bishRNAフーリン/GMCSF発現ベクターと呼ばれる。
【0075】
癌細胞
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法で使用される発現ベクターは、自家癌細胞、例えば自家腫瘍細胞、異種移植増殖させた自家腫瘍細胞、同種腫瘍細胞、異種移植増殖させた同種腫瘍細胞、又はそれらの組み合わせ内にある。いくつかの実施形態では、自家癌細胞は、発現ベクターでトランスフェクトされる。いくつかの実施形態では、細胞は自家腫瘍細胞である。いくつかの実施形態では、同種腫瘍細胞は、樹立細胞株である。いくつかの実施形態では、自家腫瘍細胞は、それを必要とする個体から得られる。いくつかの実施形態では、細胞が自家腫瘍細胞である場合、組成物は自家腫瘍細胞ワクチンと呼ばれる。いくつかの実施形態では、自家腫瘍細胞ワクチンは、1×10個の細胞~約5×10個の細胞、例えば1×10個の細胞、2×10個の細胞、3×10個の細胞、4×10個の細胞、5×10個の細胞、6×10個の細胞、7×10個の細胞、8×10個の細胞、9×10個の細胞、1×10個の細胞、2×10個の細胞、3×10個の細胞、4×10個の細胞、又は5×10個の細胞を含む。
【0076】
いくつかの実施形態では、細胞は個体から採取される。いくつかの実施形態では、細胞は個体の組織から採取される。いくつかの実施形態では、組織は腫瘍組織である。いくつかの実施形態では、腫瘍組織は卵巣腫瘍組織である。いくつかの実施形態では、腫瘍組織は、個体に対する生検又は細胞減少手術中に採取される。いくつかの実施形態では、腫瘍組織又は腫瘍組織由来の細胞は、滅菌容器内の抗生物質溶液中に置かれる。いくつかの実施形態では、抗生物質溶液は、ゲンタマイシン、塩化ナトリウム、又はそれらの組み合わせを含む。
【0077】
癌及び生存期間
いくつかの実施形態では、癌は、HRD陰性野生型BRCA1/2癌である。いくつかの実施形態では、癌は、充実性腫瘍癌、卵巣癌、副腎皮質癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管癌、結腸直腸癌、食道癌、膠芽腫、神経膠腫、肝細胞癌、頭頸部癌、腎臓癌、白血病、リンパ種、肺癌、黒色腫、中皮腫、多発性骨髄腫、膵臓癌、褐色細胞腫、形質細胞腫、神経芽細胞種、前立腺癌、肉腫、胃癌、子宮癌、甲状腺癌、及び血液癌からなる群から選択される。充実性腫瘍癌の例としては、限定されるものではないが、子宮内膜癌、胆道癌、膀胱癌、肝細胞癌、胃/食道癌、卵巣癌、黒色腫、乳癌、膵臓癌、結腸直腸癌、神経膠腫、非小細胞肺癌、前立腺癌、子宮頸癌、腎臓癌、甲状腺癌、神経内分泌癌、小細胞肺癌、肉腫、頭頸部癌、脳癌、淡明細胞型腎細胞癌、皮膚癌、内分泌腫瘍、甲状腺癌、原発不明腫瘍、及び消化管間質腫瘍が挙げられる。
【0078】
本方法の特定の実施形態では、癌は卵巣癌である。いくつかの実施形態では、本方法は、実質的に根絶された卵巣癌の再発を予防又は遅延させることができる。実質的に根絶された卵巣癌は、ステージIII又はステージIVの卵巣癌であり得る。他の実施形態では、癌は、乳癌、黒色腫、又は肺癌であり得る。いくつかの実施形態では、ステージIIIの卵巣癌とは、癌が片側又は両側の卵巣に見られ、骨盤外で腹部の他の部分及び/又は近くのリンパ節に転移していることを意味する。また、肝臓の表面に転移している場合も、ステージIIIの卵巣癌とみなされる。ステージIVの卵巣癌において、癌は、腹部を越えて、肺又は肝臓内部の組織などの身体の他の部分に転移している。肺の周りの体液中の癌細胞もステージIVの卵巣癌とみなされる。
【0079】
ある特定の実施形態では、卵巣癌は、ステージIII又はステージIVの卵巣癌である。いくつかの実施形態では、ステージIIIの卵巣癌は、ステージIIIb又はそれ以上の進行度である。いくつかの実施形態では、卵巣癌は、高異型度漿液性卵巣癌、卵巣明細胞癌、類内膜卵巣癌、粘液性卵巣癌、又は低異型度漿液性卵巣癌である。
【0080】
本方法のいくつかの実施形態では、個体の無再発生存期間(RFS)は、発現ベクター又は発現ベクターを含有する自家腫瘍細胞ワクチンを投与されていない実質的に根絶された卵巣癌を有する個体と比較して延長される。
【0081】
本明細書で使用される場合、「無再発生存期間」という用語は、癌を治療するための初期療法の投与後、癌が検出不能なままである(すなわち、癌が再発するまでの)期間を指す。いくつかの実施形態では、発現ベクター又は発現ベクターを含有する自家癌細胞ワクチンを投与されている個体の無再発生存期間は、発現ベクター又は発現ベクターを含有する自家癌細胞ワクチンを投与されていない個体の無再発生存期間よりも5ヶ月~11ヶ月長い。いくつかの実施形態では、発現ベクター又は発現ベクターを含有する自家癌細胞ワクチンを投与されている個体の無再発生存期間は、発現ベクター又は発現ベクターを含有する自家癌細胞ワクチンを投与されていない個体の無再発生存期間よりも少なくとも5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、又は11ヶ月長い。
【0082】
本明細書で使用される場合、「実質的に根絶された」という用語は、卵巣癌を治療するための初期療法の後に個体において検出可能でない卵巣癌を指す。いくつかの実施形態では、卵巣癌又はその欠如の検出は、胸部X線、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、磁気共鳴画像法(MRI)、癌抗原125(CA-125)レベルの検出、身体検査若しくは活動性癌を示唆する症状の存在、又はそれらの任意の組み合わせによる。いくつかの実施形態では、35単位/ml以下の癌抗原125(CA-125)レベルの検出は、個体に卵巣癌が存在しないことを示す。いくつかの実施形態では、実質的に根絶された卵巣癌は、臨床的完全奏功(ccR)を達成したと言うことができる。
【0083】
いくつかの実施形態では、発現ベクター又は発現ベクターを含有する自家癌細胞ワクチンを投与されている個体の無再発生存期間は、発現ベクター又は発現ベクターを含有する自家癌細胞ワクチンを投与されていない個体の無再発生存期間より少なくとも5ヶ月長い。いくつかの実施形態では、発現ベクター又は発現ベクターを含有する自家癌細胞ワクチンを投与されているBRCAwt個体の無再発生存期間は、腫瘍減量手術の時点から15ヶ月超であり、発現ベクター又は発現ベクターを含有する自家癌細胞ワクチンを投与されていない個体の無再発生存期間は、腫瘍減量手術の時点から15ヶ月未満である。いくつかの実施形態では、発現ベクター又は発現ベクターを含有する自家癌細胞ワクチンを投与されているBRCAwt個体の無再発生存期間は、発現ベクター又は発現ベクターを含有する自家癌細胞ワクチンを投与されていない個体の無再発生存期間より少なくとも11ヶ月長い。
【0084】
いくつかの実施形態では、個体は初期療法を受けていた。いくつかの実施形態では、初期療法の実施は、療法に対する癌の臨床的完全奏功をもたらす。いくつかの実施形態では、初期療法は、腫瘍減量、化学療法の実施、治療剤の投与、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、化学療法は、白金系薬剤、タキサン、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、白金系薬剤は、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、トリプラチンテトラニトレート、フェナントリプラチン(phenanthriplatin)、ピコプラチン、サトラプラチン、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、白金系薬剤はカルボプラチンを含む。いくつかの実施形態では、タキサンは、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、タキサンは、パクリタキセルを含む。いくつかの実施形態では、治療剤は、血管新生阻害剤、PARP阻害剤、チェックポイント阻害剤、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、血管新生阻害剤は、血管内皮増殖因子(VEGF)阻害剤を含む。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、ソラフェニブ、スニチニブ、ベバシズマブ、パゾパニブ、アキシチニブ、カボザンチニブ、レバチニブ(levatinib)、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤はベバシズマブである。いくつかの実施形態では、PARP阻害剤は、オラパリブ、ルカパリブ、ニラパリブ、タラゾパリブ、ベリパリブ、パミパリブ、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、CTLA-4阻害剤、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、チェックポイント阻害剤は、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、セミプリマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、イピリムマブ、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、卵巣癌は、化学療法又は治療剤に対して耐性又は不応性である。
【0085】
投与、製剤、及び投与量
いくつかの実施形態では、発現ベクターを含有する自家癌細胞ワクチンは、本明細書に記載のようにトランスフェクトされた約1×10個又は約1×10個の自家癌細胞を含む。いくつかの実施形態では、自家癌細胞ワクチンは、本明細書に記載のようにトランスフェクトされた少なくとも1×10個又は少なくとも1×10個の自家癌細胞を含む。いくつかの実施形態では、自家癌細胞ワクチンは、本明細書に記載のようにトランスフェクトされた約1×10個の細胞~約1×10(例えば、1×10、1.5×10、2×10、2.5×10、3×10、3.5×10、4×10、4.5×10、5×10、5.5×10、6×10、6.5×10、7×10、7.5×10、8×10、8.5×10、9×10、9.5×10、又は1×10)個の自家癌細胞を含む。いくつかの実施形態では、自家癌細胞ワクチンは、本明細書に記載のようにトランスフェクトされた約1×10個の細胞~約2.5×10(例えば、1×10、1.5×10、2×10、2.5×10、3×10、3.5×10、4×10、4.5×10、5×10、5.5×10、6×10、6.5×10、7×10、7.5×10、8×10、8.5×10、9×10、9.5×10、1×10、1.5×10、2×10、又は2.5×10)個の自家癌細胞を含む。いくつかの実施形態では、自家癌細胞ワクチンは、本明細書に記載のようにトランスフェクトされた約1×10個の細胞~約5×10(例えば、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、又は5×10)個の自家癌細胞を含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、自家癌細胞ワクチンは、1つ以上のワクチンアジュバントを更に含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンは、単位剤形である。「単位剤形」という用語は、本明細書で使用される場合、所定量の本明細書に記載の発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンを、他の成分(例えば、ワクチンアジュバント)と共に含有する物理的に不連続な単位を説明する。いくつかの実施形態では、所定量は多数の細胞である。
【0088】
いくつかの実施形態では、個体は、1ヶ月当たり1回分の発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンを投与される。いくつかの実施形態では、発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンの1回分は、1ヶ月~12ヶ月にわたって1ヶ月に1回、個体に投与される。いくつかの実施形態では、個体は、少なくとも1回分の発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンを投与される。いくつかの実施形態では、個体は、12回分以下の発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンを投与される。いくつかの実施形態では、個体は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12回分の発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンを投与される。いくつかの実施形態では、1回分は、発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンの単位剤形である。いくつかの実施形態では、発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンの1回分は、3ヶ月毎、2ヶ月毎、1ヶ月に1回、1ヶ月に2回、又は1ヶ月に3回、個体に投与される。いくつかの実施形態では、発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンは、最大1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、又は36ヶ月にわたって個体に投与される。いくつかの実施形態では、発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンは、注射によって個体に投与される。いくつかの実施形態では、注射は皮内注射である。いくつかの実施形態では、発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンの初回分は、個体が臨床的完全奏功(ccR)を達成していることを確認した後に個体に投与される。いくつかの実施形態では、発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンの初回分は、初期療法の最終治療と同じ日以降に個体に投与される。いくつかの実施形態では、発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンの初回分は、初期療法の最終治療から8週間後以内に個体に投与される。
【0089】
組み合わせ
いくつかの実施形態では、発現ベクター又は自家癌細胞ワクチンは、追加の治療剤と共に投与される。いくつかの実施形態では、追加の治療剤は、治療有効用量のγIFN(ガンマインターフェロン)を含む。いくつかの実施形態では、γIFNの治療有効用量は、約50μg/m~約100μg/mである。いくつかの実施形態では、γIFNの治療有効用量は、約50μg/m、約60μg/m、約70μg/m、約80μg/m、約90μg/m、又は約100μg/mである。いくつかの実施形態では、追加の治療剤は、血管新生阻害剤、PARP阻害剤、チェックポイント阻害剤、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、血管新生阻害剤は、血管内皮増殖因子(VEGF)阻害剤を含む。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、ソラフェニブ、スニチニブ、ベバシズマブ、パゾパニブ、アキシチニブ、カボザンチニブ、レバチニブ(levatinib)、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤はベバシズマブである。いくつかの実施形態では、PARP阻害剤は、オラパリブ、ルカパリブ、ニラパリブ、タラゾパリブ、ベリパリブ、パミパリブ、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、CTLA-4阻害剤、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、チェックポイント阻害剤は、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、セミプリマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、イピリムマブ、又はそれらの組み合わせを含む。
【実施例
【0090】
実施例1-ゲノムバリアントデータのネットワークベース解析により、TP53m-BRCA1/2wt相同組換え能を有する(HRP)集団がVigil(登録商標)免疫療法に最も感受性があると同定される
この実験では、フロントラインのステージIII/IV卵巣癌を治療するための無作為化二重盲検試験での、Vigil(登録商標)又はプラセボを投与されている患者におけるゲノムバリアントデータの更なる分子解析について説明する。本発明者らは、有意なゲノムバリアント、有意味なバリアントの組み合わせ、及び卵巣癌経路の交点又は「ハブ」における関連遺伝子を客観的に、かつ独立して同定することを目指した。
【0091】
方法
データの管理及び設計
ステージIII/IVの切除可能な卵巣癌に対してVigil(登録商標)とプラセボとを比較する第IIb相二重盲検無作為化プラセボ対照試験に参加した全ての患者について、981個の検証された遺伝子にわたって腫瘍がアノテーションされたDNA多型データを生成した。患者の人口統計学的情報、試験設計、及びワクチン製造については既に記載されている[31]。Rocconiらは、BRCAwt患者におけるVigil(登録商標)治療により、RFS(HR 0.51;CI 90% 0.30~0.88;p=0.02)及びOS(HR 0.49;90% CI 0.24~1.0 p=0.049)において無作為化(維持治療開始直前に実施)時点からの臨床的ベネフィットが改善したことを実証した[31]。試験に参加した91人の患者全員からの悪性組織のDNA試料を解析し、その結果を試験の統計計画書において予め明示した臨床エンドポイントと比較した。遺伝子バリアントは、多数のデータベースから最新の文献を検索するORBアルゴリズムに従って、良性、良性の可能性が高い、病原性の可能性が高い、病原性、又は不確かに分類した。
【0092】
本発明者らは病原性又は病原性の可能性が高いと判定された遺伝子バリアントのみを考慮に入れ、これらは病原性変異と呼ばれる。試験の各患者について病原性変異遺伝子の個々の遺伝子セットを作製した。次に、個々の遺伝子セットの一意のユニオン(すなわち、個々の遺伝子セットの全てを組み合わせ、重複した遺伝子を除去した)をとることによって遺伝子セット全体を構築した。この遺伝子セット全体から、患者iが遺伝子jに病原性変異を有する場合は変異行列の要素(i,j)を1とし、患者iが遺伝子jに野生型である場合は0とするようなバイナリの変異行列を構築する。このようにデータをフォーマットすることにより、患者の変異状態の容易な特定が可能になる。この全患者の変異行列を視覚的に表示したものを図1に示す。変異行列により共通の変異及び遺伝子プロファイルの視覚化が可能となるが、遺伝子間の機能的関係性は探索されない。
【0093】
83個の病原性遺伝子リストから、77個の遺伝子を認識し、CytoscapeのSTRINGアプリケーションを用いて解析して機能的相互作用を評価した。これらの病原性変異遺伝子が互いにどのように機能的に相互作用するかを解析するために、本発明者らは、STRINGで構築したタンパク質間相互作用(PPI)ネットワークを構築し、それを介して特性を探索した。STRINGネットワークでは、関連性又は相互作用は、直接的相互作用(例えば物理的結合)又は間接的相互作用、例えば共通の代謝経路への共同関与を指し得る[32]。ネットワークが構築されると、遺伝子ペア間のトポロジー距離が計算され、これによりネットワークの重要な特性を明らかにすることができる。本発明者らは更に、(i)ハブ遺伝子、(ii)トポロジー距離が短い遺伝子ペア、及び(iii)累積Cスコアの高い遺伝子ペアにおいて様々な変異状態を有する患者のRFSとOSとの関係性を探索した。最後に、本発明者らは、RFS及びOSの差を調べて比較するために、腫瘍変異負荷が高い対低いで患者を層化した。
【0094】
腫瘍変異負荷(TMB)の解析
全ての981個の検証された遺伝子にわたって生成された腫瘍がアノテーションされたDNA多型データを利用して、全ての患者のTMB(ORB)を決定した。TMBは、腫瘍ゲノムのメガベース当たりの同義及び非同義の変異並びに挿入及び欠失(インデル)を使用して計算した。患者を高TMB(10以上)又は低(10未満)TMBに分け、各患者からの臨床データとマージした。カプラン・マイヤー(KM)解析を用いて、2群間のOS及びRFSの差を計算した。
【0095】
トポロジー距離
全遺伝子リストをCytoscapeのSTRINGアプリケーションに入力した[33]。合計83個の遺伝子から77個がSTRINGアプリケーションによって認識され、PPIネットワークを生成するために使用した。このアプリケーションは、STRINGデータベースにアクセスし、入力遺伝子について、頂点とエッジとでそれぞれ表される遺伝子とそれらの相互作用からなるネットワークを生成する。ネットワークにおいて遺伝子は、公開された文献及びハイスループット実験データからそれらが相互作用する証拠がある場合にのみ、エッジによって接続される。STRINGは、この情報を使用して、本発明者らがs(i,j)と表記する信頼度スコアを各相互作用又はエッジに割り当てる。個々のSTRINGスコアを相互作用タイプ毎に生成し、これらのスコアを統合して各タンパク質のペア間の組み合わせ信頼度スコアs(i,j)を得る。各タンパク質間相互作用(PPI)スコアは0から1の範囲であり、これはSTRINGが、利用可能な証拠を考慮して、どの程度特定の相互作用が真であると判断する可能性があるかを示す[1]。次に、各遺伝子のペア間のエッジの重みを以下の式:w(i,j)=10(1-s(i,j))に従って計算する。
【0096】
本発明者らは、直感的に小さな重みが遺伝子ペア間の生物学的相互作用の強い証拠に対応するように、スコアs(i,j)を1から減算することにした。更に、この量に10を掛けて値を所望のスケールにシフトした[34]。次いで、ダイクストラのアルゴリズムを使用して、d(i,j)と表記される遺伝子間の最短重み付き経路の長さを計算する。これは、遺伝子を接続する重み付きエッジを合計し、最短経路を系統的に見つけることによって行われる。この結果、図3に示される距離行列を得た。本発明者らの目的のために、3.8以下の距離、d(i,j)≦3.8を有する遺伝子(下四分の一である)を選択した。直観的に、遺伝子ペアのトポロジー距離d(i,j)が小さい場合、これらの遺伝子は生物学的に相互作用することを本発明者らは確信している。この距離と相互作用のレベルとの逆相関は、遺伝子変異ペアが患者の感受性及びVigil(登録商標)に対する応答の増加に寄与するかどうかを決定するために重要である。
【0097】
ハブ遺伝子についてのSTRINGネットワークの解析
STRINGデータベースは、2000年から維持されている(例えば、Szklarczyk et al.,Nucleic Acids Res.45(Database issue):D362-D368,2017を参照のこと)。ハブ遺伝子は、ネットワーク内の他の遺伝子に対して高い次数の関連性を有する遺伝子であると定義される。遺伝子又はノードの次数は、遺伝子又はノードがネットワーク内の他の遺伝子又はノードに対して有する接続の数である。本明細書では、次数が12以上の関連性を有する遺伝子をハブ遺伝子とみなした。閾値12では、ネットワーク内の遺伝子の平均次数に基づいて遺伝子の上位四分位を選択する。セット全体における各遺伝子の次数を示す棒グラフを図2に示す。
【0098】
Cスコア
患者の変異プロファイルとSTRINGネットワークという独立した概念は、Cスコアによって統合される。本発明者らの遺伝子セット全体における遺伝子のペア毎に共変異の確率を計算することから開始した。共変異の確率は、所与の遺伝子ペアの遺伝子の両方に変異を有する91人の患者の総数を、両方の遺伝子が個々に変異している合計数という尺度で除したものとして定義され、次式によって得られる:
【数1】
[34]。式中、|G(i)∩G(j)|は、遺伝子iとjとの両方が変異している個々の腫瘍の数を表し、m(i)とm(j)とはそれぞれ遺伝子iとjとの累積変異である。P(i,j)の範囲は0から1の間であり、P(i,j)=0は遺伝子iとjとが決して共変異しないことを示し、P(i,j)=1は遺伝子が常に共変異することを意味する。
【0099】
次に、共変異の確率とSTRINGネットワーク内の遺伝子間のトポロジー距離とを組み合わせてC(i,j)と表記されるCスコアを計算し、遺伝子が機能的に相互作用する可能性(「推定上の遺伝子相互作用」と呼ばれる)を定量化した[34]。Cスコアは、共変異の確率をSTRINGネットワークからのトポロジー距離の二乗で除することによって計算する。
【数2】
【0100】
更に、遺伝子iの累積cスコアは、cumC(i)=Σi≠jC(i,j)と表記される。累積Cスコアが高い遺伝子は、STRINGネットワーク内でその遺伝子に近い遺伝子と共変異する可能性がより高い。個別化されたネットワークベース共変異(INCM)のCスコアは、概念的には推定上の遺伝子相互作用の尺度、又は2つの遺伝子が相互作用すると想定できるかどうかの尺度である。Liuらは、INCMを定義し、彼らの元の研究においてcumCスコアが様々な治療に対する応答/感受性の増加に関連することを見出した[35]。
【0101】
結果
TMB解析
各患者のTMBを、981個の遺伝子パネルから同義及び非同義の変異並びにインデルの組み合わせを使用して生成された変異プロファイルを使用して推定した。患者を2つの群;高TMB(10以上)又は低(10未満)TMBに層化した。Vigil(登録商標)群では、33人の患者が高TMBを有し、14人が低TMBを有し、プラセボ群でも同様の結果が観察され、それぞれ34人と10人とであった。プラセボと比較してVigil(登録商標)を投与された高TMB又は低TMBを有する患者において、無作為化時点からRFS又はOSに統計学的な差は観察されなかった(HR=0.60 90% CI 0.35~1.01;p=0.052及びHR=1.01 90% CI 0.41~2.52;p=0.49)(データ示さず)。高TMBは、以前に報告されたBRCAwtのRFSとの相関の有意性を変化させなかった[28]。BRCAwt、高TMB患者は、無作為化時点から改善されたRFSを示した(HR=0.43 90% CI 0.23~0.78;p=0.009)及びOS(HR=0.42 90% CI 0.19~0.93;p=0.032)。サンプルサイズが小さかったため、BRCAwt、低TMB群においてRFS及びOSを評価することはできなかった。
【0102】
ネットワーク構築及び経路エンリッチメント解析
STRINGで構築したPPIネットワークを作製した。方法で述べたように、解析した981個の遺伝子のうち83個が病原性と定義された。STRINGネットワーク内の各遺伝子をCytoscapeのWikiPathwaysアプリケーションに入力することによって解析を行った[33]。各遺伝子について、その遺伝子が関与する経路のリストを抽出した。次に、生成された経路のリストを以下の6つのカテゴリー:DNA修復、染色体の組織化及び転写、翻訳及び翻訳後修飾の調節、免疫、他の癌遺伝子、未定義に層化した。「未定義」カテゴリーの遺伝子は、5つの選択された経路のいずれにも適合せず、かつ/又はWikiPathwaysの既知の経路のいずれも有していなかった。STRINGネットワーク内の各遺伝子は上記の経路の1つ又はいくつかに帰属され、経路は上記のカテゴリーによって分類された。
【0103】
単一遺伝子解析
ハブ遺伝子。PPIネットワーク内の77個の遺伝子のうち10個は次数が12超の関連性を有することが同定され、それらをハブ遺伝子とした:TP53、CTNNB1、PIK3CA、BRCA1、NF1、BRCA2、ARID1A、ATRX、MYCNOS、MUTYH(図2)。
【0104】
ハブ遺伝子の変異状態(変異体又は野生型)と治療群とによって層化し、KM解析及びログランク検定を行って、Vigil(登録商標)がプラセボに対する優位性を示したかどうかを評価した(p=≦0.1)。無作為化時点からのRFSはVITAL試験の一次エンドポイントであったため、本解析の一次ベネフィットとして使用した。TP53、BRCA1、及びBRCA2のみが、無作為化時点からの統計的カットオフp=≦0.1に達したハブ遺伝子であった。TP53m腫瘍を有する患者では、RFS中央値は、Vigil(登録商標)で18.69ヶ月、プラセボで8.35ヶ月であった(片側p=0.096)。BRCA1wt集団では、RFSは、Vigil(登録商標)では12.75ヶ月、プラセボでは8.38ヶ月であった(片側p=0.10)。BRCA2wt集団のRFSは、Vigil(登録商標)とプラセボとについて、それぞれ11.47ヶ月と8.35ヶ月とであった(片側p=0.05)。
【0105】
遺伝子ペア解析
トポロジー距離が短い遺伝子ペア。行列における最大距離及び最小距離とは、それぞれ遺伝子USH2AとEPPK1との間の距離15.19、及び遺伝子BRCA1とBRCA2との間の距離0.02である。本発明者らは更に、トポロジー距離が短い遺伝子ペアを解析した。15.19から0.02を引いた範囲を4で除することによって決定された3.8をカットオフとして使用して(下位四分位を意味する)、139個の遺伝子ペアを得た(図3)。
【0106】
本発明者らは、TP53とBRCA1との距離が0.04であり、TP53とBRCA2との距離が0.06であることを見出した。このことは、TP53がBRCA1及びBRCA2と機能的関連性を有するという強い証拠が存在することを示しており、したがってBRCA1及びBRCA2の両方がBRCAとして表される共同関係とみなされ、これは他のものの先行解析と一致している。
【0107】
累積Cスコアが高い遺伝子ペア。距離行列(図3)における全遺伝子ペアについてCスコアを計算し、累積CスコアであるcumCが最も高いものから最も低いものまで遺伝子を順序付けたところ、cumCが最も高い遺伝子は順にBRCA1、BRCA2、及びTP53であった。これは、共変異の観点及びトポロジー距離の観点の両方から、ネットワーク内で接続性が高いことを示している。したがって、これら3つの遺伝子の機能又は機能不全は、卵巣癌細胞内の他のタンパク質に対して、他のゲノムバリアントよりも更に広範な影響を及ぼす。このことから、BRCA及びTP53の野生型発現対変異体発現の影響について、より詳細な注意を払う必要がある。
【0108】
STRINGネットワーク内のTP53とBRCA1及びBRCA2との近接性並びにそれらの高い累積Cスコアを考慮して、本発明者らは、4つの変異状態(共変異体、変異体-野生型、野生型-変異体、共野生型)にわたって生存解析を行った。これらの組み合わせが、Vigil(登録商標)治療群の無再発生存期間に与える影響をプラセボと比較したものを表1~表3に示す。TP53m-BRCAwt群は、RFS中央値が19.35ヶ月であったのに対し、二重変異体では11.71ヶ月、二重野生型では10.48ヶ月であった。Vigil(登録商標)群とプラセボ群とを比較すると、TP53m-BRCAwt群のRFS中央値は19.35ヶ月であり、7.85ヶ月と比較された(p=0.01、HR=0.44)(図4)。表4に示されるBRCA及び本発明者らが同定したハブ遺伝子の組み合わせについて、更なる検定で統計的有意性(p<0.05)を実証した。距離が短い他の遺伝子及び遺伝子ペアに関する結果を表5~表7に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6-1】
【表6-2】
【表6-3】
【表6-4】
【表7】
【0109】
相同組換え状態。TP53m-BRCAwt集団に対する相同組換え状態の影響を判定するために、KM解析を実施した。Myriad Geneticsによって定義された42未満のスコアを使用してHRPである患者を同定し、42以上のスコアは患者がHRDであることを示した。TP53m-BRCAwtかつHRP群のRFSは、Vigil(登録商標)患者対プラセボ患者において21.1ヶ月対5.6ヶ月(HR=0.26、p=0.001)に改善された(図5A)。OSもまた、HRPかつTP53m-BRCAwt患者において無作為化時点から改善された。Vigil(登録商標)治療群ではOSに達しなかった一方、プラセボは27.0ヶ月であった(HR=0.33、p=0.02)(図5B)。
【0110】
考察
本発明者らの病原性遺伝子変異のネットワークベース解析は、最適な集団、特に、BRCAwt及びTP53変異体遺伝子シグナルを含むHRP悪性細胞プロファイルを有する患者であって、RFS及びOSの優位性に関してVigil(登録商標)ベース療法から恩恵を受ける、患者を潜在的に指し示している。これらの結果は仮説を生成するに過ぎないが、Vigilによる治療のための標的集団を最適化する新規なアプローチを示唆している。このアプローチでは、STRINGデータベースを利用して遺伝子間の機能的類似性を記述する偏りのないネットワークが構築され、それにより野生型又は変異体バリアントの潜在的影響の機構的理解がもたらされた。このアプローチは、DNAバリアントデータの潜在的な制限を回避し、包括的な分子シグナル発現経路及び臨床的ベネフィットの影響との関係性についての理解が限られている現状を考慮すると、より効果的に標的集団を同定し得る。このようなアプローチでは、悪性ネットワークの特性、例えば遺伝子間のトポロジー距離、Cスコア、及びハブ遺伝子をコンピュータ解析することにより、重要性の高い遺伝子を記述することができる。Vigilで治療されたHRP卵巣集団におけるこれらの解析を通じて、3つの遺伝子バリアント:BRCA1、BRCA2、及びTP53が全ての解析方法にわたって突出していた。様々な癌タイプを伴う同様の方法論が他の研究者によって使用されており、臨床転帰との分子的協調が実証されている[32、33、34]。
【0111】
STRINGによって生成されたトポロジー距離と試料から導出された共変異の確率との組み合わせは、2つの遺伝子のCスコアとして現れ、累積Cスコア(cumCスコア)は、ネットワーク内のある遺伝子の他の全ての遺伝子との相互作用を総計したものである。Cスコアによって同定される遺伝子ペアは、多くの場合、腫瘍形成の増加及び抗癌療法に対する感受性/耐性と相関する中心的な癌遺伝子を伴う[35]。本発明者らの試料及び文献の両方において高度に表される遺伝子について、そのcumCスコア値は、その分子が患者データから導出され、その分母が現在の文献から作成されるため、頑健性がある、かつニュアンスがある。本明細書では、TP53、BRCA1、及びBRCA2を、患者試料に存在する遺伝子の中でcumCスコアが最も高い遺伝子として同定した。CumCスコアが高いということは、CumCスコアが感受性及び耐性と相関していることから、これらの遺伝子の特定のバリアントが薬剤応答に対応することを示唆している[35]。実際、本発明者らは、TP53m及びBRCAwtがVigil(登録商標)に対するRFS及びOSベネフィットの向上と相関することを見出した。
【0112】
ハブ遺伝子の解析でも同様に、BRCA及びTP53が卵巣癌の中心的遺伝子として同定された。先行研究では、ハブ遺伝子データがOSの差に対して臨床的洞察を提供したことが実証された。ある先行研究では、研究試料において同定された16個のハブ遺伝子のうち4個(CCNB1、CENPF、KIF11、及びZWINT)が卵巣癌を有する患者のOSの短縮と関連していた[36]。この研究の著者らは、多くの細胞経路の交点に位置するこれらのハブ遺伝子における変異が、多数の細胞機能の調節不全を引き起こすと推測している。したがって、単一のハブ遺伝子を変化させることによって、細胞の恒常性は、より大きな規模で影響を受ける可能性がある。この破壊は、腫瘍の進行、免疫阻害、及び様々な癌の特徴に関連し得、このことはハブ遺伝子と予後不良との関連を説明し得る[37、38]。本発明者らの論文で提示されたハブ遺伝子解析は、TP53m、BRCA1wt、BRCA2wtを、Vigil(登録商標)治療患者においてRFSの優位性を有する中核的なハブ遺伝子として同定しており、これは潜在的に、Vigil(登録商標)の標的集団の遺伝子ネットワークがより広範であることを示唆している。更に、このアプローチは、関連するネットワークゲノムバリアントを標的とする標的化治療薬開発における戦略的シフトを支持するものである。
【0113】
本発明者らの結果はまた、BRCAによって影響を受けた経路はVigil(登録商標)が最適に機能するためにインタクトでなければならない一方で、TP53によって影響を受けた経路は調節不全であり得ることを裏付けている。同様に、相同修復経路及びその関連遺伝子(HRP遺伝子型)の統合性もまた、Vigil(登録商標)の最適な結果にとって重要であり得る。このことは、遺伝子バリアントの組み合わせによって形成される癌の恒常性が薬剤感受性又は耐性に最適な環境を作り出すことを示唆している。本発明者らの場合、機能的HR又はBRCAタンパク質及び破壊されたTP53タンパク質によって生成される経路の相互作用が、Vigil(登録商標)療法に理想的な分子状況を作り出しているという仮説を立てた。
【0114】
しかしながら、免疫チェックポイント阻害剤療法とは作用機序が異なるVigil(登録商標)免疫療法が関与するこれらの結果は、現行の理論ではDNA修復の欠損がより多くの腫瘍ネオ抗原及びより高いTMBをもたらすと推測されるため、チェックポイント阻害剤ベースの免疫療法に関与する標的集団にとっては、やや直感に反するものである[39]。高TMBに関連する腫瘍内不均一性(ITH)は、腫瘍内の細胞間のネオエピトープのバリエーションを増加させ、より低頻度のクローン性ネオ抗原に対する統合された免疫応答を希薄化させることができる[28、30]。Vigil(登録商標)の作用機序に関して、低ITH環境において大多数の癌細胞によって提示されるクローン性ネオエピトープに対してより強固な免疫攻撃が行われる。TP53mは、TMB及び腫瘍異数性レベル(TAL)の増加と関連しており、これらは免疫応答性に対して相反する影響を有する。TMBは、特定の免疫療法、特にチェックポイント阻害剤に対する感受性と相関する傾向がある[39、40]。TALは、染色体の誤分離の程度であり、免疫療法に対する応答不良と関連する[41、42]。免疫原性に対するTP53の影響はまた組織依存性であり、これは組織タイプ内での差次的遺伝子発現によって決定され得る[42~44]。この現象は、変異体TP53遺伝子型が、卵巣癌BRCAwt集団におけるVigil(登録商標)免疫療法に対する応答の改善と関連していることを更に説明し得る。本発明者らは、Vigilによる高TMBに対するベネフィットの独立した効果を観察しなかった。以前に報告されたBRCAwt患者におけるRFS及びOSでのベネフィットは、高TMBによる悪影響を受けなかった[28]。
【0115】
結論として、本発明者らは、Vigil(登録商標)に対する耐性集団と感受性集団とを分離するためにDNA解析法の使用を支持する証拠を実証した。これらの技術は、進行したステージIII/IVの切除可能な疾患患者において維持療法として使用される場合に、遺伝子間のノーダルネットワーク関係がVigil(登録商標)に対する臨床応答にどのように影響するかを分析するための頑健なアプローチを構築するものである。これらの結果は更に、他のより感受性の高い遺伝子標的、並びにVigil(登録商標)及び他の潜在的な免疫治療薬との可能性のある更なる新規な標的化治療の組み合わせを同定するためのネットワークベース解析の新規な使用を支持している。
参考文献
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【0116】
上記に列挙された参考文献は、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0117】
本開示の好ましい実施形態が本明細書に示され、説明されてきたが、そのような実施形態は単に例として提供されるものであることが当業者には明らかであろう。当業者であれば、本開示から逸脱することなく、多数の変形、変更、及び置換を想起するであろう。本明細書に記載される本開示の実施形態に対する様々な代替形態が、本開示を実施する際に使用され得ることを理解されたい。以下の特許請求の範囲が本開示の範囲を規定することと、これらの特許請求の範囲内の方法及び構造並びにその均等物がそれらの特許請求の範囲によって包含されることとが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
【配列表】
2024511321000001.app
【国際調査報告】