(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-13
(54)【発明の名称】リチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
H01M10/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554894
(86)(22)【出願日】2022-03-08
(85)【翻訳文提出日】2023-09-07
(86)【国際出願番号】 KR2022003288
(87)【国際公開番号】W WO2022191593
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0030828
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒョン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ソン スン レル
(72)【発明者】
【氏名】キム ジ ミン
(72)【発明者】
【氏名】ハ ヒョン ベ
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031AA00
5H031HH06
5H031HH09
5H031RR02
(57)【要約】
リチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法は、リチウム二次電池の正極から正極活物質混合物を準備するステップと、正極活物質混合物を乾燥または粉砕するステップと、乾燥または粉砕された正極活物質混合物の平均粒径(D50)が400μm以下となるように分級するステップとを含む。還元処理の前に平均粒径を減少させて流動性を高めることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池の正極から正極活物質混合物を準備するステップと、
前記正極活物質混合物を乾燥または粉砕するステップと、
前記乾燥または前記粉砕された正極活物質混合物の平均粒径(D50)が400μm以下となるように分級するステップとを含む、リチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法。
【請求項2】
前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体上に形成される正極活物質層とを含み、
前記正極活物質混合物を準備するステップは、前記正極から前記正極集電体を除去することを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥は、60~100℃で48~96時間行われる、請求項1に記載のリチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法。
【請求項4】
前記粉砕は、ボールミルまたはハンマーミルを含む衝撃クラッシャー(impact crusher)によって行われる、請求項1に記載のリチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法。
【請求項5】
前記分級は、前記乾燥または前記粉砕された正極活物質混合物を振動させてスクリーニングすることによって行われる、請求項1に記載のリチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法。
【請求項6】
前記正極活物質混合物を乾燥するステップと、
前記乾燥された正極活物質混合物を粉砕するステップと、
前記粉砕された正極活物質混合物の平均粒径が400μm以下となるように分級するステップとが順次行われる、請求項1に記載のリチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法。
【請求項7】
前記準備された正極活物質混合物は、粒径が1~100mmの巨大凝集粒子および粒径が1mm未満の微細パウダーを共に含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法。
【請求項8】
前記分級された正極活物質混合物は、前記巨大凝集粒子を含まない、請求項7に記載のリチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の分級された正極活物質混合物を還元して予備前駆体混合物を形成するステップと、
前記予備前駆体混合物からリチウム前駆体および遷移金属前駆体を回収するステップとを含む、リチウム二次電池の有価金属の回収方法。
【請求項10】
前記予備前駆体混合物を形成するステップは、
前記分級された正極活物質混合物を流動層反応器内で流動化ガスによって流動化するステップと、
前記流動層反応器内に還元性ガスを注入し、前記流動化された正極活物質混合物から予備前駆体混合物を形成するステップとを含む、請求項9に記載のリチウム二次電池の有価金属の回収方法。
【請求項11】
前記還元性ガスは、水素を含む、請求項10に記載のリチウム二次電池の有価金属の回収方法。
【請求項12】
前記予備前駆体混合物は、予備リチウム前駆体粒子および予備遷移金属前駆体粒子を含む、請求項10に記載のリチウム二次電池の有価金属の回収方法。
【請求項13】
前記予備前駆体混合物からリチウム前駆体および遷移金属前駆体を回収するステップは、
前記予備リチウム前駆体粒子を水洗処理して前記リチウム前駆体を収集するステップと、
前記予備遷移金属前駆体を酸処理して前記遷移金属前駆体を収集するステップとを含む、請求項12に記載のリチウム二次電池の有価金属の回収方法。
【請求項14】
前記予備前駆体混合物を形成するステップは、
前記分級された正極活物質混合物を、還元剤を含む酸性溶液で処理するステップを含む、請求項9に記載のリチウム二次電池の有価金属の回収方法。
【請求項15】
前記予備前駆体混合物からリチウム前駆体および遷移金属前駆体を回収するステップは、
前記酸性溶液で処理された正極活物質混合物を含む溶液に抽出剤を投入し、前記リチウム前駆体および前記遷移金属前駆体を収集するステップを含む、請求項14に記載のリチウム二次電池の有価金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法に関し、また、リチウム二次電池の有価金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、充電と放電の繰り返しが可能な電池であり、情報通信及びディスプレイ産業の発展につれてカムコーダー、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯用電子通信機器に広く適用されてきた。二次電池としては、例えば、リチウム二次電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素電池などが挙げられる。中でもリチウム二次電池は、動作電圧および単位重量当たりのエネルギー密度が高く、充電速度および軽量化に有利な点で積極的に開発及び適用されてきた。
【0003】
リチウム二次電池は、正極、負極及び分離膜(セパレーター)を含む電極組立体と、前記電極組立体を含浸させる電解質とを含むことができる。前記リチウム二次電池は、前記電極組立体および電解質を収容する、例えばパウチ状の外装材をさらに含むことができる。
【0004】
前記リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム金属酸化物を用いることができる。前記リチウム金属酸化物は、さらに、ニッケル、コバルト、マンガンなどの遷移金属を共に含有することができる。
【0005】
前記正極活物質としてのリチウム金属酸化物は、リチウム前駆体と、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含有する遷移金属前駆体とを反応させて製造することができる。
【0006】
前記正極活物質に前述した高コストの有価金属が用いられることにより、正極材の製造に多大なコストがかかっている。また、近年、環境保護への関心が高まることによって、正極活物質のリサイクル方法の研究が進められている。前記正極活物質のリサイクルのためには、正極から前記リチウム前駆体および遷移金属前駆体を高効率、高純度で再生する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一つの課題は、高効率および高信頼性を有するリチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法を提供することである。
【0008】
本発明の一つの課題は、高効率および高信頼性を有するリチウム二次電池の有価金属の回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態によるリチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法は、リチウム二次電池の正極から正極活物質混合物を準備するステップと、前記正極活物質混合物を乾燥または粉砕するステップと、前記乾燥または前記粉砕された正極活物質混合物の平均粒径(D50)が400μm以下となるように分級するステップとを含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体上に形成される正極活物質層とを含み、前記正極活物質混合物を準備するステップは、前記正極から前記正極集電体を除去することを含むことができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、前記乾燥は60~100℃で48~96時間行うことができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記粉砕はボールミルまたはハンマーミルを含む衝撃クラッシャー(impact crusher)によって行うことができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記分級は、前記乾燥または前記粉砕された正極活物質混合物を振動させてスクリーニングすることによって行うことができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質混合物を乾燥するステップ、前記乾燥された正極活物質混合物を粉砕するステップ、および前記粉砕された正極活物質混合物の平均粒径が400μm以下となるように分級するステップを順次行うことができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記準備された正極活物質混合物は、粒径が1~100mmの巨大凝集粒子および粒径が1mm未満の微細パウダーを共に含むことができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記分級された正極活物質混合物は、前記巨大凝集粒子を含まなくてもよい。
【0017】
本発明の実施形態によるリチウム二次電池の有価金属の回収方法は、前述の分級された正極活物質混合物を還元して予備前駆体混合物を形成するステップと、前記予備前駆体混合物からリチウム前駆体および遷移金属前駆体を回収するステップとを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記予備前駆体混合物を形成するステップは、前記分級された正極活物質混合物を流動層反応器内で流動化ガスによって流動化するステップと、前記流動層反応器内に還元性ガスを注入し、前記流動化された正極活物質混合物から予備前駆体混合物を形成するステップとを含むことができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、前記還元性ガスは水素を含むことができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、前記予備前駆体混合物は、予備リチウム前駆体粒子および予備遷移金属前駆体粒子を含むことができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、前記予備前駆体混合物からリチウム前駆体および遷移金属前駆体を回収するステップは、前記予備リチウム前駆体粒子を水洗処理して前記リチウム前駆体を収集するステップと、前記予備遷移金属前駆体を酸処理して前記遷移金属前駆体を収集するステップとを含むことができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、前記予備前駆体混合物を形成するステップは、前記分級された正極活物質混合物を、還元剤を含む酸性溶液で処理するステップを含むことができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、前記予備前駆体混合物からリチウム前駆体および遷移金属前駆体を回収するステップは、前記酸性溶液で処理された正極活物質混合物を含む溶液に抽出剤を投入し、前記リチウム前駆体および前記遷移金属前駆体を収集するステップを含むことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の実施形態によるリチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法は、正極活物質混合物を乾燥または粉砕するステップと、乾燥または粉砕された正極活物質混合物を平均粒径400μm以下となるように分級するステップとを含むことができる。これにより、正極活物質混合物の平均粒径が均一に減少し、後続する還元工程における反応性を向上させることができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、前記乾燥は60~100℃で48~96時間行うことができる。前記条件で乾燥を行うと、混合物中の電解液および水分が十分に除去され、後述する分級工程を円滑に行うことができ、過度の高温での乾燥によって粒子が過度に凝集することを防止することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、正極活物質混合物を順次に乾燥、粉砕および分級処理することができる。この場合には、乾燥および粉砕工程を順次行うことで巨大凝集粒子を十分に粉砕できるので、分級された混合物の粒径を相対的に均一に形成することができる。これにより、正極活物質混合物の還元反応を全体的に十分に行うことができる。また、流動性還元反応の場合には、正極活物質混合物の流動性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、例示的な実施形態によるリチウム二次電池の活性金属回収用前処理物の製造方法を説明するための概略的なフローチャートである。
【
図2】
図2は、例示的な実施形態によるリチウム二次電池の活性金属の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。
【
図3】
図3は、実施例及び比較例の粒径分布を示す概略的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態は、正極活物質混合物の平均粒径を減少させる前処理工程を含むリチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法を提供する。また、本発明の実施形態は、前記方法により製造された前処理物を用いたリチウム二次電池の有価金属の回収方法を提供する。
【0029】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は多様な変更を加えることができ、さまざまな形態を有することができるところ、特定の実施形態を図面に例示して本文に詳細に説明しようとする。しかし、これは本発明を特定の開示形態に限定するものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変更、均等物ないし代替物を含むものと理解されるべきである。
【0030】
別に定義しない限り、技術的または科学的な用語を含めてここで用いられる全ての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者により一般的に理解されるものと同一の意味を有する。一般的に用いられる辞書に定義されているような用語は、関連技術の文脈上有する意味と一致する意味を有するものと解釈されるべきであり、本出願で明らかに定義しない限り、理想的または過度に形式的な意味に解釈されない。
【0031】
本明細書で使用される用語「前駆体」は、電極活物質に含まれる特定の金属を提供するために、前記特定の金属を含む化合物を包括的に指すものとして使用される。
【0032】
<リチウム二次電池の有価金属回収用前処理物の製造方法>
図1は、例示的な実施形態によるリチウム二次電池の活性金属回収用前処理物の製造方法を説明するための概略的なフローチャートである。
【0033】
図1を参照すると、リチウム二次電池の正極から正極活物質を準備することができる(例えば、ステップS10)。
【0034】
前記リチウム二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在する分離膜とを含む電極組立体を含むことができる。前記の正極および負極は、それぞれ正極集電体および負極集電体上にコーティングされた正極活物質層および負極活物質層を含むことができる。
【0035】
例えば、前記正極活物質層に含まれる正極活物質は、リチウムおよび遷移金属を含有する酸化物を含むことができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は下記化学式1で表される組成を有する化合物を含むことができる。
【0037】
[化学式1]
LixNi1-yMyO2+z
【0038】
化学式1中、xは0.9≦x≦1.2、yは0≦y≦0.7、zは-0.1≦z≦0.1、MはNa、Mg、Ca、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Fe、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、C、Si、SnまたはZrから選択される1種以上の元素であってもよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含むNCM系リチウム酸化物であってもよい。
【0040】
前記リチウム二次電池から前記正極を分離して正極を回収することができる。前記正極は、使用済みの廃リチウム二次電池または製造過程で損傷または不良が発生した正極であってもよい。
【0041】
例えば、前記正極は、前述のように正極集電体(例えば、アルミニウム(Al))及び正極活物質層を含み、前記正極活物質層は、前述の正極活物質と共に、導電材及び結合剤を共に含むことができる。
【0042】
前記導電材は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素系物質を含むことができる。前記結合剤は、例えば、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニリデンフルオリド(polyvinylidenefluoride,PVDF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)などの樹脂物質を含むことができる。
【0043】
例示的な実施形態では、回収された前記正極から正極集電体を除去して正極活物質混合物を収集することができる。これにより、前記正極活物質混合物は、アルミニウムが除去された粉末の形態で収集することができる。前記正極活物質混合物は、前述のようにリチウム遷移金属酸化物の粉末を含み、例えば、NCM系リチウム酸化物粉末(例えば、Li(NCM)O2)を含むことができる。
【0044】
例示的な実施形態では、前記正極活物質混合物は、前記NCM系のリチウム酸化物のような正極活物質混合物粒子を含むことができる。例えば、前記正極活物質混合物は、前記正極活物質混合物粒子で実質的に構成されてもよい。
【0045】
例えば、収集された正極活物質混合物には、1~100mmの粒径を有する巨大凝集粒子と、1mm未満の粒径を有する微細パウダーとが混合されて含まれてもよい。準備された正極活物質混合物を別の前処理なしに後述する還元工程に投入すると、不均一な粒径分布によって還元工程で不均一反応が発生することがある。
【0046】
例えば、還元工程が後述する流動化工程である場合には、巨大凝集粒子が流動化されず、還元反応が十分に行われないことがある。そのため、工程性が低下し、有価金属回収率が低下することがある。
【0047】
また、還元工程が後述する湿式浸出工程である場合には、正極活物質混合物粒子の比表面積が増加し、還元剤に対する反応性が低下することがある。
【0048】
本発明の例示的な実施形態によれば、準備された正極活物質混合物を乾燥または粉砕することができる(例えば、ステップS20)。
【0049】
いくつかの実施形態では、準備された正極活物質混合物を乾燥することができる。この場合、準備された正極活物質混合物中に含まれている電解液および水分を除去することができる。これにより、混合物の流動性が増加し、混合物中に含まれる有価金属の純度を向上させることができる。
【0050】
例えば、前記乾燥は60~100℃で48~96時間行うことができる。前記条件で乾燥を行う場合、混合物中の電解液および水分が十分に除去され、後述する分級工程を円滑に行うことができ、過度の高温での乾燥により粒子が過度に凝集することを防止することができる。これにより、分級後の正極活物質混合物の粒径分布を均一に形成することができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、準備された正極活物質混合物を粉砕することができる。例えば、前記粉砕は、ボールミル(ball mill)またはハンマーミル(hammer mill)などを含む衝撃クラッシャー(impact crusher)によって行うことができる。
【0052】
例えば、前記衝撃クラッシャーは「ボールの衝撃またはハンマーの衝撃による衝撃力を用いて対象体を粉砕する機械」と定義することができる。
【0053】
例えば、前記粉砕工程を行うことにより、準備された正極活物質混合物に含まれた巨大凝集粒子を微細パウダーに粉砕することができる。これにより、正極活物質混合物の平均粒径が減少し、均一な還元反応および優れた流動性を実現することができる。
【0054】
例示的な実施形態では、乾燥または粉砕された正極活物質混合物の平均粒径(D50)が400μm以下となるように分級し、リチウム二次電池の有価金属回収用前処理物を製造することができる(例えば、ステップS30)。
【0055】
本発明における「平均粒径」または「D50」とは、粒子体積から求められた粒度分布における体積累積百分率が50%に相当するときの粒径を意味し得る。
【0056】
本発明における「前処理物」とは、粉砕または乾燥後の分級された正極活物質混合物を意味し得る。
【0057】
例えば、前記分級は、乾燥または粉砕された正極活物質混合物を振動させてスクリーニング(screening)することによって行うことができる。例えば、メッシュサイズが400μmのスクリーン上で混合物を振動させて分級することができる。例えば、前記分級はツイストスクリーン(twist screen)装置によって行うことができる。
【0058】
例えば、前記分級工程を行うことにより、乾燥または粉砕された正極活物質混合物粒子の粒径を均一に制御することができる。この場合、後述する還元工程で均一な反応を行うことができ、流動化還元工程の場合には、混合物の流動性を高めることができる。これにより、工程性が向上し、高効率および高純度で有価金属を回収することができる。
【0059】
いくつかの実施形態では、準備された正極活物質混合物を乾燥する工程、乾燥された正極活物質混合物を粉砕する工程、および前記粉砕された正極活物質混合物の平均粒径が400μm以下となるように分級する工程を順次行うことができる。
【0060】
例えば、準備された正極活物質混合物を、まず、前述の乾燥工程に投入することができる。混合物中の電解液および水分が除去され、粉砕工程を円滑に行うことができる。これにより、分級後の正極活物質混合物の平均粒径を十分に減少させることができる(例えば、400μm以下)。
【0061】
例えば、前記乾燥された正極活物質混合物を粉砕することができる。電解液および水分が除去されたので、混合物に含まれている巨大凝集粒子に対する粉砕性能を向上させることができる。
【0062】
例えば、前記粉砕された正極活物質混合物を平均粒径が400μm以下となるように分級し、リチウム二次電池の有価金属回収用前処理物を得ることができる。この場合、乾燥および粉砕工程を順次行うことによって巨大凝集粒子を十分に粉砕できるので、分級された混合物の粒径を相対的に均一に形成することができる。これにより、正極活物質混合物の還元反応を全体的に十分に行うことができ、流動性還元反応の場合、正極活物質混合物の流動化を円滑に行うことができる。
【0063】
例えば、正極活物質混合物の平均粒径が400μmを超えると、正極活物質混合物の比表面積が減少し、還元反応の反応性および粒子の流動性が低下することがある。このため、正極活物質混合物に含まれている有価金属の回収率が低下することがある。
【0064】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、後述する還元浸出工程に投入する前に追加の熱処理を行うことができる。例えば、前記追加の熱処理により、正極活物質層に含まれた導電材および結合剤のような不純物を少なくとも部分的に除去することができる。これにより、高純度の有価金属を含む正極活物質混合物を還元工程に投入することができる。
【0065】
前記熱処理の温度は、例えば約100~500℃、好ましくは約350~450℃であってもよい。前記範囲では、実質的に前記不純物が除去され、正極活物質混合物の破壊または損傷を防止することができる。
【0066】
<リチウム二次電池の有価金属の回収方法>
図2は、例示的な実施形態によるリチウム二次電池の活性金属の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。
【0067】
図2を参照すると、前述のようにして得られた前処理物(例えば、分級された正極活物質混合物)を還元し、予備前駆体混合物を形成することができる(例えば、ステップS40)。
【0068】
予備前駆体混合物は、予備リチウム前駆体粒子および予備遷移金属前駆体粒子を含むことができる。
【0069】
予備リチウム前駆体粒子は、例えば、リチウム水酸化物(LiOH)、リチウム酸化物(Li2O)およびリチウム炭酸化物(Li2CO3)の少なくとも1つを含むことができる。リチウム二次電池の充放電特性、寿命特性、高温安定性などの観点から、リチウム前駆体はリチウム水酸化物を含むことができる。
【0070】
予備遷移金属前駆体粒子は、例えば、Ni、Co、NiO、CoOおよびMnOを含むことができる。
【0071】
いくつかの実施形態では、前記還元は、分級された正極活物質混合物を流動化して還元処理する流動化還元工程によって行うことができる。例えば、前記還元は流動層反応器によって行うことができる。
【0072】
本明細書で使用される用語「流動層反応器」とは、注入された予備正極活物質混合物に流体(気体または液体)を通過させ、正極活物質混合物を流体化(fluidization)させる反応器を意味し得る。
【0073】
例えば、前記前処理物を流動層反応器に投入し、流動層反応器に流動化ガスを注入して、正極活物質混合物を流動化させることができる。
【0074】
例えば、前記流動化ガスは、酸素または窒素含有ガスであってもよい。
【0075】
前述の前処理物は、巨大凝集粒子が除去されて400μm以下の平均粒径を有する微細パウダーを含み、分級によって全体として均一な粒径を有する粒子を含むことができる。この場合、混合物は流動化ガスによって円滑に流動化することができる。これにより、前処理物の還元反応を全体的に均一に行うことができ、予備前駆体混合物の収率が増加して有価金属の回収率を改善することができる。
【0076】
いくつかの実施形態では、前記流動化された前処理物は、流動層反応器内に注入された還元性ガスによって還元され、予備前駆体混合物を形成することができる。
【0077】
例えば、前記還元性ガスは、水素と非反応性ガスとの混合ガスであってもよい。
【0078】
いくつかの実施形態では、前記還元は、分級された正極活物質混合物を還元剤と共に酸性溶液に投入して還元する湿式浸出工程によって行うことができる。
【0079】
前記還元剤は、例えば、過酸化水素(H2O2)、SO2、Na2S、NaHS、Na2S2O5、NaHSO3、Na2S2O3、KHSO3、K2SO3、FeSO4、H2S、グルコース(glucose)、スクロース(sucrose)及びアスコルビン酸(Ascorbic acid)の少なくとも1つを含むことができる。
【0080】
前記酸性溶液は、例えば、硫酸(H2SO4)、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)、シュウ酸(oxalic acid)およびクエン酸(citric acid)の少なくとも1つを含むことができる。
【0081】
例えば、前記酸性溶液に、分級された正極活物質混合物を還元剤と共に投入し、予備前駆体混合物を形成することができる。正極活物質混合物の平均粒径が400μm以下に制御されて巨大凝集粒子が除去されたので、例えば正極活物質混合物粒子の比表面積が増加し、還元剤に対する反応性を増加することができる。
【0082】
例示的な実施形態では、形成された予備前駆体混合物からリチウム前駆体および遷移金属前駆体を回収することができる(例えば、ステップS50)。
【0083】
前記予備前駆体混合物は、予備リチウム前駆体粒子および予備遷移金属前駆体粒子を含むことができる。
【0084】
前述の流動化還元工程によって予備前駆体混合物を形成したいくつかの実施形態では、予備前駆体混合物を浸出液と反応させてリチウム前駆体を形成することができる。例えば、予備前駆体混合物に含まれる予備リチウム前駆体粒子が浸出液と反応し、リチウム前駆体を形成することができる。
【0085】
例えば、リチウム酸化物およびリチウム炭酸化物は浸出液と反応してリチウム水酸化物を形成し、形成されたリチウム水酸化物は浸出液に溶解して収集することができる。
【0086】
いくつかの実施形態では、浸出液は水を含むことができる。この場合、予備前駆体混合物に対しては水洗処理を行うことができる。前記水洗処理により、前記予備前駆体混合物と水が反応し、リチウム水酸化物が水に溶解したリチウム前駆体を形成することができる。
【0087】
いくつかの例示的な実施形態では、前記浸出液は、さらにジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)またはジエチルカーボネート(diethyl carbonate)を含むことができる。
【0088】
例えば、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)またはジエチルカーボネート(diethyl carbonate)は、予備前駆体混合物と水との反応を促進することができる。これにより、リチウム前駆体の分離効率を向上させることができる。
【0089】
いくつかの実施形態では、予備前駆体混合物中の予備遷移金属前駆体粒子は、酸溶液と反応して遷移金属前駆体を形成することができる。例えば、沈殿された遷移金属前駆体を収集することができる。
【0090】
例えば、前記酸溶液としては、硫酸を用いることができる。この場合、前記遷移金属前駆体は、遷移金属硫酸塩を含むことができる。例えば、前記遷移金属硫酸塩は、NiSO4、MnSO4およびCoSO4などを含むことができる。
【0091】
前述の湿式浸出工程によって予備前駆体混合物を形成した一部の実施形態では、予備前駆体混合物を含む溶液に抽出剤を投入して、リチウム前駆体および遷移金属前駆体を抽出することができる。
【0092】
前記抽出剤は、例えば、リン酸系抽出剤、ホスフェート系抽出剤、ホスフィンオキシド系抽出剤、およびカルボン酸系抽出剤の少なくとも1つを含むことができる。
【0093】
例えば、前記抽出剤は、ジ-2-エチルヘキシルリン酸(Di-2-ethylhexyl phosphoric acid、D2EHPA)、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Bis(2,4,4-trimethylpentyl)phosphinic acid、Cyanex 272)、2-エチルヘキシルリン酸モノ-2-エチルヘキシルエステル(2-Ethylhexyl phosphoric acid mono-2-ethylhexyl ester, PC88A)、トリブチルホスフェート(Tributyl phosphate)、トリオクチルホスフィンオキシド(Trioctyl phosphine oxide)、およびアルキルモノカルボン酸(alkyl monocarboxylic acid)の少なくとも1つを含むことができる。
【0094】
以下、本発明の理解を助けるために具体的な実施例を提示するが、これらの実施例は本発明を例示するものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を制限するものではない。これらの実施例に対し、本発明の範疇および技術思想の範囲内で種々の変更および修正を加えることが可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【0095】
実施例1
廃リチウム二次電池から分離された正極材1kgを小単位で切断し、ミリングにより粉砕処理して、Li-Ni-Co-Mn酸化物、バインダー(ポリフッ化ビニリデン、PVDF)および導電材(カーボンブラック)を含む正極活物質混合物を準備した(ステップS10)。
【0096】
前記正極活物質混合物をオーブンに入れ、80℃で72時間乾燥した。その後、乾燥された正極活物質混合物を衝撃クラッシャーに投入して粉砕した(ステップS20)。
【0097】
粉砕された正極活物質混合物をメッシュサイズが400μmのツイストスクリーンに投入して分級した(ステップS30)。
【0098】
分級された正極活物質混合物を流動層反応器に投入し、窒素ガスを投入して流動化した。流動層反応器内に還元性ガスとして水素ガスを投入し、流動化された正極活物質混合物を還元し、予備前駆体混合物を形成した(ステップS40)。
【0099】
形成された予備前駆体混合物を水洗処理し、リチウム前駆体水溶液を得た。また、予備前駆体混合物を酸処理し、遷移金属前駆体を得た(ステップS50)。
【0100】
実施例2
乾燥温度を55℃とした以外は、実施例1と同様にして有価金属を回収した。
【0101】
実施例3
乾燥後、粉砕を行わずに直ちに分級を行った以外は、実施例1と同様にして有価金属を回収した。
【0102】
実施例4
乾燥を行わずに準備された正極活物質混合物を粉砕した後に直ちに分級を行った以外は、実施例1と同様にして有価金属を回収した。
【0103】
比較例1
準備された正極活物質混合物を乾燥、粉砕および分級を行わずに直ちに流動層反応器に投入した以外は、実施例1と同様にして有価金属を回収した。
【0104】
比較例2
粉砕された正極活物質混合物をメッシュサイズが500μmのツイストスクリーンに投入して分級した以外は、実施例1と同様にして有価金属を回収した。
【0105】
実験例
(1)平均粒径(D50、D90)の測定
前述の実施例及び比較例2の分級された正極活物質混合物、並びに比較例1の準備された正極活物質混合物の平均粒径を、レーザ光回折散乱式装置であるMastersizer 3000(Malvern社製)を用いて測定した。
【0106】
(2)流動性の評価
前述の実施例及び比較例により流動層反応器に投入された正極活物質混合物を流動化した後、目視で観察し、以下のように流動性を評価した。
○:流動化しない巨大凝集粒子が観察されない
X:流動化しない巨大凝集粒子が観察される
【0107】
(3)有価金属回収率の測定
前述の実施例及び比較例において、最初の正極活物質混合物試料におけるリチウムおよび遷移金属の重量に対する回収されたリチウムおよび遷移金属の重量を測定し、有価金属回収率を算出した。
測定及び評価の結果は下記表1に示す。
【0108】
【0109】
表1を参照すると、還元工程投入前に正極活物質混合物の乾燥または粉砕、および平均粒径400μm以下への分級工程を経た実施例は、比較例に比べて全体的に平均粒径が低く、流動性が増加し、有価金属回収率が増加した。
【0110】
また、比較例1及び2は流動性が低くて流動化反応をできず、有価金属を回収することができなかった。
【0111】
図3は、実施例1及び比較例1の粒径分布を示す概略的なグラフである。
【0112】
図3を参照すると、実施例1の場合は、ほとんどが400μm以下の粒径を有する微細パウダーの形態に形成されたが、比較例1の場合は、1,000μm以上の粒径を有する巨大凝集粒子が含まれていた。
【0113】
60℃未満の温度で乾燥した実施例2の場合は、正極活物質混合物中の電解液および水分が十分に蒸発できず、後続する粉砕および分級工程の効率が低下した。そのため、実施例1に比べて平均粒径および有価金属回収率が多少低下した。
【0114】
乾燥後に粉砕工程を経ずに直ちに分級を行った実施例3、及び正極活物質混合物を乾燥せずに直ちに粉砕して分級した実施例4は、乾燥-粉砕-分級を全て行った実施例1及び2に比べて相対的に平均粒径が増加し、有価金属回収率が低下した。
【国際調査報告】