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特表2024-511372治療用タンパク質および少なくとも1つの安定剤を含む製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-13
(54)【発明の名称】治療用タンパク質および少なくとも1つの安定剤を含む製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/34 20170101AFI20240306BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
A61K47/34
A61K38/02
A61K9/16
A61K47/38
A61K38/19
A61K38/18
A61K38/22
A61K39/395 A
A61K9/70
A61K39/395 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557060
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(85)【翻訳文提出日】2023-11-09
(86)【国際出願番号】 EP2022056977
(87)【国際公開番号】W WO2022195008
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】2103785.8
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】514232085
【氏名又は名称】ユーシービー バイオファルマ エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マーケット、サラ
(72)【発明者】
【氏名】グランフィス、クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ユルレ、ジェローム
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA51
4C076AA71
4C076AA94
4C076BB32
4C076CC50
4C076EE23
4C076EE23Q
4C076EE24
4C076EE24Q
4C076EE32
4C076EE32Q
4C076EE49Q
4C076FF63
4C076FF68
4C076GG01
4C076GG06
4C076GG09
4C076GG41
4C084AA03
4C084BA03
4C084BA44
4C084DA01
4C084DB01
4C084DB52
4C084MA05
4C084MA34
4C084MA67
4C084NA03
4C084NA10
4C084NA12
4C085AA11
4C085BB31
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD11
4C085EE01
4C085EE07
4C085GG10
(57)【要約】
本発明は、治療活性成分としてタンパク質を含む医薬組成物の分野に関する。より具体的には、本発明は、タンパク質含有乾燥組成物において賦形剤として、特に安定剤として使用されるジブロックまたはマルチブロックコポリマー、これらの乾燥組成物から得られるフィラメント、これらのフィラメントから形成される植込み型薬物送達デバイス、ならびに、そのような組成物、フィラメントおよびデバイスを製造する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの安定剤、活性成分、ならびに任意選択で緩衝剤、界面活性剤および/または少なくとも1つのさらなる安定剤を含む医薬組成物であって、
前記活性成分が、治療用タンパク質であり、前記少なくとも1つの安定剤が、ポリウレタン(TPU)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリジオキサノン、ポリグリコリド、ポリトリメチレンカーボナート、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、それらの任意の誘導体もしくはそれらの組み合わせに基づく、またはそれらから選択される少なくとも1つのポリマーと、少なくとも1つのPEGとの組み合わせから形成されるジブロックまたはマルチブロックコポリマーである、医薬組成物。
【請求項2】
植込み型薬物送達デバイスを調製するためのフィラメントであって、
このフィラメントが、少なくとも1つの安定剤、活性成分、ならびに任意選択で緩衝剤、界面活性剤および/または少なくとも1つのさらなる安定剤を含み、
前記活性成分が、治療用タンパク質であり、前記少なくとも1つの安定剤が、ポリウレタン(TPU)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリジオキサノン、ポリグリコリド、ポリトリメチレンカーボナート、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、それらの任意の誘導体もしくはそれらの組み合わせに基づく、またはそれらから選択される少なくとも1つのポリマーと、少なくとも1つのPEGとの組み合わせから形成されるジブロックまたはマルチブロックコポリマーである、フィラメント。
【請求項3】
前記ジブロックまたはマルチブロックコポリマーが、ポリ(ラクチド)ポリ(エチレングリコール)(PLA-PEG)、ポリ(ラクチド)ポリ(エチレングリコール)ポリ(ラクチド)(PLA-PEG-PLA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)-ポリ(エチレングリコール)(PLGA-PEG)、ポリ[(ラクチド-co-エチレングリコール)-co-エチルオキシホスファート](ポリ(LAEG-EOP))、およびポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール(PCL-PVA-PEG)からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物または請求項2に記載のフィラメント。
【請求項4】
前記少なくとも1つの安定剤が約1~10%(w/w)の範囲内の量である、請求項2または請求項3に記載のフィラメント。
【請求項5】
前記フィラメントが、
a)ポリマー材料、および
b)可塑剤
をさらに含む、請求項2~4のいずれか1項に記載のフィラメント。
【請求項6】
前記ポリマー材料が、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、またはそれらの組み合わせである、請求項5に記載のフィラメント。
【請求項7】
前記可塑剤がポリエチレングリコールである、請求項5または6に記載のフィラメント。
【請求項8】
前記ポリマーが約50~75%(w/w)の範囲内であり、かつ前記可塑剤が約2~20%(w/w)の範囲内である、請求項5~7のいずれか1項に記載のフィラメント。
【請求項9】
前記可塑剤および前記ポリマー材料が、ポリウレタン(TPU)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリジオキサノン、ポリグリコリド、ポリトリメチレンカーボナート、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、それらの任意の誘導体もしくはそれらの組み合わせに基づく少なくとも1つのポリマーと、少なくとも1つのPEGとの組み合わせから形成されるジブロックまたはマルチブロックコポリマーによって置き換えられている、請求項5に記載のフィラメント。
【請求項10】
前記ジブロックまたはマルチブロックコポリマーが、ポリ(ラクチド)ポリ(エチレングリコール)(PLA-PEG)、ポリ(ラクチド)ポリ(エチレングリコール)ポリ(ラクチド)(PLA-PEG-PLA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)-ポリ(エチレングリコール)(PLGA-PEG)、ポリ[(ラクチド-co-エチレングリコール)-co-エチルオキシホスファート](ポリ(LAEG-EOP))、およびポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール(PCL-PVA-PEG)からなる群から選択される、請求項9に記載のフィラメント。
【請求項11】
前記ジブロックコポリマーまたはマルチブロックコポリマーが、約55~85%(w/w)の範囲内の総量である、請求項9または請求項10に記載のフィラメント。
【請求項12】
前記活性成分が、前記少なくとも1つの安定剤中または前記ポリマーマトリックス中に均一に分散されている、請求項2~11のいずれか1項に記載のフィラメント。
【請求項13】
前記治療用タンパク質が、サイトカイン、成長因子、ホルモン、抗体または融合タンパク質である、請求項1に記載の医薬組成物または請求項2~12のいずれか1項に記載のフィラメント。
【請求項14】
前記有効成分の装填量が5~40%(w/w)の範囲である、請求項2~13のいずれか1項に記載のフィラメント。
【請求項15】
前記タンパク質と前記安定剤との比が1:1~5:1(w/w)である、請求項2~14のいずれか1項に記載のフィラメント。
【請求項16】
請求項2~15のいずれか1項に記載のフィラメントを含む、植込み型薬物送達デバイス。
【請求項17】
請求項2~15のいずれか1項に記載のフィラメントを3Dプリントして得られる3Dプリント植込み型薬物送達デバイス。
【請求項18】
前記デバイスが少なくとも1つの内部中空キャビティを含む、請求項16または17に記載の植込み型薬物送達デバイス。
【請求項19】
前記デバイスが完全に固体の物質である、請求項16または17に記載の植込み型薬物送達デバイス。
【請求項20】
請求項2~15のいずれか1項に記載のフィラメントを製造するための方法であって、
a.活性成分、少なくとも1つの安定剤、ならびに任意選択で緩衝剤、界面活性剤および/または少なくとも1つのさらなる安定剤を含むか、またはそれらからなる液体医薬組成物を調製するステップ、
b.ステップaの液体医薬組成物を凍結乾燥または噴霧乾燥させて、粉末を得るステップ、
c.可塑剤および少なくとも1つのポリマー材料を用いて、ステップbの粉末を均一に分散させるステップ、ならびに
d.ステップcの分散液を紡糸または押出して、フィラメントを得るステップ
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療活性成分としてタンパク質を含む医薬組成物の分野に関する。より具体的には、本発明は、タンパク質含有乾燥組成物において賦形剤として、特に安定剤として使用されるジブロックまたはマルチブロックコポリマー、これらの乾燥組成物から得られるフィラメント、これらのフィラメントから形成される植込み型薬物送達デバイス、ならびに、そのような組成物、フィラメントおよびデバイスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト押出(HME)は、薬剤を装填したプリント可能なフィラメントを製造するために医薬品の分野においてすでに広く説明され、実施されている技術である(Goyanes et al., 2015参照)。HMEは、ダイを通して押し出されるポリマー材料の溶融に基づいており、均一な薬物を装填したフィラメントが得られる。HMEは、容易にスケールアップされる溶媒なしのプロセスである(Tiwari et al., 2016参照)。しかし、この技法では薬物処理に比較的高い温度が必要とされる。このような温度は通常、可塑剤を添加することによって低下させることができ、ポリマーのガラス転移温度(Tg)の低下が可能になる。押出温度を低下させる別の手法は、低分子量を特徴とする熱可塑性ポリマーの使用である可能性がある(Fredenberg et al., 2011参照)。HMEは、装填(配合)された有効成分の経時的な制御放出(徐放)を特徴とするタンパク質ベースの製剤(配合物)を開発するためにすでに研究されている(Cosse et al., 2016; Duque et al., 2018; Ghalanbor et al., 2010参照)。
【0003】
主要な難題の1つは、継続的に、押出前の乾燥ステップおよびその後の押出ステップ自体の間のタンパク質の安定化である。実際、タンパク質の固体状態は、より高い安定性を促進するだけでなく、HMEプロセスを使用したポリマーマトリックス中へのタンパク質の添加を容易にするために、より有利である可能性があることが示された(Cosse et al., 2016; Mensink et al., 2017参照)。タンパク質を乾燥させ、次いで押し出し、噴霧乾燥(スプレー乾燥)および凍結乾燥させることができる最も一般的ないくつかの方法が開発されているが、それらの最適化は今日でも依然として困難であり、特定の薬物ごとに特異的である(Emami et al., 2018参照)。水分の除去中に、タンパク質は、pHまたはイオン強度の変化、温度勾配、界面相互作用、水和またはせん断応力の変化など、いくつかの物理化学的ストレスに曝される。乾燥の最適化が、噴霧乾燥または凍結条件の場合の噴霧の温度および流量、ならびに凍結乾燥に課せられる真空/温度などの処理パラメータに依存する場合、通常、安定剤はタンパク質を保護するためだけでなく、水分の除去を促進するためにも使用される。ほとんどの場合、これらの安定剤は、単糖、二糖もしくはオリゴ糖、無機もしくは有機緩衝剤、および/またはイオン性もしくは非イオン性界面活性剤などの非常に低分子量の水溶性化合物から形成されている。一般に、得られる粉末に凝集性を与えるために、水溶性ポリマーも添加される。これらの化合物の全ては、通常、バイオ医薬品に対して多量、つまり少なくとも30重量%までの量で添加され、疎水性分解性マトリックスとの混合を妨げる。実際のところ、これらのポリマーと非混和性であるため、それらは、多孔質マトリックスの形成に伴い相分離を引き起こす。その結果、これらの不活性成分の全ては、特に薬物装填量を増加させる場合に、バイオ医薬品の有効成分の急速な放出(バースト効果)のリスクを大幅に増大させる。そのうえ、水溶性であることに因り、これらの賦形剤は、ブレンドの可塑化によって、または/および薬物加工中に通常生成される中間相(固体、液体、または気体)の安定化によって最終的な処理を増大させることはない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、サイトカイン、成長因子、ホルモン、抗体または融合タンパク質などの治療用タンパク質を含む粉末、フィラメントおよび植込み型薬物送達デバイスを得るために使用できる更なる安定剤が依然として必要とされている。ここで、前記治療用タンパク質は、これらのフィラメントおよび/またはデバイスの内部で経時的に安定である(例えば、フィラメントの製造中、さらには植込み型薬物送達デバイスの製造中のタンパク質の分解を制限する)。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様では、本発明は、少なくとも1つの安定剤(ジブロックまたはマルチブロックコポリマーである少なくとも1つの安定剤)、活性成分(治療用タンパク質である活性成分)、ならびに任意選択で緩衝剤、界面活性剤および/または少なくとも1つのさらなる安定剤を含む医薬組成物を提供する。安定剤として使用されるジブロックまたはマルチブロックコポリマーは、好ましくは、ポリウレタン(TPU)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリジオキサノン、ポリグリコリド、ポリトリメチレンカーボナート、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、それらの任意の誘導体もしくはそれらの組み合わせに基づく、またはこれらから選択される少なくとも1つのポリマーと、少なくとも1つのPEGとの組み合わせから形成される。そのようなジブロックまたはマルチブロックコポリマーの例としては、ポリ(ラクチド)ポリエチレングリコール(PLA-PEG)、ポリ(ラクチド)ポリ(エチレングリコール)ポリ(ラクチド)(PLA-PEG-PLA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)-ポリ(エチレングリコール)(PLGA-PEG)、ポリ[(ラクチド-co-エチレングリコール)-co-エチルオキシホスファート](ポリ(LAEG-EOP))、およびポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール(PCL-PVA-PEG)が挙げられる。
【0006】
第2の態様では、本発明は、植込み型薬物送達デバイスを調製するためのフィラメントであって、このフィラメントが少なくとも1つの安定剤および活性成分を含み、ここで、前記少なくとも1つの安定剤がジブロックまたはマルチブロックコポリマーであり、前記活性成分が治療用タンパク質であるフィラメントを記述する。好ましくは、前記ジブロックまたはマルチブロックコポリマーは、ポリウレタン(TPU)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリジオキサノン、ポリグリコリド、ポリトリメチレンカーボナート、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、それらの任意の誘導体もしくはそれらの組み合わせに基づく、またはこれらから選択される少なくとも1つのポリマーと、少なくとも1つのPEGとの組み合わせから形成される。そのようなジブロックまたはマルチブロックコポリマーの例としては、ポリ(ラクチド)ポリエチレングリコール(PLA-PEG)、ポリ(ラクチド)ポリ(エチレングリコール)ポリ(ラクチド)(PLA-PEG-PLA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)-ポリ(エチレングリコール)(PLGA-PEG)、ポリ[(ラクチド-co-エチレングリコール)-co-エチルオキシホスファート](ポリ(LAEG-EOP))、およびポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール(PCL-PVA-PEG)が挙げられる。
【0007】
第3の態様では、本発明は、ポリマー材料および可塑剤をさらに含むフィラメントに関する。フィラメントは、緩衝剤および/または界面活性剤をさらに含んでもよい。
【0008】
第4の態様では、本発明は、少なくとも1つの安定剤および活性成分を含むフィラメントから作られた1つまたは複数の層から形成された、またはそれらを含む、またはそれらからなる植込み型薬物送達デバイスであって、ここで、前記安定剤はジブロックまたはマルチブロックコポリマーであり、前記活性成分が治療用タンパク質である植込み型薬物送達デバイスを記述する。植込み型薬物送達デバイスは、ポリマー材料および可塑剤をさらに含む。それはまた、緩衝剤および/または界面活性剤を含んでもよい。
【0009】
第5の態様では、本発明は以下を提供する。
植込み型薬物送達デバイスを調製するためのフィラメントを製造するための方法であって、
a.活性成分、少なくとも1つの安定剤、ならびに任意選択で緩衝剤および/または界面活性剤を含む、またはそれらからなる液体製剤(配合物)を調製するステップ、
b.ステップaの液体製剤を凍結乾燥または噴霧乾燥させて粉末を得るステップ、
c.可塑剤および少なくとも1つのポリマー材料を用いて、ステップbの粉末を均一に分散させるステップ、ならびに
d.ステップcの分散液を紡糸または押出して、フィラメントを得るステップ
を含む方法。
【0010】
第6の態様では、本発明は以下に関する。
植込み型薬物送達デバイスを製造するための方法であって、
a.ガラス転移温度を超える温度を用いて、3Dプリンターのプリントヘッドの中に、本明細書に記載のフィラメントを装填すること、
b.ポリマーマトリックスのガラス転移温度を下回る温度でビルドプラットフォームを加熱すること、および
c.ノズルを通じて前記の加熱されたフィラメントをデポジットし、少なくとも第1の層から最終的な頂部層までデバイスを構築すること
を含む方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ジブロックコポリマーPEG-P(d,l)LA(5kDa-2.5kDa)(JH073)のモノマー転化率および実験による数平均分子量(Mn)の経時的変化を示す図である。
図2図2は、温度25℃で水(10mg/mL)に可溶化したジブロックコポリマーの平均サイズを示す図である。これらのDLS分析を、ポリマー溶解の1時間後および1日後に行った。
図3図3は、温度25℃で、水(10mg/mL)に可溶化したジブロックコポリマーのSEC-MALSクロマトグラムを示す図である。MALSシグナル(ここでは90°で与えられる)が3つのコポリマーについて報告された。屈折率(RI)は、ジブロックコポリマーPEG-P(d,1)LA5000-5000についてのみ与えられた。
図4図4は、賦形剤組成の関数としての、凍結乾燥後(“Lyoph”)または噴霧乾燥後(“S.D.”)のいずれかで得られたmAb1粉末の形態の比較を示す図である。SEMの観察を、FEIから入手されたQuanta 600を適用し、加速電圧20kVで実施した。
図5図5は、噴霧乾燥粉末(A)または凍結乾燥粉末(B)の溶解1時間後、水への可溶化(10mg/mLで)の後の3つのコポリマーを用いて調製されたmAb1粉末の平均サイズ(DLS)の比較を示す図である。
図6図6は、乾燥条件、コポリマーおよび賦形剤組成の関数としてのmAb1凝集体のパーセンテージの比較を示す図である。
図7図7は、表4に示した製剤(配合物)の組成に従って mAb1を装填したHMEフィラメントの一部の拡大写真を示す図である。
図8図8は、A)シリーズAのHMEフィラメントからのmAb1のインビトロ(in vitro)放出速度論、B)シリーズBのHMEフィラメントからのmAb1のインビトロ放出速度論を示す図である。どちらの場合も、結果は総mAb1装填量から計算された累積%で表される。
図9図9は、A)シリーズAのHMEフィラメントからインビトロで放出されたmAb1の凝集体の%割合の経時的変化、B)シリーズBのHMEフィラメントからインビトロで放出されたmAb1の凝集体の%割合の経時的変化を示す図である。どちらの場合も、結果は総mAb1装填量から計算された累積%で表される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
- 用語「粉末」(複数形でpowders)は、非常に小さなサイズ(通常約20μm以下のサイズ)の乾燥「粒子」を指す(「微粒子」または「微小球」とも称される)。好ましくは、粉末は、乾燥粒子の約10重量%未満、通常は5重量%未満、さらには3重量%未満の水を含む。粉末は、典型的には、水溶液または水性エマルションを噴霧乾燥および/または凍結乾燥させることによって得ることができる。あるいは、乾燥粉末という用語を使用することもできる。
【0013】
- 用語「凍結乾燥」(“lyophilization”としても知られる“freeze-drying”)は、以下の少なくとも3つの主なステップを含む粉末を得るプロセスを指す:1)凍結乾燥される製品の温度を凍結点未満に下げるステップ(通常-40~-80℃の間;凍結ステップ)、2)高圧真空ステップ(通常30~300mTorr;第1の乾燥ステップ)、および3)温度を上昇させるステップ(通常20~40℃の間;第2の乾燥ステップ)。
【0014】
- 用語「噴霧乾燥」は、以下の少なくとも2つの主なステップを含む粉末を得るプロセスを指す:1)液体供給物を微細な液滴に霧化するステップ、および2)高温の乾燥ガスを用いて溶媒または水を蒸発させるステップ。
【0015】
- 本明細書で使用される用語「安定性」は、本発明によるフィラメントおよび薬物送達デバイスにおける有効成分(本明細書では治療用タンパク質)の物理的、化学的、および立体構造的な安定性(ならびに生物学的効能の維持を含む)を指す。タンパク質の不安定性は、例えば高次ポリマーを形成するためのタンパク質の化学的分解もしくは凝集、脱グリコシル化、グリコシル化の修飾、酸化、または製剤化されたタンパク質の生物学的活性を低下させるその他のいずれかの構造修飾によって引き起こされる可能性がある。「安定した」(“stable”)という用語は、有効成分(本明細書では治療用タンパク質)が製造中および保管の際にその物理的、化学的および/または生物学的特性を本質的に保持しているフィラメントまたは薬物送達デバイスを指す。製剤(配合物)中のタンパク質の安定性を測定するため、様々な分析方法が十分に当業者の知識の範囲内である(実施例のセクションのいくつかの例を参照)。安定性(初期データと比較して)を決定するために、例えば以下のような(限定されない)様々なパラメータを測定することができる:1)抗体の単量体形態の変化が約15%以下、または、2)15%以下の高分子量種(HMWまたはHMWS;本明細書では凝集体とも称される)。
【0016】
- 本明細書で使用される用語「緩衝剤」(“buffer”または“buffering agent”)は、医薬用途の製剤において安全であることが知られており、製剤のpHを前記製剤にとって望ましいpH範囲に維持または制御する効果を有する化合物の溶液を指す。中程度の酸性pHから中程度の塩基性pHにpHを制御するために許容される緩衝液としては、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、アルギニン、TRIS(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール)、ヒスチジン緩衝液、およびその薬理学的に許容される塩のいずれかのものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
- 本明細書で使用される用語「界面活性剤」は、液相、固相、または気相のいずれかであり得る異なる相間の界面張力に影響を与えることができる可溶性化合物を指す。従って、界面活性剤は、特に疎水性、油性物質の水溶性を高めるため、さもなければ異なる疎水性を有する2つの物質の混和性を高めるために使用することができる。界面活性剤は、特に薬物の吸収や標的組織への送達を調整するために製剤に一般的に使用される。よく知られている界面活性剤としては、ポリソルベート(ポリオキシエチレン誘導体;Tween)、ならびにポロキサマー(すなわちエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドをベースにしたコポリマー、Pluronics(登録商標)としても知られている)が挙げられる。
【0018】
- 本明細書で使用される用語「安定化剤」または「安定剤」は、生理学的に許容され、製剤に適切な安定性/緊張力(tonicity)を与える化合物である。凍結乾燥プロセスまたは噴霧乾燥プロセス中に、安定剤は保護剤としても効果的である。グリセリンなどの化合物は、このような目的に一般的に使用される。他の適切な安定化剤としては、アミノ酸またはタンパク質(例えば、グリシンまたはアルブミン)、塩(例えば、塩化ナトリウム)、および糖(例えば、デキストロース、マンニトール、スクロース、トレハロースおよびラクトース)、ならびに、本開示の枠組みの中で記載されたものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
- 用語「ポリマー材料」は、ホットメルト押出(HME)や3Dプリントなどの際に流動し、高温をサポートすることができるポリマー成分を指す。それゆえ、本発明による好ましいポリマー材料は、熱可塑性ポリマーまたは耐熱性ポリマーである。3Dプリントに一般的に使用される熱可塑性ポリマーの例としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリ乳酸(PLA)(PLLAまたはPDLAのいずれかであってよく、どちらの形式も区別なく使用され得る)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、エチレン酢酸ビニル(EVA)等が挙げられる。患者の利便性を高めるために、それらは生分解性または生体内除去可能であることが好ましい。他の耐熱性ポリマー材料としては、例えばヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、オイドラギット誘導体(E、RS、RL、EPO)、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー(Soluplus(登録商標))、熱可塑性ポリウレタン(TPU)などが挙げられる。適切なポリマー材料も本明細書に記載されている。
【0020】
- 用語「PEG」は、ポリ(エチレングリコール)を指す。あるいは、頭字語PEO(ポリ(エチレンオキシド)の略)が使用され得る。PEGは、20kDaまでのポリマーに使用され、PEOはそれより大きなポリマーに使用される傾向があるが、ポリマーのサイズに関係なく、両方の名称/頭字語が区別なく使用され得る。
【0021】
- 用語「可塑剤」は、例えば可塑性を高めたり、粘度を下げたりするために、熱可塑性ポリマーと組み合わせることができる化合物を指す。それはまた、前記ポリマーのガラス転移温度(Tg)を低下させるのに役立ち得る。製薬産業で使用され得るそのような可塑剤の例としては、生物由来の可塑剤、例えば、クエン酸アルキル(例えば、クエン酸アセチルトリエチル(ATEC)、クエン酸トリエチル(TEC))、トリアセチン(TA)、リシノール酸メチル、エポキシ化植物油、または更にポリエチレングリコール(PEG)(分子量に応じて、PEGはポリマーマトリックスまたは可塑剤として機能し得る)、ヒマシ油、ビタミンE TPGS(D-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000 コハク酸塩)、脂肪酸エステル(ステアリン酸ブチル、モノステアリン酸グリセロール、ステアリルアルコール)、加圧二酸化炭素、界面活性剤(ポリソルベート80)(例えば、Crowley 2007)が挙げられる。適切な可塑剤も本明細書に記載されている。
【0022】
- 用語「タンパク質」または「治療用タンパク質」は、治療用途のためのタンパク質を指し、例えば、サイトカイン、成長因子、ホルモン、抗体、または融合タンパク質である。好ましくは、タンパク質は、組換え法によって産生された組換えタンパク質である。
【0023】
- 本明細書で使用される用語「抗体」には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、および当技術分野で知られている組換え技術によって生成される組換え抗体が含まれるが、これらに限定されない。「抗体」には、あらゆる種、特に哺乳動物種の抗体が含まれ、その例としては、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgE、IgDを含む任意のアイソタイプのヒト抗体、ならびにIgGA1、IgGA2、またはIgMなどの五量体およびその修飾変異体(誘導体)を含むこの基本構造の二量体として産生される抗体;非ヒト霊長類抗体、例えば、チンパンジー、ヒヒ、アカゲザルまたはカニクイザルからの抗体;げっ歯類抗体、例えば、マウスまたはラットからの抗体;ウサギ、ヤギ、またはウマの抗体;ラクダ科動物抗体(例えば、ラクダまたはラマからの抗体、例としてNanobodies(商標))およびその誘導体;ニワトリ抗体などの鳥類の抗体;またはサメ抗体などの魚種の抗体が挙げられる。用語「抗体」は、少なくとも1つの重鎖および/または軽鎖抗体配列(シーケンス)の第1の部分が第1の種に由来し、重鎖および/または軽鎖抗体配列の第2の部分が第2の種に由来する「キメラ」抗体も指す。本明細書で対象となるキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、ヒヒ、アカゲザル、カニクイザルなどの旧世界ザル)由来の可変ドメイン抗原結合配列、およびヒトの定常領域配列を含む「霊長類化」抗体が含まれる。「ヒト化」抗体は、非ヒト抗体に由来する配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域の残基が、所望の特異性、親和性および活性を有するマウス、ラット、ウサギ、ニワトリまたは非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域(または相補性決定領域(CDR))の残基で置き換えられたヒト抗体(レシピエント抗体)である。ほとんどの場合、CDRの外側、すなわちフレームワーク領域(FR)内のヒト(レシピエント)抗体の残基は、対応する非ヒト残基によって追加的に置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体に見出されない残基を含み得る。これらの修飾(変性)は、抗体の特性をさらに改良するために行われる。ヒト化により、ヒトにおける非ヒト抗体の免疫原性が低下するため、ヒトの疾患の治療への抗体の応用が容易になる。ヒト化抗体およびそれらを生成するためのいくつかの異なる技術は、当技術分野でよく知られている。用語「抗体」は、ヒト化の代替として生成され得るヒト抗体も指す。例えば、免疫化により、内因性のマウス抗体を産生することなくヒト抗体の完全なレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を産生することが可能である。インビトロでヒト抗体/抗体フラグメントを取得する他の方法は、ファージディスプレイまたはリボソームディスプレイ技術などのディスプレイ技術に基づいており、ここでは、少なくとも部分的に人工的に、またはドナーの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから生成される組換えDNAライブラリーが使用される。ヒト抗体を生成するためのファージおよびリボソームディスプレイ技術は、当技術分野でよく知られている。ヒト抗体はまた、目的の抗原によりエクスビボで(生体外で)免疫化され、その後融合されてハイブリドーマを生成する単離されたヒトB細胞から生成され得、それは次いで、最適なヒト抗体についてスクリーニングされ得る。用語「抗体」は、グリコシル化抗体および非グリコシル化抗体の両方を指す。さらに、本明細書で使用される用語「抗体」は、全長抗体を指すだけでなく、抗体フラグメント、より具体的にはその抗原結合フラグメントも指す。抗体のフラグメントは、当技術分野で知られているように、少なくとも1つの重鎖または軽鎖免疫グロブリンドメインを含み、1つまたは複数の抗原に結合する。本発明による抗体フラグメントの例としては、Fab、修飾Fab、Fab’、修飾Fab’、F(ab’)2、Fv、Fab-Fv、Fab-dsFv、Fab-Fv-Fv、scFvおよびBis-scFvフラグメントが挙げられる。前記フラグメントはまた、ダイアボディ、トリボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、単一ドメイン抗体(dAb)、例えばsdAb、VL、VH、VHH、またはラクダ科抗体(例えば、Nanobody(商標)などのラクダもしくはラマ由来の抗体)、およびVNARフラグメントであり得る。本発明による抗原結合フラグメントはまた、1つまたは2つのscFvまたはdsscFvに連結されたFabを含んでいてよく、各scFvまたはdsscFvは同じまたは異なる標的に結合する(例として、治療標的に結合する1つのscFvまたはdsscFv、および、結合によって半減期を増大させる1つのscFvまたはdsscFv、例えばアルブミン)。このような抗体フラグメントの例としては、FabdsscFv(BYbe(登録商標)とも称される)またはFab-(dsscFv)2(TrYbe(登録商標)とも称される:例えばWO2015/197772を参照)が挙げられる。上で定義された抗体フラグメントは当技術分野で知られている。
【0024】
- 特に指定しない限り、パーセント(%)の値は重量パーセントを指す(代替的に、wt%、または%w/w、または%重量/重量とも称される)。
【0025】
- 用語「低分子量」、「低Mw」または「LMW」は、本明細書では、20kDa以下の重量を有する分子を指すために使用される。低分子量コポリマーを有するコポリマーは、好ましくは、真の溶液またはミセル溶液を生じさせるために水性媒体に溶解可能であるべきである。逆に、用語「高分子量」、「高Mw」または「HMW」は、本明細書では20kDaを超える重量を有する分子を指すために使用される。
【0026】
発明の詳細な説明
ホットメルト押出技術(HME)の利点に基づいて、本発明者らは、mAbを装填したフィラメントを開発した。彼らは、これらのフィラメントを、溶融堆積モデリング(FDM)技術を使用した植込み型デバイスの3Dプリントなどによって、植込み型デバイスを取得するために使用した。本発明は、タンパク質(抗体など)を低分子量のジブロックまたはマルチブロックコポリマーと組み合わせることで、タンパク質を含むフィラメントを製造することができるだけでなく、高いタンパク質装填量(15%以上)を達成し、また植込み型薬物送達デバイスにおいて前記フィラメントを使用することが可能になったという驚くべき知見に基づいている。また、このタンパク質は、フィラメントまたは植込み型薬物送達システムにおいて、凍結乾燥/噴霧乾燥状態(例えば粉末)で経時的に安定であった(凝集/分解が制限される)ことも示された。例えば、植込み型薬物送達デバイスに使用され得る粉末およびフィラメントを得るために使用されるジブロックまたはマルチブロックコポリマーの種類を慎重に選択する必要があった。
【0027】
より具体的には、本発明者らの発見は、例えばPEG-PLAまたはPEG-PLGAで作成された低分子量ジブロックまたはマルチブロックコポリマーが、治療用タンパク質(抗体など)をその加工および保存中に、より具体的には乾燥状態で安定化できることである。これらのコポリマーは、その組成、高分子構造および分子量のおかげで、バイオ医薬品の乾燥中に少なくとも次の3つの役割を果たす。PEGから作成されているため、それらは水の代替品として機能する。ポリエーテルセグメントおよびポリエステルセグメントのそれぞれの長さに応じた作用により、親水性と親油性とのバランスを適切に調整することで、両親媒性の特徴を正確に調整できると考えられる。アモルファス挙動および高分子の特徴により、それらは最終的な固体に嵩高さおよび凝集性をもたらす。また、ポリエステル配列から作成されているため、これらのジブロックまたはマルチブロックコポリマーは疎水性脂肪族ポリエステル内でのタンパク質薬物の緊密な混合を促進する。最後に重要なことであるが、加工技術がHMEに依存して熱可塑性ポリマー内にてタンパク質薬物をブレンドする場合、ジブロックまたはマルチブロックコポリマーのPEG配列は加工温度を下げる可塑剤としても機能し、バイオ医薬品の熱劣化を避けるために重要な側面となり得る。
【0028】
本発明の主な目的は、医薬組成物において安定剤として使用するためのジブロックまたはマルチブロックコポリマーであり、一方、医薬組成物は、好ましくは活性成分として治療用タンパク質を含み、前記ジブロックまたはマルチブロックコポリマーは、ポリウレタン(TPU)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)(PDLAまたはPLLAのいずれか)、ポリジオキサノン、ポリグリコリド、ポリトリメチレンカーボナート、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、それらの任意の誘導体および/もしくはそれらの組み合わせに基づくか、またはこれらから選択される少なくとも1つのポリマーと、少なくとも1つのPEGとの組み合わせから形成されるか、またはそれから得られる。このようなジブロックまたはマルチブロックコポリマーの例としては、ポリ(ラクチド)ポリ(エチレングリコール)(PLA-PEG)、ポリ(ラクチド)ポリ(エチレングリコール)(PLGA)、ポリ(ラクチド)ポリ(エチレングリコール)ポリ(ラクチド)(PLA-PEG-PLA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)-ポリ(エチレングリコール)(PLGA-PEG)、ポリ[(ラクチド-co-エチレングリコール)-co-エチルオキシホスファート](ポリ(LAEG-EOP))、およびポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール(PCL-PVA-PEG)が挙げられる。これらのコポリマーは、限定されないが、5:1~1:1などの異なるPEG:ポリマー比を有し得る。コポリマーは、好ましくは約200Da~約15kDa、さらに好ましくは400Da~約12kDa、またはさらに好ましくは5kDa~約10kDa、例えば5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5または10kDaの合計サイズを有する。15kDaまでのコポリマーが本発明の文脈において首尾よく使用され得るが、12kDa以下、または10kDa以下のサイズを有するコポリマーは、ポリマー材料との混和性をさらに高めるだけでなく、それらの分散および活性剤との相互作用も促進する。このようなコポリマーは、好ましくは、乾燥前に、治療用タンパク質:コポリマーの比(重量/重量またはw/w)が100:1~6:1(w/w)で、好ましくは20:1~10:1(w/w)の量で、例えば20:1、19:1、18:1、17:1、16:1、15:1、14:1、13:1、12:1、11:1または10:1の量で存在する。当業者であれば、バイオ医薬品の活性成分との相互作用を促進するために、水性媒体中での溶解度、または少なくとも分散性を高めるためにこれらの比率をどのように適合させるかを知っているであろう。前記安定剤は、治療用タンパク質(抗体など)の加工中(例えば液体医薬組成物から開始)および保存中、より具体的には乾燥状態において、それら治療用タンパク質の安定化に特に有用である。
【0029】
本発明者らによって特定されたジブロックまたはマルチブロックコポリマーの特性に基づいて、活性成分ならびに任意選択で緩衝剤、少なくとも1つのさらなる安定剤および/または界面活性剤を含む液体医薬組成物であって、前記活性成分が治療用タンパク質である液体医薬組成物についての、凍結乾燥技術または噴霧乾燥技術などによる乾燥のための賦形剤として使用するための本明細書に記載のジブロックまたはマルチブロックコポリマーもまた、本明細書に提供される。
【0030】
また、少なくとも1つの安定剤および活性成分を含む医薬組成物も本発明に包含され、前記少なくとも1つの安定剤は本明細書に記載のジブロックまたはマルチブロックコポリマーであり、前記活性成分は治療用タンパク質である。前記医薬組成物は、任意選択で、緩衝剤、界面活性剤および/または少なくとも1つの更なる安定剤を含む。前記医薬組成物は、液体状態にあるとき、例えば凍結乾燥技術または噴霧乾燥技術によって乾燥させることができる。乾燥したら、そのまま利用することができ、あるいは、例えばホットメルト押出または紡糸により更にフィラメントに加工することもできる。
【0031】
本発明の別の目的は、植込み型薬物送達デバイスを調製するためのフィラメントであり、ここでフィラメントは、少なくとも1つの安定剤および活性成分を含み、前記少なくとも1つの安定剤は、本明細書に記載のジブロックまたはマルチブロックコポリマーであり、そして、前記活性成分は治療用タンパク質である。前記フィラメントは、ポリマー材料および可塑剤をさらに含む。前記フィラメントは、緩衝剤、界面活性剤および/または少なくとも1つのさらなる安定剤などの少なくとも1つの追加の賦形剤をさらに含んでもよい。次いで、任意の所望の形状の植込み型薬物送達デバイスを得るために、3Dプリンターでフィラメントを使用し、または成形することができる。あるいは、本発明の目的は、植込み型薬物送達デバイスを調製するためのフィラメントであり、ここでフィラメントは、本明細書に記載の少なくとも1つのジブロックまたはマルチブロックコポリマーおよび活性成分を含み、前記活性成分は治療用タンパク質である。前記フィラメントは、ポリマー材料および可塑剤をさらに含む。前記フィラメントは、緩衝剤、界面活性剤および/または少なくとも1つのさらなる安定剤などの少なくとも1つの追加の賦形剤をさらに含んでもよい。フィラメントは、そのまま使用することができ、または次いで、所望の形状の植込み型薬物送達デバイスを得るために3Dプリンターでフィラメントを使用し、もしくは成形することもできる。
【0032】
本発明はさらに、少なくとも1つの安定剤および活性成分を含むフィラメントから作成された1つまたは複数の層から形成された、またはそれを含む、またはそれからなる植込み型薬物送達デバイスを提供し、ここで、前記少なくとも1つの安定剤は本明細書に記載のジブロックまたはマルチブロックコポリマーであり、前記活性成分は治療用タンパク質である。フィラメントはさらに、ポリマー材料および可塑剤を含む。前記フィラメントは、緩衝剤、界面活性剤および/または少なくとも1つのさらなる安定剤などの少なくとも1つの追加の賦形剤をさらに含んでもよい。あるいは、本明細書で提供されるのは、本明細書に記載の少なくとも1つのジブロックまたはマルチブロックコポリマーおよび活性成分を含むフィラメントから作成された1つ以上の層から形成された、またはそれを含む、またはそれからなる植込み型薬物送達デバイスであり、ここで前記活性成分は治療用タンパク質である。フィラメントはさらにポリマー材料および可塑剤を含む。前記フィラメントは、緩衝剤、界面活性剤および/または少なくとも1つのさらなる安定剤などの少なくとも1つの追加の賦形剤をさらに含んでもよい。
【0033】
ポリマー材料に添加してフィラメントを形成し、次いで植込み型薬物送達デバイスを形成する前に、活性成分および少なくとも1つの安定剤(通常は以前の液体状態である)を噴霧乾燥または凍結乾燥させる必要がある。そうするために、予備的な液体医薬組成物が調製され、ここで前記医薬組成物は、活性成分、少なくとも1つの安定剤、ならびに任意選択で緩衝剤および/または界面活性剤を含むか、またはそれらからなり、前記少なくとも1つの安定剤は本明細書に記載のジブロックまたはマルチブロックコポリマーである。次いで、前記液体医薬組成物を標準的な方法に従って噴霧乾燥または凍結乾燥し、粉末を得る。いったん粉末(すなわち、乾燥微粒子)の形態になると、活性成分は少なくとも1つのポリマーマトリックスおよび可塑剤中に均一に分散される。それらは、治療用タンパク質を装填した固体分散体のような活性成分を装填した固体分散体を形成する。
【0034】
従って、本発明によるフィラメントを製造する方法も本明細書に提供され、この方法は以下のステップを含む:
a.治療用タンパク質である活性成分、本明細書に記載のジブロックまたはマルチブロックコポリマーである少なくとも1つの安定剤、ならびに、任意選択で緩衝剤、界面活性剤および/または少なくとも1つのさらなる安定剤を含むか、またはそれらからなる液体医薬組成物を調製するステップ、
b.ステップaの液体医薬組成物を凍結乾燥または噴霧乾燥させて、粉末を得るステップ、
c.可塑剤および少なくとも1つのポリマー材料を用いて、ステップbの粉末を均一に分散させるステップ(活性成分が装填された固体分散体とも称される)、ならびに
d.ステップcの分散液を紡糸または押出して、フィラメントを得るステップ。
【0035】
ステップaの前に、液体製剤の他の成分に添加する前に、少なくとも1つの安定剤を水または選択した緩衝液に可溶化することができる。あるいは、少なくとも1つの安定剤は、液体医薬組成物の他の成分で直接可溶化することができる。
【0036】
ステップdでは、湿式紡糸、溶融紡糸、ゲル紡糸、エマルジョン紡糸、またはホットメルト押出(HME)など(これらに限定されない)、紡糸または押出の異なる技術を使用することができる。
【0037】
本発明によるフィラメントは、植込み型薬物送達デバイスを製造するために使用することができる。前記のデバイスは、所望の長さに切断するか、ペレット化するか、成形するか、粉砕するか、または3Dプリントすることができる。3Dプリンターを使用する利点は、従来のプロセスを使用する際には不可能であった、新規でカスタマイズされた植込み型薬物送達デバイスの設計および製造が可能になることである。3Dプリント技術のおかげで、デバイスの構造、形状、組成をカスタマイズして、ケースバイケースで患者に適合させることができる。3Dプリンターを使用するもう1つの利点は、オンデマンドでデバイスを提供できることである。
【0038】
3Dプリントは、積層造形(ALM)と称される技術の一部である。ALMは、液体の固化または固体材料の押出に基づいて行うことができる。液体固化技術としては、例えばドロップオンパウダーデポジション(DoP、またはバインダージェッティング)、ドロップオンドロップデポジション(DOD)が挙げられるが、固体材料の押出技術としては、圧力支援マイクロシリンジ(PAM)デポジション、または溶融フィラメント製造(FFF)(溶融デポジションモデリング:商標Fused Deposition Modeling(登録商標FDM)技術としても知られている)が挙げられる。DoPまたはDoDシステムでは、3次元のオブジェクトが形成されるまで2次元の層が繰り返しプリントされる。例えば、本明細書に開示される剤形のインクジェット印刷またはポリジェット印刷は、積層造形を使用することができる。PAM技術には、シリンジベースのプリントヘッドによる柔らかい材料(半固体または粘性の材料)のデポジション(堆積)が含まれる。通常、シリンジに材料を装填し、次いで空気圧、プランジャー、またはスクリューを使用して押し出す。FDM技術は、加熱されたノズルチップを介してギアシステムによって駆動される熱可塑性ポリマーの押出に基づいている。プリントヘッドは、ピンチローラー機構、液化装置ブロック、ノズル、およびx-y方向を管理するガントリーシステムで構成される。フィラメントが供給されて液化装置内で溶解し、固体が軟化した状態になる。フィラメントの固体部分は、ノズル先端を通して溶融物を押し出すためのプランジャーとして使用される(Sadia et al., 2016参照)。いったん熱可塑性樹脂の溶融物の一層がデポジットされたら、構築プラットフォームを下げ、このプロセスを繰り返して層ごとに構造を構築する。
【0039】
全体として、本発明による植込み型薬物送達デバイス、特に3Dプリントされた植込み型薬物送達デバイスを製造する方法も本発明に包含され、この方法は以下のステップを含む:
a.ガラス転移温度を超える温度を使用する3Dプリンタのプリントヘッド内にフィラメントを装填するステップ、
b.ポリマーマトリックスのガラス転移温度よりも低い温度でビルドプラットフォーム(buid platform:構築プラットフォーム)を加熱するステップ、
c.ノズルを通して前記の加熱されたフィラメントをデポジットし、少なくとも第1の層から最終的な頂部層までデバイスを構築するステップ。
【0040】
本発明による少なくとも1種の安定剤は、全体として、ポリウレタン(TPU)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)(PLLAもしくはPDLAのいずれか)、ポリジオキサノン、ポリグリコリド、ポリトリメチレンカーボナート、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、それらの任意の誘導体またはそれらの物理的もしくは化学的組み合わせに基づく、またはこれらから選択される少なくとも1つの疎水性ポリマーと、少なくとも1つのPEG(ポリエチレングリコール)との組み合わせから形成される(または、それから得られる)ジブロックまたはマルチブロックコポリマー(グラフトコポリマー、デントリマーコポリマーもしくはスターコポリマーも包含する)である。このようなジブロックまたはマルチブロックコポリマーの例としては、ポリ(ラクチド)ポリ(エチレングリコール)(PLA-PEG)、ポリ(ラクチド)ポリ(エチレングリコール)ポリ(ラクチド)(PLA-PEG-PLA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)-ポリ(エチレングリコール)(PLGA-PEG)、ポリ[(ラクチド-co-エチレングリコール)-co-エチルオキシホスファート](ポリ(LAEG-EOP))、およびポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール(PCL-PVA-PEG)が挙げられる。これらのコポリマーは、限定されないが、5:1~1:1などの異なるPEG:ポリマー比を有し得る。コポリマーは、好ましくは約200Da~約15kDa、さらに好ましくは400Da~約12KDa、またはさらに好ましくは5kDa~約10KDa、例えば5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5または10kDaの合計サイズを有する。15kDaまでのコポリマーが本発明の文脈において首尾よく使用され得るが、12kDa以下、または10kDa以下のサイズを有するコポリマーは、ポリマー材料との混和性をさらに高めるだけでなく、それらの分散および活性成分との相互作用も促進する。このようなコポリマーが少なくとも1つの安定剤として使用される場合、それらは、乾燥前に、治療用タンパク質と安定剤との比(重量/重量またはw/w)が100:1~6:1(w/w)で、好ましくは20:1~10:1(w/w)の量で、例えば20:1、19:1、18:1、17:1、16:1、15:1、14:1、13:1、12:1、11:1または10:1(w/w)の量で存在する。当業者は、バイオ医薬品の活性成分との相互作用を促進する目的で、水性媒体中での溶解度または少なくとも分散性を高めるために、それらの比率をどのように適合させるかを知っているであろう。
【0041】
2つ以上の安定剤が使用される場合、好ましくは、本発明による少なくとも1つのさらなる安定剤は、全体として、乾燥ステップの前(すなわち、凍結乾燥または噴霧乾燥の前)に添加される。存在する場合、前記少なくとも1つのさらなる安定剤は、好ましくは、二糖類(スクロースもしくはトレハロースなど)、環状オリゴ糖(ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンなど)、多糖類(イヌリンなど)、ポリオール(ソルビトールなど)、もしくはアミノ酸(L-アルギニン、L-ロイシン、L-フェニルアラニン、L-プロリンなど)、またはそれらの組み合わせである。安定剤の組み合わせは、例えば(限定されないが)、少なくとも二糖類、アミノ酸、ポリオール、またはそれらの任意の組み合わせと、上記の1つのコポリマーとの組み合わせ(例えば、1つの二糖類および1つのアミノ酸と組み合わされた、またはポリオールおよびアミノ酸と組み合わされた上記の1つのコポリマー)であり得る。
【0042】
乾燥前に、少なくとも1種の安定剤は、好ましくは予備的な液体製剤中に、約10mg/mL~約100mg/mLの濃度で、好ましくは約20mg/mL~約75mg/mLの濃度で、好ましくは約30mg/mL~約70mg/mLの濃度で、さらに好ましくは約35mg/mL~約65mg/mLの濃度で、例えば35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64または65mg/mLの濃度で存在する。あるいは乾燥前に、安定剤は、予備的な液体製剤中に、約1~約10%w/v(重量/体積)の濃度で、または好ましくは約2~約7.5%w/vの濃度で、または好ましくは約3~約7%の濃度で、またはさらに好ましくは約3.5~約6.5%の濃度で、例えば3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4または6.5%w/vの濃度で存在する。
【0043】
本発明の文脈全体において、活性成分は治療用タンパク質である。前記治療用タンパク質は、定義のセクションで定義された任意の治療用タンパク質であり得る。乾燥前に、治療用タンパク質は、予備的な液体製剤中に、約50mg/mL~約300mg/mLの濃度で、好ましくは約65mg/mL~約250mg/mLの濃度で、さらに好ましくは約80mg/mL~約200mg/mLの濃度で、例えば80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195または200mg/mLの濃度で存在する。あるいは乾燥前に、治療用タンパク質は、予備的な液体製剤中に、約5~約30%w/v(重量/体積)の濃度で、または好ましくは約6.5~約25%w/vの濃度で、さらに好ましくは約8~約20%の濃度で、例えば8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、15、15.5、16、16.5、17、17.5、18、18.5、19、19.5または20%w/vの濃度で存在する。フィラメント中に、したがって最終的な植込み型薬物送達デバイス中に装填される治療用タンパク質は、好ましくは約5~40%(重量/重量またはw/w)の量、または約10%~35%(w/w)の量、あるいは約15~35%(w/w)の量、例えば15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34または35%(w/w)の量である。
【0044】
本発明によれば、その全体において、緩衝剤が存在する場合、前記緩衝剤は、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、アルギニン、トリスアミノメタン(TRIS)、およびヒスチジンを含むかまたはそれらからなる群(ただしこれらに限定されない)から選択することができる。乾燥前に、前記緩衝剤は、好ましくは予備的な液体製剤中に約5mM~約100mMの緩衝剤の量で、さらに好ましくは約10mM~約50mMの量で、例えば約10、15、20、25、30、35、40、45または50mMの量で存在する。
【0045】
本開示全体の文脈において、界面活性剤が存在してもよい。前記界面活性剤は、例えば(限定するものではないが)ポリソルベート20(PS20)またはポリソルベート80(PS80)であってよい。界面活性剤が存在する場合、界面活性剤は予備的な液体製剤中に、すなわち乾燥ステップの前に添加されることが好ましい。前記界面活性剤は、好ましくは、予備的な液体製剤中に、約0.01~約5mg/mLの量で、より好ましくは約0.01~約1mg/mLの量で、より具体的には約0.1~約0.6mg/mLの量で、例えば0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55または0.6mg/mLの量で存在する。あるいは、ポリソルベート界面活性剤は、好ましくは、100mL当たりの重量%(%w/v)で表される量で予備的な液体製剤中に存在する。このような場合、本発明による製剤中に含まれるポリソルベート界面活性剤は、全体として、0.001~0.5%w/vの量で、好ましくは0.01~0.1%w/vの量で、またはさらに好ましくは0.01~0.06%w/vの量で、例えば0.01、0.015、0.02、0.025、0.03、0.035、0.04、0.045、0.05、0.055または0.06%w/vの量で存在する。
【0046】
本発明の文脈において、特にフィラメントまたは最終的な植込み型薬物送達デバイスに言及する場合、任意選択の緩衝剤、任意選択の界面活性剤、および、いずれかの更なる任意選択の賦形剤(いずれかの更なる安定剤を含む)は、賦形剤という総称の下に再分類される。賦形剤は、好ましくはフィラメント中に、従って最終的な植込み型薬物送達デバイス中に、約3~約20%w/wの総量で、好ましくは約5~15%w/wの総量で、例えば、約5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5または15重量%の総量で存在する。
【0047】
本発明の文脈全体において、少なくとも1つのポリマー材料は、好ましくは、生分解性ならびに生体適合性および/または生体内除去可能な熱可塑性ポリマー、例えば、ポリウレタン(TPU)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)(PLLAもしくはPDLAのいずれか)、ポリジオキサノン、ポリグリコリド、ポリトリメチレンカーボナート、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、またはこれらの組み合わせ、例としては、限定されないが、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(L-ラクチド-co-カプロラクトン-co-グリコリド)(PLGA-PCL)である。ポリマー材料は、約200Da~約50kDa、好ましくは約500Da~約40kDa、さらに好ましくは約1kDa~約20kDa、例えば約1、2、5、10、15または20kDaの制御されたサイズを有することができる。あるいは、ポリマー材料は、所定のサイズ(±)を有する代わりに、異なるサイズ、例えば5kDa~20kDaまたは7kDa~17kDaのポリマーの混合物であってもよい。例えば、いくつかの市販のポリマーは、異なるサイズのポリマーの混合物であり、例えば、7~17kDaの範囲のポリマーの混合物を有するResomer(登録商標)RG502である。好ましくは、前記ポリマー材料は、フィラメント中に、したがって最終的な植込み型薬物送達デバイス中に、約50~75%(w/w)の量で、または約55~70%(w/w)の量で、例えば、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69または70%の量で存在する。
【0048】
本発明の文脈全体において、可塑剤は、好ましくはポリエチレングリコール(PEG)、またはPEG化合物、例えば、マレイミドモノメトキシPEG、活性化PEGポリプロピレングリコール、メトキシポリ(エチレングリコール)ポリマーであるが、これらに限定されない。本発明によるPEG化合物は、以下のタイプの荷電または中性ポリマーであってもよい:デキストラン、コロミン酸、または他の炭水化物ベースのポリマー、アミノ酸のポリマー、ならびにビオチンおよび他の親和性試薬の誘導体。本発明の文脈におけるPEGまたはPEG化合物は、直鎖状または分枝鎖状であり得る。本発明の文脈におけるPEGまたはPEG化合物は、約200Da~約50kDa、好ましくは約500Da~約40kDa、さらに好ましくは約1kDa~約20kDa、例えば約1、2、5、10、15または20kDaのサイズを有し得る。あるいは、可塑剤は、安定剤として上述したジブロックコポリマーまたはマルチブロックコポリマーであってもよいが、これは可塑剤と同様に作用するのに十分なPEG部分を含むためである。従って、可塑剤は、ポリウレタン(TPU)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)(PLLAもしくはPDLAのいずれか)、ポリジオキサノン、ポリグリコリド、ポリトリメチレンカーボナート、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、それらの任意の誘導体またはそれらの物理的もしくは化学的な組み合わせに基づく、またはこれらから選択される少なくとも1つの疎水性ポリマーと、少なくとも1つのPEG(ポリエチレングリコール)との組み合わせから形成されるジブロックコポリマーまたはマルチブロックコポリマー(グラフトコポリマー、デントリマーコポリマーもしくはスターコポリマーも包含する)であってよい。このようなジブロックまたはマルチブロックコポリマーの例としては、ポリ(ラクチド)ポリ(エチレングリコール)(PLA-PEG)、ポリ(ラクチド)ポリ(エチレングリコール)ポリ(ラクチド)(PLA-PEG-PLA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)-ポリ(エチレングリコール)(PLGA-PEG)、ポリ[(ラクチド-co-エチレングリコール)-co-エチルオキシホスファート](ポリ(LAEG-EOP))、および、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール(PCL-PVA-PEG)が挙げられる。これらのコポリマーは、限定されないが、5:1~1:1などの異なるPEG:ポリマー比を有し得る。コポリマーは、好ましくは約200Da~約15kDa、さらに好ましくは400Da~約12KDa、またはさらに好ましくは5kDa~約10KDa、例えば5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5または10kDaの合計サイズを有する。好ましくは、前記可塑剤は、フィラメント中に、したがって最終的な植込み型薬物送達デバイス中に、約2~20%(w/w)の量で、または好ましくは約5~15%(w/w)の量で、例えば5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15%(w/w)の量で存在する。
【0049】
本発明の文脈全体において、可塑剤および少なくとも1つのポリマー材料は、本明細書に記載のジブロックコポリマーまたはマルチブロックコポリマーによって全部または部分的に置き換えることができる。それは、本明細書に記載のジブロックコポリマーまたはマルチブロックコポリマーが、凍結乾燥もしくは噴霧乾燥前の安定剤として、または例えばHMEによる紡糸もしくは押出のための安定剤および可塑剤/ポリマー材料の両方として使用され得ることを意味する。これらのジブロックコポリマーは、限定されないが、5:1~1:1(w/w)などの異なるPEG:ポリマー比(w/w)、および約200Da~約15kDa、さらに好ましくは400Da~約12KDa、またはより好ましくは5kDa~約10KDaの合計サイズを有し得る。あるいは、この文脈で使用される場合、すなわち、可塑剤および少なくとも1つのポリマー材料の両方として使用される場合、ジブロックコポリマーは、約15kDa~約25kDa、例えば15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25kDaの合計サイズを有し得る。このようなコポリマーが安定剤および可塑剤/ポリマーの両方として使用される場合、それらは好ましくはフィラメント中に、従って最終的な植込み型薬物送達デバイス中に、約55~85%(w/w)の合計量で、またはさらに好ましくは約60~80%(w/w)の合計量で、またはさらにより好ましくは約62~75%(w/w)の合計量で、例えば62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74または75%(w/w)の合計量で存在する。
【0050】
いずれの場合でも、粉末、フィラメント、したがって最終的な植込み型薬物送達デバイス中の全ての成分のパーセンテージの合計が100%に達することが理解される。
【0051】
本開示全体の文脈において、植込み型薬物送達デバイスは、プリントされる場合、約50μm~約500μm、好ましくは約100μm~約400μm、例えば、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375または400μmの層厚を使用してプリントされる。植込み型薬物送達デバイスは、0%(中空の物体)から100%(完全に中実の物体)までの充填物を使用して設計され得る。一実施形態では、植込み型薬物送達デバイスは、少なくとも1つの内部中空キャビティ(空洞)を含む。代替の一実施形態では、植込み型薬物送達デバイスは完全に中実の物体である。
【0052】
さらなる実施形態では、本発明は、植込み型薬物送達デバイスを製造するための方法に関し、この方法は、以下を含む。
i.本明細書に記載されるフィラメントを適切な長さに切断すること;
ii.適切な形状の送達デバイスになるまで、本明細書に記載されるフィラメントを成形すること;
iii.適切な形状の送達デバイスになるまで、本明細書に記載されるフィラメントをペレット化すること;または、
iv.本明細書に記載されるフィラメントを粉砕して、適切な粒径分布を有する粉末を得ること。
必要に応じて、この粉末を将来コーティングして湿潤性を調整し、活性成分の放出速度をより適切に制御することができる。得られた粉末を圧縮し、またはカプセルなどの古典的な薬物製剤に導入することもできる。
【0053】
本発明によるフィラメントの例示的な製剤は、約30%の抗体、約1.6%の賦形剤(JH075などの低MWジブロックコポリマーおよび緩衝液を包含する)、約6%のPEG、約40%のPLGA、ならびに約20.4%の高MWジブロックコポリマー(PEG 2k-P(d,l)LA 20kなど)を含む。本発明によるフィラメント用のさらなる例示的な製剤は、約30%の抗体、約1.6%の賦形剤(JH071などの低MWジブロックコポリマーおよび緩衝液を包含する)、約6%のPEG、約40%のPLGA、ならびに約20.4%の高MWジブロックコポリマー(PEG 2k-P(d,l)LA 20kなど)を含む。本発明によるさらなる例示的な製剤は、約30%の抗体、約1.6%の賦形剤(JH069などの低MWジブロックコポリマーおよび緩衝液を包含する)、約6%のPEG、約40%のPLGA、ならびに約20.4%の高MWジブロックコポリマー(PEG 2k-P(d,l)LA 20kなど)を含む。
【0054】
好ましくは、本発明の製剤は、製剤化および/または包装時に(最初の使用前)少なくとも12ヶ月の期間にわたって治療用タンパク質の生物学的活性の少なくとも60%を保持する。活性は、以下のセクション「実施例」に記載されるように、または他の任意の一般的な技術によって測定され得る。
【0055】
本明細書では、乾燥状態の粉末または医薬組成物を製造する方法も提供され、この方法は以下のステップを含む:
a.活性成分、本明細書に記載される少なくとも1つのジブロックまたはマルチブロックコポリマー、ならびに、任意選択で緩衝剤、少なくとも1つの安定剤および/または界面活性剤を含むか、またはそれらからなる液体医薬組成物を調製するステップであって、前記活性成分が治療用タンパク質であるステップ、
b.ステップaの液体医薬組成物を凍結乾燥または噴霧乾燥させて、乾燥状態の粉末または医薬組成物を得るステップ。
【0056】
本発明はまた、上記のフィラメントまたは植込み型薬物送達デバイスのいずれかを含む容器を含む、製薬または獣医学用途のための製品を提供する。使用手順を与える包装材料も記載されている。
【0057】
本発明のフィラメントまたは植込み型薬物送達デバイスは、少なくとも約12ヶ月から約24ヶ月の間保存され得る。好ましい保存条件下では、最初に使用する前に、製剤は明るい光を避けて(好ましくは暗所に)、約2~18℃の温度、例えば、18℃、15℃、または2~8℃の温度で保存され得る。当業者であれば、ポリマーのTgに応じて、保管温度が18℃よりも高く、例えば25℃まで(例えば、20℃、22℃、または25℃)であってよいことを理解するであろう。
【0058】
本発明は、医薬用途または獣医学用途に適した、単回使用のための、フィラメントおよび植込み型薬物送達デバイスを提供する。
【0059】
本明細書に記載される医薬組成物、フィラメント、植込み型薬物送達デバイス、または3Dプリントされた植込み型薬物送達デバイスは、いずれも崩壊剤(disintegrating agent)を含まない。
【実施例
【0060】
略語
SD = 噴霧乾燥/噴霧乾燥された(spray-dryingまたはspray-dried);
HME = ホットメルト押出(熱溶融押出);
3DP = 三次元プリント/三次元プリントされた(three-dimensional printingまたはthree-dimensional printed);
DDS:薬物送達システム;
DSC:示差走査熱量測定;
DLS:動的光散乱;
Mw:分子量;
mAb:全長モノクローナル抗体;
PBS:ホスファート緩衝液;
PEG:ポリエチレングリコール;
PEO:ポリエチレンオキシド;
PLGA:ポリ(ラクチド-co-グリコリド)酸;
rpm:1分あたりの回転数;
Tg:ガラス転移温度;
Tm:融解温度;
Tc:結晶化温度;
SEC:サイズ排除クロマトグラフィー;
TRE:トレハロース;
%(w/w):重量パーセント(または重量/重量);
Stab:安定化剤;
STD:標準偏差;
HLB:親水性-親油性バランス;
Mn:数平均分子量。
【0061】
1.材料
mAb1は、IgG4タイプの全長抗体であり、約150kDaの分子量(MW)および約6.0~6.3のplを有する。
【0062】
2.方法
2.1.ジブロックコポリマーの重合
Regibeau et al.(2020)によって報告された反応スキームに従ってバッチモードでバルクで重合を行った。手短には、ゴム隔膜で閉じられた2つの口を備え、動的な窒素雰囲気にて状態調整された丸底フラスコ内で、ポリマー合成をバッチモードで行った。要求されるPEGを、水分残留物を除去するために約2・10-2mBarで70℃にて一晩乾燥させた。D,L-ラクチドまたはD,L-ラクチド/グリコリド混合物のいずれかであるモノマーを窒素雰囲気下で添加し、130℃で融解させた。モノマーが溶融したら、モノマー/触媒のモル比2000を維持するために、Sn(Oct)の触媒溶液を添加した。磁気撹拌(300RPM)下、180℃で少なくとも10分間重合を行った。重合後、CHClをガラス反応器に加えてポリマーを溶解および回収した。ポリエステルの精製を、溶解/沈殿技法に従って実行した。次いで、65℃にて約2・10-2mBarの真空下で12時間ポリマーを乾燥させて、残留溶媒を除去した。
【0063】
【表1】
【0064】
2.2.噴霧乾燥および凍結乾燥:
まず、室温(RT)にて横方向撹拌(100rpm)下で、一晩、賦形剤、すなわちトレハロースまたはジブロックコポリマーを抗体溶液(緩衝溶液中50mg/mLのmAb1)に溶解した。次いで、これらの溶液を、凍結乾燥実験のために、標準的な方法に従って、液体窒素中で急冷して凍結させた。Essen(独)のBuchiのR/D設備内で、Buchiの噴霧乾燥機モデルB290を使用して、標準的な方法に従って噴霧乾燥実験を実施した。各乾燥方法の収率を決定するために、凍結乾燥および噴霧乾燥後に回収された粉末の重量を測定した。得られた粉末をシリカゲル下で水から保護し、4℃で保存した。
【0065】
2.3.ホットメルト押出
PEG1500およびPLGAを、まず、RetschのグラインダーZM200を用い、2mmのグリッドを使用して、室温にて18000rpmで粉砕した。HMEに進む直前に、PLGAポリエステル、PEG1500および様々な粉末を、Heidolph InstrumentsのReax2オーバーヘッドシェーカー(速度3~4)を使用して1時間、軌道混合下でブレンドした。ホットメルト押出機デバイスは、Thermo Fisher製の同方向回転二軸押出機(Thermo 11)であった。押出時間を制限するために、ゾーン5から8の供給物スクリューエレメントを採用して、ゾーン5で粉末の供給を実現した。ポリマーの漏れを防ぐために、脱気ゾーンは固形物ゾーンに置き換えた。固形物の供給を手動で行った。直径2mmのダイ開口部を通してポリマーを押し出した。押出は、トルク値が30%を超えることを避けるために、45~75℃の範囲内の温度にて40rpmで実施した。押出物のポリマーを空冷ベンチ(Pharma 11:空冷コンベア)上で冷却した。
【0066】
2.4.分析方法
H NMR:
モノマー転化率を測定するためにこの方法を使用した。手短には、15mgのサンプルを900μlのCDClに溶解した。内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を採用した400MHzのBruker装置(16スキャン)により、プロトンNMRスペクトルを取得した。MestReNovaソフトウェアでH NMRスペクトルを分析した。ポリマーおよびモノマーのメチルまたはメチレンプロトンの共鳴ピークの面積比からモノマー転化率を計算した。特に、PDLLAのメチルプロトンピーク[5.26~5.12]ppm、およびD,L-ラクチドの[5.05~5]ppmを採用して、これら2つのモノマーの転化率(%)を測定した。PGAについては[4.90~4.60]ppm、グリコリドについては[4.95~4.93]ppmで見られるメチレンプロトンピークを使用してグリコリド転化を分析した。真空下での残留モノマーの除去の前後で転化率の値を計算した。各バッチ合成で採取した少なくとも2つのアリコート(分割量)からモノマー転化に関連する平均値および標準偏差(STD)を計算した。
【0067】
示差走査熱量測定(DSC):
Perkin Elmer Pyris 1装置を用いて実行されるDSCによって、ポリエステルの熱特性を評価した。室温から-20℃まで20℃/分で3mgのサンプルを冷却し、この温度で5分間保持した。次いで、各ポリマー組成物に適合した2つの温度サイクルに従って、サンプルを20℃/分の速度で加熱した。ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)、および融解温度(Tm)を、第2の加熱ステップから計算した。これらの熱試験を、反応的押出によって合成されたポリエステルについては残留ラクチド除去の前後に実施し、バッチ式ポリエステルについてはラクチド除去後にのみ実施した。さらに、反応的押出によって合成されたポリエステルについては、押出機内で平衡状態に達した後に回収されたサンプルに対してDSC分析を実行した。実験条件ごとに2つのDSC分析を実行することによって、熱特性に関連する平均値および標準偏差(STD)を計算した。
【0068】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によるポリエステルの分子量分析:
ポリエステルの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、および多分散指数(Mw/Mn)を、Waters Milleniumの装置を採用し30℃にてクロロホルム中で行われたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定した。15mgのサンプルを3mlのCHClに溶解した。1mL/分の流速でクロマトグラフィー分離を実現した。屈折率検出器を使用した(Watersのモデル2410)。同じ実験条件を使用して確立されたポリスチレン標準検量線を参照することで、相対分子量(数平均および重量平均)ならびに多分散指数を計算した。分子量および多分散性に関連する平均および標準偏差(STD)を、NMR分析について上で詳述したように計算した。
【0069】
水中でのジブロックコポリマーの溶解度評価:
ジブロックコポリマーを、磁気撹拌下、室温にて24時間、0.2mg/mLの濃度で水中に分散させた。動的光散乱特性評価(DLS)およびSEC-MALS分析によって完了する肉眼的観察に基づいて、分散液の溶解度の側面を記録した。
【0070】
SEC-MALS分析:
室温にて2時間横撹拌しながら、移動相(200mMホスファート緩衝液;pH7)に1mg/mLの濃度で抗体サンプルを溶解させた。それらを、流速1mL/分で30℃にてTSK gelの3000SWXLカラムに注入し、波長280nmに固定されたUV検出器を使用して分析した。Wyatt Optilabの屈折率およびWyatt Dawn MALSの光散乱検出器を追加することによって、合成ポリマーの検出を実行した。
【0071】
HMEフィラメントの密度および直径:
Mitutoyo製の高精度デジマチックマイクロメーターを使用して、HMEフィラメントの5つの異なる部位にてHMEフィラメント(少なくとも長さ10cmのサンプル部分)の直径を測定した。このHMEフィラメントの重量を分析用天秤で測定した(精度0.01mg)。Mitutoyo製の高精度キャリパーでフィラメントの長さを測定した。これら3つのパラメータからHMEフィラメントの密度を計算した。
【0072】
抗体含有/非含有のジブロックコポリマー溶液のDLS分析:
抗体粉末を24時間横撹拌しながら2つの濃度(1mg/mLおよび10mg/mL)に3回溶解させた。溶解開始後1時間後および24時間後に、173°でZetaziser Nano ZSを使用したDLSによってサンプルを分析した。
【0073】
UVによる抗体回収率評価:
5mLの水に室温にて2時間撹拌しながら抗体サンプルを溶解させた。Perkin ElmerのLambda2分光計を使用して280nmでのUV吸光度を測定した。5~200μg/mLの範囲の濃度の抗体溶液を使用して実現された検量線を参照して、抗体濃度を決定した。全ての溶液に対して3回実行した。実験用粉末中の賦形剤の重量%を考慮して検量線から、回収された抗体の濃度を導き出した。
【0074】
抗体粉末のFTIR分析:
ShimazuのIRAffinity-1S装置を使用したFTIR分光分析によって、抗体粉末の化学組成を分析した。16回のスキャンおよび4cm-1の解像度を使用して400~4000cm-1の範囲でスペクトルを取得した。ダイヤモンド結晶を備えたQATR(商標)10単反射ATRアクセサリを採用したATRモードで、これらの分析を実行した。
【0075】
HMEフィラメントの静的機械試験:
本製剤の凝集性および均一性に及ぼすジブロックコポリマーおよび抗体の影響を巨視的(肉眼)スケールで評価するために、静的牽引(static traction)要請下での機械的試験をHMEフィラメントに対して実行した。少なくとも10cmの長さのサンプルに対してこれらの試験を実行した。プラセボおよび抗体を装填したサンプルに対してそれぞれ1Nの予備荷重を使用し、100mm/分の変形速度を考慮して、破断に至るまで牽引バンクLloyd LRX PLUSを使用して室温にてこれらの牽引試験を行った。
【0076】
HME処理後の抗体の溶解度研究:
1mLの200mMホスファート緩衝液(pH7.0)中で約30mgのペレットをインキュベートすることによって、HMEペレットからの抗体の溶解速度論を研究した。Thermomixer comfort(登録商標)チューブミキサー(Eppendorf AG)を使用して600rpmで撹拌しながら、37℃にてインキュベーションを行った。所定の時間間隔で、3000RCFにて15分間サンプルを遠心分離した。上清(1mL)を1.5mLのEppendorfに集め、0.45μmのPVDF膜を備えたPall Acrodisc(登録商標)LC13mmシリンジフィルターにより濾過した。
次いでさらに溶解するために、新鮮な200mMホスファート緩衝液(pH7.0)1mlにペレットを再度懸濁した。ろ過した上清をSEC-HPLCで分析して、放出された抗体の割合を決定し、サンプルに含まれる抗体凝集体の量(%)を測定した。
【0077】
例1 - バイオ医薬品の適切な賦形剤としてのPEG-P(d,l)LAから形成された低分子量ジブロックコポリマーの設計
ジブロックコポリマーの水溶性は、バイオ医薬品を安定化する賦形剤としてジブロックコポリマーを採用するために満たさなければならない重要な仕様の1つであった。全体的な鎖長、親水性セグメントの分子量分率、親水性セグメントと疎水性セグメントとの長さの比だけでなく、ポリエステルセグメントの性質および長さも、水性媒体中でのコポリマーの溶解性や凝集挙動に影響を与える重要な要素である。以前の研究では、PEG分率が25重量%未満の場合、ジブロックPEG-PLGAがナノ粒子またはマイクロ粒子を形成することが強調された。PEG分率を25%~45%の間として親水性/親油性のバランスを高めると、自己集合凝集体が生成された。PEG分率が45重量%を超えると、コポリマーは水中でミセルの形態になった。
【0078】
これらのジブロックコポリマーに期待される機能はタンパク質との相互作用を強化することであったため、ポリマー/タンパク質の相互作用を犠牲にしてポリマーの相互作用を防ぐためにミセルの形成を制限する必要がある。より親水性のブロックコポリマーを得るために、P(d,l)LA配列で作られ、50または67重量%に等しいPEG含有量を特徴とする3つの低分子量ジブロックコポリマーを調査した(表1参照)。
【0079】
【表2】
【0080】
水に対して行われる透析による精製の前後で、モノマー残留物の含有量および分子量の変化を評価した。ジブロックコポリマーPEG-P(d,l)LA(5kDa-2.5kDa)の重合の速度論的研究を90分間実施した。モノマー転化率およびジブロックコポリマーの実験的分子量の経時変化(図1参照)は、重合の速度論が、より高分子量のコポリマーで通常観察される反応速度と比較して遅いことを示した。さらに驚くべきことに、Mnは反応開始20分後に10kDa近くの最大値に達したが、一方、モノマー転化率はこの研究の時間経過(90分)中に増加し続けた。多分散性指数(データは示さず)は3つの重合バッチで変化せず、非常に低かった(すなわち1.11)。この有望な結果は、160℃で行われたこのような長時間の反応中に明らかに起こり得るエステル交換反応が存在しないことを示している。
【0081】
過剰なラクチドモノマーを除去するために、1000Daカットオフの膜を使用して水に対して行われる水溶液の透析によって、ジブロックコポリマーをさらに精製した。この追加のステップは、ジブロックコポリマーの分子量に大きな影響を与えなかった。抗体含有製剤中の賦形剤として使用するのに適していると予想される濃度範囲での水性媒体中での溶解度を検証するために、ジブロックPEG-P(d,l)LAコポリマーの溶解挙動をDLSおよびSEC-MALSによって分析した。10mg/mLの濃度で(乾燥ステップ前に)ジブロックコポリマーの溶解度を評価した。DLS(図2)およびSEC-MALS(図3)によって、これらのコポリマーの溶解状態を検証した。3つのコポリマーを10mg/mLで水に溶解すると、光散乱ノイズから十分に区別された明確な自己相関曲線が得られた。25℃、175°の角度で取得したこれらの曲線のデコンボリューション後、ポリマー凝集体の平均サイズは、溶解の1時間後では30nmから270nmの範囲であり、溶解の1日後には15nmから63nmの範囲であった。
【0082】
図3に示すように、ジブロックコポリマーのSEC-MALSクロマトグラムでは、8.0mLに近いモードで非常に短い溶出量(体積)で溶出されたピークを強調表示した。このピークは、MALSによって見積もられた分子量(Mn)が約2.5×10Daである非常に大きな流体力学的直径の種に相当する。高いMALS/RI表面比が特徴で、その強度はコポリマー組成の配列によって大きく影響される。実際、ジブロックコポリマーPEG-P(d,l)LA5000-5000(JH069)もMALSにおいて強いシグナルを示し、RIにおいて十分に検出可能であった。比較すると、JH071ではピークのみが観察された。最も低いMwコポリマー(JH075)では、光散乱シグナルのわずかな偏差のみがベースラインから区別できた。MALSシグナルは、予想されるHLBの増加およびジブロックコポリマーの高分子の特徴に応じて発生したため、ポリマーミセルに帰属される可能性がある。従って、PEG5kDa-P(d,l)LA5kDaから作成され、ポリマーブロックの長さが最も長く、PEGの重量分率が最も低い(50%)ことを特徴とするJH069は、ミセル化されやすいはずである。JH075およびJH071は、67重量%の高いPEG含量および低分子量を特徴とし、水性媒体にほぼ自由に溶解するはずである。
【0083】
例2 - 凍結乾燥または噴霧乾燥による抗体溶液の乾燥中のジブロックコポリマーの安定化効率の評価
噴霧乾燥および凍結乾燥を使用して、抗体を安定化するジブロックコポリマーの効率を評価した。これら2つの乾燥方法の間での物理化学的な応力が異なるため、mAb1の安定性の観点からそれらを比較した。工業上のスケールアップ目的のため噴霧乾燥の方が魅力的な場合は、この方法では通常、噴霧ステップ中の液体/空気界面、および蒸発ステップ中の固体/空気界面の形で大量の界面が生成され、タンパク質変性の主な原因となる可能性がある。
【0084】
【表3】
【0085】
表2に報告された製剤の組成を、コポリマーおよびトレハロースについてそれぞれ「C」および「Ex」を使用してコード化した。これらのコードの前には、製剤中のこれら2つの製品のそれぞれの重量%を付した。従って、一例として、この例および図の後半で「5C 5Ex」とラベル付けされた組成は、5%のコポリマーおよび5%のトレハロースを含む製剤を表す。
【0086】
ジブロックコポリマーの安定化効率を、高分子の特徴、抗体に対する比率(重量%)だけでなく、タンパク質の噴霧乾燥のために通常添加される低分子量糖であるトレハロースに対する比率にも基づいて評価した。これらのパラメータの影響をマルチパラメトリックな方法で評価するために、完全要因設計ソフトウェア(full factorial design software:SASのJMP)を使用した。試験した組成を表2に報告する。コポリマー単独の有効性をそれぞれ評価するため、または安定剤を添加せずに乾燥させた後の抗体の凝集の程度を制御するために、追加の対照、すなわちトレハロースを含まないかまたは賦形剤を全く含まない対照を導入した。
【0087】
乾燥方法および製剤組成の影響を、走査型電子顕微鏡下で粉末の形態を比較して調査した。FTIR分光法によって抗体とコポリマー間の相互作用を検証した。さらに、動的光散乱(DLS)によって抗体の再溶解速度および状態をモニタリングし、抗体凝集体の%および再溶解した抗体の割合についてSECクロマトグラフィーで定量化した。
【0088】
SEMで分析した抗体粉末の形態(図4):
粉末の微視的な(顕微鏡観察の)詳細が乾燥プロセスによって大きく影響を受けることが観察された。凍結乾燥では多孔質の発泡体が生成され、一方、噴霧乾燥では平均サイズ(粒径)が2~10μmの範囲の粒子または粒子凝集体が生成された。粉末の形態におけるこの大きな相違は、比表面積の大きな相違に関連しており、凍結乾燥製品および噴霧乾燥製品でそれぞれ5m/gおよび50m/gの範囲にあると見積もられる。2つの粉末セット間の比表面積のこの相違は、SEM観察中に見られる静電特性の点で直接的に明解化される。顕微鏡観察を行う前に全てのサンプルが銀で金属化されたという事実にもかかわらず、噴霧乾燥された粉末について撮影された写真のほとんどは、コントラストが高すぎて粉末の微細構造の詳細が欠如しており、品質が低かった。対照的に、凍結乾燥後に得られた粉末について撮られたSEM写真は、採用された倍率が何であれ、より優れた解像度を示した。
【0089】
コポリマーを含む全ての噴霧乾燥製剤は、ディスク形状挙動および両凹面を有する比較的均一なサイズ(平均サイズ約10μm)の粒子を有する非常に類似した形態を示した。この形態は、対照として使用した遊離抗体(すなわち、賦形剤の非存在下で抗体溶液を噴霧乾燥することによって得られたもの)と同様であった。唯一の形態的変化は粒子のより顕著な凝集であったが、これはコポリマーの分子量の増加と相関しているように見受けられる。コポリマーが粉末の形態に与える影響は非常に限定的であることが、この観察により示唆された。
【0090】
対照的に、凍結乾燥後に得られた粉末は、製剤の組成に対応して非常に異なる形態を示した。賦形剤が存在しない場合、得られた凍結乾燥粉末は、繊維状構造を有する非常に高く開いた多孔度を有していた。この構造は予想される脆弱性のため、このサンプルの一部の領域で壊れたフラグメントが認められた。コポリマーJH075/20C 5Exの存在下では、抗体粉末はより凝集性が高く、大部分が凝集した約5~10μmのサイズの均質な粒子から形成された。粉末形態の最も劇的な変化は、ジブロックコポリマーの分子量をわずかに増加させたときに認められた。実際、抗体溶液がJH071またはJH069のいずれかで安定化された場合、凍結乾燥粉末はほとんど多孔質ではなくなり、結果として得られる材料はより高密度でより凝集性になった。これらの観察は、凍結乾燥中に予想される効果、すなわち、非晶質ケーキの収縮および亀裂を防止する増量剤またはテクスチャリング剤(texturing agent:テクスチャー化剤)として作用し、安定した製剤をもたらすことを裏付けた。
【0091】
抗体粉末のFTIR分析:
噴霧乾燥または凍結乾燥中の賦形剤の組成に応じた抗体とジブロックコポリマーとの間の相互作用の可能性を検証するために、製剤のFTIRスペクトルをそれらの個々の成分の理論スペクトルと比較した、すなわち、抗体(賦形剤を含まない)、ブロックコポリマーおよびトレハロースをそれらの重量分率によって分割した。この比較により、乾燥後の本発明のブロックコポリマーと抗体間との相互作用の存在を裏付ける2つの分光学的変化が強調された。まず、FTIRにおけるポリエステルおよびポリエーテルセグメントの強度シグナルの変化が見られた(データは示されていない)。実際、乾燥方法およびブロックコポリマーが何であれ、評価した全ての組成物について、FTIRスペクトルは抗体の特定のピークによってほとんど占められた。対照的に、CHおよびポリエステルセグメントのC=O伸縮バンドは、タンパク質シグナルによってほとんど隠蔽された。さらに、製剤のほとんどでは、遊離抗体のピークと比較して、N-H変角振動およびN-N伸縮(アミドII)にわずかな変化が認められた(データは示されていない)。
【0092】
抗体粉末の溶解速度論:
乾燥プロセスに応じた抗体の再溶解の比較により、噴霧乾燥とは対照的に、凍結乾燥された抗体の溶解は非常に迅速に(すなわち最大で1時間以内に)進行し、タンパク質溶液の平均サイズ(粒径)は、室温で水に10mg/mLで溶解した場合、製剤の組成が何であれ、15nmから最大52nmの間に達するまで増大した。噴霧乾燥後、DLS分析の結果から、抗体の再溶解が賦形剤の組成によって影響を受けることが明らかになった。溶解開始から1時間後、ほとんどの乾燥製剤の平均サイズは100nmを超える。しかしながら、コポリマー組成は抗体の溶解に影響を及ぼしていた。実際、コポリマーJH069の存在下では、他の2つのジブロックコポリマーと比較して、抗体のより顕著な脱凝集が認められた。
【0093】
図5に示すように、溶解1日後、JH075に基づく製剤20C 5Exから作製されたものを除いて、全ての抗体溶液は、DLSで15~52nmの平均サイズ(粒径)を有する。
【0094】
これらの観察から、次のことが結論付けられた。
- 抗体の凝集は、乾燥中に生成されるより高い比表面積および/または課される熱応力から予想されるように、凍結乾燥プロセスと比較して噴霧乾燥プロセスによって促進された。
- PEG-P(d,l)LAジブロックコポリマーは、噴霧乾燥後の抗体の溶解を高めることができた。この物理化学的保護作用は、コポリマーの特性、つまりPEGセグメントおよびポリエステルセグメントのそれぞれの長さの関数である。実際、HLBが最も低いコポリマーは、ミセルを生成しやすく、噴霧乾燥後に抗体を再溶解するためにより効率的に作用した。
【0095】
乾燥前後の抗体のUV-SEC分析:
安定化賦形剤としてのジブロックコポリマーの効率は、高分子の特徴、抗体に対する重量%比だけでなく、トレハロースに対する比率にも基づいて評価された。コポリマー単独の有効性、あるいは、いずれの安定剤も添加せずに乾燥後の抗体の凝集程度を制御する有効性をそれぞれ評価するために、これらの組成物には、トレハロースを含まないかまたは賦形剤を全く含まない追加の対照が導入された。
【0096】
図6に示されるように、対照から作製されたものを除いて、評価した全ての組成物についての抗体凝集体のパーセンテージは、凍結乾燥サンプルと比較して、噴霧乾燥後に5~15%高い。試験された条件下では、噴霧乾燥方法は凍結乾燥と比較してより多くの物理化学的な応力を生成したように見られる。凍結乾燥プロセス中に賦形剤としてジブロックコポリマーが存在すると、明らかな利点が得られた。実際、それらがなければ、抗体凝集体の割合は11.86%(対照)であり、ジブロックコポリマーを含む製剤で観察された平均%(6.15%)と比較して約2倍の値である。対照的に、噴霧乾燥を使用した場合には、対照(賦形剤を含まない)およびより高いMwのジブロックコポリマーJH069(6.82~9.62%)の存在下と比較して、より低い値の抗体凝集体が観察された。一部の製剤は、凍結乾燥後に抗体の凝集を促進した。抗体凝集体のこの上昇は、ほとんどが対照製剤で観察された(具体的には、ジブロックコポリマー配合物:JH071(20C 20Ex):9.09%>JH075(20C 5Ex):8.97%>JH071(20C 5Ex):8.03%と比較して、賦形剤を含まない製剤で11.86%)。対照的に、より高いMwのジブロックコポリマーJH069の存在下では、より低い値の抗体凝集体が観察された(4.92~6.29%の間)。
【0097】
UVによる抗体回収率評価:
濾過およびクロマトグラフィーによる分画の2つの精製ステップから生じる可能性のあるいかなる吸着も回避するために、濾過およびクロマトグラフィーによる分画を進めることなく、抗体の可溶性画分をUVによって測定した。表3に報告されたデータにより、乾燥方法や製剤組成に関係なく、抗体回収率が100%に近いことが強調されている。2つの例外は、対照、つまりトレハロースおよび/またはブロックコポリマーを含まずに凍結乾燥または噴霧乾燥された抗体溶液に相当する。これら2つの場合では、抗体回収率は大幅に低く、すなわち、それぞれ60%および85%である。
【0098】
【表4】
【0099】
これらの結果の統計分析(抗体凝集体(%)、平均サイズ(nm)および抗体回収率(%)が考慮された)は、標準的な最小二乗最小化アプローチを使用し、その後、有意でない項(non-significant terms)を削除するにあたっての後退消去アプローチに従って、モデル(階乗2度で入力する主効果および二元相互作用(factorial degree 2 entering main effects and two-ways interactions))をデータに適合させることによって行われた。分散分析の仮定は、残差:正規性(正規分位点プロット)、等分散性(残差対適合値プロット)、および独立性(時系列プロット)について検証された。
【0100】
12の製剤(コポリマーを含まない製剤を除く)について、全ての主効果および二元相互作用に適合させたモデルが考慮された:コポリマーの種類、コポリマー%、賦形剤%、およびステップ(乾燥前、凍結乾燥後、噴霧乾燥後)。
【0101】
有意水準5%(アルファ=0.05)で統計分析を実行した。これは、p値≧アルファの場合、推定パラメータは統計的にゼロに等しいため、この項はアルファレベルでの応答変数に有意な影響を与えない一方、p値<アルファの場合、推定パラメータは統計的にゼロとは異なるため、この項はアルファレベルの応答変数に大きな影響を与えることを意味する。
【0102】
変動係数または相対標準偏差%(%RSD DoE)は次のように計算される。
%RSD DoE = RMSE/(全体平均)×100%
ここで、RMSE(二乗平均平方根誤差)は残差の分散の平方根である。
【0103】
試験されたパラメーターが応答に対してプラスの効果を与えるということは、このパラメーターの増加がこの応答の増加につながることを意味する。逆にマイナスの効果は、応答が低下する傾向にあることを意味する。重要な適合(フィッティング)モデルを次のように取得した:
- 凝集体:凝集体(%)は、コポリマー%の増加に伴って大幅に増加した(p値<0.0001)。この効果はJH075の使用時および噴霧乾燥後に強化された。反対に、JH069および凍結乾燥をより多量の賦形剤と組み合わせて使用すると、抗体凝集体(%)が大幅に減少した。
- 平均サイズはDLSによって測定された(p値=0.0013)。JH071および噴霧乾燥では顕著な効果が示され、特にコポリマーのレベルが低い場合に平均サイズの増加につながった。実際、製剤中のコポリマー量の増加により、平均サイズの減少が引き起こされた。
- 抗体回収率:JH069を使用した場合、抗体回収率(%)はプラスの影響を受けた(p値=0.0215)。逆に、JH075を使用した場合、抗体回収率の減少が見られた。この効果は、賦形剤が20重量%になると減少した。さらに強調すると、噴霧乾燥プロセスにより、mAb1の回収結果は最悪になった。
【0104】
まとめると、これらの結果は、凍結乾燥または噴霧乾燥中の凝集から抗体を保護するジブロックコポリマーの効率を裏付けていた。
【0105】
例3.HME製剤中の抗体の分散を高めるためのジブロックコポリマーの特性の評価 -インビトロ(in vitro)での抗体の再溶解の研究
例1および例2では、PEG-P(d,l)LAの低分子量ジブロックコポリマーが乾燥ステップ中にタンパク質安定剤として作用することが示された。本発明者らは、それらが、i)ポリエステルマトリックスとタンパク質との間の相溶化剤の役割、およびii)HME処理中の温度を下げる可塑剤の役割も果たし得ると予想した。この後者の役割に関しては、低分子量PEGがPLGAやPDLAなどの分解性脂肪族非晶質ポリエステルの可塑剤として作用することは、実際によく知られている。
【0106】
【表5】
【0107】
PEG-P(d,l)LAジブロックコポリマーを、5重量%割合のコポリマーを使用して抗体溶液(50mg/mLのmAb1)内に溶解した。凍結乾燥後、得られた抗体粉末を、PLGA(15kDa)およびPEG(1.5kDa)と共に、または、表4に概要を示した製剤組成に従ってFDステップで使用したものと同じコポリマーと共にブレンドし、少なくとも20%の薬物装填を考慮した。
【0108】
70℃から75℃までの低温で作用させながら、凍結乾燥前に最初に添加した低MwジブロックコポリマーとPEG-P(d,l)LA(2kDa-20kDa)の高Mwジブロックコポリマーとの組み合わせのみを使用して、抗体を装填したHMEフィラメントを首尾よく製造した(シリーズA)。本発明者らが予想したように、ジブロックコポリマーのPEG配列によって可塑化作用が与えられ、従って遊離PEGまたはクエン酸トリエチルなどの追加の可塑剤を添加することが回避されたが、これはまた、ポロゲン剤(porogenic agent)として作用しやすい不活性および水溶性の賦形剤の総含有量にも寄与するであろう。
【0109】
HMEフィラメント制御は、低分子量賦形剤と共に凍結乾燥され、高分子量ジブロックコポリマーPEG-P(d,l)LA(2kDa-20kDa)とブレンドされた抗体を採用して実現され、最終的な30%の薬物装填が達成された。
【0110】
HMEによる押出後、全てのサンプルで規則的なフィラメントが得られた(図7の巨視的写真を参照;フィラメントは直径が規則的で、均質で、白色様であった)。
【0111】
これらのHMEフィラメントからの抗体のインビトロ放出速度論を、PBS中で37℃にて測定した。PBS中に放出された抗体の割合を、1か月間SEC-UVによって分析した(図8および図9)。低Mw賦形剤と共に凍結乾燥された抗体を装填したJH113フィラメントから放出された抗体は、非常に速く進行した(非常に重要かつ許容できないバースト)。対照的に、最初に5重量%の低MwジブロックコポリマーPEG-P(d,l)LAの1つを用いて凍結乾燥した、mAb1を装填したフィラメントJH105~JH111のいずれかからの抗体の放出は進行的であり(向上傾向にあり)、少なくとも30日間持続した(図8)。それらの放出プロファイルは、2段階によって特徴付けられ、最初の段階は2日目または3日目にわたる抗体の急速な放出に相当し、その後少なくとも30日までポリマーマトリックスからタンパク質がゆっくりと溶解した。興味深いことに、抗体の放出速度論は、凍結乾燥中に安定剤として添加された低分子量ジブロックコポリマーPEG-P(d,l)LAの組成によって影響を受けた。実際、図8aで強調されているように、PLGA、PEG(1.5KDa)および高分子量ジブロックコポリマーPEG-P(d,l)LA(2kDa-20kDa)から得られた三元ポリマーブレンドを用いて作られたHMEフィラメントについて、抗体の放出プロファイルにわずかではあるが有意な差が生じた(HMEバッチJH105、JH106、およびJH107)。60日後にPBS中に放出されたタンパク質の総画分は、ジブロックコポリマー組成の以下の順序に従って増加した:5kDa-5kDa<2kDa-1kDa<5kDa-2.5kDa。
【0112】
高分子量ジブロックコポリマーPEG-P(d,l)LA(2kDa-20kDa)のみから構成されるHMEフィラメント、および、低分子量ジブロックコポリマーと共に凍結乾燥された抗体のHMEフィラメント(シリーズB)について見られる放出プロファイルはまた、抗体の二相放出プロファイルを示した(図8b)。しかし、これらの場合、凍結乾燥中に安定剤として使用されたジブロックコポリマーの性質は、シリーズAについて示されたデータとは異なる様相で、抗体放出速度論により大きな影響を及ぼした。シリーズBでは、抗体の約85%が、低MwジブロックコポリマーPEG-P(d,l)LA2kDa-1kDaの存在下で作製されたHMEフィラメントの7日間のインビトロ溶解後に放出された。対照的に、抗体がより疎水性の高い2つのジブロックコポリマーPEG-P(d,l)LA、したがって5kDa-5kDaおよび5kDa-2.5kDaの組成を有する2つのジブロックコポリマーPEG-P(d,l)LAの1つの存在下で凍結乾燥された以外は同じ方法及び同じ組成で作られたHMEフィラメントについて、抗体のより遅い放出プロファイルが観察された。これら2つの場合で、放出の第1段階においてPBS中でHMEフィラメントを4日間インキュベートした後、抗体の20~30%が放出された。この期間を超えても抗体は放出され続けたが、その速度は初期段階で観察された速度よりも50倍低かった。
【0113】
抗体凝集体の割合は、凍結乾燥に使用した低Mwジブロックコポリマーの組成によって大きな影響を受けず、60日間にわたって比較的一定、つまり約15%を維持した(図9a)。このタンパク質凝集レベルは、元の抗体溶液にて観察された値(4.5%)およびその凍結乾燥後にて観察された値(5~9%の間)と比較すべきである。しかしながら、最も低いMwのジブロックコポリマーPEG-P(d,l)-LA(2000-1000)JH075を用いて凍結乾燥した製剤から得られたフィラメントでは、抗体凝集体の顕著な増加が認められた。対照的に、低分子量賦形剤を用いて凍結乾燥された抗体で作られたHME製剤の溶解1および2日後に、放出媒体中にて抗体凝集体のより低い含有量(4.5~6%の間)が最初に認められた。しかし、抗体凝集体のこの%は徐々に増加し、2か月のインビトロインキュベーション後には最大60%の値に達した。
【0114】
結論:
PEG-P(d,l)LAから作られた低分子量の水溶性ジブロックコポリマーの効率は、次の点で実証されている:
- 噴霧乾燥または凍結乾燥による乾燥中の治療用タンパク質(本明細書にて抗体で例示されるものなど)の安定化により、他のいずれの低Mw賦形剤(例えば、トレハロース)も排除し、賦形剤の総含有量を1~5%の間に減少させることが可能になる。
- ホットメルト押出中のPLGAなどの脂肪族ポリエステルマトリックス内での可塑化作用および混和作用。
- HMEフィラメントからの治療用タンパク質の放出速度を調整し、インビトロで少なくとも2ヶ月の長期間にわたり持続性放出(徐放性)速度を維持する能力。
【0115】
全体的な結論:
PEG-P(d,l)LA配列から作られた元の水溶性低分子量ジコポリマーは、ポリエーテルセグメントからポリエステルセグメントまでのそれぞれの長さに応じて機能を奏するそれらの水溶性および親水性/親油性バランスを微調整するように、成功裏に調整された。それらジコポリマーの組成、高分子構造、および分子量に起因して、ジコポリマーは、治療用タンパク質(本明細書にて抗体で例示されるものなど)の乾燥中に、少なくとも以下の3つの賦形剤の役割を示すことができた:
- それらは、水の代わりとして機能した。
- それらは、最終的な固体に嵩高さおよび凝集性を与えることに成功した。
- それらは、疎水性脂肪族ポリエステル内での抗体の緊密な混合を促進した。
【0116】
さらに、ホットメルト押出(HME)を使用して熱可塑性ポリマー内でタンパク質薬物をブレンドすると、ジブロックコポリマーのPEG配列が可塑剤として機能し、処理温度を下げることができた。これは、バイオ医薬品の熱劣化を回避するために重要な側面である。抗体の約30%もの高い薬物装填率を採用することにより、この医薬活性物質の放出率は、2か月の期間にわたって、ジブロックコポリマーの組成によって調整され得る速度論プロファイルに従って進行する(向上する)ことが実証された。完全な放出は達成されなかったものの、高い抗体装填率(30%超)にも関わらず、観察されたバースト(burst)は限定的であり、これは予想外であった。全体として、フィラメントには大量の抗体が充填されたので、これらのフィラメントは、治療を必要とする患者に長期間にわたって抗体を持続的に送達するために有望である。
【0117】
PEG-PLA配列またはPEG-PLGA配列から作られた低分子量の両親媒性ジブロックコポリマーが、噴霧乾燥や凍結乾燥などの乾燥手順中に治療用タンパク質を保護するための医薬品賦形剤として使用されるのは初めてである。驚くべきことに、それらは全ての従来の低分子量賦形剤を置き換えることができると同時に、治療用タンパク質の装填量を増大させ、その放出速度をより適切に制御し、固体剤形の調製中の熱変性を回避できることが分かった。上で報告された結果は、乾燥およびHME処理についての低分子量の両親媒性ジブロックコポリマーの効能を強調するものであるが、その有効性は、バイオ医薬品の溶解速度を安定化および制御するために賦形剤が必要な他の方法論でも考慮される可能性があるであろう。
【0118】
最も具体的には、重要なことであるが、上で報告された結果によれば、乾燥ステップ中に抗体を安定化するのに最も効率的な低分子量の両親媒性ジブロックコポリマーは、親水性セグメントおよび親油性セグメントのMwが同様であるバランスの良いHLB、ならびに5000Daに近い平均Mwを有するべきである。乾燥中にタンパク質または/および抗体を安定化するために通常大量の低分子量賦形剤が使用される(つまり30%)のとは対照的に、低分子量ジブロックコポリマーの最適含有量は最大5重量%までの量に制限され得る。
【0119】
これらの低分子量ジブロックコポリマーが、HME処理中に抗体とポリエステルマトリックスとの相互作用を改善して徐放性製剤を実現する能力に関して、低分子量ジブロックコポリマーの最も魅力的な組成は、PEG-P(d,l)LA配列について5kDa-5kDaまたは5kDa-2.5kDaからなる。ポリエステルマトリックス内でタンパク質の均一な混合を促進する有効性に起因して、最終的なHME製剤には、これらの低分子量ジブロックの小さい%のみ(通常1.5重量%)が必要とされる。
【0120】
驚くべきことに、これらの低分子ジブロックコポリマーは、最適な組成、高分子構造、および分子量を採用することで、表面活性、水置換剤、最終固体への増量剤および凝集性向上剤など、乾燥中に抗体を安定化するために要求されるさまざまな機能性を担うことができる。これらのジブロックまたはマルチブロックコポリマーはまた、好適かつ十分に平衡化された両親媒性配列から作られているため、疎水性脂肪族ポリエステル内でのタンパク質薬物の緊密な混合を促進することができ、同時に、可塑剤として作用して処理温度を下げることもできるが、これはバイオ医薬品の熱分解を回避する重要な側面である。
【0121】
参考文献

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】