(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ヒト貪食細胞のエクスビボ増殖
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240306BHJP
C12N 5/0786 20100101ALI20240306BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20240306BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0786
C12N5/0735
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557733
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(85)【翻訳文提出日】2023-11-13
(86)【国際出願番号】 EP2022056815
(87)【国際公開番号】W WO2022194929
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516355139
【氏名又は名称】テクニスチェ ユニベルシタト ドレスデン
(71)【出願人】
【識別番号】505074285
【氏名又は名称】セントレ ナショナル デ ラ レチャーチェ シャーティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】513210666
【氏名又は名称】ユニベルシテ デクス マルセイユ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE D‘AIX-MARSEILLE
(71)【出願人】
【識別番号】523353502
【氏名又は名称】インセルム(アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ジーヴェケ
(72)【発明者】
【氏名】クララ ヤナ ルイ エレンドナー
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミー ファブレット
(72)【発明者】
【氏名】サンドリン サラジン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC20
(57)【要約】
本発明は、非腫瘍形成性であってもなお、エクスビボで、例えば細胞培養中で細胞分裂可能であるヒト貪食細胞を提供する。これら細胞を含む培養物は、何倍にも増殖可能であり、つまり、その培養物中の細胞数は、10倍以上まで増加可能である。この細胞は、分化後段階で食細胞の機能的特徴を示し、インビボモデルにおいて病理学的欠陥を緩和することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非腫瘍形成性であり、エクスビボ増殖するヒト貪食細胞であって、MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルが少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されており、かつ、MAF及びMAFBが両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子である、前記ヒト貪食細胞。
【請求項2】
前記貪食細胞はマクロファージである、請求項1に記載のヒト貪食細胞。
【請求項3】
全ての欠失はエクソンDNAを含む、請求項1又は2に記載のヒト貪食細胞。
【請求項4】
前記欠失は、200塩基対~3,000塩基対である、請求項1~3のいずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
【請求項5】
前記貪食細胞はiPS細胞由来である、請求項1~4のいずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のヒトマクロファージのコレクションであって、前記細胞は非腫瘍形成性であり、かつ前記細胞数は、適切な培養条件下で少なくとも4倍増加する、前記コレクション。
【請求項7】
前記細胞数は少なくとも1,000,000である、請求項6に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
【請求項8】
前記細胞数は、適切な培養条件下で少なくとも10倍増加する、請求項6~7のいずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
【請求項9】
医薬としての使用のための、請求項1~5のいずれか1項に記載のヒト貪食細胞、又は、請求項6~8のいずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
【請求項10】
MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルが少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されている、ヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
【請求項11】
ヒト貪食細胞の作成のための、請求項10に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞の使用。
【請求項12】
前記ヒト貪食細胞は非腫瘍形成性マクロファージである、請求項11に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
用語「食細胞」は、元来、異物(Metschnikoff, E.の文献、1884)、細菌、及び瀕死細胞又は異常細胞(Metschnikoff, E.の文献、1887)を摂取可能な細胞を表すために作り出され、侵入した微生物を排除するための防御機構としての貪食という概念を生じさせた(この経緯のレビューは、Kaufmann, S. H.の文献、2008を参照)。
【0002】
食細胞は、自然免疫系シグナル及び適応免疫系シグナルの両方に反応して貪食に関与し、特定の病原体を標的とした宿主防御機能を果たすことができる。貪食は又、瀕死細胞又は死細胞、細胞の破片及び腫瘍細胞の排除に重要な役割を果たす。それは又、肺内のサーファクタントクリアランス又は脳内のシナプス刈り込み等の、組織の恒常性維持機能にも役立っている。
【0003】
単核貪食細胞系(MPS)は、単球、樹状細胞、及びマクロファージを含む関連食細胞のサブグループを表す(Geissmann Fらの文献、2010)。
【0004】
単球は、定常状態では血液、骨髄、及び脾臓を循環している(Auffray C.らの文献、2009; Swirski F.K.らの文献、2009)。
【0005】
単球は、免疫エフェクター細胞を代表し、例えば感染時に、組織由来シグナルに応答して、血液からその組織へ移動することができる。単球は炎症性サイトカインを産生し、細胞及び毒性分子を取り込む。単球は又、DC又はマクロファージに分化することもできる。この現象にはサイトカインが重要な役割を果たしており、インビトロでGM-CSF又はM-CSF等のサイトカインへ曝露されると、それぞれDC及びマクロファージへの単球の分化が誘導される。単球は、機能及び分化能の異なる少なくとも2つのサブセットから構成されている(Auffray C.らの文献、2009)。
【0006】
単球は、骨髄(BM)内で、単球系細胞及び顆粒球系細胞を生じる顆粒球/マクロファージコロニー形成単位(CFU-GM)前駆細胞から生成される。インビボでの単球系統の成熟プロセスは、単芽球段階から前単球段階を経て、成熟単球に至る(Goud TJらの文献、1975)。IL-3、GM-CSF、及びマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)は、インビボ単球生成を刺激する(Metcalf D.の文献、1990)。
【0007】
マウスでは、単球分化は更に詳細に解明されており、造血幹細胞(HSC)に由来し、全ての骨髄系細胞を生じ得る骨髄系前駆細胞段階を経て、顆粒球/マクロファージ前駆細胞(GMP)に至り、このGMPは単球系細胞及び顆粒球系細胞を生じ、CFU-GM前駆細胞と同一又は非常に類似していてもよいことが示されている。更に直前の骨髄内単球系前駆細胞は、マクロファージ/樹状細胞前駆細胞(MDP)(Foggらの文献、2006)及び系統特異的単球前駆細胞(MoP; Hettingerらの文献、(2013))である。
【0008】
新たに形成された単球は、24時間以内にBMを離脱して末梢血に移動する。循環性単球は、毛細血管の内皮細胞に付着し、様々な組織へ移動することができ(van Furth R.の文献、1992)、移動先組織でマクロファージ又は樹状細胞に分化することができる。付着並びに遊走には、接着分子のインテグリン・スーパーファミリーに属する、表面タンパク質、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD11、及び抗原-4(VLA-4)が関与する(Kishimoto TKらの文献、1989)。これらのインテグリンは内皮細胞上のセレクチンと相互作用する。
【0009】
組織への単球動員は、恒常性維持状態下及び炎症病状下では異なり、ヒト及び哺乳動物モデルで特定されている2つの別々の単球集団が関与していることが明らかになっている(Gordon及びTaylorの文献、2005; Auffray C.らの文献、2009)。
【0010】
炎症中は、炎症性単球生成が増加し(Shum及びGalsworthyの文献、1982; van Waarde Dらの文献、1977)、単球数が上昇する。更に又、炎症性メディエーターIL-1、IL-4、IFN-γ、及びTNF-αが、内皮細胞上のセレクチンの発現をアップレギュレートし、単球の組織への遊走を促進する。これらと同じサイトカインが、単球上のインテグリン接着分子の発現を調節する(Pober及びCotranの文献、1990)。
【0011】
炎症部位において、単球は、表面のFcγ受容体(CD64、CD32)及び補体受容体として作用するインテグリン分子(CD11b、CD11c)を介して、オプソニン化された微生物又は免疫複合体の貪食に関与する。微生物は、活性な酸素及び窒素の代謝産物によって、並びに幾つかの加水分解酵素(酸性ホスファターゼ、エステラーゼ、リゾチーム、及びガラクトシダーゼ)を介することによって、相乗的に死滅させられる(Kuijpers T.の文献、1989; Hibbs JBらの文献、1987)。重要なことは、単球由来のマクロファージ及び樹状細胞は、抗原提示によってT細胞を刺激し、従って、適応免疫反応の認識及び活性化段階に関与していることである(Nathan C F.の文献、1987)。単球は又、増殖因子(GM-CSF、G-CSF、M-CSF、IL-1)及び抗増殖因子(IFN、TNF)を含む、炎症、増殖、及び免疫反応に重要な役割を果たす多数の生理活性産物を分泌する。
【0012】
樹状細胞(DC)は、T細胞への抗原提示並びに免疫の開始及び制御に特化した、単核食細胞の別個の系統である(Steinmannらの文献、1974)。DCは、一次免疫反応を誘導する固有の能力を有する抗原提示細胞である(Banchereau及びSteinmannの文献、1998)。DCは、血液及び非リンパ性末梢組織中の循環単球又は循環DC前駆細胞に由来し、そこで常在細胞となることができる(Banchereau及びSteinmannの文献、1998; Geissmannの文献、2007; Wu及びLiuの文献、2007)。
【0013】
未成熟DC(iDC)は、Toll様受容体を含む細胞表面受容体を通して病原体を認識する(Reis e Sousa C.の文献、2001)。抗原取り込み後、DCは成熟してリンパ節に移動する。成熟DC(mDC)は、効率的な抗原提示細胞(APC)であって、T細胞の誘導を仲介する(Banchereau及びSteinmannの文献、1998)。
【0014】
更に又、マウス及びヒト内でのNK細胞活性化に関しても、DCの優位な役割が報告されている。未成熟ヒト単球由来DC及び細菌で活性化されたヒト単球由来DCの両方が、NK細胞によるサイトカイン分泌及び細胞傷害を誘導することが示された(Ferlazzo G.らの文献、2002; Ferlazzoらの文献、2003)。
【0015】
マクロファージは、ほぼ全ての身体組織に存在する常在性貪食細胞である。組織マクロファージは、免疫反応、組織恒常性維持、代謝、及び修復において重要な役割を果たしている。それらは、アポトーシス細胞のクリアランス及び増殖因子の産生等のプロセスを通じて、定常状態の組織恒常性に関与している。マクロファージは又、広い範囲の病原体認識受容体を備えており、その受容体により、感染時には容易に炎症性サイトカインを産生して、高度に貪食化する(Gordonの文献、2002)。更に又、それらは、免疫系の他の系統の動員又は活性制御において重要な役割も担っている。病原体と闘うその役割以外にも、マクロファージは感染を制御することで発病及び組織修復に重要であるが、それは組織恒常性を維持するマクロファージの包括的な役割の一部に過ぎない(Nathanの文献、2008)。
【0016】
マクロファージは、組織のリモデリングから代謝に至るまでの組織特異的機能に関与する組織特異的シグナルに応答して、非常な機能的多様性を示す。マクロファージは又、胚発生に中心的役割を担い、その中心的役割は組織再生及びリモデリングに貢献する全生涯にわたって続いている。マクロファージは、創傷治癒及び組織修復に決定的な関与をしており、創傷治癒及び組織修復では、残屑を除去し、組織リモデリングに参加する他の細胞種の動員及びそれらの活性を組織化することにより、栄養的機能を担う(Gordon Sの文献、2003)。これらの役割は又、全組織再生を行う条件下でも決定的である(Theretらの文献、2019)。マクロファージは又、エネルギーバランス、グルコース代謝、及び体温調節にも貢献している(Nguyenらの文献、2011)。
【0017】
最後に、マクロファージは、その活性化状態及び極性化状態に依存する腫瘍形成促進性及び抗腫瘍形成性の両方の機能で、腫瘍形成に関する重要な役目を担っている。この役目には、貪食機能及び細胞傷害機能、炎症性のメディエーター及びサイトカインの放出による免疫反応の調節、それに加えて、腫瘍細胞への直接的な栄養化機能、腫瘍へのエネルギー及び酸素供給を確保する内皮細胞への栄養化機能、並びに細胞外マトリックス組成の調節が含まれる。従って、マクロファージは、例えば、がん疾患、心血管疾患、自己免疫性疾患、慢性炎症性疾患、退行変性疾患、及び代謝性疾患等、公衆衛生にとって重要な意味を持つ疾患において重要な役割を担っている(Qian及びPollardの文献、2010; Saijo及びGlassの文献、2011; Murray及びWynnの文献、2011; Chawlaらの文献、2011; Nahrendorf及びSwirskiの文献、2013; Kettenmannらの文献、2013; Aguzziらの文献、2013; Wynnらの文献、2013)。
【0018】
マクロファージは、最終的な血球新生が確立する前の卵黄嚢の初期原始マクロファージ前駆細胞から(Ginhouxらの文献、2010; Schulzらの文献、2012)、胚の多様な造血部位の赤血球系マクロファージ前駆細胞(EMP)から、又は、胚性造血幹細胞由来の胎児性単球から(Ginhoux及びGuilliamsの文献、2016)発生し得る。これらの胚性マクロファージは、成体期まで存在し、成人造血幹細胞由来の投入とは関係なく長期間維持され得、例えば脳内、表皮内、又は肺内で最も顕著に示される (Ajamiらの文献、2007; Chorroらの文献、2009; Hashimotoらの文献、2013)。
【0019】
この発生経路以外にも、マクロファージは出生後に、血液単球に由来するものもある。定常状態では、胚由来のマクロファージ又は単球由来のマクロファージの、異なる組織マクロファージ集団への寄与割合は、例えば脳ミクログリアでのほぼ排他的な胚由来から、心臓マクロファージでは混合由来、そして腸マクロファージ又は皮膚マクロファージでのほぼ排他的な単球由来まで、大きく変化する。単球は又、アテローム性動脈硬化症(Woollard及びGeissmannの文献、2010)、心筋梗塞(Nahrendorfらの文献、2010)、筋肉傷害(Arnoldらの文献、2007)、又は感染並びに炎症(Serbinaらの文献、2008; Shi及びPamerの文献、2011)等の多様で困難な条件下で、血液から離れて組織に浸潤することができる。
【0020】
浸潤は、単球のサブタイプに応じて、1~2時間又は最初の24時間以内に発生する(Auffrayらの文献、2007; Auffrayらの文献、2009; Nahrendorfらの文献、2010; Shi及びPamerの文献、2011)。
【0021】
浸潤する単球は、その過程で死滅することも、炎症部位若しくは傷害部位から再度離脱することも、又は組織常在型マクロファージプールに寄与することもある。このような単球由来のマクロファージは、浸潤した組織内で採用される形態的及び機能的スペックを反映する高度な不均一性を示し得る。従って、骨髄由来細胞のマクロファージへの寄与は、高度に組織特異的であり、恒常性維持条件下及び炎症性条件下で異なる(Bleriotらの文献、2020)。
【0022】
その解剖学的局在化によって、マクロファージには別個の名称(例えば、中枢神経系ではミクログリア、肝臓内ではクッパー細胞)があり得る。
【0023】
それらの初期卵黄嚢起源、胚起源、又は成体起源に関係なく、組織マクロファージ集団は組織内で長期間存在可能であり、循環単球からの投入がない又は投入がごくわずかでも自己維持可能であり、これは、組織マクロファージが、困難な条件下でも局在的に自己再生して、その数を恒常的に維持するメカニズムを必要とすることを意味する。大多数のマクロファージは、定常状態では増殖細胞の1~2%未満の(Soucieらの文献、2016)、非常に限られた増殖能しか持たないことが明らかになった(Gordon及びTaylorの文献、2005)。
【0024】
組織浸潤単球は非常に限られた増殖能を持つことができるが、血液内循環単球は、エクスビボでM-CSFで刺激された場合は、循環せず、増殖するよりもむしろ迅速にマクロファージへと分化する。
【0025】
M-CSF存在下での骨髄からのマウスマクロファージのインビトロ分化は、Stanleyらの文献(1978、1986)によって報告された。前駆細胞はM-CSFに反応すると最初は増殖するが、やがて成熟マクロファージに分化して、最後に細胞周期から離脱する(Pixley及びStanleyの文献、2004; Klappacherらの文献、2002)。従って、この経路で産生されたマクロファージは限られた期間しか生存できないにもかかわらず、均質ではなく、培養で更に増殖することはできない。同様に、ヒト単球はM-CSFに応答して増殖しないが、マクロファージ分化を示す形態学的変化を開始する(Beckerらの文献、1987)。かなりの数の単球が、白血球アフェレーシス及びエルトリエーションによって患者から取得することができるが(Stevensonらの文献、1983)、これらの細胞は培養で維持することはできず、増殖せずに、数日でマクロファージに更に分化する。最後に、様々なiPS由来のマクロファージ分化プロトコルにより、限られた数の増殖停止されたマクロファージのみが生じ、投入iPS細胞あたりの最大収量はマクロファージ15個が報告されている(Lee C.Z.W.らの文献(2018))。
【0026】
WO2008/084069 A1には、MafB及びc-Mafの発現又は活性を阻害することによる、単球、マクロファージ、又は樹状細胞の増殖方法が記載されている。siRNAオリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、又はリボザイムを用いることによる遺伝子発現の阻害は、明示的に挙げられている。マウスに関して、MafB及びc-Mafに欠陥のあるマウス胚は、MafB欠陥マウスをc-Maf欠陥マウスと交配することにより取得可能なことが報告されており、実験では、MafB、c-Maf二重欠陥単球が、単球増殖をサポートする条件下で、胎児肝細胞から得られている。
【0027】
ヒト非腫瘍形成性貪食細胞、例えば多数のマクロファージ、単球、又は樹状細胞を含む組成物を提供することは困難であった。その理由は、例えばマクロファージ、単球、又は樹状細胞等のこれまで単離されてきたヒト貪食細胞は、エクスビボで増殖する有意な可能性が全くなかったからである。このことは、例えば、同系の単球又はマクロファージに依存する治療アプローチが、予め当該患者から単離された細胞数に限定されていたことを意味する。
【0028】
Nature Biotechnology, Vol.38, May 2020:509-511で、E. Dolginは、CARマクロファージに基づく治療法の利点及び限界について論じている。CAR発現ヒトマクロファージは、ウイルスベクターでの非常に効率の良い形質導入によって産生可能である一方、T細胞(容易に増殖し、CAR-T抗がん治療の成功の基盤となっている)とは異なり、単球由来のヒトマクロファージはエクスビボで増殖しない。このジレンマは、「つまり、基本的に投入量が収穫量である」及び「このことにより、開始する細胞数の点でハードルが課せられている」と報告されている。しかし、効率の良いCAR-M療法に必要なCAR改変マクロファージの数は、患者1人当たり108~109個程度であり、そのため、貪食細胞、例えばCARマクロファージベースの療法に必要な細胞数の供給は、依然として課題である。
【0029】
ヒト単球、マクロファージ、及び樹状細胞を増殖することも又、望まれるであろう。しかし、マウスとは対照的に、ヒト単球、マクロファージ、又は樹状細胞の増殖は、細胞治療に適切ではない腫瘍形成性細胞株、例えば細胞株THP-1等のみが入手可能である。
【発明の概要】
【0030】
(発明の概要)
以上より、本発明は、非腫瘍形成性であってもなお、エクスビボで、例えば細胞培養中で細胞分裂可能であるヒト貪食細胞を提供する。これら細胞を含む培養物は、何倍にも増殖可能であり、つまり、その培養物中の細胞数は、10倍以上まで増加可能である。この細胞は、分化後段階で食細胞の機能的特徴を示し、完全に成熟したマクロファージと同様に、インビボモデルにおいて病理学的欠陥を緩和することができる。
【0031】
本発明は又、ヒト貪食細胞を長期培養で作成、維持、増殖させるための新たなエクスビボ方法を提供する。本発明者らは、例えば、前記細胞内のMAFB及びMAF遺伝子の全てのアレル内に大きな欠失を作成することにより、培養でヒト貪食細胞を増殖可能であることを実証した。
【0032】
従って本発明は、非腫瘍形成性であり、適切な培養条件下で少なくとも4個の孫細胞を生じることができるヒト貪食細胞に関する。本発明は又、本発明のヒト貪食細胞の医薬における使用に関し、本発明のヒト貪食細胞を含む、組成物、例えば特に医薬組成物に関する。本発明のヒト貪食細胞の例は、MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルが少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されている細胞である。本発明者らは、このような細胞は、欠失無しの対応する細胞よりも、増大した増殖能を有し、かつより多い細胞数まで培養可能であることを見出した。本発明は又、MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルが少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されているヒト貪食細胞の、医薬における使用に関し、本発明のヒト貪食細胞を含む組成物、例えば特に医薬組成物、に関する。本発明は又、ヒト貪食細胞の投与が有益であろう疾患罹患ヒト対象の治療方法であって、本発明のヒト貪食細胞を該ヒト対象に投与することを含む、前記方法に関する。
【0033】
本発明は又、本発明のヒト貪食細胞のコレクションの培養によって得られる細胞を含む組成物に関する。細胞数が有意に増大した後に、細胞培養での本発明の貪食細胞の増殖が減速することもある。最初に増殖した本発明の貪食細胞から得られたこの細胞のコレクションも、同様に医薬に使用することができ、それらから医薬組成物を調製することができる。
【0034】
本発明は又、本発明のヒト貪食細胞を発生させる方法であって、ヒト貪食細胞のMAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルそれぞれに2つの二本鎖切断を生じさせること、並びに、MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルに欠失を有する細胞を選択することを含む、該方法に関する。この方法のための出発材料として使用される細胞は、幾つかの例を挙げると、人工万能性幹細胞、血液単球、臍帯血由来細胞若しくは骨髄由来細胞でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
(図面)
【
図1】
図1:ドキシサイクリン誘導でCas9を発現するヒトiPS細胞株において、CRISPR/Cas9を介してMAF及びMAFBを欠損させるワークフロー。工程1:MAFを標的とするsgRNAを発現するベクターでリポフェクタミン・トランスフェクションを行う。工程2:ドキシサイクリン(Dox)処置によりCas9を誘導する。工程3:細胞選別によりレポーター陽性のsgRNA発現細胞を単離して、単一細胞コロニーを得る。工程4:MAF KOクローンを選択する。工程5:選択したMAF KO iPS細胞クローンを使用して、MAFBを標的とするsgRNAで工程1~4を繰り返して、MAFBをノックアトする。
【
図2】
図2:MAF及びMAFB両方の遺伝子の5'及び3'UTRにおけるCRISPR/Cas9標的部位の位置を示すMAF及びMAFBの遺伝子構造、並びに、得られたインデル。 MAF遺伝子には、選択的スプライシングによって生成される短いアイソフォーム及び長いアイソフォームがあるが、長いアイソフォームの有意性は知られていない。我々は、MAF遺伝子のエクソン1をノックアウトした。MAFBは単一エクソン遺伝子である。各配列ブロックの最初の行は野生型遺伝子座を指し、次の行はCRISPR/Cas9編集によって生成されたインデルを指す。MAFでは1つのクローンのみが単離され(両方のアレルにあるインデルを示す)、MAFBでは、3つの単離されたクローンのインデルを示す(C1、C2、C3:クローン1、クローン2、クローン3)。配列ブロック中、開始コドン及び停止コドンは太字で表し、ゲノムの標的配列には下線を付した。プロトスペーサーの位置は、開始コドン又は終止コドン近くの黒実線として示す。
【
図3】
図3:(a)MAF/MAFB DKO iPS細胞の核型分析。(b):MAF/MAFB DKO iPS細胞由来マクロファージの核型分析。両方の発生段階のDKO細胞は正常な核型を示す。
【
図4】
図4:野生型及びMAF-DKO EBは形態的に類似する。スケールバーは300μmを表す。96ウェルプレートでウェル当たり12,500個の野生型又はMAF-DKO iPS細胞を使用してEBを播種して1日後の画像である。
【
図5】
図5:MAF-DKOマクロファージが、野生型マクロファージと同様の機能のマクロファージである。野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージをM-CSF及びGM-CSFで7日間培養し(最終分化)、その後、様々な機能アッセイを行った:ラテックスビーズの貪食、100 ng/ml LPSで一晩刺激後の活性酸素種(ROS)産生に対する染色、アクリジンオレンジでのリソソーム染色、Magic RedキットでのカテプシンB活性。
【0036】
【
図6】
図6:野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージが、M-CSF及びGM-CSFで7日間培養した後に主要マクロファージマーカーを発現する。細胞を、DAPI陰性、CD45+/CD11b+である細胞についてプレゲートした。点線はFMO(蛍光マイナス1)対照であり、黒線は染色された細胞を示す。野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージは、CD14(LPSに結合)、CD33(骨髄特異的シアロアドヘシン分子)、CD64(高親和性Fc受容体結合IgG型抗体)及びCD206(マンノース受容体)を同程度に発現する。
【
図7】
図7:MAF-DKOマクロファージはMAF又はMAFBのいずれも発現しない。 (7左図)野生型マクロファージ、MAFシングルKOマクロファージ、又はMAF-DKOマクロファージの3つのクローン(cl)から抽出されたRNAのRT-qPCR分析を示す。y軸は、対照条件である野生型(WT)に対して正規化した、表示した遺伝子(MAF黒色、MAFB白色)の相対的発現を示す。 (7右図)野生型マクロファージ、MAFシングルKOマクロファージ、又はMAF-DKOマクロファージの3つのクローンから抽出されたタンパク質ライセートのウェスタンブロット分析を示す。WTは「野生型」、n.d.は「検出されず」、GRB2は「ロードした対照」を表す。
【
図8】
図8:野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージのインビボ移植スキーム。同数の野生型マクロファージ又はMAF-DKOマクロファージ(投与あたり2×10
6~4×10
6)を、動物あたり1μg M-CSFと一緒に、週1回、4週間、気管内移植した。最終移植から4週間後、動物を分析した。タイムライン上の各ドットはそれぞれ1回の移植を示し、次の移植まで1週間の間隔がある。
【
図9】
図9:MAF-DKOマクロファージが、野生型マクロファージよりも良いhuPAPマウスへの生着を示した。マウスを気管支肺胞洗浄し、細胞を遠心分離により単離し、続いてヒト及びマウスCD45に対して染色し、そしてフローサイトメトリーにより分析した。Y軸は、SSChi(側方散乱「高」)集団中のhCD45+細胞の%を示す。
【
図10】
図10:ヒトMAF-DKOマクロファージは、野生型マクロファージと比べて、PAP表現型のレスキューの改善を示した。 (a)BCAアッセイによって測定したBAL液中のタンパク質濃度。 (b)ELISAによって測定したBAL液中のマウスサーファクタントプロテインD(mSPD)の濃度。 (c)ELISAによって測定したBAL液中のヒトGM-CSFの濃度。
【0037】
【
図11】
図11:エクスビボ単離したMAF-DKOマクロファージは、野生型マクロファージと同様の機能性マクロファージである。野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージを移植したhuPAPレシピエントから選別し、その後、様々な機能アッセイを行った:ラテックスビーズの貪食、100 ng/ml LPSで一晩刺激後の活性酸素種(ROS)産生に対する染色、アクリジンオレンジでのリソソーム染色、Magic RedキットでのカテプシンB活性。
【
図12】
図12:エクスビボ単離したMAF-DKOマクロファージは、野生型マクロファージと同様に脂質貪食可能である。野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージを移植したhuPAPレシピエントから選別し、その後、BODIPY又はOil Red O(ORO社)を使用して脂質染色した。
【
図13】
図13:MAF-DKO分化は、野生型分化よりも高い収率を生じた。 (a)MAF-DKO細胞(黒丸)と野生型細胞(白丸)(EB分化培養物の上清で得られた細胞)とを比較した30日間の分化動態。 (b)分化30日間後の細胞の累積収量。各円は1回の分化ラウンドを表し、MAF-DKOでは全クローンをプールした。(EB分化培養物の上清から回収した全細胞の合計)。 (c)野生型細胞又はMAF-DKO細胞(クローン1)の最終マクロファージ分化。
図13cの第0日とは、細胞を再プレートした日を指し、その細胞自体はEB分化培養から第15日で回収されたものである。 (d)投入細胞数を基準とする(倍)収率。白丸は、EB分化後第30日であるがマクロファージ最終分化前の収率。黒丸は、マクロファージ最終分化後の収率。
【
図14】
図14:MAF-DKOマクロファージは野生型マクロファージよりも有意に多くのEdUを取り込み、高い増殖率を示す。(a)EdU取り込み及びPI染色後の野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージを示す代表的FACSプロット。(b)(a)に示したフローサイトメトリー分析の定量化。各ドットは生物学的複製を表す。Y軸はEdU陽性細胞の%。EdUは5-エチニル-2'-デオキシウリジンである。
【
図15】
図15:EB形成に使用した細胞数(12,500個、投入細胞数)を基準として、EB分化後第15日であって、マクロファージ最終分化の12日前に得られた細胞を算出した倍収率。異なる分化プロトコルA~Dから計算された、投入iPS細胞あたりの得られたマクロファージの収率の公表値は、Leeらの文献(2018)から引用し、E及びFの値は、Buchrieserらの文献(2017)の
図1Aに示されたデータから、投入iPS細胞あたり得られたマクロファージ数を計算した。 A:Muffatの文献(2016)、B:Pandyaの文献(2017)、C:van Wilgenburgの文献(2013)、D:Takataの文献(2017)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0038】
【発明を実施するための形態】
【0039】
(発明の詳細な説明)
(定義)
発現産物、例えばRNA、ポリペプチド、タンパク質、又は酵素の「コード配列」若しくはそれを「コードする」配列は、発現されるとそのRNA、ポリペプチド、タンパク質、又は酵素の産生を生じるヌクレオチド配列、即ち、そのポリペプチド、タンパク質、又は酵素のためのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列である。タンパク質のコード配列は、開始コドン(通常ATG)及び終止コドンを含み得る。
【0040】
用語「遺伝子」は、1以上のタンパク質若しくは酵素の全部若しくは一部を含む、アミノ酸の特定配列をコードするDNA配列を意味し、例えば遺伝子が発現する条件を決定するプロモーター配列のような、制御性DNA配列を含むことも含まないこともある。「プロモーター」又は「プロモーター配列」は、1つの細胞内でRNAポリメラーゼに結合して、下流(3'方向)コード配列の転写を開始することのできるDNA調節領域である。構造遺伝子ではない幾つかの遺伝子は、DNAからRNAに転写されることもあるが、アミノ酸配列には翻訳されない。他の遺伝子は、構造遺伝子の制御因子として、又はDNA転写の制御因子として機能することもある。特に、用語「遺伝子」は、タンパク質をコードするゲノム配列、即ち制御因子、プロモーター、イントロン、及びエクソン配列を含む配列を意図してもよい。
【0041】
本明細書で使用される場合の「特異的タンパク質(例えば、マウスタンパク質MafB又はc-Maf)」は、その起源又は調製様式に関係なく、ネイティブなアミノ酸配列のポリペプチドのみならず、変異体及び改変体を含み得る。ネイティブなアミノ酸配列を有するタンパク質とは、自然界で得られたもの(例えば、自然界由来MafB又はc-Maf)と同じアミノ酸配列を有するタンパク質である。そのようなネイティブ配列タンパク質は、自然界から単離することも、標準的な組換え法及び/又は合成法を用いて調製することもできる。ネイティブ配列タンパク質は、特に、自然界由来切断型又は可溶型、自然界由来変異型(例えば、選択的スプライス型)、自然界由来アレル変異体、及び翻訳後修飾型を包含する。ネイティブ配列タンパク質は、グリコシル化、若しくはリン酸化、ユビキチン化、スモイル化、又は幾つかのアミノ酸残基の他の修飾等の、翻訳後修飾を受けたタンパク質を含む。
【0042】
用語「変異体」及び「変異」は、検出可能な、例えばDNA、RNA、cDNA等の遺伝物質の変化、若しくはプロセス、メカニズムにおける変化、又はこのような変化の結果を意味する。これには、遺伝子の構造(例えばDNA配列)が変化した遺伝子変異、いずれかの変異プロセスから生じた遺伝子又はDNA、及び修飾された遺伝子又はDNA配列によって発現された発現産物(例えばタンパク質若しくは酵素)が含まれる。変異には、1以上のヌクレオチドの欠失、挿入、又は置換が含まれる。変異は、遺伝子のコード領域(即ちエクソン)内、イントロン内、又は遺伝子の調節領域(例えば、エンハンサー、応答エレメント、サプレッサー、シグナル配列、ポリアデニル化配列、プロモーター)内で発生し得る。一般に、対象内の変異は、対象によって発現される核酸又はポリペプチドの配列を、対照集団内で発現される対応する核酸又はポリペプチドと比較することによって特定される。変異が遺伝子コード配列内にある場合、その変異は、遺伝子産物内の1のアミノ酸を別のアミノ酸に置換する「ミスセンス」変異でもよく、又はあるアミノ酸コドンを終止コドンに置換する「ナンセンス」変異でもよい。変異は又、エクソン-イントロンスプライシングのためのシグナルを生成又は破壊し、それによって構造が変化した遺伝子産物を生じるスプライシング部位で発生してもよい。遺伝物質内の変異は、「サイレント」、即ち、その変異が発現産物のアミノ酸配列の変化を生じないものでもよい。
【0043】
本明細書で使用される場合の用語「発現」は、その文脈に応じて、ポリペプチド若しくはタンパク質の発現、又は、ポリヌクレオチド若しくは遺伝子の発現を指し得る。ポリヌクレオチドの発現は、例えば、当業者に周知の方法を用いてRNA転写産物レベルの産生を測定することにより決定してもよい。タンパク質又はポリペプチドの発現は、例えば、当業者に周知の方法を用いて、そのポリペプチドに結合する抗体(単数若しくは複数)を用いたイムノアッセイによって決定してもよい。
【0044】
「発現阻害剤」は、遺伝子の発現を低下又は抑制する天然又は合成化合物を指す。
【0045】
「活性阻害剤」は、当分野でのその一般的な意味を有し、かつ、タンパク質の活性を低下又は抑制する能力を有する(天然若しくは非天然)化合物を指す。
【0046】
用語「MAF」はヒトMAFがん原遺伝子(proto-onocogene)を示す。MAF及び他のMafファミリーメンバーは、互いに、並びにFos及びJunと共に、ホモ二量体及びヘテロ二量体を形成し、これはAP-1タンパク質が互いに対を形成する公知の能力と一致している(Kerppola及びCurranの文献(1994)Oncogene 9:675-684; Kataoka, K.らの文献、(1994)Mol. Cell. Biol. 14:700-712)。MAFホモ二量体が結合するDNA標的配列は、MAF応答エレメント(MARE)と称され、それぞれコアTRE(T-MARE)又はCRE(C-MARE)パリンドロームを含む、13bp又は14bpのエレメントである。しかし、MAFは又、これらのコンセンサス部位から分岐したDNA配列であって、コンポジットAP-1/MARE部位及びATリッチ5'伸長を有するMAREハーフ部位を含む配列にも結合し得る(Yoshidaらの文献、NAR, 2005)。MAFは幾つかのプロモーターからの転写を刺激すると共に、他のプロモーターの転写を抑制することが示されている。MAFは又、Tヘルパー2(Th2)細胞の分化を誘導することが示されており(Hoらの文献、1996)、それはインターロイキン4(IL-4)の組織特異的転写を活性化するその能力による(Kimらの文献、1999)。更に又、骨髄系細胞株でのMAFの過剰発現はマクロファージの分化を誘導する(Hegdeらの文献、1999)。ヒトMAFの遺伝子は16番染色体上16q23.2に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 4094として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20201120(2020年12月9日現在)、ゲノム・リファレンス・コンソーシアム・ヒト・ビルド38・パッチリリース13のリファレンス配列アセンブリGCF_000001405.39による。このリファレンスは、MAFの遺伝子を79,593,838~79,600,737の相補鎖上と特定している。
【0047】
用語「MAFB」はヒトMAFB転写因子を示す。この遺伝子は様々な細胞種(水晶体上皮細胞、膵臓の内分泌細胞、表皮細胞、軟骨細胞、神経細胞、及び造血細胞)内で発現され、そのカルボキシ末端領域に典型的なbZipモチーフを含むタンパク質をコードしている。bZipドメイン内では、MAFBはMAFとだけでなく他のMaf関連タンパク質とも広範囲な相同性を共有する。MAFBはそのロイシン反復構造を通してホモ二量体を形成し、Maf認識エレメント(MARE)パリンドローム、コンポジットAP-1/MARE部位、又はATリッチ5'伸長を有するMAREハーフ部位に特異的に結合できる(Yoshidaらの文献、2005)。更に、MAFBはそのジッパー構造を通してc-/v-Maf又はFosとヘテロ二量体を形成できるが、Jun又は他のMafファミリーメンバーとは形成できない(Kataokaらの文献、1994)。MAFBは又、クライスラー(kreisler)、kr又は(「Kreisler Mafロイシンジッパー1」の)KrmI1という名で公知であり、その理由は、kreisler変異マウスにおけるX線誘発された染色体の微細逆位が、組織特異的に後脳の発達におけるMAFBの発現を消失させ、kreisler表現型の原因となるからである(Cordesらの文献、1994)(Eichmannらの文献、1997)。造血系において、MAFBは骨髄性系統で選択的に発現し、多能性前駆細胞からマクロファージへの骨髄細胞分化中に、順次アップレギュレートされる。実際、この誘導は単球分化及びマクロファージ分化におけるMAFBの重要な役割を反映する。従って、形質転換したニワトリ骨髄芽球中(Kellyらの文献、2000、Bakriらの文献、2005)、及びヒト造血(hematopoetic)前駆細胞中(Gemelliらの文献、2006)のMAFBの過剰発現は、前駆細胞の増殖を阻害し(Tillmannsらの文献、2007)、マクロファージの迅速な形成を刺激し(Kellyらの文献、2000、Bakriらの文献、2005、Gemelliらの文献、2006)、その一方でMAFBの優勢な負のバージョンはこのプロセスを阻害し(Kellyらの文献、2000)、MAFB誘導は造血細胞における単球プログラムの特異的かつ重要な決定因子であることを示す。ヒトMAFBの遺伝子は20番染色体上20q12に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 9935として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20201120(2020年12月9日現在)、ゲノム・リファレンス・コンソーシアム・ヒト・ビルド38・パッチリリース13のリファレンス配列アセンブリGCF_000001405.39による。このリファレンスは、MAFBの遺伝子を40685848~40689236の相補鎖上に特定している。
【0048】
HLA-A又は「ヒト白血球抗原1」は、HLAクラスI重鎖パラログに属するタンパク質に関する。このクラスI分子は、重鎖及び軽鎖(β-2-ミクログロブリン)からなるヘテロ二量体である。重鎖は膜内に固定されている。クラスI分子は、小胞体内腔由来のペプチドを提示してそれらが細胞傷害性T細胞により認識されるようにする、免疫系における中心的役割を果たしている。HLA-Aは、ほぼ全ての細胞内で発現される。その重鎖は約45 kDaであり、その遺伝子は8つのエクソンを含む。エクソン1はリーダーペプチドをコードし、エクソン2及び3は、両方ともペプチドに結合するα1ドメイン及びα2ドメインをコードし、エクソン4はα3ドメインをコードし、エクソン5は膜貫通領域をコードし、そしてエクソン6及び7は細胞質側末端をコードする。エクソン2及びエクソン3における多型は、それぞれのクラス1分子のペプチド結合特異性の原因となる。これらの多型解析は、骨髄移植及び腎臓移植のためにルーチン的に行われている。6,000種を超えるHLA-Aアレルが報告されている。ヒトHLA-Aの遺伝子は6番染色体上6p22.1に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 3105として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20201120(2020年12月9日現在)、ゲノム・リファレンス・コンソーシアム・ヒト・ビルド38・パッチリリース13のリファレンス配列アセンブリGCF_000001405.39による。このリファレンスは、HLA-Aの遺伝子を29942532~29945870のコード鎖上に特定している。
【0049】
B2Mは、主要組織適合性複合体クラスI重鎖に関連して見出されたタンパク質である。ヒトB2Mの遺伝子は15番染色体上15q21.1に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 567として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20201120(2020年12月9日現在)、ゲノム・リファレンス・コンソーシアム・ヒト・ビルド38・パッチリリース13のリファレンス配列アセンブリGCF_000001405.39による。このリファレンスは、B2Mの遺伝子を44711517~44718145のコード鎖上に特定している。
【0050】
本明細書で使用される場合の「部位特異的エンドヌクレアーゼ」は、ポリヌクレオチド鎖内のリン酸ジエステル結合を、二本鎖DNA分子の中間(エンド)部分の非常に特異的なヌクレオチド配列でのみ切断する酵素であり、この配列は、ヒトゲノム全体内で好ましくは一か所だけに生じて、ヒト標的細胞の特異的遺伝子操作を可能とする配列である。ヒト標的細胞における遺伝子操作に通常使用される部位特異的エンドヌクレアーゼの例は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、及びCRISPR/Cas9系である。
【0051】
本明細書で使用される場合の「変異誘発」は、それにより生物の遺伝情報を意図的に変化させて変異を生じさせる、実験プロセスである。本明細書における変異誘発の好ましい方法は、トランスポゾン変異誘発及び符号タグ化変異誘発である。
【0052】
本明細書で使用される場合の用語「増殖性細胞」は、細胞分裂可能な細胞を指す。ある細胞が、少なくとも1,000個の「増殖性細胞」の集団が、適切な培養条件下で8日後に、細胞数が少なくとも4倍増加する場合、即ち、n(192時間)/n(0時間)(ここで、nは表示された時点での細胞集団の細胞総数である)が少なくとも4.00である場合、その細胞は増殖性細胞である。
【0053】
本明細書で使用される場合の用語「分化したヒト細胞」は、細胞種が変化せず、細胞分裂の際ですら、同一の細胞種の2つの細胞を生じる細胞である。これは、成体の全ての細胞種に分化可能な「万能性細胞」及び数種類の近縁の細胞種に分化可能な「寡能性細胞」とは対照的である。
【0054】
本明細書で使用される場合の「アレル(対立遺伝子)」は、同一のヒト遺伝子の2つのコピーのうちの1つを指す。遺伝子の2つのコピーは、2つの相同な染色体上にそれぞれ1つ存在し、同一であることも、又は、その個々の配列がわずかに異なることもある。従って、用語「アレル」は、2本の相同な染色体上の同じ相当箇所にある同一のヒト遺伝子の同一バージョンも含むために、本明細書では通常の用法とは若干異なって用いられる。2倍体細胞内では、所与の遺伝子の2つのアレルは、1対の相同な染色体上の対応する遺伝子座を占める。
【0055】
本明細書で使用される場合の「アレル」又は「遺伝子」は、そのアレル又は遺伝子を非機能化させる手順の後に、その遺伝子又はアレルがコードするタンパク質の更なる発現が検出されない場合、非機能であるとされる。つまり、新たなタンパク質は、非機能化されたアレル又は遺伝子から発現されない。最終的には、非機能化されたアレル又は遺伝子がコードするタンパク質は、非機能化アレルのみからなる細胞からなる細胞集団内では検出不能となる。前記遺伝子又はアレルがコードするタンパク質が検出不能となるまでの時間は、その遺伝子のタンパク質及びmRNAのターンオーバーの動態に依存する。
【0056】
本明細書で使用される場合の用語「欠失」は、DNA配列の一部が、参照配列と比較して失なわれていることを意味する。
【0057】
本明細書で使用される場合の「エクソン」は、RNAスプライシングによってイントロンが除去された後、その遺伝子によって産生される最終的な成熟RNAの一部をコードする遺伝子のいずれか一部である。用語「エクソン」は、遺伝子内のDNA配列及びRNA転写産物内の対応する配列の両方を指す。RNAスプライシングでは、イントロンが除去され、エクソンが互いに共有結合して、成熟メッセンジャーRNAを生成する一部となる。
【0058】
本明細書で使用される場合の「骨髄系細胞」は、造血系起源の細胞であって、リンパ球系ではなく、赤血球系-巨核球系でもなく、そして、骨髄系ではない系統の可能性を有する多系統前駆細胞でもないものをいう。
【0059】
本明細書で使用される場合のiPS細胞「人工万能性幹細胞」は、体細胞のリプログラミングにより得られる万能性を有する細胞を意味する。京都大学の山中伸弥教授らのグループ、マサチューセッツ工科大学のRudolf Jaenischらのグループ、ウィスコンシン大学のJames Thomsonらのグループ、及びハーバード大学のKonrad Hochedlingerらのグループを含む幾つかのグループが、このような人工万能性幹細胞の作成に成功している。人工万能性幹細胞は、免疫学的拒絶も倫理的問題もない理想的な万能性細胞として大きな注目を集めている。例えば、国際公開WO2007/069666には、Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子、並びにOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子、及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子が報告されている。又、この文献には、体細胞の核初期化による人工万能性幹細胞を作成方法が記載されており、その方法は、前述の核初期化因子を体細胞と接触させる工程を含む。
【0060】
「単球細胞」は、末梢血の単核食細胞である。単球は、直径10~30μmのサイズ範囲でかなり多様である。その核の細胞質に対する比率は、2:1~1:1の範囲である。核は多くの場合、帯状(馬蹄形)又は腎臓形(腎臓(kindey)形状)である。単球は、それ自体で折り重なって、脳回状の回旋を示すこともある。核小体は視認不能である。クロマチンパターンは微細で、スケイン様綛状に配列されている。細胞質は豊富であって、ギムザ染色で多数の微細なアズール親和性顆粒を含む青灰色として現れ、すりガラス外観を呈する。液胞が存在することもある。更に好ましくは、特異的表面抗原の発現を用いて、細胞が単球細胞であるか否かを判定する。ヒト単球細胞の主要な表現型マーカーには、CD11b、CD11c、CD33、及びCD115が含まれる。一般に、ヒト単球細胞は、CD9、CD11b、CD11c、CDw12、CD13、CD15、CDw17、CD31、CD32、CD33、CD35、CD36、CD38、CD43、CD49b、CD49e、CD49f、CD63、CD64、CD65s、CD68、CD84、CD85、CD86、CD87、CD89、CD91、CDw92、CD93、CD98、CD101、CD102、CD111、CD112、CD115、CD116、CD119、CDw121b、CDw123、CD127、CDw128、CDw131、CD147、CD155、CD156a、CD157、CD162、CD163、CD164、CD168、CD171、CD172a、CD180、CD206、CD131a1、CD213a2、CDw210、CD226、CD281、CD282、CD284、CD286を発現し、任意でCD4、CD14、CD16、CD40、CD45RO、CD45RA、CD45RB、CD62L、CD74、CD142及び、CD170、CD181、CD182、CD184、CD191、CD192、CD194、CD195、CD197、CX3CR1を発現する。
【0061】
「マクロファージ細胞」は、貪食性を示す細胞である。マクロファージの形態は、異なる組織間、並びに、正常な状態及び病的な状態の間では異なり、全てのマクロファージが形態だけで特定できるわけではない。しかし、ほとんどのマクロファージは、円形核又は切れ込みが入った核、良く発達したゴルジ装置、豊富なエンドサイトーシス系液胞、リソソーム、及びファゴリソソーム、並びに、襞又は微絨毛で覆われた形質膜を持つ大細胞である。自然免疫及び適応免疫におけるマクロファージの主要な機能は、老化細胞又はアポトーシス細胞、微生物、及び新生物性細胞の貪食及びそれに続く分解、サイトカイン、ケモカイン、及びその他の可溶性メディエーターの分泌、並びに、その表面上で外来抗原(ペプチド)をTリンパ球に対して提示することである。マクロファージは、哺乳類生物の骨髄中の骨髄系共通前駆細胞及び顆粒球-単球前駆細胞に由来し、最終的に更なる前駆細胞段階を経て単球へ発達した後、末梢血流に流入する。多葉核を持つ好中球とは異なり、単球は腎臓形の核を持ち、更なる分化及び活性化中は大細胞体を呈する。その生涯を通じて、単球の一部は毛細血管内皮に付着し、そこから全ての器官に移動して、そこでその器官の組織常在型マクロファージ又は樹状細胞に分化できる(下記参照)。単球由来以外にも、組織常在型マクロファージは又、最終的な血球新生が確立する前の卵黄嚢の初期原始マクロファージ前駆細胞から、胚の様々な造血部位の赤血球系マクロファージ前駆細胞(EMP)から、又は、胚性造血幹細胞由来の胎児性単球から発生し得る。これらの胚由来のマクロファージは、成体期まで存在し、成人の造血幹細胞からの投入とは関係なく長期間維持される。例えばリンパ節及び脾臓等のリンパ系組織ではマクロファージが特に豊富である。幾つかの器官内では、マクロファージは表1にまとめた特別な名前を持つ。
【0062】
【0063】
マクロファージの更なる例は、尿細管周囲マクロファージ及び精巣間質マクロファージ、心臓由来の心臓マクロファージ、脂肪組織由来の脂肪組織マクロファージ、腸由来の大腸マクロファージ及び小腸マクロファージ、骨格筋マクロファージ、関節由来の滑膜マクロファージ、動脈外膜マクロファージ、動脈内膜マクロファージ、血管関連マクロファージ、膵臓常在型マクロファージ、髄膜マクロファージ、胸膜マクロファージ、並びに大網マクロファージである。
【0064】
本発明の文脈では、マクロファージは、前記記載のいずれか1つのマクロファージから選択し得る。好ましくは、マクロファージは、ミクログリア、組織球、ホフバウアー細胞、メサンギウム細胞、クッパー細胞、腹腔マクロファージ、肺胞マクロファージ、上皮又は皮膚マクロファージ、辺縁帯リンパ腫マクロファージ、金属親和性マクロファージ、赤脾髄マクロファージ、白脾髄マクロファージ、及び破骨細胞からなる群から選択される。
【0065】
マクロファージは、サイトカインの重要な供給源である。機能的に、多数の産物は下記幾つかの群に分けられる:(1)炎症誘導性応答を仲介する、即ち更なる炎症細胞の動員を助けるサイトカイン(例えば、IL-1、II-6、TNF、CCケモカイン及びCXCケモカイン、例えばIL-8、及び単球走化性タンパク質1);(2)T細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞の活性化を仲介するサイトカイン(例えば、IL-1、IL-12、IL-15、IL-18);(3)マクロファージ自身のフィードバック効果を発揮するサイトカイン(例えば、IL-1、TNF、IL-12、IL-18、M-CSF、IFNα/β、IFNγ);(4)マクロファージをダウンレギュレートする及び/又は炎症停止を助けるサイトカイン(例えば、IL-10、TGFβ);(5)創傷治癒若しくは組織幹細胞をサポートするために重要なサイトカイン(例えば、EGF、PDGF、bFGF、TGFβ)、若しくは血管増殖をサポートするために重要なサイトカイン(例えば、VEGF)、又は神経細胞をサポートするために重要なサイトカイン(例えば、神経栄養因子、キニン)。マクロファージによるサイトカインの産生は、LPS等の微生物産物によって、1型ヘルパーT細胞との相互作用によって、又はプロスタグランジン、ロイコトリエン及び、最も重要には、他のサイトカイン(例えばIFNγ)を含む可溶性因子によって、作動できる。一般に、ヒトマクロファージは、CD11c、CD11b、CD18、CD26、CD31、CD32、CD36、CD45RO、CD45RB、CD63、CD68、CD71、CD74、CD87、CD88、CD101、CD119、CD121b、CD155、CD156a、CD204、CD206、CDw210、CD281、CD282、CD284、CD286を発現し、及びCD14、CD16、CD163、CD169、CD170、MARCO、FOLR2、LYVE1をサブセットとして発現する。活性化されたマクロファージは更に、CD23、CD25、CD69、及びCD105を発現できる。
【0066】
「樹状細胞(DC)」は、インビボ、インビトロ、エクスビボに、又はホスト若しくは対象内に存在する、又は、造血幹細胞、造血前駆細胞、若しくは単球に由来することもある抗原提示細胞である。樹状細胞及びその前駆体は、例えば脾臓、リンパ節等の様々なリンパ器官から、並びに、骨髄及び末梢血から単離することができる。DCは、樹状細胞本体から多方向に伸びる薄いシート(膜状仮足)を有する特徴的な形態を持つ。DCはMHCクラスI分子及びMHCクラスII分子の両方を恒常的に発現し、それらはそれぞれCD8+T細胞及びCD4+T細胞にペプチド抗原を提示する。更に、ヒト皮膚及び粘膜のDCは又、CD1遺伝子ファミリー、MHCクラスI関連分子も発現し、微生物の脂質又は糖脂質抗原を提示する。DC膜は又、T細胞の接着を可能にする分子(例えば、細胞接着分子-1若しくはCD54)、又はB7-1及びB7-2(それぞれCD80及びCD86としても知られる)等のT細胞活性化を共刺激する分子を豊富に含む。一般に、DCは、CD85、CD180、CD187、CD205、CD281、CD282、CD284、CD286を発現し、並びにCD206、CD207、CD208、及びCD209をサブセットとして発現する。
【0067】
「精製」及び「単離」は、ポリペプチド又はヌクレオチド配列に言及する場合、他の生物学的高分子の実質的な不在下で、示された分子が存在することを意味する。「細胞又は細胞の集団」に言及する場合、この用語は、他の細胞又は細胞集団の実質的な不在下で、その細胞又は細胞集団が存在することを意味する。本明細書で使用される場合の用語「精製された」は、好ましくは重量又は数で少なくとも75%、更に好ましくは重量又は数で少なくとも85%、更に好ましくは重量又は数で少なくとも95%、及び最も好ましくは重量又は数で少なくとも98%の、同じ種類の生物学的高分子又は細胞が存在することを意味する。特定のポリペプチドをコードする「単離された」核酸分子は、対象ポリペプチドをコードしない他の核酸分子を実質的に含まない核酸分子を指すが、しかしこの分子は、組成物の基本的特徴に悪影響を与えない幾つかの追加的塩基又は部分を含み得る。
【0068】
用語「貪食細胞」及び「食細胞」は、本明細書では互換的に使用され、貪食が可能な細胞を指す。単核細胞(組織球及び単球)、多形核白血球(好中球)、及び樹状細胞の、3つの主要なカテゴリーのプロフェッショナル食細胞が存在する。しかし、「非プロフェッショナル」貪食細胞も又、エフェロサイトーシスに参加することが公知である。このエフェロサイトーシスとは、それによりプロフェッショナル食細胞及び非プロフェッショナル食細胞が、迅速かつ効率的な方法でアポトーシス細胞を処分するプロセスである。
【0069】
本明細書で使用する場合の用語「対象」は、ヒトを指す。従って、本明細書に記載される貪食細胞、例えば、単球、マクロファージ、又は樹状細胞は、ヒト細胞である。
【0070】
本発明の文脈での用語「治療する」又は「治療」は、本明細書で使用される場合、この用語を適用する疾患若しくは病状、又はその疾患若しくは病状の1以上の症状を、逆転させる、緩和する、進行を阻害する、又は予防することを意味する。
【0071】
本明細書で使用される場合の用語「非腫瘍形成性」は、実施例5に記載のように、免疫無防備状態にしたhuPAPマウスへの少なくとも8×106個の細胞の気管内注入4週間後に、視認可能な腫瘍の形成を生じなかったことをいう。同数のがん細胞を同一条件で移植した場合、がん細胞は同じ期間中に腫瘍(複数可)を形成し、その腫瘍はマウスを犠牲にして肺を開いて目視検査すると視認可能である。
【0072】
本明細書で使用される場合の用語「適切な培養条件下」は、本発明の貪食細胞が増殖可能な条件をいう。培養は、通常は、適切な増殖因子を補充した細胞培養培地中で、適切な温度で、適切に制御された雰囲気下で行われる。RPMI培地(RPMIは、その名をRoswell Park Memorial Institute社に由来し、ヒトリンパ球の培養にしばしば使用される培地である。)に10% FBS(PAA-GE Healthcare社、A15-101)を補充し、100単位/mlペニシリン、100 ug/mlストレプトマイシン(サーモフィッシャー社、番号15140122)、2 mM GlutaMAX(サーモフィッシャー社、番号35050038)、1 mMピルビン酸ナトリウム(サーモフィッシャー社、番号11360-039)、50 ng/ml M-CSF(サーモフィッシャー社、番号PHC9504)、及び表示されている場合には50 ng/ml GM-CSF(Peprotech社、番号300-03)を、実施例3に記載のように補充したものが適切な培養培地である。培養は通常、37 ℃、及び5%CO2、21%O2で行う。
【0073】
本明細書で使用される場合の用語「孫細胞」は、2回の細胞有糸分裂によって親細胞から由来する細胞である。
【0074】
本明細書で使用される場合の「貪食プロセス」は、細胞外分子又は細胞表面に結合した分子を、取り込む又は飲み込むことをいう。用語「貪食可能である」は、細胞外分子又は細胞表面に結合した分子を取り込む、又は飲み込むことができる細胞を指す。好ましい細胞は、好中球、単球、マクロファージ、樹状細胞、及び/又はマスト細胞を含むが、これらに限定されるものではないプロフェッショナルな貪食細胞である。非プロフェッショナル食細胞には、上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、及び/又は間葉系細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
本明細書で使用される場合の用語「活性酸素種」は、酸素を含み、細胞内で他の分子と容易に反応する不安定な分子に関する。通常、活性酸素種は、フリーラジカルである。活性酸素種は、免疫細胞の微生物の侵襲に対する殺傷応答成分として公知である。
【0076】
本明細書で使用される場合の用語「活性化」は、外部刺激が細胞に変化を誘導して、それによってその細胞を活性化できる現象に関する。例えばマクロファージは、インターフェロン-γ(IFN-γ)等のサイトカイン、及び細菌性エンドトキシン、例えばリポ多糖類(LPS)によって活性化し得る。活性化されたマクロファージには多くの変化が生じ、それにより侵入細菌又は感染細胞の殺傷が可能となる。それらは、他の細胞に対する毒性効果を有する有毒な化学物質及びタンパク質を放出する。活性化されたマクロファージは巨大化し、代謝が亢進し、リソソームタンパク質レベルが上昇し、そして微生物を貪食して殺傷する能力が高まる。活性化されたマクロファージは又、プロテアーゼ、好中球走化性(chemotatic)因子;一酸化窒素及び超酸化物等の活性酸素種;腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキン1及びインターロイキン8(IL-1及びIL-8)等のサイトカイン、エイコサノイド、並びに増殖因子を放出する。これら活性化されたマクロファージの産物は、炎症の特徴である、ある種の組織破壊を生じ得る。
【0077】
本明細書で使用される場合の用語「接着性」は、固体基質、例えば組織培養フラスコの底に付着する接着性細胞の性質に関する。対照的に、懸濁性細胞は、培養培地中に懸濁され、浮遊して成長するので機械的又は化学的に取り出す必要はない。
【0078】
本明細書で使用される場合の「膜状仮足」は、細胞の前縁にある突出部である。それは、準2次元アクチン網を含む。糸状仮足は、膜状仮足内の指様構造であり、膜状仮足の先端を越えて広がり、従ってそこから伸長する。
【0079】
本明細書で使用される場合の用語「染色体再構成」は、ネイティブ染色体の構造変化を伴う染色体異常である。通常、染色体再構成は、DNAの二重らせんが2つの異なる位置で切断され、その後、その切断された末端が再結合して、その染色体又はそれ(複数可)が切断される前の染色体とは異なる遺伝子順序の、新たな染色体遺伝子の構成が生じることによって起こる。このような変化には、1本の染色体内又は2本の染色体間で、10,000塩基対を超える大きな欠失、遺伝子重複、遺伝子逆位、及び転座等の、幾つかの異なる種類の事象が含まれ得る。
【0080】
本明細書で使用される場合の用語「核型分析」は、サンプル由来の細胞内の染色体の分析である。当業者は、染色体を染色し、次に、顕微鏡を用いて細胞サンプルの細胞内の染色体のサイズ、形状、及び数を検査する。通常、染色したサンプルの写真を撮って、染色体の配置を示す。核型は、生物の染色体数、並びに、それら染色体が、光学顕微鏡下でどのように見えるか、特に、染色体の長さ、それら染色体内のセントロメアの位置、染色した染色体のバンドパターン、性染色体間の差異、及びその他の物理的特徴等、を示す。
【0081】
本明細書で使用される場合の用語「ガイドRNA」は、CRISPR/Cas9 DNA編集系での文脈で使用される「ガイドRNA」に関する。ガイドRNAは、CRISPR-Cas9系に対する特異性を標的配列へ付与する。ガイドRNAは短いノンコーディングRNA配列であり、最初にCas9酵素に結合し、その次にガイドRNA配列が塩基対形成を介して複合体をDNA上の特定の位置にガイドし、そこでCas9がエンドヌクレアーゼとして作用し、標的DNA鎖を切断する。ガイドRNAの例は、(a)合成トランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)及び合成CRISPR RNA(crRNA)(crRNAは目的の遺伝子標的部位を特定するように設計される)、並びに(b)crRNA及びtracrRNAの両方を単一のコンストラクト内に組み込む単一ガイドRNA(sgRNA)である。
【0082】
本明細書で使用される場合の用語「前駆細胞」は、幹細胞の子孫であって、更に分化して特定の細胞種を生成することができる細胞に関する。ヒトの身体全体には多くの種類の前駆細胞が存在する。それぞれの前駆細胞は、同一の組織又は器官に属する細胞にしか分化できない。一部の前駆細胞は、最終的に1種の標的細胞にしか分化しない一方、別の前駆細胞は複数の細胞種に分化する可能性を持つ。このように前駆細胞は、ヒトの組織及び器官、血液、並びに中枢神経系において、成熟細胞の生成に関与する中間的細胞種である。造血前駆細胞は、血液細胞の生成における中間的細胞種である。造血前駆細胞は造血幹細胞から発生する未成熟細胞であり、最終的には10を超える異なる種類の成熟血液細胞の1つへ分化する。
【0083】
本明細書で使用される場合の用語「CD34+多能性前駆細胞」は、CD34表面抗原を発現している幹細胞富化された造血前駆細胞集団であって、マクロファージ、単球、又は樹状細胞ではないものである。
【0084】
本明細書で使用される場合の用語「単芽球」は、血球新生プロセスにおいて骨髄性前駆細胞から分化した、骨髄中のコミットされた前駆細胞に関する。それらは成熟して単球となり、次にマクロファージに成長できる。
【0085】
本明細書で使用される場合の用語「細胞のコレクション」は、少なくとも100個の生細胞に関する。
【0086】
本明細書で使用される場合の用語、細胞の「増殖」は、適切な実験条件において細胞を培養し、培養細胞の有糸分裂により生細胞数を増大させるプロセスである。
【0087】
本明細書で使用される場合の用語「遺伝子組換え」細胞は、バイオテクノロジー法を用いてその細胞のDNAが改変された細胞に関する。例えば、細胞のDNAがCRISPR/Cas9 DNA編集系の使用によって操作され、その操作によって細胞のDNAに検出可能な変化が残された細胞は、遺伝子組換え細胞である。
【0088】
本明細書で使用される場合の用語「キメラ抗原受容体」は、細胞外認識ドメイン(例えば抗原特異的ターゲッティング領域)、膜貫通ドメイン、及び1以上の細胞内シグナル伝達ドメインの融合体である。細胞外認識ドメインによる抗原関与の際に、CARの細胞内シグナル伝達部分は、免疫細胞内で、例えば細胞溶解性分子の放出等の活性化関連応答を開始して、腫瘍細胞死等を誘導することができる。
【0089】
本明細書で使用される場合の用語「エクスビボ」は、生体の外側を意味する。
【0090】
本明細書で使用される場合の用語「インビトロ」は、生体の外側であって実験室環境内を意味する。例えば、「インビトロ」培養される細胞は、制御されており、多くの場合は人工培地中で培養される。
【0091】
本発明は、非腫瘍形成性であって、適切な培養条件下で少なくとも4個の孫細胞を生じることができるヒト貪食細胞に関する。増殖するヒト貪食細胞、及び特に、増殖する骨髄系統のマクロファージ、単球、又は樹状細胞様のプロフェッショナル貪食細胞を提供することにより、本発明者らは、マクロファージ、特に遺伝子改変マクロファージをヒトへの療法に使用する試みを挫折させてきた主要な制限であって、限られた供給源から療法のために充分に多い細胞数を得る限界を突破した。
【0092】
本発明のヒト貪食細胞は、分化後の段階であって、例えばCD45、CD64、CD11b、CD33、CD206、及びCD14等の機能的マクロファージを示す表面マーカーを発現することにより特徴付けられてもよい。その分化後の段階の更なる徴候は、特異的表面マーカーに対する抗体で染色した細胞のフローサイトメトリー分析を使用した場合に、その貪食細胞表面に例えばタンパク質CD34等の前駆細胞の表面マーカーが検出されないことである。
【0093】
本発明のヒト貪食細胞は又、その機能的特徴により特徴付けられることもできる。例えば、ヒト貪食細胞は、貪食能があることにより特徴付けることができる(Liuの文献、2020)。例えば、ヒト貪食細胞は、活性化されると活性酸素種の産生能があることにより特徴付けることができる(Thomas 2020)。例えば、ヒト貪食細胞は、そのリソソーム内で検出できるプロテアーゼ活性により特徴付けることができる(Thomas 2020)。例えば、ヒト貪食細胞は、OilRedO(Rauschmeierの文献(2019))又はBODIPY(Qiuの文献(2016))等により決定されるような、脂質取り込み能により特徴付けることができる。本発明のヒト貪食細胞は、1以上の、例えば全ての、これら機能的特徴を示すことができる。Azizらの文献(2009)には又、材料及び方法セクションに、機能的特徴分析が提供されている。
【0094】
本発明のヒト貪食細胞は又、負の特徴により特徴付けられてもよい。例えば、ヒト貪食細胞は造血幹細胞に由来してもよいが、それ自身は好ましくは造血幹細胞ではない。例えばMAF及びMAFBの欠失は応答性遺伝子の発現レベルを変化させる可能性があるが、本発明のヒト貪食細胞は好ましくは、オンコジーン、例えばHoxb8等の追加的なコピーを含まない。
【0095】
本発明のヒト貪食細胞は又、その形態的特徴により特徴付けられてもよい。例えば、ヒト貪食細胞は、顕微鏡下で大きな空胞化細胞として現れることにより特徴付けられてもよい。例えば、ヒト貪食細胞は、接着性形態を有する細胞として現れることにより特徴付けられてもよい。例えば、ヒト貪食細胞は、膜状仮足及び/又は糸状仮足を特徴とする細胞として現れることにより特徴付けられてもよい。ヒト貪食細胞は、1以上の、例えば全ての、これら形態的特徴により特徴付けることができる。
【0096】
本発明のヒト貪食細胞は、その増殖能にも拘わらず、非腫瘍形成性であることにより特徴付けることができる。例えば、ヒト貪食細胞は、46本の染色体のみを有することにより特徴付けることができる。例えば、ヒト貪食細胞は、染色体再構成された染色体の不存在により特徴付けることができる。これらの特徴は、従来の細胞遺伝学分析(Gバンド解析)を使用した核型分析によって決定することができる。本発明の貪食細胞の腫瘍形成性を評価する試験では、免疫無防備状態にしたhuPAPマウスへの我々の細胞の移植は、目視検査で腫瘍を示さなかったことが見出された。従って、本発明のヒト貪食細胞は、実施例5に記載のように、免疫無防備状態にしたhuPAPマウスに移植した時に腫瘍を形成しないことにより特徴付けることができる。
【0097】
好ましい本発明のヒト貪食細胞は、MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルが少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されている細胞である。本発明者らは、ヒト細胞中のMAFB及びMAF遺伝子発現の阻害は、マウス細胞よりも驚くほど困難であることを見出したが、その理由の一部は、二重欠陥細胞に対する遺伝学的アプローチがヒト細胞の選択肢としては採用できないからである。CRISPR/Cas9ベースでのアプローチにおける遺伝子当り1つのガイドRNAの使用は、過去に他の遺伝子の遺伝子発現を不活性化する多くの成功例を提供しているが(例えばChuらの文献(2016))、CRISPR/Cas9アプローチでMAFB遺伝子及びMAF遺伝子のそれぞれに1つのガイドRNAを使用して小さな欠失を作成することによってMAFB遺伝子及びMAF遺伝子の両方を非機能化させる幾つかの試みでは、インビトロで増殖が観察される細胞は得られなかった。驚くべきことに、遺伝子当り2つのガイドRNAの使用によって少なくとも50塩基対の大きな欠失を発生させ、増殖する貪食細胞を提供することに成功した。これらの細胞は、非腫瘍形成性であるという追加的な利点も有した。MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子であることが好ましい。或いはMAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子であることが好ましい。或いはMAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子であることが好ましい。更なる遺伝子に削除がある場合、マクロファージ機能は損なわれる可能性があり、又は、人工万能性幹細胞のマクロファージへの分化が不可能となるかもしれない。例えば、Buchrieserらは、転写因子RUNX1又はSPI1の欠失を有する人工万能性幹細胞は、iPS細胞由来のマクロファージへ分化できないことを示した。
【0098】
好ましい本発明のヒト貪食細胞は又、欠失の性質及びサイズにより特徴付けることもできる。例えば、全ての欠失はMAFB及びMAF遺伝子のエクソン部分にあっても良い。例えば、欠失は、それぞれ50塩基対を超え、例えばそれぞれ少なくとも100塩基対、又はそれぞれ少なくとも250塩基対でも良い。例えば、MAFB及びMAF遺伝子の又はそれら遺伝子内の欠失は、それぞれ100塩基対~10,000塩基対、例えばそれぞれ500塩基対~3,000塩基対、特に700塩基対~2,000塩基対でも良い。本発明のヒト貪食細胞は、1以上の、例えば全ての、これら欠失を示し得る。
【0099】
好ましい本発明のヒト貪食細胞は又、特定の染色体中の欠失位置により特徴付けることもできる。例えば、MAFB欠失は、好ましくはヒト22番染色体上40685000~40690000、例えば40685200~40689800、例えば40685400~40689600、例えば40685600~40689400、そして特に40685700~40689300の領域内である。例えば、MAF欠失は、好ましくはヒト16番染色体上79593000~79602000、例えば79593200~79601500、例えば79593400~79601100、そして特に79593600~79600900の領域内である。
【0100】
本発明のヒト貪食細胞は、細胞操作により調製されてもよい。本発明の貪食細胞が由来する細胞は、ヒトマクロファージに発達する前駆細胞である細胞に由来しても、その前駆細胞でもよく、例えば、iPS細胞;血液単球;臍帯血由来の、単球、単芽球、骨髄系又はCD34+多能性前駆細胞;骨髄由来の単球、単芽球、骨髄系又はCD34+多能性前駆細胞;成人血液由来の動員された単芽球、骨髄系又はCD34+多能性前駆細胞;及び、髄外造血由来の単球、単芽球、骨髄系又はCD34+前駆細胞、からなる群から選択される細胞でもよい。本発明のヒト貪食細胞のコレクションに含まれるヒト貪食細胞は又、マクロファージに由来、特に肺胞マクロファージ又は脂肪組織由来のマクロファージ等、比較的容易に入手可能なマクロファージに由来してもよい。
【0101】
ヒト人工万能性幹細胞の作成は、現在当分野で充分に確立されている。例えば、Isogaiらの文献(2018)は、ヒト血液単球からのiPS細胞の作成を記載している。Fusaki N.らの文献(2009)は、改変したセンダイウイルスでのヒトiPS細胞株の産生を記載している。特に、ヒト人工万能性幹細胞をマクロファージ分化の出発材料として使用する場合、MAF及びMAFBが、両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子であることが好ましい。或いは、MAF及びMAFBが両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子であることが好ましい。或いは、MAF及びMAFBが、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子であることが好ましい。更なる遺伝子に削除がある場合、マクロファージ機能が損なわれるか、又は、人工万能性幹細胞のマクロファージへの分化が不可能となるかもしれない。
【0102】
MafB及びcMaf遺伝子欠失のためのヒト単核食細胞は又、ヒト初代血液単球から、白血球のアフェレーシス及びエルトリエーションにより得ることができ、又は培養条件が当分野で周知の単球由来マクロファージから得ることもできる。ヒトマクロファージは又、気管支肺胞洗浄から得ることも、臍帯血から得られたCD34+造血幹細胞及び前駆細胞、末梢血又は骨髄から動員された幹細胞を、当分野で周知の分化プロトコルを用いて分化させることにより得ることもできる。
【0103】
Cas9及びgRNAは、当分野で周知の、公的に販売されているDNA発現プラスミド(例えば、Santa Cruz社Sc-418922、https://www.scbt.com/de/p/control-crispr-cas9-plasmid)により発現できる。DNA発現プラスミドは、当分野で周知のエレクトロポレーション又は脂質ベースのトランスフェクションプロトコルによって、ヒト単核食細胞標的細胞内に導入できる。Cas9及びgRNAは又、エレクトロポレーションによってリボ核/タンパク質複合体として標的細胞内に導入できる。Cas9/gRNAを介した遺伝子編集が、そのような方法を用いて単核食細胞で実証されており(Zhangらの文献(2020); Wangらの文献(2018))、マクロファージに分化するヒトCD34+造血幹細胞及び前駆細胞で実証されている(Scharenbergらの文献(2020))。MafB遺伝子及びcMaf遺伝子は又、操作される部位を標的とするリコンビナーゼを使用して削除可能であり(Lansingらの文献(2020); Karpinskiらの文献(2016))、これは、当分野で公知の方法、例えばタンパク質、コードmRNA、又はDNA発現プラスミドのエレクトロポレーションによって導入可能であり、単核食細胞内の遺伝子編集のために使用されている(Shiらの文献(2018))。
【0104】
Gonzalez F.らの文献(2014)は、AAVS1遺伝子座へのドキシサイクリン誘導性Cas9発現カセットの導入に基づく、ヒト万能性幹細胞の迅速で、多重化可能で、かつ誘導性ゲノム編集のためのiCRISPRプラットフォームを記載している。この戦略は、誘導性Cas9発現カセットを、多種多様な、自己作成した又は公的に入手可能なヒトiPS細胞株に導入するために使用できる。このように操作した細胞株は次に、MAF及びMAFBをターゲッティングするために使用できる。
【0105】
従って本発明は又、増殖するヒト貪食細胞の作成方法に関し、ここで、該細胞は非腫瘍形成性であり、該方法は、
(a)ヒト貪食細胞の(a1)ヒト22番染色体上40685000~40690000の領域内及び(a2)ヒト16番染色体上79593000~79602000の領域内それぞれに2つの二本鎖切断を生じさせること、並びに、
(b)MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルに欠失を有する細胞を選択すること、を含む。
【0106】
本方法は、好ましくは(c)増殖性細胞を選択する工程、を含む。
【0107】
好ましい二本鎖切断の標的位置は、ヒト貪食細胞のヒト22番染色体上40685700~40689300の領域内、及びヒト16番染色体上79593600~79600900の領域内である。
【0108】
前記のように、二本鎖切断は、通常、少なくとも4つのガイドRNAと組み合せた部位特異的エンドヌクレアーゼ又はリコンビナーゼ、例えばCas-9により生じ、ここで少なくとも4つのガイドRNAの少なくとも2つは22番染色体上のMAFB遺伝子座を標的とし、及び、少なくとも4つのガイドRNAの少なくとも2つは16番染色体上のMAF遺伝子座を標的とする。
【0109】
好ましくは、工程(a)のための標的細胞として使用されるヒト貪食細胞は、iPS細胞、単球、又はマクロファージであり、特にヒト貪食細胞は、血液単球;臍帯血由来の、単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;骨髄由来の単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;成人血液由来の動員された単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;髄外造血由来の単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+前駆細胞;肺胞マクロファージ;並びに脂肪組織マクロファージからなる群から選択される。工程(a)の標的細胞のための好ましい1例は、人工万能性幹細胞である。
【0110】
MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルに欠失を有する細胞を選択した後、それらを通常は適切な培地内で、例えばM-CSFの存在下で培養する。培養条件の例は、実施例3に記載する。
【0111】
幾つかの本発明の態様は、細胞の文脈での細胞のコレクション、例えば細胞培養においてよく記載される。従って別の実施態様では、本発明は、ヒト貪食細胞のコレクションに関し、該細胞は非腫瘍形成性であり、適切な培養条件下で細胞数が少なくとも4倍増加することができる。このような細胞のコレクションは、下記で「本発明のヒト貪食細胞のコレクション」と称されることもある。本発明のヒト貪食細胞のコレクションは、好ましくは多数の細胞のコレクションであり、例えば細胞数は少なくとも1,000、少なくとも10,000、又は少なくとも100,000である。
【0112】
本発明のヒト貪食細胞のコレクションは、適切な培養条件下で、細胞数が少なくとも4倍、例えば少なくとも10倍、少なくとも15倍、又は更に少なくとも20倍増加できるものとして記載できる。本発明のヒト貪食細胞のコレクションは、適切な培養条件下で、細胞数が好ましくは4倍~100倍、例えば10倍~80倍、例えば15倍~60倍増加できるものとして記載できる。細胞数の増加は、最終分化段階で観察された細胞数の増加と一致する。
【0113】
細胞数の増加は、初期胚体形成用の投入に使用された細胞数と比較して更に上昇し、即ち、投入iPS細胞よりも細胞数が20倍~10,000倍、例えば50倍~5,000倍、例えば100倍~3,000倍細胞数が増加する。
【0114】
本発明のヒト貪食細胞のコレクションは又、該コレクションに含まれる細胞の種類により特徴付けられてもよい。従って本発明は又、本発明のヒト貪食細胞のコレクションに関し、該貪食細胞は、骨髄系細胞、及び特にマクロファージ、単球、又は樹状細胞等のプロフェッショナル貪食細胞である。
【0115】
本発明のヒト貪食細胞のコレクションは、分化後の段階であること、及び/又は、例えばCD45、CD64、CD11b、CD33、CD206、及びCD14等の機能的マクロファージを示す表面マーカーを発現することにより特徴付けられてもよい。本発明のヒト貪食細胞のコレクションに含まれる細胞の分化後の段階の更なる徴候は、例えばタンパク質CD34等の前駆細胞の表面マーカーが、該コレクションに含まれるヒト貪食細胞表面で検出されないことである。
【0116】
本発明のヒト貪食細胞のコレクションは、その機能的特徴により特徴付けられるヒト貪食細胞を含むことにより特徴付けられることもできる。例えば、コレクションに含まれるヒト貪食細胞は、貪食能があることにより特徴付けることができる。例えば、コレクションに含まれるヒト貪食細胞は、活性化されると活性酸素種の産生能があることにより特徴付けることができる。例えば、コレクションに含まれるヒト貪食細胞は、そのリソソーム内で検出できるプロテアーゼ活性により特徴付けることができる。例えば、コレクションに含まれるヒト貪食細胞は、脂質取り込み能により特徴付けることができる。本発明のヒト貪食細胞は、1以上の、例えば全ての、これら機能的特徴を示すことができる。
【0117】
本発明の細胞のコレクションに含まれるヒト貪食細胞は、1以上の、例えば全ての、これら機能的特徴を示すことができる。
【0118】
本発明のヒト貪食細胞のコレクションは、形態的特徴付け可能なヒト貪食細胞を含むことにより特徴付けられてもよい。例えば、コレクションに含まれるヒト貪食細胞は、顕微鏡下で大きな空胞化細胞として現れることにより特徴付けられてもよい。例えば、コレクションに含まれるヒト貪食細胞は、接着性形態を有する細胞として現れることにより特徴付けられてもよい。例えば、コレクションに含まれるヒト貪食細胞は、膜状仮足及び/又は糸状仮足を特徴とする細胞として現れることにより特徴付けられてもよい。コレクションに含まれるヒト貪食細胞は、1以上の、例えば全ての、これら形態的特徴により特徴付けることができる。
【0119】
本発明のヒト貪食細胞のコレクションに含まれるヒト貪食細胞は、その増殖能にも拘わらず、非腫瘍形成性である。例えば、本発明のヒト貪食細胞のコレクションは、46本の染色体のみからなる細胞により特徴付けることができる。例えば、コレクションは、染色体再構成された染色体を有する細胞の不存在により特徴付けることができる。これらの特徴は、例えば、コレクションに含まれる充分な数の細胞、例えば少なくとも30個の細胞、少なくとも40個の細胞、又は少なくとも50個の細胞の核型分析によって決定することができる。本発明のヒト貪食細胞のコレクションに含まれるヒト貪食細胞の腫瘍形成性を評価する試験では、免疫無防備状態にしたhuPAPマウスの肺中への少なくとも8×106個の細胞の気管内注入は、その動物の肺に視認可能な腫瘍の形成を生じなかったことを観察した。従って、本発明の本発明のヒト貪食細胞のコレクションは、免疫無防備状態にしたhuPAPマウスの肺に移植しても、4週間後に動物の肺を検査した時に腫瘍を形成しないことにより特徴付けることができる。
【0120】
本発明のヒト貪食細胞のコレクションに含まれるヒト貪食細胞は、好ましくはMAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルが少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されている細胞である。MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子であることが好ましい。或いはMAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子であることが好ましい。或いはMAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子であることが好ましい。更なる遺伝子に削除がある場合、マクロファージ機能は損なわれる可能性があり、又は、人工万能性幹細胞のマクロファージへの分化が不可能となるかもしれない。例えば、Buchrieserらは、転写因子RUNX1又は転写因子SPI1の欠失を有する人工万能性幹細胞は、iPS細胞由来のマクロファージへ分化できないことを示した。
【0121】
好ましい本発明のヒト貪食細胞のコレクションに含まれるヒト貪食細胞は又、欠失の性質及びサイズにより特徴付けることもできる。例えば、全ての欠失はMAFB及びMAF遺伝子のエクソン部分にあっても良い。例えば、欠失は、それぞれ50塩基対を超え、例えばそれぞれ少なくとも100塩基対、又はそれぞれ少なくとも250塩基対でも良い。例えば、MAFB及びMAF遺伝子内の欠失は、それぞれ100塩基対~10,000塩基対、例えばそれぞれ500塩基対~3,000塩基対でも良い。本発明のヒト貪食細胞のコレクションに含まれるヒト貪食細胞は、1以上の、例えば全ての、これら欠失を示し得る。
【0122】
好ましい本発明のヒト貪食細胞のコレクションに含まれるヒト貪食細胞は又、特定の染色体中の欠失位置により特徴付けることもできる。例えば、MAFB欠失は、好ましくはヒト22番染色体上40685000~40690000、例えば40685200~40689800、例えば40685400~40689600、例えば40685600~40689400、そして特に40685700~40689300の領域内である。例えば、MAF欠失は、好ましくはヒト16番染色体上79593000~79602000、例えば79593200~79601500、例えば79593400~79601100、そして特に79593600~79600900の領域内である。
【0123】
本発明のヒト貪食細胞のコレクションに含まれるヒト貪食細胞が由来する細胞は、ヒトマクロファージに発達する前駆細胞である細胞に由来しても、その前駆細胞でもよく、例えば、iPS細胞;血液単球;臍帯血由来の、単球、単芽球、骨髄系又はCD34+多能性前駆細胞;骨髄由来の単球、単芽球、骨髄系又はCD34+多能性前駆細胞;成人血液由来の動員された単芽球、骨髄系又はCD34+多能性前駆細胞;並びに、髄外造血由来の単球、単芽球、骨髄系又はCD34+前駆細胞、からなる群から選択される細胞でもよい。本発明のヒト貪食細胞のコレクションに含まれるヒト貪食細胞は又、マクロファージに由来、特に肺胞マクロファージ又は脂肪組織由来のマクロファージ等、比較的容易に入手可能なマクロファージに由来してもよい。
【0124】
本発明のヒト貪食細胞及び/又は本発明のヒト貪食細胞のコレクションは、例えば疾患治療における使用のための医薬等において使用でき、その疾患には、がん、免疫不全、慢性又は急性傷害、例えば中枢神経系傷害(例えば脊髄損傷)、虚血性脳卒中若しくは心筋梗塞等の急性傷害、肝線維症等の慢性傷害、創傷(例えば慢性創傷)、退行変性疾患、自己免疫疾患(例えば1型糖尿病、関節リウマチ、若しくは骨関節炎)、慢性炎症性疾患、アテローム性動脈硬化、多発性及び変形性関節症、骨粗鬆症、感染症(例えば、ウイルス若しくは細菌による感染)、並びに代謝性疾患が含まれる。
【0125】
本発明のヒト貪食細胞のコレクションは又、そのコレクション中で所望の細胞数が達成されるまで、適当な条件下で増殖できる。枯渇的増殖段階後に、このような増殖によって取得可能である、得られたヒト貪食細胞のコレクションは又、この得られた細胞のコレクションが依然として更に増殖可能であるか否かにかかわらず、例えば上記の疾患の治療のために、医薬として使用できる。
【0126】
特定の医療用途のために、本発明のヒト貪食細胞及び/又は本発明のヒト貪食細胞のコレクションに含まれるヒト貪食細胞は、更に改変されていてもよい。
【0127】
従って本発明は又、MAFB又はMAF以外の更なる遺伝子座で遺伝子改変されている本発明のヒト貪食細胞に関する。本発明は又、該コレクションに含まれたヒト貪食細胞がMAFB又はMAF以外の更なる遺伝子座で遺伝子改変されている本発明のヒト貪食細胞のコレクションに関する。本発明は又、該コレクションに含まれたヒト貪食細胞がMAFB又はMAF以外の更なる遺伝子座で遺伝子改変されている、本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションに関する。
【0128】
特に、同種他家のマクロファージが細胞治療に使用される場合、投与予定の患者内で惹起される免疫反応を低くするように、該同種他家のマクロファージを遺伝子改変しておくことが重要である。同種他家設定での免疫細胞の移植は、レシピエントの免疫系によるHLA不適合(主要及びマイナー)の認識を通して、治療用細胞拒絶のリスクを生じる。
【0129】
従って本発明は、前記本発明のヒト貪食細胞、及び/又は該本発明のヒト貪食細胞のコレクションに関し、該貪食細胞(複数可)は、主要組織適合性複合体(MHC)遺伝子の機能的発現を欠いている。WO2019/135879 A1には、機能的MHCの発現に欠陥のあるマクロファージ前駆体、及びそれらを得る方法が記載されている。WO2019/135879 A1は、参照により本明細書に組み込まれており、本発明は、特に、WO2019/135879 A1の請求項1~26に記載の細胞にも関し、その記載中、WO2019/135879 A1の特許請求の範囲に記載のマクロファージ又はマクロファージ前駆細胞に関する全ての言及は、「本発明のヒト貪食細胞」又は「本発明のヒト貪食細胞のコレクションに含まれるヒト貪食細胞」に置き換え、かつ「前駆細胞」又は「不死細胞株」に関する全ての言及は無視する。本発明の開示を提供するWO2019/135879 A1の文脈に従うと、WO2019/135879 A1の請求項1は、「MHC遺伝子の機能的発現を欠いている本発明のヒト貪食細胞、即ち、ヒト貪食細胞であって、該細胞は非腫瘍形成性であり、適切な培養条件下で少なくとも4個の孫細胞を生じることができるヒト貪食細胞、及び、本発明のヒト貪食細胞を更に具体的に記載している本明細書の全てのバリエーション、を開示していると理解されるであろう。
【0130】
例えば、本発明のヒト貪食細胞(複数可)は、1つ又は幾つかのHLA-I遺伝子(ヒトリンパ球抗原I)、例えばHLA-A、HLA-B、及び/又はHLA-Cを欠陥があってもよい。同様に、B2Mに欠陥がある同種他家の細胞は、免疫反応の惹起が低い。B2Mに欠陥がある場合、貪食細胞は好ましくはHLA-E、HLA-F、及びHLA-Gを発現する。
【0131】
本発明は又、キメラ抗原受容体を含む本発明のヒト貪食細胞に関する。本発明は又、本発明のヒト貪食細胞のコレクションに関し、該コレクションに含まれるヒト貪食細胞はキメラ抗原受容体を含む。本発明は又、本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションに関し、該コレクションに含まれるヒト貪食細胞はキメラ抗原受容体を含む。
【0132】
自家由来設定、即ち、該細胞が治療される対象者自身に由来する細胞の場合は、MHCの機能不活性化は不要である。従って、キメラ受容体を本発明の貪食細胞(複数可)及び/又は本発明のヒト貪食細胞のコレクションに含まれるヒト貪食細胞へ、直接的に導入可能である。上記と同様に、WO2019/135879 A1には、例えば請求項14~26には、マクロファージ又はキメラ受容体を含むマクロファージが詳述されている。本発明は、特に、WO2019/135879 A1の請求項14~26に記載の細胞にも関し、その記載中、WO2019/135879 A1の特許請求の範囲に記載のマクロファージ又はマクロファージ前駆細胞に関する全ての言及は、「本発明のヒト貪食細胞」又は「本発明のヒト貪食細胞のコレクションに含まれるヒト貪食細胞」に置き換え、かつ「前駆細胞」又は「不死細胞株」に関する全ての言及は無視し、かつ、該請求項1への言及は無視する。本発明の開示を提供するWO2019/135879 A1の文脈に従うと、WO2019/135879 A1の請求項14は、「キメラ受容体を含む細胞であって、該キメラ受容体は、細胞質ドメイン、膜貫通型ドメイン、及び細胞外ドメインを含み、該細胞質ドメインは、活性化された場合にマクロファージを極性化する受容体の細胞質部分を含み、該細胞質部分を含む野生型タンパク質は細胞外ドメインを含まず、該細胞は本発明のヒト貪食細胞、即ちヒト貪食細胞であり、該細胞は非腫瘍形成性であって、適切な培養条件下で少なくとも4個の孫細胞を生じることができる前記細胞、並びに、本発明のヒト貪食細胞を更に具体的に記載している本明細書の全てのバリエーション、を開示していると理解されるであろう。
【0133】
例えば、キメラ受容体の細胞質部分は、toll様受容体、骨髄細胞分化一次応答タンパク質(MYD88)(WO2019/135879 Aの配列番号19)、toll様受容体3(TLR3)(WO2019/135879 Aの配列番号l)、toll様受容体4(TLR4)(WO2019/135879 Aの配列番号3)、toll様受容体7(TLR7)(WO2019/135879 Aの配列番号7)、toll様受容体8(TLR8)(WO2019/135879 Aの配列番号9)、toll様受容体9(TLR9)(WO2019/135879 Aの配列番号11)、ミエリン及びリンパ球タンパク質(MAL)(WO2019/135879 Aの配列番号2l)、インターロイキン-l受容体関連キナーゼ 1(IRAK1)(WO2019/135879 Aの配列番号23)、低親和性免疫グロブリンγFc領域受容体III-A(FCGR3A)(WO2019/135879 Aの配列番号15)、低親和性免疫グロブリンγFc領域受容体Il-a(FCGR2A)(WO2019/135879 Aの配列番号13)、高親和性免疫グロブリンε受容体サブユニットγ(FCER1G)(WO2019/135879 Aの配列番号19)由来の細胞質ドメイン、又は、上記いずれかの細胞質ドメインと少なくとも90%配列同一性を有する配列由来の細胞質ドメインを含み得る。
【0134】
多数のヒト非腫瘍形成性貪食細胞、例えばマクロファージ、単球又は樹状細胞を含む組成物を提供することは、今まで困難であった。その理由は、これまで単離されてきたヒト貪食細胞、例えばマクロファージ、単球、又は樹状細胞は、エクスビボで増殖する可能性があるとしても、有意な可能性は全くなかったからである。このことは、例えば、遺伝子的に同一のマクロファージに依存する治療アプローチが、その患者から予め単離された前駆細胞の数に限られていたことを意味する。
【0135】
Nature Biotechnology, Vol.38, May 2020: 509-511で、E. Dolginは、CARマクロファージに基づく治療法の利点及び限界について論じている。CAR発現ヒトマクロファージは、ウイルスベクターによる非常に効率の良い形質導入によって産生できる一方、T細胞(容易に増殖し、CAR-T抗がん治療の成功の基盤となっている)とは異なり、単球由来のヒトマクロファージはエクスビボで増殖しない。このジレンマは、「つまり、基本的に投入量が収穫量である」及び「このことにより、開始する細胞数の点でハードルが課せられている」と説明されている。しかし、効率の良いCAR-M療法に必要なCAR改変マクロファージの数は、患者1人当たり少なくとも108~109個程度であり、そのため、非腫瘍形成性であるが増殖可能であるヒト貪食細胞を提供することは、そのような細胞に基づく療法、例えばCARマクロファージに基づく療法に必要な細胞数を得ることを、非常に容易にするであろう。
【0136】
従って本発明は又、前記のような本発明のヒト貪食細胞を含む組成物に関する。本発明のヒト貪食細胞は、例えば、107~1012個、例えば108~1011個、例えば5×108~5×1010個の本発明のヒト貪食細胞を含む組成物の調製を可能とする。このような高い細胞数を有する組成物を生成する能力は、本発明のヒト貪食細胞を含む医薬組成物の調製を可能とする。
【0137】
従って本発明は又、本発明のヒト貪食細胞を含む医薬組成物に関し、例えば107~1012個の本発明のヒト貪食細胞、例えば108~1011、例えば、5×108~5×1010個の本発明のヒト貪食細胞を含む医薬組成物に関する。本発明は又、本発明のヒト貪食細胞のコレクションを含む医薬組成物に関する。本発明は又、本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションを含む医薬組成物に関し、例えば107~1012個のヒト貪食細胞、例えば108~1011個、例えば5×108~5×1010個のヒト貪食細胞を含む医薬組成物に関する。
【0138】
医薬組成物中の正確な細胞数は、目的の療法に依存するであろう。例えばCAR-マクロファージ(macrophophage)ベースの幾つかの治療プロトコルは、106~108個のCARマクロファージを使用しているが、より多数の細胞数の組成物を作成することができれば、より多数のCARマクロファージ、例えば107~109個のCARマクロファージ、又は108~1010個又は108~1011個のCARマクロファージを使用する治療プロトコルが可能となる。
【0139】
本発明の医薬組成物は、治療有効量のヒト貪食細胞、及び薬学的に許容されるキャリア又は賦形剤を含む。前記細胞の「治療有効量」は、該細胞の、任意の医学的治療に適用可能な、合理的な利益/リスク比で疾患又は障害を治療するのに充分な量を意味する。しかしながら、本発明の組成物の1日当たりの総使用量は、賢明な医学的判断の範囲内で主治医が決定し得ることが理解されよう。任意の特定の患者に対する特定の治療的有効用量レベルは、治療される障害及びその障害の重症度;使用される特定の化合物の活性;使用される特定の組成物、患者の年齢、体重、健康全般、性別、及び食事;使用される特定化合物の投与回数、投与経路、及び排泄速度;治療期間;使用される特定の細胞と組み合せて又は同時に使用される薬物;並びに、医学技術において周知の同様の要因を含む様々な要因に依存する。
【0140】
医薬組成物は、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝剤;グルコース、マンノース、スクロース又はデキストラン、マンニトール等の炭水化物;タンパク質;ポリペプチド又はグリシン等のアミノ酸;抗酸化剤;EDTA又はグルタチオン等のキレート剤;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);及び保存剤を含み得る。本発明の医薬組成物は、好ましくは、気管内、腹腔内、又は静脈内での投与用に製剤化される。本明細書に記載の細胞組成物は又、これらの投与量で複数回投与することもできる。免疫療法における注入技術は一般に公知である(例えば、Rosenbergらの文献、New Eng. J. of Med. 319:1676, 1988)。医師は、疾患の徴候について患者をモニタリングし、それに応じて治療を調整することにより、任意の特定の患者に対する最適な投与量及び治療レジメンを容易に決定することができる。
【0141】
本発明により、ヒト貪食細胞、例えばヒト単球、ヒトマクロファージ、及びヒト樹状細胞が、エクスビボで有効に作成でき、かつエクスビボ作成される多数の単球、マクロファージ、及び樹状細胞を得る能力は、ヒト療法におけるそれらの使用の新たな機会を開いた。従って本発明は又、医薬としての、前記本発明のヒト貪食細胞、及び/又は、本発明のヒト貪食細胞を含む前記医薬組成物、の使用に関する。本発明は又、医薬としての、前記本発明のヒト貪食細胞のコレクション、及び/又は、本発明のヒト貪食細胞のコレクションを含む前記医薬組成物の使用、に関する。本発明は又、医薬としての、本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションの、使用に関する。
【0142】
単核貪食細胞系(単球、マクロファージ、及び樹状細胞)とは、単球として血液中を循環し、樹状細胞として末梢及びリンパ器官で抗原提示機能を果たし、マクロファージとして組織に定着する免疫細胞集団を表す。特にマクロファージは全器官内に存在し、病原体制御だけでなくその宿主内の恒常性維持機能を担っている。この系は基本的に、組織傷害又は代謝障害が持続する全ての疾患過程に関与する。マクロファージ及び単球は、急性炎症及び慢性炎症を媒介し、貪食及び繊維素溶解作用により死細胞及びフィブリンを除去して修復を促進し、血管成長(血管新生)を誘導し、線維芽細胞の浸潤及び細胞外マトリックス生成を調節する。又、単核貪食細胞系は、例えば、ミクログリアによる軸索刈り込み、肺胞マクロファージによるサーファクタント除去、及び破骨細胞による骨中のミネラル物質の再吸収等、細胞性物質及び細胞外物質を貪食することによって、組織の完全性、構造、機能を維持する。更に又、単核貪食細胞系は、それぞれの適所において、パラクリン作用又は直接的な相互作用によって、様々な組織特異的な成体幹細胞及び前駆細胞に対する栄養因子機能及び調節因子機能を通じて、修復及び再生においても重要な役割を果たしている。単核貪食細胞系は、発熱を含む宿主の全身反応を動員するメディエーターを産生し、ストレスホルモンやその他のホルモンを放出・異化し、他の細胞の代謝活性を高め、組織及び毛細血管への血流の透過性に影響を与える。マクロファージ自身は、その機能においてかなり不均一性を示し、多くの場合、特定の宿主応答の進展に応じて、ある性質、例えばタンパク質分解性又は炎症促進性サイトカイン及び抗炎症性サイトカインの産生性等の、活性化因子並びに阻害因子を発現する。従って、本発明のヒト貪食細胞は、プロフェッショナルヒト貪食細胞の投与が有益であろう疾患罹患ヒト対象の治療方法に有用である。プロフェッショナルヒト貪食細胞の投与が有益な疾患は、例えば、プロフェッショナルヒト貪食細胞の欠乏に起因する疾患、又は特定の有益な食細胞の機能が未発達である、阻害されている、若しくは不活性化されている疾患、又は特定の望ましくない食細胞の機能が過剰に発達している、増加している、若しくは活性化されている疾患である。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、これは、機構的には、病理学的な食細胞集団の競合的な置換によるか、又は移植された食細胞集団の代償的で有利な機能によるものかもしれない。
【0143】
治療方法は、該対象へ、前記のような本発明のヒト貪食細胞及び/又は前記のような本発明のヒト貪食細胞を含む医薬組成物を投与することを含む。同様に、本発明のヒト貪食細胞のコレクションは、プロフェッショナルヒト貪食細胞の投与が有益であろう疾患に罹患したヒト対象の治療方法に有用であり、該方法は、該対象へ、前記のような本発明のヒト貪食細胞のコレクション及び/又は前記のような本発明のヒト貪食細胞のコレクションを含む前記医薬組成物を投与することを含む。同様に、本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションは、プロフェッショナルヒト貪食細胞の投与が有益な疾患に罹患したヒト対象の治療方法に有用であり、該方法は、該対象へ、前記のような本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクション、及び/又は前記のような本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションを含む医薬組成物を投与することを含む。
【0144】
これら治療における細胞数は、目的とする治療に充分であるように選択するべきである。
【0145】
更なる本発明の態様は、疾患治療における使用のための、前記ヒト貪食細胞、又は、前記本発明のヒト貪食細胞を含む医薬組成物であって、該疾患は、がん、免疫不全、慢性又は急性傷害、例えば中枢神経系傷害(例えば脊髄損傷)、急性傷害(例えば虚血性脳卒中、肝臓傷害若しくは心筋梗塞)、創傷(例えば慢性創傷)、退行変性疾患、自己免疫疾患(例えば1型糖尿病、クローン病、関節リウマチ、若しくは骨関節炎)、急性炎症性疾患(例えば、急性呼吸窮迫症候群(ARDS))、慢性炎症性疾患(例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD))、線維化疾患(例えば、肺線維症若しくは肝硬変)、アテローム性動脈硬化、多発性及び変形性関節症、骨粗鬆症、感染症(例えば、ウイルス若しくは細菌による感染)、並びに代謝性疾患からなる群から選択される。本発明は又、これらの治療における使用のための、本発明のヒト貪食細胞のコレクション及び/又は本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションに関する。
【0146】
免疫不全は、その起源が獲得的なもの若しくは遺伝子的なもの、又は放射線治療/化学療法の結果を含む。又、本発明は、抗原特異的がん免疫療法の開発可能性を提供する。
【0147】
前記のような本発明のヒト貪食細胞及び/又は前記のような本発明のヒト貪食細胞を含む医薬組成物は、特に本発明のヒト貪食細胞がマクロファージである場合は、骨髄性血球減少症罹患患者の治療に有用であり得る。例えば、シクロホスファミド(CP)等の抗がん剤化学療法を受けている患者は、血中白血球減少に伴って、組織マクロファージ集団のサイズの強い減少を示す。従って、これら患者は、特に、例えばグラム陰性菌肺炎等の日和見感染症にかかりやすい。このような日和見感染症は、化学療法を受けているがん患者の一般的な死因である(Santosuosso Mらの文献、2002)。従って、前記のような本発明のヒト貪食細胞及び/又は前記のような本発明のヒト貪食細胞を含む医薬組成物は、特に本発明のヒト貪食細胞がマクロファージである場合は、化学療法を受けている対象の治療に有用であり得る。当業者は、本発明のヒト貪食細胞のコレクション及び/又は本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションも又、この治療に有用であろうことを認識するであろう。
【0148】
マクロファージは細胞間接触している前駆細胞のアポトーシスを阻害し得るだけでなく、組織修復の細胞生着に効率的な間質性支持体として働きうる(例えば文献WO2005014016参照)。特にマクロファージは筋形成前駆細胞のアポトーシスを阻害し得る。特定のマクロファージは又、例えば筋損傷中に、幹細胞に修復過程に関与するための合図を直接的に与えることによって、その幹細胞が活性化する適所を提供し得る(Ratnayake Dらの文献、(2021), Nature 592(7849):281-287)。従って、上記のような本発明のヒト貪食細胞、又は上記のような本発明のヒト貪食細胞を含む医薬組成物は、特に本発明のヒト貪食細胞がマクロファージである場合、疾患又は傷害の結果であってもよい骨若しくは筋肉の病変等の病変の治療に有用であり得る。病変は、例えば骨折又は筋肉断裂である。前記病変は又、心臓病変又は心臓傷害であり得る。特に、それは例えば、心筋梗塞、心不全、冠動脈血栓、拡張型心筋症、又は、遺伝子欠陥に続いて発生する若しくはその結果である心筋細胞機能不全のいずれかであり得る。従って、前記のような本発明のヒト貪食細胞、又は前記のような本発明のヒト貪食細胞を含む医薬組成物は、特に本発明のヒト貪食細胞がマクロファージである場合は、浸潤性心筋症、又はアントラサイクリン毒性による心筋症、又はHIV感染に続発する心筋症等の、治療法の発達にも拘わらず予後不良な急性心不全の治療に有用であり得る。当業者は、本発明のヒト貪食細胞のコレクション及び/又は本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションも又、この治療に有用であろうことを認識するであろう。
【0149】
前記のような本発明のヒト貪食細胞及び/又は前記のような本発明のヒト貪食細胞を含む医薬組成物は、特に本発明のヒト貪食細胞がマクロファージである場合は又、脊髄損傷の治療に有用であり得る。完全脊髄損傷(SCI)の治療法は、実際には、皮膚組織との共培養によって創傷治癒表現型へと養成されたマクロファージの自家由来移植片の投与から成るかもしれない(Schwartz Mらの文献、2006)。当業者は、本発明のヒト貪食細胞のコレクション及び/又は本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションも又、この治療に有用であろうことを認識するであろう。
【0150】
マクロファージは創傷治癒のために必要であり、従って、前記のような本発明のヒト貪食細胞及び/又は前記のような本発明のヒト貪食細胞を含む医薬組成物は、特に本発明のヒト貪食細胞がマクロファージである場合は、創傷治癒の増強及び/又は組織損傷の修復に有用であろう。当業者は、本発明のヒト貪食細胞のコレクション及び/又は本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションも又、この治療に有用であろうことを認識するであろう。創傷治癒プロセスは、実際は3段階を有する。炎症期中は、多数の酵素及びサイトカインがマクロファージにより分泌される。これらには、創傷の残骸を除去するコラゲナーゼ、線維芽細胞を刺激し(コラーゲンを生成させ)血管新生を促進するインターロイキン及び腫瘍壊死因子(TNF)、角化細胞を刺激するトランスフォーミング増殖因子α(TGFα)が含まれる。この段階は、組織再構築のプロセス、即ち増殖期への移行を示す。
【0151】
マクロファージは、慢性炎症性及び自己免疫疾患において主要な役割を有し、通常はこれらの病状に特異的な方法で活性化又は過剰活性化される。本発明のヒト貪食細胞は増殖してもよく、得られたヒト貪食細胞は、その段階では増殖性を維持していてもいなくてもよく、望ましいマクロファージ表現型を示すために、遺伝子組換え、薬理学的処理、又はサイトカイン若しくは増殖因子等の生物活性分子によって代替的に活性化又は刺激してから、対象に導入して望ましくない活性を有するマクロファージと競合してそれに取って代わらせることができる。当業者は、本発明のヒト貪食細胞のコレクション及び/又は本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションも又、この治療に有用であろうことを認識するであろう。
【0152】
がんは、ほとんどの先進国で死因の第2位であり、フランス及び米国ではそれぞれ毎年約15万人及び約55万人の死因を占める。半数を超えるがん症例は治癒が可能である事実にもかかわらず、手術及び放射線治療で治すことのできない平均的ながん患者は、他のどんな治療によっても治癒する可能性が低い。免疫系ががん監視や腫瘍予防において役割を果たしていることは、以前から仮説として唱えられており、現在ではそのように認識されている。
【0153】
例えば、活性化されたマクロファージはインビトロで腫瘍細胞を貪食及び殺傷し、インビボで抗腫瘍活性を有することが示されている。更に又、樹状細胞(DC)は、ナイーブT細胞を、腫瘍再発に対する長期間の保護を提供できるエフェクター細胞へと誘導する。そのため、これら2種類の細胞に基づく細胞療法は、がん患者を治療するための有望な手段であることが明らかになった。従って、前記のような本発明のヒト貪食細胞及び/又は前記のような本発明のヒト貪食細胞を含む医薬組成物は、特に本発明のヒト貪食細胞がマクロファージ又は樹状細胞である場合は、がん疾患の治療に有用であろう。当業者は、本発明のヒト貪食細胞のコレクション及び/又は本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションも又、この治療に有用であろうことを認識するであろう。
【0154】
E. Dolginの文献(2020)では、がんマウスモデルから得られたポジティブな結果に基づく、固形腫瘍の治療のためのCAR発現貪食細胞、特にCAR発現マクロファージの治療的有用性が議論されている。従って、本発明は又、がん治療のための、及び特に固形腫瘍の治療のための、本発明のヒト貪食細胞のコレクション及び/又は本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションであって、該貪食細胞は、キメラ抗原受容体を含むものに関する。
【0155】
樹状細胞は、細菌抽出物及びインターフェロンγでの短期間処理を経て、成熟する(成熟DC)ように誘導し得る。更に又、腫瘍治療用ワクチン接種は、動物モデルにおいて長期的防御を提供することが示された。腫瘍(又は腫瘍細胞株)ライセートは、CD8 T細胞応答及びCD4 T細胞応答の両方を誘発する複数の腫瘍抗原の魅力的な供給源を構成する。このような腫瘍抗原での樹状細胞のパルスは、がん治療のためのツールを示す。
【0156】
従って、前記のような本発明のヒト貪食細胞及び/又は前記のような本発明のヒト貪食細胞を含む医薬組成物は、特に本発明のヒト貪食細胞が樹状細胞である場合は、マクロファージ及び/又は樹状細胞を含むがん治療用医薬組成物を製造するために有用であり得る。当業者は、本発明のヒト貪食細胞のコレクション及び/又は本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションも又、この治療に有用であろうことを認識するであろう。
【0157】
がん治療においては、例えば樹状細胞を腫瘍抗原でパルスし、例えば前記のように、確立された腫瘍を治療するため又は腫瘍形成を予防するために患者に投与することができる。
【0158】
別の実施態様では、本発明のヒト貪食細胞由来の樹状細胞をがん細胞と融合させることができ、その結果融合された樹状細胞を患者に投与して、抗原提示細胞として作用させて、その抗原を免疫系に提示させることができる。樹状細胞は、当分野で公知の任意の方法によって、他の細胞、例えばがん細胞と融合させることができる。例えば、樹状細胞をがん細胞と融合させる方法、並びにそれらを動物に投与する方法は、Gongらの文献(Nat. Med. 3(5):558-561(1997))及びGuoらの文献(Science 263:518-520(1994))に記載されている。当業者は、本発明のヒト貪食細胞のコレクション及び/又は本発明のヒト貪食細胞のコレクションの増殖により取得可能なヒト貪食細胞のコレクションも又、この治療に有用であろうことを認識するであろう。
【0159】
樹状細胞に病原体(ウイルス、細菌、寄生虫)抗原をロードすることにより、同様のワクチン接種プロトコルを感染症に適用することができる。
【0160】
本発明は又、ヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞であって、MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルが、少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されているものに関する。本発明者らは驚くべきことに、MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルが欠失により非機能化されている幹細胞は、それらがヒトプロフェッショナル食細胞へ分化可能であるために、プロフェッショナル貪食細胞の作成における、そして特にマクロファージの作成における、有用な中間体であることを見出した。好ましくは、本発明のヒト人工万能性幹細胞、又はヒト胚性幹細胞における全ての欠失はエクソンDNAを含む。
【0161】
特に欠失は、それぞれ少なくとも100塩基対、例えばそれぞれ少なくとも250塩基対である。
【0162】
例えば、欠失は、それぞれ100塩基対~10,000塩基対、例えば500塩基対~3,000塩基対、又は600塩基対~1,500塩基対である。本発明のヒト人工万能性幹細胞、又はヒト胚性幹細胞内の、MAFB欠失及び/又はMAF欠失の好ましい位置は、本発明のヒト貪食細胞のために上述した通りである。
【0163】
MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子であることが好ましい。或いはMAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子である。或いはMAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子である。
【0164】
本発明は又、本発明のヒト貪食細胞の作成のための、特にヒトマクロファージを作成するための、ヒト人工万能性幹細胞、又はヒト胚性幹細胞の使用に関する。
【0165】
本発明は又、本発明のヒトマクロファージを含む組成物の作成するための、本発明のヒト人工万能性幹細胞、又はヒト胚性幹細胞の使用に関する。
【0166】
本発明は更に、次の実施態様に関する。
1. 非腫瘍形成性であり、エクスビボで適切な培養条件下で少なくとも4個の孫細胞を生じることができるヒト貪食細胞。
2. 前記貪食細胞は、プロフェッショナル貪食細胞である、条項1に記載のヒト貪食細胞。
3. 前記貪食細胞は、骨髄系細胞である、条項1又は2に記載のヒト貪食細胞。
4. 前記貪食細胞は、マクロファージ、単球、又は樹状細胞である、条項3に記載のヒト貪食細胞。
5. 前記貪食細胞は、CD45、CD64、CD11b、CD33、CD206、及びCD14からなる群から選択される表面タンパク質の発現により特徴付けられる、条項1~4いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
6. 前記貪食細胞は、その表面上にタンパク質CD34が検出されないことを特徴とする、条項1~5いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
7. 前記貪食細胞は、その貪食実施能力によって、活性化されると活性酸素種を産生するその能力によって、そのリソソーム内のプロテアーゼ活性によって、及び/又は、脂質取り込み能によって特徴付けられる、条項1~6いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
8. 前記貪食細胞は、大きな空胞化細胞、並びに/又は、接着性形態を有する細胞、並びに/又は、膜状仮足及び/若しくは糸状仮足を特徴とする細胞である、条項1~7いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
9. 前記貪食細胞は、46本の染色体を有する、条項1~8いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
10. 前記貪食細胞は、染色体再構成を伴う染色体を含まない、条項9に記載のヒト貪食細胞。
11. 前記貪食細胞は、分化した細胞である、条項1~10いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
12. 前記貪食細胞は、huPAPマウスの肺に移植しても腫瘍を形成しない、条項1~11いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
13. MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルが少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されている、条項1~11いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
14. 全ての欠失はエクソンDNAを含む、条項13に記載のヒト貪食細胞。
15. 前記欠失は、それぞれ少なくとも100塩基対である、条項13~14いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
16. 前記欠失は、それぞれ少なくとも250塩基対である、条項13~15いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
17. 前記欠失は、それぞれ100塩基対~10,000塩基対である、条項13~16いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
18. 前記欠失は、500塩基対~3,000塩基対、例えば600塩基対~1,500塩基対である、条項13~17いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
19. 前記MAFB欠失は、ヒト22番染色体上40685000~40690000領域内である、条項13~18いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
20. 前記MAFB欠失は、ヒト22番染色体上40685200~40689800、例えば40685400~40689600、例えば40685600~40689400、そして特に40685700~40689300領域内である、条項19に記載のヒト貪食細胞。
21. 前記MAF欠失は、ヒト16番染色体上79593000~79602000領域内である、条項13~20いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
22. 前記MAF欠失は、ヒト16番染色体上79593200~79601500、例えば79593400~79601100、そして特に79593600~79600900領域内である、条項21に記載のヒト貪食細胞。
23. MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子である、条項13~22いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
24. MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子である、条項13~23いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
25. MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子である、条項13~24いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
26. 前記貪食細胞は、iPS細胞、単球、又はマクロファージに由来する条項1~25いずれか1項に記載のヒト貪食細胞であって、特に、血液単球;臍帯血由来の、単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;骨髄由来の単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;成人血液由来の動員された単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;髄外造血由来の単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+前駆細胞;肺胞マクロファージ;並びに脂肪組織マクロファージからなる群から選択される、前記ヒト貪食細胞。
27. 前記貪食細胞は、iPS細胞に由来する、条項1~25いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
28. 前記貪食細胞は、MAFB又はMAF以外の更なる遺伝子座で遺伝子改変されている、条項1~27いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
29. 前記貪食細胞は、1つ又は幾つかのHLA-I遺伝子(ヒトリンパ球抗原I)、例えばHLA-A、HLA-B、及び/又はHLA-C欠乏の欠陥がある、条項1~23及び26~28いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
30. 前記貪食細胞はB2Mに欠陥がある、条項1~23及び26~29いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
31. 前記貪食細胞は、HLA-E、HLA-F、及びHLA-Gを発現する、条項30に記載のヒト貪食細胞。
32. 前記貪食細胞は、キメラ抗原受容体を含む、条項1~31いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
33. 条項1~32いずれか1項に記載のヒト貪食細胞を含む組成物。
34. 107~1012個の、条項1~28いずれか1項に記載のヒト貪食細胞を含む、条項33に記載の組成物。
35. 医薬組成物である、条項33に記載の組成物。
36. 条項1~28いずれか1項に記載のヒト貪食細胞を、107~1011個含む、条項35に記載の医薬組成物。
37. 医薬としての使用のための、条項1~32いずれか1項に記載のヒト貪食細胞、及び/又は、条項33~36いずれか1項に記載の組成物。
38. 疾患治療における使用のための条項1~32いずれか1項に記載のヒト貪食細胞、及び/又は、条項33~36いずれか1項に記載の組成物であって、該疾患は、がん、免疫不全、慢性又は急性傷害、例えば中枢神経系傷害(例えば脊髄損傷)、急性傷害(例えば虚血性脳卒中、肝臓傷害若しくは心筋梗塞)、創傷(例えば慢性創傷)、退行変性疾患、自己免疫疾患(例えば1型糖尿病若しくはクローン病、関節リウマチ又は骨関節炎)、慢性炎症性疾患、アテローム性動脈硬化、多発性及び変形性関節症、骨粗鬆症、感染症(例えば、ウイルス若しくは細菌による感染)、並びに代謝性疾患からなる群から選択される、前記ヒト貪食細胞、及び/又は、前記組成物。
39. 条項38に記載の免疫不全治療における使用のためのヒト貪食細胞であって、該免疫不全は、急性免疫不全又は後天性免疫不全である、前記ヒト貪食細胞。
40. 条項38に記載の免疫不全治療における使用のためのヒト貪食細胞であって、該免疫不全は化学療法又はウイルス感染の結果である、前記ヒト貪食細胞。
41. 条項38に記載の感染症治療における使用のためのヒト貪食細胞であって、該感染症はウイルス感染症、特にSARS-CoV-2等のコロナウイルスによる肺の感染症である、前記ヒト貪食細胞。
42. 条項38に記載の慢性又は急性傷害治療における使用のためのヒト貪食細胞であって、該慢性又は急性傷害は、骨又は筋肉の傷害である、前記使用。
43. 条項42に記載の筋肉傷害治療における使用のためのヒト貪食細胞であって、該筋肉は心筋である、前記ヒト貪食細胞。
44. 条項38に記載の急性傷害治療における使用のためのヒト貪食細胞であって、該急性傷害は脊髄傷害である、前記ヒト貪食細胞。
45. 条項38に記載の創傷治療における使用のためのヒト貪食細胞であって、該創傷は皮膚創傷である、前記ヒト貪食細胞。
46. 条項38に記載の退行変性疾患治療における使用のためのヒト貪食細胞であって、該退行変性疾患は関節炎である、前記ヒト貪食細胞。
47. 条項38に記載の虚血性疾患治療における使用のためのヒト貪食細胞であって、該虚血性疾患は虚血性心疾患である、前記ヒト貪食細胞。
48. 条項38に記載の代謝性疾患治療における使用のためのヒト貪食細胞であって、該代謝性疾患は糖尿病である、前記ヒト貪食細胞。
49. 条項38に記載のがん治療における使用のためのヒト貪食細胞であって、該がんは肺がんである、前記ヒト貪食細胞。
50. がん治療における使用のための、条項28~32いずれか1項に記載のヒト貪食細胞及び/又は条項33~36いずれか1項に記載の組成物。
51. ヒト貪食細胞機能の欠乏に関連する疾患に罹患したヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象へ条項1~32いずれか1項に記載のヒト貪食細胞及び/又は条項33~36いずれか1項に記載の組成物を投与することを含む、前記方法。
52. 条項1~27いずれか1項に記載のヒト貪食細胞の作成方法であって、
(a)ヒト貪食細胞の(a1)ヒト22番染色体上40685000~40690000の領域内及び(a2)ヒト16番染色体上79593000~79602000の領域内それぞれに2つの二本鎖切断を生じさせる工程、並びに、
(b)MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルに欠失を有する細胞を選択する工程、を含む、前記方法。
53. 更に、(c)増殖性細胞を選択する工程、を含む条項52に記載の方法。
54. 前記工程(a)の二本鎖切断は、ヒト22番染色体上40685700~40689300の領域内、及びヒト16番染色体上79593600~79600900の領域内で生じる、条項52又は53に記載の方法。
55. 前記二本鎖切断は、部位特異的エンドヌクレアーゼ又はリコンビナーゼによって生じる、条項52~54いずれか1項に記載の方法。
56. 前記部位特異的エンドヌクレアーゼは少なくとも4つのガイドRNAと組み合せたCas-9である、条項55に記載の方法であって、少なくとも4つのガイドRNAの少なくとも2つは、22番染色体上のMAFB遺伝子座を標的とし、かつ、少なくとも4つのガイドRNAの少なくとも2つは、16番染色体上のMAF遺伝子座を標的とする、前記方法。
57. 工程(a)のための標的細胞として使用される前記ヒト貪食細胞は、iPS細胞、単球、又はマクロファージであり、特に該ヒト貪食細胞は、iPS細胞;血液単球;臍帯血由来の、単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;骨髄由来の単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;成人血液由来の動員された単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;髄外造血由来の単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+前駆細胞;肺胞マクロファージ;並びに脂肪組織マクロファージからなる群から選択される、条項52~56いずれか1項に記載の方法。
58. 工程(a)のための標的細胞として使用される前記ヒト貪食細胞は、人工万能性幹細胞である、条項57に記載の方法。
59. 前記人工万能性幹細胞はiPS細胞である、条項58に記載の方法。
60. 更に、(d)M-CSFを含む培地中でヒト貪食細胞を培養する工程を含む、条項52~59いずれか1項に記載の方法。
61. 条項28~32いずれか1項に記載のヒト貪食細胞の作成方法であって、条項1~23いずれか1項に記載のヒト貪食細胞を、MAFB又はMAF以外の遺伝子座で遺伝子改変することを含む、前記方法。
62. 前記遺伝子改変は、1又は幾つかのHLA-I遺伝子(ヒトリンパ球抗原I)、例えば、HLA-A、HLA-B、及び/又はHLA-Cの欠失である、条項61に記載の方法。
63. 前記遺伝子改変はB2Mの欠失である、条項61に記載の方法。
64. 前記遺伝子改変は、キメラ抗原受容体をコードしているDNAの導入である、条項61に記載の方法。
65. 条項28~32いずれか1項に記載のヒト貪食細胞の作成方法であって、条項52~60いずれか1項に記載の方法の出発細胞は、MAFB又はMAF以外の遺伝子座で遺伝子改変された貪食細胞である、前記方法。
66. ヒト貪食細胞のコレクションであって、該細胞は非腫瘍形成性であって、該細胞数は、エクスビボで適切な培養条件下で8日後に少なくとも4倍増加する、前記ヒト貪食細胞のコレクション。
67. 前記細胞数は少なくとも1,000である、条項62に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
68. 前記細胞数は少なくとも100,000、例えば少なくとも1,000,000である、条項66~67いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
69. 前記細胞数は、適切な培養条件下で少なくとも10倍増加する、条項66~68いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
70. 前記細胞数は、適切な培養条件下で少なくとも20倍増加する、条項66~69いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
71. 前記貪食細胞はプロフェッショナル貪食細胞である、条項66~70いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
72. 前記貪食細胞は骨髄系細胞である、条項66~71いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
73. 前記貪食細胞は、マクロファージ、単球、又は樹状細胞である、条項66~72いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
74. 前記貪食細胞は、CD45、CD64、CD11b、CD33、CD206、及びCD14からなる群から選択される表面タンパク質の発現により特徴付けられる、条項66~73いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
75. 前記貪食細胞は、該貪食細胞の表面上にタンパク質CD34が検出されないことを特徴とする、条項66~74いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
76. 前記貪食細胞は、その貪食実施能力によって、活性化されると活性酸素種を産生するその能力によって、そのリソソーム内のプロテアーゼ活性によって、及び/又は、脂質取り込み能によって特徴付けられる、条項66~75いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
77. 前記貪食細胞は、大きな空胞化細胞、並びに/又は、接着性形態を有する細胞、並びに/又は、膜状仮足及び/若しくは糸状仮足を特徴とする細胞である、条項66~76いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
78. 前記貪食細胞は、46本の染色体を有する、条項66~77いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
79. 前記貪食細胞は、染色体再構成を伴う染色体を含まない、条項78に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
80. 前記貪食細胞は分化している、条項66~79いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
81. 前記貪食細胞は、huPAPマウスに気管内移植した時に腫瘍を形成しない、条項66~80いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
82. 前記貪食細胞は、MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルが少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されていることを特徴とする、条項66~81いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
83. 全ての欠失はエクソンDNAを含む、条項82に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
84. 前記欠失は、それぞれ少なくとも100塩基対である、条項82~83いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
85. 前記欠失は、それぞれ少なくとも250塩基対である、条項82~84いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
86. 前記欠失は、それぞれ100塩基対~10,000塩基対である、条項82~85いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
87. 前記欠失は、500塩基対~3,000塩基対である、条項82~86いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
88. 前記MAFB欠失は、ヒト22番染色体上40685000~40690000領域内である、条項82~87いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
89. 前記MAFB欠失は、ヒト22番染色体上40685700~40689300領域内である、条項88に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
90. 前記MAF欠失は、ヒト16番染色体上79593000~79602000領域内である、条項82~89いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
91. 前記MAF欠失は、ヒト16番染色体上79593600~79600900領域内である、条項90に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
92. MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子である、条項82~91いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
93. MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子である、条項82~91いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
94. MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子である、条項82~91いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
95. 前記貪食細胞は、iPS細胞、単球、又はマクロファージに由来する、条項66~94いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクションであって、特に、該ヒト貪食細胞は、iPS細胞;血液単球;臍帯血由来の、単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;骨髄由来の単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;成人血液由来の動員された単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;髄外造血由来の単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+前駆細胞;肺胞マクロファージ;並びに脂肪組織マクロファージからなる群から選択される、前記コレクション。
96. 前記貪食細胞はiPS細胞由来である、条項66~95いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
97. 前記貪食細胞は、MAFB又はMAF以外の遺伝子座で遺伝子改変されている、条項66~96いずれか1項に記
98. 前記貪食細胞は、1つ又は幾つかのHLA-I遺伝子(ヒトリンパ球抗原I)、例えばHLA-A、HLA-B、及び/又はHLA-C欠乏の欠陥がある、条項66~92及び95~97いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
99. 前記貪食細胞はB2Mに欠陥がある、条項66~92及び95~98いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
100. 前記貪食細胞は、HLA-E、HLA-F、及びHLA-Gを発現する、条項99に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
101. 前記貪食細胞は、キメラ抗原受容体を含む、条項66~100いずれか1項に記載のヒト貪食細胞のコレクション。
102. MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルが少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されている、ヒト貪食細胞。
103. MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子である、条項102に記載のヒト貪食細胞。
104. MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子である、条項102に記載のヒト貪食細胞。
105. MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子である、条項102に記載のヒト貪食細胞。
106. 全ての欠失はエクソンDNAを含む、条項102~105いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
107. 前記欠失は、それぞれ少なくとも100塩基対である、条項102~106いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
108. 前記欠失は、それぞれ少なくとも250塩基対である、条項102~107いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
109. 前記欠失は、それぞれ100塩基対~10,000塩基対である、条項102~108いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
110. 前記欠失は、500塩基対~3,000塩基対である、条項102~109いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
111. 前記MAFB欠失は、ヒト22番染色体上40685000~40690000領域内である、条項102~110いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
112. 前記MAFB欠失は、ヒト22番染色体上40685700~40689300領域内である、条項111に記載のヒト貪食細胞。
113. 前記MAF欠失は、ヒト16番染色体上79593000~79602000領域内である、条項102~112いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
114. 前記MAF欠失は、ヒト16番染色体上79593600~79600900領域内である、条項113に記載のヒト貪食細胞。
115. 条項102~114いずれか1項に記載のヒト貪食細胞であって、該貪食細胞は、iPS細胞、単球、又はマクロファージに由来し、特に、該ヒト貪食細胞は、血液単球;臍帯血由来の、単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;骨髄由来の単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;成人血液由来の動員された単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;髄外造血由来の単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+前駆細胞;肺胞マクロファージ;並びに脂肪組織マクロファージからなる群から選択される、前記ヒト貪食細胞。
116. 前記貪食細胞はiPS細胞由来である、条項102~114いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
117. 前記貪食細胞は、CD45、CD64、CD11b、CD33、CD206、及びCD14からなる群から選択される表面タンパク質の発現により特徴付けられる、条項102~116いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
118. 前記貪食細胞は、該貪食細胞の表面上にタンパク質CD34が検出されないことを特徴とする、条項102~117いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
119. 前記貪食細胞は、その貪食実施能力によって、活性化されると活性酸素種を産生するその能力によって、そのリソソーム内のプロテアーゼ活性によって、及び/又は、脂質取り込み能によって特徴付けられる、条項102~118いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
120. 前記貪食細胞は、大きな空胞化細胞、並びに/又は、接着性形態を有する細胞、並びに/又は、膜状仮足及び/若しくは糸状仮足を特徴とする細胞である、条項102~119いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
121. 前記貪食細胞は、46本の染色体を有する、条項102~120いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
122. 前記貪食細胞は、染色体再構成を伴う染色体を含まない、条項121に記載のヒト貪食細胞。
123. 前記貪食細胞は、非腫瘍形成性である、条項102~122いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
124. 前記貪食細胞は、huPAPマウスに移植した時に腫瘍を形成しない、条項102~123いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
125. 前記貪食細胞は、プロフェッショナル貪食細胞である、条項102~124いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
126. 前記貪食細胞は、骨髄系細胞である、条項102~125いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
127. 前記貪食細胞は、マクロファージ、単球、又は樹状細胞である、条項126に記載のヒト貪食細胞。
128. 前記貪食細胞は、MAFB又はMAF以外の遺伝子座で遺伝子改変されている、条項102~127いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
129. 前記貪食細胞は、1つ又は幾つかのHLA-I遺伝子(ヒトリンパ球抗原I)、例えばHLA-A、HLA-B、及び/又はHLA-C欠乏に欠陥がある、条項102及び106~128いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
130. 前記貪食細胞はB2Mに欠陥がある、条項102及び106~117いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
131. 前記貪食細胞は、HLA-E、HLA-F、及びHLA-Gを発現する、条項130に記載のヒト貪食細胞。
132. 前記貪食細胞は、キメラ抗原受容体を含む、条項102~131いずれか1項に記載のヒト貪食細胞。
133. 条項102~132いずれか1項に記載のヒト貪食細胞を含む組成物。
134. 107~1012個の条項1~28いずれか1項に記載のヒト貪食細胞を含む、条項133に記載の組成物。
135. 医薬組成物である、条項134に記載の組成物。
136. 107~1011個の条項1~28いずれか1項に記載のヒト貪食細胞を含む、条項135に記載の医薬組成物。
137. 医薬としての使用のための、条項102~131いずれか1項に記載のヒト貪食細胞及び/又は条項132~136いずれか1項に記載の組成物。
138. 疾患治療における使用のための、条項102~131いずれか1項に記載のヒト貪食細胞及び/又は条項132~136いずれか1項に記載の組成物であって、該疾患は、がん、免疫不全、慢性又は急性傷害、例えば中枢神経系傷害(例えば脊髄損傷)、急性傷害(例えば虚血性脳卒中、肝臓傷害、若しくは心筋梗塞)、創傷(例えば慢性創傷)、退行変性疾患、自己免疫疾患(例えば1型糖尿病及びクローン病、関節リウマチ又は骨関節炎)、慢性炎症性疾患、アテローム性動脈硬化、多発性及び変形性関節症、骨粗鬆症、感染症(例えば、ウイルス若しくは細菌による感染)、並びに代謝性疾患からなる群から選択される、前記ヒト貪食細胞及び/又は前記組成物。
139. 条項66~101いずれか1項に記載の細胞のコレクションを細胞数の増加に適切な培養条件下で培養することによって取得可能な細胞のコレクションを含む組成物。
140. 医薬としての使用のための、条項139に記載の組成物。
141. 疾患治療における使用のための、条項139に記載の組成物であって、該疾患は、がん、免疫不全、慢性又は急性傷害、例えば中枢神経系傷害(例えば脊髄損傷)、急性傷害(例えば虚血性脳卒中、肝臓傷害、若しくは心筋梗塞)、創傷(例えば慢性創傷)、退行変性疾患、自己免疫疾患(例えば1型糖尿病及びクローン病、関節リウマチ又は骨関節炎)、慢性炎症性疾患、アテローム性動脈硬化、多発性及び変形性関節症、骨粗鬆症、感染症(例えば、ウイルス若しくは細菌による感染)、並びに代謝性疾患からなる群から選択される、前記組成物。
142. MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルが少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されている、ヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
143. 全ての欠失はエクソンDNAを含む、条項142に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
144. 前記欠失は、それぞれ少なくとも100塩基対である、条項142又は143に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
145. 前記欠失は、それぞれ少なくとも250塩基対である、条項142~144いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
146. 前記欠失は、それぞれ100塩基対~10,000塩基対である、条項142~145いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
147. 前記欠失は、500塩基対~3,000塩基対、例えば600塩基対~1500塩基対である、条項142~146いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
148. 前記MAFB欠失は、ヒト22番染色体上40685000~40690000領域内である、条項142~147いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
149. 前記MAFB欠失は、ヒト22番染色体上40685200~40689800、例えば40685400~40689600、例えば40685600~40689400、そして特に40685700~40689300領域内である、条項148に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
150. 前記MAF欠失は、ヒト16番染色体上79593000~79602000領域内である、条項142~149いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
151. 前記MAF欠失は、ヒト16番染色体上79593200~79601500、例えば79593400~79601100、そして特に79593600~79600900領域内である、条項150に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
152. MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子である、条項142~151いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
153. MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子である、条項142~151いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
154. MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子である、条項142~151いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
155. ヒト貪食細胞の作成のための、条項142~154いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞の使用。
156. 前記ヒト貪食細胞はヒトマクロファージである、条項155に記載の使用。
157. 前記ヒトマクロファージは、非腫瘍形成性であり、エクスビボで適切な培養条件下で少なくとも4個の孫細胞を生じることができる、条項156に記載の使用。
158. 条項33~36いずれか1項に記載のヒトマクロファージを含む組成物を作成するための、条項142~154いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞の使用。
【0167】
本発明の実施は、他に明記しない限り、当業者の分野で周知の、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、及び免疫学の従来技術を使用する。このような技術は、例えば「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」第4版(Sambrookらの文献、2012);「オリゴヌクレオチド合成(Oligonucleotide Synthesis)」(Gaitの文献、1984);「動物細胞の培養(Culture of Animal Cells)」(Freshneyの文献、2010);Methods in Enzymology,「実験免疫学ハンドブック(Handbook of Experimental Immunology)」(Weirの文献、1997);「哺乳動物細胞用の遺伝子トランスファーベクター(Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells)」(Miller及びCalosの文献、1987);「分子生物学ショートプロトコル(Short Protocols in Molecular Biology)」(Ausubelの文献、2002);「ポリメラーゼ連鎖反応:原理、応用及び問題処理(Polymerase Chain Reaction:Principles, Applications and Troubleshooting)」(Babarの文献、2011);「現在の免疫学プロトコル(Current Protocols in Immunology)」(Coliganの文献、2002)等の文献で詳述されている。これらの技術は、本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドの作成に適用可能であり、そして、本発明の構築及び実施において考慮することができる。
【0168】
当業者であれば、本明細書に記載された本発明が、具体的に記載されたもの以外の変形及び改変が可能であることを認識するであろう。本発明は、その思想若しくはその本質的な特徴から逸脱することなく、そのような変形及び改変を全て含むことを理解されたい。本発明は又、本明細書で個別に又はまとめて、言及又は示された、工程、特徴、組成物、及び化合物の全て、並びに、該工程若しくは特徴のいずれか及び全ての組み合せ、又は任意の2つ以上を含む。従って、本開示は、示された全ての態様を考慮されるべきであり、限定的なものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって示され、そして、均等の意味及び範囲内に入る全ての変更はその中に包含されることが意図される。
【0169】
本明細書全体を通じて様々な参考文献が引用されており、それらそれぞれは参照により本明細書にその全体として組み込まれている。
【0170】
上記説明は、下記実施例を参照することにより、より完全に理解されるであろう。しかしながら、そのような実施例は本発明を実施する方法の例示であり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0171】
(実施例)
ヒト人工万能性幹細胞の作成方法は当技術分野で周知である。ヒトiPS細胞株を、健康な白人新生児男児の陰茎包皮から得た皮膚線維芽細胞から作成した。リプログラミングを、POU5F1、SOX2、KLF4、及びMYCを含む非組み込み型センダイウイルスを用いて行った(Fusaki N.らの文献、(2009))。HIV1、HIV2、B型肝炎ウイルス、及びC型肝炎ウイルス、並びにマイコプラズマウイルスのスクリーニングは陰性であった。核型検査で正常な46(X,Y)核型が示された。基本的にGonzalezらの文献(2014)に記載のとおりに、この細胞株に対し、ドキシサイクリン誘導性Cas9発現カセットを、TALEN仲介遺伝子ターゲッティングによってAAVS1遺伝子座に導入し、細胞株BIHi001-A-1を調製した。
【0172】
(実施例1)
(ダブルノックアウト(DKO)細胞のiPS細胞からの作成)
(a)iPS細胞の培養
iPS細胞を、ビトロネクチンコートした(サーモフィッシャー社、番号A14700)組織培養プレート上のStemFlex培地(サーモフィッシャー社、番号A3349401)中、フィーダーフリー条件下、37℃、5%CO2の正常酸素圧条件下で培養した。60~80%培養密度に達した時点で、細胞をReLeSR(Stem Cell Technologies社、番号05872)で継代し、継代翌日に10μMのROCK阻害剤Y-27632(biomol社、番号Cay10005583)の存在下で維持した。iPS細胞の単細胞懸濁液を、Accutase(Merck Millipore社、番号SF006)でのインキュベーションにより得た。
【0173】
(b)ゲノム編集
CRISPR/Cas9系を使用して、ヒト細胞中のMAF(遺伝子ID:4094、373アミノ酸)及びMAFB(遺伝子ID:9935、323アミノ酸)のコード配列を削除した。この目的のために、AAVS1遺伝子座に組み込まれたドキシサイクリン誘導性Cas9発現カセット(BIHi001-A-1、https://hpscreg.eu/cell-line/BIHi001-A-1; iBCRT Cas9v1-3G-Kl.16とも呼ばれる)を有する、健康ドナー由来のiPS細胞株を、公開されたプロトコル(Yumluの文献(2017))に従って、MAF及びMAFBをターゲットとするsgRNA発現プラスミド(pU6-(BbsI)sgRNA_CAG-venus-bpA、Addgene ID 86985、https://www.addgene.org/86985/)でトランスフェクトした。
【0174】
完全なCDSを削除するために、配列設計のためのCrispRGoldプログラム(https://crisprgold.mdc-berlin.de/Chuらの文献(2016))を使用して、各遺伝子の開始コドンの少なくとも20 nt上流の5'UTR及び終止コドンの少なくとも20 nt下流の3'UTRの配列をターゲットとする、遺伝子あたり2個のsgRNAを設計した。各遺伝子の2個のsgRNAが、FACSによるトランスフェクト細胞の陽性選択のための蛍光レポーター遺伝子(Venus、YFP社由来)も同様にコードするsgRNA発現ベクターpU6-(BbsI)sgRNA_CAG-venus-bpAから共に発現された。
【0175】
【表3】
(表1:MAF及びMAFB CDSのCRISPR/Cas9仲介欠損のためのsgRNA及びプロトスペーサー配列)
標的特異的な20ヌクレオチド長のプロトスペーサーの位置を、sgRNA配列内に「N」でマークする。表示されたプロトスペーサー配列を持つpU6-(BbsI)sgRNA_CAG-venus-bpAから発現されたsgRNAのゲノム標的配列は、MAF及びMAFBのUTR(未翻訳領域)の5'UTR及び3'UTRにそれぞれ位置する。
【0176】
【0177】
リポフェクタミン3000(サーモフィッシャー社、番号L3000001)を使用して、BIHi001-A-1をpCAG-mTrex2-bpA(Addgene社ID 86984、https://www.addgene.org/86984/)とともにsgRNA発現ベクターでトランスフェクトし、インデル形成性を増強した。本明細書全体で「WT」又は「野生型」と記載された対照細胞を、プロトスペーサー配列を挿入せずにpU6-(BbsI)sgRNA_CAG-venus-bpAを使用することを除き、同一方法で処理した。トランスフェクトしたBIHi001-A-1細胞を、1μg/mlのドキシサイクリンヒクラート(Sigma-Aldrich社、番号D9891)で処理してCas9発現を誘導し、その後sgRNA保有ベクターからVenusレポーター遺伝子を発現する細胞をFACS単離した。選別した細胞を低密度で播種し、単一細胞由来のコロニーを単離した。トランスフェクションの第1回で、MAFを標的とするsgRNAを使用し、PCR及び編集された遺伝子座のサンガーシークエンシングを使用してMAF CDSの全長欠失についてコロニーをスクリーニングした(誤記のため参照先不明)。細胞は、前記のようにiPS細胞用条件下で培養した。
【0178】
MAF KO iPS細胞にMAFB標的化sgRNAを使用した第2回トランスフェクションを行った後、得られたコロニーのPCR及びシークエンシングを行った。3つのMAF/MAFB DKO(MAF-DKO)iPS細胞クローンが単離された(クローン1、2、3)。ゲノム標的領域及び編集されたMAF及びMAFB遺伝子座を
図2に示す。
【0179】
(実施例2)
(MAF/MAFB DKO iPS細胞の特性評価)
3つの単離されたMAF-DKO iPS細胞クローンを核型分析によって解析した。核型分析は、従来の細胞遺伝学分析(Gバンド解析)によって行った。簡単に説明すると、細胞を100 ng/mlコルセミドで2.5時間、37℃、5%CO
2下でブロックし、0.075 M KClを使用して膨張させ、3:1のメタノール:氷酢酸で固定した。中期染色体をカバーガラス上に拡げ、ギムザ染色で染色した。サンプルあたり20個の中期スプレッドを分析した。
全てのクローンは、正常な外観及び核型を有していた(
図3)。
【0180】
(実施例3)
(iPS細胞からマクロファージへの誘導分化)
iPS細胞からマクロファージへの誘導分化は、以前に公開されたプロトコルに従った(Buchrieserの文献、2017)。野生型又はMAF-DKO iPS細胞の単一細胞懸濁液を、12,500細胞/ウェル密度で超低付着性U字底96ウェルプレート(Nunclon Sphera、サーモフィッシャー社、番号174925)に播種し、50 ng/ml BMP-4(R&D Systems社、番号314-BP)、20 ng/ml SCF(R&D Systems社、255-SC)、50 ng/ml VEGF(Peprotech社、AF-100-20A)、及び10μM Y-27632を補充したStemFlex培地(サーモフィッシャー社、番号A3349401)からなるEB培地に再懸濁して、胚様体(EB)を生成した。96ウェルプレートを100 gで3分間遠心分離し、底の細胞を採取し、37℃、5%CO2で4日間載置した。1日後及び2日後には、EB培地の半分を新たに調製したEB培地と交換した。
【0181】
(野生型及びMAF-DKO EBは、サイズ又は形態では区別できなかった(
図4)。)
4日後、EBを手動選択し、2 mM GlutaMAX(サーモフィッシャー社、番号35050038)、0.055 mM 2-メルカプトエタノール(Sigma-Aldrich社、番号M6250)、100 ng/ml ヒトM-CSF(サーモフィッシャー社、番号PHC9504)、25 ng/ml ヒトIL-3(R&D Systems社、番号203-IL)を補充したX-VIVO 15(Lonza社、番号BE02-060F)からなるEB分化培地に再懸濁し、超低付着性6ウェル組織培養プレート(8 EB/ウェル)又は90 mm組織培養用ディッシュ(24 EB/ディッシュ; Nunclon Sphera、サーモフィッシャー社、番号174932及び番号174945)に播種した。培養培地の3分の2を5日ごとに新鮮な分化培地と交換した。EBからの単球/マクロファージの産生はEB播種後約15日目に開始され、懸濁性細胞を回収、カウントし、フローサイトメトリー又はEdU取り込みアッセイによる免疫表現型判定に使用した。
【0182】
更なる実験のために、EB培養物の上清から回収した細胞を、10% FBS(PAA-GE Healthcare社、A15-101)を補充し、100単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(サーモフィッシャー社、番号15140122)、2 mM GlutaMAX(サーモフィッシャー社、番号35050038)、1 mM ピルビン酸ナトリウム(サーモフィッシャー社、番号11360-039)、50 ng/ml M-CSF(サーモフィッシャー社、番号PHC9504)を補充したRPMI中で最終マクロファージ分化のために再プレートし、超低付着性12ウェル組織培養プレート(Nunclon Sphera、サーモフィッシャー社、番号174931、番号174932)及び50 ng/ml GM-CSF(Peprotech社、番号300-03)に、37℃、5%CO2で播種した。細胞を、ノイバウエル血球計算盤を使用して手動で、又はCASYセルカウンター(OMNI Life Science社)を使用して自動的にカウントした。
【0183】
MAF及びMAFBの欠失は骨髄細胞分化能に影響を及ぼさず、野生型EBと同様に、MAF-DKO EBはEB播種後約15日で、EB分化培地に単球/マクロファージの放出を開始した。MAF-DKO懸濁性細胞は生存しており、50 ng/ml M-CSF及びGM-CSFを含む分化培地にプレーティングした後、野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージの両方がビーズを貪食し、ROSを産生し、そしてリソソーム及びカテプシン活性陽性に染色される、成熟マクロファージ表現型を示した(
図5)。
【0184】
(実施例4)
(最終マクロファージ分化後のMAF/MAFB DKO細胞の特性評価)
フローサイトメトリーのために、実施例3に記載のEB分化培養物から第15日に得て、最終マクロファージ分化条件下で7日間培養した再プレート細胞を、FcRブロッキング試薬(Miltenyi社、番号130-059-901)で4℃で15分間ブロックし、洗浄し、表2の抗体で4℃で30分間染色した。細胞を、LSRFortessa(BD社)血球計算器で記録し、FlowJo(BD社)で分析した。
【0185】
【0186】
フローサイトメトリー(
図6)又は組織染色によって評価した形態又は免疫表現型に関して、野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージの間に大きな違いは観察されなかった。
【0187】
(MAF-DKOマクロファージを、MAF及びMAFBタンパク質、並びにmRNA発現について試験した。)
RNeasyミニキット(Qiagen社、番号74104)を使用して野生型細胞及びMAF-DKO細胞からRNAを抽出し、次にHigh Capacity Reverse Transcriptionキット(Applied Biosystems社、番号4368814)を使用してcDNAを合成した。qPCRを、TB Green Premix Ex Taq(Tli RNase plus、Takara社、番号RR420L)を使用して実行した。qPCR産物を2%アガロースゲル上に展開した。ウェスタンブロット法では、野生型タンパク質及びMAF-DKOタンパク質を、Laemmli緩衝液で細胞を溶解することにより抽出した。ライセートをQIAshredder(Qiagen社、番号79656)で清澄化し、変性させ、そして電気泳動(SDS-PAGE)用のポリアクリルアミドゲルにロードし、続いてセミドライブロッティングを行った。ブロットをミルク5%のTBST溶液でブロックし、抗MAFB抗体(Sigma社、番号HPA005653)又は抗MAF抗体(Sigma社、番号HPA028289)でインキュベートし、次に二次抗体、抗ウサギIgG-HRPとインキュベートし、続いてECL(商標)Prime Western Blot検出試薬(GE Healthcare Amersham(商標)社、番号RPN2232)とインキュベートした。
【0188】
重要なことであるが、野生型iPS細胞由来マクロファージは、MAF及びMAFB両方のmRNA及びタンパク質をそれぞれ発現した一方で、MAF-DKOマクロファージは、MAF及びMAFBの発現がmRNA及びタンパク質レベルで陰性であった(
図7)。
【0189】
(実施例5)
(MAF-DKOマクロファージは、ヒト化マウスモデルで機能し、肺胞タンパク症を治療する。)
MAF-DKOマクロファージのインビボ機能を試験するために、ヒトの肺疾患である肺胞タンパク症(PAP)の動物モデルであるhuPAPと呼ばれるマウス系統(公称:C; 129S4-Rag2tm1.1Flv Csf2/ Il3tm1.1(CSF2,IL3)Flv Il2rgtm1.1Flv/J; JAX # 014595)を選択した。huPAP系統は、ヒト細胞の移植用に設計された免疫不全マウス系統である。マウスGM-CSF発現の欠如により、その肺には肺胞マクロファージが存在せず、そのためマウスは肺胞タンパク症の兆候、例えば、気管支肺胞洗浄(BAL)によって得られた流体の高いタンパク質含有量、それにより生じる高い濁度を示す。huPAPはマウスGM-CSFの代わりにヒトGM-CSF(及びIL-3)を発現し、移植されたヒト細胞による肺胞マクロファージの再構成だけでなく、肺胞タンパク症表現型のレスキューも可能にする。従って、このモデルは、ヒトマクロファージのインビボ機能を研究するための有用なツールである。
【0190】
我々は、同数(1回の移植あたり2×10
6~4×10
6)の野生型マクロファージ又はMAF-DKOマクロファージ(EB分化培地に再懸濁後15日~25日でEB培養物から採取した)を、動物あたり1μg M-CSFと一緒にhuPAPマウスに気管内移植し(
図8)、細胞生着及びPAPのレスキューの両方を確認した。対照マウスには、同じ体積のPBS(細胞再懸濁緩衝液)を与えた。
【0191】
野生型のMAF-DKOマクロファージ両方のHuPAPレシピエントを、それぞれ移植後は迅速に回復し、PBS処置又は未処置の動物と比べて異常な行動を示さなかった(データ示さず)。全ての動物に野生型マクロファージ又はMAF-DKOマクロファージを4回移植し、それぞれの移植は1週間の間隔をあけた。動物を最後の移植から4週間後に分析した。
【0192】
巨視的検査では、肺組織内にも他の器官にも腫瘍は観察されず、これはMAF-DKOマクロファージが、明瞭な染色体異常なしに正常な核型を維持している事実と一致する(
図3)。
【0193】
我々は、MAF-DKOマクロファージが、野生型マクロファージよりもhuPAPマウスへの良好な生着を示したこと(
図9)、及び、野生型マクロファージによるそれぞれのレスキューよりもやや優れている、気管支肺胞洗浄液の濁度、タンパク質濃度、SP-Dレベルの低下により実証されるような、PAP表現型のレスキューの改善を見出した(
図10)。更に又、最後の処置から4週間後に移植マウスから単離された野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージは、ビーズを貪食し、ROSを産生し、リソソーム及びカテプシン活性陽性に染色され、そして脂質を貪食可能でもあった(
図11、
図12)。
【0194】
(実施例6)
(MAF-DKO細胞の増殖の増大)
EB分化培地中にEBを再懸濁後10~15日の間に、野生型EB及びMAF-DKO EBの両方が単球/マクロファージの産生を開始した(第1回採取及び細胞数計測は第15日であった)。しかし、EB上清中に放出された細胞数を定量したところ、MAF-DKO EBの分化は、マクロファージの産生収量が大きく増加する結果となった(
図13)。EB分化の30日後にMAF-DKO EBから放出されたマクロファージの累積数は、野生型EBの収量(2.51±0.18)よりも少なくとも6.6倍(16.58±1.29)高かった(
図13b)。
【0195】
更に又、EB分化の上清から採取したMAF-DKOマクロファージは、マクロファージ分化の最終段階で更に増殖することが観察された。EB分化培養物の上清から採取した細胞を、最終マクロファージ分化培地(RPMI及び補充物;実施例3)内で再プレートした場合は、再プレートの第12日までにMAF-DKO細胞数は25倍まで増加した一方で、野生型細胞数は3倍までしか増加しなかった(
図13d)。これらをまとめると、投入したiPS細胞1個あたり得られたMAF-DKOマクロファージの理論数は約1000個に相当し、従って、今までに報告された最も効率的なプロトコルの約100倍、そして我々のプロトコルで生成された野生型細胞の数の67倍であった(
図15)。
【0196】
上記結果と一致することには、MAF-DKOマクロファージは、半固形メチルセルロースベースのコロニーアッセイでは、野生型マクロファージに比べて有意に高い数のコロニーを生成した。
【0197】
S期の細胞割合を評価するために、野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージをEdUで4時間パルス標識し、フローサイトメトリーによりEdU取り込みのパーセンテージを解析した。EdU陽性細胞に関して、MAF-DKOマクロファージ(EdU陽性細胞17.6%)は野生型マクロファージ(EdU陽性細胞2.2%)と比較して8倍増加したことが観察された(
図14)。
【0198】
結論として、これらのデータは、ヒトマクロファージ中のMAF及びMAFB欠失は、インビトロ及びインビボで腫瘍形成性を生じることなく、かつ貪食等のマクロファージの特徴を失うこともなく、増殖能が拡大される結果を生じることを実証する。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】