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特表2024-511421組織を分離するための流体ゲルを含む組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-13
(54)【発明の名称】組織を分離するための流体ゲルを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20240306BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20240306BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
A61L31/04 120
A61L31/14 300
A61L31/04 110
A61L31/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558154
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(85)【翻訳文提出日】2023-11-06
(86)【国際出願番号】 US2022021301
(87)【国際公開番号】W WO2022204110
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】17/211,037
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518188186
【氏名又は名称】アレオ ビーエムイー,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】リウ,チャオ
(72)【発明者】
【氏名】マー,チューイン
(72)【発明者】
【氏名】ユィ,シュエディー
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC16
4C081BA11
4C081CA05
4C081CA08
4C081CA16
4C081CA18
4C081CD01
4C081CD03
4C081CD04
4C081CD09
4C081CD11
4C081CD12
4C081CD15
4C081CD17
4C081CE02
4C081CE11
4C081CF21
4C081DA12
4C081EA02
(57)【要約】
本開示は、流体ゲルの形態の注入可能な組成物、および、内視鏡処置において対象組織に注入されて組織分離のためのクッションを形成する内視鏡処置中の組織切除を補助するための前記組成物の使用に関する。組成物の態様は、ゲル化剤、改質剤、塩および水を含み得る。組成物は、ゲル化剤、改質剤、少なくとも1つの塩および水を連続撹拌により混合して流体ゲル溶液を得ることによって調製することができ、改質剤は、前記流体ゲル組成物が、著しく低下した注入圧力で内視鏡注入カテーテルおよび針を通して胃腸組織の粘膜下層に注入されること、および、注入補助切除処置を適用するために粘膜下層内で長期間組織を上昇させるための高く耐久性のあるクッションを生成することを可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
止血機能を有するシアシニング性流体ゲル組成物であって、
ゲル化剤、
塩、
改質剤および

を含み、50psi未満の注入圧力を有することを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記改質剤は、前記組成物の注入圧力を低下させることによって前記組成物の注入性を改善することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は、30psi未満の注入圧力を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は、1~20、好ましくは1~12のシアシニング指数を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ゲル化剤は、少なくとも1つの多糖類または少なくとも1つのタンパク質を含み、
前記少なくとも1つの多糖類は、キサンタンガム、k-カラギーナン、ゲランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ペクチン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、アルギン酸塩、キトサン、アガロース、またはこれらの組合せであり、
前記少なくとも1つのタンパク質は、ホエータンパク質、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、または前述のものの2つ以上の組合せである
ことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つの多糖類はアルギン酸塩およびキトサンから選択される、または、前記少なくとも1つのタンパク質はゼラチンである
ことを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ゲル化剤は、0.05~6.5w/v%の濃度で存在することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記改質剤は、親水性ポリマー、両親媒性ポリマー、またはその両方を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記改質剤は前記親水性ポリマーを含み、該親水性ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリ(メタクリル酸)、親水性合成ポリエステル、またはこれらの組合せであることを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記改質剤は前記両親媒性ポリマーを含み、該両親媒性ポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)-ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)-ポリ(エチレンオキシド)(PEO)ブロックコポリマー((EO)-(PO)-(EO)(式中、a=2~80およびb=2~80))、両親媒性合成ポリエステル、またはこれらの組合せを含むことを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記親水性合成ポリエステルは、ポリカルボン酸(PCA)を、以下:
1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、1,2-プロパンジオール-セバケート、またはポリ(ビニルアルコール)またはこれらの任意の組合せ
からなる群からの少なくとも1つの親水性ジオール(DPHO)と反応させることによって調製され、
前記親水性合成ポリエステルは、500~20,000Da、好ましくは600~15,000Da、より好ましくは800~1,0000Daの範囲の分子量を有する
ことを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
前記両親媒性合成ポリエステルは、ポリカルボン酸(PCA)を、
1,8-オクタンジオール、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)、ポリカプロラクトン(PCL)ジオールまたはポリラクチド(PLA)ジオールからなる群から選択される少なくとも1つの疎水性ジオール(DPHO)、
1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、1,2-プロパンジオール-セバケート、またはポリ(ビニルアルコール)からなる群から選択される少なくとも1つの親水性ジオール(DPHO)、または
これらの組合せ
と反応させることによって調製され、
前記両親媒性合成ポリエステルは、500~20,000Da、好ましくは600~15,000Da、より好ましくは800~1,0000Daの範囲の分子量を有する
ことを特徴とする、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリカルボン酸は、アコニット酸、プロパン-1,2,3-トリカルボン酸、アガル酸、クエン酸、イソクエン酸、トリメシン酸、フランテトラカルボン酸、ビフェニル-3,3’ ,5,5’-テトラカルボン酸、ビ(シクロプロパン)-2,2’,3,3’-テトラカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、および(+)-(18-クラウン-6)-2,3,11,12-テトラカルボン酸またはこれらの組合せを含むがこれらに限定されない、トリカルボン酸およびテトラカルボン酸のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記改質剤は、10w/v%未満の濃度で存在することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記改質剤は、0.25%~5w/v%の濃度で存在することを特徴とする、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記少なくとも1つの塩は、前記ゲル化成分と相溶性である一価、二価、多価のカチオンまたはアニオンの1つまたは複数を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記少なくとも1つの塩は、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、銅塩、亜鉛塩、または前述のものの2つ以上の組合せを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記ナトリウム塩は、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、硫酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、またはグリセロリン酸ナトリウムを含み、前記カルシウム塩が、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、四ホウ酸カルシウム、クエン酸カルシウム、硫酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、またはリン酸水素カルシウムを含み、前記マグネシウム、銅、または亜鉛塩が、塩化マグネシウム、塩化銅(CuClまたはCuCl)、または塩化亜鉛を含むことを特徴とする、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記少なくとも1つの塩は、0.9w/v%未満の濃度で存在することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
前記少なくとも1つの塩は、0.01~0.4w/v%の濃度を有する塩化カルシウムを含むことを特徴とする、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物は、着色剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項22】
前記着色染料は、メチレンブルー、インジゴカルミン、ルゴールヨード、またはインドシアニングリーン、トルイジンブルー、クレシルバイオレット、コンゴレッド、フェノールレッド、食品および内服薬物用途のための米国FDA着色添加剤活性目録に列挙されている任意のFD&C着色添加剤、またはそれらの組合せを含むことを特徴とする、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物はさらに、光輝剤、防腐剤、消泡剤、安定剤、抗酸化剤、光増感剤、治療剤、またはそれらの組合せのうちの1つまたは複数を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項24】
前記組成物は、少なくとも前記光輝剤を含み、該光輝剤は、キサンテン誘導体、シアニン誘導体、量子ドット、硫化亜鉛、アルミン酸ストロンチウム、または低分子蛍光色素であり、該低分子蛍光色素は、クエン酸をアミン含有化合物と反応させることによって作製されることを特徴とする、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記組成物は針を通して注入可能であり、前記針は市販の内視鏡針であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項26】
ヒトの標的組織に注入するための注入可能な流体ゲル組成物を作製する方法であって、
連続撹拌下で混合物を生成する工程であって、前記混合物が少なくとも1つのゲル化成分および改質剤を含む、工程
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項27】
前記混合物は塩をさらに含むことを特徴とする、請求項26に記載の注入可能な流体ゲルを作製する方法。
【請求項28】
前記混合物を連続撹拌から除去する工程;
前記混合物を凍結乾燥して凍結乾燥粉末を生成する工程;および
水を加えて前記凍結乾燥粉末を再溶解する工程
をさらに含むことを特徴とする、請求項27に記載の注入可能な流体ゲルを作製する方法。
【請求項29】
内視鏡処置において注入可能な流体ゲル組成物を使用する方法であって、
ヒトにおける標的組織に請求項1に記載の前記組成物を投与する工程を含み、前記組成物が粘性ゲル様またはゲル化物質に変わり、長期間持続する組織隆起および止血機能を提供する
ことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、35U.S.C.§119に基づき、参照により全体が本明細書に組み込まれる2021年3月24日に出願された米国特許出願第17/211,037号に対する優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
概して、本開示は、流体ゲルの形態の注入可能な組成物、および、例えばそれを必要とするヒト患者の胃腸(GI)管において内視鏡処置を補助するクッションを生成するために標的組織に注入するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
内視鏡検査は、多くの場合は光源、カメラおよび手術器具を装備した内視鏡と呼ばれる特殊な管状器具を使用することによって、内臓を見て手術することを可能にする処置である。これは、診断および治療目的で病理学的病変(ポリープ、形成不全、異形成、前新生物および新生物病変を含む)を検出するまたは介入を行うために、胃腸(GI)系において最も一般的に使用される。特に、内視鏡粘膜切除術(EMR)および内視鏡粘膜下層剥離術(ESD)は、病変、特に、無茎性、扁平、アクセスしづらい病変を最小侵襲的に除去するために広く行われる2つのGI内視鏡外科手術である。EMRでは、電気外科用ホットスネアを用いて、標的組織を捕捉し、破砕し、除去する。EMRは、主に、1.5cmから2cmの間の小さい病変の除去またはより大きい病変の断片的除去のために使用されるが、ESDは、比較的新しい内視鏡技法として、特に、2cmより大きい病変を除去するように開発され、電気外科用ナイフを使用して、病変の縁の外側5mmに沿ってわずかにより深い切開部を作成し、包括的切除を促進する。いずれの技術においても、特に大きな病変またはアクセスしにくい場所の病変の場合に、下の筋肉層から病変組織を効果的に持ち上げ分離することが、外科的処置の成功に不可欠である。把持、索引、結紮および吸引などの機械的分離が当初適用されたが、多くの場合、穿孔、出血および下にある筋肉層への損傷などの合併症を伴った。したがって、現在の臨床アプローチは、粘膜下層の下に流体を注入して、粘膜層から罹患病変を物理的に分離し、後続の下層の筋肉層のための「安全クッション」を提供し、組織切除が行われる前に病変縁の可視性を高めることであり、これは、「注入および切断(inject-and-cut)」技法としても知られる。
【0004】
粘膜下注入の使用は、一括切除を容易にしながら、熱損傷、穿孔および出血のリスクを低減することによって、EMR技術の大部分、特にESDの成功のために不可欠である。理想的な注入溶液は、臨床的関連性を有するために以下の要件を満たすべきである:1)生体適合性。注入溶液は、外因性病原体を含まず非毒性でなければならず、組織炎症を誘発しないまたは最小限にとどめ、組織損傷を誘発せず、少なくともその後の創傷治癒を妨害せず、身体から容易に排除されなければならない。2)粘膜下リフトおよび持続時間。注入溶液は、最大の粘膜下隆起高さを提供しなければならず、好ましくはより急勾配かつ明瞭なマージンで、外科的処置全体にわたってリフト持続時間を維持しなければならない。3)注入可能。溶液は、標準的な内視鏡ツールを用いて目的の病変に容易に注入されなければならない。4)コストおよび入手可能性。注入溶液は、費用効率の高い方法で容易に製造されるべきであり、全ての原材料は、妥当なコストで容易に入手可能であるべきである。5)出血管理/制御。溶液は、好ましくは固有の止血能力を有する。出血は、EMRに関連する主要な合併症として報告されており、ESD中およびESD後により一般的に見られ、症例の4.5%~15.5%で生じ、リスクは病変サイズとともに増加し、処置後の出血のリスクは依然として問題である。一方、処置中に遭遇する任意の出血が迅速に制御されるべきであると考えると、溶液の固有の止血特性はまた、処置時間を短縮し、内視鏡電気凝固ツールの使用によって引き起こされる不都合を軽減するのに役立ち得る。
【0005】
様々な注入可能な材料が粘膜下注入のために開発されている。生理食塩水は、内視鏡検査において臨床的に最も一般的に使用される溶液であり、その非毒性、低コスト、および使いやすさのため、「ゴールドスタンダード」であると考えられる。しかしながら、急速に消散してしまうという欠点があり、しばしば反復注射を必要とし、その結果、手術が困難になったり副作用のリスクが高くなる。この制限を克服するために、荷電分子および天然/合成ポリマーからなる高張液(例えば、高張グルコース、グリセロール、およびデキストロース溶液)および粘性溶液(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、フィブリノーゲン、ゼラチン、カルボキシメチルデンプンナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびアルギン酸ナトリウム)が、より長いリフト持続時間でより高いリフト高さを達成するために使用されるが、それらはすべて、独自の利点および欠点を有する。高張液は、概して、通常の生理食塩水よりも高いクッションを最初に作り出すことができるが、2cmより大きい病変を除去する場合に、隆起持続時間は満足されないままであり、組織損傷を引き起こす傾向がある。ヒアルロン酸ナトリウム粘性溶液(英国のHyaltech Ltd.によるSigmaVisc(商標)および日本の生化学工業によるMucoUpとして例示される)は、より長い持続時間で高い粘膜下リフトを有することが報告されている。しかしながら、その適用は、高価であること、注入圧が高いこと、および入手しにくりことによってしばしば制限され、より高い再発のリスクに関連する癌細胞増殖を潜在的に促進し得る。フィブリノーゲン溶液は、妥当な価格で入手可能であり、長期持続性の粘膜下隆起をもたらすために高い粘度を有するが、疾患伝播のリスクに悩まされている。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの適用はまた、粘膜下注入後に組織損傷を引き起こし得ることによって制限される。
【0006】
高粘度の溶液または注入後にゲルを形成することができる溶液は、粘性の溶液およびゲルが拡散するまたは周囲の組織によって吸収される傾向が少ないので、概してより良好な隆起性能に関連する。注入可能なゲル、具体的には、好ましくはシアシニング性を有する多糖類ゲル、例えば、ジェランガム(Boston ScientificによるOrise(商標)ゲルとして例示される)およびイオン架橋アルギン酸ゲルが、長期の粘膜下隆起のために開発されてきた。しかしながら、溶液の高い粘度は、その注入性を損ない、それにより溶液が流れにくくなるか、または内視鏡注入装置を閉塞するリスクさえも有する。したがって、溶液の粘度は、その隆起性能と注入性とのバランスをとるために正確に調整される必要があるが、現在、注入性に影響を及ぼすことなく隆起を改善するための柔軟性を提供するために利用できるアプローチは、限られている。「高圧」発生装置(Cook Medicalによる特許文献1に記載されている)は、高粘性溶液の注入を補助するように設計されているが、組織損傷のリスクをもたらし、内視鏡処置に不便さを追加する可能性がある。この問題に対処する別の方法は、注入中に低粘度で液体のままであり、溶液が体温に達する標的組織に注入された後に高粘度を示すようにin situゲル化を可能にする、精製逆感熱性ポリマー(特許文献2に開示されるLeGoo-endo(商標)として例示される)の使用である。隆起が改善されているにもかかわらず、逆感熱性ポリマーは、標的組織に到達する前に体温に達し、それによって、内視鏡管/カテーテル内でゲル化して詰まり、その注入性を大きく損なう可能性がある。
【0007】
これを考慮して、臨界ゲル化濃度(CGC)よりも低い濃度を有し、それによって体温でも溶液を低い粘度に維持する逆感熱性ポリマーが、EMR注入用に設計され、Aries Pharmaceuticals,IncのEleview(登録商標)によって例示される(特許文献3に開示される)。Eleview(登録商標)溶液の主成分は、界面活性剤を用いて水中でエマルジョンを形成する不活性かつ非分解性のポリエーテルであるポロキサマー188である。注入後、溶液は粘性製品に変わり、最大60分の即効性および持続性のある隆起を提供するが、Eleview(登録商標)を使用する場合、気泡が形成されやすく、それによって内視鏡視界を不明瞭にし、体内のクリアランス経路が不明であることが別の懸念となり得る。より重要なことに、11人の患者に対するEMRおよびESD処置のためのEleview(登録商標)の使用に関する最近の報告は、Eleview(登録商標)がEMR処置に対して安全かつ有効であることを示したが、リフト持続時間は、ヒトにおいて平均12.5分(範囲:10~15分)しか持続せず、これは、ブタモデルにおいて主張された60分のリフト持続時間よりもはるかに短く、したがって、通常60~140分続くESD処置の完了にはほとんど不十分である。Eleview(登録商標)を使用する場合、ESD処置には複数回の注入が必要である。内視鏡医は、4人の患者のうちの3人にEleview(登録商標)を使用するESD処置を中等度困難として等級付けし、処置は非常に費用がかかり得る(10mL当たり81米ドル)。ブタモデルとヒト試験との間の大きな相違によって、低濃度のポロキサマー188の使用が、ヒトにおいて持続的なリフトを維持するのに十分な粘度を有するクッションを形成することができない可能性が示唆され得る。しかしながら、粘度を増加させるために単に濃度を増加させることは、注入圧力の増加をもたらし、したがって、内視鏡ツールを通した注入可能溶液の注入性を低下させるであろう。注入圧力と粘度とのバランスのこのような矛盾は、臨床EMRおよびESD処置のための理想的な注入可能溶液の開発における重大な課題を構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際特許出願公開第2011/103245号
【特許文献2】国際特許出願公開第2009/070793号
【特許文献3】国際特許出願公開第2015/075024号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
有望な進歩がなされてきたが、液体、ゲル、およびエマルジョンの形態の現在の粘膜下注入溶液は、上記の全ての要件に直接対処することができず、単一の製品でEMRおよびESDの両方における便利な使用を可能にすることはできない。したがって、生体適合性であり、費用効率が高く、容易に入手可能であり、注入が容易であり、高い持続性の粘膜下隆起を提供し、好ましくは止血性である、特にEMRおよびESDにおける内視鏡処置を補助するための解決策を提供することが緊急に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
概して、本開示は、流体ゲルの形態の注入可能な組成物、そのような組成物を調製する方法、およびヒトに注入して内視鏡処置、好ましくはポリープ切除術、EMRおよび/またはESD処置においてクッションを形成するためのその使用に関する。
【0011】
本開示は、注入可能な組成物を提供し、該注入可能な組成物は、長鎖および親水性多糖類、タンパク質またはそれらの誘導体である少なくとも1つのゲル化成分、一価または多価カチオンまたはアニオンの供給源としての少なくとも1つの塩、少なくとも1つの改質剤、および水を含む。
【0012】
本開示は、注入可能な組成物を提供し、該注入可能な組成物は、流動する構造化液体のタイプである流体ゲルの形態で製剤化される。詳細には、前記流体ゲルは、流動性状態、流動困難な状態、または非流動性状態でも、粘性溶液として粒子間相互作用を介して弱く保持され得るゲル化粒子の懸濁液を含み、粒子間相互作用は、撹拌されるか、剪断応力を受けるか、または他の方法で乱されると容易に破壊され得、チキソトロピー挙動またはシアシニング挙動を示す。
【0013】
本開示は、注入可能な組成物を提供し、該注入可能な組成物は、長鎖および親水性多糖類、タンパク質またはそれらの誘導体であり、水中に分散したときに粘性分散物およびゲルを形成する特性によって特徴付けられる、少なくとも1つのゲル化成分を含む。
【0014】
注入可能な流体ゲル組成物は、少なくとも1つの改質剤を含み、前記改質剤は、ゲル化粒子の形成中のゲル化成分鎖間の相互作用、またはゲル化成分鎖と塩との間の相互作用、または隣接する粒子間、または粒子と塩との間の相互作用を部分的に遮断または架橋することによって、ゲル化成分のゲル化に影響を及ぼすことができる。同時に、組織隆起性能と流体ゲル注入性を複雑にバランスさせるために、疎水性などの組成物特性を調整する柔軟性を付与する。
【0015】
本開示は、少なくとも1つのゲル化成分および少なくとも1つの改質剤を含む注入可能な流体ゲル組成物を提供し、前記ゲル化成分および改質剤は、水中で相溶性であり、分子レベルで混和性であるか、または水中に容易に分散可能である。
【0016】
本開示は、一価または多価カチオンまたはアニオンの供給源として少なくとも1つの塩を含む注入可能な流体ゲル組成物を提供する。いくつかの実施形態における塩の導入は、ゲル化粒子の形成を誘導するためのイオンを提供し得る。いくつかの実施形態では、塩は、溶液浸透圧またはイオン強度の調節のために使用され得る。いくつかの実施形態では、組成物のpH、またはゲル化剤のまたはゲル化粒子間の架橋能力を調整するために有機塩を添加してもよい。
【0017】
いくつかの態様では、注入可能な組成物は、粘膜下層および標的病変の側方縁の同定を補助するために、薬学的に許容される着色剤などの追加の薬剤を含んでもよい。
【0018】
特定の態様によれば、注入可能な組成物は、創傷治癒を補助するためのレバミピドなどの治療剤、または光力学療法を介して癌を治療するためのヘマトポルフィリン、メソテトラ(ヒドロキシフェニル)クロリ(mTHPC)、モテキサフィンルテチウム、パドポルフィンなどの光増感剤を含み得る。
【0019】
追加的にまたは代替的に、注入可能な組成物は、ゲル化成分、改質剤、塩またはそれらの組合せに由来し得る固有の止血能力を有し得る。
【0020】
本開示はまた、注入可能な流体ゲル組成物を調製するための方法も企図する。例えば、1つの例示的な方法は、連続的に撹拌しながら、ゲル化成分および改質剤を含む混合物に塩を添加して、注入可能な流体ゲル溶液を得る工程を含み得る。別の例示的な方法は、最初に塩、ゲル化成分、および改質剤の混合物を加熱し、次いで連続的に撹拌しながら冷却して注入可能な流体ゲル溶液を生成する工程を含むことができる。
【0021】
別の態様では、本開示はまた、内視鏡処置において上昇剤または緩衝剤として使用するために、ヒトに前記注入可能な組成物を投与する方法を提供する。例示のための一例として、本方法は、注入可能な組成物を容器、好ましくは注射器に移す工程を含むことができ、組成物は注入前に流体ゲルの形態のままである;そして、前記組成物の注入は、組織部位における流体ゲルの蓄積をもたらし、前記組成物は、粘性ゲルまたはゲル化生成物に変わり(例えば、組織部位における剪断応力の低下による)、クッションを提供する。
【0022】
本開示の目的の1つは、低い注入圧力および/または改善された組織隆起性能を有する注入組成物であって、EMRおよび/またはESD処置などの内視鏡処置を実施するための利点を提供することができる注入組成物を提供することである。この目的は、本開示の例示的な実施形態において、注入圧力を調整し、クッション性能を長期間維持するために流体ゲル特性を調整するための改質剤を含む組成物によって達成される。
【0023】
本開示の別の目的は、内視鏡処置中または処置後の出血制御のための止血特性を有する注入可能な組成物を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】1mLの生理食塩水の注入と比較した、1mLの試験サンプル2(TS-2)の注入後の結腸サンプルの粘膜下層におけるクッションの形態を示す図
図2】試験サンプル2(TS-2)、カルシウム架橋アルギン酸ナトリウム流体ゲル(SA+Ca2+)、および0.001%のメチレンブルーを結腸サンプルの粘膜下層に添加した生理食塩水の注入の15分後の増粘した流動性の低い生成物の形成を示す図
図3】ブタ胃サンプルの粘膜下層に0.001%のメチレンブルーを添加した試験サンプル2(TS-2)を注入した後の増粘した流動性の低い生成物の形成を示す図
図4A】25mLの生理食塩水で洗浄する前後に滅菌した試験サンプル24(TS-24)を注入した後に得られた増粘した流動性の低い生成物を示す図
図4B】生理食塩水に18時間浸漬した後に消失した、増粘した流動性の低い生成物を示す図
図5】結腸組織の粘膜下層に注入した後最大90分間の、0.4%ヒアルロン酸ナトリウム(HA)および生理食塩水と比較した試験サンプル2の隆起持続時間(TS-2)を示す図
図6】Aは内視鏡針を用いた新鮮なブタ組織への粘膜下リフトのための試験サンプル21(TS-21)の生体外注入を示し、Bは近位胃への注入前に形成された粘膜下クッションの画像を示し、Cは近位胃への注入後の画像を示し、DおよびEはそれぞれ、食道への注入の前および後に形成された粘膜下クッションの画像を示し、Fは内視鏡スネアが適用された食道クッションの画像を示し、Gは切除後のクリップによって部分的に閉じられた食道創傷の画像を示す
図7】試験サンプル22(TS-22)の回復可能なシアシニングプロファイルを示す例示的なデータを示す図
図8】試験サンプル23(TS-23)の例示的なシアシニング曲線を示す図
図9】滅菌された試験サンプル23(TS-23)中のゲル化粒子の例示的な顕微鏡画像を示す図
図10】試験サンプル3(TS-3)の直接接触の例示的な細胞毒性評価を示す図
図11A】PBSと比較した試験サンプル3および4(TS-3およびTS-4)の全血凝固時間を示す例示的なデータを示し、全血凝固の代表的な画像を示す図
図11B】PBSと比較した試験サンプル3および4(TS-3およびTS-4)の全血凝固時間を示す例示的なデータを示し、凝固時間(n=5)の比較を示す図
図12】PBSおよび市販のOrise Gel粘膜下リフト剤(n=4)と比較した滅菌試験サンプル24(TS-24)の例示的な止血特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示は、前述の図面を参照して以下の非限定的な実施例を参照することにより、よりよく理解され得る。
【0026】
本明細書に記載される実施形態は、以下の詳細な説明および実施例ならびにそれらの前述および後述の説明を参照することによって、より容易に理解することができる。しかしながら、本明細書に説明される要素、装置、および方法は、詳細な説明および実施例に提示される特定の実施形態に限定されない。これらの実施形態は、本開示の原理の単なる例示であることを認識されたい。本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多くの修正および適応が当業者には容易に明らかであろう。
【0027】
本明細書に開示される全ての範囲は、明示的に別段の記載がない限り、範囲の端点も含むと見なされるべきである。例えば、「5~10の間」、「5から10まで」、または「5~10」の範囲は、概して、端点5および10を含むと見なされるべきである。
【0028】
さらに、「最大(~まで)」という用語が量または数量に関連して使用される場合、その量は少なくとも検出可能な量または数量であることを理解されたい。例えば、特定量「まで」の量で存在する物質は、検出可能な量から特定量までおよび特定量を含む量で存在することができる。
【0029】
本開示は、注入可能な組成物、そのような組成物を調製する方法、ならびに内視鏡処置、好ましくはEMRおよび/またはESD処置においてヒト組織に注射してクッションを形成するためのその使用を提供する。注入可能な組成物は、生体適合性であり、費用効果が高く、容易に入手可能である。前記組成物は、高い持続性の粘膜下隆起および止血機能を提供しながら、その低い注入圧力のために注入が容易である。
【0030】
少なくとも1つのゲル化成分、少なくとも1つの改質剤、少なくとも1つの塩、任意選択で着色剤または治療剤、および水を含む流体ゲルの形態の、本発明の注入可能な組成物は、驚くべきことに、内視鏡処置、好ましくはEMRおよび/またはESD処置を補助するために粘膜下注入後に高度に長時間持続するクッションを形成することができる。
【0031】
当技術分野でよく知られているように、粘膜下注入後に溶液の流動抵抗性(粘度)および/または絡み合ったネットワークを形成する能力(ゲル形成)を増大させることは、高度かつ長期間持続する隆起性能を達成するのに重要である。したがって、食品および化粧品に通常見られる周知の増粘剤およびゲル化剤として、長鎖バイオポリマー(多糖類およびタンパク質)、特に多糖類、粘膜下注入で適用される場合、通常、高濃度で調製されるか、または架橋剤を添加して絡み合ったネットワークの形態で調製され、粘度の有意な増加を誘導する。しかしながら、多糖を単独で、塩のような架橋剤と組み合わせて使用することによっては、EMR/ESDの必要性を完全に満たすことはできない、なぜならば、多糖を単独でまたは溶液またはバルクゲルのいずれかの形態の架橋剤と組み合わせて使用することによって十分なリフト性能を維持しながら、妥当な注入性のバランスをとることが課題であったためである。
【0032】
多糖類をゲル化中に剪断して流体ゲル構造、すなわち非ゲル化連続媒体中のゲル化粒子の懸濁液を生成することができるという発見は、粘膜下/粘膜注入領域におけるこれらのゲル化剤の潜在的適用を広げることができる。流体ゲルは、バイオポリマーの選択(例えば、多糖類、タンパク質タイプ、または混合成分)、使用されるバイオポリマーの濃度、塩の選択、およびゲル化がイオン媒介される場合の塩の濃度、ならびに処理条件(粒子サイズおよび粒子相互作用の程度に直接関連する)に応じて、上記の粘性液体および架橋ゲルとは異なる、性能およびレオロジー特性において幅広い変動を有する。内視鏡用途のための流体ゲルの最も魅力的なレオロジー特性の1つは、臨界剪断応力を受けるときの粘度の減少によって、および剪断応力の除去後にその粘度を回復する能力によって特徴付けられる、チキソトロピーおよび/またはシアシニング挙動である。
【0033】
チキソトロピーおよびシアシニング挙動は、以下のように説明することができる:流体ゲル中のゲル分率が十分高い場合、ゲル粒子は相互作用し、架橋剤の有無にかかわらず絡み合ったネットワークを形成するように密接に詰まり、それによって粘性があるが流動性のある流体ゲル、流動困難性流体ゲル、またはさらには流動不能性流体ゲルを生成する。粘性流体ゲルは、注入中などの剪断応力下での特定の相互作用の破壊によりシアシニング性変換を受け、したがって内視鏡注入カテーテルおよび針を通した注入を可能にする。注入力または剪断応力除去後、特定の相互作用が再確立され、流体ゲルは粘性状態または流動困難状態または流動不能状態に戻る。
【0034】
粘膜下リフトの場合、驚くべきことに、ゲル化剤単独または架橋剤と共にゲル化剤を含む粘性流体ゲル組成物は、流体ゲル濃度に応じて、閉じ込められた粘膜下層(空間)に注入されると、流動性が低下し、流動しにくくなり、または流動しなくなることが発見された。当業者が認識するように、このような結果は、チキソトロピー性物質を無限空間に注入する場合と比較すると、予想外かつ自明ではなかった。チキソトロピー性流体ゲルの元の粘性状態に単純に戻る代わりに、そのような予期せぬ粘度増加または増粘効果は、組織のリフトに有利であり、したがって、内視鏡処置における有意な利点と見なされる。本発明者らは、閉じ込められた粘膜下空間において、ゲル粒子間の相互作用およびゲル粒子と周囲組織との間の相互作用が増強され、粘度が増加されると考えた。粘膜下層におけるこのような予想外の粘度変化のメカニズムは完全には理解されていないが、流体ゲルのこの興味深い現象は、流体ゲルがEMRまたはESD処置における粘膜下注入の良好な候補として機能し得ることを示唆している。しかしながら、良好な組織リフトを維持するために、ゲル化剤を単独でまたは架橋剤と共に含む流体ゲルの濃度は十分に高くなければならず、その結果、内視鏡用カテーテルおよび内視鏡用針を含む内視鏡用注入器具を用いた粘性流体ゲル組成物の注入性が悪くなる。流体ゲル濃度を低下させることによる溶液粘度の低下によって、注入可能性は改善し得るが、必然的に組織リフト能力を犠牲にするか、または組織リフト時間が短くなる。
【0035】
本開示による改質剤は、ゲル粒子の形成中のゲル化成分鎖間の相互作用、ゲル粒子の形成中のゲル化成分ポリマー鎖と塩(または架橋剤)との間の相互作用、隣接する粒子間の相互作用、および/または流体ゲル組成物に導入された粒子と塩との間の相互作用を部分的に媒介(遮断または架橋)することによって、ゲル化成分のゲル化に影響を及ぼし得る。本開示による例示的な流体ゲル組成物は、ゲル化成分ポリマー鎖と塩(または架橋剤)との間の相互作用、隣接する粒子間の相互作用、および/または粒子と塩との間の相互作用を部分的または完全に媒介するように作用する1つまたは複数の改質剤を含み得ることが驚くべきことに発見された。このようにして、本開示の実施形態は、低減された粘度、したがって注入圧力を示すことができる。また興味深いことに、流体ゲルは、閉じ込められた粘膜または粘膜下層に注入されると、より粘性または増粘し、長期持続する組織リフトを提供することも発見された。いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、閉じ込められた粘膜下空間において、改質剤は、疎水性、電荷分布、および/または官能基の存在などの流体ゲル特性を調節することができ、隣接する粒子間の相互作用の増強、粒子と塩との間の相互作用の増強、および/または粒子と粘膜下細胞外マトリックスとの間の相互作用の増強をもたらすことが推論された。そのような流体ゲル組成物は、内視鏡用途においてより高いおよび/またはより長く持続する粘膜下クッションを維持しながら、より容易な注入を可能にすることによって、EMR溶液の開発における前述の課題に対処し、その後の内視鏡切除および/または剥離処置をより良好に促進するので、有意な利点を提供することができる。
【0036】
したがって、本開示による流体ゲル組成物は、好ましくは、室温~体温の範囲の温度で、内視鏡カテーテルおよび針を通した注入前および注入中に、流動性状態に留まる。
【0037】
また驚くべきことに、本開示の例示的な流体ゲル組成物、例えば少なくとも1つのゲル化成分、少なくとも1つの改質剤、少なくとも1つの塩および水を含むものは、粘膜または粘膜下組織への注入後に長時間持続する組織の隆起(例えば、生理食塩水と比較して)を維持しながら、改質剤の導入によって注入圧力の低下を示すことができることも発見された。
【0038】
例示的な流体ゲル組成物の態様は、内視鏡処置で通常使用される注入ツール、例えば、最大2700mmの作業長さおよび2.8mmより小さいチャネルサイズを有するカテーテルに接続されるゲージ21~26の針径を有する内視鏡注入針を使用する場合、50psi以下、好ましくは30psi未満、より好ましくは20psi未満の注入圧力を含むことができる。例えば、いくつかの実施形態では、流体ゲル組成物は、本明細書に開示される内視鏡注入針を使用する場合、50psi~2psiの範囲の注入圧力、例えば、40psi~5psi、30psi~5psi、または20psi~10psiの範囲の注入圧力を有することができる。
【0039】
本開示によれば、例示的な流体ゲル組成物は、シアシニング挙動を示すことができ、流体粘度は剪断ひずみ下で減少し、シアシニング指数は1~20、好ましくは2~12である。いくつかの実装形態では、シアシニング指数を決定するための方法は、ASTM規格D2196によって定義される。例えば、シアシニング指数は、低回転速度での見掛け粘度と高回転速度での見掛け粘度との比として定義することができ、前記高回転速度は低回転速度の10倍である。
【0040】
本開示によれば、例示的な流体ゲル組成物は、1つまたは複数の止血成分を含むことができる。
【0041】
成分(A):ゲル化成分
本開示によれば、組成物は、多糖などの少なくとも1つのゲル化成分を含み、これは、バイオポリマーが立体配座転移および結果として生じる凝集を受けているときに、十分なエネルギーの流れ場をバイオポリマー溶液に適用することによって流体ゲルを調製するために使用することができる。ゲル化成分は、好ましくは生体適合性かつ止血性である。これは、直鎖状または分枝状、イオン性または中性、および純粋な天然または修飾されたものであり得る、熱可逆性および熱不可逆性多糖類を含む。流体ゲル調製に使用されるゲル化剤の非限定的な例としては、アルギン酸塩、キサンタンガム、k-カラギーナン、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ペクチン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、キトサンおよびアガロースが挙げられる。これらの中でも、好ましい例はアルギン酸塩である。
【0042】
いくつかの実施形態では、組成物はまた、少なくとも1つのゲル化成分としてタンパク質およびその誘導体を含んでもよく、これは、バイオポリマーが立体配座転移および結果として生じる凝集を受けているときに、十分なエネルギーの流れ場をバイオポリマー溶液に適用することによって、流体ゲルを調製するために使用され得る。ここで、前記タンパク質は、好ましくは生体適合性である。タンパク質の非限定的な例としては、ゼラチンおよびホエータンパク質が挙げられる。
【0043】
アルギン酸塩は、褐藻類から抽出された天然の直鎖状多糖類であり、ポリ-β-マンヌロン酸(M)とポリ-α-L-グルロン酸(G)の2種類のモノマーからなるヘテロポリマー鎖である。Ca2+、Mg2+、Zn2+、およびBa2+などの二価カチオンの添加、ならびに前記二価カチオンのアルギン酸塩鎖、優先的にはアルギン酸塩のGブロックへの結合によって、ゲルが形成される。アルギン酸塩流体ゲルは、活性形態の二価カチオンを剪断下でアルギン酸塩溶液に直接導入することによって得ることができる。さらに、アルギン酸塩は、主にフィブリン形成を加速することによって、およびカルシウムイオンによって架橋されるとカルシウム供与体として作用して
することにより血小板活性化および全血凝固を促進することによって、創傷被覆における止血剤として使用されてきた。
【0044】
アルギン酸塩には、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸プロピレングリコール、およびアルギン酸アンモニウムなどのアルギン酸およびその一価塩が含まれる。中でも、好ましい例はアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムである。
【0045】
異なる供給源から抽出されたアルギン酸塩は、MおよびG含有量が異なり、M/G比は、アルギン酸塩のゲル能力およびゲル強度に大きく影響する。いくつかの実施形態では、アルギン酸塩のM/G比は、0.45~3.35、好ましくは0.6~2.0、より好ましくは0.8~1.6の範囲であり得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、流体ゲル組成物は、0.05~6.5w/v%のアルギン酸ナトリウム、または好ましくは0.1%~3.6w/v%のアルギン酸ナトリウム、またはより好ましくは0.125%~1w/v%のアルギン酸ナトリウムを含んでもよい。
【0047】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のアルギン酸ナトリウムは、5~1500センチポアズ(cP)、好ましくは100cP~700cP、より好ましくは300~600cPの粘度(1w/v%、20℃)を有し得る。
【0048】
成分(B):改質剤
本開示によれば、流体ゲル組成物は、ゲル化成分(A)と相溶性であり、ゲル化成分(A)のゲル化プロセスに影響を及ぼすことができる少なくとも1つの改質剤を含む。前記改質剤は、ゲル化粒子の形成中にポリマー鎖間相互作用に影響を及ぼすことができる、および/または粒子間相互作用に影響を及ぼすことができる。前記改質剤は、好ましくは生体適合性かつ止血性である。前記改質剤としては、親水性合成ポリマー、親水性天然ポリマー、および両親媒性ポリマーが挙げられる。親水性合成ポリマーの非限定的な例としては、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリ(メタクリル酸)、および親水性ポリエステルが挙げられ、両親媒性ポリマーの非限定的な例としては、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)-ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)-ポリ(エチレンオキシド)(PEO)ブロックコポリマーおよび両親媒性ポリエステルが挙げられる。前記改質剤としては、天然オリゴマーおよび/または低分子量多糖類も挙げられる。非限定的な例としては、オリゴグルロネート、アルギン酸塩から抽出されたグルロネートブロック(18)、オリゴマンヌロネート(アルギン酸塩から抽出されたマンヌロネートブロック)、オリゴウロネート(ペクチンから抽出されたウリネートブロック(19))、および低分子量キトサンが挙げられる。
【0049】
これらのうち、好ましい改質剤は、豊富なペンダント基を有する完全合成ポリエステルであり、前記合成ポリエステルは、1つの高反応性ポリカルボン酸、少なくとも1つの親水性ジオールの重縮合を介して、および/または少なくとも1つの疎水性ジオールおよび/または少なくとも1つの両親媒性ジオールとの重縮合を介して、合成される。前記合成ポリエステルは、合成が容易であり、導入されるジオールに応じて親水性または両親媒性であり得る。それはまた、トリカルボン酸と反応するモノマーを変化させることによって、または疎水性ジオールと親水性ジオールの比率を調整することによって、疎水性などの組成物特性を調整する柔軟性を付与し、それによって、隆起性能および注入可能性を複雑にバランスさせる。前記合成ポリエステルはまた、カルボキシル基などの豊富なペンダント基を有し、これは、強力なカルシウム結合能力を付与することにより、止血剤として知られるカルシウムイオンをより多く粘膜下層へ供給することを可能にし、したがって、内視鏡切除中の血液凝固時間を減少させ、処置後の出血のリスクを減少させ得る。さらに、豊富な遊離ペンダント基は、ペンダント基と周囲の組織との間の水素結合および静電結合の形成を介して、組成物に粘膜付着特性を付与し得る。最後に、トリカルボン酸の高い反応性は、荷電部分または他の機能性(例えば、抗酸化特性および抗菌特性)および画像化能力(例えば、蛍光画像化および光音響画像化)または光吸収能力を、広範囲の選択肢のモノマーと反応させることによってポリマーへ導入することを可能にする。
【0050】
いくつかの実施形態では、前記改質剤は、高反応性ポリカルボン酸、少なくとも1種の親水性ジオールおよび/または少なくとも1つの疎水性ジオールおよび/または少なくとも1つの両親媒性ジオールを反応させることによって合成され、前記高反応性ポリカルボン酸は、ポリマー鎖伸長のための複数の反応部位を有し、ゲル化成分、塩および/または周囲組織との相互作用の増強のために貴重なペンダント基を示す。前記ポリカルボン酸は、トリカルボン酸および/またはテトラカルボン酸であってもよく、またはそれらの組合せとしては、アコニット酸、プロパン-1,2,3-トリカルボン酸、アガリン酸、クエン酸、イソクエン酸、トリメシン酸、フランテトラカルボン酸、ビフェニル-3,3’,5,5’-テトラカルボン酸、ビ(シクロプロパン)-2,2’,3,3’-テトラカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸)、および(+)-(18-クラウン-6)-2,3,11,12-テトラカルボン酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
いくつかの実施形態では、前記改質剤は、高反応性ポリカルボン酸を少なくとも1つの親水性ジオールと反応させることによって合成される。前記改質剤合成に使用される少なくとも1つの親水性ジオールは、トリカルボン酸とのポリマー鎖の形成に寄与し、得られるポリマー改質剤の水中での溶解または均質な分散を可能にする。親水性ジオールの非限定的な例としては、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、1,2-プロパンジオール-セバケート、およびポリ(ビニルアルコール)、ならびにこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0052】
いくつかの実施形態では、前記改質剤は、高反応性ポリカルボン酸を、上記の少なくとも1つの親水性ジオールおよび/または少なくとも1つの疎水性ジオールと反応させることによって合成される。前記ポリマー改質剤合成に使用される少なくとも1つの疎水性ジオールは、ポリマーの疎水性を調節することができ、これは、水の拡散を防止することによって長期の粘膜下隆起に有利に働く。疎水性ジオールの非限定的な例としては、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、ポリプロピレングリコール)(PPG)、1,12-ドデカンジオール、ポリカプロラクトン(PCL)ジオールおよびポリラクチド(PLA)ジオール、ならびにこれらの任意の組合せのような異なる炭素長の脂肪族ジオールが挙げられる。
【0053】
いくつかの実施形態では、前記改質剤は、高反応性ポリカルボン酸をPEG-PPG-PEGコポリマーのような少なくとも1つの両親媒性ジオールと反応させることによって合成される。
【0054】
いくつかの実施形態では、親水性ジオール対疎水性ジオールのモル比は、10:0~0:10、好ましくは9:1~5:5の範囲であり得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、正に荷電した部分を前記改質剤合成に導入して、得られるポリマー鎖の電荷分布および電荷密度を調整することができる。非限定的な例としては、正に荷電したアミノ酸(リジンおよびアルギニンなど)、N-メチルジエタノールアミン(MDEA)、またはこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0056】
いくつかの実施形態では、リン酸含有ジオールを前記改質剤合成に使用して、電荷密度を調整し、得られたポリマーとゲル化成分(A)とのイオン相互作用を調節することができる。非限定的な例としては、リン酸化アミノ酸(ホスホセリン、ホスホトレオニン、およびホスホチロシンなど)、β-グリセロリン酸塩、またはそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0057】
いくつかの実施形態では、前記改質剤の分子量は、500~20,000Da、好ましくは600~15,000Da、より好ましくは800~1,0000Daの範囲であり得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、流体ゲル組成物は、0.001~10w/v%の改質剤、または好ましくは0.05%~8w/v%の改質剤、またはより好ましくは0.25%~5w/v%の改質剤を含む。
【0059】
成分(C):塩
本開示によれば、注入可能な流体ゲル組成物は、一価、二価または多価のカチオンおよび/またはアニオンの供給源として少なくとも1つの塩を含み、前記少なくとも1つの塩は、ゲル化成分および改質剤と相溶性があり、好ましくは生体適合性および止血性である。
【0060】
いくつかの実施形態では、二価カチオンの導入は、アルギン酸ポリマー鎖などの成分(A)に対して高い親和性を示す、Ca2+、Sr2+、Zn2+、Mn2+、Co2+、Ni2+、Cd2+、およびBa2+などの成分(A)のゲル化を媒介する。全てのカチオンの中で、アルギン酸ナトリウムのゲル化を効果的に媒介し、止血プロセスにおいてその役割を果たすという観点から、Ca2+が好ましい。カルシウム塩の非限定的な例としては、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、四ホウ酸カルシウム、クエン酸カルシウム、硫酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウムおよびリン酸水素カルシウムが挙げられる。
【0061】
アルギン酸塩が成分(A)として使用されるいくつかの特定の実施形態では、カルシウム塩の濃度は、0.006~0.9w/v%、好ましくは0.01~0.4w/v%、より好ましくは0.014~0.12w/v%の範囲であり得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、組成物と適合する水に溶解した一価カチオンまたはすべてのアニオンを添加して、組成物の浸透圧またはイオン強度を調整してもよい。組成物に適した一価カチオンとしては、ナトリウム塩およびカリウム塩ならびにこれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されず、組成物に適したアニオンとしては、塩化物、リン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、および硫酸塩ならびにこれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されない。全てのカチオンの中で、ナトリウム塩が好ましい。ナトリウム塩の非限定的な例としては、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、硫酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、グリセロリン酸ナトリウムが挙げられる。
【0063】
いくつかの実施形態では、組成物と相溶性である有機塩またはその酸形態を添加して、成分(A)の組成物のpH、イオン強度、または架橋能力を調整してもよい。有機塩またはその酸形態としては、クエン酸塩またはクエン酸、マレイン酸塩またはマレイン酸、グルタミン酸塩またはグルタル酸、シュウ酸塩またはシュウ酸、乳酸塩または乳酸、グルコン酸塩またはグルコン酸、ならびに酒石酸塩または酒石酸、またはこれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
上記(C)成分は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、特定の濃度の塩化カルシウムを添加して成分(A)のゲル化を媒介することができ、特定の濃度の塩化ナトリウムを添加して得られる組成物の浸透圧を調整することができる。
【0065】
成分(D):水
本発明によれば、上記成分は、成分(D)として水に溶解され、前記水は、好ましくは、無菌精製水、または蒸留水、または脱イオン水であり、病原体を含まず、エンドトキシンを含まない。
【0066】
他の成分
いくつかの実施形態では、組成物は、着色剤、防腐剤、消泡剤、安定剤、抗酸化剤、光増感剤または治療剤などの1つまたは複数の他の成分をさらに含んでもよく、これらは組成物と相溶性であり、生物医学的用途のために生体適合性である。
【0067】
いくつかの態様において、組成物は、粘膜下層および標的病変の側方縁の同定を補助するための着色剤をさらに含み得る。前記着色剤としては、インジゴカルミン、メチレンブルー(MB)、ルゴールヨード、トルイジンブルー、クレシルバイオレット、コンゴレッド、フェノールレッド、インドシアニングリーン(ICG)、または食品および内服薬物用途のための米国FDA着色添加剤活性目録に列挙されている任意のFD&C着色添加剤が挙げられる。インドシアニングリーン(ICG)の添加はまた、いくつかの態様において、病理学的病変の蛍光および光音響イメージング支援切除に寄与し得る。
【0068】
いくつかの態様では、組成物は、蛍光イメージングによる粘膜下層の同定を補助するための蛍光色素をさらに含んでもよく、前記蛍光色素は、キサンテン誘導体(フルオレセインおよびローダミンなど)、シアニン誘導体(シアニン、インドシアニングリーン(ICG)など)、量子ドット、およびクエン酸(CA)と異なるアミノ酸などのアミン含有化合物とを反応させることによって合成される低分子蛍光色素のクラスを含むが、これらに限定されない。場合によっては、前記蛍光色素は、クエン酸およびシステインを反応させることによって合成される蛍光色素であるCA-Cysであり、前記CA-Cysは、組成物に添加されると、蛍光イメージングを可能にする強力な蛍光を提供するだけでなく、ゲル化成分としてのアルギン酸塩の架橋剤としても機能し得る。
【0069】
いくつかの他の態様では、組成物は、リン光イメージングによる粘膜下層の同定を補助するために、リン光材料をさらに含んでもよく、前記リン光材料としては、硫化亜鉛、アルミン酸ストロンチウム、または有機リン光材料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
いくつかの他の態様では、組成物は、内視鏡処置後のその後の創傷治癒を促進するための追加の治療剤、例えば、処置後の出血をさらに防止するためのエピネフリン、胃切除処置後の潰瘍の形成を防止しながら創傷治癒を促進するためのプロトンポンプ阻害剤またはレバミピド、癌再発を防止するための化学療法剤、感染を防止するための抗生物質、または処置後の炎症を防止するための抗炎症剤などを含み得る。いくつかの態様では、治療剤は、光力学療法を介してがんを治療するための、ヘマトポルフィリン、メソテトラ(ヒドロキシフェニル)クロリ(mTHPC)、モテキサフィンルテチウム、パドポルフィンなどの光増感剤であり得る。
【0071】
組成物を調製する方法
本開示はまた、いくつかの例では、注入可能な流体ゲル組成物を調製する方法を含み、本方法は、以下を含む:流体ゲル組成物の調製;組成物の滅菌;注入前に組成物が流体ゲルの形態のままであるシリンジへの溶液の移送;および、シリンジから内視鏡針を通して標的組織への流体ゲルの形態の組成物の注入であって、組成物は、粘性ゲルまたは弱いゲル様生成物に変わり、粘膜下流体クッションなどのクッションを提供する。
【0072】
いくつかの実施形態では、流体ゲル組成物は、成分(A)、(B)、(C)および任意選択で前記他の成分を、連続的に撹拌しながら(例えば、ジャケット付きピン撹拌機または磁気撹拌機を使用する)水中で直接混合して、注入可能な流体ゲル溶液を得ることによって調製した。
【0073】
いくつかの他の実施形態では、成分(C)としての塩溶液を、連続的に撹拌しながら(例えば、ジャケット付きピン撹拌機または磁気撹拌機を使用する)、成分(A)、(B)および任意選択で前記他の成分の混合物に添加して、注入可能な流体ゲル溶液を得た。
【0074】
いくつかの他の実施形態では、成分(C)としての塩溶液を、最初に成分(B)としてのポリマー改質剤と混合し、次いで、混合物を、連続的に撹拌しながら(例えば、ジャケット付きピン撹拌機または磁気撹拌機を使用する)、成分(A)および任意選択で前記他の成分に添加して、注入可能な流体ゲル溶液を得た。
【0075】
いくつかの他の実施形態では、流体ゲル組成物は、最初に成分(B)を着色剤などの他の成分と混合し、次いで成分(A)を添加して均質な溶液を形成し、続いて連続的に撹拌しながら成分(C)として塩溶液を添加して注入可能な流体ゲル溶液を得ることによって調製された。
【0076】
いくつかの他の実施形態では、流体ゲル組成物は、水中で成分(A)、(B)、および(C)混合物を加熱し、次いで連続的に撹拌しながら混合物温度を徐々に下げて注入可能な流体ゲル溶液を得ることによって調製した。
【0077】
いくつかの他の実施形態では、流体ゲル組成物は、水中で成分(A)および(B)混合物を加熱し、次いで混合物温度を徐々に下げ、続いて、連続的に撹拌しながら成分(C)を添加して注入可能な流体ゲル溶液を得ることによって調製した。
【0078】
いくつかの他の実施形態では、流体ゲル組成物は、成分(A)を水中で加熱し、次いで溶液温度を徐々に下げ、続いて成分(B)および(C)を連続的に撹拌しながら添加して注入可能な流体ゲル溶液を得ることによって調製した。
【0079】
いくつかの実施形態において、組成物は、全ての成分が混合され、滅菌され、シリンジに予め充填された液体の形態で提供され得る。
【0080】
いくつかの他の実施形態では、組成物は、全ての成分が混合され、滅菌され、アンプルに予め充填された液体の形態で提供され得る。
【0081】
いくつかの他の実施形態では、組成物は、全ての成分が混合され、シリンジまたはアンプルに予め充填され、最終滅菌された液体の形態で提供され得る。
【0082】
いくつかの他の実施形態において、組成物は、凍結乾燥粉末の形態で提供されてもよく、全ての成分が混合され、滅菌され、1つの容器中に充填され、別の容器中の滅菌水と混合される。滅菌水をシリンジで移して凍結乾燥粉末を溶解した後、内視鏡処置で投与する。
【0083】
いくつかの他の実施形態では、組成物は、二液型製剤の形態で提供されてもよく、製剤の部分(1)は、ゲル化剤が含まれ、滅菌され、1つの容器に充填された、液体または凍結乾燥粉末の形態で提供されてもよく、製剤の部分(2)は、改質剤および塩が混合され、滅菌され、別の容器に充填された、液体または凍結乾燥粉末の形態で提供されてもよい。製剤の2つの部分の水中での予備混合は、内視鏡処置における投与前に行われる。
【0084】
いくつかの他の実施形態では、組成物は、二液型製剤の形態で提供されてもよく、製剤の部分(1)は、ゲル化剤および改質剤が混合され、滅菌され、1つの容器に充填された、液体または凍結乾燥粉末の形態で提供されてもよく、製剤の部分(2)は、塩が含まれ、滅菌され、別の容器に充填された、液体または凍結乾燥粉末の形態で提供されてもよい。製剤の2つの部分の水中での予備混合は、内視鏡処置における投与前に行われる。組成物は、特に限定されない任意の適切な方法に従って滅菌されることが望ましい。非限定的な例としては、ガンマ線照射、エチレンオキシド滅菌、UV照射、電子ビーム滅菌、濾過およびオートクレーブ処理が挙げられる。
【0085】
組成物の使用方法
本開示はまた、内視鏡処置のために組成物を使用するための方法を提供し、前記方法は、ヒトの標的組織に入った後、好ましくはGI管の粘膜下層に入った後、粘性流体ゲル状態として残存し、好ましくは標的組織に入った後、さらにより粘性のあるゲルになる粘性流体ゲル組成物の注入を含む。より詳細には、流体ゲル組成物は、その後の切除または剥離処置を補助するためのクッションを形成するために、内視鏡注入ツールを使用して標的組織に注入され、前記内視鏡注入ツールは、1000mm以上、好ましくは1500~2500mmの有効長を有する管と、21~26ゲージの直径を有する標準的な内視鏡注入針とを備える。
【0086】
いくつかの実施形態では、組成物を使用する方法は、凍結乾燥粉末の形態の組成物に水を添加する工程、全ての成分を十分に混合して均質な溶液を得る工程、内視鏡注入ツールに接続可能なシリンジに溶液を移す工程、その後の切除または剥離処置を補助するためのクッションを形成するために、内視鏡注入ツールを使用して組成物溶液を標的組織に注入する工程を含んでもよく、前記内視鏡注入ツールは、1000mm以上、好ましくは1500~2500mmの有効長を有する管と、21~26ゲージの直径を有する標準的な内視鏡注入針とを含む。
【0087】
いくつかの他の実施形態では、組成物を使用する方法は、製剤の2つの部分を十分に混合して均質な溶液を得る工程、内視鏡注入ツールに接続可能なシリンジに溶液を移す工程、その後の切除または剥離処置を補助するクッションを形成するために、内視鏡注入ツールを使用して組成物溶液を標的組織に注入する工程を含んでもよく、前記内視鏡注入ツールは、1000mm以上、好ましくは1500~2500mmの有効長を有する管と、21~26ゲージの直径を有する標準的な内視鏡注入針とを含む。
【0088】
本開示の好ましい用途では、組成物は、内視鏡針を通してヒトの標的組織に注入されて標的組織層をリフトし、前記標的組織層は、粘膜下層、粘膜層、および上皮層を含む。前記組成物の標的化され好ましい適用部位は、GI管に沿った食道、胃、十二指腸、小腸、盲腸、結腸および直腸を含む。
【0089】
さらに、本開示の実施形態はまた、GI内視鏡処置以外の多数の処置に適用されてもよく、前記処置は、組織分離が必要とされる、口腔処置、泌尿器処置、形成手術、または開腹侵襲手術を含む。
【0090】
本開示の利点
前述の開示に鑑みて、例示的な実施形態は、従来の組成物と比較して1つまたは複数の利点を提供することができる。これらの利点は、以下を満たす粘性流体ゲル組成物を含むことができる:注入中にチキソトロピー挙動またはシアシニング挙動を示す;容易な注入のために注入前および注入中に流動性状態に留まる;注入後に、より粘性の流体ゲルまたはクッションになる;および、長時間持続する組織の隆起のために閉じ込められた粘膜下層に注入されると1~15分以内に、低流動性、流動困難、または流動不能状態を示す。
【0091】
例示的な実施形態のさらなる利点は、成分(B)に対する成分(A)の割合を調整することによって、好適な範囲内、好ましくは20psi未満になるように注入圧力を変更することを含み得る。
【0092】
例示的な実施形態のさらなる利点は、成分(C)に対する成分(A)の割合を調節することによって、成分(A)のゲル化能力、得られる組成物の粘度および/または止血特性、またはそれらの組合せを調節することを含み得る。
【0093】
以下の実施例は、本開示の実施形態の態様を示す。これらの実施例は、実施形態を本明細書におけるそのような実施例のみに限定することを意図しておらず、むしろいくつかの可能な実装形態を例示することを意図している。
【0094】
例示的な実装形態
本開示の例示的な実施態様は、以下を含む、止血機能を有するシアシニング性流体ゲル組成物を含むことができる:ゲル化剤、塩、改質剤、および水であって、前記組成物が、剪断中に流動性状態にあり、剪断除去後に粘性流体ゲルになるか、または流動性がはるかに低い、流動困難性、またはさらには流動不能性ゲルになり、ゲル化剤、改質剤、塩、またはそれらの組合せが止血機能を示し、前記改質剤は、組成物の注入圧力を低下させ、同時に十分に高濃度の流体ゲルを維持する。
【0095】
いくつかの例示的な組成物の1つの態様は、連続的に撹拌しながら、1つのゲル化剤、少なくとも1つの塩、少なくとも1つの改質剤、および水を混合することによって調製することができる組成物を含むことができる。
【0096】
いくつかの例示的な組成物の別の態様は、50psi未満、好ましくは30psi未満、より好ましくは20psi未満の注入圧力を有する組成物を含むことができる。
【0097】
いくつかの例示的な組成物のさらなる態様は、1から20の間、好ましくは2から12の間のシアシニング指数を有する組成物を含み得る。
【0098】
本開示によるいくつかの例示的な組成物について、ゲル化剤は、少なくとも1つの多糖類または少なくとも1つのタンパク質を含むことができ、少なくとも1つの多糖類は、キサンタンガム、k-カラギーナン、ゲランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ペクチン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、アルギン酸塩、キトサン、アガロース、またはこれらの組合せであり、少なくとも1つのタンパク質は、ホエータンパク質、ゼラチン、またはその両方である。特定の実装形態において、少なくとも1つの多糖は、アルギン酸塩およびキトサンから選択される、および/または少なくとも1つのタンパク質はゼラチンである。
【0099】
追加的または代替的に、本開示によるいくつかの例示的な組成物について、ゲル化剤は、0.05~6.5w/v%の濃度で存在することができる。
【0100】
追加的または代替的に、本開示によるいくつかの例示的な組成物について、改質剤は、親水性ポリマー、両親媒性ポリマー、またはその両方を含むことができる。例えば、特定の実施形態では、改質剤は親水性ポリマーを含むことができ、親水性ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリ(メタクリル酸)、親水性合成ポリエステル、またはこれらの組合せとすることができる。いくつかの実装形態では、改質剤は、両親媒性ポリマーを含むことができ、両親媒性ポリマーは、ポリエチレンオキシド(PEO)-ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)-ポリ(エチレンオキシド)(PEO)ブロックコポリマー((PEO)-(PPO)-(PEO)(式中、a=2~80およびb=15~27))、両親媒性合成ポリエステル、またはそれらの組合せであり得る。
【0101】
いくつかの例示的な実装形態によれば、親水性合成ポリエステルの態様は、ポリカルボン酸(PCA)を、以下からなる群からの少なくとも1つの親水性ジオール(DPHO)と反応させることによって親水性合成物を調製することを含むことができる:1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、1,2-プロパンジオール-セバケート、またはポリ(ビニルアルコール)またはそれらの任意の組合せ。さらに、特定の実装形態において、前記親水性合成ポリエステルは、500~20,000Da、好ましくは600~15,000Da、より好ましくは800~1,0000Daの範囲の分子量を有することができる。
【0102】
いくつかの例示的な実装形態によれば、両親媒性合成ポリエステルの態様は、ポリカルボン酸(PCA)を、以下からなる群から選択される少なくとも1つの疎水性ジオール(DPHO):1,8-オクタンジオール、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)、ポリカプロラクトン(PCL)ジオールまたはポリラクチド(PLA)ジオール;以下からなる群から選択される少なくとも1つの親水性ジオール(DPHO):1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、1,2-プロパンジオール-セバケート、またはポリ(ビニルアルコール);またはこれらの組合せ、と反応させることによって、両親媒性合成ポリエステルを調製することを含むことができる。さらに、特定の実装形態において、前記両親媒性合成ポリエステルは、500~20,000Da、好ましくは600~15,000Da、より好ましくは800~1,0000Daの範囲の分子量を有することができる。
【0103】
本開示の実装形態に関して、ポリカルボン酸は、アコニット酸、プロパン-1,2,3-トリカルボン酸、アガル酸、クエン酸、イソクエン酸、トリメシン酸、フランテトラカルボン酸、ビフェニル-3,3’ ,5,5’-テトラカルボン酸、ビ(シクロプロパン)-2,2’,3,3’-テトラカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、および(+)-(18-クラウン-6)-2,3,11,12-テトラカルボン酸またはこれらの組合せを含むがこれらに限定されない、トリカルボン酸およびテトラカルボン酸のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0104】
例示的な実装形態の一態様は、前記改質剤が10w/v%未満の濃度で存在する組成物を含むことができる。改質剤は、0.1%~10w/v%、例えば0.25%~5w/v%の濃度で存在することができる。
【0105】
特定の実装形態の態様によれば、少なくとも1つの塩は、前記ゲル化成分と相溶性のある一価、二価、および/または多価のカチオンまたはアニオンの1つまたは複数を含んでもよい。例えば、いくつかの実装形態において、少なくとも1つの塩は、ナトリウム塩(一価カチオン)、カルシウム塩(二価カチオン)またはその両方を含み得る。
【0106】
より具体的には、ナトリウム塩の例としては、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、硫酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、グリセロリン酸ナトリウムを挙げることができる。カルシウム塩の例としては、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、四ホウ酸カルシウム、クエン酸カルシウム、硫酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウムおよびリン酸水素カルシウムを挙げることができる。
【0107】
少なくとも1つの塩を含む実装形態の例示的態様は、前記少なくとも1つの塩が0.9w/v%未満の濃度で存在する、組成物を含むことができる。例として、組成物は、0.01~0.4w/v%の濃度を有する塩化カルシウムである少なくとも1つの塩を含むことができる。
【0108】
いくつかの例示的な実装形態において、組成物は、着色剤をさらに含み得る。着色剤のいくつかの非限定的な例としては、メチレンブルー、インジゴカルミン、ルゴールヨード、またはインドシアニングリーン、トルイジンブルー、クレシルバイオレット、コンゴレッド、フェノールレッド、食品および内服薬物用途のための米国FDA着色添加剤活性目録に列挙されている任意のFD&C着色添加剤、またはそれらの組合せが挙げられる。
【0109】
代替的または追加的に、いくつかの例示的な実装形態では、組成物は、以下のうちの1つまたは複数をさらに含み得る:光輝剤、防腐剤、消泡剤、安定剤、抗酸化剤、光増感剤、治療剤、またはそれらの組合せ。
【0110】
例えば、特定の実装形態では、組成物は、少なくとも光輝剤を含むことができ、光輝剤は、キサンテン誘導体、シアニン誘導体、量子ドット、硫化亜鉛、アルミン酸ストロンチウム、または低分子蛍光色素であり、低分子蛍光色素は、クエン酸をアミン含有化合物と反応させることによって作製される。
【0111】
例示的な組成物の態様は、組成物が針を通して注入可能であり、針が市販の内視鏡針であるものを含むことができる。
【0112】
別の例示的な実装形態は、ヒトの標的組織に注入するための注入可能な流体ゲル組成物を作製する方法を含むことができ、該方法は、連続撹拌下で混合物を製造する工程を含み、該混合物は、少なくとも1つのゲル化成分および改質剤を含む。
【0113】
注入可能な流体ゲルを作製するための例示的な方法の態様は、混合物に塩を添加する工程、または他の方法で混合物が塩をさらに含むように調製する工程を含むことができる。
【0114】
注入可能な流体ゲルを作製するための例示的な方法のさらなる態様は、混合物を連続撹拌から除去する工程;混合物を凍結乾燥して凍結乾燥粉末を生成する工程;および、水を加えて凍結乾燥粉末を再溶解する工程、を含むことができる。
【0115】
さらなる例示的な実装形態は、内視鏡処置において注入可能な流体ゲル組成物を使用する方法を含むことができ、この方法は、以下を含む:本開示内で記載および/または企図される任意の例示的な流体ゲル組成物をヒトの標的組織に投与する工程であって、組成物は、粘性ゲル様またはゲル化物質に変わり、長期間持続する組織隆起および止血機能を提供する、工程。
【0116】
注入可能な流体ゲル組成物を使用する方法の一態様は、組成物を投与する工程が、21~26のゲージの針直径を有する内視鏡注入針を使用して行われる工程を含むことができる。
【0117】
さらに他の例示的な実装形態は以下の通りである。
【0118】
実装形態1。止血機能を有するシアシニング性流体ゲル組成物であって、ゲル化剤、塩、改質剤、および水を含み、場合によっては、前記組成物は、剪断中に流動性状態にあり、剪断が除去された後に、粘性流体ゲルになるか、または流動性がはるかに低い、流動困難性、またはさらには流動不能性ゲル(例えば、本開示にさらに記載される)になり、ゲル化剤、改質剤、塩またはそれらの組合せは、止血機能を示し(例えば、本開示にさらに記載される)、場合によっては、前記改質剤は、組成物の注入圧力を低下させ、同時に十分に高濃度の流体ゲル(例えば、本開示にさらに記載される)を維持する。いくつかの場合において、改質剤は、本明細書に記載されるように測定される場合、改質剤を除いた同じまたは類似の組成物と比較して、組成物の注入圧力を低下させることによって、組成物の注入可能性を改善する。
【0119】
実装形態2。前記組成物が、1つのゲル化剤、少なくとも1つの塩、少なくとも1つの改質剤、および水を連続的に撹拌しながら混合することによって調製される、実装形態1に記載の組成物。
【0120】
実装形態3。前記組成物が、50psi未満、好ましくは30psi未満、より好ましくは20psi未満の注入圧力を有する、実装形態1または2に記載の組成物。
【0121】
実装形態4。前記組成物が、1~20、好ましくは1~12のシアシニング指数を有する、実装形態1~3のいずれかに記載の組成物。
【0122】
実装形態5。前記ゲル化剤が、少なくとも1つの多糖類または少なくとも1つのタンパク質を含み、前記少なくとも1つの多糖類が、キサンタンガム、k-カラギーナン、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ペクチン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、アルギン酸塩、キトサン、アガロース、またはこれらの組合せであり、前記少なくとも1つのタンパク質が、ホエータンパク質、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、または前述のものの2つ以上の組合せである、実装形態1~5のいずれかに記載の組成物。
【0123】
実装形態6。前記少なくとも1つの多糖がアルギン酸塩およびキトサンから選択されるか、または前記少なくとも1つのタンパク質がゼラチンである、実装形態5に記載の組成物。
【0124】
実装形態7。前記ゲル化剤が0.05~6.5w/v%の濃度で存在する、実装形態1~6のいずれかに記載の組成物。
【0125】
実装形態8。前記改質剤が、親水性ポリマー、両親媒性ポリマー、またはその両方を含む、実装形態1~7のいずれかに記載の組成物。
【0126】
実装形態9。前記改質剤が前記親水性ポリマーを含み、前記親水性ポリマーが、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリ(メタクリル酸)、親水性合成ポリエステル、またはそれらの組合せである、実装形態8に記載の組成物。
【0127】
実装形態10。前記改質剤が前記両親媒性ポリマーを含み、前記両親媒性ポリマーが、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)-ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)-ポリ(エチレンオキシド)(PEO)ブロックコポリマー((EO)-(PO)-(EO)(式中、a=2~80およびb=2~80)、両親媒性合成ポリエステル、またはそれらの組合せを含む、実装形態8に記載の組成物。
【0128】
実装形態11。前記親水性合成ポリエステルが、ポリカルボン酸(PCA)を、以下:1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、1,2-プロパンジオール-セバケート、またはポリ(ビニルアルコール)またはこれらの任意の組合せ、からなる群から選択される少なくとも1つの親水性ジオール(DPHO)と反応させることによって調製され、前記親水性合成ポリエステルは、500~20,000ダルトン(Da)、好ましくは600~15,000Da、より好ましくは800~1,0000Daの範囲の重量平均分子量を有する、実装形態9に記載の組成物。
【0129】
実装形態12。前記両親媒性合成ポリエステルが、ポリカルボン酸(PCA)を、以下:1,8-オクタンジオール、ポリプロピレングリコール)(PPG)、ポリカプロラクトン(PCL)ジオールまたはポリラクチド(PLA)ジオールからなる群から選択される少なくとも1つの疎水性ジオール(DPHO);以下:1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、1,2-プロパンジオール-セバケート、またはポリ(ビニルアルコール)からなる群から選択される少なくとも1つの親水性ジオール(DPHO);またはこれらの組合せ、と反応させることによって調製され、前記両親媒性合成ポリエステルは、500~20,000Da、好ましくは600~15,000Da、より好ましくは800~1,0000Daの範囲の分子量を有する、実装形態10に記載の組成物。
【0130】
実装形態13。前記ポリカルボン酸が、アコニット酸、プロパン-1,2,3-トリカルボン酸、アガル酸、クエン酸、イソクエン酸、トリメシン酸、フランテトラカルボン酸、ビフェニル-3,3’ ,5,5’-テトラカルボン酸、ビ(シクロプロパン)-2,2’,3,3’-テトラカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、および(+)-(18-クラウン-6)-2,3,11,12-テトラカルボン酸またはこれらの組合せを含むがこれらに限定されない、トリカルボン酸およびテトラカルボン酸のうちの少なくとも1つを含む、実装形態12に記載の組成物。
【0131】
実装形態14。前記改質剤が10w/v%未満の濃度で存在する、実装形態1~13のいずれかに記載の組成物。
【0132】
実装形態15。前記改質剤が0.25%~5w/v%の濃度で存在する、実装形態14に記載の組成物。
【0133】
実装形態16。前記少なくとも1つの塩が、前記ゲル化成分と相溶性である一価、二価、多価のカチオンまたはアニオンのうちの1つまたは複数を含む、実装形態1~15のいずれかに記載の組成物。
【0134】
実装形態17。前記少なくとも1つの塩が、ナトリウム塩、カルシウム塩またはその両方、マグネシウム塩、銅塩、亜鉛塩、または前述のものの2つ以上の組合せを含む、実装形態1~16のいずれかに記載の組成物。
【0135】
実装形態18。前記ナトリウム塩が、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、硫酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、またはグリセロリン酸ナトリウムを含み、前記カルシウム塩が、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、四ホウ酸カルシウム、クエン酸カルシウム、硫酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、またはリン酸水素カルシウムを含み、前記マグネシウム、銅、または亜鉛塩が、塩化マグネシウム、塩化銅(CuClまたはCuCl)、または塩化亜鉛を含む、実装形態17に記載の組成物。
【0136】
実装形態19。前記少なくとも1種の塩が0.9w/v%未満の濃度で存在する、実装形態1~18のいずれかに記載の組成物。
【0137】
実装形態20。前記少なくとも1つの塩が、0.01~0.4w/v%の濃度を有する塩化カルシウムを含む、実装形態18に記載の組成物。
【0138】
実装形態21。前記組成物が着色剤をさらに含む、実装形態1~20のいずれかに記載の組成物。
【0139】
実装形態22。前記着色染料が、メチレンブルー、インジゴカルミン、ルゴールヨード、またはインドシアニングリーン、トルイジンブルー、クレシルバイオレット、コンゴレッド、フェノールレッド、食品および内服薬物用途のための米国FDA着色添加剤活性目録に列挙されている任意のFD&C着色添加剤、またはそれらの組合せを含む、実装形態21に記載の組成物。
【0140】
実装形態23。前記組成物がさらに、以下:光輝剤、防腐剤、消泡剤、安定剤、抗酸化剤、光増感剤、治療剤、またはそれらの組合せのうちの1つまたは複数を含む、実装形態1~22のいずれかに記載の組成物。
【0141】
実装形態24。前記組成物が、少なくとも前記光輝剤を含み、前記光輝剤が、キサンテン誘導体、シアニン誘導体、量子ドット、硫化亜鉛、アルミン酸ストロンチウム、または低分子蛍光色素であり、前記低分子蛍光色素が、クエン酸をアミン含有化合物と反応させることによって作製される、実装形態23に記載の組成物。
【0142】
実装形態25。前記組成物が針を通して注入可能であり、前記針が市販の内視鏡針である、実装形態1~24のいずれかに記載の組成物。
【0143】
実装形態26。ヒトの標的組織に注入するための注入可能な流体ゲル組成物を作製する方法であって、連続撹拌下で混合物を生成する工程を含み、前記混合物が少なくとも1つのゲル化成分および改質剤を含む、方法。
【0144】
実装形態27。前記混合物が塩をさらに含む、実装形態26に記載の注入可能な流体ゲルを作製する方法。
【0145】
実装形態28。混合物を連続撹拌から除去する工程;混合物を凍結乾燥して凍結乾燥粉末を生成する工程;および、水を加えて凍結乾燥粉末を再溶解する工程、をさらに含む、実装形態27に記載の注入可能な流体ゲルを作製する方法。
【0146】
実装形態29。内視鏡処置において注入可能な流体ゲル組成物を使用する方法であって、ヒトにおける標的組織に実装形態1~25のいずれかに記載の組成物を投与する工程を含み、前記組成物が粘性ゲル様またはゲル化物質に変わり、長期間持続する組織隆起および止血機能を提供する、方法。
【0147】
実装形態30。前記組成物を投与する工程が、21~26ゲージの針径を有する内視鏡注入針を使用して行われる、実装形態29の注入可能な流体ゲルを使用する方法。
【0148】
さらなる非限定的な実施例を以下に提供する。
【実施例
【0149】
実施例1:組成物1の調製
表1中の試験サンプル(TS)1~5を、成分(A)としてのアルギン酸ナトリウム(Kimica Corporation)と成分(C)としての塩化カルシウムとの比率を変化させることにより調製した。具体的には、試験サンプルを調製するために、アルギン酸ナトリウムおよび改質剤xxy84(実施例3に示す)を、脱イオン水を使用して適切な容器に溶解した。次いで、塩化カルシウム溶液を滴下し、撹拌しながら連続的に混合して、均質で粘性の流体を得た。メチレンブルーを、着色剤として0.001%の濃度でTS1~5に添加してもよい。
【表1】
【0150】
実施例2:組成物2の調製
試験サンプル(TS)6~10を、成分(A)としてのアルギン酸ナトリウム(Kimica Corporation)と成分(B)としての改質剤xxy84(実施例3に示す)との比率を変化させることにより調製した。各成分の最終濃度を以下の表2に列挙する。具体的には、適切な容器中で、改質剤xxy84を含むまたは含まないアルギン酸ナトリウムを脱イオン水に溶解し、連続的に混合した。次いで、撹拌しながら塩化カルシウム溶液を添加して、均質で粘性の溶液を得た。メチレンブルーを、着色剤として0.001%の濃度でTS6~10に添加してもよい。
【表2】
【0151】
実施例3:改質剤の合成
疎水性ジオール(1,8-オクタンジオールまたはポリカプロラクトンジオール(PCL-500またはPCL-1000))と親水性ジオール(ポリエチレングリコール(PEG)またはβ-グリセロリン酸塩)との比率を変化させた改質剤を、表3に従って、ポリカルボン酸と、1,8-オクタンジオールまたはPCL-500またはPCL-1000およびPEG-200および/またはβ-グリセロリン酸塩とを反応させることによって、簡便なワンポット重縮合を介して、合成した。具体的には、改質剤を合成するために、クエン酸および異なるモル比の疎水性ジオールおよび親水性ジオールをフラスコ中で160℃で溶融した。混合物を145℃で連続撹拌下で反応させて、xxy51、xxy75、xxy77、xxy82、xxy84、CPP-2、およびCPP-4のプレポリマーを調製した。
【表3】
【0152】
実施例4:組成物3の調製
試験サンプル(TS)11~13を、表4に従って組成物を調製する際、実施例3で合成した改質剤を添加することによって調製した。具体的には、適切な容器中で、アルギン酸ナトリウム(Kimica Corporation)、改質剤xxy77、xxy82、またはxxy84を塩化カルシウムと共に脱イオン水に溶解し、磁気撹拌下で連続的に混合して、均質で粘性の溶液を得た。メチレンブルーを、着色剤として0.001%の濃度でTS11~13に添加してもよい。
【表4】
【0153】
実施例5:組成物4の調製
蛍光剤インドシアニングリーン(ICG)を添加した試験サンプル(TS)14を表5に従って調製した。具体的には、適切な容器中で、アルギン酸ナトリウム(Kimica Corporation)、改質剤xxy84および塩化カルシウムを、撹拌しながら脱イオン水に溶解し、連続的に混合して、均質で粘性の溶液を得た。次いで、ICGを添加し、厳密に混合して、緑色の着色を生じさせ、その強い蛍光発光は600~850nmの波長で励起された。
【表5】
【0154】
実施例6:組成物5の調製
試験サンプル(TS)15~17を表6に従って調製した。具体的には、適当な容器中で、アルギン酸ナトリウム(Kimica Corporation)および塩化カルシウムを撹拌しながら脱イオン水に溶解させ、連続的に混合し、次いでポロキサマー188(Fisher Scientific)を添加し、完全に溶解させて、均質で粘性の溶液を得た。
【表6】
【0155】
実施例7:組成物6の調製
試験サンプル(TS)18および19を表7に従って調製した。具体的には、適当な容器中で、アルギン酸ナトリウム(Kimica Corporation)、低分子量のポリビニルアルコール(PVA)(Fisher scientific;平均Mw10,000~26,000Da)および四ホウ酸カルシウム(カルシウムイオンは、アルギン酸ナトリウムの架橋を媒介することができ、一方、ブレートイオンは、豊富な-OH基を有するPVA鎖間の複合体形成を助ける)を完全に溶解し、撹拌しながら脱イオン水中で一晩連続的に混合して、均質で粘性の溶液を得た。
【表7】
【0156】
実施例8:組成物7の調製
試験サンプル(TS)20~24を表8に従って調製した。具体的には、適当な容器中で、アルギン酸ナトリウム(Kimica Corporation)と改質剤xxy84/CPP-2/CPP-4とを、脱イオン水に完全に溶解し、連続的に混合した。次いで、撹拌しながら塩化カルシウム溶液を添加して、均質で粘性の溶液を得た。メチレンブルーを、着色剤として0.001%の濃度でTS20~24に添加してもよい。
【表8】
【0157】
実施例9:組成物8の調製
試験サンプル(TS)20を実施例8に従って調製した。次いで、0.001%メチレンブルーを添加した試験サンプル20溶液を完全に凍結乾燥して凍結乾燥粉末の形態の組成物を得、水を添加することによってこれを完全に再溶解し、ボルテックスによって連続的に混合した。
【0158】
実施例10:組成物9の調製
試験サンプル(TS)25を表9に従って調製した。具体的には、適当な容器中で、キトサンを最初に10v/v%酢酸に完全に溶解し、β-グリセロリン酸塩(xxy51)を含有する改質剤を脱イオン水に溶解した。次いで、キトサンおよび改質剤の両方を4℃に冷却し、続いて氷浴に入れたキトサン溶液に改質剤溶液を滴下した。1Mの予め冷却した重炭酸ナトリウムを添加して、溶液のpHを7.2~7.4に調整した。次いで、厳密かつ連続的に撹拌しながら、混合物の温度を37℃にゆっくりと上昇させた。
【表9】
【0159】
実施例11:組成物10の調製
試験サンプル(TS)26を表10に従って調製した。具体的には、適当な容器中で、ゼラチン(タイプB;低ブルーム)を60℃で水に溶解し、キトサンを1v/v%酢酸に溶解した。次に、キトサン溶液を60℃でゼラチン溶液に添加し、十分に混合した。次いで、撹拌しながら混合物温度を4℃まで徐々に冷却し、続いて1Mの予め冷却した重炭酸ナトリウムを添加して、溶液のpHを7.2~7.4に調整した。次いで、混合物の温度を室温にし、厳密かつ連続的に撹拌しながら塩化ナトリウムを添加した。
【表10】
【0160】
実施例12:注入圧力試験
試験サンプルの注入圧力は、2300mmの作業長さおよび2.8mmのチャネルサイズを有する管/カテーテルに接続された、4mmの23ゲージ針を有する標準的な内視鏡注入器(オリンパス、NM-400U-0423)を使用して測定した。実施例1および実施例2で調製した試験サンプルを充填したプラスチックシリンジを、三方ルアーロックストップコックを介してオリンパス内視鏡注入器および圧力計に接続されたシリンジポンプ(New Era 9000)に設置した。5mL/分のポンプ速度で、内視鏡カテーテルおよび針を通る定常溶液流が生じた時の圧力計上の注入圧力読取値を記録する。試験は室温で行った。
【表11】
【0161】
表11に示すように、改質剤濃度が一定であれば、アルギン酸ナトリウム(A)と塩化カルシウム(C)の比率を変えることで、注入圧力を効果的に調整できることが明らかとなった。さらに、表12に示すように、改質剤xxy84の濃度を0%から2%に増加させると、注入圧力は38psiから9.2psiに実質的に低下した。改質剤の添加は、SAおよびCa2+の濃度を変えずに、対応する組成物の注入圧力を明らかに低下させることができた。
【表12】
【0162】
上記試験サンプルの注入性はまた、10mLシリンジ、および、2300mmの作業長さおよび2.8mmのチャネルサイズを有する管に接続された、23ゲージの針直径および4mmの針長さを有する標準的な内視鏡注入器(オリンパス、NM-400U-0423)を用いて手動で決定した。選択された試験サンプルの注入性の評価を表13に提供する。標準食塩水と共に、0.4%および0.24%で脱イオン水に溶解した市販のヒアルロン酸ナトリウム(HA)も参照として含めた。
【0163】
0.4%ヒアルロン酸ナトリウム(HA)のように注入圧力が40psi以上に達すると、手でシリンジピストンを手動で押して注入することは困難であり、溶液は定常的な連続流ではなく不連続流としてしか注入することができなかった。高分子量(1.5~300万Da)の0.4%HAは、通常、内視鏡注入器を使用して注入することが困難であり、したがって、注入前にさらなる希釈を必要とすることが、当技術分野で報告されたものと一致していた。HA溶液を0.24%に希釈した場合、注入圧力は26.8psiであり、これは、当技術分野において市販されているHA溶液(sigmaVisc(商標))の報告された注入圧力値に近い(21)。手動で測定したところ、0.24%HAは内視鏡注入器を用いて注入するのがやや困難であったが、依然として注入可能であり、溶液は連続的に注入することができた。試験サンプル(TS)6および試験サンプル(TS)16については、その注入圧力は約38psiであり、溶液の注入は困難であったが、シリンジピストンを十分に強く押すと、内視鏡針を通して連続的に注入することができた。最後に、試験サンプル(TS)7、4および3などの注入圧力が20psi未満であった場合、試験サンプルは、シリンジを手動で押すことによって、23ゲージ針を通して容易に注入された。より重要なことに、改質剤(TS-10)はポロキサマー(TS-16)よりも溶液注入性向上の点で有効であることが確認された。
【0164】
したがって、上記の方法に従って測定される例示的な組成物の注入圧力は、50psi未満の値、例えば30psi未満の値、およびいくつかの実施態様では20psi未満の値に調整することができる。
【表13】
【0165】
実施例13:生体外ブタ胃および結腸標本での試験
凍結したブタ結腸および胃組織を、37.0℃±0.5℃に維持した水浴中で解凍し、次いで組織の5cm×5cmの正方形部分を切断し、ピンを用いて検査コルクボード上で平らに伸ばした。次いで、試験サンプル(TS)2、滅菌試験サンプル(TS)24、および0.001%メチレンブルー含有生理食塩水を、標準的な25ゲージ針に接続された5mLシリンジを用いて、ブタ胃/結腸の切除した正方形標本の粘膜下層に注入し、注入体積は1mL±0.1mLであった。図1に示すように、1mLのTS-2を結腸組織に注入することによって、通常の生理食塩水を注入することによって得られるものと比較して、急峻で明瞭な縁部を有するより球状でより高いクッションが得られ、このような明瞭な縁部を有する高いクッションは、その後の切除処置を補助するのに有利であろう。
【0166】
同時に、0.001%のメチレンブルーを添加したTS-2を、イオン架橋アルギン酸ナトリウム流体ゲル(0.175%SA+0.028w/v%Ca2+)および同量のメチレンブルーを含む生理食塩水と共に注入して、クッション形態および粘膜下層に形成された生成物をよりよく観察した。試験サンプルの注入の15分後、粘膜下クッションをメスで切り開いて、粘膜下層に保持された最終青色生成物を観察した。図2に示すように、注入前の流動性状態のTS-2は、結腸組織の粘膜下空間に保持される、肥厚した流動性の低い状態を示す青色クッションを形成したことが驚くべきことに見出された。注入後のイオン架橋アルギン酸ナトリウム流体ゲルもまた、同様の肥厚したクッションを形成し、比較すると、生理食塩水は、クッションが切り開かれた直後に粘膜下腔から漏出した。また、より散逸したパターンを示した生理食塩水群のものと比較して、TS-2およびアルギン酸ナトリウム流体ゲルを使用することによって青色クッションの縁部がより閉じ込められたことが観察された。ブタの胃組織に注入した後、急峻で明瞭な縁部を有する好ましい球形のクッションも観察され(図3)、より重要なことに、15分後、注入されたTS-2は、粘膜下空間において一貫して肥厚した流動性の低い生成物を形成し、これは、持続的かつ長期の隆起に有利であると考えられる。さらに、滅菌したTS-24を結腸組織に注入すると、クッションを切り開いた後、図4Aに示すように、増粘したゲル生成物も形成された。標準的な内視鏡針を用いて25mLの生理食塩水でゲル製品を洗い流した後、青色クッションの大部分は切除された創傷を覆うように切除部位に残ったが、ゲルは生理食塩水に18時間浸漬した後に完全に消失した(図4B)。これは、形成された増粘生成物が洗浄時の受動拡散に抵抗し、比較的安定した創傷保護を提供する能力を示した。
【0167】
実施例14:隆起持続時間試験
凍結結結腸組織を、37.0℃±0.5℃に維持された水浴中で解凍し、次いで組織の5cm×5cmの正方形部分を切断し、ピンを用いて検査コルクボード上で平らに伸ばした。次いで、試験サンプルである生理食塩水および0.4%ヒアルロン酸ナトリウム溶液(HA;ACROS Organics;Mw:1,700,000Da)を、標準的な25ゲージ針に接続された5mLシリンジを用いて、ブタ結腸の粘膜下層にそれぞれ注入し、注入体積は1mL±0.1mLであった。注入後、針を標本から取り外す。形成された粘膜下クッションの形態および初期高さならびに高さの変化を、注入後5分、10分、15分、20分、または30分、45分、60分、75分、および90分で記録した。
【0168】
図2において、最初は流動状態にある試験サンプル(TS)2は、結腸組織の閉じ込められた粘膜下層に注入された後に、増粘された流動性の低い生成物を生成し得ることが観察される。驚くべきことに、14.4psiの注入圧力でのTS-2は、43.4psiのはるかに高い注入圧力での0.4%HAのものに匹敵する隆起高さおよび90分の隆起持続時間を有する粘膜下クッションを生成した(図5)。TS-2および0.4%HAの両方によって生成されたクッションの初期高さおよび持続時間もまた、通常の生理食塩水を使用するものよりも明らかに優れていた。TS-2の同等の隆起性能は、0.4%HAと比較して注入圧力が実質的に低いが、特に内視鏡粘膜下注入用途にとって非常に有利である。
【0169】
さらに、疎水性ジオールと親水性ジオールとの比率が異なる改質剤が粘膜下隆起にどのように影響を及ぼし得るかも評価し、その結果を表14に示す。改質剤の組成物中の疎水性1,8-オクタンジオール、例えばxxy84(TS-13)の比率の増加、またはより長い鎖の疎水性ジオール、例えばCPP-2(TS-21)の使用は、例えばTS-11および12のものと比較して、生成されたクッションの初期隆起高さおよび持続時間を効果的に改善することが判明した。これは、おそらく、組成物中の疎水性の増加が、周囲組織へのクッション内の水分子の散逸を防止するのに役立つためである。
【0170】
内視鏡針を使用する粘膜下リフトのために、食道および近位胃の両方を含む新たに回収されたブタ胃腸(GI)組織にTS-21を注入することの実現可能性が実証されている。図6に示すように、2mLのTS-21は、近位胃および食道組織の両方に好ましい粘膜下クッションを生成することに成功した。形成されたクッション上にスネアを容易に配置することができる。切除後、残りの物質は、内視鏡クリップを用いた切除部位の閉鎖を妨げなかった。
【表14】
【0171】
実施例15:レオロジーおよび見掛け粘度試験
レオロジー挙動を理解するために、60mmプレート形状を有するTA InstrumentのDiscoveryシリーズレオメーターを使用して、試験サンプル(TS)22のステップひずみ測定を実施した。試験は、1%の低ひずみを2分間適用することにより6.3rad/秒で開始した。シアシニング性を、300%ひずみを2分間加えることによって誘発した。次いで、ひずみを2分間1%に解放し、流体ゲルを回復させる。結果として(図7)、流体ゲルの形態のTS-22は、低ひずみ(1%)でゲルのように挙動し、貯蔵弾性率は、粒子間相互作用の破壊および剪断応力の増加に伴うより大きい程度の粒子配向に起因して、液体挙動を示すひずみの増加に伴って急に減少した。ひずみが300%から1%に低下すると、貯蔵弾性率の迅速な回復が観察され、これは粒子間相互作用の回復から生じた(液体挙動:貯蔵弾性率<損失弾性率;固体挙動:貯蔵弾性率>損失弾性率)。
【0172】
流体ゲル組成物のシアシニング性は、ブルックフィールド回転粘度計を用いて流体ゲル組成物の見かけ粘度を試験することによってさらに確認した。具体的には、適切な量のTS-23を粘度計に装填し、スピンドルの回転を開始することによって試験を開始し、見かけの粘度およびトルクの読み取り値を記録した。次いで、回転速度を段階的に増加させ、各速度での粘度およびトルクの読み取り値を記録した。試験が完了した後、粘度対回転速度のシアシニンググラフをプロットし、ASTM D2196に従って、低回転速度での見かけ粘度を10倍速い速度での粘度で割ることによって、シアシニング指数を決定することができた。典型的な速度の組合せは、0.6および6rpm、6および60rpm、10および100rpmである。得られる粘度比は、回転速度の範囲にわたるシアシニング度の指標であり、より高い比は、より大きいシアシニングを示す。図8は、TS-23の典型的なシアシニング挙動を示し、回転速度の増加が見かけ粘度の急激な減少をもたらした。これは、内視鏡注入用途にとって非常に望ましい特性である。さらに、TS-23のシアシニング指数は、6.28~8.9の範囲であると決定された。
【0173】
実施例16:ゲル化粒子の顕微鏡画像
光学顕微鏡を利用して、滅菌されたTS-23およびTS-24中の懸濁ゲル化粒子を観察し、流体ゲル組成物中のゲル化粒子の形成を確認した。図9に示されるように、滅菌されたTS-23において生成されたゲル化粒子は、ほとんどが球状であることが観察された。しかしながら、TS-24からはロッド様ゲル粒子形態も観察された。
【0174】
実施例17:細胞毒性試験
代表的な製剤としての試験サンプル(TS)-3の直接接触によって引き起こされたL929細胞に対するインビトロ細胞毒性を、ISO 10993-5に従って評価した。具体的には、フィルターディスク(Fisher scientific;Ap2501000;d=1cm、表面積=0.785cm)を試験サンプル-3溶液または脱イオン水に完全に浸漬し、試験サンプルまたは脱イオン水を吸収させた。次に、フィルターディスクを、12ウェルプレート中で培養したL929細胞のサブコンフルエント層(コンフルエント率>80%)の上に置き、試験サンプルと細胞下とを直接接触させた。24時間後、フィルターディスクを取り出し、製造業者の指示に従って、細胞計数キット(CCK)-8によって細胞生存率を測定した。
【0175】
図10に示すように、24時間試験サンプル-3と直接接触させた後の細胞生存率の低下は6%であり、30%未満であることから、試験サンプル-3は非細胞毒性であるとみなされる。
【0176】
実施例18:止血試験
試験サンプルの止血特性を全血凝固アッセイによって評価した。凝固時間を決定するために、10mLのクエン酸血に1mLの0.1M塩化カルシウム(CaCl)を添加して凝固反応を活性化した。10秒間のボルテックス後、100μLの血液サンプルを、ウェルあたり10μLの試料溶液と共に48ウェルプレートに添加した。選択した時点(3、4、5、6、7、および8分)で、各ウェルをPBSで洗浄して凝固を停止させた。次いで、凝血塊を、溶液が透明になるまで繰り返し洗浄した。最終凝固時間は、ウェル中で均一な凝血塊が形成され、その後のウェルにおいて凝血塊サイズに変化がないときと定義した。
【0177】
全血凝固アッセイはまた、血液サンプルの相対吸光度を分光光度的に測定することによっても実施した。2mLの遠心管に、20μLの滅菌したTS-24および200μLのクエン酸ウシ血液を加えて混合した。20μLの0.1M塩化カルシウム(CaCl)を管に加えることによって凝固反応を活性化し、10秒間ボルテックスした。選択された時点(6、8、10、12、14、16、および18分)で、1mLの脱イオン水を対応する管に添加して、凝血塊中に捕捉されていない赤血球を溶解した。次に、200μLの溶液を96ウェルプレートに移し、540nmで測定した。
【0178】
図11によれば、PBSのみを添加した対照群の凝固時間は6分であり、TS-3の添加により凝固時間は約5.5分に早まった。さらに、組成物中のカルシウムイオン濃度を増加させることによって、例えば、試験サンプル3のカルシウム濃度を2倍にすることによって、試験サンプル4の血液凝固はさらに加速されて5分で完了した。一貫して、赤血球を溶解した後、滅菌後のTS-24は、OriseゲルおよびPBS対照群と比較して、全ての時点で加速された血液凝固を誘導することが見出され(図12)、本開示において提供される組成物が、切除処置の間または後に血液制御に有利であり得る止血特性を示すという考えを支持する。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
【国際調査報告】