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特表2024-511435予め決められた三次元形状を有する構成要素を複製するための金型の製造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-13
(54)【発明の名称】予め決められた三次元形状を有する構成要素を複製するための金型の製造
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/38 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
B29C33/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558433
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(85)【翻訳文提出日】2023-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2022058114
(87)【国際公開番号】W WO2022200628
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】21165146.8
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519251243
【氏名又は名称】グラスソマー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コッツ-ヘルマー フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ラップ バスティアン
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AH74
4F202AJ07
4F202CA01
4F202CA09
4F202CA11
4F202CA30
4F202CB01
4F202CD04
4F202CD30
(57)【要約】
本発明は、予め決められた三次元形状を有する構成要素の複製用金型の製造方法に関し、本製造方法は、(a)有機バインダーと、その中に分散したガラス粒子とを含む成形可能なナノコンポジットを用いることにより、予め決められた三次元形状を有すガラス系型を製造する工程と、(b)ガラス系型の内側で金属を溶融させるか、若しくはガラス系型の外側で金属を溶融させてそれをガラス系型の上若しくは中に注ぎ、続いて冷却することにより、又はガラス系型を可鍛金属基材に圧入することにより、工程(a)で得られたガラス系型を複製すること、これにより、予め決められた三次元形状を反転させて有する、構成要素の複製用金型を得る工程とを含む。さらに、本発明は、予め決められた三次元形状を有する構成要素の複製方法に関し、本方法では、本製造方法により得られた金型を、構成要素の複製に使用し、この場合、成形可能なナノコンポジットのガラス粒子は、直径が5nm~500nmの範囲の第1のタイプのガラス粒子を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め決められた三次元形状を有する構成要素の複製用金型の製造方法であって、
(a)有機バインダーと、その中に分散したガラス粒子とを含む成形可能なナノコンポジットを用いることにより、ガラス系型を製造する工程と、
なお、前記ガラス系型は、前記予め決められた三次元形状を有し、以下のとおりにして、
(i)前記有機バインダーの硬化前、硬化中、及び/又は硬化後に、前記成形可能なナノコンポジットを前記予め決められた三次元形状へと成形することにより一次構造体を得る工程と、
(ii)前記有機バインダーを除去することにより工程(i)で得られた前記一次構造体を脱脂することにより、中に空隙が形成されている二次構造体を得る工程と、
(iii)任意選択で、工程(ii)で得られた前記二次構造体の空隙を、少なくとも1種のガラス形成前駆体で充填する工程と、
(iv)工程(ii)で得られ、任意選択で工程(iii)において少なくとも1種のガラス形成前駆体で充填された前記二次構造体を焼結することにより、前記ガラス系型を得る工程と、
により得られる;
(b)前記ガラス系型の内側で金属を溶融させるか、若しくは前記ガラス系型の外側で金属を溶融させて、それを前記ガラス系型の上若しくは中に注ぎ、続いて冷却することにより、又は前記ガラス系型を可鍛金属基材に圧入することにより、工程(a)で得られた前記ガラス系型から複製すること、これにより、前記予め決められた三次元形状を反転させて有する、前記構成要素の複製用の前記金型を得る工程と、
を含み、
前記成形可能なナノコンポジットのガラス粒子は、直径が5nm~500nmの範囲の第1のタイプのガラス粒子を含む、製造方法。
【請求項2】
前記成形可能なナノコンポジットの有機バインダーは、冷却した際に硬化可能な熱可塑性物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記成形可能なナノコンポジットの有機バインダーは、外部刺激により開始される固化又は重合に際して硬化可能な樹脂である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記成形可能なナノコンポジットのガラス粒子は、溶融シリカガラス粒子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1のタイプのガラス粒子の直径は、7nm~400nmの範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記成形可能なナノコンポジットのガラス粒子は、前記第1のタイプのガラス粒子に加えて、直径が2μm~50μmの範囲の第2のタイプのガラス粒子を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記成形可能なナノコンポジットは、前記有機バインダー中に分散した相形成剤を更に含み、前記相形成剤は、室温で固形又は粘性であり、前記有機バインダー中に内相を形成する、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(i)において、前記成形可能なナノコンポジットは、除去造形プロセス、積層造形プロセス、複製プロセス、又はそれらの組合せにより成形される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(i)において、前記成形可能なナノコンポジットは、前記成形可能なナノコンポジットをテンプレートに鋳込み、続いて硬化させることにより成形され、前記テンプレートは、前記予め決められた三次元形状を反転させて有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記テンプレートは、ポリマー材料製である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記テンプレートは、除去造形プロセス、積層造形プロセス、複製プロセス、又はそれらの組合せにより、予め得られる、請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
工程(ii)において、工程(i)で得られる前記一次構造体は、熱処理、化学反応、減圧、溶媒抽出若しくは気相抽出、又はそれらの組合せにより脱脂される、請求項1~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
予め決められた三次元形状を有する構成要素の複製方法であって、請求項1~12のいずれか一項に記載の製造方法により得られる金型を、前記構成要素の複製に使用する、複製方法。
【請求項14】
前記構成要素は、射出成形、ブロー成形、ホットエンボス、熱成形、又は射出圧縮成形により複製される、請求項13に記載の複製方法。
【請求項15】
前記複製された構成要素は、ポリマー材料製である、請求項13又は14に記載の複製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め決められた三次元形状を有する構成要素を複製するための金型の製造方法に関する。さらに、本発明は、予め決められた三次元形状を有する構成要素の複製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー構成要素、すなわちポリマー材料でできた構成要素は、工業的規模では複製プロセスにより製造可能である。除去(subtractive)造形プロセス又は積層造形プロセスとは対照的に、複製プロセス、例えば、射出成形等は、製造中にどのような形状指定工程も必要としないことから、ポリマー構成要素の迅速かつ規模拡大可能な製造を可能にする。すなわち、このような複製プロセスにおいて、熱可塑性物又は樹脂は、成形具に注入され、次いで硬化され、このとき成形具にはポリマー構成要素の最終三次元形状が予め定められている。熱可塑性物とは対照的に、樹脂は、硬化時に架橋構造体をもたらすことができる。
【0003】
上述のとおり、ポリマー構成要素を得る目的で、成形具に注入される時に成形可能な状態にある熱可塑性物又は樹脂は、硬化性である必要がある。熱可塑性物の場合、硬化は冷却により達成され、これにより、軟化した熱可塑性は最終三次元形状を有するポリマー構成要素になる。樹脂の場合、硬化は熱又は照射等の外部刺激により開始される固化又は重合により達成され、これにより、樹脂の液体成分(複数の場合もある)は最終三次元形状を有するポリマー構成要素になる。ポリマー構成要素の最終三次元形状が成形具の形状により予め決定されるため、最終三次元形状を、一般に、予め決められた三次元形状と称する。当然のことながら、成形具の形状は、ポリマー構成要素の最終三次元形状の逆形状である。言い換えると、成形具は予め決められた三次元形状を反転させて有する。
【0004】
複製プロセス、例えば、射出成形等は、非常に複雑な構造体の成形を可能にし、その制約となるのは、成形具の表面特性のみである。この文脈において、金型は、長期間にわたり同じ成形具を使用して数千のポリマー構成要素を製造するのに使用可能であるように十分な耐久性を有することから、成形具として特に適していることが証明されている。
【0005】
成形具1つあたりEURにして10000超~数百万という費用がかかるので、金型の製造は、複製プロセスによるポリマー構成要素製造の費用に影響する工程である。現在、産業で使用される金型のほとんどは、除去造形により、特にCNC機械加工技法、例えば、フライス加工、掘削、又は研削により得られる。積層造形は、迅速成形型製造、すなわち一般にラピッドツーリング(rapid tooling)と称するプロセスにおいて人気が高まってきている。しかしながら、不適切な表面特性、例えば、金属の積層造形から通常生じる粗度の高さ及び欠陥の存在を考慮すると、ラピッドツーリングは、これまでのところ、工業的規模で広く応用可能とはなっていない。
【0006】
この文脈において、非特許文献1には、ポリマー複製用の成形具の製造プロセスが記載されており、このプロセスは、リソグラフィーによりフォトレジストに微細構造体を生成させることと、微細構造体で、金属成形具作製の原型となる高温シリコーンを成形することと、オーブン内、軽圧下、シリコーンの内側で直接Sn、Ag、及びCuの共融合金を溶融させ、室温に冷却後、成形具を得ることとを含む。
【0007】
さらに、非特許文献2には、金属スタンプを用いたマイクロトランスファー成形(microtransfer molding)が記載されている。
【0008】
そのうえ、非特許文献3には、透明溶融シリカガラスの高スループット熱複製が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】C. Richter et al., Progress in Biomedical Optics and Imaging, 2017, vol. 10061
【非特許文献2】P. L. Schilardi et al., Journal of the Argentine Chemical Society, 2003, vol. 91, pages 143-152
【非特許文献3】F. Kotz et al., Progress in Biomedical Optics and Imaging, 2019, vol. 10875
【発明の概要】
【0010】
上記に鑑みて、本発明は、当該技術分野で既知の金型の製造に関連する上述の欠点を克服することを目的とする。特に、本発明は、金型の製造方法を提供することを基本的な技術的課題とし、本方法は、工業的規模に拡大可能となるように費用効率の高い様式で金型を提供することを可能にするはずであり、それと同時に、適切な表面特性、例えば、粗度の低さ及び欠陥が存在しない等を有する金型を提供することを可能にするはずである。
【0011】
上述の本発明の基本的な技術的課題は、添付の特許請求の範囲において特徴付けられる実施の形態を提供することにより解決されたのである。
【0012】
特に、1つの態様においては、本発明は、予め決められた三次元形状を有する構成要素の複製用金型の製造方法であって、
(a)有機バインダーと、その中に分散したガラス粒子と、を含む成形可能なナノコンポジットを用いることにより、ガラス系型を製造する工程と、
なお、ガラス系型は、予め決められた三次元形状を有し、以下のとおりにして、
(i)有機バインダーの硬化前、硬化中、及び/又は硬化後に、成形可能なナノコンポジットを予め決められた三次元形状へと成形することにより一次構造体を得る工程と、
(ii)有機バインダーを除去することにより工程(i)で得られた一次構造体を脱脂することにより、中に空隙が形成されている二次構造体を得る工程と、
(iii)任意選択で、工程(ii)で得られた二次構造体の空隙を、少なくとも1種のガラス形成前駆体で充填する工程と、
(iv)工程(ii)で得られ、任意選択で工程(iii)において少なくとも1種のガラス形成前駆体で充填された二次構造体を焼結することにより、ガラス系型を得る工程と、
により得られる;
(b)ガラス系型の内側で金属を溶融させるか、若しくはガラス系型の外側で金属を溶融させてそれをガラス系型の上若しくは中に注ぎ、続いて冷却することにより、又はガラス系型を可鍛金属基材に圧入することにより、工程(a)で得られたガラス系型から複製すること、これにより、予め決められた三次元形状を反転させて有する、構成要素の複製用の金型を得る工程と、
を含み、
成形可能なナノコンポジットのガラス粒子は、直径が5nm~500nmの範囲の第1のタイプのガラス粒子を含む、
製造方法を提供する。
【0013】
有利なことに、上記で規定されたプロセス工程によって特徴付けられる本発明による製造方法は、工業的規模に拡大可能となるように費用効率の高い様式で金型を提供することを可能にする。その理由は、工程(a)で得られるガラス系型が、引き続き工程(b)で金型へと複製されることある。言い換えると、本発明によると、金型自身の製造が複製プロセスである、すなわち、工程(b)は、必要に応じて、数回繰り返すことが可能であり、それにより、同じ又は異なるガラス系型を用いて2つ以上の金型が得られる。結果として、本発明による製造方法は、CNC機械加工技法で特に知られる欠点、例えばスループットの低さ等に困らない。
【0014】
有利なことに、上記で規定されたプロセス工程によって特徴付けられる本発明による製造方法は、適切な表面特性、例えば、粗度の低さ及び欠陥が存在しない等を有する金型を提供することも可能にする。その理由は、ガラス系型の製造に、有機バインダーと、その中に分散したガラス粒子と、を含む成形可能なナノコンポジットを使用することにある。成形可能なナノコンポジットのガラス粒子は溶融されない、すなわち、成形可能なナノコンポジットの有機バインダーのみが、成形可能な状態にあることを必要とするため、ガラス系型は、工程(a)において比較的低温で製造することができる。例えば、ポリマー材料製テンプレートを用いた複製プロセスによりガラス系型を製造する場合、テンプレートが分解しない。言い換えると、本発明によると、テンプレートは、溶融ガラスに曝露することもなければ、溶融金属に曝露することもない。他方で、工程(a)で得られるガラス系型は、高温に対して耐性であるので、工程(b)において溶融金属と接触することができる。金型は、ガラス系型から直接複製され、このことは、金型がガラス系型の形状を反転させて有することを意味するので、金型の表面特性は、実質的に、ガラス系型の表面特性にのみ影響を受ける。結果として、本発明による製造方法は、ラピッドツーリングで特に知られる欠点、例えば解像度の低さ及び不十分な表面品質等に困らない。
【0015】
以下、本発明による製造方法を、上記に定義されるとおりの具体的プロセス工程と合わせて、詳細に説明する。
【0016】
本発明による製造方法の工程(a)において、ガラス系型は、有機バインダーと、その中に分散したガラス粒子とを含む成形可能なナノコンポジットを用いて製造される。工程(a)で得られるガラス系型は、予め決められた三次元形状を有する。本発明によると、ガラス系型の製造に使用されるナノコンポジットは、成形可能であり、このことは、ナノコンポジットの有機バインダーが成形可能な状態にあることを意味する。有機バインダーが成形可能な状態にあることで、成形可能なナノコンポジットは、予め決められた三次元形状を有するガラス系型を製造するように成形することができる。
【0017】
本発明によると、ガラス系型は、工程(a)において上記に定義される工程(i)~工程(iv)により得られる。工程(i)~工程(iv)をより詳細に検討する前に、必須部分として、有機バインダーと、その中に分散したガラス粒子とを含む成形可能なナノコンポジットの組成について、最初に説明する:
【0018】
成形可能なナノコンポジットの有機バインダーは、ガラス系型を製造する目的で成形可能なナノコンポジットが成形可能であるように、それが成形可能な状態にある限り、すなわち、それが成形可能な状態に移行可能である限り、更に制限されることはない。
【0019】
本発明の1つの実施の形態において、成形可能なナノコンポジットの有機バインダーは、冷却した際に硬化可能な熱可塑性物である。したがって、冷却することで軟化した熱可塑性物が固体になるので、有機バインダーは、もはや成形可能な状態にない。有機バインダーとして使用される熱可塑性物が硬化した結果として、以下で更に記載されるとおりの工程(i)で得られる一次構造体は、その形状を維持する。
【0020】
有機バインダーが熱可塑性物である場合、これは、芳香族若しくは脂肪族ジカルボン酸とジオール及び/又はヒドロキシカルボン酸に基づくポリエステル、脂肪族若しくは芳香族ジオールに基づくポリカーボネート、ポリオレフィン、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、ポリイソブテン、ポリ(エチレン酢酸ビニル)、エチレンプロピレンゴム(EPR)、ポリ(エチレンプロピレンジエン)、ポリ(ビニルブチラール)(PVB)、ポリアクリレート及びポリメタクリレート、シクロオレフィンポリマー等、並びにポリアミド、ポリアセタール、例えばポリオキシメチレン等、ビスフェノールに基づく芳香族ポリエーテルを含むポリエーテル、例えばポリエチレングリコール(PEG)等、若しくはポリウレタン、又はそれらの組合せから選択することが可能であるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明の別の実施の形態において、成形可能なナノコンポジットの有機バインダーは、外部刺激により開始される固化又は重合により硬化可能な樹脂である。この文脈において、外部刺激として、熱又は照射、特にUV照射を挙げることができる。場合によっては、混合でも外部刺激として十分である可能性があり、例えば、二成分樹脂において、樹脂の液体成分が互いに対して十分な反応性を呈する場合がそうである。さらに、必要に応じて、外部刺激として、有機バインダーの固化又は重合を促進するために有機バインダーに添加される開始剤を挙げることができる。適切な開始剤は、当業者に既知であり、そのような開始剤として、アセトフェノン、例えば、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPAP)、アゾ化合物、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ベンゾフェノン誘導体、フルオレセイン及びその誘導体、例えば、ローズベンガル、キノン、例えば、カンファーキノン、並びにホスフィン誘導体、例えば、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド等があるが、これらに限定されない。したがって、外部刺激により開始された固化又は重合は、樹脂の液体成分(複数の場合もある)を固体にするので、有機バインダーは、もはや成形可能な状態にない。外部刺激に曝露すると、使用した樹脂に応じて、樹脂は固化して架橋構造体をもたらすか、重合して非架橋構造体をもたらすかのいずれかである。言い換えると、「樹脂」という用語には、本明細書において使用される場合、熱硬化性樹脂だけでなく、熱可塑性樹脂も包含される。すなわち、樹脂として、任意のモノマー及び/又はオリゴマー及び/又はポリマー組成物を本明細書において制限なく挙げることができる。有機バインダーとして使用された樹脂が硬化した結果として、以下で更に記載されるとおりの工程(i)で得られる一次構造体は、その形状を維持する。
【0022】
有機バインダーが樹脂である場合、これは、アクリレート樹脂及びメタクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、チオール-エン樹脂、又はポリウレタン樹脂から選択することができるが、これらに限定されない。特に、有機バインダーが樹脂である場合、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)又は2-ヒドロキシエチルメタクリレートとテトラエチレングリコールジアクリレート(TEGDA)との混合物を、有機バインダーとして挙げることができる。
【0023】
有機バインダー以外に、成形可能なナノコンポジットは、必須部分として、ガラス粒子を含む。ガラス粒子は、有機バインダー中に分散している。ガラス粒子の分散は、使用する有機バインダーに応じて、当該技術分野で既知の任意の手段により達成可能である。熱可塑性物が有機バインダーとして使用される場合、熱可塑性物は、そこにガラス粒子を加える前に、軟化されていてもよく、又は適切な有機溶媒若しくはガス相に溶解していてもよい。樹脂が有機バインダーとして使用される場合、ガラス粒子は、樹脂の液体成分(複数の場合もある)に直接加えることができる。
【0024】
本発明の好適な実施の形態において、成形可能なナノコンポジットのガラス粒子は、溶融シリカガラス粒子である。溶融シリカガラスは、高純度非晶質二酸化ケイ素のみからなることを特徴とする。本明細書において、溶融シリカガラスは、ガラスの全質量に対して二酸化ケイ素の質量分率が少なくとも99%であり、典型的な不純物、例えば、Al、Ca、Cu、Fe、Na、K、Li、及びMg等がそれぞれ15ppm未満であるガラスと解釈されるものとする。すなわち、溶融シリカガラスは、他の種類のガラスの場合にはその融点を下げる目的で通常添加されるいかなる成分も実質的に含有しない。そのため、溶融シリカガラスは高い熱安定性を示し、そのため以下で詳細に記載されるとおりの工程(b)において溶融金属と接触するときの温度に耐えることができる。
【0025】
本発明によると、成形可能なナノコンポジットのガラス粒子は、直径が5nm~500nmの範囲、好ましくは7nm~400nmの範囲のガラス粒子を含む。こうしたガラス粒子は、第1のタイプの粒子とも称する。有機バインダーと、その中に分散したガラス粒子とを含むコンポジットを成形可能なナノコンポジットにしているのは、直径がナノメートル範囲の第1のタイプの粒子である。
【0026】
成形可能なナノコンポジットのガラス粒子は、直径が5nm~500nmの範囲、好ましくは7nm~400nmの範囲のガラス粒子に加えて、直径が2μm~50μmの範囲、好ましくは2μm~40μmの範囲のガラス粒子を含むことができる。こうしたガラス粒子は、本明細書において、第2のタイプのガラス粒子とも称する。ガラス粒子が、第1のタイプのガラス粒子と第2のタイプのガラス粒子とを含む、すなわちガラス粒子の二峰性混合物を含む場合、径が小さい方のガラス粒子が、径が大きい方のガラス粒子間の隙間を埋めることができる。これにより、成形可能なナノコンポジット中にガラス粒子をより高密度で充填することができ、これにより今度は、以下で更に説明するとおりの工程(iv)における焼結中の収縮がより小さくなる。原則として、ガラス粒子は、第1のタイプのガラス粒子の直径とも第2のタイプのガラス粒子の直径とも異なる直径を有する任意の他のタイプのガラス粒子を更に含むことができる。ガラス粒子のこのような多峰性混合物も、本発明の範囲内にある。
【0027】
本明細書において、第1、第2、及び任意の他のタイプの粒子の直径とは、ISO 9276-2に従って測定される平均直径と解釈されるものとする。本発明によると、ガラス粒子は、(完全な)球状であることを必要としない。すなわち、ガラス粒子は、回転楕円形状であることも可能であり、すなわち、それらは、球体様であることが可能である。例えば、直径が5nm~500nmの範囲、好ましくは7nm~400nmの範囲の第1のタイプの粒子について、このことは、これらのガラス粒子が、実質的に、直径5nm未満の寸法を有し得ず、好ましくは直径7nm未満の寸法を有し得ず、また実質的に、直径500nm超の寸法を有し得ず、好ましくは直径400nm超の寸法を有し得ないことを意味する。
【0028】
以下に限定されないが、成形可能なナノコンポジット中のガラス粒子の含有量は、有機バインダー100体積部に対し、少なくとも5体積部、好ましくは少なくとも30体積部、より好ましくは少なくとも50体積部である。成形可能なナノコンポジット中のガラス粒子の含有量が増えるほど、以下で更に記載されるとおりの工程(b)で得られるガラス系型中のガラス粒子の充填密度が高くなる。本発明者らの発見によれば、驚くべきことに、成形可能なナノコンポジット中の有機バインダーに対するガラス粒子の含有量が、相当高いとしても、例えば、有機バインダー100体積部に対し55体積部、更にはそれより多かったとしても、ガラス系型を製造する目的で成形可能なナノコンポジットを成形することが依然として可能である。
【0029】
成形可能なナノコンポジットは、有機バインダー及びその中に分散したガラス粒子の他に、必要に応じて、ガラス系型の製造及びその金型への複製を促進する1種以上の追加の作用剤を含むことができる。本発明によると、成形可能なナノコンポジット中の任意の追加の作用剤の全体での含有量は、成形可能なナノコンポジットの合計質量を100質量%として、20質量%超を占めず、より好ましくは15質量%以下、更により好ましくは10質量%以下、なおも更により好ましくは5質量%以下であることが好ましい。すなわち、本発明による成形可能なナノコンポジットは、有機バインダー及びその中に分散したガラス粒子から本質的になり、有機バインダーに添加された任意の開始剤を含む。本明細書において、「~から本質的になる」という用語は、有機バインダー及びその中に分散したガラス粒子の含有量が、有機バインダーに添加された任意の開始剤も含めて、成形可能なナノコンポジットの合計質量を100質量%として、好ましくは少なくとも80質量%、より好ましくは少なくとも85質量%、更により好ましくは少なくとも90質量%、なおも更により好ましくは少なくとも95質量%を占めることを意味する
【0030】
例えば、ガラス粒子の有機バインダー中への分散を促進する目的で、分散剤を添加することができる。分散剤として、アルコール、非イオン性界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシメチレン等、及びアニオン性界面活性剤、例えば、脂肪酸及びそれらの塩又は脂肪族カルボン酸及びそれらの塩等、例えば、ステアリン酸及びその塩又はオレイン酸及びその塩等を本明細書において挙げることができるが、特に限定されない。本発明での使用に適する可能性のある分散剤の別の例として、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸がある。本発明によると、分散剤が存在することは必須ではない。すなわち、本発明は、成形可能なナノコンポジットがどのような分散剤も含有しない実施の形態も包含する。
【0031】
以下で更に記載するとおりの工程(ii)における一次構造体の脱脂を促進する目的で、成形可能なナノコンポジットは、好ましくは、有機バインダー中に分散した相形成剤を更に含む。相形成剤とは、室温(本明細書において25℃の温度と解釈される)で固形又は粘性であるものであり、有機バインダー中に内相を形成するものである。相形成剤の例として、アルコール、エーテル、及びシリコーンオイル、並びにそれらの組合せが挙げられ、これらの物質は、室温で固形又は粘性であるように、十分に高い分子量を有する、及び/又は適切な官能基を有する。本明細書において、「粘性」という用語は、DIN 53019に従って測定した場合の室温での粘度が、少なくとも1mPa・sであることを指すと解釈されるものとする。相形成剤は、以下で更に記載されるとおりの工程(ii)の一次構造体の脱脂前又は脱脂中に、例えば、相形成剤の蒸発若しくは昇華を招くか又は相形成剤の分解を招く熱処理により、有機バインダーから除去することができる。さらに、相形成剤は溶媒抽出又は気相抽出によって除去することもできる。
【0032】
相形成剤の具体例としては、フェノキシエタノール(POE)を挙げることができる。POEは室温で約30mPa・sの粘度を有するため、粘性物質である。POEは、大気圧下、242℃の温度で蒸発することができる。しかしながら、その蒸気圧が高いため、それより低い温度でかなりの量が既に除去されている。さらに、上述したPEG及び2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸は、相形成剤としても作用することができる。
【0033】
なお、いったん一次構造体が形成されてしまうと、有機バインダーは、固体になる(液体、ゲル状、又はペースト様状態ではない)。当業者には当然のとおり、固体とは、その粘度を特定することが不可能であることを特徴とする。本明細書において、成形可能なナノコンポジットは、どのような増粘剤も含有していなければ、水のような溶媒を何も含有していない。本発明の特定の実施の形態によると、成形可能なナノコンポジットは、トリグリセリド、ワックス、及びパラフィンのどれも含有していなければ、フタル酸塩及びそれらの任意の誘導体等の可塑剤を何も含有していない。
【0034】
工程(a)で得られるガラス系型の機械的安定性を向上させる目的で、成形可能なナノコンポジットは、有機バインダー中に分散させてセラミック材料の粉末又はセラミック材料の前駆体を更に含むことができる。この文脈において、「セラミック材料の粉末」という用語は、粉末に含まれる粒子がセラミック材料でできていることを意味する。成形可能なナノコンポジットがセラミック材料の粉末を含む場合、粉末に含まれる粒子は、ガラス粒子について上記で概要を述べたことに加えて、適切な直径、すなわち適切なサイズを有する必要がある。また、「セラミック材料の前駆体」という用語は、セラミック材料が、以下で更に記載されるとおりの工程(iv)において焼結中に前駆体から形成されることを意味する。成形可能なナノコンポジットがセラミック材料の前駆体を含む場合、前駆体は、少なくとも1種の金属含有化合物であり、これは、有機金属化合物、金属錯体、及び金属塩、又はそれらのうち2種以上の組合せからなる群より選択することができる。すなわち、セラミック材料の前駆体は、セラミック材料の金属原料として作用する。セラミック材料の粉末及び/又は前駆体を有機バインダー中に分散させる目的で、ガラス粒子を有機バインダー中に分散させることについて上記で概要を記載した手段が、ここでも等しく適用可能である。
【0035】
工程(i)において、上記で詳細に記載してきた成形可能なナノコンポジットは、有機バインダーの硬化前、硬化中、及び/又は硬化後に、予め決められた三次元形状へと成形される。これにより、圧粉体とも称する一次構造体が得られる。使用される有機バインダーに応じて、硬化は、冷却によって達成されるか、外部刺激により開始される固化又は重合によって達成される。工程(i)で得られた一次構造体の形状は、以下で更に記載されるとおりの工程(iv)で得られるガラス系型の形状を既に反映している。
【0036】
成形可能なナノコンポジットを予め決められた三次元形状へと成形することは、当該技術分野で既知の任意の適切な手段により達成することができる。特に、成形可能なナノコンポジットは、工程(i)において、除去造形プロセス、積層造形プロセス、複製プロセス、又はそれらの組合せにより成形することができる。適用されるプロセス(複数の場合もある)に応じて、ガラス粒子を分散状態で含む有機バインダーは、成形可能なナノコンポジットの成形前、成形中、及び/又は成形後に硬化する。
【0037】
除去造形プロセスの場合、ガラス粒子を分散状態で含む有機バインダーは、成形可能なナノコンポジットの成形前に硬化させる。言い換えると、成形可能なナノコンポジットは、有機バインダーの硬化後に、予め決められた三次元形状へと成形される。適切な除去造形プロセスとして、レーザー使用構造化技法(laser-based structuring techniques)、並びにCNC機械加工技法、例えば、フライス加工、掘削、研削、のこ引き、木摺打ち、及び研磨等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
積層造形プロセスの場合、ガラス粒子を分散状態で含む有機バインダーは、成形可能なナノコンポジットの成形中に硬化させる。言い換えると、成形可能なナノコンポジットは、有機バインダーの硬化中に、予め決められた三次元形状へと成形される。適切な積層造形プロセスとして、選択的レーザー焼結及び選択的レーザー溶融、熱溶解フィラメント製造(熱溶解積層造形法とも称する)、ステレオリソグラフィー、二光子重合、インクジェット印刷、並びに立体印刷技法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
複製プロセスの場合、ガラス粒子を分散状態で含む有機バインダーは、成形可能なナノコンポジットの成形後に硬化させる。言い換えると、成形可能なナノコンポジットは、有機バインダーの硬化前に、予め決められた三次元形状へと成形される。適切な複製プロセスとして、鋳造、射出成形、(射出)圧縮成形、押出成形、熱成形、冷間又は熱間引抜、ホットエンボス、ナノインプリント、及びブロー成形が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
本発明の1つの実施の形態において、成形可能なナノコンポジットは、工程(i)において成形可能なナノコンポジットをテンプレートに対して鋳込み、続いて硬化させることにより成形される。テンプレートは、予め決められた三次元形状を反転させて有する。すなわち、テンプレートの形状は、複製される構成要素の最終三次元形状の逆形状である。そのため、テンプレートは、構成要素の複製用成形具の形状を有する。したがって、この実施の形態において、成形可能なナノコンポジットは、工程(i)において複製プロセスにより成形される。
【0041】
テンプレートの材料に関連する限り、本発明は更に制限されることはない。上述のとおり、テンプレートは、溶融ガラスに曝露することもなければ、溶融金属に曝露することもないため、テンプレートが工程(i)においてガラス系型へと複製可能である限り、材料の温度耐性に関して特定の制限は存在しない。
【0042】
例えば、テンプレートは、ポリマー材料製であるが、これに限定されない。ポリマー材料は、熱可塑性物に由来することも可能であれば、樹脂に由来することも可能である。本明細書において、ポリマー材料は、炭素系ポリマーのみを包含するのではないと解釈されるものとする。例えば、ポリマー材料は、ケイ素系ポリマー(シリコーンとも称する)、例えばポリシロキサン等も包含する。必要に応じて、テンプレートに十分な機械的安定性を付与する目的で、ポリマー材料は、少なくとも部分的に架橋していることができる。部分的架橋は、熱硬化性樹脂、例えば、少なくとも或る程度、1分子当たり3つ以上の反応製官能基を有する適切なシリコーン樹脂等を用いることで達成することができる。
【0043】
必要に応じて、テンプレートは、除去造形プロセス、積層造形プロセス、複製プロセス、又はそれらの組合せにより、予め得ることができる。この文脈において、成形可能なナノコンポジットの成形について上記で概要した手段が、ここでも等しく適用可能である。
【0044】
例えば、テンプレートは、マイクロリソグラフィーにより予め得ることができるが、これに限定されない。マイクロリソグラフィーでは、マスクで覆われた基材上のフォトレジストに照射する。フォトレジストは、ポジ型又はネガ型いずれでも可能である。ネガ型フォトレジストは、先に照射された場合に現像液に不溶性である、すなわち、フォトレジストのマスクを通じて照射された範囲が、基材上に保持されてテンプレートを形成する。ポジ型フォトレジストは、先に照射されていない場合に現像液に不溶性である、すなわち、フォトレジストのマスクを通じて照射されていない範囲が、基材上に保持されてテンプレートを形成する。適切な除去造形プロセスとして、上述のとおりのCNC機械加工技法、レーザー切断、及び水ジェット切断が挙げられるが、これらに限定されない。適切な積層造形プロセスとして、上述のとおりの選択的レーザー焼結及び熱溶解フィラメント製造、二光子重合、直接レーザー描画、並びにリソグラフィー、特にステレオリソグラフィーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
テンプレートが複製プロセスにより予め得られる場合、テンプレートは、予め決められた三次元形状を有する既存の構成要素から複製される。本明細書において、既存の構成要素は、複製される構成要素と同一であることが可能である。テンプレートの場合と同様に、既存の構成要素は、ポリマー材料製であることが可能である。さらに、テンプレートの場合と同様に、既存の構成要素は、除去造形プロセス、積層造形プロセス、複製プロセス、又はそれらの組合せにより予め得ることができる。この文脈において、テンプレートについて上記で概要した検討事項は、既存の構成要素に等しく適用可能である。既存の構成要素は、熱可塑性物又は樹脂を用いることにより、テンプレートへと複製することができる。そうする目的で、軟化した熱可塑性物又は樹脂の液状成分(複数の場合もある)が、既存の構成要素に対して鋳込みされる。次いで硬化させることにより、ポリマー材料製のテンプレートが得られる。上述のとおり、ポリマー材料は、炭素系ポリマーを包含するだけでなく、例えば、ケイ素系ポリマーも包含する。
【0046】
既に上述したとおり、成形可能なナノコンポジットを予め決められた三次元形状へと成形する目的で、1つ以上の除去造形プロセス、積層造形プロセス、及び複製プロセスを、組み合わせることができる。例えば、成形可能なナノコンポジットを複製プロセスにより成形して、一次構造体に当該複製プロセスを原因とする視認できるアーチファクトがある場合、除去造形プロセス又は積層造形プロセスを、後加工として一次構造体に適用することができる。特に、成形可能なナノコンポジットをテンプレートに対して鋳込むことにより一次構造体が得られる場合、そのような後加工を容易に適用することができる。後加工に適切な手段は、当業者に既知であり、そのような手段として上述のとおりCNC機械加工技法が挙げられるが、これらに限定されない。上記の検討事項は、テンプレートにも既存の構成要素にも等しく適用可能である。
【0047】
工程(ii)において、工程(i)で得られた一次構造体は、有機バインダーの除去により脱脂される。これにより、二次構造体(脱脂体とも称する)が得られる。脱脂、すなわち有機バインダーを除去した結果として、二次構造体は、その中に空隙が形成されている。
【0048】
使用される有機バインダーに応じて、工程(i)で得られる一次構造体は、熱処理、化学反応、減圧、溶媒抽出若しくは気相抽出、又はそれらの組合せにより、工程(ii)で脱脂することができる。例えば、一次構造体を、最初に溶媒抽出用の溶媒に浸漬してから、熱処理することができる。原則として、二次構造体を形成するガラス粒子、及び存在する場合には、セラミック材料の粉末及び/又は前駆体に悪影響を及ぼすことなく有機バインダーを除去することができる任意の手段を適用することができる。この文脈において、当業者なら、工程(ii)において有機バインダーを除去するために適用する適切な条件を慣習的に選択する。
【0049】
例えば、熱処理により脱脂を行う場合、脱脂中に適用する温度は、典型的には、100℃~600℃の範囲、例えば150℃~550℃の範囲であり、加熱速度は、典型的には0.1℃/分~5℃/分の範囲、例えば0.5℃/分~1℃/分の範囲であり、保持時間は、典型的には、2分~12時間の範囲であり、これらは得られるガラス系型のサイズに左右される。得られるガラス系型のサイズがかなり小さい場合、工程(ii)において一次構造体を脱脂するのに数秒でも十分である可能性がある。熱処理は段階的に行うこともできる。上記の検討に従って、有機バインダーの揮発性を高める減圧、すなわち大気圧より低い圧により、熱処理による脱脂を更に容易にすることができる。
【0050】
有機バインダーの除去後、ガラス粒子、及び存在する場合には、セラミック材料の粉末及び/又は前駆体は、水素結合により互いに付着している。これにより、二次構造体に機械的安定性が付与される。ガラス粒子のサイズを考慮すると、ガラス粒子の直径がナノメートル範囲であることから、ガラス粒子は、二次構造体を機械的に安定に維持するのに十分な相互作用を可能にする高い比表面積を有する。
【0051】
工程(ii)において有機バインダーを除去する前に、又は有機バインダーを除去する際に、相形成剤が存在する場合には、例えば、蒸発若しくは昇華によって、又は分解によって、一次構造体から除去する。相形成剤が存在する場合には、その除去を溶媒抽出又は気相抽出によって達成することもできる。原則として、有機バインダーの除去に関連して上で説明したものと同じ手段を適用することができる。
【0052】
相形成剤が存在する場合、相形成剤の除去により、工程(ii)における一次構造体の脱脂が容易になる。これは、相形成剤によって形成された有機バインダー中の内相が除去されると、一次構造体に細孔が生成するからである。次いで、これらの細孔を通して、残存する有機バインダーをより制御された方法で除去することができる。これにより、特に厚い構造を採用する場合に、二次構造体がより損傷しにくくなる。有機バインダーを複数工程で除去する場合にも、同じことが当てはまる。例えば、有機バインダーが異なる熱分解挙動を示す2種以上のバインダー成分の組合せである場合、脱脂は、順次行うことができる。この場合、第1のバインダー成分、すなわち、分解温度が最も低いバインダー成分を除去した後、第1のバインダー成分の除去後に一次構造体中に生成した細孔により、それ以外のバインダー成分(複数の場合もある)の除去が容易になる。
【0053】
任意選択である工程(iii)において、工程(ii)で得られる二次構造体の空隙は、少なくとも1種のガラス形成前駆体で充填することができる。充填剤とも称する少なくとも1種のガラス形成前駆体は、二次構造体中に形成された空隙に導入可能であるように、適切なサイズを有することが必要である。二次構造体の空隙を少なくとも1種のガラス形成前駆体で充填することにより、以下で更に記載されるとおりの工程(iv)における焼結中の二次構造体の収縮を低減することができる。そのうえ、適切なガラス形成前駆体を選択することにより、得られるガラス系型の硬度を上昇させることが可能である、及び/又はその熱膨張率を変えることが可能であり、例えば、熱膨張率を最小化することができる。本明細書において、少なくとも1種のガラス形成前駆体は、更に制限されることはなく、意図する目的に基づいて適宜選択することができる。
【0054】
以下に限定されないが、例えば、テトラエチルオルトシリケート(Si(OC)(TEOSとも称する)のようなケイ素系ガラス形成前駆体等が使用可能である。特に、成形可能なナノコンポジット中のガラス粒子のものと区別することができないガラスを形成するガラス形成前駆体を本明細書において使用することができるが、成形可能なナノコンポジット中のガラス粒子のものと異なるガラスを形成するガラス形成前駆体を本明細書において使用することもできる。例えば、成形可能なナノコンポジットがガラス粒子として溶融シリカガラス粒子を含む場合、テトラエチルオルトチタネート(Ti(OC)のようなチタン系ガラス形成前駆体を使用することも可能である。本明細書において使用可能な他の金属アルコキシドとして、チタンイソプロポキシド、チタンエトキシド、ジルコニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、バナジルイソプロポキシド、ニオブエトキシド、タンタルエトキシド、及びカリウムtert-ブトキシドが挙げられる。更に好適なガラス形成前駆体が当業者に既知であり、それらも本明細書において同様に使用可能である。
【0055】
成形可能なナノコンポジット中のガラス粒子が溶融シリカガラス粒子であり、二次構造体の空隙がTEOSのようなケイ素系ガラス形成前駆体で充填される場合、従来式に処理した溶融シリカガラスと同等の密度を有する高純度溶融シリカガラスでできたガラス系型を得ることができる。結果として、工程(a)で得られるガラス系型は、高温に対する耐性が特に高い。工程(iii)で二次構造体をガラス形成前駆体で充填することがないとしても、工程(iv)で焼結後に得られるガラス系型のビッカース硬度は、従来式に処理した溶融シリカガラスと同等である。
【0056】
工程(iii)において、少なくとも1種のガラス形成前駆体を含有する溶液に二次構造体を浸漬するか、少なくとも1種のガラス形成前駆体を含有する若しくは生成する雰囲気中で、二次構造体を物理蒸着若しくは化学蒸着に曝露するか、又はこれらの組合せによって、二次構造体の空隙を少なくとも1種のガラス形成前駆体で充填することができる。しかしながら、原則として、この点に関して他のいかなる充填プロセスも同様に適用することができる。例えば、ゾル-ゲルプロセスを適用することもできる。任意選択で工程(iii)において二次構造体の空隙を充填するのに用いる少なくとも1種の添加剤に応じて、二次構造体を、最初に、ガラス形成前駆体のうち1種を含有する溶液に浸漬することができ、次いで、ガラス形成前駆体のうち別の1種を含有する若しくはそれを生成する物理蒸着又は化学蒸着に曝露させることができる。二次構造体の空隙は、一次構造体の脱脂が完了する前であっても、適宜、少なくとも1種のガラス形成前駆体で充填することができる。この場合、少なくとも1種のガラス形成前駆体で充填されるのは部分脱脂された一次構造体である。
【0057】
工程(iv)において、工程(ii)で得られ、任意選択で工程(iii)において少なくとも1種のガラス形成前駆体で充填された二次構造体を焼結する。これにより、ガラス系型が得られる。
【0058】
適切な焼結条件は、当業者に既知であり、適宜、習慣的に選択する。制限はないが、得られるガラス系型のサイズに応じて、焼結中に適用される温度は、典型的には700℃~1600℃の範囲であり、加熱速度は、典型的には1℃/分~10℃/分の範囲であり、例えば、5℃/分であり、保持時間は、典型的には0.5時間~8時間の範囲であり、例えば、4時間である。成形可能なナノコンポジットが有機バインダー中に分散したセラミック材料の前駆体を含む場合、及び/又は二次構造体の空隙が工程(iii)においてガラス形成前駆体で充填される場合、セラミック材料の前駆体をセラミック材料に変換する目的で、及び/又はガラス前駆体をガラスに変換する目的で、二次構造体を中間温度で予備焼結することができる。例えば、予備焼結は、400℃~700℃の範囲の温度で行うことができる。
【0059】
成形可能なナノコンポジット中に分散したガラス粒子が溶融シリカガラス粒子である場合、溶融シリカガラスの低い熱膨張率を考慮して、またその高い熱ショック耐性を考慮して、比較的速い加熱速度及び比較的速い冷却速度の両方を選択することが可能である。
【0060】
本発明によると、焼結は圧力の適用を必要としない。それどころか、工程(iv)における焼結は、大気圧より低い圧力、例えば、最大で0.1mbar、好ましくは最大で0.01mbar、特に好ましくは最大で0.001mbarの圧力で適切に行うことができる。大気圧又は更に低い圧力で焼結を行うことができるため、焼結炉に関して本発明において満たすべき特定の要件はない。
【0061】
焼結後、得られたガラス系型を室温まで冷却し、続いて以下で更に記載されるとおりの工程(b)で金型へと複製することができる。
【0062】
本発明による製造方法の工程(b)において、工程(a)で工程(i)~工程(iv)を行うことにより得られるガラス系型は、ガラス系型内側で金属を溶融させ、若しくはガラス系型外側で金属を溶融させ、それをガラス系型の上若しくは中に注ぎ、続いて冷却することにより、又はガラス系型を可鍛金属基材に圧入することにより、複製される。これにより、構成要素の複製用金型が得られる。金型は、複製される構成要素の予め決められた三次元形状を反転させて有する。本発明に従って溶融金属をガラス系型上に注ぐことにより得られる金型を図1に示す。
【0063】
金属に関連する限り、本発明は更に制限されることはない。例えば、金属は、ニッケル、アルミニウム、銅、亜鉛、及びスズからなる群より選択することが可能であり、又はこれら若しくは他の金属の合金、例えば、真鍮、青銅、又は多成分合金であるAlMgSiMnであることが可能である。
【0064】
ガラス系型の形状は、複製する構成要素の形状に対応するものであり、これに応じて、金属は、ガラス系型の内側で溶融させることが可能であり、又はガラス系型の外側で溶融させてガラス系型の上若しくは中に注ぐことが可能である。これが完了した後、金属を冷却して固体化させる。他方で、適宜、ガラス系型を金属基材に圧入することができる。圧入する目的で、金属基材は、室温又は高温のいずれかにおいて、可鍛であることが必要である。適切にプレス可能である金属として、アルミニウム及び銅が挙げられるが、これらに限定されない。金型は、得られたままで使用することができ、どのような後加工も必要としない。しかしながら、例えば、ガラス系型の製造用テンプレートに存在する特長を除去する目的で、又はそのテンプレートに存在しない特長を付加する目的で、金型を、例えば、除去造形プロセス又は積層造形プロセスにより、後加工に供することができる。
【0065】
別の態様において、本発明は、予め決められた三次元形状を有する構成要素の複製方法を提供する。本発明による複製方法において、上記のとおりの本発明による製造方法により得られる金型が、構成要素の複製に使用される。複製された構成要素を、構成要素の複製に使用した金型と合わせて、図2に示す。
【0066】
本発明によると、本発明に従って得られた金型を用いて、当該技術分野で既知の任意の複製プロセスにより構成要素を複製することができる。例えば、構成要素は、射出成形、ブロー成形、ホットエンボス、熱成形、又は射出圧縮成形により複製することができるが、これらに限定されない。
【0067】
複製する構成要素の材料に関連する限り、本発明は更に制限されることはない。本発明の好適な実施の形態において、複製された構成要素は、ポリマー材料製である。ポリマー材料は、上記でテンプレートについて概要したのと同様に、熱可塑性物に由来することも可能であれば、樹脂に由来することも可能である。
【0068】
本発明は、上記の製造方法を用いて、工業的規模に拡大可能となるように費用効率の高い様式で金型を提供することを可能にし、それと同時に、適切な表面特性、例えば、粗度の低さ及び欠陥が存在しない等を有する金型を提供することを可能にする。当該技術分野で既知の製造方法とは対照的に、複製される構成要素の予め決められた三次元形状は、除去造形又は積層造形で必要とされるとおりのどのような形状指定工程も必要とせずに、金型へと伝達される。驚くべきことに、予め決められた三次元形状の伝達は、製造中に得られる予め決められた三次元形状を有するガラス系型に基づいて達成することができる。いったんガラス系型が得られてしまえば、ガラス系型から金型へと複製する工程は、同じ又は異なるガラス系型を用いて、必要に応じて、複数回繰り返すことができる。
【0069】
また、本発明は、上記の複製方法を用いて、様々な技術分野で適切に使用可能な複製された構成要素の提供を可能にする。特に、複製された構成要素に伝達される金型の適切な表面特性故に、構成要素は、高い精密度が必須である光学分野において、例えばレンズとして特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】(a)ガラス系型、及び(b)本発明に従って溶融金属をガラス系型上に注ぐことにより得られた金型を示す図である。
図2】複製された構成要素を、構成要素の複製に使用した金型と合わせて示す図である。複製された構成要素は、ポリ(メタクリル酸メチル)製である。
図3】以下に記載される実施例で得られる金型の製造を模式的に示す図である。
図4】以下に記載される実施例で得られる金型の評価を示す図である:(a)金型の白色光干渉法;及び(b)金型の顕微鏡画像。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0071】
以下の実施例により本発明を更に解説するが、これらに限定されない。
【0072】
最初に、複製する構成要素用としてマイクロ流体チャンネルを、マイクロリソグラフィーにより得た。マイクロ流体チャンネルからテンプレートへと複製するため、ポリジメチルシロキサン系の二成分樹脂を、マイクロ流体チャンネルに鋳込み、続いて外部刺激として混合することにより硬化、すなわち固化を開始させ、架橋構造をもたらした。
【0073】
続いて、有機バインダーと、その中に分散したガラス粒子とを含む成形可能なナノコンポジットを用いて、テンプレートを複製した。成形可能なナノコンポジットとして、市販されている製品を用いた(「Glassomer L50」、これは、室温液体の溶融シリカナノコンポジットであり、UV照射で固化する際に硬化可能である)。テンプレートからガラス系型へと複製するため、成形可能なナノコンポジットをテンプレートに鋳込み、続いて硬化、すなわちUV照射で固化させた。熱処理により脱脂した後、かつ焼結した後、高純度溶融シリカガラス製のガラス系型が得られた。本明細書において使用される成形可能なナノコンポジットは、テンプレートから温度安定ガラス系型への容易な複製を可能にした。
【0074】
次に、ニッケルを、温度920℃で溶融させ、ガラス系型から金型へと複製するためガラス系型上に注いだ。室温に冷却した後、高品質金型が得られた。これは、複製する構成要素としてのマイクロ流体チャンネルを複製するのに、得られたままで使用することが可能であった。
【0075】
本明細書において得られる金型の製造を、図3に模式的に示す。
【0076】
図4は、(a)白色光干渉法及び(b)顕微鏡画像を示すが、この評価から分かるとおり、本明細書において得られる金型は、高い忠実度で複製されたマイクロ流体チャンネルの形状を有していた。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】