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特表2024-511485B細胞機能不全の処置のためのアルブミンの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-13
(54)【発明の名称】B細胞機能不全の処置のためのアルブミンの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/38 20060101AFI20240306BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
A61K38/38
G01N33/68
A61P37/02
A61P31/04
A61P1/16
A61P31/14
A61P1/18
A61P29/00
A61P35/00
A61K9/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023559052
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(85)【翻訳文提出日】2023-11-17
(86)【国際出願番号】 ES2022070171
(87)【国際公開番号】W WO2022200663
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】21382248.9
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21382481.6
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515116009
【氏名又は名称】グリフォルス・ワールドワイド・オペレーションズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GRIFOLS WORLDWIDE OPERATIONS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Grange Castle Business Park,Grange Castle,Clondalkin,Dublin 22,IRELAND
(71)【出願人】
【識別番号】523362401
【氏名又は名称】ヨーロピアン・ファウンデーション・フォー・ザ・スタディ・オブ・クロニック・リバー・フェイリャー(イーエフ-クリフ)
【氏名又は名称原語表記】EUROPEAN FOUNDATION FOR THE STUDY OF CHRONIC LIVER FAILURE (EF-CLIF)
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】アロジョ ペレス,ビセンテ
(72)【発明者】
【氏名】モロー,リシャール
(72)【発明者】
【氏名】クラリア エンリク,ジョアン
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス ゴメス,ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】ヌニェス ドメネク,ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】オリリョ サウラ,ラケル
【テーマコード(参考)】
2G045
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
2G045DA38
2G045FA37
4C076AA11
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB25
4C076BB27
4C076BB29
4C076CC07
4C076CC16
4C076CC27
4C076CC31
4C076CC35
4C076FF11
4C076FF68
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084DA36
4C084MA16
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA60
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA66
4C084ZA75
4C084ZB07
4C084ZB11
4C084ZB26
4C084ZB33
4C084ZB35
(57)【要約】
B細胞機能不全の処置のためのアルブミンの使用。本発明は、全身性炎症反応症候群を患う患者のB細胞機能を制御するためのヒトアルブミンを含む組成物に関し、そのアルブミンはB細胞集団のB細胞受容体密度を増加させるのに十分な用量で患者に投与される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全身性炎症反応症候群を患う患者のB細胞機能を制御するための、ヒトアルブミンを含む組成物であって、アルブミンが、ナイーブB細胞、移行期B細胞、辺縁B細胞およびその組み合わせよりなる群から選択されるB細胞集団のB細胞受容体密度を増加させるのに十分な用量であって、B細胞受容体密度が処置前のB細胞受容体密度と比較してフローサイトメトリーによる決定で少なくとも約10%増加するような用量で患者に投与される組成物。
【請求項2】
全身性炎症反応症候群を患う患者が、敗血症患者または肝疾患の患者である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
全身性炎症反応症候群を患う患者が、非代償性肝硬変、プレ-慢性肝不全の急性増悪、および慢性肝不全の急性増悪よりなる群から選択される肝疾患の患者である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
B細胞受容体が、IgDサブタイプ、IgMサブタイプ、およびその組み合わせよりなる群から選択される免疫グロブリンを含む、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
B細胞受容体密度が、処置前のB細胞受容体密度と比較して少なくとも約20%増加する、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
処置を必要とする患者におけるB細胞機能不全の処置のための、ヒトアルブミンを含む組成物。
【請求項7】
前記B細胞機能不全が、全身性炎症反応症候群、非代償性肝硬変、急性肝不全、慢性肝不全の急性増悪、重症敗血症、重症敗血症性ショック、コロナウイルス19疾患(Covid 19)、重症多発外傷状態、重症熱傷、重症急性膵炎、血球貪食症候群、ヒートショック症候群、急性虚血再灌流症候群、炎症性疾患、およびがんを含む群から選択される疾患に関する、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記がんが、ホジキンリンパ腫、乳がん、子宮頸がん、膀胱がん、結腸がん、頭頸部がん、肝臓がん、肺がん、腎細胞がん、皮膚がん、胃がん、および直腸がんを含む群から選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
アルブミンが、静脈内、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、肺内、経鼻、経口、直腸内、およびその組み合わせよりなる群から選択される投与経路により投与される、請求項1から5、または6から8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
アルブミンが、複数回投与レジメンの一部として、複数回の間隔で投与される、請求項1から9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
複数回投与レジメンが、約1日から約30日までの等しい間隔で投与される複数の部分用量を含む、または、
複数回投与レジメンが、約1日から約30日までの等しくない間隔で投与される複数の部分用量を含む、または
複数回投与レジメンが総累積用量を上限とする2回以上の投与を含む、
請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
アルブミンが、複数回投与レジメンの一部として、約5 g/間隔から約500 g/間隔の個々の用量で投与される、または、
アルブミンが、複数回投与レジメンの一部として、約20 g/間隔から約200 g/間隔の個々の用量で投与される、
請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
投与間隔が10日ごと、またはそれ以下である、請求項10から12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
アルブミンがヒト血漿由来アルブミンまたは組換えアルブミンである、請求項1から13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
アルブミン濃度が4 %から25 % (w/v)の間である、またはアルブミン濃度が20 % (w/v)である、請求項1から14のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学分野に関し、特にB細胞機能不全の処置を必要とする患者のためのアルブミンの使用に関する。
【0002】
免疫系は感染病原体から人間を守るために協力する細胞や分子の集合体である。免疫系は、細胞または組織の完全性を継続的に監視する監視機構も人間に提供している。この監視により、がんの発生または細胞内ウイルス感染を伝達する細胞膜上の主要組織適合遺伝子複合体タンパク質またはウイルスタンパク質の変化が認識される。免疫系は2つの主な原則の下、機能している。(1) 炎症反応と免疫細胞の増殖を制御する数百の遺伝子を過剰発現することになる、免疫細胞に存在する高感度の細胞膜または細胞質受容体による外来(非自己)物質の認識; (2) 肝臓で合成される非特異的な抗微生物タンパク質を含む、多様なメカニズムのレパートリーによる微生物の排除(すなわち、免疫細胞による直接的な溶菌またはファゴサイトーシス作用の活性化のいずれかにより細菌を殺す補体系); 顆粒球、細胞傷害性Tリンパ球(Tc細胞)およびナチュラルキラー(NK)細胞による、微生物を殺すことができる多数の酵素とポア形成性タンパク質(パーフォリン)を含む細胞内細胞毒性顆粒、ファゴサイトーシス(顆粒球とマクロファージ)、および特異的抗体[Bリンパ球(B細胞)]の放出。活性化Tc細胞およびNK細胞は標的細胞(がん、またはウイルス感染細胞)上のFas受容体と相互作用するFasリガンドを提示しアポトーシスによる細胞死を導く。抗体はB細胞により合成される複雑なタンパク質であり、抗原認識のための超可変領域と補体経路を活性化するための定常領域を有し、細胞溶解(すなわち抗体依存性細胞傷害)およびファゴサイトーシス(すなわち抗体媒介細胞ファゴサイトーシス)のために貪食細胞とNK細胞に結合する。抗体、補体、および顆粒球は、ほとんどの細胞外生物に対する防御をもたらし、一方、マクロファージ、Tc細胞、およびNK細胞は監視プロセスおよび腫瘍細胞とウイルス感染細胞の除去に関わる。各免疫系は相補的に働く。
【0003】
自然免疫系は、感染因子を根絶するため、または感染を阻止するために、非特異的な(しかし効果の高い)さまざまな武器を数分以内に展開する迅速反応部隊として機能する。自然免疫系の細胞は、保持された非特異的パターン認識受容体(PRR)を使用して、組織損傷時に放出される一般的な病原体関連分子パターン(PAMP)またはダメージ関連分子パターン(DAMP)を極めて確実に認識する。PAMPとDAMPの認識および二次免疫応答は、単純なプロセスであり、数分以内に起こる。自然免疫系は、顆粒球(好中球、好塩基球、および好酸球)、マクロファージ(循環単球由来の組織細胞)、および樹状細胞(免疫応答のために、T細胞、B細胞、およびNK細胞に抗原を提示することに特化した細胞)により構成される。NK細胞は、リンパ球であるが自然免疫系の一部でもある。
【0004】
適応(または獲得)免疫系は、極めて効果的であるが、極めて特異的でもある武器を展開するより複雑で洗練された部隊である。適応免疫は新規の特異的受容体を生み出すT細胞およびB細胞を含む。特異的受容体には、T細胞受容体(TCR)とB細胞受容体(BCR)があり、体内に侵入してきた新しい病原体ごとに応答して新しい抗原を生み出し、特定の抗原に再び遭遇すると、より迅速かつ強力に応答する免疫学的記憶を示す。各B細胞は1つの特異性の抗体だけを産生するようにプログラムされ、これら抗体の膜貫通版を細胞表面に配置し、特異的抗原の受容体(B細胞受容体)として働く。B細胞は形質細胞に分化し、大量の可溶性抗体を産生し、環境や全身循環内に分泌され、または粘膜表面に輸送される。自然免疫系とは反対に、適応免疫系の活性化、すなわち抗体応答は、新たな感染に対し10日間、再感染に対し5日間かかりうる。
【0005】
微生物が体内に再侵入した場合、それに対して特異的に設計された受容体を有するリンパ球のみに結合する。この現象はクローン選択と呼ばれ、免疫記憶のメカニズムであり、形質細胞の元のクローンを活性化・増殖させ、特異的抗体を産生する。適切な特異性のTCRを持つT細胞リンパ球も同様に選択される。T細胞は大きく3つのサブセットに分けられる。ヘルパー(CD4またはTh)、細胞傷害性(Tcと呼ばれるCD8 T細胞のサブセット)、および制御性(Treg)であり、それぞれの役割はB細胞が抗体を産生するのを助けること(Th)、ウイルス感染細胞とがん細胞を殺すこと(Tc)、および他のT細胞の働きを制御すること(Treg)である。
【0006】
前述のとおり、B細胞受容体(BCR)は、B細胞の細胞膜上に固定された特定の免疫グロブリン(IgMおよびIgD)であり、特異的抗体の合成と放出を促進する多くの遺伝子の活性化を担う複雑な細胞内機構に接続している。BCRは可溶性抗原によって刺激されうるが、B細胞活性化の引き金となる主な形態は、リンパ節や脾臓に常在し、T細胞、B細胞、およびNK細胞に抗原を提示する濾胞樹状細胞を介したものである。B細胞の活性化は、BCRと抗原との相互作用に依るものだけでなく、共刺激機構にも依る複雑なプロセスである。共刺激の一つの形態は、BCRと特異的抗原との最初の遭遇と同時に起こり、細胞膜のB細胞共受容体複合体によってもたらされる。他の共刺激形態は、活性化したTh細胞によってもたらされB細胞の表面のCD-40と結合する膜関連CD-40リガンドとサイトカインによるものである(T細胞依存性共刺激)。しかし、B細胞はPRR(例えばToll様受容体)も提示し、自然免疫細胞として機能でき、PAMPまたはDAMPに対するポリクローナルなT細胞非依存性の迅速な応答を起こし、ポリクローナル抗体を放出しうる。このように、B細胞は感染に対して迅速な警告反応に協力している。B細胞は抗原提示細胞としても機能でき、樹状細胞およびマクロファージとともにT細胞の活性化に関与する。
【0007】
B細胞には、特定の分類の微生物/抗原を標的とする抗体を分泌することにより感染に応答する3つのタイプがあり、それぞれの特定の機能はその場所および応答する抗原のタイプにより決定される。濾胞B細胞(B2細胞とも呼ばれる)は、高度に特異的な単反応性BCRを発現し、リンパ節と脾臓のリンパ濾胞に存在し、典型的には、適切なモノクローナル抗体応答を創出するためにTh細胞を必要とする胸腺依存性抗原を標的とする。しかし、バクテリアのリポ多糖などのある種の抗原(胸腺依存性抗原タイプ1とタイプ2)は、高濃度で存在する場合、または体内で分解されにくい線状抗原は、T細胞の助けを借りずにかなりの割合のB細胞をポリクローナルに活性化する能力を有し、T非依存性ポリクローナル抗体応答を生じさせる。それらは、B細胞表面のPRR(すなわちToll様受容体)または多反応性BCRへの結合を通して、これを行う。このT細胞非依存性の微生物抗原の検出は、2つのタイプの濾胞外B細胞、つまり辺縁帯(MZ)B細胞およびB1細胞により実行される。
【0008】
全身性炎症、免疫抑制、二次性細菌感染の多発、多臓器不全の関連は、急性非代償性肝硬変、急性肝不全、重症敗血症(敗血症性ショックを含む)、急性膵炎、およびその他の腹腔内炎症プロセス、多発外傷、熱傷、またはCovid 19の患者を含む重症患者によくみられる症候群である。急性非代償性肝硬変の患者では、慢性肝不全の急性増悪(ACLF)、激しい全身性炎症、多臓器機能障害/不全、および極めて高い細菌感染率を特徴とする症候群の患者において(Moreau et al., 2013, Gastroenterology,144:1426-37, 1437.e1-9; Arroyo, et al., 2020, N Engl J Med, 382:2137-2145)、ACLFでない患者よりも(Weiss et al., 2021, Frontiers in Immunol, in press)、免疫活性化がより目立っている。さらに、PREDICT試験により、ACLFを発症していない重症の全身性炎症を有する患者のうち、入院中あるいは退院後数週間以内にACLFを発症して死亡するリスクが高い患者群が最近特定された(Trebicka et al., 2020, J Hepatol, 73:842-854)。この患者の群は、プレ-ACFL患者として分類された。最後に、免疫抑制に対する確立された治療法は今のところ存在しないが、本発明者らによる最近の研究によれば、アルブミンの静脈内投与は、その血漿増量剤としての特性を超えて、全身性炎症の重症度を軽減するしうることが示唆されている(Fernandez et al., 2018, Gut, 67:1870-1880; Casulleras et al., 2020, Sci Transl Med, 12(566):eaax5135)。
【0009】
腫瘍は、様々なタイプの抗原の産生、免疫系活性化の促進、および炎症応答を引き起こしうる。原発腫瘍とその転移腫瘍には、自然免疫系および適応免疫系が浸潤する。加えて、腫瘍は、腫瘍抗原に反応して異所性リンパ器官として機能する三次リンパ組織様構造(TLS)を発達させうる(Sautes-Fridman et al., 2019, Nat Rev Cancer, 19:307 325; Helmink et al., 2020, Nature, 557:549-555)。TLSは様々な成熟状態で存在し、成熟B細胞が増殖、分化し、抗体V領域の体細胞超変異や選別が起こる場所である胚中心の形成に至る。TLSは抗腫瘍適応免疫を積極的に調節していると考えられている。腫瘍に対する免疫応答にはTリンパ球とNK細胞が主に関与しているが、最近の研究ではB細胞も重要であることが示されている。
【0010】
がんは免疫の攻撃を回避および退ける多数の戦略を展開している。これらの戦略で、T細胞免疫チェックポイント(CTLA-4およびPD-1)に関連する戦略は、メラノーマやその他の腫瘍の治療に極めて効果的な新しいアプローチの開発が決定づけたことから、関連性が高い。チェックポイント分子は、活性化したT細胞でアップレギュレートし、必要がなくなるとT細胞応答を終わらせるという生理学的に重要な役割を果たす。このように、自己免疫反応の発生を防止している。CTLA-4は、T細胞上のCD28結合と競合することによりT細胞の機能を抑制する。PD-1はT細胞のシグナル伝達経路を積極的に抑制する。これらのT細胞チェックポイントが腫瘍細胞上のパートナータンパク質(例えば、PD-1に結合するPDL-1)に結合すると、腫瘍の拡大に有利な寛容状態が永続することになる。対照的に、チェックポイント遮断抗体による処置は、免疫系の機能を回復させ、自然免疫系ががん細胞を攻撃することを可能にする(Helmink et al., 2020, Nature, 557:549-555)。
【0011】
B細胞がチェックポイント遮断や他の処置を使用した処置の予後や応答に関係していることを示唆する証拠がいくつかある。その証拠としては、(1) B細胞は、他の免疫細胞とともに、ヒトの癌の広い範囲に頻繁に浸潤している、(2) 免疫チェックポイント遮断処置を受けた患者では、臨床的有用性とB細胞およびTLSの存在および密度との間に相関がある、(3) B細胞は、TLS内の液性抗腫瘍応答を促進する可能性がある、(4) 腫瘍サンプル中のB細胞関連遺伝子の発現は、免疫チェックポイント遮断薬(ICB)が奏効した癌患者で奏効しなかった患者より高く、T細胞や他の免疫マーカーと比較して、これらの遺伝子の過剰発現が観察される、ことがある。B細胞は、他のがんタイプでの化学療法に対して積極的に関わることも示されている。それは、(5) 構造解析により、B細胞が腫瘍細胞レスポンダーの成熟TLSに局在し、ThおよびTcリンパ球と共局在していることが示された、(6) ICBレスポンダーの腫瘍には、メモリーB細胞の頻度が有意に高いのに対し、ノンレスポンダーでは、ナイーブB細胞の頻度が有意に高い、ことである。他の注目すべき違いには、ノンレスポンダーと比較してレスポンダーでの、形質細胞、スイッチしたメモリーB細胞、および胚中心様B細胞の増加が含まれる。これらのデータは、がんに対する処置応答におけるB細胞の役割と一致している。
【0012】
免疫チェックポイント遮断薬(ICB)は現在、アメリカ食品医薬品局(FDA)によって、ホジキンリンパ腫、乳がん、子宮頸がん、膀胱がん、結腸がん、頭頸部がん、肝臓がん、肺がん、腎細胞がん、皮膚がん、胃がん、直腸がんの処置に対して承認されている。
【0013】
本発明者らは、驚くべきことに、アルブミンは、T細胞コンパートメントに影響を与えることなく、選択的にB細胞の機能を活性化することを発見した。これにより、アルブミンはB細胞を、適応免疫細胞の全身的な制御機能低下障害からレスキューする。
【0014】
第1の態様において、本発明は、全身性炎症反応症候群を患う患者のB細胞機能を制御するための、ヒトアルブミンを含む組成物であって、アルブミンが、ナイーブB細胞、移行期B細胞、辺縁B細胞およびそれらの組み合わせよりなる群から選択されるB細胞集団のB細胞受容体密度を増加させるのに十分な用量でであって、B細胞受容体密度が処置前のB細胞受容体密度と比較してフローサイトメトリーによる決定で少なくとも約10%増加するような用量で患者に投与される組成物に関する。
【0015】
好ましくは、全身性炎症反応症候群を患う患者は、敗血症患者または肝疾患の患者である。
【0016】
好ましくは、全身性炎症反応症候群を患う患者は、非代償性肝硬変、プレ-慢性肝不全の急性増悪、および慢性肝不全の急性増悪よりなる群から選択される肝疾患の患者である。さらに好ましくは、肝疾患は慢性肝不全の急性増悪である。
【0017】
好ましくは、B細胞受容体は、IgDサブタイプ、IgMサブタイプ、およびその組み合わせよりなる群から選択される免疫グロブリンを含む。
【0018】
好ましくは、B細胞受容体密度は、処置前のB細胞受容体密度と比較して、少なくとも約20%増加し、例えば、処置前のB細胞受容体密度と比較して少なくとも約30%、例えば約40%増加する。いくつかの実施形態では、B細胞受容体密度は、処置前のB細胞受容体密度と比較して、少なくとも約50%、例えば、少なくとも約60%、例えば約70%、またはいくつかの場合では少なくとも約80%増加しうる。
【0019】
第2の態様では、本発明は、処置を必要とする患者におけるB細胞機能不全の処置のためのヒトアルブミンを含む組成物に関する。
【0020】
好ましくは、前記B細胞機能不全は、全身性炎症反応症候群、非代償性肝硬変、急性肝不全、慢性肝不全の急性増悪、重症敗血症・敗血症性ショック、コロナウイルス19疾患(Covid 19)、重症多発外傷状態、重症熱傷、重症急性膵炎、血球貪食症候群、ヒートショック症候群、急性虚血再灌流症候群、炎症性疾患、およびがんを含む群から選択される疾患に関する。
【0021】
好ましくは、前記がんは、ホジキンリンパ腫、乳がん、子宮頸がん、膀胱がん、結腸がん、頭頸部がん、肝臓がん、肺がん、腎細胞がん、皮膚がん、胃がん、および直腸がんを含む群から選択される。
【0022】
好ましくは、アルブミンは、静脈内、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、肺内、経鼻、経口、直腸、およびその組み合わせよりなる群から選択される投与経路により投与される。
【0023】
好ましくは、アルブミンは、免疫チェックポイント遮断薬(ICB)などの他の処置とともに投与される。
【0024】
好ましくは、アルブミンは、複数回投与レジメンの一部として、複数回の間隔で投与される。
【0025】
好ましくは、複数回投与レジメンは、約1日から約30日までの等しい間隔で投与される複数の部分用量を含む;または、複数回投与レジメンは、約1日から約30日までの等しくない間隔で投与される複数の部分用量を含む;または、複数回投与レジメンは、総累積用量を上限とする2回以上の投与を含む。
【0026】
好ましくは、アルブミンは、複数回投与レジメンの一部として、約5 g/間隔から約500 g/間隔の個々の用量で投与される;または、アルブミンは、複数回投与レジメンの一部として、約20 g/間隔から約200 g/間隔の個々の用量で投与される。
【0027】
好ましくは、投与間隔は10日ごと、またはそれ以下である。
【0028】
好ましくは、アルブミンはヒト血漿由来アルブミンまたは組換えアルブミンである。
【0029】
好ましくは、アルブミン濃度は、4 %から25 % (w/v)の間である;またはアルブミン濃度は、20 % (w/v)である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1から3は、発見コホート(discovery Cohort)1の概要、遺伝子発現データを用いた血液免疫細胞タイプの評価、およびB細胞集団へのアルブミン投与の効果を示している。
【0031】
図1図1は、発見コホート1に含まれる患者の臨床データと血液検体の収集の概要を示している。急性非代償性肝硬変患者18人に、アルブミン静脈投与の前後で縦断的研究を行った。これらの18人の患者は、アルブミン処置前はプレ-ACLFであり、アルブミン処置後はACLFであった(初めはプレ-ACLF-未処置状態であり、次にACLF-処置状態であったことを示している)。これら2つの研究点間のタイムラインは、水平連続矢印で示されている。このパネルは、アルブミン投与を受けていない19人のACLF患者(したがって、未処置状態で調べられた)と10人の健常対象で収集されたデータも示している。ハッチされた線は、縦断的に得られたデータを用いて行われた比較を示す。点線は実施された横断的比較を示す。
【0032】
図2図2は、発見コホート1に含まれる個人の全血RNA-seqデータを用いて計算した、好中球、好塩基球、単球、樹状細胞、T細胞、CD4 T細胞、CD8 T細胞、前駆細胞、B細胞、およびNK細胞を含む10種類の免疫細胞のSingleRエンリッチメントスコアの箱ひげ図を示す。各箱内の水平線は中央値を、箱の下限と上限は四分位範囲を表し、ひげは四分位範囲の1.5倍を示す。P値はKruskal-Wallis検定、続いてMann-Whitney U検定から得られている。
【0033】
図3図3は、日々のアルブミン投与と、発見コホート1の患者におけるB細胞のSingleRエンリッチメントスコアとの間の相関を示している。R値はスピアマンの相関係数であった。
【0034】
図4図4は、発見コホート1に含まれる急性非代償性肝硬変の患者血液の転写特性へのアルブミンの効果を示している。
【0035】
パネルAからEは、GSEA (www.broad.mit.edu/gsea)に提出された全血RNAシーケンシングデータの結果を用いて設計された。GSEAは、図1に示した一対比較のそれぞれについて、遺伝子のランク順リストを作成した。遺伝子のランク順の各リストは、GSEAによりジーンオントロジー遺伝子セットを用いた遺伝子セットエンリッチメント解析に用いられた。パネルAは、以下の3つの横断的一対比較における28個の遺伝子セットのGSEA正規化エンリッチメントスコア(normalized enrichment scores)(NES)の階層的クラスター解析である。(1)プレ-ACLF-未処置状態の患者対健常対象。(2)ACLF処置状態の患者対健常対象。(3)ACLF未処置状態の患者対健常対象。28個の遺伝子セットは、各比較における有意なNESの絶対値上位40位の解析から特定された。色の勾配は、健常対象と比較して患者において、発現低下(青色)または発現上昇(赤色)した遺伝子セットのNESに対応する。太字で示された遺伝子セットは、2つの比較(プレ-ACLF-未処置状態の患者対健常対象、およびACLF-未処置状態の患者対健常対象)において、有意に発現が低下したが、ACLF-処置状態の患者対健常対象では有意にエンリッチされなかった。ヒートマップの特定のセルの星印は、偽発見率(FDR)<0.05であることを示す。パネルBは、患者対健常対象の3つの横断的一対比較における免疫グロブリン複合体遺伝子セットのGSEAエンリッチメントプロットである。リーディングエッジ(すなわちトップスコア)の遺伝子は実線で示されている。GSEA曲線のハッシュプロットは、遺伝子セットのメンバーが3つのランク付けされた遺伝子リストのそれぞれに現れる場所を示している。右寄りの曲線(負のエンリッチメントスコア)は、患者における発現が低いことを示す。シグモイド曲線は、比較した群間で同等の発現を示している。各比較の有意性を検定するNESとFDRが示されている。パネルCは、縦断的に収集されたデータ(ACLF-処置状態対プレ-ACLF-未処置状態)、および横断的データ(ACLF-処置状態対ACLF-未処置状態)を含む2つの比較における15個の遺伝子セットのGSEA NESの階層クラスター分析を示す。15個の遺伝子セットは、各比較における有意なNESの絶対値の上位40位の解析から特定された。色の勾配は、未処置患者に対して処置患者で発現低下(青色)または発現上昇(赤色)した遺伝子セットのNESに対応する。ヒートマップの特定のセルにある星印は有意性を示す(FDR <0.05)。パネルDは免疫グロブリン複合体遺伝子セットのGSEAエンリッチメントプロットを、縦断的に収集されたデータ(ACLF-処置状態対プレ-ACLF-未処置状態; パネル上部)と横断的データ(ACLF-処置状態対ACLF-未処置状態; パネル下部)を含む2つの比較において示している。GSEA曲線のハッシュプロットは、遺伝子セットのメンバーが遺伝子のランク付けされたリストのどこに現れるかを示している。プロット上に示された遺伝子は、2つの比較で共有されるリーディングエッジ遺伝子の代表である。各比較の有意性を検定するNESとFDRが示されている。パネルEは、縦断的に収集されたデータ(ACLF-処置状態対プレ-ACLF-未処置状態)および横断的データ(ACLF-処置状態対ACLF未処置状態)を含む2つの比較におけるリーディングエッジ遺伝子を説明する円グラフである。GSEAは遺伝子セットエンリッチメント解析(gene set enrichment analysis)を意味する。
【0036】
図5図5は、発見コホート2に含まれる急性非代償性肝硬変および敗血症性ショックの12人の患者血液の転写特性へのアルブミンの効果を示している。
【0037】
パネルAとBは、GSEA(www.broad.mit.edu/gsea)に提出された全血RNAシーケンシングデータの結果を用いて設計された。GSEAは、パネルAに示される一対比較のそれぞれについて、遺伝子のランク順リストを作成した。遺伝子の各ランク順リストは、ジーンオントロジー遺伝子セットを用いた遺伝子セットエンリッチメント解析のためにGSEAにより使用された。パネルAは、2つの横断的一対比較における45個の遺伝子セットのGSEA正規化エンリッチメントスコア(NES)の階層的クラスター解析であり、(1)プレ-ACLF-未処置状態の患者対健常対象、(2)敗血症性ショックに続発したACLF-処置状態の患者対健常対象、である。45個の遺伝子セットは、各比較において有意なNESの絶対値の上位の解析から特定された。色の勾配は、健常人と比較して患者において発現低下(青色)または発現上昇(赤色)した遺伝子セットのNESに対応する。太字で示された遺伝子セットは、1つの比較(プレ-ACLF未処置の患者対健常対象)では有意に発現低下していたが、敗血症性ショックのACLF-処置状態の患者対健常対象では有意にエンリッチメントされていなかった。ヒートマップの特定のセルの星印は、偽発見率(FDR)<0.05を示す。パネルBは、患者対健常対象の2つの横断的一対比較における免疫グロブリン複合体遺伝子セットのGSEAエンリッチメントプロットである。リーディングエッジ(すなわちトップスコア)の遺伝子は実線で示されている。GSEA曲線下のハッシュプロットは、遺伝子セットのメンバーが2つのランク付けされた遺伝子リストのそれぞれに現れる場所を示している。右肩寄りの曲線(負のエンリッチメントスコア)は、患者における発現が低いことを示す。シグモイド曲線は、比較されるグループ間で同等の発現を示す。各比較の有意性を検定するNESとFDRが示されている。
【0038】
図6図6は、ポスト-発見コホート1に含まれる急性非代償性肝硬変患者9人のB細胞および単球集団の転写特性に対するアルブミンのエクスビボ効果を示している。
【0039】
新鮮な末梢血単核球(PBMC)をエクスビボでアルブミン(15mg/ml)またはビヒクルに暴露し、2時間暴露後、PBMCのシングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq)を行った。
【0040】
パネルAは、B細胞と形質細胞の状態で色分けした1,834個の細胞の一様多様体近似投影(UMAP)に対応する。B細胞のUMAPは、活性化していないナイーブB細胞、活性化しているナイーブB細胞、移行期T1およびT2 B細胞、メモリーB細胞、スイッチしたメモリーB細胞、活性化B細胞および形質B細胞を示す。パネルBは、B細胞および形質細胞の状態における、アルブミンまたはビヒクルへのエクスビボ暴露により色付けした、B細胞(右側)および形質B細胞(左側)のUMAPを示す。パネルCは、エクスビボでアルブミンまたはビヒクルで培養したPBMCのB細胞存在比の比較を示す。存在比は、ビヒクルまたはアルブミンで処理した細胞を比較して、移行期T1および移行期T2細胞状態に対する、各患者B細胞総数の割合として、患者に対するウィルコクソンの符号順位検定を用いて算出した。パネルCでは、箱は、アルブミンまたはビヒクルで処理した細胞の各グループの中央値と四分位範囲(IQR)を示し、ひげは上部または下部の四分位値からいずれかの方向にIQRの1.5倍まで伸びており、各ポイントはアルブミンまたはビヒクルでエクスビボ培養したPBMCの別々の患者を表す。パネルDは、アルブミンのみを用いてエクスビボ培養したPBMCから得られた移行期(T1およびT2)B細胞遺伝子マーカーの過剰表現したジーンオントロジータームをまとめた棒グラフである。過剰表現したジーンオントロジータームは、3つの主なサブカテゴリーであるB細胞活性化、抗原提示、およびファゴサイトーシス、に分けられる。パネルEは、アルブミンまたはビヒクルのいずれかでエクスビボ培養したPBMCから得られたミエロイド細胞亜集団によって色分けされた20,396個の細胞のUMAPを示している。本発明者らは、単球の様々な細胞状態である古典的単球、炎症性中間単球、活性化中間単球、制御性中間単球、および非古典的単球を特定した。さらに、樹状細胞(DC)コンパートメントは、従来型DC細胞(cDC)、AXL+ DC細胞、CD16+ DC細胞で構成されている。パネルFは、PBMC中の単球および樹状細胞亜集団における、アルブミンまたはビヒクルによるエクスビボ暴露により色分けされたミエロイド細胞のUMAPを示す。パネルGは、アルブミンまたはビヒクル添加でエクスビボ培養したPBMC間の存在比の比較による箱ひげ図である。存在比は、アルブミンまたはビヒクル添加でエクスビボ培養したPBMCのうち、制御性中間単球、非古典的単球、炎症性中間単球、活性化中間単球について、各患者全体のミエロイド細胞総数に占める割合として計算した。パーセンテージの比較はすべて、ウィルコクソンの符号順位検定で有意性を検定した。パネルHは、アルブミンのみを添加してエクスビボで培養したPBMCから得られた制御性中間単球遺伝子マーカーのジーンオントロジー過剰表現をまとめた棒グラフである。エンリッチメント検定のP値カットオフは<0.05、p調整法はBenjamini-Hochberg法、10個のオントロジー検定により遺伝子の最小サイズはアノテートされる。制御性中間単球遺伝子マーカーでエンリッチメントされたジーンオントロジー遺伝子セットは、3つの主なサブカテゴリーである、活性化、免疫応答、遊走に分けられる。
【0041】
図7図7は、ポスト-発見コホート2(the post-discovery Cohort 2)に含まれる急性非代償性肝硬変患者5人の末梢血について、アルブミン注入前と注入24時間後に行ったフローサイトメトリー(免疫表現型解析)の結果を示している。異なるB細胞サブセットを区別するために、CD19、CD21、CD24、CD27、CD38、CD45、IgD、およびIgMを含むB細胞マーカーの具体的なパネルが使用された(パネルAおよびB)。B細胞はCD45+CD19+として定義され、B細胞間の異なる亜集団は、移行期B細胞をIgM++CD38+++、ナイーブB細胞をIgD+IgM+、辺縁B細胞をIgD+CD27+、形質芽細胞をIgM-CD38+++、およびメモリーB細胞をIgD-IgM-として定義する。パネルCは、ナイーブ、移行期、および辺縁B細胞におけるIgMおよびIgDシグナルの平均蛍光強度(MFI)を表す。全B細胞表面のIgMレベルを表すヒストグラムをパネルDに示す。
【0042】
図8図8は、ヒト血清アルブミン(ヒト血漿由来)および組換えヒト血清アルブミンが、ポスト-発見コホート3に含まれる急性非代償性肝硬変患者5人のPBMCの転写特性に及ぼすエクスビボでの効果を示している。
【0043】
パネルAは、ヒト血清アルブミン対ビヒクル、および組換えヒト血清アルブミン対ビヒクルに関する2つの比較における、PBMCからの15個の遺伝子セットのGSEA NESの階層クラスター分析を示している。15個の遺伝子セットは、各比較における有意なNESの絶対値上位40位の分析から特定された。色の勾配は、未処置サンプルに対してアルブミン処置でダウンレギュレート(青色)またはアップレギュレート(赤色)した遺伝子セットのNESに対応している。ヒートマップの特定のセルの星印は、有意性を示している(FDR <0.05)。パネルBは、急性非代償不全患者から分離され、ヒト血清アルブミン(上のパネル)または組換えヒト血清アルブミン(下のパネル)とインキュベートされたPBMCと、ビヒクルとインキュベートされたPBMCにおける、免疫グロブリン複合体遺伝子セットのGSEAエンリッチメントプロットの比較である。GSEA曲線下のハッシュプロットは、遺伝子セットのメンバーがランク付けされた遺伝子のリストのどこに現れるかを示している。プロット上に示された遺伝子は、2つの比較で共有されるリーディングエッジ遺伝子の代表である。各比較の有意性を検定するNESとFDRが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0044】
別段定義されない限り、本明細書で使用するすべての技術的および科学的用語は、記載される方法および組成物に関連する当業者により一般的に理解されるものと同様の意味を有する。本明細書で使用される以下の用語およびフレーズは、別段の定めがない限り、それに起因する意味を有する。
【0045】
「a」、「an」、および「the」なる用語は、文脈上明らかに示されない限り、複数の意味を含む。
【0046】
本明細書を通して、文脈上別段の定めがない限り、「含む」という単語、または「含む」や「含んでいる」などのヴァリエーションは、記載された要素もしくは整数、または要素もしくは整数の群を含むことを意味し、他の要素もしくは整数、または要素もしくは整数の群を除外することを意味しないと理解される。
【0047】
別段定義しない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。例示的な方法および材料を以下に記載するが、本明細書に記載したものと類似または同等の方法および材料を使用することもでき、当業者には明らかであろう。本明細書で言及される全ての刊行物および他の文献は、参照によりその全体が援用される。矛盾がある場合には、定義を含め、本明細書が優先する。材料、方法、および実施例は例示に過ぎず、限定を意図するものではない。本明細書の各実施形態は、明示的に別段の記載がない限り、他のすべての実施形態に準用して適用されるべきである。
【0048】
以下の用語は、別段指示がない限り、以下の意味を有するものと理解されるべきである。
【0049】
「処置(treatment)」または「処置すること(treating)」なる用語は、哺乳類などの対象における疾患または障害の任意の処置を意味し、疾患または障害を予防する、または疾患または障害から保護すること、すなわち、臨床症状が発症しないようにすること; 疾患または障害を阻害すること、すなわち、臨床症状の発症を阻止または抑制すること; および/または疾患または障害を緩和すること、すなわち、臨床症状の退行を引き起こすことが含まれる。いくつかの実施形態において、処置なる用語は、非代償性肝硬変、急性肝不全、慢性肝不全の急性増悪、重症敗血症および敗血症性ショック、コロナウイルス疾患19(Covid19)、重症多発外傷状態、重症熱傷、重症急性膵炎、血球貪食症候群、ヒートショック症候群、急性虚血再灌流症候群、炎症性疾患、およびがんの処置に使用される。
【0050】
ヒトの医学においては、最終的な誘導事象が未知である、潜在的でありうる、または事象発生後かなり経過するまで患者が確認されないことがあるため、「予防すること(preventing)」と「抑制すること(suppressing)」とを区別することは必ずしも可能ではないことが当業者には理解されよう。それゆえ、本明細書で使用される「予防(prophylaxis)」なる用語は、本明細書で定義される「予防すること」および「抑制すること」の両方を包含する「処置」の要素として意図されている。
【0051】
本明細書で使用する「組換え」なる用語は、(1)その天然の環境から取り出された、(2)天然に見られる遺伝子のポリヌクレオチドの全部または一部を伴わない、(3)天然では連結されないポリヌクレオチドに動作可能に連結されている、または(4)天然では生じない、生体分子、例えば遺伝子またはタンパク質、を意味する。「組換え」なる用語は、クローン化された単離DNA、化学的に合成されたポリヌクレオチドアナログ、または異種系により生物学的に合成されたポリヌクレオチドアナログ、あるいはそのような核酸によりコードされたタンパク質および/またはmRNA、に関して使用されうる。いくつかの形態ではアルブミンは組換えアルブミンである。
【0052】
本明細書で使用する「ヒト血漿由来」なる用語は、ドナー由来の標準ヒトプール血漿から得られた生体分子、例えば遺伝子またはタンパク質、を意味する。いくつかの形態では、ヒト血漿由来の用語は、ヒト血漿由来アルブミンを意味するように使用される。
【0053】
本明細書で使用する「B細胞受容体」なる用語は、IgDサブタイプ、IgMサブタイプ、およびその組み合わせよりなる群から選択される免疫グロブリンを意味する。
【0054】
免疫抑制に対するアルブミンの潜在的効果に取り組むため、本発明者らは、PREDICT研究での急性非代償性肝硬変で入院した患者の2つのコホートにおいて、ゲノムワイドRNAシーケンシング(RNA-seq)を用いた前向き研究を行った。発見コホート1には、入院中にACLFを発症したプレ-ACLF患者が含まれた。発見コホート2には、入院中に敗血症性ショックを発症したプレ-ACLF患者が含まれた。本発明者らはまた、発見コホートで得られた所見を確認するために、いくつかのインビボおよびエクスビボ試験を開発した。両試験は、急性非代償性肝硬変で41個の施設に入院した1241人の患者を対象としたヨーロッパの多施設前向き観察研究であるPREDICT試験に参加した患者を対象に行われた。その目的は、入院中の臨床経過と早期フォローアップ(3ヵ月)を評価することであった。臨床データとバイオバンク試料は、補助的調査のために順次入手した。発見1および発見2の調査は、患者49例(それぞれ37例および12例)および健常対象10例に対して行われた。
【0055】
本明細書において、「ポスト-発見コホート1」なる用語は、アルブミンまたはビヒクルのいずれかで2時間エクスビボ処置した、急性非代償性肝硬変の9人の患者から得たPBMCを意味する。
【0056】
本明細書において、「ポスト-発見コホート2」なる用語は、アルブミン処置前および処置24時間後の、急性非代償性肝硬変患者5人の血液における転写特性を意味する。
【0057】
本明細書において、「ポスト-発見コホート3」なる用語は、ヒト血漿由来アルブミンまたは組換えヒトアルブミンのいずれかで24時間エクスビボ処置した、急性非代償性肝硬変患者5人のPBMCを意味する。
【0058】
以下、本発明を例示的な実施例を参照してより詳細に記載するが、これらは本発明の限定を構成しない。
【実施例
【0059】
実施例1.全身性炎症に関連した疾患における免疫抑制は、適応免疫系の全身的な機能障害と関連して起こる。アルブミン処置は、B細胞機能を活性化することにより、適応免疫系の機能を改善する。
【0060】
発見コホート1には37人の急性非代償性肝硬変患者が含まれた(表1)。18人の患者(アルブミン群)は以下の理由で選ばれた(図1)。(1) 登録時にプレ-ACLFであり、登録前の10日間にアルブミン処置を受けていなかった(すなわち、登録時にプレ-ACLF-未処置状態であった)、(2) 登録後1ヵ月以内にACLFを発症し、ACLF発症前10日以内にアルブミン静脈内投与を受けていた(すなわち、その時点でACLF-処置状態であった)、(3) ACLFを定義するのに用いられる臓器系不全にショックがなかった、(4) プレ-ACLF-未処置およびACLF-処置状態にあるときに、RNA-seqのための縦断的採血を受けていた。これらの基準を用いて、本発明者らは、縦断的に得られたRNA seqを比較することで、アルブミン投与に大きく依存する血液中の免疫細胞の変化を捉えることができると予想した。
【0061】
発見コホート1には、PREDICT試験コホートの患者19人(非アルブミン群)も含まれていたが、その理由は、その患者らはACLFを発症しており、ACLF発症前の1ヵ月間にアルブミンの静脈内投与を受けておらず(すなわち、ACLF-未処置状態であった)、ACLF発症時にRNA-seq用の血液を採取していたためである。最後に、本発明者らは、全血RNA-seq用に、年齢をマッチさせた健常な血液ドナーのコントロール10人を登録した。
【0062】
アルブミン処置期間の中央値は2.5日(IQR、2から6)、アルブミン投与量の中央値は40.0g/日(IQR、22.5から57.5)であった。RNA-seqのためのアルブミン処置前採血とアルブミン処置後採血の間の経過時間の中央値は11.5日(IQR、6.2から18.7)、最後のアルブミン投与とその後のRNA-seqのための採血の間の経過時間の中央値は1.5日(IQR、0.0から2.7)であった。
【0063】
プレ-ACLF未処置状態からACLF処置状態への進展は、MELDおよびCLIF-C OFスコアの有意な上昇と関連していた。しかし、血清クレアチニンを除けば、その他の標準臨床検査値および14種類の炎症性メディエータの血漿中濃度には有意な変化はみられなかった。同様に、血清クレアチニンを除いて、臨床的特徴、臓器障害、予後スコア、標準臨床変数、および炎症性メディエータにおいて、ACLF-処置状態とACLF-未処置状態時の患者には群間差はみられなかった。したがって、全身性炎症の強さは、臨床状態や処置状態にかかわらず、調査したすべての患者で同様であった。
【0064】
RNA-seqで推測する細胞集団スコアを基にするアルブミンの効果。臨床的血球カウントでは、患者の状態にかかわらず、好中球増加およびリンパ球減少が示された(表1)。本発明者らは、RNA-seq推測細胞スコアを用いて細胞亜集団を推定した。RNA-seqで推定されたリンパ球スコアの合計は、健常対象および患者における標準リンパ球数と密接に相関しており、この推定の正確性が確認された。この推定を用いて、本発明者らにより、健常対象のB細胞と有意に差異がないACLF-処置状態のB細胞のRNA-seq推測集団スコアを除いて、3つの状態のいずれにおいても、健常対象と比較して、患者の自然免疫細胞(好中球、好塩基球、単球、樹状細胞)のRNA-seq推測集団スコアが増加し、適応免疫細胞(Th細胞またはCD4+細胞、Tc細胞またはCD8+細胞、B細胞およびNK細胞)のRNA-seq推測集団スコアが減少することがわかった(図2)。興味深いことに、RNA-seq推定B細胞集団スコアは、アルブミン投与と正の相関を示した(図3)。
【0065】
これらの所見を総合すると、(1) ACLFの有無にかかわらず、急性非代償性肝硬変における全身性炎症は、自然免疫系の活性化によるものであり、適応免疫系の制御が有意に低下している状況で発生しており、免疫抑制のメカニズムである可能性があること、(2) アルブミンは、T細胞コンパートメントに影響を与えることなく、B細胞機能を選択的に活性化すること、が示唆された。したがって、アルブミン処置は、B細胞を、適応免疫細胞の全身的な制御機能低下障害からレスキューし、(3) B細胞に対するアルブミンの効果は用量依存性である。
【0066】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0067】
アルブミンは免疫グロブリン合成およびプロセスに関する多くの遺伝子セットを活性化する。
本発明者らは、全血RNA-seqデータを用いた遺伝子セットエンリッチメント解析を用いて、患者が3つの状態(プレ-ACLF-未処置、ACLF-処置、ACLF未処置)のいずれかにある場合に、健常対象と比較してアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションを示した遺伝子セットおよびプロセスを特定した。健常対象と比較して、プレ-ACLF-未処置、ACLF-処置、ACLF-未処置で有意にエンリッチされた(アップレギュレーションまたはダウンレギュレーション)遺伝子セットの数は、109、62、および134個であり、全血遺伝子発現におけるアルブミンの有意な効果を示した。各比較における有意な正規化エンリッチメントスコアの絶対値上位40位を分析すると、3つの比較において、いくつかの有意にエンリッチされた遺伝子セットの類似性が示された(図4A)。例えば、好中球顆粒に関連する遺伝子セットは、健常対象に比べて患者で有意に過剰発現していた。対照的に、T細胞に関連する遺伝子セット(例えば、T細胞受容体複合体)は、健常対象に比べて患者では有意に発現が低かった。重要なことは、未処置状態では発現が低下していたB細胞に関連する3つの遺伝子セット(免疫グロブリン複合体、ファゴサイトーシス認識、および免疫グロブリン複合体循環)が、ACLF処置をした状態では発現が正常化したことであり(図4Aおよび4B)、アルブミンがB細胞における免疫グロブリン遺伝子の発現を「レスキュー」したことを示している。
【0068】
アルブミン処置の効果をさらに評価するために、本発明者らは、ACLF-処置状態のデータと、プレ-ACLF-未処置およびACLF-未処置状態のデータを比較する2つの追加の遺伝子セットエンリッチメント解析を行った。本発明者らは、5%未満の偽発見率で、有意なエンリッチメントを示す遺伝子セットをそれぞれ98個と78個を特定したが、そのほとんどすべてが、未処置患者に対して処置患者で発現が増加していた。各比較における有意な正規化エンリッチメントスコアの絶対値上位40位の解析から、2つの比較においていくつかの有意にエンリッチされた遺伝子セットの類似性が示された。特に、10個の遺伝子セット(すなわち、免疫グロブリン複合体、循環免疫グロブリンによる液性免疫応答、ファゴサイトーシス認識、液性免疫応答の制御、細胞認識、B細胞受容体シグナル伝達経路、B細胞活性化の正の制御、Fc受容体シグナル伝達経路、ファゴサイトーシスおよび免疫グロブリン産生)が、未処置患者に対して処置患者で有意にアップレギュレートしていた(図4Cおよび4D)。注目すべきは、各比較において、免疫グロブリンは、10個の遺伝子セットのそれぞれのエンリッチメントに寄与するリーディングエッジ遺伝子の中で際立っていたことである。さらに本発明者らは、免疫グロブリン複合体遺伝子セットに着目し、2つの比較においてリーディングエッジ遺伝子が重複していることを見出した(図4Dおよび4E)。アルブミンによって発現が上昇する、免疫グロブリン鎖合成に寄与する可変遺伝子、多様性遺伝子、接合遺伝子および定常遺伝子を含む免疫グロブリン遺伝子の詳細なリストを表2に示す。これらの遺伝子の組み合わせは、アルブミンに対するB細胞の応答について情報を与える免疫グロブリン遺伝子スコア(IGsc)を提供する。
【0069】
【表2】
【0070】
総合するとこれらの所見は、アルブミン処置を受けた患者のB細胞の免疫グロブリン遺伝子発現における広範な増加を検出するエンリッチメント解析の頑強性を確認した。
【0071】
実施例2.敗血症性ショック中の免疫抑制は、適応免疫系の全身的な機能障害と関連して起こる。アルブミン処置は、B細胞機能を活性化することにより、適応免疫系の機能を改善する。
【0072】
発見コホート2は、PREDICT試験から選択された12人の患者で構成され、これらの患者は、(1)登録時にプレ-ACLFであり、(2)登録前の10日間にアルブミン静脈内投与を受けておらず、(3)入院中に敗血症性ショック(ACLFの一形態)を発症し、敗血症性ショックの経過中、プレ-ACLF状態からACLF発症までの間、循環補助のためにアルブミンの静脈内投与を受け、(4)アルブミン投与前後に全血RNA-seqのための縦断的な血液採取をされた。患者の臨床的特徴を表3に示す。遺伝子セットエンリッチメント解析を用いて、アルブミン処置前と処置後にこれらの患者で得られたデータを、10人の健常対象で得られたデータと比較した(図5A)。各比較において、健常対象と比べて、好中球顆粒に関連する遺伝子セットは有意に過剰発現し、一方T細胞およびB細胞に関連する遺伝子セットは有意に過少発現した。この遺伝子セットのエンリッチメントパターンは、敗血症性ショックを起こした肝硬変でない患者でも報告されている。発見研究2の最も関連性があった観察は、処置前に健常対象に比べて敗血症性ショック患者で有意に過少発現していた免疫グロブリン遺伝子(すなわち免疫グロブリン複合体)に関する遺伝子セットが、アルブミン投与後にその発現が正常化したことである(図5Aおよび5B)。
【0073】
総合すると今回の所見では、肝硬変および敗血症性ショックの患者において、アルブミン静脈内投与により免疫グロブリン遺伝子セットの発現が「レスキュー」されることが示された。我々の肝硬変および敗血症性ショックの患者で観察された遺伝子セットのエンリッチメントパターンは、他の研究者が肝硬変および敗血症性ショックでない患者で観察したパターンと類似しており、この結果は、原疾患とは無関係に、敗血症性ショック患者にも拡大しうることが示唆された。
【0074】
【表3-1】

【表3-2】
【0075】
実施例3は、実施例4および5とともに3つの研究で構成され、発見コホート1および2で取得した所見を確認するように設計された。
【0076】
実施例3.末梢血単核球(PBMC)のシングルセルRNAシークエンシング(ScRNA Seq)
【0077】
実施例3の研究は、B細胞および単球コンパートメントにおける細胞状態柔軟性に対するアルブミンの初期効果を探索するために実施された。PREDICT研究の急性非代償性肝硬変の発見後コホート1に含まれる9人の追加患者の新鮮なPBMCを、ヒトアルブミンまたはビヒクルにエクスビボで曝露し、曝露2時間後にPBMC ScRNA-seqを実施した。2つの実験条件(アルブミンまたはビヒクル)をあわせて1,834個のB細胞を解析したところ、本発明者らは、ナイーブ細胞(抗原に曝露されていない)、メモリー細胞、および形質細胞の3つの主要なB細胞集団を特定した(図6A)。ナイーブコンパートメントにおいて、本発明者らは転写的に区別される4つの亜集団を特定し、その中で2つの移行期(T1およびT2)細胞状態を特定した(図6A)。
【0078】
ヒトアルブミンへの曝露後、本発明者らは、移行期Bサブタイプ(T1およびT2)の存在比の有意な増加を伴うナイーブコンパートメントにおける転写プロファイルに特異的な変化を観察した(p値<0.05)(図6Bおよび6C)。移行期細胞の増加はナイーブの減少に基づいている(図6B参照)。免疫応答の制御、免疫エフェクタープロセスの制御、およびファゴサイトーシスに関連するジーンオントロジー遺伝子セットが、移行期B細胞のマーカーとなる遺伝子の中で有意にエンリッチメントされており(図6D)、移行期B細胞の機能との一致がわかった。
【0079】
ミエロイド細胞が産生するシグナルがB細胞活性化に関与している可能性がある。そこで、本発明者らは、2つの実験条件下の患者PBMCで得られたscRNA-seqデータをあわせた20,396個のミエロイド細胞を解析した。5つのクラスターが単球に関連し、古典的単球、非古典的単球、炎症性中間体単球、中間活性化単球、調節性中間炎症性単球を含んでいた(図6E)。ヒトアルブミンに曝露している間、本発明者らは、非古典的単球および調節中間体単球の存在比の有意な増加(p値<0.05)、および活性化中間体単球の存在比の有意な減少(p値<0.05)を観察した(図6Fおよび6G)。これらの所見を総合すると、PBMCへのヒトアルブミンのインビボ暴露は、移行期B細胞と単球、特に制御性中間単球において転写変化が起こることが示された。際立ったことに、B細胞関連遺伝子セットは制御性中間単球の遺伝子マーカーの中で有意にエンリッチメントされており(図6H)、その逆も同様であった(図6D)。このことは、アルブミンによって誘導される移行期B細胞の存在比の増加は、少なくとも部分的には制御性中間単球への影響により媒介されうると示唆される。
【0080】
これらの所見を総合すると以下が示された。(1)ヒトアルブミンのエクスビボにおける主要な効果は、インキュベーション期間開始後2時間以内に、血液細胞コンパートメントの移行期B細胞の遺伝子推定存在比を増加させることであった。(2)アルブミンに対するこの極めて迅速な応答、発見研究1で観察された遺伝子量応答関係、およびこの発見研究後に発見されたアルブミンに対する移行期B細胞および制御性中間単球の遺伝子推定存在比の増加は、アルブミンが制御性単球により媒介されるプロセスを通じて、T非依存的にB細胞機能を活性化することを示唆する。
【0081】
実施例4.B細胞免疫表現型解析
【0082】
本研究は、アルブミンによる1日処置を受けた患者の早期応答を、B細胞(ナイーブ細胞、辺縁細胞、および移行期細胞)表面のIgMおよびIgDシグナルの強度によって、免疫グロブリンタンパク質レベルで調べるために実施された。研究は、登録前10日以内にアルブミンを投与されなかった急性非代償性肝硬変で入院した患者5人の追加グループで実施された。アルブミン処置直前と処置24時間後にPBMC免疫表現型解析のための血液サンプルを採取した。異なるB細胞のうち、IgMとCD38の共発現によって定義される移行期B細胞は、アルブミン処置を受けた患者で有意に増加した(図7Aおよび7B)。ナイーブB細胞(IgD+IgM+と定義)および辺縁B細胞(IgD+CD27+と定義)(図7Aおよび7B)、ならびにメモリーB細胞(IgD-IgM-と定義)の頻度も、処置前後で同様に観察された(図7A)。ナイーブB細胞、辺縁B細胞、移行期B細胞の表面におけるIgDおよびIgMタンパク質の発現が増加する結果が示された(図7C)。アルブミン誘導のIgMレベルのアップレギュレーションは、B細胞表面の総IgMシグナルを計算することにより、よりよく理解される(図7D)。
【0083】
これらのデータが示すのは、免疫グロブリン遺伝子のアルブミン誘導が、細胞表面における免疫グロブリンタンパク質の急速な発現をもたらし、B細胞集団におけるB細胞受容体密度を増加させ、B細胞のT非依存型の活性化を支持することである。
【0084】
実施例5.急性非代償性肝硬変で入院している患者のPBMCでのヒト血清アルブミンおよび組換えヒトアルブミンのエクスビボでの効果
【0085】
ヒト血清アルブミンに対するB細胞応答が、アルブミンによるものか、またはアルブミン溶液(純度95%超)に含まれる他のタンパク質によるものなのかを調べるため、本発明者らは、急性非代償性肝硬変患者5人のPBMCにおけるRNA-seqに与える、ヒト血漿由来(アルブテイン(登録商標))または組換えアルブミンとビヒクルのエクスビボでの効果を比較した。有意な正規化エンリッチメントスコアの絶対値上位40位までの階層的クラスター分析により、両比較において、免疫グロブリン複合体、B細胞媒介免疫、補体活性化、免疫グロブリン受容体結合を含む免疫グロブリンに関連する4つの過剰発現遺伝子セットが特定された(図8A)。免疫グロブリン複合体遺伝子に注目すると、ヒト血清アルブミンまたは組換えアルブミンで処理した細胞に関する2つの比較において、リーディングエッジ遺伝子がオーバーラップしていることを本発明者らは見出した(図8B)。
【0086】
アルブミンはおそらくヒト血清と組換えアルブミン溶液の両方に共通する唯一の分子であったことから、これらのデータは、本発明におけるB細胞応答がアルブミン分子に関係しており、他の混入タンパク質には関係していないことを支持した。
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【国際調査報告】