(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-13
(54)【発明の名称】免疫製剤、免疫製剤を含む組成物及びその用途、製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/18 20150101AFI20240306BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240306BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20240306BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20240306BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20240306BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240306BHJP
C12N 5/0784 20100101ALN20240306BHJP
【FI】
A61K35/18
A61P37/04
A61K39/39
A61K39/00 A
A61K35/15
A61P43/00 121
C12N5/0784 ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560044
(86)(22)【出願日】2022-01-27
(85)【翻訳文提出日】2023-11-27
(86)【国際出願番号】 CN2022074173
(87)【国際公開番号】W WO2022206160
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】202110336240.9
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512007144
【氏名又は名称】華中科技大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】黄波
(72)【発明者】
【氏名】唐科
(72)【発明者】
【氏名】馬▲ジン▼薇
(72)【発明者】
【氏名】張華鋒
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BD15
4C085AA03
4C085AA38
4C085BA01
4C085DD86
4C085EE06
4C085FF21
4C085GG01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB36
4C087BB63
4C087MA02
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZC75
(57)【要約】
本開示は、医薬技術分野に該当し、具体的には、免疫製剤、免疫製剤を含む組成物及びその用途、製造方法に関する。本開示による免疫アジュバントは赤血球由来の小胞であり、赤血球由来の小胞は、赤血球内容物と、前記赤血球内容物を外部から取り囲む生体膜構造とから一体化したものであり、これらの相互作用により、赤血球由来の小胞は、身体の内因性物質として、身体に対する毒性や副作用をもたらすことなく、身体免疫システムを活性化し、細胞免疫応答を効果的に強化することができる。生体適合性が高く、原料の由来が安全で、製造手順が簡単であるという利点がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤血球由来の小胞である免疫アジュバントであって、前記小胞は、赤血球内容物と、前記赤血球内容物を外部から取り囲む生体膜構造とを含む、免疫アジュバント。
【請求項2】
前記小胞は、赤血球から放出された細胞外小胞であり、任意的に、前記赤血球は、非誘導の又はアポトーシス誘導された赤血球である、請求項1に記載の免疫アジュバント。
【請求項3】
前記小胞の粒子径は50~500nmであり、好ましくは、前記小胞の粒子径は100~500nmである、請求項1又は2に記載の免疫アジュバント。
【請求項4】
前記免疫アジュバントは、1つ以上の薬学的に許容される担体をさらに含み、任意的に、前記薬学的に許容される担体は、溶媒、可溶化剤、溶解補助剤、乳化剤、矯味剤、矯臭剤、着色剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、滑沢剤、湿潤剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、安定化剤、界面活性剤及び保存剤のうちの1つ又は2つ以上の組み合わせを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の免疫アジュバント。
【請求項5】
前記免疫アジュバントは、錠剤、カプセル剤、注射剤、噴霧剤、顆粒剤、粉末剤、坐剤、丸剤、クリーム剤、ペースト剤、ゲル剤、散剤、経口液剤、吸入剤、懸濁剤又は乾燥懸濁剤であり、好ましくは、前記免疫アジュバントは注射剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の免疫アジュバント。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の免疫アジュバントを含む組成物。
【請求項7】
免疫療法剤をさらに含み、好ましくは、前記免疫療法剤は、抗原、抗原提示細胞、免疫調整剤から選択される少なくとも1つであり、より好ましくは、前記抗原提示細胞は樹状細胞である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
(a)免疫応答の誘導又は抗原提示細胞の活性化のための薬剤の製造、
(b)腫瘍の予防又は治療のための薬剤の製造、
(c)微生物感染症の予防又は治療のための薬剤の製造
のうちの少なくとも1つへの請求項1~5のいずれか1項に記載の免疫アジュバント、又は請求項6~7のいずれか1項に記載の組成物の使用であって、
好ましくは、前記抗原提示細胞は樹状細胞である、前記使用。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の免疫アジュバントの製造方法であって、
培養環境に小胞を分泌する赤血球を培養する培養工程と、
前記培養環境中の小胞を前記免疫アジュバントとして収集する収集工程とを含み、
任意的に、前記培養工程は、アポトーシス誘導された赤血球から培養環境に小胞が分泌されるように、前記赤血球のアポトーシス誘導処理を行うことをさらに含み、
任意的に、前記アポトーシス誘導処理は、前記赤血球に紫外線を照射することを含む、
免疫アジュバントの製造方法。
【請求項10】
前記収集工程は、前記培養環境中の赤血球に対して密度勾配遠心分離を行い、遠心分離された小胞を収集することを含み、好ましくは、前記密度勾配遠心分離の条件は1000~50000gである、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医薬技術分野に該当し、具体的には、免疫製剤、免疫製剤を含む組成物及びその用途、製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまな環境要因の影響により、ヒトの腫瘍疾患の発生率は年々増加しており、また、急性・慢性の微生物感染症も依然として人々の健康を害している。感染症や腫瘍は、身体の免疫監視と密接に関係している。免疫逸脱が発生すると、身体の健康が大きく損なわれる。このため、免疫療法は効果的な生物学的治療法であると認められている。しかし、腫瘍微小環境の免疫抑制や病原微生物の継続的な突然変異、進化の影響により、免疫療法では所望の結果が得られないことがしばしばある。現在の免疫療法分野で解決すべき重要な課題として、身体の免疫応答を効果的に活性化し、抗原に対する応答率を向上させる方法が求められている。
【0003】
獲得免疫応答は、抗原提示細胞による抗原の効果的な提示から始まる。主要組織適合性複合体(major histocompatibility complex、MHC)と抗原の複合体が形成され、そして共刺激分子とサイトカインの共同作用により、特異的なT細胞が活性化されて、抗原に対する特異的なT細胞免疫反応が起こる。抗原の効果的な提示、共刺激分子の活性化、サイトカイン(IL-2、IL-12など)の存在は、T細胞の特異的免疫応答を発生させるための必要条件である。
サイトカインや免疫アジュバントを添加することにより、抗原の提示及び共刺激分子の発現を促進し、さらに獲得免疫応答を活性化することができる。中でも、免疫アジュバントは免疫療法において急速な発展を遂げており、従来のアルミニウムアジュバントや水中油型エマルジョンMF59などに加え、シトシンホスホグアノシンオリゴデキシヌクレオチド(cytosine phosphoguanosine oligodexynucleotide、CpG-ODN)、ポリイノシン酸-ポリシチジル酸(polyinsinic-polycytidylic acid、Poly I:C)、リポ多糖(LPS)などのトール様受容体(TLRs)アゴニストも、良好な免疫活性化効果を有することが分かっている。免疫学の発展は飛躍的に進んでいるが、免疫アジュバントの副作用への懸念から、現在臨床段階で使用されているアジュバントは依然として、従来のアルミニウムアジュバント、水中油型エマルジョンMF59である。アルミニウムアジュバント、水中油型エマルジョンMF59は、身体の体液性免疫を高めることはできるが、身体の細胞性免疫を誘導することは通常困難であり、腫瘍に対する免疫療法効果は理想的ではない。
【0004】
現在、PLGA(poly(lactaldehyde -co-glycolic acid))、リポソーム、PEG-PE(ポリエチレングリコール-セファリン共重合体)などの合成担体も、抗原やアジュバントをパッケージングして腫瘍部位に選択的に放出するために使用されている。しかし、合成ナノマテリアルは外因性物質として生体に対する毒性や副作用を有するものであり、長期的な生物学的毒性はまだ評価できない。また、合成ナノ粒子のほとんどは複雑な生物学的又は化学的複合材料で構成されているため、担体粒子のコストが高く、大規模な臨床普及にはつながらない。
【0005】
中国特許文献CN109718380Aには、赤血球膜から作られた腫瘍抗原提示システムが開示されている。腫瘍抗原提示システムと腫瘍細胞膜を超音波で融合させて押し出すことにより、融合膜としてのナノサイズの膜小胞を形成する。このナノサイズの膜小胞は免疫システムを効果的に活性化することができる。この技術では、生体由来の赤血球膜を腫瘍抗原提示システムとして利用するが、赤血球の破壊及び細胞膜の回収を行う必要があり、さらに、抗腫瘍効果を得るために赤血球膜と腫瘍細胞膜を融合させる必要があるため、製造工程が複雑でコストが高いという問題があった。
【0006】
したがって、免疫活性化効果が良好で、毒性や副作用が少なく、製造及び普及が容易な新しいアジュバントの開発は、免疫アジュバントの分野において早急に解決すべき重要な課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】中国特許文献CN109718380A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の技術には、例えば、良好な生体適合性を有する免疫アジュバントは、免疫活性化効果を発揮するために腫瘍細胞膜などと共同作用することが必要であり、製造手順が複雑で、製造コストが高いという問題があった。このため、本開示は、赤血球由来の小胞である免疫アジュバントを提供する。赤血球由来の小胞は、抗原提示細胞における共刺激因子の発現を効果的に活性化し、さらに身体の抗腫瘍や抗微生物感染などの特異的な免疫反応の形成を促進することができるとともに、原料の入手が容易で、原料の由来が安全であり、生体適合性が高く、製造手順が簡単であるという利点がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、赤血球由来の小胞である免疫アジュバントを提供し、前記小胞は、赤血球内容物と、前記赤血球内容物を外部から取り囲む生体膜構造とを含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、本開示による免疫アジュバントでは、前記小胞は、赤血球から放出された細胞外小胞であり、任意的に、前記赤血球は、非誘導の又はアポトーシス誘導された赤血球である。
【0011】
いくつかの実施形態において、本開示による免疫アジュバントでは、前記小胞の粒子径は50~500nmであり、好ましくは、前記小胞の粒子径は100~500nmである。
【0012】
いくつかの実施形態において、本開示による免疫アジュバントは、1つ以上の薬学的に許容される担体をさらに含み、任意的に、前記薬学的に許容される担体は、溶媒、可溶化剤、溶解補助剤、乳化剤、矯味剤、矯臭剤、着色剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、滑沢剤、湿潤剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、安定化剤、界面活性剤及び保存剤のうちの1つ又は2つ以上の組み合わせを含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、本開示による免疫アジュバントは、錠剤、カプセル剤、注射剤、噴霧剤、顆粒剤、粉末剤、坐剤、丸剤、クリーム剤、ペースト剤、ゲル剤、散剤、経口液剤、吸入剤、懸濁剤又は乾燥懸濁剤(dry suspension agent)であり、好ましくは、前記免疫アジュバントは注射剤である。
【0014】
本開示はさらに、本開示による免疫アジュバントを含む組成物を提供する。
いくつかの実施形態において、本開示による組成物は、免疫療法剤をさらに含み、好ましくは、前記免疫療法剤は、抗原、抗原提示細胞、免疫調整剤から選択される少なくとも1つであり、より好ましくは、前記抗原提示細胞は樹状細胞である。
【0015】
本開示はさらに、
(a)免疫応答の誘導又は抗原提示細胞の活性化のための薬剤の製造、
(b)腫瘍の予防又は治療のための薬剤の製造、
(c)微生物感染症の予防又は治療のための薬剤の製造
のうちの少なくとも1つへの本開示による免疫アジュバント又は本開示による組成物の使用を提供し、好ましくは、前記抗原提示細胞は樹状細胞である。
【0016】
本開示はさらに、
培養環境に小胞を分泌する赤血球を培養する培養工程と、
前記培養環境中の小胞を前記免疫アジュバントとして収集する収集工程とを含む、
本開示による免疫アジュバントの製造方法を提供する。
任意的に、前記培養工程は、アポトーシス誘導された赤血球から培養環境に小胞が分泌されるように、前記赤血球のアポトーシス誘導処理を行うことをさらに含み、
任意的に、前記アポトーシス誘導処理は、前記赤血球に紫外線を照射することを含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、本開示による方法の前記収集工程は、前記培養環境中の赤血球に対して密度勾配遠心分離を行い、遠心分離された小胞を収集することを含み、好ましくは、前記密度勾配遠心分離の条件は1000~50000gである。
【発明の効果】
【0018】
いくつかの実施形態において、本開示による免疫アジュバントは赤血球由来の小胞であり、抗原による活性化単独又は他の免疫アジュバントと比較して、赤血球由来の小胞は身体の免疫応答を促進する点でより優れた効果を示している。また、赤血球由来の小胞は安全性が高く、供給源が豊富で、調製・入手しやすいという利点もある。
【0019】
いくつかの実施形態において、赤血球由来の小胞は、身体の内因性物質であり、身体自体に特定の生分解経路があるため、他のアジュバントと比較して生体適合性が高く、自己免疫疾患の発生を効果的に回避できる。
【0020】
いくつかの実施形態において、小胞の原料となる赤血球は血液由来であるため、大規模な細胞培養を必要とせずに身体の血液から直接入手でき、コストが低く、操作も簡単である。
【0021】
いくつかの実施形態において、赤血球由来の小胞は、抗原との結合性により限定されることなく、抗原提示細胞、特に樹状細胞を効果的に活性化することができるため、ほとんどの腫瘍や感染症を標的とすることができ、良好な汎用性を有する。本開示の免疫アジュバントによれば、疾患治療のタイプ及び範囲を拡大し、コスト及びリスクを低減させ、操作をより簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、赤血球由来の小胞の粒子径及び形態を示すものである。
【
図2】
図2は、赤血球由来の小胞の収率を示すものである。
【
図3】
図3は、樹状細胞における共刺激分子の発現に対する赤血球由来の小胞の影響を示すものである。
【
図4】
図4は、樹状細胞におけるサイトカインの発現に対する赤血球由来の小胞の影響を示すものである。
【
図5】
図5は、樹状細胞の活性化に対する赤血球由来の小胞及び腫瘍溶解物の影響を示すものである。
【
図6】
図6は、インビボでの赤血球由来の小胞による生体内の樹状細胞の活性化状況を示すものである。
【
図7】
図7は、生体内の樹状細胞の活性化に関する赤血球由来の小胞と他のアジュバントとの比較を示すものである。
【
図8】
図8は、生体内の特異的T細胞の活性化に関する赤血球由来の小胞と他のアジュバントとの比較を示すものである。
【
図9】
図9は、免疫アジュバントとしての赤血球由来の小胞による腫瘍予防効果を示すものである。
【
図10】
図10は、免疫アジュバントとしての赤血球由来の小胞と樹状細胞との併用による腫瘍治療効果を示すものである。
【
図11】
図11は、免疫アジュバントとしての赤血球由来の小胞によるリステリア菌予防効果を示すものである。
【
図12】
図12は、リステリア菌感染後のマウスの生存期間に対する免疫アジュバントとしての赤血球由来の小胞と樹状細胞との併用による影響を示すものである。
【
図13】
図13は、赤血球由来の小胞の接種によるマウスの体重に対する影響を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[定義]
請求項及び/又は明細書において、用語「含む」とともに使用される場合、言葉「一(a)」又は「一(an)」とは、「1つの」を意味してもよく、「1つ以上の」、「少なくとも1つの」及び「1つ又は複数の」を意味してもよい。
【0024】
請求項及び/又は明細書において使用される言葉「含む」、「有する」、「備える」又は「含有する」とは、包括的又はオープンエンドであって、追加の、未記載の要素又は方法工程を除外するものではない。
【0025】
出願書類全体において、用語「約」とは、その値がその測定用の装置又は方法の誤差による標準偏差を含むことを意味する。
【0026】
用語「又は」の定義について、代替的要素のみと、「及び/又は」とを意味することは本明細書の開示により裏付けられているが、代替的要素のみを明示した場合又は代替的要素同士が相互に排他的である場合を除き、請求項及び明細書における用語「又は」とは「及び/又は」を意味する。
【0027】
本開示における用語「小胞」とは、細胞内又は細胞外に存在し得る比較的小さな袋状の膜構造を意味する。いくつかの実施形態において、本開示の小胞は、細胞から細胞外環境に放出された細胞外小胞である。いくつかの実施形態において、本開示の小胞は、赤血球由来の小胞(Erythrocyte Microparticles、EMP)である。本開示において、「赤血球由来の小胞」、「赤血球由来の微粒子」、「赤血球小胞」、「赤血球微粒子」及び「EMP」は、同じ意味で使用される。
【0028】
本開示における用語「細胞外小胞」(Extracellular vesicles、EVs)とは、細胞から分泌されるリン脂質二重層構造を有するナノ小胞のことである。いくつかの実施形態において、本開示の赤血球由来の小胞は、赤血球内容物と、赤血球内容物を外部から取り囲む生体膜構造とを有する、赤血球由来の細胞外小胞である。いくつかの実施形態において、赤血球内容物は、赤血球から放出される核酸、タンパク質、脂質などの生物学的に活性な物質を含む。いくつかの実施形態において、赤血球内容物を外部から取り囲む生体膜構造は、リン脂質二重層構造であり、リン脂質二重層により、閉じた内腔を有する袋状の小胞が形成され、赤血球内容物は、リン脂質二重層により形成された閉じた内腔内に存在する。
【0029】
本開示における用語「微生物」とは、ヒト又は動物の体に侵入し、感染症乃至伝染病を引き起こすことができる微生物を指し、病原体とも呼ばれる。いくつかの実施形態において、本開示における微生物としては、プリオン、寄生虫(原虫、蠕虫、媒介害虫)、真菌、細菌、スピロヘータ、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア、ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
本開示における用語「抗原提示細胞」(antigen-presenting cell、APC)とは、抗原を取り込んで提示することができ、処理された抗原をT細胞に提示できる免疫細胞の一種を指す。いくつかの実施形態において、抗原提示細胞としては、単球・食細胞、樹状細胞、B細胞、ランゲルハンス細胞、腫瘍細胞のウイルス感染による標的細胞などが挙げられる。いくつかの好ましい実施形態において、抗原提示細胞は樹状細胞である。
【0031】
本開示における用語「治療」とは、疾患の発症後に、本開示の免疫アジュバント又はこれを含有する医薬組成物(以下、本開示の「医薬組成物」という。)を被験者に接触させる(例えば、投与する)ことにより、接触させない場合に比べて、当該疾患の症状の部分的又は完全な軽減、改善、緩和、抑制、発症遅延、重篤度低減、及び/又は、特定の疾患、障害及び/又は疾患の1つ以上の症状若しくは特徴の発生率低下をもたらすことを意味するが、必ずしも疾患の症状を完全に抑制することを意味するものではない。疾患の発症とは、身体に疾患の症状が現れることを意味する。
【0032】
本開示における用語「予防」とは、疾患の発症前に、本発明の医薬組成物等を被験者に接触させる(例えば、投与する)ことにより、接触させない場合に比べて、疾患の発症後の症状を軽減することを意味し、必ずしも発症を完全に抑制することを意味するものではない。
【0033】
本開示における用語「被験者」は哺乳動物を含む。哺乳動物としては、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、個体又は被験者はヒトである。
【0034】
本開示における用語「治療上有効量」とは、必要な用量及び期間で、所望の治療結果を達成するのに有効な量を意味する。免疫アジュバント又は医薬組成物の治療上有効量は、疾患状態、個体の年齢、性別及び体重や、個体において所望の反応を導く免疫アジュバント又は医薬組成物の能力などの要因によって変動し得る。
【0035】
本開示の用語「腫瘍」及び「癌」は、本明細書において同じ意味で使用され、固形癌及び血液癌の両方を包含する。
【0036】
免疫アジュバント
本開示による免疫アジュバントは赤血球由来の小胞であり、前記小胞は、赤血球内容物と、前記赤血球内容物を外部から取り囲む生体膜構造とを含む。
【0037】
免疫アジュバントは、免疫反応の発生を促進できる免疫強化剤である。いくつかの実施形態において、免疫アジュバントは、獲得免疫反応を特異的に強化する。広義では、抗原、抗原提示細胞、T細胞及びB細胞以外の免疫応答促進物質はいずれも、免疫アジュバントと呼ぶことができる。
【0038】
免疫アジュバントは主に、抗原提示細胞による抗原の取り込みと提示を促進するために抗原を修飾するもの(関連する合成担体、抗原の修飾など)と、抗原提示細胞(例えば、樹状細胞)を活性化する外因性活性化剤(例えば、CpG-ODN、Poly I:C、LPSなど)との2つを代表とする。身体が如何にして内因性の調整により免疫監視機能を発揮するのか、また内因性物質が獲得免疫応答のプロセスを効果的に活性化できるかについては不明であった。
【0039】
本開示の研究により、赤血球由来の小胞は、樹状細胞に飲み込まれると、樹状細胞を活性化して共刺激分子の発現を誘導することにより、特異的なT細胞免疫応答を誘導するとともに、サイトカインの放出を促進することができ、良好な抗腫瘍・抗感染の免疫療法効果を発揮できることが分かった。赤血球由来の小胞は、赤血球内容物と、前記赤血球内容物を外部から取り囲む生体膜構造とから一体化したものであり、これらの相互作用により、赤血球由来の小胞は、身体の内因性物質として、身体に対する毒性や副作用をもたらすことなく、身体免疫システムを活性化し、細胞免疫応答を効果的に強化することができるため、他の免疫アジュバントに存在する免疫毒性の問題を効果的に解決できる。また、身体内の赤血球の数が膨大で、その入手が容易であり、簡単な誘導だけで十分な量の赤血球由来小胞が得られるため、製造手順が複雑で、コストが高いという現在の免疫アジュバントにおける問題を効果的に解決することができる。
【0040】
いくつかの実施形態において、赤血球由来の小胞は、生理学的状態で非誘導の赤血球からの放出により生じる。いくつかの実施形態において、赤血球由来の小胞は、アポトーシス誘導された赤血球からの放出により生じる。非誘導又はアポトーシス誘導された赤血球から放出された細胞外小胞はいずれも、抗原提示細胞、特に樹状細胞を効果的に活性化し、共刺激分子の発現及びサイトカインの放出を促進することができ、さらに身体の細胞免疫応答を効果的に強化し、抗腫瘍・抗微生物感染等の免疫療法効果を発揮することができる。さらに、赤血球をアポトーシス誘導することによって、赤血球から細胞外に放出される小胞の数を増加させることができる。
【0041】
いくつかの実施形態において、赤血球由来の小胞の粒子径は50~500nmである。いくつかの好ましい実施形態において、赤血球由来の小胞の粒子径は100~500nmである。赤血球由来の小胞の粒子径は、例えば、50nm、80nm、100nm、150nm、180nm 、200nm、250nm、280nm、300nm、350nm、400nm、450nmなどである。いくつかのより好ましい実施形態において、赤血球由来の小胞の粒子径は180nm程度である。
【0042】
さらに、赤血球由来の小胞を1つ以上の薬学的に許容される担体と混合して、臨床で使用可能な任意の剤形とすることができる。本開示において、用語「薬学的に許容される担体」とは、ヒト又は動物の細胞、組織若しくは器官と適合し、毒性、刺激、アレルギー反応などの毒性・副作用を誘発しない添加物成分を指す。薬学的に許容される担体は、例えば、当分野で熟知されているものであり、溶媒、可溶化剤、溶解補助剤、乳化剤、矯味剤、矯臭剤、着色剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、滑沢剤、湿潤剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、安定化剤、界面活性剤及び保存剤のうちの少なくとも1つを含む。
【0043】
いくつかの実施形態において、免疫アジュバントの投与用剤形は、液剤、固形剤又は半固形剤であり得る。いくつかの実施形態において、液剤としては、溶液剤(真の溶液及びコロイド溶液を含む)、エマルジョン(O/W型、W/O型及びダブルエマルジョンを含む)、懸濁剤、注射剤(注射液、用時溶解注射剤及び輸液剤を含む)、点眼薬、点鼻薬、ローション剤又は塗り薬等が挙げられる。いくつかの実施形態において、固形剤としては、錠剤(通常の錠剤、腸溶錠、トローチ、分散錠、チュアブル錠、発泡錠、口腔内崩壊錠を含む)、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル、腸溶カプセルを含む)、顆粒剤、散剤、微小丸剤、滴丸剤、坐剤、フィルム剤、貼付剤、エアゾール(粉末)剤、噴霧剤等が挙げられる。いくつかの実施形態において、半固形剤としては、軟膏剤、ゲル剤、ペースト剤等が挙げられる。いくつかの好ましい実施形態において、免疫アジュバントは注射剤として製造される。
【0044】
免疫アジュバントを注射剤とするために、水、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール又はこれらの混合物を溶媒として使用することができ、当分野で通常使用される可溶化剤、溶解補助剤、pH調整剤、浸透圧調整剤を適宜添加することができる。可溶化剤又は溶解補助剤としては、ポロクサマー、レシチン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンなどが挙げられる。pH調整剤としては、リン酸塩、酢酸塩、塩酸、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。浸透圧調整剤としては、塩化ナトリウム、マンニトール、ブドウ糖、リン酸塩、酢酸塩などが挙げられる。注射用の凍結乾燥粉末を調製する場合、マンニトール、ブドウ糖などを賦形剤として添加することができる。
【0045】
免疫アジュバントをカプセル剤とするために、治療上有効量の赤血球由来の小胞と、希釈剤、流動促進剤とを混合し、混合物をハードカプセル又はソフトカプセルに直接入れることができる。治療上有効量の赤血球由来の小胞を希釈剤、結合剤、崩壊剤とともに顆粒又は微小丸剤としてから、ハードカプセル又はソフトカプセルに入れることもできる。赤血球由来の小胞の製造に用いられる種々の希釈剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、流動促進剤は、赤血球由来の小胞のカプセル剤の製造にも使用できる。
【0046】
組成物
本開示による組成物は上記免疫アジュバントを含むものであり、樹状リンパ球を効果的に活性化し、共刺激因子やサイトカインの放出を促進し、獲得性的な細胞性免疫応答を強化することができ、安全かつ効果的である。
【0047】
免疫療法効果をより一層高めるために、組成物は免疫療法剤をさらに含む。いくつかの実施形態において、免疫療法剤は、抗原、抗原提示細胞、免疫調整剤、又は、免疫応答を促進・媒介できるその他の薬剤である。いくつかの実施形態において、免疫療法剤は免疫調整剤を含んでもよい。「免疫調整剤」としては、免疫チェックポイント調整剤が挙げられる。例えば、免疫チェックポイントタンパク質の受容体及びそのリガンドは、T細胞による細胞傷害性の抑制につながるものであり、通常、腫瘍又は腫瘍微小環境内のアネルギー性T細胞に発現し、腫瘍が免疫攻撃から逃げることを許容する。免疫チェックポイントタンパク質の受容体及びそのリガンドの活性阻害剤は、腫瘍に対する細胞傷害性T細胞の攻撃が許容されるように、免疫抑制性の腫瘍環境を打破する。免疫チェックポイントタンパク質の例としては、PD-1、PD-L1、PDL2、CTLA4、LAG3、TIM3、TIGIT及びCD103が挙げられるが、これらに限定されない。このようなタンパク質の活性の調整(抑制も含む。)は、免疫チェックポイント調整剤により達成できる。その例としては、例えば、チェックポイントタンパク質を標的とする抗体、アプタマー、小分子及びチェックポイント受容体タンパク質の可溶型などが挙げられる。また、「免疫調整剤」としては、インターロイキン(IL)、インターフェロン(IFN)、腫瘍壊死因子(TNF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)などのサイトカインも挙げられる。これらも、腫瘍患者又は病原体感染者の身体の免疫応答や免疫調整を強化する効果を奏し得る。
【0048】
いくつかの実施形態において、免疫アジュバントを抗原と組み合わせて組成物とする。さらに、抗原は腫瘍抗原又は微生物抗原である。抗原と免疫アジュバントを組み合わせることにより、腫瘍の予防、治療又は抗感染の良好な効果を得ることができる。
【0049】
いくつかの実施形態において、免疫アジュバントは抗原との結合性により限定されず、免疫アジュバントと抗原を化学的に結合させる必要がなく、両者を単純に物理的に混合するだけで、良好な免疫療法効果を達成することができる。
【0050】
いくつかの実施形態において、免疫アジュバントを抗原提示細胞と組み合わせて組成物とする。いくつかの好ましい実施形態において、免疫アジュバントを樹状細胞と組み合わせて組成物とする。免疫アジュバントと樹状細胞を組み合わせることによって、抗原を使用することなく、抗腫瘍又は抗感染の良好な効果を得ることができる。
【0051】
免疫アジュバント又は組成物の用途
本開示の免疫アジュバント又は組成物は、下記(a)~(c)のうちの少なくとも1つの用途に使用できる。
(a)免疫応答の誘導又は抗原提示細胞の活性化のための薬剤の製造。
(b)腫瘍の予防又は治療のための薬剤の製造。
(c)微生物感染症の予防又は治療のための薬剤の製造。
【0052】
免疫アジュバント又は組成物を用いて製造された、免疫応答の誘導又は抗原提示細胞の活性化のための薬剤は、身体の獲得免疫反応を効果的に強化し、免疫逃避を減少させ、良好な抗腫瘍効果又は抗感染効果を発揮することができる。
【0053】
いくつかの好ましい実施形態において、抗原提示細胞は樹状細胞である。
【0054】
いくつかの好ましい実施形態において、免疫アジュバントは、抗原提示細胞を活性化する薬剤における唯一の活性成分である。赤血球由来の小胞は、抗原との結合性により限定されることなく、樹状細胞を効果的に活性化することができるため、ほとんどの腫瘍や感染症を標的とすることができ、良好な汎用性を有する。
【0055】
免疫アジュバントの製造方法
本開示は、
培養環境に小胞を分泌する赤血球を培養する培養工程と、
上記培養環境中の小胞を免疫アジュバントとして収集する収集工程と
を含む免疫アジュバントの製造方法を提供する。
【0056】
いくつかの実施形態において、培養工程は、赤血球を培地中に置き、その成長及び代謝に適した自然環境で培養する。自然に培養された赤血球は培地中に小胞を分泌する。いくつかの実施形態において、培養工程は、アポトーシス誘導された赤血球から培養環境に小胞が分泌されるように、前記赤血球のアポトーシス誘導処理を行うことをさらに含む。赤血球のアポトーシス誘導処理は、例えば、赤血球に紫外線を照射することであってもよく、又は、当分野で細胞のアポトーシス誘導に用いられるその他の処理方法であってもよい。
【0057】
いくつかの実施形態において、収集工程は、密度勾配遠心分離法により赤血球の培養液を遠心分離し、遠心分離後の小胞を免疫アジュバントとして収集する。好ましくは、密度勾配遠心分離の条件は1000~50000gである。
【0058】
本開示による免疫アジュバントの製造方法は、工程が単純で操作が容易であり、抽出された小胞は粒子径が均一で形態も良好であり、臨床応用の可能性を有する。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明の実施形態を詳細に説明するが、当業者には理解されるように、以下の実施例は本発明を説明するためのものにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。実施例において詳細な条件を明示していない場合は、一般の条件又はメーカーの推奨条件で行う。使用される試薬又は装置は、メーカーを明示していなければ、市販から入手できる一般の製品である。
【0060】
実施例で使用される種々の細胞、薬剤、実験動物、機器・装置及び一部の溶液の調製を以下に記載する。
抗体:マウスOVA257-264H-2kb 四量体抗体。広州好芝生物科技有限公司から購入したものであり、製品番号はHG08T14028である。
細胞:H22マウス肝がん細胞(H22細胞)、Lewisマウス肺がん細胞、B16マウスメラノーマ細胞。これらは、米国ATCC社又は中国典型培養物寄託センターCCTCCから購入できる。
試験動物:BALB/cマウス、C57/blマウス。湖北省疾病予防管理センター傘下の湖北省医学実験動物研究センターから購入したものである。
樹状細胞は、マウス骨髄細胞を単離し、IL-4及びGM-CSFで5日間誘導することによって得た。
機器・装置:透過型電子顕微鏡HITACHI HT7700、ナノ粒子追跡装置Malvern Nanosight NS300、フローサイトメーターBD acurri C6。
以下の実施例におけるオボアルブミンポリペプチド(OVA257-264)のアミノ酸配列は、配列番号1で表される配列である。
【0061】
実施例1:マウス赤血球の紫外線誘導アポトーシスにより得られる細胞小胞の粒子径測定及び電子顕微鏡による観察
1.実験材料及び試薬
野生型C57/blマウス、眼球血赤血球
【0062】
2.実験手順
(1)C57/blマウスの眼球血液を採取し、2000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去した。Ca2+、Mg2+を含まないハンクス液で赤血球を3回洗浄し、最初の2回は2000rpmで5分間遠心分離し、最終回は2000rpmで10分間遠心分離し、上清を除去した。血球計により赤血球の濃度を計算し、下層に堆積した赤血球を適切な濃度にした。3×108個のマウス赤血球を取り出した。
上記細胞をそれぞれ10mlの1640細胞培養液に移した後、1時間紫外線照射し、20時間インキュベートした。
(2)得られたマウス赤血球由来の微粒子培養液をそれぞれ段階的に遠心分離して上清を得た。すなわち、マウス赤血球由来の微粒子培養液を2000rpmの回転数でそれぞれ10分間遠心分離することにより、細胞及び夾雑物を除去した。
得られた上記上清を14000gの遠心力で1.5分間遠心分離し、遠心分離後の上清をさらに14000gの遠心力で1時間遠心分離した。得られた沈殿物をそれぞれ1mlのPBSで再懸濁することで、マウス赤血球由来の微粒子を得た。さらに、微粒子を、2回PBSでの再懸濁・洗浄して次の実験に備えた。
(3)得られたマウス赤血球由来の微粒子を洗浄後、ナノ粒子追跡装置による粒子径測定、又は、電子顕微鏡用試料の前処理を行った後、走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡による観察を行い(実験手順は通常の電子顕微鏡観察手順と同じ)、電子顕微鏡で試料を観察し、適切な視野を選択して写真を撮影し、記録を行った。
【0063】
3.実験結果
図1の結果は、赤血球由来の小胞の粒子径及び形態を示し、
図1a及び
図1bは、ナノ粒子追跡装置により測定した赤血球小胞の粒子径である(
図1aは、各粒子径の赤血球小胞の粒子濃度を示し、
図1bは各粒子径の赤血球小胞の粒子密度を示す)。
図1a及び
図1dから、赤血球由来の小胞は粒子径分布が均一であり、180nm付近に集中していることが分かった。
図1c及び
図1dはそれぞれ、走査型電子顕微鏡と透過型電子顕微鏡により観察した赤血球由来の小胞の形態である。
図1c及び
図1dから、赤血球小胞の形態は均一であり、粒子径分布はナノ粒子追跡装置の測定結果に一致することが分かった。
【0064】
実施例2:マウス赤血球のアポトーシス誘導後に放出された微粒子の収率の測定
1.実験材料及び試薬
マウス赤血球、ナノ粒子追跡装置。
【0065】
2.実験手順
(1)実施例1の方法によりマウス血液を採取し、赤血球を単離して、赤血球濃度を計算した。1×108個のマウス赤血球を取り出した。
(2)実施例1の方法により、マウス赤血球由来の微粒子を調製して抽出した。
(3)上記により得られた1mlのマウス赤血球由来の微粒子を14000gの遠心力で1時間遠心分離し、上清を除去した。得られた沈殿物を500μLのPBSで洗浄して再懸濁し、2回繰り返した。
(4)上記により得られた500μLのマウス赤血球由来の微粒子溶液をナノ粒子追跡装置により濃度を測定した。
【0066】
3.実験結果
図2の結果は、赤血球由来の小胞の収率を示すものである。
図2aは赤血球小胞の収率結果であり、
図2bは赤血球による小胞産生の概略図である。赤血球小胞濃度の計算を多数回行った結果、アポトーシス誘導された赤血球では、平均で1個あたり約7個の赤血球微粒子を産生できることが分かった。
【0067】
実施例3:赤血球微粒子による樹状細胞の共刺激分子への影響
1.実験材料及び試薬
6~8週齢のC57/bl雌マウス、マウス組換えインターロイキン4(IL-4)、マウス組換え顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)。
【0068】
2.実験手順
(1)C57/bl雌マウスの腓骨・脛骨の骨髄組織を採取し、破砕してピペッティングした後、赤血球溶解液で赤血球を除去し、完全培地(ウシ胎児血清を10%含むRPMI1640培地)で2回洗浄して、低付着培養プレート(1×10
6/ウェル/3ml)に接種し、マウスIL-4(20ng/ml)及びGM-CSF(20ng/ml)を添加した。培地を1日おきに交換し、6日目まで培養した結果、成熟した樹状細胞を得た。
(2)上記手順と同様にして赤血球微粒子を得、成熟した樹状細胞と1:100の比率で共培養した(細胞:微粒子=1:100)。48時間後、樹状細胞を収集し、フローサイトメトリーにより樹状細胞の共刺激分子の発現を分析した結果、CD80、CD86、CCR7、MHCIIがあった。結果を
図3に示す。
図3aはフローサイトメトリーにより分析したCD80、CD86、CCR7、MHCIIのフローサイトメトリー図であり、
図3bは
図3aにおける共刺激分子の発現の定量結果である。
【0069】
3.実験結果
図3から、赤血球微粒子は樹状細胞のさまざまな活性化分子の発現に対する有意な促進効果を有することが分かった。
【0070】
実施例4:赤血球微粒子による樹状細胞のサイトカイン発現への影響
1.実験材料及び試薬
6~8週齢のC57/bl雌マウス、マウス組換えインターロイキン4(IL-4)、マウス組換え顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、各種サイトカインのPCRプライマー、各種サイトカインのELISA分析キット(市販)。
【0071】
2.実験手順
(1)C57/bl雌マウスの腓骨・脛骨の骨髄組織を採取し、破砕してピペッティングした後、赤血球溶解液で赤血球を除去し、完全培地(ウシ胎児血清を10%含むRPMI1640培地)で2回洗浄して、低付着培養プレート(1×10
6/ウェル/3ml)に接種し、マウスIL-4(20 ng/ml)及びGM-CSF(20 ng/ml)を添加した。培地を1日おきに交換し、6日目まで培養した結果、成熟した樹状細胞を得た。
(2)上記手順と同様にして赤血球微粒子を得、成熟した樹状細胞と1:100の比率で共培養した(細胞:微粒子=1:100)。12時間後、樹状細胞を収集し、細胞のRNAを抽出して、IFN-α、IFN-β、IL-12の発現に対するリアルタイム蛍光定量PCR検出を行った。残りのウェルを72時間インキュベートし、培養上清を収集して、各種サイトカインのタンパク質定量検出(ELISA分析)を行った。結果を
図4に示す。
図4aはIFN-α、IFN-β、IL-12のmRNA発現の検出結果を示すものであり、
図4bはIFN-α、IFN-β、IL-12のタンパク質発現の検出結果を示すものである。
【0072】
3.実験結果
図4から、赤血球微粒子は樹状細胞の各種サイトカインの発現に対する有意な促進効果を有することが分かった。
【0073】
実施例5:赤血球由来微粒子及び腫瘍溶解物による樹状細胞への影響
実施例4と同様にして、樹状細胞にB16腫瘍細胞溶解物(細胞10
6個あたり2mlの溶解物を得、1ウェルあたり50μL添加)、赤血球微粒子又はこれらの混合物を添加した。2時間後、樹状細胞を収集し、細胞のRNAを抽出して、CD80、CD86、MHCII、CCR7、IFN-α、IFN-β、IL-12の発現に対するリアルタイム定量PCR検出を行った。結果を
図5に示す。結果によれば、腫瘍細胞溶解物は上記遺伝子の発現をわずかに増加させることができるが、赤血球小胞の存在下ではこれら樹状細胞の活性化マーカー遺伝子の発現は大幅に増加した。
【0074】
実施例6:生体内の樹状細胞に対する赤血球小胞の影響を観察するインビボ実験
1.実験材料及び試薬
マウス赤血球、C57/blマウス、OVA-B16細胞、フローサイトメトリーによる関連抗体。
【0075】
2.実験手順
(1)実施例1の方法によりマウス赤血球由来の微粒子を調製し、単離して抽出した。
(2)オボアルブミン発現マウスメラノーマ細胞(OVA-B16細胞)の凍結融解処理を3回繰り返して溶解物(細胞107個あたり溶解物1ml)を収集した後、C57/blマウス足蹠に20μl注射し、これを対照群とした。実験群は、腫瘍細胞溶解物と赤血球小胞との混合物を注射した。
(3)ステップ(2)の足蹠注射から24時間後、マウスを殺して膝窩リンパ節を摘出し、凍結切片を作製して、CD11c細胞の染色を行った。
(4)(2)と同様の処理をしてから5日後、リンパ節摘出後、リンパ節細胞を採取してフローサイトメトリー染色を行った。
【0076】
3.実験結果
図6は、インビボでの赤血球由来の小胞による生体内の樹状細胞の活性化状況を示すものである。
図6aは、赤血球小胞の存在下で、OVA-B16細胞の溶解物が免疫走化性応答をより良く起こし、より多くのCD11c陽性樹状細胞がリンパ節に集積したことを示す凍結切片の蛍光染色図である。
さらに、フローサイトメトリー分析後の統計によれば、CD11c陽性、CCR7陽性、CD86陽性、IL-12陽性、及びOVA
257-264H-2Kb陽性(SIINFEKL-H-2Kb
+)の樹状細胞はいずれも、赤血球小胞群で有意に増加し(
図6b)、明確な統計的有意性があった。
【0077】
実施例7:インビボでの樹状細胞の活性化に関する赤血球由来の小胞と他のアジュバントとの比較
1.実験材料及び試薬
C57/blマウス、MF59、アルミニウムアジュバント。
【0078】
2.実験手順
(1)実施例1の方法によりマウス赤血球由来の微粒子を調製し、単離して抽出した。
(2)実施例6と同様にして、各群によってそれぞれ、OVA-B16細胞の溶解物と、赤血球小胞、MF59又はアルミニウムアジュバントとを混合して、C57/blマウス足蹠に注射した。
(3)ステップ(2)の足蹠注射から24時間後、マウスを殺して膝窩リンパ節を摘出し、CD11cに対するフローサイトメトリー染色により、樹状細胞の数を分析した。
(4)ステップ(2)の足蹠注射から5日後、マウスを殺して膝窩リンパ節を摘出し、フローサイトメトリー染色により、CD11c陽性、CCR7陽性、CD86陽性、IL-12陽性、及びOVA257-264H-2Kb陽性細胞の比率を含めて樹状細胞の成熟状況を分析した。
【0079】
3.実験結果
図7の結果によれば、臨床で一般的に使用されるアジュバントMF59及びアルミニウムと比較して、赤血球小胞は、樹状細胞がリンパ節に集積・流入するように、免疫システムをより良く活性化することができる。
図7の結果からさらに、赤血球小胞が免疫アジュバントとして、樹状細胞にCD86、CCR7、MHCII共刺激分子をより良く発現させるとともに、IL-12の分泌を促進することができ、抗原提示中に膜表面のOVA
257-264H-2Kb複合体の発現も有意に増加したことが分かった。
【0080】
実施例8:インビボでの特異的T細胞の活性化に関する赤血球由来の小胞と他のアジュバントとの比較
1.実験材料及び試薬
C57/blマウス、マウスOVA257-264H-2kb四量体抗体。
【0081】
2.実験手順
(1)実施例1の方法によりマウス赤血球由来の微粒子を調製し、単離して抽出した。
(2)実施例6と同様にして、各群によってそれぞれ、OVA-B16細胞の溶解物と、赤血球小胞、MF59又はアルミニウムアジュバントとを混合して、C57/blマウス足蹠に注射した。
(3)ステップ(2)の足蹠注射から5日後、マウスを殺して膝窩リンパ節を摘出し、フローサイトメトリー染色により、特異的T細胞の数を分析した。
【0082】
3.実験結果
結果を
図8に示す。
図8aは、赤血球由来の小胞(EMP)、MF59、アルミニウム(Alum)で処理したマウスのCD8a陽性細胞の検出結果を示すものである。
図8bは、EMP、MF59、Alumで処理したマウスのOVA
257-264H-2Kb陽性細胞の検出結果を示すものである。
図8から、赤血球由来の小胞は、アジュバントとして、OVA
257-264H-2kb特異的T細胞の産生を効果的に誘導することができ、MF-59及びアルミニウムアジュバントよりも有意に優れた効果を有することが分かった。
【0083】
実施例9:マウス腫瘍に対する免疫アジュバントとしての赤血球小胞による予防及び治療の効果
1.実験材料
H22マウス肝がん細胞、Lewisマウス肺がん細胞、BALB/cマウス及びC57/blマウス。1群につき10匹のマウスを用いて実験を実施した。
【0084】
2.実験手順
2.1
(1)腫瘍接種日を0日目とし、それぞれ-14日目、-13日目、-7日目にPBS、腫瘍細胞溶解物、赤血球小胞、又は、腫瘍細胞溶解物と赤血球小胞の混合物(合計量で50μL/匹。腫瘍細胞溶解物の調製は上記と同じ。赤血球小胞群はNTAによる計数で2.5×108個。)を皮下注射した。0日目に、マウス1匹につき、50μLで、3×105個の腫瘍細胞となるように、対応する腫瘍細胞(H22細胞接種群はBALB/cマウス、lewis細胞接種群はC57/blマウス)を皮下接種した。
(2)マウスの皮下腫瘍を観察し、その体積を測定した。
2.2
(1)BALB/cマウス及びC57/blマウスにH22マウス肝がん細胞、Lewisマウス肺がん細胞をそれぞれ接種し、腫瘍体積が5×5mm3に成長した時点で、マウス骨髄由来の樹状細胞DC(培養方法は上記と同じ)を尾静脈注射し、マウス1匹につき、1回あたり1×106個の細胞を5日毎に1回で3回注射した。赤血球小胞で樹状細胞を誘導する方法は上記と同じであった。
(2)マウスの皮下腫瘍を観察し、その体積を測定した。
【0085】
3.実験結果
図9は、免疫アジュバントとしての赤血球由来の小胞による腫瘍予防効果を示すものである。
図9aは、小胞/H22溶解物群、H22溶解物群、赤血球小胞群及びPBS対照群による腫瘍予防効果を示すものであり、
図9bは、小胞/Lewis溶解物群、Lewis溶解物群、赤血球小胞群及びPBS対照群による腫瘍予防効果を示すものである。腫瘍体積を測定した結果、赤血球由来の小胞と腫瘍細胞溶解物との混合物接種群では、腫瘍の成長が有意に抑制されたことが分かったのに対して、赤血球由来の小胞のみ又は腫瘍細胞溶解物のみの群では、腫瘍抑制効果は確認されなかった。このように、赤血球由来の小胞は、腫瘍抗原の存在下で良好な抗腫瘍効果を発揮できると考えられる。また、赤血球由来の小胞と腫瘍抗原との融合は不要で、両者は単純な混合だけで著しい抗腫瘍効果を発揮することができる。
図10は、免疫アジュバントとしての赤血球由来の小胞と樹状細胞との併用による腫瘍治療効果を示すものである。
図10aは、DC/赤血球小胞群、DC群、赤血球小胞群及びH22対照群の腫瘍治療効果を示すものであり、
図10bは、DC/赤血球小胞群、DC群、赤血球小胞群及びLewis対照群の腫瘍治療効果を示すものである。腫瘍体積を測定した結果、樹状細胞の再注入だけでは、腫瘍の成長が僅かに阻害されたこと、EMP注射のみでは、マウスの腫瘍成長が効果的に抑制されなかったことが分かった。一方、EMPで処理された樹状細胞を再注入した結果、腫瘍の成長が効果的に抑制された。このように、EMPは免疫アジュバントとして、生体内の樹状細胞の抗腫瘍機能を効果的に促進できると考えられる。
【0086】
実施例10:免疫アジュバントとしての赤血球小胞によるマウスリステリア菌の予防及び治療の効果
1.実験材料
赤血球小胞、C57/blマウス、オボアルブミン発現組換えリステリア菌(OVA-リステリア菌)、オボアルブミン(OVA)、オボアルブミンポリペプチド(OVA257-264、SIINFEKL)、LB培地
【0087】
2.実験手順
2.1
(1)OVA-リステリア菌の接種より24時間前に、予防用として、OVA、OVA257-264の接種、又は、これらタンパク質・ポリペプチドと赤血球小胞との混合物の接種を行い、生理塩水注射をブランク対照とした。
(2)24時間後、マウス1匹につき1×105個のOVA-リステリア菌を尾静脈接種した。細菌接種の24時間後、マウスを解剖し、マウスの肝臓と脾臓を採取して破砕し、破砕した組織液をLB培地プレートに接種した。16時間後にプレート上のコロニー数を観察して記録した。
2.2
(1)マウス1匹につき1×105個OVA-リステリア菌を尾静脈接種した。
(2)工程(1)の細菌接種から24時間後、OVAによる誘導、OVA257-264による誘導、これらのそれぞれと赤血球小胞との混合物による誘導のそれぞれで処理された樹状細胞を尾静脈注射し、処理なしの樹状細胞を対照とした(1群あたり1×106個の樹状細胞を注射した)。その後、マウスの生存状況を観察した。
【0088】
3.実験結果
図11は、リステリア菌感染に対する免疫アジュバントとしての赤血球由来の小胞による予防効果を示すものである。
図11aは、マウス肝臓へのリステリア菌感染に対する免疫アジュバントとしての赤血球由来の小胞による予防効果を示すものであり、
図11bは、マウス脾臓へのリステリア菌感染に対する免疫アジュバントとしての赤血球由来の小胞による予防効果を示すものである。プレート上のコロニー数の計数から、赤血球由来の小胞とOVAタンパク質又はOVA
257-264との共存下では、OVA-リステリア菌の成長が有意に抑制された(肝臓及び脾臓におけるコロニー数が有意に減少した)ことが分かった。本実施例は、予防ワクチン接種において、赤血球由来の小胞が抗菌感染効果を効果的に向上させることができることを示している。細菌感染において、赤血球由来の小胞はワクチンの防御効果を向上させるための免疫アジュバントとして使用できると考えられる。
図12は、リステリア菌感染に対する赤血球由来の小胞と樹状細胞の併用による治療効果を示すものである。生存期間の観察により、OVAタンパク質のみ又はOVAポリペプチドのみで誘導された樹状細胞と比較して、赤血球由来の小胞(EMP)とOVAタンパク質又はOVAポリペプチドとの併用で誘導された樹状細胞は、獲得免疫反応をより良く起こす(OVAリステリア菌をより良く除去させる)ことができ、細菌に感染したマウスにより長い生存期間をもたらすことが分かった。このように、EMPは、細菌感染において、良好な免疫アジュバントとして、治療用樹状細胞ワクチンの治療効果を向上させることができると考えられる。
【0089】
実施例11:赤血球小胞接種の安全性
1.実験材料
赤血球小胞、C57/blマウス
【0090】
2.実験手順
C57/blマウスにEMP又はEMPとOVAタンパク質との混合物(数量は上記と同じ)を1日1回、3日間連続で皮下注射により接種した。そして、マウスの活動を観察し、マウスの体重を測定した。
【0091】
3.実験結果
EMPのみの接種又はEMPとOVAタンパク質との混合物の接種はいずれも、マウスの体重に影響がなく、対照群と比較してマウスの日常活動に有意差がなかった(
図13)。本実施例は、EMPが免疫アジュバントとして明確な毒性・副作用を有しないことを示している。
【0092】
本開示の上記実施例は、本開示を明確に説明するための例示にすぎず、本開示の実施形態を限定するものではない。上記説明に基づき、他の種々の変更や修正を行えることは当業者には理解される。本明細書においてあらゆる実施形態を網羅的に列挙することができない。本開示の思想及び趣旨の範囲内での如何なる修正、置き換え及び改良等はいずれも、本開示の請求の範囲に含まれている。
【配列表】
【国際調査報告】