(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-13
(54)【発明の名称】遺伝子回路、RNA送達システム及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20240306BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20240306BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240306BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240306BHJP
C12N 15/88 20060101ALI20240306BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240306BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240306BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240306BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240306BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240306BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240306BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240306BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240306BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240306BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20240306BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240306BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240306BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240306BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240306BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240306BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240306BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20240306BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20240306BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20240306BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240306BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N15/88 Z
A61P35/00
A61P11/00
A61P43/00 105
A61P1/04
A61P3/04
A61P9/00
A61P3/10
A61P25/14
A61P25/16
A61P21/04
A61P25/28
A61P37/06
A61K31/7105
A61K31/713
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/761
A61K9/127
A61K9/51
C12N15/113 Z ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560200
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(85)【翻訳文提出日】2023-11-27
(86)【国際出願番号】 CN2022083591
(87)【国際公開番号】W WO2022206734
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】202110336983.6
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523368241
【氏名又は名称】ナンキン ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン、チェンユー
(72)【発明者】
【氏名】チェン、シー
(72)【発明者】
【氏名】フー、ジェン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、シアン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ、シンヤン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、リー
(72)【発明者】
【氏名】ユウ、メンチャオ
(72)【発明者】
【氏名】グオ、ホンユアン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
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4C087ZB21
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4C087ZC35
(57)【要約】
本願は、遺伝子回路、RNA送達システム及びその使用を提供する。遺伝子回路は、遺伝子発現を阻害することができる少なくとも1つのRNA断片及び/又はターゲティング機能を有するターゲティングタグを含み、遺伝子回路は、宿主の体内に送達され、宿主の器官組織内で富化し、自己集合して複合構造を形成し、RNA断片が遺伝子の発現を阻害することによって、疾患を治療することができる。送達システムは、上記遺伝子回路と、遺伝子回路を宿主の器官組織に送達して富化させることができる送達ベクターと、を含む。本願による遺伝子回路は、ターゲティング機能と治療機能の両方を持ち、標的器官及び標的組織に効率的かつ正確に送達されて治療作用を発揮することができ、効率が高く、効果が良好である。本願によるRNA送達システムは、安全性及び信頼性が十分に検証されており、創薬性が良好であり、汎用性が高く、経済的効果や応用の将来性が極めて期待できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子回路であって、
遺伝子発現を阻害することができる少なくとも1つのRNA断片及び/又は少なくとも1つのターゲティング機能を有するターゲティングタグを含み、宿主の器官組織内で富化し自己集合して複合構造を形成することができる配列であり、
前記RNA断片が遺伝子の発現を阻害することによって疾患を治療する、ことを特徴とする遺伝子回路。
【請求項2】
前記RNA断片は医療的に意味があってかつ発現可能な1つ、2つ以上のRNA配列を含み、前記RNA配列は、siRNA配列、shRNA配列又はmiRNA配列である、ことを特徴とする請求項1に記載の遺伝子回路。
【請求項3】
前記遺伝子回路はプロモーターをさらに含み、前記遺伝子回路の種類には、プロモーター-RNA断片、プロモーター-ターゲティングタグ、プロモーター-ターゲティングタグ-RNA断片が含まれており、
前記遺伝子回路は、遺伝子発現を阻害することができる少なくとも1つのRNA断片と、ターゲティング機能を有する少なくとも1つのターゲティングタグと、を含み、該RNA断片及びターゲティングタグは、同一遺伝子回路又は異なる遺伝子回路にある、ことを特徴とする請求項2に記載の遺伝子回路。
【請求項4】
前記遺伝子回路は、遺伝子回路を正しい構造に折り畳んでかつ発現可能なフランキング配列、ループ配列、及び補償配列をさらに含み、前記フランキング配列は5’フランキング配列及び3’フランキング配列を含み、
前記遺伝子回路の種類には、5’-プロモーター-5’フランキング配列-RNA断片-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列、5’-プロモーター-ターゲティングタグ、5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-RNA断片-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列が含まれている、ことを特徴とする請求項3に記載の遺伝子回路。
【請求項5】
前記5’フランキング配列は、ggatcctggaggcttgctgaaggctgtatgctgaattc又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、
前記ループ配列は、gttttggccactgactgac又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、
前記3’フランキング配列は、accggtcaggacacaaggcctgttactagcactcacatggaacaaatggcccagatctggccgcactcgag又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、
前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の任意の1~5位の塩基が欠失されている、ことを特徴とする請求項4に記載の遺伝子回路。
【請求項6】
前記RNA配列の長さが15~25ヌクレオチドである、ことを特徴とする請求項2に記載の遺伝子回路。
【請求項7】
前記RNA配列は、EGFR遺伝子のsiRNA、KRAS遺伝子のsiRNA、VEGFR遺伝子のsiRNA、mTOR遺伝子のsiRNA、TNF-α遺伝子のsiRNA、integrin-α遺伝子のsiRNA、B7遺伝子のsiRNA、TGF-β1遺伝子のsiRNA、H2-K遺伝子のsiRNA、H2-D遺伝子のsiRNA、H2-L遺伝子のsiRNA、HLA遺伝子のsiRNA、GDF15遺伝子のsiRNA、miRNA-21のアンチセンス鎖、miRNA-214のアンチセンス鎖、TNC遺伝子のsiRNA、PTP1B遺伝子のsiRNA、mHTT遺伝子のsiRNA、Lrrk2遺伝子のsiRNA、α-synuclein遺伝子のsiRNA、上記配列と80%超の相同性を有するRNA配列、又は上記RNA配列をコードする核酸分子から選択されるいずれか1つ又は複数である、ことを特徴とする請求項6に記載の遺伝子回路。
【請求項8】
前記ターゲティングタグは、ターゲティング機能を有するターゲティングペプチド又はターゲティングタンパク質から選択される、ことを特徴とする請求項1に記載の遺伝子回路。
【請求項9】
前記ターゲティングペプチドは、RVGターゲティングペプチド、GE11ターゲティングペプチド、PTPターゲティングペプチド、TCP-1ターゲティングペプチド、MSPターゲティングペプチドを含み、
前記ターゲティングタンパク質は、RVG-LAMP2B融合タンパク質、GE11-LAMP2B融合タンパク質、PTP-LAMP2B融合タンパク質、TCP-1-LAMP2B融合タンパク質、MSP-LAMP2B融合タンパク質を含む、ことを特徴とする請求項8に記載の遺伝子回路。
【請求項10】
前記RNA断片は、RNA配列本体と、RNA配列本体をリボース修飾した修飾RNA配列と、を含み、
好ましくは、前記リボース修飾は、2’フルオロピリミジン修飾である、ことを特徴とする請求項2に記載の遺伝子回路。
【請求項11】
前記器官組織は肝臓であり、前記複合構造はエクソソームである、ことを特徴とする請求項1に記載の遺伝子回路。
【請求項12】
RNA送達システムであって、
請求項1~11のいずれか1項に記載の遺伝子回路と、前記遺伝子回路を宿主の器官組織に送達して富化させることができる送達ベクターと、を含む、ことを特徴とするRNA送達システム。
【請求項13】
前記遺伝子回路を含有する送達ベクターは、宿主の器官組織内で富化し、宿主の器官組織内で自己集合して複合構造を形成可能であり、前記ターゲティングタグは前記複合構造の表面に位置し、前記複合構造は、前記ターゲティングタグを介して標的組織を探索し結合し、標的組織に前記RNA断片を送達する、ことを特徴とする請求項12に記載のRNA送達システム。
【請求項14】
前記送達ベクターは1つ、2つ以上の前記遺伝子回路を担持しており、担持した前記遺伝子回路のすべてのうち、1つのRNA断片及び1つのターゲティングタグが少なくとも含まれている、ことを特徴とする請求項12に記載のRNA送達システム。
【請求項15】
前記送達ベクターが2つ以上の前記遺伝子回路を担持している場合、隣接する前記遺伝子回路は配列1-3からなる配列で連結され、
配列1はCAGATCであり、配列2は580塩基からなる配列であり、配列3はTGGATCである、ことを特徴とする請求項14に記載のRNA送達システム。
【請求項16】
前記送達ベクターが2つ以上の前記遺伝子回路を担持している場合、隣接する前記遺伝子回路は配列4又は配列4と80%超の相同性を有する配列で連結され、
配列4はCAGATCTGGCCGCACTCGAGGTAGTGAGTCGACCAGTGGATCである、ことを特徴とする請求項15に記載のRNA送達システム。
【請求項17】
前記送達ベクターはウイルスベクター又は非ウイルスベクターであり、
前記ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターを含み、前記非ウイルスベクターは、プラスミドベクター、リポソームベクター、カチオン性ポリマーベクター、ナノ粒子ベクター、多機能エンベロープナノベクターである、ことを特徴とする請求項12に記載のRNA送達システム。
【請求項18】
前記送達システムは、ヒトを含む哺乳動物で使用されるものである、ことを特徴とする請求項12に記載のRNA送達システム。
【請求項19】
薬物における請求項12~18のいずれか1項に記載のRNA送達システムの使用。
【請求項20】
前記薬物の投与方式は、経口投与、吸入投与、皮下注射投与、筋肉注射投与、静脈注射投与を含む、ことを特徴とする請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記薬物は、癌、肺線維症、結腸炎、肥満、肥満に起因する心血管疾患、2型糖尿病、ハンチントン病、パーキンソン病、重症筋無力症、アルツハイマー病、又は移植片対宿主病を治療する薬物である、ことを特徴とする請求項19に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、生物医学の技術分野に関し、特に遺伝子回路、RNA送達システム及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉(RNAi)療法は、発明されて以来、人類の疾患を治療する有望な戦略であると考えられてきたが、臨床的には多くの問題に直面しており、この治療法の進歩は予想よりもはるかに遅れている。
【0003】
RNAは細胞外に長期間安定に存在することはできないと考えられており、RNAは細胞外に豊富に含まれるRNaseに分解されて断片化されるため、RNAi療法の効果を発現するには、RNAを細胞外に安定に存在させ、特定の組織に標的に取り込める方法を見つけることが必要とされる。
【0004】
現在、siRNAと関連する特許は多く、主に以下のいくつの方面に焦点を当てている。1.医学効果を有するsiRNAを設計する。2.siRNAを化学修飾し、生体内でのsiRNAの安定性を高め、収率を高める。3.種々の人工ベクター(例えば、脂質ナノ粒子、カチオン性ポリマーやウイルス)の設計を改善し、siRNAの生体内での伝達効率を向上させる。このうち第3方面についての特許が多く、その根本的な原因は、研究者らが、siRNAを標的組織に安全に、精確に、効率的に送達するための適切なsiRNA伝達システムが不足しており、この問題がRNAi療法を制約する核心的な問題になっていることを認識しているからである。
【0005】
公開番号CN108624590Aの中国特許は、DDR2遺伝子の発現を阻害できるsiRNAを開示している。公開番号CN108624591Aの中国特許は、ARPC4遺伝子をサイレンシングすることができるsiRNAを開示しており、当該siRNAにα-リン-セレン修飾を施している。公開番号CN108546702Aの中国特許は、長鎖非コードRNA DDX11-AS1を標的とするsiRNAを開示している。公開番号CN106177990Aの中国特許は、多種の腫瘍治療に用いることができるsiRNA前駆体を開示している。これらの特許はすべて特定のsiRNAを設計しており、遺伝子の変化によって引き起こされるある疾患を対象としている。
【0006】
公開番号CN108250267Aの中国特許は、ポリペプチド、ポリペプチド-siRNA誘導共集合体を開示しており、ポリペプチドをsiRNAのベクターとして使用している。公開番号CN108117585Aの中国特許は、siRNAを標的に導入して、乳癌細胞のアポトーシスを促進するポリペプチドを開示しており、同様にポリペプチドをsiRNAのベクターとして使用している。公開番号CN108096583Aの中国特許は、化学療法薬を含むと同時に乳癌治療効果を有するsiRNAを搭載することができるナノ粒子ベクターを開示している。これらの特許はすべてsiRNAベクターに関する発明創造であるが、その技術案には共通の特徴があり、それはベクター及びsiRNAがいずれも生体外で予め集合されてから宿主の体内に導入されることである。実際には、現在設計されているほとんどの送達技術は上記と同様である。しかし、これらの人工的に合成された外因性送達システムは、宿主の循環システムによって容易に除去され、免疫原性反応を引き起こす可能性があり、さらには特定の細胞タイプと組織に有毒であるという共通の問題がある。
【0007】
本発明の研究チームは、内因性細胞がmiRNAsを選択的にエクソソーム(exosome)にカプセル化することができ、エクソソームはmiRNAを受容体細胞に伝達し、その分泌されたmiRNAが比較的低い濃度で、標的遺伝子の発現を強力にブロックすることができることを発見した。エクソソームは宿主免疫系と生体適合性であり、生体内でmiRNAを生物学的バリアを越えて保護及び送達する先天的能力を有するため、siRNA送達に関連する問題を克服する潜在的な解決策となる。例えば、公開番号CN110699382Aの中国特許は、siRNAを送達するエクソソームの製造方法を開示しており、血漿からエクソソームを分離し、siRNAをエレクトロポレーションによりエクソソームにカプセル化する技術を開示している。
しかし、生体外でエクソソームを分離又は製造するこのような技術は、細胞培養を通じて大量のエクソソームを取得し、さらにsiRNAカプセル化のステップを追加する必要があり、これは、この製品を大規模に応用する臨床費用が非常に高くなり、一般の患者に負担することができず、さらに、エクソソームの複雑な製造・精製プロセスにより、GMP規格に合致することがほぼ不可能となっている。
【0008】
これまで、エクソソームを有効成分とする薬物はCFDAの承認を受けたことがなく、エクソソーム製品の一貫性が保証されていないことが中心的な問題となっており、このような製品の医薬品製造許可が得られないことに直結している。この問題を解決できれば、RNAi療法を推進する上で非常に意義がある。
【0009】
したがって、安全で正確かつ効率的なsiRNA送達システムの開発は、RNAi治療の効果を高め、RNAi療法を推進するために不可欠なことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上に鑑み、本願の実施例は、従来技術に存在する技術的欠陥を解決するために、遺伝子回路、RNA送達システム及びその使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願は、遺伝子発現を阻害することができる少なくとも1つのRNA断片及び/又は少なくとも1つのターゲティング機能を有するターゲティングタグを含み、宿主の器官組織内で富化し自己集合して複合構造を形成することができる配列であり、前記RNA断片でそれに対応する遺伝子の発現を阻害することによって疾患を治療する、遺伝子回路を提供する。
【0012】
任意選択に、前記RNA断片は医療的に意味があってかつ発現可能な、1つ、2つ以上のRNA配列を含み、前記RNA配列は、siRNA配列、shRNA配列又はmiRNA配列である。
【0013】
遺伝子回路中のsiRNAにターゲティングタグがない場合、各組織での富化効果を有することが、
図54から示されている。
【0014】
任意選択に、前記遺伝子回路はプロモーターをさらに含み、前記遺伝子回路の種類には、プロモーター-RNA断片、プロモーター-ターゲティングタグ、プロモーター-ターゲティングタグ-RNA断片が含まれており、
【0015】
前記遺伝子回路は、遺伝子発現を阻害することができる少なくとも1つのRNA断片と、ターゲティング機能を有する少なくとも1つのターゲティングタグと、を含み、該RNA断片及びターゲティングタグは、同一遺伝子回路又は異なる遺伝子回路にある。すなわち、宿主の体内に送達された前記遺伝子回路には、1つのRNA断片及び1つのターゲティングタグが少なくとも含まれている。例えば、宿主の体内に入る遺伝子回路にプロモーター-RNA断片が含まれていれば、プロモーター-ターゲティングタグ又はプロモーター-ターゲティングタグ-RNA断片が必ず含まれており、宿主の体内に入る遺伝子回路がプロモーター-ターゲティングタグ-RNA断片であれば、プロモーター-RNA断片及びプロモーター-ターゲティングタグは存在してもよいし、存在しなくてもよい。
【0016】
2種類の異なるRNA断片と2種類の異なるターゲティングタグを任意に組み合わせた場合の検出結果が、
図55~62から示されている。
【0017】
任意選択に、前記遺伝子回路は、フランキング配列、ループ配列、及び補償配列をさらに含み、フランキング配列、ループ配列、及び補償配列は、遺伝子回路を正しい構造に折り畳んでかつ発現可能な配列であり、補償配列は対象受容体において発現不可能である。
【0018】
前記遺伝子回路の種類には、5’-プロモーター-5’フランキング配列-RNA断片-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列、5’-プロモーター-ターゲティングタグ、5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-RNA断片-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列が含まれていえる。
【0019】
プロモーター-ターゲティングタグ-siRNA及びプロモーター-siRNAという2種類の遺伝子回路の富化効果及び治療効果が、
図63から示されている。
【0020】
任意選択に、前記5’フランキング配列は、ggatcctggaggcttgctgaaggctgtatgctgaattc又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、
前記ループ配列は、gttttggccactgactgac又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、
前記3’フランキング配列は、accggtcaggacacaaggcctgttactagcactcacatggaacaaatggcccagatctggccgcactcgag又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、
前記補償配列は、前記RNA配列の逆相補配列であって、その中の任意の1~5位の塩基が欠失しており、補償配列が発現しないようにする。
【0021】
様々なフランキング配列及びループ配列によって構築された送達システムの富化効果及び治療効果が、
図64~66から示されている。
【0022】
好ましくは、前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の任意の1~3位の塩基が欠失されている。
【0023】
より好ましくは、前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の任意の1~3位の連続して配列した塩基が欠失されている。
【0024】
最も好ましくは、前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の9位及び/又は10位の塩基が欠失されている。
【0025】
任意選択に、前記RNA配列の長さが15~25ヌクレオチドである。例えば、前記RNA配列の長さが、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25ヌクレオチドであってもよい。好ましくは、前記RNA配列の長さが18~22ヌクレオチドである。
【0026】
各長さのRNA配列によって構築される送達システムのいずれには、体内での一定の発現量があることが
図67から示されている。
【0027】
任意選択に、前記RNA配列は、EGFR遺伝子のsiRNA、KRAS遺伝子のsiRNA、VEGFR遺伝子のsiRNA、mTOR遺伝子のsiRNA、TNF-α遺伝子のsiRNA、integrin-α遺伝子のsiRNA、B7遺伝子のsiRNA、TGF-β1遺伝子のsiRNA、H2-K遺伝子のsiRNA、H2-D遺伝子のsiRNA、H2-L遺伝子のsiRNA、HLA遺伝子のsiRNA、GDF15遺伝子のsiRNA、miRNA-21のアンチセンス鎖、miRNA-214のアンチセンス鎖、TNC遺伝子のsiRNA、PTP1B遺伝子のsiRNA、mHTT遺伝子のsiRNA、Lrrk2遺伝子のsiRNA、α-synuclein遺伝子のsiRNA、又は上記配列と80%超の相同性を有するRNA配列、又は上記RNA配列をコードする核酸分子から選択されるいずれか1つ又は複数である。なお、ここで「上記RNA配列をコードする核酸分子」中のRNA配列には、それぞれのRNAの相同性が80%超のRNA配列も含まれる。
【0028】
ここで、上記各遺伝子のsiRNAはいずれもその遺伝子の発現を阻害する機能を持つRNA配列であり、各遺伝子の発現を阻害する機能を持つRNA配列は多数存在するので、ここでは一つ一つ挙げることはできないが、効果が優れている以下の配列のみを例示して説明する。
【0029】
EGFR遺伝子のsiRNAは、UGUUGCUUCUCUUAAUUCCU、AAAUGAUCUUCAAAAGUGCCC、UCUUUAAGAAGGAAAGAUCAU、AAUAUUCGUAGCAUUUAUGGA、UAAAAAUCCUCACAUAUACUU、EGFR遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0030】
KRAS遺伝子のsiRNAは、UGAUUUAGUAUUAUUUAUGGC、AAUUUGUUCUCUAUAAUGGUG、UAAUUUGUUCUCUAUAAUGGU、UUAUGUUUUCGAAUUUCUCGA、UGUAUUUACAUAAUUACACAC、KRAS遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0031】
VEGFR遺伝子のsiRNAは、AUUUGAAGAGUUGUAUUAGCC、UAAUAGACUGGUAACUUUCAU、ACAACUAUGUACAUAAUAGAC、UUUAAGACAAGCUUUUCUCCA、AACAAAAGGUUUUUCAUGGAC、VEGFR遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0032】
mTOR遺伝子のsiRNAは、AGAUAGUUGGCAAAUCUGCCA、ACUAUUUCAUCCAUAUAAGGU、AAAAUGUUGUCAAAGAAGGGU、AAAAAUGUUGUCAAAGAAGGG、 UGAUUUCUUCCAUUUCUUCUC、mTOR遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0033】
TNF-α遺伝子のsiRNAは、AAAACAUAAUCAAAAGAAGGC、UAAAAAACAUAAUCAAAAGAA、AAUAAUAAAUAAUCACAAGUG、UUUUCACGGAAAACAUGUCUG、AAACAUAAUCAAAAGAAGGCA、TNF-α遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0034】
integrin-α遺伝子のsiRNAは、AUAAUCAUCUCCAUUAAUGUC、AAACAAUUCCUUUUUUAUCUU、AUUAAAACAGGAAACUUUGAG、AUAAUGAAGGAUAUACAACAG、UUCUUUAUUCAUAAAAGUCUC、integrin-α遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0035】
B7遺伝子のsiRNAは、UUUUCUUUGGGUAAUCUUCAG、 AGAAAAAUUCCACUUUUUCUU、AUUUCAAAGUCAGAUAUACUA、 ACAAAAAUUCCAUUUACUGAG、AUUAUUGAGUUAAGUAUUCCU、B7遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0036】
TGF-β1遺伝子のsiRNAは、ACGGAAAUAACCUAGAUGGGC、UGAACUUGUCAUAGAUUUCGU、UUGAAGAACAUAUAUAUGCUG、UCUAACUACAGUAGUGUUCCC、UCUCAGACUCUGGGGCCUCAG、TGF-β1遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0037】
H2-K遺伝子のsiRNAは、AAAAACAAAUCAAUCAAACAA、 UCAAAAAAACAAAUCAAUCAA、UAUGAGAAGACAUUGUCUGUC、AACAAUCAAGGUUACAUUCAA、ACAAAACCUCUAAGCAUUCUC、H2-K遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0038】
H2-D遺伝子のsiRNAは、AAUCUCGGAGAGACAUUUCAG、AAUGUUGUGUAAAGAGAACUG、AACAUCAGACAAUGUUGUGUA、UGUUAACAAUCAAGGUCACUU、AACAAAAAAACCUCUAAGCAU、H2-D遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0039】
H2-L遺伝子のsiRNAは、GAUCCGCUCCCAAUACUCCGG、 AUCUGCGUGAUCCGCUCCCAA、UCGGAGAGACAUUUCAGAGCU、UCUCGGAGAGACAUUUCAGAG、 AAUCUCGGAGAGACAUUUCAG、H2-L遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0040】
HLA遺伝子のsiRNAは、AUCUGGAUGGUGUGAGAACCG、UGUCACUGCUUGCAGCCUGAG、UCACAAAGGGAAGGGCAGGAA、 UUGCAGAAACAAAGUCAGGGU、ACACGAACACAGACACAUGCA、HLA遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0041】
GDF15遺伝子のsiRNAは、UAUAAAUACAGCUGUUUGGGC、AGACUUAUAUAAAUACAGCUG、AAUUAAUAAUAAAUAACAGAC、AUCUGAGAGCCAUUCACCGUC、UGCAACUCCAGCUGGGGCCGU、GDF15遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0042】
TNC遺伝子のsiRNAは、UAUGAAAUGUAAAAAAAGGGA、AAUCAUAUCCUUAAAAUGGAA、UAAUCAUAUCCUUAAAAUGGA、UGAAAAAUCCUUAGUUUUCAU、AGAAGUAAAAAACUAUUGCGA、TNC遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0043】
PTP1B遺伝子のsiRNAは、UGAUAUAGUCAUUAUCUUCUU、UCCAUUUUUAUCAAACUAGCG、AUUGUUUAAAUAAAUAUGGAG、AAUUUUAAUACAUUAUUGGUU、UUUAUUAUUGUACUUUUUGAU、PTP1B遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0044】
mHTT遺伝子のsiRNAは、UAUGUUUUCACAUAUUGUCAG、AUUUAGUAGCCAACUAUAGAA、AUGUUUUUCAAUAAAUGUGCC、UAUGAAUAGCAUUCUUAUCUG、UAUUUGUUCCUCUUAAUACAA、mHTT遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0045】
Lrrk2遺伝子のsiRNAは、AUUAACAUGAAAAUAUCACUU、UUAACAAUAUCAUAUAAUCUU、AUCUUUAAAAUUUGUUAACGC、UUGAUUUAAGAAAAUAGUCUC、UUUGAUAACAGUAUUUUUCUG、Lrrk2遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0046】
α-synuclein遺伝子のsiRNAは、AUAUAUUAACAAAUUUCACAA、AAGUAUUAUAUAUAUUAACAA、AUAACUUUAUAUUUUUGUCCU、UAACUAAAAAAUUAUUUCGAG、UCGAAUAUUAUUUAUUGUCAG、α-synuclein遺伝子発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0047】
なお、上記の「80%超の相同性を有する配列」は、相同性が85%、88%、90%、95%、98%などであってもよい。
【0048】
任意選択に、前記ターゲティングタグは、ターゲティング機能を有するターゲティングペプチド又はターゲティングタンパク質から選択される。
【0049】
任意選択に、前記ターゲティングペプチドは、RVGターゲティングペプチド、GE11ターゲティングペプチド、PTPターゲティングペプチド、TCP-1ターゲティングペプチド、MSPターゲティングペプチドを含み、
前記ターゲティングタンパク質は、RVG-LAMP2B融合タンパク質、GE11-LAMP2B融合タンパク質、PTP-LAMP2B融合タンパク質、TCP-1-LAMP2B融合タンパク質、MSP-LAMP2B融合タンパク質を含む。
【0050】
任意選択に、前記RNA断片は、RNA配列本体と、RNA配列本体をリボース修飾した修飾RNA配列と、を含む。すなわち、RNA断片は、少なくとも1つのRNA配列本体のみから構成されていてもよいし、少なくとも1つの修飾RNA配列のみから構成されていてもよいし、RNA配列本体と修飾RNA配列とから構成されていてもよい。
【0051】
本発明において、前記単離された核酸は、そのバリアント及び誘導体をさらに含む。当業者であれば、一般的な方法を用いて前記核酸を修飾することができる。修飾方式には、メチル化修飾、ヒドロカルビル修飾、グリコシル修飾(例えば、2-メトキシ-グリコシル修飾、ヒドロカルビル-グリコシル修飾、糖環修飾など)、核酸化修飾、ペプチドセグメント修飾、脂質修飾、ハロゲン修飾、核酸修飾(例えば、「TT」修飾)などが含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の一実施形態では、前記修飾は、ヌクレオチド間結合、例えば、ホスホロチオエート、2'-Oメトキシエチル(MOE)、2'-フルオロ、アルキルホスホネート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホノチオエート、ホスホラミデート、カルバメート、カーボネート、リン酸トリエステル、アセトアミドエステル、カルボキシメチルエステルおよびそれらの組み合わせから選択される。本発明の一実施形態では、前記修飾はヌクレオチドの修飾であり、例えば、ペプチド核酸(PNA)、鎖核酸(LNA)、アラビノース-核酸(FANA)、アナログ、誘導体、及びそれらの組み合わせから選択される。好ましくは、前記修飾は、2’フルオロピリミジン修飾である。2’フルオロピリミジン修飾はRNA上のピリミジンヌクレオチドの2’-OHを2’-Fで置換し、2’-FはRNAを生体内のRNA酵素に認識されにくくすることができ、それによってRNA断片の体内送達の安定性を高める。
【0052】
任意選択に、前記器官組織は肝臓であり、前記複合構造はエクソソームである。
【0053】
本願はまた、前記遺伝子回路と、前記遺伝子回路を宿主の器官組織に送達して富化させることができる送達ベクターと、を含むRNA送達システムを提供する。
【0054】
任意選択に、前記遺伝子回路を含有する送達ベクターは、宿主の器官組織内で富化し、宿主の器官組織内で自己集合して複合構造を形成可能であり、前記ターゲティングタグは前記複合構造の表面に位置し、前記複合構造は、前記ターゲティングタグを介して標的組織を探索し結合し、標的組織に前記RNA断片を送達する。
【0055】
任意選択に、前記送達ベクターは1つ、2つ以上の前記遺伝子回路を担持しており、担持した前記遺伝子回路のすべてのうち、1つのRNA断片及び1つのターゲティングタグが少なくとも含まれている。
【0056】
任意選択に、前記送達ベクターが2つ以上の前記遺伝子回路を担持している場合、隣接する前記遺伝子回路は配列1-3からなる配列(配列1-配列2-配列3)で連結され、
配列1はCAGATCであり、配列2は5~80塩基からなる配列であり、配列3はTGGATCである。好ましくは、配列2は10~50塩基からなる配列であり、より好ましくは、配列2は20~40塩基からなる配列である。
【0057】
任意選択に、前記送達ベクターが2つ以上の前記遺伝子回路を担持している場合、隣接する前記遺伝子回路は配列4又は配列4と80%超の相同性を有する配列で連結され、
配列4は、CAGATCTGGCCGCACTCGAGGTAGTGAGTCGACCAGTGGATCである。
【0058】
配列4及びそれと相同の配列によって構築される送達システムについては、体内で検出した結果、いずれにも一定の富化及び治療効果を有することが、
図68から示される。
【0059】
任意選択に、前記送達ベクターは、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターであり、
其中、前記ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターを含み、前記非ウイルスベクターは、プラスミドベクター、リポソームベクター、カチオン性ポリマーベクター、ナノ粒子ベクター、多機能エンベロープナノベクターを含む。
【0060】
好ましくは、前記送達ベクターは、アデノ随伴ウイルスベクター又はプラスミドベクターである。前記アデノ随伴ウイルスベクターは、好ましくは、アデノ随伴ウイルスベクター5型(AAV5)、アデノ随伴ウイルスベクター8型(AAV8)又はアデノ随伴ウイルスベクター9型(AAV9)である。
【0061】
任意選択に、前記送達システムは、ヒトを含む哺乳動物で使用されるものであり、すなわち、該送達システムは、ヒトを含む哺乳動物に有用である。
【0062】
本願はまた、薬物における上記の何れかに記載のRNA送達システムの使用を提供する。
【0063】
任意選択に、前記薬物の投与方式は、経口投与、吸入投与、皮下注射投与、筋肉注射投与、静脈注射投与を含む。すなわち、前記薬物は、経口投与、吸入投与、皮下注射投与、筋肉注射投与又は静脈注射投与により入体に入ってから、上記の何れかに記載のRNA送達システムによって標的組織に送達され、治療作用を発揮する。
【0064】
任意選択に、前記薬物は、癌、肺線維症、結腸炎、肥満、肥満に起因する心血管疾患、2型糖尿病、ハンチントン病、パーキンソン病、重症筋無力症、アルツハイマー病、又は移植片対宿主病を治療する薬物である。
【0065】
前記薬物の剤形は、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸薬、座薬、軟膏剤、溶液剤、懸濁剤、ローション剤、ゲル剤、ペースト剤などであってもよい。
【発明の効果】
【0066】
本願の技術的効果は以下のとおりである。
本願による遺伝子回路は、RNA断片のみを含んでもよいし、ターゲティングタグのみを含んでもよいし、RNA断片とターゲティングタグを組み合わせたものであってもよい。該遺伝子回路は、RNA断片のみを含む場合体内に入って遺伝子発現を阻害する作用を発揮し、それによって、疾患の発症及び進行を阻害することができ、ターゲティングタグのみを含む場合、極めて優れたターゲティング機能を持ち、RNA断片のみを含む遺伝子回路と併用されて、RNA断片が標的器官や標的組織に速く送達されて作用を発揮するようにし、RNA断片とターゲティングタグを組み合わせたものである場合、ターゲティング機能と治療機能の両方を持ち、標的器官及び標的組織に効率的かつ正確に送達されて治療作用を発揮することができ、効率が高く、効果が良好であり、大規模な普及や応用に好適である。本願における遺伝子回路は、肝臓など宿主の器官組織内で富化することができ、また、エクソソームなどの複合構造として集合することができ、エクソソームなどの複合構造として集合されてから、遺伝子回路によりガイドされて疾患を治療するものであり、効果が良好であり、従来技術における毒性や副作用が回避され、本願の遺伝子回路は、生物と医薬の分野で大きなブレークスルーであり、記念碑的な重要性を持つ。
本願によるRNA送達システムは、遺伝子回路を送達ベクターに付着させて、体内に送達し、この遺伝子回路は、宿主の器官組織内でよく富化し、自己集合して複合構造を形成し、最終的に効果を発揮するRNA断片は該複合構造によって包まれて送達され、免疫反応は一切存在せず、安全性が高い。該送達システムは、各種の小分子RNAを送達することができ、汎用性が高い。遺伝子回路を付着させる送達ベクターの製造はエクソソームやタンパク質、ポリペプチドなどの物質の製造よりも安価で経済的であり、プロセスがより簡単で、品質の標準化に有利であり、使用時の安定性を向上させ、経済性が高い。
さらに、本願によるRNA送達システムは、生体内で自己集合された後、AGO2と緊密に結合して富化して複合構造(エクソソーム)になることができ、これにより、その早期分解を防止し、循環中の安定性を維持することができるだけではなく、受容体細胞による吸収、細胞質内での放出、及びリソソームの脱出に有利であり、必要な用量は低い。
本願によるRNA送達システムは、薬物に使用されると、薬物送達プラットフォームを提供し、このプラットフォームを通じてより多くのRNA系薬物の研究開発基盤が提供され得、RNA系薬物の研究開発及び使用に極めて大きな推進効果をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【
図1】本願の一実施例によるマウスの体内のプラスミド分布及び代謝状況の比較図である。
【
図2】本願の一実施例によるマウスの体内のタンパク質発現レベルの比較図である。
【
図3】本願の一実施例によるマウスの体内の関連siRNAレベルの比較図である。
【
図4】本願の一実施例によるマウスの各組織における絶対siRNAレベルの比較図である。
【
図5】本願の一実施例による、プラスミド用量がマウスのsiRNAレベルに与える影響の比較図である。
【
図6】本願の一実施例による、プラスミド注射後のマウスの肝臓における前駆体及び成熟体の代謝状況の比較図である。
【
図7】本願の一実施例によるマウスの様々な組織におけるsiRNAの動態及び分布の比較図である。
【
図8】本願の一実施例による、様々なプロモーターがsiRNAに与える影響の比較図である。
【
図9】本願の一実施例による、マウスの様々な組織におけるeGFP蛍光強度の比較図である。
【
図10】本願の一実施例による、マウスのアラニンアミノトランスフェラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、総ビリルビン、血中尿素窒素、血清アルカリホスファターゼ、クレアチニンの含有量及び胸腺重量、脾臓重量、末梢血球のパーセンテージの比較図である。
【
図11】本願の一実施例によるマウスEGFR突然変異肺癌腫瘍の治療効果の比較図である。
【
図12】本願の一実施例によるマウスのHE染色図、免疫組織染色図及び着色の統計図である。
【
図13】本願の一実施例によるマウスKRAS突然変異肺癌腫瘍の治療効果の比較図である。
【
図14】本発明の一実施例によるマウスのHE染色図、免疫組織染色図及び着色の統計図である。
【
図15】本願の一実施例による、KRAS siRNAに基づくマウス肺癌の治療を示す図である。
【
図16】本願の一実施例による、EGFR siRNAに基づくマウス肺癌の治療を示す図である。
【
図17】本願の一実施例によるマウスの複数種の酵素含有量の比較図である。
【
図18】本願の実施例によるマウス腎癌腫瘍画像の比較図である。
【
図19】本願の一実施例によるマウス腎癌腫瘍の進行状況の比較図である。
【
図20】本発明の一実施例によるマウスの結腸炎の進行状況の比較図である。
【
図21】本発明の一実施例によるマウスの結腸のHE染色の比較図である。
【
図22】本発明の一実施例によるマウスの結腸炎の進行状況の比較図である。
【
図23】本発明の一実施例によるマウスの結腸のHE染色の比較図である。
【
図24】本願の一実施例によるマウスの結腸炎の治療及びRNA発現レベルの比較図である。
【
図25】本願の一実施例によるマウスのサイトカイン濃度及び結腸のHE染色の比較図である。
【
図26】本願の一実施例によるマウスの結腸炎の治療の比較図である。
【
図27】本願の一実施例によるマウスの疾患活動指数及び複数種のsiRNAレベルの比較図である。
【
図28】本願の一実施例によるマウスの複数種のsiRNA、mRNAレベルの比較図である。
【
図29】本願の一実施例によるマウスの結腸のHE染色の比較図である。
【
図30】本発明の一実施例によるマウスのヒドロキシプロリン含有量の比較図である。
【
図31】本願の一実施例によるマウスの肺の蛍光染色図である。
【
図32】本発明の一実施例によるマウスの肺のMasson3色染色図である。
【
図33】本発明の一実施例によるマウスの肺のHE染色図である。
【
図34】本発明の一実施例によるマウスの一部のタンパク質、mRNAレベルの比較図である。
【
図35】本願の一実施例によるマウスのヒドロキシプロリン含有量、mRNAレベルの比較図である。
【
図36】本願の一実施例によるマウスsiRNA関連発現の比較図である。
【
図37】本願の一実施例によるマウス膠芽腫の治療状況の比較図である。
【
図38】本願の一実施例によるマウスの脳免疫組織染色の比較図である。
【
図39】本願の一実施例によるマウスの生存及び腫瘍評価の比較図である。
【
図40】本発明の一実施例によるマウスの視床下部及び肝臓の蛍光顕微鏡画像である。
【
図41】本発明の一実施例によるマウス肥満の治療状況の比較図である。
【
図42】本発明の一実施例によるマウス肥満脂肪肝の治療状況の比較図である。
【
図43】本願の一実施例によるマウスの肥満の治療状況の比較図である。
【
図44】本願の一実施例によるマウスの各肥満指標の比較図である。
【
図45】本発明の一実施例によるマウスのハンチントン病の治療状況の比較図である。
【
図46】本発明の一実施例によるマウスの肝臓、皮質、線条体におけるsiRNA、タンパク質の比較図である。
【
図47】本願の一実施例によるマウスのハンチントン病の治療状況の比較図である。
【
図48】本発明の一実施例によるマウスの線条体及び皮質のmHTTタンパク質及び毒性凝集体の比較図である。
【
図49】本願の一実施例によるマウスのハンチントン病の治療状況の比較図である。
【
図50】本願の一実施例によるトランスジェニックマウスのパーキンソン病の治療状況の比較図である。
【
図51】本発明の一実施例によるカニクイザルの全血siRNA濃度の変化を示す図である。
【
図52】本願の一実施例による、化学修飾がマウスのsiRNAレベルに与える影響の比較図である。
【
図53】本発明の一実施例による回路の構築及び特徴付け図である。
【
図54】本願の一実施例による、遺伝子回路にsiR
E及びsiR
Tのみが含まれている場合、肝、脳、血漿及びエクソソームでの遺伝子回路の富化効果及びEGFR/TNCの発現量であり、図において、A及びBは、遺伝子回路にsiR
Eのみが含まれている場合の、肝、脳、血漿及びエクソソーム中での富化効果であり、C及びDは、遺伝子回路にsiR
Tのみが含まれている場合の、肝、脳、血漿及びエクソソーム中での富化効果であり、E及びFは、遺伝子回路にsiR
Eのみが含まれている場合の、EGFRのタンパク質含有量及びmRNA含有量であり、G及びHは、遺伝子回路にsiR
Tのみが含まれている場合の、TNCのタンパク質含有量及びmRNA含有量である。
【
図55】本願の一実施例による、遺伝子回路に2種類の異なるRNA断片及び2種類の異なるターゲティングタグが含まれている場合の、膵臓、脳、血漿及びエクソソーム中での富化効果であり、図において、A及びBは、RNA断片がsiR
EGFR、ターゲティングタグがPTPの場合に示された富化効果であり、C及びDは、RNA断片がsiR
TNC、ターゲティングタグがPTPの場合に示された富化効果であり、E及びFは、RNA断片がsiR
EGFR、ターゲティングタグがRVGの場合に示された富化効果であり、G及びHは、RNA断片がsiR
TNC、ターゲティングタグがRVGの場合に示された富化効果である。
【
図56】本願の一実施例による、遺伝子回路に2種類の異なるRNA断片及び2種類の異なるターゲティングタグが含まれている場合の、膵臓、脳で検出されたEGFR及びTNCの発現量であり、図において、A及びBは、RNA断片がsiR
EGFR、ターゲティングタグがPTPの場合の、EGFRのタンパク質発現量及びmRNA発現量であり、C及びDは、RNA断片がsiR
EGFR、ターゲティングタグがRVGの場合の、EGFRのタンパク質発現量及びmRNA発現量であり、E及びFは、RNA断片がsiR
TNC、ターゲティングタグがPTPの場合の、EGFRのタンパク質発現量及びmRNA発現量であり、G及びHは、RNA断片がsiR
TNC、ターゲティングタグがRVGの場合の、EGFRのタンパク質発現量及びmRNA発現量である。
【
図57】本願の一実施例による、遺伝子回路に2種類のRNA断片が同時に含まれ、かつ2種類の異なるターゲティングタグが含まれる場合の、膵臓、脳、血漿、エクソソーム中での富化効果であり、図において、A及びBは、RNA断片がsiR
EGFR+TNC、ターゲティングタグがPTPの場合の富化効果であり、C及びDは、RNA断片がsiR
EGFR+TNC、ターゲティングタグがRVGの場合の富化効果である。
【
図58】本願の一実施例による、遺伝子回路に2種類のRNA断片が同時に含まれ、かつ2種類の異なるターゲティングタグが含まれる場合の、膵臓、脳で検出されたEGFR及びTNCの発現量であり、図において、A及びBは、RNA断片がsiR
EGFR+TNC、ターゲティングタグがPTPの場合の、EGFRのタンパク質発現量及びmRNA発現量であり、C及びDは、RNA断片がsiR
EGFR+TNC、ターゲティングタグがRVGの場合の、EGFRのタンパク質発現量及びmRNA発現量であり、E及びFは、RNA断片がsiR
EGFR+TNC、ターゲティングタグがPTPの場合の、TNCのタンパク質発現量及びmRNA発現量であり、G及びHは、RNA断片がsiR
EGFR+TNC、ターゲティングタグがRVGの場合の、TNCのタンパク質発現量及びmRNA発現量である。
【
図59】本願の一実施例による、遺伝子回路に2種類の異なるRNA断片が含まれ、かつ2種類のターゲティングタグが同時に含まれる場合の、膵臓、脳、血漿、エクソソーム中での富化効果であり、図において、A及びBは、RNA断片がsiR
EGFR、ターゲティングタグがPTP-RVGの場合の富化効果であり、C及びDは、RNA断片がsiR
TNC、ターゲティングタグがPTP-RVGの場合の富化効果である。
【
図60】本願の一実施例による、遺伝子回路に2種類の異なるRNA断片が含まれ、かつ2種類のターゲティングタグが同時に含まれる場合の、膵臓、脳で検出されたEGFR及びTNCの発現量であり、図において、A及びBは、RNA断片がsiR
EGFR、ターゲティングタグがPTP-RVGの場合のEGFRのタンパク質発現量及びmRNA発現量であり、C及びDは、RNA断片がsiR
TNC、ターゲティングタグがPTP-RVGの場合の、TNCのタンパク質発現量及びmRNA発現量である。
【
図61】本願の一実施例による、遺伝子回路に2種類のRNA断片が同時に含まれ、かつ2種類のターゲティングタグが同時に含まれる場合の、膵臓、脳、血漿、エクソソーム中での富化効果であり、図において、Aは、RNA断片がsiR
EGFR+TNC、ターゲティングタグがPTP-RVGの場合の、膵臓及び脳中での富化効果であり、Bは、RNA断片がsiR
EGFR+TNC、ターゲティングタグがPTP-RVGの場合の、血漿及びエクソソーム中での富化効果である。
【
図62】本願の一実施例による、遺伝子回路に2種類のRNA断片が同時に含まれ、かつ2種類のターゲティングタグが同時に含まれる場合の、膵臓、脳で検出されたEGFR及びTNCの発現量であり、図において、A及びBは、RNA断片がsiR
EGFR+TNC、ターゲティングタグがPTP-RVGの場合の、EGFRのタンパク質発現量及びmRNA発現量であり、C及びDは、RNA断片がsiR
EGFR+TNC、ターゲティングタグがPTP-RVGの場合の、TNCのタンパク質発現量及びmRNA発現量である。
【
図63】本願の一実施例による、Albumin-siR
EGFR及びAlbumin-RVG-siR
EGFRの2種類の遺伝子回路の、血漿及び脳中での富化効果、並びにEGFRの発現量であり、図において、Aは、2種類の遺伝子回路の血漿中での富化効果であり、Bは、2種類の遺伝子回路の脳中での富化効果であり、Cは、2種類の遺伝子回路について検出されたEGFRのタンパク質発現量及びmRNA発現量である。
【
図64】本願の一実施例による、5’フランキング配列が80%超の相同性を有する送達システムの肺での富化効果及び治療効果であり、図において、Aは、80%超の相同性を有する2つの5’フランキング配列がそれぞれRVG連結及び非RVG連結のときの、肺での富化効果であり、Bは、が80%超の相同性を有する2つの5’フランキング配列がそれぞれRVG連結及び非RVG連結のときの、EGFRのタンパク質発現量であり、Cは、80%超の相同性を有する2つの5’フランキング配列がそれぞれRVG連結及び非RVG連結のときの、EGFRのmRNA発現量である。
【
図65】本願の一実施例による、ループ配列が80%超の相同性を有する送達システムの肺での富化効果及び治療効果であり、図において、Aは、80%超の相同性を有する2つのループ配列がそれぞれRVG連結及び非RVG連結のときの、肺での富化効果であり、Bは、80%超の相同性を有する2つのループ配列がそれぞれRVG連結及び非RVG連結のときの、EGFRのタンパク質発現量であり、Cは、80%超の相同性を有する2つのループ配列がそれぞれRVG連結及び非RVG連結のときの、EGFRのmRNA発現量である。
【
図66】本願の一実施例による、3’フランキング配列が80%超の相同性を有する送達システムの肺での富化効果及び治療効果であり、図において、Aは、80%超の相同性を有する2つの3’フランキング配列がそれぞれRVG連結及び非RVG連結のときの、肺での富化効果であり、Bは、80%超の相同性を有する2つの3’フランキング配列がそれぞれRVG連結及び非RVG連結のときの、EGFRのタンパク質発現量であり、Cは、80%超の相同性を有する2つの3’フランキング配列がそれぞれRVG連結及び非RVG連結のときの、EGFRのmRNA発現量である。
【
図67】本願の一実施例による、長さの異なる3種類のRNA配列を含有する送達システムの静脈注射後のEGFR発現量の検出結果を示す図であり、図において、Aは、EGFRのタンパク質発現量の検出結果であり、Bは、EGFRのmRNA発現量の検出結果である。
【
図68】本願の一実施例による、配列4、及び配列4と80%超の相同性を有する2つの配列4-1、4-2を含有する送達システムの静脈注射9時間後の肺組織のEGFR siRNA含有量(富化)の検出結果であり、図において、Aは、配列4の検出結果であり、Bは、配列4-1の検出結果であり、Cは、配列4-2の検出結果である。
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下、図面を参照して、本願の具体的な実施形態について説明する。
【0069】
まず、本発明に係る専門名詞、試験方法などについて説明する。
【0070】
ヘマトキシリン-イオシン染色法(hematoxylin-eosin staining)は、HE染色と略称する。HE染色は組織学、病理学の教育や科学研究において最も基礎的で、最も広く使用されている技術方法の1つである。
【0071】
ヘマトキシリン染色液は塩基性で、組織の好塩基性構造(例えば、リボソーム、細胞核及び細胞質中のリボ核酸など)を青紫色に染色することができ、イオシンは酸性染料であり、組織の好酸性構造(例えば、レビー小体、アルコール小体及び細胞質の大部分を含む細胞内及び細胞間のタンパク質)をピンク色に染色し、細胞組織全体の形態が鮮明に見られるようにすることができる。
【0072】
HE染色の具体的なステップには、サンプル組織の固定化と切片化、組織サンプルの脱ろう、組織サンプルの水和、組織切片のヘマトキシリン染色、分化と抗青処理、組織切片のイオシン染色と脱水、組織サンプル切片の風乾とシーリング、顕微鏡での観察及び写真撮影が含まれる。
【0073】
Masson染色では、アニオン染料分子の大きさと組織の透過性に関連して、コラーゲン繊維は青(アニリンブルーで染色)又は緑(ブリリアントグリーンで染色)、筋繊維は赤(アシッドマゼンタとポンソーで染色)になる。一連のアニオン水溶性染料で固定化された組織を順次又は混合して染色すると、赤血球は最小分子のアニオン染料で染色され、筋繊維と細胞質は中程度の大きさのアニオン染料で染色され、コラーゲン繊維は大分子のアニオン染料で染色されることが発見された。このことから、赤血球はアニオン染料に対する透過性が最も小さく、筋線維と細胞質はそれに次ぐものであり、コラーゲン線維は最も透過性が大きいことが示された。I型、III型コラーゲンは緑色を呈し(GBM、TBM、メサンギウム基質及び腎間質は緑色を呈する)、フェロヘビン、腎小管細胞質、赤血球は赤色を呈する。
【0074】
Masson染色の具体的なステップには、以下が含まれる。
【0075】
組織をBouin液に固定化し、流水で一晩リンスし、通常脱水包埋する。切片から水へ脱ろうする(キシレン中の脱ろうを10min×3回行い、吸水紙で液体を吸収する。100%エタノールで脱ろうを5min×2回行い、吸水紙で液体を吸収する。95%エタノールで脱ろうを5min×2回行い、吸水紙で液体を吸収する。水を2min流して、吸水紙で水分を吸収する)。Weiger鉄ヘマトキシリンで5~10min染色する。流水で少し洗い、0.5%塩酸アルコールで15s分化する。流水で3minリンスする。ポンソー酸性フクシン液で8min染色する。蒸留水で少しリンスする。1%リンモリブデン酸水溶液で約5min処理する。水洗することなく、アニリンブロー液又はブリリアントグリーン液で5min再染色する。1%氷酢酸で1min処理する。95%エタノールで脱水を5min×2回行い、吸水紙で液体を吸収する。100%エタノールで脱水を5min×2回行い、吸水紙で液体を吸収する。キシレン中で5min×2回透明化し、吸水紙で液体を吸収する。中性ゴムでシーリングする。
【0076】
ウェスタンブロット(Western Blot)は、タンパク質を膜に転写し、抗体を用いて検出するもので、既知の発現タンパク質に対しては、対応する抗体を一次抗体として検出することができ、新規遺伝子の発現産物に対しては、融合部分の抗体を用いて検出することができる。
【0077】
Western Blotにはポリアクリルアミドゲル電気泳動が使用されており、被検出物はタンパク質、「プローブ」は抗体、「発色」には、標識された二次抗体が使用される。PAGEにより分離されたタンパク質サンプルは、非共有結合の形でタンパク質を吸着し、電気泳動で分離されたポリペプチドタイプ及びその生物学的活性を維持することができる固相担体(例えば、硝酸セルロースフィルム)に転写され、固相担体上のタンパク質又はポリペプチドを抗原として、対応する抗体と免疫反応を起こし、酵素又は同位体標識された第2抗体と反応し、基質発色又は自己放射現像を経て、電気泳動で分離された特定の目的遺伝子によって発現されたタンパク質成分を検出する。そのステップには、主に、タンパク質の抽出、タンパク質の定量化、ゲル製造と電気泳動、膜転写、免疫標識と現像が含まれる。
【0078】
免疫組織化学技術(immunohistochemistry)又は免疫細胞化学技術(immunocytochemistry)と呼ばれる免疫組織化学は、抗原抗体反応、すなわち抗原と抗体が特異的に結合する原理を利用しており、抗体を標識する発色剤(フルオレセイン、酵素、金属イオン、同位体)を化学反応により発色させて組織細胞内抗原(ポリペプチド及びタンパク質)を特定し、その局在化、定性化及び相対的定量化について研究をする。
【0079】
免疫組織化学の主要なステップには、切片浸漬、一晩の乾燥、キシレン脱蝋、勾配アルコール脱蝋(100%、95%、90%、80%、75%、70%、50%、毎回3min)、二重蒸留、3%過酸化水素水を滴下してカタラーゼを除去すること、水洗、抗原修復、5%BSAを滴下して1hブロックすること、一次抗体希釈、PBS緩衝液による洗浄、二次抗体のインキュベート、PBS緩衝液による洗浄、発色液発色、水洗、ヘマトキシリン染色、勾配エタノール脱水、中性ゴムによるシーリングが含まれる。
【0080】
本発明に係るsiRNAレベル、タンパク質含有量及びmRNA含有量の検出は、いずれも、マウスの体内にRNA送達システムを注射することにより、マウス幹細胞の生体外モデルを構築する。細胞、組織におけるmRNA及びsiRNAの発現レベルをqRT-PCRを用いて検出する。siRNAの絶対定量は、標準品を用いて検量線を作成することにより決定する。内部参照に対する各siRNA又はmRNAの発現量は2-ΔCTで表すことができ、ΔCT=Cサンプル-C内部参照である。siRNAを増幅する場合、内部参照遺伝子はU6 snRNA(組織中)又はmiR-16(血清、エクソソーム中)分子であり、mRNAを増幅する場合、遺伝子はGAPDH又は18s RNAである。Western blotting実験を用いて細胞、組織におけるタンパク質の発現レベルを検出し、ImageJソフトウェアを用いてタンパク質の定量分析を行う。
【0081】
本発明において、本明細書で使用される科学用語及び技術用語は、別段の記載がない限り、当業者に一般に理解される意味を有する。また、本明細書で使用される試薬、材料や操作ステップは、すべて、当該分野で広く使用されている試薬、材料や通常のステップである。
実施例1
【0082】
本実施例は、遺伝子発現を阻害することができる少なくとも1つのRNA断片及び/又は少なくとも1つのターゲティング機能を有するターゲティングタグを含み、宿主の体内に送達され、宿主の器官組織内で富化し自己集合して複合構造を形成することができ、前記RNA断片が遺伝子の発現を阻害することによって、疾患を治療する、遺伝子回路(genetic circuit)を提供する。
【0083】
上記遺伝子とは、疾患の発症又は進行と直接又は間接的に関与する遺伝子のことであり、RNA断片は、該遺伝子の発現を阻害することで疾患の発症や進行を阻害し、疾患治療の目的を達成させることができる。ターゲティングタグは、RNA断片を病巣領域に正確にガイドして、当該病巣領域に効率的な治療を施すことができる。宿主の器官組織は肝臓であり、複合構造はエクソソームである。
【0084】
具体的には、少なくとも1つの前記遺伝子回路は、宿主の体内に送達され、宿主の体内に送達された前記遺伝子回路には、1つのRNA断片及び1つのターゲティングタグが少なくとも含まれており、前記RNA断片及び前記ターゲティングタグは、同一又は異なる遺伝子回路にある。
【0085】
実際の応用においては、前記遺伝子回路はプロモーターをさらに含み、好ましくはCMVプロモーターである。
【0086】
図54は、siR
E(標的遺伝子はEGFR)及びsiR
T(標的遺伝子はTNC)にターゲティングタグがない場合の、肝、脳、血漿及びエクソソーム中での遺伝子回路の富化効果及びEGFR/TNCの発現量を示す。
【0087】
前記遺伝子回路の種類には、プロモーター-RNA断片、プロモーター-ターゲティングタグ、プロモーター-ターゲティングタグ-RNA断片が含まれている。
【0088】
図55~62は、2種類の異なるRNA断片、2種類の異なるターゲティングタグを任意に組み合わせた場合の検出結果を示す。具体的には、RNA断片1はsiR
EGFRであり、RNA断片2はsiR
TNCであり、ターゲティングタグ1はPTPであり、ターゲティングタグ2はRVGである。RNA断片とターゲティングタグを任意に組み合わせた後、EGFR siRNA、及びTNC siRNAの膵臓、脳、血漿及びエクソソーム中での富化効果及びEGFR及びTNCの発現量を検出する。
【0089】
より具体的には、前記遺伝子回路は、フランキング配列、補償配列、及びループ配列をさらに含む。フランキング配列、ループ配列、及び補償配列は、配列を正しい構造に折り畳んで発現させることができる配列である。
【0090】
前記遺伝子回路の種類には、5’-プロモーター-5’フランキング配列-RNA断片-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列、5’-プロモーター-ターゲティングタグ、5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-RNA断片-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列が含まれている。
【0091】
図63において、Albuminはプロモーター、RVGはターゲティングタグ、siR
EGFRはEGFRタンパク質を標的とするRNA断片である。RNA断片なしでは、遺伝子回路が機能しないため、Albumin-siR
EGFR及びAlbumin-RVG-siR
EGFRの2種類の遺伝子回路の血漿及び脳中での富化効果、並びにEGFRの発現量のみが検出される。
【0092】
前記5’フランキング配列は、好ましくは、ggatcctggaggcttgctgaaggctgtatgctgaattc又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、ggatcctggaggcttgctgaaggctgtatgctgaattcと85%、90%、92%、95%、98%、99%の相同性を有する配列などを含む。
【0093】
前記ループ配列は、好ましくは、gttttggccactgactgac又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、gttttggccactgactgacと85%、90%、92%、95%、98%、99%の相同性を有する配列等を含む。
【0094】
前記3’フランキング配列は、好ましくは、accggtcaggacacaaggcctgttactagcactcacatggaacaaatggcccagatctggccgcactcgag又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、accggtcaggacacaaggcctgttactagcactcacatggaacaaatggcccagatctggccgcactcgagと85%、90%、92%、95%、98%、99%の相同性を有する配列などを含む。
【0095】
前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の任意の1~5位の塩基が欠失されている。前記補償配列は、RNA断片に1つのRNA配列のみが含まれる場合、このRNA配列の逆相補配列であってもよく、その中の任意の1~5位の塩基が欠失されている。
【0096】
好ましくは、前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の任意の1~3位の塩基が欠失されている。前記補償配列は、RNA断片に1つのRNA配列のみが含まれる場合、このRNA配列の逆相補配列であってもよく、その中の任意の1~3位の塩基が欠失されている。
【0097】
より好ましくは、前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の任意の1~3位の連続して配列した塩基が欠失されている。前記補償配列は、RNA断片に1つのRNA配列のみが含まれる場合、このRNA配列の逆相補配列であってもよく、その中の任意の1~3位の連続して配列した塩基が欠失されている。
【0098】
最も好ましくは、前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の9位及び/又は10位の塩基が欠失されている。前記補償配列は、RNA断片に1つのRNA配列のみが含まれる場合、このRNA配列の逆相補配列であってもよく、その中の9位及び/又は10位が欠失されている。9位と10位の塩基の欠失が最も効果的である。
【0099】
なお、上記のフランキング配列、補償配列、ループ配列はすべて勝手に選択したのではなく、大量の理論研究と試験に基づいて決定したので、上記の特定のフランキング配列、補償配列、ループ配列の協力の下で、RNA断片の発現率を最大限に高めることができる。
【0100】
図64~66は、80%超の相同性を有する2種類の5’フランキング配列、ループ配列及び3’フランキング配列を送達システム(プラスミド)に構築した後、肺中での富化効果及び治療効果をそれぞれ示し、具体的には、
図64は、5’フランキング配列が80%超の相同性を有するプラスミドの肺での富化効果及び治療効果であり、
図65は、ループ配列が80%超の相同性を有するプラスミドの肺での富化効果及び治療効果であり、
図66は、3’フランキング配列が80%超の相同性を有するプラスミドの肺での富化効果及び治療効果である。
【0101】
【0102】
RNA断片は、1つ、2つ以上の医療的に意味があってかつ発現可能なRNA配列を含んでもよく、RNA配列はsiRNA配列、shRNA配列又はmiRNA配列であってもよいが、好ましくは、siRNA配列である。
【0103】
1つのRNA配列の長さが、15~25ヌクレオチド(nt)、好ましくは18~22nt、例えば、18nt、19nt、20nt、21nt、22ntであってもよい。この配列の長さの範囲はランダムに選択されたものではなく、試験を繰り返すことによって決定されたものである。大量の試験により、RNA配列の長さが18ntよりも短く、特に15ntよりも短い場合、このRNA配列はほとんど無効で、作用を発揮しないが、RNA配列の長さが22ntよりも長く、特に25ntよりも長い場合、回路のコストが大幅に向上するだけでなく、効果も長さが18~22ntのRNA配列より優れておらず、経済効果が悪いことが証明された。したがって、RNA配列の長さが15~25nt、特に18~22ntの場合、コストと作用の両立が最も効果的である。
【0104】
様々な長さのRNA配列を以下の表2に示す。
【表2】
【0105】
図67は、様々な長さのRNA配列によって構築された送達システム(プラスミド)の静脈注射後のEGFR発現量の検出をそれぞれ示し、その中で、RNA配列の長さがそれぞれ18、20、22のプラスミドはそれぞれCMV-siR
E(18)、CMV-siR
E(20)、CMV-siR
E(22)に対応している。
【0106】
好ましくは、上記RNA配列は、EGFR遺伝子のsiRNA、KRAS遺伝子のsiRNA、VEGFR遺伝子のsiRNA、mTOR遺伝子のsiRNA、TNF-α遺伝子のsiRNA、integrin-α遺伝子のsiRNA、B7遺伝子のsiRNA、TGF-β1遺伝子のsiRNA、H2-K遺伝子のsiRNA、H2-D遺伝子のsiRNA、H2-L遺伝子のsiRNA、HLA遺伝子のsiRNA、GDF15遺伝子のsiRNA、miRNA-21のアンチセンス鎖、miRNA-214のアンチセンス鎖、TNC遺伝子のsiRNA、PTP1B遺伝子のsiRNA、mHTT遺伝子のsiRNA、Lrrk2遺伝子のsiRNA、α-synuclein遺伝子のsiRNA、又は上記配列と80%超の相同性を有するRNA配列、又は上記RNAをコードする核酸分子から選択されるいずれか1つ又は複数である。
【0107】
上記の各種遺伝子のsiRNA及びmiRNAのアンチセンス鎖はいずれもこの遺伝子、miRNAの発現又は突然変異を阻害することにより、疾患を阻害する効果を達成することができる。これらの疾患には、癌、肺線維症、結腸炎、肥満、肥満に起因する心血管疾患、2型糖尿病、ハンチントン病、パーキンソン病、重症筋無力症、アルツハイマー病、移植片対宿主病、及びこれらに関連する疾患が含まれるが、これらに限定されない。ここで関連疾患とは、上記のいずれか1又は複数の疾患の発症又は進行の過程で発生する関連疾患、合併症、後遺症など、又は上記の疾患と一定の関連性を有する他の疾患をいう。ここで、癌には、胃癌、腎臓癌、肺癌、肝臓癌、脳癌、血液癌、腸癌、皮膚癌、リンパ癌、乳癌、膀胱癌、食道癌、頭頸部扁平上皮癌、血管腫、膠細胞腫、黒色腫が含まれるが、これらに限定されない。
【0108】
好ましくは、上記RNAは、その中のRNA配列(siRNA、shRNA、又はmiRNA)をリボース修飾することによって得られてもよく、2’フルオロピリミジン修飾が好ましい。2’フルオロピリミジン修飾はsiRNA、shRNA又はmiRNA上のピリミジンヌクレオチドの2’-OHを2’-Fで置換することであり、2’-Fは、人体内のRNA酵素をsiRNA、shRNA又はmiRNAを識別しにくくすることができ、このようにRNAの体内送達の安定性を高めることができる。
【0109】
ターゲティングタグは、ターゲティング機能を有するターゲティングペプチド、ターゲティングタンパク質又は抗体から選択される1種であってもよい。ターゲティングペプチドには、RVGターゲティングペプチド(ヌクレオチド配列はSEQ ID No:1で示される)、GE11ターゲティングペプチド(ヌクレオチド配列はSEQ ID No:2で示される)、PTPターゲティングペプチド(ヌクレオチド配列はSEQ ID No:3で示される)、TCP-1ターゲティングペプチド(ヌクレオチド配列はSEQ ID No:4で示される)、MSPターゲティングペプチド(ヌクレオチド配列はSEQ ID No:5で示される)が含まれるが、これらに限定されない。ターゲティングタンパク質には、RVG-LAMP2B融合タンパク質(ヌクレオチド配列はSEQ ID No:6で示される)、GE11-LAMP2B融合タンパク質(ヌクレオチド配列はSEQ ID No:7で示される)、PTP-LAMP2B融合タンパク質(ヌクレオチド配列はSEQ ID No:8で示される)、TCP-1-LAMP2B融合タンパク質(ヌクレオチド配列はSEQ ID No:9で示される)、MSP-LAMP2B融合タンパク質(ヌクレオチド配列はSEQ ID No:10で示される)が含まれるが、これらに限定されない。
【0110】
その中で、RVGターゲティングペプチド、RVG-LAMP2B融合タンパク質は、脳組織を正確に標的化することができる。GE11ターゲティングペプチド、GE11-LAMP2B融合タンパク質は、EGFR高発現器官組織、例えばEGFR突然変異肺癌組織を正確に標的化することができる。PTPターゲティングペプチド、PTP-LAMP2B融合タンパク質は、膵臓、特にヒト由来とマウス由来の膵臓癌組織中に特異的に発現するplectin-1タンパク質を正確に標的化することができる。TCP-1ターゲティングペプチド、TCP-1-LAMP2B融合タンパク質は、結腸を正確に標的化することができる。MSPターゲティングペプチド、MSP-LAMP2B融合タンパク質は、筋肉組織を正確に標的化することができる。
【0111】
実際の応用において、ターゲティングタグは各種の異なるRNA断片と柔軟に組み合わせることができ、異なるターゲティングタグを異なるRNA断片と組み合わせることにより、様々な作用を果たすことができる。例えば、RVGターゲティングペプチド、RVG-LAMP2B融合タンパク質は、EGFR遺伝子のsiRNA、TNC遺伝子のsiRNA、又は両者の組み合わせと組み合わせて膠芽腫を治療することができ、また、PTP1B遺伝子のsiRNAと組み合わせて肥満を治療することができ、また、mHTT遺伝子のsiRNAと組み合わせてハンチントン舞踏症を治療することができ、また、LRRK2遺伝子のsiRNAと組み合わせてパーキンソンを治療することができる。GE11ターゲティングペプチド、GE11-LAMP2B融合タンパク質は、EGFR遺伝子のsiRNAと組み合わせて、EGFR遺伝子の高発現又は突然変異によって誘導される肺癌などの疾患を治療することができる。TCP-1ターゲティングペプチド又はTCP-1-LAMP2B融合タンパク質は、TNF-α遺伝子のsiRNA、integrin-α遺伝子のsiRNA、B7遺伝子のsiRNA、又はこれら3つの任意の組み合わせと組み合わせて結腸炎又は結腸癌などを治療することができる。
【0112】
なお、本願による遺伝子回路は、RNA断片のみを含んでもよいし、ターゲティングタグのみを含んでもよいし、RNA断片とターゲティングタグを組み合わせたものであってもよい。該遺伝子回路は、RNA断片のみを含む場合体内に入って遺伝子発現を阻害する作用を発揮し、それによって、疾患の発症及び進行を阻害することができ、ターゲティングタグのみを含む場合、極めて優れたターゲティング機能を持ち、RNA断片のみを含む遺伝子回路と併用されて、RNA断片が標的器官や標的組織に速く送達されて作用を発揮するようにし、RNA断片とターゲティングタグを組み合わせたものである場合、ターゲティング機能と治療機能の両方を持ち、標的器官及び標的組織に効率的かつ正確に送達されて治療作用を発揮することができ、効率が高く、効果が良好であり、大規模な普及や応用に好適である。
実施例2
【0113】
実施例1に基づいて、本実施例は、実施例1に記載の遺伝子回路と、前記遺伝子回路を宿主の器官組織に送達して富化させることができる送達ベクターと、を含むRNA送達システムを提供する。
【0114】
遺伝子回路を担持した送達ベクターは、宿主の器官組織内で富化し、前記宿主の器官組織内に複合構造を内因的に自発的に形成することができ、ターゲティングタグは複合構造の表面に位置し、前記複合構造は、ターゲティングタグを介して標的組織を探索し結合し、標的組織に前記RNA断片を送達する。上記器官組織は肝臓であり、複合構造はエクソソームであり、標的組織は治療が必要となる器官又は組織である。
【0115】
具体的には、肝臓は外因性送達ベクターを飲み込み、99%までの外因性送達ベクターは肝臓に入るため、外因性送達ベクターには特異性設計をする必要がなく、外因性送達ベクターは肝臓組織中に富化することができ、その後外因性送達ベクターが開かれ、RNA断片(siRNA、shRNA又はmiRNA)が放出され、肝臓組織は上記のRNA断片をエクソソーム内に自発的に包み込み(自己集合)、これらのエクソソームはRNA送達機構になる。
【0116】
siRNA配列前駆体を以下の表3に示す。
【表3】
【0117】
好ましくは、このRNA送達機構(エクソソーム)に「正確な誘導」能力を持たせるために、送達ベクターの遺伝子回路にターゲティングタグが設計され、このターゲティングタグも肝臓組織によってエクソソームに自己集合され、特にある特定のターゲティングタグを選択すると、ターゲティングタグはエクソソームの表面に挿入され、それによってエクソソームを誘導することができるターゲティング構造となり、例えばターゲティングタグがターゲティングタンパク質である場合、ターゲティングタグは膜タンパク質(好ましくはLamp2b)を介してエクソソームの表面にアンカーされ、エクソソームを誘導して標的組織に送達し、これは本発明に記載されたRNA送達システムの正確性を大幅に向上させ、一方では導入する必要のある外因性送達ベクターの使用量を大幅に減少させることができ、他方では潜在的な薬物送達効率を大幅に向上させることができる。
【0118】
実際の応用において、該送達ベクターは、1つの、2つ以上の実施例1に記載の遺伝子回路を担持してもよい。例えば、神経膠腫を治療する場合、同一の送達ベクターにEGFR遺伝子siRNAを含む遺伝子回路とTNC遺伝子siRNAを含む遺伝子回路(ターゲティングタグを含んでもよく、含まなくてもよいが、ターゲティングタグを含む方は効果がより優れた)が併用されてもよく、腸炎を治療する場合、同一の送達ベクターにTNF-α遺伝子siRNAを含む遺伝子回路、integrin-α遺伝子siRNAを含む遺伝子回路、及びB7遺伝子siRNAを含む遺伝子回路(ターゲティングタグを含んでもよく、含まなくてもよいが、ターゲティングタグを含む方は効果がより優れた)が設置されてもよく、ハンチントン舞踏症を治療する場合、1つの送達ベクターにmHTT遺伝子siRNAを含む遺伝子回路が設置されてもよく、また、mHTT遺伝子siRNAとターゲティングタグの両方を含む遺伝子回路が設置されてもよく、mHTT遺伝子siRNAを含む遺伝子回路とターゲティングタグを含む遺伝子回路が設置されてもよい。
【0119】
送達ベクターが2つ以上の遺伝子回路を担持する場合、隣接する遺伝子回路は、配列1-配列2-配列3で連結されてもよく、ここで、配列1はCAGATCであることが好ましく、配列2は5~80塩基からなる配列、例えば10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75塩基からなる配列、好ましくは、10~50塩基からなる配列、より好ましくは20~40塩基からなる配列であってもよく、配列3はTGGATCであることが好ましい。
【0120】
より好ましくは、送達ベクターが2つ以上の遺伝子回路を担持する場合、隣接する遺伝子回路は、配列4又は配列4と80%超の相同性を有する配列で連結され、配列4は、CAGATCTGGCCGCACTCGAGGTAGTGAGTCGACCAGTGGATCである。
【0121】
図68は、配列4及び2条与配列4が80%超の相同性を有する配列4-1、4-2によって構築される送達システムの静脈注射9時間後の肺部組織のEGFR siRNA含有量の検出結果を示す。
【0122】
【0123】
同一送達ベクターに「siRNA1」と「siRNA2」を併用する例では、該送達ベクターの機能構造領域は、(プロモーター-siRNA1)-連続配列-(プロモーター-siRNA2)-連続配列-(プロモーター-ターゲティングタグ)、又は(プロモーター-ターゲティングタグ-siRNA1)-連続配列-(プロモーター-ターゲティングタグ-siRNA2)、又は(プロモーター-siRNA1)-連続配列-(プロモーター-ターゲティングタグ-siRNA2)などと表現することができる。
【0124】
より具体的には、該送達ベクターの機能構造領域は、(5’-プロモーター-5’フランキング配列-siRNA1-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列)-連続配列-(5’-プロモーター-5’フランキング配列-siRNA2-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列)-連続配列-(5’-プロモーター-ターゲティングタグ)、又は(5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-siRNA1-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列)-連続配列-(5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-siRNA2-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列)、又は(5’-プロモーター-5’フランキング配列-siRNA1-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列)-連続配列-(5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-siRNA2-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列)、(5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-siRNA1-siRNA2-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列)などと表現することができる。その他の場合は同様に類推することができるので、ここでは詳しく説明しない。上記連結配列は、「配列1-配列2-配列3」又は「配列4」としてもよく、1つの括弧は完全な遺伝子回路を表す。
【0125】
本実施例では、前記送達ベクターは、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターであってもよく、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターを含み、非ウイルスベクターは、プラスミドベクター、リポソームベクター、カチオン性ポリマーベクター、ナノ粒子ベクター、多機能エンベロープナノベクターを含む。
【0126】
好ましくは、送達ベクターは、アデノ随伴ウイルスベクター又はプラスミドベクターである。アデノ随伴ウイルスベクターは、より好ましくは、アデノ随伴ウイルスベクター5型、アデノ随伴ウイルスベクター8型又はアデノ随伴ウイルスベクター9型である。
【0127】
以上の送達システムは、いずれもヒトを含む哺乳動物で使用され得る。
【0128】
遺伝子回路を構築し、その自己集合及び放出を検証するために、以下の試験を行った。
【0129】
まず、
図53aに示すように、遺伝子回路のインフラストラクチャを合理的に設計し、異なる機能モジュールを自由に組み合わせることができるようにした。コア回路はプロモーター部分とsiRNA発現部分からなり、siRNAを産生して組織し、エクソソーム(exosomes)のペイロードとすることを目的とする。他の組み合わせ可能なコンポーネント(プラグイン)は、プラグアンドプレイ機能を実現するためにコア回路のフレームワークに統合することができる。例えば、2種類の組み合わせ可能な部分を結合してsiRNAの作用を最適化する。一方は、エクソンの膜アンカータンパク質を修飾して組織選択性を実現し、他方は、2つの分子標的を同時に阻害するために、2つ目のsiRNAを共発現することができる。
【0130】
コア回路構築物については、
図53aに示すように、ガイド鎖(guide strand)の発現を最大化しながら、望ましくないパッセンジャー鎖(passenger strand)の発現を最小化するために、プロモーター部分の制御下で最適化されたsiRNA発現骨格部分をコード化するスキームを設計した。上皮成長因子受容体(Epidermal growth factor receptor、EGFR)は、多くのヒト腫瘍(例えば、肺癌や膠芽腫)において頻繁に突然変異し、高発現する癌遺伝子であり、siRNA標的として選択された。そして、ヒト胚腎293t細胞(HEK293T)とマウス肝癌細胞(hep1-6)をsiRNA生体外集合用のシャーシ細胞(cell chassis)として選択した。siRNAの産生効率を最適化するために、以下の2種類の設計スキームを比較した。一方は、CMVプロモーターを用いてmiRNA前駆体(pre-miRNA)を発現し、miRNA配列をsiRNAで置換することであり、他方は、U6プロモーターを用いて短いヘアピンRNA(shRNA)を発現することである。まず、一連のmiRNA前駆体の構造を研究し、siRNAを産生する最適な骨格としてpre-miR-155を選択した。次に、
図53bに示すように、EGFR siRNA(CMV-siR
E)及びU6指向性EGFR shRNA(U6-siR
E)をコードするCMV指向性(CMV-directed)のpre-miRNAのsiRNA産生効率を比較した。2つのスキームは、EGFR siRNAガイド鎖の転写を駆動する面で類似の効率を持っているが、
図53bに示すように、pre-miRNA法は、shRNA法に比べて、生成されたパッセンジャー鎖がより少ないか、又は生成されない(成熟したガイド鎖の生物発生過程で、パッセンジャー鎖は分解されるようである)。そのため、オフターゲット効果を回避するために、CMV駆動pre-miRNAを選択して設計するようにした。
【0131】
次に、コア遺伝子回路がエクソソームに自律的に組み込むようにsiRNAを誘導できるか否かを調べる。CMV-scrR又はCMV-siR
E遺伝子を用いてHEK293T細胞をトランスフェクトし、細胞培養液中のエクソソームを観察した。ナノ粒子追跡分析(NTA)により、各群が分泌したエクソソームは、数が類似し、大きさの分布が類似し、ピーク値が128~131nmの間であることが示された。透過型電子顕微鏡(TEM)により、精製したエクソソームは典型的な円形小胞形態を呈し、大きさが正確であることを証明した。さらに、特定のエクソンマーカー(CD63、TSG101及びCD9)の富化は、精製エクソームでのみ検出され、細胞培地では検出されなかった。これらの結果は、遺伝子回路トランスフェクションが、HEK293T細胞が産生するエクソームの大きさ、構造や量に影響を及ぼさないことを示している。最後に、CMV-siR
E回路でトランスフェクションされたHEK293T及びHepa1-6細胞由来のエクソソームからは、
図53cに示すように、大量のEGFR siRNAが検出された。
図53d、
図53eに示すように、これらのエクソソームは、マウスLewis肺癌(LLC)細胞と一緒にインキュベートする時、EGFR発現の用量依存性が低下し、このことから、エクソソームsiRNAが生物学的機能を有することが示唆された。
【0132】
遺伝子回路のターゲティングタグを設計するために、
図53aに示すように、Lamp2bタンパク質(典型的なエクソソーム膜タンパク質)のN末端に融合したターゲティングタグをコードする配列をCMVプロモーターの下流に挿入した。このタグはLamp2bを介してエクソソームの表面にアンカーされ、それによって、複合構造エクソソームを所望の組織に送達するように誘導する。具体的には、RVGペプチドを標的とする中枢神経系を標識として選択し、エクソソームを脳に導入し(RVGはエクソソームが血液脳関門を通過して神経細胞に入るのを助けることが証明されている)、まず、プロモーターがRVG-Lamp2b融合タンパク質の発現を開始する効率を評価した。試験により、CMVプロモーターはHEK293T細胞におけるRVG-Lamp2b mRNAと標識タンパク質eGFPの産生に一定の効果があることが証明されたが、U6プロモーターには効果がなく、このことから、CMVプロモーターが遺伝子回路の各部分に連結されたことによる優位性が実証された。次に、免疫沈殿法を用いて、ターゲティングタグがエクソソーム表面で正しく発現していることをガイドして検証した。試験では、抗RVG抗体が一時的に不足していたため、RVGの代わりにFlagタグを一時的に使用した。
図53fに示すように、CMVガイドFlag-Lamp2b回路を用いてHEK293TとHepa1-6細胞をトランスフェクションした後、抗Flagビーズを用いて完全なエクソソームを免疫沈殿させることに成功し、このことから、ターゲティングタグを正確に位置決めすることが証明された。追加のsiRNA発現部分を設計するために、多くの癌、特に膠芽腫に関連する主要な癌遺伝子tenascin-C(TNC)を第2のsiRNA標的として使用した。TNC-siRNAも、
図53に示すように、前miR-155骨格に埋め込まれ、EGFR-siRNAの下流に挿入されている。
図53gに示すように、単一(CMV siR
E又はCMV siR
T)の転写かタンデム(CMV siR
E)転写かにかかわらず、EGFRとTNC siRNAの差がほとんど検出されなかった。いずれにせよ、これらの結果は、siRNAもターゲティングタグも、遺伝子回路においてそれぞれの役割を果たすことを示唆している。
【0133】
さらに、AGO2は生体内で広く発現し、RNA誘導サイレンシング複合体の中核成分であり、エンドリボヌクレアーゼ活性を有し、siRNAの成熟を促進し、その生合成と機能を調節することにより、標的遺伝子の発現を阻害することができる。
siRNAの加工はArgonaute2(AGO2)に依存しており、siRNAをAGO2に適切に組み込むことでsiRNAのターゲティング作用を高めることが期待されることから、AGO2とエクソソーム中のsiRNAとの関連を評価するために別の免疫沈殿実験を行った。試験により、AGO2抗体(anti-AGO2)で沈殿させたエクソソーム中にEGFR及びTNC siRNAが容易に検出できることが証明され、これは、我々の設計がsiRNAをRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)にロードすることを保証し、AGO2が結合されるsiRNAのエクソソームへの効率的な輸送を促進することを明らかにした。最後に、生体外で集合されたsiRNAが機能するか否かを調べるために、CMV-RVG-siR
E+T回路でトランスフェクションされたHEK293T細胞由来のエクソソームをU87MG膠芽腫細胞と共にインキュベートした。
図53i、
図53jに示すように、U87MG細胞においてEGFRとTNC発現の用量依存性の低下を実現した。さらに、エクソソームの表面にあるRVGタグは、EGFR及びTNC siRNAの標的に対するサイレンシング効果に影響を与えなかった。これらの結果は、回路を複数の組み合わせ可能な部分の有機的な結合として確立し、これらの部分の巧みな結合がRNAの自己集合と放出を可能にした。
【0134】
要するに、本実施例によるRNA送達システムは、遺伝子回路を送達ベクターに付着させて、体内に送達し、この遺伝子回路は、宿主の器官組織内でよく富化し、自己集合して複合構造を形成し、最終的に効果を発揮するRNA断片は該複合構造によって包まれて送達され、免疫反応は一切存在せず、安全性が高く、特に、RNA断片はAGO2タンパク質と結合されて、送達効率及び遺伝子阻害効果ヲ高めることもできる。該送達システムは、各種の小分子RNAを送達することができ、汎用性が高い。遺伝子回路を付着させる送達ベクターの製造はエクソソームやタンパク質、ポリペプチドなどの物質の製造よりも安価で経済的であり、プロセスがより簡単で、品質の標準化に有利であり、使用時の安定性を向上させ、経済性が高い。
実施例3
【0135】
実施例2に基づいて、本実施例は、送達ベクターとしてプラスミドを用いたRNA送達システムを提供する。
【0136】
図1Aに示すように、プラスミドの体内での分布を理解するために、マウスに平板試験を行い、
図1Aに示すように、マウスにプラスミドを注射した後、時点(1h、3h、6h、9h、12h、24h、72h、168h、720h)でサンプリングし、スペクチノマイシンで抽出したプラスミドを用いて形質転換を行い、肝臓、血漿、肺、脳、腎臓、脾臓中のクローンの数を観察した結果、
図1B、
図1C、
図1Dに示すように、プラスミドはマウスの肝臓中に最も多く分布し、注射後約3hにピークに達し、注射12h後には、すでに基本的に代謝されていることがわかった。
【0137】
eGFPタンパク質とEGFR siRNAを共発現したCMV eGFP siR
E遺伝子回路(circuit)をC57BL/6Jマウスに静脈注射した結果、
図2に示すように、時間の経過とともにマウスの肝臓内のeGFP蛍光は徐々に増強し、約12時間でピークに達し、48時間で背景レベルまで低下し、他の組織では明らかなeGFPシグナルは見られなかった。
【0138】
対照プラスミド(CMV-scrR)、EGFR siRNA発現プラスミド(CMV-siR
E)をそれぞれマウスに注射し、マウス肝細胞の生体外モデルを作成し、CMV-scrRとCMV-siR
Eを注射したマウスの肝細胞エクソソーム中のsiRNAレベルをそれぞれ検出した結果、
図3Aに示すように、CMV-siR
Eを注射したマウスの肝細胞エクソソームにsiRNAの発現が存在することを認めた。
【0139】
一般に、Ago2タンパク質との結合がsiRNAの機能に必要な条件であると考えており、すなわち、エクソソーム中のsiRNAがAgo2タンパク質と結合することができるので、Ago2免疫沈殿実験を行い、その結果を
図3B、
図3Cに示す。ここで、Inputは免疫沈殿を介さずにエクソソームを直接開裂して検出したサンプルであり、陽性対照を表している。
【0140】
マウスにプラスミドを静脈注射した後、成熟siRNAの様々な組織における分布を
図4に示す。
図4Aから、血漿、エクソソーム、エクソソームフリーの血漿中のEGFR-siRNAレベルは時間依存的に変化することがわかった。
図4Bから、マウスEGFR-siRNAの肝、肺、膵臓、脾臓、腎臓への蓄積に時間依存性があることが分かった。
【0141】
対照プラスミド(CMV-scrR)、0.05mg/kgのCMV-siR
Eプラスミド、0.5mg/kgのCMV-siR
Eプラスミド、5mg/kgのCMV-siR
Eプラスミドをマウスにそれぞれ注射し、マウスの肝臓、脾臓、心臓、肺、腎臓、膵臓、脳、骨格筋、CD4
+細胞中の絶対siRNA(EGFR siRNA)レベルを検出した結果、
図5Aに示すように、対照プラスミドを注射したマウスの組織では、siRNAの発現がなく、CMV-siR
Eプラスミドを注射したマウスでは、各組織におけるsiRNA発現レベルとCMV-siR
Eプラスミド濃度は正の相関を示すことが分かった。
図5Bに示すように、蛍光in situハイブリダイゼーション試験(FISH)でも、siRNA発現レベルとCMV-siR
Eプラスミド濃度は正の相関を示し、すなわちEGFR siRNAの組織中の分布には用量依存性があることが確認された。
【0142】
プラスミドは体内に入ると前駆体(Precursor)を発現し、成熟体(siRNA)に加工されるので、プラスミドを注射した後のマウスの肝臓における前駆体(Precursor)と成熟体(siRNA)の代謝を調べ、その結果を
図6に示す。プラスミド注射6時間後の時点で、マウスの肝臓における前駆体(Precursor)と成熟体(siRNA)の発現レベルがピークに達し、プラスミド注射36時間後では、マウスの肝臓における成熟体(siRNA)の代謝が完了し、プラスミド注射48時間後では、マウスの肝臓における前駆体(Precursor)の代謝が完了していることがわかった。
【0143】
マウスの総胆管に外因性siRNAを注射した後、マウスのエクソソームフリー血漿(exosome-free)、エクソソーム(exosome)、血漿中の絶対siRNAレベルをそれぞれ検出し、その結果を
図7Aに示す。マウスの総胆管に外因性siRNAを注射した後、マウスの脾臓、心臓、肺、腎臓、膵臓、脳、骨格筋、CD4
+細胞中のsiRNAのレベルをそれぞれ検出し、その結果を
図7Bに示す。この2つの図は、異なる組織におけるsiRNAの動態学がほぼ同じであり、異なる組織におけるsiRNAの分布には有意差があることを反映している。
【0144】
アルブミンALBをプロモーターとするsiRNA、CMVをプロモーターとするsiRNA、プロモーターを含まないsiRNAをそれぞれマウスの体内に静脈注射し、注射後0h、3h、6h、9h、12h、24h、36h、48hにそれぞれマウスの体内の絶対siRNAレベルを検出し、その結果を
図8に示す。マウスの体内では、CMVをプロモーターとするsiRNAのレベルが最も高く、すなわち、CMVをプロモーターとする効果が最も優れていることがわかった。
【0145】
自己集合したeGFP siRNAによるマウスの体内のeGFPレベルに対する阻害を以下のように蛍光試験により観察した。eGFPトランスジェニックマウスにPBS又は5mg/kg CMV-siR
G又はCMV-RVG-siR
Gプラスミドを静脈注射し、治療24時間後にマウスを殺し、冷凍切片中でそのeGFP蛍光レベルを検出し、
図9Aには代表的な蛍光顕微鏡画像が示されており、ここで、緑色は陽性eGFPシグナルを示し、青色はDAPI染色の細胞核を示し、縮尺は100μmである。CMV-RVG-siR
GプラスミドはマウスのeGFPに対する阻害効果がより明らかであることが分かった。eGFPトランスジェニックマウスにPBS又はCMV-scrR又はCMV-siR
Eプラスミドを静脈注射し、治療24時間後にマウスを殺し、冷凍切片中でそのeGFP蛍光レベルを検出し、
図9BはPBS、CMV-siR
E、CMV-RVG-siR
Eを注射したマウスの心臓、肺、腎臓、膵臓、脳、骨格筋の蛍光強度(Fluorescence intensity)の比較棒グラフであり、マウスの肝臓、脾臓、肺、腎臓部位での蛍光強度のコントラストはさらに明らかであることが分かった。
【0146】
PBS、CMV-scrR、CMV-siR
Eを注射したマウスについて、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、総ビリルビン(TBIL)、血中尿素窒素(BUN)、血清アルカリホスファターゼ(ALP)、クレアチニン(CREA)含有量及び胸腺重量、脾臓重量、末梢血球のパーセンテージ(percentage peripheral blood cells)をそれぞれ検出し、それらの結果を
図10に示し、
図10A~Fは、それぞれ、PBS、CMV-scrR、CMV-siR
Eをそれぞれ注射したマウスのアラニンアミノトランスフェラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、総ビリルビン、血中尿素窒素、血清アルカリホスファターゼ、クレアチニン含有量の比較図であり、
図10Gは、マウスの肝臓、肺、脾臓、腎臓組織の比較図であり、
図10H~Iは、マウスの胸腺、脾臓組織の比較図であり、
図10Jは、マウスの末梢血球のパーセンテージ(percentage in peripheral blood cells)の比較図である。
【0147】
その結果、PBS、CMV-scrR、CMV-siREを注射したマウスでは、ALT、ASTなどの含有量及び胸腺重量、脾臓重量、末梢血球のパーセンテージはほとんど変わらず、CMV-siREを注射したマウスは、PBSを注射したマウスに比べ、肝臓、肺、脾臓、腎臓にも組織損傷がなかった。
【0148】
従って、本実施例によるRNA送達システムは、プラスミドをベクターとし、プラスミドを成熟した注入物とし、その安全性及び信頼性が十分に検証されており、創薬性が非常に良好である。最終的に効果を発揮するRNA配列は内因性エクソソームに包み込まれて送達され、免疫反応は一切存在せず、このエクソソームの安全性を検証する必要はない。この送達システムは、各種の小分子RNAを送達することができ、汎用性が高い。またプラスミドの製造はエクソソームやタンパク質、ポリペプチドなどの物質の製造よりも安価で経済的である。本実施例によるRNA送達システムは、生体内で自己集合された後、AGO2と緊密に結合して富化して複合構造(エクソソーム)になることができ、これにより、その早期分解を防止し、循環中の安定性を維持することができるだけではなく、受容体細胞による吸収、細胞質内での放出、及びリソソームの脱出に有利であり、必要な用量は低い。
実施例4
【0149】
実施例2に基づいて、本実施例は、RNA送達システムを提供し、該送達システムに使用される送達ベクターはウイルスである。該ウイルスは、実施例1に記載の遺伝子回路を担持することができ、宿主の器官組織内で富化し、前記宿主の器官組織内にRNA断片を含有するとともにターゲティング構造を有する複合構造を内因的に自発的に形成することができ、前記複合構造はターゲティング構造を介して標的組織を探索し結合し、標的組織に前記RNA断片を送達することができる。
【0150】
本実施例による、ウイルスベクターに基づくRNA送達システムは、ウイルスをベクターとし、ウイルスベクターを成熟した注入物とし、その安全性及び信頼性が十分に検証されており、創薬性が非常に良好である。最終的に効果を発揮するRNA配列は内因性エクソソームに包み込まれて送達され、免疫反応は一切存在せず、このエクソソームの安全性を検証する必要はない。この送達システムは、各種の小分子RNAを送達することができ、汎用性が高い。またウイルスベクターの製造はエクソソームやタンパク質、ポリペプチドなどの物質の製造よりも安価で経済的である。本実施例による、ウイルスベクターに基づくRNA送達システムは、生体内で自己集合された後、AGO2と緊密に結合して富化して複合構造(エクソソーム)になることができ、これにより、その早期分解を防止し、循環中の安定性を維持することができるだけではなく、受容体細胞による吸収、細胞質内での放出、及びリソソームの脱出に有利であり、必要な用量は低い。
実施例5
【0151】
実施例1~2に基づいて、本実施例は薬物を提供する。該薬物は送達ベクターを含み、前記送達ベクターは、実施例1に記載の遺伝子回路を担持し、宿主の器官組織内で富化し、前記宿主の器官組織内にRNA断片を含有するとともにターゲティング構造を有する複合構造を内因的に自発的に形成することができ、前記複合構造はターゲティング構造を介して標的組織を探索し結合し、標的組織に前記RNA断片を送達することができる。
【0152】
該薬物は、経口投与、吸入投与、皮下注射投与、筋肉注射投与又は静脈注射投与により人体に入った後、実施例2に記載のRNA送達システムによって標的組織に送達され、治療作用を発揮することができる。
【0153】
該薬物は、癌、肺線維症、結腸炎、肥満、肥満に起因する心血管疾患、2型糖尿病、ハンチントン病、パーキンソン病、重症筋無力症、アルツハイマー病、移植片対宿主病、及びそれらの関連疾患を治療する薬物であってもよい。
【0154】
本実施例の薬物は、希釈剤、緩衝剤、乳剤、カプセル化剤、賦形剤、充填剤、バインダ、スプレー剤、経皮吸収剤、湿潤剤、崩壊剤、吸収促進剤、界面活性剤、着色剤、矯味剤、アジュバント、乾燥剤、吸着担体などを含むがこれに限定されない、薬学的に許容される担体をさらに含んでもよい。
【0155】
本実施例による薬物の剤形は、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸薬、座薬、軟膏剤、溶液剤、懸濁剤、ローション剤、ゲル剤、ペースト剤などであってもよい。
【0156】
薬物中の送達ベクター、遺伝子回路、ターゲティングタグなどの説明につては、実施例1および実施例2を参照することができるので、ここでは詳しく説明しない。
【0157】
本実施例では、RNA送達システムは、薬物に使用されると、薬物送達プラットフォームを提供し、このプラットフォームを通じてより多くのRNA系薬物の研究開発基盤が提供され得、RNA系薬物の研究開発及び使用に極めて大きな推進効果をもたらすことができる。
実施例6
【0158】
実施例3に基づいて、本実施例は、薬物におけるRNA送達システムの使用を提供し、該RNA送達システムに使用される送達ベクターはプラスミドであり、該薬物は肺癌治療薬である。以下の試験により具体的に説明する。
【0159】
図11Aに示すように、マウスを選択し、マウスの体内にマウス肺癌細胞(LLC細胞)を注射した後、PBS緩衝液/CMV-scrR/ゲフィチニブ/CMV-siR
Eをマウスに2日ごとに注射して治療を行い、マウスの生存分析と腫瘍評価をそれぞれ行い、30日目に治療を開始し、44日目に治療を終了した。ここで、CMV-scrRは対照プラスミド、CMV-siR
EはEGFR siRNA遺伝子回路を担持したプラスミドを表す。
【0160】
図11Bに示すように、横軸は時間、縦軸は生存率を表しており、この図から、CMV-siR
Eを注射したマウスは最も生存率が高かったことが分かった。
【0161】
図11Cに示すように、PBS緩衝液/CMV-scrR/ゲフィチニブ/CMV-siR
Eを注射したマウスの治療前と治療後に、CT画像に基づいてマウスの肺組織を3Dモデル化したところ、CMV-siR
Eを注射したマウスでは、腫瘍が著しく減少することが分かった。
【0162】
図11Dに示すように、この図は、PBS緩衝液/CMV-scrR/ゲフィチニブ/CMV-siR
Eを注射したマウスの治療前と治療後のマウスの腫瘍体積(mm
3)の比較図であり、CMV-siR
Eを注射したマウスでは、腫瘍体積が著しく減少した。一方、PBS緩衝液/CMV-scrR/ゲフィチニブを注射したマウスでは、腫瘍体積が減少しないだけでなく、程度が異なるが、増加を示すことが分かった。
【0163】
図11Eに示すように、この図は、正常マウス、PBS緩衝液/CMV-scrR/ゲフィチニブ/CMV-si
REを注射したマウスのwestern blot比較図であり、PBS緩衝液/CMV-scrR/ゲフィチニブを注射したマウスでは、EGFR遺伝子含有量が有意に高いことが分かった。
【0164】
図11Fに示すように、この図は、正常マウス、PBS緩衝液/CMV-scrR/ゲフィチニブ/CMV-siR
Eを注射したマウスのEGFR miRNAレベルの比較図であり、PBS緩衝液/CMV-scrR/ゲフィチニブを注射したマウスでは、関連EGFR miRNAレベルが高いことが分かった。
【0165】
以上から、CMV-siREは、EGFR突然変異肺癌腫瘍に対して顕著な治療効果を有する。
【0166】
PBS緩衝液/CMV-scrR/ゲフィチニブ/CMV-siR
Eを注射したマウスのそれぞれにHE染色と免疫組織染色を行った結果、
図12A~
図12Bに示すように、PBS緩衝液/CMV-scrR/ゲフィチニブを注射したマウスでは、EGFRはより多く発現していた。マウスにおけるEGFRとPCNAの着色面積を統計した結果、
図12C~
図12Dに示すように、CMV-siR
Eを注射したマウスでは、EGFRとPCNAの着色面積はいずれも最も少なく、EGFR突然変異肺癌腫瘍に対する治療効果が最も良いことが分かった。
【0167】
図13Aに示すように、KRAS
G12Dp53
-/-マウスを選択し、Adv-Cre吸入後50日目から64日目まで、PBS緩衝液/CMV-scrR/ゲフィチニブ/CMV-siR
Eをマウスに2日ごとに注射して治療を行い、マウスの生存分析と腫瘍評価をそれぞれ行った。ここで、CMV-siR
KはKRAS siRNA遺伝子回路を担持したプラスミドを表す。
【0168】
図13Bに示すように、横軸は感染後の時間、縦軸は生存率を表しており、この図から、CMV-siR
Kを注射したマウスでは、生存率が高いことが分かった。
【0169】
図13Cに示すように、CMV-scrR/CMV-siR
Kを注射したマウスの治療前と治療後にCT画像に基づいてマウスの肺組織を3Dモデル化したところ、CMV-siR
Kを注射することにより、肺癌腫瘍の増殖を著しく阻害することが分かった。
【0170】
図13Dに示すように、この図は、CMV-scrR/CMV-siR
Kを注射したマウスの治療前と治療後の腫瘍数の比較図であり、CMV-siR
Kを注射したマウスでは、腫瘍数の増加が著しく少ないことが分かった。
【0171】
図13Eに示すように、この図は、CMV-scrR/CMV-siR
Kを注射したマウスの治療前と治療後の腫瘍数(mm
3)の比較図であり、CMV-siR
Kを注射したマウスでは、腫瘍体積の増加が緩慢である。一方、CMV-scrRを注射したマウスでは、腫瘍体積の増加が顕著であることが分かった。
【0172】
図13Fに示すように、この図は、CMV-scrR/CMV-siR
Kを注射したマウスのwestern blot比較図であり、CMV-scrRを注射したマウスでは、KRAS遺伝子含有量が有意に高いことが分かった。
【0173】
図13Gに示すように、この図は、CMV-scrR/CMV-siR
Kを注射したマウスの関連KRAS mRNAレベルの比較図であり、CMV-scrRを注射したマウスでは、関連KRAS mRNAレベルが高いことが分かった。
【0174】
以上から、CMV-siRKは、KRAS突然変異肺癌腫瘍に対して顕著な治療効果を有する。
【0175】
CMV-scrR/CMV-siR
Kを注射したマウスのそれぞれにHE染色と免疫組織染色を行った結果、
図14A、
図14D、
図14Eに示すように、CMV-scrRを注射したマウスでは、KRAS、p-AKT、p-ERKの発現が多く、着色率が高いことが分かった。western blotウエスタンブロット法を用いてマウスの体内の関連タンパク質の発現レベルを検出した結果、
図14B、
図14Cに示すように、CMV-scrRを注射したマウスでは、関連タンパク質がより多く発現した。これも、CMV-siR
KがKRAS突然変異肺癌腫瘍に対して顕著な阻害作用を有することを示唆した。
実施例7
【0176】
実施例4に基づいて、本実施例は、薬物におけるRNA送達システムの使用を提供し、該RNA送達システムに使用される送達ベクターはウイルスであり、該薬物は肺癌治療薬である。本実施例では、肺癌治療におけるウイルスベクターに基づくRNA送達システムの効果について、以下の4つの試験により具体的に説明する。
【0177】
第1の試験では、肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いて、EGFR siRNAシステム(AAV-CMV-EGFR siRNA)及びKRAS siRNAシステム(AAV-CMV-KRAS siRNA)を包み込み、力価1012V. g/mlのAAV溶液をマウスの体内に100μL尾静脈注射した。生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした結果、3週間後にAAVシステムが、体内、特に肝臓で安定に発現していることが認められた。
【0178】
第2の試験では、1つの試験群と2つの対照群を設置し、その中で、試験群はAAV-CMV-KRAS-siRNA群であり、対照群はPBS群及びAAV-CMV-scrR群であった。
【0179】
群ごとに同数のマウスを選択し、マウスの体内にマウス肺癌細胞(LLC細胞)を注射し、CTスキャン技術によりマウスモデル構築の進行を観察した。30日後、構築に成功したマウスに2日に1回投与し、すなわち、PBS群/AAV-CMV-scrR群/AAV-CMV-KRAS siRNA群のマウスに2日ごとにPBS緩衝液/AAV-CMV-scrR/AAV-CMV-KRAS siRNAを注射して治療を行い、マウスの生存分析と腫瘍評価をそれぞれ行い、7回投与後、治療を停止した。
【0180】
各群のマウスの治療後100日以内の生存状況を統計した結果、
図15Aに示すように、PBS群およびAAV-CMV-scrR群のマウスでは、生存率には、ほとんど差がなく、一方、AAV-CMV-KRAS siRNA群のマウスの生存率が最も高いことが分かった。
【0181】
投与前後に、各群のマウスにそれぞれCTスキャンを行い、CT画像に基づいてマウスの肺組織を3Dモデル化し、腫瘍体積を計算し、その結果を
図15Bに示す。
図15Bにおいて、「PBS pre」は投与前のPBS群を示し、「PBS post」は投与後のPBS群を示し、「AAV-CMV-scrR pre」は投与前のAAV-CMV-scrR群を示し、「AAV-CMV-scrR post」は投与後のAAV-CMV-scrR群を示し、「AAV-CMV-KRAS-siRNA pre」は投与前のAAV-CMV-KRAS siRNA群を示し、「AAV-CMV-KRAS-siRNA post」は投与後のAAV-CMV-KRAS siRNA群を示す。AAV-CMV-KRAS siRNA群のマウスでは、投与後に腫瘍体積が顕著に減少し、PBS群及びAAV-CMV-scrR群のマウスでは、投与後に腫瘍体積が減少しないだけではなく、程度が異なるが、増加を示すことが分かった。
【0182】
RT-qPCR及びWestern blottingのそれぞれによって各群のマウスの肺のKRASタンパク質及びmRNA発現レベルを検出し、その結果を
図15C、
図15Dに示す。その結果から、AAV-CMV-KRAS siRNA群のマウスでは、肺のKRASタンパク質及びmRNA発現量が対照群よりも低下することが分かった。
【0183】
以上の試験から、AAV-CMV-KRAS siRNAはマウス肺癌腫瘍に対して顕著な治療効果があることが示唆された。
【0184】
第3の試験では、1つの試験群と2つの対照群を設置し、その中で、試験群はAAV-CMV-EGFR siRNA群であり、対照群はPBS群及びAAV-CMV-scrR群であった。
【0185】
EGFR-DEL19マウスモデルを構築し、ドキシサイクリン飼料を与えて腫瘍の産生を誘導し、30日後に構築に成功したマウスに2日に1回投与し、すなわち、PBS群/AAV-CMV-scrR群/AAV-CMV-EGFR siRNA群のマウスに2日ごとにPBS緩衝液/AAV-CMV-scrR/AAV-CMV-EGFR siRNAを注射して治療を行い、マウスの生存分析と腫瘍評価をそれぞれ行い、7回投与後に治療を停止した。
【0186】
各群のマウスの治療100日後の生存を統計した結果、
図16Aに示すように、PBS群とAAV-CMV-scrR群のマウスでは、生存率はほとんど変わらないが、AAV-CMV-EGFR siRNA群のマウスでは、生存率は最も高いことが分かった。
【0187】
投与前後に各群のマウスをそれぞれCTスキャンし、CT画像を
図16Eに示し、
図16EのCT画像に基づいてマウスの肺組織を3Dモデル化し、腫瘍体積を計算し、その結果を
図16Bに示す。
図16Bにおいて、「PBS pre」は投与前のPBS群を示し、「PBS post」は投与後のPBS群を示し、「AAV-CMV-scrR pre」は投与前のAAV-CMV-scrR群を示し、「AAV-CMV-scrR post」は投与後のAAV-CMV-scrR群を示し、「AAV-CMV-EGFR siRNA pre」は投与前のAAV-CMV-EGFR siRNA群を示し、「AAV-CMV-EGFR siRNA post」は投与後のAAV-CMV-EGFR siRNA群を示す。AAV-CMV-EGFR siRNA群のマウスでは、投与後に腫瘍体積が有意に減少したが、PBS群及びAAV-CMV-scrR群のマウスでは、投与後に腫瘍体積が減少しないだけではなく、程度が異なるが、増加を示したことが分かった。
【0188】
RT-qPCR及びWestern blottingのそれぞれによって各群のマウス肺のEGFRタンパク質及びmRNA発現レベルを検出し、その結果を
図16C、
図16Dに示す。その結果、AAV-CMV-EGFR siRNA群のマウスでは、肺のEGFRタンパク質及びmRNA発現量が対照群より低下することが分かった。
【0189】
以上の試験から、AAV-CMV-EGFR siRNAがEGFR突然変異型マウスの肺癌腫瘍に対して顕著な治療効果があることが示唆された。
【0190】
第4の試験では、2つの試験群と2つの対照群を設置し、その中で、試験群はAAV-CMV-KRAS siRNA群、AAV-CMV-EGFR siRNA群であり、対照群はPBS群及びAAV-CMV-scrR群であった。
【0191】
EGFR-DEL19マウスモデルを構築し、ドキシサイクリン飼料を与えて腫瘍の産生を誘導し、30日後に構築に成功したマウスに2日に1回投与し、すなわち、PBS緩衝液/AAV-CMV-scrR群/AAV-CMV-EGFR siRNA群/AAV-CMV-KRAS siRNA群のマウスに2日ごとにPBS緩衝液/AAV-CMV-scrR/AAV-CMV-EGFR siRNA/AAV-CMV-KRAS siRNAを注射して治療を行った。
【0192】
治療後、各群のマウス中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、総ビリルビン(TBIL)、血清アルカリホスファターゼ(ALP)、クレアチニン(CREA)、血中尿素窒素(BUN)の含有量を検出し、これらの結果を
図17A~
図17Fに示し、PBS群、AAV-CMV-scrR群、AAV-CMV-EGFR siRNA群、AAV-CMV-KRAS siRNA群のマウスでは、上記の酵素の含有量はほとんど変わらないことがわかった。
【0193】
以上の試験から、肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いて、EGFR siRNAシステム(AAV-CMV-EGFR siRNA)とKRAS siRNAシステム(AAV-CMV-KRAS siRNA)を包み込むと、安全性が高く、信頼性が高く、マイナス作用がなく、大規模な普及や応用に適していることが示唆された。
実施例8
【0194】
実施例3に基づいて、本実施例は、薬物におけるRNA送達システムの使用を提供し、該RNA送達システムに使用される送達ベクターはプラスミドであり、該薬物は腎臓癌治療薬である。以下の試験により具体的に説明する。
【0195】
異なるマウスにPBS緩衝液/対照プラスミド/VEGFR siRNAプラスミド/mTOR siRNAプラスミド/MIX siRNAプラスミド(VEGFR siRNAとmTOR siRNAを併用)/スニチニブ(Sunitinib)/エベロリムス(Everolimus)をそれぞれ注射し、マウス腎臓癌腫瘍の進行状況を観察し、これらの結果を
図18、
図19に示す。MIX siRNAプラスミドを注射したマウスでは、腎臓癌の進行が最も顕著に阻害されたが、PBS緩衝液/対照プラスミドを注射したマウスでは、腎臓癌の進行が迅速であることが分かった。
【0196】
以上から、VEGFR siRNAとmTOR siRNAの併用は腎癌腫瘍に対して顕著な治療効果を有する。
実施例9
【0197】
実施例3に基づいて、本実施例は、薬物におけるRNA送達システムの使用を提供し、該RNA送達システムに使用される送達ベクターはプラスミドであり、該薬物は結腸炎治療薬であり、本実施例では、結腸炎治療におけるRNA送達システムの効果について、以下の2つの試験により具体的に説明する。
【0198】
第1の試験では、3組の試験群と3組の対照群を設置し、試験群は、それぞれ、anti-TNF-α(0.5)群、anti-TNF-α(5)群、anti-TNF-α(20)群であり、対照群は、それぞれ、モック群、scr-RNA群、IFX群であった。
【0199】
この中で、anti-TNF-α(0.5)群、anti-TNF-α(5)群、anti-TNF-α(20)群では、それぞれ、プラスミドを用いてTNF-α siRNA遺伝子回路(CMV-siRTNF-α)を包み込み、0.5μL、5μL、20μLのCMV-siRTNF-αの溶液をマウスの体内に尾静脈注射した。
【0200】
モック群は陰性対照群であり、scr-RNA群、IFX群は、それぞれ、マウスにscr-RNAプラスミドとIFX(インフリキシマブ)を尾静脈注射した。
【0201】
次に、DSS誘導慢性結腸炎モデルの構築を開始し、その間毎日体重を計量して記録した結果、
図20Aに示すように、scr-RNA群では、マウスの体重減少が最も速く、anti-TNF-α(0.5)群、anti-TNF-α(5)群、anti-TNF-α(20)群では、マウスの体重減少が緩やかであり、TNF-α siRNA溶液の用量が高いほどマウスの体重減少が緩やかであり、プラスミドに包み込まれたTNF-α siRNAシステムが結腸炎マウスの体重減少を軽減できることが示唆された。
【0202】
モデルの構築が終了すると、生きている小動物を通してプラスミドシステムの体内発現をモニタリングした後、マウスを殺して結腸を観察した結果、
図20Bに示すように、scr-RNA群では、マウスの結腸長が最も短く、anti-TNF-α(0.5)群、anti-TNF-α(5)群、anti-TNF-α(20)群のマウスでは、結腸長が比較的長く、TNF-α siRNA注射用量が高いほど、マウスの結腸長が長いことが分かった。このことは、プラスミドに包み込まれたTNF-α siRNAシステムが慢性炎症による結腸長の短縮に対して、程度が異なるが、改善を示していることを示唆した。
【0203】
マウスの疾患活動指数(Disease activity index)を評価した結果、
図20Cに示すように、scr-RNA注射群、anti-TNF-α(0.5)群、anti-TNF-α(5)群では、マウスの疾患活動指数が高く、一方、anti-TNF-α(20)群、IFX群では、マウスの疾患活動指数が低いことが分かった。
【0204】
マウスの結腸についてTNF-α mRNAを検出した結果、
図20Dに示すように、このCMV-siR
TNF-αシステムは、結腸のTNF-αの発現と分泌を低下できることが分かり、マウスの結腸についてTNF-αを検出した結果、
図20Eに示すように、このAAVシステムは、一定量のTNF-αを産生できることがわかり、結腸内の炎症促進因子であるIL-6、IL-12p70、IL-17A、IL-23を検出した結果、
図20Fに示すように、高用量群の炎症因子分泌は全体的に対照群より低いことが分かった。
【0205】
マウスの結腸切片をHE染色して、病理スコアリングを行って統計した結果、
図21A及び
図21Bに示すように、anti-TNF-α(0.5)群、anti-TNF-α(5)群、anti-TNF-α(20)群のマウス、特にanti-TNF-α(20)群のマウスでは、結腸粘膜の完全性はさらに高く、しかも免疫細胞の浸潤程度はさらに浅く、結腸陰窩膿瘍及び結腸の充血と出血も対照群より顕著に軽減されたことが分かった。
【0206】
以上の試験から、結腸炎の発現改善には、プラスミドを用いてTNF-α siRNAシステムを包み込んで治療を行う場合は、IFXよりも有効であることが証明された。
【0207】
第2の試験では、4群の試験群と3群の対照群を設置し、試験群は、それぞれ、anti-TNF-α群、anti-integrin-α群、anti-B7群、anti-mix群であり、対照群は、それぞれ、モック群、PBS群、scr-RNA群であった。
【0208】
anti-TNF-α群、anti-integrin-α群、anti-B7群、anti-mix群では、それぞれ、プラスミドを用いてTNF-α siRNA遺伝子回路(CMV-siRTNF-α)、integrin-α siRNA遺伝子回路(CMV-siRintegrin-α)、B7 siRNA遺伝子回路(CMV-siRB7)、mix siRNA遺伝子回路(CMV-siRmix、すなわち、CMV-siRTNF-α+integrin-α+B7)を包み込んだものをマウスの体内に20μL尾静脈注射し、生きている小動物を通してこのシステムの体内発現をモニタリングした結果、上記のシステムが体内、特に肝臓で安定に発現していることがわかった。
【0209】
モック群は陰性対照群であり、scr-RNA群、PBS群は、それぞれ、scr-RNAプラスミドとPBS溶液(リン酸緩衝塩溶液)をマウスに尾静脈注射した。
【0210】
次に、DSS誘導慢性結腸炎モデルの構築を開始し、その間毎日体重を計量して記録した結果、
図22Aに示すように、anti-mix群では、マウスの体重増加が最も穏やかであり、すなわち、プラスミドに包み込まれたCMV-siR
TNF-α+integrin-α+B7遺伝子回路は慢性結腸炎マウスの体重減少を顕著に軽減でき、anti-TNF-α群、anti-integrin-α群、anti-B7群では、マウスは炎症緩和期の体重回復速度もscr-RNA群とPBS群より顕著に速いことが分かった。
【0211】
モデルの構築が終了すると、生きている小動物を通してプラスミドシステムの体内発現をモニタリングした後、マウスを殺して結腸を観察した結果、
図22Bに示すように、4つの試験群では、マウスの結腸の発赤は程度が異なるが、軽減があり、慢性炎症による結腸長の短縮も、程度が異なるが、改善があることが分かった。
【0212】
マウスの疾患活動指数(Disease activity index)を評価した結果、
図22Cに示すように、scr-RNA群及びPBS群では、マウスの疾患活動指数が高く、anti-TNF-α群、anti-integrin-α群、anti-B7群、anti-mix群では、マウスの疾患活動指数が順に低下することが分かった。
【0213】
マウスの血漿、肝臓及び結腸についてTNF-α mRNA、integrin mRNA及びB7 mRNAを検出した結果、
図22D~
図22Fに示すように、このシステムは、血漿、肝臓及び結腸内で、安定に発現する一定量のRNAを生成し、また、結腸のTNF-α、integrin及びB7 mRNAの発現を著しく低下させていることが分かった。
【0214】
マウスの結腸切片をHE染色した結果、
図23に示すように、4つの試験群のマウス、特にanti-mix群のマウスでは、結腸粘膜の完全性はさらに高く、しかも免疫細胞の浸潤程度はさらに浅く、結腸陰窩膿瘍及び結腸の充血と出血も対照群より顕著に軽減されることが分かった。
【0215】
以上の試験から、肝臓に親和性のプラスミドに包み込まれたCMV-siRTNF-α+integrin-α+B7遺伝子回路によれば、TNF-α mRNA、B7 mRNA及びintegrin mRNAの長期的な発現及び複数の標的遺伝子のサイレンシングを可能とし、しかも結腸炎症の程度を著しく緩和することができ、創薬の潜在力及び臨床上の研究価値が極めて期待できた。
実施例10
【0216】
実施例4に基づいて、本実施例は、薬物におけるRNA送達システムの使用を提供し、該RNA送達システムに使用される送達ベクターはウイルスであり、該薬物は結腸炎治療薬であり、本実施例では、結腸炎治療におけるウイルスベクターに基づくRNA送達システムの効果について、以下の2つの試験により具体的に説明する。
【0217】
第1の試験では、3つの試験群と2つの対照群を設置し、3つの試験群は、それぞれ、AAV-CMV-siRTNF-α(低)群、AAV-CMV-siRTNF-α(中)群、AAV-CMV-siRTNF-α(高)群であり、対照群は、それぞれ正常群、AAV-CMV-scrR群であった。
【0218】
試験過程としては、
図24Aに示すように、AAV-CMV-siR
TNF-α(低)群、AAV-CMV-siR
TNF-α(中)群、AAV-CMV-siR
TNF-α(高)群では、それぞれ、肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いてTNF-α siRNAシステム(AAV-CMV-siR
TNF-α)を包み込み、力価10
12V.g/mlのAAV溶液をマウスに25μL、50μL、100μL尾静脈注射した。
【0219】
生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした結果、
図24Bに示すように、3週間後にAAVシステムが体内、特に肝臓で安定に発現していることがわかり、その中で、AAV-CMV-siR
TNF-α(高)群では、平均放射輝度(Average Radiance)は8.42*105(p/sec/cm
2/sr)に達し、発現部位が肝臓であり、このことから、AAVシステムの発現が用量依存効果を持つことが示された。
【0220】
次に、DSS誘導慢性結腸炎モデルの構築を開始し、その間2日ごとに体重を計量して記録した結果、
図24Cに示すように、AAVに包み込まれたCMV-siR TNF-αシステムは慢性結腸炎マウスの体重減少を軽減でき、3つの試験群のマウスでは、炎症緩和期の体重回復速度もAAV-CMV-scrR群より有意に速いことが分かった。
【0221】
10週目にモデル構築を終了し、生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした後、マウスを殺して結腸を観察した結果、
図24Dに示すように、AAV-CMV-siR
TNF-α(低)群、AAV-CMV-siR
TNF-α(中)群、AAV-CMV-siR
TNF-α(高)群のマウスでは、結腸の発赤はある程度軽減し、慢性炎症による結腸長の短縮もある程度改善し、その中で、AAV-CMV-siR
TNF-α(高)群では、炎症の改善が最も顕著であった。
【0222】
各群のマウスの疾患指数をそれぞれスコアリングして統計した結果、
図24Eに示すように、AAV-CMV-siR
TNF-α(高)群のマウスでは、マウスの疾患指数はAAV-CMV-siR
TNF-α(低)群、AAV-CMV-siR
TNF-α(中)群、及びAAV-CMV-scrR群よりも低かった。
【0223】
各群のマウスの体内のTNF-α siRNAレベルをそれぞれ検出した結果、
図24Fに示すように、3つの試験群のマウスでは、体内のTNF-α siRNAレベルはすべて高く、対照群のAAV-CMV-scrR群のマウスでは、体内のTNF-α siRNAの発現はほとんどなく、このことから、上記のAAVシステムが一定量のTNF-α siRNAを産生できることが示唆された。
【0224】
各群のマウスの体内のTNF-α mRNAレベルをそれぞれ検出した結果、
図24Gに示すように、正常群と3つの試験群のマウスでは、体内のTNF-α mRNAレベルはすべて低く、AAV-CMV-scrR群のマウスでは、体内のTNF-α mRNAレベルは高く、このことから、AAVシステムが結腸のTNF-αの発現と分泌を下げることができることが示唆された。
【0225】
マウス結腸内の炎症促進性サイトカインIL-6、IL-12、IL-23を検出した結果、
図25Aに示すように、正常群とAAV-CMV-siR
TNF-α(高)群のマウスでは、炎症促進性サイトカインの分泌が最も少なく、AAV-CMV-scrR群のマウスでは、炎症促進性サイトカインの分泌が最も多かった。
【0226】
マウスの結腸切片をHE染色して、病理スコアリングを行って統計した結果、
図25B、
図25Cに示すように、試験群、特にAAV-CMV-siR
TNF-α(高)群のマウスでは、結腸粘膜の完全性はさらに高く、しかも免疫細胞の浸潤程度はさらに浅く、結腸陰窩膿瘍及び結腸の充血と出血もAAV-CMV-scrR群より顕著に軽減されることが分かった。
【0227】
以上の試験から、肝臓に親和性のAAVに包み込まれたCMV-siRTNF-α遺伝子回路によれば、長期的なTNF-α siRNA発現及び長期的なTNF-αサイレンシングを可能とし、しかも、結腸炎をある程度緩和することができ、創薬の潜在力及び臨床上の研究価値が極めて期待できた。
【0228】
第2の試験では、3つの試験群と2つの対照群を設置した。その中で、試験群は、それぞれAAV-CMV-siRT+B+I(低)群、AAV-CMV-siRT+B+I(中)群、AAV-CMV-siRT+B+I(高)群であり、対照群は、それぞれ正常群、AAV-CMV-scrR群であった。
【0229】
AAV-CMV-siRT+B+I(低)群、AAV-CMV-siRT+B+I(中)群、AAV-CMV-siRT+B+I(高)群では、それぞれ肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いて、TNF-α siRNA、B7-siRNA及びIntegrinα4 siRNAエレメントタンデム送達システム(AAV-CMV-siRT+B+I)を包み込み、力価1012V.g/mlのAAV溶液をマウスの体内に25μL、50μL、100μL尾静脈注射した。
【0230】
生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした結果、
図26Aに示すように、3週間後にAAVシステムが体内、特に肝臓で安定して発現しており、AAVシステムの発現が用量依存効果を持つことが示された。
【0231】
次に、DSS誘導慢性結腸炎モデルの構築を開始し、その間2日ごとに体重を計量して記録した結果、
図26Bに示すように、AAVに包み込まれたCMV-siR
T+B+Iシステムは慢性結腸炎マウスの体重減少を軽減でき、3つの試験群のマウスでは、炎症緩和期の体重回復速度もAAV-CMV-scrR群より有意に速いことが分かった。
【0232】
10週目にモデル構築を終了し、生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした後、マウスを殺して結腸を観察した結果、
図26Cに示すように、AAV-CMV-siR
T+B+I(低)群、AAV-CMV-siR
T+B+I(中)群、AAV-CMV-siR
T+B+I(高)群のマウスでは、結腸の発赤はある程度軽減し、慢性炎症による結腸長の短縮もある程度改善し、その中で、AAV-CMV-siR
T+B+I(高)群では、炎症の改善が最も顕著であることが分かった。
【0233】
各群のマウスの疾患指数をスコアリングして統計した結果、
図27Aに示すように、AAV-CMV-siR
T+B+I(高)群のマウスでは、疾患指数はAAV-CMV-siR
T+B+I(低)群、AAV-CMV-siR
T+B+I(中)群、及びAAV-CMV-scrR群よりも低いことが分かった。
【0234】
マウス血漿中のTNF-α siRNA、B7 siRNA及びintegrinα4 siRNAを検出した結果、
図27B、
図27C、
図27Dに示すように、AAVに包み込まれたCMV-siR
T+B+Iシステムは、マウス血漿中に安定に発現するsiRNAを一定量で生成し、用量依存性の効果を示すことが分かった。
【0235】
マウス肝臓中のTNF-α siRNA、B7 siRNA及びintegrinα4 siRNAを検出した結果、
図27E、
図27F、
図27Gに示すように、AAVに包み込まれたCMV-siR
T+B+Iシステムは、マウスの肝臓で安定に発現するsiRNAを一定量で生成し、用量依存性の効果を示すことが分かった。
【0236】
マウス結腸中のTNF-α siRNA、B7 siRNA及びintegrinα4 siRNAを検出した結果、
図28A、
図28B、
図28Cに示すように、AAVに包み込まれたCMV-siR
T+B+Iシステムは、マウスの結腸で安定に発現するsiRNAを一定量で生成し、用量依存性の効果を示すことが分かった。
【0237】
マウス結腸中のTNF-α mRNA、B7 mRNA及びintegrinα4 mRNAを検出した結果、
図28D、
図28E、
図28Fに示すように、AAVに包み込まれたCMV-siR
T+B+Iシステムは、マウスの結腸中のTNF-α、B7及びintegrinα4 mRNAの発現を著しく低下させることが分かった。
【0238】
マウスの結腸切片をHE染色して、病理スコアリングを行って統計した結果、
図29A、及び
図29Bに示すように、試験群、特にAAV-CMV-siR
T+B+I(高)群のマウスでは、結腸粘膜の完全性はさらに高く、しかも、免疫細胞の浸潤程度はさらに浅く、結腸陰窩膿瘍及び結腸の充血と出血もAAV-CMV-scrR群より顕著に軽減されることが分かった。
【0239】
以上の試験から、肝臓に親和性のAAVに包み込まれたCMV-siRT+B+I遺伝子回路によれば、長期的なTNF-α siRNA、B7 siRNA及びintegrinα4 siRNA発現、並びに複数の標的遺伝子のサイレンシングを可能とし、しかも、結腸炎症の程度を著しく緩和することができ、創薬の潜在力及び臨床上の研究価値が極めて期待できた。
実施例11
【0240】
実施例3に基づいて、本実施例は、薬物におけるRNA送達システムの使用を提供し、該RNA送達システムに使用される送達ベクターはプラスミドであり、該薬物は肺線維症治療薬である。本実施例では、肺線維症治療におけるRNA送達システムの使用について、以下の試験により具体的に説明する。
【0241】
本実施例では、8群の試験群と3群の対照群を設置した。試験群は、それぞれ、Anti-miR-21(1mg/kg)群、Anti-miR-21(5mg/kg)群、Anti-miR-21(10mg/kg)群、TGF-β1 siRNA(1mg/kg)群、TGF-β1 siRNA(5mg/kg)群、TGF-β1 siRNA(10mg/kg)群、Anti-miR-21+TGF-β1 siRNA(10mg/kg)群、Pirfenidone(300mg/kg)群であり、対照群は、それぞれ、正常群、PBS群、scrRNA群であった。
【0242】
その中で、Anti-miR-21(1mg/kg)群、Anti-miR-21(5mg/kg)群、Anti-miR-21(10mg/kg)群では、それぞれ1mg/kg、5mg/kg、10mg/kgのAnti-miR-21(miRNA 21のアンチセンス鎖)を担持したプラスミドを肺線維症のマウスに尾静脈注射し、TGF-β1 siRNA(1mg/kg)群、TGF-β1 siRNA(5mg/kg)群、TGF-β1 siRNA(10mg/kg)群では、それぞれ1mg/kg、5mg/kg、10mg/kgのTGF-β1 siRNAプラスミドを肺線維症のマウスに尾静脈注射し、Anti-miR-21+TGF-β1siRNA(10mg/kg)群では、10mg/kg Anti-miR-21とTGF-β1 siRNAプラスミドを肺線維症のマウスに尾静脈注射し、Pirfenidone(300mg/kg)群では、ピルフェニドン300mg/kgを肺線維症のマウスに尾静脈注射し、正常群を正常対照群とし、PBS群、scrRNA群では、PBS溶液と対照プラスミドを肺線維症のマウスにそれぞれ尾静脈注射した。
【0243】
各群のマウスごとにヒドロキシプロリン含有量を検出し、その結果を
図30に示す。ヒドロキシプロリンは、コラーゲンを主成分とし、その含有量が肺線維症の程度を反映しており、
図30から、Anti-miR-21(5mg/kg)群、Anti-miR-21(10mg/kg)群、TGF-β1 siRNA(10mg/kg)群、Anti-miR-21+TGF-β1 siRNA(10mg/kg)群のマウスでは、ヒドロキシプロリン含有量が比較的低く、肺線維症が阻害されていることが分かった。
【0244】
各群のマウスの肺をそれぞれ蛍光染色した結果、
図31に示すように、図において、緑色の部分はI型コラーゲン(Collagen I)、赤色の部分はα-SMA、青色の部分はDAPIを示した。PBS群、scrRNA群のマウスは、I型コラーゲン、α-SMA含有量が多かったが、試験群のマウスは、I型コラーゲン、α-SMA含有量ともに少なく、特にAnti-miR-21(5mg/kg)群、Anti-miR-21(10mg/kg)群、Anti-miR-21+TGF-β1 siRNA(10mg/kg)群は、I型コラーゲン、α-SMAの発現がほとんどないことが分かった。
【0245】
各群のマウスの肺をそれぞれMasson三色染色し、その結果を
図32に示す。PBS群とscrRNA群のマウスでは、肺胞間隙が著しく破壊され、肺間質コラーゲンが形成されていたが、試験群では、これらの現象が著しく軽減されていることが分かった。
【0246】
各群のマウスの肺をそれぞれH&E染色し、その結果を
図33に示す。PBS群とscrRNA群のマウスは肺胞間隙の拡大、炎症性細胞の浸潤、肺胞構造の損傷が見られたが、実験群の肺組織は正常であることが分かった。
【0247】
western blotにより、正常群、PBS群、scrRNA群、TGF-β1 siRNA(1mg/kg)群、TGF-β1 siRNA(5mg/kg)群、TGF-β1 siRNA(10mg/kg)群、Pirfenidone(300mg/kg)群のマウスのTGF-β1タンパク質レベル、TGF-β1 mRNAレベルをそれぞれ検出した結果、
図34A~
図34Cに示すように、TGF-β1 siRNA(10mg/kg)群のマウスでは、TGF-β1タンパク質レベル及びTGF-β1 mRNAレベルが最も低いことが分かった。これは、対応するsiRNA発現プラスミドを尾静脈注射した後、TGF-β1を肺部に送達して機能を発揮できることを示唆した。
【0248】
正常群、PBS群、scrRNA群、Anti-miR-21(1mg/kg)群、Anti-miR-21(5mg/kg)群、Anti-miR-21(10mg/kg)群のマウスの相対miR-21レベルをそれぞれ検出した結果、
図34Dに示すように、Anti-miR-21(10mg/kg)群のマウスでは、相対miR-21レベルが最も高いことが分かった。これは、対応するアンチセンス鎖発現プラスミドを尾静脈注射した後、miR-21のアンチセンス鎖を肺部に送達して機能を発揮できることを示唆した。
【0249】
以上の試験から、肝臓に親和性のプラスミドに包み込まれたCMV-siRmiR-21、CMV-siRTGF-β1、CMV-siRmiR-21+TGF-β1遺伝子回路によれば、肺線維症の程度を著しく緩和することができ、創薬の潜在力及び臨床上の研究価値が極めて期待できた。
実施例12
【0250】
実施例4に基づいて、本実施例は、薬物におけるRNA送達システムの使用を提供し、該RNA送達システムに使用される送達ベクターはウイルスであり、該薬物は肺線維症治療薬であり、本実施例では、肺線維症治療におけるウイルスベクターに基づくRNA送達システムの効果について、以下の試験により具体的に説明する。
【0251】
この試験では、肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いて、抗-miR-21/TGF-β1 siRNA/抗-miR-21+TGF-β1 siRNAシステムを包み込み、AAV-anti-miR21/AAV-TGF-β1 siRNA/AAV-MIXをそれぞれ得て、力価1012V.g/mlのAAV溶液をマウスの体内に100μL尾静脈注射した。生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした結果、3週間後にAAVシステムが、体内、特に肝臓で安定に発現していることが認められた。
【0252】
次に、マウスを選択してモデル化し、モデル化に成功した後、マウスにPBS緩衝液/AAV-scrR/AAV-anti-miR21/AAV-TGF-β1 siRNA/AAV-MIX(10mg/kg)をそれぞれ注射し、PBS群/AAV-scrR群/AAV-anti-miR21群/AAV-TGF-β1siRNA群/AAV-MIX群を作成した。
【0253】
正常マウス、PBS群のマウス、AAV-scrR群のマウス、AAV-TGF-β1siRNA群のマウスの相対TGF-β1 mRNAレベルをそれぞれ検出した結果、
図35Bに示すように、AAV-TGF-β1 siRNA群のマウスでは、相対TGF-β1 mRNAレベルが低いことが分かった。
【0254】
正常マウス、PBS群のマウス、AAV-scrR群のマウス、AAV-anti-miR21群のマウスの相対miR21 mRNAレベルをそれぞれ検出した結果、
図35Cに示すように、AAV-anti-miR21群のマウスでは、相対miR21 mRNAレベルが低いことが分かった。
【0255】
ヒドロキシプロリンは、コラーゲンを主成分とし、その含有量が肺線維症の程度を反映しており、各群のマウスのヒドロキシプロリン含有量をそれぞれ検出した結果、
図35Aに示すように、PBS群、AAV-scrR群のマウスでは、体内のヒドロキシプロリン含有量が最も高く、AAV-anti-miR21群、AAV-TGF-β1 siRNA群、AAV-MIX群のマウスでは、体内のヒドロキシプロリン含有量がすべて低く、AAV-anti-miR21群、AAV-TGF-β1 siRNA群、AAV-MIX群のマウスの肺線維症が阻害されていることが示唆された。
実施例13
【0256】
実施例3に基づいて、本実施例は、薬物におけるRNA送達システムの使用を提供し、該RNA送達システムに使用される送達ベクターはプラスミドであり、該薬物は膠芽腫治療薬である。本実施例では、膠芽腫治療におけるRNA送達システムの使用について、以下の2つの試験により具体的に説明する。
【0257】
第1の試験では、5つの試験群と3つの対照群を設置した。試験群は、それぞれ、CMV-siR
E群、CMV-siR
T群、CMV-RVG-siR
E+T群、CMV-siR
E+T群、CMV-Flag-siR
E+T群であり、「E」はEGFR、「T」はTNCを表し、対照群は、それぞれ、PBS群、CMV-scrR群、CMV-Flag-scrR群であり、具体的な試験過程は
図36Aを参照する。
【0258】
各群のマウスのCD63タンパク質発現量、siRNA発現レベルをそれぞれ検出した結果、
図36B~
図36Dに示すように、CMV-RVG-siR
E+T遺伝子回路の静脈注射により、siRNAを脳に伝達できることを示唆した。
【0259】
第2の試験では、2つの試験群と2つの対照群を設置した。試験群は、それぞれ、CMV-RVG-siRE群、CMV-RVG-siRE+T群であり、対照群は、それぞれ、PBS群、CMV-scrR群であった。
【0260】
具体的な試験には、
図37Aに示すように、マウスを選択し、マウスの体内に膠芽腫細胞(U-87 MG-Luc細胞)を注射し、7日目から21日目まで、PBS緩衝液/CMV-scrR/CMV-RVG-siR
E/CMV-RVG-siR
E+T(5mg/kg)をマウスに2日ごとに注射して治療を行い、マウスの生存分析と腫瘍評価をそれぞれ行った。7日目、14日目、28日目、35日目にそれぞれマウスのBLI生体内画像形成検出を行った。
【0261】
図37Bに示すように、この図は、7日目、14日目、28日目、35日目のマウスのBLI生体内画像形成検出の比較図であり、CMV-RVG-siR
E+T群のマウスは、膠芽腫阻害効果が最も顕著であることが分かった。
【0262】
図37Cに示すように、この図は、各群のマウスの生存率の比較図であり、CMV-RVG-siR
E+T群のマウスは生存時間が最も長いことが分かった。
【0263】
図37Dに示すように、この図は、各群のマウスの蛍光比較図であり、luciferase生体内イメージングにより得られたものであり、縦座標はlucifer蛍光シグナルの強弱を表す。植え付けられた腫瘍にはすでにこの遺伝子が人工的に組み込まれているため、この図は腫瘍の進行状況を表すことができる。対照群のマウスでは、腫瘍の進行はいずれも迅速であったが、試験群のマウスでは、腫瘍はかなり阻害されていることが分かった。
【0264】
図37Eに示すように、この図は、各群のマウスの相対siRNAの比較図であり、CMV-RVG-siR
E群のマウスはEGFR siRNAレベルが高く、CMV-RVG-siR
E+T群のマウスは、EGFR siRNAとTNC siRNAレベルはいずれも高いことが分かった。
【0265】
図37Fに示すように、この図は、各群のマウスのwestern blot比較図であり、PBS群、CMV-scrR群、CMV-RVG-siR
E群のマウスはEGFR、TNC遺伝子の含有量が高いことが分かった。
【0266】
以上の試験データから、CMV-RVG-siRE+Tプラスミドの静脈内注射により、siRNAを脳に送達して、膠芽腫の増殖を阻害できることを示唆した。
【0267】
各群のマウスの脳に免疫組織染色をそれぞれ行い、視野ごとにEGFR、TNC、PCNAの着色率を統計し、その結果を
図38に示す。CMV-RVG-siR
E+T群のマウスでは、脳のEGFR、TNC、PCNAの含有量が最も低く、CMV-RVG-siR
E群のマウスでは、脳のEGFR、PCNAの含有量が低いことが分かった。CMV-RVG-siR
Eプラスミドの注射により、脳のEGFR、PCNAの発現を阻害し、CMV-RVG-siR
E+Tプラスミドの注射により、脳のEGFR、TNC、PCNAの発現を阻害できることが分かった。
実施例14
【0268】
実施例4に基づいて、本実施例は、薬物におけるRNA送達システムの使用を提供し、該RNA送達システムに使用される送達ベクターはウイルスであり、該薬物は膠芽腫治療薬であり、本実施例では、膠芽腫治療における、ウイルスベクターに基づくRNA送達システムの効果について、以下の試験により具体的に説明する。
【0269】
この試験では、肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いて、EGFR siRNAシステム(AAV-CMV-RVG-siRE)及びEGFR siRNAとTNC siRNAシステム(AAV-CMV-RVG-siRE+T)を包み込み、力価1012V.g/mlのAAV溶液をマウスに100μL尾静脈注射した。生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした結果、3週間後にAAVシステムが体内、特に肝臓で安定に発現していることが認められた。
次に、マウスを選択し、膠芽腫細胞(U-87 MG-Luc細胞)をマウスに注射し、7日目から21日目まで、PBS緩衝液/AAV-CMV-scrR/AAV-CMV-RVG-siRE/AAV-CMV-RVG-siRE+T(5mg/kg)をマウスに2日ごとに投与して治療を行い、PBS群/AAV-scrR群/AAV-CMV-RVG-siRE群/AAV-CMV-RVG-siRE+T群を作成した。
【0270】
各群のマウスに生存分析をそれぞれ行い、各群のマウスの治療20日、40日、60日、80日後の生存率を統計した結果、
図39Aに示すように、AAV-CMV-RVG-siR
E+T群のマウスは生存時間が最も長く、AAV-CMV-RVG-siR
E群はそれに次ぐものであることが分かった。
【0271】
各群のマウスに腫瘍評価をそれぞれ行い、すなわち、7日目、14日目、28日目、35日目にそれぞれマウスに対してBLI生体内イメージング検出を行った結果、
図39Bに示すように、AAV-CMV-RVG-siR
E+T群のマウスでは、膠芽腫の阻害効果が最も顕著であることが分かった。
実施例15
【0272】
実施例3に基づいて、本実施例は、薬物におけるRNA送達システムの使用を提供し、該RNA送達システムに使用される送達ベクターはプラスミドであり、該薬物は肥満治療薬である。本実施例では、肥満治療におけるRNA送達システムの使用について、以下の2つの試験により具体的に説明する。
【0273】
第1の試験では、2つの試験群と1つの対照群を設置した。試験群は、それぞれ、CMV-siRP群、CMV-RVG-siRP群であり、対照群はCMV-scrR群であり、ここで、「P」はPTP1Bを表す。
【0274】
CMV-siR
P群、CMV-RVG-siR
P群、CMV-scrR群では、それぞれ5mg/kgのCMV-siR
Pプラスミド、CMV-RVG-siR
Pプラスミド、CMV-scrRプラスミドをマウスに注射し、そして、各群のマウスの視床下部、肝臓の蛍光顕微鏡像をそれぞれ取得した結果、
図40に示すように、PTP1B siRNAが視床下部に伝達され得ることを示した。
【0275】
第2の試験では、2つの試験群と2つの対照群を設置し、試験群は、それぞれ、CMV-siRP群、CMV-RVG-siRP群であり、対照群は、それぞれ、PBS群、CMV-scrR群であった。
【0276】
具体的な試験には、
図41Aに示すように、C57BL/6マウスを選択し、12週間後にPBS緩衝液/CMV-scrR/CMV-siR
P/CMV-RVG-siR
Pを注射し、24日の間、2日ごとに1回注射し、最後にマウスの肥満とエネルギー消費、レプチン感受性、インスリン感受性を統計した。
【0277】
図41Bに示すように、この図は、各群のマウスの体重の比較図であり、CMV-RVG-siR
P群では、マウスの体重が最も安定していることが分かった。
【0278】
図41Cに示すように、この図は、各群のマウスの精巣上体脂肪体重量の比較図であり、CMV-RVG-siR
P群では、マウスの精巣上体脂肪体重量が最も軽いことが分かった。
【0279】
代謝ケージを用いて、様々な処理を受けたマウスの酸素消費量、呼吸交換率、活動量、カロリー発生量を72時間連続して検出し、次に、平均値をプロットして、統計し分析し、その結果を
図41D~
図41Gに示す。その結果、CMV-RVG-siR
Pプラスミドは、マウスの酸素消費量を効果的に高めることができ、これは、この群のマウスが他の群のマウスに比べて高エネルギー代謝状況にあることを意味する。正常マウスは、主にグルコースを自己のエネルギー源とし、CMV-RVG-siR
Pプラスミドは、マウスの呼吸交換率を低下させることができ、これは、この群のマウスが他の群のマウスに比べてタンパク質を自身のエネルギー源として利用する傾向が強いことを意味する。CMV-RVG-siR
Pプラスミドを注射したマウスでは、活動量が有意に増加した。また、CMV-RVG-siR
P群のマウスでは、カロリー発生量が顕著に高まった。
【0280】
図41Hに示すように、この図は、各群のマウスの初期体重曲線の比較図である。CMV-RVG-siR
P群では、マウスの体重が最も軽いことが分かった。
【0281】
図41Iに示すように、この図は、各群のマウスの初期食物摂取量曲線の比較図である。CMV-RVG-siR
P群では、マウスの食物摂取量が最も少ないことが分かった。
【0282】
図41Jに示すように、この図は、各群のマウスの血清レプチン含有量の比較図である。CMV-RVG-siR
P群では、マウスの血清レプチン含有量が最も低いことが分かった。
【0283】
図41Kに示すように、この図は、各群のマウスのwestern blot比較図である。CMV-RVG-siR
P群では、マウスのPTP1Bタンパク質の含有量が最も低いことが分かった。
【0284】
図41Lに示すように、この図は、各群のマウスの血糖変化曲線の比較図である。CMV-RVG-siR
P群では、マウスの血糖値が最も低いことが分かった。
【0285】
図41Mに示すように、この図は、各群のマウスの基礎グルコース変化曲線の比較図である。CMV-RVG-siR
P群では、マウスの基礎グルコースの含有量が最も低いことが分かった。
【0286】
以上の試験から、CMV-RVG-siRPプラスミドの静脈注射により、肥満モデルマウスの肥満を減少させることができる。
【0287】
各群のマウスの血清総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)、低密度リポタンパク質(LDL)を測定した結果、
図42Aに示すように、CMV-RVG-siR
P群では、マウスのTC、TG、LDLが最も低いことが分かった。
【0288】
各群のマウスの体長を測定した結果、
図42Bに示すように、4群のマウスの体長はほとんど変わらないことが分かった。
【0289】
各群のマウスのHFD食物摂取量を統計した結果、
図42Cに示すように、4群のマウスのHFD食物摂取量はほとんど変わらないことがわかった。
【0290】
各群のマウスにそれぞれ治療後肝組織を採取し、正常対照と比較した結果、
図42Dに示すように、PBS群、CMV-scrR群のマウスの肝組織病理切片に明らかな脂肪肝病理的特徴が見られ、CMV-siR
P群では、マウスの脂肪肝が軽いことが分かった。
【0291】
以上の試験から、CMV-RVG-siRPプラスミドの静脈注射により、肥満マウスの脂肪肝を軽減できることを示唆した。
実施例16
【0292】
施例4に基づいて、本実施例は、薬物におけるRNA送達システムの使用を提供し、該RNA送達システムに使用される送達ベクターはウイルスであり、該薬物は肥満治療薬であり、本実施例では、肥満治療における、ウイルスベクターに基づくRNA送達システムの効果について、以下の試験により具体的に説明する。
【0293】
肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いて、PTP1B siRNAシステム(AAV-CMV-siRP/AAV-CMV-RVG-siRP)を包み込み、力価1012V.g/mlのAAV溶液をマウスに100μL尾静脈注射した。生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした結果、3週間後にAAVシステムが体内、特に肝臓で安定に発現していることが認められた。
【0294】
C57BL/6マウスを選択し、12週間後にPBS緩衝液/AAV-CMV-scrR/AAV-CMV-siRP/AAV-CMV-RVG-siRPをそれぞれ注射し、PBS群/AAV-CMV-scrR群/AAV-CMV-siRP群/AAV-CMV-RVG-siRP群を作成し、24日以内に2日に1回注射した。各群のマウスにそれぞれ体重変化、脂肪体の重量、初期食物摂取量、血清レプチン含有量、血糖値、基礎グルコース含有量、血清総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)、低密度リポタンパク質(LDL)、体長、食物摂取量の検出及び統計を行い、その結果を以下に示す。
【0295】
図43Aに示すように、この図は、各群のマウスの体重の比較図であり、AAV-CMV-RVG-siR
P群のマウスでは、体重が最も安定していることが分かった。
【0296】
図43Bに示すように、この図は、各群のマウスの精巣上体脂肪体重量の比較図であり、AAAV-CMV-RVG-siR
P群のマウスでは、精巣上体脂肪体の重量が最も軽いことが分かった。
【0297】
図43Cに示すように、この図は、各群のマウスの初期食物摂取量曲線の比較図である。AAV-CMV-RVG-siR
P群のマウスでは、食物摂取量が最も少ないことが分かった。
【0298】
図43Dに示すように、この図は、各群のマウスの血清レプチン含有量の比較図である。AAV-CMV-RVG-siR
P群のマウスでは、血清レプチン含有量が最も低いことが分かった。
【0299】
図43Eに示すように、この図は、各群のマウスの血糖変化曲線の比較図である。AAV-CMV-RVG-siR
P群のマウスでは、血糖値が最も低いことが分かった。
【0300】
図43Fに示すように、この図は、各群のマウスの基礎グルコース変化曲線の比較図である。AAV-CMV-RVG-siR
P群のマウスでは、基礎グルコース含有量が最も低いことが分かった。
【0301】
図44A~
図44Cに示すように、この3つの図は、それぞれ各群のマウスの血清総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)、低密度リポタンパク質(LDL)の比較図であり、AAV-CMV-RVG-siR
P群のマウスでは、TC、TG、LDLが最も低いことが分かった。
【0302】
図44Dに示すように、この図は、各群のマウスの体長の比較図であり、4群のマウスの体長はほとんど変わらないことがわかった。
【0303】
図44Eに示すように、この図は、各群のマウスのHFD食物摂取量の比較図であり、4群のマウスのHFD食物摂取量もほとんど変わらないことがわかった
【0304】
以上の試験から、AAV-CMV-siRP、AAV-CMV-RVG-siRPは、肥満に対してある程度の阻害効果があることが示唆された。
実施例17
【0305】
実施例3に基づいて、本実施例は、薬物におけるRNA送達システムの使用を提供し、該RNA送達システムに使用される送達ベクターはプラスミドであり、該薬物はハンチントン病治療薬である。本実施例では、ハンチントン病治療におけるRNA送達システムの使用について、以下の5つの試験により具体的に説明する。
【0306】
第1の試験では、2つの試験群と2つの対照群を設置した。試験群は、それぞれ、CMV-siRmHTT群、CMV-RVG-siRmHTT群であり、対照群は、それぞれ、PBS群、CMV-scrR群であった。
【0307】
実験の流れを
図45Aに示し、CMV-siR
mHTT群、CMV-RVG-siR
mHTT群、PBS群、CMV-scrR群のハンチントン病のマウスのそれぞれにCMV-siR
mHTTプラスミド、CMV-RVG-siR
mHTTプラスミド、PBS溶液、CMV-scrRプラスミドを静脈注射した後、血漿エクソソームを分離し、PKH26染料で標識した後、細胞と共培養し、細胞のエクソソームの吸収状況を観察した。
【0308】
図45Bに示すように、この図は、各群のマウスの血漿のエクソソーム中のsiRNAレベルの比較図であり、2つの試験群のマウスでは、血漿のエクソソーム中のsiRNAレベルが高いことが分かった。
【0309】
各群のマウスにプラスミド/溶液を注射した後に抽出した血漿エクソソームに対して、PKH26で標識し、細胞と共培養し、共焦点顕微鏡を用いて写真撮影を行った。その結果、
図45Cに示すように、siRNAを包み込んだエクソソームが細胞に入ってくることが示された。
【0310】
各群のマウスの血漿エクソソームを抽出して細胞と共培養した後、各群のマウスのHTTタンパク質レベル及びmRNAレベルの変化を検出した結果、
図45D~
図45Fに示すように、CMV-siR
mHTT及びCMV-RVG-siR
mHTTが、HTTタンパク質レベルを低下できることを示し、エクソームに組み込まれたsiRNAは依然として遺伝子サイレンシング機能を発揮できることを示唆した。
【0311】
抽出したマウス血漿エクソソームを細胞と共培養した後、各群のマウスにおけるHTTタンパク質の凝集を観察して統計した結果、
図45G~
図45Hに示すように、CMV-siR
mHTT及びCMV-RVG-siR
mHTTがハンチントンHTT凝集細胞モデル中の病理HTTタンパク質の凝集を低下できることを示し、エクソソームに組み込まれたsiRNAは依然として遺伝子サイレンシング機能を発揮でき、また突然変異タンパク質の凝集を効果的に低下できることを示唆した。
【0312】
各群のマウスの肝臓、血漿、皮質、線条体中の絶対siRNAの発現レベルをそれぞれ検出して統計した。
図46Aに示すように、この図は、各群のマウスの肝臓のsiRNAの絶対レベルの比較図であり、CMV-siR
mHTT群、CMV-RVG-siR
mHTT群では、マウスの絶対siRNAレベルが比較的高いことが分かった。
図46Bに示すように、この図は、各群のマウス血漿中の絶対siRNAレベルの比較図であり、CMV-siR
mHTT群、CMV-RVG-siR
mHTT群では、マウスの絶対siRNAレベルが比較的高いことが分かった。
図46Cに示すように、この図は、各群のマウスの皮質及び線条体の絶対siRNAレベルの比較図であり、CMV-RVG-siRmHTTを注射したマウスのほうが、絶対siRNAレベルが高いことが分かった。
【0313】
図46Dに示すように、この図は、各群のマウスの肝臓、皮質、線条体の組織のIn situハイブリダイゼーション図であり、CMV-siR
mHTT群、CMV-RVG-siR
mHTT群では、マウスの肝臓組織切片に顕著な蛍光、CMV-RVG-siR
mHTT群では、マウスの皮質、線条体組織切片に明らかな蛍光があることが分かった。RVGが血液脳関門を通過して機能を発揮するようにエクソソームsiRNAを誘導することを示唆した。
【0314】
第2の試験では、2つの試験群と2つの対照群を設置した。試験群は、それぞれ、CMV-siRGFP群、CMV-RVG-siRGFP群であり、対照群は、それぞれ、PBS群、CMV-scrR群であった。CMV-siRGFP群、CMV-RVG-siRGFP群、PBS群、CMV-scrR群のGFPトランスジェニックマウスのそれぞれに、CMV-siRGFPプラスミド、CMV-RVG-siRGFPプラスミド、PBS溶液、CMV-scrRプラスミドを静脈注射した。
【0315】
図46E、
図46Fに示すように、この図は、各群のマウスの肝、皮質、線条体の組織切片図であり、肝臓にCMV-siR
GFP/CMV-RVG-siR
GFPを注射したGFPトランスジェニックマウスでは、GFP蛍光レベルが低下し、皮質線条体にCMV-RVG-siR
GFPを注射したマウスでは、GFP蛍光レベルが低下することが分かった。RVGが、血液脳関門を通過して機能を発揮するようにエクソソームsiRNAを誘導することを示唆した。
【0316】
第3の試験では、2つの試験群と1つの対照群を設置し、試験群は、それぞれ、CMV-siRmHTT群、CMV-RVG-siRmHTT群であり、対照群はCMV-scrR群であった。
【0317】
試験には、
図47Aに示すように、8週齢のN17182Qマウスを選択し、それぞれCMV-siR
mHTT群、CMV-RVG-siR
mHTT群、CMV-scrR群のハンチントン病のマウスにCMV-siR
mHTTプラスミド、CMV-RVG-siR
mHTTプラスミド、CMV-scrRプラスミドを尾静脈注射し、0日目と14日目に回転テストを行い、14日後にマウスを殺して分析した。
【0318】
図47Bに示すように、この図は、野生型マウス、CMV-scrR群、CMV-RVG-siR
mHTT群のマウスの降下潜伏期の比較図であり、0日目には、CMV-scrR群、CMV-RVG-siR
mHTT群では、マウスの降下潜伏期が一致し、14日目には、CMV-scrR群では、マウスの降下潜伏期が最も短いことが分かった。
【0319】
図47C及び
図47Dに示すように、
図47Cは、CMV-scrR群、CMV-RVG-siR
mHTT群のマウスの線条体のwestern bolt図であり、
図47Dは、CMV-scrR群、CMV-RVG-siR
mHTT群のマウスの線条体の相対mHTT mRNAレベルの比較図であり、CMV-scrR群では、マウスの線条体中のN171-mHTTタンパク質の含有量は高く、相対mHTT mRNAレベルも同様に高いことがわかった。
【0320】
第4の試験では、1つの試験群と1つの対照群を設置し、試験群はCMV-RVG-siRmHTT群であり、対照群はCMV-scrR群であった。
【0321】
試験には、
図47Eに示すように、3月齢のBACHDマウスを選択し、CMV-RVG-siR
mHTT群、CMV-scrR群のハンチントン病のマウスにCMV-RVG-siR
mHTTプラスミド、CMV-scrRプラスミドをそれぞれ静脈注射し、14日後にマウスを殺して分析した。
【0322】
図47Fに示すように、
図47Fは、CMV-scrR群、CMV-RVG-siR群
mHTT群のマウスの皮質及び線条体のwestern bolt図であり、CMV-RVG-siR
mHTT群では、マウスの皮質及び線条体の突然変異体HTT(Mutant HTT)、内因性HTT(Endogenous HTT)の含有量はいずれも少ないことが分かった。
【0323】
図47Gに示すように、
図47Gは、CMV-scrR群、CMV-RVG-siR
mHTT群のマウスの皮質及び線条体の相対mHTTタンパク質レベルの比較図であり、マウスの皮質と線条体を問わず、CMV-RVG-siR
mHTT群では、マウスの相対mHTTタンパク質レベルはいずれも低いことが分かった。
【0324】
図47H及び
図47Iに示すように、
図47Hは、CMV-scrR群、CMV-RVG-siR
mHTT群のマウスの免疫蛍光図であり、
図47Iは、CMV-scrR群、CMV-RVG-siR
mHTTマウスの皮質及び線条体の相対mHTT mRNAレベルの比較図であり、マウスの皮質と線条体を問わず、CMV-RVG-siR
mHTT群では、マウスの相対mHTT mRNAレベルはいずれも低いことが分かった。
【0325】
以上の試験から、MV-RVG-siRmHTTプラスミドの静脈注射により、線条体及び皮質のmHTTの阻害に寄与し、HDマウスの運動能力の改善と神経病理の緩和につながることを示唆した。
【0326】
第5の試験では、1つの試験群と1つの対照群を設置し、試験群はCMV-RVG-siRmHTT群であり、対照群はCMV-scrR群であった。
【0327】
試験には、
図48Aに示すように、6週齢のYAC128マウスを選択し、それぞれCMV-RVG-siR
mHTT群、CMV-scrR群のハンチントン病のマウスにCMV-RVG-siR
mHTTプラスミド、CMV-scrRプラスミドを静脈注射し、試験開始0日目、4週目、8週目にそれぞれ回転テストを行った後、マウスを殺して分析した。
【0328】
図48Bに示すように、この図は、野生型マウス、CMV-RVG-siR
mHTT群、CMV-scrR群のマウスの降下潜伏期の比較図であり、0日目には、CMV-RVG-siR
mHTT群、CMV-scrR群では、マウスの降下潜伏期が一致し、4週目と8週目には、CMV-scrR群では、マウスの降下潜伏期が最も短いことが分かった。
【0329】
図48Cに示すように、この図は、CMV-RVG-siR
mHTT群、CMV-scrR群のマウスの皮質及び線条体のwestern bolt図であり、CMV-RVG-siR
mHTT群では、マウスの皮質には、突然変異体HTT及び内因性HTTの含有量はいずれも低く、その線条体には、突然変異体HTTの含有量は低く、線条体には内因性HTTの含有量は高いことが分かった。
【0330】
図48D、
図48Eに示すように、両図はそれぞれCMV-RVG-siR
mHTT群、CMV-scrR群のマウスの皮質及び線条体の相対mHTT mRNAレベルの比較図、相対mHTTタンパク質レベルの比較図であり、皮質と線条体を問わず、CMV-RVG-siR
mHTT群では、マウスの相対mHTT mRNAレベル、相対mHTTタンパク質レベルはいずれも低いことが分かった。
【0331】
図48Fに示すように、この図は、CMV-RVG-siR
mHTT群、CMV-scrR群のマウスの皮質及び線条体の免疫蛍光図であり、CMV-RVG-siR
mHTT群では、マウスのNeuN、EM48発現はCMV-scrR群より低いことが分かった。
【0332】
以上の試験から、MV-RVG-siRmHTTプラスミドの静脈注射により、線条体及び皮質のmHTTタンパク質及び毒性凝集体の減少に寄与し、行動欠陥及び線条体や皮質の神経病理学を改善することを示唆した。
実施例18
【0333】
実施例4に基づいて、本実施例は、薬物におけるRNA送達システムの使用を提供し、該RNA送達システムに使用される送達ベクターはウイルスであり、該薬物はハンチントン病治療薬であり、本実施例では、ハンチントン病治療におけるウイルスベクターに基づくRNA送達システムの効果について、以下の試験により具体的に説明する。
【0334】
この試験では、肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いて、HTT siRNAシステム(AAV-CMV-siRmHTT/AAV-CMV-RVG-siRmHTT))を包み込み、力価1012V.g/mlのAAV溶液をマウスに100μL尾静脈注射した。生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした結果、3週間後にAAVシステムが体内、特に肝臓で安定に発現していることが認められた。
【0335】
次に、マウスを選択してモデル化を行い、モデル化が完了したマウスにPBS緩衝液/AAV-CMV-scrR/AAV-CMV-siRmHTT/AAV-CMV-RVG-siRmHTTを注射し、PBS群/AAV-CMV-scrR群/AAV-CMV-siRmHTT群/AAV-CMV-RVG-siRmHTT群を作成した。上記溶液を尾静脈注射した後、血漿エクソソームを分離し、PKH26染料で標識した後、細胞と共培養し、細胞のエクソソームの吸収状況を観察し、結果を以下に示す。
【0336】
図49Aに示すように、この図は、各群のマウス血漿エクソソーム中のsiRNAレベルの比較図であり、AAV-CMV-siR
mHTT群及びAAV-CMV-RVG-siR
mHTT群のマウスでは、血漿のエクソソーム中のsiRNAレベルは高いことが分かった。
【0337】
図49Bに示すように、この図は、マウスの血漿エクソソームと細胞を共培養した後の各群のマウスの相対mHTT mRNAレベルの比較図であり、AAV-CMV-siR
mHTT群及びAAV-CMV-RVG-siR
mHTT群のマウスでは、相対mHTT mRNAレベルが低いことが分かり、これは、AAV-CMV-siR
mHTT及びAAV-CMV-RVG-siR
mHTTは、HTT mRNAレベルを下げることができ、すなわち、エクソソームに組み込まれたsiRNAは依然として遺伝子サイレンシング機能を発揮することができることが分かった。
【0338】
図49Cに示すように、この図は、マウスの肝臓siRNAの絶対レベルの比較図であり、AAV-CMV-siR
mHTT群及びAAV-CMV-RVG-siR
mHTT群のマウスでは、絶対siRNAレベルが高いことが分かった。
【0339】
図49Dに示すように、この図は、マウスの血漿siRNAの絶対レベルの比較図であり、AAV-CMV-siR
mHTT群及びAAV-CMV-RVG-siR
mHTT群のマウスでは、絶対siRNAレベルが高いことが分かった。
【0340】
図49Eに示すように、この図は、野生型マウス(WT)、AAV-CMV-scrR群、AAV-CMV-RVG-siR
mHTT群のマウスの降下潜伏期の比較図であり、0週では、3群のマウスの降下潜伏期が一致し、4週目と8週目では、CMV-scrR群のマウスでは、降下潜伏期が最も短いことが分かった。
【0341】
図49Fに示すように、この図は、AAV-CMV-scrR群、AAV-CMV-RVG-siR群
mHTTのマウスの皮質及び線条体における相対mHTT mRNAレベルの比較図であり、皮質でも線条体でも、AAV-CMV-RVG-siR
mHTT群のマウスでは、mHTT mRNAレベルはAAV-CMV-scrR群よりも低いことが分かった。
【0342】
以上の試験から、AAV-CMV-RVG-siRmHTTの静脈注射が、線条体及び皮質のmHTTタンパク質と毒性凝集体の減少に寄与し、ハンチントン舞踏症に対する治療効果を発揮することが示唆された。
実施例19
【0343】
実施例3に基づいて、本実施例は、薬物におけるRNA送達システムの使用を提供し、該RNA送達システムに使用される送達ベクターはプラスミドであり、該薬物はパーキンソン治療薬物である。本実施例では、パーキンソン治療におけるRNA送達システムの使用について、以下の試験により具体的に説明する。
【0344】
この試験では、LRRK2R1441Gトランスジェニックマウスを選択し、3月齢で試験を行い、試験にはLPS介入群とLPS非介入群を設置した。LPS介入群では、LPS介入7日後、CMV-scrR/CMV-RVG-siRLRRK2の治療を行った。
【0345】
図50A及び
図50Bに示すように、
図50Aは、CMV-scrR/CMV-RVG-siR
LRRK2を注射したLRRK2R1441Gトランスジェニックマウスのwestern bolt図であり、
図50Bは、CMV-scrR/CMV-RVG-siR
LRRK2を注射したLRRK2R1441Gトランスジェニックマウスのタンパク質グレースケール分析図であり、CMV-RVG-si
RLRRK2を注射したマウスでは、LRRK2タンパク質及びS935タンパク質レベルが低下することが分かり、CMV-RVG-siRLRRK2が肝臓でsiRNAを放出し、siRNAがエクソソームに組み込まれると、血液脳関門を通過して脳深部タンパク質の発現を低下させることを示唆した。
【0346】
図50Cに示すように、この図は、CMV-scrR/CMV-RVG-siR
LRRK2を注射したLRRK2R1441Gトランスジェニックマウスの黒質領域TH+ニューロンの免疫蛍光図であり、その結果、CMV-RVG-siR
LRRK2を注射したマウスでは、THニューロンの消失を防止し、CMV-RVG-siR
LRRK2が肝臓でsiRNAを放出し、siRNAがエクソソームに組み込まれると、血液脳関門を通過して脳深部に入って機能を発揮できることを示唆した。
【0347】
図50Dに示すように、この図は、CMV-scrR/CMV-RVG-siR
LRRK2を注射したLRRK2R1441Gトランスジェニックマウスのミクログリア活性化レベルの免疫蛍光図であり、その結果、CMV-RVG-siR
LRRK2を注射したマウスでは、ミクログリアの活性化を阻害でき、CMV-RVG-siR
LRRK2が肝臓でsiRNAを放出し、siRNAがエクソソームに組み込まれると、血液脳関門を通過して脳深部に入って機能を発揮できることを示唆した。
【0348】
以上の試験から、CMV-RVG-siRLRRK2プラスミドの静脈注射により、ドーパミン作動性ニューロンのLRRK2の阻害に寄与し、パーキンソンPDマウスの神経病理的発達を軽減することを示唆した。
実施例20
【0349】
この重要な問題をさらに研究し、プラスミドを送達ベクターとした生体内自己集合siRNAの薬物動態と薬効学を解明するために、安全性評価研究に用いられている有名な非ヒト霊長類モデルであるカニクイザル(Macaca fascicularis)について、より詳細な研究を行った。倫理学的に認められた成体のアカゲザル4頭に5mg/kgのCMV-siREプラスミドを静脈注射し、注射前又は注射後の異なる時点で血液サンプルを採取した。1ヶ月後、これらのアカゲザルに毎日5mg/kgのCMV-siREプラスミドを合計5回静脈注射し、注射前又は最後の注射後の異なる時点で血液サンプルを採取した。
【0350】
図51に示すように、
図51Aは、単回注射の場合のカニクイザルの全血siRNA濃度の変化図であり、
図51Bは、複数回注射の場合のカニクイザルの全血siRNA濃度の変化図であり、単回注射の場合のカニクイザルのsiRNA濃度は、静脈注射6時間後にピークに達し、それ以降低下し、複数回注射の場合のカニクイザルのsiRNA濃度は、静脈注射3時間後にピークに達し、それ以降低下し、複数回注射の場合のカニクイザルのsiRNA濃度の減少速度はより緩やかであることが分かった。
【0351】
以上の実験から、CMV-siREプラスミドはカニクイザルなどの霊長類に対して安全かつ有効であり、応用の将来性が期待できることを示唆した。
実施例21
【0352】
本願によるRNA送達システムは、RNA断片を含む遺伝子回路を肝臓部位で自己集合してRNA断片を包み込み保護するエクソソームを形成することを可能にするが、RNA断片を生体外から肝臓部位に送達する際の安全性、安定性を考慮する必要があるため、以下の試験を行った。
【0353】
本実施例では、対照群と試験群1~5を設置し、それぞれの群に同じ数のC57BL/6Jマウスを選択し、EGFR siRNAを含むプラスミド(0.5mg/kg)をマウスに静脈注射した。その中で、対照群用のEGFR siRNAはいかなる修飾もしなかった。試験群1用のEGFR siRNAはチオリン酸修飾(リン酸ジエステル結合の非架橋酸素原子を1つの硫黄原子で置換)して得られた。試験群2用のEGFR siRNAは、2’オキシメチル修飾(ヌクレオチドペントース2’-ヒドロキシ修飾であって、この位置にメチルを導入)して得られた。試験群3用のEGFR siRNAは、5’ブロモウラシル修飾(ウラシルの5位に臭素を導入)して得られた。試験群4用のEGFR siRNAは、疎水性置換基修飾(このsiRNAにピリミジン修飾疎水性置換基を持つトリアゾール骨格単位を含ませる)して得られた。試験群5用のEGFR siRNAは、2’フルオロピリミジン修飾(siRNA上のピリミジンヌクレオチドの2’-OHを2’-Fで置換)して得られた。
【0354】
各群のマウスの肝臓、肺、脳、腎臓、CD4
+細胞におけるEGFR siRNAの発現レベルをそれぞれ検出した結果、
図52に示すように、実験群5のマウスでは、肝臓、肺、脳、腎臓、CD4
+細胞におけるEGFR siRNAの発現レベルがいずれも最も高いことが分かった。
【0355】
以上の結果により、試験群1~5では、EGFR siRNAに対して化学修飾を行ったが、試験群1~4の修飾方式で得られたsiRNAは、安定性の向上が顕著ではなかったが、試験群5では、2’フルオロピリミジン修飾方式で得られたsiRNAは、各組織器官での発現がすべて明らかに向上し、それによる効果は最も良く、したがって、2’フルオロピリミジン修飾はRNAの送達過程における安定性を大幅に向上させることができる。
【0356】
本明細書では、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」などは、関連部分間の相対的な位置関係を表すためにのみ用いられ、これらの関連部分の絶対位置を限定するものではない。
【0357】
本明細書では、「第1」、「第2」などは、互いを区別するためのものであって、重要度や順序、相互の存在の前提などを示すものではない。
【0358】
本明細書では、「等しい」、「同じ」などは、厳密には数学的及び/又は幾何学的な意味での制限ではなく、当業者に理解可能であり、製造又は使用などによって許容される誤差も含む。
【0359】
別段の記載がない限り、本明細書における数値範囲は、その2つの端点内の範囲全体だけでなく、その中に含まれるいくつかのサブ範囲も含む。
【0360】
以上、本願の好ましい具体的な実施形態及び実施例については、図面を参照して詳細に説明したが、本願は上記の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、当業者が有する知識の範囲内で、本願の構想を逸脱することなく、様々な変更も可能である。
【国際調査報告】