(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-14
(54)【発明の名称】寿命を向上させた熱屈曲アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
B41J 2/05 20060101AFI20240307BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
B41J2/05
B41J2/14 613
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023538944
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-06-23
(86)【国際出願番号】 EP2021087407
(87)【国際公開番号】W WO2022161716
(87)【国際公開日】2022-08-04
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522074028
【氏名又は名称】メムジェット テクノロジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】オ’レイリー,ローナン
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ハケット、ダレン
(72)【発明者】
【氏名】ドノホー、ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】レイド,キム
(72)【発明者】
【氏名】バグナット,ミスティ
(72)【発明者】
【氏名】バーン,オーエン
(72)【発明者】
【氏名】バーカック,アレクサンドラ
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF65
2C057BA05
2C057BA10
2C057BA15
(57)【要約】
熱屈曲アクチュエータは、駆動回路に接続するための熱弾性梁と、熱弾性梁と機械的に協働する受動梁であって、熱弾性梁に電流が流れると、熱弾性梁が受動梁に対して膨張し、その結果、アクチュエータの屈曲を引き起こす、受動梁とを含む。熱弾性梁は、アルミニウム合金から構成される。アルミニウム合金は、アルミニウムである第1の金属と、第2の金属と、銅、スカンジウム、タングステン、モリブデン、クロム、チタン、ケイ素、およびマグネシウムからなる群から選択される少なくとも0.1原子%の第3の金属とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱屈曲アクチュエータであって、
駆動回路に接続するための熱弾性梁と、
前記熱弾性梁と機械的に協働する受動梁であって、前記熱弾性梁に電流が流れると、前記熱弾性梁が前記受動梁に対して膨張し、その結果、前記アクチュエータの屈曲を引き起こす、受動梁とを備え、
前記熱弾性梁は、アルミニウム合金から構成され、前記アルミニウム合金は、アルミニウムである第1の金属と、第2の金属と、銅、スカンジウム、タングステン、モリブデン、クロム、チタン、マグネシウム、およびケイ素からなる群から選択される少なくとも0.1原子%の第3の金属とを含む、熱屈曲アクチュエータ。
【請求項2】
前記第2の金属は、バナジウム、チタン、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、およびスカンジウムからなる群から選択される、請求項1に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項3】
前記第2の金属は、バナジウムである、請求項1に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項4】
前記第3の金属は、銅である、請求項1に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項5】
アルミニウムの量は、80~95原子%の範囲にあり、
前記第2の金属の量は、2~18原子%の範囲にあり、
前記第3の金属の量は、0.1~5原子%の範囲にある、請求項1に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項6】
前記受動梁は、多層または単層である、請求項1に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項7】
前記受動梁は、酸化ケイ素および窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項6に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項8】
前記熱弾性梁は、前記受動梁に融合または接合されている、請求項1に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項9】
前記受動梁は、片持ち梁である、請求項1に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項10】
前記熱弾性梁は、前記受動梁の一端に位置する一対の電気端子に接続される、請求項9に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項11】
前記熱弾性梁は、1つまたは複数の曲がり部によって相互接続された複数の脚部を備える、請求項10に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項12】
インクジェットノズルデバイスであって、
ノズル開口部およびインク入口を有するノズル室と、
前記ノズル開口部を通してインクを吐出するための熱屈曲アクチュエータであって、前記アクチュエータは、
駆動回路に接続された熱弾性梁と、
前記熱弾性梁と機械的に協働する受動梁であって、前記熱弾性梁に電流が流れると、前記熱弾性梁が前記受動梁に対して膨張し、その結果、前記アクチュエータの屈曲を引き起こす、受動梁とを備え、
前記熱弾性梁は、少なくとも0.1原子%の銅を有するアルミニウム合金から構成される、熱屈曲アクチュエータとを備える、インクジェットノズルデバイス。
【請求項13】
前記ノズル室は、床部と、可動部分を有する天井部とを備え、それによって、前記アクチュエータの作動により、前記可動部分が前記床部に向かって移動する、請求項12に記載のインクジェットノズルデバイス。
【請求項14】
前記可動部は、前記アクチュエータを備える、請求項13に記載のインクジェットノズルデバイス。
【請求項15】
前記ノズル開口部が、前記床部に対して移動可能であるように、前記ノズル開口部は、前記移動部分内に画定される、請求項14に記載のインクジェットノズルデバイス。
【請求項16】
前記ノズル開口部を通してインクを吐出するための複数の熱屈曲アクチュエータを備える、請求項12に記載のインクジェットノズルデバイス。
【請求項17】
請求項12に記載の複数のインクジェットノズルデバイスを備えるインクジェットプリントヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリントヘッドで使用するために構成されたものなどのMEMS熱屈曲アクチュエータに関するものである。それは主に、最適な効率を維持しながら熱屈曲アクチュエータの寿命を向上させるために開発された。
【背景技術】
【0002】
出願人は、例えば、国際公開第2011/143700号、国際公開第2011/143699号、および国際公開第2009/089567号に記載されているような一連のMemjet(登録商標)インクジェットプリンタを開発しており、それらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。Memjet(登録商標)プリンタは、印刷媒体を単一パスでプリントヘッドを通過させて送り出す送り機構と組み合わせて、固定ページ幅プリントヘッドを採用している。したがって、Memjet(登録商標)プリンタは、従来の走査型インクジェットプリンタよりもはるかに高い印刷速度を実現する。
【0003】
インクジェットプリントヘッドは、それぞれにインクが供給される複数(通常は数千個)の個別のインクジェットノズルデバイスで構成される。各々のインクジェットノズルデバイスは、典型的には、ノズル開口部を有するノズル室と、ノズル開口部を通してインクを吐出するためのアクチュエータとを備える。インクジェットノズルデバイス用の設計空間は広大であり、特許文献には、異なるタイプのアクチュエータおよび異なるデバイス構成を含む多数の異なるノズルデバイスが記載されている。市販のプリントヘッドで使用されるインクジェットノズルデバイスは、通常、熱気泡形成アクチュエータまたは圧電アクチュエータのいずれかを使用する。熱気泡形成インクジェットデバイスは、MEMS製造プロセスを介して実現可能な低コストと高いノズル密度の利点を有し、一方、圧電インクジェットデバイスは、非水性インクおよび高粘度インクなどの広い範囲のインクと互換性があるという利点を有する。
【0004】
インクジェット印刷技術は、過去数十年にわたって商業的に大きな成功を収めてきたが、熱気泡形成技術と圧電技術の利点を潜在的に組み合わせた新しいインクジェット技術が依然として必要とされている。出願人は、インクジェット作動のための潜在的な新たな手段としてのMEMS熱屈曲アクチュエータに焦点を当てて、そのような新たなインクジェット技術に関する研究に継続的に従事している。熱屈曲アクチュエータは、受動層と機械的に協働する熱弾性層を使用して、受動層に対する熱弾性層の熱膨張を介して屈曲動作を提供する。出願人の以前の特許の多くで詳細に説明されているように、熱によって作動するパドルの屈曲動作を使用して、液滴の吐出に必要な機械的衝撃を提供することができる。
【0005】
例えば、米国特許第6,623,101号(その内容は参照により本明細書に組み込まれる)には、ノズル開口部を画定する可動天井部を備えたノズル室を備えるインクジェットノズルデバイスが記載されている。天井部は、ノズル室の外側に配置された上部熱弾性梁と下部受動梁を有する熱屈曲アクチュエータにアームを介して接続されている。熱弾性梁に電流を流すと、可動天井部は、ノズル室の床部に向かって屈曲し、それによってノズル室内の圧力を高め、ノズル開口部を通してインク滴を吐出するパドルとして機能する。
【0006】
米国特許第7,794,056号(その内容は参照により本明細書に組み込まれる)には、ノズル室の可動天井部部分に熱屈曲アクチュエータが組み込まれたインクジェットノズルデバイスが記載されている。熱屈曲アクチュエータを可動天井部に組み込むことで、液滴の吐出に必要なエネルギーに関してより高い効率が達成される。
【0007】
熱屈曲アクチュエータの熱弾性層の材料の選択は、効率だけでなく寿命にとっても重要である。例えば、米国特許第6,428,133号には、適切な熱弾性材料としてTiB2、MoSi2、およびTiAlNの使用が記載されている。より最近では、米国特許第7,984,973号(その内容は参照により本明細書に組み込まれる)には、熱弾性材料としてのアルミニウム合金の使用が記載されている。VAlなどのアルミニウム合金には、優れた熱弾性効率と、多くの工場で利用できる堆積プロセスを使用した製造可能性という利点がある。
【0008】
しかしながら、熱屈曲技術が既存の圧電技術と競合するには、数十億回の吐出後にデバイスの故障が最小限である同等の寿命を有する必要がある。したがって、既知の熱弾性材料と比較して寿命が改善され、優れた熱弾性効率を有する、インクジェットノズルデバイスでの使用に適した熱弾性材料を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0009】
第1の態様では、熱屈曲アクチュエータであって、
駆動回路に接続するための熱弾性梁と、
熱弾性梁と機械的に協働する受動梁であって、熱弾性梁に電流が流れると、熱弾性梁が受動梁に対して膨張し、その結果、アクチュエータの屈曲を引き起こす、受動梁とを備え、
熱弾性梁は、アルミニウム合金から構成され、アルミニウム合金は、アルミニウムである第1の金属と、第2の金属と、銅、スカンジウム、タングステン、モリブデン、クロム、チタン、ケイ素、およびマグネシウムからなる群から選択される少なくとも0.1原子%の第3の金属とを含む、熱屈曲アクチュエータが提供される。
【0010】
第1の態様に係る熱屈曲アクチュエータは、有利なことには、第3の金属を含まないアルミニウム合金から構成される熱屈曲アクチュエータと比較して、優れた寿命を有する。理論に拘束されることを望まないが、本発明者らは、第3の金属の添加が熱弾性梁におけるエレクトロマイグレーションを抑制することを理解している。このエレクトロマイグレーションの抑制が、観察された寿命の劇的な改善の原因であると考えられている。銅に加えて、スカンジウム、タングステン、モリブデン、クロム、チタン、マグネシウムなどの金属も、エレクトロマイグレーションを抑制する能力に基づいて、同等の寿命の向上をもたらすことが期待されている。
【0011】
誤解を避けるために言うと、第1、第2、および第3の金属は、互いに異なる。
【0012】
好ましくは、第2の金属は、バナジウム、チタン、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、およびスカンジウムからなる群から選択される。
【0013】
誤解を避けるために言うと、第2の金属は、上に列挙した金属のうちの1つまたは複数を含むことができる。同様に、第3の金属は、上に列挙した金属のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0014】
好ましくは、第2の金属は、バナジウムであり、第3の金属は、銅である。
【0015】
好ましくは、アルミニウムの量は、80~95原子%の範囲にあり、第2の金属の量は、2~18原子%の範囲にあり、第3の金属の量は、0.1~5原子%の範囲にある。
【0016】
好ましくは、アルミニウム合金は、アルミニウム、バナジウム、および銅を含む。いくつかの実施形態では、アルミニウム合金は、これらの3つの元素が合金の少なくとも90%または少なくとも95%を形成する限り、本質的にアルミニウム、バナジウム、および銅からなる。
【0017】
好ましくは、アルミニウム合金は、80~95原子%、または好ましくは85~95原子%の範囲の量のアルミニウムを含む。
【0018】
好ましくは、アルミニウム合金は、2~18原子%、または好ましくは3~15原子%、または好ましくは7~13原子%の範囲の量でバナジウムを含む。通常、バナジウムは、少なくとも5原子%の量で存在する。
【0019】
好ましくは、アルミニウム合金は、0.1~5原子%、または好ましくは0.15~3原子%、または好ましくは0.2~1原子%の範囲の量で銅を含む。通常、銅は、少なくとも0.1原子%または少なくとも0.2原子%の量で存在する。
【0020】
受動梁は、多層であっても単層であってもよい。例えば、受動梁は、それぞれが異なる材料で構成される第1の層および第2の層(例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,079,668号に記載されているように、窒化ケイ素の第1の層および酸化ケイ素の第2の層)を備えることができる。あるいはまた、受動層は、単一の材料層であってもよい。
【0021】
好ましくは、受動梁は、酸化ケイ素および窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む。
【0022】
好ましくは、熱弾性梁は、受動梁に融合または結合されている。通常、熱弾性梁材料は、MEMS堆積プロセス(例えば、CVD、PECVDなど)を介して受動梁上に直接堆積される。
【0023】
受動梁は片持ち梁状であり、1つの自由端と、支持体に接続された反対側端とを有することが好ましい。
【0024】
好ましくは、熱弾性梁は、受動梁の一端(典型的には、支持体に接続された固定端)に位置する一対の電気端子に接続される。
【0025】
好ましくは、熱弾性梁は、1つまたは複数の曲がり部によって相互接続された複数の脚部を備える。例えば、熱弾性梁は、第1の電気端子から長手方向に延在する第1の脚部と、第2の電気端子から長手方向に平行に延在する第2の脚部とを有することができ、第1の脚部と第2の脚部は、電気端子から遠位側に1つの曲がり部によって接続される。あるいはまた、熱弾性梁は、例えば4つの平行な脚部が3つの曲がり部によって相互接続された蛇行構成を有していてもよい。熱弾性梁のこれらおよび他の構成は、当業者には容易に明らかであろう。
【0026】
第2の態様では、
ノズル開口部およびインク入口を有するノズル室と、
上記のような熱屈曲アクチュエータとを備えるインクジェットノズルデバイスが提供される。
【0027】
好ましくは、ノズル室は、床部と、(例えば、パドルの形態の)可動部分を有する天井部とを備え、それによって、アクチュエータの作動により、可動部分が前記床部に向かって移動する。
【0028】
好ましくは、可動部は、アクチュエータを備える。
【0029】
好ましくは、ノズル開口部が、床部に対して移動可能であるように、ノズル開口部は、移動部分内に画定される。あるいはまた、ノズル開口部を天井部の静止部分内に画定してもよい。
【0030】
いくつかの実施形態では、ノズル室の天井部は、ノズル開口部を通してインクを吐出するための複数の熱屈曲アクチュエータを備えることができる。例えば、1つのノズル開口部の両側にある対向する熱屈曲アクチュエータを使用して、液滴吐出のための増大した機械的衝撃を生成することができる。
【0031】
第3の態様では、上記のような複数のインクジェットノズルデバイスを備えるインクジェットプリントヘッドが提供される。
【0032】
本明細書で使用される場合、「インク」という用語は、任意の吐出可能な流体を指し、例えば、従来のCMYKインク(例えば、顔料および染料ベースのインク)、赤外線インク、UV硬化性インク、定着剤、3Dプリンティング用流体、ポリマー、生体液、機能性流体(例えば、センサインク、ソーラーインク)などを含むことができる。
【0033】
誤解を避けるために言うと、「原子%」という用語は、原子の相対数(またはモル)に基づいた合金中の金属の量を指す。例えば、V(9.8原子%)、Al(89.9原子%)、およびCu(0.3原子%)を含む合金は、当業者には容易に理解されるように、V(17重量%)、Al(82.5重量%)、およびCu(0.5重量%)に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
ここで、添付の図面を参照して、本発明の実施形態を単なる例として説明する。
【0035】
【
図1】
図1は、熱屈曲アクチュエータを備えるインクジェットノズルデバイスの概略平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されるインクジェットノズルデバイスの線2-2に沿った断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示される複数のインクジェットノズルデバイスを備えるインクジェットプリントヘッドの一部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1および
図2を参照すると、本発明の一実施形態に係る、一対の対向する熱屈曲アクチュエータ3を組み込んだインクジェットノズルデバイス1が示されている。
図1および
図2に示されるタイプのノズルデバイスを製造するための適切なMEMSプロセスは、本出願人の米国特許出願公開第2008/0309728号および米国特許出願公開第2008/0225077号に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0037】
インクジェットノズルデバイス1は、熱屈曲アクチュエータ3に電流パルスを送出するための駆動回路層8を有するシリコン基板7のパッシベーション層5上に製造される。インクジェットノズルデバイス1は、ノズル開口部10を有するノズル室9と、天井部11と、天井部とシリコン基板7との間に延在する側壁13とを備える。パッシベーション層5上に堆積されたブランケット酸化ケイ素層15は、ノズル室の側壁13を画定する。米国特許第7,819,503号(その内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているような、ダマシンプロセスを介して形成された電気コネクタポスト17(例えば、銅ポスト)が、酸化ケイ素層15を通って延在し、シリコン基板7の駆動回路層8への電気接続を形成する。
図1に最もよく示されているように、一対のコネクタポスト17(電源および接地)が、各々の片持ち梁状熱屈曲アクチュエータ3の固定端に設けられている。
【0038】
熱屈曲アクチュエータ3の各々は、下部受動梁20と上部熱弾性(「能動」)梁22で構成されている。各々の受動梁20は、受動梁が少なくとも部分的にノズル室9の天井部11を画定するように、犠牲足場(図示せず)上への適切な受動材料の堆積を介して形成される。
図2に示される実施形態では、各々の受動梁20は、単なる酸化ケイ素の単層であるが、米国特許第8,079,668号に記載されているような多層受動梁も本発明の範囲内であることは当然理解されるであろう。
【0039】
各々の熱弾性梁22は、受動梁20とコネクタポスト17の露出上面の両方の上に熱弾性材料を堆積させることによって形成され、それによって駆動回路層8への電気接続を形成する。熱弾性材料のエッチングにより、熱弾性梁22が画定され、熱弾性梁22は各々が、(コネクタポスト17の上面によって画定される)それぞれの電源端子26および接地端子26からノズル開口部10に向かって延在し、それぞれの遠位端で曲がり部28によって相互接続される、一対の平行な脚部24として構成される。以下でより詳細に説明されるように、熱弾性材料は典型的には、バナジウム・アルミニウム・銅合金である。
【0040】
したがって、上記の説明から、各々の熱屈曲アクチュエータ3は、ノズル室9の天井部11の可動部分を形成する片持ち梁状パドルの形態をとっていることが理解されるであろう。作動中、各々の熱屈曲アクチュエータ3の熱弾性梁22は、駆動回路8から電気信号を受信し、これにより熱弾性梁が受動梁20に対して膨張し、それによって各々の熱屈曲アクチュエータが矢印Aによって示される方向にシリコン基板7に向かって下方に屈曲する。この屈曲運動により、ノズル室9内部の圧力が増加し、それによってノズル開口部10を通してインク滴が吐出される。円形のノズル開口部10は、熱屈曲アクチュエータ3の各々の中に画定された半円形の部分を有し、作動中にノズルが移動するようになっている。液滴の吐出に続いて、シリコン基板内に画定されたインク供給チャネル(図示せず)からインクを受け取る一対のインク入口32を介してノズル室内にインクが補充される。
【0041】
図2に示されるように、熱屈曲アクチュエータ3をインクから保護し、断熱を提供するために、ポリマー層30(例えば、ポリイミド層)が、受動梁および熱弾性梁の露出部分を含む構造全体に重ねられる。ポリマー層30は、フラッディングの防止を助け、安定した液滴の吐出を促進するために、ディウェッティングコーティング(例えば、疎水性および/または疎油性コーティング)を含むことができる。明確にするために、ポリマー層30は
図1には示されていない。
【0042】
図3は、上記したように、MEMSインクジェットノズルデバイス1を組み込んだページ幅インクジェットプリントヘッド100の一例を示す。
【0043】
改良された熱弾性材料
米国特許第7,984,973号に記載されているように、アルミニウム合金は、他の既知の熱弾性材料と比較して比較的高い熱膨張と比較的高い弾性率の特性を兼ね備えた、熱屈曲アクチュエータの熱弾性梁として使用するための優れた候補である。例えば、バナジウム-アルミニウム合金およびチタン-アルミニウム合金は、熱屈曲作動技術を採用するインクジェットノズルデバイスの開発において、本出願人によって使用されている。
【0044】
しかしながら、アルミニウム合金の上述の望ましい特性を維持しながら、熱屈曲アクチュエータの寿命を改善する必要性が依然として存在する。材料とデバイス構成を詳細に検討した結果、アルミニウム合金に少量の銅(例えば、最大約5原子%)を添加すると、性能を損なうことなく寿命が劇的に向上することが判明した。
【0045】
表1は、
図1および
図2に関連して上記したタイプのその他の点では同一のインクジェットノズルデバイス1において熱弾性材料として使用される2つのアルミニウム合金の性能を示している。一方のアルミニウム合金(「VAl」)は、90原子%のAlと10原子%のVからなり、他方のアルミニウム合金(「VAlCu」)は、89.9原子%のAl、9.8原子%のV、および0.3原子%のCuからなる。
【0046】
【0047】
表1の結果は、アルミニウム合金に銅を添加すると寿命が驚くほど向上することを明確に示している。同様のエネルギー入力と電流密度では、VAl熱弾性梁を有するデバイスのわずか17%が、約60億回の作動後も依然として動作し作動していたのに対し、VAlCu熱弾性梁を有するデバイスの93%は、同じ回数の作動後も依然として動作していた。これは、寿命の顕著かつ驚くべき5倍の改善を表す。
【0048】
さらに、両方の熱屈曲アクチュエータの性能は、熱屈曲応答と自由空気振動中の最大速度の点で非常に類似していた。したがって、銅の添加によって、寿命は劇的に向上したが、デバイスの性能に関してはほとんど違いがなかった。したがって、デバイス全体の性能と寿命にとっては、少量の銅を含むアルミニウム合金が最適であると結論付けられた。
【0049】
当然のことながら、本発明は単なる例として説明されており、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲内で細部の変更が可能であることが理解されるであろう。
【手続補正書】
【提出日】2022-12-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱屈曲アクチュエータであって、
駆動回路に接続するための熱弾性梁と、
前記熱弾性梁と機械的に協働する受動梁であって、前記熱弾性梁に電流が流れると、前記熱弾性梁が前記受動梁に対して膨張し、その結果、前記アクチュエータの屈曲を引き起こす、受動梁とを備え、
前記熱弾性梁は、アルミニウム合金から構成され、前記アルミニウム合金は、
80~95原子%の範囲の量のアルミニウムと、
2~18原子%の範囲の量の第2の金属と、
0.1~5原子%の範囲の量の銅とを含む、熱屈曲アクチュエータ。
【請求項2】
前記第2の金属は、バナジウム、チタン、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、およびスカンジウムからなる群から選択される、請求項1に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項3】
前記第2の金属は、バナジウムである、請求項1に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項4】
前記受動梁は、多層または単層である、請求項1に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項5】
前記受動梁は、酸化ケイ素および窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項
4に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項6】
前記熱弾性梁は、前記受動梁に融合または接合されている、請求項1に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項7】
前記受動梁は、片持ち梁である、請求項1に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項8】
前記熱弾性梁は、前記受動梁の一端に位置する一対の電気端子に接続される、請求項
7に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項9】
前記熱弾性梁は、1つまたは複数の曲がり部によって相互接続された複数の脚部を備える、請求項
8に記載の熱屈曲アクチュエータ。
【請求項10】
インクジェットノズルデバイスであって、
ノズル開口部およびインク入口を有するノズル室と、
前記ノズル開口部を通してインクを吐出するための
請求項1~9のいずれか一項に記載の熱屈曲アクチュエー
タとを備える、インクジェットノズルデバイス。
【請求項11】
前記ノズル室は、床部と、可動部分を有する天井部とを備え、それによって、前記アクチュエータの作動により、前記可動部分が前記床部に向かって移動する、請求項
10に記載のインクジェットノズルデバイス。
【請求項12】
前記可動部は、前記アクチュエータを備える、請求項
11に記載のインクジェットノズルデバイス。
【請求項13】
前記ノズル開口部が、前記床部に対して移動可能であるように、前記ノズル開口部は、前記移動部分内に画定される、請求項
12に記載のインクジェットノズルデバイス。
【請求項14】
前記ノズル開口部を通してインクを吐出するための複数の熱屈曲アクチュエータを備える、請求項
10に記載のインクジェットノズルデバイス。
【請求項15】
請求項
10~14のいずれか一項に記載の複数のインクジェットノズルデバイスを備えるインクジェットプリントヘッド。
【国際調査報告】