IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シクパ ホルディング ソシエテ アノニムの特許一覧

特表2024-511556カードに印刷するためのインクジェットプリンタ
<>
  • 特表-カードに印刷するためのインクジェットプリンタ 図1
  • 特表-カードに印刷するためのインクジェットプリンタ 図2
  • 特表-カードに印刷するためのインクジェットプリンタ 図3
  • 特表-カードに印刷するためのインクジェットプリンタ 図4
  • 特表-カードに印刷するためのインクジェットプリンタ 図5
  • 特表-カードに印刷するためのインクジェットプリンタ 図6
  • 特表-カードに印刷するためのインクジェットプリンタ 図7
  • 特表-カードに印刷するためのインクジェットプリンタ 図8a)
  • 特表-カードに印刷するためのインクジェットプリンタ 図8b)
  • 特表-カードに印刷するためのインクジェットプリンタ 図9
  • 特表-カードに印刷するためのインクジェットプリンタ 図10
  • 特表-カードに印刷するためのインクジェットプリンタ 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-14
(54)【発明の名称】カードに印刷するためのインクジェットプリンタ
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240307BHJP
【FI】
B41J2/01 121
B41J2/01 301
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023549913
(86)(22)【出願日】2022-02-23
(85)【翻訳文提出日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 EP2022054571
(87)【国際公開番号】W WO2022180122
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】21158611.0
(32)【優先日】2021-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】311007051
【氏名又は名称】シクパ ホルディング ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】SICPA HOLDING SA
【住所又は居所原語表記】Avenue de Florissant 41,CH-1008 Prilly, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】フォガート, コラード
(72)【発明者】
【氏名】ソリアーニ, ピエル ルイージ
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FA10
2C056HA31
2C056HA41
2C056JC17
(57)【要約】
本発明は、インクジェット印刷技術の分野に関する。本発明は、カードに印刷するためのインクジェットプリンタ(1)を提供し、該インクジェットプリンタ(1)は、ベースフレーム(2)を備えるプリンタフレームと、印刷されるべきカード(19)を支持するためにベースフレーム(2)に取り付けられる支持キャリッジ(5)と、カード(19)の上面にインクジェット印刷するためにプリンタフレームに取り付けられ、少なくとも1つのプリントヘッド(11)を備える印刷ステーション(9)と、カード(19)の上面に送られ得る荷電イオンを放出するためにプリンタフレームに取り付けられるイオン発生器(30)とを備える。
【選択図】 図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カードに印刷するためのインクジェットプリンタにおいて、
ベースフレームを備えるプリンタフレームと、
印刷されるべきカードを支持するために前記ベースフレームに取り付けられる支持キャリッジと、
前記カードの上面にインクジェット印刷するために前記プリンタフレームに取り付けられ、少なくとも1つのプリントヘッドを備える印刷ステーションと、
前記カードの前記上面に送られる荷電イオンを放出するために前記プリンタフレームに取り付けられるイオン発生器と、
を備え、
前記イオン発生器が、可変デューティサイクル及び可変強度を伴って、印刷前及び印刷中に作動される、
インクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記イオン発生器が、正の荷電イオンと負の荷電イオンとを交互に放出するエアイオナイザである、請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記正の荷電イオンと前記負の荷電イオンとが前記カードの前記上面に到達する前に互いに中和されないように、前記放出される荷電イオンの極性が、予め定められた時間の周期で変化する、請求項2に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記イオン発生器が、固有の極性を有する荷電イオンを放出するためのユニポーライオン発生器であり、前記荷電イオンが拡散により前記カードの前記上面に到達可能である、請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記ユニポーライオン発生器が、
生成された荷電イオンが流出できるようにする開口部を有するイオン発生器ケースと、
前記イオン発生器ケース内に収容される一対の電極と、
前記インクジェットプリンタに搭載されたイオン発生器電源モジュールと接続される、電極ごとに1つずつの一対の電気端子と、
を備える、請求項4に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記インクジェットプリンタが、前記イオン発生器を取り付けるための取付ブラケットを備え、前記取付ブラケットが前記ベースフレームに固定される、請求項1~5のいずれか一項に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
前記プリンタフレームが、複数のサイドフレームによって前記ベースフレームと接続されるトップフレームを更に備え、前記イオン発生器が前記トップフレームに固定される、請求項1~5のいずれか一項に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項8】
前記インクジェットプリンタがガイドプレートを更に備え、前記支持キャリッジが、前記ガイドプレート上に配置されるとともに、前記ガイドプレートによって案内されて、前記支持キャリッジが前記プリンタヘッドと対向しない第1の位置と、前記支持キャリッジが前記プリンタヘッドと対向する第2の位置との間で移動し、前記印刷ステーションが、前記ガイドプレートの上方で前記ガイドプレートに対して横方向に移動することができ、前記イオン発生器が前記印刷ステーションの移動経路から外れている、請求項1~7のいずれか一項に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項9】
前記ベースフレームにおける前記イオン発生器の正投影が、前記支持キャリッジが前記第2の位置にあるときに前記ベースフレームにおける前記支持キャリッジの正投影の中心と一致する、請求項8に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項10】
印刷されるべき少なくとも1つのカードを格納するための格納ゾーンと、
前記格納ゾーンから前記支持キャリッジに前記カードを引き出すための引き出しステーションと、
を更に備える、請求項1~9のいずれか一項に記載のインクジェットプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
[0001]本発明は、インクジェット印刷技術の分野に関し、特に、カードに印刷するためのインクジェットプリンタに関し、より詳細には、プラスチック材料製のカード、例えばクレジットカード、スマートカード、磁気カードなどに印刷するためのインクジェットプリンタに関する。
【発明の背景】
【0002】
[0002]既知のように、クレジットカード、スマートカード、磁気カードなどは、通常、ユーザがカードの目的を識別して各カードを他のカードと区別するのを助ける標識、画像、商標を有する。米国特許第6478485号明細書は、カードとなり得る物品を装飾するためのプロセス及び装置を開示する。
【0003】
[0003]更に、本発明に関する有用な情報源と考えることができる欧州特許第2658723号明細書、欧州特許第2658721号明細書、欧州特許第2658722号明細書及び欧州特許第2718109号明細書は、幅広く徹底的にカードに印刷するためのインクジェットプリンタの幾つかの詳細な特性を開示して例示する。
【0004】
[0004]図1及び図2は、従来技術で知られているカードに印刷するためのインクジェットプリンタ1を示す。図1及び図2に示されるように、インクジェットプリンタ1はベースフレーム2を有する。好ましくは、1つ以上のカード4が格納される格納ゾーン3がベースフレーム2上に配置される。好ましくは、インクジェットプリンタ1には、板状のトレイ6が取り付けられる支持キャリッジ5が設けられてもよい。板状トレイ6は、格納ゾーン3から印刷されるべきカードを受けてその上にカードを保持する。板状トレイ6には、板状トレイ6に埋め込まれて該トレイ上に保持されたカードを加熱するために使用されるトレイヒータ7が設けられてもよい。支持キャリッジ5は、その上に保持されたカードをインクジェットプリンタ1内で移動させる。より詳細には、支持キャリッジ5は、ベースフレーム2に取り付けられたガイドプレート20上に配置され、ガイドプレート20に沿って案内されるようになっている。より具体的には、支持キャリッジ5は、抜き取りステーション又は引き出しステーション8によってカード格納ゾーン3から印刷されるべきカードを受け、その上に保持されたカードをガイドプレート20に沿って移動させる。ガイドプレート20は、カードが印刷ステーション9によってインクジェット印刷されるようにそのようなカードを印刷ステーション9に移動させる。その後、ガイドプレート20及び支持キャリッジ5を使用してカードを吐出ステーション10に持ちこむこともでき、そこで、カードは、インクジェットプリンタ1から離れるように移動され、適切な容器内に受けられる。
【0005】
[0005]印刷ステーション9は、カード上にインクジェット印刷するための少なくとも1つのプリントヘッド11を備える。印刷ステーション9は、予め設定された経路に沿ってプリントヘッド11を前後に移動させるようになっている駆動システム(図示せず)を備え、それにより、プリントヘッド11は、適切に構成された調整ユニット(図示せず)によって調整される一連のステップ中にカード上にインクを吐出することができる。好ましくは、プリントヘッド11は、支持プレート12上に摺動可能に取り付けられる。好ましい実施形態において、支持プレート12は、支持キャリッジ5の移動経路又はガイドプレート20に対して横方向、特に垂直である。
【0006】
[0006]引き出しステーション8は、格納ゾーン3からカード4を引き出すようになっている。引き出しステーション8は、格納ゾーン3からカード4を1枚ずつ抜き取って支持キャリッジ5に載置する。その後、カード4は、ガイドプレート20に沿って印刷ステーション9に移動され、そこで、カードの上面へのインクの制御された吐出によってインクジェット印刷動作が実行される。インクジェット印刷後、カード4が吐出ステーション10に向かって移動される。吐出ステーション10は、カード4を支持キャリッジ5から離れるように移動させ、好ましくは、カード4を容器に着地させるように構成される。
【0007】
[0007]引き出しステーション8は、図3及び図3の線IV-IVに沿う断面である図4により詳細に示される。引き出しステーション8は、印刷されるようになっている、抜き取られたカード19になる第1のカードを格納ゾーン3から引き出すために、格納ゾーン3内のカード4の山の下端で第1のカードと接触することができる少なくとも1つの主ローラ13を備える。好ましくは、主ローラ13は、カード4の山の重量が第1のカードを主ローラ13と接触した状態に維持するのに役立つように、格納ゾーン3の下方でベースフレーム2に回転可能に取り付けられる。好ましい実施形態では、主ローラ13と接触している第1のカードを押す力に更なる成分を与えるために、カード4の山の上端に補助重りが配置される。
【0008】
[0008]引き出しステーション8は、主ローラ13との相互作用に起因して前進する抜き取られたカード19と係合して、それを支持キャリッジ5の上端に取り付けられた板状トレイ6に着地させるように、主ローラ13の下流側に取り付けられた複数の補助ローラ14、15、16、17及び18を更に備える。より正確には、補助ローラ14-18は、主ローラ13から来る抜き取られたカード19を受けて、図3に矢印F1によって示される方向に沿って抜き取られたカード19を前方に移動させ、該カードを印刷のために処理できるようにするべく配置される。図5には、抜き取られたカード19が、引き出しステーション8の補助ローラ17及び18を出た直後に、既に支持キャリッジ5上に配置されており、ガイドプレート20に沿って移動可能であることが示される。
【0009】
[0009]補助ローラ14-18は、引き出しステーション8の実行された機能が印刷のためにカードを供給するようになっている場合、板状トレイ6の平面と略平行な基準平面を画定する。特定の条件において、抜き取られたカード19は、印刷のために、支持キャリッジ5に取り付けられた板状トレイ6に送られず、これに対し、補助ローラ14-18は、適切な機構(図示せず)によって移動され、それにより、補助ローラが画定する基準面が傾斜していることが分かり、抜き取られたカード19は、図4に矢印F2によって示される方向に沿って出力に向けて移動される。図4に記載される引き出しステーション8の構成は、この補助排出機能を正確に指す。しかしながら、図4は、主に、補助ローラ14-18によって挟まれた抜き取られたカード19の位置を詳細に示す目的を有する。
【0010】
[0010]引き出しプロセス中、抜き取られたカード19と主ローラ13及び補助ローラ14-18との間にいくらかの摩擦が生じる。摩擦電気効果に起因して、引き出しプロセスは、一般に誘電材料、すなわち電気絶縁材料で作られる抜き取られたカード19の帯電を引き起こし得る。生成された電荷は、カードの上面全体にわたって自由に移動することができず、一方、生成された電荷は、抜き取られたカード19の上面全体にわたって予測不可能な分布を伴って、抜き取られたカード19にランダムに固着する傾向がある。
【0011】
[0011]更に、摩擦帯電の発生源は、主ローラ13及び補助ローラ14-18との単独の摩擦に起因するものではない。実際、誘電材料で作られたカード4を格納ゾーン3に装填する前に簡単に取り扱うことによっても、カードの上面にいくらかの不平衡電荷が発生する可能性がある。要約すると、図5に示されるように、支持キャリッジ5上に抜き取られたカード19が配置されて印刷の準備ができているときに、抜き取られたカード19の上面全体にわたって不均衡な電荷の予測不可能な分布が確立されている可能性が非常に高い。図6は、抜き取られたカード19を保持して矢印Pで示す方向にしたがって印刷ステーション9に向けてガイドプレート(図示せず)に沿って移動する支持キャリッジ5を示す。
【0012】
[0012]印刷ステーション9は、支持プレート12上に摺動可能に取り付けられた少なくとも1つのプリントヘッド11によって印刷動作を実行する。プリントヘッド11には複数のノズルが設けられ、全てのノズルは、予め定められたノズルからのインク滴の吐出をもたらすべく、制御された方法で電気的に作動され、インク滴は、抜き取られたカード19の上面の予め定められた位置に向けて方向付けられる。当業者に良く知られているように、吐出中及び吐出後のインク滴は、吐出の動力学に起因して、複数のより小さな部分への断片化を受け得る。この状況が図7に示されており、この場合、ノズル21は、プリントヘッド11に収容されるインク22の僅かな部分をインク滴23の形態で吐出している。より頻繁には、質量が大きくかなりの速度の大きな主滴24が前方にあり、その後に、付随体25と呼ばれることが多い、複数のより小さく、しばしばより遅い滴が続く。付随体25の幾つかは、多くのマイクロメートル及びサブマイクロメートルの液滴によって作られ、非常に小さい質量及び低い速度を伴い、しばしばエアロゾル26と呼ばれる。簡単に言えば、決定されたノズルからの各吐出は、異なる質量及び速度を伴う複数のインク滴を生成することになる。
【0013】
[0013]異なるインク滴の動きが想定し得る摂動によって多様に影響され得ることを理解することは容易である。実際、最も重く最も速い液滴、すなわち大きな運動量を有する主滴24は、殆ど乱されず、殆ど摂動を受けない軌道に従う。これに対し、最小且つ最も遅い液滴、特にエアロゾル26は、運動量が小さいために、何らかの想定し得る摂動によってそれらの経路から容易にそれる傾向がある。言い換えれば、高い運動量を有するインク滴は、予期される予め定められた位置で抜き取られたカード19の上面を意味する印刷媒体に当たる傾向があり、一方、低い運動量を有するインク滴は摂動からより強い影響を受ける。特に、非常に小さな速度を有して摂動下で周囲全体に散乱することが多い最小のインク滴で構成されるエアロゾル26は、同じ吐出中に生成される主滴24の予め定められた着弾点から離れた、抜き取られたカード19の上面の予測不可能な位置に頻繁に到達する。
【0014】
[0014]想定し得る摂動剤の中で、頻繁な原因は空気流である。その効果が印刷領域に達することさえあり得るファンの存在、又は単にプリントヘッド及び支持キャリッジの単純な前後運動は、摂動剤として作用することができ、そのインク滴運動に対する効果は、摂動強度及びインク滴運動量に依存する。
【0015】
[0015]インク滴の動きに影響を与え得る他の重要な摂動剤は、プリントヘッドの周囲、特にノズルと印刷媒体、すなわち抜き取られたカードとの間の空間に存在し得る電場であり、この電場でインク滴の軌道が生じる。電場は、電荷の極性に応じて、引力又は反発力のいずれかで、正味電荷を有する抜き取られたカードに作用する。更に、物質が正及び負に帯電した成分を含むため、正味電荷が0であっても、電場は物質の正及び負の電荷を別々の方向に変位させることができ、いわゆる分極を引き起こす。当業者に良く知られているように、電場がゼロでない勾配を有する場合、すなわち電場が空間的に不均一である場合、正味電荷が0であっても、分極物質が電場から力を受ける可能性がある。
【0016】
[0016]殆どの場合、プリントヘッドに収容される液体インクは、いくらかの導電性を示し、液体インク内でいくらかの移動性を有する帯電成分を含む場合がある。したがって、液体インクが電場の作用を受ける可能性があり、インク滴の動きは、ノズルと印刷媒体、すなわち抜き取られたカードとの間の空間に確立された電場によって影響を受け得る。
【0017】
[0017]電場は、インク滴間の多様な質量及び電荷分布に起因して、吐出されるインクの断片化された部分に異なる影響を及ぼす。特に、エアロゾルの動きは、それが構成する小さなインク滴の小さな質量に起因して、電気的摂動によって強く影響される傾向がある。
【0018】
[0018]例えば、米国特許第5774141号明細書及び米国特許第7824008号明細書によって示されるように、インクジェットプリンタにおける電気的摂動に対する問題を解決するための多くの試みがなされており、この場合、帯電した迷走インク液滴の収集又は吐出は、プリントヘッド及び印刷領域の近くに分布する更なる電気的にバイアスされた部分によって実行される。しかしながら、インクジェットプリンタを用いたカードの印刷中、何らかの予測不可能とされている方法で生じる印刷欠陥は、依然として厄介な欠点であり、より具体的な取り扱いを必要とする。
【0019】
[0019]より詳細には、印刷後、一部のカードは汚れているように見える。つまり、意図する画像の全体にわたってインクのスポットが広がっている。このことは、予め定められた着弾点から離れた周囲に小さなインク滴が散乱したことを意味する。この効果は、しばしばミストと呼ばれ、密に印刷された領域と疎に印刷された領域との間の境界で、又は完全に印刷されていない領域でさえ、特に深刻で頻繁である。この状況が図8a及び図8bに記載されており、図8aの意図された印刷画像27は、図8bの実際の印刷画像28と比較され、実際の印刷画像28は、意図された画像境界の外側の偽のインクスポット29を示す。
【0020】
[0020]印刷されたカード上のアーチファクトを高倍率で観察すると、それらの殆どは、その軌道からのエアロゾル偏向によって生成された可能性が高いインクの非常に小さなスポットから成ることが分かる。更に、引き出しプロセスに起因して及びおそらく以前のカード処理に起因して、カードがしばしば帯電していることを示す証拠がある。カードの上面全体にわたって不均一に分布したいくらかの電荷の確立は、静的メータのような適切な機器を使用して示され得る。したがって、カード上のインクスポットの原因は電場に起因すると考えるのが合理的であると思われる。
【0021】
[0021]一方、インクの導電性は、密に印刷された領域と疎に印刷された領域との間の境界におけるアーチファクトの最も頻繁な分布において役割を果たすようである。実際、吐出されたインクがカードの上面上で未だ液体である間、インクの帯電成分が再配置され、それにより、カードの上面上の局所的な静電荷を幾分緩和することができる。そのような効果は、密に印刷された領域ではより効果的であり得るが、疎に印刷された領域では緩和が不十分である。
【0022】
[0022]理論に束縛されることを望むものではないが、表面電荷分布の不均一性によって高められた電場の強い勾配は、表面と平行な顕著な成分を有する偏向力を生み出し得ると考えられる。そのような不均一性は、インク分布が異なることに起因する局所的な電荷を緩和する効果が異なるために確立され得る。この考えに従うと、エアロゾルを構成する複数の小さなインク滴は、不均一な電場によって容易に分極及び偏向され、カード上の予め定められた位置から遠くに着地し得る。
【0023】
[0023]電気的摂動を緩和するために、特に電場勾配の強度を低減するために、電荷の効果のある種の中和が想定されるべきである。例えば、印刷中にその上にカードが配置される支持キャリッジは、カードの底面が接触する最上部の接地された導電層を備えることができる。しかしながら、この解決策は、カードの厚さに起因して、インク着弾面であるカードの上面における静電場の遮蔽においてそれほど効果的ではない。
【発明の概要】
【0024】
[0024]上記の技術的問題を解決するために、本発明は、カードの上面に対する以前の既存の静電荷の影響を補償し、カードの望ましくない位置でインクエアロゾルが飛散する問題を解決して、ミストの問題を排除するために、印刷されるべきカードの上面上に更なる電荷、具体的にはいくらかの荷電イオンを直接送るようにイオン発生器が配置されるインクジェットプリンタを提供する。
【0025】
[0025]具体的には、本発明は、カードに印刷するためのインクジェットプリンタを提供し、該インクジェットプリンタは、ベースフレームを備えるプリンタフレームと、印刷されるべきカードを支持するためにベースフレームに取り付けられる支持キャリッジと、カードの上面にインクジェット印刷するためにプリンタフレームに取り付けられ、少なくとも1つのプリントヘッドを備える印刷ステーションと、カードの上面に送られ得る荷電イオンを放出するためにプリンタフレームに取り付けられるイオン発生器とを備える。好ましくは、イオン発生器は、可変デューティサイクル及び可変強度を伴って、印刷前及び印刷中に作動される。
【0026】
[0026]好ましくは、イオン発生器は、正の荷電イオンと負の荷電イオンとを交互に放出するエアイオナイザである。
【0027】
[0027]好ましくは、放出される荷電イオンの極性は、正の荷電イオンと負の荷電イオンとがカードの上面に到達する前に互いに中和されないように、予め定められた時間の周期で変化する。
【0028】
[0028]好ましくは、イオン発生器は、固有の極性を有する荷電イオンを放出するためのユニポーライオン発生器であり、荷電イオンは、拡散によりカードの上面に到達可能である。
【0029】
[0029]好ましくは、ユニポーライオン発生器は、生成された荷電イオンが流出できるようにする開口部を有するイオン発生器ケースと、イオン発生器ケース内に収容される一対の電極と、インクジェットプリンタに搭載されたイオン発生器電源モジュールと接続される、電極ごとに1つずつの一対の電気端子とを備える。
【0030】
[0030]好ましくは、インクジェットプリンタは、イオン発生器を取り付けるための取付ブラケットを備え、取付ブラケットはベースフレームに固定される。
【0031】
[0031]好ましくは、プリンタフレームは、複数のサイドフレームによってベースフレームと接続されるトップフレームを更に備え、イオン発生器がトップフレームに固定される。
【0032】
[0032]好ましくは、インクジェットプリンタがガイドプレートを更に備え、支持キャリッジは、ガイドプレート上に配置されるとともに、ガイドプレートによって案内されて、支持キャリッジがプリンタヘッドと対向しない第1の位置と、支持キャリッジがプリンタヘッドと対向する第2の位置との間で移動し、印刷ステーションは、ガイドプレートの上方でガイドプレートに対して横方向に移動することができ、イオン発生器が印刷ステーションの移動経路から外れている。
【0033】
[0033]好ましくは、ベースフレームにおけるイオン発生器の正投影は、支持キャリッジが第2の位置にあるときにベースフレームにおける支持キャリッジの正投影の中心と一致する。
【0034】
[0034]好ましくは、インクジェットプリンタは、印刷されるべき少なくとも1つのカードを格納するための格納ゾーンと、格納ゾーンから支持キャリッジにカードを引き出すための引き出しステーションとを更に備える。
【0035】
[0035]本発明の解決策によれば、インクジェットプリンタ内のイオン発生器によって放出された荷電イオンを、印刷されるべきカードの上面に送って、カードの上面に対する以前の既存の静電荷の影響を補償し、印刷された表面上のミストの著しい存在を回避する、すなわち、印刷された画像全体にわたる偽のインクスポットの著しい存在を回避することができる。
【0036】
[0036]本発明の非限定的且つ非網羅的な実施形態を、以下の図面を参照して例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】従来技術において知られているカードに印刷するためのインクジェットプリンタの左側概略斜視図を示す。
図2図1のインクジェットプリンタの右側概略斜視図を示す。
図3図1のインクジェットプリンタの格納ゾーン及び引き出しステーションを示す概略斜視図を示す。
図4図3の線IV-IVに沿う断面図を示す。
図5】抜き取られたカードを保持する支持キャリッジを示す部分概略斜視図を示す。
図6図1のインクジェットプリンタの印刷ステーションを示す概略斜視図を示す。
図7】プリントヘッドのノズルによって吐出されるインク滴を示す概略図を示す。
図8a】意図された印刷画像を示す。
図8b】意図された印刷画像境界の外側に偽のインクスポットが存在する、図1のインクジェットプリンタによって印刷された実際の印刷画像を示す。
図9】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタの概略斜視図を示す。
図10図9に示されるインクジェットプリンタにおけるユニポーライオン発生器の概略斜視図を示す。
図11図9に示されるインクジェットプリンタの上面図を示す。
【実施形態の詳細な説明】
【0038】
[0049]本発明の上記及び他の特徴及び利点をより明確にするために、本発明を以下の添付図面と組み合わせて更に説明する。本発明の特定の実施形態は例示的なものであって限定的なものではないことを理解すべきである。
【0039】
[0050]本発明は、カードの上面上の以前の既存の静電荷の影響を補償するために、印刷されるべきカードの上面上に更なる電荷、具体的にはいくらかの荷電イオンを直接送るようにイオン発生器が配置されるインクジェットプリンタを提供する。
【0040】
[0051]図9は、本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタ1の概略斜視図を示す。インクジェットプリンタ1は、クレジットカード、スマートカード、磁気カード等のカードへの印刷に用いられる。好ましくは、カードは熱可塑性材料を含む又はそれから形成される。特に、熱可塑性材料は、ポリ塩化ビニル(PVC)、鉱物充填剤が充填されたポリ塩化ビニル(PVC)、積層ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)ターポリマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PET-G)、ポリ乳酸(PLA)を含むグループから選択されてもよい。積層ポリ塩化ビニルは、鉱物充填剤が充填されたポリ塩化ビニルの中心層と、中心層のそれぞれの表面にそれぞれ貼り付けられた一対の透明ポリ塩化ビニルフィルムとによって形成される。また、カードは、略板状の形状を有し、平面視において、2つの大きい辺と2つの小さい辺とを有する略長方形の形状を有することが好ましい。
【0041】
[0052]図9に示されるように、インクジェットプリンタ1は、少なくともベースフレーム2を備えるプリンタフレームを備える。更に、図示されておらず、必須ではないが、プリンタフレームは、複数のサイドフレームによってベースフレーム2と接続されたトップフレームを更に備えてもよい。具体的には、複数のサイドフレームの下端部がベースフレーム2に接続され、複数のサイドフレームの上端部がトップフレームに接続されることにより、インクジェットプリンタ1の様々な構成要素が収容される収容空間が形成される。
【0042】
[0053]図9に示されるように、インクジェットプリンタ1は、印刷されるべきカードを支持するための支持キャリッジ5と、カードの上面にインクジェット印刷するための印刷ステーション9であって、カードの上面にインク滴を要求に応じて吐出するための少なくとも1つのプリントヘッド11を備える印刷ステーション9とを更に備える。支持キャリッジ5上に支持されたカードは、図1図6に関連して今しがた前述したように、抜き取りステーション又は引き出しステーション8によって印刷されるべき少なくとも1つのカードを格納するための格納ゾーン3から抜き取られ又は引き出され得る。したがって、図9に示される実施形態において、支持キャリッジ5に支持されたカードは、抜き取られたカード19と呼ぶこともできる。支持キャリッジ5はベースフレーム2に取り付けられる。支持キャリッジ5は、ベースフレーム2に直接取り付けられてもよく、すなわち、支持キャリッジ5がベースフレーム2に固定されてもよい。支持キャリッジ5は、ベースフレーム2に間接的に取り付けられてもよい。例えば、図9に示される実施形態において、支持キャリッジ5は、ベースフレーム2に取り付けられるガイドプレート20上に配置されてもよい。支持キャリッジ5は、ガイドプレート20によって案内されて、支持キャリッジ5がプリンタヘッド11と対向しない第1の位置と、支持キャリッジ5がプリンタヘッド11と対向する第2の位置との間で移動する。「第1の位置」は、抜き取られたカード19を支持キャリッジ5上に受けるための初期位置又は受け入れ位置と呼ぶこともでき、「第2の位置」は、抜き取られたカード19の上面にインクジェット印刷するための印刷位置と呼ぶこともできることが理解され得る。印刷ステーション9はプリンタフレームに取り付けられる。具体的には、図9に示される実施形態において、印刷ステーション9は、ベースフレーム2に固定される支持プレート12に取り付けられる。また、印刷ステーション9は、ガイドプレート20又はガイドプレート20の上方の支持キャリッジ5の移動経路に対して横方向に、好ましくは垂直に移動することもできる。具体的には、プリントヘッド11は、支持キャリッジ5の移動経路又はガイドプレート20に対して横方向、特に垂直である支持プレート12上に摺動可能に取り付けられる。
【0043】
[0054]前述したように、抜き取られたカード19が印刷の準備ができた状態で支持キャリッジ5上に配置される際には、抜き取られたカードの上面全体にわたって不均衡な電荷の予測不可能な分布が確立されている可能性が非常に高い。抜き取られたカード19の上面全体にわたる不均衡な電荷の予測不可能な分布を解決又は少なくとも緩和するために、抜き取られたカード19の上面に送ることができる荷電イオンを放出するためのイオン発生器30がインクジェットプリンタ1に設けられる。イオン発生器30は、プリンタフレームに取り付けられる。イオン発生器30は、プリンタフレームに直接に取り付けられてもよい。例えば、イオン発生器30は、プリンタフレームのトップフレームに固定されてもよい。また、イオン発生器30は、プリンタフレームに間接的に取り付けられてもよい。例えば、イオン発生器30は、ベースフレーム2に固定された取付ブラケット35によってプリンタフレームに取り付けられる。具体的には、取付ブラケット35は、ベースフレーム2に固定されてベースフレーム2から上方に延在する垂直支持体36と、垂直支持体36の上端に接続されて略水平に延在する水平支持体37とを備え、イオン発生器30は水平支持体37に固定される。
【0044】
[0055]第1のアプローチとして、上記イオン発生器30として、正の荷電イオンと負の荷電イオンとを交互に放出するエアイオナイザを採用することができる。エアイオナイザによって放出された負の荷電イオン及び正の荷電イオンは、抜き取られたカード19の上面で何らかの電荷バランスに達するまで、抜き取られたカード19の上面が同じ極性の荷電イオンを拒絶して反対の極性の荷電イオンを引き付けるので、抜き取られたカードの上面の既存の静電荷の殆どを中和することができる。一実施形態において、正の荷電イオン及び負の荷電イオンは、ガス流を介して抜き取られたカード19の上面に送達される。ガス流は、反対の極性のイオンが生成される前に正の荷電イオン又は負の荷電イオンを押し離して、放出された代替荷電イオンが抜き取られたカード19の上面に到達する前に互いに中和するのを防ぐのを助けることができる。ガス流は、空気流であってもよく、例えば、空気流を提供するためにファンが設けられてもよい。場合によっては、異なるガスを使用してガス流を形成することもできる。更に、放出された荷電イオンの極性は、抜き取られたカード19の上面の実際の電荷分布に適合するように代替荷電イオンが流れることができるようにするべく、予め定められた時間、通常は数秒、例えば1~2秒の周期で変化し、それにより、放出された代替荷電イオンが抜き取られたカード19の上面に到達する前に互いに中和するのを更に防ぐ。そのような長い時間は、インクジェットプリンタ1の印刷歩留まりを低下させ得る。更に、抜き取られたカード19の上面の電荷の中和、したがって抜き取られたカード19の上面の電場の補償にもかかわらず、代替荷電イオンを運ぶガス流は、インク滴動作の摂動を表わすことができる。
【0045】
[0056]より好ましいアプローチとして、ガス流を使用せずに拡散によって抜き取られたカード19の上面に到達することができる固有の極性を有する荷電イオンを放出するためのユニポーライオン発生器、すなわち単一極性のイオン発生器が、イオン発生器30としてインクジェットプリンタ1に設けられる。図9及び図10に示されるように、ユニポーライオン発生器は、イオン発生器ケース31と、一対の電極(図示せず)と、一対の電気端子33とを備える。イオン発生器ケース31には、生成された荷電イオンが周囲の空間に広がって流出できるようにするための開口部32が設けられる。電極は、イオン発生器ケース31内に収容される。電極ごとに1つずつ、2つの電気端子33が、インクジェットプリンタ1に搭載されたイオン発生器電源モジュール(図示せず)と接続される。固有の極性を有する生成された荷電イオン34は、ユニポーライオン発生器の構成に応じて、正(図10に示されるように)又は負でさえあり得る。荷電イオン34は固有の極性を有するため、「イオン中和」のリスクはない。この状況において、荷電イオン34は、ガス流を使用せずに拡散によって抜き取られたカード19の上面に到達することができ、したがって、ガス流によって引き起こされる摂動はない。
【0046】
[0057]固有の極性を有する荷電イオン34は、抜き取られたカード19の上面に電荷バランスをもたらすことは殆どできず、抜き取られたカード19の上面上の以前の既存の静電荷を中和するが、生成された荷電イオン34は、以前の既存の静電荷の分布に応じて、点ごとに異なる衝突速度を有する。例えば、抜き取られたカード19の上面全体にわたって不均一な電荷分布があると仮定する。具体的には、抜き取られたカード19の上面全体にわたって正に帯電された領域及び非帯電領域があり、生成された荷電イオン34も正であると仮定する。帯電領域の電場はより強いため、生成された正の荷電イオン34は、抜き取られたカード19の上面の帯電領域に近づくと容易に拒絶され(生成された荷電イオン34の一部は、抜き取られたカード19の上面に非常に遅い速度で到達する可能性がある)、これに対し、非帯電領域では、生成された正の荷電イオン34の衝突速度は高いままであり、非帯電領域の上面は、次第に正の電荷を取得する傾向がある。正電荷密度が低い(拒絶されるイオンが少ない)場合、衝突速度はより高くなると予想されるので、傾向は、抜き取られたカード19の上面全体にわたってより均一な正電荷分布を有するバランスのとれた状況に達することである。代替として、抜き取られたカード19の上面全体にわたって負に帯電した領域及び非帯電領域があり、生成された荷電イオン34は依然として正であると仮定する。生成された荷電イオン34は、非帯電領域におけるよりも負に荷電した領域でより高い衝突速度を有する(引き付けられるため)。したがって、負に帯電した領域は、非帯電領域が正の電荷を集めるよりも急速に負の電荷を失う。最終的な結果は同じになり、抜き取られたカード19の上面全体にわたっていくらかの均一な正電荷が確立される。生成された荷電イオン34の極性を反転させることは、抜き取られたカード19の上面の電荷の最終的な均一性に影響を与えず、単に最終的な状況は均一な負の荷電表面になることが理解され得る。とにかく、これらの荷電イオン34の全体的な効果は、正味電荷が無効にされていないにもかかわらず、抜き取られたカード19の上面全体にわたる勾配値の減少である可能性が高い。言い換えれば、放出された荷電イオンは、カード自体を中性体にすることなく、カードの上面上により均一な電荷分布、したがってカードの上面近くにより均一な電場を生成することができる。したがって、インクジェットプリンタ1に取り付けられるユニポーライオン発生器は、溶液の効率に影響を与えることなく、正イオン発生器又は負イオン発生器のいずれかであってもよい。
【0047】
[0058]図11は、図9に示されるインクジェットプリンタ1の上面図である。図11から明らかに分かるように、イオン発生器30は、印刷ステーション9の移動経路から外れており、それにより、印刷ステーション9の移動するプリントヘッド11とのいかなる機械的干渉も防止する。更に、ベースフレーム2内のイオン発生器30の正投影は、抜き取られたカード19が印刷位置に配置されるときに、抜き取られたカード19の周囲から外れる。更に、生成された荷電イオンはある程度の距離をカバーすることができるため、イオン発生器30は、図11から分かるように、その機能を効果的に果たすために、抜き取られたカード19に近すぎたり、抜き取られたカード19の中心と一致したりする必要はない。当然のことながら、イオン発生器30のベースフレーム2への正投影は、支持キャリッジ5が第2の位置にあるときの支持キャリッジ5又はベースフレーム2内の抜き取られたカード19の正投影の中心と一致することが好ましい。これは、イオン発生器30の対称的な位置決めがより均一な効果をもたらすからである。
【0048】
[0059]イオン発生器30は、オプションで、可変デューティサイクル及び可変強度を伴って、印刷前及び印刷中に作動され得る。一実施形態によれば、イオン発生器30が可変デューティサイクルで作動されるとき、イオン発生器30は、幾つかの印刷シーケンス中に作動され、他の印刷シーケンス中には作動されない。例えば、多層印刷モードにおいて、イオン発生器30は、カードの上面に過剰な量の電荷によるカードの静電的付着を引き起こすことなく電荷均一性を最大限に得るために、プリンタモジュールの幾何学的レイアウト、カード材料、インク組成物などに応じて、層全体の印刷中にアクティブであってもよく、又は層のサブセット中にのみ作動されてもよい。一例として、4層のみのカード印刷中、イオン発生器30のデューティサイクルは100%とすることができ、すなわちイオン発生器30は常にオンにされ、一方、16層では、イオン発生器30のデューティサイクルは25%~50%の範囲内とすることができる。例えば、16層では、イオン発生器30は、4層のグループの最初の層の印刷中に動作することができ、後続の3層の間はオフにされ、このシーケンスはこの例では4回繰り返される。
【0049】
[0060]一実施形態によれば、イオン発生器30が作動されると、イオン発生器30はイオン流束を生成し、前記イオン流束は前記生成された荷電イオン34を含む。イオン発生器30が可変強度で作動されると、前記イオン流束は可変であり、すなわち、生成されるイオン34の数は時間的に変化する。例えば、カードの材料及び/又はインクの性質及び/又は印刷される層の数に応じて、イオン発生器30の強度を調整して、発生した荷電イオン34のカードの上面への影響を最適化することが有利であり得る。一実施形態によれば、イオン発生器30は、プリンタフレームに対して特定の固定位置に取り付けられ、イオン発生器30のデューティサイクル及び/又はイオン発生器30の強度、すなわちイオン流束の強度を制御することにより、イオン発生器30の動作条件の調整が可能になる。例えば、イオン発生器30の強度は、その電源を調整するように調整され得る。
【0050】
[0061]例えば、イオン発生器30が12ボルトDC電源で動作する場合、電源の値を変えることによってイオン流束の強度を変えることが可能である。イオン発生器30は、例えば、電源値を6ボルトDCまで下げることにより、より低い強度の荷電イオン34を生成する。一実施形態によれば、イオン発生器30をオン又はオフに切り替えることはまた、その強度を変化させる方法であってもよい。一実施形態によれば、イオン発生器30の変動性は、イオン発生器30の電源の調整によるイオン流束の変動性として理解することができる。例えば、イオン発生器30の電源のオン又はオフを切り替えることは、イオン流束の変動につながる。別の例では、イオン発生器30の電源の値を増減させることは、イオン流束の変動につながる。
【0051】
[0062]電源の値が調整されるときの強度の変動を定量化するために、イオン発生器30が監視される帯電プレートに対して固定距離(この実験では10cm)を隔てて配置される実験が実現された。前記監視される充電プレートは、0ボルトにされ、次いで、任意の電圧源から切断され、すなわち、その電圧は実質的に浮遊電圧のままである。実際に、プレートへの電圧は、プレートの電気的状態を可能な限り乱さないように、高インピーダンスケーブルを使用してオシロスコープで監視される。波形取得を開始した後、イオン発生器30は、この実験では負イオンの発生をオンに切り替えられ、電源の値は、6ボルト~12ボルトの範囲内の特定の固定値に維持される。この実験中、監視されるプレート上に増大する負電圧が確立される。長い間、前記負電圧は、漸近曲線にしたがって負の値に固定される傾向がある。次に、この実験を電源の異なる値で再現して、これがこの負の値に達するのに必要な時間の変更を誘発するかどうかをチェックする。この実験では、イオン発生器30に印加する直流電源レベルに応じた一定の電圧レベル(それぞれ-400ボルト及び-800ボルト)に到達するまでに要する時間を調べた。この実験では、印加される電源電圧が高いほど、予め定められた電圧レベルに達するのに必要な時間が短くなることが示されている。電源の値と前記所要時間との間の関係は、以下の表に示すように非線形である。
【0052】
【表1】
【0053】
[0063]この実験は、イオン生成30効率のダイナミックレンジが非常に大きく、印刷モードに応じても、イオン発生器30の電源の小さな電圧調整で微調整が得られることを明らかに示している。好適には、電源の値の調整は、分圧器又は電位差計などの単純な回路を使用して容易に行なうことができる。
【0054】
[0064]後述するように、可変デューティサイクル及び/又は可変強度を有するイオン発生器30の使用は、例えば、非均質な電荷分布を含むプラスチックカードに印刷する場合に、様々な技術的問題を解決することを可能にする。通常、この使用ケースでは、プラスチックカード表面は、異なる電荷を有する異なる領域を含むことができる。この例では、プラスチックカードは、それぞれ異なる電荷を有する2つの異なる領域を含む。一実施形態によれば、イオン発生器30は、電荷に関する2つの領域間の差を減少させ、同様に前述の液滴逸脱を引き起こす電荷勾配も最小化するように構成される。正味電荷の排除又は少なくとも大幅な減少は、イオン発生器30によって達成することができる。更に、放出されたイオンの極性がカードの電荷と反対である場合、イオン発生器30は、カードの正味電荷を大幅に減少させるか、又は排除することさえ可能にする。幾つかの状況では、イオンの流れが続くと、長時間の間に電荷の極性が逆転する可能性さえある。反対に、イオンの極性がカードの電荷と同じである場合、イオン発生器30は、カードの2つの領域間のバランスに到達することを可能にする。それにもかかわらず、幾つかの状況では、イオン流束はカード電場によって次第にますます拒絶され得る。したがって、幾つかの状況では、例えば同じカードに多くの層を印刷しなければならない場合、長時間にわたって正味電荷の増大が遅くなる可能性がある。したがって、可変デューティサイクルの使用は、特に印刷中に適用される層の数に関連して、この欠点を克服するための解決策である。可変デューティサイクル及び/又は可変強度を使用してイオン発生器30の動作条件を調整することができることは、印刷条件の変動性に起因する技術的問題を克服するためにイオン発生器30の自由度の数を増大させる。
【0055】
[0065]略均一な電荷分布の存在及び結果として生じる電場は、それ自体欠点を表わすものではない。実際、インク滴の吐出中、電場は、特定の極性を有するインク滴の荷電成分を引き付けることができ、これは液滴のヘッドに集中し、後者は、断片化後に大きな主滴になり、当業者に知られているように、大きな撓みを伴うことなくカードの上面に向かって引き付けられる。他方では、小さな質量及び低速を有するエアロゾルを構成する尾部の小さなインク滴は、それらが主滴に対して反対の極性を有する場合、又はそれらが中性である場合、電気的勾配の緩和のためにそれらの元の軌道に沿って継続することができる場合には拒絶される。
【0056】
[0066]効果的な電荷均一化には、約1/2秒以下が必要であり、これは、カードに印刷するためのインクジェットプリンタの印刷歩留まり要件と完全に適合することを指摘しておくべきである。本発明の解決策は、インクジェットプリンタが、印刷された表面上のミストの著しい存在にさえ気付かずに、すなわち、印刷された画像全体にわたって偽のインクスポットの著しい存在なしに、数百枚のカードを印刷することを可能にすることができる。
【0057】
[0067]前述した種々の技術的特徴は、任意に組み合わせることができる。様々な技術的特徴の全ての可能な組み合わせが記載されているわけではないが、これらの技術的特徴の全ての組み合わせは、矛盾しない限り、本明細書に記載された範囲内にあると見なされるべきである。
【0058】
[0068]実施形態と組み合わせた本発明の説明にもかかわらず、当業者であれば分かるように、上記の説明及び図面は例示的なものにすぎず、限定的なものではなく、本発明は開示された実施形態に限定されない。本発明の概念から逸脱することなく、様々な修正及び変形が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 インクジェットプリンタ
2 ベースフレーム
3 格納ゾーン
4 カード
5 支持キャリッジ
6 板状トレイ
7 トレイヒータ
8 引き出しステーション
9 印刷ステーション
10 吐出ステーション
11 プリントヘッド
12 支持プレート
13 主ローラ
14、15、16、17、18 補助ローラ
19 抜き取られたカード
20 ガイドプレート
21 ノズル
22 インク
23 インク滴
24 主滴
25 付随体
26 エアロゾル
27 意図される印刷画像
28 実際の印刷画像
29 偽のインクスポット
30 イオン発生器
31 イオン発生器ケース
32 開口部
33 電気端子
34 荷電イオン
35 取付ブラケット
36 垂直支持体
37 水平支持体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a)】
図8b)】
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2022-12-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カードに印刷するためのインクジェットプリンタ(1)において、
ベースフレーム(2)を備えるプリンタフレームと、
印刷されるべきカードを支持するために前記ベースフレームに取り付けられる支持キャリッジ(5)と、
前記カードの上面にインクジェット印刷するために前記プリンタフレームに取り付けられ、少なくとも1つのプリントヘッド(11)を備える印刷ステーション(9)と、
前記カードの前記上面に送られる荷電イオンを放出するために前記プリンタフレームに取り付けられるイオン発生器(30)と、
を備え、
前記イオン発生器が、可変デューティサイクル及び可変強度を伴って、印刷前及び印刷中に作動される、
インクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記イオン発生器が、正の荷電イオンと負の荷電イオンとを交互に放出するエアイオナイザである、請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記正の荷電イオンと前記負の荷電イオンとが前記カードの前記上面に到達する前に互いに中和されないように、前記放出される荷電イオンの極性が、予め定められた時間の周期で変化する、請求項2に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記イオン発生器が、固有の極性を有する荷電イオンを放出するためのユニポーライオン発生器であり、前記荷電イオンが拡散により前記カードの前記上面に到達可能である、請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記ユニポーライオン発生器が、
生成された荷電イオンが流出できるようにする開口部(32)を有するイオン発生器ケース(31)と、
前記イオン発生器ケース内に収容される一対の電極と、
前記インクジェットプリンタに搭載されたイオン発生器電源モジュールと接続される、電極ごとに1つずつの一対の電気端子(33)と、
を備える、請求項4に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記インクジェットプリンタが、前記イオン発生器を取り付けるための取付ブラケット(35)を備え、前記取付ブラケットが前記ベースフレームに固定される、請求項1~5のいずれか一項に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
前記プリンタフレームが、複数のサイドフレームによって前記ベースフレームと接続されるトップフレームを更に備え、前記イオン発生器が前記トップフレームに固定される、請求項1~5のいずれか一項に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項8】
前記インクジェットプリンタがガイドプレート(20)を更に備え、前記支持キャリッジが、前記ガイドプレート上に配置されるとともに、前記ガイドプレートによって案内されて、前記支持キャリッジが前記プリンタヘッドと対向しない第1の位置と、前記支持キャリッジが前記プリンタヘッドと対向する第2の位置との間で移動し、前記印刷ステーションが、前記ガイドプレートの上方で前記ガイドプレートに対して横方向に移動することができ、前記イオン発生器が前記印刷ステーションの移動経路から外れている、請求項1~7のいずれか一項に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項9】
前記ベースフレームにおける前記イオン発生器の正投影が、前記支持キャリッジが前記第2の位置にあるときに前記ベースフレームにおける前記支持キャリッジの正投影の中心と一致する、請求項8に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項10】
印刷されるべき少なくとも1つのカードを格納するための格納ゾーン(3)と、
前記格納ゾーンから前記支持キャリッジに前記カードを引き出すための引き出しステーション(8)と、
を更に備える、請求項1~9のいずれか一項に記載のインクジェットプリンタ。
【国際調査報告】