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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-14
(54)【発明の名称】頭頸部癌の診断およびリスク判定
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20240307BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20240307BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20240307BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240307BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/34
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551997
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2021054926
(87)【国際公開番号】W WO2022179708
(87)【国際公開日】2022-09-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512197308
【氏名又は名称】オンクグノスティクス ゲーエムベーハー
【住所又は居所原語表記】Loebstedter Strasse 41 07749 Jena Germany
(71)【出願人】
【識別番号】516334879
【氏名又は名称】ウニヴェルジテーツクリニークム イェーナ
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】グンティナス-リヒウス, オーランド
(72)【発明者】
【氏名】シュタインバッハ, ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】シュミッツ, マルティナ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンゼル, アルフレート
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR14
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
(57)【要約】
頭頸部癌を発症するリスクの判定方法を記載する。本方法は、遺伝子ZNF823とZNF833との間に位置するゲノムDNA配列のメチル化状態の決定に基づき、配列がメチル化されている場合、頭頸部癌を発症するリスクが高い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者の頭頸部の癌を発症するリスクを判定する方法であって、前記患者から得られた生物学的試料中の19番染色体上の遺伝子ZNF823と遺伝子ZNF833との間のゲノム領域のメチル化状態を決定する工程を含む、方法。
【請求項2】
ヒト患者の頭頸部の癌の存在の可能性を判定する方法であって、前記患者から得られた生物学的試料中の19番染色体上の遺伝子ZNF823と遺伝子ZNF833との間のゲノム領域のメチル化状態を決定する工程を含む、方法。
【請求項3】
ヒト患者の頭頸部の癌の存在を診断する方法であって、前記患者から得られた生物学的試料中の19番染色体上の遺伝子ZNF823と遺伝子ZNF833との間のゲノム領域のメチル化状態を決定する工程を含む、方法。
【請求項4】
前記ゲノム領域が前記生物学的試料中でメチル化されている場合、前記患者が頭頸部の癌を発症するリスクが高いか、または前記患者が頭頸部の癌が存在する可能性が高いか、または前記患者が頭頸部の癌を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ゲノム領域のメチル化のレベルが、メチル化の最大レベルの1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ゲノム領域が、ヒト19番染色体のヌクレオチド11,686,870からヌクレオチド11,721,264までである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ゲノム領域が、ヒト19番染色体のヌクレオチド11,694,447からヌクレオチド11,695,085までである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ヒト19番染色体のヌクレオチド11,694,447とヌクレオチド11,695,085との間に位置するCpGジヌクレオチドの少なくとも1つがメチル化されている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ヒト19番染色体のヌクレオチド11,694,447とヌクレオチド11,695,085との間に位置するCpGジヌクレオチドの少なくとも0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%がメチル化されている、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記メチル化状態を対照試料のメチル化状態と比較する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記頭頸部の癌が、口の癌、鼻の癌、鼻咽頭の癌、咽喉の癌、下咽頭の癌、喉頭の癌、気管の癌、食道の癌、扁桃腺の癌、副鼻腔の癌、または唾液腺の癌である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記生物学的試料が頭部および/または頸部の細胞を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記生物学的試料が組織生検である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記生物学的試料中の前記組織が、咽喉、頸部、口、鼻腔、食道、扁桃腺、および/または唾液腺の細胞を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記生物学的試料が、唾液、血液、痰、気管支吸引物、尿、便、胆汁、消化管分泌物、またはリンパ液である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記患者から得られた異なる生物学的試料中または前記患者から得られた同じ生物学的試料中の、ZNF773、ZNF671、ZIC1、HOXA9およびPAX6からなる群より選択される遺伝子に関連するゲノムDNAの1つ以上の領域のメチル化状態を決定する工程をさらに含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記遺伝子に関連するゲノムDNAの領域が、前記遺伝子のプロモータ領域である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ZNF773に関連するゲノムDNAの領域が、ヒト19番染色体のヌクレオチド57,499,757とヌクレオチド57,500,375との間である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
ZNF671に関連するゲノムDNAの領域が、ヒト19番染色体のヌクレオチド57,727,218とヌクレオチド57,727,600との間である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
ZIC1に関連するゲノムDNAの領域が、ヒト3番染色体のヌクレオチド147,412,556とヌクレオチド147,412,790との間である、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
HOXA9に関連するゲノムDNAの領域が、ヒト7番染色体のヌクレオチド27,164,297とヌクレオチド27,166,843との間である、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
PAX6に関連するゲノムDNAの領域が、ヒト11番染色体のヌクレオチド31,798,513とヌクレオチド31,799,868との間である、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
前記患者がパピローマウイルスに感染している、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記患者がパピローマウイルス感染を有していない、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記メチル化状態がナノポアシーケンシングによって決定される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記メチル化状態がメチル化特異的PCR(MSP)によって決定され、好ましくは前記MSPが定量的MSP(QMSP)である、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記QMSPが蛍光プローブの使用に基づく、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記メチル化状態がメチル化感受性制限酵素によって決定される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記メチル化感受性酵素がメチル化DNAを切断する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記メチル化感受性酵素が非メチル化DNAを切断する、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記患者が頭頸部癌を発症するリスクが高い、または前記患者が頭頸部癌が存在する可能性が高い、または前記患者が頭頸部癌を有すると判定された後、前記方法が、前記癌を治療するまたは前記癌の発症を予防するための薬剤を前記患者に投与する工程をさらに含む、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
頭頸部の癌の発症についてより頻繁なスクリーニングを受けるべき患者を選択する方法であって、前記患者から得られた生物学的試料中の19番染色体上の遺伝子ZNF823と遺伝子ZNF833との間のゲノム領域がメチル化されているヒト患者を選択する工程を含む、方法。
【請求項33】
前記より頻繁なスクリーニングが組織病理学に基づくスクリーニングである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記より頻繁なスクリーニングが、12ヶ月ごと、好ましくは6ヶ月ごと、より好ましくは3ヶ月ごとである、請求項32または33に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の頭頸部の癌の存在の可能性を判定/診断する方法、ならびに患者の頭頸部の癌を発症するリスクを判定する方法に関する。特に、本方法は、患者から得られた生物学的試料中の19番染色体上の遺伝子ZNF823と遺伝子ZNF833との間のゲノム領域のメチル化状態を決定することを含み、試料中でゲノム領域がメチル化されている場合、患者は頭頸部の癌を有するもしくは有する可能性が高く、および/または頭頸部の癌を発症するリスクが高い。
【背景技術】
【0002】
「国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer)」(IARC)によれば、2015年には世界中で約657,000人が頭頸部の癌(口腔、唇、鼻咽頭、中咽頭、下咽頭の癌)と診断され、約336,000人がそのような癌で死亡した(Bray et al.,2018,Global cancer statistics 2018:GLOBOCAN estimates of incidence and mortality worldwide for 36 cancers in 185 countries,CA Cancer J Clin 68:394-424)。この癌による比較的高い死亡率の主な理由は、早期検出試験の欠如による疾患の発見の遅れであり、および場合によっては治療可能性が低いことである。頭頸部のこれらの癌の発生率のさらなる増加が予測される。新規症例数の増加は、頭頸部領域に腫瘍を引き起こし得るヒトパピローマウイルス(HPV)による感染の広がりの増加にもおそらく関連している。
【0003】
アルコールおよびタバコの乱用に加えて、ヒトパピローマウイルスによる感染は、この疾患の主なリスク因子の1つである。それらは主に中咽頭癌の発症に関連する。扁桃腺が最も影響を受ける。これらの腫瘍を診断するために利用可能ないくつかの検査は、患者のHPV感染状態に依存し、ウイルスの検出に基づく。
【0004】
多くの刊行物は、メチル化マーカが一般に、子宮頸癌などの特定の癌の早期検出の分野における分子診断に適することを示している。例えば、Wang et al.,2008,Cancer Res.68:2489は、子宮頸癌における新しいメチル化マーカの同定を記載している。さらに、Huang et al.,2008,Abstract #50,99th Annual Meeting of the American Association for Cancer Research,San Diego,CA,USAは、CIDEAおよびRXFP3の過剰メチル化が卵巣癌の潜在的なエピジェネティックマーカであると記載している。
【0005】
欧州特許第2478117号明細書は、CIN3および子宮頸癌の検出のためのASTN1およびZNF671遺伝子のプロモータ/5’領域の過剰メチル化の検出を記載しており、Schmitz et al.,2017,Clin.Epigenetics 9:Article number 118は、高リスクパピローマウイルスDNA陽性女性のトリアージのためのDNAメチル化マーカ、例えばASTN1、DLX1、ITGA4、RXFP3、SOX17およびZNF671などの使用を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許第2478117号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bray et al.,2018,Global cancer statistics 2018:GLOBOCAN estimates of incidence and mortality worldwide for 36 cancers in 185 countries,CA Cancer J Clin 68:394-424
【非特許文献2】Wang et al.,2008,Cancer Res.68:2489
【非特許文献3】Huang et al.,2008,Abstract #50,99th Annual Meeting of the American Association for Cancer Research,San Diego,CA,USA
【非特許文献4】Schmitz et al.,2017,Clin.Epigenetics 9:Article number 118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
患者が癌を発症するかまたは癌を有する可能性を判定するのに有用な多くの診断方法がある。それにもかかわらず、例えば頭頸部の組織に癌の徴候がない場合、患者の頭頸部癌を発症するリスクを判定するまたは頭頸部癌を診断する方法が当技術分野で依然として必要とされている。以下に記載する本発明は、この必要性を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくとも部分的には、遺伝子ZNF823とZNF833との間に位置する領域のメチル化状態が、頭頸部の癌を有するまたは発症する可能性/診断または相対リスクと相関するという本発明者らの発見に基づく。この領域は、ヒト19番染色体上で、2013年12月以降の現在の完全な最終ヒトゲノムアセンブリhg38におけるヌクレオチド11,686,870とヌクレオチド11,721,264との間に位置する。この領域を図1に示し、配列を配列番号1に示す。この領域は、ヌクレオチドシトシン(C)およびグアニン(G)の高い割合を特徴とし、少なくとも59個のCpGジヌクレオチドのCpGアイランドを含む。
【0010】
したがって、一態様では、本発明は、ヒト患者の頭頸部の癌を発症するリスクを判定する方法であって、患者から得られた生物学的試料中の19番染色体上の遺伝子ZNF823と遺伝子ZNF833との間のゲノム領域のメチル化状態を決定する工程を含む方法に関する。一態様では、本発明は、ヒト患者の頭頸部の癌の存在の可能性を判定する方法であって、患者から得られた生物学的試料中の19番染色体上の遺伝子ZNF823と遺伝子ZNF833との間のゲノム領域のメチル化状態を決定する工程を含む方法に関する。一態様では、本発明は、ヒト患者の頭頸部の癌の存在を診断する方法であって、患者から得られた生物学的試料中の19番染色体上の遺伝子ZNF823と遺伝子ZNF833との間のゲノム領域のメチル化状態を決定する工程を含む方法に関する。一実施形態では、ゲノム領域が生物学的試料中でメチル化されている場合、患者は頭頸部癌を発症するリスクが高いか、または患者は頭頸部癌が存在する可能性が高いか、または患者は頭頸部癌を有する。一実施形態では、ゲノム領域のメチル化のレベルは、メチル化の最大レベルの1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%であり得る。
【0011】
一実施形態では、遺伝子ZNF823と遺伝子ZNF833との間のゲノム領域は、ヒト19番染色体のヌクレオチド11,686,870からヌクレオチド11,721,264までである。一実施形態では、ゲノム領域は、ヒト19番染色体のヌクレオチド11,694,447からヌクレオチド11,695,085までである。本発明において、遺伝子およびヌクレオチド位置は、2013年12月からの現在の完全な最終ヒトゲノムアセンブリhg38に記載されている通りである。
【0012】
一実施形態では、ヒト19番染色体のヌクレオチド11,694,447とヌクレオチド11,695,085との間に位置するCpGジヌクレオチドの少なくとも1つがメチル化され得る。一実施形態では、ヒト19番染色体のヌクレオチド11,694,447とヌクレオチド11,695,085との間に位置するCpGジヌクレオチドの少なくとも0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または100%がメチル化され得る。領域のメチル化状態は、対照試料の同じ領域のメチル化状態と比較することができる。対照試料は、19番染色体上の遺伝子ZNF823と遺伝子ZNF833との間のゲノム領域がメチル化されていないことが公知である組織から得られた試料であり得るか、またはメチル化の公知の値もしくは状態を反映する標準品であり得る。対照試料はまた、19番染色体上の遺伝子ZNF823と遺伝子ZNF833との間のゲノム領域がメチル化されていないと決定された、異なる患者から得られた生物学的試料であり得る。
【0013】
頭頸部の癌は、口および舌の癌、鼻の癌、鼻咽頭の癌、咽喉の癌、下咽頭の癌、喉頭の癌、気管の癌、食道の癌、扁桃腺の癌、副鼻腔の癌、または唾液腺の癌であり得る。
【0014】
一実施形態では、患者から得られた生物学的試料は、頭部および/または頸部の細胞を含み得る。一実施形態では、生物学的試料は、好ましくは咽喉、頸部、口、鼻腔、食道、扁桃腺、および/または唾液腺の細胞を含む組織生検であり得る。一実施形態では、生物学的試料は、好ましくは咽喉、頸部、口、鼻腔、食道、扁桃腺、および/または唾液腺の細胞を含む、唾液、血液、痰、気管支吸引物、尿、便、胆汁、消化管分泌物、またはリンパ液である。
【0015】
本発明の方法は、患者から得られた異なる生物学的試料中または患者から得られた同じ生物学的試料中の、ZNF773、ZNF671、ZIC1、HOXA9およびPAX6からなる群より選択される遺伝子に関連するゲノムDNAの1つ以上の領域のメチル化状態を決定するさらなる工程を含み得る。一実施形態では、遺伝子に関連するゲノムDNAの領域は、遺伝子のプロモータ/エンハンサ領域である。一実施形態では、ZNF773、ZNF671、ZIC1、HOXA9およびPAX6からなる群より選択される遺伝子に関連するゲノムDNAの1つ以上の領域が生物学的試料中でメチル化されている場合、患者は頭頸部癌を発症するより高いリスクを有し得るか、または患者は頭頸部癌が存在するより高い可能性を有するか、または患者は頭頸部癌を有する。一実施形態では、ZNF773、ZNF671、ZIC1、HOXA9およびPAX6からなる群より選択される遺伝子に関連するゲノムDNAの1つ以上の領域が生物学的試料中でメチル化されている場合、高いリスク、高い可能性または頭頸部癌が存在することの決定をより高い(統計的)精度で行うことができる。
【0016】
一実施形態では、ZNF773に関連するゲノムDNAの領域は、ヒト19番染色体のヌクレオチド57,499,757とヌクレオチド57,500,375との間であり得る。一実施形態では、ZNF671に関連するゲノムDNAの領域は、ヒト19番染色体のヌクレオチド57,727,218とヌクレオチド57,727,600との間であり得る。一実施形態では、ZIC1に関連するゲノムDNAの領域は、ヒト3番染色体のヌクレオチド147,412,556とヌクレオチド147,412,790との間であり得る。一実施形態では、HOXA9に関連するゲノムDNAの領域は、ヒト7番染色体のヌクレオチド27,164,297とヌクレオチド27,166,843との間であり得る。一実施形態では、PAX6に関連するゲノムDNAの領域は、ヒト11番染色体のヌクレオチド31,798,513とヌクレオチド31,799,868との間であり得る。
【0017】
患者は、パピローマウイルスに感染していてもよく、またはパピローマウイルスに感染していなくてもよい。
【0018】
1つ以上のゲノム領域のメチル化状態の決定は、当技術分野で公知の任意の適切な方法を使用して行うことができる。例えば、メチル化状態は、ナノポアシーケンシングによって決定することができ、またはメチル化特異的PCR(MSP)によって決定することができ、好ましくはMSPは定量的MSP(QMSP)であり、任意で蛍光プローブを使用する。また、メチル化状態は、メチル化感受性酵素がメチル化DNAを切断するか否か、またはメチル化感受性酵素が非メチル化DNAを切断するか否かにかかわらず、メチル化感受性制限酵素によって決定することができる。
【0019】
一実施形態では、患者が頭頸部癌を発症するリスクが高い、または頭頸部癌が存在する可能性が高い、または患者が頭頸部癌を有すると判定された後、本方法は、癌を治療するまたは癌の発症を予防するための薬剤を患者に投与する工程をさらに含む。癌を予防または治療するのに適した当技術分野で公知の任意のそのような薬剤は、頭頸部癌を発症するリスクが高い患者に投与することができる。一実施形態では、薬剤は抗炎症薬、好ましくは非ステロイド性抗炎症薬であるか、または薬剤は、アザシチジンもしくはデシタビンなどのメチル化阻害剤である。一実施形態では、頭頸部癌を発症するリスクが高い患者は、パピローマウイルス、例えばヒトパピローマウイルスに対して患者にワクチン接種することによって治療することができる。一実施形態では、ワクチン接種されるパピローマウイルスは、好ましくは、HPV株16および18などの、癌を引き起こすまたは引き起こす一因となることが公知のウイルスの株であり得る。
【0020】
本発明はまた、頭頸部癌の発症についてより頻繁なスクリーニングを受けるべき患者を選択する方法であって、患者から得られた生物学的試料中の19番染色体上の遺伝子ZNF823と遺伝子ZNF833との間のゲノム領域がメチル化されているヒト患者を選択する工程を含む方法に関する。一実施形態では、より頻繁なスクリーニングは、例えば12ヶ月ごと、好ましくは6ヶ月ごと、より好ましくは3ヶ月ごとの組織病理学に基づくスクリーニングであり得る。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を以下で詳細に説明するが、本発明は、本明細書に記載される特定の方法、プロトコルおよび試薬に限定されず、これらは変化し得ることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されたい。特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0022】
以下において、本発明の要素を説明する。これらの要素を特定の実施形態と共に列挙するが、さらなる実施形態を創出するためにそれらを任意の方法および任意の数で組み合わせてもよいことを理解されたい。様々に説明される例および好ましい実施形態は、本発明を明示的に記載される実施形態のみに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明示的に記載される実施形態を任意の数の開示される要素および/または好ましい要素と組み合わせた実施形態を支持し、包含すると理解されるべきである。さらに、本出願に記載されているすべての要素の任意の並び替えおよび組合せは、文脈上特に指示されない限り、本出願の説明によって開示されていると見なされるべきである。
【0023】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、“A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)”,H.G.W.Leuenberger,B.Nagel,and H.Kolbl,Eds.,(1995)Helvetica Chimica Acta,CH-4010 Basel,Switzerlandに記載されているように定義される。
【0024】
本発明の実施は、特に指示されない限り、当技術分野の文献(例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,4th Edition,M.R.Green,J.Sambrook et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor 2012参照)で説明されている生化学、細胞生物学、免疫学、および組換えDNA技術の従来の方法を用いる。
【0025】
本明細書および以下の特許請求の範囲全体を通して、文脈上特に必要とされない限り、「含む(comprise)」という語、ならびに「含む(comprises)」および「含むこと(comprising)」などの変形は、記述される成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群の包含を意味するが、いかなる他の成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群の排除も意味しないと理解され、ただしいくつかの実施形態では、そのような他の成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群が排除され得る、すなわち主題は、記述される成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群の包含に存する。本発明を説明する文脈で(特に特許請求の範囲の文脈で)使用される「1つの」および「その」という用語および同様の言及は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、単に、その範囲内に属する各々別々の値を個別に言及することの簡略方法として機能することが意図されている。本明細書で特に指示されない限り、各個別の値は、本明細書で個別に列挙されているかのごとくに本明細書に組み込まれる。
【0026】
本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供されるありとあらゆる例または例示的な言語(例えば「など」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図しており、特許請求される本発明の範囲に限定を課すものではない。本明細書中のいかなる言語も、本発明の実施に不可欠な特許請求されていない要素を指示すると解釈されるべきではない。
【0027】
本明細書の本文全体を通していくつかの資料を引用する。本明細書で引用される資料(すべての特許、特許出願、科学出版物、製造業者の仕様書、説明書などを含む)の各々は、上記または下記のいずれでも、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本発明が先行発明によってそのような開示に先行する権利がないことの承認として解釈されるべきではない。
【0028】
本発明は、とりわけ、頭頸部癌を発症するリスクが高いヒト患者の特定を可能にする。そのような患者の特定は、19番染色体上の遺伝子ZNF823とZNF833との間に位置するゲノムDNA配列がメチル化されている患者から得られた組織または他の生物学的試料では、頭頸部癌を発症する有意に高いリスクが存在するという事実に基づく。頭頸部癌を発症するリスクが高いまたは頭頸部癌を有するそのような患者が特定されると、そのような患者は、早期検出の可能性を高めるために標準的な組織病理学的方法を使用して頭頸部癌の出現についてより頻繁に監視することができ、および/または頭頸部癌の発症を予防するために処置することができる。
【0029】
19番染色体上の遺伝子ZNF823とZNF833との間に位置する領域に加えて、またはそれと組み合わせて、ZNF773、ZNF671、ZIC1、HOXA9およびPAX6からなる群より選択される遺伝子に関連するゲノムDNAの1つ以上の領域のメチル化を決定することができる。
【0030】
対象が非ヒト対象である本発明の特定の実施形態では、メチル化状態が決定される配列に関連する遺伝子は、それぞれの非ヒト対象のそれぞれの相同遺伝子である。非ヒト対象に関する一実施形態では、ゲノムDNAは、それぞれの遺伝子および/またはその任意の部分のヒト配列と最も強い相同性/同一性を有する非ヒト染色体(1つ以上)内の領域である。
【0031】
典型的なジンクフィンガーモチーフを有する転写因子であるZNF671(GenBankアクセッション番号NM_024833、NC_000019.10に含まれる)。このタンパク質は、転写抑制において重要な役割を果たし、細胞分化、増殖、アポトーシスおよび腫瘍抑制に関与する。タンパク質の発現は、とりわけ、プロモータ領域のメチル化状態によって制御される。試験により、様々な腫瘍実体(尿路上皮癌、子宮頸癌、頭頸部領域の癌)に対するDNAメチル化を介したエピジェネティック調節が示されている(Yeh et al.2015,Methylomics analysis identifies ZNF671 as an epigenetically repressed novel tumor suppressor and a potential non-invasive biomarker for the detection of urothelial carcinoma,Oncotarget.6:29555-29572;Tian et al.,2014,Prognostication of patients with clear cell renal cell carcinomas based on quantification of DNA methylation levels of CpG island methylator phenotype marker genes,BMC Cancer 14:772;Hansel et al.,2014,A Promising DNA Methylation Signature for the Triage of High-Risk Human Papillomavirus DNA-Positive Women.PLoS ONE 9(3):e91905)。鼻咽頭癌に関連して、ZNF671の異常な高メチル化が疾患の進行に関連することを示すデータが既に公表されている(Zhang et al.,2017,Journal of Experimental&Clinical Cancer Research 36:147;Zhang et al.,2017,Liquid Biopsy for Cancer:Circulating Tumor Cells,Circulating Free DNA or Exosomes?,Cellular Physiology and Biochemistry 41:755-768;Zhao et al.,2017,BMC Cancer 17:489)。
【0032】
ZNF773(GenBankアクセッション番号NM_001304334.1、NC_000019.10に含まれる)は、HPV陽性中咽頭癌の腫瘍組織において過剰メチル化されることが記載されている(Ren et al.,2018,Discovery and development of differentially methylated regions in human papillomavirus-related oropharyngeal squamous cell carcinoma,Int.J.Cancer 143:2425-2436)。
【0033】
ZIC1(GenBankアクセッション番号NM_003412.4、NC_000003.12に含まれる)は、小脳のジンクフィンガータンパク質(ZIC)のファミリーに属する。このタンパク質は、初期発生の神経発生における転写因子として機能する。また、このタンパク質は、アポリポタンパク質E(脂質代謝)の遺伝子の潜在的な転写調節因子として記載されている(Salero et al.,2001,Transcription Factors ZIC1 and ZIC2 Bind and Transactivate the Apolipoprotein E Gene Promoter,J.Biol.Chem.276:1881-1888)。さらに、胃癌および頭頸部腫瘍における過剰メチル化がZIC1について記載されている(Lin et al.,2017,Combined Detection of Plasma ZIC1,HOXD10 and RUNX3 Methylation is a Promising Strategy for Early Detection of Gastric Cancer and Precancerous Lesions,Journal of Cancer 8:1038-1044;Paluszczak et al.,2017,Prognostic significance of the methylation of Wnt pathway antagonists-CXXC4,DACT2,and the inhibitors of sonic hedgehog signaling-ZIC1,ZIC4,and HHIP in head and neck squamous cell carcinomas,Clin.Oral Invest.21:1777-1788)。
【0034】
HOXA9(ホメオボックス遺伝子A9)(GenBankアクセッション番号NM_152739.4、NC_000007.14に含まれる)およびPAX6(ペアードボックス6遺伝子)(GenBankアクセッション番号NM_001368930.1、NC_000011.10に含まれる)は、胚形成において重要な役割を果たす転写因子をコードし、両方ともホメオボックス遺伝子のファミリーに属する。HOXA9のプロモータ領域の特異的な過剰メチル化は、肺癌(Wrangle et al.,2014,Functional identification of cancer-specific methylation of CDO1,HOXA9,and TAC1 for the diagnosis of lung cancer,Clin.Cancer Res.20:1856-1864)、肝細胞癌(Kuo et al.,2014,Frequent methylation of HOXA9 gene in tumor tissues and plasma samples from human hepatocellular carcinomas,Clin.Chem.Lab Med.52:1235-1245)、卵巣癌(Singh and Sachan,2017,HOXA9 and SOX1-a promising DNA methylation based diagnostic biomarker for epithelial ovarian cancer,Can.J.Biotech.1:66)および頭頸部腫瘍(Uchida et al.,2014,Investigation of HOXA9 promoter methylation as a biomarker to distinguish oral cancer patients at low risk of neck metastasis,BMC Cancer 14:353)に関連して公知である。さらに、HOXA9は、頭頸部腫瘍(Hayashi et al.,2015,Correlation of gene methylation in surgical margin imprints with locoregional recurrence in head and neck squamous cell carcinoma,Cancer J.121:1957-1965)および膀胱癌(Kitchen et al.,2015,Methylation of HOXA9 and ISL1 Predicts Patient Outcome in High-Grade Non-Invasive Bladder Cancer,PLoS ONE 10:e0137003)における疾患の経過を予測するためのエピジェネティックマーカとしての可能性を有し得る。PAX6のプロモータ領域の腫瘍特異的過剰メチル化はまた、非小細胞肺癌の予後値に関する様々な刊行物に記載されている(Kiselev et al.,2018,Transcription factor PAX6 as a novel prognostic factor and putative tumour suppressor in non-small cell lung cancer,Scientific Reports 8:5059;Ooki et al.,2018,Epigenetically regulated PAX6 drives cancer cells to stem-like state via GLI-SOX 2 signaling axis in lung adenocarcinoma,Oncogene 37:5967-5981)。
【0035】
一実施形態では、メチル化状態が決定されるべき特定の遺伝子ZNF773、ZNF671、ZIC1、HOXA9およびPAX6に関連するゲノムDNAの1つ以上の領域は、特定の遺伝子の少なくとも1つの配列の上流および/または下流(5’側および/または3’側)の約0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35または40キロベース以内のゲノムDNA配列を含む。本発明の一実施形態では、ZNF773に関連するゲノムDNAの領域は、ヒト19番染色体のヌクレオチド57,499,757とヌクレオチド57,500,375との間であり得る。一実施形態では、ZNF671に関連するゲノムDNAの領域は、ヒト19番染色体のヌクレオチド57,727,218とヌクレオチド57,727,600との間であり得る。一実施形態では、ZIC1に関連するゲノムDNAの領域は、ヒト3番染色体のヌクレオチド147,412,556とヌクレオチド147,412,790との間であり得る。一実施形態では、HOXA9に関連するゲノムDNAの領域は、ヒト7番染色体のヌクレオチド27,164,297とヌクレオチド27,166,843との間であり得る。一実施形態では、PAX6に関連するゲノムDNAの領域は、ヒト11番染色体のヌクレオチド31,798,513とヌクレオチド31,799,868との間であり得る。本明細書に列挙されるヌクレオチド番号(位置)は、2013年12月のヒトゲノムアセンブリhg38に由来する。
【0036】
好ましくは、前記配列の一部は、より大きな配列内に含まれるCGリッチ領域および/またはCpGアイランドを含む。したがって、一実施形態では、特定の遺伝子に関連するゲノムDNAの1つ以上の領域は、上記で特定した染色体配列の1つ以上の部分であり、この1つ以上の部分はCGリッチ領域および/またはCpGアイランドを含む。
【0037】
ゲノムDNA配列またはその一部のこれらの領域のメチル化状態を決定する際に、これらの配列内に含まれる単一の、例えば単離されたシトシンのメチル化状態、ならびにこれらの配列内に含まれるCGリッチ領域およびCpGアイランドにおけるシトシンのメチル化状態を決定することができる。好ましい実施形態では、特定の遺伝子に関連するゲノムDNAの1つ以上の領域のメチル化状態は、そのようなゲノム配列内に含まれる1つ以上のCpGアイランドのシトシンのメチル化状態を測定することによって決定される。
【0038】
本明細書で使用される「一部」、「断片」および「部分」という用語は互換的に使用され、画分、特により大きなヌクレオチドまたはアミノ酸配列の画分を指す。また、より大きな分子の複数の不連続部分を含む分子、例えば染色体配列などの異なるヌクレオチド配列の1つ以上の不連続部分を含むヌクレオチド配列も、これらの用語に包含される。特定の実施形態では、ヌクレオチド配列の一部は、約10、20、30、40、50、100、150、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、または約10,000ヌクレオチド以上の長さであり得る。別の実施形態では、1、3、7、9、11または19番染色体の染色体配列の一部は、少なくとも1つのCpGアイランドまたはCpGアイランドの一部を含む。
【0039】
本発明に従って頭頸部癌を発症するリスクが決定されるべき組織は、患者の任意の組織であり得る。例示的な組織としては、咽喉、頸部、口、鼻腔、食道、扁桃腺、および唾液組織が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
「対象」、「個体」、「生物」または「患者」という用語は互換的に使用され、脊椎動物、好ましくは哺乳動物に関する。例えば、本発明の文脈における哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長動物、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマなどの家畜、マウス、ラット、ウサギ、モルモットなどの実験動物、ならびに動物園の動物などの捕らわれている動物である。「動物」という用語はヒトも含む。好ましくは、「対象」、「個体」、「生物」または「患者」という用語は、雄および雌の哺乳動物、特に男性および女性のヒトを指す。対象は任意の年齢であり得るが、成体であることが好ましい。特定の実施形態では、対象はパピローマウイルスに感染していてもよく、またはパピローマウイルスに感染していなくてもよい。
【0041】
「インビボ」という用語は、対象における状況に関する。
【0042】
本明細書で使用される場合、「生物学的試料」は、患者から得られた任意の生物学的試料を含む。そのような生物学的試料の例としては、唾液、血液、細胞の塗抹標本、痰、気管支吸引物、尿、便、胆汁、消化管分泌物、リンパ液、臓器吸引物、およびパンチ生検を含む組織生検が挙げられる。任意で、生物学的試料は患者の粘膜から得ることができる。細胞を含有する塗抹標本、唾液試料および口内洗浄液が好ましい。生物学的試料は、好ましくは頭頸部癌を発症する高いリスクが判定される組織からの細胞を含み得る。好ましくは、生物学的試料は、DNAまたはその一部のメチル化状態を決定することができるように、DNA、例えばゲノムDNAまたは循環無細胞DNAを含有する。生物学的試料は、頭頸部癌を発症するリスクが判定される組織から得られるものであり得る。
【0043】
「リスクがある」または「リスクが高い」とは、一般集団と比較して、疾患、特に頭頸部癌を発症する可能性が通常よりも高いと特定される対象、すなわち患者を意味する。一実施形態では、高いリスクとは、試料が得られてから1~3ヶ月以内に癌を発症することを意味する。一実施形態では、高いリスクとは、試料が得られてから3~6ヶ月以内に癌を発症することを意味する。一実施形態では、高いリスクとは、試料が得られてから7~12ヶ月以内に癌を発症することを意味する。一実施形態では、高いリスクとは、試料が得られてから13~24ヶ月以内に癌を発症することを意味する。一実施形態では、高いリスクとは、試料が得られてから24~36ヶ月以内に癌を発症することを意味する。一実施形態では、高いリスクとは、試料が得られた後36ヶ月、例えば42、48、52、60ヶ月またはそれ以降に癌を発症することを意味する。
【0044】
本発明に従って、関連するゲノムDNA配列のメチル化状態を決定するために、試料中に存在するゲノムDNAを何らかの方法で処理することができる。例えば、ゲノムDNAを生物学的試料から抽出することができ、DNAの特定の領域のメチル化状態を当業者に公知の任意の方法、例えばフェノール/クロロホルムによる抽出を用いて、または市販のキットによって決定することができ、次いで亜硫酸水素ナトリウムもしくは亜硫酸水素アンモニウム法を用いて、またはEZ-DNA Methylation-Gold(商標)キット、Zymo Research,Irvine,Californiaなどの市販のキットによってメチル化を決定することができる。別の実施形態では、試料からのDNA単離の準備工程を必要とせずにメチル化状態を決定することができる。別の実施形態では、メチル化状態をDNAで決定することができ、亜硫酸水素塩に基づく方法以外が使用される。
【0045】
「メチル化状態」という用語は、一般に、ゲノムDNAまたはその領域がメチル化ヌクレオチド残基、特にメチル化シトシン残基、すなわち5-メチルシトシンを含むか否かを指す。一実施形態では、メチル化状態が決定されるべきゲノムDNAの領域は、グアニン残基およびシトシン残基が豊富な領域、特にCG-ジヌクレオチドが豊富な領域であり、すなわち領域は1つ以上のCpGアイランドを含む。メチル化状態は、以下で論じるように、公知の方法によって決定することができる。メチル化は遺伝子のプロモータ領域で起こることが多く、したがって、関連遺伝子のメチル化状態の検出方法は、通常、これらの領域に集中している。しかし、CpGアイランドを含む領域などのGCリッチ領域は遺伝子の他の領域にも位置し得るので、遺伝子はプロモータ領域以外の領域でもメチル化され得る。遺伝子のそのような他の領域のメチル化状態の検出も本発明に包含される。
【0046】
本発明による方法では、遺伝子ZNF823とZNF833との間に位置するか、または遺伝子ZNF671、ZNF773、ZIC1、HOXA9および/またはPAX6に関連するゲノムDNA中の、好ましくはCGリッチ領域、例えばCpGアイランドのメチル化状態が決定される。「メチル化」という用語は、分子生物学で一般的に公知の「過剰メチル化」という用語と同義であると見なされる。これは、DNAの明確なメチル化状態、すなわちDNA中の、好ましくはCpGアイランドまたはGCヌクレオチドが豊富な他の領域内の5-メチルシトシンの存在を指す。
【0047】
上記で論じたように、メチル化状態が決定されるべきゲノムDNAの領域は、特定の遺伝子の1つのエクソン、イントロン、5’プロモータ/エンハンサ、または任意の他の領域に位置し得る。本明細書で使用される場合、「メチル化されている」という用語は、少なくとも、DNA配列が5-メチルシトシンヌクレオチドを含むことを意味する。一実施形態では、新生物(組織の異常かつ過剰な成長)を発症する高いリスクは、試験された(そのメチル化状態が決定された)DNA配列中の5-メチルシトシンヌクレオチドの存在によって判定される。一実施形態では、新生物を発症する高いリスクは、試験されたDNA配列中の5-メチルシトシン(メチル化)の量の増加によって判定される。メチル化の量の増加は、生物学的試料中のメチル化の量を対照試料中で測定されたメチル化の量と比較することによって判定することができる。一実施形態では、メチル化の増加が、対照試料中で測定されたメチル化の量を少なくとも0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、50%、75%、100%、150%、または200%以上上回る場合、新生物を発症するリスクが高いと判定される。一実施形態では、メチル化の増加が、対照試料中で測定されたメチル化の量の少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、30倍、40倍、または50倍以上である場合、新生物を発症するリスクが高いと判定される。一実施形態では、メチル化のレベルの上昇は、生物学的試料中のメチル化のレベルが所定の閾値レベルを超えるか否かによって判定される。対照試料は、メチル化または非メチル化のいずれかであることが公知の遺伝子/配列であり得るか、または患者から得られた生物学的試料で試験されたのと同じ配列であり得るが、この同じ配列は別の患者から得られたものであり、この別の患者の組織は、この別の患者からの試料が得られた後の特定の期間内に新生物を発症しないと判定された。特定の実施形態では、特定の期間は、少なくとも24ヶ月、30ヶ月、36ヶ月、または48ヶ月以上であり得る。
【0048】
一実施形態では、DNAのメチル化状態は、単一のDNA分子がナノメートルサイズのタンパク質細孔を通過するときに観察されるイオン電流の変化を読み取る、ナノポアシーケンシングを使用して決定される。さらに、ナノポアシーケンシングは、DNA鎖のヌクレオチドだけでなく、5’-メチル化シトシンなどの一塩基修飾も識別することができる。これらの能力を考慮して、配列同一性とシトシンのメチル化の同時分析を実施することができ、例えば、Euskirchen et al.,2017,Acta Neuropathol,epub prior to publication,DOI 10.1007/S00401-017-1743-5参照。
【0049】
DNAのメチル化状態はまた、亜硫酸水素塩法による非メチル化シトシン残基の先行修飾後に、適切なプライマー対を使用して、いわゆるメチル化特異的PCR反応(MSP)によって決定することができる。亜硫酸水素塩法では、亜硫酸水素ナトリウムを使用して非メチル化シトシン残基をウラシルに変換するが、メチル化シトシン残基(5-メチルシトシン)はこの変換から保護される。ウラシルはシトシンとは異なる対合特性を有する、すなわちアデノシンとのチミン対合のように挙動するので、ウラシルはチミンに結合し、シトシンはチミンに結合しないという事実に基づいて、特別に設計されたプライマーを使用して変換を検出することができる。MSPは、DNAメチル化を検出するための当技術分野で公知の確立された技術である。
【0050】
本発明の文脈において、メチル化状態の検出に使用されるPCR増幅プライマーの設計は、例えばメチル化状態が決定されるべき特定の遺伝子の1つ以上に関連するゲノムDNA配列内の配列の位置に依存する。例えば、そのような配列のメチル化特異的プライマーは、特定のシトシンがプライマー結合部位内でメチル化された場合、亜硫酸水素塩修飾された試料DNAにのみ結合するように設計することができる。これらの領域が亜硫酸水素塩処理の前にメチル化されなかった場合、プライマーは結合せず、PCR反応産物は形成されない。したがって、本発明の文脈において、PCR反応の存在は、特定の遺伝子の特定のDNA領域がメチル化されていること、したがって、患者が組織内で新生物を発症するリスクが高いこと、または既に悪性疾患を有することを示す。
【0051】
メチル化の定性的な検出だけでなく、メチル化DNA領域の定量化も可能にするリアルタイムPCR法(QMSP)が特に好ましい。このMSPは、メチル化特異的産物の形成が蛍光色素、例えばSYBR(登録商標)-Green IまたはII(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)またはEVA-Green(登録商標)(Biotium,Inc.,Fremont,CA)の取り込みによって検出される蛍光ベースのリアルタイム法で実施することができる。これらの方法は、非メチル化DNAの大きなバックグラウンドでメチル化DNAの領域を検出することができ、組織試料のスクリーニングに特に適したハイスループット法である(Shames et al.,2007,Cancer Lett,251:187-198)。
【0052】
あるいは、MSPによるPCR産物の生成は、例えば得られたPCR産物が結合する、したがって検出することができる固定プローブを有するストリップまたはアレイを使用して、PCRの完了後にハイブリダイゼーション法によって検出することもできる。他の技術には、メチル化DNAと非メチル化DNAとを識別するためのメチル化感受性DNA制限酵素の使用、またはメチル化DNAの検出のために亜硫酸水素塩で化学的に処理したDNAのハイスループットシーケンシングが含まれる。
【0053】
別の好ましい方法は、「MethyLight」技術に基づくQMSP法であり、この方法では、メチル化について試験されるDNAのそれぞれの領域に蛍光プローブが使用される。好ましい例では、プローブは5’末端に蛍光色素マーカを、3’末端に消光剤を担持し、このプローブは2つの特異的増幅プライマー間のPCR反応産物に結合する(例えば、Eads et al.,2000,Nucleic Acids Research 28:e32参照)。蛍光色素は、標的配列への結合後にDNAポリメラーゼの5’-3’-エキソヌクレアーゼ活性によってプローブが分解されると直ちに放出され、測定される蛍光は形成された産物の量を反映する。いくつかのオリゴヌクレオチドおよびプローブを使用することによって、この方法で調べられる試料について実施されるべき反応の数を対応して減らすことができる(Shames et al.,2007,Cancer Lett 251:187-198)。適切な蛍光色素および消光剤は当技術分野で公知であり、例えばATDBio Ltd.,Southhampton,UKまたはLGC Biosearch Technologies,Steinach,Germanyから入手可能な、例えばフルオロフォアFAM(商標)、HEX(商標)、NED(商標)、ROX(商標)、Texas Red(登録商標)など、および消光剤TAMRA(商標)またはBlack Hole Quencher(登録商標)がある。
【0054】
特に好ましい実施形態では、メチル化状態の決定は、多重QPCR実験として実施することができる。そのような多重実験は、試料中のゲノムDNAのいくつかの領域のメチル化状態の分析を可能にし、これは、単一のアッセイで新生物を発症する高いリスクと相関することが公知であるする。多重法は、試験されるDNA領域(1つ以上)のメチル化状態を試料当たり1つまたは2つの反応で決定することができるので、いくつかの利点を提供する。これによって、かなりの時間、試料材料および材料コストが節約される。特定の多重実験では、最大5つの遺伝子のメチル化状態を決定することができる。さらに、各遺伝子についてそれぞれ1つのさらなる特異的オリゴヌクレオチド、「プローブ」が使用される。プローブは、一方の末端に蛍光色素を担持し、形成されたPCR反応産物にプローブが特異的に結合するまで蛍光シグナルが検出されないように設計される。異なるプローブは異なる蛍光基を担持するため、各蛍光シグナルを同時に検出することができる。そのような方法はまた、「マイクロアレイ」技術によって実施することができる。
【0055】
特に好ましい実施形態では、メチル化状態の決定は、デジタルPCR実験として実施することができる。そのようなデジタルPCR実験は、新生物を発症する高いリスクと相関することが公知の、試料中のゲノムDNAのいくつかの領域のメチル化状態の定性的および定量的分析を単一のアッセイで可能にする。
【0056】
メチル化状態を決定するための当技術分野で公知の他の方法、例えば蛍光による特異的産物の量の直接測定に基づく方法を本発明に従って使用することができる。例えば、分子ビーコン技術も本明細書で使用することができる。分子ビーコンは、レポータフルオロフォアと消光剤の両方に連結されたオリゴヌクレオチドである。プローブの5’末端のヌクレオチドは、分子ビーコンに特徴的な二次構造を形成するように3’末端のヌクレオチドに相補的である。ヘアピンまたはループ構造と呼ばれるこの状態では、フルオロフォアが消光剤に近接しているため、蛍光は検出されない。フルオロフォアと消光剤との間の距離は、PCR中に生成される相補的DNA配列へのループ構造の結合の結果として増加し、したがって蛍光を観察することができる。
【0057】
別の適切な技術は、「スコーピオン」技術を含む。スコーピオンプローブは、リアルタイムPCRプローブおよびPCRプライマーの特性を1つの分子(単一スコーピオン)または2つの分子(バイスコーピオン)に組み合わせた複雑なオリゴヌクレオチドである。分子ビーコンと同様に、それらは、レポータフルオロフォアおよび消光剤で末端が修飾された自己相補的領域を有する特徴的な二次構造を含む。さらに、これらのプローブはPCRプライマーとして使用することができる。PCRサイクル中に、結合によって消光剤とレポータフルオロフォアとの間の距離が増加するので、相補的DNA配列にループ構造が付着することによってレポータ蛍光を観察することができる。異なるプローブの結合を検出するために、異なるプローブは異なるレポータフルオロフォアを有し得る。
【0058】
さらに、陽性および/または陰性対照DNA、例えばDNAの非メチル化対照領域を同時増幅し、PCR反応を制御するため、ならびに/またはメチル化の存在および/もしくは非存在を制御するために使用することができる。
【0059】
さらに、ゲノムDNAの領域のメチル化は、メチル化遺伝子のコードされたタンパク質が発現されないように、しばしば(メチル化)DNAのこれらの領域に近接する遺伝子の転写遮断に関連することが公知である。したがって、一実施形態では、ゲノムDNAの特定の領域の1つ以上のメチル化状態の間接的な決定は、ZNF823、ZNF833、ZNF671、ZNF773、ZIC1、HOXA9および/またはPAX6遺伝子の1つ以上のコードされたRNAおよび/またはタンパク質の濃度を決定することによって達成することができる。その検出は、当技術分野で公知の任意の適切な方法、例えば、(RNAの場合は)ノーザンブロット分析、RT-PCRなど、および(タンパク質の場合は)抗体に基づく方法または発現されたタンパク質の生物学的活性の決定に基づく方法によって行うことができる。
【0060】
例示的な例として、本発明による方法は以下の工程を含む:(a)患者から得られた生物学的試料、例えば頭頸部癌を発症するリスクが判定されるべき組織の細胞を含有する塗抹標本から標準的な方法に従って、例えばQIAamp DNA-Miniキット(QIAGEN,Hilden,Germany)を使用してDNAを単離する工程;(b)亜硫酸水素ナトリウムまたは亜硫酸水素アンモニウムでの処理とそれに続くアルカリ加水分解によってDNA試料中の非メチル化シトシンをウラシルに変換する、亜硫酸水素塩法に従って、例えばEZ-DNA Methylation-Gold(商標)キット、Zymo Research,Irvine,Californiaなどの市販のキットによって、単離されたDNAを化学的に変換する工程;(c)DNAのメチル化形態の特異的PCRプライマーによって関連するDNAを増幅する工程;および(d)得られた試料においてDNAがメチル化されたことを示すPCR産物の存在を検出する工程。
【0061】
本発明を以下の図面および実施例によって詳細に説明するが、これらは例示目的のみに使用するものであり、限定することを意図しない。説明および実施例によって、同様に本発明に含まれるさらなる実施形態が当業者にアクセス可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1図1は、遺伝子ZNF833とZNF823との間の19番染色体由来のゲノム領域の描写である。グアニンおよびシトシン、特にCGジヌクレオチドが豊富な診断に関連する領域は、2つの遺伝子の間に位置する(CpG:59、59個のCGジヌクレオチドを含む領域を意味する;三重枠)。ZNF833の5’末端に位置する領域(CpG:20;二重枠)は、本発明に関連しない。下の領域:ZNF833遺伝子に対する診断マーカ領域の位置を伴う、遺伝子領域のより詳細な表示。
図2図2は、HPV陽性扁桃癌(16倍)、HPV陰性扁桃癌(28倍)、他の頭頸部腫瘍(19倍)、対照(56倍)についてのマーカZNF671、ZNF773およびZNF833とZNF823との間の領域の認識率の描写である。
図3図3は、HPV陽性扁桃癌(5倍)、HPV陰性扁桃癌(11倍)、他の頭頸部腫瘍(12倍)、対照(24倍)についてのマーカHOXA9、PAX6およびZIC1の検出率の描写である。
【実施例
【0063】
本明細書で使用される技術および方法は、本明細書に記載されているか、またはそれ自体公知の方法で、例えばGreen,Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,4th Edition(2012)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.に記載されているように実施される。キットおよび試薬の使用を含むすべての方法は、特に指示されない限り、製造業者の情報に従って実施される。
【0064】
19番染色体上の遺伝子ZNF823と遺伝子ZNF833との間のゲノム領域のメチル化状態に関する診断能:
19番染色体上の遺伝子ZNF823と遺伝子ZNF833との間のゲノムDNA、ならびにマーカ領域ZNF773、ZNF671、ZIC1、HOXA9、PAX6を有するゲノムDNAのメチル化状態と、頭頸部癌を発症するまたは有する高いリスクとの関連性の判定は以下の通りであった。それぞれのマーカ遺伝子の近傍のゲノムDNA領域(マーカ領域)のメチル化状態を、頭頸部癌患者から得られた組織および参照として非悪性疾患を有する患者からの健常組織において決定した。新鮮凍結組織材料を入手して、試験前に-80℃で保存した。標準的なDNA単離ルーチンを使用して組織からDNAを単離した。マーカ領域の特異性の対照として、頭頸部癌のない患者からの対照組織においても、そのような領域のメチル化状態を決定した。
【0065】
単離されたDNAを、亜硫酸水素ナトリウムまたは亜硫酸水素アンモニウムのいずれかを使用して、すべての非メチル化シトシン残基の化学変換に供し、続いて標準的な方法に従ってDNAを精製した。この化学変換は、メチル化DNA配列と非メチル化DNA配列とを識別するため、したがって目的のゲノム領域において非メチル化DNAのバックグラウンドでメチル化DNAを検出するための必要条件である。分析される生物学的試料は通常、細胞物質の混合物を含み、この方法の目的は、組織の潜在的前癌細胞および癌細胞のサブセットに由来する少数のメチル化DNA分子を検出することであるので、これは最も重要である。
【0066】
分析PCRに使用したオリゴヌクレオチドプライマーは、目的のDNA領域を増幅するように設計した。メチル化特異的QPCR DNAを介して、63のHNCおよび56の対照組織(図2)ならびにZIC1、HOXA9、PAX6についての28のHNCおよび24の対照組織のコホートからの亜硫酸水素塩変換DNAを使用して、上述のマーカ領域のメチル化を分析した。この実施例では、以下に記載するプライマーは、目的のDNA領域がメチル化された増幅産物の生成のみを可能にする。以下のPCRプライマーを分析PCRで使用した:
【表1】
【0067】
結果は、遺伝子ZNF823とZNF833との間のゲノム領域のメチル化状態が、驚くべきことに、特にHPV陽性扁桃癌(ToCa)の検出において高い感度と特異性を示すことを示した。HPV陽性扁桃癌に対する感度は、マーカ領域について88%である。HPV陰性扁桃癌および他の頭頸部腫瘍(HNSCC)に対する総合感度は、このマーカ領域について38%である。悪性腫瘍のない対照試料におけるマーカ領域の特異性は96%である。したがって、生物学的試料中の遺伝子ZNF833とZNF823との間のマーカ領域のメチル化の検出は、頭頸部領域の腫瘍、高い確率で扁桃のHPV陽性腫瘍が、試料が由来する人に存在し得ることを示す。
【0068】
全体として、これらの結果は、患者から得られた試料中の遺伝子ZNF823とZNF833との間のゲノム領域のメチル化状態の決定が、頭頸部癌を発症する高いリスクの早期判定および/または頭頸部癌の診断のための有用なツールを提供することを実証している。これらの結果から、このゲノム領域のメチル化状態は、発症した頭頸部癌の早期診断、およびおそらく、例えば既に存在する前癌段階から頭頸部の癌を発症するリスクの適時評価さえも可能にすることが明らかになる。
【0069】
頭頸部腫瘍の診断のためのさらなるマーカ領域:
ZNF773遺伝子の領域内のマーカ領域:ZNF773遺伝子の領域内のマーカ領域は、同様に高い感度および特異性を示す。この領域に対する感度は、HPV陽性ToCaについては75%であり、他のHNSCCについては35%である。悪性腫瘍のない対照試料におけるこのマーカの特異性は100%である。これは、このマーカと、ZNF823とZNF833との間のマーカ領域との組合せが、診断状況においてHPV陽性扁桃癌の高感度かつ特異的な検出を可能にすることを意味する。
【0070】
ZNF671遺伝子の領域内のマーカ領域:ZNF671マーカは、癌細胞に特異的な非常に良好な検出を特徴とする。子宮頸癌の診断には既に使用されている。驚くべきことに、マーカは、すべての頭頸部腫瘍と対照試料とを識別するために、71%の良好な臨床感度および98%の非常に良好な臨床特異性を示す。
【0071】
いくつかのメチル化マーカを組み合わせて使用することは診断アッセイ形式において有利であることが証明されているので、さらなるメチル化マーカを確立した。ZNF671マーカ領域と、ZNF823とZNF833との間のマーカ領域との診断組合せ(試料陽性=2つのマーカからの少なくとも1つの陽性マーカ)は、対照組織(n=56)に比べて頭頸部腫瘍(n=63)の検出について78%の良好な感度および95%の特異性を示す。
【0072】
遺伝子ZIC1、HOXA9およびPAX6の領域内のマーカ領域:
上述のマーカ領域に加えて、主に口腔からのスワブ試料で、3つのさらなるバイオマーカ、遺伝子ZIC1、HOXA9およびPAX6の領域内でメチル化されるDNA領域を検証した(図3)。単一のマーカとして、ZIC1はより低い感度(46%)を有するが、マーカZNF671およびZNF823とZNF833との間のマーカ領域の補足として、感度を79%に、特異性を96%に増加させることができる(組織:28の癌、24の対照)。ZIC1は、ZNF671によって認識されなかったさらなる癌試料を検出する可能性を有する。
【0073】
PAX6(組合せで:感度89%、特異性54%)およびHOXA9(組合せで:感度75%、特異性88%)と組み合わせて使用されるZNF823とZNF833との間のマーカ領域およびZNF671もまた、頭頸部腫瘍マーカとして高い可能性を有する(組織:28の癌、24の対照)。
図1
図2
図3
【配列表】
2024511561000001.app
【国際調査報告】