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特表2024-511591合成プロモーターを使用する多重遺伝子発現の制御
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-14
(54)【発明の名称】合成プロモーターを使用する多重遺伝子発現の制御
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/85 20060101AFI20240307BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20240307BHJP
   C12N 15/83 20060101ALI20240307BHJP
   C12N 15/70 20060101ALI20240307BHJP
   C12N 15/74 20060101ALI20240307BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240307BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240307BHJP
   C12N 15/82 20060101ALN20240307BHJP
【FI】
C12N15/85 Z ZNA
C12N15/86 Z
C12N15/83 Z
C12N15/70 Z
C12N15/74 Z
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/82 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023556871
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(85)【翻訳文提出日】2023-11-13
(86)【国際出願番号】 IB2022052323
(87)【国際公開番号】W WO2022195475
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】63/200,577
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391008951
【氏名又は名称】アストラゼネカ・アクチエボラーグ
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】パテル,ヤシュ ダナンジャイ
(72)【発明者】
【氏名】ギブソン,スザンヌ ジェーン
(72)【発明者】
【氏名】ハットン,ダイアン
(72)【発明者】
【氏名】ジュー,ジエ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ,デイビッド シー
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA88X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
(57)【要約】
本発明は、予測可能な相対化学量論で多重遺伝子の発現を媒介し得る哺乳動物の合成プロモーターを含む発現ベクターに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的のヌクレオチド配列をコードする核酸配列に作動可能に連結された合成プロモーターを含む、転写単位を含む多重遺伝子発現ベクター。
【請求項2】
目的の第2のヌクレオチド配列をコードする核酸配列に作動可能に連結された第2の合成プロモーターを含む第2の転写単位をさらに含む、請求項1に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項3】
目的の第3のヌクレオチド配列をコードする核酸配列に作動可能に連結された第3の合成プロモーターを含む第3の転写単位をさらに含む、請求項1又は2に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項4】
前記第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、及び第3の合成プロモーターは、低い、中程度の、又は高い転写活性を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項5】
前記第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、又は第3の合成プロモーターの前記転写活性は、単一遺伝子ベクターからの共発現からの転写活性と比較して少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%抑制されている、請求項4に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項6】
前記合成プロモーターのうちの2つは、同一レベルの転写活性を有する、請求項4に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項7】
前記第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、及び第3の合成プロモーターは、異なるレベルの転写活性を有する、請求項4に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項8】
前記第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、及び第3の合成プロモーターは、同一レベルの転写活性を有する、請求項4に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項9】
前記転写活性は、qRT-PCRで測定されている、請求項4に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項10】
前記第1の合成プロモーター、前記第2の合成プロモーター、及び前記第3の合成プロモーターは、1つ又は複数の転写因子調節エレメント(TFRE)を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項11】
前記数のTFREは、前記転写活性を制御する、請求項9に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項12】
前記低強度の合成プロモーターは、1~3個のTFREを含む、請求項10に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項13】
前記中強度の合成プロモーターは、4~7個のTFREを含む、請求項10に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項14】
前記高強度の合成プロモーターは、7~11個のTFREを含む、請求項10に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項15】
前記第1の合成プロモーターは、3個のTFREを含み、前記第2の合成プロモーターは、7個のTFREを含み、且つ前記第3の合成プロモーターは、11個のTFREを含む、請求項10に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項16】
前記TFREは、ETS結合部位(EBS)、CCAAT-エンハンサー結合タンパク質(C/EBP)、抗酸化調節エレメント(ARE)、ジオキシン調節エレメント(DRE)、GC-ボックス、及び核因子カッパB(NFkB)からなる群から選択される、請求項9に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項17】
前記低強度の合成プロモーターは、2つのEBS及び1つのC/EBP TFREを含む核酸配列を含む、請求項15に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項18】
前記中強度の合成プロモーターは、1つのGC-ボックス、1つのC/EBP、2つのARE、1つのDRE、1つのEBS、及び1つのNFkB TFREを含む核酸配列を含む、請求項15に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項19】
前記高強度の合成プロモーターは、2つのGC-ボックス、3つのARE、3つのNFkB、2つのDRE、及び1つのEBS TFREを含む核酸配列を含む、請求項15に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項20】
前記発現ベクターは、前記第1の転写単位、前記第2の転写単位、及び前記第3の転写単位を、任意の配向で含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項21】
前記目的の第1のヌクレオチド配列、目的の第2のヌクレオチド配列、及び目的の第3のヌクレオチド配列は、異なる、請求項1~3のいずれか一項に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項22】
前記第1の転写単位、第2の転写単位、及び第3の転写単位は、核酸リンカーにより連結されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項23】
前記核酸リンカーは、配列番号30~46からなる群から選択される、請求項21に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項24】
前記発現ベクターは、哺乳動物、細菌、又はウイルスの発現ベクターである、請求項1に記載の多重遺伝子発現ベクター。
【請求項25】
請求項1~24のいずれか一項に記載の多重遺伝子発現ベクターを含む細胞。
【請求項26】
前記細胞は、哺乳動物、細菌、又は植物の細胞である、請求項24に記載の細胞。
【請求項27】
細胞中での目的の多重遺伝子の発現を調節する方法であって、前記細胞に、請求項1に記載の発現ベクターを導入すること、及び目的のヌクレオチド配列の発現を促進する条件下で、前記細胞をインキュベートすることを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、2021年3月16日に出願された米国仮特許出願第63/200,577号の米国特許法第119条(e)下の優先権の利益を主張するものである。
【0002】
電子的に提出された配列表に対する参照
本願と共に提出されるASCIIテキストファイル(名称:SYNPRO-101-Seq_Listing.txt;サイズ:10,840バイト;及び作成日:2022年3月11日)中の電子的に提出された配列表の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
哺乳動物細胞は、複雑で細かく調整された遺伝子ネットワークを利用して、必須の細胞機能を維持している。生物医学及び治療への応用のためにこのネットワークを遺伝的に操作すべく、最終的には、複数の組換え遺伝子の共発現を同時に正確に制御する必要があるだろう。複数の転写単位(TU)を順番にコードする単一プラスミドを、比較的容易にGibson又はGolden Gate組立技術を使用して構築し得るが、いくつかの個々の遺伝子が構成的に発現される相対レベルを制御して所望の化学量論を達成することは、はるかに困難である。哺乳類動物細胞中における組換え遺伝子の制御された発現を達成するための現在の方法は、誘導可能な系及び複雑な遺伝子スイッチを使用して協調的に機能する複数の単一遺伝子合成回路を用いる。しかしながら、このアプローチには、制御され得る様々な遺伝子の数が限定されており、安定した哺乳動物細胞操作のためには多数のプラスミドを共トランスフェクトしなければならないという問題がある。
【0004】
合成回路内での組換え遺伝子発現を、振動ループ、ロジックゲートループ、及びフィードバックループの組み合わせを使用して正確に制御し得る。しかしながら、これは、同族プロモーターを誘導するための合成転写因子(例えば、転写活性化因子様エフェクター(TALE)、ジンクフィンガー、キメラ転写因子、又はCRISPR転写因子)の適用を頻繁に伴う。或いは、化学シャペロン、アプタマー、代謝産物、及び他の外部刺激の全ても、合成遺伝子回路発現を誘導して制御するために用いられている。この精密な生物学的制御系は、有用であり得るが、リガンド(合成転写因子及び化学シャペロン)の濃度依存的な転写活性化又は抑制により決定される発現レベル、及び不正確で漏れやすい発現の可能性により、複雑で扱いにくいものでもある。さらに、リガンドは、宿主細胞に代謝負担又は細胞ストレスを与える可能性があり、このことは、遺伝子治療及び細胞工学への応用には望ましくない。複雑でプログラム可能な遺伝子発現系が多くの用途で必要されることとなるが、一般的には、構成的に固体された化学量論で作動している「ハードワイヤード」コンポーネントが全ての操作された系の基礎を形成している。
【0005】
組換え遺伝子発現の化学量論を制御する代替手段は、転写活性が規定されている合成プロモーターの使用である。この場合には、プロモーターは、宿主細胞の既存のトランス活性化因子のレパートリーを様々な程度で利用して所望のレベルの転写活性を達成するように特別に設計され得る。従って、多重遺伝子発現の化学量論を制御するための手段としての、ベクターコンストラクト中での明確に定義された合成プロモーターの使用は、潜在的に魅力的な解決策である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、目的のヌクレオチド配列をコードする核酸配列に作動可能に連結された合成プロモーターを含む転写単位を含む多重遺伝子発現ベクターに関する。いくつかの態様では、この発現ベクターは、目的の第2のヌクレオチド配列をコードする核酸配列に作動可能に連結された第2の合成プロモーターを含む第2の転写単位を含む。いくつかの態様では、この発現ベクターは、目的の第3のヌクレオチド配列をコードする核酸配列に作動可能に連結された第3の合成プロモーターを含む第3の転写単位を含む。
【0007】
いくつかの態様では、第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、及び第3の合成プロモーターは、低い、中程度の、又は高い転写活性を有する。いくつかの態様では、第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、又は第3の合成プロモーターの転写活性は、単一遺伝子ベクターからの共発現からの転写活性と比較して少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%抑制されている。いくつかの態様では、合成プロモーターのうちの2つは、同一レベルの転写活性を有する。いくつかの態様では、第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、及び第3の合成プロモーターは、異なるレベルの転写活性を有する。いくつかの態様では、第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、及び第3の合成プロモーターは、同一レベルの転写活性を有する。いくつかの態様では、転写活性は、qRT-PCRで測定されている。
【0008】
いくつかの態様では、第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、及び第3の合成プロモーターは、1つ又は複数の転写因子調節エレメント(TFRE)を含む。いくつかの態様では、この数のTFREは、転写活性を制御する。いくつかの態様では、低強度の合成プロモーターは、1~3個のTFREを含む。いくつかの態様では、中強度の合成プロモーターは、4~7個のTFREを含む。いくつかの態様では、高強度の合成プロモーターは、7~11個のTFREを含む。いくつかの態様では、第1の合成プロモーターは、3個のTFREを含み、第2の合成プロモーターは、7個のTFREを含み、且つ第3の合成プロモーターは、11個のTFREを含む。
【0009】
いくつかの態様では、TFREは、ETS結合部位(EBS)、CCAAT-エンハンサー結合タンパク質(C/EBP)、抗酸化調節エレメント(ARE)、ジオキシン調節エレメント(DRE)、GC-ボックス、及び核因子カッパB(NFkB)からなる群から選択される。いくつかの態様では、低強度の合成プロモーターは、2つのEBS及び1つのC/EBP TFREを含む核酸配列を含む。いくつかの態様では、中強度の合成プロモーターは、1つのGC-ボックス、1つのC/EBP、2つのARE、1つのDRE、1つのEBS、及び1つのNFkB TFREを含む核酸配列を含む。いくつかの態様では、高強度の合成プロモーターは、2つのGC-ボックス、3つのARE、3つのNFkB、2つのDRE、及び1つのEBS TFREを含む核酸配列を含む。いくつかの態様では、発現ベクターは、第1の転写単位、第2の転写単位、及び第3の転写単位を任意の配向で含む。
【0010】
いくつかの態様では、目的の第1のヌクレオチド配列、目的の第2のヌクレオチド配列、及び目的の第3のヌクレオチド配列は、異なる。
【0011】
いくつかの態様では、第1の転写単位、第2の転写単位、及び第3の転写単位は、核酸リンカーにより連結されている。いくつかの態様では、核酸リンカーは、配列番号30~46からなる群から選択される。
【0012】
いくつかの態様では、発現ベクターは、哺乳動物、細菌、又はウイルスの発現ベクターである。いくつかの態様では、細胞は、本発現ベクターを含む。いくつかの態様では、この細胞は、哺乳動物、細菌、又は植物の細胞である。
【0013】
本開示のある特定の態様は、細胞中での目的の多重遺伝子の発現を調節する方法であって、前記細胞に本発現ベクターを導入すること、及び目的のヌクレオチド配列の発現を促進する条件下で、この細胞をインキュベートすることを含む方法を対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】[図1A-O]合成プロモーターの活性を評価するための3種の蛍光レポータータンパク質の共発現を示す。図1Aは、哺乳動物の合成プロモーターの転写因子調節エレメント(TFRE)の組成を示す略図である。ARE:抗酸化調節エレメント;C/EBP:CCAAT-エンハンサー結合タンパク質;DRE:ジオキシン調節エレメント;EBS:ETS結合部位;NFkB:核因子カッパB。図1Bは、MGEVを構築するためにTUの分類を組み立てるバックボーンとして使用された、グルタミンシンテターゼ(GS)カセット、哺乳動物のエピソーム複製起点、アンピシリン耐性のためのβ-ラクタマーゼ遺伝子、及び微生物の複製起点を含むpExp-Vec-GGベクターの略図である。図1C~Eは、低強度合成プロモーター(図1C)、中強度合成プロモーター(図1D)、及び高強度合成プロモーター(図1E)の制御下でeGFPをコードするTUを収容するシャトルプラスミドの略図である。図1F~Hは、低強度合成プロモーター(図1F)、中強度合成プロモーター(図1G)、及び高強度合成プロモーター(図1H)の制御下でmCherryをコードするTUを収容するシャトルプラスミドの略図である。図1I~Kは、低強度合成プロモーター(図1I)、中強度合成プロモーター(図1J)、及び高強度合成プロモーター(図1K)の制御下でタグBFPをコードするTUを収容するシャトルプラスミドの略図である。図1Lは、3種の蛍光レポーター(eGFP、mCherry、及びタグBFP)の上流の低プロモーター、中プロモーター、及び高プロモーターの略図である。図1Mは、相対蛍光レポーター発現の倍数変化により決定された合成プロモーターの活性のグラフである。この倍数変化は、低強度プロモーターに対して、中強度プロモーター及び高強度プロモーターを利用する各レポーターの積分蛍光強度の中央値(iMFI)を正規化することにより導かれた。発現の倍数変化は、トランスフェクトされた各総DNA負荷(100~800ng)に関して導かれており、eGFP、mCherry、及びタグBFPの平均倍数変化をそれぞれ、白色、灰色、及び黒色のバーで表す。エラーバーは、3回の独立した実験でトランスフェクトされた全ての総DNA負荷全体にわたるレポーター発現の倍数変化の標準偏差を示す。図1Nは、様々な蛍光レポーターmRNAコピーの外部校正曲線のグラフである。この校正曲線は、低強度データセットに対して正規化しつつ、各DNA負荷(100~800ng)及び様々なプロモーター強度で検出されたmRNAコピーを算術的に組み合わせることにより、導かれた。三次多項式回帰曲線をフィットさせて、eGFP(緑色)、mCherry(赤色)、及びタグBFP(青色)の様々なmRNA動態をモデル化し、各プロモーター-レポーターの組み合わせに関して正規化された相対転写活性(RTA)を得た。eGFP、mCherry、及びタグBFPの三次多項式曲線のrはそれぞれ、0.976、0.988、及び0.964であった。図1Oは、100~800ngの範囲の各トランスフェクトされたプラスミド負荷での、低強度プロモーターにより媒介される発現に対する、中強度合成プロモーター及び高強度合成プロモーターを利用する3種全ての蛍光タンパク質レポーターの相対転写活性(RTA)の平均倍数変化のグラフである。
図2】[図2A-C]組換え遺伝子発現の化学量論を制御するために哺乳動物の合成プロモーターを利用する多重遺伝子発現ベクター(MGEV)を示す。図2Aは、全ての可能な組み合わせを包含する各位置で低、中、及び高強度の哺乳動物の合成プロモーターを利用する、固定されたタンデム系列でeGFP、mCherry、及びタグBFPをコードする27種のMGEVバリアントのライブラリを示す略図である。コアプロモーター及び非翻訳領域(UTR)は、MGEV-hCMV-MIEコア、5’UTR、及びSV40ポリA内の各転写単位(TU)中で同一であった。図2Bは、MGEVライブラリの一過性発現中に示された、低強度合成プロモーター、中強度合成プロモーター、及び高強度合成プロモーターの平均転写抑制を示すグラフである。各合成プロモーターの転写抑制率を、MGEV発現中に観察されたRTAと、ほぼ同等の遺伝子コピーでのSGV共発現から導かれた、予期されるRTAとの間の差違を比較することにより算出した。個々のバー及びエラーバーは、3回の独立した実験にわたるMGEV(1つのプロモーターバリアント当たりの27種の個別のRTA)内の全ての位置にわたる低強度プロモーター、中強度プロモーター、及び高強度プロモーターの平均転写抑制率及び標準偏差それぞれを表す。Tukey補正を伴う一元ANOVA統計的検定を実施して、低強度プロモーター及び中強度プロモーター、並びに中強度プロモーター及び高強度プロモーターの間の平均転写抑制率の有意差を示し、p<0.0001の場合は「****」で表された。図2Cは、位置に関係なく27種の個別のMGEVバリアントで利用された低強度合成プロモーター、中強度合成プロモーター、及び高強度合成プロモーターの平均RTAを示すグラフである。エラーバーは、3回の独立した実験にわたる各プロモーターの27種の個別のRTAの標準偏差を表す。Tukey補正を伴う一元ANOVA統計分析を実施して、低強度合成プロモーター、中強度合成プロモーター、及び高強度合成プロモーターの間の有意差を示し、p<0.0001の場合は「****」で表された。
図3】[図3A-B]多重遺伝子発現ベクター(MGEV)環境内での転写活性の概要である。図3Aは、全ての組み合わせ及びMGEV内の位置で低強度合成プロモーター、中強度合成プロモーター、及び高強度合成プロモーターを利用する27種の個別のMGEVバリアントに関して、x軸、y軸、及びz軸それぞれにわたり1位、2位、及び3位での相対転写活性(RTA)を示しており且つ赤色の点で表される三次元プロットである。低強度合成プロモーター、中強度合成プロモーター、及び高強度合成プロモーターに関するRTAのセットは、ほぼ同等の遺伝子コピーでの単一遺伝子ベクター(SGV)共発現から得られ、MGEVの各位置での予期される転写活性をシミュレートするためにコンパイルされた。これらのRTAを、このプロット上では青色の点で表した。図3Bは、(図3A)で示された27種のMGEVバリアントの1位、2位、及び3位で同一のRTAを表す拡大プロットである。このクラスターは、MGEVの環境内で、低強度合成プロモーター、中強度合成プロモーター、及び高強度合成プロモーターの転写活性の経験的に導かれる限界を表す。
図4】[図4A-B]多重遺伝子発現ベクター(MGEV)環境内での転写抑制の傾向を示す。図4Aは、27種のMGEVバリアントのライブラリ内の3箇所全ての位置にわたる転写抑制の程度を表す頻度分布のグラフである。MGEV内で検出されたRTAを、転写活性の他の寄与している偏りを特定するために、2位及び3位それぞれで観察された15%及び14%の抑制を補償することにより、遺伝子位置効果全体に関して正規化した。各位置及び全ての合成プロモーターの組み合わせ(低強度、中強度、及び高強度)に関するこれらの位置効果の正規化されたRTAを、予期されるRTA(ほぼ同等の遺伝子コピーでの単一遺伝子ベクター共発現(図1L)から得られる)と直接比較して、転写抑制率を得た。次いで、抑制の程度を、個々のビンの中心として0~100%の範囲の一定の区間に分類し、各区間に関して頻度を算出して分布を形成した。図4Bは、合成プロモーターの組み合わせと27種の個別のMGEVバリアント内の位置とに従って配置された、(図4A)で算出された抑制の程度を示す勾配ヒートマップである。紫色の色合いは、高い抑制を表しており、逆に、灰色の色合いは、低い抑制を表す。特定の位置で利用される合成プロモーターが重ね合わされており、低強度、中強度、及び高強度それぞれを表す「L」、「M」、及び「H」と略される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示のある特定の態様は、(a)目的のヌクレオチド配列をコードする核酸配列に作動可能に連結された合成プロモーターを含む転写単位を含む多重遺伝子発現ベクターを対象とする。いくつかの態様では、この発現ベクターは、目的の第2のヌクレオチド配列をコードする核酸配列に作動可能に連結された第2の合成プロモーターを含む第2の転写単位をさらに含む。いくつかの態様では、この発現ベクターは、目的の第3のヌクレオチド配列をコードする核酸配列に作動可能に連結された第3の合成プロモーターを含む第3の転写単位をさらに含む。
【0016】
いくつかの態様では、第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、及び第3の合成プロモーターは、低い、中程度の、又は高い転写活性を個々に有する。いくつかの態様では、これら3つのプロモーターは、同一の転写活性を引き起こす。いくつかの態様では、これら3つのプロモーター転写活性は、異なる。いくつかの態様では、転写活性は、qRT-PCRで測定されている。
【0017】
いくつかの態様では、第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、及び第3の合成プロモーターは、1つ又は複数の転写因子調節エレメント(TFRE)を含む。いくつかの態様では、この数のTFREは、転写活性を制御する。いくつかの態様では、低強度の合成プロモーターは、1~3個のTFREを含む。いくつかの態様では、中強度の合成プロモーターは、4~7個のTFREを含む。いくつかの態様では、高強度の合成プロモーターは、7~11個のTFREを含む。いくつかの態様では、第1の合成プロモーターは、3個のTFREを含み、第2の合成プロモーターは、7個のTFREを含み、且つ第3の合成プロモーターは、11個のTFREを含む。
【0018】
いくつかの態様では、TFREは、ETS結合部位(EBS)、CCAAT-エンハンサー結合タンパク質(C/EBP)、抗酸化調節エレメント(ARE)、ジオキシン調節エレメント(DRE)、GC-ボックス、及び核因子カッパB(NFkB)であり得る。いくつかの態様では、低強度の合成プロモーターは、2つのEBS及び1つのC/EBP TFREを含む核酸配列を含む。いくつかの態様では、中強度の合成プロモーターは、1つのGC-ボックス、1つのC/EBP、2つのARE、1つのDRE、1つのEBS、及び1つのNFkB TFREを含む核酸配列を含む。いくつかの態様では、高強度の合成プロモーターは、2つのGC-ボックス、3つのARE、3つのNFkB、2つのDRE、及び1つのEBS TFREを含む核酸配列を含む。
【0019】
いくつかの態様では、発現ベクターは、第1の転写単位、第2の転写単位、及び第3の転写単位を、任意の配向で含む。いくつかの態様では、目的の第1のヌクレオチド配列、目的の第2のヌクレオチド配列、及び/又は目的の第3のヌクレオチド配列は、異なる。いくつかの態様では、目的の第1のヌクレオチド配列、目的の第2のヌクレオチド配列、及び/又は目的の第3のヌクレオチド配列は、同一である。
【0020】
いくつかの態様では、発現ベクターは、哺乳動物、細菌、又はウイルスの発現ベクターである。いくつかの態様では、細胞は、この発現ベクターを含む。いくつかの態様では、この細胞は、哺乳動物、細菌、又は植物の細胞である。
【0021】
本開示のある特定の態様は、細胞中での目的の多重遺伝子の発現を調節する方法であって、前記細胞に本発現ベクターを導入すること、及び目的のヌクレオチド配列の発現を促進する条件下で、この細胞をインキュベートすることを含む方法を対象とする。
【0022】
I.定義
本開示をより容易に理解し得るために、ある特定の用語を最初に定義する。追加の定義は、詳細な開示全体にわたり記載される。
【0023】
「プロモーター」という用語は、本明細書で使用される場合、RNAポリメラーゼを指示してDNAに結合させ且つRNA合成を開始することにより転写の開始を媒介する調節性DNA配列を定義する。プロモーターは、一般に、遺伝子の上流に位置する。プロモーターは、例えば、コアプロモーター及び転写因子調節エレメントを含み得る。
【0024】
「合成プロモーター」は、転写因子調節エレメントを含む人工的な、操作された、及び/又は組み立てられたプロモーターを指す。
【0025】
「転写因子調節エレメント」(TFRE)は、転写因子のための結合部位であるヌクレオチド配列である。例示的なTFREを、表1に示す。
【0026】
「転写因子」(TF)は、TFREに結合するタンパク質であり、遺伝子の転写速度に(正又は負のいずれかで)影響を及ぼす。
【0027】
「コアプロモーター」は、転写を開始するのに必要なプロモーターの最小の部分であるヌクレオチド配列を指す。コアプロモーター配列は、例えばCMV最初期遺伝子プロモーター又はSV40を含む原核生物遺伝子又は真核生物遺伝子に由来し得る。コアプロモーターは、例えば、TATAボックスを含み得る。コアプロモーターは、例えば、イニシエーターエレメントを含み得る。コアプロモーターは、例えば、TATAボックス及びイニシエーターエレメントを含み得る。
【0028】
「エンハンサー」という用語は、本明細書で使用される場合、遺伝子の転写、遺伝子の同一性に依存しないこと、遺伝子に関連した配列の位置、及び配列の配向を増強するために作用するヌクレオチド配列を定義する。
【0029】
「機能上連結された」及び「作動可能に連結された」という用語は、互換的に使用され、2種以上のDNAセグメント(例えば、発現される遺伝子及び遺伝子の発現を制御する配列)間の機能的関係性を指す。例えば、シス作用性転写調節エレメントの任意の組み合わせを含むプロモーター及び/又はエンハンサー配列は、適切な宿主細胞又は他の発現系におけるコード配列の転写を刺激するか又は調節する場合に、コード配列に作動可能に連結される。転写される遺伝子配列に作動可能に連結されたプロモーター調節配列は、転写される配列に物理的に隣接している。
【0030】
「配向」は、所与のDNA配列におけるヌクレオチドの順序を指す。例えば、別のDNA配列に対して逆方向にあるDNA配列の配向とは、別の配列に対して配列の5’~3’の順序が、配列が得られたDNA中の基準点と比較した場合に反転される配向である。そのような基準点には、供給源であるDNAの他の指定されたDNA配列の転写方向、及び/又はこの配列を含む複製可能なベクターの複製起点が含まれ得る。
【0031】
「発現ベクター」という用語は、本明細書で使用される場合、適切な宿主細胞へとトランスフェクションされると、宿主細胞内で組換え遺伝子産物の発現をもたらす単離DNA分子及び精製DNA分子を含む。組換え体又は遺伝子産物をコードするDNA配列に加えて、発現ベクターは、宿主細胞株における、DNAコード配列のmRNAへの効率的な転写、及び任意選択的な、mRNAのタンパク質への効率的な翻訳に必要となる制御性DNA配列を含む。
【0032】
「宿主細胞」又は「宿主細胞株」という用語は、本明細書で使用される場合、培養物中で増殖可能であり且つ所望の組換え産物であるタンパク質を発現可能な任意の細胞(特に、哺乳動物細胞)を含む。
【0033】
「発現カセット」という用語は、本明細書で使用される場合、発現されるポリペプチドと、この発現を制御する配列(例えば、シス作用性転写調節エレメントの任意の組み合わせを含む、プロモーター及び任意選択的なエンハンサー配列)とをコードするポリヌクレオチド配列を含む。遺伝子の発現(即ち、その転写及び転写産物の翻訳)を制御する配列は、一般に、調節単位と呼ばれる。調節単位の大部分は、遺伝子のコード配列の上流に位置しており、且つコード配列に作動可能に連結されている。発現カセットはまた、ポリアデニル化部位を含む下流の3’側非翻訳領域も含み得る。本発明の調節単位は、発現される遺伝子(即ち、転写単位)に作動可能に連結されているか、又は介在するDNA(例えば、異種遺伝子の5’非翻訳領域)により、この発現される遺伝子から隔てられている。発現カセットのベクターへの挿入及び/又はベクターからのその切出しを可能にするために、発現カセットは、1つ又は複数の好適な制限部位に隣接され得る。発現カセットは、様々な遺伝子エレメント(即ち、TFRE、目的の核酸配列、プロモーター、ターミネーター等)の挿入又は欠失を可能にするために、1つ又は複数の好適な制限部位を含み得る。そのため、本発明に係る発現カセットは、発現ベクター(特に、哺乳動物の発現ベクター)を構築するために使用され得る。本発明の発現カセットは、プロモーターの下流に、1つ又は複数(例えば、2個、3個、又はさらに多い)非翻訳ゲノムDNA配列を含み得る。
【0034】
「ポリヌクレオチド」及び「ヌクレオチド配列」という用語は、細胞から単離され得る天然に存在する核酸分子又は組換えで発現される核酸分子、及び、例えば、化学合成方法又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の酵素的方法により調製され得る合成分子を含む。
【0035】
「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列」という用語は、本明細書で使用される場合、ポリペプチドを発現する遺伝子(好ましくは、異種遺伝子)をコードするDNAを含む。
【0036】
「異種コード配列」、「異種遺伝子配列」、「異種遺伝子」、「組換え遺伝子」、又は「遺伝子」という用語は、互換的に使用される。これらの用語は、宿主細胞(好ましくは、哺乳動物細胞)中で発現させて回収しようとする組換え体(特に、組換え異種タンパク質産物)をコードするDNA配列を指す。遺伝子産物は、ポリペプチドであり得る。異種遺伝子配列は、天然では宿主細胞内に存在せず、同じ種又は異なる種の生物に由来し、且つ遺伝的に改変されている場合がある。
【0037】
「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は、互換的に使用されて、隣接残基のα-アミノ基及びカルボキシ基間のペプチド結合により他方に連結される一連のアミノ酸残基を含む。
【0038】
「高強度合成プロモーター」という用語は、本明細書で使用される場合、プロモーターコンストラクトのある範囲にわたり得られる発現の平均レベルと比べて高い発現レベルと定義される「高」レベルの発現で、組換え遺伝子、組換えタンパク質、又はレポータータンパク質を発現可能なプロモーターを指す。
【0039】
「中強度合成プロモーター」という用語は、本明細書で使用される場合、プロモーターコンストラクトのある範囲にわたり得られる発現の平均レベル以上の発現レベルと定義される「中」レベルの発現で、組換え遺伝子、組換えタンパク質、又はレポータータンパク質を発現可能なプロモーターを指す。
【0040】
「低強度合成プロモーター」という用語は、本明細書で使用される場合、プロモーターコンストラクトのある範囲にわたり得られる発現の平均レベルと比べて低い発現レベルと定義される「低」レベルの発現で、組換え遺伝子、組換えタンパク質、又はレポータータンパク質を発現可能なプロモーターを指す。
【0041】
「目的のヌクレオチド配列」という用語は、本明細書で使用される場合、宿主細胞中での発現(例えば、標的細胞中でのタンパク質又は他の生物学的分子(例えば、治療用細胞産物)の産生)に望ましいタンパク質又は他の分子をコードする任意の核酸であり得る。
【0042】
「化学量論」という用語は、本明細書で使用される場合、発現ベクターにより発現されるタンパク質の相対量を指す。
【0043】
「1つの(a)」又は「1つの(an)」の実体という用語は、この実体の1つ又は複数を指しており;例えば、「1つの核酸配列」は、別途明記されない限り、1つ又は複数の核酸配列を表すことに留意すべきである。従って、「1つの(a)」(又は「1つの(an)」)、「1つ又は複数」及び「少なくとも1つ」という用語は、本明細書中では互換的に使用され得る。
【0044】
さらに、本明細書において使用される「及び/又は」は、他のものと共に、又は他のものなしに、2つの規定の特徴又は構成要素のそれぞれの具体的開示と解釈すべきである。そのため、「及び/又は」という用語は、本明細書中で「A及び/又はB」等の語句で使用される場合、「A及びB」、「A又はB」、「A」(単独)、並びに「B」(単独)を含むものとする。同様に、「及び/又は」という用語は、「A、B、及び/又はC」等の語句で使用される場合、下記の態様:A、B、及びC;A、B、又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);並びにC(単独)の各々を包含するものとする。
【0045】
態様が、「含む(comprising)」という用語を用いて本明細書で説明されている場合は常に、「~からなる(consisting of)」及び/又は「~から実質的になる(consisting essentially of)」という用語で説明されている別の類似の態様も提供されることが理解される。
【0046】
「約」という用語は、本明細書では、およそ(approximately)、おおよそ(roughly)、およそ(around)、又はその領域内を意味するために使用される。「約」という用語が数値範囲と組み合わせて使用される場合には、「約」は、示される数値の上下に境界を拡大することによって、この範囲を変更する。一般に、「約」という用語は、示された値の上下の数値を、例えば10パーセント上下(より高いか又はより低い)の変動により変更し得る。
【0047】
数値又は一連の数値の前の「少なくとも」という用語は、文脈から明らかなように、「少なくとも」という用語に隣接する数値、及び論理的に含まれ得る全ての後続の数値又は整数値を含むことが理解される。例えば、核酸分子中のヌクレオチドの数は、整数でなければならない。例えば、「21個のヌクレオチドの核酸分子の内の少なくとも18個のヌクレオチド」は、18、19、20、又は21個のヌクレオチドが、示された特性を有することを意味する。少なくともが、一連の数値又は範囲の前に表されている場合には、「少なくとも」は、この一連又は範囲中の数値のそれぞれを変更し得ることが理解される。「少なくとも」はまた、整数には限定されない(例えば、「少なくとも5%」は、有効数字の数値を考慮することなく5.0%、5.1%、5.18%を含む)。
【0048】
本明細書で使用される場合、「以下」又は「未満」は、この語句に隣接する値、及び文脈から論理的にゼロまでの論理的に低い値又は整数として理解される。「以下」が、一連の数値又は範囲の前で表されている場合には、「以下」は、この一連又は範囲中の数値のそれぞれを変更し得ることが理解される。
【0049】
本明細書で使用される場合、「リンカー」という用語は、ある分子を別の分子に連結する化学的部分を指す。このリンカーは、2つの分子又は部分間に間隙を空けて、これらが意図した方法で機能可能であるようになる。
【0050】
本明細書で使用される場合、「転写単位」という用語は、目的のヌクレオチド配列(即ち、発現される遺伝子)に作動可能に連結された調節単位(即ち、合成プロモーター)を含む核酸配列を指す。
【0051】
II.発現ベクター
本明細書で提供される方法を使用して、哺乳動物発現ベクターを、予測可能な相対化学量論で目的の複数のヌクレオチド配列の発現を媒介する合成プロモーターを含んで設計し得る。例示的な合成プロモーターは、全体が参照により本明細書に組み込まれる国際特許出願第PCT/EP2018/060125号で説明されている。目的のヌクレオチド配列は、宿主細胞中での発現が望ましいタンパク質又は他の分子をコードする任意のヌクレオチド配列であり得る。いくつかの態様では、発現ベクターは、目的の核酸配列をコードする核酸配列を含む転写単位を含む。いくつかの態様では、発現ベクターは、目的の第1の核酸配列をコードする第1の核酸配列を含む第1の転写単位、及び目的の第2の核酸配列をコードする第2の核酸配列を含む第2の転写単位を含み得る。いくつかの態様では、発現ベクターは、目的の第1の核酸配列をコードする第1の核酸配列を含む第1の転写単位、目的の第2の核酸配列をコードする第2の核酸配列を含む第2の転写単位、及び目的の第3の核酸配列をコードする第3の核酸配列を含む第3の転写単位を含み得る。いくつかの態様では、発現ベクターは、3個超の転写単位を含む。いくつかの態様では、発現ベクターは、少なくとも3個の転写単位、少なくとも4個の転写単位、少なくとも5個の転写単位、少なくとも6個の転写単位、少なくとも7個の転写単位、又は少なくとも8個の転写単位を含む。いくつかの態様では、目的の第1のヌクレオチド配列、目的の第2のヌクレオチド配列、及び/又は目的の第3のヌクレオチド配列は、異なる。いくつかの態様では、目的の第1のヌクレオチド配列、目的の第2のヌクレオチド配列、及び/又は目的の第3のヌクレオチド配列は、同一である。いくつかの態様では、発現ベクターは、第1の転写単位、第2の転写単位、及び第3の転写単位を、任意の配向で含む。
【0052】
いくつかの態様では、発現ベクターは、1つ又は複数の合成プロモーターを含む。いくつかの態様では、転写単位は、1つ又は複数の合成プロモーターを含む。いくつかの態様では、発現ベクターは、3つの合成プロモーターを含む。いくつかの態様では、第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、及び第3の合成プロモーターは、低い、中程度の、又は高い転写活性を有する。いくつかの態様では、第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、又は第3の合成プロモーターの転写活性は、単一遺伝子ベクターからの共発現からの転写活性と比較して少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%抑制されている。いくつかの態様では、合成プロモーターの内の2つは、同一レベルの転写活性を有する。いくつかの態様では、第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、及び第3の合成プロモーターは、異なるレベルの転写活性を有する。いくつかの態様では、第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、及び第3の合成プロモーターは、同一レベルの転写活性を有する。いくつかの態様では、転写活性は、qRT-PCR又はRNA配列決定で測定されている。いくつかの態様では、転写活性は、qRT-PCRで測定されている。
【0053】
いくつかの態様では、発現ベクターは、目的の核酸配列をコードする核酸配列に作動可能に連結された合成プロモーターを含む転写単位を含む。いくつかの態様では、発現ベクターは、目的の第1の核酸配列をコードする第1の核酸配列を含む第1の核酸に作動可能に連結された第1の合成プロモーターを含む第1の転写単位、及び目的の第2の核酸配列をコードする第2の核酸配列に作動可能に連結された第2の合成プロモーターを含む第2の転写単位を含み得る。いくつかの態様では、発現ベクターは、目的の第1の核酸配列をコードする第1の核酸配列に作動可能に連結された第1の合成プロモーターを含む第1の転写単位、目的の第2の核酸配列をコードする第2の核酸配列に作動可能に連結された第2の合成プロモーターを含む第2の転写単位、及び目的の第3の核酸配列をコードする第3の核酸配列に作動可能に連結された第3の合成プロモーターを含む第3の転写単位を含み得る。いくつかの態様では、第1の合成プロモーター、第2の合成プロモーター、及び第3の合成プロモーターは、1つ又は複数の転写因子調節エレメント(TFRE)を含む。いくつかの態様では、この数のTFREは、転写活性を制御する。
【0054】
合成プロモーターは、TFREの任意の数及び任意の組み合わせを含み得る。いくつかの態様では、低強度の合成プロモーターは、1~3個のTFREを含む。いくつかの態様では、低強度の合成プロモーターは、3個のTFREを含む。いくつかの態様では、中強度の合成プロモーターは、4~7個のTFREを含む。いくつかの態様では、中強度の合成プロモーターは、7個のTFREを含む。いくつかの態様では、高強度の合成プロモーターは、7~11個のTFREを含む。いくつかの態様では、高強度の合成プロモーターは、11個のTFREを含む。いくつかの態様では、第1の合成プロモーターは、3個のTFREを含み、第2の合成プロモーターは、7個のTFREを含み、且つ第3の合成プロモーターは、11個のTFREを含む。
【0055】
例示的な転写因子調節エレメントとして、ETS結合部位、CCAAT-エンハンサー結合タンパク質、抗酸化調節エレメント(ARE)、ジオキシン調節エレメント(DRE)、核因子カッパB(NFkB)、GC-ボックス、及び表1で列挙されているものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
【表1】
【0057】
いくつかの態様では、転写単位は、核酸リンカーにより連結されている。いくつかの態様では、第1の転写単位は、核酸リンカーにより、第2の転写単位に連結されている。いくつかの態様では、第2の転写単位は、核酸リンカーにより、第3の転写単位に連結されている。いくつかの態様では、核酸リンカーは、1~10個の塩基対の長さ、2~8個の塩基対の長さ、又は3~6個の塩基対の長さである。いくつかの態様では、核酸リンカーは、4個の塩基対の長さである。核酸リンカーとして、表2で列挙されているリンカーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
【表2】
【0059】
いくつかの態様では、低強度の合成プロモーターは、2つのEBS及び1つのC/EBP TFREを含む核酸配列を含む。いくつかの態様では、低強度のプロモーターは、配列番号30に対して少なくとも50%の同一性、少なくとも60%の同一性、少なくとも70%の同一性、少なくとも75%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、又は100%の同一性を有する核酸配列を含む。いくつかの態様では、中強度の合成プロモーターは、1つのC/EBP、1つのGC-ボックス、2つのARE、1つのDRE、1つのEBS、及び1つのNFkB TFREを含む核酸配列を含む。いくつかの態様では、中強度のプロモーターは、配列番号31に対して少なくとも50%の同一性、少なくとも60%の同一性、少なくとも70%の同一性、少なくとも75%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、又は100%の同一性を有する核酸配列を含む。いくつかの態様では、高強度の合成プロモーターは、3つのARE、3つのNFkB、2つのDRE、2つのGC-ボックス、及び1つのEBS TFREを含む核酸配列を含む。いくつかの態様では、高強度のプロモーターは、配列番号32に対して少なくとも50%の同一性、少なくとも60%の同一性、少なくとも70%の同一性、少なくとも75%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、又は100%の同一性を有する核酸配列を含む。
【0060】
【表3】
【0061】
本発明のベクターは、ウイルスベクター及び非ウイルス(例えば、プラスミドDAN)ベクターを包含する。好適な非ウイルスベクターとして、プラスミド、例えば、pExp-Vec-GG、pExp-Vec-GG(GS単独)、pExp-Vec-GG(OriP単独)、pExp-Vec-GG(TI)、pExp-Vec-GG(Hygro)、及びpExp-Vec-GG(GS+UCOE)が挙げられるが、これらに限定されない。「ウイルスベクター」は、本明細書では、その当該技術分野で認識されている意味に従って使用される。これは、ウイルス複製起点の少なくとも1つのエレメントを含む任意のベクターを指しており、例えば、完全ウイルスゲノム、その一部、又は下記で説明するように改変されたウイルスゲノム、及びこれから生成されたウイルス粒子(例えば、感染性ウイルス粒子を生成するためにウイルスカプシドにパッケージ化されたウイルスベクター)を含む任意のベクターを指す。本発明のウイルスベクターは、複製可能であり得るか、又は複製欠損若しくは複製障害であり得るように遺伝的に無効にされ得る。いくつかの態様では、発現ベクターは、哺乳動物、細菌、又はウイルスの発現ベクターである。
【0062】
細胞は、本明細書で提供されるプロモーター、又は本明細書で提供されるベクターを含み得る。この細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等の哺乳動物細胞であり得る。このCHO細胞は、例えば、CHO-S、CHO-K1、CHO-DG44、又はCHO-DXB11細胞であり得る。この細胞は、例えば、ヒト細胞であり得る。この細胞はまた、例えば、非ヒト細胞(例えば、非ヒト哺乳動物細胞)でもあり得る。本明細書で提供されるプロモーター又はベクターを含む細胞は、一過的にトランスフェクトされ得るか、又は安定的にトランスフェクトされ得る。本明細書で提供される細胞は、単離細胞(即ち、生物内に含有されない細胞)又は培養細胞(即ち、培養物中の細胞)であり得る。
【実施例
【0063】
実施例1:プラスミドベクターフォーマット毎に単一遺伝子で合成プロモーターを使用したレポーター遺伝子の一過性共発現
合成プロモーター転写因子調節エレメント(TFRE)の組成を、図1Aに示す。プロモーターは、CHO細胞中で既にキャラクタライズされたように、転写活性が異なる最大7つの異なるTFREの選択で構成された。各プロモーターの転写活性を変化させるために、2bpのスペーサーで区切られたTFREブロックを、低強度、中強度、及び高強度のプロモーター用に特異的に選択し、ヒトサイトメガロウイルス主要中間初期(hCMV-MIE)コアの上流に配置した。低強度、中強度、及び高強度の合成プロモーターのおおよその活性は、それぞれ、hCMV-MIE発現強度の0.1、0.8、及び2.2倍であった。
【0064】
合成プロモーターの転写活性を確認し、MGEVからの遺伝子発現との後の比較のために単一遺伝子ベクター(SGV)からの組換え遺伝子発現を定量的に評価するために、各合成プロモーターを、3種のスペクトル的に不連続の蛍光レポータータンパク質eGFP、mCherry、及びタグBFPの上流に挿入して、9種のSVGのライブラリを作成した(図1C~1L)。これらを、3群で共トランスフェクトし、各群は、100~800ngの範囲の総プラスミドDNA負荷にて、低(群1)、中(群2)、又は高(群3)のいずれかで同一の転写活性があるプロモーターの制御下で各蛍光タンパク質をコードする3種のSGVからなる(図1L)。各レポーター遺伝子のSGVにより媒介される一過性発現により、用いた合成プロモーターに応じて、蛍光タンパク質の細胞含有量が、比較的低くなるか、中程度になるか、又は高くなった。全レポーターにわたり、正規化された(低強度プロモーターに対して正規化された)積分蛍光強度の中央値は、1:7.7:31.2(低:中:高強度合成プロモーター)の比であり、予期されるプロモーター機能が裏付けられた(図1M)。
【0065】
しかしながら、低発現レベルでの蛍光タンパク質のフローサイトメトリー検出の感度には限界があったことから、且つ転写活性をより直接的に定量的に比較するために、組換え細胞レポーターmRNA含有量を、絶対定量qRT-PCRを使用して測定した。各レポーターの転写活性のばらつきに対してmRNAコピーの測定値を外部校正するために、トランスフェクトされたSGV総プラスミドDNA負荷の範囲(1.86×10個の細胞当たり100~800ngの範囲)から得られる組換えmRNAコピーを、qRT-PCRで測定した。各実験に関して、低強度プロモーター、中強度プロモーター、又は高強度プロモーターのいずれかを利用した等質量のeGFP、mCherry、及びタグBFP SGVを、トランスフェクション前に混合して、全レポーターを、既に説明した低強度合成プロモーター群、中強度合成プロモーター群、又は高強度合成プロモーター群のいずれかとして共トランスフェクトした(図1L)。各レポーター遺伝子は同様の長さであった(eGFP,720bp;mCherry,711bp;タグBFP,702bp)ことから、各実験で共トランスフェクトされた各レポーター遺伝子のコピー数は、類似していた(例えば、総プラスミドDNA 600ngは、1つの細胞当たりの各蛍光レポーター遺伝子の26983~27868個のコピーと等しい)。各総SGV DNA負荷にて、レポーターmRNAコピーを、qRT-PCRにより、トランスフェクションの24時間後に測定した。各レポーターmRNAの転写活性の測定値の直接比較を可能にするために、各DNA負荷で測定されたmRNAコピー及び様々なプロモーター強度を算術的に組み合わせ、低強度プロモーターのデータセットに関して正規化しており、レポーター特異的mRNA動態は転写後に変化すると可能性が高い(即ち、mRNA半減期、mRNA二次構造、翻訳効率等)が、所与のプロモーターにより媒介される転写速度は、各レポーター遺伝子に関して一定であるという仮定が組み込まれている。これにより、レポーター特異的な外部校正曲線を作成することが可能となり、測定されたmRNAコピーが、クロスレポーターの比較可能な相対転写活性(RTA)に関連付けられた。それぞれの場合で、三次多項式回帰により、ベストフィット線が得られた(eGFP、mCherry、及びタグBFP校正それぞれに関して、0.976、0.988、及び0.964のr図1N)。当然のことながら、測定されたmRNAコピーとRTAとにはレポーター特異的な差違は明らかであり、このことは、それぞれの場合での共通の5’UTR及び3’UTRの使用にもかかわらず、mRNA動態の差違を示す。全SGVデータにわたり(全ての総DNA負荷を考慮する)、合成プロモーターにより、低1:中4.6(±1.1):高7.2(±1.1)の正規化平均(±SE)比でRTAが得られた。合成プロモーター活性の比は、総プラスミドDNA負荷にある程度依存しており、その結果、低強度プロモーターと比較して、中及び高の比は、トランスフェクトされたDNAの質量に対して直線的に増加し(図1O)、このことは、より高いDNA負荷でのプロモーターの複雑さの増大による自己阻害(プロモーター干渉とも称される)の低下を潜在的に示す。
【0066】
実施例2:組換え遺伝子発現の化学量論を制御するために合成プロモーターを利用する多重遺伝子発現ベクターの構築及び性能
合成プロモーターを、MGEV中で直列に配置された組換え遺伝子の発現の相対レベルを予想通りに制御するために使用し得るかどうかを確認するために試験した。様々な位置における合成プロモーター(低、中、及び高)の全ての可能な組み合わせを利用する固定された直列でeGFP、mCherry、及びタグBFPをコードする27種のMGEVのライブラリを構築した(図2A)。各MGEVを、デノボで合成されたTU及びプラスミドベクター骨格pExp-Vec-GGを使用して、Golden Gateアセンブリにより構築した(図1B~1K)。
【0067】
各MGEVバリアントを、1.86×10個の細胞当たり600ngの総MGEV質量にて、SGVの組み合わせ(図1L)に従って24時間にわたりCHO細胞にトランスフェクトした。これらの条件下で、トランスフェクトされた蛍光遺伝子コピーの数(1つの細胞当たり各蛍光レポーター遺伝子の29113±212個のコピー)は、組み合わされたSGVベクタープラスミドDNA 600ngを使用してトランスフェクトした遺伝子コピーの数(1つの細胞当たり各レポーターの27489個のコピー、上記を参照されたい)とほぼ同等であった。従って、用いた同一プラスミドDNA負荷でのSGV発現データから、低強度合成プロモーター、中強度合成プロモーター、及び高強度合成プロモーターの予期されるRTAはそれぞれ、552(±20)、2915(±284)、及び4384(±874)、1:5.3:7.9の比であった。各MGEVに関して、レポーターmRNAコピーをqRT-PCRで測定し、SGV外部校正を使用してRTAを得た(図1N)。これらのデータを、表4に列挙する。単一遺伝子ベクター(SGV)の外部校正曲線に対して内挿して(図1N)レポーター発現の直接比較を可能にすることにより、RTAを得た。MGEVバリアントの各位置で利用された低強度プロモーター、中強度プロモーター、及び高強度プロモーターをそれぞれ、「L」、「M」、及び「H」と略した。27種のMGEVバリアント全体にわたる1位、2位、及び3位の平均RTAを算出し、1位に対して2位及び3位の平均mRTAを正規化することにより、全体的な遺伝子位置効果の比を得た。
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
観察される一般的な傾向は、SGVを使用して観察されたものと比較して、レポーター遺伝子転写が実質的に全体的に抑制された(SGVにより媒介される転写と比較して69.9%の全体平均)。この抑制は、図2Bにおいて合成プロモーター毎に定量化されており、相対的なプロモーター媒介性転写活性の比較を図2Cに示す(両方の場合で、利用された全ての組み合わせにわたる)。これらのデータから、MGEV環境では、合成プロモーターにより、一般的に、予期される転写傾向が得られた(即ち、L<M<H;図2C)が、実際の比(1:2.8:6.7)は、SGVを使用して得られたもの(1:5.3:7.9)とは異なっていたことが分かる。まとめると、このデータから、中強度合成プロモーターのより顕著な抑制が分かる(図2B)。全体的な転写抑制は、RNAポリメラーゼII(RNAポリII)転写伸長後のプラスミド立体構造が上流の遺伝子転写を妨げる可能性がある負の超らせんによるプラスミド構造の変化に起因している可能性があることが推測され得る。加えて、固定されたタンデム系列におけるプロモーターの潜在的な双方向挙動は、アンチセンス転写と、RNAポリIIとの衝突を引き起こし得、次いで、隣接するTUの転写が阻害される。これら両方のメカニズムは、MGEV環境内での全体的抑制に同時に寄与している可能性がある。
【0071】
ベクターのライブラリ内の遺伝子位置効果を、1位、2位、及び3位に由来する全RTAの合計(即ち、全合成プロモーターの組み合わせの使用:表4)により単純に定量化した。これにより、レポーターの最大発現が1位で起こることが明らかとなった。1位と比較して、2位及び3位はそれぞれ、レポーター遺伝子転写の15%及び14%の減少を示した。従って、遺伝子位置効果は、RNAポリII伸長複合体の隣接するTUへの転写リードスルーを引き起こす上流のTUの非効率的な転写終結の結果であり得る。これにより、転写開始を阻害するTUのプロモーター領域における立体障害により、転写因子の結合又は開始前複合体の構築が制限される。このメカニズムは、閉塞により媒介される転写干渉(occlusion-mediated transcriptional interference)と称される。或いは、RNAポリII伸長複合体はまた、下流のプロモーターのエンハンサー領域に結合している転写因子をも除去し得、その結果、転写が抑制される。標準的なベクター又はレンチウイルスベクター内でタンデムに配置された他の二重プロモーター系もまた、両方とも転写干渉により引き起こされる予測不能な遺伝子発現を示している。同様に、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)で合成経路を構築する三重遺伝子カセットもまた、転写干渉に起因する予期される発現との実質的な矛盾を示した。
【0072】
実施例3:多重遺伝子ベクター環境における組換え遺伝子転写での偏り
27種のMGEVバリアントのそれぞれに関して観察されたRTA(表4)をさらに分析して、多重遺伝子環境内における組換え遺伝子転写での特定の偏りを識別した。このことを、MGEV内での「観察されたRTA」と、ほぼ同等の遺伝子コピーでのSGV共発現に由来する「予期されるRTA」のセットとを比較することにより達成した。
【0073】
MGEV内の各位置で観察されたRTAを、図3に示す三次元プロット(各軸が、MGEV内の3箇所の位置の内の1箇所を表している)内の予期されるRTAカウンターパートと比較した。図3Aは、予期されるRTAの立方体構造(551.9~4383.5の範囲)と比較された、観察されたRTAのクラスター化立体構造(96.2~2655.2の範囲)により示されるように、各MGEVの全ての位置における実質的な転写抑制をあらためて示す。MGEV RTAのクラスター(図3B)は、非対照的であり、27種の個別のバリアント(734.0の平均RTA)全体において2位で観察される全体的な転写活性がより低く、1位及び3位と比較して全体的な転写抑制の増加が再度強調された。図3Bは、一連の潜在的な転写干渉メカニズムを説明する低強度合成プロモーター、中強度合成プロモーター、及び高強度合成プロモーターを利用する固定されたタンデム系列における3種の組換え遺伝子の達成可能な転写活性のために経験的に導かれる設計空間を示す。
【0074】
MGEVライブラリ内の他の転写抑制傾向を特定するために、観察された全体的な遺伝子位置効果(2位及び3位それぞれでの15%及び14%抑制)を、各MGEVの2位及び3位で検出されたRTAに関して正規化した。MGEV発現からのこれらの位置効果の正規化RTAを、予期されるRTA(ほぼ同等の遺伝子コピーでのSGV共発現から得られる)と比較し、各位置での転写抑制の割合を得た。転写抑制の分布は、位置に関係なく、発現の大部分(90.1%)が50%超抑制されており、且つ転写抑制の中央値が68.6%であることを示した(図4A)。
【0075】
位置又はプロモーターに特異的な遺伝子抑制傾向を、図4Bで強調した。カラー勾配ヒートマップは、MGEVライブラリ全体わたり各位置に関する予期されるRTAに対する抑制の程度を示す。中強度合成プロモーターは、抑制された活性を一貫して示しており、平均転写抑制が76.5%であった(観察された平均転写抑制と比べて12%高かった)。逆に、低強度合成プロモーターは、高強度の合成プロモーターと隣接した場合に、転写活性の増強を示し、抑制の程度(48.2%)は、平均(64.5%)と比べて低かった。プロモーター活性は、2位で特に高く、平均転写抑制は31.7%であった。一般に、高強度プロモーターは、特定の転写傾向を全く示さなかったが、広範な環境特異的変動が明らかであり、抑制が39.4~81.9%の範囲であった。
【0076】
(全体的抑制の考慮後の)プロモーター活性の逸脱は、プロモータースケルチング(promoter squelching)が転写に影響を及ぼしている可能性があるMGEV内の局所的環境に対して環境特異的である。プロモータースケルチングは、遺伝子発現活性の偏りをもたらすプロモーターバリアント間の転写の調節に関与する転写因子及び関連補因子の競合を指す。低強度合成プロモーター、中強度合成プロモーター、及び高強度合成プロモーターのTFRE組成を参照すると、6種全ての転写因子及びその同族TFREが、プロモーターバリアント間で共有されている(図1A)。中強度合成プロモーターは、転写因子の競合の増加を示す低強度合成プロモーター(EBS及びC/EBP)並びに高強度合成プロモーター(GC-ボックス、ARE、DRE、EBS、NFkB)の両方とTFREブロックを共有する。このことは、中強度プロモーターの抑制状態がスケルチングにより潜在的に引き起こされることを示唆するだろう。高強度合成プロモーターバリアントに隣接している低強度合成プロモーターの活性の増強は、転写因子間の相互作用に起因している可能性がある。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図1-6】
図2
図3-1】
図3-2】
図4
【配列表】
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【国際調査報告】