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▶ シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-14
(54)【発明の名称】ポリリン酸塩添加剤を含む潤滑剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 153/04 20060101AFI20240307BHJP
   C10M 137/08 20060101ALI20240307BHJP
   C10M 129/40 20060101ALI20240307BHJP
   C10M 135/10 20060101ALI20240307BHJP
   C10M 137/10 20060101ALI20240307BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240307BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240307BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20240307BHJP
【FI】
C10M153/04
C10M137/08
C10M129/40
C10M135/10
C10M137/10 A
C10N10:04
C10N30:00 Z
C10N40:25
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023556889
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(85)【翻訳文提出日】2023-09-14
(86)【国際出願番号】 IB2022052373
(87)【国際公開番号】W WO2022195502
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】63/162,418
(32)【優先日】2021-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598037547
【氏名又は名称】シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ネルソン、ケネス ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ムーア、ジョナサン エイ.
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA07A
4H104BB02C
4H104BB17C
4H104BB18C
4H104BG06C
4H104BH05C
4H104CB14A
4H104CH03C
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104EB05
4H104EB07
4H104EB08
4H104EB09
4H104EB10
4H104EB11
4H104EB13
4H104EB15
4H104FA02
4H104LA20
4H104PA41
(57)【要約】
潤滑油組成物について記載する。組成物は、大半量の潤滑粘度の基油及びポリリン酸塩ベースの分散液を含む。分散液には、ポリリン酸アンモニウム及び分散剤が含まれる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油組成物であって、
大半量の潤滑粘度の基油と、
ポリリン酸アンモニウムと分散剤とを含むポリリン酸塩ベースの分散液と、を含む、前記潤滑油組成物。
【請求項2】
前記ポリリン酸アンモニウムが、下記構造:
【化1】

[式中、Rは、独立して水素またはヒドロカルビル基であり、nは1~1000の範囲の整数であり、mはn+2である]を有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記分散剤が界面活性剤である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記分散剤が、ステアリン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ホスファチジルコリン、アルケニルコハク酸塩、オレイン酸塩、または脂肪族アルコールである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
抗酸化剤、分散剤、摩耗防止剤、洗浄剤、防錆剤、曇り除去剤、解乳化剤、摩擦改質剤、金属非活性化剤、流動点降下剤、粘度改質剤、消泡剤、共溶媒、パッケージ適合剤、腐食防止剤、色素、または極圧添加剤をさらに含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
ジチオリン酸亜鉛をさらに含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
潤滑油組成物であって、
大半量の潤滑粘度の基油と、
ポリリン酸アンモニウムと、
分散剤と、を含む、潤滑油組成物。
【請求項8】
前記ポリリン酸アンモニウムが、下記構造:
【化2】

[式中、Rは、独立して水素またはヒドロカルビル基であり、nは1~1000の範囲の整数であり、mはn+2である]を有する、請求項7に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
前記分散剤が界面活性剤である、請求項7に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
前記分散剤が、ステアリン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ホスファチジルコリン、アルケニルコハク酸塩、オレイン酸塩、または脂肪族アルコールである、請求項7に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
抗酸化剤、分散剤、摩耗防止剤、洗浄剤、防錆剤、曇り除去剤、解乳化剤、摩擦改質剤、金属非活性化剤、流動点降下剤、粘度改質剤、消泡剤、共溶媒、パッケージ適合剤、腐食防止剤、色素、または極圧添加剤をさらに含む、請求項7に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
ジチオリン酸亜鉛をさらに含む、請求項7に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
内燃機関を動作させる方法であって、
以下:
大半量の潤滑粘度の基油と、
ポリリン酸アンモニウムと、
分散剤と、を含む、潤滑油で前記機関を潤滑することを含む、前記方法。
【請求項14】
前記ポリリン酸アンモニウムが、下記構造:
【化3】

[式中、Rは、独立して水素またはヒドロカルビル基であり、nは1~1000の範囲の整数であり、mはn+2である]を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記分散剤が界面活性剤である、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
前記分散剤が、ステアリン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ホスファチジルコリン、アルケニルコハク酸塩、オレイン酸塩、または脂肪族アルコールである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記潤滑油組成物が、抗酸化剤、分散剤、摩耗防止剤、洗浄剤、防錆剤、曇り除去剤、解乳化剤、摩擦改質剤、金属非活性化剤、流動点降下剤、粘度改質剤、消泡剤、共溶媒、パッケージ適合剤、腐食防止剤、色素、または極圧添加剤をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記潤滑油がジチオリン酸亜鉛をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、潤滑油添加剤組成物及び潤滑油添加剤組成物を含む潤滑油組成物に関する。より具体的には、本発明は、灰分生成レベルが低減されたポリリン酸塩ベースの耐摩耗剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
従来の耐摩耗剤(ジチオリン酸亜鉛など)は、エンジン内の金属同士の接触のリスクを軽減するために潤滑油によく使用されている。しかしながら、金属含有潤滑添加剤の存在下でエンジンが燃焼すると、灰分が生成する可能性がある。
【0003】
灰分の蓄積は、燃費の低下などの悪影響をもたらすエンジン微粒子フィルターの目詰まりをはじめとする、多くのよく知られた問題を引き起こす。したがって、無灰分であるか、従来の潤滑油添加剤と比較して灰分の生成が少ない新たな潤滑油添加剤が提供されることが望ましい。
【発明の概要】
【0004】
一態様では、大半量の潤滑粘度の基油と、ポリリン酸アンモニウムと分散剤とを含むポリリン酸塩ベースの分散液と、を含む、潤滑油組成物が提供される。
【0005】
別の態様では、大半量の潤滑粘度の基油と、ポリリン酸アンモニウムと、分散剤と、を含む潤滑油組成物が提供される。
【0006】
さらなる態様では、内燃機関を動作させる方法であって、大半量の潤滑粘度の基油と、ポリリン酸アンモニウムと、分散剤と、を含む潤滑油で機関を潤滑することを含む、方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
序論
本明細書において、以下の単語及び表現は、使用される場合、以下に記載される意味を有する。
【0008】
「油溶性」という用語は、特定の添加剤について、所望のレベルの活性または性能を与えるために必要な量を、潤滑粘度のオイルに溶解、分散または懸濁することによって添加できることを意味する。通常、これは、少なくとも0.001重量%の添加剤を潤滑油組成物に添加できることを意味する。「燃料可溶性」という用語は、燃料中に溶解、分散、または懸濁された添加剤を表す類似の表現である。
【0009】
「少量」とは、添加剤の活性成分として計算される、記載された添加剤に対して表され、組成物中の合計重量に対して表される、組成物の約50重量%未満を意味する。
【0010】
「大半量」とは、添加剤の活性成分として計算される、記載された添加剤に対して表され、組成物中の合計重量に対して表される、組成物の約50重量%超を意味する。
【0011】
「エンジン」または「燃焼エンジン」とは、燃焼室内で燃料の燃焼が起こる熱機関である。「内燃機関」とは、密閉空間(「燃焼室」)内で燃料の燃焼が起こる熱機関である。「火花点火エンジン」とは、通常は点火プラグからの火花によって燃焼が点火される熱機関である。これは、燃料の噴射と圧縮によって生成される熱が外部の火花なしで燃焼を開始するのに十分である、「圧縮点火エンジン」、通常はディーゼルエンジン、とは対照的である。
【0012】
本発明は、大半量の潤滑粘度の基油と、ポリリン酸塩耐摩耗剤と、を含む潤滑油組成物を提供する。ポリリン酸塩はその高い極性構造のため、油に容易に溶解しない。したがって、本発明はさらに、オイル中でポリリン酸塩ベースの分散液を形成するためにポリリン酸塩耐摩耗剤を添加した分散剤を提供する。一般に、ポリリン酸塩ベースの分散液の有効性は、潤滑油流体中での分散液の均一度に依存する。分散液の均一度は、ポリリン酸塩ベースの分散液の濁度と相関し得る。
【0013】
ポリリン酸塩ベースの分散液
本発明のポリリン酸塩ベースの分散液は、ポリリン酸アンモニウムと分散剤とを含む。いくつかの実施形態では、ポリリン酸塩分散液は、金属を含まないか(すなわち、潤滑油組成物全体に対して約2ppm未満)、実質的に金属を含まないか(すなわち、潤滑油組成物全体に対して約50ppm未満)、亜鉛を含まないか(すなわち、潤滑油組成物全体に対して約2ppm未満)、または実質的に亜鉛を含まない(すなわち、潤滑油組成物全体に対して約50ppm未満)ものとすることができる。その結果、本発明のポリリン酸塩ベースの分散液は、灰分が生じないか(「無灰分」)、金属ベースの耐摩耗剤と比較して灰分が少なくなる。
【0014】
いくつかの実施形態では、ポリリン酸塩ベースの分散液は、ジチオリン酸亜鉛(第二級ZnDTP)などの金属ベースの耐摩耗剤と組み合わせて使用することができる。いくつかの実施形態では、ジチオリン酸亜鉛は約0.01重量%~15重量%で存在する。
【0015】
一実施形態によれば、ポリリン酸アンモニウムは、以下の一般化された構造Iを有する:
【化1】

[式中、Rは、独立して水素またはヒドロカルビル基であり、nは1~1000の範囲の整数であり、mはn+2である]。
【0016】
ポリリン酸アンモニウムは通常、潤滑油の媒質に不溶であるため、分散剤中に混合することにより、ポリリン酸塩をオイル中に分散液として添加することが効果的である。
【0017】
分散剤は、潤滑油組成物中にポリリン酸アンモニウムを分散または分配することができる任意の分子であってよい。分散剤は通常、親水性末端と疎水性末端の両方を有する長い両親媒性分子である。分散剤は、潤滑油組成物中でエマルションなどの凝集構造を形成することができる。
【0018】
使用される分散剤の量は、通常、安定した分散液を与える最小量である。特に、金属分散剤(金属洗浄剤など)は灰分の生成につながる可能性がある。これらの分散剤は、成分の総体積の約6%を超えてはならない。界面活性剤の総量は、成分の総体積の約20%を超えてはならない。
【0019】
本発明と適合する分散剤としては、ステアリン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ホスファチジルコリン、アルケニルコハク酸塩、オレイン酸塩、脂肪族アルコール、アルケニルコハク酸イミドなどの既知の有機界面活性剤が挙げられる。
【0020】
本発明のポリリン酸塩ベースの分散液は、任意の適当な手段によって調製することができる。以下に、水酸化アンモニウムとリン酸の水溶液、またはリン酸アンモニウム水溶液の油中水型エマルションを脱水して分散液を得る方法について説明する。水酸化アンモニウムとリン酸の電荷モル比が1:1であるような溶液を調製することが理想的である。
【0021】
次いで、この溶液を、中性油、分散剤、及び必要に応じて洗浄剤の組み合わせに添加し、高剪断ミキサー(例えば、ブレンダー)で混合して、エマルションを形成する。得られたエマルションを加熱(140℃)して部分的に脱水する。エマルションの脱水時、水は104℃~108℃で急速に除去される。
【0022】
この後では、ほぼすべてのプロセス水が除去されている。この段階の後に除去される追加の水は、水和リン酸オリゴマーの脱水であると考えられる。110℃~120℃で濁ったエマルションは透明になり始め、その後、130℃~140℃で再び濁る。この時点で生成物は望ましい脱水レベルに達しているため、直ちに加熱を止めなければならない。
【0023】
冷却した生成物は、分散したポリリン酸アンモニウム由来の約6.5重量%のリンを含む、室温で透明で均質な混合物に戻る。
【0024】
潤滑油組成物
本開示のポリリン酸分散剤は、潤滑油中の分散剤添加剤として有用である。潤滑油組成物中の本開示の分散液の濃度は、潤滑油組成物の総重量に対して、0.01~15重量%(例えば、0.1~10重量%、0.2~5.0重量%、0.5~2.0重量%)の範囲であってよい。
【0025】
潤滑粘度のオイル(「ベースストック」または「基油」と称される場合もある)は、潤滑剤の主要液体構成成分であり、その中へ添加剤及び場合によっては他の油がブレンドされることで例えば最終的な潤滑剤(すなわち潤滑剤組成物)を与える。基油は、濃縮物を調製するため、及びそれから潤滑油組成物を調製するために有用であり、天然(植物性、動物性、または鉱物性)及び合成潤滑油ならびにそれらの混合物から選択することができる。
【0026】
本開示におけるベースストック及び基油の定義は、American Petroleum Institute(API)Publication 1509 Annex E(「API Base Oil Interchangeability Guidelines for Passenger Car Motor Oils and Diesel Engine Oils,」December 2016)に記載されているものと同じである。グループIのベースストックは、90%未満の飽和分及び/または0.03%超の硫黄分を含有し、表E-1に指定される試験方法を使用した場合に80以上120未満の粘度指数を有する。グループIIのベースストックは、90%以上の飽和分及び0.03%以下の硫黄分を含有し、表E-1に指定される試験方法を使用した場合に80以上120未満の粘度指数を有する。グループIIIのベースストックは、90%以上の飽和分及び0.03%以下の硫黄分を含有し、表E-1に指定される試験方法を使用した場合に120以上の粘度指数を有する。グループIVのベースストックは、ポリαオレフィン(PAO)である。グループVベースストックには、グループI、II、III、またはIVに含まれない他のすべてのベースストックが含まれる。
【0027】
天然油としては、動物油、植物油(例えば、ヒマシ油及びラード油)、ならびに鉱油が挙げられる。好ましい熱酸化安定性を有する動物油及び植物油を使用することができる。天然油のうち、鉱油が好ましい。鉱油は、それらの原油源に関して、例えば、パラフィン系、ナフテン系、または混合パラフィン系-ナフテン系であるかに関して、大きく異なる。石炭またはシェールに由来するオイルも有用な基油である。天然油はまた、それらの製造及び精製に使用される方法、例えば、それらの蒸留範囲、及びそれらが直留であるかもしくは分解されているか、水素精製されているか、または溶媒抽出されているかによっても異なる。
【0028】
合成油としては、炭化水素油が挙げられる。炭化水素油としては、重合及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマー、エチレン-オレフィンコポリマー及びエチレン-αオレフィンコポリマー)などのオイルが挙げられる。ポリアルファオレフィン(PAO)油ベースストックは広く使用されている合成炭化水素油である。例として、C~C14オレフィン、例えば、C、C10、C12、C14オレフィン、またはそれらの混合物に由来するPAOを用いることもできる。
【0029】
基油として使用するための他の有用な液体としては、高性能特性を与えるために好ましくは触媒的に処理された、または合成された非従来型もしくは従来と異なったベースストックが挙げられる。
【0030】
非従来型または従来と異なったベースストック/基油としては、1つ以上のガス・ツー・リキッド(GTL)材料に由来するベースストック(複数可)の混合物、ならびに天然ワックスまたはワックス状供給原料に由来する異性化/イソ脱ロウ化ベースストック(複数可)、スラックワックス、天然ワックスなどの鉱物及び/または非鉱物油ワックス状原料ストック、ならびにガスオイル、ワックス状燃料ハイドロクラッカー残渣油、ワックス状ラフィネート、水素化分解物、熱分解物、または他の鉱物などのワックス状ストック、鉱油、またはさらには石炭液化またはシェールオイルから受け取ったワックス状材料などの非石油由来ワックス状材料、ならびにそのようなベースストックの混合物のうちの1つ以上が挙げられる。
【0031】
本開示の潤滑油組成物で使用するための基油は、APIのグループI、グループII、グループIII、グループIV及びグループVのオイル、ならびにそれらの混合物、好ましくはAPIのグループII、グループIII、グループIV及びグループVのオイル、ならびにそれらの混合物、より好ましくは、それらの優れた揮発性、安定性、粘度測定及び清浄度特性のため、グループIII~グループVの基油に相当する各種のオイルのいずれかである。
【0032】
一般的には、基油は、2.5~20mm/秒(例えば、3~12mm/秒、4~10mm/秒、または4.5~8mm/秒)の範囲の100℃での運動粘度(ASTM D445)を有する。
【0033】
本潤滑油組成物はまた、補助機能を付与するための従来の潤滑剤添加剤を含むことで、これらの添加剤が分散または溶解された、完成した潤滑油組成物を得ることができる。例えば、潤滑油組成物は、酸化防止剤、無灰分散剤、摩耗防止剤、金属清浄剤などの清浄剤、防錆剤、曇り止め剤、解乳化剤、摩擦改質剤、金属非活性化剤、流動点降下剤、粘度改質剤、消泡剤、共溶媒、パッケージ適合剤、腐食抑制剤、色素、極圧剤など、及びそれらの混合物とブレンドすることができる。各種の添加剤が既知であり、市販されている。これらの添加剤、またはそれらの類似化合物は、通常のブレンド手順によって、本発明の潤滑油組成物の調製に用いることができる。
【0034】
上記の添加剤の各々は、使用される場合、潤滑剤に所望の特性を付与するために機能的に有効な量で使用される。したがって、例えば、添加剤が無灰分散剤である場合、この無灰分散剤の機能的に有効な量は、潤滑剤に所望の分散特性を付与するのに十分な量である。一般に、これらの添加剤の使用時の各々の濃度は、特に断らない限り、約0.001~約20重量%、例えば、約0.01~約10重量%の範囲とすることができる。
【0035】
以下の例示的な実施例は、非限定的であることが意図される。
【実施例
【0036】
ポリリン酸塩分散液1
リン酸アンモニウム水溶液の水中油型エマルションを1.5時間かけて139℃に加熱して脱水することによってポリリン酸アンモニウムを含む分散液を調製した。
【0037】
この水溶液は、2リットルのガラスビーカー中で、510.8gのDI水と250.8gのリン酸アンモニウムの混合物を、リン酸アンモニウムが完全に溶解するまで撹拌し、80℃に加熱することによって調製した。
【0038】
540.3gのExxon150ニュートラルオイル、120.54gの分子量約1100amuのアルケニルコハク酸塩、及び51.26gの中性スルホン酸塩を含有する油相に水相を徐々に添加することによって、水中油型エマルションを調製した。
【0039】
水層をゆっくりと加えながら、高剪断ミキサーを使用して溶液を激しく混合して、濁ったエマルションを形成した。次いで、メカニカルスターラー、温度制御されたホットプレート、及び窒素導入口を備えた4Lビーカー中でエマルションを部分的に脱水した。
【0040】
ポリリン酸塩分散液2
リン酸アンモニウム溶液の代わりに等モル量のリン酸と水酸化アンモニウムを使用した点以外は、ポリリン酸塩分散液1に記載した工程に従って分散ポリリン酸塩成分を調製した。
【0041】
ポリリン酸塩分散液3
中性スルホン酸塩を省略した点以外は、ポリリン酸塩分散液1に記載した工程に従って、分散ポリリン酸塩成分を調製した。この実施例は4.26%のリンを含有していた。TBNは128mgKOH/gであった。
【0042】
ポリリン酸塩分散液4
2-エチルヘキサノールを中性スルホン酸塩の代わりに添加した点以外は、ポリリン酸塩分散液1に記載した工程に従って、分散ポリリン酸塩成分を調製した。
【0043】
ポリリン酸塩分散液1~4はすべて、100未満のNTU(比濁濁度単位)を示し、安定した懸濁液が形成されたことを示した。
【0044】
これらのポリリン酸塩分散液をグループIIのパラフィン系基油にさまざまな処理速度で添加して、表1にまとめた比較例及び実施例を調製した。
【0045】
比較例1は、耐摩耗添加剤を含まないグループIIのパラフィン系基油である。
【0046】
比較例2は、1重量%の市販の第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含むグループIIのパラフィン系基油である。
【0047】
実施例1Aは、0.125重量%のポリリン酸塩分散液1を含むグループIIのパラフィン系基油である。
【0048】
実施例1Bは、0.25重量%のポリリン酸塩分散液1を含むグループIIのパラフィン系基油である。
【0049】
実施例1Cは、0.5重量%のポリリン酸塩分散液1を含むグループIIのパラフィン系基油である。
【0050】
実施例1Dは、1.0重量%のポリリン酸塩分散液1を含むグループIIのパラフィン系基油である。
【0051】
実施例2は、1.0重量%のポリリン酸塩分散液2を含むグループIIのパラフィン系基油中性油である。
【0052】
実施例3は、1.0重量%のポリリン酸塩分散液3を含むグループIIのパラフィン系基油中性油である。
【0053】
実施例4は、1.0重量%のポリリン酸塩分散液4を含むグループIIのパラフィン系基油である。
【0054】
MTMによる電気接触抵抗(ECR)測定
比較例1及び2及び実施例1~4は、英国ロンドンのPCS Instruments Ltd.のミニトラクションマシン(MTM)トライボメータを使用して評価した。MTMトライボメータは、PCS Instrumentsの52100鋼製の研磨ディスクと、ピンの代わりにやはりFalex corporationの52100鋼製の0.25インチ固定ボールベアリングを使用して、ピンオンディスクモードで動作するように設定した。試験は、100℃、7ニュートンの荷重、200mm/秒の滑り速度で40分間行った後、0.1ニュートンの荷重、2000mm/秒の滑り速度で5分間の慣らし運転を行った。
【0055】
摩耗防止用の潤滑油膜の形成は、電気接触抵抗(ECR)によって測定することができる。ECR(電気接触抵抗)は、標準MTMシステムのアドオンである。電気抵抗は、ディスクと上側試験片(ボール、ピン、またはローラ)との間で測定される。
【0056】
ボールに電位を印加する。上側試験片が下側試験片(ディスク)から完全に分離されると、ECR測定値は100%となる。試験片間で金属同士が直接接触すると、接触は短絡し、ECR測定値は0%となる。100%の測定値は、完全に絶縁性の油膜が形成されていることを示す。最大ECR値と100%のECR(潤滑油膜の形成を示す)に達するまでに必要な時間も表1に示す。
【0057】
添加剤を含まない比較例1は、100%ECRに達することができなかった。同様に、非常に低用量のポリリン酸アンモニウム分散液を含む実施例1Aは、100%のECRに達することができなかった。実施例1B~1D及び実施例2~4はいずれも、比較的短い時間枠内で100%ECRに達し、特に実施例1D及び2は、同じ用量の市販のZnDTP耐磨耗添加剤を含有する比較例2と同等の膜形成A性能を示した。
【表1】
【0058】
ベースライン配合物A
以下の成分を互いにブレンドして、SAE 5W-30粘度グレードの潤滑油配合物を得ることにより、ベースライン配合物Aを調製した:
(a)ホウ酸化コハク酸イミド分散剤と非ホウ素酸化コハク酸イミド分散剤との混合物、
(b)スルホン酸マグネシウム界面活性剤、
(c)カルシウムフェネート及びスルホン酸カルシウム、
(d)アルキル化ジフェニルアミン及びヒンダードフェノール酸化防止剤、
(e)モリブデンスクシンイミド抗酸化防止剤、
(f)従来量の流動点降下剤、粘度指数向上剤、及び泡抑制剤、ならびに
(g)残部のグループIIの基油の混合物。
【0059】
比較例3
比較例3は、1.03重量%の市販の第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を添加したベースライン配合物Aを使用して配合した。
【0060】
実施例5
実施例5は、0.77重量%の市販の第二級ZnDTP及び0.31重量%の実施例1のポリリン酸アンモニウム分散液を添加したベースライン配合物Aを使用して配合した。
【0061】
実施例6
実施例6は、0.52重量%の市販の第二級ZnDTP及び0.625重量%の実施例1のポリリン酸アンモニウム分散液を添加したベースライン配合物Aを使用して配合した。
【0062】
実施例7
実施例7は、0.26重量%の市販の第二級ZnDTP及び0.94重量%の実施例1のポリリン酸アンモニウム分散液を添加したベースライン配合物Aを使用して配合した。
【0063】
実施例8
実施例8は、1.25重量%の実施例1のポリリン酸アンモニウム分散液を添加したベースライン配合物Aを使用して配合した。
【0064】
ミニトラクションマシン(MTM)評価
比較例3及び実施例5~8の潤滑油組成物を、PCS Instruments Ltd.(英国ロンドン)のミニトラクションマシン(MTM)トライボメータを使用して評価した。MTMトライボメータは、PCS Instrumentsの52100鋼製の研磨ディスクと、ピンの代わりにやはりFalex corporationの52100鋼製の0.25インチ固定ボールベアリングを使用して、ピンオンディスクモードで動作するように設定した。試験は、100℃、7ニュートンの荷重、200mm/秒の滑り速度で40分間行った後、0.1ニュートンの荷重、2000mm/秒の滑り速度で5分間の慣らし運転を行った。表2の試験結果は、従来の方法により光学顕微鏡で測定したボールベアリングに発生した摩耗痕を示す。4回の試験実施による平均摩耗痕を示している。
【表2】
【0065】
上記の表2に示すように、同じリンベースの処理速度では、無灰分ポリリン酸アンモニウム分散液を含む実施例5~8は、従来のZnDTP添加剤を含む比較例3に比べて優れた耐摩耗性能を示す。さらに重要な点として、実施例5~8は、比較例3よりも低い濃度の硫酸灰分を含有している。実施例8は亜鉛を含まず、したがって、比較例3と比較して硫酸灰分の濃度が低下している。
【0066】
ベースライン配合物B
以下の成分を互いにブレンドして、SAE 5W-30粘度グレードの潤滑油配合物を得ることにより、ベースライン配合物Bを調製した:
(a)スクシンイミド分散剤、
(b)カルシウムフェネート及びスルホン酸カルシウム、
(c)アルキル化ジフェニルアミン酸化防止剤、
(d)従来量の流動点降下剤、粘度指数向上剤、及び泡抑制剤、ならびに
(e)残部のグループIIIの基油の混合物。
【0067】
比較例4
比較例4は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を含まないベースライン配合物Bを使用して配合した。
【0068】
比較例5
0.17重量%の第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛を添加して、ベースライン配合物Bと同じ添加剤、基油、及び処理速度を含む潤滑油配合物を形成した。
【0069】
比較例6
0.43重量%の第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛を添加して、ベースライン配合物Bと同じ添加剤、基油、及び処理速度を含む潤滑油配合物を形成した。
【0070】
実施例9
0.47重量%の実施例1のポリリン酸アンモニウム分散液を添加して、ベースライン配合物Bと同じ添加剤、基油、及び処理量を含む潤滑油配合物を形成した。
【0071】
シーケンスIVAスクリーナー試験
比較例4~6及び実施例9を、シーケンスIVA試験(ASTM D 6891)の改変版でバルブトレインの摩耗について評価した。
【0072】
改変シーケンスIVAスクリーナー試験は、オーバーヘッドカムシャフトエンジンのカムシャフトローブの摩耗を防止する潤滑剤の性能を評価するものである。より具体的には、この試験は、オーバーヘッドバルブトレインとスライディングカムフォロアを備えた火花点火エンジンのカムシャフトローブの摩耗を制御するクランクケースオイルの能力を測定するものである。この試験は、タクシー、小型配送トラック、通勤車両におけるサービスをシミュレートするためのものである。
【0073】
シーケンスIVAスクリーナー試験方法は、25時間サイクルを2セット行う50時間のテストであり、1サイクルは40℃で25時間、続いて100℃で25時間実行される。無鉛燃料「Haltermann KA24E Green」を使用する。試験装置は、KA24E日産2.4リッター、水冷式、燃料噴射エンジン、4気筒直列、オーバーヘッドカムシャフトで、シリンダーごとに2つの吸気バルブと1つの排気バルブを備えている。
【0074】
カム摩耗の平均値(7位置の平均(μm))を下記表3に示す。
【表3】
【0075】
比較例4は、耐摩耗添加剤を含まず、高い平均カム摩耗を示している。比較例5及び6は、カム摩耗は低いが、ZnDTPによる硫酸灰分の濃度が高いことを示している。これに対して、実施例9は、ZnDTPを含有する配合物に対して優れた耐摩耗性能を示すだけでなく、灰分濃度が低い。
【0076】
本文と矛盾しない限り、任意の優先権書類及び/または試験手順を含む、本明細書に記載のすべての文書を本明細書に参照によって援用する。上記の一般的説明及び特定の実施形態から明らかなように、本開示の各形態を図示及び説明してきたが、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなくさまざまな変更を行うことが可能である。従って、本開示がそれにより限定されることは意図されていない。
【0077】
同様に、「含む」という用語は、「含むこと」という用語と同義であると考えられる。同様に、組成物、要素、または要素群の前に「~を含む(comprising)」という移行句がある場合は常に、同じ組成物または要素群であって、「~から本質的に構成される(consisting essentially of)」、「~からなる(consisting of)」、「からなる群から選択される(selected from the group of consisting of)」、または「である(is)」という移行句が、組成物、要素、または要素群の記載の前にあるようなものも想到しており、その逆も同様である。
【0078】
本明細書で使用される「a」及び「the」という用語は、単数形だけでなく複数形も包含するものと理解される。
【0079】
さまざまな用語を上記で定義した。特許請求の範囲で使用される用語が上記で定義されていない限り、少なくとも1つの印刷刊行物または発行特許に反映されている、関連分野の当業者がその用語に与えた最も広い定義が与えられるべきである。さらに、本出願に引用されるすべての特許、試験方法、及びその他の文書は、かかる開示が本出願と矛盾しない範囲で、またかかる援用が許可されるすべての権限において、参照によって全体を援用する。
【0080】
本開示の上記の説明は、本開示を例示し、説明したものである。さらに、本開示では、好ましい実施形態のみを示し、説明しているが、上述したように、本開示は他のさまざまな組み合わせ、改変、及び環境で使用することができ、上記の教示及び/または関連技術の技能または知識と同等の本明細書に表現される概念の範囲内で変更または改変が可能である点を理解されたい。上記は本開示の各実施形態に関するものであるが、本開示の他のさらなる実施形態を、その基本的な範囲から逸脱することなく考案することができ、その範囲は特許請求の範囲によって決定されるものである。
【0081】
上記に記載の各実施形態は、本発明を実施する周知の最良の形態をさらに説明することを目的としたものであり、また、他の当業者が、かかる実施形態または他の実施形態において、特定の用途または使用に必要なさまざまな改変を行って本開示を利用することを可能ならしめることを目的としたものである。したがって、上記の記載は、本発明を本明細書に開示される形態に限定することを目的としたものではない。添付の特許請求の範囲は、代替的な実施形態を包含するよう解釈されることがその意図するところである。
【国際調査報告】