(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-14
(54)【発明の名称】免疫療法を評価するための手段及び方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20240307BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20240307BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240307BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240307BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240307BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12Q1/6813 Z
A61P35/00
A61P37/04
A61K39/395 U
A61K39/395 N
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557677
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(85)【翻訳文提出日】2023-11-07
(86)【国際出願番号】 EP2022057450
(87)【国際公開番号】W WO2022200324
(87)【国際公開日】2022-09-29
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502227745
【氏名又は名称】ドイチェス クレブスフォルシュンクスツェントルム スチフトゥング デス エッフェントリヒェン レヒツ
(71)【出願人】
【識別番号】511002180
【氏名又は名称】テクニーシェ ウニベルジテート ミュンヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハイケンヴェルダー,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】クノール,ペルシー
(72)【発明者】
【氏名】フィスター,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】デュデク,ミヒャエル
【テーマコード(参考)】
4B063
4C085
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ79
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085EE01
(57)【要約】
本発明は、がんの療法のための診断及び患者の層別化の分野に関する。特に、本発明は、それを必要とする対象において免疫療法に関連する処置応答を評価する方法であって、免疫療法を必要とする対象の試料中又は免疫療法を必要とする対象のイメージングデータを含むデータセット中の活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞、又はそのCD8+T細胞前駆体を決定するステップ、並びに前記活性化又は疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞又はそのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量に基づいて、免疫療法に関連する処置応答を評価するステップを含む方法に関する。更に、対象について免疫療法を推奨する方法、又は免疫療法によって対象を処置する方法も企図される。本発明はまた、本発明の方法を実行するための診断デバイスも提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象において免疫療法に関連する処置応答を評価する方法であって、
(a)免疫療法を必要とする対象の試料中の(i)活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞、又は(ii)そのCD8+T細胞前駆体を決定するステップ;並びに
(b)(i)前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)前記そのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量に基づいて、免疫療法に関連する処置応答を評価するステップ
を含む方法。
【請求項2】
それを必要とする対象において免疫療法に関連する処置応答を評価する方法であって、
(a)免疫療法を必要とする対象のイメージングデータを含むデータセット中の(i)活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞、又は(ii)そのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量を示すデータを決定するステップ;並びに
(b)(i)前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)前記そのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量に基づいて、免疫療法に関連する処置応答を評価するステップ
を含む方法。
【請求項3】
前記処置応答が、有害な処置応答の非存在である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(i)前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)前記そのCD8+T細胞前駆体の存在が、免疫療法に関連する有害な処置応答の非存在を示している、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記処置応答が、治療的に有効な処置応答である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
(i)前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)前記そのCD8+T細胞前駆体の非存在が、免疫療法に関連する治療的に有効な処置応答を示している、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)又は全身性肥満(メタボリックシンドローム)に罹患しているか又は罹患していることが疑われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記処置応答が肝臓の有害な副作用である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(i)前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)前記そのCD8+T細胞前駆体の存在が、免疫療法に関連する肝臓の有害な副作用を示している、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記免疫療法が、PD-1及び/又はPD-L1標的化免疫療法を伴う、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞が、対照CD8+T細胞と比較して、TOX、CXCR6、TNFα、LAG3、GZMB(グランザイムB)、及びTIGIT、より好ましくは、CXCR6及びTOXからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現の増加を示す、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞が、対照CD8+T細胞と比較して、KLF2、IL-7R、TCF7、Foxo1、及びSELLからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現の低減を示す、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記CD8+T細胞前駆体が、TCF7、SELL、及びIL-7Rからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーによって特徴付けられる、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記CD8+T細胞前駆体が、TOX、CXCR6、TNFα、LAG3、GZMB(グランザイムB)、TIGIT、KLF2、IL-7R、TCF7、Foxo1、及びSELL、より好ましくは、CXCR6及びTOXからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの経時的な発現の変化を示す、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
(i)前記少なくとも1つのバイオマーカーが、KLF2、IL-7R、TCF7、Foxo1、及びSELLからなる群から選択される場合、前記変化が経時的な発現の減少であり;並びに(ii)前記少なくとも1つのバイオマーカーが、TOX、CXCR6、TNFα、LAG3、GZMB(グランザイムB)、及びTIGIT、より好ましくは、CXCR6及びTOXからなる群から選択される場合、前記変化が経時的な発現の増加である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
対象について免疫療法を推奨する方法であって、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法を実行することによって前記対象について免疫療法に対する処置応答を評価するステップ、並びに対象が無処置応答を有しない、有害な処置応答を有しない、治療的に有効な処置応答を有する、及び/又は肝臓の有害な副作用を有しないと評価される場合に、前記対象について免疫療法を推奨するステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの療法のための診断及び患者の層別化の分野に関する。特に、本発明は、それを必要とする対象において免疫療法に関連する処置応答を評価する方法であって、免疫療法を必要とする対象の試料中又は免疫療法を必要とする対象のイメージングデータを含むデータセット中の活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞、又はその肝CD8+T細胞前駆体を決定するステップ、並びに前記活性化又は疲弊の形質を示す肝CD8+PD-1+T細胞又はその肝CD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量に基づいて、免疫療法に関連する処置応答を評価するステップを含む方法に関する。更に、対象について免疫療法を推奨する方法、又は免疫療法によって対象を処置する方法も企図される。本発明はまた、本発明の方法を実行するための診断デバイスも提供する。
【背景技術】
【0002】
治癒の可能性がある肝細胞癌(HCC)の処置選択肢、例えば肝臓移植、腫瘍の切除、又はアブレーションは、初期段階の腫瘍に限定されている(Llovet 2021; Galle 2018)。T細胞を活性化するか又はがんに対する免疫監視を再活性化すると考えられているマルチキナーゼ阻害剤又は抗VEGF-R2抗体は、進行HCCの免疫療法に関して承認されており、21~26%の奏功率を示した(Duffy 2016、Sangro 2013)。
【0003】
ニボルマブ及びペンブロリズマブ(PD1に対する抗体)は、HCC処置に関して承認されたが(Zhu 2018, El-Khoueiry 2017)、第III相臨床試験は、生存を延長させるためのエンドポイントに達しなかった。アテゾリズマブ(抗PD-L1)/ベバシズマブ(抗VEGF)の併用は、第III相臨床試験において全生存期間/無病生存期間の延長を実証し、進行HCCに関する第1選択処置となった(Finn 2020)。
【0004】
免疫療法の有効性に影響を及ぼす1つの問題は、異なる基礎となるHCCの病因の影響であり得、別個の肝臓環境がHCC誘導を駆動し、別個の機構により免疫応答が局所的に制御され得る(Roderburg 2020)。
【0005】
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、パンデミック規模のHCCの病因であり、世界全体で2億人を超える人が罹患し(Anstee 2019)、更に大きく増加する傾向がある。NAFLDを有する個体のおよそ10~20%が、経時的に脂肪症からNASHへと進行する。代謝物の増加及び小胞体ストレスと組み合わせた自然免疫及び適応免疫細胞活性化(Wolf 2014、Ma 2016、Malehmir 2019、Nakagawa 2014)は、HCCを潜在的にもたらす肝臓の壊死-炎症及び再生のサイクルをもたらすと考えられている(Ringelhan 2018、Michelotti 2013、Friedman 2018)。NASHは、新たに出現したHCC危険因子となった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、病因不明のHCCに罹患している患者を、免疫療法による利益に関して層別化することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の基礎となる技術的問題は、上記の必要性に応じる手段及び方法を提供することであると考えられ得る。技術的問題は、特許請求の範囲及び本明細書の以下で特徴付けられる実施形態によって解決される。
【0008】
このように本発明は、それを必要とする対象における免疫療法に関連する処置応答を評価する方法であって、
(a)免疫療法を必要とする対象の試料中の(i)活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞、又は(ii)その肝CD8+T細胞前駆体を決定するステップ;並びに
(b)(i)活性化及び疲弊の形質を示す前記肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)その前記肝CD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量に基づいて、免疫療法に関連する処置応答を評価するステップ
を含む方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、「1つ」又は「1つ(an)」は、それが使用される文脈に応じて1つ以上を意味し得ると理解されたい。このように、例えば「1つの(an)」項目に対する言及は、少なくとも1つの項目を利用することができることを意味し得る。
【0010】
以下で使用される場合、「有する」、「含む(comprise)」、又は「含む(include)」という用語、又はその任意の文法学的変化形は、非限定的に使用される。このように、これらの用語は、これらの用語によって導入された特徴以外の更なる特徴が、この文脈に記載される実体に存在しない状況、及び1つ以上の更なる特徴が存在する状況の両方を指し得る。一例として、「AはBを有する」、「AはBを含む」、及び「AはBを含む(includes)」という表現は、B以外の他の要素がAに存在しない状況(すなわち、Aが単独で排他的にBからなる状況)、及びB以外の1つ以上の更なる要素、例えば要素C、要素C及びD、又はなお更なる要素が実体Aに存在する状況の両方を指し得る。「含む」という用語はまた、言及された項目のみが存在する実施形態も包含し、すなわち「からなる」、又は「から本質的になる」という意味での限定的な意味を有する。
【0011】
更に、以下で使用される場合、「好ましくは」、「より好ましくは」、「最も好ましくは」、「詳しくは」、「より詳しくは」、「典型的に」、及び「より典型的に」という用語又は類似の用語は単に、好ましい主題を指定し、全般的な主題を限定することを意味しない。このように、これらの用語によって導入された特徴は、特許請求の範囲を如何なるようにも制限しないと意図される。本発明は、当業者が認識するように、導入された特徴を使用しないことによって、又は代替の特徴を使用することによって実施され得る。
【0012】
更に、「少なくとも1つ」という用語は、本明細書で使用される場合、用語の後に言及される1つ以上の項目が本発明に従って使用され得ることを意味すると理解される。例えば、用語が、少なくとも1つのバイオマーカーが使用されることを示している場合、これは、1つのバイオマーカー又は1つより多くのバイオマーカー、すなわち、2つ、3つ、4つ、5つ、又は他の任意の数のバイオマーカーとして理解され得る。項目に応じて、用語は、もしあるとすれば用語の上限が指し得る内容に関する当業者の理解を指す。
【0013】
本発明の方法は、上記のステップからなり得るか、又は追加のステップ、例えばステップ(b)で得られた評価(assessment)を更に評価(evaluate)するステップ、治療手段、例えば処置を推奨するステップ、又はその他を含み得る。その上、本発明の方法は、ステップ(a)の前にステップ、例えば試料の前処置に関連するステップを含み得る。しかしながら、好ましくは、上記の方法は、ヒト又は動物の体で何らかのステップを実践する必要がないex vivoの方法であると想像される。その上、方法は、自動化によって補助される。典型的に、細胞の決定を、ロボット機器によって支援してもよく、評価を、データ処理機器、例えばコンピュータによって支援してもよい。更なる詳細は、本明細書の他所で見出される。
【0014】
本発明に従って言及される疾患及び方法は、当技術分野で周知であり、それに関連する臨床徴候及び症状は、標準的な医学のテキスト、例えばStedman's Medical Dictionary又はその他に記載されている。「肝臓がん」は、本明細書で言及される場合、典型的に肝細胞癌又は胆管癌に関する。「非肝臓がん」という用語は、肝臓が罹患しないがん実体に関する。好ましくは、本発明に従う非がん実体は、黒色腫、前立腺がん、結腸がん、又は乳がんである。非アルコール性脂肪肝疾患は、過剰なアルコールによって引き起こされるのではない肝臓における過剰な脂肪によって特徴付けられる周知の医学的状態である。典型的に、肝重量の5%より多くの過剰な脂肪は、脂肪肝を示している。非アルコール性脂肪肝疾患は、肝臓の腫脹及び炎症を含む非アルコール性脂肪性肝炎を発症し得る。前記非アルコール性脂肪性肝炎(steatohepatis)は、肝線維化、肝硬変を引き起こすことがあり、最終段階では肝臓がんを引き起こし得る。「全身性肥満」又は「メタボリックシンドローム」という用語は、本明細書で使用される場合、以下の状態:中心性肥満、高血圧、高血糖、高い血清中トリグリセリド、及び低い血清中高密度リポタンパク質(HDL)のうちの3つ以上のクラスターを含む障害を指す。
【0015】
「免疫療法」という用語は、本発明に従って言及される場合、単剤免疫療法、すなわち、1つの免疫療法剤の投与を伴う免疫療法、並びに併用免疫療法、すなわち1つより多くの免疫療法剤の投与を伴う免疫療法を包含する。好ましくは、本発明に従う免疫療法は、PD-1及び/又はPD-L1標的化免疫療法を伴う。PD-1に対する抗体療法は、薬物、例えばニボルマブ又はペンブロリズマブを投与することを包含し得る。抗PD-L1(例えば、アテゾリズマブ)及び抗VEGF(例えば、ベバシズマブ)を使用する併用療法もまた、本発明に従う免疫療法として想像される。その上、免疫療法はまた、更なる抗がん剤又は治療を補助する薬物の投与も包含し得る。
【0016】
「処置応答」という用語は、本明細書で使用される場合、免疫療法によって処置される対象に起こる任意の生物応答を指す。前記応答は、免疫療法によって処置される疾患若しくは障害の改善若しくは治癒、又はそれに伴う症状の改善若しくは治癒を伴う治療的に有効な応答であり得る。好ましくは、前記治療的に有効な処置応答は、対象が免疫療法から利益を得る例を指す。より好ましくは、本発明に従う治療的に有効な処置は、肝臓がん、好ましくは肝細胞癌(HCC)又は胆管癌(CCA)の改善又は治癒を含む。治療的に有効な応答は、典型的に免疫療法が肝臓がん、好ましくはHCC又はCCAの処置又は予防のために使用される場合に、本発明に従って観察される。その上、これはまた、免疫療法に対する任意の有害な応答、例えば肝臓がん、好ましくはHCC若しくはCCAの進行若しくは存続、又は任意の起源の肝臓内転移を含む応答も含み得る。典型的に、免疫療法が肝臓がんの処置又は予防のために使用される場合に本発明に従って観察される有害な処置応答は、肝臓がん、好ましくはHCC若しくはCCAの進行若しくは存続、又は任意の起源の肝臓内転移、又は肝損傷を含む。その上、本発明に従って言及される処置応答は、非応答、すなわち、対象の状況において臨床的に適切な生理学的変化が観察可能でない例を含む。しかし、免疫療法の投与時の治療応答はまた、肝臓の有害な副作用の発生も伴い得る。好ましくは、前記肝臓の有害な副作用は、対象が肝臓がんの処置のための免疫療法を必要としていないが、他のがん実体に罹患している例で起こる。より好ましくは、対象は、全身免疫療法に感受性がある非肝臓がん、好ましくは黒色腫、前立腺がん、結腸がん、又は乳がんに罹患している。より好ましくは、肝臓の有害な副作用の発生を伴うそのような例の対象は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)又は全身性の肥満(メタボリックシンドローム)に罹患しているか又は罹患していることが疑われる。前記肝臓の有害な副作用は、好ましくは肝損傷、肝機能障害、又は肝臓がん、好ましくはHCC若しくはCCAの発生を含む。
【0017】
「評価する」という用語は、本明細書で使用される場合、免疫療法に対する対象の処置応答(すなわち、有害な応答、非応答、治療的に有効な応答、又は肝臓の有害な副作用)を決定することを指す。これは、診断的アプローチにおいて対象の現在の生理的状態における前記処置応答を決定することを含む。その上、用語はまた、予後的アプローチにおいて、対象が、将来、すなわちある特定の予測ウィンドウ内で本発明に従う処置応答を生じるか否かを決定することも包含する。このように、評価はまた、免疫療法に対して感受性があるか否かに関して対象を層別化することも可能にする。その上、評価することはまた、例えば免疫療法が治療的又は予防的手段としてある特定の期間にわたって投与される例において、対象を処置応答に関して経時的にモニターするアプローチも含み得る。当業者に理解されるように、そのような評価は、好ましいものの、通常、試験される対象の100%に関して補正されない。しかしながら、この用語は、対象の統計学的に有意な部分を正確に評価することができることを必要とする。ある部分が統計学的に有意であるか否かは、様々な周知の統計学的評価ツール、例えば信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントt検定、マンホイトニー検定等を使用して当業者が更なる困難なく決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden、Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に記載されている。典型的に想像される信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。p値は、典型的に0.2、0.1、0.05である。
【0018】
「試料」という用語は、本明細書で使用される場合、活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞又はその肝CD8+T細胞前駆体を含む又は含むことが疑われる任意の生物試料材料を指す。好ましくは、試料は、肝臓から得ることが可能な組織、細胞、又は流体試料であり、より好ましくは、試料は肝生検試料であり、最も好ましくは肝組織を含む。
【0019】
「対象」という用語は、本明細書で使用される場合、哺乳動物、好ましくはヒト、ペット、農場動物、又は実験動物、例えば齧歯類、好ましくはマウス若しくはラットを指す。より好ましくは、前記対象はヒトである。対象は、免疫療法を必要とする。これは、免疫療法による処置に対して感受性がある明白な疾患又は障害、例えばウイルス関連又は非ウイルス関連肝臓がん、黒色腫、前立腺がん、結腸がん、子宮頸がん、又は乳がんにより、免疫療法を必要とする対象を包含する。その上、免疫療法を必要とする対象はまた、免疫療法を施すことに対して感受性があることが疑われるか又は免疫療法を施すことにより利益を得る対象であり得る。好ましくは、これは、疾患若しくは障害の再発の予防のために疾患若しくは障害の治療の成功後に免疫療法を受け得る対象、又は予防的手段として免疫療法を受ける対象を含む。
【0020】
「活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞表面バイオマーカーCD8及びPD-1によって特徴付けられるT細胞、すなわちCD8及びPD-1に関して陽性であるT細胞集団を指す。その上、前記CD8+PD-1+T細胞は、前記形質を示すバイオマーカーの発現によって特徴付けられるように、活性化及び疲弊の形質を示す。更に、このタイプのCD+PD-1+T細胞は、肝自己攻撃性、すなわち例えば免疫療法で使用される抗PD-1抗体又はPD-L1によって刺激されると、肝組織に対して自己攻撃性であることが見出されている。この肝自己攻撃性挙動の結果として、前記タイプのT細胞は、全身免疫療法を受ける対象の肝臓に重度の損傷を引き起こす。前記引き起こされた重度の損傷は、本明細書の他所で記載される有害な処置応答及び肝臓の有害な副作用を含む。前記処置応答は肝臓に影響を及ぼすことから、CD8+PD-1+T細胞は、肝臓に存在するはずであり、このように肝CD8+PD-1+T細胞として決定されなければならない。その上、肝臓に加えて、前記T細胞はまた、末梢血にも存在することがあり、血流を介して肝臓に入ることが可能である。自己攻撃性T細胞はまた、肝組織以外の組織に対しても自己攻撃性であり得ると理解される。このように、本発明に従う肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞は、好ましくは肝臓に常在する、及び/又は末梢血に存在する。その上、自己攻撃性T細胞は、活性化及び疲弊の形質を示さなければならない。これらの形質は、例えば対照CD8+T細胞と比較してTOX、CXCR6、TNFα、LAG3、GZMB(グランザイムB)、及びTIGIT、より好ましくは、CXCR6及びTOXからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現の増加、又は対照CD8+T細胞と比較してKLF2、IL-7R、TCF7、Foxo1、及びSELLからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現の低減を伴う。このように好ましくは、前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞は、対照CD8+T細胞と比較してTOX、CXCR6、TNFα、LAG3、GZMB(グランザイムB)、及びTIGIT、より好ましくはCXCR6及びTOXからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現の増加を示す。同様に好ましくは、活性化及び疲弊の形質を示す前記肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞は、対照CD8+T細胞と比較してKLF2、IL-7R、TCF7、Foxo1、及びSELLからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現の低減を示す。より好ましくは、活性化及び疲弊の形質を示す前記肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞は、対照CD8+T細胞と比較してTOX、CXCR6、TNFα、LAG3、GZMB(グランザイムB)、及びTIGITからなる群から選択される全てのバイオマーカーの発現の増加を示し、同様に好ましくは、対照CD8+T細胞と比較してKLF2、IL-7R、TCF7、Foxo1、及びSELLからなる群から選択される全てのバイオマーカーの発現の低減を示す。
【0021】
「CD8+T細胞前駆体」という用語は、本明細書で使用される場合、更に、好ましくは不可逆的に、活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞へと分化するCD8+T細胞を指す。典型的に、そのような細胞は、そのような細胞になることが既に不可逆的にプログラムされている。好ましくは、前記前駆体は、肝臓に常在し、すなわち肝T細胞であるか、又は末梢血に存在し、すなわち末梢血由来T細胞である。前記CD8+T細胞前駆体は、典型的なバイオマーカー、例えばTCF7、SELL、及び/又はIL-7Rを既に発現している。しかしながら、それらを、更なるバイオマーカー、例えばTOX、CXCR6、TNFα、LAG3、GZMB(グランザイムB)、TIGIT、KLF2、IL-7R、TCF7、Foxo1、及びSELLの発現プロファイルの経時的な変化によって更に特徴付けることができる。経時的な発現の変化は、典型的に1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、12カ月、又は24カ月の時間ウィンドウ内で観察することができる。このように、好ましくは、前記CD8+T細胞前駆体は、TCF7、SELL、及びIL-7Rからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカー又は全てのバイオマーカーによって特徴付けられる。好ましくは、前記CD8+T細胞前駆体は、TOX、CXCR6、TNFα、LAG3、GZMB(グランザイムB)、TIGIT、KLF2、IL-7R、TCF7、Foxo1、及びSELLからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカー又は全てのバイオマーカーの経時的な発現の変化を示す。より好ましくは、(i)前記少なくとも1つのバイオマーカーが、KLF2、IL-7R、TCF7、Foxo1、及びSELLからなる群から選択される場合、前記変化は経時的な発現の減少であり;並びに(ii)前記少なくとも1つのバイオマーカーが、TOX、CXCR6、TNFα、LAG3、GZMB(グランザイムB)、及びTIGITからなる群から選択される場合、前記変化は経時的な発現の増加である。
【0022】
活性化及び疲弊の形質を示す前記肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞、又はそのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量は、バイオマーカータンパク質の抗体又はアプタマーに基づく任意の種類の検出を含む分子生物学の標準的な技術により、生検によって又は末梢血試料から得られた試料中、例えば臓器、組織、又は細胞試料中で決定され得る。或いは、バイオマーカータンパク質をコードする転写物は、好適な核酸検出技術によって決定することができる。当業者は、バイオマーカータンパク質又はそれらをコードする転写物を定性的及び定量的に決定することができる方法を周知している。特定の好ましい技術は、免疫組織化学及び組織化学分析、in situハイブリダイゼーション技術、イムノアッセイ、例えばELISA又はRIA、細胞選別、例えばFACS解析、ハイスループットRNAシーケンシング、単一細胞RNAシーケンシング解析、RNA速度解析、質量分析、マスサイトメトリー、MRI、及びその他を含む。その上、特定の好ましい技術を、以下の添付の実施例に詳細に記載する。
【0023】
より典型的に、本発明に従って言及されるバイオマーカーの存在、非存在、又は存在量を決定することは、試料を、バイオマーカー又はそれをコードする転写物に特異的に結合する検出剤と接触させることを含む。タンパク質又はペプチドバイオマーカーが検出剤によって検出される場合、典型的に抗体、アプタマー、ペプチド、又はタンパク質を、本発明に従う検出剤として使用してもよい。バイオマーカータンパク質をコードする転写物を検出する場合、典型的にRNA又はDNAのいずれかである核酸プローブを、本発明に従う検出剤として検出のために使用してもよいと理解される。好ましい検出剤はまた、本明細書の他所でより詳細に記載される。より典型的には、前記検出剤は、固有の検出可能な標識が結合することにより同定することができるか、又はそのような標識である分子若しくはそのような標識を含む分子によって結合され得る。本発明に従う検出可能な標識は、結合するとバイオマーカーに関連する検出可能なシグナルを生成することが可能な任意の化合物又は要素であり得る。典型的に、検出可能な標識は、蛍光分子又は部分、放射活性元素、酵素、化学発光分子又は部分、電気化学的に検出可能な分子又は部分、免疫学的タグ、質量タグ、及びその他であり得る。標識はまた、バイオマーカーに結合すると検出剤に特異的に結合する第2の検出分子、例えば標識を含む第2の抗体又はアプタマーを含んでもよいと理解される。好ましい標識は、本明細書の他所でより詳細に記載される。
【0024】
本明細書で言及される検出剤としての抗体は、バイオマーカータンパク質に特異的に結合する全てのタイプの抗体を包含する。好ましくは、本発明の抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、キメラ抗体、又はバイオマーカータンパク質に特異的に結合することがなおも可能であるそのような抗体の任意の断片若しくは誘導体である。本明細書で使用される抗体という用語に含まれるそのような断片及び誘導体は、二重特異性抗体、合成抗体、Fab、F(ab)2 Fv、若しくはscFv断片、又はこれらの抗体のいずれかの化学修飾誘導体を包含する。特異的結合は、本発明の抗体の文脈で使用される場合、抗体が、試験される試料中に存在する他の分子と交差反応しないことを意味する。特異的結合は、様々な周知の技術によって試験することができる。抗体又はその断片は、一般的に例えば、Harlow and Lane "Antibodies, A Laboratory Manual", CSH Press, Cold Spring Harbor, 1988に記載される方法を使用して得ることができる。モノクローナル抗体は、マウス骨髄腫細胞と、免疫した哺乳動物、好ましくは免疫したマウスに由来する脾細胞との融合を含む技術によって調製することができる。好ましくは、免疫原性ペプチドを哺乳動物に適用する。前記ペプチドは、好ましくはキャリアタンパク質、例えばウシ血清アルブミン、サイログロブリン、及びキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)にコンジュゲートされる。宿主種に応じて、様々なアジュバントを使用して免疫応答を増加させることができる。そのようなアジュバントは、好ましくはフロイントアジュバント、ミネラルゲル、例えば水酸化アルミニウム、及び界面活性物質、例えばリゾレシチン、プルロニック(登録商標)ポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油性エマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、及びジニトロフェノールを包含する。検体に特異的に結合するモノクローナル抗体を、その後周知のハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術、及びEBVハイブリドーマ技術を使用して調製することができる。抗体を使用する検出系は、特異的抗原、すなわちバイオマーカータンパク質に対して非常に特異的な結合親和性に基づく。結合事象は、本明細書の他所で記載されるように検出することができる物理化学変化をもたらす。
【0025】
本発明に従う検出剤としてのアプタマーは、特異的バイオマーカータンパク質に結合するオリゴ核酸又はペプチド分子を包含する。オリゴ核酸アプタマーは、繰り返し選択ラウンドを通して、又は指数的濃縮(SELEX技術)によるリガンドのいわゆる系統的進化を通して操作される。ペプチドアプタマーは、両方の末端でタンパク質足場に結合した可変のペプチドループを含む。この二重の構造的拘束は、ペプチドアプタマーの結合親和性をナノモル範囲に増加させる。前記可変ペプチドループの長さは、典型的に10~20個のアミノ酸で構成され、足場は、改善された溶解度及び緻密度(compacity)特性を有する任意のタンパク質、例えばチオレドキシン-Aであり得る。ペプチドアプタマーの選択は、例えば酵素2ハイブリッド系を含む異なる系を使用して行うことができる。検出剤としてアプタマーを使用する検出系は、アプタセンサーとしてアプタマーを模倣する特異的抗体に基づき得る。
【0026】
本発明に従う検出剤として有用な核酸分子は、バイオマーカーの転写物と特異的に相互作用することが可能なDNA又はRNA分子を指す。バイオマーカー転写物もまた核酸分子であり、特異的結合は、相補的又は逆相補的ヌクレオチド鎖の特異的相互作用を介して達成され得る。典型的に、検出剤として有用な核酸は、アンチセンスRNA、リボザイム、siRNA、又はマイクロRNAからなる群から選択される。同様に好ましくは、相補的及び逆相補的配列を有するオリゴヌクレオチドを、PCRに基づく検出技術のための標的転写物特異的プライマーとして使用してもよい。
【0027】
アンチセンスRNAは、本明細書で使用される場合、標的転写物に本質的に又は完全に相補的である核酸配列を含むRNAを指す。典型的に、アンチセンス核酸分子は、標的転写物の少なくとも100連続ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも200連続ヌクレオチド、少なくとも300連続ヌクレオチド、少なくとも400連続ヌクレオチド、又は少なくとも500連続ヌクレオチドと相補的である核酸配列から本質的になる。アンチセンス核酸分子を生成及び使用する方法は、当技術分野で周知である。
【0028】
リボザイムは、本明細書で使用される場合、標的RNAへの特異的結合を可能にする良好に定義された三次構造を有し、自身のホスホジエステル結合の1つの加水分解(自己切断性リボザイム)、又は標的RNAにおける結合の加水分解のいずれかを触媒する触媒性RNA分子を指すが、それらはまた、リボソームのアミノトランスフェラーゼ活性を触媒することも見出されている。そのようなリボザイムを生成及び使用する方法は、当技術分野で周知である。
【0029】
siRNAは、本明細書で使用される場合、標的RNA(目的の遺伝子をコードする)と相補的であり、RNA干渉(RNAi)によって遺伝子発現を減損させるか又は消失させる低分子干渉RNA(siRNA)を指す。RNAiは、一般的にmRNAを標的化することによって目的の遺伝子の発現をサイレンシングするために使用される。簡単に説明すると、細胞におけるRNAiのプロセスは、二本鎖RNA(dsRNA)によって開始され、これはリボヌクレアーゼによって切断され、このようにsiRNA二重鎖を産生する。siRNAは、別の細胞内酵素複合体に結合し、それによって細胞内酵素複合体は活性化されて、siRNA配列と相同(又は相補的)である如何なるmRNAも標的とする。複合体の機能は、siRNA鎖の1つと標的mRNAとの間の塩基対形成相互作用を通して相同なmRNA分子を標的とすることである。このように、siRNA分子は、特異的に結合することが可能であり、本発明に従う検出剤として使用することができる。
【0030】
マイクロRNAは、本明細書で使用される場合、ヘアピン構造を介して連結されたセンス鎖及びアンチセンス鎖を含む自己相補的一本鎖RNAを指す。マイクロRNAは、下方調節される転写物に含まれるRNA標的化配列と相補的である鎖を含む。マイクロRNAは、より小さい一本鎖RNAへとプロセシングされ、したがっておそらくRNAi機構を介して同様に作用する。目的の転写物に特異的に結合してこれを分解するマイクロRNAを設計及び合成する方法は、当技術分野で公知であり、例えば欧州特許第1 504 126 A2号に詳細に記載されている。特異的核酸結合能により、それらを、本発明に従う検出剤として使用することができる。
【0031】
検出分子として核酸を使用する検出系は、相補的塩基対形成相互作用に基づき得る。認識プロセスは、相補的核酸塩基対形成の原理に基づく。標的核酸配列が公知である場合、相補的配列を合成して、検出のために標識することができる。ハイブリダイゼーション事象を、例えば検出することができる。その上、PCRに基づく技術を使用して、たとえ少量の転写物でも決定及び定量することができる。そのようなPCRに基づく技術を実行する方法は、当業者に周知である。
【0032】
本発明に従って検出剤として使用されるタンパク質は、決定されるバイオマーカータンパク質と特異的に相互作用するタンパク質であり得る。したがって、前記バイオマーカータンパク質の性質に応じて、タンパク質は、典型的に酵素、受容体、リガンド、シグナル伝達タンパク質、転写因子、又は構造タンパク質であり得る。その上、そのようなタンパク質の一部、例えばリガンド結合ドメイン又は基質結合ポケットを、本発明に従うペプチド検出分子として使用してもよい。本発明に従うタンパク質は、通常、ペプチド結合によって共有結合された少なくとも100個のアミノ酸を含む。それらは、修飾、例えばグリコシル化、リン酸化、メチル化、ユビキチン化、又はミリストイル化を更に含み得る。
【0033】
例えば、酵素の特異的結合能及び触媒活性により、酵素は、検出剤として特に好適となる。バイオマーカー基質認識は、いくつかの可能な機構:バイオマーカータンパク質基質を検出可能な産物に変換する酵素、バイオマーカータンパク質による酵素の阻害若しくは活性化の検出、又はバイオマーカータンパク質との相互作用に起因する酵素特性の改変のモニタリングを通して可能となる。或いは、受容体分子は、それらのリガンドに対して特異的結合特性を示し得、抗体と類似の検出剤として使用することができる。
【0034】
本発明に従う検出剤として好適なペプチドは、検出されるバイオマーカータンパク質に特異的に結合することがなおも可能であるタンパク質の機能的断片であり得る。このように、検出分子として有用なペプチドは、リガンド結合ドメイン又は基質結合ポケットであり得る。その上、ペプチドを、人為的に生成し、人工ペプチドライブラリをスクリーニングすることによってバイオマーカータンパク質に対する特異的結合に関して選択してもよい。ペプチドは典型的に、共有ペプチド結合によって連結された100アミノ酸未満を含む。ペプチドもまた、改変されてもよい。例えば、好ましい生物物理学特性を有する小さいタンパク質足場が操作され、人工的な結合ペプチドが生成されている。これらのペプチド分子は、異なるバイオマーカータンパク質に特異的に結合することが可能である。典型的に、これらの人工結合タンパク質は、抗体よりかなり小さく(通常、100アミノ酸残基未満)、強い安定性を有し、ジスルフィド結合を欠如し、抗体及びその誘導体とは対照的に細菌細胞質のような還元性の細胞環境において高い収量で発現され得る。
【0035】
本発明に従って使用され得る典型的な標識は、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性標識、放射活性標識、磁気標識、例えば常磁性及び超常磁性標識を含む磁気ビーズ、及び蛍光標識を含む。酵素活性標識は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、及びその誘導体を含む。検出のための好適な基質は、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3'-5,5'-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリド、及び5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスフェートを含む。好適な酵素-基質の組合せは、着色反応産物、蛍光、又は化学発光をもたらし得、これらを、当技術分野で公知の方法(例えば、光感受性フィルム又は好適なカメラ系を使用して)に従って測定することができる。酵素反応の測定に関して、上記で与えられた基準を類推して適用する。典型的な蛍光標識は、蛍光タンパク質(例えば、GFP及びその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、及びアレクサ色素を含む。同様に蛍光色素としての量子ドットの使用も企図される。典型的な放射活性標識は、35S、125I、32P、33P、及びその他を含む。放射活性標識は、任意の公知の及び適切な方法によって、例えば光感受性フィルム又はホスホイメージャーによって検出することができる。好適な標識はまた、タグ、例えばビオチン、ジゴキシゲニン、His-、GST-、FLAG-、GFP-、MYC-タグ、インフルエンザA型ウイルスヘマグルチニン(HA)、マルトース結合タンパク質、及びその他であってもよく、又はそれらを含んでもよい。
【0036】
「バイオマーカー」という用語は、本発明に従って使用される場合、活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞又はそのCD8+T細胞前駆体によって発現される分子に関する。したがって、バイオマーカータンパク質及び/又はその転写物は、本発明に従うバイオマーカーとして作用し得る。本発明に従うバイオマーカーとして使用される転写物は、典型的にmRNA又はその前駆体であり得る。本発明に従うバイオマーカーは、好ましくは細胞の特定の生理学的又は病理学的状況を示す分子である。しかし、これは、必ずしも前記状況の原因でなくてもよく、前記状況に対して何らかの因果関係にあってもよい。
【0037】
「CD8」という用語は、本明細書で使用される場合、T細胞受容体(TCR)の共受容体として機能する、膜に接続された免疫グロブリン可変(IgV)様細胞外ドメインを有する免疫グロブリンスーパーファミリーメンバーである膜貫通糖タンパク質である「分化抗原群(cluster of differentiation)8」を指す。TCRと共に、CD8共受容体は、T細胞シグナル伝達及び細胞傷害性T細胞抗原相互作用において役割を果たす。タンパク質の2つのアイソフォーム、すなわちCD8アルファ及びCD8ベータが公知である。CD8は、CD8鎖の対からなる二量体を形成する。CD8の最も一般的な形態は、CD8アルファ及びCD8ベータ鎖で構成される。好ましくは、ヒトCD8アルファは、Uniprotデータベースにアクセッション番号P01732として登録されたアミノ酸配列を有し、ヒトCD8ベータは、Uniprotデータベースにアクセッション番号P10966として登録されたアミノ酸配列を有する。好ましくは、マウスCD8アルファは、Uniprotデータベースにアクセッション番号P01731として登録されたアミノ酸配列を有し、マウスCD8ベータは、Uniprotデータベースにアクセッション番号P10300として登録されたアミノ酸配列を有する。用語はまた、上述のCD8タンパク質のバリアントも包含する。
【0038】
本明細書で参照されるバイオマーカータンパク質のバリアントは、上述のバイオマーカータンパク質と少なくとも同じ本質的な生物学的及び免疫学的特性を有する。特に、それらが本明細書で参照される同じ特異的アッセイ、例えばバイオマーカータンパク質を特異的に認識するポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を使用するELISAアッセイによって検出可能である場合、それらは、同じ本質的な生物学的及び免疫学的特性を共有する。その上、本発明に従って参照されるバリアントは、少なくとも1つのアミノ酸置換、欠失、及び/又は付加により異なるアミノ酸配列を有するが、バリアントのアミノ酸配列はなおも、好ましくはその全長にわたって特異的バイオマーカータンパク質のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、又は99%同一であると理解される。2つのアミノ酸配列間の同一性の程度は、当技術分野で周知のアルゴリズムによって決定され得る。好ましくは、同一性の程度は、比較ウィンドウにわたって2つの最適に整列させた配列を比較することによって決定され、比較ウィンドウにおけるアミノ酸配列の断片は、最適なアライメントのために参照配列(付加又は欠失を含まない)と比較して付加又は欠失(例えば、ギャップ又はオーバーハング)を含み得る。パーセンテージは、両方の配列に存在する同一のアミノ酸残基の位置の数を決定して、一致した位置の数を生じるステップ、一致した位置の数を比較ウィンドウにおける位置の総数で除算するステップ、及び結果に100を乗算して配列同一性のパーセンテージを生じるステップによって計算される。比較のための配列の最適なアライメントは、当技術分野で周知の比較アルゴリズムによって実行され得る。好ましくは、GAP、BESTFIT、BLAST、FAST、PASTA、及びTFASTA(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group(GCG)、575 Science Dr.、Madison、WI)に実装されるアルゴリズムが使用され得る。好ましくは、ギャップ重みに関して5.00及びギャップ重み長さに関して0.30のデフォルト値を使用する。上記で言及されたバリアントは、対立遺伝子バリアント又は任意の他の種特異的ホモログ、パラログ、又はオルトログであり得る。
【0039】
「PD-1」という用語は、本明細書で使用される場合、「プログラムされた細胞死タンパク質1」を指し、同様にCD279(「分化抗原群279」)としても公知である。PD-1は、免疫系の下方調節による免疫応答の調節において、及びT細胞炎症活性を抑制することによる自己寛容の促進において役割を果たす免疫グロブリンスーパーファミリーの表面受容体タンパク質である。このように、これは自己免疫疾患を予防するが、免疫系ががん細胞を殺滅するのも防止し得る。PD-1は、2つの機序を通して作用する。第1に、これは抗原特異的T細胞のアポトーシスを促進し、第2に、これは制御性T細胞のアポトーシスを低減させる。ヒトにおいてPD-1タンパク質は、PDCD1遺伝子によってコードされる。PD-1は、典型的にT細胞及びpro-B細胞において発現され、2つのリガンド、すなわちPD-L1及びPD-L2に結合する。好ましくは、ヒトPD-1は、Uniprotデータベースにアクセッション番号Q15116として登録されたアミノ酸配列を有し、マウスPD-1は、Uniprotデータベースにアクセッション番号Q02242として登録されたアミノ酸配列を有する。用語はまた、前述のPD-1タンパク質のバリアントも包含する。
【0040】
「TOX」という用語は、本明細書で使用される場合、「胸腺細胞選択関連高移動度グループボックスタンパク質」を指す。TOXは、およそ75アミノ酸のDNA結合モチーフ、HMG(高移動度グループ)-ボックスを共有する大きいクロマチン関連タンパク質スーパーファミリーのタンパク質である。TOXが単一のHMG-ボックスモチーフを有する場合、これはDNAに配列非依存的に結合すると予想される。TOXはまた、ほぼ同一のHMG-ボックス配列を共有し、腫瘍形成に関係することが示唆されている小さいタンパク質サブファミリー(TOX2、TOX3、及びTOX4)のメンバーでもある。TOXは、T細胞の発達部位である胸腺において高度に発現されている。TOXは、T細胞が存続するために必要であるが、T細胞の「疲弊」もまた駆動し、このように、これらの細胞における抗腫瘍又は抗ウイルス機能の減損に寄与している。
【0041】
「CXCR6」という用語は、本明細書で使用される場合、7回膜貫通受容体様タンパク質である「C-X-Cケモカイン受容体6型」を指す。これは、リンパ球の表面上に存在し、炎症プロセス及びウイルス感染プロセスに関係するケモカイン受容体である。そのリガンドはサイトカインCXCL16である。好ましくは、ヒトCXCR6は、Uniprotデータベースにアクセッション番号O00574として登録されたアミノ酸配列を有し、マウスCXCR6は、Uniprotデータベースにアクセッション番号Q9EQ16として登録されたアミノ酸配列を有する。用語はまた、上述のCXCR6タンパク質のバリアントも包含する。
【0042】
「TNFα」という用語は、本明細書で使用される場合、炎症プロセスの際に放出されるサイトカインである「腫瘍壊死因子アルファ」を指す。TNFは、TNFスーパーファミリーのメンバーであり、これは相同なTNFドメインを有する様々な膜貫通タンパク質からなる。TNFシグナル伝達は、2つの受容体、TNFR1及びTNFR2を通して起こる。TNFR1は、ほぼ遍在性に発現されるが、TNRF2は、主に内皮、上皮、及び免疫細胞のサブセットに限定される。TNFR1シグナル伝達は、炎症促進性及びアポトーシス性である傾向があるが、TNFR2シグナル伝達は、抗炎症性であり、細胞増殖を促進する。TNFR1シグナル伝達の抑制は、自己免疫疾患の処置にとって重要であるが、TNFR2シグナル伝達は創傷治癒を促進する。TNF-αは、膜貫通型(mTNF-α)及び可溶性型(sTNF-α)として存在し、その両方が本発明に従って包含される。sTNF-αは、mTNF-αの酵素による切断に起因する。好ましくは、ヒトTNFαは、Uniprotデータベースにアクセッション番号P01375として登録されたアミノ酸配列を有し、マウスTNFαは、Uniprotデータベースにアクセッション番号P06804として登録されたアミノ酸配列を有する。用語はまた、前述のTNFαタンパク質のバリアントも包含する。
【0043】
「LAG3」という用語は、本明細書で使用される場合、T細胞機能に多様な生物学的効果を及ぼす細胞表面受容体である「リンパ球活性化遺伝子3」を指す。LAG3タンパク質は、免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーに属し、D1~D4と指定される4つの細胞外Ig様ドメインを有する503アミノ酸のI型膜貫通タンパク質を含む。好ましくは、ヒトLAG3は、Uniprotデータベースにアクセッション番号P18627として登録されたアミノ酸配列を有し、マウスLAG3は、Uniprotデータベースにアクセッション番号Q61790として登録されたアミノ酸配列を有する。用語はまた、上述のLAG3タンパク質のバリアントも包含する。
【0044】
「GZMB」又は「グランザイムB」という用語は、本明細書で使用される場合、典型的にナチュラルキラー細胞(NK細胞)及び細胞傷害性T細胞の顆粒に見出されるセリンプロテアーゼ(E.C. 3.4.21.79)を指す。これは、孔形成タンパク質パーフォリンと共にこれらの細胞によって分泌され、標的細胞においてアポトーシスを媒介する。これはまた、サイトカイン放出を刺激することによって炎症を誘導する機能を含む様々な二次機能も有し、細胞外マトリックスのリモデリングにも関係している。グランザイムBレベルの上昇はまた、複数の自己免疫疾患、いくつかの皮膚疾患、及びI型糖尿病にも関係している。好ましくは、ヒトGZMBは、Uniprotデータベースにアクセッション番号P10144として登録されたアミノ酸配列を有し、マウスGZMBは、Uniprotデータベースにアクセッション番号P04187として登録されたアミノ酸配列を有する。用語はまた、上述のGZMBタンパク質のバリアントも包含する。
【0045】
「TIGIT」という用語は、本明細書で使用される場合、「Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体」を指し、T細胞及びナチュラルキラー細胞(NK)に存在する免疫受容体である。TIGITは、樹状細胞(DC)、マクロファージ等のCD155(PVR)に高い親和性で結合することができ、CD112(PVRL2)にも低い親和性で結合することができる。TIGITは、NK細胞傷害性を阻害することができる。好ましくは、ヒトTIGITは、Uniprotデータベースにアクセッション番号Q495A1として登録されたアミノ酸配列を有し、マウスTIGITは、Uniprotデータベースにアクセッション番号P86176として登録されたアミノ酸配列を有する。用語はまた、上述のTIGITタンパク質のバリアントも包含する。
【0046】
「KLF2」という用語は、本明細書で使用される場合、ジンクフィンガー転写因子のクルッペル様因子ファミリーのメンバーである「クルッペル様因子2」を指す。これは、肺の発達、胎児赤血球生成、上皮完全性、T細胞生存率、及び脂肪生成を含むヒトの体における多様な生化学的プロセスに関係している。好ましくは、ヒトKLF2は、Uniprotデータベースにアクセッション番号Q9Y5W3として登録されたアミノ酸配列を有し、マウスKLF2は、Uniprotデータベースにアクセッション番号Q60843として登録されたアミノ酸配列を有する。用語はまた、上述のKLF2タンパク質のバリアントも包含する。
【0047】
「IL-7R」という用語は、本明細書で使用される場合、インターロイキン7に結合するサイトカイン受容体である「インターロイキン-7受容体」を指す。これは、2つの異なるより小さいタンパク質鎖、すなわちインターロイキン-7受容体α(CD127)及び共通のγ鎖受容体(CD132)で構成されるヘテロ二量体受容体である。共通のγ鎖受容体は、インターロイキン-2、-4、-9、及び-15を含む様々なサイトカインと共有される。インターロイキン-7受容体は、ナイーブ及びメモリーT細胞を含む様々な細胞タイプ並びに他の多くの細胞上に発現される。好ましくは、ヒトIL-7Rは、Uniprotデータベースにアクセッション番号P16871として登録されたアミノ酸配列を有し、マウスIL-7Rは、Uniprotデータベースにアクセッション番号P16872として登録されたアミノ酸配列を有する。用語はまた、上述のIL-7Rタンパク質のバリアントも包含する。
【0048】
「TCF7」という用語は、本明細書で使用される場合、T細胞の発達及び分化、胚の発達、又は腫瘍形成に関係している転写因子タンパク質である「転写因子7」を指す。複数のTCF7アイソフォームは、転写活性化因子としての全長のアイソフォーム(FL-TCF7)、又は転写抑制因子としてのドミナントネガティブアイソフォーム(dn-TCF7)によって特徴付けられ得る。TCF7は、複数のタンパク質又は標的遺伝子と相互作用し、いくつかのシグナル経路に関与する。好ましくは、ヒトTCF7は、Uniprotデータベースにアクセッション番号P36402として登録されたアミノ酸配列を有し、マウスTCF7は、Uniprotデータベースにアクセッション番号Q00417として登録されたアミノ酸配列を有する。用語はまた、上述のTCF7タンパク質のバリアントも包含する。
【0049】
「Foxo1」という用語は、本明細書で使用される場合、共通の構造要素として特徴的なフォークヘッドドメインを共有するフォークヘッドファミリーの転写因子である「フォークヘッドボックスタンパク質O1」を指す。これは、インスリンシグナル伝達による糖新生及び糖分解の調節に関係し、同様に前脂肪細胞が脂肪生成にコミットする決定にとって重要である。その活性は、そのリン酸化状態に依存する。好ましくは、ヒトFoxo1は、Uniprotデータベースにアクセッション番号Q12778として登録されたアミノ酸配列を有し、マウスFoxo1は、Uniprotデータベースにアクセッション番号Q9R1E0として登録されたアミノ酸配列を有する。用語はまた、上述のFoxo1タンパク質のバリアントも包含する。
【0050】
「SELL」という用語は、本明細書で使用される場合、「CD62L」としても公知の「L-セレクチン」を指す。これは、白血球及び着床前胚において見出される細胞接着分子である。これは、シアリル化炭水化物群を認識するセレクチンタンパク質ファミリーに属する。これはADAM17によって切断される。CD62Lは、リンパ球-内皮細胞相互作用において重要な役割を果たすホーミング受容体である細胞表面構成要素である。分子は、複数のドメイン、すなわちレクチンと相同なドメイン、上皮成長因子と相同なドメイン、及びC3/C4結合タンパク質において見出されるコンセンサスリピート単位と相同な2つのドメインからなる。好ましくは、ヒトSELLは、Uniprotデータベースにアクセッション番号P14151として登録されたアミノ酸配列を有し、マウスSELLは、Uniprotデータベースにアクセッション番号P18337として登録されたアミノ酸配列を有する。用語はまた、上述のSELLタンパク質のバリアントも包含する。
【0051】
より好ましくは、本発明に従う活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞は、グランザイムA、グランザイムK、Prf1、CCL3、CCL4 CCL5、Pdcd1、Mki-67low、IFNγ、Eomes、CD44、及びCD244lowからなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの発現の増加を示し得る。その上、より好ましくは、活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞は、CD127、Tbet、及びCD62Lからなる群から選択される少なくとも1つの更なるバイオマーカーの発現の減少を示し得る。前述のバイオマーカーは、当技術分野で周知である。その一次構造を定義するアミノ酸配列は、Uniprotデータベースに見出され得る。同様に、本明細書の他所で定義される特異的バイオマーカーのバリアントもまた、本発明に従って包含される。
【0052】
同様に、好ましくは、CD4+PD-1+T細胞の存在、非存在、又は存在量は、本発明の方法において更に決定され得る。なされた評価は、肝臓又は末梢血におけるCD4+PD-1+T細胞の存在、非存在、又は存在量に基づいて更に強化され得る。
【0053】
有利なことに、本発明の基礎となる試験において、NASHに罹患した肝臓又は末梢血において、疲弊した異常に活性化されたCD8+PD-1+T細胞、すなわち活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞が進行性に蓄積することが見出されている。NASH誘発性HCCの前臨床モデルにおいて、治療的PD-1処置免疫療法は、活性化及び疲弊の形質を示す前記肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞を腫瘍内で増大させたが、腫瘍の退縮をもたらさず、このことは腫瘍免疫監視の障害を示した。予防的に投与する場合、抗PD-1処置は、活性化及び疲弊の形質を示す上述の肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞の数と相関するNASH-HCC発生率/腫瘍結節の増加をもたらした。抗PD1誘発HCCの増加は、CD8+T細胞枯渇又はTNF中和によって防止され、活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞の、免疫監視の再活性化ではなくNASH-HCCの誘導における役割を示唆した。肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞の類似の表現型及び機能的プロファイルが、ヒトNASHにおいて見出された。これらの結果の臨床的重要性を特徴付ける、進行HCCを有する1600人より多くの患者においてPD-L1/PD-1阻害剤を試験する3つの無作為第III相臨床試験のメタ解析から、免疫療法が非ウイルス性HCCにおいて生存を改善しないことが明らかとなった。2つの追加のコホートでは、NASH駆動性HCCを有する患者及び抗PD-(L)1処置は、他の病因を有する患者と比較して有意に低減された全生存(OS)を示した。合わせると、前臨床及び臨床データから、非ウイルス関連HCC、特にNASH-HCCは、おそらく組織損傷及び免疫監視障害を引き起こすNASH関連性の異常なT細胞の活性化により、免疫療法に対して潜在的に低応答性であると同定された。その上、活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞は、様々な病期のNASH対象において見出されるCD+PD1+T細胞の明白な亜集団である。これらの細胞の存在、非存在、又は存在量は、免疫療法から利益が得られ得る対象を同定するためのバイオマーカーとして役立ち得る。特に、CXCR6及びTOXは、特に好適なバイオマーカーであることが判明した。
【0054】
肝臓がんは、主に慢性炎症に基づいて発症する。慢性炎症を免疫療法によって活性化して、肝臓がん患者のサブセットにおいて腫瘍の退縮を誘導することができる。しかしながら、HCCの免疫療法に対する応答者の独自性は、解明されていないままである。本発明の基礎となるデータは、肝臓の損傷及びがんの非ウイルス性病因、すなわちNASHを、免疫チェックポイント阻害剤によって処置した患者における不都合な転帰の予測因子として特定する。非ウイルス性HCC患者と比較してウイルス誘発性のHCC患者における免疫療法に対する良好な応答は、ウイルス抗原の量若しくは質、又は異なる肝臓の微小環境によるものであり、おそらく免疫監視の障害によるものではない。本発明の結果はまた、NALFD/NASHを有する肥満患者が、他の臓器部位でがん(例えば、黒色腫、結腸癌、乳がん)に罹患する、及び全身に適用された免疫療法に応答して肝損傷及び肝臓がん発症のリスクを有することを暗に示している。本発明により、一次処置又は補助処置として免疫療法を試験する試験において、基礎となる病因に従ってHCC患者を層別化する合理性が提供され得、個別化がん治療における将来の治験設計のための肝損傷及びがんの病因に従うHCC患者の層別化の合理的根拠が一般に提供された。
【0055】
用語に関してなされた全ての説明及び定義は、以下の実施形態に必要な変更を加えて当てはまる。
【0056】
本発明の方法の好ましい実施形態では、対象は、非ウイルス関連肝臓がん、好ましくは肝細胞癌に罹患しているか又は罹患していることが疑われる。そのような例では、前記処置応答は、好ましくは有害な処置応答の非存在である。前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又はそのCD8+T細胞前駆体の存在は、好ましくは免疫療法に関連する有害な処置応答の非存在を示す。そのような例における有害な処置応答は、好ましくは肝臓がん、好ましくはHCC若しくはCCAの進行若しくは存続、又は任意の起源の肝臓内転移を含む。
【0057】
本発明の方法の別の好ましい実施形態では、前記対象は、ウイルス関連肝臓がん、好ましくはHCC又はCCAに罹患しているか又は罹患していることが疑われる。好ましくは、前記処置応答は、治療的に有効な処置応答である。前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又はそのCD8+T細胞前駆体の非存在は、好ましくは免疫療法に関連する治療的に有効な処置応答を示す。前記治療的に有効な処置応答は、好ましくは肝臓がん、好ましくは、HCC又はCCAの改善又は治癒を含む。
【0058】
本発明の方法の更に好ましい実施形態では、前記対象は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)又は全身性肥満(メタボリックシンドローム)に罹患しているか又は罹患していることが疑われる。好ましくは、前記対象は、全身免疫療法に対して感受性がある非肝臓がん、好ましくは黒色腫、前立腺がん、結腸がん、子宮頸がん、又は乳がんに罹患している。その上、前記処置応答は、好ましくは前記の例における肝臓の有害な副作用である。前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又はそのCD8+T細胞前駆体の存在は、好ましくは免疫療法に関連する肝臓の有害な副作用を示している。前記肝臓の有害な副作用は、典型的に、肝損傷、肝機能障害、又は肝臓がん、好ましくはHCC又はCCAの発生を含む。
【0059】
本発明はまた、それを必要とする対象において免疫療法に関連する処置応答を評価する方法であって、
(a)免疫療法を必要とする対象のイメージングデータを含むデータセット中の(i)活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞、又は(ii)そのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量を示すデータを決定するステップ;並びに
(b)(i)前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)前記そのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量に基づいて免疫療法に関連する処置応答を評価するステップ
を含む方法も企図する。
【0060】
本発明に従う「イメージングデータを含むデータセット」という用語は、対象の肝組織のin vivo又はex vivo試験から得られているイメージングデータのコレクションを指す。方法そのものは、前記対象において免疫療法に関連する処置応答を評価するために、前記データを評価するために適用されるex vivo方法である。活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞又はそのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量を示すイメージングデータのデータセット中のデータを決定することによって、本明細書の他所で考察される免疫療法に対する処置応答について評価を行うことができる。イメージングデータは、X線撮影、磁気共鳴イメージング、シンチグラフィー、SPECT、PET、磁気粒子イメージング、機能的近赤外線分光法及びその他を含む当技術分野で周知の様々な技術によって得ることができる。活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞又はそのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量を示すデータの種類は、使用される検出技術及び検出剤に依存する。当業者は、活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞又はそのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量を示すデータを同定することができる方法を周知している。好ましくは、本明細書で言及される1つ以上のバイオマーカーの存在、非存在、又は存在量に対応するデータが決定されると想像される。前記データは、本明細書で明記されるように検出可能な標識によって誘発される検出可能なシグナルに関するデータであり得る。
【0061】
本発明はまた、対象について免疫療法を推奨する方法であって、本発明の上述の方法を実行することによって前記対象について免疫療法に対する処置応答を評価するステップ、並びに対象が無処置応答(non-treatment reponse)を有しない、有害な処置応答を有しない、治療的に有効な処置応答を有する、及び/又は肝臓の有害な副作用を有しないと評価される場合に、前記対象について免疫療法を推奨するステップを含む方法にも関する。
【0062】
その上、本発明はまた、免疫療法によって対象を処置する方法であって、本発明の上述の方法を実行することによって前記対象について免疫療法に対する処置応答を評価するステップ、並びに対象が、無処置応答を有しない、有害な処置応答を有しない、治療的に有効な処置応答を有する、及び/又は肝臓の有害な副作用を有しないと評価される場合に、前記対象に免疫療法を施すステップを含む方法にも関する。
【0063】
本発明はまた、それを必要とする対象について免疫療法に関連する処置応答を評価するためのデバイスであって、
(a)免疫療法を必要とする対象の試料中の(i)活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞、又は(ii)そのCD8+T細胞前駆体を決定することが可能な分析ユニット;並びに
(b)(i)前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)前記そのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量に基づいて、免疫療法に関連する処置応答を評価することが可能なデータプロセッサーを備えた評価ユニット
を備えたデバイスにも関する。
【0064】
「デバイス」という用語は、本明細書で使用される場合、評価が提供され得るように、本発明の方法に従ってバイオマーカーの存在、非存在、又は存在量の決定、及びその評価を可能にするために互いに作動可能に連結された上述のユニットを備えたシステムを指す。
【0065】
分析ユニットは、典型的に、試料と接触する固相支持体又は担体上に固定された形態で、第1及び第2のバイオマーカー、並びに好ましくは第3のバイオマーカーに関するバイオマーカー検出剤を有する少なくとも1つの反応域を含む。その上、反応域では、試料中に含まれるバイオマーカーに対する検出剤(複数可)の特異的結合を可能にする条件を適用することが可能である。反応域は、試料の適用を直接可能にしてもよく、又は反応域を、試料が適用されるローディング域に接続してもよい。後者の場合、試料はローディング域と反応域との間の接続を介して反応域へと能動的又は受動的に輸送することができる。その上、反応域はまた、検出器にも接続される。接続は、検出器が、バイオマーカーとその検出剤との結合を検出することができるような接続である。好適な接続は、バイオマーカーの存在又は量を測定するために使用される技術に依存する。例えば、光学的検出の場合、検出器と反応域との間で光の透過が必要であり得るが、電気化学的決定の場合では、例えば反応域と電極との間で流体接続が必要であり得る。検出器は、バイオマーカーの量を検出及び決定するように適合される。決定された量をその後、評価ユニットに転送することができる。
【0066】
前記評価ユニットは、試料中に存在する量を決定するためのアルゴリズムが実装されたデータ処理要素、例えばコンピュータを含む。本発明の方法に従って参照される処理ユニットは、典型的に中央処理装置(CPU)、及び/又は1つ以上のグラフィック処理装置(GPU)、及び/又は1つ以上の特定用途向け集積回路(ASIC)、及び/又は1つ以上のテンソル処理ユニット(TPU)、及び/又は1つ以上のフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、又はその他を含む。データ処理要素は、例えば汎用コンピュータ又は携帯型コンピュータデバイスであり得る。本明細書に開示される方法の1つ以上のステップを実施するために、ネットワーク又は他のデータ転送方法によって、複数のコンピュータデバイスを共に使用してもよいことも理解すべきである。例示的なコンピュータデバイスは、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、パーソナルデータアシスタント(「PDA」)、セルラーデバイス、スマート又はモバイルデバイス、タブレットコンピュータ、サーバー、及びその他を含む。一般的に、データ処理要素は、複数の命令(例えばソフトウェアのプログラム)を実行することが可能なプロセッサーを含む。評価ユニットは、典型的にメモリーを含むか又はメモリーへのアクセスを有する。メモリーは、コンピュータ可読媒体であり、コンピュータデバイスに対してローカルに位置するか又は例えばネットワークによりコンピュータデバイスにアクセス可能な、シングルストレージデバイス又はマルチストレージデバイスを含み得る。コンピュータ可読媒体は、コンピュータデバイスがアクセスすることができる任意の利用可能な媒体であってもよく、揮発性及び不揮発性媒体の両方を含む。更に、コンピュータ可読媒体は、リムーバブル及び非リムーバブル媒体の1つ又は両方であり得る。例として、限定するものではないが、コンピュータ可読媒体は、コンピュータストレージ媒体を含み得る。例示的なコンピュータストレージ媒体としては、限定するものではないが、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリー若しくは任意の他のメモリー技術、CD-ROM、デジタルバーサタイルディスク(DVD)若しくは他の光学ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ若しくは他の磁気ストレージデバイス、又はコンピュータデバイスがアクセスすることが可能でコンピュータデバイスのプロセッサーが実行することが可能な複数の命令を保存するために使用することができる他の任意の媒体が挙げられる。評価ユニットはまた、出力デバイスを含み得るか、又は出力デバイスに対するアクセスを有する。例示的な出力デバイスとしては、例えばファクス機器、ディスプレイ、プリンター、及びファイルが挙げられる。本開示の一部の実施形態に従って、コンピュータデバイスは、本明細書に開示される方法の1つ以上のステップを実施してもよく、その後、方法の結果、指示、比率、又は他の要因に関する出力を、出力デバイスを介して提供してもよい。
【0067】
好ましくは、前記デバイスを採用して、本発明の方法を実行する。
【0068】
本発明は、更に、それを必要とする対象について免疫療法に関連する処置応答を評価するためのデバイスであって、
(a)免疫療法を必要とする対象のイメージングデータを含むデータセット中の(i)活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞、又は(ii)そのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量を示すデータを決定することが可能な分析ユニット;並びに
(b)(i)前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)前記そのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量に基づいて、免疫療法に関連する処置応答を評価することが可能な評価ユニット
を備えたデバイスに関する。
【0069】
好ましくは、前記デバイスを採用して、本発明の方法を実行する。
【0070】
また、本発明は、それを必要とする対象について免疫療法に関連する処置応答を評価するためのキットであって、(i)活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞、又は(ii)CD8+T細胞前駆体の特異的決定を可能にする少なくとも1つの検出剤を含むキットを提供する。
【0071】
「キット」という用語は、本明細書で使用される場合、典型的に、個別に又は単一の容器内で提供される上述の構成要素のコレクションを指す。容器はまた、典型的に本発明の方法を実行するための使用説明書も含む。これらの使用説明書は、マニュアルの形態であってもよく、又はコンピュータ若しくはデータ処理デバイスに実装される場合には、本発明の方法において言及されるバイオマーカーの決定を実行することが可能であるか又は支援するコンピュータプログラムコードによって提供されてもよい。コンピュータプログラムコードは、データストレージ媒体若しくはデバイス、例えば光学ストレージ媒体(例えば、コンパクトディスク)に提供されてもよく、又はコンピュータ若しくはデータ処理デバイスに直接提供されてもよく、又はダウンロードフォーマット、例えばアクセス可能なサーバー若しくはクラウドへのリンクで提供されてもよい。その上、キットは通常、本明細書の他所で詳細に記載されるように、較正目的のためにバイオマーカーの参照量に関する標準物質を含み得る。本発明に従うキットはまた、本発明の方法を実行するために必要な更なる構成要素、例えば溶媒、緩衝液、洗浄溶液、及び/又は放出された第2の分子を検出するために必要な試薬を含み得る。更にキットは、本発明のデバイスをパーツとして又はその全体として含み得る。
【0072】
好ましくは、前記少なくとも1つの検出剤は、TOX、CXCR6、TNFα、LAG3、GZMB(グランザイムB)、TIGIT、KLF2、IL-7R、TCF7、Foxo1、及びSELLからなる群から選択されるバイオマーカーの特異的検出を可能にする。より好ましくは、前記検出剤は、バイオマーカー又はそれをコードする核酸転写物に特異的に結合する抗体、アプタマー、又は核酸分子である。
【0073】
以下の実施形態は、本発明に従って特に想定される実施形態である。
【0074】
実施形態1.それを必要とする対象において免疫療法に関連する処置応答を評価する方法であって、
(a)免疫療法を必要とする対象の試料中の(i)活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞、又は(ii)そのCD8+T細胞前駆体を決定するステップ;並びに
(b)(i)前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)前記そのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量に基づいて、免疫療法に関連する処置応答を評価するステップ
を含む方法。
【0075】
実施形態2.前記試料が肝生検試料である、実施形態1に記載の方法。
【0076】
実施形態3.それを必要とする対象において免疫療法に関連する処置応答を評価する方法であって、
(a)免疫療法を必要とする対象のイメージングデータを含むデータセット中の(i)活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞、又は(ii)そのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量を示すデータを決定するステップ;並びに
(b)(i)前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)前記そのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量に基づいて、免疫療法に関連する処置応答を評価するステップ
を含む方法。
【0077】
実施形態4.前記対象が、非ウイルス関連肝臓がん、好ましくは肝細胞癌に罹患しているか又は罹患していることが疑われる、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0078】
実施形態5.前記処置応答が、有害な処置応答の非存在である、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0079】
実施形態6.(i)前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)前記そのCD8+T細胞前駆体の存在が、免疫療法に関連する有害な処置応答の非存在を示している、実施形態5に記載の方法。
【0080】
実施形態7.前記有害な処置応答が、肝臓がん、好ましくは肝細胞癌(HCC)若しくは胆管癌(CCA)の進行若しくは存続、又は任意の起源の肝臓内転移を含む、実施形態5又は6に記載の方法。
【0081】
実施形態8.前記対象が、ウイルス関連肝臓がん、好ましくはHCC又はCCAに罹患しているか又は罹患していることが疑われる、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0082】
実施形態9.前記処置応答が、治療的に有効な処置応答である、実施形態8に記載の方法。
【0083】
実施形態10.(i)前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)前記そのCD8+T細胞前駆体の非存在が、免疫療法に関連する治療的に有効な処置応答を示している、実施形態9に記載の方法。
【0084】
実施形態11.前記治療的に有効な処置応答が、肝臓がん、好ましくはHCC又はCCAの改善又は治癒を含む、実施形態9又は10に記載の方法。
【0085】
実施形態12.前記対象が、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)又は全身性肥満(メタボリックシンドローム)に罹患しているか又は罹患していることが疑われる、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0086】
実施形態13.前記対象が、全身免疫療法に対して感受性がある非肝臓がん、好ましくは黒色腫、前立腺がん、結腸がん、子宮頸がん、又は乳がんに罹患している、実施形態12に記載の方法。
【0087】
実施形態14.前記処置応答が肝臓の有害な副作用である、実施形態12又は13に記載の方法。
【0088】
実施形態15.(i)前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)前記そのCD8+T細胞前駆体の存在が、免疫療法に関連する肝臓の有害な副作用を示している、実施形態14に記載の方法。
【0089】
実施形態16.前記肝臓の有害な副作用が、肝損傷、肝機能障害、又は肝臓がん、好ましくはHCC若しくはCCAの発生を含む、実施形態14又は15に記載の方法。
【0090】
実施形態17.前記免疫療法が、PD-1及び/又はPD-L1標的化免疫療法を伴う、実施形態1~16のいずれか1つに記載の方法。
【0091】
実施形態18.前記対象が、哺乳動物、好ましくはヒトである、実施形態1~17のいずれか1つに記載の方法。
【0092】
実施形態19.前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞が、対照CD8+T細胞と比較してTOX、CXCR6、TNFα、LAG3、GZMB(グランザイムB)、及びTIGIT、より好ましくは、CXCR6及びTOXからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現の増加を示す、実施形態1~18のいずれか1つに記載の方法。
【0093】
実施形態20.前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞が、対照CD8+T細胞と比較してKLF2、IL-7R、TCF7、Foxo1、及びSELLからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現の低減を示す、実施形態1~19のいずれか1つに記載の方法。
【0094】
実施形態21.前記CD8+T細胞前駆体が、TCF7、SELL、及びIL-7Rからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーによって特徴付けられる、実施形態1~18のいずれか1つに記載の方法。
【0095】
実施形態22.前記CD8+T細胞前駆体が、TOX、CXCR6、TNFα、LAG3、GZMB(グランザイムB)、TIGIT、KLF2、IL-7R、TCF7、Foxo1、及びSELL、より好ましくは、CXCR6及びTOXからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの経時的な発現の変化を示す、実施形態21に記載の方法。
【0096】
実施形態23.(i)前記少なくとも1つのバイオマーカーが、KLF2、IL-7R、TCF7、Foxo1、及びSELLからなる群から選択される場合、前記変化が経時的な発現の減少であり;並びに(ii)前記少なくとも1つのバイオマーカーが、TOX、CXCR6、TNFα、LAG3、GZMB(グランザイムB)、及びTIGIT、より好ましくは、CXCR6及びTOXからなる群から選択される場合、前記変化が経時的な発現の増加である、実施形態22に記載の方法。
【0097】
実施形態24.対象について免疫療法を推奨する方法であって、実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法を実行することによって前記対象について免疫療法に対する処置応答を評価するステップ、並びに対象が無処置応答を有しない、有害な処置応答を有しない、治療的に有効な処置応答を有する、及び/又は肝臓の有害な副作用を有しないと評価される場合に、前記対象について免疫療法を推奨するステップを含む方法。
【0098】
実施形態25.免疫療法によって対象を処置する方法であって、実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法を実行することによって前記対象について免疫療法に対する処置応答を評価するステップ、並びに対象が無処置応答を有しない、有害な処置応答を有しない、治療的に有効な処置応答を有する、及び/又は肝臓の有害な副作用を有しないと評価された場合に、前記対象に免疫療法を施すことを含む方法。
【0099】
実施形態26.それを必要とする対象における免疫療法に関連する処置応答を評価するためのデバイスであって、
(a)免疫療法を必要とする対象の試料中の(i)活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞、又は(ii)そのCD8+T細胞前駆体を決定することが可能な分析ユニット;並びに
(b)(i)前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)前記そのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量に基づいて、免疫療法に関連する処置応答を評価することが可能なデータプロセッサーを備えた評価ユニット
を備えたデバイス。
【0100】
実施形態27.前記デバイスが、実施形態1、2、又は実施形態1若しくは2に依存する限り、実施形態4~25のいずれか1つに記載の方法を実行するために採用される、実施形態26に記載のデバイス。
【0101】
実施形態28.それを必要とする対象において免疫療法に関連する処置応答を評価するためのデバイスであって、
(a)免疫療法を必要とする対象のイメージングデータを含むデータセット中の(i)活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞、又は(ii)そのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量を示すデータを決定することが可能な分析ユニット;並びに
(b)(i)前記活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞、又は(ii)前記そのCD8+T細胞前駆体の存在、非存在、又は存在量に基づいて、免疫療法に関連する処置応答を評価することが可能な評価ユニット
を備えたデバイス。
【0102】
実施形態29.前記デバイスが、実施形態3、又は実施形態3に従属する限り、実施形態4~25のいずれか1つに記載の方法を実行するために採用される、実施形態28に記載のデバイス。
【0103】
実施形態30.それを必要とする対象において免疫療法に関連する処置応答を評価するためのキットであって、(i)活性化及び疲弊の形質を示す肝自己攻撃性CD8陽性(+)PD-1陽性(+)T細胞、又は(ii)CD8+T細胞前駆体の特異的決定を可能にする少なくとも1つの検出剤を含むキット。
【0104】
実施形態31.前記少なくとも1つの検出剤が、TOX、CXCR6、TNFα、LAG3、GZMB(グランザイムB)、TIGIT、KLF2、IL-7R、TCF7、Foxo1、及びSELL、より好ましくは、CXCR6及びTOXからなる群から選択されるバイオマーカーの特異的検出を可能にする、実施形態30に記載のキット。
【0105】
実施形態32.前記検出剤が、バイオマーカー又はそれをコードする核酸転写物に特異的に結合する抗体、アプタマー、又は核酸分子である、実施形態31に記載のキット。
【0106】
本明細書全体を通して及び本明細書の以下に引用される参考文献は全て、具体的に言及した開示の内容並びにその全体に関して参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【
図1a-b】(a)異なるNASH食又は対照食を与えた場合の肝脂肪症の組織学的分析を示す図である。ND:通常食;CD-HFD:コリン欠如高脂肪食。WD:西欧食;(b)肝損傷の特徴付け(上のパネル;ALT:アミノトランスフェラーゼ)。
【
図1c-d】(c)異なるNASH食又は対照食を与えたマウスのNAFLD活動性スコア解析(下のパネル);(d)全てのCD45+免疫細胞のフローサイトメトリー解析。T細胞集団(CD8+PD1+、矢印)の有意な増加が認められる。
【
図1e】(e)5つの肝免疫組織化学によるCD8及びPD-1染色(右の画像)及び定量(マウスn=5~6匹/群)。
【
図1f】(f)PD-1、CD8、及びCD4細胞の免疫蛍光に基づく検出(マウスn=3匹/群)。
【
図1g】(g)質量分析による肝CD8+PD-1+6 T細胞選別TCRβ+細胞の遺伝子セットエンリッチメント解析(マウスn=4~6匹/群)。
【
図1h】(h)単一細胞RNA Seqによって解析したTCRβ+細胞のtSNE。
【
図1i】(i)単一細胞RNA Seqによって解析したTCRβ+細胞の差次的遺伝子発現。
【
図1j-k】(j)ND又はCD-HFD食を12カ月間与えたマウス(マウスn=3匹/群)のscRNA-seqによるCD8+細胞の転写活性を示すRNA速度、遺伝子発現、及び状態遷移;(k)抗PD-1適用スキーム、及び15カ月間CD-HFDを与え、8週間処置後の腫瘍発生率(腫瘍/病変サイズ及び腫瘍量:マウスn=7~9匹/群;腫瘍発生率:CD-HFD、マウス22匹において腫瘍n=17個/病変;CD-HFD+α-PD-1、マウス10匹において腫瘍n=10個/病変)。
【
図1l-m】(l)CD-HFD食を13カ月間与えた後、抗PD-1処置を8週間行ったマウス肝臓の磁気共鳴イメージング(マウスn=4匹)。線:腫瘍結節。尺度のバー:10mm;(m)免疫療法を行った又は行わなかった食餌療法後のマウスの肝臓の肉学的観察。矢印:腫瘍/病変。尺度のバー:10mm。
【
図1n】(n)免疫組織化学による肝CD8+細胞の定量(マウスn=3~13匹/群;腫瘍内染色:マウスn=8~11匹/群);(o)mRNA in situハイブリダイゼーションによるCXCR6発現に関する肝腫瘍組織の定量。尺度のバー:100μm。矢印:陽性細胞。
【
図2a】常在細胞様CD8+PD-1+T細胞は、NASHにおける抗PD-1処置により、TNF依存的に肝臓がん形成を駆動することを示す図である。(a)発現を示すscRNA-seqデータのRNA速度解析。
【
図2b-c】(b)選択した遺伝子の潜伏時に沿った発現の相関。(c)ND、CD-HFD、又はCD-HFD食を12カ月間与え、α-PD-1抗体による8週間の処置を行ったマウスの肝臓又は末梢血由来CD8+又はCD8+PD-1+T細胞選別TCRβ+細胞の質量分析によるPCAプロット。
【
図2d】(d)FlowSOMガイドクラスタリングを示すUMAP表示、中央値のマーカー発現を示すヒートマップ。
【
図2e-f】(e)ND、CD-HFD+IgG、又はCD-HFD食を12カ月間与え、α-PD-1抗体による8週間の処置を行ったマウスの肝臓又は末梢血由来CD8+T細胞の定量。(f)CD-HFD+IgG、又はCD-HFD食を12カ月間与え、α-PD-1抗体による8週間の処置を行ったマウスの肝臓又は末梢血由来CD8+T細胞のCellCNN解析フローサイトメトリーデータの定量。
【
図2i】(i)ND、CD-HFD、CDHFD食を12カ月間与え、α-PD-1、α-PD-1/α-CD8、α-TNF、α-PD-1/α-TNF、α-CD4、又はα-PD-1/α-CD4抗体による8週間の処置を行ったマウスの肝臓又は末梢血由来CD8+PD-1+CXCR6+及びCD8+PD-1+TNF+T細胞の定量。
【
図3a】進行HCCにおけるPD-1及びPD-L1標的化免疫療法は、疾患の病因に応じて別個の効果を有することを示す図である。(a)患者1656人のメタ解析。免疫療法を最初に評価した後、疾患の病因:非ウイルス性(NASH及びアルコール摂取)とウイルス性との比較に従って解析した。個別のメタ解析を次に、3つの病因:非ウイルス性(NASH及びアルコール摂取)、HCV、及びHBVの各々に関して実施した。
【
図3b-c】(b)NAFLDは、PD-(L)1標的化免疫療法によって処置した肝細胞癌(HCC)を有する患者においてより悪い転帰に関連する。進行HCCを有する全体で130人の患者が、PD-(L)1-標的化免疫療法を受けた。(c)PD-(L)1標的化免疫療法によって処置したHCC患者の検証コホート。進行HCCを有する全体で118人の患者が、PD-(L)1標的化免疫療法を受けた。
【
図4】CD8+集団の試験は、CD8+PD1+T細胞の亜集団のみが、疲弊及び活性化の形質を示すことを明らかにすることを示す図である。(a)FlowSOMガイドクラスタリングを示すUMAP表示、中央値のマーカー発現を示すヒートマップ、(b)CD8+PD1+T細胞集団内の疲弊及び活性化の個々のマーカーのUMAP表示は、異なる亜集団を明らかにする。
【0108】
[実施例]
実施例は、本発明の単なる例証であり、決してその範囲を限定すると解釈してはならない。
【0109】
[実施例1]
方法及び材料
マウス、食餌療法、及び処置
標準的なマウス飼料(水及び飼料を自由に与えた)及び処置レジメンは以前に記載された。雄性マウスを、German Cancer Research Center(DKFZ)に収容した(20~24℃の一定温度及び45~65%湿度で12時間照明サイクル)。動物を、特定病原菌を含まない条件下で維持し、実験をドイツ国の法律(G11/16、G129/16、G7/17)に従って実施した。ヒト非定型プレフォルディンRPB5相互作用因子を発現する誘導型ノックインマウスの組織を受領した。流体力学的尾静脈送達のためのプラスミドは以前に記載されている。介入試験の場合、CD-HFD食を与えた雄性マウスを、25μgのCD8枯渇抗体(Bioxcell、2.43)、50μgのNK1.1枯渇抗体(Bioxcell、PK136)、300μgの抗PD-L1(Bioxcell、10F.9G2)、200μgの抗TNF(Bioxcell、XT3.11)、100μgの抗CD4(Bioxcell、GK1.5)、又は150μgの抗PD-1(Bioxcell、RMP1-14)の2週間に1回、8週間の静脈内注射によって処置した。PD-1-/-マウスは、G.Tiegs及びK.Neumannにより寄贈された。マウス(拡張データ3g)抗PD-1抗体(Bioxcell、RMP1-14)、又はアイソタイプ対照(Bioxcell、2A3)を初回用量500μgのi.p.後に200μgの用量を2週間に1回で、8週間にわたりi.p.投与した。マウス(拡張データ、3h)を、抗PD-1(200μg、Bioxcell、RMP1-14)又はIgG(200μg、Bioxcell、LTF-2)によってi.p.処置した。拡張データ3iに関する処置レジメンは、先行技術に記載された。腹腔内耐糖能試験及び血清中パラメーターの測定は、以前に記載された。
【0110】
磁気共鳴イメージング
MRIを、Bruker BioSpec 9.4 Tesla(Ettlingen、Germany)を使用してDKFZにおける小動物イメージングコア施設で行った。マウスを3.5%セボフルランで麻酔し、T2_TurboRAREシーケンス:TE=22ms、TR=2200ms、有効視野(FOV)35x35mm、スライス厚さ1mm、平均化処理数=6、スキャン時間3分18秒、エコースペース11ms、rareファクター8、スライス枚数20、画像サイズ192x192、解像度0.182×0.182mmを使用するT2強調イメージングによってイメージングした。
【0111】
マルチプレックスELISA
肝ホモジネートをウェスタンブロットと類似のように調製し、サイトカイン/ケモカインを、カスタマイズしたELISAにおいて製造元のマニュアルに従って分析した(Meso Scale Discovery、U-PLEXバイオマーカーグループ1、K15069L-1)。
【0112】
フローサイトメトリー及びFACS:リンパ球の単離及び染色
灌流後及び機械的切断後、肝臓を、コラーゲンIV(60U f.c.)及びDNase I(25μg/ml f.c.))と共に37℃で最大35分間インキュベートし、100μmフィルターで濾過し、RPMI1640(#11875093)によって洗浄した。次に、2ステップPercoll密度勾配(25%/50% Percoll/HBSS)遠心分離を15分間/1800g/4℃で行い、濃縮された白血球を収集し、洗浄し、計数した。再刺激の場合、細胞を、1:500 Biolegendの細胞活性化カクテル(ブレフェルジンAを含む)(#423304)及び1:1000モネンシン溶液(#420701)を使用して37℃、5%CO2で2時間インキュベートした。生細胞/死細胞の識別は、製造元の使用説明書に従ってDAPI又はZombieDyeNIRを使用し、力価測定した抗体のその後の染色によって行った。フローサイトメトリー活性化細胞選別(FACS)のための試料を選別し、フローサイトメトリーの試料を、eBioscience IC固定液(#00-8222-49)又はFoxp3 固定/透過処理キット(#00-5523-00)を使用して製造元の使用説明書に従って固定した。細胞内染色を、eBioscience透過処理緩衝液(#00-8333-56)中で実施した。細胞を、BD FACSFortessa又はBD FACSSymphonyを使用して分析し、FlowJo(v10.6.2)を使用してデータを解析した。選別のために、DKFZ FACSコア施設と共同でFACS Aria II及びFACSAria FUSIONを使用した。UMAP/FlowSOMプロットに関して、BD FACSymphonyデータ(マウス及びヒト)をFlowJo(v10)からエクスポートした。解析は、先行技術において他所で記載される通りに実施した。
【0113】
単一細胞RNAシーケンシング及びメタセル(metacell)解析(マウス)
scRNA-seq及びライブラリ調製のための単一細胞捕捉は、以前に記載された。ライブラリ(等モル濃度でプールされた)を、Illumina NextSeq 500においてシーケンシング深さの中央値約40,000読み取りデータ/細胞でシーケンシングした。配列を、HISAT(バージョン0.1.6)を使用してマウス(mm10)にマッピングした;複数のマッピング位置を有する読み取りデータを除外した。読み取りデータが、Ensembl遺伝子アノテーションデータベース(Emblリリース90)を使用してエクソンにマッピングされた場合、読み取りデータは、遺伝子に関連した。同じ鎖上のゲノム位置を共有する異なる遺伝子のエクソンは、連結された(concatenated)遺伝子記号を有する単一遺伝子であると考えられた。データ中の偽UMIレベルを、空のMARS-seqウェルでの統計値を使用して推定し、推定ノイズ>5%(推定されるノイズの全実験の中央値は2%であった)のまれな例を除外した。特異的ミトコンドリア遺伝子、免疫グロブリン遺伝子、根拠が不良な転写モデルに連鎖した遺伝子(接頭辞「Rp-」でアノテートされる)、及び400UMI未満の細胞を除外した。遺伝子の特徴を、Tvm=0.3及び最小の総UMI数>50を使用して選択した。それらの遺伝子間の相関マトリックスの階層的クラスタリング(低いカバレッジを有する遺伝子をフィルタリングし、ダウンサンプリングしたUMIマトリックスを使用して相関を計算する)を行い、アンカー遺伝子を含有する遺伝子クラスターを選択した。K=50、750ブートストラップ繰り返し、及びそれ以外の標準的なパラメーターを使用した。T細胞のサブセットを、混同行列の階層的クラスタリングによって得て、均一なメタセル群における濃縮遺伝子の解析を管理した。
【0114】
scRNA-seqデータの速度及び相関分析
Velocyto(0.6)を使用して、事前に整列させたbamファイルからスプライス/非スプライスカウントを推定した。RNA速度、潜伏時(latent time)、ルート、及び末端状態を、scvelo(0.2.2)の動的速度モデルを使用して計算した。ケンドールの順位相関係数を使用して、生物学的に重要な遺伝子の発現パターンを潜伏時と相関させた。
【0115】
質量分析の準備、データ獲得、及びデータ解析
FACS精製後、細胞を、pH7.4のPBS緩衝液中の50%(体積/体積)2,2,2-トリフルオロエタノール中に再懸濁し、繰り返し超音波及び凍結融解サイクルによって溶解した。タンパク質を60℃で2時間変性させ、最終濃度5mM(60℃で30分間)のジチオスレイトールを使用して還元し、RTへと冷却し、25mMヨードアセトアミドを使用してアルキル化し(RTの暗所で30分間)、pH8.0の100mM炭酸水素アンモニウムを使用して1:5に希釈した。タンパク質を、トリプシン(1:100の比、37℃)によって一晩消化し、C18ベースのステージチップを使用して脱塩し、減圧下で乾燥させ、0.1%ギ酸を含むHPLC等級の水20μL中に再懸濁し、A380を使用して測定した。50cmで分離したペプチド0.5μgを、プロテオーム解析のために使用し、これはナノ液体クロマトグラフィーシステム(EASY-nLC 1200、Thermo Fisher Scientific)を使用するC18カラムであった。ペプチドを、5~30%勾配の緩衝液B(80%アセトニトリル及び0.1%ギ酸)を使用して流速300nL/分、カラム温度55℃で溶出させた。データを、高解像度オービトラップタンデム質量分析計(QExactive HFX、Thermo Scientific)を使用してデータ依存的な上位15位の獲得によって獲得した。全てのMS1スキャンを、解像度60,000、AGC標的3e6で獲得し、MS2スキャンを、解像度15,000、AGC標的1e5で獲得し、最大注入時間は28msであった。解析を、MaxQuant(1.6.7.0)を使用して実施し、マウスUniProt Isoform fasta(バージョン:2019-02-21、配列数25,233)をタンパク質配列の起源として実施した。1%FDRをペプチド及びタンパク質レベルを制御するために使用し、解析を検討するためには最少でも2つのペプチドが必要であった。遺伝子セットエンリッチメント解析を、ClusterProfiler(3.18)42、並びにWikiPathway(wikipathways.org)及びMSigDB(broadinstitute.org/msigdb)から得られた遺伝子セットを使用して実施した。
【0116】
組織学、免疫組織化学、スキャニング、及び自動化分析
組織学、免疫組織化学、スキャニング、及び自動化分析は、以前に記載された。実験に使用した抗体は全て、当技術分野で公知である。免疫蛍光染色の場合、IHC確立抗体を使用し、AKOYA Biosciences Opalフルオロフォアキット(Opal 520 FP1487001KT、Opal 540 FP1494001KT、Opal 620 FP1495001KT)とカップリングさせた。mRNA in situハイブリダイゼーションの場合、新しい非ベーキング5μm FFPEを切断し、マニュアルアッセイRNAscopeに関して製造元(ACD biotech)のプロトコールに従って、プローブTNF(311081)及びCXCR6(871991)を使用して染色した。
【0117】
バルクRNAシーケンシングのためのRNAの単離及びライブラリの調製
ポリ(A)-RNAのバルク3'-シーケンシングのためのRNAの単離及びライブラリ調製は、以前に記載された。特徴抽出ソフトウェア(11.0.1.1、Agilent Technologies)を使用して、gencode遺伝子アノテーションバージョンM18及びマウス参照ゲノムメジャーリリースGRCm38を、(https://www.gencodegenes.org/)から導出した。Dropseqツールv1.1247を、生シーケンシングデータを参照ゲノムにマッピングするために使用した。得られたUMIフィルタリング後のカウントマトリックスを、R v3.4.4にインポートした。Limma v3.40.648による発現差異解析の前に、試料特異的重みを推定し、Voomによるモデルフィッティングの間の共変数として実験群と共に係数として使用した。T検定を、全ての可能性がある実験群の間で差次的に(p値0.05未満)制御された遺伝子を決定するために使用した。遺伝子セットエンリッチメント解析を、MSigDB Reactome、KEGG、及びHallmarkデータベース(broadinstitute.org/msigdb)内で、事前に順位付けしたGSEA法44によって行った。生シーケンシングデータは、アクセッション番号PRJEB36747の下で利用可能である。
【0118】
CD8 T細胞の刺激
CD8 T細胞の刺激は先行技術に記載されている。
【0119】
ヒト生検のフローサイトメトリー
患者材料の解析を、CHUグルノーブル-アルプス大学生物資源センター(n BRIF BB-0033-00069)の患者のコレクションn AC-2019-3627(CRB03)から得た肝組織(針生検又は切除した組織、BIOFACS Study KEK 2019-00114)について実施した。組織試料を、メスを使用して細切し、37℃で30分間インキュベートし(1mg/mLコラゲナーゼIV(Sigma Aldrich)、0.25μg/mL DNase(Sigma Aldrich)、10% FCS(Thermo Fisher Scientific)、RPMI 1640(Seraglob))、PBS中の2mM EDTA(StemCell Technologies、Inc)によって酵素反応を停止させた。100μmセルストレーナーを通して濾過した後、NexT細胞を、FACS緩衝液(PBS、EDTA 2mM、FCS 0.5%)中でヒトTruStain FcX(商標)(Fc受容体ブロッキング溶液)(Biolegend)と共に再懸濁し、4℃で15分間インキュベートし、抗体によって染色した。ヒト試料のフローサイトメトリー(拡張データ9d)は、地域の倫理委員会によって承認された(AC-2014-2094 n 03)。
【0120】
ヒト標本のハイスループットRNAシーケンシング
既に報告されたように、フランス、ドイツ、イタリア、及び英国においてNAFLDと診断され、欧州NAFLDレジストリ(GSE135251)に登録された患者206人からの瞬間凍結した生検試料206例からのデータを使用して、RNAシーケンシング解析を実施した。2人の病理学医が試料をNASについてスコア付けした。過度のアルコール摂取(男性30g、女性20g)、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝疾患、脂肪生成薬の使用を含む代替の診断を除外した。患者の試料を群分けした:NAFL(n=51)、及びF0/1(n=34)、F2(n=53)、F3(n=54)~F4(n=14)の範囲の異なる線維化段階を有するNASH。欧州NAFLDレジストリのデータの収集及び使用は、関連する地域の及び/又は国内の倫理審査委員会によって承認された。性別、バッチ、及び主効果に関する補正を実装した。パスウェイエンリッチメント及び可視化は先行技術に記載された。
【0121】
NAFLD/NASHコホートの免疫組織化学
NAFLDを有する患者からの65例のヒトFFPE生検を含めた。連続切片を、ヒトCD8(Roche、SP57、即時使用可能)、PD-1(Roche; NAT105、即時使用可能)、及びCD4に対する抗体(Abcam、ab133616、1:500)によって免疫染色した。全ての染色を、VENTANA BenchMark自動染色装置において37℃で実施した。門脈及び接着性の実質における免疫陽性細胞を、倍率400倍で定量した。
【0122】
単一細胞RNA-seqデータ解析のための細胞の単離(ヒト)
ハイデルベルグ大学病院外科部門(S-629/2013)で肥満外科療法を受けた患者の、病理評価のためにホルマリン固定/パラフィン包埋した肝生検の分析は、単一細胞を細切し、Miltenyi腫瘍解離キット(カタログ番号130-095-929)を製造元の使用説明書に従って実施し、70μmのセルストレーナーを通して濾過し、洗浄することによって生成した。ACK溶解緩衝液(Thermo Fischer Scientific、カタログ番号A1049201)を実施し、試料をFBS+20% DMSO中で更に処理(単一細胞RNAseq解析及びマスサイトメトリー)するまで保存した。細胞を、37℃の水浴中で融解し、PBS+0.05mM EDTA(10分間、300g、+4℃)中で洗浄し、FC-ブロック(10分間、+4℃)し、CD45-PE(3μl、Hl30、#12-0459-42)によって染色し、生細胞/死細胞識別(1:1000、Thermofischer、L34973)を行い、洗浄してDKFZ FACSと共同でFACSAria FUSIONにおいて選別した。ライブラリの作製を、製造元のプロトコール(Chromium Next EM Single Cell 3`GEM、10000128)に従って実施し、シーケンシングを、Illumina NovaSeq 6000において実施した。逆多重化及びバーコードプロセシングを、Cell Rangerソフトウェアスイート(バージョン4.0.0)を使用して実施し、読み取りデータをヒトGRCh3854と整列させた。細胞バーコードを含有する遺伝子バーコードマトリックス及び遺伝子発現数を、単一細胞3' UMIを計数することによって生成し、R(v4.0.2)にインポートし、ここで品質管理及び正規化を、Seurat v355を使用して実行した。10%より多くのミトコンドリア遺伝子、細胞あたり200個より少ない遺伝子、又は細胞あたり6000個より多くの遺伝子を有する細胞を除外した。10個の試料からのマトリックスを、Seurat v3によって統合し、試料に対するバッチ効果を除去した。全てのCD3+細胞のフィルタリングした遺伝子バーコードマトリックスのPCA解析を、UMAP(上位50個の主成分)によって可視化し、高度に可変の特徴及び指示マーカーを使用して主要な細胞タイプの同定を実施した。加えて、CD4+T細胞対CD4+PD-1+T細胞及びCD8+T細胞対CD8+PD-1+T細胞の対応のある組合せを、CD4+/CD8+T細胞を対照として設定してDESeq2(v1.28.1)による発現差異解析の結果を使用して実施した。次に、ボルケーノプロットを、EnhancedVolcano(v1.6.0)を使用して作成し、発現差異解析の結果を可視化した。
【0123】
マスサイトメトリーデータ解析(ヒト)
マスサイトメトリーのための抗体コンジュゲートを、Fluidigmから購入し、抗体標識キット(Fluidigm X8、MCP9)を使用して施設内で生成したか、又は以前に記載されたように生成した。マスサイトメトリーのための抗体カクテルを、以前に記載したように凍結保存した。細胞の単離は、「単一細胞RNA-seqデータ解析のための細胞の単離(ヒト)」の段落で記載されている。細胞を融解し、RPMI+ベンゾナーゼ(14ml RPMI+0.5μlベンゾナーゼ)に移し、500μgで5分間遠心分離した。細胞沈降物をCSM-B(CSM(PBS 0.5% BSA 0.02%アジ化ナトリウム+ベンゾナーゼ1μl)1mlに再懸濁し、30μmセルストレーナーを通して濾過し、3mlに調整して計数し、CSM-B 35μlに再懸濁し、4℃で45分間インキュベートし、CSM-B 100μlを添加した。細胞をプールして、表面抗体カクテルによって4℃で30分間染色した。死細胞の識別をmDOTA-103Rh(5分間、RT)によって実施した。細胞内染色に関して、Miltenyi BiotecのFoxp3細胞内染色キットを、製造元の使用説明書に従って使用した後、細胞内標的に関してRTで30分間染色した。細胞を洗浄し、イリジウムインターカレーター溶液1ml中に再懸濁し、RTで25分間インキュベートした。細胞を、CSM、PBS、MilliQ水によって洗浄し、細胞7.5×105個/mLの最終濃度に調整し、4エレメントEQビーズを補充した。試料を、Heliosマスサイトメーターにおいて獲得し、生データを、Heliosマスサイトメーター及びHelios機器ソフトウェア(バージョン6.7)を使用して、EQビーズにより正規化した。CATALYST(v1.86)61及びFlowCore(1.50.0)において補正を実施した。単一の生存CD45+細胞のバーコード解除及びゲート設定を、FlowJo(v10.6.2)を使用して実施した。次に、CD45+細胞のデータを、Cytosplore 2.3.1にインポートし、arcsinh(5)関数を使用して変換した。主要な免疫細胞系列は、デフォルトのパープレキシティ及び繰り返し設定による2レベル階層型確率的近傍埋め込み(HSNE)解析の第1レベルで同定された。同じパラメーターによるHSNEを、CD3+細胞について行い、T細胞表現型を同定した。ガウス平均シフトクラスタリングを、Cytosploreにおいて実施し、全ての抗体標的のarcsinh(5)変換発現値のヒートマップを作製した。細胞タイプの同定は、変換された発現値に基づき、高い類似性を示すクラスターを、手作業で統合させた。
【0124】
NASH/HCCコホートの組織学及び免疫化学的解析
4例の健康な試料、16例のNASH症例、及び以下の病因:NASH(n=26)、ウイルス性肝炎(n=19 HCV、n=3 HBV)、アルコール性肝炎(n=5)、及びその他(n=2)を有する患者からのHCC腫瘍に隣接する非腫瘍組織を選択した。試料は全て、IRBの承認を得て国際ゲノムHCCコンソーシアムから得た。熱処理抗原不活化(10mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)又は汎用HIER抗原不活化試薬(ab208572)による15分間(3×5分間))の反応後、反応を、3%過酸化水素を使用してクエンチし、試料をPBSによって洗浄し、抗CD8(Cell Signaling、Danvers、MA)又は抗PD-1(NAT105、ab52587)と共にインキュベートした。DAB(3,3'-ジアミノベンジジン)を、検出系(EnVision+System-HRP、Dako)として使用した。PD-1陽性例を、a)免疫組織化学による陽性率の中央値を考慮して、及びb)各スライドガラスに存在する全てのリンパ球におけるPD-1陽性リンパ球の≧1%のカットオフを使用して定義した。チューリッヒ大学病院病理学分子病理学部門からのヒト試料の解析は、地域の倫理委員会によって承認された(‘Kantonale Ethikkommission Zurich'、KEK-ZH-Nr. 2013-0382、及びBASEC-Nr. PB_2018-00252)。
【0125】
第III相臨床試験の検索戦略、選択基準及びメタ解析
文献検索を、PubMedのMEDLINE、コクランライブラリ、Web of Science、及びclinicaltrials.govを通して以下の検索語:「checkpoint inhibitors(チェックポイント阻害剤)」、「HCC」、「phase III(第III相臨床試験)」を使用して、2010年1月から2020年1月までの間で行い、会議の抄録/発表は手作業での検索によって補完した。単一施設、非対照試験、ハザード比(HR)、95%信頼区間を抽出するには不十分なデータを有する試験、又はHCC以外の疾患実体を含む試験を除外した。会議の抄録が、除外されなかったことから、含めた試験の品質評価を実施しなかった。3つの試験が基準を満たし、定量的合成に含めた。メタ解析の主要転帰は、無作為化時から死亡までの時間として定義されるOSであった。OSに関連するHR及びCIを、紙の/会議発表から抽出した。プールしたHRを、ランダム効果モデル(Der Simonian and Laird)を使用して計算し、一般化逆分散法を、重み64を計算するために使用した。試験間の不均一性を評価するために、コクランQ検定及びI2インデックスを使用した。Q検定におけるp値<0.10は、実質的な不均一性を示すと考えられた。I2は、文献に示唆されている通りに解釈した:0%~40%は、有意な不均一性を表さないことがあり;30%~60%は、中等度の不均一性を表し得、50%~90%は実質的な不均一性を表し得、75%~100%はかなりの不均一性を表す。全ての統計学的なプール分析を、RevMan 5.3ソフトウェアを使用して実施した。
【0126】
PD-(L)1標的化免疫療法によって処置したHCCを有する患者のコホート
後ろ向き解析は、地域の倫理委員会によって承認された。このコホートからのデータは、以前に公表されたものであった。オーストリア、ドイツ、イタリア、及びスイスの12施設からPD-(L)1標的化免疫チェックポイント遮断剤によって処置した肝硬変及び進行期HCCを有する患者を含めた。カイ二乗検定又はフィッシャー正確確率検定を使用して、名義データを比較した。OSは、チェックポイント阻害剤の処置の開始から死亡までの時間として定義された。なおも生存している患者を、最終診察日で監査した。生存曲線を、カプランマイヤー法によって計算し、ログランク検定を使用することによって比較した。多変量解析を、コックス回帰モデルによって実施した。統計分析を、IBM SPSS Staticsバージョン25(SPSS Inc.、Chicago、IL)を使用して実施した。
【0127】
PD-1標的化免疫チェックポイント遮断剤によって処置した肝細胞癌を有する患者の検証コホート
HCCの処置を専門とする11の専門治療紹介病院において2017年から2019年の間にICIによって処置したHCC患者427人を含む多施設データセットを解析した。この患者コホートの臨床転帰は他所で報告されている。組み入れ基準は:1)米国肝臓学会議及び欧州肝臓学会議に従って組織病理学又はイメージング基準によってなされたHCCの診断;2)地域の集学的腫瘍審査委員会に従う、治癒的又は局所限局的治療を受けることができないHCCに関するICIによる全身治療;3)ICI開始時にRECIST v1.1基準に従う測定可能な疾患であった。主試験のレポジトリから、米国(n=85)、欧州(n=7)、台湾(n=14)、及び日本(n=12)から補充した進行期HCCを有する患者118人を、チャイルドピュー(Child-Pugh)A肝機能予備能、及び報告された肝硬変のX線による又は臨床診断によって選択した。本試験を行うための倫理的承認は、インペリアルカレッジ組織バンク(参照番号R16008)によって与えられた。
【0128】
統計分析
データをマイクロソフトエクセルに収集した。マウスデータを、平均値±SEMとして表す。予備試験及び以前に公表された結果を使用して、適切な統計学的検定が有意な結果を生じることができるように母集団のサイズを推定した。統計分析は、GraphPad Prismソフトウェアバージョン7.03(GraphPad Software)を使用して実施した。p<0.1より低い正確なp値を報告し、特定の試験を説明文に示す。
【0129】
[実施例2]
肝臓又は末梢血由来CD8+PD-1+T細胞は、マウスにおけるNASH進行の間に増加する
NASHにおける肝臓又は末梢血由来免疫細胞を調べるために、マウスに、肝損傷及びNASHを進行性に引き起こす食餌療法を3~12カ月にわたって与えたところ(
図1a~c)、CD69/CD44及びPD-1を発現する肝臓又は末梢血由来活性化CD8+T細胞の発生率の増加を伴った(拡張データ1a~d)。肝臓又は末梢血由来白血球の単一細胞マッピングは、NASHにおいて免疫細胞組成の変更を示し(
図1d;拡張データ1e、f)、CD8+PD-1+が大きく増加したがTCRγδT細胞は増加しなかった(
図1e、f)。同様に、CD8+及びPD-1+細胞の増加は、遺伝性のNASHマウスモデルにおいて見出された。mRNA in situハイブリダイゼーション及び免疫組織化学(IHC)は、肝細胞及び非実質細胞におけるNASH重症度と相関するPD-L1発現の増加を明らかにした。NASHに罹患した肝臓からの肝臓又は末梢血由来CD8+PD-1+T細胞の質量分析に基づく特徴付けにより、進行中のT細胞活性化及び分化、TNFシグナル伝達、及びNK細胞様細胞傷害性に関するパスウェイエンリッチメントが示された(
図1g)。NASH肝臓からのTCRβ+細胞の単一細胞RNAシーケンシング(scRNA-seq)は、CD8+T細胞(例えば、GzmK/M)における細胞傷害性及びエフェクター-機能関連プロファイル、並びに疲弊形質(例えば、Pdcd1、Tox)の上昇を伴う炎症マーカー(例えば、Ccl3)を示した(
図1h、i)。RNA速度解析は、転写活性及びSELL発現CD8+から始まりCD8+PD-1+T細胞に至る分化の増強を実証し(
図1j)、局所分化プロセスを示した。これらのデータは、NASHにおける、疲弊及びエフェクター機能の特徴を有するCD8+PD-1+T細胞の肝臓又は末梢血由来存在量の増加を実証した。
【0130】
NASHにおいて肝臓又は末梢血由来T細胞が多数であることに基づき、抗PD-1標的化免疫療法がNASH-HCCの有効な治療として役立つか否かを調べた。CD-HFDを13カ月間与えたC57BL/6マウスの30%において、肝腫瘍が発生し、ヒトNAFLD/NASH-HCCと類似の遺伝的変更量を示した。磁気共鳴イメージングによって同定されたHCCを有するNASHマウスを、抗PD-1免疫療法又は対照アーム(
図1k~m)に割付した。既存の肝腫瘍はいずれも、抗PD-1治療に応答して退縮しなかった(
図1l、m)。むしろ、より顕著な線維化、不変の肝損傷、及びわずかに増加した肝臓がん発生率が、抗PD-1処置後に観察され、腫瘍量/サイズの変化は観察されなかった(
図1k)。抗PD-1処置マウスでは、多数のCD8+及びPD1+T細胞が肝腫瘍組織に見出され、高レベルのCXCR6-、TNF-mRNA発現細胞が見出された(
図1n、o)。整合的なことに、NASH誘発性肝腫瘍の退縮は、抗PD-L1免疫療法によって見出されなかった。これに対し、非NASHマウスにおける別個の肝臓がんモデル(同時の損傷を伴う又は伴わない)は、PD-1免疫療法に応答して腫瘍が退縮し、免疫療法に対する応答の欠如が、NASH-HCCに特異的に関連することを示唆した。このように、NASHは、HCC免疫療法の文脈において効率的な抗腫瘍監視を排除した。同様に、免疫療法の障害は、NASHにおける二次肝臓がんにおいても記載された。
【0131】
[実施例3]
CD8+T細胞はNASHにおいてHCCを促進する
PD-1+CD8+T細胞は、有効な免疫監視を実行することができず、むしろ組織損傷能を示したことから、本発明者らは、CD8+T細胞がNASH-HCCの促進に関係すると推論し、NASHを有するが、まだ肝臓がんを有しないマウス(CD-HFDを10カ月間与えた)において予防的状況でCD8+T細胞を枯渇させた。CD8+T細胞枯渇は、肝損傷を有意に低減させ、HCC発生率を低減させた[対照(ビヒクル処置及び無処置)n=32/87(37%)対CD8枯渇、n=2/31(6%)](
図2m)。類似の結果が、CD8+及びNK1.1+細胞の同時枯渇後に得られた(
図2m)。このことは、NASHにおける肝CD8+T細胞が、NASHにおける免疫監視機能を欠如するのみならず、HCCを推進することを示唆している。次に、NASHにおけるHCC発生に及ぼす抗PD-1療法の効果を調べた。抗PD-1免疫療法は、肝損傷を悪化させ、肝臓又は末梢血由来CD8+PD-1+T細胞の数を増加させたが、肝CD4+PD-1+T細胞及び他の免疫細胞集団にはごく軽微な変化が見出されたに過ぎなかった。抗PD1免疫療法は、肝線維化の変化とは無関係に肝臓がん発生率に劇的な変化を引き起こした(
図2m)。このことは、CD-HFDを6カ月間与えたPD-1-/-マウスにおける早期発症及び肝臓がん発生率の増加によって具体化され、肝損傷の悪化、及び増加したサイトカイン発現(IFNγ、TNF)を有する活性化された肝臓又は末梢血由来CD8+T細胞数の増加を伴った。要約すると、CD8+PD1+T細胞は、最もおそらくは腫瘍監視の障害及びT細胞媒介組織損傷の増強により、NASH-HCC移行を誘発した(同様に、Dudek et al.、2020も参照されたい)。腫瘍組織内でのCD8+PD1+T細胞の大きい増加にもかかわらず、治療的PD-1又はPD-L1関連免疫療法は、NASH-HCCにおいて腫瘍の退縮を引き起こすことができなかった。
【0132】
抗PD-1免疫療法の腫瘍駆動機構を理解するために、ヒトHCC発生に関連する免疫介在性がん分野(ICF)の遺伝子発現シグネチャーを適用した。予防的抗PD-1処置は、腫瘍形成促進性ICFシグネチャー(例えば、Ifnγ、Tnf、Stat3、Stat5、Tgfβ、Kras)、T細胞疲弊の形質の捕捉、がん形成促進性のシグナル伝達、並びに免疫寛容及び阻害のメディエータに強く関連した。CD8+T細胞枯渇は、高浸潤性ICFシグネチャーの有意な下方調節を示し、非実質細胞においてTNFを減損させた。抗PD1によって予防的に処置したNASHマウスにおいて発生した腫瘍のGSEA、mRNA in situハイブリダイゼーション、及び組織学は、これらのデータを裏付け、CD8+T細胞存在量の増加、炎症関連シグナル伝達の濃縮、アポトーシス、及びTGFβシグナル伝達を見出した。抗PD-1処置は、肝臓がん形成を駆動することが公知であるp62の発現の増加をもたらした。アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーションは、抗PD-1処置マウス又は対照の腫瘍の間に染色体欠失又は増幅の有意差を示さなかった。要約すると、肝臓又は末梢血由来CD8+PD-1+T細胞は、NASHの間に腫瘍の退縮を引き起こさず、むしろHCC発生に関連し、これは抗PD-1免疫療法によって更に増強された。
【0133】
抗PD-1処置後のNASHにおけるCD8+PD-1+T細胞の腫瘍促進能を解明するために、肝臓又は末梢血由来T細胞区画を、炎症及び肝臓癌形成との相関に関して分析した。scRNA-SeqによるCD8+PD-1+とCD8+T細胞との比較により、エフェクター機能(例えば、増加したGzmA/B/K、Prf1、Ccl3/4/5、低減されたSELL、Klf2)、疲弊(例えば、Pdcd1、Tigit、Tox、低減されたIl-7r、Tcf7)、及び組織常在性(例えば、Cxcr6、Mki-67low)に関連する遺伝子が同時発現されることが同定された(
図2a-b)。重要なことに、抗PD-1後のNASHマウスにおける肝臓又は末梢血由来CD8+PD-1+T細胞のトランスクリプトームプロファイルの差は認められず(
図2c)、その機能的特性ではなくてT細胞数が変化したことを示した。RNA速度ブロット解析は、これらのデータを裏付けた(
図2d)。マーカー(例えば、IL-7r、SELL、Tcf7、Ccl5、Ccl3、Pdcd1、Cxcr6、FasL、Rgs1)の類似のパターンが、対照IgG又は抗PD-1を投与されたNASHマウスの潜伏時及び全転写活性と相関した(
図2d、e)。NASH肝臓から単離されたCD8+又はCD8+PD-1+T細胞の質量分析に基づく解析は、T細胞の表現型の変化が抗PD-1処置後に起こらなかったことを確認した(
図2f)。
【0134】
PD-1+CD8+T細胞のトランスクリプトームプロファイルを更に特徴付けるために、高パラメトリックフローサイトメトリーデータのUMAP解析を、解剖CD8+PD-1+及びCD8+PD-1-サブセットについて実施した(
図2g)。これは、エフェクター(例えば、GzmB、IFNγ、TNF)及び疲弊マーカー(例えば、Eomes、PD-1、Ki-67low)が高レベルでCD8+PD-1+細胞に同時発現されることを明らかにした。特に、CD8+PD-1+TNF+細胞は、抗PD-1処置によってより存在量が多かった(
図2h)。畳み込みニューラルネットワーク解析及び手作業でのゲート設定は、この結果を検証した(
図2i)。CD8+PD-1+T細胞は、抗PD-1処置NASHマウスにおいて非増殖性であり、抗PD-1処置が、増殖することなくT細胞数の増加をもたらしたin vitro実験によって裏付けられた。特に、CD8+PD-1+T細胞のFoxo1レベルは、NASHにおいて低減され、おそらくCD8+PD-1+T細胞におけるより高いカルシウムレベルによって示されるエフェクター機能の強化と組み合わせて、増強された組織常在性表現型を示した。ScRNA-Seq解析は、NASHにおけるCD8+PD-1+T細胞の組織常在性シグネチャーを更に明らかにした(
図2b)。このように、NASHにおける抗PD1免疫療法によって、CD8+PD-1+T細胞は、肝臓において多数蓄積し、CD44、CXCR6、EOMES、TOX、CD244lowの同時発現の増加、しかしTCF1/TCF7、CD62L、Tbet、及びCD127の発現の欠如を伴う常在細胞様T細胞特徴を明らかにした。以前の結果と整合して、CD4+PD-1+T細胞区画は変更された。要約すると、抗PD1免疫療法は、肝臓において常在性シグネチャーを有するCD8+PD1+T細胞の存在量を増加させた。
【0135】
予防的な抗PD-1処置の設定におけるNASH-HCC移行の増加を駆動する機構を調べるために、NASHに罹患したマウスに併用処置を投与した。抗CD8/抗PD-1又は抗TNF/抗PD-1抗体処置はいずれも、抗PD-1処置単独と比較して、肝損傷、肝病理学、及び肝炎症を改善した(
図2j、k)。いずれの併用処置も、抗PD-1処置単独と比較して肝臓がん発生率の減少をもたらした(
図2l、m)。これに対し、抗CD4/抗PD-1処置は、肝臓がん発生率、NAFLDスコア、TNFを発現する発現肝臓又は末梢血由来CD8+又はCD8+PD1+CXCR5+T細胞の量を低減させなかった(
図2j~m)。しかしながら、肝臓あたりの腫瘍数の低減及び腫瘍サイズの低減が観察され、CD4+T細胞又は制御性T細胞の枯渇が腫瘍の制御に寄与し得ることを示唆した。むしろ、本発明者らは、腫瘍の発生率と抗PD-1処置、ALT、NAS、肝臓又は末梢血由来CD8+PD-1+T細胞の数、及びTNF発現との直接相関を見出した。併せると、これらのデータは、CD8+PD1+T細胞が免疫監視を欠如し、組織損傷機能を有することを示唆し(同様に、Dudek et al.、2020も参照されたい)、これは、抗PD1処置によって増加し、NASHにおけるHCC発生に及ぼす抗PD1処置の望ましくない作用に寄与し得る。
【0136】
以下の表1及び表2において、肝臓又は末梢血由来の自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞集団を特徴付ける遺伝子を要約する。
【0137】
【0138】
【0139】
[実施例4]
NASH患者における肝常在細胞様CD8+PD1+T細胞の増強
肝免疫細胞特徴の類似の変化がヒトNASHにおいて観察されるか否かを調べるために、健康な又はNAFLD/NASHに罹患した肝臓のCD8+T細胞を調べた。NASH患者の3つの独立したコホートにおいて、本発明者らは、フローサイトメトリー及びCYTOFによって常在性表現型を有する肝臓又は末梢血由来CD8+PD-1+T細胞の濃縮を見出した。肝臓又は末梢血由来CD8+PD-1+T細胞数は、ボディマスインデックス及び肝損傷と直接相関した。NASH肝臓からのマウスとヒトT細胞の間の類似性を調べるために、NAFLD/NASH患者の肝CD8+PD-1+T細胞を、scRNAseqによって分析し、NASHマウスからの肝T細胞において同様に見出された遺伝子発現シグネチャー(例えば、PDCD1、GZMB、TOX、CXCR6、RGS1、SELL)を同定した。差次的に発現された遺伝子は、患者及びマウス由来の肝臓又は末梢のCD8+PD-1+T細胞の間で直接相関した。速度-ブロット分析は、ルート細胞としてのTCF7、SELL、IL-7Rを発現するCD8+T細胞、及びCD8+T細胞のCD8+PD-1+T細胞への局所発達状態遷移を示すCD8+PD-1+T細胞を明らかにした。遺伝子発現量、及び転写活性を示す速度の大きさは、マウス及びヒトNASH CD8+PD-1+T細胞において増加した。NAFLD/NASH患者における潜伏時に沿ったマーカー発現(例えば、IL-7R、SELL、TCF7、CCL5、CCL3、PDCD1、CXCR6、RGS1、KLF2)は、対照と比較して異なり、NASHマウスのCD8+T細胞発現パターンと相関した。このように、scRNAseq解析は、NASHマウスからの肝臓又は末梢血由来CD8+PD-1+T細胞と遺伝子発現パターンを共有する、NAFLD/NASH患者における常在細胞様肝CD8+PD-1+T細胞集団を実証した。
【0140】
以下の表3において、その発現が経時的に変化し、肝常在性又は末梢血由来細胞由来の肝自己攻撃性CD8+PD-1+T細胞となるルートCD8+T細胞を示す遺伝子を記載する。
【0141】
【0142】
NASH重症度の異なる段階は、肝臓がん発生を予告すると考えられる。実際にNASHにおける異なる段階の線維化(F0~F4)は、Pdcd1、CCL2、IP10、TNFの発現と直接相関し、線維化の程度は、CD4+、PD-1+、及びCD8+T細胞の量と直接相関した(
図3a~c)。その上、PD-1+細胞は、健康な肝臓には存在しないが、NASH又はNASH-HCCでは増加し、線維化の基礎となるレベルは異ならなかった。種特異的作用、例えば肝硬変又は一部のNASH-HCC患者で見出される状態であるburnt-out NASHの欠如、及び免疫療法に及ぼすその可能性がある影響は、前臨床NASHモデルからヒトNASHへの移行を難しくし得る。しかしながら、抗PD-1療法によって処置したNASH誘発性HCCを有する患者からの腫瘍組織では、ウイルス肝炎でHCCを有する患者と比較して数が増加した腫瘍内PD-1+細胞が見出された。このように、共有される遺伝子発現プロファイル及び異常に活性化された肝臓又は末梢血由来CD8+PD-1+T細胞の存在量の増加が、ヒトNASH組織において見出された。
【0143】
[実施例5]
NASH-HCC患者における免疫療法に対する応答の欠如
抗PD-1/抗PD-L1処置後のNASHにおいて免疫監視が破壊されるという考え方を調べるために、進行HCCを有する患者における免疫療法を評価する3つの大規模無作為対照第III相臨床試験のメタ解析を行った(CheckMate-4591; IMbrave1505; KEYNOTE-24010)。免疫療法は、全集団(HR 0.77; 95%CI 0.63~0.94)において生存を改善したが、これは、HBV(n=574; p=0.0008)及びHCV関連HCC患者(n=345; p=0.04)では対照アームと比較して優れていたが、非ウイルス性HCC(n=737; p=0.39)では優れていなかった(
図3e)。肝損傷及びHCCのウイルス性病因(HBV及びHCV感染)を有する患者は、チェックポイント阻害により利益を示したが[HR: 0.64; 95%CI 0.48~0.94]、非ウイルス性の病因を有するHCC患者は利益を示さなかった([HR: 0.92; 95%CI 0.77~1.11];相互作用のp値=0.03(
図3e))。ソラフェニブによって処置した対照アーム(n=1243)と比較した第1選択処置の亜群解析は、免疫療法がHBV関連(n=473; p=0.03)及びHCV関連HCC患者(n=281; p=0.03)において優れているが、非ウイルス性HCC(n=489; p=0.62)では優れていなかったことを確認した。結果は、異なる処置ラインを含む試験のメタ解析に由来し、肝損傷の不均一な性質によりアルコール性肝疾患とNAFLD/NASHの間を識別しなかったことが認められる。それにもかかわらず、このメタ解析の結果は、肝損傷及びそれに続くHCCの病因に従う患者の層別化が、治療に対して好ましい応答を有する患者を同定したという考え方を裏付けた。
【0144】
基礎となる肝疾患に関して抗PD-(L)1免疫療法の効果を具体的に特徴付けるために、HCC患者130人のコホートを調べた(NAFLD患者n=13、他の病因を有する患者n=117)。NAFLDは、免疫療法後により短い全生存期間に関連したが(5.4(95%CI、1.8~9.0)カ月対11.0(95%CI、7.5~14.5)カ月(p=0.023))、NAFLD患者は、大血管腫瘍浸潤がより少なく(23%対49%)、免疫療法は、よりしばしば第1選沢治療として使用された(46%対23%)(
図3f)。肝損傷の重症度、大血管腫瘍浸潤、肝臓外転移、パフォーマンスステータス、及びアルファ-フェトプロテイン(AFP)を含む予後に関連する可能性がある交絡因子に関して補正後、NAFLDはなおも、抗PD-1処置後のHCC患者のより短い生存に独立して関連した(HR 2.6(95%CI、1.2~5.6; p=0.017)。このことを、PD-(L)1標的化免疫療法によって処置したHCC患者118人の更なるコホートにおいて検証した(NAFLD n=11、他の病因を有する患者n=107)。NAFLDは再度、肝損傷の他の病因(中央値OS 17.7カ月、95%CI 8.8~26.5、p=0.034)と比較して、HCC患者の生存の短縮(中央値8.8カ月、95%CI 3.6~12.4)に関連した(
図3g)。両方のコホートにおけるNAFLD患者が比較的少数であることを考慮すると、これらのデータを前向きに検証する必要がある。しかしながら、合わせると、これらの結果は、基礎となるNASHを有する患者が、チェックポイント阻害治療から利益を受けなかったことを示した。
【0145】
肝臓がんは、主に慢性炎症に基づいて発症する。慢性炎症は、免疫療法によって活性化され、肝臓がん患者のサブセットにおいて腫瘍の退縮を誘導することができる。しかしながら、HCCに関する免疫療法に対する応答者のアイデンティティーは、なおも把握が難しい。本明細書のデータは、肝損傷及びがんの非ウイルス病因、すなわちNASHを、免疫チェックポイント阻害剤によって処置した患者における望ましくない転帰の予測因子として同定する。非ウイルス性HCC患者と比較してウイルス誘発性HCC患者における免疫療法に対するより良好な応答は、ウイルス抗原の量若しくは質、又は異なる肝微小環境によるものであり、おそらく免疫監視の障害によるものではない。本発明の結果は、他の臓器部位のがん(例えば、黒色腫、結腸癌、乳がん)に罹患している、及び全身に適用された免疫療法に応答して肝損傷及び肝臓がんの発生のリスクがある、NALFD/NASHを有する肥満患者に関する暗示を有し得る。全体として、個別化がん治療における将来の治験デザインのために、肝損傷及びがんの病因に従うHCC患者の層別化に関する包括的な機序の洞察及び合理的根拠が提供された。
【0146】
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【国際調査報告】