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▶ キエシ・フアルマチエウテイチ・ソチエタ・ペル・アチオニの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-14
(54)【発明の名称】脳損傷のための併用療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20240307BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240307BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240307BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240307BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240307BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20240307BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240307BHJP
   C07K 14/48 20060101ALN20240307BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P25/00
A61P9/10
A61K9/08
A61K47/12
A61K47/20
A61P43/00 121
C07K14/48 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558354
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(85)【翻訳文提出日】2023-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2022057881
(87)【国際公開番号】W WO2022200550
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】21165013.0
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591095465
【氏名又は名称】キエシ・フアルマチエウテイチ・ソチエタ・ペル・アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221578
【弁理士】
【氏名又は名称】林 康次郎
(72)【発明者】
【氏名】インビンボ,ブルーノ ピエトロ
(72)【発明者】
【氏名】ビッレッティ,ジーノ
(72)【発明者】
【氏名】ファッキネッティ,ファブリツィオ
(72)【発明者】
【氏名】ランドゥッチ,エリーザ
(72)【発明者】
【氏名】マンゴ,ダリラ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076CC01
4C076CC11
4C076DD41Z
4C076DD55Z
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA21
4C084CA59
4C084NA05
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA451
4C084ZA452
4C084ZC751
4C084ZC752
4H045AA30
4H045BA09
4H045DA21
4H045EA20
4H045EA21
(57)【要約】
本発明は、脳損傷、特に、限定されないが、低酸素虚血性脳症を含む虚血性および/または低酸素脳傷害の処置および予防における使用のための、併用療法に関し、好ましくは正期産または早産の新生児(neonate)対象における、併用療法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物対象における外傷性脳傷害または虚血性低酸素脳傷害の処置および/または予防に使用するための、配列番号1のポリペプチドと低体温法の併用。
【請求項2】
ポリペプチドが20μg/kgの用量で投与される、請求項1に記載の使用のための併用。
【請求項3】
外傷性脳傷害が低酸素虚血性脳症である、請求項1または2に記載の使用のための併用。
【請求項4】
哺乳動物対象がヒトであり、好ましくは対象が新生児(neonate)または新生児(newborn)対象または早産の新生児(newborn)対象であり、好ましくは新生児(neonate)または新生児(newborn)対象が中程度から重度の低酸素虚血性脳症の影響を受けている、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための併用。
【請求項5】
ポリペプチドが鼻腔内投与されるか、またはポリペプチドが、好ましくは1~30日、好ましくは2~14日の期間、反復して投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための併用。
【請求項6】
ポリペプチドが1日1~7回で反復して投与されるか、またはポリペプチドが一方または両方の鼻孔に投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための併用。
【請求項7】
ポリペプチドが0.01~1.00mg/日の用量で投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための併用。
【請求項8】
ポリペプチドが0.06~0.12mg/日の用量で投与される、請求項7に記載の使用のための併用。
【請求項9】
ポリペプチドが0.06mg/日の用量で投与される、請求項7に記載の使用のための併用。
【請求項10】
ポリペプチドが反復して投与され、各々の用量が0.01~1.00mg/日である、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための併用。
【請求項11】
ポリペプチドの各々の用量が0.06~0.12mg/日である、請求項10に記載の使用のための併用。
【請求項12】
各々の用量が0.06mg/日である、請求項10に記載の使用のための併用。
【請求項13】
ポリペプチドが脳傷害後約1時間~24時間以内に投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための併用。
【請求項14】
前記ポリペプチドが、酢酸緩衝液および/またはメチオニンを含む組成物中に含まれる、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のための併用。
【請求項15】
ポリペプチドが低体温法と同時に投与される、および/または低体温法後24時間以内に投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用のための併用。
【請求項16】
低体温法が低酸素虚血性(HI)傷害後1時間~10時間以内に開始される、好ましくは低体温法が低酸素虚血性(HI)傷害後2時間~8時間以内に開始される、好ましくは低体温法が低酸素虚血性(HI)傷害後4時間~6時間以内に開始される、請求項1~15のいずれか一項に記載の使用のための併用。
【請求項17】
低体温法が低酸素虚血性(HI)傷害後約1~約72時間維持される、請求項1~16のいずれか一項に記載の使用のための併用。
【請求項18】
哺乳動物の体温が約32℃~約36℃の温度で維持される、請求項1~17のいずれか一項に記載の使用のための併用。
【請求項19】
哺乳動物の体温が約32℃~約35℃の温度で維持される、請求項18に記載の使用のための併用。
【請求項20】
ポリペプチドが0.06~0.12mg/日の用量で投与され、哺乳動物の体温が約32℃~約35℃の温度で維持される、請求項1~19のいずれか一項に記載の使用のための併用。
【請求項21】
ポリペプチドが20μg/kgの用量で投与され、哺乳動物の体温が約32℃~約35℃の温度で維持される、請求項1~20のいずれか一項に記載の使用のための併用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳損傷、特に、限定されないが、低酸素虚血性脳症を含む虚血性および/または低酸素脳傷害の処置および予防における使用のための、併用療法に関し、好ましくは正期産または早産の新生児(neonate)対象における、併用療法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経増殖因子(NGFまたはhNGF)は神経活性タンパク質であり、その発見にはノーベル医学賞(1986年、Rita Levi-Montalcini)が与えられた。数十年にわたり、特に慢性/変性疾患において、その治療可能性が広く研究されてきた。近年、組換えヒトNGF(rhNGF)の眼用製剤が、希少な眼疾患である神経栄養性角膜炎の処置のために、EMAおよびFDAにより承認された。中枢神経系(CNS)の急性病変におけるhNGFの神経保護能についての研究は少ない。いくつかの科学出版物では、内因性神経栄養因子の産生不足が、新生児(neonate)低酸素虚血性損傷後に見られる長期的な神経障害の重症度を決定する一因となる可能性があることが示されており(Wang et al., Int J Neurosci 2013; 123: 191-195)、病変の急性期にそれらを投与することが示唆されている(Acta Cir Bras 2017; 32: 270-279, Int J Clin Exp Med 2013; 6: 951-955)。特に、NGF投与は、幼少期に評価される複雑な行動の発達と成熟における欠損を制限する。残念ながら、hNGFには強力な痛覚過敏作用もある(Nat Med 1995; 1: 774-780)。(野生型)NGFは、(a)神経細胞の生存を促進する受容体チロシンキナーゼA(TrkA)および(b)細胞死の制御に関与するp75ニューロトロフィン受容体という2つの別個の受容体に結合することで標的細胞に影響を及ぼすことが知られているため(Mesentier-Louro et al., 2017, Int. J. Mol. Sci., vol. 18(98))、視神経挫滅後の野生型NGFが有するポリペプチド配列もまた、アポトーシスの刺激により網膜変性症を悪化させる効果を有する可能性がある。Mesentier-Louro et al., 2018, Mol. Neurobiol., vol. 56, p. 1056-1069を参照。野生型ヒトNGFの残基R100がNGFのp75への結合に関与し、その残基の変異がp75への結合に影響することもまた知られており、例えば国際公開第2008/006893A1号を参照されたい。野生型NGFとは対照的に、本発明のポリペプチドであるhNGFは、p75に対してより低い結合親和性を有する(例えば、Malerba et al., 2015, PlosOne, 10(9): e0136425を参照)。ヒトNGF P61SR100Eは、CHF6467(配列番号1)とも命名された配列番号1のポリペプチドに対応する。
【0003】
低酸素虚血性脳症(HIE)または新生児仮死は、重篤な神経障害および周産期死亡の主な原因である。西欧および米国において、その発生率は生産児1,000人中1.5~2例と推定され、未熟児での有病率が高い(Pediatr Res 2013; 74, Suppl 1, 50-72)。HIEに続く神経細胞の死滅は、プログラムされた細胞死メカニズムが介在するオートファジーにより、または最も可能性が高いのは、連続したアポトーシス-ネクローシス細胞死により生じ(Ann Neurol 2011; 69: 743-758)、これは興奮毒性グルタミン酸の放出、NMDAおよびAMPA受容体の活性化、細胞内Ca2+過負荷、ミトコンドリア障害、酸化ストレス、カスパーゼ活性化、炎症を含む一連の事象によって引き起こされる(Lancet Neurol 2011; 10: 372-382)。
【0004】
疑うまでもなく、HI傷害後の脳損傷は、複数の寄与するメカニズムと経路を持つ複雑な過程であり、早期損傷と遅延損傷の両方をもたらす(Patel, S. et al. (2014). Biochem. Soc. Trans. 42, 564-568)。したがって、現在の標準的な治療である治療的低体温法に追加すべき新規処置が、神経保護を高めるために緊急に必要とされている(Davidson, J. O., et al., (2015). Front. Neurol. 6.)。さらに、治療的低体温法が重度の低酸素虚血性脳症より中程度の低酸素虚血性脳症に効果的であるという根拠が存在する(Sabir, H., et al., (2012). Stroke 43, 3364-3370)。新生児(neonatal)脳損傷の主な病原性因子の一つは、中枢および末梢免疫系の活性化により誘発される炎症であるとの認識が増え続けている(Hagberg et al., (2015). Nat. Rev. Neurol. 11, 192-208)。免疫応答が数分以内に誘発され、傷害後数週間、さらには数か月間継続し得る(Fleiss et al., 2015 Dev. Med. Child Neurol. 57, 17-28)。低酸素虚血性傷害後のゴールドスタンダード介入である低体温法は、全ての処置された新生児(newborn)において有益ではない(Bainbridge et al., 2012. Brain 136, 90-105)。神経増殖因子(NGF)は、そのシグナル伝達受容体であるtrkAを発現する特定の神経細胞を多様な障害から保護することが示されている(Holtzman et al., 1995 J. Neurosci. 15)。特に、脳の発達においては、NGFが神経細胞以外にも及ぶ神経保護効果を有することを示すデータが存在する(Fodelianaki et al., 2019 Exp. Cell Res. 377)。実際に、NGFは新生児(newborn)低酸素虚血性脳症の動物モデルにおいて神経保護効果を有し、新生児(neonate)の脳を低酸素虚血性傷害から保護する有望な物質であることが以前から示唆されている(Holtzman et al., 1996, Ann. Neurol. 39. doi:10.1002/ana.410390117)。
【0005】
治療的低体温法は、中程度から重篤な低酸素虚血性脳症(HIE)を有する新生児(neonate)における生存率を改善し、かつ神経発達の後遺症を軽減するための標準的な治療である。出生後6時間の治療ウィンドウ内に開始する、選択的な頭部冷却または全身冷却により、約72時間にわたり中心温度を33.5℃にすることにより、HIEを有する新生児(neonate)の生存率と神経学的転帰が改善する(J Pediatr 2015; 91: S78-S83)。複数の低体温治療温度を比較した前臨床研究は比較的少ないが、近年、HIEの新生仔(neonate)ラットモデルにおいて、33.5℃未満の冷却はさらなる神経保護をもたらさないと考えられるため、今後の臨床試験では比較的穏和な冷却を考慮すべきであるという提案がされている(Sci Rep 2016; 6: 23430)。低体温療法は、大きな合併症とは関連しないが、比較的少ない割合のHIEを有する乳児にのみ有益であると考えられる(Int J Mol. Sci 2015; 16: 22368-22401)。具体的には、治療的低体温法を用いた処置は現在、正期産または正期産に近い新生児(newborn)(>1800g)のために確保されており、通常、特定の専門知識と設備を有するリファレンスセンターに限定されている。
【0006】
国際公開第2018087656号は、鼻腔内投与による外傷性脳損傷、特に、外傷性脳傷害または限定されないが、低酸素虚血性脳症を含む虚血性低酸素脳傷害の処置に使用するための、NGFまたはNGF様活性を有する分子を含む医薬組成物に関する。
【0007】
Houら(Chinese Journal of Primary Medicine and Pharmacy 2017;24(3):338-341)は、新生児(neonate)の中等度の重度HIEの処置のために頭部低体温法とマウス神経増殖因子療法を組み合わせると、保護作用が得られることを報告している。上記のとおり、新生児仮死の処置における低体温法の使用は、先行文献に多く記載されている(例えば、Volpe, 2001; Gunn et al, 2000を参照)。しかしながら、現在までのところ、低体温法と変異型NGF、CHF6467の投与が組み合わせて使用され得るという教示や示唆は、当技術分野ではなされていない。また、このような併用療法が、得られた神経保護効果におけるこのような驚くべき予期せぬ増強をもたらし得るという示唆もない。
【0008】
したがって、HIEの処置のための薬剤の必要性が現在も存在する。特に、低体温法の効果を増強することのできる薬剤は、現在の臨床診療にきわめて高い価値を加え得る。
【発明の概要】
【0009】
CHF6467(hNGFp、配列番号1)は野生型ヒト神経成長因子(NGF)と同様の神経栄養活性を有するが、その疼痛感作活性は10倍低い(Cattaneo, A., and Capsoni, S. (2019). Pharmacol. Res. 139. doi:10.1016/j.phrs.2018.10.028.)。
【化1】
【0010】
本発明は、哺乳動物対象における外傷性脳傷害または虚血性低酸素脳傷害の処置および/または予防に使用するための、配列番号1のポリペプチドおよび低体温法の併用を提供する。
【0011】
好ましい実施態様において、ポリペプチドは、20μg/kgの用量で投与される。
【0012】
好ましい実施態様において、外傷性脳傷害は低酸素虚血性脳症である。
【0013】
好ましい実施態様において、哺乳動物対象はヒトであり、好ましくは対象は新生児(neonate)または新生児(newborn)または早産新生児対象であり、好ましくは新生児(neonate)または新生児(newborn)対象は中程度から重度の低酸素虚血性脳症に罹患している。
【0014】
好ましい実施態様において、ポリペプチドは鼻腔内投与されるか、またはポリペプチドは、好ましくは1~30日、好ましくは2~14日の期間、反復して投与される。処置のサイクルの反復もまた、予測される。
【0015】
好ましい実施態様において、ポリペプチドは反復して1~7回/日投与されるか、またはポリペプチドは一方または両方の鼻孔に投与される。
【0016】
好ましい実施態様において、ポリペプチドは0.01~1.00mg/日の用量で、好ましくは0.06~0.12mg/日の用量で、好ましくは0.06mg/日の用量で投与される。
【0017】
好ましくは、0.06mg/日の量は、約3kgの体重の新生児(neonate)または新生児(newborn)に対するものである。
【0018】
好ましい用量は、特に、より体重が重い対象については、3~333μg/kgである。
【0019】
好ましい用量は、約20μg/kg~約40μg/kg、好ましくは20μg/kgである。
【0020】
好ましい実施態様において、ポリペプチドが反復して投与されるとき、ポリペプチドの各用量は0.01~1.00mg/日、好ましくはポリペプチドの各用量は0.06~0.12mg/日、好ましくはポリペプチドの各用量は0.06mg/日である。
【0021】
好ましい実施態様において、ポリペプチドは、脳傷害後1時間~24時間以内に投与される。
【0022】
好ましい実施態様において、ポリペプチドは、酢酸塩緩衝液および/またはメチオニンを含む組成物中に含まれる。
【0023】
好ましい実施態様において、ポリペプチドは、低体温法と同時に、および/または低体温法後24時間以内に投与される。
【0024】
好ましい実施態様において、低体温法は低酸素虚血性(HI)傷害後1時間~10時間以内に開始され、好ましくは、低体温法は低酸素虚血性(HI)傷害後2時間~8時間以内に開始され、好ましくは、低体温法は低酸素虚血性(HI)傷害後4時間~6時間以内に開始される。
【0025】
好ましい実施態様において、低体温法は、低酸素虚血性(HI)傷害後約1時間~約72時間、好ましくは少なくとも約4時間、より好ましくは少なくとも約6時間、より好ましくは少なくとも約12時間維持される。
【0026】
好ましくは、低体温法は出生後、少なくとも約4時間、より好ましくは少なくとも約6時間または12時間維持される。
【0027】
好ましい実施態様において、哺乳動物の体温は約32℃~約36℃の温度で、好ましくは約32℃~約35℃の温度で維持される。
【0028】
本発明の別の態様は:
(a)分娩前および/または分娩中に哺乳動物の母体に治療有効量のCHF6467を投与すること;および
(b)出生後に哺乳動物を低体温法に供すること
による、処置を必要とする哺乳動物における新生児仮死の処置に関する。
【0029】
低体温法は、体温を意図的に維持するのではなく、体温が下がるに任せることによって受動的に生じ得る。新生児は体温が変化しやすいため、急速に周囲の温度になる。あるいは、意図的に環境温度を低下させることで、患者を積極的に低体温にすることもできる。
【0030】
本発明のさらなる態様は:
(a)治療有効量のCHF6467を哺乳動物に投与すること;および
(b)哺乳動物を低体温法または低体温条件に供すること
による、処置を必要とする哺乳動物における新生児仮死の処置に関する。
【0031】
好ましい実施態様において、哺乳動物は、生後4週間内の新生児(newborn)対象である。より好ましくは、哺乳動物は生後2週間内、さらにより好ましくは生後1週間内のものである。
【0032】
好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0033】
本発明の第二の態様についての好ましい実施態様は、第一の態様についての上記実施態様と同様である。
【0034】
本発明の別の態様は、処置を必要とする哺乳動物に低体温法と組み合わせて治療有効量のキセノンを投与することによる、哺乳動物における新生児仮死の処置に関する。
【0035】
本発明のさらに別の態様は、新生児仮死の処置のための医薬の製造におけるCHF6467の使用であって、前記処置がCHF6467を低体温法と組み合わせて同時に、逐次的にまたは別々に対象へ投与することを含むものである、使用に関する。
【0036】
本発明のさらなる態様は、新生児仮死を処置するための、CHF6467と低体温法との組合せの使用に関する。
【0037】
好ましい実施態様において、哺乳動物対象における外傷性脳傷害または虚血性低酸素脳傷害の処置および/または予防における使用のための併用において、ポリペプチドは0.06~0.12mg/日の用量で投与され、哺乳動物の体温は約32℃~約35℃に維持される。
【0038】
好ましい実施態様において、哺乳動物対象における外傷性脳傷害または虚血性低酸素脳傷害の処置および/または予防における使用のための併用において、ポリペプチドは約20μg/kg~40μg/kgの用量で投与され、哺乳動物の体温は約32℃~約35℃の温度で維持される。
【0039】
次の図面および非限定的な例は、範囲を限定することなく、本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】CA1海馬シナプスでのベースライン伝達に対するCHF6467の効果。
図2】CHF6467はOGDにより誘発される低下を回復させた(予防的措置)。正規化されたプールデータは、興奮性シナプス後場電位(fEPSP)に対するOGDの影響、およびOGD中に異なる濃度(0.03および0.1μg/mL)で灌流されたCHF6467の保護効果を示す。
図3】OGDにより誘発されるEPSC低下は、CHF6467灌流により回復する(治療的措置)。パネルAは、OGDのみ(黒丸)およびOGD+CHF6467(白丸)で処置した後の正規化されたEPSCデータの時間経過を示す。ヒストグラムは、OGDのみ、およびOGD+CHF6467で処置した後の最後の10分間の記録における平均の正規化EPSCデータを示す。パネルBは、OGDが存在しないとき、CHF6467はベースライン伝達に全く変化を誘発しないことを示す。
図4】OGDに対するCHF6467と低体温法の相乗効果。15分間のOGDの後の低体温法およびCHF6467灌流の相乗効果を示す、正規化されたプールデータ。
図5】新生児低酸素虚血性脳症のラットモデルの実験プロトコル図。TTC=塩化2,3,5-トリフェニルテトラゾリウム。
図6】10日齢での低酸素虚血性傷害後72時間の幼若ラットにおける、対数変換した脳梗塞体積に対する鼻腔内投与CHF6467(20および40μg/kg)単独、および低体温法との組み合わせの効果。動物の数を各カラム上に示す。
図7】擬似処置した、ビークル処置低酸素虚血性脳症(HIE)、CHF6467、20μg/kgで処置したHIE(HIE+CHF 20μg/ml)、低体温法で処置したHIE(HIE+IPO)、CHF6467および低体温法で処置したHIE(HIE+IPO+CHF)のラットサイトカインおよびケモカインの一群の海馬mRNAレベル。平均±標準誤差(SEM)とともに示した散布図。**p<0.01および*p<0.05対HIE。
図8】擬似処置、低酸素虚血性脳症(HIE)、HIEをCHF6467、20μg/kgで処置(HIE+CHF20μg/ml)、HIEを低体温法で処置(HIE+IPO)、HIEをCHF6467および低体温法で処置(HIE+IPO+CHF)したときのラット集団のサイトカインおよびケモカインの皮質mRNAレベル。平均±標準誤差(SEM)とともに示した散布)。**p<0.01および*p<0.05対HIE。
図9】処置群単位のlog10変換した脳梗塞体積の平均の統計的解析。
図10】SSSHPIFHR(配列番号2)ペプチドの定量により決定した、対照幼若ラットにおける鼻腔内投与後のCHF6467の脳浸透。
図11】低酸素虚血性傷害の幼若ラットにおける鼻腔内投与後のCHF6467の脳浸透。種々のラット脳領域における、CHF6467特異的ペプチド、SSSHPIFHR(配列番号2)(A)およびQAAWEFIR(配列番号3)(B)および非特異的ペプチド、QYFFETK(配列番号4)(C)の軽対重比。
【発明を実施するための形態】
【0041】
発明の詳細な説明
低酸素虚血性脳症(HIE)のインビトロおよびインビボ実験モデルを用いて、CH6467または配列番号1のポリペプチドの神経保護効果を試験した。低酸素虚血性脳損傷の確立されたインビトロモデルである酸素-グルコース欠乏(OGD)させた急性海馬スライスにおいて、CHF6467は異常な興奮性シナプス後電流(EPSC)を有意に抑制した。予期せぬことに、CHF6467と低体温法の併用は異常EPSCを完全に回復させた(図4)。新生児低酸素虚血性脳症の確立されたモデルである、左総頸動脈永久閉塞後に低酸素状態にした新生仔(neonate)ラットにおいて、CHF6467(20および40μg/kg)の鼻腔内投与は、ビークル処置した動物と比較して、脳梗塞体積を有意に減少させた。驚くべきことに、CHF6467と低体温法の併用は、平熱のビークル処置した動物と比較して、脳梗塞体積を86%まで劇的に減少させた。予期せぬことに、CHF6467と低体温法の併用の神経保護効果は、単剤(CHF6467または低体温法)のみのものより極めて高く、相乗効果を示した(図6)。特に、インビボでの好ましい用量(20μg/kg)のCHF6467の効果は、神経保護効果の提供において、低体温法と相乗的であった。CHF6467処置による死亡、臨床的徴候または体重減少は観察されず、CHF6467の寛容性が高いことが示唆された。
【0042】
よって、本発明は、脳損傷、外傷性脳傷害または虚血性低酸素脳傷害、好ましくは低酸素虚血性脳症の処置における、CHF6467と低体温法の併用を提供する。特にCHF6467および低体温法の併用は、下記の実験の部に報告されるとおり、特に適切な投与量が考慮されたとき、低体温法単独と比較して、中程度から重度の低酸素虚血性脳症の乳児および新生児(neonate)において、死亡率および重度の神経発達障害を有意に減少させ得る。
【0043】
さらに、CHF6467単独または低体温法との組み合わせの、低酸素虚血性脳損傷状態にした仔ラットの皮質および海馬に対する一群の神経炎症マーカーもまた、試験した。
【0044】
海馬および前頭頭頂皮質におけるいくつかのサイトカインおよびケモカインのmRNAレベルの、擬似処置のラットと比較した顕著な増加が、低酸素虚血性傷害を受けたラットで測定された。CHF6467(20μg/kg、鼻腔内)は、低酸素虚血性傷害を受けたラットの海馬領域におけるいくつかの神経炎症マーカーの上方調節に有意に対抗したが、低体温法そのものはCHF6467ほど有効ではなかった。皮質において、CHF6467(20μg/kg)そのものは、低酸素虚血性傷害により誘発されたいくつかの神経炎症マーカーの上方調節に対抗するのに効果的であり、このような効果はたいくつかの場合低体温法との組み合わせにより増強された。
【0045】
本明細書で引用される文献(全ての特許、特許出願、科学出版、製造者の仕様書、説明書、発表などを含む)の各々は、上記のものまたは下記のものにかかわらず、その全体の参照により本明細書に包含させる。本明細書のいかなる内容も、本発明が特定の教示に先行する権利がないことを認めるもの、および/または共通の一般知識以外の特定の文献が当業者が実施するのに十分明確かつ完全な情報を含んでいることを認めるものとして解釈されるものではない。
【0046】
表現「および/または」、例えば「Xおよび/またはY」は、「XおよびY」または「XまたはY」を意味すると解されるものとし、かつ「および」、「または」および両方の意味(「および」または「または」)の明確な開示を提供すると考えられるものとする。
【0047】
特に示されない限り、用語「約(about)」、「約(ca.)」および「実質的に」は全て、「およそ」または「ほぼ」を意味し、本明細書に記載される数値または範囲の文脈において、好ましくは、記載または請求される数値または範囲の±10%、より好ましくは±5%を指定する。
【0048】
特に示されない限り、用語「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変化形が、「含む(comprising)」により導入される一覧の要素に加えてさらなる要素が場合により存在してよいことを示すために、本明細書の文脈で使用される。しかしながら、それは用語「含む(comprising)」がさらなる要素が存在しない可能性を包含する、すなわち本実施態様は「含む(comprising)」が「からなる(consisting of)」の意味を有するものとして理解されることが、本発明の特定の実施態様として企図される。
【0049】
特に示されない限り、本発明に関する相対量の表示は重量/重量基準でされる。総称により特徴付けられる成分の相対量の表示は、前記の総称に含まれる全ての特定の変異体またはメンバーの総量を示すことを意味する。総称により定義される特定の成分が特定の相対量で存在し、かつその成分がそのvariantに含まれる特定の変異体またはメンバーであることがさらに特徴付けられるならば、その異体に含まれる成分の総相対量が特定の相対量を超えるように、その異体に含まれる他の変異体またはメンバーが追加的に存在しないことを意味し;より好ましくは、その異体に含まれる特定の変異体またはメンバーが全く存在しないことを意味する。
【0050】
文脈で特に示されない限り、用語、神経増殖因子は野生型NGFのみを示し、配列番号1のポリペプチドを含まない。
【0051】
用語「NGFムテイン」および「NGFのムテイン」、またはNGFについての「そのムテイン」は、本明細書において相互交換可能に使用され、本明細書でさらに詳細に記載されるとおり、野生型NGFと比較して、少なくとも1つの変異により特徴付けられるポリペプチドをいう。配列番号1のポリペプチドはNGFのムテインである。それは任意の種、好ましくは哺乳動物種を指すが、ヒトNGFのムテインが常に好ましい。好ましくは、NGFのムテインは、NGF、特にヒトNGFと80~99.5%の配列同一性を有し、より好ましくは、ムテインは、NGF、特にヒトNGFと90~99%の配列同一性を有する。
【0052】
本明細書で使用される用語「低体温法」とは、受動的または能動的技術により、例えば体温を、好ましくは3~5℃低下させることにより、特定の対象(例えば、新生児(neonate)対象)を低体温条件に供することをいう。好ましい低体温法の温度は、32℃~36℃、好ましくは32℃~35℃、好ましくは32℃または33℃である。
【0053】
本明細書で使用される用語「同時に」は、CHF6467が低体温法と同時に投与されることを意味するために使用されるが、一方で用語「組み合わせて」は、CHF6467が、同時でないならば、CHF6467および低体温法の両方が治療効果を示す時間枠内、すなわちそれらの両方が同一の時間枠で治療的に作用させるために利用可能である時間枠で、その後「逐次的に」投与されることを意味するために使用される。したがって、新生児(neonate)対象を低体温条件に曝露するとき、CHF6467の循環半減期または標的組織滞留時間が、CHF6467が治療有効量で存在するようなものであれば、「逐次的な」投与は、低体温法の前後5分以内、10分以内または数時間以内でもよい。
【0054】
用語「患者」および「対象」は、本明細書において相互交換可能に使用され、特に本明細書に記載の眼障害により特徴付けられる患者/対象について使用される。
【0055】
本発明の内容において、用語「予防する」は広義に理解され、それは脳損傷の予防の開始のみならず、脳損傷の進行の予防も含む。特に、脳損傷および/または脳障害を含む障害の内容において、用語「予防する」はまた、脳損傷のさらなる進行を予防することを含む。
【0056】
本発明の内容において、用語「処置する」は広義に理解され、限定されないが、障害の症状の改善を含む。
【0057】
本発明によれば、「有効量」は単独の用量で、またはさらなる用量と合わせて所望の反応または所望の効果を達成する量または用量である。
【0058】
用語「薬学的に許容される」は、一般に、特定の物質が対象に、場合によりおよび好ましくは薬剤と組み合わせて投与され得て、その薬剤が使用される投与量で耐容できない有害作用を引き起こさないことを示す。
【0059】
用語「薬学的に許容される担体」および「薬学的に許容される賦形剤」は、生理学的に適合可能であり、かつ本明細書に記載の対象への投与に適切であるか、またはこのような投与に干渉しない溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などのいずれか1以上を示すために使用される。このような薬学的に許容される担体は、限定されないが、水、食塩水、リン酸緩衝化食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール、ポリソルベート80等ならびにそれらの組み合わせの1以上を含む。特に液体医薬組成物については、組成物中に等張剤、例えば、糖、マンニトールもしくはソルビトールなどのポリアルコールまたは塩化ナトリウムを含むことが好ましいこともある。
【0060】
薬学的に許容される担体は、薬剤の保存期間や有効性を高める湿潤剤または乳化剤、防腐剤または緩衝液などの補助物質をさらに含み得る。薬学的に許容される担体は、典型的に、本発明による組成物に含まれる。
【0061】
用語「薬学的に活性な薬剤」とは、例えば、疾患または障害の症状の改善に有益である場合に対象への投与に使用され得る薬剤をいう。さらに、「薬学的に活性な薬剤」は、治療有効量で対象に投与されるとき、対象の状態または疾患状態に対して肯定的または有利な効果を有し得る。好ましくは、薬学的に活性な薬剤は治癒的特性を有し、疾患または障害の1以上の症状を改善、緩和、軽減、退行、発症を遅延または重症度を軽減するために投与され得る。薬学的に活性な薬剤は、予防特性を有し得て、疾患の発症遅延またはこのような疾患もしくは病態の重症度の軽減のために使用され得る。例えば、本発明の薬剤は、請求するとおり、嚢胞性線維症の処置のための薬学的な活性成分として考慮される。別の例において、薬学的に活性なタンパク質は、通常タンパク質を発現しないか、または所望のレベルで発現しない、またはタンパク質を正確に発現しない細胞または個体を処置するために使用され得て、例えば、薬学的に活性なタンパク質は、所望のタンパク質を供給することにより、変異または十分に高い発現の欠如を補い得る。用語「薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質」はタンパク質またはポリペプチド全体を含み、その薬学的に活性なフラグメントもまた示し得る。それはまた、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質のアナログを含む。
【0062】
本明細書で使用される用語「対象」および「患者」は、哺乳動物に関する。例えば、本発明の文脈における哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、限定されないが、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマなどを含む家畜動物、限定されないが、マウス、ラット、ウサギなどを含む実験動物、および動物園の動物のような捕獲された動物である。本明細書で使用される用語「対象」および「患者」は特に、ヒトを含む。対象(ヒトまたは動物)二対の染色体を有する;すなわち、対象は二倍体である。用語「患者」とは、ある状態を有する、ある状態を有するリスクがある、ある状態を有している、またはある状態を有すると予想される対象、および治療、例えば薬剤の投与に供され得る対象をいう。患者の状態は、慢性および/または急性であり得る。したがって、「患者」は治療に供されるおよび/または処置を必要とする対象として記載され得る。
【0063】
用語「治療」は広義に理解され、対象における状態を予防または処置するための目標を伴う対象の処置をいう。好ましい実施態様において、治療は、具体的には対象への薬剤の投与を含む。
【0064】
本明細書において「配列番号1のポリペプチド」とも記載される、本発明による薬剤についてより詳細に記載する。用語「配列番号1のポリペプチド」および類似の用語は本明細書において、配列番号1で定義されるアミノ酸配列を含むポリペプチドおよび/または同等の生物学的活性を有する薬剤を示す。したがって、これらの用語の中には、このようなポリペプチドの機能的に等価な部分またはアナログも含まれる。ポリペプチドの生物学的に等価な部分の一例は、配列番号1のポリペプチドのドメインまたは部分配列であって、完全長の配列番号1のポリペプチドと実質的に同じ生物学的活性を発揮することを可能にする結合部位を含むドメインまたは部分配列、またはそのようなポリペプチドをコードする遺伝子を含み得る。用語「実質的に同一の生物活性」とは、実施例1~3に記載のアッセイにおいて、配列番号1のポリペプチドの活性の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%および最も好ましくは少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%を有する等価部分またはアナログポリペプチドをいう。ポリペプチドの生物学的に等価なアナログの一例は、配列番号1のポリペプチドのアミノ酸配列の少なくとも一部を含む融合タンパク質であり得るが、ポリペプチドの相同アナログでもあり得る。また、配列番号1のポリペプチドの特異的な生物活性を模倣する完全な合成分子は、「生物学的に等価なアナログ」を構成すると考えられる。
【0065】
より好ましくは、用語「配列番号1のポリペプチド」および類似の用語は本明細書において、配列番号1で定義されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを示し;このような薬剤は場合により、とりわけ配列番号1で定義されるアミノ酸配列を含む融合タンパク質であってもよい。好ましくは、用語「配列番号1のポリペプチド」および類似の用語は本明細書において、配列番号1で定義されるアミノ酸配列から成るポリペプチドを示し;本実施態様において、薬剤は配列番号1で定義される順序の118個のアミノ酸残基から成るポリペプチドから成る。本実施態様および他の実施態様において、ポリペプチドは、システイン(Cys、C)残基が互いに共有結合して分子内ジスルフィド架橋を形成するように、場合により1個または2個または3個のシステイン結合を有していてよい。システイン結合は好ましくは野生型ヒトNGFにおけるものと同等である。
【0066】
本発明のポリペプチドは、場合により、さらなる翻訳後修飾によって特徴付けられていてよい。このような翻訳後修飾は、場合によりグリコシル化および/またはリン酸化を含んでよい。しかしながら、好ましくは、本発明のポリペプチドは、グリコシル化および/またはリン酸化されていない。実際、本明細書における試験例は、脳損傷、特に外傷性脳傷害または虚血性低酸素性脳傷害(限定されないが、低酸素虚血性脳症を含む)の治癒に対する有益な効果および有益な利益-有害作用の比を示し、それにより使用されたポリペプチドは、典型的に、グリコシル化および/またはリン酸化をもたらさない細菌における細胞質組換え発現によって得られたことを考慮すると、本発明の有益な効果がそのようなタイプの翻訳後修飾に依存しないと考えるのが妥当である。
【0067】
典型的に、本発明によるポリペプチドは、ポリペプチドを投与される対象により自発的に産生されない非天然ポリペプチドである。
【0068】
好ましくは、本発明によるポリペプチドは単離されたポリペプチドである。より好ましくは、本発明によるポリペプチドは本質的に宿主細胞タンパク質、分解生成物(例えば、des-nona変異体)およびプロテアーゼ(例えば、トリプシンなど)を含まない。本発明によるポリペプチドが本質的に宿主細胞タンパク質、分解生成物(例えば、des-nona変異体)およびプロテアーゼ(例えば、トリプシンなど)を含まないとき、それは「純粋なポリペプチド」とも称され得る。好ましくは、本発明によるポリペプチド純粋なポリペプチドとして投与される。より好ましくは、配列番号1から成る純粋なポリペプチドは、組成物中の総タンパク質に対して、90%以上、好ましくは92%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは94%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、より好ましくは99.2%以上、より好ましくは99.4%以上、より好ましくは99.6%以上、より好ましくは99.8%以上、より好ましくは99.9%以上の重量パーセントを有する。最も好ましくは、本発明による純粋なポリペプチドは医薬品適正製造基準(GMP)に適合した純度を有する。
【0069】
配列番号1から成るポリペプチドは、ヒト神経増殖因子(NGF、野生型ヒトNGFまたは野生型NGFとも称される)のアミノ酸配列と2つの箇所が異なる。本発明によるポリペプチドと野生型ポリペプチドの差異は、本明細書で詳細に記載され、かつ本明細書における試験例により支持されるとおり、脳損傷、特に外傷性脳傷害または限定されないが、低酸素虚血性脳症を含む虚血性低酸素脳傷害の処置または予防に顕著な効果を有し、副作用を有さない。
【0070】
ヒトNGFのいくつかの変異体(hNGF変異体)の中で、変異体ヒトNGF P61SR100Eは、脳損傷の処置に最も有望であると考えられる。しかしながら、本発明による処置および/または予防の具体的な使用は、それらの文献により示されておらず、それらの文献はまた、それぞれのポリペプチドがヒトにおけるその医学的使用を可能にするのに十分な高純度で利用可能であることを示していない。したがって、本明細書において記載され、提供される本発明による使用のためのポリペプチドは、野生型ヒトNGFを上回る、いくつかの予期しない利点を提供する。本発明による薬剤の投与は、脳梗塞体積の減少を引き起こし(例えば、実施例2を参照)、かつ前記投与は痛みを伴わない。
【0071】
配列番号1のポリペプチドは天然に存在せず、非天然ポリペプチドとも称され得る。本発明による薬剤は、野生型NGFではなく、特に野生型ヒトNGFではない。
【0072】
好ましくは、本発明による非天然ポリペプチドは、高純度で提供される。場合により、ポリペプチドは水性媒体に可溶であってもよい。
【0073】
好ましくは、処置および/または予防はポリペプチドを投与されているまたは投与された対象において副作用または有害作用をもたらさない。好ましくは、本発明のポリペプチドの投与は、哺乳動物対象においてあらゆる望ましくない作用を引き起こさない。
【0074】
本文脈において好ましくは存在しないある副作用または有害作用は、痛覚過敏または疼痛である。本発明による処置および/または予防は哺乳動物対象において痛覚過敏をもたらさないことが特に好ましい。したがって、好ましくは、本発明の薬剤の投与は、あらゆる痛覚過敏反応症候群(疼痛)を誘発しない。
【0075】
痛みがないことは、単に、疼痛を伴う参照化合物(野生型NGFなど)の投与よりも心地よい(または不快感が少ない)処置をもたらすだけではなく、脳損傷、特に外傷性脳傷害または限定されないが、低酸素虚血性脳症それ自体を含む虚血性低酸素脳傷害の処置または予防の成功に少なくとも一部、因果関係があることに注目することが重要である。本発明によるポリペプチドが好ましくは鼻腔投与されることを考慮すると、疼痛がないことにより、対象は、疼痛を避けるためにポリペプチドをこすり取ったり、洗い流したり、または他の方法で除去するなどの有害な反応なしにポリペプチドの投与を受け入れることができ、その結果、ポリペプチドは、脳損傷、特に、限定されないが、低酸素虚血性脳症を含む虚血性脳傷害の処置または予防などの治療上有益な効果を発揮する。したがって、本発明のポリペプチドに関連する疼痛を伴わないことは、消費者の介護者の躊躇や規制当局の懸念を克服するのに適している。換言すると、痛みを伴わないことは、痛みを伴う薬剤と比較して、利益-リスク比の大幅な増加に関連する。
【0076】
特に、好ましくは、処置および/または予防は哺乳動物対象において痛覚過敏をもたらさない。ある実施態様において、本発明のポリペプチドを投与される対象は、機械的な異痛を有さない。より詳細には、機械的な異痛はポリペプチドを投与される対象において誘発されず、その結果、ポリペプチドを投与される対象は、機械的な異痛を有さない。
【0077】
典型的には、本発明の薬剤の投与対象により十分に許容される。特に、好ましくは、本発明によるポリペプチドの投与は、対象における薬物を中和する抗薬物抗体の形成に関連しない。実際に、本発明によるポリペプチドのアミノ酸配列は野生型ヒトNGFとアミノ酸の位置が2箇所しか異ならないため、ヒトにおける免疫学的寛容性は特に有利であると考えるのが妥当であり、本発明のポリペプチドの投与がヒトにおける抗薬物抗体の形成と関連しないことと考えるのが妥当である。
【0078】
好ましくは、本発明による投与は、次の1以上に肯定的な影響を与える:炎症、神経支配および血管形成。
【0079】
本発明による病態は、一般に、神経細胞間結合の機械的および/または病理学的破壊(例えば、変性)、およびそのような破壊により影響を受けた部位の神経細胞、膠細胞、および場合により血管組織の死滅によって特徴付けられる。本発明による病態または状態の非限定的な例は、中枢神経系に関与する外傷性事象、例えば脳損傷または外傷性脳損傷(TBI)またはそれらに関連する病態/状態、またはこれらに直接的に由来する病態/状態、例えば低酸素性/虚血性脳損傷(HIBI)または好ましくは特に新生児(neonate)患者における低酸素虚血性脳症(HIE)、小児脳性麻痺、または機械的外傷または低酸素/虚血脳症によって引き起こされるその他の病態/状態により構成される。
【0080】
低酸素性/虚血性脳症(原発性または二次的損傷)、出生時損傷、小児脳性麻痺、脳動脈瘤破裂、脳動静脈奇形および脳静脈洞血栓症を含む様々なタイプの脳虚血により引き起こされる脳損傷などの損傷もまた、含まれる。
【0081】
本発明によれば、血管/循環系の変化により引き起こされる病態は、例えば、外傷性傷害;出血性傷害;アテローム動脈硬化性傷害;心原性傷害;高血圧性傷害を含む低酸素虚血性症候群を含む。
【0082】
本発明によれば、真菌、細菌、ウイルス、プリオンまたはその他の病因にかかわらず、髄膜炎/脳炎などの感染性原因による炎症性損傷により引き起こされる病態が対象となる。
【0083】
小児レベルでは、このような病態は、例えば、胎児および/または新生児低酸素症/仮死;頭部大外傷;急性脳出血、中毒症(一酸化炭素、シアン化物);脳静脈洞血栓症;凝固因子欠乏症;または遺伝子疾患も含む疾患。
【0084】
本発明によれば、配列番号1のポリペプチドは、そのような投与を必要とする対象に投与され得る。そのような投与を必要とする対象は、本明細書に記載の障害を有する対象、そのような障害を有する危険のある対象、またはそうでなければそのような障害に苦しんでいる対象であり得る。薬剤は、治療有効量で対象に投与される。治療有効量は本明細書の開示に照らして、医師により決定され得る。
【0085】
特に、本発明によるポリペプチドは哺乳動物対象に投与される。対象は、「患者」とも称され得る。最も好ましくは、哺乳動物対象はヒトである。
【0086】
対象は出産時から12週齢までの子として定義される新生児(newborn)であり得るが、新生児(neonate)は出産時から4週齢までの子として定義される。新生児(newborn)および新生児(neonate)の処置が、本発明において考慮される。未熟児とは、妊娠満期より前に生まれた子をいい、早産児とは、妊娠満期の3週間以上前に生まれた子をいう。
【0087】
本発明の文脈において、例えば脳梗塞の(部分的な)減少または状態もしくは障害の他の改善もしくは改善などの予防が、ここで請求される本発明の好ましい不可欠な部分であることが好ましく、また本明細書に記載の試験例においても示される。実際、請求された治療的効果を達成することは、本発明の機能的な技術的特徴である。本明細書の実施例は、前記機能的な技術的特徴が本発明のポリペプチドの投与の直接的結果として達成可能であることを説得力のあるものとしている。換言すると、本発明者らは、本発明のポリペプチドが、特に低体温法との組み合わせで、脳損傷を有する対象おいて改善を達成するための要因であることを特定した。脳損傷は好ましくは、脳損傷および/または脳障害もしくは脳機能不全により特徴付けられる。
【0088】
特に、脳への投与は、鼻腔の独特な解剖学的関係性と機能を利用して実施され得る。前鼻腔上部の篩板領域に適用される治療物質(生物学的製剤を含む)が、嗅神経を頭蓋から鼻腔に通す穿孔を介して中枢神経系に到達できることは、長い間認識されている。さらに、神経組織により取り込まれ、軸索投射に沿って輸送される薬物については、嗅神経そのものおよびそれに関連するもの、三叉神経の鼻枝を経由する補助的な経路が存在し、それにより治療上適切な濃度の薬物が脳の多くの領域に到達し得る。
【0089】
本発明の場合、鼻腔内投与は、好ましくは鼻粘膜を介して薬物を吸収するように作用する局所投与に適切なデバイスにより、好ましくは10~50マイクロメートルの直径を有する微粒子製剤により実施される。
【0090】
本発明の組成物の鼻腔内投与に適切なデバイスの例は、MAD(粘膜アトマイザーデバイス)型のデバイスにより、または同様の仕組みで作動し、かつ商業的に入手可能なデバイスにより構成される。MADをシリンジに装着することで、薬物全体の霧化が可能となり、鼻粘膜での最適な吸収が保証され、外部環境や肺構造への拡散を最小限に低減される。その構造により、MADは使用が容易であり、極めて効果的なデバイスとなっている。
【0091】
MADデバイスによる本発明のポリペプチドの鼻腔内投与は、この有効成分をCNSレベルでアクセスできるようにする有効で利用しやすい方法である。
【0092】
したがって、本明細書に記載の組成物を充填したデバイスは、嗅経路および/または神経末端を通して脳実質へ向かって運ぶことを目的として、鼻粘膜および嗅上皮に本発明のポリペプチドを投与するために使用され得る。したがって、薬物と組み合わせたデバイスは、脳における神経細胞再生を誘発する目的で、例えば、低酸素虚血性脳損傷または疾患の結果を処置し、現在薬理学的に処置できない病態や状態を処置するために、診療で使用され得る。本明細書に記載の組成物は、1日1回以上で投与され得て、その総量は患者一人あたり、0.01~1.00mg/日の範囲のである。
【0093】
一般に、本発明によるポリペプチドは反復的に、または単回投与で投与される。
【0094】
ある実施態様において、ポリペプチドは単回投与で投与される。その実施態様において、ポリペプチドは単回投与で投与され、その単回投与の後、投与は継続されない。
【0095】
別の実施態様において、ポリペプチドは、1、2または3~30日間、好ましくは7~14日間、反復的に投与される。適切な休薬期間の後の最大30日間の反復投与もまた、慢性的に進行するまたは再発性の病態の処置を可能にするために想定される。
【0096】
ある実施態様において、ポリペプチドは反復的に投与される。ある実施態様において、ポリペプチドは、例えば脳損傷が完全に治癒するまで、または少なくとも傷害の症状の改善が観測されるまで、反復的に投与される。あるいは、ポリペプチドは3~30日、好ましくは7~14日の期間、反復的に投与される。場合により、前記期間の後、投与は継続されない。特に好ましい実施態様において、ポリペプチドは少なくとも1日3回、反復的に投与される。
【0097】
好ましくは、ポリペプチドは脳損傷後に投与される。あるいは、ポリペプチドは、脳損傷が予想されるまたは脳損傷の可能性がある(神経外科的介入または炎症性脳疾患の発症など)状況下で予防的に使用され得る。
【0098】
好ましくは、ポリペプチドは、脳細胞死の程度を最小限にするために、脳損傷の診断後、可能な限りすぐに投与される。「可能な限りすぐに」は、脳損傷または傷害の診断後1日以内の実施態様を含む。しかしながら、ポリペプチドは脳損傷の発生から数日後に投与しても神経保護効果がある。好ましくは、ポリペプチドは脳損傷の誘発から少なくとも3日後に投与される。
【0099】
本明細書に記載の薬剤および組成物は有効量で投与される。特定の障害の処置の場合、所望の反応は、好ましくは疾患の経過の阻害に関連する。これは疾患の進行を遅延させること、および好ましくは、疾患の進行を阻害または退行させることを含む。疾患または状態の処置に対する所望の反応はまた、前記疾患もしくは状態の発症の遅延または予防を含み得る。いくつかの実施態様において、所望の反応は、障害の症状を局所的および/または全身的に完全治癒させることを含む。
【0100】
本明細書に記載の薬剤または組成物の有効量は、処置される状態または障害、障害の重篤度、薬剤を投与される対象の個々のパラメータ、例えば年齢、生理学的条件、付随する状態(存在するならば)、体格および体重、処置期間、付随する治療の種類(存在するならば)、特定の投与経路ならびに他のパラメータに依存する。したがって、本明細書に記載の薬剤の投与量は、このようなパラメータに応じて変化する。初期用量への患者における反応が不十分である場合、より高用量(または別の、より局所的な投与経路により達成される、効果的な高用量)が使用され得る。
【0101】
本発明によれば、脳損傷、特に外傷性脳傷害、または限定されないが、低酸素虚血性脳症を含む虚血性低酸素脳傷害の処置および/または予防のために、ヒト対象に投与するための治療剤の適切かつ治療上有効な投与量は、脳損傷、特に外傷性脳傷害、または限定されないが、低酸素虚血性脳症を含む虚血性低酸素脳傷害の処置および/または予防のために、齧歯類対象、特にマウスに投与するための治療剤の適切かつ治療上有効な投与量に基づいて決定され得る。
【0102】
動物モデル(実施例2および3)は、薬理学的応答の確立および処置剤の潜在的な毒性の評価に有用である。いくつかの実施態様において、対象に投与される用量は、実施例2または実施例3に記載の用量である。
【0103】
好ましくは、ポリペプチドの用量は処置開始時または処置開始前に決定される。ある実施態様において、用量は、処置される状態の進行に応じて、後の投与のために調整される。別の実施態様において、用量は後の投与のために調整されず、その結果、後の投与量は最初の用量と対応する。
【0104】
ポリペプチドは、鼻腔投与および全身投与の両方で活性である。経鼻投与については、対象あたりの好ましい用量/各用量は、鼻孔あたり0.10~1.00mg/日、好ましくは0.06~0.12mg/日の量のポリペプチド、さらに好ましくは鼻孔あたり約0.06mg/日の量のポリペプチドを有する。これらの用量は、受容者の嗜好、耐容量および鼻孔へのアクセスなどに応じて、片側の鼻孔へまたは両鼻孔へ別々に投与され得る。最も好ましくは、これらの示された投与量は特に、ヒトへの投与のためのものである。
【0105】
以下において、本発明のポリペプチドを含む組成物を記載する。このような組成物は、それ自体、脳損傷、特に外傷性脳傷害、または限定されないが、低酸素虚血性脳症を含む虚血性低酸素脳傷害の予防および/または処置における使用の特定の文脈においても、本発明の一部である。したがって、本発明は、そのような組成物の医学的使用に関する。
【0106】
本発明による組成物において、配列番号1のポリペプチドは、活性成分として含まれる。さらなる成分が含まれていてもよい。
【0107】
ある実施態様において、ポリペプチドは、水性媒体中に含まれる。前記水性媒体は、哺乳動物対象への投与のためのものである。
【0108】
本発明による使用のための特定の水性組成物は、鼻腔内使用に適切な液体組成物である。製剤は、濃度2mg/mL、20mM 酢酸緩衝液、20mM メチオニン、pH 5.5を有する。それは0.9%食塩水に溶解され、好ましくは20μg/kgまたは40μg/kg(総体積4μL、2μL/鼻孔)の用量を、各鼻孔に交互に、好ましくは1~5分、好ましくは2分の投与間隔で鼻腔内送達され得る。このような組成物を製造する方法は当技術分野で既知である。
【0109】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の配列番号1のポリペプチドは、さらなる1以上の担体および/または1以上の賦形剤を含む組成物、例えば液体組成物中に含まれる。本明細書で使用される用語「担体」とは、活性成分の適用を可能にする、強化する、例えば簡易化するために、活性成分とともに組み合わせられる、天然もしくは合成の有機または無機成分をいう。本明細書で使用される用語「賦形剤」は、本発明の医薬組成物中に存在し得て、かつ活性成分そのものではない全ての物質を示すことが意図される。
【0110】
好ましくは、本発明の組成物は、賦形剤として少なくとも水を含む。いくつかの実施態様において、本発明の組成物は水性媒体を含み、より好ましくは、本発明の組成物は水溶液の形態である。ある実施態様において、ポリペプチドは水性媒体中に含まれ、水性媒体は哺乳動物対象に投与される。水性媒体は、例えば水溶液である。
【0111】
したがって、本明細書に記載の配列番号1のポリペプチドは、組成物、例えば医薬組成物中に存在し得る。本明細書に記載の組成物は、好ましくは無菌であり、好ましくは薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質として配列番号1のポリペプチドを含み、場合により本明細書に記載されるまたは記載されていないさらなる薬剤を含んでよい。組成物は任意の状態、例えば液体、凍結、凍結乾燥などであり得る。
【0112】
本明細書に記載の組成物は、塩、緩衝液物質、防腐剤、担体、希釈剤および/または賦形剤を含み得て、これらの全ては、好ましくは薬学的に許容されるものである。用語「薬学的に許容される」とは、非毒性のおよび/または医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない物質を示す。
【0113】
本発明において使用される適切な緩衝物質は、20mM 酢酸緩衝液を含む。
【0114】
本発明による組成物(製剤)は、限定されないが、1以上の次の実施態様により保護される:
- 第一の実施態様:上記製剤は-70℃または-20℃(データは示していない)で凍結保存され、投与前に解凍され得る。
- 第二の実施態様:上記製剤は、好ましくは+2~+8℃の温度範囲の冷蔵庫で保存され得る(データは示していない)。
- 第三の実施態様:上記製剤は、乾燥または凍結乾燥に供された後、例えば室温または2~8℃で保管され得る(データは示していない)。それは投与前に再構成され得る。
【0115】
本発明による組成物における使用のための適切な防腐剤は当分野において既知のものを含み、とりわけ、例示のためであり限定されないが、ベンジルアルコール、ベンザルコニウムおよびその塩、m-クレゾール、フェノール、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールがある。これらおよび他の防腐剤は、場合により、本発明による組成物に含まれていてよい。
【0116】
したがって、本発明は、治療的使用のための、すなわち治療によりヒトまたは動物の身体を処置する方法における使用のための、配列番号1のポリペプチドを提供する。治療は、状態の予防および/または処置を含み得る。治療的使用の可能性の観点において、前記ポリペプチドは、薬学的に活性なタンパク質またはペプチドとも称され得る。
【0117】
場合により、本発明による投与は、例えば炎症、浮腫/腫脹、頭蓋内圧の上昇、感染、発作、疼痛、精神的後遺症に対抗することを意図した薬剤など、少なくとも別の治療剤の投与を伴ってよい。他の治療剤は、本発明によるポリペプチドを含む組成物の一部であり得るか、あるいは、同一のまたは異なる部位へ、同一のまたは異なる投与経路により、対象に別々に投与され得る。
【0118】
担体は等張溶液、場合により緩衝化された溶液、例えば食塩水溶液またはリン酸緩衝液であり得て、必要ならば、鼻腔内投与のための組成物の製剤に適切な防腐剤または他の適切な賦形剤を含む。
【0119】
投与は、患者の必要性に応じて、例えば1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、1日5回、1日6回、1日7回またはそれ以上実施され得て、各回の用量は、上記のとおり0.01~1.00mg/日のCHF6467であり得る。
【0120】
ある実施態様において、例えば、組成物は、各投与あたり0.02~0.04mgのCHF6467の用量で、1日2~4回、例えば、1日3回、投与され得る。
【0121】
例えば、組成物は投与一回あたり、0.02mgのCHF6467および/またはNGF様作用を有する分子の用量で投与され得る。
【0122】
組成物は、1以上の治療サイクルに対して上記方法および用量のいずれかで投与され得る。
【0123】
このような治療サイクルは例えば、1日~2週間継続され得る。
【0124】
例として、医薬組成物は、予め調整された数(例えば、10~20の任意の数)の分割量の形で提供され得て、その各々は、非限定的な例として、0.5~2.0mgのCHF6467が希釈された1mlの生理学的溶液または他のいずれかの適切な担体を含む。このような分割量は、小瓶に含まれ得るか、または特に使いやすい実施形態では、MADデバイスに接続するのに適切な予充填(pre-dosed)シリンジにもまた含まれ得る。分割量の実施態様は、0.01~1.00mg/日の用量のCHF6467を投与することが可能となるように提供される。可能性のある実施態様により、本発明の組成物は、例えば、1mgのCHF6467を含む1mlの分割量を含み、このタイプの製剤は、10kg程度の体重の小児に対して特に適切である。あるいは、組成物は、例えば20kg程度の体重の小児などのために、2mgのCHF6467を含む適切な担体の、1mlの分割量を含む。本明細書で助言される用量の知識において、体重範囲により医薬組成物の適切な分割量を調製することは、当業者にとって容易に実施される。
【0125】
血液脳関門をバイパスして脳へ薬物を運ぶ目的で薬物を経鼻投与する可能性は、10年以上前に既に提案され、現在、いくつかのタイプの鎮静薬や麻酔薬の投与に用いられており、鼻腔内投与により用量を低減し、かつ制限することが可能であり、したがって副作用の可能性も低減することが可能である。
【0126】
さらなる実施態様により、前記1以上の分割量は、小児への投与または成人への投与用に予め調整され得て、適切な量のCHF6467を含む体重範囲ごとの単回用量にさらに分割され得る。
【0127】
別の実施態様において、前記1以上の分割量は、複数回用量の分割量、例えば、「一日」または「一週間」の分割量であり、患者の体重に基づいて適切な用量にさらに分割され得る。
【0128】
上記のとおり既に、ある実施態様により、組成物の投与のための前記1以上のデバイスは、MAD(粘膜アトマイザーデバイス)型のデバイスであり得る。
【0129】
非限定的な例として、CHF6467は、キットの形態であり得る。本発明のキットは、多くの予め調整された数(例えば、10~20の任意の数)の分割量で提供され得て、その各々は、非限定的な例として、0.01~1.00mgのCHF6467が希釈された1mlの生理学的溶液を含み、予充填シリンジについては、0.01~1.00mg/対象または3~333μg/kgのCHF6467を投与することが可能である。このような分割量は、場合によりポリペプチドの鼻腔内投与のためのMADデバイスを既に備えた無菌シリンジ中に既に含まれていることがある。可能性のある実施態様により、本発明のキットは、例えば、3kg程度の体重の新生児(neonate)のための0.01~1mgのCHF6467を含むシリンジを10個含み得る。本明細書で報告される用量の知識において、体重範囲について適切な医薬キットを調整することは、当業者により容易に実施される。このような方法で、脳のセロトニン作動性およびコリン作動性領域の大部分に存在するNGFの脳内受容体(TrkAおよびp75)を刺激することができる適切な量のCHF6467の鼻腔内投与を保護することが可能である。さらに、この種類のキットは、CHF6467の鼻腔内投与を自宅で、新生児(neonate)の親により実施することを可能にし(方法の簡易性と安全性を考慮すると)、新生児(neonate)のクオリティ・オブ・ライフを顕著に改善する。
【0130】
さらに、本発明の組成物、キットおよび方法は、大きな頭部外傷によって引き起こされる神経学的欠損を有する患者(小児または新生児年齢の患者を含む)のみならず、出生時損傷によりもたらされた低酸素虚血性脳症により引き起こされた脳損傷により影響を受けている全ての小児、および小児脳性麻痺および様々な性質の二次的脳損傷および脳虚血(例えば、脳動脈瘤破裂、脳動静脈奇形および脳静脈洞血栓症)に一般に影響を受けている患者にも使用され得る。
【0131】
本発明の別の好ましい実施態様において、新生児は、CHF6467を用いた処置の前に、低体温法に供される。
【0132】
ある好ましい実施態様において、CHF6467は、逐次的に低体温法とともに投与される。
【0133】
ある好ましい実施態様において、CHF6467は、低体温法の前または後に逐次的に投与される。
【0134】
好ましい実施態様において、CHF6467は低体温法と同時に投与され、本発明のある好ましい実施態様において、CHF6467は治療有効量で投与される。
【0135】
別の好ましい実施態様において、CHF6467は、治療有効量以下で投与される。
【0136】
換言すると、CHF6467は、低体温条件なしに投与されたならば所望の治療効果を与えるのに不十分な量で投与される。
【0137】
さらにより好ましくは、CHF6467と低体温法の併用は相乗効果を有する。すなわち、併用は相乗的である。
【0138】
ある特に好ましい実施態様において、CHF6467は、低酸素性/虚血性傷害そのものの前に、またはそうでなければ、生じたと疑われる低酸素性/虚血性傷害の確定診断前に投与される。このように、ある好ましい実施態様において、CHF6467は、出生前に母親を介して、例えば分娩前または分娩中に母親に投与することにより、新生児(neonate)に投与される。
【0139】
好ましくは、CHF6467は、出生の最大約48時間または24時間前まで、より好ましくは出生の最大約12時間前、より好ましくは出生の最大約6時間または3時間または1時間前に投与される。出生後、新生児(neonate)は低体温条件に供される。
【0140】
別の好ましい実施態様において、CHF6467はが、臨床的に影響の大きな低酸素性/虚血性傷害が生じ得ることが疑われるという臨床的な理由があるが、診断が確定する前である、出生直後に新生児(neonate)または新生児(newborn)に投与される。この状況は、他の重要な臨床活動や介入を妨げることなく、CHF6467が迅速かつ容易に投与され得ることにより促進される。
【実施例
【0141】
実施例1:酸素-グルコース欠乏(OGD)させた急性海馬スライス
方法
C57Bl6/Jマウス(30~50日齢)を断頭して屠殺し、脳を速やかに摘出し、氷冷した酸素添加(95% O-5% CO)人工CSF(aCSF)(0℃)に入れた。傍矢状海馬スライス(250~350μM)をビブラトームで切断し、aCSF中、室温で1時間回復させた。単一のスライスをナイロンメッシュ上に置き、記録チャンバーに完全に浸し、酸素を連続的に供給したaCSFで灌流した(3mL/分、約30℃)。細胞外電場記録は、シェファー側枝線維に設置した双極性電極を用いて行い、放射層のCA1領域に設置したaCSFで満たされたガラス微小電極で記録した興奮性シナプス後場電位(fEPSP)を誘発した。全細胞パッチクランプ記録法を用いて、本発明者らは、OGDにより変化した単一ニューロンパラメータに対するCHF6467の神経保護効果を評価した。具体的には、本発明者らは、自発的な興奮性シナプス後電位(sEPSC)および膜電位(Vm)を測定した。本発明者らはまた、興奮性シナプス後電流(EPSC)を記録するOGD中およびOGD後のCHF6467の神経保護作用の時間ウィンドウを評価した。インビトロ酸素/グルコース欠乏(OGD)は、グルコースを含まないCSFでスライスを灌流し、95% N-5% COでガス置換することで達成した。OGD後、スライスをグルコースと酸素を含むCSFで再灌流した。低体温法はグルコースを含み、酸素化された(95% O-5% CO)aCSF(+4℃)でスライスを灌流することで達成した。
【0142】
結果
本発明者らは、OGDに曝露したマウス急性海馬スライスにおいて、CHF6467と低体温療法の単独または組み合わせの神経保護効果を試験した。
【0143】
初めに、海馬の基底神経伝達に対するCHF6467の効果を試験した。本発明者らは、対照条件で20分間fEPSCの試験記録を実施し、その後、種々の濃度(0.001~0.1μg/mL)で15分間、浴液にCHF6467を添加した。CHF6467は、0.1μg/mLの濃度でfEPSCの振幅を増加させることができた(図1)。
【0144】
正常な酸素状態に戻った際にシナプス機能を回復するための海馬スライスの能力は、OGDの期間に依存する。本発明者らの試験条件において、10分間のODGを適用すると不可逆性のfEPSP低下が誘発された(データは示していない)。OGD中にCHF6467を浴液に適用することで、対照条件で観察されたfEPSP低下が回復した。OGD中にCHF6467で処理したスライスは、fEPSP振幅の完全な回復を示した(図2)。
【0145】
インビトロモデルにおける治療ウィンドウを検討するために、単一ニューロンに対するCHF6467の神経保護効果を評価する全細胞パッチクランプ法の試験を実施した。本発明者らは、OGDの15分後に不可逆的に減少した誘発された興奮性シナプス後電位(EPSC)を記録した。本発明者らは、OGD後にCHF6467が適用されたとき、その神経保護効果を観察したが(図3A)、一方で、CHF6467が通常の条件下で適用されたとき、基底神経伝達に変化はなかった(図3B)。
【0146】
現在のところHIEに対して承認されている唯一の治療法であるCHF6467と低体温法との間の相乗効果の可能性を検討するために、本発明者らは、OGD後にCHF6467と低体温法を適用する試験を実施した。本発明者らの試験条件において、低体温法は、OGDにより誘発されたEPSCの減少を一部回復することができた(図4)。低体温法中にCHF6467を共適用することにより、EPSCの減少を完全に回復させることができた(図4)。
【0147】
CHF6467のインビトロおよびインビボ用量ならびに投与プロトコルは、潜在的な臨床適用を支持するための用量-応答試験で選択した。インビトロでの神経細胞損傷の最大減衰は、0.03μMのCHF6467で観察された。驚くべきことに、インビトロでのCHF6467の神経保護効果は4℃の低体温法により劇的に増強され、神経細胞の電気生理学的損傷をほぼ完全に回復させるまでに至った。
【0148】
全体として、本電気生理学的データは、虚血により誘発されるいくつかの機能変化に対するCHF6467の神経保護能を支持する。
【0149】
CHF6467が虚血介在性の興奮毒性から保護することを示す、これらのインビトロの結果(データは示していない)を考慮すると、いかなる理論にも縛られないが、CHF6467は、低体温法との組み合わせで、脳損傷または外傷性脳傷害または限定されないが、低酸素虚血性脳症を含む虚血性低酸素脳傷害の処置のための、潜在的な神経保護療法として役立つ可能性がある。
【0150】
実施例2:新生児低酸素虚血性脳症のラットモデル
方法
動物。試験および動物の使用方法は、国立衛生研究所のGuide for the Care and Use of Laboratory Animals(NIH出版番号80-23、1996年改訂)に従った。試験プロトコルは、European Convention for the Protection of Vertebrate Animals used for Experimental and Other Scientific Purposes (ETS no. 123)および1986年11月24日のEuropean Communities Council Directive(86/609/EEC)に従って、フィレンツェ大学健康科学部、動物実験委員会により承認された。使用される動物の数およびそれらの苦痛を最小限にするための全ての努力が成された。
【0151】
手順。Rice-Vannucciモデル(Ann Neurol 1981; 9: 131-141)に従い、生後7日のWistarラット(ハーラン、MI、イタリア)で外科手術を実施した。簡潔には、仔ラットを酸素:一酸化窒素(1:1)中のイソフルランガス(誘発、4%;維持、1%)で麻酔した。正中線を切開し、4-0シルクを用いて左総頸動脈を結紮した。手術後、全ての仔ラットを、回復と授乳のために1.5時間雌親のもとへ戻した。その後、仔ラットを、一部水浴に浸された、周囲を囲まれた通気性のあるプレキシグラス製チャンバー(W20、D20、H17)に入れ、加温、加湿された気体(8% 酸素 92% 窒素)に120分間曝露させた。損傷後、仔マウスを1時間雌親のもとへ戻し、その後正常体温(37℃)または低体温(32℃)のチャンバーに4時間入れた。CHF6467を、以前の実験で十分に耐容性が示された20μg/kgの用量で、低酸素状態の直後および24時間後に鼻腔内投与した。その後、全ての仔ラットをそれらの雌親とともに維持し、72時間後にイソフルラン麻酔下で断頭により屠殺した。梗塞面積と体積を測定するため、厚さ1mmの冠状切片をブレードで切り、2% 塩化2,3,5-トリフェニル-テトラゾリウム(TTC)中、37℃で20分間インキュベートし、その後、4% パラホルムアルデヒドで24時間固定した。コンピューター画像解析システム(Image-Pro Plus 3.0, シルバースプリング、メリーランド州、米国)を使用して梗塞面積を測定した。梗塞体積を、以前に記載したとおりに測定した(Ann Neurol 1981; 9: 131-141)。
【0152】
CHF6467鼻腔内製剤および投与。低酸素状態の終了後、ラットを仰臥位に置いた。CHF6467(バッチ番号NGF183704-TR1、濃度2mg/mL、20mM 酢酸緩衝液、20mM メチオニン、pH 5.5)を0.9% 食塩水に溶解し、20μg/kg(総体積4μL、2μL/鼻孔)の用量で、投与間隔2分で各鼻孔に交互に鼻腔内送達した。
【0153】
統計分析。データを、試験の平均±SEMとして示す。ヨウ化プロピジウム蛍光強度またはTTC染色間の差の統計的有意性を、二元配置分散分析、多重比較のためのホルム-シダック検定を用いて分析した。全ての統計計算は、SigmaPlot(バージョン11.0)を用いて実施した。確率値(P)<0.05を有意であるとみなした。
【0154】
結果
本発明者らは、新生児低酸素虚血性脳症(HIE)のラットモデル(Rice-Vannucciモデル;Ann Neurol 1981; 9: 131-141)におけるCHF6467単独または低体温法との組合せの神経保護効果を試験した。試験プロトコルを図に示す(図5)。本モデルにおいて、左頸動脈閉塞後に低酸素(8% Oおよび92% 窒素、2時間)に曝露すると、以前に記載したとおりビークル投与したラットでは、同側の脳梗塞が約80%発症する(Landucci et al., Neurosci Lett. 2018; 668:103-107)。
【0155】
頸動脈結紮の同側の新鮮な脳半球での観察所見には、線条体、海馬、大脳皮質、視床の蒼白、萎縮、組織喪失が含まれていた(データは示していない)。脳スライスを塩化2,3,5-トリフェニルテトラゾリウム(TTC)で染色したとき、本発明者らは、HIE群では体積70.4±7.8mmの著しい脳梗塞を観測した(図6)。
【0156】
低酸素状態の終了後、ラットを仰臥位に置いた。CHF6467を0.9% 食塩水に溶解し、20μg/kgまたは40μg/kg(総体積4μL、2μL/鼻孔)の用量で、投与間隔2分で各鼻孔に交互に鼻腔内送達した。20および40μg/kg(3kgの体重のヒト新生児(neonate)に対して約60~120μgと同等)のCHF6467を低酸素症の直後および24時間後に鼻腔内投与すると、ビークル群と比較して、梗塞の程度が有意に低減された。
【0157】
低体温法(32℃、初めに4時間、低酸素状態の終了後に1時間)は、正常体温でビークル処置した動物に対して、程度を有意に低減させた(図6)。20μg/kgのCHF6467と低体温法の併用は、低体温法単独よりも梗塞体積を有意に減少させた(図6)。興味深く、また驚くべきことに、低体温法とCHF6467の併用の神経保護は、単一の薬剤の神経保護効果の合計に取って代わるものとなった。
【0158】
種々の処置後のビークル+正常体温群の平均Log変換脳梗塞体積の平均パーセント減少は、次のとおりであった:
- 正常体温+CHF6467 20μg/kg:-13.6%
- 正常体温+CHF6467 40μg/kg:-24.3%
- 低体温法+ビークル:-13.4%
- 低体温法+CHF6467 20μg/kg:-47.9%。
【0159】
臨床的徴候を調べるために1日1回、死亡率と罹患率を調べるために1日2回、動物をモニタリングした。
【0160】
相互作用効果の分析
以下において、SASバージョン9.4(SAS Institute Inc.、ケーリー、ノースカロナイナ、アメリカ合衆国)を用いて統計分析を実施した。CHF6467と低体温法の相互作用効果の統計分析は、各処置群について別個の分散を仮定したANOVAモデルを用いて、log10変換データに基づくものであった。低体温法(あり/なし)、CHF6467(あり/なし)およびそれらの相互作用の固定効果をモデルに含めた。正常体温+CHF6467 40μg/kgで処置された群からのデータは、相互作用効果の評価に寄与するものではないため(本試験は低体温法+CHF6467 40μg/kg群を含まないため)、除外した。
【0161】
CHF6467 20μg/kgと低体温法の相互作用は、統計的に有意なものであった(p=0.006)。この相互作用は、処置群ごとに平均log10変換脳梗塞体積を示した図9において明らかである。CHF6467 20μg/kgと低体温法の相加効果(相互作用なし)の場合、平行線が予測される。平行性が存在しないことは、CHF6467 20μg/kgと低体温法の効果の相互作用を示唆した。CHF6467 20μg/kgと低体温法の併用の神経保護効果はCHF6467と低体温法の個々の効果の合計値より大きなものであった。
【0162】
表1は、CHF6467単独または低体温法との組合せの体重への影響を示す。体重増加に統計的な有意差は存在せず、有害な臨床的徴候は観察されなかった。
表1:CHF6467単独または低体温法との組合せの体重への影響
【表1】

【0163】
さらに、CHF6467はHIEを有する新生児(neonate)において、神経保護剤として低体温法との組合せで使用され得る。
【0164】
実施例3:CHF6467の低酸素虚血性脳損傷の幼若ラットモデルにおける神経炎症マーカー発現への影響
方法
試験動物の手順。試験動物を含む全ての手順と条件は、地元の倫理委員会により審査され、承認され、かつイタリア保健省により承認された(認可番号671/2019-PR)。
【0165】
試験手順は、以前に記載したとおりに実施した(1986, Rita Levi-Montalcini)。簡潔には、生後7日の仔Wistarラットをイソフルランガス(誘発、4~5%;維持、1%)で麻酔した。正中線を切開し、4-0シルクを用いて左総頸動脈を結紮した。手術後、全ての仔ラットを、回復と授乳のために1時間雌親のもとへ戻した。その後、仔ラットを、一部水浴に浸された、周囲を囲まれた通気性のあるプレキシグラス製チャンバー(W20、D20、H17)に入れ、加温、加湿された気体(8% 酸素 92% 窒素)に120分間曝露させた。損傷後、仔マウスを1時間雌親のもとへ戻し、その後正常体温(37℃)または低体温(32℃)のチャンバーに4時間入れた。CHF6467を20μg/kgの用量で、低酸素状態の直後および24時間後に鼻腔内投与した。その後、全ての仔ラットをそれらの雌親とともに維持し、断頭により屠殺した。
【0166】
CHF6467鼻腔内製剤および投与。低酸素状態の終了後、ラットを仰臥位に置いた。CHF6467(バッチ番号NGF183704-TR1、濃度2mg/mL、20mM 酢酸緩衝液、20mM メチオニン、pH 5.5)を0.9% 食塩水に溶解し、20μg/kgまたは40μg/kg(総体積4μL、2μL/鼻孔)の用量で、投与間隔2分で各鼻孔に交互に鼻腔内送達した。
【0167】
海馬および皮質脳領域からのRNA抽出。フェノール/グアニジンによるサンプルの溶解:海馬および皮質の両方について、組織30mgあたり800μlのQIAzol溶解試薬を使用した。ビーズおよびTissue Lyser (Qiagen)デバイスを用いて組織サンプルをホモジナイズした。クロロホルムを添加した後、ホモジネートを遠心分離し、水相と有機相に分離した。上部の水層をQiaCube Connect自動システム(Qiagen)で抽出した。gDNAを除去するために、DNアーゼ工程を含むプロトコルを選択した。RNアーゼを含まない水中でRNAサンプルを溶出し、逆転写工程まで-80℃で保管した。
【0168】
各サンプルについて1回のRT反応で1000ngのRNAを転写するために、RNAサンプルの濃縮をNanodrop(ThermoFisher)分析器で決定し、調整した。gDNAを除去するために、RT反応の前にさらなるezDNaseTM酵素工程を実施した。製造者により提示された温度サイクル条件に従って、RT反応を実施した。
【0169】
一群の神経炎症性マーカー。標的およびハウスキーピング遺伝子のためのプライマーおよびプローブを含む特注設計のアレイプレート(Taqman gene array、Thermofisher)上で、cDNAサンプルを試験した。
【0170】
試験中は、次の遺伝子と標的とした:(括弧内はThermofisherカタログ番号):ハウスキーピング遺伝子:18s rRNA(Hs99999901_s1)、B2m(Rn00560865_m1)、Tbp(Rn01455648_m1);標的遺伝子:Ccl2(Rn00580555_m1)、Ccl22(Rn01536591_m1)、Ccl12(Rn01464638_m1)、Tnf(Rn00562055_m1)、Cxcl2(Rn00586403_m1)、Ccl7(Rn01467286_m1)、Ccr5(Rn02132969_s1)、Ccl20(Rn00570287_m1)、Il6(Rn01410330_m1)、Cxcl10(Rn01413889_g1)、Ccl6(Rn01456400_m1)。
【0171】
TaqMan(登録商標) Fast Advanced Master Mix(Applied Biosystems)および希釈したcDNAをプレートに添加し;製造者により示された温度サイクル条件に従ってPCR反応を実施した。ハウスキーピング遺伝子の増幅に基づき、2-ΔΔCt法を用いて結果を計算した。
【0172】
統計分析はGraph Prismソフトウェアにより実施し;一元配置分散分析検定、その後、比較のためのダネット検定またはテューキー検定を適用した。
【0173】
結果
海馬および前頭頭頂皮質における一群のサイトカインおよびケモカインのmRNAレベルの、擬似処置ラットと比較して顕著な増加が、低酸素虚血性傷害を受けたラットで測定された(図7および8)。CHF6467(20μg/kg、鼻腔内)は、低酸素虚血性傷害を受けたラットの海馬領域においていくつかの神経炎症マーカー(ccl2、cxcl2、TNF-α、IL-6、ccl20)の上方調節を顕著に阻害し、一方で低体温法そのものは、ccl2上方調節を顕著に阻害したが、CHF6467ほど効果的ではなかった(図7)。
【0174】
皮質において、CHF6467(20μg/kg)は、低酸素虚血性傷害により誘発されたいくつかの神経炎症マーカーの上方調節を阻害し(しかし、統計的な有意性に達したのはcxcl2のみであった)、このような効果は、いくつかの神経炎症マーカー(ccl7、ccl2、IL-6、TNF-α、cxcl2)については、低体温法との組合せにより増強された(図8)。
【0175】
さらに、CHF6467と低体温法の併用は、ccl2、ccl7、TNF-αおよびIL-6に対する単独処置の効果を増強した。そして、CHF6467は、未成熟の齧歯類の脳において低酸素性虚血により引き起こされる免疫炎症性応答に対して主要な調節効果を発揮し得て、このような効果は、低体温法と組み合わせたとき、重複しない。
【0176】
実施例4:ラット脳におけるCHF6467の定量化
方法
ペプチド選択および重標識標準物質の合成
CHF6467および/または成熟ラットNGFに対して種々の特異性を示す4種のペプチドを選択し(表2)、それらの対応するAQUA(絶対定量)相同体をThermo Scientific社で合成した。
【表2】

【0177】
試験動物の手順
試験動物を含む全ての手順と条件は、地元の倫理委員会により審査され、承認され、かつイタリア保健省により承認された(認可番号671/2019-PR)。以前に記載したとおり(Landucci et al., 2018, Neurosci. Lett. 668. doi:10.1016/j.neulet.2018.01.023.)、生後7日の仔Wistarラットをイソフルランガス(誘発、4~5%;維持、1%)で麻酔した。正中線を切開し、4-0シルクを用いて左総頸動脈を結紮した。手術後、全ての仔ラットを、1時間の回復と授乳のために雌親のもとへ戻した。その後、仔ラットを、一部水浴に浸された、周囲を囲まれた通気性のあるプレキシグラス製チャンバー(W20、D20、H17)に入れ、加温、加湿された気体(8% 酸素 92% 窒素)に120分間曝露させた。損傷後、仔マウスを1時間雌親のもとへ戻し、その後正常体温(37℃)または低体温(32℃)のチャンバーに4時間入れた。CHF6467を40μg/kgの用量で、低酸素状態の終了直後に鼻腔内投与した。さらに、低酸素虚血性傷害を受けていない動物群に、40μg/kg鼻腔内投与した。
【0178】
CHF6467鼻腔内製剤および投与
低酸素状態の終了後、ラットを仰臥位に置いた。CHF6467(濃度2mg/mL、20mM 酢酸緩衝液、20mM メチオニン、pH 5.5)を0.9% 食塩水に溶解し、20μg/kgまたは40μg/kg(総体積4μL、2μL/鼻孔)の用量で、投与間隔2分で各鼻孔に交互に鼻腔内送達した。
【0179】
海馬および皮質脳領域からのタンパク質抽出
解凍した脳サンプルを氷冷し、抽出緩衝液を10:1(v/w)の比で添加した(50mM ABC+2% SDS+プロテアーゼ阻害剤カクテル、希釈500×)。TissueLyser IIビーズミルにより、組織ホモジナイズを30/秒で2分間実施した。その後、サンプルを70℃で5分間保持し、室温で冷却した後、25U/mLのベンゾナーゼで15分間処理した。タンパク質含量をBCAアッセイにより定量した。
【0180】
タンパク質消化
脳ホモジネートを還元し(5mM DTT、95℃で5分間)、アルキル化する(15mM IAA、暗所で24℃で45分間)。Pierceスピンカラムでサンプル緩衝液から界面活性剤を除去する。その後、20% ACNを消化緩衝液に添加した後、トリプシンを1:20(w/w)の割合で添加し、37℃で5時間インキュベートし、その後さらにトリプシンを1:20(w/w)の割合で添加し、37℃で一晩インキュベートする。全てのサンプルに1.5ng/gのAQUAペプチドを滴下した後、反応を0.1% TFAでクエンチする。
【0181】
サンプル分画
消化されたサンプルを、30% ACN、0.1% TFAの直線勾配を用いて、Superdex 30 Increase 3.2/300カラムおよびF9-Rコレクターを備えたAKTA Pure 25M系によるサイズ排除クロマトグラフィーにより分画する。
【0182】
CHF6467検出および定量化
選択されたSEC画分を回収し、SpeedVacで乾燥させ、3% ACN、0.1% TFAに再溶解した後、Orbitrap FusionTM LumosTM TribridTM質量スペクトロメーターを備えたUltiMateTM3000 RSLCナノシステムによるナノLC-MS分析を実施する。ナノLCは前濃縮モードで操作し、分離はEASY-Spray PepMap RSLC C18カラム、50cm×75μmにより実施する。移動相勾配は5~40% B液で100分間であり、B液は80% ACNおよび0.1% FAである。質量分析は、目的のCHF6467ペプチドおよびそれらの対応する重標識ペプチドを検出するためのフルスキャンかつ時間指定のPRMから成る。脳マトリックス中のCHF6467シグナルのレベルを定量するために一時的な検量線を作成した。0.09~12ng/gの間の8点の濃度範囲を、対照動物からの組織の分析用に最初に試験し、その後、0.06~13.5ng/gの8点の濃度範囲を、HIE動物の分析の前に試験した。
【0183】
結果
天然成熟ヒトおよびラットNGFアイソフォームならびにCHF6467バリアントの配列分析により、本発明者らは長い相同性領域を同定し、いくつかの独特なトリプシンペプチドもまた、同定した(表2)。本発明者らは、本試験の動物モデルを考慮し、CHF6467変異体のプロテオタイプである2つのペプチド:SSSHPIFHR(m/z 534.265)およびQAAWEFIR(m/z 510.759)を選択した。また、本発明者らは、外因性アイソフォームと内因性アイソフォームの両方を報告する可能性のあるペプチド:QYFFETK(m/z 481.727、配列番号4)の寄与をモニタリングした。最後に、本発明者らは、ラット選択的ペプチド、ALTTDDK(m/z 382.188、配列番号5)を同定し、潜在的内因性反応を具体的に報告した。
【0184】
本発明者らは、対照の幼若ラットに鼻腔内投与した後のCHF6467の分布を予備的に試験した。この原理の証明は、少数のサンプル:3つの嗅球、2つの海馬および2つの大脳皮質で実施した。CHF6467が全てのサンプルで検出され、これは目的の脳領域に浸透するCHF6467の能力を証明した。SSSHPIFHR(配列番号2)ペプチドシグナルに基づいて実施した定量測定(図10)は、平均で数百ピコグラムが皮質領域および海馬で見られ得ることを示した。
【0185】
本発明者らは、低酸素虚血性傷害を受けた幼若ラットに鼻腔内投与したCHF6467の脳浸透の程度の確認により、この試験を追跡調査した(Landucci et al., 2018 Neurosci. Lett. 668. doi:10.1016/j.neulet.2018.01.023.)。6匹の動物からの大脳皮質および海馬を分析し、同側と対側の組織を比較した。チューブに亀裂が入り、サンプル調製中に失われた3つの同側海馬を除いて、CHF6467分析されたすべてのサンプルで検出され、同じ領域内のサンプル複製間で高い再現性があった(図11)。定量のために選択された3つの全てのペプチドに基づくと、検出されたCHF6467の量は、試験された定量範囲(0.06~13.5ng/g)から外れていると考えられ、低酸素虚血性傷害を受けたこの動物群内では60pg/g未満のレベルであることが示唆された。
【0186】
この試験により、CHF6467は鼻腔内投与後に実際に脳へ入り、海馬および大脳皮質に到達し、神経保護効果および抗神経炎症効果を示し得ることが示された。
【0187】
質量分析は、複雑なマトリックス中のタンパク質を特異的に検出し定量化するための重要なツールである。全体として、データはCHF6467の鼻腔内投与により、関連する脳領域、特に海馬および皮質において検出可能なレベルのタンパク質が得られることを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9
図10
図11
【配列表】
2024511613000001.app
【国際調査報告】