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特表2024-511615細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-14
(54)【発明の名称】細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/20 20060101AFI20240307BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240307BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20240307BHJP
【FI】
A61B18/20
A61P27/02
A61K41/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558357
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(85)【翻訳文提出日】2023-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2022057464
(87)【国際公開番号】W WO2022200333
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】21164292.1
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514185611
【氏名又は名称】ユニベルシテイト ゲント
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITEIT GENT
【住所又は居所原語表記】Sint-Pietersnieuwstraat 25, B-9000 Gent, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブレックマン,ケビン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ スメット,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ソヴァージュ,フェリクス
(72)【発明者】
【氏名】ハリザイ,アラニット
(72)【発明者】
【氏名】ション,ランホア
【テーマコード(参考)】
4C026
4C084
【Fターム(参考)】
4C026AA04
4C026BB10
4C026FF21
4C026HH02
4C026HH15
4C084AA11
4C084NA14
4C084ZA33
(57)【要約】
本発明は、細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する方法に関する。構造物は、材料と、電磁放射線を吸収することが可能な粒子とを含み、および、細胞は、互いから近い距離に持ってこられる。構造物中に包埋された粒子の一部は、構造物の自由表面に露出している。構造物およびとりわけ構造物中の粒子に電磁放射線が照射されることで、細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する。さらにまた、本発明は、細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する光熱プロセスにおける使用のための構造物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化するin vitroまたはex vivoの方法であって、
- 材料を含みおよび電磁放射線を吸収することが可能な粒子を含む構造物であって、構造物は体積Vおよび自由表面Sを定義し、自由表面Sは自由表面積Aを有し、少なくとも粒子の一部分は、自由表面Sに部分的に露出しており、自由表面Sに部分的に露出した粒子の各々は粒子自由表面Pを定義し、粒子自由表面Pは粒子自由表面積Aを有し、すべての粒子の粒子自由表面積Aの和が、自由表面積Aの0.0001~50%の間の範囲内であるように、粒子が構造物中に包埋されている、該構造物を提供するステップ;
- 少なくとも1の細胞を提供するステップ;
- 少なくとも1の細胞と構造物の自由表面Sとの間の最も短い距離を距離dとして、構造物と少なくとも1の細胞とを互いに100μm未満の距離dに持ってくるステップ;
- 電磁放射線を構造物に照射するステップ
を含む、前記方法。
【請求項2】
自由表面Sに部分的に露出した少なくとも一部の粒子が、材料から突き出ている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
粒子が、1nm~40000nmの範囲内である寸法を有する、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
粒子がクラスター内に配置されており、クラスターは、2~1000の間の粒子を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1の細胞が、細胞の懸濁液または細胞の組織を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
構造物の自由表面Sに部分的に露出した粒子の密度が、1~10粒子/100μm2の間の範囲内である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
粒子が、金属粒子、金属酸化物粒子、炭素または炭素ベースの粒子、および、1以上の光吸収化合物を含む粒子、および、1以上の光吸収化合物を載せられまたはこれで官能化された粒子、からなる群から選択される粒子を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
材料が、無機材料または無機ベースの材料、セラミックまたはセラミックベースの材料、有機材料または有機ベースの材料、ヒドロゲル、またはこれらの材料の少なくとも1つを含む複合材料を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
電磁放射線を構造物に照射することが、1fs~1msの範囲にあるパルス持続時間のおよび/または0.001~10J/cm2の間の範囲内であるパルスあたりフルエンスのパルスを有するパルス放射線源を使用して照射することを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
構造物が、第1の自由エリア表面AS1を有する第1の表面S1、および好ましくは、第1の表面とは反対側の第2の自由エリア表面AS2を有する第2の表面S2、を定義するフィルムを含み、第1の表面S1に部分的に露出しているすべての粒子の粒子自由表面積Aの和が自由表面積AS1の0.0001~50%の間の範囲内であるように、粒子が構造物中に包埋されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
構造物が、繊維、微粒子、繊維と微粒子との組み合わせ、または発泡体、を含む多孔質構造を含み、粒子が、該繊維、該微粒子、または該発泡体に包埋されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する光熱プロセスにおける使用のための構造物であって、構造物は、材料を含みおよび電磁放射線を吸収することが可能な粒子を含み、構造物は、材料を含みおよび電磁放射線を吸収することが可能な粒子を含み、構造物は体積Vおよび自由表面Sを定義し、自由表面Sは自由表面積Aを有し、少なくとも粒子の一部分は、自由表面Sに部分的に露出しており、自由表面Sに部分的に露出した粒子の各々は粒子自由表面Pを定義し、粒子自由表面Pは粒子自由表面積Aを有し、すべての粒子の粒子自由表面積Aの和が、自由表面積Aの0.0001~50%の間の範囲内であるように、粒子が構造物中に包埋されており、方法が、
- 少なくとも1の細胞と構造物の自由エリア表面Sとの間の最も短い距離を距離dとして、構造物と少なくとも1の細胞とを互いに100μm未満の距離dに持ってくるステップ;
- 少なくとも1の細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化するために電磁放射線を構造物に照射するステップ
を含む、前記構造物。
【請求項13】
光熱プロセスが、対象の細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する、対象における治療の方法を含む、請求項12に記載の構造物。
【請求項14】
少なくとも1の細胞が、細胞の懸濁液または細胞の組織を含み、および/または、電磁放射線が、レーザーによって生成されるパルス放射線を含む、請求項12または13に記載の使用のための構造物。
【請求項15】
治療の方法が、ナノ外科手術を含む、請求項12~14のいずれか一項に記載の使用のための構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する、例えば細胞を選択的に殺すかまたは切除する方法に関する。とりわけ、本発明は、電磁放射線を吸収することが可能な粒子を含む構造物、および、細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する方法におけるかかる構造物の使用に関する。構造物は、例えば角膜細胞を殺すかまたは切除する、ナノ外科手術における使用のために好適である。
【背景技術】
【0002】
背景技術
がんなどの数種類の疾患の処置のためには、組織の表面での細胞の死滅が要求される。がん手術における大幅な進歩にもかかわらず、腫瘍からすべてのがん細胞を除去することは依然として非常に困難であり、特に腫瘍細胞が健康な組織と絡み合っている場合にはなおさらである。それは、放射線療法および化学療法などの補助療法がなぜ頻繁に外科手術の次に好ましいかの説明になる。
【0003】
眼科において、目の表面(結膜および角膜)にある進行性のがんに対処する場合には、腫瘍の除去が不完全であることが依然として難題である。特に、かかるタイプのがんについては、補助療法の使用は、極めて制限される。実に、眼表面での化学療法剤の沈着および投与量を制御することは非常に困難であり、一方、原位置での放射線療法および凍結療法でもまた、成果は損なわれる。
【0004】
光線力学的治療(PDT)および光熱治療(PTT)は、細胞死滅のための有望なアプローチであることが証明されている。かかる技法は、高い空間的精度を有し、「単一細胞死滅」さえ可能にし得る。しかしながら、レーザー光での処置に続く熱放散が制御できないことで(表面の過加熱)、周囲の組織を不可逆的に損傷する可能性がある。
【0005】
近年、ナノ粒子増感レーザー照射が、細胞、例えばがん細胞を殺すものとして、追究されている。レーザー照射がされると、細胞は、局所的加熱などの光熱効果を通じて損傷されるかまたは殺される。このアプローチでは、(フリーの)ナノ粒子が、がん細胞へ送達される。ナノ粒子の毒物学上の効果については不確実性があるので、かかるナノ粒子増感レーザー照射については毒物学上の懸念があり得る。
【0006】
したがって、プラズモニックナノ粒子と細胞との直接接触を低減または回避して選択的に細胞を殺す方法を開発することが現在関心を持たれている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の概要
本発明の目的は、細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する方法を提供し、それによって先行技術の難点を回避することである。
本発明の別の目的は、電磁放射線を吸収することが可能な粒子を含む構造物を使用して高い空間分解能で細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する方法を提供することである。とりわけ、本発明の目的は、高い空間分解能で細胞を選択的に殺すかまたは切除する方法を提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、周囲の細胞または組織中にマイクロ粒子および/またはナノ粒子などの粒子、または粒子の材料もしくは断片が拡散または蓄積することを制限しながら、細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、構造物と細胞との間の直接接触を要しない、とりわけ構造物中に包埋された粒子と細胞との間の直接接触を要しない、細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する方法を提供することである。本発明に従う方法は、マイクロ粒子および/またはナノ粒子などの粒子を使用して細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化することを可能にし、それによって、細胞による粒子、または粒子の材料もしくは断片の取り込みを低減または回避する。
【0010】
本発明のさらなる目的は、周囲の細胞または組織中にマイクロ粒子および/またはナノ粒子などの粒子、または粒子の材料もしくは断片が拡散または蓄積することを制限しながら、細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、細胞を断片化すること、例えば低フルエンスのレーザーパルスを使用して細胞を殺すことを可能にする方法を、提供することである。
本発明の目的はまた、これによって照射(レーザー処置)後に構造物を細胞から、例えば組織から、簡単に除去することができる、細胞を透過性にするおよび/または断片化する方法を提供することである。
【0012】
本発明の尚さらなる目的は、表在性の腫瘍を除去することを可能にする方法を提供することである。
さらなる目的は、細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する、例えば、細胞(例えば角膜の細胞)を選択的に殺す方法における使用のための、電磁放射線を吸収することが可能な粒子を含む構造物を提供することである。
【0013】
本発明の第1の側面に従うと、細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化するin vitroまたはex vivoの方法が提供される。方法は、例えば、細胞を選択的に殺すことまたはその選択的切除を含む。方法は、
- 材料を含みおよび電磁放射線を吸収することが可能な粒子を含む構造物を、提供するステップ(構造物は、体積Vおよび自由表面Sを定義する。自由表面Sは、自由表面積Aを有する。粒子は、構造物の材料中に包埋されている。少なくとも粒子の一部分は、自由表面Sに部分的に露出している。自由表面Sに部分的に露出した粒子の各々は、自由表面S内の粒子自由表面Pを定義する。粒子自由表面Pは、粒子自由表面積Aを有する。粒子は、すべての粒子の粒子自由表面積Aの和が、自由表面積Aの0.0001~50%の間の範囲内であるように、材料中に包埋されている。);
- 少なくとも1の細胞、好ましくは複数の細胞を提供するステップ;
- 少なくとも1の細胞と構造物との間の最も短い距離、好ましくは少なくとも1の細胞と構造物の自由表面Sとの間の最も短い距離を距離dとして、構造物と少なくとも1の細胞とを互いに100μm未満の距離dに持ってくるステップ;
- 電磁放射線を構造物に照射するステップ、を含む。
【0014】
構造物の自由表面Sは、環境と直接接触している構造物の表面全体である。構造物が、流体、例えば液体((生体)細胞を含む培地など)または気体(例えば空気)の中に沈んでおり、かつ、構造物がその流体について非透過性である材料を含む場合、構造物の自由表面Sはまた、流体と接触しているかまたは接触する可能性がある構造物の材料の表面全体であると定義することもできる。
自由表面Sは、自由表面積Aを定義する。
【0015】
好ましくは、構造物の体積に対する構造物の自由表面積Aの比率、すなわち比率A/Vが、10-2~102μm-1の間、例えば10-1~50μm-1の間または1~10μm-1の間の範囲内である。
用語「面積」は、平面における平坦な表面のサイズの、すなわち二次元物体のサイズの測定値を指す。
【0016】
用語「表面積」は、三次元形状の物体の表面のサイズの測定値を指す。
用語「自由表面積A」は、構造物の自由表面のサイズの測定値を指す。
【0017】
本発明に従う構造物中に存在する、電磁放射線を吸収することが可能な粒子の濃度は、好ましくは0.001体積%~20体積%(粒子体積/構造物体積)の間の範囲内である。より好ましくは、本発明に従う構造物中に存在する、電磁放射線を吸収することが可能な粒子の濃度は、0.01体積%~10体積%の間または0.01体積%~5体積%の間の範囲にわたり、および、例えば0.05体積%、0.1体積%、0.2体積%、0.5体積%、1体積%、2体積%または5体積%である。
【0018】
上に言及されたとおり、構造物中に存在する粒子の一部分は、構造物の自由表面Sに部分的に露出している。かかる粒子は、よって、材料中に部分的に包埋され、および構造物の自由表面Sに部分的に露出している。本発明に従う構造物が、自由表面Sに部分的に露出した粒子に加えて、構造物の材料によって完全に包埋された粒子を含んでもよいことは明らかである。
【0019】
自由表面Sに部分的に露出した粒子の各々は、自由表面Sの一部である自由表面を有する。かかる自由表面Sに部分的に露出した粒子に占められた自由表面Sは、粒子自由表面Pと称される。粒子自由表面Pは、粒子自由表面積Aを有する。
用語「粒子自由表面積A」は、粒子自由表面Pのサイズの測定値を指す。
【0020】
構造物の自由表面Sに部分的に露出した粒子は、材料から突き出ていても突き出ていなくてもよい。突き出ている粒子は、材料によって定義された外表面から突き出ている。
【0021】
本発明に従う構造物は、材料によって定義された外表面から突き出ている、構造物の自由表面Sに部分的に露出した粒子と、材料によって定義された外表面から突き出ていない、構造物の自由表面Sに部分的に露出した粒子との組み合わせを含み得る。
突き出ている粒子は、例えば、材料の表面に垂直に測定して、50μmの高さまで、例えば0.5μm~10μmの高さで延在する。
【0022】
好ましくは、粒子は、構造物中に、より具体的には、構造物の材料中に、すべての粒子の粒子自由表面積Aの和が、下記に示されるとおりの自由表面積Aの0.0001~50%の間の範囲内であるように、包埋されている:
【数1】
iは、1~nの範囲内である(nは、自由表面Sに部分的に露出した粒子の数である)。
【0023】
好ましい態様において、粒子は、すべての粒子の粒子自由表面積Aの和が、自由表面積Aの1~25%の間、自由表面積Aの5~25%の間、自由表面積Aの15~25%の間の範囲内であるように、構造物中に包埋されている。すべての粒子の粒子自由表面積Aの和は、例えば、自由表面積Aの20%である。
【0024】
構造物への電磁放射線の照射がされると、構造物中に存在する粒子、とりわけ構造物の自由表面Sに部分的に露出した粒子が、光熱効果を引き起こす。この光熱効果は、とりわけ照射された粒子の近くの材料の局所的かつ一時的な加熱を引き起こし、および、蒸気泡、例えば蒸気マイクロ泡または蒸気ナノ泡の形成を誘導する。かかる蒸気泡は、短い距離にある細胞の透過化または断片化を引き起こし得る。
【0025】
本発明の態様において、方法は、細胞と構造物とを互いに接触させるかまたは互いに短い距離に持ってくることによって、および電磁放射線を構造物に照射することによって、とりわけ、自由表面Sに部分的に露出している、構造物中に存在する粒子に照射することによって、細胞の透過性を増大させることを可能にする。方法は、粒子と細胞との間の直接接触を要することなく細胞の透過性を増大させることを可能にする。
【0026】
本発明の他の態様において、方法は、細胞と構造物とを互いに接触させるかまたは互いに短い距離に持ってくることによって、および電磁放射線を構造物に照射することによって、とりわけ、自由表面Sに部分的に露出している、構造物中に存在する粒子に照射することによって、細胞を断片化することを可能にする。方法は、粒子と細胞との間の直接接触を要することなく細胞を断片化することを可能にする。方法は、細胞と構造物とを互いに接触させるかまたは互いに短い距離に持ってくることによって、および電磁放射線を構造物に、とりわけ、自由表面Sに部分的に露出している粒子に照射することによって、細胞を殺すかまたは切除することを可能にする。とりわけ、方法は、粒子と細胞との間の直接接触を要することなく細胞を殺すかまたは切除することを可能にする。
【0027】
本発明のさらなる態様において、方法は、細胞と構造物とを互いに接触させるかまたは互いに短い距離に持ってくることによって、および電磁放射線を構造物に照射することによって、とりわけ、自由表面Sに部分的に露出している、構造物中に存在する粒子に照射することによって、特定の細胞の透過性を増大させつつ他の細胞を断片化することを可能にする。とりわけ、方法は、粒子と細胞との間の直接接触を要することなく特定の細胞の透過性を増大させつつ他の細胞を断片化することを可能にする。
【0028】
細胞と構造物とを互いに接触させることは、細胞と構造物との間に直接接触があるということを意味する。かかるケースにおいて、細胞は、構造物の自由表面Sに接触する。細胞は、構造物の材料と直接接触するおよび/または構造物の自由表面Sに部分的に露出した1以上の粒子と直接接触することができる。
【0029】
細胞と構造物とを互いに短い距離に持ってくることは、細胞と構造物との間の最も短い距離d、とりわけ細胞と構造物の自由表面Sとの間の最も短い距離が、100μmまたは100μm未満であるということを意味する。細胞と構造物との間の最も短い距離dは、例えば50μm、20μm、10μm、5μm、3μm、2μm、1μm、0.5μmまたは0.1μmである。好ましくは、細胞と、構造物の自由表面Sに部分的に露出した粒子との間の、最も短い距離が、100μmまたは100μm未満である。細胞と、構造物の自由表面Sに部分的に露出した粒子との間の、最も短い距離は、例えば、50μm、20μm、10μm、5μm、3μm、2μm、1μm、0.5μmまたは0.1μmである。
【0030】
少なくとも1の細胞は、例えば、細胞の懸濁液または細胞の組織を含む。組織の例は、眼組織または皮膚組織を含む。具体的な例は、腫瘍境界を含む。
【0031】
単一細胞の分解能で空間的に選択的な透過化および/または断片化を可能にするために、自由表面Sに少なくとも部分的に露出した粒子の密度は、自由表面Sに少なくとも部分的に露出した粒子に対して各細胞が充分近くなるように選ばれるべきである。
【0032】
100μmに等しいかまたはそれ未満である距離dに持ってこられた細胞の密度は、例えば1細胞/mm2~105細胞/mm2の間の範囲内であり、例えば10細胞/mm2~104細胞/mm2の間、102細胞/mm2~104細胞/mm2の間、または103細胞/mm2~3・103細胞/mm2の間の範囲内である。
【0033】
構造物の自由表面Sに部分的に露出した粒子の密度は、好ましくは1粒子/100μm2~10粒子/100μm2の間、例えば1粒子/μm2~5粒子/100μm2(例えば2粒子/μm2、3粒子/100μm2または4粒子/100μm2)の間の範囲内である。
【0034】
本発明に従う構造物中に包埋された粒子は、電磁放射線を吸収することが可能でありかつ電磁放射線の照射がされると光熱効果を生成するように適合しているあらゆる粒子を含み得る。
【0035】
本明細書に使用される用語「粒子」は、約1nm~約40000nm(40μm)、例えば1nm~10000nm(10μm)、10nm~2000nm(2μm)、50nm~1000nm(1μm)または100nm~500nm、例えば200nmの寸法(より具体的には粒子の最大寸法)を有する、粒子または2以上の粒子の群、凝集物、もしくはクラスターを指す。
【0036】
寸法は、好ましくは粒子の最大寸法を測定することによって測定される。粒子の最大寸法は、その粒子の2点の間の最大距離に対応する。粒子の最大寸法は、例えばその粒子の幅(最大幅)、高さ(最大高さ)、または直径(最大直径)を指す。
【0037】
粒子のサイズを特定する代替のやり方は、球相当径(equivalent spherical diameter)(当体積球相当径(equivalent volume diameter)ともまた称される)によるものである。不規則である形状の物体の球相当径(またはESD)は、等価な体積の球の直径である。態様において、粒子は、約1nm~約40000nm(40μm)の球相当径を有してもよい。態様において、粒子は、約1nm~約10000nm(10μm)の球相当径を有してもよい。実例として、粒子は、約10nm~200nm(2μm)、50nm~1000nm(1μm)、または100nm~500nm、例えば200nmの球相当径を有してもよい。
【0038】
粒子の寸法(例えば粒子の幅、高さまたは直径)、とりわけ粒子の最大寸法(例えば粒子の最大の幅、高さまたは直径)または球相当径は、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)または原子間力顕微鏡(AFM)を使用して決定することができる。
本発明の目的のために、用語「粒子の群」、「粒子の凝集物」および「粒子のクラスター」は、互換的に使用される。
【0039】
粒子のクラスターは、少なくとも2の個々の粒子、好ましくは10~1000の間の個々の粒子、例えば10~1000の間の個々の粒子を含む。クラスターの個々の粒子は、好ましくは、クラスターの少なくとも1の個々の粒子に接触しているかまたはそのクラスターの別の個々の粒子から数マイクロメートル離れた位置にある。
【0040】
粒子がクラスターを含む場合、クラスターの個々の粒子が、好ましくは約1nm~約200nm、例えば50nm~100nmの寸法(より具体的には個々の粒子の最大寸法)を有する。
クラスターは、好ましくは約1000nm~約40000nm(10μm)、例えば10nm~2000nm、50nm~1000nmまたは100nm~500nm、例えば200nmの寸法(より具体的にはクラスターの最大寸法)を有する。
【0041】
本明細書に使用される用語「マイクロ粒子」は、1000nmを超え(>1μm)かつ最大でも10000nmまで(≦10μm)の寸法(より具体的には粒子の最大寸法)を有する、粒子または2以上の粒子の群、凝集物、もしくはクラスターを指す。マイクロ粒子がクラスターを含む場合、かかるクラスターの個々の粒子が、好ましくは約1nm~約200nm、例えば50nm~100nmの寸法(より具体的には個々の粒子の最大寸法)を有する。
【0042】
用語「ナノ粒子」は、少なくとも1nm(≧1nm)でありかつ最大でも1000nmまで(≦1μm)の寸法(粒子の最大寸法)を有する、粒子または2以上の粒子の群、凝集物、もしくはクラスターを指す。マイクロ粒子がクラスターを含む場合、かかるクラスターの個々の粒子が、好ましくは約1nm~約200nm、例えば50nm~100nmの寸法(より具体的には個々の粒子の最大寸法)を有する。
【0043】
100nm~1000nmの間の範囲内である寸法(粒子の最大寸法)を有する粒子はまた、「サブミクロン粒子」と称されることもある。
粒子は、いかなる形状を有してもよい。それらは、例えば球状の、楕円状の、棒状の形状、錐体状、分枝状であってもよく、または不規則な形状を有してもよい。
【0044】
粒子は、1以上の材料を含むシェル構造またはコア-シェル構造を含んでもよい、固体粒子であってもよい。
好ましい粒子は、金属粒子、金属酸化物粒子、炭素または炭素ベースの粒子、1以上の光吸収化合物を含む粒子、または1以上の光吸収化合物を載せられまたはこれで官能化された粒子を含む。
【0045】
金属粒子の例は、金粒子、銀粒子、白金粒子、パラジウム粒子、銅粒子およびそれらの合金を含む。好ましい金属粒子は、金粒子、銀粒子およびそれらの合金を含む。
酸化金属粒子の例は、酸化鉄、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛および酸化マグネシウムを含む。
炭素または炭素ベースの粒子の例は、グラフェン量子ドット、(還元された)グラフェン酸化物およびカーボンナノチューブを含む。
【0046】
1以上の光吸収化合物を含む粒子、または1以上の光吸収化合物を載せられまたはこれで官能化された粒子の例は、合成の有機または無機の吸収剤を含むかこれを載せられまたはこれで官能化された粒子、ならびに天然に存在する吸収剤またはそれらの誘導体を含むかこれを載せられまたはこれで官能化された粒子を含む。具体的な例は、インドシアニングリーンなどの光吸収色素分子、無機量子ドット(低い蛍光量子収率を有する)、色素(メラニン、ロドプシン、フォトプシンまたはヨードプシンなど)のような天然に存在する光吸収剤、およびポリドーパミンのような合成の類似体、または光線力学的治療において使用される光増感剤を含むかこれを載せられまたはこれで官能化された、リポソーム、固体脂質ナノ粒子、ポリマーベースの粒子を含む。
【0047】
本発明に従う方法または物の態様において、粒子は、生分解性であってもよい。態様において、粒子は、生体適合性であってもよい。態様において、粒子は、生分解性かつ生体適合性であってもよい。態様において、粒子は、臨床的に認可された構成成分を含むかまたはこれらからなるものであってもよい。有利には、粒子は、生分解性、生体適合性であり、および、臨床的に認可された構成成分を含むかまたはこれらからなる。
【0048】
本発明に従う構造物は、1種類の粒子、または、異なる粒子、例えば異なるサイズ、異なる組成および/または異なる形状を有する粒子の組み合わせを、含んでもよい。
【0049】
電磁放射線を吸収することが可能な粒子が中に包埋されている構造物の材料は、例えば、無機材料または無機ベースの材料、例えばシリカまたはシリカベースの材料あるいはセラミックまたはセラミックベースの材料、炭素または炭素 ベースの材料あるいはポリマーまたはポリマーベースの材料などの有機材料または有機ベースの材料を含む。構造物の材料はまた、上述した材料の少なくとも1つを含む複合材料、例えば有機および無機材料を含む複合材料も含んでもよい。
【0050】
構造物の好ましい材料は、ポリスチレン、ポリカプロラクトン、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリ乳酸、ポリ乳酸グリコール酸共重合体、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、コラーゲン、絹、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、デキストラン、デンプン、ポリカーボネートまたはポリアクリル酸塩を含むかまたはこれをベースとする。他の態様において、構造物の材料は、ゲルまたはヒドロゲルを含む。ゲルは、流体によってその全体積の全体にわたって拡張させられる、非流体ポリマーを含む。ヒドロゲルは、その膨潤剤が水である、ゲルである。とりわけ、ヒドロゲルは、水中で膨潤することができ、および個々のポリマー鎖の化学的または物理的架橋に起因してその構造を維持しながら大量の水を保持することができる、(親水性)ポリマーの三次元網目構造である。ヒドロゲルは、ホモポリマー、コポリマー、半相互侵入網目構造および相互侵入網目構造を含み得る。
【0051】
好ましい態様において、構造物は、表面修飾された材料、例えば表面修飾されたポリマー材料を含む。表面修飾は、 例えばコーティングの適用、例えばタンパク質コーティング、抗体を含むコーティング、脂質を含むコーティング、ポリマーコーティングまたはそれらの組み合わせを含む。
【0052】
材料は、好ましくは可視光について透明である。材料は、好ましくは、450~650nmの間の範囲内である波長を有する可視光についての少なくとも50%の透過率、または、450~650nmの間の範囲内である波長を有する可視光についての少なくとも60%の透過率を有する。
【0053】
好ましくは、材料および粒子を含む構造物は、450~650nmの間の範囲内である波長を有する可視光についての少なくとも25%の透過率、450~650nmの間の範囲内である波長を有する可視光についての少なくとも35%の透過率、または、450~650nmの間の範囲内である波長を有する可視光についての少なくとも50%の透過率を有する。
【0054】
材料および材料中に包埋された粒子を含む構造物は、連続的なまたは非連続的な構造を含み得る。
構造物は、硬質であっても、またはフレキシブルであってもよい。フレキシブルな構造物は、かかる処置される組織の表面に合わせて構造物が適合されることができるので、好ましい可能性がある。
【0055】
構造物は、平坦または平面状であってもよく、あるいは構造物は、非平坦、例えば湾曲していてもよい。
構造物は、平坦または非平坦な外表面を有することができる。
構造物は、多孔質または非多孔質構造を含んでもよい。
【0056】
いくつかの用途には、多孔質構造は、それらが大きな自由表面積Aを有し、およびよって本発明の方法に従って構造物の上またはその付近に導入された細胞に対して露出させることで利用可能な大きな表面積を有するという利点を有するので好ましい。好ましくは、かかる多孔質構造は、構造物の上またはその付近に導入された細胞が細孔内へと部分的にまたは完全に侵入することを可能にする細孔サイズを有する。好ましくは、多孔質構造は、細胞培地中に存在する分子の細胞へのアクセスを規制しない細孔サイズを有する。
【0057】
構造物の間隙率は、その構造物によって占められた総体積、すなわち構造物の体積V(材料および材料中に包埋された粒子の体積)とその構造物の細孔または空隙の体積との和に対する、構造物の細孔または空隙の体積の比率として定義される。間隙率は、0%~100%の間の範囲内であり得る。構造物が多孔質構造を含む場合、構造物の間隙率は、好ましくは少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%である。
【0058】
本発明に従う構造物の第1のグループは、フィルムまたは箔の中に包埋された電磁放射線を吸収することが可能な粒子を含む、フィルムまたは箔を含む。かかるフィルムまたは箔は、例えば、非孔質である。例は、ポリマーフィルムまたはポリマー箔の中に包埋された電磁放射線を吸収することが可能な粒子を含む、ポリマーフィルムまたはポリマー箔を含む。本発明の目的のために、用語「フィルム」および「箔」は、互換的に使用される。
【0059】
好ましいフィルムの例は、ポリスチレン、ポリカプロラクトン、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリ乳酸、ポリ乳酸グリコール酸共重合体、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、コラーゲン、絹、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、デキストラン、デンプン、ポリカーボネートまたはポリアクリル酸塩を含むかまたはこれをベースとするポリマーフィルムであって、ポリマーフィルム中に包埋された酸化鉄粒子および/または炭素粒子を有するものを含む。ポリマーフィルムは、例えば、0.1μm~100μmの間、例えば0.1μm~10μmの間の範囲内である厚さを有する。
【0060】
好ましくは;かかるフィルムは、第1の表面S1、および、第1の表面S1とは反対側の第2の表面S2を定義する。第1の表面S1は、第1の自由表面積AS1を定義し、および、第2の表面S2は、自由表面積AS2を定義する。第1の表面は、例えば、上部表面(上部自由表面積を定義する)であり、一方で第2の表面は、下部表面(下部自由表面積を定義する)である。代替的には、第1の表面は、下部表面(下部自由表面積を定義する)であり、一方で第2の表面は、上部表面(上部自由表面積を定義する)である。
【0061】
照射されたとき、放射線は、例えば第1の表面S1上または第2の表面S2上に衝突する。
好ましくは、第1の自由表面積AS1と第2の自由表面積AS2とが、同じかまたは実質的に同じサイズを有する。
【0062】
第1のグループの構造物は、例えば厚さt、長さlおよび幅wを有する。厚さは、好ましくは0.1μm~10μmの間、例えば0.1μm~10μmの間の範囲内である。構造物の体積Vは、t・l・wとまたはt・AS1と対応する。第1のグループの構造物の長さlおよび幅wは、典型的には実質的に構造物の厚さよりも大きいので、構造物の自由表面積Aは、AS1+AS2として推計することができる。照射される自由表面は、通例、構造物の表面(例えば第1の表面S1または第2の表面S2)の1つと対応しており、および、AS1であるものとして推計することができる。その結果として、構造物の体積に対する構造物の自由表面積の比率、すなわちS/Vは、1/tと対応する。
【0063】
好ましくは、第1の表面S1または第2の表面S2の少なくとも一方は、構造物の自由表面Sに少なくとも部分的に露出した粒子を含む。第1の表面S1または第2の表面S2に部分的に露出した粒子の各々は、第1の表面S1内または第2の表面S2内の粒子自由表面Pを定義する。粒子自由表面Pは、粒子自由表面積Aを有する。粒子は、第1の表面S1に部分的に露出しているかまたは第2の表面S2に部分的に露出しているすべての粒子の粒子自由表面積Aの和が、自由表面積AS1と自由表面積AS2との和の0.0001~50%の間の範囲内であるように、材料中に包埋されている。より好ましくは、粒子は、第1の表面S1に部分的に露出しているかまたは第2の表面S2に部分的に露出しているすべての粒子の粒子自由表面積Aの和が、自由表面積AS1と自由表面積AS2との和の5~25%の間または自由表面積AS1と自由表面積AS2との和の15~25%の間の範囲内であるように、材料中に包埋されている。
【0064】
具体的な態様において、第1の表面S1または第2の表面S2の少なくとも一方は、構造物の自由表面Sに少なくとも部分的に露出した粒子を含む。第1の表面S1に部分的に露出した粒子の各々は、第1の表面S1内の粒子自由表面Pを定義する。粒子自由表面Pは、粒子自由表面積Aを有する。粒子は、第1の表面S1に部分的に露出しているすべての粒子の粒子自由表面積Aの和が自由表面積AS1の0.0001~50%の間の範囲内であるように、材料中に包埋されている。
【0065】
好ましい態様において、粒子は、第1の表面S1に部分的に露出しているすべての粒子の粒子自由表面積Aの和が自由表面積AS1の5~25%の間または自由表面積AS1の15~25%の間の範囲内であるように、材料中に包埋されている。
【0066】
本発明に従う第2のグループの構造物は、ヒドロゲル中に包埋された電磁放射線を吸収することが可能な粒子を含む、ヒドロゲルを含む。
【0067】
好ましいヒドロゲルは、ホモポリマー、コポリマー、半分相互侵入網目構造および相互侵入網目構造を含む。ポリマーの例は、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)(PHEMA)、2-ヒドロキシエチルメタクリラート((HEMA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコールメタクリラート(PEG-MA)、メタクリル酸(MAA);カルボキシメチルセルロース(CMC);ポリビニルピロリドン(PVP)、アクリルアミド/アクリル酸共重合体ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)、キトサン、アクリラートで修飾されたPEG、アクリラートで修飾されたヒアルロン酸、ヘパリンおよびアミン末端官能化4アームスターPEGを含む。クロスリンカーの例は、ポリエチレングリコールジメタクリラート、トリエチレングリコールジメタクリラート(TEGDMA)、テトラ(エチレングリコール)ジメタクリラートおよびN,N’-メチレンビスアクリルアミドを含む。
粒子は、例えば、酸化鉄粒子および/または炭素粒子を含む。
【0068】
本発明に従う第3のグループの構造物は、材料と材料中に包埋された電磁放射線を吸収することが可能な粒子とを含む、多孔質構造を含む。例は、 多孔質ポリマー構造中に包埋された粒子を伴う多孔質ポリマー構造である。多孔質構造の例は、繊維(例えばポリマー繊維)を含む構造、微粒子(例えばポリマー微粒子)を含む構造、繊維と微粒子との組み合わせ(例えばポリマー繊維および/またはポリマー微粒子の組み合わせ)を含む構造、および発泡体(例えばポリマー発泡体)を含む構造を含む。繊維および/または微粒子は、相互接続されたものともされていないものともすることができる。例えばポリマー微粒子などの微粒子は、球状の微粒子、ならびに不規則な形状の微粒子を含んでもよい。多孔質構造中に包埋された粒子は、例えば、酸化鉄粒子および/または炭素粒子を含む。
【0069】
第3のグループの構造物の第1の例は、(ポリマー)繊維を含む構造物である。(ポリマー)繊維は、例えば、0.1μm~10μmの間の範囲内である繊維直径、例えば0.5μmまたは1μmの直径を有する。(ポリマー)繊維は、相互接続されたものともされていないものともすることができる。(ポリマー)繊維は、当該技術分野において知られているあらゆる技法によって得ることができる。(ポリマー)繊維を製造するのに好ましい技法は、エレクトロスピニングである。
【0070】
代替の技法は、湿式スピニング、溶融スピニング、押出スピニング、乾燥噴霧湿式スピニング、乳化スピニングおよび懸濁スピニングを含む。好ましいポリマーの例は、ポリスチレン繊維、ポリカプロラクトン繊維、エチルセルロース繊維、酢酸フタル酸セルロース繊維、ポリ乳酸繊維、およびポリ乳酸グリコール酸共重合体をベースとした繊維を含む。(ポリマー)繊維は、表面修飾されたものとすることができる。
【0071】
(ポリマー)繊維は、繊維直径dfibreに対応する直径および繊維の長さLfibreに対応する長さの長い円柱とみなすことができるので、繊維の体積Vfibreは、
【数2】
と対応し、および繊維の自由表面積Sfibreは、
【数3】
と対応する。その結果として、自由表面Sfibreの体積Vfibreに対する比率は、4/dfibreと対応する。
【0072】
第3のグループの構造物の第2の例は、例えばポリマー(ミクロ)スフェアなどの、ポリマー微粒子を含む構造物である。微粒子は、例えば0.1μm~10μmの間の範囲内である微粒子直径、例えば0.5μmまたは1μmの直径を有する。ポリマー微粒子は、相互接続されたものともされていないものともすることができる。(ポリマー)微粒子は、当該技術分野において知られているあらゆる技法によって得ることができる。好ましい微粒子の例は、ポリスチレン、ポリカプロラクトン、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリ乳酸、ポリ乳酸グリコール酸共重合体をベースとする繊維を含む。ポリマー微粒子は、表面修飾されたものとすることができる。
【0073】
微粒子が、直径dmsのミクロスフェアである場合、ミクロスフェアの体積Vmsは、
【数4】
に対応し、およびミクロスフェアの自由表面積Smsは、
【数5】
に対応する。その結果として、ミクロスフェアの体積Vmsに対する自由表面積Smsの比率は、6/dmsである。
【0074】
上に言及されたとおり、本発明に従う方法は、構造物と少なくとも1の細胞とを互いに100μm未満の距離dに持ってくるステップを含む。
少なくとも1の細胞は、例えば複数の細胞、例えば細胞を含む懸濁液または細胞の組織を含む。
【0075】
少なくとも1の細胞を構造物の上またはその近くに持ってくることによって、または、構造物を少なくとも1の細胞の近くに持ってくることによって、構造物と少なくとも1の細胞とを、互いに距離dに持ってくることができる。
細胞は、例えば、細胞を含む懸濁液を構造物の上またはその付近に、とりわけ構造物の自由表面Sの上またはその付近に適用することによって、構造物の上またはその付近に導入される。細胞は、構造物の上またはその付近に連続的に導入することもでき、または構造物の上またはその付近に非連続的に導入することもできる。
【0076】
懸濁液中の細胞の濃度は、好ましくはmLあたり1~106細胞の間、例えば103~105細胞の間の範囲内である。
好ましい方法において、懸濁液、すなわち懸濁液の細胞は、ある一定時間の間、構造物の上またはその付近に培養される。
【0077】
代替の方法において、細胞は、構造物の上またはその付近へのそれらの導入の直後にまたは暫く後に、電磁照射による構造物の活性化によって処置される。
【0078】
本発明の態様において、構造物の上またはその付近に少なくとも1の細胞を導入した後、少なくとも1の細胞は、照射ステップの前に(すなわちこれに先立って)、例えば1分以上の間または1時間以上の間、インキュベートされてもよい。
【0079】
代替的に、例えば細胞を含む組織の上にまたは細胞を含む組織から短い距離に、構造物を適用することによって、構造物を少なくとも1の細胞の近くに持ってくることができ、構造物の自由表面Sは、それによって細胞と接触するかまたは細胞から距離d離れた位置にある。
【0080】
構造物、およびとりわけ構造物の自由表面Sに部分的に露出した粒子は、好ましくは電磁放射線を、例えばパルス放射線源で照射されるが、しかし連続波放射源による照射もまた考慮することができる。
【0081】
用語「放射線」および「電磁放射線」は、本明細書中では互換的に使用され得る。
放射線源の波長は、紫外領域から赤外領域までの範囲内であり得る。好ましい方法において、使用される放射線の波長範囲は、近赤外領域を包含する、可視光から赤外領域までにある。
【0082】
電磁放射線は、パルスレーザーなどのレーザーによって生成されてもよい。パルスレーザー、例としてピコ、フェムト、および/またはナノ秒パルスレーザーによる照射などのレーザー照射を、本発明の態様に従う構造物と組み合わせることで、例としてレーザーにより誘導された蒸気ナノ泡生成によって、細胞の障壁を効率的に透過性にすることができる。レーザー照射が有利であり得る一方で、別の(強烈な)光源による照射も、同じまたは同様の効果を達成するために必ずしも除外されるものではない。
【0083】
放射線源の波長は、紫外領域から赤外領域までの範囲内であり得る。好ましい方法において、使用される放射線の波長範囲は、近赤外領域を包含する、可視光から赤外領域までにある。
【0084】
パルス放射線源が使用されるとき、パルスは、好ましくは、1fs~1msの範囲にある、例えば1fs~100μsの範囲にある、10fs~10μsの範囲にある、100fs~1μsの範囲にある、または1ps~100nsの範囲にある持続時間を有する。
レーザーパルスは、1~500のレーザーパルス、1~100のレーザーパルス、1~20のレーザーパルス、または1~10のレーザーパルス(細胞あたりまたは細胞試料あたり)などの、1~1000のレーザーパルスからなるものであってもよい。レーザーパルスの数は、例えば、光応答性有機粒子、および細胞の種類に依存し得る。
【0085】
放射線源のパルスあたりのフルエンス(単位面積あたりに送達される電磁エネルギー)は、好ましくは0.0001J/cm2~1000J/cm2の間の範囲にわたり、例えば0.001J/cm2~100J/cm2の間、0.01J/cm2~10J/cm2の間、0.1J/cm2~10J/cm2の間、例えば0.1J/cm2、1J/cm2または5J/cm2である。
【0086】
本発明に従う方法の利点は、構造物中に包埋された粒子の断片化または放出が低減または回避されることである。ICP-MS分析は、何ら検出可能な量の粒子の材料が放出されなかったことを実証した。
本発明に従う方法の別の利点は、単一細胞を透過性にするおよび/または断片化することを可能にする方法の空間分解能である。
【0087】
本発明に従う方法のさらなる利点は、細胞を透過性にするおよび/または断片化するのに、構造物と細胞との間の、とりわけ粒子と細胞との間の直接接触が要求されず、それによって細胞による粒子または粒子のフラグメントの取り込みが低減または回避されるということである。
【0088】
本発明の方法に従う尚さらなる利点は、構造物の製作の簡単さである。
本明細書に教示されるとおりの方法は、ヒトまたは動物の体の細胞(単数または複数)を選択的に透過性にすることおよび/または断片化することにも同様に有用であり得る。
【0089】
本発明の第2の側面に従うと、構造物と接触しているかまたは構造物の近くにある細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する光熱プロセスにおける使用のための上に記載のとおりの構造物が提供される。構造物は、材料、および、電磁放射線を吸収することが可能な粒子を含む。構造物は、体積Vおよび自由表面Sを定義する。自由表面Sは、自由表面積Aを有する。粒子は、材料中に包埋されている。少なくとも粒子の一部分は、自由表面Sに部分的に露出している。自由表面Sに部分的に露出した粒子の各々は、自由表面S内の粒子自由表面Pを定義する。粒子自由表面Pは、粒子自由表面積Aを有する。粒子は、すべての粒子の粒子自由表面積Aの和が自由表面積Aの0.0001~50%の間の範囲内であるように、材料中に包埋されている。
【0090】
光熱プロセスは、
- 少なくとも1の細胞と構造物との間の最も短い距離、とりわけ少なくとも1の細胞と構造物の自由エリア表面Sとの最も短い距離を距離dとして、構造物と少なくとも1の細胞とを互いに100μm未満の距離dに持ってくるステップ;
- 少なくとも1の細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化するために電磁放射線を構造物に照射するステップを含む。
【0091】
本発明に従う構造物は、対象の細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する、対象における治療の方法における光熱プロセスでの使用のためにとりわけ好適であり、方法は、
- 対象の少なくとも1の細胞と構造物との間の最も短い距離、とりわけ少なくとも1の細胞と構造物の自由エリア表面Sとの最も短い距離を距離dとして、構造物と対象物の少なくとも1の細胞から100μm未満の距離dに持ってくるステップ;
- 少なくとも1の細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化するために電磁放射線を構造物に照射すること、を含む。
【0092】
少なくとも1の細胞は、好ましくは、細胞の懸濁液または細胞の組織を含む。組織の例は、眼組織または皮膚組織を含む。具体的な例は、腫瘍境界を含む。
処置の方法は、例えば、ナノ外科手術を含む。具体的な処置は、角膜細胞を殺すことまたは角膜細胞の切除を含む。
【0093】
本明細書に教示されるとおりの構造物およびプロセスは、対象における疾患または状態の、レーザー支援治療などの処置を可能にする。
用語「対象」、「個体」または「患者」は、本明細書中では互換的に使用されてもよく、および典型的にはおよび好ましくはヒトを指して言うが、しかし、非ヒト動物、好ましくは温血動物、よりいっそう好ましくは 哺乳動物への言及もまた網羅してもよい。
【0094】
上に記載の構造物のいずれかは、対象の細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する、対象における治療の方法における光熱プロセスでの使用のために考えられ、方法は、以下のことを含む
電磁放射線は、上に記載のいずれかの発生源によって生成されたものとすることができる。好ましくは、電磁放射線は、レーザーによって生成されるパルス放射線を含む。
【0095】
好ましい方法において、本発明に従う構造物は、照射される前に、 細胞からの、例えば細胞の組織からの近い距離に持ってこられる。かかる方法は、「細胞の上に構造物」と称される。かかる方法において、構造物は、照射の後で容易に除去されることができる。
とりわけ好ましい方法において、フィルム、例えば電磁放射線を吸収することが可能な粒子を含むポリマーフィルムは、照射される前に、細胞からの、例えば細胞の組織からの近い距離に持ってこられる(「細胞の上にフィルム」)。
【0096】
代替の方法において、細胞が、照射される前に構造物上に適用され、例えば構造物の上で成長する。かかる方法は、「構造物の上に細胞」と称される。
とりわけ好ましい方法において、フィルム、細胞は、照射される前に、フィルムの上、例えば電磁放射線を吸収することが可能な粒子を含むポリマーフィルム上に適用される(「フィルムの上に細胞」)。細胞は、例えば、フィルムの上、例えば電磁放射線を吸収することが可能な粒子を含むポリマーフィルムの上で成長させられる。
【0097】
図面の簡単な記載
本発明は、以下の添付の図面を参照して、下記でより詳細に論じられる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
図1図1aは、本発明に従う細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化するための構造物の概略的な説明を示す。 図1bは、細胞が構造物から距離d離れた位置にある、図1aに示されている構造物の断面図を示す。
図2-3】図2および図3は、これによって図2に示されるとおり細胞がフィルム上で成長する(「フィルムの上に細胞」)、および図3に示されるとおりフィルムが細胞層上に適用される(「細胞の上にフィルム」)、本発明に従う細胞を選択的に透過性にするおよび/または断片化する方法を概略的に説明する。
【0099】
図4図4は、これによって粒子を含む構造物がパルスレーザーを照射される前にウシの目の角膜上に適用される、方法を説明する。
図5-6】図5は、IONPの濃度についての関数で表した、PLAフィルム中の粒子のクラスターの平均サイズを示す。 図6は、IONPの濃度についての関数で表した、PLAフィルム中のクラスター密度(粒子のクラスターの数/100μm2)を示す。
【0100】
図7-8】図7は、PLA-IOCフィルム(0.1% ION、2% PA)への夫々0.3J/cm2および1.6J/cm2の単一のレーザーパルスの照射の前および後の、暗視野顕微鏡法によって得られた画像を示す。 図8は、IONPの種々異なる濃度を有するPLA-IOCフィルムの上で成長したHela細胞あたりのクラスターの数を示す。
【0101】
図9-10】図9は、0.1% IONPを伴うPLAフィルム上で成長したHela細胞の、FD500の取り込み、細胞生存率およびrMFI(相対的な平均蛍光強度)を示す。 図10は、0.3J/cm2の単一のレーザーパルスを照射された0.1% IONPを伴うPLAフィルム上で成長したFD500の取り込みを示した、共焦点顕微鏡法によって得られた画像を示す。
【0102】
図11-12】図11は、単一の照射の後の、レーザーフルエンスについての関数としての、PLA-IOCフィルム(0.1% IONPを伴うまたは伴わない)の上で成長したHela細胞の細胞生存率を示す。 図12は、1または2の0.3J/cm2のレーザーパルスを照射した、PLA-IOCフィルム(0.1% IONP)の上で成長したHela細胞の細胞生存率を示す。
【0103】
図13-14】図13は、種々異なるレーザーフルエンスで単一のパルスを照射された、PLA-IOCフィルム(2% PLA、0.1% IONP)の所定のエリア(6.5mmの直径を持つ円)の選択的照射を示す(スケールバーは、1000μmである)。 図14は、種々異なるレーザーフルエンスについての関数で表した、図13に示されるとおりの選択的照射の後の取得された細胞のパーセンテージを示す。
【0104】
図15-16】図15は、種々異なるレーザーフルエンスについての関数で表した、図13に示されるとおりの選択的照射の後の生細胞(カルセインAMで染色された)の死細胞(ヨウ化プロピジウム(PI)で染色された)に対する比率を示す。 図16は、PLA-IOCフィルム(2% PLA、0.1% IONP)の局所的照射があった際の選択的な細胞死滅を示す(スケールバーは、10μmである)。
【0105】
図17-18】図17は、単一のレーザーパルス(0.3~1.3J/cm2)を照射した、PLA-IOCフィルム(2% PLA、0.1% IONP)上で成長した細胞についての単一細胞切除の成功率を示す。レーザーフルエンスの各値について、30の単一細胞切除実験がなされている(n=30)。 図18は、PLA-IOCフィルム(2% PLA、0.1% IONP)で覆われたHela細胞の、空間的に選択的なレーザーにより誘導された死滅を示す。
【0106】
図19-21】図19は、カルセインAM、PIで染色された、およびマージされた写真の、所定のパターン(Ghent Universityロゴ)をなぞってパルスレーザーを照らした、図18に示されるとおりの、PLA-IOC(2% PLA、0.1% IONP)で覆われたHela細胞の照明の結果を示す。スケールバーは、1000μmである。 図20および図21は、1.6J/cm2のレーザーフルエンスを使用した連続した数のレーザーパルスに続く、図18に示されるとおりの処置されたエリアにおける生細胞の死細胞に対する比率および細胞の総量を夫々示す。
【0107】
図22-23】図22は、照射(1.6J/cm2;4回連続)の後の、PLA-IOCフィルムが細胞の上に位置していた(図18に示されるとおりの)場合の細胞死滅の間の細孔形成の概略図(左)およびその結果もたらされるHela細胞によるFD500の取り込み(右)である。 図23は、PLA-IOCフィルムの4連続の照射(1.6J/cm2)に続くHela細胞に対するICP-MS分析(鉄含量)を示し;「細胞」は未処置の細胞を指し;「IONPs」および「IONPs+レーザー」は、夫々、レーザー処置を伴わないかまたは伴う、遊離のIONP(1g/L)の存在下の細胞を指し;「PLA-IOC」および「PLA-IOC+レーザー」は、夫々、レーザー処置を伴わないおよび伴う、PLA-IOCフィルムで覆われた細胞に関するものである。データは、平均値±SDとして示される。統計的有意性:スチューデントt検定、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示し、nsは有意でないことを示す。
【0108】
図24-26】図24は、PLA-IOCフィルム(2% PLA、0.1% IONP)で覆われたウシの角膜におけるレーザーにより誘導された細胞の死滅を示す。角膜を摘出し、およびヨウ化プロピジウムで染色した。抜き取られたウシの目の角膜全体を、1.6J/cm2のレーザーパルスで4回照らした。 図25は、対照実験(IOCを伴わないPLAフィルム)と比較して、PLA-IOCフィルムを使用した、図24に示されているレーザーを当てたことにより誘導された細胞の死滅から結果としてもたらされた染色された細胞(死細胞)の数を示す。 図26は、PLA-IOCフィルム(2% PLA、0.1% IONP)で覆われたウシの角膜におけるレーザーにより誘導された細胞の死滅を示す。角膜を摘出し、およびFD500溶液中に浸漬させた。IOCフィルム(2% PLA、0.1% IONP)。抜き取られたウシの目の角膜全体を、1.6J/cm2のレーザーパルスで4回照らした。
【0109】
図27-28】図27は、対照実験(IOCを伴わないPLAフィルム)と比較して、PLA-IOCフィルムを使用した、図26に示されているレーザーにより誘導された細胞の死滅から結果としてもたらされたFD500の取り込みを示す。 図28は、カルセインで染色し、単離しおよびPLA-IOCフィルムの上に置き、これに続いて単一細胞への1.6J/cm2および4.5J/cm2のフルエンスでの4回の照明を行った、ウシの目の角膜上皮を示す。
【発明を実施するための形態】
【0110】
態様の記載
本発明を、具体的な態様に関して、および特定の図面を参照して記載するが、しかし本発明はそれらには限定されず、請求項によってのみ限定される。図面は、概略にすぎず、および非限定的である。説明の目的のため、図面中の要素の一部のサイズは誇張され、および縮尺どおり描かれていないことがある。寸法および相対的な寸法は、本発明の実践についての実際の縮小に対応するものではない。
【0111】
範囲の端点に言及するとき、範囲の端点の値は、包含される。
本発明を説明するとき、使用されている用語は、別様に明記されない限り、以下の定義に従って解釈される。
【0112】
明細書にならびに請求項に使用されている用語「第1の」、「第2の」等は、同様である要素間の区別のために使用されており、および必ずしも、時間的、空間的、序列においてまたはあらゆるその他の様式のいずれでも順番を記載するものではない。そのように使用される用語は適切な状況下で交換可能であり、および本明細書に記載の本発明の態様は、本明細書に記載または説明されている以外の順番で運用されることも可能であるということを理解されたい。
【0113】
2以上の項目を列挙したときの用語「および/または」は、列挙された項目のいずれか1つをそれ自体で採用することができるということまたは列挙された項目の2つ以上のいずれかの組み合わせを採用することができるということを意味する。
【0114】
用語「面積」は、平面における平坦な表面のサイズの、すなわち二次元物体のサイズの測定値を指す。
用語「表面積」は、三次元形状の物体の表面のサイズの測定値を指す。
【0115】
用語「細胞」は、真核細胞、原核細胞を包含する、すべてのタイプの生体細胞を指す。細胞は、ヒト細胞、動物細胞、および植物細胞を指してもよい。
用語「断片化する」は、何かをフラグメントへと分割する、切り分けるまたは別様に分離させるあらゆるやり方を指す。細胞を断片化することは、細胞をフラグメントへと分割する、切り分けるまたは別様に分離させるあらゆるやり方を指し、および、細胞の死滅および細胞の切除を包含する。
【0116】
用語「~の透過性を増大させる」、「透過性にする」、「透過性にすること」および「透過化」は、細胞の透過性、とりわけ細胞の膜または障壁、例えば細胞の原形質膜の透過性を、少なくとも部分的にまたは局部的に、変化させるあらゆるやり方を指す。透過化の後、膜または障壁、例えば細胞の原形質膜は、それが例えば分子、巨大分子、粒子またはナノ粒子などの1種類以上の化合物についてより透過性であるように変化させられる。
【0117】
用語「穿孔する」、「穿孔すること」または「穿孔」は、膜または障壁、例えば細胞の原形質膜に、1以上の開口、穴または細孔を提供するあらゆるやり方を指す。膜または障壁、例えば細胞の原形質膜を穿孔することによって、膜または障壁、例えば細胞の原形質膜中に開口が作り出され、膜または障壁を越えて、例えば細胞の原形質膜を越えて、分子、巨大分子、粒子またはナノ粒子などの化合物の輸送を可能にする。
【0118】
本発明の目的のために、用語「~の透過性を増大させる」、「透過性にする」、「透過性にすること」および「透過化」および用語「穿孔する」、「穿孔すること」および「穿孔」は、互換的に使用され得る。同様に、用語「開口」、「穴」および「細孔」は、互換的に使用され得る。
【0119】
用語「蒸気泡の生成」は、蒸気泡の膨張、蒸気泡の崩壊または蒸気泡の膨張と崩壊との組み合わせ、ならびに圧力波および周囲媒体の流れなどの泡の膨張および崩壊の結果であり得る二次的効果を包含する。
【0120】
用語「蒸気泡」または「泡」は、蒸気ナノ泡および蒸気マイクロ泡を指す。好ましくは、用語「蒸気泡」または「泡」は、10nm~100μmの範囲にある直径を有する蒸気泡を指す。蒸気泡は、水蒸気を含むが、態様はこれに限られない。
【0121】
実験結果
例1
ポリマー材料11および電磁放射線を吸収することが可能な粒子12を含むフィルムを含む、本発明に従う構造物10の態様が、図1aに示されている。粒子の一部分は、1つの表面、例えば構造物の上部表面13に部分的に露出している。粒子は、すべての粒子の粒子自由表面積Aの和が自由表面積Aの0.0001~50%の間、より好ましくは自由表面積Aの5~25%の間または自由表面積Aの15~25%の間の範囲内であるように包埋されている。より具体的には、粒子は、すべての粒子の粒子自由表面積Aの和が上部自由表面積AS1の0.0001~50%の間より好ましくは自由表面積AS1の5~25%の間または自由表面積AS1の15~25%の間の範囲内であるように包埋されている。
【0122】
図1bは、構造物10から短い距離dにある細胞15または複数の細胞15を伴う、図1aの構造物を示す。
下に記載された例は、構造物の材料としてポリ乳酸(PLA)を含み、および電磁放射線を吸収することが可能な粒子として酸化鉄粒子を含む。
【0123】
他の材料および他の粒子も、同様に考慮することができることは明らかである。かかる構造物の表面で生成された蒸気泡が、細胞もしくは複数の細胞に接触しているかまたはそれらから短い距離dにある細胞を透過性にするおよび/または断片化することができるかどうかを評価するために(図1b)、2種類の実験を行った:
- 細胞を構造物の上で成長させ、および、構造物(より具体的には構造物中の粒子)に(パルス)電磁放射線を照射した(「構造物の上に細胞」)(図2);
- 構造物を細胞層上に適用し、および、構造物(より具体的には構造物中の粒子)に(パルス)電磁放射線を照射した(「細胞の上に構造物」)(図3)。
【0124】
さらにまた、粒子を含む構造物をウシの目の角膜上に適用し、およびパルスレーザーを照射した(図4)。
【0125】
1. 材料および方法
1.1 材料
50~100nmのサイズを持つ酸化鉄(Fe3O4)ナノ粒子(IONP)、80kDaの分子量(Mw)を持つポリ乳酸(PLA)、500kDaのFITC-デキストラン、およびクロロホルムは、すべてSigma-Aldrich(ベルギー)から購入した。カルセインAMおよびヨウ化プロピジウム(PI)は、Fisher Scientific(USA)から購入した。Celltiter-Glo(登録商標)は、Promega(USA)から購入した。
【0126】
1.2 PLA-IOC(酸化鉄クラスター)フィルムの調製
IONPを伴うまたは伴わないPLAフィルムを、ワンステップスピンコーティング法によって調製した。フィルムを、スピンコーティングデバイスの中心に置かれた四角形のカバーガラス(22mm×22mm)上に調製した。手短に言えば、IONPをPLA溶液(クロロホルム中2%、4%および8%(w/v))中に分散させ;PLA溶液中のIONPの濃度は0.01%、0.1%、および0.2%(w/v)の間で変えた。
【0127】
IONP-PLA分散液を、最初に、チップソニケーター(Bransonデジタルソニファイアー、Danbury、USA)で10%の振幅で1分間超音波処理した。次に、スピンコーティングデバイスの中心に置かれたカバーガラス上へと0.5mLの分散液を適用した。スピンコーティングのためのスピードおよび時間を、夫々2000rpmおよび20秒に設定した。スピンコーティングの後、あらゆる残余の有機溶媒の蒸発を可能にするためにフィルムを50℃のオーブン内に終夜置いた。
【0128】
蛍光PLA-IOCフィルムを調製するために、PLA(2%、w/v)およびローダミンB(0.01% w/v)(Sigma-Aldrich、ベルギー)をクロロホルム中に終夜溶解させた。次いで、酸化鉄ナノ粒子(0.1% w/v)を、PLA-ローダミンB溶液へ加えた。次に、PLA-ローダミンBフィルムを、上の段落に記載のとおり調製した。
【0129】
1.3 PLA-IOCフィルムの表面形態学
PLA-IOCフィルムの表面形態学を、走査電子顕微鏡(SEM、FEI Quanta 200F(Thermo Scientific))によって特徴づけした。SEM画像を、20kVの加速電圧で取得した。IONPの濃度に依存して、種々異なるサイズの酸化鉄クラスター(IOC)が観察される可能性があることに留意されるべきである。
【0130】
酸化鉄粒子が、酸化鉄粒子のクラスター(IOC)内に配置されているので、フィルムを、PLA-IOCフィルムと称する(PLA-IONPフィルムの代わりに)。IOCのサイズおよび分布を、SEM画像に基づき算出した。
【0131】
1.4 レーザーにより誘導された蒸気泡(VNB)の形成およびVNB閾値
PLA-IOCフィルムがVNBを生成する能力を有するかどうかを評価するために、それらにパルスレーザー(HE 355 LDレーザー、OPOTEK Inc.;7ns、561nm)を照射した。VNBは、それらの存在期間の間、光を散乱させるので、暗視野顕微鏡法によって容易に可視化することができる。フィルム(水の薄い層で覆われた)の暗視野画像を、フィルムへの様々なフルエンスでのレーザーパルスの照射の前および照射中に記録した。IOCの90%がVNBを形成する単一のレーザーパルスのフルエンスである「VNB閾値」を、泡の数をレーザーフルエンスの関数としてプロットすることによって決定した。
【0132】
1.5 細胞培養
Hela細胞(ATCC(登録商標)CCL-2(商標))を、10%ウシ胎仔血清(FBS、Biowest)、2mMグルタミンおよび100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco-Invitrogen)が添加されたDMEM/F-12(Gibco-Invitrogen)中で培養した(37℃および5% CO2にて)。分割のために、細胞を最初にダルベッコのリン酸緩衝液生理食塩水(DPBS)で洗浄し、および次いでトリプシン-EDTA溶液(Gibco-Invitrogen)を使用して剥離させた。
【0133】
「上に細胞」の実験については(図2)、Hela細胞を6ウェルプレート内のウェルの底に存在するPLA-IOCフィルムの上に播種し;Hela細胞濃度は、1×106細胞/mLとし;各ウェル内に2mLの細胞を適用した。1日のインキュベーションの後、細胞が接着したPLA-IOCフィルムをそれらの当初のウェルから取り外し、および新しいウェル(6ウェルプレートの)の中へと入れた;これは、フィルムと接触していなかったが単にウェルのプラスチックの底に接着されていた細胞を除去するためである。
【0134】
PLA-IOCフィルムを細胞の上に置いた実験については(「細胞の上に構造物」)(図3)、Hela細胞を6ウェルプレートのウェル内に0.5×106細胞/mL(2mL)の濃度で播種した。翌日、ウェル内のHela細胞をPLA-IOCフィルムで覆った。細胞とフィルムとの間の接触を最大限にするために、培地のわずかな層のみが細胞の上に残存するようにフィルムを適用する前に細胞培地の90%を除去した。
【0135】
1.6 パルス光レーザーに曝されたPLA-IOCフィルムによる細胞死滅
上に記載のとおり、細胞をPLA-IOCフィルム上へと播種したか、または細胞をPLA-IOCフィルムで覆った。
【0136】
PLA-IOCフィルムに、次いでナノ秒パルスレーザー(パルス持続時間<7ns、532nm波長)を照射した。各箇所が本質的には単一のレーザーパルスを(または隣接するスポットの間の重複する領域では2回)受けるように、ガルバノスキャナーを使用してレーザービームの高速スキャンを可能にし;6ウェルプレートのウェル内のPLA-IOCフィルムの表面全体の単一のスキャンにはほぼ2分かかった。いくつかのケースにおいては、フィルムを文中に示されたとおり複数回スキャンした。
【0137】
光パルスに曝されたPLA-IOCフィルムによる細胞死滅の程度は、CellTiter-Glo(登録商標)アッセイを使用して細胞の代謝活性を測定することによって評価した。アッセイは、製造業者に推奨されたとおりに、但しいくらかの微修正を加えて行った。手短には、PLA-IOCフィルム上の細胞の光パルスでの処置に続いて、それらを細胞インキュベーター内に2時間置くことで、死滅するのに充分な時間を許容した。
【0138】
2時間後、細胞培地を除去し、および、1mLのCellTiter-Glo溶液が添加された1mLの新しい細胞培地(DMEM/F-12)によって置き換えた。ウェルプレートを、次いで、室温にて10分間120rpmでシェーカー上に載せた。最終的に、上清の150μLを、96ウェルプレートのウェル内へと移し、および、吸光度をマイクロプレートリーダー(Victor 3、PerkinElmer)で測定した。
【0139】
1.7 細胞膜の透過化を測定する
PLA-IOCフィルム上にレーザーパルスを適用することがどの程度細胞の膜を透過性にしたかを評価するために、上に記載のとおり、細胞をPLA-IOCフィルム上へと播種し、または細胞をPLA-IOCフィルムで覆った。細胞がフィルム上で成長した場合は、FITC-デキストラン(分子量 500kDa;FD500)を2mg/mLの濃度で含有する1mL DMEM/F-12細胞培養培地を加えた。フィルムを細胞の上に適用した場合は、フィルムを適用する前に細胞上へ、FD500(2mg/ml)を含有する300μlのDMEM/F-12細胞培養培地を加えた。フィルム(の表面全体)をレーザービームでスキャンし(上に記載のとおり;0.3J/cm2または1.6J/cm2のフルエンスで)、および、過剰のFD500を除去するために細胞をDPBSで数回徹底的に洗浄した。
【0140】
細胞を次いでトリプシン処理し(0.25% トリプシン溶液を使用して)、および細胞培地で中和させた。細胞の懸濁液を収集し、および遠心分離によって数回洗浄した(500g;5分)。最終的に、ペレットをフローバッファー(DPBS、1% ウシ血清アルブミン(BSA)および0.1% NaN3)中に再懸濁させた。膜の透過化の後でのみ起こるFD500の細胞質ゾル送達を、フローサイトメトリー(Cytoflex、Beckman Coulter、Krefeld、ドイツ)によって測定し;蛍光色素を488nmで励起させ、一方で蛍光強度を530nmで検出した(バンドパスフィルター 530/30)。
【0141】
1.8 パルス光レーザーに曝されたPLA-IOCフィルムによる空間的に選択的な細胞死滅
第1の実験セットでは、Hela細胞を、6ウェルプレート内でPLA-IOCフィルム(0.1% IONP)の上に播種した。増大するフルエンスでのレーザーパルスを、所定のゾーン内でフィルム上に適用した。レーザー照射の後、PLA-IOCフィルム上の細胞を、インキュベーター(37℃、5% CO2)内に2時間置いた。次いで1μlのカルセインAM(0.5mmol)および10μl ヨウ化プロピジウム(1mg/ml)を各ウェル内へと加えた。カルセインAMは、生細胞を染色するために、およびヨウ化プロピジウムは、死細胞を染色するために使用した。10分のインキュベーションの後、細胞を共焦点顕微鏡(C1-si、Nikon、日本)によってイメージングした。処置されたゾーン内における細胞死滅の程度を評価した。
【0142】
第2の実験セットでは、PLA-IOCフィルム(0.1%のIONPを伴わないかまたは伴う)を、上に記載のとおりに播種されたHela細胞の上に適用した。所定のパターン(Ghent Universityのロゴと同様)に従って、4連続の1.6J/cm2でのレーザー照射を行った。レーザー走査の後、2mL DMEM/F-12をウェルへ加え、およびフィルムを慎重に細胞から除去した。30分後、2μl カルセインAM(0.5mmol)および20μl ヨウ化プロピジウム(1mg/ml)を、生細胞および死細胞の両方を染色するために加えた。
【0143】
1.9 パルス光レーザーに曝されたPLA-IOCフィルムによる単一細胞死滅
PLA-IOCフィルムへのパルス光レーザーの照射がどの程度まで、選んだ標的細胞の特定的な死滅(「単一細胞死滅」)を可能にするのかを評価するために、上に記載のとおり、PLA-IOCフィルム上の細胞として細胞を播種した。最初に、2μlのカルセインAM(0.5mmol)を各ウェル内へと加えることによって、(生)細胞を染色した。単一細胞を、次いで無作為に標的として選択し、および蛍光顕微鏡法によってイメージングした。
【0144】
続いて、1回のレーザーパルス(様々なフルエンス)を、標的細胞上へ適用した。30分後、10μL ヨウ化プロピジウム(1mg/ml)を各ウェル内へと加え、および細胞を蛍光顕微鏡法によって再度イメージングした。細胞の赤色および緑色蛍光を、ImageJソフトウェアを使用して分析した。ウェル内の細胞をまた、透過顕微鏡によってもイメージングした;動画をImageJソフトウェアによって記録しおよび処理した。
【0145】
1.10 誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)測定
Hela細胞を、上に記載のとおり6ウェルプレート内へと播種した。レーザー処置の不在下で、細胞培養培地(1.5ml)、遊離のIONPの懸濁液(1.5ml;1g/l)またはPLA-IOCフィルム(フィルムと細胞との間での極めて薄い培地の層を保っている)のいずれかを、ウェル内の細胞へ添加した/これの上に適用した。20分のインキュベーション(37℃、5% CO2)の後、ウェル内の細胞培地/遊離IONP(または)フィルムを除去した。次いで、細胞を消化するために、1.5mL 硝酸(65%)を10分間、各ウェルへ加えた。10分後、1mLを各ウェルからICP-MS分析のために収集した。
【0146】
効果レーザー処置の効果を測定するために、細胞培地/遊離IONP/PLA-IOCフィルム(上の段落を参照)を適用してから20分後に、各ウェルを4回スキャンした(1.6J/cm2)。レーザー処置の後、フィルムを除去し、およびウェルを新鮮な細胞培養培地で2回穏やかに洗浄した。続いて、1.5mL 硝酸(65%)を10分間、各ウェルへ加えた。細胞の消化の後、1mLの溶液を各ウェルからICP-MS分析のために収集した。
【0147】
Agilent 8800 ICP-MS/MS機器(ICP-QQQ、Agilent Technologies、日本)を使用して、鉄(Fe)の(超)微量元素の決定を実施した。試料導入システムは、ペルチェ冷却された(2℃)Scott型スプレーチャンバー上に搭載された同心ネブライザー(400μL min-1)を含む。この機器は、2つの四重極ユニット(Q1およびQ2)および両方の四重極質量フィルターの間の場所にある衝突/反応セル(CRC)からなるタンデム質量分析計構成(Q1-CRC-Q2)を備えている。セル内化学に対するはるかによりよい制御(化学的分解能)の結果として、MS/MSモードは、既存のシングル四重極ICP-MS機器使用と比較してより簡単なやり方でスペクトル重複に対処する追加の手段を提供する。
【0148】
この研究では、40ArO+および40CaO+の多原子干渉のシグナル、および、質量電荷比 -m/z- 56での最も豊富なFe同位体(56Fe+、91.7%)のそれらの間の重複などの、Feの(超)微量元素の決定を著しく妨げるスペクトル干渉を克服するために、CRCをNH3/Heの混合物(He中の10% NH3)で加圧した。スペクトル重複を克服するために、3.0mL min-1でNH3/Heの導入をすると、56Fe+イオンが56Fe(NH32+反応生成物イオンへ質量シフトされた。質量シフトの後、新しく作り出された反応生成物イオン(56Fe(NH32+、m/z=90)のm/z比率で、スペクトル干渉なく56Fe+を検出することができた。
【0149】
ICP-MS/MS分析には、高純度の試薬のみを使用した。超純水(低効率18.2 MΩ cm)を、Milli-Q Element水精製システム(Millipore、フランス)から得た。プロ分析純度レベル14M HNO3(Chem-Lab、ベルギー)をサブボイリング蒸留法によってさらに精製したもの、および超純粋9.8M H2O2(Sigma Aldrich、ベルギー)を、試料の消化のために使用した。1g L-1 FeおよびGaの単一元素標準溶液(Inorganic Ventures、USA)の適切な希釈を、方法の開発、最適化および較正の目的のために使用した。Feの定量的元素決定のため、較正アプローチ(0、0.5、1.0、2.5、5.0、10および20μg L-1 Fe)として外部較正を信頼した。5.0μg L-1のGaを、機器不安定性、シグナルドリフトおよびマトリックス効果に対して補正するための内部標準として使用した。
【0150】
ICP-MS/MS分析のための試料調製に先立ち、すべての試料を、Eppendorf管から、HNO3で予め洗浄されおよびHClおよび続いてMilli-Q水で濯ぎ洗いされたTeflon Savillexビーカーへ移した。乾燥まで蒸発させた後(80℃)、試料を、750μLの14M HNO3と250μLの9.8M H2O2との混合物での酸消化を介して、およそ18hの間、ホットプレート上で110℃にて消化させた。
【0151】
ICP-MS/MS分析に先立ち、消化された試料を、Milli-Q水またはHNO3中に適切に希釈した(最終酸濃度は0.35~0.70M HNO3の間の範囲内)。コンタミネーションを回避するために、標準および試料調製には金属を含まない試験管のみを使用した(15または50mLポリプロピレン遠心分離管、VWR、ベルギー)。消化および適正な希釈を包含する完全な試料調製手順を、クラス10クリーンルーム内で実施した。
【0152】
1.11 パルス光レーザーに曝されたPLA-IOCフィルムによる表在性の角膜細胞の死滅
新鮮な摘出したウシの目を、地元の屠殺場(Flanders Meat Group、Zele)から収集した。抜き取った後、目を、輸送の間、冷えたCO2非依存培地(Gibco-Invitrogen)中に維持し、および1時間以内に処理した。過剰の組織を除去し、および、目を冷えたDMEM中で洗浄した。
【0153】
0.1% IONP(w/v)を伴わないかまたは伴うPLAフィルム(2% PLA)を使用した。30mmマイクロウェルを伴う55mmガラス底ディッシュ(Cellvis、USA)の中へとPLA-IOCフィルムを入れ、および3mLの細胞培養培地を満たした。続いて、目をディッシュ内へと移し、および、角膜がPLA-IOCフィルムと密接に接触していることを確かめながら、それを固定化するためにパラフィルムで固定した。レーザーパルスを適用したことが角膜の細胞の膜を透過性にしたかどうかを知るために、細胞培養培地にFD500を補充した(4mg/mL)。
【0154】
角膜全体を、1.6J/cm2のフルエンスでのパルスレーザーで繰り返し(4回)スキャンした。照射の後、目をDPBSで3回洗浄した。死滅効率をアセスメントするために、目を新しいディッシュ内に置き、ヨウ化プロピジウム(0.01mg/ml)を含有する新鮮なDMEM/F-12培地を補充し、および15分の間室温にてインキュベートした。
【0155】
最終的に、トレフィン刃(Beaver Visitec International、Abingdon、UK)を使用して12mmボタンを角膜内へと打ち込んだ。このようにして単離された角膜組織を、上皮側を下にしてガラス底ディッシュ上に置き、および、共焦点顕微鏡(Nikon A1R)によってイメージングした。1μm刻みのZ-スタックを記録し、および、利用可能なソフトウェアを使用して3D画像を得た。
【0156】
空間的に選択的な細胞死滅の実験には、新鮮なウシの目から余剰の組織を除去し、および、目をDPBS中で洗浄した。生きている上皮細胞を染色するために、カルセインAMの溶液(5μg/ml)を角膜のレベルで適用し、および目を室温にて10分間インキュベートした。目を次いでDPBS中で3回洗浄し、および、トレフィン刃を使用して角膜を単離した。角膜を、次いで、PLA-IOCフィルムであるフィルムの上に置いた。上皮細胞を蛍光顕微鏡法によって観察することができ、および、レーザー(561nm;<7ns)を照射する前に単一細胞を標的にした。
【0157】
2. 結果
2.1 PLA-IOCフィルムの物理化学的な特徴付け
細胞培養物(または組織)中の各単一細胞を標的にすることを可能にするために、理想的には、各単一細胞は少なくとも1のIOCと接触している/これの近傍にあるべきである。したがって、PLAフィルムにおけるIOCの十分に制御された分布について調査した。PLAフィルムのSEMイメージングは、IONPがフィルムの内部にクラスター(IOC)として包埋されたことを明らかにし;IOCの一部は、フィルムの外へ部分的に突出していた。フィルム中のIOCの平均サイズおよび分布は、IONP濃度に依存した。実に、より高いIONPの濃度(固定されたPLAの濃度に対する)は、より大きなクラスターを結果としてもたらした(図5)。クラスター密度は、0.1% IONPの濃度では5.6±2.4 IOC/100μm2と等しかったが、一方で、それはより高いIONP濃度ではより低くなっており(図6)、これはより大きなクラスターの形成によって説明できる。
【0158】
2.2 レーザーにより誘導されたPLA-IOCフィルムによる蒸気泡形成
PLA-IOCフィルムへパルスレーザー光を適用したことが、フィルムの表面での蒸気泡(VNB)の形成を結果としてもたらしたかどうかを評価するために、PLA-IOCフィルムに夫々0.3J/cm2および1.6J/cm2の単一のレーザーパルスを照射した。PLA-IOCフィルム(0.1% ION、2%PA)へのかかるレーザーパルスの照射がVNBを生じさせたのは、(散乱)光の局所的なフラッシュが暗視野顕微鏡法によって検出されたとおりである(図7)。IOCを伴わないPLAフィルムからはVNBを観察することができなかった。より低いフルエンスでは、VNBの数は、より高いフルエンスでのものよりも明らかに低かった。
【0159】
続いて、レーザーパルスのフルエンスの関数としてVNBの数を測定し、および、IOCの90%がVNBを形成するレーザーフルエンス(T90)として一般的に定義されるPLA-IOCフィルム(0.1% IONP;2% PLA)のVNB閾値が0.56J/cm2であると決定した。IOCの10%がVNBの形成を結果としてもたらすレーザーフルエンスに対応するT10は、0.1J/cm2であると決定した。T10よりも低いフルエンスでは、熱生成が優勢であり(加熱モード);T10とT90との間では、閉じ込められた熱および泡の両方が生成され;T90よりも高いフルエンスでは、VNB形成が主たる光熱効果であった(泡モード)。
続く実験には、0.01% IONPを含有するPLAフィルムを選択した。かかるPLA-IOCフィルムは、IOCを伴わないPLAフィルムと同じ位透明であったという点でもまた魅力的である。
【0160】
2.3 パルス光レーザーに曝されたPLA-IOCフィルムによる細胞死滅
続いて、PLA-IOCフィルムの、フィルムの表面の上で成長したHela細胞を殺す能力(「上に細胞」)(図2)を評価した。フィルム中のIOCは、それらが光を強く散乱させる(酸化鉄の屈折率は、2.9である)ので、容易に観察することができた。PLA-IOCフィルムの上で成長した細胞の画像に基づき、フィルム中のIONPの濃度が0.1%に等しいとき各細胞は4.6+/-0.5のIOCと接触しており(図8);より低い(0.01%)IONPの濃度では、各細胞は1.2+/-0.4のIOCと接触していたと推計された。
【0161】
図9は、0.01% IONPを伴うPLA-IOCフィルム上で成長した(大半の)細胞は、フィルムを低いフルエンス(単一のスキャン;0.3J/cm2)のレーザーでスキャンしたときには生き延びる(フローサイトメトリーによって測定されたとおり;カルセインAM染色)ということを示す。PLAフィルム(0.1%)内のより高い量のIONPおよび同じフルエンスでは、有意な数の細胞が殺された(細胞生存率 52.8±12.6%)。IONPを伴わないPLAフィルム上で成長したすべての細胞がレーザー処置を生き延びたということもまた留意される。
【0162】
レーザー照射に続く細胞膜透過性の変化(これは細胞死滅を引き起こす可能性がある)を可視化するために、蛍光デキストラン(FD500)を細胞へ加えた。それらの大きなサイズ(ほぼ30nm)に起因して、FD500は細胞膜を越えて拡散せず、および、したがって原形質膜の有意な透過性変化をアセスメントするのに十分に適していることが報告されている。図9および図10が示すとおり、PLA-IOCフィルムへのレーザーパルスの照射に続いてFD500はHela細胞内へと進入した;IONPを伴わないPLA-フィルムについては、FD500が細胞に侵入しなかったことが留意される。
【0163】
続いて、より高いレーザーフルエンス、およびフィルムへの繰り返しレーザースキャンを夫々使用することによって、どのように細胞の死滅を最大限にすることができるかを評価した。図11が示すとおり、レーザーフルエンスを増大させることは、PLA-IOCフィルムの細胞死滅能力を改善した:細胞生存率は、0.8J/cm2のレーザーフルエンスで30%にまで下落した。1.6J/cm2の極めて高いレーザーフルエンスでさえも何ら細胞死滅を誘導しなかった、IOCを伴わないPLAフィルムには、これは当てはまらなかった。
【0164】
IOCが単一のレーザーパルスを生き延びた(すなわち断片化されなかった)ことが観察されたので、第2のパルスを適用することがフィルムの細胞死滅能力をさらに向上させることができたであろうという仮説を立てた。0.3J/cm2の単一のパルスの後でおよそ50%の細胞が生存したままであったので、第2のパルスの効果が観察できるであろうということを確かめるのには0.3J/cm2の(低い)フルエンスを選択した。フィルムを、よって、0.3J/cm2のフルエンスで2回連続スキャンした。以上のように、図12から、細胞生存率は、46±6%(単一のスキャン)から25±3%(2連続のスキャン)にまで下落した。
【0165】
2.4 パルス光レーザーに曝されたPLA-IOCフィルムによる空間的に選択的な細胞切除および細胞死滅
(i)フィルム中のIOCの密度およびサイズを制御することができるという事実、および(ii)フィルム内の特定のエリアをスキャンする本来備わった能力があることを受けて、どの程度まで泡-フィルム(bubble-films)が高い空間的精度で標的細胞を殺すことを可能にするかを評価した。したがって、PLA-IOCフィルム内の所定の円状のエリアを、増大するフルエンスでのレーザーパルスでスキャンした(図13)。
【0166】
死細胞にのみ進入するヨウ化プロピジウム(PI)の赤色蛍光によって観察することができたとおり、所定のエリア(6.5mmの直径を有する円)内に存在する細胞が、選択的に殺されるようになった。しかしながら、1.3J/cm2のフルエンスでは、処置されたエリア内の細胞の総数(生細胞に死細胞を加算したもの)が有意に減少したことが観察されており(図14)、レーザー処置された際に細胞が「失われた」(切除された)ことが示されたところ、これは蒸気泡によって及ぼされる機械的な力による可能性が高い。図15に示されるとおり、カルセインAMおよびヨウ化プロピジウムで細胞を染色することは、処置されたエリア内に残存する生細胞の死細胞に対する比率を決定することを可能にした;明らかに、この比率はレーザーフルエンスの増大とともに徐々に下降した。
【0167】
図16は、パルスレーザーのPLA-IOCフィルムへの局所的照射があった際の単一細胞死滅(スケールバーは10μmである)を示す。死細胞にのみ進入するヨウ化プロピジウム(PI)の赤色蛍光によって観察することができたとおり、単一細胞死滅が得られた。フィルムの上の細胞の、選択的細胞処置の透過画像は、1.3J/cm2のフルエンスで単一細胞切除を示した。0.3~0.8J/cm2の間のフルエンスを使用して、VNBを生成させることはできたが、但し細胞切除は起こらなかった。
【0168】
単一細胞切除の成功率は、フルエンスに伴って増大した(図17)。その他にも、0.3J/cm2のフルエンスが単一細胞切除を可能にしなかった一方で、1.3J/cm2のフルエンスでは単一細胞切除が常に成功したということが観察された。
【0169】
上のすべての実験では、細胞はPLA-IOCフィルム上で成長した。本発明に従う粒子を含む構造物の臨床上の潜在的可能性をさらに追究するために、細胞層の上に置かれたときのフィルム(図18)の細胞死滅能力を評価した。これは、標的組織の表面を覆うフィルムの意図された用途を模倣する。
【0170】
実験の節で概説されているとおり、6ウェルプレート内に細胞を播種を播種した後、細胞培地を除去し、但し培地の薄層を細胞の上に残しておき;続いてPLA-IOCフィルムを細胞の上に置いた。細胞とフィルムとの間の距離は、40μmであると推計される。フィルム内の所定のエリア(Ghent Universityロゴ)を、次いでレーザーに曝した(図19)。細胞がフィルムの上で直接培養された図13における実験と比較して、フィルムと細胞との間のより大きい距離が推計されたので、1.6J/cm2のより高いフルエンスを使用した。
【0171】
図20が示すとおり、細胞は殺されるようになったが、但し生細胞の死細胞に対する比率ほぼ25%を実現するために4回のパルスを要した。細胞の総数が変化しなかったこともまた留意され(図21)、おそらく、細胞に対して作用するVNBによる機械的な力を低下させる、細胞とIOCとの間のより長い距離がその理由である。
【0172】
PLA-IOCフィルムが細胞の上に位置している場合に(図22(左))、細胞膜の穿孔もまた細胞の死滅に関与するかどうかを評価するために、細胞をFD500とともにインキュベートし、およびフィルムで覆った。フィルムを次いでその後照射した(1.6J/cm2;4回連続)。図22(右)に示されるとおり、緑色(FD500)および赤色(PI)蛍光を細胞内において観察することができ、一方で、IOCを伴わないPLAフィルムで覆いおよびレーザーパルスを照射した細胞においては蛍光ははるかにより低かった。
【0173】
細胞を覆うPLA-IOCフィルムのレーザー照射後の細胞内の鉄の量を決定するために、ICP-MS実験を行った。図23に示されるとおり、細胞を遊離のIONP(1g/L、フィルム中の鉄の濃度と等価である)に曝すことは、細胞のより高い鉄含量につながる。遊離のIONPへのレーザー照射は、細胞内の鉄レベルをさらに増大させる。これは、おそらく(i)IONPのより小さなフラグメントへの断片化および(ii)細胞膜を穿孔するVNB(遊離のIONPによって生成されるため)、それによって鉄取り込みが促進されることに起因する。PLA-IOCフィルムで覆われた細胞(レーザー処置を伴わない)においては、鉄含量は未処置の細胞と同じくらい低いままである。PLA-IOCフィルムに照射がされると、細胞内の鉄含量における増大を観察することができた。しかしながら、細胞内の鉄含量は、遊離のIONPおよびレーザーで処置された細胞内の量をはるかに下回ったままであった。
【0174】
2.5 パルス光レーザーに曝されたPLA-IOCフィルムによる表在性の角膜細胞の死滅
培養された細胞層の上にフィルムが位置しているときに(図18)効率的な細胞死滅を達成することができたので、次のステップでは本発明に従う構造物によって組織(角膜)の表在性の細胞を殺すことができたかどうかを評価した。図24に説明されているとおり、ウシの目をフィルム上に位置させ;角膜全体を、続いて、1.6J/cm2で4回連続で照らした。角膜を、次いで摘出し、PIで染色し、および共焦点顕微鏡法によってイメージングした。
【0175】
第1の所見は、やや予想外なことに、対照の目、すなわちPLAフィルムがないかまたはIOCのないPLAフィルムで覆われた目の中に、PI陽性細胞が存在したということであった。これは、おそらく(i)抜き取りの数時間後にex vivoのウシの角膜上皮細胞が既に死に始めていた、および(ii)上皮細胞死は、実例として、まばたきによって引き起こされるせん断力によって生理学的に起こり得ることが知られている、という理由のためである。しかしながら、共焦点顕微鏡画像では、4回の1.6J/cm2レーザーパルスを照射したPLA-IOCフィルムで覆われた角膜において、IOCを伴わないPLAフィルムを使用した対照実験と比較して、PI陽性細胞に有意な増大が観察されたことが確認された(図25)。
【0176】
角膜細胞の膜穿孔を確認するために、実験を、緑色蛍光FD500の存在下で繰り返した。共焦点顕微鏡画像は、PLA-IOCフィルムで覆いおよび4回の1.6J/cm2のパルスで処置した角膜中の緑色蛍光において、IOCを伴わないPLAフィルムを使用した対照実験と比較して明らかな違いを示した。この所見は、実際に角膜の細胞膜の穿孔が起こったということを示す。同様に重要なことに、緑色蛍光(FD500)は、自然死した細胞の赤色蛍光と共局在化しておらず、細孔の形成は、角膜を覆うPLA-IOCフィルムのレーザー照射に起因するということが示された。FD500は、未処置の角膜細胞に侵入しなかったことが観察された。
【0177】
空間的に選択的な細胞死滅が角膜のレベルで達成できたかどうかをチェックするために、上皮細胞をカルセインAM(5μg/ml)で染色した。染色された角膜を、次いで、上皮側を下にしてフィルムの上に置いた(図28)。関心対象の領域を選択し、およびレーザー照射(<7ns;561nm)を4回適用した。1.6J/cm2のフルエンスでの4回の照射の後、蛍光の局所的な減少を観察することができ、および、照射された細胞はそれらの染色を失った。より高いフルエンス(4.5J/cm2、4回)では、標的にされたエリア内の細胞はもはや見えなくなり、切除が起こることが示唆される。両方のフルエンスについて、周囲の細胞(すなわち、レーザービームの外側の場所にある)は、レーザー照射の後で染色を失っておらず、それらが触れられないまま残されたことが示唆される。
【0178】
例2
本発明に従う構造物の第2の態様は、ナノ繊維とナノ繊維中に包埋された電磁放射線を吸収することが可能な粒子とを含む多孔質構造を含み、これによって粒子の一部分は、構造物の自由表面Sに、とりわけナノ繊維の自由表面に、部分的に露出している。下に記載された例は、構造物の材料としてポリカプロラクトン、および、電磁放射線を吸収することが可能な粒子として酸化鉄ナノ粉末を含む。他の材料および他の粒子も同様に考慮することができることは明らかである。
【0179】
1. 材料および方法
1.1 材料
以下の材料が、ナノ繊維の網目の合成のために使用される:
● ポリカプロラクトン(PCL、Mw≒70,000g/mol);
● N,N-ジメチルホルムアミド(DMF);
● テトラヒドロフラン(THF);
● 酸化鉄(Fe3O4)ナノ粉末(IONP)(#MKBW3262、Sigma-Aldrich、ベルギー);
● ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH、Mw=17,560g/mol、#MKBZ2824V、Sigma-Aldrich、ベルギー);
● 濃硫酸溶液(96%)(Sigma-Aldrich);
● コラーゲンIラットタンパク質(Thermo Fisher Scientific、#A1048301、Gibco(商標)、ベルギー)。
【0180】
1.2 ナノ繊維および粒子を含む構造物の調製
PCLを0体積%~1.15体積%の間の種々異なる濃度となるように加えた1:1のDMF/THF溶液中に、IONPを再分散させた。
このようにして得られた混合物を、エレクトロスピニングによってナノ繊維を製造するために使用した。ナノ繊維を、接地回転コレクター上に搭載された顕微鏡スライドガラス(#1000912、Marienfeld、ドイツ)上で収集した。
IONPは、粒子の一部分がナノ繊維の自由表面Sに部分的に露出しているナノ繊維中に包埋されていた。
図1
図2-3】
図4
図5-6】
図7-8】
図9-10】
図11-12】
図13-14】
図15-16】
図17-18】
図19-21】
図22-23】
図24-26】
図27-28】
【国際調査報告】