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特表2024-511626動静脈グラフトをインプラント処置するための装置及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-14
(54)【発明の名称】動静脈グラフトをインプラント処置するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20240307BHJP
   A61B 17/34 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
A61M1/36 107
A61B17/34
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558807
(86)(22)【出願日】2021-12-30
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 US2021065756
(87)【国際公開番号】W WO2022203738
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】63/166,794
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/166,790
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519352399
【氏名又は名称】インナバスク メディカル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】ショーン エム.ゲージ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】クレイグ ニコルズ
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ ナイト
(72)【発明者】
【氏名】ジュアン キオソーネ
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ローソン
(72)【発明者】
【氏名】サマンサ ブッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン ウォルシュ
【テーマコード(参考)】
4C077
4C160
【Fターム(参考)】
4C077AA30
4C077DD21
4C077JJ03
4C160FF45
(57)【要約】
血管動静脈グラフトをデリバリーするための装置は、トンネリング器具(42)の上にスライド可能に配置されるように適合された内腔を画定する管状スリーブ(44)を含む。トンネリング器具が所望の皮下解剖学的位置まで前進すると、スリーブが組織内に残されたままシャフトが除去される。スリーブは、近位端からスリーブの長さの中間点まで延在する直線状スリット(58)を有する。内腔は、グラフトの遠位端及びカニューレ挿入チャンバの少なくとも一部を受け入れ、スリーブの端部はスリットに沿って徐々に拡張して、カニューレ挿入チャンバを収容するための拡大直径を提供する。組織からスリーブを除去する際のスリーブに対する長手方向の力は、スリーブの半径方向の圧縮によってグラフトをスリーブ内に固定し、グラフト及びスリーブをトンネルを通して引っ張り、血管グラフトを展開する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カニューレ挿入チャンバを含み、近位端及び遠位端ならびに前記近位端と前記遠位端との間の長手方向軸に沿って延在する長さを有する血管動静脈グラフトを患者の組織内に皮下デリバリーするための装置であって、皮下組織内に通路を形成するために、シャフトの近位端にハンドルを有し、シャフトの遠位端に取り外し可能な先端を有する長尺シャフトを含む剛性トンネリング器具を使用し、皮下デリバリー装置は、
ある長さを有し、内腔を画定する長尺管状スリーブを含み、前記スリーブは、前記ハンドルと前記先端との間の前記トンネリング器具のシャフトの少なくとも一部の上にスライド可能に配置されるように適合されており、それにより、前記トンネリング器具が所望の皮下解剖学的位置まで前進すると、前記スリーブが所望の解剖学的位置に配置されたままである間に、前記シャフトは前記スリーブから選択的に取り外され、前記スリーブは、近位端からスリーブの長さの中間点まで前記スリーブの長さに沿って延在しているスリットを有し、
前記スリーブの近位端で画定された内腔は、グラフトの遠位端及びカニューレ挿入チャンバの少なくとも一部を受け入れるように適合されており、それにより、前記スリーブの近位端部分が前記スリットに沿って徐々に拡張して、前記カニューレ挿入チャンバを収容するための拡大直径を提供し、そして
前記スリーブの遠位端からスリーブに長手方向の力を加えると、組織から前記スリーブを取り外す際に前記スリーブを遠位方向に移動させ、それにより、前記グラフトと前記スリーブをトンネルを通して引っ張り、血管グラフトを展開するために、前記スリーブの半径方向の圧縮によって前記グラフトが前記スリーブ内に固定されるようにするのに効果的である、皮下デリバリー装置。
【請求項2】
前記スリーブは、前記ハンドルと前記先端との間で前記シャフトの実質的に全長を受け入れるように適合されている、請求項1記載の皮下デリバリー装置。
【請求項3】
前記スリーブは、前記遠位端が前記近位端から減少した直径を有するように、前記近位端から前記遠位に向かって均一にテーパ化されている、請求項1記載の皮下デリバリー装置。
【請求項4】
前記スリットは直線状である、請求項1記載の皮下デリバリー装置。
【請求項5】
前記スリーブは、前記近位端に隣接する拡大直径部分を含み、前記スリーブの拡大直径部分は、前記カニューレ挿入チャンバを受け入れるように適合されている、請求項1記載の皮下デリバリー装置。
【請求項6】
カニューレ挿入チャンバを含み、近位端及び遠位端ならびに前記近位端と前記遠位端との間の長手方向軸に沿って延在する長さを有する血管動静脈グラフトを患者の組織に皮下インプラント処置するための装置であって、該皮下インプラント処置装置は、
皮下組織内に通路を形成するための剛性トンネリング器具、
ここで、前記トンネリング器具は、
シャフトの近位端にハンドルを有している長尺シャフト、及び 前記シャフトの遠位端に、取り外し可能な先端
を有しており、
ある長さを有し、内腔を画定する長尺管状スリーブ、ここで、前記スリーブは、スリーブの長さに沿って近位端からスリーブの長さの中間点まで延在しているスリットを有し、前記スリーブは、前記ハンドルと前記先端との間の前記トンネリング器具のシャフトの少なくとも一部の上にスライド可能に配置されるように構成されている、
を含んでおり、
前記トンネリング器具が所望の皮下解剖学的位置に前進すると、前記シャフトは前記スリーブから選択的に取り外され、一方、前記スリーブは前記解剖学的位置に配置されたままであり、
前記内腔は、前記スリーブの近位端を介してグラフトの遠位端及び前記カニューレ挿入チャンバの少なくとも一部を受け入れ、それにより、前記スリーブの近位端部分は前記スリットに沿って徐々に拡張して、前記カニューレ挿入チャンバを収容するための拡大直径を提供するように適合されており、そして
前記スリーブの遠位端から前記スリーブに長手方向の力を加えることは、組織からスリーブを除去するために前記スリーブを遠位方向に移動させ、それにより、前記動静脈グラフトと前記スリーブをトンネルを通して引っ張り、血管グラフトを展開するために、前記スリーブの周囲での組織の半径方向の圧縮によって前記動静脈グラフトが前記スリーブ内に固定されるようにするのに効果的である、皮下インプラント処置装置。
【請求項7】
前記スリーブは、前記ハンドルと前記先端との間で前記シャフトの実質的に全長を受け入れるように構成されている、請求項6記載の皮下インプラント処置装置。
【請求項8】
前記スリーブは、前記遠位端が前記近位端から減少した直径を有するように、前記近位端から前記遠位端まで均一にテーパ化されている、請求項6記載の皮下インプラント処置装置。
【請求項9】
前記スリットは直線状である、請求項6記載の皮下インプラント処置装置。
【請求項10】
前記スリーブは、前記近位端に隣接する拡大直径部分を含み、前記拡大直径部分は、前記カニューレ挿入チャンバを受け入れるように適合されている、請求項6記載の皮下インプラント処置装置。
【請求項11】
前記スリーブは、前記近位端に終端壁を含み、前記壁は、前記スリーブを前記トンネリング器具に接続するために、前記トンネリング器具の先端を受け入れるための軸方向開口部を有する、請求項6記載のインプラント処置装置。
【請求項12】
ピンを含むクリップをさらに含み、前記シャフトは、前記ピンを受け入れ、そして前記クリップと前記シャフトとの間に前記スリーブを捕捉するための軸方向通路を画定する前記先端に隣接する穴を有する、請求項6記載の皮下デリバリー装置。
【請求項13】
患者内にメディカルデバイスを皮下デリバリーするためのシステムであって、前記皮下デリバリーデバイスは、
皮下組織内に通路を形成するための剛性トンネリング器具、ここで、前記トンネリング器具は、
シャフトの近位端にハンドルを有している長尺シャフト、及び
前記シャフトの遠位端に取り外し可能な先端、
を含んでおり、
カニューレ挿入チャンバを含み、近位端及び遠位端ならびに前記近位端と前記遠位端との間で長手方向軸に沿って延在する長さを有する血管動静脈グラフト、及び、
ある長さを有し、内腔を画定する長尺管状スリーブ、ここで、前記スリーブは、近位端からスリーブの長さの中間点までスリーブの長さに沿って延在するスリットを有し、前記スリーブは、前記ハンドルと前記先端との間の前記トンネリング器具の少なくとも一部の上にスライド可能に配置されるように構成されている、
を含んでおり、
前記トンネリング器具が所望の皮下解剖学的位置に前進すると、前記シャフトは前記スリーブから選択的に取り外され、一方、前記スリーブは前記解剖学的位置に配置されたままであり、
前記内腔は、前記スリーブの近位端を介して前記グラフトの遠位端及び前記カニューレ挿入チャンバの少なくとも一部を受け入れるように構成され、それにより、前記スリーブの近位端部分はスリットに沿って徐々に拡張して、前記カニューレ挿入チャンバを収容するための拡大直径を提供するように構成されており、そして、
前記スリーブの遠位端から前記スリーブに長手方向の力を加えることは、組織から前記スリーブを除去するために前記スリーブを遠位方向に移動させ、それにより、前記動静脈グラフトと前記スリーブをトンネルを通して引っ張り、血管グラフトを展開するために、前記スリーブの周囲での組織の半径方向の圧縮によって前記動静脈グラフトが前記スリーブ内に固定されるようにするのに効果的である、皮下デリバリーシステム。
【請求項14】
前記スリーブは、前記ハンドルと前記先端との間で前記シャフトの実質的に全長を受け入れるように構成されている、請求項13記載の皮下デリバリーシステム。
【請求項15】
前記スリーブは、前記遠位端が前記近位端から減少した直径を有するように、前記近位端から前記遠位端まで均一にテーパ化されている、請求項13記載の皮下デリバリーシステム。
【請求項16】
前記スリットは直線状である、請求項13記載の皮下デリバリーシステム。
【請求項17】
前記スリーブは、前記近位端に隣接する拡大直径部分を含み、前記拡大直径部分は、前記カニューレ挿入チャンバを受け入れるように適合されている、請求項13記載の皮下デリバリーシステム。
【請求項18】
前記スリーブは、前記近位端に壁を含み、前記壁は、前記スリーブを前記トンネリング器具に接続するために、前記トンネリング器具の先端を受け入れるための軸方向開口部を有する、請求項13記載の皮下デリバリーシステム。
【請求項19】
ピンを含むクリップをさらに含み、前記シャフトは、前記シャフトを前記スリーブに接続して近位方向に引張力を加えるために前記ピンを受け入れるための軸方向通路を画定する前記先端に隣接する穴を有する、請求項13記載の皮下デリバリーシステム。
【請求項20】
対象の組織に動静脈グラフトを皮下インプラント処置するための方法であって、前記動静脈グラフトはカニューレ挿入チャンバを含み、近位端及び遠位端ならびに前記近位端と前記遠位端との間の長手方向軸に沿って延在する長さを有する、方法であって、
対象の組織を第一の近位位置と、前記第一の近位位置から離間した第二の遠位位置で切開すること、
シャフトの近位端にハンドルを有し、前記シャフトの遠位端に取り外し可能な先端を有する長尺シャフトを含んでいる、剛性トンネリング器具を提供すること、
前記先端を除去し、前記先端と前記ハンドルとの間の前記シャフトの少なくとも一部の上に管状スリーブを配置すること、ここで、前記スリーブは前記近位端から前記スリーブの長さの中間点まで前記スリーブの長さに沿って延在するスリットを有する、
前記先端を前記シャフトの前記遠位端に固定し、前記先端を第一の切開部に挿入し、そして、前記スリーブの遠位端が第二の切開部から延在し、前記スリーブの近位端が前記第一の切開部から延在するように、前記先端が前記第二の切開部を出るまで経路に沿って組織を通して前記器具及び前記スリーブを皮下的に前進させること、
前記先端を除去し、そして組織内の前記スリーブから前記シャフトを取り外すために前記ハンドルによって前記トンネリング器具を近位方向に引くこと、
前記カニューレ挿入チャンバが少なくとも部分的に前記スリーブに入り、前記スリーブが前記スリットに沿って拡張して前記チャンバの少なくとも一部を収容するまで、前記グラフトの遠位端を前記スリーブの近位端に挿入すること、及び、
前記スリーブを組織から引き抜くために前記スリーブを遠位方向に引っ張る一方、前記スリーブの近位端は、トンネルを画定する切開組織によって圧縮され、前記スリーブを前記チャンバに対して押し付けて、前記スリーブとともに組織を通して前記グラフトを引っ張ること、
の工程を含む、方法。
【請求項21】
前記動静脈グラフトのカニューレ挿入チャンバを組織内に遠位方向に引き戻すために、前記動静脈グラフトの近位端を近位方向に引く工程をさらに含む、請求項20記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、両方とも2021年3月26日に出願された米国仮出願第63/166,794号及び米国仮出願第63/166,790号の利益を主張し、両方の内容の全体を本明細書に組み込む。
【0002】
背景
動静脈グラフトをインプラント処置するための装置及び方法、より詳細には、動静脈グラフトをインプラント処置するための皮下解剖学的トンネルを形成する際にトンネリング器具を使用するための装置及び方法であって、動静脈グラフトのデリバリーのためのトンネリング器具を取り囲む取り外し可能なスリーブの使用を含む、装置及び方法を記載する。
【背景技術】
【0003】
血管動静脈グラフトは、血管間の血液の流れを再指向させるために体内にインプラント処置するのに適した管状デバイスである。動静脈グラフトの外科的インプラント処置は、皮下組織内にグラフトを配置することを必要とする。インプラント処置の最初の工程は、吻合部位間に動静脈グラフトを通過させるための皮下解剖学的経路、つまり「トンネル」を作成することであり、これは、一般に、グラフトトンネルと呼ばれる。これは、すべての末梢血管アクセス及び追加的解剖学的グラフト位置のための末梢血管処置において必要な外科的工程である。動静脈グラフトは、既存の末梢血管にグラフトを固定して血管もしくはその一部の周囲にバイパスを形成するか、又は、動静脈シャントを形成するための動脈及び静脈の接続を形成するために、体組織内のトンネル内に配置される。血管グラフトは、動脈と動脈とを接続することもできる。
【0004】
従来のトンネリングデバイスは、近位端にハンドルを有し、遠位端に弾丸形の先端を有する長尺剛性ロッドを含む。ロッドはサイズ及び形状が様々であることができ、直線シャフト、湾曲シャフト又は半円形シャフトを有することができ、これにより、様々なグラフト配置位置及び場所が可能になる。トンネリング手順において、選択された吻合領域に第一の近位切開部と第二の遠位切開部を作る。トンネリングデバイスの遠位端の先端を近位切開部に挿入する。次いで、トンネリングデバイスの先端を皮下組織に強制的に通過させ、先端が遠位切開部から突出するまで、鈍的切開によって切開部間に経路を形成する。先端が露出したら、動静脈グラフトの近位端をトンネリングデバイスの遠位端又は先端に滅菌縫合糸で結ぶ。次いで、トンネリング器具及び取り付けられた動静脈グラフトを、動静脈グラフトの近位端が近位切開部から延在するまで、先程切開されたグラフトトンネルを通る経路に沿って近位方向に引っ張る。動静脈グラフトが適切に配置されると、グラフトはトンネリング器具の遠位端から切り離され、グラフトの一部を除去する。グラフトの端部と、バイパスされる血管系領域の周囲の血管との間に吻合を形成し、切開部を閉じる。
【0005】
トンネリング器具及び取り付けられた動静脈グラフトをグラフトトンネルを通して引っ張る工程はかなりの力を必要とすることがある。必要な力は、グラフトトンネルとグラフトとの相対的なサイズ及びグラフトの材料を含む、幾つかの要因による。動静脈グラフト及び他のインプラント可能なデバイスのための従来のデリバリーシステムは、時折、皮下組織を通過する際の摩擦を軽減する保持スリーブで覆われている。インプラント処置後に、スリーブをリトラクトするためにデバイス上で引っ張るか又は巻き戻すことによってスリーブを除去する。リトラクト中にスリーブを回転させると、デバイス上でスリーブを滑らせてスリーブを引き抜くことに比べて、必要な引っ張り力が軽減されるが、動静脈グラフトのインプラント処置後にスリーブをリトラクトさせるのに依然としてかなりの力が必要となる可能性がある。
【0006】
上述の理由により、グラフトをデリバリーするのに必要な力を最小限に抑えるための、動静脈グラフトをインプラント処置する装置及び方法が必要とされている。スリーブの形態の新しい装置は、トンネリングデバイスによって形成される解剖学的トンネルの長さを規定し、支持するのを助けるべきである。スリーブは、リトラクト中にスリーブにかかる過剰な軸方向の力に関連する問題を最小限に抑えるために、低い引っ張り力で信頼性の高い方法で引き抜くことができるべきである。新しい装置及び方法はまた、限定されないが、ePTFE及び天然組織グラフトを含む任意のタイプの血管グラフトをインプラント処置できるべきである。
【発明の概要】
【0007】
要旨
カニューレ挿入チャンバを含み、近位端及び遠位端ならびに前記近位端と前記遠位端との間の長手方向軸に沿って延在する長さを有する血管動静脈グラフトを患者の組織内に皮下デリバリーするための装置が提供される。この装置は、皮下組織内に通路を形成するために、シャフトの近位端にハンドルを有し、シャフトの遠位端に取り外し可能な先端を有する長尺シャフトを含む剛性トンネリング器具を使用する。皮下デリバリー装置は、ある長さを有し、内腔を画定する長尺管状スリーブを含み、前記スリーブは、ハンドルと先端との間のトンネリング器具のシャフトの少なくとも一部の上にスライド可能に配置されるように適合される。トンネリング器具が所望の皮下解剖学的位置に前進すると、シャフトがスリーブから選択的に取り外され、一方、スリーブが所望の解剖学的位置に配置されたままである。スリーブは、近位端からスリーブの長さの中間点までスリーブの長さに沿って延在している直線状スリットを有する。スリーブの近位端で画定された内腔は、グラフトの遠位端及びカニューレ挿入チャンバの少なくとも一部を受け入れるように適合されており、それにより、スリーブの近位端部分がスリットに沿って徐々に拡張して、カニューレ挿入チャンバを収容するための拡大直径を提供する。スリーブの遠位端からスリーブに長手方向の力を加えると、組織からスリーブを取り外す際にスリーブを遠位方向に移動させ、それにより、グラフトとスリーブをトンネルを通して引っ張り、血管グラフトを展開するために、スリーブの半径方向の圧縮によってグラフトがスリーブ内に固定されるようにするのに効果的である。
【0008】
1つの態様において、スリーブは、ハンドルと先端との間でシャフトの実質的に全長を受け入れるように適合されている。別の態様において、スリーブは、遠位端が近位端から減少した直径を有するように、近位端から遠位端まで均一にテーパ化されている。
【0009】
1つの実施形態において、スリーブは、近位端に隣接し、カニューレ挿入チャンバを受け入れるように適合された拡大直径部分を含む。
【0010】
また、カニューレ挿入チャンバを含み、近位端及び遠位端ならびに前記近位端と前記遠位端との間の長手方向軸に沿って延在する長さを有する血管動静脈グラフトを患者の組織に皮下インプラント処置するための装置も提供される。皮下インプラント処置装置は、皮下組織内に通路を形成するための剛性トンネリング器具を含む。トンネリング器具は、シャフトの近位端にハンドルを有し、シャフトの遠位端に取り外し可能な先端を有する長尺シャフトを含む。長尺管状スリーブは、ある長さを有し、内腔を画定する。直線状スリットは、スリーブの長さに沿って近位端からスリーブの長さの中間点まで延在している。スリーブは、ハンドルと先端との間でトンネリング器具のシャフトの少なくとも一部の上にスライド可能に配置されるように構成されている。トンネリング器具が所望の皮下解剖学的位置に前進すると、スリーブが解剖学的位置に配置されている間に、シャフトはスリーブから選択的に取り外される。内腔は、スリーブの近位端を介してグラフトの遠位端及びカニューレ挿入チャンバの少なくとも一部を受け入れるように適合されており、それにより、スリーブの近位端部分はスリットに沿って徐々に拡張して、カニューレ挿入チャンバを収容するための拡大直径を提供する。スリーブの遠位端からスリーブに長手方向の力を加えると、組織からスリーブを除去するためにスリーブを遠位方向に移動させ、それにより、スリーブの周囲での組織の半径方向の圧縮によって、動静脈グラフトはスリーブ内に固定されるようにするのに効果的である。動静脈グラフトとスリーブをトンネルを通して引っ張り、血管グラフトを展開する。
【0011】
1つの態様において、スリーブは、ハンドルと先端との間でシャフトの実質的に全長を受け入れるように適合されている。別の態様において、スリーブは、遠位端が近位端から減少した直径を有するように、近位端から遠位端まで均一にテーパ化されている。
【0012】
1つの実施形態において、スリーブは、近位端に隣接した、カニューレ挿入チャンバを受け入れるように適合された拡大直径部分を含む。
【0013】
スリーブの特徴は、近位端に壁を備え、該壁は、スリーブをトンネリング器具に接続するためにトンネリング器具の先端を受け入れるための軸方向の開口部を有する。ピンを含むクリップであって、シャフトは、ピンを受け入れるための軸方向通路を画定する先端に隣接する穴を有する。
【0014】
患者内にメディカルデバイスを皮下デリバリーするためのシステムが提供される。皮下デリバリーシステムは、近位端及び遠位端を有するシャフトを有するトンネリング器具、ある長さ、遠位端、近位端、外面及び長手方向軸を有する血管グラフト、ならびに、ある長さを有しそして前記シャフトの外面の実質的な部分の上に配置されたスリーブを含む。る。スリーブは、血管グラフトをインプラント処置するためにスリーブに遠位方向に長手方向の力を加えると、カニューレ挿入チャンバに半径方向の圧力を加え、スリーブの除去中にスリーブを遠位方向に移動させるように構成されている。
【0015】
1つの態様において、スリーブは、ハンドルと先端との間でシャフトの実質的に全長を受け入れるように適合されている。別の態様において、スリーブは、遠位端が近位端から減少した直径を有するように、近位端から遠位端まで均一にテーパ化されている。
【0016】
1つの実施形態において、スリーブは、近位端に隣接した、カニューレ挿入チャンバを受け入れるように適合された拡大直径部分を含む。
【0017】
スリーブの特徴は、近位端に壁を備え、該壁は、スリーブをトンネリング器具に接続するためにトンネリング器具の先端を受け入れるための軸方向の開口部を有する。
【0018】
別の実施形態において、皮下デリバリーシステムは、ピンを含むクリップをさらに含むことができ、シャフトは、近位方向に引っ張り力を加えるためにシャフトをスリーブに接続するためのピンを受け入れるための軸方向通路を画定する先端に隣接する穴を有する。
【0019】
対象の組織に動静脈グラフトを皮下インプラント処置する方法も提供される。動静脈グラフトは、カニューレ挿入チャンバ、近位端及び遠位端、ならびに、前記近位端と前記遠位端の間の長手方向軸に沿って延在している長さを含む。このインプラント処置方法は、対象の組織を第一の近位位置と、該第一の近位位置から離間した第二の遠位位置で切開する工程を含む。シャフトの近位端にハンドルを有し、シャフトの遠位端に取り外し可能な先端を有する長尺シャフトを含む、剛性トンネリング器具が提供される。先端が除去され、管状スリーブが先端とハンドルとの間のシャフトの少なくとも一部の上に配置され、スリーブは近位端からスリーブの長さの中間点までスリーブの長さに沿って延在するスリットを有する。先端はシャフトの遠位端に固定され、第一の切開部に挿入され、使用者は、スリーブの遠位端が第二の切開部から延在し、スリーブの近位端が第一の切開部から延在するように、先端が第二の切開部を出るまで通路に沿って組織を通して器具及びスリーブを皮下的に前進させる。先端を除去し、その後に、組織内のスリーブからシャフトを取り外すためにハンドルによってトンネリング器具を近位方向に引く。カニューレ挿入チャンバが少なくとも部分的にスリーブに入り、スリーブがスリットに沿って拡張してチャンバの少なくとも一部を収容するまで、グラフトの遠位端をスリーブの近位端に挿入する。この方法は、スリーブを組織から引き抜くためにスリーブを遠位方向に引っ張り、一方、スリーブの近位端は、トンネルを画定する切除組織によって圧縮され、スリーブをチャンバに対して押し付けて、スリーブとともに組織を通してグラフトを引っ張る工程を含む。
【0020】
1つの態様において、この方法は、動静脈グラフトのカニューレ挿入チャンバを組織内に引き戻すために、動静脈グラフトの近位端を近位方向に引く工程をさらに含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図面の簡単な説明
皮下解剖学的トンネルの形成に使用される装置及び方法をより完全に理解するために、添付の図面に示され、以下に説明される実施形態を参照する必要がある。図面において、
【0022】
図1図1は、動静脈グラフトを皮下に展開するためのトンネリング器具とともに使用するためのテーパ化スリーブの遠位端からの斜視図である。
【0023】
図2図2は、図1に示すとおりのスリーブの近位端からの斜視図である。
【0024】
図3図3は、図1に示すとおりのスリーブの近位端図である。
【0025】
図4図4は、図1に示すとおりのスリーブの遠位端図である。
【0026】
図5図5は、図1に示すとおりのスリーブの平面図である。
【0027】
図6図6は、図5に示すとおりのスリーブの底面図である。
【0028】
図7図7は、皮下解剖学的トンネルを形成し、動静脈グラフトをデリバリーする際に使用するための装置の分解斜視図である。
【0029】
図8図8は、トンネリング器具上でスリーブとともにトンネリング状態にある図7に示されるとおりのトンネル形成及びデリバリー装置の斜視図である。
【0030】
図9図9は、図7に示すとおりのスリーブ内に挿入された、図7に示すとおりのトンネリング器具のシャフトの拡大斜視図である。
【0031】
図10図10は、図8に示すとおりのスリーブによって覆われ、組織の一部で展開されそして間隔をあけた切開部から延在する端部を有するトンネリング器具を示す斜視図である。
【0032】
図11図11は、トンネリング器具が取り外され、そして組織内のスリーブが示されている、図10に示すとおりの斜視図である。
【0033】
図12図12は、スリーブの近位端に装填されたカニューレ挿入チャンバを含む動静脈グラフトを示す、図11に示すとおりの斜視図である。
【0034】
図13図13は、組織から出るスリーブの近位端と、組織から部分的に延在する動静脈グラフトのカニューレ挿入チャンバを示す、図12に示すとおりの斜視図である。
【0035】
図14図14は、動静脈グラフトのみが組織内に残り、両端が各切開部で組織から延在している、図13に示すとおりの斜視図である。
【0036】
図15図15は、トンネリング器具とともに使用するためのスリーブの別の実施形態の近位端の断面斜視図である。
【0037】
図16図16は、トンネリング器具とともに使用するためのスリーブの第三の実施形態の近位端の断面斜視図である。
【0038】
図17図17A及び17Bは、トンネリング器具とともに使用するためのスリーブの第四の実施形態の斜視図である。
【0039】
図18図18は、図1に示すとおりのトンネリング器具にスリーブを接続するための機械的締結要素の斜視図である。
【0040】
図19図19は、カニューレ挿入チャンバを有する動静脈グラフトをデリバリーするためのトンネリング器具とともに使用するためのスリーブの第五の実施形態の斜視図である。
【0041】
図20図20A及び20Bは、動静脈グラフトをデリバリーするためのスリーブ及びトンネリング器具の第六の実施形態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
説明
本明細書において、特定の用語が便宜上のみ使用されており、限定として解釈されるべきではない。例えば、「上(upper)」、「下(lower)」、「左(left)」、「右(right)」、「水平(horizontal)」、「垂直(vertical)」、「上方(upward)」、「下方(downward)」、「上(top)」、「下(bottom)」などの単語は、図に示されている構成を単に説明しているだけである。実際、構成要素は任意の方向に向けることができ、したがって、特に指定がない限り、用語はそのような変形を包含するものとして理解されるべきである。「内部(interior)」及び「外部(exterior)」という言葉は、それぞれ、コア及びその指定された部分の幾何学的中心に向かう方向及びそこから離れる方向を指す。この用語には、上記で特に言及した単語、その派生語、及び同様の意味を有する単語が含まれる。
【0043】
ここで図面を参照すると、幾つかの図を通して同様の参照番号は対応する又は同様の要素を示しており、患者に血管動静脈グラフトをインプラント処置するための皮下解剖学的トンネルを形成する際に使用するための装置の実施形態は図1に示されており、概して40で指定されている。トンネル形成及びインプラント処置装置40は、本明細書で「トンネリングデバイス」とも呼ばれるトンネリング器具42、管状スリーブ44及び血管動静脈グラフト46を含む。トンネリング器具42は、長尺剛性シャフト48、該シャフトの一端にある近位ハンドル50、該シャフトの他端にある取り外し可能な遠位先端52を含む。先端52は、一般的に弾丸形状であるか、又はさもなければ、尖った遠位端から直径が増加している楕円形又は円形の形状を有する。トンネリング処置中、シャフト48及び先端52は、ハンドル50上で遠位方向に軸方向の力を加えることによって皮下組織を通って前進し、先端はトンネリング処置に固有の組織の鈍的切開を促進する。シャフト50及び先端52はステンレス鋼から作られることができるが、当業者であれば、他の材料が適切である可能性があることを認識するであろう。代替材料の1つのそのような例は、硬質プラスチックなどのプラスチックである。適切なトンネリング器具は、サウスカロライナ州モンクスコーナーのC.R.Bard,Inc.から入手可能なKelly-Wick Tunnelerである。
【0044】
この装置及び方法での使用に適した動静脈グラフト46は、米国特許第9,585,998号明細書に記載されており、その内容全体を参照により本明細書に組み込む。動静脈グラフト46は、第一の端部134及び第二の端部136を有する導管132を含む。第一の端部134は、動脈などの対象の第一の血管にその端部で接続するように構成されている。第二の端部136は、静脈などの対象の第二の血管にその端部で接続するように構成されている。これに関して、血液は導管132を通って第一の端部134から第二の端部136まで流れる。少なくとも1つのカニューレ挿入チャンバ140は導管132の第一の端部134と第二の端部136との間に配置される。導管132はチャンバ140を通して延在している。カニューレ挿入チャンバ140は透析針を受け入れるように構成されたカニューレ挿入ポートを画定する開放前方部分を有する。トンネル形成装置は、天然組織グラフト又は瘻孔だけでなく、任意の血管グラフトにも使用できることが理解される。
【0045】
図2~7を参照すると、管状スリーブ44は、近位端54と遠位端56の両方で開いている中空管を含む。1つの実施形態において、スリーブ44の直径は近位端54から遠位端56に向かってテーパ化している。遠位端56におけるスリーブ44の直径は、先端52の最大寸法よりも小さい。図8に示されるように、スリーブ44は、トンネリング器具42の先端52に近位的に係合し、トンネリング器具42のハンドル50まで延在している。スリーブ44は、直径及び長さが、トンネリング処置中のトンネリング器具42のシャフト48の上にスライド可能に配置され、シャフト48の少なくとも一部分を取り囲むような寸法に作られている。組織のトンネル形成に続いて、シャフト48の長手方向軸に沿って近位方向にハンドル50に引張力が加えられると、先端52は除去され、シャフト48はスリーブ44から引き抜かれる。スリーブ44は、組織内に留まり、スリーブ44の表面の制限されない可撓性の性質により、トンネリング処置された組織経路を通したグラフト46の挿入を提供する。
【0046】
図6及び図7に最も良く分かるように、スリーブ44は、開放近位端54からスリーブ44の長さに沿った位置まで延在しているスリーブの長手方向軸に沿って配向された直線状スリット58を有する。スリット58は、一般に、スリーブ44の長さに沿って直線状又はらせん状(図示されない)に配向されうる。スリット58により、動静脈グラフトがスリーブの近位端54に挿入されるときに、スリーブ44がスリットで拡張することが可能になる。図示の実施形態において、スリーブ44は、スリーブが拡張されるときにスリーブがスリット58から裂けるのを防ぐために、スリット58の端部に穴60を有する。スリット58は、長さ及び形状を変えることができる。スリットがより短いと、カニューレ挿入チャンバ140のより小さな領域のみを受け入れることができ、表面の損傷を軽減することができる。スリット58がより長いと、グラフト46が完全に解剖学的トンネル内に入る前にスリーブが解放されるリスクを低減するために、デリバリー中にカニューレ挿入チャンバ140をより良くクランプするためにカニューレ挿入チャンバ140をより多く受け入れることを可能にする。スリット58の開口部はまた、異なる形状を有することをできる。図15は、三角形の開口部を形成するためのスリーブ44の近位端54からの材料除去を示す。同様に、図16は、カニューレ挿入チャンバ140を受け入れるための直線状の開口部を形成するスリット58を示す。複数のスリット(図示せず)を使用することもできる。複数のスリットにより、より大きなカニューレ挿入チャンバ140がスリーブ44内に挿入され、スリーブ44によってクランプされることが可能になる。スリーブが従来の生体グラフトの展開に使用されるときに、スリーブ44の端部のスリット58は必要ないことが理解される。この用途では、内腔がグラフトの直径よりも大きいため、スリットは必要ない。グラフトは組織内のスリーブ44内に単純にスライド可能であることができ、スリーブ44はグラフトを残して組織から引き抜かれる。
【0047】
スリーブ44は、滑らかで、可撓性があり、圧縮性のある任意の生体適合性材料から作られることができる。適切な材料は、多孔質、非多孔質、透過性又は不透過性であることができる。スリーブ材料は過度に曲がらないので、スリーブ44は、グラフト46のトンネリング及び展開中に加えられる引張力を吸収することができる。そのような材料の例としては、限定するわけではないが、シルク、シリコーン、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)などのフルオロポリマー、高密度ポリエチレン(HDPE)ならびにポリエステル及びポリイミドなどのその他のポリマーが挙げられる。適切な材料は、ニュージャージー州リッジフィールドのColoriteから入手可能である。スリーブの材料及び特性、例えば、厚さ及び幅などを変えることによって、様々な所望の構成を達成することができる。スリーブ44は押出成形されてもよい。スリーブ44は、スリーブに対する軸方向の引張力によって解剖学的トンネルからスリーブを取り外すことができるほど十分に低い摩擦係数を有することができることが理解される。
【0048】
別の実施形態において、スリーブ44は「二重壁」構造を有する。二重壁スリーブは、両端が閉じられた薄い可撓性で圧縮可能な材料の二重層から形成される。スリーブ44の内側部分又は第一の壁は所定のデュロメータを有し、スリーブ44の近位端54の位置からスリーブの遠位端56まで、スリーブの上で半径方向にそしてスリーブの軸方向に沿って延在している。スリーブの外側部分又は第二の壁は、スリーブ44の近位端54から遠位端56まで内側部分の上で半径方向にそして軸方向に沿って延在している。二重壁スリーブ44の内側部分のデュロメータは外側部分のデュロメータよりも小さく、より硬い外側シェルをスリーブに提供し、展開中の損傷を防ぐためにグラフト46を取り囲む、より可撓性の内側部分を提供する。
【0049】
スリーブの材料の滑らかな外面により、スリーブ44の摩擦係数を低くすることができる。その結果、配置中のより少ない外傷、より少ない摩擦、より少ない鈍的切開及びより少ない引きずりで組織を通してトンネリング器具42及びスリーブ44を容易に挿入できるようになる。シャフト48に対するスリーブ44の平滑性及び低プロファイルのおかげで、スリーブはトンネリング器具42の外径を実質的に増加させない。
【0050】
スリーブ44は、場合により、外表面を潤滑性物質でコーティングされて、低い摩擦係数を提供し、スリーブ44及び関連するトンネリング器具42の組織を通した挿入及び移動を補助すると同時に、挿入中又はインプラント処置後のスリーブ除去中の組織の引きずり及び外傷を最小限に抑えることができる。これにより、トンネリング器具42及びスリーブ44の挿入中、又はグラフト46のインプラント処置中のスリーブ44の除去中の組織引きずり及び組織外傷が最小限に抑えられる。治療材料のデリバリーのための、治療剤を含む様々なコーティングが利用可能であることが理解される。固体潤滑剤(すなわち、グラファイト、ワックス、シリコーン)、流体潤滑剤(すなわち、炭化水素油、シリコーン油)、ゲル(すなわち、ヒドロゲル)、又は、当該技術分野で知られている他の任意の生体適合性材料を使用することができる。1つの実施形態において、スリーブ44は、使用直前にコーティング又は湿潤化させることができる。別の実施形態において、出願人は、スリーブ44と、スリーブを湿潤化させるための湿潤剤とを含むキットを考えている。別の実施形態において、キットは、スリーブ44、動静脈グラフト46及びスリーブを湿潤化させるための湿潤剤を含む。
【0051】
使用時に、まず、第一の近位切開部80と、該第一の切開部から離間した第二の遠位切開部82が、患者の皮膚78を通って下にある皮下組織内に形成される。トンネリング器具42の遠位端53での先端52は、シャフト48上のスリーブ44とともに第一の切開部80内に挿入され、次いで、先端が第二の切開部82を出るまで、経路に沿って皮下組織を通って水平に押し込まれる(図10)。次いで、先端52が外科医によって除去され、そして、組織からシャフト48を除去するために、ハンドル50によってトンネリング器具42を第一の切開部80から近位方向に引く。スリーブ44は体の組織内に残される。図11に示されるように、スリーブ44の端部54、56は、皮膚78の外部に、第一の切開部及び第二の切開部80、82から近位方向及び遠位方向に延在している。
【0052】
グラフト46の遠位端部分136は、カニューレ挿入チャンバ140が少なくとも部分的にスリーブ44に入るまで、スリーブ44の近位端54に挿入される(図12)。スリーブ44により、外科医は血管グラフト46を、血管グラフト46の導管132の外径に比べて大きいサイズであるスリーブによって画定される内腔に容易に押し込むことができる。しかしながら、スリーブ44は、カニューレ挿入チャンバ140の外径がスリーブの内径よりも大きいように構成される。したがって、カニューレ挿入チャンバ140は、スリーブ44をスリット58に沿って拡張させて、チャンバの少なくとも一部を収容させる(図12)。スリーブ44の遠位端は、組織からスリーブを引き抜くために引っ張ることができるように、遠位切開部82から十分に外部に延在している。グラフト46の遠位部分をスリーブ44内に配置した後に、スリーブ44が引っ張られ、スリーブ44の近位端54がトンネルを画定する切除組織によって圧縮され、それによってスリーブをカニューレ挿入チャンバ140に押し付ける。スリーブ44は、動静脈グラフト46を組織78内に引き込みながら、スリーブ44が組織から引き抜かれるまで軸方向遠位方向に引かれる。引張力は、スリーブ44を遠位切開部82から引き抜き、第一の切開部80を通して動静脈グラフト46を組織78内に徐々に遠位方向に移動させる。組織がスリーブ44をカニューレ挿入チャンバに対して圧迫することなく、スリーブ44の近位端54は拡張し、スリーブの近位端54が遠位切開部82を通過するときに動静脈グラフト46を解放する。切開部から広がる組織内に動静脈グラフト46は残存する(図14)。引張力は矢印で示されている。次に、動静脈グラフト46のカニューレ挿入チャンバ140を組織78内に引き戻すために動静脈グラフト46の近位端54を近位方向に引く。
【0053】
動静脈グラフト46をデリバリーする方法の別の実施形態において、カニューレ挿入チャンバ140は皮膚78を通して所望の解剖学的位置に保持され、一方、スリーブ44は動静脈グラフト46に対して軸的に遠位方向に引かれ、第二の切開部82から皮下組織経路から引き抜かれることができる。具体的には、動静脈グラフト46が所望通りに皮下に配置されると、外科医は皮膚を横切ってグラフトを押すことによってグラフト46を所定の位置に保持する。引っ張り続けると、与えられた引張力によってスリーブ44が動静脈グラフト46上から引き抜かれる。グラフト46は解剖学的皮下トンネル内に残る。次に、外科医は、グラフトの端部を所望の位置の血管に縫合することによって、グラフト10の各導管端部134、136に吻合を形成する。
【0054】
別の実施形態において、スリーブ44の近位端54は、機械的もしくは締まり嵌め、機械的構造、熱接着によって、あるいは生体適合性接着剤もしくは他の固定手段によって、先端52に隣接するトンネリング器具42の遠位端53に機械的に固定されうる。接着剤の例は、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)などの熱可塑性フルオロポリマーである。他の単純な機械的手段も可能であり、これには、圧縮嵌めカラー、ステープル又は縫合糸、又は体の組織内へのインプラント処置に許容される他の締結技術が含まれる。
【0055】
図17A及び17Bに示される実施形態において、スリーブ44の近位端54は、先端52の最大直径より小さい直径を有する縮小された軸方向開口部62を有する端壁57を含む。スリーブ44の材料は半弾性材料であるため、先端部52を開口部62を通して押し込むことはできるが、先端52の直径が開口部62よりも大きいため、容易に取り外すことはできない。したがって、スリーブ44はトンネリング器具42の遠位端に固定される。
【0056】
ここで図18を参照すると、別の実施形態において、トンネリング器具42の遠位端は、スリーブを固定するための締結要素を使用してスリーブ44の近位端54に機械的に固定されうる。締結要素は、トンネリング器具42に直接固定されており、一般に70で示されている。締結要素70は、スリーブ44をシャフト48に結合するために使用できるスナップ式クリップを含み、それにより、スリーブ44はトンネリング器具42の遠位端及び先端52の少なくとも一部に結合され、それを取り囲む。この締結クリップは、C字形本体72と、本体72と同じ平面内に中央に位置し、本体72により画定される開口部に向けて半径方向内側に延在しているピン74とを含む。クリップ70は、スリーブ44の近位端54の一部を受け入れて取り囲むように構成されている。先端52から離間したシャフトの遠位端は、ピン74を受け入れるように構成された穴76を画定している。スリーブ44の近位端54は、クリップ70によって取り囲まれている。スリーブ44を先端52の上を通過させ、クリップ70をスリーブ44の上に取り付けることによって、スリーブ44を先端51に結合することができる。これにより、本体72のアームがスリーブ44の最大直径を越えるまで一緒に外側に拡張し、ピンが穴に着座するまでスリーブ44を通してピン74をシャフトの穴76内に導く。次いで、クリップ70のアームは内側に跳ねることができる。これにより、スリーブ44とトンネリング器具42がクリップ70とともに固定される。使用者は、トンネリング器具42によって予め形成された皮下トンネル内にグラフト46を引き込むことができる。トンネリング器具42の先端52の上でグラフト46の端部134、136のみをスライドさせ、クリップ70でグラフトを固定することによりクリップ70が固定されることが理解される。
【0057】
使用時に、スリーブ44のないトンネリング器具42の遠位端が第二の遠位切開部82から出た後、スリーブ44の近位端は先端52に固定される。スリーブ44をトンネリング器具42に取り付けた後に、スリーブ44はトンネリング器具42の遠位端から遠位方向に延在している。トンネリング器具42は、解剖学的トンネルを画定する事前切開された組織を通してスリーブ44を引っ張りながら同時に近位方向に引き抜かれる。スリーブ44が第一の切開部80の部位まで引き込まれると、スリーブ44の近位端はトンネリング器具42の遠位端から切り離される。スリーブ44は組織内に残り、スリーブを通る内部通路を形成し、該内部通路は、グラフト46の次の通過を可能にするのに十分に大きい。グラフト46は、上述のように近位方向に装填され、スリーブ44は遠位方向に引き抜かれ、これにより、取り付けられたグラフト46が同時にスリーブ44とともにトンネル内に引き込まれ、グラフト46の近位端54が第二の切開部82から出るまでトンネルを通過する。スリーブ44により、外科医は、血管グラフト46の外径と比較して実質的に大きいサイズのスリーブ44を用いて、解剖学的トンネルを通して血管グラフト46を容易に引っ張ることができる。
【0058】
図19は、グラフト46のカニューレ挿入チャンバ40を受け入れるための、端部54、56から離間した拡大球根状部分110を含むスリーブ44を含む装置の実施形態を示す。スリーブ44の球根状部分110の拡大直径は、スリーブ44がグラフト46のカニューレ挿入チャンバ140全体を受け入れることを可能にする。グラフト46をスリーブ44の内腔内に取り付けるには、ある程度の力が必要でありうる。
【0059】
図20は、スリーブが一般に200で示される実施形態を示す。スリーブ200は織物であり、織物の糸202のそれぞれは互いに独立して動くことができる。スリーブは前の実施形態と同様に機能する。
【0060】
インプラント処置中にグラフト46を展開するためのトンネリング器具42を取り囲むスリーブ44を含む、動静脈グラフトをインプラント処置するための装置及び方法は、動静脈グラフト46の非外傷性インプラント処置及びそれに続く関連するスリーブ44の引き抜きを含む多くの利点を有する。スリーブ44は従来のトンネリング器具に単純に付加したものである。スリーブは、トンネリング器具42のシャフト48に可撓性で圧縮性でありながらなおも硬い外面を提供し、解剖学的トンネルを形成する際のトンネリングデバイスの通過中に、より少ない摩擦及び抵抗ならびに関連する組織損傷を伴ってより容易なトンネリングが可能になる。スリーブ44とともにグラフト46を組織空洞に挿入することで、配置中の外傷、摩擦及び引きずりがより少なくなる。したがって、本明細書に記載のシステム及び方法は、インプラント処置に関連する周囲組織への損傷力を軽減し、結果として生じるこの組織への外傷及びその治癒反応を最小限に抑えることができる。スリーブ44の滑らかさ及び崩潰可能な低プロファイルのおかげで、トンネリング手順はより速く、より使いやすくなることができる。このデリバリーシステムにより、外科医はグラフトをトンネラーに取り付けるための縫合糸の使用を回避することができる。これにより、後にインプラント処置される血管グラフトの即時又は早期のカニューレ挿入が容易になる。
【0061】
本明細書に記載のとおりのトンネリング装置の実施形態は、体内へのインプラント処置に適した血管グラフトを用いた処置に使用される様子が示されており、閉塞領域を超えて血流を再確立又は再指向させるために使用される。インプラント処置は、すべての末梢血管アクセス及び追加解剖学的グラフト位置に対する末梢血管処置において必要な外科的工程である。動静脈グラフトは、既存の末梢血管にグラフトを固定して血管もしくはその一部の周囲にバイパスを形成するか、又は動静脈シャントを形成するための動脈と静脈の接続を形成するために、体組織内のトンネル内に配置される。血管グラフトは、動脈と動脈を接続することもできる。また、当業者であれば、記載したとおりのトンネリング装置の実施形態は、特定の血管グラフト設計を対象としたものではなく、一般に、異なる材料から作られた合成グラフト又は天然組織グラフトであることができる多くの異なる種類の血管グラフトに適用可能であることを認識するであろう。したがって、本明細書に記載し図示した幾つかのトンネリング装置は、カニューレ挿入チャンバのないグラフト、生物学的グラフト及び瘻孔を含む、図面に示したものよりも多くの動静脈グラフトとともに使用できることが理解される。さらに、この装置及び方法は、皮下組織内にメディカルデバイス又は他の物体の配置を必要とする他の外科的インプラント処置に使用することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18
図19
図20A
図20B
【国際調査報告】