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特表2024-511640改良した計測範囲を持つ磁気センサ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-14
(54)【発明の名称】改良した計測範囲を持つ磁気センサ装置
(51)【国際特許分類】
   H10N 50/80 20230101AFI20240307BHJP
   H10N 50/20 20230101ALI20240307BHJP
   G01R 33/09 20060101ALI20240307BHJP
   H10N 50/10 20230101ALN20240307BHJP
【FI】
H10N50/80 Z
H10N50/20
G01R33/09
H10N50/10 P
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023559994
(86)(22)【出願日】2022-03-08
(85)【翻訳文提出日】2023-10-17
(86)【国際出願番号】 IB2022052046
(87)【国際公開番号】W WO2022208192
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】21315054.3
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509096201
【氏名又は名称】クロッカス・テクノロジー・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 友子
(72)【発明者】
【氏名】ドゥニア・サリム
(72)【発明者】
【氏名】バラデュク・クレール
【テーマコード(参考)】
2G017
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AB09
2G017AD55
2G017AD63
2G017AD65
5F092AA15
5F092AA20
5F092AB01
5F092AC12
5F092AD22
5F092BC04
5F092BC42
(57)【要約】
【課題】磁気センサ素子の計測範囲を改良する。
【解決手段】本発明は複数の磁気センサ素子(10)を備える磁気センサ装置であって、各磁気センサ素子(10)は、基準磁化(230)を持つ基準層(23)を備える磁気トンネル接合(2)と、検知磁化(210)とトンネル障壁(22)を持つ検知層(21)とを備え、センス磁化(210)は、外部磁場の非存在下で安定した渦構成を備え、渦は、外部磁場(60)に応じて検知層(21)の平面(P)内で可逆的に移動可能なコア(211)を持ち、検知層(21)は、平面(P)内に周囲形状(214)を備え、周囲形状(214)は非対称縁部(215)を備え、磁気センサ素子(10)は、磁気センサ素子(10)の縁部(215)が隣りの磁気センサ素子(10)の縁部(215)と対向するように配置されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁気センサ素子(10)を備える磁気センサ装置であって、各磁気センサ素子(10)が、
基準磁化(230)を持つ基準層(23)と、検知磁化(210)を持つ検知層(21)と、前記基準層(23)及び前記検知層(21)の間のトンネル障壁層(22)とを備える磁気トンネル接合(2)を備え、
前記検知磁化(210)が、外部磁場の非存在下で安定した渦構成を備え、前記渦は、外部磁場(60)に応じて前記検知層(21)の平面(P)内で可逆的に移動可能なコア(211)を持ち、
前記検知層(21)が、前記平面(P)内に周囲形状(214)を備え、前記周囲形状(214)は単一の非対称の縁部分(215)を備える、
前記磁気センサ装置において、
複数の前記磁気センサ素子(10)が、少なくとも第1磁気センサ素子と第2磁気センサ素子を備え、
前記第1磁気センサ素子と前記第2磁気センサ素子が互いに隣りにあって、
前記第1磁気センサ素子と前記第2磁気センサ素子は、前記第1磁気センサ素子の単一の非対称の前記縁部分(215)が前記第2磁気センサ素子から離れる方向に向くように配置されていて、前記第2磁気センサ素子の単一の非対称の前記縁部分(215)は、前記第1磁気センサ素子から離れる方向を向いていることで、前記第1磁気センサ素子の単一の非対称の前記縁部分(215)が、前記第2磁気センサ素子の単一の非対称の前記縁部分(215)と対向していて、
前記第1磁気センサ素子と前記第2磁気センサ素子との間の距離により、前記第1磁気センサ素子と前記第2磁気センサ素子との間の静磁気相互作用が、前記磁気センサ装置の平均オフセットΔMが実質的にヌルになるように前記第1磁気センサ素子及び前記第2磁気センサ素子の固有オフセットΔMが補償されるものとなっていることを特徴とする、磁気センサ装置。
【請求項2】
前記縁部分(215)は、前記周囲形状(214)の一側において前記強磁性層(21)の周囲部を部分的に切り欠いて形成されている、請求項1に記載の磁気センサ装置。
【請求項3】
前記縁部分(215)が実質平らな縁を備える、請求項2に記載の磁気センサ装置。
【請求項4】
前記縁部分(215)が、凸の周囲部分、凹の周囲部分、又は円形、三角形、又は四角いノッチのいずれか1つを備える、請求項2に記載の磁気センサ装置。
【請求項5】
前記縁部分(215)が、前記検知層(21)の容易軸線に実質垂直に設けられている、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁気センサ装置。
【請求項6】
前記周囲形状(214)が、前記平面(P)内のアスペクト比が1から2の楕円形状を備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の磁気センサ装置。
【請求項7】
前記楕円形状が、1より大きな偏心を持ち、前記縁部分(215)が長軸に沿って切り出されている、請求項2及び6に記載の磁気センサ装置。
【請求項8】
前記磁気センサ装置が、前記磁気センサ素子(10)の複数の行と少なくとも1列とを備える規則的な副アレイ(100)を備え、
各行内で、前記磁気センサ素子(10)の前記縁部分(215)が隣の磁気センサ素子(10)の前記縁部分(215)に対向している、請求項1から7のいずれか一項に記載の磁気センサ装置。
【請求項9】
2個の隣り合う磁気センサ素子(100)の間の距離(d)が10nmと50nmの間である、請求項1から8のいずれか一項に記載の磁気センサ装置。
【請求項10】
複数の副アレイ(10)を備えるアレイ(200)を備える、請求項8又は9に記載の磁気センサ装置。
【請求項11】
2個の隣り合う副アレイ(100)の間の距離(D)が1μm以上である、請求項10に記載の磁気センサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサと、磁気トンネル接合に基づいた磁気センサとの分野に関する。より特定的には、本発明は、大きな計測範囲において直線的で非ヒステリシス的な挙動を持つ磁気素子に関する。
【背景技術】
【0002】
磁化渦とは、マイクロ又はナノ磁気構造において、磁気構造表面の横方向寸法に匹敵する長さスケールで磁化が回転し、磁気構造の面内で磁化を持つコヒーレントな磁気配置のことである。磁化渦は、半径と厚さが十分に大きい磁性層内の円筒形又は円筒形に近い形状の、マイクロ又はナノ構造での、静磁エネルギーと交換エネルギーの間の平衡から生じる。磁気構造の形状に依存して、渦の配置は残留状態で最もエネルギーが低い安定なスピン配置である。
【0003】
安定した渦の構成では、渦は打ち消されることなく可逆的に変形可能である。より特定的には、渦は中程度の磁場下で可逆的に変形可能である。磁場に平行な渦の磁化の部分は大きくなり、磁場に反平行な磁化の部分は小さくなる傾向がある。これにより、磁場の方向と直交する方向に沿って渦コアが変位する。磁場が低減されると、渦中心は徐々にゼロ磁場での平衡位置に戻る。円盤状の微細構造又はナノ構造の場合の渦コアの平衡位置は、円盤の中心である。
【0004】
図1aから図1cは、磁化210を持つ強磁性層21の上面図である。矢印によって表される磁化210は、安定な渦構成を備える。より特定的には、渦構成は、渦中心、すなわち渦コア211を持ち、渦コア211の周りを時計回り又は反時計回りの方向で回転する面外磁化及び面内磁化を持つ。図1aは、外部磁場60がない場合の第1磁化渦を表していて、渦中心211は実質的に第1強磁性層断面の中心にある。この構成では、第1強磁性層21は、実質的にゼロ(H=0)である正味の磁気モーメントを持つ。第1強磁性層21の(磁化の)容易軸線に沿って(例えばx方向に沿って)外部磁場60を適用すると、渦磁心211は第1強磁性層21の容易軸線に実質的に垂直な方向に移動する。図1bにおいて、渦コア211は、図において左に向かって表される第1磁場方向-Hの外部磁場を適用する際に、第1変位方向(図1bにおいて上方)に移動する。渦コア211の第1変位方向(矢印212で示す)への変位(図1b)により、第1強磁性層21において正味の磁気モーメントH<0となる。図1cは、第1磁場方向-Hとは反対の第2磁場方向Hに外部磁場を適用する際に、渦コア211が第2変位方向(図1cでは下方)に移動する様子を示している。矢印213で示す)第2変位方向への渦コア211の変位は、第1強磁性層21における正味の磁気モーメントH>0をもたらす。
【0005】
この渦構造は、磁気抵抗センサ素子2の実用的なサイズと検知層21の厚さに対して、外部磁場60の大きな振幅範囲において線形で非ヒステリシス的な挙動を提供する。このように、渦構造は、1次元磁気センサ用途に有利である。
【0006】
渦構成を備える磁化を持つ強磁性層は、高バイアス磁場が適用されたときに、一方向又は他方向で観察されるヒステリシスを示す(磁場強度がゼロのとき、磁化は原点から残留磁化と呼ばれる量だけオフセットする)。図2は、外部磁場60の影響下での強磁性層21の磁化210の変化を示す磁化曲線M-Hを表している。外部磁場60が第1磁場方向-Hに適用されたときのM-H曲線と、外部磁場60が第2磁場方向Hに適用されたときのM-H曲線との間には、オフセットΔMがある。この固有オフセットΔMは、外部磁場60の関数として、強磁性層21を備える磁気トンネル接合の抵抗の変動に変換される。(強磁性層に内在する)固有オフセットΔMは、強磁性層21に含まれる異なる欠陥への渦コアの捕捉及び脱捕捉によるものであり、第1変位方向212及び第2変位方向213における渦コア211の2つの異なる変位経路をもたらすことが判明している。
【0007】
固有オフセットΔMは、強磁性層21を備える磁性素子に基づくセンサにとって有害である。その理由は、それらセンサに可能な計測範囲を狭めるからである。
【0008】
特許文献1は、渦コアを持つ安定磁化渦構成を含む第1磁化を持つ第1強磁性層を含む磁気素子を開示している。第1強磁性層は、渦コアが実質的にくぼみでコアとなるように構成されたくぼみを備える。第1磁場方向(-H)に外部磁場が適用されると、渦コアは第1経路に沿って移動し、第1磁化は渦コアの周りを反時計回りに回転する。第1磁場方向とは反対の第2磁場方向(H)に外部磁場を適用すると、渦コアは10秒の経路に沿って移動し、第1磁化は渦コアの周りを時計回りに回転する。第1及び第2磁場経路は実質的に同一であり、くぼみから渦コアを遠ざける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2020/217195号
【特許文献2】欧州特許出願公開第3731230号明細書
【発明の概要】
【0010】
本開示は、複数の磁気センサ素子を備える磁気センサ装置に関し、各磁気センサ素子は、基準磁化を持つ基準層と、検知磁化を持つ検知層と、基準層と検知層との間のトンネル障壁層とを備える磁気トンネル接合を備える。検知磁化は、外部磁場がない状態で安定した渦構成を備える。渦は、外部磁場に応じて検知層の面内で可逆的に移動可能なコアを持つ。検知層は、平面内で周囲形状からなり、周囲形状は非対称縁部分を備える。磁気センサ素子は、磁気センサ素子の縁部分が、隣り合う磁気センサ素子の縁部分と対向するように配置されている。
【0011】
本明細書で開示する磁気センサ装置は、各磁気センサ素子の固有オフセットΔM、及び複数の磁気センサ素子の平均オフセットΔMを低減できる。本磁気センサ装置は、従来の磁気センサ装置と比較して計測範囲が拡大されている。計測範囲は、高バイアス磁場が適用されたときにヒステリシスが観察されないような渦キャンセル磁場、又は追い出し磁場を超える範囲にできるのである。
【0012】
本発明の例示的な実施形態が、本明細書に開示され、図面によって示されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、渦構成を構成する磁化を持つ強磁性層の上面図である。
図2図2は、外部磁場の影響下における強磁性層1の磁化の変化を示す磁化曲線を表す。
図3図3は、実施形態による磁気センサ素子の断面側面図である。
図4図4は、実施形態による、検知層が平らな縁部分を備えることを示す磁気センサ素子の上面図である。
図5図5は、実施形態による、検知層が凸状の縁部分を備えることを示す磁気センサ素子の上面図である。
図6図6は、実施形態による、検知層が三角形の縁部分を備えることを示す磁気センサ素子の上面図である。
図7図7は、実施形態による、複数の磁気センサ素子を備える磁気センサ装置を示す。
図8図8は、外部磁場の影響下での検知層の磁化の変化を示す磁化曲線を、磁気センサ装置内の複数の磁気センサ素子について平均して表す。
図9図9は、別の実施形態による、複数の磁気センサ素子を備える磁気センサ装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図3は、磁気トンネル接合2を備える磁気センサ素子10の断面側面図である。磁気トンネル接合2は、基準磁化230を持つ基準層23と、検知磁化210を持つ検知層21と、基準層23と検知層21との間のトンネル障壁層22とを備える。検知磁化210は、基準磁化230の配向が変化しないまま、外部磁場60中で配向可能に構成されている。磁気センサ素子10の抵抗は、基準磁化230に対する検知磁化210に依存する。例えば、検知磁化210が基準磁化230と平行である場合、磁気センサ素子10の抵抗は小さい(論理状態「0」)。検知磁化210が基準磁化230に反平行なとき、磁気センサ素子10の抵抗は大きい(論理状態「1」)。
【0015】
検知層21及び基準層23は、Feベースの合金、CoFe、NiFe又はCoFeBなどの強磁性材料で製造し得る。任意選択で、基準層23は、磁気交換バイアス結合によって反強磁性層24によってピン止め可能である。反強磁性層は、マンガンMnをベースとする合金、例えば、イリジウムIr及びMnをベースとする合金(例えば、IrMn)と、Fe及びMnをベースとする合金(例えば、FeMn)と、白金Pt及びMnをベースとする合金(例えば、PtMn)と、Ni及びMnをベースとする合金(例えば、NiMn)とを含有し得る。基準層23は、1つ又は複数の強磁性層又は合成反強磁性体(SAF)を備え得る。トンネル障壁22は、絶縁材料を備え得る。好適な絶縁材料としては、酸化アルミニウム(例えば、Al)及び酸化マグネシウム(例えば、MgO)のような酸化物が挙げられる。トンネル障壁層22の厚さは、約1nmから約3nmのnmの範囲としてよい。磁気センサ素子10は、例えば電極などのキャップ層25をさらに備え得る。
【0016】
図4は、検知層21を示す磁気センサ素子10の上面図である。検知磁化210は、外部磁場がない状態で安定した渦の構成を備える。渦は、外部磁場60に応じて検知層21の平面P内で可逆的に移動可能なコア211を持つ。検知層21は、周囲形状214を持ち、非対称の縁部分215を備える。
【0017】
縁部分215は、周囲形状214の一側で検知層21の周縁を部分的に切り取ることによって形成された実質的に平らな縁を備えてよい。
【0018】
図4の例では、周囲形状214は、平面Pにおいて実質的に楕円形状を備えて、縁部分215は、周囲形状214の一側において検知層21の周縁部を長軸方向に沿って部分的に切り欠いて形成された実質的に平坦な縁部を備える。
【0019】
周囲形状214は、楕円形の、1と2の間のアスペクト比(又は偏心率)を持ち得る。周囲形状214は、円形又は楕円形である必要はなく、正方形又は長方形などの他の形状を持ち得ることに留意されたい。
【0020】
図5に示される一観点では、縁部分215は、周囲形状214の切り込み部分214aの半径よりも大きい半径を持つ凸状の周囲部分を備える。縁部分215は、凹状の周囲部分(図示せず)をさらに備え得る。凹状の周縁部分は、切り取られた部分214aの半径よりも小さいか又は大きい半径を持ち得る。縁部分215は、円形、三角形又は四角形の切り欠きなど、任意の他の非対称縁形状を備え得る。図6は、三角形の縁部分215を持つ検知層21の周囲形状214を示す。
【0021】
好ましい1実施形態では、縁部分215は、検知層21の容易軸線に実質的に垂直な、周囲形状214の一側に設けられる。図4の例では、容易軸線は楕円形の周囲形状214の長軸に相当する。
【0022】
縁部分215は、外部磁場60の向きと実質的に平行に配向できる。例えば、検知層21は、外部磁場60が縁部分215に対して実質的に平行に配向されるように配置できる。図4から図6では、縁部分215の向きが点線215aで示されている。
【0023】
一実施形態では、磁気センサ装置は、複数の磁気センサ素子10を備える。図7は、4つの磁気センサ素子10の副アレイ100を備える磁気センサ装置の上面図を概略的に示す。磁気センサ装置は、任意の数の磁気センサ素子10を備え得るが、少なくとも2個の磁気センサ素子10を備える。磁気センサ素子10は、磁気センサ素子10の縁部分215が隣りの磁気センサ素子10の縁部分215の反対側にあるように配置されている。
【0024】
検知層21内の縁部分215の存在が、ヒステリシス、すなわちゼロ磁場強度における固有オフセットΔMを誘発する、中心からずれた渦コア211を誘発する。縁部分215の存在による固有オフセットΔMは、外部磁場60の方向に依存して、約±20Oeに到達し得る。
【0025】
図8は、外部磁場60の影響下における検知層21の磁化210の変化を、磁気センサ装置内の複数の磁気センサ素子10について平均化した磁化曲線M-Hを示す。図7の磁気センサ装置では、縁部分215の対向配置により、磁気センサ装置の平均化オフセットΔMが実質的にヌルになるように、2個の隣り合う磁気センサ素子10の固有オフセットΔMを補償できるようになっている。
【0026】
好ましくは、磁気センサ素子10は、規則的なアレイ、例えば、複数の行及び少なくとも1つの列に配置されていて、各行において、磁気センサ素子10の縁部分215は、隣り合う磁気センサ素子10の縁部分215と対向している。
【0027】
いくつかの観点において、2個の隣り合う磁気センサ素子10間の距離dは、10nmから50nmの間である。距離dは、隣り合うセンサ素子10間の静磁相互作用を最大にできるようにする。隣り合う2個の磁気センサ素子10間の静磁気相互作用は、距離dが小さくなるにつれて増加する。
【0028】
図9に示す実施形態では、磁気センサ装置は、図7に示すように配置された磁気センサ素子10を備える複数の副アレイ100を備える規則的なアレイ200を備えてよい。隣り合う2個の副アレイ100間の距離Dは、約1μm以上であるべきである。距離Dは、副アレイ100と他の副アレイ100との間の磁気相互作用を回避するのに十分な大きさであるべきである。言い換えると、距離Dは、副アレイ100を他の副アレイ100から磁気的に絶縁できる距離であるべきである。
【0029】
本明細書で開示する磁気センサ装置100は、計測範囲を拡大し、2渦構成を回避できるようにしている。2渦構成とは、磁気センサ素子内に2つの渦が存在する構成である。これは一般に、半径が大きく(又は軸が小さく)、検知層が厚い楕円形センサ素子の円形に対して安定した構成である。計測範囲は、高バイアス磁場を適用してもヒステリシスが観測されないような渦の膨張磁場を超える範囲にできる。残る磁場の制限は、SAF基準層23に伴うもののみとなる。言い換えると、磁場の制限は、高磁場用のSAFにおける磁化の可能な修正(均一な磁化の回転は、高磁場用のSAFである)に関連付けられる。アレイ200(又は副アレイ100)内の磁気センサ素子10の配置は、各磁気センサ素子10内のゼロ磁場にて渦コア211を最も近づけることにより、平均化オフセットΔMを減少させる。
【0030】
縁部分215はさらに、特許文献2に記載されているように、渦コア211(図1参照)の第1変位方向212及び第2変位方向213を実質的に同一にする結果となり得る。特許文献2の全体は、参照により本明細書に組み込まれる。縁部分215の存在に起因する固有オフセットΔMは、各磁気センサ素子10について低減できて、その結果、磁気センサ装置100の計測範囲をさらに拡大できる。
【符号の説明】
【0031】
10 磁気センサ素子
100 副アレイ
2 磁気トンネル接合
200 アレイ
21 基準層
210 検知磁化
211 コア
212 渦コアの変位
213 渦コアの変位
214 周辺部の形
214c 切り出し部分
215 縁部分
215a 縁部分の配向
22 トンネル障壁層
23 基準層
230 基準磁化n
25 キャップ層
60 外部磁場
ΔM 平均化オフセット
ΔM 固有オフセット
d 隣り合う2磁気センサ素子間の距離
D 隣り合う2副層間の距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-11-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁気センサ素子を備える磁気センサ装置であって、各磁気センサ素子が
基準磁化を持つ基準層と、検知磁化を持つ検知層と、前記基準層及び前記検知層の間のトンネル障壁層とを備える磁気トンネル接合を備え、
前記検知磁化が、外部磁場の非存在下で安定した渦構成を備え、前記渦は、外部磁場に応じて前記検知層の面内で可逆的に移動可能なコアを持ち、
前記検知層が、前記平面内に周囲形状を備え、前記周囲形状は単一の非対称の縁部分を備える、
前記磁気センサ装置において、
複数の前記磁気センサ素子が、少なくとも第1磁気センサ素子と第2磁気センサ素子を備え、
前記第1磁気センサ素子と前記第2磁気センサ素子が互いに隣りにあって、
前記第1磁気センサ素子と前記第2磁気センサ素子は、前記第1磁気センサ素子の単一の非対称の前記縁部分が前記第2磁気センサ素子から離れる方向に向くように配置されていて、前記第2磁気センサ素子の単一の非対称の前記縁部分は、前記第1磁気センサ素子から離れる方向を向いていることで、前記第1磁気センサ素子の単一の非対称の前記縁部分が、前記第2磁気センサ素子の単一の非対称の前記縁部分と対向していて、
前記第1磁気センサ素子と前記第2磁気センサ素子との間の距離により、前記第1磁気センサ素子と前記第2磁気センサ素子との間の静磁気相互作用が、前記磁気センサ装置の平均オフセットΔMが実質的にヌルになるように前記第1磁気センサ素子及び前記第2磁気センサ素子の固有オフセットΔMが補償されるものとなっていることを特徴とする、磁気センサ装置。
【請求項2】
前記縁部分は、前記周囲形状の一側において前記強磁性層の周囲部を部分的に切り欠いて形成されている、請求項1に記載の磁気センサ装置。
【請求項3】
前記縁部分が実質平らな縁を備える、請求項2に記載の磁気センサ装置。
【請求項4】
前記縁部分が、凸の周囲部分、凹の周囲部分、又は円形、三角形、又は四角いノッチのいずれか1つを備える、請求項2に記載の磁気センサ装置。
【請求項5】
前記縁部分が、前記検知層の容易軸線に実質垂直に設けられている、請求項に記載の磁気センサ装置。
【請求項6】
前記周囲形状が、前記平面(P)内のアスペクト比が1から2の楕円形状を備える、請求項に記載の磁気センサ装置。
【請求項7】
前記楕円形状が、1より大きな偏心を持ち、前記縁部分が長軸に沿って切り出されている、請求項2及び6に記載の磁気センサ装置。
【請求項8】
前記磁気センサ装置が、前記磁気センサ素子の複数の行と少なくとも1列とを備える規則的な副アレイを備え、
各行内で、前記磁気センサ素子の前記縁部分が隣の磁気センサ素子の前記縁部分に対向している、請求項に記載の磁気センサ装置。
【請求項9】
2個の隣り合う磁気センサ素子の間の距離が10nmと50nmの間である、請求項に記載の磁気センサ装置。
【請求項10】
複数の副アレイを備えるアレイを備える、請求項に記載の磁気センサ装置。
【請求項11】
2個の隣り合う副アレイの間の距離が1μm以上である、請求項10に記載の磁気センサ装置。
【国際調査報告】