(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-14
(54)【発明の名称】電子回折システムにおけるレンズ歪みの検出及び補正方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20058 20180101AFI20240307BHJP
【FI】
G01N23/20058 ZNM
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560794
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(85)【翻訳文提出日】2023-12-04
(86)【国際出願番号】 IB2022052963
(87)【国際公開番号】W WO2022208396
(87)【国際公開日】2022-10-06
(32)【優先日】2021-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507291604
【氏名又は名称】ブルカー エイエックスエス リミテッド ライアビリティ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BRUKER AXS, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イエルク ケルヒャー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ オーリンジャー
(72)【発明者】
【氏名】セルゲイ ラザレフ
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA27
2G001CA03
2G001FA02
2G001FA16
2G001HA13
2G001HA14
2G001KA08
2G001MA05
(57)【要約】
【要約】投影レンズによって誘発されるコヒーレント電子回折撮像(CEDI)画像の歪みを補正するための方法は、対象の試料と共に撮像される既知の二次材料を利用する。二次材料から生成された反射は、画像内に位置し、これらの観察された反射は、ビーム中心位置を近似するために使用される。二次材料の既知の格子構造を使用して、フリーデル対は画像内に位置し、単位セルベクトルが識別される。次いで、二次材料反射のそれぞれについて予測された位置が決定され、観察された反射と予測された反射との間の位置差が、全体的な画像に適用可能な再配置関数を構築するために使用される。次に、再配置関数を使用して、歪みを補正するように画像コンポーネントの位置を補正する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレント電子回折撮像(CEDI)システムにおける投影レンズによって対象となる試料の回折画像に付与される歪みを補正する方法であって、
前記方法は、
a)既知の格子構造を有する二次材料と共に、対象となる前記試料のCEDI画像を取得することと、
b)前記二次材料に対応する前記観察された反射の位置を前記画像内に位置決めすることと、
c)前記二次材料についての単位セルベクトルを識別することと、
d)前記単位セルベクトル及び前記二次材料の前記既知の格子構造に基づいて、前記反射に割り当てられたそれぞれのBravais-Millerインデックスに対応する各二次材料反射の予測位置を決定することと、
e)観測された位置と二次材料反射の予測された位置との間の差を使用して、前記CEDI画像内の画像コンポーネントを再配置することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記二次材料がグラフェンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
単位セルベクトルを識別することは、前記二次材料に対応する前記CEDI反射の対の差分ベクトルを見つけることと、長さ及び方向に従って前記差分ベクトルをグループ化することと、各グループの前記ベクトルを平均化することと、前記単位セルベクトルと同様の長さを有する最短の前記平均化されたグループベクトルを選択することと、を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
各二次材料反射の予測位置を決定することは、反射の前記観察された位置に近接する前記画像内の位置に対応する前記単位セルベクトルの一次結合を見つけることを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
二次材料反射の観測された位置と予測された位置との間の前記差分が、前記画像内のビーム中心位置に対して見出される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ビーム中心位置は、前記二次材料反射の前記観察された位置を使用してフリーデル対の重心を平均化することによって見出される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
二次材料反射ごとに、前記ビーム中心位置に対する観測された反射の距離と、前記ビーム中心位置に対する予測された反射の距離との間の比率が見出され、前記比率が、前記ビーム中心位置に対する前記画像内の前記歪みを特徴付けるために使用される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記比率及び観察された二次材料の反射位置が、前記方程式を最も満たす係数a、b、c、d、c
x及びc
yを決定するために使用される、請求項7に記載の方法。
前記比率及び観測された二次材料反射位置のそれぞれについて、
【数1】
ここで、c
x及びc
yは、前記ビーム中心位置の前記x座標及びy座標を表し、前記決定された係数を有する前記方程式が画像コンポーネントの前記再配置に使用される。
【請求項9】
改良最小二乗法が、前記方程式を前記比率及び観察された二次材料反射位置に適合させるために使用される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記画像内のピクセル位置の修正されたx値及びy値は、以下のように決定される、請求項8に記載の方法:
【数2】
式中、x
rev及びy
revはそれぞれ、前記修正されたx及びyピクセル値であり、x及びyはそれぞれ、前記元のピクセル値であり、f(x、y)は前記決定された係数を用いて式(4)の計算されたバージョンを計算である。
【請求項11】
前記CEDI画像が第1のCEDI画像であり、前記方法が、複数の入射角で前記二次材料と共に対象となる前記試料の複数のCEDI画像を取得することをさらに含み、前記画像の各々からの反射は、入射角による位置変化について補正された後に前記方法で使用される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記二次材料は、それぞれが前記方法で使用される別個の反射を生成する複数の層を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記二次材料は、前記試料が位置する基板を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記二次材料が前記試料の一部である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、電子回折の分野、より具体的には、電子回折システムにおけるレンズ歪みの補正に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
コヒーレント電子回折イメージング(CEDI)は、ナノチューブ、ナノ結晶、タンパク質などのナノスケール物体の2Dまたは3D再構築のための技術である。電子の高コヒーレントビームが試料に入射し、これにより、アクティブピクセルアレイセンサを使用して記録される回折画像が生じる。試料は、グラフェンまたは窒化ケイ素の薄膜などの、10-30keVの所望のエネルギー範囲の電子に対して透明性の高い材料によって支持される。いくつかの場合では、試料は、自立型カーボンナノチューブなど、自身で支持することができる。電子銃から検出器までのビーム経路全体は、高真空または超高真空に位置している。
【0003】
典型的なCEDIシステムでは、電子ビーム経路は、ビームを成形し、ビームサイズ及びビーム発散などのその特性を決定する静電及び磁気レンズを含み、同時にビームコヒーレンスを劣化させ、回折画像の形成を妨げる色収差及び球面収差を最小限に抑える。二次側(試料による回折後)では、検出器上の回折画像を拡大するために磁気投影レンズが使用される。しかしながら、歪みは投影レンズによってCEDI画像に導入されることが多く、再構成を試みる前に補正する必要がある。
【0004】
従来のCEDIシステムでは、試料は、誤差低減(ER)及びHybrid-Input-Output(HIO)などのいくつかの再帰的方法を使用して回折データから再構築される。これらの二重空間方法は、逆格子空間と実空間の間で交互に使用され、再構成はデータの精度に依存する。シミュレーションは、投影レンズの歪みによってもたらされる摂動が、しばしば再構築の成功を妨げる可能性があることを示している。
図1Aは、シミュレートされたチューブ軸に沿った二重壁カーボンナノチューブ(DWCNT)のCEDI画像を示す。
図1Bは、シミュレートされたデータからのDWCNTの成功した再構築を示す。しかしながら、
図1C-
図1Fは、実験CNTデータからの投影レンズ歪みを適用した後の、シミュレートされたデータを使用した異なる失敗した再構築を示す。
【0005】
光学系のレンズ歪みでは、ピンクッション、バレル、及びスパイラル歪みの間を古典的に区別する。このような歪みの例は、G. C. Capitani, et al., A practical method to detect and correct for lens distortion in the TEM, Ultramicroscopy 106, 66 (2006)に示され、これらの記載は、本明細書の2A―2Eに再現されている。
図2Aは、オブジェクトの歪んでいない画像を表す。
図2Bは、ピンクッション型の歪みが、中心からの距離とともに増加し、それが測定される方向に依存する倍率をどのように伴うかを示す。
図2Cは、中心からの距離とともに倍率が減少するバレル型の歪みを示す。
図2Dは、直線がシグモイド形状として撮像される螺旋歪みを表す。最後に、
図2Eは、半径方向で倍率が異なる楕円形の歪みを示す。ピンクッションとバレル歪みでは、歪みの大きさはビーム中心からの半径方向の距離に比例する。その最も単純な形式(下記式(1)で表される)では、歪みは距離と直線的にスケーリングされるが、高次の依存関係も同様に一般的である。
【0006】
【0007】
Capitaniらの前述の研究では、透過型電子顕微鏡(TEM)における最も関連性の高い歪みは、以下の式(2)で表される楕円歪みであると判定された。
【0008】
【0009】
投影レンズ歪みの検出及び補正は、半径方向及び楕円形の歪みの係数を導き出すことができる基準マーカーのパターンを必要とする。Capitaniらは、実際の試料が導入される前に、ベスブ石などの3D結晶からの回折パターンを使用して、TEMのレンズ歪みを検出及び補正した。しかし、現代のCEDI機器では、そのようなレンズの歪みの有害な影響を最小限に抑えるために追加の措置が必要である。
【発明の概要】
【0010】
本発明によれば、コヒーレント電子回折撮像(CEDI)システムにおける投影レンズによって対象となる試料の回折画像に付与される歪みを補正するための方法が提供される。この方法は、まず、既知の格子構造を有する二次材料と共に、対象となる試料のCEDI画像を取得することを伴う。次に、二次材料に対応する反射の観察された位置が画像内に配置される。観測された反射の相対的な位置に基づいて、及び二次材料の性質を知ることによって、次いで、二次材料に関連付けられた単位セルベクトルが識別される。
【0011】
単位セルベクトルを使用して、二次材料の反射のそれぞれの予測位置が決定され、予測位置は、単位セルベクトル及び二次材料の既知の格子構造に基づいて反射のそれぞれに割り当てられたそれぞれのBravais-Miller指数に対応する。次いで、観測された位置と二次材料反射の予測された位置との間の差を使用して、CEDI画像内の画像コンポーネントの位置が再配置される。
【0012】
本発明の例示的な実施形態では、二次材料はグラフェンであるが、他の材料も使用することができる。この実施形態はまた、二次材料に対応する観察されたCEDI反射の対の差分ベクトルを最初に見つけることによって、二次材料の単位セルベクトルを識別することを伴う。次いで、これらの差分ベクトルを長さ及び方向に従ってグループ化し、各群のベクトルを平均化する。次いで、類似の長さを有する最も短い平均化されたグループベクトルを単位セルベクトルとして選択する。次いで、各二次材料反射の予測される位置は、その反射の観察された位置に近接する画像内の位置に対応する単位セルベクトルの線形組み合わせを見つけることによって決定され得る。
【0013】
例示的な実施形態では、観察された位置と二次材料反射の予測された位置は、画像におけるビームの中心位置に関して見いだされる。ビーム中心位置は、二次材料反射の観察された位置を使用して反射対の重心を平均化することによって決定され得る。次いで、ビーム中心位置は、画像内の歪みの特徴付けにおける基準点として使用され得る。特に、各二次材料反射について、ビーム中心位置に対する観測された反射の距離と、ビーム中心位置に対する予測された反射の距離との間の比率が見出され得る。次いで、これらの比率を歪み特性評価に使用し得る。
【0014】
レンズ歪みは、画像内のそれらの正しい位置となるものに対して、CEDI画像内の画像コンポーネントがどのように変位するかを示す変換関数によって表され得る。この関数の関連係数は、観測された二次材料反射位置及び二次材料反射の観測された位置と予測された位置との間のそれぞれの距離に関連する距離比から決定され得る。次いで、そのような関数を使用して、ピクセルごとに画像を調整することができ、これは、二次材料に関連付けられた情報だけでなく、サンプルに対応する情報も補正する。例示的な実施形態では、この関数は以下のとおりである。
【0015】
【0016】
式中、cx及びcyは、ビーム中心位置のx及びy座標を表し、a、b、c及びdは、上記のように、二次材料反射の観測された位置及び距離比から決定される追加の係数を表す。係数は、上記の式を二次材料の観察された位置及び距離比に適合させることによって求めてもよい。そのようなフィッティングは、例えば、最小二乗改良処理を利用してもよい。次いで、方程式内の係数は、フィッティング処理中に見つかった値によって置き換えられ、レンズ歪みを補正する際に使用され得る変換関数を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aは、チューブ軸に沿った二重壁カーボンナノチューブ(DWCNT)の模擬CEDI画像を示す図である。
【
図1B】
図1Bは、シミュレートされたデータからの
図1AのDWCNTの成功した再構成を示す図である。
【
図1C】
図1Cは、実験用カーボンナノチューブ(CNT)データからの投影レンズ歪みを適用した後の、シミュレートされたデータを使用した
図1AのDWCNTの第1の失敗した再構成を示す図である。
【
図1D】
図1Dは、実験CNTデータからの投影レンズ歪みを適用した後の、シミュレートされたデータを使用した
図1AのDWCNTの第2の失敗した再構成を示す図である。
【
図1E】
図1Eは、実験CNTデータからの投影レンズ歪みを適用した後の、シミュレートされたデータを使用した
図1AのDWCNTの第3の失敗した再構成を示す図である。
【
図1F】
図1Fは、実験CNTデータからの投影レンズ歪みを適用した後の、シミュレートされたデータを使用した
図1AのDWCNTの第4の失敗した再構成を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、従来技術によるオブジェクトの歪みのない画像の概略図である。
【
図2D】
図2Dは、スパイラル型の歪みを受けた
図2Aに示されるオブジェクトの概略図である。
【
図3】
図3は、ひし形単位セルABCDを有するグラフェンの六角形格子の概略図である。
【
図4】
図4は、グラフェンの例示的なCEDI画像を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、実空間における平坦なグラフェンの斜視図である。
【
図5B】
図5Bは、実空間における波形グラフェンの斜視図である。
【
図5C】
図5Cは、フラットグラフェンシートの相互空間の概略図である。
【
図5D】
図5Dは、波形グラフェンシートの相互空間の概略図である。
【
図5E】
図5Eは、波形グラフェンシートについて、回折スポットがどのように大きな角度でぼやけてしまうかを示す概略図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明による方法のフロー図の第1のセクションを示す図である。
【
図7A】
図7Aは、
図4と同様のグラフェンのCEDI画像を示すが、材料格子構造を示す図である。
【
図7E】
図7Eは、
図7Aの画像に関連付けられた歪み特性評価方程式の係数適合を示す図である。
【
図8】
図8は、
図7AのCEDI画像を示す図であり、その上には、レンズの歪みがない場合に、画像に示される各反射がその正しい位置にあるために変位される必要がある方向及び距離を示す矢印が重ねられている。
【
図9】
図9は、2層のグラフェンによって支持される金ナノ結晶のCEDI画像を示す図である。
【
図10】
図10は、自立型カーボンナノチューブのCEDI画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
本発明は、CEDIレンズ歪み誤差を識別及び補正するために、グラフェンなどの二次材料からのブラッグ回折ピークを利用する。多くのCEDI実験では、グラフェンは、低エネルギー電子に対して透明性が高いため、試験対象の試料の支持体として使用されている。グラフェンは、1つの原子が各頂点を形成する2D六角形格子内の単一の原子層の形態の炭素の同素体である。グラフェンの六角形格子の例を
図3に示し、ひし形単位セルABCD及び4つの隣接するセルは、丸付数字1、2,3及び4で示される。グラフェンは、カーボンナノチューブを含む他の同素体の基本的な構造要素でもある。グラフェンの菱形単位セルは、
図3でP1及びP2と標識された2つの化学的に同一の炭素原子を含有し、単位セル寸法b1=b2=2.46Åを有する。グラフェンの格子対称性はp6mである。グラフェンのCEDI画像の例を
図4に示す。
【0019】
六角形の対称性から、ビーム中心からの反射の相対距離は、式(3)に以下に示すように、それらのBravais-Millerインデックスから導出することができる。観測された距離と対称性から予測された距離との間の比率は、歪みパラメータを決定するための入力を提供する。
【0020】
【0021】
2D結晶として、3D結晶のようなスフェロイドの代わりに、相互空間におけるグラフェンのブラッグ反射は、コーン(理想化されたフラットグラフェンのためのロッド)である。したがって、ブラッグ条件は、グラフェン上の電子ビームの任意の入射角でのすべての反射に対して満たされ、3D結晶の場合のように、グラフェンをビームと慎重に整列させる必要性を排除する。
【0022】
断層撮影スキャン中に入射角が連続的に変化する3D再構成の場合、グラフェン反射は、入射角の鋭さが増加するにつれて移動し、スキャン軸から離れる。これは、検出器表面上の反射を広げ、歪み関数の異なる領域のサンプリングを可能にし、歪みパラメータのより正確な決定を可能にする。これは、
図5A-5Eに示される。
【0023】
図5A-5Eは、C.Meyeretal.,TheStructureofSuspendedGrapheneSheets,Nature446(2007)60-63に記載されている、平坦なグラフェンシートと波形グラフェンシートの特性を示している。
図5Aは、実空間における平坦なグラフェンの斜視図であり、
図5Bは、波形グラフェンの同様の図である。
図5Cは、平坦なグラフェンシートの相互空間を示し、示されるように、グラフェンの六角形の相互格子に垂直に配向されたロッドのセットである。
図5Dは、波形グラフェンシートの場合、微視的な平坦領域からの回折ビームの重ね合わせが、
図5Cの垂直ロッドをどのように効果的に円錐形の容積に変えるかを示す。その結果、このような表面からの回折スポットは、
図5Eの点線で示すように、大きな角度で不鮮明になる。さらに、この効果は、傾斜軸から離れるとより顕著になる。
【0024】
本発明は、上記のようなレンズ歪みを識別し、補償する方法の一部として、グラフェンの測定されたCEDI画像を使用する。この方法の例示的な実施形態は、
図6A及び6Bに示されるステップに概説される。この実施形態は、例えば、対象となる1つ以上の試料がグラフェン支持面に取り付けられるCEDI測定の一部として適用されてもよい。
【0025】
この方法は、ステップ600でのCEDI画像の取得から始まる。ステップ602において、グラフェンのブラッグ反射位置は、CEDI画像内に配置される。これは、反射を視覚的に識別し、全体的な画像内のそれらのピクセル位置に注目するユーザによって手動で行われ得る。あるいは、ブロブ検出方法(例えば、接続コンポーネントのラベル付け)などの自動化された手順が適用され得る。一般に、手動アプローチは、標本からの回折データも含む画像、または複数のグラフェンドメインが存在する場合に最適に働く。
【0026】
ステップ604においては、グラフェンシートに対する電子ビームの入射傾斜角の補正が適用される。これは、反射位置が画像上の走査軸の投影に1/cosφの係数で近づくように画像を修正することによって行われ得て、垂直入射の場合はφ=0°である。本発明は、1つの画像のみを利用してもよいが、異なる入射角度を使用して撮影された一組の画像を使用することも可能である。
図5A-5Eに関して上述したように、入射の異なる角度は、歪み関数の異なる領域のサンプリングを可能にし、歪みパラメータの決定を改善することができる。したがって、
図6A及び6Bに示される方法は、所望され得る異なる画像のすべてを説明する決定分岐(ステップ606)によって示されるように、使用され得る画像のそれぞれについてステップ602及び604を繰り返す可能性を含む。
【0027】
いったん各画像のグラフェン反射位置が位置決めされ、補正されると、各画像のすべての反射ペアの差分ベクトルが計算される(ステップ608)。差分ベクトルは、グループ化のためのベクトル長の最大分数偏差及びグループ内のベクトルの共線性からの最大角度偏差を制限するために指定された閾値基準を使用して、それらの長さ及び方向に従ってグループ化される。次いで、各グループの平均差分ベクトルが計算される。
【0028】
ステップ610において、3つの最短群差ベクトルが見つかり、それらのベクトルが六角形格子を形成する。ベクトルは、長さが類似しており、互いに対して60°の角度で配向されるべきである。長さが最も近い2つのベクトルが選択され、それらのベクトルは、逆格子空間内の単位セルベクトルとなる。次いで、ビーム中心位置(cx、cy)は、すべての反射位置の重心を計算することによって推定される(ステップ612)。
【0029】
ビーム中心から観察された反射位置までの2つの単位セルベクトルの最良の一次結合を見つけることによって、Bravais-Millerインデックスは各反射に割り当てられる(ステップ614)。本発明の好ましい実施形態では、エヴァルド球の曲率は無視され、平面として近似される。これは、電子のド・ブロイ波長が非常に小さく、観測された反射の回折角が非常に小さいことを考えると、妥当な近似である。次いで、改善されたビーム中心位置は、観測された反射のすべてのフリーデル対の重心上で平均化することによって計算される(ステップ616)。
【0030】
各反射については、観測され、計算されビーム中心に対する距離の比率が決定される(ステップ618)。上記の式(3)を使用して、各反射の観測された位置とビーム中心との間の距離、その状態の各反射の計算された位置とビーム中心との間の距離が決定される。各反射について、これら2つの値間の比率が検出され、記録される。
【0031】
ステップ620において、以下に示される式(4)は、計算された比率及び観測された反射ピクセル位置(x、y)に適合させて、係数a、b、c、d、cx及びcyのセットを決定する。
【0032】
【0033】
係数は、ビーム中心からの反射の距離の誤差によって示される歪みの種類及び大きさを定義する。値Cx及びCyは、ビーム中心の座標を表し、値a、b、c、dは、歪み自体の性質に関する異なるそれぞれの情報を提供する。これらは、以下のように本明細書で定義される:1)「a」は、平均倍率を表し;2)「b」は、半径方向を表し;歪み係数、3)「c」は楕円形の歪み係数を表し;及び4)「d」は楕円形の傾斜角を表す。したがって、これらの係数の大きさを見つけることによって、投影レンズによって生成される歪みのタイプの表示が決定され得る。さらに、これらの値を知ることにより、データ品質を大幅に改善することが示されているサンプルの画像データに補正を適用することができる。
【0034】
式(4)を使用したフィッティング処理は、既知のフィッティング技術に従ってもよく、本実施形態では、改良最小二乗法である。ステップ616において見出されるCx及びCyの値が使用され、係数a、b、c及びdの開始値が経験的に選択される。この実施形態では、a=1、b=0、及びd=0の開始値が選択される。cの開始値は、ステップ618で見出される最大の距離比である。当業者は、ビーム中心座標cx、cyの値は以前に取得されたが、これらの値は、フィッティング処理中に係数a、b、c、dと共に改良され、全体的な結果が改善されることを理解するであろう。
【0035】
いったん係数が発見されると、方程式は、二次材料に関連する画像成分、例えば、グラフェン、及び試験中の試料に関連する画像成分の両方に影響を与える、CEDI画像における歪みを補正するための一般的なツールとして使用され得る。この文脈では、式(4)は、ピクセルごとに画像を再構築するための変換関数として使用され得る。方程式の適用において、a、b、c、d、cx及びcyは、フィッティング処理中に決定された実際の値に置き換えられ、修正されたx及びy値は、次のように任意のピクセル位置について計算することができる:
【0036】
【0037】
式中、(xrev,yrev)は修正されたピクセル位置であり、(x,y)は元の画素位置であり、歪み係数f(x,y)は、フィッティング処理で決定された係数を使用した元のピクセル位置での式(4)の評価である。
【0038】
図7Aは、ビームストップの存在なしで、
図4と同様のグラフェンのCEDI画像を示す。図に示される異なる反射の多くまたはすべての位置は、投影レンズの歪みに起因する位置誤差を有し得る。画像は垂直入射角を用いて得られたため、入射角の補正は不要である。画像内の反射のすべての対の測定距離からのベクトルであって、最も短いものは、六角形格子を定義し、また最も頻繁に発生するものの中にある2つの単位セルベクトルに関連付けられていることが判明する。単位セルベクトルは、互いに対して約60°の角度になる。破線によって図に示される反射のうち、ビーム中心から任意の2つの隣接する反射への距離ベクトルは、単位セルベクトルの有効なセットを形成する。
【0039】
図7Aに示される画像の測定された反射データは、
図7Bの表に示される。表は、測定されたすべての差分ベクトルのリストを示し、下部には、最も短い3つのベクトルの長さ(ピクセル単位)が、それらの相対的な角度とともに示される。示されるように、3つのベクトルは、長さが類似しており、互いに対して約60°の角度を有する。これらのうちの2つは、非常に類似した長さ(それぞれ283.0及び283.3ピクセル)を有し、これらは、グラフェン材料の単位ベクトルを表すであろう。また、表には、すべての観測された反射位置の重心を見つけることによって決定されるビーム中心(1030、1020)の座標が示されている。
【0040】
いったん単位ベクトルが決定されると、
図7Cの表に示されるように、Bravais-Millerインデックスを観察された反射に割り当て得る。ビーム中心の改善された値は、インデックス付けステップから発見された観測された反射のすべてのフリーデル対の重心上で平均化することによって見出される。各反射について、次に、グラフェン結晶の対称性特性に依存して、観察された反射位置よりも歪みの影響を受けにくい正確な計算を行う式(3)を使用して、ビーム中心の更新された値から予測された位置を見つけ得る。次に、
図7Dの表に示されるように、ビーム中心に対する観測された反射の計算された距離と、ビーム中心に対する予測された反射の距離との間の比率が決定される。
【0041】
図7Dから計算された比率と観察されたピクセル位置(x、y)との式(4)の適合を
図7Eに示す。示されるように、係数の結果の値は、a=1.167、b=-0.00009、c=-0.017、d=-0.36である。ビーム中心係数の結果として得られる値は、c
x=1021及びc
y=1025である。これらの値を用いて、次いで、
図7Fに示されるように、反射のそれぞれについて適合比率を決定し得る。したがって、
図7Dは、観察された比率を示し、
図7Fは、適合比率を示す。
図7Fの適合(Fit)欄は、観察された比率を適合比率で割ったものを示し、適合の質を示す。これらの適合比は、各反射について、レンズ歪みによるビーム中心から離れる、またはビーム中心に向かうその反射の変位の大きさを示す。これは、
図8に示される
図7AのCEDI画像のバージョンで視覚的に示され、その上には、レンズの歪みがない場合に、画像に示される各反射がその正しい位置にあるために変位される必要がある方向及び距離を示すオーバーレイされた矢印がある。すなわち、グラフェン反射の補正された位置は円で示され、矢印はそれらの歪んだ(観察された)位置から指している。係数bがゼロに近いので、この特定の例は、主に楕円形の歪みを表し得る。
【0042】
いったん歪み補正が知られると、画像全体に適用され得て、したがって、グラフェン基板に取り付けられた対象のサンプルなど、グラフェンと一緒に検査された他の材料に関連する画像成分の補正を提供する。試料と二次材料の両方が典型的には一緒に撮像されるが、電子ビームを試料材料が存在しない領域に移動させることによって二次材料のみの画像を収集し、次いでこの画像を使用して、試料と二次材料の一緒に収集された画像に使用される歪み関数を較正することも可能であり得る。いったんレンズ歪みの補正が得られると、二次材料、この場合はグラフェンの検査によって決定される歪みの特性に基づいて、未知の材料に適用され得る。
【0043】
グラフェンは、本実施形態のために選択された材料であったが、当業者は、既知の特性を有する他の材料が、対象の試料と共に検討されるときに、レンズ歪みの特徴付けにも使用され得ることを理解するであろう。1つの代替材料は、例えば、窒化シリコンである。グラフェンのような二次元ではなく、三次元の結晶であるが、予測された反射位置を求め、式(4)をフィッティングして歪みの質を示す係数を決定する同様の処理が用いられ得る。しかしながら、そのような3D結晶は、電子ビームに平行な対称軸と整列させる必要がある。
【0044】
本発明の別の実施形態において、二次材料の2つ以上の層が用いられてもよい。
図9に示されるのは、2層のグラフェンによって支持される金ナノ結晶のCEDI画像である。示されるように、これは、それぞれが異なるグラフェン層に関連付けられた2組のグラフェン反射を生成する。これらの2つのグラフェンドメインの反射領域は、それぞれ円及び正方形によって図で区別され、それらに隣接して、それらのBravais-Miller指数が示される。
【0045】
図9のように、二次材料の複数の層を使用する場合、本発明による方法は同じ方法で進み、追加の層は、投影レンズによって付与される歪みを特徴付けるための追加の反射セットを提供する。当業者は、2つの層は、反射の予測される位置を確立することに関して別々に評価されなければならないが、反射の両方のセットは、ビーム中心を見つけ、係数a、b、c、d、c
x及びc
yを見つけるための式(4)を適合するために使用され得ることを認識するであろう。
【0046】
別の実施形態別の実施形態では、レンズ歪みの特徴付けは、対象となる試料に固有であり得る既知の材料の反射を使用して行われ得る。
図10は、その中に含まれるグラフェンに対応する反射を本質的に生成する自立型カーボンナノチューブのCEDI画像を示す。図では、グラフェン反射は円で示され、それに隣接してそれぞれのBravais-Miller指数が示されている。前述の実施形態と同様に、予測された反射位置を使用して、レンズの歪みによる画像内の反射の変位を決定することができ、式(4)の適合は、歪みを特徴付けるための係数を提供する。次いで、全体的な画像の補正をそれに応じて実行することができる。
【国際調査報告】