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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-14
(54)【発明の名称】ウシ初乳由来抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/04 20060101AFI20240307BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240307BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240307BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240307BHJP
   A61K 39/215 20060101ALI20240307BHJP
   C07K 16/10 20060101ALN20240307BHJP
【FI】
C07K16/04 ZNA
A61P31/12
A61K39/395 Y
A61P31/14
A61K39/215
A61K39/395 N
A61K39/395 D
C07K16/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579871
(86)(22)【出願日】2022-03-14
(85)【翻訳文提出日】2023-11-10
(86)【国際出願番号】 IB2022052282
(87)【国際公開番号】W WO2022195455
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】63/160,833
(32)【優先日】2021-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523347475
【氏名又は名称】イコサゲン セル ファクトリー オーユー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】プラース,マリオ
(72)【発明者】
【氏名】コガーマン,カリン
(72)【発明者】
【氏名】ズシナイト,エヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ティーラッツ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】アースメー,ヴァージット
(72)【発明者】
【氏名】カヴァック,アンツ
(72)【発明者】
【氏名】ポイカライネン,ヴェイネ
(72)【発明者】
【氏名】レパサル,レンビット
(72)【発明者】
【氏名】ピースコプ,サンダー
(72)【発明者】
【氏名】ロム,シーム
(72)【発明者】
【氏名】オルトジャー,ルース
(72)【発明者】
【氏名】カングロ,カドリ
(72)【発明者】
【氏名】サンコブスキ,イヴ
(72)【発明者】
【氏名】ジャーホルド,ジョアキム
(72)【発明者】
【氏名】プランケン,アヌ
(72)【発明者】
【氏名】パート,レイニ
(72)【発明者】
【氏名】メンニク,アンドレス
(72)【発明者】
【氏名】トバー,アンドレス
(72)【発明者】
【氏名】ミハイル クラシン,ミハイル
(72)【発明者】
【氏名】ウスタヴ,マート
(72)【発明者】
【氏名】ウスタヴ,マート ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】ギルデマン,キーラ
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BA71
4C085BB31
4C085BB33
4C085BB36
4C085CC16
4C085CC22
4C085DD88
4C085EE01
4C085GG10
4H045AA11
4H045CA43
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA71
(57)【要約】
呼吸経路を介して広がるヒトにおけるウイルス感染に対する免疫グロブリン調製物を産生する方法を提供する。この方法は、少なくとも1つのウイルス株に由来する抗原タンパク質で、少なくとも第1の妊娠期間の第3期中に乳牛を免疫するステップと、ウイルスの様々な株の抗原タンパク質に対して有効な免疫グロブリンを含む高度免疫ウシ初乳を収集するステップと、初乳から乳清を調製するステップと、乳清から免疫グロブリン分子を単離するステップと、鼻腔内治療に使用するための免疫グロブリン調製物を調製するステップと、を含む。本発明の一態様は、高濃度の抗SARS-CoV-2抗体を含むSARS-CoV-2スパイクタンパク質に特異的な高度免疫ウシ初乳を産生することである。ヒトにおけるSARS-CoV-2感染のリスクを減少するための鼻腔内送達システムを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸経路を介して広がるヒトにおけるウイルス感染に対する免疫グロブリン調製物を産生する方法であって、
少なくとも1つのウイルス株に由来する抗原タンパク質で、少なくとも第1の妊娠期間の第3期中に、乳牛を免疫するステップと、
前記ウイルスの様々な株の前記抗原タンパク質に対して有効な免疫グロブリンを含む高度免疫ウシ初乳を収集するステップと、
前記初乳から乳清を調製するステップと、
前記乳清から免疫グロブリン分子を単離するステップと、鼻腔内治療に使用するための免疫グロブリン調製物を調製するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
免疫グロブリン調製物は、SARS-CoV-2感染に対するものであり、ウシは、少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質、及び少なくとも1つのSARS-CoV-2スパイクタンパク質で第1の妊娠期間の第3期中、任意選択的に、その後の任意の妊娠期間の第3期中に免疫され、任意選択的に、前記妊娠期間の間に少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質で更に少なくとも1回再免疫され、任意の分娩後に収集された前記高度免疫ウシ初乳は、ACE2受容体を介する侵入を遮断することにより任意のSARS-CoV-2株に対して有効な免疫グロブリンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ウシは、配列番号2~6から選択される配列のうちのいずれか1つと少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の類似性を有する少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質、及び配列番号8又は配列番号9と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の類似性を有するSARS-CoV-2スパイクタンパク質を含む少なくとも1つのブースターで、第1の妊娠期間の第3期中に少なくとも1回免疫され、
任意選択的に、配列番号2と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の類似性を有する少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質で、第1の分娩の後、少なくとも3回前記ウシを再免疫し、かつ配列番号2~6から選択される配列のうちのいずれか1つと少なくとも90%、好ましくは95%の類似性を有する少なくとも1つのSARS-CoV S1 RBDタンパク質、及び配列番号8又は配列番号9と少なくとも90%、好ましくは95%の類似性を有するSARS-CoV-2スパイクタンパク質を含む少なくとも1つのブースターで、第2の妊娠期間の第3期中、少なくとも1回前記ウシを免疫し、
免疫された前記ウシの前記第1の分娩及び/又は第2の分娩後に、前記高度免疫初乳を収集し、
改変された前記高度免疫初乳は、50~150mg/ml、好ましくは70~100mg/mlのIgG又はIgA型抗SARS-CoV-2抗体を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第1の妊娠期間中、前記ウシは、予想される分娩の40~70日前、好ましくは50~70日前、最も好ましくは55~65日前に、前記SARS CoV-2 S1 RBDタンパク質で第1回目の免疫をされ、前記第1回目の免疫の15~25日後に第2回目の免疫をされ、ブーストは、前記第2回目の免疫の10~15日後に提供される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ウシは、予想される分娩の30~50日、好ましくは35~45日、最も好ましくは42日前の第2の妊娠期間中に免疫され、前記ブーストは、最後の免疫の10~20日後、より好ましくは12~15日後、最も好ましくは14日後に投与される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記ウシは、SARS CoV-2 S21 RBDタンパク質で、前記第1の妊娠期間と前記第2の妊娠期間との間に少なくとも3回再免疫される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記ウシは、筋肉内又は粘膜組織を介して免疫される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質に特異的な高度免疫ウシ初乳であって、請求項1~4のいずれか一項に記載により産生され、第1又は第2の分娩後に収集され、少なくとも1つのSARS-CoV-2株に対して有効であるIgG又はIgA型抗SARS-CoV-2抗体を70~100mg/ml含む、高度免疫ウシ初乳。
【請求項9】
前記初乳は、少なくとも2つの異なるSARS-CoV株に対して有効な抗体を含み、前記株は、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、及びオミクロン株から選択される、請求項8に記載の高度免疫ウシ初乳。
【請求項10】
初乳免疫グロブリン調製物を作る方法であって、
請求項8又は9に記載の高度免疫ウシ初乳を供給するステップと、
前記初乳から脂肪及びカゼインを除去することによって、乳清を調製するステップと、
前記乳清を濾過するステップと、
前記乳清を接線流濾過で濃縮するステップと、
前記濃縮乳清を親和性クロマトグラフィーで精製し、免疫グロブリン分子をGタンパク質マトリックスに結合させるステップと、
前記マトリックスを洗浄するステップと、
前記免疫グロブリン分子をpH2.7のグリシンで溶出させるステップと、
得られた初期免疫グロブリン調製物を中和するステップと、
前記初期調製物を濃縮するステップと、
接線濾過システム上で緩衝液交換を実行するステップと、
前記初期調製物を滅菌及び濾過して、前記免疫グロブリン調製物を得るステップと、を含む、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法によって作られた初乳免疫グロブリン調製物。
【請求項12】
前記調製物は、少なくとも1つのSARS-CoV-2株に対して有効な抗SARS-CoV-2抗体を0.01~1mg/ml、好ましくは0.05~0.8mg/ml、より好ましくは0.1~0.5mg/ml、最も好ましくは0.15~0.25mg/ml含むように希釈される、請求項11に記載の初乳免疫グロブリン調製物。
【請求項13】
少なくとも2つのSARS-CoV-2株に有効である、請求項11又は12に記載の初乳免疫グロブリン調製物。
【請求項14】
前記株は、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、オミクロン及び任意の新規のSARS CoV-2株から選択される、請求項13に記載の初乳免疫グロブリン調製物。
【請求項15】
請求項11~14のいずれか一項に記載の初乳免疫グロブリン調製物を含む、粘膜鼻腔内送達システム。
【請求項16】
前記システムは、鼻腔内スプレーである、請求項15に記載の粘膜鼻腔内送達システム。
【請求項17】
ヒトがSARS-CoV-2ウイルスに感染するリスクを減少するための、請求項16に記載の鼻腔内スプレーの使用。
【請求項18】
ヒトがSARS-CoV-2ウイルスに感染するリスクを減少する方法であって、請求項16に記載のスプレーを投与することを含む、方法。
【請求項19】
前記方法は、呼吸経路を介して広がるウイルスによって引き起こされる将来のパンデミック又は戦争に対するツールの開発のための抗ウイルス保護調製物を生成するためのものであり、前記方法は、
乳牛においてポリクローナル免疫応答を生じるために、既知のウイルス株から得られた抗ウイルス抗原で前記乳牛を免疫することと、
前記ウシの初乳を収集することと、
前記初乳から脂肪及びカゼインを除去することによって、乳清を調製することと、
前記乳清を濾過し、濃縮することと、
前記濃縮乳清を精製することと、
前記精製乳清から免疫グロブリンを単離することと、
鼻腔内送達システムのための免疫グロブリン調製物を調製することと、を含み、前記鼻腔内送達システムは、前記ウイルスの多数の株に対して有効な免疫グロブリンを含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
Mario Plaas、Karin Kogermann、Eva Zusinaite、Toomas Tiirats、Birgit Aasmae、Ants Kavak、Vaino Poikalainen、Lembit Lepasalu、Sander Piiskop、Siimu Rom、Ruth Oltjer、Kadri Kangro、Eve Sankovski、Kiira Kilderman、Joachim Gerhold、Raini Pert、Andres Mannik、Anu Planken、Andres Tover、Mihhail Kurasin、Mart Ustav、Mart Ustav Jr.
【0002】
優先権
本出願は、2021年3月14日に出願された米国仮出願第63/160,833号の優先権を主張し、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
配列表
本出願は、コンピュータ可読フォーマットで提供される配列表を含有する。
【背景技術】
【0004】
COVID19-パンデミックは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされた、2019年のコロナウイルス病のパンデミックである。SARS-CoV-2は、ヒトに感染する新規ウイルスであり、最初のヒトCOVID-19症例は、2019年12月に中国の武漢で確認された。
【0005】
現在までに、このウイルスは3億9000万人以上に感染し、少なくとも570万人が死亡している。新規コロナウイルスは、壊滅的な世界的健康及び経済的影響をもたらしており、いくつかのワクチン候補が開発中ではあるとしても、ウイルス感染の治療法及び予防法はまだ開発されていない。
【0006】
COVID-19の徴候及び症状は、曝露から2~14日後に現れることがある。曝露後及び症状が現れる前のこの時間を潜伏期間と呼ぶ。一般的な徴候及び症状としては、発熱、咳、疲労感が挙げられ得る。その他の症状としては、息切れ又は呼吸困難、筋肉痛、悪寒、のどの痛み、鼻水、頭痛、胸痛などが挙げられ得る。COVID-19の症状の重症度は、非常に軽度から重度まで様々である。症状が少ない人もいれば、まったく症状がない人もいる場合がある。一部の人は、症状が始まってから約1週間後に、息切れ及び肺炎の悪化など、症状の悪化を経験し得る。
【0007】
SARS-CoV-2ウイルスは、25~100種類の範囲のホモ三量体スパイク(S)タンパク質をウイルス膜上に示しており、ホモ三量体スパイクタンパク質は、宿主細胞表面タンパク質であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)、ニューロピリン-1、及びセリンプロテアーゼTMPRSS2と相互作用して、細胞へのウイルス侵入を促進する(Hoffman et al.,2020、Cantuti-Catelvetri et al.,2020、Daily et al.,2020、Shang et al.2020)。Sタンパク質上の様々なエピトープに結合し、細胞へのウイルス侵入を遮断する多量の抗体が報告されてきた(Wang et al.,2020、Shi et al.,2020、Noy-Porat et al.,2020、Alsoussi et al.,2020、Liu et al.,2020、Cao et al.,2020、Zost et al.,2020、Trotorici et al.,2020)。ほとんどの抗体はSタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に結合し、このドメインは上向きのACE2アクセス可能な配座又は下向きのACE2アクセス不可能な配座のいずれかにおいて発見され得(Walls et al.,2020)、ACE2との相互作用を遮断する。ACE2は、肺、動脈、心臓、腎臓、及び腸に位置する細胞の細胞膜に結合する酵素である。膜貫通タンパク質として、ACE2は、SARS-CoV-2を含むいくつかのコロナウイルスの細胞への主要な侵入地点として機能する。より具体的には、SARS-CoV-2のスパイクS1タンパク質の細胞表面上のACE2の酵素ドメインへの結合は、ウイルス及び酵素の両方の飲食作用及び細胞内に位置するエンドソームへの移行をもたらす。
【0008】
中和抗体は、病原体の細胞への侵入を遮断し、それにより、病原体が体に感染するのを防ぐことができる。ACE2はSARS-CoV-2の主要な侵入地点であるため、侵入を遮断する可能性のある効率的な中和抗体を見つけることは、パンデミックと戦うための予防的及び治療的手段を開発するための有望なアプローチと思われる。中和抗SARS-CoV-2抗体による受動的免疫化は、高齢者、免疫不全者、老人ホーム及び長期介護施設の患者など、最も苦しんでいる特定の集団に特に有効であり得る。
【0009】
哺乳類における初乳を介した保護免疫の伝達は、自然に進化したプロセスであり、新生児に最初の数日から数ヶ月の間、外来病原体に対する保護免疫を提供する。ウシ初乳を栄養補助食品として使用することは、広く実装され、腸管病原体に対する有益な効果を引き出すことが実証されている。ウシ初乳において、存在する主なタンパク質は、免疫グロブリンであり、主な免疫グロブリンアイソタイプはIgGであり、続いてIgA及びIgMである。ウシ初乳中のIgGレベルは約50~100mg/mlであり、これは、ウシが胎盤を越えてIgGを移動できず、最初の保護免疫を発達させる際に初乳に依存するため、子ウシにとって重要である。母親の血清免疫グロブリンは、分娩前に急速に減少し、初乳及び乳に移行するため、それらは免疫グロブリンの優れた供給源である。高度免疫ウシ初乳の発達は、特異的抗ウイルス抗体の優れた供給源であり得る。インフルエンザの場合、BALB/cマウスにインフルエンザ高度免疫初乳から得たIgGを経鼻的に予め処置したところ、亜致死量の場合でもマウスの感染発症を防いだことが実証されている。予め処置された動物は、致死的な感染用量の場合にも保護された。高度免疫初乳由来保護の同様の移行は、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)感染に対しても実証されている。
【0010】
SARS-CoV-2感染症に対する防御のための予防的治療及び組成物、並びにSARS-CoV-2ウイルスの拡散を防止するための方法を提供することは、非常に必要である。ワクチンが必要であるだけでなく、ウイルス変異に応答として迅速かつ容易に改変することができる予防手段が必要である。将来のパンデミックの場合及び、呼吸経路を介してウイルス株が広がる可能性のある生物戦の場合であっても、迅速に対応する必要がある。本発明は、そのようなウイルス感染からヒトを保護するための方法及び生成物を提供する。
【発明の概要】
【0011】
したがって、呼吸経路を介して広がるヒトにおけるウイルス感染に対する免疫グロブリン調製物を産生する方法を提供することが本発明の目的であり、本方法は、少なくとも1つのウイルス株に由来する抗原タンパク質で、少なくとも第1の妊娠期間の第3期中に、乳牛を免疫するステップと、ウイルスの様々な株の抗原タンパク質に対して有効な免疫グロブリンを含む高度免疫ウシ初乳を収集するステップと、初乳から乳清を調製するステップと、乳清から免疫グロブリン分子を単離するステップと、鼻腔内治療に使用するための免疫グロブリン調製物を調製するステップと、を含む。
【0012】
本方法の特定の態様によれば、免疫グロブリン調製物は、SARS-CoV-2感染に対するものであり、ウシは、少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質、及び少なくとも1つのSARS-CoV-2スパイクタンパク質で第1の妊娠期間の第3期中、任意選択的に、その後の任意の妊娠期間の第3期中に免疫され、任意選択的に、妊娠期間の間に少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質で更に少なくとも1回再免疫され、任意の分娩後に収集された高度免疫ウシ初乳は、ACE2受容体を介する侵入を遮断することにより任意のSARS-CoV-2株に対して有効な免疫グロブリンを含む。
【0013】
本方法のある特定の態様によれば、ウシは、配列番号2~6から選択される配列のうちのいずれか1つと少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の類似性を有する少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質、及び配列番号8又は配列番号9と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の類似性を有するSARS-CoV-2スパイクタンパク質を含む少なくとも1つのブースターで、第1の妊娠期間の第3期中に少なくとも1回免疫され、任意選択的に、配列番号2と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の類似性を有する少なくとも1つのSARS-CoV-2S1 RBDタンパク質で、第1の分娩の後、少なくとも3回ウシを再免疫し、かつ配列番号2~6から選択される配列のうちのいずれか1つと少なくとも90%、好ましくは95%の類似性を有する少なくとも1つのSARS-CoV S1 RBDタンパク質、及び配列番号8又は配列番号9と少なくとも90%、好ましくは95%の類似性を有するSARS-CoV-2スパイクタンパク質を含む少なくとも1つのブースターで、第2の妊娠期間の第3期中、少なくとも1回ウシを免疫し、免疫されたウシの第1の分娩及び/又は第2の分娩後に、高度免疫初乳を収集する。
【0014】
本方法の特定の態様によれば、改変された高度免疫初乳は、50~150mg/ml、好ましくは70~100mg/mlのIgG又はIgA型抗SARS-CoV-2抗体を含む。
【0015】
ウイルス感染、特にSARS-CoV-2ウイルス感染に対する上気道粘膜における保護免疫のための手段を提供することが、本発明の目的である。
【0016】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質に特異的な高度免疫初乳由来抗体を提供及び使用することによって、SARS-CoV-2に対する保護に使用するためのヒトの鼻腔内治療を提供することが、本発明の目的である。
【0017】
SARS-CoV2に特異的な高度免疫ウシ初乳を産生する方法を提供することが本発明の目的であり、この方法は、乳牛を少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質バリアント及び少なくとも1つのSARS-CoV-2スパイクタンパク質バリアントで免疫するステップと、子ウシの出生後に改変されたウシ初乳を収集するステップとを含み、改変されたウシ初乳は、50~150mg/ml、好ましくは70~100mg/mlの抗SARS-CoV-2抗体を含む。
【0018】
本発明の特定の態様によれば、SARS-CoV-1に特異的な高度免疫ウシ初乳を産生する方法が提供され、この方法は、
配列番号2と少なくとも95%の類似性を有する少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質、及び配列番号4と少なくとも95%の類似性を有するSARS-CoV-2スパイクタンパク質を含む少なくとも1つのブースターで、第1の妊娠期間の第3期中、少なくとも1回乳牛を免疫するステップと、任意選択的に、配列番号2と少なくとも95%の類似性を有する少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質で、第1の出産後、少なくとも3回ウシを再免疫するステップと、配列番号2と少なくとも95%の類似性を有する少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質、及び配列番号4と少なくとも95%の類似性を有するSARS-CoV-2スパイクタンパク質を含む少なくとも1つのブースターで、第2の妊娠期間の第3期中、少なくとも1回ウシを免疫するステップと、免疫されたウシの第1及び/又は第2の分娩後に、高度免疫初乳を収集するステップと、を含み、高度免疫初乳は、50~150mg/ml、好ましくは70~100mg/mlのIgG又はIgA型抗SARS-CoV-2抗体を含む。
【0019】
高度免疫初乳を産生する方法の特定の態様によれば、ウシは、予想される分娩の40~70日前、好ましくは50~70日前、最も好ましくは55~65日前に、SARS CoV-2 S1 RBDタンパク質で第1回目の妊娠期間中に第1回目の免疫をされ、第1回目の免疫の15~25日後に第2回目の免疫をされ、ブーストは、第2回目の免疫の10~15日後に提供される。
【0020】
高度免疫初乳を産生する方法の特定の態様によれば、ウシは、予想される分娩の30~50日、好ましくは35~45日、最も好ましくは42日前の第2の妊娠期間中に免疫され、ブーストは、最後の免疫の10~20日後、より好ましくは12~15日後、最も好ましくは14日後に投与される。
【0021】
高度免疫初乳を産生する方法の特定の態様によれば、ウシは、SARS CoV-2 S21 RBDタンパク質を用いて、第1の妊娠期間と第2の妊娠期間との間に少なくとも3回再免疫される。
【0022】
高度免疫初乳を産生する方法の特定の態様によれば、ウシは、筋肉内又は粘膜組織を介して免疫される。
【0023】
ある特定の態様によれば、高度免疫初乳のIgG又はIgA型抗SARS-CoV-2抗体は、デルタバリアント武漢単離株、UK単離株、南アフリカ単離株、ブラジル単離株、及びオミクロンバリアントから選択される1つ以上のSARS-CoV-2バリアントに対して有効である。
【0024】
少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質バリアント及び少なくとも1つのSARS-CoV-2スパイクタンパク質バリアントで免疫されたウシから収集されたSARS-CoV-2スパイクタンパク質に特異的な高度免疫ウシ初乳であって、子ウシを出産した後6~10日以内に収集される初乳であり、少なくとも1つのSARS-CoV-2株に対する50~150g/ml、好ましくは70~100mg/mlのIgG又はIgM型抗体を含む初乳を提供することは、本発明の別の目的である。
【0025】
ある特定の態様によれば、初乳は、少なくとも2つの異なるSARS-CoV-2株に対して有効な抗体を含み、その株は、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、及びオミクロン株から選択される。
【0026】
少なくとも2つの異なるSARS-CoV-2株に対して有効である免疫グロブリンを含む初乳免疫グロブリン調製物を作る方法を提供することが、本発明の更に別の目的であり、その株は、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ及びオミクロン株から選択される。
【0027】
ある特定の態様によれば、初乳免疫グロブリン調製物を作る方法は、免疫されたウシから得られたSARS-CoV-2スパイクタンパク質高度免疫ウシ初乳を供給するステップと、初乳から脂肪及びカゼインを除去することによって乳清を調製するステップと、乳清を濾過するステップと、乳清を接線流濾過で濃縮するステップと、濃縮乳清を親和性クロマトグラフィーで精製し、免疫グロブリン分子をGタンパク質マトリックスに結合するステップと、マトリックスを洗浄するステップと、免疫グロブリン分子をpH2.7のグリシンで溶出するステップと、得られた初期免疫グロブリン調製物を中和するステップと、初期調製物を濃縮するステップと、接線濾過システムで緩衝液交換を実行するステップと、初期調製物を滅菌及び濾過して、免疫グロブリン調製物を得るステップと、を含む。
【0028】
ある特定の態様によれば、本方法によって作られる免疫グロブリン調製物は、少なくとも2つの異なるSARS-CoV-2株に対して有効な抗体を含み、その株は、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ及びオミクロン株から選択される。
【0029】
ある特定の態様によれば、免疫グロブリン調製物は、少なくとも1つのSARS-CoV-2株に対して有効な抗SARS-CoV-2抗体を0.01~1mg/ml、好ましくは0.05~0.8mg/ml、より好ましくは0.1~0.5mg/ml、最も好ましくは0.15~0.25mg/ml含むように希釈される。
【0030】
免疫グロブリン調製物を含む鼻腔内送達システムを提供することが、本発明の更に別の目的である。ある特定の態様によれば、鼻腔内送達システムは、鼻腔内スプレーである。
【0031】
ヒトがSARS-CoV-2ウイルスに感染するリスクを減少するのに使用するための鼻腔内送達システムを提供することが、本発明の更なる目的である。
【0032】
特定の態様によれば、鼻腔内送達システムは、0.006~0.6mgの抗SARS-CoV-2抗体を含む用量をスプレーするために使用される鼻腔内スプレーである。
【0033】
本発明は、ACE2受容体に結合することによって、SARS-CoV-2に対して有効な大量の免疫グロブリンを産生する方法を提供する。高速タイムラインは、ウイルスの新しい株が出現した場合、鼻腔内送達システムの改変の迅速な産生を可能にする。
【0034】
特定の態様によれば、本発明は、任意の更なるパンデミックと戦うための抗ウイルス保護調製物を調製するための方法及びツールを提供する。
【0035】
呼吸経路を介して広がるウイルスによって引き起こされる将来のパンデミック又は戦争に対するツールを開発するための抗ウイルス保護調製物を生成する方法であって、乳牛においてポリクローナル免疫応答を生じるために、既知のウイルス株から得られた抗ウイルス抗原で乳牛を免疫することと、ウシの初乳を収集することと、請求項8に記載の免疫グロブリン調製物を単離することと、ウイルスの多数の株に対して有効な免疫グロブリン調製物を含む鼻腔内送達系を提供することと、を含む、方法を提供することが、本発明の更なる目的である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】高度免疫初乳由来抗体含有調製物を得るためのワークフローの概略図である。最初のステップから最後のステップまでにかかり得るタイムラインは、わずか2~3ヶ月である。
図2】抗体力価を示し、抗体中和能力の描写を含む。中和力価は、灰色の点線及び灰色のアスタリスクで示される。ウシ364の力価は1600倍であり、ウシ1020及び2279の力価の範囲は約200倍である。残りの4頭(2261、6502、2261、及び6536)は、約800倍の力価を示す。
図3A】免疫化タイムラインによる、免疫されたウシ6536(B、D)及び2279(C、E)の血清由来の抗体の免疫化及び分娩タイムライン(a)及び中和効果を示す。グラフB及びCは、50倍希釈の血清上で実行したELISAアッセイの相対OD450シグナルを示す。グラフD及びEは、100倍希釈倍率の初乳上で実行したELISAアッセイの相対OD450シグナルを示す。
図3B】免疫化タイムラインによる、免疫されたウシ6536(B、D)及び2279(C、E)の血清由来の抗体の免疫化及び分娩タイムライン(a)及び中和効果を示す。グラフB及びCは、50倍希釈の血清上で実行したELISAアッセイの相対OD450シグナルを示す。グラフD及びEは、100倍希釈倍率の初乳上で実行したELISAアッセイの相対OD450シグナルを示す。
図3C】免疫化タイムラインによる、免疫されたウシ6536(B、D)及び2279(C、E)の血清由来の抗体の免疫化及び分娩タイムライン(a)及び中和効果を示す。グラフB及びCは、50倍希釈の血清上で実行したELISAアッセイの相対OD450シグナルを示す。グラフD及びEは、100倍希釈倍率の初乳上で実行したELISAアッセイの相対OD450シグナルを示す。
図3D】免疫化タイムラインによる、免疫されたウシ6536(B、D)及び2279(C、E)の血清由来の抗体の免疫化及び分娩タイムライン(a)及び中和効果を示す。グラフB及びCは、50倍希釈の血清上で実行したELISAアッセイの相対OD450シグナルを示す。グラフD及びEは、100倍希釈倍率の初乳上で実行したELISAアッセイの相対OD450シグナルを示す。
図3E】免疫化タイムラインによる、免疫されたウシ6536(B、D)及び2279(C、E)の血清由来の抗体の免疫化及び分娩タイムライン(a)及び中和効果を示す。グラフB及びCは、50倍希釈の血清上で実行したELISAアッセイの相対OD450シグナルを示す。グラフD及びEは、100倍希釈倍率の初乳上で実行したELISAアッセイの相対OD450シグナルを示す。
図4】初乳から最終的な免疫グロブリン生成物までのプロセスステップ。
図5】初乳由来免疫グロブリン調製物が、ACE2とスパイクタンパク質との結合を遮断する可能性を示している。黒い正方形は、ウシ6536の中和抗体値を示し、黒い円は、ウシ2279の中和抗体値を示し、黒い三角形はウシ1020の中和抗体値を示し、空の円は、免疫されていないウシの値を示す(対照)。遮断は、0.75の相対光学密度(OD)未満で生じると考えられる。相対ODが小さいほど、中和効果が強くなる。ウシ6536からの初乳由来免疫グロブリン調製物は32ug/mlの濃度で、ウシ2279由来のものは78ug/mlの濃度で、ウシ1020由来のものは125ug/mlの濃度で、依然として中和能力を示す。免疫していないウシからの初乳由来免疫グロブリン調製物は、高濃度(2500ug/ml~10,000ug/ml)で非特異的中和を示す。
図6】初乳からの初乳由来免疫グロブリンの機能的特徴を例示する。左パネルは、競合ELISAアッセイの原理を示す。右のパネルは、SARS-CoV-2の異なる三量体スピークタンパク質バリアントに対する初乳免疫グロブリンの結合を示す。バリアントのIC50値も示す。初乳免疫グロブリン生成物は、BOSS Ig001、すなわち、最初の分娩後に初乳から得られた生成物であった(図3Aのタイムラインを参照)。
図7】競合ELISAによって決定される、BOSS Ig001(第1の分娩後に初乳から得られる生成物)及びBOSS Ig003(第2の分娩後に得られる初乳)(タイムラインについては図3Aを参照)の機能的特徴を例示する。IC50値も示す。
図8】偽型ウイルスアッセイの結果を示す。アッセイは、SARS-COV-2株B-1-351LAV(ベータバリアント)、P1ブラジル(ガンマバリアント)、UK202012(アルファバリアント)及び武漢で実施した。完全中和は、発光シグナルが検出されない、又は実質的に検出されない濃度で考慮される。これは、約100ug/mlの濃度で4つの株全てに当てはまり、これは、試験した4つの株全ての中和が等しく良好であることを示している。IC50値も示す。試験は、BOSS Ig001免疫グロブリン生成物を用いて実施した。
図9】別の一連の偽型ウイルスアッセイの結果を示す。ここで、試験した株には、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、カッパ、及び野生型バリアントが含まれた。試験は、BOSS Ig001免疫グロブリン生成物を用いて実施した。
図10】更に別の組の偽型ウイルスアッセイの結果を示す。ここで、試験には、デルタ及びオミクロンのバリアントが含まれた。試験は、BOSS Ig001及びBOSS Ig003生成物を用いて実施した。
図11】SARS-CoV-2中和アッセイと、SARS-CoV-2を初乳由来抗体で連続希釈処理した後、ウイルス-抗体混合物でVERO E6細胞を感染させた結果とを例示する。ウイルス誘発性細胞障害性効果が視覚的に決定されない最終的な抗体濃度を、最終的なIC100濃度として得る。実験を別々の重複で実行し、両方の独立した実験の結果を実証した。
図12】7日間にわたる異なる条件において得られた初乳由来調製物のACE2遮断活性の安定性及び保持を示す。活性の有意な変化は検出されない。
図13】異なるタンパク質濃度でのSARS-COV2免疫グロブリン生成物の単一感染前鼻腔内投与(70ul)のウイルス量変化を例示する。10pfuの感染性SARS-COV2ウイルスを使用して、動物を感染させた。
【発明を実施するための形態】
【0037】
定義:
本開示において、「免疫グロブリン」及び「抗体」という用語は、互換的に使用される。
【0038】
本開示において、「BOSS001Ig」という用語は、第1の分娩後に免疫されたウシの初乳から得られたウシSARS-CoV-2スパイクタンパク質免疫グロブリン生成物を意味する(免疫化及び分娩のタイムラインについては図3Aを参照)。「BOSS003Ig」という用語は、第2の出産後に免疫されたウシの初乳から得られたウシSARS-CoV-2スパイクタンパク質免疫グロブリン生成物を意味する(免疫化及び出産のタイムラインについては図3Aを参照)。本開示において、別段の指示がない限り、使用される免疫グロブリン生成物は、BOSS001Igである。
【0039】
本開示において、「初乳」という用語は、分娩後の最初の8~10回の搾乳中にウシから得られた乳白色の流体を意味する。その後、通常は分娩後7日目以降に得られる乳を、ここでは「普通の乳」と呼ぶ。
【0040】
ここでは、呼吸経路を介して広がるヒトにおけるウイルス感染に対する免疫グロブリン調製物を産生する方法を提供する。本方法は、少なくとも1つのウイルス株に由来する抗原タンパク質で、少なくとも第1の妊娠期間の第3期中に、乳牛を免疫するステップを含む。抗原タンパク質は、限定されないが、SARS-Cov、SARS-Cov-2、MERS-CoVなどの呼吸経路を介して広がる任意のウイルスから選択され得る。この方法は、ウイルスの様々な株の抗原タンパク質に対して有効な免疫グロブリンを含む高度免疫ウシ初乳を収集することを含む。高度免疫ウシ初乳の免疫グロブリンは、免疫化に使用されたものよりも他の株に対して有効であり得る。SARS-Cov-2のアルファ、ベータ、ガンマ、デルタ又はカッパ株に由来するタンパク質でウシを免疫する場合、収集された初乳は、ウシが免疫されなかったオミクロン株に対しても有効である。収集した初乳から乳清を調製し、鼻腔内治療として使用するための免疫グロブリン調製物を調製するために、免疫グロブリン分子を乳清から単離する。好ましくは、調製物は鼻腔内スプレーである。
【0041】
本明細書で提供する方法は、SARS-CoV-2感染症に対する免疫グロブリン調製物の調製に特に好適である。この場合、ウシは、少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質、及び少なくとも1つのSARS-CoV-2スパイクタンパク質で第1の妊娠期間の第3期中、任意選択的に、その後の任意の妊娠期間の第3期中に免疫され、任意選択的に、妊娠期間の間に少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質で少なくとも1回再免疫される。任意の分娩後に収集された高度免疫ウシ初乳は、ACE2受容体を介する侵入を遮断することにより任意のSARS-CoV-2株に対して有効な免疫グロブリンを含む。高度免疫初乳は、50~150mg/ml、好ましくは70~100mg/mlのIgG又はIgA型抗SARS-CoV-2抗体を含み得る。
【0042】
本方法の一態様によれば、ウシは、配列番号2~6から選択される配列のうちのいずれか1つと少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の類似性を有する少なくとも1つのSARS-CoV-2S1 RBDタンパク質、及び配列番号8又は配列番号9と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の類似性を有するSARS-CoV-2スパイクタンパク質を含む少なくとも1つのブースターで、第1の妊娠期間の第3期中に少なくとも1回免疫され、任意選択的に、配列番号2と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の類似性を有する少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質を用いて、第1の分娩の後、少なくとも3回ウシを再免疫し、かつ配列番号2~6から選択される配列のうちのいずれか1つと少なくとも90%、好ましくは95%の類似性を有する少なくとも1つのSARS-CoV S1 RBDタンパク質、及び配列番号8又は配列番号9と少なくとも90%、好ましくは95%の類似性を有するSARS-CoV-2スパイクタンパク質を含む少なくとも1つのブースターを用いて、第2の妊娠期間の第3期中、少なくとも1回ウシを免疫する。高度免疫初乳は、免疫されたウシの第1の分娩及び/又は第2の分娩後に収集され、50~150mg/ml、好ましくは70~100mg/mlのIgG又はIgA型抗SARS-CoV-2抗体を含み得る。驚くべきことに、抗体は、任意の既知のSARS-CoV-2ウイルス株に対して、免疫化に使用されなかった株に対してさえ、有効である。
【0043】
本開示は、ウイルス感染、特にSARS-CoV-2ウイルス感染に対する上気道粘膜における保護免疫のための手段を提供する。SARS-CoV-2に対する保護において使用されるヒトのための鼻腔内治療は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質に特異的な高度免疫初乳由来抗体を使用することによって提供される。
【0044】
本開示は、高度免疫初乳を産生するための好ましい免疫スケジュールを提供する。ウシは、好ましくは、予想される分娩の40~70日前、好ましくは50~70日前、最も好ましくは55~65日前に、SARS CoV-2 S1 RBDタンパク質を用いて第1回目の妊娠期間中に第1回目の免疫をされ、第1回目の免疫の15~25日後に第2回目の免疫をされ、ブーストは、第2回目の免疫化の10~15日後に提供される。SARS CoV-2 RBDタンパク質は、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、カッパ又はオミクロン株を含む、任意のSARS CoV-2株から得ることができる。SARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質は、配列番号2~6から選択される配列のうちのいずれか1つと少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の類似性を有することが好ましい。免疫スケジュールは、ウシにおいて免疫反応を誘導し、それは、2つ以上のSARS-CoV株に対して、ウシが免疫されなかった株に対してさえも、有効である免疫グロブリンを含む初乳をもたらす。したがって、この方法は、まだ知られていない新しい株によって引き起こされる将来のSARS-Cov-2感染症の減少に適している。
【0045】
ウシの免疫のタイムラインは、予想される分娩の30~50日前、好ましくは35~45日前、最も好ましくは42日前の第2の妊娠期間又はそれ以上の妊娠期間中の免疫を含むことができ、ブーストは最後の免疫の10~20日後、より好ましくは12~15日後、最も好ましくは14日後に投与される。免疫化に使用されるSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質は、好ましくは、配列番号2~6から選択される配列のうちのいずれか1つと少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の類似性を有する。免疫スケジュールは、ウシにおいて免疫反応を誘導し、それは、2つ以上のSARS-CoV株に対して、ウシが免疫されなかった株に対してさえも、有効である免疫グロブリンを含む初乳をもたらす。
【0046】
免疫化タイムラインは、任意の2つの妊娠期間の間に、任意のSARS Cov-2株から得られたSARS CoV-2 S21 RBDタンパク質で、少なくとも1回、より好ましくは少なくとも3回の再免疫化を含み得る。SARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質は、配列番号2~6から選択される配列のうちのいずれか1つと少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の類似性を好ましくは有する。
【0047】
ウシは、高度免疫初乳を産生するための本開示に記載の免疫化のいずれも、筋肉内又は粘膜組織を介してであってもよい。
【0048】
本開示は、SARS-、MERS-CoV及びSARS-CoV2感染症等の呼吸器ウイルス感染症に対して有効な免疫グロブリンを単離するのに好適な高度免疫ウシ初乳を提供する。本開示は、少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質バリアント及び少なくとも1つのSARS-CoV-2スパイクタンパク質バリアントで免疫したウシから収集されたSARS-CoV-2スパイクタンパク質に特異的な高度免疫ウシ初乳を提供する。初乳は、好ましくは、分娩後の最初の8~10回の搾乳から、好ましくは、子ウシを出産した後4~10日以内に収集され、初乳は、50~150g/ml、好ましくは70~100mg/mlの少なくとも1つのSARS-CoV-2株に対するIgG又はIgM型抗体を含むことができる。初乳は、好ましくは、免疫化のための抗原が由来する株とは異なるSARS-CoV-2株に対して有効な抗体を含む。初乳は、好ましくは、少なくとも2つの異なるSARS-CoV-2株に対して有効な抗体を含み、その株は、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、オミクロン株、及び任意の将来の株から選択される。
【0049】
本開示は、免疫グロブリンを含む初乳免疫グロブリン調製物を作る方法を提供し、この初乳免疫グロブリン調製物は、少なくとも2つの異なるSARS-CoV-2株に対して有効であり、その株は、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ及びオミクロン株から選択される。免疫グロブリン調製物を作る方法は、好ましくは、免疫されたウシから得られたSARS-CoV-2スパイクタンパク質高度免疫ウシ初乳を提供するステップと、初乳から脂肪及びカゼインを除去することによって乳清を調製するステップと、乳清を濾過するステップと、乳清を接線流濾過で濃縮するステップと、濃縮乳清を親和性クロマトグラフィーで精製し、免疫グロブリン分子をGタンパク質マトリックスに結合させるステップと、マトリックスを洗浄するステップと、免疫グロブリン分子をpH2.7のグリシンで溶出させるステップと、得られた初期免疫グロブリン調製物を中和するステップと、初期調製物を濃縮するステップと、接線濾過システムで緩衝液交換を実行するステップと、初期調製物を滅菌及び濾過して、免疫グロブリン調製物を得るステップとを含む。この調製物は、少なくとも2つの異なるSARS-CoV-2株に対して有効な抗体を含み、その株は、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、オミクロン株、及び任意の将来の染色から選択される。免疫グロブリン調製物は、少なくとも1つのSARS-CoV-2株に対して有効な抗SARS-CoV-2抗体を0.01~1mg/ml、好ましくは0.05~0.8mg/ml、より好ましくは0.1~0.5mg/ml、最も好ましくは0.15~0.25mg/ml含むように希釈され得る。免疫グロブリン調製物は、鼻腔内送達システム、例えば、鼻腔点滴剤、ナノゲル剤、鼻腔内泡剤又は溶解性パッキン剤、乾燥鼻腔粉末スプレー、鼻腔軟膏剤、及び鼻腔内スプレーとして提供され得る。鼻腔内送達システムは、ヒトがSARS-CoV-2ウイルスに感染するリスクを減少するために使用される。鼻腔内送達システムは、0.006~0.6mgの抗SARS-CoV-2抗体を含有する用量の使用のための鼻腔内スプレーであることが好ましい。
【0050】
本発明は、ACE2受容体に結合することによって、SARS-CoV-2に対して有効な大量の免疫グロブリンを産生する方法を提供する。高速タイムラインは、ウイルスの新しい株が出現した場合、鼻腔内送達システムの改変の迅速な産生を可能にする。特定の態様によれば、本発明は、任意の更なるパンデミックと戦うための抗ウイルス保護調製物を調製するための方法及びツールを提供する。本開示は、呼吸経路を介して広がるウイルスによって引き起こされる将来のパンデミック又は戦争に対するツールの開発のための抗ウイルス保護調製物を生成する手段を提供し、本方法は、乳牛においてポリクローナル免疫応答を生じるために、既知のウイルス株から得られた抗ウイルス抗原で乳牛を免疫することと、ウシの初乳を収集することと、免疫グロブリン調製物を単離することと、多数のウイルス株に対して有効な免疫グロブリン調製物を含む鼻腔内送達システムを提供することとを含む。
【0051】
次に、本明細書に添付された図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。高度免疫ウシ初乳由来のSARS-CoV-2スパイクタンパク質特異的濃縮免疫グロブリンの開発及び抽出のため、妊娠中のウシを、第1の妊娠期間の第3期中に、SARS-CoV-2スパイクタンパク質ドメインで3回免疫した。いくつかの場合において、ウシは、第1の分娩と第2の分娩との間に再免疫され、2回の免疫化は、第2の妊娠期間の第3期中に投与された(免疫化タイムラインについては図3Aを参照)。
【0052】
免疫化のための抗原を、無血清の化学的に定義された培地中で増殖させたチャイニーズハムスター卵巣(CHO-S)細胞において、QMCF技術(Icosagen Cell Factory OU、米国特許第7,790,446号、参照により本明細書に組み込まれる)を使用して組み換え的に産生し、親和性クロマトグラフィーを使用してC末端Hisタグを介して精製した。子ウシが生まれた後、初乳を収集し、続いて脂質を除去し、キモシンでカゼインを凝固させた。得られた乳清を更に遠心分離し、分画を沈殿させ、熱処理し、濾過し、その結果、製剤化することができるウシ初乳由来の免疫グロブリン含有溶液を得た。図4は、最終製剤を調製するプロセスを例示する。次いで、得られた溶液を、生化学的アッセイでACE2結合を遮断し、偽型ウイルス感染アッセイでSARS-CoV-2感染を中和し、細胞障害性効果アッセイ(CPEアッセイ)でSARS-CoV-2ウイルスを中和する効能について更に特徴付けた。更に、SARS-CoV-2 ACE2結合遮断抗体溶液を調合し、鼻腔内スプレーディスペンサーボトル中に滅菌分注した。一般的なプロセスの概要を図1に示す。
【0053】
妊娠中のウシの免疫化
合計8頭のウシ(エストニアホルスタイン牛)を、アジュバント溶液中の武漢単離株(配列番号2)から改変されたSARS CoV-2 S1 RBDタンパク質で、2回免疫した。また、アルファバリアント(配列番号3)、ベータバリアント(配列番号4)、ガンマバリアント(配列番号5)、及びデルタバリアント(配列番号5)から改変されたSARS CoV-2 S1 RBDタンパク質を使用した。N末端に加えられたAS配列と、C末端に加えられたHHHHHH配列を有するように、使用した全てのドメインタンパク質を同様に改変した。2回の免疫化の後、1つのブースターを、アジュバント溶液中の武漢バリアント(配列番号8)又はデルタバリアント(配列番号9)からのSARS-CoV-2スパイクタンパク質ドメインとともに投与した。第1の免疫化は、各動物の予想される分娩日の40~70日前、好ましくは50~70日前、より好ましくは55~65日前、最も好ましくは60日前に行われた。第2の免疫化は、第1の免疫の15~25日後、より好ましくは20~22日後に実行し、ブーストは、第2の免疫の10~16日後、より好ましくは14日後に実行した。注射は筋肉内で行い、免疫化のため0.1mgの抗原を使用し、ブーストのため1回の注射あたり0.5mgの抗原を使用した。アジュバントとして、Quil-A(0.5mg/mL、Invivogen)+Imject Alum(10mg/mL、Thermo)の混合物を使用(3頭のウシ)し、又はQuil-A(0.5mg/mL、Invivogen)単独で使用した(5頭のウシ)。筋肉内注射の代わりに、免疫化は、粘膜スプレーとして提供することもできる。
【0054】
第1の分娩後に初乳を収集した後、牛乳中へのSARS CoV-2中和抗体の分泌は停止し、乳中で非常に低いレベルであった。また、動物の血清中の中和抗体の力価は、非常に低いレベルであった。したがって、追加の免疫化スキームが開発された。第1の分娩後、ウシはxx週間ごとに、SARS CoV-2 S1 RBDタンパク質で再免疫された。第2の妊娠期間中、ウシは、予想される分娩日の30~50日前、より好ましくは35~45日前、最も好ましくは42日前に免疫された。SARS-CoV-2スパイクタンパク質ドメインを用いたブーストを、最後の免疫化の10~20日後、より好ましくは12~15日後、最も好ましくは14日後に与えた。
【0055】
図3Aは、免疫化タイムラインを示す。
【0056】
CHO細胞におけるタンパク質産生のために遺伝子配列及びそれぞれの発現ベクター(QMCFベクター及びQMCF技術;Silla et al.2005 J.Virol.Vol.79,No.24;米国特許第7,790,446号)を生成することによって、RBD、S1及び三量体Sタンパク質を産生した。各ウイルス単離株の産生されたタンパク質を均質に精製し、泌乳中のウシの更なる免疫化に使用した。乳牛は、泌乳期間中に2回又は3回の投与で免疫化を受けた。全てのウシは、アジュバント溶液中の抗原として等量のアルファ、ベータ及びガンマ株RBDタンパク質の混合物を受けた。一部のウシは、アジュバント溶液中の抗原としてデルタ株S1タンパク質を受けた。第2の妊娠期間の最終期に、ウシをアジュバント溶液中のSARS-CoV-2デルタ株RBDタンパク質で1回免疫し、続いて、アジュバント溶液中のデルタ株S1タンパク質で1回ブーストした。免疫応答は、2~3週間ごとに血清を収集し、それを競合ELISAアッセイで分析して、中和抗体、三量体Sタンパク質とその受容体分子ACE-2との間の相互作用を遮断できる抗体を検出することによって、監視した。競合ELISAアッセイの原理を、図6、左パネルに示す。
【0057】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対して免疫された動物の第1の免疫化後の血清応答
第1の免疫化後のSARS-CoV-2スパイクタンパク質特異的免疫応答の発生を監視するために、試験動物からの血清を、出産までの間、免疫化の前及び間に得た。図2に示されるように、免疫化後25日目から開始し、40日目頃にピークを迎えるスパイク特異的免疫応答の強い開始が観察された。7頭のウシについて結果を示す。検出された血清免疫応答の大部分はIgG免疫グロブリンであり、40日目に一部の試験動物でIgM血清抗体がわずかに検出された。得られた血清応答がSARS-CoV-2を中和する可能性があるかどうかを調べるために、生化学的ACE2ブロッキングアッセイを実行した。Sタンパク質(例えば、配列番号4)を、2.5μg/mLとなるように、MaxiSorp高容量結合ELISAプレート(Thermo Fisher Scientific、US)上にコーティングした。異なる時点で試験動物から得られた連続希釈血清とともにSタンパク質をインキュベートし、続いて洗浄し、ビオチン化ACE2-Fcとともにインキュベートし、ストレパビジン-HRPによって検出した。ACE2遮断が明白になった最小希釈倍率は、図2の右Y軸に示される。
【0058】
完全な免疫スケジュール中のSARS-CoV-2スパイクタンパク質に対する免疫された動物の血清応答
図3A~Eは、完全な免疫スケジュールに従って、2頭の免疫されたウシ(6536のB及び2279のC)の血清からの免疫化及び分娩タイムライン(A)並びに抗体の中和効果を示す。グラフB及びCは、50倍希釈の血清で実行したELISAアッセイの相対OD450シグナルを示し、最も低いシグナルは、SARS-CoV-2の三量体Sタンパク質と結合する能力の高い抗体を意味し、その結果、ACE受容体との相互作用を遮断する。グラフD(ウシ6536)及びE(ウシ2279)は、初乳を100倍希釈倍率の初乳上で実行したELISAアッセイの相対OD450シグナルを示す。
【0059】
この結果は、免疫及び再免疫が、免疫されたウシの血清からの抗体の中和効果に明らかな効果があることを示している。抗原の各投与後、ACE2-三量体S-タンパク質相互作用を遮断する測定可能な抗体能力が明らかに増加した。再免疫化のプラスの効果は、初乳にも見ることができる(図3D及びE)。中和抗体は、ウシ6536の5回目の搾乳及びウシ2279の最初の3回目の搾乳でも検出された。ウシの再免疫化は、より高い中和効果をもたらした。
【0060】
また、5~7週間ごとの再免疫化の継続が、通常の乳の濃縮乳清中の中和抗体の検出につながることも見出された(結果は図示せず)。
【0061】
したがって、本開示は、ACE2-三量体Sタンパク質を遮断することができ、免疫された乳牛の初乳から効率的な中和抗体を得る方法を提供する。高度免疫(改変)ウシ初乳を産生する方法が提供され、この方法は、少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質バリアント及び少なくとも1つのSARS-CoV-2スパイクタンパク質バリアントで乳牛を免疫するステップと、子ウシの出生後に改変ウシ初乳を収集し、更には分娩後に最大3~5回のウシの乳を収集するステップを含む。好ましい実施形態では、得られた高度免疫初乳は、IgG免疫グロブリンとして、70~100mg/mlの抗SARS-CoV-2抗体を含む。
【0062】
本開示に提供される方法によれば、ウシは、予想される分娩の40~70日前、好ましくは50~70日前、最も好ましくは55~65日前にSARS CoV-2 S1 RBDタンパク質で1回目の免疫をされ、1回目の免疫から15~25日後に2回目の免疫をされ、2回目の免疫から10~15日後にSARS-Cov-2スパイクタンパク質ブーストを与えられる。
【0063】
免疫グロブリンを含有することが証明された改変(高度免疫)初乳を、以下に記載するように更に処理した。
【0064】
ウシ初乳からの免疫グロブリン濃縮溶液の調製
初乳は、子ウシの出生後4~6日間収集した。出生後の最初の初乳は、抗体濃度が70~100mg/mlと最も高く、乳量は約20リットルであった。脂肪及びカゼインをキモシンで凝固させることによって乳から除去し、得られた乳清を以下に記載され、図4に例示されるように更に処理した。
【0065】
牛乳から分離した乳清を最初に0.45μMのフィルターで濾過し、酵母、より大きな細菌、及び他の粒子を除去する。次に、30kDaのカットオフカセットを用いる接線流濾過法を使用して、乳清を最大10回濃縮する。次に、濃縮乳清を、Gタンパク質マトリックスを使用して、親和性クロマトグラフィーで精製する。クロマトグラフィー精製中、抗体をマトリックスに結合させ、マトリックスを1xPBS溶液で洗浄して、任意の乳清残留分を除去する。1xPBS溶液中の850mM NaClで第2の洗浄を実行して、非特異的相互作用(タンパク質-タンパク質、タンパク質-表面)を弱め、汚染物質を除去する。免疫グロブリン画分をpH2.7の0.1Mのグリシンで溶出する。存在する可能性のあるウイルスを調製物から排除するために、精製された物質をグリシン緩衝液中に30分間放置することによって、低pH処理を実行する。次いで、IgG調製物をpH7.5の1.5Mトリス緩衝液で中和する。次に、精製した抗体溶液を濃縮し、50kDaのカットオフフィルターを備えた接線流濾過システム上で緩衝液交換を実行する。次に、最終生成物を滅菌濾過し、58℃で30分間熱処理する。次いで、0.22μmフィルターを通して滅菌濾過し、最終配合物を得た。濾過製剤は、ここではBOSS Ig(ウシSARS-Cov-2スパイクタンパク質免疫グロブリン)と呼ばれる。
【0066】
代わりに、脱脂カゼイン消耗乳清を-20℃で凍結し、精製工程まで保持した。カゼイン残渣を除去するために、乳清を+4℃で溶かし、次いで、1MのHClを使用してpHを4.2~4.5に調節し、乳清を室温で1時間、マグネットスターラーを使用して連続的に混合しながら放置した。その後、1MのHClでpHを3.3に調整し、乳清を室温で1時間放置して、可能性のあるウイルス汚染物質を不活性化した。pH処理した初乳清を、1.5MのTris-HCl(pH8.8)を使用して、pH値6.7~7.0に中和し、5μm及び0.22μmのフィルターを通して濾過した。濾過した溶液を硫酸アンモニウムと混合して最終濃度2Mとし、初乳タンパク質の沈殿を開始し、沈殿手順を+4℃で一晩行った。翌日、タンパク質沈殿物を、4℃で15分間、7000Xgでの遠心分離によって、上清から分離した。沈殿した初乳タンパク質を1×DPBS(ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水)溶液中に再懸濁し、100mg/mLに濃縮した。濃度は、280nmでの読み取り吸光度、及び0.1%溶液のIgG吸光度(A280 0.1%)=1.37を用いて測定した。濃縮免疫グロブリン濃縮溶液を、接線流濾過(TFF)の方法によって1×DPBSに対して透析した。TFFを、50kDaのカットオフナンバーを有するSartoconカセットを使用して、Akta Flux6上で実行した。透析した初乳タンパク質を0.22μm濾過し、続いて低温殺菌した。低温殺菌ステップは、溶液を63℃で30分間加熱した後、0.22μmのフィルターを通して無菌濾過することによって行った。次いで、得られた濾過生成物を更に試験した。BOSS Igの微生物学的質は、欧州薬局方10.3の方法2.6.1に従って試験した。滅菌試験及び2.6.12.微生物検査試験。試験では微生物の増殖は認められず、BOSS Ig調製物は試験に合格し、無菌試験に適合した(結果は図示せず)。
【0067】
次に、以下に記載されるように、BOSS Ig生成物をACE2遮断活性について更に試験した。
【0068】
ウイルススパイクタンパク質及びヒト細胞受容体ACE2相互作用の抑制を測定するための生化学的アッセイを使用する、初乳由来免疫グロブリン調製物のACE2遮断活性の特性評価。
SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質は、ウイルス受容体の結合領域を含み、この結合領域はヒト受容体ACE2を介したウイルスの吸着及び細胞への侵入を媒介する。したがって、ウイルス侵入の阻害は、Sタンパク質とACE2との間の相互作用の阻害によって達成できる。
【0069】
図6(左パネル)は、追加された免疫グロブリン調製物によるACE2-三量体Sタンパク質相互作用を決定するために使用される、競合ELISAアッセイの原理を示す。図6(右パネル)は、最初に得られた免疫グロブリン調製物(BOSS Ig001)のACE2-三量体スパイクタンパク質相互作用遮断能力のグラフを示す。簡単に言えば、ELISAプレートウェルを、それぞれの懸念されるバリアント(VOC)のSARS-CoV-2のスパイクタンパク質でコーティングした。次いで、目的の試料(ここでは初乳免疫グロブリン調製物)を加え、事前にインキュベートして、抗体が結合することを可能にした。次に、ACE2(SARS-CoV-2ウイルスが細胞に侵入するためのヒト受容体)のビオチン標識細胞外ドメイン及びHRP標識ストレプトアビジンを含有する酵素複合体を、その間に何ら洗浄することなく加え、30分間インキュベートした。非結合ACE2を洗い流した後、TMB基質を使用して、スパイク-ACE2相互作用を検出した。競合ELISA結果の解釈において、より高いシグナルは、ウイルススパイクタンパク質とヒトACE2受容体との間のより多くの相互作用を示し、したがって、より低いシグナルは、ACE-三量体S-相互作用の遮断、したがって、中和抗体の存在の可能性を示す。初乳免疫グロブリン調製物によるこの相互作用の阻害は、相対光学密度(OD)単位で表され、目的の試料中のOD値を、阻害剤を含まない試料中のOD値で割った比として計算される。したがって、相対OD値が低いほど、ウイルススパイクタンパク質とヒトACE2受容体との間の相互作用がより阻害されることを示す。システムの較正のために、SARS-CoV-2に対する十分に特徴付けられたモノクローナル抗体及びCOVID-19から回復した個体からのヒト回復期血漿を使用し、0.75未満の相対OD値が阻害を示すとみなした。
【0070】
図5において、武漢変バリアント由来のSARS-CoV-2スパイクタンパク質で免疫されたウシの初乳由来の3つの異なる免疫グロブリン調製物(ウシ6536、2279、1020)の阻害特性を上述のアッセイで分析した場合の結果を示す。図6右側のパネルは、武漢、ベータ、ガンマ、デルタ及びカッパバリアントで試験した免疫グロブリン調製物の同様の結果を示す。重要なことに、ここでは、ウシには武漢変異体のCoV-2スパイクタンパク質のみで免疫したが、得られた免疫グロブリン調製物の中和能力は、効率は異なるが、試験した全てのバリアントで検出された。図6に示されるように異なるバリアントのI50値は、武漢、アルファ及びデルタバリアントはおおよそ100ug/ml、カッパバリアントは130ug/ml、並びにベータ及びガンマバリアントは250~300ug/mlである。明らかに、調製物は、スパイクタンパク質とACE2との間の相互作用を濃度依存的に阻害し、したがって、ヒト細胞へのウイルス侵入を遮断する効果を有する。対照的に、このような阻害活性は、非免疫化ウシの初乳由来の対照製剤を使用した場合には観察されなかった(図5に示す)。
【0071】
更に、免疫グロブリン調製物が、免疫化に使用されるもの以外のバリアントに対して有効であることは明らかである。本発明のこの態様を更に評価するために、実験を最近到着したオミクロンバリアントに拡大した。
我々は、BOSS Ig001免疫グロブリン生成物及びBOSS Ig003を、アルファ、デルタ及びオミクロンスパイクタンパク質で試験した。その結果を図7に示す。アルファ及びデルタに対するBOSS Ig001のIC50値はそれぞれ126及び168ug/mlであったが、オミクロンバリアントに対するIC50値は690ug/mlと高かった。しかし、BOSS Ig003では、アルファ、デルタ及びオミクロンのIC50値は、それぞれ19ug/l、18.5ug/ml及び10.5ug/mlであった。これは、動物の継続的な免疫が、明らかに、調製物のポリクローナル効力を増加させたことを示す。
【0072】
したがって、本開示は、免疫された乳牛から高度免疫初乳を得る方法を提供する。一態様によれば、この方法は、少なくとも1つのSARS-CoV-2 S1 RBDタンパク質バリアント及び少なくとも1つのSARS-CoV-2で乳牛を免疫するステップと、第1の分娩後に高度免疫初乳を収集するステップと、任意選択的に、第1の分娩後5~7週間ごとに免疫化を継続するステップと、第2の妊娠期間の第3期中に更なる免疫化を提供するステップと、第2の分娩後に初乳を更に収集するステップと、第1の分娩後及び/又は第2の分娩後に初乳から免疫グロブリン生成物を調製するステップと、を含む。好ましい実施形態において、生成物は、2つ以上のバリアントのACE2三量体タンパク質の高い中和効果を有し、バリアントのIC50値は、200~20ug/mlの範囲である。本発明の一態様によれば、この初乳は、多数のSARS CoV-2バリアントのACE2-三量体Sタンパク質を遮断するのに有効な免疫グロブリンを含む。本発明の特定の態様によれば、この初乳は、ウシの免疫化に使用されたバリアント以外のSARS CoV-2バリアントのACE2-三量体Sタンパク質を遮断することができる免疫グロブリンを含む。
【0073】
SARS-CoV-2の感染中のウイルス侵入を模倣する偽型ウイルスアッセイにおける初乳製剤の抗ウイルス活性の特徴付け
初乳免疫グロブリン調製物のウイルス中和能力を更に特徴付けるために、偽型ウイルス中和アッセイを実行した。偽型ウイルスは、ゲノムがレトロウイルス自体の特性を保持しながら、別のウイルスのエンベロープ糖タンパク質を保持するか、又は別のウイルスのエンベロープ糖タンパク質で偽型化されて、外因的なウイルスエンベロープを有するウイルスを形成するレトロウイルスを指す。ここで、プロウイルスのDNAに組み込まれたルシフェラーゼマーカー遺伝子を含有するHIVベースの偽型ウイルスを使用して、初乳製調製物の抗ウイルス活性を特徴付けた。
【0074】
単一ラウンドでACE2を含有するHEK293細胞に感染するHIVベースの偽型ウイルスの能力は、偽型ウイルス粒子の表面上の偽型SARS-CoV-2スパイクタンパク質の存在に厳密に依存することが示された。量子化可能なルシフェラーゼマーカー遺伝子は、感染後に標的細胞ゲノムに組み込まれる。したがって、スパイクタンパク質依存性感染の有効性は、偽型ウイルスの感染に成功した後に標的細胞で検出可能になるルシフェラーゼ活性によって測定することができ、細胞へのウイルス侵入の阻害は、ルシフェラーゼシグナルのレベルの低下に相関する。一般に、そのようなアッセイは、免疫グロブリンのような異なる化合物の抗ウイルス特性を評価することと非常に関連していると考えられている。
【0075】
図8において、上記の偽型ウイルスアッセイの結果は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質免疫化ウシ(6536)の初乳又は未免疫化ウシに由来する免疫グロブリン調製物を使用して、示される。2020/2021シーズンに広範かつ急速に拡散した異なるSARS-CoV-2ウイルスバリアント(南アフリカ系統B.1.351、ブラジル系統P1、UKバリアントUK202012/01、及び元の武漢ウイルス)のスパイクタンパク質を伴う偽型である、異なる偽型ウイルスを使用した。明らかに、免疫されたウシに由来する調製物は、ここで試験された全ての偽型ウイルスの侵入を効率的に阻害し、完全な阻害は、約100μg/mlのタンパク質濃度で観察された。対照的に、未免疫のウシ由来の初乳免疫グロブリンは効果がない。図9は、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ及びカッパバリアントからのスパイクタンパク質を用いた同様の実験を示す。この試験におけるアルファバリアントのIC50値は8.733であり、ベータについては30.96、ガンマについては35.36、デルタについては14,69、及びカッパについては17.42であった。非免疫化ウシ由来の初乳免疫グロブリンは、阻害効果を示さなかった。
【0076】
実験を新しいオミクロンバリアントに再び拡張した。図10は、デルタ及びオミクロンバリアントに対するBOSS001及びBOSS003のアッセイを示す。BOS001の調製において、ウシをアルファ、ベータ、ガンマ及びデルタバリアントで再免疫したが、オミクロンでは再免疫しなかった。図に示すように、再免疫されたウシの第2の分娩後に初乳から得られた免疫グロブリン調製物BOS003は、デルタ及びオミクロンバリアントの両方に対して有意により効果的であり、それぞれのIC50値は5及び3μg/mlである。したがって、BOSS003は、BOSS001と比較して、オミクロンバリアントで約10倍の効率を示す。ウシがオミクロンタンパク質で免疫されたことがない場合でも、オミクロンバリアントで阻害が明確に見られたという事実は、継続的な再免疫化がはるかに成熟した免疫応答を提供し、その結果としてポリクローナル応答を提供することを示している。
【0077】
したがって、本開示は、多数のウイルスバリアントに対して有効な免疫化ウシの高度免疫初乳から免疫グロブリン生成物を産生する方法を提供する。本発明の一態様において、本開示は、SARS CoV2ウイルス単離株における一般的なエピトープに対する免疫応答を誘導するために、再免疫されたウシの初乳から免疫グロブリン生成物を産生する方法を提供し、免疫応答は、ウシを免疫するためには使用されていないバリアントに拡張することができ、それによって、本発明は、現在及び将来のSARS CoV-2変異型に対して有効な免疫グロブリン生成物を提供する方法を提供する。したがって、本開示は、既知のSARS Cov-2単離株に対して有効であるが、今でも未知のバリアントに対しても有効である抗体を産生する方法を提供する。その最も広い範囲において、本発明は、更なるパンデミックを回避するために、又は生物兵器に対する保護のためにさえ、免疫グロブリン生成物を製造する方法を提供する。
【0078】
VERO E6アッセイを使用する生ウイルス中和力の同定
初乳免疫グロブリン調製物のウイルス中和能力を、スパイク-ACE2相互作用に依存する細胞侵入の開始に関してだけでなく、より一般的に標的細胞集団における本物のウイルス複製に関しても更に特徴付けるために、細胞ベースの生ウイルス中和アッセイについて、よく知られているVero E6アッセイを使用した。Vero E6細胞株は、アフリカミドリザルの腎臓に由来し、この細胞は、高レベルでACE2を発現し、野生型SARS-CoV-2感染に対してとても感染しやすい。したがって、これらのアッセイでは、最小限の感染でさえ、細胞培養におけるウイルスの複製及び拡散につながり、細胞障害性効果は顕微鏡で容易に検出可能であった。対照的に、抗ウイルス剤(例えば、ウイルス中和免疫グロブリン)の存在下での細胞障害性効果の欠如は、アッセイにおける完全な中和及び保護を示す。
【0079】
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質で免疫されたウシ(6536、2279)の初乳に由来する免疫グロブリンのウイルス中和特性を、Vero E6アッセイで特徴付けた。簡潔に述べると、SARS-CoV-2(エストニア単離株3542)をDMEM/0.2%BSA/Pen-Strepで希釈し、10pfuのウイルスを連続希釈した初乳免疫グロブリン調製物に加えた。混合物を37℃で1時間インキュベートした。次いで、Vero E6細胞の懸濁液を、最終体積が100ul/ウェルとなるように、3連で96ウェル組織培養プレートのウェルに加えた(4×10e4細胞/ウェル)。ウイルス処理細胞を37℃、5%CO2で5日間インキュベートした。次に、細胞障害性効果の出現を検出することによって、中和アッセイの結果を顕微鏡的に評価した。細胞障害性効果がなかった最初の希釈(調製物の総タンパク質濃度によって測定)を、完全中和濃度と決定した。異なる実験において、完全ウイルス中和は、0.8~2.2ng/mlの低い濃度で観察された。図11は、2つのSARS-CoV-2ウイルス中和アッセイの結果を例示し、その結果は、Vero E6細胞のSARS-CoV-2誘導細胞障害性効果が見られず、それぞれ1.66ng/ml及び4.95ng/mlの試料濃度で完全なウイルス中和が観察された、最小の試験試料濃度を決定する。
【0080】
動物実験
開発した免疫グロブリン含有製剤のインビボにおける有効性を評価するため、SARS VoV-2製剤BOSS Ig001を異なる濃度でシシリアンゴールデンハムスターに経鼻投与した後、105pfuのSARS-COv-2ウイルスを感染させる、予防研究を実行した。感染した動物を4日間監視した後、それらを屠殺し、肺ウイルス力価を決定した。図13に見られるように、非高度免疫抗体調製物(初乳Ig非免疫化ウシ)は、ウイルス力価の低下に影響を及ぼさなかった。BOSS Ig001(0.1mg/ml及び0.02mg/ml)の両方の試験濃度は、単回鼻腔内投与後であっても、高ウイルス量を低減する有効性を有した。
【0081】
したがって、本発明の態様は、SARS CoV-2感染を低減する保護効果を提供するための、経鼻投与システムとして使用するために、免疫されたウシの高度免疫初乳から得られた免疫グロブリン製剤を提供することである。
【0082】
様々な条件での抗体調製物の経時的な機能的安定性の評価
得られた初乳免疫グロブリン製剤の安定性を評価するために、免疫グロブリン含有溶液を4℃、25℃、及び40℃の3つの異なる温度で7日間にわたってインキュベートし、インキュベーションから48時間及び7日後にACE2遮断活性を測定した。図12からわかるように、ACE2遮断活性の有意な変化は、経時的には決定されず、得られた抗体調製物の高い機能的安定性を示した。更なる実験において、BOSS Ig-生成物は、+4℃又は-20℃で保管した場合、少なくとも11ヶ月間安定したままであることが判明した。(結果は図示せず)。更なる実験では、最終鼻腔内スプレーにおける抗体が少なくとも9ヶ月間有効であることが示されている(結果は示されていない)。したがって、本開示は、+4℃で少なくとも11ヶ月間安定したままである初乳免疫グロブリン調製物を提供する。
【0083】
ヘルスケアにおける初乳由来抗体の使用
本発明の特定の態様は、ヒトにおけるSARS-Cov-2感染のリスクを低下させるために使用するための、初乳免疫グロブリン調製物を含む。好ましい実施形態によれば、初乳免疫グロブリン調製物は、鼻腔内送達システムにおける使用のためのものである。初乳免疫グロブリン又はそれらの組み合わせの好ましい鼻腔内送達システムは、溶液スプレーである。ある特定の態様によれば、初乳免疫グロブリン生成物は、鼻腔点滴剤、ナノゲル剤、鼻腔内泡剤又は溶解性パッキン剤、乾燥鼻腔粉末スプレー、鼻腔軟膏剤から選択されてもよい。
【0084】
鼻腔内送達システムのための免疫グロブリン調製物を作る際に、初乳から得られ、上記のように精製された初乳免疫グロブリン生成物を出発物質として使用する。最終生成物において、pHを調節し、免疫グロブリン濃度を所望に応じて、例えば、DPBS pH7.4で調節する。溶液は低温殺菌され、滅菌され、使用のために梱包される。鼻腔内送達システムは、例えば、0.01~1mg/ml、好ましくは0.05~0.8mg/ml、より好ましくは0.1~0.5mg/ml、最も好ましくは0.015~0.25mg/mlの抗SARS CoV-2抗体を含み得る。
【0085】
初乳鼻腔内送達システムが鼻粘膜にどれくらい存続するかを決定するために、健康な個体を臨床試験に招待した。8人の個体に、0.2mg/mlの最終濃度を有するBOSSIg001を含有する鼻腔内スプレー製剤を投与した。各鼻孔は、それぞれ約100ulの2回用量で投与され、それにより、合計40ugの初乳免疫グロブリンが投与された。その後、投与後5分、1時間及び4時間後に、体積容量15ulの濾過紙片を鼻粘膜上に置いた。その紙片を10分間保持して、粘膜からウシIgGを吸収した。対照として、スプレーの投与前に試料を採取した。試料を、ウシ-IgG特異的キット(Abcam、Cow Ig ELISA kit、カタログ番号ab190517)を使用して解析した。ウシIgGは、1時間後に全ての個体で検出可能であり、IgGの平均濃度は5.65ug/lであることが観察された。4時間後には、2.36ug/lが検出可能であった。このため、本発明の一態様に従って、初乳免疫グロブリン生成物、好ましくは鼻腔内スプレーを提供し、この生成物は、0.01~1mg/ml、好ましくは0.05~0.8mg/ml、より好ましくは0.1~0.5mg/ml、最も好ましくは0.15~0.25mg/mlの抗SARS-CoV-2抗体を含む。予防的に鼻腔内スプレーを使用することは、感染のリスクが高い状況に対処する前に、0.006~0.6mgの免疫グロブリンを含む用量をスプレーすることを含み得る。調製物の使用は、8~15時間の保護を提供する。
【0086】
本開示において、高濃度の抗SARS-CoV-2抗体を含む初乳を製造する方法が、特に鼻腔内スプレーで使用するために、提供される。免疫グロブリンスプレー生成物は、例えば、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ及びオミクロン変異体を含む様々なウイルス単離株のRBD、S1及び/又は三量体Sタンパク質で1回又は複数回免疫された乳牛の初乳から単離された抗SARS-CoV-2抗体を0.2mg/ml含んでもよい。本生成物は、複数のウイルス株に対して有効な抗体を含有してもよい。実験部分では、少数のウイルス株からの抗原によるウシの免疫が記載されている。しかしながら、当業者は、本発明が、ウイルスの任意の新しい株を使用して、ウシを免疫するための配列を単離又は化学的に合成することを含むことを理解する。この柔軟性は、ウイルスの急速な進化に迅速に対応する方法を提供する。更に、本明細書に記載の方法及び生成物は、まだ知られていない新しいバリアントを阻害するためのツール、したがって、新しいパンデミックと戦うためのツールを提供する。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
2024511682000001.app
【国際調査報告】