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  • 特表-局所眼科用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-15
(54)【発明の名称】局所眼科用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240308BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240308BHJP
   A61K 31/439 20060101ALI20240308BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240308BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240308BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20240308BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240308BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20240308BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240308BHJP
   A61P 27/10 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P27/02
A61K31/439
A61K9/08
A61K47/14
A61K47/06
A61K47/10
A61K9/107
A61K9/10
A61P27/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547047
(86)(22)【出願日】2022-02-02
(85)【翻訳文提出日】2023-10-02
(86)【国際出願番号】 US2022014811
(87)【国際公開番号】W WO2022169788
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】63/145,091
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522002009
【氏名又は名称】エーディーエス・セラピューティクス・エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】ADS THERAPEUTICS LLC
【住所又は居所原語表記】8921 RESEARCH DRIVE, IRVIVE, CA 92618, UNITED STATES OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ニ,ジンソン
(72)【発明者】
【氏名】ディン,ヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ロン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA13
4C076AA17
4C076AA22
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD34
4C076DD35
4C076DD37
4C076DD38
4C076DD46
4C076EE23
4C076FF56
4C084AA17
4C084MA05
4C084MA17
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA58
4C084NA08
4C084NA10
4C084ZA331
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA22
4C086MA23
4C086MA58
4C086NA08
4C086NA10
4C086ZA33
(57)【要約】
局所眼科用組成物は、活性医薬成分としてのムスカリン受容体アンタゴニストと、液体ビヒクルとしての中鎖トリグリセリド(MCT)または軽質流動パラフィン油と、を含む。局所眼科用組成物は、眼疾患を治療する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所眼科用組成物であって、
活性医薬成分(API)としてのムスカリン受容体アンタゴニストと、
中鎖トリグリセリド(MCT)および軽質流動パラフィン油からなる群から選択される液体ビヒクルと、を含み、
眼疾患を治療する、局所眼科用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の局所眼科用組成物であって、
前記ムスカリン受容体アンタゴニストが、アトロピン、ピレンゼピン、アクリジニウムブロミド、ベンズトロピン、シクロペントラート、ジフェンヒドラミン、ドキシラミン、ジメンヒドリナート、ジサイクロミン、ダリフェナシン、フラボキサート、ヒドロキシジン、イプラトロピウム、メベベリン、オキシブチニン、プロサイクリジン、スコポラミン、ソリフェナシン、トロピカミド、チオトロピウム、トリヘキシフェニジル、およびトルテロジンからなる群から選択される、局所眼科用組成物。
【請求項3】
前記ムスカリン受容体アンタゴニストが、アトロピンである、請求項2に記載の局所眼科用組成物。
【請求項4】
前記アトロピンが、遊離塩基形態または塩形態である、請求項3に記載の局所眼科用組成物。
【請求項5】
遊離塩基形態のアトロピンの濃度が、約0.001%~約0.1%(w/w)である、請求項1から4のいずれか1項に記載の局所眼科用組成物。
【請求項6】
前記アトロピンの遊離塩基が、前記MCTに配合されている、または、前記軽質流動パラフィンに配合されている、請求項4に記載の局所眼科用組成物。
【請求項7】
前記MCTが、脂肪酸のトリグリセリドであり、
前記脂肪酸が、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、およびドデカン酸からなる群から選択される、請求項1に記載の局所眼科用組成物。
【請求項8】
部分フッ素置換アルカン化合物をさらに含み、
前記部分フッ素置換アルカン化合物が、RFRHまたはRFRHRFの式を有し、式中、RFは1~15の炭素原子を有する全フッ素置換炭化水素であり、RHは1~15の炭素原子を有する非フッ素置換炭化水素である、請求項6または7に記載の局所眼科用組成物。
【請求項9】
前記部分フッ素置換アルカンに対する前記MCTまたは前記軽質流動パラフィン油の重量比が99~1である、請求項8に記載の局所眼科用組成物。
【請求項10】
前記部分フッ素置換アルカンが、パーフルオロブチルペンタン(F4H5)、パーフルオロブチルヘキサン(F4H6)、パーフルオロヘキシルブタン(F6H4)、パーフルオロヘキシルヘキサン(F6H6)、パーフルオロヘキシルオクタン(F6H8)、およびパーフルオロヘキシルデカン(F6H10)からなる群から選択され、好ましくは、前記部分フッ素置換アルカンがF6H8(パーフルオロヘキシルオクタン)である、請求項8に記載の局所眼科用組成物。
【請求項11】
有機共溶媒をさらに含み、
前記有機共溶媒が、フェネチルアルコール、エタノール、イソプロパノール、グリセロール、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコールからなる群から選択され、好ましくは、前記有機共溶媒がフェネチルアルコールである、請求項1に記載の局所眼科用組成物。
【請求項12】
前記フェネチルアルコールの濃度が約0.01%~約1%(w/w)である、請求項11に記載の局所眼科用組成物。
【請求項13】
非水溶液、懸濁液、またはエマルジョンである、請求項1から12のいずれか1項に記載の局所眼科用組成物。
【請求項14】
前記局所眼科用組成物中の前記アトロピンが、少なくとも0.5年間、少なくとも1年間、または少なくとも2年間、化学的に安定である、請求項1から13のいずれか1項に記載の局所眼科用組成物。
【請求項15】
患者の眼に点眼薬として局所的に投与されるのに適合されている、請求項1から14のいずれか1項に記載の局所眼科用組成物。
【請求項16】
眼に引き起こす刺激が軽微である、請求項1から15のいずれか1項に記載の局所眼科用組成物。
【請求項17】
前記眼疾患が近視である、請求項1から16のいずれか1項に記載の局所眼科用組成物。
【請求項18】
近視の進行を遅らせる、
子供の弱視を治療する、
飛蚊症の症状を軽減する、または
有痛性の毛様体筋痙攣を治療もしくは予防する、請求項1から16のいずれか1項に記載の局所眼科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年2月3日に出願された米国仮特許出願第63/145,091号の優先権を主張し、これは、本明細書に完全に記載されているかのように、あらゆる目的のために参照により組み込まれる。
【0002】
(技術分野)
本発明は、液体ビヒクルとしての中鎖トリグリセリド(MCT)または軽質流動パラフィン油に溶解したムスカリン受容体アンタゴニストの局所眼科用組成物に関し、アトロピンの製剤は、近視を治療するために使用される。
【背景技術】
【0003】
アトロピンは、抗ムスカリン化合物であり、ムスカリン受容体の競合的アンタゴニストであり、抗副交感神経機能を有し、抗コリン中毒や徐脈などいくつかの適応症に使用される。眼では、アトロピンは従来から瞳孔の散大に使用されている。近年、低用量のアトロピンが若年成人の近視の進行を抑制できることが示された(Li 2019:非特許文献3)。近視の適応でアトロピンが承認されているのは、今のところ数カ国のみである。
【0004】
近視とは、近くのものははっきり見えるが、遠くのものはぼやけて見える状態である。近視は、眼球が長すぎるか、角膜(眼球の透明な前面カバー)が湾曲しすぎて、遠くのものが網膜に正しく焦点を合わせられない場合に生じる。近視は、世界で最も一般的な眼の病気である。米国では人口の約30パーセントが近視である。近視の病因は不明である。遺伝が近視に関与していると考えられている。近視の発症は、人がどのようにして眼を使うかに、影響されることがある。近視は学齢期の子供に発症し、20歳頃まで進行することがある。しかし、視覚的ストレスや糖尿病などの健康状態により、大人になってから近視が発症することもある。近視は、他の眼疾患のリスクを高める可能性がある(Wu 2019:非特許文献5)。
【0005】
アトロピン溶液(水性)製剤は、複数の臨床試験でテストされており、近視の進行を遅らせることができることが証明されている(Cooper 2018:非特許文献2,Li 2019:非特許文献3,Yam 2020:非特許文献6)。水性製剤では、容器が空気に開放されると、中性pHの溶液でアトロピンは分解しやすいため、中性pHでの製品の保存期間は1年未満であることが多い。溶液中のアトロピンの安定性を高めるために、製剤におけるpHを3~6に低くすることが行われている(Berton 2020:非特許文献1;Saito 2019:非特許文献4)。しかし、低pHが眼に刺激や違和感を引き起こすことも知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Berton B,Chennell P,Yessaad M,BouattourY,Jouannet M,Wasiak M,Sautou V.Stability of Ophthalmic Atropine Solutions for Child Myopia Control.PharmaceutiCS.2020 Aug 17;12(8):E781.
【非特許文献2】Cooper J,Tkatchenko AV.A Review of CurrentConcepts of the Etiology and Treatment of Myopia.Eye Contact Lens.2018 Jul;44(4):231-247.
【非特許文献3】Li FF,Yam JC.Low-Concentration Atropine Eye Drops for Myopia Progression.Asia Pac J Ophthalmol(Phila).2019 Sep-Oct;8(5):360-365.
【非特許文献4】Saito J,Imaizumi H,Yamatani A.Physical,chemical,and microbiological stability study of diluted atropine eye drops.J Pharm Health Care Sci.2019 Dec 5;5:25.
【非特許文献5】Wu PC,Chuang MN,Choi J,Chen H,Wu G,Ohno-Matsui K,Jonas JB, Cheung CMG. Update in myopia and treatment strategy of atropine use in myopia control.Eye(Lond).2019 Jan;33(1):3-13.
【非特許文献6】Yam JC,Li FF,Zhang X,Tang SM,Yip BHK,Kam KW,Ko ST,Young AL,Tham CC, Chen LJ,Pang CP.Two-Year Clinical Trial of the Low-Concentration Atropine for Myopia Progression(LAMP)Study:Phase 2 Report.Ophthalmology.2020 Jul;127(7):910-919.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、有機液体担体を用いて、眼の、特に近視の適応症のための、より安定で刺激の少ないアトロピン製剤が作製される。
【0008】
加えて、被験者の眼に毛様体筋麻痺性屈折を生じさせるために、被験者の眼に散瞳を生じさせるために、子供の弱視(amblyopiaまたはlazy eye)を治療するために、飛蚊症の症状を軽減させるために、有痛性の毛様体筋痙攣を治療または予防するために、または、小児の被験者の近視の進行を治療するために、アトロピン溶液を使用した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の概要)
一実施形態では、本発明は、局所眼科用組成物であって、活性医薬成分(API)としてのムスカリン受容体アンタゴニストと、中鎖トリグリセリド(MCT)および軽質流動パラフィン油からなる群から選択される液体ビヒクルと、を含む局所眼科用組成物を提供する。前記局所眼科用組成物は、眼疾患を治療する。
【0010】
他の実施形態では、前記ムスカリン受容体アンタゴニストが、アトロピン、ピレンゼピン、アクリジニウムブロミド、ベンズトロピン、シクロペントラート、ジフェンヒドラミン、ドキシラミン、ジメンヒドリナート、ジサイクロミン、ダリフェナシン、フラボキサート、ヒドロキシジン、イプラトロピウム、メベベリン、オキシブチニン、プロサイクリジン、スコポラミン、ソリフェナシン、トロピカミド、チオトロピウム、トリヘキシフェニジル、およびトルテロジンからなる群から選択される。
【0011】
他の実施形態では、前記ムスカリン受容体アンタゴニストが、アトロピンである。
【0012】
他の実施形態では、前記アトロピンが、遊離塩基形態または塩形態である。
【0013】
他の実施形態では、遊離塩基形態の前記アトロピンの濃度が、約0.001%~約0.1%(w/w)である。
【0014】
他の実施形態では、前記アトロピンの遊離塩基が、前記MCTに配合されている、または、前記軽質流動パラフィンに配合されている。
【0015】
他の実施形態では、
前記MCTが、脂肪酸のトリグリセリドであり、
前記脂肪酸が、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、およびドデカン酸からなる群から選択される。
【0016】
他の実施形態では、前記局所眼科用組成物が、部分フッ素置換アルカン化合物をさらに含む。前記部分フッ素置換アルカン化合物が、RFRHまたはRFRHRFの式を有し、式中、RFは1~15の炭素原子を有する全フッ素置換炭化水素であり、RHは1~15の炭素原子を有する非フッ素置換炭化水素である。
【0017】
他の実施形態では、前記部分フッ素置換アルカンに対する前記MCTまたは前記軽質流動パラフィン油の重量比が99~1である。
【0018】
他の実施形態では、前記部分フッ素置換アルカンが、パーフルオロブチルペンタン(F4H5)、パーフルオロブチルヘキサン(F4H6)、パーフルオロヘキシルブタン(F6H4)、パーフルオロヘキシルヘキサン(F6H6)、パーフルオロヘキシルオクタン(F6H8)、およびパーフルオロヘキシルデカン(F6H10)からなる群から選択され、好ましくは、前記部分フッ素置換アルカンがF6H8(パーフルオロヘキシルオクタン)である。
【0019】
他の実施形態では、前記局所眼科用組成物が、有機共溶媒をさらに含む。前記有機共溶媒が、フェネチルアルコール、エタノール、イソプロパノール、グリセロール、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコールからなる群から選択され、好ましくは、前記有機共溶媒がフェネチルアルコールである。
【0020】
他の実施形態では、前記フェネチルアルコールの濃度が約0.01%~約1%(w/w)である。
【0021】
他の実施形態では、前記局所眼科用組成物が、非水溶液、懸濁液、またはエマルジョンである。
【0022】
他の実施形態では、前記アトロピンが、少なくとも0.5年間、少なくとも1年間、または少なくとも2年間、化学的に安定である。
【0023】
他の実施形態では、前記局所眼科用組成物が、患者の眼に点眼薬として局所的に投与されるのに適合されている。
【0024】
他の実施形態では、前記局所眼科用組成物が、眼に引き起こす刺激が軽微である。
【0025】
他の実施形態では、前記眼疾患が近視である。
【0026】
他の実施形態では、前記局所眼科用組成物が、
近視の進行を遅らせる、
子供の弱視を治療する、
飛蚊症の症状を軽減する、または
有痛性の毛様体筋痙攣を治療もしくは予防する。
【0027】
前述の一般的な説明と以下の詳細な説明の両方が、例示的かつ説明的であり、特許請求される発明のさらなる説明を提供することを意図していることが理解されるべきである。
【0028】
本発明のさらなる理解を提供するために記載され、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、本発明の実施形態を示し、説明とともに、本発明の原理を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】アトロピン(tR:12.947)標準溶液のクロマトグラムを示す。
図2】実施例5における投与後7日目の瞳孔の大きさの測定値を示す。
図3】実施例5における投与後22日目の瞳孔の大きさの測定値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態について詳細に言及し、その例は添付の図面に示されている。
【0031】
ムスカリン受容体アンタゴニストは、ムスカリン性アセチルコリン受容体の活性を阻害する抗コリン剤である。前記ムスカリン受容体アンタゴニストは、アトロピン、ピレンゼピン、アクリジニウムブロミド、ベンズトロピン、シクロペントラート、ジフェンヒドラミン、ドキシラミン、ジメンヒドリナート、ジサイクロミン、ダリフェナシン、フラボキサート、ヒドロキシジン、イプラトロピウム、メベベリン、オキシブチニン、プロサイクリジン、スコポラミン、ソリフェナシン、トロピカミド、チオトロピウム、トリヘキシフェニジル、またはトルテロジンである。好ましくは、前記ムスカリン受容体アンタゴニストは、アトロピンまたはピレンゼピンである。より好ましくは、前記ムスカリン受容体アンタゴニストは、アトロピンである。
【0032】
中鎖トリグリセリド(MCT)は、脂肪酸のトリグリセリドである。脂肪酸は、炭素原子が6~12の脂肪鎖を有しており、例えば、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、およびドデカン酸であってもよい。MCTは、単一のトリグリセリドであってもよく、複数のトリグリセリドの混合物であってもよい。MCTの代表的な化学構造を下に示す。
【化1】
【0033】
軽質流動パラフィン油(鉱油:Paraffinum liquidum)は、化粧品および薬剤に使用する、精製した鉱物油である。軽質流動パラフィン油は、液体の飽和炭化水素の混合物を含有する。
【0034】
部分フッ素置換アルカンは、2つの互いに混じり合わない部分(炭化水素セグメントおよびパーフルオロ化セグメント)が共有結合した両親媒性液体である。部分フッ素置換アルカンの例には、パーフルオロブチルペンタン(F4H5)、パーフルオロブチルヘキサン(F4H6)、パーフルオロヘキシルブタン(F6H4)、パーフルオロヘキシルヘキサン(F6H6)、パーフルオロヘキシルオクタン(F6H8)、およびパーフルオロヘキシルデカン(F6H10)が含まれており、好ましくは、パーフルオロブチルペンタン(F4H5)、パーフルオロヘキシルヘキサン(F6H6)、およびパーフルオロヘキシルオクタン(F6H8)が含まれる。
【0035】
F6H8の構造を以下に示す。
【化2】
【0036】
アトロピン溶液(水性)製剤は、近視の治療、特に近視の進行の抑制に有効であることがすでに証明されていた。この溶液製剤には2つの欠点がある。第1の欠点は、容器が空気に開放されると、溶液中の中性pHでのアトロピンが分解しやすくなるため、中性pHでの製品の保存期間が1年未満となることが多いことである。さらに、この溶液中のアトロピンのこの不安定性から、製剤を約1ヶ月以内に使用することが求められる。第2の欠点は、製品の保存性を高めるためにアトロピンの分解を抑えるのに用いられるpH3.5~6.0などの低pHは、患者の有害事象の報告として、人間の眼に刺激または不快感を引き起こし得ることである。「約」という用語は、値の+20%から-20%、値の+10%から-10%、または値の+5%から-5%、の範囲を意味する。
【0037】
本開示は、溶液製剤の前記2つの欠点を解消するために、アトロピンを溶解する液体ビヒクルとして、MCTまたは軽質流動パラフィン油を使用する組成物を提供する。本開示は、実施例に示すように、これらのビヒクルが近視治療に有効であるために十分な濃度範囲でアトロピンを溶解できることを実証する。
【0038】
いくつかの実施形態において、本開示は、アトロピンが生物学的有効性を有するのに十分な濃度でMCTまたは軽質流動パラフィン油に溶解され得ることを示す実施例に記載の研究に基づく。
【0039】
いくつかの実施形態において、共溶媒および/または部分フッ素置換アルカンを製剤に添加する。共溶媒は、例えば、フェネチルアルコール、エタノール、イソプロパノール、グリセロール、プロピレングリコール、またはポリエチレングリコールであってもよい。共溶媒および部分フッ素置換アルカンは、アトロピンの溶解性および製剤の安定性を長期に渡って向上させる。
【実施例
【0040】
実施例1:MCTまたは軽質流動パラフィン油へのアトロピンの溶解
【0041】
方法:アトロピン遊離塩基の製剤化を以下の手順で調査した。
【0042】
1.アトロピンの溶解
アトロピン粉末4mg超を、4mLの研究溶媒に添加し、製剤を2日間攪拌する。
【0043】
2.HPLC試料の調製
上記の製剤を遠心分離し、上清を、さらに希釈せずに0.45ミクロンのフィルターで濾過した。HPLC分析のために、各溶媒から1つの試料を調製した。
【0044】
3.HPLC試料の分析
ガードカラム(12.5mm×2.1mm I.D.)に接続されたAgilent Eclipse Plus C18 HPLCカラム(150mm×2.1mm I.D.)を用い、100%水から100%アセトニトリルへの勾配溶出を流速0.2ml/分で行うRP-HPLC法により、試料を分析した。クロマトグラムを、220nmのUVでモニターした。アトロピンのピークは、図1のクロマトグラフに示すように、リテンションタイム12.947にある。
【0045】
結果
MCTまたは軽質流動パラフィン油へのアトロピン遊離塩基の溶解性を、表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
アトロピン遊離塩基は、75μg/ml(0.0075%w/w)で軽質流動パラフィン油に可溶であると判定された。0.1%のエタノールを軽質流動パラフィン油に添加することで、溶解性は82μg/mlに増加し、0.25%のフェネチルアルコールを軽質流動パラフィン油に添加することで、溶解性は100μg/ml超に増加した。アトロピン遊離塩基は、3100μg/ml(0.31%w/w)でMCTに可溶であると判定された。この特定の研究では、遊離塩基形態のアトロピンを使用したが、一硫酸塩はすでに近視用として承認された溶液製剤に使用されている。遊離塩基の分子量(MW)は、アトロピン溶液製剤の一硫酸塩型の83%に相当する。0.01%アトロピン一硫酸塩溶液は、診療所において近視治療に有効であることがすでに示され、いくつかの国で承認されている。この0.01%のアトロピン塩濃度は、0.0083%の遊離塩基濃度に相当した。我々が観察したMCTへの溶解性は、有効性をもたらすのに必要な溶解性を優に超えており、軽質流動パラフィン中の濃度も、有効な範囲内である。本願では、遊離塩基形態のアトロピンの濃度は、約0.001%~約0.5%(w/w)、または約0.001%~約0.1%(w/w)であってもよく、例えば、約0.001%、0.002%、0.003%、0.004%、0.005%、0.006%、0.007%、0.008%、0.009%、0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、またはこれらの任意の範囲内であってもよい。
【0048】
実施例2:部分フッ素置換アルカンのMCTまたは軽質流動パラフィン油に対する混和性
【0049】
部分フッ素置換アルカンであるF6H8の、MCTに対する混和性を、F6H8:MCTの比率を1:99~99:1として試験した。その結果、F6H8は、すべての比率において、MCTに対して混和性があった。部分フッ素置換アルカンであるF6H8の、軽質流動パラフィン油に対する混和性を、F6H8:軽質流動パラフィン油の比率を1:99~99:1として試験した。その結果、F6H8は、すべての比率において、軽質流動パラフィン油に対して混和性があった。
【0050】
実施例3:共溶媒を用いる場合と用いない場合とにおける、MCTとF6H8との製剤へのアトロピンの溶解性
【0051】
実施例1で記載したものと同様の製剤調製および試料分析方法を用いて、共溶媒であるフェネチルアルコールを用いる場合と用いない場合とにおける、MCTとF6H8との製剤へのアトロピンの溶解度を判定した。結果を表2に要約する。
【0052】
【表2】
【0053】
データによると、アトロピンは、MCTとF6H8との混合物に、MCT:F6H8が、10%MCT:90%F6H8から70%MCT:30%F6H8までの様々な比率において、良好に溶解した。共溶媒であるフェネチルアルコールを添加することで、MCTとF6H8との混合物へのアトロピンの溶解性はさらに向上した。100%F6H8へのアトロピンの溶解性と比較して、MCTを添加した場合、または、MCTと共溶媒であるフェネチルアルコールとを添加した場合、アトロピンの溶解性は、相当に向上した。
【0054】
実施例4:共溶媒を用いる場合と用いない場合とにおける、MCTとF6H8との製剤中でのアトロピンの安定性
【0055】
実施例1で記載したものと同様の製剤調製および試料分析方法を用いて、共溶媒であるフェネチルアルコールを用いる場合と用いない場合とにおける、MCTとF6H8との製剤中での室温でのアトロピンの安定性を、ベースライン、1ヶ月後、2ヶ月後、および3ヶ月後にモニターした。結果を表3~7に要約する。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
データによると、用量0.01%、0.025%、および0.05%のアトロピンは、MCT、F6H8、および/またはフェネチルアルコールを含有する製剤中で、少なくとも3ヶ月間、室温において安定していた。
【0061】
実施例5:ウサギモデルにおけるin vivoでの薬理学的および眼毒性試験
【0062】
この試験の目的は、0.25%フェニルエチルアルコール、10%MCT、および89.75%F6H8におけるアトロピン製剤の薬理学的効果および潜在的な眼毒性を判定することであった。試験物質を、28日間、1日2回、ニュージーランドホワイトウサギに対して、局所点眼によって投与した。薬理学的効果は、正常なナイーブなウサギでの瞳孔拡張として測定した。前記製剤中の3つの濃度のアトロピン(0.01%、0.025%、0.05%)を、良好な瞳孔散大効果を有することが知られている硫酸アトロピン塩を0.03%含有する水性製剤の濃度と比較した。アトロピンを含まない製剤を、試験のビヒクル対照とした。
【0063】
試験設計
【0064】
試験設計を、表8に示す。48匹のウサギ(各性別につき24匹)を5つの群に無作為に割り当て、局所点眼によって28日間、1日2回投与した時の、アトロピンの毒性を判定した。対照群には、ビヒクルを投与した。動物を、体重に基づく各群に無作為に割り当てた。対照群および高用量群は、群ごとに、各性別に6匹であり、低用量群、中間用量群、および比較群は、群ごとに、各性別に4匹であった。対照群および高用量群の、最後まで生き残った動物を、回復の評価に対して振り分けた。
【0065】
【表8】
【0066】
ビヒクル中のアトロピン、または対照物質もしくは比較物質のみを、28日間、局所点眼によって、およそ12時間間隔で、1日2回、動物の左眼に投与した。右眼は、対照用の眼として、未治療のままとした。動物の左眼に、局所的な点眼によって、40μL/眼で投与した。
【0067】
生存率、臨床所見、体重、食物消費量、眼科検査、眼内圧、網膜電図検査を含む、生存中の様々な測定に加えて、瞳孔の大きさの測定値の薬理学的な評価を、試験で実施した。加えて、剖検での巨視的検査、総括的観察、臓器重量測定、および病理組織診断を、試験の最後に実施した。試験では、優良試験所基準(GLP)に従った。
【0068】
結果
【0069】
薬理学評価:投与開始に先立つ順化の間、別々の3日間に、全動物の両眼における瞳孔の大きさを測定して、ベースラインと、手順に対する動物の順化と、を確立した。結果を、図2(投与後7日目の瞳孔の大きさの測定値)と、図3(投与後22日目の瞳孔の大きさの測定値)と、に示す。全動物の両眼の瞳孔の大きさを、ベースライン(投与の30分前)と、7日目および22日目の最初の投与の0.5時間、1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、および12時間後に、測定した。CBT-009は、アトロピンを表す。データによると、0.01%、0.025%、および0.05%のCBT-009(アトロピン)を投与した3つの群のすべてに加えて、0.03%硫酸アトロピンの水性製剤を投与した比較群において、瞳孔の拡張が観察されたが、ビヒクルで治療した群においては、瞳孔の大きさの変化は観察されなかった。加えて、7日目および22日目の両方で、0.01%から0.05%までのアトロピンについて、瞳孔の拡張の用量反応を観察した。瞳孔の大きさが変化する程度は、同等の用量で、アトロピンを含むF6H8系製剤と、硫酸アトロピン水溶液と、の間で同等であった。
【0070】
眼毒性:雄および雌のニュージーランドホワイトウサギの左眼に、1日2回の局所点眼によって、0.01%、0.025%、および0.05%アトロピンを含むF6H8f系製剤、対照ビヒクル、または0.03%硫酸アトロピン水溶液の比較物質を投与した。右眼は、未治療とした。投与期間の最後に続いて、終末期間の動物を安楽死させ、回復期間の動物は、14日間の回復期の間、維持し、その後、安楽死させた。すべての動物を、14日間の回復期の間、維持し、その後、安楽死させた。終末期間および回復期間のすべての動物が、予定された安楽死まで生き延びた。いずれの期間でも、眼組織および非眼組織において、アトロピンに関連する、巨視的な(肉眼剖検)観察も、顕微鏡レベルでの所見も、見られなかった。両方の期間における、対照群、アトロピン治療群、および/または比較群の雄および雌の、様々な眼組織および非眼組織の、顕微鏡レベルの少数の所見は、偶発的なもので、アトロピンとは無関係であると考えられた。治療は、すべての試験群で許容され、試験中に死んだ動物は観察されなかった。
【0071】
実施例6:ウサギモデルにおけるin vivoでの眼に対する忍容性試験
【0072】
試験設計
【0073】
3匹の雌のダッチベルテッドウサギに対して、0.012%アトロピン遊離塩基を含む100%MCT40μLを右眼に、0.012%アトロピン遊離塩基を含む100%軽質流動パラフィン(LLP)40μLを左眼に、1滴/眼、1日2回、12時間間隔で連続14日投与した。眼不快感観察および眼刺激性観察を、投与前(異なる日に2回)、および一日の最終分量投与後の投与フェーズ中に毎日、全動物に対して実施した。角膜検査を、投与前に1回、ならびに1日目および14日目の一日の最終分量投与後に1回、全動物に対して実施した。最初の投与日をD1とし、最後の投与日をD14とした。
【0074】
眼刺激性の結果を表9および表10に示す。
【0075】
【表9】
【0076】
【表10】
【0077】
アトロピン製剤は、すべてのウサギで良好な忍容性を示した。どの動物においても、有意な眼刺激性または眼科所見は観察されなかった。試験中の体重および食物消費量に、試験物質に関連する影響はなかった。すべての動物の予定された検査において、試験物質に関連する他の眼科的所見はなかった。試験中、結膜腫脹または結膜充血は、まったく観察されないか、軽度に(+1)観察された。この実施例では、眼科用アトロピンの特許請求される新規製剤の安全性が実証された。
【0078】
実施例7:犬モデルにおけるin vivoでの眼に対する忍容性試験
【0079】
試験設計
【0080】
3匹の雄のビーグル犬に対して、0.012%アトロピン遊離塩基を含む100%MCT40μLを右眼に、0.012%アトロピン遊離塩基を含む100%LLP40μLを左眼に、1滴/眼、1日2回、12時間間隔で連続14日投与した。眼不快感観察および眼刺激性観察を、投与前(異なる日に2回)、および一日の最終分量投与後の投与フェーズ中に毎日、全動物に対して実施した。角膜検査を、投与前に1回、ならびに1日目および14日目の一日の最終分量投与後に1回、全動物に対して実施した。最初の投与日をD1とし、最後の投与日をD14とした。
【0081】
眼刺激性の結果を表11および表12に示す。
【0082】
【表11】
【0083】
【表12】
【0084】
アトロピン製剤は、すべての犬で良好な忍容性を示した。どの動物においても、有意な眼刺激性または眼科所見は観察されなかった。試験中、体重および食物消費量に、試験物質に関連する影響はなかった。すべての動物の予定された検査において、試験物質に関連する他の眼科的所見はなかった。試験中、結膜腫脹または結膜充血は、まったく観察されないか、軽度に(+1)観察された。この実施例では、眼科用アトロピンの特許請求される新規製剤の安全性が実証された。
【0085】
参考文献
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図1
図2
図3
【国際調査報告】