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特表2024-511696光学的に設定可能な電界閉じ込めを利用した光起電力網膜補綴物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-15
(54)【発明の名称】光学的に設定可能な電界閉じ込めを利用した光起電力網膜補綴物
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
A61F9/007 190A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547102
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(85)【翻訳文提出日】2023-08-02
(86)【国際出願番号】 US2022020498
(87)【国際公開番号】W WO2022212053
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】63/168,786
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ジージエ
(72)【発明者】
【氏名】パランカー、ダニエル・ブイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ビンギ
(57)【要約】
光起電力網膜補綴物は、光学的に構成可能な電界の閉じ込めを提供する。ビデオストリームが網膜インプラントに投影される。光起電力ピクセルのアレイは、ビデオストリームに応じて網膜刺激を提供するように構成される。光起電力ピクセルは共通のリターン電極を備える。各ピクセルは、容量性インターフェースまたはファラデーインターフェースを介して網膜組織に結合されたアクティブ電極を備える。各ピクセルは、共通リターン電極及び対応するアクティブ電極の間に直列に接続されたフォトダイオードを備える。投影されたビデオストリームは、投影されたビデオストリームの次のフレームで暗くなる網膜インプラントの1以上のピクセルが、投影されたビデオストリームの次のフレームにおいて過渡的な局所リターン電極として作用するのに十分な導電性になるように、前のフレームにおいて投影されたビデオストリームによって光学的に事前調整(事前に充電)されるように、ソースビデオストリームに基づいて構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光起電力補綴網膜に照明を提供する方法であって、
(a)ビデオストリームを網膜インプラント上に投影するステップと、
(b)投影された前記ビデオストリームの次のフレームで暗くなる前記網膜インプラントの1以上のピクセルが、投影された前記ビデオストリームの前記次のフレームに過渡的な局所リターン電極として作用するのに十分な導電性になるように、投影された前記ビデオストリームによって光学的に事前調整されるべく、ソースビデオストリームに基づいて投影された前記ビデオストリームを構成するステップと含み、
前記網膜インプラントは、前記ビデオストリームに応答して網膜刺激を提供するように構成された光起電力ピクセルのアレイを備え、
前記光起電力ピクセルの前記アレイは共通のリターン電極を備え、
各ピクセルは、容量性インターフェースまたはファラデーインターフェースを介して網膜組織に接続されるアクティブ電極を備え、
各ピクセルは、共通の前記リターン電極及び対応する前記アクティブ電極の間に直列に接続された1以上のフォトダイオードを備える、方法。
【請求項2】
前記過渡的な局所リターン電極は、投影された前記ビデオストリームからの照明によってフォトダイオード当たり0.2V~0.7Vの範囲のバイアス電圧に達するように事前調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記過渡的な局所リターン電極は、フォトダイオード当たり0.3~0.6Vの範囲の前記バイアス電圧に達するように事前調整される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
事前調整及び刺激のための画像処理単位が、前記ソースビデオストリームのフレーム単位よりも短くなるように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
各電極における電流の極性及び振幅を画定し、最小平均二乗誤差基準の下で最適化され、生体組織における目標電界を推定する事前調整アルゴリズムをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
網膜補綴システムであって、
網膜インプラントにビデオストリームを投影するための近眼用ディスプレイを備え、
前記網膜インプラントが、当該ディスプレイの光を、生体組織を流れる電流に変換して網膜ニューロンを刺激する光起電力ピクセルを含み、
前記網膜インプラントの各ピクセルが、アクティブ電極及びリターン電極の間に直列に接続された1以上のフォトダイオードを備え、
前記アクティブ電極及び前記リターン電極が、容量性インターフェースまたはファラデーインターフェースを介して生体組織の電解質に結合され、
前記ピクセルの前記リターン電極が互いに接続されており、
前記近眼用ディスプレイによって前記網膜インプラントに投影される前記ビデオストリームの画像のシーケンスが、前記ピクセルの電極-電解質界面にバイアス電圧を蓄積することにより、指定された前記ピクセルが過渡的な前記リターン電極として機能するのに十分な導電性になるように光学的に事前調整するように設計されている、システム。
【請求項7】
前記フォトダイオードが結晶シリコン製であり、
前記バイアス電圧が各フォトダイオード当たり0.2~0.7Vの範囲であるように構成される、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記バイアス電圧が、各フォトダイオード当たり0.3Vを超える、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
電界の網膜への浸透深さが、現在のビデオフレームにおける照明されたピクセル及び以前のフレームにおいて事前調整された一方で現在の前記ビデオフレームにおいては照明されていないピクセルの間の距離を制御することによって、患者の解剖学的構造に対して最適化される、請求項6に記載のシステム。
【請求項10】
前記光起電力ピクセルが、放電電流を調整するための1以上の光学的に制御されるトランジスタを備える、請求項6に記載のシステム。
【請求項11】
受信したビデオストリームに応答して網膜刺激を提供するように構成された光起電力ピクセルのアレイを備え、
前記光起電力ピクセルの前記アレイが共通のリターン電極を備え、
各ピクセルが容量性または遠心的に網膜組織に結合されたアクティブ電極を備え、
各ピクセルは、前記リターン電極及び対応する前記アクティブ電極の間に直列的に接続された1以上のフォトダイオードを備え、
各ピクセルが、光学的に制御可能なコンダクタンス要素をさらに備え、前記光起電力ピクセルの前記アレイの二次照明パターンによる照明が、対応するコンダクタンス素子をアクティブ化することによって、局所リターン電極として機能するように、網膜インプラントの1以上の前記ピクセルを選択するように構成されている、網膜補綴物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光起電力網膜補綴物に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢黄斑変性症(AMD)や網膜色素変性症などの網膜変性疾患は、治療不可能な視覚障害や法的盲(legal blindness)の主な原因である。視細胞が不可逆的に失われた場合でも、網膜内部のニューロンの大半は残存していることが多い。二次網膜ニューロン(主に双極細胞)の電気刺激により視覚的な知覚表象が誘発されるため、電子的な視力回復が可能となる。100μmの双極ピクセルを有する光起電力網膜下インプラントPRIMA(Pixium Vision、パリ、フランス)を装着したAMD患者は、20/460~20/565のスネレン視標に相当する1.17±0.13ピクセルの補綴文字視力を示した。これは非常に魅力的な概念実証であるが、このアプローチをAMD患者に広く採用するには、通常は20/400を超える他の周辺視野を補綴視力が確実に上回る必要がある。視力20/200のサンプリング限界は50μmピクセルに相当し、20/100は25μmピクセルに相当する。天然の視覚と同様に、補綴視力は基本的に空間解像度(すなわちピクセルサイズ)によって制限されるだけでなく、隣接する電極間のクロストークの影響を受ける刺激パターンのコントラストによっても制限される。PRIMAインプラントのように、電界の横方向の広がりは各ピクセルの局所リターン電極によって抑えることができるが、組織内の電界の浸透深さもほぼピクセル半径に制限されるため、このような双極ピクセルをスケールダウンすることは困難である。その結果、このような形状における網膜刺激閾値は、ピクセルサイズの減少とともに急速に増加し、ピクセルサイズが40μm未満の最良の電極材料(SIROF)の1つであっても、安全な電荷注入限界を超えてしまう。
【0003】
この問題を克服する1つのアプローチは、3次元ハニカム状アレイを使用してリターン電極を内部核層の最上部まで上昇させ、それによりウェルにおいて電界を垂直に方向付けることに基づく。この配置により、視野の透過深度がピクセル幅から切り離され、垂直視野が網膜内の双極細胞の方向と一致するため、刺激閾値が大幅に減少する。初期の動物実験では、網膜下ウェルへの網膜移動が有望な結果を示したが、移動したニューロンが3次元アレイに対して機能するかどうかはまだ確認されていない。その上、局所リターン電極を持つハニカム構造体の製造プロセスは些細なこととは言い難く、さらなる開発が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
網膜補綴物の空間解像度は、ピクセルサイズ及び隣接する電極からのクロストークによって制限される。双極ピクセルの局所リターン電極はクロストークの低減に役立つが、組織への電界の浸透を過度に制限するため、神経刺激の効果が制限される。電解質に容量結合またはファラデー結合しているアクティブ電極の充電、及び隣接するアクティブ電極によって生成される電界により、アクティブ電極の電位が上昇する。光起電力ピクセルのフォトダイオードを横切る電位が上昇すると、フォトダイオードは導電性を増し、効果的に過渡的なリターン電極へと変化する。したがって、アクティブ電極を事前に充電すると、次の画像で暗いピクセルになった場合に、アクティブ電極が次のパルスに対する効果的なリターン電極になる。アクティブ電極及びリターン電極の間の距離は、組織への電界の浸透深さを画定する。このように、次の画像フレームで過渡的なリターンとなるようにピクセルを事前調整することで、光起電力アレイに投影される画像の時空間制御によって、組織内の電界の横方向及び軸方向の閉じ込めを柔軟に制御することができる。網膜の厚さ及びインプラントの近接度合いに応じて、患者ごとに刺激の深さ及び側方選択性を最適化することができる。
【0005】
あるいは、異なる波長範囲に応答する感光性トランジスタを用いて放電を光学的に制御することにより、光起電力ピクセルを過渡的なリターンに変えることも可能である。これらは、二次フォトダイオードによってゲート制御されるフォトトランジスタまたは金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFETs)である。このような別個の光制御素子は、ピクセル内のアクティブ電極をより速く放電するのに役立ち、網膜内の電流ステアリングを最適化して指定された電界を生成することも可能になる。
【0006】
第1の実施形態では、本発明は、光起電力網膜補綴物に照明を提供する方法である。この方法は、ビデオストリームを網膜インプラントに投影することを特徴とする。網膜インプラントは、ビデオストリームに応答して網膜刺激を提供するように構成された光起電力ピクセルのアレイを備える。光起電力ピクセルのアレイは共通のリターン電極を備える。各ピクセルは、容量性インターフェースまたはファラデーインターフェースを介して網膜組織に結合されたアクティブ電極を備える。各ピクセルは、共通リターン電極及び対応するアクティブ電極の間に直列に接続された1以上のフォトダイオードを備える。本方法はさらに、投影されたビデオストリームの次のフレームで暗くなる網膜インプラントの1以上のピクセルが、投影されたビデオストリームによって光学的に事前調整(事前に充電)されて十分な導電性となり、投影ビデオストリームの次のフレームの間に過渡的な局所リターン電極として機能できるように、ソースビデオストリームに基づいて投影されたビデオストリームを構成することを特徴とする。
【0007】
この方法のさらなる実施形態では、過渡的な局所リターン電極は、投影されたビデオストリームの照明によってフォトダイオード当たり0.2V~0.7Vの範囲のバイアス電圧に達するように事前調整される。
【0008】
より最適には、過渡的な局所リターン電極は、フォトダイオード当たり0.3V~0.6Vの範囲のバイアス電圧に達するように事前調整される。
【0009】
さらに他の実施形態では、本方法は、事前調整及び刺激のための画像処理期間がソースビデオストリームのフレーム単位(frame duration)よりも短くなることを特徴とする。
【0010】
さらに他の実施形態では、本方法は、各電極における電流の極性及び振幅を画定し、最小平均二乗誤差基準の下で最適化され、生体組織における目標電界を推定する事前調整アルゴリズムを特徴とする。
【0011】
第2の実施形態において、本発明は、網膜インプラントにビデオストリームを投影するための近眼ディスプレイを有する網膜補綴物システムである。網膜インプラントは光起電力ピクセルを含み、ディスプレイから投影される近赤外光(例えば850~915nm)を、生体組織を流れる電流に変換し、網膜ニューロンを刺激する。網膜インプラントの各ピクセルは、アクティブ電極及びリターン電極の間に直列に接続された1以上のフォトダイオードを備える。アクティブ電極及びリターン電極は、容量性インターフェースまたはファラデーインターフェースを介して生体組織の電解質に結合され、ピクセルのリターン電極は互いに接続される。近眼用ディスプレイによって網膜インプラントに投影されるビデオストリームの一連の画像は、指定されたピクセルを光学的に事前調整し、これらのピクセルの電極-電解質界面にバイアス電圧を蓄積することによって、過渡的なリターン電極として十分に機能するような導電性となるように設計されている。
【0012】
本システムのさらなる実施形態では、フォトダイオードは結晶シリコンから作製され、バイアス電圧はフォトダイオード当たり0.2~0.7Vの範囲であるように構成される。より最適には、バイアス電圧はフォトダイオードあたり0.3Vよりも大きい。
【0013】
本システムのさらに他の実施形態では、現在のビデオフレームの照明されたピクセルと、前のフレームでは事前調整された一方で現在のビデオフレームでは照明されていないピクセルとの間の距離を制御することによって、網膜への電界の浸透深さが患者の解剖学的構造に応じて最適化される。
【0014】
本システムのさらに他の実施形態では、光起電力ピクセルは、放電電流を調整するために1以上の光学的に制御されるトランジスタを備える。
【0015】
第3の実施形態では、本発明は、受信したビデオストリームに応答して網膜刺激を提供するように構成された光起電力ピクセルのアレイを備える網膜補綴物である。光起電力ピクセルのアレイは共通のリターン電極を備える。各ピクセルは網膜組織に容量結合またはファラデー結合するアクティブ電極を備える。各ピクセルは、リターン電極及び対応するアクティブ電極に直列に接続された1以上のフォトダイオードを備える。各ピクセルはさらに、光学的に制御可能なコンダクタンス要素を含み、二次照明パターンによる光起電力ピクセルのアレイの照明は、対応するコンダクタンス要素をアクティブ化することによって局所リターン電極として機能する網膜インプラントの1以上のピクセルを選択する。コンダクタンス要素は、NIR光には感応せず、異なる波長域に(例えば、可視波長範囲)に感応する。この二次照明パターンは、コンダクタンス要素に影響を与える波長域で放出される。
【0016】
後述する実施形態は、ピクセルの事前調整(事前の充電)を必要とせず、光の二次波長を利用してピクセルの導電性を直接制御することを可能にする。この実施形態は、ピクセルの導電性の制御を単純化し、それによって網膜内の電界の閉じ込めの制御を単純化する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の例示的な実施形態による、拡張現実メガネ上のビデオカメラ、画像処理装置、近赤外線(例えば850~915nm)光を用いてカメラで撮影された画像を網膜インプラントに提供するプロジェクタ、及び網膜下光起電力アレイを備える、網膜補綴物の近眼用投影システムを示す図である。
図2A】本発明の例示的な実施形態による、40μmピクセルを有する光起電力アレイ(図2A)を示す図であり、周辺部(1)において共通のリターン電極に接続されている。アレイの高倍率図(図2B)は、中央にアクティブ電極(2)、周囲に受光領域(3)を有する六角形アレイの個々の画素を示している。
図2B】本発明の例示的な実施形態による、40μmピクセルを有する光起電力アレイ(図2A)を示す図であり、周辺部(1)において共通のリターン電極に接続されている。アレイの高倍率図(図2B)は、中央にアクティブ電極(2)、周囲に受光領域(3)を持つ六角形アレイの個々の画素を示している。
図3】本発明の例示的な実施形態による、ダイオードの導電率が順方向バイアスとともに指数関数的に増加する様子を示す図である。
図4A】本発明の例示的な実施形態による、中央の画素が1μAの陽極電流を注入したときに、網膜の電極アレイの上方で計算された電位を示す図である(図4A)。上の図:電極アレイ表面の上面図である。破線の円は隣接する6つのピクセルの電極を示す。等高線は、離れた場所に置かれた参照電極に対する電位をmVで示す。下の図:y=0で撮影した側面図。矢印は局所電流の方向を示す。回路図は、光起電力ピクセルのフォトダイオードと容量電極-電解質界面を概略的に示し、それらのリターン電極は互いに接続されている。同様に、図4Bは、隣接する6つのピクセルのフォトダイオードは、中央のピクセルのアクティブ化前に0.54Vに光学的に事前調整(事前に充電)されている。
図4B】本発明の例示的な実施形態による、中央の画素が1μAの陽極電流を注入したときに、網膜の電極アレイの上方で計算された電位を示す図である(図4A)。上の図:電極アレイ表面の上面図である。破線の円は隣接する6つのピクセルの電極を示す。等高線は、離れた場所に置かれた参照電極に対する電位をmVで示す。下の図:y=0で撮影した側面図。矢印は局所電流の方向を示す。回路図は、光起電力ピクセルのフォトダイオードと容量電極-電解質界面を概略的に示し、それらのリターン電極は互いに接続されている。同様に、図4Bは、隣接する6つのピクセルのフォトダイオードは、中央のピクセルのアクティブ化前に0.54Vに光学的に事前調整(事前に充電)されている。
図5】本発明の例示的な実施形態による、隣接ピクセルの事前調整なし(上パネル)及び事前調整あり(下パネル)の電位を並べて比較した図である。媒体中の計算された電位は、中央のピクセルが1μAの電流を注入したときに計算される。下のパネルでは、電界がよりタイトに閉じ込められていることを理解されたい。
図6A図6Aにおける本発明の例示的な実施形態による、回折格子(grating)パターンで照明された40個のμmピクセルを有する光起電力アレイを示す。図6Aにおいて幅が1ピクセルに等しいストライプを有する回折格子パターンによって照明された40個のμmピクセルを有する光起電力アレイの上方の電位の側面図であり、事前調整あり(実線)となし(破線)のものをそれぞれ示す。事前調整ありの場合、明るいストライプと暗いストライプのコントラストは100%だが、事前調整なしの場合、照明されたストライプの上の電位は暗いストライプの上より約25%高いだけである。このような低いコントラストでは、ラットの交互格子に対する視覚反応の検出は不可能である。
図6B図6Aにおける本発明の例示的な実施形態による、回折格子(grating)パターンで照明された40個のμm画素を有する光起電力アレイを示す。図6Aにおいて幅が1ピクセルに等しいストライプを有する回折格子パターンによって照明された40個のμmピクセルを有する光起電力アレイの上方の電位の側面図であり、事前調整あり(実線)となし(破線)のものをそれぞれ示す。事前調整ありの場合、明るいストライプと暗いストライプのコントラストは100%だが、事前調整なしの場合、照明されたストライプの上の電位は暗いストライプの上より約25%高いだけである。このような低いコントラストでは、ラットの交互格子に対する視覚反応の検出は不可能である。
図7A】本発明の例示的な実施形態に従って、20μm及び40μmのピクセルを有する光起電力アレイを用いたラットの交互格子(alternating gratings)に対する視覚誘発電位の振幅を示す。交互格子応答は、縞幅が小さくなるにつれて減少し、視力限界以下のノイズレベル(水平線)に達する。40μmのピクセル(図7A)の場合、この限界は40μm(矢印で示す)のピクセルサイズに一致する。20μmピクセル(図7B)の場合、限界はラットの自然な空間分解能によって設定され、約27μmである(同じく矢印で示す)。
図7B】本発明の例示的な実施形態に従って、20μm及び40μmのピクセルを有する光起電力アレイを用いたラットの交互格子に対する視覚誘発電位の振幅を示す。交互格子応答は、縞幅が小さくなるにつれて減少し、視力限界以下のノイズレベル(水平線)に達する。40μmのピクセル(図7A)の場合、この限界は40μm(矢印で示す)のピクセルサイズに一致する。20μmピクセル(図7B)の場合、限界はラットの自然な空間分解能によって設定され、約27μmである(同じく矢印で示す)。
図8A図8Aにおける本発明の例示的な実施形態による、異なる波長の光によって放電電流を独立に制御することができるフォトトランジスタを備える光起電力ピクセルの回路図を示す。図8Aのフォトトランジスタを、二次フォトダイオードによって制御されるMOSFETに置き換える。
図8B図8Aにおける本発明の例示的な実施形態による、異なる波長の光によって放電電流を独立に制御することができるフォトトランジスタを備える光起電力ピクセルの回路図を示す。図8Aのフォトトランジスタを、二次フォトダイオードによって制御されるMOSFETに置き換える。
図9】本発明の例示的な実施形態によれば、ビデオストリームの各フレームが、事前調整段階及び刺激段階に分割されることを示す図である。前処理段階の間、刺激段階で暗くなるピクセルは、電極-電解質界面に電荷を蓄積し、それによってこれらのダイオードを導電性にするために、閾値以下の強度で照明される(画像1)。より短い刺激段階では、明るいピクセルは刺激閾値以上で照明され(画像2)、暗いピクセルは導電性であるため、局所リターン電極の役割を果たす。
【発明を実施するための形態】
【0018】
光起電力網膜補綴物は、拡張現実メガネから投影される近赤外(NIR)光によってアクティブ化される(図1)。画像はメガネに取り付けられたカメラにより取得され、ポケットコンピュータで処理され、パルスNIR光を用いて目に投影される。インプラントの各ピクセル(図2A~2B)は、この光について網膜を流れるパルス電流に変換し、それにより、近傍の網膜内ニューロンを刺激する。
【0019】
ここでは、光起電力ピクセルの時空間変調により、順方向バイアス下におけるダイオードの導電性を利用して、組織内における電界の高浸透深度及び高コントラストを可能にする、平面網膜下インプラントによる高解像度補綴視覚へのアプローチを紹介する。電極-電解質界面に電荷が蓄積し、電解質中の隣接画素からの電位が結合することにより、アクティブ電極の電位が上昇する。フォトダイオードの順方向コンダクタンスは、電極電位とともに指数関数的に増加するため(図3)、一部のピクセルは十分に導電性となり、したがって過渡的な局所リターンに変換され、それによりアレイ内の他のピクセルによって生成された電界を閉じ込めるのに役立つ。そのため、アクティブ電極の一部を事前に充電することで、アレイに投影される次の画像で暗いピクセルになった場合、次の画像のための有効なリターン電極となる。アクティブ電極及びリターン電極の間の距離は、組織への電界の浸透深さを画定する。次の画像フレームで過渡的なリターンとなるようにピクセルをこのように事前調整することで、光起電力アレイに投影される画像の時空間変調によって、組織内の電界の横方向及び軸方向の閉じ込めを柔軟に制御することが可能となる。網膜の厚さとインプラントの近設度合いに応じて、患者ごとに刺激の深さ及び側方選択性を最適化することが可能となる。このような単極性光起電力アレイを図2A~2Bに示す。各ピクセルは、アクティブ電極(2)及びインプラント(1)の端部に配置された、共通リターン電極に接続された感光領域(3)を備える。
【0020】
このような動作のモデリングは、(a)静的有限要素モデリングを用いてピクセル間の空間的結合を特徴付けるステップと、次いで、(b)電解質中の電位を空間と時間の関数として記述した多次元形式で光起電力回路のダイナミクスを計算するステップとを含む。図4A~4B、図5及び図6A~Bに示すように、計算モデリングは、事前調整を行うと、照明されたピクセルの周囲のフィールドの閉じ込めが、事前調整を行わない場合よりもはるかに優れていることを実証した。これらの結果は、電解質中の電位測定値との比較によって検証された。最も重要なことは、40μmピクセルを用いた動物における回折格子視力のインビボ測定は、計算モデリング(図6A~6B)により予測されたように、このアプローチがピクセルサイズに制限された解像度を可能にすることを実証したが(図7A)、これは他の構成において55μmより小さいピクセルでは不可能であった。さらに、20μmピクセルでは、図7Bに示すように、ラットの視力は、約27μm(1.2cpd)の自然な空間分解能によって制限される。
【0021】
p-n接合のコンダクタンスは順方向バイアス電圧とともに指数関数的に増加し、(a)電極-電解質界面での電荷蓄積による電圧上昇と、(b)電解質中の隣接するピクセルで発生する電流による電位上昇との合計がダシリコンベースのフォトダイオードでは約0.5Vであるダイオードのターンオン電圧を超えた場合にのみ有意になる。そのため、順方向バイアスがターンオン電圧以下になると、それ以上の電極の放電は非効率的になる。フォトダイオードと並列のシャント抵抗は、アクティブ電極の放電を加速することができるが、放電電流は時間とともに変化し、ピクセル間の結合に依存する。
【0022】
ピクセル放電及び過渡的なリターンのより信頼性の高い独立した制御を提供するために、一次フォトダイオードに用いられるNIR光とは異なる波長範囲に反応する各ピクセル内の感光性トランジスタによる光制御を統合することができる。例えば、図4A~4Bの光起電力ピクセルは、図8Aのものに置き換えることができる。各ピクセルには、放電を制御するための一次フォトダイオード及びフォトトランジスタが並列に設けられている。フォトトランジスタは、一次フォトダイオードの駆動に用いられるNIR波長をブロックし、二次波長(可視光など)を通過させる二色性コーティングにより保護されている。周囲光による意図しない放電を防ぐには、この波長をガラスでブロックする必要がある。ピクセルを過渡的なリターンに変換するには、フォトトランジスタが二次波長の光によってオンにして、一次フォトダイオードに流れる光電流に対して逆方向に電流を流す。二次光の強度は一次NIRビームより大幅に低くてもよく、負の電流の振幅は二次光の強度プロファイルによって制御される。より高い電流利得とより大きな入力抵抗を得るためには、フォトトランジスタの代わりに、二次フォトダイオードによって制御されるMOSFETを用いてもよい(図8B)。
【0023】
様々なピクセルの負電流を光学的に構成することで、網膜におけるフィールドの閉じ込めのための電流ステアリングの最適化が可能になる。目標とする電界vを生成する各電極x=[x,x,...,xの最適電流を求めるために、電界の線形性を利用し、最小平均二乗誤差(MMSE)基準の下で、実際の電界と目標とする電界の差の最小化として問題を定式化する:
【0024】
【数1】
【0025】
ここで、Uは各電極の電流から網膜の電界への変換行列である。式(1)の解は、1ステップの行列-ベクトル乗算でリアルタイムに効率よく計算できる。しかし、この解決策は、電極の電荷注入の安全限界を超える大きな振幅の電流を伴う恐れがある。最適化においてL-2正則化を用いることで、電流の振幅が過度に大きくならないようにする方法を紹介する:
【0026】
【数2】
【0027】
ここで、λは正則化の強さと指定された電界との類似性のトレードオフを決定するリッジパラメータである。(2)の実時間解は、1つの行列-ベクトル乗算で計算すること可能である:
【0028】
【数3】
【0029】
信号処理、ピクセルの事前調整、及び刺激のシーケンスは、以下のように実装することができる:
30Hzの典型的なフレームレートの場合、各フレームは約32ms続く。刺激ピクセルの典型的な照明時間は1~10msである。カメラによって画像フレームが取得されると、十分に暗いピクセルが(例えば閾値処理によって)過渡的なリターンとして指定される。(1)フレームの事前調整段階において、これらのピクセルは、必要な電荷を蓄積し、フレームの刺激段階において導電性となるのに十分な時間、刺激閾値未満の強度で光に曝される。幅40μmの光起電力ピクセルの場合、刺激電流の一般的な範囲は0.01~1μAである。図3に示すように、これは約0.4~0.6Vの電圧範囲に相当する。刺激段階中のリターンピクセルの電位の一部は隣接するアクティブピクセルから供給されるため、電極-電解質界面の累積電圧は、0.2または0.3Vと低くなる。光発電ピクセルが複数のダイオードを直列に含む場合、この電圧降下はダイオードごとに測定される。電極近傍の刺激電流密度はどのサイズのピクセルでも同一となることから、この電圧範囲はピクセルサイズにあまり依存しないはずである。(2)刺激段階においては、指定された明るいピクセルは、所望の電荷注入に対応する強度と持続時間(通常1~10ms)の明るい光に曝される一方で、暗いピクセルはリターン電極に電流を戻す。このような配置では、画像取得に対して刺激が1フレーム単位以上遅れることはない。
【0030】
事前調整の段階で刺激を回避すると、過渡的なリターンのための最大電流、ひいては最大電荷蓄積が制限され、高フレームレートでは、導電を可能にするのに十分でない可能性がある。ピクセルの事前調整と刺激のための信号処理の代替シーケンスとしては、次のようなものがある:すべてのピクセルはデフォルトで低照度のままであるため、過渡的なリターンに変換する準備ができている。カメラによって画像フレームを取得すると、十分に明るいピクセルを(例えば閾値処理によって)識別する。(1)フレームの事前調整段階では、これらの明るいピクセルは電極を放電させるために暗く保たれるが、他のピクセルは既定のレベルで照らし続ける。(2)刺激段階では、指定された明るいピクセルには上記のように明るい光に曝されるが、暗いピクセルは過渡的なリターンとして電流をシンクするために暗く保たれる。このような配置により、事前調整段階では、明るくなるように指定されたピクセルへの電流はカソードであるため、光電流によるアノードシミュレーション段階よりも刺激閾値が約5倍高くなり、誤って刺激してしまう可能性が低くなるはずである。また、仮に事前調整段階でこのようなカソード刺激が起こったとしても、これらのピクセルは数ミリ秒後に光電流によってアクティブ化されるはずであるため、それほど混乱は生じないはずである。
【0031】
上記の2つの戦略を組み合わせることにより、エネルギーの最小化と意図しない刺激の回避のバランスを取ることが可能となる。
【0032】
他のアプローチは、画像の多重化に基づいていてもよい。一般的な画像リフレッシュレートが30Hzの場合、各フレームは約32ミリ秒継続する。光起電力刺激パルスの範囲は通常0.8~8msであり、各フレーム中において少なくとも4つのパルスが有効となる。したがって、画像内のピクセルは4つのグループに分割され、順番にアクティブ化される。このようにして、前のグループで照明されたピクセルが充電され、次のグループでアクティブ化されたピクセルの局所リターンとして機能する。この方法のもう一つの利点は、同時にアクティブ化されるのはピクセルの1/4だけであることで、画像が粗い(sparse)場合にはそれよりもさらに少なくなる。これにより、電位の蓄積が大幅に軽減されるため、刺激の定位性が向上する。パルスの持続時間が様々なピクセルで変化することを利用して、ピクセルをより多くのグループに分割することや、あるいは非同期にアクティブ化することが可能となる。
【0033】
事前調整のための暗いピクセルを決定するための画像処理を高速化し、遅延を低減するために、自然な視覚入力の連続性を利用して、ビデオシーケンス内の前の画像に基づいて次のフレームを予測することができる。この目的のために、カルマンフィルターや指数平滑化などの予測追跡アルゴリズムを適用することが可能となる。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
【国際調査報告】