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特表2024-511735スチームクラッキングのための方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-15
(54)【発明の名称】スチームクラッキングのための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   C10G 9/36 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
C10G9/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555250
(86)(22)【出願日】2022-03-08
(85)【翻訳文提出日】2023-10-16
(86)【国際出願番号】 EP2022055878
(87)【国際公開番号】W WO2022189424
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】21161780.8
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521329305
【氏名又は名称】リンデ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ツェルフーバー,マティウ
(72)【発明者】
【氏名】ヘーレンツ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ブルーダー,ダーヴィド
(72)【発明者】
【氏名】ホフシュテッター,マルティン
【テーマコード(参考)】
4H129
【Fターム(参考)】
4H129AA01
4H129DA03
4H129FA08
4H129FA11
4H129NA20
4H129NA43
(57)【要約】
スチームクラッキング装置(2100~2800)を使用するスチームクラッキング方法が提案され、スチームクラッキング装置(2100~2800)は、対流区域(12)を伴わない電気クラッキング炉(10)を含み、クエンチ冷却列(20)を更に含み、プロセス・ガス流は、少なくとも電気クラッキング炉(10)及びクエンチ冷却列(20)に通される。クエンチ冷却列(20)は、いずれかの順で配置された少なくとも2つの個別冷却段を備えるように動作し、冷却段の第1の冷却段において、電気クラッキング炉(10)から回収されるプロセス・ガス流の少なくとも一部は、30から175バールの間の絶対圧力レベルで気化ボイラ給水に対して冷却され、冷却段の第2の冷却段において、電気クラッキング炉(10)から回収されるプロセス・ガス流の少なくとも一部は、プロセス・ガス流の生成に使用されるフィード炭化水素とプロセス蒸気との過熱混合体に対して冷却され、これにより、プロセス・ガス流は、350から750℃の温度レベルまで加熱される。対応する装置(2100~2800)も本発明の一部である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチームクラッキング装置(2100~2800)を使用するスチームクラッキング方法であって、前記スチームクラッキング装置(2100~2800)は、対流区域(12)を伴わない電気クラッキング炉(10)を含み、クエンチ冷却列(20)を更に含み、プロセス・ガス流は、少なくとも前記電気クラッキング炉(10)及び前記クエンチ冷却列(20)に通される、方法において、前記クエンチ冷却列(20)は、いずれかの順で配置された少なくとも2つの個別冷却段を備えるように動作し、前記冷却段の第1の冷却段において、前記電気クラッキング炉(10)から回収される前記プロセス・ガス流の少なくとも一部は、30から175バールの間の絶対圧力レベルで気化ボイラ給水に対して冷却され、前記冷却段の第2の冷却段において、前記電気クラッキング炉(10)から回収される前記プロセス・ガス流の少なくとも一部は、前記プロセス・ガス流の生成に使用されるフィード炭化水素とプロセス蒸気との過熱混合体に対して冷却され、これにより、前記プロセス・ガス流は、350から750℃の温度レベルまで加熱される、方法。
【請求項2】
炭化水素クラッキング動作の間、1000kWを上回らない熱量は、前記電気クラッキング炉(10)内で顕熱として、前記電気クラッキング炉(10)に通される又は前記電気クラッキング炉(10)から回収される前記プロセス・ガス流以外の流れに伝達される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クエンチ冷却列(20)として、1次クエンチ交換器(21)と2次クエンチ交換器(22)とを備えるクエンチ冷却列(20)が使用され、前記1次クエンチ交換器(21)は、前記冷却段の前記第1の冷却段の少なくとも一部を実施するために使用され、前記2次クエンチ交換器(22)は、前記冷却段の前記第2の冷却段の少なくとも一部を実施するために使用される、又はその逆も同様である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
蒸気生成装置(30)は、前記スチームクラッキング装置(2100~2800)と熱結合して動作し、前記1つ又は複数の蒸気生成装置(30)の使用により、30から175バールの絶対圧力の第1の圧力レベル及び第1の温度レベルで少なくとも過熱高圧蒸気が生成され、前記第1の温度レベルより高い温度レベルの蒸気は、生成されず、前記第1の圧力レベルの前記過熱高圧蒸気は、前記過熱高圧蒸気の温度レベルが第2の温度レベルまで低下するように、前記第1の圧力レベルを下回る第2の圧力レベルまで少なくとも部分的に、断熱的及び等エントロピ的に膨張され、前記第1の温度レベルは、前記第2の温度レベルが、前記第2の圧力レベルにおいて蒸気の露点を上回る5から120Kの間であるように選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
複数流熱交換器及び/又は電気蒸気過熱器は、前記蒸気生成装置(30)において使用され、前記複数流熱交換器において、前記電気クラッキング炉(10)から回収された前記プロセス・ガス流から伝達される熱は、ボイラ給水、及び/又は前記過熱高圧蒸気の生成に使用される蒸気流に伝達される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
フィード炭化水素とプロセス蒸気との前記過熱混合体の生成に使用される前記フィード炭化水素の少なくとも一部は、前記複数流熱交換器内で前記電気クラッキング炉(10)から回収される前記プロセス・ガス流の少なくとも一部を使用して予熱される、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記クエンチ冷却列(20)として、更なる2次クエンチ交換器(22a)及び/又は3次クエンチ交換器(21)を備えるクエンチ冷却列(20)が使用され、前記更なる2次クエンチ交換器(22a)及び/又は前記3次クエンチ交換器(21)は、前記複数流熱交換器として設けられる、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の圧力レベル及び前記第1の温度レベルにおける前記過熱高圧蒸気は、プロセス水から生成される蒸気を含まない、及び/又はボイラ給水から生成される蒸気のみを含み、このため、前記第1の圧力レベル及び前記第1の温度レベルにおける前記過熱高圧蒸気は、高純度過熱高圧蒸気として供給される、請求項3から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記スチームクラッキング装置又は前記スチームクラッキング装置の少なくとも1つが、様々な動作モードによる、異なる電力消費率を利用して動作される一方で、一定の合計クラッキング生成物の収率を維持する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
フィード炭化水素とプロセス蒸気との前記過熱混合体の生成に使用される前記フィード炭化水素、及び/又はプロセス蒸気、及び/又はボイラ給水の少なくとも一部は、前記1つ又は複数の蒸気生成装置(30)内で生成される飽和蒸気を使用して予熱される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
フィード炭化水素とプロセス蒸気との前記過熱混合体の生成に使用される前記フィード炭化水素、及び/又はプロセス蒸気、及び/又はボイラ給水の少なくとも一部は、飽和蒸気流又は過冷却凝縮水流を使用して予熱される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
スチームクラッキング装置(2100~2800)を備える、スチームクラッキング方法を実施するシステム(200)であって、前記スチームクラッキング装置(2100~2800)は、対流区域(12)を伴わない電気クラッキング炉(10)と、クエンチ冷却列(20)とを含み、前記システムは、少なくとも前記電気クラッキング炉(10)及び前記クエンチ冷却列(20)を通じてプロセス・ガス流を通すように適合される、システム(200)において、前記クエンチ冷却列(20)は、少なくとも2つの個別冷却段を実施する手段(21、22、23)を備え、前記冷却段の第1の冷却段は、30から175バールの間の絶対圧力レベルで、気化ボイラ給水に対して、前記電気クラッキング炉(10)から回収される前記プロセス・ガス流の少なくとも一部を冷却するように適合され、前記冷却段の第2の冷却段は、前記プロセス・ガス流の生成に使用されるフィード炭化水素とプロセス蒸気との過熱混合体に対して、前記電気クラッキング炉(10)から回収される前記プロセス・ガス流の少なくとも一部を冷却するように適合され、これにより、前記プロセス・ガス流は、350から750℃の間の温度レベルまで加熱される、システム(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項のプリアンブルに記載のスチームクラッキングのための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、例えば、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、2009年4月15日、オンライン出版、DOI:10.1002/14356007.a10_045.pub2内の項目「エチレン」に記載されるような、オレフィン及び他のベース化学製品を生成するためのスチームクラッキング技術に基づく。
【0003】
炭化水素のスチームクラッキング方法及び装置は、特許文献1で開示されている。この方法は、炭化水素のクラッキングに十分に高い所望の温度まで炭化水素と蒸気との混合体を加熱し、混合体をオレフィンに変えることにある。方法は、混合体の加熱に必要なエネルギー源が、本質的に、燃料の燃焼を使用するコジェネレーションによって供給され、熱エネルギー、及びオルタネータによって電気に変換される機械仕事の両方を同時に生成すること、並びに混合体は、最初に、コジェネレーションによって供給される熱エネルギーを使用して予熱を受け、次に、コジェネレーションによって供給される電気を使用する電気加熱により所望のクラッキング温度まで加熱されることを特徴とする。
【0004】
特許文献2において、炭化水素原料を分解ガス(cracked gas)に変換するクラッキング炉システムであって、クラッキング炉システムは、対流区分と、放射区分と、冷却区分とを備え、対流区分は、炭化水素原料を受け入れ、予熱するように構成された複数の対流バンクを含み、放射区分は、熱分解反応を可能にする温度まで原料を加熱するように構成された少なくとも1つの放射コイルを備える火室を含み、冷却区分は、少なくとも1つの伝達管路交換器を含む。
【0005】
現在、スチームクラッキングにおける吸熱分解反応の開始及び維持に必要な熱エネルギーは、耐火炉内で燃料ガスを燃焼させることによってもたらされる。分解される蒸気及び炭化水素を最初に含有するプロセス・ガスは、放射区域又は区分とも呼ばれる耐火筐体の内側に置かれたいわゆるクラッキング・コイルに通される。この流路において、プロセス・ガスは、連続的に加熱され、クラッキング・コイルの内側で所望の分解反応の発生を可能にし、したがって、プロセス・ガスは、クラッキング生成物中で連続的に富化される。クラッキング・コイルに入るプロセス・ガスの典型的な入口温度は、550から750℃の間であり、出口温度は、典型的には、800から900℃の間の範囲内にある。
【0006】
放射区域に加えて、燃焼クラッキング炉は、いわゆる対流区域又は区分と、いわゆるクエンチ区域又は区分とを備える。対流区域は、通常、放射区域の上に配置され、放射区域から煙道ガス・ダクトを横断する様々な管バンドルから構成される。対流区域の主な機能は、放射区域を離れる高温煙道ガスから可能な限り多くのエネルギーを回収することである。実際、典型的には、放射区域内の合計燃焼負荷の35から50%のみが、クラッキング・コイルを通じてプロセス・ガスに伝達される。したがって、対流区域は、スチームクラッキングのエネルギー管理において中心的な役割を果たす。というのは、対流区域は、炉への熱入力(即ち、燃焼負荷)の約40から60%の有益な使用を担うためである。実際、放射区域及び対流区域を一緒に用いる場合、現代のスチームクラッキング施設は、(燃料の下限加熱値又は正味の発熱量に基づく)燃焼負荷全体の90から95%を利用する。対流区分において、煙道ガスは、対流区分を離れて煙突を介して雰囲気に解放される前、60から140℃の間の温度まで冷却される。
【0007】
対流区分内で回収された煙道ガスの熱は、典型的には、ボイラ給水及び/又は炭化水素フィードの予熱、(事前のプロセス蒸気注入を伴う又は伴わない)液体炭化水素フィードの(部分的)気化、並びにプロセス蒸気及び高圧蒸気の過熱等、プロセスの任務のために使用される。
【0008】
クエンチ区域は、主要プロセス・ガス経路に沿って放射区域の下流に配置される。クエンチ区域は、1つ又は複数の熱交換器ユニットから構成され、1つ又は複数の熱交換器ユニットは、クラッキング反応を停止するため、最大温度レベルより下にプロセス・ガスを急速に冷却すること、下流の処理のためにプロセス・ガスを更に冷却すること、及びエネルギーを更に使用するため、プロセス・ガスからの顕熱を効果的に回収することという主な機能を有する。更に、更なる冷却又はクエンチングは、液体の注入を介して、例えば、スチームクラッキング液体原料の場合のオイル・クエンチ冷却によって達成し得る。
【0009】
クエンチ区分内で回収されるプロセス・ガスの熱は、典型的には、高圧(HP)又は超高圧(SHP)ボイラ給水(典型的には、30から130バールの絶対圧力の間の圧力範囲にある)を気化させ、蒸気ドラムに供給する前に同じボイラ給水を予熱するために使用される。それに応じて生成された飽和高圧又は超高圧蒸気は、過熱高圧又は超高圧蒸気を生成するために対流区域(上記参照)内で過熱され、対流区域から、施設の中央蒸気システムに分散され、熱交換器及び蒸気タービン又は他の回転機器に熱及び動力をもたらし得る。炉の対流区分内で達成される蒸気過熱の典型的な程度は、飽和温度(露点限界)を上回る150から250Kの間にある。概して、スチームクラッキング炉は、高圧蒸気(典型的には30から60バールにある)又は超高圧蒸気(典型的には60から130バールにある)で動作し得る。明快にするため、本発明の説明において、高圧蒸気とは、30から130バールの間の全圧力範囲のために使用されるが、本発明は175バールまでの圧力で蒸気を使用するので、この上限も越える。
【0010】
クエンチ冷却後のプロセス・ガスの処理の重要な部分は、圧縮であり、圧縮は、典型的には、分離用にプロセス・ガスを調整するため、重炭化水素及びプロセス水の除去等、更なる処理の後に実施される。プロセス・ガス又は分解ガスの圧縮とも呼ばれるこの圧縮は、典型的には、蒸気タービンによって駆動される多段圧縮器で実施される。蒸気タービンにおいて、上述した施設の中央蒸気システムからの適切な圧力にある蒸気、したがって、対流区分及びクエンチ冷却からの熱を使用して生成された蒸気を含む蒸気を使用し得る。典型的には、従来技術のスチームクラッキング施設において、(対流区域内の)煙道ガスの熱及び(クエンチ区域内の)プロセス・ガスの熱は、加熱及び蒸気タービンの駆動に必要な蒸気量の大部分を生成する熱の需要と良好に平衡が取られている。言い換えれば、廃熱は、多かれ少なかれ、施設内で必要な蒸気の生成に十分に利用し得る。蒸気を生成する更なる熱は、(燃焼)蒸気ボイラ内でもたらし得る。
【0011】
参考までに、また、本発明の背景を更に説明するため、従来の燃焼スチームクラッキング装置をかなり簡略化した概略部分図で図1に示し、900と示す。
【0012】
図1に示されるスチームクラッキング装置900は、強調線で示されるように、1つ又は複数のクラッキング炉90を備える。典型的なスチームクラッキング装置900は、同じ又は異なる条件下で動作し得る複数のクラッキング炉90を備え得るが、単に簡潔にするため、以下、「1つの」クラッキング炉90について言及する。更に、クラッキング炉90は、以下で説明する構成要素の1つ又は複数を備え得る。
【0013】
クラッキング炉90は、放射区域91と、対流区域92とを備える。図1に示すもの以外の他の実施形態では、いくつかの放射区域91を単一の対流区域92等と連携させることもできる。
【0014】
図示の例では、いくつかの熱交換器921から925は、図示の構成若しくはシーケンスで、又は異なる構成若しくはシーケンスで、対流区域92内に配置される。これらの熱交換器921から925は、典型的には、対流区域92を通過する管バンドルの形態で設けられ、放射区域91からの煙道ガス流内に配置される。
【0015】
図示の例では、放射区域91は、複数のバーナ911により加熱され、複数のバーナ911は、部分的にのみ示される、放射区域91を形成する耐火物の床側及び壁側に配置される。他の実施形態では、バーナ911は、壁側のみ又は床側のみに設けてもよい。床側のみへの配置は、例えば、純水素を燃焼用に使用する場合、優先的に該当し得る。
【0016】
図示の例では、炭化水素を含有するガス又は液体フィード流901は、スチームクラッキング装置900に供給される。図示の様式又は異なる様式で、いくつかのフィード流901を使用することも可能である。フィード流901は、対流区域92の熱交換器921内で予熱される。
【0017】
更に、ボイラ給水流902は、対流区域92、又はより正確にはボイラ給水流902が予熱される熱交換器922に通される。その後、ボイラ給水流902は、蒸気ドラム93に導入される。対流区域92内の熱交換器923において、典型的には、スチームクラッキング装置900の炉システムの外側に位置するプロセス蒸気生成システムから供給されるプロセス蒸気流903は、更に加熱され、図1に示す例では、その後、フィード流901と混合される。
【0018】
これに応じて生成されたフィード及び蒸気の流れ904は、対流区域92内の更なる熱交換器925に通され、その後、放射区域91を通じて、典型的にはいくつかのクラッキング・コイル912内に通され、分解ガス流905を生成する。図1の例は、かなり簡略化されている。典型的には、対応する流れ904は、いくつかのクラッキング・コイル912にわたり均等に分散され、クラッキング・コイル912内で生成された分解ガスは、分解ガス流905の生成のために収集される。
【0019】
図1に更に示されるように、蒸気流906は、蒸気ドラム93から回収され、対流区域92内の更なる熱交換器924内で(過)熱され、高圧蒸気流907を生成し得る。高圧蒸気流907は、具体的に例示しない任意の適切な場所及び任意の適切な目的で、スチームクラッキング装置900内で使用し得る。
【0020】
放射区域12又はクラッキング・コイル912からの分解ガス流905は、1つ又は複数の伝達管路を介して、分解ガス流905が上述の理由で急速に冷却されるクエンチ交換器94に通される。ここで例示されるクエンチ交換器94は、1次クエンチ(熱)交換器を表す。そのような1次クエンチ交換器94に加えて、更なるクエンチ交換器が存在してもよい。
【0021】
冷却された分解ガス流907は、ここではかなり概略的にのみ示される更なるプロセス・ユニット95に通される。これらの更なるプロセス・ユニット95は、特に、分離ガスの不純物除去、圧縮及び分留のためのプロセス・ユニット、並びに96と示される、蒸気ドラム93からの蒸気を使用して動作し得る蒸気タービンを含む圧縮器装置とし得る。
【0022】
図示の例では、クエンチ交換器94は、蒸気ドラム93からの水流908で動作する。クエンチ交換器94内で生成される蒸気流909は、蒸気ドラム93に戻される。
【0023】
本発明の目的
工業プロセスの少なくとも局所的な二酸化炭素排出を低減させる進行中の取組みは、スチームクラッキング施設の稼働にまでも及んでいる。全ての技術分野の場合のように、局所的な二酸化炭素排出の低減は、特に、可能なプロセス・ユニットの一部又は全ての電化によって達成し得る。
【0024】
改質炉に関連して特許文献3に記載されているように、バーナに加えて、電圧源を使用でき、電圧源は、電圧源によって生成された電流が原料を加熱するように反応管に接続される。電気的に加熱されるスチームクラッキング炉が使用されるスチームクラッキング炉は、例えば、特許文献4、特許文献5及び特許文献6で提案された。電気炉技術は、他の状況又はより広範な文脈では、例えば、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10及び特許文献11、又は例えば、特許文献12、特許文献13、特許文献14及び特許文献15等のより古い文献で開示されている。
【0025】
特許文献1は、炭化水素のスチームクラッキング方法及び装置を開示しており、方法は、炭化水素のクラッキングに十分に高い所望の温度まで炭化水素と蒸気との混合体を加熱し、混合体をオレフィンに変えることにある。方法は、混合体の加熱に必要なエネルギー源が、本質的に、燃料の燃焼を使用するコジェネレーションによって供給され、熱エネルギー、及びオルタネータによって電気に変換される機械仕事の両方を同時に生成すること、並びに混合体は、最初に、コジェネレーションによって供給される熱エネルギーを使用して予熱を受け、次に、コジェネレーションによって供給される電気を使用する電気加熱により所望のクラッキング温度まで加熱されることを特徴とする。
【0026】
特許文献2によれば、炭化水素原料を分解ガスに変換するクラッキング炉システムは、対流区分と、放射区分と、冷却区分とを備え、対流区分は、炭化水素原料を受け入れ、予熱するように構成された複数の対流バンクを含み、放射区分は、熱分解反応を可能にする温度まで原料を加熱するように構成された少なくとも1つの放射コイルを備える火室を含み、冷却区分は、少なくとも1つの伝達管路交換器を含む。
【0027】
スチームクラッキング施設の加熱の概念を完全に又は部分的に修正すること、即ち、燃料の燃焼によって生成される熱ではなく、電気エネルギーによって生成される熱を完全に又は部分的に使用することは、かなり大幅な介入である。代替として、特に、既存の施設を改造する場合、あまり侵襲的ではない再設計オプションが望ましいことが多い。これらには、例えば、プロセス・ガス圧縮器又は異なる圧縮器の駆動に使用される蒸気タービンを、少なくとも部分的に電気駆動に代えることを含み得る。前述のように、そのような蒸気タービンは、クラッキング炉の対流区分内で回収された廃熱により生成した蒸気で部分的に動作し得るが、十分な蒸気量を供給するため、典型的には、燃焼蒸気ボイラを更に設けなければならない。したがって、上述した圧縮器の駆動に使用される蒸気タービンを、電気駆動に少なくとも部分的に代えることは、燃焼ボイラの負荷を低減又は回避し、これにより、局所的な二酸化炭素の排出を低減するのに適していることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/116543号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/172814号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第3075704号明細書
【特許文献4】国際公開第2020/150244号
【特許文献5】国際公開第2020/150248号
【特許文献6】国際公開第2020/150249号
【特許文献7】国際公開第2020/035575号
【特許文献8】国際公開第2015/197181号
【特許文献9】欧州特許出願公開第3249028号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第3249027号明細書
【特許文献11】国際公開第2014/090914号
【特許文献12】独国特許出願公開第2362628号明細書
【特許文献13】独国特許出願公開第1615278号明細書
【特許文献14】独国特許第710185号明細書
【特許文献15】独国特許出願公開第3334334号明細書
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、2009年4月15日、オンライン出版、DOI:10.1002/14356007.a10_045.pub2内の項目「エチレン」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
しかし、以下で更に説明するように、特に、そのような施設の部分の電化は、施設全体の熱平衡に著しい影響を及ぼす。即ち、圧縮器を駆動する蒸気タービンを電気駆動に代えた場合、以前は蒸気タービンの駆動のために使用された、施設内で生成される廃熱をもはや十分に利用することができない。もう一方で、燃焼炉を電気炉に代えた場合、以前は蒸気の供給、フィードの加熱等のために使用された煙道ガスからの廃熱は、利用が可能でなくなる。
【0031】
言い換えれば、スチームクラッキング部分の任意の二酸化炭素排出部分を代えることは、施設の全体動作に大幅な影響を及ぼすものであり、単に、1つの構成要素を別の構成要素を交換するという問題ではない。したがって、スチームクラッキング施設へのそのような構成要素の効率的で効果的な統合は、全体的な施設設計のため、特にエネルギー管理に関して、最も重要な事項である。したがって、このことが本発明の目的である。
【0032】
本発明は、これに関連して、特に、燃焼スチームクラッキング炉が、電気加熱スチームクラッキング炉によって代えられる状況に関し、このため、生成され、蒸気タービン又は他の回転機器等の蒸気消費器が利用可能な蒸気は、実質的により少なくなるか又はなくなる。本発明は、詳細には、スチームクラッキング施設の「完全電化」が実現される状況に関する。そのような状況において、上述のように、適合された動作モードを発見しなければならない。というのは、従来の良好な平衡の蒸気生成及び消費の状況が、ほぼ完全に変更されるためである。
【課題を解決するための手段】
【0033】
この背景に対して、本発明は、独立請求項の特徴を有するスチームクラッキングのための方法及びシステムを提案する。本発明の実施形態は、従属請求項及び以下の説明の主題である。
【0034】
本発明の特徴及び利点を更に説明する前に、本明細書で使用される一部の用語を更に説明する。
【0035】
用語「プロセス蒸気」は、炭化水素フィードがスチームクラッキングを受ける前、炭化水素フィードに加えられる蒸気を指すものとする。他の用語では、プロセス蒸気は、対応するフィードの一部である。したがって、プロセス蒸気は、一般に公知であるスチームクラッキング反応に関与する。プロセス蒸気は、特に、「プロセス水」の気化からの蒸気を含み、「プロセス水」とは、即ち、混合炭化水素/水流から、例えば、スチームクラッキング炉から回収されたプロセス・ガスから、又はプロセス・ガスの留分から、特に、容器/コアレッサ、脱酸素化ユニット内の重力分離によって、又はフィルタの使用により、事前に分離した水である。
【0036】
「プロセス・ガス」は、ガス混合体であり、スチームクラッキング炉に通され、その後、クエンチング、圧縮、冷却及び分離等の処理ステップを受ける。プロセス・ガスは、スチームクラッキング炉に供給される場合、スチームクラッキングを受ける蒸気及びエダクト炭化水素を含み、即ち、スチームクラッキングにかけられる「フィード流」も、本明細書ではプロセス・ガスとも呼ばれる。識別が必要な場合、プロセス・ガスは、「スチームクラッキング炉に導入されるプロセス・ガス」及び「プロセス・ガス・エフルエント」又は同様のもの等の言い回しによって示される。スチームクラッキング炉を離れる際、プロセス・ガスは、クラッキング生成物中で富化され、特に、抽出炭化水素中で枯渇される。後続の処理ステップの間、プロセス・ガスの組成は、例えば、プロセス・ガスから分離される留分のために、更に変化し得る。
【0037】
用語「高純度蒸気」は、プロセス蒸気とは対照的に、浄化ボイラ給水の気化から生成される蒸気を指すものとする。高純度蒸気は、典型的には、VGB-S-010-T-00又は同様のもの等、当技術分野で通例の規格によって指定される。高純度蒸気は、典型的には、プロセス水から生成される蒸気を含まない。というのは、プロセス水は、典型的には、プロセス・ガスからのいくつかの更なる成分を含有するためである。
【0038】
用語「フィード炭化水素」は、スチームクラッキング炉において、プロセス・ガス中でスチームクラッキングを受ける少なくとも1つの炭化水素を指すものとする。用語「ガス・フィード」が使用される場合、フィード炭化水素は、支配的又は排他的に、分子ごとに2から4個の炭素原子を有する炭化水素を含む。対照的に、用語「液体フィード」は、支配的又は排他的に、分子ごとに4から40個の炭素原子を有する炭化水素を含むフィード炭化水素を指すものとし、「重フィード」は、この範囲の上端にある。
【0039】
用語「電気炉」は、概して、クラッキング・コイル内でのプロセス・ガスの加熱に必要な熱が、支配的又は排他的に、電気によって供給されるスチームクラッキング炉のために使用し得る。そのような炉は、有線接続及び/又は誘導送電のいずれかを介して、電力供給システムに接続される1つ又は複数の電気加熱デバイスを含み得る。加熱デバイス材料の内側では、印加された電流が、ジュール加熱による体積熱源を生成している。クラッキング・コイル自体を電気加熱デバイスとして使用する場合、放出された熱は、対流-伝導伝熱によってプロセス・ガスに直接伝達される。個別の電気加熱デバイスを使用する場合、ジュール加熱によって放出される熱は、まず、加熱デバイスからクラッキング・コイルに、好ましくは放射を介して、より小規模には、対流を介して、次に、クラッキング・コイルからプロセス・ガスに、対流-伝導伝熱によって、加熱デバイスからプロセス・ガスに間接的に伝達される。プロセス・ガスは、クラッキング炉に供給する前に様々な様式で予熱し得る。
【0040】
用語「燃焼炉」は、対照的に、概して、クラッキング・コイル内でのプロセス・ガスの加熱に必要な熱が、支配的又は排他的に、1つ又は複数バーナの使用による燃料の燃焼によって供給されるスチームクラッキング炉である。プロセス・ガスは、クラッキング炉に供給する前に様々な様式で予熱し得る。
【0041】
用語「ハイブリッド加熱概念」は、概して、スチームクラッキングにおいて、電気炉と燃焼炉との組合せが使用される場合に使用し得る。本発明の文脈において、単一のクラッキング・コイルが、1つの燃焼炉又は1つの電気炉に厳密に属することが好ましく見越される。即ち、各クラッキング・コイルは、排他的に電気エネルギーによって、又は排他的に燃焼によって加熱される。
【0042】
用語「支配的に」は、本明細書では、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は95%の比率又は含量を指し得る。
【0043】
本明細書で使用する用語「回転機器」は、圧縮器、送風器、ポンプ及び発電機から選択される1つ又は複数の構成要素に関連することができ、そのような回転機器は、電気モータ、蒸気タービン又はガス・タービン等の機械エネルギー源によって回転駆動である。
【0044】
「複数流熱交換器」は、特に、例えば最初に述べたUllmannの論文で述べられる「急冷交換器(TLE、transfer line exchanger)」の場合のように、冷却される媒体が複数の通路に通される熱交換器である。
【0045】
発明の利点
本発明者等の知る限り、電気加熱クラッキング炉に対する既存の文献は、電気コイル加熱区分自体の設計及び動作に限定されている。(予熱区分とクエンチ区分とを含む)完全炉構成への統合概念に関して入手可能な情報も、より広範なクラッカ施設構成への統合概念に関して入手可能な情報も、ほとんどない。このことは、上述の最近の公報、即ち、特許文献4、特許文献5及び特許文献6を除いて、当てはまる。
【0046】
前述のように、(以下、「スチームクラッキング装置」と呼ぶ)スチームクラッカへの電気炉の効率的で効果的な統合は、全体的な施設設計のため、特にエネルギー管理に関して、最も重要な事項である。大きな困難は、電気加熱炉が、上述のように、対流区域を特徴としないことにより生じる。このことは、既に述べたように、燃焼クラッキング炉において、熱入力全体の40から60%は、対流区域内で回収され、様々な目的で使用し得るため、重要である。
【0047】
本発明により提供される概念及び解決策は、電気炉システムを含むスチームクラッキング装置に必要な以下の任務及び要件を遂行することを意図し、この遂行に適している。
【0048】
-クラッキング・コイル内で、フィード炭化水素と蒸気とを予め混合したプロセス・ガス流を550から750℃の間の入口温度から、800から900℃の間の出口温度まで電気的に加熱し、これにより、燃焼クラッキング炉内で得られるクラッキング収率と同様のクラッキング収率又はこれより良好なクラッキング収率を達成すること。
【0049】
-20から150℃の間の典型的な供給温度から、550から750℃の間の上述のコイル入口温度までフィード炭化水素を予熱する、及び液体フィードの場合、フィード炭化水素を気化させる。フィード炭化水素の予熱及び気化は、プロセス蒸気の事前の追加を伴って又は伴わずに行われ、プロセス蒸気は、典型的には、130から200℃の間の温度でスチームクラッキング装置に供給される。
【0050】
-1つ又は複数の複数流熱交換器内で、クラッキング・コイル下流のプロセス・ガスを効果的に、かなり急速に、300から450℃の間(液体原料の場合)又は150から300℃の間(ガス原料の場合)の温度まで冷却し、プロセス・ガスからの熱回収を可能にする。
【0051】
-安全、確実で効率的な施設の稼働を保証するため、炉システムと残りのスチームクラッカ施設との間のエネルギー流の平衡を取る。
【0052】
本発明は、炉設計、装置及びそのような炉の設置作業の点で、プロセスの新たな解決策を提案する。概説すると、本発明は、「一部、大部分、又は排他的な電気炉を特徴とする低排出~ゼロ排出スチームクラッカにおいて、熱量の平衡をどのように取り、分散させるか?」の問題に対する解決策を提供する。
【0053】
既存の従来技術は、これらの任務をどのように同時に解決するかについての例を含まない。というのは、全ての燃焼炉の統合概念は、熱が高温煙道ガス流から回収される対流区域の存在に厳密に依拠するためである。
【0054】
以前の公報は、プロセス・ガス流からの熱を、例えば、フィード予熱又はプロセス蒸気生成のために回収、利用し得ることを示しているかもしれないが、スチームクラッカ施設及び隣接する化学コンビナートにおいて、使用可能なプロセス熱を他のプロセス熱消費器の資源にどのように供給するかに対する解決策は、提供されていない。蒸気を1次エネルギー・キャリアとしてこれ以上使用しない示唆はあったかもしれないが、施設内の全ての加熱の任務に電気が使用されたとしても、上述の熱供給問題は答えのないままである。上記は、些細な解決策というよりむしろ、エネルギー最適化からは程遠い。というのは、電気を低温での加熱目的で使用すると、著しいエクセルギーの損失をもたらすためである。従来技術の他の実施形態では、生成される蒸気は、発電機システムと結合された蒸気タービン内で電気を生成する目的で、強力に過熱される。このことも、問題のある解決策である。というのは、元は電気加熱反応器システム内で生成された蒸気から電気を生成すると、やはり、かなり高いエクセルギーの損失及び最適ではないリソース管理を引き起こすためである。
【0055】
本発明によれば、スチームクラッキング装置を使用するスチームクラッキング方法が提供され、スチームクラッキング装置は、対流区域を伴わない電気クラッキング炉を含み、クエンチ冷却列を更に含み、プロセス・ガス流は、少なくとも電気クラッキング炉及びクエンチ冷却列に通される。以下の説明において、装置、デバイス、流れ等に単数形で言及するが、本発明は、同様に、これらの項目のそれぞれを複数形で提供し得る実施形態を含み得ることに留意されたい。このことに関連して、流れは、必要に応じて、様々な成分から組み合わせ得る、又は様々な成分に分散し得る。
【0056】
本明細書では、「対流区域を伴わない」電気クラッキング炉に言及する場合、この電気クラッキング炉は、著しい量の典型的には500kWより多いプロセス熱が、煙道ガス流から連続的に回収される区域がないことに関係する。他の観点では、対流区域を伴わない電気クラッキング炉は、著しい量の典型的には500kWより多いプロセス熱を意図的に冷却し連続的に回収する煙道ガス流からの二酸化炭素排出を伴わないクラッキング炉である。しかし、炉システムは、プロセスの目的ではない二酸化炭素排出源、例えば、ガス排出煙突の出口における安全関連パイロット・バーナを特徴とする。しかし、これらは、著しく低量の一般には回収不可能な熱をもたらす。
【0057】
したがって、概して、電気クラッキング炉において、炭化水素クラッキング動作中、好ましくは、1000kW以下の熱量が顕熱としてプロセス・ガス流以外の流れに伝達され、この流れは、本発明による電気クラッキング炉に通されるか又はこれらから回収される。そのような他の流れは、例えば、高純度蒸気流とし得る。別様に表現すると、電気クラッキング炉内でプロセス・ガス以外の流れに伝達される前記熱は、プロセス・ガスに伝達される熱の5%以下又は3%以下とすることもできる。
【0058】
本発明によれば、クエンチ冷却列は、少なくとも2つの個別冷却段を備えるように動作し、冷却段の第1の段において、電気クラッキング炉から回収されるプロセス・ガス流の少なくとも一部は、30から175バールの間、詳細には60から140バールの間、より詳細には80から125バールの間の絶対圧力レベルで気化ボイラ給水に対して冷却され、冷却段の第2の段において、電気クラッキング炉から回収されるプロセス・ガス流の少なくとも一部は、プロセス・ガス流の生成に使用されるフィード炭化水素とプロセス蒸気との過熱混合体に対して冷却され、これにより、プロセス・ガス流は、350から750℃の間、詳細には400から720℃の間、より詳細には450から700度の間の温度まで加熱される。
【0059】
本発明特に好ましい実施形態によれば、蒸気生成装置は、スチームクラッキング装置と熱結合して動作し、スチームクラッキング装置の一部も形成することができ、蒸気生成装置を使用すると、30から175バールの絶対圧力の第1の圧力レベル及び第1の温度レベルにある少なくとも過熱高圧蒸気が生成され、第1の温度レベルより高い温度レベルにある蒸気は、実質的に生成されない。用語「蒸気が実質的に生成されない」は、この関連において、特に、蒸気生成装置内で生成される合計蒸気量の10%より少ない蒸気量を指す。
【0060】
更にこの実施形態によれば、第1の圧力レベル及び第1の温度レベルの過熱高圧蒸気は、少なくとも部分的に、第1の圧力レベルを下回る第2の圧力レベルまで断熱的及び等エントロピ的に膨張され、第2の圧力レベルは、過熱高圧蒸気の温度レベルが断熱及び等エントロピ膨張のみによって第2の温度レベルまで低下するように、特に、必ずではないが、20バールの絶対圧力を上回る。第1の温度レベルは、断熱及び等エントロピ膨張の間、20バールより多い中間圧力レベルに到達した各中間温度レベルが、断熱及び等エントロピ膨張の間、それぞれの中間圧力レベルにおいて蒸気の露点を上回る5から120Kの間、特に10から100Kの間、更に特に、20から80Kの間であるように選択される。言い換えれば、膨張蒸気は、本発明による第1の温度レベルを選択することによって、中度過熱レベルに保たれる一方で、同時に、20バールを上回る全ての中間圧力レベルの間、膨張プロセス全体を通して沸点曲線から十分な距離で保持される。沸点曲線は、2相領域に達し得る又は2相領域を少なくとも一時的に通過し得る場合のように、40バールより多い第1の圧力レベルから開始される膨張の場合、特に関連する。このことは、本発明により回避される。
【0061】
本実施形態によれば、炉システム内部の蒸気過熱レベルを制限すること、即ち、中度過熱を実施することは、炉システムから移出される蒸気流が、消費器へのプロセス熱の供給のみを意図する場合、かなり適している。用語「移出」は、この関連では、蒸気生成装置からの回収に関連し、システム全体からの回収には関連しないか、又は必ずしも関連しない。この蒸気は、蒸気過熱レベルが、例えば、蒸気搬送中に腐食をもたらし得る凝縮を防止するように本質的に選択されるため、「乾き」蒸気とも呼び得る。単なる断熱及び等エントロピ膨張によって、蒸気過熱の圧力は、上記温度レベルが観察される場合、位相変化を伴わずに、熱シンクが要求する圧力及び温度レベルまで低減し得る。場合によっては最小圧力、即ち、第2の圧力レベルまで下げられて加えられる断熱及び等エントロピ膨張がある場合、膨張中、20バールを上回る任意の中間圧力レベルにある蒸気流の露点限界は、既に上記で述べた範囲内にある。
【0062】
本発明の実施形態によれば、強力な蒸気過熱を回避することによって、(典型的には300℃より多い)より高温レベルでフィードを予熱するクエンチ熱の利用可能性を最大化し得る。以下で更に説明するように、電気蒸気過熱器を備える実施形態では、電気クラッキング炉への電気エネルギーの移入を最小化し得る。
【0063】
本発明は、少なくとも電気炉に関係する限り、(対流区域がないために)フィード予熱も蒸気過熱も煙道ガスに対して実施されないという点で、全ての公知の燃焼炉統合システムとは異なる。以前に提案された電気炉統合概念とは反対に、本発明は、1次エネルギー・キャリアとして、より詳細には、様々な温度レベルでのプロセス熱消費器に対する熱キャリアとして、蒸気を使用することを明示的に見越すものである。蒸気の生成及び移出条件は、スチームクラッカ施設及び隣接する化学コンビナート内部での熱分散が意図される目的に適合するように具体的に設計される。
【0064】
更に、飽和蒸気及び/又は中度過熱高圧蒸気並びに得られた凝縮液のみを使用して、フィード炭化水素、プロセス蒸気及びボイラ給水を約300℃の温度まで予熱する本発明による実施形態で使用されるトポロジは、電気炉内でこれらのプロセスの任務を遂行する本発明の解決策を表し、電気炉では、(燃焼炉とは異なり)煙道ガスからの更なる廃熱は利用可能ではない。これらの解決策は、炉で直接利用可能な熱媒体を使用するという利益を有し、これにより、管の必要を低減し、熱交換器内の温度差を小さく保つことによりエクセルギーの損失を最小化し、好ましくは、最大熱回収のために生成される凝縮液の過冷却を実施する。
【0065】
蒸気の使用をプロセス熱の目的のみに制限し、それに応じて蒸気パラメータを設定することによって、蒸気システムは、(圧力及び温度に関して)柔軟に動作でき、更に、例えば、動作中の蒸気過熱及び/又は圧力レベルを変化させることによって、一時的エネルギー緩衝として使用し得る。このことは、生成された蒸気が、蒸気条件の変動に対して蒸気ベースの熱交換器ほど耐性がない蒸気タービン内での発電に使用されないことによって促進される。電気エネルギーの移出の変更は、例えば、特定の熱交換器の制御される出口温度の設定点を修正することによって、様々な実施形態で様々に実現し得る。例えば図2に示し、以下で更に説明する実施形態では、そのような変更は、蒸気供給熱交換器X2の出口温度を低減することによって実現し、これにより、他の熱交換器及び/又は加熱コイルへの合計電気エネルギーの移出を増大させ、炉の同じ化学製品生成負荷を維持し得る。電気蒸気過熱を伴う実施形態では、変更は、負荷の変更によって簡単に行い得る。
【0066】
したがって、本発明によれば、好ましくは、1つ又は複数の蒸気生成装置によって生成される蒸気は、1MWより多いシャフト力を送出する蒸気タービン駆動装置内で使用されず、好ましくは、蒸気タービン又は上記で規定された他の回転機器内で全く使用されない。言い換えれば、本発明によれば、蒸気生成装置(複数可)からの蒸気が供給される蒸気タービン、及び少なくとも1MWより多いシャフト力を送出する蒸気タービンは、使用されない。
【0067】
第1の圧力レベル及び第1の温度レベルにおける、過熱高圧蒸気は、好ましくは、プロセス水から生成される蒸気を含まず、好ましくは、ボイラ給水から生成される蒸気のみを含む。したがって、過熱高圧蒸気は、好ましくは、蒸気で規定される高純度蒸気である。過熱高圧蒸気は、好ましくは、1つ又は複数のプロセス・ガス流の生成時には使用されない。即ち、過熱高圧蒸気は、スチームクラッキング反応に関与しない。
【0068】
言い換えれば、本発明によれば、中度過熱高純度蒸気流は、上述のように、対応する圧力レベル、即ち、第1の圧力レベルで生成され、任意の断熱及び等エントロピ膨張のために移出され、最小圧力、即ち、第2の圧力レベルまで下げられ、得られる膨張蒸気流の露点限界は、上記で既に述べた範囲内にある。
【0069】
本発明によれば、クエンチ冷却列として、好ましくは、1次クエンチ交換器と2次クエンチ交換器とを備えるクエンチ冷却列が使用され、1次クエンチ交換器は、冷却段の第1の段の少なくとも一部を実施するために使用され、2次クエンチ交換器は、冷却段の第2の段の少なくとも一部を実施するために使用され、又はその逆も同様である。対応する本発明の実施形態は、添付の図面を参照しながら具体的に更に説明する。
【0070】
本発明によれば、複数流熱交換器及び/又は電気蒸気過熱器を蒸気生成装置内で使用でき、複数流熱交換器において、電気クラッキング炉(複数可)から回収されるプロセス・ガス流から伝達された熱は、ボイラ給水流及び/又は過熱高圧蒸気の生成に使用される蒸気流に伝達される。更に、フィード炭化水素とプロセス蒸気との過熱混合体、即ち、次に分解されるプロセス流の生成に使用されるフィード炭化水素の少なくとも一部は、複数流熱交換器において電気クラッキング炉から回収したプロセス・ガス流の少なくとも一部を使用して予熱し得る。複数流熱交換器は、この場合、フィード-エフルエント交換器と呼ばれる。
【0071】
クエンチ冷却列として、プロセス・ガス流内に一続きに配置された3つ又は4つのクエンチ交換器を有する装置を備えるクエンチ冷却列を、本発明により使用し得る。クエンチ冷却列のうち、少なくとも1つをたった今述べた複数流熱交換器として設け得る。この一続きのうち、第1のクエンチ交換器及び第2のクエンチ交換器は、以前に説明した1次クエンチ交換器及び2次クエンチ交換器とし得る。熱は、そのような一連の3つ又は4つのクエンチ交換器の第3のクエンチ交換器内、及び存在する場合、第4のクエンチ交換器内で、ボイラ給水流及び/又は過熱高圧蒸気の生成に使用される蒸気流に伝達し得る。代替的に、一連の3つ又は4つのクエンチ交換器における最後のクエンチ交換器は、フィード炭化水素とプロセス蒸気との過熱混合体の生成、特に、電気蒸気過熱器が本発明の一実施形態内に設けられる場合にプロセス蒸気を既に含む混合体の生成に使用されるフィード炭化水素の少なくとも一部を予熱するために使用し得る。一連の3つ又は4つのクエンチ交換器における最後のクエンチ交換器は、以下、「3次」クエンチ交換器とも呼ばれ、一連の3つ又は4つのクエンチ交換器における最後から2番目のクエンチ交換器は、「中間」クエンチ交換器とも呼ばれる。この特定の呼称は、本明細書でより容易な参照のためだけに実施することに留意されたい。
【0072】
上記を一部繰り返すが、第1の圧力レベル及び第1の温度レベルにおける過熱高圧蒸気は、好ましくは、プロセス水から生成される蒸気を含まない、及び/又はボイラ給水から生成される蒸気のみを含み、このため、第1の圧力レベル及び第1の温度レベルにおける過熱高圧蒸気は、高純度過熱高圧蒸気としてもたらされる。更に、上記でも既に述べたように、好ましくは、1つ又は複数の蒸気生成装置によって生成される蒸気は、1MWより多いシャフト力を送出する蒸気タービン駆動装置内で使用されない。
【0073】
また、述べたように、スチームクラッキング装置は、本発明の特に好ましい実施形態によれば、蒸気生成の柔軟性及び本発明の使用の結果として可能になる異なる電気エネルギー量を使用して異なる動作モードで動作する。このように、本発明は、電力網の安定化のためにも使用し得る。
【0074】
本発明により提供されるスチームクラッキング・システム及びその好ましい実施形態に関連する更なる詳細に関する、上記の本発明の方法及びその好ましい実施形態に関連する説明を参照されたい。有利には、提案される装置は、以前により詳細に説明した実施形態の少なくとも1つの方法の実施に適合する。
【0075】
上記で述べたことを再度要約すると、本発明は、高度電化スチームクラッカ設計の文脈において、上記に挙げた全ての任務又は要件が、スチームクラッカ炉で遂行されることを保証する新規の概念を提案する。
【0076】
本発明の一実施形態により提供される、過熱高圧蒸気の過熱を制限する解決策は、特に、燃焼炉及びタービン駆動大型回転機械に基づく現在のスチームクラッカ設計の現在の最新技術を打開するものである。この技術選択は、高度電化スチームクラッカ設計の文脈において、かなり効率的な解決策を表す。
【0077】
実際、炉区分における(典型的には、炉出口において150Kより多い露点限界にある)高過熱圧力蒸気の生成という現在の慣例は、対流区分内に大量の廃熱エネルギーがあること、並びに蒸気タービン内で圧縮器及びポンプ又は発電機を駆動する蒸気の使用が可能であることによって至ったものである。タービン抽気部又はタービン出口から取られ、低減した圧力蒸気は、様々なレベルでプロセス熱を供給するために更に使用される。
【0078】
高度電化クラッカの分離列において、蒸気タービンの代わりに電気圧縮器駆動装置を使用すると、スチームクラッカ施設におけるエクセルギー損失の低減をもたらす。更に、分離列において高過熱高圧蒸気のこれ以上効率的な使用はない。したがって、過熱レベルの低減によって、本発明は、直接フィード-エフルエント交換器内で、又は間接的に、過熱高圧蒸気生成及びフィード予熱段内の蒸気の使用を介して、フィード炭化水素/プロセス蒸気混合体に必要な予熱のため、クエンチ区分内で回収される熱エネルギーの大部分を使用する。
【0079】
フィード予熱に使用するクエンチ熱の使用を最大化することによって、炉への電気エネルギーの合計移入は低減され、これにより、炉の動作費用を低減し、電力網への炉の統合を促進し、炉区分内の全体的なエクセルギーの損失を低減する。
【0080】
図示される実施形態のうち、1次クエンチ交換器が蒸気生成で使用される変形形態は、分解ガスを最も早く冷却し、反応をクエンチングする(湯沸による高い熱伝達係数)という利益をもたらす一方で、1次クエンチ交換器がフィード-エフルエント交換器として設計される変形形態は、電気エネルギーの移出が最小であるという利益をもたらす。
【0081】
本発明の一実施形態による所与の範囲内の中度過熱は、プロセス熱消費器への簡単で柔軟性のある熱供給を更に可能にする。というのは、異なる温度レベルでの消費器への分散が、炉によって移出される中度過熱蒸気の単相の断熱及び等エントロピ膨張によって単純に行うことができ、過熱低減のための更なるボイラ給水注入を伴う蒸気レベル全体のための降下ステーション及び/又はタービン段を必要としないためである。
【0082】
上記で述べたように、より低い温度での予熱は、管の分量を低減し、蒸気凝縮液の過冷却による最大限の熱回収を可能にする。
【0083】
動的挙動の点で、蒸気システムによる電気移入変化の平衡を取り、この変化の緩衝が可能であることで、好ましくは再生可能電気が供給される工業コンビナート内へのそのような炉システムの統合を促進する。
【0084】
本発明の更なる特徴及び実施形態は、以下に列挙する。全てのこれらの特徴及び実施形態は、特許請求の範囲によって包含される限り、技術的に実現可能又は分別のある限り、限定せずに、上記で説明した特徴及び実装形態と組み合わせ得る。
【0085】
-本発明は、好ましくは、1MWを上回る動力負荷を伴う全てのガス圧縮器又はポンプが電気モータによって駆動される分離列と組み合わされる。
【0086】
-移出される過熱高圧蒸気は、最も有利には、断熱及び等エントロピ膨張要素によって様々な蒸気圧力レベルに分散される。(例えば、重要なファウリング点検を伴う)単数の熱消費器は、(直接的な水の注入によって又は飽和ドラムの使用によって実施し得る)更なる過熱低減段を更に含み得る。
【0087】
-本発明による特徴を含むスチームクラッキング装置は、直接抵抗コイル加熱、電気加熱要素による間接放射コイル加熱、及び誘導送電を使用するコイル加熱等、任意の可能な電気加熱原理に従って動作し得る。スチームクラッキング装置は、電気エネルギーから蒸気を生成する他のユニット(例えば、電気熱ポンプ・システム及び電気ボイラ)を含み得る。
【0088】
-移出される加熱蒸気は、例えば、中圧蒸気消費器及び低圧蒸気消費器に供給するため、20バールの絶対圧力を下回る圧力蒸気レベルまで膨張させ得る。第2の圧力レベルのための20バールの絶対圧力の選択は、最初の蒸気過熱の曲線包絡線の定義を促進するように選択される。20バールの絶対圧力を下回る圧力まで膨張すると、本発明の範囲を限定するものではないが、より高い値の露点限界が生じ得る。
【0089】
-蒸気過熱/圧力の変更を通じた固有のエネルギー貯蔵の可能性に加えて、本発明は、専用エネルギー貯蔵システム、例えば、潜熱貯蔵システム又は同様のものと更に組み合わせ得る。
【0090】
本発明及び本発明の実施形態を添付の図面に関して更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1】本発明の一部を形成しない一実施形態の図である。
図2】本発明の実施形態の図である。
図3】本発明の実施形態の図である。
図4】本発明の実施形態の図である。
図5】本発明の実施形態の図である。
図6】本発明の実施形態の図である。
図7】本発明の実施形態の図である。
図8】本発明の実施形態の図である。
図9】本発明の実施形態の図である。
図10】本発明の実施形態の利点を示すグラフである。
図11】本発明の実施形態の利点を示すグラフである。
図12】本発明の実施形態の利点を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0092】
図1は、初めに既に説明した通りである。
【0093】
図2では、本発明の一実施形態によるスチームクラッキング装置2100が示され、スチームクラッキング装置2100は、本発明の一実施形態によるスチームクラッキング方法の実施に使用され、任意で、本発明によるシステムの一部である。スチームクラッキング装置を示す後続の図面の場合のように、方法の方法ステップも、対応するプロセス・ユニット又は使用されるデバイスによって実現でき、したがって、方法ステップに関連する説明は、そのようなプロセス・ユニット及びデバイスに同様に関連し、その逆も同様とし得る。説明の繰返しは、簡潔にする理由で省略されるにすぎず、本発明の実施形態による装置又はシステム及び方法を説明する言い回しの組合せは、明快にするために使用される。構成要素が単数形で説明される場合、この説明は、そのような構成要素が複数で提供されることを除外しない。以下に示される他のスチームクラッキング装置等、スチームクラッキング装置2100は、複数の更なる構成要素を含み得る本発明の一実施形態によるシステム200の一部とすることができ、システムの可能な境界線は、図2にかなり概略的に示すにすぎない。
【0094】
図2から図9において、濃い実線矢印は、炭化水素フィード流、プロセス蒸気流、プロセス・ガス流、又は分解流、及び炭化水素留分等、これらから形成される流れを示す。細かい点線矢印は、液体ボイラ給水流を示す一方で、破線矢印は、飽和高純度蒸気流を示し、一点鎖線矢印は、過熱高純度蒸気流を示す。凝縮液流は、一点二鎖線矢印で示す。
【0095】
スチームクラッキング装置2100は、電気スチームクラッキング炉210の使用を含み、電気スチームクラッキング炉210は、以前に概説したように、「電気コイルボックス」とも呼ぶ。対流区域は存在しない。
【0096】
特に、約185℃の温度にあるプロセス蒸気PSは、混合ノズルM内で、熱交換器X1内で予熱されるフィード炭化水素HCの蒸気と混合される。このように生成されたプロセス流PRは、熱交換器X2内で、特に約300℃の温度まで更に加熱される。熱交換器X1及びX2は、特に、プロセス蒸気PSが熱交換器X1の上流に追加される場合、結合することもできる。
【0097】
4つのクエンチ交換器21、22、22a及び23は、電気スチームクラッキング炉210の下流のプロセス・ガス経路内に一続きに配置され、スチームクラッキング装置2100のクエンチ冷却列20を形成する。前述のように、参照する目的のみで、この一続きの第1のクエンチ交換器21及び第2のクエンチ交換器22は、上記した1次クエンチ交換器及び2次クエンチ交換器でとし得る。一続きの最後のクエンチ交換器23は、3次クエンチ交換器と呼ぶこともでき、一続きの最後から2番目のクエンチ交換器22aは、中間クエンチ交換器と呼ぶこともできる。代替的に、クエンチ交換器21及びクエンチ交換器22aの両方を2次クエンチ交換器と呼び得る。
【0098】
プロセス流PRは、電気加熱器E1内で特に約660度の温度まで更に加熱され、電気スチームクラッキング炉210にフィード流として供給される前、クエンチ交換器22内で予熱される。ここでは明確にするためにPEと示される分解ガスとしてのプロセス流は、クラッキング炉210から回収され、クエンチ交換器21、22、22a及び23に通される。電気スチームクラッキング炉210からのプロセス流PEエフルエントは、特に約840℃の温度で電気スチームクラッキング炉210から回収され、クエンチ交換器21から特に約550℃の温度で回収され、クエンチ交換器22から特に約340℃の温度で回収され、クエンチ交換器23から特に約200℃の温度で回収される。
【0099】
その後、プロセス流PEは、図2のみに示されるように、本発明の一実施形態による、圧縮器60、特に、電気モータMによって駆動されるプロセス・ガス圧縮器内の圧縮を含む任意の種類の処理を受け得る。更なる詳細については、上記の説明を参照されたい。特に、全ての又は本質的に全ての圧縮器が電気的に駆動される分離列が設けられる。
【0100】
蒸気生成装置30が設けられ、蒸気生成装置30は、蒸気ドラム31と、蒸気の生成に使用される他の構成要素とを含む。概して、本明細書の全体を通して、主に、特定の機能と共に説明される1つの装置に属する構成要素又は構成要素の群を参照する場合、このことは、相互接続部分を備える施設では典型であるように、この構成要素が、更に、追加の又は異なる機能を有する異なる装置又は構成要素の群の一部ではないことを除外しない。例えば、クエンチ交換器21、クエンチ交換器22及びクエンチ交換器23は、本明細書では、クエンチ冷却列20の一部として説明されるが、これらは、蒸気生成装置30にも統合し得る。
【0101】
点線矢印でも示されるボイラ給水BFは、蒸気ドラム31に供給される前、熱交換器X3内で特に約180℃の温度レベルまで加熱され、クエンチ交換器23内で特に約290℃の温度まで加熱され、蒸気ドラム31から、ボイラ給水BF流は、クエンチ交換器21にも通され、気化される。鎖線矢印でも示され、蒸気ドラム内で生成され、特に約325℃の温度及び特に約122バールの絶対圧力の圧力レベルで供給し得る飽和蒸気SSは、部分的に、熱交換器X2、X3及びX1を動作させるために使用でき、熱交換器X2において、凝縮液COが生成され、凝縮液COは、熱交換器X3及びX1内で過冷却される。
【0102】
飽和蒸気SSの残りの部分は、クエンチ交換器22a内で過熱され、一点鎖線矢印でも示される(中度)過熱高圧蒸気SUを生成する。過熱高圧蒸気SUのパラメータは、以前に広範囲に説明してある。図示の実施形態では、このパラメータは、約375℃の温度及び約121バールの絶対圧力を有し得る。参照の目的のみで50で示される蒸気利用装置において、過熱高圧蒸気SUは、加熱の目的で使用されるが、好ましくは、回転機器の駆動の目的では実質的に使用されない。本明細書では、過熱高圧蒸気SUは、膨張ユニット51、52、53を使用して断熱的及び等エントロピ的に膨張され、熱消費器54、55、56に供給される高圧蒸気HP、中圧蒸気MP及び低圧蒸気LPを生成する。全ての炉から移出される蒸気(高圧蒸気又は超高圧蒸気)は、対応する蒸気ヘッダ、即ち、蒸気を施設上で様々な消費器に分散させる大容量の管システム内で収集し得る。より下側の圧力蒸気ヘッダへの供給接続は、この最も高い圧力蒸気ヘッダから行われる。従来の施設において、そのような蒸気ヘッダは、炉の出口における蒸気移出圧力をわずかに下回る、(タービンの動作のために)おおよその一定圧力で動作する。本発明の実施形態によれば、この最も高い圧力蒸気ヘッダの圧力レベルは、有利な緩衝効果を達成するように、より広範囲に変更し得る。
【0103】
図2に対する説明及び図示のスチームクラッキング装置2100を要約すると、プロセス・ガスPEは、(クエンチ交換器21内の)第1の段において、最新技術の燃焼炉と同様に、気化ボイラ給水BFに対して急速に、効果的に冷却される。(クエンチ交換器22内の)第2の段において、プロセス・ガスPEは、プロセス・ガスPRに対してフィード-エフルエント交換器内で冷却され、プロセス・ガスPRは、電気クラッキング炉11に供給される前に予熱される。図2に示す実施形態では、クエンチ交換器22aは、プロセス・ガスPEを冷却するように設ける一方で、クエンチ交換器21内で生成された飽和蒸気SSの一部分を中度に過熱し得る。
【0104】
図3において、本発明の一実施形態による更なるスチームクラッキング装置2200が示される。概して、図1によるスチームクラッキング装置2100に関連する説明は、図3によるスチームクラッキング装置2200にも同様に適用され、相違点のみを以下で説明する。
【0105】
図3によるスチームクラッキング装置2200において、クエンチ交換器22aは省略され、電気蒸気過熱器E2が代わりに設けられる。プロセス・ガスPEは、ここでは、特に約340℃の温度でクエンチ交換器22から回収される。
【0106】
図4において、本発明の一実施形態による更なるスチームクラッキング装置2300が示される。概して、図2によるスチームクラッキング装置2100に基づく、図3によるスチームクラッキング装置2200に関連する説明は、図4によるスチームクラッキング装置2300に適用され、相違点のみを以下で説明する。
【0107】
図4によるスチームクラッキング装置2300において、やはり、クエンチ交換器22aは存在せず、代わりに、電気蒸気過熱器E2が設けられる。図4によるスチームクラッキング装置2300において、電気加熱器E1も省略される。更に、熱交換器X2内で加熱されるプロセス・ガス流PRは、クエンチ交換器21内で更に加熱され、蒸気ドラム31は、クエンチ交換器22と接続される。
【0108】
電気スチームクラッキング炉210からのプロセス・ガスPEのエフルエントは、クエンチ交換器22から特に約340℃の温度で回収される。プロセス流PEは、特に約525℃の温度でクエンチ交換器21から回収される。
【0109】
したがって、図4に示す実施形態では、最初の2つのクエンチング段は逆にされ、このことは、エフルエント・プロセス・ガスPEが、予熱されるフィード・プロセス・ガスPRに対して最初に冷却され、次に、気化ボイラ給水BFに対して冷却されることを意味する。そのような実施形態では、電気フィード予熱器の必要はない。というのは、クエンチ交換器21内で十分に高い予熱温度に到達し得るためである。移出される高圧蒸気は、やはり、中度に過熱され、図2及び図3からの両方の変形形態は、蒸気の過熱に使用し得る。
【0110】
図2から図4の全ての3つの実施形態は、最も好ましくは大部分がエタンから構成される軽い(ガス)原料で動作する電気クラッキング炉210用に特別に設計されている。したがって、全ての3つの実施形態は、クエンチ交換器23を特徴とし、クエンチ交換器23は、今日の産業の慣例に従って、分解ガスを200℃に至る温度まで更に冷却する一方で、特に、蒸気ドラム31へのボイラ給水を予熱する。
【0111】
更に、プロセス流を生成するために混合した後、熱交換器X2内の飽和蒸気を使用することによって、炭化水素フィードHC及びプロセス蒸気PSの(300℃を下回る温度レベルでの)最初の予熱が行われる。得られた高圧凝縮液COは、上述の他の予熱段内で更に使用し得る。
【0112】
図5において、本発明の一実施形態による更なるスチームクラッキング装置2400が示される。概して、図2によるスチームクラッキング装置2100に対する説明に基づく、図3によるスチームクラッキング装置2200に関連する説明は、図5によるスチームクラッキング装置2400にも同様に適用され、相違点のみを以下で説明する。
【0113】
図5によるスチームクラッキング装置2400において、やはり、クエンチ交換器22aは存在せず、電気蒸気過熱器E2が代わりに設けられる。ここでは、過熱蒸気SSの一部の代わりに、過熱蒸気SUの一部が熱交換器X3に供給される。したがって、プロセス流PRは、特に、特に約330℃の温度まで熱交換器X2内で加熱でき、このため、クエンチ交換器22内で回収される熱は、より少なく、クエンチ交換器22内で冷却されるプロセス流PEエフルエントは、特に370℃の温度でクエンチ交換器22から回収される。
【0114】
図5の実施形態は、以前に示した実施形態の代替として、中度過熱蒸気SUを、プロセス流PRの生成後、炭化水素フィードHC及びプロセス蒸気PSの最初の予熱を確実にするためにも使用し得ることを特に示す。
【0115】
図6において、本発明の一実施形態による更なるスチームクラッキング装置2500が示される。概して、図2によるスチームクラッキング装置2100の主な構成要素に関連する説明は、図6によるスチームクラッキング装置2500にも適用されるが、いくつかの相違点が存在し、これらの相違点を以下で説明する。
【0116】
図6によるスチームクラッキング装置2500において、特に約185℃の温度にあるプロセス蒸気PSは、上記のように、混合ノズルM内でフィード炭化水素HCと混合され、特に約120℃の温度でプロセス流PRを生成する。プロセス流PRは、電気スチームクラッキング炉210に供給される前、クエンチ交換器23内で特に約280℃の温度まで更に加熱され、クエンチ交換器21内で、以前のように、特に約660℃の温度まで更に加熱される。プロセス・ガスPEのエフルエントは、特に約840℃の温度で電気スチームクラッキング炉210から回収され、特に約510℃の温度でクエンチ交換器21から回収され、特に約340℃の温度でクエンチ交換器22(更なるクエンチ交換器22aは存在しない)から回収され、特に約200℃の温度でクエンチ交換器23から回収される。
【0117】
ボイラ給水BFは、クエンチ交換器22と接続される蒸気ドラム31に供給される。飽和蒸気SSは、約122バールの絶対圧力の圧力レベルで、約325℃の温度で生成し得る。飽和蒸気SSは、電気加熱器E2内で過熱され、上記のパラメータを有する過熱蒸気SUを生成する。
【0118】
図6に示される実施形態は、プロセス流PRの生成後、炭化水素フィードHC及びプロセス蒸気PSの最初の予熱を確実にするという更なるオプションを含み、クエンチ交換器23は、フィード-エフルエント交換器として設計されている。この可能性は、例えば図2図3及び図5等に示される実施形態とも組み合わせ得る。
【0119】
図7において、本発明の一実施形態による更なるスチームクラッキング装置2600が示される。概して、図2によるスチームクラッキング装置2100に対する説明に基づく、図3によるスチームクラッキング装置2200に関連する説明は、図7によるスチームクラッキング装置2600にも同様に適用され、相違点のみを以下で説明する。
【0120】
図7によるスチームクラッキング装置2600において、クエンチ交換器23は存在せず、オイル・クエンチ25が代わりに使用される。したがって、ボイラ給水BFは、蒸気ドラム31に通される前、熱交換器X3内でのみ、特に約260℃の温度まで加熱される。更なる熱交換器X4が設けられ、混合ノズルM内でプロセス蒸気PSと混合する前にフィード炭化水素を更に加熱する。プロセス蒸気PSは、同様に、更なる熱交換器X5内で事前に加熱される。熱交換器X2、X4及びX5は、飽和蒸気SSにより動作し、凝縮液流は、以前に説明したように、熱交換器X1及びX3内で使用される前に収集される。
【0121】
図7によるスチームクラッキング装置2600において、プロセス蒸気PSは、最初に、特に約180℃の温度で供給される。熱交換器X2の下流のプロセス流PRの温度は、特に約300℃である。電気加熱器E1内での加熱は、特に、約630℃の温度まで実施される。プロセス・ガスPEのエフルエントは、特に約870℃の温度で電気クラッキング炉210から回収され、特に約600℃の温度でクエンチ交換器21から回収され、特に約390℃の温度で第1のクエンチ交換器22から回収され、特に約380℃の温度でクエンチ交換器22aから回収され、更なる適切な温度でオイル・クエンチ25から回収される。蒸気ドラム21内で生成される飽和蒸気は、特に約122バールの絶対圧力の圧力レベル及び特に約325℃の温度で供給される。クエンチ交換器22aの下流の過熱高圧蒸気SUは、特に約121バールの絶対圧力の圧力レベル及び特に約380℃の温度で供給される。
【0122】
図8において、本発明の一実施形態によるによる更なるスチームクラッキング装置2700が示される。概して、図2によるスチームクラッキング装置2100に基づく、図7によるスチームクラッキング装置2600に関連する説明は、図8によるスチームクラッキング装置2700に適用され、相違点のみを以下で説明する。
【0123】
図8によるスチームクラッキング装置2700において、プロセス蒸気PSは、第1の混合ノズルM1及び第2の混合ノズルM2内でフィード炭化水素HCに連続的に混合され、第2の混合ノズルM2内で混合されるプロセス蒸気PSは、更なる電気加熱器E3内で更に加熱される。
【0124】
代替プロセス変形形態として、図7及び図8は、液体原料及び重液体原料のそれぞれに対して動作する電気炉210に適用される、本発明の例示的実施形態を示す。そのような実施形態では、燃焼液体原料炉と同様に、クエンチ交換器23はない。フィード予熱区分は、典型的には、より複雑であり、例えば、更なるフィード予熱段(重液体原料のための電気プロセス蒸気過熱器の使用を含む図7及び図8を参照)並びに/又は複数流熱交換器における1つ若しくは複数のプロセス蒸気過熱段を特徴とする。とはいえ、図7及び図8に示される実施形態は、図2に示される実施形態への簡単な適合である。したがって、図3から図5に示される実施形態によって提示される変形形態は、同様に、図7及び図8に示される液体フィード炉が図2のガス・フィード炉に適用されるので、図7及び図8に示される液体フィード炉にも適用し得る。
【0125】
図9において、本発明の一実施形態による更なるスチームクラッキング装置2800が示される。概して、図2によるスチームクラッキング装置2100に対する説明に基づく、図8によるスチームクラッキング装置2700に関連する説明は、図9によるスチームクラッキング装置2800にも同様に適用され、相違点のみを以下で説明する。
【0126】
図3によるスチームクラッキング装置2200と同様に、やはり、クエンチ交換器22aは省略され、電気蒸気過熱器E2が代わりに設けられる。例示的変形形態として、図9は、図4に示されるガス・フィード変形形態と同様の重液体フィード炉のためのプロセス変形形態を示す(クエンチ交換器21は、フィード-エフルエント交換器として設計される)。
【0127】
図10において、水の場合のモリエ(エンタルピ/エントロピ)線図が示され、エントロピsは、kJ/(K×kg)単位で水平軸上に表示され、エンタルピhは、kJ/kg単位で垂直軸上に表示される。本発明の一実施形態により使用される中度過熱は、点71で示される一方で、従来技術により使用される高過熱は、点72で示される。断熱及び等エントロピ膨張は、本発明及び本発明の実施形態により実施され、蒸気が加熱目的でのみ使用されることを意図とする場合の弁又はレデューサの状態変化を特徴とし、点71から開始される矢印で示される一方で、ポリトロープ膨張は、本発明ではなく、従来技術により実施され、蒸気が、加熱目的で使用する前に、まず機械的な目的で使用されることを意図する場合の蒸気タービンの状態変化を特徴とし、点72から開始される矢印で示される。
【0128】
本発明によれば、単なる等エントロピ膨張によって、圧力は、位相変化を伴わずに、熱消費器が必要とする圧力及び温度まで低減し得る。(380℃及び120バールの絶対圧力での支持点を特徴とする)そのような等エントロピ状態変化の例示的な温度展開曲線81は、20から160バールの絶対圧力の間の圧力範囲で、(+20K及び+80Kの露点限界を有する)対応する最も好ましい曲線包絡線82及び83と共に、図11に示される。図11において、バール単位の絶対圧力が水平軸に示され、℃単位の温度は、垂直軸に示される。
【0129】
同じ例示的等エントロピ曲線81に対応する露点限界は、同じ圧力範囲で図12に示される。図12において、再度、バール単位の絶対圧力が水平軸に示される一方で、K単位の温度差値は、垂直軸に示される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】