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特表2024-511749工業用プラスティシンおよびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-15
(54)【発明の名称】工業用プラスティシンおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   B28C 1/00 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
B28C1/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023556857
(86)(22)【出願日】2021-03-15
(85)【翻訳文提出日】2023-09-14
(86)【国際出願番号】 EP2021025104
(87)【国際公開番号】W WO2022194336
(87)【国際公開日】2022-09-22
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523462907
【氏名又は名称】ステッドラー ソシエタス ヨーロピア
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス ナハトマン
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ヘルニング
【テーマコード(参考)】
4G056
【Fターム(参考)】
4G056AA03
4G056AA23
4G056BA07
(57)【要約】
主クレーム:少なくともバインダーとフィラーとからなるプラスティシンであって、該プラスティシンが、少なくとも1種の界面活性剤を含むことを特徴とする、プラスティシン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともバインダーとフィラーとからなるプラスティシンであって、前記プラスティシンが、少なくとも1種の界面活性剤を含むことを特徴とする、プラスティシン。
【請求項2】
前記界面活性剤の含有量が、前記プラスティシン中で0.10~4.0重量%、好ましくは0.15~3.0重量%、特に好ましくは0.20~2.0重量%であることを特徴とする、請求項1記載のプラスティシン。
【請求項3】
前記界面活性剤が、両親媒性分子の群からのものであり、
前記両親媒性分子が、疎水性領域と少なくとも1つの親水性領域とを有し、
前記界面活性剤の前記疎水性領域が、8~34個の炭素原子を含むアルキル基からなることを特徴とする、請求項1または2記載のプラスティシン。
【請求項4】
前記界面活性剤の疎水性領域が、14~18個の炭素原子を含むアルキル基からなることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載のプラスティシン。
【請求項5】
前記界面活性剤が、非イオン性、アニオン性、カチオン性および/または両性界面活性剤として存在することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載のプラスティシン。
【請求項6】
前記界面活性剤が、親水性領域を有し、
非イオン性界面活性剤の前記親水性領域が、脂肪アルコール、脂肪酸、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールまたはグリコシドに由来するアルコール、カルボン酸エステル、アミドまたはエーテルを含み、
アニオン性界面活性剤の前記親水性領域が、カルボキシレート、スルホネート、スルフェートおよびホスフェートを含み、
カチオン性界面活性剤の前記親水性領域が、第四級アンモニウム化合物を含み、
両性界面活性剤の前記親水性領域が、第四級アンモニウム化合物、カルボキシレート、スルホネート、スルフェート、スルホアセテートおよび/またはアミドベタインを含むことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載のプラスティシン。
【請求項7】
前記プラスティシンが、
【表1】
を含むことを特徴とする、請求項1記載のプラスティシン。
【請求項8】
自動車製造におけるデザインモデルを製造するための、請求項1記載のプラスティシンの使用。
【請求項9】
自動車製造におけるデザインモデルを製造するための、請求項1記載のプラスティシンの使用であって、前記モデルが、前記プラスティシンの機械的施与と余分なクレイの機械的除去とによって製造されているものとする、前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスティシンあるいは工業用プラスティシンおよびその使用に関する。
【0002】
成形およびモデリング用のプラスティシンあるいはクレイは、原理的に知られている。ここで、例えば、鉱物系および有機フィラーおよびバインダーから構成される混合物が使用される。
【0003】
このようなプラスティシンあるいはクレイまたはスタイリングクレイは、自動車のモデリングに使用されている。
【0004】
自動車メーカーの設計工程用のクレイは、満足のいく作業結果を得るために、複数の特性/パラメータを有していなければならない。モデルを作製するために、クレイはまず加熱オーブンで約60℃の温度に加熱され、次いで手作業または機械で下地構造体に施与される。これを可能にするために、このような材料は、塑性変形可能でありかつ低い貫入硬度を有する必要がある。下地構造体へのクレイの施与後、クレイは冷え始め、それに伴って硬度が上昇する。この硬度の上昇は、60℃から室温の間に液体から固体へ相転移するクレイの成分によって引き起こされる。このような成分は、ワックスおよび/またはワセリンとして存在し得る。例えば、クレイの冷却中にワックスの固化範囲に達すると、表面のワックスはますます脆くなり始める。この変化は、サンプルを60℃でオーブンから取り出し、表面に顕著な亀裂形成が生じるまで手で混練することにより確認することができる。ここで、欠点は、表面的に脆いクレイを下地構造体あるいはモデル上に施与して均質な層を得ることがもはやできないと見られる点である。
【0005】
この可能な処理の期間は、施与時の時間範囲または可鍛性の持続時間と呼ばれる。
【0006】
今や室温まで冷却されたクレイのさらなる加工工程は、切削加工である。この加工は、まず機械的にフライスにより、次いで手作業で行われ、次第に微細化する平削り、スクレイパーおよびばね鋼片製の刃を用いて行われる。切削プロセスを可能にするためには、クレイは室温で高い貫入硬度を有しなければならない。特に刃物による微細加工では、妨害的な特性が現れる。例えば、刃をクレイ表面上で繰り返し引くと、すでに除去された切屑が表面に入り込む。いわゆる「スミア」が生じるが、これは使用するクレイによって発生頻度や大きさが異なり、表面品質に好ましくない影響を与える。
【0007】
設計所で使用する場合、クレイが加熱キャビネット内に残る時間は様々であり、数時間の加熱段階後にすでに加工が可能である。加熱キャビネットには、モデルを後加工するための少量のクレイの一部が数週間貯蔵される。したがって、クレイが60℃で良好な貯蔵安定性を有することが重要であり、すなわち、クレイは液相の浸出を示してはならず、表面に表皮を形成してはならず、貫入硬度の変化はわずかでなければならない。
【0008】
例えば、独国実用新案第29720344号明細書から、コンシステンシーを付与するフィラーとしての亜鉛石鹸、フィラーとしてのカオリン、ワセリン、マイクロワックス、パラフィン、ホワイトオイルおよび着色剤に加えて中空微小球をも含むデザインモデリング用のクレイが知られている。先行技術によるこのようなクレイの欠点は、これらの材料では、施与時の時間範囲が短すぎると、低温状態での粘性が上昇し、さらに、モデルの除去加工で生じる切屑がスミアの傾向を有することであることが判明している。
【0009】
したがって、本発明の課題は、前述の欠点を有しないプラスティシンあるいは工業用プラスティシンを創作することである。特に、低温状態で低い粘性を示すと同時に、スミアを示す切屑の数および大きさを減少させることができるプラスティシンを創作し、その際、プラスティシンの低貫入硬度、施与時の良好な層密着性、および施与時の広い時間範囲(=可鍛性)などの良好な特性が損なわれることなく、その改善に寄与することが課題である。
【0010】
前述の課題は、請求項1、9および10に含まれる特徴によって解決される。本発明による材料の有利な構成および発展形態は、さらなる請求項に含まれる。
【0011】
驚くべきことに、プラスティシンの成分として界面活性剤を添加することにより、貫入硬度を低下させ、かつ施与工程の時間範囲を広げることができることが判明した。ここで、界面活性剤の割合がプラスティシン中で0.1~4.0重量%であれば、提起された課題が解決されることが判明した。好ましい一実施形態では、0.15~3.0重量%の界面活性剤がプラスティシン中に含まれている。0.20重量%~2.00重量%の含有量が特に好ましい。驚くべきことに、使用される界面活性剤の効果が全範囲にわたって観察できることが判明した。
【0012】
例えば60℃での貫入硬度が低いということは、プラスティシンが施与時に流動し易く、したがって分配に必要な力が少ないことを意味する。
【0013】
界面活性剤としては、例えば、1-ヘキサデカノール、ミリスチン酸とミリスチルアルコールとのエステル、(C16~C18)脂肪アルコールポリグリコールエーテル、ジステアリン酸ポリグリセリンおよび/またはオキシエチル化ステアリン酸ポリグリセリンエステルなどの非イオン性界面活性剤が例示的に挙げられる。
【0014】
総じて、本発明により使用される界面活性剤は、少なくとも1つの疎水性領域と少なくとも1つの親水性領域とを有する両親媒性分子の上位概念に包含される。界面活性剤の疎水性領域は、8~34個、特に14~18個の炭素原子を有するアルキル基からなる。この領域は、カルボン酸あるいはアルカノールに属し得る。
【0015】
例えば上記で例示的に挙げられた非イオン性界面活性剤のような親水性領域には、アルコール基、カルボン酸エステル基および/またはエーテル基が存在する。界面活性剤のこの領域は、脂肪酸あるいは脂肪アルコール、またはグリセリンあるいはエチルグリコールにも由来する。
【0016】
また、親水性領域が異なる他の非イオン性、アニオン性、カチオン性および/または両性界面活性剤を使用することもできる。その場合、これらの界面活性剤の親水性領域は、以下のように構成されて存在する。
【0017】
1)非イオン性界面活性剤:脂肪アルコール、脂肪酸、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールまたはグリコシドに由来するアルコール、カルボン酸エステル、アミドまたはエーテルを含む;
2)アニオン性界面活性剤:カルボキシレート、スルホネート、スルフェートおよびホスフェートを含む;
3)カチオン性界面活性剤:第四級アンモニウム化合物を含む;
4)両性界面活性剤:第四級アンモニウム化合物、カルボキシレート、スルホネート、スルフェート、スルホアセテートおよび/またはアミドベタインを含む;
【0018】
個々の界面活性剤群については、例示的に以下のものが挙げられる:
- 非イオン性界面活性剤:ステアリン酸サッカロースおよび
- N-(2-ヒドロキシエチル)ヤシ脂肪酸アミド;
- アニオン性界面活性剤:パルミチル硫酸ナトリウムおよびテトラデセンスルホン酸ナトリウム;
- カチオン性界面活性剤:ジステアリルジメチルアンモニウムクロリド;
- 両性界面活性剤:ヤシ脂肪酸アミドプロピルベタインおよびココアンホジ酢酸2Na;
【0019】
驚くべきことに、界面活性剤群の界面活性剤を、特許請求の範囲に記載の範囲で互いに混合して使用できることが判明した。
【0020】
プラスティシンの硬度が低く、施与時の時間範囲が広い場合に有利であることが証明されており、その場合、ワックスおよび/または油の含有量を減らすこともできる。その結果、プラスティシンの硬度が再び通常望まれるレベルまで上昇し、その際、施与時の時間範囲はほとんど影響を受けないままである。しかし、驚くべきことに、冷却された材料の粘性が低下し、その結果さらに、いわゆる「スミア」の低減に好影響を与えることも判明した。
【0021】
使用されるバインダーは、ワックス、例えばマイクロワックスもしくはパラフィンワックスとして、ワセリンとして、油、例えばパラフィン油として、および前述の物質の混合物として存在することができる。
【0022】
バインダーの割合は、10~60重量%、好ましくは12~55重量%、特に好ましくは15~50重量%である。
【0023】
フィラーとして、実質的に無機および/または有機フィラー、例えばセルロース粒子、ネイティブスターチ、タルク、水酸化アルミニウム、アルミナ、硫黄、珪藻土および/または粘土粉末が使用され、これらは、<250μm、好ましくは100μm未満の粒径を有する。さらなるフィラーとして、例えば炭酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、酸化亜鉛、オレイン酸亜鉛、酸化亜鉛、炭酸マグネシウムまたは硫酸バリウムのようなカルシウム、亜鉛、スズ、マグネシウムまたはバリウムの金属の無機塩または有機塩、およびこれらの塩の混合物を使用することができる。
【0024】
さらに、いわゆる軽量フィラーをフィラーとして使用あるいは混合することもできる。軽量フィラーの例は、例えば3M社またはPQ-Corporation社製の中空球、特に中空ガラス微小球である。軽量フィラーの含有量に応じて、有利には0.3~1.1g/mlの範囲にある所望の密度を調整することができる。市販の軽量フィラーのサイズも自由に選択でき、そのサイズは有利には、5~400μmの範囲にある。さらなるフィラーとして、光沢剤、金属効果顔料、真珠光沢顔料またはこれらの物質の混合物が存在することができ、それにより、例えば特定の光学効果が達成される。
【0025】
着色剤として、染料または粉末顔料を使用することができる。複数の可能な着色顔料の選択肢として、酸化鉄、水酸化鉄、カーボンブラック、有機顔料および/または二酸化チタンが挙げられる。
【0026】
本発明を、いくつかの構成例および処方例を用いてより詳細に説明する。
【0027】
【表1-1】
【表1-2】
【0028】
材料の所望のコンシステンシーは、バインダー含有量の変更により問題なく調整可能である。
【0029】
【表2】
【0030】
本発明を、以下の表を用いてより詳細に説明する。
【0031】
【表3】
【0032】
貫入硬度の測定方法は、米国ASTM(米国材料試験協会)で規格化されている。(ASTM D 1321-16a/ASTM D 937-07(2019))。また、英国規格BS EN 1426:2015-07-31やDIN 51579:2010-03など、他国にも対応する規格が存在する。
【0033】
表1からわかるように、界面活性剤成分を有する本発明による材料の貫入硬度は、界面活性剤を含まない同じ組成の材料の場合よりも低いことが判明した。60℃での貫入硬度が低いということは、プラスティシンが施与時に流動し易く、モデルへの分配に必要な力が少ないことを意味する。
【0034】
【表4】
【0035】
可鍛性あるいは可鍛性の持続時間とは、プラスティシンを加工またはモデルに施与できる施与時の時間範囲であると理解される。
【0036】
可鍛性の測定試験に関して、機械的に規格化された方法は存在しないが、触覚試験は存在する。このために、比較する材料を60℃に加熱する。次に、同じ大きさの材料サンプルを1つの手に2つずつ取り、ゆっくりと混練する。材料がその施与時の時間範囲の点で相違している場合、この試験ではこれが、材料が表面的に脆くなったりひび割れたりするまでの時間の長さの違いによって示される。
【0037】
施与時の時間範囲が広くなった結果、使用者はオーブンからより多くの量のプラスティシンを取り出すことができるようになり、時間およびコストの節約になる。この時間範囲の拡大という利点は、機械加工においても大きな利点であると見なすことができ、なぜならば、このような機械において、加熱されたプラスティシンを、チューブまたは他の供給システムで長い距離にわたって輸送しなければならないからである。
【0038】
このようなモデリング用材料の製造方法を、以下に説明する。
【0039】
ステップ1:バインダーまたはバインダー混合物を製造し、室温より高い温度で均一になるまで混合する。
ステップ2:界面活性剤を添加し、均一になるまで混合する。
ステップ3:フィラーおよび染料を添加し、材料が均一になるまで再度混合する。
ステップ4:軽量フィラーを添加し、均一になるまで再度混合する。
ステップ5:任意に、材料を真空下で脱気する。
【0040】
本発明によるプラスティシンは、自動車製造のデザインモデルの製造に使用される。このようなデザインモデルは、1:1の縮尺まで製造される。このような材料の施与は、一方では手作業で、しかし他方では機械でも行うことができる。どちらのタイプの施与においても、プラスティシンが、ある割合の界面活性剤を含むと有利であることが証明された。特に機械的な施与では、驚くべきことに、ベースモデルのさらなる加工の際に改善を認めることができた。さらなる加工には、例示的に、フライス加工の切削プロセスによる余分なプラスティシン材料の除去が挙げられる。
【国際調査報告】