(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-15
(54)【発明の名称】筋萎縮性側索硬化症の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20240308BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240308BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240308BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240308BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61P21/00
A61P25/14
C12N15/113 130Z
C12N15/113 ZNA
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557719
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(85)【翻訳文提出日】2023-09-20
(86)【国際出願番号】 US2022022485
(87)【国際公開番号】W WO2022212459
(87)【国際公開日】2022-10-06
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】398050098
【氏名又は名称】バイオジェン・エムエイ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Biogen MA Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リウ, インイン
(72)【発明者】
【氏名】スン, ペン
(72)【発明者】
【氏名】フラデット, ステファニー メリロ
(72)【発明者】
【氏名】グラハム, ダニエル リーゼッタ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン, ジャニス チュン イー
【テーマコード(参考)】
2G045
4C086
【Fターム(参考)】
2G045AA13
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB30
2G045DA36
2G045FB03
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA22
4C086ZA94
(57)【要約】
本開示は、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子の変異を有する対象を、SOD1標的アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩による治療の対象として選択するために、ニューロフィラメント軽鎖レベルの使用を提供する。本開示による方法は、臨床的に発症前の筋萎縮性側索硬化症を含む筋萎縮性側索硬化症の治療に適用することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とするヒト対象においてスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子の変異に関連する筋萎縮性側索硬化症を治療する方法であって、前記方法は、下記の式:
mCes Aeo Ges Geo Aes Tds Ads mCds Ads Tds Tds Tds mCds Tds Ads mCeo Aes Geo mCes Te(配列番号1の核酸塩基配列)であって、式中、
Aは、アデニンであり、
mCは、5’-メチルシトシンであり、
Gは、グアニンであり、
Tは、チミンであり、
eは、2’-O-メトキシエチルリボース修飾糖であり、
dは、2’-デオキシリボース糖であり、
sは、ホスホロチオエートヌクレオシド間結合であり、
oは、ホスホジエステルヌクレオシド間結合である、
前記式による、治療有効量の、アンチセンスオリゴヌクレオチド、またはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物を前記ヒト対象に投与することを含み、
前記ヒト対象は、前記治療の開始前に少なくとも44pg/mlのニューロフィラメント軽鎖レベルを有する、前記方法。
【請求項2】
前記ヒト対象は、前記治療の開始前にニューロフィラメント軽鎖レベルの少なくとも10pg/mlの増加を経験している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト対象は、前記治療の開始前に、少なくとも44pg/mlの血漿ニューロフィラメント軽鎖レベルに相当する血液、血清、または脳脊髄液ニューロフィラメント軽鎖レベルを有し、さらに、前記ヒト対象は、前記治療の開始前に、血漿ニューロフィラメント軽鎖レベルの少なくとも10pg/mlの増加に相当する、血液、血清、または脳脊髄液ニューロフィラメント軽鎖レベルの増加を経験している、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒト対象が、前記治療の開始前に、少なくとも44pg/mlの血漿ニューロフィラメント軽鎖レベルを有し、さらに、前記ヒト対象は、前記治療の開始前に、血漿ニューロフィラメント軽鎖レベルの少なくとも10pg/mlの増加を経験している、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
治療を必要とするヒト対象においてSOD1遺伝子の変異に関連する筋萎縮性側索硬化症を治療する方法であって、
治療の開始前に、前記ヒト対象から得た生体試料で、少なくとも44pg/mlのニューロフィラメント軽鎖レベルを測定することと、
治療有効量の、下記の式
mCes Aeo Ges Geo Aes Tds Ads mCds Ads Tds Tds Tds mCds Tds Ads mCeo Aes Geo mCes Te(配列番号1の核酸塩基配列)であって、式中、
Aは、アデニンであり、
mCは、5’-メチルシトシンであり、
Gは、グアニンであり、
Tは、チミンであり、
eは、2’-O-メトキシエチルリボース修飾糖であり、
dは、2’-デオキシリボース糖であり、
sは、ホスホロチオエートヌクレオシド間結合であり、
oは、ホスホジエステルヌクレオシド間結合である、
前記式によるアンチセンスオリゴヌクレオチド、またはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物を前記ヒト対象に投与することと、を含む、前記方法。
【請求項6】
前記生体試料は、血液、血清、血漿、または脳脊髄液である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記生体試料は血漿である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその薬学的に許容される塩を投与する前に、前記ヒト対象において、血漿ニューロフィラメント軽鎖レベルの少なくとも10pg/mlの増加に相当する血液、血清、または脳脊髄液レベルのニューロフィラメント軽鎖レベルの増加を測定することをさらに含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項9】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその薬学的に許容される塩を投与する前に、前記ヒト対象において、血漿ニューロフィラメント軽鎖レベルの少なくとも10pg/mlの増加を測定することをさらに含む、請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記医薬組成物は、くも膜下腔内投与によって投与される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記医薬組成物は、約100mgの固定用量のアンチセンスオリゴヌクレオチドを送達する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記SOD1遺伝子における変異はA4Vである、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記SOD1遺伝子における変異がA4V、H46R、G93S、A4T、G141X、D133A、V148G、N139K、G85R、G93A、V14G、C6S、I113T、D49K、G37R、A89V、E100G、D90A、T137A、E100K、G41A、G41D、G41S、G13R、G72S、L8V、F20C、Q22L、H48R、T54R、S591、V87A、T88deltaTAD、A89T、V97M、S105deltaSL、V118L、D124G、L114F、D90A、G12R、G147R、C6F、C6G、D101G、D101H、G114A、G85S、H43R、L106F、L106V、L38V、またはR115Gである、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ヒト対象は、臨床的に筋萎縮性側索硬化症の発症前である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ヒト対象に、前記医薬組成物の負荷用量を投与し、その後、前記医薬組成物の維持用量を投与する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記ヒト対象に3回分の負荷用量を投与し、前記負荷用量は14日置きに投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記維持用量は、3回目の負荷用量の28日後から開始して28日ごとに投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記医薬組成物の前記負荷用量及び前記維持用量を、
(i)前記医薬組成物の1回目の負荷用量を投与し、
(ii)前記1回目の負荷用量の投与日から14日後に前記医薬組成物の2回目の負荷用量を投与し、
(iii)前記1回目の負荷用量の投与日から28日後に前記医薬組成物の3回目の負荷用量を投与し、
(iv)前記3回目の負荷用量の投与日から28日後、または1ヶ月後に前記医薬組成物の1回目の維持用量を投与する方式で、前記ヒト対象に投与する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記医薬組成物の前記負荷用量及び前記維持用量を、
(i)1回目の負荷用量を、約100mgの固定用量のアンチセンスオリゴヌクレオチドを送達するのに十分な量として投与し、
(ii)2回目の負荷用量を、約100mgの固定用量のアンチセンスオリゴヌクレオチドを送達するのに十分な量として、前記1回目の負荷用量の投与日から14日後に投与し、
(iii)3回目の負荷用量を、約100mgの固定用量のアンチセンスオリゴヌクレオチドを送達するのに十分な量として、前記1回目の負荷用量の投与日から28日後に投与し、
(iv)1回目の維持用量を、約100mgの固定用量のアンチセンスオリゴヌクレオチドを送達するのに十分な量として、前記3回目の負荷用量の投与日から28日後に投与する方式で、前記ヒト対象に投与する、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年3月31日付で出願された米国仮特許出願第63/168,972号の優先権を主張する。前述の出願の全文は、本明細書に援用されている。
【0002】
配列表
本願は、ASCII形式で電子提出された配列表を含み、当該配列表は、全体が本明細書に援用されている。2022年3月24日に作成された該ASCIIコピーは、13751-0344WO1_SL.txtという名称であり、サイズは7,948バイトである。
【0003】
本開示は、筋萎縮性側索硬化症のバイオマーカー及び治療に関する。
【背景技術】
【0004】
可溶性スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)酵素(Cu/Znスーパーオキシドジスムターゼともいう)は、スーパーオキシドの過酸化水素(H2O2)への不均化を触媒することによって生体分子の酸化的損傷への防御を提供するスーパーオキシドジスムターゼの1つである(Fridovich,Annu.Rev.Biochem.,64:97-112(1995))。スーパーオキシドアニオン(O2-)とは、主にミトコンドリアの酸化的リン酸化の誤りによって産生される、潜在的に有害な細胞副産物である(Turrens,J.Physiol.,552:335-344(2003))。
【0005】
筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルー・ゲーリッグ病ともいう)とは、通常、約17,000人のアメリカ人が罹患している深刻な進行性神経変性疾患を指す(Mehta,P.,et al.(2018)“Prevalence of Amyotrophic Lateral Sclerosis-United States,2015.”MMWR Morb Mortal Wkly Rep 67(46):1285-1289)。ALS症例の約2%は、SOD1をコードする遺伝子の変異に起因する(Bunton-Stasyshyn RKA, et al.Neuroscientist.2015;21:519-29)。SOD1遺伝子の変異は、通常、顕性遺伝型のALS、つまり上下部運動ニューロンの選択的変性を特徴とする疾患に関連している(Rowland,N.Engl.J.Med.,2001,344:1688-1700(2001))。
【0006】
変異SOD1の毒性は、活性酵素からの核の保護を低下させる(核の機能の喪失)初期の誤った折り畳み(機能の獲得)により生じると考えられており、このプロセスはALSの発症に関与している可能性がある(Sau,Hum.Mol.Genet.,16:1604-1618(2007))。ALSにおける運動ニューロンの進行性の変性は、最終的にはニューロンの死滅につながる。運動ニューロンが死滅すると、筋肉の動きを開始・制御する脳の能力が失われる。随意筋活動が徐々に影響を受けるため、病気の後期にある患者は完全に麻痺してしまうことがある。
ALSを治療する効果的な治療法に対するニーズは依然として満たされていない。従って、本開示の目的は、当該疾患を治療するための方法を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fridovich,Annu.Rev.Biochem.,64:97-112(1995)
【非特許文献2】Turrens,J.Physiol.,552:335-344(2003)
【非特許文献3】Mehta,P.,et al.(2018)“Prevalence of Amyotrophic Lateral Sclerosis-United States,2015.”MMWR Morb Mortal Wkly Rep 67(46):1285-1289
【非特許文献4】Bunton-Stasyshyn RKA, et al.Neuroscientist.2015;21:519-29
【非特許文献5】Rowland,N.Engl.J.Med.,2001,344:1688-1700(2001)
【非特許文献6】Sau,Hum.Mol.Genet.,16:1604-1618(2007)
【発明の概要】
【0008】
本開示は、部分的に、臨床症状/徴候を有する対象(成人など)及び疾患のバイオマーカー(例:少なくとも44pg/mLのニューロフィラメント軽鎖レベル)の証拠を有する発症前の対象(成人など)における、SOD1遺伝子の変異に関連する筋萎縮性側索硬化症の治療に関する。
【0009】
本明細書にて提供されるものは、一部の態様では、少なくとも44pg/mlのニューロフィラメント軽鎖レベルを有するヒト対象、例えば、臨床的にALSの発症前であるヒト対象における、SOD1遺伝子の変異に関連する筋萎縮性側索硬化症の治療である。
【0010】
一態様では、本開示は、治療を必要とするヒト対象においてSOD1遺伝子の変異に関連する筋萎縮性側索硬化症を治療する方法を特徴とする。当該方法は、治療有効量の、下記の式によるアンチセンスオリゴヌクレオチド、またはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物をヒト対象に投与することによる。
mCes Aeo Ges Geo Aes Tds Ads mCds Ads Tds Tds Tds mCds Tds Ads mCeo Aes Geo mCes Te(配列番号1の核酸塩基配列)
式中、
Aは、アデニンであり、
mCは、5’-メチルシトシンであり、
Gは、グアニンであり、
Tは、チミンであり、
eは、2’-O-メトキシエチルリボース修飾糖であり、
dは、2’-デオキシリボース糖であり、
sは、ホスホロチオエートヌクレオシド間結合であり、
oは、ホスホジエステルヌクレオシド間結合であり、
ヒト対象は、治療の開始前に少なくとも44pg/mlのニューロフィラメント軽鎖レベルを有する。
【0011】
一部の実施形態では、ヒト対象は、治療の開始前にニューロフィラメント軽鎖レベルの少なくとも10pg/mlの増加を経験している。
【0012】
一部の実施形態では、ニューロフィラメント軽鎖レベルは、ヒト対象からの生体試料、例えば、血液、血清、血漿、または脳脊髄液試料におけるレベルである。一部の実施形態では、ニューロフィラメント軽鎖レベルは、血漿レベル、例えば、少なくとも44pg/mlの血漿レベル及び/または血漿レベルの少なくとも10pg/mlの増加に当たる。一部の実施形態では、ニューロフィラメント軽鎖レベルは、対応の血漿レベルに相当する、血液、血清、または脳脊髄液レベルである(例えば、少なくとも44pg/mlの血漿レベル及び/または血漿レベルの少なくとも10pg/mlの増加に相当する)。
【0013】
一部の実施形態では、ヒト対象が、治療の開始前に、少なくとも44pg/mlのニューロフィラメント軽鎖レベルを有し、さらに、ヒト対象は、治療の開始前に、ニューロフィラメント軽鎖レベルの少なくとも10pg/mlの増加を経験している。
【0014】
一部の実施形態では、ヒト対象が、治療の開始前に、少なくとも44pg/mlの血漿ニューロフィラメント軽鎖レベルを有し、さらに、ヒト対象は、治療の開始前に、血漿ニューロフィラメント軽鎖レベルの少なくとも10pg/mlの増加を経験している。
【0015】
別の態様では、本開示は、治療を必要とするヒト対象において筋萎縮性側索硬化症を治療する方法を特徴とし、当該方法は、
治療の開始前に、ヒト対象から得た生体試料で、少なくとも44pg/mlのニューロフィラメント軽鎖レベルを測定することと、
治療有効量の、下記の式によるアンチセンスオリゴヌクレオチド、またはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物をヒト対象に投与することと、を含む。
mCes Aeo Ges Geo Aes Tds Ads mCds Ads Tds Tds Tds mCds Tds Ads mCeo Aes Geo mCes Te(配列番号1の核酸塩基配列)
式中、
Aは、アデニンであり、
mCは、5’-メチルシトシンであり、
Gは、グアニンであり、
Tは、チミンであり、
eは、2’-O-メトキシエチルリボース修飾糖であり、
dは、2’-デオキシリボース糖であり、
sは、ホスホロチオエートヌクレオシド間結合であり、
oは、ホスホジエステルヌクレオシド間結合である。
【0016】
一部の実施形態では、生体試料は血液、血清、血漿、または脳脊髄液である。
【0017】
一部の実施形態では、生体試料は血液である。
【0018】
一部の実施形態では、生体試料は血清である。
【0019】
一部の実施形態では、生体試料は血漿である。
【0020】
一部の実施形態では、当該方法は、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその薬学的に許容される塩を投与する前に、ヒト対象において、血液、血清、血漿、または脳脊髄液ニューロフィラメント軽鎖レベルの少なくとも10pg/mlの増加を測定することをさらに含む。
【0021】
一部の実施形態では、当該方法は、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその薬学的に許容される塩を投与する前に、ヒト対象における血漿ニューロフィラメント軽鎖レベルの少なくとも10pg/mlの増加を測定することをさらに含む。
【0022】
一部の実施形態では、当該方法は、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその薬学的に許容される塩を投与する前に、ヒト対象において、血漿ニューロフィラメント軽鎖レベルの少なくとも10pg/mlの増加に相当する血液、血清、または脳脊髄液レベルのニューロフィラメント軽鎖レベルの増加を測定することをさらに含む。
【0023】
本明細書に記載の方法のうちいずれかの一部の実施形態では、医薬組成物は、くも膜下腔内投与によって投与される。
【0024】
本明細書に記載の方法のうちいずれかの一部の実施形態では、医薬組成物は、約100mgの固定用量のアンチセンスオリゴヌクレオチドを送達する。
【0025】
本明細書に記載の方法のうちいずれかの一部の実施形態では、SOD1遺伝子における変異はA4Vである。
【0026】
本明細書に記載の方法のうちいずれかの一部の実施形態では、SOD1遺伝子における変異は、A4V、H46R、G93S、A4T、G141X、D133A、V148G、N139K、G85R、G93A、V14G、C6S、I113T、D49K、G37R、A89V、E100G、D90A、T137A、E100K、G41A、G41D、G41S、G13R、G72S、L8V、F20C、Q22L、H48R、T54R、S591、V87A、T88deltaTAD、A89T、V97M、S105deltaSL、V118L、D124G、L114F、D90A、G12R、G147R、C6F、C6G、D101G、D101H、G114A、G85S、H43R、L106F、L106V、L38V、またはR115Gである。
【0027】
本明細書に記載された方法のうちいずれかの一部の実施形態では、ヒト対象は、臨床的に筋萎縮性側索硬化症の発症前である。
【0028】
本明細書に記載の方法のうちいずれかの一部の実施形態では、ヒト対象に医薬組成物の負荷用量を投与し、その後、医薬組成物の維持用量を投与する。
【0029】
ヒト対象に医薬組成物の負荷用量を投与し、その後、医薬組成物の維持用量を投与する一部の実施形態では、ヒト対象に3回の負荷用量を投与し、負荷用量は14日置きに投与される。
【0030】
ヒト対象に医薬組成物の負荷用量を投与し、その後、医薬組成物の維持用量を投与する一部の実施形態では、維持容量は、3回目の負荷用量の28日後から開始して28日ごとに投与される。
【0031】
ヒト対象に医薬組成物の負荷用量を投与し、その後、医薬組成物の維持用量を投与する一部の実施形態では、医薬組成物の負荷用量及び維持用量を、以下のようにヒト対象に投与する。
(i)医薬組成物の1回目の負荷用量を投与し、
(ii)1回目の負荷用量の投与日から14日後に医薬組成物の2回目の負荷用量を投与し、
(iii)1回目の負荷用量の投与日から28日後に医薬組成物の3回目の負荷用量を投与し、
(iv)3回目の負荷用量の投与日から28日後、または1ヶ月後に医薬組成物の1回目の維持用量を投与する。
【0032】
ヒト対象に医薬組成物の負荷用量を投与し、その後、医薬組成物の維持用量を投与する一部の実施形態では、医薬組成物の負荷用量及び維持用量を、以下のようにヒト対象に投与する。
(i)1回目の負荷用量を、約100mgの固定用量のアンチセンスオリゴヌクレオチドを送達するのに十分な量として投与し、
(ii)2回目の負荷用量を、約100mgの固定用量のアンチセンスオリゴヌクレオチドを送達するのに十分な量として、1回目の負荷用量の投与日から14日後に投与し、
(iii)3回目の負荷用量を、約100mgの固定用量のアンチセンスオリゴヌクレオチドを送達するのに十分な量として、1回目の負荷用量の投与日から28日後に投与し、
(iv)1回目の維持用量を、約100mgの固定用量のアンチセンスオリゴヌクレオチドを送達するのに十分な量として、3回目の負荷用量の投与日から28日後に投与する。
【0033】
本明細書に記載の方法のいずれかによって、一部の実施形態では、ヒト対象は成人であり、例えば、ヒト対象は少なくとも18歳、例えば少なくとも18歳、20歳、25歳、30歳、35歳、40歳、45歳、50歳、55歳、60歳、65歳以上である。
【0034】
別途定義されない限り、本明細書で用いられる技術用語及び科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実践または試験において、本明細書において記載されるものに類似または同等である方法及び材料を使用することができるが、その中で、例示的な方法及び材料を以下に記載する。本明細書において言及されるすべての出版物、特許出願、特許、及び他の参照文献は、全文がここに援用される。矛盾する場合には、定義を含み、本出願が優先される。材料、方法、及び実施例は、単に例示的なものであり、本発明を限定する訳ではない。
【0035】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から理解できるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】ベースラインにて30歳以上であり、急速に進行する変異を有する臨床的に明確なALSに罹患する参加者についての幾何平均NfLレベルのモデルに基づく推定値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本開示は、臨床症状/徴候を有する対象(成人など)及び疾患のバイオマーカー(例:少なくとも44pg/mLのニューロフィラメント軽鎖レベル)の証拠を有する発症前の対象(成人など)における、SOD1遺伝子の変異に関連する筋萎縮性側索硬化症の治療のための、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩の用途を特徴とする。
【0038】
筋萎縮性側索硬化症
筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、皮質、脳幹、脊髄内の運動ニューロンの喪失を引き起こす稀な神経変性疾患を指す。患者は、球筋、呼吸筋、随意筋の筋肉量、筋力、及び機能の進行性の喪失に苦しむことになる。衰退は避けられず、通常は、診断の後、平均2~5年ほどで呼吸不全により死亡する。患者のほとんどは散発性ALSに苦しむが、患者のごく一部、つまり約2%はスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)の様々な変異によって引き起こされる遺伝性または家族性のALSに罹患する。1993年に最初に発見されて以来、このようなALS(SOD1 ALSと呼ばれる)を引き起こすSOD1変異は、現在まで180以上報告されている。The Amyotrophic Lateral Sclerosis Online Genetics Database(ALSoD).Institute of Psychiatry,Psychology & Neuroscience.Published 2015;Rosen,Nature,364(6435):362(1993)).個々の変異による病気の進行は様々で、最も重篤な変異の場合、生存期間は15ヶ月にも満たない。
【0039】
承認を受けたALSの治療薬として、リルゾール(Rilutek(登録商標))及びエダラボン(Radicava(商標))がある。リルゾールは、生存期間をわずかに引き延ばす(2~3ヶ月)が、筋力または障害に著しい改善をもたらすことはない。エダラボンは、Revised Amyotrophic Lateral Sclerosis Functional Rating Scale(ALSFRS-R)で測定される機能低下を軽減する。エダラボンが生存率に及ぼす影響は不明のままである。ALSのSOD1特異的治療法は未だに存在しない。
【0040】
スーパーオキシドジスムターゼ1
スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)とも呼ばれるスーパーオキシドジスムターゼ[Cu-Zn]は、ヒトでは第21染色体に位置するSOD1遺伝子によってコードされる酵素である。
【0041】
SOD1は、βバレルを形成する32kDaのホモ二量体で、各サブユニットに分子内ジスルフィド結合と二核Cu/Zn部位が含まれている。Cu/Zn部位は銅と亜鉛イオンを保持し、スーパーオキシドから過酸化水素と二酸素への不均化を触媒する役割を果たす。
【0042】
SOD1は、体内の遊離スーパーオキシドラジカルの破壊を担う3つのスーパーオキシドジスムターゼのうちの1つである。コードされたアイソザイムは可溶性の細胞質及びミトコンドリアの膜間腔タンパク質であり、有害な天然スーパーオキシドラジカルを分子状酸素と過酸化水素に変換するホモ二量体として作用する。過酸化水素は、カタラーゼと呼ばれる別の酵素によって分解される。
【0043】
SOD1遺伝子の変異のうち少なくとも180が家族性ALSに関わっている(Conwit RA,J Neurol Sci.,251(1-2):1-2(2006);Al-Chalabi A,Leigh PN,Curr.Opin. in Neurol.,13(4):397-405(2000);Redler RL,Dokholyan NV,Progress in Molecular Biology and Translational Science,107:215-62(2012))。しかしながら、野生型SOD1は、細胞ストレスの条件下では、ALS患者の90%を占める散発性ALS症例のうち有意な数にも関与していると考えられている。ヒトSOD1で最も頻繁に起こる変異は、米国はA4V、日本はH46R、アイスランドはG93Sである。その他、周知のヒトSOD1遺伝子変異としては、A4V、H46R、G93S、A4T、G141X、D133A、V148G、N139K、G85R、G93A、V14G、C6S、I113T、D49K、G37R、A89V、E100G、D90A、T137A、E100K、G41A、G41D、G41S、G13R、G72S、L8V、F20C、Q22L、H48R、T54R、S591、V87A、T88deltaTAD、A89T、V97M、S105deltaSL、V118L、D124G、L114F、D90A、G12R、G147R、C6F、C6G、D101G、D101H、G114A、G85S、H43R、L106F、L106V、L38V、及びR115Gが挙げられる。事実上、ALSを引き起こす既知のすべてのSOD1変異は顕性的に作用する。SOD1遺伝子の変異コピーが1つあれば、疾患を誘発するには十分である。
【0044】
ヒトSOD1のアミノ酸配列は、UniProt P00441及びGENBANKアクセッション番号NP_000445で見つけることができ、以下のようになる。
MATKAVCVLK GDGPVQGIIN FEQKESNGPV KVWGSIKGLT EGLHGFHVHE FGDNTAGCTS AGPHFNPLSR KHGGPKDEER HVGDLGNVTA DKDGVADVSI EDSVISLSGD HCIIGRTLVV HEKADDLGKG GNEESTKTGN AGSRLACGVI
GIAQ(配列番号2)
【0045】
ヒトSOD1をコードするヌクレオチド配列は、GENBANKアクセッション番号NM_000454.4に当たる、また以下のようになる(本開示のアンチセンスオリゴヌクレオチドによって認識される領域には下線が引かれている)。
【化1】
【0046】
SOD1アンチセンスオリゴヌクレオチド
「アンチセンスA」とは、CAGGATACATTTCTACAGCT(配列番号1)の配列(5’位から3’位)を有する5-10-5MOEギャップマーを指す。ここにおいて、ヌクレオシド1~5及び16~20のそれぞれは2’-O-メトキシエチルリボース修飾ヌクレオシドであり、ヌクレオシド6~15のそれぞれは2’-デオキシヌクレオシドであり、また、ヌクレオシド2~3、4~5、16~17、及び18~19の間に存在するヌクレオシド間結合はホスホジエステル結合であり、ヌクレオシド1~2、3~4、5~6、6~7、7~8、8~9、9~10、10~11、11~12、12~13、13~14、14~15、15~16、17~18、及び19~20の間に存在するヌクレオシド間結合はホスホロチオエート結合であり、さらに、各シトシンは5-メチルシトシンである。
【0047】
アンチセンスAを化学表記法により表すと、mCes Aeo Ges Geo Aes Tds Ads mCds Ads Tds Tds Tds mCds Tds Ads mCeo Aes Geo mCes Te(配列番号1)となり、
式中、
Aは、アデニンであり、
mCは、5’-メチルシトシンであり、
Gは、グアニンであり、
Tは、チミンであり、
eは、2’-O-メトキシエチルリボース修飾糖であり、
dは、2’-デオキシリボース糖であり、
sは、ホスホロチオエートヌクレオシド間結合であり、
oは、ホスホジエステルヌクレオシド間結合である。
【0048】
「2’-O-メトキシエチル」(2’-MOE、2’-OCH2CH2-OCH3、及びMOEともいう)とは、フラノース環の2’位のO-メトキシ-エチル修飾を指す。2’-O-メトキシエチル修飾糖は、修飾糖である。
【0049】
「5-メチルシトシン」とは、5’位に結合したメチル基で修飾されたシトシンを意味する。5-メチルシトシンは、修飾核酸塩基である。
【0050】
「ホスホロチオエート結合」、または「ホスホロチオエートヌクレオシド間結合」とは、ホスホジエステル結合が非架橋酸素原子のうちの1つを硫黄原子と置き換えることによって修飾されるヌクレオシド間の結合を指す。ホスホロチオエート結合は、修飾ヌクレオシド間結合である。
【0051】
アンチセンスA配列を次のように短縮表現で表すこともできる。
【化2】
下線を引いた残基は2’-MOEヌクレオシドである。P=Oアノテーションは、リン酸ジエステル結合の位置を反映している。
【0052】
「2’-MOEヌクレオシド」(2’-O-メトキシエチルヌクレオシドともいう)は、MOE修飾糖部分を含むヌクレオシドを意味する。
【0053】
アンチセンスAは、次の化学構造で表される。
【化3】
【0054】
アンチセンスAは、米国特許第10,385,341号に詳細に記載されており、その内容は本明細書に援用されている。
【0055】
溶液中(例えば、医薬組成物中の溶液中)において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、遊離酸の形態、塩の形態、またはそれらの混合物で存在し得ることを理解されたい。
【0056】
結合型アンチセンスオリゴヌクレオチド
本開示のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、得られたアンチセンスオリゴヌクレオチドの活性、細胞分布または細胞取り込みを増強する1つ以上の部分または共役体に共有結合させることができる。典型的な共役基には、コレステロール部分及び脂質部分が含まれる。追加の共役基には、炭水化物、リン脂質、ビオチン、フェナジン、葉酸塩、フェナントリジン、アントラキノン、アクリジン、フルオレセイン、ローダミン、クマリン及び色素が含まれる。アンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、アンチセンスオリゴヌクレオチドの一方または両方の末端に概して結合されて、例えばヌクレアーゼ安定性等の特性を向上させる1つ以上の安定化基を有するように修飾することもできる。安定化基には、キャップ構造が含まれる。これらの末端修飾は、エキソヌクレアーゼ分解から末端核酸を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドを保護し、細胞内での送達及び/または局在化に役立つことができる。キャップは、5’末端(5’キャップ)または3’末端(3’キャップ)に存在し得るか、または両方の末端に存在し得る。キャップ構造は当該業界において周知のものであり、例えば逆デオキシ脱塩基キャップなどが挙げられる。アンチセンスオリゴヌクレオチドの一方または両方の末端をキャップしてヌクレアーゼ安定性を付与するために使用することができるさらなる3’及び5’-安定化基には、WO03/004602に開示されているものが含まれる。
【0057】
医薬組成物を製剤化するための組成物及び方法
本開示のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩は、医薬組成物または製剤の調製のために、薬学的に許容される活性物質または不活性物質と混合することができる。医薬組成物を製剤化するための組成物及び方法は、投与経路、疾患の程度、または投与される用量を含むがこれらに限定される訳ではない、いくつかの基準によって定められる。
【0058】
SOD1核酸を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩は、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩を、薬学的に許容される適切な希釈剤または担体と組み合わせることによって医薬組成物中で用いることができる。薬学的に許容される希釈剤は、リン酸緩衝食塩水(PBS)を含む。PBSは、非経口で送達される組成物における使用に適した希釈剤である。従って、一実施形態では、本明細書に記載の方法で使用されるのは、SOD1核酸を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩及び薬学的に許容される希釈剤を含む医薬組成物である。
【0059】
本明細書に記載されるアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩は、対象へのくも膜下腔内投与のための医薬組成物として製剤化することができる。
【0060】
本開示のアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む医薬組成物は、ヒトを含む動物へ投与した際に、生物活性を有する代謝産物またはその残基を(直接的または間接的に)提供することができる、任意の薬学的に許容される塩、エステルもしくはそのようなエステルの塩、またはその他任意のオリゴヌクレオチドを網羅する。従って、例えば、本開示はまた、アンチセンスオリゴヌクレオチドの薬学的に許容される塩、ならびに、その他の生物学的同等物も対象とする。薬剤的に許容される塩として好適のものには、ナトリウム塩及びカリウム塩が含まれるが、これらに限定される訳ではない。
【0061】
治療法
本開示は、治療を必要とするヒト対象におけるヒトSOD1遺伝子の変異に関連する筋萎縮性側索硬化症(例えば、臨床的に発症前の筋萎縮性側索硬化症)を治療する方法を特徴とする。当該方法は、ヒト対象にアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与(例えば、くも膜下腔内投与)することを含み、アンチセンスオリゴヌクレオチドの核酸塩基配列は、CAGGATACATTTCTACAGCT(配列番号1)からなり、ヌクレオシド1~5及び16~20のそれぞれは2’-O-メトキシエチルリボース修飾ヌクレオシドであり、ヌクレオシド6~15のそれぞれは2’-デオキシヌクレオシドであり、ヌクレオシド2~3、4~5、16~17、及び18~19の間に存在するヌクレオシド間結合はホスホジエステル結合であり、ヌクレオシド1~2、3~4、5~6、6~7、7~8、8~9、9~10、10~11、11~12、12~13、13~14、14~15、15~16、17~18、及び19~20の間に存在するヌクレオシド間結合はホスホロチオエート結合であり、各シトシンは5-メチルシトシンである。特定の例では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、約100mgまたは100mgの固定用量で投与される。
【0062】
物質の量に関する「約」とは、表示された値の±10%を意味する。「約」100mgのアンチセンスオリゴヌクレオチドには、90mg~110mgのアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。時間単位、例えば約10日または約1週間の場合、「約」は±3日を意味する。
【0063】
「くも膜下腔内またはIT」とは、脳及び脊髄を覆うくも膜の下の脳脊髄液に投与することを指す。
【0064】
また、筋萎縮性側索硬化症に関連するヒトSOD1遺伝子の変異を有するヒト対象におけるヒトSOD1タンパク質合成を減少させる方法が提供される。当該方法は、ヒト対象にアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与(例えば、くも膜下腔内投与)することを含み、アンチセンスオリゴヌクレオチドの核酸塩基配列は、CAGGATACATTTCTACAGCT(配列番号1)からなり、ヌクレオシド1~5及び16~20のそれぞれは2’-O-メトキシエチルリボース修飾ヌクレオシドであり、ヌクレオシド6~15のそれぞれは2’-デオキシヌクレオシドであり、ヌクレオシド2~3、4~5、16~17、及び18~19の間に存在するヌクレオシド間結合はホスホジエステル結合であり、ヌクレオシド1~2、3~4、5~6、6~7、7~8、8~9、9~10、10~11、11~12、12~13、13~14、14~15、15~16、17~18、及び19~20の間に存在するヌクレオシド間結合はホスホロチオエート結合であり、各シトシンは5-メチルシトシンである。特定の例では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、約100mgまたは100mgの固定用量で投与される。
【0065】
また、筋萎縮性側索硬化症に関連するヒトSOD1遺伝子の変異を有するヒト対象におけるヒトSOD1 mRNAレベルを減少させる方法が提供される。当該方法は、ヒト対象にアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与(例えば、くも膜下腔内投与)することを含み、アンチセンスオリゴヌクレオチドの核酸塩基配列は、CAGGATACATTTCTACAGCT(配列番号1)からなり、ヌクレオシド1~5及び16~20のそれぞれは2’-O-メトキシエチルリボース修飾ヌクレオシドであり、ヌクレオシド6~15のそれぞれは2’-デオキシヌクレオシドであり、ヌクレオシド2~3、4~5、16~17、及び18~19の間に存在するヌクレオシド間結合はホスホジエステル結合であり、ヌクレオシド1~2、3~4、5~6、6~7、7~8、8~9、9~10、10~11、11~12、12~13、13~14、14~15、15~16、17~18、及び19~20の間に存在するヌクレオシド間結合はホスホロチオエート結合であり、各シトシンは5-メチルシトシンである。特定の例では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、約100mgまたは100mgの固定用量で投与される。
【0066】
また、治療を必要とするヒト対象において、SOD1遺伝子の変異に関連する筋萎縮性側索硬化症(例えば、臨床的に発症前の筋萎縮性側索硬化症)を治療する方法が提供される。当該方法は、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩を含む医薬組成物をヒト対象に投与(例えば、くも膜下腔内投与)することを含み、アンチセンスオリゴヌクレオチドは以下の構造を有する。
【化4】
【0067】
特定の例では、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩は、約100mgまたは100mgのアンチセンスオリゴヌクレオチドに相当する用量で投与される。
【0068】
また、筋萎縮性側索硬化症に関連するヒトSOD1遺伝子の変異を有するヒト対象におけるヒトSOD1タンパク質合成を減少させる方法が提供される。当該方法は、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩を含む医薬組成物をヒト対象に投与(例えば、くも膜下腔内投与)することを含み、アンチセンスオリゴヌクレオチドは以下の構造を有する。
【化5】
【0069】
特定の例では、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩は、約100mgまたは100mgのアンチセンスオリゴヌクレオチドに相当する用量で投与される。
【0070】
また、筋萎縮性側索硬化症に関連するヒトSOD1遺伝子の変異を有するヒト対象におけるヒトSOD1 mRNAレベルを減少させる方法が提供される。当該方法は、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩を含む医薬組成物をヒト対象に投与(例えば、くも膜下腔内投与)することを含み、アンチセンスオリゴヌクレオチドは以下の構造を有する。
【化6】
【0071】
特定の例では、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩は、約100mgまたは100mgのアンチセンスオリゴヌクレオチドに相当する用量で投与される。
【0072】
一部の例では、上記の固定用量のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩を、毎週1回、2週間に1回、3週間に1回、または4週間に1回、ヒト対象に投与する。
【0073】
一部の例では、本明細書に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、医薬組成物の一部としてヒト対象に投与される。特定の実施形態では、医薬組成物は、約100mgの固定用量のアンチセンスオリゴヌクレオチドを送達するのに十分な量でヒト対象に投与される。
【0074】
特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩は、負荷用量(複数可)で投与される。一部の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは維持用量(複数可)で投与される。特定の例では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは負荷用量(複数可)で投与され、その後、維持用量(複数可)で投与される。負荷用量(複数可)は、例えば、毎週、2週間置き、3週間置き、または4週間置きに投与することができる。維持用量(複数可)は、例えば、最後の負荷用量を投与した後、毎週、2週間置き、3週間置き、または4週間置きに投与することができる。一部の例では、維持用量(複数可)を毎月投与する。
【0075】
「負荷用量」とは、投与が開始され、薬物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)の定常状態濃度が達成される投与段階中に投与される用量を指す。
【0076】
「維持用量」とは、薬物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)の定常状態濃度が達成された後の投与段階中に投与される用量を指す。
【0077】
特定の実施形態では、ヒト対象にアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩を3回分の負荷用量で投与し、その後、少なくとも1回分(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12回分、またはそれ以上)の維持用量を投与する。一部の例では、3回分の負荷用量を2週間置きに投与する。一部の例では、3回分の負荷用量を14日置きに投与する。一部の例では、維持用量(複数可)の投与を、3回目の負荷用量の投与日から4週間後に開始する。一部の例では、維持用量(複数可)を、3回目の負荷用量の投与日から1ヶ月後に開始して毎月投与する。一部の例では、維持用量(複数可)を、3回目の負荷用量の投与日から28日後に開始して28日ごとに投与する。
【0078】
SOD1の変異は、ALSに関連するヒトSOD1遺伝子における任意の変異であってもよい。一部の例では、当該変異は、緩徐進行性ALS疾患の変異である。他の例では、当該変異は急速に進行するALS疾患の変異である。特定の例では、ヒトSOD1遺伝子における変異がA4V、H46R、G93S、A4T、G141X、D133A、V148G、N139K、G85R、G93A、V14G、C6S、I113T、D49K、G37R、A89V、E100G、D90A、T137A、E100K、G41A、G41D、G41S、G13R、G72S、L8V、F20C、Q22L、H48R、T54R、S591、V87A、T88deltaTAD、A89T、V97M、S105deltaSL、V118L、D124G、L114F、D90A、G12R、G147R、C6F、C6G、D101G、D101H、G114A、G85S、H43R、L106F、L106V、L38V、またはR115Gの一つ以上である。特定の一実施形態では、ヒト対象は、ヒトSOD1遺伝子のA4V変異を有する。別の特定の一実施形態では、ヒト対象は、ヒトSOD1遺伝子のL106V変異を有する。別の特定の一実施形態では、ヒト対象は、ヒトSOD1遺伝子のH46R変異を有する。さらに別の特定の一実施形態では、ヒト対象は、ヒトSOD1遺伝子のG93S変異を有する。
【0079】
特定の例では、SOD1遺伝子の変異は遺伝子検査によって特定される。従って、ALSに罹患している、またはALSに罹患しやすい対象の同定は、例えば、遺伝子配列決定などの当技術分野で周知のアッセイを用いる、対象のSOD1遺伝子の遺伝子検査によって行うことができる。
【0080】
対象のALSに対する感受性の分析は、対象のALSの家族歴を分析することによっても行うことができる。家族歴の分析には、ALSの病歴を記録する3世代の家系図、家族の医療記録と解剖研究のレビュー、SOD1変異の常染色体顕性パターンの特定などが含まれてもよい。
【0081】
特定の実施形態では、治療有効量のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩をヒト対象へ投与することは、ヒト対象におけるSOD1レベルのモニタリングを行い、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩の投与に対するヒト対象の応答を決定することを伴う。医師は、治療的介入の程度と持続時間を定めるべく、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩の投与に対する対象の応答を活用してもよい。特定の実施形態では、ヒトSOD1レベルはCSFでモニタリングされる。特定の実施形態では、ヒトSOD1レベルは血漿でモニタリングされる。特定の実施形態では、ヒトSOD1レベルは血液でモニタリングされる。特定の実施形態では、ヒトSOD1レベルは血清でモニタリングされる。
【0082】
特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩の投与は、SOD1タンパク質発現の減少をもたらす。特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩の投与は、少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、もしくは99%、またはこれらの値のいずれか2つによって区画される範囲で、SOD1タンパク質発現の減少をもたらす。特定の実施形態では、SOD1タンパク質発現の減少は、CSFでの減少に当たる。特定の実施形態では、SOD1タンパク質発現の減少は、血漿での減少に当たる。特定の実施形態では、SOD1タンパク質発現の減少は、血液での減少に当たる。特定の実施形態では、SOD1タンパク質発現の減少は、血清での減少に当たる。
【0083】
特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩の投与は、ヒト対象における運動機能及び呼吸の改善をもたらす。特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩の投与は、少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、もしくは99%、またはこれらの値のいずれか2つによって区画される範囲で、運動機能及び呼吸の改善をもたらす。
【0084】
特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩を含む医薬組成物は、ALSに罹患しているか、またはALSに罹患しやすいヒト対象(例えば、ALSに関連するSOD1の変異を有するヒト対象)を治療するための薬剤の調製のために用いられる。
【0085】
ニューロフィラメント
本開示は、SOD1遺伝子の変異を有する対象を、本明細書に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその塩による治療の対象として選択するための、マーカーとしてのニューロフィラメント軽鎖レベルの用途を示す。一部の例では、対象が所定の閾値以上のニューロフィラメント軽鎖レベルを有する場合、当該対象は治療の対象として選択される。一部の例では、対象が所定の最小量に相当するニューロフィラメント軽鎖レベルの増加を経験している場合、当該対象は治療の対象として選択される。一部の例では、対象が所定の閾値以上のニューロフィラメント軽鎖レベルを有し、さらに、所定の最小量に相当するニューロフィラメント軽鎖レベルの増加を経験している場合、当該対象は治療の対象として選択される。
【0086】
血清中のニューロフィラメント軽鎖を測定するためのアッセイが説明されている(例えば、Gaiottino et al.,PLoS ONE 8:e75091,2013;Kuhle et al.,J.Neurol.Neurosurg.Psychiatry 86(3):273-279,2014を参照)。ニューロフィラメント軽鎖(NfL)(例えば、血漿または血清NfL)濃度は、例えば、すぐに使用可能な酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)希釈液(Mabtech AB,Nacka Strand,Sweden)、Gaiottino et al.,PLoS ONE 8:e75091,2013に記載の電気化学発光(ECL)免疫測定法、またはDisanto et al.,Ann.Neurol.81(6):857-870,2017に記載の単一分子アレイ(SIMOA)法を用いて測定することができる。これら3つのアッセイ法は、Kuhl et al.,Clinical Chemistry and Laboratory Medicine 54(10):1655-1661,2016で比較されている。SIMOAアッセイ(Simoa NF-light Advantage Kit)は、Quanterix Corp.(Lexington,MA,USA)から市販されている。一部の実施形態では、NfL(例えば、血漿または血清NfL)濃度は、Siemens Healthineers(SHL;Erlangen,Germany)NfLアッセイを用いて測定される。一部の例では、総NfL(例えば、リン酸化及び非リン酸化)が測定される。一部の実施形態では、リン酸化NfLが測定され、また一部の実施形態では、非リン酸化NfLが測定される。
【0087】
一部の実施形態では、SOD1遺伝子の変異を有する対象(例えば、筋萎縮性側索硬化症の臨床的に発症前の対象)は、対象が所定の最小閾値以上のニューロフィラメント軽鎖レベル(例えば、Siemens Healthineers NfLアッセイで定められた少なくとも44pg/mlのニューロフィラメント軽鎖レベル、または別のアッセイを用いて測定された同等のNfLレベル)を有する場合、治療の対象として選択される。
【0088】
一部の実施形態では、SOD1遺伝子の変異を有する対象(例えば、筋萎縮性側索硬化症の臨床的に発症前の対象)は、対象がニューロフィラメント軽鎖レベルの所定の最小量の増加(例えば、Siemens Healthineers NfLアッセイで定められたニューロフィラメント軽鎖レベルの少なくとも10pg/mlの増加、または別のアッセイを用いて測定された同等のNfLレベルの増加)を経験している場合、治療の対象として選択される。
【0089】
一部の実施形態では、SOD1遺伝子の変異を有する対象(例えば、筋萎縮性側索硬化症の臨床的に発症前の対象)は、対象が所定の最小閾値以上のニューロフィラメント軽鎖レベル(例えば、Siemens Healthineers NfLアッセイで定められた少なくとも44pg/mlのニューロフィラメント軽鎖レベル、または別のアッセイを用いて測定された同等のNfLレベル)を有し、さらに、ニューロフィラメント軽鎖レベルの所定の最小量の増加(例えば、Siemens Healthineers NfLアッセイで定められたニューロフィラメント軽鎖レベルの少なくとも10pg/mlの増加、または別のアッセイを用いて測定された同等のNfLレベルの増加)を経験している場合、治療の対象として選択される。一部の実施形態では、理論に拘る必要はないが、血漿NfLレベルのベースラインからの少なくとも10pg/mLの変化(例えば、増加)は、NfLレベルに対する加齢の潜在的な影響を確実に説明できると考えられる。
【0090】
ヒトNF-Lのアミノ酸配列は、配列番号4ならびにJulien et al.,Biochimica et Biohysica Acta,909:10-20(1987)、UniProtKB-P07196、NCBI参照配列:NP_006149.2、及びNCBI参照配列:NG_008492.1に示されている。
【0091】
配列番号4
MSSFSYEPYYSTSYKRRYVETPRVHISSVRSGYSTARSAYSSYSAPVSSSLSVRRSYSSSSGSLMPSLENLDLSQVAAISNDLKSIRTQEKAQLQDLNDRFASFIERVHELEQQNKVLEAELLVLRQKHSEPSRFRALYEQEIRDLRLAAEDATNEKQALQGEREGLEETLRNLQARYEEEVLSREDAEGRLMEARKGADEAALARAELEKRIDSLMDEISFLKKVHEEEIAELQAQIQYAQISVEMDVTKPDLSAALKDIRAQYEKLAAKNMQNAEEWFKSRFTVLTESAAKNTDAVRAAKDEVSESRRLLKAKTLEIEACRGMNEALEKQLQELEDKQNADISAMQDTINKLENELRTTKSEMARYLKEYQDLLNVKMALDIEIAAYRKLLEGEETRLSFTSVGSITSGYSQSSQVFGRSAYGGLQTSSYLMSTRSFPSYYTSHVQEEQIEVEETIEAAKAEEAKDEPPSEGEAEEEEKDKEEAEEEEAAEEEEAAKEESEEAKEEEEGGEGEEGEETKEAEEEEKKVEGAGEEQAAKKKD
【0092】
生体試料
本明細書に記載の方法に好適な生体試料としては、NFタンパク質または核酸(例えば、RNA(mRNA))などの目的のアナライト生体分子を含む任意の生体液、細胞、組織、またはこれらの画分が挙げられる。生体試料は、例えば、ヒト対象から得た試験片であってもよく、このような対象に由来するものであってもよい。例えば、試料は、生検で得られた組織切片、保管された生体液、または組織培養に入れた、もしくは適合させた細胞であってもよい。一部の場合において、生体試料は、血液、血清、血漿、または脳脊髄液(CSF)などの生体液、またはそのような試料を基質(例えば、ガラス、ポリマー、紙)に吸収させたものである。生体試料は、所望の場合はさらに分画して特定の細胞類型を含む画分にしてもよい。例えば、血液試料を分画して血清にしてもよく、または赤血球または白血球(leukocyte)などの特定の種類の血球を含む画分にしてもよい。所望の場合は、試料は、対象からの試料の組み合わせ、例えば、組織及び液体試料の組み合わせであってもよい。
【0093】
生体試料は、SOD1遺伝子の変異(例えば、本明細書に記載のSOD1変異)を有する対象から得ることができる。特定の実施形態では、対象は臨床的に筋萎縮性側索硬化症の発症前である。
【0094】
生体試料を得るための任意の好適な方法を用いることができるが、例示的な方法としては、例えば、静脈切開術、穿刺吸引生検手順が挙げられる。また、試料は、例えば、マイクロダイセクション(例えば、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)またはレーザーマクロダイセクション(LMD))によって収集することもできる。
【0095】
試料中の分子(例えば、核酸またはタンパク質)の活性または完全性を保持する試料を得る及び/または保管するための方法は、当業者に周知されている。例えば、生体試料はさらに、試料中の分子(例えば、核酸もしくはタンパク質)を保持する、または分子の変化を最小限に抑える1つ以上のさらなる薬剤、例えば、緩衝液及び/または阻害剤(ヌクレアーゼ、プロテアーゼ、及びホスファターゼ阻害剤のうちの1つ以上を含む)に接触させることができる。このような阻害剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコールビス(P-アミノエチルエーテル)N,N,N1,N1-四酢酸(EGTA)などのキレート剤、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、アプロチニン、ロイペプチン、アンチパインなどのプロテアーゼ阻害剤、リン酸塩、フッ化ナトリウム、バナジン酸塩などのホスファターゼ阻害剤が挙げられる。分子を単離するための好適な緩衝液及び条件は当業者に周知のものであり、例えば、キャラクタリゼーションを行う試料中の分子のタイプに応じて変動し得る(例えば、Ausubel et al. Current Protocols in Molecular Biology (Supplement 47),John Wiley & Sons,New York(1999);Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press (1988);Harlow and Lane,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press(1999);Tietz Textbook of Clinical Chemistry,3rd ed.Burtis and Ashwood,eds.W.B.Saunders,Philadelphia,(1999)を参照)。また、試料を処理して、妨害物質の存在を排除する、または最小限に抑えることもできる。例えば、生体試料を分画または精製して、1つ以上の目的外の物質を除去することができる。生体試料を分画または精製する方法としては、限定されるものではないが、クロマトグラフィー法、例えば、液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、または親和性クロマトグラフィーが挙げられる。本明細書に記載の方法での使用に関し、試料は様々な物理的状態であり得る。例えば、試料は、液体であっても固体であってもよく、液体に溶解させても懸濁させてもよく、エマルジョンまたはゲル中にあってもよく、ある物質に吸収させてもよい。
【0096】
以下の実施例は、特許請求対象の発明をより十分に例示するために提供されるものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。具体的な材料が言及される範囲で、それは単に例示の目的のためのものであり、本発明を限定することは意図しない。当業者は、通常の創作能力を発揮することで、発明の範囲から逸脱しない同等の手段または反応物の開発に容易に想到することができる。
【実施例】
【0097】
実施例1:SOD1アンチセンスオリゴヌクレオチドによる治療を受けるべき患者を選択するためのニューロフィラメント閾値の使用
アンチセンスA(本明細書に記載)の第3相ランダム化プラセボ対照試験が、臨床的に発症前の成人SOD1変異保有者において、長期縦断自然歴の導入期間を伴って行われた。本研究に含まれるSOD1変異は、高浸透率または完全浸透率、ならびに疾患の急速な進行に関連している。SOD1変異保有者は、臨床的に明確な筋萎縮性側索硬化症(ALS)を有していない場合、臨床的にALSの発症前であるとみなす。臨床的に明確なALSは、ALSの出現を決定的に示す、EMG所見によって裏付けられる臨床症状または徴候の出現として定義される。
【0098】
血漿ニューロフィラメント軽鎖(NfL)閾値の44pg/mLは、(NfL閾値に達した後)12ヶ月以内にALSの明確な臨床症状/徴候が発症するリスクが高いと考えられる研究参加者を特定するために選択された。血漿NfL閾値の44pg/mLは、発症前の家族性筋萎縮性側索硬化症(Pre-fALS)試料のデータを用いたNF軌跡モデルのシミュレーションに基づいて定められたもので、NF上昇と臨床発症の間に、登録と介入を行う十分な時間を確保しながら偽陽性率を最小限に抑えるために選択された。
【0099】
Pre-fALSにおける採血の頻度を考慮すると、NfLレベルの間にはギャップがあり、多くの場合、ALSの明確な臨床症状/徴候が発症するどのくらい前にNfLが上昇し始めたかを特定することができなくなる。これを克服するために、ベースライン時に30歳以上で急速に進行する変異を有する、臨床的に明確なALSに罹患しているがPre-fALSである参加者を対象に、ベイジアン法を用いて自然対数変換NfL濃度データにEmaxモデルを当てはめた。これとは別に、ベースライン時に30歳以上で急速に進行する変異を有する、Pre-fALSである参加者を対象に、臨床的に明確なALSのデータが出現するまでの時間にベイジアンワイブルモデルを当てはめた。NfL軌跡モデルにより、NfL上昇から臨床的に明確なALSの出現までの時間経過の予測が可能になった。適合モデルからの事後予測シミュレーションを利用して、異なるNfL閾値のパフォーマンスを評価した。本明細書では、Siemens Healthineers(SHL)NfLアッセイを用いて血漿NfLの分析を行った。
【0100】
NfL閾値の44pg/mLは、次の要因に基づいて導出されたものである。
1.低い偽陽性率(例:5%未満)。
2.NfLの処理時間、スクリーニング、試験のランダム化を考慮した、NfL上昇から臨床発症までの適切な予想期間(例えば、2~3ヶ月以上)。
3.NfLレベルが40pg/mL閾値に達してから12ヶ月後にALS症状の発症を示さない(ただし、44pg/mLの閾値には達していない)の被験者の臨床経験。
【0101】
所定のNfL閾値について、登録時、ならびに少なくとも12ヶ月の追跡調査期間において、NfLレベルが閾値未満である発症前保有者らに対して偽陽性率を評価した。ベースライン後の訪問時に参加者のNfLレベルが閾値を超えているが、その後少なくとも12ヶ月間臨床的に発症前のままであった場合、参加者を偽陽性とみなした。偽陰性率は、臨床的に明確なALSを有する参加者の全員について評価された。NfL閾値に達する前に臨床的に明確なALSが出現した場合、参加者を偽陰性とみなした。
【0102】
NfL閾値の44pg/mLでは、偽陽性率は0/24(0%)、偽陰性率は1/12(8.3%)であった。閾値として40pg/mLも検討されたが、偽陰性率は44pg/mLと同じであったものの、偽陽性率が高かったため(1/24、4.1%)却下となった。NfL閾値の44pg/mLで偽陽性率を最小限に抑えることで、健常者の被験者が必要のない可能性がある治療や臨床効果のない可能性がある治療にさらされることがない。
【0103】
当てはめたNfL軌跡モデルに基づいて、臨床症状発症前の幾何平均NfLレベルを月ごとに推定し、
図1に図示した。臨床的に明確なALSが出現する3ヶ月前に予想される幾何平均NfLレベルは約44pg/mLである。NfL閾値の44pg/mL、NfLのベースラインからの少なくとも10pg/mLの変化につき、プラセボ患者における、12ヶ月までの臨床的な明確なALSの事後予測確率は77.66%となる。
【0104】
本臨床研究は、パートA、パートB、パートC、パートDの4つのパートで構成されている。
【0105】
パートAは自然歴の導入期間に当たり、参加者は研究対象治療のアンチセンスAやプラセボを受けない。パートAの参加者は、例えばインフォームドコンセントの提出時点で18歳以上である。パートAの参加者は、血漿NfLレベルが44pg/mL未満であり、スクリーニング中に臨床的に明確なALSを示さなかった。パートAの参加者からは、スクリーニング中に以下のSOD1変異のうちいずれかが確認されている。
p.Ala5Thr(A4T,A5T)
p.Ala5Val(A4V,A5V)
p.Cys7Phe(C6F,C7F)
p.Cys7Gly(C6G,C7G)
p.Asp102Gly(D101G,D102G)
p.Asp102His(D101H,D102H)
p.Gly115Ala(G114A,G115A)
p.Gly42Ser(G41S,G42S)
p.Gly86Arg(G85R,G86R)
p.Gly86Ser(G85S,G86S)
p.Gly94Ala(G93A,G94A)
p.His44Arg(H43R,H44R)
p.Leu107Phe(L106F,L107F)
p.Leu107Val(L106V,L107V)
p.Leu39Val(L38V,L39V)
p.Arg116Gly(R115G,R116G)
p.Val149Gly(V148G,V149G)
【0106】
上記の各括弧は、各アミノ酸置換に対する代替命名規則の2つを示すものである。上記のアミノ酸置換のそれぞれを本明細書の他の箇所で言及するときは、各括弧内に最初に列挙される変異体識別子(例えば、A4T)を用いる。
【0107】
或いは、パートAの参加者は、外部の突然変異裁定委員会によって研究に含めるよう裁定された、上記に挙げたもの以外のSOD1変異を有してもよい。研究に追加のSOD1変異として含まれると裁定するためには、当該SOD1変異が高浸透率、または完全浸透率を有し、急速な疾患の進行に関連していることを確認する必要がある。
【0108】
パートBは、血漿NfLレベルが44pg/mL以上で、NfLのパートAベースラインからの変化が少なくとも10pg/mLであり、研究者の判断によると、NfL上昇に別の特定可能な原因が見つからない発症前の参加者の二重盲検ランダム化プラセボ対照期間に当たる。血漿NfLレベルが44pg/mL以上のレベルに達し、NfLのベースラインからの変化が少なくとも10pg/mLであり、臨床的に明確なALSを発症していないパートAの参加者は、パートBの登録資格を有する可能性がある。パートBでは、参加者は1:1(アンチセンスA:プラセボ)の比率でランダムに試験群に割り当てられ、治療(アンチセンスAの100mgまたはプラセボ)のうちいずれかをくも膜下腔内注射により投与される。パートBの参加者は、約14日置きに3回分の負荷用量(つまり1日目、15日目、29日目)を投与され、その後、盲検法でくも膜下腔内注射により維持用量を約28日ごとに投与される。
【0109】
本研究の主要評価項目(主要エンドポイント)は、パートBの開始から12ヶ月以内に臨床的に明確なALSが出現した参加者の割合である。本研究の副次的評価項目(二次エンドポイント)には、パートBの開始から24ヶ月以内に臨床的に明確なALSが出現した参加者の割合、臨床的に明確なALSの出現までの時間、筋萎縮性側索硬化症機能評価スケール改訂版(ALSFRS-R)合計スコアの変化、予測低速肺活量(SVC)の変化、換気補助なし生存期間(VAFS)(死亡または永久換気のうちいずれかの最も早い発生時点までの時間と定義される)、全生存率が含まれる。
【0110】
パートCは、参加者がくも膜下腔内注射によって100mgのアンチセンスAを投与される非盲検拡大研究期間に当たる。臨床的に明確なALSを発症したパートBの参加者が登録され、モニタリングを受ける。
【0111】
パートDは、臨床的に明確なALSを有するパートAの参加者での、ランダム化二重盲検プラセボ対照研究の期間に当たる。参加者は、2:1(アンチセンスA:プラセボ)の比率でランダムに割り当てられ、100mgのアンチセンスAまたはプラセボのうちいずれかをくも膜下腔内注射によって投与される。
【0112】
他の実施形態
本発明をその詳細な説明と併せて説明してきたが、以上の説明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を例示するためのものであり、限定することは意図していない。他の態様、利点、変更は、下記の特許請求の範囲内である。
【配列表】
【国際調査報告】