(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-15
(54)【発明の名称】GNSSに基づく位置特定のための代用補正データを生成するための方法
(51)【国際特許分類】
G01S 19/40 20100101AFI20240308BHJP
【FI】
G01S19/40
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558543
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(85)【翻訳文提出日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2022057597
(87)【国際公開番号】W WO2022200408
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】102021107213.1
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(71)【出願人】
【識別番号】510145967
【氏名又は名称】ユー-ブロックス、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】u-blox AG
【住所又は居所原語表記】Zuercherstrasse 68, CH-8800 Thalwil, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ジボ ウェン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス シュペート
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ツォーベル
(72)【発明者】
【氏名】マシュー グード
(72)【発明者】
【氏名】クリス ハイド
(72)【発明者】
【氏名】アレックス パーキンス
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062CC07
5J062DD25
5J062EE00
(57)【要約】
モバイル装置(1)のGNSSに基づく位置特定のための代用補正データを生成するための方法であって、少なくとも以下のステップ、即ち、a)少なくとも1つの補正データソース(2)からの補正データ(3)の受信が、現在機能不全であることを認識するステップと、b)以前に受信した補正データを読み出すステップと、c)以前に受信した補正データの少なくとも一部を使用して、現在の状況のための代用補正データを生成するステップと、を含む方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モバイル装置(1)のGNSSに基づく位置特定のための代用補正データを生成するための方法であって、
a)少なくとも1つの補正データソース(2)からの補正データの受信が、現在機能不全であることを認識するステップと、
b)以前に受信した補正データを読み出すステップと、
c)前記以前に受信した補正データの少なくとも一部を使用して、現在の状況のための代用補正データを生成するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記代用補正データを生成するステップは、適応的に実施される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記代用補正データを生成するステップは、少なくとも1つの外挿手順を使用して実施される、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記外挿手順は、適応的な外挿手順である、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記代用補正データを生成するステップは、ラグランジュ多項式を使用して実施される、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記代用補正データを生成するステップは、複数の異なる推定手順から少なくとも1つの推定手順を選択することを含む、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
d)ステップc)で生成された前記代用補正データに対する少なくとも1つの推定誤差を特定するステップ
をさらに含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法を実施するために構成されているコンピュータプログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のコンピュータプログラムが格納されている機械可読記憶媒体。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法を実施するように構成されている、モバイル装置(1)のGNSSに基づく位置特定のための装置(4)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モバイル装置のGNSSに基づく位置特定のための代用補正データを生成するための方法に関する。さらに、コンピュータプログラムと、機械可読記憶媒体と、モバイル装置のGNSSに基づく位置特定のための装置とが記載されている。本方法は、例えば、自動運転又は自律運転に関連して適用可能である。
【背景技術】
【0002】
従来技術
GNSS(例えば、GPS)による測位は、GNSS信号の伝搬時間の測定と、三辺測量とによって決定される。しかしながら、伝搬時間の測定は、通常、誤差を生じ易い。放送衛星軌道及びクロックデータが、実際値から乖離することはよくあることである。さらに、衛星での信号形成におけるハードウェア遅延が、遅延の一般的な理由である。さらに、複数の異なる大気媒質中における屈折及び伝搬は、真空中の光の速度と比較して衛星信号の伝搬遅延をもたらす。
【0003】
伝搬時間の測定におけるこうした誤差は、補正データによって低減可能である。このための公知の方法は、例えば、ディファレンシャルGNSS(dGNSS)、リアルタイムキネマティック(RTK)、又は、高精度単独測位(PPP)である。
【0004】
基本的には、補正データと所要の補正データとを使用する方法は、2つのクラスに、即ち、観測空間表現(OSR)と状態空間表現(SSR)とに分類することができる。OSR補正を使用するためには、ユーザ(ローバ)が基準点(基地局)の近傍にいる必要があり、そうでなければ、基地局の観測値とローバの観測値との間の差に基づいた誤差の解消/低減の仮定は、もはや成り立たなくなる。しかしながら、この方法のこの制限は、ネットワーク技術(例えば、仮想基準点方式(VRS))によって双方向通信を犠牲にして克服可能であり、即ち、ローバは、補正データを受信及び使用することができるようになる前に、まず始めにデータ(例えば、位置)を基準に送信する必要がある。
【0005】
このことは、補正の単方向通信(放送)に基づくSSR原理とは逆である。特に、大域的に有効でない補正(例えば、複数の異なる大気層での伝播)の場合には、モデルパラメータが送信される。次いで、ローバは、その(大まかな)位置に適応してこの位置を変換し、これにより、補正データをローバの観測に適用することが可能となる。さらに、伝送レイテンシ及び伝送レートに起因して時間遅れとなっている全ての補正を、現在の時間に適応させる必要がある。補正データストリームが中断され、したがって、補正を比較的長期間にわたって外挿する必要がある場合には、このことが特に重要である。
【0006】
補正データストリームを送信する際には、使用される通信技術(例えば、ラジオ/衛星放送、インターネット、車車間通信等)にかかわらず、中断/通信妨害が発生する可能性がある。このことはつまり、現在の補正をローバのために利用することができないということを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に基づいて、本明細書においては、代用補正データを生成するための特に有利な方法が提示される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の開示
本発明は、モバイル装置のGNSSに基づく位置特定のための代用補正データを生成するための方法であって、
本発明は、少なくとも以下のステップ、即ち、
a)少なくとも1つの補正データソースからの補正データの受信が、現在機能不全であることを認識するステップと、
b)以前に受信した補正データを読み出すステップと、
c)以前に受信した補正データの少なくとも一部を使用して、現在の状況のための代用補正データを生成するステップと、
を含む方法について記載する。
【0009】
ステップa)、b)及びc)は、本方法を実施するために、例えば、少なくとも1回、及び/又は、指定された順序で繰り返し実施可能である。さらに、ステップa)、b)及びc)、特にステップa)及びb)は、少なくとも部分的に並行して又は同時に実施可能である。
【0010】
本方法は、以前に受信した補正データ(特に、補正値、及び、関連する標準偏差又は分散)を外挿することによって、受信した補正データストリームの断絶を橋渡しするための有利な手順を形成することができる。これにより、(受信した補正データストリームの断絶又はデータ障害の)このような状況であっても正確な位置が特定されるという利点が可能となる。好ましい実施形態によれば、本方法は、適応的な外挿によってGNSS補正データ障害を有利に橋渡しするために実施可能である。
【0011】
GNSSは、Global Navigation Satellite System(全地球航法衛星システム)の略語であり、例えば、GPS、Galileo、GLONASS及びBeidouのうちの1つ又は複数を含み得る。GNSSに基づく位置特定手順は、通常、GNSS衛星信号のランタイム測定を含む。さらに、GNSSに基づく位置特定手順は、例えば、特に1つ又は複数の環境センサ(例えば、カメラ、RADAR、LIDAR、超音波等)からのセンサ情報、及び/又は、デジタル地図からの地図データのような、モバイル装置の現在位置を特定するために関連するさらなる情報を使用することができる。
【0012】
「代用補正データ」という用語は、少なくとも1つの補正データソースからの補正データを置換/代用及び/又は補足するために、本提案の方法によって人工的に生成されるデータを表すことを意図している。典型的な補正データソースは、それぞれ、補正データプロバイダ、又は、補正データプロバイダのサーバである。通常、こうした補正データプロバイダは、特に、地球上の特定の地点において予期されるGNSS信号のランタイムエラーを記述するマッピングされた補正データを提供する。前述のランタイムエラーは、例えば、特に地球の電離圏における信号伝搬の大気遅延に起因して引き起こされる可能性がある。しかしながら、提供される補正データは、軌道、クロック、コードバイアス、位相バイアス、電離圏、及び/又は、対流圏のような、GNSS信号に対する追加的又は代替的な影響を記述することもできる。
【0013】
モバイル装置は、任意の種類のポータブル装置又はモバイル装置であり得る。有利な実施形態によれば、モバイル装置は、例えば自動車又は乗用車のような車両である。モバイル装置は、自動運転又は自律運転の動作のために構成可能である。
【0014】
ステップa)においては、少なくとも1つの補正データソースからの補正データの受信が、現在機能不全であることを認識することが実施される。この認識することは、モバイル装置のGNSSに基づく位置特定のための装置によって実施可能である。少なくとも1つの補正データソースから期待された補正データが受信されない場合に、又は、妨害された形態で受信された場合に、少なくとも1つの補正データソースからの補正データの受信が、現在機能不全であることを認識することができる。もちろん、ステップa)において、2つ以上の補正データソースからの補正データが現在機能不全であるかどうかを認識することもできる。
【0015】
ステップa)における補正データの受信の中断は、例えば、補正データストリームを提供するモバイルデータ転送接続の途絶に起因して補正データストリームの受信が中断された場合に発生する可能性がある。補正データの受信が中断される他の理由は、補正データを処理するハードウェアコンポーネントの故障であり得る。補正データの受信の中断は、ステップa)における補正データの機能不全の非常に重大な事例である。ステップa)及びさらなる方法は、補正データの機能不全のさほど重大でない事例においても実施可能である。さほど重大でない事例とは、補正データを転送するために使用される1つ又は複数のデータストリーム(例えば、モバイル接続)のデータ転送レートの低下であり得る。特に、このような低下が認識された場合には、本方法を開始することができる。
【0016】
機能不全を認識するための他の(追加的又は代替的な)実施例は、機能不全が発生している可能性があることを示す(内部又は外部の)フラグが存在していることであり得る。このようなフラグは、モバイル装置に実装されたコンピュータプログラムコードの形態で設定可能であり、例えば、モバイル装置のGNSSに基づく位置特定のための装置によって読み出し(ひいては、認識)可能である。このようなフラグは、例えば車両がトンネルに進入した場合に、例えばナビゲーションデータ及び/又はセンサデータに基づいて設定可能である。このようなフラグは、例えば地図データに基づいて予め設定可能であり、及び/又は、モバイル装置の動作中に、例えばナビゲーションデータ及び/又はセンサデータに基づいて更新可能である。本明細書には、種々異なるさらなる機能不全の事例が含まれる。
【0017】
ステップb)においては、以前に受信した補正データを読み出すことが実施される。このような以前に受信した補正データとは、特に、少なくとも1つの補正データソースからモバイル装置によって、及び/又は、モバイル装置のGNSSに基づく位置特定のための装置によって、以前に受信した補正データを指す。このような以前に受信した補正データは、例えば、モバイル装置の記憶手段(例えば、デジタルメモリ)に格納可能である。記憶手段は、モバイル装置のGNSSに基づく位置特定のための装置の一部であるものとしてよく、又は、(この装置が記憶手段からデータを読み出すことができるように)この装置に接続されているものとしてよく若しくは接続可能であるものとしてよい。
【0018】
ステップb)においては、以前に受信した補正データが、好ましくはメモリストアから読み出される。好ましくは、この補正データは、ステップa)によって利用不可能であるとされた中断された補正データソースから受信されたものである。通常、1つの種類の補正データのデータ点(又はデータサンプル)のリストが、特定の頻度で-例えば5秒毎に-永続的に受信される。補正データのあらゆるデータ点を、所定の時間にわたってメモリに格納することができる。例えば、50個、100個又は200個の量の(過去の)データ点を、メモリにおいていつでも利用することができる。
【0019】
特に、ステップb)においては、補正データストリームの障害が生じる前の時間間隔において受信した補正データが読み出される。好ましくは、この時間間隔内の複数のデータ点が読み出される。それぞれ未来の時間又は現在の時間への補正データの外挿のために必要とされる数のデータ点を読み出すことが特に好ましい。
【0020】
ステップc)においては、以前に受信した補正データの少なくとも一部を使用して、現在の状況のための代用補正データを生成することが実施される。この生成するステップは、現在の時間/状況よりも前に受信した補正データの少なくとも1つの部分、有利には2つ以上の部分(それぞれ異なるタイムスタンプを有するデータセット)から外挿する手順を含み得る。追加的又は代替的に、この生成するステップは、モバイル装置が現在位置している領域又は領域の周囲に関して以前に受信した補正データの2つ以上の部分(それぞれ異なる位置を有するデータセット)の間を内挿する手順を含み得る。
【0021】
生成された代用補正データは、特に、補正値自体と、これらの値の不確実性を記述する関連する標準偏差又は分散とを含む。代用補正データは、例えば、補正値と、この補正値の完全性に関する情報とを含み得る。
【0022】
ステップc)における代用補正データを生成することは、以下においてより詳細に説明される種々異なる数学的アプローチ/手順を使用することによって実施可能である。
【0023】
好ましい実施形態によれば、代用補正データを生成することは、適応的に実施される。
【0024】
代用補正データを生成するための適応的なアプローチは、パラメータ、数学的なアプローチ/手順等を、代用の範囲内で現在の状況に適応させ得ることを含む。例えば、補正データの受信が機能不全である特定の時間間隔が発生すると直ちに、補正を計算するためのアプローチを変化させることが可能である。例えば、補正データの受信が途絶えた後の最初の60秒間には、第1のアプローチ(パラメータ、数学的アプローチ等)を使用することができ、補正データの受信が途絶えた後のその次の60秒間(60乃至120秒間)には、第2のアプローチを使用することができる。
【0025】
代用補正データを適応的に生成するさらなるアプローチは、モバイル装置の寿命にわたって代用補正データを生成するためのアプローチ/パラメータ/関数を変化させることである。補正データを提供する補正データサービスが補正データの提供を変化させた場合に、代用補正データの生成を適応させることを実施することができる。補正データサービスの変化は、他の外挿アプローチの必要性を引き起こす可能性がある。補正データサービスの変化は、補正データの品質の改善、又は、提供される補正データのフォーマット/頻度等の変化を含み得る。
【0026】
補正データサービスによって提供される補正データは、品質変動を有する可能性もある。このような品質変動の影響により、他の/補正された外挿関数(例えば、他の次数の多項式及び/又は他のパラメータを有する多項式)の方がより有利になり得る可能性がある。したがって、このような品質変動は、代用補正データの生成を適応的に変化させるための理由となり得る。
【0027】
本方法の好ましい実施形態においては、外挿によって代用補正データを生成するための最適な関数が、中央ユニットにおいて決定され、次いで、モバイル装置に分配され、このモバイル装置においてステップa)、b)、c)が実施される。このような決定は、元の補正データが利用可能である限り、生成された代用補正データと元の補正データとを比較することによって実施可能である。代用補正データを生成するための最適な関数を決定することは、多項式、多項式パラメータ等を決定することを含み得る。全てのこのようなデータは、ステップc)において代用補正データを決定する手法を記述するデータである。全てのこのようなデータは、代用補正データを生成する手法/関数を適応させるためにモバイル装置に頻繁に送信可能である。代用補正データを生成するための最適な関数を決定することは、少なくとも1つのモバイル装置において有効である代用補正データを生成する手法/関数を頻繁にテストすることも含み得る。このようなテストの範囲内で、生成する手法/関数が、特定の状況において十分な品質の代用補正データを生成するために依然として十分であるかどうかをチェックすることができる。さらに、品質がもはや十分ではない状況にのみ、代用補正データを決定する手法/関数を適応させるための更新(関数、多項式、パラメータ)をリリースすることも可能である。代用補正データを決定する手法/関数の更新は、特に、外挿された代用補正データを使用することができる時間間隔の長さを推定することを含み得る。
【0028】
さらなる好ましい実施形態によれば、代用補正データを生成することは、少なくとも1つの外挿手順を使用して実施される。
【0029】
外挿の一般的なアプローチは、過去の少なくとも2つのデータ点を使用して、例えば現在の時間のような将来における任意のデータ点の計算を可能にする曲線を定義することである。ここでは、データを外挿するために全ての利用可能なアプローチを使用することができる。
【0030】
さらなる好ましい実施形態によれば、外挿手順は、適応的な外挿手順である。
【0031】
適応的な外挿手順は、外挿関数の少なくとも1つのパラメータを含み、又は、利用可能な状況に基づいて適応させることができる外挿関数の少なくとも1つの数学的アプローチを含む。特に、補正データの受信が途絶えた後に経過した時間に関連して、外挿関数を変化させることができる。
【0032】
さらなる好ましい実施形態によれば、代用補正データを生成することは、ラグランジュ多項式を使用して実施される。
【0033】
ラグランジュ多項式は、外挿を計算するための効率的なアプローチである。外挿を計算するためにラグランジュ多項式の次数を選択することによって、外挿の特定の効果を有利に定義することができる。
【0034】
通常の用途においては、補正データソースとしての補正サービスは、軌道、クロック、コードバイアス、位相バイアス、電離圏、及び、対流圏の補正データを提供する。補正データ点は、ラグランジュ多項式関数を使用して外挿可能である。このようなラグランジュ多項式関数は、ステップc)において実施されるそれぞれの個々の外挿毎に効率的に構築可能である。多項式関数の次数は、可変であり得る。「0」の次数は、零次外挿に該当する。「1」の次数は、一次外挿に該当する。「5」の次数は、5次の多項式を用いた多項式外挿に該当する。多項式関数の次数は、適応的に選択可能である。関数(と、特に次数と)は、以前に受信した補正データ点の履歴、特に、補正データの受信が途絶える前の時間間隔において受信したデータ点の履歴を考慮することによって決定可能である。いくつか状況においては、「1」次の多項式関数(一次外挿)が良好なアプローチであり得る。他の状況においては、より高い次数がより推奨される。
【0035】
代用補正データを生成することが、複数の異なる推定手順から少なくとも1つの推定手順を選択することを含むことが、さらに好ましい。
【0036】
好ましくは、推定された手順は、メモリ内の過去からのデータ点によって充填されるべき利用可能な手順及び/又は関数として格納される。現在の状況に応じて、推定のために使用される1つの推定手順を選択することを実施することができる。
【0037】
さらなる好ましい実施形態によれば、本方法は、
d)ステップc)で生成された代用補正データに対する少なくとも1つの推定誤差を特定するステップ
も含む。
【0038】
ステップd)は、本方法の実施中の任意の時点で(ステップa)の前、ステップa)の後、及び/又は、ステップa)に並行して、ステップb)の前、ステップb)の後、及び/又は、ステップb)に並行して、ステップc)の前、ステップc)の後、及び/又は、ステップc)に並行して)実施可能である。
【0039】
ステップd)において特定される推定誤差自体は、好ましくは、外挿を用いた推定の品質の客観的な判定を可能にするアプローチによって推定される。好ましい実施形態によれば、推定誤差を特定するために、データストアに蓄積された先験的な知識又は専門的な知識が使用される。好ましくは、補正データの推定誤差を特定するためのアプローチは、推定自体の不確実性による影響を受けない。推定誤差を特定するために使用可能なデータを収集するための好ましいアプローチは、外挿された代用補正データと、受信した(元の)補正データとを、これら両方が利用可能である状況において比較することを含む。補正データを受信することが不可能であり、かつ、このような状況における推定誤差を特定することが不可能である時間には、このような状況を使用して、妥当な推定に関するデータを収集することができる。
【0040】
好ましくは、最小外挿誤差を示すパラメータを有する関数が、推定された誤差によって選択される。好ましくは、このことは、適応的に実施される。
【0041】
特定された推定誤差に不確実性を加えることがさらに好ましい。この追加的な不確実性は、外挿誤差を反映させるために選択される。
【0042】
適応的なアプローチの範囲内で、例えば、多項式関数によって生成された代用補正データを使用するための最大時間間隔を設定することが可能である。例えば、このような時間間隔を、秒又は分で定義することができる。このような時間間隔は、補正データの種類によってそれぞれ異なり得る。
【0043】
例えば、軌道の補正データの場合には、約5分の時間間隔が適当であり得る。対流圏の補正データの場合の時間間隔は、好ましくは少なくとも2倍長く、例えば約15分である。軌道、クロック等に関する補正データの場合には、いくつかの異なる時間間隔を定義することができる。時間間隔の定義は、好ましくは、補正データによって補償されるそれぞれの個々の誤差の物理的側面を考慮して与えられる。
【0044】
代用補正データを生成するための多項式関数のための時間間隔内で、複数の異なるサブ時間間隔を定義して、代用補正データを生成するために、これらの複数の異なるサブ時間間隔内でそれぞれ異なる多項式関数を使用することが好ましい。例えば、少なくとも(元の)補正データの受信終了直後の第1の時間間隔と、第1の時間間隔に直続する第2の時間間隔とが存在することが好ましい。通常、外挿のために使用される多項式関数の次数は、(元の)補正データの受信終了後の時間が長くなるにつれて減少する。第1の時間間隔では、二次関数(「2」次)及び/又は「5」次の関数を使用することが好ましい選択肢である。第2の時間間隔では、「1」次の関数(一次関数)を使用することが好ましい選択肢である。時間間隔の持続時間に関して、第1の時間間隔が、代用補正データを生成するための多項式関数の使用時間全体の1/3の持続時間を有し、かつ、第2の時間間隔が、代用補正データを生成するための多項式関数の使用時間全体の2/3の持続時間を有することが好ましい。
【0045】
補正データの外挿を、補正データの複数の異なる部分に対してそれぞれ異なるアプローチを用いて実施するものとしてもよい。補正データが、通常、種々異なる種類のデータから成り、特に、補正値自体と、これら値の不確実性を記述する、補正値の標準偏差の分散とから成ることは、上記で説明した。補正値自体と、分散/標準偏差に関するパラメータとを計算するために、複数の異なる関数/パラメータ/アプローチを使用することが一般的である。特に、外挿のためにラグランジュ多項式関数を使用する場合には、分散/標準偏差パラメータを計算するための多項式の次数を、補正値を計算するための多項式の次数よりも高くすることが有利である。特に、分散/標準偏差パラメータの場合には、これらの分散/標準偏差パラメータが、時間の経過とともにより不確実になることが一般的である。
【0046】
本方法は、一方では、開発中に適用可能である。このような使用では、補正データのデータ点のセットを、一度決定/生成することができ、次いで、(仮想的な)受信補正データとして認識することができる(ステップa))。その後、ステップb)及びc)に従ってさらなるテストデータを生成することができる。
【0047】
しかしながら、好ましい実施形態によれば、本方法は、アルゴリズムに直接的に組み込まれていて現場で使用されるので、たとえ補正データの受信が機能不全になったとしても、本方法を使用して、高品質の補正データの途切れのないストリームを形成することが可能である。このようにして、例えば製品のライフサイクル中の補正データの品質変動に対処することができる。補正データの品質の変化の例は、補正データを提供する補正データサービスが、自身のサービス品質を変化させた場合に発生する可能性がある。多くの場合、このことは、品質の改善であろうが、補正データの品質が低下するという状況が発生する可能性もある。多くの場合、補正データと、この補正データに基づいて補正を実施する能力とは、将来的に改善される。なぜなら、誤差がより安定するからである。例えば、将来の衛星世代のより正確なクロックは、これに関して大きな影響を及ぼすであろう。
【0048】
本発明のさらなる好ましい実施形態においては、方法ステップc)は、2つのステップに分割される。第1のステップc1)においては、それぞれの補正値毎に、可能な限り最良の外挿が探索される。以下の実施例においては、このことが図面に関連して説明されており、この目的のためにラグランジュ多項式が使用される。その他の内挿法/外挿法も考えられよう。第2のステップc2)においては、可能な限り最良の外挿が推定される。特に、補正値に関連する標準偏差が外挿される。本方法のいくつかの実施形態においては、補正値自体の多項式外挿は、いくつかの種類の補正データに関しては適当でない。(元の)補正データの受信が機能不全である場合には、これらの補正値を一定に保持することがむしろ有用である可能性がある。
【0049】
さらに、上記の方法を実施するために構成されている、コンピュータプログラムを提案することが課題である。換言すれば、このことは、特に、コンピュータによって実行された場合に本明細書に記載の方法をコンピュータに実施させるための命令を含むコンピュータプログラム(製品)に関する。
【0050】
コンピュータプログラムは、代用補正データを生成するために、モバイル装置又は車両のハードウェアにインストール可能である。
【0051】
さらに、コンピュータプログラムが格納されている機械可読記憶媒体を提案することが課題である。例えば、機械可読記憶媒体は、コンピュータ可読データ担体又はメモリであり得る。
【0052】
さらに、上記の方法を実施するように構成されている、モバイル装置のGNSSに基づく位置特定のための装置が提案される。GNSSに基づく位置特定のための装置は、例えば、本方法を実施するための命令を実行することができるコンピュータ及び/又は制御装置(コントローラ)を含み得る。このために、コンピュータ及び/又はコントローラは、例えば、指定されたコンピュータプログラムを実行することができる。例えば、コンピュータ及び/又はコントローラは、コンピュータプログラムを実行するために指定された記憶媒体にアクセスすることができる。GNSSに基づく位置特定のための装置は、例えば、モーション及びポジションセンサであるものとしてもよいし、又は、このようなセンサの一部であるものとしてもよい。GNSSに基づく位置特定のための装置は、車両の内部又は表面に配置可能である。
【0053】
さらなる代替的な実施形態においては、コンピュータプログラムは、複数の異なるモバイル装置のための代用補正データを一度に計算する1つの中央サーバユニット上にインストール可能であり、かつ、この中央サーバユニット上において実行可能である。その場合、代用補正データは、代替的なデータリンク、例えばモバイル無線を介してそれぞれの車両に配信可能である。
【0054】
本方法に関連して説明される詳細、特徴及び有利な実施形態は、本明細書において提示されるコンピュータプログラム及び/又は記憶媒体及び/又は装置においても相応に得られ、その逆もまた可能である。これに関して、各特徴のより詳細な特性については、本明細書の説明を十分に参照されたい。
【0055】
以下においては、本発明を、図面を用いてより詳細に説明する。図面は、技術的な文脈及び好ましい実施形態及び説明的な実施例を示している。本開示は、図面に限定されるものではなく、上記の全ての他の開示と組合せ可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】ラグランジュの(4乃至7)次の関数としての外挿誤差を示す図である。
【
図2】ラグランジュの(5)次を使用した場合の、測位精度に対する外挿誤差の影響を示す図である。
【
図3】ラグランジュの0次、1次及び5次による外挿の比較を示す図である。
【
図4】零次外挿を用いた電離圏補正の誤差を示す図である。
【
図5】零次外挿を用いた対流圏補正の誤差を示す図である。
【
図6】GPS衛星のための零次外挿を用いたクロック補正の誤差を示す図である。
【
図7】GLONASS衛星のための零次外挿を用いたクロック補正の誤差を示す図である。
【
図9】補正データがモバイル装置において受信されている状況の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
図面は全て、軌道の補正データに関する利点に該当する。本実施例の教示は、他の種類の補正データ(衛星クロック、電離圏等)にも適用可能である。図面の説明に関連してさらなる有利な特徴が説明されており、これらの特徴は、軌道の補正データの実施例には関連付けられていないが、本方法をさらに詳細に記すために使用可能である。
【0058】
図1は、多項式外挿関数の次数が外挿の精度に与え得る影響を示している。
図1は、メートル単位での3D誤差を、X軸上の多項式の次数の関数としてY軸上に示している。
図1は、データの外挿開始後の複数の異なる時間に関する3つの曲線を示している。
図1は、全ての曲線についてラグランジュの5次で最小値が存在することを示している。
【0059】
しかしながら、
図1は、ラグランジュの5次多項式により、外挿時間がより長時間である場合に誤差率が増大していることも示している。したがって、特定の外挿時間(例えば、30、60、90、120秒)毎に最良の多項式が使用される。ラグランジュの5次多項式による誤差の増加については、
図2でさらに検討する。
図2は、ラグランジュの5次多項式のケースに関する
図1の3D誤差を示す4つの曲線を示している。
図2は、(完全な)3D誤差に加えて、それぞれ分離された誤差であるデルタX、デルタY及びデルタZに関する曲線を示している。これらの誤差は、X軸上での時間の経過に伴ってY軸上にメートル単位でプロットされている。
【0060】
0次、1次及び5次を用いた
図3の以下の実施例は、それぞれの時間間隔毎に最良の多項式次数を選択することの意味を示している。
図3は、12個の個々の線図を行列で示している。行列の行は、外挿開始後30秒、60秒、90秒及び120秒の時間に該当する。第1列は、「5」次による多項式外挿に該当する。第2列は、「0」次の多項式に相当する零次補正に該当する。第3列は、「1」次による多項式外挿(一次外挿)に該当する。それぞれの線図は、誤差のガウス分布を示している。X軸上には、誤差がメートル単位でプロットされている。Y軸上には、データ値のカウント数(サンプル)が示されている。ガウス分布が急峻であればあるほど、その外挿関数はより正確になる。
図3の線図のX軸上の分解能は、各行毎に異なっている。第1行における分解能は、-0.02乃至0.02である。第2行における分解能は、-0.04乃至0.04である。第3行における分解能は、-0.06乃至0.06である。第4行における分解能は、-0.08乃至0.08である。線図を読み取る際には、このことを考慮すべきである。特に、第1列の第4行は、より長時間の経過後にはラグランジュの5次多項式がさほど適当ではなくなっていることを示している。なぜなら、分布の急峻性が低下しているからである。これとは対照的に、零次補正及び1次による補正は、より長時間の経過後にも精度の低下がそれほど大きくない。
【0061】
外挿時間が30秒の場合、5次と1次(一次外挿)とがほぼ等しく、したがって、この期間に対しては5次及び1次の両方が適用可能である。外挿時間がより長時間である場合には、一次外挿が、より良好な値を提供する。ここで、例えば45秒までは5次多項式を使用し、45秒からは1次多項式を使用することが可能であろう。しかしながら、一般的に、完全な外挿のために1つの多項式のみを使用することも好ましい実施形態である。
【0062】
特定の次数の多項式が有用である最大外挿は、補正の種類によってそれぞれ異なっている。実質的に、補正の種類は、補正されるべき誤差の変化率に依存し、したがって、これらの補正の種類が基礎としている物理的特性に依存する。例えば、コード及び位相バイアスは、非常に緩慢に変化する値であり、したがって、外挿誤差を著しく増大させることなく長時間の外挿時間(例えば、15~30分)を可能にする。対流圏補正においては、重要なことは、主として大気中の湿度の割合であり、ひいては天候の変化である。天候は、地域及び季節に応じて異なる速度で変化する。例えば、中央ヨーロッパの夏期の雷雨の場合には15分を想定することができる。他方で、東南アジアのモンスーンの場合には、天候は、数分(例えば、2分)以内に変化する可能性がある。したがって、ラグランジュ多項式の(特に、ラグランジュ多項式の次数の)地域毎の適応は、1つの適当な解決策であろう。
【0063】
したがって、地域毎及び季節毎の適応を考慮することができる。同様のことが電離圏補正にも該当する。電離圏補正は、太陽活動に伴って変化する。したがって、夜間には長時間の外挿時間(例えば、15分)が可能である。可能な限り最大の外挿時間は、日中には緯度が低くなるにつれて増大し、したがって、わずか数分のみ外挿可能である(例えば、2~5分)。特に、電離圏の場合には、(従来技術による)監視(例えば、幾何学的要素が含まれない線形結合)が推奨される。なぜなら、強力な太陽活動によって引き起こされる磁気嵐が、環境条件の急速な変化をもたらし、ひいては誤った外挿値をもたらすからである。
【0064】
クロック補正の変化は、ノイズと最良に比較可能であり、このノイズの強さは、衛星内に設置されているクロックの種類と相関している。したがって、最大外挿時間は、衛星の種類に依存し、将来の衛星世代によって変化する可能性がある。他方で、電離圏及び対流圏の物理的特性は、通常は変化しないので、最大外挿時間は同等のままである。
【0065】
上記においては、標準偏差/分散の推定に関して、補正値自体の推定の場合とは異なる関数/アプローチが適用可能であることを説明した。標準偏差/分散を推定するためのアプローチを、
図4、
図5、
図6及び
図7を用いて説明する。
図4は、零次外挿を用いた電離圏補正の誤差を示している。
図5は、零次外挿を用いた対流圏補正の誤差を示している。
図6は、GPS衛星のための零次外挿を用いたクロック補正の誤差を示している。
図7は、GLONASS衛星のための零次外挿を用いたクロック補正の誤差を示している。
【0066】
目的は、補正データを推定する時間間隔/代用補正データを生成する時間間隔の最中に補正値の誤差又は不正確性を反映するように適当な標準偏差を選択することである。好ましくは、この推定された標準偏差/分散データは、方法ステップc)に従って生成された、生成された代用補正データの一部である。適当なアプローチは、標準偏差の3倍が、補正値の外挿誤差を包含すべきであるということである。
図4、
図5、
図6及び
図7に示されている以下の実施例は、このことを説明している。
【0067】
これらの図面は全て、X軸上に外挿時間を示し、Y軸上に誤差をメートル単位で示している。それぞれ
図4、
図5、
図6、
図7には、(生成されたものではない)元の補正データに関する曲線群が、背景に示されている。さらに、補正値に対応する平均が示されている。この平均曲線の周囲の標準偏差/分散によって包含されるべき線図の領域を表すために、最大曲線が示されている。この最大曲線は、数学的関数を用いた計算によって近似可能である。
図4、
図5及び
図6は、この目的のために一次関数に関する実施例を提供している。
図4及び
図5によれば、この目的のために2つの直線が使用される。
図6によれば、この目的のために3つの直線が使用される。
図7によれば、二「2」次関数が使用される。ここでは、ゼロ交差を有さない関数が(図示の外挿時間において)最大誤差をより良好に表すことが見て取れる。しかしながら、このことは、非常に短時間の外挿時間の場合にはこの関数を使用すべきでないということを意味する。なぜなら、ゼロに向かう外挿時間の場合には、外挿誤差もゼロに向かうことになるからである。したがって、ここではゼロ交差を有する関数を使用すべきである。
【0068】
図8は、方法ステップa)10、b)20、c)30及びd)40を有する上記の方法の概略図を示している。
【0069】
図9は、補正データソース2からの補正データがモバイル装置1によってデータストリーム3の形態で受信されている状況の概略図を示しており、このデータストリーム3は、補正データ値と、好ましくは標準偏差/分散値も含む。本実施例においては、モバイル装置1は、車両である。モバイル装置1には、本方法を実施するための装置4が設けられている。
【国際調査報告】