(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-15
(54)【発明の名称】生体分子の機能特性を説明するためのグリコシル化プロファイリングの方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240308BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558832
(86)(22)【出願日】2022-03-21
(85)【翻訳文提出日】2023-11-24
(86)【国際出願番号】 EP2022057332
(87)【国際公開番号】W WO2022200262
(87)【国際公開日】2022-09-29
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504104899
【氏名又は名称】アレス トレーディング ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】レナート マストランジェリ
(72)【発明者】
【氏名】アビジート サトベカル
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041HA01
2G041JA02
2G041LA08
2G045DA36
2G045FA40
2G045FB06
(57)【要約】
生体分子のグリコシル化プロファイルは、そのような生体分子の重要な側面を説明する。 生体分子のグリコシル化プロファイルの特性評価は、生体分子の製造及び分析プロセスにおける重要な品質特性の重要な部分である。 従って、生体分子のグリコシル化プロファイルを決定及び特徴付ける方法が本明細書に記載される。 特に、この方法は、1つ又は複数の指標を使用して、そのような生体分子のフィンガープリントとしてグリコシル化プロファイルを記載する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子のグリコシル化の同一性を決定する方法であって、
a. 生体分子をLC-MS分析に提供し、
b. シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、 N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程a)で得られた結果から計算し、そして
c. 工程b)で得られた計算値を整列し、
ここで、前記整列された値が生体分子のグリコシル化の同一性を表す、ことを含んでなる方法。
【請求項2】
前記生体分子が、まず生体分子を含む混合物から精製される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記整列された値が、生体分子のグリコシル化の同一性を説明するための標準化された指標である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記整列された値が、生体分子の指紋プロファイルを表す、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
生体分子と参照生体分子との生物学的類似性を決定する方法であって、
a. 生体分子をLC-MS分析に提供し、
b. シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、 N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程a)で得られた結果から計算し、そして
c. 工程b)で得られた計算値と参照生体分子の値との偏差を決定し、
ここで、工程c)で決定された偏差が事前設定範囲内にある場合、生体分子は生物類似であるとみなされ、そして工程c)で決定された偏差が事前設定範囲外である場合、類似していないとみなされる、ことを含んでなる方法。
【請求項6】
生体分子を調製するプロセス内での比較可能性を確立する方法であって、
a. 生体分子を調製するためのプロセスに従って第1のバッチで第1の生体分子を調製し、
b. 生物分子を調製するためのプロセスに従って第2のバッチで第2の生物分子を調製し、ここで工程a)及び工程b)のプロセスが同一のプロセス工程を含み、
c.工程a)及び工程b)で得られた第1及び第2の生体分子を含む混合物から第1及び第2の生体分子を別々に精製し、精製された第1の生体分子及び精製された第2の生体分子を得、
d. 前記精製された第1及び第2の生体分子のそれぞれをLC-MS分析に提供し、
e. シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、 N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程d)で得られた結果から計算し、そして
f. 工程e)で選択された各指数の計算値における、第1の生体分子の値と第2の生体分子の値との間の偏差を決定し、
ここで、工程f)で決定された偏差が事前設定範囲内にある場合、第1及び第2の生体分子は同じであるとみなされる、ことを含んでなる方法。
【請求項7】
生体分子と参照生体分子とのプロセス内の比較可能性を決定するための方法であって、
a. 生体分子を調製するためのプロセスに従ってバッチで生体分子を調製し、
b. 工程a)で得られた生体分子を含む混合物から生体分子を精製し、精製された生体分子を得、
c. 精製された生体分子をLC-MS分析に提供し、
d. シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、 N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程c)で得られた結果から計算し、そして
e. 工程d)で選択した各指数の計算値と、生体分子の指数の基準値との偏差を決定し、
ここで、工程e)で決定された偏差が事前設定範囲内にある場合、生体分子は参照生体分子と同じであるとみなされる、ことを含んでなる方法。
【請求項8】
体分子及び参照生体分子が生物類似であるとみなされる場合、生体分子がサンプルであるバッチのバッチ放出をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
生体分子と参照生体分子との生物学的類似性を判定する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
工程e) で決定された偏差が事前設定範囲外の場合、生体分子はグリコシル化の点で生物類似ではないとみなされる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
同じ生体分子を生成するための異なるプロセス間の比較可能性を確立する方法であって、
a. 生体分子を調製するための第1の方法に従って第1の生体分子を調製し、
b. 生体分子を調製するための第2の方法に従って第2の生体分子を調製し、ここで前記工程a)及び工程b)のプロセスが少なくとも1つの異なるプロセスステップを含み、
c. 工程a)及び工程b)で得られた第1及び第2の生体分子を含む混合物から第1及び第2の生体分子を別々に精製し、精製された第1の生体分子及び精製された第2の生体分子を得、
d. 精製された第1及び第2の生体分子のそれぞれをLC-MS分析に提供し、
e. シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、 N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程d)で得られた結果から計算し、そして
f. 工程e)で選択された各指数の計算値における、第1の生体分子と第2の生体分子の計算値との間の偏差を決定し、
ここで工程f)で決定された偏差が事前設定範囲内にあり、そして第1及び第2のプロセスが生物類似の生体分子を生成する場合、第1及び第2の生体分子は同じであるとみなされる、ことを含んでなる方法。
【請求項12】
生体分子の機能的特徴を決定する方法であって、
a. 請求項1に記載の方法に従って生体分子のグリコシル化同一性を決定し、
b. 選択された指標数について得られた値を、単独又は組み合わせて生体分子の機能的特徴と相関する指数の参照値と比較し、そして
c. 免疫原性リスク、薬物受容体相互作用、mAbエフェクター機能、結合部位のアロステリック調節、バイオアベイラビリティ、薬物動態、生体分子の安定性、及び溶解度から選択される生体分子の1つ又は複数の機能的特徴を決定することを含んでなる方法。
【請求項13】
生体分子の機能的特徴がグリカンプロファイルである場合、さらに、サンプル生体分子のグリカンプロファイルを生体分子の参照グリカンプロファイルと比較し、そして生体分子が参照生体分子と同じ供給源及び/又はプロセスに由来するかどうかを決定する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
サンプル生体分子のグリカンプロファイルと参照グリカンプロファイルとの間に差異がある場合、サンプル生体分子は偽造生体分子とみなされる、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載される本発明は、生体分子のグリコシル化プロファイルを決定及び特徴付ける方法に関する。 特に、この方法は、1つ以上の指標を使用して、そのような生体分子のグリコシル化プロファイルを記載する。 生体分子のグリコシル化プロファイルの特性評価は、生体分子の製造及び分析プロセスにおける重要な品質特性の重要な部分である。
【背景技術】
【0002】
組換え糖タンパク質 (モノクローナル抗体、サイトカイン、ホルモン、Fc 融合分子) は、重要な種類の生物治療薬である。 現在、製薬会社によって数多くの抗体やその他の糖タンパク質が活発に開発されている。
【0003】
これらの生物治療薬に関して、グリコシル化は安定性、溶解性、クリアランス速度、有効性、免疫原性、安全性の点でその分子特性に大きな影響を与える。 特定の薬物のグリコシル化プロファイルは宿主細胞株に大きく依存しており、細胞培養条件に非常に敏感である。 さらに、最終的なグリコシル化プロファイルは精製プロセスに依存する。
【0004】
従って、グリコシル化は、例えば、そのようなグリコシル化バイオ医薬品の開発中、その生産のための製造プロセス変更後の比較研究、及び生物類似開発(参照医薬品との比較)においては、厳重に監視する必要がある、グリコシル化バイオ医薬品の重要な品質特性 (CQA) の 1 つである。各グリコシル化部位でグリコフォームの分布が生成され、その結果、各部位で不均一性の高い糖タンパク質が生成され、複数のグリコシル化部位が存在する場合、糖タンパク質全体のレベルで複雑さと不均一性が増加する。
【0005】
安全性と有効性を確保するために、規制当局は品質管理戦略の重要な部分として厳格なグリカン分析を要求している。
【0006】
グリカンプロファイルの評価は、次に製造バッチとの比較対照として使用される社内標準の完全な特性評価に基づいている。 現在、放出試験では、この比較は通常、グリアン放出法を使用して実行される。 しかしながら、特に特定の部位が有効性に関連する複数のグリコシル化部位を持つ糖タンパク質を考慮する場合、または糖タンパク質に融合した抗体を考慮する場合、グリカンの放出にはいくつかの制限がある。この方法を使用すると、O-グリカンに関連する情報を含む関連する部位固有の情報が失われ、グリカンの不完全な放出又は回収によって定量が影響を受ける可能性がある。 さらに、得られた放出されたN-グリカン混合物は、検出可能なレベルで存在する場合、例えば宿主細胞タンパク質によって放出された、又は非標準グリコシル化部位によって放出されたグリカンなどの望ましくないN-グリカンを含む可能性がある。
【0007】
従って、複数のグリコシル化部位を含む糖タンパク質に適用した場合の放出法の主な欠点は、N-グリカン種の平均量が多くなり、機能に影響を及ぼす関連変化の評価には適さないことである。 さらに、部分的にグリコシル化されている部位は考慮されていないため、占有率に変化があった場合には対象外となる。 さらに、可溶性受容体に融合した免疫サイトカイン又は抗体を分析する場合、Fc エフェクター機能にとって極めて重要な役割を果たす Fc グリカンの情報が取得できないため、全体的なグリカン放出メソッドは価値を失う。
【0008】
さらに、現在、細胞培養実験中に発生するグリコフォーム分布の変化を観察するための標準化された測定基準が不足している。 グリコシル化パターンを説明するために指標が開発された。 このような指標の例としては、放出されたグリカン全体に基づいて計算される Z 番号と A 指標がある。 Z 番号は、フォリトロピン濃縮溶液の薬局方に報告及び計算されている。Z番号は、タンパク質のグリコシル化を特徴付けるための仮想の電荷数 (Z) を表す。Z数は、N-グリカン種の相対面積 (%) に対応する電荷 (シアル酸の数) を掛けた積の合計として定義される。A 指標 は、仮想の触角指数 (A) を表す。 触角指数は、N-グリカン種の相対面積 (%) に対応するアンテナ数 (n) を掛けた積の合計として定義される。 このような指標は最近、糖ペプチド法を使用して各FSH 部位にも適用され、平均すると、これらの値はグリカン放出法で得られる値と類似していることが判明した。
【0009】
しかしながら、そのような指標には限界があるため、集団全体のグリコシル化のパーセントを説明するために使用すべきではない。 多くの場合、指標は、例えば抗体の Fc 領域に存在する 1 つのグリコシル化部位のみに関連している。 従って、そのような指標の限界により、生体分子のグリコシル化プロファイルを記述する改良された方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の制限を克服する方法を提供し、生体分子のグリコシル化プロファイルを決定及び記載するためのより適切な方法を提供する。 本明細書に記載されるような方法は、各部位、各サブユニット/ドメイン、及び/又は分子全体におけるシアル酸及びアンテナ性の観点から糖タンパク質含量をより良く視覚化し、特徴付ける。 この方法は、例えばLC-MSベースの分析方法によって取得されたデータを利用し、その後、生体分子のグリコシル化を記述するための新しい指標システムを使用する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの実施形態によれば、生体分子のグリコシル化の同一性を決定する方法が提供され、ここで前記方法は、
a. 生体分子をLC-MS分析に提供し、
b. シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、 N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程a)で得られた結果から計算し、そして
c. 工程b)で得られた計算値を整列し、
ここで、前記整列された値が生体分子のグリコシル化の同一性を表す、ことを含んでなる。
【0012】
生体分子のグリコシル化を説明するためのそのような組み合わせ及び方法は、例えばプロセス検証で使用される、プロセス変更の結果としてのグリコシル化間の差異の決定などの様々なさらなる方法で使用できる改良された方法を提供する。 また、生体分子の重要な品質特性をより適切に特定し、生体分子の同一性を特定できる可能性がある。 そのようなさらなる方法には、本明細書に記載される本発明のさらなる実施形態が含まれる。
【0013】
本発明のそのような他の実施形態によれば、生体分子と参照生体分子との生物学的類似性を決定する方法が提供され、ここで前記方法は、a.) 生体分子をLC-MS分析に提供し、b.) シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、 N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程a)で得られた結果から計算し、そしてc.) 工程b)で得られた計算値と参照生体分子の値との偏差を決定し、ここで、工程c)で決定された偏差が事前設定範囲内にある場合、生体分子は生物類似であるとみなされ、そして工程c)で決定された偏差が事前設定範囲外である場合、類似していないとみなされる、ことを含んでなる。生体類似性は、同じアミノ酸構造と同じ機能特性を持つ生体分子として理解されることがよくある。 同じ生体分子でありながら(つまり、同じアミノ酸構造を有する)グリコシル化プロファイルの違いは、サンプル中で分析される生体分子が参照生体分子のバイオシミラーであることを示している可能性がある。
【0014】
本発明のさらに別の実施形態によれば、生体分子を調製するプロセス内での比較可能性を確立する方法が提供され、ここで前記方法は、a.) 生体分子を調製するためのプロセスに従って第1のバッチで第1の生体分子を調製し、 b.) 生物分子を調製するためのプロセスに従って第2のバッチで第2の生物分子を調製し、ここで工程a)及び工程b)のプロセスが同一のプロセス工程を含み、 c. )工程a)及び工程b)で得られた第1及び第2の生体分子を含む混合物から第1及び第2の生体分子を別々に精製し、精製された第1の生体分子及び精製された第2の生体分子を得、 d.) 前記精製された第1及び第2の生体分子のそれぞれをLC-MS分析に提供し、e.) シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、 N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程d)で得られた結果から計算し、そしてf.) 工程e)で選択された各指数の計算値における、第1の生体分子の値と第2の生体分子の値との間の偏差を決定し、ここで、工程f)で決定された偏差が事前設定範囲内にある場合、第1及び第2の生体分子は同じであるとみなされる、ことを含んでなる。
【0015】
本発明のさらに別の実施形態によれば、生体分子と参照生体分子とのプロセス内の比較可能性を決定するための方法が提供され、ここで前記方法は、a.) 生体分子を調製するためのプロセスに従ってバッチで生体分子を調製し、b.) 工程a)で得られた生体分子を含む混合物から生体分子を精製し、精製された生体分子を得、 c.) 精製された生体分子をLC-MS分析に提供し、d.) シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、 N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程c)で得られた結果から計算し、そしてe.) 工程d)で選択した各指数の計算値と、生体分子の指数の基準値との偏差を決定し、ここで、工程e)で決定された偏差が事前設定範囲内にある場合、生体分子は参照生体分子と同じであるとみなされる、ことを含んでなる。
【0016】
本発明のさらに別の実施形態によれば、同じ生体分子を生成するための異なるプロセス間の比較可能性を確立する方法が提供され、ここで前記方法は、a.) 生体分子を調製するための第1の方法に従って第1の生体分子を調製し、 b.) 生体分子を調製するための第2の方法に従って第2の生体分子を調製し、ここで前記工程a)及び工程b)のプロセスが少なくとも1つの異なるプロセスステップを含み、 c.) 工程a)及び工程b)で得られた第1及び第2の生体分子を含む混合物から第1及び第2の生体分子を別々に精製し、精製された第1の生体分子及び精製された第2の生体分子を得、d.) 精製された第1及び第2の生体分子のそれぞれをLC-MS分析に提供し、e.) シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、 N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程d)で得られた結果から計算し、そしてf.) 工程e)で選択された各指数の計算値における、第1の生体分子と第2の生体分子の計算値との間の偏差を決定し、ここで工程f)で決定された偏差が事前設定範囲内にあり、そして第1及び第2のプロセスが生物類似の生体分子を生成する場合、第1及び第2の生体分子は同じであるとみなされる、ことを含んでなる。
【0017】
本発明の別の実施形態によれば、生体分子の機能的特徴を決定する方法が提供され、ここで前記方法は、a.) 上記第1の実施形態の方法(すなわち、a.) 生体分子をLC-MS分析に提供し、b.)シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程a)で得られた結果から計算し、そしてc,) 工程b)で得られた計算値を整列し、ここで整列された値は、生体分子のグリコシル化のアイデンティティを表す)に従って生体分子のグリコシル化同一性を決定し、b,) 選択された指標について得られた値を、単独又は組み合わせて生体分子の機能的特徴と相関する参照値と比較し、そしてc.) 免疫原性リスク、薬物受容体相互作用、mAbエフェクター機能、結合部位のアロステリック調節、バイオアベイラビリティ、薬物動態、生体分子の安定性、及び溶解度から選択される生体分子の1つ又は複数の機能的特徴を決定することを含んでなる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
生体分子のグリコシル化プロファイルを記載する改良された方法を提供するために、本発明は、そのような生体分子のグリコシル化を記載する様々な方法を記載する。 多くの指標を使用したこのような改良された方法により、ヒトで使用するために製造された生体分子を医薬品有効成分として分析、比較、放出することが可能になる。 本明細書に記載の方法は、プロセス間変動又はその不在の同定を可能にし、バッチ放出及び/又は生物学的類似性の決定のための特定のグリコシル化プロファイルを有する生体分子のバッチ比較及び決定を可能にする。
【0019】
本明細書で使用される方法は、生体分子上で起こり得るグリコシル化を記載するために様々な指標を利用する。 このような指標は、例えば、以下を含む:シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ)。さらに、生体分子がFc領域を含む特定のさらなる指標が使用され、そのような指標は、例えば、G0、G1、及びG2指標である。 これらの各指標は、分子内の特定の部位に対して計算され、そのような特定の部位でのグリコシル化を表すことができる。 あるいは、本発明の方法の特定の実施形態によれば、例えばシアル化指数、ガラクトシル化指数、アルファGal指数、マンノース指数、及びN-アセチルグルコサミン指数(GlcNac指数)などのいくつかの指数を分子全体の合計として計算することもできる。さらに、総NANA(SNANA)指数又は総NGNA(SNGNA)指数も、本発明の方法のいずれかで計算することができる。 このような指標については、部位特異的指数を計算するか、全分子指数を計算するか、又はその両方を計算できる。 このような全分子指数は、例えばその免疫原性やクリアランスなどの生体分子の機能的特徴を決定又は説明するのにも役立ち得る。
【0020】
本発明で説明する方法のいずれかにおいては、少なくとも3つの指標が使用される。 指標は、例えばLC-MS(成分を分離するための任意のタイプの液体クロマトグラフィーと、そのような成分の同一性を決定するための質量分析法の組み合わせ)などの任意の適切な分析方法を使用して収集された実験データに基づいて計算され、決定される。 より具体的には、シアル化指数(SI)は、存在するシアル酸の重度平均数であり、存在するシアル酸残基の相対パーセンテージ(%)及び数(x)の観点から推定される各グリコフォームを考慮して得られる。 従って、シアル化指数は次のように表すことができる:
【0021】
【0022】
シアル化度 (SE) は、相対パーセンテージ (%)、存在するシアル酸残基の数 (x)、例えば (0 ~ 4) 、及び特定のグリコフォームが潜在的に収容できるシアル酸の総数 (xmax=n) (例えば、二分岐 xmax=2、三分岐 xmax=3、四分岐 xmax=4)の観点から推定された各グリコフォームを考慮して得られた平均シアル化度である。従って、SEは、存在するエンドキャッピングの総量の割合として、糖鎖の末端ガラクトース上のシアル酸「エンドキャッピング(end-capping)」の程度の尺度を表す。従って、SE 指標は、次のように表すことができる:
【0023】
【数2】
ここで: AnGnSx はアンテナ性 =n、ガラクトース数=n、シアル酸数 =xのグリコフォームであり; n の範囲は 2 ~ 4 であり; バイアンテナの場合は n=2、トリアンテナの場合は n=3、テトラアンテナの場合は n=4であり;x は 0~n の範囲であり、グリコフォームのシアル酸含有量に依存し; α-シアル化x = 0、モノ-シアル化x = 1、ジ-シアル化x = 2、トリ-シアル化x = 3、及びテトラ-シアル化x = 4)。 FAnGnSx という用語は、フコシル化されたグリコフォームを考慮している。
【0024】
NANA 2,6% 及び NANA 2,3 % は、総シアリル化内のそれぞれ、α2,6 結合又はα2,3 結合を有するNeu5Ac/N-アセチルノイラミン酸の相対%である。 NGNA % は、総シアリル化における Neu5Gc / N-グリコリルノイラミン酸の相対的な割合を表す。 O-アセチル-NANA% は、総シアリル化内の O-アセチル化 Neu5Ac / N-アセチルノイラミン酸の相対的な割合を表す。
【0025】
以下のアンテナ指数 (AI) は、存在するアンテナの平均数であり、相対パーセンテージ (%) と存在するアンテナの数 (n) で推定される各グリコフォームを考慮して取得される:
【0026】
【0027】
さらに、コアフコシル化範囲(cFE)は、コアフコシル化の相対%を表す。 一方、アンテナ フコース 指数 (aFI) は、アンテナに存在するフコース残基の重量平均数を表す。 また、ガラクトシル化指数 (GI) は、全グリカン分布内の末梢に露出したガラクトース残基の重量平均数を表す。
【0028】
生体分子に Fc 領域が含まれる場合、G0 はガラクトース残基が存在しない複合型グリカンを表す。 G1 はガラクトース残基が 1 個の複合型グリカンを表し、G2 はガラクトース残基が2個ある複合型グリカンを表す。
【0029】
さらに、αGal指数 (αGI) は、α-1-3結合におけるガラクトースの重量平均数を表す。 LAC リピート (LI) は、全グリカン分布内のLACリピート (Gal-GlcNac) の平均数である。 マンノース指数 (MI) は、全グリカン分布内の高マンノース構造 (M5 ~ M9) の平均数である。 一方、ハイブリッド指数(HI) は、総グリカン分布内のハイブリッド構造の平均数である。二等分指数(BI) は、全グリカン分布内の二分構造の重さ平均数であり、中立指数 (NI) は、全グリカン分布内の中性グリカン構造の重さ平均数である。
【0030】
別の重要な指標は、特定の部位に存在するグリカンの相対パーセンテージ (%) として本明細書で定義されている部位占有範囲 (SOE) です。 SOE=100、その部位はグリカンによって完全に占有されている。 SOE=0 は占有されていない。
【0031】
さらに、ガラクトシル化指数及びN-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)は、例えば、生体分子を含む薬剤を服用した個体の身体からの生体分子のクリアランスなど、生体分子の機能的側面に関する情報を提供し得る。 末端Gal 及びGlcNac 残基の存在は、肝臓におけるアシアロ糖タンパク質受容体に対する親和性が高いことを示唆しており、これは生体分子のクリアランスに対するGal 及び GlcNac 指数の影響を示唆している。さらに、α2,3 シアル化指数ではなく、α2,6 シアル化指数 (NANA/NGNA) も、下にあるガラクトース残基がアシアロ糖タンパク質受容体との結合を可能にする環境にさらされることにより、クリアランスに寄与する可能性がある。 マンノシル化指数は、マンノース受容体との相互作用によるクリアランスや免疫原性への寄与を示唆している。NGNA 及び α-ガル指数は、生体分子内の異種グリカン残基の含有量を表しており、ヒトの既存の抗異種抗体によるクリアランスへの寄与を示唆している。 安全性と免疫原性の観点から潜在的な臨床リスクも伴う。
【0032】
生体分子のグリコシル化プロファイルは、その重要な品質特性に関する重要な情報を提供し、その活性に潜在的に関連している。 既知のグリコシル化プロファイルにより、生体分子と同様の生体分子との比較可能性及び適合性を判断することができる。 従って、そのような生体分子のグリコシル化プロファイルを説明することで、プロセス間及びプロセス内の比較可能性を決定することができる。 さらに、バッチ放出プロセスや、ヒトの治療に使用するために大量に生産される生体分子の品質を維持するのにも役立つ。 本明細書に記載の方法では、生体分子とそのグリコシル化プロファイルを説明するために少なくとも 3つの指標が必要である。
【0033】
このように、生体分子のグリコシル化同一性を決定するための本発明の方法は、a.) 生体分子をLC-MS分析に提供し、b.) シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、 N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程a)で得られた結果から計算し、そしてc.)整列された値が生体分子のグリコシル化の同一性を記載するように、工程b)で得られた計算値を整列することを含んでなる。
【0034】
本明細書で使用されるLC-MS分析は、クロマトグラフィー分離技術と、その後に分離技術から得られた分離分析物の同一性を決定するための任意の既知の技術を使用する任意の既知の方法であり得る。 従って、質量分析法(MS)は、液体クロマトグラフィー技術とともに使用できる、分析物の同一性を決定するための例示的な方法である。 製薬業界の大規模生産では、LC-MS がタンパク質又はタンパク質の一部のグリコシル化を測定する分析方法として受け入れられている。 多くの場合、この方法は親和性タイプの液体クロマトグラフィー技術を含み、これは HPLC であることもある。 収集された画分は質量分析にかけられ、その同一性が決定される。
【0035】
本明細書に記載の方法は、対象の生体分子を最初に精製する工程を含むこともできる。 従って、この方法は、最初に、対象の生体分子を、その生体分子を生成するプロセスから得られた「粗製(crude)」サンプルから精製する追加の工程を含む可能性がある。 例えば、本発明の方法がプロセス品質チェックに使用される場合、生産プロセスのその時点で対象の生体分子がまだ精製されていない可能性がある。 このような工程でのサンプルは、グリコシル化プロファイルを決定できるサンプルを得るために最初に精製される。 特定の生体分子を精製するための任意の既知のプロセス(多くの場合、生体分子自体に依存する)を、そのような精製ステップで使用することができる。
【0036】
また、本明細書において前述した方法と同じ工程を含む、生体分子と参照生体分子との生物学的類似性を決定する方法も提供され、前記方法は、a.) 生体分子をLC-MS分析に提供し、そしてb.) シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、 N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程a)で得られた結果から計算することを含む。それはさらに、工程b)で得られた計算値と参照生体分子の値との偏差を決定する工程c)を含む。工程c) で決定された偏差が事前設定範囲内にある場合、生体分子は参照分子に生物類似しているとみなすことができ、工程c) で決定された偏差が事前設定範囲外にある場合は類似していないとみなす。
【0037】
同様の方法で、本発明の方法を使用して、同じ方法(ただし異なる時点で)によって生成されたか、又は異なるもしくは改変された生成方法を使用して生成された同じ生体分子の間8の差異またはその不在を決定することができる。 このような分析方法は、重要な品質特性に関する情報やバッチ解放に必要な情報を提供するのに役立つ。さらに、そのような分析方法は、修飾されたか、異なる時間又は場所又はその両方で実行されたかにかかわらず、2つのプロセスから得られた生体分子を比較することを可能にし、従って、同じ分子の生成プロセスにおけるこれらの違いにもかかわらず、生体分子が同じグリコシル化プロファイルを持っていることが検証される。
【0038】
そのような方法の 1 つは、生体分子を調製するプロセス内での比較可能性を確立することであり、前記方法は、a.) 生体分子を調製するためのプロセスに従って第1のバッチで第1の生体分子を調製し、b.) 生物分子を調製するためのプロセスに従って第2のバッチで第2の生物分子を調製し、ここで工程a)及び工程b)のプロセスが同一のプロセス工程を含み、 c.)工程a)及び工程b)で得られた第1及び第2の生体分子を含む混合物から第1及び第2の生体分子を別々に精製し、精製された第1の生体分子及び精製された第2の生体分子を得、 d. )前記精製された第1及び第2の生体分子のそれぞれをLC-MS分析に提供しe.) シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、 N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程d)で得られた結果から計算し、そしてf.) 工程e)で選択された各指数の計算値における、第1の生体分子の値と第2の生体分子の値との間の偏差を決定することを含んでなる。工程f)で決定された偏差が事前設定範囲内にある場合、第1及び第2の生体分子は同じであるとみなされる。
【0039】
同様に、生体分子のプロセス内での参照生体分子との比較可能性を決定するための方法が提供される。そのような方法は、a.) 生体分子を調製するためのプロセスに従ってバッチで生体分子を調製し、b.) 工程a)で得られた生体分子を含む混合物から生体分子を精製し、精製された生体分子を得、 c.) 精製された生体分子をLC-MS分析に提供し、d.) シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、 N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程c)で得られた結果から計算し、そしてe. )工程d)で選択した各指数の計算値と、生体分子の指数の基準値との偏差を決定することを含んでなる。そのような方法では、工程e)で決定された偏差が事前設定範囲内にある場合、生体分子は参照生体分子と同じであるとみなされる。 そのような生体分子について同一であるという結果は、製造プロセスの検証方法として、あるいは得られた生成物生体分子の一括放出の尺度として利用することができる。
【0040】
従って、これらの方法のいずれにおいても、グリコシル化プロファイルが決定される生体分子が製造バッチのサンプル由来であり、そのような生体分子及び参照生体分子がバイオシミラーであるとみなされる場合、製造バッチのバッチ放出が提供され得る。 同様の方法で、そのグリコシル化に関する(生物学的)類似性を決定できる。 これらの方法で決定された偏差が事前設定範囲外である場合、生体分子はそのグリコシル化に関して類似していないとみなされることが含まれる。 生体類似性は、同じアミノ酸構造と同じ機能特性を持つ生体分子として理解されることがよくある。 同じ生体分子でありながら(つまり、同じアミノ酸構造を持つ)グリコシル化プロファイルの違いは、サンプル中で分析される生体分子が参照生体分子のバイオシミラーであることを示している可能性がある。
【0041】
これに関連して、本発明は、2つの異なるプロセスが同じ生体分子を生成するかどうかにも使用することができる。 このような情報は、既存のプロセスを変更して、変更されたプロセスが引き続き同じ生体分子を生産していることを確認するときに役立つ。 多くの場合、保健当局は、承認された医薬品の生物学的分子の製造変更を承認するために、そのような情報を必要とする。 同様に、ある施設から別の生産施設への製造プロセスの技術移転が成功したかどうかを判断するためにも使用できる。 技術移転の成功は、両方の施設で生産される生体分子が同じグリコシル化プロファイルを持つ場合に確立される。 このグリコシル化プロファイルは、本発明の方法に従って決定される。
【0042】
従って、同じ生体分子を生成するための異なるプロセス間の比較可能性を確立する方法が提供され、ここで前記方法は、a.) 生体分子を調製するための第1の方法に従って第1の生体分子を調製し、 b.) 生体分子を調製するための第2の方法に従って第2の生体分子を調製し、ここで前記工程a)及び工程b)のプロセスが少なくとも1つの異なるプロセスステップを含み、 c.) 工程a)及び工程b)で得られた第1及び第2の生体分子を含む混合物から第1及び第2の生体分子を別々に精製し、精製された第1の生体分子及び精製された第2の生体分子を得、d.) 精製された第1及び第2の生体分子のそれぞれをLC-MS分析に提供し、e.) シアル化指数、シアル化度、NANA2.6%、NANA2.3%、NGNA%、O-アセチル-NANA%、アンテナ指数、部位占有範囲、コアフコシル化範囲、アンテナフコース指数、ガラクトシル化指数、 Fc領域を含む分子についてのみのG0、 Fc領域を含む分子についてのみのG1、Fc領域を含む分子についてのみのG2、アルファガル指数、 LACリピート指数、 マンノース指数、 ハイブリッド指数 、二等分指数、 中立指数、 N-アセチルグルコサミン指数(GlcNac)、 及び Core-xi 範囲(O-グリカンについてのみ) から選択された少なくとも3つの指標の値を、工程d)で得られた結果から計算し、そしてf.) 工程e)で選択された各指数の計算値における、第1の生体分子と第2の生体分子の計算値との間の偏差を決定することを含んでなる。工程f)で決定された偏差が事前設定範囲内であり、第1及び第2のプロセスがバイオシミラー又は同じ生体分子を生成する場合、第1及び第2の生体分子は同じであるとみなされる。
【0043】
グリコシル化プロファイルによる生体分子の同一性も、生体分子の機能的側面に影響を与える可能性がある。 従って、本発明は、生体分子の機能的特徴を決定する方法も可能にし、ここで前記方法は、a.)本明細書に記載される生体分子のグリコシル化同一性を決定し、b.) 選択された指標数について得られた値を、単独又は組み合わせて生体分子の機能的特徴と相関する指数の参照値と比較し、そしてc.) 免疫原性リスク、薬物受容体相互作用、mAbエフェクター機能、結合部位のアロステリック調節、バイオアベイラビリティ、薬物動態、生体分子の安定性、及び溶解度から選択される生体分子の1つ又は複数の機能的特徴を決定することを含んでなる。
【0044】
そのような方法では、サンプル生体分子のグリカンプロファイルを生体分子の参照グリカンプロファイルと比較し、生体分子が参照生体分子と同じ供給源及び/又はプロセスに由来するかどうかを判定する工程をさらに含むことができる。
【実施例】
【0045】
実施例 1: 糖ペプチドマッピング
還元、アルキル化、及び酵素消化。 イノベーター及び生物類似の糖タンパク質の個々のバッチを、Amicon Ultracel 3k 遠心フィルターを使用して約1mg/mL まで濃縮した。 濃縮後、200 μL のタンパク質を、8M グアニジン-HCL、130mM トリス-HCl、及び 1 mM EDTA を含む pH 7.6 の変性緩衝液200 μL に懸濁し、そして 還元を、20μLの500mM DTTを添加し、37℃で30分間撹拌することによって実施した。続いて、25 μL の 500 mM IAM を添加し、暗所、室温で 30 分間撹拌することによりサンプルをアルキル化した。 次いで、Amicon Ultracel 3k遠心フィルターを使用して、還元及びアルキル化サンプルを含む緩衝液を、2M尿素及び50mM Tris-HClを含むpH8.0の消化緩衝液と交換した。 次に、サンプル中のタンパク質を、酵素:基質比 1:20 のキモトリプシンを使用して 37℃で 4 時間消化した。
【0046】
実施例2:親水性相互作用クロマトグラフィーと質量分析
キモトリプシン消化タンパク質を、Acquity UPLC システム (米国マサチューセッツ州ミルフォード) を備えた Synapt G1 質量分析計 (米国マサチューセッツ州ミルフォードのウォーターズ) を使用して分析した。 ペプチドを、グリコシル化ペプチドの高分解能分離及び、この方法[38]で達成されるペプチド保持及び糖ペプチドからのペプチドの分離の強化により、Acquity グリカン BEH アミド UPLC カラム (1.7μm、2.1 x 150 mm) で分離し、 そして 0.1%TFA水溶液と0.ACN中1%TFA溶液の混合物で溶出した。0.2mL/分の流速で 60 分間にわたる 0.1% TFA 水溶液の 30 ~ 55% 勾配を使用して、糖ペプチドを分離した。 分離された部位特異的糖ペプチド集団 (異なるペプチド、さまざまな結合グリカン) 及びさまざまな部位特異的糖ペプチド集団 (同じペプチド、さまざまな結合グリカン) を質量分析法によって同定及び定量した。
【0047】
質量分析を、データ独立モードでデータセットを取得するための MSE 機能を使用して実行した。 MSE 機能はインテリジェントなアプローチを使用し、低衝突エネルギーと高衝突エネルギーで交互スキャンを取得して、プリカーサー イオン情報と衝突誘起解離 (CID) フラグメンテーション データを取得する。 装置は次のパラメータで操作された: キャピラリー電圧 3kV、サンプリング コーン28V、抽出コーン4V、ソース温度 100 ℃、脱溶媒和温度 350 ℃、コーン ガス流量50 L/H、脱溶媒和ガス流量800L/H、及びスキャン範囲100~2000m/z。
【0048】
質量分析データは、MassLynx 4.1 ソフトウェア (Waters、米国マサチューセッツ州ミリフォード) によって分析された。 N-糖ペプチドの同一性は手動で割り当てられ (S1 表)、m/z 特異的イオン数は抽出イオンクロマトグラム (XIC) によって決定された。 同定された糖ペプチドはN-グリカン部位ごとにグループ化され、部位特異的なN-グリカン種の相対分布がイオン数に基づいて計算された。 この戦略により、部位特異的糖ペプチドに結合した N-グリカン種の相対分布を比較することができる。 さらに、対応する N-グリカン部位に独自の糖ペプチドを使用しても、イオン化バイアスが大幅に発生することはない。イオン化は主にペプチド部分の寄与によるものであるため、これは各部位特異的糖ペプチド集団(同じペプチド、異なるグリカン)でも同様である。 キモトリプシン消化物を使用した LC-MS 法は、グリカン変異体を検出及び定量することが報告されている。 糖ペプチド分析から得られたデータは、生体分子のグリコシル化プロファイルを記述するための指標を計算するためにさらに使用された。
【0049】
実施例3:抗体/Fc 融合タンパク質の指数の決定
実施例1及び2に記載の手順に従い、抗体/Fc融合タンパク質の指数の計算を可能にした得られたデータを比較例として以下の表に示す。 これらの指標は、製造プロセスの変更時の比較可能性をより詳細に検討することを容易にし、評価に対するより厳格な基準も提供する。 違いが明確に把握され、グレーの陰影で強調表示される。
【0050】
【0051】
実施例 4: 糖タンパク質のバッチ間の違いを比較するための包括的な N-グリコシル化パターンのインデックス作成
実施例1及び2に記載の分析を使用し、得られたデータをその後、N-グリコシル化プロファイルを詳しく説明するための指標を計算するために使用した。 これらの指標は、シアル化、フコシル化、マンノシル化、ガラクトシル化及びアンテナ性に関するものであった。 それらは全て、グリコシル化された治療用製品の生物活性と有効性を解明するために重要である。 これらの指標は解釈を容易にし、製品のグリコシル化に関する生物学的類似性を定義する際に高い精度を提供する。
【0052】
生物学的類似性研究の指標値を次の表に示す。 違いが明確に把握され、グレーの陰影で強調表示される。
【0053】
【国際調査報告】