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特表2024-511808ウイルスベクターに基づくRNA送達システム及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-15
(54)【発明の名称】ウイルスベクターに基づくRNA送達システム及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20240308BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240308BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240308BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240308BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240308BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240308BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240308BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240308BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20240308BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240308BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20240308BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240308BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240308BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240308BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240308BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240308BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20240308BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240308BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C07K19/00
A61K35/76
A61P1/04
A61P3/04
A61P3/10
A61P9/00
A61P25/16
A61P25/14
A61P25/28
A61P21/04
A61P37/06
A61K48/00
A61K31/7105
A61K31/713
A61P11/00
C12N15/113 Z
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023559826
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(85)【翻訳文提出日】2023-09-27
(86)【国際出願番号】 CN2022083601
(87)【国際公開番号】W WO2022206739
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】202110336982.1
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515190906
【氏名又は名称】南京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼辰宇
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼熹
(72)【発明者】
【氏名】付正
(72)【発明者】
【氏名】李菁
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼翔
(72)【発明者】
【氏名】周心▲けん▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼▲麗▼
(72)【発明者】
【氏名】余▲夢▼超
(72)【発明者】
【氏名】郭宏源
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA52
4C084MA56
4C084MA66
4C084NA13
4C084ZA021
4C084ZA022
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4C084ZA162
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZA701
4C084ZA702
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZB081
4C084ZB082
4C084ZC351
4C084ZC352
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4C086EA16
4C086MA01
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4C086MA52
4C086MA56
4C086MA66
4C086NA13
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4C086ZA36
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZA70
4C086ZA94
4C086ZB07
4C086ZC35
4C087AA01
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4C087BC83
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4C087NA13
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4C087ZA16
4C087ZA36
4C087ZA59
4C087ZA66
4C087ZA70
4C087ZA94
4C087ZB08
4C087ZC35
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
ウイルスベクターに基づくRNA送達システム及びその使用を提供する。該RNA送達システムは、送達が必要なRNA断片を担持したウイルスベクターであって、宿主の器官組織内で富化し、前記宿主の器官組織内に前記RNA断片を含有する複合構造を内因的に自発的に形成することができ、前記複合構造が、前記標的組織内に進入して結合し、前記RNA断片を標的組織に送達することができるウイルスベクターを含む。該ウイルスベクターはターゲティングタグを有する。該複合構造はエクソソームである。該ウイルスベクターに基づくRNA送達システムは、安全性及び信頼性が十分に検証されており、創薬性が非常に良好であり、汎用性が強く、経済性及び応用の将来性に優れている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送達が必要なRNA断片を担持したウイルスベクターであって、宿主の器官組織内で富化し、前記宿主の器官組織内に前記RNA断片を含有する複合構造を内因的に自発的に形成することができ、前記複合構造が、標的組織内に進入して結合し、前記RNA断片を標的組織に送達することができるウイルスベクターを含む、ことを特徴とするウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項2】
前記ウイルスベクターはアデノウイルス関連ウイルスである、ことを特徴とする請求項1に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項3】
前記アデノウイルス関連ウイルスは、アデノウイルス関連ウイルス5型、アデノウイルス関連ウイルス8型、又はアデノウイルス関連ウイルス9型である、ことを特徴とする請求項2に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項4】
前記RNA断片は、医療的に意味のある1つ又は2つ以上の特定のRNA配列を含み、前記RNA配列は、医療的に意味のあるsiRNA、shRNA又はmiRNAである、ことを特徴とする請求項1に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項5】
前記ウイルスベクターは、プロモーターと、宿主の器官組織内に前記複合構造のターゲティング構造を形成することができるターゲティングタグとを含み、前記ターゲティング構造は複合構造の表面に位置し、前記複合構造は、前記ターゲティング構造を介して標的組織を探索し結合し、標的組織に前記RNA断片を送達可能である、ことを特徴とする請求項1に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項6】
前記ウイルスベクターは、プロモーター-RNA断片、プロモーター-ターゲティングタグ、プロモーター-RNA断片-ターゲティングタグのいずれか1つ又は複数の回路の組み合わせを含み、前記ウイルスベクターのそれぞれは、少なくとも1つのRNA断片と1つのターゲティングタグとを含み、前記RNA断片及びターゲティングタグは、同一回路又は異なる回路にある、ことを特徴とする請求項5に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項7】
前記ウイルスベクターは、前記回路を正しい構造に折り畳んで発現させることができるフランキング配列、補償配列、及びループ配列をさらに含み、前記フランキング配列は、5’フランキング配列及び3’フランキング配列を含み、
前記ウイルスベクターは、5’-プロモーター-5’フランキング配列-RNA断片-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列、5’-プロモーター-ターゲティングタグ、5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-RNA断片-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列のいずれか1つ又は複数の回路の組み合わせを含む、ことを特徴とする請求項6に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項8】
前記5’フランキング配列は、ggatcctggaggcttgctgaaggctgtatgctgaattc又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、
前記ループ配列は、gttttggccactgactgac又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、
前記3’フランキング配列は、accggtcaggacacaaggcctgttactagcactcacatggaacaaatggcccagatctggccgcactcgag又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、
前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の任意の1~5位の塩基が欠失されているものである、ことを特徴とする請求項7に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項9】
前記ウイルスベクターに少なくとも2種類の回路が存在する場合、隣接する回路は配列1~3からなる配列で連結され、
配列1はCAGATCであり、配列2は5~80塩基からなる配列であり、配列3はTGGATCである、ことを特徴とする請求項6に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項10】
前記ウイルスベクターに少なくとも2種類の回路が存在する場合、隣接する回路は配列4又は配列4と80%超の相同性を有する配列で連結され、
配列4は、CAGATCTGGCCGCACTCGAGGTAGTGAGTCGACCAGTGGATCである、ことを特徴とする請求項9に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項11】
前記臓器組織は肝臓であり、前記複合構造はエクソソームである、ことを特徴とする請求項1に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項12】
前記ターゲティングタグは、ターゲティング機能を有するターゲティングペプチド又はターゲティングタンパク質から選択される、ことを特徴とする請求項5に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項13】
前記ターゲティングペプチドは、RVGターゲティングペプチド、GE11ターゲティングペプチド、PTPターゲティングペプチド、TCP-1ターゲティングペプチド、及びMSPターゲティングペプチドを含み、
前記ターゲティングタンパク質は、RVG-LAMP2B融合タンパク質、GE11-LAMP2B融合タンパク質、PTP-LAMP2B融合タンパク質、TCP-1-LAMP2B融合タンパク質、MSP-LAMP2B融合タンパク質を含む、ことを特徴とする請求項12に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項14】
前記RNA配列の長さが15~25ヌクレオチドである、ことを特徴とする請求項5に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項15】
前記RNA配列は、EGFR遺伝子のsiRNA、KRAS遺伝子のsiRNA、VEGFR遺伝子のsiRNA、mTOR遺伝子のsiRNA、TNF-α遺伝子のsiRNA、integrin-α遺伝子のsiRNA、B7遺伝子のsiRNA、TGF-β1遺伝子のsiRNA、H2-K遺伝子のsiRNA、H2-D遺伝子のsiRNA、H2-L遺伝子のsiRNA、HLA遺伝子のsiRNA、GDF15遺伝子のsiRNA、miRNA-21のアンチセンス鎖、miRNA-214のアンチセンス鎖、TNC遺伝子のsiRNA、PTP1B遺伝子のsiRNA、mHTT遺伝子のsiRNA、Lrrk2遺伝子のsiRNA、α-synuclein遺伝子のsiRNA、又は上記配列と80%超の相同性を有するRNA配列、又は上記RNAをコードする核酸分子から選択されるいずれか1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項14に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項16】
前記送達システムは、ヒトを含む哺乳動物で使用されるものである、ことを特徴とする請求項1に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システム。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システムの薬物における使用。
【請求項18】
前記薬物の投与方法は、経口投与、吸入投与、皮下注射投与、筋肉注射投与、静脈注射投与を含む、ことを特徴とする請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記薬物は、癌、肺線維症、結腸炎、肥満、肥満に起因する心血管疾患、2型糖尿病、ハンチントン病、パーキンソン病、重症筋無力症、アルツハイマー病、又は移植片対宿主病を治療する薬物である、ことを特徴とする請求項17に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、生物医学の技術分野に関し、特にウイルスベクターに基づくRNA送達システム及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉(RNAi)療法は、発明されて以来、人類の疾患を治療する有望な戦略であると考えられてきたが、臨床的には多くの問題に直面しており、この治療法の進歩は予想よりもはるかに遅れている。
【0003】
RNAは細胞外に長期間安定に存在することはできないと考えられており、RNAは細胞外に豊富に含まれるRNaseに分解されて断片化されるため、RNAi療法の効果を発現するには、RNAを細胞外に安定に存在させ、特定の組織に標的に取り込める方法を見つけることが必要とされる。
【0004】
現在、siRNAと関連する特許は多く、主に以下のいくつの方面に焦点を当てている。1.医学効果を有するsiRNAを設計する。2.siRNAを化学修飾し、生体内でのsiRNAの安定性を高め、収率を高める。3.種々の人工ベクター(例えば、脂質ナノ粒子、カチオン性ポリマーやウイルス)の設計を改善し、siRNAの生体内での伝達効率を向上させる。このうち第3方面についての特許が多く、その根本的な原因は、研究者らが、siRNAを標的組織に安全に、精確に、効率的に送達するための適切なsiRNA伝達システムが不足しており、この問題がRNAi療法を制約する核心的な問題になっていることを認識しているからである。
【0005】
ウイルス(Biological virus)とは、個体が微小で構造が単純で、1種類の核酸(DNA又はRNA)しか含まず、生きた細胞内に寄生して複製的に増殖しなければならない非細胞型の生物である。ウイルスベクターは遺伝物質を細胞に持ち込むことができ、原理は、ウイルスがそのゲノムを他の細胞に送達して感染させる分子機構を持ち、完全な生体(in vivo)又は細胞培養(in vitro)で発生できることを利用しており、ウイルスは、主に基礎研究、遺伝子療法やワクチンに応用される。しかし、現在、ウイルスをベクターとして特殊な自己集合機構を利用してRNA、特にsiRNAを送達する関連研究は少ない。
【0006】
公開番号CN108624590Aの中国特許は、DDR2遺伝子の発現を阻害できるsiRNAを開示している。公開番号CN108624591Aの中国特許は、ARPC4遺伝子をサイレンシングすることができるsiRNAを開示しており、当該siRNAにα-リン-セレン修飾を施している。公開番号CN108546702Aの中国特許は、長鎖非コードRNA DDX11-AS1を標的とするsiRNAを開示している。公開番号CN106177990Aの中国特許は、多種の腫瘍治療に用いることができるsiRNA前駆体を開示している。これらの特許はすべて特定のsiRNAを設計しており、遺伝子の変化によって引き起こされるある疾患を対象としている。
【0007】
公開番号CN108250267Aの中国特許は、ポリペプチド、ポリペプチド-siRNA誘導共集合体を開示しており、ポリペプチドをsiRNAのベクターとして使用している。公開番号CN108117585Aの中国特許は、siRNAを標的に導入して、乳癌細胞のアポトーシスを促進するポリペプチドを開示しており、同様にポリペプチドをsiRNAのベクターとして使用している。公開番号CN108096583Aの中国特許は、化学療法薬を含むと同時に乳癌治療効果を有するsiRNAを搭載することができるナノ粒子ベクターを開示している。これらの特許はすべてsiRNAベクターに関する発明創造であるが、その技術案には共通の特徴があり、それはベクター及びsiRNAがいずれも生体外で予め集合されてから宿主の体内に導入されることである。実際には、現在設計されているほとんどの送達技術は上記と同様である。しかし、これらの人工的に合成された外因性送達システムは、宿主の循環システムによって容易に除去され、免疫原性反応を引き起こす可能性があり、さらには特定の細胞タイプと組織に有毒であるという共通の問題がある。
【0008】
本発明の研究チームは、内因性細胞がmiRNAsを選択的にエクソソーム(exosome)にカプセル化することができ、エクソソームはmiRNAを受容体細胞に伝達し、その分泌されたmiRNAが比較的低い濃度で、標的遺伝子の発現を強力にブロックすることができることを発見した。エクソソームは宿主免疫系と生体適合性であり、生体内でmiRNAを生物学的バリアを越えて保護及び送達する先天的能力を有するため、siRNA送達に関連する問題を克服する潜在的な解決策となる。例えば、公開番号CN110699382Aの中国特許は、siRNAを送達するエクソソームの製造方法を開示しており、血漿からエクソソームを分離し、siRNAをエレクトロポレーションによりエクソソームにカプセル化する技術を開示している。
【0009】
しかし、生体外でエクソソームを分離又は製造するこのような技術は、細胞培養を通じて大量のエクソソームを取得し、さらにsiRNAカプセル化のステップを追加する必要があり、これは、この製品を大規模に応用する臨床費用が非常に高くなり、一般の患者に負担することができず、さらに、エクソソームの複雑な製造・精製プロセスにより、GMP規格に合致することがほぼ不可能となっている。
【0010】
これまで、エクソソームを有効成分とする薬物はCFDAの承認を受けたことがなく、エクソソーム製品の一貫性が保証されていないことが中心的な問題となっており、このような製品の医薬品製造許可が得られないことに直結している。この問題を解決できれば、RNAi療法を推進する上で非常に意義がある。
【0011】
したがって、安全で正確かつ効率的なsiRNA送達システムの開発は、RNAi治療の効果を高め、RNAi療法を推進するために不可欠なことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上に鑑み、本願の実施例は、従来技術に存在する技術的欠陥を解決するために、ウイルスベクターに基づくRNA送達システム及びその使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願は、送達が必要なRNA断片を担持したウイルスベクターであって、宿主の器官組織内で富化し、前記宿主の器官組織内に前記RNA断片を含有する複合構造を内因的に自発的に形成することができ、前記複合構造が、標的組織内に進入して結合し、前記RNA断片を標的組織に送達することができるウイルスベクターを含む、ことを特徴とするウイルスベクターに基づくRNA送達システムを提供する。RNA断片を標的組織に送達すると、それに対応する遺伝子の発現を阻害し、標的組織における疾患の進行を阻害することができる。
【0014】
アデノ随伴ウイルスベクター及びレンチウイルスベクターを用いて構築されたRNA送達システムは、生体内での富化及び治療効果を有することが図16~17から示されている。
【0015】
任意選択に、前記ウイルスベクターはアデノウイルス関連ウイルスである。
【0016】
任意選択に、前記アデノウイルス関連ウイルスは、アデノウイルス関連ウイルス5型、アデノウイルス関連ウイルス8型、又はアデノウイルス関連ウイルス9型である。
【0017】
任意選択に、前記RNA断片は、1つ又は2つ以上の特定の医療的に意味のあるRNA配列を含み、前記RNA配列は、医学的に意味のあるsiRNA、shRNA又はmiRNAである。
【0018】
2種類のアデノウイルスベクターと6種類のRNA配列単独、又はその中の任意の2種類若しくはその中の任意の3種類のRNA配列からなるRNA断片が構築後に生体内での富化及び治療効果を有することが、図18~19から示されている。
【0019】
任意選択に、前記ウイルスベクターは、プロモーターと、宿主の器官組織内に前記複合構造のターゲティング構造を形成することができるターゲティングタグとを含み、前記ターゲティング構造は複合構造の表面に位置し、前記複合構造は、前記ターゲティング構造を介して標的組織を探索し結合し、標的組織に前記RNA断片を送達可能である。
【0020】
任意選択に、前記ウイルスベクターは、プロモーター-RNA断片、プロモーター-ターゲティングタグ、プロモーター-RNA断片-ターゲティングタグのいずれか1つ又は複数の回路(ライン)の組み合わせを含み、前記ウイルスベクターのそれぞれは、少なくとも1つのRNA断片と1つのターゲティングタグとを含み、前記RNA断片及びターゲティングタグは、同一回路又は異なる回路にある。
【0021】
2種類のRNA断片と2種類のターゲティングタグを単独又は任意に組み合わせてウイルスベクターに構築した場合、いずれも生体内での富化及び治療効果があることが、図20~23から示されている。
【0022】
任意選択に、前記ウイルスベクターは、前記回路を正しい構造に折り畳んで発現させることができるフランキング配列、補償配列、及びループ配列をさらに含み、前記フランキング配列は、5’フランキング配列及び3’フランキング配列を含み、
前記ウイルスベクターは、5’-プロモーター-5’フランキング配列-RNA断片-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列、5’-プロモーター-ターゲティングタグ、5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-RNA断片-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列のいずれか1つ又は複数の回路の組み合わせを含む。
【0023】
5’-プロモーター-5’フランキング配列-RNA配列-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列及び5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-RNA配列-ループ配列-補償配列-3’フランキングによって構築された送達ベクターはいずれも生体内での富化及び治療効果を有することが図24から示されている。
【0024】
任意選択に、前記5’フランキング配列は、ggatcctggaggcttgctgaaggctgtatgctgaattc又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、
前記ループ配列は、gttttggccactgactgac又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、
前記3’フランキング配列は、accggtcaggacacaaggcctgttactagcactcacatggaacaaatggcccagatctggccgcactcgag又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、
前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の任意の1~5位の塩基が欠失されているものである。RNA逆相補配列の1~5位の塩基を欠失したことは、この配列を発現しないようにすることを目的とする。
【0025】
5’フランキング配列/ループ配列/3’フランキング配列及びその相同配列によって構築された送達システムは、いずれも生体内での富化及び治療効果を有することが、図25から示されている。
【0026】
好ましくは、前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の任意の1~3位の塩基が欠失されている。
【0027】
より好ましくは、前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の任意の1~3位の連続して配列した塩基が欠失されている。
【0028】
最も好ましくは、前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の9位及び/又は10位の塩基が欠失されている。
【0029】
任意選択に、ウイルスベクターに少なくとも2種類の回路が存在する場合、隣接する回路は配列1~3からなる配列(配列1-配列2-配列3)で連結され、
配列1はCAGATCであり、配列2は5~80塩基からなる配列であり、配列3はTGGATCである。
【0030】
任意選択に、ウイルスベクターに少なくとも2種類の回路が存在する場合、隣接する回路は配列4又は配列4と80%超の相同性を有する配列で連結され、
配列4は、CAGATCTGGCCGCACTCGAGGTAGTGAGTCGACCAGTGGATCである。
【0031】
配列4及びその相同配列によって構築されたウイルスベクター送達システムはいずれも生体内での富化及び治療効果を有することが、図26から示されている。
【0032】
任意選択に、前記臓器組織は肝臓であり、前記複合構造はエクソソームである。
【0033】
任意選択に、前記ターゲティングタグは、ターゲティング機能を有するターゲティングペプチド又はターゲティングタンパク質から選択される。
【0034】
任意選択に、前記ターゲティングペプチドは、RVGターゲティングペプチド、GE11ターゲティングペプチド、PTPターゲティングペプチド、TCP-1ターゲティングペプチド、及びMSPターゲティングペプチドを含み、
前記ターゲティングタンパク質は、RVG-LAMP2B融合タンパク質、GE11-LAMP2B融合タンパク質、PTP-LAMP2B融合タンパク質、TCP-1-LAMP2B融合タンパク質、MSP-LAMP2B融合タンパク質を含む。
【0035】
任意選択に、前記RNA配列の長さが15~25ヌクレオチドである。例えば、前記RNA配列の長さが、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25ヌクレオチドであってもよい。好ましくは、前記RNA配列の長さが18~22ヌクレオチドである。
【0036】
様々な長さのRNA配列によって構築された遺伝子回路はいずれも生体内での富化及び治療効果を有することが、図27から示されている。
【0037】
任意選択に、前記RNA配列は、EGFR遺伝子のsiRNA、KRAS遺伝子のsiRNA、VEGFR遺伝子のsiRNA、mTOR遺伝子のsiRNA、TNF-α遺伝子のsiRNA、integrin-α遺伝子のsiRNA、B7遺伝子のsiRNA、TGF-β1遺伝子のsiRNA、H2-K遺伝子のsiRNA、H2-D遺伝子のsiRNA、H2-L遺伝子のsiRNA、HLA遺伝子のsiRNA、GDF15遺伝子のsiRNA、miRNA-21のアンチセンス鎖、miRNA-214のアンチセンス鎖、TNC遺伝子のsiRNA、PTP1B遺伝子のsiRNA、mHTT遺伝子のsiRNA、Lrrk2遺伝子のsiRNA、α-synuclein遺伝子のsiRNA、又は上記配列と80%超の相同性を有するRNA配列、又は上記RNAをコードする核酸分子から選択されるいずれか1種又は複数種である。なお、ここで「上記RNA配列をコードする核酸分子」中のRNA配列には、それぞれのRNAの相同性が80%超のRNA配列も含まれる。
【0038】
ここで、上記各遺伝子のsiRNAはいずれもその遺伝子の発現を阻害する機能を持つRNA配列であり、各遺伝子の発現を阻害する機能を持つRNA配列は多数存在するので、ここでは一つ一つ挙げることはできないが、効果が優れている以下の配列のみを例示して説明する。
【0039】
EGFR遺伝子のsiRNAは、UGUUGCUUCUCUUAAUUCCU、AAAUGAUCUUCAAAAGUGCCC、UCUUUAAGAAGGAAAGAUCAU、AAUAUUCGUAGCAUUUAUGGA、UAAAAAUCCUCACAUAUACUU、EGFR遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0040】
KRAS遺伝子のsiRNAは、UGAUUUAGUAUUAUUUAUGGC、AAUUUGUUCUCUAUAAUGGUG、UAAUUUGUUCUCUAUAAUGGU、UUAUGUUUUCGAAUUUCUCGA、UGUAUUUACAUAAUUACACAC、KRAS遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0041】
VEGFR遺伝子のsiRNAは、AUUUGAAGAGUUGUAUUAGCC、UAAUAGACUGGUAACUUUCAU、ACAACUAUGUACAUAAUAGAC、UUUAAGACAAGCUUUUCUCCA、AACAAAAGGUUUUUCAUGGAC、VEGFR遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0042】
mTOR遺伝子のsiRNAは、AGAUAGUUGGCAAAUCUGCCA、ACUAUUUCAUCCAUAUAAGGU、AAAAUGUUGUCAAAGAAGGGU、AAAAAUGUUGUCAAAGAAGGG、UGAUUUCUUCCAUUUCUUCUC、mTOR遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0043】
TNF-α遺伝子のsiRNAは、AAAACAUAAUCAAAAGAAGGC、UAAAAAACAUAAUCAAAAGAA、AAUAAUAAAUAAUCACAAGUG、UUUUCACGGAAAACAUGUCUG、AAACAUAAUCAAAAGAAGGCA、TNF-α遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0044】
integrin-α遺伝子のsiRNAは、AUAAUCAUCUCCAUUAAUGUC、AAACAAUUCCUUUUUUAUCUU、AUUAAAACAGGAAACUUUGAG、AUAAUGAAGGAUAUACAACAG、UUCUUUAUUCAUAAAAGUCUC、integrin-α遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0045】
B7遺伝子のsiRNAは、UUUUCUUUGGGUAAUCUUCAG、 AGAAAAAUUCCACUUUUUCUU、AUUUCAAAGUCAGAUAUACUA、 ACAAAAAUUCCAUUUACUGAG、AUUAUUGAGUUAAGUAUUCCU、B7遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0046】
TGF-β1遺伝子のsiRNAは、ACGGAAAUAACCUAGAUGGGC、UGAACUUGUCAUAGAUUUCGU、UUGAAGAACAUAUAUAUGCUG、UCUAACUACAGUAGUGUUCCC、UCUCAGACUCUGGGGCCUCAG、TGF-β1遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0047】
H2-K遺伝子のsiRNAは、AAAAACAAAUCAAUCAAACAA、 UCAAAAAAACAAAUCAAUCAA、UAUGAGAAGACAUUGUCUGUC、AACAAUCAAGGUUACAUUCAA、ACAAAACCUCUAAGCAUUCUC、H2-K遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0048】
H2-D遺伝子のsiRNAは、AAUCUCGGAGAGACAUUUCAG、AAUGUUGUGUAAAGAGAACUG、AACAUCAGACAAUGUUGUGUA、UGUUAACAAUCAAGGUCACUU、AACAAAAAAACCUCUAAGCAU、H2-D遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0049】
H2-L遺伝子のsiRNAは、GAUCCGCUCCCAAUACUCCGG、 AUCUGCGUGAUCCGCUCCCAA、UCGGAGAGACAUUUCAGAGCU、UCUCGGAGAGACAUUUCAGAG、 AAUCUCGGAGAGACAUUUCAG、H2-L遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0050】
HLA遺伝子のsiRNAは、AUCUGGAUGGUGUGAGAACCG、UGUCACUGCUUGCAGCCUGAG、UCACAAAGGGAAGGGCAGGAA、 UUGCAGAAACAAAGUCAGGGU、ACACGAACACAGACACAUGCA、HLA遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0051】
GDF15遺伝子のsiRNAは、UAUAAAUACAGCUGUUUGGGC、AGACUUAUAUAAAUACAGCUG、AAUUAAUAAUAAAUAACAGAC、AUCUGAGAGCCAUUCACCGUC、UGCAACUCCAGCUGGGGCCGU、GDF15遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0052】
TNC遺伝子のsiRNAは、UAUGAAAUGUAAAAAAAGGGA、AAUCAUAUCCUUAAAAUGGAA、UAAUCAUAUCCUUAAAAUGGA、UGAAAAAUCCUUAGUUUUCAU、AGAAGUAAAAAACUAUUGCGA、TNC遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0053】
PTP1B遺伝子のsiRNAは、UGAUAUAGUCAUUAUCUUCUU、UCCAUUUUUAUCAAACUAGCG、AUUGUUUAAAUAAAUAUGGAG、AAUUUUAAUACAUUAUUGGUU、UUUAUUAUUGUACUUUUUGAU、PTP1B遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0054】
mHTT遺伝子のsiRNAは、UAUGUUUUCACAUAUUGUCAG、AUUUAGUAGCCAACUAUAGAA、AUGUUUUUCAAUAAAUGUGCC、UAUGAAUAGCAUUCUUAUCUG、UAUUUGUUCCUCUUAAUACAA、mHTT遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0055】
Lrrk2遺伝子のsiRNAは、AUUAACAUGAAAAUAUCACUU、UUAACAAUAUCAUAUAAUCUU、AUCUUUAAAAUUUGUUAACGC、UUGAUUUAAGAAAAUAGUCUC、UUUGAUAACAGUAUUUUUCUG、Lrrk2遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0056】
α-synuclein遺伝子のsiRNAは、AUAUAUUAACAAAUUUCACAA、AAGUAUUAUAUAUAUUAACAA、AUAACUUUAUAUUUUUGUCCU、UAACUAAAAAAUUAUUUCGAG、UCGAAUAUUAUUUAUUGUCAG、α-synuclein遺伝子の発現を阻害する他の配列及び上記配列と80%超の相同性を有する配列を含む。
【0057】
miRNA-21のアンチセンス鎖は5’-TCAACATCAGTCTGATAAGCTA-3’である。
【0058】
なお、上記の「80%超の相同性を有する配列」は、相同性が85%、88%、90%、95%、98%などであってもよい。
【0059】
任意選択に、前記RNA断片は、RNA配列本体と、RNA配列本体をリボース修飾した修飾RNA配列とを含む。すなわち、RNA断片は、少なくとも1つのRNA配列本体のみから構成されていてもよいし、少なくとも1つの修飾RNA配列のみから構成されていてもよいし、RNA配列本体と修飾RNA配列とから構成されていてもよい。
【0060】
本発明において、前記単離された核酸は、そのバリアント及び誘導体をさらに含む。当業者であれば、一般的な方法を用いて前記核酸を修飾することができる。修飾方式には、メチル化修飾、ヒドロカルビル修飾、グリコシル修飾(例えば、2-メトキシ-グリコシル修飾、ヒドロカルビル-グリコシル修飾、糖環修飾など)、核酸化修飾、ペプチドセグメント修飾、脂質修飾、ハロゲン修飾、核酸修飾(例えば、「TT」修飾)などが含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の一実施形態では、前記修飾は、ヌクレオチド間結合、例えば、ホスホロチオエート、2’-Oメトキシエチル(MOE)、2’-フルオロ、アルキルホスホネート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホノチオエート、ホスホラミデート、カルバメート、カーボネート、リン酸トリエステル、アセトアミドエステル、カルボキシメチルエステルおよびそれらの組み合わせから選択される。本発明の一実施形態では、前記修飾はヌクレオチドの修飾であり、例えば、ペプチド核酸(PNA)、鎖核酸(LNA)、アラビノース-核酸(FANA)、アナログ、誘導体、及びそれらの組み合わせから選択される。好ましくは、前記修飾は、2’フルオロピリミジン修飾である。2’フルオロピリミジン修飾はRNA上のピリミジンヌクレオチドの2’-OHを2’-Fで置換し、2’-FはRNAを生体内のRNA酵素に認識されにくくすることができ、それによってRNA断片の体内送達の安定性を高める。
【0061】
任意選択に、前記送達システムは、ヒトを含む哺乳動物で使用されるものである。
【0062】
本願はまた、上記のいずれかに記載の、ウイルスベクターに基づくRNA送達システムの薬物における使用を提供する。
【0063】
任意選択に、前記薬物の投与方法は、経口投与、吸入投与、皮下注射投与、筋肉注射投与、静脈注射投与を含む。静脈注射が好ましい。
【0064】
任意選択に、前記薬物は、癌、肺線維症、結腸炎、肥満、肥満に起因する心血管疾患、2型糖尿病、ハンチントン病、パーキンソン病、重症筋無力症、アルツハイマー病又は移植片対宿主病を治療する薬物である。
【0065】
任意選択に、前記薬物は、上記のウイルスベクターを含み、具体的には、ここでのウイルスベクターは、RNA断片を担持した、又はRNA断片及びターゲティングタグを担持したウイルスベクターを表し、宿主体内に入って、肝臓部位で富化し、自己集合して複合構造エクソソームを形成することができ、この複合構造は、標的組織にRNA断片を送達し、RNA断片を標的組織で発現させ、それに対応する遺伝子の発現を阻害し、疾患を治療する目的を達成することができる。
【0066】
前記薬物の剤形は、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸薬、座薬、軟膏剤、溶液剤、懸濁剤、ローション剤、ゲル剤、ペースト剤などであってもよい。
【発明の効果】
【0067】
本願の技術的効果は次のとおりである。
本願によるウイルスベクターに基づくRNA送達システムは、ウイルスをベクターとし、ウイルスベクターを成熟した注入物とし、その安全性及び信頼性が十分に検証されており、創薬性が非常に良好である。最終的に効果を発揮するRNA配列は内因性エクソソームに包み込まれて送達され、免疫反応は一切存在せず、このエクソソームの安全性を検証する必要はない。この送達システムは、各種の小分子RNAを送達することができ、汎用性が高い。またウイルスの製造はエクソソームやタンパク質、ポリペプチドなどの物質の製造よりも安価で経済的である。本願によるウイルスベクターに基づくRNA送達システムは、生体内で自己集合された後、AGOと緊密に結合して富化して複合構造(エクソソーム)になることができ、これにより、その早期分解を防止し、循環中の安定性を維持することができるだけではなく、受容体細胞による吸収、細胞質内での放出、及びリソソームの脱出に有利であり、必要な用量は低い。
本願によるウイルスベクターに基づくRNA送達システムは、薬物に使用されると、薬物送達プラットフォームを提供し、このプラットフォームを通じてより多くのRNAシステム薬物の研究開発基盤が提供され得、RNAシステム薬物の研究開発及び使用に極めて大きな推進効果をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】本願の一実施例によるマウス結腸炎の治療状況及びRNA発現レベルの比較図である。
図2】本願の一実施例によるマウスサイトカイン濃度及び結腸HE染色の比較図である。
図3】本願の一実施例によるマウス結腸炎の治療状況の比較図である。
図4】本願の一実施例によるマウスの疾患活動指数及び複数のsiRNAレベルの比較図である。
図5】本願の一実施例によるマウスの複数のsiRNA、mRNAレベルの比較図である。
図6】本願の一実施例によるマウス結腸HE染色の比較図である。
図7】本願の一実施例によるKRAS siRNAに基づくマウス肺癌の治療状況を示す図である。
図8】本願の一実施例によるEGFR siRNAに基づくマウス肺癌の治療状況を示す図である。
図9】本願の一実施例によるマウスの複数の酵素の含有量の比較図である。
図10】本願の一実施例によるマウスのヒドロキシプロリン含有量、mRNAレベルの比較図である。
図11】本願の一実施例によるマウスの生存状況及び腫瘍評価の比較図である。
図12】本願の一実施例によるマウス肥満の治療状況の比較図である。
図13】本願の一実施例によるマウスの肥満指標の比較図である。
図14】本願の一実施例によるマウスハンチントン病の治療状況の比較図である。
図15】本願の一実施例による回路の構築及び特徴付け図である。
図16】本願の一実施例によるアデノ随伴ウイルスベクターの肝、肺、血漿、エクソソームにおける富化効果及びEGFR遺伝子発現量の検出であり、図において、Aは、RNA配列を担持したアデノ随伴ウイルスベクターの肝及び肺における富化効果であり、Bは、RNA配列を担持したアデノ随伴ウイルスベクターの血漿及びエクソソームにおける富化効果であり、C及びDは、それぞれEGFRのタンパク質発現量及びmRNA発現量の結果である。
図17】本願の一実施例によるレンチウイルスベクターの肝、肺、血漿、エクソソームにおける富化効果及びEGFR遺伝子発現量の検出であり、図において、Aは、RNA配列を担持したレンチウイルスベクターの肝及び肺における富化効果であり、Bは、RNA配列を担持したレンチウイルスベクターの血漿及びエクソソームにおける富化効果であり、C及びDは、それぞれEGFRのタンパク質発現量及びmRNA発現量の結果である。
図18】本願の一実施例による、2種類の異なるアデノウイルスベクターによって構築された異なる6種類のRNA配列を含有する遺伝子ループであり、静脈注射後の対応するタンパク質及びmRNAの検出結果であり、図において、Aは、EGFRタンパク質発現量、BはTNCタンパク質発現量、CはEGFR mRNA発現量、DはTNC mRNA発現量である。
図19】本願の一実施例による、2種類のアデノウイルスベクターと6種類のRNA配列のうちの任意の2種類又は任意の3種類のRNA配列からなるRNA断片を構築した後の、静脈注射後のタンパク質発現量であり、図において、Aは、2種類のアデノウイルスベクターと6種類のRNA配列のうちの任意の2種類のRNA配列からなるRNA断片を構築した後に検出されたEGFR及びTNCのタンパク質含有量であり、Bは、2種類のアデノウイルスベクターと6種類のRNA配列のうちの任意の2種類のRNA配列からなるRNA断片を構築した後に検出されたEGFR及びTNCのmRNA含有量であり、Cは、2種類のアデノウイルスベクターと6種類のRNA配列のうちの任意の3種類のRNA配列からなるRNA断片を構築した後に検出されたEGFR及びTNCのタンパク質含有量であり、Dは、2種類のアデノウイルスベクターと6種類のRNA配列のうちの任意の4種類のRNA配列からなるRNA断片を構築した後に検出されたEGFR及びTNCのmRNA含有量である。
図20】本願の一実施例による、個々のRNA断片と個々のターゲティングタグとを組み合わせてウイルスベクターに構築した後、静脈注射して検出されたEGFR siRNA及びTNC siRNAの膵臓及び脳における富化効果、並びにEGFR及びTNCの発現量であり、図において、A~Dは、それぞれAD2/AD5+PTP/RVG+siREGFR/siRTNCの富化効果の検出結果であり、E~Hは、それぞれAD2/AD5+PTP/RVG+siREGFRのEGFRタンパク質含有量及びmRNA含有量の検出結果であり、I~Lは、それぞれAD2/AD5+PTP/RVG+siRTNCのTNCタンパク質含有量及びmRNA含有量の検出結果である。
図21】本願の一実施例による、2種類のRNA断片と2種類のターゲティングタグとを任意に組み合わせてウイルスベクターに構築した後、静脈注射して得られたEGFR siRNA及びTNC siRNAの膵臓、脳における富化効果であり、図において、A~Bは、それぞれAD2/AD5+PTP/RVG+siREGFR+TNCの富化効果の検出結果であり、C~Dは、それぞれAD2/AD5+(PTP-RVG)+siREGFRの富化効果の検出結果であり、Eは、AD2/AD5+(PTP-RVG)+siREGFR+TNCの富化効果の検出結果である。
図22】本願の一実施例による、2種類のRNA断片と2種類のターゲティングタグとを任意に組み合わせてウイルスベクターに構築した後、静脈注射して検出されたEGFR及びTNCの膵臓、脳における発現量であり、図において、A~Dは、それぞれAD2/AD5+PTP/RVG+siREGFR+TNCのEGFRタンパク質含有量及びmRNA含有量の検出結果であり、E~Hは、それぞれTNCタンパク質含有量及びmRNA含有量の検出結果である。
図23】本願の別の実施例による、2種類のRNA断片と2種類のターゲティングタグとを任意に組み合わせてウイルスベクターに構築した後、静脈注射して検出されたEGFR及びTNCの膵臓、脳における発現量であり、図において、A~Bは、それぞれAD2/AD5+(PTP-RVG)+siREGFRのEGFRタンパク質含有量及びmRNA含有量の検出結果であり、C~Dは、AD2/AD5+(PTP-RVG)+siREGFR+TNCのEGFRタンパク質含有量及びmRNA含有量の検出結果であり、E~Fは、AD2/AD5+(PTP-RVG)+siRTNCのTNCタンパク質含有量及びmRNA含有量の検出結果であり、G~Hは、AD2/AD5+(PTP-RVG)+siREGFR+TNCのTNCタンパク質含有量及びmRNA含有量の検出結果である。
図24】本願の一実施例による、2種類の回路によって構築された送達システムの静脈注射後のsiRNAの肝、肺、血漿、エクソソームにおける富化結果、並びにEGFRタンパク質及びmRNAの発現量の検出結果であり、図において、Aは、送達システムAAV-siR及びAAV-GE11-siRの肝、肺における富化効果であり、Bは、送達システムAAV-siR及びAAV-GE11-siRの血漿、エクソソームにおける富化効果であり、Cは、送達システムAAV-siR及びAAV-GE11-siRのEGFRタンパク質含有量の検出結果であり、Dは、送達システムAAV-siR及びAAV-GE11-siRのEGFR mRNA含有量の検出結果である。
図25】本願の一実施例による、5’フランキング配列/ループ配列/3’フランキング配列と80%超の相同性を有する2つの明確な配列を含有するアデノウイルスベクターの肺における富化効果であり、図において、Aは異なる5’フランキング配列の富化効果であり、Bは、異なるループ配列の富化効果であり、Cは異なる3’フランキング配列の富化効果である。
図26】本願の実施例による配列4、及び配列4と80%超の相同性を有する2つの配列4-1、4-2をAAVベクターに構築して、静脈注射してから9時間後の配列の肺組織における富化効果であり、図において、Aは、配列4で連結されている場合、AAV-siR及びAAV-siRのsiRNA含有量の検出結果であり、Bは、配列4-1で連結されている場合、AAV-siR及びAAV-siRのsiRNA含有量の検出結果であり、Cは、配列4-2で連結されている場合、AAV-siR及びAAV-siRのsiRNA含有量の検出結果である。
図27】本願の一実施例による異なる長さ配列を含有する遺伝子ループの静脈注射後のEGFR発現量の検出結果であり、図において、Aは、EGFRタンパク質含有量の検出結果であり、Bは、EGFR mRNA含有量の検出結果である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下、図面を参照して、本願の具体的な実施形態について説明する。
【0070】
まず、本発明に係る専門名詞、試験方法などについて説明する。
【0071】
ヘマトキシリン-イオシン染色法(hematoxylin-eosin staining)は、HE染色と略称する。HE染色は組織学、病理学の教育や科学研究において最も基礎的で、最も広く使用されている技術方法の1つである。
【0072】
ヘマトキシリン染色液は塩基性で、組織の好塩基性構造(例えば、リボソーム、細胞核及び細胞質中のリボ核酸など)を青紫色に染色することができ、イオシンは酸性染料であり、組織の好酸性構造(例えば、レビー小体、アルコール小体及び細胞質の大部分を含む細胞内及び細胞間のタンパク質)をピンク色に染色し、細胞組織全体の形態が鮮明に見られるようにすることができる。
【0073】
HE染色の具体的なステップには、サンプル組織の固定化と切片化、組織サンプルの脱ろう、組織サンプルの水和、組織切片のヘマトキシリン染色、分化と抗青処理、組織切片のイオチン染色と脱水、組織サンプル切片の風乾とシーリング、顕微鏡での観察及び写真撮影が含まれる。
【0074】
ウェスタン免疫ブロット(Western Blot)は、タンパク質を膜に転写し、抗体を用いて検出するもので、既知の発現タンパク質に対しては、対応する抗体を一次抗体として検出することができ、新規遺伝子の発現産物に対しては、融合部分の抗体を用いて検出することができる。
【0075】
Western Blotにはポリアクリルアミドゲル電気泳動が使用されており、被検出物はタンパク質、「プローブ」は抗体、「発色」には、標識された二次抗体が使用される。PAGEにより分離されたタンパク質サンプルは、非共有結合の形でタンパク質を吸着し、電気泳動で分離されたポリペプチドタイプ及びその生物学的活性を維持することができる固相担体(例えば、硝酸セルロースフィルム)に転写され、固相担体上のタンパク質又はポリペプチドを抗原として、対応する抗体と免疫反応を起こし、酵素又は同位体標識された第2抗体と反応し、基質発色又は自己放射現像を経て、電気泳動で分離された特定の目的遺伝子によって発現されたタンパク質成分を検出する。 そのステップには、主に、タンパク質の抽出、タンパク質の定量化、ゲル製造と電気泳動、膜転写、免疫標識と現像が含まれる。
【0076】
免疫組織化学技術(immunohistochemistry)又は免疫細胞化学技術(immunocytochemistry)と呼ばれる免疫組織化学は、抗原抗体反応、すなわち抗原と抗体が特異的に結合する原理を利用しており、抗体を標識する発色剤(フルオレセイン、酵素、金属イオン、同位体)を化学反応により発色させて組織細胞内抗原(ポリペプチド及びタンパク質)を特定し、その局在化、定性化及び相対的定量化について研究をする。
【0077】
免疫組織化学の主要なステップには、切片浸漬、一晩の乾燥、キシレン脱蝋、勾配アルコール脱蝋(100%、95%、90%、80%、75%、70%、50%、毎回3min)、二重蒸留、3%過酸化水素水を滴下してカタラーゼを除去すること、水洗、抗原修復、5%BSAを滴下して1hブロックすること、一次抗体希釈、PBS緩衝液による洗浄、二次抗体のインキュベート、PBS緩衝液による洗浄、発色液発色、水洗、ヘマトキシリン染色、勾配エタノール脱水、中性ゴムによるシーリングが含まれる。
【0078】
本発明に係るsiRNAレベル、タンパク質含有量及びmRNA含有量の検出は、いずれも、マウスの生体内にRNA送達システムを注射することにより、マウス幹細胞の生体外モデルを構築する。細胞、組織におけるmRNA及びsiRNAの発現レベルをqRT-PCRを用いて検出する。siRNAの絶対定量は、標準品を用いて検量線を作成することにより決定する。内部参照に対する各siRNA又はmRNAの発現量は2-ΔCTで表すことができ、ΔCT=Cサンプル-C内部参照である。siRNAを増幅する場合、内部参照遺伝子はU6 snRNA(組織中)又はmiR-16(血清、エクソソーム中)分子であり、mRNAを増幅する場合、内部参照遺伝子はGAPDH又は18s RNAである。Western blotting実験を用いて細胞、組織におけるタンパク質の発現レベルを検出し、ImageJソフトウェアを用いてタンパク質の定量分析を行う。
【0079】
本発明による図面において、「*」はP<0.05、「**」はP<0.01、「***」はP<0.005を表す。
【0080】
本発明において、本明細書で使用される科学用語及び技術用語は、別段の記載がない限り、当業者に一般に理解される意味を有する。また、本明細書で使用される試薬、材料や操作ステップは、すべて、当該分野で広く使用されている試薬、材料や通常のステップである。
【0081】
実施例1
本実施例は、送達が必要なRNA断片を担持したウイルスベクターであって、宿主の器官組織内で富化し、前記宿主の器官組織内に前記RNA断片を含有する複合構造を内因的に自発的に形成することができ、前記複合構造が、標的組織内に進入して結合し、前記RNA断片を標的組織に送達することができるウイルスベクターを含む、ウイルスベクターに基づくRNA送達システムを提供する。
【0082】
図16~17は、アデノ随伴ウイルスベクター及びレンチウイルスベクターによって構築されたRNA送達システムが生体内での富化及び治療効果を有することを示し、図16は、アデノ随伴ウイルスベクターの肝、肺、血漿、エクソソームにおける富化効果及びEGFR遺伝子発現量の検出を示し、図17は、レンチウイルスベクターの肝、肺、血漿、エクソソームにおける富化効果及びEGFR遺伝子発現量の検出を示す。
【0083】
本実施例では、ウイルスベクターは、プロモーター及びターゲティングタグをさらに含む。前記ウイルスベクターは、プロモーター-RNA配列、プロモーター-ターゲティングタグ、プロモーター-RNA配列-ターゲティングタグのいずれか1つ又は複数の組み合わせを含み、前記ウイルスベクターのそれぞれは、少なくとも1つのRNA断片と1つのターゲティングタグを含み、前記RNA断片及びターゲティングタグは、同一回路又は異なる回路にある。換言すれば、ウイルスベクターには、プロモーター-RNA配列-ターゲティングタグのみが含まれていてもよいし、プロモーター-RNA配列、プロモーター-ターゲティングタグの組み合わせ、又はプロモーター-ターゲティングタグ、プロモーター-RNA配列-ターゲティングタグの組み合わせが含まれていてもよい。
【0084】
図20~23において、RNA断片1はsiREGFRであり、RNA断片2はsiRTNCであり、ターゲティングタグ1はPTPであり、ターゲティングタグ2はRVGである。2種類のRNA断片と2種類のターゲティングタグを単独又は任意に組み合わせてウイルスベクターに構築した後、マウスの体内に尾静脈注射し、EGFR siRNA及びTNC siRNAの膵臓、脳、血漿、及びエクソソームにおける富化効果、並びにEGFR及びTNCの発現量を検出した。
【0085】
さらに、前記ウイルスベクターは、前記回路を正しい構造に折り畳んで発現させることができるフランキング配列、補償配列、及びループ配列をさらに含み、前記フランキング配列は、5’フランキング配列及び3’フランキング配列を含み、前記ウイルスベクターは、5’-プロモーター-5’フランキング配列-RNA断片-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列、5’-プロモーター-ターゲティングタグ、5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-RNA断片-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列のいずれか1つ又は複数の回路の組み合わせを含んでもよい。
【0086】
ここで、前記5’フランキング配列は、好ましくは、ggatcctggaggcttgctgaaggctgtatgctgaattc又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、ggatcctggaggcttgctgaaggctgtatgctgaattcと85%、90%、92%、95%、98%、99%の相同性を有する配列などを含む。
【0087】
前記ループ配列は、好ましくは、gttttggccactgactgac又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、gttttggccactgactgacと85%、90%、92%、95%、98%、99%の相同性を有する配列などを含む。
【0088】
前記3’フランキング配列は、好ましくは、accggtcaggacacaaggcctgttactagcactcacatggaacaaatggcccagatctggccgcactcgag又はそれと80%超の相同性を有する配列であり、accggtcaggacacaaggcctgttactagcactcacatggaacaaatggcccagatctggccgcactcgagと85%、90%、92%、95%、98%、99%の相同性を有する配列などを含む。
【0089】
前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の任意の1~5位の塩基が欠失されている。前記補償配列は、RNA断片に1つのRNA配列のみが含まれる場合、このRNA配列の逆相補配列であってもよく、その中の任意の1~5位の塩基が欠失されている。
【0090】
好ましくは、前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の任意の1~3位の塩基が欠失されている。前記補償配列は、RNA断片に1つのRNA配列のみが含まれる場合、このRNA配列の逆相補配列であってもよく、その中の任意の1~3位の塩基が欠失されている。
【0091】
より好ましくは、前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の任意の1~3位の連続して配列した塩基が欠失されている。前記補償配列は、RNA断片に1つのRNA配列のみが含まれる場合、このRNA配列の逆相補配列であってもよく、その中の任意の1~3位の連続して配列した塩基が欠失されている。
【0092】
最も好ましくは、前記補償配列は、前記RNA断片の逆相補配列であって、その中の9位及び/又は10位の塩基が欠失されている。前記補償配列は、RNA断片に1つのRNA配列のみが含まれる場合、このRNA配列の逆相補配列であってもよく、その中の9位及び/又は10位が欠失されている。9位と10位の塩基の欠失が最も効果的である。
【0093】
なお、上記のフランキング配列、補償配列、ループ配列はすべて勝手に選択したのではなく、大量の理論研究と試験に基づいて決定したので、上記の特定のフランキング配列、補償配列、ループ配列の協力の下で、RNA断片の発現率を最大限に高めることができる。
【0094】
図24において、5’-プロモーター-5’フランキング配列-RNA配列-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列に対応する送達ベクター名はAAV-siRであり、5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-RNA配列-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列に対応する送達ベクター名は、AAV-GE11-siRであり、図24は、静脈注射後のsiRNAの肝、肺、血漿、エクソソームにおける富化結果、並びに、EGFRタンパク質及びmRNAの発現量の検出結果である。
【0095】
図25において、アデノウイルスベクターの肺部における富化効果のデータを示し、アデノウイルスベクター中の配列は、5’フランキング配/ループ配列/3’フランキング配列と80%超の相同性を有する2つの明確な配列である。
【0096】
上記の各配列の詳細を以下の表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
ウイルスベクターが2つ以上の回路を担持する場合、隣接する回路は、配列1-配列2-配列3で連結されてもよく、ここで、配列1はCAGATCであることが好ましく、配列2は5~80塩基からなる配列、例えば10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75塩基からなる配列、好ましくは、10~50塩基からなる配列、より好ましくは20~40塩基からなる配列であってもよく、配列3はTGGATCであることが好ましい。
【0099】
配列2の詳細を以下の表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
より好ましくは、ウイルスベクターが2つ以上の回路を担持する場合、隣接する回路は、配列4又は配列4と80%超の相同性を有する配列で連結され、ここで、配列4はCAGATCTGGCCGCACTCGAGGTAGTGAGTCGACCAGTGGATCである。
【0102】
図26は、配列4及び配列4と80%超の相同性を有する2つの配列である配列4-1、4-2をAAVベクターに構築し、9時間静脈注射後の肺組織のEGFR siRNA含有量の検出結果である。
【0103】
配列の詳細を以下の表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
上記のRNA断片は、医療的に意味のある1つ又は2つ以上の特定のRNA配列を含み、前記RNA配列は、対象受容体において発現可能であり、前記補償配列は対象受容体において発現不可能である。RNA配列は、siRNA配列、shRNA配列、miRNA配列であってもよく、siRNA配列であることが好ましい。
【0106】
1つのRNA配列の長さが、15~25ヌクレオチド(nt)、好ましくは18~22nt、例えば、18nt、19nt、20nt、21nt、22ntであってもよい。この配列の長さの範囲はランダムに選択されたものではなく、試験を繰り返すことによって決定されたものである。大量の試験により、RNA配列の長さが18ntよりも短く、特に15ntよりも短い場合、このRNA配列はほとんど無効で、作用を発揮しないが、RNA配列の長さが22ntよりも長く、特に25ntよりも長い場合、回路のコストが大幅に向上するだけでなく、効果も長さが18~22ntのRNA配列より優れておらず、経済効果が悪いことが証明された。したがって、RNA配列の長さが15~25nt、特に18~22ntの場合、コストと作用の両立が最も効果的である。
【0107】
図27は、それぞれ 様々な長さのRNA配列によって構築された遺伝子ループの静脈注射後のEGFR発現量の検出であり、ここで、RNA配列の長さがそれぞれ18、20、22のプラスミドは、それぞれAAV-siR(18)、AAV-siR(20)、AAV-siR(22)に対応している。
【0108】
様々な長さのRNA配列を以下の表4に示す。
【0109】
【表4】
【0110】
前記RNA配列は、EGFR遺伝子のsiRNA、KRAS遺伝子のsiRNA、VEGFR遺伝子のsiRNA、mTOR遺伝子のsiRNA、TNF-α遺伝子のsiRNA、integrin-α遺伝子のsiRNA、B7遺伝子のsiRNA、TGF-β1遺伝子のsiRNA、H2-K遺伝子のsiRNA、H2-D遺伝子のsiRNA、H2-L遺伝子のsiRNA、HLA遺伝子のsiRNA、GDF15遺伝子のsiRNA、miRNA-21のアンチセンス鎖、miRNA-214のアンチセンス鎖、TNC遺伝子のsiRNA、PTP1B遺伝子のsiRNA、mHTT遺伝子のsiRNA、Lrrk2遺伝子のsiRNA、α-synuclein遺伝子のsiRNA、又は上記配列と80%超の相同性を有するRNA配列、又は上記RNAをコードする核酸分子から選択されるいずれか1種又は複数種である。
【0111】
上記の各種遺伝子のsiRNA及びmiRNAのアンチセンス鎖はいずれもこの遺伝子、miRNAの発現又は突然変異を阻害することにより、疾患を阻害する効果を達成することができる。これらの疾患には、癌、肺線維症、結腸炎、肥満、肥満に起因する心血管疾患、2型糖尿病、ハンチントン病、パーキンソン病、重症筋無力症、アルツハイマー病、移植片対宿主病、及びこれらに関連する疾患が含まれるが、これらに限定されない。ここで関連疾患とは、上記のいずれか1又は複数の疾患の発症又は進行の過程で発生する関連疾患、合併症、後遺症など、又は上記の疾患と一定の関連性を有する他の疾患をいう。ここで、癌には、胃癌、腎臓癌、肺癌、肝臓癌、脳癌、血液癌、腸癌、皮膚癌、リンパ癌、乳癌、膀胱癌、食道癌、頭頸部扁平上皮癌、血管腫、膠細胞腫、黒色腫が含まれるが、これらに限定されない。
【0112】
RNA断片中のRNA配列の数は、1、2又はそれ以上である。例えば、脳膠芽腫を治療する場合、同一ウイルスベクターにEGFR遺伝子のsiRNAとTNC遺伝子のsiRNAを併用することができ、腸炎を治療する場合、TNF-α遺伝子のsiRNA、integrin-α遺伝子のsiRNA、及びB7遺伝子のsiRNAを併用することができる。
【0113】
同一ウイルスベクターに「siRNA1」と「siRNA2」を併用する例では、このウイルスベクターの機能構造領域は、(プロモーター-siRNA1)-連結配列-(プロモーター-siRNA2)-連結配列-(プロモーター-ターゲティングタグ)、又は(プロモーター-ターゲティングタグ-siRNA1)-連結配列-(プロモーター-ターゲティングタグ-siRNA2)、又は(プロモーター-siRNA1)-連結配列-(プロモーター-ターゲティングタグ-siRNA2)などと表現することができる。
【0114】
より具体的には、このウイルスベクターの機能構造領域は、(5’-プロモーター-5’フランキング配列-siRNA1-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列)-連結配列-(5’-プロモーター-5’フランキング配列-siRNA2-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列)-連結配列-(5’-プロモーター-ターゲティングタグ)、又は(5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-siRNA1-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列)-連結配列-(5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-siRNA2-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列)、又は(5’-プロモーター-5’フランキング配列-siRNA1-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列)-連結配列-(5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-siRNA2-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列)、(5’-プロモーター-ターゲティングタグ-5’フランキング配列-siRNA1-siRNA2-ループ配列-補償配列-3’フランキング配列)などと表現することができる。その他の場合は同様に類推することができるので、ここでは詳しく説明しない。上記連結配列は、「配列1-配列2-配列3」又は「配列4」としてもよく、1つの括弧は完全な回路(circuit)を表す。
【0115】
好ましくは、上記RNAは、その中のRNA配列(siRNA、shRNA、又はmiRNA)をリボース修飾することによって得られてもよく、2’フルオロピリミジン修飾が好ましい。2’フルオロピリミジン修飾はsiRNA、shRNA又はmiRNA上のピリミジンヌクレオチドの2’-OHを2’-Fで置換することであり、2’-Fは、人体内のRNA酵素をsiRNA、shRNA又はmiRNAを識別しにくくすることができ、このようにRNAの体内送達の安定性を高めることができる。
好ましくは、上記RNAは、その中のRNA配列(siRNA、shRNA、又はmiRNA)をリボース修飾することによって得られてもよく、2’フルオロピリミジン修飾が好ましい。2’フルオロピリミジン修飾はsiRNA、shRNA又はmiRNA上のピリミジンヌクレオチドの2’-OHを2’-Fで置換することであり、2’-Fは、人体内のRNA酵素をsiRNA、shRNA又はmiRNAを識別しにくくすることができ、このようにRNAの体内送達の安定性を高めることができる。
【0116】
本実施例に記載された宿主体内の器官は、肝臓であることが好ましい。肝臓はすべての哺乳動物の組織器官の中で最も活発な細胞開閉組織である。
【0117】
肝臓に特異的に感染すると、ウイルスベクターがRNA断片(siRNA、shRNA又はmiRNA)を放出し、肝臓組織はRNA断片を自発的にエクソソーム内に包み込み、これらのエクソソームはRNA送達機構(送達が必要なRNAを含む、ターゲティング構造を持つ複合構造)となる。
【0118】
このエクソソームに「正確な誘導」能力を持たせるために、生体内に注入されたウイルスベクターにターゲティングタグが設計され、このターゲティングタグも肝臓組織によってエクソソームに組み込まれ、特にある特定のターゲティングタグを選択すると、ターゲティングタグはエクソソームの表面に挿入され、それによってエクソソームを誘導することができるターゲティング構造となり、これは本発明に記載されたRNA送達機構の正確性を大幅に向上させ、潜在的な薬物送達効率を大幅に向上させることができる。
【0119】
ターゲティングタグの選択は創造的な労力を必要とするプロセスであり、一方では標的組織に応じて利用可能なターゲティングタグを選択する必要があり、他方ではそのターゲティングタグがターゲティング機能を達成するためにエクソソームの表面に安定的に出現することを保証する必要がある。現在、すでに選別されたターゲティングタグは、ターゲティングペプチド、ターゲティングタンパク質、抗体を含む。その中でも、ターゲティングペプチドには、RVGターゲティングペプチド(ヌクレオチド配列がSEQ ID No:1で示される)、GE11ターゲティングペプチド(ヌクレオチド配列がSEQ ID No:2で示される)、PTPターゲティングペプチド(ヌクレオチド配列がSEQ ID No:3で示される)、TCP-1ターゲティングペプチド(ヌクレオチド配列がSEQ ID No:4で示される)、MSPターゲティングペプチド(ヌクレオチド配列がSEQ ID No:5で示される)が含まれるが、これらに限定されない。ターゲティングタンパク質には、RVG-LAMP2B融合タンパク質(ヌクレオチド配列がSEQ ID No:6で示される)、GE11-LAMP2B融合タンパク質(ヌクレオチド配列がSEQ ID No:7で示される)、PTP-LAMP2B融合タンパク質(ヌクレオチド配列がSEQ ID No:8で示される)、TCP-1-LAMP2B融合タンパク質(ヌクレオチド配列がSEQ ID No:9で示される)、MSP-LAMP2B融合タンパク質(ヌクレオチド配列がSEQ ID No:10で示される)が含まれるが、これらに限定されない。
【0120】
その中で、RVGターゲティングペプチド、RVG-LAMP2B融合タンパク質は、脳組織を正確に標的化することができる。GE11ターゲティングペプチド、GE11-LAMP2B融合タンパク質は、EGFR高発現器官組織、例えばEGFR突然変異肺癌組織を正確に標的化することができる。PTPターゲティングペプチド、PTP-LAMP2B融合タンパク質は、膵臓、特にヒト由来とマウス由来の膵臓癌組織中に特異的に発現するplectin-1タンパク質を正確に標的化することができる。TCP-1ターゲティングペプチド、TCP-1-LAMP2B融合タンパク質は、結腸を正確に標的化することができる。MSPターゲティングペプチド、MSP-LAMP2B融合タンパク質は、筋肉組織を正確に標的化することができる。
【0121】
実際の応用において、ターゲティングタグは各種の異なるRNA断片と柔軟に組み合わせることができ、異なるターゲティングタグを異なるRNA断片と組み合わせることにより、様々な作用を果たすことができる。例えば、RVGターゲティングペプチド、RVG-LAMP2B融合タンパク質は、EGFR遺伝子のsiRNA、TNC遺伝子のsiRNA、又は両者の組み合わせと組み合わせて膠芽腫を治療することができ、また、PTP1B遺伝子のsiRNAと組み合わせて肥満を治療することができ、また、mHTT遺伝子のsiRNAと組み合わせてハンチントン舞踏症を治療することができ、また、LRRK2遺伝子のsiRNAと組み合わせてパーキンソンを治療することができる。GE11ターゲティングペプチド、GE11-LAMP2B融合タンパク質は、EGFR遺伝子のsiRNAと組み合わせて、EGFR遺伝子の高発現又は突然変異によって誘導される肺癌などの疾患を治療することができる。TCP-1ターゲティングペプチド又はTCP-1-LAMP2B融合タンパク質は、TNF-α遺伝子のsiRNA、integrin-α遺伝子のsiRNA、B7遺伝子のsiRNA、又はこれら3つの任意の組み合わせと組み合わせて結腸炎又は結腸癌などを治療することができる。
【0122】
ウイルスベクターの選択及び構造の設計は、本発明に開示された技術の中核的な内容の1つであり、研究の結果、ウイルスベクターは、好ましくは、アデノウイルス関連ウイルス(AAV)であり、より好ましくは、アデノウイルス関連ウイルス5型(AAV-5)、アデノウイルス関連ウイルス8型(AAV-8)、又はアデノウイルス関連ウイルス9型(AAV-9)である。
【0123】
そのほか、正確な送達の目的を達成するために、多種のウイルスベクターの組み込み形態を実験した結果、以下の別の最適化形態を得た。すなわち、前記ウイルスベクターはまた異なる構造を持つ多種のウイルスで構成されてもよく、その中の1つのウイルスはプロモーターとターゲティングタグを含み、その他のウイルスはプロモーターとRNA断片を含む。すなわち、ターゲティングタグとRNA断片を異なるウイルスベクターに組み込み、2種類のウイルスベクターを体内に注入し、この場合、そのターゲティング効果は同じターゲティングタグとRNA断片を1つのウイルスベクターに組み込むことによるターゲティング効果に相当する。
【0124】
より好ましくは、2種類の異なるウイルスベクターを宿主に注入する際に、まず、RNA配列を組み込んだウイルスベクターを注入し、1~2時間後に、ターゲティングタグを含有するウイルスベクターを注入してもよく、これにより、より優れたターゲティング効果を達成することができる。
【0125】
上記の送達システムは、いずれも、ヒトを含む哺乳動物で使用され得る。
【0126】
送達システムの実現可能性を検証するために、次のような試験を行った。
【0127】
まず、図15aに示すように、コア回路(genetic circuit)のインフラストラクチャを合理的に設計し、異なる機能モジュールを自由に組み合わせることができるようにした。コア回路はプロモーター部分とsiRNA発現部分からなり、siRNAを産生して組織し、エクソソーム(exosomes)のペイロードとすることを目的とする。他の組み合わせ可能なコンポーネント(プラグイン)は、プラグアンドプレイ機能を実現するためにコア回路のフレームワークに統合することができる。例えば、2種類の組み合わせ可能な部分を結合してsiRNAの作用を最適化する。一方は、エクソンの膜アンカータンパク質を修飾して組織選択性を実現し、他方は、2つの分子標的を同時に阻害するために、2つ目のsiRNAを共発現することができる。
【0128】
コア回路構築物については、図15aに示すように、ガイド鎖(guide strand)の発現を最大化しながら、望ましくないパッセンジャー鎖(passenger strand)の発現を最小化するために、プロモーター部分の制御下で最適化されたsiRNA発現骨格部分をコード化するスキームを設計した。上皮成長因子受容体(Epidermal growth factor receptor、EGFR)は、多くのヒト腫瘍(例えば、肺癌や膠芽腫)において頻繁に突然変異し、高発現する癌遺伝子であり、siRNA標的として選択された。そして、ヒト胚腎293t細胞(HEK293T)とマウス肝癌細胞(hep1-6)をsiRNA生体外集合用のシャーシ細胞(cell chassis)として選択した。siRNAの産生効率を最適化するために、以下の2種類の設計スキームを比較した。一方は、CMVプロモーターを用いてmiRNA前駆体(pre-miRNA)を発現し、miRNA配列をsiRNAで置換することであり、他方は、U6プロモーターを用いて短いヘアピンRNA(shRNA)を発現することである。まず、一連のmiRNA前駆体の構造を研究し、siRNAを産生する最適な骨格としてpre-miR-155を選択した。次に、図15bに示すように、EGFR siRNA(CMV-siR)及びU6指向性EGFR shRNA(U6-siR)をコードするCMV指向性(CMV-directed)のpre-miRNAのsiRNA産生効率を比較した。2つのスキームは、EGFR siRNAガイド鎖の転写を駆動する面で類似の効率を持っているが、図15bに示すように、pre-miRNA法は、shRNA法に比べて、生成されたパッセンジャー鎖がより少ないか、又は生成されない(成熟したガイド鎖の生物発生過程で、パッセンジャー鎖は分解されるようである)。そのため、オフターゲット効果を回避するために、CMV駆動pre-miRNAを選択して設計するようにした。
【0129】
次に、コア回路がエクソソームに自律的に組み込むようにsiRNAを誘導できるか否かを調べる。CMV-scrR又はCMV-siRを用いてHEK293T細胞をトランスフェクトし、細胞培養液中のエクソソームを観察した。ナノ粒子追跡分析(NTA)により、各群が分泌したエクソソームは、数が類似し、大きさの分布が類似し、ピーク値が128~131nmの間であることが示された。透過型電子顕微鏡(TEM)により、精製したエクソソームは典型的な円形小胞形態を呈し、大きさが正確であることを証明した。さらに、特定のエクソンマーカー(CD63、TSG101及びCD9)の富化は、精製エクソームでのみ検出され、細胞培地では検出されなかった。これらの結果は、回路トランスフェクションが、HEK293T細胞が産生するエクソームの大きさ、構造や量に影響を及ぼさないことを示している。最後に、CMV-siR回路でトランスフェクションされたHEK293T及びHepa1-6細胞由来のエクソソームからは、図15cに示すように、大量のEGFR siRNAが検出された。図15d、図15eに示すように、これらのエクソソームは、マウスLewis肺癌(LLC)細胞と一緒にインキュベートする時、EGFR発現の用量依存性が低下し、このことから、エクソソームsiRNAが生物学的機能を有することが示唆された。
【0130】
回路のターゲティングタグを設計するために、図15aに示すように、Lamp2bタンパク質(典型的なエクソソーム膜タンパク質)のN末端に融合したターゲティングタグをコードする配列をCMVプロモーターの下流に挿入した。このタグはLamp2bを介してエクソソームの表面にアンカーされ、それによって、複合構造エクソソームを所望の組織に送達するように誘導する。具体的には、RVGペプチドを標的とする中枢神経系を標識として選択し、エクソソームを脳に導入し(RVGはエクソソームが血液脳関門を通過して神経細胞に入るのを助けることが証明されている)、まず、プロモーターがRVG-Lamp2b融合タンパク質の発現を開始する効率を評価した。試験により、CMVプロモーターはHEK293T細胞におけるRVG-Lamp2b mRNAと標識タンパク質eGFPの産生に一定の効果があることが証明されたが、U6プロモーターには効果がなく、このことから、CMVプロモーターが回路の各部分に連結されたことによる優位性が実証された。次に、免疫沈殿法を用いて、ターゲティングタグがエクソソーム表面で正しく発現していることをガイドして検証した。試験では、抗RVG抗体が一時的に不足していたため、RVGの代わりにFlagタグを一時的に使用した。図15fに示すように、CMVガイドFlag-Lamp2b回路を用いてHEK293TとHepa1-6細胞をトランスフェクションした後、抗Flagビーズを用いて完全なエクソソームを免疫沈殿させることに成功し、このことから、ターゲティングタグを正確に位置決めすることが証明された。追加のsiRNA発現部分を設計するために、多くの癌、特に膠芽腫に関連する主要な癌遺伝子tenascin-C(TNC)を第2のsiRNA標的として使用した。TNC-siRNAも、図15に示すように、前miR-155骨格に埋め込まれ、EGFR-siRNAの下流に挿入されている。図15gに示すように、単一(CMV siR又はCMV siR)の転写かタンデム(CMV siR)転写かにかかわらず、EGFRとTNC siRNAの差がほとんど検出されなかった。いずれにせよ、これらの結果は、siRNAもターゲティングタグも、回路においてそれぞれの役割を果たすことを示唆している。
【0131】
次に、回路がエクソソームに自己集合できるか否かを調べた。たEGFR及びTNC siRNAsをコードするCMVガイド回路及びRVG標識(CMV-RVG-siR)を用いてHEK293T細胞をトランスフェクションした。その結果、細胞培地由来のエクソソームは典型的な形態と大きさの分布を示し、複合コア回路で修飾してもエクソソームの物性は変化しないことを示した。さらに、EGFRとTNC-siRNAsとターゲティングタグ(CMV-Flag-siR)を含む完全な回路を構築し、それでトランスフェクションされたHEK293T及びhep1-6細胞から産生されるエクソソームを用いて免疫沈殿させることに成功し、図15hに示すように、EGFR及びTNC siRNAは、ともに免疫沈殿させたエクソソームに多く存在している。
【0132】
さらに、AGO2は生体内で広く発現し、RNA誘導サイレンシング複合体の中核成分であり、エンドリボヌクレアーゼ活性を有し、siRNAの成熟を促進し、その生合成と機能を調節することにより、標的遺伝子の発現を阻害することができる。
【0133】
siRNAの加工はArgonaute2(AGO2)に依存しており、siRNAをAGO2に適切に組み込むことでsiRNAのターゲティング作用を高めることが期待されることから、AGO2とエクソソーム中のsiRNAとの関連を評価するために別の免疫沈殿実験を行った。試験により、AGO2抗体(anti-AGO2)で沈殿させたエクソソーム中にEGFR及びTNC siRNAが容易に検出できることが証明され、これは、我々の設計がsiRNAをRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)にロードすることを保証し、AGO2が結合されるsiRNAのエクソソームへの効率的な輸送を促進することを明らかにした。最後に、インビロトで集合されたsiRNAが機能するか否かを調べるために、CMV-RVG-siRE+T回路でトランスフェクションされたHEK293T細胞由来のエクソソームをU87MG膠芽腫細胞と共にインキュベートした。図15i、図15jに示すように、U87MG細胞においてEGFRとTNC発現の用量依存性の低下を実現した。さらに、エクソソームの表面にあるRVGタグは、EGFR及びTNC siRNAの標的に対するサイレンシング効果に影響を与えなかった。これらの結果は、回路を複数の組み合わせ可能な部分の有機的な結合として確立し、これらの部分の巧みな結合がRNAの自己集合と放出を可能にした。
【0134】
したがって、本実施例によるウイルスベクターに基づくRNA送達システムは、ウイルスをベクターとし、ウイルスベクターを成熟した注入物とし、その安全性及び信頼性が十分に検証されており、創薬性が非常に良好である。最終的に効果を発揮するRNA配列は内因性エクソソームに包み込まれて送達され、免疫反応は一切存在せず、このエクソソームの安全性を検証する必要はない。この送達システムは、各種の小分子RNAを送達することができ、汎用性が高い。またウイルスベクターの製造はエクソソームやタンパク質、ポリペプチドなどの物質の製造よりも安価で経済的である。本実施例によるウイルスベクターに基づくRNA送達システムは、生体内で自己集合された後、AGOと緊密に結合して富化して複合構造(エクソソーム)になることができ、これにより、その早期分解を防止し、循環中の安定性を維持することができるだけではなく、受容体細胞による吸収、細胞質内での放出、及びリソソームの脱出に有利であり、必要な用量は低い。
【0135】
実施例2
実施例1に基づいて、本実施例は薬物を提供する。この薬物は、送達が必要なRNA断片を担持したウイルスベクターであって、宿主の器官組織内で富化し、前記宿主の器官組織内に前記RNA断片を含有する複合構造を内因的に自発的に形成することができ、前記複合構造が、標的組織内に進入して結合し、前記RNA断片を標的組織に送達することができるウイルスベクターを含む。RNA断片を標的組織に送達すると、それに対応する遺伝子の発現を阻害し、標的組織における疾患の進行を阻害することができる。
【0136】
任意選択に、前記RNA断片は、医療的に意味のある1つ又は2つ以上の特定のRNA配列を含み、前記RNA配列は、医療的に意味のあるsiRNA、shRNA又はmiRNAである。
【0137】
図18~19において、2種類のアデノウイルスは、それぞれADV1、ADV2であり、6種類のRNAは、それぞれsiR(標的遺伝子はEGFR)、siR(標的遺伝子はTNC)、shR(標的遺伝子はEGFR)、siR(標的遺伝子はTNC)、miR-7(標的遺伝子はEGFR)、miR-133b(標的遺伝子はEGFR)である。図18は、2種類のアデノウイルスベクターによって構築された12種類の遺伝子ループの静脈注射後の対応するタンパク質の発現量を示し、図19は、2種類のアデノウイルスベクターと6種類のRNA配列のうちの任意の2種類又は任意の3種類のRNA配列からなるRNA断片を構築した後の静脈注射後のタンパク質の発現量を示す。
【0138】
RNA配列の詳細を以下の表5に示す。
【0139】
【表5】
【0140】
任意選択に、前記ウイルスベクターは、プロモーターと、宿主の器官組織内に前記複合構造のターゲティング構造を形成することができるターゲティングタグとを含み、前記ターゲティング構造は複合構造の表面に位置し、前記複合構造は、前記ターゲティング構造を介して標的組織を探索し結合し、標的組織に前記RNA断片を送達可能である。
【0141】
本実施例における上記ウイルスベクター、RNA断片、ターゲティングタグなどの説明は、いずれも実施例1を参考にすることができるので、ここでは詳しく説明しない。
【0142】
該薬物は、経口投与、吸入投与、皮下注射投与、筋肉注射投与又は静脈注射投与により人体に投与された後、実施例1に記載のウイルスベクターに基づくRNA送達システムによって標的組織に送達され、治療効果を発揮することができる。
【0143】
該薬物は、癌、肺線維症、結腸炎、肥満、肥満に起因する心血管疾患、2型糖尿病、ハンチントン病、パーキンソン病、重症筋無力症、アルツハイマー病、又は移植片対宿主病を治療する薬物であってもよい。
【0144】
本実施例の薬物は、希釈剤、緩衝剤、乳剤、カプセル化剤、賦形剤、充填剤、バインダ、スプレー剤、経皮吸収剤、湿潤剤、崩壊剤、吸収促進剤、界面活性剤、着色剤、矯味剤、アジュバント、乾燥剤、吸着担体などを含むがこれに限定されない、薬学的に許容される担体をさらに含んでもよい。
【0145】
本実施例による薬物の剤形は、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸薬、座薬、軟膏剤、溶液剤、懸濁剤、ローション剤、ゲル剤、ペースト剤などであってもよい。
【0146】
本実施例による薬物は、ウイルスをベクターとし、ウイルスベクターを成熟した注入物とし、その安全性及び信頼性が十分に検証されており、創薬性が非常に良好である。最終的に効果を発揮するRNA配列は内因性エクソソームに包み込まれて送達され、免疫反応は一切存在せず、このエクソソームの安全性を検証する必要はない。この送達システムは、各種の小分子RNAを送達することができ、汎用性が高い。またウイルスの製造はエクソソームやタンパク質、ポリペプチドなどの物質の製造よりも安価で経済的である。本願による薬物は、生体内で自己集合された後、AGOと緊密に結合して富化して複合構造(エクソソーム)になることができ、これにより、その早期分解を防止し、循環中の安定性を維持することができるだけではなく、受容体細胞による吸収、細胞質内での放出、及びリソソームの脱出に有利であり、必要な用量は低い。
【0147】
実施例3
実施例1又は実施例2に基づいて、本実施例はウイルスベクターに基づくRNA送達システムの薬物における使用を提供し、この薬物は結腸炎治療薬であり、本実施例では、結腸炎治療におけるウイルスベクターに基づくRNA送達システムの効果について、以下の2つの試験により具体的に説明する。
【0148】
第1の試験では、3つの試験群と2つの対照群を設置した。3つの試験群は、それぞれAAV-CMV-siRTNF-α(低)群、AAV-CMV-siRTNF-α(中)群、AAV-CMV-siRTNF-α(高)群であり、対照群は、それぞれ正常群、AAV-CMV-scrR群であった。
【0149】
試験過程としては、図1Aに示すように、AAV-CMV-siRTNF-α(低)群、AAV-CMV-siRTNF-α(中)群、AAV-CMV-siRTNF-α(高)群では、それぞれ、肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いてTNF-α siRNAシステム(AAV-CMV-siRTNF-α)を包み込み、力価1012V.g/mlのAAV溶液を25μL、50μL、100μLでマウスに尾静脈注射した。
【0150】
生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした結果、図1Bに示すように、3週間後にAAVシステムが体内、特に肝臓で安定に発現していることがわかり、その中で、AAV-CMV-siRTNF-α(高)群では、平均放射輝度(Average Radiance)は8.42*105(p/sec/cm/sr)に達し、発現部位が肝臓であり、このことから、AAVシステムの発現が用量依存効果を持つことが示された。
【0151】
次に、DSS誘導慢性結腸炎モデルの構築を開始し、その間2日ごとに体重を計量して記録した結果、図1Cに示すように、AAVに包み込まれたCMV-siR TNF-αシステムは慢性結腸炎マウスの体重減少を軽減でき、3つの試験群のマウスでは、炎症緩和期の体重回復速度もAAV-CMV-scrR群より有意に速かった。
【0152】
10週目にモデル構築を終了し、生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした後、マウスを殺して結腸を観察した結果、図1Dに示すように、AAV-CMV-siRTNF-α(低)群、AAV-CMV-siRTNF-α(中)群、AAV-CMV-siRTNF-α(高)群のマウスでは、結腸の発赤はある程度軽減し、慢性炎症による結腸長の短縮もある程度改善し、その中で、AAV-CMV-siRTNF-α(高)群では、炎症の改善が最も顕著であった。
【0153】
各群のマウスの疾患指数をスコアリングして統計した結果、図1Eに示すように、AAV-CMV-siRTNF-α(高)群のマウスでは、疾患指数はAAV-CMV-siRTNF-α(低)群、AAV-CMV-siRTNF-α(中)群、及びAAV-CMV-scrR群よりも低かった。
【0154】
各群のマウスの体内のTNF-α siRNAレベルをそれぞれ検出した結果、図1Fに示すように、3つの試験群のマウスでは、体内のTNF-α siRNAレベルはすべて高く、対照群のAAV-CMV-scrR群のマウスでは、体内のTNF-α siRNAの発現はほとんどなく、このことから、上記のAAVシステムが一定量のTNF-α siRNAを産生できることが示唆された。
【0155】
各群のマウスの体内のTNF-α mRNAレベルをそれぞれ検出した結果、図1Gに示すように、正常群と3つの試験群のマウスでは、体内のTNF-α mRNAレベルはすべて低く、AAV-CMV-scrR群のマウスでは、体内のTNF-α mRNAレベルは高く、このことから、AAVシステムが結腸のTNF-αの発現と分泌を下げることができることが示唆された。
【0156】
マウス結腸内の炎症促進性サイトカインIL-6、IL-12、IL-23を検出した結果、図2Aに示すように、正常群とAAV-CMV-siRTNF-α(高)群のマウスでは、炎症促進性サイトカインの分泌が最も少なく、AAV-CMV-scrR群のマウスでは、炎症促進性サイトカインの分泌が最も多かった。
【0157】
マウスの結腸切片をHE染色して、病理スコアリングを行って統計した結果、図2B図2Cに示すように、試験群、特にAAV-CMV-siRTNF-α(高)群のマウスでは、結腸粘膜の完全性はさらに高く、しかも免疫細胞の浸潤程度はさらに浅く、結腸陰窩膿瘍及び結腸の充血と出血もAAV-CMV-scrR群より顕著に軽減された。
【0158】
以上の試験から、肝臓に親和性のAAVに包み込まれたCMV-siRTNF-α回路によれば、長期的なTNF-α siRNA発現及び長期的なTNF-αサイレンシングを可能とし、しかも、結腸炎をある程度緩和することができ、創薬の潜在力及び臨床上の研究価値が極めて期待できた。
【0159】
第2の試験では、3つの試験群と2つの対照群を設置した。その中で、試験群は、それぞれAAV-CMV-siRT+B+I(低)群、AAV-CMV-siRT+B+I(中)群、AAV-CMV-siRT+B+I(高)群であり、対照群は、それぞれ正常群、AAV-CMV-scrR群であった。
【0160】
AAV-CMV-siRT+B+I(低)群、AAV-CMV-siRT+B+I(中)群、AAV-CMV-siRT+B+I(高)群では、それぞれ肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いて、TNF-α siRNA、B7-siRNA及びIntegrinα4 siRNAエレメントタンデム送達システム(AAV-CMV-siRT+B+I)を包み込み、力価1012V.g/mlのAAV溶液を25μL、50μL、100μLでマウスに尾静脈注射した。
【0161】
生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした結果、図3Aに示すように、3週間後にAAVシステムが体内、特に肝臓で安定して発現しており、AAVシステムの発現が用量依存効果を持つことが示された。
【0162】
次に、DSS誘導慢性結腸炎モデルの構築を開始し、その間2日ごとに体重を計量して記録した結果、図3Bに示すように、AAVに包み込まれたCMV-siRT+B+Iシステムは慢性結腸炎マウスの体重減少を軽減でき、3つの試験群のマウスでは、炎症緩和期の体重回復速度もAAV-CMV-scrR群より有意に速かった。
【0163】
10週目にモデル構築を終了し、生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした後、マウスを殺して結腸を観察した結果、図3Cに示すように、AAV-CMV-siRT+B+I(低)群、AAV-CMV-siRT+B+I(中)群、AAV-CMV-siRT+B+I(高)群のマウスでは、結腸の発赤はある程度軽減し、慢性炎症による結腸長の短縮もある程度改善し、その中で、AAV-CMV-siRT+B+I(高)群では、炎症の改善が最も顕著であった。
【0164】
各群のマウスの疾患指数をスコアリングして統計した結果、図4Aに示すように、AAV-CMV-siRT+B+I(高)群のマウスでは、疾患指数はAAV-CMV-siRT+B+I(低)群、AAV-CMV-siRT+B+I(中)群、及びAAV-CMV-scrR群よりも低かった。
【0165】
マウス血漿中のTNF-α siRNA、B7 siRNA及びintegrinα4 siRNAを検出した結果、図4B図4C図4Dに示すように、AAVに包み込まれたCMV-siRT+B+Iシステムは、マウス血漿中に安定に発現するsiRNAを一定量で生成し、用量依存性の効果を示した。
【0166】
マウス肝臓中のTNF-α siRNA、B7 siRNA及びintegrinα4 siRNAを検出した結果、図4E図4F図4Gに示すように、AAVに包み込まれたCMV-siRT+B+Iシステムは、マウスの肝臓で安定に発現するsiRNAを一定量で生成し、用量依存性の効果を示した。
【0167】
マウス結腸中のTNF-α siRNA、B7 siRNA及びintegrinα4 siRNAを検出した結果、図5A図5B図5Cに示すように、AAVに包み込まれたCMV-siRT+B+Iシステムは、マウスの結腸で安定に発現するsiRNAを一定量で生成し、用量依存性の効果を示した。
【0168】
マウス結腸中のTNF-α mRNA、B7 mRNA及びintegrinα4 mRNAを検出した結果、図5D図5E図5Fに示すように、AAVに包み込まれたCMV-siRT+B+Iシステムは、マウスの結腸中のTNF-α、B7及びintegrinα4 mRNAの発現を著しく低下させた。
【0169】
マウスの結腸切片をHE染色して、病理スコアリングを行って統計した結果、図6A、及び図6Bに示すように、試験群、特にAAV-CMV-siRT+B+I(高)群のマウスでは、結腸粘膜の完全性はさらに高く、しかも、免疫細胞の浸潤程度はさらに浅く、結腸陰窩膿瘍及び結腸の充血と出血もAAV-CMV-scrR群より顕著に軽減された。
【0170】
以上の試験から、肝臓に親和性のAAVに包み込まれたCMV-siRT+B+I回路によれば、長期的なTNF-α siRNA、B7 siRNA及びintegrinα4 siRNA発現、並びに複数の標的遺伝子のサイレンシングを可能とし、しかも、結腸炎症の程度を著しく緩和することができ、創薬の潜在力及び臨床上の研究価値が極めて期待できた。
【0171】
実施例4
実施例1又は実施例2に基づいて、本実施例は、ウイルスベクターに基づくRNA送達システムの医薬における使用を提供し、この薬物は肺癌治療薬であり、本実施例では、肺癌治療におけるウイルスベクターに基づくRNA送達システムの効果について、以下の4つの試験により具体的に説明する。
【0172】
第1の試験では、肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いて、EGFR siRNAシステム(AAV-CMV-EGFR siRNA)とKRAS siRNAシステム(AAV-CMV-KRAS siRNA)を包み込み、力価1012V.g/mlのAAV溶液を100μLでマウスに尾静脈注射した。生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした結果、3週間後にAAVシステムが体内、特に肝臓で安定に発現していることが認められた。
【0173】
第2の試験では、1つの試験群と2つの対照群を設置し、その中で、1つの試験群はAAV-CMV-KRAS-siRNA群であり、対照群はPBS群とAAV-CMV-scrR群であった。
【0174】
群ごとに、同じ数のマウスを選択し、マウスの体内にマウス肺癌細胞(LLC細胞)を注射し、CTスキャン技術を用いてマウスモデル構築の進行を観察した。30日後に、構築に成功したマウスに2日に1回投与し、すなわち、PBS群/AAV-CMV-scrR群/AAV-CMV-KRAS siRNA群のマウスに2日ごとにPBS緩衝液/AAV-CMV-scrR/AAV-CMV-KRAS siRNAを注射して治療を行い、マウスの生存分析と腫瘍評価をそれぞれ行い、7回投与後に治療を停止した。
【0175】
各群のマウスの治療100日後の生存を統計した結果、図7Aに示すように、PBS群とAAV-CMV-scrR群のマウスでは、生存率はほとんど変わらなかったが、AAV-CMV-KRAS siRNA群のマウスでは、生存率は最も高かった。
【0176】
投与前後に各群のマウスをそれぞれCTスキャンし、CT画像に基づいてマウスの肺組織を3Dモデル化し、腫瘍の体積の大きさを計算し、その結果を図7Bに示す。図7Bにおいて、「PBS pre」は投与前のPBS群を示し、「PBS post」は投与後のPBS群を示し、「AAV-CMV-scrR pre」は投与前のAAV-CMV-scrR群を示し、「AAV-CMV-scrR post」は投与後のAAV-CMV-scrR群を示し、「AAV-CMV-KRAS-siRNA pre」は投与前のAAV-CMV-KRAS siRNA群を示し、「AAV-CMV-KRAS-siRNA post」は投与後のAAV-CMV-KRAS siRNA群を示す。AAV-CMV-KRAS siRNA群のマウスでは、投与後に腫瘍体積が有意に減少したが、PBS群とAAV-CMV-scrR群のマウスでは、投与後に腫瘍体積が減少しないばかりか、ある程度増加していることが分かった。
【0177】
それぞれRT-qPCRとWestern blottingによって各群のマウス肺部KRASタンパク質及びmRNA発現レベルを検出し、その結果を図7C図7Dに示す。その結果、AAV-CMV-KRAS siRNA群のマウスでは、肺部のKRASタンパク質及びmRNA発現量は対照群より低下した。
【0178】
以上の試験から、AAV-CMV-KRAS siRNAはマウスの肺癌の腫瘍に対して顕著な治療効果があることが示唆された。
【0179】
第3の試験では、1つの試験群と2つの対照群を設置し、その中で、試験群はAAV-CMV-EGFR siRNA群であり、対照群はPBS群とAAV-CMV-scrR群であった。
【0180】
EGFR-DEL19マウスモデルを構築し、ドキシサイクリン飼料を与えて腫瘍の産生を誘導し、30日後に構築に成功したマウスに2日に1回投与し、すなわち、PBS群/AAV-CMV-scrR群/AAV-CMV-EGFR siRNA群のマウスに2日ごとにPBS緩衝液/AAV-CMV-scrR/AAV-CMV-EGFR siRNAを注射して治療を行い、マウスの生存分析と腫瘍評価をそれぞれ行い、7回投与後に治療を停止した。
【0181】
各群のマウスの治療100日後の生存を統計した結果、図8Aに示すように、PBS群とAAV-CMV-scrR群のマウスでは、生存率はほとんど変わらなかったが、AAV-CMV-EGFR siRNA群のマウスでは、生存率は最も高かった。
【0182】
投与前後に各群のマウスをそれぞれCTスキャンし、CT画像を図8Eに示し、図8EのCT画像に基づいてマウスの肺組織を3Dモデル化し、腫瘍の体積の大きさを計算し、その結果を図8Bに示す。図8Bにおいて、「PBS pre」は投与前のPBS群を示し、「PBS post」は投与後のPBS群を示し、「AAV-CMV-scrR pre」は投与前のAAV-CMV-scrR群を示し、「AAV-CMV-scrR post」は投与後のAAV-CMV-scrR群を示し、「AAV-CMV-EGFR siRNA pre」は投与前のAAV-CMV-EGFR siRNA群を示し、「AAV-CMV-EGFR siRNA post」は投与後のAAV-CMV-EGFR siRNA群を示す。AAV-CMV-EGFR siRNA群のマウスでは、投与後に腫瘍体積が有意に減少したが、PBS群及びAAV-CMV-scrR群のマウスでは、投与後に腫瘍体積が減少しないばかりか、異なる程度の増加を示したことが分かった。
【0183】
それぞれRT-qPCRとWestern blottingによって各群のマウス肺部EGFRタンパク質及びmRNA発現レベルを検出し、その結果を図8C図8Dに示す。その結果、AAV-CMV-EGFR siRNA群のマウスでは、肺部のEGFRタンパク質及びmRNA発現量は対照群より低下した。
【0184】
以上の試験から、AAV-CMV-EGFR siRNAはEGFR突然変異型マウスの肺癌の腫瘍に対して顕著な治療効果があることが示唆された。
【0185】
第4の試験では、2つの試験群と2つの対照群を設置し、その中で、試験群はAAV-CMV-KRAS siRNA群、AAV-CMV-EGFR siRNA群であり、対照群はPBS群とAAV-CMV-scrR群であった。
EGFR-DEL19マウスモデルを構築し、ドキシサイクリン飼料を与えて腫瘍の産生を誘導し、30日後に構築に成功したマウスに2日に1回投与し、すなわち、PBS緩衝液/AAV-CMV-scrR群/AAV-CMV-EGFR siRNA群/AAV-CMV-KRAS siRNA群のマウスに2日ごとにPBS緩衝液/AAV-CMV-scrR/AAV-CMV-EGFR siRNA/AAV-CMV-KRAS siRNAを注射して治療を行った。
【0186】
治療後、各群のマウス中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、総ビリルビン(TBIL)、血清アルカリホスファターゼ(ALP)、クレアチニン(CREA)、血中尿素窒素(BUN)の含有量を検出し、これらの結果を図9A図9Fに示し、その結果、PBS群、AAV-CMV-scrR群、AAV-CMV-EGFR siRNA群、AAV-CMV-KRAS siRNA群のマウスでは、上記の酵素の含有量はほとんど変わらないことがわかった。
【0187】
以上の試験から、肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いて、EGFR siRNAシステム(AAV-CMV-EGFR siRNA)とKRAS siRNAシステム(AAV-CMV-KRAS siRNA)を包み込むと、安全性が高く、信頼性が高く、マイナス作用がなく、大規模な普及や応用に適していることが示唆された。
【0188】
実施例5
実施例1又は実施例2に基づいて、本実施例は、ウイルスベクターに基づくRNA送達システムの薬物における使用を提供し、この薬物は肺線維症治療薬であり、本実施例は、肺線維症の治療におけるウイルスベクターに基づくRNA送達システムの効について、以下の試験により具体的に説明する。
【0189】
この試験では、肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いて、抗-miR-21/TGF-β1 siRNA/抗-miR-21+TGF-β1 siRNAシステムを包み込み、AAV-anti-miR21/AAV-TGF-β1 siRNA/AAV-MIXをそれぞれ得、力価1012V.g/mlのAAV溶液を100μLでマウスに尾静脈注射した。生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした結果、3週間後にAAVシステムが体内、特に肝臓で安定に発現していることが認められた。
【0190】
次に、マウスを選択して、モデル化に成功した後、マウスにPBS緩衝液/AAV-scrR/AAV-anti-miR21/AAV-TGF-β1 siRNA/AAV-MIX(10mg/kg)をそれぞれ注射し、PBS群/AAV-scrR群/AAV-anti-miR21群/AAV-TGF-β1 siRNA群/AAV-MIX群を作成した。
【0191】
正常マウス、PBS群マウス、AAV-scrR群マウス、AAV-TGF-β1 siRNA群マウスの相対TGF-β1 mRNAレベルをそれぞれ検出した結果、図10Bに示すように、AAV-TGF-β1 siRNA群マウスでは、相対TGF-β1 mRNAレベルが低いことがわかった。
正常マウス、PBS群マウス、AAV-scrR群マウス、AAV-anti-miR21群マウスの相対miR21 mRNAレベルをそれぞれ検出した結果、図10Cに示すように、AAV-anti-miR21群マウスでは、miR21 mRNAレベルが低いことが分かった。
【0192】
ヒドロキシプロリンは、コラーゲンを主成分とし、その含有量が肺線維化の程度を反映している。各群のマウスのヒドロキシプロリン含有量をそれぞれ検出した結果、図10Aに示すように、PBS群、AAV-scrR群のマウスでは、体内のヒドロキシプロリン含有量は最も高く、AAV-anti-miR21群、AAV-TGF-β1 siRNA群、AAV-MIX群のマウスでは、体内のヒドロキシプロリン含有量はすべて低く、このことから、AAV-anti-miR21群、AAV-TGF-β1 siRNA群、AAV-MIX群のマウスの肺繊維化が阻害されたことが示唆された。
【0193】
実施例6
実施例1又は実施例2に基づいて、本実施例は、ウイルスベクターに基づくRNA送達システムの薬物における使用を提供し、この薬物は、膠芽腫治療薬であり、本実施例では、膠芽腫の治療におけるウイルスベクターに基づくRNA送達システムの効果について、以下の試験により具体的に説明する。
【0194】
この試験では、肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いて、EGFR siRNAシステム(AAV-CMV-RVG-siRE)及びEGFR siRNAとTNC siRNAシステム(AAV-CMV-RVG-siRE+T)を包み込み、力価1012V.g/mlのAAV溶液を100μLでマウスに尾静脈注射した。生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした結果、3週間後にAAVシステムが体内、特に肝臓で安定に発現していることが認められた。
【0195】
次に、マウスを選択し、膠芽腫細胞(U-87 MG-Luc細胞)をマウスに注射し、7日目から21日目まで、PBS緩衝液/AAV-CMV-scrR/AAV-CMV-RVG-siR/AAV-CMV-RVG-siRE+T(5mg/kg)をマウスに2日ごとに投与して治療を行い、PBS群/AAV-scrR群/AAV-CMV-RVG-siR群/AAV-CMV-RVG-siRE+T群を作成した。
【0196】
各群のマウスについて生存分析を行い、治療20日、40日、60日、80日後の生存率を統計した結果、図11Aに示すように、AAV-CMV-RVG-siRE+T群のマウスでは、生存期間は最も長く、AAV-CMV-RVG-siRは、その次である。
【0197】
各群のマウスについて腫瘍評価を行い、すなわち、7日目、14日目、28日目、35日目にそれぞれBLI生体内画像形成検出を行った結果、図11Bに示すように、AAV-CMV-RVG-siRE+T群のマウスでは、膠芽腫の阻害効果は最も顕著であった。
【0198】
実施例7
実施例1又は実施例2に基づいて、本実施例は、ウイルスベクターに基づくRNA送達システムの薬物における使用を提供し、この薬物は肥満治療薬であり、本実施例では、ウイルスベクターに基づくRNA送達システムの肥満治療における効果について、以下の試験により具体的に説明する。
【0199】
肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いて、PTP1B siRNAシステム(AAV-CMV-siR/AAV-CMV-RVG-siR)を包み込み、力価1012V.g/mlのAAV溶液を100μLでマウスに尾静脈注射した。生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした結果、3週間後にAAVシステムが体内、特に肝臓で安定に発現していることが認められた。
【0200】
C57BL/6マウスを選択し、12週間後にPBS緩衝液/AAV-CMV-scrR/AAV-CMV-siR/AAV-CMV-RVG-siRをそれぞれ注射し、PBS群/AAV-CMV-scrR群/AAV-CMV-siR群/AAV-CMV-RVG-siR群を作成し、24日以内に2日に1回注射した。各群のマウスにそれぞれ体重変化、脂肪体の重量、初期食物摂取量、血清レプチン含有量、血糖値、基礎グルコース含有量、血清総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)、低密度リポタンパク質(LDL)、体長、食物摂取量の検出及び統計を行い、その結果を以下に示す。
【0201】
図12Aに示すように、この図は、各群のマウスの体重の比較図であり、AAV-CMV-RVG-siR群のマウスでは、体重が最も安定していた。
【0202】
図12Bに示すように、この図は、各群のマウスの精巣上体脂肪体重量の比較図であり、AAAV-CMV-RVG-siR群のマウスでは、精巣上体脂肪体の重量が最も軽かった。
【0203】
図12Cに示すように、この図は、各群のマウスの初期食物摂取量曲線の比較図である。AAV-CMV-RVG-siR群のマウスでは、食物摂取量が最も少なかった。
【0204】
図12Dに示すように、この図は、各群のマウスの血清レプチン含有量の比較図である。AAV-CMV-RVG-siR群のマウスでは、血清レプチン含有量が最も低かった。
【0205】
図12Eに示すように、この図は、各群のマウスの血糖変化曲線の比較図である。AAV-CMV-RVG-siR群のマウスでは、血糖値が最も低かった。
【0206】
図12Fに示すように、この図は、各群のマウスの基礎グルコース変化曲線の比較図である。AAV-CMV-RVG-siR群のマウスでは、基礎グルコース含有量が最も低かった。
【0207】
図13A図13Cに示すように、この3つの図は、それぞれ各群のマウスの血清総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)、低密度リポタンパク質(LDL)の比較図であり、AAV-CMV-RVG-siR群のマウスでは、TC、TG、LDLが最も低かった。
【0208】
図13Dに示すように、この図は、各群のマウスの体長の比較図であり、4群のマウスの体長はほとんど変わらないことがわかった。
【0209】
図13Eに示すように、この図は、各群のマウスのHFD食物摂取量の比較図であり、4群のマウスのHFD食物摂取量もほとんど変わらないことがわかった。
【0210】
以上の試験から、AAV-CMV-siR、AAV-CMV-RVG-siRは、肥満に対してある程度の阻害効果があることが示唆された。
【0211】
実施例8
実施例1又は実施例2に基づいて、本実施例は、ウイルスベクターに基づくRNA送達システムの薬物における使用を提供し、この薬物はハンチントン病治療薬であり、本実施例では、ハンチントン病治療におけるウイルスベクターに基づくRNA送達システムの効果について、以下の試験により具体的に説明する。
【0212】
この試験では、肝臓に親和性の高いAAV-5型アデノ随伴ウイルスを用いて、HTT siRNAシステム(AAV-CMV-siRmHTT/AAV-CMV-RVG-siRmHTT)を包み込み、力価1012V.g/mlのAAV溶液を100μLでマウスに尾静脈注射した。生きている小動物を通してAAVシステムの体内発現をモニタリングした結果、3週間後にAAVシステムが体内、特に肝臓で安定に発現していることが認められた。
【0213】
次に、マウスを選択してモデル化を行い、モデル化が完了したマウスにPBS緩衝液/AAV-CMV-scrR/AAV-CMV-siRmHTT/AAV-CMV-RVG-siRmHTTを注射し、PBS群/AAV-CMV-scrR群/AAV-CMV-siRmHTT群/AAV-CMV-RVG-siRmHTT群を作成した。上記溶液を尾静脈注射した後、血漿エクソソームを分離し、PKH26染料で標識した後、細胞と共培養し、細胞のエクソソームの吸収状況を観察し、結果を以下に示す。
【0214】
図14Aに示すように、この図は、各群のマウス血漿エクソソーム中のsiRNAレベルの比較図であり、AAV-CMV-siRmHTT群及びAAV-CMV-RVG-siRmHTT群のマウスでは、血漿のエクソソーム中のsiRNAレベルは高かった。
【0215】
図14Bに示すように、この図は、マウスの血漿エクソソームと細胞を共培養した後の各群のマウスの相対mHTT mRNAレベルの比較図であり、AAV-CMV-siRmHTT群及びAAV-CMV-RVG-siRmHTT群のマウスでは、相対mHTT mRNAレベルは低く、これは、AAV-CMV-siRmHTT及びAAV-CMV-RVG-siRmHTTは、HTT mRNAレベルを下げることができ、すなわち、エクソソームに組み込まれたsiRNAは依然として遺伝子サイレンシング機能を発揮することができることが分かった。
【0216】
図14Cに示すように、この図は、マウスの肝臓siRNAの絶対レベルの比較図であり、AAV-CMV-siRmHTT群及びAAV-CMV-RVG-siRmHTT群のマウスでは、絶対siRNAレベルが高いことが分かった。
【0217】
図14Dに示すように、この図は、マウスの血漿siRNAの絶対レベルの比較図であり、AAV-CMV-siRmHTT群及びAAV-CMV-RVG-siRmHTT群のマウスでは、絶対siRNAレベルが高いことが分かった。
【0218】
図14Eに示すように、この図は、野生型マウス(WT)、AAV-CMV-scrR群、AAV-CMV-RVG-siRmHTT群のマウスの低下潜伏期の比較図であり、0週では、3群のマウスの低下潜伏期が一致し、4週目と8週目では、CMV-scrR群のマウスでは、低下潜伏期が最も短いことが分かった。
【0219】
図14Fに示すように、この図は、AAV-CMV-scrR群、AAV-CMV-RVG-siR群mHTT群のマウスの皮質及び線条体における相対mHTT mRNAレベルの比較図であり、皮質でも線条体でも、AAV-CMV-RVG-siRmHTT群のマウスでは、mHTT mRNAレベルはAAV-CMV-scrR群よりも低いことが分かった。
【0220】
以上の試験から、AAV-CMV-RVG-siRmHTTの静脈注射が、線条体及び皮質のmHTTタンパク質と毒性凝集体の減少に寄与し、ハンチントン舞踏症に対する治療効果を発揮することが示唆された。
【0221】
本明細書では、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」などは、関連部分間の相対的な位置関係を表すためにのみ用いられ、これらの関連部分の絶対位置を限定するものではない。
【0222】
本明細書では、「第1」、「第2」などは、互いを区別するためのものであって、重要度や順序、相互の存在の前提などを示すものではない。
【0223】
本明細書では、「等しい」、「同じ」などは、厳密には数学的及び/又は幾何学的な意味での制限ではなく、当業者に理解可能であり、製造又は使用などによって許容される誤差も含む。
【0224】
別段の記載がない限り、本明細書における数値範囲は、その2つの端点内の範囲全体だけでなく、その中に含まれるいくつかのサブ範囲も含む。
【0225】
以上、本願の好ましい具体的な実施形態及び実施例については、図面を参照して詳細に説明したが、本願は上記の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、当業者が有する知識の範囲内で、本願の構想を逸脱することなく、様々な変更も可能である。
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【国際調査報告】