(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-15
(54)【発明の名称】Covid-19ワクチン接種の併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/215 20060101AFI20240308BHJP
C12N 15/50 20060101ALI20240308BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240308BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240308BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240308BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240308BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240308BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240308BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240308BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20240308BHJP
A61K 31/138 20060101ALI20240308BHJP
A61K 31/4535 20060101ALI20240308BHJP
A61K 31/085 20060101ALI20240308BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
A61K39/215
C12N15/50 ZNA
A61P31/14
A61P37/04
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61K45/00
A61K48/00
A61P35/00
A61P15/00
A61P7/00
A61K31/138
A61K31/4535
A61K31/085
A61K31/55
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560333
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(85)【翻訳文提出日】2023-11-24
(86)【国際出願番号】 EP2022058688
(87)【国際公開番号】W WO2022207860
(87)【国際公開日】2022-10-06
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516388388
【氏名又は名称】ドンペ ファーマスーチシ ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルチェロ アレグレッティ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア ロサリオ ベッカーリ
(72)【発明者】
【氏名】マリア カンディダ チェスタ
(72)【発明者】
【氏名】エリサベッタ マリア エスター マウリ
(72)【発明者】
【氏名】カーマイン タラリコ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA19
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA511
4C084ZA811
4C084ZB091
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4C084ZC751
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4C086AA01
4C086BC21
4C086BC31
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4C086GA12
4C086MA02
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4C086NA05
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4C086ZA81
4C086ZB09
4C086ZB21
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4C086ZB33
4C086ZC41
4C086ZC75
4C206AA01
4C206CA27
4C206FA17
4C206KA01
4C206MA02
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4C206ZA81
4C206ZB09
4C206ZB21
4C206ZB26
4C206ZB33
4C206ZC41
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)とCOVID-19ワクチンの併用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)とCOVID-19ワクチンの併用。
【請求項2】
対象におけるCOVID-19の予防に使用するための、請求項1に記載の併用。
【請求項3】
対象におけるCOVID-19ワクチンの副作用の予防または治療に使用するための選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)。
【請求項4】
対象におけるCOVID-19の予防のためにCOVID-19ワクチンと組み合わせて使用するための、選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項5】
対象におけるCOVID-19ワクチンの副作用の予防または治療に使用するための、選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項6】
a)COVID-19ワクチン;および
b) 選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)を含む医薬組成物
を含む部品キット。
【請求項7】
請求項1に記載の併用、請求項2に記載の使用のための併用、請求項3に記載の使用のための選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)、請求項4または5に記載の使用のための医薬組成物、または請求項6に記載の部品キットであって、前記COVID-19ワクチンが、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質、その変異体、またはその免疫原性フラグメントを抗原として使用するCOVID-19に対するワクチンであるもの。
【請求項8】
前記COVID-19ワクチンがmRNAワクチンまたはDNAワクチンである、請求項7に記載の併用、使用のための併用、使用のための選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)、使用のための医薬組成物、または部品のキット。
【請求項9】
請求項1、7または8に記載の併用、請求項2、7または8に記載の使用のための併用、請求項3、7または8に記載の使用のための選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)、請求項4に記載の使用のための医薬組成物であって、前記選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)が、タモキシフェン、ラロキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン、ドロキシフェン、オスペミフェン、アルゾキシフェン、トレミフェンおよびバゼドキシフェンから選択される、請求項6、7または8に記載の部品キット。
【請求項10】
請求項1、7、8または9に記載の併用、請求項2、7、8または9に記載の使用のための組み合わせ、請求項3、7、8または9に記載の使用のための選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)、請求項4、5、7、8または9に記載の使用のための医薬組成物、請求項6、7、8または9に記載の部品のキットであって、前記対象がER陽性乳がんと診断された対象であるもの。
【請求項11】
請求項1、7、8または9に記載の併用、請求項2、7、8または9に記載の使用のための併用、請求項3、7、8または9に記載の使用のための選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)、請求項4、5、7、8または9に記載の使用のための医薬組成物、請求項6、7、8または9に記載の部品のキットであって、前記対象が、生理的止血バランスを変化させる病的状態と診断された対象であるもの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エストロゲン受容体モジュレータとCOVID-19ワクチン接種の併用に関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルス(Covs)は、コロナウイルス科に属する一本鎖のエンベロープ型RNAウイルスの大きなファミリーである。ヒトに感染できることが知られている限られた数のコロナウイルスは、過去には比較的無害な呼吸器系のヒト病原体であり、軽度の感染症を引き起こすと考えられていた。しかし、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)と中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)という2つのコロナウイルス亜型が出現し、これらは、ヒトに重篤な、時には致死的な呼吸器感染症を引き起こすようになった(Pereira, H.G., 1989 Coronaviridae, In J. S. Porterfield (ed.), Andrewes' Viruses of Vertebrates, 5th ed.pp.42-57(非特許文献1);Holmes K.V. et al., Fields Virology 1996, 1: 1075-1093(非特許文献2))。2019年12月、中国で非定型肺炎患者が発生し、後に原因が新型コロナウイルスであることが判明した。世界保健機関(WHO)はこのウイルスをSARS-CoV-2、関連疾患をCOVID-19と命名した。
【0003】
ウイルスは急速に世界中に広がり、2020年3月11日、WHOはSARS-CoV-2感染をパンデミックと宣言した。COVID-19に感染した人のほとんどは、軽度から中等度の呼吸器疾患(発熱、疲労、乾いた咳、呼吸困難)を経験し、特別な治療を必要とせずに回復する。高齢者や心血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患、がんなどの基礎疾患を持つ人は重症化しやすい。さらに、SARS-CoV-2に感染した患者の疫学的、臨床的特徴および転帰の分析から、症候性COVID-19に罹患した人の15%が重症肺炎を含む重篤な疾患に罹患し、5%が生命を脅かす合併症を伴う重篤な疾患に罹患することが示されている。重篤な疾患には、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、敗血症、敗血症性ショック、心疾患、肺塞栓症などの血栓塞栓事象、多臓器不全が含まれる。
【0004】
重篤なCOVID-19を発症した場合、稀な神経学的および精神医学的合併症などの長期的な結果が合理的に予想されるという証拠も増えてきている。これらには脳卒中、せん妄、不安、抑うつ、脳の損傷や炎症、睡眠障害などが含まれる。
【0005】
世界中で患者数と死亡者数が劇的に増加し、社会的および経済的な影響を及ぼしているため、感染拡大の制御を助け、COVID-19のパンデミックを終息させるために、安全且つ効果的なワクチンの開発に力が入れられている。
【0006】
現在、さまざまなワクチンが開発中であり、いくつかはすでにCOVID-19の予防のために承認されている。
【0007】
すべてのCOVID-19ワクチンおよびワクチン候補は、ウイルスタンパク質抗原に対する免疫反応を誘導することによって作用する。
【0008】
SARS-COV-2は4つの構造タンパク質、すなわちスパイク(S)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質、膜(M)タンパク質、ヌクレオカプシド(N)タンパク質によって特徴づけられる(Chen Y et al, J Med Virol 2020, 92: 418-423(非特許文献3))。
【0009】
現在、COVID-19ワクチンの標的抗原としてスパイク(S)タンパク質が用いられている。このタンパク質はウイルス表面に位置するため非常に露出度が高く、防御免疫反応を誘導できる重要な抗原決定基と考えられている(Ou et al, Nat Commun 2020; 11: 1620(非特許文献4))。
【0010】
さらに、これは、細胞侵入受容体アンジオテンシン変換酵素II(ACE2)を介してウイルスが細胞内に侵入するために必須の分子である。スパイクタンパク質(UniProt ID:P0DTC2)の配列は1273アミノ酸長であり、N末端に位置するシグナルペプチド(アミノ酸1~13)、S1サブユニット(14~685残基)、およびS2サブユニット(686~1273残基)からなり、最後の2つの領域はそれぞれ受容体結合と膜融合を担っている。特に、S1サブユニットは受容体結合ドメイン(RBD)を介してACE2への受容体結合を媒介し、S2サブユニットは膜融合を担っている(Letko et al, Nat Microbiol 2020, 5: 562-569(非特許文献5))。
【0011】
COVID-19のために開発された、あるいは開発中のワクチンおよびワクチン候補は、主に2つの大きなカテゴリー:すなわち。ウイルスタンパク質抗原を宿主の体内に導入する従来の不活化ウイルスワクチンまたは弱毒化ウイルスワクチン、およびDNAワクチンおよびmRNAワクチンなどのより新しい遺伝子ベースのワクチンに分類される。
【0012】
DNAワクチンおよびmRNAワクチンは、宿主の細胞内でin vivo産生するためにウイルスタンパク質抗原をコードする遺伝子を送達するものであり、安全性の向上と大量生産への適合性という観点から、従来のワクチンアプローチと比較してCOVID-19ワクチン接種に最適なアプローチと考えられている。
【0013】
EMAによってこれまでに承認された3種類のワクチンは、すべてこの技術的アプローチに基づいており、これらはファイザーとバイオエヌテックが開発したmRNAベースのComirnaty、モデルナが開発したmRNAベースのCOVID-19ワクチン、およびオックスフォード大学とアストラゼネカが開発したDNAウイルスベクターベースのCOVID-19 ChAdOx1-Sワクチンである。
【0014】
これらのワクチンの対象への投与は、スパイクタンパク質の体内でのin situ生産を誘導し、免疫系に免疫応答を開始させる。
【0015】
最近の証拠は、ウイルス感染の促進におけるその機能に加えて、およびその機能とは独立して細胞シグナル伝達に関してSARS-CoV-2スパイクタンパク質の潜在的な活性を示唆している。
【0016】
例えば、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の全長S1サブユニットは、マウスおよびヒトのマクロファージにおいてin vitroで炎症促進性の応答(pro-inflammatory responses)を誘導でき(Shirato et al, Heyon 2021, 7(2) e06187(非特許文献6))、培養ヒト血管細胞において細胞シグナル伝達の事象を活性化できる(Suzuki et al, Vascular Pharmacology 137 (2021) 106823(非特許文献7))ことが示されている。
【0017】
以上のことから、ワクチン接種によって産生されたスパイクタンパク質の体内における存在は、生物学的プロセスを妨害し、それによって免疫応答を阻害し、および/または短期および長期的に副作用を引き起こす可能性が示唆されている。
【0018】
エストロゲンは、女性の正常な性的および生殖的な発達に重要な役割を果たす一群のステロイドホルモンであり、その中でもエストラジオール(E2)は最も強力で、一般的である。
【0019】
これらのホルモンは、例えば、第二次性徴の発達と維持、代謝、骨の恒常性、血中塩分バランス、免疫および炎症応答、ストレスに対する応答、および/または神経細胞機能など、幅広い生理機能を調節している。
【0020】
これらのホルモンのレベルおよび活性の不均衡は、多くの病理学的過程に関与している。特にエストロゲンは、乳がん、子宮内膜がん、腎がん、子宮がんの病因に関与している(Okamoto et al, Toxicology Letters 2020, 318: 99-103(非特許文献8))。さらに、エストロゲンレベルの減少が、閉経後の女性における骨吸収の大幅な増加および骨粗鬆症の初期型および後期型に関連している(Riggs B.L, J. Clin. Invest 2000, 106, 1203-1204(非特許文献9))。
【0021】
さらに、外因的なエストロゲンの投与は、血栓性環境の生成と血栓性イベントの高リスクに寄与する止血および線維素溶解経路の多くの側面の調節障害に関連している(Abou-Ismail et al, Thrombosis Research 2020, 192: 40-51(非特許文献10))。
【0022】
エストロゲンの活性は、ホルモン活性化転写因子として機能する核内受容体、エストロゲン受容体によって媒介される。リガンドの活性化について、この受容体は標的遺伝子のプロモーターに結合し、共調節因子(coregulator)と総称される多数の相互作用タンパク質と転写複合体を形成し、これは転写活性を活性化(コアクチベーター(coactivator)(CoA))または不活性化(コリプレッサー(corepressor)(CoR))し、これによって標的遺伝子発現の活性化または抑制を引き起こす(Patel et al, Pharmacology & Therapeutics 2018, 186: 1-24(非特許文献11))。核内エストロゲン受容体とコアクチベーターとの相互作用は、コアクチベータータンパク質内に含まれ且つ共有されるLxxLLモチーフ(Lはロイシンであり、xは任意のアミノ酸である。)によって媒介され、これは、これらのタンパク質の受容体への結合、およびその転写活性を増強するために必要かつ十分である(Patel et al, Pharmacology & Therapeutics 2018, 186: 1-24(非特許文献11))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Pereira, H.G., 1989 Coronaviridae, In J. S. Porterfield (ed.), Andrewes' Viruses of Vertebrates, 5th ed.pp.42-57
【非特許文献2】Holmes K.V. et al., Fields Virology 1996, 1: 1075-1093
【非特許文献3】Chen Y et al, J Med Virol 2020, 92: 418-423
【非特許文献4】Ou et al, Nat Commun 2020; 11: 1620
【非特許文献5】Letko et al, Nat Microbiol 2020, 5: 562-569
【非特許文献6】Shirato et al, Heyon 2021, 7(2) e06187
【非特許文献7】Suzuki et al, Vascular Pharmacology 137 (2021) 106823
【非特許文献8】Okamoto et al, Toxicology Letters 2020, 318: 99-103
【非特許文献9】Riggs B.L, J. Clin. Invest 2000, 106, 1203-1204
【非特許文献10】Abou-Ismail et al, Thrombosis Research 2020, 192: 40-51
【非特許文献11】Patel et al, Pharmacology & Therapeutics 2018, 186: 1-24
【非特許文献12】Remington's Pharmaceutical Science (recent edition), Mack Publishing Company, Easton Pa.
【非特許文献13】Szklarczyk D et al., Nucleic Acids Res. 2021, 49: D605-D612, doi: 10.1093/nar/gkaa1074
【非特許文献14】Casalini L et al, ACS Cent.Sci. 2020, 6:1722-1734, https://doi.org/10.1021/acscentsci.0c01056
【非特許文献15】Maier J A et al, J. Chem.Theory Comput.2015, 11:3696-3713, https://doi.org/10.1021/acs.jctc.5b00255
【非特許文献16】Kirschner KN et al, J. Comput.Chem.2008, 29:622-655, https://doi.org/10.1002/jcc.20820
【非特許文献17】Lindorff-Larsen K et al, Proteins 2010,78:1950-1958, https://dx.doi.org/10.1002/prot.22711
【非特許文献18】Jorgensen WL et al, J Chem Phys 1983, 79:926-935, https://dx.doi.org/10.1063/1.445869
【非特許文献19】Abraham MJ et al., SoftwareX 2015, 1:19-25, https://dx.doi.org/10.1016/j.softx.2015.06.001
【非特許文献20】Bussi G et al, J Chem Phys, 2007 126:014101.https://dx.doi.org/10.1063/1.2408420
【非特許文献21】Darden T et al., J. Chem.Phys 1993, 98:10089, https://doi.org/10.1063/1.464397
【非特許文献22】Mocklinghoff S et al, ChemBioChem 2010, 11:2251-2254, https://doi.org/10.1002/cbic.201000532
【非特許文献23】Yan Y et al, Nat Protoc 2020, 15:1829-1852, https://doi.org/10.1038/s41596-020-0312-x
【非特許文献24】Plevin MJ et al, Trends Biochem Sci 2005, 30:66-69, https://dx.doi.org/10.1016/j.tibs.2004.12.001
【非特許文献25】Heery DM et al, Nature 1997, 387:733-736, https://doi.org/10.1038/42750
【非特許文献26】ER1: https://www.uniprot.org/uniprot/P03372#structure
【非特許文献27】ER2: https://www.uniprot.org/uniprot/Q92731#structure
【非特許文献28】Savkur RS et al, J Pept Res 2004, 63:207-212, https://dx.doi.org/10.1111/j.1399-3011.2004.00126.x
【非特許文献29】http://hdock.phys.hust.edu.cn/
【非特許文献30】Collin-Osdoby and Osdoby 2012, PMID: 22130930
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、驚くべきことに、SARS-CoV-2スパイクタンパク質がエストロゲン受容体のシグナル伝達を妨害することを見出した。
【0025】
詳細には、本発明者らは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質が、核内コアクチベーター1(NCOA1)とホモログであるLxxLLモチーフを含み、エストロゲン受容体上のNCOA1結合ドメインに結合し、それによってその転写活性を活性化できることを見出した。本発明者らはまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質が異なる実験環境においてエストロゲン様活性を発揮することをin vitro実験で実証した。
【0026】
したがって、COVID-19ワクチン接種の文脈では、ワクチン接種後に産生されるスパイクタンパク質がエストロゲン受容体の活性を妨害し、この受容体によって媒介される生理的活性と病理学的活性との間に不均衡を生じ、その結果、望ましくない重篤な副作用を発生させる可能性がある。さらに、免疫応答の調節におけるエストロゲンの役割により、スパイクタンパク質によるエストロゲン受容体の活性化はワクチンの有効性を妨げる可能性がある。
【0027】
本発明者らはまた、驚くべきことに、選択的エストロゲン受容体モジュレータ((Selective Estrogen Receptor Modulator)SERM)の投与により、エストロゲン受容体上のスパイクの活性が復帰することを見出した。
【0028】
選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERMs)は、エストロゲン受容体に結合し、その活性を調節する非ステロイド構造を有する化合物群である。SERMは、組織特異的な形式でERのアゴニストまたはアンタゴニストとして作用しうる。
【0029】
SERMsは、受容体に結合し、コアクチベーターやコリプレッサーとの相互作用能力に影響を与える明確に異なる構造変化を誘導することによって、エストロゲン受容体のシグナル伝達についてそれらの活性を発揮することが示唆されている。
【0030】
以上のデータの観点から、COVID-19ワクチンの投与と組み合わせてSERMを投与することは、免疫反応を改善し、ワクチン接種の副作用を減少するために有益であると予想される。
【0031】
したがって、本発明の第1の目的は、SERM、好ましくはタモキシフェン、ラロキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン、ドロロキシフェン、オスペミフェン、アルゾキシフェン、トレミフェンおよびバゼドキシフェンから選択されるものと、COVID-19ワクチンとの併用である。
【0032】
本発明のさらなる目的は、対象におけるCOVID-19の予防に使用するための上記の組み合わせである。
【0033】
本発明のさらなる目的は、対象におけるCOVID-19の予防においてCOVID-19ワクチンと組み合わせて使用するためのSERMである。
【0034】
本発明のさらなる目的は、対象におけるCOVID-19ワクチンの副作用の予防または治療に使用するためのSERMである。
【0035】
本発明のさらなる目的は、対象におけるCOVID-19の予防においてCOVID-19ワクチンと組み合わせて使用するための、SERMおよび薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物である。
【0036】
本発明のさらなる目的は、対象におけるCOVID-19ワクチンの副作用の予防に使用するための、SERMおよび薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物である。
【0037】
本発明のさらなる目的は、以下を含む部品キットである:
a) COVID-19ワクチン;および
b) 有効量のSERMを含む医薬組成物。
【0038】
本発明のさらなる目的は、SERMと組み合わせたCOVID-19ワクチンの前記対象への投与を含む、対象におけるCOVID-19の予防方法である。
【0039】
本発明のさらなる目的は、対象におけるCOVID-19ワクチンの副作用の予防または治療のための方法であって、前記対象にSERMを投与することを含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、核内受容体コアクチベーターと複合体化したエストロゲン受容体(ER)を示す。完全な複合体はコンピュータ画像(cartoon)で報告されており、ERモノマーは灰色の表面で、NCOAセグメントは黒いコンピュータ画像と線で示されている。
【
図2】
図2は、ER1とER2の最も重要な相互作用のネットワークを示している(両方とも赤い球)。最も信頼性の高い相互作用タンパク質のうち、核内受容体コアクチベーター(Nuclear COActivator)(NCOA)は核内受容体と直接結合し、転写活性を刺激する。
【
図3】
図3は、スパイクのLDX領域(アミノ酸818~822)と他のLDX補因子-受容体ドメインとの配列アラインメントを示している。
【
図4】
図4は、スパイク-ERブラインドドッキングの3D最良ドッキング仮説を示している。タンパク質はコンピュータ画像で報告されている。ER二量体は白いコンピュータ画像で、スパイクタンパク質は黒い表面で報告されている。
【
図5】
図5は、スパイク-ERモチーフ指向型ドッキングの3次元最良ドッキング仮説を示している。タンパク質はコンピュータ画像で報告されている。ER二量体は白いコンピュータ画像であるが、スパイクタンパク質は黒い表面で報告されている。
【
図6】
図6は、エストラジオール(1nM)(ESTR)、スパイクタンパク質(10ng/ml)(SPIKE)、ラロキシフェン(2μM)(RAL)、エストラジオール(1nM)とスパイクタンパク質(10ng/ml)の組み合わせ(ESTR+SPIKE)、エストラジオール(1nM)とラロキシフェン(2μM)の組み合わせ(ESTR+RAL)、スパイクタンパク質(10ng/ml)とラロキシフェン(2μM)の組み合わせ(SPIKE+RAL)、エストラジオール(1nM)、スパイクタンパク質(10ng/ml)およびラロキシフェン(2μM)の組み合わせ(ESTR+SPIKE+RAL)で24時間処理したMCF-7細胞の増殖を、実施例5に記載のようにBrdU増殖アッセイにより測定したモノを示す。実験は技術的3反復で行った。結果は、3つの異なる実験(n=3)の平均±SDである。
【
図7】
図7は、エストラジオール(1nM)(ESTR)、スパイクタンパク質(10ng/ml)(SPIKE)、ラロキシフェン(2μM)(RAL)、エストラジオール(1nM)とスパイクタンパク質(10ng/ml)の組み合わせ(ESTR+SPIKE)、エストラジオール(1nM)とラロキシフェン(2μM)の組み合わせ(ESTR+RAL)、スパイクタンパク質(10ng/ml)とラロキシフェン(2μM)の組み合わせ(SPIKE+RAL)、エストラジオール(1nM)、スパイクタンパク質(10ng/ml)およびラロキシフェン(2μM)の組み合わせ(ESTR+SPIKE+RAL)で24時間処理したMDA-MB-231細胞の増殖を、実施例5に記載のようにBrdU増殖アッセイによって測定したものを示した。実験は技術的3反復で行った。結果は、3つの異なる実験(n=3)の平均±SDである。
【
図8】
図8は、破骨細胞に分化しておらず、ビヒクル(CTR w/o RANKL)で処理したRAW細胞、ビヒクル(RANKLを有するCTR(CTR with RANKL))で24時間処理したRAW-OC細胞、17β-エストラジオール(1nM)(エストラジオール)、スパイク(10ng/ml)(スパイク)、ラロキシフェン(2μM)(ラロキシフェン)、スパイク(10ng/ml)とラロキシフェン(2μM)の組み合わせ(スパイク+ラロキシフェン)、スパイク(10ng/ml)と17β-エストラジオール(1nM)の組み合わせ(スパイク+エストラジオール)、17β-エストラジオール(1nM)とラロキシフェン(2μM)の組み合わせ(エストラジオール+ラロキシフェン)、17β-エストラジオール(1nM)、スパイク(10ng/ml)およびラロキシフェン(2μM)の組み合わせ(エストラジオール+スパイク+ラロキシフェン)のTRAP活性を、実施例6に記載のように測定し、U/Lで表したものを示す。データはU/Lとして報告されている。実験は技術的6反復で行った。結果は、3回実施したうちの代表的な1回の実験の平均±SDである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の第一の目的は、選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)とCOVID-19ワクチンの併用である。
【0042】
すでに上述したように、本発明者らは、上記の組み合わせの投与が、COVID-19ワクチン単独の投与と比較して、副作用を軽減し、免疫応答を改善することを見出した。
【0043】
したがって、本発明のさらなる目的は、対象におけるCOVID-19の予防に使用するための上記の組み合わせである。
【0044】
本発明のさらなる目的は、対象におけるCOVID-19の予防においてCOVID-19ワクチンと組み合わせて使用するためのSERMである。
【0045】
本発明のさらなる目的は、対象におけるCOVID-19ワクチンの副作用の予防または治療に使用するためのSERMである。
【0046】
前記対象は、好ましくは人間である。
【0047】
前記COVID-19ワクチンは、COVID-19スパイクタンパク質ベースのワクチンである。
【0048】
用語「スパイク蛋白質ベースのワクチン」は、SARS-CoV-2のスパイク蛋白質、その変異体またはその免疫原性断片を抗原として使用するCOVID-19に対するあらゆるワクチンを意味する。これには、対象への投与が、SARS-CoV-2のスパイク蛋白質、その変異体または免疫原性断片をかかる対象の体内に誘導する、そのままの、あるいは不活化ウイルスまたは弱毒生ウイルスに結合させた、あらゆるワクチンが含まれる。また、この定義には、SARS-CoV-2のスパイク蛋白質、その変異体またはその免疫原性断片を、人体への投与後にその場(in situ)で産生させるあらゆるmRNAまたはDNAワクチンも含まれる。
【0049】
好ましくは、前記COVID-19ワクチンはCOVID-19 mRNAまたはDNAワクチンである。
【0050】
本発明の文脈において、用語「COVID-19 mRNAまたはDNAワクチン」は、対象への投与が、当該対象にSARS-CoV-2スパイクタンパク質、その変異体またはその免疫原性フラグメントの産生を引き起こすmRNAまたはDNAを含むあらゆるワクチンを指す。
【0051】
本発明によれば、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の「変異体」とは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の配列とは異なるアミノ酸配列を有するタンパク質であって、1つ以上の置換、内部アミノ酸の欠失または1つ以上のアミノ酸の挿入を含有するということにおいてSARS-CoV-2スパイクタンパク質の配列と異なるアミノ酸配列を有するタンパク質を意味する。好ましくは、前記置換、欠失または挿入は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の抗原特性を維持する。
【0052】
好ましくは、前記変異体は、少なくとも90%、95%、98%、99%のSARS-CoV-2スパイクタンパク質とのアミノ酸同一性を有する配列を有する。
【0053】
本発明によれば、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の「免疫原性フラグメント」とは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体のN末端および/またはC末端切断配列に対応するアミノ酸配列を有し、SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体の抗原特性を維持するタンパク質を意味する。
【0054】
前記スパイクタンパク質の免疫原性フラグメントは、好ましくは、全長SARS-CoV-2スパイクタンパク質のアミノ酸配列の少なくとも50%、60%、70%、80%または90%からなるアミノ酸配列を有する。
【0055】
好ましくは、前記免疫原性フラグメントは、全長SARS-CoV-2スパイクタンパク質(UniProt ID:P0DTC2)の以下のアミノ酸配列の1つ以上を含む:232位値から246位値まで、233位値から247位値まで、471位値から503位値まで、604位値から625位値まで、817位値から833位値まで、818位値から822位値まで、891位値から907位値まで、897位値から913位値まで、1164位値から1191位値まで、1182位値から1209位値まで。
【0056】
前記SERMは、好ましくは、タモキシフェン、ラロキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン、ドロロキシフェン、オスペミフェン、アルゾキシフェン、トレミフェンおよびバゼドキシフェンから選択される。
【0057】
本発明による特に好ましいSERMはラロキシフェンである。
【0058】
上述したように、本発明によるCOVID-19ワクチンと組み合わせてSERMを使用することは、COVID-19ワクチンの投与後に宿主において産生されるスパイクタンパク質の妨害に起因する副作用をエストロゲン受容体の生理学的機能により防止し、ワクチンに対する免疫系の応答を改善する。
【0059】
これらの発見により、COVID-19を予防するための治療法が改善されることになる。
【0060】
好ましくは、前記副作用は、エストロゲン受容体の過剰活性化による望ましくない作用である。
【0061】
したがって、本発明によるSERMの投与は、COVID-19ワクチンの投与およびそれに伴うエストロゲン受容体の活性の上昇の結果として、より重篤な副作用を有する可能性のある対象の場合に特に有利である。例えば、これらは、ER陽性乳がんと診断された対象、または血液凝固障害のような生理的止血バランスを変化させる病的状態の対象である。
【0062】
一実施形態によれば、前記対象は、ER陽性乳がんと診断された対象である。
【0063】
別の実施形態によれば、前記対象は、生理的止血バランスを変化させる病的状態と診断された対象である。
【0064】
本発明によるCOVID-19ワクチンと併用したSERMの投与は、副作用を回避し、COVID-19ワクチンに対する免疫応答を改善するために、他のすべてのカテゴリーの対象にも有利である。
【0065】
したがって、一実施形態によれば、前記対象は、ER陽性乳がんと診断されていない対象である。
【0066】
別の実施形態によれば、前記対象は、生理的止血バランスを変化させる病的状態と診断されていない対象である。
【0067】
別の実施形態によれば、前記対象は、生理的止血バランスを変化させる病的状態であるER陽性乳がんと診断されていない対象である。
【0068】
本発明のすべての目的に従って、SERMはCOVID-19ワクチンと同時または別々に投与することができる。
【0069】
好ましくは、SERMは、COVID-19ワクチンとは別に、異なる投与スケジュールで投与される。
【0070】
好ましくは、SERMは、COVID-19ワクチンを受けた、受けている、または受ける予定の対象に、好ましくは1日1回または2回、SERMの2週間およびワクチンの最初の用量の投与の日から開始し、ワクチンの最後の用量の投与の少なくとも2週間後、より好ましくはワクチンの最後の用量の投与の少なくとも1ヵ月後に終了する期間投与される。
【0071】
投与頻度と投与期間は、使用するSERMの用量および/またはCOVID-19ワクチンの種類によって変化する。
【0072】
一実施形態によれば、SERMは、他の病状の治療に通常用いられる用量と頻度で用いられる。
【0073】
より好ましくは、正しい投与量と投与スケジュールを決定するために、COVID-19ワクチンを受ける予定の対象のエストロゲンのレベルをワクチン接種前に測定し、患者の基礎レベルに基づいてSERMによる治療を計画する。
【0074】
好ましくは、SERMは、COVID-19ワクチンを受けた、受けている、または受ける予定の対象に、医薬組成物の形態で投与される。
【0075】
したがって、本発明のさらなる目的は、先に記載したように、対象におけるCOVID-19の予防のためにCOVID-19ワクチンと組み合わせて使用するための、先に記載したようなSERM、および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物である。
【0076】
本発明のさらなる目的は、先に記載したようなSERMと、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物であって、先に記載したような、対象におけるCOVID-19ワクチンの副作用の予防または治療に使用するための医薬組成物である。
【0077】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、有効量のSERMおよび薬学的に許容される賦形剤を含む適切な投与量形態で調製される。
【0078】
対象への本発明の医薬組成物の投与は、公知の方法に従うものであり、経口投与、非経口投与、好ましくは静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、動脈内投与、皮下投与、局所投与、頬投与または直腸(座薬)投与から選択される投与を含むことができる。
【0079】
本発明によれば、用語「有効量」は、所望の応答を有意に達成するのに十分な化合物または組成物の投与量を意味する。
【0080】
ワクチンとSERMはパーツキットとして提供されることもある。
【0081】
したがって、本発明の別の目的は、
a)上記のCOVID-19ワクチン、および
b)上記のSERMを含む医薬組成物
を含む部品キットである。
【0082】
本発明による使用のためのSERMまたは医薬組成物の投与経路は、使用されるまたは医薬組成物に含有される特定の化合物に依存し、化合物の投与のための既知の方法に従うが、これは通常、全身投与、好ましくは経口、非経口または吸入経路によるものである。本明細書で使用される非経口的という用語は、静脈内、腹腔内、脳内、髄膜内、頭蓋内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、眼内、動脈内、皮下、皮内注射または注入技術を含む。
【0083】
本発明の組成物は、錠剤、カプセル剤、粉末剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤などの経口剤、吸入剤、注射剤に製剤化することができる。
【0084】
本発明による薬学的に許容される賦形剤には、所望される特定の投与量形態に適した、ありとあらゆる溶媒、希釈剤、または他のビヒクル、分散助剤または懸濁助剤、表面活性剤、等張化剤、増粘剤または乳化剤、保存剤、固体結合剤、滑沢剤などが含まれる。
【0085】
薬学的に許容される賦形剤として機能しうる材料のいくつかの例としては、ラクトース、グルコースおよびスクロースのような糖;トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプンのようなデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロースのようなセルロースおよびその誘導体;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバターおよび坐薬ワックスのような賦形剤;ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、大豆油などの油;プロピレングリコールなどのグリコール;オレイン酸エチル、ラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;パイロジェンフリー水;等張食塩水;滅菌水;リンゲル液;緩衝食塩水;ブドウ糖溶液;マルトデキストリン溶液;エチルアルコール;およびリン酸緩衝液が含まれるが、これらに限定されない。
【0086】
さらに、本発明の組成物は、希釈剤、分散剤、界面活性剤をさらに添加することにより、溶液、懸濁液、乳剤などの吸入可能または注射可能な剤形に製剤化することができる。
【0087】
さらに、本発明の組成物は、当該技術分野で公知の適切な方法を用いて、またはRemington's Pharmaceutical Science(recent edition), Mack Publishing Company, Easton Pa.(非特許文献12)に開示されている方法により、好適に処方することができる。
【0088】
「薬学的に許容される」という用語は、生物に投与される医薬組成物を調製するのに適したあらゆる材料を、限定することなく定義することを意図している。
【0089】
投与量形態は、防腐剤、安定剤、界面活性剤、緩衝剤、浸透圧調整剤、乳化剤、甘味料、着色料、香料などのような従来の他の成分を含むこともできる。
【0090】
本発明の医薬組成物の投与量形態は、製薬化学者によく知られた技術によって調製することができ、混合、造粒、圧縮、溶解、滅菌などが含まれる。
【0091】
本発明のさらなる目的は、対象におけるCOVID-19の予防方法であって、SERMと組み合わせてCOVID-19ワクチンを前記対象に投与することを含む、方法である。
【0092】
本発明のさらなる目的は、対象におけるCOVID-19ワクチンの副作用の予防または治療のための方法であって、前記対象にSERMを投与することを含む方法である。
【実施例】
【0093】
実施例1~4
材料と方法
1. インターアクトーム(interactome)解析
STRINGデータベース[Szklarczyk D et al., Nucleic Acids Res. 2021, 49: D605-D612, doi: 10.1093/nar/gkaa1074(非特許文献13)]は、物理的相互作用ならびに機能的連係を含めた、タンパク質間の既知および予測されるすべての関連性を統合したものであり、生体分子間の機能的関連性を解析するために使用された。各タンパク質-タンパク質相互作用は「スコア」で注記されている。このスコアは相互作用の強さまたは特異性を示すものではなく、信頼性のみを示す。すべてのスコアは0から1までランク付けされ、1が起こりうる最も高い信頼度である。
【0094】
2. 3Dモデルの選択
スパイク3Dモデルは、野生型に戻され完全にグリコシル化されたPDB 6VYBに基づいて構築された。3つのプロトマーの非対称グリコシル化は、公表されているN-グリカンとO-グリカンのグリコアナリシスのデータによって導かれた(Casalini L et al, ACS Cent.Sci. 2020, 6:1722-1734, https://doi.org/10.1021/acscentsci.0c01056(非特許文献14))。タンパク質はAmber14SB力場を用いてモデル化し(Maier J A et al, J. Chem. Theory Comput.2015, 11:3696-3713, https://doi.org/10.1021/acs.jctc.5b00255(非特許文献15))、糖質部分(carbohydrate moieties)はGLYCAM06力場のGLYCAM06j-1バージョン(Kirschner KN et al, J. Comput.Chem.2008, 29:622-655, https://doi.org/10.1002/jcc.20820(非特許文献16))によってモデル化した。このようにして調製した構造を、分子ドッキング(Molecular Docking)シミュレーションの開始点として使用した。トポロジーファイルは、amber99sb力場(Lindorff-Larsen K et al, Proteins 2010,78:1950-1958, https://dx.doi.org/10.1002/prot.22711(非特許文献17))を使用して、pdb2gmx GROMACSツールで生成した。タンパク質は、溶質から15Åまで伸びる三斜晶ボックス内に挿入し、TIP3P水分子(Jorgensen WL et al, J Chem Phys 1983, 79:926-935, https://dx.doi.org/10.1063/1.445869(非特許文献18))に浸した。全体の電荷を中和するために、Genion GROMACSツールで対イオンを加えた。エネルギー最小化の後、タンパク質原子に1000kJmol-1nm-2の位置拘束を適用して系を5nsに弛緩させた。このステップに続いて、GROMACS2018.3シミュレーションパッケージ(スーパーコンピューターGalileoおよびMarconi-100、CINECA、ボローニャ、イタリア)を用いて、時間ステップ2fsで、1マイクロ秒の長さで非拘束MDシミュレーションを実施した(Abraham MJ et al., SoftwareX 2015, 1:19-25, https://dx.doi.org/10.1016/j.softx.2015.06.001(非特許文献19))。温度を300Kで一定に保つためにV-rescale温度カップリングを採用した(Bussi G et al, J Chem Phys, 2007 126:014101.https://dx.doi.org/10.1063/1.2408420(非特許文献20))。長距離静電相互作用の処理にはParticle-Mesh Ewald法を用いた(Darden T et al., J. Chem.Phys 1993, 98:10089, https://doi.org/10.1063/1.464397(非特許文献21))。各軌跡の最初の5ナノ秒は解析から除外した。1マイクロ秒のMDシミュレーション後に得られた軌跡は、代表的な構造を得るためにクラスター化された。特に、ドッキング研究に使用された構造は、MD実験から抽出された最初のクラスターの最初の重心である。
【0095】
エストロゲン受容体については、エストラジオールおよび核内受容体コアクチベーター1を含有する、コード3OLのXRAY PDBモデルを使用した(Mocklinghoff S et al, ChemBioChem 2010, 11:2251-2254, https://doi.org/10.1002/cbic.201000532(非特許文献22))。
【0096】
3. タンパク質-タンパク質ドッキング手順
2つのタンパク質、一方はレセプターおよび他方はリガンドの入力を提供した。特に、Spikeタンパク質およびERをそれぞれ受容体およびリガンドとして用いた。次に、HDOCKツールは、FFTベースの探索方法により、推定される結合様式をサンプリングするドッキングを行い、タンパク質間相互作用をスコアリングする。最後に、予測された複合体構造のトップ100が提供され、計算の信頼性を確認するために、ベスト10の仮説が視覚的に検査された。ワークフロー全体は記載(Yan Y et al, Nat Protoc 2020, 15:1829-1852, https://doi.org/10.1038/s41596-020-0312-x(非特許文献23))されている。
【0097】
スパイクタンパク質および核内エストロゲン受容体(ER)の結合メカニズムに関する構造の情報が欠如していたため、最初のチェックには、エストロゲン受容体と相互作用することが知られているタンパク質を同定することが含まれた。これらのER相互作用タンパク質を同定した後、第二段階には、スパイクタンパク質とERエフェクタータンパク質との間のあらゆる配列類似性の調査が含まれた。
【0098】
実施例1
核内受容体コアクチベーターとLxxLLモチーフ
多くの転写因子およびコファクターは、エフェクタータンパク質との相互作用を確実にする共通の構造モチーフを示す。これらのタンパク質-タンパク質相互作用に関与するモチーフはLxxLL(LDX)と呼ばれ、転写制御の様々な側面に関連している(Plevin MJ et al, Trends Biochem Sci 2005, 30:66-69, https://dx.doi.org/10.1016/j.tibs.2004.12.001(非特許文献24))。LxxLL配列はもともと、核内受容体リガンド結合ドメイン(LBDs)の活性化機能-2(AF-2)領域に結合するタンパク質で同定された。これらのモチーフは、コアクチベータ(NCOA-1、2、3)を含む多くの核内受容体結合タンパク質との核内受容体制御における基本である(Heery DM et al, Nature 1997, 387:733-736, https://doi.org/10.1038/42750(非特許文献25))。
【0099】
ERとNCOAとの間の相互作用を示す実験的および構造的な確認により、LxxLLモチーフに注目することが可能となり、これを出発点として、スパイクタンパク質の配列のマッピングが行われ、ERとその核内コアクチベーターとの間の相互作用を模倣できるスパイクの構造モチーフおよび相同部分が探索された(
図1)。
【0100】
実施例2
エストロゲン受容体結合タンパク質のネットワーク解析
ER1およびER2(ともに球体)の最も重要な相互作用のネットワーク(
図2)は、ER1およびER2と最も確実に相互作用するタンパク質の中で、核内受容体コアクチベータ-(COActivator)(NCOAs)が核内受容体と直接結合し、ホルモン依存性の形式で転写活性を刺激することを強調している。Protein Data Bankに寄託されているERとNCOAsの複合体の多くの実験データは、これらの知見を支持しており、Uniprotデータベースに見出すことができる(ER1: https://www.uniprot.org/uniprot/P03372#structure(非特許文献26); ER2: https://www.uniprot.org/uniprot/Q92731#structure(非特許文献27))。
【0101】
NACOsとスパイクとの間の配列アラインメントと、ウイルスタンパク質の3次元解析を組み合わせると、スパイクタンパク質はLxxLLに相同な配列を含有し、外側の領域において、構造的な観点からも有効であり(実際、この領域はα-ヘリックスコンホメーションをとる)、原理的にはERとの相互作用領域部位として働く可能性があることが明らかになった(
図3、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の818から828番目のアミノ酸)。異なるLDXドメインは特定の補因子-受容体相互作用に関連しており、スパイクLDX1はNCOA1 LDX4に似ており、クラスIIIドメインに属している(Savkur RS et al, J Pept Res 2004, 63:207-212, https://dx.doi.org/10.1111/j.1399-3011.2004.00126.x(非特許文献28))。
【0102】
実施例3
スパイクタンパク質とERのブラインドドッキング
ERがウイルスタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)と結合しないことは、実験的に検証されている(データは示さず)。インシリコ(in silico)予測を確認し、検証するために、ERがウイルスRBD以外の領域で相互作用する能力を、HDOCKサーバー[http://hdock.phys.hust.edu.cn/(非特許文献29)]を用いた2つのタンパク質間のブラインドドッキングによって評価した。ブラインドドッキングのアプローチは、いずれの構造的なバイアスも考慮せず、完全に無誘導である。見つかった最良の結合仮説は、いわゆる「融合ペプチド部分」に属するスパイクタンパク質の側方領域に対するERの高い親和性を証明するものであった(
図4)。
【0103】
実施例4
スパイクタンパク質-ERモチーフ指向型ドッキング
ER残基がNCOAsによって認識されるという構造情報は、タンパク質-タンパク質相互作用を最適化することによって、スパイクに対するERのドッキング研究を導くために使用された。タンパク質の構造と残基の拘束を入力として、HDOCKサーバーによって適切なモデルが生成された。ERとNCOAとの間の相互作用の構造情報が既知であるとすると、NCOAsとの相互作用を保証するER残基を考慮した第二のドッキング研究が実施され、分子ドッキング手順が導かれる。ガイド付きドッキング研究から得られた最良の結合仮説を
図5に示すが、これはLxxLLパターンに相同なモチーフを含有するスパイク領域へのERの結合を強調している(
図5)。
【0104】
実施例5
がん細胞の増殖の誘導
この実験では、MCF-7細胞とMDA-MB-231細胞を用いた。MCF-7は浸潤性乳管/乳がん(invasive ductal/breast carcinoma)ホルモン依存性細胞株(エストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体ともに陽性)であり、MDA-MB-231はエストロゲン受容体を欠く上皮性ヒト乳がん細胞株である。
【0105】
細胞はATCCから入手し、フェノールレッド無添加、10%ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン/ストレプトマイシンを補足したDMEM中、37℃、5%CO2、95%加湿雰囲気で増殖させた。各アッセイにおいて、細胞は104細胞/cm2の密度で播種した。処理の前に、FBS中のエストロゲンレベルを下げ、いずれの干渉も避けるため、細胞を5%デキストランでコーティングしたチャーコールで処理された血清を含有する培地で24時間培養した。
【0106】
その後、細胞を、エストラジオール(1nM)(ESTR)、スパイクタンパク質(10ng/ml)(SPIKE)、ラロキシフェン(2μM)(RAL)、17β-エストラジオール(1nM)とスパイクプロテイン(10ng/ml)の組み合わせ(ESTR+SPIKE)、17β-エストラジオール(1nM)とラロキシフェン(2μM)の組み合わせ(ESTR+RAL)、スパイクタンパク質(10ng/ml)とラロキシフェン(2μM)の組み合わせ(SPIKE+RAL)、17β-エストラジオール(1nM)、スパイクタンパク質(10ng/ml)およびラロキシフェン(2μM)の組み合わせ(ESTR+SPIKE+RAL)で24時間処理した。
【0107】
その後、細胞の増殖を測定するために、BrdU増殖アッセイを行った。このアッセイは、細胞層を固相として用いてマイクロタイタープレートで培養された分裂細胞のDNAにBrdUを取り込ませることを含む。BrdU細胞増殖ELISAキット(Abcam、ab126556)を製造元の指示に従って使用した。BrdUを24時間ウェルに添加し、次いで、Fixing Solutionを用いて細胞を固定した。次いで、細胞を洗浄し、検出器抗BrdU抗体と1時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートさせたヤギ抗マウス抗体と30分間インキュベートした。検出のために発色基質テトラメチルベンジジン(TMB)を添加し、発色した産物を分光光度計(450/550nm)を用いて検出した。
【0108】
得られた結果を、MCF7細胞については
図6に、MDA-MB-231細胞については
図7に示す。見てわかるように、SARS-CoV-2スパイクタンパク質は、エストロゲンレセプターの存在に依存した乳がん細胞に対する増殖誘導活性を示す。事実、MCF-7細胞では、17β-エストラジオールまたはスパイクで処理すると、細胞の増殖が同様に増加するが、MDA-MB-231細胞では、17β-エストラジオールおよびスパイクは、単独でも併用でも細胞増殖に有意な影響を与えない。17β-エストラジオールとスパイクの両方の増殖促進活性は、SERMであるラロキシフェンによる処理によってブロックされる。これらの結果は、スパイクがエストロゲン受容体を活性化することによって細胞に作用し、ER陽性がん細胞の増殖を誘導できることを明確に示している。
【0109】
実施例6
RAW-OCsにおけるELISAアッセイによるTRAP活性
スパイクがエストロゲン受容体を活性化することをさらに例示するために、破骨細胞モデルにおいて、TRAP活性に対する17β-エストラジオールとSARS-CoV-2スパイクの効果を比較した。
【0110】
組換えRANKLに暴露されると破骨細胞に分化する、マウス単球系細胞株であるRAW264.7を用いた。
【0111】
詳細には、RAW264.7(マウスマクロファージATCC、米国)を製造元のプロトコールに従って培養した。その後、24ウェルディッシュに1.5×105細胞/cm2を播種し、マウス破骨細胞(OC)の発生を開始させるために、核因子kbリガンドのマウス受容体活性化因子(RANKL、Miltenyi Biotec、ドイツ)を最終濃度35ng/mlで添加した(0日目)(Collin-Osdoby and Osdoby 2012, PMID: 22130930(非特許文献30))。3日目に、細胞を顕微鏡で観察し、RANKLを含有する新鮮な培地で再培養した。6日目に、RAW-OC集団が蔓延していた。細胞を17-β-エストラジオール(1nM)、スパイク(10ng/ml)、ラロキシフェン(2μM)、およびこれらの組み合わせで24時間処理した。24時間の処理後、細胞を滅菌チューブに集め、約100万/mlの濃度になるようにPBS(pH7.4)に再懸濁した。その後、細胞は凍結融解を繰り返し、内部の成分を放出させた。その間、キットの試薬を室温に戻した。酒石酸耐性酸性ホスファターゼ(TRAP)活性は、Myobiosource社から購入した酵素結合免疫吸着測定法(猫番号MBS1601167)により測定した。標準曲線、試薬およびサンプルは、製造業者のプロトコールに従って調製した。手短には、50μlの標準品を標準ウェルに、40μlの試料対試料ウェルに添加し、次いで10μlの抗TRAP抗体を試料ウェルに、50μlのストレプトアビジン-HRPを試料ウェルと標準ウェルに添加した。プレートをシーラーで覆い、振動台の上でよく混合し、37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄バッファーで5回洗浄し、各ウェルに基質溶液A50μlと基質溶液B50μlを加え、37℃、暗所で10分間インキュベートした。最後に、各ウェルに50μlの停止液を加え、直ちに450nmに設定したマイクロプレートリーダーを用いて光学濃度を測定した。
【0112】
得られた結果を
図8に示す。見てわかるように、細胞をエストラジオールまたはスパイクで処理すると、TRAPの活性が重畳的に低下し、この効果はSERMであるラロキシフェンとの共処理によって阻害される。これらの結果は、スパイクがエストロゲン受容体を活性化することによって作用することをさらに例示している。
【配列表】
【国際調査報告】