(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-18
(54)【発明の名称】LICOO2膜の成膜方法およびそれを行うためのデバイス
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20240311BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C23C14/08
C23C14/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540757
(86)(22)【出願日】2021-12-30
(85)【翻訳文提出日】2023-08-22
(86)【国際出願番号】 RU2021050458
(87)【国際公開番号】W WO2022146200
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517363850
【氏名又は名称】ザ バッテリーズ エスピー. ゼット オー.オー.
【氏名又は名称原語表記】The Batteries Sp. z o.o.
【住所又は居所原語表記】Pl. Kilinskiego 2, 35-005 Rzeszow, Poland
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】コロレンコ, イアロスラヴ アナトレヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】キサモフ, アイラット カミトヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ナストチキン, セルゲイ ミハイロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ロッソハティ, アレクサンドル ヴィクトロヴィッチ
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA02
4K029BA06
4K029BA43
4K029CA06
4K029DC03
4K029DC39
(57)【要約】
LiCoO2の膜を成膜する方法は、真空チャンバ内での反応性マグネトロンスパッタリングによって、リチウム(Li)の蒸気中においてコバルト(Co)の金属ターゲットからLiCoO2の層を基板に塗布することを含む。リチウム蒸気は、作動ガス入口およびリチウム供給入口に接続されたガス分配器を介して、リチウムの融点まで加熱された加熱リチウム含有リザーバを通るキャリアガス流を供給することによって、マグネトロンに調整される形で供給される。リチウム蒸気の調整される供給は、加熱されたリザーバを通るキャリアガス流を調整することによって達成される。LiCoO2の膜を成膜するためのデバイスは、真空チャンバと、コバルトの金属ターゲットを備えたマグネトロンとを含む。マグネトロンの一方の側面または周囲には、作動ガス入口に接続され、かつ、キャリアガス入口に接続された加熱リチウム含有リザーバにタップおよび/またはバルブを介して接続されたガス分配器がある。ガス分配器は、セル状または回旋状であり得る。加熱リチウム含有リザーバは、真空チャンバの内側に設けられてもよく、または外側に設けられてもよい。その結果は、LiCoO2膜の蒸着速度が増加し、設備効率が向上し、薄膜固体電池の量産コストが低減する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にLiCoO
2層を蒸着させるLiCoO
2膜の成膜方法であって、前記蒸着が、真空チャンバ内で、リチウム(Li)蒸気中において金属コバルト(Co)ターゲットを基板上に反応性マグネトロンスパッタリングを行うことによって実施され、リチウムタンクがリチウム融点まで加熱され、ガスキャリア流が前記加熱されたリチウムリザーバを通って供給され、その結果、ガス分配器を介してマグネトロンシステムにリチウム蒸気が制御されて供給され、前記ガス分配器が、作動ガスの入力およびリチウムタンク入力に接続されており、リチウム蒸気の調整供給が、前記ガスキャリア流を変えることによって行われ、前記リチウム蒸気が、加熱タンクから供給される、方法。
【請求項2】
コバルト金属ターゲットを備えたマグネトロンシステムを有する真空チャンバを含むLiCoO
2膜成膜用技術デバイスであって、前記デバイスが、前記マグネトロンシステムの一方の側面またはその周囲に配置されているガス分配器と、加熱リチウムタンクとをさらに含み、前記ガス分配器が、タップおよび/またはバルブを介して前記加熱リチウムタンクに接続されている作動ガスの入力に接続されており、前記タンクが、ガスキャリア入力に接続されている、デバイス。
【請求項3】
前記真空チャンバの内側かまたは外側のいずれかに加熱リチウムタンクがあることを特徴とする、請求項2に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量産用技術設備およびその技術の分野に関し、特に必要な電気的、物理的および化学的特性を有する機能性薄膜(正極)成膜(蒸着)用の真空設備および真空技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネトロン技術は、薄膜固体電池(以下、電池と呼ぶ)内のLiCoO2正極層を成膜するために広く利用されている。この方法は、特定のLi/Co濃度を持つ複合ターゲットを使用し、LiCoO2膜の必要な物理的および化学的特性を達成するために他の材料をドーピングするRF/MF/DCシステムに基づいて適用される。
【0003】
このような複雑な複合ターゲットの使用も、薄膜電池製造技術(複合ターゲットからのマグネトロンスパッタリング)の使用も、サプライヤーの選択と蒸着の生産性の両方を制限する。マグネトロン法の生産性が低く、設備のコストが高いため、固体薄膜電池(電池)の製造コストは非常に高くなる。このため、家電製品のマスセグメントでは競争することができない。さらに、このような複合ターゲットを使用すると、LiCoO2層の技術的可変性は大幅に狭められる。これは、厚みによる材料濃度勾配の形成など、LiCoO2層の技術的可変性を狭める。
【0004】
また、そのようなターゲットの出力限界は5~10W/cm2を超えないものとされる。同時に、(インライン設備の場合)蒸着速度は通常50~70nm*m/min以下である。これらの制限により、技術設備の生産性と効率が大幅に低下し、これはLiCoO2蒸着(スパッタリング)のための技術ステーションの数を増やすか、他のソリューションを使用することにつながり、これにより材料コストが高くなり、薄膜電池の製造コストが高くなる。また、薄膜電池の製造コストは基板面積に比例して指数関数的に増加する。
【0005】
例えば、先行技術では、スパッタリングチャンバ内でリチウムコバルト酸化膜を電池基板に塗布する方法が知られている。[1]2014年1月14日公開の米国特許第8628645号、IPC C23C 14/00を参照されたい。
【0006】
この出願の方法は、次を含む。
(a)基板支持体上に基板配列を配置すること。
(b)スパッタリングチャンバに第1および第2のスパッタリングターゲットを設けることであって、第1および第2のスパッタリングターゲットが、リチウム金属酸化物(LiMeOx)で構成されている、こと。
(c)スパッタリングガスをスパッタリングチャンバ内で一定の圧力に維持すること。
(d)第1および第2の電極の各々が交互に負極または正極として機能するように、交流電源から約10~約100kHzの周波数で第1および第2の電極に交流電圧を印加することによって、スパッタリングガスに通電すること。
(e)第1および第2の回転磁石アセンブリを約0.005~約0.1Hzの回転周波数で回転させ、第1および第2のスパッタリングターゲットの周りに変動磁場を与えること。
【0007】
この方法を実行するためのアプライアンスには、次のものが含まれている。
(i)基板支持体。
(ii)第1および第2のスパッタリングターゲット。
(iii)第1のスパッタリングターゲットの後面に接触する第1の電極。第2のスパッタリングターゲットの背面に接触する第2の電極。
(iv)第1のマグネトロンであって、第1のスパッタリングターゲットの後ろに第1の回転磁石アセンブリを含むものと、第2のマグネトロンであって、第2のスパッタリングターゲットの後ろに第2の回転磁石アセンブリを含むもの。
【0008】
リチウム金属酸化物(LiMeOx)層の蒸着速度が低いことが、類似物の欠点である。
【0009】
LiCoO2ターゲットを使用するために薄膜固体電池の製造コストが高いことも、類似物の欠点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第8628645号、IPC C23C 14/00
【発明の概要】
【0011】
本発明の量産用LiCoO2正極膜蒸着の目的は、LiCoO2膜蒸着速度を向上させること(よって、設備の生産性を向上させること)と、LiCoO2膜蒸着の原料を複雑な複合LiCoO2ターゲットから単純で安価な材料(金属コバルト(Co)ターゲットおよび金属リチウム(Li)ペレット)に変更することである。これらのプロセスが本発明の目的である。
【0012】
特許請求の発明の技術的成果は、現在のマグネトロンスパッタリング技術と比較して、薄膜固体電池(アキュムレータ)の量産コストを大幅に削減することである。
【0013】
当該発明によると、この技術的課題は解決されている。技術的成果は、真空チャンバ内での反応性マグネトロンスパッタリングに基づいて、リチウム(Li)蒸気中において金属コバルト(Co)ターゲットからのLiCoO2蒸着を含むLiCoO2膜の成膜(蒸着)方法を用いることにより達成される。真空チャンバへのリチウム蒸気流の制御は、タンクなどからの作動ガスの入力およびリチウム蒸気の入力に接続されているガス分配器を通して実現される。リチウム蒸気流は、リチウム融点まで加熱された、リチウム入り加熱タンクに、ガスキャリア流を送り込むことで実現される。リチウム蒸気流の制御は、リチウム入り加熱タンクを通るガスキャリア流を変えることで実現される。
【0014】
技術的成果は、真空チャンバ、金属コバルトターゲットを備えたマグネトロンシステム、マグネトロンシステムの周囲または側面に配置されたガス分配器を含むLiCoO2膜蒸着用の技術デバイスを使用することによって達成される。
【0015】
ガス分配器は、作動ガスの入力と、リチウム入り加熱タンクの入力とバルブを通して接続されている。リチウム入り加熱タンクはガスキャリアの入力と接続されている。
【0016】
技術的成果は、ガス分配器がキャビティまたはラビリンスとして設計され得るという事実によっても達成される。
【0017】
技術的成果は、加熱リチウムタンクが真空チャンバの内側または外側に配置できるという事実によっても達成される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】リチウム蒸気タンクの概略図。 図には以下の位置が示されている。 1-真空チャンバ 2-マグネトロン(システム) 3-ガス分配器 4-加熱タンク 5-分光計 6-リチウムカセットのロード/アンロード用ドア 7-リチウムカセット 8-ヒーター 9-ガスキャリア接続用ノズル
【発明を実施するための形態】
【0019】
基板上にLiCoO2薄膜を成膜(蒸着)する方法は、リチウム蒸気中における金属コバルトターゲットからの反応性マグネトロンスパッタリング技術である。基板は、シリコンウェーハ、雲母シート、または他の材質であってもよい。
【0020】
図1は、LiCoO2薄膜成膜(蒸着)用の技術デバイスを示す。このデバイスは、マグネトロンシステム(2)および金属コバルトターゲットを備えた真空チャンバ(1)を含む。
【0021】
マグネトロンシステム(2)は、磁気システムおよび(例えば、800G以上の)磁場を持つDC/ACマグネトロンである。ガス分配器(3)は、マグネトロンの周囲または一方の側面に取り付けられている。このガス分配器は、600~800°Cに加熱される。最も単純なケースでは、それはキャビティ分配器であり得る。より複雑なバージョンでは、それはラビリンス分配器であり得る。このガス分配器は、バルブおよび/またはタップを介して、作動ガス入口および加熱リチウムタンク(4)(リチウム源)に接続されている。
【0022】
このタンクは、真空チャンバの内側または外側のいずれかに取り付けられてもよい。リチウム源(
図2)は、600°Cに加熱される加熱タンク(4)である。それはリチウム蒸発用のタンク、すなわちリザーバである。このタンクを通るようにガスキャリアをポンプで圧送することができる。それはアルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスであり得る。タンク(4)は好ましくは、高温保護用の金属製シールを備え得るドア(6)を含む。タンク(4)の内側にリチウムカセット(7)を取り付けることができる。タンク(4)の外側にヒーター(8)が取り付けられている。タンクには、ガスキャリア接続用のノズル(9)(インレット)もある。タンクは不活性雰囲気中に(例えばペレット状の)リチウムが充填されている。リチウムの容量は、デバイスの必要な作業期間に基づいて計算される。期間は、設備のサービス間またはプロセスメンテナンス間隔によって決められる。量産の場合、この間隔は7日以上となる。タンクには高温バルブのシステムが装備されている。これらのバルブは、メンテナンスおよび修理作業中にタンクを外気から隔離する。マグネトロンの先端には、リチウムおよびコバルトのスペクトル制御用分光計(5)を取り付けることができる。
【0023】
LiCoO2薄膜成膜(蒸着)法は、真空チャンバ内で反応性マグネトロンスパッタリングを用いることにより、リチウム(Li)蒸気中において金属コバルト(Co)ターゲットから基板上にLiCoO2膜を蒸着することと、真空チャンバ内で反応性マグネトロンスパッタリングにより蒸着することと、を含む。(マグネトロンへの)リチウム蒸気流の制御は、ガス分配器を通して実現される。ガス分配器は、作動ガスの入力およびリチウム蒸気の入力に接続されている。リチウム蒸気は好ましくは、例えば、リチウム入り加熱タンクを通るガスキャリア流によって、真空チャンバに供給される。リチウム入りタンクは、リチウムが蒸発するように、その融点まで、好ましくはそれ以上に加熱される。リチウム蒸気供給は、加熱タンクを通るガスキャリア流を変えることによって制御される。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、本発明は以下のように実施される。好ましくは、リチウムカセットがタンク内にロードされる。例えば、マグネトロンシステムにコバルトターゲットが配置される。取り付けた設備はポンプで高真空にされる。ターゲットおよび/またはリチウムリザーバ/タンクの点検およびガス抜きが実施される。次に、リチウムタンクはリチウム融点(液体状態)まで加熱される。加熱後、この温度は固定され、作業の間、維持され得る。リチウム蒸気供給用のガス分配システム内のバルブは閉じたままにしてもよい。ガス分配システム全体が必要な温度に加熱されてもよい。
【0025】
蒸発システムおよびリチウム蒸気の供給が指定温度に達すると、作動ガスがマグネトロンシステムに供給され得る。これは好ましくは、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスである。次に、作動ガス流がスイッチオンにされ、出力パラメータの設定ができるようになる。この後、好ましくは、リチウム蒸気バルブ(タップ)がマグネトロンに対して開放されてもよい。開放は、ガスキャリアなどを使用して行うことができる。リチウムタンク内を通るガスキャリア流を変化させることにより、マグネトロンシステムへのリチウム蒸気の量を制御することができる。これにより、放電および蒸着するLiCoO2膜のパラメータが変化する。LiCoO2膜の蒸着は好ましくは、Li+Ar+Ox+追加の不活性ガス(オプション)の環境中で行われる。作動ガスとリチウム蒸気の比を変えることにより、LiCoO2膜の化学量論性は非常に広い範囲で変えることができる。
【0026】
膜蒸着速度も変えることができる。分光計(5)を使用して、LiCoO2膜の蒸着速度および化学量論性を制御することができる。この分光計は、リチウムおよびコバルトのスペクトル制御に使用し得る。この分光計は、マグネトロンシステムの先端に取り付けられ得る。マグネトロン放電パラメータ(放電電圧)およびリチウム蒸気の量によってLi/Co(Co/Li)比を維持することで、蒸着膜に必要なパラメータおよび蒸着速度が確保される。これにより、従来のマグネトロン技術と比較して、薄膜固体電池(電池)の量産コストを大幅に削減することができる。
【0027】
特許請求のLiCoO2成膜方法により、以下のことが可能になる。
【0028】
1.複合LiCoO2(LCO)ターゲットと比較して、蒸着材料の容量を増加させる。
【0029】
2.金属ターゲットを使用して蒸着速度を向上させる。金属ターゲットは、より高い出力密度の使用を可能にする。作動ガスの使用におけるより大きな可変性によって蒸着速度を増加させる。
【0030】
3.層厚にわたって同じプロセスで材料濃度勾配を作るには、シンプルで再現性が十分高い。
【0031】
4.薄膜電池(セル)構造の製造コストを削減する。単純な蒸着材料を使用することで、製造コストを削減する。
【0032】
量産薄膜固体電池(アキュムレータ)の製造コストは、以下の2つの要因によって削減される。
1)LiCoO2膜蒸着速度(LCO)を向上させること、よって、設備の生産性を向上させること。
2)複雑な複合LiCoO2ターゲットの代わりに、よりシンプルで安価な材料(金属コバルトターゲットおよび金属リチウムペレット)を使用すること。金属コバルト(金属コバルトターゲットは複合LiCoO2ターゲットよりも安価であり、かつ、金属コバルトターゲットはLiCoO2ターゲットと比較して、より多くの電力を供給できるため、コバルト蒸着速度は、LiCoO2蒸着速度より2.7倍高い)の反応性マグネトロンスパッタリングを使用することと、圧送ガスキャリア(アルゴン、ヘリウム、その他)を使用して、加熱タンクからガス分配器を通してリチウム蒸気をコバルトマグネトロンスパッタリング領域(真空チャンバ)に送り込むことにより、蒸着速度の向上が可能となる。
【国際調査報告】