(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-18
(54)【発明の名称】高粘度の融液から高品質のガラス製品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C03B 5/03 20060101AFI20240311BHJP
C03B 5/225 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C03B5/03
C03B5/225
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558186
(86)(22)【出願日】2022-03-21
(85)【翻訳文提出日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 EP2022057350
(87)【国際公開番号】W WO2022200272
(87)【国際公開日】2022-09-29
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヒルデガルド レーマー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ハーン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ロスナー
(72)【発明者】
【氏名】フォルカー トリンクス
(72)【発明者】
【氏名】ライナー アイヒホルツ
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ベルクマン
(72)【発明者】
【氏名】アーミン フォーグル
(72)【発明者】
【氏名】イェアク ヘッセンケムパー
(72)【発明者】
【氏名】ホルスト ブライ
(72)【発明者】
【氏名】クラウス シェーンベアガー
(72)【発明者】
【氏名】ズィビレ ハース
(72)【発明者】
【氏名】グイド レーケ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン シュミット
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ベアントホイザー
(72)【発明者】
【氏名】オーラフ クラウセン
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー クライン
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング シュミートバウアー
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AE00
(57)【要約】
本開示は、高品質のガラス製品、それらの製造方法、およびそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高粘度の融液から高品質のガラス製品を製造する方法であって、
・ガラス原料を加熱してガラス融液を得ること、
・溶融タンク内で前記ガラス融液を加熱することであって、前記溶融タンクが溶融タンク底部を有し、前記ガラス融液が本体と融液表面とを有すること、
・前記融液から気泡を除去すること、
・前記ガラス融液を、24時間あたり融液体積1m
3あたり2.0t以下の速度で前記溶融タンクから抜き出すこと、
・ガラス1kgあたり20個未満の気泡を有するガラス製品を得ること、
を含み、
前記ガラス融液の少なくとも一部が10
2.5dPas以下の粘度を有するように、前記ガラス融液が1つ以上の熱源を使用して加熱され、
前記ガラス融液を加熱することが、前記融液表面を加熱すること、および/または前記ガラス融液本体を直接加熱することを含み、さらに、前記ガラス融液本体に直接導入される熱エネルギーの量が、前記溶融タンク内の前記融液に導入される熱エネルギーの総量の60%超であり、
前記ガラス融液表面上の位置における温度と、前記位置の垂直方向下方にある前記溶融タンク底部の位置における温度との間の最大差が、前記温度に対応するガラス融液密度の差が2つの位置間の距離1mあたり0.05g/cm
3未満であるような差であり、
前記ガラス融液が、1580℃を超える温度で10
2dPasの粘度を有する、
方法。
【請求項2】
前記ガラス融液表面の最も高温の位置における前記ガラス融液密度が、前記溶融タンクの底部の位置における前記ガラス融液密度よりも小さいかまたは大きい、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ガラス融液本体内の最小粘度が10dPas以上である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
T4からT2までの温度範囲における前記ガラス融液密度の温度依存性が、100℃あたり少なくとも9.0mg/cm
3、任意選択的には100℃あたり最大19.0mg/cm
3であり、T4は前記ガラスが10
4dPasの粘度を有する温度であり、T2は前記ガラスが10
2dPasの粘度を有する温度である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記ガラス融液表面上の前記最も高温の位置と、前記最も高温の位置の垂直方向下方の前記溶融タンク底部の前記位置との間の距離が、1250mm未満、任意選択的には少なくとも750mmである、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
化石燃料の燃焼から得られる熱エネルギーの量が、前記融液に導入される熱エネルギーの総量に対して1.0%未満である、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記表面を加熱することによって前記融液に導入される熱エネルギーの量が、前記融液に導入される熱の総量に対して40.0%未満である、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記融液表面を加熱することが、1つ以上のマイクロ波ヒーターを使用して前記表面を加熱すること、ならびに/またはバイオ燃料および/もしくは水素を燃焼させることを含む、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記融液本体を直接加熱することが電極加熱を含む、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記ガラス融液が、5,000~9,000Kの範囲のVFT定数Bおよび75℃~240℃の範囲のt
0を有する、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
ガラス1kgあたり20個未満の気泡を有するガラス製品であって、前記ガラスが、1580℃を超える温度で10
2dPasの粘度を有し、前記ガラスが、T4からT2までの温度範囲において、100℃あたり少なくとも9.0mg/cm
3のガラス融液密度の温度依存性を有し、T4は、前記ガラスが10
4dPasの粘度を有する温度であり、T2は、前記ガラスが10
2dPasの粘度を有する温度である、ガラス製品。
【請求項12】
請求項1から10までのいずれか1項記載の方法によって得られる、請求項11記載のガラス製品。
【請求項13】
前記ガラス融液が、5,000~9,000Kの範囲のVFT定数Bおよび75℃~240℃の範囲のT
0を有する、請求項11または12記載のガラス製品。
【請求項14】
T4からT2までの温度範囲における前記ガラス密度の温度依存性が100℃あたり最大19.0mg/cm
3である、請求項11から13までのいずれか1項記載のガラス製品。
【請求項15】
前記ガラスが、20℃~300℃の温度範囲において3.0ppm/K~8.5ppm/Kの熱膨張係数を有する、請求項11から14までのいずれか1項記載のガラス製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高品質ガラス製品の製造方法および高品質ガラス製品に関する。
【0002】
背景
ガラス組成物には様々な種類が存在する。比較的容易に高品質に製造されるガラス組成物もあれば、複雑な設備および/または非常にバランスのとれた製造プロセスを必要とするものもある。一般的に、飲料用グラスや通常の窓ガラスの製造に使用されるガラス組成物は前者のタイプである。その理由の1つは、これらの製品に使用されているガラスの溶融温度がかなり低く、粘度-温度曲線が急勾配であること;それに加えて製造される製品の品質基準があまり厳しくないこと;である。例えば、通常の窓ガラスや飲料用グラスにはたまに気泡が含まれることがあり、また形状や寸法のわずかなばらつきは許容される。
【0003】
ソーダ石灰ガラス組成物など、多くの量産製品に使用されるタイプのガラス組成物は、大量のアルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物のため、低い溶融温度を有する。それぞれのガラス溶融施設は非常に高いスループットを達成しており、多くの場合1日あたり200トン超、さらには1日あたり400トン超のガラスを達成する。当然、200トンの低融点ガラスを製造するために必要とされるエネルギー量は、高融点ガラスよりも大幅に少ない。
【0004】
所定の製品に求められる品質は、その用途に依存する。一部の高品質ガラスは、時折生じる気泡も受け入れられない製品を製造するために使用され、それらは形状や寸法のばらつきに関して厳しい基準を満たさなければならない。これらのガラスの多くは、厳しい基準のためだけではなく、溶融温度が高いことにも起因して、製造がかなり困難である。均質化と融液からの気泡の除去とに十分な融液粘度を達成するためには、高い溶融温度が必要な場合がある。
【0005】
本発明の目的は、高い品質基準を満たすガラス製品を提供することである。
【0006】
発明の概要
第1の態様では、本発明は、高粘度の融液から高品質のガラス製品を製造する方法であって、
・ガラス原料を加熱してガラス融液を得ること、
・溶融タンク内でガラス融液を加熱することであって、溶融タンクが溶融タンク底部を有し、ガラス融液が本体と融液表面とを有すること、
・融液から気泡を除去すること、
・ガラス融液を、24時間あたり融液体積1m3あたり2.0t以下の速度で溶融タンクから抜き出すこと、
・ガラス1kgあたり20個未満の気泡を有するガラス製品を得ること、
を含み、
ガラス融液の少なくとも一部が102.5dPas以下の粘度を有するように、ガラス融液が1つ以上の熱源を使用して加熱され、
ガラス融液を加熱することが、融液表面を加熱すること、および/またはガラス融液本体を直接加熱することを含み、さらに、ガラス融液本体に直接導入される熱エネルギーの量が、溶融タンク内の融液に導入される熱エネルギーの総量の60%超であり、
ガラス融液表面上の位置における温度と、上記位置の垂直方向下方にある溶融タンク底部の位置における温度との間の最大差が、上記温度に対応するガラス融液密度の差が2つの位置間の距離1mあたり0.05g/cm3未満であるような差であり、
ガラス融液が、1580℃を超える温度で102dPasの粘度を有する、
方法に関する。
【0007】
本発明の方法は、アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物を限られた量のみ含むガラス組成物など、非常に高い溶融温度を有するガラス組成物のためのものである。ガラスの組成は、1580℃を超える温度で融液が100dPasの粘度を有するような組成である。本発明は、粘度が102.5dPas以下になるのに十分に高い温度まで融液を加熱することを含む。これは、多くのエネルギーが必要であることを意味する。融液から泡が出るためには、低い粘度およびそれに対応する高温が望ましい。
【0008】
方法は、熱エネルギーの大部分がガラス融液本体に直接導入されることを含む。例えば、1つ以上の電極を使用してガラス融液を直接加熱することができる。1つ以上の電極は、溶融タンクの壁内または壁上に部分的にまたは完全に配置することができる。1つ以上の電極は、溶融タンクの底板内または底板上に部分的にまたは完全に配置することができる。一実施形態では、1つ以上の電極が溶融タンクの壁部分および/または底板部分を構成する。
【0009】
(a)溶融タンク内のガラス融液の表面上の位置と、(b)上記位置の垂直方向下方の溶融タンク底部の位置との間のガラス融液密度の最大差が制限される場合、短絡ガラス流の発生を防止できることが見出された。短絡ガラス流は融液の一部が溶融タンクの出口にショートカットすることを意味するため、望ましくない。これらの部分は、溶融タンク内での滞留時間が短い。得られるガラス製品は、典型的には大量の気泡および/または脈理を含む。
【0010】
本明細書に開示の方法のガラス組成物は、高い粘度を有する。これらの組成物は、多くの場合、多量のSiO2とAl2O3を含む。いずれの成分もかなり高い融解温度を有している。ほとんどのガラス融液では、SiO2が、バッチ内で液化する最後の成分である。これは、バッチの全ての成分が液化する前に、高融点成分の割合が減少した部分が融液本体内に存在する可能性があることを意味する。当然、融液本体内の言及した部分には、より大量の低融点成分、特にアルカリが含まれる。本明細書に記載の方法は、溶融タンク内のガラス融液密度の差を制限することによって、短絡ガラス流を防止する。本明細書に記載の通りに密度差を制限すると、密度差によって引き起こされる溶融タンク内の望ましくない体積流れが減少する。これにより、非常に高品質のガラス製品が得られる。特に、本明細書に記載の方法によって製造されるガラス製品は、特に少ない気泡数を有することができる、かつ/または脈理を少ししか有しないかもしくは全く有しないことができる。
【0011】
第2の態様では、本発明は、ガラス1kgあたり20個未満の気泡を有するガラス製品に関し、ガラスは、1580℃を超える温度で102dPasの粘度を有し、ガラスは、T4からT2までの温度範囲において、100℃あたり少なくとも9.0mg/cm3のガラス融液密度の温度依存性を有し、ここでのT4は、ガラスが104dPasの粘度を有する温度であり、T2は、ガラスが102dPasの粘度を有する温度である。
【0012】
本発明は、この方法を使用して得られるガラス製品も含む。ガラス製品は非常に少ない気泡数を有する。特に、短絡ガラス流を防止することにより、ガラス融液の溶融タンク内での滞留時間が十分に長くなり、気泡がガラス融液表面に上昇して融液本体から離れる。低粘度の融液と比較して粘度が高い融液では気泡が表面に上がる速度が遅いため、これは高粘度の融液に関連する。これは、ガラス融液密度の温度依存性がかなり高いガラス組成物についても当てはまる。
【0013】
先に説明したように、この方法では、融液の一部が溶融タンクの出口にショートカットすることが防止される。特に、これはSiO2の相対量が少なくなる傾向がある融液の低粘度部分に当てはまる。本発明の方法では、溶融タンク内で最終的なガラス組成が達成される前に、融液の低粘度部分が溶融タンクから出ることができない。その結果、高品質のガラス製品が得られる。
【0014】
定義
「ガラス融液」とは、107.6dPas未満の粘度を有するガラス原料のバッチ本体である。
【0015】
「溶融タンク」は、ガラスを溶融するために使用される槽である。槽は、ガラス融液を収容できる容積を規定する。溶融タンクは、実質的に長方形の底部、または底板を有することができる。これは、融液をタンク内に保持するための壁を有し得る。典型的には、溶融タンクは縁まで満たされない。溶融タンクは、ガラス融液表面の上方にカバーを有し得る(「カバー付き溶融タンク」)。カバーはアーチ型天井であってよい。「溶融タンク」は、清澄タンクや清澄エリアなどの追加の部分を含み得る、より大きな溶融設備の一部であることができる。一部の溶融設備は、溶融用と清澄用の異なるセクションを有する複合タンクを有しており、この場合、本開示による「溶融タンク」は、清澄セクションを含む複合タンク全体に関する。
【0016】
「底板」は、溶融タンクの底部を形成する溶融タンクの部分である。底板は一枚の材料であってよい。あるいは、底板は複数の部品またはセクションから構成され得る。底板は、閉じていてよい、すなわちガラス融液に対して本質的に不透過性であってよい。あるいは、底板は、ガラス融液を底部開口部を通して溶融タンクから抜き出すことができるように、閉鎖可能な開口部を有し得る。
【0017】
「ガラス融液表面上の最も高温の位置」は、溶融タンク内のガラス融液の表面上の他の位置と比較して最も温度が高い、溶融タンク内のガラス融液の表面上の地点である。ガラス融液表面の温度は、熱電対および/または高温計を使用して簡単に測定することができる。溶融タンク底部の温度は、例えば、底板内のまたは融液中に延びる熱電対を使用して測定することができる。熱電対は水冷式であってよい。「ガラス融液表面」は、周囲の雰囲気(例えば空気)と直接接触している融液の部分である。溶融タンクは、未溶融原料が溶融材料上を泳ぐ部分、例えば原料入口ポートの近傍の部分を含み得る。そのような部分(溶融タンク面積の10~30%に相当し得る)は、ガラス融液表面の一部とはみなされない。
【0018】
「ガラス融液表面」と、融液に接触している溶融タンク底部との間の最短距離が、対象の位置における「ガラス融液深さ」である。
【0019】
「気泡」は、ガラスまたはガラス融液内の気体状の内包物であり、任意選択的には少なくとも10μmの直径を有する。「直径」は、気体状内包物の最大直径を意味する。
【0020】
「滞留時間」は、ガラス融液の所定の部分が溶融タンクから抜き出される前に溶融タンク内で費やす時間である。滞留時間は、いわゆるトレーサー、すなわち製品内で検出できるようにガラス融液に添加される成分を使用して測定することができ、これにより溶融タンク内で費やされた時間を決定することができる。トレーサー化合物の例は、Ca、Sr、およびYである。「最短滞留時間」は、ガラス融液の一部が最も速い経路をとって溶融タンクを通り抜けるのに必要な時間、すなわち一定量のトレーサー化合物を溶融タンクに添加してから、製品中にトレーサーが最初に出現するまでの時間である。「平均滞留時間」は、
(溶融タンクの容積[m3])/(溶融タンクのスループット[m3/h])
として定義される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態による方法で使用可能な溶融タンクの図である。
【
図2】本発明の実施形態による方法で使用可能な溶融タンクの図である。
【
図3】本発明の実施形態による方法で使用可能な溶融タンクの図である。
【
図4】約800~約1700℃の温度範囲におけるガラス融液密度対温度のダイアグラムである。
【
図5】約800~約1700℃の温度範囲におけるガラス融液密度対温度のダイアグラムである。
【
図6】大きい密度差を有する溶融タンク内のガラス融液流の速度の図である。
【
図7】密度差を減らして融液流の速度を低減するために追加の電極加熱を行ったガラス融液流の速度の図である。
【
図8】本発明の方法を使用して製造することができる4つの例示的な工業用ガラス組成物の粘度曲線である。
【0022】
詳細な説明
方法は、ガラス原料を加熱してガラス融液を得ることを含む。加熱は、典型的には溶融タンク底部を有する溶融タンク内で行われる。溶融タンクは、溶融タンク壁および/または任意選択的なアーチ型天井のカバーを有し得る。溶融タンクはガラス融液で一定レベルまで満たされる。ガラス融液は、融液本体と融液上方の雰囲気との間の界面に融液表面を有する。加熱には、冷却された壁を有する溶融タンクなどでの高周波加熱が含まれ得る。溶融タンクの壁は、水などの冷却剤を使用して冷却することができる。冷却には、溶融タンク壁内の流路に冷却剤を流すことが含まれ得る。溶融タンク壁の冷却は、溶融タンク壁材料の腐食が低減されるという利点を有している。
【0023】
方法は、融液から気泡を除去することを含む。融液からの気泡の除去は、溶融タンク内で行うことができ、任意選択的には例えば別の槽の中などの溶融タンクの外で行うこともできる。別個の槽は清澄槽であってよい。気泡は、化学的および/または物理的方法を使用して融液から除去することができる。一実施形態では、融液から気泡を除去することは、気泡が溶融タンク内のガラス融液表面に上昇することを含む。複数の実施形態では、気泡はガラス融液表面まで上昇することによって溶融タンク内の融液から除去され、その後、別の槽でさらなる気泡除去が行われる。本発明の改善された方法のため、溶融タンク内での気泡除去は、ガラス製品における優れた気泡品質の達成に寄与する。複数の実施形態では、この方法は、溶融タンクから製造されたガラスを抜き出した後、溶融タンク内および/または別個の清澄槽内の融液から気泡を除去する工程を含む。清澄槽内のガラス融液の温度は、溶融タンク内のガラス融液の最高温度よりも高くてよい。好ましくは、本発明の方法は、融液の真空清澄および/またはバブリングを含まない。
【0024】
方法は、ガラス融液を溶融タンクから抜き出すことを含む。本発明の方法は、ガラス製品の量ではなく品質に焦点を当てた比較的低スループットの方法である。一実施形態では、ガラス融液は、24時間あたり融液体積1m3あたり2.0t(t/(m3*24h))以下の速度で溶融タンクから抜き出される。これは、1日あたり、溶融タンク内に存在するガラス融液1m3あたり2.0t以下のガラス融液が溶融タンクから抜き出されること(「抜き出し速度」)を意味する。任意選択的には、抜き出し速度は、1.5t/(m3*24h)未満、1.3t/(m3*24h)未満、1.1t/(m3*24h)未満、または0.9t/(m3*24h)未満である。一実施形態では、抜き出し速度は少なくとも0.1t/(m3*24h)、少なくとも0.3t/(m3*24h)、または少なくとも0.5t/(m3*24h)である。
【0025】
本発明の方法は、ガラス製品を得ることを含む。任意選択的には、ガラス製品はガラス1キログラムあたり20個未満の気泡を有し得る。好ましい実施形態では、ガラス製品は、ガラス1キログラムあたり10個未満、5個未満、3個未満、または2個未満の気泡を有する。
【0026】
方法は、1つ以上の熱源を使用してガラス融液を加熱することを含む。一実施形態では、熱源はガラス融液と接触する電極を含む。電極は、白金、イリジウム、タングステン、モリブデン、または酸化スズなどの金属、合金、または金属酸化物を含むか、またはそれらからなることができる。代わりにまたは追加的に、熱源は、ガスバーナーおよび/またはマイクロ波ヒーターなどのバーナーを含む。ガスは天然ガスであってよい。複数の実施形態では、バーナーに使用されるガスは、バイオ燃料(例えばバイオガス)および/または水素、特に再生可能資源から得られる水素などの非化石ガスを含むか、またはそれらからなる。好ましい実施形態では、化石燃料の燃焼から得られる熱エネルギーの量は、融液に導入される熱エネルギーの総量に対して10.0%未満、5.0%未満、または1.0%未満である。
【0027】
一実施形態では、ガラス製品の二酸化炭素フットプリントは、ガラス1kgあたり500g未満のCO2である。別の実施形態では、ガラス製品の二酸化炭素フットプリントは、ガラス1kgあたり400g未満、300g未満、200g未満、100g未満、さらには0gのCO2である。例えば、二酸化炭素フットプリントがゼロのガラス製品は、再生可能資源のみからのエネルギー、例えば再生可能資源由来のバイオ燃料、水素、または電気を使用して製造することができる。二酸化炭素フットプリントとは、GHGプロトコルによるスコープ1排出から生じるCO2排出量を指す。本明細書との関係においては、これは、化石燃料の燃焼によって引き起こされ、ガラス製品の製造中に炭素を含む原料によって放出される、ガラス材料1kgあたりのCO2排出量を指す。任意選択的には、本発明の方法で使用される原料は炭酸塩を含まない、すなわち、炭酸塩は原料中に不純物として存在する可能性があるが(<0.1重量%)、それらは意図的に組成物に添加されない。
【0028】
表面を加熱することによって融液に導入される熱エネルギーの量は、融液に導入される熱エネルギーの総量に対して40.0%未満であってよい。任意選択的には、この値は、30.0%未満、25.0%未満、15.0%未満、または5.0%未満、または1.0%未満、さらには0%であってよい。
【0029】
複数の実施形態では、融液表面を加熱することが、1つ以上のマイクロ波ヒーターを使用して表面を加熱すること、および/またはバイオ燃料および/または水素を燃焼させることを含む。融液本体を直接加熱することは、電極加熱を含み得る。
【0030】
ガラス融液は、ガラス融液の少なくとも一部が102.5dPas以下の粘度を有するように加熱される。任意選択的には、ガラス融液の少なくとも一部は、102.3dPas以下の粘度を有することができる。好ましくは、ガラス融液粘度は5dPas以上、または10dPas以上である。ガラスを非常に低い粘度まで加熱することは、短絡ガラス流のリスクが高まり、溶融タンクの壁の浸食が増加するため、好ましくない。さらに、低い粘度は非常に高い温度に対応し、これは消費電力の点で好ましくない。任意選択的には、ガラス融液本体内のガラス融液の最低粘度は10dPas以上である。
【0031】
ガラスの加熱は、融液表面を加熱することおよび/またはガラス融液本体を直接加熱することを含む。一実施形態では、加熱は、ガラス融液本体を直接加熱すること、またはその代わりに融液表面を加熱し、ガラス融液本体を直接加熱することを含む。高粘度ガラス組成物の高品質ガラス製品を得るためには、融液表面の加熱とガラス融液本体の加熱との間の適切なバランスが有益であることが見出された。本開示で述べるように、ガラス融液表面の加熱とガラス融液本体の加熱とのバランスをとることにより、ガラス融液表面上の位置と、上記位置の垂直方向下方の溶融タンク底部の位置との間の最大ガラス融液密度差を減少させることができる。
【0032】
ガラス融液本体に直接導入される熱エネルギーの量は、融液に導入される熱エネルギーの総量の60%超である。これは、溶融タンク内の融液に導入される熱エネルギーを指す。熱エネルギーの導入は、ガラス溶融設備の任意選択的な清澄槽または他の任意選択的な部分では異なる場合がある。好ましい実施形態では、本明細書で説明される熱エネルギーの導入は、複合溶融タンク内の任意選択的な清澄槽および/または清澄セクションにも同様に適用することができる。一実施形態では、ガラス融液に直接導入される熱エネルギーの量は、融液に導入される熱エネルギーの総量の70%超、76%超、80%超、または90%超である。任意選択的には、融液に導入される熱エネルギーの総量の99%超、または本質的に全てが、ガラス融液本体に直接導入される。一実施形態では、全ての熱エネルギーが融液に直接導入される。すなわち、ガラス融液表面の加熱は行われない。熱エネルギー導入の正確なバランスは、ガラス融液の特性、例えばガラス融液密度の温度依存性およびVFTパラメータなどの粘度特性に依存する。一実施形態では、最大密度差は、加熱エネルギーの導入が望まれる密度差を達成するのに十分に均一になるように、溶融タンクの容積全体にわたって電極を分布させることによって低減することができる。例えば、溶融タンクの底部近傍の領域が低温すぎる場合、より多くの熱エネルギーがその低温の地点に到達するように電極を配置することができる。あるいは、低温の地点が表面により近い場合には、低温の地点が生じるのを防止するために、融液の底部から表面までの範囲にわたるより長い電極を使用することができる。一実施形態では、溶融タンクは複数の電極を含む。例えば、ガラス融液表面の表面積に応じて電極の数を規定することができる。一実施形態では、溶融タンクは、ガラス融液表面1m2あたり少なくとも1.0個の電極を含む。複数の実施形態では、ガラス融液表面1m2あたりの電極の数は、少なくとも2.0、少なくとも3.0、または少なくとも6.0であってよい。任意選択的には、ガラス融液表面の面積あたりの電極の数は、最大8.0個/m2または最大7.0個/m2の範囲であってよい。任意選択的には、均一な熱分布が達成されるように熱源を配置することができる。
【0033】
例えば、ガラス融液の熱吸収は、最もよい結果を達成するために望まれる熱エネルギー導入のバランスに影響を及ぼす可能性がある。熱吸収がより大きいガラス融液には、ガラス融液の直接加熱の割合をより高くすることが適切な場合がある。一実施形態では、ガラス融液の熱吸収係数(1600℃におけるκ)は、少なくとも8.0m-1、任意選択的には最大60.0m-1であり、ガラス融液に直接導入される熱エネルギーの量は、60%超、または70%超である。一実施形態では、ガラス融液の熱吸収係数(1600℃におけるκ)は、少なくとも10.0m-1、少なくとも12.0m-1、または少なくとも14.0m-1である。加えて、または代わりに、ガラス融液の熱吸収係数(1600℃におけるκ)は、最大55.0m-1、最大45.0m-1、または最大40.0m-1である。
【0034】
溶融タンクにおいて、ガラス融液表面上の位置の温度と、上記位置の垂直方向下方の溶融タンク底部の位置の温度との間の最大差は、上記温度に対応するガラス融液密度の差が、2つの位置間の距離1mあたり0.05g/cm3未満になるような差である(「最大密度差」)。この「最大密度差」は、溶融タンク内の表面と下の底部にあるその垂直方向下方の、任意の2つの記載の位置の間の差が、示されているよりも大きくないことを意味する。前述したように、垂直方向の密度差を最小限に抑えることは、溶融タンク内での短絡ガラス流を低減または完全に防止するのに役立ち、これは最終的にはこの方法を使用して得られる製品の品質を向上させる。好ましくは、密度差は、0.04g/cm3未満、0.03g/cm3未満、または0.02g/cm3未満である。特定の実施形態では、少なくとも0.001g/cm3、または少なくとも0.005g/cm3など、限定的な密度差は避けられないことがある。「最大密度差」は、位置の間の差の大きさに関係する。すなわち、表面の密度は底部の密度より高くても低くてもよい。代わりにまたは加えて、「最大密度差」は、溶融タンクの最初の半分、すなわち、溶融タンクをその長手方向軸に対して垂直な断面で(概念的に)分割した後の原料入口を含む溶融タンクの半分に適用される。
【0035】
代わりにまたは加えて、ガラス融液表面の最も高温の位置の温度と、上記最も高温の位置の垂直方向下方の溶融タンク底部の位置の温度との間の差は、上記温度に対応するガラス融液密度の差が、2つの位置間の距離1mあたり0.04g/cm3未満となるような差である(「密度差」)。前述したように、溶融タンク内の垂直方向の密度差を最小限に抑えることは、溶融タンク内での短絡ガラス流を低減または完全に防止するのに役立ち、このことは、最終的にはこの方法を使用して得られる製品の品質を向上させる。好ましくは、密度差は0.03g/cm3未満、0.025g/cm3未満、または0.02g/cm3未満である。特定の実施形態では、少なくとも0.001g/cm3、または少なくとも0.005g/cm3など、限定的な密度差は避けられないことがある。「密度差」は、位置の間の差の大きさに関係する。すなわち、表面の密度は底部の密度より高くても低くてもよい。温度分布、ひいては密度分布は、望まれるサイズと形状の電極を使用して達成することができる。例えば、ガラス融液表面近くでより多くの熱エネルギーが必要な場合には、より長い電極を使用することができる。一実施形態では、融液の加熱は、溶融タンクの底部から少なくとも50%のガラス融液の深さまで、好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも80%のガラス融液の深さまで上方に延びる1つ以上の電極を用いて加熱することを含み得る。任意選択的には、1つ以上の電極は、溶融タンクの底部からガラス融液の深さの最大100%、最大95%、または最大90%延びていてよい。任意選択的には、1つ以上の電極は、溶融タンクの底部からガラス融液の深さの50%~100%、60%~95%、または70%~90%延びていてよい。
【0036】
一実施形態では、溶融タンクは、ガラス融液の加熱中にガラス融液と接触する電極表面を有し、これは「電極表面積」と呼ばれる。「総電極表面積」は、溶融タンク内の全ての電極の表面積の合計である。この値は、ガラス融液体積1m3あたり少なくとも0.15m2、ガラス融液体積1m3あたり少なくとも0.2m2、またはガラス融液体積1m3あたり少なくとも0.25m2であってよい。任意選択的には、総電極表面積は、ガラス融液体積1m3あたり最大1.5m2、または1m3あたり最大1.25m2の範囲であってよい。
【0037】
ガラス融液が102dPasの粘度を有する温度を、本明細書では温度T2と呼ぶ。同様に、ガラス融液が104dPasの粘度を有する温度を、本明細書では温度T4と呼ぶ。ソーダ石灰ガラスや他のガラス組成物など、アルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物を多く含むガラス組成物については、温度T2は1500℃未満である。本発明で使用されるガラス組成物は、はるかに高いT2温度および/またはT4温度を有する。本開示の方法中の溶融タンク内のガラス融液のT2温度は、1580℃超、好ましくはさらには1600℃超または1620℃超である。複数の実施形態では、ガラス組成物のT2温度は、1800℃未満、1750℃未満、または1700℃未満であってよい。T2温度が非常に高いガラス組成物は加工が非常に困難であり、溶融に多くのエネルギーを必要とする。
【0038】
本開示の方法中の溶融タンク内のガラス組成物のT4温度は1000℃超、好ましくはさらには1050℃超または1120℃超である。複数の実施形態では、ガラス組成物のT4温度は、1400℃未満、1350℃未満、または1300℃未満であってよい。T4温度が非常に高いガラス組成物は加工が非常に困難であり、溶融に多くのエネルギーを必要とする。
【0039】
高融点ガラス組成物は高い溶融温度を必要とするため、壁材料の過度の腐食を防止するために溶融タンク壁の大幅な冷却が必要となる場合がある。溶融タンクを大幅に冷却すると、融液流粘度が大幅に加速され、短絡ガラス流のリスクが増加するため、ガラス融液流に悪影響がある場合がある。
【0040】
溶融タンク内の最小滞留時間は、少なくとも10時間、少なくとも12時間、または少なくとも14時間に設定できることが見出された。十分な滞留時間は高品質のガラス製品を製造するために有用である。任意選択的には、最小滞留時間は、最大70時間、最大65時間、または最大60時間であってよい。加えて、または代わりに、平均滞留時間は48時間±12時間であってよい。滞留時間が長いとガラス製品の二酸化炭素フットプリントが増加することを考慮すると、長すぎる滞留時間は望ましくない。一実施形態では、最小滞留時間は平均滞留時間の少なくとも20%である。任意選択的には、最小滞留時間は、平均滞留時間の少なくとも25%、少なくとも35%、または少なくとも45%であってよい。当然、平均滞留時間に対する最小滞留時間の比率が高いほど、プロセスのエネルギー効率は高くなるであろう。本発明の方法は、平均滞留時間に対する最小滞留時間の望ましい比率、例えば20%~100%、または最大90%、最大80%、もしくは最大70%を達成するのに役立つ。
【0041】
溶融タンクは、様々な耐熱性材料から製造することができる。一実施形態では、溶融タンクの底板および/または壁は、耐火材料を含むか、または耐火材料からなる。耐火材料は、セラミック材料、金属材料、またはそれらの組み合わせであってよい。適切な金属は白金である。白金は非常に高価であり、攻撃的な融液成分により溶解すると融液を汚染する可能性がある。好ましい実施形態では、耐火材料は、白金および/または他の金属を含まないか、または白金および/または他の金属から構成されない。一実施形態では、耐火材料は、酸化物セラミック、すなわち金属酸化物などの1種以上の酸化物を含むか、またはそれらからなる材料である。好ましくは、耐火材料は、少なくとも1400℃、少なくとも1600℃、さらには少なくとも1700℃までの耐熱性を有する。「耐熱性」は、この文脈では、耐火材料が示された温度を超える融点または融解範囲を有することを意味する。一実施形態では、耐火材料は、ZrO2、Al2O3、SiO2、およびそれらの組み合わせから選択される。
【0042】
本明細書に開示の方法は、1700℃で少なくとも1.5Ωcmの抵抗率を有するガラス融液に使用することができる。最小限の抵抗率は、効果的な加熱と電流の低減に有用である。任意選択的には、ガラス融液の抵抗率は、最大30Ωcm、最大25Ωcm、または最大20Ωcmの範囲であってよい。一実施形態では、ガラス融液の抵抗率は、少なくとも2.0Ωcm、少なくとも3.0Ωcm、または少なくとも4.0Ωcmであってよい。任意選択的には、ガラス融液の抵抗率は、1.5Ωcm~30Ωcm、2.0Ωcm~25Ωcm、または3.0Ωcm~20Ωcmの範囲であってよい。
【0043】
ガラス融液への熱エネルギーの導入に応じて、ガラス融液表面上の位置におけるガラス融液の密度は、上記位置の垂直方向下方の溶融タンク底部の位置よりも小さくなり得る。これは、ガラス融液の表面を加熱することによって、かなりの量の熱エネルギーがガラス融液に導入される場合に起こり得る。あるいは、ガラス融液の密度は、ガラス融液表面上の位置での方が、上記位置の垂直方向下方の溶融タンク底部の位置でよりも大きくてもよい。言い換えると、「濃度差」と「最大濃度差」は、位置間の差の大きさに関係する。
【0044】
一般的には、密度は温度が低いほど大きくなる。融液の表面に導入される加熱エネルギーと比較して、より多くの熱エネルギーがガラス融液本体に直接導入されるほど、溶融タンクの底部はより高温になる。一実施形態では、ガラス融液本体の加熱は、溶融タンク底部の電極および/または溶融タンクの底板内もしくは底板上の電極を使用して熱を導入することを含む。融液表面でのガラス融液の密度が底部における密度を大幅に超える場合、短絡ガラス流の発生リスクが特に高くなる。一実施形態では、ガラス融液表面の最も高温の位置におけるガラス融液密度は、最も高温の位置の下方の溶融タンクの底部におけるガラス融液密度を、0.045g/cm3以下、0.035g/cm3以下、または0.025g/cm3以下上回る。
【0045】
T4からT2までの温度範囲において、ガラス融液密度の温度依存性が比較的高いガラス組成物が存在することが見出された。この温度範囲は、本明細書で説明されるガラスの溶融および方法に特に関連する。複数の実施形態では、T4からT2までの温度範囲におけるガラス融液密度の温度依存性は、100℃あたり少なくとも9.0mg/cm3であり、任意選択的には100℃あたり最大19.0mg/cm3である。この値は、示された温度範囲内の密度の平均変化に関連し得る。任意選択的には、ガラス融液密度のこの温度依存性は、温度差100℃あたり少なくとも10.0mg/cm3、少なくとも11.0mg/cm3、少なくとも12.0mg/cm3、または少なくとも13.0mg/cm3である。任意選択的には、ガラス融液密度のこの温度依存性は、温度差100℃あたり最大18.0mg/cm3、最大17.0mg/cm3、最大16.0mg/cm3、または最大15.0mg/cm3である。
【0046】
上述したように、本発明の方法は、高粘度ガラス組成物の高品質製品を製造するためのものである。焦点は量ではなく質であり、スループットが低く、そのため溶融タンクのサイズが制限される可能性がある。任意選択的には、ガラス融液表面上の位置と、上記位置の垂直方向下方の溶融タンク底部の位置との間の上記垂直距離は、1250mm未満、または1100mm未満である。加えて、または代わりに、距離は少なくとも750mm、または少なくとも850mmであってよい。複数の実施形態では、ガラス融液表面と溶融タンク底部との間の垂直距離にも同じことが当てはまる。
【0047】
粘度は、例えば回転粘度計、例えば、DIN ISO7884-2:1998-2に記載されているような回転粘度計を使用して測定することができる。粘度の温度依存性は、VFT式(Vogel-Fulcher-Tammann)に従って説明される。VFT式を以下に示す。
lg(η/dPas)=A+B/(t-t0)
VFT式において、tは対象の温度である。A、B、およびt0は、各ガラス組成物に固有のいわゆるVFT定数である。前述したように、本方法で使用されるガラス組成物の粘度挙動は特に重要である。ガラス融液粘度の温度依存性は、VFT式を使用して説明することができる。任意選択的には、ガラス融液は、5,000~9,000Kの範囲のVFT定数Bおよび/または75℃~240℃の範囲のt0を有する。好ましくは、VFT定数Aは、-5.0~0.0である。一実施形態では、Aは、-1.0以下、例えば-4.0~-1.0である。複数の実施形態では、VFT定数Bは、5,000K~9,000K、例えば4,500~8,500Kである。任意選択的には、t0は少なくとも75℃かつ最高240℃であってよく;t0は少なくとも200℃であってよい。
【0048】
本発明は、ガラス製品にも関する。ガラス製品は、本明細書に記載の方法によって得ることができる。したがって、ガラス融液の組成に関連する特性は、ガラス製品の組成にも適宜適用される。
【0049】
ガラス製品は、ガラス1キログラムあたり20個未満の気泡を有し得る。好ましい実施形態では、ガラス製品は、ガラス1キログラムあたり10個未満、5個未満、3個未満、または2個未満の気泡を有する。
【0050】
ガラスは、20℃~300℃の温度範囲において、3.0ppm/K~8.5ppm/K、好ましくは7.0ppm/K未満、または5.5ppm/K未満の熱膨張係数を有し得る。熱膨張係数は、DIN ISO7991:1987による平均線熱膨張係数である。
【0051】
ガラス製品は、シート、ウエハ、プレート、チューブ、ロッド、インゴット、またはブロックであってよい。
【0052】
ガラス組成物は、ホウケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、またはアルミノケイ酸ガラスであってよい。ガラス組成物は、20重量%未満、15重量%未満、12重量%未満、10重量%未満、または5重量%未満の量のアルカリ金属酸化物を含み得る。任意選択的には、ガラス組成物はアルカリ金属酸化物を含まなくてよい。代替の実施形態では、ガラス組成物中のアルカリ金属酸化物の量は少なくとも1重量%であってよい。
【0053】
ガラス組成物は、アルカリ土類金属酸化物を20重量%未満、15重量%未満、12重量%未満、10重量%未満、または5重量%未満の量で含み得る。任意選択的には、ガラス組成物はアルカリ土類金属酸化物を含まなくてよい。代替の実施形態では、ガラス組成物中のアルカリ土類金属酸化物の量は少なくとも1重量%であってよい。
【0054】
ガラス組成物は、少なくとも48重量%、少なくとも55重量%、少なくとも65重量%、少なくとも70重量%、または少なくとも75重量%の量のSiO2を含み得る。任意選択的には、SiO2の量は最大85重量%、最大82.5重量%、または最大80重量%の範囲であってよい。
【0055】
任意選択的には、ガラス組成物は、ガラスセラミックの組成物、すなわち、適切な熱処理によってガラスセラミックにさらに加工できるガラス組成物であってよい。ガラス組成物がガラスセラミックの組成物である場合、組成物はTiO2および/またはZrO2などの核形成剤を含んでいてよい。任意選択的には、TiO2および/またはZrO2の総量は、少なくとも2.0重量%、例えば少なくとも2.5重量%であってよい。ガラス組成物は、例えば少なくとも2.0重量%のLi2Oを含有するリチウムアルミノケイ酸塩ガラス組成物であってよい。
【0056】
ガラス組成物は、1種以上の清澄剤を含み得る。清澄剤は、多価金属酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、およびそれらの組み合わせから選択することができる。一実施形態では、清澄剤は、スズ酸化物、セリウム酸化物、塩化物、硫酸塩、およびそれらの組み合わせから選択される。
【0057】
任意選択的なガラス組成物は、少なくとも1.5重量%、または少なくとも5.0重量%、さらには少なくとも10.0重量%の量のAl2O3を含む。Al2O3の量は、最大23.0重量%、最大20.0重量%、または最大18.0重量%であってよい。特定の実施形態では、Al2O3の量は、1.5重量%~23.0重量%、5.0重量%~20.0重量%、または10.0重量%~18.0重量%の範囲であってよい。
【0058】
加えて、または代わりに、ガラス組成物は、少なくとも0.0重量%、または少なくとも8.0重量%、さらには少なくとも10.0重量%の量のB2O3を含み得る。B2O3の量は、最大20.0重量%、最大16.0重量%、または最大14.0重量%であってよい。特定の実施形態では、B2O3の量は、0.0重量%~20.0重量%、8.0重量%~16.0重量%、または10.0重量%~14.0重量%の範囲であってよい。
【0059】
多くの高粘度ガラス組成物は、多量のSiO2、Al2O3、およびB2O3を含む。任意選択的には、本発明で使用されるガラス組成物は、少なくとも75.0重量%、少なくとも78.0重量%、さらには少なくとも85.0重量%のSiO2、Al2O3、およびB2O3の合計含有量を有する。SiO2、Al2O3、およびB2O3の合計量は、97.0重量%以下、最大93.5重量%、または最大90.0重量%に制限されてよい。任意選択的には、SiO2、Al2O3、およびB2O3の量は、75.0重量%~95.0重量%、78.0重量%~92.5重量%、または85.0重量%~90.0重量%の範囲であってよい。
【0060】
以下の実施形態は、本発明の任意選択的な態様および実施形態を説明する。
【0061】
本発明は、高粘度の融液から高品質のガラス製品を製造する方法を含み、この方法は、
・ガラス原料を加熱してガラス融液を得ること、
・溶融タンク内でガラス融液を加熱することであって、溶融タンクが溶融タンク底部を有し、ガラス融液が本体と融液表面とを有すること、
・融液から気泡を除去すること、
・ガラス融液を、24時間あたり融液体積1m3あたり2.0t以下の速度で溶融タンクから抜き出すこと、
・ガラス1kgあたり20個未満の気泡を有するガラス製品を得ること、
を含み、
ガラス融液の少なくとも一部が102.5dPas以下の粘度を有するように、ガラス融液が1つ以上の熱源を使用して加熱され、
ガラス融液を加熱することが、融液表面を加熱すること、および/またはガラス融液本体を直接加熱することを含み、さらに、ガラス融液本体に直接導入される熱エネルギーの量は、溶融タンク内の融液に導入される熱エネルギーの総量の60%超であり、
ガラス融液表面上の位置における温度と、上記位置の垂直方向下方にある溶融タンク底部の位置における温度との間の最大差は、上記温度に対応するガラス融液密度の差が2つの位置間の距離1mあたり0.05g/cm3未満であるような差であり、
ガラス融液は、1580℃を超える温度で102dPasの粘度を有する。
【0062】
本発明は、高粘度の融液から高品質のガラス製品を製造する方法を含み、この方法は、
・ガラス原料を加熱してガラス融液を得ること、
・溶融タンク内でガラス融液を加熱することであって、溶融タンクが溶融タンク底部を有し、ガラス融液が本体と融液表面とを有すること、
・融液から気泡を除去すること、
・ガラス融液を、24時間あたり融液体積1m3あたり2.0t以下の速度で溶融タンクから抜き出すこと、
・ガラス1kgあたり20個未満の気泡を有するガラス製品を得ること、
を含み、
ガラス融液の少なくとも一部が102.5dPas以下の粘度を有するように、ガラス融液が1つ以上の熱源を使用して加熱され、
ガラス融液を加熱することが、融液表面を加熱すること、および/またはガラス融液本体を直接加熱することを含み、さらに、ガラス融液本体に直接導入される熱エネルギーの量は、溶融タンク内の融液に導入される熱エネルギーの総量の60%超であり、
ガラス融液表面上の最も高温の位置における温度と、上記最も高温の位置の垂直方向下方にある溶融タンク底部の位置における温度との差は、上記温度に対応するガラス融液密度の差が2つの位置間の距離1mあたり0.04g/cm3未満であるような差であり、
ガラス融液は、1580℃を超える温度で102dPasの粘度を有する。
【0063】
本発明は、高粘度の融液から高品質のガラス製品を製造する方法を含み、この方法は、
・ガラス原料を加熱してガラス融液を得ること、
・溶融タンク内でガラス融液を加熱することであって、溶融タンクが溶融タンク底部を有し、ガラス融液が本体と融液表面とを有すること、
・融液から気泡を除去すること、
・ガラス融液を、24時間あたり融液体積1m3あたり1.5t以下の速度で溶融タンクから抜き出すこと、
・ガラス1kgあたり5個未満の気泡を有するガラス製品を得ること、
を含み、
ガラス融液の少なくとも一部が102.5dPas以下の粘度を有するように、ガラス融液が1つ以上の熱源を使用して加熱され、
ガラス融液を加熱することが、融液表面を加熱すること、および/またはガラス融液本体を直接加熱することを含み、さらに、ガラス融液本体に直接導入される熱エネルギーの量は、溶融タンク内の融液に導入される熱エネルギーの総量の60%超であり、
ガラス融液表面上の位置における温度と、上記位置の垂直方向下方にある溶融タンク底部の位置における温度との間の最大差は、上記温度に対応するガラス融液密度の差が2つの位置間の距離1mあたり0.05g/cm3未満であるような差であり、
ガラス融液は、1580℃を超える温度で102dPasの粘度を有する。
【0064】
図面の詳細な説明
図1は、底部2と、側壁3と、カバー4(アーチ型)とを有する溶融タンク1の概略的な簡略化された断面図を示す。溶融タンク1は、原料入口(図示せず)および出口(図示せず)をさらに有することができる。溶融タンク1は、熱源としてバーナー6および複数の電極7を有する。溶融タンク内には、ガラス融液表面11を有するガラス融液10がある。ガラス融液表面11は、位置20、すなわちガラス融液表面11上の他の地点と比較して最大の密度差に対応するガラス融液表面11上の地点を有する。溶融タンク1は、位置20の垂直方向下方に位置21を有する。位置20と21との間の距離は、例えば約1メートルであってよい。
【0065】
電極7はガラス融液10を直接加熱する一方で、バーナー6はガラス融液表面11を加熱する。ガラス融液10に直接導入される熱エネルギーの割合は、ガラス融液表面11を介して融液に導入される熱エネルギーの量を超えてよい。複数の実施形態では、ガラス融液10に導入される熱エネルギー全体の60%が、電極7を使用してその本体中に直接導入される。任意選択的には、バーナー6は、水素、バイオ燃料、または再生可能資源由来の他の可燃物を燃焼させることができる。
【0066】
一般的には、電極7は任意の形状であってよい。図面では、溶融タンク1の底部2から融液10内に長く延びる棒状の電極7が示されている。
【0067】
図2は、
図1と同様の溶融タンク1の概略的な簡略化された断面図を示す。バーナーの代わりに、溶融タンク1はマイクロ波熱源8を有する。マイクロ波加熱は、例えば電極7を使用してガラス融液10に直接導入されるべき熱エネルギーの量が融液表面11を加熱することによって導入される熱エネルギーの量と比較してかなり大きい場合に、特に興味深い。一実施形態では、電極7を使用してガラス融液10に直接導入される熱エネルギーの量は、少なくとも70%、あるいはそれ以上、例えば75%以上である。
【0068】
図3は、
図1と同様の溶融タンク1の概略的な簡略化された断面図を示す。溶融タンク1には、ガラス融液表面11を加熱するためのバーナーまたは他の熱源がない。その結果、本質的に全ての熱エネルギーが、電極7を使用してガラス融液10に直接導入される。
【0069】
図4は、無アルカリ高粘度ガラス組成物のガラス融液密度の温度依存性を示す。この組成物は、約870℃で約2.3g/cm
3の密度を有する一方で、約1,540℃では密度は約2.2g/cm
3である。したがって、この特定のガラスの温度依存性は100℃あたり約15mg/cm
3である。
【0070】
図5は、アルカリ含有高粘度ガラス組成物のガラス融液密度の温度依存性を示す。この組成物は、約840℃で約2.4g/cm
3の密度を有する一方で、約1,1540℃では密度は約2.3g/cm
3である。したがって、この特定のガラスの温度依存性は100℃あたり約15mg/cm
3である。
【0071】
図6は、融液本体を示す。異なる矢印の大きさは、溶融タンク内のガラス融液流の速度を示し、より小さい矢印はより遅い速度に関連し、より大きい矢印はより速い融液流の速度に関連する。「左」および「右」という表示は、
図6および7のみを参照して理解されるべきである。
【0072】
融液流の粘度は、1550℃で2.5g/cm3のガラス融液密度に基づいてモデル化した。温度は融液本体の右側で100℃高い。すなわち、Tooは左側では1550℃、右側では1650℃である。これは、右側に清澄セクションを有する溶融タンクの状況に類似している。融液は、1650℃で80Pasの粘度を有すると仮定した。ガラス融液のその他の値は以下の通りに設定した:体積膨張係数β:50ppm/K、比熱容量cp:1400Jkg-1K-1、熱伝導率λeff:150W・m-1K-1、1550℃におけるガラス粘度η:80Pas、外気温27℃における底板の熱貫流率:h=15W/(m2*K)、外気温27℃における側壁の熱貫流率:h=15W/(m2*K)、溶融タンクのカバーによる熱損失:Too(x)へ向かってh=100W/(m2*K)、Too(x)に向かってε=1の放射放出。
【0073】
融液が入口から清澄セクションに流れる際に、融液本体の最初の3分の2では非常に速いガラスの流れが生じる。
【0074】
図7は、
図6に関して説明したものと同じ融液本体を示している。唯一の違いは、追加の電極加熱が融液の左側の入口近くで行われたことである。電極加熱により垂直方向の密度差が減少し、それによって融液流の速度が大幅に減少した。
図7から、追加の電極加熱により垂直方向の温度が減少し、その結果溶融タンクの左側の密度差が減少すると、ガラス融液の流れが融液本体の右側全体ではるかに穏やかになったことが分かる。
【0075】
図8は、本発明の方法を使用してガラス製品へと加工できる4つのガラス組成物の粘度曲線を示している。これらのガラス組成物は、全て1580℃を超えるT2温度と1000℃を超えるT4とを示す。丸は、本発明の例示的な実施形態の方法におけるガラス融液の最高温度を囲んでいる。
【符号の説明】
【0076】
1 溶融タンク
2 溶融タンク底部
3 側壁
4 カバー
6 バーナー
7 電極
8 マイクロ波熱源
10 ガラス融液
11 ガラス融液表面
20 ガラス融液表面の位置
21 20の垂直方向下方の底部における位置
【国際調査報告】