(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-18
(54)【発明の名称】N-オキソピリジン化合物の発生を抑制する眼疾患の予防または治療用点眼組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/454 20060101AFI20240311BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240311BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240311BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
A61K31/454
A61P27/02
A61K9/08
A61K47/20
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558385
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(85)【翻訳文提出日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 IB2022052631
(87)【国際公開番号】W WO2022201044
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0038356
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513217229
【氏名又は名称】サムジン ファーマシューティカル カンパニー,リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】517423811
【氏名又は名称】アプタバイオ セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APTABIO THERAPEUTICS INC.
【住所又は居所原語表記】Tower-A0504,13,Heungdeok 1-ro,Giheung-gu,Yongin-si,Gyeonggi-do 16954,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】キ,ミンヒョ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジンチョル
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ミファ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ドンハ
(72)【発明者】
【氏名】ムン,ソンファン
(72)【発明者】
【氏名】イ,スジン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD56S
4C076FF12
4C076FF36
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC36
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA58
4C086NA03
4C086NA14
4C086ZA33
(57)【要約】
本発明は、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物またはその薬学的に許容される塩から選択される有効成分を含み、抗酸化剤を含み、有効成分のN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する点眼製剤に関し、本発明に係る点眼剤は、安定性および安全性に優れ、眼球内へ直接注射することなく点眼だけで後眼部疾患を含む眼疾患の予防または治療に優れた効力を示す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、下記化学式2で表されるN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する、眼疾患の予防または治療用点眼剤。
[化学式1]
[化学式2]
【請求項2】
前記点眼剤は、さらに抗酸化剤を含む、請求項1に記載の眼疾患の予防または治療用点眼剤。
【請求項3】
下記化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、
システイン、N-アセチルシステインおよびモノチオグリセロールから選択される一つ以上の抗酸化剤を含む、眼疾患の予防または治療用点眼剤。
[化学式1]
【請求項4】
下記化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、
モノチオグリセロールを抗酸化剤として含む、眼疾患の予防または治療用点眼剤。
[化学式1]
【請求項5】
前記薬学的に許容される塩は、塩酸塩である、請求項1~4のいずれか1項に記載の眼疾患の予防または治療用点眼剤。
【請求項6】
前記抗酸化剤を、前記点眼剤の総重量に対して約0.1~5.0重量%含む、請求項2~4のいずれか1項に記載の眼疾患の予防または治療用点眼剤。
【請求項7】
前記点眼剤は、下記化学式2で表されるN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する、請求項3および4のいずれか1項に記載の眼疾患の予防または治療用点眼剤。
[化学式2]
【請求項8】
前記点眼剤は、温度約25℃および相対湿度約60%の条件で約6ヶ月間保管した後も、前記化学式2で表されるN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する、請求項7に記載の眼疾患の予防または治療用点眼剤。
【請求項9】
前記眼疾患は、後眼部疾患である、請求項1~4のいずれか1項に記載の眼疾患の予防または治療用点眼剤。
【請求項10】
前記後眼部疾患は、糖尿病性網膜症(DR)、糖尿病性黄斑浮腫、加齢黄斑変性(Age-related Macular Degeneration)、急性黄斑神経網膜症(Acute macular neuroretinopathy)、未熟児網膜症(ROP)、ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy)、虚血性増殖性網膜症(ischemic proliferative retinopathy)、網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa)、錐体ジストロフィ(cone dystrophy)、ベーチェット病(Behcet’s disease)、網膜障害(Retinal disorders)、増殖性硝子体網膜症(PVR)、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、網膜炎、ブドウ膜炎、レーベル遺伝性視神経症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、血管新生緑内障、網膜血管新生および脈絡膜血管新生(CNV)、後眼部の外傷、放射線網膜症、網膜前膜、網膜静脈分枝閉塞症、前部虚血性視神経症、非網膜症糖尿病性網膜機能不全、および緑内障からなる群から選択される1種以上である、請求項9に記載の眼疾患の予防または治療用点眼剤。
【請求項11】
下記化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、下記化学式2で表されるN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する点眼剤を、治療を必要とする対象に投与するステップを含む、眼疾患の予防または治療方法。
[化学式1]
[化学式2]
【請求項12】
下記化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、下記化学式2で表されるN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する点眼剤の、眼疾患の予防または治療のための使用 。
[化学式1]
[化学式2]
【請求項13】
眼疾患の予防または治療用薬剤の製造のための、下記化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、下記化学式2で表されるN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する眼科用組成物の使用。
[化学式1]
[化学式2]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩から選択される有効成分を含む点眼製剤に関し、長期間保管時にN-オキソピリジン化合物の発生を最小限に抑える組成物であることを特徴とする。本発明に係る点眼組成物は、保管安定性および安全性に優れ、眼疾患の予防または治療のために眼球内へ直接注射することなく点眼だけで前眼部はもちろん後眼部まで有効成分が到達して、眼疾患の予防または治療に優れた効力を示す。
【背景技術】
【0002】
本発明が目的とする眼疾患は、眼または眼の一部もしくは眼の特定領域に影響を及ぼしたり関与したりする疾患である。中でも前眼部疾患は、結膜、角膜、前眼房、虹彩、後眼房、水晶体または水晶体嚢、および前眼領域に生じる疾患である。そして、後眼部疾患は、脈絡膜または強膜、硝子体、硝子体房(vitreous chamber)、網膜、視神経、および後眼領域または部位を通過する血管および神経などの後眼領域に生じる疾患である。
【0003】
眼疾患に適用可能な製剤という観点からみると、眼球は、複雑な組織で構成されているため、点眼だけで薬理活性成分を眼球組織内に送達するには限界がある。このため、角結膜関連疾患の治療剤以外は、後眼部を含む眼疾患に点眼剤の形態で使用されている製品は現在までなく、眼球内注射(intravitreal injection)、眼周囲注射(periocular injection)、強膜下注射(transscleral injection)など、すべて注射による投与方法が用いられている。
【0004】
近年開発された後眼部網膜疾患の治療を目的とするアイリーアやルセンティスなどの薬剤も、これらの眼球内注射による投与方法のみが選択可能であるため、頻繁な投与が難しく、繰り返される注射によって患者の順応度が低く、出血、痛み、感染、炎症、網膜剥離などの副作用を伴い、ひどい場合は注射によって失明に至る危険性まで存在する。また、上記問題のため患者の順応度が低く、眼球組織へ直接注射することに対する強い抵抗感から5年以上治療を継続することが難しく、後眼部疾患を治療するための点眼剤の開発が求められている。
【0005】
そこで本発明は、これらの眼疾患の治療において、服薬利便性を有しており、患者の抵抗感を解消することにより後眼部疾患に対しても優れた治療効果を示す3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールを含む新規点眼剤を提供したいと考えた。
【0006】
これに関連する先行技術として、特許文献1には骨粗鬆症の予防および治療用組成物が記載されており、特許文献2には腎疾患の予防または治療用組成物が記載されており、有効成分として本発明のピラゾール系化合物が明示されている。しかしながら、ピラゾール系化合物(3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール)の点眼薬としての使用については言及されておらず、先行文献に明示されている骨粗鬆症および腎疾患の治療に点眼剤を使用した例は皆無である。そして、特許文献3には眼疾患の予防および治療剤のためのピラゾール系化合物の用途について記載されているが、全ての実験例や実施例において眼球内への直接注射により試験が行われており、点眼剤の組成に関する内容も特に記載されていない。さらに、本発明で見出された3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールを液状で6ヶ月以上長期保管した際にN-オキソピリジン化合物が大量に増加する現象は確認されておらず、これを解決するための手段を提示する本発明の点眼剤組成物とは相違がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】大韓民国登録特許 第10-1280160号
【特許文献2】大韓民国登録特許 第10-1633957号
【特許文献3】大韓民国登録特許 第10-1821593号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、長期保存安定性に優れ、眼疾患の治療に有効性を示す3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物の点眼剤を提供することである。
【0009】
また、本発明のもう一つの目的は、患者の服薬順応度が高いだけでなく、抗酸化剤を一つ以上含んで保存安定性および安全性に優れ、眼疾患治療剤として有効に用いられる点眼剤を提供することである。
【0010】
また、本発明のもう一つの目的は、長期安定性および安全性が確保された組成物を眼球内へ直接注射することなく点眼だけで、既存の眼球内注射法により投与される抗VEGF薬物と類似するか、またはより優れた効果を示し、黄斑変性などの後眼部眼疾患患者に対しても順応度に優れた新しい治療選択肢を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的を達成するための方法は以下の通りである。本発明で開示された様々な要素の全ての組み合わせが本発明の範囲に属するが、下記具体的な説明によって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0012】
本発明は、下記化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩から選択される有効成分を含み、下記化学式2で表されるN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する眼疾患の予防または治療用点眼剤を提供する。
[化学式1]
[化学式2]
【0013】
本発明に係る点眼剤は、長期間の使用期間中に急激に増加する可能性のあるN-オキソピリジン化合物の発生を最小限に抑え、優れた安定性を保持することができる。
【0014】
前記眼疾患の予防または治療用点眼剤は、さらに抗酸化剤を含んでいてもよい。
【0015】
一実施形態によると、本発明は、下記化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、システイン、N-アセチルシステインおよびモノチオグリセロールから選択される一つ以上の抗酸化剤を含む、眼疾患の予防または治療用点眼剤を提供する。
[化学式1]
【0016】
一実施形態によると、本発明は、下記化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、モノチオグリセロールを抗酸化剤として含む、眼疾患の予防または治療用点眼剤を提供する。
[化学式1]
【0017】
本発明において、前記3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールの薬学的に許容される塩は、塩酸塩であってもよい。
【0018】
本発明において、前記点眼剤は、抗酸化剤を前記点眼剤の総重量に対して約0.1~5.0重量%含んでいてもよい。
【0019】
本発明において、前記点眼剤は、下記化学式2で表されるN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有していてもよい。
[化学式2]
【0020】
前記点眼剤は、温度約25℃および相対湿度約60%の条件で約6ヶ月間保管した後も、前記化学式2で表されるN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有し得る。
【0021】
本発明において、前記眼疾患は、後眼部疾患であってもよい。前記後眼部疾患は、糖尿病性網膜症(DR)、糖尿病性黄斑浮腫、加齢黄斑変性(Age-related Macular Degeneration)、急性黄斑神経網膜症(Acute macular neuroretinopathy)、未熟児網膜症(ROP)、ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy)、虚血性増殖性網膜症(ischemic proliferative retinopathy)、網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa)、錐体ジストロフィ(cone dystrophy)、ベーチェット病(Behcet’s disease)、網膜障害(Retinal disorders)、増殖性硝子体網膜症(PVR)、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、網膜炎、ブドウ膜炎、レーベル遺伝性視神経症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、血管新生緑内障、網膜血管新生および脈絡膜血管新生(CNV)、後眼部の外傷、放射線網膜症、網膜前膜、網膜静脈分枝閉塞症、前部虚血性視神経症、非網膜症糖尿病性網膜機能不全、および緑内障からなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0022】
本発明に係る点眼剤を液状で約6ヶ月以上長期保管した際に、特異的に本発明の有効成分である3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールが効力のない副産物であるN-オキソピリジン化合物に10~30%まで大量変換される問題が見つかった。本発明の組成物の安全性を確認するために行った前臨床毒性試験では、N-オキソピリジン化合物の量が約3%を超えないように管理された組成物で試験が行われ、N-オキソピリジン化合物の量が約3%を上回る場合、安全性に問題が引き起こされる。また、一般的な医薬品の安定性および品質管理の側面でも、多量の不純物が時間の経過とともに継続的に増加することは好ましくない。したがって、本発明の有効成分である3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールの副産物であるN-オキソピリジン化合物が約3%を超える組成物は、安全性および安定性の観点から医薬品としての使用が不可能であるため、本発明の点眼剤が医薬品として開発されるためには、N-オキソピリジン化合物を最小限に抑える組成物の開発が核心的に求められる。特に、点眼剤の特性上、長期間液状として保存される必要があることを考慮すれば、点眼液中のN-オキソピリジン化合物を最小限に抑える新たな組成物の開発が必要である。
【0023】
本発明の新規点眼組成物は、不純物であるN-オキソピリジン化合物の生成を効果的に抑制することを確認し、これにより安定性および安全性に優れた点眼剤を開発することができた。そして、長期安定性が確保された本発明の組成物は、動物試験を通じて点眼投与だけでも眼球内注射による既存の治療剤と比較して同等以上の優れた後眼部治療効果を示すことを確認した。
【0024】
これにより、本発明の組成物が後眼部疾患を含む眼疾患の予防または治療用点眼剤として使用可能であることを確認した。
【0025】
(1)本発明において、眼疾患の予防または治療用点眼剤は、下記化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、下記化学式2で表されるN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する。
[化学式1]
[化学式2]
【0026】
(2)前記(1)において、前記点眼剤は、さらに抗酸化剤を含む。
【0027】
(3)本発明において、眼疾患の予防または治療用点眼剤は、下記化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、システイン、N-アセチルシステインおよびモノチオグリセロールから選択される一つ以上の抗酸化剤を含む。
[化学式1]
【0028】
(4)本発明において、眼疾患の予防または治療用点眼剤は、下記化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、モノチオグリセロールを抗酸化剤として含む。
[化学式1]
【0029】
(5)前記(1)、(2)、(3)または(4)において、前記薬学的に許容される塩は、塩酸塩である。
【0030】
(6)前記(2)、(3)、(4)または(5)において、前記点眼剤は、前記抗酸化剤を前記点眼剤の総重量に対して約0.1~5.0重量%含む。
【0031】
(7)前記(3)、(4)、(5)または(6)において、前記点眼剤は、下記化学式2で表されるN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する。
[化学式2]
【0032】
(8)(2)、(3)、(4)、(5)、(6)または(7)において、前記点眼剤は、温度約25℃および相対湿度約60%の条件で約6ヶ月間保管した後も、前記化学式2で表されるN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する。
【0033】
(9)(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)または(8)において、前記眼疾患は、後眼部疾患である。
【0034】
(10)(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)または(9)において、前記後眼部疾患は、糖尿病性網膜症(DR)、糖尿病性黄斑浮腫、加齢黄斑変性(Age-related Macular Degeneration)、急性黄斑神経網膜症(Acute macular neuroretinopathy)、未熟児網膜症(ROP)、ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy)、虚血性増殖性網膜症(ischemic proliferative retinopathy)、網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa)、錐体ジストロフィ(cone dystrophy)、ベーチェット病(Behcet’s disease)、網膜障害(Retinal disorders)、増殖性硝子体網膜症(PVR)、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、網膜炎、ブドウ膜炎、レーベル遺伝性視神経症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、血管新生緑内障、網膜血管新生および脈絡膜血管新生(CNV)、後眼部の外傷、放射線網膜症、網膜前膜、網膜静脈分枝閉塞症、前部虚血性視神経症、非網膜症糖尿病性網膜機能不全、および緑内障からなる群から選択される1種以上である。
【0035】
(11) 本発明において、 (1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)または(10)に記載の点眼剤を、治療を必要とする対象に投与するステップを含む、眼疾患の予防または治療方法。
【0036】
(12)本発明において、眼疾患の予防または治療用(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)または(10)に記載の点眼剤の使用 。
【0037】
(13)本発明において、眼疾患の予防または治療用薬剤の製造のための(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)または(10)に記載の点眼剤の使用。
【0038】
以下、本明細書において「有効成分」は、特に言及しない限り、「3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩」を意味する。
【0039】
本発明において、薬学的に許容される塩は、医薬業界で通常用いられる塩を意味し、例えば、カルシウム、カリウム、ナトリウム、およびマグネシウムなどで製造された無機イオン塩;塩酸、硝酸、リン酸、臭素酸、ヨウ素酸、過塩素酸、錫酸、および硫酸などで製造された無機酸塩;酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、安息香酸、フマル酸、マンデル酸、プロピオン酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸、ガラクツロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、グルクロン酸、アスパラギン酸、アスコルビン酸、カルボン酸、バニリン酸、ヨウ化水素酸などで製造された有機酸塩、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、およびナフタレンスルホン酸などで製造されたスルホン酸塩、グリシン、アルギニン、リジンなどで製造されたアミノ酸塩;およびトリメチルアミン、トリエチルアミン、アンモニア、ピリジン、ピコリンなどで製造されたアミン塩などがあるが、これらの塩によって本発明で意味する塩の種類が限定されるものではない。例えば、一実施形態において、薬学的に許容される塩は、塩酸塩であってもよい。
【0040】
本発明は、様々な眼疾患に対して点眼治療ができる組成物を提供するものであり、そのためには点眼剤として液状で有効成分の約6ヶ月以上の安定性は必要不可欠である。本発明の有効成分である3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールは、液状の点眼剤として製造され、長期保存試験の条件下で約6ヶ月以上保管した際に、特異的に特定の不純物が大きく増加することが確認された。そして、当該不純物の構造を確認したところ、有効成分内のピリジン構造にN-オキシド構造が形成される3-フェニル-4-プロピル-1-(N-オキソピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール(以下、N-オキソピリジン化合物)であることを確認した。pH条件を有効成分が安定して保持できる中性領域に調整すればほとんどの不純物を約0.5%以内に管理できるのとは異なり、N-オキソピリジン化合物は、pHを管理しても、有効成分の含有量低下とともに約30%を上回るレベルで大幅に増加することが確認された。
【0041】
N-オキソピリジン化合物は、本発明の有効成分である3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールの構造的特性のため、有効成分内のピリジン構造が、点眼剤の組成に用いられる水または組成物中に存在する酸素と反応して生成される物質であることが確認された。一般的なピリジン構造を有する他の化合物と比べ、本発明の3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールは、液状製剤として長期保管した際に、ピリジン構造が非常に高い割合でN-オキソピリジン化合物に変換された。したがって、本発明の有効成分を可溶化し点眼液として製造するだけでは医薬品として開発することは難しく、N-オキソピリジン化合物の発生を最小限に抑えられる組成物の開発が求められる。特に、本発明の有効成分の前臨床毒性試験によって安全性が確認されたN-オキソピリジン化合物を含む不純物の範囲が約3%未満であることを鑑みると、安全性の確保のためには当該不純物を約3%未満に抑えられる組成物の開発が必要不可欠である。
【0042】
点眼剤のような液状製剤において安全性が確保されない不純物が過剰に生成される場合、有効成分の効力が減少することはもちろん、原因不明の副作用が発生することもあるため、当該不純物に対して基準を設けておくことは非常に重要である。このことを踏まえ、本発明の点眼剤の使用期間中に安全性および安定性を確保するために、N-オキソピリジン化合物の生成を最小限に抑える方法として、本発明の組成物に抗酸化剤を添加した。そして、本発明の一実施形態で用いられた抗酸化剤を含む点眼剤は、当該化合物を含まない点眼剤と比較して、保管期間中に薬物の安定性が格段に改善されたことを確認した。さらに、一実施形態で用いられた抗酸化剤の本発明の有効成分に対する安定化効果は、非常に優れていることが確認できた。
【0043】
本発明で用いられる抗酸化剤は、本発明の有効成分である「3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール」が「3-フェニル-4-プロピル-1-(N-オキソピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール(N-オキソピリジン化合物)」に変換されることを防ぐ役割をする。本発明で使用可能な抗酸化剤としては、システイン(Cysteine)、N-アセチルシステイン(N-acetylcysteine)、ホモシステイン(homocysteine)、グルタチオン(glutathione)、ジチオエリスリトール(1,4-dithioerythritol)、およびモノチオグリセロール(thioglycerol)から選択される一つ以上の化合物を選択してもよいが、これに限定されるものではない。例えば、本発明で使用可能な抗酸化剤は、システイン、N-アセチルシステイン、およびモノチオグリセロールから選択される一つ以上であってもよく、例えば、モノチオグリセロールであってもよい。本発明において、前記抗酸化剤は、組成物の総重量に対して約0.1~5.0(w/v)%含まれることにより、有効成分がN-オキソピリジン化合物に変換されるのを防ぎ、医薬品の長期安定性および安全性を確保することができる。
【0044】
そして、本発明の点眼剤は、さらに、可溶化剤からなる群から選択される1種以上の添加剤を含んでいてもよい。本発明において「可溶化剤」は、水性溶剤における薬物の溶解度を増大させるために用いられる医薬品添加剤であって、溶解補助剤、界面活性剤、包接剤、およびこれらの混合物からなる群から選択してもよい。「溶解補助剤」は、液状として有効成分の溶解度を増大させる添加剤であって、製薬業界で溶剤として用いられる通常の添加剤から選択してもよい。「界面活性剤」は、有効成分を水または水溶液に溶解したときに界面張力を下げるために用いられる物質であって、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、高分子系界面活性剤、およびこれらの混合物からなる群から選択してもよい。「包接剤」は、有効成分を包接して溶解度を増大させる添加剤であって、シクロデキストリン、シクロデキストリン誘導体、およびこれらの混合物からなる群から選択してもよい。
【0045】
一実施形態の点眼剤が可溶化剤を含む場合、溶解補助剤としては、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、ヒマシ油、中鎖脂肪酸(カプリン酸およびカプリル酸)モノ-およびジ-グリセリン、およびこれらの混合物、界面活性剤としては、ポリオキシルヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、およびこれらの混合物、包接剤としては、シクロデキストリン、ヒドロキシアルキル基で置換されたシクロデキストリン、アルキルエーテルで置換されたシクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン、およびこれらの混合物など、従来点眼剤の製造技術に用いられていた添加剤を含んでいてもよいが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0046】
また、本発明の点眼剤は、さらに、増粘剤および保存剤からなる群から選択される1種以上の添加剤を含んでいてもよい。一実施形態の点眼剤が増粘剤および保存剤を含む場合、その種類は特に限定されず、増粘剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロース、ならびにこれらの混合物、保存剤としては、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラオキシ安息香酸メチルおよびパラオキシ安息香酸プロピル、ならびにこれらの混合物など、従来点眼剤の製造技術に用いられていた増粘剤および保存剤を含んでいてもよい。
【0047】
本発明において、目的とする眼疾患は、前眼部疾患および後眼部疾患を含み、好ましくは、後眼部疾患であってもよい。前眼部疾患は、水晶体嚢(lens capsule)の後壁または毛様体筋の前方に位置する眼輪筋、眼瞼、または眼球組織や体液などの前眼領域および部位に影響を及ぼしたり関与したりする疾患である。前眼部疾患は、眼球乾燥症、角膜炎、結膜炎、強膜炎、白内障、瞼裂斑、結膜母斑、太田母斑、および角膜混濁(角膜タトゥー)からなる群から選択される1種以上であるか、またはその他の結膜、角膜、前眼房、虹彩、後眼房、水晶体または水晶体嚢、および前眼領域またはその部位を通過する血管および神経に関連する疾患からなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0048】
後眼部疾患は、糖尿病性網膜症(DR)、糖尿病性黄斑浮腫、加齢黄斑変性(Age-related Macular Degeneration)、急性黄斑神経網膜症(Acute macular neuroretinopathy)、未熟児網膜症(ROP)、ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy)、虚血性増殖性網膜症(ischemic proliferative retinopathy)、網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa)、錐体ジストロフィ(cone dystrophy)、ベーチェット病(Behcet’s disease)、網膜障害(Retinal disorders)、増殖性硝子体網膜症(PVR)、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、網膜炎、ブドウ膜炎、レーベル遺伝性視神経症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、血管新生緑内障、網膜血管新生および脈絡膜血管新生(CNV)、後眼部の外傷、眼レーザー治療によって引き起こされるか、または影響を受ける後眼部疾患、光線力学的療法または光凝固術によって引き起こされるか、または影響を受ける後眼部疾患、放射線網膜症、網膜前膜、網膜静脈分枝閉塞症、前部虚血性視神経症、非網膜症糖尿病性網膜機能不全、緑内障および緑内障によって引き起こされるか、または影響を受ける疾患からなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0049】
実際、代表的な後眼部疾患である黄斑変性および黄斑浮腫治療剤の開発に用いられるCNV誘発動物を用いて長期安定性が確保された本発明の点眼組成物の効力試験を行った結果、点眼だけでも優れた治療効果があることが確認できた。
【0050】
黄斑変性および黄斑浮腫などの失明を伴う後眼部疾患の場合、眼球内注射のように眼球組織への直接的な注射投与が唯一の治療方法として用いられており、注射治療に対する患者の順応度が非常に低く、治療3年目以降からは周期的な眼球内注射投与が上手くなされず、結局徐々に失明に至ることが知られている。このような疾患に対して、安定性および安全性が確保された本発明の点眼組成物を適用すれば、眼球内に直接注射しなければならない従来の後眼部疾患治療剤の注射投与に対する恐怖感、痛み、出血、炎症、および失明など、様々な副作用を改善することができる。また、一実施形態による点眼剤は、患者自らが容易に投与できるという利点があるため、後眼部疾患を含む眼疾患患者に非常に有用である。
【0051】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、抗酸化剤を含み、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物の長期安定性および安全性が確保された点眼剤を提供することができ、注射投与することなく点眼投与だけで前眼部疾患はもちろん後眼部疾患の治療にも使用可能である。
【0052】
前記点眼組成物は、液状点眼剤として製造してもよいが、実施形態がこれに限定されるものではなく、製剤化方法によって軟膏剤、ゲル化剤などに製剤化することができる。
【0053】
本発明は、化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化学式2で表されるN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する点眼剤を、治療を必要とする対象に投与するステップを含む眼疾患の予防または治療方法を提供することができる。
【0054】
本発明は、化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、抗酸化剤を一つ以上含み、N-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する点眼剤を、治療を必要とする対象に投与するステップを含む眼疾患の予防または治療方法を提供することができる。
【0055】
本発明は、化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化学式2で表されるN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する点眼剤の、眼疾患の予防または治療のための使用を提供することができる。
【0056】
本発明は、化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、抗酸化剤を一つ以上含み、N-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する点眼剤の、眼疾患の予防または治療のための使用を提供することができる。
【0057】
本発明は、眼疾患の予防または治療用薬剤の製造のための、化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化学式2で表されるN-オキソピリジン化合物を約3%未満含有する眼科用組成物の使用を提供することができる。
【0058】
本発明は、化学式1で表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩および抗酸化剤を混合するステップを含む点眼剤の製造方法を提供することができる。前記製造方法は、他の添加剤を混合するステップをさらに含んでもよい。
【0059】
本発明において「点眼剤」および「眼科用組成物」は、相互交換して使用してもよい。
【0060】
本発明に係る点眼剤の使用、点眼用組成物の使用、製造方法および前記点眼剤を投与するステップを含む予防または治療方法に関しては、矛盾しない限り前述の点眼剤の説明を同様に適用することができる。
【発明の効果】
【0061】
本発明は、眼疾患の治療に有効性を示す3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物の点眼剤に関し、前記点眼剤は、患者の服薬順応度が高いだけでなく、抗酸化剤を一つ以上含んで保管安定性および安全性に優れており、眼疾患治療剤として有用である。長期安定化および安全性を確保した本発明の組成物は、眼球内へ注射することなく点眼投与だけで、既存の眼球内注射法により投与される抗VEGF薬物と類似するか、またはより優れた効果を示し、黄斑変性などの後眼部疾患患者に対しても順応度に優れた新しい治療選択肢を提供できると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】
図1は、試験例1に基づいて長期安定性試験を行った後に測定された有効成分の含有量変化に関するグラフである。
【
図2】
図2は、試験例1に基づいて長期安定性試験を行った後に測定されたN-オキソピリジン化合物の生成量に関するグラフである。
【
図3】
図3は、試験例2に基づいて本発明の組成物(実施例7)および対照群投与後のFFAを用いて網膜映像評価を行った後、CNV病変の大きさを観察して数値化した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、実施例によって本発明をより詳しく説明する。これらの実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されないことは、当業界において通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0064】
実施例1~6:APX-115点眼液の製造(システインを含む)
有効成分として3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール・塩酸塩(APX-115)とシステイン(cysteine)を含む組成物を下記表1の通りに製造した。
【0065】
エタノール、プロピレングリコールまたは/およびヒマシ油を混合して均質化し、APX-115を入れて溶解した後、ポリオキシル35ヒマシ油またはポリソルベート80を混合して有効成分が溶解された混合液を製造した。緩衝液にヒドロキシプロピルベータデックスおよび抗酸化剤であるシステインを溶解させた後、有効成分が溶解された混合液と均質に混合し、0.22um滅菌フィルターで濾過した。
【0066】
【0067】
本発明において、緩衝液は、無水リン酸二水素ナトリウムおよび無水リン酸ナトリウムを用いており、必要に応じて、0.5N水酸化ナトリウム溶液でpH6.5に調整した。
【0068】
実施例7~12:APX-115点眼液の製造(チオグリセロールを含む)
有効成分として3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール・塩酸塩(APX-115)とチオグリセロール(thioglycerol)を含む組成物を下記表2の通りに製造した。
【0069】
エタノール、プロピレングリコール、ヒマシ油および抗酸化剤であるチオグリセロールを混合して均質化し、APX-115を入れて溶解した後、ポリオキシル35ヒマシ油またはポリソルベート80を混合して有効成分が溶解された混合液を製造した。緩衝液に有効成分が溶解された混合液を均質に混合した液(実施例7および8)またはヒドロキシプロピルベータデックスが溶解された緩衝液に有効成分が溶解された混合液を均質に混合した液(実施例9および10)を0.22um滅菌フィルターで濾過した。
【0070】
【0071】
本発明において、緩衝液は、無水リン酸二水素ナトリウムおよび無水リン酸ナトリウムを用いており、必要に応じて、0.5N水酸化ナトリウム溶液でpH7.2に調整した。
【0072】
実施例13~18:APX-115点眼液の製造(N-アセチルシステインを含む)
有効成分として3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール・塩酸塩(APX-115)とN-アセチルシステイン(N-acetylcysteine)を含む組成物を下記表3の通りに製造した。
【0073】
エタノール、プロピレングリコールまたは/およびヒマシ油を混合して均質化し、APX-115を入れて溶解した後、ポリオキシル35ヒマシ油またはポリソルベート80を混合して有効成分が溶解された混合液を製造した。緩衝液にヒドロキシプロピルベータデックスおよび抗酸化剤であるN-アセチルシステインを溶解させた後、有効成分が溶解された混合液と均質に混合し、0.22um滅菌フィルターで濾過した。
【0074】
【0075】
本発明において、緩衝液は、無水リン酸二水素ナトリウムおよび無水リン酸ナトリウムを用いており、必要に応じて、0.5N水酸化ナトリウム溶液でpH7.8に調整した。
【0076】
比較例1
エタノール、プロピレングリコールまたは/およびヒマシ油を混合して均質化し、APX-115を入れて溶解した後、ポリオキシル35ヒマシ油を混合して有効成分が溶解された混合液を製造した。緩衝液に有効成分が溶解された混合液を均質に混合し、0.22um滅菌フィルターで濾過して、抗酸化剤を含まない組成物(pH7.2)を製造した。
【0077】
試験例1:安定性試験
前記実施例および比較例で製造した溶液を約25℃/約60%RH条件下で保管した。約6ヶ月間APX-115の含有量およびAPX-115が変換して生成されるN-オキソピリジン化合物の生成量を下記条件のHPLC法で測定した。
<分析条件>
-カラム:Kromasil C18(4.6×150mm、5μm)
-カラム温度:30℃
-移動相:20mM Ammonium Formate(pH3.0)/アセトニトリル=20/80(v/v)
-UV測定波長:293nm
-注入量:10μl
【0078】
【0079】
【0080】
本発明の有効成分にシステインを組成した実施例3および4、チオグリセロールを組成した実施例7および9、N-アセチルシステインを組成した実施例13は、液状の点眼剤において非常に効果的に有効成分がN-オキソピリジン化合物に変換されるのを抑制し、約6ヶ月以上の長期安定性試験でも優れた安定性を示した。
【0081】
一方、抗酸化剤を含まない比較例1では、製造後約6ヶ月間の保管期間以内に有効成分の含有量が70%以下に低下し、N-オキソピリジン化合物は20.0%以上発生した(
図1および
図2)。
【0082】
すなわち、本発明に係る点眼組成物は、長期保存条件(約25℃/約60%RH)下でも約1ヶ月以上、約2ヶ月以上、約3ヶ月以上、約4ヶ月以上、約5ヶ月以上および約6ヶ月以上優れた安定性が保持できる。また、本発明に係る点眼組成物は、N-オキソピリジン化合物の発生を約3%未満に保持し長期保管時の安定性が確保されるため、長期間にわたって優れた治療効果を発揮でき、安定性の低下による副作用を最小限に抑えられるため、薬物の安全性も確保することができる。
【0083】
通常業界で許容される点眼剤の主成分含有量の範囲は90~110%であり、本発明の組成物で安全性が確認されたN-オキソピリジン化合物の含有量範囲は約3%未満のレベルであるため、本発明の有効成分は、抗酸化剤とともに組成されれば特異的に長期安定性が確保でき、点眼剤として医薬品開発が可能であることを確認した。
【0084】
試験例2.マウスCNVモデルを用いた点眼組成物の有効性評価
本発明の点眼組成物(実施例7)の脈絡膜血管新生(choroidal neovascularization,CNV)抑制効果を確認するために、本発明の組成物を試験物質とし、プラセボ物質を陰性対照物質(G1)とし、市販の注射剤アイリーア(Eylea(登録商標))を陽性対照物質(G2)として、CNVモデルマウスにおける効力を評価した。
【0085】
陰性対照物質(G1)および試験物質(G3およびG4)は、CNV誘導の翌日から1回5uLの用量で点眼し、陽性対照物質(G2)は、CNV誘導の翌日に36G注射器を用いて1uL(20ug/uL、マウス最大投与量)の用量で硝子体に直接1回注射した。陰性対照物質は、1日3回投与し、試験物質は、1日の投与回数を3回投与群(G3)および6回投与群(G4)に分けて1日の投与回数による効力を比較評価した。具体的には、CNV誘導後12日目に実験動物を全身麻酔した後、蛍光造影剤を腹腔注射し、麻酔点眼剤を眼球に点眼してさらに局所麻酔してから散瞳剤を点眼して散瞳を誘導した後、網膜映像評価を行い、その結果を
図3に示した。
【0086】
試験の結果、本発明の組成物(G3、G4)は、硝子体内に直接注射するアイリーア(Eylea(登録商標))投与群(陽性対照群、G2)と比較して同等以上の効力を示した(
図3)。これは、点眼剤として長期安定性および安全性を確保した本発明の点眼組成物により、眼球内へ直接注射することなく点眼だけで眼の後眼部まで有効成分が到達して、眼疾患の予防または治療に優れた効力を示すことを意味する。
【国際調査報告】