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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-18
(54)【発明の名称】情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/82 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
H01L29/82 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558404
(86)(22)【出願日】2022-03-24
(85)【翻訳文提出日】2023-11-08
(86)【国際出願番号】 EP2022057778
(87)【国際公開番号】W WO2022200504
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】21164676.5
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】312016078
【氏名又は名称】ヨハネス、グーテンベルク-ウニフェルジテート、マインツ
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルナウ,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】クラウイ,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ブレムス,マーティン
【テーマコード(参考)】
5F092
【Fターム(参考)】
5F092AB01
5F092AC30
5F092AD21
5F092BD04
(57)【要約】
本発明は、粒子又は準粒子に対応する、ランダムに動くトークンを評価することによって情報を処理する装置(12)に関し、装置(12)は、入力信号を受信する入力インタフェース(20)と、ランダムに動くトークンのための複数のパスウェイ(30)と、少なくとも1つのジョイン(32)とを支持するキャリア(22)であって、少なくとも1つのジョイン(32)は、2つのパスウェイを接続することと、接続された2つのパスウェイのうちの第1のパスウェイにある第1のトークンがそのジョインを通過することを、接続された2つのパスウェイのうちの第2のパスウェイからの第2のトークンがそのジョイン内に存在したときに許可することと、を行う、キャリア(22)と、複数のパスウェイのうちの少なくとも1つのパスウェイにあるトークンに刺激を印加する励起ユニット(26)であって、この刺激は、トークンの、キャリアにほぼ平行な方向のランダムな動きを増やすように作用する、励起ユニット(26)と、所定の時間又は動的に調節された時間が経過した後に、少なくとも1つのトークンの位置に基づいて出力信号を出力する出力ユニット(28)と、を含む。本発明は更に、環境内の物理現象を検出するセンサシステム(10)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子又は準粒子に対応する、ランダムに動くトークンを評価することによって情報を処理する装置(12)であって、
入力信号を受信する入力インタフェース(20)と、
前記ランダムに動くトークンのための複数のパスウェイ(30)と、少なくとも1つのジョイン(32)とを支持するキャリア(22)であって、前記少なくとも1つのジョイン(32)は、2つのパスウェイを接続することと、前記接続された2つのパスウェイのうちの第1のパスウェイにある第1のトークンが前記ジョインを通過することを、前記接続された2つのパスウェイのうちの第2のパスウェイからの第2のトークンが前記ジョイン内に存在したときに許可することと、を行う、前記キャリア(22)と、
前記入力信号に基づいて前記パスウェイにトークンを挿入する挿入ユニット(24)と、
前記複数のパスウェイのうちの少なくとも1つのパスウェイにあるトークンに刺激を印加する励起ユニット(26)であって、前記刺激は、前記トークンの、前記キャリアにほぼ平行な方向の前記ランダムな動きを増やすように作用する、前記励起ユニット(26)と、
所定の時間又は動的に調節された時間が経過した後に、少なくとも1つのトークンの位置に基づいて出力信号を出力する出力ユニット(28)と、
を含む装置(12)。
【請求項2】
前記装置は、トークンとして(特に磁気スキルミオンとして)ブラウン拡散運動を示す粒子又は準粒子を評価するように構成されている、請求項1に記載の装置(12)
【請求項3】
前記励起ユニット(26)は、前記キャリア(22)に且つ/又は前記複数のパスウェイ(30)のうちの少なくとも1つのパスウェイに電流を印加するパルスユニット(54)を含み、
前記キャリアは、好ましくは、スピントルク効果(特にスピン軌道トルク効果)を可能にする導電材料層(56)を含み、前記導電材料層(56)に前記電流が印加される、
請求項1~2のいずれか一項に記載の装置(12)。
【請求項4】
前記励起ユニット(26)は、前記キャリア(22)に磁界又は磁界勾配を印加する磁界ユニット(58)を含み、
前記磁界ユニットは、好ましくは、前記キャリアの別々の側面に配置された少なくとも2つのコイルを含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の装置(12)。
【請求項5】
前記励起ユニット(26)は、前記キャリア(22)に電界を印加する電界ユニット(62)を含み、
前記キャリアは、前記電界を伝搬させる電気絶縁層(60)(好ましくは高K誘電体材料層)を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の装置(12)。
【請求項6】
前記励起ユニット(26)は、高周波電磁界を発生させる電磁界ユニット(64)を含み、
前記電磁界ユニットは、好ましくはアンテナを含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の装置(12)。
【請求項7】
前記出力ユニット(28)は、前記キャリア(22)上の出力位置(36)における磁化の変化又は磁界の変化を検出する磁気センサ(38)を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の装置(12)。
【請求項8】
前記出力ユニット(28)は、前記キャリア(22)上の出力位置(36)にトークンがあるかどうかを周期的に判定するように構成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置(12)。
【請求項9】
前記キャリア(22)は、半導体ウェーハ(52)上に配置された多層薄膜系(50)を含み、前記ウェーハは、好ましくは絶縁最上層を含み、前記薄膜系は、好ましくは磁化材料を含み、
前記パスウェイ(30)及び前記少なくとも1つのジョイン(32)は、好ましくは、エッチングプロセス及び/又はリソグラフィプロセスにおいて前記多層薄膜系内に製造される、
請求項1~8のいずれか一項に記載の装置(12)。
【請求項10】
前記挿入ユニット(24)は、前記パスウェイ(30)に接続されている入力位置(34)においてトークンを核にする核形成ユニット(25)を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の装置(12)。
【請求項11】
前記入力インタフェース(20)は、前記入力信号をセンサ(14)から受信するように構成されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の装置(12)。
【請求項12】
前記入力インタフェース(20)は、刺激信号を受信するように構成されており、
前記励起ユニット(26)は、前記刺激信号に基づいて前記刺激を印加するように構成されており、
前記励起ユニットは、好ましくは、前記刺激信号に基づいて前記刺激の強度を適応させるように構成されている、
請求項1~11のいずれか一項に記載の装置(12)。
【請求項13】
前記励起ユニット(26)は、環境から電気エネルギを生成する環境発電ユニット(16)に接続されたエネルギ供給源(18)にあるエネルギの量に基づいて前記刺激を印加するように構成されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の装置(12)。
【請求項14】
環境内の物理現象を検出するセンサシステム(10)であって、
請求項1~13のいずれか一項で定義された装置(12)と、
前記環境内の前記物理現象に基づいて前記入力信号を発生させるセンサ(14)と、
を含むセンサシステム(10)。
【請求項15】
前記環境から電気エネルギを生成する環境発電ユニット(16)を含む、請求項14に記載のセンサシステム(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子又は準粒子に対応する、ランダムに動くトークンを評価することによって情報を処理する装置に関する。本発明は更に、情報処理を必要とするマイクロ電子システム(例えば、環境内の物理現象を検出するセンサシステム)に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピューティング装置の小型化が進んでいることから、現代のデジタル電子コンピュータでは熱ゆらぎがますます問題になっている。これらのデバイスや回路のサイズがスケールダウンされていくと、計算のための適切なエネルギ規模が熱ゆらぎのエネルギ規模と同等になり、それによって決定論的挙動が保証されなくなる。ノイズ抑圧やエラー訂正のような、熱ゆらぎの影響に対抗する従来の戦略では、代償として、装置が大きくなり、計算速度が大きく制限され、電力消費が大きくなる。そこで近年では、これらの問題を回避するための、新規な方法による従来にないコンピューティング方式が注目されている。
【0003】
この点における一方式として、いわゆるトークンベースコンピューティングがある。トークンは、計算を実行するために特殊な遷移ルールで回路内を動く不連続な信号キャリアである。ブラウンコンピューティングでは、この動きは、熱ゆらぎによる粒子又は準粒子の確率的ブラウン運動によって起こる。このブラウンコンピューティング(即ちトークンベースコンピューティング)の利点の1つは、電力消費が少ないことである。利用可能な電力が微量しかない場合でも情報を処理することが可能になる。これは特に、自給自足動作に関して環境発電を頼りにする応用シナリオにおいて興味深い。可能性のあるシナリオとして、センサが量を測定し、この量の変化に応じて動作する監視用途がある。例えば、そのような処理装置は、室内気候監視に活用できるであろう。
【0004】
トークンの有望な候補として、磁気スキルミオンがある。この位相的に安定した磁気渦は、準粒子挙動を示し、最近では、室温で熱拡散を示すことが判明している。
【0005】
この文脈では、ジビキ等(Jibiki et al.)著「連続強磁性薄膜に実装されたスキルミオンブラウン回路(Skyrmion Brownian circuit implemented in continuous ferromagnetic thin film)」(2019年)が超低電力ブラウンコンピュータに関連する。具体的には、スキルミオン形成を安定させるためにSiOキャッピングがパターニングされた連続強磁性膜に実装されたスキルミオンブラウン回路が開示されている。パターニングされたSiOキャッピングは、強磁性層の飽和磁界を制御し、ワイヤ状スキルミオンポテンシャル井戸を形成して、回路内のスキルミオン形成を安定させる。更に、このパターニングされたSiOキャッピングを使用して、従来のエッチングハブとは異なり、接合部において有意なピン止めサイトを示さないY接合ハブ回路が実装される。ブラウンコンピュータの実現に近づくためのスキルミオンベースの記憶素子及び論理素子の効率的な制御が開示されている。
【0006】
リー等(Lee et al.)著「ブラウン回路:設計(Brownian Circuits: Designs)」(2016年)は、複雑さが軽減されたブラウン回路について論じており、計数、条件文のテスト、記憶、及び共用リソースのアービトレーションのような機能性を有する回路の設計を示している。更に、ブラウン回路が単一電子トンネリング技術によって実装される可能性について論じられている。
【0007】
ノザキ等(Nozaki et al.)著「スキルミオンバブルのブラウン運動及び電圧印加によるその制御(Brownian motion of skyrmion bubbles and its control by voltage applications)」(2018年)では、論理動作(即ち、トークンベースブラウンコンピューティング)のためにスキルミオンバブルの熱的に活性化されたランダムウォークを用いることを目的として、W/FeB/Ir/MgO構造におけるスキルミオンバブルの動力学が研究されている。スキルミオンバブルのブラウン運動を観察することに加えて、電圧印加によって拡散定数を電気的に制御することが示されている。開発された技術は、様々な種類の、スキルミオンベースのスピントロニクスデバイス、並びにブラウンコンピューティングに有用であろう。
【0008】
サンズ・ヘルナンデス等(Sanz-Hernandez et al.)著「3次元ナノ磁気コンジットの製造、検出、及び動作(Fabrication, Detection, and Operation of a Three-Dimensional Nanomagnetic Conduit)」(2017年)では、ドメインウォール用コンジットとして動作する、3Dナノ印刷及び物理気相堆積法で作成された3Dナノ磁気システムが示されている。基板レベルで形成されたドメインが3Dナノワイヤに注入され、その中でベクトル磁界により制御可能にトラップされる。個々の3Dナノ構造の様々な領域を並行して且つ個別に測定する暗視野光磁気法も示されている。
【0009】
ブラウンコンピューティング(即ちトークンベースコンピューティング)方式の1つの欠点は、情報処理が粒子又は準粒子の動きに依存することである。これは、一方では、処理の低速化につながる可能性があり、それによって、ある程度の計算速度を必要とする分野での適用が妨げられる。半加算器のような、どちらかと言えば単純な回路であっても、シミュレーションによれば、1つの演算の平均計算時間は数分のオーダーになる可能性がある。又、一方では、熱ゆらぎ及び/又はランダム運動を利用すると、処理時間は非決定論的になる。計算継続時間が非決定論的であることは、計算時間が長いことと相まって、ほとんど全ての応用分野において、ブラウンコンピューティング(即ちトークンベースコンピューティング)方式を適用する上での難題を突きつける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のような背景から、本発明は、更なる応用シナリオにおいてトークンベースコンピューティング方式の適用を可能にするという課題に直面する。具体的には、本発明は、電力消費が過大になるのを避けながら、トークンベースコンピューティング方式での計算を高速化するという課題に直面する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この問題を解決するための、本発明の一態様は、粒子又は準粒子に対応する、ランダムに動くトークンを評価することによって情報を処理する装置に関し、本装置は、
入力信号を受信する入力インタフェースと、
ランダムに動くトークンのための複数のパスウェイと、少なくとも1つのジョインとを支持するキャリアであって、この少なくとも1つのジョインは、2つのパスウェイを接続することと、接続された2つのパスウェイのうちの第1のパスウェイにある第1のトークンがジョインを通過することを、接続された2つのパスウェイのうちの第2のパスウェイからの第2のトークンがジョイン内に存在したときに許可することと、を行う、キャリアと、
入力信号に基づいてパスウェイにトークンを挿入する挿入ユニットと、
複数のパスウェイのうちの少なくとも1つのパスウェイにあるトークンに刺激を印加する励起ユニットであって、刺激は、トークンの、キャリアにほぼ平行な方向のランダムな動きを増やすように作用する、励起ユニットと、
所定の時間又は動的に調節された時間が経過した後に、少なくとも1つのトークンの位置に基づいて出力信号を出力する出力ユニットと、
を含む。
【0012】
本発明の別の態様は、環境内の物理現象を検出するセンサシステムに関し、センサシステムは、
上記で定義された装置と、
物理現象を検出することと、物理現象に基づいて入力信号を発生させることと、を行うセンサと、
を含む。
【0013】
本発明の好ましい実施形態が従属請求項において定義される。当然のことながら、特許請求される装置及びシステムは、特許請求される装置及びシステム、具体的には、従属請求項で定義される装置及びシステム、及び本明細書に開示の装置及びシステムと同様の且つ/又は同一の好ましい実施形態を有する。
【0014】
本発明は、トークンベースコンピューティング装置におけるトークンを表す粒子又は準粒子のランダムな動きが励起ユニットによって刺激されるというアイデアに基づいている。トークンの、キャリアにほぼ平行な方向のランダムな動きを増やす又は誘導する外部の追加刺激が印加される。それによって、処理を加速させることが可能である。
【0015】
トークンに対応する粒子又は準粒子がランダムに動くことが可能なパスウェイがキャリア上に配列されている。パスウェイ同士を接続しているジョインは、トークンの通過を、別のトークンが存在したときのみ許可する。特に、ジョインはいわゆるC-ジョインであってよい。パスウェイ同士が接続されて、所望のコンピューティング動作を実行するネットワークが形成される。処理される情報を含む入力信号が受信される。入力信号は、トークンをネットワークに挿入するための基礎を形成する。ネットワークを通るトークンの動きと、少なくとも1つのジョインの機能性とが、処理結果をもたらす。即ち、処理時間が経過した後のトークンの位置が、情報処理の結果を表す。追加で印加される刺激が動きを増幅する。この動きは加速される。又は、例えば環境条件によりトークンが最初は何の動きも見せない場合には、この動きを誘導することによってトークンの動きが増える。言い換えると、刺激及び刺激された動きは、熱拡散に無関係であり、(潜在的にはやはり存在する)熱拡散を追加的に重畳されてよい。好ましくは、キャリアは、ほぼ平坦であり、又は平面の形状に成形されている。刺激は、この平面に平行に印加される。キャリアは、パスウェイ及び少なくとも1つのジョインによって形成された回路を保持する基板又は他の構造物に相当してよい。キャリアは、具体的には、金属、絶縁体、半導体、セラミック、テフロン(登録商標)、又はポリマーで構成されてよい。キャリアは、必ずしも導電性でなくてよい。パスウェイ及びジョインは、材料に応じて、例えば、材料を構造化又は処置することによって実装されてよい。
【0016】
この追加的に印加される刺激により、トークンベースコンピューティングのこれまでの方式に比べて処理が高速になる。より高い処理速度で情報を処理することが可能になる。キャリアにほぼ平行な方向に刺激が印加されることにより、エネルギ効率良く動きを刺激することが可能になる。更に、所定の又は絶えず更新される基準に従って刺激を修正する且つ/又は適応させることが可能になる。刺激は、ネットワーク全体に印加されてよく、ネットワークの一部に印加されてもよい。
【0017】
リー等(Lee et al.)著「ブラウン回路:設計(Brownian Circuits:Designs)」(2016年)で論じられているような、ラチェットを利用する概念とは対照的に、本発明の励起ユニットは、トークンのランダムな動きを増やすように作用する刺激を印加するように構成されている。ラチェットは、パスウェイの特定位置に含まれる構成要素に相当し、通過するトークンの所定方向の動きを加速させる。トークンが通過するときに、このトークンの動きが、その特定ラチェットの所定方向に加速される。従って、ラチェットは、ランダムな動きを増やすのではなく、むしろ、方向付けられた動きを誘導又は支持する。更に、ラチェットは、通常は、外部からのエネルギ供給を必要としない受動素子として実装される。一方、励起ユニットの作用は、特定の位置に限定されず、特定の方向を優先することなく、トークンの、キャリアにほぼ平行な方向のランダムな動きを増やす。このためには、励起ユニットは、エネルギを印加する能動素子に相当することが好ましい。
【0018】
本発明のセンサシステムは、環境内の物理現象を検出することを可能にする。具体的には、この物理現象を表すパラメータが測定される。例えば、光強度、温度、ガス濃度等が検出されてよい。このセンサの出力信号は、本発明の装置によって評価される。特に、外部エネルギ源を必要としない受動センサが使用されてよい。本発明の装置は、非常に制限された電力消費で動作することも可能である。従って、この方式は、これまでのセンサシステムと比べてエネルギ効率が高いことが可能である。
【0019】
好ましい一実施形態では、本装置は、トークンとしてブラウン拡散運動を示す粒子又は準粒子を評価するように構成されている。特に、磁気スキルミオンがトークンとして使用されてよい。ブラウン拡散運動を示す粒子又は準粒子は、それぞれの位置でランダムなゆらぎを示す粒子であり、この運動のための外部トリガは不要である。特に、磁気スキルミオンが使用されてよい。これらの準粒子は、それぞれの動きに関して、並びに刺激可能性に関して有利な特性を示す。効率の良い刺激を達成することが可能である。
【0020】
好ましい一実施形態では、励起ユニットは、キャリアに且つ/又は複数のパスウェイのうちの少なくとも1つのパスウェイに電流を印加するパルスユニットを含む。キャリアは、好ましくは、スピントルク効果(特にスピン軌道トルク効果)を可能にする導電材料層を含み、導電材料層に電流が印加される。パルスユニットは、キャリアに電圧を接続することを可能にし、それによって、電流がキャリアを通って流れる。少なくとも1つのパスウェイに電圧が印加され、それによって、電流がこのパスウェイを通って流れることも可能である。必要な導電率を実現するために、導電材料が使用されてよい。この導電材料がスピントルク効果又はスピン軌道トルク効果を追加的に受けやすければ、これは、磁性粒子又は磁性準粒子の動きをエネルギ効率良く刺激することにつながる。トークンのランダムな動きは効率的に増やされる。トークンの動きを刺激することを効率良く実施できる選択肢が与えられる。更に、エネルギ効率の良い刺激が達成される。
【0021】
好ましい一実施形態では、励起ユニットは、キャリアに磁界又は磁界勾配を印加する磁界ユニットを含む。この磁界ユニットは、好ましくは、キャリアの別々の側面に配置された少なくとも2つのコイルを含む。磁界ユニットは、好ましくは、平行ではない少なくとも2つの方向に成分を有する磁界を発生させるように構成されている。具体的には、発生磁界は互いに垂直であってよい。従って、キャリアの別々の側面は、具体的には、(ほぼ平面である)キャリアに平行な方向に配置された位置を意味する。トークンの動きを刺激する磁界又は磁界勾配が生成される。この磁界又は磁界勾配は、具体的には、磁性粒子又は磁性準粒子、或いは磁気特性を有する粒子又は準粒子の励起を可能にする。磁界ユニットの効率的な一実施態様は、磁界又は磁界勾配を誘導するように構成されたコイルの使用である。
【0022】
好ましい一実施形態では、励起ユニットは、キャリアに電界を印加する電界ユニットを含む。キャリアは、電界を伝搬させる電気絶縁層を含む。好ましくは、高K誘電体材料層が使用されてよい。キャリアに電界を印加するユニットの実施態様は、追加ハードウェアがほとんど不要である。電界は特に、特別に設計された電気絶縁層を通って伝搬することが可能である。この層はキャリアの一部を成し、好ましくは高K誘電体材料を含む。例えば、ケイ酸ハフニウム及び/又は酸化ハフニウムを含む材料の層が使用されてよい。エネルギ効率良くトークンを励起することが実現される。
【0023】
好ましい一実施形態では、励起ユニットは、高周波電磁界を発生させる電磁界ユニットを含む。この電磁界ユニットは、好ましくはアンテナを含む。追加又は代替として、高周波電磁界によってトークンを刺激することが可能である。この電磁界は、例えば、1つ以上のアンテナによって発生してよい。アンテナは、好ましくは、キャリアの直近の空間的近傍に配置される。1つ以上のアンテナがキャリアと一体化されることも可能である。高周波電磁界の使用は、キャリア上のより広範囲でのトークンの刺激を効率的に実施できるという利点がある。
【0024】
好ましい一実施形態では、出力ユニットは、キャリア上の出力位置における磁化の変化又は磁界の変化を検出する磁気センサを含む。磁性粒子/磁性準粒子又は磁気特性を有する粒子/準粒子が使用される場合、これらは磁気センサによって検出されることが可能である。この磁気センサは、出力位置にトークンが存在するかどうかを検出することを可能にする。この出力位置は、入力信号に応じてトークンが到達できる位置、即ち、トークンが挿入された位置に対応する。磁気センサを使用することにより、出力位置にあるトークンを低エネルギ消費で確実に検出することが可能である。
【0025】
好ましい一実施形態では、キャリアは、半導体ウェーハ上に配置された多層薄膜系を含む。ウェーハは、好ましくは、絶縁最上層を含む。薄膜系は、好ましくは、磁化材料を含む。パスウェイ及び少なくとも1つのジョインは、好ましくは、エッチングプロセス及び/又はリソグラフィプロセスにおいて多層薄膜系内に製造される。半導体ウェーハ上に多層薄膜系を製造する場合は、既存の製造技術が適用されてよい。効率的且つ効果的な製造プロセスが達成されうる。具体的には、パスウェイ及びジョインを多層薄膜系に製造するために、標準的なエッチングプロセス及び/又はリソグラフィプロセスが使用されてよい。
【0026】
好ましい一実施形態では、挿入ユニットは、パスウェイに接続されている入力位置においてトークンを核にする核形成ユニットを含む。特に、磁気スキルミオンが核にされてよい。従って、この核形成は、キャリア上の所望の位置に粒子又は準粒子を形成する又は発生させることに相当する。粒子又は準粒子は、入力位置において生成され、そこから、ネットワークを形成するパスウェイ及びジョインを通って動く。
【0027】
好ましい一実施形態では、入力インタフェースは、入力信号をセンサから受信するように構成されている。具体的には、本装置は、センサで測定された情報を処理するために使用されてよい。例えば、所定の条件が満たされているかどうかを評価するために、測定信号が処理されてよい。可能性のある応用分野として、照度、ガス濃度等のようなパラメータの監視がある。入力は、本装置によって処理され、例えば、特定の条件が満たされているかどうかがチェックされる。パラメータをエネルギ効率良く監視することが実現可能である。
【0028】
好ましい一実施形態では、入力インタフェースは、刺激信号を受信するように構成されている。励起ユニットは、刺激信号に基づいて刺激を印加するように構成されている。励起ユニットは、好ましくは、刺激信号に基づいて刺激の強度を適応させるように構成されている。即ち、要求に応じて刺激を印加することが可能になる。励起ユニットによって与えられる追加加速が必要な場合には、刺激信号が印加される。処理の更なる加速が不要の場合、又は利用できるエネルギがない場合には、刺激が印加されない。励起ユニットは、要求に応じて、活性化又は不活性化されるように構成されている。励起ユニットを活性化することにより、且つ、トークンのランダムな動きを加速させることにより、処理が加速される。従って、必要に応じて処理を加速させることが可能になる。この制御は、刺激信号によって実施される。印加される刺激の強度が刺激信号に基づいて適合又は制御されることも可能である。例えば、非常に高速の処理が必要な場合には、より強い刺激が印加されてよい。応用シナリオに応じた、本装置のエネルギ消費の最適化が達成される。
【0029】
好ましい一実施形態では、励起ユニットは、環境から電気エネルギを生成する環境発電ユニットに接続されたエネルギ供給源にあるエネルギの量に基づいて刺激を印加するように構成されている。特に、追加エネルギが利用可能な場合には追加加速につながる刺激を利用することが有利である。環境発電シナリオでは、利用可能な電力が増えたり減ったりする事態が起こりうる。利用可能な電力がある場合には、刺激が印加されてよく、本装置における情報の処理を加速させることが可能である。利用可能な電力がない場合には、刺激は印加されず、処理の実行速度が低下する。
【0030】
好ましい一実施形態では、センサシステムは、環境から電気エネルギを生成する環境発電ユニットを含む。エネルギは、熱、光、又は他の現象から取り入れされてよい。通常、環境発電ユニットは、あらゆる場合において、利用可能かどうかに応じてエネルギを取り入れするように構成されている。そしてこのエネルギは、本発明の装置の励起ユニットに追加刺激を印加するために使用されてよい。
【0031】
本明細書では、粒子又は準粒子に対応するトークンは、具体的には、磁気スキルミオンであってよい。しかしながら、他の粒子/準粒子も使用されてよく、具体的には、ブラウン運動を示すコロイド、或いは、電界又は磁界による励起による動きの影響を受けやすいコロイドが使用されてよい。又、一般に、トークンとしての、半導体中の欠陥電子、光子、マグノン、又はエキシトンに基づいて本発明の概念を利用することが可能であろうし、これは、それらの粒子/準粒子がブラウン運動を示さない場合であっても可能であろう。本発明の装置は、情報を処理することに適しており、これは、具体的には、デジタル信号を処理することが可能であり、このデジタル信号に基づいて計算を実行することが可能であること意味する。本発明のセンサは、物理現象を検出することが可能である。物理現象は、現実世界のパラメータの任意のタイプの変化であってよい。物理現象は、例えば、照度、ガス濃度、温度、物体の距離等を意味してよい。この物理現象は、センサによって測定されてよい。センサは、具体的には、この現象に応じた信号を出力する。例えば、この信号は、現象に比例しうる。信号は、アナログ信号であってもデジタル信号であってもよい。
【0032】
本発明のこれらの態様及び他の態様は、この後に記載される実施形態を参照すれば明らかであろうし、明らかになる。図面は以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明によるセンサシステムの概略図を示す。
図2】本発明の別の態様による、情報を処理する装置の概略図を示す。
図3】パスウェイ及びジョインのネットワークの概略図を示す。
図4】キャリアと、パルスユニットを有する励起ユニットとの概略図を示す。
図5】パルスユニットの代替実施態様の概略図を示す。
図6】キャリアと、電界ユニットを有する励起ユニットとの概略図を示す。
図7】キャリアと、磁界ユニットを有する励起ユニットとの概略図を示す。
図8】キャリアと、電磁界ユニットを有する励起ユニットとの概略図を示す。
図9a】乃至
図9b】キャリア上のパスウェイ及びジョインの異なる2つの配置の概略図を示す。
図10】半加算器の別の実施態様の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、環境内の物理現象を検出するセンサシステム10を概略的に示す。センサシステム10は、情報を処理する装置12と、物理現象に基づいて入力信号を発生させるセンサ14とを含む。センサシステム10は、例えば、建物内の二酸化炭素濃度を監視することに使用されてよい。装置12は、入力信号を処理して、二酸化炭素濃度が上昇したことによる建物の排気が必要かどうかを示す出力信号を出力してよい。これらのタイプの監視応用の1つの要件は、エネルギ消費が少ないことである。所望の機能性を実現するために、センサシステム10は更に、エネルギ供給源18を有する環境発電ユニット16を含む。例えば、エネルギ供給源18となるキャパシタを充電するために、温度勾配がペルチェ素子によって活用されてよい。
【0035】
図2は、本発明による、情報を処理する装置12を概略的に示す。装置12は、入力インタフェース20、キャリア22、挿入ユニット24、励起ユニット26、及び出力ユニット28を含む。装置12は、計算を実行するために、粒子又は準粒子に対応する、ランダムに動くトークンがキャリア22上のパスウェイ30及びジョイン32を通って動くトークンベースコンピューティングデバイス(即ちブラウンコンピューティングデバイス)に相当する。トークンは、ネットワーク内を動く。ジョイン32は、2つ(以上)のパスウェイ30に接続されている。特に、ジョイン32は、4つのパスウェイ30に接続されたC-ジョインに相当する。ジョイン32に到達したトークンは、そのトークンがそのジョイン32に存在する間に別のパスウェイ30から別のトークンもそのジョイン32に到達した場合には、このジョイン32を通過することしか通過できない。パスウェイ30及びジョイン32のネットワークをレイアウトすることにより、計算タスク又は情報処理タスクを実行することが可能になる。
【0036】
当然のことながら、図示の例では、パスウェイ30及びジョイン32、並びに挿入ユニット24及び出力ユニット28のネットワークは、概略的に図示したものに過ぎない。ネットワークは、図2にドットで示したように、キャリア22上に2次元的に延びている。ネットワークのサイズは、ネットワーク又は装置によってそれぞれ実行される必要がある計算に応じて決まる。ネットワークは、対応する入力を決定するために出力が処理される組み合わせ論理又は組み合わせ回路(論理ゲートのネットワーク)に相当する。論理ゲートに相当する複数の構造がキャリア22上に配列される。通常は、パスウェイ30及びジョイン32に加えて、他の構成要素(ハブ及びラチェット等)もネットワークの一部を成す。
【0037】
ランダムに動くトークンを使用することにより、非常にエネルギ効率の良い、コンピューティングデバイスの実装が可能になる。具体的には、パスウェイ30及びジョイン32のネットワークを通って動くことに外部エネルギ入力を全く必要としない、ブラウン運動を示す粒子/準粒子を活用することが可能である。好ましくは、ジョイン32だけが、その動作を実行するために(少量の)外部エネルギを必要とする能動構成要素である。
【0038】
特に、磁気スキルミオンがトークンとして使用されてよい。入力インタフェース20は、入力信号を受信するように構成されている。従って入力信号は、処理されるべき情報を表す。具体的には、受信される信号はデジタルでもアナログでもよい。入力インタフェースは、例えば、センサ等との有線接続に相当してよい。
【0039】
挿入ユニット24では、入力信号の内容に基づいてパスウェイにトークンが挿入される。具体的には、核形成ユニット25により、パスウェイ30に接続されている入力位置34において磁気スキルミオンを核にすることが可能である。従って核形成は、例えば、磁場掃引に基づいてよく、又は欠陥中の実効的なスピン偏極電流に基づいてよい。そしてトークンは、入力位置34からパスウェイ30及びジョイン32のネットワークを通って動くことが可能である。
【0040】
出力ユニット28は、所定の時間又は動的に調節された時間が経過した後に、少なくとも1つのトークンの位置に基づいて出力信号を決定するように構成されている。具体的には、キャリア22上の出力位置36にトークンが存在するかどうかを判定することが可能である。例えば、トークンが磁気スキルミオンである場合には、出力位置36での磁化又は磁界の変化が測定されてよい。従って、この測定は、周期的に、又は動的に調節された時間間隔で実施されてよい。ネットワークを通るトークンの動きはランダムな動きに基づくため、計算の実行にかかる時間は非決定論的である。例えば、粒子のブラウン運動が利用される場合、計算速度は、温度及び他のパラメータに依存する。例えば、破線で概略的に示されているように、キャリア22の下部にマウントされた磁気センサ38が使用されてよい。スキルミオンの磁界を直接検出することが可能である。追加又は代替として、(例えば、トンネル磁気抵抗素子内の、又は磁気顕微鏡に基づく)磁化を検出することが可能であり、特に、光磁気カー効果を利用して検出することが可能である。
【0041】
励起ユニット26は、パスウェイ30及びジョイン32のネットワーク内にあるトークンに刺激を印加するように構成されている。この刺激は、ネットワーク内のトークンの、図2に示したキャリア22にほぼ平行な方向のランダムな動きを増やすように作用する。キャリア22はほぼ平面である。励起ユニット26は、x方向及びy方向の少なくともいずれかの、トークンの運動を加速又は誘導することによって、その動きを増やす。この刺激によって、情報のより高速な処理を実現することが可能になる。ネットワークを通るトークンの動きが加速される。トークンは、ネットワーク内をより速く動く。
【0042】
図3は、パスウェイ30(線)及びジョイン32(正方形。C-ジョインとも呼ばれてよい)の一例示的ネットワークを概略的に示す。具体的には、半加算器の機能性が示されている。2つのビットが加算される。この例では、4つのトークン用入力位置を経由して2つのビットがネットワークに送り込まれる。右側にある第1の2つの入力位置34が1つのビットを表す。そのビットが1(in:1)であれば、又はそのビットがゼロ(in:0)であれば、右側の2つの入力位置34のいずれかにトークンが挿入される。同様に、下側にある入力位置34に第2のビットが送り込まれる。パスウェイ30及びジョイン32は、入力位置34を出力位置36に接続する。やはり、左側にある出力位置36は、出力信号の第1のビットを表し、上側にある出力位置36は、出力信号の第2のビットを表す。ジョイン32は、トークンがジョインに入った場合に所定の時間長にわたってトークンを捕捉する機能性を備える。この所定時間以内に、そのジョイン32に接続された別のパスウェイから到来した別のトークンがそのジョイン32に入った場合は、両方のトークンがそのジョイン32を通過することが可能である。この所定時間内に第2のトークンがそのジョイン32に入らない場合には、第1のトークンは、入った方向にジョインを離れることが可能である。
【0043】
図示の例では、ネットワーク内にハブ40(円)も存在し、これは、接続された全てのパスウェイ30において、ハブに入るトークンの動きを可能にする。更に、図示のネットワークは(任意選択の)ラチェット42(矢じり)を含み、これは、通過するトークンの一方向の動きを加速する構成要素に相当する。言い換えると、ラチェット42は、特定の方向のトークンの動きを優先する。
【0044】
図3に示すように、刺激は、キャリアにほぼ平行な方向に印加される。図3の4つの矢印は、異なる4つの可能な刺激方向を示す。好ましくは、刺激は、キャリア上のパスウェイの配列に平行な方向に印加される。通常、パスウェイは、製造効率の理由から、直交する二方向(X方向及びY方向)に配列される。そして刺激も、これらの方向に印加されることが好ましい。
【0045】
従って、トークンの動きを刺激することは、ランダムに行われることが好ましい。即ち、(キャリアに平行な)刺激の方向はランダムに変化する。例えば、1つの刺激パルスが第1の方向に印加され、その後、2つ目の刺激パルスが別の方向に印加されることが可能である。従って、これらの刺激パルスは、必ずしも同じ強度でなくてよい。しかしながら、トークンの動きが刺激される方向は任意に選択されることが好ましい。
【0046】
図4は、励起ユニット26の実装の一選択肢を概略的に示す。従って、図4は、キャリア22の断面図を示す。図示の例では、キャリア22は、半導体ウェーハ52上に配置された多層薄膜系50を含む。パスウェイ及び少なくとも1つのジョインは、多層薄膜系50内に実装される。
【0047】
この多層薄膜系50は、磁性を有することが好ましい。そのような多層薄膜系の一例は、Ta(5)/Co20Fe6020(0.9)/Ta(0.08)/MgO(2)/Ta(5)であり、括弧内の数値はナノメートル単位で示した各層の厚さである。半導体ウェーハ52は、好ましくは、絶縁最上層に相当する酸化表面を有するシリコンウェーハである。
【0048】
(パスウェイを形成する壁に相当する)構造を基板上に製造する一方式は、その構造の外側の磁気層を除去すること(エッチング)である。別の方式は、パスウェイを幾何学的に形成する材料を堆積させることである。そしてその構造形成は、標準的なリソグラフィによって実現可能である。例えば、電子ビームに基づく光学的方式、又は別のリソグラフィプロセスが用いられてよい。ラチェットは、例えば、三角形ジオメトリの形で実現可能である。ジョインについては、トークンの拡散を局所的に制御するために、垂直な向きの電界が使用されてよい。
【0049】
図4は、励起ユニット26が、キャリア22に電流を印加するためのパルスユニット54を含む実施形態を示している。具体的には、スピントルク効果を可能にする導電材料層56に電気パルスが印加される。この導電層に電流が注入される。この導電材料層56は特に、重金属の連続薄膜の形で実装されてよい。例えば、タンタル、白金、又はタングステンが使用されてよい。その後、この層の上に、パスウェイ及びジョインの構造形成が適用されてよい。導電材料層56に電流が注入されると、結果として、全てのパスウェイ、ジョイン、及び他の構成要素にある全てのトークンの動きが刺激される。
【0050】
代替又は追加として、図5に示すように、トークンが位置するパスウェイ及び/又は他の素子に電流を注入することも可能である。励起ユニット26は、キャリア22上でトークンがその中を通って動く、多層薄膜系50のパスウェイ又は他の構造物のうちの少なくとも1つに接続されたパルスユニット54を含む。これにより、刺激に対する更なる制御を実施することが可能になる。具体的には、必要に応じて、選択されたパスウェイ及びジョインにあるトークンの動きに対する刺激を排他的に増やすことが可能になる。
【0051】
図6は、励起ユニット26の別の例を示す。励起ユニット26は、キャリア22に電界を印加する電界ユニット62を含む。図示の例では、電界を伝搬させる(任意選択の)電気絶縁層60がキャリア22の一部を成し、半導体ウェーハ52上に配列される。この電気絶縁層60は、高K誘電体材料を含むことが好ましい。従って、電界は特に、キャリア22又は多層薄膜系50の、水平方向に対向する2つの側面に配置された電極に基づいて印加されてよい。それらの電極を含む電界ユニット62は、キャリア22に平行な面内に電界を発生させるように構成されている。電流の印加と比べると、電界の印加は電流の流れにつながらない。
【0052】
図7は、励起ユニット26の別の例を概略的に示す。キャリア22は、パスウェイ、ジョイン、及び他の構造物が実装される半導体ウェーハ52及び多層薄膜系50を含む。励起ユニット26は、キャリア22に磁界又は磁界勾配を印加する磁界ユニット58を含む。磁界の発生は、例えば、基板上に堆積された局所コイル又はストリップラインを利用して行われてよい。コイルのジオメトリを適合させることにより、磁界勾配を発生させることが可能になる。具体的には、磁界ユニット58は2つのコイルを含んでよい。従って、コイルは、好ましくは、キャリア22の別々の側面に配置されるが、互いに対して位置合わせされない(即ち、互いに平行ではない磁界が発生する)。具体的には、コイルは、互いに対して垂直な向きの磁界又は磁界勾配を発生させるように構成されてよい。
【0053】
図8は、励起ユニット26の更に別の例を示す。励起ユニット26は、高周波電磁界を発生させる電磁界ユニット64を含む。従って、多層薄膜系50は、やはり、追加の機能層を間に挟むことなく半導体ウェーハ52上に直接配置される。トークンの動きは、電磁界ユニット64によって発生する高周波交番電磁界に基づいて増加する。従って、磁界成分又は電界成分に基づいてトークンの動きを刺激することが可能である。
【0054】
当然のことながら、刺激の印加に関する様々な選択肢と、図4~8に示された励起ユニット26の実装とを組み合わせることも可能である。組み合わせにより、刺激のより良い制御、及び特定要件への適応が可能になりうる。
【0055】
図9a及び9bは、複数のパスウェイ30及びジョイン32に基づいて実現された半加算器の2つのレイアウトを概略的に示す(図3と比較されたい)。両図とも、それによって同じレイアウトを示しているが、x方向のパスウェイ30の長さが異なる。
【0056】
上記で概説したように、刺激はランダムに印加される。具体的には、ネットワーク内のトークンの動きは、(キャリアにほぼ平行な)ランダムに変化する方向に刺激される。図示のレイアウトではパスウェイがx方向又はy方向のいずれかを向いており、この場合には、刺激は、好ましくは、左/右/上/下の4方向(図の±x方向及び±y方向)のいずれかの方向に印加される。しかしながら、各方向の刺激がある確率は、必ずしも同一である必要はない。具体的には、左/右/上/下の各方向に刺激がある確率は、必ずしも25%/25%/25%/25%である必要はなく、このような均等な分布からずれてもよく、例えば、20%/22%/30%/28%であってよい。そして、均等分布の場合に比べて計算速度の上昇が潜在的に減じられるとしても、計算は正しく実行される。しかしながら、必ずしも全ての方向が完全に均等である必要がないならば、刺激の実施は容易になりうる。
【0057】
更に、レイアウトによっては、レイアウトに応じて刺激の印加を適応させることが有用な場合すらありうる。図9a及び9bに示したように、左右方向(x方向)の全てのパスウェイの長さが、図9bは図9aの2倍である。計算の実行に関しては、この左右方向の距離が長いことから、この方向の刺激の確率を(例えば、左/右/上/下に対して33%/33%/17%/17%と選択することによって)適応させることが可能且つ有用でありうる。
【0058】
図10は、半加算器の別のレイアウトを概略的に示しており、このレイアウトであれば、パスウェイ同士が交差することが不要であるため、より容易な実装が可能になるであろう。このネットワークは、パスウェイ(線)、ジョイン(正方形)、ラチェット(矢じり)、及びハブ(円)を含む。図10の左側では、入力の第1のビットが計算される。右側では、第2のビットが計算される。図示の、交差がないレイアウトでは、左側と右側にある、同じローマ数字を有するどの2つのジョインも(例えば、ストリップラインで)互いに接続されており、相互に通信することにより、ジョインの機能を実行する。即ち、同じローマ数字を有する2つの正方形のそれぞれが、1つのジョインの機能を実行する。
【0059】
本明細書に記載の本発明は、例えば、ラーブ等(Raab et al.)著「幾何学的に閉じ込められたスキルミオンを使用するブラウンリザーバコンピューティング(Brownian reservoir computing using geometrically confined skyrmions)」(2022年)(以下、参考文献1)(https://download.klaeui-lab.de/skyrmion-reservoir-computing/においてプレプリントが入手可能)で論じられているシステムに適用可能である。
【0060】
具体的には、本発明の装置の対応する実施形態において、複数のパスウェイ及び少なくとも1つのジョインを含む、キャリア上の回路は、キャリアによって支持されている少なくとも2つの(好ましくは3つの)パスウェイに接続された1つのジョインを含んでよい。パスウェイの幅は、ランダムに動くトークンの直径よりかなり大きくてよい。結果として、パスウェイ同士は部分的に重なり合ってよい。更に、少なくとも1つの出力ユニットは、パスウェイ同士を接続するジョインの中に位置してよく、又は、本質的には部分的に重なり合っているパスウェイの中に位置してよい。
【0061】
参考文献1にあるデバイスは、動作のために、トークンの、キャリアにほぼ平行な方向の、異なる2つのタイプの動きを頼りにする。第1に、バイアスポテンシャルによる動きであり、これは、好ましくは、参考文献1と同様に、ジョインで接続されたパスウェイの端部に印加されてよい。バイアスポテンシャルについては、請求項1に記載の励起ユニットと混乱すべきではない。バイアスポテンシャルは、方向付けられた動きを誘導するが、ランダムな動きを誘導しないからである。第2に、トークンのランダムな動きであり、これは、参考文献1では熱拡散によって実現される。このデバイスは、バイアスポテンシャルの影響を受けるトークンが動くにつれて動作し、従って、ジョインで接続された異なるパスウェイの中にトークンが存在する確率は、バイアスポテンシャルに応じて変化する。その結果、出力ユニットにトークンが存在する確率は、バイアスポテンシャルに応じて変化し、バイアスポテンシャルと出力との間には、ある関係が存在する。
【0062】
トークンのランダムな動きは、2つの理由で必要である。第1に、ランダムな動きは、ジョインで接続された様々なパスウェイをトークンが探索するために必要である。参考文献1の補助資料で論じられているように、ランダムな動きが欠如すると、出力とバイアスポテンシャルとの関係に曖昧さが入り込み、それによって、デバイスの動作の信頼性が損なわれる。第2に、バイアスポテンシャル自体が変化したときに、様々なパスウェイ、従って、出力ユニットにトークンが存在する確率をリセットするリセット機構として、トークンのランダムな動きが使用されるためである。
【0063】
本発明は上述のセットアップに適用されてよく、特に、少なくとも1つのパスウェイにあるトークンに刺激を印加する励起ユニットを使用して、キャリアにほぼ平行な方向のトークンのランダムな動きを増やすことによって適用されてよい。それによって、デバイスの動作速度を高めることが可能である。更に、励起ユニットによるランダムな動きにより、熱拡散が、上述の必要な2つの機能性のうちの少なくとも一方を提供するのに不十分な場合でもデバイスを動作させることが可能である。
【0064】
従って、上述の議論で開示及び説明したのは、本開示の例示的実施形態に過ぎない。当業者であれば理解されるように、本開示は、本開示の趣旨又は本質的な特性から逸脱しない限り、他の具体的な形態で実施されてもよい。従って、本明細書は、例示的であるものとし、本開示、及び他の請求項の範囲を限定するものではない。本開示は、本明細書の教示の、容易に認識できる全ての変形体を含めて、上述の請求項中の用語の範囲を、発明対象が公衆に提供されないように、ある程度規定する。
【0065】
請求項では、「含む(comprising)」という語は、他の要素又はステップを排除せず、不定冠詞「a」又は「an」は複数を排除しない。単一の要素又は他の最小構成単位が、請求項に記載されている複数の項目の機能を実現してよい。特定の措置が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの措置の組み合わせを活用することができないことを示すものではない。
【0066】
ここまで説明してきた本開示の実施形態が、少なくともある程度はソフトウェア制御のデータ処理装置によって実装される限りにおいては、当然のことながら、そのようなソフトウェアを保持する非一時的マシン可読媒体(例えば、光ディスク、磁気ディスク、半導体メモリ等)も、本開示の一実施形態を表すものと考えられる。更に、そのようなソフトウェアは、他の形態で(例えば、インターネット或いは他の有線又は無線の通信システムによって)配布されてもよい。本発明による方法は特に、ソフトウェアで定義された無線機の動作を制御するように実行されてよい。
【符号の説明】
【0067】
10 センサシステム
12 装置
14 センサ
16 環境発電ユニット
18 エネルギ供給源
20 入力インタフェース
22 キャリア
24 挿入ユニット
25 核形成ユニット
26 励起ユニット
28 出力ユニット
30 パスウェイ
32 ジョイン
34 入力位置
36 出力位置
38 磁気センサ
40 ハブ
42 ラチェット
50 多層薄膜系
52 半導体ウェーハ
54 パルスユニット
56 導電材料層
58 磁界ユニット
60 電気絶縁層
62 電界ユニット
64 電磁界ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9a
図9b
図10
【国際調査報告】