(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-18
(54)【発明の名称】ウイルス感染症を処置するためのメベンダゾールの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4184 20060101AFI20240311BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240311BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20240311BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240311BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240311BHJP
C12N 9/99 20060101ALN20240311BHJP
【FI】
A61K31/4184
A61P31/14
A61K31/506
A61P43/00 121
A61K45/00
C12N9/99
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558549
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(85)【翻訳文提出日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 US2022021598
(87)【国際公開番号】W WO2022204318
(87)【国際公開日】2022-09-29
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523166359
【氏名又は名称】スカイマウント メディカル ユーエス インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】520061826
【氏名又は名称】ザ ボード オブ スーパーバイザーズ オブ ルイジアナ ステート ユニバーシティ アンド アグリカルチュラル アンド メカニカル カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ベス,アダム
(72)【発明者】
【氏名】バーグリンド,フレジ,クヌート,ゴスタ
(72)【発明者】
【氏名】ムコッパッダーエ,スプラティク
(72)【発明者】
【氏名】ワサン,キショー,エム.
(72)【発明者】
【氏名】ガリアーノ,クリス
(72)【発明者】
【氏名】ブリリンスキー,ミカル
(72)【発明者】
【氏名】コーミエ,ステファニア
(72)【発明者】
【氏名】アデル,アラン
(72)【発明者】
【氏名】グリッグス,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】グールド,ジャネット
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ティファニー
(72)【発明者】
【氏名】アブラーモフ,ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】ニック,ピーター
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA14
4C084ZB33
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC39
4C086BC50
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZC75
(57)【要約】
本開示の実施形態は、対象におけるコロナウイルス感染症を処置するための、メベンダゾール、チロシンキナーゼ阻害剤又は両方の組み合わせの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウイルス感染症を処置するためのメベンダゾールの使用。
【請求項2】
コロナウイルス感染症を処置するためのメベンダゾール及びイマチニブの使用。
【請求項3】
コロナウイルスの対象の細胞への侵入を阻害する、メベンダゾールの使用。
【請求項4】
コロナウイルスと対象の細胞との融合を阻害する、メベンダゾールの使用。
【請求項5】
コロナウイルスの対象の細胞内での複製を阻害する、メベンダゾールの使用。
【請求項6】
イマチニブの使用を更に含む、請求項3~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記コロナウイルス感染症が、SARS-CoV-2ウイルスの変異体によって引き起こされる、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
コロナウイルスに曝露された対象を処置する方法であって、前記方法が、
a.治療有効量のメベンダゾールを提供する工程と、
b.前記治療有効量のメベンダゾールを個体に投与して、コロナウイルス感染症に関連するリスク又は症状を改善する工程と、
を含む、方法。
【請求項9】
治療有効量のチロシンキナーゼ阻害剤を投与する工程を更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、イマチニブである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記コロナウイルス感染症が、SARS-CoV-2ウイルス変異体によって引き起こされる、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
薬剤/標的細胞複合体を作製する方法であって、前記方法が、前記薬剤/標的細胞複合体を形成するために、治療有効量の薬剤を標的細胞に投与する工程を含み、前記薬剤/標的細胞複合体が、ウイルスの、対象の1つ以上の細胞に侵入する能力、それと融合する能力、及び/又はその内部で複製する能力を減少させる、方法。
【請求項13】
前記標的細胞が、気道上皮細胞、肺胞上皮細胞、嗅覚上皮細胞、嗅覚神経細胞、中枢神経系ニューロン、末梢神経系ニューロン、胃腸上皮細胞、胃腸エンテロサイト、胃腸腺細胞、免疫エフェクター細胞、心血管細胞、及び腎細胞のうちの1つ以上である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
薬剤/標的ビリオン複合体を作製する方法であって、前記方法が、薬剤/標的細胞複合体を形成するために、治療有効量の薬剤をビリオンに投与する工程を含み、前記薬剤/標的細胞複合体が、前記薬剤/標的ビリオン複合体の、対象の1つ以上の細胞に侵入する能力、それと融合する能力、及び/又はその内部で複製する能力を減少させる、方法。
【請求項15】
前記薬剤が、メベンダゾール、チロシンキナーゼ阻害剤、又は両方の組み合わせである、請求項12又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、イマチニブである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ビリオンが、SARS-CoV-2ウイルス変異体のビリオンである、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
a.第1の治療有効量のメベンダゾールと、
b.第2の治療有効量のチロシンキナーゼ阻害剤であって、前記第1及び第2の治療有効量が異なるか又は異ならない、チロシンキナーゼ阻害剤と、
c.少なくとも1つの賦形剤と、
を含む、医薬組成物。
【請求項19】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、イマチニブである、請求項16に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、ウイルス感染症を処置するための化合物及び組成物の使用に関する。特に、本開示の実施形態は、コロナウイルス感染症を処置するための化合物及び組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
世界規模でのSARS-CoV-2と呼ばれる新型コロナウイルスの出現は、世界の実質的に全ての人口に影響を及ぼしている。このウイルスは何百万人もの個体を苦しめており、COVID-19と呼ばれる疾患を引き起こしている。COVID-19は、重大な健康リスクに発展し、死に至る可能性があり、これは、医療資源及び社会全般に高い負担をかけている。
【0003】
SARS-CoV-2は、SARS-CoV及びMERS-CoVの受容体結合ドメイン構造と類似の受容体結合ドメイン構造を有する、一本鎖プラス鎖リボ核酸(ribonucleic acid、RNA)ウイルスである。SARS-CoV-2は、鼻粘膜に到達する飛沫を介して個体間で伝染する。鼻粘膜内では、SARS-CoV-2は急速に増殖し、鼻分泌物(痰)中に排出され得る。痰は、飛沫を介して他の個体に受け渡され、したがって伝染サイクルを繰り返す可能性がある。SARS-CoV-2ウイルスは、症状の開始前、有症状期間中、及び回復後であっても、個体間で広がり得る。
【0004】
感染の臨床スペクトルは広く、上気道感染の軽度の徴候から重度の肺炎、多臓器不全及び死亡に及ぶ。発病時に、SARS-CoV-2は、宿主への主な侵入経路である呼吸器系を主に攻撃するが、SARS-CoV-2はまた、感染した個体の複数の臓器に影響を及ぼし得る。COVID-19の重症度は、典型的には、これらに限定されないが、COVID-19の結果を悪化させ得る高血圧、糖尿、肥満、及び/又は高齢などの合併症に関連する。
【0005】
感染した個体に対する生理学的影響を遅延させるような様式で、COVID-19の影響を緩和することができる療法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本開示の実施形態は、コロナウイルスに感染した対象における重度の疾患のリスク、症状及び発症の一部又は実質的に全てを改善及び/又は阻害するための1つ以上の療法を提供する。本開示のいくつかの実施形態では、コロナウイルスはSARS-CoV-2である。
【0007】
本開示のいくつかの実施形態は、コロナウイルス感染症によって引き起こされる重度の疾患のリスク、症状及び発症の一部又は実質的に全てを改善及び/又は阻害するためのメベンダゾールの使用に関する。
【0008】
本開示のいくつかの実施形態は、コロナウイルスに感染した個体を処置する方法であって、当該方法が、治療有効量のメベンダゾールを提供する工程と、治療有効量のメベンダゾールを当該個体に投与して、コロナウイルスに感染した対象における重度の疾患のリスク、症状及び発症の一部又は実質的に全てを改善及び/又は阻害する工程と、を含む、方法に関する。
【0009】
本開示のいくつかの実施形態は、コロナウイルス感染症によって引き起こされる重度の疾患のリスク、症状又は発症の一部又は実質的に全てを改善及び/又は阻害するためのメベンダゾール及びチロシンキナーゼ阻害剤の使用に関する。
【0010】
本開示のいくつかの実施形態は、コロナウイルスに感染した個体を処置する方法であって、当該方法が、治療有効量のメベンダゾール及び治療有効量のチロシンキナーゼ阻害剤を提供する工程と、コロナウイルス感染症によって引き起こされる重度の疾患のリスク、症状又は発症の一部又は実質的に全てを改善及び/又は阻害するために、当該治療有効量のメベンダゾール及びチロシンキナーゼ阻害剤を当該個体に投与する工程と、を含む、方法に関する。
【0011】
本開示のいくつかの実施形態は、薬剤/標的細胞複合体を作製する方法であって、当該方法が、治療有効量の薬剤を対象に投与する工程を含み、薬剤/標的細胞複合体が、ウイルスが薬剤/標的複合体の細胞に侵入すること、それと融合すること、及び/又はその内部で複製することを阻害する、方法に関する。本開示のいくつかの実施形態では、薬剤は、メベンダゾール若しくはチロシンキナーゼ阻害剤、又はその両方である。
【0012】
本開示のいくつかの実施形態は、薬剤/標的ビリオン複合体を作製する方法であって、当該方法が、治療有効量の薬剤を対象に投与する工程を含み、薬剤/標的ビリオン複合体が、薬剤/標的ビリオン複合体が対象の1つ以上の細胞に侵入すること、それと融合すること、及び/又はその内部で複製することを阻害する、方法に関する。本開示のいくつかの実施形態では、薬剤は、メベンダゾール若しくはチロシンキナーゼ阻害剤、又はその両方である。
【0013】
本開示のいくつかの実施形態は、第1の治療有効量のメベンダゾールと、第2の治療有効量のチロシンキナーゼ阻害剤であって、第1及び第2の治療有効量が異なるか又は異ならない、チロシンキナーゼ阻害剤と、少なくとも1つの賦形剤と、を含む、医薬組成物に関する。
【0014】
いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、メベンダゾールは、SARS-CoV-2ウイルスの対象の細胞への侵入若しくは対象の細胞との融合を阻害すること、及び/又は一度対象の細胞に入ったウイルスの複製を阻害することによって、SARS-CoV-2ウイルスを標的とし得ると仮定される。メベンダゾールは既知の駆虫薬であるが、驚くべきことに、メベンダゾールはウイルスチューブリン形成を妨害し、ウイルスカルモジュリンドメインプロテインキナーゼ1も標的とし得るので、COVID-19の処置にも有用であり得る。
【0015】
いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、イマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤は、メベンダゾールと組み合わせて使用される場合、コロナウイルスに感染した対象における重度の疾患のリスク、症状及び発症の一部又は実質的に全てを改善及び/又は阻害するための療法としても有用であり得ると仮定される。本開示のいくつかの実施形態では、既知のABLキナーゼ阻害剤であるイマチニブは、TK ALK、血小板由来増殖因子受容体アルファ、TK ABL1/Bcr-Abl、又はマスト/幹細胞増殖因子受容体Kitのうちの1つ以上を標的とすることが知られているので、COVID-19に対するメベンダゾールとの併用処置の一部として有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本開示のこれら及び他の特徴は、添付の図面を参照する以下の発明を実施するための形態においてより明らかになるであろう。
【0017】
【
図1】メベンダゾールで処理した細胞のウイルス阻害パーセント及び細胞生存率の阻害パーセントに関するインビトロ実験データを示す。
【
図2】イマチニブで処理した細胞からのインビトロ実験データを示し、
図2Aは、TCID50/mLデータを(対照に対するパーセントとして)示し、
図2Bは、阻害パーセントデータを示す。
【
図3】イマチニブで処理した2つの細胞株からのインビトロ細胞毒性実験データを示す。
【
図4】メベンダゾール及びイマチニブで処理した細胞からのインビトロウイルス阻害パーセント実験データ及び細胞毒性パーセント実験データを示す。
【
図5】SARS-CoV-2ウイルスに感染させ、次いでプラセボ又は本開示の実施形態による様々な処置で処置したマウスからのインビボ実験データを示すカプラン・マイヤー生存曲線である。
【
図6】
図5のマウスにおける体重変化パーセントを示す折れ線グラフである。
【
図7】対照群及び本開示の実施形態に従って処置したマウスの群からのALT、AST及びBUNの血清レベルを含む、
図5のマウスからのインビボ実験データを示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本説明の文脈において当業者によって一般的に理解されるであろう意味を有する。本明細書に記載されるものと類似又は同等の任意の方法及び材料もまた、本開示の実施又は試験において使用することができるが、好ましい方法及び材料がここで記載される。本明細書で言及される全ての刊行物は、刊行物が引用されることに関連する方法及び/又は材料を開示及び記載するために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0019】
本明細書で使用される場合、「a」、「an」、及び「the」という単数形は、文脈が明確にそうでないと指示しない限り、複数の言及を含む。例えば、「薬剤(an agent)」に対する言及は、1つ以上の薬剤を含み、「対象(a subject)」又は「対象(the subject)」に対する言及は、1つ以上の対象を含む。
【0020】
本明細書で使用される場合、「約」又は「およそ」という用語は、所与の値又は範囲の約25%以内、好ましくは約20%以内、好ましくは約15%以内、好ましくは約10%以内、好ましくは約5%以内を指す。そのような変動は、それが具体的に言及されているか否かにかかわらず、本明細書で提供される任意の所与の値に常に含まれることが理解される。
【0021】
本明細書で使用される場合、「活性」という用語は、「機能性」という用語と交換可能に使用され、両方の用語は、生体分子の生理学的作用を指す。
【0022】
本明細書で使用される場合、「薬剤」及び「治療薬剤」という用語は、対象に投与されると、対象において1つ以上の化学反応及び/又は1つ以上の物理的反応及び/又は1つ以上の生理学的反応及び/又は1つ以上の薬理学的反応及び/又は1つ以上の免疫学的反応を引き起こす物質を指す。
【0023】
本明細書で使用される場合、「改善する」という用語は、向上させること、及び/又はより良好にすること、及び/又はより満足のいくものにすることを指す。
【0024】
本明細書で使用される場合、「細胞」という用語は、単一の細胞、及び複数の細胞又は同じ細胞型若しくは異なる細胞型の集団を指す。細胞への薬剤の投与は、インビボ、インビトロ及びエクスビボ投与並びに/又はそれらの組み合わせを含む。
【0025】
本明細書で使用される場合、「複合体」という用語は、薬剤の1つ以上の粒子と1つ以上の標的ビリオンとの間の直接的又は間接的な会合を指す。この会合は、標的ビリオンの代謝又は機能性の変化をもたらす。本明細書で使用される場合、「代謝の変化」という語句は、1つ以上の標的ビリオンによる1つ以上のタンパク質の産生、及び/又は1つ以上のタンパク質の任意の翻訳後修飾の増加又は減少を指す。本明細書で使用される場合、「機能性の変化」という語句は、薬剤/ビリオン複合体内のビリオンの1つ以上の態様の生理学的機能の、そのような複合体の一部ではないビリオンと比較した差異を指す。
【0026】
本明細書で使用される場合、「調節不全」及び「調節不全の」という用語は、恒常性制御系が妨害及び/又は損なわれ、その結果、対象内の1つ以上の代謝系、生理系及び/又は生化学系が、当該恒常性制御系なしで部分的又は完全に作動する状況又は状態を指す。
【0027】
本明細書で使用される場合、「賦形剤」という用語は、それ自体が薬剤ではなく、1つ以上の薬剤などを対象に送達するために組成物中で使用され得るか、あるいは代替的に(例えば、医薬組成物を作製するために)1つ以上の担体などと組み合わされて、その取り扱い特性若しくは保存特性を向上させるか、又は組成物の用量単位の形成(例えば、その後任意選択的に経皮パッチに組み込まれ得る局所ヒドロゲルの形成)を可能にし得るか若しくは容易にし得る、任意の物質を指す。賦形剤としては、限定ではなく例示として、結合剤、崩壊剤、味覚増強剤、溶媒、増粘剤又はゲル化剤(及び必要に応じて任意の中和剤)、浸透促進剤、可溶化剤、湿潤剤、抗酸化剤、滑沢剤、皮膚軟化剤、不快な臭気、香気又は味をマスク又は中和するために添加される物質、組成物の外観又は質感を向上させるために添加される物質、及び医薬組成物を形成するために使用される物質が挙げられる。任意のそのような賦形剤は、本開示による任意の剤形で使用することができる。賦形剤の前述のクラスは、網羅的であることを意味せず、単に例示的であることを意味する。
【0028】
本明細書で使用される場合、「阻害する」、「阻害すること」及び「阻害」という用語は、生物学的プロセス、疾患、障害又はその症状の活性、応答、又は他の生物学的パラメータの減少を指す。これには、活性、応答、状態、又は疾患の完全な消失が含まれ得るが、これらに限定されない。これにはまた、例えば、天然又は対照レベルと比較して、活性、応答、状態、又は疾患の10%の低減が含まれ得る。したがって、低減は、天然又は対照レベルと比較して、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、又は具体的に列挙されたパーセンテージの間の任意の量の低減であり得る。
【0029】
本明細書で使用される場合、「医薬」という用語は、疾患、障害若しくはその症状からの回復を促進することができる、及び/又は疾患、障害若しくはその症状を予防することができる、及び/又は疾患、障害若しくはその症状の進行を阻害することができる薬剤を含む、医薬品及び/又は医薬組成物を指す。
【0030】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、疾患、障害又はその症状の療法又は処置を必要とする対象に投与されるべき1つ以上の薬剤を含むが、必ずしもこれらに限定されない任意の組成物を意味する。医薬組成物は、添加剤(例えば、薬学的に許容される担体、薬学的に許容される塩、賦形剤など)を含んでもよい。医薬組成物はまた、1つ以上の更なる活性成分(例えば、抗菌剤、抗炎症剤、麻酔剤、鎮痛剤など)を更に含み得る。
【0031】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、1つ以上の薬剤の効力及び/又は安全性を阻害しない、医薬組成物又は医薬内の本質的に化学的に不活性かつ非毒性の成分を指す。薬学的に許容される担体及びそれらの製剤のいくつかの例は、Remington(1995,The Science and Practice of Pharmacy(19th ed.)ed.A.R.Gennaro,Mack Publishing Company,Easton,PA)に記載されており、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。典型的には、適切な量の薬学的に許容される担体を製剤中で使用して、当該製剤を等張性にする。好適な薬学的に許容される担体の例としては、生理食塩水溶液、グリセロール溶液、エタノール、N-(1(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)、ジオレオールホスホチジルエタノールアミン(dioleolphosphotidylethanolamine、DOPE)、及びリポソームが挙げられるが、これらに限定されない。そのような医薬組成物は、対象への適切な投与に好適な形態を提供するために、治療有効量の薬剤を、好適な量の1つ以上の薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤と共に含有する。製剤は投与経路に適している。例えば、経口投与は、対象の胃腸管の一部での分解から薬剤を保護するために腸溶性コーティングを必要とし得る。別の例では、対象の血管系全体への輸送を促進するため、及び標的細胞内部位の細胞膜を通過する送達を促進するために、注射可能な投与経路がリポソーム製剤に与えられ得る。
【0032】
本明細書で使用される場合、「予防する」、「の予防」及び「予防すること」という語句は、疾患、障害又はその症状の開始又は進行を回避することを指す。
【0033】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、薬剤を受ける任意の治療標的を指す。
【0034】
対象は、脊椎動物、例えば、ヒトを含む哺乳動物であり得る。「対象」という用語は、特定の年齢又は性別を意味しない。「対象」という用語はまた、生物の1つ以上の細胞、1つ以上の組織型のインビトロ培養物、1つ以上の細胞型のインビトロ培養物、エクスビボ調製物、並びに/又は組織及び/若しくは生体液などの生物学的材料の試料を指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、「標的細胞」という用語は、ウイルスが1つ以上の細胞型の外膜と融合する、細胞に侵入する、及び/又はその中で複製することによってコロナウイルスと相互作用し得る、対象内の1つ以上の細胞型を指す。いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、対象の標的細胞は、ウイルス相互作用に必要な受容体及び/又は補因子を発現する対象内の任意の細胞を含むことができる。これらの型の細胞の例としては、上気道及び誘導気道の上皮細胞(有繊毛及び無繊毛)、肺胞上皮細胞(1型及び2型の両方)、嗅覚系の上皮細胞及びニューロン、中枢神経系又は末梢神経系のニューロン、胃腸管の上皮細胞、エンテロサイト及び腺細胞、免疫エフェクター細胞を含む血液の細胞、心血管細胞、及び腎細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
本明細書で使用される場合、「標的ビリオン」という用語は、対象細胞内でウイルス感染を引き起こす能力を有するコロナウイルスの1つ以上のウイルス粒子を指す。本開示のいくつかの実施形態では、ウイルス粒子は、1つ以上のSARS-CoV-2の変異体の粒子である。
【0037】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」という用語は、疾患、障害又はその症状のうちの1つ以上を改善、予防、処置及び/又は阻害するのに十分な分量である、使用される薬剤の量を指す。「治療有効量」は、使用される薬剤、薬剤の投与経路、及び疾患、障害又はその症状の重症度に応じて変化する。対象の年齢、体重及び遺伝子構造もまた、治療有効量となる薬剤の量に影響し得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、「処置する」、「処置」及び「処置すること」という用語は、所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることを指す。効果は、疾患、障害、若しくはその症状の発生を完全に若しくは部分的に予防するという点で予防的であってもよく、かつ/又は効果は、疾患、障害、若しくはその症状の部分的若しくは完全な改善若しくは阻害を提供する点で治療的であってもよい。更に、「処置」という用語は、対象における疾患、障害又はその症状の任意の処置を指し、(a)疾患に罹患しやすい可能性があるが、まだそれを有すると診断されていない対象において疾患が発生するのを予防することと、(b)疾患を阻害すること、すなわち、その発症を阻止することと、(c)疾患を改善することと、を含む。
【0039】
本明細書で使用される場合、「単位剤形」及び「単位用量」という用語は、患者のための単位に用いる用量として好適な物理的に別個の単位を指す。各単位は、所定量の薬剤と、任意選択的に、1つ以上の好適な薬学的に許容される担体、1つ以上の賦形剤、1つ以上の追加の活性成分、又はそれらの組み合わせと、を含有する。各単位内の薬剤の量は、治療有効量である。
【0040】
本開示の実施形態では、本明細書に開示される医薬組成物は、経口、静脈内注射、筋肉内注射、局所、経粘膜又はそれらの組み合わせなどの1つ以上の経路によって対象に投与され得る1つ以上の薬剤を含む。本開示のいくつかの実施形態では、1つ以上の薬剤は、所定の日数の過程にわたって投与される所定の総1日用量として特徴付けられる治療有効量を送達するために経口投与される。本開示のいくつかの実施形態では、所定の総1日用量は、全てのより少ない用量が投与された時に対象が所定の総1日用量を摂取するように、1日を通して1つ以上のより少ない用量で投与されてもよい。
【0041】
本開示の実施形態では、本明細書に開示される医薬組成物は、組成物の重量による総量の約0.1%~約95%で、本明細書に記載されるような1つ以上の薬剤を含む。例えば、医薬組成物の重量による薬剤の量は、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1%、約1.1%、約1.2%、約1.3%、約1.4%、約1.5%、約1.6%、約1.7%、約1.8%、約1.9%、約2%、約2.1%、約2.2%、約2.3%、約2.4%、約2.5%、約2.6%、約2.7%、約2.8%、約2.9%、約3%、約3.1%、約3.2%、約3.3%、約3.4%、約3.5%、約3.6%、約3.7%、約3.8%、約3.9%、約4%、約4.1%、約4.2%、約4.3%、約4.4%、約4.5%、約4.6%、約4.7%、約4.8%、約4.9%、約5%、約5.1%、約5.2%、約5.3%、約5.4%、約5.5%、約5.6%、約5.7%、約5.8%、約5.9%、約6%、約6.1%、約6.2%、約6.3%、約6.4%、約6.5%、約6.6%、約6.7%、約6.8%、約6.9%、約7%、約7.1%、約7.2%、約7.3%、約7.4%、約7.5%、約7.6%、約7.7%、約7.8%、約7.9%、約8%、約8.1%、約8.2%、約8.3%、約8.4%、約8.5%、約8.6%、約8.7%、約8.8%、約8.9%、約9%、約9.1%、約9.2%、約9.3%、約9.4%、約9.5%、約9.6%、約9.7%、約9.8%、約9.9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%又は約95%であってもよい。
【0042】
本開示の実施形態では、本明細書に開示される医薬組成物は、組成物の重量による総量の約0.1%~約95%で、上述のような2つ以上の薬剤を含む。例えば、第1の薬剤及び第2の薬剤の量は、同じであっても異なっていてもよい。医薬組成物の重量による第1の薬剤及び第2の薬剤の量は、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1%、約1.1%、約1.2%、約1.3%、約1.4%、約1.5%、約1.6%、約1.7%、約1.8%、約1.9%、約2%、約2.1%、約2.2%、約2.3%、約2.4%、約2.5%、約2.6%、約2.7%、約2.8%、約2.9%、約3%、約3.1%、約3.2%、約3.3%、約3.4%、約3.5%、約3.6%、約3.7%、約3.8%、約3.9%、約4%、約4.1%、約4.2%、約4.3%、約4.4%、約4.5%、約4.6%、約4.7%、約4.8%、約4.9%、約5%、約5.1%、約5.2%、約5.3%、約5.4%、約5.5%、約5.6%、約5.7%、約5.8%、約5.9%、約6%、約6.1%、約6.2%、約6.3%、約6.4%、約6.5%、約6.6%、約6.7%、約6.8%、約6.9%、約7%、約7.1%、約7.2%、約7.3%、約7.4%、約7.5%、約7.6%、約7.7%、約7.8%、約7.9%、約8%、約8.1%、約8.2%、約8.3%、約8.4%、約8.5%、約8.6%、約8.7%、約8.8%、約8.9%、約9%、約9.1%、約9.2%、約9.3%、約9.4%、約9.5%、約9.6%、約9.7%、約9.8%、約9.9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%又は約95%であってもよい。
【0043】
本開示の実施形態では、本明細書に開示される医薬組成物は、各薬剤の質量による総量で上述のような2つ以上の薬剤を含み、それによって、対象は、所定の1日量を摂取するように、2つ以上の薬剤のそれぞれの所与の質量を投与され得る。例えば、第1の薬剤及び第2の薬剤の量は、同じであっても異なっていてもよい。本開示のいくつかの実施形態では、第1の薬剤の所定の1日量は、約25mg/日~約500mg/日、又は約50mg/日~約450mg/日、又は約75mg/日~約425mg/日、又は約100mg/日~約400mg/日、又は約125mg/日~約375mg/日、又は約150mg/日~約350mg/日、又は約175mg/日~約325mg/日、又は約200mg/日~約300mg/日であってもよい。本開示のいくつかの実施形態では、第1の薬剤の所定の1日用量は、約185mg/日~約215mg/日、又は約190mg/日~約210mg/日、又は約195mg/日~約205mg/日であってもよい。本開示のいくつかの実施形態では、第1の薬剤の所定の1日用量は、約200mg/日であってもよく、経口送達されてもよく、第1の薬剤はメベンダゾールであってもよい。
【0044】
本開示のいくつかの実施形態では、第2の薬剤の所定の1日用量は、0であってもよく、又は約400mg/日~約1200mg/日、又は約500mg/日~約1100mg/日、又は約600mg/日~約1000mg/日、又は約700mg/日~約900mg/日であってもよい。本開示のいくつかの実施形態では、第2の薬剤の所定の1日用量は、約700mg/日~約900mg/日、又は約725mg/日~約875mg/日、又は約750mg/日~約850mg/日、又は約775mg/日~約825mg/日であってもよい。本開示のいくつかの実施形態では、第2の薬剤の所定の1日用量は、約800mg/日であってもよく、経口送達されてもよく、第2の薬剤は、イマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤であってもよい。
【0045】
本開示のいくつかの実施形態では、第1の薬剤及び第2の薬剤は、別々に投与されてもよく、又はそれらは、5~15日間、又は6~14日間、又は7~13日間、又は8~12日間、又は9~11日間の期間にわたって、単一の併用療法として投与されてもよい。本開示のいくつかの実施形態では、対象は、所定の1日用量の第1の薬剤及び所定の1日用量の第2の薬剤を約10日間の期間にわたって投与される。第1及び第2の薬剤が別々に投与される実施形態では、両方の薬剤は、少なくとも60分の間隔で投与され得る(イマチニブから開始し、60分後にメベンダゾールが続く)。
【0046】
第1及び第2の薬剤が単一の併用療法として投与される実施形態では、併用療法の所与の投与における第1の薬剤及び第2の薬剤の量は、第1及び第2の薬剤の所定の1日用量全体を提供してもよく、又は各薬剤の所定の1日用量の一部を提供し得る。
【0047】
値の範囲が本明細書で提供される場合、その範囲の上限と下限との間にある各値は、文脈が別途明確に指示しない限り、下限の単位の10分の1まで、及びその記載された範囲内の任意の他の記載された値又は範囲内にある値は、本開示内に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限が、より小さい範囲内に独立して含まれ得、また、本開示内に包含され、記載された範囲内の任意の具体的に除外された限界に従う。記載された範囲が限界の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限界のいずれか又は両方を除外する範囲も、本開示に含まれる。
【0048】
COVID-19患者は、症状の開始から呼吸困難の発症までの時間が5~10日であり得ることが実証されている。一部のCOVID-19患者では、重度の呼吸窮迫症候群を発症するのに10~14日かかる場合がある。末期疾患への進行の確率は予測不可能であり、これらの患者の大部分は多臓器不全で死亡する。軽度から中等度のCOVID-19を有する自発呼吸患者において進行を阻害することは、罹患率及び死亡率の低下、並びに限られた医療資源のより低い使用につながり得る。
【0049】
SARS-CoV-2ウイルスは、疾患の初期段階中に嘔吐、下痢、又は腹痛などの胃腸症状を引き起こす場合がある。胃腸機能障害は、腸内微生物の変化及び炎症性サイトカインの増加を誘導し得る。
【0050】
メベンダゾールは、単一の又は混在した蠕虫の感染に対して広域スペクトル活性を示す駆虫剤である。メベンダゾールは、蠕虫の腸内のチューブリンに選択的に結合し、微小管形成を妨害し、グルコース取り込み及びATPの生成を遮断し、消化機能の障害、幼虫の発育の阻害、及び蠕虫の死をもたらす。前臨床試験は、メベンダゾールが、チューブリン重合、血管形成、マトリックスメタロプロテイナーゼ、及び多剤耐性タンパク質輸送体などの腫瘍進行に関与する広範囲の因子を阻害することによって抗腫瘍活性を有し得ることを示唆している。メベンダゾールはまた、ATP結合カセット(イマチニブ)輸送体を含むいくつかの薬物輸送体を阻害することが示された。
【0051】
SARS-CoV-2ウイルスは、宿主細胞へのウイルスの侵入を成功させるために細胞骨格フィラメント(例えば、アクチン、チューブリン)と相互作用することが知られているスパイクタンパク質を有する。ウイルスの侵入は、ウイルス感染における重要なステップである。
【0052】
メベンダゾールの経口投与後、ピーク血漿濃度は2~4時間で達成される。動物及びヒトの研究は、軽度から中程度の経口吸収を示す。ヒトにおいて、単回経口用量の約10%未満が、広範な初回通過代謝に起因して体循環に到達する。17%の経口バイオアベイラビリティが報告されている。3日間連続して100mgを1日2回投与した後の、メベンダゾールの血漿濃度は、0.03μg/mL(0.1μM)を超えなかった。長期経口投与後、血漿濃度の増加は、定常状態への約3倍高い曝露をもたらした。長期メベンダゾール化学療法を受けている対象において、ピーク血漿濃度は、0.1~0.5μg/mL(0.3~1.69μM)の範囲であった。全身曝露は、報告によれば、成人と比較して小児において高い。経口投与後のヒト乳中に少量のメベンダゾールが存在することを示唆する証拠がある。メベンダゾールは、肝臓において、メベンダゾールの血漿濃度と比較して高い血漿濃度を実証するいくつかの不活性代謝産物に広範に代謝される。メベンダゾールの代謝産物は、腸肝再循環を受ける可能性が高い。排泄は主に糞便であり、経口用量の2%未満が尿中に排泄される。消失半減期は、3~6時間の範囲である。
【0053】
イマチニブは、フィラデルフィア染色体陽性慢性骨髄性白血病(Ph+CML)及び急性リンパ芽球性白血病(Ph+ALL)を有する成人及び小児患者の処置に適応されるキナーゼ阻害剤である。
【0054】
抗炎症効果に加えて、イマチニブは抗ウイルス特性も示す。イマチニブの抗ウイルス活性は、細胞侵入及びエンドソーム輸送後、エンドソーム膜でのウイルスの融合を阻害することによって、感染の初期段階で生じるようである。この薬物の潜在的な抗ウイルス特性は、前臨床アッセイにおいて以前に実証されており、イマチニブは、インビトロアッセイにおいて、主にABL 2型キナーゼの阻害を介して、SARS-CoV及びMERS-CoV複製に対する強力な阻害効果を実証した。これらの研究において、イマチニブは低い毒性を実証し、9.8~17.6μMの範囲のEC50値でSARS-CoV及びMERS-CoVを阻害した。これらのデータは、ABL1経路が、異なるウイルス科の複製に重要であり得、したがって、この経路の阻害剤が、広域スペクトルの抗ウイルス剤である可能性を有することを示唆する。更に、薬物動態研究は、ABL1、BCR-ABL1、及びABL2キナーゼ阻害についてのイマチニブのIC50が概ね0.3μMであり、400mg/日の経口イマチニブ用量の予想されるトラフ血漿濃度(1.7μM)より低いことを実証した。最初の推定値は、SARS-CoV-2ウイルスの阻害についておよそ2.5μMのEC50値を示唆する。この濃度は、患者における約800mg/日のイマチニブの経口用量の投与後にインビボで達成可能であり、したがって、本開示の実施形態による組み合わせ療法に含まれる治療有効量の1つである。
【0055】
前臨床モデルに基づくと、経口投与されたメベンダゾールは、わずか約15%のバイオアベイラビリティを示し、薬物の残りは胃腸管に残った。対照的に、イマチニブは優れた吸収(経口投与後98%のバイオアベイラビリティ)を示した。本開示のいくつかの実施形態では、2つの薬物は、投与の間が少なくとも60分で投与され得る。例えば、処置は、治療有効量のイマチニブを投与することから開始し、約60分以上待機した後、治療有効量のメベンダゾールを投与することができる。このアプローチは、処置中の任意の起こり得る薬物-薬物相互作用を最小化し得る。
【0056】
本開示のいくつかの実施形態では、メベンダゾール及びイマチニブは、同じ又は異なる治療有効量で、個別に又は組み合わせて薬剤として使用され得る。非限定的な例として、メベンダゾール及びイマチニブは、メベンダゾール及びイマチニブのそれぞれ又は両方の1mg~1000mgの用量を送達する1つ又は2つ以上の医薬で提供され得る。更なる非限定的な例では、1つ又は2つ以上の医薬は、約5mg~約995mg、約10mg~約990mg、約25mg~約975mg、約50mg~950mg、約75mg~925mg、約100mg~約900mg、約200mg~800mg、約300mg~700mg、約500mg~600mg、及びこれらの組み合わせのメベンダゾール及びイマチニブのそれぞれ又は両方の単回用量を送達し得る。
【0057】
本開示のいくつかの実施形態は、メベンダゾール及びイマチニブの両方を、同じ又は異なる治療有効量のCOVID-19を処置するための各薬剤と共に含む医薬組成物に関する。本開示のいくつかの実施形態では、医薬組成物は、1つ以上の担体及び/又は1つ以上の賦形剤を更に含む。
【0058】
実施例1-タンパク質-タンパク質結合モデリング
【0059】
ルイジアナ州立大学(LSU)DeepDrug(商標)計算人工知能(Artificial Intelligence、AI)システムは、SARS-CoV-1及び他のウイルスを標的とすることが知られている抗ウイルスペプチド(antiviral peptide、AVP)に対する薬物の類似性に基づいて、メベンダゾール及びイマチニブを、SARS-CoV-2に対して有効である可能性が高いと同定した。AVPは、(1)ウイルスの細胞表面への結合及びエンドソーム区画への内部移行(侵入)、(2)ウイルスのエンドソーム区画からサイトゾルへの放出(融合)、並びに(3)ウイルスタンパク質のプロセシング及びウイルスゲノムの複製(複製)を含むウイルス複製ライフサイクルにおける重要なステップを標的とすることによってウイルス感染に応答するヒトタンパク質の断片である。
【0060】
AI技術を使用して、メベンダゾール、イマチニブ、及びAVPについての「フィンガープリント」を、細胞内の全てのタンパク相互作用の数学的表現において生成した。この数学的表現は、以下のデータセットに基づいて作成された:AVPdb(SARS-CoV-1由来の98個を含む2,683個のAVPのデータセット);HPIDB(981個のHIV AVPのデータセット);hu.map(1750万個のタンパク質-タンパク質相互作用のデータセット);Corum(4,274個の哺乳動物タンパク質複合体のデータセット);STRING(5,090の生物由来の4,584,628個のタンパク質のデータセット);DrugBank(13,491個の薬物のデータセット);及びBindingDB(846,857個の薬物及び7,605個のタンパク標的のデータセット)。
【0061】
Siamese Network(SNet)と呼ばれるAI技術を使用して、メベンダゾール及びイマチニブのフィンガープリントをAVPのフィンガープリントと比較した。SNet予測は、最も強い抗ウイルス効果を示した少数のSARS-CoV-1 AVPに基づいていた。更に、SNetは、ウイルス感染の3つの機構(例えば、侵入、融合、及び複製)について別々の予測を提供し、これにより、薬物スクリーニングにおいてより高い特異度が得られた。SNetはフィンガープリントを多次元空間に投影し、それらの間の距離を計算し、予測が0に近いほど、フィンガープリントの対はより類似しており、薬物はAVPにより類似していた。最適閾値0.63未満の予測は、薬物のフィンガープリントとAVP(すなわち、抗ウイルス効果を有する薬物)のフィンガープリントとの間の有意な類似性を示す。
【0062】
3つの機構は、以下の理由のために関連する:細胞へのウイルス侵入を阻害することは、対象細胞に作用するウイルスの量を低減し得るので、侵入は重要である。
【0063】
対象細胞への全てのウイルス侵入が標準的な機構によって起こるわけではないので、融合は注目に値する。場合によっては、ウイルスは、対象細胞の膜と直接融合することができることがあり、この融合を介して、ウイルスは対象細胞に侵入し、感染することができる。これは、標準的な侵入機構の約1/10の割合で起こるが、それにもかかわらず、阻害のために標的とすることが望ましい機構である。
【0064】
同様に、複製の阻害は、細胞が感染した後に生成され、他の細胞に広がるウイルス負荷の量を低減するために重要である。最後に、これらの特定のペプチドのフィンガープリントは、ヒトプロテオーム及びその中の全てのプロセスに関与するタンパク質の大きなグラフを使用することによって作成された。これらのフィンガープリントを薬物フィンガープリントと比較することによって、ヒトプロテオームに対するAVPと同様の(抗ウイルス)効果の可能性を有する薬物の同定を行った。
【0065】
イマチニブ及びメベンダゾールの両方は、ウイルス機構(例えば、侵入、融合、及び複製)のそれぞれについて有意な支持(すなわち、0に最も近いSNet距離)を受けた。4,118個のFDA承認薬についてのSNet予測の包括的分析に基づいて、イマチニブ及びメベンダゾールは、各機構について上位99パーセンタイル以内にランク付けされた(表1)。いくつかの他のチロシンキナーゼ阻害剤及び抗寄生虫薬は、0に近いSNet距離を有するものとして同定されたが、イマチニブ及びメベンダゾールは、現在、ヒト疾患の処置に適応されるオフパテント(後発)FDA承認薬である。
【0066】
【0067】
低分子治療薬がCOVID-19ウイルス粒子と結合する可能性の評価を行った。低分子に対する潜在的な結合部位のために3つの異なる機構を使用して、タンパク質-タンパク質結合の可能性を決定した。必須SARS-CoV-2プロテアーゼの結晶構造の鋳型を用いて、プロテアーゼ阻害剤結合ポケットの機能中心を同定した。
【0068】
第1の結合機構
【0069】
いくつかの治療用化合物を研究して、それらが第1の結合機構に従ってCOVID-19粒子に結合する傾向を決定した。治療用化合物が、哺乳動物細胞へのCOVID-19の侵入、COVID-19粒子と哺乳動物細胞との融合、及び最終的にはCOVID-19感染細胞の複製に影響を与える可能性を評価することによって、相互作用を更に評価した。表1は、この第1ラウンドのモデリングデータ分析で得られたデータをまとめる。
【0070】
【0071】
第1の結合機構の研究において収集されたデータによれば、試験された化合物は、COVID-19粒子に結合する傾向を実証した。
【0072】
第2の結合機構
【0073】
同じ化合物を引き続いて研究して、それらが第2の結合機構に従ってCOVID-19粒子に結合する傾向を決定した。治療用化合物が、哺乳動物細胞へのCOVID-19の侵入、COVID-19粒子と哺乳動物細胞との融合、及び最終的にはCOVID-19感染細胞の複製に影響を与える可能性を評価することによって、相互作用を更に評価した。表2は、この第2ラウンドのモデリングデータ分析で得られたデータをまとめる。
【0074】
【0075】
第2の結合機構の研究において収集されたデータによれば、試験された化合物は、COVID-19粒子に結合する傾向を実証した。
【0076】
第3の結合機構
【0077】
同じ化合物を再び研究して、それらが第3の結合機構に従ってCOVID-19粒子に結合する傾向を決定した。治療用化合物が、哺乳動物細胞へのCOVID-19の侵入、COVID-19粒子と哺乳動物細胞との融合、及び最終的にはCOVID-19感染細胞の複製に影響を与える可能性を評価することによって、相互作用を更に評価した。表3は、この第3ラウンドのモデリングデータ分析で得られたデータをまとめる。
【0078】
【0079】
第3の結合機構の研究において収集されたデータによれば、試験された化合物は、COVID-19粒子に結合する傾向を実証した。
【0080】
パブリックドメインからのデータを使用して、因果関係分析を実施して、メベンダゾールによって直接的又は間接的に影響されるタンパク質を同定した。メベンダゾールについて、22のタンパク質に対するタンパク質相互作用スコアを同定した:上位4つは、寄生虫トキソプラズマ・ゴンディイ由来のカルモジュリンドメインプロテインキナーゼ1(CDPK1)(スコア0.67)、血管内皮増殖因子受容体2(VEGF2)(0.62)、アベルソンチロシンプロテインキナーゼ1(ABL1)(0.57)、及び癌原遺伝子チロシンプロテインキナーゼSrc(SRC)(0.55)であった(表4)。いくつかのウイルスタンパク質をメベンダゾールの潜在的タンパク質標的として同定し、それらには、ウエストナイルウイルス由来のゲノムポリタンパク質(0.20)、A型インフルエンザウイルス由来のRNAポリメラーゼサブユニットP3(0.15)、及びB型肝炎ウイルス由来のカプシドタンパク質が含まれた。これらのデータは、メベンダゾールと、ウイルスのプロセシング、輸送、及び複製に関与するウイルスタンパク質との間の直接的又は間接的相互作用を支持する。コロナウイルスのウイルスタンパク質は、この分析方法を用いて同定されなかったが、これはデータの利用が限られていたことに起因した可能性があり、他の分析は、メベンダゾールがSARS-CoV-1を標的とする抗ウイルスペプチドと同様の抗ウイルス効果を有する可能性を示した。
【0081】
【0082】
同様の分析がイマチニブについても同定され、これは、いくつかのチロシンプロテインキナーゼを含む36のタンパク質についてタンパク質相互作用スコアをもたらした(表5)。
【0083】
【0084】
実施例2:インビトロ研究
【0085】
SARS-CoV-2(USA-WA1/2020分離株)に対するメベンダゾール及び他の潜在的な抗ウイルス化合物のインビトロ有効性を、ヒト肺癌(Calu-3)細胞において評価した。4μMのメベンダゾールのストック溶液をDMSO中で調製し、5000nM、1670nM、555.6nM、185.2nM、61.7nM、20.6nM、6.9nM、及び2.3nMの8つの濃度で試験した。Calu-3細胞を96ウェルプレートで培養し、3連で試験した。前処理/処理レジメンを利用し、ここで、細胞をメベンダゾールと24±4時間インキュベートし、次いで、細胞にSARS-CoV-2を、細胞当たり0.005TCID50(50%組織培養感染量)の感染多重度(MOI)(200TCID50/ウェル)で接種し、60~90分間インキュベートした。インキュベーションの直後に、ウイルス接種物を除去し、細胞を洗浄し、ウェルに、メベンダゾール又は対照物質を含有する2%胎児ウシ血清(Fetal Bovine Serum、FBS)を含む0.2mLのイーグル改変必須培地(Eagle’s Modified Essential Media、EMEM)を重ね、加湿チャンバー中、37℃±2℃で、5±2%のCO2においてインキュベートした。ウイルス接種の48±6時間後に、細胞を固定し、免疫染色アッセイによってウイルスの存在について(MTT[3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド]アッセイによって細胞変性効果(cytopathic effect、CPE)について)評価した。
【0086】
アッセイプレート上の各ウェルについて、SARS-CoV-2の阻害を、下記の式によって、陽性対照(ウイルス対照のA450;薬物なし及び0%の阻害)及び陰性対照(細胞対照のA450;ウイルスなし及び100%の阻害)として指定されたウェルからの平均吸光度値に対する吸光度値(メベンダゾール希釈物のA450)の低下のパーセンテージとして計算した。
【0087】
【0088】
有効濃度(EC50)を、ウイルス対照(0%の阻害)の平均吸光度値を細胞対照(100%の阻害)に対して50%低下させるメベンダゾールの濃度として定義した。8つの濃度でのメベンダゾールの細胞毒性もまた、細胞生存率の阻害パーセントによって決定されるように評価した。
【0089】
図1は、2.3nM~5000nMでのメベンダゾールの有効性(SARS-CoV-2の阻害%)及び細胞毒性(細胞生存率の阻害%)についての濃度反応曲線を示す。Calu-3細胞を、0.005TCID50/細胞(200TCID50/ウェル)のMOIでSARS-CoV-2に感染させた。メベンダゾールは、SARS-CoV-2に対して活性であり(102nMのEC50)、明らかな細胞毒性を有さない(CC50>5000nM)ことが示された。メベンダゾールについて、102nMのEC
50でのSARS-CoV-2の100%の阻害が決定された。細胞毒性濃度(CC
50)は、最大濃度5000nMまでの全ての試験濃度で細胞毒性が観察されなかったこと(細胞生存率の約0%の阻害)に基づいて5μM超と推定され、これらのヒト肺細胞において報告された有効濃度と細胞毒性濃度との間の広い安全域を示した。
【0090】
更なるインビトロ実験は、イマチニブもまた、SARS-CoV-2を感染させたVero 76アフリカミドリザル腎細胞(New York-PV091158/2020株)においてSARS-CoV-2を阻害することを実証した。イマチニブの存在が、増加したSARS-CoV-2阻害としてデータにおいて表され得る、細胞へのウイルスの侵入を損ない得るかどうかを評価するために、イマチニブを細胞に、ウイルスと同時に(「ウイルス感染前及び感染後のイマチニブ」)、又はウイルスとの1時間のインキュベーション後に(「ウイルス感染後のイマチニブ」)添加した。処理前及び処理後アームについて、イマチニブによるSARS-CoV-2の阻害パーセントは、43%(1μM)、51%(50μM)、及び74%(100μM)であった(
図2Bを参照のこと)。処理後アームについて、イマチニブによるSARS-CoV-2阻害は、24%(1μM)、3%(50μM)、及び55%(100μM)であった(データは示さず)。両方のアームについて、最も高い濃度のイマチニブ(100μM)によるSARS-CoV-2阻害は、一元配置分散分析(ANOVA)によって統計的に有意であった。
【0091】
同じ実験条件を使用し、Vero 76細胞に加えて別の細胞株(Calu-3)を含めて、細胞毒性実験を並行して実施し、試験したいずれの濃度(最大100μM)でも細胞毒性は観察されなかった(
図3を参照のこと)。これらのデータは、イマチニブが1μMという低い濃度でSARS-CoV-2をかなり阻害し、100μMで細胞毒性ではなかったことを示し、ヒトにおける良好な治療指数を支持する。更に、ウイルスを細胞に添加する前にイマチニブを細胞に添加した場合に抗ウイルス活性の増加が観察され、イマチニブが、ウイルス複製に影響を及ぼすことに加えて、ウイルスが細胞に侵入する方法に影響を及ぼし得ることを示唆した。
【0092】
メベンダゾールと組み合わせたイマチニブのインビトロ有効性及び細胞毒性を、Calu-3細胞において評価した(
図4を参照のこと)。4つの異なる濃度(25、50、100、又は250nM)のイマチニブ及び4つの濃度(0.1、0.3、1、及び3μM)のメベンダゾールを、
図1について上述したのと同じプロトコルに従って細胞に添加した。これらの薬物濃度でメベンダゾールと組み合わせたイマチニブは、細胞毒性の証拠を示さず、SARS-CoV-2の用量依存的阻害を達成した。
【0093】
実施例3:インビボ研究
【0094】
このインビボ研究の目的は、雌マウス(系統:B6.Cg-Tg(K18-hACE2)2Prlmn/J)を使用して、ACE2マウスモデルにおいて、COVID-19の原因物質であるSARS-CoV-2に対する抗ウイルス治療薬のインビボ有効性を試験することであった。有効性は、RT-qPCRによって測定されるウイルス排出、及び肺組織のTCID50分析によって測定されるウイルス感染性を定量化することによって決定し、これらはいずれも、ウイルス感染の動物モデルにおいて感染性ウイルスの量を定量するための標準的なエンドポイントである。
【0095】
簡潔に説明すると、研究プロトコルは以下の通りであった:投薬の開始時(0日目)に、マウスはおよそ7~10週齢であり、15.7~22.3gの体重であり、研究への割り当ての前に少なくとも7日間検疫した。マウスを、ケタミン(100mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)混合物の腹腔内(IP)注射を介して麻酔し、5×103個のTCID50 SARS-CoV-2ウイルス(USA WA1/2020)を含有する30μL溶液で鼻腔内チャレンジした。接種物への曝露後、マウスを直立に保持してウイルスを完全に吸入させ、次いでマウスをケージに戻した。定量的ウイルス感染アッセイ(例えば、TCID50アッセイ)を、調製したウイルスチャレンジ溶液の一部に対して実施した。マウス(各群において11匹)にウイルスを投与し、その4~6時間後に、プラセボ、50mg/kg/日のメベンダゾール、100mg/kg/日のイマチニブ、又は50mg/kg/日のメベンダゾールと100mg/kg/日のイマチニブを、1日1回、10日間、強制経口投与によって投与した。SARS-CoV-2ウイルスの全ての取り扱いは、バイオセーフティレベル3条件下で実施した。
【0096】
動物室を蛍光灯で照明し、12時間の明/暗サイクルを維持した。全米研究評議会(National Research Council)の「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」,2011に従って、可能な限り最大限に、室温をおよそ20~26℃に、相対湿度をおよそ30~70%に維持した。室温及び相対湿度の値を毎日記録した。
【0097】
研究全体を通して、マウスを死亡又は瀕死の証拠について1日2回観察し、異常な臨床徴候を記録した。中間エンドポイントである6日目に、肺に対して肉眼的剖検検査を行い、RT-qPCR及びTCID50分析のために左肺を採取した。更に、鼻甲介、胃腸組織(例えば、胃、空腸、回腸、及び結腸)、脚骨、及び気管支リンパ節を顕微鏡検査のために採取し、血液を臨床化学測定のために採取した。
【0098】
肺組織試料中におけるウイルスの濃度を、RT-qPCR分析によって決定した。Quick-RNA Viral Kit(Zymo Research)を製造業者のプロトコルに従って使用してRNAを抽出し、RNA/DNA Shield(Zymo Research)中に保存した。iTaq Universal Probes One-Step Kit(Bio-Rad)を使用してRT-qPCR分析を実施した。以下のRT-qPCRサイクル条件を使用した:50℃で15分間(逆転写)、95℃で2分間(変性)、次いで、95℃で10秒間とそれに続く62℃で45秒間とを40サイクル。肺におけるウイルスの濃度を、以下の表5に示されるプライマーを使用するRT-qPCRを使用して決定した。
【0099】
【0100】
処置マウスからの肺試料のRT-qPCR分析(ウイルス力価/mRNAレベル)を表6及び表7に示す。メベンダゾール処置マウス及びメベンダゾール+イマチニブ処置マウスの平均ウイルス力価は、プラセボと比較して低く、非処置対照と比較した場合、それぞれ44.2%及び42.4%の低減パーセントであった。しかしながら、テューキーの事後比較による一元配置分散分析(ANOVA)を用いて統計的に有意な差は観察されなかった。差は群平均間で統計的に有意ではなかったが、メベンダゾール単独及びメベンダゾール+イマチニブで処置したマウスにおいてウイルス力価が低減するという生物学的に有意な傾向があった。例えば、メベンダゾール+イマチニブで処置した2匹のマウス(動物番号62及び番号63)は、プラセボ処置マウスの群平均と比較して、ウイルス力価の約97%の減少を示した。
【0101】
【0102】
【表9】
[ND]この動物のウイルス力価がプラセボ処置マウスのウイルス力価群平均より大きかったため、決定されなかった。
【0103】
肺試料のTCID50分析の結果を表8に示す。簡潔には、Vero C1008(E6)細胞にウイルスストックの適切な希釈液100μLを接種したか、又はVero C1008(E6)細胞を肺組織試料で処理し、37℃±2℃、5%±1%CO2、70%以上の相対湿度で120時間インキュベートした。120時間後、プレートをインキュベーターから取り出し、倒立顕微鏡を用いて細胞変性効果(CPE)の存在についてスコア付けした。ここでも群間の差は統計的に有意ではなかったが、メベンダゾール処置マウス及びメベンダゾール+イマチニブ処置マウスにおいて力価が減少する傾向があった。TCID50アッセイでは、メベンダゾール+イマチニブ処置マウス7匹のうちの5匹についてウイルス力価の減少が観察されたが、これは、イマチニブ処置マウスについては見られず、メベンダゾールがSARS-CoV-2に対してより直接的な抗ウイルス効果を有する可能性を実証した。作用機序に基づいて、イマチニブは、ウイルス感染の病理学的影響を低減する(すなわち、抗炎症剤として作用することによって症状の重症度を低減し、サイトカインストームを低減する)ことが示唆されている。
【0104】
【0105】
体重は、受領から2日以内及び無作為化時に記録した。全ての研究動物の体重をチャレンジ前に測定し、次いでチャレンジ後14日間測定した。体重変化パーセントの変化を各動物について計算した。
図5は、研究0日目から研究14日目までの生存パーセントを示す。
図6は、全ての実験群についての体重データ(初期体重に対する%)を示す。いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、メベンダゾール及びイマチニブで処置した実験群のマウスは、7日目の記録後に体重が回復したことが注目される。
【0106】
6日目に、肝臓又は腎臓の損傷について血清中生化学マーカーを評価し、イマチニブ処置マウス、メベンダゾール処置マウス、及びイマチニブ+メベンダゾール処置マウスについて、ALT、AST、又はBUNレベルの有意な変化は観察されず、処置後に有意な毒性がないことが示唆された(
図7を参照のこと)。更に、剖検時に採取された組織及び試料(鼻甲介、胃、空腸、回腸、結腸、大腿部、気管支リンパ節、及び右肺)における異常な組織病理学的所見は観察されず、メベンダゾール及びイマチニブの組み合わせの好ましい安全性プロファイルを支持した。
【0107】
いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、本開示の実施形態は、SARS-CoV-2ウイルスの1つ以上の変異体に感染した(又は感染する可能性が高い)対象の処置に関する。本開示のいくつかの実施形態では、メベンダゾールが投与され、本開示のいくつかの実施形態では、メベンダゾールがイマチニブと共に投与される。本開示のいくつかの実施形態は、薬剤/標的細胞複合体を形成した標的細胞へのウイルスの侵入を予防する方法に関する。本開示のいくつかの実施形態は、薬剤/標的細胞複合体をなした標的細胞とウイルスとの融合を阻害する方法に関する。本開示のいくつかの実施形態は、薬剤/標的細胞複合体をなした標的細胞内でのウイルスの複製を阻害する方法に関する。本開示のいくつかの実施形態は、薬剤/ビリオン複合体が形成された場合、対象の細胞へのウイルスの侵入を予防する方法に関する。本開示のいくつかの実施形態は、薬剤/ビリオン複合体が形成された場合、対象の細胞とウイルスとの融合を阻害する方法に関する。本開示のいくつかの実施形態は、薬剤/ビリオン複合体が形成された場合、対象の細胞内でのウイルスの複製を阻害する方法に関する。薬剤はメベンダゾール、イマチニブ又はその両方であってもよい。
【国際調査報告】