(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】燃料電池スタック封止のためのガラス組成物
(51)【国際特許分類】
C03C 3/095 20060101AFI20240312BHJP
C03C 10/04 20060101ALI20240312BHJP
C03B 32/02 20060101ALI20240312BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20240312BHJP
H01M 8/0273 20160101ALI20240312BHJP
H01M 8/0282 20160101ALI20240312BHJP
H01M 8/0286 20160101ALI20240312BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240312BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240312BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240312BHJP
C25B 13/05 20210101ALI20240312BHJP
C25B 9/77 20210101ALI20240312BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20240312BHJP
【FI】
C03C3/095
C03C10/04
C03B32/02
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/0273
H01M8/0282
H01M8/0286
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B13/05
C25B9/77
C25B13/04 302
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547822
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(85)【翻訳文提出日】2023-10-02
(86)【国際出願番号】 AU2022050058
(87)【国際公開番号】W WO2022165554
(87)【国際公開日】2022-08-11
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523298720
【氏名又は名称】ソリッドパワー(オーストラリア)プロプライアタリー リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】スダス ダルマ クマラ アマラシンゲ
(72)【発明者】
【氏名】プラヒンゲ ドン ダヤナンダ ロドリゴ
(72)【発明者】
【氏名】ババック ナバック
【テーマコード(参考)】
4G015
4G062
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4G015EA02
4G062AA01
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5H126AA13
5H126AA15
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5H126GG11
5H126HH01
5H126JJ03
5H126JJ05
5H126JJ08
(57)【要約】
【課題】本発明は、密封封止を必要とする電気化学装置、例えば固体酸化物燃料電池(SOFC)及び固体酸化物形電解セル(SOEC)、で使用するために適しているガラス組成物及びこれを含む封止材料に関する。
【解決手段】ガラス組成物であって、ガラス組成物のmol%として、本質的に下記からなる、ガラス組成物:
- 約50~約60mol%のSiO2;
- 約2~約10mol%のB2O3;
- 約0.5~約3mol%のAl2O3;
- 約4~約6mol%のTiO2;
- 約1~約4mol%のCeO2;
- 約2~約30mol%のSrO;及び
- 約2~約25mol%のBaO。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成物であって、前記ガラス組成物のmol%として、下記を含有する、ガラス組成物:
- 約50~約60mol%のSiO
2;
- 約2~約10mol%のB
2O
3;
- 約0.5~約3mol%のAl
2O
3;
- 約4~約6mol%のTiO
2;
- 約1~約4mol%のCeO
2;
- 約2~約30mol%のSrO;及び
- 約2~約25mol%のBaO。
【請求項2】
請求項1に記載のガラス組成物であって、条件(a)、並びに条件(b)及び(c)のうちの1又は両方を満たす、ガラス組成物。
(a)mol%BaO>(2×mol%TiO
2+mol%B
2O
3);
(b)(mol%BaO+mol%SrO-2×mol%TiO
2-mol%B
2O
3)≦0.5×(mol%SiO
2-2×mol%TiO
2-2/3×mol%B
2O
3);
(c)(mol%BaO+mol%SrO-2×mol%TiO
2)/(mol%SiO
2-2×mol%TiO
2)<0.5
【請求項3】
前記ガラス組成物が、アルカリ金属酸化物を実質的に有しない、請求項1又は2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
前記ガラス組成物が、CaOを含有しない、請求項1~3のいずれか一項に記載のガラス組成物。
【請求項5】
前記ガラス組成物が、ZrO
2を含有しない、請求項1~4のいずれか一項に記載のガラス組成物。
【請求項6】
前記ガラス組成物が、前記ガラス組成物のmol%として、下記の1又は複数を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のガラス組成物:
- 約52~約59mol%のSiO
2;
- 約3~約10mol%のB
2O
3;
- 約0.5~約2mol%のAl
2O
3;
- 約4~約5.5mol%のTiO
2;
- 約2~約3mol%のCeO
2;
- 約9~約20mol%のSrO;
- 約16~約21mol%のBaO。
【請求項7】
前記ガラスが、前記ガラス組成物のmol%として、下記の1又は複数を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のガラス組成物:
- 約54~約58mol%のSiO
2;
- 約5~約7mol%のB
2O
3;
- 約1~約2mol%のAl
2O
3;
- 約4~約5.5mol%のTiO
2;
- 約2~約3mol%のCeO
2;
- 約10~約12mol%のSrO;
- 約17~約19mol%のBaO。
【請求項8】
ガラス組成物であって、前記ガラス組成物のmol%として、本質的に下記からなる、ガラス組成物:
- 約50~約60mol%のSiO
2;
- 約2~約10mol%のB
2O
3;
- 約0.5~約3mol%のAl
2O
3;
- 約4~約6mol%のTiO
2;
- 約1~約4mol%のCeO
2;
- 約2~約30mol%のSrO;及び
- 約2~約25mol%のBaO。
【請求項9】
請求項8に記載のガラス組成物であって、条件(a)、並びに条件(b)及び(c)のうちの1又は両方を満たす、ガラス組成物:
(a)mol%BaO>(2×mol%TiO
2+mol%B
2O
3);
(b)(mol%BaO+mol%SrO-2×mol%TiO
2-mol%B
2O
3)≦0.5×(mol%SiO
2-2×mol%TiO
2-2/3×mol%B
2O
3);
(c)(mol%BaO+mol%SrO-2×mol%TiO
2)/(mol%SiO
2-2×mol%TiO
2)<0.5。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のガラス組成物を含有する、電気化学装置で用いるための封止材料。
【請求項11】
前記封止材料が、1又は複数のフィラーをさらに含有する、請求項10に記載の封止材料。
【請求項12】
前記封止材料が、封止材料の合計量に基づいて、約80~約100体積%の前記ガラス組成物、及び、約0~約20体積%の前記1又は複数のフィラーを含有する、請求項11に記載の封止材料。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか一項に記載の封止材料であって、前記ガラス組成物が、焼結熱サイクルに供された後で、軟化して焼結ガラスを提供し、その後に制御された結晶化を経て、1又は複数の結晶相及びガラス相を有するガラスセラミックを提供する、封止材料。
【請求項14】
請求項13に記載の封止材料であって、前記焼結熱サイクルが、下記を含む、封止材料:
- 約30~約120分の期間にわたって、ガラス転移温度よりも高くかつガラスの結晶化の開始よりも約10~約30℃低い温度で行われる、第1の工程、及び
- 約2~約5時間の期間にわたって、前記電気化学装置の意図される作動温度よりも少なくとも50℃高い温度であって、かつガラスの結晶化の開始よりも少なくとも50℃高い温度で行われる、第2の工程。
【請求項15】
前記焼結ガラスが、前記電気化学装置における密封封止を形成する、請求項13又は14に記載の封止材料。
【請求項16】
前記ガラスセラミックが、ガラスセラミックの合計量に基づいて、約45体積%~約80体積%の1又は複数の結晶相、及び、約20~約55体積%のガラス相を含む、請求項13~15のいずれか一項に記載の封止材料。
【請求項17】
前記ガラスセラミックの前記1又は複数の結晶相が、それぞれ、2BaO.TiO
2.2SiO
2、2SrO.TiO
2.2SiO
2、3BaO.3B
2O
3.2SiO
2、BaO.2SiO
2、BaO.B
2O
3、及びこれらの組み合わせから選択される構造を有する結晶を含む、請求項13~16のいずれか一項に記載の封止材料。
【請求項18】
請求項10~17のいずれか一項に記載の封止材料であって、前記ガラスセラミックが、それが結合される任意の他のスタック構成要素との熱膨張及び収縮の不一致を有し、これは、下記で定義され、前記ガラス相のガラス転移温度以下の任意の温度において約0.04~約0.10である、封止材料。
【数1】
【請求項19】
前記ガラスセラミックの前記ガラス相が、BaOを実質的に含まない、請求項10~18のいずれか一項に記載の封止材料。
【請求項20】
前記ガラスセラミックの前記ガラス相が、B
2O
3を実質的に有しない、請求項10~19のいずれか一項に記載の封止材料。
【請求項21】
前記ガラスセラミックが、約10×10
-6/℃~約13×10
-6/℃の熱膨張係数(CTE)を有する、請求項10~20のいずれか一項に記載の封止材料。
【請求項22】
電気化学装置であって、
1又は複数のセル、それぞれのセルは、カソード、アノード、及び固体電解質を含む;
1又は複数の支持体を含む支持構造体;並びに
請求項10~21のいずれか一項に記載の封止材料
を有する、電気化学装置。
【請求項23】
前記電気化学装置が、SOFC又はSOECスタックである、請求項22に記載の電気化学装置。
【請求項24】
請求項1~9のいずれか一項に記載のガラス組成物又は請求項10~21のいずれか一項に記載の封止材料の、電気化学装置における封止を形成するための、使用。
【請求項25】
SOFC又はSOECスタックである電気化学装置における封止を形成する方法であって、
- 請求項10~21のいずれか一項に記載の封止材料を、SOFC又はSOECスタックのセル及び支持構造体のいずれか又は両方に適用すること;並びに、
- 前記封止材料を、焼結熱サイクルに供すること、ここで、前記封止材料の前記ガラス組成物が、軟化して、焼結ガラスを提供し、その後に、制御された結晶化を経て、1又は複数の結晶相及びガラス相を有するガラスセラミックを提供する;
を含み、
このようにして、前記SOFC又はSOECスタックにおける封止を形成する、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物及びこれを含む封止材料に関し、これらは、密封性封止を必要とする電気化学装置での使用に適しており、例えば、固体酸化物燃料電池スタック(固体酸化物燃料セルスタック)及び同様の装置、例えば固体酸化物形電解セルスタックでの使用に適している。
【0002】
この出願は、オーストラリア仮特許出願AU2021900273及びオーストラリア特許出願AU2021218224に基づく優先権を主張し、これらの内容の全体が、参照によって本記載に取り込まれる。
【背景技術】
【0003】
電気化学装置又は電気化学セルは、化学反応から電気エネルギーを生成すること、又は電気エネルギーを用いて化学反応を起こすことの両方ができる装置である。電気化学装置の例は、固体酸化物燃料電池(SOFC)装置であり、これは、ガス状燃料、例えば水素、の化学エネルギーを、電気化学的な酸化によって電気エネルギーに変換するために用いられる。典型的なSOFCスタックは、互いに接続された多数のセルからなり、それぞれのセルが、高密度でイオン電導性の固体酸化物電解質で隔てられた多孔性セラミックカソード及び多孔性セラミックアノードを有する。このスタックは、典型的には、適切な材料、例えば適切な金属でできた1又は複数の支持体でできている支持構造体を有する。SOFCスタックの作動の間に、天然ガスなどの燃料が、アノードに供給され、酸化剤、例えば空気が、それぞれのセルのカソードに供給される。これらのセル構成要素は、燃料及び酸化剤が各セルのアノード及びカソードにそれぞれ供給されうるように組み立てられる。電気化学装置の別の例は、固体酸化物形電解セル(SOEC)装置であり、これは、本質的に、再生産(逆)の様式で作動するSOFCであり、水素ガス及び酸素ガスを産生するための水の電気分解を達成する。
【0004】
SOFC及びSOEC装置のセルは、耐ガス漏洩性(密封性)の封止を必要とし、これは、燃料と酸化剤との混合を防止し、したがって、SOFC又はSOECスタックの性能、耐久性、及び安全な動作に重要である。封止は、一般的に、スタック設計の要件に従って、SOFC又はSOECスタックのアノード及びカソードのキャビティを、互いから隔てるために用いられ、かつ、周囲環境から隔てるために用いられる。封止は、また、SOFC又はSOECスタックの構成要素の機械的結合、及び、結合された構成要素の間の電気絶縁も、可能にする。
【0005】
作動の間に、SOFC及びSOECスタックは、上昇した温度に達し、通常、約500℃~約1000℃の範囲の温度に達し、意図的な温度変動及び意図しない温度変動(熱サイクル)の両方にさらされ、これは、周囲温度程度の低い温度から作動温度までの範囲であり、種々の加熱及び冷却の速度を伴う。商業的に現実的なSOFC及びSOECスタックを確保するために、封止は、その一体性を維持する必要があり、上記のすべての要件を、熱サイクル条件の下で、かつ、数千時間にわたる一定温度動作の下で、満たす必要がある。例えば、それぞれの封止と、SOFC又はSOECスタックの他の構成要素との間の、熱膨張及び熱収縮のずれは、十分に低い必要があり、それによって、熱サイクルの間に発生する熱応力の下で封止又は他の構成要素の不具合を防止する。さらに、封止は、SOFC又はSOECスタックの他の構成要素と不利な相互作用を有するべきではなく、この不利な相互作用は、他の構成要素の化学的又は物理的な性質を変化させる望ましくない揮発種の放出によって、又は、封止が接触している他の構成要素と反応することによって、起こる。
【0006】
SOFC及びSOECスタックにおける封止としての使用のために、種々のタイプのガラスが開発されている。1つのタイプのガラスは、液体状ガラス相の大きい割合を保持するために設計されてきた。これは、他の構成要素に課される応力の大きさを低減する主要な手段として、かつガラス転移温度(Tg)よりも高い温度での他の構成要素とのインターフェースとして、生じる熱応力の下で流れる(粘性緩和を示す)能力を有するガラスを提供する。このタイプのガラスは、多くの欠陥を有する。例えば、これは、典型的に、粘性緩和の無いTg未満の温度で、割れやすい。さらに、このガラスは、通常、例えばアルカリ酸化物及びB2O3等の構成成分を多量に含有しており、これらは、(a)封止を、劣った電気絶縁体にし、(b)燃料電池スタック内の加湿されたガス状環境中で揮発又は漏出し、封止の化学特性及び物理特性における継続的な変化を引き起こし、かつ(c)他の構成要素との不利な反応を引き起こす。
【0007】
別のタイプのガラスが設計されており、それによって、SOFC及びSOEC作動温度での高結晶性剛性ガラス-セラミックに向けられている。このタイプの高結晶性ガラスは上記の比較的結晶性の低いガラス封止の反応性に関連する不利な点を緩和する一方で、このタイプのガラスから形成される封止を高密度化しかつ大きな内在的な欠陥を排除することは、きわめて困難でありうる。大きな内在的な欠陥の存在、及び、存在する欠陥の先端における応力集中を低減するために十分な実質的な量のガラス相の不存在は、このタイプのガラスを、厳しい熱サイクルの下で、存在する内在的な欠陥の伝搬による割れに対して、脆弱にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の不利な点は、市販されているSOFC及びSOECスタックで現在用いられているガラス封止の性能を損なうことがある。したがって、密封性封止を必要とする電気化学装置、例えばSOFC及びSOECスタック、で用いるために適している、代替的なガラス封止への要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明者らは、SOFC装置において使用するために適しているガラス封止を形成することができるガラス組成物を開発した。形成されたガラス封止は、有利には、1又は複数の結晶相及びガラス相を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、分解視点で示された、セル構成要素を有する固体酸化物燃料電池スタックの部分の概略図である。
【
図2】
図2は、本発明のガラス組成物から調製されたガラス粉末の典型的な粒径分布(粒子サイズ分布)のグラフである。
【
図3】
図3は、本発明のガラス組成物から調製された焼結ガラスサンプルの2つの異なる拡大図での走査電子顕微鏡画像を示す。
【
図4】
図4は、SOFCスタックの支持構造体のために用いられる金属と、本発明のガラス組成物から調製された焼結ガラスバーとの間の膨張差のグラフである。
【
図5】
図5は、SOFCスタックの支持構造体のために用いられる金属と、0、1000、2000、4000及び6000時間にわたって850℃で周囲空気環境に供された本発明のガラス組成物から調製された焼結ガラスバーとの間の膨張差のグラフである。
【
図6】
図6は、0、1000、2000、及び6000時間で850℃において空気経年劣化された本発明のガラス組成物から調製された焼結ガラスバーの走査電子顕微鏡画像を示す。
【
図7】
図7は、SOFCスタックの支持構造体のために用いられる金属と、0、1000、2000、4000及び6000時間にわたって850℃で燃料環境に供された本発明のガラス組成物から調製された焼結ガラスバーとの間の膨張差のグラフである。
【
図8】
図8は、0時間(上左)、500時間(上右)、1000時間(下左)、及び2000時間(下右)で850℃において燃料経年劣化された本発明のガラス組成物から調製された焼結ガラスバーの走査電子顕微鏡画像を示す。
【
図9】
図9は、本発明のガラス組成物の燃料経年劣化の前及び後のサンプルの走査電子顕微鏡画像を示す。
【
図10】
図10は、約9000時間にわたって約100の熱サイクルに供された本発明のガラス組成物を有するSOFCスタックの熱サイクルの数に対する、パーセント電圧減少を示すグラフである。
【
図11】
図11は、SOFCスタック試験後の本発明のガラス組成物から調製されたガラス封止の光学顕微鏡画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中での任意の先行技術に対する参照は、この先行技術が、任意の管轄において慣用的な知識の一部を形成することを認める若しくは示唆するものではなく、又は、この従来技術が、当業者によって、理解されるものとして合理的に予期され、関連するものと合理的にみなされ、かつ/若しくは他の先行技術と合理的に組み合わせ得ることを認める若しくは示唆するものではない。
【0012】
1つの態様では、本発明は、ガラス組成物を提供し、これは、ガラス組成物のmol%として、下記を含有する:
- 約50~約60mol%のSiO2;
- 約2~約10mol%のB2O3;
- 約0.5~約3mol%のAl2O3;
- 約4~約6mol%のTiO2;
- 約1~約4mol%のCeO2;
- 約2~約30mol%のSrO;及び
- 約2~約25mol%のBaO。
【0013】
ガラス組成物のいくつかの実施態様では、条件(a)、並びに条件(b)及び(c)のうちの1又は両方を満たす:
(a) mol%BaO>(2×mol%TiO2+mol%B2O3);
(b) (mol%BaO+mol%SrO-2×mol%TiO2-mol%B2O3)≦0.5×(mol%SiO2-2×mol%TiO2-2/3×mol%B2O3);
(c) (mol%BaO+mol%SrO-2×mol%TiO2)/(mol%SiO2-2×mol%TiO2)<0.5
【0014】
いくつかの実施態様では、ガラス組成物が、アルカリ金属酸化物を実質的に有しない。
【0015】
別の態様では、本発明は、本開示で記載されるガラス組成物を有する電気化学装置で用いられる封止材料を提供する。この電気化学装置は、密封性封止を必要とする任意の電気化学装置であってよい。好ましい実施態様では、この電気化学装置が、SOFC又はSOECスタックである。
【0016】
別の態様では、本発明は、電気化学装置を提供し、これは、1又は複数のセル;1又は複数の支持体を有する支持構造体;及び本開示に記載の封止材料を有し、それぞれのセルが、カソード、アノード、及び固体電解質を有する。電気化学装置は、密封性封止を必要とする任意の電気化学装置であってよい。好ましい実施態様では、電気化学装置が、SOFC又はSOECスタックである。
【0017】
別の態様では、本発明は、本開示に記載のガラス組成物又は本開示に記載の封止材料の、電気化学装置における封止を形成するための使用、を提供する。電気化学装置は、密封性封止を必要とする任意の電気化学装置であってよい。好ましい実施態様では、電気化学装置が、SOFC又はSOECスタックである。
【0018】
別の態様では、本発明は、SOFC又はSOECスタックである電気化学装置における封止を形成する方法を提供し、この方法は:
- 本開示に記載の封止材料を、SOFC又はSOECスタックのセル及び支持構造体のうちの1つ又は両方に適用すること、
- 封止材料を焼結熱サイクルに供すること、ここで、封止材料のガラス組成物が軟化して、焼結ガラスが提供され、後に、制御された結晶化を経て、1又は複数の結晶相及びガラス相を有するガラス-セラミックが提供される、
を有し、
このようにして、SOFC又はSOECスタックに封止が形成される。
【0019】
本発明のさらなる態様及び上記段落で記載された態様のさらなる実施態様は、例示としてかつ添付の図面を参照して示される下記記載から、さらに明らかになるであろう。
【0020】
定義
別途定義されない限り、本開示で用いられるすべての技術用語及び科学用語は、本発明の属する技術分野における当業者によって慣用的に理解されるのと同じ意味を有する。本開示で記載される方法及び材料と同様又は等価な任意の方法及び材料を、本発明の実施又は試験において用いることができるが、好ましい方法及び材料を記載する。本発明の目的のために、下記の用語を以下に定義する。
【0021】
本開示で用いられるように、用語「約」は、参照される量、値、寸法、サイズ、又は分量に対して、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、又は10%以下で異なる量、値、寸法、サイズ、又は分量に言及している。
【0022】
本開示で用いられるように、文脈から別段に解釈される必要がある以外は、用語「含む」及びこの用語の変形、例えば、「含んでいる」、「含む」及び「含んだ」は、さらなる添加物、構成要素、整数、又は工程を排除することを意図しない。
【0023】
ガラス組成物
本発明は、ガラス組成物を提供し、これは、ガラス組成物のmol%として、下記を含む:
- 約50~約60mol%のSiO2;
- 約2~約10mol%のB2O3;
- 約0.5~約3mol%のAl2O3;
- 約4~約6mol%のTiO2;
- 約1~約4mol%のCeO2;
- 約2~約30mol%のSrO;及び
- 約2~約25mol%のBaO。
【0024】
ガラス組成物の好ましい実施態様では、条件(a)、並びに条件(b)及び(c)のうちの1又は両方を満たす:
(a) mol%BaO > (2×mol%TiO2+mol%B2O3);
(b) (mol%BaO+mol%SrO-2×mol%TiO2-mol%B2O3)≦0.5×(mol%SiO2-2×mol%TiO2-2/3×mol%B2O3);
(c) (mol%BaO+mol%SrO-2×mol%TiO2)/(mol%SiO2-2×mol%TiO2)<0.5
【0025】
有利には、条件(a)並びに条件(b)及び(c)のうちの1又は複数を満たすことは、BaO及びB2O3をそれぞれ実質的に有しないガラス相を有するガラス封止を形成するためのガラス組成物を可能にしうる。本開示で用いられるように、用語「実質的に有しない」は、ガラス相の文脈において、ガラス相が、特定される1若しくは複数の金属酸化物を含有しないか、又は、ガラス組成物から形成されるガラス封止の特性及び/若しくは性能に計測可能な影響を生じない量でのみ、その1若しくは複数の金属酸化物を含有することを意味することを意図している。したがって、「BaO及びB2O3を実質的に有しない」とは、ガラス相がBaO及びB2O3を有しないこと、又は、ガラス組成物から形成されるガラス封止の特性及び/若しくは性能に計測可能な影響を生じない量でBaO及びB2O3を有することを意味するものと理解される。したがって、ガラス相は、組成物から形成されるガラス封止の特性及び/若しくは性能に計測可能な影響を生じない量であれば、BaO及び/又はB2Oを少量有してもよい。理論によって限定する意図はないが、本発明者らは、条件(a)並びに条件(b)及び(c)のうちの1又は複数は、それぞれBaO及びB2Oの実質的にすべてがガラス封止中で結晶形態であることを可能にするという仮説を立てている。
【0026】
好ましい実施態様では、ガラス組成物が、アルカリ金属酸化物を実質的に有しない。アルカリ金属酸化物を含有するガラス封止は、汚染の可能性があり、電気化学的に不安定な可能性があり、かつ堅牢性を欠く可能性があり、これらは、SOFC若しくはSOECスタック、又は密封性封止を必要とする他の電気化学装置の、劣った性能を生じうる。
【0027】
ガラス組成物は、随意に、さらなる金属酸化物を含有しなくてよく、すなわち、SiO2、B2O3、Al2O3、TiO2、CeO2、SrO及びBaOに加えて他の金属酸化物を含有しなくてよい。いくつかの実施態様では、ガラス組成物が、CaOを含有しない。いくつかの実施態様では、ガラス組成物が、ZrO2を含有しない。
【0028】
いくつかの実施態様では、ガラス組成物が、ガラス組成物のmol%として、本質的に下記からなり、又は下記からなる:
- 約50~約60mol%のSiO2;
- 約2~約10mol%のB2O3;
- 約0.5~約3mol%のAl2O3;
- 約4~約6mol%のTiO2;
- 約1~約4mol%のCeO2;
- 約2~約30mol%のSrO;及び
- 約2~約25mol%のBaO。
【0029】
この文脈において、用語「本質的に…からなる」及び「からなる」は、組成物が、任意のさらなる金属酸化物を含有しないことを意味するものと理解され、すなわち、組成物が、組成中で特定されている金属酸化物のみを含有することを意味するものと理解される。
【0030】
ガラス組成物のこれらの実施態様では、好ましくは、条件(a)並びに条件(b)及び(c)のうちの1又は複数が、下記を満たす:
(a)mol%BaO > (2×mol%TiO2+mol%B2O3);
(b)(mol%BaO+mol%SrO-2×mol%TiO2-mol%B2O3)≦0.5×(mol%SiO2-2×mol%TiO2-2/3×mol%B2O3);
(c)(mol%BaO+mol%SrO-2×mol%TiO2)/(mol%SiO2-2×mol%TiO2)<0.5
【0031】
ガラス組成物は、それぞれの金属酸化物に関して特定される最も広い範囲内で、任意の適切な範囲の金属酸化物成分を含有してよい。組成物におけるそれぞれの金属酸化物の量は、ガラス組成物によって形成されるガラス封止の所望の特性に応じて適切に選択してよい。
【0032】
いくつかの実施態様では、ガラス組成物が、ガラス組成物のmol%として、下記のうちの1以上を含み、又は下記のうちの1以上からなる:
- 約52~約59mol%のSiO2、特には、約54~約58mol%のSiO2、
- 約3~10mol%のB2O3、特には、約5~7mol%のB2O3
- 約0.5~約2mol%のAl2O3、特には、約1~約2mol%のAl2O3
- 約4~約5.5mol%のTiO2;
- 約2~約3mol%のCeO2;特には約2~約2.5mol%のCeO2
- 約9~約20mol%のSrO、特には約9~約12mol%のSrO、より特には約10~約12mol%のSrO、よりさらに特には約10~約11mol%のSrO
- 約15~約25mol%のBaO、特には約16~約21mol%のBaO、より特には約17~約20mol%のBaO、よりさらに特には約17~約19mol%のBaO。
【0033】
本発明のガラス組成物は、当業者に公知の方法で調製できる。ガラス組成物は、典型的には、ガラス粉末の形態で提供される。ガラスは、フリット形態で提供することもでき、ガラスフリットが、封止材料中での使用のために所望の粒径分布を有する粉末へと粉砕される。簡潔には、ガラス組成物の金属酸化物成分又は成分の前駆体が、それぞれ、所望のガラス組成物をもたらす正確な割合に計量される。計量された粉末を混合して均一な混合物を形成し、そして、溶かす。溶融物を、適切な表面、例えばマーバー又は型、の上に注ぎ、そして、急速に冷却して、溶融処理ガラスフリットを提供する。溶融処理ガラスフリットを、例えばボールミルを用いてミリング処理して、ガラス粉末を製造する。ミリング処理されたガラス粉末を適切にふるい処理してよく、それによって、所望の粒径又は粒径分布(PSD)を有するガラス粉末を提供する。所望のPSDは、例えば、ガラス封止ペーストを構成要素に適用するために用いられる技術に応じて適切に選択してよい。
【0034】
本発明のガラス組成物は、密封性封止を必要とする電気化学装置における封止を提供するために用いてよい。したがって、本発明は、電気化学装置、特にSOFC又はSOECスタックにおける封止を形成するための本発明に係るガラス組成物の使用も提供する。有利には、実施例で示されるように、かつより詳細に下記で記載されるように、本発明のガラス組成物は、SOFC(及びSOEC)スタックにおける使用のために適した特性を有するガラス封止を形成できる。
【0035】
封止材料
本発明のガラス組成物は、密封性封止を必要とする電気化学装置、例えばSOFC又はSOECスタックのための封止材料で使用できる。したがって、本発明は、本開示に記載されるガラス組成物を有する封止材料を提供する。本発明は、また、電気化学装置、特にSOFC又はSOECスタックにおいて封止を形成するための封止材料の使用も提供する。
【0036】
封止材料は、1又は複数のフィラーを含有してよい。好ましくは、フィラーは、ガラス組成物から形成される封止に対して実質的に化学的に不活性であり、これは、封止の性能に影響することなくフィラーを用いることを可能にする。フィラーは、好ましくは、ガラスのCTEと同様のCTEを有してもよく、かつ/又は、高い強度を有してもよい。適切なフィラーの例は、限定されないが、粉末又は繊維の形態のZrO2、セリア、及びバリウムシリケートが挙げられる。
【0037】
いくつかの実施態様では、封止材料が、封止材料の合計量に基づいて、約80~約100体積%のガラス組成物を含有し、約0~約20体積%の1又は複数のフィラーを含有する。
【0038】
封止材料のガラス組成物は、適切な焼結熱サイクルに供してよく、それによって、電気化学装置、特にはSOFC又はSOECスタックのためのガラス封止を提供する。適切な熱サイクルは、ガラス組成物のガラス粉末粒子を軟化しかつ一緒に焼結して比較的低い粘性を有する焼結ガラスを提供することを可能にする第1の工程、及び、多数の異なる組成の結晶を形成することによって比較的高い粘性を有する安定したガラスセラミックへと焼結ガラスを変えることを可能にする第2の工程を有する。有利には、本発明のガラス組成物から形成されるガラス封止は、現在SOFC及びSOECスタックで用いられている、高度にガラス性の封止、及び高度に結晶性の封止の両方の有利な特性を提供しうる。
【0039】
したがって、いくつかの実施態様では、本発明の封止材料のガラス組成物は、焼結熱サイクルに供された後で、軟化して、焼結ガラスを提供し、その後に、制御された部分的な結晶化を経て、1以上の結晶相及びガラス相を有するガラスセラミックを提供する。
【0040】
いくつかの実施態様では、適切な焼結熱サイクルが、下記を含む:
- 約30~約120分の期間にわたって、特には約30~約60分の期間にわたって、ガラス転移温度よりも高くかつガラスの結晶化の開始よりも約10~約30℃低い温度で行われる、第1の工程、及び
- 約2~約5時間の期間にわたって、特にはSOFC又はSOECスタックである電気化学装置の意図される作動温度よりも少なくとも50℃高い温度であって、かつガラスの結晶化の開始よりも少なくとも50℃高い温度で行われる、第2の工程。
【0041】
第1の工程において、組成物のガラス粉末粒子が軟化し、一緒に焼結されて、相互に接続した孔が排除され、封止される電気化学装置の構成要素(例えば、SOFC/SOECスタックの、セル及び互いに結合された支持構造体のいずれか又は両方)の間の1又は複数の隙間(ギャップ)へと容易に流れる。
【0042】
有利には、焼結されたガラスは、電気化学装置の構成要素の間で密封性封止を確立しうる。焼結ガラスは、また、有利には、封止の両側に存在する構成要素の間の強固な機械的結合を提供しうる。さらには、結晶化の前にガラス相中に特定量で存在するB2O3は、第1の工程の間におけるガラスによる電気化学装置の構成要素の濡れを改善することができ、これは、有利には、封止と構成要素との間の強固な結合をもたらしうる。第1工程を比較的長い時間にわたって行うことも可能であるが、これは、製造のコストを増加するであろう。しかしながら、第1の工程を比較的短い期間にわたって行うことは、劣った封止を生じることがあり、例えば、他のスタック構成要素に貧弱に接着された封止又は貧弱に焼結された封止を生じて高いレベルの多孔性が残存することがあり、機械的な脆弱性及び部分的に透過性の封止を生じることがある。ガラスの結晶化の開始の温度は、本分野で既知の方法によって決定でき、例えば、示差熱分析(DTA)及び示差走査熱量分析(DSC)によって決定できる。
【0043】
第2の工程の間に、焼結ガラス封止は、部分的に結晶化して、1又は複数の結晶相及びガラス相を有する安定したガラスセラミックを形成する。結晶相のそれぞれの結晶は、有利には、ガラスセラミックの機械的強度を向上させうる。結晶相は、有利には、ガラスセラミックに、SOFC若しくはSOECスタック又は密封性封止を必要とする他の電気化学装置の他の構成要素の熱膨張及び収縮特性と緊密に適合する熱膨張及び収縮特性も付与しうる。第2の工程の期間は、1又は複数の要因に応じて適切に選択してよい。1つの要因は、第2の工程のための温度であってよく、典型的には、温度が高いほど、必要とされる時間が比較的短い。例えば、第2の工程の温度が、SOFC又はSOECスタックの結晶化の開始の温度よりも約50℃高い場合には、2時間の時間が、結晶化によってガラスを安定化させるために十分でありうる。SOFC又はSOECスタックの意図される動作温度よりもはるかに高い温度における比較的長い時間は、スタックの他の構成要素における望ましくなくかつ不可逆的な変化を引き起こしうることが理解されるであろう。また、比較的長い期間は、製造のコストを増加させるであろうことも理解されるであろう。SOFC又はSOECスタック(又は密封性封止を必要とする他の適切な電気化学装置)の意図される動作温度は、SOFC又はSOECスタックの設計、及び、スタックにおける他の機能性構成要素の特性、例えば、アノード、カソード、電解質、及び金属支持体の特性、に応じて、適切に選択できる。いくつかの実施態様では、SOFC又はSOECスタック(又は密封性封止を必要とする他の適切な電気化学装置)の意図される動作温度は、約500℃~約1000℃であり、特には、約500℃~約900℃である。ガラスの結晶化の開始の温度は、本分野で既知の方法によって決定でき、例えば、示差熱分析(DTA)及び示差走査熱量分析(DSC)によって決定できる。
【0044】
焼結サイクルは、随意に、焼結熱サイクルの第1の工程及び第2の工程の前に、バインダ焼却工程を含んでよい。このバインダ焼却工程は、封止ペースト及び/又はセルコーティング中に存在する有機材料を焼却するために適切に行うことができる。適切なバインダ焼却工程の例としては、約445℃~約455℃の温度への、特には約450℃の温度への、約0.5時間の期間にわたる加熱が挙げられる。
【0045】
いくつかの実施態様では、適切な焼結熱サイクルに供されたときに本発明のガラス組成物から形成されうる、焼結ガラスが、SOFC又はSOECスタック内の、又は密封性封止を必要とする他の電気化学装置内の、密封封止を形成する。
【0046】
いくつかの実施態様では、後に焼結ガラスから形成されうる、ガラスセラミックが、1又は複数の結晶相、及びガラス相を有する。いくつかの実施態様では、ガラスセラミックが、ガラスセラミックの合計量に基づいて、約45~約80体積%の、特には約50~約70体積%の、1又は複数の結晶相を有し、かつ、約20~約55体積%の、特には約30~約50体積%の、ガラス相を含む。
【0047】
いくつかの実施態様では、ガラスセラミックの1又は複数の結晶相が、2BaO.TiO2.2SiO2、2SrO.TiO2.2SiO2、3BaO.3B2O3.2SiO2、BaO.2SiO2、BaO.B2O3、及びこれらの組み合わせから選択される構造を有する結晶を含む。
【0048】
ガラス組成物のBaOは、ガラスセラミックへの焼結ガラスの結晶化の間に消費されてよく、それにより、実質的にすべてのBaOが、ガラスセラミック中で結晶形態である。同様に、ガラス組成物のB2O3は、結晶化の間に消費されてよく、それにより、実質的にすべてのB2O3が、ガラスセラミック中で結晶形態である。したがって、いくつかの実施態様では、ガラスセラミックのガラス相が、実質的に、BaOを含まない。いくつかの実施態様では、ガラスセラミックのガラス相が、実質的に、B2O3を含まない。有利には、これは、低反応性の高粘性シリケートガラスマトリックスを提供しうる。これはなぜならば、ガラス相中のBaO及びB2O3は、SOFC若しくはSOEC又は密封性封止を必要とする他の電気化学装置の他の構成要素と望ましくない相互作用を有しうるからであり、しかしながら、結晶化された場合には本質的に不活性になりうるからである。この文脈において、「本質的に不活性」は、BaO及び/又はB2O3が、結晶化したときに、電気化学装置の他の構成要素と反応せず、又は、ガラス組成物から形成されるガラス封止の特性及び/又は性能に計測可能な影響を有しない態様でのみ反応することを意味することを意図している。
【0049】
ガラスセラミックは、好ましくは、ガラスが剛性である温度範囲において、すなわち、ガラス転移温度よりも下の温度範囲において、特にはSOFC又はSOECスタックである電気化学装置の他の構成要素の熱膨張及び収縮特性に密接に適合した熱膨張及び収縮特性を有してよい。これは、有利には、電気化学装置の動作の間に生じる熱応力が、電気化学装置の構成要素の機械的強度を超えないことを可能にできる。したがって、いくつかの実施態様では、ガラスセラミックは、ガラス相のガラス転移温度までの任意の温度で、それが結合される任意の他のスタック構成要素と、約-0.04(マイナス0.04)~約0.10(+0.10)の熱膨張及び収縮の不一致(ミスマッチ)を有し、熱膨張及び収縮の不一致は、下記として定義される:
【数1】
式中、Glass(ガラス)は、ガラスセラミックに言及しており、Other(その他)は、ガラスが結合する他の電気化学装置の構成要素(例えば、SOFC又はSOECスタックの場合には、セル及び相互接続している支持構造体のいずれか又は両方)に言及している。ガラス相のガラス転移温度は、その組成に依存し、本分野で知られている方法によって決定でき、例えば、膨張率測定を行うことによって決定できる。有利には、実施例で示されるように、本発明のガラス組成物から調製されたガラスサンプルは、高温で長期間にわたって空気環境又は燃料環境に供されたときに、安定的な膨張不一致を示した。
【0050】
ガラスセラミックは、ガラスセラミック(したがって封止材料)を、密封性封止を必要とする電気化学装置、特にはSOFC又はSOECスタックで使用するために適していることを可能にする熱膨張係数(CTE)を有してよい。このCTEは、SOFC若しくはSOECスタック、又は密封性封止を必要とする他の電気化学装置における任意の他の構成要素のCTEと実質的に同じであってよい。いくつかの実施態様では、ガラスセラミック(又は封止材料)が、約10×10-6/℃~約13×10-6/℃のCTEを有する。
【0051】
本発明の封止材料は、密封性封止を必要とする電気化学装置、特にはSOFC又はSOECスタック、におけるガラス封止を形成するために有用でありうる。したがって、本発明は、電気化学装置、好ましくはSOFC又はSOECスタックを提供し、これは、1又は複数のセル、それぞれのセルは、カソード、アノード、及び固体電解質を有する;1又は複数の支持体を有する支持構造体;並びに本開示に記載の封止材料を、有する。本発明は、また、電気化学装置、好ましくはSOFC又はSOECスタックも提供し、これは、1又は複数のセル、それぞれのセルは、カソード、アノード、及び固体電解質を有する;1又は複数の支持体を含む支持構造体;及びガラス封止;を有し、このガラス封止は、本開示に記載の封止材料から形成される。ガラス封止は、本開示に記載されているような適切な焼結熱サイクルを用いて形成してよい。支持構造体は、適切な材料でできた、例えば、鋼などの適切な金属でできた、1又は複数の支持体を含む、互いに接続された支持構造体である。いくつかの実施態様では、この支持構造体は、1組の互いに接続されたプレートである。それぞれのプレートは、支持構造体の支持体であると解釈でき、かつそれぞれのセルは、1又は複数のプレートを含んでよいことが理解される。
【0052】
本発明は、また、SOFC又はSOECスタックである電気化学装置における封止を形成する方法も提供し、この方法は、下記を含む:
- 本開示に記載の封止材料を、SOFC又はSOECスタックのセル及び支持構造体のうちの1つ又は両方に適用すること;並びに、
- 封止材料を、焼結熱サイクルに供すること、ここで、封止材料のガラス組成物が軟化して焼結ガラスが提供され、かつその後に制御された結晶化を経て、1又は複数の結晶相及びガラス相を含むガラスセラミックが提供される;
このようにして、SOFC又はSOECスタックにおける封止が形成される。
【0053】
本発明の方法で用いることができる適切な焼結熱サイクル、並びに封止材料(又は、焼結ガラス、ガラスセラミック、若しくはそれから形成されるガラス封止)の特徴及び特性は、本開示に記載されるとおりである。
【0054】
SOFCスタックの例が、
図1に示されており、これは、分解図で示された、セル構成要素、すなわち、カソード(2)、アノード(3)及び電解質(4)、支持構造体(5)及びガラス封止(6)、を有するSOFCスタック(1)の一部の概略図である。
【0055】
有利には、実施例で示されるように、本発明のガラス組成物で封止されており長期間にわたって標準的な動作温度で動作したSOFCスタックは、SOFCスタックの製造において現在用いられている比較例のガラスから封止されているものよりも、劣化が比較的低かった。したがって、いくつかの実施態様では、本発明のSOFCスタック(又はSOECスタック)は、約10,000時間にわたって作動され、かつ室温(約20℃~約25℃)からSOFCスタック(SOECスタック)の意図される動作温度までの約100熱サイクルに供されたときに、10%未満、特には6%未満、より特には約3%未満、よりさらに特には約2%未満の、全体的な性能の劣化を示す。
【0056】
本明細書で開示されかつ規定される発明は、記載又は図面に言及され又はそれから明らかな2以上の別個の特徴の代替的な組み合わせのすべてに及ぶことが理解されるであろう。これらの異なる組み合わせのすべては、本発明の種々の代替的な態様を構成する。
【実施例】
【0057】
本発明を、非制限的な1又は複数の実施例によってさらに記載する。本発明の分野における当業者は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多くの修正を行うことができることを理解するであろう。
【0058】
例1 ガラス組成物及び粉末
SOFCスタック及びSOECスタック等の電気化学装置に適しうるガラス封止を特定するために、19の異なるガラス組成物を評価した。ガラス組成物を、表1に提供する。
【0059】
【0060】
条件(a):(BaO-2*TiO2-B2O3)。0<の値を有するガラス組成物は、この条件を満たす。この条件を満たすガラス組成物に関して、実質的にすべてのB2O3は、これらのガラス組成物から形成されるガラスセラミックにおいて結晶形態であることが予期される。
条件(b):(BaO+SrO-2*TiO2-B2O3)/(SiO2-2*TiO2-2*B2O3/3)。0.5以下の値を有するガラス組成物は、この条件を満たす。この条件を満たすガラス組成物に関して、実質的にすべてのBaOが、これらのガラス組成物から形成されるガラスセラミックにおいて結晶形態であることが予期される。
条件(c):(BaO+SrO-2*TiO2)/(SiO2-2*TiO2)。<0.5の値を有するガラス組成物は、この要件を満たす。この要件を満たすガラス組成物に関して、実質的にすべてのBaOが、これらのガラス組成物から形成されるガラスセラミックにおいて結晶形態であることが予期される。
【0061】
ガラス組成物1~19に対応するガラス粉末を、下記の方法によって調製した。それぞれの金属成分の酸化物又はそれらの前駆体を、所望のガラス組成物をもたらす正確な割合で計量した。計量された粉末を十分に混合して、均一な混合物を作製し、1450℃で2時間にわたって溶かした。原材料が溶融物へと変換された後で、これをマーバーに注ぎ、そして、水中で急冷して、ガラスフリットを製造した。
【0062】
溶かしたガラスフリットを乾燥し、ボールミル処理し、ふるい処理して、所望の粒径分布(PSD)を有するガラス粉末を提供した。粒子サイズは、表2に示される範囲内である。レーザー回折法を用いて計測を行った。ガラス粉末の典型的な粒径分布(粒子サイズ分布)を、
図2に示す。
【0063】
【0064】
ガラス粉末の化学分析を、誘導結合プラズマ(ICP)分光装置を用いて、ASTM国際標準指定C1463-13に従って行って、それぞれのガラス粉末の組成を確かめた。わずかに修正された手順を用いて、ICP分析のためのサンプルを調製した。すなわち、§22.2.8において塩酸及びシュウ酸の混合物の代わりに硝酸を用いたこと以外は、C1463-13の22.2に従って、サンプル溶液を調製した。
【0065】
例2 SEM及びXRDによる焼結ガラスの特性評価
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、焼結ガラスサンプルの微小構造を決定した。焼結ガラスサンプルを調製するために、例1で記載された手順によって調製された表1の組成物1~19に対応するガラス粉末を、2段階焼結熱サイクルによって焼結して、焼結バーを製造した。SOFCスタック焼結プロファイルと同一の温度プロファイルを用いて、焼結サンプルの微小構造が、焼結されたスタックにおける封止のものと同等であることを確保した。
【0066】
2つの異なる倍率でのガラス組成物11に対応する焼結ガラスサンプルの微小構造を、
図3に示す。この微小構造は、焼結ガラスが複数の異なる結晶相及びガラス相を有することを示す。X線回折によって特定された結晶相のいくつかは、2BaO.TiO
2.2SiO
2、2SrO.TiO
2.2SiO
2、及びBaO.2SiO
2を含む。
【0067】
例3 膨張率測定による焼結ガラスの特性評価
焼結ガラスバーと、スタック相互接続ステンレス鋼との間の膨張不一致を、膨張率測定器を用いて決定した。表1のガラス組成物1~19に対応する焼結ガラスバーサンプルは、例1及び2で記載した手順を用いて調製した。
【0068】
図4は、サンプル9、10、11、14及び19の焼結サンプルバーの、ステンレス鋼金属支持材料に対する膨張不一致を示しており、下記の等式によって与えられる:
【数2】
式中、Glass(ガラス)は、焼結ガラスバーサンプルであり、Other(その他)は、ステンレス鋼材料である。
【0069】
図4における2つの点線は、好ましい領域を囲っており、ここでは、膨張不一致が、室温とガラス転移温度との間に存在するようになっており、それにより、安定した作動及び熱サイクルのために、スタック内における応力が最小化されるようになっている。この結果は、ガラス組成物9、10、11、14及び19が、2つの点線内にあり、すなわち規定される範囲内にある、金属支持体との膨張差を示したことを示す。したがって、この結果は、ガラス組成物9、10、11、14及び19が、ガラスが剛性である温度範囲、すなわちガラス転移温度よりも低い温度範囲において、SOFCスタック(又はSOECスタック)の他の構成要素の熱膨張及び収縮特性と密接に適合する熱膨張及び収縮特性を有するガラスを提供することを示しうる。
【0070】
例4 空気経年劣化された焼結ガラスの特性評価
SOFCスタックを封止するためのガラス粉末の適正を、高温で空気環境中において焼結ガラスバーを経年劣化することによって、評価した。表1のガラス組成物1~19に対応する焼結ガラスバーサンプルを、例1及び2に記載されている手順を用いて調製した。この焼結ガラスバーを、850℃で周囲空気環境において、0、1000、2000、4000、及び6000時間にわたって経年劣化し、そして、微小構造及び膨張不一致を特性評価した。
【0071】
図5は、850℃で、周囲空気環境に、0、1000、2000、4000及び6000時間にわたって供されたガラス組成物11から調製された焼結バーの膨張不一致を示す。ガラス組成物11のこの空気経年劣化されたサンプルは、長期間にわたって、金属との比較的安定な膨張不一致を示した。
【0072】
図6は、ガラス組成物11の空気経年劣化サンプルのSEM顕微鏡写真を示す。SEM分析が示したところによると、初期に形成された結晶相の結晶が、粗くなり、その一方で、露出時間にわたって、少量のいくつかの新たな結晶タイプが成長し、しかしながら、全体的には、ガラスは孔を有していないままであった。孔の形成は、封止の不具合に寄与することがある。
【0073】
例5 燃料経年劣化された焼結ガラスの特性評価
SOFCスタックを封止するためのガラス粉末の適性を、燃料環境中において高温で焼結ガラスバーを経年劣化させることによって評価した。表1のガラス組成物1~19に対応する焼結ガラスバーサンプルは、例1及び2で記載した手順を用いて調製した。焼結ガラスバーは、60%H2+40%湿分環境中で、850℃において、空気経年劣化テストにおけるのと同様の時間期間にわたって、経年劣化された。
【0074】
図7は、850℃で、0、1000、2000、4000及び6000時間にわたって、燃料環境に供されたガラス組成物11から調製された焼結バーの膨張不一致を示す。燃料環境は、空気と比較して、ガラスに対してより反応性であるが、ガラス組成物11の燃料経年劣化されたサンプルの膨張不一致は、長期間にわたって比較的安定なままであった。
【0075】
図8は、ガラス組成物11の燃料経年劣化サンプルのSEM顕微鏡画像を示す。SEM分析は、いくらかの結晶の成長を示したが、空気経年劣化されたサンプルにおけるほどではなかった。ガラス中におけるある程度の孔の成長が観察されたが、これは、
図9に示されるように最小限であった。
【0076】
例6 SOFCスタックのための封止としてのガラスの検証
表1のガラス組成物11、14及び18は、SOFCスタックのための封止としての検証のために選択された。それぞれの組成物からのガラス粉末を、適切なバインダ/溶媒系を用いてペーストに変換し、封止を必要とするスタック部分(セル及び/又は相互接続支持構造体)の上に適用し、スタッキングしてスタックを構築し、そして、上記段落0039に記載されている適切な焼結温度プログラムで焼結して、密封封止を有するSOFCスタックを提供した。なお、スタック焼結サイクルは、ガラス封止のために必要とされる2つの工程に加えて、上記の段落0043に記載されているようなバインダ焼却工程を含んでおり、それによって、封止ペースト及びセルコーティングに存在する有機材料を焼却した。
【0077】
スタックは、750℃の標準的なスタック作動温度で作動され、約9000時間にわたって、約100熱サイクルに供された。スタックに関するパーセント電圧劣化の結果のまとめを、表3に提供し、各熱サイクルに伴うガラス組成物18を有するスタックのパーセント電圧劣化を、
図10に示す。熱サイクルあたりの劣化%(減少%)は、スタックの内在的な劣化と、熱サイクルに純粋に起因する劣化との両方を含み、すなわち、通常の動作下でのスタックの劣化と、熱サイクルに起因する劣化とが一緒に結合されており、スタックが供された熱サイクルの数で標準化された。なお、熱サイクルを実行しなかった場合には、パーセント劣化は、比較的低いと予測されるであろう。
【0078】
【0079】
試験されたスタックからのガラス封止を、多孔性の成長に関して調べた。スタックの燃料排出部に近いガラス封止を、分析のために選択した。これはなぜならば、これらのガラス封止は、最も反応性の環境に供されたからである。多孔性のレベルは、画像分析によって決定できる。空隙率の許容レベルは、封止の強度、生じる熱応力の高さ、を含む多くの要因に依存しうる。生じる熱応力の高さは、今度は、ガラスと他の構成要素との間のCTE不一致に依存する。ガラス中における連続的な多孔の成長は、やがて、封止の不具合を引き起こす。したがって、スタックの可使用期間は、典型的に、孔の形成及び成長の速度における減少とともに増加する。
【0080】
図11は、9200時間にわたって試験されたガラス組成物18を有するスタックから取得されたガラス封止の光学顕微鏡画像を示す。この画像は、ガラス封止が最小限の多孔性の成長を示したことを示す。
【国際調査報告】