(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20240312BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20240312BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240312BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240312BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240312BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240312BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240312BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240312BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20240312BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20240312BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240312BHJP
A61M 15/08 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C08B37/00 P
A61K9/12
A61K9/08
A61K9/06
A61P27/02
A61P31/12
A61P31/04
A61P31/00
A61K9/19
A61K35/74 Z
C12N1/20 A
A61M15/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548562
(86)(22)【出願日】2022-02-10
(85)【翻訳文提出日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2022053270
(87)【国際公開番号】W WO2022171748
(87)【国際公開日】2022-08-18
(32)【優先日】2021-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】515301144
【氏名又は名称】ダンスター フェルメント アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】デュモン,フレデリック
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C087
4C090
【Fターム(参考)】
4B065AA15X
4B065AC20
4B065BA22
4B065BC02
4B065BC03
4B065BC14
4B065BC50
4B065BD08
4B065BD33
4B065BD41
4B065BD50
4B065CA22
4B065CA44
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA11
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4C076AA99
4C076BB01
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4C076BB31
4C076CC10
4C076CC31
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4C076GG06
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4C087CA10
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4C087MA17
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4C087MA59
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA33
4C087ZB32
4C087ZB33
4C090AA01
4C090BA91
4C090BC19
4C090BC20
4C090BD37
4C090CA42
4C090DA22
4C090DA23
4C090DA24
(57)【要約】
本開示は、海洋細菌によって産生される菌体外多糖、その組成物、前記組成物の使用、および生物学的表面および/または非生物学的表面への前記微生物病原体の定着を阻害または低減することによって、細菌感染またはウイルス感染のいずれかの微生物病原体感染の病原性を減弱させるための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
40~4000kDaの範囲の重量平均分子量(Mw)を有する単離された菌体外多糖(EPS)であって、海洋細菌の発酵によって得られるか、または得ることができる、単離された菌体外多糖(EPS)。
【請求項2】
40~2000kDa、40~1400kDa、40~1000kDa、40~500kDa、40~400kDa、40~300kDa、40~200kDa、40~150kDa、または40~100kDa、好ましくは40~150kDaの範囲の重量平均分子量(Mw)を有する、請求項1に記載の単離されたEPS。
【請求項3】
40~150kDaの範囲のMwを有し、任意選択で26~100kDaの範囲の数平均分子量(Mn)および/または1.2~1.8の範囲の多分散性指数(Mw/Mn)を有する、請求項1または2に記載の単離されたEPS。
【請求項4】
前記EPSのグリコシル単位の総数に対して、30~90%の中性グリコシル単位、10~70%のアミノグリコシル単位、および0~15%の酸性グリコシル単位を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離されたEPS。
【請求項5】
マンノース、ガラクトース、グルコース、N-アセチルガラクトサミンおよびN-アセチルグルコサミンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の単離されたEPS。
【請求項6】
リボース、アラビノース、ラムノース、フルクトースおよび/またはフコースを実質的に含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載の単離されたEPS。
【請求項7】
前記海洋細菌がグラム陽性好熱性細菌であり、好ましくは、前記グラム陽性好熱性細菌がバシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniforms)であり、より好ましくは、前記グラム陽性好熱性細菌が、2020年1月27日に寄託番号NCIMB 43557でNCIMB(The National Collection of Industrial, Food and Marine Bacteria)に寄託されたバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniforms)LP-T14である、請求項1~6のいずれか一項に記載の単離されたEPS。
【請求項8】
免疫応答を誘導する能力を実質的に欠く、請求項1~7のいずれか一項に記載の単離されたEPS。
【請求項9】
以下のステップ:
海洋細菌を第1の培養培地で培養して培養海洋細菌を得るステップ;
前記培養海洋細菌を発酵培地で発酵させるステップ;
前記発酵培地を熱処理するステップ;
前記発酵培地を遠心分離して上清を得るステップ;および
前記上清を濾過して単離されたEPSを得るステップ
を含む、40~4000kDaの範囲の重量平均分子量(Mw)を有する単離された菌体外多糖(EPS)を得るためのプロセス。
【請求項10】
前記単離されたEPSが、請求項2~6のいずれか一項に定義されるとおりであり;
前記海洋細菌がグラム陽性好熱性細菌であり、好ましくは、前記グラム陽性好熱性細菌がバシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)であり、より好ましくは、前記グラム陽性好熱性細菌が、2020年1月27日に寄託番号NCIMB 43557でNCIMB(The National Collection of Industrial, Food and Marine Bacteria)に寄託されたバシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14であり;
前記発酵培地が、海塩(40g/L)、トリプトン(6g/L)、酵母抽出物(6g/L)、消泡剤(0.33mL/L)、デキストロース(12g/L)および脱イオンH
2O(qsp)を含み;
前記発酵をpH5~8、40℃で20~40時間、30~50%の酸素添加下で行い;
発酵培地の前記熱処理を、前記発酵培地を85℃で1時間加熱することにより行い;
前記発酵培地の前記遠心分離を、流速200~800L/hのディスクスタック遠心分離機を用いて14000gで行い;および/または
上清の前記濾過が、1.60~0.22μm濾過ステップを用いた連続濾過、および/または10~100kDaカットオフフィルターカートリッジを用いた限外濾過を含む、
請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記単離されたEPSを自由乾燥させて凍結乾燥EPSを得ることをさらに含み、任意選択で、前記自由乾燥が-20℃で少なくとも16時間行われる、請求項9または10に記載のプロセス。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項に記載の少なくとも1つの単離された菌体外多糖(EPS)、または請求項9~11のいずれか一項に記載のプロセスにより得られるか、もしくは得ることができる少なくとも1つの単離されたEPS、および適切な担体を含む組成物。
【請求項13】
経口組成物、鼻用組成物、局所組成物、経皮組成物、眼科用組成物、または医療用デバイスに適用するために製剤化された組成物である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に記載の少なくとも1つの単離された菌体外多糖(EPS)、または請求項9~11のいずれか一項に記載のプロセスにより得られるか、もしくは得ることができる少なくとも1つの単離されたEPSを含む鼻送達システム。
【請求項15】
前記鼻送達システムが、少なくとも1つの単離されたEPSを点鼻薬、液体スプレー、乾燥スプレー、ゲルまたは軟膏として送達する;
前記少なくとも1つの単離されたEPSが、生理食塩水溶液をさらに含む組成物中で製剤化される;
前記鼻送達システムが、それを必要とする対象において微生物病原体感染を処置および/または予防するためのものであり;および/または
前記鼻送達システムが、それを必要とする対象の鼻腔への微生物病原体による定着を阻害または低減させることにより、前記微生物病原体の病原性を減弱させるためのものである、請求項14に記載の鼻送達システム。
【請求項16】
微生物病原体による表面への定着を防止または低減するために非生物学的表面に適用するためのものであり、任意選択で、前記表面が医療用デバイスの表面である、請求項1~8のいずれか一項に記載の単離されたEPS、請求項9~11のいずれか一項に記載のプロセスによって得られるか、もしくは得ることができる単離されたEPS、または請求項12または13に記載の組成物の非治療的使用。
【請求項17】
それを必要とする対象における微生物病原体感染を処置および/または予防するための方法において使用するための、請求項1~8のいずれか一項に記載の単離された菌体外多糖(EPS)、請求項9~11のいずれか一項に記載のプロセスによって得られるか、もしくは得ることができる単離されたEPS、請求項12もしくは13に記載の組成物、または請求項14もしくは15に記載の鼻送達システム。
【請求項18】
微生物病原体の病原性を減弱させるための方法において使用するための、請求項1~8のいずれか一項に記載の単離された菌体外多糖(EPS)、請求項9~11のいずれか一項に記載のプロセスによって得られるか、もしくは得ることができる単離されたEPS、請求項12もしくは13に記載の組成物、または請求項14もしくは15に記載の鼻送達システム。
【請求項19】
それを必要とする対象において微生物病原体感染を処置および/または予防する方法であって、請求項1~8のいずれか一項に記載の単離された菌体外多糖(EPS)、請求項9~11のいずれか一項に記載のプロセスによって得られるか、もしくは得ることができる単離されたEPS、または請求項12もしくは13に記載の組成物の有効量を患者に投与することを含む方法。
【請求項20】
それを必要とする対象における微生物病原体感染の病原性を減弱させるための方法であって、請求項1~8のいずれか一項に記載の単離された菌体外多糖(EPS)、請求項9~11のいずれか一項に記載のプロセスによって得られるか、もしくは得ることができる単離されたEPS、または請求項12もしくは13に記載の組成物の有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項21】
前記単離されたEPSまたは前記組成物が、前記微生物病原体の感染前、感染中、および/または感染後に前記対象に投与され、それにより、前記対象の少なくとも1つの生体組織上への前記微生物病原体の定着および/または前記微生物病原体の内在化が予防、阻害、または低減され、前記少なくとも1つの生体組織が、口腔、鼻腔、呼吸器、咽頭、耳、眼科領域、泌尿生殖器、皮膚、頭皮、毛髪、爪、およびその組合せなどの上皮を含み;
前記微生物病原体が細菌病原体であり、前記単離されたEPSまたは前記組成物の前記対象への投与が、初期の細菌バイオフィルム形成を低減または阻害すること、および/または初期の細菌バイオフィルムを破壊することによって、前記細菌病原体感染の病原性を減弱させ;および/または
前記微生物病原体がウイルス病原体であり、前記単離されたEPSまたは前記組成物の前記対象への投与が、同等の未処理細胞と比較して前記ウイルス病原体を接種された対象細胞の死亡率を低下させること、接種された対象細胞からのビリオンの放出を防止または減少させること、および/または未接種の隣接対象細胞の感染を防止または低減させることにより、ウイルス病原体感染の病原性を減弱させる、
請求項17もしくは18に記載の使用のための単離されたEPSもしくは組成物、または請求項19もしくは20に記載の方法。
【請求項22】
前記微生物病原体が以下:
キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、ヘモフィルス(Haemophilus)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、モラクセラ(Moraxella)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、および/またはストレプトコッカス(Streptococcus)属から任意選択で選択される細菌病原体であり;好ましくは、前記細菌病原体がキューティバクテリウム・アクネス(Cutibacterium acnes)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、モラクセラ・カタラリス(Moraxella catharalis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)および/またはストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)種から任意選択で選択される細菌病原体;
インフルエンザA、インフルエンザA亜型H1N1/2009/pdm09、インフルエンザA亜型H1、インフルエンザA亜型H3、インフルエンザB(オルソミクソウイルス)、コロナウイルス229E、コロナウイルスHKU1、コロナウイルスNL63、コロナウイルスOC43、SARS-CoV-2(コロナウイルス)、パラインフルエンザウイルス1、パラインフルエンザウイルス2、パラインフルエンザウイルス3、パラインフルエンザウイルス4、呼吸器合胞体ウイルスA/B、ヒトメタニューモウイルスA/B(パラミクソウイルス)、アデノウイルスおよび/もしくはライノウイルス/エンテロウイルス(ピコルナウイルス)から任意選択で選択されるウイルス病原体;または
真菌病原体
の少なくとも1つである、請求項15に記載の鼻送達システム、請求項16に記載の使用、請求項17、18もしくは21のいずれか一項に記載の使用のための単離されたEPSもしくは組成物、または請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記微生物病原体が、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)および/またはストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)種から選択される細菌病原体である、請求項22に記載の鼻送達システム、使用、使用のための単離されたEPS、使用のための組成物、または方法。
【請求項24】
前記微生物病原体が、コロナウイルスOC43、アデノウイルス、および/またはライノウイルス/エンテロウイルス(ピコルナウイルス)から選択されるウイルス病原体である、請求項22に記載の鼻送達システム、使用、使用のための単離されたEPS、使用のための組成物、または方法。
【請求項25】
前記組成物の総重量に基づく前記組成物中の前記少なくとも1つの単離されたEPSの量が、0.00005~0.5%w/w、好ましくは0.0001~0.1%w/w、またはより好ましくは0.0005~0.05%w/wの範囲である、請求項12もしくは13に記載の組成物、請求項16に記載の使用、請求項17、18および21~24のいずれか一項に記載の使用のための組成物、または請求項19~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
鼻腔内への微生物病原体による定着を阻害または低減させることにより、微生物病原体感染の病原性を減弱させるための鼻用組成物を製剤化する方法であって、海洋細菌に由来する少なくとも1つの単離された菌体外多糖(EPS)を、生理食塩水溶液および任意選択で適切な担体と混合し、0.1%~10%w/w、好ましくは0.5%~5%w/w、より好ましくは0.7%~3%w/wの濃度の塩を含む鼻用組成物を得るステップを含む方法。
【請求項27】
前記少なくとも1つの単離されたEPSが、請求項1~8のいずれか一項に定義されるとおりである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記塩濃度が約0.9%w/w、約2.2%w/wまたは約2.7%w/wである、請求項27または28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋細菌に由来する菌体外多糖(EPS)、その組成物、前記EPSおよび組成物の非治療的使用、ならびに前記EPSおよび組成物の治療的使用に関する。本発明はまた、前記EPSを得るためのプロセスに関する。本発明はさらに、少なくとも1つの単離された菌体外多糖を含む鼻送達システム、および前記鼻送達システムの治療的使用に関する。本発明はまた、鼻用組成物を製剤化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感染性疾患は通常、体内に侵入して広がる微生物によって引き起こされる。病原性微生物とも呼ばれる感染性生物には多くの種類がある。これらの微生物がどのように体内に侵入し得るのかについての例のいくつかをここに示す:口、目、鼻から、性的接触から、傷口または咬傷から、汚染された医療用デバイス。
【0003】
人々は主に汚染された水を飲んだり、または汚染された食品を食べたりすることによって、このような微生物に感染する。胞子もしくは埃を吸入したり、または他人の咳もしくはくしゃみから汚染された飛沫を吸い込んだりすることもある。また、汚染された物(例えばドアの取っ手)を扱ったり、または汚染された人と直接接触し、目、鼻、または口に触れたりすることもある。
【0004】
微生物の中には、血液、精液、および便などの体液中に拡散するものもある。例えば、感染したパートナーとの性的接触によって体内に侵入することもある。ヒトおよび動物の咬み傷、および皮膚に穴を開けるような他の創傷によって、病原性微生物が体内に侵入する可能性がある。
【0005】
病原性微生物は、体内に埋め込まれた医療用デバイス(例えばカテーテル、人工関節、または人工心臓弁)にも付着し得る。偶発的にデバイスが汚染された場合、移植時にデバイスに付着していることもある。また、他の場所からの感染物質が血流にのって広がり、すでに埋め込まれているデバイスに付着することもある。埋め込まれたデバイスは自然な防御を欠くため、このような微生物は容易に増殖および拡散し、病気を引き起こし得る。
【0006】
人体に侵入した後、病原性微生物は、感染症を引き起こすために増殖または拡散しなければならない。増殖または拡散が始まった後、3つのシナリオが起こり得る:1)微生物は増殖を続け、宿主生物の防御を圧倒する。2)均衡状態に達し、慢性感染を引き起こす。3)宿主生物が、医学的処置の有無にかかわらず、侵入微生物を破壊および排除する。
【0007】
既存の解決策(すなわち、抗生物質、抗ウイルス剤)の病原性感染を取り除く有効性は、病原体を迅速に認識した後、微生物が表面に不可逆的に付着する前に病原体抑制組成物を適用することに依存する。微生物病原体の表面への不可逆的な付着を制限し、処置に対する抵抗性の現象および、したがって関連する医療費への影響の低減を可能にする、異なるアプローチを提供されることが非常に望ましい。
【発明の概要】
【0008】
第1の態様によれば、本開示は、40~4000kDaの範囲の重量平均分子量を有する単離された菌体外多糖(EPS)を提供し、ここで、EPSは、海洋細菌の発酵によって得られるか、または得ることができる。一実施形態において、単離されたEPSは、40~2000kDa、40~1400kDa、40~1000kDa、40~500kDa、40~400kDa、40~300kDa、40~200kDa、40~150kDa、または40~100kDaの範囲の重量平均分子量(Mw)を有する。好ましい実施形態において、単離されたEPSは、40~150kDaの範囲のMwを有する。一実施形態において、単離されたEPSは、40~150kDaの範囲のMwを有し、任意選択で、26~100kDaの範囲の数平均分子量(Mn)および/または1.2~1.8の範囲の多分散性指数(Mw/Mn)を有する。一実施形態において、本明細書に記載される単離されたEPSは、前記EPSのグリコシル単位の総数に関して、30~90%の中性グリコシル単位、10~70%のアミノグリコシル単位、および0~15%の酸性グリコシル単位を含み得る。別の実施形態において、本明細書に記載される単離されたEPSは、マンノース、ガラクトース、グルコース、N-アセチルガラクトサミン、およびN-アセチルグルコサミンを含み得る。いくつかのさらなる実施形態において、本明細書に記載される単離されたEPSは、リボース、アラビノース、ラムノース、フルクトースおよび/またはフコースを実質的に含まない場合がある。別の実施形態において、海洋細菌は、グラム陽性好熱性細菌、好ましくはバシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、より好ましくは2020年1月27日に寄託番号NCIMB 43557でThe National Collection of Industrial,Food and Marine Bacteria(NCIMB)に寄託されたバシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14であってもよい。別の実施形態において、本明細書に記載される単離されたEPSは、免疫応答を誘導する能力を実質的に欠いていてもよい。
【0009】
第2の態様によれば、本開示は、以下のステップを含む、40~4000kDaの範囲の重量平均分子量(Mw)を有する単離された菌体外多糖(EPS)を得るためのプロセスを提供する:海洋細菌を第1の培養培地で培養して培養海洋細菌を得るステップ;培養海洋細菌を発酵培地で発酵させるステップ;発酵培地を熱処理するステップ;発酵培地を遠心分離して上清を得るステップ;および上清を濾過して単離されたEPSを得るステップ。単離されたEPSは、本明細書に記載される単離されたEPSであってもよい。一実施形態において、海洋細菌は、グラム陽性好熱性細菌、好ましくはバシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、より好ましくは2020年1月27日に寄託番号NCIMB 43557でThe National Collection of Industrial,Food and Marine Bacteria(NCIMB)に寄託されたバシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14であってもよい。一実施形態において、発酵培地は、海塩(40g/L)、トリプトン(6g/L)、酵母抽出物(6g/L)、消泡剤(0.33mL/L)、デキストロース(12g/L)および脱イオンH2O(qsp.)を含み得る。一実施形態において、発酵は、pH5~8、40℃で20~40時間、30~50%の酸素添加下で実施することができる。一実施形態において、発酵培地の熱処理は、発酵培地を85℃で1時間加熱することによって実施し得る。一実施形態において、発酵培地の遠心分離は、流速200~800L/hのディスクスタック遠心分離機を使用して、14000gで行うことができる。一実施形態において、上清の濾過は、1.60~0.22μmの濾過ステップを使用する連続濾過、および/または10~100kDaカットオフフィルターカートリッジを使用する限外濾過を含む。一実施形態において、本開示のプロセスは、単離されたEPSを自由乾燥させて自由乾燥EPSを得ることをさらに含み得る。一実施形態において、自由乾燥は、-20℃で少なくとも16時間行われる。
【0010】
第3の態様によれば、本開示は、本明細書に記載される少なくとも1つの単離されたEPSおよび適切な担体を含む組成物を提供する。本発明の組成物は、経口組成物、鼻用組成物、局所組成物、経皮組成物、眼科用組成物、または医療用デバイスに適用するために製剤化された組成物であり得る。
【0011】
第4の態様によれば、本開示は、本明細書に記載される少なくとも1つの単離されたEPS、または本明細書に記載されるプロセスによって得られるか、もしくは得ることができる少なくとも1つの単離されたEPSを含む鼻送達システムを提供する。一実施形態において、鼻送達システムは、少なくとも1つの単離されたEPSを点鼻薬、液体スプレー、乾燥スプレー、ゲルまたは軟膏として送達し得る。別の実施形態において、少なくとも1つの単離されたEPSは、生理食塩水溶液をさらに含む組成物中に製剤化され得る。別の実施形態において、本明細書に記載される鼻送達システムは、それを必要とする対象における微生物病原体感染を処置および/または予防するためのものであってもよい。別の実施形態において、本明細書に記載される鼻送達システムは、それを必要とする対象における微生物病原体感染の処置および/または予防における使用のためのものであってもよい。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される鼻送達システムは、それを必要とする対象の鼻腔への微生物病原体による定着を阻害または低減することによって、微生物病原体の病原性を減弱させるためのものであってもよい。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される鼻送達システムは、それを必要とする対象の鼻腔への微生物病原体による定着を阻害または低減することによって、微生物病原体の病原性を減弱させるために使用するためのものであってもよい。
【0012】
第5の態様によれば、本開示は、微生物病原体による表面への定着を防止または低減するために非生物学的表面を処理するための、本明細書に記載される単離されたEPS、または本明細書に記載されるプロセスによって得られるか、もしくは得ることができる単離されたEPS、または本明細書に記載される組成物の非治療的使用を提供する。一実施形態において、表面は医療用デバイスの表面であり得る。
【0013】
第6の態様によれば、本開示は、それを必要とする対象における微生物病原体感染を処置および/または予防するための方法において使用するための、本明細書に記載される単離されたEPS、または本明細書に記載されるプロセスによって得られるか、もしくは得ることができる単離されたEPS、本明細書に記載される組成物、または本明細書に記載される鼻送達システムを提供する。
【0014】
第7の態様によれば、本開示は、微生物病原体感染の処置および/または予防のための医薬の製造のための、本明細書に記載される単離されたEPS、または本明細書に記載されるプロセスによって得られるか、もしくは得ることができる単離されたEPS、本明細書に記載される組成物、または本明細書に記載される鼻送達システムの使用を提供する。
【0015】
第8の態様によれば、本開示は、微生物病原体の病原性を減弱させるための方法において使用するための、本明細書に記載される単離されたEPS、または本明細書に記載されるプロセスによって得られるか、もしくは得ることができる単離されたEPS、本明細書に記載される組成物、または鼻送達システムを提供する。
【0016】
第9の態様によれば、本開示は、微生物病原体の病原性を減弱させるための医薬の製造のための、本明細書に記載される単離されたEPS、または本明細書に記載されるプロセスによって得られるか、もしくは得ることができる単離されたEPS、本明細書に記載される組成物、または本明細書に記載される鼻送達システムの使用を提供する。
【0017】
第10の態様によれば、本開示は、それを必要とする対象において微生物病原体感染を処置および/または予防する方法であって、本明細書に記載される単離されたEPS、または本明細書に記載されるプロセスによって得られるか、もしくは得ることができる単離されたEPS、または本明細書に記載される組成物の有効量を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0018】
第11の態様によれば、本開示は、それを必要とする対象における微生物病原体感染の病原性を減弱させるための方法であって、本明細書に記載される単離されたEPS、または本明細書に記載されるプロセスによって得られるか、もしくは得ることができる単離されたEPS、または本明細書に記載される組成物の有効量を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0019】
第12の態様によれば、本開示は、鼻腔内への微生物病原体による定着を阻害または低減することによって、微生物病原体感染の病原性を減弱させるための鼻用組成物を製剤化する方法であって、海洋細菌に由来する少なくとも1つの単離された菌体外多糖(EPS)を生理食塩水溶液と混合して、0.1%~10%w/wの濃度の塩を含む鼻用組成物を得るステップを含む方法を提供する。一実施形態において、少なくとも1つの単離されたEPSは、本開示による単離されたEPSであり得る。好ましい実施形態において、得られる鼻用組成物は、0.5%~5%w/wの濃度の塩を含む。より好ましくは、得られる鼻用組成物は、0.7%~3%w/wの濃度の塩を含む。一実施形態において、得られる組成物は、約0.9%w/wの濃度の塩を含む。一実施形態において、得られる組成物は、約2.2%w/wの塩濃度を含む。一実施形態において、得られる組成物は、約2.7%w/wの塩濃度を含む。
【0020】
本開示による使用のための単離されたEPS、本開示による使用のための組成物、または本開示の方法のいずれかによれば、本明細書に記載される少なくとも1つの単離されたEPSまたは組成物は、微生物病原体の感染前、感染中、および/または感染後に対象に投与してよく、それにより、対象の少なくとも1つの生体組織における微生物病原体の定着および/または微生物病原体の内在化を予防、阻害、または低減し得る。一実施形態において、少なくとも1つの生体組織は、口腔、鼻腔、呼吸器、咽頭、耳、眼科領域、泌尿生殖器、皮膚、頭皮、毛髪、爪、およびその組合せから選択し得る。別の実施形態において、微生物病原体は細菌病原体であってもよく、単離されたEPSまたは組成物の対象への投与は、初期の細菌バイオフィルム形成を低減または阻害すること、および/または初期の細菌バイオフィルムを破壊することによって、細菌病原体感染の病原性を減弱させる。別の実施形態において、微生物病原体はウイルス病原体であってもよく、単離されたEPSまたは組成物の対象への投与は、同等の未処理細胞と比較してウイルス病原体に感染した対象細胞の死亡率を低下させることによって、接種された対象細胞からのビリオンの放出を防止または減少させることによって、および/または感染していない隣接する対象細胞の感染を防止または低減させることによって、ウイルス病原体感染の病原性を減弱させる。
【0021】
本開示の鼻送達システム、本開示の非治療的使用、本開示による使用のための単離されたEPS、本開示による使用のための組成物、または本開示の方法のいずれかによれば、微生物病原体は、細菌病原体、ウイルス病原体、または真菌病原体のうちの少なくとも1つであり得る。一実施形態において、前記少なくとも1つの細菌病原体は、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、ヘモフィルス(Haemophilus)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、モラクセラ(Moraxella)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、およびストレプトコッカス(Streptococcus)属から選択し得る。いくつかの実施形態において、細菌病原体の少なくとも1つは、キューティバクテリウム・アクネス(Cutibacterium acnes)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、モラクセラ・カタラリス(Moraxella catharalis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)またはストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)種であり得る。一実施形態において、少なくとも1つの細菌病原体は、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、および/またはストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)種から選択し得る。別の実施形態において、前記少なくとも1つのウイルス病原体は、インフルエンザA、インフルエンザA亜型H1N1/2009/pdm09、インフルエンザA亜型H1、インフルエンザA亜型H3、インフルエンザB(オルソミクソウイルス)、コロナウイルス229E、コロナウイルスHKU1、コロナウイルスNL63、コロナウイルスOC43、SARS-CoV-2(コロナウイルス)、パラインフルエンザウイルス1、パラインフルエンザウイルス2、パラインフルエンザウイルス3、パラインフルエンザウイルス4、呼吸器合胞体ウイルスA/B、ヒトメタニューモウイルスA/B(パラミクソウイルス)、アデノウイルスまたはライノウイルス/エンテロウイルス(ピコルナウイルス)から選択し得る。さらなる実施形態において、少なくとも1つのウイルス病原体は、コロナウイルスOC43、アデノウイルス、および/またはライノウイルス/エンテロウイルス(ピコルナウイルス)から選択し得る。
【0022】
本開示の組成物または本開示の方法および使用に従って使用される組成物中の少なくとも1つのEPSの量は、組成物の総重量に基づいて、0.00005~0.5%w/w、好ましくは0.0001~0.1%w/w、より好ましくは0.0005~0.05%w/wの範囲内であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示のEPSの製造に使用されるステップバイステップのプロセスを表す。
【
図2】異なるEPS濃度における様々な細菌病原体のバイオフィルム形成(%)を示す。バイオフィルム形成は、未処理の細菌細胞(対照)に対して正規化した。エラーバーは、三連(n=3)で実施した2回の独立実験(N=2)の標準偏差を表す。*p<0.05vs対照;**p<0.01vs対照;
【
図3】三連(n=3)で実施した2回の独立実験(N=2)における、様々な細菌病原体の培養増殖に対するEPS濃度の増加の抗菌効果評価を示し、OD600値、平均±SDを比較した。EPS非存在下での増殖培養を対照として用いた;
【
図4】2時間および24時間の間、EPS濃度を増加させながら培養したHNEpCの生存率を示す。完全培地で2時間および24時間培養したTO-PRO3陰性細胞の生存率を対照(C)として用いた。エラーバーは、三連(n=3)で実施した1回の実験(N=1)の標準偏差を表す;
【
図5】緑膿菌(P.aeruginosa)および黄色ブドウ球菌(S.aureus)のHNEpCへの付着の減少を、漸増濃度のEPSの存在下で示す。バイオフィルム形成(細胞付着)は、未処理細胞(対照)に対して正規化した。エラーバーは、三連(n=3)で実施した2~4回の独立実験(N=2~4)の平均値の標準誤差を表す。**p<0.01vs対照;
【
図6】様々な濃度のEPS溶液を植物油と混合した後、24時間の休息期間を置いた後の乳化活性指数を示す。エラーバーは3回の独立実験(N=3)の標準偏差を表す;
【
図7】アデノウイルスまたはライノウイルスに感染させたHNEpCの生存率、または高用量ウイルス感染前または感染後にEPS(400μg/mL)で2時間処理したHNEpCの生存率を示す。BEBM完全培地で48時間培養した細胞を陽性対照として用い、EPS処理なしのウイルス接種細胞を陰性対照として用いた。数値は、三連(n=3)で実施した2回の独立実験(N=2)のTO-PRO-3陰性(生存細胞)の平均値±SDを表す;
【
図8】
図8Aおよび
図8Bは、それぞれアデノウイルスまたはライノウイルスに感染させたHNEpC、または高用量ウイルス感染前または感染後にEPS(200μg/mL)で2時間処理したHNEpCの生存率を示す。BEBM完全培地で48時間培養した細胞を陽性対照として用い、EPS処理なしのウイルス接種細胞を陰性対照として用いた。数値は、三連(n=3)で実施した2回の独立実験(N=2)のTO-PRO-3陰性(生存細胞)の平均値±SDを表す;
【
図9】アデノウイルスまたはライノウイルスに感染させたHNEpC、または感染前にEPS(400μg/mL)で2時間前処理したHNEpC、または5日間EPSを添加して後処理したHNEpC、または5日間毎日EPSを置き換えて後処理したHNEpCの生存率を示す。BEBM完全培地での5日間培養後のTO-PRO-3陰性細胞の生存率を対照として用いた。エラーバーは、二連(n=2)で実施した2回の独立実験(N=2)の標準偏差を表す;
【
図10】
図10Aおよび
図10Bは、それぞれアデノウイルスまたはライノウイルスに感染させたHNEpC、または感染前にEPS(200μg/mL)で2時間前処理したHNEpC、または5日間EPSを添加して後処理したHNEpC、または5日間毎日EPSを置き換えて後処理したHNEpCの生存率を示す。BEBM完全培地での5日間培養後のTO-PRO-3陰性細胞の生存率を対照として用いた。エラーバーは、三連(n=3)で実施した2回の独立実験(N=2)の標準偏差を表す;
【
図11】コロナウイルス(1 TCID50または0.001 TCID50)に感染させたHNEpC、または感染前にEPS(200~400μg/mL)で2時間前処理したHNEpC、またはEPSを1用量添加して5日間後処理したHNEpCの生存率を示す。BEBM完全培地での5日間培養後のTO-PRO-3陰性細胞の生存率を対照として用いた。エラーバーは、三連(n=3)で実施した2回の独立実験(N=2)の標準偏差を表す;
【
図12】
図12Aおよび
図12Bは、EPSサンプル(400μg/mL)で24時間刺激したときのIL-8産生HNEpCおよびIL-6産生HNEpCの割合をそれぞれ示す。未刺激の細胞またはIL-1βで刺激した細胞を、それぞれ陰性対照および陽性対照として用いた。データは3回の独立実験(N=3)の結果を表し、エラーバーはSDを表す;
【
図13A】
図13Aおよび
図13Bは、A)EPSサンプル(400μg/mL)で24時間培養した樹状細胞(DC)上の活性化/成熟分子(CD83、CD40およびCD25)の発現を示す。陰性対照および陽性対照として、それぞれ未刺激の細胞またはリポ多糖(LPS、1μg/mL)で刺激した細胞を用いた。棒グラフは示した分子のMFIの平均値±SEMを示す。2人の異なるドナーから得たPBMC由来のDCを二連で実験に用いた(N=2、n=2)。エラーバーはSDを表す;B)EPSサンプル(400μg/mL)で24時間刺激したときのIL-8産生DCおよびIL-6産生DCの割合。陰性対照および陽性対照として、それぞれ未刺激の細胞またはLPSで刺激した細胞を用いた。データは3回の独立実験(N=2、n=2)の結果を表し、エラーバーはSDを表す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示では、病原体の表面への付着を低減または防止することからなる手段に基づく、新規な病原体感染管理アプローチを提案する。そこで、パナレア島(イタリア)周辺海域の浅い熱水噴出孔から単離された海洋細菌が放出する化学成分を研究し、細菌、真菌、およびウイルスなどの病原性微生物の生物学的および非生物学的表面への可逆的付着ステップを妨害、制御、および/または阻害する能力を調べた。
【0025】
海洋源由来の細菌、すなわち2020年1月27日、Danstar Ferment A.G.(Poststrasse 30,Zug,6300、スイス)から寄託番号NCIMB 43557で寄託されたNCIMB(The National Collection of Industrial,Food and Marine Bacteria、NCIMB Ltd. Ferguson Building, Craibstone Estate,Bucksburn,Aberdeen,AB21 9YA、スコットランド、UK)に寄託されたバシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14は、高温(50℃)、塩水(導電率42.90mS.cm-1)、pH5.4、高濃度の硫化水素および重金属などの極限環境条件下で生育する特異な能力を有し、このような海洋菌株から分泌される菌体外多糖はユニークな物理化学的特性を有することが見出された。
【0026】
したがって、本開示は、海洋菌株バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14によって放出される新規な菌体外多糖(EPS)が、未処理の表面と比較して、処理表面への病原体の付着を防止および/または減少させることにより、病原体感染の病原性を減弱させる能力を有することを実証する。
【0027】
本開示は、微生物病原体感染の病原性を減弱させるためのEPS、その組成物、その組成物の使用および方法を提供する。本開示において、微生物病原体感染の病原性は、生物学的表面および/または非生物学的表面上の感染の原因となる微生物病原体の定着を阻害または低減することによって減弱される。
【0028】
本開示の文脈において、本明細書で使用される「病原性」という用語は、微生物(すなわち、細菌、ウイルス、酵母、真菌)が増殖し、および/または生体内に拡散し、それによって身体の防御機構を圧倒する能力を意味する。したがって、予防的および/または治療的処置として使用される場合、本開示の組成物は、宿主の免疫系を(間接的に)支援し、宿主が任意の種類の病原性微生物感染に対して効果的に防御できるようにする。
【0029】
なおも本開示の文脈において、「定着を阻害または低減する」という表現は、本明細書に開示される組成物に関連し、表面への病原性細菌の設置、したがってそれらの増殖を妨害する:すなわち、以下に限定されないが、初期バイオフィルムの形成の阻害または低減、初期バイオフィルムの破壊または分解(部分的または全体的)、高度バイオフィルムの破壊または分解(部分的または全体的)の効果を有する任意の作用を指す。
【0030】
本開示の文脈において、「定着を阻害または低減する」という表現は、生体におけるウイルスの確立を局所的に撹乱する効果を有する、本明細書に開示される組成物に関連する任意の作用を指す。したがって、組成物は、限定されるものではないが、生細胞内でのウイルスの内在化を部分的にまたは完全に防止する効果、および/または感染細胞から隣接する生細胞へのビリオンの拡散を制限する効果を有する。
【0031】
菌体外多糖およびその組成物
海洋源由来の細菌は、高温、塩水、高濃度の硫化水素および重金属などの極限環境条件下で生育する特異な能力を有しており、海洋生物種が産生する菌体外多糖(EPS)はユニークな物理学的特性および分子構造を有することが見出されている。そのため、海洋細菌のEPSは、水溶性、生分解性、生体適合性、生体付着性、耐熱性、膨潤性、ゲル化力などの特異な特性により、バイオテクノロジー、医療、および医薬品など幅広い分野で応用されている。
【0032】
EPSは多糖であり、細菌発酵によって産生された後、培養培地中に放出される。グリコシド結合を介して互いに結合した単糖から構成される。EPSは1種類以上の単糖から構成され、整列した、またはランダムに分布した単糖ブロックの繰り返し単位を観察することができる。EPS骨格は直鎖状でも分岐状でもよく、この場合、分岐アームは異なる長さを有し、同じ単糖単位または異なる単糖単位のいずれかを含み得る。
【0033】
一実施形態において、少なくとも1つの単離されたEPSは、海洋細菌およびその許容される担体の発酵によって得られるか、または得ることができる。別の実施形態において、本開示の組成物は、グラム陽性好熱性細菌の発酵によって得られるか、または得ることができる少なくとも1つの単離されたEPS、およびその許容される担体を含む。別の実施形態において、本開示の組成物は、バシラス(Bacillus)属に属する細菌の発酵によって得られるか、または得ることができる少なくとも1つの単離されたEPS、およびその許容される担体を含む。別の実施形態において、本開示の組成物は、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)種に属する細菌の発酵によって得られるか、または得ることができる少なくとも1つの単離されたEPS、およびその許容される担体を含む。さらに別の実施形態において、本開示の組成物は、特定の細菌株、NCIMB 43557でthe National Collection of Industrial,Food and Marine Bacteria(NCIMB)に寄託された極限好熱性海洋バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14の発酵によって得られる、または得ることができる少なくとも1つの単離されたEPS、およびその許容される担体を含む。
【0034】
一実施形態において、海洋細菌の発酵は、海塩(40g/L)、トリプトン(6g/L)、酵母抽出物(6g/L)、消泡剤(0.33mL/L)、デキストロース(12g/L)および脱イオンH2O(qsp.)を含む発酵培地中で、pH5~8、40℃で20~40時間、30~50%の酸素添加下で行われる。発酵終了後、EPS単離の前に、発酵培地を85℃で1時間加熱することにより、海洋細菌および前記海洋細菌由来のタンパク質の両方を不活性化することができる。
【0035】
用語「単離された」は、それが自然に産生される元の環境、例えばこの場合では発酵培地から物質的に取り出されたことを意味すると考えられるべきである。取り出された物質は、通常、それが産生された環境から精製される。一実施形態において、単離された形態のEPSは、理想的には、有意量の細菌株を含まず、これは、いくつかの実施形態において、部分的または完全に不活性化されていてもよい。いくつかの別の実施形態において、単離された形態のEPSは、無視できる量の細菌株を含む。さらなる実施形態において、単離された形態のEPSは、多くとも101CFU/gのEPS、多くとも102CFU/gのEPS、多くとも103CFU/gのEPS、多くとも104CFU/gのEPS、または多くとも105CFU/gのEPSを含む。一実施形態において、単離された形態のEPSは、それを産生するために使用された細菌株由来の検出可能な量のタンパク質を欠いており、これは、いくつかの実施形態において、Lowryアッセイ(実施例4)によって分析される場合、部分的にまたは完全に不活性化されていてもよい。いくつかの実施形態において、単離された形態のEPSは、Lowryアッセイ(実施例4)によって分析される場合、それを産生するために使用された細菌株由来のタンパク質を無視できる量含む。いくつかのさらなる実施形態において、単離された形態のEPSは、Lowryアッセイ(実施例4)によって分析される場合、それを産生するために使用された細菌株由来のタンパク質を、多くとも0.1%w/w、多くとも0.5%w/w、多くとも1%w/w、多くとも2%w/w、多くとも3%w/w含む。さらに、他の細菌培養培地構成要素の主要部分から分離した後、本開示の単離されたEPSは、限定されないが、濾過、限外濾過、蒸発、噴霧乾燥もしくは凍結乾燥、またはその組合せによって濃縮され得る。したがって、本開示の単離されたEPSは、濃縮物、懸濁液、粉末、または凍結乾燥物の形態である。
【0036】
一実施形態において、本開示の組成物中に含まれる単離されたEPSは、サイズ排除クロマトグラフィー(HP-SEC)によって決定される、40~4000kDa、40~2000kDa、40~1000kDa、40~500kDa、40~400kDa、40~300kDa、40~200kDaの範囲の少なくとも1つの重量平均分子量分布を示す。一実施形態において、前記単離されたEPSは、サイズ排除クロマトグラフィー(HP-SEC)によって決定される、それぞれ40~4000kDa、40~2000kDa、40~1000kDa、40~500kDa、40~400kDa、40~300kDa、40~200kDaの範囲の少なくとも2つの重量平均分子量分布を呈する。
【0037】
一実施形態において、本開示の単離されたEPSは、中性グリコシル単位、アミノグリコシル単位、および酸性グリコシル単位を含む。中性グリコシル単位の例としては、グルコース、ラムノース、マンノース、キシロースおよびガラクトースが挙げられるが、これらに限定されない。アミノグリコシル単位の例としては、ガラクトサミン、グルコサミン、N-アセチルグルコサミンおよびN-アセチルガラクトサミンが挙げられるが、これらに限定されない。酸性グリコシル単位の例としては、グルクロン酸、ガラクツロン酸およびヘクスロン酸を含むウロン酸が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、本開示の単離されたEPSは、グルコース、ラムノース、マンノース、キシロースおよびガラクトースを含む中性グリコシル単位を含む。一実施形態において、本開示の単離されたEPSは、N-アセチルグルコサミンおよびN-アセチルガラクトサミンを含むアミノグリコシル単位を含む。一実施形態において、本開示の単離されたEPSは、グルクロン酸を含む酸性グリコシル単位を含み得る。一実施形態において、本開示の単離されたEPSは、前記EPSのグリコシル単位の総数に関して、30~90%、35~80%、40~75%の間の中性グリコシル単位を含む。一実施形態において、本開示の単離されたEPSは、前記EPSのグリコシル単位の総数に関して、10~70%、15~65%、20~60%の間のアミノグリコシル単位を含む。一実施形態において、本開示の単離されたEPSは、前記EPSのグリコシル単位の総数に関して、0~15%、0~10%、0~5%の間の酸性グリコシル単位を含む。別の実施形態において、本開示の単離されたEPSは、マンノース、ガラクトース、グルコース、N-アセチルガラクトサミンおよびN-アセチルグルコサミンを含むグリコシル単位から構造的に構成される。別の実施形態において、本開示の単離されたEPSは、リボース、アラビノース、ラムノース、フルクトースおよび/またはフコースから構造的に構成されない。別の実施形態において、本開示の単離されたEPSは、リボース、アラビノース、ラムノース、フルクトースおよび/またはフコースを実質的に含まない。
【0038】
本開示の単離されたEPSは、低濃度であっても強い乳化活性を呈する(すなわち、0.005%のEPSに相当する50μg.mL-1のみを用いて50%のE24に到達した)。
【0039】
一実施形態において、本開示の方法は、任意選択で組成物として提供される、有効量の少なくとも1つのEPSの投与を含む。「有効量の」という表現は、未処理表面と比較した場合に、処理表面上への微生物病原体による定着の阻害または低減によって、微生物病原体感染の病原性の減弱を確実にするのに十分な単離されたEPSの濃度を意味する。いくつかの実施形態において、単離されたEPSの濃度は、組成物の総重量に基づいて0.00005%~0.5%w/wの範囲である。いくつかの別の実施形態において、単離されたEPSの濃度は、組成物の総重量に基づいて0.0001%~約0.1%w/wの範囲である。さらに別の実施形態において、単離されたEPSの濃度は、組成物の総重量に基づいて、0.0005%~約0.08%w/wの範囲である。
【0040】
別の実施形態において、本開示の組成物は、組成物の少なくとも0.000005%w/w、組成物の少なくとも0.00001%w/w、組成物の少なくとも0.00002%w/w、組成物の少なくとも0.00005%w/w、組成物の少なくとも0.0001%w/w、組成物の少なくとも0.0002%w/w、組成物の少なくとも0.0005%w/w、組成物の少なくとも0.001%w/w、組成物の少なくとも0.002%w/w、組成物の少なくとも0.004%w/w、組成物の少なくとも0.005%w/w、組成物の少なくとも0.0075%w/w、組成物の少なくとも0.01%w/w、組成物の少なくとも0.015%w/w、組成物の少なくとも0.02%w/wの、処理表面上への前記微生物病原体による定着を阻害または低減することによって微生物病原体感染の病原性を減弱させる能力を有する少なくとも1つの単離されたEPSを含む。
【0041】
他の実施形態において、本開示の組成物は、約0.5~5000μg.mL-1、約1~1000μg.mL-1、約5~500μg.mL-1の、処理表面への前記微生物病原体による定着を阻害または低減することによって微生物病原体感染の病原性を減弱させる能力を有する少なくとも1つの単離されたEPSを含む水溶液または懸濁液であり得る。
【0042】
別の実施形態において、本開示の組成物は、少なくとも50ng.mL-1、少なくとも100ng.mL-1、少なくとも200ng.mL-1、少なくとも500ng.mL-1、少なくとも1μg.mL-1、少なくとも2μg.mL-1、少なくとも5μg.mL-1、少なくとも10μg.mL-1、少なくとも20μg.mL-1、少なくとも40μg.mL-1、少なくとも50μg.mL-1、少なくとも75μg.mL-1、少なくとも100μg.mL-1、少なくとも150μg.mL-1、少なくとも200μg.mL-1の、処理表面上への前記微生物病原体による定着を阻害または低減することによって微生物病原体感染の病原性を減弱させる能力を有する少なくとも1つの単離されたEPSを含む水溶液または懸濁液であり得る。
【0043】
本明細書に開示される組成物は、海洋細菌に由来する少なくとも1つの単離された菌体外多糖と、適切な担体とを含む。担体(複数可)の選択は、最終製剤の種類に応じて行われる。一実施形態において、本明細書における組成物の担体は、組成物の生物学的活性(すなわち、抗バイオフィルム活性および/または抗ウイルス活性)を増加させることができるが、減少させることはできない。別の実施形態において、本明細書における組成物の担体は、免疫学的に不活性である。別の実施形態において、本明細書における組成物の担体は、1つまたは複数の担体の組合せであり得る。
【0044】
一実施形態において、本明細書に開示される組成物は、別のEPSをさらに含み得る。別の実施形態において、本明細書に開示される組成物は、ポリグルタミン酸をさらに含み得る。
【0045】
一実施形態において、その抗バイオフィルム活性(例えば、in vitro)を別にすれば、任意選択で組成物として提供される、本明細書に記載される単離されたEPSは、病原性細菌の増殖に悪影響を及ぼさず、より一般的には、EPSの存在は、試験された全ての細菌株の増殖速度に影響を及ぼさない。別の実施形態において、任意選択で組成物として提供される、本明細書に記載される単離されたEPSは、その濃度および考慮される病原性細菌とは独立して、殺菌効果、静菌効果、および抗生物質効果を有さない。別の実施形態において、任意選択で組成物として提供される、本明細書に記載される単離されたEPSはまた、生体組織上に存在する天然の微生物叢の完全性を尊重する。別の実施形態において、任意選択で組成物として提供される、本明細書に記載される単離されたEPSは、その濃度およびそのインキュベーション期間にかかわらず、それらを受けることが意図される対象において細胞毒性を誘導しない。
【0046】
別の実施形態において、任意選択で組成物として提供される、本明細書に記載される単離されたEPSは、免疫(細胞性および/または体液性)応答を誘導する能力を実質的に欠いている。いくつかの実施形態において、任意選択で組成物として提供される、本明細書に記載される単離されたEPSは、炎症応答および/またはアネルギーのような、任意の免疫学的応答を誘導する能力を欠いている。別の実施形態において、任意選択で組成物として提供される、本明細書に記載される単離されたEPSは、免疫刺激性抗原提示細胞への樹状細胞の成熟に対する検出可能な効果を欠く。さらに別の実施形態において、任意選択で組成物として提供される、本明細書に記載される単離されたEPSは、樹状細胞からCD83、CD40および/またはCD25発現を誘導しない。別の実施形態において、任意選択で組成物として提供される、本明細書に記載される単離されたEPSは、IL-6および/またはIL-8を発現する細胞の増殖を誘導することができない。いくつかの別の実施形態において、任意選択で組成物として提供される、本明細書に記載される単離されたEPSは、サイトカイン、ケモカインおよび/またはプロスタグランジンなどの炎症性メディエーターの産生を誘導できない。さらに別の実施形態において、任意に組成物として提供される、本明細書に記載される単離されたEPSは、IL-6および/またはIL-8の産生を誘導できない。
【0047】
抗バイオフィルム活性
細菌病原体の場合、病原性バイオフィルムは、様々な粘膜および上皮細胞、口腔、鼻腔、肺、消化器、皮膚、眼科、および泌尿生殖器だけでなく、中心静脈、尿および腹膜透析カテーテル、気管内チューブ、ペースメーカー、人工関節および機械的心臓弁のような非生物学的および疎水性非極性表面(例えば、テフロン、ガラスおよびプラスチック)上でも発達し得る。
【0048】
このようなマトリクスに埋め込まれた微生物病原体は、独自の生態系を形成して生存することができ、ここでは身体の免疫防御および外因性処置によって生成される代謝物または物質から身を守ると同時に、細胞間コミュニケーション(クオラムセンシングなど)を介して耐性遺伝子などの新たな能力を獲得し、環境に適応して立ち向かうことができる。したがって臨床的には、バイオフィルムの形成は、処置が困難な感染症のいくつかにおいて、その成立と持続の重要な要因であることが知られている。例えば、病原性細菌から産生される菌体外多糖は、病原性細菌を保護し、それによって抗菌剤処置に対して難治性になっている。
【0049】
したがって、細菌感染の病原性を減弱させることを目的とする本開示は、活性または確立された細菌感染だけでなく、細菌感染につながる病原性の初期発症、すなわち細菌が表面上に可逆的に付着する初期のバイオフィルム形成の阻害も対象とする。
【0050】
一実施形態において、本開示の組成物は、未処理表面と比較して、合成表面上で最適条件下でインキュベートされた種々の細菌病原体に対してバイオフィルム形成阻害効果を付与する。別の実施形態において、本開示によるEPSによる表面前処理は、未処理表面と比較して、低濃度で適用された場合であっても、初期のバイオフィルム形成を阻害する。別の実施形態において、本開示の組成物の使用は、合成表面上で最適条件下でインキュベートされた種々の細菌病原体からのバイオフィルム形成の低減をもたらす。別の実施形態において、組成物による表面前処理は、未処理表面と比較して、低濃度で適用された場合であっても、初期のバイオフィルム形成を低減させる。別の実施形態において、本開示の組成物は、未処理合成表面と比較して、合成表面上での病原性細菌のバイオフィルム形成を少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%減少させる。別の実施形態において、少なくとも200μg/mLのEPS濃度を有する本開示の組成物は、未処理合成表面と比較して、合成表面上の病原性細菌のバイオフィルム形成を少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%減少させる。別の実施形態において、400μg/mLのEPS濃度を有する本開示の組成物は、未処理合成表面と比較して、合成表面上の病原性細菌のバイオフィルム形成を少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%減少させる。
【0051】
一実施形態において、本開示のEPSは、その起源にかかわらず、生物学的表面上における細菌バイオフィルム設置の結果を低減および/または制限する能力を有する。実際、バイオフィルムの形成を低減および/または防止する実証された予防効果に加えて、本開示による組成物による表面洗浄は、バイオフィルムから病原性細菌細胞を除去するその能力により、治療活性も有し得る。別の実施形態において、本明細書による組成物は、表面上のバイオフィルムの破壊または溶解(既存の定着および予め形成または蓄積されたバイオフィルムの低減)を促進する。いくつかの実施形態において、本明細書による組成物は、表面上の初期のバイオフィルム破壊または溶解を促進する。別の実施形態において、本開示による組成物による表面処理は、表面上への細菌の再定着を防止、低減および/または阻害する。別の実施形態において、本開示のEPS組成物は、未処理の生物学的表面と比較して、生物学的表面上の病原性細菌のバイオフィルム形成を少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%減少させる。別の実施形態において、少なくとも200μg/mLのEPS濃度を有する本開示の組成物は、未処理の生物学的表面と比較して、生物学的表面上の病原性細菌のバイオフィルム形成を少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%減少させる。別の実施形態において、400μg/mLのEPS濃度を有する本開示の組成物は、生物学的表面と比較して、生物学的表面上の病原性細菌のバイオフィルム形成を少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、少なくとも21%、少なくとも22%、少なくとも23%、少なくとも24%、少なくとも25%、少なくとも26%、少なくとも27%、少なくとも28%、少なくとも29%、少なくとも30%減少させる。
【0052】
別の実施形態において、本開示による組成物による表面処理は、病原性細菌との接触後、遅くとも8時間以内、遅くとも6時間以内、遅くとも4時間以内、遅くとも3時間以内、遅くとも2時間以内、遅くとも1時間以内に行われる。本開示による組成物による表面処理はまた、病原性細菌との接触直後に適用することもできる。本開示による組成物による表面処理はまた、病原性細菌と接触する前に予防措置として適用することもできる。したがって、本開示による組成物による表面処理は、病原性細菌との潜在的な接触の少なくとも5分前、少なくとも10分前、少なくとも15分前、少なくとも30分前、少なくとも60分前、少なくとも2時間前、少なくとも3時間前、少なくとも4時間前、少なくとも6時間前、少なくとも8時間前に適用することができる。
【0053】
抗ウイルス活性
ウイルス性疾患または感染症は、1つまたは複数の特定の箇所において身体を攻撃するウイルスによって伝達される。例えば、すでに病気にかかっている他の個体との直接的な接触、すなわち、体液またはエアロゾルならびに感染した表面との接触を介してウイルス性疾患に感染することがある。
【0054】
一旦体内に接種されると、ウイルスは特定の宿主細胞に入り込み、増殖するために細胞機構を転換し、このようにして合成されたビリオンが次に拡散し、隣接する細胞に感染する。
【0055】
本開示はまた、処理表面上へのウイルス病原体の定着を阻害および/または低減させることによって、ウイルス感染の病原性を減弱させることも対象とする。換言すれば、ウイルス病原体の表面定着の低減および/または阻害は、未処理細胞と比較して生細胞の死亡率を低下させることによって、および/またはビリオンの放出ならびに隣接する生細胞への拡散を防止することによって達成される。
【0056】
一実施形態において、ウイルス接種の前に本開示による組成物で生細胞を前処理することによって、考慮されるウイルスにかかわらず、ウイルス感染に対するEPS組成物の予防的特性が強調される。一実施形態において、ウイルス接種前の本開示による組成物による生細胞の前処理は、未処理の細胞に比べて細胞の死亡率を低下させる。さらに別の実施形態において、本開示による組成物による生細胞の前処理(すなわち、生細胞へのウイルス接種の前)は、ウイルス接種の前に単回用量で投与される。別の実施形態において、ウイルス接種前に本開示による組成物で生細胞を前処理すると、未処理の細胞の生存と比較して、(考慮されるウイルスに関係なく)ウイルス感染後の細胞の生存が増加する。別の実施形態において、ウイルス接種(1 TCID50)の前に本開示による組成物で生細胞を前処理すると、未処理の細胞生存率と比較して、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%細胞生存率が増加する。別の実施形態において、ウイルス接種(0.001 TCID50)の前に本開示による組成物で生細胞を前処理すると、未処理の細胞生存率と比較して、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%細胞生存率が増加する。
【0057】
一実施形態において、本開示による組成物による生細胞の後処理(すなわち、生細胞へのウイルス接種後)は、ビリオンの放出ならびに隣接細胞へのそれらの拡散を防止する。別の実施形態において、本開示による組成物による生細胞の後処理(すなわち、生細胞へのウイルス接種後)は、ウイルス接種の少なくとも1日間、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、未処理細胞に比べてウイルス感染の病原性を低下させる治療効果を提供する。さらに別の実施形態において、本開示による組成物による生細胞の後処理(すなわち、生細胞へのウイルス接種後)は、ウイルス接種後に単回用量で投与される。別の実施形態において、理論に拘束されることを望むものではないが、ヒト生細胞への本開示によるEPS組成物の投与は、考慮されるウイルスにかかわらず、ウイルスの内在化を立体的に妨げる細胞外「バリア」を形成する。一実施形態において、ウイルス接種後の、本開示によるEPS組成物による生細胞の後処理は、未処理の細胞の生存率と比較して、細胞の生存率を増加させる。別の実施形態において、ウイルス接種後(1 TCID50)の、本開示によるEPS組成物による生細胞の後処理は、未処理の細胞生存率と比較して、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%細胞生存率を増加させる。いくつかの別の実施形態において、ウイルス接種(0.001 TCID50)後の本開示による組成物による生細胞の後処理は、未処理の細胞生存率と比較して、少なくとも25%、少なくとも26%、少なくとも27%、少なくとも28%、少なくとも29%、少なくとも30%細胞生存率を増加させる。
【0058】
別の実施形態において、本開示による組成物による表面処理は、表面上へのウイルスの再定着を防止、低減および/または阻害する。
【0059】
別の実施形態において、本開示による組成物による表面処理は、ウイルスとの接触後、遅くとも8時間以内、遅くとも6時間以内、遅くとも4時間以内、遅くとも3時間以内、遅くとも2時間以内、遅くとも1時間以内に行われる。本開示によるEPS組成物による表面処理は、ウイルスとの接触直後に適用することもできる。本開示による組成物による表面処理はまた、ウイルスとの接触前の予防措置として適用することもできる。したがって、本開示による組成物による表面処理は、ウイルスとの潜在的な接触の少なくとも5分前、少なくとも10分前、少なくとも15分前、少なくとも30分前、少なくとも60分前、少なくとも2時間前、少なくとも3時間前、少なくとも4時間前、少なくとも6時間前、少なくとも8時間前に適用することができる。
【0060】
病原体
本開示による組成物は、特許請求される組成物で処理された表面上への細菌、真菌、酵母およびウイルスなどの微生物の定着を阻害または低減することによって、微生物病原体感染の病原性を減弱させるために有効である。
【0061】
一実施形態において、本開示による組成物は、細菌の定着を阻害または低減することによって、細菌病原体感染の病原性を減弱させるために有効である。いくつかの実施形態において、本開示が専用の用途に関連し得る細菌としては、限定されるものではないが、スタフィロコッカス(Staphylococcus)種、ストレプトコッカス(Streptococcus)種、エンテロコッカス科(Enterococcaceae)およびエンテロコッカス(Enterococcus)種、ナイセリア(Neisseria)またはブランハメラ(Branhamella)種、バシラス(Bacillus)種、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)種、コリネバクテリウム(Corynebacterium)種、リステリア(Listeria)種、クロストリジウム(Clostridium)種、エスケリキア(Escherichia)種、エンテロバクター(Enterobacter)種、プロテウス(Proteus)種、シュードモナス(Pseudomonas)種、クレブシエラ(Klebsiella)種、サルモネラ(Salmonella)種、シゲラ(Shigella)種、カンピロバクター(Campylobacter)種、アクチノマイセス(Actinomyces)種、アクチノバチルス(Actinobacillus)種、アシネトバクター(Acinetobacter)種、アグリゲイティバクター(Aggregatibacter)種、フソバクテリウム(Fusobacterium)種、ヘモフィルス(Haemophilus)種、マイコバクテリウム(Mycobacterium)種、シュードモナス(Pseudomonas)種、ポルフィロモナス(Porphyromonas)種、バクテロイデス(Bacteriodes)種、トレポネーマ(Treponema)種、プレボテラ(Prevotella)種、またはユーバクテリウム(Eubacterium)種に属する細菌などのグラム陰性およびグラム陽性細菌の両方が挙げられる。いくつかの別の実施形態において、本開示が専用の用途に関連し得る細菌としては、グラム陰性およびグラム陽性細菌の両方、例えば、限定されるものではないが、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)(Methicilin Resistant Staphylococcus aureus)、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)(A群)、ストレプトコッカス(Streptococcus)属(ビリダンス(viridans)群)、ストレプトコッカス・アガラクチア(Streptococcus agalactiae)(B群)、ウシレンサ球菌(Streptococcus bovis)、ストレプトコッカス(Streptococcus)(嫌気性種)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、S.サンギス(S.sanguis)、S.オラリス(S.oralis)、S.ミティス(S.mitis)、S.サリバリウス(S.salivarius)、S.ゴルドニ(S.gordonii)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、ブランハメラ・カタルハリス(Branhamella catarrhalis)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、枯草菌(Bacillus subtilis)、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)、コリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheriae)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、大腸菌(Escherichia coli)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、アクチノバチルス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetumcomitans)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、バクテリオデス・フォルシサス(Bacteriodes forcythus)、トレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、またはユーバクテリウム・ノダトゥム(Eubacterium nodatum)が挙げられる。一実施形態において、細菌種は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、モラクセラ・カタラリス(Moraxella catarrhalis)、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)(キューティバクテリウム・アクネス(Cutibacterium acnes)としても知られる)、またはその組合せである。さらに別の実施形態において、細菌種は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、モラクセラ・カタラリス(Moraxella catharalis)、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)(キューティバクテリウム・アクネス(Cutibacterium acnes)としても知られる)、またはその組合せである。
【0062】
したがって、本開示による組成物は、限定されるものではないが、以下を含む微生物感染(複数可)を予防、減弱、および/または微生物感染(複数可)の可能性を低減するために、処理表面上への定着を阻害および/または低減することによって、細菌病原体感染の病原性を減弱させるために有用であり得る:菌血症、敗血症、肺炎、髄膜炎、骨髄炎、心内膜炎、う蝕、歯周病、副鼻腔炎、鼻炎、ピンクアイ、尿路感染、破傷風、壊疽、大腸炎、急性胃腸炎、膿痂疹、にきび、ざ瘡、赤み、アトピー性皮膚炎、乾癬、創傷感染、熱傷感染、筋膜炎、気管支炎、または種々の膿瘍、院内感染、および/または日和見感染。
【0063】
別の実施形態において、本開示による組成物は、表面上または上皮上へのウイルスの定着を阻害または低減することによって、ウイルス病原体感染の病原性を減弱させるために有効である。本開示によるEPS組成物は、特定のウイルス、例えば、HIV、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルスおよび/またはヒトパピローマウイルスに対して有効であるが、ライノウイルス、オルソミクソウイルス、パラミクソウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、インフルエンザ、ラウスサコーマウイルス、パラインフルエンザ、メタニューモウイルスおよび/またはエプスタイン-バーウイルスに対しても有効である。
【0064】
したがって、本開示による組成物はまた、風邪、インフルエンザ、冷え症、性器ヘルペス、いぼなどの感染症を予防および/または処置するために有効であり、および/またはHIVおよびSARS-CoV-2感染を予防するために有効である。いくつかの実施形態において、ウイルスは、インフルエンザ、コロナウイルス、SARs-CoV-2、パラインフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス、メタニューモウイルス、またはその組合せである。
【0065】
生物学的表面適用
一実施形態において、本開示による組成物および方法は、ヒト、またはより一般的には、限定されるものではないが、細胞、上皮細胞および/または粘膜を含む動物組織に適用可能である。本開示において考慮される生物学的表面は、限定されないが:口腔、歯面、鼻腔、呼吸器、咽頭、耳、眼科領域、泌尿生殖器、皮膚、頭皮、毛髪および/または爪である。いくつかの実施形態において、本開示による組成物の投与方法は、鼻腔、呼吸器および/または頬経路である。
【0066】
一実施形態において、本開示による組成物および方法は、無傷の健康な組織を有する健康な対象に投与することができるが、対象が、局所的および/または全身的な感染症につながる可能性のある創傷または引っかき傷の後に破壊された組織を有する場合に有用である。別の実施形態において、本開示による組成物および方法は、感染しやすい対象に投与し得る。別の実施形態において、本開示による組成物および方法は、感染した対象に投与し得る。
【0067】
一実施形態において、本開示による組成物および方法で投与される対象は動物である。別の実施形態において、本開示による組成物および方法で投与される対象は、哺乳動物である。さらに別の実施形態において、本開示による組成物および方法で投与される対象はヒトである。
【0068】
一実施形態において、鼻腔内投与のために、本開示による組成物は、鼻粘膜に直接適用される軟膏またはゲルの形態で投与され得る。別の実施形態において、本開示による組成物は、点鼻薬、液体スプレー、例えばプラスチックボトルアトマイザー、バッグオンバルブエアロゾルおよび/または定量吸入器を介して投与され得る。鼻用液剤は、通常、滴剤またはスプレーで鼻腔に投与されるように設計された水溶液であり、正常な毛様体作用が維持され得るように、多くの点で鼻汁に類似するように調製される。一実施形態において、水性鼻用液剤は、通常、等張性であり、または高張性であってもよく、鼻用組成物の総重量に基づいて0.1%~10%w/wの間の最終生理食塩水濃度を呈する。いくつかの実施形態において、水性鼻用液剤は、通常、等張性であり、または高張性であってもよく、鼻用組成物の総重量に基づいて0.5%~5%w/wの間の最終生理食塩水濃度を呈する。いくつかの別の実施形態において、水性鼻用液剤は通常、等張性であり、または高張性であってもよく、鼻用組成物の総重量に基づいて0.7%~3%w/wの間の最終生理食塩水濃度を呈する。
【0069】
吸入、ネブライゼーションまたは気腹としても知られる呼吸器投与の場合、本開示による組成物は、液化ガス推進剤と併用して、微粉末懸濁剤または液剤として加圧エアロゾルを介して投与される。適切なバルブおよび経口アダプターを介して放出されると、組成物は対象の気道に推進される。微細なミストは、加圧エアロゾル(すなわち、気腹器、ネブライザー)によって生成されるため、その使用が有利であると考えられる。加圧エアロゾルは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、窒素、二酸化炭素または他の適切なガスなどの適切な推進剤を含み得る。加圧エアロゾルの場合、投与単位は、計量された量を供給するためのバルブを設けることによって決定することができる。
【0070】
本開示による組成物は、いくつかの従来の方法で、口腔の粘膜組織、口腔の歯肉組織、および/または歯の表面に局所的に適用し得る。例えば、歯肉組織または粘膜組織は、本開示による組成物を含む液剤(例えば、口内洗浄剤、口内スプレー)で濯いでもよく;または本開示による組成物が歯磨剤(例えば、練り歯みがき、歯用ゲルまたは歯用粉末)の形態である場合、歯肉/粘膜組織または歯は、歯を磨くことによって生成される液体および/または泡に浸される。他の非限定的な例としては、特許請求される組成物を含む非研磨性ゲルまたはペーストを、以下に記載される口腔ケア器具の有無にかかわらず、歯肉/粘膜組織または歯に直接適用すること;特許請求される組成物を含むガムを噛むこと;特許請求される組成物を含む口臭タブレット、ロゼンジまたは溶解性ストリップを噛むことまたは吸うことが挙げられる。いくつかの実施形態において、組成物を歯肉/粘膜組織および/または歯に適用する方法は、口内洗浄液による濯ぎを介して、または歯磨剤によるブラッシングを介して行われる。いくつかの別の実施形態において、本開示による組成物を歯肉/粘膜組織および/または歯に適用する方法は、プラスチックボトルアトマイザーまたはバッグオンバルブエアロゾルを介して行われる。本開示によるEPS組成物を歯肉/粘膜組織および歯の表面に局所的に適用する他の方法は、当業者には明らかである。
【0071】
膣投与のためには、本開示による組成物は、活性成分に加えて、当技術分野で適切であることが知られているような担体を含むペッサリー、タンポン、坐剤、クリーム、ゲル、ペースト、発泡体、またはスプレーとして提示され得る。
【0072】
局所投与用に製剤化される場合、本開示による組成物は、担体、ビヒクルまたは媒体のような、局所用医薬組成物、創傷包帯のような医療用デバイスまたは化粧品組成物において典型的な成分を含有し得る。具体的には、担体、ビヒクル、または媒体は、それが適用される組織、例えば、口腔、歯面、鼻腔、呼吸器、咽頭、耳、眼科領域、泌尿生殖器、皮膚、頭皮、毛髪、爪、または粘膜に適合する。本開示の組成物および成分は、過度の毒性、不適合性、不安定性、アレルギー応答などを伴わずに、感染組織と接触させるため、または対象に一般的に使用するために適している。本開示によるEPS組成物は、考慮される分野で従来使用されている任意の追加成分を適宜含み得る。
【0073】
それらの形態の観点から、本開示による組成物は、液剤、エマルジョン(マイクロエマルジョンを含む)、懸濁剤、クリーム、ローション、ゲル、粉末、または組成物が使用され得る皮膚および他の組織への適用に使用される他の典型的な固体もしくは液体組成物を含み得る。このような組成物は、以下:抗菌剤、保湿剤および水和剤、浸透剤、防腐剤、乳化剤、天然油または合成油、溶媒、界面活性剤、洗浄剤、ゲル化剤、エモリエント剤、酸化防止剤、香料、充填剤、増粘剤、ワックス、臭気吸収剤、染料、着色剤、粉末、粘度調整剤または水を含むことができ、任意選択で、麻酔剤、かゆみ止め活性剤、植物抽出物、コンディショニング剤、暗色化剤または明色化剤、光輝剤、保湿剤、雲母、ミネラル、ポリフェノール、シリコーンまたはその誘導体、日焼け止め、ビタミン、またはフィトメディシナルを含む。さらに別の実施形態において、本開示によるEPS組成物は、EPS組成物に長期安定性を提供する上記の成分と共に製剤化され、これは継続的または長期的な処置に必要とされ得る。
【0074】
投与方法の観点から、本開示による組成物の担体は、適用後少なくとも1分、または少なくとも5分、または少なくとも10分、または少なくとも15分、または少なくとも20分、または少なくとも25分、または少なくとも30分、または少なくとも1時間、または少なくとも2時間、または少なくとも4時間、または少なくとも8時間の、処理表面上の組成物の滞留時間を提供するように選択し得る。
【0075】
液体製剤の場合、特許請求される組成物の容量は、所定のヒトまたは動物について、処置される組織の全表面積の推定に従って調整し得る。例えば、洗口剤製剤の場合、約1mL~約30mL、例えば、約3mL~約25mL、または約5mL~約20mL;または鼻用スプレー製剤の場合、約0.05mL~約2mL、例えば、約0.1mL~約1.5mLである。いくつかの実施形態において、鼻用製剤専用の特許請求される組成物の容量は、鼻孔あたり約50μL~約300μL、またはバッグオンバルブエアロゾル送達の場合は鼻孔あたり約100μL~約200μLである。いくつかの別の実施形態において、鼻用製剤専用の特許請求される組成物の容量は、プラスチックボトルアトマイザー送達の場合は鼻孔あたり約0.3mL~2mL、または約0.6mL~1.2mLである。溶解性ストリップのような他の送達媒体は、濃度および当業者に公知の他の因子の調整を考慮して、これらの範囲から得られる投与量を有することができる。
【0076】
本開示による組成物の1日投与量は、典型的には、対象の状態(予防的処置の場合は健康であるか、または治癒的処置の場合は病気である)に依存し、また処置される表面にも依存する。1日の投与量は、1日1回であってもよいし、1日2回以上の用量に分けて1日2回以上投与してもよい。
【0077】
一実施形態において、本開示による組成物は、少なくとも1日、少なくとも3日、少なくとも5日、または少なくとも1週間、または少なくとも2週間、または少なくとも3週間、または少なくとも4週間、または少なくとも1カ月、または少なくとも2カ月、または少なくとも3カ月である期間、毎日投与される。非限定的な一実施形態において、処理表面上で病原性細菌が検出されなくなるまで処理を継続することが所望され得る。別の実施形態において、本開示によるEPS組成物は、1日1回または1日2回のような未決定の期間、予防的処置として、対象に投与される。
【0078】
本開示による組成物は、単独でまたは別の抗生物質/抗菌剤/抗ウイルス剤と組み合わせて使用され得る。例えば、バイオフィルム産生の阻害によって、微生物病原体を、別の抗生物質/抗菌剤/抗ウイルス剤、例えば微生物病原体特異的なものを処置するために従来使用されているものの作用に対してはるかに感受性になるであろう。同様に、本開示による組成物はまた、単独でまたは別のEPSと組み合わせて使用することができる。
【0079】
非生物学的表面適用
一実施形態において、本開示による組成物はまた、限定されるものではないが、疎水性および非極性表面を含む非生物学的表面に適用し得る。本質的に、病原性微生物によって定着されやすい、および/またはバイオフィルムによって少なくとも部分的に被覆されている任意の医療用デバイスが、本開示の実施に適切であり、これには、コンタクトレンズ、コンタクトレンズケース、眼科用およびレンズ治療用溶液容器、または他の関連製品、電気化学的グルコースセンサなどの分析物感知デバイス、インスリンポンプなどの薬物送達デバイス、人工内耳などの聴覚を増強するデバイス、尿接触デバイス(例えば、尿道ステント、尿道カテーテル)、血液接触デバイス(心臓血管ステント、静脈アクセスデバイス、弁、血管グラフト、血液透析および胆道ステントを含む)、または体組織および組織液接触デバイス(バイオセンサー、インプラントおよび人工臓器を含む)が含まれる。本組成物で処理され得る医療用デバイスとしては、永久カテーテル、(例えば、中心静脈カテーテル、透析カテーテル、長期トンネル型中心静脈カテーテル、短期中心静脈カテーテル、末梢挿入中心静脈カテーテル、末梢静脈カテーテル、肺動脈Swan-Ganzカテーテル、尿道カテーテル、または腹膜カテーテル)、長期尿デバイス、組織接着尿デバイス、血管グラフト、血管カテーテルポート、創傷ドレーンチューブ、心室カテーテル、水頭症シャント、脳または脊髄シャント、心臓弁、心臓補助デバイス(例えば、左心室補助デバイス)、ペースメーカーカプセル、失禁器具、陰茎インプラント、小型または一時的な人工関節、尿拡張器、カニューレ、エラストマー、ヒドロゲル、外科器具、歯科器具、静脈チューブ、呼吸チューブ、歯科用水ライン、歯科用ドレーンチューブ、または栄養チューブなどのチューブ類、布、紙、インジケーターストリップ(紙製インジケーターストリップまたはプラスチック製インジケーターストリップ)、接着剤(例えば、ヒドロゲル接着剤、ホットメルト接着剤、または溶剤系接着剤)、包帯、創傷被覆材、整形外科用インプラント、または医療分野で使用されるその他のデバイスが挙げられるが、これらに限定されない。さらなる医療用デバイスには、ヒトまたは他の動物に挿入または埋め込まれる可能性のある、または挿入部位または移植部位付近の皮膚などの挿入部位または移植部位に配置される可能性があり、バイオフィルムに埋め込まれた微生物による定着を受けやすい少なくとも1つの表面を含むデバイスも含まれるが、これらに限定されない。医療用デバイスはまた、医療用デバイスの少なくとも1つの表面上でバイオフィルムに埋め込まれた微生物が増殖または成長するのを防止するため、または手術室、救急室、病室、診療所、または浴室の機器の表面など、医療用デバイスの少なくとも1つの表面からバイオフィルム埋込微生物を除去または清浄化するために所望され得るか、または必要とされ得る任意の他の表面を含む。
【0080】
本開示による組成物は、生物学的表面と接触することになる汚染除去された非生物学的表面上に、許容される担体を付加して投与することができる。いくつかの場合において、本開示による組成物の機能性または物理的安定性はまた、水溶液または懸濁液への種々の添加剤の添加によって増加させることができる。限定されるものではないが、ポリオール(糖を含む)、アミノ酸、界面活性剤、ポリマー、他のタンパク質または特定の塩などの添加剤を使用することができる。本開示による組成物および方法は、単独で、または別の殺菌処理と組み合わせて使用することができる。例えば、バイオフィルム産生の阻害により、微生物病原体は、処理表面から微生物病原体特異的なものを死滅させるかまたは廃棄するために従来使用されているような別の殺菌処理の作用に対してはるかに感受性になるであろう。
【0081】
一実施形態において、本開示による組成物は、医療用デバイスまたは器具が汚染された環境に遭遇する前に、および/または物体または器具が対象の組織に遭遇する前に、医療用デバイスまたは器具上に適用、浸漬および/またはコーティングされる。別の実施形態において、病原体の付着を制限するため、および/または(一旦対象の組織と接触すると)感染のリスクを低減するために、対象の組織および前記組織と接触する医療用デバイスまたは器具の両方を、本開示による組成物で処理することができる。別の実施形態において、本開示による組成物は、再使用可能な医療材料または機器の汚染除去プロセスを促進するために使用し得る。いくつかのさらなる実施形態において、本開示による組成物は、医療材料または機器の滅菌の前および/または後に、再使用可能な医療材料または機器の汚染除去プロセスを促進するために使用し得る。
【0082】
噴霧または浸漬によって、本開示による組成物で処理される表面は、前記表面への病原体の付着を低減するために、部分的に覆われるか、または完全に覆われる必要がある。本開示による適用されたEPS組成物は、例えば、全表面の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、処理表面の実質的な割合を覆うのに有効であり得る。
【実施例】
【0083】
[実施例1:EPS産生プロセス]
EPS産生のために実施される7段階のプロセスを
図1に示す。簡単に説明する:
再活性化および前培養:バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14(寄託番号NCIMB 43557)を含むクライオチューブの内容物を、前培養チューブに分離し、次いで、無菌条件を遵守して、9mLの適合液体Zobell培地に懸濁した。この前培養チューブを40℃のオービタル攪拌下に置き、150mL Erlen中、40℃、5時間の攪拌下に液体Zobell培地で作製した液体培地試験物の播種に使用した。次に、5Lの発酵槽4槽に150mLのErlen前培養物を播種し、40℃で4~8時間、攪拌、酸素添加(30~60%)、およびpH(5~8)の制御下、光学密度(OD)>2になるまで静置し、菌の増殖が指数相の初期であることを確認した。
【0084】
発酵:500Lの発酵槽に、海塩(40g/L)、トリプトン(6g/L)、酵母抽出物(6g/L)、消泡剤(0.33mL/L)、デキストロース(12g/L)、脱イオンH2O(qsp.)から構成される150Lの滅菌発酵培地を充填した。発酵培養培地に5Lの発酵前培養物を接種し、40℃で20~40時間、攪拌、酸素添加30~60%、およびpH5~8の制御下に置いた。菌株の増殖(OD)およびグルコース消費の両方を、発酵終了までモニターした。
【0085】
熱処理:400Lのジャケット付き攪拌槽で85℃、1時間の熱処理を行い、酵素および細菌を不活性化した。
遠心分離:培養培地全体をディスクスタック遠心分離機(14000g、流速200~800L/h)で遠心分離し、バイオマスと上清を分離した。
濾過および限外濾過:上清をさらに連続濾過(1.60~0.22μm)および限外濾過ステップ(10~100kDaカットオフカートリッジ中空糸ポリサルホン)で処理し、高分子量化合物、すなわちEPSのみを精製および回収した。
凍結乾燥:EPSを-20℃で少なくとも16時間凍結した後、100kgの氷容積を持つ凍結乾燥機で凍結乾燥した。
包装:凍結乾燥されたEPSは、適切な製剤に製剤化される前に、真空下で密封された低密度ポリエチレン袋に包装され、ラベルが付された。各バッチのサンプルは、標準的な手順に従って特性評価を行った。
【0086】
[実施例2:EPS特性評価-平均分子量決定]
本明細書の実施例で使用したEPSは、実施例1に記載したように、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14(寄託番号NCIMB 43557)の発酵によって得た。
【0087】
EPSは、サイズ排除クロマトグラフィー(HP-SEC)装置、すなわち、屈折率検出器、およびレーザー光散乱検出器および粘度計検出器を備えたTDA 302(Viscotek)により分析した。このシステムは、分子量、多分散性指数、および固有粘度が認証されたプルラン標準物質(PolyCAL-PullulanSTD-105k、Malvern Panalytical)で校正された。移動相(0.2M NaNO3+0.05% NaN3、pH6.81)に溶解したEPSサンプル(100μL、1mg/mL)を、GMPWXカラム(7.8mmx30cm、Tosoh Bioscience)に0.6mL/分の流速で40℃で注入した。
【0088】
分析結果(EPSサンプルあたり2回の分析の平均値)は、重量平均分子量(Mw;40~150kDa)、数平均分子量(Mn;26~100kDa)、および多分散性指数(Mw/Mn;1.2~1.8)の観点で、全てdn/dcパラメータ0.135~0.147を使用して、および回収%(94~99%)の観点で報告されており、これは屈折率検出器から算出した濃度と実験濃度の間の比を表す。
【0089】
[実施例3:EPS特性評価-グリコシル組成の決定]
本明細書の実施例で使用したEPSは、実施例1に記載したように、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14(寄託番号NCIMB 43557)の発酵によって得た。
【0090】
EPSのグリコシル組成は、2つの特性評価法、すなわち酢酸アルジトール法(Pena et al. (2012) Methods Enzymol. 510:121-39)およびTMS誘導体化メチルグリコシド法(Santander et al. (2013) Microbiology 159:1471)に従って行った。簡単に説明する:
【0091】
酢酸アルジトール(AA)法によるグリコシル組成分析:酢酸アルジトールの複合ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)により、グリコシル組成分析を行った。EPSサンプル(250μg)を2Mトリフルオロ酢酸(TFA)中、密閉チューブ中で120℃、2時間加水分解し、NaBD4で還元し、無水酢酸/TFAを用いてアセチル化した。得られた酢酸アルジトールは、5975C MSDに接続したAgilent 7890A GC上で、電子衝撃イオン化モードで分析した。分離は30mのSupelco SP-2331結合相フューズドシリカキャピラリーカラム上で行った。アミノ糖の分離は別のEC-1カラムを使用して達成した。
【0092】
TMS誘導体化メチルグリコシドのGC-MSによるグリコシル組成分析:酸性メタノリシスによりサンプルから生成した単糖メチルグリコシドのパー-O-トリメチルシリル(TMS)誘導体の複合ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC-MS)によりグリコシル組成分析を行った。EPSサンプル(250μg)を密閉したねじ口ガラス試験管中でメタノール性HClと共に80℃で18時間加熱した。冷却後、窒素気流下で溶媒を除去した後、サンプルを再度N-アセチル化し、再び乾燥させた。その後、サンプルをTri-Sil(登録商標)(Pierce)で80℃、30分間誘導体化した。TMSメチルグリコシドのGC/MS分析は、5975C MSDに接続したAgilent 7890A GCで、Supelco Equity-1 フューズドシリカキャピラリーカラム(30mx0.25mm ID)を用いて行った。
【0093】
2つの組成法から、マンノースが、検出される主なヘキソース糖であり、N-アセチルガラクトサミンが、検出される主なアミノ糖であることが示される。また、サンプル中にはガラクトース、グルコース、およびN-アセチルグルコサミンもかなりの量存在する。低い割合のキシロースも検出されたが、グルクロン酸はTMS法でのみ検出された。しかし、表1に示すように、リボース、アラビノース、ラムノース、フコース、フルクトースは、どちらの特性評価方法を使用しても検出されなかった。
【0094】
【0095】
[実施例4:EPSタンパク質および核酸含量分析]
本明細書の実施例で使用したEPSは、実施例1に記載したバシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14(寄託番号NCIMB 43557)の発酵によって得た。
【0096】
EPSタンパク質含量分析:タンパク質含量を、改変Lowryアッセイ、すなわちBioRad総タンパク質染色を用いて決定した。この分析は、製造者の説明書に従い、EPSのニートサンプルについて実施し、BSA標準曲線を用いて定量化した。簡単に説明すると、サンプル10μLを試薬の1:4希釈液200μLと混合した。10分後、サンプルを595nmの吸光度によって分析した。EPS中のタンパク質の混入は0.052±0.019mg.mL-1と評価され、単離されたEPSの総重量に基づいて約0.005%w/wを示した。
【0097】
260/280および260/230分析によるEPS核酸含有量の測定:EPSサンプル2μLをNanodrop分光光度計で260/280および260/230nmで分析した。EPS中の核酸混入は58.0±8.7ng.μL-1と評価され、単離されたEPSの総重量に基づいて約0.006%w/wを示した。
【0098】
[実施例5:細菌病原体に対するin vitro EPS抗バイオフィルム活性]
本明細書の実施例で使用したEPSは、実施例1に記載したように、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14(寄託番号NCIMB 43557)の発酵によって得た。
【0099】
以下のin vitro実験により、病原性菌株のバイオフィルム形成すなわち:グラム陰性菌[B型インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)ATCC9795、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)ATCC8047および緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)ATCC27853]およびグラム陽性菌[黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ATCC29213、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)血清3型ATCC6303およびストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)DSM20523]に対するEPSの阻害効果を記載している。
【0100】
細菌病原体のバイオフィルム形成は、96ウェルポリスチレンマイクロタイタープレートで行い、各細菌病原体の一晩培養物180μl(1.5×108菌.mL-1)のアリコートを、異なる濃度(50、100、200および400μg.ml-1)のPBS中EPS溶液20μl、または対照としてPBS20μlと共に接種した。プレートは37℃で24時間(肺炎レンサ球菌(St. pneumoniae))、48時間(インフルエンザ菌(H.influenzae)、緑膿菌(P.aeruginosa)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)、黄色ブドウ球菌(S. aureus))、96時間(St.ミュータンス(St. mutans))インキュベートし、各菌株の増殖速度を配慮し、バイオフィルム産生のために振盪を行わなかった。インキュベーション培地も各菌株に合わせ、したがって、微好気性株、または嫌気性株のインキュベーションは、5%CO2または嫌気条件下でそれぞれ行った。非付着菌は蒸留滅菌水で3回洗浄して除去し、付着菌(バイオフィルム)は96%vol(w/v)のエタノール中0.1%クリスタルバイオレット溶液で25分間染色した。過剰な染色液は吸引して除去し、プレートを蒸留滅菌水で洗浄(5回)し、風乾(15分間)した。染色したバイオフィルムを96%エタノールで可溶化し、マイクロタイタープレートリーダー(Thermo Scientific(商標)Multiskan(商標)GO Microplate Spectrophotometer)を用いて585nmで光学密度(OD)を測定した。バイオフィルム形成(%)は以下の式に従って算出した:
【0101】
【数1】
最適条件下でインキュベートした様々な細菌病原体に対する、異なる濃度(0~400μg.ml
-1)のEPSのバイオフィルム阻害効果を
図2に示す。これらの実験は、2回の独立した機会(N=2)において、三連(n=3)で行った。統計的有意性は一元配置分散分析(ANOVA)により決定し、適切な場合には不等分散に対する両側t検定を用いてp値を算出した。p値<0.05を統計的に有意と考えた。
【0102】
これらの実験では、病原性細菌株は最適な条件下で、適合した培地中で、既存の他の病原体との競合がない状態で培養され、インキュベートされた。バイオフィルム形成のパーセンテージはODで計算されるため、洗浄後にクリスタルバイオレット標識細胞が多く測定されるほど、より多くの細胞がプレートに付着していることになり、インキュベーション期間中により多くのバイオフィルムが形成されたことになる。バイオフィルム形成の低減は、関与する病原性株に関係なく観察されている。EPSの予防的抗バイオフィルム作用を
図2に示す。病原性細菌の接種後、最初の2時間以内にEPSを添加した場合、最大の効果が観察された(データは示さず)。接種から4時間後にEPSを添加した場合、バイオフィルム形成に対する効果はわずかに低下する(データは示さず)。
【0103】
[実施例6:In vitro EPS抗菌活性実験]
本明細書の実施例で使用したEPSは、実施例1に記載したように、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14(寄託番号NCIMB 43557)の発酵によって得た。
【0104】
細菌病原体によるバイオフィルム形成に対するEPSの阻害作用が、直接的な増殖阻害によるものである可能性があるかどうかを調べるために、2回の独立した機会(N=2)において、三連(N=3)で実施例5と同様の実験を行い、抗菌活性を評価した。簡単に説明すると:ポリスチレンマイクロタイタープレートに、試験株(OD600=0.1)のそれぞれの最適培地(180μl)中の、最終濃度50、100、200および400μg.ml-1のPBS溶液中EPS20μl、または対照としてPBS20μlを含む、一晩病原性細菌培養物を充填した。プレートは、好気性、微好気性または嫌気性の条件下で、振盪することなく、37℃で24時間~96時間(最適な増殖期間は試験株によって異なる)の範囲でインキュベートした。抗菌活性は、マイクロタイタープレートリーダー(Thermo Scientific(商標)Multiskan(商標)GO Microplate Spectrophotometer)を用いてOD600値を測定し、対照ウェルの平均OD600を各試験条件の平均OD600と比較した。
【0105】
様々な細菌病原体の培養増殖に対するEPSの抗菌効果を、それぞれの最適増殖期間後の処理細胞vs無処理細胞のOD600値、平均±SDを比較して、
図3に示す。サンプルの濁度測定(例えばOD600)は、培地中の細菌濃度を推定するために分光光度計で一般的に使用され、これによって細胞集団の経時的な増殖を測定することができる。EPS非存在下での増殖培養物を対照として用いた。
【0106】
図3に示す結果は、EPSの有無にかかわらず、同じ病原性細菌の増殖レベルが達成されたことを示す。これは、様々な濃度(50~400μg.ml
-1)のEPSの存在が病原性細菌の増殖に悪影響を及ぼさないことを示しており、より一般的には、EPSの存在は試験した全ての細菌株の増殖速度に影響を及ぼさなかった。したがって、EPSは、その濃度および考慮する病原性細菌とは独立して、殺菌効果、静菌効果、抗生物質効果を示さない。したがって、殺生物効果を持たないEPSの存在は、生体組織上に存在するはずの天然微生物叢の完全性を尊重することが実証されている。
【0107】
[実施例7:EPS細胞傷害性アッセイ]
本明細書の実施例で使用されるEPSは、実施例1に記載したように、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14(寄託番号NCIMB 43557)の発酵によって得た。
【0108】
ヒト鼻上皮細胞(HNEpC)に対するEPSの推定細胞傷害性効果の予備試験をin vitroで実施した。ヒト鼻上皮細胞(HNEpC)を、BEBM完全培地中で80%コンフルエントになるまで製造者が推奨するように増殖した。細胞をPBSで2回洗浄し、37℃、5%CO2培地中で、0(対照)~800μg.mL-1の範囲のEPSと共に2時間または24時間培養した。培養後、細胞をPBSで2回洗浄し、回収し、生存率色素TO-PRO3で染色することによって生存率を評価した。培養物中の生存細胞を示すTO-PRO3陰性細胞のパーセンテージを、Symphony BD Sciencesフローサイトメーターで評価した。
【0109】
2時間後および24時間後のHNEpCの生存率に対するEPSの濃度増加の時間依存的影響を
図4に示す。HNEpC細胞は感受性が高いためモデルとして選ばれ、EPSの投与量を増やしながら2時間および24時間、連続してインキュベートした。
図4に示すように、細胞生存率は対照と同じであった。この結果は、濃度およびインキュベーション時間にかかわらず、EPSの存在は細胞傷害性を誘導しないことを示している。
【0110】
[実施例8:HNEpC細胞を用いたEx Vivo EPSアッセイ]
本明細書の実施例で使用したEPSは、実施例1に記載したように、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14(寄託番号NCIMB 43557)の発酵によって得た。
【0111】
次に、ヒト鼻上皮細胞の単層から2つの細菌株、すなわち黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)および緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を除去するEPS組成物の有効性を評価した。
【0112】
ヒト鼻上皮細胞(HNEpC;PromoCell、カタログ番号C-12620)をBEBM完全培地中で80%コンフルエントになるまで製造者が推奨するように培養した。HNEpC細胞をPBSで2回洗浄し、病原性細菌(緑膿菌(P. Aeruginosa)または黄色ブドウ球菌(S. Aureus))と共に、37℃、5%CO2、抗生物質無添加培地中で2時間培養した。緑膿菌(P.aeruginosa)はLuria Bertaniブロスで、黄色ブドウ球菌(S. aureus)はトリプトンソイブロスで増殖させた。ブロスでの一晩培養時に、細菌は光学密度(OD600)0.1でPBSで希釈し、実験に使用した。汚染されたHNEpC細胞をPBSで2回洗浄し、BEBM完全培地にEPSを0(対照)、50、100、200、および400μg.mL-1で添加し2時間放置した。PBSで2回洗浄した後、HNEpC細胞を死滅および剥離させ、残存細菌を全て回収するために、蒸留H2Oで10分間最終洗浄を行った。その後、上清(死滅細胞および細菌を含む)を回収し、適切な希釈後にAGAR培地(緑膿菌(P. aeruginosa)はセトリミド寒天培地、黄色ブドウ球菌(S. aureus)はマンニトール塩寒天培地)に播種した。細菌増殖は、24時間後にプレート内の細菌コロニー(CFU)をカウントすることによって分析した。
【0113】
ヒト鼻上皮細胞(HNEpC)単層からの緑膿菌(P. auroginosa)および黄色ブドウ球菌(S. aureus)の除去に対するEPSのin vitroでの有効性を
図5に示す。これらの実験は、2~4回の独立した機会(N=2~4)の間で、三連(n=3)で行った。統計学的有意性は、Kruskal Wallis一元配置分散分析により決定した。p値<0.05を統計的に有意とみなした。事後解析はDunn検定を用いて行った。
【0114】
浸透圧ショック(脱イオン水による洗浄)前に鼻腔細胞に付着していた病原性細菌の数を測定することにより、これらの実験は、病原性細菌の支持体、すなわち鼻腔上皮細胞(HNEpC)からの剥離に対するEPSの効果を間接的に測定した。したがって、これらの結果は、EPSが、その起源によらず、生物学的表面上における細菌バイオフィルム設置の結果を制限する能力を有することを示した。実際、バイオフィルムの形成がEPSの存在によって影響を受けた実施例5で実証された予防効果に加えて、本明細書では、EPS洗浄がその病原性細菌細胞除去効果により治療活性を有し得ることが実証された(
図5)。
【0115】
[実施例9:EPSの乳化/界面活性特性]
本明細書の実施例で使用したEPSは、実施例1に記載したように、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14(寄託番号NCIMB 43557)の発酵によって得た。
【0116】
EPSの乳化/界面活性剤としての活性は、Songら(Preparation of Calcipotriol Emulsion using bacterial Exopolysaccharides as Emulsifier for percoutaneous treatment of Psoriasis Vulgaris. Int J Mol Sci. 2019, 20;21(1) 2019)によって記載される方法によって決定した。簡単に説明すると、凍結乾燥したEPSをPBSに再懸濁し、5~800μg.mL-1の範囲のいくつかの濃度に達するようにした。各EPS溶液の2.0mLの容積を、2.0mLの植物油を含むガラス管内に添加した。その後、得られた不均一な溶液を乳化のためにボルテックスミキサーを用い、3000rpmで2分間混合した。「植物油+PBS」と「植物油+サポニン(1%)」をそれぞれ陰性対照および陽性対照として使用した。乳化指数評価(E24)に先立ち、サンプルは攪拌せずに室温で24時間静置した。E24は、乳化層の高さを全液柱高で割った値に100を乗じた値で表される。
【0117】
図6に示す3つの独立した実験(N=3)の結果から、EPSは低濃度でも強い乳化活性を示すことが実証された(すなわち、EPS 0,005%に相当する50μg.mL
-1のみでE24 50%に達した)。さらに、環境中のEPSの量が多いほど、乳化作用が大きくなることが明確に示された。
【0118】
[実施例10:高用量のアデノウイルスまたはライノウイルスを接種したHNEpCに対するEPSのEx vivo予防的抗ウイルス活性]
本明細書の実施例で使用したEPSは、実施例1に記載したように、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14(寄託番号NCIMB 43557)の発酵によって得た。
【0119】
ヒトアデノウイルス2(ATCC VR-846)およびヒトライノウイルス16(ATCC VR-283)を接種した生存ヒト鼻上皮細胞のウイルス感染を予防するEPSの能力を評価した。以下に簡単に説明する
【0120】
ヒト鼻上皮細胞(HNEpC)をBEBM完全培地中で80%コンフルエントになるまで製造者が推奨するように培養した。細胞を400μg.mL-1のEPSで処理し、37℃、5%CO2で2時間インキュベートし、PBSで洗浄した後、ライノウイルスまたはアデノウイルスの高負荷(1 TCID50、48時間後に接種細胞の50%に細胞障害効果を引き起こすウイルス量を表す)を同じ条件で接種し、インキュベートした。あるいは、生存HNEpCを37℃、5%CO2で2時間同じ接種物に感染させ、洗浄した後、EPS 400μg.mL-1で37℃、5%CO2でさらに2時間処理した。未処理の生細胞(BEBM完全培地のみ)を陽性対照とし、EPS処理なしのウイルス接種生細胞を陰性対照とした。PBSで洗浄した後、前処理細胞(すなわち、ウイルス接種前にEPS組成物で処理した細胞)、後処理細胞(すなわち、ウイルス接種後にEPS組成物で処理した細胞)および対照を、BEBM培地で48時間、37℃、5%CO2で培養した。48時間培養後、細胞を回収し、生存率色素TO-PRO-3による染色で生存率を評価した。培養物中の生存細胞を示すTO-PRO-3陰性細胞のパーセンテージを、Symphony BD Sciencesフローサイトメーターで評価した。
【0121】
高用量のアデノウイルスまたはライノウイルスに感染したHNEpCに対するEPS(400μg.mL
-1)の抗ウイルス活性を
図7に報告する。陰性対照(ウイルス接種のみ)では、48時間後にHNEpCの半数がウイルス接種の影響を受けた。しかし、ウイルス接種前に細胞をEPSで前処理すると、観察された細胞死亡率は陰性対照の半分に低下した。したがって、このような前処理は、ウイルス感染後の細胞の生存率を向上させ、考慮されるウイルスとは独立した、ウイルス感染に対するEPSの予防的特性を明らかにしている。事前にウイルス負荷を接種した鼻上皮細胞のEPS処理は、前処理よりも顕著ではない(
図7)。理論に拘束されることを望むものではないが、このような観察結果は、2時間で大量のウイルスがHNEpC内に内在化し、細胞の大部分の急速なビリオンによる汚染が可能になる、高ウイルス負荷接種によって説明できる。これらの結果は、EPSが細胞内効果(すなわち免疫反応の誘発)を促進するのではなく、むしろウイルスの内在化を立体的に妨げる細胞外の「バリア」効果を有することを間接的に示した。にもかかわらず、このような高いウイルス負荷(すなわち1 TCID50)の接種は、より低いウイルス量(すなわち0.001 TCID50)の接種が関与するウイルス感染の実態を反映していないことは言及に値する。
【0122】
EPS濃度を200μg.mL
-1に下げた以外は、同じ条件でさらなる抗ウイルス実験を行った。高用量のアデノウイルスまたはライノウイルスを接種したHNEpCに対するEPS(200μg.mL
-1)の抗ウイルス活性を、それぞれ
図8Aおよび
図8Bに報告する。これらの結果は、高用量のEPSで観察されたものと同等の予防的抗ウイルス活性を示した。
【0123】
[実施例11:低用量のアデノウイルスまたはライノウイルスを接種したHNEpCに対するEPSのex vivo治療的抗ウイルス活性]
本明細書の実施例で使用したEPSは、実施例1に記載したように、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14(寄託番号NCIMB 43557)の発酵によって得た。
【0124】
ウイルス接種によって接種された細胞からビリオンが放出された後の細胞感染の拡散を防止するEPSの能力を測定した。ウイルス感染の実態とより一致させるために、これらの実験は、ヒトアデノウイルス2(ATCC VR-846)およびヒトライノウイルス16(ATCC VR-283)の両方のウイルス負荷量を実施例10で示したよりも低く(すなわち、0.001 TCID50)使用して、一方、接種後のウイルス拡散を可能にするために細胞培養期間を5日まで延長して実施した。また、保護効果を発揮するためにはEPSの一貫した存在が必要なのか、またはHNEpCとの最初の接触で十分なのかを理解することも求められた。そこで、EPSを前処理としてのみ添加するか(実施例10と同様)、またはウイルス接種後にさらに添加する(5日間培養の最初に1回添加するか、または5日間毎日添加する)、異なる細胞培養条件を実施した。簡単に説明すると、生存ヒト鼻上皮細胞(HNEpC)を、BEBM完全培地中で80%コンフルエントになるまで製造者が推奨するように増殖した。i)陽性対照として、生存HNEpCをBEBM培地で培養し、陰性対照として、ウイルス接種物(低用量、0.001 TCID50)を2時間接種し、PBSで洗浄して内在化しなかったウイルスを除去し、5日間培養したHNEpCを含めた。ii)生存HNEpCを400μg.mL-1のEPSで2時間処理し、PBSで洗浄し、ウイルス接種物(低用量、0.001 TCID50)を2時間接種し、PBSで洗浄して5日間培養した。iii)生存HNEpCにウイルス接種物(低用量、0.001 TCID50)を2時間接種し、PBSで洗浄し、EPS(400μg.mL-1)存在下で、5日間培養し、1日目にEPS溶液を1ショットで添加した。iv)生存HNEpCにウイルス接種物(低用量、0.001 TCID50)を2時間接種し、PBSで洗浄し、EPS(400μg.mL-1)存在下で5日間培養し、毎日EPS(400μg.mL-1)を培養物に添加した。培養5日後、細胞を回収し、TO-PRO3により生存率を評価した。TO-PRO-3陰性細胞(生存細胞を表す)のパーセンテージは、Symphony BD Sciencesフローサイトメーターによって各条件について評価した。
【0125】
低用量のアデノウイルスまたはライノウイルスを接種したHNEpCに対するEPS抗ウイルス活性を
図9に報告し:陰性対照(低用量のウイルス接種のみ)は、5日後にHNEpCの半数以上がウイルス接種の影響を受けていたことを示した。実施例10で観察されたウイルス感染に対するEPS前処理(すなわち、ウイルスを接種する前にEPS組成物で処理した細胞)の予防的特性は、5日間の培養後、陽性対照に近い細胞生存率により確認された。さらに、ウイルス接種後にEPS組成物を適用した場合(すなわち、後処理細胞)、ウイルスは陰性対照(すなわち、EPS処理なしのウイルス)と同じ細胞死亡率を誘導できなかったことが示されている。
【0126】
2つの後処理実験(5日間で1回のEPS適用、および5日間1日1回のEPS適用)でも同様の結果が得られ(
図9)、EPSはビリオンの放出だけでなく、隣接する細胞への拡散も防止することが実証された。したがって、EPSは、5日間のインキュベーション後、ウイルス接種の病原性を50%低下させる治療効果を提供する(
図9)。これらの結果は、実施例10の観察を補強するものであり、ここでウイルスの内在化を立体的に妨げる細胞外「バリア」効果がここで問題となるであろう。
【0127】
したがって、これらの2つの複合効果、すなわち予防効果(ウイルス接種前の細胞のEPS前処理で観察)と治療効果(ウイルス接種後の細胞のEPS後処理で観察)は、ウイルス感染の消滅を促進する。このようなEPSの投与は、したがって、標的とするウイルス株に対する特異性が証明されていないことから、任意の種類のウイルス感染から効果的に自身を防御するための細胞機構のサポートとして機能する可能性がある。
【0128】
EPS濃度を200μg.mL
-1に下げた以外は同じ条件で、さらなる抗ウイルス実験を行った。低用量のアデノウイルスまたはライノウイルスを接種したHNEpCに対するEPS(200μg.mL
-1)の抗ウイルス活性を、それぞれ
図10Aおよび
図10Bに報告する。これらの結果は、高用量のEPSで観察されたものと同等の予防的および治療的抗ウイルス活性の両方を示した。
【0129】
[実施例12:低用量および高用量のコロナウイルスに感染したHNEpCに対するEPSのex vivo治療的抗ウイルス活性]
本明細書の実施例で使用したEPSは、実施例1に記載したように、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14(寄託番号NCIMB 43557)の発酵によって得た。
【0130】
高濃度(1 TCID50)および低濃度(0.001 TCID50)のウイルス負荷でヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)を接種した生存ヒト鼻上皮細胞のウイルス感染を防止するEPSの能力を測定した。本明細書の試験で使用したヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)は、ヒトの呼吸器感染症の5~30%を占める、ヒト感染症に最も一般的に関連するウイルスである(Lau SKP et al., 2011, Journal of Virology)。簡単に説明すると、ヒト鼻上皮細胞(HNEpC)をBEBM完全培地中で80%コンフルエントになるまで製造者が推奨するように培養した。細胞を200~400μg.mL-1のEPSで処理し、37℃、5%CO2で2時間インキュベートし、PBSで洗浄した後、コロナウイルス用量(1 TCID50または0.001 TCID50)を同じ条件で接種してインキュベートした。あるいは、生存HNEpCに同じ接種物を37℃、5%CO2で2時間接種し、洗浄した後、EPS 200~400μg.mL-1で37℃、5%CO2でさらに2時間処理した。未処理の生細胞(BEBM完全培地のみ)を陽性対照として用い、EPS処理なしのウイルス接種生細胞を陰性対照として用いた。PBSで洗浄後、前処理細胞(すなわち、ウイルス感染前にEPS組成物で処理した細胞)、後処理細胞(すなわち、ウイルス感染後にEPS組成物で処理した細胞)および対照を、BEBM培地で48時間、37℃、5%CO2で培養した。48時間培養後、細胞を回収し、生存率色素TO-PRO-3による染色で生存率を評価した。培養物中の生細胞を表すTO-PRO-3陰性細胞のパーセンテージをSymphony BD Sciencesフローサイトメーターで評価した。
【0131】
高用量または低用量のコロナウイルスを接種したHNEpCに対するEPS(200~400μg.mL
-1)の抗ウイルス活性を
図11に報告する。これらの結果は、EPSが:i)本明細書の実施例10に記載される予防的抗ウイルス活性、およびii)本明細書の実施例11に記載される治療的抗ウイルス活性を、考慮されるウイルスとは独立して提供することを実証した。
【0132】
[実施例13:EPS製剤-鼻用製剤]
本明細書の実施例で使用したEPSは、実施例1に記載したように、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14(寄託番号NCIMB 43557)の発酵によって得た。
【0133】
鼻用製剤1:海水および脱塩海水を、洗浄したバルクタンク中で所望の塩濃度(製剤に従って0.9%または2.2%または2.7%)に達するまで室温で混合した。本開示の凍結乾燥EPSを可溶化するために、一定容積のバルク溶液(10L)を採取し、200μg/mLまたは400μg/mL(所望の製剤による)に相当する0.02%または0.04%の所望のEPS濃度に到達させた。EPSとバルク溶液の両方を少なくとも30分間均質化した後、0.22μmで濾過した。鼻用スプレー缶に充填する前に、この操作を1回繰り返した。
【0134】
鼻用製剤2:塩化ナトリウムを室温で水に溶解し、洗浄したバルクタンクで所望の塩濃度0.9%、2.2%または2.7%(所望の製剤による)に達するようにした。次に、本開示のEPSを上記のバルク溶液内に溶解し、200μg/mLまたは400μg/mL(所望の製剤による)に相当する0.02%または0.04%の所望のEPS濃度に到達させた。EPSおよびバルク溶液の両方を少なくとも30分間均質化した後、0.22μmで濾過した。鼻用スプレー缶に充填する前に、この操作を1回繰り返した。
【0135】
[実施例14:EPS製剤-局所製剤(クリーム)]
本明細書の実施例で使用したEPSは、実施例1に記載したように、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14(寄託番号NCIMB 43557)の発酵によって得た。
【0136】
ポリアクリレートクロスポリマー-6(1.5%w/w)および水(63.0%w/w)を、キサンタンガム(4.0%w/w)およびグリセリン(2.0)の添加前に十分に混合した。得られた混合物(相A)を連続混合下で70~75℃に加温した。スクロースポリステアレート(3.0%w/w)、ジベヘン酸グリセリル(1.7%w/w)、水素化ホホバ油(21.0%w/w)の混合物を70~75℃に加温した後、連続混合下で相Aに添加し、相Bを得た。相Bを70~75℃で20分間乳化のために混合した後、乳化した相Bを30℃まで冷却した。EPS(0.02~0.04%w/w)、ビタミンE酢酸塩および香料を30℃で乳化したB相に一定の攪拌下で添加した。得られた混合物のpHを、水中のクエン酸溶液(qsp.)でpH4.5~5.0に調整した。
【0137】
[実施例15:本明細書に開示したEPSの薬理学的/免疫学的特性]
本明細書の実施例で使用したEPSは、実施例1に記載したように、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14(寄託番号NCIMB 43557)の発酵によって得た。
【0138】
海洋細菌が産生するEPSは、白血球および組織細胞において制御性サイトカインの選択されたパターンを誘導し得ることが報告されているため(Okutani K. et al. Bull Jpn Soci Sci Fish 1984;50:1035-7)、これらのアッセイの目的は、本開示のEPSが、EPSが接触するであろう細胞においてどの程度免疫応答を誘導し得るかを決定することであった。したがって、2つの異なるシステム、すなわち、自然免疫系の上皮細胞および白血球が、細菌由来の物質と接触した場合に修飾を受けやすいと考えられるため、本明細書におけるアッセイを、それぞれ、ヒト鼻上皮細胞(HNEpC)およびヒト単球由来樹状細胞(DC)上で実施した。
【0139】
より詳細には、i)HNEpCとのEPSサンプルとの培養後の、IL-6およびIL-8などの炎症経路に関与する主要なサイトカインの産生、およびii)CD83、CD40およびCD25などの最も重要な活性化/成熟マーカーの発現および炎症性サイトカイン(IL-6およびIL-8)の産生を評価するためにEPS刺激後のDCの活性化状態を評価するために、以下の一連の実験を行った。
【0140】
i)HNEpCに対する本開示のEPSの効果:
ヒト鼻上皮細胞(HNEpC)をBEBM完全培地中でコンフルエントになるまで増殖させ、EPSサンプル(400μg/mL)で24時間刺激した。未刺激のまま放置した細胞、またはIL-1β(50ng/mL)で刺激した細胞を、それぞれ陰性対照および陽性対照として用いた。GolgiStop(タンパク質輸送阻害剤)としてモネンシンおよびブレフェルジンを用い、培養の最後の12時間に添加した。細胞を回収し、1%パラホルムアルデヒドで固定し、PBS中のサポニン0.1%(Sigma-Aldrich)で透過処理し、フィコエリトリン(PE)コンジュゲート抗IL-8抗体および抗IL-6抗体(BD Bioscience)で染色した後、フローサイトメトリーで分析した。
【0141】
これら2つのサイトカインは、炎症経路および炎症性現象を起こす免疫細胞のリクルートメントに関与する主要なメディエーターである。
図12Aおよび
図12Bに図示されているように、未刺激のHNEpCと比較すると、本開示のEPSで24時間刺激した後のHNEpCによるIL-6およびIL-8の産生は見られなかった。驚くべきことに、HNEpCは、典型的な炎症分子(すなわち、IL-1β)で適切に刺激されると、これらのサイトカインを産生する能力があるにもかかわらず、EPS曝露時にはサイトカイン産生が観察されなかった。したがって、これらの結果は、本開示のEPSが炎症反応を誘導できないことを示している。
【0142】
ii)DCに対する本開示のEPSの効果
末梢血単核球(PBMC)を、Ficoll Hypaque密度勾配遠心分離により2人の健常ドナーから単離した。単球は、プラスチック表面に37℃、5%CO2で45分間付着させることにより単離した。その後、非付着細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄することによって除去した。得られた細胞は、IL-4(20ng/mL、Miltenyi Biotec、ドイツ)とGM-CSF(25ng/mL、Sargramostim)の存在下で完全RPMI培地で培養した。6日間の培養後、非付着細胞はCD14-/CD11c+/CD83-の表現型を示し、これは未成熟樹状細胞(DC)に特徴的である。
【0143】
DCを、本明細書に開示されたEPS(400μg/mL)で24時間刺激した。未刺激で放置した細胞、またはリポ多糖(LPS、1μg/mL)で刺激した細胞を、それぞれ陰性対照および陽性対照として用いた。サイトカイン産生分析のために、モネンシンおよびブレフェルジンをGlogiStopとして用い、添加してDC培養の最後の12時間の間放置した。A)DC活性化:24時間後、DCを回収し、抗CD83(抗CD83-PE)、抗CD40(抗CD40-AlexaFluor 647)および抗CD25(抗CD25-PacificBlue)モノクローナル抗体で4℃、20分間染色した。細胞をPBSで洗浄した後、フローサイトメトリーで示す活性化分子の表面発現レベルを分析した。B)サイトカイン産生:DCを回収し、1%パラホルムアルデヒドで固定し、PBS中のサポニン0.1%(Sigma-Aldrich)で透過処理し、フィコエリトリン(PE)コンジュゲート抗IL-8抗体および抗IL-6抗体(BD Bioscience)で染色し、フローサイトメトリーによって分析した。
【0144】
DCに対する本開示のEPSの効果は、
図13Aに表されるように、CD83、CD40およびCD25の発現レベルをMean of Fluorescence Intensity(MFI)として分析することにより、DC活性化の両方を評価することによって評価した。EPS刺激後のDCの分析により、本開示のEPSは、CD83、CD40およびCD25の発現レベルが非常に低く、刺激していないDCと同程度のままであることによって示されるように、DCの成熟に影響を及ぼさないことが明らかになった。
【0145】
図13Bに図示されているように、24時間の刺激後のDCおよびそのサイトカイン産生、すなわちIL-8およびIL-6に対する本開示のEPSの効果を、サイトカイン産生細胞のパーセンテージとして評価した。未刺激のDCと比較して、ESPで24時間刺激した後のDCによるIL-6およびIL-8の産生は見られなかった。
【0146】
これらの実験系で用いられたヒト細胞種(HNEpCおよびDC)はいずれも、細菌を含む病原体関連分子パターン(PAMP)の存在を感知するパターン認識受容体(PRR)を十分に備えていることは注目に値する。DCは炎症プロセスを開始するために、潜在的なPAMPを感知する能力が極めて高い。加えて、グラム陰性菌由来であり、陽性対照としてDC実験で使用されるLPSは、1μg/ml、すなわち試験したEPS濃度より400倍低い濃度で有効であったことにも留意されたい(
図13)。したがって、本開示のEPSには免疫(細胞性および/または体液性)応答を誘導する能力がないことが実証された。
【0147】
本発明をその特定の実施形態に関連して説明してきたが、特許請求の範囲は、実施例に記載された好ましい実施形態によって限定されるべきではなく、全体としての記載と一致する最も広い解釈が与えられるべきであることは理解されるであろう。
【0148】
本発明のさらなる態様および実施形態は、以下の番号付き項に記載されている:
1. 海洋細菌に由来する少なくとも1つの単離された菌体外多糖(EPS)および適切な担体を含む組成物であって、少なくとも1つの単離されたEPSが40~4000kDaの範囲の平均分子量を有し、少なくとも1つの単離されたEPSが海洋細菌の発酵によって得ることができる、組成物。
2. 各々独立して、40~4000kDaの範囲の平均分子量を有する少なくとも2つの菌体外多糖を含む、項1に記載の組成物。
3. EPSの平均分子量が40~2000kDa、任意選択で100~1400kDaである、項1または2に記載の組成物。
4. 海洋細菌がグラム陽性好熱性細菌であり、任意選択で、前記グラム陽性好熱性細菌がバシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)であり、好ましくは、前記グラム陽性好熱性細菌が、2020年1月27日にThe National Collection of Industrial, Food and Marine Bacteria(NCIMB)に寄託番号NCIMB 43557で寄託されたバシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14である、項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
5. 項1~4のいずれか一項に記載の組成物であって、
(i)前記組成物が、経口組成物、鼻用組成物、局所組成物、経皮組成物、眼科用組成物、または医療用デバイスを処理するために製剤化された組成物であり、好ましくは、前記組成物が鼻用組成物である;および/または
(ii)前記担体が生理食塩水溶液である、組成物。
6. 海洋細菌に由来する少なくとも1つの単離された菌体外多糖(EPS)を含む鼻送達システムであって、少なくとも1つの単離されたEPSが、40~4000kDaの範囲の平均分子量を有し、少なくとも1つの単離されたEPSが、海洋細菌の発酵によって得ることができる、鼻送達システム。
7. 項6に記載の鼻送達システムであって、ここで:
(i)少なくとも1つの単離されたEPSの平均分子量が、40~2000kDa、任意選択で100~1400kDaである;および/または
(ii)海洋細菌がグラム陽性好熱性細菌であり、任意選択で、前記グラム陽性好熱性細菌がバシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)であり、好ましくは、前記グラム陽性好熱性細菌がNCIMBに寄託番号NCIMB 43557で寄託されているバシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LP-T14である;
(iii)鼻送達システムが、少なくとも1つの単離されたEPSを点鼻薬、液体スプレー、乾燥スプレー、ゲルまたは軟膏として送達する;
(iv)少なくとも1つの単離されたEPSが、生理食塩水溶液をさらに含む組成物中で製剤化される;
(v)鼻送達システムが、それを必要とする患者における微生物病原体感染を処置および/または予防するためのものである;および/または
(vi)鼻送達システムが、それを必要とする患者の鼻腔への微生物病原体による定着を阻害または低減させることにより、微生物病原体の病原性を減弱させるためのものである、
鼻送達システム。
8. 微生物病原体による表面への定着を防止または低減するために非生物学的表面を処理するための、項1~5のいずれか一項に記載の組成物の非治療的使用であって、任意選択で、表面が医療用デバイスの表面である、使用。
9. それを必要とする患者における微生物病原体感染を処置および/または予防するための方法において使用するための、項1~5のいずれか一項に記載の組成物、または項6もしくは7に記載の鼻送達システム。
10. 微生物病原体の病原性を減弱させるための方法における使用のための、項1~5のいずれか一項に記載の組成物、または項6もしくは7に記載の鼻送達システム。
11. それを必要とする患者において微生物病原体感染を処置および/または予防する方法であって、項1~5のいずれか一項に記載の組成物の有効量を患者に投与することを含む方法。
12. それを必要とする患者における微生物病原体感染の病原性を減弱させるための方法であって、項1~5のいずれか一項に記載の組成物の有効量を患者に投与することを含む方法。
13. (i)組成物が、微生物病原体の感染前、感染中、および/または感染後に患者に投与され、それにより、患者の少なくとも1つの生体組織における微生物病原体の定着および/または微生物病原体の内在化が予防、阻害、または低減され、任意選択で、少なくとも1つの生体組織が、口腔、鼻腔、呼吸器、咽喉、耳、眼科領域、泌尿生殖器、皮膚、頭皮、毛髪、爪、およびその組合せから選択され、好ましくは、少なくとも1つの生体組織が鼻腔であり;および/または
(ii)微生物病原体が細菌病原体であり、患者への組成物の投与が、初期の細菌バイオフィルム形成を低減もしくは阻害すること、および/または初期の細菌バイオフィルムを破壊することによって、細菌病原体感染の病原性を減弱させる;または
(iii)微生物病原体がウイルス病原体であり、患者への組成物の投与が、同等の未処理細胞と比較してウイルス病原体に感染した患者細胞の死亡率を低下させること、感染した患者細胞からのビリオンの放出を防止または減少させること、および/または感染していない隣接する患者細胞の感染を防止または減少させることにより、ウイルス病原体感染の病原性を減弱させる、項9もしくは10に記載の使用のための組成物、または項11もしくは12に記載の方法。
14. 微生物病原体が、以下:
(i)キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、ヘモフィルス(Haemophilus)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、モラクセラ(Moraxella)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、および/またはストレプトコッカス(Streptococcus)属から任意選択で選択される細菌病原体であり、好ましくは、細菌病原体がキューティバクテリウム・アクネス(Cutibacterium acnes)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、モラクセラ・カタラリス(Moraxella catharalis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)またはストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)種、またはその組合せである;
(ii)インフルエンザA、インフルエンザA亜型H1N1/2009/pdm09、インフルエンザA亜型H1、インフルエンザA亜型H3、インフルエンザB(オルソミクソウイルス)、コロナウイルス229E、コロナウイルスHKU1、コロナウイルスNL63、コロナウイルスOC43、SARS-CoV-2(コロナウイルス)、パラインフルエンザウイルス1、パラインフルエンザウイルス2、パラインフルエンザウイルス3、パラインフルエンザウイルス4、呼吸器合胞体ウイルスA/B、ヒトメタニューモウイルスA/B(パラミクソウイルス)、アデノウイルスもしくはライノウイルス/エンテロウイルス(ピコルナウイルス)、またはその組合せから任意選択で選択されるウイルス病原体;
(iii)真菌病原体;または
(iv)(i)、(ii)および(iii)の1つまたは複数の混合物である、
項6もしくは7に記載の鼻送達システム、項8に記載の使用、項9、10もしくは13に記載の使用のための組成物、または項11~13のいずれか一項に記載の方法。
15. 組成物の総重量に基づく組成物中の少なくとも1つのEPSの量が、0.00005~0.5%w/w、好ましくは0.0001~0.1%w/w、より好ましくは0.0005~0.05%w/wの範囲である、項1~5のいずれか一項に記載の組成物、項8に記載の使用、項9、10、13および14のいずれか一項に記載の使用のための組成物、または項11~14のいずれか一項に記載の方法。
16. 鼻腔内への微生物病原体による定着を阻害または低減させることにより、微生物病原体感染の病原性を減弱させるための鼻用組成物を製剤化する方法であって、海洋細菌に由来する少なくとも1つの単離された菌体外多糖(EPS)を、生理食塩水溶液および任意選択で適切な担体と混合し、0.1%~10%w/w、好ましくは0.5%~5%w/w、より好ましくは0.7%~3%w/wの濃度の塩を含む鼻用組成物を得るステップを含む方法。
【国際調査報告】