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特表2024-512240複雑な多段階の抗体相互作用を解明するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】複雑な多段階の抗体相互作用を解明するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20240312BHJP
   G01N 21/41 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
G01N33/543 595
G01N33/543 ZNA
G01N21/41 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549818
(86)(22)【出願日】2022-02-15
(85)【翻訳文提出日】2023-10-02
(86)【国際出願番号】 EP2022053569
(87)【国際公開番号】W WO2022175217
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】21157850.5
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】クリストペイト トニー
(72)【発明者】
【氏名】シュロットハウアー ティルマン
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB04
2G059BB13
2G059CC17
2G059EE04
2G059FF04
(57)【要約】
本明細書には、抗体-FcRn相互作用を測定するための方法が報告されており、当該方法は、表面プラズモン共鳴計測に適した固体表面上にFcRnを固定化する工程、工程a)で得られた固体表面に異なる濃度の抗体を含む溶液を個別に塗布し、各濃度に対する会合速度定数および解離速度定数を測定する工程、ならびに工程b)で得られた速度を用いて抗体-FcRn相互作用のKD値を測定する工程を含み、固定化されたFcRnは、単量体のFcRnであり、単量体のFcRnは、前記固体表面に直接結合している官能(捕捉)基を用いて固定化され、固体表面は、分岐グルカンを含まず、かつ固定化は、pH7~pH8のpH値で行われる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体-FcRn相互作用を測定するための方法であって、
a)表面プラズモン共鳴計測に適した固体表面上にFcRnを固定化する工程、
b)異なる濃度の抗体を含む溶液を、工程a)で得られた固体表面に個別に塗布し、各濃度に対する会合速度定数および解離速度定数を測定する工程、
c)工程b)で得られた速度を用いて、前記抗体-FcRn相互作用のK値を測定する工程
を含み、
固定化されたFcRnは、単量体のFcRnであり、
前記単量体のFcRnは、前記固体表面に直接結合している官能(捕捉)基を用いて固定化され、
前記固体表面は、分岐グルカンを含まず、かつ
前記FcRnの前記固定化は、pH7~pH8のpH値で行われる、
方法。
【請求項2】
前記固定化が、約pH7.4のpH値で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記FcRnが、50~150RUの密度で固定化される、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記FcRnが、一本鎖FcRn(scFcRn)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記scFcRnが、(GGGGS)ペプチドリンカーによって互いにコンジュゲートされたベータ-2-ミクログロブリンとヒトFcRn融合ポリペプチドとの融合ポリペプチドであり、前記融合ポリペプチドはC末端Aviタグを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記FcRnが、アミンカップリングまたはビオチン/ストレプトアビジンカップリングを用いて固定化される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記FcRnが、約50~150pg/mmチップ表面の密度で固定化される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記固定化が、pH7.4のpH値で10mM HEPES緩衝液中に約250μg/mlの濃度でFcRnを含む溶液を用いて行われる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程b)において前記固定化されたFcRnに塗布される前記抗体の前記溶液が、150mM NaCl、または400mM NaCl、または400mM NaClおよび20%(w/w)エチレングリコールを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程b)において前記固定化されたFcRnに塗布される前記抗体の前記溶液が、pH5.8のpH値で10mM MES、150もしくは400mM NaCl、0.05%P-20、および任意選択で20%(w/w)エチレングリコールを含むか、またはpH7.4のpH値で10mM HEPES、150mMもしくは400mM NaCl、0.05%P-20、および任意選択で20%(w/w)エチレングリコールを含むかのどちらかである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記分岐グルカンが、デキストランである、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
安定性(log kd、オフレート)がx軸に示され/対応し、かつ認識(log ka、オンレート)がy軸に示される/対応する、2次元/3次元ダイアグラム
を使用して、Fab-FcRn相互作用とFc領域-FcRn相互作用が分けられ、かつ可視化される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の特徴付けの分野におけるものである。より詳細には、本明細書には、表面プラズモン共鳴を使用し、コーティング密度および相互作用のタイプを考慮に入れた、抗体-FcRn相互作用の特徴付けのための新しい方法が提供される。この新しい方法により、Fc領域とFcRnに対する抗体親和性の決定の改善が提供される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
IgGの半減期は、FcRnへのpH依存性結合に依存する細胞リサイクリング機構に左右される。FcRnに対するコアの相互作用部位がCH2-CH3エルボー領域に位置することは十分に確立されているが、Fabアームも受容体結合に寄与することを、興味深い新たなデータが強く示唆している。理論上は、IgG分子は、複数のFcRn結合部位を有する。実験データはまた、IgG抗体の可変ドメイン内のアミノ酸の変化が、細胞輸送、FcRn結合および半減期を大きく調節し得ることを裏付けている。したがって、IgG-FcRn相互作用の複雑な多段階の化学量論を完全に理解する必要がある。
【0003】
SPR(表面プラズモン共鳴)は、リアルタイムのタンパク質間相互作用を計測する、バイオセンサーをベースとした技術である。SPR技術は、バイオ医薬品の研究開発において標準的なツールとなっており(例えば、M.A.Cooper,Nat.Rev.Drug Dis.1(2002)515-528(非特許文献1);D.G.Myszka,J.Mol.Recognit.12(1999)390-408(非特許文献2);R.L.Rich and D.G.Myszka,J.Mol.Recognit.13(2000)388-407(非特許文献3);D.G.Myszka and R.L.Rich,Pharm.Sci.Technol.Today 3(2000)310-317(非特許文献4);R.Karlsson and A.Faelt,J.Immunol.Meth.200(1997)121-133(非特許文献5)を参照のこと)、高分子相互作用の速度定数を測定するためによく使用されている。分子の相互作用の会合動態および解離動態を測定する能力は、複合体形成の機構を理解する上での手掛かりとなる(例えば、T.A.Morton,D.G.Myszka,Meth.Enzymol.295(1998)268-294(非特許文献6)を参照のこと)。この情報は、モノクローナル抗体および他のバイオ医薬品の選択および最適化プロセスの不可欠な部分になりつつある(例えば、K.Nagata and H.Handa,in Real-time analysis of biomolecular interactions,Springer,2000(非特許文献7);R.L.Rich and D.G.Myszka,Curr.Opin.Biotechnol.11(2000)54-61(非特許文献8);A.C.Malmborg and C.A.Borrebaeck,J.Immunol.Meth.183(1995)7-13(非特許文献9);W.Huber and F.Mueller,Curr.Pharm.Des.12(2006)3999-4021(非特許文献10)を参照のこと)。さらに、SPR技術は、例えば標的に結合する抗体の結合活性(結合能)の測定を可能にする。
【0004】
10年以上前から、表面プラズモン共鳴(SPR)は、抗体-抗原または抗体-受容体の相互作用を調べるために、例えば、ヒト胎児性Fc受容体(FcRn)に対する抗体のpH依存性結合親和性を測定して、抗体リサイクリング効率に対するその寄与を理解するために、使用されてきた。両方の結合パートナーの複雑さを考慮すると、単一の1:1ラングミュア速度論的適合を適用して評価することができるSPR相互作用アッセイを定義によって確立することは不可能である。
【0005】
FcRnサルベージ経路を利用することによって治療用タンパク質および内因性抗体の血清持続性を調節するために、FcRnを増強する/無効にする変異、Fc融合タンパク質、およびFcRn結合の競合阻害を含む種々のストラテジーが用いられている。しかしながら、治療用IgGは、huFcRn親和性と相関しないとみられる非常に異なる半減期を有し得る(Giragossian et al.Curr.Drug Metab.14(2013)764-790(非特許文献11))。
【0006】
WO2013/181087(特許文献1)では、インビボ安定性、薬物動態および有効性が改善された多量体複合体が報告された。
【0007】
米国特許出願公開第2017/0037121号(特許文献2)では、1つ以上のシステイン残基、免疫グロブリンCH2ドメインおよび免疫グロブリンCH3ドメインを含む免疫グロブリンヒンジ領域の少なくとも一部をN末端からC末端への方向で各々含む第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含むポリペプチドであって、i)その第1および第2のポリペプチドは、変異H310A、H433AおよびY436Aを含むか、またはii)その第1および第2のポリペプチドは、変異L251D、L314DおよびL432Dを含むか、またはiii)その第1および第2のポリペプチドは、変異L251S、L314SおよびL432Sを含む、ポリペプチドが報告された。
【0008】
米国特許出願公開第2020/0353078(特許文献3)では、単離されたIL-33タンパク質、その活性なフラグメントおよびIL-33タンパク質に対する抗体、その抗原結合フラグメントが報告された。例えば免疫障害および炎症性障害を処置する目的で、サイトカイン活性を調節する方法も提供されている。
【0009】
Vaughn,D.E.らは、胎児性Fc受容体によるpH依存性抗体結合の構造的根拠を報告した(Structure 6(1998)63-73(非特許文献12))。
【0010】
したがって、抗体-FcRn相互作用を特に技術的により高度な方法で分析して、根底にある複雑さに対処する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2013/181087
【特許文献2】米国特許出願公開第2017/0037121号
【特許文献3】米国特許出願公開第2020/0353078
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】M.A.Cooper,Nat.Rev.Drug Dis.1(2002)515-528
【非特許文献2】D.G.Myszka,J.Mol.Recognit.12(1999)390-408
【非特許文献3】R.L.Rich and D.G.Myszka,J.Mol.Recognit.13(2000)388-407
【非特許文献4】D.G.Myszka and R.L.Rich,Pharm.Sci.Technol.Today 3(2000)310-317
【非特許文献5】R.Karlsson and A.Faelt,J.Immunol.Meth.200(1997)121-133
【非特許文献6】T.A.Morton,D.G.Myszka,Meth.Enzymol.295(1998)268-294
【非特許文献7】K.Nagata and H.Handa,in Real-time analysis of biomolecular interactions,Springer,2000
【非特許文献8】R.L.Rich and D.G.Myszka,Curr.Opin.Biotechnol.11(2000)54-61
【非特許文献9】A.C.Malmborg and C.A.Borrebaeck,J.Immunol.Meth.183(1995)7-13
【非特許文献10】W.Huber and F.Mueller,Curr.Pharm.Des.12(2006)3999-4021
【非特許文献11】Giragossian et al.Curr.Drug Metab.14(2013)764-790
【非特許文献12】Vaughn,D.E.ら、Structure 6(1998)63-73
【発明の概要】
【0013】
表面プラズモン共鳴(SPR)は、組換え胎児性Fc受容体(FcRn)へのIgGの結合を計測するためによく使用されるが、信頼できる結合動態を得るためにデータを解釈することは簡単ではない。本明細書では、適切なFcRn結合評価のための新規のSPRベースのFcRn結合アッセイが報告される。このアッセイは、FcRn結合動態に対する抗体のFc領域およびFabアームの寄与の詳細な理解を得るために、好適な可視化と組み合わされ得る。
【0014】
すなわち、本明細書では、抗体-FcRn結合評価のための個々のFab-FcRnおよびFc領域-FcRn相互作用を説明する新規のSPRベースの抗体-FcRn結合アッセイが報告される。本発明のこの態様は、例えばSPRチップなどの固相に対するpH依存性FcRnコーティングの効果に関する知見に少なくとも部分的に基づく。
【0015】
本明細書では、抗体-FcRn相互作用を測定するための方法が報告されており、
- FcRn固定化表面は、SPRチップであり、捕捉基が固体表面(層)に直接結合しており、(固体)表面がデキストランマトリックス/基を含まず(デキストランで誘導体化されておらず)、
- 捕捉試薬は、単離された形態、すなわち、二量体化または多量体化されていない形態で提供され、すなわち、捕捉試薬は、アナライト(標的分子)に対するただ1つの結合部位を有し、したがって、捕捉試薬は単量体であり、
- 固定化に使用されるランニング緩衝液は、固定化中、すなわち単量体の形態または二量体/多量体として維持される場合、捕捉試薬の凝集状態を制御する。
【0016】
本発明の1つの態様は、抗体-FcRn相互作用を測定するための方法であり、
a)表面プラズモン共鳴計測に適した固体表面上にFcRnを固定化する工程、
b)異なる濃度の抗体を含む溶液を、工程a)で得られた固体表面に個別に塗布し、各濃度に対する抗体-FcRn相互作用の会合速度定数ならびに解離速度定数を測定する工程、
c)工程b)で得られた速度を用いて、抗体-FcRn相互作用のK値を測定する工程
を含み、
固定化されたFcRnは、単量体のFcRnであり、
単量体のFcRnは、(前記固体表面上に直接(結合している)官能(捕捉)基を用いて)固定化され、
固体表面は、分岐グルカンを含まず、かつ
FcRnの固定化は、pH7~pH8のpH値でなされる/行われる。
【0017】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、FcRnの固定化は、約pH7.4のpH値でなされる/行われる。
【0018】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、FcRnは、50~150反応単位(RU)の密度で固定化される。好ましい1つの実施形態において、FcRnは、80~120RUの密度で固定化される。
【0019】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、FcRnは、一本鎖FcRn(scFcRn)である。1つの実施形態において、scFcRnは、(GGGGS)-ペプチドリンカーによって互いにコンジュゲートされたベータ-2-ミクログロブリンとヒトFcRnポリペプチドとの融合ポリペプチドであり、融合ポリペプチドは、C末端His(10)-Aviタグ(配列番号07)を含む。
【0020】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、FcRnは、アミンカップリングを用いて、1mmチップ表面あたり約1pg以上、ある特定の実施形態では約10pg以上、ある特定の実施形態では約50~150pgの(sc)FcRnの密度で固定化される。好ましい1つの実施形態において、FcRnは、アミンカップリングを用いて約80~120pg(sc)FcRn/mmチップ表面の密度で固定化される。
【0021】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、FcRnは、ビオチン/ストレプトアビジンカップリングを用いて、1mmチップ表面あたり約1pg以上、ある特定の実施形態では約10pg以上、ある特定の実施形態では約50~150pgの(sc)FcRnの密度で固定化される。
【0022】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、固定化は、約pH7.4のpH値で10mM HEPES緩衝液中に約250μg/mlの濃度でFcRnを含む溶液を用いて行われる。
【0023】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、工程b)において固定化されたFcRnに塗布される抗体の溶液は、i)150mM NaCl、またはii)400mM NaCl、またはiii)400mM NaClおよび20%(w/w)エチレングリコールを含む。
【0024】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、工程b)は、i)150mM NaClを含む抗体の溶液を用いて、ならびにii)400mM NaClを含む抗体の溶液、または/および400mM NaClと20%(w/w)エチレングリコールとを含む抗体の溶液を用いて実施される。1つの実施形態において、400mM NaClを含む溶液または/および400mM NaClと20%(w/w)エチレングリコールとを含む溶液は、Fab-FcRn相互作用を低減または排除する。1つの実施形態において、400mM NaClを含む溶液または/および400mM NaClと20%(w/w)エチレングリコールとを含む溶液を使用して、分子間相互作用およびFab-FcRn相互作用を低減または排除する。これにより、単離されたFc領域-FcRn相互作用の測定が達成される。
【0025】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、工程b)において固定化されたFcRnに塗布される抗体の溶液は、pH5.8のpH値で10mM MES、150もしくは400mM NaCl、0.05%(w/v)ポリソルベート20(P-20)、および任意選択で20%(w/w)エチレングリコールを含むか、またはpH7.4のpH値で10mM HEPES、150mMもしくは400mM NaCl、0.05%(w/v)P-20、および任意選択で20%(w/w)エチレングリコールを含むかのどちらかである。
【0026】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、分岐グルカンは、複合分岐グルカンである。グルカンは、グルコースの縮合によって得られる多糖である。1つの実施形態において、複合分岐グルカンは、デキストランである。1つの実施形態において、複合分岐グルカンは、主にC-1~C-6’’のグリコシド結合を有する微生物起源の分岐ポリ-α-d-グルコシドである。1つの実施形態において、デキストランは、3kDa~2,000kDaの分子量を有する。
【0027】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、安定性(log kd、オフレート)がx軸に示され/対応し、かつ認識(log ka、オンレート)がy軸に示される/対応する2次元/3次元ダイアグラムを使用して、Fab-FcRn相互作用とFc領域-FcRn相互作用は分けられ、かつ可視化される。
【0028】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、FcRnと抗体のFc領域との間の相互作用が分析されるべきである:
- センサー表面は、カルボキシメチル化表面を有するSPRチップであり、カルボキシル基は、(固体)表面(層)に直接結合しており、SPRチップは、デキストランマトリックスを含まず、
- C末端His(10)-Aviタグを含む、ベータ-2-ミクログロブリン-ヒトFcRn融合ポリペプチド(これらの基は(GGGGS)-ペプチドリンカーによって連結されている)が、中性pH(pH7.4の10mM HEPES中、約250μg/ml)でアミンカップリングを用いてセンサー表面に固定化され、
- ランニング緩衝液は、10mM MES、150mM NaCl,pH5.8、0.05%(w/v)P-20または10mM HEPES,pH7.4、150mM NaCl、0.05%(w/v)P-20のどちらかである。
【0029】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、センサー表面は、カルボキシメチル化表面を有するSPRチップであり、カルボキシル基は、(固体)表面(層)に直接結合しており、そのチップは、デキストランを含まない。この実施形態において、C末端His(10)-Aviタグを含む、ベータ-2-ミクログロブリン-ヒトFcRn融合ポリペプチド(これらの基は(GGGGS)-ペプチドリンカーによって連結されている)が、中性pH(pH7.4の10mM HEPES中、約250μg/ml)でアミンカップリングを用いて(固体)表面に固定化され、使用されるランニング緩衝液は、10mM MES、150mM NaCl,pH5.8、0.05%(w/v)P-20または10mM HEPES,pH7.4、150mM NaCl、0.05%(w/v)P-20のどちらかである。
【0030】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、上記方法は、pH依存性のFcRn媒介性抗体リサイクリングまたは/および長いインビボ半減期を有する抗体を選択するためのものであり、選択される抗体は、pH5.5~6.0で100~400nMの範囲のpH依存性の全体的な抗体-FcRn相互作用の強度を有する。その全体的な抗体-FcRn相互作用の強度は、Fc-FcRnおよびFab-FcRn相互作用を含む。
【0031】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、上記方法は、pH依存性のFcRn媒介性抗体リサイクリングまたは/および長いインビボ半減期を有する抗体を選択するためのものであり、選択される抗体は、pH5.5~pH6.5の範囲のpH値で25nM以上の片側のFc領域-FcRn結合強度を有する。1つの実施形態において、結合強度は、100nM以上、または200nM以上、または300nM以上である。1つの実施形態において、追加のFab-FcRn結合親和性が、特にpH7.4において存在しない場合、片側のFc領域-FcRn結合親和性について100(200)nM未満の結合強度が使用される。これは、pH7.4以上での低いまたは検出不能な結合強度に関係があるはずである。1つの実施形態において、結合強度は、25nM以上であり、抗体は、pH7.4でFcRnから解離する。これは、改善された薬物動態学的特性を有する抗体バリアントの選択に使用され得る。
【0032】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、上記方法は、改変されたFc領域を有するバリアント抗体を選択するためのものであり、この方法は、親抗体と、Fc領域のアミノ酸配列が異なる少なくとも2つのバリアント抗体とを用いて工程b)を実行/実施することを含み、工程c)は、相互作用スポットパターンを決定することであり、親抗体の相互作用スポットパターンと類似/一致する相互作用スポットパターンを有するバリアント抗体が選択され、スポットパターンは、安定性(log kd、オフレート)がx軸に示され/対応し、認識(log ka、オンレート)がy軸に示される/対応する2次元/3次元ダイアグラムである。
【0033】
上述の実施形態と後述の実施形態および態様の1つの実施形態において、上記方法は、Fab-FcRn相互作用の種類を決定するためのものであり、すなわち、電荷に基づく相互作用または疎水性に基づく相互作用が存在するかを決定するためのものであり、該方法は、第1に、第1の相互作用スポットパターンを得るために、pH7.4のpH値で10mM MESまたはHEPES,150mM、0.05%(w/v)P-20を含む溶液中の抗体を用い、第2に、第2の相互作用スポットパターンを得るために、pH7.4のpH値で10mM MESまたはHEPES,400mM、0.05%(w/v)P-20を含む溶液中の抗体を用い、および第3に、第3の相互作用スポットパターンを得るためにpH7.4のpH値で10mM MESまたはHEPES,400mM、0.05%(w/v)P-20および20%(w/w)エチレングリコールを含む溶液中の抗体を用いて、工程b)を実行/実施することを含み、第1の相互作用スポットパターンと第2の相互作用スポットパターンとが異なる場合、Fab-FcRn相互作用の種類は、電荷ベースであり、第1の相互作用スポットパターンと第2の相互作用スポットパターンとが類似しており、第3の相互作用スポットパターンが異なる場合、Fab-FcRn相互作用の種類は、疎水性ベースであり、相互作用スポットパターンは、安定性(log kd、オフレート)がx軸に示され/対応し、認識(log ka、オンレート)がy軸に示され/対応する2次元/3次元ダイアグラムである。
【0034】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、抗体は、二重特異性抗体である。
【0035】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、二重特異性抗体は、ドメイン交換抗体である。
【0036】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、二重特異性抗体は、1アーム一本鎖抗体である。
【0037】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、二重特異性抗体は、2アーム一本鎖抗体である。
【0038】
上記と下記の実施形態および態様の1つの実施形態において、二重特異性抗体は、一般的な軽鎖二重特異性抗体である。
【0039】
本発明の1つの態様は、抗体を選択するため/抗体選択のための本発明に係る方法である。1つの実施形態において、本発明に係る方法は、FcRn相互作用が異なる少なくとも2つの抗体を用いて実施され、それにより、最も高い/より高い親和性/強度の(単離された)Fc領域-FcRn相互作用を有する抗体が選択される。
【0040】
本発明の1つの態様は、抗体操作のための本発明に係る方法である。1つの実施形態において、本発明に係る方法は、Fc領域および/またはFabのアミノ酸配列が異なる少なくとも2つの抗体を用いて実施され、それにより、Fc-FcRn相互作用とFab-FcRn相互作用との比が最も大きい/より大きい抗体が選択される。
【0041】
本発明の1つの態様は、Fab-FcRnおよびFc領域-FcRn相互作用を測定するための本発明に係る方法の使用である。
【0042】
本発明の1つの態様は、抗体のインビボ半減期に対する抗体-Fc領域変異の効果を測定するための本発明に係る方法の使用である。
【0043】
本発明の1つの態様は、インビボ半減期が改変/改善された(より長いまたはより短い)抗体を選択するための本発明に係る方法の使用である。
【0044】
本発明の1つの態様は、抗体のFab-FcRn相互作用およびFc領域-FcRn相互作用を測定するための本発明に係る方法の使用である。
【0045】
本発明の1つの態様は、抗体のFab-FcRn相互作用およびFc領域-FcRn相互作用を描写するための本発明に係る方法の使用である。
【0046】
本発明の1つの態様は、抗体のFab-FcRn相互作用およびFc領域-FcRn相互作用を別々に分析するための本発明に係る方法の使用である。
【0047】
本明細書では、任意の態様と任意の個々の実施形態との組み合わせまたは実施形態の組み合わせも、そのままではなかったとしても開示されていることを明確に指摘する。本明細書中に報告される態様は、本発明を実施する個々の独立した方法に関するものであり、ある実施形態は、本発明の1つ以上の態様を実施する特定の依存的な方法に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
発明の詳細な説明
本明細書では、抗体-FcRn結合の評価における個々のFab-FcRnおよびFc領域-FcRn相互作用を説明する新規のSPRベースの抗体-FcRn結合アッセイが報告される。本発明のこの態様は、例えばSPRチップなどの固相上のpH依存性FcRnコーティングに少なくとも部分的に基づく。
【0049】
本発明のこの態様に係る方法は、ただ1つの活性なFcRn結合部位を用いて抗体の複雑さをFc領域のみにまで低下させ、その後、その分子のさらなるドメインを次々に追加し戻すことによって、確認されている。
【0050】
本発明は、Fc領域-FcRn相互作用を測定するためのSPR設定が多くの変動を含むという知見に少なくとも部分的に基づく。
【0051】
本発明はさらに、SPRセンサー表面上のFcRnの意図的な固定化を用いることによって、すなわち、意図的な緩衝液設定と組み合わせてFcRn捕捉を用いることによって、すべての抗体-FcRn相互作用、すなわちFab-FcRnおよびFc領域-FcRn相互作用に関する情報を得ることができるという知見に少なくとも部分的に基づく。
【0052】
本発明は、多様なIgG-FcRn相互作用が一斉に解釈/理解されなければならないという知見に少なくとも部分的に基づく。個々の結合工程および結合相互作用を精査した後にのみ、全体的な結合に寄与する個々の分子相互作用を理解することが可能である。この相互作用の精査に基づいてのみ、抗体を首尾よく操作すること、すなわちFc-FcRnおよびFab-FcRn相互作用を別々に操作することによって操作することができる。
【0053】
本発明は、抗体重鎖の対称性に起因して、異なる結合事象の組み合わせが起こり、制御された量、すなわち規定された量のFcRnをSPRセンサー表面上に固定化することが重要であるという知見に少なくとも部分的に基づく。これは、本発明に係る方法において、固定化工程中にFcRnの二量体化、例えばヘテロ二量体の形成を制御することによって達成される。FcRnは、pH依存的様式で二量体化することが見出されている。一本鎖FcRnを使用することによって、SPRセンサー表面上のFcRnの非常に均一な表面を提供することができる。
【0054】
本発明は、i)SPRチップ、特に一本鎖FcRnの使用および中性/生理学的pH(すなわち、pH7~pH8の範囲)での固定化を制御すること、ならびにii)緩衝液条件を調整することによって、抗体とFcRnとの間の多段階の結合機構を精査し、薬物動態学的特性に関して、操作された抗体の選択およびスクリーニングに使用することができるという知見に少なくとも部分的に基づく。ある特定の実施形態では、抗体は単純化され、かつ/またはx軸上の安定性(log kd)およびy軸上の認識(log ka)を用いた適切な可視化が、異なる抗体-FcRn相互作用を分離するために使用され、かつ/または薬物動態特性は、pH依存性FcRn結合である。
【0055】
本発明は、pH依存性の抗体-FcRn相互作用の強度が、好適なpH依存性のFcRn媒介性抗体リサイクリングおよびそれにより長いインビボ半減期を有する抗体を選択するためにpH5.5~6.0で100~400nMの範囲内でなければならないという知見に少なくとも部分的に基づく。ある特定の実施形態において、抗体-FcRn相互作用の強度は、全体的な抗体-FcRn相互作用の強度である。その全体的な抗体-FcRn相互作用の強度は、Fc-FcRnおよびFab-FcRn相互作用を含む。ある特定の実施形態において、抗体-FcRn相互作用の強度は、Fc-FcRn相互作用の強度である。
【0056】
本発明は、SPR固体表面上、すなわちチップ上の固定化されたscFcRn(一本鎖FcRn)の密度が高いほど、より高い親和性を有する集団、すなわち原点(2次元/3次元ダイアグラムの左下隅)により近いスポットの割合が増加するという知見に少なくとも部分的に基づく。
【0057】
定義
ヒト免疫グロブリンの軽鎖および重鎖のヌクレオチド配列に関する一般的な情報は、Kabat,E.A.,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に与えられている。重鎖および軽鎖のすべての定常領域およびドメインのアミノ酸位置は、Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に記載されているKabatナンバリングシステムに従ってナンバリングされ得、本明細書では「Kabatに従うナンバリング」と称される。具体的には、Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)のKabatナンバリングシステム(647~660頁を参照のこと)が、カッパーおよびラムダアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLに使用され、Kabat EUインデックスナンバリングシステム(661~723頁を参照のこと)が、重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2およびCH3であって、この場合、本明細書中では「Kabat EUインデックスに従うナンバリング」に言及することによってさらに明確にしている)に使用される。
【0058】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他のことを指示しない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「細胞(a cell)」への言及は、複数のそのような細胞および当業者に公知であるその等価物などを含む。同様に、用語「a」(または「an」)、「1つ以上の」および「少なくとも1つの」も、本明細書中で交換可能に使用され得る。
【0059】
用語「含む(comprising)」、「含む(including)」および「有する(having)」も交換可能に使用され得ることに留意すべきである。
【0060】
当業者にとっては、例えばペプチドリンカーまたは融合ポリペプチドのアミノ酸配列を、対応するコード核酸配列に変換する手順および方法は、周知である。ゆえに、核酸は、個々のヌクレオチドからなる核酸配列、および同様に、それによってコードされるペプチドリンカーまたは融合ポリペプチドのアミノ酸配列によって特徴付けられる。
【0061】
組換えDNA技術を使用することにより、核酸の誘導体の生成が可能になる。このような誘導体は、例えば、置換、変更、交換、欠失または挿入によって、個々のまたはいくつかのヌクレオチド位置において改変され得る。改変または誘導体化は、例えば、部位特異的突然変異誘発を用いて行われ得る。そのような改変は、当業者によって容易に行われ得る(例えば、Sambrook,J.,et al.,Molecular Cloning:A laboratory manual(1999)Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,USA;Hames,B.D.,and Higgins,S.G.,Nucleic acid hybridization-a practical approach(1985)IRL Press,Oxford,Englandを参照のこと)。
【0062】
本発明を行うための有用な方法および手法は、例えば、Ausubel,F.M.(ed.),Current Protocols in Molecular Biology,Volumes I to III(1997);Glover,N.D.,and Hames,B.D.,ed.,DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes I and II(1985),Oxford University Press;Freshney,R.I.(ed.),Animal Cell Culture-a practical approach,IRL Press Limited(1986);Watson,J.D.,et al.,Recombinant DNA,Second Edition,CHSL Press(1992);Winnacker,E.L.,From Genes to Clones;N.Y.,VCH Publishers(1987);Celis,J.,ed.,Cell Biology,Second Edition,Academic Press(1998);Freshney,R.I.,Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique,second edition,Alan R.Liss,Inc.,N.Y.(1987)に記載されている。
【0063】
用語「約」は、その後に続く数値の+/-20%の範囲を表す。1つの実施形態において、約という用語は、その後に続く数値の+/-10%の範囲を表す。1つの実施形態において、約という用語は、その後に続く数値の+/-5%の範囲を表す。
【0064】
「親和性」または「結合親和性」とは、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有結合性の相互作用の合計強度のことを指す。パートナーYに対する分子Xの親和性は、概して、解離定数(K)によって表され得、この解離定数は、解離速度定数と会合速度定数(それぞれkoffおよびkon)との比である。したがって、速度定数の比が同じままである限り、同等の親和性は、異なる速度定数を含んでもよい。親和性は、本明細書中に記載されるものを含む、当該分野で公知の一般的な方法によって計測され得る。親和性を計測するための特定の方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0065】
本明細書中の用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、少なくともFc領域を含む限り、モノクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体、三重特異性抗体)および抗体フラグメントを含むがこれらに限定されない様々な抗体構造を包含する。
【0066】
抗体は、一般に、2つのいわゆる軽鎖ポリペプチド(軽鎖)および2つのいわゆる重鎖ポリペプチド(重鎖)を含む。重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドの各々は、抗原と相互作用できる結合領域を含む可変ドメイン(可変領域)(一般にポリペプチド鎖のアミノ末端部分)を含む。重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドの各々は、定常領域(一般にカルボキシル末端部分)を含む。重鎖の定常領域は、i)食細胞などのFcガンマ受容体(FcγR)を有する細胞への、またはii)Brambell受容体としても知られる胎児性Fc受容体(FcRn)を有する細胞への抗体の結合を媒介する。重鎖の定常領域は、(C1q)成分などの古典的補体系の因子を含むいくつかの因子への結合も媒介する。抗体重鎖の定常ドメインは、CH1ドメイン、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含むのに対して、軽鎖は、カッパーアイソタイプまたはラムダアイソタイプであり得るただ1つの定常ドメインCLを含む。
【0067】
免疫グロブリンの軽鎖または重鎖の可変ドメインは、異なるセグメント、すなわち4つのフレームワーク領域(FR)および3つの超可変領域(HVR)を含む。
【0068】
抗体の「クラス」とは、その重鎖が有する定常ドメインまたは定常領域のタイプのことを指す。抗体には、以下の5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMがあり、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgAおよびIgAにさらに分けられ得る。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γおよびμと呼ばれる。
【0069】
用語「(FcRnへの)結合」は、インビトロアッセイにおける(ヒト)FcRnへの、抗体、または少なくとも抗体Fc領域、または融合ポリペプチドを含む抗体Fc領域の結合を表す。1つの実施形態において、結合は、結合アッセイにおいて測定され、そのアッセイでは、(ヒト)FcRnが、固体表面、例えばセンサーチップに結合し、抗体(または単離されたFc領域もしくは融合ポリペプチドを構成するFc領域)の結合が、表面プラズモン共鳴(SPR)によって計測される。
【0070】
本明細書中で使用される用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体のことを指し、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、例えば、天然に存在する変異を含むかもしくはモノクローナル抗体調製物の作製中に生じる存在し得るバリアント抗体を除いては、同一であり、かつ/または同じエピトープに結合し、そのようなバリアントは通常、少量で存在する。モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、種々の決定基(エピトープ)に対する種々の抗体を通常含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、抗原上の単一の決定基に対するものである。したがって、修飾語「モノクローナル」は、抗体の特徴を、抗体の実質的に均一な集団から得られると示すものであり、任意の特定の方法による抗体の作製を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含むがこれらに限定されない種々の手法によって作製され得、モノクローナル抗体を作製するためのこのような方法および他の例示的な方法は、本明細書中に記載される。
【0071】
本明細書中で使用される用語「超可変領域」または「HVR」は、配列が超可変性であり(「相補性決定領域」または「CDR」)、かつ/または構造的に定義されたループ(「超可変ループ」)を形成し、かつ/または抗原に接触する残基(「抗原接触」)を含む、抗体可変ドメインの領域の各々のことを指す。一般的に、抗体は、6つのHVR:VHに3つ(H1、H2、H3)およびVLに3つ(L1、L2、L3)を含む。本明細書中の例示的なHVRとして、以下のものが挙げられる:
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)および96~101(H3)に存在する超可変ループ(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987));
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b(H1)、50~65(H2)および95~102(H3)に存在するCDR(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991));
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)および93~101(H3)に存在する抗原接触(MacCallum et al.J.Mol.Biol.262:732-745(1996));ならびに
(d)HVRアミノ酸残基46~56(L2)、47~56(L2)、48~56(L2)、49~56(L2)、26~35(H1)、26~35b(H1)、49~65(H2)、93~102(H3)および94~102(H3)を含む、(a)、(b)および/または(c)の組み合わせ。
【0072】
別段示されない限り、HVR残基および可変ドメイン内の他の残基(例えば、FR残基)は、Kabatらに従って本明細書ではナンバリングされる。
【0073】
本願において使用される用語「~価」は、(抗体)分子内に特定の数の結合部位が存在することを表す。したがって、用語「二価」、「四価」および「六価」は、(抗体)分子内にそれぞれ2つの結合部位、4つの結合部位および6つの結合部位が存在することを表す。本明細書中に報告されるような二重特異性抗体は、1つの好ましい実施形態では、「二価」である。
【0074】
用語「結合親和性」は、単一の結合部位とそのそれぞれの標的との相互作用の強度を表す。実験的には、親和性は、例えば、平衡状態における抗体とFcRnとの会合(kA)および解離(kd)のカイネティック定数/速度を計測することによって、測定され得る。
【0075】
用語「結合アビディティー」は、1つの分子(抗体)の複数の結合部位と同じ標的との相互作用の強度の合算を表す。したがって、アビディティーは、結合の合計ではなく、結合親和性の相乗的な強度の合算である。アビディティーに必要なものは、抗体などの分子、または1つの標的の機能性多量体(FcRn)の多価性である。
【0076】
複合体(一価または二価)のFc会合は、アフィン結合とアビド結合との間で異ならない。しかしながら、アビド結合のための複合体の解離は、関与するすべての結合部位の同時解離に依存する。ゆえに、(アフィン結合と比較して)アビド結合による結合強度の増加は、解離のカイネティクス/複合体の安定性に依存する:複合体の安定性が大きい(高い)ほど、関与するすべての結合部位の同時解離は起こりにくく;非常に安定な複合体の場合、アフィン結合とアビド結合との差は、本質的に0になり;複合体の安定性が小さい(低い)ほど、関与するすべての結合部位の同時解離が起こる可能性が高く;アフィン結合とアビド結合との差が大きくなる。
【0077】
多重特異性抗体
ある特定の実施形態においては、本発明に係る方法において使用される抗体は、多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、1つの抗原上の少なくとも2つの異なる部位または少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。ある特定の実施形態において、結合特異性の一方は、第1の抗原に対するものであり、他方は、異なる第2の抗原に対するものである。ある特定の実施形態において、多重特異性抗体は、同じ抗原の2つの異なるエピトープに結合し得る。
【0078】
多重特異性抗体を作製するための手法としては、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え同時発現(Milstein,C.and Cuello,A.C.,Nature 305(1983)537-540、WO93/08829およびTraunecker,A.,et al.,EMBO J.10(1991)3655-3659を参照のこと)、および「ノブ・イン・ホール(knob-in-hole)」工学(例えば、米国特許第5,731,168号を参照のこと)が挙げられるが、これらに限定されない。多重特異性抗体はまた、抗体Fc-ヘテロ二量体分子を作製するための静電ステアリング効果を操作することによっても作製され得る(WO2009/089004)。
【0079】
抗体はまた、WO2009/080251、WO2009/080252、WO2009/080253、WO2009/080254、WO2010/112193、WO2010/115589、WO2010/136172、WO2010/145792またはWO2010/145793に記載されているような多重特異性抗体であり得る。
【0080】
その抗体は、WO2012/163520に開示されているような多重特異性抗体(「DutaFab」とも呼ばれる)であってもよい。
【0081】
二重特異性抗体は、一般に、同じ抗原上の2つの異なる重複しないエピトープまたは異なる抗原上の2つのエピトープに特異的に結合する抗体分子である。
【0082】
種々の二重特異性抗体フォーマットが知られている。
【0083】
本明細書中に報告されるような方法において使用され得る例示的な二重特異性抗体フォーマットは、以下である。
【0084】
- ドメイン交換抗体(CrossMabフォーマット):第1のFabフラグメントおよび第2のFabフラグメントを含む多重特異性IgG抗体であって、第1のFabフラグメントにおいて、
a)CH1およびCLドメインのみが、互いに置き換えられている(すなわち、第1のFabフラグメントの軽鎖は、VLおよびCH1ドメインを含み、第1のFabフラグメントの重鎖は、VHおよびCLドメインを含む)か;
b)VHおよびVLドメインのみが、互いに置き換えられている(すなわち、第1のFabフラグメントの軽鎖は、VHおよびCLドメインを含み、第1のFabフラグメントの重鎖は、VLおよびCH1ドメインを含む)か;または
c)CH1およびCLドメインが、互いに置き換えられており、VHおよびVLドメインが、互いに置き換えられており(すなわち、第1のFabフラグメントの軽鎖は、VHおよびCH1ドメインを含み、第1のFabフラグメントの重鎖は、VLおよびCLドメインを含む);
第2のFabフラグメントは、VLおよびCLドメインを含む軽鎖、ならびにVHおよびCH1ドメインを含む重鎖を含み;
そのドメイン交換抗体は、CH3ドメインを含む第1の重鎖およびCH3ドメインを含む第2の重鎖を含み得、両方のCH3ドメインが、第1の重鎖と改変された第2の重鎖とのヘテロ二量体化を助けるために、例えば、WO96/27011、WO98/050431、EP1870459、WO2007/110205、WO2007/147901、WO2009/089004、WO2010/129304、WO2011/90754、WO2011/143545、WO2012/058768、WO2013/157954またはWO2013/096291(参照により本明細書中に援用される)に開示されているような、それぞれのアミノ酸置換によって相補的な様式で操作されている、多重特異性IgG抗体;
- 1アーム一本鎖抗体(1アーム一本鎖フォーマット):第1のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第1の結合部位および第2のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第2の結合部位を含む抗体であって、個々の鎖が以下の通りである、抗体:
- 軽鎖(可変軽鎖ドメイン+軽鎖カッパー定常ドメイン)
- 軽鎖/重鎖の組み合わせ(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン+ペプチドリンカー+可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ノブ変異を有するCH3)
- 重鎖(可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ホール変異を有するCH3);
- 2アーム一本鎖抗体(2アーム一本鎖フォーマット):第1のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第1の結合部位および第2のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第2の結合部位を含む抗体であって、個々の鎖が以下の通りである、抗体:
- 軽鎖/重鎖1の組み合わせ(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン+ペプチドリンカー+可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ホール変異を有するCH3)
- 軽鎖/重鎖2の組み合わせ(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン+ペプチドリンカー+可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ノブ変異を有するCH3);
- 一般的な軽鎖二重特異性抗体(一般的な軽鎖二重特異性抗体フォーマット):第1のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第1の結合部位および第2のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第2の結合部位を含む抗体であって、個々の鎖が以下の通りである、抗体:
- 軽鎖(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン)
- 重鎖1(可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ホール変異を有するCH3)
- 重鎖2(可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ノブ変異を有するCH3)。
【0085】
1つの態様において、二重特異性抗体は、ドメイン交換抗体である。
【0086】
1つの実施形態において、二重特異性抗体は、1アーム一本鎖抗体である。
【0087】
1つの実施形態において、二重特異性抗体は、2アーム一本鎖抗体である。
【0088】
1つの実施形態において、二重特異性抗体は、一般的な軽鎖二重特異性抗体である。
【0089】
表面プラズモン共鳴法
FcRnに対する抗体のカイネティック結合パラメータは、例えば、BIAcore装置(GE Healthcare Biosciences AB,Uppsala,Sweden)を使用して、表面プラズモン共鳴によって調べられ得る。
【0090】
一般に、標的抗原に対する抗体の親和性計測の場合、抗IgG抗体、例えば、抗ヒトIgGまたは抗マウスIgG抗体が、分析されるそれぞれの抗体の捕捉および提示のために、アミンカップリングを介してCM5チップなどのセンサーチップ上に固定化される。
【0091】
例えば、約2,000~12,000反応単位(RU)の10~30μg/ml抗IgG抗体が、GE Healthcareによって供給されるアミンカップリングキットを使用することによって、10~30μl/分でpH5.0においてBIAcore B4000またはT200装置内のCM5センサーチップのフローセル(例えば、スポット1および5は活性であり、スポット2および4は参照スポットであるか、またはスポット1および2は反応性であり、スポット3および4は参照スポットであるなど)のいくつかのスポット上にカップリングされる。
【0092】
同族抗原への抗体の結合は、HBS緩衝液(HBS-P(10mM HEPES、150mM NaCl、0.005%Tween 20,pH7.4)またはHBS-EP+緩衝液(0.01M HEPES、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.05%v/v Surfactant PS20,pH7.4)またはHBS-ET緩衝液(10mM HEPES pH7.4、150mM NaCl、3mM EDTA、0.005%w/v Tween20))中、25℃で(または代替的に12℃~37℃の範囲の異なる温度で)測定され得る。
【0093】
したがって、抗体を、それぞれの緩衝液に10nM~1μMの範囲の濃度で30秒間注入し、各フローセルの反応性スポットに結合させる。
【0094】
その後、対応する抗原を、抗体の親和性に応じて、例えば、144nM、48nM、16nM、5.33nM、1.78nM、0.59nM、0.20nMおよび0nMなどの様々な濃度で溶液中に注入し、10~30μl/分の流速で20秒~10分の注入時間で会合を測定する。
【0095】
チップ表面をそれぞれの緩衝液で3~10分間洗浄することによって、解離を測定する。
【0096】
値は、製造者のソフトウェアおよび指示書を用いて1:1ラングミュア結合モデルを使用して推定される。システム固有のベースラインドリフトの補正およびノイズシグナルの低減のために、サンプル曲線から陰性対照データ(例えば、緩衝液曲線)を差し引く。
【0097】
本発明の特定の実施形態
抗体の構造に起因して、分子レベルでのFcRnの結合は、非常に複雑である。
【0098】
したがって、IgG1 Fc領域は同じであるがFabが異なる抗体は、それらのFcRn相互作用において異なる挙動を示す(図1を参照のこと;抗体を含む異なるヒト化/キメラヒトIgG1 Fc領域のSPRセンサーグラム(探索的および立証済み);同じ濃度および同じ単量体濃度で同じSPR条件下においてセンサーグラムを記録した;唯一の相違点は、抗原結合部位である)。
【0099】
本発明は、FcRn設定が多くの変動を含み、SPRセンサー表面上のFcRnの固定化、すなわちFcRn捕捉を使用することによって、すべての抗体-FcRn相互作用に関する情報、すなわちFabおよびFc領域の情報を得ることができるという知見に少なくとも部分的に基づく。
【0100】
本発明は、古典的なKDの解釈によって、多様なIgG-FcRn相互作用を一斉に解釈しないことが好ましくないという知見に少なくとも部分的に基づく。個々の結合工程を精査した後にのみ、結合に寄与する分子相互作用を理解することが可能である。この理解があって初めて、Fc操作の適応Fabという意味で、必要な操作を適用することができる。
【0101】
本発明は、抗体重鎖の対称性に起因して、異なる結合事象の組み合わせが存在し、ゆえに、制御された量、すなわち規定された量のFcRnをSPRセンサー表面上に固定化することが重要であるという知見に少なくとも部分的に基づく。これは、FcRnの二量体化、例えば、ヘテロ二量体の形成を制御することによって達成される。FcRnは、pH依存的様式で二量体化することが見出されている。一本鎖FcRnを使用することによって、SPRセンサー表面上のFcRnの非常に均一な表面を提供することができる。
【0102】
安定性(log kd、オフレート)がx軸に対応し、認識(log ka、オンレート)がy軸に対応する2次元/3次元ダイアグラムを用いて、抗体-FcRn相互作用、すなわちFab-FcRn相互作用とFc領域-FcRn相互作用は分けられ得、かつ可視化され得る(例えば、図5を参照のこと)。そのような2次元/3次元ダイアグラムを生成するために、例えばRidgeview Diagnostics AB(Uppsala,Sweden)のInteraction Map(IM)ソフトウェアなどの任意の適切なソフトウェアを使用することができる。
【0103】
したがって、理論から、FcRnとの/FcRnに対する結合部位を厳密に1つ有するFc領域間の相互作用を分析する場合、スポットは1つだけ存在するはずである。
【0104】
図2には、単離されたFabレスFc領域-FcRn相互作用、すなわち、単離された抗体Fc領域と、1つのFc領域ポリペプチドに変異I253A/H310A/H435A(本明細書中ではKabatに従うナンバリングが使用される)を導入することによって得られる単一のFcRn結合部位との理論上の1:1相互作用の3次元ダイアグラム(x軸に安定性(log kd)、y軸に認識(log ka)、z軸に強度を有する)が示されている。基礎となる理論にもかかわらず、2つのスポットが存在するが、1つのFc領域ポリペプチドは、FcRn相互作用に関して不活性であり、すなわちFcRnに結合することができないことが分かる。より高い親和性を有する集団の一部分、すなわち原点により近いスポット(ダイアグラムの左下隅)は、SPR固体表面上、すなわちチップ上の固定化されたscFcRn(一本鎖FcRn)の密度が高くなるにつれて増加することが見出された。
【0105】
図3には、SPR固体表面上の完全長の単一特異性抗ジゴキシゲニン抗体とFcRnとの相互作用の2次元ダイアグラムが示されている。この場合、3つのスポットさえ見えることが分かる。
【0106】
事前に上記2つの例に示されたような相互作用の違いは、少なくとも部分的に、相互作用モードに起因し、すなわち、それがそれぞれ抗体とFcRnとの「複雑」な相互作用であるかまたは「単純」な相互作用であるかに起因する。
【0107】
したがって、これらの相互作用をすべて適切に解明するためには、改善されたSPR法を使用しなければならない。
【0108】
そのような改善された方法が本発明において提供される。
【0109】
より詳細には、本発明は、抗体-FcRn相互作用を検出するための方法を提供し、
- 固定化表面は、表面を有するSPRチップであり、捕捉基が、表面層に直接結合しており、そのチップは、デキストランマトリックスを有さず、
- 捕捉試薬は、単離された形態、すなわち、二量体化または多量体化されていない形態で提供され、すなわち、捕捉試薬は、アナライト(標的分子)に対する単一の結合部位のみを有し、
- 固定化に使用されるランニング緩衝液は、固定化中の捕捉試薬の凝集状態、すなわち単量体の形態として維持されるか、または二量体/多量体として維持されるかを制御する。
【0110】
この方法では、少量の捕捉試薬、すなわち50~150RUの範囲の捕捉試薬を固体表面に共有結合的にコンジュゲートすることができる。
【0111】
したがって、FcRnとFc領域/抗体との間の相互作用が分析されるべきである本発明の1つの態様において、
- センサー表面は、カルボキシメチル化表面を有するSPRチップであり、カルボキシル基は、表面層に直接結合しており、そのチップは、デキストランマトリックスを有さず、
- C末端His(10)-Aviタグを含む、ベータ-2-ミクログロブリン-ヒトFcRn融合ポリペプチド(これらの基は(GGGGS)4-ペプチドリンカーによって連結されている)は、中性pH(pH7.4の10mM HEPES中、約250μg/ml)でアミンカップリングを用いてセンサー表面上に固定化され、
- ランニング緩衝液は、10mM MES、150mM NaCl,pH5.8、0.05%P-20またはHBS-P緩衝液(10mM HEPES緩衝液,pH7.4、150mM NaCl、0.05%P-20)のどちらかである。
【0112】
本発明に係る方法では、少量のscFcRn、すなわち約80~120RUまたは50~100RUを固体表面に共有結合的にコンジュゲートすることができる。固定化は、pH7.4で行われるので、scFcRnが単量体の形態で固定化され、凝集物を形成しないことが確保される。その効果は、図4に示されており、センサーグラムが図5に示されており、単純なFc領域-FcRn相互作用、すなわち、1つのFc領域ポリペプチドに変異I253A/H310A/H435Aを導入し、対応する野生型Fc領域ポリペプチドをそれぞれの他のFc領域ポリペプチドとしてアミンカップリングによって低FcRn固定化レベルで維持することによって得られる単一のFcRn結合部位と、単離されたFabレス抗体Fc領域との1:1相互作用の対応する2次元ダイアグラム(x軸に安定性(log kd)、y軸に認識(log ka)を有する)が示されている。単一のスポットのみが存在することが分かる。
【0113】
これとは対照的に、scFcRnの固定化が、pH5.5で行われる場合、このpH値で生じるヘテロ二量体化に起因して、二量体scFcRnが固定化される。単量体scFcRnとの相互作用と比較して、シグナル強度が2倍高いことから、二量体scFcRnが2つのFc領域に結合できることが示される。
【0114】
図6には、複雑なIgG1完全長抗体-FcRn相互作用のセンサーグラムが示されている。図7および図8には、アミンカップリングを使用した低FcRn固定化レベルとビオチン/アビジンカップリングを使用した高FcRn固定化レベルでの複雑なIgG1完全長抗体-FcRn相互作用の2次元ダイアグラムがそれぞれ示されている。Fc領域-FcRn相互作用の他に、追加のスポットおよびそれによる相互作用が存在することが分かる。
【0115】
したがって、Fc領域にFabを付加することによって(1つのFc領域ポリペプチド中に変異I253A/H310A/H435Aおよびそれぞれの他のFc領域ポリペプチド中に野生型)、単離されたFab-FcRn相互作用の効果を測定することができる。
【0116】
第1の例では、図9図11において、これは、単一のFcRn結合部位(1つのFc領域ポリペプチド中に変異I253A/H310A/H435Aおよびそれぞれの他のFc領域ポリペプチド中に野生型;抗体の略図については、図42-aを参照のこと)を有するFc領域に付加された抗ジゴキシゲニンFabを用いて示されている。使用される緩衝液条件に応じて、相互作用を強めるまたは弱めることができる(低密度FcRn、約80RU):
- 150mM塩化ナトリウム(図9):分子内相互作用(1250nM;略図については、図16のスポット1を参照のこと)および分子間相互作用(20.5nM;略図については、図16のスポット2を参照のこと);
- 400mM塩化ナトリウム(図10):分子内相互作用(1060nM;150mM塩化ナトリウムと比較して強まっている)および分子間相互作用(60nM);
- 400mM塩化ナトリウムおよび20%(w/w)エチレングリコール(MW=62.07g/mol)(図11):分子内相互作用のみ(3230mM;他の条件と比較して弱まっている)、および分子間相互作用なし。
【0117】
したがって、高い緩衝液イオン強度と組み合わせて本発明に係る方法を適用することによって、Fab-FcRnを減少させることまたは排除することさえできる。この理論に拘束されるものではないが、すべての分子間相互作用とFab-FcRn相互作用が排除され、これらの条件下で測定される相互作用は、Fc領域-FcRn相互作用であると仮定される。
【0118】
第2の例では、1つのFc領域ポリペプチドに変異I253A/H310A/H435A(Fc-FcRn相互作用を排除する)、およびそれぞれの他のFc領域ポリペプチドに変異M252Y/S254T/T256E(Fc-FcRn相互作用の強度を増加させる)を有する非対称抗体についても、相互作用の強度の同じ変化が示されている(抗体の略図については図42-bを参照のこと):
- 150mM塩化ナトリウム:分子内相互作用(184nM;略図については、図16のスポット1を参照のこと)および分子間相互作用(4.7nM;略図については、図16のスポット2を参照のこと);
- 400mM塩化ナトリウム:分子内相互作用(166nM;150mM塩化ナトリウムと比較して強まっている)および分子間相互作用(6.2nM)。
【0119】
1つのFc領域ポリペプチドに変異I253A/H310A/H435A、およびそれぞれの他のFc領域ポリペプチドに変異T307H/N434Hを有する非対称抗体についても、相互作用の強度の同じ変化が測定されている(抗体の略図については図42-cを参照のこと):
- 150mM塩化ナトリウム:分子内相互作用(391nM;略図については、図16のスポット1を参照のこと)および分子間相互作用(10.4nM;略図については、図16のスポット2を参照のこと);
- 400mM塩化ナトリウム:分子内相互作用(325nM;150mM塩化ナトリウムと比較して強まっている)および分子間相互作用(4.3nMおよび39nM)。
【0120】
したがって、使用される緩衝液中の塩濃度の上昇は、Fc領域非対称抗体における分子内相互作用を強める。ゆえに、1つの実施形態において、その測定が、非対称抗体、すなわち、完全長、Y形、二価の二重特異性抗体の分子内相互作用の測定であるとき、緩衝液は、約400mMの塩、好ましくは塩化ナトリウムを含む。
【0121】
野生型IgG1 Fc領域に接続された同じ抗ジゴキシゲニンFabを使用すると、異なる効果が見られる(低密度FcRn,約80RU;図12図14):
- 150mM塩化ナトリウム(図12):382nMにおいて分子内結合1+2(略図については図15を参照のこと)、0.16nMにおいて分子内結合1+2+1+2(略図については図15を参照のこと);5.7nMにおいて分子間結合1+2’(略図については図15を参照のこと)、126nMにおいて分子間結合1+1’(略図については図15を参照のこと);
- 400mM塩化ナトリウム(図13):840nMにおいて分子内結合1+2(略図については図15を参照のこと)、0.33nMにおいて分子内結合1+2+1+2(略図については図15を参照のこと);4.8nMにおいて分子間結合1+2’(略図については図15を参照のこと)、100nMにおいて分子間結合1+1’(略図については図15を参照のこと);150mM塩化ナトリウムと比較して、分子内相互作用は弱まり、分子間相互作用は強まっている;
- 400mM塩化ナトリウムおよび20%(w/w)エチレングリコール(MW=62.07g/mol)(図14):1140nMにおいて分子内結合1+2(略図については図15を参照のこと)および75nMにおいて分子間結合1+1’(略図については図15を参照のこと);150mM塩化ナトリウムと比較して、分子内相互作用は弱まり、分子間相互作用が強まっている(すなわち、他のスポットと比較してより優勢である)。
【0122】
両方のFc領域ポリペプチドに変異M252Y/S254T/T256Eを有するIgG1 Fc領域に接続された同じ抗ジゴキシゲニンFabを使用すると、同じ効果が見られる(低密度FcRn,約80RU)(抗体の略図については図42-dを参照のこと):
- 150mM塩化ナトリウム:92nMにおいて分子内結合1+2(略図については図15を参照のこと)、分子内結合1+2+1+2(略図については図15を参照のこと);
- 400mM塩化ナトリウム:92nMにおいて分子内結合1+2(略図については図15を参照のこと)、1.6nMにおいて分子内結合1+2+1+2(略図については図15を参照のこと)。
【0123】
高いFc結合強度において見られるように、Fc領域が、非常に強いFcRn結合のために操作されている場合、Fc-FcRn相互作用によって駆動されるスポットとFab-Fc媒介性のアビディティースポットとの間のバランスは、Fc-FcRn相互作用のみにシフトする。
【0124】
両方のFc領域ポリペプチドに変異T307H/N434Hを有するIgG1 Fc領域に接続された同じ抗ジゴキシゲニンFabを使用すると、同じ効果が見られる(低密度FcRn,約80RU)(抗体の略図については図42-eを参照のこと):
- 150mM塩化ナトリウム:177nMにおいて分子内結合1+2(略図については図15を参照のこと)、0.12nMにおいて分子内結合1+2+1+2(略図については図15を参照のこと);3nMにおいて分子間結合1+2’(略図については図15を参照のこと)、71nMにおいて分子間結合1+1’(略図については図15を参照のこと);
- 400mM塩化ナトリウム:156nMにおいて分子内結合1+2(略図については図15を参照のこと)、0.13nMにおいて分子内結合1+2+1+2(略図については図15を参照のこと);25nMにおいて分子間結合1+1’(略図については図15を参照のこと)。
【0125】
pH依存性FcRn相互作用の増強のために抗体を操作することによる抗体-FcRn相互作用の劇的な増加は、必ずしも同様に改善された薬物動態特性をもたらすわけではないことが見出された。
【0126】
さらに、例えば、YTE変異を導入するとき、抗体は、改変された熱安定性を有し得るので、抗体の薬物動態学的操作の場合のシフトパターンよりも、親抗体と一致する相互作用スポットパターンを有することが好ましいことが見出された(図36を参照のこと)。
【0127】
複雑な多段階の抗体-FcRn結合機構は、以下を含む多変量の機構である:
- pH依存性親和性:FcRn結合を単純な1:1相互作用で説明することはできない。
- pH依存性アビディティー:両方のFc領域重鎖が、Fc-FcRn相互作用に関与している;
- Fabの寄与:追加かつ同時のFab-FcRn相互作用に起因して、いくつかの相互作用が合わさって不均一な結合パターンになる。
【0128】
したがって、胎児性Fc受容体へのIgGの二又の結合機構は、複雑な安定性およびIgG血清半減期を制御する。その複雑さは、図15および図16に可視化されている。
【0129】
本発明は、i)SPRチップ、特に一本鎖FcRnの使用および中性/生理学的pH(すなわち、pH7~pH8の範囲)での固定化を制御すること、ならびにii)緩衝液条件を調整することによって、抗体とFcRnとの間の多段階結合機構を薬物動態学的特性に関して、操作された抗体の選択およびスクリーニングに使用することができるという知見に少なくとも部分的に基づく。ある特定の実施形態では、抗体は単純化され、かつ/またはx軸上の安定性(log kd)およびy軸上の認識(log ka)を用いた適切な可視化が、異なる抗体-FcRn相互作用を分離するために使用され、かつ/または薬物動態特性は、pH依存性FcRn結合である。
【0130】
したがって、本発明に係る方法を用いて実行される計測は、単量体の固定化FcRnを用いて行われる。これにより、以下を解明することが可能である:
- 結合/相互作用の結合価の影響
- Fab電荷の影響
- チップ表面上のFcRn密度の影響
- 緩衝液組成の影響。
【0131】
まず、SPRチップの表面に(sc)FcRnを固定化するためにアミンカップリングまたはビオチン/アビジンカップリングを使用することによって、コーティング密度が低レベルに制御され(図19図26を参照のこと)、すなわち、チップ表面上のFcRn密度が、他の方法と比べて低下される。これにより、当該方法の感度が向上し、種々の相互作用を、個別化された形態で可視化することができる。安定性(log kd)をx軸に、認識(log ka)をy軸に有する2次元または3次元ダイアグラムを使用することによって、すなわち、適切な可視化によって、抗体-FcRn相互作用全体に対する、一方ではFc操作の影響、他方ではFab-FcRn相互作用の影響を可視化することができる。特に、Fc-FcRn結合強度とFab-FcRn結合強度との相互関係を分離することができる(図17および図18を参照のこと)。
【0132】
そのような2次元または3次元ダイアグラムを生成するために、例えば、Ridgeview Diagnostics AB(Uppsala,Sweden)のInteraction Map(IM)ソフトウェアなどの任意の好適なソフトウェアを使用することができる。
【0133】
図21および図22には、約1700RUのコーティング密度でビオチン/アビジンカップリングを用いて得られた分割が示されている。図23および図24には、約80RUのコーティング密度でビオチン/アビジンカップリングを用いて得られた分割が示されている。図25および図26には、約80RUのコーティング密度でビオチン/アビジンカップリングを用いて得られた分割が示されている。
【0134】
好ましい1つの実施形態において、本発明に係る方法においてアミンカップリングを用いたコーティング密度は、約80~115pg(sc)FcRn/mmチップ表面(80~115RUに対応する)である。
【0135】
好ましい1つの実施形態において、本発明に係る方法においてビオチン/アビジンカップリングを用いたコーティング密度は、約1700pg(sc)FcRn/mmチップ表面(1700RUに対応する)である。
【0136】
第2に、SPRチップコーティングをpH依存的様式で行うことによって、制御されたscFcRn単量体の固定化が達成される。したがって、固定化は、scFcRnが単量体の形態で固定化され、固定化プロセス中に二量体または多量体を形成しないことを確保するためにpH7.4で行われる。それにより、少量のscFcRn、すなわち約80~120RUを固体表面に共有結合的にコンジュゲートすることができる。これとは対照的に、scFcRnの固定化が、pH5.5で行われる場合、このpH値で生じるヘテロ二量体化に起因して、二量体scFcRnが固定化される。
【0137】
1つの具体的な実施形態において、センサー表面は、カルボキシメチル化表面を有するSPRチップであり、カルボキシル基は、表面層に直接結合しており、そのチップは、デキストランマトリックスを含まない。この実施形態では、C末端His(10)-Aviタグを含む、ベータ-2-ミクログロブリン-ヒトFcRn融合ポリペプチド(これらの基は(GGGGS)4-ペプチドリンカーによって連結されている)を、中性pH(pH7.4の10mM HEPES中、約250μg/ml)でアミンカップリングを用いて固体表面に固定化する。これにより、約80RUのFcRnが、固体表面に共有結合的にコンジュゲートされる。使用されるランニング緩衝液は、10mM MES、150mM NaCl,pH5.8、0.05%P-20またはHBS-P緩衝液(10mM HEPES,pH7.4、150mM NaCl、0.05%P-20)のどちらかである。
【0138】
本発明に係る方法を用いて、Fab-FcRn相互作用とFc領域-FcRn相互作用の効果を分析することができる。図27には、同じ親抗CD44抗体の5つのFab電荷バリアントの2次元ダイアグラムが示されている。改変の種類に応じて、Fab-FcRn相互作用が変化することが分かる。図28には、同じ親抗CD44抗体の4つのFc領域バリアントの2次元ダイアグラム(左上の図)が示されている。改変の種類に応じて、Fc領域-FcRn相互作用が変化することが分かる。
【0139】
したがって、本発明で描写される効果は、解離定数(安定性;log kd)がx軸上に示され、会合定数(認識;(log ka)がy軸に示されている、2次元または3次元ダイアグラムを用いて示され得る。このような2次元または3次元ダイアグラムを使用することにより、抗体-FcRn相互作用全体に対する、一方ではFc操作の影響、他方ではFab-FcRn相互作用の影響を可視化することができる。特に、Fc-FcRn結合強度とFab-FcRn結合強度との相互関係を分離することができる(図17および図18を参照のこと)。
【0140】
そのような2次元または3次元ダイアグラムを生成するために、例えば、Ridgeview Diagnostics AB(Uppsala,Sweden)のInteraction Map(IM)ソフトウェアなどの任意の好適なソフトウェアを使用することができる。
【0141】
抗体を単純化することによって、抗体-FcRn相互作用全体に対する抗体内の単一の改変の効果をモニターすることが可能である(図29図31を参照のこと)。
【0142】
本発明は、pH依存性の全体的な抗体-FcRn相互作用の強度が、好適なpH依存性のFcRn媒介性抗体リサイクリングを有することによって長いインビボ半減期を有する抗体を選択するために、pH5.5~6.0で100~400nMの範囲でなければならないという知見に少なくとも部分的に基づく。その全体的な抗体-FcRn相互作用の強度は、Fc-FcRnおよびFab-FcRn相互作用を含む。
【0143】
pH5.5~pH6.5の範囲の高い片側のFc結合強度(例えば、200nM以上)は、pH7.4以上での低いまたは検出不能な結合強度に関係があるはずである。これは、改善された薬物動態学的特性を有する抗体バリアントの選択に使用され得る。
【0144】
Fab-FcRn相互作用から生じる全相互作用の割合は、2次元もしくは3次元ダイアグラムに見られる追加のスポットから、および/またはFc領域の相互作用を別々に分析することによって、導き出され得る(例えば、Fabフラグメントを切断した後)。追加のスポットの数/影響を受けたスポットの数が多いほど、Fab-FcRn相互作用が多く存在する。
【0145】
前記Fab-FcRn相互作用は、例えば、Fab内の残基を変異させることによって減少され得るか、またはpH依存性のFc領域-FcRn相互作用は、例えば、Fc操作によって増加され得る。最善においては、両方の操作技術が組み合わされる。
【0146】
例えば、図31および図32における抗体mAb-1、mAb-2およびmAb-3は、変異I253A/H310A/H435Aを導入することによって1つのFc領域ポリペプチドにおけるFcRn結合がサイレントであり、変異M252Y/S254T/T256EおよびM252Y/S254T/T256E/T307Q/N434Yをそれぞれ導入することによって、それぞれの他のFc領域ポリペプチドにおいて増大したFcRn親和性を有する。Fab-FcRn相互作用が減少し、Fc領域-FcRn親和性が増加していることが分かる。これにより、抗体-FcRn相互作用が、Fc領域-FcRn相互作用のみに依存するようになり、Fab-FcRn相互作用の寄与/それによる歪みがほとんど排除される。
【0147】
Fc-FcRn相互作用を改善する/増加させるための上限は、pH依存性結合の完全な排除である。そのような排除は、例えば、ヒトIgG1 wt-Fc領域(例えば、Patel et al.,J.Immunol.187(2011)1015-1022)に変異MST-HNを導入すること(Met252からTyrへ、Ser254からThrへ、Thr256からGluへ、His433からLysへ、Asn434からPheへ)によって達成される。
【0148】
FabとFcRnとの間にどのような種類の相互作用が存在するか、すなわち電荷または疎水性に基づくかは、SPR分析において異なる緩衝液組成を使用して明らかにすることができる。例えば、SPR緩衝液にエチレングリコールを加えることにより、Fc-FcRn/Fab-FcRn相互作用比が上昇する場合、疎水性Fab-FcRn相互作用の存在が見られる。同様に、イオン性/電荷駆動性のFab-FcRn相互作用の存在は、SPR緩衝液に塩を加えることにより、Fc-FcRn/Fab-FcRn相互作用比が上昇する場合に見られる(図9図14および図29図32を参照のこと)。
【0149】
これは、図33に要約されている。
【0150】
本発明に係る方法では、異なる抗体-FcRn相互作用を別々に分析することができる(図34を参照のこと)。
【0151】
異なる相互作用の分離に基づいて、本発明に係る方法は、抗体の開発および選択/スクリーニングにおける複数の用途に使用され得る。
【0152】
1つの態様は、抗体スクリーニングのための本発明に係る方法である。抗体スクリーニングでは、Fc-FcRn相互作用の親和性/強度が選択基準である。分子内アビディティーは、塩の増加/添加によって測定され/弱められ得る。分子間アビディティーは、溶液密度によって弱められ得る。これは、図35に模式的に示されている。
【0153】
1つの態様は、抗体操作のための本発明に係る方法である。抗体操作では、Fc-FcRn相互作用とFab-FcRn相互作用との比の上昇が、標的の基準である。例えば、異なるFc領域操作、すなわちFcRn結合に影響する異なる変異の導入は、異なるパターンをもたらす(図36を参照のこと)。
【0154】
抗体-FcRn相互作用に対するFc領域操作の効果を示すために、抗体ブリアキヌマブ(Ozespa(商標))およびウステキヌマブ(Stelara(商標))をモデル系として使用した。ブリアキヌマブとウステキヌマブの両方が、完全ヒトモノクローナルIgG1抗体である。それらは、インターロイキン12(IL-12)およびインターロイキン23(IL-23)の同じヒトp40サブユニットに結合し、対応するマウスIL-12およびIL-23に対して交差反応性ではない。ブリアキヌマブおよびウステキヌマブは、それぞれVH5およびVκ1D生殖細胞系列ファミリーの可変重鎖ドメインおよび可変軽鎖ドメインを有するIgG1κ抗体、ならびにVH3およびVλ1生殖細胞系列ファミリーの可変重鎖ドメインおよび可変軽鎖ドメインを有するIgG1λ抗体である。異なる可変ドメインに加えて、ブリアキヌマブおよびウステキヌマブは、定常ドメインにおいていくつかのアロタイプ特異的アミノ酸の違いを示す(図40および図41におけるアラインメントを参照のこと;ブリアキヌマブおよびウステキヌマブの軽鎖および重鎖の配列アラインメント-VHおよびVL領域がイタリックで示されている;CDRにアスタリスク(*)が付されている)。
【0155】
しかしながら、それらのアミノ酸の相違は、(同族の)FcRn結合領域の外側にあるので、FcRn依存性薬物動態において役割を果たさないと考えられ得る(例えば、Ropeenian,D.C.and Akilesh,S.,Nat.Rev.Immunol.7(2007)715-725を参照のこと)。興味深いことに、ウステキヌマブは、22日という終末相半減期の(報告された)中央値(Zhu,Y.,et al.,J.Clin.Pharmacol.49(2009)162-175)を有するのに対して、ブリアキヌマブは、わずか8~9日という終末相半減期を有する(Gandhi,M.,et al.,Semin.Cutan.Med.Surg.29(2010)48-52;Lima,X.T.,et al.Expert.Opin.Biol.Ther.9(2009)1107-1113;Weger,W.,Br.J.Pharmacol.160(2010)810-820を参照のこと)。
【0156】
抗体ブリアキヌマブのアミノ酸配列は、WO2013/087911(配列番号01および配列番号02)に報告されており、抗体ウステキヌマブのアミノ酸配列は、WO2013/087911(配列番号03および配列番号04)に報告されており、抗体ベバシズマブのアミノ酸配列は、Drug BankエントリーDB00112に報告されている。
【0157】
インビボ半減期を延長する、YTE変異を有するウステキヌマブとFcRnとの相互作用のpH依存性2次元ダイアグラムが図37に示されている。この相互作用は、低pH値で強く、生理学的pH値では弱いことが分かる。これは、効率的なpH依存性FcRn媒介性リサイクリング、したがって長いインビボ半減期をもたらす。
【0158】
インビボ半減期を延長する、YTE変異を有するブリアキヌマブおよびブリアキヌマブの相互作用のpH依存性2次元ダイアグラムが、それぞれ図38および図39に示されている。この相互作用は、低pH値と生理学的pH値で強いことが分かる。これは、pH依存性FcRn媒介性リサイクリングを損ない、したがって短いインビボ半減期をもたらす。ブリアキヌマブの場合のFc領域の操作は、Fab-FcRn相互作用を増加させることも分かる。
【0159】
さらに、2次元または3次元ダイアグラムにおけるスポットのシフトは、wt-Fc領域の操作から生じるFc領域の歪みの指標である。
【0160】
したがって、抗体-FcRn相互作用の2次元または3次元の可視化を用いることによって、インビボ効果を、例えば、FcRnカラムクロマトグラフィーと比較して、分析することができる。
【0161】
要旨
抗体半減期は、FcRnによって左右される。基礎となるリサイクリング機構は、FcRnに対する抗体のpH依存性結合に基づく。抗体FcRn相互作用が二又の結合機構であることは以前に記載されている(Jensen et al.,Mol.Cell Proteom.16(2017)451-456)。この機構は、水素-重水素交換(HDX)によって明らかにされた。
【0162】
抗体Fc領域は、2つの重鎖を含む。表面に結合したFcRnを利用するすべてのアッセイ設定は、速度論的挙動が2:1の相互作用と1:1の相互作用との組み合わせであるという問題によって妨げられている。塗布されたFcRnコーティング密度に応じて、Fc領域は、両方または1つだけの結合部位と相互作用することができる。
【0163】
古典的なカップリング化学は、通常、SPRチップのランダムな占有しか可能にしない。チップ上のより低いFcRn濃度によって、局所的な高いFcRn密度の確率だけが導かれ得る。
【0164】
本発明に係る方法では、FcRnがpH依存性自己相互作用も示すことを実証することができた。この相互作用は、機構の詳細に関するより詳細な情報を与えるアッセイ設定について考慮されなければならない。
【0165】
したがって、本発明のこの態様は、Fc-FcRnの結合評価における個々の相互作用を説明する新規のSPRベースのFc-FcRn結合アッセイである。
【0166】
本発明のこの態様は、例えばSPRチップなどの固相上のpH依存性FcRnコーティングに少なくとも部分的に基づく。
【0167】
本発明のこの態様に係る方法は、ただ1つの活性なFcRn結合部位を用いて抗体の複雑さをFc領域のみにまで低下させ、その後、その分子のさらなるドメインを次々に追加し戻すことによって、確認されている。
【0168】
複雑なカイネティクスは、Interaction Mapというソフトウェアを使用して解明され得る。これにより、同時に起きる抗体-FcRn相互作用の特徴付けおよび単離が可能になった。
【0169】
本発明に係る方法を用いて得られたデータをそれぞれの野生型抗体の結合プロファイルと比較することによって、ヒト上皮リサイクリングアッセイ(HERA)およびヒトFcRnトランスジェニックマウスにおいて、インビボ薬物動態などの抗体輸送およびリサイクリング(のより高い複雑性)についての本発明に係るインビトロアッセイの予測性が示された。
【0170】
抗Dig抗体の場合、Fab-FcRn結合の寄与は非常に強く、ヒトトランスジェニックマウスモデルにおいて、対称なYTE操作抗体に明確な差をインビボでは観察できないことが実証された。
【0171】
以下の実施例および図は、本発明の理解を助けるために提供されており、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に示されている。本発明の趣旨から逸脱することなく、示された手順に修正を加えることができると理解される。
【図面の簡単な説明】
【0172】
図1】抗体を含む異なるヒト化/キメラヒトIgG1 Fc領域のSPRセンサーグラム(探索的および立証済み);同じ濃度および同じ単量体濃度で同じSPR条件下においてセンサーグラムを記録した;唯一の相違点は、抗原結合部位である。
図2】単離されたFabレスFc領域-FcRn相互作用、すなわち、単離された抗体Fc領域と、1つのFc領域ポリペプチドに変異I253A/H310A/H435A(本明細書中ではKabatに従うナンバリングが使用される)を導入することによって得られる単一のFcRn結合部位との理論上の1:1相互作用の3次元ダイアグラム(x軸に安定性(log kd)、y軸に認識(log ka)、z軸に強度を有する)。
図3】SPR固体表面上の完全長の単一特異性抗ジゴキシゲニン抗体とFcRnとの相互作用の2次元ダイアグラム。
図4】単純なFc領域-FcRn相互作用、すなわち、1つのFc領域ポリペプチドに変異I253A/H310A/H435Aを導入し、対応する野生型Fc領域ポリペプチドをそれぞれの他のFc領域ポリペプチドとしてアミンカップリングによって低FcRn固定化レベルで維持することによって得られる単一のFcRn結合部位と、単離されたFabレス抗体Fc領域との1:1相互作用のセンサーグラム。
図5】単純なFc領域-FcRn相互作用、すなわち、1つのFc領域ポリペプチドに変異I253A/H310A/H435Aを導入し、対応する野生型Fc領域ポリペプチドをそれぞれの他のFc領域ポリペプチドとしてアミンカップリングによって低FcRn固定化レベルで維持することによって得られる単一のFcRn結合部位と、単離されたFabレス抗体Fc領域との1:1相互作用の2次元ダイアグラム(x軸に安定性(log kd)、y軸に認識(log ka)を有する)。
図6】複雑なIgG1完全長抗体-FcRn相互作用のセンサーグラム。
図7】アミンカップリングを使用した低FcRn固定化レベルでの複雑なIgG1完全長抗体-FcRn相互作用の2次元ダイアグラム。
図8】ビオチン/アビジンカップリングを使用した高FcRn固定化レベルでの複雑なIgG1完全長抗体-FcRn相互作用の2次元ダイアグラム。
図9】150mM塩化ナトリウムで測定された、単一のFcRn結合部位(1つのFc領域ポリペプチド中に変異I253A/H310A/H435Aおよびそれぞれの他のFc領域ポリペプチド中に野生型)を有するFc領域に付加された抗ジゴキシゲニンFabの単離されたFab-FcRn相互作用の効果。
図10】400mM塩化ナトリウムで測定された、単一のFcRn結合部位(1つのFc領域ポリペプチド中に変異I253A/H310A/H435Aおよびそれぞれの他のFc領域ポリペプチド中に野生型)を有するFc領域に付加された抗ジゴキシゲニンFabの単離されたFab-FcRn相互作用の効果。
図11】400mM塩化ナトリウムおよび20%(w/w)エチレングリコール(MW=62.07g/mol)で測定された、単一のFcRn結合部位(1つのFc領域ポリペプチド中に変異I253A/H310A/H435Aおよびそれぞれの他のFc領域ポリペプチド中に野生型)を有するFc領域に付加された抗ジゴキシゲニンFabの単離されたFab-FcRn相互作用の効果。
図12】150mM塩化ナトリウムで測定された、野生型IgG1 Fc領域に付加された抗ジゴキシゲニンFabの単離されたFab-FcRn相互作用の効果。
図13】400mM塩化ナトリウムで測定された、野生型IgG1 Fc領域に付加された抗ジゴキシゲニン-Fabの単離されたFab-FcRn相互作用の効果。
図14】400mM塩化ナトリウムおよび20%(w/w)エチレングリコール(MW=62.07g/mol)で測定された、野生型IgG1 Fc領域に付加された抗ジゴキシゲニン-Fabの単離されたFab-FcRn相互作用の効果。
図15】異なる分子内Fab-FcRnおよびFc領域-FcRn相互作用を示している略図。
図16】分子内および分子間の抗体FcRn相互作用を示している略図。
図17】Fc-FcRnおよびFab-FcRnの結合強度の相互関係が分離されたセンサーグラムを分離することができる。
図18】Fc-FcRnおよびFab-FcRnの結合強度の相互関係が分離された2次元ダイアグラム。
図19】SPRチップの表面に(sc)FcRnを固定化するためのビオチン/アビジンカップリング密度。
図20】コーティング密度を低レベルに制御するためにSPRチップの表面に(sc)FcRnを固定化するためのアミンカップリング。
図21】ビオチン/アビジンカップリングによって捕捉された約1700RUの(sc)FcRnを有するチップを使用した、野生型IgG1 Fc領域を有する抗ジゴキシゲニン抗体のFc-FcRnおよびFab-FcRnの結合強度を示している2次元ダイアグラム。
図22】ビオチン/アビジンカップリングによって捕捉された約1700RUの(sc)FcRnとの、対称のM252Y/S254T/T256E変異を有するIgG1 Fc領域を有する抗ジゴキシゲニン抗体のFc-FcRnおよびFab-FcRnの結合強度を示している2次元ダイアグラム。
図23】ビオチン/アビジンカップリングによって捕捉された約80RUの(sc)FcRnを有するチップを使用した、野生型IgG1 Fc領域を有する抗ジゴキシゲニン抗体のFc-FcRnおよびFab-FcRnの結合強度を示している2次元ダイアグラム。
図24】ビオチン/アビジンカップリングによって捕捉された約80RUの(sc)FcRnとの、対称のM252Y/S254T/T256E変異を有するIgG1 Fc領域を有する抗ジゴキシゲニン抗体のFc-FcRnおよびFab-FcRnの結合強度を示している2次元ダイアグラム。
図25】アミンカップリングによって捕捉された約80RUの(sc)FcRnを有するチップを使用した、野生型IgG1 Fc領域を有する抗ジゴキシゲニン抗体のFc-FcRnおよびFab-FcRnの結合強度を示している2次元ダイアグラム。
図26】アミンカップリングによって捕捉された約80RUの(sc)FcRnとの、対称のM252Y/S254T/T256E変異を有するIgG1 Fc領域を有する抗ジゴキシゲニン抗体のFc-FcRnおよびFab-FcRnの結合強度を示している2次元ダイアグラム。
図27】親および同じ親抗CD44抗体の5つのFab電荷バリアントのFab-FcRnおよびFc領域-FcRn相互作用の2次元ダイアグラム。
図28】Fab-FcRn相互作用、および同じ親抗CD44抗体の4つのFc領域バリアントのFab-FcRnおよびFc領域-FcRn相互作用の2次元ダイアグラム(左上のダイアグラム)が示されている。
図29】1アームFab-Fc領域融合物を使用した、抗体-FcRn相互作用全体に対する抗体内のM252Y/S254T/T256E変異、すなわち単一改変の導入の効果のモニタリング。
図30】1アームFab-Fc領域融合物を使用した、抗体-FcRn相互作用全体に対する抗体内のV308P/Y436H変異、すなわち単一改変の導入の効果のモニタリング。
図31】1アームFab-Fc領域融合物を使用した、抗体-FcRn相互作用全体に対するI253A/H310A/H435A変異、すなわち単一改変の導入、および抗体内のFabの除去(対 図29のmAb-2)の効果のモニタリング。
図32】1アームFab-Fc領域融合物を使用した、抗体-FcRn相互作用全体に対する抗体内のT307Q/N434AおよびさらにはV308P/Y436H変異、すなわち2つの単一改変の導入の効果のモニタリング。
図33】疎水性および電荷駆動性の抗体-FcRn相互作用の脱直線化。
図34】種々の抗体-FcRn相互作用の分析。
図35】塩の増加/添加による分子内アビディティーの測定/弱化および溶液密度による分子間アビディティーの測定/弱化を示している2次元スキーム。
図36】例えば、YTE変異を導入するとき、抗体は、改変された熱安定性を有し得るので、抗体の薬物動態学的操作の場合のシフトスポットパターンよりも、親抗体の相互作用スポットパターンと一致することが好ましいことを示している相互作用スポットパターン。
図37】YTE変異を有するウステキヌマブとFcRnとの相互作用のpH依存性2次元ダイアグラム。
図38】ブリアキヌマブとFcRnとの相互作用のpH依存性2次元ダイアグラム。
図39】YTE変異を有するブリアキヌマブとFcRnとの相互作用のpH依存性2次元ダイアグラム。
図40】ウステキヌマブおよびブリアキヌマブの軽鎖アミノ酸配列のアラインメント;CDRにアスタリスク(*)が付されている。
図41】ウステキヌマブおよびブリアキヌマブの重鎖アミノ酸配列のアラインメント;CDRにはアスタリスク(*)が付されている。
図42】実施例で使用された抗体の略図。
【0173】
材料
製造者による情報:
センサーチップC1は、カルボキシメチル化された平らな表面を有する。センサーチップCM5と同じ機能を提供するが、デキストランマトリックスを有しない(カルボキシル基が表面層に直接結合している)。表面マトリックスが存在しないことにより、センサーチップC1はセンサーチップCM5よりも親水性が低くなる。実験プロトコルは、センサーチップC1およびセンサーチップCM5に対して同じ原理に従う。表面マトリックスが存在しないと、同等の条件下のセンサーチップCM5上で得られる固定化収率のおよそ10%である固定化収率がもたらされる。
【0174】
アミンカップリングは、リガンドのN末端およびリジン残基のε-アミノ基を利用する。
【0175】
固定化の手順
一般に、固定化の手順は、以下の3つの異なる部分からなる:
活性化:別の分子と共有結合を形成することができるようなセンサーチップのプライミング
カップリング:センサー表面と共有結合を形成するようなリガンドの注入
不活性化:残りの活性な表面基をクエンチするための低分子反応基の注入
【0176】
活性化:
デキストランベースのセンサーチップ上の共有結合性アミン結合化学の場合、カルボキシル基は、NHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)とEDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)との混合物で活性化されて、N-ヒドロキシ-スクシンイミドエステルを生成する。活性化時間を変化させることによって、より多いまたはより少ないカルボキシル基が活性化される。さらに、NHS/EDC混合物の濃度を変化させて、活性化カルボキシル基の量を制御することができる。活性化された基の量は、リガンドがセンサー表面にどれだけ結合できるかを測定する。BIACOREのCM5センサーチップの標準的な活性化時間は、5μl/分の流速において0.05M NHS/0.2M EDCを用いたとき7分である。
【0177】
カップリング:
選択されたpHでのリガンドの反応性は、リガンドが活性化表面に結合する速度を測定する。プレコンセントレーションの速度は、固定化溶液のリガンド濃度およびpHに直接関係する。リガンド濃度が高すぎると、リガンドのプレコンセントレーション応答が高くなるが、適切な量のリガンドを固定化することも困難になる。リガンドが活性化表面と接触している時間と、結合したリガンドの量との間の関係は、センサーチップが飽和に達するので、直線的ではない。
【0178】
固定化するリガンドの量:
固定化されるリガンドの量は、用途に依存する。
【0179】
特異性の計測の場合、良好なシグナルがもたらされる限り、ほぼいずれのリガンド密度でもよい。
【0180】
濃度の計測は、物質移動の制限を容易にするために最も高いリガンド密度を必要とする。総物質移動制御実験では、結合はアナライト濃度に依存し、リガンドとアナライトとの間の結合カイネティクスには依存しない。
【0181】
親和性の順位付けは、低密度から中密度のセンサーチップを用いて行われ得る。アナライトが適切な時間枠内でリガンドを飽和させることが重要である。
【0182】
カイネティクスは、物質移動または立体障害などの二次的要因によって妨害されることなく依然として良好な応答を与える最低のリガンド密度で行われるべきである。
【0183】
低分子量結合は、適切なシグナルを得るために可能な限り多くのアナライトに結合するために、高密度センサーチップを用いて行われるべきである。
【0184】
一般に、カイネティック計測では、アナライトが注入されたとき(1),(2)、多くとも100RUの全アナライト応答が望ましい(物質輸送を参照のこと)。この値(Rmax)を念頭に置いて、固定化されるリガンドの量(反応単位)は、以下を用いて計算され得る:Rmax応答/リガンド応答。
【0185】
不活性化:
不活性化溶液は、残りのすべての活性化部位を過剰の試薬でブロッキングし、その高いイオン強度および高いpHが理由で、その溶液は、静電的に結合したリガンドの大部分を洗い流す。アミンカップリングの手順は、通常、エタノールアミンでブロッキングされるが、BSAまたはカゼインの使用も可能である。高い塩濃度がリガンドにとって有害である場合、実験者は、すべての活性部位が減衰してカルボキシル基に戻るまで待つことができる。ブロッキングの目的は、活性化された基を除去し、表面を可能な限り不活性にすることである。
【0186】
正に帯電したアナライトを分析している場合、センサー表面の負電荷を低減するため、ひいては非特異的結合の可能性を低減するために、表面をエチレンジアミンでブロッキングすることができる。
【0187】
参考文献:
(1)Karlsson,R.et al Kinetic analysis of monoclonal antibody-antigen interactions with a new biosensor based analytical system.Journal of Immunological Methods 229-240;(1991).
(2)Myszka,D.G.Survey of the 1998 optical biosensor literature.J.Mol.Recognit.12:390-408;(1999).
【0188】
アミンカップリング
アミンカップリングは、リガンドのN末端およびリジン残基のε-アミノ基を利用する。ナンバリングされた点は、固定化の手順における異なる段階のことを指す。
【0189】
1)連続流(5μl/分)による未修飾センサーチップ表面のベースライン。
【0190】
2)カルボキシメチル基をN-ヒドロキシスクシンイミドエステルに修飾することによって表面を活性化するためのNHS/EDCの35μl注入。
【0191】
3)活性化後のベースライン。表面の活性化は、SPRシグナル(100~200RU)にごくわずかな影響しか及ぼさない。
【0192】
4)リガンド(10~200μg/ml)の注入は、表面マトリックスへの静電引力およびカップリングをもたらす。この時点において、リガンド溶液は、依然としてセンサー表面と接触しており、応答には、固定化されたリガンドと非共有結合的に結合したリガンドとの両方が含まれる。N-ヒドロキシスクシンイミドエステルは、リガンド上のアミンと自発的に反応して共有結合を形成する(1)。
【0193】
5)不活性化前の固定化されたリガンド。リガンドがセンサー表面を通過し、共有結合していないタンパク質の大部分が溶出する。
【0194】
6)NaOHでpH8.5に調整された35μlの1Mエタノールアミン塩酸塩を使用した未反応NHSエステルの不活性化。SPRシグナルの増加は、バルク屈折率の変化に起因する。不活性化プロセスはまた、残りの静電気的に結合したリガンドを除去する。
【0195】
7)点7-点3により、不活性化後の固定化されたリガンドの量がもたらされる。
【0196】
アミンカップリングは、カップリングする新しい分子での第1選択である。しかしながら、酸性リガンド(pI<3.5)を固定化することは困難である。また、遊離アミン基が、生物学的活性部位に存在するとき、他の化学のうちの1つを調べなければならない。
【0197】
参考文献
(1)Johnsson,B.et al Immobilization of proteins to a carboxymethyldextran-modified gold surface for biospecific interaction analysis in surface plasmon resonance sensors.Analytical Biochemistry 198:268-277;(1991).
【実施例
【0198】
実施例1
Fc-FcRn相互作用を測定するための一般的なSPR法
すべての計測は、BIAcore T200装置(GE Healthcare)を使用して25℃で行われた。ビオチン化された一本鎖ヒトFcRnをすべての相互作用研究に使用した。
【0199】
FcRnを、低密度固定化および高密度固定化の2つの異なる方法で固定化した。
【0200】
低密度固定化の場合、標準的なアミンカップリングを用いてC1チップにFcRnを固定化した。ゆえに、タンパク質を緩衝液(10mM HEPES;pH7.4)で0.245mg/mlの濃度に希釈し、チップ表面上に60秒間注入した。この固定化により、およそ80RUの固定化レベルがもたらされた。
【0201】
高密度固定化の場合、ビオチン捕捉によってFcRnを固定化した。最初に、標準的なアミンカップリングを用いて、ニュートラアビジン(ThermoScientific)をC1チップ上に固定化した。ニュートラアビジンをpH4.5の10mM酢酸Na緩衝液で0.1mg/mlの濃度に希釈し、チップ表面上に6分間注入した。この固定化により、およそ1000RUの固定化がもたらされた。ニュートラアビジンの固定化後、ビオチン化されたタンパク質を0.24mg/mlの濃度でチップ上に5分間注入することによってFcRnを捕捉した。この捕捉により、およそ1700RUの固定化レベルがもたらされた。
【0202】
異なる抗体との相互作用の計測のために、pH5.8の10mM MES、150mM NaClおよび0.05%P-20からなる緩衝液を使用した。抗体-FcRn相互作用を、単サイクルまたは多サイクルのカイネティクスおよび2倍または3倍の希釈系列を使用して分析試験した。記録されたセンサーグラムは、参照フローセルおよびブランク注入を使用して差し引かれたダブルリファレンスだった。得られたセンサーグラムを、TraceDrawerソフトウェア(Ridgeview Instruments AB)を使用して評価した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図32
図33
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図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
【配列表】
2024512240000001.app
【国際調査報告】