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特表2024-512261CD8 T細胞における治療標的を発見するためのインビボCRISPRスクリーニングシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】CD8 T細胞における治療標的を発見するためのインビボCRISPRスクリーニングシステム
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20240312BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20240312BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240312BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240312BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20240312BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20240312BHJP
【FI】
C12N5/0783
C12Q1/04
A61P31/00
A61P35/00
A61K35/15
A61P37/04
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K31/713
A61K31/7105
A61K45/00
A61K38/46
A61K48/00
C12N15/09 110
C12N15/113 Z ZNA
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551129
(86)(22)【出願日】2022-02-23
(85)【翻訳文提出日】2023-10-12
(86)【国際出願番号】 US2022017564
(87)【国際公開番号】W WO2022182788
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】63/153,191
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】500429103
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ウェリー イー. ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チェン ゼユ
(72)【発明者】
【氏名】シ ジュンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】カーン オマー
(72)【発明者】
【氏名】ジャイルズ ジョセフン アール.
(72)【発明者】
【氏名】マン サシカンス
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QA13
4B063QQ08
4B063QR14
4B063QR35
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065CA44
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA17
4C084BA44
4C084CA18
4C084DC22
4C084NA05
4C084ZB09
4C084ZB26
4C084ZB32
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB09
4C086ZB26
4C086ZB32
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087NA05
4C087ZB09
4C087ZB26
4C087ZB32
(57)【要約】
本開示は、破壊されたFli1を含む改変された免疫細胞またはその前駆体を提供する。また、組成物および治療方法も提供される。本開示はまた、T細胞疲弊を評価することを含む、T細胞をスクリーニングするための方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fli1をコードする内因性遺伝子座中に改変を含む、改変された免疫細胞またはその前駆体。
【請求項2】
内因性Fli1遺伝子またはタンパク質が破壊されている、改変された免疫細胞またはその前駆体。
【請求項3】
前記改変または破壊が、CRISPRシステム、抗体、siRNA、miRNA、アンタゴニスト、薬物、低分子阻害剤、PROTAC標的、TALEN、およびジンクフィンガーヌクレアーゼからなる群より選択される方法によってなされる、請求項1または2記載の改変された免疫細胞またはその前駆体。
【請求項4】
CRISPRシステムが、SEQ ID NO:152~156またはSEQ ID NO:676~713のいずれか1つを含む少なくとも1つのsgRNAを含む、請求項3記載の改変された免疫細胞またはその前駆体。
【請求項5】
前記細胞がヒト細胞である、先行請求項のいずれか一項記載の改変された免疫細胞またはその前駆体。
【請求項6】
前記細胞がT細胞である、先行請求項のいずれか一項記載の改変された免疫細胞またはその前駆体。
【請求項7】
前記T細胞が、T細胞疲弊に抵抗性である、請求項6記載の改変された免疫細胞またはその前駆体。
【請求項8】
Fli1の阻害剤を含む、薬学的組成物。
【請求項9】
前記阻害剤が、CRISPRシステム、抗体、siRNA、miRNA、アンタゴニスト、薬物、低分子阻害剤、PROTAC標的、TALEN、およびジンクフィンガーヌクレアーゼからなる群より選択される、請求項8記載の薬学的組成物。
【請求項10】
CRISPRシステムが、SEQ ID NO:152~156またはSEQ ID NO:676~713のいずれか1つを含む少なくとも1つのsgRNAを含む、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
その必要のある対象における疾患または障害を治療する方法であって、請求項1~7のいずれか一項記載の細胞または請求項8~10のいずれか一項記載の組成物を対象に投与することを含む、方法。
【請求項12】
前記疾患または障害が、感染症である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記疾患が、がんである、請求項11記載の方法。
【請求項14】
T細胞をスクリーニングする方法であって、
i)活性化T細胞に、Cas酵素およびsgRNAライブラリーを導入すること、
ii)該T細胞を感染マウスに投与すること、
iii)該感染マウスから該T細胞を単離すること、ならびに
iv)該T細胞を分析すること
を含む、方法。
【請求項15】
前記sgRNAライブラリーが、複数の転写因子を標的とする複数のsgRNAを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記複数の転写因子が、表1に列挙される転写因子のいずれかを含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
各sgRNAが、各転写因子のDNA結合ドメインを標的とする、請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記sgRNAライブラリーが、SEQ ID NO:1~675からなる群より選択される少なくとも1つの配列を含む、請求項14記載の方法。
【請求項19】
前記sgRNAライブラリーが、SEQ ID NO:1~675に示されるヌクレオチド配列からなる、請求項14記載の方法。
【請求項20】
前記スクリーニングが、T細胞疲弊を評価する、請求項14記載の方法。
【請求項21】
細胞を分析することが、シーケンシング、PCR、MACS、およびFACSからなる群より選択される方法を含む、請求項14記載の方法。
【請求項22】
前記シーケンシングが、関心対象の標的を明らかにする、請求項14記載の方法。
【請求項23】
前記関心対象の標的に対して薬物が設計される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記薬物がT細胞に投与されたとき、少なくとも1つのT細胞応答が増加する、請求項22記載の方法。
【請求項25】
1×105個のT細胞が感染マウスに投与される、請求項14記載の方法。
【請求項26】
TEFFおよびTEX細胞分化を支配する新規転写因子を同定する、請求項14記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法119条(e)項の下、2021年2月24日に出願された米国仮特許出願第63/153,191号の優先権を主張する権利を有し、該仮特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府支援による研究開発に関する言明
本発明は、米国国立衛生研究所により授与されたAI105343、AI117950、AI082630、AI112521、AI115712、AI108545、CA210944、CA234842、CA009140、MH109905、およびHG010480の下、政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
エフェクターCD8 T細胞(TEFF)分化を調節する機序を理解することは、がんおよび他の疾患に対する治療的アプローチを改善するために極めて重要である。急性回復感染期またはワクチン接種後のナイーブCD8 T細胞(TN)の活性化は、転写的かつエピジェネティックなリモデリングを伴うTEFF細胞への分化をもたらす。抗原消失後、TEFF細胞の最終分化サブセットは、その後数日~数週間で死ぬが、一方、ごく一部のメモリー前駆体(TMP)は、長期メモリーCD8 T細胞(TMEM)へと分化する。しかしながら、慢性感染およびがん期間中は、CD8 T細胞分化は、疲弊の道へ方向転換する。これらの病態下では、TEFF細胞は、過剰刺激されることになり、あまり持続しないが、活性化された前駆体の集団は、疲弊CD8 T細胞(TEX)へと分化する。TEX細胞は、PD-1を含めた複数の抑制性受容体の高発現、減少したエフェクター機能、TMEM細胞と比較して変更された恒常性調節、およびまったく異なる転写的かつエピジェネティックなプログラムを有する。PD-1などの抑制性受容体を遮断することは、TEXを再活性させ、増殖およびいくつかのエフェクター様特性を一時的に回復させることができ、複数のがんタイプにおいて臨床的有益性が実証されている。しかしながら、チェックポイント遮断の成功にもかかわらず、ほとんどの患者は、永続的な臨床的有益性を得ることなく、がんまたは他の疾患においてチェックポイント遮断後または細胞療法中にT細胞分化およびエフェクター様活性を強化することが強く求められている。
【0004】
チェックポイント遮断に応答するT細胞の集団を定義すること、そして、細胞療法のための最適な分化状態を調べることに関心が高まっている。TEX細胞は、ヒト腫瘍において顕著であり、腫瘍反応性T細胞の主要な供給源である可能性が高い。PD-1経路遮断は、TEX細胞を再活性化してTEX細胞がTEFF細胞プログラムの一部に再アクセス可能となることに少なくとも部分的に起因して、臨床的有益性を仲介する。しかしながら、限定された治療有効性が、TEX細胞の最適でない再活性化と関連している。また、CAR T細胞の治療の失敗も、疲弊と関連しており、疲弊に対抗するアプローチが積極的に調査されている。しかしながら、がんを制御するためのチェックポイント遮断と細胞療法の両方への応答の鍵は、エフェクター活性の量的な増大および誘発を含めたロバストなエフェクタープログラムを効果的に働かせることができるかである。このエフェクター活性を制御する根底の分子機序を理解することは、慢性感染およびがんに対する治療的介入を効果的に設計するために必要である。
【0005】
TEFF対TMEMまたはTEXの分化の調節における転写因子(TF)の役割に大きな注目が集まっている。例えば、TFのBatfおよびIrf4は、T細胞活性化において初期の役割を果たし、また、エフェクター遺伝子の転写誘導の第2波も誘導する。Runx3は、T-betおよびEomesを通じてTEFF遺伝子発現を誘導し、組織常在性のメモリーCD8 T細胞(TRM)にとって重要である。Runx3はまた、TCF-1発現を阻害することによって濾胞性様CD8 T細胞の運命をアンタゴナイズする。Runx1は、対照的に、TEFF分化中にRunx3によってアンタゴナイズされる。ほとんどのTEFF関連遺伝子とそれらの同族シス調節領域は、TN状態では接近不能であり、このことから、エフェクター駆動TFの役割は、TNからTEFFへの移行の間に生じるクロマチンアクセシビリティの変化と関係がある。実際に、Batfなどのこれらの初期に作用するTFのいくつかは、クロマチンリモデリングを通じてTEFF遺伝子アクセシビリティに寄与し得るという証拠があるが、他の制御機序については、依然として明らかにされていない。
【0006】
TEFF形成を促進するTFに加え、相反する機序が、エフェクター分化への完全関与を和らげ、将来のまたは進行中の応答のためのより永続的なT細胞集団を保存する。2つの交互の細胞運命であるTMEMおよびTEXは、完全に関与しているTEFFから形成できず、このことは、TMEMおよびTEXが分化可能になるために、TEFFプログラムの一部がアンタゴナイズされなければならないことを示唆している。高移動度群(HMG)TF、例えば、TCF-1は、TMEMとTEXの両方の発生および維持に必要不可欠である。TCF-1は、T-betおよびBlimp-1などのTEFF駆動TFを抑制し、エピジェネティック変化を促進し得る。さらに、第2のHMG TFであるToxは、TEX細胞運命の発生に必要不可欠であり、TEFF系列分化を抑制する。この研究にもかかわらず、TEFF分化への関与を防ぐ機序は、依然としてほとんど理解されていない。そのような情報は、がんおよび慢性感染に対して免疫療法を有効にする可能性がある。ただ、TEFF分化のプログラム全体を抑制解除するであろうTCF-1またはToxのような経路を不活性化することに関心が向かう一方で、そのようなアプローチは、最終TEFFをもたらし、そして、係る細胞は永続的な応答を持続できないので、治療的有益性が限定され得る。
【0007】
したがって、TEFF分化の鍵となる側面を選択的に抑制解除する機序、特に、量的増大および/または防御免疫の制御に関与するものの発見が、当技術分野において必要とされている。本発明は、この必要性に応えるものである。
【発明の概要】
【0008】
一局面では、Fli1をコードする内因性遺伝子座中に改変を含む、改変された免疫細胞またはその前駆体が、本明細書に提供される。
【0009】
別の局面では、内因性Fli1遺伝子またはタンパク質が破壊されている、改変された免疫細胞またはその前駆体が、本明細書に提供される。
【0010】
ある特定の態様では、改変または破壊は、CRISPRシステム、抗体、siRNA、miRNA、アンタゴニスト、薬物、低分子阻害剤、PROTAC標的、TALEN、およびジンクフィンガーヌクレアーゼからなる群より選択される方法によってなされる。
【0011】
ある特定の態様では、CRISPRシステムは、SEQ ID NO:152~156またはSEQ ID NO:676~713のいずれか1つを含む少なくとも1つのsgRNAを含む。
【0012】
ある特定の態様では、細胞は、ヒト細胞である。ある特定の態様では、細胞は、T細胞である。ある特定の態様では、T細胞は、T細胞疲弊に抵抗性である。
【0013】
別の局面では、Fli1の阻害剤を含む薬学的組成物が本明細書に提供される。ある特定の態様では、阻害剤は、CRISPRシステム、抗体、siRNA、miRNA、アンタゴニスト、薬物、低分子阻害剤、PROTAC標的、TALEN、およびジンクフィンガーヌクレアーゼからなる群より選択される。ある特定の態様では、CRISPRシステムは、SEQ ID NO:152~156またはSEQ ID NO:676~713のいずれか1つを含む少なくとも1つのsgRNAを含む。
【0014】
別の局面では、本発明は、その必要のある対象における疾患または障害を治療する方法を含む。該方法は、対象に、本明細書において企図される細胞のいずれかまたは組成物のいずれかを投与することを含む。
【0015】
ある特定の態様では、疾患または障害は、感染症である。ある特定の態様では、疾患は、がんである。
【0016】
別の局面では、T細胞をスクリーニングする方法が本明細書に提供される。該方法は、i)活性化T細胞にCas酵素(またはCasをコードする核酸)およびsgRNAライブラリーを導入すること、ii)該T細胞を感染マウスに投与すること、iii)該感染マウスからT細胞を単離すること、ならびにiv)T細胞を分析することを含む。
【0017】
ある特定の態様では、sgRNAライブラリーは、複数の転写因子を標的とする複数のsgRNAを含む。ある特定の態様では、複数の転写因子は、表1に列挙される転写因子のいずれかを含む。ある特定の態様では、各sgRNAは、各転写因子のDNA結合ドメインを標的とする。ある特定の態様では、sgRNAライブラリーは、SEQ ID NO:1~675からなる群より選択される少なくとも1つの配列を含む。ある特定の態様では、sgRNAライブラリーは、SEQ ID NO:1~675に示されるヌクレオチド配列からなる。
【0018】
ある特定の態様では、スクリーニングは、T細胞疲弊を評価する。ある特定の態様では、該方法は、TEFFおよびTEX細胞分化を支配する新規転写因子を同定する。
【0019】
ある特定の態様では、細胞を分析することは、シーケンシング、PCR、MACS、およびFACSからなる群より選択される方法を含む。ある特定の態様では、シーケンシングは、関心対象の標的を明らかにする。ある特定の態様では、関心対象の標的に対して薬物が設計される。ある特定の態様では、薬物がT細胞に投与されたとき、少なくとも1つのT細胞応答が増加する。
【0020】
ある特定の態様では、1×105個のT細胞が感染マウスに投与される。
【0021】
本開示の前述および他の特徴および利点は、添付の図面と併せて、下記の例示的な態様の詳細な説明からより十分に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A図1A~1F:OpTICSシステムを使用したCD8 T細胞の詳細に分析した転写プログラム。図1A:最適化T細胞インビボCRISPRスクリーニング(OpTICS)の実験設計。0日目(D0)に、CD45.2+ C9P14マウスからCD8 T細胞を単離し、インビトロで活性化させた;CD45.1+ WTレシピエントマウスにLCMVを感染させた。感染後D1に、活性化C9P14細胞に、RV-sgRNAライブラリーを6時間形質導入した。感染後D2に、Cas9+sgRNA+ P14細胞を精製し、ソーティングした細胞の5~10%をD2ベースライン(T0時点)用に凍結し、残りをLCMV感染レシピエントマウスに養子移入した。Cas9+sgRNA+ P14細胞を、指定日にMACSおよびFACSによってレシピエントマウスから単離した(T1時点)。sgRNAカセットに対するシーケンシングアダプターを用いた標的PCRを実施し、PCR産物を配列決定した。CRISPRスコア(CS)を、示しているように算出した。図1B:Arm感染後D8またはD15、Cl13感染後D9またはD14での、脾臓からのCas9+sgRNA+細胞からの標的遺伝子についての、T1時点とT0時点(D2ベースライン)のCSの比較。X軸は、標的遺伝子を示しており;y軸は、各標的遺伝子のCSを示している(4~5個のsgRNAを使用する)。図1C:標的遺伝子についてのCSのヒートマップ。ヒートマップは、遺伝子毎のCSの幾何平均をランク付けしている。図1D:Ctrl、Pdcd1およびFli1 sgRNAの分布。軸は、log2変化倍率(FC)を表している。ヒストグラムは、すべてのsgRNAの分布を示している。黒色の棒は、標的sgRNAを表しており、灰色の棒は、他のすべてのsgRNAを表している。図1E:脾臓からのソーティングされたCas9+sgFli1+ P14細胞および対のCas9+sgFli1- P14細胞からのFli1タンパク質についてのウエスタンブロット。2つのFli1-sgRNA(sgFli1_290およびsgFli1_360)を使用した。プールしたマウスを使用した(Armについてマウス3~5匹、Cl13についてマウス10~15匹)。棒グラフは、Fli1の正規化したバンド強度を表している。最初に、Fli1をGAPDHに対して正規化し、次いで、Cas9+sgFli1+対Cas9+sgFli1-間の比を算出して示す。図1F:Arm感染後D8、Arm感染後D15、Cl13感染後D9およびCl13感染後D14での、Ctrl-sgRNA(sgCtrl)および2つのFli1-sgRNA(sgFli1_290およびsgFli1_360)群についての、脾臓からの正規化したCas9+sgRNA(VEX)+細胞数。D2インビトロ形質導入効率に基づくsgCtrl群に対して正規化した細胞数(図10Bおよび10Dを参照のこと)。対照に対して*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.001(1元配置分散分析)。データは、図1Fに関する少なくとも4匹のマウス/群での4つの独立した実験の代表(平均±s.e.m.)である。
図1B図1Aの説明を参照。
図1C図1Aの説明を参照。
図1D図1Aの説明を参照。
図1E図1Aの説明を参照。
図1F図1Aの説明を参照。
図2A図2A~2E:Fli1は、急性感染期にTEFF細胞の増殖および分化を抑止する。図2A:KLRG1HiCD127Lo最終エフェクター(TE)およびKLRG1LoCD127Hiメモリー前駆体(MP)のフローサイトメトリープロットおよび統計解析。Arm感染後D8およびD15での、sgCtrl群および2つのsgFli1群についての脾臓からの頻度(左)および数(右)。Cas9(GFP)+sgRNA(VEX)+ P14細胞でゲーティングした。図2B:CX3CR1+CXCR3- TEFF細胞およびCX3CR1-CXCR3+初期TMEM細胞のフローサイトメトリープロットおよび統計解析。Arm感染後D8およびD15での、sgCtrl群および2つのsgFli1群についての脾臓からの頻度(左)および数(右)。Cas9+sgRNA+ P14細胞でゲーティングした。図2C~2E:実験設計。D0に、CD45.1+ P14細胞を活性化させ、レシピエントマウスにArmを感染させた;感染後D1に、活性化P14細胞に、空のRVまたはFli1過剰発現(OE)RVを形質導入した。感染後D2に、群毎にVEX+ P14細胞を精製し、5×104個の細胞を感染レシピエントマウスに養子移入した。図2C:空のRVおよびFli1-OE-RV条件についてのCD45.2+VEX+細胞頻度のフローサイトメトリープロットおよびCD45.2+VEX+細胞数の統計解析。図2D:Arm感染後D8およびD15での、空のRVおよびFli1-OE-RV群についての、脾臓からのKLRG1HiCD127Lo TEおよびKLRG1LoCD127Hi MP頻度のフローサイトメトリープロットおよび統計解析。VEX+ P14細胞でゲーティングした。図2E:Arm感染後D8およびD15での、空のRVおよびFli1-OE-RV群についての、脾臓からのCX3CR1+CXCR3- TEFF細胞およびCX3CR1-CXCR3+初期TMEM細胞頻度のフローサイトメトリープロットおよび統計解析。VEX+ P14細胞でゲーティングした。対照に対して*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.001(両側スチューデントのt検定および1元配置分散分析)。データは、少なくとも3匹のマウス/群での2~4つの独立した実験の代表(平均±s.e.m.)である。
図2B図2Aの説明を参照。
図2C図2Aの説明を参照。
図2D図2Aの説明を参照。
図2E図2Aの説明を参照。
図3-1】図3A~3G:Fli1は、慢性感染期にTEFF様細胞分化をアンタゴナイズする。図3A:Cl13感染後D8およびD15での、sgCtrl群および2つのsgFli1群についての、脾臓からのLy108-CD39+またはTCF-1-Gzmb+ TEFF様細胞およびLy108+CD39-またはTCF-1+Gzmb- TEX前駆体頻度のフローサイトメトリープロットおよび統計解析。Cas9(GFP)+sgRNA(VEX)+ P14細胞でゲーティングした。図3B:Cl13感染後D8およびD15での、sgCtrl群および2つのsgFli1群についての、脾臓からのCX3CR1+およびTim-3+頻度、ならびにKLRG1およびPD-1 MFIの統計解析。Cas9+sgRNA+ P14細胞でゲーティングした。図3C:sgCtrl群と2つのsgFli1群との間の発現変動遺伝子のヒートマップ。図3D:sgFli1群についての遺伝子オントロジー(GO)エンリッチメント解析。図3E:sgCtrl群についてのGOエンリッチメント解析。図3F:sgCtrl群とsgFli1群との間のTEX前駆体シグネチャーの遺伝子セットエンリッチメント解析(GSEA)。図3G:sgCtrl群とsgFli1群との間のTEFF様シグネチャーのGSEA。対照に対して*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.001(両側スチューデントのt検定および1元配置分散分析)。データは、AおよびBに関する少なくとも4匹のマウス/群での4つの独立した実験の代表(平均±s.e.m.)である。
図3-2】図3-1の説明を参照。
図3-3】図3-1の説明を参照。
図3-4】図3-1の説明を参照。
図3-5】図3-1の説明を参照。
図4-1】図4A~4K:Fli1は、CD8 T細胞のエピジェネティックプロファイルを再形成し、TEFFに関連する遺伝子発現を阻害する。図4A:Cl13感染後D9でのsgCtrl、sgFli1_290およびsgFli1_360群についてのATAC-seqデータのPCAプロット。図4B:sgCtrl群と比較したsgFli1群についての全体的なオープンクロマチン領域(OCR)ピーク変化。図4C:sgCtrl群とsgFli1群の間で変化したシスエレメントOCRピークのカテゴリー。左プロットは、すべての変化を表しており;右プロットは、増加したまたは減少したアクセシビリティについての変化を表している。図4D:ヒートマップは、sgCtrl群と2つのsgFli1群との間の差次的にアクセス可能なピークを示している(調整済みp値<0.05、Log10変化倍率>0.6)。ピークに割り当てられた選択遺伝子を表示している。図4E:差次的にアクセス可能な(DA)ピークを有する遺伝子および図3Cからの発現変動遺伝子のベンプロットの重なり。図4F:最近傍遺伝子対発現変動遺伝子のピークアクセシビリティのピアソン相関。図4G:Fli1の喪失に関連する転写因子(TF)モチーフの獲得または喪失。X軸は、モチーフエンリッチメントのlogP値を表している。Y軸は、モチーフエンリッチメントの変化倍率を表している。sgCtrl群とsgFli1群との間の変化したOCRにおける標的モチーフを、全ゲノムバックグラウンドと比較して、p値および変化倍率を算出した。図4H:Cl13感染後D8でのP14細胞上のCUT&RUNからのIgGまたはFli1結合シグナル、ならびにCd28、Cx3cr1およびHavcr2遺伝子座でのsgCtrl-sgRNA、sgFli1_290およびsgFli1_360群についてのATAC-seqによって検出されたOCRシグナル。図4I:Cl13感染後D8でのCD28染色のヒストグラム、ならびにsgCtrl、sgFli1_290およびsgFli1_360群についての統計解析。灰色は、CD44-ナイーブT細胞のCD28染色を示している。図4J:sgCtrl群と2つのsgFli1群との間のFli1 CUT&RUN結合ピークと重なる差次的にアクセス可能な(DA)ピークを示しているヒートマップ。ピークに割り当てられた選択遺伝子を表示している。図4K:Fli1 CUT&RUNピーク中の上位4つの濃縮されたTFモチーフを示している。対照に対して*P<0.05、**P<0.01(1元配置分散分析)。データは、図4Iに関する少なくとも5匹のマウス/群での2つの独立した実験の代表(平均±s.e.m.)である。
図4-2】図4-1の説明を参照。
図4-3】図4-1の説明を参照。
図4-4】図4-1の説明を参照。
図4-5】図4-1の説明を参照。
図5-1】図5A~5G:CD8 T細胞におけるFli1欠損との関連でのRunx1またはRunx3の過剰発現。図5A:実験設計。D0に、CD45.2+ C9P14ドナーマウスからCD8 T細胞を単離し、活性化させた;CD45.1+ WTレシピエントマウスにCl13を感染させた。感染後D1に、活性化C9P14細胞にsgRNA-RVまたはOE-RVを形質導入し、1×105個の形質導入細胞を感染レシピエントマウスに養子移入した。図5B~5D:Cl13感染後D8での、sgCtrl-VEX+Empty-mCherry、sgCtrl-VEX+Runx1-mCherry、sgFli1_290-VEX+Empty-mCherry、およびsgFli1_290-VEX+Runx1-mCherryについての、脾臓からのVEX+mCherry+ C9P14細胞およびLy108CD39+/Ly108+CD39- C9P14細胞のフローサイトメトリープロット(図5B)および統計解析(図5C~5D)。Cas9(GFP)+CD45.2+ P14細胞でゲーティングした。図5E~5G:Cl13感染後D8での、sgCtrl-mCherry+Empty-VEX、sgCtrl-mCherry+Runx3-VEX、sgFli1_290-mCherry+Empty-VEX、およびsgFli1_290-mCherry+Runx3-VEXについての、脾臓からのVEX+mCherry+ C9P14細胞およびLy108-CD39+/Ly108+CD39- C9P14細胞のフローサイトメトリープロット(図5E)および統計解析(図5F~5G)。Cas9+CD45.2+ P14細胞でゲーティングした。対照に対して*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.001(1元配置分散分析)。データは、少なくとも5匹のマウス/群での2つの独立した実験の代表(平均±s.e.m.)である。
図5-2】図5-1の説明を参照。
図5-3】図5-1の説明を参照。
図6-1】図6A~6F:CD8 T細胞におけるFli1欠損は、感染に対する防御免疫を増強する。図6A:実験設計。D0に、CD45.2+ C9P14ドナーマウスからCD8 T細胞を単離し、活性化させた;CD45.1+ WTレシピエントマウスに、LCMV Cl13、インフルエンザウイルスPR8-GP33またはリステリア・モノサイトゲネス-GP33(LM-GP33)を感染させた。感染後D1に、活性化C9P14細胞に、sgCtrlまたはsgFli1 RVを形質導入した。感染後D2に、sgCtrl群またはsgFli1群についてフローサイトメトリーによってCas9+sgRNA(VEX)+ P14細胞を精製し、感染レシピエントマウスに養子移入した。Cl13について、マウス1匹当たり1.5×105個のVEX+ C9P14細胞を移入した;PR8-GP33およびLM-GP33について、マウス1匹当たり1.0×105個のVEX+ C9P14細胞を移入した。図6B:Cl13感染後D15に、指定のマウスの肝臓、腎臓および血清でのプラークアッセイによって、LCMVウイルス量を測定した。2つの独立した実験からデータを集めた。図6C:NT、sgCtrl+細胞移入またはsgFli1+細胞移入群からのPR8-GP33感染マウスについての体重曲線。破線は、C9P14養子移入の時点を表している。図6D:NT、sgCtrl+またはsgFli1+ C9P14レシピエントマウスの肺におけるPR8-GP33ウイルスRNA量。破線は、検出限界を表示している。ナイーブマウスからの肺試料およびPR8-GP33感染マウスからの脾臓試料を陰性対照として使用した。図6E:NT、sgCtrl+またはsgFli1+ C9P14レシピエントマウスについてのLM-GP33感染マウスの調整済み生存曲線。破線は、C9P14養子移入の時点を表している。図6F:感染後D7での、生存しているNT、sgCtrl+またはsgFli1+ C9P14レシピエントマウスの脾臓および肝臓におけるLM-GP33細菌量。対照に対して*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.001(6B~6D、6Fについて1元配置分散分析、6Eについてマンテル・コックス検定)。データは、少なくとも3匹のマウス/群での2つの独立した実験の代表(平均±s.e.m.)である。
図6-2】図6-1の説明を参照。
図7-1】図7A~7G:CD8 T細胞におけるFli1の喪失は、抗腫瘍免疫を改善した。図7A:実験設計。D0に、CD45.2+ Rag2-/-マウスに1.0×105個のB16-Dbgp33細胞を接種した。腫瘍接種後(p.t.)D3に、CD45.1+ C9P14マウスからCD8 T細胞を単離し、活性化させた。腫瘍接種後D4に、活性化C9P14細胞に、sgCtrlまたはsgFli1 RVを形質導入した。腫瘍接種後D5に、sgCtrl群またはsgFli1群からsgRNA(VEX)+Cas9(GFP)+P14細胞をソーティングし、1×106個の精製VEX+ C9P14細胞を腫瘍担持マウスに養子移入した。図7B:NT、sgCtrl+またはsgFli1+ C9P14細胞を摂取したマウスについての腫瘍体積曲線。図7C:NT、sgCtrl+またはsgFli1+ C9P14細胞を摂取したマウスについての腫瘍接種後D23の腫瘍重量。図7D~7E:腫瘍接種後D23での、sgCtrl群またはsgFli1群についての、腫瘍からのCD45.1+ sgRNA(VEX)+Cas9+P14細胞およびLy108-CD39+/Ly108+CD39- C9P14細胞のフローサイトメトリープロット(図7D)および統計解析(図7E)。図7F~7G:腫瘍接種後D23での、sgCtrl群またはsgFli1群についての、脾臓からのCD45.1+ sgRNA+Cas9+ P14細胞およびLy108-CD39+/Ly108+CD39- C9P14細胞のフローサイトメトリープロット(図7F)および統計解析(図7G)。対照に対して*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.001(両側スチューデントのt検定および1元配置分散分析)。データは、少なくとも5匹のマウス/群での2つの独立した実験の代表(平均±s.e.m.)である。
図7-2】図7-1の説明を参照。
図7-3】図7-1の説明を参照。
図8-1】図8A~8K:Cas9+抗原特異的CD8 T細胞におけるレトロウイルス形質導入sgRNAを使用した高効率インビボ遺伝子編集およびスクリーニング。図8A:元のsgRNAと比較したsgRNA骨格の最適化。図8B:インビボ遺伝子編集試験の実験設計。0日目(D0)に、CD45.1+LSL-Cas9+CD4CRE+P14(C9P14)ドナーマウスからCD8 T細胞を単離し、抗CD3、抗CD28およびIL-2で活性化させた;CD45.2+レシピエントマウスにCl13を感染させた。感染後D1に、活性化C9P14細胞に、Ctrl-sgRNA(sgCtrl)またはPdcd1-sgRNA(sgPdcd1)のいずれかを形質導入した。形質導入の6時間後、5×104個の活性化ドナー細胞を感染レシピエントマウスに養子移入した。次いで、指定の時間に、レシピエントマウスの異なる臓器から分析のためにC9P14細胞を単離した。図8C:活性化C9P14細胞のsgRNAベクター(mCherry)でのD2インビトロ形質導入効率。ゲートは、非形質導入対照に基づいて設定される。図8D:sgCtrl群およびsgPdcd1群についての、感染後D9での、脾臓におけるCas9(GFP)+sgRNA(mCherry)+集団のフローサイトメトリープロット。図8E:血液(感染後D7)、脾臓(感染後D9)または肝臓(感染後D9)におけるCas9+sgRNA+ P14細胞からのPD-1発現のヒストグラムおよびPD-1+集団の統計解析。図8F:sgCtrl群(プールした5匹のマウス)またはsgPdcd1群(プールした2匹のマウス)からのFACS精製Cas9+sgRNA+ P14細胞からのPdcd1遺伝子座についてのサンガーシーケンシング結果。図8G:標的sgRNA群とsgCtrl群との間の、脾臓(Arm感染後D8)からのCas9+sgRNA+ P14細胞からのKLRG1またはCXCR3発現のヒストグラムおよびKLRG1+またはCXCR3+集団の統計解析。図8H:Arm感染期の3つの条件下での脾臓または肝臓からの、異なるsgRNAにわたるD2ベースライン(T0)に対する感染後D8(T1)のLog2変化倍率(L2FC)。x軸は、異なるsgRNAを表しており、y軸は、D2ベースライン(T0)に対する感染後D8(T1)のL2FCを表している。条件1:ソーティングの最適化なし、平均インプットカバレッジが細胞約100個/sgRNA、Cas9+/+P14ドナー。条件2:最適化したソーティング(材料および方法における)、平均インプットカバレッジが細胞約400個/sgRNA、Cas9+/+P14ドナー。条件3:最適化したソーティング、平均インプットカバレッジが細胞約400個/sgRNA、Cas9+/-P14ドナー。標的遺伝子の例を指定の色で強調している。図8I:Cas9+/+またはCas9+/-ドナーP14群の2つの独立したスクリーニング間の標的遺伝子の順位相関。各標的遺伝子からのsgRNA L2FCの平均値を算出し、独立したスクリーニングから順位付けした。順位のピアソン相関を算出した。図8J:脾臓におけるCl13感染後D14でのsgPdcd1の変化倍率濃縮。データは、図1A~1Cで実施したスクリーニングからのものである。図8K図1A~1Cで実施したスクリーニングからの異なる試料のピアソン相関。ソーティングしたCas9+sgRNA+細胞の試料収集時間(感染後の日数)、LCMV感染および臓器を提示している。対照に対して*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.001(両側スチューデントのt検定)。データは、少なくとも3匹のマウス/群での2つの独立した実験の代表(平均±s.e.m.)である。
図8-2】図8-1の説明を参照。
図8-3】図8-1の説明を参照。
図8-4】図8-1の説明を参照。
図8-5】図8-1の説明を参照。
図8-6】図8-1の説明を参照。
図8-7】図8-1の説明を参照。
図9A図9A~9E:Fli1の遺伝子欠失は、より大きなT細胞増大を導く。図9A:Cas9+Fli1-sgRNA(sgFli1)+細胞についてのFli1遺伝子座のゲノム破壊効率を示しているTIDEアッセイ結果。ゲノム破壊は、サンガーシーケンシングによって検出した。図9B:sgCtrl群または2つのFli1-sgRNA(sgFli1_290およびsgFli1_360)群からの脾臓細胞からの、インビトロ形質導入後D2;Arm感染後D8およびD15でのCas9(GFP)+sgRNA(VEX)+集団のフローサイトメトリープロット(ドナーP14細胞でゲーティングした)。感染後D1に、コンジェニックの感染レシピエントマウスに5×104個の活性化ドナー細胞を養子移入した。図9C:Arm感染後D8およびD15での、sgCtrl群および2つのsgFli1群からの血液、肝臓および肺からの正規化したCas9+sgRNA+細胞数。細胞数は、D2インビトロ形質導入効率に基づいてsgCtrl群に対して正規化した。図9D:sgCtrl群および2つのsgFli1群についての、インビトロ形質導入後D2、Cl13感染後D9およびD15(脾臓)での、Cas9+sgRNA+ P14細胞のフローサイトメトリープロット(ドナーP14細胞でゲーティングした)。感染後D1に、感染レシピエントマウスに5×104個の活性化ドナーP14細胞を養子移入した。図9E:Cl13感染後D9およびD15での、sgCtrl群および2つのsgFli1群からの血液、肝臓および肺からの正規化したCas9+sgRNA+細胞数。細胞数は、D2インビトロ形質導入効率に基づいてsgCtrl群に対して正規化した。対照に対して*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.001(1元配置分散分析)。データは、少なくとも3匹のマウス/群での2~4つの独立した実験の代表(平均±s.e.m.)である。
図9B図9Aの説明を参照。
図9C図9Aの説明を参照。
図9D図9Aの説明を参照。
図9E図9Aの説明を参照。
図10-1】図10A~10J:Fli1は、TMEM細胞形成に影響を及ぼすことなく最終TEFF分化を阻害する。図10A:KLRG1LoCD127Lo細胞のフローサイトメトリープロットおよび統計解析。Arm感染後D8およびD15での、sgCtrl群および2つのsgFli1群についての脾臓からの頻度(左)および数(右)。Cas9(GFP)+sgRNA(VEX)+ P14細胞でゲーティングした。図10B:GzmB+およびTCF-1+ C9P14細胞のフローサイトメトリープロットおよび統計解析。Arm感染後D8でのsgCtrl群およびsgFli1群(2つのsgRNAの組み合わせ)についての脾臓からの頻度。Cas9(GFP)+sgRNA(VEX)+ P14細胞でゲーティングした。図10C:Arm感染後D8での、sgCtrl群およびsgFli1群(2つのsgRNAの組み合わせ)についての、脾臓からのC9P14細胞におけるT-betおよびEomes発現のヒストグラムおよび統計解析。Cas9(GFP)+sgRNA(VEX)+ P14細胞でゲーティングした。ナイーブT細胞(CD44-)染色を灰色で示している。図10D:刺激の5時間後のサイトカイン産生C9P14細胞のフローサイトメトリープロットおよび統計解析。Arm感染後D8での、刺激なしP14細胞群、sgCtrl群およびsgFli1群(2つのsgRNAの組み合わせ)についての、脾臓からのIFNγ+、IFNγ+TNF+およびMIP1α+CD107a+頻度(左)および数(右)。Cas9(GFP)+sgRNA(VEX)+ P14細胞でゲーティングした。図10E:Arm感染後D8、D20およびD29でのsgCtrl群およびsgFli1群(2つのsgRNAの組み合わせ)の血液中の総、最終エフェクター(TE)またはメモリー前駆体(MP)C9P14細胞数の統計解析。データは、sgCtrl+の感染後D2の形質導入効率に対して正規化した。正規化したsgRNA+ C9P14細胞数は、移入日(感染後D1)に大体75個の細胞/1×106個のPBMCである。図10F:Arm感染後D29でのsgCtrl群およびsgFli1群(2つのsgRNAの組み合わせ)の脾臓におけるTEまたはMP C9P14頻度の統計解析、ならびに総、TEまたはMP C9P14細胞数。データは、sgCtrl+の感染後D2の形質導入効率に対して正規化した。図10G:Arm感染後D15での、sgCtrl群およびsgFli1群(2つのsgRNAの組み合わせ)の脾臓からの、総C9P14細胞のBcl-2、Bcl-XLおよびBim発現のヒストグラム。Cas9(GFP)+sgRNA(VEX)+ P14細胞でゲーティングした。ナイーブT細胞(CD44-)染色を灰色で示している。図10H~10J:Arm感染後D15での、sgCtrl群およびsgFli1群(2つのsgRNAの組み合わせ)についての、脾臓からの総(図10H)、TE(図10I)およびMP(図10J)C9P14細胞についてのBcl-2、Bcl-XL、Bim発現ならびにBcl-2/BimおよびBcl-XL/Bim比の統計解析。Cas9(GFP)+sgRNA(VEX)+ P14細胞でゲーティングした。対照に対して*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.001(1元配置分散分析)。データは、少なくとも4匹のマウス/群での2つの独立した実験の代表(平均±s.e.m.)である。
図10-2】図10-1の説明を参照。
図10-3】図10-1の説明を参照。
図10-4】図10-1の説明を参照。
図10-5】図10-1の説明を参照。
図11-1】図11A~11H:Fli1は、慢性感染期にTEFF様分化を抑止する。図11A~11B:Cl13感染後D8(図11A)およびD15(図11B)での、sgCtrl群および2つのsgFli1群についての、脾臓からのLy108-CD39+またはTCF-1-GzmB+ TEFF様細胞およびLy108+CD39-またはTCF-1+GzmB TEX前駆体細胞数の統計解析。Cas9(GFP)+sgRNA(VEX)+ P14細胞でゲーティングした。図11C:Cl13感染後D8およびD15での、sgCtrl群およびsgFli1群についての、脾臓からのC9P14細胞におけるEomes、T-betおよびTox発現のヒストグラムおよび統計解析。Cas9(GFP)+sgRNA(VEX)+ P14細胞でゲーティングした。ナイーブT細胞(CD44-)染色を灰色で示している。図11D:刺激の5時間後のサイトカイン産生C9P14細胞のフローサイトメトリープロットおよび統計解析。Cl13感染後D8での、刺激なしP14細胞群、sgCtrl群およびsgFli1群(2つのsgRNAの組み合わせ)についての、脾臓からのIFNγ+、IFNγ+TNF+およびMIP1α+CD107a+頻度(左)および数(右)。Cas9(GFP)+sgRNA(VEX)+ P14細胞でゲーティングした。図11E:Cl13感染後D8およびD16での、空のRV群およびFli1-OE-RV群についての、CD45.2+VEX+ P14の細胞数のフローサイトメトリープロットおよび統計解析。D0に、CD45.2+ P14細胞を活性化させ、CD45.1+レシピエントマウスにCl13を感染させた。感染後D1に、活性化P14に、空のRVまたはFli1-OE-RVのいずれかを6時間形質導入した。感染後D2に、各RV形質導入群からVEX+ P14細胞をソーティングし、1×105個の細胞を感染レシピエントに養子移入した。図11F~11G:Cl13感染後D8およびD16での、空のRV群およびFli1-OE-RV群についての、Ly108-CD39+またはTCF-1-Gzmb+ TEFF様細胞およびLy108+CD39-またはTCF-1+Gzmb- TEX前駆体頻度のフローサイトメトリープロットおよび統計解析。VEX+ P14細胞でゲーティングした。図11H:Cl13感染後D8およびD16での、空のRV群およびFli1-OE-RV群についてのCX3CR1+およびTim-3+頻度の統計解析。VEX+ P14細胞でゲーティングした。対照に対して*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001(1元配置分散分析)。データは、図11A~11Dに関する少なくとも4匹のマウス/群での3つの独立した実験の代表(平均±s.e.m.)である。
図11-2】図11-1の説明を参照。
図11-3】図11-1の説明を参照。
図11-4】図11-1の説明を参照。
図11-5】図11-1の説明を参照。
図12-1】図12A~12I:転写およびエピジェネティックプロファイリングは、Runx1と連係してRunx3機能をアンタゴナイズすることによりTEFF様分化を阻害するFli1を指定する。図12A:Cl13感染後D8でのsgCtrl、sgFli1_290およびsgFli1_360群に関するRNA-seqデータについてのPCAプロット。図12B:sgCtrl群およびsgFli1群におけるすべてのCUT&RUN Fli1結合ピークとATAC-seq検出ピークとの重なり。図12C:ATAC-seqピークと共存するすべてのCUT&RUNピークのヒストグラム。ATAC-seqピークと共存するピークは灰色であり;共存していないピークは黒色である。図12D:感染後D9でのP14細胞についてのCUT&RUN IgGまたはFli1結合シグナル、ならびにTcf7およびId3遺伝子座におけるsgCtrl、sgFli1_290およびsgFli1_360群についてのATAC-seqによって検出されたオープンクロマチン領域シグナル。図12E:D2インビトロおよび感染後D7での、空のRVまたはRunx1-OE-RVについての、CD45.1+mCherry+およびLy108-CD39+/Ly108+CD39- P14細胞数のフローサイトメトリープロットおよび統計解析。D0に、CD45.1+ P14細胞を活性化させ、CD45.2+レシピエントマウスにCl13を感染させた;感染後D1に、活性化P14細胞に、空のRVまたはRunx1-OE-RVを6時間形質導入し、1×105個の形質導入P14細胞を感染レシピエントマウスに養子移入した。フローサイトメトリープロットは、CD45.1+ P14細胞でゲーティングした。図12F:sgCtrl-VEX+Empty-mCherry、sgCtrl-VEX+Runx1-mCherry、sgFli1_290-VEX+Empty-mCherry、およびsgFli1_290-VEX+Runx1-mCherry C9P14細胞のD2インビトロ形質導入効率。図12G:Cl13感染後D7での、sgCtrl-VEX+Empty-mCherry、sgCtrl-VEX+Runx1-mCherry、sgFli1_290-VEX+Empty-mCherry、およびsgFli1_290-VEX+Runx1-mCherry群についての、脾臓からのVEX+mCherry+ C9P14細胞およびLy108-CD39+/Ly108+CD39-細胞数の統計解析。Cas9(GFP)+CD45.2+ P14細胞でゲーティングした。図12H:sgCtrl-mCherry+Empty-VEX、sgCtrl-mCherry+Runx3-VEX、sgFli1_290-mCherry+Empty-VEX、およびsgFli1_290-mCherry+Runx3-VEX C9P14細胞のD2インビトロ形質導入効率。図12I:Cl13感染後D8での、sgCtrl-mCherry+Empty-VEX、sgCtrl-mCherry+Runx3-VEX、sgFli1_290-mCherry+Empty-VEX、およびsgFli1_290-mCherry+Runx3-VEXについての、脾臓からのVEX+mCherry+ C9P14細胞およびLy108-CD39+/Ly108+CD39-細胞数の統計解析。Cas9+CD45.2+ P14細胞でゲーティングした。対照に対して*P<0.05、**P<0.01(両側スチューデントのt検定)。データは、少なくとも5匹のマウス/群での2つの独立した実験の代表(平均±s.e.m.)である。
図12-2】図12-1の説明を参照。
図12-3】図12-1の説明を参照。
図12-4】図12-1の説明を参照。
図12-5】図12-1の説明を参照。
図12-6】図12-1の説明を参照。
図13A図13A~13E:Fli1欠損は、インフルエンザウイルスまたはリステリア・モノサイトゲネス感染期にCD8 T細胞増大をもたらす。図13A:sgCtrl+、sgFli1_290+およびsgFli1_360+ C9P14レシピエントマウス(1.5×105個の細胞/マウス、1群当たりN=5)についての、LCMV Cl13感染マウスの調整済み生存曲線。注記、ここでは、NCIレシピエントの代わりにJAXレシピエントマウスを使用し、発症機序の相違をもたらした。破線は、C9P14養子移入の時点を表している。図13B:感染後D8での非移入(NT)群、sgCtrl群およびsgFli1群を比較した、インフルエンザウイルス(PR8-GP33)感染マウスの肺におけるsgRNA(VEX)+ C9P14細胞を示しているフローサイトメトリープロット。「回復した」は、感染後D8での完全な体重回復により定義された。図13C:PR8-GP33感染期のsgRNA+ C9P14細胞数と体重比(感染後D8/感染後D2)の相関。「未回復の体重」群(体重比0.7~1.0)では、sgRNA+ C9P14細胞数をさらに比較した。図13D:感染後D8での非移入(NT)群、sgCtrl群およびsgFli1群についての、PR8-GP33感染レシピエントマウスの脾臓におけるsgRNA+ C9P14細胞のフローサイトメトリープロットおよび統計解析。図13E:感染後D7での非移入(NT)群、sgCtrl群およびsgFli1群についての、リステリア・モノサイトゲネス感染レシピエントの脾臓におけるsgRNA+ C9P14細胞のフローサイトメトリープロットおよび統計解析。対照に対して*P<0.05、**P<0.01(両側スチューデントのt検定および1元配置分散分析)。データは、少なくとも6匹のマウス/群での2つの独立した実験の代表(平均±s.e.m.)である。
図13B図13Aの説明を参照。
図13C図13Aの説明を参照。
図13D図13Aの説明を参照。
図13E図13Aの説明を参照。
図14-1】図14A~14G:CD8 T細胞におけるFli1の欠失は、免疫正常マウスにおいてより良好な腫瘍防御を導く。図14A:実験設計。D0に、CD45.2+Cas9+P14-マウスに、2×105個のB16-Dbgp33細胞を接種した。腫瘍接種後(p.t.)D3に、CD45.2+ C9P14ドナーマウスからCD8 T細胞を単離し、活性化させた。翌日、活性化C9P14細胞に、sgCtrlまたはsgFli1 RVを6時間形質導入した。腫瘍接種後D5に、sgCtrl群またはsgFli1群からsgRNA(VEX)+ P14細胞をソーティングし、3×106個の精製VEX+ C9P14細胞を腫瘍担持マウスに養子移入した。図14B:NT、sgCtrl+およびsgFli1+ C9P14細胞移入群からの腫瘍担持マウスの腫瘍体積曲線。図14C:腫瘍接種後D24でのNT、sgCtrl+およびsgFli1+ C9P14移入マウスからの腫瘍重量。図14D~14E:腫瘍接種後D24でのsgCtrl群およびsgFli1群についての、腫瘍からのsgRNA(VEX)+ C9P14細胞およびLy108-CD39+/Ly108+CD39-集団のフローサイトメトリープロット(図14D)および統計解析(図14E)。図14F~14G:腫瘍接種後D24でのsgCtrl群およびsgFli1群についての、流入領域リンパ節(dLN、図14F)および脾臓(図14G)からのsgRNA+ C9P14細胞およびLy108-CD39+またはLy108+CD39-集団の統計解析。対照に対して*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.001(両側スチューデントのt検定および1元配置分散分析)。データは、少なくとも6匹のマウス/群での3つの独立した実験の代表(平均±s.e.m.)である。
図14-2】図14-1の説明を参照。
図14-3】図14-1の説明を参照。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
抗原特異的T細胞のエフェクター活性を改善することは、がん免疫療法における主要な目標である。エフェクターT細胞(TEFF)駆動転写因子(TF)がいくつか同定されているにもかかわらず、TEFF生物学の転写調整は、依然としてほとんど理解されていない。本明細書において、インビボT細胞CRISPRスクリーニングプラットフォームを開発した。ETSファミリーTFのFli1を通じてTEFF生物学を抑止する新規機序が同定された。Fli1の遺伝子欠失は、メモリーまたは疲弊前駆体を損なうことなくTEFF応答を増強した。Fli1は、エフェクター関連遺伝子のシス調節要素に結合することによってTEFF系列分化を抑止した。Fli1の喪失は、ETS:RUNXモチーフでのクロマチンアクセシビリティを増加させ、より効率的なRunx3駆動TEFF生物学を可能にした。Fli1を欠いているCD8 T細胞は、複数の感染および腫瘍に対して明らかに良好な防御を提供した。これらのデータは、Fli1が、発生段階のCD8 T細胞転写ランドスケープを、過剰なETS:RUNXにより駆動されるTEFF細胞分化から保護することを示す。さらに、Fli1の遺伝子欠失は、感染およびがんにおけるTEFF分化および防御免疫を改善する。
【0024】
本開示に記載される方法は、本明細書において開示される特定の方法および/または実験条件が変動し得るので、そのような方法および条件に限定されないことを理解されたい。また、本明細書において使用される用語法は、特定の態様だけを説明することを目的とし、限定的であることは意図しないことも理解されたい。
【0025】
さらに、本明細書に記載される実験は、特に示さない限り、当業者の技能の範囲内で従来の分子細胞生物学的および免疫学的技法を使用する。そのような技法は、熟練の作業者に周知であり、文献に十分に説明されている。例えば、すべての補遺を含むAusubel, et al., ed., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., NY, N.Y. (1987-2008)、MR GreenおよびJ. SambrookによるMolecular Cloning: A Laboratory Manual (Fourth Edition)ならびにHarlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, Chapter 14, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor (2013, 2nd edition)を参照されたい。
【0026】
A. 定義
特に定義されない限り、本明細書において用いられる科学用語および技術用語は、当業者によって広く理解されている意味を有する。何らかの潜在的意味不確定が発生した場合、本明細書において提供される定義が、任意の辞書または外部の定義よりも優先される。状況により特に必要とされない限り、単数の用語は複数を含むものとし、複数の用語は単数を含むものとする。特に述べない限り、「または」の使用は「および/または」を意味する。「含んでいる(including)」という用語ならびに「含む(includes)」および「含んだ(included)」などの他の形態の使用は、非限定的である。
【0027】
一般的に、本明細書に記載される細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学ならびにタンパク質および核酸の化学およびハイブリダイゼーションに関連して使用される命名法は周知であり、当技術分野において広く使用される。本明細書において提供される方法および技法は、特に示さない限り一般的に当技術分野において周知の従来法に従って、本明細書全体にわたり引用され、論じられる様々な一般的でより具体的な参考文献に記載されるように行われる。酵素反応および精製技法は、当技術分野において広く成し遂げられる、または本明細書に記載されるように製造業者の規格に従って行われる。本明細書に記載される分析化学、合成有機化学、および医薬化学に関連して使用される命名法ならびにその検査手技および技法は、周知であり、当技術分野において広く使用されるものである。化学合成、化学分析、薬学的調製、製剤化、および送達ならびに患者の処置のために標準的な技法が使用される。
【0028】
本開示がより容易に理解され得るように、選ばれた用語を以下に定義する。
【0029】
「1つの(a)」および「1つの(an)」という冠詞は、本明細書においてその冠詞の文法的対象物の1つまたは1つよりも多く(すなわち、少なくとも1つ)をいうように用いられる。例として、「1つの(an)要素」は、1つの要素または1つよりも多い要素を意味する。
【0030】
量、時間的持続期間などのような測定可能な値をいう場合に本明細書において用いられる「約」は、特定された値から±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、なおより好ましくは±0.1%のばらつきを包含するものとするが、これはそのようなばらつきが、開示された方法を実施する上で妥当なためである。
【0031】
本明細書において用いられる「活性化」とは、検出可能な細胞増殖を誘導するように十分に刺激されたT細胞の状態のことを指す。活性化はまた、誘導されたサイトカイン産生、および検出可能なエフェクター機能に関連することができる。「活性化T細胞」という用語は、特に、細胞分裂を起こしているT細胞のことを指す。
【0032】
本明細書において使用される場合、疾患を「緩和する」は、疾患の1つまたは複数の症状の重症度を低減することを意味する。
【0033】
本明細書において用いられる「抗原」という用語は、免疫応答を引き起こす分子と定義される。この免疫応答には、抗体産生、または特異的免疫適格細胞の活性化のいずれかまたは両方が含まれ得る。当業者は、事実上、すべてのタンパク質またはペプチドを含む任意の高分子が抗原として働くことができることを理解するであろう。
【0034】
さらに、抗原は、組換えDNAまたはゲノムDNAに由来することができる。当業者は、免疫応答を誘発するタンパク質をコードするヌクレオチド配列または部分ヌクレオチド配列を含む任意のDNAが、それゆえ、本明細書においてその用語が用いられる通りの「抗原」をコードすることを理解するであろう。さらに、当業者は、抗原が遺伝子の完全長ヌクレオチド配列のみによってコードされる必要はないことを理解するであろう。本開示が、1つよりも多い遺伝子の部分ヌクレオチド配列の使用を含むが、これに限定されるわけではないこと、およびこれらのヌクレオチド配列が、所望の免疫応答を誘発するために様々な組み合わせで配置されることは、容易に明らかである。さらに、当業者は、抗原が「遺伝子」によってコードされる必要はまったくないことを理解するであろう。抗原が生物学的試料から生成、合成または由来することができることは、容易に明らかである。そのような生物学的試料は、組織試料、腫瘍試料、細胞または生体液を含むことができるが、それに限定されるわけではない。
【0035】
本明細書において用いられる場合、「自己」という用語は、後にその個体に再び導入される、同じ個体に由来する任意の材料をいうよう意図される。
【0036】
「共刺激分子」は、共刺激リガンドと特異的に結合し、それにより、非限定的に増殖などのT細胞による共刺激応答を媒介する、T細胞上の同族結合パートナーを指す。共刺激分子には、MHCクラスI分子、BTLAおよびTollリガンド受容体が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0037】
「共刺激シグナル」は、本明細書において使用される場合、TCR/CD3の連結などの一次シグナルとの組み合わせで、T細胞増殖および/または鍵となる分子のアップレギュレーションもしくはダウンレギュレーションを導くシグナルを指す。
【0038】
「疾患」は、動物が恒常性を維持できず、疾患が改善されなければその動物の健康が悪化し続ける、動物の健康状態である。対照的に、動物における「障害」は、その動物が恒常性を維持できるが、その動物の健康状態が障害のない場合よりも好ましくない健康状態である。未処置のまま放置されても、障害が必ずしも動物の健康状態のさらなる低下を引き起こすとは限らない。
【0039】
用語「ダウンレギュレーション」は、本明細書において使用される場合、1つまたは複数の遺伝子の遺伝子発現の減少または消失を指す。
【0040】
「有効量」または「治療的有効量」は、本明細書において互換的に用いられ、特定の生物学的結果を達成するのに有効な、または治療的もしくは予防的利益をもたらす、本明細書において記述される化合物、製剤、材料または組成物の量のことを指す。そのような結果には、哺乳動物に投与した場合に、本開示の組成物の非存在下で検出される免疫応答と比較して検出可能なレベルの免疫抑制または耐容性を引き起こす量が含まれ得るが、それに限定されるわけではない。免疫応答は、おびただしい数の当技術分野において認識されている方法によって容易に評価することができる。当業者は、本明細書において投与される組成物の量が、変動すること、そして、処置されている疾患または状態、処置されている哺乳動物の齢および健康および身体の状態、疾患の重症度、投与されている特定の化合物などの多数の要因に基づいてこれを容易に決定できることを理解するであろう。
【0041】
「コードする」とは、定義されたヌクレオチド(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)配列または定義されたアミノ酸配列のいずれかを有する、生物学的過程において他のポリマーおよび高分子の合成のための鋳型として働く、遺伝子、cDNAまたはmRNAのようなポリヌクレオチドにおける特定のヌクレオチド配列の固有の特性ならびにそれに起因する生物学的特性をいう。したがって、遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳によって細胞または他の生体系においてタンパク質が産生される場合、タンパク質をコードする。mRNA配列と同一であり通常は配列表に示されるヌクレオチド配列であるコード鎖も、遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として用いられる非コード鎖も共に、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードするということができる。
【0042】
本明細書において用いられる場合、「内因性」とは、生物、細胞、組織もしくは系の内部に由来するか、またはそれらの内部で産生される、任意の材料をいう。
【0043】
用語「エピトープ」は、本明細書において使用される場合、免疫応答を誘発し、B細胞応答および/またはT細胞応答を誘導することができる、抗原上の小化学分子として定義される。抗原は、1つまたは複数のエピトープを有することができる。ほとんどの抗原は、多くのエピトープを有する;すなわち、これらは多価である。一般に、エピトープは、おおよそ約10アミノ酸および/または糖のサイズである。好ましくは、エピトープは、約4~18アミノ酸、より好ましくは約5~16アミノ酸、さらにより最も好ましくは6~14アミノ酸、より好ましくは約7~12、そして、最も好ましくは約8~10アミノ酸である。一般には、分子の特定の直鎖状配列よりも全体の三次元構造が抗原の特異性の主な基準であること、それゆえ、これによってあるエピトープが別のエピトープと区別されることを、当業者は理解する。本開示に基づいて、本開示で用いられるペプチドは、エピトープであることができる。
【0044】
本明細書において用いられる場合、「外因性」という用語は、生物、細胞、組織もしくは系の外部から導入されるか、またはそれらの外部で産生される、任意の材料をいう。
【0045】
本明細書において用いられる「増大する」という用語は、T細胞の数の増加のように、数が増加することをいう。一態様では、エクスビボで増大したT細胞は、培養物中に当初存在している数と比べて数が増加する。別の態様では、エクスビボで増大したT細胞は、培養物中の他の細胞型と比べて数が増加する。本明細書において用いられる「エクスビボ」という用語は、生物(例えば、ヒト)から取り出され、生物の外側で(例えば、培養皿、試験管、またはバイオリアクタ中で)繁殖させた細胞をいう。
【0046】
本明細書において用いられる「発現」という用語は、そのプロモーターによって駆動される特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳と定義される。
【0047】
「発現ベクター」とは、発現されるべきヌクレオチド配列に機能的に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターをいう。発現ベクターは、発現のために十分なシス作用性エレメントを含み;発現のための他のエレメントは、宿主細胞によって、またはインビトロ発現系において供給されることができる。発現ベクターには、組換えポリヌクレオチドを組み入れたコスミド、プラスミド(例えば、裸のもの、またはリポソーム中に含まれるもの)ならびにウイルス(例えば、センダイウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)のような、当技術分野において公知のすべてのものが含まれる。
【0048】
本明細書において用いられる「同一性」とは、2つのポリマー分子間の、特に2つのポリペプチド分子間のような2つのアミノ酸分子間のサブユニット配列の同一性をいう。2つのアミノ酸配列が同じ位置に同じ残基を有する場合;例えば、2つのポリペプチド分子の各々における位置がアルギニンによって占有されているなら、それらはその位置で同一である。2つのアミノ酸配列がアライメントにおいて同じ位置に同じ残基を有する同一性または程度は、百分率として表現されることが多い。2つのアミノ酸配列間の同一性は、一致しているまたは同一である位置の数の一次関数である;例えば、2つの配列における位置の半分(例えば、10アミノ酸長のポリマーにおける5つの位置)が同一であるなら、2つの配列は50%同一であり;位置の90%(例えば、10中9)が一致しているまたは同一であるなら、2つのアミノ酸配列は90%同一である。
【0049】
本明細書において用いられる「免疫応答」という用語は、リンパ球が抗原分子を異物と同定し、抗体の形成を誘導し、かつ/またはリンパ球を活性化して抗原を除去する場合に起きる、抗原に対する細胞応答と定義される。
【0050】
「免疫抑制」という用語は、本明細書において免疫応答全体を低減することを指すために使用される。
【0051】
一般に「indel」と略される「挿入/欠失」は、ゲノム中に特定のヌクレオチド配列が存在する(挿入)または存在しない(欠失)、遺伝子多型の一種である。
【0052】
「単離された」とは、天然の状態から変えられたまたは取り出されたことを意味する。例えば、生きている動物に天然に存在する核酸またはペプチドは「単離されて」いないが、その天然状態の共存物質から部分的にまたは完全に分離された同じ核酸またはペプチドは「単離されて」いる。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在することができ、または例えば、宿主細胞のような、非天然環境で存在することができる。
【0053】
「ノックダウン」という用語は、本明細書において使用される場合、1つまたは複数の遺伝子の遺伝子発現の減少のことを指す。
【0054】
「ノックイン」という用語は、本明細書において使用される場合、標的配列(例えば、内因性遺伝子座)に挿入された外因性核酸配列のことを指す。いくつかの態様では、標的配列が遺伝子である場合、外因性核酸配列が、標的遺伝子の発現を制御する任意の上流および/または下流調節要素と機能的連結状態になる、ノックインが生成される。いくつかの態様では、外因性核酸配列が、標的遺伝子の発現を制御する任意の上流および/または下流調節要素と機能的連結状態にならない、ノックインが生成される。
【0055】
「ノックアウト」という用語は、本明細書において使用される場合、1つまたは複数の遺伝子の遺伝子発現の消失のことを指す。
【0056】
本明細書において用いられる「レンチウイルス」とは、レトロウイルス科(Retroviridae)ファミリーの属をいう。レンチウイルスは、非分裂細胞に感染できるという点で、レトロウイルスの中でも独特である;それらはかなりの量の遺伝情報を宿主細胞のDNA中に送達することができるため、それらは遺伝子送達ベクターの最も効率的な方法の1つである。HIV、SIVおよびFIVはすべて、レンチウイルスの例である。レンチウイルスに由来するベクターは、インビボで有意なレベルの遺伝子移入を達成するための手段を与える。
【0057】
本明細書において用いられる用語「改変された」とは、本開示の分子または細胞の変化した状態または構造を意味する。分子は化学的に、構造的に、および機能的になど、多くの方法で改変され得る。細胞は、核酸の導入によって改変され得る。
【0058】
本明細書において用いられる用語「モジュレートする」とは、処置もしくは化合物の非存在下での対象における応答のレベルと比較して、および/または他の点では同一であるが処置を受けていない対象における応答のレベルと比較して、対象における応答のレベルの検出可能な増加または減少を媒介することを意味する。この用語は、対象、好ましくはヒトにおいて、天然のシグナルもしくは応答を撹乱させ、かつ/またはそれに影響を与え、それにより有益な治療応答を媒介することを包含する。
【0059】
本開示の文脈において、一般的に存在する核酸塩基に関する以下の略語が用いられる。「A」はアデノシンをいい、「C」はシトシンをいい、「G」はグアノシンをいい、「T」はチミジンをいい、そして「U」はウリジンをいう。
【0060】
「オリゴヌクレオチド」という用語は、典型的には、短いポリヌクレオチドのことを指す。ヌクレオチド配列がDNA配列(すなわち、A、T、C、G)によって表される場合、このヌクレオチド配列はRNA配列(すなわち、A、U、C、G)(「U」が「T」に置き換わる)も含むことが理解されよう。
【0061】
別途指定がなされない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いに縮重したバージョンでありかつ同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を含む。タンパク質またはRNAをコードするヌクレオチド配列という語句は、該タンパク質をコードするヌクレオチド配列が、あるバージョンにおいてイントロンを含有し得る限り、イントロンも含み得る。
【0062】
免疫原性組成物の「非経口」投与は、例えば、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)、もしくは胸骨内注射、または注入技術を含む。
【0063】
本明細書において用いられる「ポリヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドの鎖と定義される。さらに、核酸はヌクレオチドのポリマーである。したがって、本明細書において用いられる核酸およびポリヌクレオチドは互換的である。当業者は、核酸がポリヌクレオチドであり、それらは単量体「ヌクレオチド」に加水分解することができるという一般知識を有する。単量体ヌクレオチドは、ヌクレオシドに加水分解することができる。本明細書において用いられる場合、ポリヌクレオチドには、非限定的に、組換え手段、すなわち通常のクローニング技術およびPCRなどを用いた組換えライブラリーまたは細胞ゲノムからの核酸配列のクローニングを含む、当技術分野において利用可能な任意の手段により、ならびに合成手段により得られるすべての核酸配列が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0064】
本明細書において用いられる場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、互換的に用いられ、ペプチド結合によって共有結合されたアミノ酸残基で構成される化合物をいう。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含まなくてはならず、タンパク質またはペプチドの配列を構成することができるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドには、ペプチド結合によって相互につなぎ合わされた2つまたはそれよりも多いアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質が含まれる。本明細書において用いられる場合、この用語は、例えば、当技術分野において一般的にはペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーともいわれる短鎖と、当技術分野において一般にタンパク質といわれる長鎖の両方をいい、その中には多くのタイプがある。「ポリペプチド」には、とりわけ、例えば、生物学的に活性なフラグメント、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドのバリアント、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質が含まれる。ポリペプチドには、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0065】
抗体に関して本明細書において用いられる用語「特異的に結合する」とは、特異的抗原を認識するが、試料中の他の分子を実質的に認識またはそれと結合しない抗体を意味する。例えば、1つの種由来の抗原に特異的に結合する抗体が、1つまたは複数の種由来のその抗原にも結合する場合がある。しかし、そのような異種間反応性はそれ自体で、特異的としての抗体の分類を変化させることはない。別の例において、抗原に特異的に結合する抗体が、その抗原の異なる対立遺伝子型にも結合する場合がある。しかし、そのような交差反応性はそれ自体で、特異的としての抗体の分類を変化させることはない。場合によっては、「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語を、抗体、タンパク質またはペプチドと第2の化学種との相互作用に関連して用いて、相互作用が化学種上の特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味することができる;例えば、抗体は、タンパク質全体ではなく特定のタンパク質構造を認識し、それに結合する。抗体がエピトープ「A」に特異的であるなら、標識された「A」およびその抗体を含む反応物中にエピトープAを含む分子(または遊離した、標識されていないA)が存在することにより、その抗体に結合した標識されたAの量が低減するであろう。
【0066】
「刺激」という用語は、刺激分子(例えば、TCR/CD3複合体)がその同族リガンドと結合し、それによって、非限定的に、TCR/CD3複合体を介するシグナル伝達のような、シグナル伝達事象を媒介することにより誘導される一次応答を意味する。刺激は、TGF-ベータのダウンレギュレーション、および/または細胞骨格構造の再編成などのような、ある特定の分子の発現の変化を媒介することができる。
【0067】
「刺激分子」とは、この用語が本明細書において用いられる場合、抗原提示細胞上に存在する同族刺激リガンドと特異的に結合する、T細胞上の分子を意味する。
【0068】
本明細書において用いられる「刺激リガンド」は、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)に存在する場合、T細胞上の同族結合パートナー(本明細書において「刺激分子」といわれる)と特異的に結合でき、それによって、活性化、免疫応答の開始、増殖などを含むが、それに限定されるわけではない、T細胞による一次応答を媒介するリガンドを意味する。刺激リガンドは当技術分野において周知であり、とりわけ、ペプチドが負荷されたMHCクラスI分子、抗CD3抗体、スーパーアゴニスト抗CD28抗体、およびスーパーアゴニスト抗CD2抗体を包含する。
【0069】
「対象」という用語は、免疫応答を誘発することができる生物(例えば、哺乳動物)を含むよう意図される。本明細書において用いられる「対象」または「患者」は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物であり得る。非ヒト哺乳動物には、例えば、ヒツジ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコおよびマウス哺乳動物のような、家畜およびペットが含まれる。好ましくは、対象はヒトである。
【0070】
「標的部位」または「標的配列」とは、結合が起きるのに十分な条件の下で結合分子が特異的に結合し得る核酸の一部分を規定する核酸配列をいう。いくつかの態様では、標的配列は、結合が起こるのに十分な条件下で結合分子が特異的に結合し得る核酸の一部を規定するゲノム核酸配列のことを指す。
【0071】
本明細書において用いられる「治療的」という用語は、処置および/または予防を意味する。治療効果は、疾患状態の抑制、寛解または根絶によって得られる。
【0072】
「移植片」は、移植されることになる生体適合性の格子またはドナーの組織、臓器または細胞のことをいう。移植片の例には、皮膚細胞または組織、骨髄ならびに心臓、膵臓、腎臓、肺および肝臓などの実質臓器が含まれ得るが、それに限定されるわけではない。移植片はまた、宿主に投与されることになる任意の材料を指すことができる。例えば、移植片は、核酸またはタンパク質を指すことができる。
【0073】
本明細書において用いられる「トランスフェクションされた」または「形質転換された」または「形質導入された」という用語は、外因性核酸が宿主細胞に移入または導入される過程をいう。「トランスフェクションされた」または「形質転換された」または「形質導入された」細胞は、外因性核酸でトランスフェクションされた、形質転換された、または形質導入されたものである。この細胞には初代対象細胞およびその子孫が含まれる。
【0074】
疾患を「処置する」とは、この用語が本明細書において用いられる場合、対象が被っている疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度または重症度を低減することを意味する。
【0075】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、かつ単離された核酸を細胞の内部に送達するために使用できる材料の組成物である。直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物と結び付いたポリヌクレオチド、プラスミドおよびウイルスを含むが、それに限定されるわけではない、多数のベクターが当技術分野において公知である。したがって、「ベクター」という用語は、自律的に複製するプラスミドまたはウイルスを含む。この用語はまた、例えばポリリシン化合物、リポソームなどのような、細胞内への核酸の移入を容易にする非プラスミド性および非ウイルス性の化合物を含むと解釈されるべきである。ウイルスベクターの例としては、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0076】
範囲:本開示の全体を通じて、本開示の様々な局面を範囲の形式で提示することができる。範囲の形式の記述は、単に便宜および簡略化のためのものであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない制限と解釈されるべきではないことが理解されるべきである。したがって、範囲の記述は、可能なすべての部分範囲およびその範囲内の個々の数値を具体的に開示したものとみなされるべきである。例えば、1~6のような範囲の記述は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などのような部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3および6を具体的に開示したものとみなされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0077】
B. 改変された免疫細胞
内因性Fli1が破壊されている、改変された免疫細胞またはその前駆体(例えば、T細胞)が本明細書に提供される。内因性Fli1は、当業者に公知の任意の手段によって遺伝子またはタンパク質レベルで破壊することができる。Fli1を破壊するそのような方法は、CRISPRシステム、抗体、siRNA、miRNA、薬物、アンタゴニスト、低分子阻害剤、およびPROTAC標的を含むが、それらに限定されない。
【0078】
一局面では、本開示は、Fli1をコードする内因性遺伝子座中に改変を含む、改変された免疫細胞またはその前駆体(例えば、T細胞)を提供する。ある特定の態様では、細胞は、内因性Fli1の遺伝子発現をダウンレギュレーション可能な核酸を含む。
【0079】
一局面では、本開示は、Fli1をコードする内因性遺伝子座中に内因性Fli1の遺伝子発現をダウンレギュレーション可能なCRISPR媒介改変を含む、改変された免疫細胞またはその前駆体(例えば、T細胞)を提供する。
【0080】
ある特定の態様では、改変細胞は、ヒト細胞である。
【0081】
本開示は、遺伝子編集された改変細胞を提供する。いくつかの態様では、本開示の改変細胞は、Fli1をコードする内因性遺伝子座の発現を破壊するように遺伝子編集される。いくつかの態様では、遺伝子編集された免疫細胞(例えば、T細胞)は、内因性Fli1の発現のダウンレギュレーション、低減、欠失、排除、ノックアウトまたは破壊を有する。
【0082】
免疫療法は、がん患者の治療において様々な有効性を示してきた。それらの効果を制限する主要な問題の1つは、T細胞が、腫瘍細胞による持続的な刺激後に疲弊することである。疲弊したT細胞は、低減されたエフェクター機能、例えばサイトカインの産生および腫瘍細胞に対する細胞傷害性を有し、これらは、より高いレベルのチェックポイント阻害性分子、例えばPD-1およびCTLA-4を発現する。PD-1およびCTLA-4抗体が、複数の種類のがんを治療するために臨床的に使用されている。
【0083】
いくつかの態様では、本開示の改変細胞は、さらなる内因性遺伝子の発現を破壊するように遺伝子編集される。例えば、細胞は、内因性PDCD1遺伝子産物(例えば、プログラム死1受容体;PD-1)を破壊するようにさらに編集され得る。内因性PD-1の発現を破壊することは、「チェックポイント」抵抗性の改変細胞を創出し、結果として、増加した腫瘍制御をもたらし得る。チェックポイント抵抗性の改変細胞はまた、例えば、非限定的に、アデノシンA2A受容体(A2AR)、B7-H3(CD276)、B7-H4(VTCN1)、BおよびTリンパ球アテニュエータータンパク質(BTLA/CD272)、CD96、細胞傷害性T-リンパ球関連タンパク質4(CTLA-4/CD152)、インドールアミン 2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG3)、IgおよびITIMドメインを有するT細胞免疫受容体(TIGIT)、T-細胞免疫グロブリンドメインおよびムチンドメイン3(TIM-3)、またはT細胞活性化のV-ドメインIgサプレッサー(VISTA)の発現を破壊することによっても創出され得る。
【0084】
様々な遺伝子編集技術が当業者に公知である。遺伝子編集技術は、非限定的に、ホーミングエンドヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクター(TALE)ヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)関連タンパク質9(Cas9)を含む。ホーミングエンドヌクレアーゼは、一般的に、それらのDNA基質を二量体として切断し、異なる結合および切断ドメインを有しない。ZFNは、FokI切断ドメインによって認識される5~7塩基対(bp)のスペーサー配列に隣接する2つのジンクフィンガー結合部位からなる標的部位を認識する。TALENは、FokI切断ドメインによって認識される12~20bpのスペーサー配列に隣接する2つのTALE DNA結合部位からなる標的部位を認識する。Cas9ヌクレアーゼは、適合するプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)のすぐ上流に位置する単一ガイドRNA(gRNA)内のターゲティング配列と相補的なDNA配列にターゲティングされる。したがって、当業者は、本開示のための適切な遺伝子編集技術を選択できるであろう。
【0085】
いくつかの局面では、破壊は、破壊される遺伝子(例えば、Fli1)に特異的なCRISPR-Casシステム(CRISPR-Cas9システムなど)などのRNAガイドヌクレアーゼを使用した遺伝子編集によって行われる。いくつかの態様では、遺伝子座の領域を標的とする、Cas9とターゲティングドメインを含有するガイドRNA(gRNA)とを含有する作用物質が、細胞に導入される。いくつかの態様では、作用物質は、Cas9ポリペプチドとgRNAのリボヌクレオタンパク質(RNP)複合体(Cas9/gRNA RNP)であるか、またはそれを含む。いくつかの態様では、導入は、作用物質またはその部分を細胞とインビトロで接触させることを含み、これは、細胞と作用物質とを、最大で24、36もしくは48時間、または3、4、5、6、7もしくは8日間カルチベーションまたはインキュベーションすることを含むことができる。いくつかの態様では、導入はさらに、作用物質の細胞への送達を遂行することを含むことができる。様々な態様では、本開示に係る方法、組成物および細胞は、Cas9とgRNAのリボヌクレオタンパク質(RNP)複合体の、例えばエレクトロポレーションによる、細胞への直接送達を利用する。いくつかの態様では、RNP複合体は、3'ポリ-Aテールおよび5'アンチリバースキャップアナログ(ARCA)キャップを含むように改変されているgRNAを含む。
【0086】
CRISPR/Cas9システムは、標的遺伝子変異を誘導するための簡単かつ効率的なシステムである。Cas9タンパク質による標的認識は、ガイドRNA(gRNA)内の「シード」配列、およびgRNA結合領域の上流にある保存されたジヌクレオチド含有プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を必要とする。CRISPR/Cas9システムは、それにより、細胞株(293T細胞など)、初代細胞およびTCR T細胞においてgRNAを再設計することによって、ほぼすべてのDNA配列を切断するように操作することができる。CRISPR/Cas9システムは、単一のCas9タンパク質を2つ以上のgRNAと共に共発現させることによって、複数のゲノム遺伝子座を同時に標的とすることができ、それにより、このシステムは、標的遺伝子の多重遺伝子編集または相乗的活性化に適している。
【0087】
Cas9タンパク質およびガイドRNAは、標的配列を同定かつ切断する複合体を形成する。Cas9は、6つのドメイン:REC I、REC II、ブリッジヘリックス、PAM相互作用、HNH、およびRuvCから構成される。REC Iドメインは、ガイドRNAに結合する一方で、ブリッジヘリックスは、標的DNAに結合する。HNHおよびRuvCドメインは、ヌクレアーゼドメインである。ガイドRNAは、標的DNA配列と相補的な5'端を有するように操作される。ガイドRNAがCas9タンパク質に結合すると、立体構造変化が起こって、タンパク質を活性化する。活性化されたら、Cas9は、そのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列に一致する配列に結合することによって標的DNAを探し出す。PAMは、ガイドRNAと相補的な領域の1ヌクレオチド下流内にある2つまたは3つのヌクレオチド塩基配列である。非限定的な一例として、PAM配列は、5'-NGG-3'である。Cas9タンパク質が、適切なPAMを有するその標的配列を見つけると、PAMの上流にある塩基を融解し、それらをガイドRNA上の相補領域と対合させる。次いで、RuvCおよびHNHヌクレアーゼドメインが、PAMの上流にある3番目のヌクレオチド塩基の後ろで標的DNAを切断する。
【0088】
遺伝子発現を阻害するために使用されるCRISPR/Casシステムの非限定的な一例であるCRISPRiは、米国特許出願公開番号US20140068797に記載されている。CRISPRiは、RNAガイドCas9エンドヌクレアーゼを利用してDNA二本鎖切断を導入し、エラーが起こりやすい修復経路を誘発してフレームシフト変異をもたらす、恒久的な遺伝子破壊を誘導する。触媒活性を伴わないCas9は、エンドヌクレアーゼ活性を欠いている。ガイドRNAと共発現されると、転写伸長、RNAポリメラーゼ結合または転写因子結合に特異的に干渉するDNA認識複合体が生成される。このCRISPRiシステムは、標的遺伝子の発現を効率的に抑制する。
【0089】
CRISPR/Cas遺伝子破壊は、標的遺伝子に特異的なガイド核酸配列およびCasエンドヌクレアーゼが細胞に導入されて、Casエンドヌクレアーゼが標的遺伝子に二本鎖切断を導入できるようにする複合体を形成するときに起きる。ある特定の態様では、CRISPR/Casシステムは、限定されないが、pAd5F35-CRISPRベクターなどの発現ベクターを含む。他の態様では、Cas発現ベクターは、Cas9エンドヌクレアーゼの発現を誘導する。限定されないが、Cas12a(Cpf1)、T7、Cas3、Cas8a、Cas8b、Cas10d、Cse1、Csy1、Csn2、Cas4、Cas10、Csm2、Cmr5、Fok1、当技術分野において公知の他のヌクレアーゼ、およびそれらの任意の組み合わせを含めた、他のエンドヌクレアーゼも使用され得る。
【0090】
ある特定の態様では、Cas発現ベクターを誘導することは、細胞を、Cas発現ベクターにおいて誘導性プロモーターを活性化する作用物質に曝露させることを含む。そのような態様では、Cas発現ベクターは、誘導性プロモーター、例えば、抗生物質への曝露によって(例えば、テトラサイクリンまたはテトラサイクリンの誘導体、例えばドキシサイクリンによって)誘導可能なものを含む。当業者によって知られている他の誘導性プロモーターを使用することもできる。誘導物質は、誘導性プロモーターの誘導をもたらす選択的条件(例えば、作用物質、例えば、抗生物質への曝露)であることができる。これは、Cas発現ベクターの発現をもたらす。
【0091】
本明細書において使用される場合、「ガイドRNA」または「gRNA」という用語は、Cas9などのRNAガイドヌクレアーゼが、細胞中の標的配列(例えば、ゲノムまたはエピソーム配列)に特異的に会合(または「ターゲティング」)するのを促進する、任意の核酸のことを指す。
【0092】
本明細書において使用される場合、「モジュラー」または「デュアルRNA」ガイドは、通常、例えば二重化によって、互いに会合している、1を超える、典型的には2つの、別々のRNA分子、例えば、CRISPR RNA(crRNA)およびトランス活性化crRNA(tracrRNA)を含む。gRNAおよびそれらの構成部分は、文献(例えば、Briner et al. Mol. Cell, 56(2), 333-339 (2014)を参照されたく、これは、参照により組み入れられる)を通して説明されている。
【0093】
本明細書において使用される場合、「単分子gRNA」、「キメラgRNA」または「単一ガイドRNA(sgRNA)」は、単一RNA分子を含む。sgRNAは、一緒に連結されているcrRNAおよびtracrRNAであり得る。例えば、crRNAの3'端は、tracrRNAの5'端に連結され得る。crRNAおよびtracrRNAは、例えば、crRNA(その3'端で)とtracrRNA(その5'端で)の相補領域を架橋する4ヌクレオチド(例えば、GAAA)「テトラループ」または「リンカー」配列によって接続されて、単一の単分子またはキメラgRNAになり得る。
【0094】
本明細書において使用される場合、「リピート」配列または領域は、tracrRNAのアンチリピート配列と相補的なcrRNAの3'端またはその近くにあるヌクレオチド配列である。
【0095】
本明細書において使用される場合、「アンチリピート」配列または領域は、crRNAのリピート配列と相補的なtracrRNAの5'端またはその近くにあるヌクレオチド配列である。
【0096】
ゲノム編集のためのgRNA/Cas9複合体を含めた、ガイドRNAの構造および機能に関するさらなる詳細については、少なくとも、Mali et al. Science, 339 (6121), 823-826 (2013);Jiang et al. Nat. Biotechnol. 31(3). 233-239 (2013);およびJinek et al. Science, 337(6096), 816-821 (2012)に見いだすことができ;これらは、参照により本明細書に組み入れられる。
【0097】
本明細書において使用される場合、「ガイド配列」または「ターゲティング配列」は、編集が所望される細胞のゲノム中のDNA配列内の標的ドメインまたは標的ポリヌクレオチドと完全にまたは部分的に相補的な、単分子かモジュラーかの、gRNAのヌクレオチド配列のことを指す。ガイド配列は、典型的には、10~30ヌクレオチド長、好ましくは16~24ヌクレオチド長(例えば、16、17、18、19、20、21、22、23または24ヌクレオチド長)であり、Cas9 gRNAの5'末端またはその近くにある。
【0098】
本明細書において使用される場合、「標的ドメイン」または「標的ポリヌクレオチド配列」または「標的配列」は、gRNAのガイド配列と相補的な細胞のゲノム中のDNA配列である。
【0099】
CRISPR複合体の形成との関連で、「標的配列」は、ガイド配列がある適度の相補性を有するように設計される配列のことを指し、ある適度の相補性は、標的配列とガイド配列との間でハイブリダイゼーションが起こった場合にCRISPR複合体の形成が促進されるものである。ハイブリダイゼーションを引き起こし、CRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性があれば、完全な相補性は必ずしも必要とされない。標的配列は、DNAまたはRNAポリヌクレオチドなどの任意のポリヌクレオチドを含み得る。ある特定の態様では、標的配列は、細胞の核または細胞質に位置する。他の態様では、標的配列は、真核細胞の細胞小器官、例えば、ミトコンドリアまたは核の内部にあり得る。典型的には、CRISPRシステムとの関連で、CRISPR複合体(標的配列にハイブリダイズし、1つまたは複数のCasタンパク質と複合化されたガイド配列を含む)の形成は、標的配列中またはその近く(例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50またはそれ以上の塩基対内)の一方または両方の鎖の切断をもたらす。標的配列と同様に、これが機能するのに十分であれば、完全な相補性は必要ないと考えられる。
【0100】
ある特定の態様では、CRISPRシステムの要素の発現が1つまたは複数の標的部位でのCRISPR複合体の形成を指令するように、CRISPRシステムの1つまたは複数の要素の発現を駆動する1つまたは複数のベクターが宿主細胞に導入される。例えば、Casヌクレアーゼ、crRNA、およびtracrRNAを、各々、別々のベクター上の別々の調節要素に機能的に連結することもできる。あるいは、同じまたは異なる調節要素から発現される2つ以上の要素を、単一のベクターにおいて組み合わせて、1つまたは複数のさらなるベクターが、第1のベクターに含まれないCRISPRシステムの任意の成分を提供してもよい。単一のベクターにおいて組み合わされるCRISPRシステム要素は、1つの要素が、第2の要素に対して5'側(その「上流」)または第2の要素に対して3'側(その「下流」)に位置するなど、任意の好適な配向に配置され得る。1つの要素のコード配列は、第2の要素のコード配列の同じまたは反対の鎖上に位置し、同じまたは反対の方向に配向され得る。ある特定の態様では、単一のプロモーターが、CRISPR酵素と、ガイド配列、tracr mate配列(任意で、ガイド配列に機能的に連結されている)、および1つまたは複数のイントロン配列内に(例えば、各々が異なるイントロン中に、2つ以上が少なくとも1つのイントロン中に、またはすべてが単一のイントロン中に)埋め込まれたtracr配列の1つまたは複数とをコードする転写物の発現を駆動する。
【0101】
ある特定の態様では、CRISPR酵素は、1つまたは複数の異種タンパク質ドメイン(例えば、CRISPR酵素に加えて、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくはそれ以上のドメイン、または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10超、もしくはそれ以上のドメイン)を含む融合タンパク質の一部である。CRISPR酵素融合タンパク質は、任意のさらなるタンパク質配列、および任意でいずれか2つのドメイン間のリンカー配列を含み得る。CRISPR酵素に融合され得るタンパク質ドメインの例は、非限定的に、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、および以下の活性の1つまたは複数を有するタンパク質ドメインを含む:メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写放出因子活性、ヒストン修飾活性、RNA切断活性および核酸結合活性。CRISPR酵素を含む融合タンパク質の一部を形成し得るさらなるドメインは、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開番号US20110059502に記載されている。ある特定の態様では、標的配列の位置を同定するために、タグ化されたCRISPR酵素が使用される。
【0102】
従来のウイルスおよび非ウイルスベースの遺伝子移入法を使用して、哺乳動物および非哺乳動物細胞または標的組織に核酸を導入することができる。そのような方法を使用して、CRISPRシステムの成分をコードする核酸を、培養中の細胞または宿主生物中の細胞に投与することができる。非ウイルスベクター送達システムは、DNAプラスミド、RNA(例えば、本明細書に記載されるベクターの転写物)、裸の核酸、およびリポソームなどの送達ビヒクルと複合化された核酸を含む。ウイルスベクター送達システムは、細胞への送達後にエピソームゲノムまたは組み込まれたゲノムのいずれかを有する、DNAおよびRNAウイルスを含む(Anderson, 1992, Science 256:808-813;およびYu, et al., 1994, Gene Therapy 1:13-26)。
【0103】
いくつかの態様では、CRISPR/Casは、II型CRISPR/Casシステムに由来する。他の態様では、CRISPR/Casシステムは、Cas9ヌクレアーゼに由来する。本開示において使用され得る例示的なCas9ヌクレアーゼは、S. ピオゲネスCas9(SpCas9)、S. アウレウスCas9(SaCas9)、S. サーモフィルスCas9(StCas9)、N. メニンジティディスCas9(NmCas9)、C. ジェジュニCas9(CjCas9)、およびゲオバチルスCas9(GeoCas9)を含むが、それらに限定されない。
【0104】
一般に、Casタンパク質は、少なくとも1つのRNA認識および/またはRNA結合ドメインを含む。RNA認識および/またはRNA結合ドメインは、ガイドするRNAと相互作用する。Casタンパク質はまた、ヌクレアーゼドメイン(すなわち、DNaseまたはRNaseドメイン)、DNA結合ドメイン、ヘリカーゼドメイン、RNAseドメイン、タンパク質-タンパク質相互作用ドメイン、二量体化ドメイン、ならびに他のドメインを含むこともできる。Casタンパク質は、核酸結合親和性および/または特異性を高めるために、酵素活性を変更するために、ならびに/またはタンパク質の別の特性を変化させるために改変することができる。ある特定の態様では、融合タンパク質のCas様タンパク質は、野生型Cas9タンパク質またはその断片に由来することができる。他の態様では、Casは、改変Cas9タンパク質に由来することができる。例えば、Cas9タンパク質のアミノ酸配列を修飾して、タンパク質の1つまたは複数の特性(例えば、ヌクレアーゼ活性、親和性、安定性など)を変更することができる。あるいは、改変Cas9タンパク質が野生型Cas9タンパク質よりも小さくなるように、RNAガイド切断に関与しないCas9タンパク質のドメインをタンパク質から排除することができる。一般に、Cas9タンパク質は、少なくとも2つのヌクレアーゼ(すなわち、DNase)ドメインを含む。例えば、Cas9タンパク質は、RuvC様ヌクレアーゼドメインおよびHNH様ヌクレアーゼドメインを含むことができる。RuvCおよびHNHドメインは、共同して一本鎖を切断し、DNA中に二本鎖切断を生じさせる(Jinek, et al., 2012, Science, 337:816-821)。ある特定の態様では、機能的なヌクレアーゼドメインを1つだけ(RuvC様またはHNH様のいずれかのヌクレアーゼドメインのいずれか)含有するように、Cas9由来タンパク質を改変することができる。例えば、ヌクレアーゼドメインの1つが欠失または変異して、それがもはや機能しなくなる(すなわち、ヌクレアーゼ活性が存在しない)ように、Cas9由来タンパク質を改変することができる。ヌクレアーゼドメインの1つが不活性であるいくつかの態様では、Cas9由来タンパク質は、二本鎖核酸にニックを導入することができる(そのようなタンパク質は、「ニッカーゼ」と称される)が、二本鎖DNAを切断しない。上記態様のいずれにおいても、部位特異的変異誘発、PCR媒介変異誘発および全遺伝子合成などの周知の方法、ならびに当技術分野において公知の他の方法を使用して、1つまたは複数の欠失変異、挿入変異、および/または置換変異によって、ヌクレアーゼドメインのいずれかまたはすべてを不活性化することができる。
【0105】
1つの非限定的な態様では、ベクターは、CRISPRシステムの発現を駆動する。当技術分野には、本開示において有用である好適なベクターが豊富にある。使用されるべきベクターは、複製に適しており、任意で、真核細胞への組み込みに適しているものである。典型的なベクターは、転写および翻訳ターミネーター、開始配列、ならびに所望の核酸配列の発現の調節に有用なプロモーターを含有する。本開示のベクターは、核酸の標準的な遺伝子送達プロトコルにも使用され得る。遺伝子送達のための方法は、当技術分野において公知である(米国特許第5,399,346号、同第5,580,859号&同第5,589,466号、これらは参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)。
【0106】
さらに、ベクターは、ウイルスベクターの形態で細胞に提供され得る。ウイルスベクター技術は、当技術分野において周知であり、例えば、Sambrookら(4th Edition, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 2012)に、そして、他のウイルス学および分子生物学マニュアルに記載されている。ベクターとして有用なウイルスは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、シンドビスウイルス、ガンマレトロウイルスおよびレンチウイルスを含むが、それらに限定されない。一般に、好適なベクターは、少なくとも1つの生物において機能する複製起点、プロモーター配列、好都合な制限エンドヌクレアーゼ部位、および1つまたは複数の選択マーカーを含有する(例えば、WO 01/96584;WO 01/29058;および米国特許第6,326,193号)。
【0107】
いくつかの態様では、ガイドRNA(複数)およびCas9は、リボヌクレオタンパク質(RNP)複合体(例えば、Cas9/RNA-タンパク質複合体)として細胞に送達することができる。RNPは、gRNAと複合化された精製Cas9タンパク質から構成され、限定されないが幹細胞および免疫細胞を含めた複数の種類の細胞に効率的に送達されることが当技術分野において周知である(Addgene, Cambridge, MA, Mirus Bio LLC, Madison, WI)。いくつかの態様では、Cas9/RNA-タンパク質複合体は、エレクトロポレーションによって細胞に送達される。
【0108】
いくつかの態様では、本開示の改変細胞は、CRISPR/Cas9を使用して、Fli1をコードする内因性遺伝子座を破壊するように編集される。Fli1を破壊する際に使用するための好適なgRNAは、本明細書に示しており(表1および表2を参照のこと)、SEQ ID NO:152~156およびSEQ ID NO:676~713を含むが、それらに限定されない。当業者には、ガイドRNA配列がチミジン(T)またはウリジン(U)ヌクレオチドを用いて列記され得ることが理解されよう。
【0109】
(表2)ヒトFli1 sgRNA
【0110】
CRISPR媒介改変の非限定的な種類は、置換、挿入、欠失、および挿入/欠失(INDEL)を含む。改変は、限定されないがエクソン、スプライスドナーまたはスプライスアクセプターを含めた、Fli1をコードする内因性遺伝子座の任意の部分に位置することができる。
【0111】
ある特定の態様では、ガイドRNAは、Fli1をコードする内因性遺伝子座中の標的配列と十分に相補的なガイド配列を含む。ある特定の態様では、ガイドRNAは、例えば、SEQ ID NO:152~156またはSEQ ID NO:676~713に示される配列のいずれか1つを含むガイド配列などの、Fli1をコードする内因性遺伝子座中の標的配列と十分に相補的なガイド配列を含む。
【0112】
ある特定の態様では、改変細胞は、細胞機能障害に抵抗性である。ある特定の態様では、改変細胞は、細胞疲弊に抵抗性である。ある特定の態様では、改変細胞は、自己由来細胞である。ある特定の態様では、改変細胞は、ヒト対象から単離された細胞である。ある特定の態様では、改変細胞は、改変免疫細胞である。ある特定の態様では、改変細胞は、改変T細胞である。ある特定の態様では、改変細胞は、T細胞疲弊に抵抗性である改変T細胞である。ある特定の態様では、改変細胞は、T細胞機能障害に抵抗性である改変T細胞である。
【0113】
いくつかの局面では、提供される組成物および方法は、免疫細胞の組成物中の免疫細胞の少なくとも約50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%または約50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%超が所望の遺伝子改変を含有するものを含む。例えば、内因性遺伝子(例えば、Fli1)のノックアウトまたは遺伝子破壊のための作用物質(例えば、gRNA/Cas9)が導入された細胞の組成物中の免疫細胞の約50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%が、遺伝子破壊を含有する;標的内因性ポリペプチドを発現しない、または標的遺伝子の連続的および/もしくは機能的コピーを含有しない。いくつかの態様では、本開示に係る方法、組成物および細胞は、標的遺伝子のノックアウトまたは遺伝子破壊のための作用物質(例えば、gRNA/Cas9)が導入された細胞の組成物中の細胞の少なくとも約50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%または約50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%超が、免疫細胞の表面などに標的ポリペプチドを発現しないものを含む。いくつかの態様では、標的遺伝子のノックアウトまたは遺伝子破壊のための作用物質(例えば、gRNA/Cas9)が導入された細胞の組成物中の細胞の少なくとも約50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%または約50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%超が、両対立遺伝子でノックアウトされている、すなわち、そのようなパーセンテージの細胞において、二対立遺伝子欠失を含む。
【0114】
いくつかの態様では、標的遺伝子またはその近く(例えば、切断部位の上流または下流の、100塩基対以内もしくは約100塩基対以内、50塩基対以内もしくは約50塩基対以内、または25塩基対以内もしくは約25塩基対以内、または10塩基対以内もしくは約10塩基対以内)でのCas9媒介切断効率(インデル%)が、標的遺伝子のノックアウトまたは遺伝子破壊のための作用物質(例えば、gRNA/Cas9)が導入されている細胞の組成物の細胞において少なくとも約50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%または約50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%超である、組成物および方法が提供される。
【0115】
いくつかの態様では、提供される細胞、組成物および方法は、標的遺伝子のノックアウトまたは遺伝子破壊のための作用物質(例えば、gRNA/Cas9)が導入された細胞の組成物中の細胞の少なくとも約50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%または約50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%超において、内因性を介して送達されるシグナルの低減または破壊をもたらす。
【0116】
いくつかの態様では、組換え受容体で操作された細胞を含み、かつ、内因性遺伝子の発現の低減、欠失、排除、ノックアウトまたは破壊(例えば、Fli1の遺伝子破壊)を含む、提供される開示に係る組成物は、同じ条件下で評価した場合の該受容体を含むが遺伝子の遺伝子破壊を含まないまたはポリペプチドを発現しない対応または参照組成物の操作された細胞において発現される受容体と比較して、該受容体の機能的特性または活性を保持する。いくつかの態様では、提供される組成物の操作された細胞は、同じ条件下で評価した場合の組換え受容体で操作されているが遺伝子破壊を含まないまたは標的ポリペプチドを発現しない操作された細胞を含む対応または参照組成物と比較して、機能的特性または活性を保持する。いくつかの態様では、該細胞は、そのような対応または参照組成物と比較して、細胞傷害性、増殖、生存またはサイトカイン分泌を保持する。
【0117】
いくつかの態様では、該組成物中の免疫細胞は、同じ条件下で評価した場合の対応または参照組成物中の細胞の表現型と比較して、免疫細胞(1つまたは複数)の表現型を保持する。いくつかの態様では、該組成物中の細胞は、ナイーブ細胞、エフェクターメモリー細胞、セントラルメモリー細胞、ステムセントラルメモリー細胞、エフェクターメモリー細胞、および長期生存エフェクターメモリー細胞を含む。いくつかの態様では、標的遺伝子(例えば、Fli1)の遺伝子破壊を含むT細胞の割合は、遺伝子破壊を含有しない細胞の対応または参照集団または組成物と同じまたは実質的に同じ、活性化されていない長期生存メモリーまたはセントラルメモリー表現型を示す。いくつかの態様では、そのような特性、活性または表現型は、インビトロアッセイにおいて測定することができる。いくつかの態様では、評価される活性、特性または表現型はいずれも、作用物質のエレクトロポレーション後または他の導入後の様々な日時に、例えば、3、4、5、6、7日後にまたは3、4、5、6、7日までに評価することができる。いくつかの態様では、そのような活性、特性または表現型は、同じ条件下で評価した場合の標的遺伝子の遺伝子破壊を含まない細胞を含有する対応する組成物の活性と比較して、組成物中の細胞の少なくとも80%、85%、90%、95%または100%によって保持される。
【0118】
本明細書において使用される場合、「対応する組成物」または「対応する免疫細胞集団」(「参照組成物」または「参照細胞集団」とも呼ばれる)への言及は、免疫細胞または免疫細胞集団に作用物質が導入されなかった以外は同じまたは実質的に同じ条件下で得られた、単離された、生成された、産生されたおよび/またはインキュベートされた免疫細胞(例えば、T細胞)のことを指す。いくつかの局面では、作用物質の導入を含まないこと以外、そのような免疫細胞は、阻害性分子のアップレギュレーションまたは発現を含めた細胞の活性または特性に影響を与え得るいずれか1つまたは複数の条件が、作用物質の導入を除き、細胞間で変動しないまたは実質的に変動しないように、作用物質が導入されている免疫細胞と同様にまたは実質的に同様に処理される。
【0119】
T細胞マーカーの発現および/またはレベルを評価するための方法および技法は、当技術分野において公知である。そのようなマーカーの検出のための抗体および試薬は、当技術分野において周知であり、容易に入手可能である。そのようなマーカーを検出するためのアッセイおよび方法は、細胞内フローサイトメトリーを含めたフローサイトメトリー、ELISA、ELISPOT、サイトメトリービーズアレイまたは他のマルチプレックス法、ウエスタンブロットおよび他の免疫親和性に基づく方法を含むが、それらに限定されない。いくつかの態様では、細胞は、フローサイトメトリーまたは他の免疫親和性に基づく方法によって、係る細胞に特有のマーカーの発現について検出することができ、次いで、係る細胞を、別の細胞表面マーカー(1つまたは複数)について共染色することができる。
【0120】
いくつかの態様では、該細胞、組成物および方法は、養子移入しようとする免疫細胞(例えば、T細胞)において標的遺伝子の発現の欠失、ノックアウト、破壊または低減を提供する。いくつかの態様では、該方法は、初代細胞、例えば、対象からの初代免疫細胞(例えば、T細胞)に対してエクスビボで実施される。いくつかの局面では、そのような遺伝子操作されたT細胞を産生または生成する方法は、免疫細胞(例えば、T細胞)を含有する細胞の集団に、ターゲティングしようとする遺伝子(例えば、Fli1)を破壊可能な作用物質(1つまたは複数)を導入することを含む。本明細書において使用される場合、「導入すること」という用語は、DNAを細胞にインビトロまたはインビボのいずれかで導入する多様な方法を包含し、そのような方法は、形質転換、形質導入、トランスフェクション(例えば、エレクトロポレーション)、および感染を含む。ベクターは、DNAをコードする分子を細胞に導入するのに有用である。可能なベクターは、プラスミドベクターおよびウイルスベクターを含む。ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、またはアデノウイルスベクターもしくはアデノ随伴ベクターなどの他のベクターを含む。
【0121】
T細胞を含有する細胞の集団は、対象から得られた、例えば、末梢血単核細胞(PBMC)試料、未分画T細胞試料、リンパ球試料、白血球試料、アフェレーシス産物または白血球アフェレーシス産物から得られた、細胞であることができる。いくつかの態様では、T細胞は、陽性または陰性選択および濃縮法を使用して、分離または選択して、集団中のT細胞を濃縮することができる。いくつかの態様では、該集団は、CD4+、CD8+またはCD4+かつCD8+ T細胞を含有する。いくつかの態様では、遺伝子操作された抗原受容体をコードする核酸を導入する工程と作用物質(例えば、Cas9/gRNA RNP)を導入する工程は、同時にまたは逐次的に任意の順序で行うことができる。いくつかの態様では、外因性受容体および1つまたは複数の遺伝子編集物質(例えば、Cas9/gRNA RNP)の導入に続いて、細胞は、細胞の増大および/または増殖を刺激するための条件下で培養またはインキュベートされる。
【0122】
したがって、投与された遺伝子操作細胞の活性および効力を高めるなどによって、移入された細胞の経時的な持続性または曝露を維持しつつ、養子細胞療法における免疫細胞(例えば、T細胞)機能を増強する、例えば、改善された有効性を提供する、細胞、組成物および方法が提供される。いくつかの態様では、遺伝子操作された細胞は、対象にインビボ投与されたときに、ある特定の利用可能な方法と比較して高められた増大および/または持続性を示す。いくつかの態様では、提供される免疫細胞は、対象にインビボ投与されたときに、高められた持続性を示す。いくつかの態様では、投与されたときの対象における遺伝子操作された免疫細胞の持続性は、代替法、例えば、内因性受容体をコードする遺伝子の発現を低減するまたは該遺伝子を破壊する作用物質がT細胞に導入されない方法により遺伝子操作された細胞を投与する方法によって達成されるであろう持続性と比較してより大きい。いくつかの態様では、持続性は、少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、30倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍もしくはそれ以上、または約少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、30倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍もしくはそれ以上増加する。
【0123】
いくつかの態様では、投与された細胞の持続性の程度または範囲は、対象に投与した後に検出または定量することができる。例えば、いくつかの局面では、定量的PCR(qPCR)が、対象の血液または血清または臓器または組織(例えば、疾患部位)中の細胞の量を評価するために使用される。いくつかの局面では、持続性は、DNA 1マイクログラム当たりの、外因性受容体をコードするDNAまたはプラスミドのコピーとして、あるいは、試料、例えば、血液もしくは血清1マイクロリットル当たりの、または試料1マイクロリットル当たりの末梢血単核細胞(PBMC)もしくは白血球もしくはT細胞の総数当たりの、受容体発現細胞の数として定量される。いくつかの態様では、細胞を一般的にその細胞に特異的な抗体を使用して検出するフローサイトメトリーアッセイを実施することもできる。また、細胞ベースのアッセイを使用して、機能性細胞、例えば、疾患もしくは病態の細胞または受容体によって認識される抗原を発現する細胞に結合可能および/または中和可能な、ならびに/またはその細胞に対して応答、例えば、細胞傷害性応答を誘導可能な、細胞の数または割合を検出してもよい。そのような態様のいずれにおいても、細胞に関連する別のマーカーの発現の範囲またはレベルを使用して、対象において投与された細胞と内因性細胞とを区別することができる。
【0124】
C. 免疫細胞の供給源
いくつかの態様では、エクスビボ操作のために免疫細胞の供給源が対象から得られる。エクスビボ操作のための標的細胞の供給源はまた、例えば、自己または異種のドナー血、臍帯血、または骨髄も含む場合がある。例えば、免疫細胞の供給源は、本開示の改変された免疫細胞により処置されるべき対象に由来する場合があり、例えば、対象の血液、対象の臍帯血、または対象の骨髄であり得る。対象の非限定的な例には、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、およびそれらのトランスジェニック種が含まれる。好ましくは、対象はヒトである。
【0125】
免疫細胞は、血液、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、脾臓組織、臍帯、リンパ液、またはリンパ器官を含むいくつかの供給源から得ることができる。免疫細胞は、免疫系の細胞、例えば自然免疫または適応免疫の細胞、例えば、リンパ球、典型的にはT細胞および/またはNK細胞を含む骨髄系細胞またはリンパ球系細胞である。他の例示的な細胞には、人工多能性幹細胞(iPSC)を含む、複能性および多能性幹細胞などの幹細胞が含まれる。いくつかの局面では、細胞はヒト細胞である。処置されるべき対象に関して、細胞は、同種および/または自己であり得る。細胞は、典型的には、初代細胞、例えば、対象から直接単離され、かつ/または対象から単離され凍結された初代細胞である。
【0126】
ある特定の態様では、免疫細胞は、T細胞、例えば、CD8+ T細胞(例えば、CD8+ ナイーブT細胞、中枢性メモリーT細胞、またはエフェクターメモリーT細胞)、CD4+ T細胞、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)、制御性T細胞(Treg)、幹細胞メモリーT細胞、リンパ球系前駆細胞、造血幹細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)または樹状細胞である。いくつかの態様では、細胞は、単球または顆粒球、例えば、骨髄系細胞、マクロファージ、好中球、樹状細胞、マスト細胞、好酸球、および/または好塩基球である。ある態様では、標的細胞は、人工多能性幹(iPS)細胞またはiPS細胞に由来する細胞、例えば、対象から生成され、1つまたは複数の標的遺伝子の発現を変化させる(例えばそれに変異を誘導する)または操作するように操作され、例えば、T細胞、例えば、CD8+ T細胞(例えば、CD8+ ナイーブT細胞、中枢性メモリーT細胞、またはエフェクターメモリーT細胞)、CD4+ T細胞、幹細胞メモリーT細胞、リンパ球系前駆細胞または造血幹細胞に分化したiPS細胞である。
【0127】
いくつかの態様では、細胞は、T細胞または他の細胞型の1つまたは複数のサブセット、例えばT細胞集団全体、CD4+細胞、CD8+細胞、およびその部分集団、例えば機能、活性化状態、成熟、分化能、増大、再循環、局在、および/もしくは持続能、抗原特異性、抗原受容体の種類、特定の器官もしくは区画における存在、マーカーもしくはサイトカイン分泌プロファイル、および/または分化の度合いにより定義されるものを含む。T細胞ならびに/またはCD4+および/もしくはCD8+ T細胞のサブタイプおよび部分集団は中でも、ナイーブT(TN)細胞、エフェクターT細胞(TEFF)、メモリーT細胞およびそれらのサブタイプ、例えば幹細胞メモリーT(TSCM)、中枢性メモリーT(TCM)、エフェクターメモリーT(TEM)、または最終分化エフェクターメモリーT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、未熟T細胞、成熟T細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞、自然および適応制御性T(Treg)細胞、ヘルパーT細胞、例えばTH1細胞、TH2細胞、TH3細胞、TH17細胞、TH9細胞、TH22細胞、濾胞性ヘルパーT細胞、アルファ/ベータT細胞、およびデルタ/ガンマT細胞である。ある特定の態様では、当技術分野において入手可能ないくつものT細胞系が、使用される場合がある。
【0128】
いくつかの態様では、方法は、対象から免疫細胞を単離する段階、それらを調製、処理、培養、および/または操作する段階を含む。いくつかの態様では、操作された細胞の調製は、1つまたは複数の培養および/または調製段階を含む。記載のように操作するための細胞は、生物学的試料などの試料、例えば対象から得られたまたは対象に由来する試料から単離される場合がある。いくつかの態様では、細胞が単離される対象は、疾患もしくは状態を有する対象、または細胞療法を必要とする、もしくは細胞療法が投与されるであろう対象である。対象は、いくつかの態様では、そのために細胞が単離、処理、および/または操作される、養子細胞療法などの特定の治療的介入の必要のあるヒトである。したがって、細胞は、いくつかの態様では、初代細胞、例えば、初代ヒト細胞である。試料には、対象から直接採取された組織、液体、および他の試料、ならびに分離、遠心分離、遺伝子操作(例えばウイルスベクターによる形質導入)、洗浄、および/またはインキュベーションなどの1つまたは複数の処理段階の結果として生じる試料が含まれる。生物学的試料は、生物学的供給源から直接得られる試料または処理された試料であることができる。生物学的試料には、血液、血漿、血清、脳脊髄液、滑液、尿および汗などの体液、組織、ならびに器官試料が、それらに由来する処理された試料を含めて含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0129】
いくつかの局面では、細胞が由来または単離される試料は、血液もしくは血液由来試料であるか、またはアフェレーシスもしくは白血球アフェレーシス産物である、もしくはそれに由来する。例示的な試料には、全血、末梢血単核細胞(PBMC)、白血球、骨髄、胸腺、組織生検、腫瘍、白血病、リンパ腫、リンパ節、腸管関連リンパ組織、粘膜関連リンパ組織、脾臓、他のリンパ系組織、肝臓、肺、胃、腸、結腸、腎臓、膵臓、乳房、骨、前立腺、子宮頸、精巣、卵巣、扁桃、もしくは他の器官、および/またはそれらに由来する細胞が含まれる。試料は、細胞療法、例えば、養子細胞療法に関連して、自己および同種供給源からの試料を含む。
【0130】
いくつかの態様では、細胞は、細胞株、例えば、T細胞株に由来する。細胞は、いくつかの態様では、異種供給源から、例えば、マウス、ラット、非ヒト霊長類、およびブタから得られる。いくつかの態様では、細胞の単離は、1つまたは複数の調製段階および/または親和性に基づかない細胞分離段階を含む。いくつかの例では、細胞が、洗浄、遠心分離、および/または1つもしくは複数の試薬の存在下でインキュベートされて、例えば、望まれない成分が除去され、所望の成分が濃縮され、特定の試薬に感受性の細胞が溶解または除去される。いくつかの例では、細胞は、密度、接着特性、サイズ、特定の成分に対する感受性および/または耐性などの1つまたは複数の特性に基づき分離される。
【0131】
いくつかの例では、対象の循環血からの細胞は、例えば、アフェレーシスまたは白血球アフェレーシスにより得られる。試料は、いくつかの局面では、T細胞、単球、顆粒球、B細胞を含むリンパ球、他の有核白血球、赤血球、および/または血小板を含有し、いくつかの局面では、赤血球および血小板以外の細胞を含有する。いくつかの態様では、対象から収集された血液細胞は、洗浄されて、例えば、血漿画分を除去し、その後の処理段階に適した緩衝液または媒質中に細胞を入れる。いくつかの態様では、細胞は、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄される。いくつかの局面では、洗浄段階は、タンジェント流濾過(TFF)により、製造業者の説明に従って成し遂げられる。いくつかの態様では、細胞は洗浄後に多様な生体適合性緩衝液中に再懸濁される。ある特定の態様では、血液細胞試料の成分が除去され、細胞が培地中に直接再懸濁される。いくつかの態様では、方法は、赤血球を溶解し、PercollまたはFicoll勾配による遠心分離を行うことによる末梢血からの白血球の調製などの、密度に基づく細胞分離方法を含む。
【0132】
一態様では、免疫は、アフェレーシスまたは白血球アフェレーシスによって得られた個体の循環血から得られた細胞である。アフェレーシス産物は、典型的には、T細胞を含むリンパ球、単球、顆粒球、B細胞、他の有核白血球、赤血球、および血小板を含有する。血漿画分を除去するため、および適切な緩衝液もしくは媒質、例えばリン酸緩衝食塩水(PBS)中に細胞を入れるために、アフェレーシスによって収集された細胞が洗浄される場合があり、または洗浄溶液は、その後の処理段階のためにカルシウムを欠如し、かつマグネシウムを欠如する場合があり、もしくはすべてとはいわないまでも多くの二価陽イオンを欠如する場合がある。洗浄後、細胞は、多様な生体適合性緩衝液、例えば、Ca不含、Mg不含PBSなどの中に再懸濁される場合がある。あるいは、アフェレーシス試料の望ましくない成分が、除去され、細胞が培地中に直接再懸濁される場合がある。
【0133】
いくつかの態様では、単離方法は、1種または複数種の特異的分子、例えば表面マーカー、例えば、表面タンパク質、細胞内マーカー、または核酸の細胞中の発現または存在に基づく、異なる細胞型の分離を含む。いくつかの態様では、そのようなマーカーに基づく分離のために、任意の公知の方法が使用される場合がある。いくつかの態様では、分離は、親和性または免疫親和性に基づく分離である。例えば、分離は、いくつかの局面では、例えば、そのようなマーカーに特異的に結合する抗体または結合パートナーと一緒のインキュベーション、一般的にそれに続く洗浄段階、および抗体または結合パートナーに結合していない細胞からの抗体または結合パートナーと結合した細胞の分離による、1つまたは複数のマーカー、典型的には細胞表面マーカーの細胞発現または発現レベルに基づく細胞および細胞集団の分離を含む。
【0134】
そのような分離段階は、試薬と結合した細胞がさらなる使用のために保持される正の選択、および/または抗体もしくは結合パートナーに結合していない細胞が保持される負の選択に基づくことができる。いくつかの例では、両方の画分がさらなる使用のために保持される。いくつかの局面では、所望の集団以外の細胞により発現されるマーカーに基づいて分離が最も良好に行われるように、不均一な集団中の細胞型を特異的に特定する抗体が利用不能な場合に、負の選択は特に有用であることができる。分離は、特定の細胞集団または特定のマーカーを発現している細胞の100%の濃縮または除去を生じる必要はない。例えば、特定の種類の細胞、例えばマーカーを発現している細胞の正の選択または濃縮は、そのような細胞の数またはパーセンテージを増加させることを指すが、マーカーを発現していない細胞の完全な非存在をもたらす必要はない。同様に、マーカーを発現している細胞などの特定の種類の細胞の負の選択、除去、または枯渇は、そのような細胞の数またはパーセンテージを減少させることを指すが、そのような細胞のすべての完全な除去をもたらす必要はない。
【0135】
いくつかの例では、複数ラウンドの分離段階が実施され、その際、1つの段階から正または負の選択をされた画分が、後続の正または負の選択などの別の分離段階に供される。いくつかの例では、それぞれが負の選択のための標的とされるマーカーに特異的な複数の抗体または結合パートナーと共に細胞をインキュベートすることなどによって、複数のマーカーを同時発現している細胞を単一の分離段階で枯渇させることができる。同様に、複数の抗体または様々な細胞型に発現される結合パートナーと共に細胞をインキュベートすることによって、複数の細胞型に同時に正の選択を行うことができる。
【0136】
いくつかの態様では、T細胞集団の1つまたは複数は、1つまたは複数の特定のマーカー、例えば表面マーカーについて陽性(マーカー+)である、もしくはそれを高レベル発現する(マーカーhigh)細胞、または1つもしくは複数のマーカーについて陰性である(マーカー-)もしくはそれを比較的低レベルを発現する(マーカーlow)細胞が濃縮または枯渇されている。例えば、いくつかの局面では、T細胞の特定の部分集団、例えば、1つまたは複数の表面マーカー、例えば、CD28+、CD62L+、CCR7+、CD27+、CD127+、CD4+、CD8+、CD45RA+、および/またはCD45RO+ T細胞について陽性またはそれを高レベル発現している細胞は、正または負の選択技法により単離される。場合によっては、そのようなマーカーは、T細胞のある特定の集団(非メモリー細胞など)に存在しない、または比較的低レベルで発現されるが、T細胞のある特定の他の集団(メモリー細胞など)に存在する、または比較的高レベル発現されるマーカーである。一態様では、細胞(CD8+細胞、またはT細胞、例えばCD3+細胞など)は、CD45RO、CCR7、CD28、CD27、CD44、CD127、および/もしくはCD62Lについて陽性である、もしくはその高い表面レベルを発現する細胞が濃縮されている(すなわち、正の選択をされている)、かつ/またはCD45RAについて陽性である、もしくはその高い表面レベルを発現する細胞が枯渇されている(例えば、それについて負の選択をされている)。いくつかの態様では、細胞は、CD122、CD95、CD25、CD27、および/またはIL7-Ra(CD127)について陽性であるまたはその高い表面レベルを発現している細胞が濃縮されているまたはそれを枯渇している。いくつかの例では、CD8+ T細胞は、CD45ROについて陽性(またはCD45RAについて陰性)およびCD62Lについて陽性の細胞が濃縮されている。例えば、CD3+、CD28+ T細胞は、CD3/CD28コンジュゲート磁気ビーズ(例えば、DYNABEADS(登録商標)M-450 CD3/CD28 T Cell Expander)を使用して正の選択を行うことができる。
【0137】
いくつかの態様では、T細胞は、B細胞、単球、または他の白血球などの非T細胞に発現されるマーカー、例えばCD14の負の選択によってPBMC試料から分離される。いくつかの局面では、CD4+またはCD8+選択段階は、CD4+ヘルパーT細胞およびCD8+細胞傷害性T細胞を分離するために使用される。そのようなCD4+集団およびCD8+集団は、1つまたは複数のナイーブ、メモリー、および/またはエフェクターT細胞部分集団上に発現されるまたは比較的高い度合いで発現されるマーカーについて正の選択または負の選択により部分集団にさらに選別することができる。いくつかの態様では、CD8+細胞は、例えば、それぞれの部分集団に関連する表面抗原に基づく正の選択または負の選択により、ナイーブ、中枢性メモリー、エフェクターメモリー、および/または中枢性メモリー幹細胞についてさらに濃縮または枯渇される。いくつかの態様では、中枢性メモリーT(TCM)細胞についての濃縮は、有効性を増加させるために、例えば、投与後に長期生存、増大、および/または生着を改善するために実施され、それは、いくつかの局面ではそのような部分集団において特に堅固である。いくつかの態様では、TCMが濃縮されたCD8+ T細胞およびCD4+ T細胞を組み合わせることで、有効性がさらに高まる。
【0138】
いくつかの態様では、メモリーT細胞は、CD8+末梢血リンパ球のCD62L+およびCD62L-サブセットの両方に存在する。PBMCは、抗CD8抗体および抗CD62L抗体などを使用して、CD62L-CD8+および/またはCD62L+CD8+画分について濃縮されているまたはそれを枯渇していることができる。いくつかの態様では、CD4+ T細胞集団およびCD8+ T細胞部分集団、例えば、中枢性メモリー(TCM)細胞について濃縮された部分集団である。いくつかの態様では、中枢性メモリーT(TCM)細胞についての濃縮は、CD45RO、CD62L、CCR7、CD28、CD3、および/またはCD127について陽性またはその高い表面発現に基づく;いくつかの局面では、それは、CD45RAおよび/またはグランザイムBを発現しているまたは高度に発現している細胞についての負の選択に基づく。いくつかの局面では、TCM細胞が濃縮されたCD8+集団の単離は、CD4、CD14、CD45RAを発現している細胞の枯渇、およびCD62Lを発現している細胞についての正の選択または濃縮により実施される。一局面では、中枢性メモリーT(TCM)細胞の濃縮は、CD4の発現に基づき選択される細胞の負の画分から開始して実施され、それが、CD14およびCD45RAの発現に基づく負の選択、ならびにCD62Lに基づく正の選択に供される。そのような選択は、いくつかの局面では、同時に実施され、他の局面では、どちらかの順序で順次に実施される。いくつかの局面では、CD8+細胞集団または部分集団を調製するのに使用されるCD4発現に基づく同じ選択段階はまた、CD4+細胞集団または部分集団を生成するために使用され、それにより、CD4に基づく分離からの正の画分および負の画分の両方が、任意で1つまたは複数のさらなる正または負の選択段階に続いて、方法のその後の段階において保持および使用される。
【0139】
CD4+ Tヘルパー細胞は、細胞表面抗原を有する細胞集団を特定することにより、ナイーブ、中枢性メモリー、およびエフェクター細胞に選別される。CD4+ リンパ球は、標準的な方法により得ることができる。いくつかの態様では、ナイーブCD4+ Tリンパ球は、CD45RO-、CD45RA+、CD62L+、CD4+ T細胞である。いくつかの態様では、中枢性メモリーCD4+細胞は、CD62L+およびCD45RO+である。いくつかの態様では、エフェクターCD4+細胞は、CD62L-およびCD45ROである。一例では、負の選択によりCD4+細胞を濃縮するために、モノクローナル抗体カクテルは、典型的には、CD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、およびCD8に対する抗体を含む。いくつかの態様では、抗体または結合パートナーは、正および/または負の選択のための細胞の分離を可能にするために磁気ビーズまたは常磁性ビーズなどの固体支持体またはマトリックスに結合される。
【0140】
いくつかの態様では、細胞は、遺伝子操作の前またはそれに関連してインキュベートおよび/または培養される。インキュベーション段階は、培養(culture)、培養(cultivation)、刺激、活性化、および/または繁殖を含むことができる。いくつかの態様では、組成物または細胞は、刺激条件または刺激物質の存在下でインキュベートされる。そのような条件には、集団中の細胞の増殖、増大、活性化、および/もしくは生存を誘導するために、抗原曝露を模倣するために、ならびに/または遺伝子操作、例えば組換え抗原受容体の導入のために細胞をプライミングするために設計された条件が含まれる。条件は、特定の媒質、温度、酸素含量、二酸化炭素含量、時間、作用物質、例えば、栄養素、アミノ酸、抗生物質、イオン、および/または刺激因子、例えばサイトカイン、ケモカイン、抗原、結合パートナー、融合タンパク質、組換え可溶性受容体、および細胞を活性化するように設計された任意の他の作用物質のうちの1つまたは複数を含むことができる。いくつかの態様では、刺激条件または刺激物質は、TCR複合体の細胞内シグナル伝達ドメインを活性化することが可能な1つまたは複数の作用物質、例えば、リガンドを含む。いくつかの局面では、作用物質は、T細胞におけるTCR/CD3細胞内シグナル伝達カスケードを始動する、または開始する。そのような作用物質は、例えば、ビーズなどの固体支持体に結合した抗体、例えば、TCR成分および/もしくは共刺激受容体に特異的な抗体、例えば、抗CD3、抗CD28、ならびに/または1つもしくは複数のサイトカインを含むことができる。任意で、増大方法は、培地に抗CD3および/または抗CD28抗体を(例えば、少なくとも約0.5ng/mlの濃度で)添加する段階をさらに含む場合がある。いくつかの態様では、刺激物質は、IL-2および/またはIL-15、例えば、少なくとも約10ユニット/mLのIL-2濃度を含む。
【0141】
別の態様では、T細胞は、赤血球を溶解することおよび単球を枯渇させることによって、例えば、PERCOLL(商標)勾配による遠心分離により、末梢血から単離される。あるいは、T細胞は、臍帯から単離することができる。任意の事象では、T細胞の特定の部分集団を正または負の選択技法によりさらに単離することができる。
【0142】
そのように単離された臍帯血単核細胞は、非限定的にCD34、CD8、CD14、CD19、およびCD56を含む、ある特定の抗原を発現している細胞を枯渇していることができる。これらの細胞の枯渇は、単離された抗体、抗体を含む生物学的試料、例えば腹水、物理的支持体に結合した抗体、細胞と結合した抗体を使用して成し遂げることができる。
【0143】
負の選択によるT細胞集団の濃縮は、負の選択をされた細胞に独特な表面マーカーに対する抗体の組み合わせを使用して成し遂げることができる。好ましい方法は、負の選択をされた細胞上に存在する細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体のカクテルを使用する負磁気免疫接着(negative magnetic immunoadherence)またはフローサイトメトリーを介する細胞選別および/または選択である。例えば、負の選択によりCD4+細胞を濃縮するために、モノクローナル抗体カクテルは、典型的には、CD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、およびCD8に対する抗体を含む。
【0144】
正または負の選択により細胞の所望の集団を単離するために、細胞濃度および表面(例えば、ビーズなどの粒子)を変化させることができる。ある特定の態様では、ビーズおよび細胞が一緒に混合される体積を顕著に減少させて(すなわち、細胞の濃度を増加させて)、細胞とビーズとの最大の接触を保証することが望ましい場合がある。例えば、一態様では、20億個/mlの細胞濃度が使用される。一態様では、10億個/mlの細胞濃度が使用される。さらなる態様では、細胞1億個/ml超が使用される。さらなる態様では、1000万、1500万、2000万、2500万、3000万、3500万、4000万、4500万、または5000万個/mlの細胞濃度が使用される。なお別の態様では、7500万、8000万、8500万、9000万、9500万、または1億個/mlの細胞濃度が使用される。さらなる態様では、1億2500万または1億5000万個/mlの細胞濃度を使用することができる。高濃度を使用することは、増加した細胞収量、細胞活性化、および細胞増大をもたらすことができる。
【0145】
T細胞はまた、単球の除去段階を必要としない洗浄段階の後に凍結することができる。理論に縛られることを望むわけではないが、凍結およびその後の解凍段階は、細胞集団中の顆粒球およびある程度の単球を除去することによって、より均一な産物を提供する。血漿および血小板を除去する洗浄段階の後で、細胞が凍結溶液中に懸濁される場合がある。多数の凍結溶液およびパラメーターが当技術分野において公知であり、この状況で有用であろうものの、非限定的な例では、1つの方法は、20% DMSOおよび8%ヒト血清アルブミンを含有するPBS、または他の適切な細胞凍結媒を使用することを伴う。次いで細胞は、1℃/分の速度で-80℃に凍結され、液体窒素保存タンクの気相中で保管される。制御凍結の他の方法および-20℃または液体窒素中での即時の非制御凍結が使用される場合もある。
【0146】
一態様では、T細胞の集団は、末梢血単核細胞、臍帯血細胞、T細胞の精製集団、およびT細胞株などの細胞中に含まれる。別の態様では、末梢血単核細胞は、T細胞集団を含む。なお別の態様では、精製T細胞は、T細胞集団を含む。
【0147】
ある特定の態様では、制御性T細胞(Treg)は、試料から単離することができる。試料は、臍帯血または末梢血を含むことができるが、それに限定されるわけではない。ある特定の態様では、Tregは、フローサイトメトリー選別によって単離される。試料は、当技術分野において公知の任意の手段により単離前にTregが濃縮されることができる。単離されたTregを、凍結保存し、かつ/または使用前に増大させることができる。Tregを単離するための方法は、米国特許第7,754,482号、同第8,722,400号、および同第9,555,105号、ならびに米国特許出願第13/639,927号に記載されており、それらの内容は、その全体で本明細書に組み入れられる。
【0148】
D. 改変された免疫細胞を産生する方法
本開示は、改変された免疫細胞またはその前駆体(例えば、T細胞)を産生または生成するための方法を提供する。
【0149】
ある特定の態様では、本開示は、免疫または前駆細胞に、内因性Fli1の遺伝子発現をダウンレギュレーション可能な1つまたは複数のポリペプチドおよび/または核酸を含むCRISPRシステムを導入することを含む、改変された免疫細胞またはその前駆細胞を生成するための方法を提供する。
【0150】
いくつかの態様では、核酸は、発現ベクターによって細胞に導入される。好適な発現ベクターは、レンチウイルスベクター、ガンマレトロウイルスベクター、泡沫状ウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、操作ハイブリッドウイルス、裸のDNAを含み、限定されないがトランスポゾン媒介性ベクター、例えばスリーピングビューティー、ピギーバック(Piggybak)、およびPhi31などのインテグラーゼを含む。いくつかの他の好適な発現ベクターは、単純ヘルペスウイルス(HSV)およびレトロウイルス発現ベクターを含む。
【0151】
ある特定の態様では、核酸は、ウイルス形質導入を介して細胞に導入される。ある特定の態様では、ウイルス形質導入は、免疫または前駆細胞を、核酸を含むウイルスベクターと接触させることを含む。ある特定の態様では、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。ある特定の態様では、AAVベクターは、5'ITRおよび3'ITRを含む。ある特定の態様では、AAVベクターは、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節要素(WPRE)を含む。ある特定の態様では、AAVベクターは、ポリアデニル化(ポリA)配列を含む。ある特定の態様では、ポリA配列は、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリA配列である。
【0152】
アデノウイルス発現ベクターは、アデノウイルスをベースとしており、ゲノムDNAへの組み込みについて低い容量を有するが、宿主細胞へのトランスフェクションについて高い効率を有する。アデノウイルス発現ベクターは、(a)発現ベクターのパッケージングを支援するために、かつ(b)宿主細胞において標的配列を最終的に発現させるために十分な、アデノウイルス配列を含有する。いくつかの態様では、アデノウイルスゲノムは、36kbの線状の二本鎖DNAであり、そこに、本開示の発現ベクターを作製するため、外来DNA配列が、アデノウイルスDNAの大きな塊と置き換わるように挿入され得る(例えば、Danthinne and Imperiale, Gene Therapy (2000) 7(20): 1707-1714を参照されたい)。
【0153】
別の発現ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)をベースとしており、アデノウイルス共役系を活用する。このAAV発現ベクターは、宿主ゲノムへの高頻度の組み込みを有する。該ベクターは、非分裂細胞に感染することができ、それにより、例えば、組織培養物でのまたはインビボでの、哺乳動物細胞への遺伝子の送達に有用である。AAVベクターは、感染力について広い宿主範囲を有する。AAVベクターの生成および使用に関する詳細は、米国特許第5,139,941号および同第4,797,368号に記載されている。
【0154】
レトロウイルス発現ベクターは、宿主ゲノムへの組み込み、大量の外来遺伝物質の送達、広範囲の種および細胞型への感染、ならびに特別な細胞株へのパッケージングが可能である。レトロウイルスベクターは、核酸をウイルスゲノムのある特定の場所に挿入して複製欠損ウイルスを産生することによって構築される。レトロウイルスベクターは、幅広い細胞型に感染できるが、遺伝子/タンパク質の組み込みおよび安定発現は、宿主細胞の分裂を必要とする。
【0155】
レンチウイルスベクターは、レンチウイルスに由来し、共通のレトロウイルス遺伝子gag、polおよびenvに加えて調節的または構造的機能を有する他の遺伝子を含有する、複合レトロウイルスである(例えば、米国特許第6,013,516号および同第5,994,136号を参照のこと)。レンチウイルスのいくつかの例は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1、HIV-2)およびサル免疫不全ウイルス(SIV)を含む。レンチウイルスベクターは、HIV病原性遺伝子を多重減弱化することによって生成されており、例えば、遺伝子env、vif、vpr、vpuおよびnefが欠失されて、ベクターが生物学的に安全となる。レンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染可能であり、インビボおよびエクスビボの両方の遺伝子移入および発現に使用することができる(例えば、米国特許第5,994,136号を参照のこと)。
【0156】
本開示の核酸を含む発現ベクターは、当業者に公知の任意の手段によって宿主細胞に導入することができる。発現ベクターは、所望であればトランスフェクションのためのウイルス配列を含み得る。あるいは、発現ベクターは、融合、エレクトロポレーション、バイオリスティクス、トランスフェクション、リポフェクションなどによって導入され得る。宿主細胞は、発現ベクターの導入前に培養で成長および増大され、続いてベクターの導入および組み込みに適した処理が行われ得る。次いで、宿主細胞が増大され、ベクター中に存在するマーカーに基づいてスクリーニングされ得る。使用され得る様々なマーカーが当技術分野において公知であり、hprt、ネオマイシン耐性、チミジンキナーゼ、ハイグロマイシン耐性などを含み得る。本明細書において使用される場合、「細胞」、「細胞株」および「細胞培養(物)」という用語は、互換的に使用され得る。いくつかの態様では、宿主細胞は、免疫細胞またはその前駆体、例えば、T細胞、NK細胞、またはNKT細胞である。
【0157】
本開示はまた、内因性Fli1が破壊されている遺伝子操作された細胞を提供する。いくつかの態様では、遺伝子操作された細胞は、治療上適切な子孫を生じさせることが可能な遺伝子操作されたT-リンパ球(T細胞)、ナイーブT細胞(TN)、メモリーT細胞(例えば、セントラルメモリーT細胞(TCM)、エフェクターメモリー細胞(TEM))、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、およびマクロファージである。ある特定の態様では、遺伝子操作された細胞は、自己由来細胞である。ある特定の態様では、改変細胞は、T細胞疲弊に抵抗性である。ある特定の態様では、改変細胞は、T細胞機能障害に抵抗性である。
【0158】
改変細胞は、本開示の核酸を含む発現ベクターを宿主細胞に安定的にトランスフェクションすることによって産生され得る。本開示の改変細胞を生成するためのさらなる方法は、非限定的に、化学的形質転換法(例えば、リン酸カルシウム、デンドリマー、リポソームおよび/または陽イオン性ポリマーを使用した)、非化学的形質転換法(例えば、エレクトロポレーション、光形質転換、遺伝子電気移入および/または流体力学的送達)および/または粒子ベースの方法(例えば、遺伝子銃を使用したインペールフェクション、および/またはマグネトフェクション)を含む。トランスフェクションされた本開示の細胞は、エクスビボで増大され得る。
【0159】
宿主細胞に発現ベクターを導入するための物理的方法は、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、微粒子銃、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどを含む。ベクターおよび/または外因性核酸を含む細胞を産生するための方法は、当技術分野において周知である。例えば、Sambrook et al. (2001), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New Yorkを参照されたい。宿主細胞に発現ベクターを導入するための化学的方法は、巨大分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズなどのコロイド分散系、ならびに水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセルおよびリポソームを含む脂質ベース系を含む。
【0160】
使用に適した脂質は、商業的供給源から入手することができる。例えば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)は、Sigma, St. Louis, MOから入手することができ;リン酸ジセチル(「DCP」)は、K & K Laboratories(Plainview, NY)から入手することができ;コレステロール(「Choi」)は、Calbiochem-Behringから入手することができ;ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)および他の脂質は、Avanti Polar Lipids, Inc.(Birmingham, AL)から入手してもよい。脂質のクロロホルムまたはクロロホルム/メタノール溶液の原液は、約-20℃で保管することができる。クロロホルムは、メタノールよりも容易に蒸発するので唯一の溶媒として使用され得る。「リポソーム」は、封入された脂質二重層または凝集体の生成によって形成される、多様な単一および多重膜脂質ビヒクルを包含する総称である。リポソームは、リン脂質二重層膜および内部水性媒体を備えた小胞構造を有するものとして特徴付けることができる。多重膜リポソームは、水性媒体によって分離された複数の脂質層を有する。それらは、リン脂質を過剰の水溶液中に懸濁させると自然に形成される。閉鎖構造の形成前に、脂質成分は自己再構成を経て、脂質二重層間に水と溶解した溶質を閉じ込める(Ghosh et al., 1991 Glycobiology 5: 505-10)。また、溶液状態で通常の小胞構造と異なる構造を有する組成物も包含される。例えば、脂質は、ミセル構造をとるか、または単に脂質分子の非均一凝集体として存在し得る。また、リポフェクタミン-核酸複合体も想定される。
【0161】
外因性核酸を宿主細胞に導入するために使用される方法か、それ以外の本開示の阻害剤に細胞を曝露するために使用される方法かに関係なく、宿主細胞中の核酸の存在を確認するために多様なアッセイが実施され得る。そのようなアッセイは、例えば、サザンブロッティング、ノーザンブロッティング、RT-PCRおよびPCRなどの当業者に周知の分子生物学的アッセイ;特定のペプチドの存在または非存在を検出するなどの生化学的アッセイ、例えば、免疫学的手段(ELISAおよびウエスタンブロット)によるもの、または本開示の範囲内に入る作用物質を同定するための本明細書に記載されるアッセイによるものを含む。
【0162】
一態様では、宿主細胞に導入される核酸は、RNAである。別の態様では、RNAは、インビトロ転写されたRNAまたは合成RNAを含むmRNAである。RNAは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により生成された鋳型を使用したインビトロ転写によって産生され得る。任意の供給源からの関心対象のDNAを、PCRによって、適切なプライマーおよびRNAポリメラーゼを使用して、インビトロmRNA合成のための鋳型に直接変換することができる。DNAの供給源は、例えば、ゲノムDNA、プラスミドDNA、ファージDNA、cDNA、合成DNA配列または任意の他の適切なDNA供給源であり得る。
【0163】
PCRを使用して、その後に細胞に導入されるmRNAのインビトロ転写のための鋳型を生成してもよい。PCRを実施するための方法は、当技術分野において周知である。PCRに使用するためのプライマーは、PCRのための鋳型として使用しようとするDNA領域と実質的に相補的な領域を有するように設計される。「実質的に相補的な」は、本明細書において使用される場合、プライマー配列中の塩基の大部分またはすべてが相補的なヌクレオチド配列のことを指す。実質的に相補的な配列は、PCRに使用されるアニーリング条件下で意図するDNA標的とアニールまたはハイブリダイズすることが可能である。プライマーは、DNA鋳型の任意の部分と実質的に相補的であるように設計することができる。例えば、プライマーは、5'UTRおよび3'UTRを含めた、細胞において通常転写される遺伝子部分(オープンリーディングフレーム)を増幅するように設計することができる。プライマーはまた、関心対象の特定のドメインをコードする遺伝子の一部分を増幅するように設計され得る。一態様では、プライマーは、5'UTRおよび3'UTRのすべてまたは部分を含めた、ヒトcDNAのコード領域を増幅するように設計される。PCRに有用なプライマーは、当技術分野において周知の合成方法により生成される。「フォワードプライマー」は、増幅しようとするDNA配列の上流にあるDNA鋳型上のヌクレオチドと実質的に相補的なヌクレオチド領域を含有するプライマーである。「上流」は、本明細書において、コード鎖に対して増幅しようとするDNA配列の5位を指すために使用される。「リバースプライマー」は、増幅しようとするDNA配列の下流にある二本鎖DNA鋳型と実質的に相補的なヌクレオチド領域を含有するプライマーである。「下流」は、本明細書において、コード鎖に対して増幅しようとするDNA配列の3'位を指すために使用される。
【0164】
RNAの安定性および/または翻訳効率を促進する能力を有する化学構造も使用され得る。RNAは、好ましくは、5'UTRおよび3'UTRを有する。一態様では、5'UTRは、ゼロ~3000ヌクレオチド長である。コード領域に付加させる5'UTRおよび3'UTR配列の長さは、UTRの異なる領域にアニールするPCR用プライマーを設計することを非限定的に含め、異なる方法によって変更することができる。このアプローチを使用して、当業者は、転写されたRNAのトランスフェクション後に最適な翻訳効率を達成するために必要な5'UTRおよび3'UTRの長さを改変することができる。
【0165】
5'UTRおよび3'UTRは、関心対象の遺伝子についての天然に存在する内因性の5'UTRおよび3'UTRであることができる。あるいは、関心対象の遺伝子に対して内因性でないUTR配列を、フォワードプライマーおよびリバースプライマー中にUTR配列を組み込むことによって、または鋳型の任意の他の改変によって付加することができる。関心対象の遺伝子に対して内因性でないUTR配列の使用は、RNAの安定性および/または翻訳効率を改変するために有用であることができる。例えば、3'UTR配列中のAUに富む要素は、mRNAの安定性を減少させ得ることが知られている。それゆえ、転写されたRNAの安定性を増加させるために、当技術分野において周知であるUTRの特性に基づいて3'UTRを選択または設計することができる。
【0166】
一態様では、5'UTRは、内因性遺伝子のKozak配列を含有することができる。あるいは、関心対象の遺伝子に対して内因性でない5'UTRが上記のようにPCRによって付加される場合、5'UTR配列を付加することによりコンセンサスKozak配列を再設計することができる。Kozak配列は、いくつかのRNA転写物の翻訳効率を増加させることができるが、効率的な翻訳を可能にするためにすべてのRNAにとって必要であるとは思われない。多くのmRNAに対するKozak配列の必要条件は、当技術分野において公知である。他の態様では、5'UTRは、RNAゲノムが細胞中で安定なRNAウイルスに由来することができる。他の態様では、mRNAのエキソヌクレアーゼ分解を阻むために、3'UTRまたは5'UTR中に様々なヌクレオチド類似体を使用することができる。
【0167】
遺伝子クローニングを必要とすることなくDNA鋳型からRNA合成が可能となるように、転写させようとする配列の上流のDNA鋳型に、転写プロモーターを付着させるべきである。RNAポリメラーゼのためのプロモーターとして機能する配列がフォワードプライマーの5'端に付加される場合、RNAポリメラーゼプロモーターは、PCR産物中の転写させようとするオープンリーディングフレームの上流に組み込まれるようになる。一態様では、プロモーターは、本明細書の別の箇所に記載されるようなT7ポリメラーゼプロモーターである。他の有用なプロモーターは、T3およびSP6 RNAポリメラーゼプロモーターを含むが、それらに限定されない。T7、T3およびSP6プロモーターに対するコンセンサスヌクレオチド配列は、当技術分野において公知である。
【0168】
一態様では、mRNAは、5'端上のキャップと3'ポリ(A)テールの両方を有しており、これらが、リボソームの結合、翻訳開始および細胞中でのmRNAの安定性を決定する。環状DNA鋳型、例えば、プラスミドDNA上で、RNAポリメラーゼは、真核細胞における発現に適さない長いコンカテマー産物を産生する。3'UTRの端で直鎖状にされたプラスミドDNAの転写は、通常サイズのmRNAを生じ、このmRNAは、転写後にポリアデニル化されたとしても真核生物のトランスフェクションに有効でない。
【0169】
直鎖状DNA鋳型上で、ファージT7 RNAポリメラーゼは、転写物の3'端を、鋳型の最終塩基を超えて延長することができる(Schenborn and Mierendorf, Nuc Acids Res., 13:6223-36 (1985);Nacheva and Berzal-Herranz, Eur. J. Biochem., 270:1485-65 (2003))。
【0170】
転写DNA鋳型のポリA/Tセグメントは、100TテールなどのポリTテール(サイズは50~5000Tであることができる)を含有するリバースプライマーを使用することによってPCRの間に、または非限定的にDNAライゲーションもしくはインビトロ組換えを含めた任意の他の方法によってPCRの後に、産生することができる。ポリ(A)テールはまた、RNAに安定性を提供し、それらの分解を低減する。一般的に、ポリ(A)テールの長さは、転写されたRNAの安定性と正に相関する。一態様では、ポリ(A)テールは、100~5000アデノシンである。
【0171】
RNAのポリ(A)テールは、インビトロ転写後に大腸菌(E. coli)ポリAポリメラーゼ(E-PAP)などのポリ(A)ポリメラーゼの使用によりさらに伸長することができる。一態様では、ポリ(A)テールの長さを100ヌクレオチドから300~400ヌクレオチドへと増加させることは、RNAの翻訳効率に約2倍の増加をもたらす。さらに加えて、3'端への異なる化学基の付着も、mRNAの安定性を増加させることができる。そのような付着は、修飾/人工ヌクレオチド、アプタマーおよび他の化合物を含有することができる。例えば、ポリ(A)ポリメラーゼを使用して、ポリ(A)テールにATP類似体を組み込むことができる。ATP類似体は、RNAの安定性をさらに増加させることができる。
【0172】
5'キャップもまた、RNA分子に安定性を提供する。好ましい態様では、本明細書に開示される方法によって産生されるRNAは、5'キャップを含む。5'キャップは、当技術分野において公知の技法および本明細書に記載される技法を使用して提供される(Cougot, et al., Trends in Biochem. Sci., 29:436-444 (2001);Stepinski, et al., RNA, 7:1468-95 (2001);Elango, et al., Biochim. Biophys. Res. Commun., 330:958-966 (2005))。
【0173】
いくつかの態様では、RNAは、インビトロ転写RNAのように細胞中にエレクトロポレーションされる。糖、ペプチド、脂質、タンパク質、抗酸化物質および界面活性剤などの細胞透過性および生存率を助長する因子を含有することができる、細胞エレクトロポレーションに適した任意の溶質を含むことができる。
【0174】
開示される方法は、がん、幹細胞、急性および慢性感染ならびに自己免疫疾患の分野において、遺伝子改変T細胞の標的がん細胞を殺傷する能力の評価を含め、基礎研究および治療法におけるT細胞活性のモジュレーションに適用することができる。
【0175】
該方法はまた、例えば、プロモーターまたは投入RNAの量を変化させることによって、発現レベルを広い範囲で制御する能力を提供し、発現レベルを個別に調節することを可能にする。さらに、mRNA産生のPCRベースの技法は、異なる構造およびそれらのドメインの組み合わせを有するmRNAの設計を極めて容易にする。
【0176】
本開示のRNAトランスフェクション法の1つの利点は、RNAトランスフェクションが本質的に一過性であり、ベクターが不要であることである。RNA導入遺伝子は、リンパ球に送達することができ、いかなる追加のウイルス配列も必要とせずに最小の発現カセットとして、短時間のインビトロ細胞活性化後にその中で発現させることができる。これらの条件下では、宿主細胞ゲノムへの導入遺伝子の組み込みが起こる可能性は低い。RNAのトランスフェクション効率およびリンパ球集団全体を均一に改変するその能力により、細胞のクローニングは不必要である。
【0177】
インビトロ転写RNA(IVT-RNA)によるT細胞の遺伝的改変は、共に様々な動物モデルで試験に成功している2つの異なる戦略を利用する。細胞に、インビトロ転写RNAがリポフェクションまたはエレクトロポレーションによってトランスフェクションされる。移入されたIVT-RNAの長期発現を達成するために、様々な改変を使用してIVT-RNAを安定化させることが望ましい。
【0178】
インビトロ転写のための鋳型として標準的な手法で利用されており、安定化されたRNA転写物が産生されるように遺伝的に改変されている、いくつかのIVTベクターが文献から公知である。現在、当技術分野において使用されるプロトコルは、以下の構造を有するプラスミドベクターに基づく:RNA転写を可能にする5'RNAポリメラーゼプロモーターに続いて、3'および/または5'のいずれかに非翻訳領域(UTR)が隣接する関心対象の遺伝子、ならびに50~70個のAヌクレオチドを含有する3'ポリアデニルカセット。インビトロ転写の前に、II型制限酵素により環状プラスミドがポリアデニルカセットの下流で直鎖状にされる(認識配列は切断部位に対応する)。したがって、ポリアデニルカセットは、転写物中のその後のポリ(A)配列に対応する。この手順の結果として、いくつかのヌクレオチドは、直鎖状にされた後に酵素切断部位の部分として残り、3'端でポリ(A)配列を伸長またはマスクする。この非生理学的オーバーハングが、そのような構築物から細胞内産生されるタンパク質の量に影響するかどうかは明らかでない。
【0179】
別の局面では、RNA構築物は、エレクトロポレーションによって細胞に送達される。例えば、US 2004/0014645、US 2005/0052630A1、US 2005/0070841A1、US 2004/0059285A1、US 2004/0092907A1において教示されるような、哺乳動物細胞への核酸構築物のエレクトロポレーションの製剤および方法論を参照されたい。任意の公知の細胞型のエレクトロポレーションに必要な電場の強さを含めた様々なパラメーターが、関連する研究文献ならびに本分野の数多くの特許および出願から一般的に公知である。例えば、米国特許第6,678,556号、米国特許第7,171,264号、および米国特許第7,173,116号を参照されたい。エレクトロポレーションの治療的適用のための装置は、市販されており、例えば、MedPulser(商標)DNA Electroporation Therapy System(Inovio/Genetronics, San Diego, Calif.)、米国特許第6,567,694号;米国特許第6,516,223号、米国特許第5,993,434号、米国特許第6,181,964号、米国特許第6,241,701号、および米国特許第6,233,482号などの特許に記載されている;エレクトロポレーションはまた、例えばUS20070128708A1に記載されているように、細胞のインビトロトランスフェクションにも使用され得る。エレクトロポレーションはまた、核酸を細胞にインビトロ送達するためにも利用され得る。したがって、当業者に公知の多くの利用可能なデバイスおよびエレクトロポレーションシステムのいずれかを利用した、発現構築物を含む核酸の細胞へのエレクトロポレーション媒介投与は、関心対象のRNAを標的細胞に送達するための刺激的な新しい手段を提示する。
【0180】
いくつかの態様では、免疫細胞(例えば、T細胞)は、遺伝子編集物質(例えば、Cas9/gRNA RNP)をコードする核酸分子を導入する前に、その途中におよび/またはそれに続いて、インキュベーションまたはカルチベーションすることができる。いくつかの態様では、該方法は、遺伝子編集物質、例えば、Cas9/gRNA RNPを導入する前に、刺激物質または活性化物質(例えば、抗CD3/抗CD28抗体)で細胞を活性化または刺激することを含む。いくつかの態様では、作用物質の導入前に、細胞は、例えば任意の刺激または活性化物質を除去することにより、静止させることが可能である。いくつかの態様では、作用物質を導入する前に、刺激もしくは活性化物質および/またはサイトカインは除去されない。
【0181】
E. 改変細胞による治療の方法
本明細書に記載される改変細胞(例えば、T細胞)は、免疫療法のための組成物中に含まれ得る。組成物は、薬学的組成物を含み得、薬学的に許容される担体をさらに含み得る。改変T細胞を含む薬学的組成物の治療有効量が投与され得る。
【0182】
一局面では、その必要のある対象に本開示の改変細胞を投与することを含む、養子細胞移入療法のための方法が本明細書に提供される。別の局面では、その必要のある対象に改変細胞の集団を投与することを含む、対象における疾患または病態を治療する方法が本明細書に提供される。また、対象に遺伝子編集された改変細胞(例えば、内因性Fli1のダウンレギュレーションされた発現を含む)を投与することを含む、その必要のある対象における疾患または病態を治療する方法も含まれる。
【0183】
養子細胞療法のための免疫細胞の投与のための方法は、公知であり、提供される方法および組成物と共に使用される場合がある。例えば、養子T細胞療法は、例えば、Gruenbergらの米国特許出願公開第2003/0170238号;Rosenbergの米国特許第4,690,915号;Rosenberg (2011) Nat Rev Clin Oncol. 8(10):577-85)に記載されている。例えば、Themeli et al. (2013) Nat Biotechnol. 31(10): 928-933;Tsukahara et al. (2013) Biochem Biophys Res Commun 438(1): 84-9;Davila et al. (2013) PLoS ONE 8(4): e61338を参照されたい。いくつかの態様では、細胞療法、例えば、養子T細胞療法は、細胞療法を受けることになる対象もしくはそのような対象に由来する試料から細胞が単離され、かつ/またはその他の方法で調製される、自己移入によって実施される。したがって、いくつかの局面では、細胞は、処置を必要とする対象、例えば、患者に由来し、細胞は、単離および処理の後に同じ対象に投与される。
【0184】
いくつかの態様では、細胞療法、例えば、養子T細胞療法は、細胞が、細胞療法を受けることになる、または最終的に受ける対象、例えば、第1の対象以外の対象から単離され、かつ/またはその他の方法で調製される、同種移入によって実施される。そのような態様では、次いで細胞は、同じ種の異なる対象、例えば、第2の対象に投与される。いくつかの態様では、第1および第2の対象は、遺伝的に同一である。いくつかの態様では、第1および第2の対象は、遺伝的に類似である。いくつかの態様では、第2の対象は、第1の対象と同じHLAクラスまたは上位タイプを発現する。
【0185】
いくつかの態様では、対象は、細胞または細胞を含有する組成物の投与前に疾患または状態、例えば、腫瘍を標的とする治療剤により処置されている。いくつかの局面では、対象は、他の治療剤に対して抗療性または非応答性である。いくつかの態様では、対象は、例えば、化学療法、放射線、および/または造血幹細胞移植(HSCT)、例えば、同種HSCTを含む別の治療的介入による処置の後に持続性疾患または再発性疾患を有する。いくつかの態様では、投与は、対象が別の治療法に抵抗性になったにもかかわらず、対象を効果的に処置する。
【0186】
いくつかの態様では、対象は、他の治療剤に応答性であり、治療剤による処置は、疾病負荷を低減する。いくつかの局面では、対象は、最初は治療剤に応答性であるが、時間が経つにつれて疾患または状態の再発を示す。いくつかの態様では、対象は再発していない。いくつかのそのような態様では、対象は、再発の危険性がある、例えば再発の高い危険性があると決定され、したがって細胞は、例えば、再発の可能性を低減するまたは再発を防止するために、予防的に投与される。いくつかの局面では、対象は、別の治療剤による事前の処置を受けたことがない。
【0187】
いくつかの態様では、対象は、例えば、化学療法、放射線、および/または造血幹細胞移植(HSCT)、例えば、同種HSCTを含む別の治療的介入による処置の後で、持続性疾患または再発性疾患を有する。いくつかの態様では、投与は、対象が別の治療法に抵抗性になったにもかかわらず、対象を効果的に処置する。
【0188】
本開示の改変された免疫細胞を、動物、好ましくは哺乳動物、なおより好ましくはヒトに投与して、がんを処置することができる。加えて、本開示の細胞は、疾患を処置または軽減することが望ましい場合に、がんに関係する任意の状態の処置、特に腫瘍細胞に対する細胞媒介免疫応答のために使用することができる。本開示の改変された細胞または薬学的組成物により処置されるべきがんの種類には、がん腫、芽腫、および肉腫、ならびにある特定の白血病またはリンパ系腫瘍、良性腫瘍および悪性腫瘍、ならびに悪性疾患、例えば、肉腫、がん腫、および黒色腫が含まれる。他の例示的ながんには、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頸がん、皮膚がん、膵臓がん、結腸直腸がん、腎臓がん、肝臓がん、脳がん、リンパ腫、白血病、肺がん、甲状腺がんなどが含まれるが、それに限定されるわけではない。がんは、非固形腫瘍(血液腫瘍など)または固形腫瘍であり得る。成人腫瘍/がんおよび小児腫瘍/がんもまた含まれる。一態様では、がんは固形腫瘍または血液学的腫瘍である。一態様では、がんは癌種である。一態様では、がんは肉腫である。一態様では、がんは白血病である。一態様では、がんは固形腫瘍である。
【0189】
固形腫瘍は、通常、嚢胞または液体領域を含有しない組織の異常塊である。固形腫瘍は、良性または悪性であることができる。異なる種類の固形腫瘍が、それら(肉腫、がん腫、およびリンパ腫など)を形成する細胞の種類にちなんで名付けられる。肉腫およびがん腫などの固形腫瘍の例には、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、および他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸がん、リンパ系腫瘍、膵臓がん、乳がん、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、肝細胞がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、甲状腺髄様がん、乳頭様甲状腺がん、褐色細胞腫、脂腺がん、乳頭状がん、乳頭状腺がん、髄様がん、気管支原性がん、腎細胞がん、肝細胞腫、胆管がん、絨毛がん、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣腫瘍、精上皮腫、膀胱がん、黒色腫、およびCNS腫瘍(神経膠腫(脳幹神経膠腫および混合性神経膠腫など)、神経膠芽腫(多形神経膠芽腫としても知られる)、星状細胞腫、CNSリンパ腫、胚細胞腫、髄芽腫、シュワン細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫および脳転移など)が含まれる。
【0190】
本明細書に開示される方法による治療の対象となるがん腫には、食道がん、肝細胞がん、基底細胞がん(皮膚がんの一形態)、扁平上皮がん(様々な組織)、移行上皮がん(膀胱の悪性新生物)を含む膀胱がん、気管支原性がん、結腸がん、結腸直腸がん、胃がん、肺がん、小細胞肺がんおよび非小細胞肺がんを含む肺がん、副腎皮質がん、甲状腺がん、膵臓がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、腺がん、汗腺がん、脂腺がん、乳頭状がん、乳頭状腺がん、嚢胞腺がん、髄様がん、腎細胞がん、非浸潤性乳管がんまたは胆管がん、絨毛がん、精上皮腫、胎児性がん、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、子宮がん、精巣がん、骨原性がん、上皮がん、および上咽頭がんが含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0191】
本明細書に開示の方法による治療の対象となる肉腫には、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、脊索腫、骨原性肉腫、骨肉腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、および他の軟組織肉腫が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0192】
ある特定の例示的な態様では、本開示の改変された免疫細胞は、骨髄腫、または骨髄腫に関連する病態を処置するために使用される。骨髄腫またはそれに関連する病態の例は、非限定的に、軽鎖骨髄腫、非分泌性骨髄腫、意義不明の単クローン性高ガンマグロブリン血症(MGUS)、形質細胞腫(例えば、孤立性形質細胞腫、多発性孤立性形質細胞腫、髄外性形質細胞腫)、アミロイドーシス、および多発性骨髄腫を含む。一態様では、本開示の方法は、多発性骨髄腫を処置するために使用される。一態様では、本開示の方法は、難治性骨髄腫を処置するために使用される。一態様では、本開示の方法は、再発性骨髄腫を処置するために使用される。
【0193】
ある特定の例示的な態様では、本開示の改変された免疫細胞は、黒色腫、または黒色腫に関連する病態を処置するために使用される。黒色腫またはそれに関連する病態の例は、非限定的に、表在拡大型黒色腫、結節型黒色腫、悪性黒子型黒色腫、肢端黒子型黒色腫、メラニン欠乏性黒色腫、または皮膚の黒色腫(例えば、皮膚黒色腫、眼黒色腫、外陰部黒色腫、膣黒色腫、直腸黒色腫)を含む。一態様では、本開示の方法は、皮膚黒色腫を処置するために使用される。一態様では、本開示の方法は、難治性黒色腫を処置するために使用される。一態様では、本開示の方法は、再発性黒色腫を処置するために使用される。
【0194】
さらに他の例示的な態様では、本開示の改変された免疫細胞は、肉腫、または肉腫に関連する病態を処置するために使用される。肉腫またはそれに関連する病態の例は、非限定的に、血管肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、線維肉腫、消化管間質腫瘍、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍、骨肉腫、多形肉腫、横紋筋肉腫、および滑膜肉腫を含む。一態様では、本開示の方法は、滑膜肉腫を処置するために使用される。一態様では、本開示の方法は、粘液状/円形細胞脂肪肉腫、分化型/脱分化型脂肪肉腫、および多形脂肪肉腫などの脂肪肉腫を処置するために使用される。一態様では、本開示の方法は、粘液状/円形細胞脂肪肉腫を処置するために使用される。一態様では、本開示の方法は、難治性肉腫を処置するために使用される。一態様では、本開示の方法は、再発性肉腫を処置するために使用される。
【0195】
投与されるべき本開示の細胞は、治療を受けている対象に対して自己であり得る。
【0196】
ある特定の例示的な態様では、本開示の改変された免疫細胞は、感染症を処置するために使用される。ある特定の態様では、感染症は急性感染症である。ある特定の態様では、感染症はウイルス感染症である。ある特定の態様では、本開示の方法は、疾患、状態、またはLCMV、HIV、B型肝炎、C型肝炎、マラリア、もしくは結核からなる群から選択される感染症を処置するために使用される。
【0197】
本開示の細胞の投与は、当業者に公知の任意の好都合な方法で実施される場合がある。本開示の細胞は、エアロゾル吸入、注射、経口摂取、輸注、埋め込みまたは移植により対象に投与される場合がある。本明細書に記載される組成物は、患者に経動脈的、皮下、皮内、腫瘍内、結節内、髄内、筋肉内に、静脈内(i.v.)注射により、または腹腔内に投与される場合がある。他の例では、本開示の細胞は、対象における炎症部位、対象における局所疾患部位、リンパ節、器官、腫瘍などに直接注射される。
【0198】
いくつかの態様では、細胞は、所望の投薬量で投与され、投薬量は、いくつかの局面では、細胞もしくは細胞型の所望の用量もしくは数および/または細胞型の所望の比を含む。したがって、細胞の投薬量は、いくつかの態様では細胞の合計数(またはkg体重当たりの数)およびCD4+対CD8+の比のように個別の集団またはサブタイプの所望の比に基づく。いくつかの態様では、細胞の投薬量は、個別の集団における、または個別の細胞型の細胞の所望の合計数(またはkg体重当たりの数)に基づく。いくつかの態様では、投薬量は、所望の総細胞数、所望の比、および個別の集団中の所望の細胞合計数などの、そのような特徴の組み合わせに基づく。
【0199】
いくつかの態様では、CD8+ T細胞およびCD4+ T細胞などの細胞の集団またはサブタイプは、所望の用量の総細胞、例えば所望の用量のT細胞の許容される差異でまたは差異内で投与される。いくつかの局面では、所望の用量は、所望の細胞数、または細胞が投与される対象の単位体重当たりの所望の細胞数、例えば、個/kgである。いくつかの局面では、所望の用量は、最小細胞数または単位体重当たりの最小細胞数である、またはそれを超える。いくつかの局面では、所望の用量で投与される総細胞の中で、個別の集団またはサブタイプは、所望のアウトプット比(CD4+対CD8+の比など)でまたはそれ近くで、例えば、そのような比のある特定の許容される差異または誤差内で存在する。
【0200】
いくつかの態様では、細胞は、細胞の個別の集団またはサブタイプのうち1つまたは複数の所望の用量、例えば、CD4+細胞の所望の用量および/またはCD8+細胞の所望の用量の許容される差異でまたは差異内で投与される。いくつかの局面では、所望の用量は、サブタイプもしくは集団の所望の細胞数、または細胞が投与される対象の単位体重当たりのそのような細胞の所望の数、例えば、個/kgである。いくつかの局面では、所望の用量は、集団もしくはサブタイプの最小細胞数、または単位体重当たりの集団もしくはサブタイプの最小細胞数である、またはそれを超える。したがって、いくつかの態様では、投薬量は、総細胞の所望の固定用量および所望の比に基づき、かつ/または個別のサブタイプもしくは部分集団の1つもしくは複数、例えば、それぞれの所望の固定用量に基づく。したがって、いくつかの態様では、投薬量は、T細胞の所望の固定用量もしくは最小用量およびCD4+細胞対CD8+細胞の所望の比に基づき、かつ/またはCD4+細胞および/もしくはCD8+細胞の所望の固定用量もしくは最小用量に基づく。
【0201】
ある特定の態様では、細胞、または細胞のサブタイプの個別の集団は、対象に、約100万~約1000億個の細胞の範囲で、例えば、100万~約500億個の細胞(例えば、約500万個の細胞、約2500万個の細胞、約5億個の細胞、約10億個の細胞、約50億個の細胞、約200億個の細胞、約300億個の細胞、約400億個の細胞、または前記値の任意の2つにより定義される範囲)、例えば約1000万~約1000億個の細胞(例えば、約2000万個の細胞、約3000万個の細胞、約4000万個の細胞、約6000万個の細胞、約7000万個の細胞、約8000万個の細胞、約9000万個の細胞、約100億個の細胞、約250億個の細胞、約500億個の細胞、約750億個の細胞、約900億個の細胞、または前記値の任意の2つにより定義される範囲)で、場合によっては約1億個の細胞~約500億個の細胞(例えば、約1億2000万個の細胞、約2億5000万個の細胞、約3億5000万個の細胞、約4億5000万個の細胞、約6億5000万個の細胞、約8億個の細胞、約9億個の細胞、約30億個の細胞、約300億個の細胞、約450億個の細胞)またはこれらの範囲の間の任意の値で投与される。
【0202】
いくつかの態様では、総細胞の用量および/または細胞の個別の部分集団の用量は、細胞1×105個または約1×105個/kg~約1×1011個/kg、細胞104個~1011個または約1011個/キログラム(kg)体重、例えば、細胞105~106個/kg体重の範囲内であり、例えば、細胞1×105個または約1×105個/kg、細胞1.5×105個/kg、細胞2×105個/kg、または細胞1×106個/kg体重である。例えば、いくつかの態様では、細胞は、T細胞104個または約104個~109個または約109個/キログラム(kg)体重、例えば、T細胞105個~106個/kg体重で、またはその誤差のある特定の範囲内で、例えば、T細胞1×105個もしくは約1×105個/kg、T細胞1.5×105個/kg、T細胞2×105個/kg、またはT細胞1×106個/kg体重で投与される。他の例示的な態様では、本開示の方法に使用するために適した、改変された細胞の投薬量範囲は、細胞約1×105個/kg~細胞約1×106個/kg、細胞約1×106個/kg~細胞約1×107個/kg、細胞約1×107個/kg~細胞約1×108個/kg、細胞約1×108個/kg~細胞約1×109個/kg、細胞約1×109個/kg~細胞約1×1010個/kg、細胞約1×1010個/kg~細胞約1×1011個/kgを含むが、それに限定されるわけではない。例示的な態様では、本開示の方法に使用するために適した投薬量は、細胞約1×108個/kgである。例示的な態様では、本開示の方法に使用するために適した投薬量は、細胞約1×107個/kgである。他の態様では、適切な投薬量は、総細胞約1×107個~総細胞約5×107個である。いくつかの態様では、適切な投薬量は、総細胞約1×108個~総細胞約5×108個である。いくつかの態様では、適切な投薬量は、総細胞約1.4×107個~総細胞約1.1×109個である。例示的な態様では、本開示の方法に使用するために適した投薬量は、総細胞約7×109個である。
【0203】
いくつかの態様では、細胞は、104または約104~109または約109個/キログラム(kg)体重のCD4+および/またはCD8+細胞、例えば、105~106個/kg体重のCD4+および/またはCD8+細胞で、またはその誤差のある特定の範囲内で、例えば、1×105もしくは約1×105個/kgのCD4+および/もしくはCD8+細胞、1.5×105個/kgのCD4+および/もしくはCD8+細胞、2×105個/kgのCD4+および/もしくはCD8+細胞、または1×106個/kg体重のCD4+および/もしくはCD8+細胞で投与される。いくつかの態様では、細胞は、約1×106個、約2.5×106個、約5×106個、約7.5×106個、もしくは約9×106個を超える、もしくは少なくとも約1×106個、約2.5×106個、約5×106個、約7.5×106個、もしくは約9×106個のCD4+細胞、および/または少なくとも約1×106個、約2.5×106個、約5×106個、約7.5×106個、もしくは約9×106個のCD8+細胞、および/または少なくとも約1×106個、約2.5×106個、約5×106個、約7.5×106個、もしくは約9×106個のT細胞で、またはその誤差のある特定の範囲内で投与される。いくつかの態様では、細胞は、約108個~1012個もしくは約1010個~1011個のT細胞、約108個~1012個もしくは約1010個~1011個のCD4+細胞、および/または約108個~1012個もしくは約1010個~1011個のCD8+細胞で、またはその誤差のある特定の範囲内で投与される。
【0204】
いくつかの態様では、細胞は、CD4+およびCD8+細胞またはサブタイプなどの、複数の細胞集団またはサブタイプの所望のアウトプット比で、またはその耐容される範囲内で投与される。いくつかの局面では、所望の比は、特定の比であることができる、または比の範囲であることができ、例えば、いくつかの態様では、所望の比(例えば、CD4+細胞対CD8+細胞の比)は、5:1もしくは約5:1~5:1もしくは約5:1(または約1:5よりも大きく、約5:1よりも小さい)、または1:3もしくは約1:3~3:1もしくは約3:1(または約1:3よりも大きく、約3:1よりも小さい)、例えば、2:1もしくは約2:1~1:5もしくは約1:5(または約1:5よりも大きく、約2:1よりも小さい、例えば、5:1、4.5:1、4:1、3.5:1、3:1、2.5:1、2:1、1.9:1、1.8:1、1.7:1、1.6:1、1.5:1、1.4:1、1.3:1、1.2:1、1.1:1、1:1、1:1.1、1:1.2、1:1.3、1:1.4、1:1.5、1:1.6、1:1.7、1:1.8、1:1.9、1:2、1:2.5、1:3、1:3.5、1:4、1:4.5、もしくは1:5、または約5:1、約4.5:1、約4:1、約3.5:1、約3:1、約2.5:1、約2:1、約1.9:1、約1.8:1、約1.7:1、約1.6:1、約1.5:1、約1.4:1、約1.3:1、約1.2:1、約1.1:1、約1:1、約1:1.1、約1:1.2、約1:1.3、約1:1.4、約1:1.5、約1:1.6、約1:1.7、約1:1.8、約1:1.9、約1:2、約1:2.5、約1:3、約1:3.5、約1:4、約1:4.5、もしくは約1:5である。いくつかの局面では、耐容される差は、所望の比の約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%以内であり、これらの範囲の間の任意の値を含む。
【0205】
いくつかの態様では、改変された細胞の用量は、その必要のある対象に単回用量または複数回用量で投与される。いくつかの態様では、改変された細胞の用量は、複数回用量で、例えば、週1回または7日毎、2週1回または14日毎、3週1回または21日毎、4週1回または28日毎に投与される。例示的な態様では、改変された細胞の単回用量が、その必要のある対象に投与される。例示的な態様では、改変された細胞の単回用量は、急速静脈内注入によりその必要のある対象に投与される。
【0206】
疾患の予防または治療に適した投薬量は、処置されるべき疾患の種類、細胞もしくは組換え受容体の種類、疾患の重症度および経過、細胞が予防目的それとも治療目的で投与されるか、事前の療法、対象の臨床歴および細胞に対する応答、ならびに担当医師の判断に依存する場合がある。組成物および細胞は、いくつかの態様では、対象に1回でまたは一連の処置にわたり適宜投与される。
【0207】
いくつかの態様では、細胞は、組み合わせ処置の部分として、例えば、別の治療的介入、例えば、抗体または操作された細胞または受容体または作用物質、例えば細胞傷害剤もしくは治療剤と同時にまたは任意の順序で順次に投与される。細胞は、いくつかの態様では、1つまたは複数の追加的な治療剤と共に、または別の治療的介入に関連して、同時にまたは任意の順序で順次に共投与される。いくつかの状況では、細胞は、細胞集団が1つまたは複数の追加的な治療剤の効果を高めるように十分に近い時間で別の療法と共に、またはその逆で共投与される。いくつかの態様では、細胞は、1つまたは複数の追加的な治療剤の前に投与される。いくつかの態様では、細胞は、1つまたは複数の追加的な治療剤の後に投与される。いくつかの態様では、1つまたは複数の追加的な作用物質は、例えば持続性を高めるための、IL-2などのサイトカインを含む。いくつかの態様では、この方法は、化学療法剤の投与を含む。
【0208】
ある特定の態様では、本開示の改変された細胞(例えば、改変された外因性Fli1を含む改変された細胞)は、免疫チェックポイント抗体(例えば、抗PD1抗体、抗CTLA-4抗体、または抗PDL1抗体)と組み合わせて対象に投与され得る。例えば、改変された細胞は、例えば、PD-1(プログラム死1タンパク質)を標的とする抗体または抗体フラグメントと組み合わせて投与され得る。抗PD-1抗体の例は、ペムブロリズマブ(KEYTRUDA(登録商標)、以前はランブロリズマブ、MK-3475としても知られている)、およびニボルマブ(BMS-936558、MDX-1106、ONO-4538、OPDIVA(登録商標))またはその抗原結合フラグメントを含むが、それらに限定されない。ある特定の態様では、改変された細胞は、抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントと組み合わせて投与され得る。抗PD-L1抗体の例は、BMS-936559、MPDL3280A(TECENTRIQ(登録商標)、アテゾリズマブ)、およびMEDI4736(デュルバルマブ、イミフィンジ)を含むが、それらに限定されない。ある特定の態様では、改変された細胞は、抗CTLA-4抗体またはその抗原結合フラグメントと組み合わせて投与され得る。抗CTLA-4抗体の例は、イピリムマブ(商標名Yervoy)を含むが、それに限定されない。低分子、siRNA、miRNAおよびCRISPR系を非限定的に含む他のタイプの免疫チェックポイントモジュレーターを使用してもよい。免疫チェックポイントモジュレーターは、改変された細胞の前に、その後に、またはそれと同時に投与され得る。ある特定の態様では、免疫チェックポイントモジュレーターを含む併用処置は、本開示の改変された細胞を含む療法の治療有効性を高め得る。
【0209】
細胞の投与に続いて、いくつかの態様では、操作された細胞集団の生物学的活性が、例えば、多数の公知の方法のいずれかによって測定される。評価するためのパラメーターは、例えば画像化によるインビボ、または例えばELISAもしくはフローサイトメトリーによるエクスビボの、抗原への操作されたまたは天然のT細胞または他の免疫細胞の特異的結合を含む。ある特定の態様では、操作された細胞の標的細胞を破壊する能力を、例えば、Kochenderfer et al., J. Immunotherapy, 32(7): 689-702 (2009)、およびHerman et al. J. Immunological Methods, 285(1): 25-40 (2004)に記載されている細胞傷害アッセイなどの当技術分野において公知の任意の適切な方法を使用して測定することができる。ある特定の態様では、細胞の生物学的活性は、CD 107a、IFNγ、IL-2およびTNFなどの1つまたは複数のサイトカインの発現および/または分泌をアッセイすることによって測定される。いくつかの局面では、生物学的活性は、全身腫瘍組織量または腫瘍負荷量の減少などの臨床結果を評価することによって測定される。
【0210】
ある特定の態様では、対象に二次的処置が提供される。二次的処置は、化学療法、放射線照射、外科手術および薬物治療を含むが、それらに限定されない。
【0211】
いくつかの態様では、改変された細胞の投与の前に、対象に条件づけ療法を投与することができる。いくつかの態様では、条件づけ療法は、シクロホスファミドの有効量を対象に投与することを含む。いくつかの態様では、条件づけ療法は、フルダラビンの有効量を対象に投与することを含む。好ましい態様では、条件づけ療法は、シクロホスファミドとフルダラビンの組み合わせの有効量を対象に投与することを含む。改変された細胞の前の条件づけ療法の投与は、改変された細胞の有効性を高め得る。T細胞療法のための患者を条件づける方法は、米国特許第9,855,298号に記載されており、それは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0212】
いくつかの態様では、本開示の特定の投薬レジメンは、改変されたT細胞の投与前にリンパ球枯渇工程を含む。例示的な態様では、リンパ球枯渇工程は、シクロホスファミドおよび/またはフルダラビンの投与を含む。
【0213】
本開示の細胞は、適切な前臨床および臨床の実験および試験で決定されるべき投与量および経路かつ回数で投与することができる。細胞組成物は、これらの範囲内の投与量で複数回投与され得る。本開示の細胞の投与は、当業者によって決定されるような所望の疾患または病態を処置するのに有用な他の方法と併用してもよい。
【0214】
ある特定の態様では、改変細胞の投与に続いて、対象に、炎症性サイトカインの上昇を招く免疫活性化であるサイトカイン放出症候群(CRS)の治療が投与され得る。したがって、本開示は、CRSの診断に続いて、改変細胞の抗腫瘍有効性を弱めることなく、制御されない炎症の生理的症状を緩和するための適切なCRS管理戦略を提供する。CRS管理戦略は、当技術分野において公知である。例えば、全身コルチコステロイドが、初期の抗腫瘍応答を損なうことなくsCRS(例えば、グレード3のCRS)の症状を急速に後退させるために投与され得る。いくつかの態様では、抗IL-6R抗体が投与され得る。抗IL-6R抗体の一例は、米国食品医薬品局によって承認されているモノクローナル抗体のトシリズマブであり、アトリズマブ(Actemra、またはRoActemraとして販売されている)としても知られている。トシリズマブは、インターロイキン-6受容体(IL-6R)に対するヒト化モノクローナル抗体である。トシリズマブの投与は、CRSのほぼ即時の後退を実証した。
【0215】
本開示の改変免疫細胞は、本明細書に記載されるような治療の方法において使用され得る。いくつかの態様では、改変免疫細胞は、Fli1遺伝子座にFli1の遺伝子発現をダウンレギュレーション可能な挿入および/または欠失を含む。いくつかの態様では、Fli1がダウンレギュレーションされると、免疫細胞の機能が増強される。例えば、非限定的に、ダウンレギュレーションされると、Fli1は、免疫細胞の腫瘍浸潤、腫瘍殺傷、および/または免疫抑制に対する抵抗性を増強する。いくつかの態様では、Fli1がダウンレギュレーションされると、T細胞疲弊が低減または排除される。いくつかの態様では、Fli1がダウンレギュレーションされると、T細胞機能障害が低減または排除される。
【0216】
一局面では、本開示は、本明細書に開示される改変された免疫または前駆体細胞のいずれか1つを対象に投与することを含む、その必要のある対象におけるがんを治療する方法を含む。本開示のなお別の局面は、本明細書に開示される方法のいずれか1つによって生成された改変された免疫または前駆細胞を対象に投与することを含む、その必要のある対象におけるがんを治療する方法を含む。
【0217】
本開示のさらに別の局面は、以下を含む改変細胞を対象に投与することを含む、その必要のある対象における疾患または障害を治療する方法を含む:
Fli1をコードする内因性遺伝子座におけるCRISPR媒介改変であって、内因性Fli1の遺伝子発現をダウンレギュレーション可能な改変。
【0218】
F. 細胞をスクリーニングする方法
本開示は、細胞(例えば、T細胞)をスクリーニングするための方法、例えば、図1A、8A、および8Bに例示されているような最適化T細胞インビボCRISPRスクリーニング(Optimized T cell In vivo CRISPR Screening: OpTICS)法を提供する。
【0219】
一局面では、本開示は、i)活性化細胞にCas酵素(またはCasをコードする核酸)およびsgRNAライブラリーを導入すること、ii)該細胞を感染または腫瘍担持マウスに投与すること、iii)感染マウスから細胞を単離すること、ならびにiv)細胞を分析することを含む、細胞をスクリーニングする方法を提供する。
【0220】
一局面では、本開示は、i)活性化T細胞にCas酵素およびsgRNAライブラリーを導入すること、ii)該T細胞を感染または腫瘍担持マウスに投与すること、iii)感染マウスからT細胞を単離すること、ならびにiv)T細胞を分析することを含む、T細胞をスクリーニングする方法を提供する。
【0221】
sgRNAライブラリーは、限定されないがアノテーションされた機能的ドメインを有するあらゆるすべての遺伝子を含めた、いくつもの関心対象の遺伝子を標的とするいくつものsgRNAを含有するように構築されるべきである。
【0222】
ある特定の態様では、sgRNAライブラリーは、複数の転写因子を標的とする複数のsgRNAを含む。ある特定の態様では、複数の転写因子は、表1に列挙される転写因子のいずれかを含む。ある特定の態様では、各sgRNAは、各転写因子のDNA結合ドメインを標的とする。ある特定の態様では、sgRNAライブラリーは、SEQ ID NO:1~675からなる群より選択される少なくとも1つの配列を含む。ある特定の態様では、sgRNAライブラリーは、SEQ ID NO:1~675に示されるヌクレオチド配列からなる。ライブラリーは、SEQ ID NO:1~675からなる群より選択されるあらゆるすべての数のsgRNAを含有するように構築されるべきである。例えば、sgRNAライブラリー中のsgRNAの数は、1、10、20、50、100、200、300、400、500、600、675、または1~675中のあらゆるすべての数であることができる。
【0223】
ある特定の態様では、該方法は、T細胞疲弊を評価するためにT細胞をスクリーニングする。ある特定の態様では、該方法は、TEFFおよびTEX細胞分化を支配する新規転写因子を同定する。
【0224】
ある特定の態様では、該方法は、腫瘍系においてスクリーニングするために、すなわち腫瘍/がんにおける関心対象の遺伝子を同定するために使用される。ある特定の態様では、該方法は、メモリーB細胞および形質細胞形成を評価するためにB細胞をスクリーニングする。ある特定の態様では、該方法は、幹細胞および関連系列を評価するために造血または組織幹細胞をスクリーニングする。
【0225】
ある特定の態様では、細胞を分析することは、シーケンシング、PCR、MACS、およびFACSからなる群より選択される方法を含む。ある特定の態様では、シーケンシングは、関心対象の標的を明らかにする。ある特定の態様では、薬物が、関心対象の標的に対して設計される。ある特定の態様では、薬物がT細胞に投与されたとき、少なくとも1つのT細胞応答が増加するまたは誘発される。ある特定の態様では、解析の間、例えば図1Aに示しているように、CRISPRスコア(CS)が算出される。
【0226】
ある特定の態様では、1×105個前後のT細胞が感染マウスに投与される。
【0227】
G. 薬学的組成物および製剤
また、本開示の免疫細胞集団、ならびにそのような細胞を含有するおよび/またはそのような細胞が濃縮された組成物も提供される。組成物は中でも、養子細胞療法のためなどの、投与のための薬学的組成物および製剤である。また、細胞および組成物を、対象、例えば、患者に投与するための治療法も提供される。
【0228】
また、薬学的組成物および製剤を含めた投与のための細胞を含む組成物、例えば、所与の用量またはその画分での投与のための細胞数を含む単位用量形態組成物も提供される。薬学的組成物および製剤は、一般には、1つまたは複数の任意の薬学的に許容される担体または賦形剤を含む。いくつかの態様では、組成物は、少なくとも1つの追加の治療剤を含む。
【0229】
用語「薬学的製剤」は、それに含有される活性成分の生物学的活性を有効にさせるような形態の調製物であって、製剤が投与されるであろう対象に対して許容できないほど有毒な追加の成分を含有しない、調製物を指す。「薬学的に許容される担体」は、対象に対して無毒である、活性成分以外の薬学的製剤中の成分を指す。薬学的に許容される担体は、緩衝液、賦形剤、安定剤または保存料を含むが、それに限定されるわけではない。いくつかの局面では、担体の選択は、一部には、特定の細胞によっておよび/または投与方法によって決定される。したがって、多種多様な適切な製剤がある。例えば、薬学的組成物は、保存料を含有することができる。適切な保存料は、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウムおよび塩化ベンザルコニウムを含み得る。いくつかの局面では、2つまたはそれよりも多い保存料の混合物が使用される。保存料またはその混合物は、典型的には、全組成物の重量に対して約0.0001%~約2%の量で存在する。担体は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)により記載されている。薬学的に許容される担体は、一般には、採用される投与量および濃度でレシピエントに対して無毒であり、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む酸化防止剤;保存料(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルアルコールもしくはベンジルアルコール;メチルパラベンもしくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン類;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンもしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンもしくはリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノースもしくはデキストリンを含む単糖、二糖および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースもしくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);ならびに/またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含むが、それに限定されるわけではない。
【0230】
いくつかの局面では、緩衝剤が組成物中に含まれる。適切な緩衝剤は、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸カリウムならびに様々な他の酸および塩を含む。いくつかの局面では、2種またはそれより多くの緩衝剤の混合物が使用される。緩衝剤またはその混合物は、典型的には、全組成物の重量に対して約0.001%~約4%の量で存在する。投与可能な薬学的組成物を調製するための方法は公知である。例示的な方法は、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Lippincott Williams & Wilkins; 21st ed. (May 1, 2005)に、より詳細に記載されている。
【0231】
製剤は、水溶液を含むことができる。製剤または組成物はまた、細胞により処置される特定の適応症、疾患、または状態に有用な1つよりも多い活性成分、好ましくは細胞を補完する活性であって、それぞれが、互いに悪影響を及ぼさない活性を有するもの、を含有し得る。そのような活性成分は、適切には、意図する目的に効果的な量で組み合わされて存在する。したがって、いくつかの態様では、薬学的組成物は、他の薬学的に活性な作用物質または薬物、例えば、化学療法剤、例えば、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メトトレキサート、パクリタキセル、リツキシマブ、ビンブラスチンおよび/またはビンクリスチンをさらに含む。薬学的組成物は、いくつかの態様では、疾患または状態を治療または予防するのに有効な量、例えば、治療有効量または予防有効量で細胞を含有する。治療有効性または予防有効性は、いくつかの態様では、処置される対象を定期的に評価することによってモニタリングされる。細胞の単回ボーラス投与によって、細胞の複数回ボーラス投与によって、または細胞の連続注入投与によって、所望の投与量を送達することができる。
【0232】
製剤は、経口、静脈内、腹腔内、皮下、肺内、経皮、筋肉内、鼻腔内、口腔、舌下または坐剤投与のための製剤を含む。いくつかの態様では、細胞集団は、非経口投与される。用語「非経口」は、本明細書において使用される場合、静脈内、筋肉内、皮下、直腸、膣内および腹腔内投与を含む。いくつかの態様では、細胞は、静脈内、腹腔内または皮下注射による末梢全身送達を使用して対象に投与される。組成物は、いくつかの態様では、無菌の液体調製物、例えば、等張性水溶液、懸濁液、エマルジョン、分散液または粘性組成物として提供され、これらは、いくつかの局面では、選択されたpHに緩衝化され得る。液体調製物は、通常、ゲル、他の粘性組成物および固体組成物よりも調製しやすい。追加的に、液体組成物が、投与に、とりわけ、注射による投与にいくらか便利である。他方で、粘性組成物を、特定の組織とのより長い接触期間をもたらすのに適した粘性範囲内で製剤化することができる。液体組成物または粘性組成物は、例えば、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール)およびそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒であることができる、担体を含むことができる。
【0233】
無菌注射液は、溶媒中に、例えば、滅菌水、生理食塩水、グルコース、デキストロースなどの適切な担体、希釈剤または賦形剤と混合された溶媒中に細胞を取り入れることによって、調製することができる。組成物は、所望の投与経路および調製に応じて、湿潤剤、分散剤、または乳化剤(例えば、メチルセルロース)、pH緩衝剤、ゲル化もしくは粘性増強添加物、保存料、着香剤および/または着色剤などの補助物質を含有することができる。いくつかの局面では、適切な調製物を調製するために標準的な教科書に助言を求めてよい。
【0234】
抗菌保存料、酸化防止剤、キレート剤、および緩衝液を含む、組成物の安定性および無菌性を増強する様々な添加物を添加することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールおよびソルビン酸によって保証することができる。注射用薬学的剤形の長期吸収は、吸収を遅延させる作用物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを使用することによってもたらすことができる。
【0235】
インビボ投与に使用されるべき製剤は、一般に無菌のものである。無菌は、例えば滅菌濾過膜で濾過することによって、容易に達成され得る。
【0236】
本明細書において言及または引用される論文、特許および特許出願、ならびにすべての他の文書および電子的に入手可能な情報の内容は、それぞれの個々の刊行物が参照によって組み入れられることが具体的かつ個々に示されているかのように、参照によってそれらの全体が同程度に本明細書に組み入れられる。出願人等は、そのような任意の論文、特許、特許出願または他の物理的および電子的文書からのあらゆる資料および情報を本出願中に物理的に組み入れる権利を有する。
【0237】
本開示は、その具体的な態様を参照しながら記載されてきたが、本発明の真の精神および範囲から逸脱しなければ、様々な変更を行っても等価物に置換してもよいことが、当業者によって理解されるべきである。本明細書に開示の態様の範囲から逸脱しなければ、適切な等価物を使用して本明細書に記載の方法の他の適切な改変および適合を行ってよいことが、当業者には容易に明らかとなろう。加えて、多くの改変を行って、特定の状況、材料、物質の組成、プロセス、1つまたは複数のプロセス段階を本開示の目的、精神および範囲に適合させてもよい。そのような改変はすべて、添付の特許請求の範囲内であることが意図される。ここでは特定の態様を詳細に記載してきたが、同じものが以下の実施例を参照することによってより明確に理解され、以下の実施例は、例証を目的としてのみ含まれるものであって、限定を意図するものではない。
【実施例
【0238】
実験的実施例
以下の実施例を参照して本発明をこれから説明する。これらの実施例は、例証だけの目的で提供されるものであって、本発明は、これらの実施例に限定されるわけではなく、本明細書において提供される教示の結果として明白であるすべての変形を包含する。
【0239】
材料および方法
マウス:CD4CRE、LSL-Cas9-GFPおよび構成的Cas9-GFPマウスをJackson Laboratoryから購入した。LSL-Cas9-GFPマウスを、CD4CREマウスおよびTCRトランスジェニックP14 C57BL/6マウス(LCMV DbGP33-41に特異的なTCR)と交配させ、使用前に6世代超戻し交配した。構成的Cas9-GFPマウスを、TCRトランスジェニックP14 C57BL/6マウスと交配させた。レシピエント使用のための構成的Cas9-GFPマウスを施設内で繁殖させた。6~8週齢のC57BL/6 Ly5.2CR(CD45.1)またはC57BL/6(CD45.2)マウスをNCIから購入した。6週齢のC57BL/6(CD45.2)マウスをJackson Laboratoryから購入した。5~7週齢のRag2-/-C57BL/6マウスをJackson Laboratoryから購入した。LCMV負荷のためのレシピエントマウスは、図の説明において特に断りのない限り、NCIからのものとした。雄と雌の両方のマウスを使用した。マウスはすべて、ペンシルベニア大学の施設内動物管理使用委員会指針を遵守して使用した。
【0240】
実験モデル
LCMV感染:マウスに、2×105のプラーク形成単位(PFU)のArmを腹腔内(i.p.)に、または4×106のPFUのCl13を静脈内(i.v.)に感染させた。ウイルス量を検出するためのLCMV Cl13に対するプラークアッセイを、過去に記載されているように進めた(Pauken et al., 2016)。基本的には、組織をホモジナイズし、1:10、1:102、1:103希釈度の血清または1:10、1:102、1:103、1:104、1:105および1:106希釈度のホモジナイズした組織含有培地のいずれかを、接着Vero細胞と1時間インキュベートした。細胞に、培地と1%アガロースの1:1混合物を重ねて、4日間培養した。培地:1%アガロース:ニュートラルレッドの9.5:9.5:1混合物を16時間重ねた後に、プラーク(PFU)をカウントした。
【0241】
リステリア・モノサイトゲネス(LM)感染:DbGP33を発現するLM(LM-gp33)の濃度は、ブレインハートインフュージョン(BHI)培地中で一晩培養した後、光学密度(OD)によって測定した(1 ODは、8×108のLM-gp33のことを指す)。各レシピエントマウスに、1×105のCFUのLM-gp33を静脈内(i.v.)感染させた。調整済み生存率は、30%体重減少の強制的な施設内動物管理使用委員会(IACUC)安楽死カットオフを上回り残存するマウスを基準とした。細菌量に対する単位計算当たりのLM-gp33コロニー形成を、完全BHI培地を含む2%アガロースプレートを使用して算出した。感染臓器を1mlのBHI培地中で粉砕し、臓器の20ul(2%)を取り出す。1:10、1:102、1:103、1:104、1:105および1:106希釈度の感染臓器BHI培地を作り、BHIアガロースプレートにプレーティングする。37℃のインキュベーター内でプレートを16時間インキュベートした後、コロニーをカウントする。
【0242】
インフルエンザPR8感染:マウスに、DbGP33を発現するPR8系統(PR8-gp33)を3.0 LD50の用量で鼻腔内(i.n.)感染させた。i.n.感染の前に、マウスに麻酔をかけた。ウイルスRNA量についてのPR8ウイルスのqPCR検出を、過去に記載されているように算出した(Laidlaw et al., (2013) PLOS Pathogens 9, e1003207)。PR8-GP33感染マウスの肺ならびに対を成す脾臓から全RNA(宿主およびウイルスRNAを含めた)を精製し、続いて、ランダムプライマーを用いて逆転写した。インフルエンザPAタンパク質を標的とするcDNAに対して、リアルタイム定量的PCRをテクニカルトリプリケートで実施した。インフルエンザウイルスRNA量を、インフルエンザPAタンパク質cDNA標準を使用して標準化した。
【0243】
腫瘍移入:DbGP33を発現するB16F10メラノーマ細胞(B16F10-gp33(Prevost-Blondel et al., (1998) The Journal of Immunology 161, 2187-2194))を、10% FBS、ペニシリン、ストレプトマイシンおよびL-グルタミンを補充したDMEM培地中、37℃で維持した。腫瘍細胞を、Rag2-/-マウスの脇腹に1×105個の細胞/レシピエントで、そして、Cas9+ B6マウスの脇腹に2×105個の細胞/レシピエントで皮下注射した。活性化sgRNA+ C9P14細胞をソーティングし、1×106個の細胞/レシピエント(Rag2-/-について)または3×106個の細胞/レシピエント(Cas9+について)の用量でレシピエントマウスに移入した。接種後2~3日毎にデジタルノギスを使用して、腫瘍サイズを測定した。
【0244】
ベクター構築およびsgRNAクローニング:この研究では、pSL21-VEXまたはpSL21-mCherryを使用してSpCas9 sgRNAを発現させた(U6-sgRNA-EFS-VEXまたはU6-sgRNA-EFS-mCherry)。pSL21-VEXまたはpSL21-mCherryを生成するために、U6-sgRNA発現カセットを、LRG2.1からレトロウイルスベクターMSCV-NeoにPCRクローニングし、続いて、Neo選択マーカーとVEXまたはmCherry蛍光レポーターとを交換した。2つのDNAオリゴのアニーリングおよびBbs1消化pSL21-VEXまたはpSL21-mCherryベクターへのT4 DNAライゲーションによって、sgRNAをクローニングした。U6プロモーターの転写効率を改善するため、5'Gから始まっていないすべてのsgRNAオリゴ設計に追加の5'Gヌクレオチドを付加した。Runx1およびRunx3構築物をMIGRまたはMSCV-mCherry構築物上に組み立て、空のMIGRまたはMSCV-mCherryをこれらのベクターの対照として使用する。
【0245】
細胞培養およびインビトロ刺激:EasySep Mouse CD8+ T Cell Isolation Kit(STEMCELL Technologies)を製造業者の指示に従って使用した陰性選択によって、脾臓からCD8 T細胞を精製した。細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)、10mM HEPES、100μM 非必須アミノ酸(NEAA)、50U/mL ペニシリン、50μg/mL ストレプトマイシンおよび50μM β-メルカプトエタノールを含むRPMI-1640培地中、100U/mL 組換えヒトIL-2、1μg/mL 抗マウスCD3ε、および5μg/mL 抗マウスCD28で刺激した。
【0246】
レトロウイルスベクター(RV)実験:Lipofectamine 3000を使用してMSCVおよびpCL-Ecoプラスミドで293T細胞においてRVを生産した。RV形質導入を、記載されているように実施した(Kurachi et al., (2017) Nature Protocols, 12:9 12, 1980-1998)。簡単に述べると、EasySepTM Mouse CD8+ T Cell Isolation Kitを使用してP14マウスの脾臓からCD8+ T細胞を精製した。インビトロ刺激の18~24時間後、P14細胞に、ポリブレン(0.5μg/ml)の存在下、スピン感染(2,000gにて32℃で60分間)の間に、37℃で単一RVおよびsgRNAライブラリーについて6時間または二重RVについて12時間インキュベートした後、RVが形質導入された。移入の24~48時間前に感染させたレシピエントマウスに、RV形質導入P14細胞を養子移入した。
【0247】
フローサイトメトリーおよびソーティング:マウス実験について、記載されているように(Wherry et al., (2003) Nature Immunology 2006 7:12 4, 225-234)、組織を処理し、単一細胞懸濁液を得て、細胞を染色した。マウス細胞は、LIVE/DEAD cell stain(Invitrogen)および表面または細胞内タンパク質を標的とする抗体で染色した。細胞内サイトカイン染色は、GolgiPlug、GolgiStopおよび抗CD107aの存在下、GP33-41ペプチドでのエクスビボ刺激の5時間後に実施した。刺激後、細胞を、表面抗体で染色し、続いて、Fixation/Permeabilization Bufferで固定し、次いで、Permeabilization Wash Bufferを製造業者の指示に従って使用して、TNF、IFN-γおよびMIP1αについて細胞内抗体で染色した。フローサイトメトリーは、LSRIIで実施した。細胞ソーティング実験は、BD-Aria sorterで実施し、シーケンシング、ウエスタンおよびTIDEアッセイに、70ミクロンノズルおよび4℃循環冷却システムを用いた。
【0248】
移入実験において最適化されたソーティングでRV+細胞をソーティングするために、BD Aria Sorterを37℃および100ミクロンノズルに設定し、流速を3.0より遅くした。ソーティング中、3×106個の細胞を、100U/mLの組換えヒトIL-2を含む300ulの10%完全RPMI中で濃縮した。10%完全RPMI(100U/mlのIL-2)を含む37℃に予め温めておいた収集チューブを使用した。ソーティングした細胞を、レシピエントに移入する前に37℃の温かい純粋RPMIで洗浄した。
【0249】
TIDEアッセイ:少なくとも1×104個のCas9+sgRNA+ T細胞ペレットを凍結させた。これらの試料から、QIAmp DNA Mini Kitを使用してゲノムDNAを単離した。2x Phusion Flash High-Fidelity PCR Master MixおよびsgRNA標的部分のゲノム領域を中心に設計されたプライマーを使用したTIDE PCRを、試料毎に実行して、ゲノムDNAからガイド領域を抽出した;結果として生じた産物を、次いで、ゲル検証し、PCR精製し、サンガーシーケンシングに送った。
【0250】
ウエスタンブロット:FACS機器を使用して2×105個のT細胞をソーティングし、ペレットを凍結させた。これらの試料からのタンパク質を抽出し、2X working loading sample buffer(1M Tris-HCl、10% SDS、グリセロール、10%ブロモフェノールブルー)中にて95℃で煮沸させることによって変性させた。溶解物を10% SDS-PAGEゲル上に流し、次いで、ニトロセルロースメンブレンに移した。一次Fli1(1:200)およびGAPDH(1:1000)抗体で一晩染色し、続いて、翌日に1:5000の二次抗体染色を行った。
【0251】
OpTICSスクリーニング
sgRNA候補選択:以下の基準を満たす271個のTFを選択した:1)全体のうち発現変動した上位50に含まれる(Doering et al., (2012) Immunity 37, 1130-1144)および(Philip et al., (2017) Nature 2017 545:7652 545, 452-456)、2)過去に記載されたナイーブ、D8 ArmおよびD8 Cl13の中で上位10の差次的なオープンTFモチーフに含まれる(Sen et al., (2016) Science 354, 1165-1169)、3)IRFおよびSTATタンパク質などの上位の免疫調節ファミリーに関与する。TFライブラリーに含めるために以下の原理により120個のTFを手動で選んだ:1)CD8 T細胞において既知の機能を有するTF;2)免疫機能に関連するもののTFファミリーメンバー、例えば、IRF、STATおよびSmad;3)公表されているCD8 T細胞データベース全体で最も有意な変動RNA発現を有するTF;4)過去のCD8 T細胞データセットのATAC-seqデータにおいて最も高いモチーフエンリッチメントを有するTF。
【0252】
ライブラリー構築:NCBI Conserved Domains Databaseから検索したドメイン配列情報に基づき、各TFの個々のDNA結合ドメインまたは他の機能的ドメインに対して4~5個のsgRNAを設計した。陽性および陰性対照sgRNAを含むすべてのsgRNAオリゴを、Integrated DNA Technologies(IDT)によって合成し、等モル濃度でプールした。次いで、プールしたsgRNAオリゴをPCRによって増幅させ、Gibson Assembly Kitを使用してBsmBI消化SL21ベクターにクローニングした。プールしたプラスミド中のsgRNAの同一性および相対リプレゼンテーションを検証するために、MiSeq装置でディープシーケンシング解析を実施した。本発明者らは、設計したsgRNAの100%がSL21ベクターにクローニングされたこと、そして、個々のsgRNA構築物の>95%の存在量が平均の5倍以内であったことを確認した。
【0253】
マウス実験ワークフロー:0日目に、CD45.2+ C9P14マウスの脾臓およびリンパ節からC9P14細胞を単離し、抗CD3/CD28およびIL-2を使用した標準的なT細胞活性化プロトコルを遂行した;同日、ナイーブCD45.1+レシピエントマウスにLCMVを感染させた。感染後D1に、活性化C9P14細胞をRV-sgRNAライブラリーによって形質導入し、6時間インキュベートした後、RV上清を洗い流した。18~24時間後、形質導入sgRNA+Cas9+細胞をソーティングした。次いで、いずれの選択の前にも、sgRNA+Cas9+ T細胞の10%をD2ベースライン(T0時点)対照として凍結し、一方で、該細胞の90%を感染レシピエントに移入する(最大1×105個の細胞/レシピエント)。T1時点(グラフ中のD8)に、レシピエントの複数の臓器からsgRNA+Cas9+ CD45.2+ T細胞をソーティングした。
【0254】
単離ライブラリーの構築およびMiSeq処理:参照および最終時点のsgRNA存在量を定量するために、ハイフィデリティポリメラーゼを使用してゲノムDNAからsgRNAカセットをPCR増幅させた。PCR産物を、T4 DNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼI、ラージ(クレノウ)断片、およびT4ポリヌクレオチドキナーゼによって末端修復した。次に、3'Aオーバーハングを、その後、クレノウ断片を有する平滑化DNA断片の端に付加した(3'-5'エキソ)。Quickライゲーションキットを用いて、多様性が増加したカスタムバーコードにDNA断片をライゲーションした。バーコード化されたライゲーション産物に、ハイフィデリティポリメラーゼによるPCR反応を通じて、Illuminaペアエンドシーケンシングアダプターを付着させた。最終産物を、Bioanalyzer Agilent DNA 1000によって定量し、等モル比でまとめてプールし、MiSeq(Illumina)を使用してMiSeq Reagent Kit V3 150-cycle(Illumina)でペアエンドシーケンシングした。
【0255】
データ処理:シーケンシングデータを逆多重化し、sgRNA配列カセットだけを含むようにトリミングした。それぞれ個々のsgRNAのリードカウントをミスマッチなしで算出し、過去に記載されているように参照sgRNAの配列と比較した(Shi et al., (2015) Nature Biotechnology 2015 33:6 33, 661-667)。各試料のデータを同じリードアカウントに対して正規化した。ウォーターフォールプロット(図1B):遺伝子毎に、多重sgRNAからlog2変化倍率の平均を計算した。ヒートマップ(図1C):遺伝子毎に、多重sgRNAからlog10変化倍率の平均を計算した。条件別の遺伝子の行列において、各条件が同じ値分布を有するように条件全体でクオンタイル正規化を実施した。遺伝子を各行の平均値順に並べた。ヒストグラム(図1D):条件毎に、すべての遺伝子のsgRNAについてバックグラウンド(灰色の棒およびヒストグラム)をプロットした。バックグラウンド値の5パーセンタイルおよび95パーセンタイルを使用することによって5%および95%信頼区間を抽出した。赤色の棒は、1つの遺伝子についてのsgRNA(または対照)のlog変化倍率を示す。
【0256】
RNAシーケンシング
実験ワークフロー:Cl13感染後D8に、感染レシピエントの脾臓からCD8 T細胞を単離した。FACSを使用して>95%純度でVEX+GFP+細胞をソーティングする。1試料当たり2×104個の細胞でQIAGEN RNeasy Micro Kitを使用してRNAを単離した。SMARTSeq V4 Ultra Low kitを使用してcDNAライブラリーを生成した。ライブラリーを、KAPA Library Quant Kit(KAPA Biosystems)を使用したqPCRによって定量した。正規化したライブラリーをプールし、TG NextSeq 500/550 Mid Output Kit v2(150サイクル、130Mリード、Illumina)上にロードする1.8pg/mlまで希釈し、NextSeq 550(Illumina)でペアエンドシーケンシングを実施した。1試料当たりの推定リード深度は、15Mリードである。
【0257】
データ処理:RNAseqペアエンドシーケンシングからの生FASTQファイルを、Kallisto(https://pachterlab.github.io/kallisto/)を使用してGRCm38/mm10参照ゲノムに対して整列させた。19357個の遺伝子および8個の試料に対してシーケンシングリードを読み取った。3を超える条件でゼロリードカウントを有する遺伝子をフィルターで除外した。この工程後に13628個の遺伝子が残った。次いで、DESeq 2パッケージを使用して発現変動解析を実行した。
【0258】
1440個の遺伝子の発現が、BH補正P値<0.05により、2つの条件間で有意に異なることが見いだされた。GOエンリッチメント解析を、ClusterProfilerを使用して実施した。上位20の最も濃縮された経路をプロットにおいて示す。GSEAを、Broad Institute software(https://www.broadinstitute.org/gsea/index.jsp)を使用して実施した。sgCtrl群とsgFli1群とを比較することによって、エンリッチメントスコアを算出した。TEX前駆体遺伝子シグネチャーは、(Chen et al., (2019) Immunity, 51 6, 970-972)からであった。TEFF遺伝子シグネチャーは、(Bengsch et al., (2018) Immunity 48, 1029-1045.e5)からであった。
【0259】
ATACシーケンシング
実験ワークフロー:ATACseq試料調製は、記載されている通りであるが小さな改変を加えて実施した(Buenrostro et al., 2013)。FACSを使用して>95%純度でVEX+GFP+細胞をソーティングした。ソーティングした細胞(2.5×104個)を冷PBS中で2回洗浄し、50μlの冷溶解緩衝液(10nM Tris-HCl、pH 7.4、10mM NaCl、3mM MgCl2、0.1% Tween)に再懸濁した。溶解物を遠心分離にかけ(750×g、10分、4℃)、核を50μlの転位反応ミックス(TD緩衝液[25μl]、Tn5トランスポザーゼ[2.5μl]、ヌクレアーゼフリー水[22.5μl];(Illumina))に再懸濁し、37℃で30分間インキュベートした。転位したDNA断片を、Qiagen Reaction MiniElute Kitを使用して精製し、NEXTERAデュアルインデックス(Illumina)でバーコード化し、NEBNext High Fidelity 2x PCR Master Mix(New England Biolabs)を使用してPCRによって11サイクル増幅させた。PCR Purification Kit(Qiagen)を使用してPCR産物を精製し、増幅した断片サイズを、2200 TapeStation(Agilent Technologies)でHigh Sensitivity D1000 ScreenTapes(Agilent Technologies)を使用して検証した。
【0260】
ライブラリーを、KAPA Library Quant Kit(KAPA Biosystems)を使用したqPCRによって定量した。正規化したライブラリーをプールし、TG NextSeq 500/550 Mid Output Kit v2(150サイクル、130Mリード、Illumina)上にロードする1.8pg/mlまで希釈し、NextSeq 550(Illumina)でペアエンドシーケンシングを実施した。1試料当たりの推定リード深度は、10Mリードである。
【0261】
データ処理:ペアエンドシーケンシングからの生ATACseq FASTQファイルを、以下のリポジトリ(https://github.com/wherrylab/jogiles_ATAC)で利用可能なスクリプトを使用して処理した。Bowtie2を使用して、試料をGRCm38/mm10参照ゲノムに対して整列させた。Samtoolsを使用して、マッピングされていない対になっていないミトコンドリアリードを除去した。また、ENCODEブラックリスト領域も除去した(https://sites.google.com/site/anshulkundaje/projects/blacklists)。Picardを使用して、PCRデュプリケートを除去した。ピークコーリングを、MACS v2(FDR q値0.01)を使用して実施した。実験毎に、すべての試料のピークを合わせてユニオンピークリストを作成し、BedToolsマージで重複ピークをマージする。各ピーク中のリードの数を、BedToolsカバレッジを使用して決定した。特に指定のない限りFDRカットオフ<0.05を使用して、DESeq2正規化後に差次的にアクセス可能な領域を同定した。sgCtrl群およびsgFli1群にわたって差次的にアクセス可能なピークに対してHOMER(デフォルトパラメーター)を使用して、モチーフエンリッチメントを算出した。転写結合部位予測解析を、既知のモチーフ発見戦略を使用して実施した。
【0262】
CUT&RUN
実験ワークフロー:CUT&RUN実験は、過去に記載されている通りであるが(Skene et al., (2018) Nature Protocols 2017 12:9 13, 1006-1019)改変を加えて実施した。簡単に述べると、2×105個のソーティングした細胞を、1.5mlのチューブ中、1mlの冷洗浄緩衝液(20mM HEPES-NaOH pH 7.5、150mM NaCl、0.5mM スペルミジン、およびSigmaからのプロテアーゼ阻害剤カクテル)で2回洗浄した。次いで、細胞を1mlの冷洗浄緩衝液に再懸濁し、10μlのBioMagPlus Concanavalin A(Bangs laboratories)と4℃で25分間回転させながらインキュベートして、細胞を結合させた。チューブを磁気スタンド上に置き、溶液が透明になった後に液体を除去した。250μlの冷抗体緩衝液(20mM HEPES-NaOH pH 7.5、150mM NaCl、0.5mM スペルミジン、2mM EDTA、0.1%ジギトニン、およびSigmaからのプロテアーゼ阻害剤カクテル)中の一次抗体をチューブに加え、4℃で一晩回転させた。翌日、1mlの冷洗浄緩衝液で細胞を1回洗浄した後、250μlの冷ジギトニン緩衝液(20mM HEPES-NaOH pH 7.5、150mM NaCl、0.5mM スペルミジン、0.1%ジギトニン、およびSigmaからのプロテアーゼ阻害剤カクテル)中のプロテインA-MNase(pA-MN)をチューブに加え、4℃で1時間回転させた。未結合のpA-MNを洗い流すために、細胞を、1mlの冷ジギトニン緩衝液で2回洗浄し、次いで、150μlの冷ジギトニン緩衝液に再懸濁した。チューブを予冷しておいた金属ブロック上に置いた。pA-MN消化を開始するために、3μlの0.1M CaCl2と150μlの冷ジギトニン緩衝液中の細胞とを、チューブを10回軽くはじくことによって混合した。チューブを直ちに金属ブロックに戻した。30分間のインキュベーション後、150μlの2×停止緩衝液(340mM NaCl、20mM EDTA、4mM EGTA、0.02%ジギトニン、50μg/ml RNase A、50μg/ml グリコーゲン、および4pg/ml 酵母異種スパイクインDNA)を加えることによって消化を停止した。チューブを37℃のヒートブロック上で10分間インキュベートすることによって、標的クロマチンを放出させた。16,000gにて4℃で5分間上清をスピンし、新しいチューブに移した。クロマチンを3μlの10% SDSおよび2.5μlの20mg/ml プロテイナーゼKと70℃で10分間インキュベートし、続いて、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール抽出を行った。DNAを含有する上相を20μgのグリコーゲンと混合し、750μlの冷100%エタノールと-20℃で一晩インキュベートした。20,000gにて4℃で30分間遠心することによってDNAを沈降させた。DNAペレットを冷100%エタノールによって1回洗浄し、風乾させ、ライブラリー調製のために-20℃で保管した。プロテインA-MNase(バッチ6、1:200で使用)および酵母異種スパイクインDNAは、好意によりDr. Steve Henikoffによって提供された。使用した抗体は、以下であった:Fli1、ab15289、1:50で使用(abcam)、およびモルモット抗ウサギIgG、1:100で使用、ABIN101961(抗体オンライン)。
【0263】
CUT&RUN DNAライブラリーは、過去に記載されている通りであるが(Liu et al., 2018)わずかな改変を加えて調製した。簡単に述べると、pA-MN消化から沈降したすべてのDNAを、NEBNext Ultra II DNA Library Prep Kit(NEB)を使用するライブラリー調製に使用した。アダプターをアダプターライゲーション用に1:25に希釈した。DNAをバーコード化し、14回のPCRサイクルで増幅させ、AMPure XP beads(Liu et al., 2018)によってDNAライブラリーをクリーンアップした。ライブラリーの品質は、Qubitおよびバイオアナライザーでチェックし、ライブラリーの量は、qPCRにより、NEBNext Library Quant Kit for Illumina(NEB)を製造業者の指示に従って使用して判定した。18のバーコード化ライブラリーを等モル濃度でプールし、NextSeq 550プラットフォームにてNextSeq 500/550 High Output Kit(75サイクル)v2.5 kitを用いて配列決定した。ペアエンドシーケンシングを行った(42:6:0:42)。
【0264】
データ処理:Henikoffにより提案されたオプションを加えたBowtie2 v2.3.4.1を使用して、ペアエンドリードをmm10参照ゲノムに対して整列させた(Skene et al., (2018) Nature Protocols 2017 12:9 13, 1006-1019)。Picard tools v1.96を使用し、MarkDuplicatesコマンドを使用して、推定のPCRデュプリケートを除去した。Samtools v1.1を使用して、独自にマッピングされたリードを含有するBamファイルを作成した。下流解析のために、生物学的リプリケート(1条件当たり3つ)をこの工程でマージした。Bedtools v2.28.0を使用して、40bp~500bpのサイズの断片BEDファイルを生成した。ブラックリスト領域、ランダムな染色体、およびミトコンドリアを除去した。フィルター処理したBEDファイルを下流解析に使用した。
【0265】
bedGraphToBigWig(UCSC)を使用して、100万個当たりのリード数(Read per million)(RPM)に正規化したbigwigファイルを作成し、これを使用して結合シグナルを可視化した。MACS v2.1を使用し、p値カットオフ1e-8、-f BEDPEおよびIgGを対照としてbroadPeak設定を使用して、ピークをコールした。HOMER v4からのannotatePeaks.plを使用して、ピークの近位にある遺伝子をmm10ゲノムに対してアノテーションした。HOMER v4からのfindMotifsGenome.plを使用して、Fli1結合モチーフを同定した。ATAC-Seqピークとの比較のベン図を、Bioconductor package ChIPpeakAnnoを使用してプロットした。ヒートマップを、Bioconductor package ComplexHeatmapを使用して作成した。
【0266】
統計解析:統計的有意性は、Prism 7(GraphPad Software)による対応のない両側スチューデントのt検定または一元配置分散分析とテューキーの多重比較検定で算出した。P値を図の説明において報告する。
【0267】
実験の結果をこれから説明する。
【0268】
実施例1:インビボのマウス初代T細胞における遺伝子編集のための最適化CRISPR-Cas9
抗原特異的初代CD8 T細胞において遺伝子編集を可能にするために、LSL-Cas9+マウス(Platt et al., (2014) Cell 159, 440-455)を、LCMV DbGP33-41エピトープに特異的なCD8 T細胞を担持するCD4CRE+P14+マウスと交雑させた(Cas9+P14、またはC9P14と称される)。骨格最適化したCas9単一ガイドRNA(sgRNA)(Grevet et al., (2018) Science 361, 285-290)を、レトロウイルス(RV)ベクターにおいて蛍光マーカーで発現させた(図8A)。インビボの遺伝子編集効率を評価するために、C9P14細胞に、陰性対照sgRNA
またはPdcd1を標的とするsgRNA
のいずれかを、最適化されたRV形質導入プロトコル(Kurachi et al., (2017) Nature Protocols, 12:9 12, 1980-1998)を使用してエクスビボで形質導入した(図8B)。sgRNA(mCherry+)およびCas9(GFP+)CD8 T細胞の二重陽性集団(図8C)を、慢性LCMV系統(クローン13;Cl13)を感染させたコンジェニックのレシピエントマウスに養子移入した(図8B)。感染後(p.i.)9日目、sgRNA+C9P14細胞を単離して評価した。予想していた通り、sgPdcd1は、対照sgRNAよりも5倍大きな抗原特異的CD8 T細胞増大を誘導し(図8D)、このことは、Pdcd1の遺伝子ノックアウトと整合した。sgPdcd1はまた、ロバストなPD-1タンパク質発現の減少(図8E)およびPdcd1遺伝子座でのインデル変異(図8F)をもたらした。さらに、そのシステムの高い遺伝子編集効率は、Klrg1を標的とするsgRNA
およびCxcr3を標的とするsgRNA
を設計することによって確認した(図8G)。まとめると、C9P14におけるこのインビトロsgRNA RV形質導入とそれに続くインビボ養子移入システムは、インビボのマウスCD8 T細胞の遺伝子調節ネットワークを調査するためのロバストなプラットフォームを提供する。
【0269】
実施例2:OpTICSは、インビボのCD8 T細胞におけるプール遺伝子スクリーニングを可能にする
LCMV感染系におけるインビボのプール遺伝子スクリーニングを可能にするために、C9P14およびRV sgRNAプラットフォーム(図1A)をさらに最適化した。最初に、スクリーニングのための養子移入されたCD8 T細胞の生理学的数を決定した;これは、移入されたT細胞の数が、腫瘍モデルにおけるがんの進行またはインビボの感染の結果に影響し得るからである。それゆえ、養子移入されたRV形質導入CD8 T細胞の数は、慢性感染において過去に最適化された数であるマウス1匹当たり1×105個(採取後は約1×104個)に限定した。次に、このシステムの性能は、LCMVモデルを使用して、インビボのCD8 T細胞において、29個のTFのうち焦点を絞ったセットをターゲティングすることによって評価した。過去には、インフレーム変異とフレームシフト変異が両方とも機能喪失型対立遺伝子を生成することに寄与するため、機能的に重要なタンパク質コードドメインを標的とするsgRNAが、遺伝子スクリーニング効率を実質的に改善できることが見いだされた。29個のTFのDNA結合ドメインを標的とするものおよび他の対照遺伝子(例えば、非選択対照sgRNAおよびPdcd1)のsgRNAライブラリーを、1標的当たり4~5個のsgRNAとなるように設計およびクローニングした。CD8 T細胞生着後sgRNA 1個当たり細胞約400個の平均インプットカバレッジが、シグナル対ノイズ比を改善し、sgRNA 1個当たり細胞100個と比較してヒットを首尾よく同定した(図8H)。第3に、インビボスクリーンの性能を、LSL-Cas9導入遺伝子のヘテロ接合性とホモ接合性の対立遺伝子を発現するP14細胞を使用して評価した。Cas9ヘテロ接合性P14細胞は、Cas9ホモ接合性P14細胞よりも、シグナル対ノイズおよび独立したスクリーン間の一貫性という点で優れていたが(図8H~8I)、それは、おそらくヘテロ接合性状況下での低減されたオフターゲットDNA損傷によるものであろう。これらの予備の最適化スクリーンBatf、Irf4およびMycから、これらの遺伝子の遺伝子ターゲティングがT細胞活性化をインビボで強力に阻害したので、本発明者らは、これらを初期T細胞活性化に必須なものであると確認し(図8H)、このことは、TEFF生物学におけるBatf、Irf4およびMycの既知の役割と整合した。このシステムは、CD8 T細胞応答に必須の遺伝子が最大で約100倍の濃縮であり(図8H)、そして、T細胞活性化および分化を抑制する遺伝子がほぼ20倍の濃縮であり(図8J)、非常に効率的であった。
【0270】
実施例3:OpTICSは、T EFF およびT EX 細胞分化に関与する新規TFを同定する
TEFFおよびTEX細胞分化を支配する新たなTFを同定するために、別のドメインに焦点を当てたsgRNAライブラリーを120個のTFに対して構築した(表1)。このライブラリーは、1つのDNA結合ドメイン当たり4~5個のsgRNAを含む合計675個のsgRNA、陽性選択対照(sgPdcd1)、および非選択対照(例えば、sgAno9、sgRosa26など)を有する(図1A)。この120個のTF標的sgRNAライブラリーを用いて、急性回復LCMV Arm(Arm)または慢性Cl13(図1A)による感染後1週目または2週目に、インビボ選択およびsgRNA濃縮を調べた。感染に対するCD8 T細胞応答に広く重要なTFを同定するために、異なる臓器(PBMC、脾臓、肝臓および肺)からのC9P14細胞を調べた。一般に、群は、解剖学的位置ではなく、時点および感染によってクラスタリングした(図8K)。感染後2週目に、ArmおよびCl13のデータは分岐したが(図8K)、このことは、急性回復感染期と慢性感染期でのT細胞分化のまったく異なる軌跡と整合した。脾臓に焦点を当てると、両感染の両時点で最も強く陰性選択されたヒットの一部としてBatf、Irf4およびMycが出現した(図1B~1C)。Tbx21(T-betをコードする)、Id2、Stat5a、Stat5bおよびNF-kB複合体の成分を含め、いくつかの他の既知のエフェクター駆動TFを確認した(図1B~1C)。加えて、Smad4、Smad7およびMybl2を含め、T細胞活性化および分化において潜在的な新規役割を有するいくつかのTFも明らかになった(図1B~1C)。
【0271】
OpTICSシステムをまた、「UP」スクリーン(Kaelin, (2017) Nature Reviews Cancer 2012 13:1 17, 441-450)として使用して、最適なT細胞活性化およびTEFF細胞分化を抑制する遺伝子を同定した。Pdcd1のような係る遺伝子は、がんまたは感染におけるT細胞応答を改善するための潜在的な免疫療法標的となる。PD-1は、プロトタイプの陽性対照としての役目を果たし、予想していた通り、Pdcd1-sgRNAは、感染、時点およびすべての組織間で強く陽性選択された(図1B~1D)。このスクリーンはまた、ロバストなCD8 T細胞応答をアンタゴナイズするTFも同定した(図1B~1C)。これらの中で、Smad2は、急性感染期と慢性感染期の両方でTEFF細胞応答を制限することが示された。Nfatc2およびNr4a2も同定され(図1C)、いずれも、T細胞疲弊の促進、したがって、TEFF応答の制限に関わっていた。加えて、ここで同定されたGata3も、T細胞機能障害の駆動およびTEFF細胞応答の阻害に関わっていた。したがって、このスクリーンは、TEFF分化を抑止し、いくつかの場合には、疲弊を促進することが知られている、鍵となるTFを同定した。
【0272】
このOpTICSスクリーンはまた、最適なTEFF分化を抑止した新規TFも同定した。この遺伝子セットは、Atf6、Irf2、ErgおよびFli1を含み、Fli1は、TEFF分化の抑制において最も強いヒットの1つであった。TEFF分化のリプレッサーとしてのFli1の同定は、ArmおよびCl13感染において同様に行われたが(図1B~1D)、このことは、このTFが、TEFF生物学の抑止において共通の役割を有することを示している。2つのFli1-sgRNA
を選択し、これらのsgRNAが、Fli1遺伝子を効果的に編集し(70%~80%の編集;図9A)、低減されたタンパク質発現を導いたことが確認された(図1E)。これらの個々のFli1-sgRNAをC9P14細胞においてインビボ使用してFli1をターゲティングすると、ArmまたはCl13のいずれかの感染後1週目および2週目に5~20倍大きな増大をもたらした(図1Fおよび9B~9E)。これらのデータは、急性回復感染または発症中の慢性感染におけるFli1によるロバストなCD8 T細胞増大の抑制を示している。
【0273】
実施例4:Fli1の遺伝子欠失は、急性回復感染期にロバストなT EFF 分化を促進する
次に、Fli1-sgRNA(sgFli1)またはCtrl-sgRNA(sgCtrl)を形質導入したC9P14細胞の分化状態を急性回復感染期において調べた。感染後8日目に、Fli1欠失は、CD127Hiメモリー前駆体(TMP)の割合を低下させたが、KLRG1Hi最終エフェクター(TEFF)集団の頻度は未変化のままで、CD127LoKLRG1Lo集団はわずかに増加した(図2Aおよび10A)。これらの効果は、感染後15日目により劇的であり、この時、CD127Hi TMP集団の頻度が低下し、KLRG1Hi TEFF細胞集団が増加した(図2A)。しかしながら、両時点で、TMPとTEFFの両方の絶対数は、Fli1欠損CD8 T細胞の増殖的な増大により約2~10倍増加した(図2A)。TEFF様集団へ向かうこのT細胞分化の偏りはまた、CX3CR1およびCXCR3を使用して観察され、sgFli1が、CX3CR1-CXCR3+初期TMEMサブセットと比較してCX3CR1+CXCR3- TEFF集団を有意に濃縮した(図2B)。sgFli1+群において細胞傷害性能が増加したC9P14細胞(GzmB+TCF-1-)も増加したが(図10B)、T-betまたはEomesを発現する細胞の割合は群間で同等であった(図10C)。エクスビボペプチド刺激後のIFN-γを産生するC9P14細胞の頻度は、sgCtrl+群に対してsgFli1+群においてわずかに低かったが、IFN-γ産生細胞、または複数のエフェクター分子を共産生する細胞の絶対数が同時に増加した(図10D)。
【0274】
TEFFの増加を促進させることの1つの懸念は、TMEMの形成を妨げることである。したがって、感染後1ヶ月目にFli1欠損TMEMの形成を調べた。実際に、KLRG1HiエフェクターメモリーC9P14細胞の数は、感染後29日目に、sgCtrl+群と比較し、sgFli1+ C9P14群においてより高いままであった。この時点でのCD127Hi TMEMの数は、群間で同等であったが(図10E~10F)、このことは、Fli1の非存在下で生じたKRLG1HI TEFF集団のロバストな増加が、TMEMの形成を損なうことはなかったことを示している。TMEMに対するFli1欠損の効果をさらに調べるために、アポトーシス促進分子および抗アポトーシス分子であるBcl-2、Bcl-XLおよびBimの発現を調べた。感染後15日目に、sgFli1+ C9P14細胞は、sgCtrl+群と比較して、Bcl-2とBimの両方のより低い発現を有していたが、Bcl-XL発現に変化はなく(図10G~10H)、結果として、sgFli1+ C9P14群においてより高いBclXL/Bim比への傾向が生じた(図10H)。TEFFまたはTMPサブセットにおいてBcl-2、Bcl-XLまたはBimの発現に差はなく(図10I~10J)、このことは、全C9P14集団における差が、部分的に、最終のTEFFおよびTMPの異なる割合を反映することを示唆している。これらの観察は、Bcl-2/Bim比よりもBcl-XL/Bim比が最終TEFFの生存においてより重要であり得るという観察と整合し得る。
【0275】
RVベースの過剰発現(OE)システム(Kurachi et al., (2017) Nature Protocols, 12:9 12, 1980-1998)を使用して、WT LCMV特異的P14細胞においてFli1発現を強制した。感染後8日目および16日目に、空のベクター対照と比較して、応答しているFli1-OE-RV形質導入P14細胞の約5倍の低減が観察された(図2C)。さらに、強制されたFli1発現は、応答しているP14細胞をTMP分化へと方向転換させた(図2D~2E)。総合して、これらのデータは、急性感染期のTEFF分化の抑止およびTMP発生の促進におけるFli1の役割を明らかにする。
【0276】
実施例5:Fli1は、慢性感染期にT EFF 様分化をアンタゴナイズする
慢性ウイルス感染期に、CD8 T細胞応答の初期運命分岐が存在し、そこでは、抗ウイルスCD8 T細胞は、最終TEFF様細胞へと進化するか、または最終的に成熟TEX集団の種となるTEX前駆体を形成する。それゆえ、この細胞運命決定におけるFli1の役割を慢性感染期の初期に調査した。急性回復感染と同様に、Fli1の遺伝的摂動は、ウイルス特異的CD8 T細胞応答を、TCF-1-GrzmB+またはLy108-CD39+細胞として定義されるTEFF経路へ偏向させた(図3A)。全Fli1欠損細胞の5~10倍の増加に起因して、TEFF様とTEX前駆体の両集団の細胞数が増加した(図11A~11B)。また、初期TEX形成に関与することが知られているTF回路も調査した。この初期時点でのTCF-1は、TEX形成の中心となる別のTFであるEomesの発現を駆動し、実際に、Eomesは、Fli1の非存在下で低減された(図11C)。別のT-box TFであるT-betの発現は、sgCtrl+群とsgFli1+群との間で同等であった(図11C)。また、Fli1の喪失が、Cl13感染後15日目のTEX主要制御因子Toxのより低い発現に関連しており、このことは、Fli1欠損がTEXの発生をアンタゴナイズし、代わりにTEFF様分化を促進することを示唆している(図11C)。TEFF運命へのこの偏りは、細胞傷害性分子の発現増加(図3A)およびサイトカイン産生細胞数の増加へと転換されるより高い細胞数(図11D)に関連していた。さらに、Fli1の遺伝的摂動は、慢性感染においてCX3CR1+およびTim3+ TEFF様細胞の割合増加をもたらした(図3B)。対照的に、強制されたFli1発現は、反対の効果を有し、より低い細胞数をもたらすだけでなく(図11E)、Ly108+CD39-またはTCF-1+GrzmB- TEX前駆体およびより少ないCX3CR1+細胞の形成も促進した(図11F~11H)。注目すべきことに、PD-1発現は変化することなく、そして、急性回復感染とは異なり、KLRG1発現は影響を受けなかった(図3B)。
【0277】
根底にある機序を詳細に分析するため、Cl13感染の9日目に、ソーティングしたsgCtrl+またはsgFli1+ C9P14細胞に対してRNA-seqを実施した。Fli1を標的とする両sgRNAは、同等の転写効果をもたらした(図3C、12A)。sgFli1+ C9P14細胞は、sgCtrl+ C9P14細胞と転写的に明らかに異なっており、2つの条件間で1400を超える遺伝子が発現変動していた(図3C、12A)。Prf1、Gzmb、Cd28、Ccl3およびPrdm1などのエフェクター関連遺伝子は、sgFli1+ C9P14細胞においてロバストに増加したが、sgCtrl+ C9P14は、Tcf7、Cxcr5、Slamf6およびId3などのTEX前駆体遺伝子が濃縮していた(図3C)。遺伝子オントロジーエンリッチメント解析もまた、sgFli1+ C9P14細胞における細胞分裂関連およびT細胞活性化関連経路を同定したが(図3D)、sgCtrl+ C9P14は、代謝経路、特に、ヌクレオチド、ヌクレオシドおよびプリン生合成が濃縮していた(図3E)。遺伝子セットエンリッチメント解析(GSEA)を使用して、TEFF様細胞運命またはTEX前駆細胞運命いずれかへの分化の分岐が生じる慢性感染の初期段階を調べた。実際に、TEX前駆体シグネチャーは、sgFli1+ C9P14集団と比較してsgCtrl+ C9P14細胞において強く濃縮されたが、TEFF遺伝子シグネチャーは、sgFli1+ C9P14集団において強く濃縮された(図3F~3G)。したがって、Fli1は、急性回復と慢性感染の両方において最適なTEFF分化を抑制し、Fli1の喪失は、TEX細胞の発生をアンタゴナイズした。しかしながら、慢性感染の9日目にFli1の遺伝的摂動がエフェクター関連遺伝子の発現の増加を駆動したものの、Tox、Tox2およびCd28も増加した。この効果から、Fli1の喪失は、TEFF様生物学を増強するが、この効果が、がんの慢性感染において応答を持続するのに必要な遺伝子の犠牲によるものではないことが示唆され得る。
【0278】
実施例6:Fli1は、CD8 T細胞のエピジェネティックランドスケープをリモデリングし、T EFF に関連する遺伝子発現をアンタゴナイズする
急性骨髄性白血病では、FLI1は、クロマチンリモデラーのBRD4と共存し、ユーイング肉腫を駆動するEWS-Fli1融合がんタンパク質は、クロマチンリモデリングを介してデノボエンハンサー形成を誘発することができ、ETSファミリーメンバーと置き換わることによって既存のエンハンサーを不活性化することができる。しかしながら、Fli1が、TEFF、TMEMまたはTEX細胞の発生におけるエピジェネティックランドスケープ変化にどのように影響するかは明らかになっていない。
【0279】
CD8 T細胞のエピジェネティックランドスケープの支援におけるFli1の役割を調べるために、Cl13感染後9日目に、sgFli1+およびsgCtrl+ C9P14細胞に対してATAC-seqを実施した。sgCtrl+ C9P14細胞と比較して、sgFli1+群は、クロマチンアクセシビリティにおいて著しい変化があった(図4A)。対照とFli1摂動群との間で5000を超えるオープンクロマチン領域(OCR)が異なっており、ほぼ同数のピークが獲得または喪失された(図4B~4D)。これらの変化のほとんどは、シス調節またはエンハンサー要素と一致するイントロンまたは遺伝子間領域に位置していた(図4C)。
【0280】
これらのシス調節要素によって調節され得る遺伝子を推定するために、各OCRを最近接遺伝子に割り当てた。Ccl3、Ccl5、Cd28、Cx3cr1およびPrdm1などのTEFF関連遺伝子は、RNA-seqデータと合致して、sgFli1+群においてクロマチンアクセシビリティを高めた(図4D)。対照的に、sgFli1+群において、Tcf7、Slamf6、Id3およびCxcr5などのT細胞前駆体生物学に関与する遺伝子近くのクロマチンアクセシビリティは減少した(図4D)。さらに、sgFli1+C9P14細胞は、Tox(およびTox2)遺伝子座において変更されたアクセシビリティを有していたが、これらの変化は、ピークによって増加したアクセシビリティと減少したアクセシビリティの両方を含んでいた(図4D)。クロマチンアクセシビリティのこれらの変化は、遺伝子発現の変化に対応し、変化した遺伝子の約1/3が、差次的にアクセス可能なクロマチン領域と転写的に関連していた(1467のうち402)(図4E)。一般に、増加したアクセシビリティは、増加した転写と相関関係にあるが、減少したアクセシビリティが増加した転写に対応する明確な領域サブセットがあった(図4F)。
【0281】
次に、変更されたアクセシビリティについてFli1に依存するOCR中に存在するTFモチーフを定義した。Fli1の非存在下でアクセシビリティが減少したOCRの中で、最も濃縮されたTFモチーフは、IRF1およびIRF2に対するものであり(図4G)、このことから、Fli1は、IFNシグナル伝達の下流のIRF1およびIRF2と、またはこれらのTFによる細胞サイクルの調節と潜在的に関係がある。Fli1の非存在下でアクセシビリティが増加したOCRの群では、ETSおよびRUNXモチーフが高度に濃縮された(図4G)。複合ETS:RUNXモチーフが、18倍の濃縮で、群を抜いて変化した(図4G)。これらの観察は、Fli1が、他のETSファミリーメンバー(例えば、ETS1、ETV1またはELK1)の活性を制限し得るか、またはETS:RUNX結合部位でのアクセシビリティを変更させ得ることを示唆した(図4G)。Runx3は、TEFF分化の中心的な駆動因子であり、エフェクター遺伝子発現を直接調節し、T-betおよびEomesを介してエフェクター遺伝子調節を調整およびそれを可能にし、かつTCF-1発現をアンタゴナイズすることによって機能する。したがって、Runx3生物学におけるFli1の潜在的役割は、Fli1の喪失と改善されたTEFF分化との間の機構的関係性を提供するだろう。
【0282】
Fli1 CUT&RUN(Skene et al. (2017) Cdn.Elifesciences.org)を使用して、Fli1ゲノム結合がどのようにクロマチンアクセシビリティの変化およびTEFF生物学に関係するのかを試験した。Cl13感染後9日目に、同定されたFli1結合部位の>90%が、ATAC-seqによって検出されたOCRに含まれていた(図12B~12D)。具体的には、Fli1は、Cx3cr1、Cd28およびHavcr2などのTEFF様遺伝子のOCRに結合した。クロマチンアクセシビリティは、Fli1欠失時にこれらの位置で増加し(図4H)、増加した転写(図3C)およびタンパク質発現(図3Bおよび4I)をもたらした。対照的に、Tcf7およびId3などのFli1の非存在下で発現が減少した前駆体生物学に関与する遺伝子について、Fli1の直接的な結合は観察されず(図12D)、このことは、Fli1の主要な役割が、メモリー/前駆体生物学を直接的に有効にするというよりも、過度にロバストなTEFFプログラムを防ぐことであることを示している可能性が高い。さらに、CUT&RUNによってFli1が結合すると定義された部位の78%で、Fli1の非存在下でのクロマチンアクセシビリティが増加し;対照的に、22%でアクセシビリティが減少したが(図4J)、このことは、Fli1が、クロマチンアクセシビリティを抑制するように主に機能することを示唆している。Fli1 CUT&RUNデータにおいてDNA結合モチーフを分析すると、予想されたFLI1モチーフが明らかになった。しかしながら、SP2、NFY1およびRUNX1モチーフはまた、Fli1が結合した場所でも有意に濃縮されていた(図4K)。上記のFli1欠損ATAC-seq観察におけるETS:RUNXモチーフの増加と併せて、これらのデータは、Fli1がRUNXファミリーメンバーと連係してTEFF分化を制御するモデルを支持している。
【0283】
実施例7:強制されたRunx3発現は、Fli1欠失と相乗効果を発揮してT EFF 応答を増強する
TEFF生物学とは異なり、TEX発生におけるRunx1およびRunx3の役割はそれほど明確ではない。TEFFおよびTEXは慢性感染において相反する運命にあり、ETS:RUNXモチーフはFli1の非存在下でよりアクセス可能となるので、RUNX-Fli1軸は、TEFF分化対TEX分化に影響を及ぼすだろうと仮説を立てた。それゆえ、Fli1欠損CD8 T細胞におけるRunx1またはRunx3発現が、初期慢性感染におけるTEFF分化に影響を与えるかどうかを試験した。
【0284】
WT P14細胞におけるRunx1の強制発現は、Cl13感染後(p.i.)7日目に細胞数を低下させた(図12E)。さらに、Runx1-OEは、この時点でより多くのTEFF様Ly108-CD39+集団を犠牲にしてLy108+CD39- TEX前駆体の形成を促進した(図12E)。Fli1の非存在下での強制されたRunx1発現の影響を調べるために、二重RV形質導入アプローチを使用し、対照またはFli1 sgRNA RV形質導入を、空のRVまたはRunx1を発現するRVのいずれかと組み合わせた。単一形質導入細胞対二重形質導入細胞をVEX(sgRNAについて)およびmCherryを使用して識別した。C9P14細胞を効率的に単一または二重形質導入し(図12F)、Cl13感染マウスに養子移入して、二重形質導入(すなわち、GFP+VEX+mCherry+)C9P14細胞を感染後8日目に分析した(図5A)。sgFli1+Runx1-OE群では、GFP+VEX+mCherry+ C9P14細胞の数は低下し、Ly108-CD39+細胞がより少なかった。対照的に、sgFli1+空RV群は、GFP+VEX+mCherry+ C9P14細胞集団の増加を有し、これらの細胞は、上記のようにLy108-CD39+ TEFF様運命へと偏った(図5B~5D、12G)。しかしながら、増強されたCD8 T細胞増大が存在したFli1欠損状況下では、Runx1過剰発現は、応答の規模を低下させ、Fli1の喪失によって引き起こされたLy108-CD39+ TEFF様運命への偏りを部分的に回復させた(図5B~5D)。
【0285】
Runx1の効果と対照的に、Runx3単独の強制発現(sgCtrl+群での)は、CD8 T細胞応答の規模を適度に増加させたが、G GFP+VEX+mCherry+ C9P14集団をCD39+Ly108- TEFF様集団へとロバストに偏向させた(図5A、5E~5G)。これらの効果は、Fli1の非存在下でより劇的であり、sgFli1+Runx3-OE強制発現群において、数的増幅はより大きく、CD39+Ly108-TEFF様細胞へさらに偏った(図5E~5G)。sgFli1+Runx3-OE群は、より低い頻度のTEX前駆体集団を有していたが、この集団の絶対数は対照と比較して未変化のままであった(図5E、5G、12I)。総合すれば、これらのデータは、Fli1の喪失がRunx1および/またはRunx3によって使用され得るETS:RUNXモチーフを明らかにするモデルを支持している。しかしながら、Runx3は、より多くのTEFF様集団を駆動する(Fli1の非存在下で増幅される効果である)が、Runx1は、TEFF生成をアンタゴナイズするように見え、このことは、Runx1とRunx3の相反する機能と合致する。したがって、Fli1は、ゲノムアクセスを制限し、ETS:RUNX結合部位を保護することによって、Runx3機能のTEFF促進活性を抑止する。これらのデータは、Fli1、Runx3およびおそらくRunx1を、初期活性化後の早期段階でのTEFFとTEXとの間の運命選択の鍵となる調節因子として明らかにする。
【0286】
実施例8:Fli1の非存在下での強化されたT EFF 細胞応答は、病原体に対する防御免疫を改善する
上記データから、Fli1の喪失が、強化されたTEFF分化に起因して感染制御を改善するのかどうかの疑問が生まれる。この着想を試験するために、LCMV Cl13を使用して、以下の急性感染の2つのモデルと一緒に慢性感染期の防御免疫を調査した:それぞれがP14細胞によって認識されるLCMV GP33-41エピトープ(PR8GP33およびLMGP33)を発現するインフルエンザウイルス(PR8)またはリステリア・モノサイトゲネス(LM)(図6A)。
【0287】
Cl13感染期に、sgCtrl+ C9P14細胞の養子移入は、非移入条件(NT、図6B)と比較して適度なウイルス制御を付与した。しかしながら、sgFli1+ C9P14は、感染後約2週目に、sgCtrl+ C9P14細胞と比較して実質的に改善されたウイルス複製制御を提供し(図6B)、このことは、疲弊の誘導が有効な防御免疫の大きな障壁となる慢性ウイルス感染でさえ、Fli1の喪失による有益性を実証している。注目すべきことに、いくつかの実験では、sgCtrl+ C9P14ではなくsgFli1+ C9P14のレシピエントマウスは、重症疾患を経験し、感染後D7~D13に安楽死させなければならなかったが(図13A)、このことは、Fli1が、過剰なTEFF様分化を防ぎ、T細胞が媒介する免疫病理学を制限し得ることを示唆している。
【0288】
次に、急性回復感染期のFli1の喪失の影響を評価した。インフルエンザ-PR8GP33感染中、sgFli1+ C9P14細胞を摂取したマウスは、対照の移入しなかったマウスまたはsgCtrl+ C9P14細胞を摂取したマウスよりも少ない体重減少を示した(図6C)。減少した体重減少は、sgFli1+ C9P14細胞を摂取したマウスの肺でのより良好なウイルス複製制御と関連していた(図6D)。この状況下では、PR8GP33感染後の肺においてsgFli1+ C9P14増大の規模に変動があった(図13B~13D)。T細胞応答におけるこの不均一性は、ウイルス制御の違いと関連しており、一部のマウスは、この時点までにウイルスRNAをほとんど排除し(図6D)、体重減少から回復した。実際に、感染を未だ制御できないマウスにおいて増加したT細胞増大を駆動する長期のウイルス複製およびより高い抗原量があったことと整合して、C9P14応答の全体の規模は、回復したマウスでより低かった(図13B~13C)。注目すべきことに、sgFli1+ C9P14細胞を摂取したマウス12匹のうち6匹がこの時点までに疾患制御を有していたが、対して、sgCtrl+ C9P14を摂取したマウスでは11匹のうち1匹のみだった(図6D、13C)。肺にウイルスRNAを未だ保持しているマウス群では、sgFli1+ C9P14細胞は、sgCtrl+ C9P14細胞よりも実質的に多くの数に増大した(図13C)。脾臓においてもTEFF細胞増大に同様の違いが観察された(図13D)。
【0289】
Fli1の喪失は、LMGP33感染後に類似の利点を付与した。sgCtrl+およびsgFli1+ C9P14細胞は共に、高用量LMGP33負荷後に生存を改善したが(図6E)、sgFli1+ C9P14細胞は、感染後7日目に、sgCtrl+ C9P14細胞と比較して明らかに良好な細菌複製制御をもたらした(図6F)。インフルエンザウイルスモデルと整合して、この改善された防御免疫は、sgCtrl+群と比較してより大きなsgFli1+ C9P14細胞の数的増大に関連していた(図13E)。したがって、Fli1の欠損は、慢性Cl13感染、呼吸器インフルエンザウイルス感染および細胞内細菌による全身性感染の期間に、TEFF細胞増大および防御免疫に対して実質的な有益性を付与する。
【0290】
実施例9:CD8 T細胞におけるFli1の喪失は、腫瘍に対する免疫を増強する
次に、Fli1欠損が、増強された腫瘍制御を提供するかどうかの答えを求めた。皮下B16GP33腫瘍モデルを採用した。腫瘍接種後(p.t.)5日目に、腫瘍担持マウスに同数のsgCtrl+またはsgFli1+ C9P14細胞を摂取させた(図7A)。Rag2-/-レシピエントマウスを使用して、sgCtrl+対sgFli1+ C9P14細胞の効果を分離した(図7A)。この状況下で、sgFli1+ C9P14細胞は、移入しなかったマウスまたはsgCtrl+ C9P14群と比較して、腫瘍進行をロバストに制御した(図7B)。さらに、腫瘍重量は、終点において、いずれの対照群と比較しても、sgFli1+ C9P14群において有意に低かった(図7C)。C9P14細胞の数/腫瘍のグラムに明らかな違いはなかったが、この腫瘍制御は、sgFli1+群におけるLy108-CD39+ドナーC9P14の有意な増加と関連しており、このことは、より多くのTEFF様集団と整合した(図7D~7E)。しかしながら、脾臓では、sgFli1+ C9P14細胞数も、Ly108-CD39+細胞の割合も、sgCtrl+群と比較して有意に増加していた(図7F~7G)。これらの知見を免疫正常マウスに拡張した。Cas9+ C57BL/6レシピエントマウスを使用して、C9P14ドナー細胞の拒絶反応を防ぎ、応答を長期間分析できるようにした(図14A)。この状況下で、sgFli1+ C9P14細胞は、sgCtrl+ C9P14細胞と比較して、腫瘍制御に対しても実質的な有益性を付与した(図14B~14C)。さらに、この改善された腫瘍制御は、腫瘍、流入領域リンパ節(dLN)および脾臓中のLy108-CD39+ TEFF様集団の増加、ならびにdLNおよび脾臓中の増加したC9P14細胞数と関連していた(図14D~14G)。したがって、Fli1の遺伝子欠失は、腫瘍制御に対して実質的な有益性を付与し、このことは、腫瘍進行中の防御的TEFF応答の調整および抑止におけるFli1の中心的役割を示している。総合して、これらのデータは、Fli1の喪失が、全身性および局所性の急性回復感染および慢性感染の状況下でも、腫瘍進行の状況下でも、改善された防御免疫をもたらすことを示している。
【0291】
実施例10:考察
本明細書における取り組みは、TEXおよびTEFF分化の生物学のより良い理解を通じてがんおよび慢性感染の免疫療法を改善することに重点をおいた。インビボCRISPRスクリーニングアプローチを使用して、TEX対TEFFの分化を支配する機序を具体的に調べた。Fli1は、完全なTEFF分化への転写的かつエピジェネティックな関与を防ぐ鍵となるTFとして同定された。機構的には、Fli1は、ETS:RUNX部位へのエピジェネティックアクセシビリティを制限し、Runx3がエフェクタープログラムを完全に有効にするのを妨げた。結果として、Fli1の欠失は、急性感染、慢性感染およびがんの複数のモデルにおいて防御免疫をロバストに改善したので、Fli1は、TEFF対TEXの分化プログラムの新規調節因子、および将来の免疫療法戦略のための標的として同定された。
【0292】
CRISPRをベースとしたスクリーニングアプローチの最近の進歩は、感染および腫瘍に対するインビトロT細胞活性化およびインビボ応答の詳細な分析を可能にした。TEFFおよびTEXの運命関与をより良く理解するために、本明細書においてOpTICSを開発した。OpTICSは、とりわけ、発病機序および正常なCD8 T細胞分化生物学を保存する生理学的T細胞数を使用して成熟CD8 T細胞におけるスクリーニングを可能にする、インビボCRISPRシステムである。CD8 T細胞応答の多くの既知の調節因子を同定することに加えて、このアプローチは、Smad2、ErgおよびFli1を含めたTEFF分化のいくつかの新規の負調節因子も同定した。実際に、Fli1の遺伝子喪失は、急性または慢性感染およびがんの複数の状況下で防御免疫を改善した。さらに、TEX駆動TFであるToxの喪失に伴って見られた、TEX前駆体細胞の喪失により慢性感染またはがん期間中にCD8 T細胞応答を持続できない効果と異なり、Fli1の欠損は、TEX前駆体集団を減少させることはなかった。
【0293】
Fli1は、造血幹細胞分化において役割を担っており、Gata1/2およびRunx1などの他のTFと共存する。本明細書では、ウイルス感染に応答する抗原特異的CD8 T細胞において、Fli1の遺伝的摂動が、ETS:RUNXモチーフでのクロマチンアクセシビリティを有意に増加させることが発見された。さらに、強制されたRunx3発現の効果は、Fli1の非存在下で増強される。これらの観察は、Fli1が、RUNX結合部位へのアクセシビリティを妨げ、エフェクター促進TFであるRunx3の活性を制限することを示唆している。さらに、Runx3は、他のエフェクター促進TFをコードする遺伝子座でのエピジェネティック変化を調整することができる。Runx1は、Runx3をアンタゴナイズする可能性が高く、その逆もまた同様であるが、T細胞活性化の状況下ではRunx3が優勢であるように見える。本明細書におけるデータはまた、Fli1が、Runx1と協力して、おそらくFli1とRunx1のETS-RUNXモチーフでの同時結合により、TEFF分化を抑止することができることも示唆している。総合して、これらのデータは、Fli1が、Runx1との組み合わせで、Runx3の効率的なゲノムアクセシビリティまたは活性を妨げ、ひいては、Runx3の正のフィードフォワードエフェクター促進活性を伴う完全なエフェクター遺伝子プログラムを抑止するモデルを示唆している。したがって、Fli1の遺伝子欠失は、少なくとも部分的により効率的なRunx3活性の機会を生み出すことによって、TEFF分化を抑制解除する。
【0294】
最近の研究は、最終TEFF、TMEMおよびTEX間の運命決定を方向付ける転写回路を定義しつつある。1つの細胞運命を促進するこれらの転写機序の多くは、相反する運命を直接抑制する。例えば、Toxは、TEFFを抑制しながらTEXを促進し、TCF-1は、TEFFを犠牲にしてTMEMまたはTEXを促進し、そして、Blimp-1、T-bet、Id2および他のものは、TEFFを駆動し、TMEMを抑制する。エフェクター分化への過剰関与に対するゲノム「セーフガード」の一種としてのFli1の同定は、いくつかの新規概念を明らかにする。第1に、慢性感染期に、TCF-1またはToxの喪失は、最終分化TEFFへの関与により感染後期に応答を持続する能力をもたらす。これらの観察から、TEFF細胞運命の増加の促進が、必然的にTMEMまたはTEX系列の喪失という犠牲により成り立つのかどうかの疑問が生まれる。Fli1は、他のロバストなフィードフォワードエフェクター転写回路に対するまったく異なるタイプのダンパーである。エフェクターワイヤリングにおけるRunx3ノードを抑止することによって、Fli1は、鍵となるエフェクター遺伝子の発現を直接制御するだけでなく他の協力エフェクターTFも正に強化する中心的段階を和らげる。しかしながら、TCF-1およびToxとは異なり、Fli1は、前駆体生物学に必要とされず、Fli1の非存在下でTEFF細胞とTMP(急性回復感染における)またはTEX前駆体細胞(慢性感染における)の両方の数が増加した。したがって、TMPまたはTEX分化のマスタースイッチを欠失させることよりむしろ、回路におけるこの「ダンパー」を妨害することによって、長期免疫を損なうことなく短期防御免疫の有益な側面を強化することが可能であろう。第2に、本明細書におけるデータは、Fli1とETS:RUNXモチーフに結合する他の因子との間のエピジェネティックアクセスに対する競合の機序を明らかにする。これらの効果は、Fli1が、クロマチンアクセシビリティ変化を触媒するETS:RUNXファミリーTFが結合可能なゲノム位置を占有する理由を明示し得る。あるいは、これらの効果は、Fli1それ自体によって調整されるクロマチン変化に起因し得る。例えば、EWS-FLI1融合は、がん細胞において、BAF複合体を動員してクロマチン変化を開始する。したがって、CD8 T細胞におけるFli1の役割は、クロマチンアクセシビリティに基づく機序を伴い、ETS:RUNXによって駆動されるエフェクター生物学を抑止する可能性が高いが、IRF1/IRF2を通じた他の効果も存在し得る。
【0295】
本研究は、感染およびがんの複数の状況下での防御免疫に対するFli1の喪失の主な有益効果を実証する。Fli1の欠如は、全モデルにわたって防御免疫を一貫して改善した。免疫療法にとって特に有意義なことは、Fli1の欠失が、疲弊の誘導により通常免疫が制限される腫瘍成長と慢性LCMV感染の両方の制御を改善したことである。最後に、CRISPR媒介遺伝子操作を細胞療法環境へ適用できれば、Fli1または関連経路を標的とすることによって臨床的有益性を得ることができる。
【0296】
したがって、OpTICSプラットフォームは、腫瘍免疫療法に関係するものとして、CD8 T細胞分化の調節に関与する遺伝子をスクリーニングするための高度にロバストなインビボプラットフォームを提供する。この高度に特化しかつ最適化されたプラットフォームは、sgRNA検出の20~100倍の濃縮、および機能獲得型スクリーニングへの十分な解像度を可能にする。ここで明らかとなったFli1の新規役割に加えて、他の多くの有望な調査標的がこのスクリーンから存在する。さらに、OpTICSを使用して、このTFに重点をおいた生物学から他の細胞生物学領域へ拡張することは、将来の発見のためのロバストなプラットフォームを提供するはずである。
【0297】
態様の列記
以下の態様の列記が提供されるが、その番号付けは、重要度のレベルを示すものと解釈されるべきではない。
態様1は、Fli1をコードする内因性遺伝子座中に改変を含む、改変された免疫細胞またはその前駆体を提供する。
態様2は、内因性Fli1遺伝子またはタンパク質が破壊されている、態様1記載の改変された免疫細胞またはその前駆体を提供する。
態様3は、前記改変または破壊が、CRISPRシステム、抗体、siRNA、miRNA、アンタゴニスト、薬物、低分子阻害剤、PROTAC標的、TALEN、およびジンクフィンガーヌクレアーゼからなる群より選択される方法によってなされる、態様1または2記載の改変された免疫細胞またはその前駆体を提供する。
態様4は、CRISPRシステムが、SEQ ID NO:152~156またはSEQ ID NO:676~713のいずれか1つを含む少なくとも1つのsgRNAを含む、態様3記載の改変された免疫細胞またはその前駆体を提供する。
態様5は、前記細胞がヒト細胞である、前記態様のいずれか記載の改変された免疫細胞またはその前駆体を提供する。
態様6は、前記細胞がT細胞である、前記態様のいずれか記載の改変された免疫細胞またはその前駆体を提供する。
態様7は、前記T細胞が、T細胞疲弊に抵抗性である、態様6記載の改変された免疫細胞またはその前駆体を提供する。
態様8は、Fli1の阻害剤を含む、薬学的組成物を提供する。
態様9は、前記阻害剤が、CRISPRシステム、抗体、siRNA、miRNA、アンタゴニスト、薬物、低分子阻害剤、PROTAC標的、TALEN、およびジンクフィンガーヌクレアーゼからなる群より選択される、態様8記載の薬学的組成物を提供する。
態様10は、CRISPRシステムが、SEQ ID NO:152~156またはSEQ ID NO:676~713のいずれか1つを含む少なくとも1つのsgRNAを含む、態様9記載の組成物を提供する。
態様11は、その必要のある対象における疾患または障害を治療する方法であって、態様1~7のいずれか記載の細胞または態様8~10のいずれか記載の組成物を対象に投与することを含む、方法を提供する。
態様12は、前記疾患または障害が、感染症である、態様11記載の方法を提供する。
態様13は、前記疾患が、がんである、態様11記載の方法を提供する。
態様14は、T細胞をスクリーニングする方法であって、
i)活性化T細胞に、Cas酵素およびsgRNAライブラリーを導入すること、
ii)該T細胞を感染マウスに投与すること、
iii)該感染マウスから該T細胞を単離すること、ならびに
iv)該T細胞を分析すること
を含む、方法を提供する。
態様15は、前記sgRNAライブラリーが、複数の転写因子を標的とする複数のsgRNAを含む、態様14記載の方法を提供する。
態様16は、前記複数の転写因子が、表1に列挙される転写因子のいずれかを含む、態様15記載の方法を提供する。
態様17は、各sgRNAが、各転写因子のDNA結合ドメインを標的とする、態様15記載の方法を提供する。
態様18は、前記sgRNAライブラリーが、SEQ ID NO:1~675からなる群より選択される少なくとも1つの配列を含む、態様14記載の方法を提供する。
態様19は、前記sgRNAライブラリーが、SEQ ID NO:1~675に示されるヌクレオチド配列からなる、態様14記載の方法を提供する。
態様20は、前記スクリーニングが、T細胞疲弊を評価する、態様14記載の方法を提供する。
態様21は、細胞を分析することが、シーケンシング、PCR、MACS、およびFACSからなる群より選択される方法を含む、態様14記載の方法を提供する。
態様22は、前記シーケンシングが、関心対象の標的を明らかにする、態様14記載の方法を提供する。
態様23は、前記関心対象の標的に対して薬物が設計される、態様22記載の方法を提供する。
態様24は、前記薬物がT細胞に投与されたとき、少なくとも1つのT細胞応答が増加する、態様22記載の方法を提供する。
態様25は、1×105個のT細胞が感染マウスに投与される、態様14記載の方法を提供する。
態様26は、TEFFおよびTEX細胞分化を支配する新規転写因子を同定する、態様14記載の方法を提供する。
【0298】
本明細書において引用されるあらゆるすべての特許、特許出願および刊行物の開示は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。本発明は、具体的な態様を参照しながら開示してきたが、本発明の他の態様および変形が、本開示の真の趣旨および範囲から逸脱することなく当業者によって考案され得ることは明白である。添付の特許請求の範囲は、そのようなすべての態様および等価な変形を含むとして解釈されるものと意図される。
【0299】
(表1)
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図3-5】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図4-5】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図8-4】
図8-5】
図8-6】
図8-7】
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図10-4】
図10-5】
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図11-4】
図11-5】
図12-1】
図12-2】
図12-3】
図12-4】
図12-5】
図12-6】
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図14-1】
図14-2】
図14-3】
【配列表】
2024512261000001.app
【国際調査報告】