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特表2024-512274貴金属修飾黒鉛化炭素材料を製造するプロセス及び担持触媒
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  • 特表-貴金属修飾黒鉛化炭素材料を製造するプロセス及び担持触媒 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】貴金属修飾黒鉛化炭素材料を製造するプロセス及び担持触媒
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20240312BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20240312BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20240312BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20240312BHJP
   C25B 11/065 20210101ALI20240312BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20240312BHJP
   B01J 23/42 20060101ALN20240312BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240312BHJP
【FI】
H01M4/88 C
B01J23/44 M
H01M4/92
H01M4/96 B
C25B11/065
C25B11/081
B01J23/42 M
H01M8/10 101
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551794
(86)(22)【出願日】2022-03-01
(85)【翻訳文提出日】2023-08-24
(86)【国際出願番号】 EP2022055087
(87)【国際公開番号】W WO2022189205
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】21161921.8
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515131116
【氏名又は名称】ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ストイカ,レオナルド
(72)【発明者】
【氏名】シーヴィ,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ウイナー,フロリアン
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA27C
4G169BC32A
4G169BC33A
4G169BC69A
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC74A
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169BE01C
4G169BE03C
4G169BE08C
4G169BE33C
4G169BE36C
4G169EB20
4G169FB14
4G169FB30
4G169FB34
4G169FC08
4K011AA23
4K011AA31
4K011BA07
4K011DA01
5H018AA06
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB05
5H018EE03
5H018HH05
5H126BB06
5H126HH01
5H126HH08
(57)【要約】
【解決手段】 本発明は、貴金属修飾黒鉛化炭素材料を製造するプロセスであって、少なくとも10%の黒鉛化度を有する黒鉛化炭素材料を提供する工程と、黒鉛化炭素材料に組成物を含浸させる工程と、含浸された黒鉛化炭素材料を熱処理する工程とを含むプロセスに関する。組成物は、有機溶媒と、有機溶媒に溶解した少なくとも1種の有機貴金属錯体とを含む。本発明は更に、このプロセスによって製造された担持触媒、及びこの担持触媒を含有する電気化学セルに関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属修飾黒鉛化炭素材料を製造するプロセスであって、
(a)少なくとも10%の黒鉛化度を有する黒鉛化炭素材料を提供する工程と、
(b)前記黒鉛化炭素材料に組成物を含浸させる工程であって、前記組成物が、
(i)有機溶媒、及び
(ii)前記有機溶媒に溶解した少なくとも1種の有機貴金属錯体を含む、含浸させる工程と、
(c)前記含浸された黒鉛化炭素材料を熱処理する工程と、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記貴金属が、白金族元素のうちの少なくとも1種の金属である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記組成物が、非コロイド溶液である、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記組成物が、30~90重量%の有機溶媒を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記組成物が、10~70重量%の前記少なくとも1種の有機貴金属錯体を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記少なくとも1種の有機貴金属錯体が、ジオレフィン配位子L及びC6~C18モノカルボキシレート配位子を有する貴金属錯体である、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記少なくとも1種の有機貴金属錯体が、[LPt[O(CO)R1]X]型、[LPd[O(CO)R1]X]型、[LRh[O(CO)R1]]型、及び[LIr[O(CO)R1]]型の貴金属錯体からなる群から選択される貴金属錯体であり、式中、Xが、臭化物、塩化物、ヨウ化物、及び-O(CO)R2から選択され、-O(CO)R1及び-O(CO)R2が、同一又は異なる非芳香族C6~C18モノカルボン酸残基を示し、nが1以上の整数であり、mが2以上の整数である、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記ジオレフィン配位子Lが、COD(1,5-シクロオクタジエン)、NBD(ノルボルナジエン)、COT(シクロオクタテトラエン)、及び1,5-ヘキサジエンからなる群から選択される、請求項6又は7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記組成物が、前記組成物の総重量に対して2.5~25重量%の貴金属を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記担体材料が、前記含浸工程中に1~70重量%の量で存在する、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記担体材料と前記少なくとも1種の有機貴金属錯体から誘導される前記貴金属が、少なくとも1:1の重量比で存在する、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記含浸された黒鉛化炭素材料の前記熱処理が、前記少なくとも1種の有機貴金属錯体の分解をもたらす、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセスによって得られる、貴金属修飾黒鉛化炭素材料。
【請求項14】
前記貴金属を5~70重量%の量で含有する、請求項13に記載の貴金属修飾黒鉛化炭素材料。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の貴金属修飾黒鉛化炭素材料を含有する、電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛化炭素材料を貴金属で修飾するプロセス、このプロセスによって製造された担持触媒、及びこの担持触媒を含む電気化学セルに関する。
【0002】
貴金属で修飾された炭素材料は、例えば、排ガス浄化、エネルギー回収、又は物質の合成若しくは修飾のための化学工学などの様々な技術分野において使用されている。特に、それらは、電気化学セル、例えば、燃料電池及び他の電気化学エネルギー変換器においても使用される。
【0003】
担持触媒は、一般に、担体材料を含有し、その表面が高分散形態の触媒活性材料で修飾されている触媒を意味すると理解される。そのような材料は、例えば、貴金属であり得る。特に白金は、電気化学的用途に適していることが証明されている。このような担持触媒で触媒される反応は、典型的には表面反応である。したがって、触媒活性種の利用可能な表面積は極めて重要であり、可能な限り大きくすべきである。
【0004】
担体材料としての炭素材料への貴金属の適用は、通常、担体を貴金属の塩又は錯体化合物の溶液に浸漬又は含浸させ、続いて沈殿、加水分解、熱処理、か焼及び/又は成形によって固定化することによって行われる。例えば、EP3473337A1には、炭素担体を金属白金で修飾することが記載されており、この場合、炭素担体はまず白金前駆体の水溶液で含浸される。含浸された炭素担体は、続いて熱処理され、白金ナノ粒子が形成される。
【0005】
黒鉛化炭素とは、易黒鉛化性の出発材料の高温での熱処理の結果として、少なくとも部分的に黒鉛構造を有する炭素材料であり、例えば、H.B.Bohmら、Pure&Appl.Chem.、67、1995年、473~506頁を参照されたい。高い黒鉛化度は、このような材料の耐食性を向上させるので、特に電気化学用途に有利であることが証明されている。例えば、EP2352195A1及びJP200526174Aは、このような高黒鉛化炭素材料の担体材料としての有利な使用を記載している。US7687187B2は、更に高い黒鉛化度が、燃料電池における触媒として使用される場合に、炭素担体の安定化をもたらすことを説明している。「高い黒鉛化度」は、ここでは、0.338nm未満の基底面間隔d002によって定義される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
原則として、黒鉛化は、多孔質炭素材料を触媒活性種で修飾する前後に行うことができる。しかしながら、貴金属種による修飾後の黒鉛化は、貴金属粒子の凝集を引き起こす可能性があり、これは次に触媒活性表面積を減少させる可能性がある。
【0007】
高い黒鉛化度はしばしば疎水性の上昇を伴い、これは水性含浸方法の可能性を制限する。これにより、担体材料上での触媒活性貴金属含有粒子の高度に分散した分布を阻む可能性がある。その結果、触媒表面積が小さくなり、したがって触媒の触媒活性が低くなる。
【0008】
本発明の目的は、貴金属修飾黒鉛化炭素材料を製造するために使用することができるプロセスを見出すことであった。更なる目的は、本発明によるプロセスに従って製造された担持触媒を提供することであった。また、本発明の目的は、当該担持触媒を含む電気化学セルを提供することであった。
【0009】
この課題は、以下のプロセス工程を含む、貴金属修飾黒鉛化炭素材料を製造するプロセスによって達成される。
(a)少なくとも10%の黒鉛化度を有する黒鉛化炭素材料を提供する工程と、
(b)黒鉛化炭素材料に組成物を含浸させる工程であって、組成物が、
(i)有機溶媒、及び
(ii)有機溶媒に溶解した少なくとも1種の有機貴金属錯体を含む、含浸させる工程と、
(c)当該含浸された黒鉛化炭素材料の熱処理する工程と、を含む。
【0010】
本発明によるプロセスは、黒鉛化炭素材料の表面を貴金属で均一に修飾するのに特に適していることが見出された。「表面」という用語は、外側表面及び内側表面の両方を含み、すなわち、細孔によって形成される内側表面も含まれる。更に、本発明によるプロセスは、高い疎水性を有する黒鉛化炭素材料に特に適している。水溶液での処理における水に対する低い親和性に起因して、そのような材料は、例えば、それらが完全に分散され得ないか、又は水溶液が存在する任意の細孔を完全に湿潤しないために、問題となり得る。
【0011】
黒鉛化炭素材料を修飾する貴金属は、白金族元素の少なくとも1種の金属であることが好ましいが、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウムが好ましい。言及した貴金属の任意の組み合わせも考えられる。
【0012】
「貴金属で修飾」とは、貴金属が黒鉛化炭素材料上に、例えば粒子又は層の形態で存在することを意味し、当該層は閉鎖形態又は非閉鎖形態で存在することができる。
【0013】
プロセス工程(a)では、黒鉛化炭素材料が提供される。黒鉛化炭素材料は、少なくとも10%の黒鉛化度を有する。
【0014】
一実施形態では、黒鉛化炭素材料は、例えば、少なくとも15%、より好ましくは少なくとも25%の黒鉛化度を有する。特に好ましくは、黒鉛化炭素材料は、10~90%、非常に特に好ましくは15~80%の黒鉛化度を有する。
【0015】
黒鉛化炭素材料は、当業者に知られており、既知のプロセスによって調製することができるか、又は市販されている。例えば、炭素材料を熱処理に供することにより(例えば、1400℃~3000℃の範囲の温度で)、黒鉛構造を有する領域を炭素材料中に形成させる。
【0016】
以下では、黒鉛化炭素材料を担体材料とも呼ぶ。
【0017】
当業者に既知であり、例えば、EP2954951A1に記載されているように、炭素材料の黒鉛化は、粉末回折法によって測定することができる。黒鉛化度g(%での)は、以下の式(1):
g=[(344pm-d002)/(344pm-335.4pm)]×100 (1)
によって特定され、式中、d002は、黒鉛の基底面の間隔であり、それは黒鉛化炭素材料の粉末回折チャートにおける(002)面の回折反射に基づいて、既知のブラッグの式を使用して特定される。
【0018】
更なる実施形態では、黒鉛化炭素材料は、例えば、少なくとも0.15のL/L比を有する。L to L比は、好ましくは0.15~3.0、より好ましくは0.15~1.5又は0.15~0.5である。当業者に知られているように、L及びLは黒鉛構造の基底面に対する平行方向(L)及び垂直方向(L)の平均結晶子サイズの尺度である。以下でより詳細に記載するように、L及びLは、粉末回折及びシェラーの式の適用による既知の方法で決定される。L値の特定は、黒鉛化炭素材料の粉末回折チャートにおける(100)面の回折反射(「100回折反射」)に基づいて行われ、L値の特定は、(002)面の回折反射(「002回折反射」)に基づいて行われる。
【0019】
好ましい実施形態では、黒鉛化炭素材料は多孔質である。本発明の文脈において、細孔は、ミクロ細孔、メソ細孔及びマクロ細孔を意味すると理解される。ミクロ細孔は2nm未満の範囲の細孔径を有し、メソ細孔は2~50nmの範囲の細孔径を有し、マクロ細孔は50~5,000nmの範囲の細孔径を有する。
【0020】
細孔径は、好ましくは、多孔質材料の細孔の平均径を意味すると理解される。したがって、細孔容積は、好ましくは、そのような細孔の容積の合計を意味すると理解される。
【0021】
好ましい実施形態では、黒鉛化炭素材料はメソ細孔を有する。特に好ましくは、細孔径分布の最大値は、メソ細孔の範囲内にある。
【0022】
特に好ましくは、細孔径分布の最大値は10~200nmの範囲であり、好ましくは15~150nmの範囲である。最大値はまた、好ましくは10~100nmの範囲内、より好ましくは15~75nmの範囲内とすることができる。
【0023】
黒鉛化炭素材料は、好ましくは、0.1cm/g超、特に好ましくは0.3cm/g超、非常に特に好ましくは0.6cm/g超の細孔容積を有する。
【0024】
黒鉛化炭素材料は、好ましくは0.1cm/g~3.5cm/g、より好ましくは0.7cm/g~2.5cm/g、特に好ましくは0.9cm/g~1.8cm/gの細孔容積を有する。
【0025】
多孔質黒鉛化炭素材料は、好ましくは10m/g、より好ましくは30m/g、特に好ましくは40m/gのBET比表面積を有する。
【0026】
黒鉛化炭素材料は、例えば、5m/g~1000m/gの範囲内、好ましくは10m/g~200m/gの範囲内、特に好ましくは20m/g~150m/gの範囲内BET比表面積を有する。
【0027】
黒鉛化炭素材料は、粉末状又は粒子状であることが好ましい。
【0028】
好ましい実施形態では、黒鉛化炭素材料の平均粒径d50は、0.1μm~100μmの範囲内、好ましくは0.3μm~80μmの範囲内、特に好ましくは0.5μm~20μmの範囲内である。粒径は、ISO規格13320に従ってレーザ回折によって特定される。
【0029】
好ましい実施形態では、黒鉛化炭素材料の粒径分布のd90値は、20μm未満、好ましくは15μm未満、特に好ましくは10μm未満である。
【0030】
黒鉛化炭素材料は、炭素以外の不純物が25ppm未満、好ましくは20ppm未満、特に好ましくは18ppm未満であることが好ましい。
【0031】
黒鉛化炭素材料は、鉄(Fe)の形態の不純物を25ppm未満、好ましくは20ppm未満、より好ましくは15ppm未満有することが好ましい。
【0032】
黒鉛化炭素材料の製造は、例えば、EP2954951A1に記載されている。黒鉛化多孔質炭素材料は、まず有機出発化合物を炭化させることで炭化した炭素材料を得て、次いでこの炭化した炭素材料を黒鉛化させることによって得られる。
【0033】
適切な黒鉛化炭素材料は、Nouryon社製のKetjen Blackなどの市販の材料を後黒鉛化することによって得ることができる、又は例えばHeraeus社製のPorocarb(登録商標)の名称で市販されている。
【0034】
担体材料を前処理工程に供することが好ましい場合がある。可能な前処理としては、例えば、プラズマ処理又は酸処理による黒鉛化炭素材料の活性化が挙げられる。
【0035】
プロセス工程(b)では、黒鉛化炭素材料を組成物で含浸させる。工程(b)の結果として、含浸された担体材料が得られる。
【0036】
組成物は、好ましくは液体であり、低粘度、例えば、20℃及び1,013hPaで100cP未満、50cP未満、又は40cP未満の粘度を有する。組成物は、好ましくはゾル-ゲルではない。組成物の粘度は、25mmのプレート直径、1mmの測定ギャップ、及び36分-1のせん断速度を有するプレート-プレート測定原理を使用する回転粘度測定法によって特定することができ、粘度値は、2分の測定期間後に特定される。
【0037】
組成物は、好ましくは透明な溶液、すなわち、コロイド又は沈殿物を含まない液体である。組成物は、好ましくは単一相のみを含み、すなわち、組成物の個々の成分は完全に均一に混合される。換言すれば、組成物は、非コロイド溶液である。
【0038】
本発明によるプロセスに従って黒鉛化炭素材料を修飾する場合、コロイド状貴金属又はナノ粒子状貴金属を含有する組成物を使用しないことが有利であり、それに関連する可能性のあるリスクを回避する。このリスクは、Pt、Pd、Ir、Rhなどのナノ粒子重金属の潜在的毒性を意味すると理解される。
【0039】
工程(b)で使用される組成物は、以下で成分Aとも呼ばれる有機溶媒を含む。
【0040】
好ましい実施形態では、組成物は、30重量%~90重量%の有機溶媒を含む。
【0041】
この場合、「有機溶媒」は、溶媒が、少なくとも1種の有機貴金属錯体が可溶である少なくとも1種の液体物質を含むことを意味する。したがって、有機溶媒は、25℃及び1,013hPaで液体であり、少なくとも1種の有機貴金属錯体が可溶である少なくとも1種の物質を含む。有機溶媒は、いくつかの化学物質を含むことができ、すなわち、有機溶媒は溶媒混合物とすることができる。
【0042】
好適な有機溶媒は、有機溶媒中の少なくとも1種の有機貴金属錯体の溶解度、所望の含浸プロセスとの適合性、及び/又は担体材料に対して必要とされる湿潤特性に基づいて選択することができる。好ましくは、有機溶媒自体は、例えば、溶解又は担体材料との化学反応に起因して、担体材料の変化をもたらすべきではない。
【0043】
有機溶媒は、市販の複数の有機溶媒から選択することができる。有機溶媒は、好都合には、本発明による組成物の処理条件下で実質的に揮発性である。これは特に、担体材料に組成物を含浸させた後の段階に適用される。
【0044】
一実施形態では、1,013hPaでの有機溶媒は、30℃~250℃、30℃~200℃、又は100℃~150℃の沸点を有する。
【0045】
一実施形態では、有機溶媒は、プロトン性溶媒である。一実施形態では、有機溶媒は、非プロトン性溶媒である。
【0046】
好ましい有機溶媒は、非極性物質、例えば、非荷電有機化合物である。これらは、純粋な炭化水素又はヘテロ原子含有化合物(例えば、ヘテロアルカン、ヘテロ芳香族、及びヘテロアルケン)であり得る。
【0047】
有機溶媒の例としては、各々が5~12個の炭素原子を有する脂肪族及び環式脂肪族と、ジ-、トリ-、及びテトラクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素と、トルエン又はキシレンなどの芳香族、芳香脂肪族と、エタノール、n-プロパノール、及びイソプロパノールなどのアルコールと、エーテルと、モノC1~C4アルキルグリコールエーテル及びジC1~C4アルキルグリコールエーテル、例えば、エチレングリコールモノC1~C4アルキルエーテル、エチレングリコールジC1~C4アルキルエーテル、ジエチレングリコールモノC1~C4アルキルエーテル、ジエチレングリコールジC1~C4アルキルエーテル、プロピレングリコールモノC1~C4アルキルエーテル、プロピレングリコールジC1~C4アルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノC1~C4アルキルエーテル、及びジプロピレングリコールジC1~C4アルキルエーテルなどのグリコールエーテルと、2~12個の炭素原子を有するエステル類と、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類とが挙げられる。トルエン又はキシレンなどの芳香脂肪族、エタノール、n-プロパノール及びイソプロパノールなどのアルコール、並びにモノC1~C4アルキルグリコールエーテル及びジC1~C4アルキルグリコールエーテル、例えば、エチレングリコールモノC1~C4アルキルエーテル、エチレングリコールジC1~C4アルキルエーテル、ジエチレングリコールモノC1~C4アルキルエーテル、ジエチレングリコールジC1~C4アルキルエーテル、プロピレングリコールモノC1~C4アルキルエーテル、プロピレングリコールジC1~C4アルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノC1~C4アルキルエーテル及びジプロピレングリコールジC1~C4アルキルエーテルなどのグリコールエーテルが好ましい。
【0048】
特に好ましくは、成分Aは、少なくとも1種のアルコール、特に例として挙げたアルコールの少なくとも1種、及び/又は少なくとも1種のグリコールエーテル、特に例として挙げたグリコールエーテルの少なくとも1種からなる。成分Aとして特に好ましいのは、30~70重量%のアルコールと100重量%の不足重量分率のグリコールエーテルとの対応する混合物である。
【0049】
一実施形態では、組成物は、グリコールエーテルを含む。
【0050】
一実施形態では、組成物は、モノ-C1-C4-アルキルグリコールエーテルを含む。
【0051】
一実施形態では、組成物は、ジ-C1-C4-アルキルグリコールエーテルを含む。
【0052】
一実施形態では、組成物は、エチレングリコールモノC1~C4アルキルエーテル、エチレングリコールジC1~C4アルキルエーテル、ジエチレングリコールモノC1~C4アルキルエーテル、ジエチレングリコールジC1~C4アルキルエーテル、プロピレングリコールモノC1~C4アルキルエーテル、プロピレングリコールジC1~C4アルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノC1~C4アルキルエーテル、及びジプロピレングリコールジC1~C4アルキルエーテルからなる群から選択されるグリコールエーテルを含む。
【0053】
一実施形態では、組成物はグリコールエーテル及びアルコールを含む。
【0054】
一実施形態では、組成物は、グリコールエーテル及びアルコールを1:2~2:1の重量比で含む。グリコールエーテルは、例えば、
プロピレングリコールモノプロピルエーテルとすることができる。アルコールは、例えば、エタノール、
n-プロパノール、イソプロパノール若しくはブタノール、又は多価アルコールとすることができる。
【0055】
組成物はまた、有機溶媒に溶解した少なくとも1種の有機貴金属錯体(以下、成分Bとも呼ぶ)を含む。
【0056】
組成物は、好ましくは10~70重量%の少なくとも1種の有機貴金属錯体を含む。
【0057】
一実施形態では、組成物は、組成物の総重量に対して2.5~25重量%の貴金属を含む。一実施形態では、組成物は、組成物の総重量に対して、5~15重量%、8~15重量%、又は10~15重量%の貴金属を含む。
【0058】
少なくとも1種の有機貴金属錯体は、好ましくはジオレフィン配位子L及びC6~C18モノカルボキシレート配位子を有する貴金属錯体であって、好ましくは[LPt[O(CO)R1]X]型、[LPd[O(CO)R1]X]型、[LRh[O(CO)R1]]型、及び[LIr[O(CO)R1]]型の貴金属錯体からなる群から選択され、式中、Lは、ジオレフィン配位子として作用する化合物であり、Xは、臭化物、塩化物、ヨウ化物、及び-O(CO)R2の中から選択され、-O(CO)R1及び-O(CO)R2は、同一又は異なる非芳香族C6~C18モノカルボン酸残基を表し、nは、1以上の整数であり、mは、2以上の整数である。
【0059】
本明細書で使用する「ジオレフィン配位子として作用する化合物」という用語は、貴金属錯体において、その2つのオレフィン二重結合又はそのオレフィン二重結合のうちの2つを、貴金属中心原子に提供して錯体を形成する、又は2つの貴金属中心原子に架橋様式で提供して錯体を形成する、化合物を指す。
【0060】
多核貴金属錯体の場合、数字n及び数字mは一般に、例えば2~5の範囲の整数である。言い換えれば、本明細書では、整数n>1は概して、2~5の範囲であり、特に、nは2に等しく、その場合、貴金属錯体は二核白金錯体又は二核パラジウム錯体である。整数mも概して、2~5の範囲であり、したがって、mは、特に2に等しく、この場合、貴金属錯体はロジウム二核錯体又はイリジウム二核錯体である。
【0061】
白金は、好ましくは+2の酸化状態で白金錯体中に存在する。
【0062】
パラジウムは、好ましくは+2の酸化状態でパラジウム錯体中に存在する。
【0063】
ロジウムは、好ましくは+2の酸化状態でロジウム錯体中に存在する。
【0064】
イリジウムは、好ましくは+2の酸化状態でイリジウム錯体中に存在する。
【0065】
[LPt[O(CO)R1]X]型の単核白金錯体の実施形態では、Lは、白金中心原子上のジオレフィン配位子として作用する化合物であり、Xは、臭化物、塩化物、ヨウ化物、又は-O(CO)R2を示し、-O(CO)R1及び-O(CO)R2は、同一又は異なる非芳香族C6~C18モノカルボン酸残基を示す。この場合、nは、1に等しい。
【0066】
[LPd[O(CO)R1]X]型の単核パラジウム錯体の実施形態では、Lは、パラジウム中心原子上のジオレフィン配位子として作用する化合物であり、Xは、臭化物、塩化物、ヨウ化物、又は-O(CO)R2を示し、-O(CO)R1及び-O(CO)R2は、同一又は異なる非芳香族C6~C18モノカルボン酸残基を示す。この場合、nは、1に等しい。
【0067】
[LPd[O(CO)R1]X]型の本発明による二核又は多核パラジウム錯体の好ましい実施形態では、Lは、ジオレフィン配位子として作用する化合物を示し、Xは、臭化物、塩化物、ヨウ化物、又は-O(CO)R2を示し、nは、2、3、4、又は5、好ましくは2を示し、-O(CO)R1及び-O(CO)R2は、同一又は異なる非芳香族C6~C18モノカルボン酸残基を示す。
【0068】
[LRh[O(CO)R1]]型若しくは[LIr[O(CO)R1]]型の二核貴金属錯体又は多核貴金属錯体の好ましい実施形態の場合、それぞれLは、ジオレフィン配位子として作用する化合物を表し、mは、2、3、4、又は5、好ましくは2を表し、-O(CO)R1は、非芳香族C6~C18-モノカルボン酸残基を表す。
【0069】
ジオレフィン又はジオレフィン配位子として作用することができるL型の化合物の例としては、COD(1,5-シクロオクタジエン)、NBD(ノルボルナジエン)、COT(シクロオクタテトラエン)、及び1,5-ヘキサジエン、特にCOD及びNBDなどの炭化水素が挙げられる。好ましくは、これらは純粋な炭化水素である。しかしながら、ヘテロ原子の存在もまた、例えば官能基の形態で可能である。
【0070】
Xは、臭化物、塩化物、ヨウ化物、又は-O(CO)R2、好ましくは塩化物又は-O(CO)R2、特に-O(CO)R2とすることができる。
【0071】
非芳香族モノカルボン酸残基-O(CO)R1及び-O(CO)R2は各々、同一又は異なる非芳香族C6~C18モノカルボン酸残基を示す。本文脈で使用される「非芳香族」という用語は、純粋な芳香族モノカルボン酸残基を除外するが、カルボキシル官能基(複数可)が脂肪族炭素に結合している芳香脂肪族モノカルボン酸残基は除外しない。好ましくは、-O(CO)R1及び-O(CO)R2は、同一の非芳香族C6~C18モノカルボン酸残基を示す。非芳香族C6~C18モノカルボン酸残基の中でも、8~18個の炭素原子を有するモノカルボン酸残基、すなわち、非芳香族C8~C18モノカルボン酸残基が好ましい。
【0072】
-O(CO)R1又は-O(CO)R2基を有する非芳香族C6~C18又は好ましいC8~C18モノカルボン酸の例をいくつか挙げると、n-ヘキサン酸を含む異性体ヘキサン酸、n-ヘプタン酸を含む異性体ヘプタン酸、n-オクタン酸及び2-エチルヘキサン酸を含む異性体オクタン酸、n-ノナン酸を含む異性体ノナン酸、及びn-デカン酸を含む異性体デカン酸である。直鎖状の代表的なものだけではなく、例えば2-エチルヘキサン酸、シクロヘキサンカルボン酸、及びネオデカン酸などの分岐状構造及び/又は環状構造を有するものも含まれる。各々の場合でカルボキシル基に結合している残基R1及びR2は、5~17個又は7~17個の炭素原子を含む。
【0073】
本発明によるパラジウム錯体の好ましい例としては、[(COD)Pt[O(CO)R1]2]及び[(NBD)Pt[O(CO)R1]2]が挙げられ、式中、nは、1又は2、特に1であり、R1は、非芳香族C5~C17炭化水素残基を表す。
【0074】
本発明によるパラジウム錯体の好ましい例としては、[(COD)Pd[O(CO)R1]2]及び[(NBD)Pd[O(CO)R1]2]が挙げられ、式中、nは、1又は2、特に1であり、R1は、非芳香族C5~C17炭化水素残基を表す。
【0075】
本発明によるロジウム錯体の好ましい例としては、[(COD)Rh[O(CO)R1]]及び[(NBD)Rh[O(CO)R1]]が挙げられ、式中、mは、2であり、R1は、非芳香族C5~C17炭化水素残基を表す。
【0076】
本発明によるイリジウム錯体の好ましい例としては、[(COD)Ir[O(CO)R1]]及び[(NBD)Ir[O(CO)R1]]が挙げられ、式中、mは、2であり、R1は、非芳香族C5~C17炭化水素残基を表す。
【0077】
少なくとも1種の有機貴金属錯体は、好ましくは極性溶媒及び非極性溶媒の両方に容易に溶解する。一実施形態では、少なくとも1種の有機貴金属錯体は、中間極性の溶媒に容易に溶解する。中間極性の溶媒としては、例えば、短鎖エーテル及びアルコール、並びにグリコールエーテルが挙げられる。
【0078】
一実施形態では、25℃及び1,013hPaでのエタノール中の少なくとも1種の有機貴金属錯体の溶解度は、少なくとも1質量%、好ましくは少なくとも2質量%、3質量%、4質量%、5質量%、又は少なくとも10質量%である。
【0079】
一実施形態では、25℃及び1,013hPaでのトルエン中の少なくとも1種の有機貴金属錯体の溶解度は、少なくとも1質量%、好ましくは少なくとも2質量%、3質量%、4質量%、5質量%、又は少なくとも10質量%である。
【0080】
一実施形態では、8部のエタノール及び2部の水を含む溶媒混合物中の少なくとも1種の有機貴金属錯体の溶解度は、25℃及び1,013hPaで、少なくとも1質量%、好ましくは少なくとも2質量%、3質量%、4質量%、5質量%、又は少なくとも10質量%である。
【0081】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種の有機貴金属錯体は、有機溶媒中、又は本明細書で言及される溶媒のいずれか中で実質的に無制限である。これは、少なくとも1種の有機貴金属錯体及び溶媒が任意の比率で互いに混和性であることを意味する。
【0082】
溶媒中の少なくとも1種の有機貴金属錯体の溶解度は、例えば、全ての固体が溶解するまで、25℃及び1,013hPaで、規定量の少なくとも1種の有機貴金属錯体に少量の溶媒を徐々に添加することによって特定することができる。
【0083】
少なくとも1種の有機貴金属錯体は、配位子交換によって簡単に、特に銀のカルボン酸塩を使用することなく製造することができる。製造プロセスは、二相系の混合又は懸濁又は乳化を含む。本明細書では、一方の相は、[LPtX型又はLPdX型又は[LRhX]又は[LIrX]型の反応物(各々の場合、Xはブロマイド、臭化物、塩化物、及びヨウ化物、好ましくは塩化物から選択される)を、そのまま、又は好ましくはそのような反応物の少なくとも実質的に水非混和性の有機溶液の形態のいずれかで含む。そのような有機溶液を調製するのに好適であり、少なくとも実質的に水非混和性である有機溶媒の例は、トルエン、キシレン、ジ-、トリ-、及びテトラクロロメタンなどの芳香族及び塩素化炭化水素に加えて、酸素含有溶媒、例えば、対応する水不混和性ケトン、エステル、及びエーテルを含む。他方、他方の相は、例えば、R1COOH型の及び任意選択で追加的にR2COOH型のC6~C18モノカルボン酸のアルカリ塩(特にナトリウム塩又はカリウム塩)及び/又はマグネシウム塩の水溶液を含む。モノカルボン酸塩(複数可)の種類の選択は、製造される貴金属錯体の型又は製造される貴金属錯体の組み合わせに依存する。2つの相は、例えば振とう及び/又は撹拌することによって激しく混合され、懸濁液又はエマルションを形成する。懸濁液又はエマルション状態を維持する目的のために、混合は、例えば0.5~24時間の期間、例えば20~50℃の範囲の温度で行われる。この場合、配位子交換が起こり、有機相中に形成された貴金属錯体(複数可)が溶解し、同様に形成されたアルカリX塩又はMgX塩が水相中に溶解する。懸濁又は乳化後、有機相と水相を互いに分離する。本発明によって形成された貴金属錯体(複数可)は、有機相から得、任意選択的に、従来の方法によってその後精製することができる。
【0084】
例えば、1つの具体例のみを挙げると、(COD)Pt[O(CO)CH(C)Cは、(COD)PtClのジクロロメタン溶液と2-エチルヘキサン酸ナトリウムの水溶液とを合わせて乳化することにより調製することができる。乳化完了後、配位子交換により形成された塩化ナトリウム溶液をジクロロメタン相から分離し、後者から(COD)Pt[O(CO)CH(C)Cを単離し、任意選択的に従来の精製プロセスを介して精製することができる。同様に、白金錯体(COD)Pt[O(CO)CH(C)C]Clも、例えば、適切に選択された化学量論で調製することができる。
【0085】
従来の有機溶媒中での前述の溶解度に加えて、重要な特性は、成分Bの少なくとも1種の有機貴金属錯体の比較的低い分解温度であり、例えば、既に150℃~250℃、多くの場合200℃以下である。この特性の組合せは、黒鉛化炭素材料を修飾するための組成物の成分Bとしてこのような貴金属錯体を使用することを可能にする。
【0086】
一実施形態では、前記少なくとも1種の有機貴金属錯体は、個別化された形態で組成物中に存在することができるが、組み合わされた形態で、すなわち、単独で、又はいくつかの異なる種の混合物として存在することもできる。したがって、白金錯体は、[LPt[O(CO)R1]X]型の各々の場合、個別化された形態で、又は組み合わされた形態で、すなわち、単独で、又は複数の異なる種の混合物として、組成物内中に存在することができる。パラジウム錯体もまた、[LPd[O(CO)R1]X]型の各々の場合、個別化された形態で、又は組み合わされた形態で、すなわち、単独で、又は複数の異なる種の混合物として、組成物内中に存在することができる。ロジウム錯体もまた、[LRh[O(CO)R1]]型の各々の場合、個別化された形態で、又は組み合わされた形態で、すなわち、単独で、又は複数の異なる種の混合物として、組成物内中に存在することができる。同様に、イリジウム錯体もまた、[LIr[O(CO)R1]]型の各々の場合、個別化された形態で、又は組み合わされた形態で、すなわち、単独で、又は複数の異なる種の混合物として、組成物内中に存在することができる。言い換えれば、成分(B)は、[LPt[O(CO)R1]X]型、[LPd[O(CO)R1]X]型、[LRh[O(CO)R1]]型、及び/又は[LIr[O(CO)R1]]型の化合物を含むことができる。したがって、成分Bは、本明細書に開示される型のうちの1つのみ、2つ、3つ、又は4つ全ての化合物を含むことができ、それぞれの型は、1つの個々の形態(個別化された)のみで又は複数の個々の形態(関連する)で表すことができる。本明細書のこの文脈で使用される「個々の形態」という用語は、それぞれ、具体的な指数n又はmを有する式の型を意味し、例えば、[LRh[O(CO)R1]]は、一般型[LRh[O(CO)R1]]型の個々の形態であり、ただし、m=2である。
【0087】
一実施形態では、組成物は、以下の成分を含むことができる。
(A)30重量%~90重量%の少なくとも1種の有機溶媒、
(B)溶媒に溶解された10~70重量%の少なくとも1種の有機貴金属錯体。
【0088】
好ましい組成物は、成分A及びBを単に混合することによって調製することができる。当業者であれば、それぞれの意図された用途及び/又はその場合に使用される含浸方法に適合した成分の量比を選択するであろう。
【0089】
含浸工程の結果として、含浸された(すなわち、少なくとも1種の有機貴金属錯体を担持させた)担体材料が得られる。この場合、含浸とは、担体材料の表面上への少なくとも1種の有機貴金属錯体の吸着を意味すると理解される。多孔質炭素材料の場合、これは特に内側表面、すなわち細孔内の表面である。
【0090】
毛管制御含浸(初期湿潤)又は拡散制御含浸などの様々な含浸方法が当業者に知られている。
【0091】
好ましくは、組成物及び黒鉛化炭素材料は、含浸工程中に撹拌、圧延、混練、又は他の方法で混合される。
【0092】
好ましくは、担体材料は、含浸工程中に組成物中に分散される。
【0093】
含浸工程中の組成物の温度は、例えば、20℃~95℃、より好ましくは40℃~90℃又は60℃~80℃であり、特に50℃~70℃である。
【0094】
含浸工程の持続時間は、少なくとも1種の有機貴金属錯体が十分な量で担体材料上に堆積され得るように選択される。好適な継続時間は、日常的な実験に基づいて当業者によって特定することができる。
【0095】
含浸工程中、担体材料は、組成物及び担体材料の総重量に対して、例えば、1重量%~70重量%、より好ましくは3重量%~60重量%、最も好ましくは5重量%~50重量%の量で存在する。
【0096】
含浸工程の間、担体材料及び少なくとも1種の有機貴金属錯体から誘導される貴金属は、少なくとも1:1の重量比、より好ましくは少なくとも2:1の重量比で存在する。少なくとも1:1の比では、これは、担体材料の重量と少なくとも1種の有機貴金属錯体に由来する貴金属の重量とからなる重量の少なくとも50重量%が、担体材料の重量から構成されることを意味する。
【0097】
任意選択的に、工程(c)で熱処理を実施する前に、含浸された担体材料をまず乾燥させ、有機溶媒を部分的に又は完全に除去することができる。
【0098】
含浸された担体材料を濾過し、乾燥させることも好ましい。
【0099】
例えば、含浸された担体材料は、250℃未満、より好ましくは200℃未満、更により好ましくは150℃未満の温度で乾燥される。
【0100】
特に、乾燥は、減圧下、好ましくは100mbar未満の圧力で行うことができる。
【0101】
乾燥は、好ましくは30分~180分間、好ましくは60分~120分間行われる。
【0102】
乾燥は、好ましくは酸素の不在下で、例えば真空中又は不活性ガス下で行われる。
【0103】
プロセス工程(c)では、含浸された黒鉛化炭素材料が熱処理される。
【0104】
一実施形態では、含浸された黒鉛化炭素材料の熱処理は、少なくとも1種の有機貴金属錯体の分解をもたらす。
【0105】
好ましくは、熱処理は、少なくとも1種の有機貴金属錯体の残留物のない分解をもたらす。この場合、残留物のない分解とは、錯体の有機成分が分解されること、すなわち、それらが揮発性成分に完全に分解されることを意味する。
【0106】
熱処理は、少なくとも1種の有機貴金属錯体の分解温度より高い温度で行うことができる。一般に、当該分解温度よりわずかに高い温度が選択される。
【0107】
熱処理は、特に密閉容器内で行うことができる。
【0108】
熱処理は、好ましくは酸素の不在下で行われる。特に、熱処理は、不活性ガス雰囲気中又は真空中で行うことができる。
【0109】
一実施形態では、熱処理は、溶媒の蒸発をもたらす。一実施形態では、溶媒は熱処理によって蒸発し、少なくとも1種の有機貴金属錯体は完全に分解する。一実施形態では、含浸された担体材料の熱処理後、少なくとも1種の貴金属を除いて、組成物の更なる成分は担体材料上に残らない。
【0110】
熱処理は、1,000℃、900℃、800℃、700℃、600℃、500℃、400℃、300℃、250℃未満、又は200℃未満の温度で行うことができる。好ましくは、含浸された担体材料は、220℃超の温度で、特に好ましくは250℃超の温度で熱処理される。
【0111】
好ましい実施形態では、含浸された担体材料は、150℃~250℃の温度で熱処理される。
【0112】
一般に、熱処理は90分より長くはかからない。熱処理は、1分間~90分間、好ましくは5分間~60分間行うことができる。
【0113】
いくつかの異なる貴金属錯体が存在する場合、当業者であれば、最も高い分解温度を有する貴金属錯体の分解温度を超える熱処理を選択するであろう。一般に、これは、例えば、分解温度より高い温度で、例えば、1分~60分間、200℃~250℃又は250℃~300℃以上の範囲の温度、例えば、最高1,000℃の温度で行われる短時間の処理によって行われる。
【0114】
[LPt[O(CO)R1]X]型の白金錯体又は[LPd[O(CO)R1]X]型のパラジウム錯体に基づく組成物を用いる場合、周囲雰囲気としての空気の存在下であっても、熱分解中に実質的に金属性の貴金属が形成され、熱分解の場合、[LRh[O(CO)R1]]型のロジウム錯体又は[LiR[O(CO)R1]]型のイリジウム錯体のイリジウム錯体に基づく組成物を用いて作業するとき、対照的に、酸素の存在下で、金属貴金属に加えて、対応する貴金属酸化物又は主に貴金属酸化物さえも形成することができる。
【0115】
これに関して、当業者は、本明細書で使用される「貴金属修飾」という用語を、金属白金又はパラジウムを実質的に含むか、更には排他的に含むものとして、ロジウム及び/又は酸化ロジウムを含むものとして、又はイリジウム及び/又は酸化イリジウムを含むものとして理解するであろう。
【0116】
組成物が、成分Bとして本明細書に開示される貴金属錯体型のうちの2つ以上の組み合わせを含む場合、担体材料はまた、2つ以上の貴金属で修飾することができる。白金、パラジウム、ロジウム及びイリジウムの量比は、貴金属錯体のそれぞれの割合を介して組成物中で非常に容易に調整することができる。
【0117】
本発明によるプロセスによって製造された貴金属修飾黒鉛化炭素材料は、貴金属修飾黒鉛化炭素材料の全重量に対して、各々の場合で例えば5重量%~70重量%、より好ましくは15重量%~60重量%又は25重量%~50重量%の量で貴金属を含有する。
【0118】
好ましい実施形態では、貴金属は、熱処理後に担体材料上に微粒子形態で存在する。
【0119】
黒鉛化炭素材料上の貴金属含有粒子の平均粒径は、X線回折法(XRD)及び(111)反射での特定によって測定されて、好ましくは1~100nmの範囲、より好ましくは2~50nmの範囲、特に好ましくは2.2~5.5nmの範囲である。
【0120】
貴金属粒子は、好ましくは少なくとも0.5nm、より好ましくは少なくとも1nmの平均粒径を有する。
【0121】
貴金属粒子は、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下、特に好ましくは10nm以下の平均粒径を有する。
【0122】
貴金属粒子は、好ましくは1.0~5.0nmの範囲、より好ましくは1.5~3.5nmの範囲の平均粒径を有する。
【0123】
貴金属粒子は、20~200m/g、好ましくは25~150m/gの電気化学表面積(ECSA)を有することが好ましい。
【0124】
好ましい実施形態では、貴金属修飾黒鉛化炭素材料は、熱処理後に洗浄工程にかけられる。
【0125】
粒子材料を洗浄する方法は、当業者に一般的に知られている。材料の洗浄は、好ましくは、溶媒中への分散、固体成分の分離、及びその後の乾燥によって行われる。
【0126】
この洗浄工程は、必要に応じて繰り返すことができる。好ましくは、このような複数の洗浄工程は、異なる溶媒を用いて行われる。
【0127】
好ましい実施形態では、貴金属修飾黒鉛化炭素材料は、熱処理後に乾燥工程に供される。
【0128】
更なる実施形態では、任意選択の洗浄工程の後、貴金属修飾黒鉛化炭素材料は、乾燥工程に供される。
【0129】
貴金属修飾黒鉛化炭素材料は、例えば、250℃未満、より好ましくは200℃未満、更により好ましくは150℃未満の温度で乾燥される。
【0130】
特に、乾燥は、減圧下、好ましくは100mbar未満の圧力で行うことができる。
【0131】
乾燥は、好ましくは30分~180分の期間にわたって、好ましくは60分~120分の期間にわたって行われる。
【0132】
本発明の更なる主題は、上記のプロセスの1つによって得ることができる担持触媒として使用することができる貴金属修飾黒鉛化炭素材料である。好ましい実施形態については、上記の説明が参照される。
【0133】
貴金属修飾黒鉛化炭素材料の形態で本発明に従って製造された担持触媒は、例えば、アノード触媒及びカソード触媒の両方として、PEM燃料電池における使用に特に適している。本発明による材料は、好ましくは、PEM燃料電池におけるカソード触媒として使用される。
【0134】
本発明による担持触媒をPEM燃料電池の電極として使用する場合、理想的には、酸素還元反応を触媒する際に水のみが生成され、腐食性過酸化水素(H)は生成されない。Hの形成は、白金族からの触媒金属の使用によって効果的に抑制される。
【0135】
本発明は、同様に、本発明による貴金属修飾黒鉛化炭素材料の形態の担持触媒を含有する電気化学セルを提供する。好ましい実施形態については、ここでも上記の説明が参照される。
【0136】
電気化学セルは、好ましくは高分子電解質(PEM)燃料電池又は高分子電解質(PEM)電解セル(水電解用)である。PEM燃料電池の構築のための必要な構成成分は、当業者に既知である。高分子電解質膜(「PEM」)は、例えば、スルホン酸基を含有するモノマーを有するポリマーを含有する。
【0137】
PEM燃料電池用の電極、触媒被覆膜(CCM)及び膜電極接合体(MEA)を製造するために、本発明による担持触媒は、適切な溶媒を使用して、任意選択的にアイオノマー材料を添加して、インク又はペーストに加工される。担持触媒インクは、ガス拡散層(GDL)、集電体、イオノマー膜、予備成形PTFEフィルム、剥離紙、又はセパレータプレートなどの上に堆積され、噴霧、印刷、ブレードコーティング、又は他のコーティングプロセスなどのプロセスを使用することができる。対応するプロセスは、当業者に既知である。
【0138】
本発明は更に、電気化学反応のための上述の担持触媒の使用に関する。
【0139】
この電気化学反応は、例えば、酸素の電気化学的還元(「酸素還元反応」、ORR)、水素の電気化学的酸化(「水素酸化反応」、HOR)、水からの酸素の電気化学的生成(「酸素発生反応」、OER)、又は水からの水素の電気化学的生成(「水素発生反応」、HER)である。
【0140】
本発明で使用する測定方法を以下に詳述する。試験方法が指定されていない場合、本出願の出願日に有効な適切なISO法を使用して、当該パラメータを特定した。特定の測定条件が示されていない場合、測定は室温(298.15K)及び標準圧力(100kPa)で実施した。
【0141】
粉末回折
黒鉛化度及び結晶子サイズL及びLは、粉末回折によって特定した。
【0142】
粉末回折法は、粉末透過形状のStadiP回折計(STOE&Cie)で測定した。Ge-111フォーカシングモノクロメータは、λ=1.54060Åの単色の銅Kalpha1X線放射を与える(ジェネレータのパラメータ:40kV、30mA)。数mgの試料材料をめのう乳ばちで細かく粉砕し、ホワイトグルーでセロファンフィルムの間に固定して、STOEの透過試料ホルダーに置いた。STOE IPPSD検出器を使用した。試料を、X線ビームに垂直な平面内の透過試料ホルダー中、50~150rpmで回転させた。STOE WinXPOWソフトウェアを試料収集に用いた。測定は8°~84°の2θの範囲で行い、記録時間は、8800秒であった。2θステップサイズは0.015°である。
【0143】
黒鉛化度
黒鉛化度g(%)は、以下の式(1):
g=[(344pm-d002)/(344pm-335.4pm)]×100 (1)
によって特定され、式中、d002は、黒鉛の基底面の距離であり、それは黒鉛化炭素材料の粉末回折チャートにおける(002)面の回折線に基づいて、既知のブラッグの式によって特定される。
【0144】
当業者に既知のブラッグの式は以下の通りであり、
d=(n*λ)/(2*sinθ)
(式中、
λはX線の波長であり、
nは回折次数であり、
θはブラッグ角である。
【0145】
結晶子サイズL及びLの特定
結晶子サイズL及びLは、ピークフィットを介した六方晶の黒鉛構造の100(L、2θ=42.223°)及び002(L、2θ=26.382°)の反射の半値全幅(FWHM)をフィッティングすることによって特定した。この目的のために、STOEの結晶化度解析ソフトウェアを使用した。このソフトウェアは、当業者に既知であるシェラー法又はシェラーの式を使用する。LaB試料を使用して装置による広がりを特定し、これを計算前に適合FWHM値から差し引いた。
【0146】
当業者に既知のシェラーの式は以下の通りであり、
L=(K*λ)/((β-βinst)*cosθ)
(式中、
Lは平均結晶子サイズであり、
Kは形状因子であり、
λはX線の波長であり、
βは反射の半値全幅(「FWHM」)であり、
βinstはLaB標準の半値全幅(「FWHM」)であり、
θはブラッグ角である。
【0147】
La及びLcのそれぞれ場合において、0.9の形状因子を使用する。
【0148】
BET比表面積
BET比表面積を、BET理論(多点法、ISO9277:2010)に従って77Kで窒素を吸着質として用いて特定した。
【0149】
細孔容積及び細孔径分布
細孔容積及び細孔径分布は、ISO15901-1:2016に従って水銀ポロシメトリで特定した。
【0150】
粒径分布(d50、d90
粒径は、He-Neレーザ(波長632.8nm、最大エネルギー4mW)、青色LED(波長470nm、最大エネルギー10mW)、及び湿式分散ユニット(HydroMV)を備えたMastersizer 3000(Malvern)を用いて、ISO規格13320に従ってレーザ回折によって特定した。使用した測定媒体は、50体積%のイソプロパノールと50体積%の脱イオン水との混合物であった。d50及びd90の体積加重値は、1の形状因子を仮定して、Malvern Mastersizer 3000ソフトウェア3.30によって特定した。フラウンホーファー理論を使用して、10μm超のサイズを有する粒子を特定した。10μm未満の粒子についてはミー理論を用いた。
【0151】
貴金属含量の熱重量分析
貴金属含量は、熱天秤(Netzsch社のTG209Libra)を用いて測定した。材料が炭素担体及び貴金属のみからなると仮定して、空気中900℃での処理後に、残留質量をこの目的のために特定した。
【0152】
TEM画像
担体材料上の貴金属粒子の分布を、TEM(透過型電子顕微鏡法)によって調査した。
【0153】
調査する数μgの材料をエタノール中に懸濁させた。次いで、懸濁液の液滴を、炭素開口フィルムでコーティングされたCu小板(Plano、200メッシュ)上にピペットで移し、乾燥させた。測定は、FEI Talos 20-200透過型顕微鏡において200kVで行った。
【0154】
貴金属粒子の粒径
貴金属粒子の粒径分布は、小角X線散乱によって特定した。X’PertPro「Bragg-Brentano」デバイスは、透過形状で操作され、一次ビームは、平行ビームを生成するためにミラーを備えている。触媒材料(10~20mg)を、透過試料キャリア中の2つのマイラーフィルムの間に適用する。基板を特定するためには、対応する担体材料を有する試料ホルダーが必要である。放射線源は、40kV及び40mAの標準励起及び0.1542nmの波長を有するCuX線管であった。
【0155】
基板剥離後に得られた散乱曲線を、PANalytical EasySAXSソフトウェア(ver.2.0)を用いて評価した。粒径分布曲線は、このソフトウェアで実行されるアルゴリズムを用いて計算した。この測定から得られる分布曲線D(R)は、体積加重粒径分布(粒子体積による分布)を表す。平均粒径及び最頻粒径は、貴金属粒子の粒径分布に基づいて特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0156】
図1図1は、金属白金粒子の高い分散度を有する非常に均一な分布を示している。
図2図2は、高倍率での画像の表示を示している。
図3図3は、代表的なTEM画像を示している。
【実施例
【0157】
以下の実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。
【0158】
実施例1(本発明による白金による炭素の修飾):
65mmolの(COD)PtClの溶液を100mLのジクロロメタン中で撹拌し、260mmolのナトリウム-2-ネオデカノエートの溶液を500mLの水に添加した。2相混合物を激しく撹拌することによって、20℃で24時間乳化させた。ジクロロメタン相は、黄色に変わった。ジクロロメタン相を分離し、溶媒を留去した。粘性の黄色の残留物を150mLの石油スピリット(40~60)に吸収し、溶液を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した。次いで、石油スピリットを完全に留去した。粘性の黄色の残留物(COD)Pt[O(CO)(CHC(CHが残った。
【0159】
黄色の残留物10gを、溶媒混合物(50重量%のエタノール及び50重量%のプロピレングリコールモノプロピルエーテル)20gに溶解させた。
【0160】
10gの炭素(Heraeus Porocarb(登録商標);BET:68m/g、黒鉛化度73%)を、10重量%の白金を含有する100mLの溶液と混合し、30分間激しく撹拌して均質化した。均質な混合物を、減圧下(0.1mbar)で60分間にわたって蒸留装置の第1のバッチにおいて250℃で処理した。溶媒及び分解生成物を最初のバッチに集め、廃棄した。
【0161】
生成物を酸素の非存在下、N雰囲気下で冷却した。
【0162】
白金粒子の重量割合は、炭素及び金属の総重量に対して40%であった。白金粒子の粒径分布は、小角X線散乱によって特定した。平均粒径は1.6nmであると特定され、最も一般的な粒径は1.8nmであった。白金修飾炭素のTEM画像を様々な倍率で撮影した。図1は、金属白金粒子の高い分散度を有する非常に均一な分布を示す。図2は、高倍率での画像の表示を示し、これは、白金粒子の狭いサイズ分布を実証し、これはまた、粒径特定データから推定することができる。
【0163】
比較例1(白金による炭素の修飾)
実施例1からの炭素を100mLの水でスラリー化し、ジャケット付き反応器に入れ、水で2Lまで満たした。懸濁液を撹拌しながら70℃に加熱した。1時間保持時間後、30gの硝酸のPt硝酸塩溶液(10重量%のPt)を添加し、次いで一定の混合及び温度で1時間保持した。続いて、NaCOを添加することによってpHを1.5に調整した。次いで、ギ酸を化学量論的に過剰に添加した。8時間、70℃で撹拌した後、固体を水性媒体から濾別して、水で洗浄し、窒素雰囲気下110℃で乾燥させた。
【0164】
白金粒子の重量割合は、炭素及び金属の総重量に対して30%であった。図3の代表的なTEM画像は、本発明による修飾炭素と比較して、金属粒子分布の均一性が低く、クラスタ化の程度が高いことを示す。
【0165】
実施例2(本発明によるパラジウムによる炭素の修飾):
35mmolの(COD)PdClの溶液を200mLのジクロロメタン中で撹拌し、140mmolの2-エチルヘキサン酸ナトリウムの溶液を150mLの水に添加した。2相混合物を激しく撹拌することによって、20℃で24時間乳化させた。ジクロロメタン相は、黄色に変わった。ジクロロメタン相を分離し、溶媒を留去した。粘性の黄色の残留物を石油スピリット(40~60)に溶解し、溶液を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した。次いで、石油スピリットを完全に留去した。粘性の黄色の残留物(COD)Pd[O(CO)CH(C)Cが残った。
【0166】
黄色の残留物5gを、溶媒混合物(50重量%のエタノール及び50重量%のプロピレングリコールモノプロピルエーテル)5.6gに溶解させた。
【0167】
10gの炭素を100mLの10重量%パラジウムに添加した。調製物の残りは、実施例1に記載したものと同じであった。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-08-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属修飾黒鉛化炭素材料を製造するプロセスであって、
(a)少なくとも10%の黒鉛化度を有する黒鉛化炭素材料を提供する工程と、
(b)前記黒鉛化炭素材料に組成物を含浸させる工程であって、前記組成物が、
(i)有機溶媒、及び
(ii)前記有機溶媒に溶解した少なくとも1種の有機貴金属錯体を含む、含浸させる工程と、
(c)前記含浸された黒鉛化炭素材料を熱処理する工程と、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記貴金属が、白金族元素のうちの少なくとも1種の金属である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記組成物が、非コロイド溶液である、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記組成物が、30~90重量%の有機溶媒を含む、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記組成物が、10~70重量%の前記少なくとも1種の有機貴金属錯体を含む、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項6】
前記少なくとも1種の有機貴金属錯体が、ジオレフィン配位子L及びC6~C18モノカルボキシレート配位子を有する貴金属錯体である、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項7】
前記少なくとも1種の有機貴金属錯体が、[LPt[O(CO)R1]X]型、[LPd[O(CO)R1]X]型、[LRh[O(CO)R1]]型、及び[LIr[O(CO)R1]]型の貴金属錯体からなる群から選択される貴金属錯体であり、式中、Xが、臭化物、塩化物、ヨウ化物、及び-O(CO)R2から選択され、-O(CO)R1及び-O(CO)R2が、同一又は異なる非芳香族C6~C18モノカルボン酸残基を示し、nが1以上の整数であり、mが2以上の整数である、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項8】
前記ジオレフィン配位子Lが、COD(1,5-シクロオクタジエン)、NBD(ノルボルナジエン)、COT(シクロオクタテトラエン)、及び1,5-ヘキサジエンからなる群から選択される、請求項6に記載のプロセス。
【請求項9】
前記組成物が、前記組成物の総重量に対して2.5~25重量%の貴金属を含む、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項10】
前記担体材料が、前記含浸工程中に1~70重量%の量で存在する、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項11】
前記担体材料と前記少なくとも1種の有機貴金属錯体から誘導される前記貴金属が、少なくとも1:1の重量比で存在する、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項12】
前記含浸された黒鉛化炭素材料の前記熱処理が、前記少なくとも1種の有機貴金属錯体の分解をもたらす、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項13】
請求項1に記載のプロセスによって得られる、貴金属修飾黒鉛化炭素材料。
【請求項14】
前記貴金属を5~70重量%の量で含有する、請求項13に記載の貴金属修飾黒鉛化炭素材料。
【請求項15】
請求項14に記載の貴金属修飾黒鉛化炭素材料を含有する、電気化学セル。

【国際調査報告】