(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】特に液体水素の輸送及び貯蔵のためのFe-Ni合金
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240312BHJP
C22C 38/52 20060101ALI20240312BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20240312BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240312BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20240312BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240312BHJP
B22F 9/14 20060101ALI20240312BHJP
B22F 10/25 20210101ALI20240312BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240312BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240312BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240312BHJP
C22C 38/16 20060101ALI20240312BHJP
C21D 8/06 20060101ALN20240312BHJP
C21D 1/26 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C22C38/00 302B
C22C38/52
C21D8/02 D
C21D9/46 P
B23K35/30 320C
B22F1/00 T
B22F9/14 Z
B22F10/25
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y10/00
C22C38/16
C21D8/06 B
C21D1/26 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553090
(86)(22)【出願日】2022-03-01
(85)【翻訳文提出日】2023-10-30
(86)【国際出願番号】 EP2022055120
(87)【国際公開番号】W WO2022184695
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2021/051684
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512072614
【氏名又は名称】アペラム
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ピエール-ルイ・レイデ
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
4K032
4K037
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB05
4K017BB06
4K017BB07
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4K037FJ02
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FJ07
(57)【要約】
本発明は、質量パーセントで以下の組成:36.5%≦Ni≦38.5%、0.50%≦Mn≦1.25%、0.001%≦Cu≦0.85%、0.040%≦C≦0.150%、0.10%≦Si≦0.35%を有し、残部は鉄及び製造から生じる不可避の不純物である、鉄-ニッケル合金に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量パーセントで、以下の組成:
36.5%≦Ni≦38.5%
0.50%≦Mn≦1.25%
0.001%≦Cu≦0.85%
0.040%≦C≦0.150%
0.10%≦Si≦0.35%
を有し、残部は鉄及び製造から生じる不可避の不純物である、鉄-ニッケル合金。
【請求項2】
炭素含有率が、0.040質量%~0.075質量%の間である、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
前記製造から生じる前記不可避の不純物が、質量パーセントで:
Cr≦0.5%
Co≦0.5%
S≦0.0035%
P≦0.01%
Mo<0.5%
O≦0.0025%
Ca≦0.0015%
Mg≦0.0035%
Al≦0.0085%
を含む、請求項1又は2に記載の合金。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の合金で作製された、冷延帯。
【請求項5】
請求項4に記載の冷延帯を製造するための製造方法であって、以下の連続する工程:
- 請求項1から3のいずれか一項に記載の合金を製造する工程、
- 前記合金の半製品を形成する工程、
- 前記半製品を熱間圧延し、それにより熱延帯を得る工程、
- 前記熱延帯を1又は複数パス冷間圧延し、それにより冷延帯を得る工程
を含む、製造方法。
【請求項6】
液化ガスを中に受け入れることを意図したタンク又は管の製造のための、請求項1から3のいずれか一項に記載の合金の使用。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製された、フィラーワイヤ。
【請求項8】
請求項7に記載のフィラーワイヤを製造するための製造方法であって、以下の工程:
- 請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製された半製品を準備する工程、
- 前記半製品を熱変形させ、それにより中間体ワイヤを形成する工程、及び
- 前記中間体ワイヤを、前記中間体ワイヤの直径より小さな直径を有するフィラーワイヤに変形する工程であり、伸線するステップを含む、工程、
を含む、製造方法。
【請求項9】
金属付加製造により得られる、請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製される、工作物(40)又は工作物の部分。
【請求項10】
工作物(40)又は工作物の部分を製造するための工作物製造方法であって、フィラー材として、請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製されたフィラーワイヤ及び/又は請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製された粉末を使用する、金属付加製造プロセスによって、前記工作物(40)又は工作物の部分を製造する工程を含む、製造方法。
【請求項11】
請求項7に記載のフィラーワイヤの、金属付加製造プロセスにおけるフィラーワイヤとしての使用。
【請求項12】
請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製された、金属粉末。
【請求項13】
請求項12に記載の金属粉末を製造するための製造方法であって、請求項7に記載のフィラーワイヤを準備する工程、並びに前記フィラーワイヤをプラズマ噴霧し、それにより前記金属粉末を得る工程を含む、製造方法。
【請求項14】
好ましくは、シームレスである、請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製された、管断片(1;7)。
【請求項15】
管の形状に曲げられた、請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製されたシート(9)を含み、前記シート(9)が、溶接シーム(15)により互いに接合されている長手方向縁部(12)を有する、請求項14に記載の管断片(7)。
【請求項16】
請求項15に記載の管断片(7)を製造するための製造方法であって、以下の連続する工程:
- 請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製され、2つの長手方向縁部(3)を有するシート(1)を準備する工程、
- 前記シート(1)の前記長手方向縁部(3)を互いに溶接し、それにより前記管断片(7)を形成する工程、
を含む、製造方法。
【請求項17】
請求項14又は15に記載の、少なくとも2つの管断片(1;7)を含み、2つの連続する管断片(1;7)が、溶接シーム(22)により互いに接合されている、管(20)。
【請求項18】
管(20)の製造のための製造方法であって、以下の連続する工程:
- 請求項14又は15に記載の、第1の管断片(1;7)と、請求項14又は15に記載の、第2の管断片(5)とを準備する工程であって、前記第1の管断片(1;7)及び前記第2の管断片(1;7)が、長手方向の軸(M)に沿って延びている、工程、
- 前記第1の管断片(1;7)の長手方向端部(24)が、前記第2の管断片(1;7)の長手方向端部(24)に向かい合うように、前記第1及び第2の管断片(1;7)の前記長手方向の軸(M)に沿って、配置されるような方法で、前記第1及び第2の管断片(1;7)を位置決めする工程、及び
- 前記第1及び第2の管断片(1;7)の、2つの向かい合う長手方向端部(24)を一緒に溶接する工程、
を含む、製造方法。
【請求項19】
少なくとも1つの、請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製される部分を含む、タンク部分。
【請求項20】
請求項1から3のいずれか一項に記載の合金で作製された、熱延帯。
【請求項21】
請求項20に記載の熱延帯を製造するための製造方法であって、以下の連続する工程:
- 請求項1から3のいずれか一項に記載の合金を生成する工程、
- 前記合金の半製品を形成する工程、
- 前記半製品を熱間圧延し、それにより熱延帯を得る工程、
を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、極低温での適用における使用を意図した鉄-ニッケル(Fe-Ni)合金、特に、液化ガスを収容するよう設計された工作物又は組立品、例えば、液化ガスの輸送用若しくは貯蔵用の輸送管又は輸送/貯蔵タンクを製造するための合金に関する。これらの工作物又は組立品は、特に液体水素を中に受け入れるのに適切であり、それに適応する。
【背景技術】
【0002】
液化ガスの輸送に現在使用されている材料は、一般に液体メタンの輸送及び貯蔵のために設計されており、メタンの沸点は、-162℃である。しかしながら、更に、液体水素の輸送及び貯蔵に適切に適応する工作物又は組立品を製造することが、ますます必要となっており、液体水素の沸点は、-253℃である。
【0003】
本発明の発明者らは、液化ガスの輸送に通常使用される材料、例えば、Invar M93を使用する液体水素の輸送及び貯蔵は、一方では、液体水素の低沸点のために、他方では、合金が水素によって脆化するリスクのために問題を提起する可能性があるという事実に気付いた。
【0004】
より具体的には、本発明の本発明者らは、オーステナイト構造、例えば、Invar M93製のものは、材料が極低温で塑性歪みを受けるとマルテンサイト変態を生じ得ることを見出した。歪みが厳しく、低温度であるほど、マルテンサイト含有量が高くなる。Invar M93の場合、そのため、極低温のライン又はタンクの作業中のマイナーな機械のインシデント(衝突、クラッシュ、湾曲等)において、ミクロ構造内のマルテンサイト変態のリスクは、液体水素の温度(-253℃)にて、非常に増加する。INVAR M93というミクロ構造内で生じ、水素を添加されたマルテンサイトは、次いで、水素脆化を誘導し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の1つの目的は、0℃~196℃の間の低い平均熱膨張係数と同時に、液体水素の温度(-253℃)にて良好な機械的特性を呈する合金を提供することであり、特に、液体水素の輸送及び貯蔵のために設計された工作物の製造のために、例えば、液体水素の輸送及び貯蔵のために設計された管又はタンクの製造のために使用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のために、本発明は、質量パーセントで以下の組成:
36.5%≦Ni≦38.5%
0.50%≦Mn≦1.25%
0.001%≦Cu≦0.85%
0.040%≦C≦0.150%
0.10%≦Si≦0.35%
を有し、残部は鉄及び製造から生じる不可避の不純物である、鉄-ニッケル合金に関する。
【0007】
本発明による合金の特定の特徴によると、
- 炭素含有率は、0.040質量%~0.075質量%の間であり、
- 製造から生じる不可避の不純物は、質量パーセントで:
Cr≦0.5%
Co≦0.5%
S≦0.0035%
P≦0.01%
Mo<0.5%
O≦0.0025%
Ca≦0.0015%
Mg≦0.0035%
Al≦0.0085%
を含み、
- 合金は、特に、熱間圧延製品である場合、2.0×10-6℃-1以上、3.0×10-6℃-1以下である、-196℃~0℃の間の平均熱膨張係数αを呈する。
【0008】
本発明は、更に、上記の合金で作製された冷延帯に関する。
【0009】
本発明は、更に、上記の冷延帯を製造するための、以下の連続する工程:
- 上記に定義された合金を生成する工程、
- 前記合金の半製品を形成する工程、
- この半製品を熱間圧延し、それにより熱延帯を得る工程、
- 熱延帯を、1又は複数パス冷間圧延し、それにより冷延帯を得る工程、
を含む、帯の製造方法に関する。
【0010】
本発明は、更に、液化ガスを中に受け入れることを意図したタンク又は管を製造するための、上記に定義された合金の使用に関する。
【0011】
本発明は、更に、上記に定義された合金から作製された、フィラーワイヤに関する。
【0012】
本発明は、更に、上記に定義されたフィラーワイヤを製造するためのワイヤ製造方法に関し、その方法は、以下の工程:
- 上記に定義された合金から作製された半製品を準備する工程、
- この半製品を熱変形(hot transformation)させ、それにより中間体ワイヤを形成する工程、及び
- 中間体ワイヤを、中間体ワイヤの直径より小さな直径を有するフィラーワイヤに変形する工程であり、伸線するステップを含む、工程、
を含む。
【0013】
本発明は、更に、上記に定義された合金から作製される、工作物又は工作物の部分に関し、前記工作物又は工作物部分は、金属付加製造を用いて得られる。
【0014】
本発明は、更に、工作物又は工作物の部分を製造するための製造方法に関し、その方法は、フィラー材として、上記に定義された合金から作製されたフィラーワイヤ及び/又は上記に定義された合金から作製された粉末を使用する、金属付加製造プロセスによって、前記工作物又は工作物部分を製造する工程を含む。
【0015】
本発明は、更に、金属付加製造プロセスという状況下におけるフィラーワイヤとしての、上記に定義されたフィラーワイヤの使用に関する。
【0016】
本発明は、更に、上記に定義された合金から作製された、金属粉末に関する。
【0017】
本発明は、更に、上記に定義された金属粉末を製造するための粉末製造方法に関し、前記方法は、上記に定義されたフィラーワイヤを準備する工程、並びにこのフィラーワイヤをプラズマ噴霧し、それにより金属粉末を得る工程を含む。
【0018】
本発明は、更に、上記に定義された合金から作製された、管断片に関し、前記管断片は、好ましくは、シームレスである。
【0019】
特定の特徴的な特性によると、管断片は、管の形状に曲げられた、上記に定義された合金から作製されたシートを含み、そのシートは、溶接シームにより互いに接合されている長手方向縁部を有する。
【0020】
本発明は、更に、以下の連続する工程:
- 上記に定義された合金から作製され、2つの長手方向縁部を有するシートを準備する工程、及び
- シートの長手方向縁部を互いに溶接し、それにより管断片を形成する工程、
を含む、上記に定義された管断片の製造のための管製造方法に関する。
【0021】
本発明は、更に、上記に定義された少なくとも2つの管断片を含む管に関し、2つの連続する管断片は、溶接シームにより互いに接合されている。
【0022】
本発明は、更に、以下の連続する工程:
- 上記に定義された第1の管断片と、上記に定義された第2の管断片とを準備する工程であって、第1の管断片及び第2の管断片が、長手方向の軸に沿って延びている、工程、
- 第1の管断片の長手方向端部が、第2の管断片の長手方向端部に向かい合うように、第1及び第2の管断片の長手方向の軸に沿って、配置されるような方法で、第1及び第2の管断片を位置決めする工程、及び
- 第1及び第2の管断片の、2つの向かい合う長手方向端部を一緒に溶接する工程、
を含む、管を製造するための製造方法に関する。
【0023】
本発明は、更に、上記に定義された合金から作製される少なくとも1つの部分を含む、タンク部分に関する。前記タンク部分は、液化ガス、特に液体水素の輸送及び貯蔵を意図する。
【0024】
本発明は、更に、上記の合金で作製された熱延帯に関する。
【0025】
本発明は、更に、以下の連続する工程:
- 上記に記載された合金を生成する工程、
- 前記合金の半製品を形成する工程、
- この半製品を熱間圧延し、それにより熱延帯を得る工程、
を含む、上記の熱延帯を製造するための帯の製造方法に関する。
【0026】
単に例として提供され、添付図面を参照する以下の説明を読むことによって、本発明がより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1の実施形態による、管断片の概略透視図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態による、管断片の概略透視図である。
【
図3】第2の実施形態による、管断片製造のための方法の実施中に使用される、シートの概略上面図である。
【
図5】本発明による、付加製造プロセスの手段により得られた工作物の概略透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
説明全体を通して、含有率は質量パーセントで表される。
【0029】
本発明による合金は、質量パーセントで:
36.5%≦Ni≦38.5%
0.50%≦Mn≦1.25%
0.001%≦Cu≦0.85%
0.040%≦C≦0.150%
0.10%≦Si≦0.35%
を含み、
残部は鉄及び製造から生じる不可避の不純物である、鉄基合金である。
【0030】
用語「製造から生じる不可避の不純物」は、合金を生成するのに使用される原材料中に存在するか、又はそれらの生成に使用する装置に由来する、例えば、炉の耐火材料による、成分を指すために使用される。これらの不純物は、合金に対して、冶金学的な影響を有さない。
【0031】
製造から生じる不純物は特に、質量パーセントで:
Cr≦0.5%
Co≦0.5%
S≦0.0035%
P≦0.01%
Mo<0.5%
O≦0.0025%
Ca≦0.0015%
Mg≦0.0035%
Al≦0.0085%
を含む。
【0032】
本発明による合金は、特に、2.0×10-6℃-1以上、3.0×10-6℃-1以下である、-196℃~0℃の間の平均熱膨張係数αを呈する。
【0033】
本発明による合金において、Ni、Mn、C及びCuの含有率レベル、すなわち、Ni≧36.5%、Mn≧0.50%、C≧0.040%及びCu≧0.001%は、-253℃(20K)、すなわち、液体水素の温度での、合金のマルテンサイト変態に対する安定性を高めるようにされており、その結果、液体水素の温度にて生じるマイナーな機械のインシデント(衝突、クラッシュ、湾曲等)において、オーステナイト構造を保持する能力を有する合金を提供する。
【0034】
本発明の発明者らは、Ni、Mn、C及びCuの含有率レベルが、上記の下限値を下回った場合、低い破断伸びA(A≦10%)及び過度に低い絞り(striction)Z(Z≦50%)によって特徴付けられる、液体水素の温度にて生じるマイナーな機械のインシデント(衝突、クラッシュ、湾曲等)において、合金は、水素脆化のリスクの増加を提示するということに気付いた。
【0035】
破断伸びAは、ASTM A370規格(2019年7月)を用いて決定した。
【0036】
絞りZは、フランスの規格、NF EN ISO 6892-1(2019年12月)を用いて決定した。
【0037】
加えて、Ni、Mn及びCuについて選択された上限値、すなわち、Ni≦38.5%、Mn≦1.25%及びCu≦0.85%は、平均熱膨張係数αを、3.0×10-6℃-1以下である-196℃~0℃の間に維持することを可能にし、そのことにより、110MPaで評価された臨界値に対して熱応力を制限する能力を提供する。臨界応力は、液体水素の温度における合金の降伏強さのおよそ15%に等しい(Rp(-253℃)~800MPa)。
【0038】
本発明の発明者らは、Ni、Mn及びCuの含有率レベルが、上記の上限値を上回った場合、-196℃~0℃の間の平均熱膨張係数αが、3.0×10-6℃-1よりも大きな値を有するため、意図する適用には、大きすぎるということを見出した。
【0039】
加えて、炭素含有率が0.150%よりも高い場合、合金は、フィラーワイヤ無しのタングステン不活性ガス(TIG)溶接時に、空孔の形成を介して溶接性を失う。実際、0.150%よりも高いレベルにおいて炭素の存在により、フィラーワイヤ無しのTIG溶接作業時に泡立ちが生じる。この場合、合金の溶接性が低下する。
【0040】
好ましくは、炭素含有率は、0.040質量%~0.075質量%の間である。この場合、合金の溶接性は、更に向上する。
【0041】
好ましくは、Mn含有率は、0.7質量%以上である。かかるマンガン含有率レベルは、更に合金の、-253℃(20K)でのマルテンサイト変態に対する安定性を向上させる。
【0042】
本発明による合金において、ケイ素含有率は、0.10質量%~0.35質量%である。これらの含有率レベルにおけるケイ素は、合金の脱酸素を可能にするのに役立つ。0.35質量%よりも高い含有率レベルにおいて、本発明によりNi、Mn及びCuの含有率レベルが調整された場合、-196℃~0℃の間の熱膨張率が、高くなり過ぎるリスクがある。
【0043】
本発明による合金は、当業者に公知の任意の適切な方法により生成することができる。例として、合金は、電子アーク炉又は誘導炉において生成され、次いで、通常の方法により取鍋精錬されるが、その方法には、特に真空酸素脱炭、又はVOD型の取鍋精錬法工程に続く、ASV型の高温の取鍋精錬技術の工程が含まれる。変法として、本発明による合金は、低残留物の原材料から真空誘導炉で生成される。
【0044】
合金を生成するための生成方法は、単に例として提供される。当業者に公知の合金を生成するための、すべての他の方法も、本目的のために使用することができる。
【0045】
本発明は、更に、上記に定義された組成を有する冷延帯に関する。冷延帯は、特に、0.5~10mmの厚さを有する。冷延帯を、極低温の管の製造のために使用することを意図している場合、冷延帯の厚さは、有利には、2mm~10mmである。冷延帯を、液化ガスの輸送用又は貯蔵用の輸送/貯蔵タンクの製造のために使用することを意図している場合、厚さは、有利には、0.5mm~2mmである。
【0046】
例として、以下の方法を、かかる冷延帯の製造のために使用する。
【0047】
上記の合金を、半製品の形態、例えば、インゴット、再溶融電極、スラブ、特に180mm未満の厚さを有する薄スラブ、又はビレットに鋳造する。
【0048】
合金を再溶融電極の形態で鋳造する場合、後者を、有利には、真空下又は導電性のスラグ溶融プロセスにより再溶融し、それにより、より純度が高く、より均質な半製品を得る。
【0049】
直接鋳造法によりこうして得られた半製品を、次いで、950℃~1300℃の間の温度にて熱間圧延し、それにより熱延帯を得る。
【0050】
熱延帯の厚さは、特に、2mm~20mm、より詳細には、2mm~10mmである。
【0051】
製造されているシート金属が、液化ガスの輸送又は貯蔵タンクを意図している場合、熱間圧延後の最終厚さは、例えば、およそ3.5mmに等しい。
【0052】
一実施形態によると、熱間圧延は、950℃~1300℃の間の温度にて、30分~24時間にわたって、半製品に実施される化学的均質化熱処理プロセスに先行する。
【0053】
熱延帯を室温まで冷却し、冷却した帯を形成し、その後、巻いてコイル状にする。
【0054】
冷却した帯を、次いで冷間圧延して、それにより有利には、0.5mm~10mmである最終厚さを有する冷延帯を得る。冷間圧延プロセスを1パス又は複数の連続パス実施する。
【0055】
製造されているシート金属が、極低温の管を意図している場合、冷間圧延後の最終厚さは、有利には、2mm~10mmである。
【0056】
製造されているシート金属が、液化ガスの輸送又は貯蔵タンクを意図している場合、冷間圧延後の最終厚さは、有利には、0.5mm~2mmである。
【0057】
必要に応じて、熱延帯に化学的酸洗い、次いでショットブラストを行い、それにより冷間圧延の前のいかなるミルスケールも除去する。
【0058】
必要に応じて、酸洗い及びショットブラストが行われたシートは研磨することにより、冷間圧延の前の粒界における侵入酸化物(oxidised penetration)を除去し、所望の粗さRaを、特に、ISO規格4287に基づいて、50μm未満とする。
【0059】
最終厚さにおいては、冷延帯を、必要に応じて、静電炉中で、10分~数時間の範囲にわたって、700℃を超える温度で、再結晶熱処理プロセスに供する。変法として、冷延帯を、連続アニール炉の中で、数秒~およそ1分の範囲にわたって、炉中の保持ゾーンで800℃を超える温度で、N2/H2型(30%/70%)の保護雰囲気下、-50℃~-15℃の凍結温度で、再結晶熱処理プロセスに供する。凍結温度は、熱処理雰囲気内に含まれる、部分的な水蒸気圧を定義する。かかる処理プロセスが実施される前に、特に、上記の酸洗い、ショットブラスト、及び研磨の工程が実施される。
【0060】
再結晶熱処理プロセスは、上記の再結晶熱処理プロセスと同一条件下、冷間圧延中、初期厚さ(熱延帯の厚さに相当)~最終圧さ間の中間体の厚さにて、必要に応じて実施される。例えば、中間体の厚さは、冷延帯の最終厚さが1.0mmの場合、1.5mmに等しくなるよう選択される。
【0061】
この合金で作製された冷延帯製造のための帯製造方法は、例としてのみ、記載される。当業者に公知の冷延帯製造のための、いかなる他の方法も、本目的のために使用することができる。
【0062】
本発明は、更に、上記の合金から作製された、極低温の管断片に関する。管断片は、特に、液化ガス、特に、液体水素を輸送することを意図している。
【0063】
第1の実施形態による管断片1を、
図1に示す。この管断片1には、長手方向の溶接を含まない。従って、溶接無しの管断片である。この管断片1は、例えば、上記の合金から作製されたビレットの押出成形の手段によって得られる。
【0064】
第2の実施形態による管断片7を、
図2に示す。管断片7は、上記の合金で作製されたシート9を含み、管の形状に曲げられ、その管の長手方向縁部12が溶接シーム15によって、互いに接合されている。管断片7の壁は、例えば、2mm~10mmの間の厚さを有する。
【0065】
溶接シームは、特に、自生溶接、すなわち、上記の合金から作製されたフィラーワイヤを使用する手段によって得られる。
【0066】
変法として、上記のものとは異なる組成を有するフィラーワイヤを使用し、フィラーワイヤの組成が、所望の特性を基準にして選択され、特に、それにより、5.5×10-6℃-1以下である、-196℃~0℃の間の平均熱膨張係数α、及びシート金属よりも優れた機械的特性を有する溶接を得る。
【0067】
本発明は、更に、かかる管断片7を製造するための管の製造方法に関する。
【0068】
方法は、上記の合金から作製されたシート9を準備することを含む。かかるシート9を、
図3に示す。シート9は、長手方向Lに沿って延びており、実質的に長手方向Lに対して平行な、長手方向縁部12を有する。シート9は、例えば、2mm~10mmの間の厚さを有する。
【0069】
方法は、このシート9を、2つの長手方向縁部12が一緒に結合されるような方法で、互いが向かい合うように曲げることで構成される工程と、それに続き、適切なフィラーワイヤを利用すること、特に、上記の合金で作製されたフィラーワイヤを利用することにより2つの長手方向縁部12を互いに溶接することで構成される工程と、を更に含む。
【0070】
この工程中に得られた溶接は、長手方向の溶接である。好ましくは、突合せ溶接である。
【0071】
本プロセスの最後に、
図2に図示したように管断片7を得るが、図中、シート9が管の形状に曲げられており、シート9の長手方向縁部12が、溶接シーム15によって、互いに接合されている。
【0072】
本発明は、更に、本発明による、極低温の管断片1、7を組み立てることにより製造される、極低温の管20に関する。管20は、特に、液化ガス特に、特に、液体水素を輸送することを意図している。
【0073】
例として、極低温の管20は、溶接シーム22によって互いに接合されている、少なくとも2つの上記の管断片1、7を含む。溶接シーム22は、管断片1、7を互いに接合するような方法で、管20の外周に沿って延びている。
【0074】
溶接シーム22は、特に、自生溶接、すなわち、上記の組成を有するフィラーワイヤを使用する手段によって得られる。
【0075】
溶接は、特に、突合せ溶接であり、好ましくは、円周溶接である。用語「円周溶接」は、溶接ツール、すなわち、特に、溶接トーチを、管断片1、7の周囲を回転させて、溶接することにより生成される溶接を指すのに使用される。
【0076】
極低温の管20の壁は、例えば、2mm~10mmの間の厚さを有する。
【0077】
図2を参照する上記の第2の実施形態により、管断片7を組み立てることにより得られた、極低温の管20は、
図4に示される。
【0078】
変法として、管20は、
図1を参照する上記の第1の実施形態により、管断片1を組み立てることにより得られる。
【0079】
本発明は、更に、上記の極低温の管20を製造するための製造方法に関する。
【0080】
本プロセスの間に、少なくとも2つの管断片1、7が準備される。各管断片1、7は、実質的には、中心線Mを有する円筒形であり、中心線Mに沿って離れている、2つの長手方向端部24を有する。
【0081】
次いで、2つの管断片1、7は、それらの長手方向端部24が、これらの管断片1、7の中心線M方向に、互いが向かい合うように配置されるような方法で位置決めされ、その後、2つの管断片1、7の向かい合う長手方向端部24を、フィラーワイヤ、特に、上記の合金で作製されたワイヤを使用して、互いに溶接する。
【0082】
有利には、この工程の間、管断片1、7の向かい合う長手方向端部24の間の突合せ溶接が、生成される。溶接は、好ましくは、円周溶接である。
【0083】
好ましくは、溶接工程には、管断片1、7を一緒に接合する前に、互いを溶接するための、管断片1、7の端部24における、機械加工のチャンファのための機械加工工程が含まれる。
【0084】
溶接工程は反復して行われ、その回数は、一緒に溶接して管20を形成するための管断片1、7の数より1少ない数に等しい。
【0085】
一実施形態によると、管断片は、上記の第1の実施形態による管断片1である。変法として、管断片は、上記の第2の実施形態による管断片7である。
【0086】
前記1つ又は複数の溶接工程の終わりに、極低温の管20が得られる。この極低温の管20は、溶接シーム22によって互いに組み立てられる、少なくとも2つの、連続する管断片1、7を含む。
【0087】
本発明は、更に、上記の合金から作製される、液化ガスの輸送用又は貯蔵用のタンクの一部分に関する。
【0088】
本発明は、更に、上記の合金から作製された、フィラーワイヤに関する。
【0089】
かかるフィラーワイヤは、特に、付加製造プロセスの状況下で、又は2つの工作物若しくは工作物の部分を互いに溶接するためのフィラーワイヤとして、使用することを意図しており、工作物又は工作物部分は、例えば、上記の合金で作製されている。
【0090】
かかるフィラーワイヤは特に、以下の方法を実施することにより生成される。
【0091】
本方法には、第1の工程に、上記の合金から作製された半製品を提供することを含む。
【0092】
この目的のために、上記の方法により生成された合金は、特に、連続鋳造、特に回転鋳造を用いて、インゴットに鋳造されるか又はビレットの形態に直接鋳造されるかのいずれかである。従って、この工程の最後に得られる半製品は、有利には、インゴット又はビレットであり、例えば、130~230mmの間、より詳細には、およそ150mmに等しい直径を有する。
【0093】
その後、半製品を、熱変形を用いて変形させ、それにより中間体ワイヤを形成する。
【0094】
特に、この熱変形工程中は、半製品、すなわち、特に、インゴット又はビレットは、特にガス炉において、1150℃~1250℃の間の温度で加熱される。
【0095】
次いで、半製品は、熱間粗圧延プロセスに供され、その後、熱間圧延プロセス、特に、ワイヤミル上で、950℃~1150℃の間の温度で、次いで、圧延ミルの出口で超クエンチプロセスが続く。中間体ワイヤは、特にワイヤロッドであってもよい。例えば、中間体ワイヤは、5mm~21mmの間の直径であり、特に、およそ、5.5mmに等しい。
【0096】
超クエンチは特に、1050℃~1150℃の間の温度での20分~120分にわたるガス炉における熱処理プロセスの後の、20℃の槽における超クエンチである。
【0097】
中間体ワイヤを、その後、剥離して、スプールの形態に巻いた。
【0098】
必要に応じて、このようにして得られた中間体ワイヤ又はワイヤロッドを、公知の型の伸線装置によって伸線し、それによりフィラーワイヤを得た。このフィラーワイヤは、初期のワイヤよりも小さな直径を有する。特に、その直径は0.5mm~3.5mmの間である。有利には、その直径は0.8mm~2.4mmの間である。
【0099】
達成される最終直径に応じて、伸線工程には、1又は複数の伸線パスを含み、好ましくは、連続する2伸線パスの間に、アニーリングプロセスを有する。このアニーリングは、例えば、還元雰囲気下で、1150℃程度の温度で、伸線の間に実施される。
【0100】
伸線工程は、好ましくは、その後、伸線されたワイヤの表面のクリーニングのプロセス、次いで、ワイヤを巻くことが続く。
【0101】
伸線パスは、冷伸線のパスである。
【0102】
特に、およそ1.6mmに等しい直径を有するフィラーワイヤの製造のために、2伸線パスが使用され、2度目の伸線パスにより、およそ1.6mmの最終直径が結果として得られる。
【0103】
1.2mmにおよそ等しい直径を有するフィラーワイヤの製造のためには、例えば、3伸線パスが使用され、2度目の伸線パスにより、およそ1.6mmの直径が結果として得られ、3度目の伸線パスにより、およそ1.2mmの最終直径が結果として得られる。
【0104】
フィラーワイヤの製造のための、ワイヤ製造方法が、例としてのみ記載される。当業者に公知のフィラーワイヤを製造するための、すべての他の適切な方法を、本目的のために使用することができる。
【0105】
本発明は、更に、上記の合金から生成される付加製造のための金属粉末に関し、スクリーニング後の金属粉末の粒径は、有利には、10μm~200μmの間である。
【0106】
かかる粉末は、例えば、上記の合金から作製されたワイヤからのプラズマ噴霧によって製造され、ワイヤは特に、およそ3mmの直径を有する。
【0107】
粉末の粒径は、特に、以下の測定方法に従い決定される。粉末のバッチを、超音波震動のステンレス鋼ふるいにより、いくつかの粒径分布に分ける。スクリーニングプロセス後に得られた粉末粒径分布の分析を、ASTM規格B214-07に従って実施する。スクリーニングにより、5分類のサイズ:<20μm-20μm~45μm-45μm~75μm-75μm~105μm->105μm、を得ることができる。
【0108】
プラズマ噴霧プロセスは、それ自体公知であり、そのため、詳述しない。
【0109】
フィラーワイヤは更に、例えば、金属付加製造プロセスの状況下で、フィラーワイヤとして使用されることが意図されている。
【0110】
付加製造プロセスは、例えば、エネルギー供給源として、アーク放電、レーザビーム及び/又は電子ビームを使用する付加製造プロセスであり、それによりフィラーワイヤの溶融をもたらす。
【0111】
特に、付加製造プロセスは、指向性エネルギー堆積の付加製造プロセスである。本プロセス中、フィラー材は、特に、ノズルによって堆積され、高濃度の熱エネルギーによって、特に、レーザビーム、電子ビーム及び/又はアーク放電によって即座に溶融される。
【0112】
例として、付加製造プロセスは、ワイヤ-アーク(「ワイヤアーク付加製造」又は「WAAM」は認められた専門用語)、ワイヤ-レーザ、ワイヤ-電子ビーム(英語での「Electron Beam Free Form Fabrication(電子ビーム自由形状造形)」又は「Electron Beam Additive Manufacturing(電子ビーム付加製造)」は認められた専門用語)、又は、ワイヤ-アーク及び粉末-レーザ若しくはワイヤ-アーク及びワイヤ-レーザ技術を組み合わせたハイブリッド付加製造プロセスに基づくプロセスである。
【0113】
これらのプロセスの状況下において使用されるワイヤは、上記のフィラーワイヤである。
【0114】
ハイブリッドな、ワイヤ-アーク及び粉末-レーザプロセスは、使用される粉末が、ワイヤと同じ組成を有する。
【0115】
本発明は、更に、
図5に概略的に表されている工作物40又は上記の合金から作製された、工作物の部分を製造するための、工作物の製造方法に関し、製造方法は、
- この合金から作製されたフィラーワイヤを準備する工程、及び
- フィラー材として、上記の合金から作製されたフィラーワイヤ及び/又は上記の合金から作製された粉末を使用する、金属付加製造プロセスによって、工作物40又は工作物部分を製造する工程、
を含む。
【0116】
付加製造プロセスは、例えば、エネルギー供給源として、アーク放電、レーザビーム及び/又は電子ビームを使用する付加製造プロセスであり、それによりフィラー材の溶融をもたらす。
【0117】
特に、付加製造プロセスは、「指向性エネルギー堆積」の付加製造プロセスである。本プロセス中、フィラー材は、特に、ノズルによって堆積され、高濃度の熱エネルギーによって、特に、レーザビーム、電子ビーム及び/又はアーク放電によって即座に溶融される。
【0118】
例として、付加製造プロセスは、ワイヤ-アーク(「ワイヤアーク付加製造」又は「WAAM」は認められた専門用語)、ワイヤ-レーザ、ワイヤ-電子ビーム(英語での「Electron Beam Free Form Fabrication(電子ビーム自由形状造形)」又は「Electron Beam Additive Manufacturing(電子ビーム付加製造)」は認められた専門用語)、又は、ワイヤ-アーク及び粉末-レーザ若しくはワイヤ-アーク及びワイヤ-レーザ技術を組み合わせたハイブリッド付加製造プロセスに基づくプロセスである。
【0119】
ワイヤ-アーク及び粉末-レーザ又はワイヤ-アーク及びワイヤ-レーザ技術を組み合わせたハイブリッド付加製造プロセスを使用する場合、粉末及びフィラーワイヤは、上記の合金から作製される。
【0120】
上述の付加製造プロセスは、それ自体公知であり、そのため、本明細書において詳述しない。
【0121】
本発明は、更に、上記の合金から作製される、金属付加製造プロセスにより得られる、工作物40又は工作物の部分に関する。
【0122】
この金属付加製造プロセスは、特に、フィラー材として、上記の合金から作製されたフィラーワイヤ及び/又は上記の合金から作製された粉末を使用する。
【0123】
金属付加製造プロセスにより得られる工作物又は工作物の部分、例えば、工作物40は、固化したままの工作物である。従って、工作物40は、考察において、合金に特有の固化ミクロ構造を有し、かかるミクロ構造は、典型的には、エピタキシによって他方の上部に一方を成長させる柱状樹状突起を含み、柱状樹状突起の配置は、生成される金属壁の幅及び高さに依存する。更に、付加製造プロセスにより得られる工作物は、その付加製造プロセスの結果として、一連の重なった層の固化層を有する。各層は、溶融金属の堆積された液滴の固化により得られるが、その前の層の表皮を再溶融し、それにより冶金学的な連続性を生じ、結果として下層の残りを再加熱する。問題の層が、溶融及び固化のプロセス中のゾーンから遠くなればなるほど、再加熱温度は、低下するであろう。この特定のミクロ構造は、工作物の金属組織学的断面上の金属組織観察によって観察することができる。
【0124】
金属付加製造プロセスにより得られる工作物40又は工作物部分は、他のプロセスにより得られた工作物とこのように区別され得、特に、均質な粒子を有する再結晶構造を生成する従来の精錬方法により得られる工作物とは区別され得る。
【0125】
工作物40又は工作物部分は、特に特殊な工作物又は工作物部分、例えば、バルブ、管接続具又は、他の何らかの工作物は、特に、極低温適用の状況下、より詳細には、液体水素の温度、例えば、液体水素の輸送及び貯蔵の状況下で使用される。
【0126】
一実施例によると、工作物40は、複数の同軸の管の間で、特に、二層の管と単層の管との間で、例えば、パイプライン内で、接続具として機能することを意図する、筒状接続具である。かかる接続具は、認められた専門用語として、「バルクヘッド」と称される。バルクヘッドは、パイプラインの分野では、周知の部品である。
【0127】
試験
試験番号1~22で使用される合金を、真空下で生成し、およそ2kgの質量の小型のインゴットを鋳造する。これらのインゴットを機械加工して、各辺が35mmかつ高さ100mmの寸法の棒にする。これらの棒を、次いで、1220℃まで8時間にわたって、アルゴンガス下で再加熱する前に、棒をおよそ1150℃で熱間圧延し、それにより750×35×4mmの寸法のシートバーを得た。
【0128】
得られたシートバー中の合金元素の化学組成を、質量%で、以下のTable 1(表1)に定義する。製造プロセスの結果として生じる、シートバー中の不純物のおよその質量含有率は、以下のTable 2(表2)内に示す。
【0129】
【0130】
上のTable 1(表1)において、本発明によらない例には、下線を引いた。
【0131】
【0132】
角柱の平面引張試験の試験片(ASTM A370規格(2019年7月)に基づき、1組成あたり2つ)及び直径3mm、長さ50mmの円筒形の膨張率試験の試験片(1組成あたり1つ)に、こうして得たシートバーから機械加工し、それにより、水素脆化感受性研究及び熱膨張測定のための試験片を得た。
【0133】
初期段階では、引張試験片を、1100℃で、4時間の期間にわたり、99.999%純粋な水素の下で、熱処理に供し、その後、炉内の低温域で急速冷却を行った。冷却期間は、およそ45秒であった。この熱処理の目的は、試験片に原子状水素(H)を添加することである。
【0134】
次の段階では、引張試験片(水素添加済み)に、2つの異なる温度で、歪速度5×10-3S-1で、予歪を与えた。
- 試験片A、液体ヘリウムの温度(-268℃)にて、10%の予歪を与えた。-268℃での予歪の目的は、合金の安定性に依存して、液体水素の熱的条件(-253℃)よりも更に過酷な熱的条件下で、多かれ少なかれマルテンサイトを生じさせることである。
- 試験片B、室温(20℃)にて、10%の予歪を与えた。室温での10%の予歪の目的は、マルテンサイトを含まないが、-268℃で歪を与えられた、マルテンサイトを含む可能性が高いものと同じ歪速度を有する参照試験片を準備することである。これらの試験片は、非脆性参照状態をもたらすであろう。
【0135】
最終的に、試験片A及びBに、低歪速度5×10-5s-1、-50℃(+/-5℃)において、平面の引張歪試験を破断に至るまで行った。このようにして実施された試験を、「-50℃における低速引張(slow tensile)・破断」試験と称す。水素添加と-50℃における低速引張試験との間の期間は、決して48時間を超えることはなかった。
【0136】
このようにして-50℃における低速引張・破断試験に供した、試験片の水素感受性を、25×光学顕微鏡を用いて測定して、全破断伸びA%及び絞りZ%=(S0-S)/S0を測定することによって評価した。S0及びSはそれぞれ、予歪前の初期の断面図及び最短の直径を有する、最終的な断面図である。これらの測定値の結果は、以下の、Table 3(表3)の、試験片A及びBに関するA%及びZ%の列に示される。
【0137】
更に、合金の膨張率ΔLを、0℃~-196℃(液体窒素の温度)間の冷却時に測定し、次いで、-196℃~0℃の間の平均熱膨張係数α[-196℃_0℃]を式:α[-196℃_0℃]=1/L0×ΔL/ΔTに基づいて計算し、式中、ΔT=0-(-196)及びL0は、試験片の初期長さ(50mm)である。これらの測定値及び計算の結果は、以下の、Table 3(表3)の、「α」の列に示される。
【0138】
それらの結果を以下のTable 3(表3)に提示する。
【0139】
【0140】
上のTable 3(表3)において、本発明によらない例には、下線を引いた。
【0141】
組成番号3~7に関して、引張試験のための標準物質は、組成番号3に対応する試験片Bである。実に、本グループ組成内において「-50℃における低速引張・破断」後の延性は、組成に依存していなかったと、考察された。
【0142】
類似の方法で、組成番号8~13に関して、引張試験のための標準物質は、組成番号8に対応する試験片Bである。組成番号14~17に関して、引張試験のための標準物質は、組成番号14に対応する試験片Bであり、組成番号18~22に関して、引張試験のための標準物質は、組成番号18にする試験片Bである。
【0143】
Ni、Mn、C及び/又はCuの含有率レベルが、それらの元素についての上記の下限レベルよりも低い、試験番号、1、2、3及び8の場合において、試験の試験片Aが、低破断伸びA(A≦10%)及び過度に低い絞り(Z≦50%)によって特徴付けられる、水素脆化を呈することが観察できる。
【0144】
室温にて、15%の予歪を与えた参照試験片Bは、正常な延性、A%は約18%及びZ%は約88%を示した。
【0145】
Ni、Mn及び/又はCuの含有率レベルが、それらの元素についての上記の上限レベルよりも高い、試験番号7、13、及び17の場合において、-196℃~0℃の間の平均熱膨張係数αは、3.0×10-6℃-1よりも大きく、低下した値を提示することが観察できる。
【0146】
試験番号22は、炭素含有率が高すぎる限りにおいて(C>0.150%)、不適合である。この場合、本発明者らは、合金は、フィラーワイヤ無しのTIG溶接の間に空孔の形成を経て、溶接性を失うことに気付いた。実際、炭素の存在により、その後、フィラーワイヤ無しのTIG溶接作業の間に泡立ちが生じる。
【0147】
試験番号4~6、9~12、14~16及び18~21の場合、それらは、本発明に基づき、条件を満たすトレードオフが、低熱膨張係数(2.0×10-6℃-1以上、3.0×10-6℃-1以下である、-196℃~0℃の間の平均熱膨張係数α)と耐水素脆化性(10%よりも大きい破断伸びA及び50%よりも大きい絞りZ)との間の、特性の観点において得られる。
【0148】
従って、これらの合金は、-196℃~0℃の間の低い平均熱膨張係数αと同時に、液体水素の温度(-253℃)にて良好な機械的特性を呈する。
【産業上の利用可能性】
【0149】
従って、本発明による合金は、液体水素(-253℃)を使用する適用における使用、特に、水素を収容するように設計された組立品、及び特に、液体水素の輸送用若しくは貯蔵用の輸送管又は輸送/貯蔵タンクの製造に関して、特に適切である。言うまでもないが、これらの合金は更に、液体水素に関するものより、更に制限の緩い極低温の適用、例えば、液体水素の沸点よりも高い沸点を有する液化ガスの輸送又は貯蔵のために使用することができる。
【符号の説明】
【0150】
1 管断片
7 管断片
9 シート
12 長手方向縁部
15 溶接シーム
20 極低温の管
20 管
22 溶接シーム
24 長手方向端部
40 工作物
L 長手方向
M 中心線
【手続補正書】
【提出日】2023-11-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量パーセントで、以下の組成:
36.5%≦Ni≦38.5%
0.50%≦Mn≦1.25%
0.001%≦Cu≦0.85%
0.040%≦C≦0.150%
0.10%≦Si≦0.35%
を有し、残部は鉄及び製造から生じる不可避の不純物である、鉄-ニッケル合金。
【請求項2】
炭素含有率が、0.040質量%~0.075質量%の間である、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
前記製造から生じる前記不可避の不純物が、質量パーセントで:
Cr≦0.5%
Co≦0.5%
S≦0.0035%
P≦0.01%
Mo<0.5%
O≦0.0025%
Ca≦0.0015%
Mg≦0.0035%
Al≦0.0085%
を含む、請求項1又は2に記載の合金。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の合金で作製された、冷延帯。
【請求項5】
請求項4に記載の冷延帯を製造するための製造方法であって、以下の連続する工程:
- 請求項1から3のいずれか一項に記載の合金を製造する工程、
- 前記合金の半製品を形成する工程、
- 前記半製品を熱間圧延し、それにより熱延帯を得る工程、
- 前記熱延帯を1又は複数パス冷間圧延し、それにより冷延帯を得る工程
を含む、製造方法。
【請求項6】
液化ガスを中に受け入れることを意図したタンク又は管の製造のための、請求項1から3のいずれか一項に記載の合金の使用。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製された、フィラーワイヤ。
【請求項8】
請求項7に記載のフィラーワイヤを製造するための製造方法であって、以下の工程:
- 請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製された半製品を準備する工程、
- 前記半製品を熱変形させ、それにより中間体ワイヤを形成する工程、及び
- 前記中間体ワイヤを、前記中間体ワイヤの直径より小さな直径を有するフィラーワイヤに変形する工程であり、伸線するステップを含む、工程、
を含む、製造方法。
【請求項9】
金属付加製造により得られる、請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製される、工作物(40)又は工作物の部分。
【請求項10】
工作物(40)又は工作物の部分を製造するための工作物製造方法であって、フィラー材として、請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製されたフィラーワイヤ及び/又は請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製された粉末を使用する、金属付加製造プロセスによって、前記工作物(40)又は工作物の部分を製造する工程を含む、製造方法。
【請求項11】
請求項7に記載のフィラーワイヤの、金属付加製造プロセスにおけるフィラーワイヤとしての使用。
【請求項12】
請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製された、金属粉末。
【請求項13】
請求項12に記載の金属粉末を製造するための製造方法であって、請求項7に記載のフィラーワイヤを準備する工程、並びに前記フィラーワイヤをプラズマ噴霧し、それにより前記金属粉末を得る工程を含む、製造方法。
【請求項14】
請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製された、管断片(1;7)。
【請求項15】
管の形状に曲げられた、請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製されたシート(9)を含み、前記シート(9)が、溶接シーム(15)により互いに接合されている長手方向縁部(12)を有する、請求項14に記載の管断片(7)。
【請求項16】
請求項15に記載の管断片(7)を製造するための製造方法であって、以下の連続する工程:
- 請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製され、2つの長手方向縁部(3)を有するシート(1)を準備する工程、
- 前記シート(1)の前記長手方向縁部(3)を互いに溶接し、それにより前記管断片(7)を形成する工程、
を含む、製造方法。
【請求項17】
請求項14又は15に記載の、少なくとも2つの管断片(1;7)を含み、2つの連続する管断片(1;7)が、溶接シーム(22)により互いに接合されている、管(20)。
【請求項18】
管(20)の製造のための製造方法であって、以下の連続する工程:
- 請求項14又は15に記載の、第1の管断片(1;7)と、請求項14又は15に記載の、第2の管断片(5)とを準備する工程であって、前記第1の管断片(1;7)及び前記第2の管断片(1;7)が、長手方向の軸(M)に沿って延びている、工程、
- 前記第1の管断片(1;7)の長手方向端部(24)が、前記第2の管断片(1;7)の長手方向端部(24)に向かい合うように、前記第1及び第2の管断片(1;7)の前記長手方向の軸(M)に沿って、配置されるような方法で、前記第1及び第2の管断片(1;7)を位置決めする工程、及び
- 前記第1及び第2の管断片(1;7)の、2つの向かい合う長手方向端部(24)を一緒に溶接する工程、
を含む、製造方法。
【請求項19】
少なくとも1つの、請求項1から3のいずれか一項に記載の合金から作製される部分を含む、タンク部分。
【請求項20】
請求項1から3のいずれか一項に記載の合金で作製された、熱延帯。
【請求項21】
請求項20に記載の熱延帯を製造するための製造方法であって、以下の連続する工程:
- 請求項1から3のいずれか一項に記載の合金を生成する工程、
- 前記合金の半製品を形成する工程、
- 前記半製品を熱間圧延し、それにより熱延帯を得る工程、
を含む、製造方法。
【国際調査報告】