(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】線維症の治療におけるマイクロRNAの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20240312BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240312BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240312BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240312BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240312BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20240312BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240312BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240312BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240312BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240312BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240312BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240312BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20240312BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240312BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20240312BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240312BHJP
A61K 47/55 20170101ALI20240312BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20240312BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240312BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240312BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240312BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240312BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20240312BHJP
C12N 15/86 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
A61K31/7105
C12N15/113 Z ZNA
A61P43/00 105
A61K48/00
A61K31/713
A61K35/761
A61K35/12
A61K35/76
A61P1/16
A61P11/00
A61P13/12
A61P17/00
A61P19/02
A61P1/16 101
A61K9/14
A61K9/127
A61K47/02
A61K47/04
A61K47/24
A61K47/55
A61K47/40
A61K47/34
A61K47/36
A61K47/42
G01N33/53 M
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553355
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(85)【翻訳文提出日】2023-10-31
(86)【国際出願番号】 EP2022055005
(87)【国際公開番号】W WO2022184650
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】102021000004763
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511197958
【氏名又は名称】フォンダッツィオーネ・テレソン・エティエッセ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・ブルネッティ・ピエッリ
(72)【発明者】
【氏名】パスクアーレ・ピッコロ
(72)【発明者】
【氏名】ローザ・フェリエロ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA30
4C076CC26
4C076CC41
4C076DD21
4C076DD21A
4C076DD70
4C076EE17
4C076EE30
4C076EE39
4C076EE41
4C076EE43
4C076EE59
4C076FF01
4C076FF11
4C084AA13
4C084MA05
4C084MA24
4C084MA43
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA751
4C084ZA752
4C084ZA761
4C084ZA762
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZA961
4C084ZA962
4C084ZB211
4C084ZB212
4C086AA01
4C086AA02
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA24
4C086MA43
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZA75
4C086ZA76
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA96
4C086ZB21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA04
4C087CA09
4C087CA12
4C087MA05
4C087MA24
4C087MA43
4C087NA14
4C087ZA59
4C087ZA75
4C087ZA76
4C087ZA81
4C087ZA89
4C087ZA96
4C087ZB21
(57)【要約】
本発明は、線維症及び線維症と関連する疾患の治療並びに/又は防止に使用するための少なくとも1つの薬剤のことを指し、前記薬剤は、miR-34b又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体とmiR-34c又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体の組合せ;或いはmiR-34b又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体或いはmiR-34c又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体からなる群から選択される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤が、
- miR-34b又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体と
miR-34c又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体の組合せ;或いは
- miR-34b又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体、或いは
- miR-34c又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体
からなる群から選択される、線維症及び線維症と関連する疾患の治療並びに/又は防止における使用のための少なくとも1つの薬剤。
【請求項2】
a)miR-34b又はmiR-34cを含むアクティブ鎖及び
b)アクティブ鎖に少なくとも60%、70%、80%、90%又は100%相補的な配列を含むパッセンジャー鎖
を含む長さ22~24塩基対の二本鎖RNA分子を含み、
任意選択で前記RNA分子が、平滑末端化されている、
請求項1に記載の使用のための薬剤。
【請求項3】
miR-34bが、配列番号3若しくは1を含む又はそれからなり、及び/又はmiR-34cが、配列番号11若しくは9を含む又はそれからなる、請求項1又は2に記載の使用のための薬剤。
【請求項4】
前記薬剤が、送達媒体中に提供され、任意選択で、前記送達媒体が、ベクター、好ましくは組換え発現ベクター若しくはウイルス性ベクター、又はナノ粒子、微小粒子、リポソーム又は他の生物学的若しくは合成小胞から選択される送達媒体、或いは脂質ナノ粒子、ポリマーに基づくナノ粒子、ポリマー-脂質ハイブリッドナノ粒子、微小粒子、マイクロスフェア、リポソーム、コロイド金粒子、グラフェン複合材、コレステロールコンジュゲート、シクロデキストラン複合体、ポリエチレンイミンポリマー、リポ多糖、ポリペプチド、多糖、リポ多糖、コラーゲン、ウイルス性媒体のペグ化を含む材料から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項5】
線維症及び線維症と関連する疾患の前記治療並びに/又は防止に使用するための、請求項1~3のいずれか一項に規定の薬剤をコードしている核酸。
【請求項6】
線維症及び線維症と関連する疾患の前記治療並びに/又は防止に使用するための、請求項1~4のいずれか一項に規定の薬剤のコード配列若しくは請求項5に記載の核酸を含み、及び/若しくは好ましくは適切なプロモーターの制御下で請求項1~4のいずれか一項に規定の薬剤を発現するベクター、好ましくは組換え発現ベクターであり、好ましくは、前記ベクターが、ウイルス性又は非ウイルス性ベクターであり、好ましくは、前記ウイルス性ベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アルファウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、単純疱疹ウイルス(HSV)ベクター、狂犬病ウイルスベクター及びシンドビスウイルスベクターから選択される、ベクター。
【請求項7】
線維症及び線維症と関連する疾患の前記治療並びに/又は防止に使用するための、請求項6に規定のベクターで形質転換した宿主細胞。
【請求項8】
線維症及び線維症と関連する疾患の前記治療に使用するための、miR-34b及び/若しくはmiR-34c又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体をコードしている核酸を含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子であり、好ましくは前記粒子が、アデノ随伴ベクターAAV8、AAV1、AAV2、AAV5又はAAV9に由来するカプシドを含み、好ましくは前記核酸が、肝細胞特異的チロキシン結合タンパク質プロモーターに作動的に連結されている、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の薬剤若しくは請求項5に記載の核酸若しくは請求項6に記載のベクター若しくは請求項7に記載の宿主細胞若しくは請求項8に記載の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子並びに少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体及び/又は希釈剤を含む、線維症及び線維症と関連する疾患の治療に使用するための医薬組成物。
【請求項10】
対象から入手した試料中のmiR-34b及び/若しくはmiR34cのレベルを決定する工程と、そのレベルを適当な対照と比較する工程とを含む、線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の診断、並びに/又は対象において線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の活性、ステージ若しくは重症度を決定すること、並びに/又は線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の治療の受容者若しくは非受容者としての対象の分類、並びに/又は医学的治療の有効性の評価、並びに/又は線維症患者若しくは線維症と関連する疾患患者における疾患の進行若しくは後退の決定、並びに/又は医学的治療に対する潜在的応答者若しくは不応答者としての患者の分類、並びに/又は患者の疾患転帰の予測、のための方法。
【請求項11】
miR-34b及びmiR-34c若しくはmiR-34b若しくはmiR-34cに特異的なプライマー及び/若しくはプローブを含む、線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の診断、並びに/又は対象において線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の活性、ステージ若しくは重症度を決定すること、並びに/又は線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の治療の受容者若しくは非受容者としての対象の分類、並びに/又は医学的治療の有効性の評価、並びに/又は線維症患者若しくは線維症と関連する疾患の患者における疾患の進行若しくは後退の決定、並びに/又は医学的治療に対する潜在的応答者若しくは不応答者としての患者の分類、並びに/又は疾患転帰の予測、のためのキットであり、miRNA単離及び/若しくは精製の手段を好ましくは更に含む、キット。
【請求項12】
線維症が、肝臓、肺、腎臓、皮膚、関節の線維症であり、及び/又は線維症と関連する前記疾患が:原発性硬化性胆管炎、原発性胆汁胆管炎、原発性家族性肝内胆汁鬱滞等の胆汁鬱滞性肝疾患、進行した線維症を好ましくは伴う非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)/非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、ウイルス性肝炎、ウィルソン病、原発性家族性肝内胆汁鬱滞、A1AT欠損、血色素症、先天性肝線維症等の肝臓に影響を及ぼす遺伝的疾患からなる群から選択される後天的又は遺伝的な疾患である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための薬剤、請求項5に記載の使用のための組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子、請求項9に記載の使用のための医薬組成物、請求項10に記載の方法又は請求項11に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維症、特に肝線維症の治療及び/又は防止に使用するためのmiR-34b若しくはmiR-34c又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体又はその組合せから選択される少なくとも1つの薬剤、関連する医薬組成物、核酸、ベクター及び宿主細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
肝線維症は、複数の原因によって誘導される慢性肝障害の結果として、肝臓に瘢痕組織が沈着することである。肝線維症は、異常な脈管構造及び再生結節によって器官構成を改変する症状であり、門脈圧亢進症、臓器不全及び肝細胞癌を最終的にもたらす症状である肝硬変に進行しうる。肝硬変は、世界中で罹患率及び死亡率の主原因であり、翌年には更に増大すると予想される。肝線維症に対する治療は主に対症的であり、肝臓移植は、進行した肝硬変における救命的選択肢でしかない。
【0003】
マイクロRNA(miRNA)は、遺伝子発現の微調整に関与する長さおよそ22ntの小さな一本鎖非コードRNAである。現在まで、いくつかのmiRNAが、肝線維症に寄与する異なるプロセスの調節、特に、肝線維症の病因において重要なステップである、筋線維芽細胞への肝星細胞(HSC)の活性化に関連している。例えば、miR-21は、HSCにおいて上方調節され、形質転換増殖因子β(TGF-β)/SMAD線維形成誘導性シグナル伝達を増大させるデカペンタプレジックホモログ7(SMAD7)に対するスモールマザーズのサイレンシングによって肝線維症を促進する。しかしながら、miR-21ノックアウト又はノックダウンが、マウスモデルにおいて肝線維症に影響を及ぼさなかったので、miR-21の線維化誘導性の役割が、最近問われるようになった。反対に、HSC濃縮miR-29aは、肝線維症の複数のモデルにおいて下方調節され、コラーゲン合成を抑制することによって抗線維化活性を発揮する。miRNAは、細胞外小胞によって放出されて、他の肝臓細胞に対する傍分泌又は内分泌エフェクターとして作用する場合もある。細胞外小胞の分泌は、肝臓損傷によって増強される。HSCによって分泌される別のmiRNAであるmiR-214は、HSCと肝細胞の両方において結合組織増殖因子(CTGF)媒介性線維成長を抑制することができ、一方好中球は、miR-223を肝細胞及びクップファー細胞へ転送し、線維症の消散を促進することができる。
【0004】
α1アンチトリプシン(AAT)欠損は、最も一般的な遺伝的疾患の1つであり、3000個体におよそ1個体が罹患する遺伝性疾患であり、肺及び肝疾患の重要な遺伝的原因である。最も一般的な異常は、ミスフォールドしたポリメロジェニック(polymerogenic)Zα1アンチトリプシン(ATZ)の産生をもたらすSERPINA1遺伝子のZバリアントである。ATZ依存的肝疾患は、新生児における肝不全から成人における慢性肝疾患及び肝細胞癌に及ぶ広範な臨床所見を有する。そのミスフォールディング及びポリメラーゼ反応のため、ATZは分泌経路を効率的に横断することができない。肝細胞の小胞体(ER)におけるATZの蓄積は、タンパク質毒性効果を有する。α1アンチトリプシンのZ対立遺伝子のホモ接合及びヘテロ接合性保因者は、肝線維症及び肝硬変を発症しやすい。線維症は重大な健康問題であり、その根底にある発病機序を解明することは、標的治療薬剤の開発への潜在性を有する。従って、線維症を治療することができる治療的薬剤の必要性が依然として感じられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,168,062号
【特許文献2】米国特許第5,385,839号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Rooij and Kauppinen、EMBO Mol Med.、2014年、6(7): 851~864頁
【非特許文献2】Dijkemaら、EMBO J. (1985年) 4:761頁
【非特許文献3】Gormanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1982年b) 79:6777頁
【非特許文献4】Boshartら、Cell (1985年) 41:521頁
【非特許文献5】Pharmaceutics and Pharmacy Practice、J. B. Lippincott Co.、フィラデルフィア、Pa.、Banker and Chalmers編、238~250頁(1982年)
【非特許文献6】ASHP Handbook on Injectable Drugs、Toissel、第4版、622~630頁(1986年)
【非特許文献7】Remington's Pharmaceutical Science、(第17版、Mack Publishing Company、イーストン、PA、1985年)
【非特許文献8】https://sourceforge.net/projects/bbmap/
【非特許文献9】www.broadinstitute.org/gsea
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロRNA(miRNA)の発現はいくつかの肝疾患において影響を受け、病因の異なる疾患の間で固有のプロファイルを持つ。ここで、本発明者らは、ヒトATZを発現するトランスジェニック動物モデルであるPiZマウスの肝臓において差異的に発現されるmiRNAを調査した。本発明者らは、患者由来肝臓試料において最も関連のある発見を次いで確認した。肝線維症、その発現に影響を及ぼす上流分子、及びそのエフェクターに関係する重要なmiRNAを同定後、本発明者らは、この新たに同定された経路が肝線維症の様々なマウスモデルに関係していることを示した。
【0008】
特に、α1アンチトリプシンのZ対立遺伝子を発現するマウス及びヒト試料において、本発明者らは、miR-34bとmiR-34cの両方が、Ser574におけるJNKリン酸化によるFOXO3の活性化によって上方調節されることを発見した。miR-34b及びmiR-34cの欠失は、肝線維症の早い発症及びmiR-34b及びcの標的であるPDGF経路のシグナル伝達の増大をもたらす。JNK活性化されたFOXO3並びにmiR-34b及びmiR-34cの上方調節も、肝線維症のいくつかのマウスモデルにおいて起こる。
【0009】
次いで、本発明者らは、肝線維症におけるmiR-34b及びmiR-34cの役割を本明細書において調査し、複数のモデルを使用してマウス及びヒト細胞培養システムにおいてmiR-34b及びmiR-34cの抗線維化活性を見出し、miR-34b及び/又はmiR-34cが抗線維化薬物として使用されうることを示した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
肝線維症は慢性肝疾患の主要な合併症であり、複雑な分子ネットワークによって統制されている。マイクロRNAが、肝線維症を含めたいくつかの病態生理学的プロセスを調節することが判明している。mir-34ファミリーは、いくつかの慢性肝障害に応答して上方調節され、本発明者らは、miR-34b及び/又はmiR-34cが血小板由来成長因子シグナル伝達をサイレンシングし、従って肝線維症から保護することを本明細書において見出した。本発明者らは、様々なマウスモデルにおける肝線維症に対するmiR-34b及び/又はmiR-34cの保護効果を更に示す。miR-34b及び/又はmiR-34cは、肝線維症の発症において重要な事象であるヒト肝星細胞のTGF-β媒介性活性化を弱めるのに有効であり、それによって肝星細胞の活性化を阻害し、コラーゲン生合成を直接阻害する。最後に、本発明者らは、miR-34b及び/又はmiR-34cの肝細胞特異的送達が、肝線維症の2種の独立したマウスモデルにおいて肝線維症を有意に改善することを発見した。結論として、抗線維化活性がmiR-34b及び/又はmiR-34cについて示され、従って肝線維形成に対する新規の治療法が示された。
【0011】
本発明者らは、miR-34b-5p及びmiR-34c-5p(本明細書において、miR-34b及びmiR-34cと定義される)が、肝細胞において主に上方調節され、肝線維症を起こしやすい障害であるα1アンチトリプシン欠損による肝疾患において血小板由来増殖因子(PDGF)シグナル伝達を阻害することによって線維症を防止することを見出した。更に、本発明者らは、miR-34b及びmiR-34cの上方調節が、肝線維症の他のいくつかのマウスモデルにおいて起こることも見出し、このことは、miR-34b及びmiR-34cが抗線維化機序として線維症により広く関与していることを示唆した。
【0012】
α1アンチトリプシン(AAT)欠損は、肺及び肝疾患を示す一般的な遺伝的疾患である。AAT欠損は、AATをコードしているSERPINA1遺伝子の病原性バリアントに起因し、SERPINA1の一般的な突然変異体Z対立遺伝子は、肝細胞の小胞体中に保持される肝毒性ポリマーを形成するタンパク質であるATZをコードしている。PiZマウスは、ヒトATZを発現し、AAT欠損のヒト肝疾患を調査するための有益なモデルである。本明細書において本発明者らは、PiZと対照マウスの間のmiRNAの差異的発現を調査し、本発明者らは、miR-34b及びmiR-34cが上方調節され、そのレベルが肝内ATZと相関することを見出した。更に、PiZマウスの肝臓において、本発明者らは、miR-34b及びc発現を駆動するFOXO3が活性化され、miR-34b及びmiR-34c発現が、Ser574におけるJNKリン酸化に依存することを見出した。PiZマウスにおけるmiR-34b及び/又はmiR-34cの欠失は、肝線維症の早期の発症並びにmiR-34b及びmiR-34cの標的であるPDGFシグナル伝達の増大をもたらした。FOXO3の活性化及びmiR-34cの増大が、AAT欠損のヒト肝臓において確認された。加えて、JNK活性化されたFOXO3並びにmiR-34b及びmiR-34cの上方調節が、肝線維症のいくつかのマウスモデルにおいて検出された。従って、本発明者らは、肝線維症に関係し、肝線維症の遺伝及び後天的原因の両方に潜在的に関わる新規の経路を明らかにした。
【0013】
従って、本発明の目的は、線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の治療並びに/又は防止に使用するための少なくとも1つの薬剤であり、前記薬剤は、
- (i) miR-34b又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体と
(ii) miR-34c又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体の組合せ;或いは
- miR-34b又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体、或いは
- miR-34c又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体
からなる群から選択される。
【0014】
上で定義した薬剤の2種以上の任意の組合せが、本発明に含まれる。
【0015】
好ましくは、前記薬剤は、miR-34b又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体とmiR-34c又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体の組合せである;或いは、miR-34b又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体である。
【0016】
好ましくは、薬剤は:
a)miR-34b又はmiR-34cを含むアクティブ鎖及び
b)アクティブ鎖に少なくとも60%、70%、80%、90%又は100%相補的な配列を含むパッセンジャー鎖
を含む長さ22~24塩基対の二本鎖RNA分子を含み、
任意選択で前記RNA分子は、平滑末端化されている。
【0017】
好ましくは、miR-34bは、配列番号3若しくは1を含む又はそれからなる。好ましくは、miR-34cは、配列番号11若しくは9を含む又はそれからなる。
【0018】
好ましくは、薬剤は送達媒体中に提供され、任意選択で、送達媒体は、ベクター、好ましくは組換え発現ベクター若しくはウイルス性ベクター、又はナノ粒子、微小粒子、リポソーム又は他の生物学的若しくは合成小胞から選択される送達媒体、或いは脂質ナノ粒子、ポリマーに基づくナノ粒子、ポリマー-脂質ハイブリッドナノ粒子、微小粒子、マイクロスフェア、リポソーム、コロイド金粒子、グラフェン複合材、コレステロールコンジュゲート、シクロデキストラン複合体、ポリエチレンイミンポリマー、リポ多糖、ポリペプチド、多糖、リポ多糖、コラーゲン、ウイルス性媒体のペグ化を含む材料から選択される。
【0019】
本発明の別の目的は、線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の治療並びに/又は防止に使用するための、本明細書に定義される薬剤をコードしている核酸である。
【0020】
本発明の更なる目的は、線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の治療並びに/又は防止に使用するための、本明細書に定義される薬剤のコード配列若しくは上で定義される核酸を含み、及び/若しくは好ましくは適切なプロモーターの制御下で本明細書に定義される薬剤を発現する、ベクター、好ましくは組換え発現ベクターである。好ましくは、ベクターは、ウイルス性又は非ウイルス性ベクターであり、好ましくは、ウイルス性ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アルファウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、単純疱疹ウイルス(HSV)ベクター、狂犬病ウイルスベクター及びシンドビスウイルスベクターから選択される。
【0021】
本発明の別の目的は、線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の治療並びに/又は防止に使用するための上で定義したベクターで形質転換された宿主細胞である。
【0022】
本発明の更なる目的は、線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の治療に使用するための、miR-34b及び/若しくはmiR-34c又はその前駆体若しくは模倣体若しくは機能的誘導体をコードしている核酸を含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子であり、好ましくは、粒子は、アデノ随伴ベクターAAV8、AAV1、AAV2、AAV5又はAAV9に由来するカプシドを含み、好ましくは、核酸は、肝細胞特異的チロキシン結合タンパク質プロモーターに作動的に連結されている。
【0023】
本発明の別の目的は、薬剤若しくは核酸若しくはベクター若しくは宿主細胞又は本明細書に定義される組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子並びに少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体及び/若しくは希釈剤を含む、線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の治療に使用するための医薬組成物である。
【0024】
本発明の更なる目的は、対象から入手した試料中のmiR-34b及び/若しくはmiR34cのレベルを決定する工程と、そのレベルを適当な対照と比較する工程とを含む、線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の診断、並びに/又は対象において線維症の活性、ステージ若しくは重症度を決定すること、並びに/又は、線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の治療の受容者若しくは非受容者としての対象の分類、並びに/又は医学的治療の有効性の評価、並びに/又は線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の患者における疾患の進行若しくは後退の決定、並びに/又は医学的治療に対する潜在的応答者若しくは不応答者としての患者の分類、並びに/又は患者の疾患転帰の予測、のための方法である。
【0025】
本発明の別の目的は、miR-34b及びmiR-34c若しくはmiR-34b若しくはmiR-34cに特異的なプライマー及び/若しくはプローブを含む、線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の診断、並びに/又は対象において線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の活性、ステージ若しくは重症度を決定すること、並びに/又は線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の治療の受容者若しくは非受容者としての対象の分類、並びに/又は医学的治療の有効性の評価、並びに/又は線維症及び/若しくは線維症と関連する疾患の患者における疾患の進行若しくは後退の決定、並びに/又は医学的治療に対する潜在的応答者若しくは不応答者としての患者の分類、並びに/又は疾患転帰の予測、のためのキットであり、キットは、miRNA単離及び/若しくは精製の手段を好ましくは更に含む。
【0026】
好ましくは、線維症は、肝臓、肺、腎臓、皮膚、関節、更により好ましくは肝臓又は肺の線維症である。
【0027】
好ましくは、線維症と関連する疾患は:原発性硬化性胆管炎、原発性胆汁胆管炎、原発性家族性肝内胆汁鬱滞等の胆汁鬱滞性肝疾患、進行した線維症を好ましくは伴う非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)/非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、ウイルス性肝炎、ウィルソン病、原発性家族性肝内胆汁鬱滞、A1AT欠損、血色素症、先天性肝線維症等の肝臓に影響を及ぼす遺伝的疾患からなる群から選択される後天的又は遺伝的疾患である。
【0028】
線維症は、任意のステージでありうる。実施形態において、線維症は進行したステージである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
マイクロRNA(miRNA)は、遺伝子発現の調節に重要な役割を演ずる非コードRNAの一クラスである。miRNAの大多数は、DNA配列から一次miRNAに転写され、前駆体miRNA、最終的に成熟miRNAにプロセッシングされる。ほとんどの場合、miRNAは、標的mRNAの3'非翻訳領域(3'UTR)と相互作用して、mRNAの分解及び翻訳抑制を誘導する。しかしながら、miRNAと5'UTR、コード配列及び遺伝子プロモーターを含めた他の領域との相互作用も報告されている。
【0030】
シード配列は、miRNAがmRNAに結合するのに必須である。シード配列又はシード領域は、miRNAの5'末端から2~7位に大部分が位置する保存されている7塩基配列である。シードの一致に加えて、追加の配列の特徴が、miRNA-標的認識及びサイレンシング効率に影響を及ぼすことが示された。
【0031】
miRNAは、mRNA転写産物の3'UTRにしばしば相補的である、しかしながら、本発明のmiRNAは、標的mRNAの任意の領域を結合することができる。或いは又は加えて、miRNAは、標的としたmRNAをコードしている遺伝子に対応するメチル化ゲノム部位を標的とする。
【0032】
成熟miRNAは、長さ約19~24ヌクレオチド(及びその間の任意の範囲)、特に21、22又は23ヌクレオチドを有しうる。しかしながら、miRNAは、長さ約70~約100ヌクレオチドを有しうる前駆体(プレmiRNA)として提供される場合もある。前駆体は、約100ヌクレオチドを超える長さを有しうる一次転写産物(pri-miRNA)のプロセッシングによって生産される場合もある。従ってmiRNAは、通常一本鎖分子でもよく、miRNA前駆体は、二本鎖部分、例えばステムループ構造を形成する能力がある少なくとも部分的に自己相補的な分子の形態の場合もある。miRNA、プレmiRNA及びpri-miRNA分子をコードしているDNA分子も、本発明に包含される。核酸は、RNA、DNA、又は糖若しくは骨格が修飾されたリボヌクレオチド若しくはデオキシリボヌクレオチド等の核酸類似体分子から選択されうる。しかしながら、ペプチド核酸(PNA)又はロック核酸(LNA)等の他の核類似体も適切でありうることに留意されたい。
【0033】
本発明のmiRNAには、miRNA34b及び/又はmiRNA34c並びにそのホモログ、類似体及びオルソログ、一次miRNA分子、前駆体miRNA分子、成熟miRNA分子及び前記miRNAをコードしているDNA分子がある。
【0034】
本発明の文脈において用語「miR34b」、「miR-34b」、「miRNA-34b」、「マイクロRNA-34b」、「miR-34b-5p」は、互換的に使用される。本発明の文脈において用語「miR34c」、「miR-34c」、「miRNA-34c」、「マイクロRNA-34c」、「miR-34c-5p」は、互換的に使用される。本発明の中で、小文字は、ゲノムDNA及びRNA転写産物を含むがこれに限定されないDNAとRNA分子両方を示すために使用される。使用する場合、大文字は、ゲノムmiRNA配列を示す。
【0035】
好都合には、用語「miR34b」及び「miR34c」は、そのホモログ、類似体及びオルソログ、一次miRNA分子、前駆体miRNA分子、成熟miRNA分子及び前記miRNAをコードしているDNA分子を包含する。そのような用語は、miR-34b-5p、miR-34b-3p、miR-34c-5p及びmiR-34c-3pを含む。任意選択で、miR34b及び/又はmiR-34cは、miR-34b-3p及び/又はmiR-34c-3pを含まない。
【0036】
本明細書では、miR34b/cは、miR34b、miR34c及び/又はmiR34bとmiR34cの組合せを意味する。
【0037】
本発明のmiRNAは、miR34bとmiR34cの組合せ、そのホモログ及び類似体でもよく、miR34b及びmiR34cは、一次miRNA分子、前駆体miRNA分子、成熟miRNA分子及び前記miRNAをコードしているDNA分子でもよい。好都合には、miR34b及びmiR34cの前記組合せは、一次転写産物若しくは前記一次転写産物をコードしているDNAとして、多シストロン性若しくは双シストロン性DNA分子として単一のヌクレオチド配列又は複数のヌクレオチド配列中にコードされていてもよく、例えば、2つのmiRNAをコードしているDNA配列は、リボソームを動員し、キャップ非依存的翻訳を可能にする配列、例えば(それだけには限らないが) IRES又はE2A配列によって連結されている。
【0038】
本明細書に定義されるように、用語miRNAの「機能的誘導体」とは、対応する野生型miRNAと100%未満の同一性を有し、対応する野生型miRNAの生物学的活性を1つ又は複数保有するmiRNAのことを指す。そのような生物学的活性の例には、標的RNA分子の発現の阻害(例えば、標的mRNA分子の翻訳を阻害する及び/又は標的mRNA分子の安定性をモジュレートする)及びそれに関連する細胞プロセスの阻害があるが、これに限定されない。これら機能的誘導体には、種バリアント及びmiRNAをコードしている遺伝子における1つ又は複数の突然変異(例えば、置換、欠失、挿入)の結果であるバリアントがある。特定の実施形態において、バリアントは、対応する野生型miRNAと少なくとも約87%、90%、95%、98%、又は99%同一である。機能的誘導体は、miRNAの「機能的断片」、即ち全長分子(更にその種及び突然変異体バリアント)より短く、対応する野生型miRNAの生物学的活性を1つ又は複数保有するmiRNAの部分も包含する。特定の実施形態において、生物学的に活性な断片は、長さが少なくとも約7、10、12、15又は17ヌクレオチドである。他の実施形態において、生物学的に活性な断片は、少なくとも7又はより多くのヌクレオチド、好ましくは少なくとも8又はより多くのヌクレオチドである。機能的誘導体は、miRNAと比較してより長い配列又はシフトした配列を含んでもよく;任意選択で、機能的誘導体は、前記miRNAゲノム配列より長い配列又はシフトした配列を含んでもよい。
【0039】
用語「機能的誘導体」は:
- miR-34b成熟配列に対して少なくとも87%の配列同一性がある配列を含む、成熟miR-34bのバリアントであって、任意選択で、SEED配列GGCAGUGが保存されている(即ちヌクレオチド変化がSEED配列内にない)バリアント、又は前記miRNAをコードしているDNA分子、
- miR-34b成熟配列に対して少なくとも86%の配列同一性がある配列を含む、成熟miR-34bのバリアントであって、前記パーセンテージが、シードを含まない配列において算出され、任意選択で、SEED配列GGCAGUGが保存されている(即ちヌクレオチド変化がSEED配列内にない)バリアント、又は前記miRNAをコードしているDNA分子、
- miR-34c成熟配列に対して少なくとも86%の配列同一性がある配列を含む、成熟miR-34cのバリアントであって、任意選択で、SEED配列GGCAGUGが保存されている(即ちヌクレオチド変化がSEED配列内にない)バリアント、又は前記miRNAをコードしているDNA分子、
- miR-34c成熟配列に対して少なくとも81%の配列同一性がある配列を含む、成熟miR-34cのバリアントであって、前記パーセンテージが、シードを含まない配列において算出され、任意選択で、SEED配列GGCAGUGが保存されている(即ちヌクレオチド変化がSEED配列内にない)バリアント、又は前記miRNAをコードしているDNA分子、
も含む。
【0040】
参照配列に対して少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%同一性がある配列を含む本発明の一次miRNA及び前駆体miRNAのバリアント、又は前記miRNAをコードしているDNA分子も本発明に含まれる。
【0041】
本発明の成熟miRNAは、miR34aの配列、即ち配列番号21及び24からならない。
【0042】
本明細書において意図される通り、前駆体は、一次miRNA及び/又は前駆体miRNAでもよい。
【0043】
本発明は、miR-34b及び/又はmiR-34cのレベル、活性、機能及び/又は有効性を増大させる能力がある薬剤を包含する。本発明の意味において薬剤は、核酸、ペプチド又はペプチド模倣体、抗体若しくは抗体断片、小分子、アゴニスト、アンタゴニスト、アプタマーでありうる。好ましい薬剤は、miR34b及び/又はmiR34cの一次miRNA分子、前駆体miRNA分子、成熟miRNA分子、miRNA模倣体若しくはその混合物、前記一次miRNA分子、前駆体miRNA分子、成熟miRNA分子、miRNA模倣体若しくはその混合物をコードするDNA分子である。好ましくは、ペプチドは、JNK1/2(Gene ID: 51528及び5601)及びFOXO3(Gene ID: 2309)である。
【0044】
本発明の薬剤は、アゴニスト、アンタゴニスト、アプタマーでもよく、アゴニストは、本発明のmiRNAのレベル、活性、機能及び/又は有効性を直接増大させる分子を意図し;アンタゴニスト及びアプタマーは、分子の活性を拮抗する分子又は本発明のmiRNAの不活性化をもたらす因子を意図し、本発明のmiRNAのレベル、活性、機能及び/又は有効性を間接的に増大させる。
【0045】
本明細書では、用語「miRNA模倣体」は、二本鎖miRNA様RNA断片のことを指す。そのようなmiRNA模倣体は、標的mRNAに固有の3'UTR内の選択された配列に対して部分的に相補的なモチーフを持つ5'末端を有するように設計される。細胞に導入されると、内在性miRNAを模倣するmiRNA模倣体は、その標的mRNAに結合し、その翻訳を阻害し、及び/又はその安定性をモジュレートすることができる。内在性miRNAと異なり、miR模倣体は、mRNA 3'UTRと完全な相補性の領域を増大させることによって遺伝子特異的様式で作用するように作製されうる。しばしば、miRNA模倣体は、安定性及び/又は細胞取り込みを改善するために化学修飾を保有するように作製される(Rooij and Kauppinen、EMBO Mol Med.、2014年、6(7): 851~864頁、その全体を参照により本明細書に組み込む)。そのような二本鎖miRNA模倣体において、対象となるmiRNAと同一の鎖は、ガイド(アンチセンス)鎖であり、反対(パッセンジャー又はセンス)鎖はより不安定であり、例えばコレステロール等の分子に連結して細胞取り込みを増強させることができる。加えて、パッセンジャー鎖は、RISCローディングを防止するために化学修飾を含有してもよく、一方で迅速な分解を確実にするために更に無修飾のままである。miRISCが、ガイド鎖をmiRNAとして認識する必要があるので、ガイド鎖に使用されうる化学修飾は限定される。例えば、2¢フルオロ(2¢-F)修飾は、エキソヌクレアーゼに対する保護に役立ち、それゆえ、ガイド鎖をより安定にするが、RISCローディングと干渉しない(Rooij and Kauppinen、EMBO Mol Med.、2014年、6(7): 851~864頁、その全体を参照により本明細書に組み込む)。好ましくは、追加の治療薬剤は、上で開示される薬剤と共に投与される。
【0046】
本開示の意味において送達媒体は、本明細書に定義されるベクター又は本明細書に定義されるナノ粒子、微小粒子若しくはリポソームを含むがこれに限定されない送達システム若しくは粒子でありうる。
【0047】
用語「ベクター」、「発現ベクター」及び「発現構築物」、「組換え発現ベクター」、「組換え発現構築物」、「組換えベクター」は、対象となる核酸を細胞内部に送達し、細胞内でのその発現を媒介するために使用されうる組成物を指すために互換的に使用される。最も一般的に使用されるベクターの例は、自己複製するプラスミド及びウイルスである(例えばアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)、レンチウイルスベクター、シンドビスウイルスベクター、等)。発現構築物は、生細胞内で複製されうる、又は合成によって作製されうる。一実施形態において、発現ベクターは、ポリヌクレオチド(例えば、miR-34b及び/又はmiR-34c又はその機能的誘導体若しくは模倣体をコードしているポリヌクレオチド)に作動的に連結されたプロモーターを含み、そのプロモーターは、RNAポリメラーゼによる転写の開始及びポリヌクレオチドの発現を制御する。哺乳動物細胞発現の典型的なプロモーターには、例えば、SV40初期プロモーター、CMV前初期プロモーター(例えば、米国特許第5,168,062号及び第5,385,839号を参照のこと、その両方は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、マウス乳癌ウイルスLTRプロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP)、単純疱疹ウイルスプロモーター、マウスメタロチオネイン遺伝子プロモーター及びU6又はH1 RNA pol IIIプロモーターがある。本開示の方法においてmiR-34b及び/又はmiR-34cを発現するのに有用なプロモーターの非限定的な例には、肝細胞特異的プロモーター、例えばチロキシン結合タンパク質プロモーターを含むがこれに限定されない肝臓特異的プロモーター、肺特異的プロモーター、例えばサーファクタントタンパク質B遺伝子プロモーター、腎臓特異的プロモーター、例えば腎臓特異的カドヘリンプロモーター、皮膚プロモーター、例えば表皮基底層のケラチノサイトへの遺伝子発現を標的とするケラチン14プロモーター、樹状細胞への遺伝子発現を標的とするCD11cプロモーター、成熟樹状細胞への遺伝子発現を標的とするファシンプロモーター;関節特異的プロモーター、シナプシンプロモーター(ニューロン特異的)、CamKIIaプロモーター(興奮性ニューロン特異的)、ユビキチンプロモーター、CAGプロモーター、CMVプロモーター及びbアクチンプロモーターがある。これら及び他のプロモーターは、当業者に周知の技術を使用して市販のプラスミドから入手することができる。例えば上記、Sambrookらを参照のこと。エンハンサーエレメントは、ベクターの発現レベルを増大させるためにプロモーターと関連して使用されてもよい。例には、Dijkemaら、EMBO J. (1985年) 4:761頁に記載のSV40初期遺伝子エンハンサー、Gormanら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982年b) 79:6777頁、その全体を参照により本明細書に組み込む、に記載のニワトリ肉腫ウイルスの長い末端反復配列(LTR)に由来するエンハンサー/プロモーター、及びBoshartら、Cell (1985年) 41:521頁、その全体を参照により本明細書に組み込む、に記載のCMVイントロンA配列中に含まれるエレメント等ヒトCMVに由来するエレメントがある。
【0048】
一般に、転写ターミネータ/ポリアデニル化シグナルも、発現ベクター内に存在することになる。
【0049】
本発明の組換え発現ベクターは、任意の適切な組換え発現ベクターでありえ、任意の適切な宿主を形質転換又はトランスフェクトするために使用されうる。適切なベクターは、プラスミド並びにウイルス等、増殖及び拡大用若しくは発現用又は両方のために設計されたものを含む。本発明の組換え発現ベクターは、例えば、上記Sambrookら、及び上記Ausubelら、に記載の標準的な組換えDNA技術を使用して調製されうる。環状又は直鎖状である発現ベクターの構築物は、原核又は真核生物宿主細胞において機能的な複製系を含有するように調製されうる。
【0050】
複製系は、例えば、CoIE1、2μプラスミド、λ、SV40、ウシ乳頭腫ウイルス、等から得ることができる。
【0051】
望ましくは、組換え発現ベクターは、ベクターが導入される宿主の型(例えば、細菌、真菌、植物又は動物)に特異的な転写並びに翻訳開始及び終結コドン等の調節配列を適宜含み、ベクターがDNAに基づくかRNAに基づくかを考慮する。組換え発現ベクターは、形質転換又はトランスフェクトされた宿主の選択を可能にする1つ若しくは複数のマーカー遺伝子を含むことができる。
【0052】
組換え発現ベクターは、miR-34b、miR-34c及び/若しくはその模倣体(機能的部分及びその機能的バリアントを含める)をコードしているヌクレオチド配列、若しくはRNAをコードしているヌクレオチド配列に相補的な若しくはハイブリダイズするヌクレオチド配列に作動的に連結された天然の又は標準的なプロモーターを含むことができる。例えば、強い、弱い、誘導可能、組織特異的及び発達特異的といったプロモーターの選択は、当業者の通常技術の範囲内である。同様に、プロモーターとヌクレオチド配列を組み合わせることも、当業者の技術の範囲内である。プロモーターは、非ウイルス性プロモーター又はウイルス性プロモーター、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモーター、及びマウス幹細胞ウイルスの長い末端反復配列に見出されるプロモーターでありうる。好ましいプロモーターは、チロキシン結合タンパク質プロモーターである。
【0053】
組換え発現ベクターは、一過性発現、安定発現のいずれか、又は両方用として設計されうる。また、組換え発現ベクターは、構成的発現又は誘導可能な発現用として作製されうる。
【0054】
MiRのレベルは、ハイブリダイゼーション、アレイに基づくアッセイ、PCRに基づくアッセイ、及び配列決定から選択される方法を使用して好ましくは決定され、PCRに基づくアッセイは定量的PCR(qPCR)である。MiRのレベルは、治療の投与前又は治療の投与前と後の両方で好ましくは決定される。
【0055】
本発明の核酸分子は、化学合成方法によって、又は組換え方法、例えば合成DNA鋳型若しくは組換え生物から単離されるDNAプラスミドからの酵素的転写によって入手されうる。一般に、T7、T3又はSP6 RNAポリメラーゼ等の、ファージRNAポリメラーゼが転写に使用される。
【0056】
本発明の意味における薬剤は、発現制御配列に作動的に連結された組換え核酸を含む組換え発現ベクターを含むこともでき、発現、即ち転写及び任意選択で更なるプロセッシングは、上記の通りmiRNA分子又はmiRNA前駆体(pri又はプレmiRNA)分子をもたらす。ベクターは、真核生物、より具体的には哺乳動物細胞における核酸発現用として適切な発現ベクターでありうる。前記ベクターに含有される組換え核酸は、miRNA分子自体、更にプロセッシングされてmiRNA分子を与えうるその前駆体又は一次転写産物の転写をもたらす配列でありうる。
【0057】
送達系又は媒体は、ウイルス性又は非ウイルス性起源のベクターでありうる。
【0058】
上で定義した本発明の薬剤のための他の送達系又は媒体は、ナノ粒子、微小粒子、リポソーム又は他の生物学的若しくは合成小胞若しくは材料を含む。
【0059】
前記送達系又は媒体の追加の非限定的な例には、それだけには限らないが、脂質ナノ粒子、ポリマーに基づくナノ粒子、ポリマー-脂質ハイブリッドナノ粒子、微小粒子、マイクロスフェア、リポソーム、コロイド金粒子、グラフェン複合材、コレステロールコンジュゲート、シクロデキストラン複合体、ポリエチレンイミンポリマー、リポ多糖、ポリペプチド、多糖、リポ多糖、コラーゲン、ウイルス性媒体のペグ化がある。
【0060】
一部の態様において、本発明の薬剤は、少なくとも1つの修飾ヌクレオチド類似体を含有してもよく、即ち天然に存在するリボヌクレオチド若しくはデオキシリボヌクレオチドが、天然に存在しないヌクレオチドによって置換されているRNA又はDNA分子でもよい。修飾ヌクレオチド類似体は、核酸分子の例えば5'末端及び/又は3'末端に位置することができる。
【0061】
ヌクレオチド類似体は、糖又は骨格が修飾されたリボヌクレオチドから選択されてもよい。しかしながら、5位で修飾されているウリジン若しくはシチジン、例えば5-(2-アミノ)プロピルウリジン、5-ブロモウリジン; 8位で修飾されているアデノシン及びグアノシン、例えば8-ブロモグアノシン;デアザヌクレオチド、例えば7-デアザアデノシン; O及びN-アルキル化ヌクレオチド、例えばN6-メチルアデノシン等の核酸塩基修飾リボヌクレオチド、即ち天然に存在する核酸塩基の代わりに天然に存在しない核酸塩基を含有するリボヌクレオチドも、適していることに留意されたい。糖修飾リボヌクレオチドにおいて、2'-OH基は、H、OR、R、ハロゲン、SH、SR、NH2、NHR、NR2又はCNから選択される基によって置きかえられ、Rは、C1~C6アルキル、アルケニル又はアルキニルであり、ハロゲンは、F、CI、Br又はIである。好ましい骨格修飾リボヌクレオチドにおいて、隣接するリボヌクレオチドに接続しているリン酸エステル基は、修飾された基、例えばホスホチオエート基に置きかえられる。上の修飾が、組み合わされてもよいことに留意されたい。
【0062】
本発明において、「miR模倣体又は模倣物」は、小さな二本鎖RNAオリゴヌクレオチドであり、化学修飾されることができ、内在性miRNAを模倣し;模倣体又は模倣物の配列は、成熟miRNAの配列を含む又はそれに対応する。
【0063】
miR34b及び/又はmiR34cの模倣体若しくは模倣物は、当業者に公知の多くの技術によって生産されうる。リボース糖の2'水酸基は、メチル化等によってアルキル化して、分子の安定性を増大させることができる。また、リボース糖は、2'位で水酸基を水素と置きかえる、従ってDNA骨格を生成することによって修飾されてもよい。また、RNA配列の任意のウラシル塩基が、チミンに置きかえられてもよい。これらは、当業者によって実行されうる考え得る修飾のほんのいくつかの非限定的な例である。
【0064】
miR及びその模倣体は、少なくとも1つの賦形剤(例えば、薬学的に許容可能な賦形剤)、及び他の治療的薬剤(例えば、他のmiR及び/又はその模倣体)を含むことができる組成物(例えば、医薬組成物)で投与されうる。組成物は、非経口、局所、経口又は局所投与を含めた任意の適切な経路によって投与されうる。
【0065】
本発明のオリゴヌクレオチドの投与は、公知の方法によって実施されえ、核酸は、所望の標的細胞にin vitro又はin vivoで導入される。本発明の態様は、送達媒体内に含まれた核酸構築物を含む。送達媒体は、それによってヌクレオチド配列が少なくとも1つのメディアから別のメディアに輸送されうる実体である。送達媒体は、核酸構築物内にコードされる配列の発現及び/又は構築物の細胞内送達のために一般に使用されうる。送達媒体が、RNAに基づく媒体、DNAに基づく媒体/ベクター、脂質に基づく媒体、ウイルスに基づく媒体及び細胞に基づく媒体、タンパク質に基づく媒体、ポリマーに基づく媒体の群から選択される媒体でありうることは、本発明の範囲内である。そのような送達媒体の例には:生分解性ポリマーマイクロスフェア、リポソーム担体等の脂質に基づく製剤、コロイド金粒子上への構築物のコーティング、リポ多糖、ポリペプチド、多糖、ウイルス性媒体のペグ化がある。
【0066】
本発明の一実施形態は、送達媒体としてウイルスを含んでもよく、ウイルスは:アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、フォーミーウイルス、サイトメガロウイルス、セムリキ森林ウイルス、ポックスウイルス、RNAウイルスベクター及びDNAウイルスベクターから選択されうる。そのようなウイルス性ベクターは当業者に周知である。
【0067】
一般的に使用される遺伝子導入技術には、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、トランスフェクション、エレクトロポレーション及びマイクロインジェクション並びにウイルス性の方法がある。細胞へDNAを導入するための別の技術は、陽イオン性リポソームの使用である。例えば、市販されている陽イオン性脂質製剤は、Tfx 50(Promega社)又はLipofectamin 2000(Life Technologies社)である。
【0068】
本発明の組成物は、液剤、例えば注射可能な溶液、クリーム剤、軟膏、錠剤、懸濁剤、等の形態であってもよい。組成物は、任意の適切な手段、例えば注射、経口、局所、経鼻、直腸適用、等によって投与されうる。担体は、任意の適切な医薬用担体でありうる。好ましくは、本発明の薬剤を標的細胞に入れる有効性を増大させる能力がある担体が使用される。本発明の態様は、in vivoでの投与に適切な生物学的に適合する形態で対象に投与するための本発明の1つ又は複数の薬剤を含む医薬組成物を更に包含する。本発明の薬剤は、適切な医薬組成物中に処方された上記送達媒体中に提供されうる。
【0069】
「in vivoでの投与に適切な生物学的に適合する形態」とは、投与される物質の形態を意味し、治療効果がどんな毒性効果にもまさる。本発明の医薬組成物の治療活性のある量又は「有効量」の投与は、タンパク質の産生を増加/減少させるという所望の結果を実現するのに必要な投薬量及び期間で有効な量と定義される。物質の治療上有効な量は、疾患状態/健康、年齢、性別及びレシピエントの体重、並びに特定の薬剤が所望の反応を引き出す特有の能力等の因子によって変動しうる。投薬レジメンは、最適な治療反応を得るように調整されうる。例えば、いくつかの分割用量が、毎日若しくは定期的な間隔で投与されてもよく、及び/又は用量は、治療状況の緊急性に示されるのに比例して減少若しくは増加されてもよい。投与のための薬剤の量は、投与経路、投与の時間によって決まることになり、個々の対象の反応により変動する。適切な投与経路は、筋肉内注射、皮下注射、静脈内注射又は腹腔内注射、経口及び鼻腔内投与である。本発明の組成物は、植込錠を用いて提供されてもよく、これは組成物の経時的な徐放に使用されうる。
【0070】
本発明は、本明細書に記載の組換え発現ベクター又はウイルス性ベクター等のベクターのいずれかを含む宿主細胞を更に提供する。本明細書では、用語「宿主細胞」とは、本発明の組換え発現ベクターを含有することができる任意の型の細胞のことを指す。宿主細胞は、真核生物細胞、例えば、植物、動物、真菌若しくは藻類でありえ、又は原核生物細胞、例えば、細菌若しくは原生動物でありうる。宿主細胞は、培養細胞又は初代細胞、即ち生物、例えば、ヒトから直接単離された細胞でありうる。宿主細胞は、付着細胞又は懸濁細胞、即ち懸濁液中で増殖する細胞でありうる。適切な宿主細胞は当業者に公知であり、例えば、DH5α、大腸菌(Escherichia coli)細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、サルVERO細胞、COS細胞、HEK293細胞、等がある。組換え発現ベクターを増幅又は複製する目的では、宿主細胞は、好ましくは原核生物細胞、例えば、DH5α細胞である。
【0071】
薬学的に許容可能な賦形剤は、好ましくはmiR及び/又はその模倣体に対して化学的に不活性なもの並びに使用条件下で殆ど若しくは全く副作用若しくは毒性がないものである。そのような薬学的に許容可能な担体には、水、生理食塩水、クレモフォールEL(Sigma Chemical社、セントルイス、MO)、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アルコール及びその組合せがあるが、これに限定されない。担体の選択は、特定のmiR及び/又はその模倣体、並びに組成物を投与するのに使用される特定の方法によって一部には決定されることになる。従って、組成物の適切な製剤は多種多様に存在する。
【0072】
溶液又は懸濁液の形態で投与される場合、製剤は、1つ又は複数の活性化合物及び精製水を含有することができる。溶液又は懸濁液中の任意選択のコンポーネントは、適切な保存剤(例えば、抗菌性防腐剤)、緩衝剤、溶媒及びその混合物を含む。製剤のコンポーネントは、2つ以上の機能を果たしうる。
【0073】
保存剤が使用されてもよい。適切な保存剤には、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム及びベンザルコニウムクロリドがありうる。2種以上の保存剤の混合物が、任意選択で使用されてもよい。保存剤又はその混合物は、総組成物の約0.0001%~約2質量%の量で一般に存在する。適切な緩衝剤には、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸カリウム並びに他の様々な酸及び塩がありうる。2種以上の緩衝剤の混合物が、任意選択で使用されてもよい。緩衝剤又はその混合物は、総組成物の約0.001%~約4質量%の量で一般に存在する。経口、エアロゾル、非経口(例えば、皮下、静脈内、動脈内、筋肉内、真皮内、腹腔内、及びくも膜下腔内)、及び直腸投与用の以下の製剤は、単なる典型例であり、限定するものでは決してない。
【0074】
本発明の製剤は、非経口投与に適切でありうる。
【0075】
本発明の薬剤は、単独で又は他の適切なコンポーネントと組み合わせて、吸入による投与のためにエアロゾル製剤に作製されうる。本発明の薬剤は、水、生理食塩水、水性デキストロース及び関連する糖溶液を含んだ無菌の液体若しくは液体の混合物等の医薬用担体中の生理的に許容可能な希釈剤、エタノール、イソプロパノール若しくはヘキサデシルアルコール等のアルコール、プロピレングリコール若しくはポリエチレングリコール等のグリコール、2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-メタノール等のグリセロールケタール、ポリ(エチレングリコール)400等のエーテル、油、脂肪酸、脂肪酸エステル若しくはグリセリド、又は石鹸若しくは界面活性剤等薬学的に許容可能な界面活性剤の付加を含む若しくは含まないアセチル化脂肪酸グリセリド、ペクチン、カルボマー、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース若しくはカルボキシメチルセルロース等の懸濁化剤或いは乳化剤及び他の薬学的アジュバント中で投与されてもよい。
【0076】
非経口製剤に使用できる油は、石油、動物性、植物性又は合成油を含む。油の特定の例には、ピーナッツ、ダイズ、ゴマ、綿実、トウモロコシ、オリーブ、ワセリン及び鉱物がある。非経口製剤に使用するのに適切な脂肪酸には、オレイン酸、ステアリン酸及びイソステアリン酸がある。オレイン酸エチル及びミリスチン酸イソプロピルは、適切な脂肪酸エステルの例である。
【0077】
非経口製剤に使用するための適切な石鹸には、脂肪族アルカリ金属、アンモニウム及びトリエタノールアミン塩がありえ、適切な洗剤には、(a)例えば、ジメチルジアルキルアンモニウムハロゲン化物及びアルキルピリジニウムハロゲン化物等の陽イオン性洗剤、(b)例えば、アルキル、アリール及びオレフィンスルホン酸塩、アルキル、オレフィン、エーテル及び硫酸モノグリセリド、並びにスルホサクシネート等の陰イオン性洗剤、(c)例えば、脂肪族アミンオキシド、脂肪酸アルカノールアミド及びポリオキシエチレン-ポリプロピレンコポリマー等の非イオン性洗剤、(d)例えば、アルキル-ベータ-アミノプロピオナート及び2-アルキルイミダゾリン第四級アンモニウム塩等の両性洗剤、及び(3)その混合物がある。
【0078】
適切な保存剤及び緩衝液が、そのような製剤に使用されうる。注射部位における刺激を最小化又は排除するために、そのような組成物は、約12~約17の親水性-親油性比(HLB)を有する1つ又は複数の非イオン性界面活性剤を含有してもよい。そのような製剤中の界面活性剤の量は、約5%~約15質量%である。適当な界面活性剤には、モノオレイン酸ソルビタン等のポリエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びプロピレンオキシドとプロピレングリコールとの縮合により形成されるエチレンオキシドと疎水性塩基との高分子量付加物がある。非経口製剤は、アンプル及びバイアル等の単位用量又は複数用量の密封容器中に存在することができ、使用直前に注射用の無菌液体担体、例えば、水を添加することだけを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)条件で貯蔵されうる。即時注射溶液及び懸濁液は、無菌の粉剤、顆粒剤及び錠剤から調製されうる。
【0079】
本発明の薬剤は、注射可能な製剤として投与されてもよい。注射可能な組成物に対する有効な医薬用担体の要件は、当分野の技術者に周知である。Pharmaceutics and Pharmacy Practice、J. B. Lippincott Co.、フィラデルフィア、Pa.、Banker and Chalmers編、238~250頁(1982年)、及びASHP Handbook on Injectable Drugs、Toissel、第4版、622~630頁(1986年)を参照のこと。経皮性の薬物放出に有用な製剤を含めた局所製剤は、当業技術者に周知であり、皮膚適用に対する本発明の実施形態の文脈において適切である。
【0080】
医薬製剤中の本発明の実施形態の化合物の濃度は、選択される投与の特定の様式に従って、例えば、質量で約1%未満、通常約10%若しくは少なくとも約10%から、20%~50%程度若しくはより高くまで変動することができ、流体容積及び粘度によって主に選択されうる。投与可能な(例えば、非経口的に投与可能な)組成物を調製する方法は、当業技術者に公知又は明らかであり、例えば、Remington's Pharmaceutical Science、第17版、Mack Publishing Company、イーストン、PA、1985年)に、より詳細に記載されている。
【0081】
本発明の薬剤が、1つ又は複数の追加の治療的薬剤と共に投与される場合、1つ又は複数の追加の治療的薬剤は、哺乳動物に同時投与することができる。「同時投与する」とは、本発明の薬剤が、1つ又は複数の追加の治療的薬剤による効果を増強させうるように、1つ又は複数の追加の治療的薬剤と本発明の薬剤を十分近い時間で投与することを意味する。この際、本発明の薬剤が最初に投与されえ、1つ若しくは複数の追加の治療的薬剤は2番目に投与されうる、又は逆もまた同じである。別法として、本発明の薬剤及び1つ又は複数の追加の治療的薬剤は、同時に投与されうる。追加の治療的薬剤は、適切なプロモーターの制御下にある遺伝性疾患に関与するコード配列の野生型の形態を含む組換え発現ベクターでもよい。
【0082】
本発明の実施形態の文脈において有用な送達系は、本発明の組成物の送達が、治療される部位の増感前、及び増感を誘発するのに充分な時間で起こるような時間放出、遅延放出及び持続的放出送達系を含みうる。本発明の組成物は、他の治療的薬剤又は治療法と併用して使用されうる。そのような系は、本発明の組成物の反復投与を回避することができ、そのため対象及び医師の利便性を増大させ、本発明の実施形態の特定の組成物に特に適切でありうる。
【0083】
本発明によると、「防止」は、薬剤の投与が疾患若しくは症状を発症する機会を低下させ、即ち線維症及び/又は線維症と関連する疾患を発症する機会を低下させることを意図する。一部の実施形態において、「防止」は、薬剤の投与が、既に開始した疾患の進行を停止又は減速することを意図する。例えば、一部の実施形態において本発明の薬剤は、線維症を既に有する対象に投与され、線維症は、より進行したステージに発達しない。線維症のステージは、Ishakスケール等、本分野で公知の標準的な方法に従って分類されうる。
【0084】
本発明によると、「治療」は、薬剤の投与が症状若しくは疾患を改善する又は治癒又は復帰させる、即ち線維症若しくは線維症と関連する疾患を改善する又は治癒又は復帰させることを意図する。一部の実施形態において、「治療」は、線維症等の疾患が完全には治癒しないが、あまり進行していないステージに復帰させることを意図する。
【0085】
本方法の好ましい態様において、マイクロRNAの量の測定は:RNAの逆転写及び/若しくは核酸ハイブリダイゼーション及び/若しくは核酸増幅並びに/又はその組合せを含む方法を用いて決定される。核酸のハイブリダイゼーションは、それぞれが、上で定義したマイクロRNAのうち1つの配列に対して特異的且つ選択的であるプライマー及び/又はプローブを使用して好ましくは実施される。
【0086】
核酸の増幅(及び可能なハイブリダイゼーション)は、定量的リアルタイム又はデジタルPCRによって好ましくは実施され、より好ましくはフォワード及びリバースプライマー並びに任意選択でプローブを含む。
【0087】
本発明による方法において、プローブは、上で定義したmiRNA配列の少なくとも1つに相補的な配列を好ましくは含む。
【0088】
本発明は、上述の方法を実施するための上で定義したキットの使用にも関する。
【0089】
測定されるmiRNAの量は、標準化される発現のレベルに好ましくは対応する。miRNAの量の測定は、それぞれが、マイクロRNAのうち1つの配列に対して特異的且つ選択的であるプライマー及び/又はプローブを用いる核酸増幅並びにハイブリダイゼーションによって好ましくは実行され、好ましくはqRT-PCRによる。デジタルPCR、マイクロアレイ又は配列決定等、核酸の検出及び定量化のための他の任意の方法は、本発明の範囲に含まれる。
【0090】
本発明による方法は、生体試料からRNAを抽出するステップを好ましくは含む。上述のマイクロRNAの発現のレベルを測定するために使用されるRNAは、生体液試料又は組織試料、例えば生検若しくは手術片から好ましくは抽出される。
【0091】
本発明によるキットにおいて、検出手段は、配列特異的増幅手段及び/又は前記増幅された核酸の定量的検出の手段と理解される。本発明の文脈において、検出手段は、好ましくは検出される各miRNAに対する特異的プライマー及び/又はプローブである。任意選択で、本発明によるキットは、対照手段を含む。本発明の更なる態様は、検出される各miRNAに対する特異的プローブを含む上述の方法を実施するためのマイクロアレイ又はPCR反応プレートに関する。
【0092】
本発明の更なる目的は、
- 上で定義した少なくとも1つのマイクロRNAの量を検出及び/又は測定する手段、任意選択で、
- 対照手段
を含む、上述の方法を実施するためのキットである。
【0093】
本発明の別の目的は:
- 前記マイクロRNAのそれぞれに対する、配列特異的増幅手段;
- 前記増幅された核酸の定量的検出の手段;
- 適切な試薬
からなる、上で定義した少なくとも1つのマイクロRNAの量を検出及び/又は測定するためのキットである。
【0094】
本発明の更なる目的は、生体試料中の上で定義した少なくとも1つのmiRNAの量を測定するためのデバイスであって、前記デバイスは:
- 固体支持手段、例えばマイクロ流体デバイス及び
- マイクロRNAの量を検出するためのシステム
からなる。
【0095】
前記デバイスは、好ましくはチップマイクロアレイ、微小流体印刷回路基板、QPCR管、小片中のQPCR管又はQPCRプレートである。
【0096】
本発明の文脈において、用語「レベルを決定する」又は「検出する」も、「量の測定」と理解されうる。本発明において、発現「量の測定」は、それぞれのmiRNA及び/若しくはそのDNAの量若しくは濃度若しくはレベルの測定と理解されえ、好ましくは半定量的又は定量的でありうる。本説明に使用される用語「量」とは、限定されるものではないが、miRNA及び/若しくはそのDNAの絶対若しくは相対量(又は濃度若しくは発現のレベル)、並びにそれと関連する又はそれに起因しうる他の任意の値若しくはパラメータのことを指す。試料中のmiRNA及びDNAを測定する方法は、当業者に周知である。核酸のレベルを検出及び/又は測定するために、単離された生体試料の細胞は、溶解されえ、溶解物又は溶解物からの精製若しくは半精製RNA中のmiRNAレベルは、専門家に公知の任意の方法で測定されうる。そのような方法には、検出可能な印をつけたDNA又はRNAプローブを使用するハイブリダイゼーションアッセイ(例えばノーザンブロット法)及び/又は適切なオリゴヌクレオチドプライマー、例えばLNAプライマーを使用する核酸増幅、例えば定量的若しくは半定量的RT-PCR方法がある。当技術に熟達した者は、適切なプライマーを設計する方法を知っている。別法として、定量的又は半定量in situハイブリダイゼーションアッセイは、例えば、組織切片又は乾燥させていない細胞懸濁液、及び印をつけた検出可能なDNA若しくはRNAプローブ(例えば、蛍光又は酵素で印をつけた)を使用して実行されうる。miRNAの定量化の更なる方法には、デジタルPCR、小RNA配列決定及びマイクロRNAマイクロアレイがある。
【0097】
本発明の方法は、miRNAの発現レベルの標準化を更に含むことができる。標準化は、単離された生体試料中の1つ又は複数の核酸の発現レベルに対してmiRNAの発現レベルを調節することを含むが、これに限定されない。
【0098】
試験されるmiRNAはRNA配列として示されるが、ハイブリダイゼーション又は他のアッセイについて参照される場合、対応するDNA配列が使用されうることは理解されよう。例えば、RNA配列を、逆転写及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して増幅して、検出を容易にすることができる。この場合、RNAではなくDNAが、実際には直接定量されることになる。RNA配列自体ではなく逆転写されたDNA配列の相補鎖が、分析されうることも理解されよう。この文脈において、用語「相補的」とは、厳密に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドのことを指し、即ち全てのアデニンに対してチミンが存在する等である。アッセイは、miRNAに対して個別に実行できるが、様々なmiRNAをアッセイする、又は2つ以上のmiRNAの比を比較することが一般に好ましい。
【0099】
本発明のキットにおいて、「対照手段」を好ましくは使用して、マイクロRNAの量を適切な対照又は適切な対照量と比較する。「マイクロRNAを検出し、及び/又は量を測定するための手段」は、当技術に熟達した者に公知であり、好ましくは、上で定義したmiRNAに特異的な少なくとも1つの、印をつけられた定義可能なDNA若しくはRNAプローブ、及び/又は上述の検出されたmiRNAのそれぞれを逆転写若しくは増幅するためのmiRNA特異的プライマーである。例えば、前記手段は、特異的TaqManプローブでありうる。
【0100】
本発明のキットにおいて、配列特異的増幅手段は当技術に熟達した者に公知であり、好ましくは少なくとも1つのDNA若しくはRNAプライマー、例えば「ステムループRTプライマー」又はLNAプライマーである。
【0101】
miRNAに特異的なプローブ又はプライマーの設計は当技術に熟達した者に公知であり、適切なプローブ及び/又はプライマーが、市販されており購入することができる。
【0102】
本発明のキットは、例えば、cDNAの調製(例えば逆転写酵素)及び/若しくはPCR増幅(例えばTaqポリメラーゼ)のための酵素、並びに/又はmiRNAを検出及び/若しくは定量化するための試薬等の適切な試薬を更に含むことができる。更に、キットは、試料からmiRNAを単離するための試薬及び/又は1つ若しくは複数の標準化対照を更に含むことができる。標準化対照は、例えば、試料又は反応に印をつけるための1つ若しくは複数の別々の試薬として提供されうる。標準化対照は、試料中で発現される内在性RNA又はmiRNAから好ましくは選択される。
【0103】
本発明のキットは、取得したデータを解釈するための説明書を好ましくは含む。
【0104】
本明細書に示される全ての方法及び実施形態において、対象から単離される試料は体液でもよく、例えば、血液、血液由来の体液(血清及び血漿等、特に無血小板血漿、例えば無細胞、クエン酸由来無血小板血漿試料)、唾液、脳脊髄液又は尿の試料でもよい。特定の実施形態において、体液は、血小板を除去した又は除去していない血漿若しくは血清である。
【0105】
本発明の方法において、対象中のmiRの体液レベルは、同じmiRの参照レベルと比較されうる。「参照レベル」とは、予め定めた標準又は参照対象から同様に処理された試料中の実験的に決定されたレベルを意味する。本発明の方法の目的に応じて、参照対象は、健康な対象、線維症若しくは線維症と関連する疾患とは異なる疾患の対象又は肝線維症若しくは線維症と関連する疾患でない対象でもよい。参照対象はまた、プラセボ治療患者でもよい。参照レベルはまた、同じ対象から過去に入手した同様に処理された体液試料において決定される同じmiRのレベルでもよく、実行される方法に応じて、対象における線維症若しくは線維症と関連する疾患の進捗を決定することが可能になり、特に、疾患活動性若しくは線維症の進捗、又は疾患の治療の効率を決定することが可能になる。
【0106】
特定の実施形態において、対象における線維症若しくは線維症と関連する疾患の診断及び/若しくは検出、又は潜在的な線維症若しくは線維症と関連する疾患の診断及び/若しくは検出は、線維症又は線維症と関連する疾患のない健康な対象において測定される参照レベルと比べた体液試料中のmiR34-b及び/若しくはmiR34-cレベルの増大の検出に基づく。
【0107】
特定の実施形態において、対象における線維症若しくは線維症と関連する疾患の診断及び/又は検出は、線維症又は線維症と関連する疾患のない健康な対象において測定される参照レベルと比べた体液試料中のmiR34-b及び/若しくはmiR34-cレベルの増大の検出に基づく。
【0108】
別の特定の実施形態において、対象における潜在的な線維症若しくは線維症と関連する疾患の診断及び/又は検出は、健康な対象等の非線維症対象において測定される参照レベルと比べた体液試料中のmiR34-b及び/又はmiR34-cレベルの増大の検出に基づく。
【0109】
別の実施形態において、対象における重大な線維症又は潜在的に重大な肝線維症の診断及び検出は、軽微な肝線維症の対象において測定される参照レベルと比べた体液試料中のmiR34-b及び/又はmiR34-cレベルの低下の検出に基づく。
【0110】
別の実施形態において、対象における中等度の線維症又は潜在的に中等度の線維症の診断及び検出は、重大な線維症の対象において測定される参照レベルと比べた体液試料中のmiR34-b及び/又はmiR34-cレベルの増大の検出に基づく。
【0111】
本発明は、過去に同じ対象において採取した1つ若しくは複数の体液試料からの同じmiRの参照レベルと比べた対象の体液試料中のmiR34-b及び/又はmiR34-cレベルの進捗に基づいて、対象における線維症若しくは線維症と関連する疾患ステージの進捗を監視するための方法も提供する。この方法において、miRのレベルの増大は、線維症が増大していることを示し、一方miRのレベルの低下は、疾患活動性及び線維症の下落を示す。
【0112】
MiR34-b及び/若しくはmiR34-cのレベルの増大又はmiR34-b及び/若しくはmiR34-cの安定レベルは、治療が効果的でないことを示し、一方miR34-b及び/又はmiR34-cのレベルの低下は、治療が効果的であることを示す。
【0113】
本発明は、非応答対象において測定される参照レベルと比べた体液試料中のmiR34-b及び/又はmiR34-cの差異的レベルの検出に基づいて特定の治療に対する対象の反応(反応対象)を予測する(例えば線維症ステージの予測)ための方法を更に提供する。
【0114】
本発明によると、マイクロRNAの量は、配列番号1~4若しくは9~12、そのバリアント若しくはアイソフォーム又はその断片をそれぞれ含む核酸を検出することによって好ましくは決定される。
【0115】
核酸バリアントは、核酸配列に関して、ここで記載される核酸配列と約75%~99.9%の同一性を有する核酸配列を含むことができる。好ましくは、バリアント核酸配列は、ここで記載される核酸配列の全長又は断片の核酸配列に対して少なくとも約75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.7%、99.8%又は99.9%の核酸配列同一性を有することになる。
【0116】
用語「断片」は、5'末端若しくは3'末端で短縮されうる、又は内部残基を欠く場合もあるが、その機能を維持している核酸配列を含む。断片は、好ましくは長さ18~24ntである。
【0117】
本発明において、参照は、マイクロRNA、miRNA又はhsa-miR若しくはmmu-miRに、不明確に作製される。
【0118】
本発明の文脈においてmiR-34bは、以下の配列(配列番号1~4)及びそのホモログ及び類似体、miRNA前駆体分子、例えば以下に開示される配列(配列番号7及び8)、並びに前記miRNAをコードしているDNA分子、例えば以下で定義される配列(配列番号5~6)及び相補的な核酸を含む。
【0119】
本発明の文脈において、miR-34cは、以下の配列(配列番号9~12)及びそのホモログ、オルソログ、類似体及び機能的誘導体、miRNA前駆体分子、例えば以下に開示される(配列番号15及び16)、並びに前記miRNAをコードしているDNA分子、例えば以下で定義される配列(配列番号13及び14)を含む。
【0120】
本明細書に定義される配列の配列に対する相同物の同一性は、好ましくは少なくとも75%、又は80%、又は85%、又は90%、より好ましくは少なくとも95%、最高99.9%同一でありうる。
【0121】
配列
>mmu-miR-34b-5p MIMAT0000382(成熟miRNA)
AGGCAGUGUAAUUAGCUGAUUGU(配列番号1)
>mmu-miR-34b-3p MIMAT0004581(成熟miRNA)
AAUCACUAACUCCACUGCCAUC(配列番号2)
>hsa-miR-34b-5p MIMAT0000685(成熟miRNA)
UAGGCAGUGUCAUUAGCUGAUUG(配列番号3)
>hsa-miR-34b-3p MIMAT0004676(成熟miRNA)
CAAUCACUAACUCCACUGCCAU(配列番号4)
>miR-34b-5pのためにpAAVにクローニングしたマウスゲノム配列
【化1】
>miR-34B(ゲノム配列ヒト)
【化2】
>hsa-miR-34b MI0000742(プレmiRNA)
【化3】
>mmu-miR-34b MI0000404(プレmiRNA)
【化4】
>mmu-miR-34c-5p MIMAT0000381(成熟miRNA)
AGGCAGUGUAGUUAGCUGAUUGC(配列番号9)
>mmu-miR-34c-3p MIMAT0004580(成熟miRNA)
AAUCACUAACCACACAGCCAGG(配列番号10)
>hsa-miR-34c-5p MIMAT0000686(成熟miRNA)
AGGCAGUGUAGUUAGCUGAUUGC(配列番号11)
>hsa-miR-34c-3p MIMAT0004677(成熟miRNA)
AAUCACUAACCACACGGCCAGG(配列番号12)
>miR-34c-5pのためにpAAVにクローニングしたマウスゲノム配列
【化5】
MIR34C(ゲノム配列ヒト)
【化6】
>hsa-miR-34c MI0000743(プレmiRNA)
【化7】
>mmu-miR-34c MI0000403(プレmiRNA)
【化8】
hsa-miR-34b/c一次転写産物(pri-miRNA)
【化9A】
【化9B】
hsa-miR-34b/c一次転写産物(pri-miRNA)(DNA配列)
【化10】
mir34a(マウスゲノム配列)
【化11】
mmu-miR-34a(マウスプレmiRNA)
【化12】
mmu-miR-34a-5p(マウス成熟miRNA)
UGGCAGUGUCUUAGCUGGUUGU(配列番号21)
MIR34A(ゲノム配列ヒト)
【化13】
hsa-miR-34a(プレmiRNA)
【化14】
hsa-miR-34a-5p(成熟miRNA)
UGGCAGUGUCUUAGCUGGUUGU(配列番号24)
【0122】
本発明は、以下の図を参照して非限定的な例により次に例示されることになる。
【0123】
本発明の原則を例示する実施形態及び実験が、以下の図を参照して検討されることになる:
【図面の簡単な説明】
【0124】
【
図1】miR-34b/c
-/-マウスが、チオアセタミド誘導性肝線維症をより発症しやすいことを示す図である。A)チオアセタミド(TAA)(群当たりn=8)又は媒体(群当たりn=5)で処置したC57BL/6野生型(WT)及びmiR-34b/c
-/-マウスの肝臓の代表的なヘマトキシリンエオジン及びシリウスレッド染色を示す図である。スケールバー:100μm B)シリウスレッド(SR)染色の定量的形態計測を示す図である。データは、全視野領域に対するパーセンテージとして表される。C)肝臓ヒドロキシプロリン(HYP)含有量を示す図である。D)線維症マーカー遺伝子Acta2、Tgfb1及びTimp1のqPCR分析を示す図である。E)炎症遺伝子Il6及びCcl2のqPCR分析を示す図である。F)チオアセタミド(TAA)で処置した野生型(WT)又はmiR-34b/c
-/-マウスにおける血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)のレベルを示す図である。2元配置分散分析+チューキーの事後検定: *p<0.05; **p<0.01; ***p<0.005。
【
図2】miR-34b/c
-/-マウスが、四塩化炭素誘導性肝線維症をより発症しやすいことを示す図である。A)四塩化炭素(CCl
4)(群当たりn=11)又は媒体(群当たりn=10~13)で処置したC57BL/6野生型(WT)及びmiR-34b/c
-/-マウスの肝臓の代表的なヘマトキシリンエオジン及びシリウスレッド染色を示す図である。スケールバー:100μm B)シリウスレッド(SR)染色の定量的形態計測を示す図である。データは、全視野領域に対するパーセンテージとして表される。C)肝臓ヒドロキシプロリン(HYP)含有量を示す図である。D)線維症マーカー遺伝子Col1a1、Tgfb1及びTimp1のqPCR分析を示す図である。E)炎症遺伝子Ccl2及びIl6のqPCR分析を示す図である。F)四塩化炭素(CCl
4)で処置した野生型(WT)又はmiR-34b/c
-/-マウスにおける血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)のレベルを示す図である。2元配置分散分析+チューキーの事後検定: *p<0.05; **p<0.01; ***p<0.005。
【
図3】miR-34b/c模倣体が、ヒト星細胞活性化と拮抗することを示す図である。A)トランスフェクション試薬単独(TR)、miRNA模倣体陰性対照(NC)、若しくはヒトmiR-34b/c模倣体(miR)でトランスフェクトし、ヒトトランスフォーミング成長因子β1(TGF-β1、2ng/μL)、又は媒体で処置したHuh-7及びLX-2共培養物の全溶解物に対する代表的なウエスタンブロットを示す図である(群当たりn=6)。B~E)ウエスタンブロットのバンド強度の定量化(群当たりn=6)を示す図である。2元配置分散分析+チューキーの事後検定: *p<0.05; **p<0.01; ***p<0.005。
【
図4】miR-34b/cの肝送達が、チオアセタミド誘導性の進行した肝線維症を改善することを示す図である。A)処置スケジュールの略図である。B)チオアセタミド(TAA)若しくは媒体で処置し(n=5)、miR-34b/c(AAV-miR-34b/c)のいずれかを発現するアデノ随伴ベクター(n=10)又は対照としてGFP(AAV-GFP)(n=9)を注射したC57BL/6野生型マウスの肝臓の代表的なヘマトキシリンエオジン及びシリウスレッド染色を示す図である。スケールバー:100μm C)シリウスレッド(SR)染色の定量的形態計測を示す図である。データは、全視野領域に対するパーセンテージとして表される。D)Ishakスコアリングシステムによる肝線維症のステージ分類を示す図である。E)肝臓ヒドロキシプロリン(HYP)含有量を示す図である。F)qPCRによる線維症マーカー遺伝子Acta2、Col1a1及びTimp1の発現を示す図である。1元配置分散分析+チューキーの事後検定又はクラスカル-ウォリス+ダンの多重比較(Cのみ): *p<0.05; **p<0.01; ***p<0.005。
【
図5】チオアセタミド誘導性の進行した肝線維症における炎症及び肝細胞損傷を示す図である。A)チオアセタミド(TAA)若しくは媒体で処置し、miR-34b/c(AAV-miR-34b/c)を発現するアデノ随伴ベクター又は対照としてGFP(AAV-GFP)を注射したC57BL/6野生型マウスの肝臓におけるIshakスコアリングシステムによる壊死性炎症性活性を示す図である。クラスカル-ウォリス+ダンの多重比較: *p<0.05。B)炎症遺伝子Ccl2及びIl6のqPCR分析を示す図である。C)血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルを示す図である。1元配置分散分析+チューキーの事後検定: **p <0.01。
【
図6】miR-34b/cの過剰発現が、四塩化炭素誘導性の進行した肝線維症を改善することを示す図である。A)処置スケジュールの略図である。B)四塩化炭素(CCl
4)若しくは媒体で処置し(n=5)、miR-34b/c(AAV-miR-34b/c)を発現するアデノ随伴ベクター(n=7)、又は対照としてGFP(AAV-GFP)(n=5)を注射したC57BL/6野生型マウスの肝臓の代表的なヘマトキシリンエオジン及びシリウスレッド染色を示す図である。スケールバー:100μm C)シリウスレッド(SR)染色によるコラーゲン領域の定量的形態計測を示す図である。データは、全視野領域に対するパーセンテージとして表される。D)Ishakスコアリングシステムによる肝線維症のステージ分類を示す図である。E)肝臓ヒドロキシプロリン(HYP)含有量を示す図である。F)qPCRによる線維症遺伝子Acta2、Col1a1及びTgfb1の発現を示す図である。1元配置分散分析+チューキーの事後検定、クラスカル-ウォリス+ダンの多重比較(Cのみ): *p<0.05; **p<0.01; ***p<0.005。
【
図7】四塩化炭素誘導性の進行した肝線維症における炎症及び肝細胞損傷を示す図である。A)四塩化炭素(CCl
4)若しくは媒体で治療し、miR-34b/c(AAV-miR-34b/c)を発現するアデノ随伴ベクター又は対照としてGFP(AAV-GFP)で注射したC57BL/6野生型マウスの肝臓におけるIshakスコアリングシステムによる壊死性炎症性活性を示す図である。クラスカル-ウォリス+ダンの多重比較: *p<0.05; **p<0.01。B)炎症遺伝子Ccl2及びTnfaのqPCR分析を示す図である。発現がいくつかの試料について検出限界以下であったIl6の代わりにTnfaが示される。C)血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルを示す図である。1元配置分散分析+チューキーの事後検定。
【
図8】PiZ対野生型(WT)肝臓(群当たりn=5)の次世代塩基配列決定分析からの差異的に発現されるmiRNAの階層的クラスタリング及びヒートマップを示す図である。miR-34b-5p及びmiR-34c-5pには、赤枠をつける。
【
図9】Zα1-アンチトリプシンを発現するマウス肝臓におけるmiR-34b/c発現の増大を示す図である。(A)ボルケーノプロットによって可視化した差異的に発現したmiRNAを示す図である。FDR<10
-2(y軸)且つ野生型(WT)に対するPiZにおける倍率変化>|4|のmiRNAを示し、miR-34bc/cを赤丸で囲んだ。(B)肝臓RNAのmiR-34ファミリーメンバーに対するPiZ対WTのqPCRが、miR-34b/cの有意な上方調節を示す図である(群当たり少なくともn=3; t検定: *p<0.05、**p<0.01対WT)。(C)血漿RNAのmiR-34ファミリーメンバーに対するPiZ対WTのqPCRが、miR-34a-5p、miR-34b-3p及び5p、並びにmiR-34c-5pの有意な上方調節を示す図である(群当たりn=4; t検定: **p<0.01、***p<0.005対WT)。
【
図10】溶血マーカーとしての循環miR-16レベルを示す図である。PiZと野生型血漿の間でmiR-16レベルの差異は有意でない(群当たりn=4~5; t検定)。
【
図11】miR-34b/cの発現レベルが、Zα1-アンチトリプシンの蓄積と相関することを示す図である。(A)PiZマウス肝臓の実質及び非実質細胞におけるpri-miR-34b/c及びアルブミン(Alb)の発現を示す図である(n=3; t検定:*p<0.05、***p <0.005)。(B)PiZマウスのPAS-D染色肝臓における顕微解剖したPAS-D
+及びPAS-D
-領域の代表的な画像を示す図である。(C)ATZ球の蓄積がある(PAS-D
+、
図B中で赤色点線)又はATZ球がない(PAS-D
-、
図B中で青色点線)顕微解剖した肝臓領域におけるmiR-34b/cに対するqPCRが、ATZの豊富な領域においてmiR-34b/cの濃縮を示したことを示す図である(群当たりn=4;対応のあるt検定: *p<0.05及び**p<0.01対PAS-D
-)。(D)rAAV-miR914又は対照ベクターを注射したPiZ肝臓におけるmiR-34b/cに対するqPCRが、注射4週間後に、rAAV-miR914を注射したマウスにおけるmiR-34b/cレベルの減少を示す図である(群当たりn=5; t検定: *p<0.05対rAAV-GFP)。
【
図12】PiZ肝臓におけるFOXO3活性化を示す図である。(A)ウエスタンブロットを示す図である。(B)PiZ及び野生型肝臓におけるFOXO3のバンド強度の定量化を示す図である。β-アクチン(ACTB)を、ロード対照として使用した。(C)野生型(WT)及びPiZマウスの肝臓に対する代表的なFOXO3免疫組織化学が、FOXO3の核局在化の増大を示す図である。黄色の矢じりは、FOXO3陽性核を示す。白四角 中心静脈;黒三角 門脈(群当たりn=3;倍率:左パネル、20×;中央及び右パネル、40×;スケールバー:100μm)。(D)ウエスタンブロットを示す図である。(E)肝臓核抽出物におけるバンド強度の定量化が、WT肝臓と比較して、PiZにおけるFOXO3の増大を示す図である(t検定: ***p<0.005)。RAD50が核タンパク質の標準化のために使用される; GAPDHは、核抽出物の純度に関する対照として示される。CYT:細胞質画分。(F)エンリッチメントプロット及び(G)FOXO3標的遺伝子を含む遺伝子セットエンリッチメント分析(GSEA)の結果の概要が、PiZマウス対野生型肝臓における濃縮を示す図である。
【
図13】PiZ肝臓におけるJNK媒介性FOXO3の活性化及びmiR-34b/cの上方調節を示す図である。全肝臓抽出物に対する(A)ウエスタンブロット及び(B)バンド強度の定量化(1元配置分散分析及びチューキーの事後試験: *p<0.05)が、WTマウスと比較したPiZにおけるリン酸Ser
574 FOXO3の増大並びにPiZ及びWT対照と比較したPiZ/Jnk1
-/-マウスにおけるリン酸化FOXO3のレベルの減少を示す図である。(C)野生型、PiZ及びPiZ/Jnk1
-/-肝臓中のFOXO3に対するqPCRが、有意差を示さないことを示す図である(群当たり少なくともn=4;1元配置分散分析)。肝臓核抽出物に対する(D)ウエスタンブロット及び(E)バンド強度の定量化(1元配置分散分析及びチューキーの事後試験: *p<0.05)が、PiZ肝臓と比較してPiZ/Jnk1
-/-核におけるFOXO3の減少を示す図である。H3は、核タンパク質の標準化に使用される; GAPDHは、核抽出物の純度に関する対照として示される。CYT:細胞質画分。(F) miR-3b/cに対するqPCRが、PiZマウスと比較してPiZ/Jnk1
-/-の肝臓におけるmiR-34b/cレベルの有意な下方調節を示す図である(群当たりn=5;1元配置分散分析及びチューキーの事後試験: **p<0.01対PiZ)。
【
図14】miR-34b/cの欠失は、PiZマウスにおいて肝線維症の早期発症をもたらした。(A)対照として野生型(WT)、miR-34b/c
-/-、PiZ/miR-34b/c
+/+、PiZ/miR-34b/c
+/-、及びPiZ/miR-34b/c
-/-の肝臓の代表的なPAS-D及びシリウスレッド染色が、対照と比較して、PiZ/miR-34b/c
+/+、PiZ/miR-34b/c
+/-、及びPiZ/miR-34b/c
-/-におけるPAS-Dによる類似のATZ蓄積並びにPiZ/miR-34b/c
+/-及びPiZ/miR-34b/c
-/-における線維症の増大を示す図である。(B)野生型、miR-34b/c
-/-、PiZ/miR-34b/c
+/+、及びPiZ/miR-34b/c
-/-におけるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の血清レベルを示す図である(群当たりn=5~13;1元配置分散分析及びチューキーの事後試験)。(C)シリウスレッド(SR)陽性領域のパーセンテージの定量化が、対照と比較して、PiZ/miR-34b/c
-/-におけるの染色領域の増大を示す図である(動物当たりn=5枚画像、群当たりn=3~11匹動物;1元配置分散分析及びチューキーの事後試験: **p<0.01)。(D)肝臓溶解物におけるヒドロキシプロリン(HYP)の決定が、対照と比較してPiZ/miR-34b/c
-/-におけるヒドロキシプロリン含有量の増大を示す図である(群当たりn=5~11;1元配置分散分析及びチューキーの事後試験: *p<0.05)。
【
図15】miR-34b/cの欠失が、PiZマウスにおいて肝線維症関連遺伝子を異常調節することを示す図である。(A)野生型、miR-34b/c
-/-、PiZ/miR-34b/c
+/+、及びPiZ/miR-34b/c
-/-マウス肝臓からのトランスクリプトームデータの主成分分析を示す図である。(B)PiZ/miR-34b/c
-/-対PiZ/miR-34b/c
+/+肝臓において差異的に発現される遺伝子に対する遺伝子オントロジー分析からの上位5つの、上方調節された細胞プロセス(上パネル)及び生物学的成分(下パネル)を示す図である。(C)野生型(WT)、miR-34b/c
-/-、PiZ/miR-34b/c
+/+、及びPiZ/miR-34b/c
-/-における肝線維症遺伝子署名の発現を示す図である。各カラムは、群当たりn=5マウスの平均遺伝子発現レベルを表す。(D)肝線維症遺伝子署名を含む遺伝子セットエンリッチメント分析(GSEA)の結果の概要及びエンリッチメントプロットが、PiZマウス対野生型肝臓における濃縮を示す図である。
【
図16】13~15週齢におけるPiZ/miR-34b/c
-/-対野生型及びmiR-34b/c
-/-対PiZ/miR-34b/c
+/+の遺伝子データセットを比較するベン図である。更なる研究が考慮される遺伝子は、黄色で強調される。略語: DEG、差異的に発現される遺伝子; DW、下方調節された; UP、上方調節された; WT、野生型。
【
図17】PiZ/miR-34b/c
-/-肝臓におけるPDGFシグナル伝達の増大を示す図である。Pdgfra(A)及びPdgfrb(B) 3'UTRにおいて8mer認識部位に結合するmiR-34/cの略図である。miR-34b/cシード配列の対合は青色で図示され、他の塩基対合は赤色で図示される。ルシフェラーゼアッセイのために突然変異されたヌクレオチドは、星印で示される。陰性対照(NC)、miR-34b、若しくはmiR-34c模倣体、並びに野生型(WT)又突然変異された(mut) Pdgfra(C)及びPdgfrb(D) 3'UTRを保有するルシフェラーゼ発現プラスミドでトランスフェクトされたHeLa細胞におけるルシフェラーゼ活性アッセイを示す図である(群当たりn=6;1元配置分散分析及びチューキーの事後試験: **p<0.01、***p<0.005)。(E)PiZ/miR-34b/c
-/-対PiZ/miR-34b/c
+/+マウスにおける全肝臓抽出物におけるPDGF経路のウェスタンブロッティングが、miR-34b/cの標的遺伝子PDGFRα/βのレベルの増大、PDGFRα/βの活性化並びにPDGFRの標的タンパク質であるJAK1及びAKTのリン酸化を示す図である。(F)Eにおけるウエスタンブロットのバンド強度の定量化を示す図である(t検定: **p<0.01、***p<0.005)。
【
図18】AAT欠損の患者の肝臓におけるFOXO3活性化及びmiR-34c上方調節を示す図である。肝臓移植を受けたAAT欠損患者の肝臓核抽出物(Pi*ZZ)の(A)ウエスタンブロット及び(B)バンド強度の定量化(t検定: *p<0.05)が、無関係な肝臓原因のために肝臓移植を受けた患者の対照肝臓試料(Pi*MM)と比較して、Pi*ZZ対象の肝臓における核FOXO3の増大を示す図である。(C)qPCRによるmiR-34cの発現が、対照肝臓試料(Pi*MM、n=4)と比較して、Pi*ZZ対象(Pi*ZZ、n=5)の肝臓試料において有意に増大したことを示す図である(t検定: **p<0.01)。軽度の肝疾患があるAAT欠損患者(AATD)及び無関係な肝臓障害がある対照対象の全肝臓抽出物に対する(D)ウエスタンブロット並びに(E)バンド強度の定量化が、軽度の肝疾患があるAAT欠損患者の肝臓におけるリン酸Ser
574 FOXO3の増大を示す図である(t検定: *p<0.05)。(F)軽度肝疾患があるAAT欠損患者(AATD)(n=4)及び対照対象(n=2)におけるqPCRによる肝miR-34cレベルが、AATD試料でmiR-34cの上方調節の傾向を示す図である(t検定)。(G)Pi*ZZ対象からのPAS-D染色した肝臓におけるレーザ顕微解剖したPAS-D
+(赤色点線)及びPAS-D
-(青色点線)領域の代表的な画像を示す図である。(H)1名のAAT欠損患者のレーザ顕微解剖した肝臓領域におけるmiR-34cに対するqPCRが、ATZ蓄積肝臓領域(PAS-D
+)対ATZ球がない肝臓領域(PAS-D
-)における濃縮を示す図である(t検定: **p<0.01)。
【
図19】肝線維症におけるJNK媒介性FOXO3活性化を示す図である。(A、B)Abcb4
-/-マウス、(C、D)胆管結紮(BDL)があるマウス、(E、F)チオアセタミド(TAA)で治療したマウス又は(G、H)四塩化炭素(CCl
4)で治療したマウス対照の全肝臓抽出物における全ての及びリン酸化されたJNK及びFOXO3に対するウエスタンブロット分析並びにバンド強度の定量化を示す図である(各群についてn=4、t検定: *p<0.05; ***p<0.005)。
【
図20】肝線維症におけるmiR-34b/cの上方調節を示す図である。(A)Abcb4
-/-マウス、(B)胆管結紮(BDL)があるマウス、(C)チオアセタミド(TAA)で治療したマウス又は(D)四塩化炭素(CCl
4)で治療したマウス対照の全肝臓抽出物におけるmiR-34b/cに対するqPCRを示す図である(各群についてn=4、t検定: *p<0.05; ***p<0.005)。
【
図21】miR-34b/c
-/-マウスにおけるチオアセタミド誘導性肝線維症。A)チオアセタミド(TAA)で治療した野生型及びmiR-34b/c
-/-マウスの肝臓抽出物に対するウエスタンブロット分析を示す図である(群当たりn=3)。カルネキシン(CNX)は、ローディング対照として使用された。B)パネルAにおけるウエスタンブロットのバンド強度の定量化を示す図である。
【
図22】miR-34b/c
-/-マウスにおける四塩化炭素誘導性肝線維症。A)四塩化炭素(CCl
4)で治療した野生型及びmiR-34b/c
-/-マウスの肝臓抽出物に対するウエスタンブロット分析を示す図である(群当たりn=3)。カルネキシン(CNX)は、ローディング対照として使用された。B)パネルAにおけるウエスタンブロットのバンド強度の定量化を示す図である。
【
図23】miR-34b/c治療したLX-2細胞の転写分析。(A)媒体若しくはトランスフォーミング成長因子β1(TGF-β1)で治療され、トランスフェクトしないまま、又はmiRNA模倣体陰性対照(NC)若しくはヒトmiR-34b/c模倣体(miR-34b/c)でトランスフェクトされたLX2細胞のトランスクリプトームデータの主成分分析を示す図である(群当たりn=4~5)。(B)TGF-β1+NC対媒体+NT及びTGF-β1+miR-34b/c対TGF-β1+NCで治療したLX-2細胞において差異的に発現される遺伝子を比較するベン図である。略語: DEG、差異的に発現される遺伝子; DW、下方調節された; UP、上方調節された;
【
図24】miR-34b/cは、ヒト星細胞活性化を阻害する。(A)ヒトトランスフォーミング成長因子β1(TGF-β1)+陰性対照対媒体治療した若しくはトランスフェクトしていないLX2細胞及びTGF-β1+miR-34b/c対TGF-β1+陰性対照治療したLX2細胞において逆相関で差異的に発現される遺伝子に対するクラスタ化遺伝子オントロジー分析からの生物学的プロセス(上パネル)及び細胞成分(下パネル)を示す図である。(B)TGF-β1+miR-34b/cで治療したLX2細胞対TGF-β1+陰性対照治療細胞のトランスクリプトームデータに対する活性化(左パネル)及び休止肝星細胞(HSC)遺伝子セットを使用した遺伝子セットエンリッチメント分析を示す図である。
【
図25】miR-34b/cは、COL1A1及びコラーゲン生合成の遺伝子を標的とする。(A)プロα1鎖状1型コラーゲン遺伝子3'UTRにおいて7mer認識部位に結合するヒトmiR-34b及び-34cの略図である。ルシフェラーゼアッセイのために突然変異されたヌクレオチドは、星印で示される。(B)陰性対照(NC)、miR-34b、若しくはmiR-34c模倣体、並びに野生型(WT)又は突然変異された(mut) COL1A1 3'-UTRを保有するルシフェラーゼ遺伝子を発現するプラスミドでトランスフェクトされたHeLa細胞におけるルシフェラーゼ活性アッセイを示す図である(群当たりn=3;1元配置分散分析及びチューキーの事後試験: **p<0.01、***p<0.005)。(C)ヒトトランスフォーミング成長因子β1(TGF-β1)+miR-34b/cで処置したLX2細胞対TGF-β1+陰性対照処置細胞のトランスクリプトームデータに基づくコラーゲン生合成遺伝子署名を使用した遺伝子セットエンリッチメント分析からのエンリッチメントプロットを示す図である。(D)媒体(n=4)又はヒトトランスフォーミング成長因子β1(TGF-β1)とインキュベートし、miRNA模倣体陰性対照(NC)(n=4)又はヒトmiR-34b/c模倣体(miR)(n=5)でトランスフェクトしたLX2細胞のコラーゲン生合成遺伝子署名の発現ヒートマップである。
【
図26】miR-34b/cの肝送達は、チオアセタミド誘導性肝線維症を改善する。(A)チオアセタミド(TAA)で処置され、miR-34b(AAV-miR-34b)(n=7)又はmiR-34c(AAV-miR-34c)(n=9)を発現するアデノ随伴ベクターを注射されたC57BL/6野生型マウスの肝臓の代表的なヘマトキシリンエオジン及びシリウスレッド染色を示す図である。スケールバー:100μm (B)TAA又は媒体で処置され、AAV-miR-34b、AAV-miR-34c若しくはAAV-miR-34b/cの両方又は対照としてAAV-GFPを注射されたC57BL/6野生型マウスの肝臓におけるシリウスレッド(SR)染色の定量的形態計測を示す図である。データは、全視野領域に対するパーセンテージとして表される。(C) Ishakスコアリングシステムによる肝線維症のステージ分類を示す図である。(D)肝臓ヒドロキシプロリン(HYP)含有量を示す図である。(E)Ishakスコアリングシステムによる壊死性炎症性の等級づけを示す図である。(F)血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)(群当たりn=5~7)を示す図である。1元配置分散分析+チューキーの事後検定又はクラスカル-ウォリス+ダンの多重比較(Cのみ): *p<0.05; **p<0.01; ***p<0.005; ****p<0.001; ns(有意でない)。
【
図27】miR-34b/cの肝送達は、四塩化炭素誘導性肝線維症を改善する。(A)四塩化炭素(CCl
4)で処置され、miR-34b(AAV-miR-34b)(n=7)又はmiR-34c(AAV-miR-34c)(n=5)を発現するアデノ随伴ベクターを注射されたC57BL/6野生型マウスの肝臓の代表的なヘマトキシリンエオジン及びシリウスレッド染色を示す図である。スケールバー:100μm (B)CCl
4又は媒体で処置され、AAV-miR-34b、AAV-miR-34c若しくはAAV-miR-34b/cの両方又は対照としてAAV-GFPを注射されたC57BL/6野生型マウスの肝臓におけるシリウスレッド(SR)染色の定量的形態計測を示す図である。データは、全視野領域に対するパーセンテージとして表される。(C)Ishakスコアリングシステムによる肝線維症のステージ分類を示す図である。(D)肝臓ヒドロキシプロリン(HYP)含有量を示す図である。(E)Ishakスコアリングシステムによる壊死性炎症性の等級づけを示す図である。(F)血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)(群当たりn=5~7)を示す図である。1元配置分散分析+チューキーの事後検定又はクラスカル-ウォリス+ダンの多重比較(Cのみ): *p<0.05; **p<0.01; ***p<0.005; ****p<0.001
【
図28-1】肝臓に指向されたmiR-34b/cの送達は、COL1A1及びPDGFR-α/βの発現を減少させた。(A)チオアセタミド(TAA)又は媒体(n=5)(上パネル)又はCCl
4若しくは媒体(下パネル)で処置し、miR-34b/c(AAV-miR-34b/c)のいずれか(n=7~10)を発現するアデノ随伴ベクター又は対照としてGFP(AAV-GFP)(n=5~9)を注射したC57BL/6野生型マウスの肝臓におけるqPCR分析によるCol1a1発現を示す図である。(B)COL1A1に対する代表的な免疫組織化学を示す図である(治療当たりn=5)。スケールバー:100μm
【
図28-2】(C)TAA(上パネル)並びにCCl
4(下パネル)処置動物の肝臓溶解物のPDGFR-α及びPDGFR-βに対するウエスタンブロット分析を示す図である。カルネキシン(CNX)は、ローディング対照として使用された。(D)パネルAにおけるウエスタンブロットのバンド強度の定量化を示す図である。
【0125】
表
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【実施例】
【0135】
材料及び方法
マウス研究
雄の6~8週齢C57BL/6(Charles River Laboratories社)及びmiR-34b/c-/-(Jackson laboratory社)マウスを使用した。前述のとおり、TAA(Sigma-Aldrich社)をリン酸緩衝食塩水(PBS)中に溶解し、50mg/kg/日から開始して200mg/kg/日まで用量を増加させながら4週間、週に3回腹腔内注射によって投与した。前述のとおり、CCl4(Sigma-Aldrich社)をトウモロコシ油(Sigma-Aldrich社)中に溶解し、0.875mL/kg/日から開始して2.5mL/kg/日まで用量を増加させながら4週間、週に3回胃管栄養法によって投与した。屠殺時に、マウスをPBSで潅流した。
【0136】
マウスMir34b及びMir34c領域を、以下のプライマー、Mir34b-rev 5'-CGCGGATCCTTGCGGG AAGAAGGACTCG-3'(配列番号41)、Mir34b-fw 5'-ATTTGCGGCCGCTCCGAGGGTTACTTGCACTTA3(配列番号42)、Mir34c-fw 5'-GCGGCCGCAGTCAATATAATGACCAAATCAGCTAAG-3'(配列番号43)、Mir34c-rev 5'-GGATCCCAGAACAGTTCCTGCTGCTG-3'(配列番号44)を使用してC57BL/6マウスのゲノムDNAからPCR増幅した。増幅されたMir34b及びMir34cを、TBGプロモーターを含むAAV2.1プラスミドにクローニングした。前述のとおり、血清型8 AAVベクターをHEK293細胞のトリプルトランスフェクションによって生産した。AAVベクターを、容積100μLで、全用量1×1013ゲノムコピー/Kgで眼窩後静脈叢に静脈内注射した。
【0137】
シリウスレッド染色を、再水和し、ピクロシリウスレッド溶液(ピクリン酸の飽和水性溶液中に0.1%シリウスレッド)中で1時間染色した5μmの肝臓切片に対して実行した。酸性水(水中に0.5%酢酸)を2回交換した後、切片を脱水し、キシレン中で透徹し、樹脂媒体中に封入した。画像を、Axio Scan.Z1顕微鏡(Zeiss社)によって取り込み、シリウスレッド陽性領域を定量化するためにImageJによって分析した。各マウスについて5枚の画像を分析した。切片は、Ishakスコアリングシステムを使用する線維症のステージ分類のために熟練した病理学者(S.C.)によって盲検で分析された。
【0138】
遺伝子発現分析の場合、細胞及び肝臓由来トータルRNAを、RNeasyミニキット(QIAGEN社)を使用して抽出した。1~2μgのRNAを、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems社)を使用してレトロ転写した。qPCR反応を、SYBRグリーンマスターミックス使用して準備し、Light Cycler 480システム(Roche社)によって2連で行った。プライマーは、Table 1(表1)に報告される。実行プログラムは:予熱、95℃で5分間; 95℃で15秒間、60℃で15秒間及び72℃で25秒間を40サイクルであった。B2m及びB2Mを、ハウスキーピング遺伝子として使用した。データを、LightCycler 480ソフトウェアバージョン1.5(Roche社)を使用して分析した。
【0139】
免疫組織化学の場合、厚さ5μmの切片を再水和し、抗原賦活化を電子レンジ内の0.01Mクエン酸緩衝液中で実行した。次に、切片を、メタノール/1.5% H2O2(Sigma-Aldrich社)中で内在性ペルオキシダーゼ活性のブロッキングを30分間行い、ブロッキング溶液(PBS中に3%ウシ血清アルブミン[Sigma-Aldrich社]、5%ロバ血清[Millipore社]、1.5%正常ヤギ血清[Vector Laboratories社]、20mM MgCl2、0.3% Triton[Sigma-Aldrich社])と1時間インキュベートした。切片を抗1型コラーゲン一次抗体[Table 2(表2)]と4℃で終夜、次いでユニバーサルビオチン化ヤギ抗ウサギIgG二次抗体(Vector Laboratories社)と1時間インキュベートした。ビオチン/アビジン-ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)シグナル増幅を、製造業者の説明書に従ってABC Elite Kit(Vector Laboratories社)を使用して実現した。3,3'-ジアミノベンジジン(Vector Laboratories社)をペルオキシダーゼ基質として使用した。マイヤーのヘマトキシリン(Bio-Optica社)を対比染色に使用した。切片を脱水し、封入剤(Leica Biosystems社)中に封入した。
【0140】
肝ヒドロキシプロリン含有量を、前述のとおり測定した。簡潔には、均質化肝臓組織を、6N HCl中で、110℃で16時間加水分解させた。加水分解物を濾過し、クエン酸-酢酸緩衝液中でアッセイした。試料を、クロラミン-T溶液(Sigma-Aldrich社)とRTで20分間インキュベートした。次に、エールリッヒ試薬(Sigma-Aldrich社)を添加し、試料を65℃で20分間インキュベートし、吸光度を550nmで測定した。
【0141】
ウェスタンブロッティングの場合、組織由来のタンパク質を、標準的な手順に従ってRIPA緩衝液中に抽出した。一次抗体をTBS-T/5%ミルク中に希釈した(Bio-Rad Laboratories社)[Table 2(表2)]。二次抗体は、増強化学発光(ECL)抗ウサギHRP及びECL抗マウスHRP(GE Healthcare社)であった。ペルオキシダーゼ基質は、ECL Western Blotting Substrateキット(Pierce社)によって提供された。バンド強度の分析を、Quantity One 1-D Analysis Softwareバージョン4.6.7(Bio-Rad Laboratories社)を使用して実行した。
【0142】
mmu-miR34b-5p及びmmu-miR-34c-5pの肝レベルを、前述のとおり分析した。
【0143】
細胞研究
LX-2細胞及びHuh-7細胞を、加湿したCO2雰囲気中で、37℃で維持し、それぞれ2%並びに10%ウシ胎仔血清+1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び1%グルタミンで補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で、比1:5(LX2対Huh-7)で共培養した。播種の翌日、細胞を2ng/mLヒトTGF-β1(Sigma Aldrich社)とインキュベートした。24時間後、細胞を、100nM miRIDIANマイクロRNA模倣体陰性対照、それぞれ50nMのmiRIDIAN模倣体hsa-miR34b-5p及びhsa-miR-34c-5p(Dharmacon社)、又はトランスフェクション試薬のみでトランスフェクトした。Interferinトランスフェクション試薬(Polyplus社)を、製造業者の説明書に従ってトランスフェクションに使用した。細胞をトランスフェクション48時間後に採取した。
【0144】
COL1A1がmiR-34b/cの標的であることを検証するために、ヒトCOL1A1 3'-UTRを、以下のプライマー: 3'-UTR-fw 5'-GCTCGCTAGCCTCGAGACTCCCTCCATCCCAACC3(配列番号45)及び3'-UTR-rev 5'- ATGCCTGCAGGTCGACAAGCTTAAAAAGGAGTAGGCGGG-3'(配列番号46)を使用してヒトゲノムDNAからPCRによって増幅した。PCR産物を、pmirGLO Dual-Luciferase miRNA Target Expressionプラスミド(Promega社)中のホタルルシフェラーゼ遺伝子の下流にクローニングした。miR-34b/c 7mer認識部位を、製造業者の説明書に従ってQuickChange site-directed mutagenesis kit(Agilent社)によって突然変異させた。突然変異誘発に使用したプライマーは、以下のとおりである(突然変異させたヌクレオチドに下線を引く):3'-UTR mut-fw
【化15】
及び3'-UTR mut-rev
【化16】
。DMEM+10% FBS及び5%ペニシリン/ストレプトマイシン中で培養したHeLa細胞を、Interferinトランスフェクション試薬(Polyplus社)を使用して、野生型若しくは突然変異させたCOL1A1 3'-UTRを含有するプラスミド及び陰性対照、miRIDIAN模倣体has-miR-34b-5p又はhas-miR-34c-5p(Dharmacon社)で同時トランスフェクトした。細胞を、トランスフェクション72時間後に採取し、Dual-Luciferase Reporter Assay System(Promega社)によってルシフェラーゼ活性についてアッセイした。データは、トランスフェクション効率を標準化するためにウミシイタケルシフェラーゼ活性と比べて相対的に表した。各3つ組についてホタル対ウミシイタケの活性比を、陰性対照トランスフェクト試料の平均値に対して標準化した。
【0145】
ウェスタンブロッティングの場合、組織由来のタンパク質を、標準的な手順に従ってRIPA緩衝液中に抽出した。一次抗体をTBS-T/5%ミルク中に希釈した(Bio-Rad Laboratories社)[Table 2(表2)]。二次抗体は、ECL抗ウサギHRP及びECL抗マウスHRP(GE Healthcare社)であった。ペルオキシダーゼ基質は、ECL Western Blotting Substrateキット(Pierce社)によって提供された。バンド強度の分析を、Quantity One 1-D Analysis Softwareバージョン4.6.7(Bio-Rad Laboratories社)を使用して実行した。
【0146】
RNA-seq
RNA-seq分析の場合、ライブラリ調製を、製造業者の説明書に従ってQuantSeq 3'mRNA-Seq Library prep Kit(Lexogen社)を使用して、各試料からの合計100ngのRNAを用いて実行した。サイズ300bpの増幅した断片化cDNAを、リード長100bpでNovaSeq 6000(Illumina社)によってシングルエンド様式で配列決定した。Illumina NovaSeq 6000ベースコール(BCL)ファイルを、bcl2fastqによってfastqファイルに変換した。配列リードを、BBDuk(sourceforge.net/projects/bbmap/)で成形して、アダプタ配列及び低品質末端塩基(Q<20)を除去した。整列化を、UCSC Genome Browserによって提供されるHg38参照に対してSTAR 2.6.0aを用いて実行した。遺伝子発現レベルを、HTseq-count 0.9.1を用いて決定した。生発現データを、Rosalind HYPerScale architecture (OnRamp BioInformatics社)によって標準化し、分析し、可視化した。偽陽性発見率(FDR)<0.05を、統計的に有意であると見なした。データを、アクセッション番号GSE179200でGEOに寄託した。
【0147】
GSEAを、GSEAソフトウェア(www.broadinstitute.org/gsea)を使用し、入力を3つの遺伝子リスト(ACTIVATED HSC署名; QUIESCENT HSC署名及びREACTOME_COLLAGEN_FORMATION)に制限して実行した。FDR<0.25を統計的に有意であると見なした。遺伝子オントロジーエンリッチメント分析(GOEA)を、DAVIDオンラインツール(DAVID Bioinformatics Resources 6.8)を使用し、出力を生物学的プロセス語彙(BP_FAT)及び細胞内区画語彙(CC_FAT)に制限することによって逆相関に調節される71種の遺伝子(データセットS5)に対して実行した。推定のmiR-34b/c標的遺伝子を、DIANA-microT-CDSソフトウェアによって同定した。
【0148】
統計分析
1元配置若しくは2元配置分散分析+チューキーの事後検定、又はクラスカル-ウォリス+ダンの多重比較を、統計的検定として使用した。各実験について使用した統計分析を、図の凡例に報告する。実験群のサイズを、図凡例に報告する。データを、平均値±標準誤差として報告する。
【0149】
結果
miR-34b/cの欠失は、肝線維症を増大させる
肝線維症におけるmiR-34b/cの役割を調査するために、本発明者らは、複数の型の線維化誘導性傷害でmiR-34b/c
-/-及び野生型対照マウスを処置した。最初に、マウスを、用量を増大させながらチオアセタミド(TAA)若しくは四塩化炭素(CCl
4)でそれぞれ4及び6週間又は対照として媒体で処置した。TAA処置は、miR-34b/c
-/-と野生型対照マウスの両方で肝線維症を誘導した(
図1A)が、TAA処置miR-34b/c
-/-マウス由来の肝臓は、TAA処置野生型マウスと比較して有意により大きなシリウスレッド(SR)陽性領域及びより高いヒドロキシプロリン含有量を示した(
図1A~
図1C)。更に、TAA処置に反応した線維症及び炎症性遺伝子の発現は、野生型マウスと比較してmiR-34b/c
-/-においてより大きかった(
図1D及び
図1E)。一貫して、野生型と比較してTAA処置miR-34b/c
-/-マウスの肝臓において、miR-34b/cによって直接標的されるPDGF受容体α及びβサブユニット(PDGFR-α及び-β)、並びにHSC活性化マーカーであるα平滑筋アクチン(α-SMA)タンパク質の増大が検出された(
図21)。TAA処置によってアラニントランスアミナーゼ(ALT)血清レベルは、媒体処置対照と比較して野生型及びmiR-34b/c
-/-において類似レベルに増大した(
図1F)。同様に、CCl
4による処置後、miR-34b/c
-/-肝臓は、対照肝臓と比較してSR染色及びヒドロキシプロリン含有量の増大(
図2A~
図2C)、線維症及び炎症性遺伝子の上方調節(
図2D、
図2E)並びにPDGFR-α/β及びα-SMAタンパク質の増大(
図22)を示した。これらデータは、miR-34b/cの肝線維症に対する保護的役割を裏づけ、CCl
4処置により、媒体処置動物と比較して血清ALTの増大がわずかしか又は全く得られず(
図2F)、このことは、類似の処置スケジュール及び投薬を使用したこれまでの研究と一致した。突然変異体Zα1アンチトリプシンを発現するマウスが、より激しい肝線維症(下記参照)を有することを示すデータとともに、これらデータは、肝線維症に対するmiR-34b/cの保護的役割を裏づける。
【0150】
miR-34b/cは、ヒト肝星細胞の活性化を拮抗する
miR-34b/cは、進化的に保存されているmiRNAファミリーに属する。その抗線維化活性が、ヒトにおいて保存されているかどうか調査するために、研究者は、LX2細胞、ヒト肝星細胞(HSC)株にmiR-34b及びmiR-34c模倣体をトランスフェクトした。対照として、LX2細胞に陰性対照模倣体をトランスフェクトした又は無処置のままにした。全ての実験群は、標準の培養条件下の細胞又はヒトTGF-β1でインキュベートしてHSC活性化を誘導した細胞のいずれかを含んだ。トランスクリプトーム分析によると、トランスフェクトしていない細胞と陰性対照でトランスフェクトした細胞は、類似の発現プロファイルを示した(
図23A)。それに対し、陰性対照と比較して、miR-34b/cでトランスフェクトした細胞は、基本条件下で606個の差異的に発現された遺伝子(上方調節280個及び下方調節326個)及びTGF-β1処置後に1000個の差異的に発現された遺伝子(上方調節420個及び下方調節580個)で有意な転写変化(
図23A)を示した(GSE179200、Gene Expression Omnibusデータベースを参照のこと)。陰性対照細胞において、TGF-β1処置により、差異的に発現される遺伝子が348個得られ、これら遺伝子のうち71個は、陰性対照細胞と比較してTGF-β1処置及びmiR-34b/cをトランスフェクトした細胞において逆相関を示した(
図23B)。逆相関する遺伝子71個の機能的注釈クラスタリング分析により、細胞外基質成分をコードしている遺伝子又はそのプロセッシングに関係する遺伝子の濃縮が明らかになった(
図24A)。更に、HSC遺伝子署名に基づく遺伝子セットエンリッチメント分析(GSEA)によって、陰性対照細胞と比較して、miR-34b/cをトランスフェクトしたTGF-β1処置LX2細胞は、下方調節された活性化署名の遺伝子の濃縮及び上方調節された休止署名の遺伝子の濃縮を示した(
図24B)。
【0151】
ヒトにおけるmiR-34b/c抗線維化活性を更に調査するために、本発明者らは、肝細胞(Huh7細胞)と肝星細胞(LX-2)株を共培養し、線維形成促進性ヒトトランスフォーミング成長因子β1(TGF-β1)とインキュベーションした後にmiR-34b/c模倣体又は陰性対照模倣体をトランスフェクトした。予想通りに、TGF-β1は、PDGF受容体αとβサブユニット(PDGFRα及びβ)の両方及びα-SMAの発現並びにリン酸化を増大させ、HSCの活性化を示した。陰性対照と比較して、miR-34b/c模倣体は、miR-34b/cによって直接標的されるPDGFRα及びβ(
図3A~
図3C)、PDGFRα/βのリン酸化並びにα-SMAレベル(
図3A、
図3D、
図3E)を有意に減少させた。総合すると、これら発見は、LX2細胞モデルにおけるTGF-β1誘導性HSC活性化のmiR-34b/c阻害を裏づける。
【0152】
miR-34b/cは、コラーゲン生合成に関係する遺伝子の発現を直接阻害する。
I型コラーゲンは、線維化誘導性刺激によって強く誘導され、線維化した肝臓瘢痕で最も豊富な成分である。RNA-seq分析によると、I型コラーゲンのプロα1及びプロα2鎖をコードしているCOL1A1及びCOL1A2遺伝子は、miR-34b/cのトランスフェクション後に下方調節された(GSE179200、Gene Expression Omnibusデータベース)。興味深いことに、ヒト間葉系幹細胞におけるmiRNA-mRNA相互作用のゲノム規模での分析によって、COL1A1がmiR-34cの標的として検索された。一貫して、COL1A1 3'-非翻訳領域(3'-UTR)は、miR-34cに対する推定標的部位を2つ含んだ(7merを1個及び6merを1個) (
図25A)。ルシフェラーゼ遺伝子の3'-UTRに位置する7mer部位を突然変異させた場合、miR-34b及び-34cは、ルシフェラーゼ活性を抑制することができなかった(
図25B)。GSEAによると、陰性対照でトランスフェクトした細胞と比較して、コラーゲン生合成に関係する遺伝子は、miR-34b/c模倣体をトランスフェクトしたTGF-β1処置LX2細胞において下方調節された遺伝子の中で有意な濃縮を示した(
図25C、
図25D)。特に、コラーゲン成熟及び沈着に関係するいくつかの重要な遺伝子が、推定のmiR-34b/c標的部位を含有し、その下方調節又は欠失は、肝線維症に対する保護にこれまでに関連した。
【0153】
miR-34b/cの肝特異的送達は、肝線維症を減弱する
本発明者らは、miR-34b/cの肝細胞特異的送達が肝線維症を減少させると仮定する。これを調査するために、本発明者らは、肝細胞特異的チロキシン結合タンパク質プロモーターの制御下にマウスmiR-34b又はmiR-34cを発現する血清型8アデノ随伴ベクター(AAV)を生成した。野生型マウスを、用量を増大させながらTAA又は媒体で12週間処置して線維症及び肝硬変の進行を誘導した。TAA処置10週間後、マウスに、AAV-miR-34b、AAV-miR-34c、AAV-miR-34b/c又は対照として緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するAAVを静脈内注射し、4週間後に屠殺した(
図4A)。TAAは、AAV-GFP注射したマウスの肝臓において架橋線維症を肝硬変に誘導した(
図4B~
図4D)。AAV-GFP注射したマウスと比較して、AAV-miR-34b/c注射したマウスの肝臓は、線維症の有意な減少を示し(
図4B~
図4D)、肝ヒドロキシプロリン含有量の低下と一致した(
図4E)。更に、AAV-miR-34b/cを注射したマウスの肝臓は、線維症マーカー遺伝子Acta2、Col1a1及びTimp1の正常な発現を示した(
図4F)。AAV-GFP注射マウスと比較して、AAV-miR-34b単独を注射したマウスの肝臓は、SR陽性領域及びヒドロキシプロリン含有量の減少並びにIshak線維症スコアの減少傾向も示し、一方でAAV-miR-34cだけを注射したマウスの肝臓は、ヒドロキシプロリン量の有意な減少を示した(
図26A~
図26E)。壊死性炎症性活性の等級づけは、媒体処置マウスと比較して、TAA処置マウスにおいて有意な増大を示したが、AAV-miR-34b/cとAAV-GFP注射した動物の間に有意な変化は検出されなかった(
図5A)。炎症性遺伝子Il6及びCcl2の発現は、おそらく長期処置の結果として、媒体とTAA処置動物の間で有意差異を示さなかった(
図5B)。血清ALTレベルは、TAA処置によって有意に増大し、一方でAAV-GFPを注射した動物と比較してAAV-miR-34b/cにおいてわずかな、有意でない減少が観察された(
図5C)。
【0154】
miR-34b/c抗線維化効果を確認するために、野生型マウスもCCl
4又は媒体で12週間処置し、処置10週間時にAAV-miR-34b、AAV-miR-34c、AAV-miR-34b/c又はAAV-GFPを静脈内注射し、4週間後に屠殺した(
図6A)。TAA処置動物において観察された結果と一致して、CCl
4は、AAV-GFP注射したマウスにおいて線維症又は肝硬変の進行を誘導し(
図6B~
図6D)、一方で、AAV-miR-34b/c及びmiR-34b/c過剰発現を注射したマウス由来の肝臓は、AAV-GFP処置された対照マウスと比較してより低い程度の線維症(
図6B~
図6D)を示し、肝ヒドロキシプロリン含有量(
図6E)及び線維症マーカー遺伝子の発現(
図6F)の有意な減少によって確認された。AAV-miR-34bの単独、及びより小さい程度のAAV-miR-34cの投与も、肝線維症の改善をもたらした(
図27A~
図27D)。TAA誘導性線維症とは対照的に、壊死性炎症性活性は、miR-34b/c過剰発現によって有意に減少する(
図7A)。しかしながら、炎症性遺伝子の発現は、媒体とCCl
4処置動物の間で変化しない(
図7B)。循環ALTの増大は、CCl
4対媒体処置動物において見られなかった(
図7C)。COL1A1発現及び沈着、並びにPDGFR-α/βの減少が、AAV-miR-34b/cを注射したTAAとCCl
4処置マウス両方に検出された(
図28)。総合すると、これら発見は、miR-34b/cの肝細胞過剰発現が、PDGF経路及びコラーゲン生合成を下方調節することによって、進行した肝線維症のマウスにおいて抗線維化活性を発揮することを実証する。更に、データは、miR-34cと比較してmiR-34bによる抗線維化効果がより強いことを裏づける。
【0155】
考察
肝線維症及び肝硬変は、世界中で主要な健康問題であり、一般集団における推定有病率はそれぞれ25%及び2%に及ぶ。少なくとも初期段階において、肝線維症は、根本的な傷害が除去されれば好転しうる。しかしながら、これは、一部の慢性肝疾患には不可能であり、一旦肝硬変が確立されたら、処置は合併症の管理に限定されるが、臓器移植は、少数の選ばれた患者に制限されているままである。肝線維症をもたらす複雑な病理機序の理解は、過去20年で大いに改善されいくつかの臨床的介入研究が、この知見から生まれた。にもかかわらず、原発性胆汁胆管炎に適応されるオベチコール酸が、唯一承認されている抗線維化薬物のままである。明らかに、新規の及び有効な抗線維化薬物に対する差し迫った必要性が存在する。
【0156】
この研究において、本発明者らはmiR-34b/cの抗線維化活性を示した。miR-34ファミリーは、3種のメンバー、miR-34a、-34b及び-34cで構成される。miR-34b及びmiR-34cは、バイシストロニック転写単位として連結される。miR-34ファミリーは、肝線維症の動物モデル及び異なるステージの肝線維症のヒト患者において増大することが見出された。証拠は、miR-34aの線維化誘導性の役割を裏づけるが、肝線維症におけるmiR-34b/cの関与は、明らかでなかった。miR-34aと同様に、miR-34cは、HSC活性化を阻害する抗線維化転写因子であるペルオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)を標的とし、この発見に基づいて、線維化誘導活性が、miR-34cに対しても仮定された。対照的に、miR-34c-3pは、HSC活性化を阻害することが見出された。しかしながら、これら研究は、他の肝臓細胞株と共培養することなく両方ともin vitroで実行され、本研究において、共培養実験とin vivo研究の両方が、miR-34b/cの抗線維化活性についてより強い証拠を提供することに留意されたい。更に、miR-34b/cが、I型コラーゲンをコードしている遺伝子並びにコラーゲン生合成及び沈着に関係する他の遺伝子を直接標的することを見出した。
【0157】
損傷から肝臓を保護するmir-34b/cの役割は、細胞保護効果に伴う二次的なものではなく線維症に特異的であると思われた。TAA処置動物におけるALTレベルの分析は、対照と比較してmiR-34b/c-/-マウス及びmiR-34b/c過剰発現マウスにおいて有意差を示さず、miR-34b/cが肝保護的でないことを示唆した。miR-34b/cの欠失は線維症誘導後に炎症性遺伝子の上方調節をもたらし、miR-34b/cの過剰発現は、CCl4処置動物において壊死性炎症性の減少をもたらしたが、TAA処置動物においてはもたらさなかったので、炎症に対するmiR-34b/cの効果は、分析がより難しい。異なる肝細胞型、特にクッパー細胞におけるmiR-34b/cの標的の包括的な分析は、肝臓損傷の追加成分がmiR-34b/cによって効果的に調節されうるかどうか明らかにするのに役立つ可能性がある。
【0158】
miR-34b/cの肝細胞送達及び発現は、肝線維症の有意な改善をもたらした。注目すべきことに、miR-34b/cは、進行した線維症又は肝硬変(Ishak 5~6)の肝臓においても有効性を示した。
【0159】
mir-34b/cは、種を超えて高度に保存されている。マウス及びヒト成熟miR-34bは、シード配列に含まれないヌクレオチドが1つだけ異なり、miR-34cはマウスとヒトの間で同一である。従って、マウスにおいて観察されるmiR-3cの効果が、ヒトにおいても再現されることになると予測される。
【0160】
原理証明研究として、本発明者らはmiR-34b/cの送達のためにAAVベクターを使用した。しかしながら、今後の研究において、反復投与による非ウイルス性miR-34b/c模倣体の送達が、臨床試験に次第に進みつつあるmiRNA治療のいくつかの適用と一致して、miRNA送達のために調査される可能性がある。miR-122に対する抗miRであるミラビルセン及びmiR-21を標的とする抗miRであるRG-012は、それぞれHCV感染症(NCT02031133)及びアルポート症候群(NCT02855268)に対して現在フェーズ2治験中である。更に、miR-34a模倣体は、HCCを含めた様々な型の固形腫瘍に対して研究中である(NCT01829971)。しかしながら、この治験は、重篤な免疫関連有害効果のためフェーズ1で停止された。この免疫原性問題は慎重に評価される必要があるが、この問題が、免疫系に重篤な異常調節を有する進行した腫瘍がある患者において起こったものであり、他の治験においては観察されてない点に留意する必要がある。また、miR-34b/cの送達は、臨床治験に次第に使用されてきている非ウイルス性担体によって実行される可能性もある。
【0161】
結論として、抗線維化治療としてのmiR-34b/cの治療的潜在性が本明細書に示される。
【実施例】
【0162】
マウス研究
マウス手順は、イタリア保健省によって承認された。4~15週齢雄C57BL/6(チャールズリバーラボラトリーズ社)、PiZ、PiZ/Jnk1-/-、miR-34b/c-/-、PiZ/miR-34b/c-/-、Abcb4-/-マウスを使用した。合成miR-914については、他の場所に記述されている。rAAV8pCB-mir914-GFP及びrAAV8pCB-GFPを、前述のとおりUMass Gene Therapy Vector Coreによって生成し、精製し、力価測定した。胆管結紮を、前述のとおりC57BL/6マウスに実行し、マウスを手術1週間後に屠殺した。前述のとおり、TAA(Sigma-Aldrich社)を、リン酸緩衝食塩水(PBS)中に溶解し、50mg/kgから開始して200mg/kgまで用量を増加させながら腹腔内注射によって週3回、4週間C57BL/6マウスに投与した。前述のとおり、CCl4 (Sigma-Aldrich社)を、トウモロコシ油(Sigma-Aldrich社)に溶解し、0.875mL/kgから開始して2.5mL/kgまで用量を増加させながら胃管栄養法によって週3回、4週間C57BL/6マウスに投与した。屠殺時にマウスをPBSで潅流した。ALTレベルを、scil VitroVet分析装置(Scil vet社)によって測定した。
【0163】
ヒト肝臓及び血清試料
ヒト肝臓試料を、瞬間凍結で採取し、Institute of Pathology、University Hospital of Basel、スイス、及びSt. Louis University School of Medicine、Cardinal Glennon Children's Medical Centerから得られたヒト研究承認に従って匿名化した。ヒト肝臓試料を、瞬間凍結で採取し、ヒト研究承認に従って匿名化した。軽度の肝疾患及び病理学的に確認されたAAT欠損がある患者由来の肝臓標本並びに対応する対照を、Institute of Pathology、University Hospital of Basel、スイスから匿名で入手した[Table 3(表3)]。重篤な疾患がある肝臓試料を、St. Louis University School of Medicine、Cardinal Glennon Children's Medical Centerから、肝不全のため肝移植を受けたSERPINA1のZ対立遺伝子についてホモ接合性の18歳未満の患者から匿名で入手した。対照肝臓標本を、肝臓移植を受けたAATの野生型対立遺伝子についてホモ接合性の同年齢の患者から入手した。これら標本の病理学的特徴については、これまでに報告されてきた。
【0164】
RNA-seq及びGSEA
ライブラリ調製を、製造業者の説明書に従ってQuantSeq 3'mRNA-Seq Library prep Kit(Lexogen社)を使用して、各試料からのRNA合計100ngを用いて実行した。サイズ300bpの増幅した断片化cDNAを、リード長75bpでNextSeq500(Illumina社)によってシングルエンド様式で配列決定した。配列リードを、Trim Galoreソフトウェアを使用して成形して、アダプタ配列及び低品質末端塩基(Q<20)を除去した。整列化は、UCSC Genome Browserによって提供される参照に対してSTARを用いて実行した。遺伝子発現レベルを、Gencode/Ensembl遺伝子モデルを使用するhtseq-countを用いて決定した。差異的発現分析を、edgeRを使用して実行した。miR-34b/cの推定標的遺伝子を、DIANA-microT-CDSソフトウェアによって、閾値セット0.7で同定した。GSEAを、GSEAソフトウェア(www.broadinstitute.org/gsea)を使用して実行した。マウスFOXO3標的遺伝子セットについては、これまでに報告されてきた。肝線維症遺伝子セットを、肝線維症の異なるモデルにおいてこれまでに同定された発現署名を組み合わせて生成した。データを、アクセッション番号GSE141593でGEOに寄託した。
【0165】
miRNA分析
スモールRNAライブラリを、製造業者のプロトコールに従ってTruSeq small RNA sample preparation kit(Illumina社)を使用して構築した。スモールRNA-seqライブラリを、各試料からの投入量として1μgのトータルRNAを使用して生成した。多重化することによって、最大12個の試料を、単一のレーンに組み合わせて充分なカバレッジを得、2つの技術的複製を各ライブラリについて行った。クラスタ生成を、Flow Cell v.3(TruSeq SR Cluster Kit v.3; Illumina社) cBOTを使用して実行した。配列決定をHiSeq1000プラットフォームで実行した。各ライブラリを、濃度8~10pMでロードした。リードを成形してアダプタ配列及び低品質末端を除去し、16ヌクレオチドより短い得られた配列を破棄した。混入配列(例えば、リボソームRNA、phIX対照)にマップされたリードを、フィルタ除去した。フィルタ処理したリードを、CASAVAソフトウェア(Illumina社)を使用してヒトゲノム(hg19)とヒト熟成及び前駆体(ヘアピン) miRNA(miRBase v.20)の両方に整列させた。リードを整列させ、成熟miRNAの配列によりグループ化し、参照成熟配列の厳密な長さ(即ち、成形又は伸長バリアントを除外する)内で2ミスマッチまで許容した。リードカウントの差異的発現分析を、Bioconductor package edgeRに実装されている一般化線形モデル手法を使用して実行した。低発現miRNAからのノイズを除去するために、コルモゴルフスミルノフ試験を実行して、異なるレーンで再配列決定した試料相互間の距離を測定した。最小距離を9リードのカットオフで見出し、従って、少なくとも2つの試料においてリードカウント10以上のmiRNA全てを保持した。ヒートマップ及びボルケーノプロットを、R環境で生成した。データを、アクセッション番号GSE85413でGEOに寄託した。
【0166】
軽度の肝疾患があるマウス及びヒト肝臓における標的したmiRNAの発現を分析するために、miRNA濃縮トータルRNAを、miRNeasy Mini Kitを使用して肝臓組織から、及びmiRNeasy serum/plasma kit(QIAGEN社)を使用して血漿から抽出した。10~20ngのトータルRNAを、TaqMan MicroRNA Reverse Transcriptionキット及びTaqMan miRNAアッセイ(Applied Biosystems社)[Table 4(表4)]を使用して逆転写した。qPCRを、Roche Light Cycler 480システム(Roche社)で1~3μLのcDNA、TaqMan MicroRNA assay及びTaqMan Universal Master Mix II no UNG(Applied Biosystems社)を使用して3つ組で実行した。実行プログラムは、以下の通りであった:予熱、95℃で10分間; 95℃で15秒間及び60℃で60秒間を40サイクル。SnoRNA234、miR-23a及びmiR-152を、マウス肝臓及び血漿並びにヒト肝臓に対するハウスキーピングとしてそれぞれ使用した。pri-miR-34b/c分析のために、PiZマウス肝臓の肝細胞及び非実質性肝臓細胞の単離を、前述のとおり実行した。2μgのトータルRNAを、製造業者のプロトコール(Applied Biosystems社)に従ってHigh Capacity cDNA Reverse Transcription kitを使用してレトロ転写した。qPCRを、成熟miRNAに関してはTaqMan pri-miRNAアッセイを使用して実行した[Table 4(表4)]。18Sをハウスキーピングとして使用した。データ分析を、LightCycler 480ソフトウェアバージョン1.5(Roche社)を使用して実行した。
【0167】
miR-34b/cの標的としてPdgfra及びPdgfrbを検証するために、マウスPdgfra及びPdgfrbの3'-非翻訳領域(UTR)を、C57BL/6野生型マウスのゲノムDNAからPCRによって増幅し、pmirGLO Dual-Luciferase miRNA Target Expression Vector(Promega社)中のホタルルシフェラーゼ遺伝子の下流にクローニングした。pmirGLO Pdgfra.3'UTR及びpmirGLO Pdgfrb.3'UTRプラスミド内のmiR-34b/c 8mer認識部位を、製造業者の説明書に従ってQuickChange site-directed mutagenesis kit (Agilent社)によって突然変異させた。構築物生成に使用したプライマーを、Table 5(表5)に示す。HeLa細胞を、DMEM+10%ウシ胎仔血清(FBS)及び5%ペニシリン/ストレプトマイシン中で培養した。細胞を、Interferinトランスフェクション試薬(Polyplus社)を使用して、野生型若しくは突然変異させたpmirGLO Pdgfra.3'UTR及びpmirGLO Pdgfrb.3'UTRを含有するプラスミド並びに陰性対照、miRIDIAN模倣体miR-34b-5p又はmiRIDIAN模倣体miR-34c-5pで同時トランスフェクトした。細胞を、トランスフェクション48時間後に採取し、Dual-Luciferase Reporter[DLR(商標)]Assay System(Promega社)を使用してルシフェラーゼ活性についてアッセイした。データは、トランスフェクション効率を標準化するためにウミシイタケルシフェラーゼ活性と比べて相対的に表した。2セットの実験を、各実験においてn=3で実行した。各複製についてホタル対ウミシイタケの活性比を、陰性対照トランスフェクト試料の平均値に対して標準化した。
【0168】
終末ステージの肝疾患があるヒト肝臓中のmiRNAを分析するために、トータルRNAを、Trizol(Life Technologies社)を用いて肝臓組織から単離し、10ng/μLに希釈した。miR-34c及びU47スモールRNAを、スモールRNA特異的ステムループプライマー(Life Technologies社)及びTaqman miRNA Reverse Transcription Kit (Life Technologies社)を使用して一緒にレトロ転写した。ドロップレットを、QX-200 Droplet Generator (Biorad社)を使用して生成し、エンドポイントドロップレットデジタルPCR(ddPCR)を、スモールRNA特異的プライマー及びFAM標識プローブ(Life Technologies社)、並びに2×ddPCR Supermix for Probes no dUTP (Biorad社)を使用して実行した。陽性及び陰性ドロップレットを、定量化した(Biorad社)。許容可能なドロップレットが少なくとも10,000個及び陰性ドロップレットが少なくとも100個の試料のみをデータ分析に含めた。試料を3つ組で行い、複製を平均し、miR-34c-陽性/U47陽性ドロップレットの比を算出した。
【0169】
肝臓染色、レーザ制御顕微解剖及びウェスタンブロッティング
PBS潅流したマウス由来の肝臓を、4%パラホルムアルデヒド中で12時間固定し、70%エタノール中に貯蔵し、パラフィンブロックに封埋した。PAS-D染色を、厚さ5μmの肝臓パラフィン切片対して実行した。切片を再水和し、0.5%のα-アミラーゼVI-B型(Sigma-Aldrich社)で20分間処理し、製造業者の説明書(Bio-Optica社)に従ってPAS試薬で染色した。
【0170】
シリウスレッド染色を、再水和し、ピクロシリウスレッド溶液(ピクリン酸の飽和水性溶液中に0.1%シリウスレッド)中で1時間染色した5μmの肝臓切片に対して実行した。酸性水(水中に0.5%酢酸)を2回交換した後、切片を脱水し、キシレン中で透徹し、樹脂媒体中に封入した。画像を、Axio Scan.Z1顕微鏡(Zeiss社)によって取り込み、シリウスレッド陽性領域を定量化するためにImageJによって分析した。各マウスについて5枚の画像を分析した。
【0171】
免疫組織化学のために、厚さ5μmの切片を再水和し、PBS/0.2~0.5% Triton(Sigma社)中で20分間透過化処理した。抗原の賦活化を、電子レンジ内で、0.01Mクエン酸緩衝液中で実行した。次に、切片に、メタノール/1.5% H2O2 (Sigma社)中で内在性ペルオキシダーゼ活性のブロッキングを30分間、ブロッキング溶液[PBS中に3% BSA(Sigma社)、5%ロバ血清(Millipore社)、1.5%ウマ血清(Vector Laboratories社)、20mM MgCl2、0.3% Triton(Sigma社)]とインキュベーションを1時間行った。切片を、一次抗体[Table S5(表S5)]と4℃で終夜インキュベートし、ユニバーサルビオチン化ウマ抗マウス/ウサギIgG二次抗体(Vector Laboratories社)と1時間インキュベートした。ビオチン/アビジン-HRPシグナル増幅を、製造業者の説明書に従ってABC Elite Kit(Vector Laboratories社)を使用して実現した。3,3'-ジアミノベンジジン(DAB、Vector Laboratories社)をペルオキシダーゼ基質として使用した。マイヤーのヘマトキシリン(Bio-Optica社)を対比染色として使用した。切片を脱水し、Vectashield(Vector Laboratories社)中に封入した。画像の取り込みを、Leica社DM5000顕微鏡を使用して実行した。
【0172】
レーザ制御顕微解剖のために、ホルマリン固定パラフィン包埋PiZ肝臓の10μm切片を、速やかに再水和し(キシレンを2分間に2回、100%エタノール1分間、95%エタノール1分間、75%エタノール1分間)、マイヤーのヘマトキシリン(Bio-Optica社)及びエオシンY(Sigma)で染色し、速やかに脱水した(75%エタノール1分間、95%エタノール1分間、100%エタノール1分間)。溶液はピロカルボン酸ジエチル処理水中で全て調製し、4℃で保ち、RNA分解を最小限にとどめた。乾燥切片を、PALM Microbeam(Zeiss社)を使用してレーザ制御顕微解剖した。各試料について総領域5×105μm2を解剖した。連続したPAS-D染色切片を使用して、解剖領域を同定した。トータルRNAを、製造業者のプロトコールに従ってRNeasy FFPE kit(Qiagen社)を使用して抽出した。
【0173】
ウェスタンブロッティングの場合、組織由来のタンパク質を、標準的な手順に従ってRIPA緩衝液中に抽出した。核タンパク質抽出物を、CelLytic NuCLEAR Extraction Kit(Sigma-Aldrich社)を使用して調製した。一次抗体をTBS-T/5%ミルク中に希釈した(Bio-Rad Laboratories社)[Table 6(表6)]。二次抗体は、ECL抗ウサギHRP及びECL抗マウスHRP(GE Healthcare社)であった。ペルオキシダーゼ基質は、ECL Western Blotting Substrateキット(Pierce社)によって提供された。バンド強度の分析を、Quantity One 1-D Analysis Softwareバージョン4.6.7(Bio-Rad Laboratories社)を使用して実行した。
【0174】
統計分析
両側スチューデントt検定及び分散分析+チューキーのHSD事後検定を、平均比較の統計的検定として使用した。実験群のサイズを、図凡例に報告する。データを、平均値±標準誤差として報告する。
【0175】
結果
PiZマウス肝臓のmiRNAプロファイリングにより、miR-34b/cの上方調節が明らかになった
トランスジェニックPiZマウスは、AAT欠損に罹患した患者と類似の様式で肝細胞のER内にATZを蓄積する。従って、これらマウスは、AAT欠損の肝疾患を調査するのに有益な実験モデルである。本発明者らは、PiZマウス並びに系統、齢及び性別を一致させた野生型対照の肝臓中のmiRNAを次世代塩基配列決定することによって、差異的に発現されるmiRNAを評価した。70個のmiRNAが、野生型対照と比較して、PiZ肝臓において差異的に発現されることが判明した(
図8)。差異的に発現されるmiRNAの中で、miR-34b-5pとmiR-34c-5p(以後、miR-34b及びmiR-34cと称する)の両方が、野生型対照と比較して、PiZマウスにおいて最も高い倍率変化及び統計的有意性を示した(
図9A)。PiZマウスにおいて、共通の一次転写産物から発現されるmiR-34b及びmiR-34cの上方調節が、標的としたリアルタイムPCR分析によって肝臓(
図9B)と血漿(
図9C)の両方に確認されるが、miR-34a発現の差異は、血液中では検出されたが肝臓では検出されなかった(
図9B及び
図9C)。溶血マーカーであるmiR-16の発現は、2群間で有意に異ならなかった(
図10)ので、溶血を血液中のmiR-34b/cレベルの増大に関与する因子としては除外した。
【0176】
miR-34b/cは、主に肝細胞によって発現され、そのレベルは、肝ATZ蓄積と相関する
ATZ媒介性肝疾患におけるmiR-34b/cの役割を調査するために、本発明者らは、実質及び非実質性肝臓細胞においてmiR-34b/c発現を最初に測定した。成熟miRNAは分泌され、miRNAを発現していない隣接する細胞に取り込まれうるので、本発明者らは、PiZマウスの実質及び非実質性肝臓細胞においてmiR-34b/c共通の一次転写産物(pri-miR-34b/c)を評価した。この前駆体転写産物は、miRNAを発現している細胞に特異的であるが、成熟miRNAを取り込んだ細胞には特異的でない。pri-miR-34b/cは、アルブミン遺伝子発現が濃縮されている実質画分において主に発現されることが判明した(
図11A)。PiZマウス肝臓においてジアスターゼ消化後の過ヨウ素酸シッフ染色(PAS-D)によって可視化されたATZの蓄積は一様でなく、PAS-D球がない領域と含有する領域の両方が、同じ肝臓組織切片上に一般に検出される。miR-34b/cレベルとATZ蓄積を相関させるために、本発明者らは、PiZ肝臓に対してレーザ制御顕微解剖(LCM)を実行して、miR-34b/c発現のqPCR分析のためにPAS-D陰性からPAS-D陽性領域を分離した。PASD陰性領域と比較して、PAS-D陽性領域は、miR-34b/cの増大を示した(
図11B及び
図11C)。次に、本発明者らは、ATZの発現を標的とし、下方調節するように設計した人工miRNAを発現する組換え血清型8アデノ随伴ウイルス(rAAV8)ベクター(AAV8pCB-mir914-GFP)又は緑色蛍光タンパク質(GFP)レポータ遺伝子を発現するAAV8pCB-GFPを同用量注射した6週齢PiZマウスを分析した。注射4週間後までに、AAV8pCB-mir914-GFPを注射したマウスの肝臓は、PAS-D染色及びATZの循環レベルの減少を示し、miR-34b/cの肝臓含有量を低下させた(
図11D)。総合すると、これら発見から、肝臓におけるmiR-34b/cレベルとATZ蓄積との相関が明らかになった。
【0177】
miR-34b/cの発現は、JNK-FOXO3によって上方調節される
miR-34b/cの発現は、FOXO3によって直接調節される。しかしながら、FOXO3タンパク質のレベルは、PiZと野生型対照マウスの間で軽度の及び有意でない差異しか示さなかった(
図12A及び
図12B)。にもかかわらず、免疫組織化学(
図12C)によって、PiZマウスは、野生型対照と比較してPiZマウス肝臓の核画分におけるより高いFOXO3レベルの検出によって確認される肝細胞におけるFOXO3核シグナルの増大を示し、このことは核外移行の増大を示唆した(
図12D及び
図12E)。核FOXO3の増大と一致して、RNA-seqデータに対する遺伝子セットエンリッチメント分析(GSEA)から、野生型対照と比較してPiZ肝臓において差異的に発現される遺伝子の中でもFOXO3標的遺伝子の有意な濃縮が明らかになった(濃縮スコア[ES]=0.47) (
図12F及び
図12G)。
【0178】
FOXO3は、Ser
574残基におけるJNKリン酸化によって活性化され、JNKはPiZ肝臓において活性化される。PiZマウスは、リン酸-Ser
574-FOXO3レベルの増大を示し、一方でPiZ/Jnk1
-/-マウスは、野生型対照と類似のリン酸化FOXO3レベルを示し(
図13A及び
図13B)、Foxo3遺伝子発現に有意な変化がないにもかかわらず(
図13C)、PiZと比較して核FOXO3が減少した(
図13D及び
図13E)。更に、PiZ/Jnk1
-/-肝臓は、PiZ対照と比較してmiR-34b/cレベルの減少を示した(
図13F)。総合すると、これら結果は、PiZ肝臓におけるFOXO3のJNK依存的活性化が、miR-34b/c発現を駆動することを示唆する。
【0179】
miR-34b/cの欠如は、PiZマウスにおける肝線維症の発症を加速する
ATZ媒介性肝疾患におけるmiR-34b/cの役割を調査するために、本発明者らは、PiZマウスをmiR-34b/c
-/-マウスと交雑することによってPiZ/miR-34b/c
-/-を生成した。PiZ/miR-34b/c
-/-マウスは、正常な受精能及び性比を示した。13~15週齢において、PiZ/miR-34b/c
+/+、PiZ/miR-34b/c
+/-及びPiZ/miR-34b/c
-/-肝臓は、PAS-D染色によって類似のATZ蓄積を示した(
図14A、左パネル)。循環アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルは、対照と比較してPiZ/miR-34b/c
+/+及びPiZ/miR-34b/c
-/-において少ししか増大せず、PiZ/miR-34b/c
-/-とPiZ/miR-34b/c
+/+マウスの間で有意に異ならなかった(
図14B)。にもかかわらず、PiZ/miR-34b/c
-/-及びPiZ/miR-34b/c
+/-マウスの肝臓は、シリウスレッド染色で示すように、PiZ/miR-34b/c
+/+より重篤な線維症を発症した(
図14A、右パネル)。シリウスレッド染色の定量化及び肝ヒドロキシプロリン含有量の測定から、PiZ/miR-34b/c
+/+と比較してPiZ/miR-34b/c
-/-における肝線維症の有意な増大が確認されたが、PiZ/miR-34b/c
+/-は、PiZ/miR-34b/c
-/-とPiZ/miR-34b/c
+/+の間の中レベルの線維症を示した(
図14C及び
図14D)。
【0180】
RNA-seq分析は、PiZ/miR-34b/c
-/-マウスにおける肝遺伝子発現が、よく集まっており、PiZ/miR-34b/c
+/+が、miR-34b/c
-/-及び野生型対照マウスと分離されることを示した(
図15A)。PiZ/miR-34b/c
-/-対PiZ/miR-34b/c
+/+において差異的に発現した遺伝子の分析は、1,580種の異常調節された遺伝子(上方調節802種、下方調節778種)をもたらした。機能的注釈クラスタリング分析は、差異的に発現される遺伝子の有意な量が、コラーゲン、組織損傷及び再生(即ち、細胞死及び増殖、血管新生、細胞遊走)を含めた細胞外基質成分の生物学的プロセスに関連することを示した(
図15B)。更に、肝線維症発現署名を使用するGSEAは、PiZ/miR-34b/c
-/-対PiZ/miR-34b/c
+/+において上方調節された遺伝子の中で線維症遺伝子の有意な濃縮を示した(
図15C及び
図15D)。総合すると、これら発見は、PiZマウスにおける肝線維症の発症におけるmiR-34b/cの保護的な役割を裏づける。
【0181】
miR-34b/cが欠如しているPiZマウスにおける血小板由来増殖因子(PDGF)経路の活性化
ATZを発現する肝臓におけるmiR-34b/cの抗線維化機序を調査するために、本発明者らは、線維症のmiR-34b/c
-/-肝臓において上方調節される遺伝子を検索した。ベン図によって、本発明者らは、miR-34b/c
-/-対野生型、PiZ/miR-34b/c
-/-対PiZ/miR-34b/c
+/+肝臓において差異的に発現される遺伝子を比較した。次に、本発明者らは、PiZ/miR-34b/c
-/-対PiZ/miR-34b/c
+/+において差異的に発現されるが、miR-34b/c
-/-対野生型肝臓において差異的に発現されない遺伝子を単離した(
図16)。1418種の遺伝子のこのサブセットの中で、上方調節された58種の遺伝子は、miR-34b/cの推定標的遺伝子であった[Table 7(表7)]。これら遺伝子の中でも、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)のα及びβサブユニットをそれぞれコードしているPdgfra及びPdgfrbは、肝線維症における血小板由来増殖因子(PDGF)経路の統合された役割のため、最も興味深かった。PDGFA-Dリガンドは、チロシンキナーゼPDGFRの活性化による肝星細胞の増殖及び筋線維芽細胞への分化を駆動する強力な有糸分裂促進物質である。Pdgfra及びPdgfrbによってそれぞれコードされるPDGFRα又はPDGFRβの下方調節は、肝線維症に対して保護的な役割を発揮し、その過剰発現は線維化誘導性である。興味深いことに、Pdgfra 3'-非翻訳領域(UTR)は、miR-34b/cに対する推定の通常の標的部位を2つ含む(8merを1つ及び7merを1つ)。Pdgfrbの3'-UTRは、コード配列中にmiR-34b/cに対する通常の結合部位を6つ(8merを1つ及び6merを5つ)及び8mer部位を1つ有する。更に、miR-34ファミリーによるPDGFRA及びPDGFRBの標的化を、ヒトにおいて検証した。miR-34b/cによる標的化を、Pdgfra(
図17A及び
図17C)及びPdgfrb(
図17B及び
図17D)の野生型並びに突然変異させた3'-UTRに対するルシフェラーゼアッセイによって検証した。Pdgfra及びPdgfrbの上方調節を、PiZ/miR-34b/c
-/-対PiZ/miR-34b/c
+/+におけるタンパク質レベルで確認した(
図17E及び
図17F)。更に、PiZ/miR-34b/c
-/-の肝臓は、リン酸Tyr
849/857-PDGFRα/βレベルの増大、並びに標的JAK1及びAKTのリン酸化の増大を示し、放出されたmiR-34b/cによるPDGFRα/βの抑制及び下流の標的の活性化と一致した(
図17E及び
図17F)。総合すると、これらデータは、miR-34b/cの欠如がPDGFRα/βの上方調節及びPDGF経路の活性化をもたらすことを示し、従って、miR-34b/cがPDGF経路を抑制することによって肝線維症を拮抗することを示唆する。
【0182】
miR-34cは、ATZを発現しているヒト肝臓において増大する
この発見の臨床的関連性を調査するために、本発明者らは、AAT欠損の患者の肝臓試料中のFOXO3及びmiR-34b/cを分析した。miR-34b及びmiR-34cは、両方ともヒトにおいて同じ一次転写産物から発現されるので、本発明者らは、miR-34b/c発現の代用としてヒトmiR-34cレベルを分析した。PiZマウスと類似して、無関係な肝臓障害のために肝臓移植を受けた患者の対照肝臓と比較して、肝臓移植を必要とする進行した肝疾患があるAAT欠損患者は、FOXO3核レベルの増大及びmiR-34cの有意な上方調節を示した(
図18A~
図18C)。注目すべきことに、AAT欠損患者の肝臓は、JNKの活性化があることがこれまでに判明している。更に、より軽度の肝疾患がある独立した患者4名[Table 3(表3)]の肝臓標本は、無関係な肝疾患の対照と比較してリン酸Ser
574-FOXO3レベルの増大(
図18D及び
図18E)、及び対照と比較してmiR-34cの上方調節の傾向を示した(
図18F)。PiZ肝臓におけるデータと一致して、miR-34cは、LCMによって取得した球がない領域と比較してPAS-D陽性肝臓領域において上方調節された(
図18G及び
図18H)。
【0183】
JNK/FOXO3/miR-34b/c経路は、異なる病因の肝線維症において活性化される
本発明者らは、miR-34b/c並びにその上流調節因子JNK及びFOXO3が、AAT欠損に加えて他の形態の肝線維症にも関係する可能性があると仮定した。この仮説を調査するために、本発明者らは、Abcb4
-/-マウス及び胆管結紮マウスにおける胆管線維症、並びに四塩化炭素(CCl
4)又はチオアセタミド(TAA)を投与したマウスにおける薬理学的に誘導された汎小葉性線維症を含めた、肝線維症の様々なモデルにおいてJNK、FOXO3及びmiR-34b/cを評価した。これまでの研究と一致して、JNK活性化及び付随するリン酸Ser
574- FOXO3の増大が、対照と比較して線維化肝臓において検出された(
図19)。更に、miR-34b/cは、対照と比較して線維化肝臓において上方調節されており(
図20)、様々な病因によって誘導された肝線維症におけるJNK/FOXO3/miR-34b/c経路の活性化を確認した。
【0184】
考察
本研究において、本発明者らは、ATZ蓄積があるマウス及びヒト肝臓においてSer574におけるJNKリン酸化、FOXO3活性化並びにmiR-34b/cの上方調節を見出した。miR-34b/cを欠失するPiZマウスは、より強い肝線維症及びPDGFシグナル伝達の増大、miR-34b/cの標的である線維化誘導性分子の確立を示した。興味深いことに、JNK活性化されたFOXO3及びmiR-34b/cの上方調節が、肝線維症のいくつかのマウスモデルにおいても見出され、この経路が肝疾患に広く関係することが示唆された。
【0185】
JNKシグナル伝達は、肝細胞における細胞死、生存、分化、増殖及び腫瘍形成に関連する。更に、それは炎症及び線維症に関係する。JNKは、ATZを発現している肝臓において活性化され、FOXO3をリン酸化することができ、それによりFOXO3の核外移行が促進される。HCV感染でこれまでに観察されたように、JNKは、ATZを発現している肝臓においてSer574残基においてFOXO3をリン酸化することができる。Ser574のリン酸化は、FOXO3依存的アポトーシスを駆動し、一貫して、アポトーシスとATZ量の間の相関が、これまでに示されている。これまでの研究は、FOXO3が、その発現を上方調節するmiR-34b/cプロモーターに結合することを報告しており、従って、本発明者らは、PiZマウスにおけるmiR-34b/cの上方調節が、JNKによるFOXO3活性化に依存的であることを見出した。興味深いことに、本発見は、ATZを発現している肝臓及び線維症をもたらす様々な型の障害に供されたマウスの肝臓におけるmiR-34b/cのFOXO3媒介性上方調節のこれまで認識されてこなかった抗線維化の役割を示唆するものである。miR-34ファミリーメンバーの上方調節は、薬理学的に誘導された肝線維症の動物モデルにおいてこれまでに見出されており、miR-34bの上方調節は、ヒトのウイルス性肝炎による線維症と関連した。miR-34aの線維化誘導性の役割を裏づける一連の証拠は増加しているが、miR-34b/cの役割はあまり明らかでなく、抗線維化と線維化誘導性活性の両方が観察されている。しかしながら、それら研究のほとんどは、肝細胞を肝星細胞と共培養することなくin vitroで実行された。対照的に、本発明者らは、16~24週齢までに肝線維症を自発的に発症するPiZマウスモデルにおいてin vivoでmiR-34b/c欠失の結果を評価した。
【0186】
本研究の発見は、miR-34b/cが、PDGFシグナル伝達を抑制することによって肝線維症を減少させることも示唆した。PDGF経路の活性化は、肝星細胞並びに門脈線維芽細胞において主に起こり、それら細胞の増殖及び筋線維芽細胞への分化形質転換を促進し、線維症の発達及び進行を駆動する。本発明者らは、主に肝細胞においてFOXO3の活性化及びmiR-34b/cの発現を検出した。従って、肝細胞におけるmiR-34b/cによるPDGFシグナル伝達の抑制が、肝線維症から保護すると主張されうる。しかしながら、miRNAは分泌される場合があり、他の肝細胞型に対する分泌されたmiR-34b/cの傍分泌活性を排除することはできない。従って、miR-34b/cレベルがPiZ血漿中で増大したことは、肝細胞によるその分泌を裏づけた。他方、PDGFRαの発現が損傷を受けた肝細胞において誘導され、PDGFRαの肝細胞に制限された欠失が肝線維症を低下させることは、miR-34b/cの肝細胞特異的抗線維化効果を裏づける。にもかかわらず、なおmiR-34b/cの標的であるPDGF経路と無関係な追加の遺伝子の関与を、排除することはできない。
【0187】
興味深いことに、FOXO3は、致死的で進行性の繊維化実質性肺疾患である特発性肺線維症において起こる線維形成に不可欠な役割を果たす。従って、本研究の結果は、miR34b/cの上方調節が肺線維症にも関係する可能性があるという魅力的な仮説を提起する。
【0188】
肝線維症は、SERPINA1のZ対立遺伝子についてホモ接合体である若い個体においてあまり一般的でないが、その発生率は年齢と共に有意に増大する。最近の研究によると、臨床的に関連する線維症は、成人性Pi*ZZの20~35%に起こり、線維症の程度は、突然変異体タンパク質負荷と相関する。Z対立遺伝子のホモ接合体のうちの肝線維症発症の変動の根底にある機序は不明である。miR-34b/cレベルに影響を及ぼすプロモーター領域の多型は、肝線維症の発症に対する個体の感受性を保護又は増大させる可能性がある。ヘテロ接合体Z対立遺伝子は、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)及びアルコール誤用における肝硬変の最も強い単一ヌクレオチド多型に基づくリスク因子として最近明らかになった。従って、また、miR-34b/c多型が、Z対立遺伝子についてヘテロ接合体である個体においても肝線維症のリスクを増大させる可能性があると推測されうる。
【0189】
結論として、本発明者らは、ATZの発現又は線維症をもたらす他の型の障害によって傷つけられた肝臓におけるmiR-34b/cの上方調節及びJNK-FOXO3の活性化を同定した。PiZマウスにおいて、miR-34b/cの欠如は、より重篤な肝線維症をもたらし、PDGFシグナル伝達の増大の結果である可能性が高い。総合すると、これら結果は、肝疾患の病因に関係する重要な経路を解明する。線維症は、主要な世界的健康問題であり、その発病機序、従って重要な治療標的の解明は、優先的な研究課題である。肝線維症の根底にある分子的機序の解明は、抗線維化療法を確立するために基本的に重要であり、本研究は、治療的介入の標的になる可能性がある新たな経路を明らかにした。
(参考文献)
【配列表】
【国際調査報告】