(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】水素、電気及び熱の一貫生産
(51)【国際特許分類】
C01B 3/38 20060101AFI20240312BHJP
C01B 3/56 20060101ALI20240312BHJP
B01J 23/755 20060101ALI20240312BHJP
B01J 23/745 20060101ALI20240312BHJP
B01J 23/72 20060101ALI20240312BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20240312BHJP
H01M 8/04701 20160101ALI20240312BHJP
H01M 8/04007 20160101ALI20240312BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20240312BHJP
H01M 8/0612 20160101ALI20240312BHJP
【FI】
C01B3/38
C01B3/56 Z
B01J23/755 M
B01J23/745 M
B01J23/72 M
H01M8/12 101
H01M8/04701
H01M8/04007
H01M8/04 Z
H01M8/0612
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553641
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(85)【翻訳文提出日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 US2022018877
(87)【国際公開番号】W WO2022187602
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506018363
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ、クンホ
(72)【発明者】
【氏名】ハラレ、アーデッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ファム、タン
(72)【発明者】
【氏名】ジャマル、アキル
(72)【発明者】
【氏名】コウェイター、アフマド オー.
【テーマコード(参考)】
4G140
4G169
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
4G140EA03
4G140EA06
4G140EB01
4G140EB32
4G140EB37
4G140EB45
4G140EC02
4G140FA02
4G140FB05
4G140FC01
4G140FE01
4G169AA03
4G169BB02A
4G169BB04A
4G169BC31A
4G169BC66A
4G169BC68A
4G169CB81
4G169EA07
5H126BB06
5H127AA07
5H127AB21
5H127AB22
5H127BA05
5H127BA12
5H127BA18
5H127BA32
5H127BA48
5H127DC06
(57)【要約】
水素、電力及び熱エネルギーの共生産のための方法及びシステムである。例示的な方法は、供給流を脱硫して脱硫供給流を形成し、脱硫供給流を改質してメタンリッチガスを形成し、メタンリッチガスを膜分離器に供給することを含む。膜分離器からの透過物中には水素流が生成される。膜分離器からの残留物流は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)に提供される。SOFCでは、残留物流から電力が生成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱硫供給流を形成するために供給流を脱硫する工程と、
メタンリッチガスを形成するために前記脱硫供給流を改質する工程と、
前記メタンリッチガスを膜分離器へ供給する工程と、
前記膜分離器からの透過物中に水素流を生成する工程と、
前記膜分離器から固体酸化物形燃料電池(SOFC)へ残留物流を供給する工程と、
前記SOFCで前記残留物流から電力を生成する工程と、を備える、
水素、電力及び熱エネルギーを共生産する方法。
【請求項2】
前記供給流を脱硫する工程の前に、前記供給流に水素を混合する工程を備える、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記供給流を脱硫する工程の前に、前記水素流の一部を前記供給流と混合する工程を備える、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記供給流を吸着ユニット中で脱硫する工程を備える、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
製品として使用するために、前記水素流を圧縮する工程を備える、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記SOFCへ前記残留物流を供給する工程の前に、前記残留物流を前記SOFCの動作温度に加熱する工程を備える、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記SOFCで生成された熱を利用する工程を備える、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記SOFCで生成された熱で前記残留物流を加熱する工程を備える、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記SOFCで生成された熱で蒸気を生成する工程を備える、
請求項7に記載の方法。
【請求項10】
脱硫供給流を形成する炭化水素供給流から硫黄を除去するための脱硫ユニットと、
前記脱硫供給流をメタンリッチガスに変換するための予備改質器と、
透過物中の前記メタンリッチガスから水素の少なくとも一部を除去するための膜分離器と、
前記膜分離器からの残留物から電力を生成するための固体酸化物形燃料電池(SOFC)と、を備える、
トリジェネレーション設備。
【請求項11】
前記SOFCからの熱エネルギーを利用するための熱交換器を備える、
請求項10に記載のトリジェネレーション設備。
【請求項12】
前記残留物を前記SOFCの動作温度に加熱するための熱交換器を備える、
請求項10に記載のトリジェネレーション設備。
【請求項13】
前記予備改質器は、ニッケル触媒を含む蒸気改質器を備える、
請求項10に記載のトリジェネレーション設備。
【請求項14】
前記予備改質器は、約300℃~約550℃の間の温度で動作する、
請求項13に記載のトリジェネレーション設備。
【請求項15】
前記蒸気改質器は、約2bar~約30barの間の圧力で動作する、
請求項13に記載のトリジェネレーション設備。
【請求項16】
前記メタンリッチガス中の水素の量を増加させるための水性ガスシフト触媒を備える、
請求項10に記載のトリジェネレーション設備。
【請求項17】
前記水性ガスシフト触媒は、酸化鉄又は酸化銅を備える、
請求項16に記載のトリジェネレーション設備。
【請求項18】
前記膜分離器は、高温水素選択膜である、
請求項10に記載のトリジェネレーション設備。
【請求項19】
前記膜分離器は、パラジウム、パラジウム合金又はその両方を含む、
請求項18に記載のトリジェネレーション設備。
【請求項20】
前記膜分離器は、炭素ベースの膜、ゼオライトベースの膜又はその両方を備える、
請求項18に記載のトリジェネレーション設備。
【請求項21】
前記膜分離器は、水性ガスシフト触媒を含む、
請求項10に記載のトリジェネレーション設備。
【請求項22】
前記膜分離器は、透過側に前記水素を輸送するために電気的に駆動されるプロトン伝導性材料を備える、
請求項10に記載のトリジェネレーション設備。
【請求項23】
前記供給流は、プロパン、ブタン又はその両方を含む、
請求項10に記載のトリジェネレーション設備。
【請求項24】
前記供給流は、液化天然ガスを含む、
請求項10に記載のトリジェネレーション設備。
【請求項25】
前記供給流は、原料天然ガスを含む、
請求項10に記載のトリジェネレーション設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2021年3月4日に出願された米国特許出願第17/191,992号の優先権を主張し、その全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
大気中の二酸化炭素(CO2)は着実に増加しており、世界中で気候変動や海洋酸性化等の環境問題が深刻化している。CO2だけで温室効果ガスの75%以上を占めている。CO2が環境に及ぼす潜在的な悪影響を減速させるために、科学研究は、輸送及び発電等の排出の大部分を占める部門からのCO2の回収、変換及び隔離に焦点を当てている。
【0003】
輸送部門の電化は、水素燃料電池電気自動車やバッテリー電気自動車の台頭に伴って急速に進んでおり、乗用車や大型車などの排出源を排除することが可能となっている。しかし、これらの新しい用途に水素及び電気を供給するためのインフラ要件に対応することが、特に課題となっている。効率的な世界規模の炭化水素流通インフラは世界の多くの地域にすでに存在しており、本発明は、水素及び電気インフラが確立される一方で、エネルギーに対する新たな市場需要に対処するために、このインフラを経済的に利用することを可能にする。
【発明の概要】
【0004】
本明細書に記載の実施形態は、水素、電力及び熱エネルギーを共生産(coproduction)する方法を提供する。この方法は、供給流を脱硫して脱硫供給流を形成する工程と、脱硫供給流を改質してメタンリッチガスを形成する工程と、メタンリッチガスを膜分離器に供給する工程と、を含む。膜分離器からの透過物中に水素流が生成される。膜分離器からの残留物(retantate)流は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)に提供される。SOFCにおいて、残留物流から電力が生成される。
【0005】
本明細書に記載の別の実施形態は、トリジェネレーション(trigeneration)設備を提供する。このトリジェネレーション設備は、脱硫供給流を形成する炭化水素の供給流から硫黄を除去するための脱硫ユニットを含む。脱硫供給流をメタンリッチガスに変換するための予備改質器を含む。透過物中のメタンリッチガスから水素の少なくとも一部を除去するための膜分離器を含む。膜分離器からの残留物から電力を生成するための固体酸化物形燃料電池(SOFC)を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】水素膜分離器を組み込んだトリジェネレーション設備の概略図である。
【0007】
【
図2】水性ガスシフト反応器と一体化された水素膜分離器を組み込んだトリジェネレーション設備の概略図である。
【0008】
【
図3】水素膜分離器を組み込んだトリジェネレーション設備において、水素、電気、及び熱を生成するために炭化水素供給流を使用するプロセスのフローチャートである。
【0009】
【
図4】水性ガスシフト反応器と一体化された水素膜分離器を組み込んだトリジェネレーション設備において、水素、電気及び熱を生成するために炭化水素供給流を使用するプロセスのフローチャートである。
【0010】
【
図5】水素膜分離器を組み込んだトリジェネレーション設備の単純化されたプロセスモデルである。
【0011】
【
図6】水性ガスシフト反応器と一体化された水素膜分離器を組み込んだトリジェネレーション設備の単純化されたプロセスモデルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書に記載されるシステムは、効率性及び持続可能性の向上を達成しようとする輸送産業が直面する技術的、システム的及びインフラ的課題に対処する。本明細書に記載される実施例は、脱硫ユニット、予備改質器、膜分離器、及び、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を含むトリジェネレーション設備を提供する。脱硫ユニットにおいて、硫黄及び他の不純物は、一般に12個以下の炭素原子を有し、例えば約200℃未満の沸点の炭化水素供給流から除去される。得られた脱硫流は、予備改質器で処理され、水素を含有するメタンリッチガス流を生成する。
【0013】
予備改質器からの改質油(reformate、リフォーメート)は、改質油から水素を除去する膜分離器を通って流れる。水素は、化学プラントなどの輸送、発電及び他の用途のためのゼロカーボン生成物として使用され得る。水素の一部は、例えば脱硫ユニットにおいて、水素化脱硫のために使用されてもよい。水素の少なくとも一部を除去した後、残りの改質油は、電力を発生させるためにSOFCに供給される。SOFCで生成された熱エネルギーは、蒸気生成などの他のプロセスで使用することができる。熱エネルギーの少なくとも一部は、それをSOFCに導入する前に、SOFCの動作温度まで残りの改質油流を加熱するために使用されてもよい。CO2を含むSOFCからの廃棄物流は、CO2変換プロセス又は隔離に使用するために精製することができる。
【0014】
この設備において、炭化水素供給流は、電力、水素及び熱を生成するために直接処理される。電力に加えて、これらの技術は、合成ガス及び潜在的に水素を生成するために使用することができる。低カーボンフットプリントの操業を目標とする場合、廃棄物流中のCO2は、回収され、使用され又は貯蔵される。
【0015】
図1は、水素膜分離器102を組み込んだトリジェネレーション設備100の概略図である。トリジェネレーション設備100は、任意の数の軽質炭化水素を含み得る炭化水素供給物104を有する。様々な実施形態において、炭化水素供給物104は、天然ガス、液化石油ガス(都市ガス)、又は200℃までの沸点範囲を有するナフサを含む。
【0016】
図1の実施形態では、脱硫ユニット106は、例えば水素化脱硫又は水素化脱金属プロセスにより、硫黄及び他の不純物を除去する。いくつかの実施形態では、脱硫は、周囲温度で吸着剤によって実施される。これらの実施形態は、ガス中の硫黄の量が比較的低い場合、例えば、約1%未満、約0.5%未満、約1500ppm未満、約500ppm未満、又はそれ未満である場合、より簡単な操作及び保守を提供することができる。
【0017】
脱硫触媒を使用する実施形態では、水素流を脱硫ユニット106に供給することができる。脱硫ユニット106では、金属、硫黄及び窒素等の汚染物質は、脱金属、脱硫及び脱窒素のうちの1つ又は複数の触媒機能を果たす一連の層状触媒に、炭化水素供給物104を通すことによって除去することができる。いくつかの実施形態では、水素化脱金属(HDM)及び水素化脱硫(HDS)を行うための一連の触媒が、水素化脱金属触媒、中間触媒、水素化脱硫触媒、及び最終触媒を含むことができる。
【0018】
中間触媒は、水素化脱金属機能と水素化脱硫機能との間の移行を行うために使用することができる。中間触媒は、中間金属担持及び細孔径分布を有することができる。脱硫ユニット106中の触媒は、押出物の形態のアルミナベースの担体、第VI群からの少なくとも1つの触媒金属(例えば、モリブデン、タングステン又はその両方)、第VIII群からの少なくとも1つの触媒金属(例えば、ニッケル、コバルト又はその両方)、あるいはそれらのうちの任意の2つ以上の組合せであり得る。触媒は、ホウ素、リン、ハロゲン及びケイ素のうちの1つ以上等の、少なくとも1つのドーパントを含有することができる。中間触媒は、約140m2/g~約200m2/gの表面積、少なくとも約0.6cm3/gの細孔容積、及び約12nm~約50nmのサイズのメソ多孔性細孔を有することができる。
【0019】
脱硫を実施するための触媒は、約180m2/g~約240m2/gの間のような、HDMレンジの高い方の表面積を有するガンマアルミナベースの担体物質を含むことができる。HDS触媒の表面積が大きいほど、細孔容積は、約1cm3/g未満のように、相対的に小さくなる。触媒は、モリブデンなどの第VI群からの少なくとも1つの元素と、ニッケルなどの第VIII群からの少なくとも1つの元素とを含有する。触媒はまた、ホウ素、リン、ケイ素及びハロゲンのうちの1つ以上といった、少なくとも1つのドーパントを含有する。いくつかの例では、コバルト(Co)を使用して、比較的高いレベルの脱硫を提供することができる。活性相に対する金属担持量は、所望の活性が高いほど高く、その結果、Ni:(Ni+Mo)のモル比は約0.1~約0.3であり、(Co+Ni):Moのモル比は約0.25~約0.85である。
【0020】
本明細書で説明するように、脱硫ユニット106は、炭化水素供給物104を、例えば、水素膜分離器102からの水素で処理する。この水素は、炭化水素供給物104の割合として、0.1mol%(モル濃度)、0.5mol%、1mol%、5mol%又はそれ以上で添加され得る。
【0021】
脱硫ユニット106は、約300℃から約450℃の間の温度、例えば約300℃、約350℃、約400℃、約450℃又は別の温度で動作することができる。脱硫ユニット106は、約30bar(バール)から約180barの間の圧力、例えば約30bar、約60bar、約90bar、約120bar、約150bar、約180bar、又は別の圧力で動作することができる。
【0022】
脱硫ユニット106からの脱硫流108は、例えばNiベースの触媒を用いて予備改質器112において改質される前に、蒸気110が添加される。本明細書で使用される場合、予備改質器は一般に、炭化水素流を、CH4、H2、CO、CO2及び水蒸気を含むメタンリッチ流に変換する。改質器は一般に、炭化水素流を、主にH2、CO、CO2、蒸気及び少量のCH4を含む合成ガスに完全に変換するように指定される。
【0023】
予備改質器112において、炭化水素は蒸気110と反応する。予備改質器112は、約0.01barから約50barの間の圧力、例えば約0.01bar、約0.1bar、約0.5bar、約1bar、約5bar、約10bar、約20bar、約30bar、約40bar、約50bar、又は別の圧力で動作することができる。予備改質器112の出口における水素対炭化水素のモル比は、約1:1から約10:1の間、例えば約1:1、約2:1、約4:1、約6:1、約8:1、約10:1、又は別の比であり得る。予備改質器112は、約300℃から約550℃の間の温度、例えば約300℃、約400℃、約450℃、約500℃、約550℃、又は別の温度で動作することができる。
【0024】
予備改質器112は、少なくともほとんど全てのC2
+炭化水素がC1に変換された、メタンリッチガス又は改質油114を生成する。予備改質器112からの改質油114は、水素膜分離器102に送られる。水素膜分離器102は、高温で動作する水素選択膜を利用する。いくつかの実施形態では、水素膜分離器102は、約300℃から約550℃の間の温度で動作する。いくつかの実施形態では、水素膜分離器102は、透過側に水素を輸送するように電気的に駆動されるプロトン伝導性材料を含む。
【0025】
様々な実施形態において、水素選択膜は、パラジウム、パラジウム合金、炭素ベースの膜、又はゼオライトベースの膜を含む。膜は、透過流116において、水素を改質油114から選択的に除去する。膜の選択は、コスト、製造の容易さ、寿命及び水素フラックスなどの他の要因に基づいて行うことができる。
【0026】
水素は、例えば必要に応じて、車両等の燃料電池用途のための純度規格に到達するために、さらに処理される。ISO FDIS 1467-2によれば、水素純度は一般に少なくとも99.97%である。例えば、水素の精製のために、圧力スイング吸着(PSA)システム(図示せず)が、トリジェネレーション設備100に含まれ得る。これらの実施形態では、透過流116がPSAシステムに送られる。PSAシステムは、ゼオライト吸収剤で充填された2つの塔(column、カラム)、すなわち1つの活性塔及び1つの再生塔を含むことができる。透過流116は、水素流から不純物を吸収する活性塔を通って流れる。実施形態において、透過流116中の水素の純度は、約80vol%以上、約90vol%以上、約95vol%以上、又はそれ以上である。不純物が活性塔を通過し始めると、流れは再生塔に切り換えられ、再生塔は次いで活性塔になる。その後、以前の活性塔が再生される。
【0027】
精製後、水素は、燃料電池自動車に供給するために必要に応じて400~900barに圧縮される。透過流116中の水素の流れは、透過側圧力又は膜表面積を制御することによって増加させることができる。改質油114の圧力が増加すると、膜を通る水素流束が増加し、透過流116の流量の増大をもたらす。あるいは、より高い表面積に結合された改質油114の圧力を高くすれば、透過流116の流量の増加をもたらす。
【0028】
膜分離器からの残留物流118は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)124のアノード側に送られる。いくつかの実施形態では、熱交換器120を使用して、温度制御された流れ122を形成する残留物流118の温度を調整する。温度制御された流れ122の温度は、アノード側とカソード側との間の温度勾配を最小限に抑えるとともに(SOFCがはるかに高い温度で動作することから)熱衝撃を回避するために、上昇させることができる。空気又は別の酸化剤がSOFC124のカソード側に供給され、電気化学反応が電気126を生成する。残留物流118中の炭化水素は、SOFC124中でさらに改質されて、アノード排気128中の合成ガスの量を増加させることができる。アノード排気128は、膜反応器に再循環して戻すことができ、又は、改質油118の温度を上昇させ、温度制御された流れ122を形成するために熱交換器120を通って流れるなど、供給流を予熱するための熱130を生成するために使用することができる。SOFC124における発電は発熱性であるので、他の技術を使用してSOFC124から熱130を除去することができる。例えば、SOFC124のカソード側により多くの空気を通過させる、SOFC124を熱交換器で囲む、あるいは、SOFC124の構造内に冷却コイルを含める方法などがある。したがって、トリジェネレーション設備100は、透過流116中の水素、電気126及び熱130の生成の最適化を可能にする
【0029】
図2は、統合された水性ガスシフト反応器を有する水素膜分離器を組み込んだトリジェネレーション設備200の概略図である。同様の番号を付した項目は
図1に関して説明したとおりである。さらに、
図2のトリジェネレーション設備200は、透過物116中の水素を精製するためのPSAシステムを含むこともできる。
【0030】
この例では、改質油114は、水性ガスシフト触媒が高温の膜と共に充填された膜反応器202に送られる。いくつかの実施形態では、水性ガスシフト触媒は、高温の酸化鉄ベース又は中低温の酸化銅ベースの触媒であってよい。水性ガスシフト触媒の存在により、改質油114中の一酸化炭素を水素とCO2へ変換することができる。
【0031】
図3は、水素膜分離器を組み込んだトリジェネレーション設備において、炭化水素供給流を用いて水素、電気及び熱を生成する方法300のフローチャートである。この方法300は、ブロック302の炭化水素供給流の脱硫から開始する。本明細書で説明するように、これは、脱硫触媒を用いて、又は硫黄の量が低い場合には吸着剤を用いて、実施され得る。様々な実施形態において、吸着剤は、とりわけ、活性炭、CuO/ZnO/Al
2O
3、Ag-ゼオライト、又はAg/CeO
2を含む。吸着剤は高温で操作する必要はないが、約5℃~約50℃等の周囲温度で操作することができる。吸着剤の選択は、硫黄化合物及び炭化水素原料の種類に依存する。例えば、H
2S、COS、硫黄を含有するヘテロ原子炭化水素などには、種々の吸着剤を使用することができる。低温技術は、例えば乗用車の硫黄吸着剤カートリッジの交換のような、小規模で簡素化されたメンテナンスには経済的である。
【0032】
ブロック304において、脱硫供給流は、例えば予備改質器において改質される。蒸気は、予備改質器の上流の脱硫供給流に添加される。
【0033】
ブロック306において、水素は、透過流として膜分離器中で改質油から分離される。本明細書で説明するように、膜分離器は高温で運転することができる。
【0034】
ブロック308において、膜分離器からの残留物流がSOFCのアノードに提供される。SOFCでは、電気が残留物流及びカソードに供給される酸化剤流から生成される。ブロック304において、アノード排気流の一部は、脱硫供給流と混合され、必要な蒸気を予備改質器に供給するために再循環され、二酸化炭素の隔離のために処理され、あるいは熱のために残りの燃料値を回収するために処理され得る。
【0035】
ブロック310において、透過流は、例えば輸送用途で使用するために、水素を精製するために処理され得る。この精製は、とりわけ、圧力スイング吸着で実施することができる。
【0036】
ブロック312において、SOFCからのプロセス熱は、SOFCのアノードに残留物流を供給する前に、残留物流の温度を上昇させるために使用される熱交換器などの他のプロセスユニットに供給される。他の実施形態では、プロセス熱は、化学プラント用の蒸気を生成するために使用される。
【0037】
図4は、統合された水性ガスシフト反応器を有する水素膜分離器を組み込んだトリジェネレーション設備において、供給流を使用して水素、電気及び熱を生成する方法400のフローチャートである。
図3に関して説明した通りのものは、同様の番号が付されている。この方法400では、ブロック402において、水素の分離の前又は分離中に、改質油に対して水性ガスシフト反応(water-gas shift reaction、水-ガスシフト反応)が実施される。いくつかの実施形態では、水素及びCO
2の収率を高めるために、膜分離器に水性ガスシフト触媒が含まれる。
【0038】
実施例
【0039】
プロセスシミュレーション
【0040】
プロセスモデルは、
図1及び
図2に関して説明した実施形態について、Aspen plus(バージョン10)を使用して構築され、プロセスのすべての構成要素は、質量及びエネルギーの流れを決定するためにモデル化される。これらのプロセスモデルは、高温の流れの利用可能な熱量をプロセスの構成要素の予熱熱負荷要件と一致させることによって、プロセス流の予熱又は冷却を満たすことができる様々な流れの詳細なルーティングを含む。また、これらの実施形態は、Aspen plusライブラリにおける標準的な「プラグアンドプレイ」モデリングモジュールではないため、これらの実施形態は、水素膜分離器102及び202における水素選択膜、ならびにSOFC124を、Aspen plusモデリングプラットフォーム上にどのように表すことができるかを示す。
【0041】
図5は、水素膜分離器を組み込んだトリジェネレーション設備の簡略化されたプロセスモデル500である。S/C=3のモデル化の結果を表1~表3に、S/C=4のモデル化の結果を表4~表6に示す。S/Cは蒸気対炭素比であり、炭化水素供給物のモル流量にその炭素数を乗じた蒸気のモル流量として定義され、例えば、S/C=3のとき、水蒸気のモル流量を、プロパンのモル流量に3を乗じたものと、ブタンのモル流量に4を乗じたものとの合計で割ったものは3となる。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
図6は、水性ガスシフト反応器一体型の水素膜分離器を組み込んだトリジェネレーション設備の簡略化されたプロセスモデルである。
図6のトリジェネレーション設備に基づくシミュレーションでは、予備改質器が温度493℃、圧力10barで運転される。水素分離膜の前に水性ガスシフト反応が存在するS/C=3のシステムのモデリング結果を、表7~表12に示す。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
水素分離膜前に水性ガスシフト反応が存在するS/C=4のシステムのモデリング結果を表13~表18に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
例示的な実施形態
【0063】
本明細書に記載の実施形態は、水素、電力及び熱エネルギーを共生産する方法を提供する。この方法は、供給流を脱硫して脱硫供給流を形成する工程と、脱硫供給流を改質してメタンリッチガスを形成する工程と、メタンリッチガスを膜分離器に供給する工程とを含む。膜分離器からの透過物中には水素流が生成される。膜分離器からの残留物流は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)に提供される。SOFCでは、残留物流から電力が生成される。
【0064】
一態様では、本方法は、供給流を脱硫する前に、供給流と水素とを混合する工程を含む。一態様では、水素流の一部が供給流を脱硫する前に供給流と混合される。一態様では、本方法は、吸着ユニット内で供給流を脱硫する工程を含む。
【0065】
一態様では、本方法は、製品として使用するために水素流を圧縮する工程を含む。一態様では、本方法は、残留物流をSOFCに供給する前に、残留物流をSOFCの動作温度に加熱する工程を含む。
【0066】
一態様では、本方法は、SOFC内で生成される熱を利用する工程を含む。一態様では、本方法は、残留物流をSOFCで生成された熱で加熱する工程を含む。一態様では、本方法は、SOFC内で生成された熱を用いて蒸気を生成する工程を含む。
【0067】
本明細書に記載の別の実施形態は、トリジェネレーション設備を提供する。このトリジェネレーション設備は、脱硫供給流を形成する炭化水素供給流から硫黄を除去するための脱硫ユニットを含む。脱硫供給流をメタンリッチガスに変換するための予備改質器を含む。透過物中のメタンリッチガスから水素の少なくとも一部を除去するための膜分離器を含む。膜分離器からの残留物から電力を生成するための固体酸化物形燃料電池(SOFC)を含む。
【0068】
一態様では、トリジェネレーション設備は、SOFCからの熱エネルギーを利用するための熱交換器を含む。一態様では、トリジェネレーション設備は、残留物をSOFCの動作温度まで加熱するための熱交換器を含む。
【0069】
一態様では、予備改質器は、ニッケル触媒を含む水蒸気改質器を含む。一態様では、予備改質器は、約300℃~約550℃の間の温度で動作する。一態様では、水蒸気改質器は約2bar~約30barの間の圧力で動作する。
【0070】
一態様では、トリジェネレーション設備は、メタンリッチガス中の水素量を増加させるための水性ガスシフト触媒を含む。一態様では、水性ガスシフト触媒は、酸化鉄又は酸化銅を含む。
【0071】
一態様では、膜分離器は、高温水素選択膜である。一態様では、膜分離器は、パラジウム、パラジウム合金、又はその両方を含む。一態様では、膜分離器は、炭素ベースの膜、ゼオライトベースの膜、又はその両方を含む。一態様では、膜分離器は、一体にされた水性ガスシフト触媒を含む。一態様では、膜分離器は、水素を透過側に輸送するために電気的に駆動されるプロトン伝導性材料を含む。
【0072】
一態様では、供給流がプロパン、ブタン、又はその両方を含む。一態様では、供給流は液化天然ガスを含む。一態様では、供給流が原料(未加工の)天然ガスを含む。
【0073】
他の実装形態も以下の特許請求の範囲に含まれる。
【国際調査報告】