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特表2024-512349封止されたMEMSスイッチング素子、装置、及び、製造方法
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  • 特表-封止されたMEMSスイッチング素子、装置、及び、製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】封止されたMEMSスイッチング素子、装置、及び、製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01H 59/00 20060101AFI20240312BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20240312BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20240312BHJP
   H01H 49/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
H01H59/00
B81B3/00
B81C1/00
H01H49/00 L
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553950
(86)(22)【出願日】2022-02-21
(85)【翻訳文提出日】2023-10-11
(86)【国際出願番号】 EP2022054214
(87)【国際公開番号】W WO2022189128
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】21161930.9
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ラーブ,オリバー
(72)【発明者】
【氏名】サントス ヴィルケ,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァルツ,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ツァップ,イェルク
【テーマコード(参考)】
3C081
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081AA11
3C081AA17
3C081BA22
3C081BA30
3C081BA43
3C081BA48
3C081BA72
3C081CA02
3C081CA13
3C081CA23
3C081CA32
3C081DA03
3C081DA04
3C081DA06
3C081DA27
3C081DA30
3C081EA23
(57)【要約】
微小電気機械スイッチング素子(1)が提案されている。これは、-支持層として機能する第1の層(110)と、電気絶縁性の第2の層(120)と、半導体層として構成される第3の層(130)とを備える1つの多層支持基板(100)と、-半導体層(130)の解放された部分領域によって形成された、偏位可能な1つの曲げ要素(135)と、-支持基板(100)に接続された1つのカバー基板(200)とを備えており、ここで、支持基板(100)、特にその支持層(110)、が曲げ要素(135)の領域に1つの凹部(150)を備え、ここで、カバー基板(200)が同様に曲げ要素(135)の領域に1つの凹部(250)及び/又は周回する1つのスペーサ層(260)を備え、その結果、全体として1つの上位の中空空間(350)が形成され、その中に前記曲げ要素(135)が偏位可能なように配置されており、ここで、上位の中空空間(350)は、外部環境に対して気密に封止されるような方法で、支持層(110)によって、及び、カバー基板(200)によって区画されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小電気機械スイッチング素子(1)であって、
支持層として機能する第1の層(110)と、電気絶縁性の第2の層(120)と、半導体層として構成される第3の層(130)とを備える1つの多層支持基板(100)と、
前記半導体層(130)の解放された部分領域によって形成された、偏位可能な1つの曲げ要素(135)と、
前記支持基板(100)に接続された1つのカバー基板(200)と、
を備えており、
ここで、前記支持基板(100)、特に前記支持層(110)が前記曲げ要素(135)の領域に1つの凹部(150)を備え、
ここで、前記カバー基板(200)が同様に前記曲げ要素(135)の領域に1つの凹部(250)及び/又は周回する1つのスペーサ層(260)を備え、
その結果、全体として1つの上位の中空空間(350)が形成され、その中に前記曲げ要素(135)が偏位可能に配置されており、
ここで、前記上位の中空空間(350)は、外部環境に対して気密封止される方法で、前記支持層(110)によって、及び、前記カバー基板(200)によって区画されており、前記多層支持基板(100)がシリコン・オン・インシュレータの層システムである、
微小電気機械スイッチング素子。
【請求項2】
前記曲げ要素(135)の偏位方向(r)が前記多層支持基板(100)の層面に対して実質的に垂直に向いている、請求項1に記載のスイッチング素子(1)。
【請求項3】
前記支持層(110)の前記凹部(150)が、前記シリコン・オン・インシュレータの層システム(100)内の事前製造されたキャビティによって形成されている、請求項1又は2に記載のスイッチング素子(1)。
【請求項4】
前記上位の中空空間(350)の気密封止が、前記多層支持基板(100)と前記カバー基板(200)との間の永続的で流体密封の面状の接続(270)によって達成される、請求項1から3のいずれか1項に記載のスイッチング素子(1)。
【請求項5】
前記カバー基板(200)が機能的に電気絶縁性のカバー基板として形成され、特に、実質的にガラス又はシリコンで形成されている、請求項1から4のいずれか1項に記載のスイッチング素子(1)。
【請求項6】
前記曲げ要素(135)上に1つのスイッチング接点(140)が配置され、
前記カバー基板(200)が、前記曲げ要素(135)の偏位に応じて前記曲げ要素(135)の前記スイッチング接点(140)と接触することができる少なくとも1つの対向接点(240)を担持する、
請求項1から5のいずれか1項に記載のスイッチング要素(1)。
【請求項7】
前記カバー基板(200)が、前記曲げ要素(135)の偏位に影響を与えるために使用され得る1つの制御電極(210)を備える、請求項1から6のいずれか1項に記載のスイッチング要素(1)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の1つの微小電気機械スイッチング素子(1)、又は、複数の微小電気機械スイッチング素子(1)からなる1つのアレイを備える装置。
【請求項9】
スイッチング装置として、コンバータ又はインバータとして、論理回路として、及び/又は、論理ゲートとして構成された、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
表面実装可能な部品として形成された、請求項8又は9に記載の装置。
【請求項11】
前記カバー基板(200)及び/又は前記支持基板(100)が、前記少なくとも1つのスイッチング素子(1)の電気的接触のための1つ又は複数の貫通部(400)を備える、請求項8~10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載のスイッチング素子(1)の製造方法であって、
a)前記第1の支持層(110)内に1つの事前製造されたキャビティ(150)を備えた、事前製造された多層支持基板(100)を使用し、
b)前記事前製造された支持基板(100)からサブトラクティブ法により、前記曲げ要素(135)を解放し、そして、
c)ウエハボンディング工程において、前記カバー基板(200)を前記支持基板(100)と恒久的に接続し、その結果、前記上位の中空空間(350)が気密封止され、この場合、前記多層支持基板(100)がシリコン・オン・インシュレータの層システムであることを特徴とする、スイッチング素子(1)の製造方法。
【請求項13】
ステップb)における前記サブトラクティブ法が、前記多層支持基板(100)を片面のみの加工処理によって行われる、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層支持基板を有する微小電気機械スイッチング素子に関し、この微小電気機械スイッチング素子は1つの多層支持基板を含み、この多層支持基板は、支持層として機能する第1の層と、電気絶縁性の第2の層と、半導体層として形成された第3の層とを備えている。このスイッチング素子は、半導体層の解放された部分領域によって形成された偏位可能な1つの曲げ要素を備える。さらに、本発明は、そのようなスイッチング素子を備えた装置、及び、そのようなスイッチング素子を製造するための方法に関する。
【0002】
微小電気機械スイッチング素子は従来技術から基本的に知られており、専門家の間でMEMSスイッチング素子とも呼ばれている。これらはマイクロメートルからナノメートルの範囲で構造化された機械的固体スイッチング素子であり、静電的に作動される曲げ要素を含んでいるので、電圧を変化させることによってスイッチングすることができる。特に、十分に大きな電流搬送容量及び/又は絶縁耐力を達成するために、しばしば、そのような複数の個々のMEMSスイッチが配列されて1つのアレイを形成している。そのようなMEMSスイッチ及びそれで構成されたスイッチング装置は、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載されている。特許文献1の主題は、シリコン・オン・インシュレータ基板(SOI基板)上に構成されたMEMSスイッチである。この製造技術により、成熟した再現可能な製造プロセスに基づき、所定のスイッチング時間を特に精密に設定することができる。この場合、曲げ要素はサブトラクティブ製造によって解放され、SOI基板は両面(上面及び下面)で加工処理される。ここで、曲げビーム(曲げ梁)の領域では、SOI基板の支持層が基板の背面から完全に除去されるので、曲げビームの垂直方向の偏位が可能になる。カバー基板は、典型的には、SOI基板の前側(曲げ要素を有する側)に配置され、このカバー基板は同様に、曲げビームの領域に1つの凹部を含む。カバー基板のこの領域に1つの制御電極と、スイッチングプロセスのための1つ又は複数の対向接点とを配置することができる。
【0003】
この既知のSOI‐MEMSスイッチの欠点は、SOI基板を両面から加工処理するので、製造中に活性シリコン層に対する損傷が比較的容易に生じ得ることである。さらなる欠点は、曲げ要素が、背面が露出しているので化学的及び機械的環境の影響から保護されないことである。このようなSOI‐MEMSスイッチを上位のハウジング内に封止することは基本的に可能であるが、これは更なる製造ステップを必要とし、構成部品がかなり大きくなり、上位の装置においてそれに対応して大きい設置スペースを必要とする。
【0004】
従来技術から、例えば金属の曲げビームを用いた他の種類のMEMSスイッチング素子も知られている。しかし、この技術では一般的に、望ましい所定のスイッチング特性は精密には設定できない。ここでもまた、外部環境の影響に対する保護のために、通常は別のハウジングによる封止が必要であり、これが同様に比較的大きな寸法をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許出願公開第102017215236号明細書
【特許文献2】国際公開第2018028947号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、上述の欠点を克服するスイッチング素子を提供することにある。特に、外部の環境の影響に対してロバストであり、同時に可能な限りコンパクトに形成することができるスイッチング素子を提供することを目的とする。特に、所定のスイッチング特性を可能な限り精密に設定できることも必要である。さらなる課題は、そのようなスイッチング素子を備えた装置、及び、そのようなスイッチング素子を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの課題は、請求項1に記載のスイッチング素子、請求項8に記載の装置、及び、請求項12に記載の製造方法によって解決される。
【0008】
本発明による微小電気機械スイッチング素子は1つの多層支持基板を含み、この多層支持基板は、支持層として機能する第1の層と、電気的絶縁性の第2の層と、半導体層として構成された第3の層とを備えている。このスイッチング素子は、半導体層(すなわち、第3の層)の解放された部分領域によって形成された1つの曲げ要素を備える。さらに、このスイッチング素子は、多層支持基板に接続された1つの平面状のカバー基板を備える。この場合、この支持基板、特にその支持層は、曲げ要素の領域に1つの凹部を有する。さらに、このカバー基板は、曲げ要素の領域に同様に1つの凹部、及び/又は、曲げ要素の領域の周りを周回するように延びる1つのスペーサ層を有し、その結果、これら2つの凹部の協働により、又は、1つの凹部と周回スペーサ層との協働により、全体として1つの上位の中空空間が形成され、その中に曲げ要素が偏位可能に配置されている。この上位の中空空間は、外部環境に対して気密に封止されるように、支持層及びカバー基板によって区画されている。
【0009】
微小電気機械スイッチング素子は、ここでは、マイクロシステム技術を用いて製造されたスイッチング素子を意味するものと理解されるべきである。ここでは、マイクロシステム技術という用語は、ごく一般的に、例えばスイッチ又は歯車のような動作を実現することができる、微視的に小さい機械的に作動する構成部品を製造することができる技術を意味する。マイクロシステム技術という用語には、ここでは、さらにナノシステム技術も含まれ、それによってサブミクロンからナノメートルの範囲の構造が可能になる。ここでは、一般的に、半導体製造で基本的に知られている技術が用いられている。このようなMEMSスイッチは、ガラス基板、サファイア基板、及び/又は、半導体基板(いわゆるウエハ)上に、例えばシリコン又はガリウム砒素で作ることができる。1つのMEMSスイッチング素子の長さは、1mm未満、好ましくは500μm未満である。ここで、単一のMEMSスイッチング素子の最大の構造要素は、典型的には、曲げ要素である。この曲げ要素は、規定された弾性偏位を直線的な板ばねの方法で可能にするために、縦長の形であることが好ましい。したがって、この曲げ要素は、しばしば専門家の間で曲げビーム又はスイッチング舌部とも呼ばれる。しかし、基本的には、他の形状及びプロポーションも可能である。
【0010】
曲げ要素を(層システムの上部にある)半導体層の解放された部分領域として製造することにより、その曲げ要素のスイッチング特性を、従来のSOI‐MEMSスイッチング素子の場合と同様に、特に精密に設定できるという効果が得られる。
【0011】
この曲げ要素は、2つの平面状の基板、即ち、多層支持基板とカバー基板、で構成された部品の上位の中空空間内にある。水平に配置した場合、この中空空間は「上」に向けては(半導体層、すなわち支持基板の第3層の側で)カバー基板によって区画されている。カバー基板の外面により、この中空空間は上方の環境に対して気密に封止されている。同様に、この中空空間は「下」に向けては(反対側に向けて)支持層によって外部環境に対して封止されている。この目的のために、支持層の下方の外面は特に全面に亘り連続的に形成されており、少なくとも中空空間の領域においては外部環境へ貫通する孔はない。さらに、中空空間の周囲を取り囲んでここでも同様に中空空間の外側に対する気密な封止が得られるように、多層支持基板とカバー基板は互いに接続されている。
【0012】
曲げ要素の支持基板側の動作は、特に、支持基板が曲げ要素の領域に1つの凹部を含むことによって、可能となる。重要なことは、この凹部は貫通しているのではなく(すなわち、支持層全体を突き抜けない)、1つの部分的なキャビティのみを構成すること、である。従って、この部分キャビティは一種の平坦な袋穴であり、外側に向かって貫通する穴ではない。言い換えれば、支持層の中空空間の領域は周辺領域よりも薄く形成されているだけであり、それでも外側は全領域にわたり平坦である。
【0013】
すなわち、ここでは、従来のSOI‐MEMSスイッチング素子とは対照的に、このスイッチング素子の能動領域の気密な封止は全体として、2つの基板、すなわち、多層支持基板とカバー基板、のみの接続によって得られる。本発明の本質的な利点は、この気密な封止のために追加のハウジング又は別の(第3の)基板が必要とされず、その封止が、ウエハレベルで平面的に接続された2つの基板によってすでに達成されることである。これにより、構造全体を特にコンパクトに実現することが可能となる。
【0014】
本発明による装置は、本発明によるスイッチング素子、又は、部分素子としてこのような本発明によるスイッチング素子を複数含むアレイを有する。本装置の特別な使用目的にかかわらず、その利点は、特に周辺環境の影響からの保護、コンパクトな実施形態、及び/又は、所望のスイッチング特性の精密な設定に関する、本発明によるスイッチング素子の上述の利点と同様に生じる。
【0015】
本発明による方法は、本発明によるスイッチング素子を製造するためのものである。この方法では、
a)支持層内に事前製造された1つのキャビティを備えた、事前製造された1つの多層支持基板が準備され、
b)この事前製造された支持基板からサブトラクティブ製造により、曲げ要素が解放され、
c)ウエハボンディング工程で、カバー基板が支持基板と恒久的に接続され、その結果、上位の中空空間が気密に封止される。
【0016】
ここで記載された曲げ要素の「解放」とは、曲げ要素の長手範囲の少なくとも主な部分で、半導体層のこの曲げ要素に接する部分が除去されることを意味する。
【0017】
上述のように、第1の支持層における事前製造されたキャビティは部分キャビティ、すなわち対向する側に突き抜けない穴、である。事前製造された支持基板内に、特にこの事前製造されたキャビティの上方に、平面状に連続した半導体層が配置されている。次いで、この平面状に連続した半導体層から曲げ要素が解放され、この場合、多層支持基板は全体的に、背面からではなく上面側(半導体層の側)からのみ加工処理することが必要である。支持層内に埋め込まれた部分キャビティを含むそのような事前製造された支持基板は、先行技術から知られている。多数の製造業者が、SOI基板の特別な変形としてC‐SOI基板(キャビティ・シリコン・オン・インシュレータ基板)という名称でこれらを提供している。多数のMEMSスイッチング素子を含むアレイの製造のために、それに対応して、多数のそのようなキャビティを有するC‐SOI基板を使用することも可能であり、この場合、特に、各キャビティに少なくとも1つの解放された曲げ要素が割り当てられている。
【0018】
キャビティが事前製造されているので、曲げ要素はステップb)に先立ってすでに下側に対して露出されている。なぜなら、このキャビティは、すでに、偏位に必要な上位の中空空間の一部を形成しているからである。次に、ステップc)において、ウエハボンディング工程を用いて支持基板をカバー基板に接続することによって、全体的に形成された上位の中空空間の気密な封止が達成される。したがって、本発明による方法は、本発明によるスイッチング素子を特に簡単な方法で製造することを可能にし、封止及びコンパクトな実施形態に関して既に説明した利点が実現される。任意のさらなるステップ(例えば、ステップbの前又は後)において、さらなる要素を表面微細加工技術によって取り付け、場合によっては構造化することができる。
【0019】
本発明の有利な形態及び発展形態は、請求項1、8及び12に従属する請求項及び以下の説明から明らかになる。ここで、スイッチング素子、装置、及び、製造方法の記載された形態は一般的に有利に互いに組み合わせることができる。
【0020】
曲げ要素の偏位方向は、好適に、多層支持基板の層面に対してほゞ垂直に配向することができる。換言すれば、この曲げ要素は、全体として平面状の部品を水平方向に配置した場合に、「上方」及び「下方」に向かって偏位することができる。曲げ要素の層面外へのこのような可動性は、板ばね状の曲げ要素で特に簡単に実現することができる。したがって、この曲げ要素を、支持層における凹部の方向に、又は、これとは反対のカバー基板における凹部の方向に、ないしは、取り囲むスペーサ層によって形成されたキャビティの方向に、偏位させることが可能である。
【0021】
本発明によれば、この多層支持基板は、シリコン・オン・インシュレータ層システムであるか、又は、そのような層システムを含む。シリコン・オン・インシュレータ(以下、SOIと略記する)層システムは、特に、シリコン‐インシュレータ‐シリコンの層配列を備え、支持層(層システムの第1の層)は下側シリコン層により形成され、第2の層はインシュレータにより形成され、第3の層は上側シリコン層により形成されている。有利には2つのシリコン層の一方が、特に好ましくは両方のシリコン層が、単結晶シリコンである。絶縁体層は、好ましくは、基本的に二酸化ケイ素層(SiO2)によって形成することができる。これは、特に、いわゆる、埋め込み酸化物層(英語;buried oxide、又は略してBOX層)として実現することができる。周知のSOI技術により、個々の層の層厚及びその他の材料特性の特に正確な定義が可能である。曲げ要素がそこから解放される半導体層は、一般的なSOI基板の2つのシリコン層のうちの特により薄い層である。構成要素の他の領域への曲げ要素の機械的接続は、SOI基板の絶縁体層を介して行うことができる。換言すれば、曲げ要素の脚部を、絶縁体層を介してスイッチング素子の機械的な支持部に結合することができる。SOI層システム及びその加工処理に関するこれらの及びその他の有利な特徴及び実施形態の変形例は特許文献1にさらに詳細に記載されており、したがって、その全体が本出願の開示に含まれる。上述のSOI層配列の代替形態として、支持層を、例えばサファイア層によって形成することもできる。
【0022】
SOI‐MEMSスイッチング素子の特に好ましい一実施形態によれば、支持基板の凹部は支持層内の凹部を含み、この凹部は事前製造されたキャビティによってSOI層システム内に形成されている。換言すれば、このスイッチング素子は、キャビティ-SOIウエハ(C-SOIウエハと略記する)上に構成されている。この事前製造されたキャビティの第1の代替形態によれば、それは下部シリコン層内の部分キャビティであり、埋め込まれた酸化物層もこの領域内で中断されている。しかし、第2の代替形態によれば、それは、底部が対応する酸化物層で被覆された下部シリコン層内の部分キャビティとすることもできる。両方のタイプのC-SOI基板は比較的安いプロセスコストで、曲げ要素の動作のために必要な上位の中空空間を提供し、且つ、それにもかかわらず、すでにウエハ層システム内部において下部に対する気密な封止を可能にするのに、適している。
【0023】
しかしながら、事前製造されたキャビティを備えたC‐SOI基板の使用は必須ではない。代替的に、先ずスイッチング素子の製造プロセス中に、部分キャビティを支持基板内に生成することも可能である。特に、この場合、キャビティは絶縁性の第2の層上に限定することができ、支持層はその完全な厚さを保つことができる。第2層(すなわち、埋め込み酸化物層)内のこのような窪みは、例えば、フッ化水素エッチングにより形成することができる。この場合、曲げ要素の動作のためのこのキャビティは、それに応じて、酸化物層の厚さに限定され、場合によっては、深さがより小さい。しかし、これは、特にカバー基板の領域内の対向する中空空間が相対的により深い場合には、スイッチング挙動中に必要とされる垂直方向の動作に対して十分である。
【0024】
上位の中空空間の側面方向の気密封止は、一般的に有利に、多層支持基板とカバー基板との間の永続的で流体密封の面状の接続によって達成することが可能である。言い換えると、これら2つの基板は、いわゆる「ウエハボンディング」によって接続することができる。この永続的な接続は、特に、上位の中空空間の周囲を囲むように実現することができ、その結果、中空空間全体が外部に対して気密に封止される。そのようなウエハボンディング工程のための多くの方法が先行技術から知られている。例えば、金-ケイ素結合、又は、ゲルマニウム-アルミニウム結合、又は、別のタイプの共晶結合を使用することが可能である。代替形態として、この面状接続はまた、ガラスフリットによって、陽極接合によって、熱圧着によって、接着接合によって、及び/又は、融着接合によって実現することもできる。
【0025】
別の一般的に有利な実施形態によれば、カバー基板は機能的に電気絶縁性のカバー基板として構成することができ、特に、実質的にガラス又はシリコンで形成することができる。このことは、ガラス又はシリコンがカバー基板の主要な構成要素を形成し、特に局所的なコーティングの形態での複数の追加の元素が除外されるべきではないことを意味する。こうして、特に、1つの制御電極及び複数の追加の接点要素を、さらなる要素としてカバー基板の表面に被着することが可能である。特に、制御電極及び/又は接点要素(複数)は、カバー基板の曲げ要素に対向する側に配置することができる。しかし、カバー基板の外側に導体要素及び/又は接点要素及び/又は他の構造要素の形態の例えば金属化物が存在することも可能である。カバー基板の2つの主面の間に、特にいわゆるビア(Via)の形態の導電性貫通部を設けることができ、このビアは上側と下側の要素を電気的に接続するために、基板表面に対して垂直に基板を貫通して延びている。しかし、代替例として、導電性材料で構成されたカバー基板を使用することも可能であり、これは曲げ要素に対向する側が電気的絶縁層でコーティングされており、その結果、純粋に機能的には電気絶縁性のカバー基板が形成されていることになる。このような電気絶縁層は、例えば、二酸化ケイ素層又はポリマー層とすることができる。
【0026】
一般に、有利に、曲げ要素上にスイッチング接点を配置することができる。このスイッチング接点は、例えば、構造化されたメタライゼーションによって曲げ要素上に形成することができる。オプションとして、曲げ要素が更に別の機能要素を担持することも可能であり、従って、言及された半導体層のみで構成される必要はない。
【0027】
さらに、このカバー基板は、曲げ要素の偏位に応じて曲げ要素のスイッチング接点と接触することができる第1の対向接点を担持することができる。したがって、曲げ要素がカバー基板に向かって偏位し、その端部領域がカバー基板と接触すると、曲げ要素のスイッチング接点とカバー基板上に対向して配置された対向接点との間の電気的接触が生じる。カバー基板がそれどころか一対の対向接点を有すると特に好適であり、この両方の接点が曲げ要素のスイッチング接点と接触することができる。このようにして、カバー基板に向けて偏位された状態において、この一対の対向接点は互いに電気的に接続される。これらの2つの対向接点は、第1の負荷切換回路のいわゆる負荷接点として形成することができる。したがって、このスイッチング接点によって負荷切替回路を閉じることが可能であり、このスイッチング素子は、ここでは「ON」位置にある。スイッチング接点と対向接点(複数)が接続されていない場合、そのスイッチング素子は「オフ」位置にある。
【0028】
別の一般的に有利な実施形態によれば、カバー基板は、曲げ要素の偏位に影響を及ぼすために使用することができる制御電極を備えることができる。この制御電極は好適に曲げ要素に対向して配置され、運転中にこの制御電極にスイッチング電圧を印加することができる。従来技術では、このような制御電極はゲート電極とも呼ばれることがある。制御電極と曲げ要素との間の静電的相互作用によって曲げ要素を偏位させることができる。例えば、曲げ要素は静電引力によってカバー基板の方向に移動され、この偏位が生じると、曲げ要素の1つの接点要素とカバー基板の1つの接点要素との間で電気的な接触が形成される。
【0029】
一般に、個々のスイッチング素子の正確な構成とは無関係に、上位の装置は本発明による複数のスイッチング素子からなるアレイを有することができる。そのようなアレイは、複数のそのようなスイッチング素子の並列接続及び/又は直列接続とすることができる。複数のスイッチング素子の並列接続は、特に、単一のスイッチング素子と比較して装置全体の通電容量を増加させる働きをすることができる。複数のスイッチング素子の直列接続は、特に、単一のスイッチング素子と比較して絶縁耐力を増加させる働きをすることができる。このようにして、アレイの使用はその装置が、特に低電圧系統又は中電圧系統における、電気エネルギー分配線の回路遮断器の仕様を満たすことに寄与し得る。ここで、アレイ内の個々のスイッチング素子の数はそれぞれの仕様に合わせることができる。そのスイッチング素子の数は、例えば、数十個~数千個とすることができ、より高い電力範囲ではそれどころか数十万個とすることもできる。
【0030】
本装置の別の有利な実施形態によれば、その装置は、少なくとも1つのスイッチング素子に加えて、電気的に直列又は並列に接続された1つ又は複数の半導体素子を備えることができる。これらは、例えば、特許文献2に記載されているようなトランジスタ又は他の半導体スイッチング素子とすることができる。これらの追加の半導体素子は、基本的に曲げ要素と同じ基板上に製造することができる、すなわち、モノリシックに集積することができる、又は、原理的には他の基板上に製造し、その後でスイッチング素子に接続することができる。
【0031】
上位の装置は全く異なる用途で使用するように設計することができる。それは、例えば、開閉装置又はコンタクタとして、電力変換器として又はインバータとして、論理回路として及び/又は論理ゲートとして形成することができる。開閉装置又はコンタクタは、特に、低電圧又は中電圧系統用の装置とすることができる。この装置は、一般に、プログラマブルロジックコントローラ、特に工業プラント用のコントローラとすることもできる。この場合、本発明によるスイッチング素子は、そのようなプラントコントローラの入力段、出力段、及び/又は、保護リレーにおいて使用することができる。
【0032】
この装置は一般的に好適に表面実装可能な部品として形成することができる。言い換えれば、これはSMDコンポーネント又はSMTコンポーネント(SMD;Surface-mounted device「表面実装デバイス」、SMT;Surface-mounting technology「表面実装技術」)とすることができる。この目的のために、この装置は、その基板の外側の少なくとも1つの領域に、ろう付け可能な平面状のSMD接触箇所を備えることができる。
【0033】
この実施形態の変形例と関連して、カバー基板及び/又は支持基板が、少なくとも1つのスイッチング素子の電気的接触のための1つ又は複数の導電性貫通部を備えることが、特に有利である。言い換えると、上側及び下側の素子を電気的に接続するために、それぞれの基板を基板表面に対して垂直に貫通する複数のいわゆる「ビア(Via)」を設けることができる。特に、そのようなビアは、上位の中空空間の気密封止を破らないように形成されている。そのようなビアを、気密封止を維持しながら、例えば、ガラス基板又は半導体基板を通して案内することができる様々な方法が、先行技術から知られている。
【0034】
製造方法の有利な一展開形態によれば、スイッチング素子の対応する実施形態について既に上述したように、サブトラクティブ製造によってシリコン・オン・インシュレータ層システムから曲げ要素を得ることができる。特に、この曲げ要素は、SOI層システムのシリコン層の一部を解放ことによって形成することができる。この製造方法は多数のさらなるオプション的な製造ステップを含むことができ、それらは特にMEMSプロセス及び半導体プロセスで基本的に知られている。例えば、蒸着、スパッタリング又はガルバニック蒸着によるコーティングの形態の、追加の金属化ステップを行うことができる。電極及び/又は接触要素のための金属層は、例えば、金、クロムもしくは銀、又は、半導体製造で使用される金属、ならびに、半導体製造では通常は使用されない金属、特に、貴金属を含むことができる。個々の層の(完全な又は部分的な)除去は、例えば、エッチング及び/又は機械的/化学的研磨及び/又はリフトオフプロセスによって行うことができる。特に、フッ化水素酸を用いた化学エッチング及び反応性イオンエッチング(RIE;reactive ion etching、又は、DRIE;deep reactive ion etching)などのエッチングプロセスを(部分的な)の特定の除去のために使用することができる。この場合、精密な構造化は、従来のリソグラフィパターン法によって達成することができる。
【0035】
本方法の特に好ましい実施形態によれば、ステップb)における曲げ要素のサブトラクティブ製造は、多層支持基板を片側のみで加工処理することによって行われる。特に好ましくは、事前製造された支持基板の片面処理のみが行われる。換言すれば、ここでは、背面側の領域における処理は回避される。これは、上部にある半導体層(すなわち、多層支持基板の第3の層)の領域における損傷を回避することができるという利点を提供する。この片面だけの加工処理は、特に事前製造されたC-SOI基板の使用によって可能になる。なぜなら、これらは、背面側のエッチングなしに、曲げ要素の動作のための十分に大きなキャビティを提供することを可能にするからである。
【0036】
以下に、本発明を添付の図面を参照して、いくつかの好ましい実施例に基づいて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】従来技術によるスイッチング素子の模式的断面図
図2】別の公知のスイッチング素子の模式的上面図
図3】ハウジングを備えた従来のスイッチング素子の模式的断面図
図4】本発明によるスイッチング素子の製造における複数のプロセス段階
図5】本発明によるスイッチング素子の製造における複数のプロセス段階
図6】本発明によるスイッチング素子の製造における複数のプロセス段階
図7】本発明によるスイッチング素子の製造のために事前製造された支持基板
図8】本発明の別の例によるスイッチング素子
【0038】
これらの図面において、同一の又は機能的に同一の要素には、同一の参照符号が付されている。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、従来技術から知られている微小電気機械スイッチング素子1を示す。このスイッチング素子は特許文献1に記載されているものと全体的に同様の構造であるが、ここでは分かり易くするために幾分簡略化して示されている。このスイッチング素子はシリコン・オン・インシュレータ層システム100を有し、この層システムは、ここでは第1のシリコン層110、次いで埋め込み酸化物層120、次いでもう1つのシリコン層130を含んでいる。層130に、SOI層システム100の一部としての第2の酸化物層がさらに続いてもよく、又は、このような第2の酸化物層がここに少なくとも製造中に存在してもよい。サブストラクティブ製造によって上部の半導体層130から曲げ要素135が定義され、解放されている。この場合、曲げ要素の製造は、シリコン層130の周囲領域の除去と、曲げ要素135に接している層110及び120の部分の局所的な除去とを含む。こうして、特許文献1に記載されているものと同様に、厚さ方向dに偏位可能な曲げ要素135が生成されている。残りの製造ステップも特許文献1と同様に実施することができる。SOI層システムの他の部分に機械的に接続されている、曲げ要素の脚部135aは、ここでは、幾分単純化された形で形成されるか、示されている。このより簡単な実現の代替形態として、脚部135aは特許文献1又は未公開の欧州特許出願20182568.4と同様に形成することができる。
【0040】
上方に向けて、この部品は、例えばガラスから形成され得るカバー基板200によって覆われている。このカバー基板200は、例えばウエハ接合ステップによってSOI層システム100に接続されていることが可能である。このカバー基板の曲げビームの領域は凹部250を備えているので、層110及び120の開口部150と共に上位の中空空間350が形成され、この空間内で曲げ要素135が偏位することができる。この場合、支持層110の開口部150の領域はその基板の下面側から完全にエッチング除去されており、これにより、この曲げ要素は、ここでは、下方に図示された側から自由にアクセス可能である。
【0041】
曲げ要素の偏位を作動させるために、曲げ要素135の上部領域においてカバー基板200に制御電極210が設けられている。制御電極210に電圧を印加することによって、曲げ要素の偏位を静電的に作動させることが可能になる。曲げ要素135が方向dに上向きに偏位されると、その端部領域は、曲げ要素135に取付けられたスイッチング接点140とカバー基板200内の凹部内に取付けられた対向接点240とが電気的に接続するように、カバー基板に接触させることができる。このようにして、このスイッチング素子を「ON」に切り換えることができ、関連する負荷電流回路をこのスイッチング素子1によって閉じることができる。
【0042】
図示のスイッチング素子1は上位の装置の一部とすることができ、この上位の装置は、特に、互いに類似する複数のスイッチング素子からなるアレイを備えることができる。そのようなMEMSアレイは、同一のSOI基板からモノリシックに構成することができる。この場合、図1に示された部分はより大きな構成要素の一部であると理解されるべきであり、横方向の層はさらに左右に(そしてもちろん紙面に対しても垂直に)延び、これらの空間方向にさらに同様に構成された複数のスイッチング素子を含むことができる。
【0043】
図2は、その層配列を、特に、図1のスイッチング素子と同様に構成することができる、従来のスイッチング素子の模式的な上面図を示す。しかし、ここでは、偏位方向rは、紙面に対して垂直であり、SOI基板の要素100及びカバー基板の要素200は互いに重なっているように描かれている。カバー基板200上に配置された制御電極210金属化部及び2つの対向接点240が、ここでは、その下にある層を部分的に隠している。
【0044】
曲げ要素の脚部135aはSOI層システム100の他の層に接続されており、平面状のウエハ接合を介してカバー基板200に接続されている。特にスイッチング電圧が制御電極に印加されると、曲げ要素の中間部はその上方の、カバー基板上の制御電極210と静電的に相互作用する。曲げ要素の端部領域はスイッチング接点140を担持している。この例では、これに対向してカバー基板上に、互いに隣り合う一対の対向接点240が配置されている。曲げ要素が偏位すると、これら2つの接点240は曲げ要素のスイッチング接点140と電気的に接続され、これにより、互いに電気的に接続され、こうして、このスイッチング要素はオン位置となる。これとは逆に、図1に示された、曲げ要素が偏位されていない基本位置は、スイッチング要素のオフ位置に対応する。
【0045】
図3は同様の従来のスイッチング素子を示しているが、これは、図1のスイッチング素子とは対照的に、ハウジングによって気密封止されているので、特にスイッチング素子135の領域が外部環境の影響に対して保護されている。内部構造は全体として図1に類似しているが、カバー基板200はSOI基板よりも横方向に大きく、それに対応して横方向に突き出ている。この縁部ゾーンでは、カバー基板200は、周回している接続部310によって、例えばガラスカバーとして構成されたキャップ状のハウジングカバー300と接続されている。周回している接続部310は、例えば、気密封止されたろう付け接続部又は溶接接続部とすることができる。この例では、その中で曲げ要素が動作する上位の中空空間350は外部環境に対して全体的に、すなわち、上部に向かってはカバー基板200によって、下方に向かってはハウジングカバー300によって、気密封止されている。したがって、このスイッチング素子1は外部環境の影響による損傷から全体的に保護されている。しかしながら、2つの基板100、200及びハウジングカバー300を有するこの構造は、幅広い周回縁に拠り厚さ方向及び横方向の両方で比較的かさばる。縁部領域に、ハウジングカバーに加えてボンディングワイヤ195のための接触箇所190を設けることができるが、これも同様にさらなるスペースを必要とする。ここでは、例として、そのようなボンディングパッド190が1つだけ示されている。それは、ここでは詳細には図示されていない1本の接続線によってこのスイッチング素子の電極(例えば、210、240)のうちの1つに接続することができる。
【0046】
図4図6は、本発明によるスイッチング素子1の製造における複数のプロセス段階を示す。図6は、ほゞ完成状態のスイッチング素子1、及び、複数のそのようなスイッチング素子を備えた対応する装置の横方向の一部を示す。図4は、このスイッチング素子の製造に用いられる1つの事前製造された多層支持基板100を示す。この事前製造された支持基板100はここでもSOI基板であり、このSOI基板は、シリコンで構成された支持層110と、埋め込みシリコン酸化物で構成された電気絶縁層120と、同じくシリコン層である上部の第3の層130とを備えている。この層構造の内部に事前製造された1つのキャビティ150が存在し、これは酸化物層120内、及び、支持層110の一部内の凹部である。しかし、このキャビティ150は単に部分キャビティであり、これは特に支持基板の下面100bに向かって開いておらず、支持層110の下面100bは連続的な平面状の層を形成している。対照的に、このキャビティ150の上面100aは上部の半導体層130によって区画されている。したがって、これにより閉じられた内側の中空部が得られる。埋め込まれたキャビティを有するこのような事前製造されたSOI基板は、従来技術から周知であり、C-SOIという名称で多数の製造業者によって提供されている。特に複数の同様のスイッチング素子からなるアレイが製造される場合には、横方向に複数のそのような埋め込みキャビティが互いに隣り合って存在することも可能である。そして、各キャビティ150は、それぞれの曲げ要素の動作に必要な上位の中空空間を形成するのに寄与する。
【0047】
図5は一段進んだ加工処理段階を示し、ここでは支持基板100が既に複数の加工ステップを経ている。これらの個々の加工ステップは、詳細には、例えば、既に引用されている特許文献1と同様に実施することができる。個々の層の及びその他の要素の材料ならびに厚さも、例えば、同様に選択することができる。本発明に関して重要なことは、加工処理が有利に上面100aからのみ実行されること、すなわち、リソグラフィ工程又はエッチング工程を下面100bで実行する必要がなく、それに応じて、支持基板100を加工処理中にその下面100bからのみ保持すればよいことである。このようにして、上面100aは、両面での加工処理と比較して有利に機械的損傷から保護される。
【0048】
図5の加工処理段階では、曲げ要素135の端部領域に、金属製のスイッチング接点140が構造化されて取り付けられている。さらに、上部の半導体層130は、領域130aと130bにおいて開口されている。特に、これら2つの開口部130a、130bは実際には層130において曲げ要素の周りを囲む単一の環状の開口とすることができる。しかし、代替として、層130を曲げ要素の中間領域及び端部領域においてのみ除去することができ(開口部130aに対応する)、曲げ要素の脚部領域における開口部130bを省略することができ、その結果、曲げ要素の脚部領域は、図1におけると同様に、層130を介して層スタックの残りの部分に接続された状態となっている。脚部領域の構成及び機械的結合のために、全体的に異なる実施形態が考えられる。重要なことは、曲げ要素135が層面に対して垂直に偏位することができる程度まで、曲げ要素がサブトラクティブ製造によって層システム100から解放されることだけである。支持層の方向におけるこの偏位は、事前製造された層システム100内に既に存在するキャビティ150によって可能になる。
【0049】
図6はほぼ完全に加工処理されたスイッチング素子1を示す。図5とは異なり、ここでは、領域120aと120b内の酸化物層120も曲げ要素の周りを囲んで除去されている。これに続いて、層システムの基板上面100aが、図1の従来のスイッチング素子の場合と同様に、周回している平面状のウエハボンド接続270によってカバー基板200に接続されている。カバー基板200は、全体的に図1と同様に構成され、ここでも凹部250を備え、この凹部が既に説明したキャビティ150と共に、曲げ要素135の動作のための上位の中空空間350を形成している。図1における従来のスイッチング素子との本質的な違いは、上位の中空空間350が基板下面100bに対して解放されておらず、閉鎖されていることである。このようにして、支持基板100とカバー基板200の間の永続的な面接続により、(図3のような)追加のハウジングカバーを必要とすることなく、中空空間350の気密封止が達成される。本発明によるこの実施形態の本質的な利点は、非常にコンパクトな部品を簡単な方法で実現することができることであり、それにもかかわらず、その部品は、曲げ要素の領域が外部に対して気密封止されているので、外部環境の影響に対してロバストである。
【0050】
図6のスイッチング素子の図3の従来の部品に対するさらなる相違点は、ここでの電気接触が、ワイヤボンディングによってではなく、カバー基板の複数のビア400及びこれに対応する複数のろう付け可能な接触箇所410によって行われることである。言い換えれば、それはSMD部品である。しかし、この追加の差異はオプション的なものであり、原理的には、図3と同様にボンディングワイヤを介して接触させることも可能である。別の可能な実施形態によれば、複数の導電性貫通部400を、代替的に、支持基板100を通って下面100bに案内することも可能であり、又は、対応する複数のビア及び接触箇所を、上面にも下面にも配置することもできる。図6には単に例として、曲げ要素の接触のための(その電気的接地のための)1つのビア400、及び、対向接点240のうちの1つの接触のためのもう1つのビア400が示されている。当然のことながら、さらなる要素、例えば、制御電極210及びここでは見えない第2の対向接点も、同様の方法で接触させることができる。
【0051】
図7は、本発明によるスイッチング素子を製造するためのもう一つの事前製造された支持基板100を示す。図4の支持基板とは異なり、この支持基板は、1つのキャビティだけでなく、互いに隣接する複数の埋め込みキャビティ150のアレイを含む。言い換えれば、これから、スイッチング素子を複数有するアレイを備える装置を製造することができる。もう一つの違いは、それぞれのキャビティの底部が酸化物層で被覆されていることである。言い換えれば、酸化物層120はここでは中断されておらず、個々のキャビティ150の底部に局所的にのみ配置されている。C-SOI基板のこの変形例も、様々な製造業者から市販されており、本発明によるスイッチング素子を製造するために、図4の基板と同様の方法で使用することができる。
【0052】
図8は、本発明の別の実施例によるスイッチング素子1を示す。全体として、このスイッチング素子1は、図6の例の場合と同様に構成されているが、1つの相違点は、カバー基板がその基本材料内に(例えば、ガラス内に)中空の凹部を含まず、これに相応する中空空間が、ここでは、曲げ要素の領域の周りを取り囲んでいるスペーサ層260によって形成されることである。しかし、この周回しているスペーサ層260内の開口領域によって、カバー基板の凹部250が同様に効果的に形成され、この凹部が支持基板の対向する凹部と共に、曲げ要素のための上位の中空空間350を形成する。その他の点では、図8のスイッチング素子は図6の例と同様に構成されており、有利に、事前製造されたC-SOI基板によって製造することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 MEMSスイッチング素子
100 多層支持基板(SOI基板)
100a 基板上面(前面)
100b 基板下面(背面)
110 第1層(支持層)
120 第2層(埋め込み酸化物)
120a 第2層の開口部
120b 第2層の開口部
130 第3層(半導体層)
130a 第3層の開口部
130b 第3層の開口部
135 曲げ要素
135a 脚部
140 スイッチング接点
150 凹部(キャビティ)又は開口部
190 接触箇所
195 ボンディングワイヤ
200 カバー基板
210 制御電極
240 対向接点
250 凹部
260 周回しているスペーサ層
270 接続(ウエハボンディング)
300 ハウジングカバー
310 接続箇所
350 上位の中空空間
400 導電性貫通部(ビア)
410 接触箇所
d 板厚方向
r 偏位方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-10-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小電気機械スイッチング素子(1)であって、
支持層として機能する第1の層(110)と、電気絶縁性の第2の層(120)と、半導体層として構成される第3の層(130)とを備える1つの多層支持基板(100)と、
前記半導体層(130)の解放された部分領域によって形成された、偏位可能な1つの曲げ要素(135)と、
前記支持基板(100)に接続された1つのカバー基板(200)と、
を備えており、
ここで、前記支持基板(100)が前記曲げ要素(135)の領域に1つの凹部(150)を備え、
ここで、前記カバー基板(200)が同様に前記曲げ要素(135)の領域に1つの凹部(250)及び/又は周回する1つのスペーサ層(260)を備え、
その結果、全体として1つの上位の中空空間(350)が形成され、その中に前記曲げ要素(135)が偏位可能に配置されており、
ここで、前記上位の中空空間(350)は、外部環境に対して気密封止される方法で、前記支持層(110)によって、及び、前記カバー基板(200)によって区画されており、前記多層支持基板(100)がシリコン・オン・インシュレータの層システムである、
微小電気機械スイッチング素子。
【請求項2】
前記曲げ要素(135)の偏位方向(r)が前記多層支持基板(100)の層面に対して実質的に垂直に向いている、請求項1に記載のスイッチング素子(1)。
【請求項3】
前記支持層(110)の前記凹部(150)が、前記シリコン・オン・インシュレータの層システム(100)内の事前製造されたキャビティによって形成されている、請求項1又は2に記載のスイッチング素子(1)。
【請求項4】
前記上位の中空空間(350)の気密封止が、前記多層支持基板(100)と前記カバー基板(200)との間の永続的で流体密封の面状の接続(270)によって達成される、請求項1から3のいずれか1項に記載のスイッチング素子(1)。
【請求項5】
前記カバー基板(200)が機能的に電気絶縁性のカバー基板として形成されている、請求項1から4のいずれか1項に記載のスイッチング素子(1)。
【請求項6】
前記曲げ要素(135)上に1つのスイッチング接点(140)が配置され、
前記カバー基板(200)が、前記曲げ要素(135)の偏位に応じて前記曲げ要素(135)の前記スイッチング接点(140)と接触することができる少なくとも1つの対向接点(240)を担持する、
請求項1から5のいずれか1項に記載のスイッチング要素(1)。
【請求項7】
前記カバー基板(200)が、前記曲げ要素(135)の偏位に影響を与えるために使用され得る1つの制御電極(210)を備える、請求項1から6のいずれか1項に記載のスイッチング要素(1)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の1つの微小電気機械スイッチング素子(1)、又は、複数の微小電気機械スイッチング素子(1)からなる1つのアレイを備える装置。
【請求項9】
スイッチング装置として、コンバータ又はインバータとして、論理回路として、及び/又は、論理ゲートとして構成された、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
表面実装可能な部品として形成された、請求項8又は9に記載の装置。
【請求項11】
前記カバー基板(200)及び/又は前記支持基板(100)が、前記少なくとも1つのスイッチング素子(1)の電気的接触のための1つ又は複数の貫通部(400)を備える、請求項8~10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載のスイッチング素子(1)の製造方法であって、
a)前記第1の支持層(110)内に1つの事前製造されたキャビティ(150)を備えた、事前製造された多層支持基板(100)を使用し、
b)前記事前製造された支持基板(100)からサブトラクティブ法により、前記曲げ要素(135)を解放し、そして、
c)ウエハボンディング工程において、前記カバー基板(200)を前記支持基板(100)と恒久的に接続し、その結果、前記上位の中空空間(350)が気密封止され、この場合、前記多層支持基板(100)がシリコン・オン・インシュレータの層システムであることを特徴とする、スイッチング素子(1)の製造方法。
【請求項13】
ステップb)における前記サブトラクティブ法が、前記多層支持基板(100)を片面のみの加工処理によって行われる、請求項12に記載の方法。

【国際調査報告】