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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】酵母のグリコシド阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/064 20060101AFI20240312BHJP
   A61K 31/716 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 31/736 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240312BHJP
   A23L 33/145 20160101ALI20240312BHJP
【FI】
A61K36/064
A61K31/716
A61K31/736
A61P1/00
A61P31/04
A61P31/04 171
A61P1/00 171
A23L33/145
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554878
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(85)【翻訳文提出日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 FR2022050459
(87)【国際公開番号】W WO2022195212
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】2102618
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506261567
【氏名又は名称】ルサッフル・エ・コンパニー
【氏名又は名称原語表記】LESAFFRE ET COMPAGNIE
(71)【出願人】
【識別番号】517124033
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・クレルモン・オーヴェルニュ
(71)【出願人】
【識別番号】518338518
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・リール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LILLE
(71)【出願人】
【識別番号】505351201
【氏名又は名称】セントレ ナシオナル デ ラ ルシェルシェ シエンティフィーク
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】バレー ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンデカークコーヴ パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ゲラーデル ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ユー シン-イー
(72)【発明者】
【氏名】シヴィニョン アデリン
(72)【発明者】
【氏名】バルニック ニコラス
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018MD33
4B018MD81
4B018ME11
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF03
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZB35
4C086ZC61
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC12
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZB35
4C087ZC61
(57)【要約】
本出願は、β(1,6)-グルカン、好ましくはマンナンおよびα-グルカンも含む酵母多糖類の組成物に関し、前記酵母多糖類が酵母壁断片の抽出物であることを特徴とする。典型的には、β-グルカンはβ-(1,6)-グルカンである。本発明はまた、酵母壁組成物を分画し、不溶性画分を抽出する少なくとも1つのステップと、ステップa)において得られた不溶性画分から可溶性画分を抽出する少なくとも1つのステップとを含む、このような組成物を得るための方法にも関する。本出願は最後に、病原性微生物に関連する胃腸病状の治療のための、ヒトまたは獣医学的治療目的を有する組成物、ならびに腸の快適性を改善するためのその非治療的使用にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β(1,6)-グルカンを含む酵母多糖類の組成物であって、前記酵母多糖類は酵母細胞壁断片から抽出されることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
酵母はサッカロミセス属の酵母から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
酵母は、サッカロミセス・セレビシエ種の酵母から選択され、特に、番号CNCM I-3799、CNCM I-3856、CNCM I-4407、CNCM I-4563、CNCM I-4812、CNCM I-4978、CNCM I-5128、CNCM I-5129、CNCM I-5268、およびCNCM I-5269としてCollection Nationale de Culture de Microorganismesに寄託された株のいずれかから得られる、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
5~25%、特に10~20%のα-グルカンと、
30~50%、特に35~45%のβ-グルカンと、
30~55%、特に40~50%のマンナンと
を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載された酵母多糖類の組成物。
【請求項5】
a)酵母細胞壁の組成物を分画し、その最後に不溶性画分を収集する少なくとも1つのステップと、
b)ステップa)において得られた不溶性画分から可溶性画分を弱酸溶液中で抽出する少なくとも1つのステップと
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の酵母組成物を得るための方法。
【請求項6】
薬物としての使用のための、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物、または請求項5に記載の方法によって得られた組成物。
【請求項7】
病原性微生物に関連する胃腸病状の治療のための、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物、または請求項5に記載の方法によって得られた組成物。
【請求項8】
前記組成物は獣医学的用途のためである、請求項6または7に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
前記病原性微生物は、腸粘膜に関連する大腸菌(粘膜関連大腸菌)である、請求項7または8に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
ヒトもしくは動物における、胃腸の快適性を改善すること、および/または腸内細菌叢を改善することを目的とした食品組成物を調製するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物、または請求項5に記載の方法によって得られた組成物の非治療的使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酵母細胞壁多糖類の組成物を得るための方法、および胃腸病状(pathology)の治療または腸の快適さを改善することを目的とした栄養補助食品(food supplements)の調製のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物叢の炎症促進性細菌種と抗炎症性細菌種の不均衡、ならびに特定の細菌科(腸内細菌科、フソバクテリウム)の優勢または他の種(クロストリジウム(Clostridia)、フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium))の希少性は、慢性炎症性腸疾患(CIBD)を有する人々において説明されている。大腸菌(Escherichia coli)(E.coli)の特殊化された株も、下痢、食中毒、尿路感染症、敗血症および髄膜炎の原因となる(Kaper J.B., Nataro J.P., Mobley H.L. - Pathogenic Escherichia coli, Nature Review Microbiology, 2004, 2, 123-140)。さらに、現在、多くの研究により、腸内微生物叢が結腸直腸がんのリスクを調節し得る主要な環境要因であるという概念が支持されている。したがって、微生物叢の共生細菌は直接的に発がん性がある可能性がある。これは、例えば、コリバクチンと呼ばれる遺伝毒性物質を腸管腔内においてインビボ(生体内、in vivo)で産生する特定の大腸菌の株の場合であり、このコリバクチンは、電離ガンマ線による照射によって誘発されるのと同様に腸細胞にDNA損傷を誘発する(Cuevas-Ramos Gら、「Escherichia coliduces DNA damage in vivo and triggers genomic instability in mammalian cells」)。PNAS USA, 2010, 107, 11537-11542)。
【0003】
例えば、国際公開第2006/021965号に記載されているように、多くの微生物がヒトの消化管への有益な適用およびそれらの栄養価について既に文献に記載されている。次いでこれらの微生物は、一般にプロバイオティクス(probiotics)という用語で呼ばれており、これは、十分な量で投与された場合に宿主に健康上の利点を提供できる生きている微生物に相当する(Joint FAO/WHO Expert Consultation, Probiotics in food, FAO Food and nutrition paper No.85, ISBN 92-5-105513-0)。
【0004】
より具体的には、腸内細菌科に関連する病状を治療するためのサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(S.cerevisiae)酵母の使用が知られている。したがって、先願の仏国特許第2928652号は、酵母株S.セレビシエ(CNCM I-3856、ScProl)が、特にこれらの微生物によるコロニー形成および/または腸内への侵入を抑制(limit)することによって、病原性微生物に関連する胃腸病状の治療にとって治療的および予防的関心となっていることを教示している。特に、この酵母の投与は結腸内の腸内細菌科の減少につながる。この結果は、酵母株(ScProlおよび/またはSCB1)から抽出されたマンノプロテインが豊富な画分(fraction)が、主要なCIBDの1つであるクローン病に関連する大腸菌株(AIEC(接着性侵入性大腸菌)株)によるヒト上皮細胞の接着および侵入をインビトロ(試験管内試験、in vitro)で阻害できることを示す。また、Sivignonらの研究(Inflamm Bowel Dis. 2015; 21(2):276-286)による研究は、CNCM I-3856株由来の細胞壁化合物が、クローン病を模倣したマウスモデルにおいてAIEC細菌による腸管定着(腸内コロニー形成、intestinal colonization)および関連する大腸炎の症状を軽減することも教示している。腸壁へのAIECの接着を阻害すると、腸組織へのAIECの侵入が大幅に減少し、したがってその感染力が大幅に減少する。
【0005】
近年、酵母の細胞壁から単離されたグルカンにますます注目が集まっている。したがって、酵母細胞壁グルカンは、正常または低下している免疫学的機能を有するヒトおよび動物において免疫応答を強化または刺激するために使用されている(G. Hetland. Curr. Med. Chem. - Anti-infective Agents 2003, 2:135;P.J. Rice, B.E. Lockhart, L.A. Barker, E.L. Adams, H.E. Ensley, D.L. Williams. Int. Immunopharmacol. 2004, 33:829)。特許出願の国際公開第2009/103884号は、酵母細胞壁β-グルカン(特にCNCM I-3856株)が腸炎を抑制することをより具体的に教示している。Jawaharaら(PLoS One 2012; 7(7):e40648)は、S.セレビシエ酵母(特にLYSC 318.2株)のβ-グルカン画分が、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の病原性作用を阻害できることをさらに開示している。最後に、Pengkumsriら(Food Sci Technol, Campinas 2017, 31(1):124-130)は、β-グルカン画分がヒト大腸炎の治療に有用であり得る免疫調節特性を有することを開示している。
【0006】
本発明者の知る限り、現在、CIBDに対する満足のいく治療法はまだ存在していない。小腸の損傷部分を切除する外科手術が考慮されることもあるが、これは頻繁に再発する、身体に障害をもたらす手術である。したがって、一般に、炎症(ステロイド性または非ステロイド性抗炎症薬および炎症性サイトカインを標的とする抗体による)および慢性疼痛(典型的にはカンナビノイドなどの鎮痛薬による)などの症状のみが治療される。疾患が進行性である患者では、医師は、発作を止め、新たな病変の出現を防ぎ、慢性炎症状態に関連する腫瘍発生のリスクを防ぐために、免疫調節療法を迅速に開始する。しかしながら、これらの治療はまた、中長期的に重大な副作用を伴う。したがって、コルチコステロイド(Corticosteroids)の使用はますます少なくなっている。したがって、一方では既存の予防的治療を開発および改善し、健康な対象の腸の快適性を改善することを可能にし、他方ではリスクのある対象の病状の発症を予防し、CIBDなどの胃腸病状に罹患している患者に効果的で耐用性が高い治療法を開発することが不可欠である。
【発明の概要】
【0007】
したがって、胃腸病状、特に感染性因子に関与する病状に罹患している患者の生活の質を改善する有効性を高める新しい解決策を特定する(identify)ために、革新的なアプローチを継続することが依然として重要である。特に、抗接着(anti-adhesion)作用および/または抗侵入作用に関してより大きな有効性を有する新しい活性成分(有効成分、active ingredients)または組成物を特定することは、非常に重要であろう。
【0008】
β-グルカンおよび/またはα-グルカンおよび/またはマンナンを含む酵母多糖類の組成物が提案され、当該酵母多糖類は酵母細胞壁から抽出されることを特徴とする。典型的には、β-グルカンはβ(1,6)-グルカンである。いくつかの実施形態では、組成物はマンナンおよびα-グルカンをさらに含む。特に、本特許出願は、5~25%、特に10~20%のα-グルカン、30~50%、特に35~45%のβ-グルカン(特にβ6-グルカン)、および30~55%、特に40~50%のマンナンを含む組成物を提案する。典型的には、酵母はサッカロミセス属の酵母の中から選択される。したがって、それらは、番号CNCM I-3799、CNCM I-3856、CNCM I-4407、CNCM I-4563、CNCM I-4812、CNCM I-4978、CNCM I-5128、CNCM I-5129、CNCM I-5268およびCNCM I-5269としてCollection Nationale de Cultures de Microorganismes(National Collection of Microorganism Cultures)に寄託された株、ならびにCollezione dei Lieviti Industriali(Industrial Yeasts Collection)に寄託された株DBVPG 6763を含む群から選択され得る。
【0009】
別の態様によれば、酵母組成物を得るための方法であって、
a)酵母細胞壁の組成物を(典型的には高温インキュベーション(incubation)によって)分画し(fractionate)、不溶性画分(「不溶性画分a」と呼ばれる)を収集(抽出)する少なくとも1つのステップと、
b)不溶性画分a)から可溶性画分(「可溶性画分b」と呼ばれる)を抽出する少なくとも1つのステップであって、前記画分は、β-グルカン(特にβ6-グルカン)、好ましくはまたマンナンおよび一般にα-グルカンを含有し、このステップは、典型的には、可溶性画分a)を弱酸溶液中でインキュベートし、可溶性画分(「可溶性画分b」)を収集(抽出)する少なくとも1つのステップを含む、ステップと
を含む、方法が提供される。
【0010】
典型的には、この方法は、不溶性酵母細胞壁画分を得る予備ステップを含む。
【0011】
この方法は、好ましくは、不溶性画分a)を強塩基溶液中でインキュベートし、その後、不溶性画分(不溶性画分a1と呼ばれる)を収集するステップa1)を含む。この中間ステップが実施されると、次いで上記のステップb)の弱酸溶液中でインキュベートされた画分(または組成物)は「不溶性画分a1」となる。
【0012】
本開示はまた、胃腸病状の治療および/または予防における使用のための、本特許出願に記載されるβ-グルカン、マンナン、およびα-グルカンを含む酵母多糖類の組成物、特に本明細書に記載される方法に従って得られる酵母多糖類の組成物にも関する。
【0013】
本発明は最後に、胃腸の快適性を改善すること、および/または腸内細菌叢の恒常性を改善し、維持することを目的とした食品組成物を調製するための、本開示で定義される組成物、特に本明細書に記載される方法に従って得られる組成物の非治療的使用に関する。
【0014】
以下の段落で説明される特徴は、任意選択で実施することができる。それらは、互いに独立してまたは互いに組み合わせて実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
他の特徴、詳細、および利点は、以下の詳細な説明を読み、添付の図面を分析することにより明らかになるであろう。
【0016】
図1】実施される様々なプロトコルを例示する図である。上の図(A)は、酵母全体または酵母細胞壁からの異なる酵母多糖類画分の抽出を例示する。下の図(B)は、異なる酵母多糖類画分が酵母細胞壁から抽出される本発明の方法に対応する。
図2】T84およびCaco-2腸上皮細胞に対するプレインキュベーションプロトコルの図である。酵母から抽出された画分は、まずAIEC細菌とインキュベートされ、次に上皮に組織化された腸上皮細胞の培養物に添加される。次に、細菌株AIEC LF82の残留接着レベルを、酵母画分の濃度を減少させて推定する(1;0.5;0.25;0.1mg/mL)。
図3】「可溶性画分a」(ホスホペプチドマンナン抽出プロトコルのため、フェーリング(Fehling)マンナンとも呼ばれる)(画分1、「可溶性画分a」とも呼ばれる)、または酵母株CNCM I-3856全体から得られた「可溶性画分b」(画分3)の存在下でのT84細胞に対する株AIEC LF82の残留接着レベル(パーセンテージ)(プレインキュベーションプロトコル)(平均±SEM;**:p<0.01、***:p<0.001、t検定)。
図4】酵母株CNCM I-3856全体から得られたβ3-グルカン-ホスフェート(画分6)の存在下でのT84細胞に対する株AIEC LF82の残留接着レベル(パーセンテージ)(プレインキュベーションプロトコル)(平均±SEM;**:p)<0.01、t検定)。
図5】酵母株CNCM I-3856全体またはCNCM I-3856酵母細胞壁から得られた「可溶性画分b」(画分3)の存在下でのT84細胞に対する株AIEC LF82の残留接着レベル(パーセンテージ)(プレインキュベーションプロトコル)(平均±SEM;:p<0.05;**:p<0.01;***:p<0.001;t検定)。
図6】CNCM I-3856酵母細胞壁またはCNCM I-5268酵母細胞壁から得られた「可溶性画分b」(画分3)の存在下でのT84細胞に対する株AIEC LF82の残留接着レベル(パーセンテージ)(プレインキュベーションプロトコル)(平均±SEM;:p<0.05;**:p<0.01;***:p<0.001;t検定)。
図7】CNCM I-5268酵母細胞株に由来する「可溶性画分b」(画分3)、α-グルカン(画分5)、またはβ6-グルカン(画分4)の存在下でのT84細胞に対するAIEC LF82細胞の残留接着レベル(パーセンテージ)(プレインキュベーションプロトコル)(平均±SEM;:p<0.05;***:p<0.001;t検定)。
図8】酵母株CNCM I-3856全体もしくは酵母株LV04から得られた「可溶性画分a」(画分1)、または酵母株CNCM I-3856全体、もしくはCNCM I-5268酵母細胞壁から得られた「可溶性画分b」(画分3)の存在下でのTC7/Caco-2に対する株AIEC LF82の残留接着レベル(パーセンテージ)(プレインキュベーションプロトコル)(平均±SEM;**:p<0.01、***:p<0.001、t検定)。
図9】CNCM I-5268酵母細胞壁に由来する「可溶性画分b」(画分3)の存在下での細菌株AIEC LF82によるTC7/Caco-2細胞の残留侵入レベル(パーセンテージ)(プレインキュベーションプロトコル)。
図10】マウス(AIEC定着のマウスモデル)における酵母画分(YF:酵母画分)についてのインビボ投与プロトコルを表すグラフ。酵母画分を5mg/マウスの用量で経口投与する。試験した画分:酵母株CNCM I-3856全体から得られた「可溶性a」(画分1)、または酵母株CNCM I-3856全体もしくはCNCM I-5268酵母細胞壁から得られた「可溶性b」(画分3)。
図11】投与された酵母画分の関数としての、動物の感染から2または3日後のマウスの糞便中のAIEC LF82細菌の数の推定。結果は、糞便1gあたりのAIEC細菌数として示される(箱ひげ図、最小値から最大値まで)(WF:細胞壁画分)。
図12】感染から4日後の、酵母画分による、処置マウスまたは未処置マウスの腸粘膜に関連するAIEC LF82細菌の定量。結果は、組織1gあたりのAIEC細菌数(箱ひげ図、最小値から最大値まで)(WF:細胞壁画分)で示される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面および以下の説明の大部分は、本質的に確実である要素を含む。したがって、それらは本開示のより良い理解を提供するのに役立ち得るだけでなく、必要に応じてその定義にも寄与し得る。
【0018】
本出願における「約」は、示された数値に対して20%、特に15%、10%、または5%の変動以内を意味すると理解される。一例として、「約100℃の温度」という表現は、80℃~120℃、特に85℃~115℃、より特には90℃~110℃、好ましくは95℃~105℃の温度として理解されるべきである。
【0019】
本出願の発明者らは、酵母細胞壁断片の組成物を得ることができる新しい方法を開発し、特に細菌接着および侵入、特に接着性および侵入性の大腸菌(AIEC)を阻害する際のその組成物の有効性は、先行技術に記載されている酵母全体または誘導体と比較して顕著に増加している。
【0020】
より具体的には、本発明者らは、全く驚くべき方法で、酵母細胞壁断片(酵母壁または細胞壁とも呼ばれる)から抽出された酵母多糖類の組成物が、多糖類が酵母全体から得られる酵母多糖類組成物よりも大幅に優れている接着および細菌侵入阻害活性を示すことを実証した。また驚くべきことに、特にβ1,6-グルカン、ならびに必要に応じてマンナンおよびα-グルカンを含有する本発明による酵母多糖類組成物も、以前に記載されているマンナン画分よりも高い活性を示す。腸細胞の表面上に発現した糖タンパク質によって露出されたマンノシド構造(mannosidic structures)は、1型線毛(pili)の表面上に露出された線毛構造(FimH)を介して細菌細胞への付着だけに関与していると考えられていたため、この結果は予想外である(Barnich et al.JCI,2007)。
【0021】
したがって、本開示は、β-グルカンを含む酵母細胞壁多糖類の組成物に関する。典型的には、β-グルカンは、β(1,6)-グルカン(以下、特に実施例ではβ6-グルカンとも呼ばれる)を含む。典型的には、前記組成物はマンナンおよび/またはα-グルカンをさらに含む。
【0022】
酵母細胞は、殻または壁とも呼ばれるエンベロープ(envelope)、および内容物から概略的に構成される。したがって、本出願では、本明細書に記載される多糖類または酵母断片を修飾する用語「壁側」、「殻」、または「壁」は同義的に使用される。したがって、「細胞壁多糖類」という用語は、酵母の壁(または殻)を構成する多糖類を意味する。
【0023】
多糖類の3つの主な群が、特にサッカロミセス・セレビシエ酵母において酵母細胞壁を形成する。酵母細胞壁の乾燥質量の約40%を占めるマンノース(またはマンナン)のポリマーと、細胞壁の乾燥質量の約60%を占めるグルコースのポリマー(β-グルカンおよびα-グルカン)と細胞壁の乾燥質量の約2%を占めるN-アセチルグルコサミン(キチン)のポリマーと、である。
【0024】
グルカンは、分岐していても分岐していなくてもよいグルコースモノマーから構成される多糖類である。それらは、グルコースの結合様式に応じて異なるサブタイプに分類され得る。α-グルカンは、主にα結合(1-4)によって結合されるグルコースモノマーのポリマーである。
【0025】
酵母β-グルカンは、グルコースモノマーから構成される多糖類であり、グルコースの結合様式に応じて2つのサブタイプに分類され得る。酵母β-グルカンの約85%を占める約1500のβ-1,3-グルコース単位の長鎖、および酵母β-グルカンの約15%を占める約150のβ-1,6-グルコース単位の短鎖である(Klis,F.,Mol,P.,Hellingwerf,K.and Brul,S.(2002)”Dynamics of cell wall structure in Saccharomyces cerevisiae”. FEMS Microbiology Reviews 26,239-256)。
【0026】
β-1,6-グルカンの短鎖は、β-1,3-グルカン、マンノプロテイン、およびキチンとの共有結合に関与している。これらの架橋はまた、細胞壁のモジュール構造にも寄与し得る(Kollar,R.et al.(1995)”Architecture of the yeast cell wall. β-(1,6)-glucan interconnects mannoprotein,β-(1,3)-glucan,and chitin”. Journal of Biological Chemistry 270,17762-17775)。
【0027】
マンナンは、N-グリカンコアを介して結合されるマンノースのポリマーまたはオリゴマーである。特に、サッカロミセス・セレビシエ酵母マンナンは、末端α1,3を有するα1,2で分岐したα1,6マンノースのポリマーである(特にSendid et al.,Med Sci(Paris).2009;25(5):473-482を参照のこと)。本特許出願によるマンナンが豊富な画分は、少なくとも30%のマンナン、特に少なくとも35%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%のマンナンを含む。
【0028】
β6-グルカン画分は、β-1,6-グルカン多糖類が豊富な画分を意味すると理解される。典型的には、そのような画分は、少なくとも30%のβ-1,6-グルカン、特に少なくとも35%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%のβ-1,6-グルカンポリマーを含む。
【0029】
β3-グルカン画分は、β1,3-グルカンが豊富な画分を意味すると理解される。典型的には、そのような画分は、少なくとも30%のβ-1,3-グルカンポリマー、特に少なくとも35%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%のβ-1,3-グルカンポリマーを含む。
【0030】
α-グルカン(またはグリコーゲン)画分は、α1,4 α1,6グルカンが豊富な画分を意味すると理解される。典型的には、そのような画分は、少なくとも60%のα1,4 α1,6グルカンポリマー、特に少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%のα1,4-α1,6グルカンポリマーを含む。
【0031】
先行技術に記載され、典型的に酵母全体から得られる酵母多糖類組成物は、典型的には60~80%のα-グルカン、通常は65~75%のα-グルカン、5~25%のβ-グルカン、通常は10~20%のβ-グルカン、および5~25%のマンナン、通常は10~20%のマンナンを含む。
【0032】
本発明者らは、酵母細胞壁画分から得られた多糖類組成物が、β-グルカン、典型的にはβ6グルカンが豊富であり、好ましくはマンナンも豊富であることを示した。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、本発明者らは、酵母細胞壁画分から得られる組成物は、上記のように、α-グルカン、β-グルカン(特にβ-6グルカン)、およびマンナンから構成される、強力で非解離性の(non-dissociable)、典型的には共有結合によって結合した不均一なポリマーを含むと考えている。
【0033】
したがって、本発明の酵母多糖類組成物は、典型的には少なくとも30%のβ-グルカン、特に30~50%のβ-グルカン、好ましくは35~45%のβ-グルカン、特にβ(1,6)-グルカンを含む。
【0034】
好ましくは、本開示の酵母多糖類組成物はマンナンをさらに含む。典型的には、本特許出願の組成物はマンナンが豊富であり、30~55%のマンナン、特に40~50%のマンナンを含むことができる。
【0035】
好ましくは、本開示による酵母多糖類組成物は、α-グルカン、特に5~25%、特に10~20%のα-グルカンを含む。
【0036】
特定の実施形態では、前記組成物は、以下の割合の多糖類を含む。
5~25%のα-グルカン、好ましくは10~20%のα-グルカンと、
30~50%のβ-グルカン、好ましくは35~45%のβ-グルカン、特にβ(1,6)-グルカンと、
30~55%のマンナン、好ましくは40~50%のマンナンと、を含む。
【0037】
本出願で使用される酵母の壁(または殻)は、1つまたは複数の種類の酵母に由来し得る。酵母は、真菌界(fungi kingdom)に属する単細胞の真核微生物である。本開示を実施するのに特に適した酵母は、サッカロミセス属の酵母である。これらの酵母は、菌糸体を形成しない子嚢菌の分類学的属を構成し、食品産業において発酵剤として使用されるいくつかの種を含む。従来、サッカロミセス属に属する酵母は、S.セレビシエ、S.ウヴァルム(S.uvarum)、S.バヤヌス(S.bayanus)、またはS.パストゥリアヌス(S.pasteurianus)などの食品酵母の中から選択され得る。酵母は、好ましくは、サッカロミセス・セレビシエ種(ビール酵母または醸造用酵母またはパン酵母、S.セレビシエ・バー・ブラウディ(S.cerevisiae var.boulardii))の株である。例えば、番号CNCM I-3799、CNCM I-3856、CNCM I-4407、CNCM I-4563、CNCM I-4812、CNCM I-4978、CNCM I-5128、CNCM I-5129、CNCM I-5268、およびCNCM I-5269としてCollection Nationale de Cultures de Microorganismesに寄託されたサッカロマイセス・セレビシエ酵母株が、本開示に特によく適している。
【0038】
本開示の組成物は、異なる株または異なる種の1つまたは複数の酵母から得ることができる。
【0039】
本開示の組成物は、典型的には、細胞内容物(細胞質)から分離された酵母壁調製物または酵母壁断片から、特に酵母壁断片からの細胞壁多糖類の抽出によって得られる。酵母壁または酵母壁断片を得るための方法は、本開示の技術分野において周知である。これに関しては、参考文献”Yeast Technology”,2nd edition,1991,G.Reed and T.W.Nagodawawithana,Van Nostrand Reinholdにより発行,New York,ISBN0-444-31892-8を参照することができる。
【0040】
簡潔に述べると、酵母細胞壁断片または酵母殻断片は、化学的(溶媒、酸、塩基)、物理的(超音波処理、高圧)、酵素的(典型的にはプロテアーゼおよびヌクレアーゼの使用)、または自己分解性(内在性酵素)である酵母細胞の溶解、その後の、例えば、遠心分離および不溶性画分(または部分)の収集などの物理的手段による可溶性部分および不溶性の分離によって得ることができる。典型的には、溶解した酵母細胞バイオマスの遠心分離により、上清(supernatant)および遠心分離ペレットが得られる。上清は主に、タンパク質の分解によって生じる遊離アミノ酸およびペプチド、ならびに核酸(RNA、DNA)の分解によって生じるヌクレオチドから構成される。遠心分離ペレットは、内容物が空になった酵母細胞の形態で無傷または部分的に分解された酵母壁を含有する。
【0041】
酵母の自己分解(autolysis)は、酵母自身の酵素による酵母の細胞内容物の加水分解である。これは典型的には、酵母細胞の懸濁液を特定の物理的培地条件下に置くか、ならびに/または酵母細胞のアポトーシスおよびその酵素の細胞体への放出を引き起こす活性化因子(activators)と接触させることによって得られる。細胞内容物の加水分解により、可溶性化合物が生成される。分離ステップの後に収集された不溶性画分は、酵母細胞壁と呼ばれる生成物を構成し、酵母細胞骨格ならびに自己分解または異種溶解(heterolysis)によって可溶化されなかった膜および成分を含む。この不溶性画分は、多くの場合、水性酵母細胞壁懸濁液(または組成物)の形態で回収される。
【0042】
酵母細胞壁は、液体形態(15~20%の乾燥物質)、乾燥形態(85%超の乾燥物質)、またはペースト形態(25~85%の乾燥物質)であり得る。酵母細胞壁は、好ましくは乾燥形態で存在する。いくつかの実施形態では、CNCM I-5268酵母の壁断片が、本明細書に記載される組成物および/または方法の例として使用される。
【0043】
本明細書に記載される本発明を実施するために、同じ種類の酵母または異なる種類(株)もしくは異なる種の酵母に由来する、酵母の細胞壁もしくは殻、またはそれらを含む任意の組成物を使用することができる。
【0044】
本開示はまた、上記の酵母細胞壁多糖類の組成物を得るための方法にも関する。好ましくは、当該方法は特に以下を含む。
(a)酵母細胞壁の組成物を分画し、不溶性画分を収集する少なくとも1つのステップ、特に酵母細胞壁の組成物からの不溶性画分(本特許出願の実施例において「不溶性画分a」とも呼ばれる)の熱抽出の少なくとも1つのステップ、および
(b)弱酸溶液中で抽出する少なくとも1つのステップ、典型的には、「不溶性画分a」を弱酸溶液中でインキュベートし、その後、可溶性画分(「可溶性画分b」と呼ばれる)を収集するステップ。
【0045】
典型的には、当該方法は、酵母細胞壁画分を収集することからなる予備ステップを含む。実際には、このステップは典型的には、上述したように、酵母加水分解物(特に酵母自己溶解物(autolysate))から不溶性画分を得ることによって行われる。このステップは特に、壁に結合しないか、または弱く結合する化合物の全部または一部(少なくとも60%、特に少なくとも75%、より特には少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、さらにより特には少なくとも95%)を除去することを目的とする(これに関しては、上記の酵母細胞壁画分を得るための方法を参照のこと)。
【0046】
熱抽出(または熱加水分解)のステップa)は、典型的に、75℃を超える温度、特に80~180℃、より特には90~150℃、より特には95~145℃で、中性pHに緩衝化された溶液中での酵母細胞壁断片の高温インキュベーションによって実施され得る。典型的には、約120℃の温度である。中性pHは、約7のpH、特に6~8のpHを意味すると理解される。高温インキュベーションは、典型的には少なくとも30分間、特に少なくとも1時間、典型的には1時間~4時間、または1時間~3時間維持される。好ましくは、インキュベーションは約1.5時間維持される。緩衝液は典型的には、クエン酸緩衝液(約20mM)に基づく溶液、または現場での任意の他の同等の緩衝液である。インキュベーション後、可溶性画分および不溶性画分は、典型的には遠心分離によって分離され、不溶性画分(不溶性a)が収集される。典型的には、遠心分離は、4000~6000rpm、好ましくは約5000rpmの速度で、少なくとも20分間、特に20分~40分、好ましくは約30分間実施され得る。このステップは2~4回、好ましくは2回繰り返すことができる。この熱加水分解ステップの最後に収集される可溶性画分は、典型的には、細胞壁多糖類と強く結合していない(典型的には非共有結合的に結合している)ホスホペプチドマンナンを含む。
【0047】
この方法は、好ましくは、強塩基溶液中で不溶性画分を抽出するステップa1)を含み、典型的には、ステップa)の最後に得られた不溶性画分(「不溶性画分a」と呼ばれる)を強塩基溶液でインキュベートし、その最後に不溶性画分(「不溶性画分a1」と呼ばれる)を収集するステップを含む。この中間ステップが実施されると、上記のステップb)の弱酸溶液中でインキュベートされた画分(または組成物)は、次いで「不溶性画分a1」になる。
【0048】
強塩基溶液中で抽出するステップa1)は、典型的には、強塩基溶液中で不溶性画分a)をインキュベートするステップを含む。強塩基溶液は、典型的には、水酸化ナトリウム(NaOH)または任意の他の等価物の溶液であり、好ましくは約1Nに濃縮される。強塩基溶液中でのインキュベーションは、典型的には、室温、好ましくは16~24℃、特に約20℃で行われる。それは理想的には、少なくとも16時間、典型的には、16時間~32時間、好ましくは24時間、撹拌しながら行われる。次いで、可溶性画分および不溶性画分は、典型的には遠心分離によって分離され、不溶性画分a1)が回収される。典型的には、遠心分離は、5000~8000rpm、好ましくは約7000rpmの速度で、少なくとも20分間、特に20~40分間、好ましくは約30分間行うことができる。遠心分離の後に高温インキュベーションステップが続く。本発明者らは、このステップにより残留ホスホペプチドマンナンを除去できると考えている。
【0049】
弱酸溶液中で抽出するステップb)は、典型的には、弱酸溶液中で「不溶性画分a」または「a1」(強塩基中で抽出する中間ステップが実施されている場合)をインキュベートするステップを含む。弱酸溶液は、典型的には、酢酸または任意の他の等価物の溶液であり、好ましくは約0.5Nに濃縮される。弱酸溶液中でのインキュベーションは、典型的には、少なくとも70℃、特に75℃~130℃、より特には75~115℃、より特には約90℃の温度で行われる。それは理想的には、好ましくは撹拌しながら、少なくとも1時間、典型的には2~4時間、好ましくは3時間行われる。次いで、可溶性画分および不溶性画分は、好ましくは遠心分離によって分離され、可溶性画分(可溶性画分bと呼ばれる)が収集される。典型的には、遠心分離は、4000~6000rpm、好ましくは約5000rpmの速度で、少なくとも20分間、特に20~40分間、好ましくは約30分間行うことができる。このステップは、少なくとも2回、特に少なくとも3回、4回、5回、6回、7回、8回、特に3~8回繰り返される。
【0050】
典型的には、本特許出願の方法の遠心分離ステップは、室温、好ましくは16~24℃、特に約20℃で行われる。
【0051】
典型的には、本明細書に記載されるプロトコルに従って得られる「可溶性画分b」は、β-グルカン、特にβ-6グルカン、好ましくはまたマンナン(上記で定義した通り)が豊富な画分である。このような画分はまた、典型的には、α-グルカンも含有する。したがって、本発明の方法は、特に上述したような組成物を得ることが可能であり、本明細書で特許請求されるような有利な効果を有する。
【0052】
β3-グルカン画分(すなわち、典型的には、上記のようにβ-3グルカンが豊富である)は、不溶性画分(「不溶性画分b」とも呼ばれる)が、ステップb)の最後に収集される場合、本開示に従って酵母細胞壁断片(殻)から得ることができることに留意されたい。同様に、このステップb)は、少なくとも2回、特に少なくとも3回、4回、5回、6回、7回、8回、特に3~8回繰り返すことができる。
【0053】
特定の実施形態では、β6-グルカンが豊富な画分(好ましくは少なくとも60%、特に少なくとも65、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%のβ6-グルカンを含有する)は、ステップb)の最後に得られる可溶性画分(「可溶性画分b」)から得ることができる。したがって、β6-グルカンの単離された画分は、例えば、典型的にはアミログルコシダーゼ(例えば、アルペルギウス・ニガー(Aspergillus niger)由来)を用いた酵素処理によって得ることができる。しかしながら、好ましくは、ステップb)の終わりに得られる可溶性画分(「可溶性画分b」)は、ヨウ素溶液で処理することができる(実施例に示すように)。ヨウ素溶液中でのインキュベーションは、典型的には室温(好ましくは16~24℃、特に約20℃)で行われる(それは理想的には、少なくとも15分間、典型的には20~45分間、好ましくは30分間、撹拌しながら行われる)。ヨウ素溶液での処理後、次に可溶性画分および不溶性画分は、典型的には遠心分離によって分離され、可溶性画分(「可溶性画分c」とも呼ばれる)が収集される。典型的には、遠心分離は、4000~6000rpm、好ましくは約5000rpmの速度で、少なくとも20分間、特に20~40分間、好ましくは約30分間行うことができる。次いで、エタノール溶液を上清に添加することができ、溶液を以前と同じ条件下で遠心分離することができる。強酸の濃縮溶液(典型的には少なくとも2N、好ましくは約3Nに濃縮された塩酸溶液)をペレットに添加して、β6-グルカンおよびα-グルカン複合体を解離させ、次いで沈殿させる(エタノールまたは任意の等価物を用いた従来の方法において)。この2番目の方法により、単離されたβ6-グルカンおよびα-グルカンが豊富な画分を収集することが可能になる(結果に記載されている方法も参照のこと)。
【0054】
上記に示したように、本発明者らによって得られたデータは、酵母細胞壁から得られた「可溶性画分b」が、AIEC型病原性細菌の接着を非常に顕著に阻害し、その結果、腸組織においてAIEC(接着性侵入性大腸菌)細菌の侵入を大幅に減少させ、したがってそれらの感染力を大幅に減少させることを示した。AIECはまた、CEACAM6として知られるマンノースが豊富な糖タンパク質に結合することによって腸細胞に接着することも示されている。したがって、ヒトCEACAM6タンパク質を発現するトランスジェニックマウスは、AIEC感染に対して非常に感受性が高くなるが、この病原型は一般にげっ歯動物に対してあまり毒性がない(virulent)。酵母株または同定された酵母誘導体に感染したマウスの処置により、AIEC細菌による消化管の定着が減少したので、インビトロデータを検証した。
【0055】
いかなる特定の理論にも束縛されることを望まないが、本発明者らは、本明細書に記載される「可溶性画分b」は、アルファ(1-4)および(1-6)グルコシド単位ならびにマンノシド単位を含むと考えており、これは、結合構造の提示または3D立体構造にとって重要である。そのため、そのような画分によって腸壁への細菌の接着を効果的に阻害することが可能になる。
【0056】
したがって、本特許出願は、本明細書に記載され、および/または本開示の方法に従って得られる有利な活性を示す組成物の医薬としての使用に関する。特に、本明細書に記載される組成物は、胃腸病状または疾患の治療または予防に特に適している。前記組成物は、典型的には、好ましくはサッカロミセス属の酵母細胞壁から得られ、β-グルカン(特にβ6グルカン)、有利にはマンナンも豊富な組成物である。好ましくは、前記組成物は少なくとも30%のβ-グルカンを含み、有利には少なくとも30%のマンナンを含む。
【0057】
本明細書で使用される場合、「治療」または「治療すること」という用語は、疾患および/または疾患の任意の症状、特に胃腸疾患、腸障害または機能性腸障害を、治癒、軽減、回復、改善し、および/または影響を与えることを目的として、それを必要とする患者への本明細書に記載される組成物の投与として定義される。特に、「治療する」または「治療」という用語は、疾患に関連する少なくとも1つの望ましくない臨床症状、例えば、疼痛、炎症、下痢、悪心もしくは嘔吐、食欲不振、または疲労の低減または軽減を示す。本明細書で使用される場合、「予防する」または「予防」という用語は、疾患の発症もしくはその症状の少なくとも1つを予防すること、および/またはその症状の少なくとも1つの重症度を低減することを目的として、それを必要とする患者への本明細書に記載される組成物の投与として定義される。
【0058】
特定の実施形態では、本発明の組成物は、本明細書に記載される病状の治療または予防のための臨床栄養学において使用することができる。
【0059】
患者は、典型的には、哺乳動物、特にヒトであることを意味すると理解される。場合によっては、患者は寛解状態にあってもよく、本特許出願による組成物の投与は、再発の予防または抑制、特に再発の事象における疾患または機能性障害の症状のうちの少なくとも1つの重症度の低減を目的としてもよい。
【0060】
特定の実施形態では、本発明の組成物は、獣医学的使用、典型的には動物の健康を目的とする。このような実施形態では、患者は非ヒト哺乳動物であり、典型的には、飼育動物もしくは愛玩動物(ネコまたはイヌなど)または家畜(反芻動物、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ロバなど)の中から選択される。
【0061】
本特許出願の対象となる胃腸病状は、慢性的であってもなくてもよく、下痢または便秘に関連している可能性がある。それらには、典型的には、機能性腸障害、感染性腸疾患、結腸直腸がんおよび/または炎症性腸疾患が含まれる。
【0062】
機能性腸障害には、特に、過敏性腸症候群、機能性腹部膨満、機能性便秘、機能性下痢、および任意の他の不特定の機能性腸障害が含まれる(特に、P.de Saussure & D Bertolini;Rev Med Switzerland 2006;volume 2.31649,”Functional bowel disorders:contributions and limits of evidence-based medicine”を参照のこと)。感染性腸疾患には、典型的には、ウイルス、細菌、または寄生生物が原因の胃腸炎、食中毒、および/または下痢が含まれる。慢性炎症性腸疾患(CIBD)には、典型的には、クローン病および潰瘍性大腸炎が含まれる。
【0063】
本特許出願の組成物は、病原性微生物による胃腸定着を阻止し、腸粘膜への接着を減少させ、さらには病原性微生物に対する腸のバリア機能を強化するのに特に有用である。試験組成物とのプレインキュベーションの有無にかかわらず、T84株などの腸上皮培養物、または患者の腸生検から得られた腸細胞への病原性微生物の接着を阻害するための試験は、特に本出願の結果ならびに国際公開第2009/103884号の出願およびSivignon et al.(IBD,2015,vol 21(2):276-286)による論文に記載されている。
【0064】
上記に示したように、感染性胃腸病変、ならびにCIBDおよび結腸直腸がんは一般に、病原性微生物の存在および/または特定の病原性微生物の侵入性に関連する腸内細菌叢の不均衡(腸内毒素症)と関連している(Rahmouni O,Dubuquoy L,Desreumaux P,Neut C.”Enteric microflora in inflammatory bowel disease patients”.Med Sci(Paris).2016 Nov;32(11):968-973;Kaper J.B.,Nataro J.P.,Mobley H.L.-Pathogenic Escherichia coli),Cuevas-Ramos G et al.,”Escherichia coli induces DNA damage in vivo and triggers genomic instability in mammalian cells”. PNAS USA,2010,107,11537-11542を参照のこと)。
【0065】
一般に、本特許出願では、本明細書に記載される組成物が、特に上記に列挙した病状に対して、胃および/または腸粘膜への付着および侵入、ならびに関連する炎症を低減するのに特に有用であることが示されている。
【0066】
本明細書に記載される組成物が標的とする病原性微生物は、典型的には、腸内病原体であり、典型的には、腸内細菌科の細菌種(サルモネラ属菌(Salmonella spp.)、クレブシエラ属菌(Klebsiella spp.)、セラチア属菌(Serratia spp.)、または大腸菌(E.coli)など)、クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)種の細菌、またはカンジダ・アルビカンス種の酵母、有利には、細胞への接着に1型線毛接着性FimH(adheson、adhesion)が関与する細菌がある。結腸粘膜に関連する大腸菌(粘膜関連大腸菌)が好ましくは標的とされ、特に以下の種類の大腸菌:AIEC(接着性侵入性大腸菌)、ETEC(腸内毒素原性大腸菌)、EIEC(腸管侵入性大腸菌)、EPEC(腸管病原性大腸菌)、EHEC(腸管出血性大腸菌)、EAEC(腸管凝集性大腸菌)、DAEC(びまん性接着性大腸菌)、UPEC(尿路病原性大腸菌)が標的とされる。特定の実施形態では、コリバクチン産生大腸菌は、特に結腸直腸がんに罹患しているか、結腸直腸がんに罹患していたか、または結腸直腸がんを発症するリスクがある患者において特に興味深い。
【0067】
本特許出願はまた、腸の快適性の改善もしくは維持、および/または腸内細菌叢の改善を目的とした、栄養補給食品(nutraceutical)、栄養補助食品、または機能性食品(functional food)の形態での、上記の組成物の非治療的使用にも関する(典型的には、病原性共生細菌による腸内定着を抑制することによる)。腸の快適性の改善または維持は、特に、ヒトまたは動物において、腸の膨満を抑制もしくは予防すること、空気嚥下を抑制もしくは予防すること、および/または消化を調節することを意味すると理解される。
【0068】
本特許出願による組成物は、酵母細胞壁から抽出された活性画分(上記の多糖類細胞壁画分から構成され、好ましくは記載される方法に従って得られる)に加えて、製薬分野において、または栄養補助食品、栄養補給食品もしくは機能性食品の製剤化のために従来的に使用されており、前記活性画分(すなわち、β-グルカン、マンナンおよび酵母細胞壁のα-グルカン、特に一例として示される「可溶性画分b」)と化学的に適合する、任意の賦形剤(excipient)、担体、および/またはアジュバント(adjuvant)を含んでもよい。例えば、本発明の組成物は、ビタミン、微量元素、アミノ酸、ならびに栄養摂取および/または動物もしくはヒトの健康を目的とした他の添加剤の中から選択される成分を含んでもよい。
【0069】
機能性食品または栄養補給食品は、有益な健康効果を有するか、または生理学的機能、特に本明細書では消化器の健康を改善できる成分を含む食品を意味すると理解される。栄養補助食品は、EU指令2002/46/ECに従って、通常の食事を補うことを目的とした食品を意味すると理解される。栄養補助食品は、少量で単独または組み合わせて摂取すると、栄養学的または生理学的効果を有する栄養素または他の物質の濃縮源を構成する。特定の栄養を目的とした食品は、乳児、幼児、または運動選手などの明確に定義された集団群を対象とした、特定の栄養目的を備えた食品を意味すると理解される。
【0070】
生理学的に許容されるアジュバント、ビヒクル(vehicles)、および賦形剤は、典型的には、「Handbook of Pharmaceutical Excipients」,second edition,American Pharmaceutical Association,1994に記載されている。本発明に従って医薬組成物を製剤化するために、当業者はまた、有利には、欧州薬局方または米国薬局方(USP)の最新版を参照することができる。一般的に使用される担体、賦形剤、およびアジュバントには、生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、防腐剤(preservatives)、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤(isotonic agents)、ならびに吸収遅延剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0071】
組成物は、薬物もしくは活性成分として、または非治療的使用の状況において、典型的には栄養補助食品として使用され得る。次いで活性画分の配合および用量は、選択された用途に適合される。
【0072】
治療用途の状況において、組成物は経口または腸内投与用に製剤化され得る。
【0073】
医薬組成物または栄養補助食品の状況において、本発明による食品の組成物は、液体形態またはカプセル、糖衣錠、丸薬(錠剤、pill)、粉末、座薬、または任意の他の投薬製剤の形態などの異なる剤形であってもよい。機能性食品として、本発明による食品の組成物は、多種多様な食品および飲料の形態、例えばジュースまたは乳ベースの調製物で提供され得る。
【実施例
【0074】
〔材料および方法〕
〔フェーリング溶液による「可溶性画分a」ホスホペプチドマンナンを抽出するための方法〕
1.50gの酵母を300mLの0.02Mクエン酸緩衝液(pH7)に懸濁し、オートクレーブ中で121℃、90分間滅菌した。
2.5000rpm、4℃で30分間遠心分離する。上清を収集する。
3.ペレットを300mLの0.02Mクエン酸緩衝液に懸濁し、再度121℃で90分間オートクレーブ処理する。次に、再度遠心分離して上清およびペレットを分離する。
4.2つの上清を一緒に合わせる(XmL)。
5.同量のフェーリング溶液(XmL)を上清に加え、4℃で一晩撹拌する。沈殿物が形成される。ホスホペプチドマンナン-銅複合体は灰色がかっている青色である。5000rpm、4℃で30分間遠心分離して沈殿物を収集する。
6.100mLの3N HClを沈殿物に加え、次いで沈殿物が溶解するまで4℃で撹拌する。銅複合体が分解し、溶液が緑色に変わる。
7.300mLのエタノールを加えてホスホペプチドマンナンを沈殿させ、4℃で一晩撹拌する。5000rpm、4℃で30分間遠心分離して沈殿物(白色)を収集する。
8.ホスホペプチドマンナンの沈殿物を50mLの水に溶解する。4℃で一晩水に対して透析(MWCO3500)する。次いで、透析したマンナンを乾燥させ、凍結乾燥させる。
【0075】
〔フェーリング溶液の調製(新たに使用した緩衝液AとBを混合する)〕
〔緩衝液A〕
1.35gの硫酸銅(II)。5HOを300mLのHOに溶解する。
2.5mLの2N硫酸を加える。
3.水を500mLに加える。
〔緩衝液B(腐食性)〕
1.77gの水酸化ナトリウム+175gの酒石酸カリウムナトリウム。
2.HOを500mLに加える。
【0076】
参考文献:Method for Fingerprinting Yeast Cell Wall Mannan (1969) Journal of Bacteriology,v.100,p1175。
【0077】
〔「可溶性画分b」の取得:高温希酢酸溶液によるβ1,3グルカンおよびβ1,6グルカン(グリコーゲン、すなわちα-グルカンを含む)の分離〕
1.50gの酵母全体または酵母細胞壁画分(高温クエン酸緩衝液で抽出後の不溶性画分、「不溶性画分a」とも呼ばれる)から得られたペレットを1Lの1N NaOH溶液中に収集し、次いで室温で24時間撹拌して、ホスホペプチドマンナン残留物を除去する。
2.7000rpm、4℃で30分間遠心分離した後、ペレット(不溶性画分a1)を収集する。ペレットを1Lの水で洗浄し、再度遠心分離し、ペレットを保存する。
3.ペレットを800mLの0.5N酢酸で抽出し、90℃の温度で3時間撹拌する。冷却させた後、7000rpm、4℃で20分間遠心分離する。上清およびペレットを保存する。ペレットを90℃で3時間撹拌しながら800mLの0.5N酢酸で再度抽出し、その後新たに遠心分離する。
4.5Lの上清(主にグリコーゲンおよびβ6-グルカンから構成され、「可溶性画分b」とも呼ばれる)を収集するまで、ステップ3を少なくとも5回繰り返す。上清をNaOH溶液で中和し、水エバポレーターによって濃縮した。次いで、水に対して4℃で一晩透析(MWCO3500)する。得られた画分は可溶性画分bを構成する。この画分の分析により、グルカンポリマーに強く結合した(すなわち、熱抽出ステップによって解離されない)β-6グルカン、α-グルカン(グリコーゲン)、およびマンナンが含まれることが実証される。
5.ペレット(主にβ3グルカンから構成される)を水に対して4℃で一晩透析する。
6.透析試料を凍結乾燥させる。
【0078】
〔参考文献〕
1.The structure of b(1->3)-D-glucan from yeast cell walls (1973) Biochem J,v.135,p19。
2.Refinement of the structures of cell-wall glucan of Schizosaccharomyces pombe by chemical modification and NMR spectroscopy (2004) Carbohydrate Res.,v.339,p2255。
【0079】
〔グリコーゲンおよびβ6-グルカンの分離〕
1.500mg量の「可溶性画分b」の組成物を50mLの作業溶液に添加する。撹拌した後、室温で30分間静置させる。赤茶色の顆粒が形成される(グリコーゲン-ヨウ素沈殿物)。
2.室温、5000rpmで30分間遠心分離する。上清およびペレットを保存する。50mLの作業溶液を上清に加え、次いで100mLのエタノールを加え、室温で30分間撹拌する。
3.再度遠心分離する。顆粒(ペレット1、主にグリコーゲン)を単一の画分に合わせる。上清にさらに600mLのエタノールを加え、室温で30分間撹拌する。淡黄色の顆粒が形成される。
4.遠心分離して顆粒(ペレット2、主にβ6-グルカン)を収集する。
5.グリコーゲンからヨウ素を解離するために、100mLの3N HClをペレット1に加え、ペレット1が溶解する(茶色の溶液)まで撹拌する。次いで300mLのエタノールを加え、室温で30分間撹拌する。次いで黒紫色の顆粒が形成される。遠心分離し、ペレットを保存する。次いで、さらに100mLの3N HClを加えて錠剤を溶解する。さらに300mLのエタノールを加え、室温で30分間撹拌すると、白い球が形成される。遠心分離し、顆粒(ペレット3、グリコーゲン)を保存する。
6.ペレット2および3をそれぞれ50mLの水に溶解する。次いで水に対して4℃で一晩透析する。
7.透析試料を凍結乾燥させる。
【0080】
〔作業溶液(ヨウ素)の調製〕
1.166.5mLの水中に、4.35gのヨウ素および43.5gのヨウ化カリウムを溶かす。
2.10.5mLの飽和CaCl溶液を加える。
【0081】
参考文献:Methodologies of tissue preservation and analysis of the glycogen content of the Broiler chicken liver (2007) Poultry Science,v.86,p.2653。
【0082】
〔使用した酵母〕
CNCM I-3856:番号CNCM I-3856として寄託された生サッカロミセス・セレビシエ酵母
LV04サッカロミセス・セレビシエビール酵母全体(Lesaffre内部収集)
酵母CNCM I-3856(FP I-3856)の細胞壁画分(殻)
酵母CNCM I-5268(FP I-5268)の細胞壁画分(殻)。
【0083】
〔酵母全体または酵母細胞壁(細胞壁画分)の組成物から得た試験画分〕
可溶性b
β6-グルカン
グリコーゲン
β3-グルカンリン酸
ホスホペプチドマンナン(フェーリングホスホペプチドマンナンまたは「マンナン」とも呼ばれる)。
【0084】
〔プレインキュベーションについてのプロトコル(図2を参照)〕
接着試験:試験は、48ウェルプレートに1.5×10細胞/ウェルで播種し、5%COを含む雰囲気下で、37℃で48時間インキュベートしたT84またはCaco-2/TC7細胞に対して実施した。1.2×10CFU/mLのAIEC LF82細菌を、Stuart(登録商標)オービタルシェーカーで室温にて、酵母試料の濃度を増加させながら(1:1比)、1時間インキュベートした。48時間の培養後、細胞を細菌/酵母抽出物混合物に37℃、5%COを含む雰囲気下で3時間感染させた。細胞は、10細菌/細胞の感染多重度で感染した。平均接着率(少なくとも3回の独立した実験から得られる)を残留接着パーセンテージとして表し、これは酵母の存在下での細菌接着と、100%とみなされる酵母の非存在下での接着との比である。エラーバーは平均値の標準誤差またはSEMに対応する。
【0085】
侵入試験:プロトコルは接着試験のプロトコルと同じである。しかしながら、3時間のインキュベーション期間の後、細胞外細菌を除去し、侵入細菌のみをカウントするために、細胞をゲンタマイシン(100μg/mL)と1時間インキュベートする。
【0086】
〔結果〕
最初に、全ての画分をT84細胞への接着のプロトコルで試験した。次に、Caco-2/TC7細胞に対して侵入プロトコルで追加の試験を実施した。
【0087】
図3に示すように、CNCM I-3856酵母全体由来の「可溶性a」(ホスホペプチドマンナン)画分は、T84上皮細胞へのAIEC細菌の接着を顕著に阻害する。しかしながら、驚くべきことに、この同じ酵母全体由来の「可溶性b」画分も、AIEC細菌の接着に対して顕著な阻害活性を示す。
【0088】
図4は、CNCM I-3856酵母全体由来のリン酸化β3-グルカン画分も、より中程度ではあるが、T84上皮細胞へのAIEC細菌の接着を顕著に阻害することを示す。
【0089】
図5は、酵母全体(CNCM I-3856)またはこの同じ酵母の細胞壁画分から得られた「可溶性b」画分の、T84上皮細胞へのAIEC細菌の接着に対する阻害活性の比較を示す。どちらも顕著な阻害活性を示すが、細胞壁画分から得られた画分は酵母全体から得られたものよりも高い活性を示す(1mg/mLの用量での残留接着はそれぞれ17%および42%である)。これらの異なる活性は、「可溶性b」画分の異なる組成と相関する。
【0090】
得られた結果が試料の細胞毒性活性に関連していないことを検証するために、可溶性画分bの用量を増加させて細胞毒性試験を実施した。細胞毒性効果は観察されなかった。
【0091】
図6は、2つの酵母細胞壁画分:CNCM I-5268またはCNCM I-3856から得られた「可溶性b」画分の、T84上皮細胞へのAIEC細菌の接着に対する阻害活性の比較を示す。非常に顕著な阻害活性がこれらの2つの画分で観察される。等用量の残留接着パーセンテージは同じ程度であるため、この結果は、阻害活性の増加が使用した菌株(CNCM I-5268対CNCM I-3856)に直接関連しているのではなく、むしろ生産プロセスに関連していることを強く示唆している。換言すれば、酵母細胞壁画分から得られる「可溶性b」画分は、酵母全体から得られる「可溶性b」画分で観察されるものよりもはるかに強い、AIEC細菌の上皮細胞への接着に対する阻害活性を示す。
【0092】
図7は、CNCM I-5268酵母細胞壁画分から得られた「可溶性b」画分、グリコーゲンまたはβ6-グルカンの存在下での、AIEC LF82細菌のT84上皮細胞への残留接着を示す。結果は、β6-グルカンは「可溶性b」画分よりも効果が低く、グリコーゲン画分は中間の活性を有することを示す。「可溶性b」画分が最も効果的な画分である。
【0093】
図8は、酵母全体(CNCM I-3856、またはLV04)から得られたマンナン画分(フェーリングマンナン)、CNCM I3856酵母全体またはCNCM I-5268酵母細胞壁画分から得られた「可溶性b」画分の存在下での、TC7/Caco-2細胞へのAIEC LF82細菌の残留接着(パーセンテージとして)を示す。これらの新しい結果は、T84細胞で以前に得られた結果、すなわち酵母細胞壁画分から得られた「可溶性b」画分が最大の阻害活性を有することを裏付ける。
【0094】
図9は、CNCM I-5268酵母の細胞壁画分から得られた「可溶性b」画分の用量を増加させてプレインキュベートしたAIEC LF82細菌によるTC7/Caco-2細胞の侵入の強力な阻害を示す結果を示す。
【0095】
〔AIEC LF82細菌株に感染したCEABAC10トランスジェニックマウスにおける酵母画分の活性に関するインビボ研究〕
AIEC LF82株による腸管の定着は、クローン病の状況においてAIEC細菌の受容体として機能するヒトタンパク質CEACAM6を発現するCEABAC10トランスジェニックマウスで実施した。
【0096】
CNCM I-3856 S.セレビシエ酵母抽出物が、AIEC LF82細菌による結腸の定着を減少させ、したがって大腸炎の症状の軽減につながることが以前に示されている(Sivignon et al.IBD,2015)。
【0097】
現在、インビトロで試験した新しい画分について予備的な結果が得られている。
【0098】
適用されるプロトコルを図10に示す。
【0099】
簡潔に述べると、酵母画分を-7日目から0日目までは1日1回、1日目から3日目までは1日2回(5時間間隔)経口投与した。画分を25mg/mLの濃度でPBSに可溶化し(毎日)、0.2mL/マウスの量を強制経口投与した(5mg/マウス)。-3日目から+4日目まで、マウスに飲料水中の0.5%DSSを与えた。-1日目に、マウスをストレプトマイシン(5mg/マウス)で経口により処置した。
【0100】
同時に、LB(Luria Bertani)培地にAIEC LF82細菌株を(1/100で)接種し、対数増殖期まで撹拌しながら37℃でインキュベートした。遠心分離後、細菌を2.5×1010細菌/mLに濃縮した。次いで、0.2mLの量、すなわち5×10細菌/mLをマウスに強制経口投与(gavage)した。
【0101】
感染後4日間、マウスの体重および大腸炎の症状をモニタリングした。細菌の定着を評価するために、感染後1、2、3、および4日目に糞便を採取した。
【0102】
感染後4日目にマウスを安楽死させ、粘膜(回腸+結腸)に関連する細菌の定着(bacterial colonization)を評価するために腸を摘出した。
試験した画分は以下の通りであった。
A:未処置バッチ(n=10)、
B:CNCM I-3856酵母全体の可溶性画分a)(n=8)、
C:CNCM I-3856酵母全体の可溶性画分b)(n=8)、
D:CNCM I-5268酵母細胞壁画分から得られた可溶性画分b)(n=8)。
【0103】
図11は、投与された酵母画分の関数として、感染後2日および3日のマウス糞便中の推定細菌数を示す。結果は、未処置群と比較してCNCM I-5268酵母細胞壁画分から得られた可溶性画分b)での処置に応答して糞便中の細菌の量が25減少することを示しており、これは、前臨床モデルにおいてインビトロで実証されたこの画分の優れた抗接着特性を裏付けている。
【0104】
図12は、感染4日後の、酵母画分で処置したマウスまたは未処置のマウスにおける腸粘膜に関連するAIEC LF82細菌の定量化を示す。結果は、CNCM I-5268酵母細胞壁画分から得られた可溶性画分b)で処置したマウスの100%に細菌が存在しないことを示し、したがって糞便中で得られた結果を裏付ける。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】