(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】非活性化抗体バリアント
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20240312BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240312BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240312BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20240312BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240312BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240312BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240312BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240312BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240312BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240312BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240312BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240312BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/00
C07K16/18
C07K16/30
C12N15/13
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C12P21/08
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P31/00
A61P37/02
A61K39/395 W
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555192
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(85)【翻訳文提出日】2023-11-07
(86)【国際出願番号】 EP2022056416
(87)【国際公開番号】W WO2022189667
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】507316398
【氏名又は名称】ジェンマブ エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】デ・クルーク,バート-ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ヒバート,リチャード
(72)【発明者】
【氏名】スクールマン,ジャニーン
(72)【発明者】
【氏名】ラブライン,アラン・エフ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085DD61
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
Fc領域等、例えばモノクローナル抗体、二重特異性抗体及び多重特異性抗体を含むタンパク質が本明細書で提供され、ここで、Fc領域は、治療目的のために、及びエフェクター機能は望ましくない場合に、Fc媒介性エフェクター機能を排除又は強く低下させるように修飾されており、同時に良好な発達性を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドを含むタンパク質であって、前記第1及び第2のポリペプチドがそれぞれ、ヒトIgG1免疫グロブリン重鎖の少なくともヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域をそれぞれ含み、前記第1及び第2のポリペプチドの少なくとも1つが修飾されており、位置L234、L235及びG236のアミノ酸に対応するアミノ酸の置換を含み、アミノ酸位置がEuナンバリングによって定義される通りである、第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドを含むタンパク質。
【請求項2】
前記第1及び第2のポリペプチドの少なくとも一方の位置L234、L235及びG236のアミノ酸が、それぞれF、E及びRで置換されている、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
前記第1及び第2のポリペプチドの一方が、位置L234、L235及びG236のアミノ酸に対応するアミノ酸の前記置換を含み、他方が修飾されており、位置L234、L235及びD265のアミノ酸に対応するアミノ酸の置換を含み、好ましくは、前記置換がそれぞれF、E及びAである、請求項1又は請求項2に記載のタンパク質。
【請求項4】
第1及び第2のポリペプチドの両方が、アミノ酸L234、L235及びG236に対応するアミノ酸の前記置換を含む、請求項1又は請求項2に記載のタンパク質。
【請求項5】
前記第1及び第2のポリペプチドの各々が免疫グロブリンCH1領域を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項6】
前記タンパク質が、第1及び第2の結合領域を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項7】
前記第1及び第2の結合領域がそれぞれ第1の免疫グロブリン重鎖可変領域及び第1の免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、前記第2の結合領域が第2の免疫グロブリン重鎖可変領域及び第2の免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む、請求項6に記載のタンパク質。
【請求項8】
前記免疫グロブリン重鎖及び軽鎖可変領域が、ヒト又はヒト化免疫グロブリン重鎖及び軽鎖可変領域である、請求項7に記載のタンパク質。
【請求項9】
前記第1及び第2のポリペプチドが免疫グロブリン重鎖であり、前記第1及び第2のポリペプチドがそれぞれ前記第1及び第2の免疫グロブリン重鎖可変領域を含む、請求項7又は8に記載のタンパク質。
【請求項10】
前記タンパク質が、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域及び第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含む、請求項6~9のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項11】
前記タンパク質が、第1及び第2の免疫グロブリン軽鎖を含み、前記免疫グロブリン軽鎖が、前記それぞれの第1及び第2の免疫グロブリン軽鎖可変領域並びに前記それぞれの第1及び第2の免疫グロブリン定常軽鎖領域を含む、請求項10に記載のタンパク質。
【請求項12】
前記第1の免疫グロブリン軽鎖がジスルフィド架橋を介して前記第1の免疫グロブリン重鎖と接続され、前記第2の免疫グロブリン軽鎖がジスルフィド架橋を介して前記第2の免疫グロブリン重鎖と接続され、それによって前記第1の結合領域及び前記第2の結合領域をそれぞれ形成し、前記第1及び第2の免疫グロブリン重鎖がジスルフィド架橋を介して接続されている、請求項11に記載のタンパク質。
【請求項13】
抗体である、請求項1~12のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項14】
単一特異性抗体である、請求項4~12のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項15】
前記第1及び第2のポリペプチド鎖が、同一のアミノ酸配列を有する、請求項4~14に記載のタンパク質。
【請求項16】
前記第1及び第2のポリペプチドが、更なるアミノ酸置換、好ましくはT366、L368、K370、D399、F405、Y407及びK409、例えばF405L又はK409Rからなる群から選択されるアミノ酸の置換を含む、請求項15に記載のタンパク質。
【請求項17】
前記単一特異性抗体が、細胞標的、サイトカイン、毒素、病原体、癌抗原、血漿タンパク質からなる群から選択される抗原に結合する、請求項14~16のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項18】
二重特異性抗体である、請求項1~13のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項19】
前記第1及び第2のポリペプチドが、前記第1及び第2のポリペプチド由来のそれぞれのCH2及びCH3領域の配列が異なるように、前記それぞれのCH2及びCH3領域に更なる置換を含み、前記置換が、前記第1及び第2のポリペプチドを含む前記ポリペプチドを得ることを可能にする、請求項18に記載の二重特異性抗体。
【請求項20】
前記第1のポリペプチドにおいて、ヒトIgG1重鎖のT366、L368、K370、D399、F405、Y407及びK409からなる群から選択される位置に対応する位置のアミノ酸の少なくとも一つが置換されており、前記第2のポリペプチドにおいて、ヒトIgG1重鎖中のT366、L368、K370、D399、F405、Y407及びK409からなる群から選択される位置に対応する位置のアミノ酸の少なくとも一つが置換されており、前記第1及び第2のポリペプチドの前記置換は同じ位置にはない、請求項19に記載の二重特異性抗体。
【請求項21】
前記第1のポリペプチドにおいてF405に相当する位置のアミノ酸がLであり、前記第2のポリペプチドにおいてK409に相当する位置のアミノ酸がRであるか、又はその逆も同様である、請求項19に記載の二重特異性抗体。
【請求項22】
前記二重特異性抗体が、前記第1及び第2のポリペプチドの両方において、位置L234、L235及びG236のアミノ酸のF、E及びRによる置換、並びに前記第1のポリペプチドにおいてLによる位置F405のアミノ酸の置換、及び前記第2のポリペプチドにおいてRによるK409のアミノ酸の置換からなる修飾を有するか、又はその逆も同様である、請求項18~21のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項23】
前記第1及び第2のポリペプチドが、請求項1~4及び19~22のいずれか一項に記載の置換からなる置換を有する、請求項18~22のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項24】
前記第1及び第2のポリペプチドが、配列番号1によるアミノ酸配列を含み、前記第1及び第2のポリペプチドに含まれる前記アミノ酸配列が、請求項1~4及び18~22に定義されるアミノ酸置換を有する、請求項1~17のいずれか一項に記載のタンパク質又は請求項18~23のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項25】
配列番号1に従う前記アミノ酸配列が末端リジンを含まない、請求項24に記載のタンパク質又は二重特異性抗体。
【請求項26】
前記結合領域の1つが癌抗原に結合する、請求項18~25のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項27】
前記結合領域の1つがエフェクター細胞、例えばT細胞、NK細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ又は好中球に結合する、請求項18~25のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項28】
前記結合領域の一方がエフェクター細胞、例えばT細胞、NK細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ又は好中球に結合し、他方の結合領域が癌抗原に結合する、請求項18~25のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項29】
前記第1又は第2のポリペプチドが、アミノ酸L234、L235及びG236に対応するアミノ酸の前記置換を含み、好ましくは、位置L234、L235及びG236の前記置換がそれぞれF、E及びRである、請求項4~17及び24~25のいずれか一項に記載の前記第1又は第2のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項30】
前記第1又は第2のポリペプチドが免疫グロブリン重鎖である、請求項29に記載の核酸。
【請求項31】
請求項29又は30に記載の核酸を含む宿主細胞。
【請求項32】
請求項1~17のいずれかに記載のタンパク質又は請求項18~28のいずれかに記載の二重特異性抗体と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項33】
疾患の治療における使用のための、請求項1~17のいずれかに記載のタンパク質、又は請求項18~28のいずれかに記載の二重特異性抗体、又は請求項32に記載の医薬組成物。
【請求項34】
請求項33に記載の、癌、感染症、又は自己免疫疾患の治療を含む使用のためのタンパク質、二重特異性抗体、又は医薬組成物。
【請求項35】
請求項1~17のいずれかに記載のタンパク質、又は請求項18~28のいずれかに記載の二重特異性抗体、又は請求項32に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、治療方法。
【請求項36】
前記対象が、癌、感染症、又は自己免疫疾患等の疾患に罹患している、請求項35に記載の治療方法。
【請求項37】
二重特異性抗体を調製する方法であって、
f)
a.ヒトIgG1免疫グロブリン重鎖のそれぞれ少なくともヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖であって、位置L234、L235及びG236におけるアミノ酸の、それぞれF、E及びRによる置換を含む、免疫グロブリン重鎖と、
b.免疫グロブリン軽鎖と、
を含む、第1の抗体を提供することと、
g)
a.ヒトIgG1免疫グロブリン重鎖のそれぞれ少なくともヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖であって、
-位置L234、L235、及びD265、好ましくはそれぞれF、E、及びAである置換、
又は、
-位置L234、L235及びG236のアミノ酸の、それぞれF、E及びRによる置換を含む、免疫グロブリン重鎖と、
b.免疫グロブリン軽鎖と、
を含む、第2の抗体を提供することと、
h)ここで、前記それぞれの第1及び第2の抗体の前記第1及び第2のCH3領域の配列は異なり、前記第1及び第2のCH3領域間のヘテロ二量体相互作用が前記第1及び第2のCH3領域のホモ二量体相互作用のそれぞれよりも強くなるようなものであり、
i)前記ヒンジ領域内のシステインがジスルフィド結合異性化を受けるのを可能にするのに十分な還元条件下で、前記第1の抗体を前記第2の抗体と一緒にインキュベートすることと、
j)前記第1の抗体の前記第1の免疫グロブリン重鎖及び前記第1の免疫グロブリン軽鎖と、前記第2の抗体の前記第2の免疫グロブリン重鎖及び前記第2の免疫グロブリン軽鎖とを含む前記二重特異性抗体を得ることと、
を含む、二重特異性抗体を調製する方法。
【請求項38】
工程c)において、前記配列の差異が、請求項19~25のいずれか一項による、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
請求項18~28のいずれかに定義される二重特異性抗体を調製するための、請求項37又は請求項38に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fc領域等、例えばモノクローナル抗体、二重特異性抗体及び多重特異性抗体を含むポリペプチドに関し、ここで、Fc領域は、治療目的のために、及びエフェクター機能は望ましくない場合に、Fc媒介性エフェクター機能を排除又は強く低下させるように修飾されており、同時に、すなわち良好な発達性を可能にする。
【背景技術】
【0002】
抗体は、特に癌の治療及び免疫調節のための治療分子として成功することが証明されている。腫瘍標的特異的抗体は、典型的には補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)又は抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)等のFc媒介性エフェクター機能を介して腫瘍細胞傷害性を達成することができる。免疫細胞標的化抗体は、T細胞及びマクロファージ等の免疫系の細胞を増強することができ、腫瘍細胞の細胞傷害性を促進することができる。免疫系の成分を標的とする抗体を使用して、免疫系の機能を調節することができる。
【0003】
特定のシナリオでは、抗体療法による免疫系又はその成分の活性化は、(i)サイトカインを全身的に中和する、(ii)特異的免疫細胞受容体を遮断する、又は(iii)エフェクター細胞を疾患組織を標的化するようにリダイレクトするための二重特異性抗体を使用する場合等に適用される場合、望ましくない可能性がある(Kang et al.Exp.Mol.Med.2019;51(11):1-9)。例えば、免疫細胞標的化抗体がそのFc領域を介して補体成分C1qと係合すると、古典的補体系の活性化が開始され、例えば、望ましくない標的免疫細胞のCDCがもたらされ得る。また、抗体Fc領域はまた、エフェクター細胞の望ましくない枯渇をもたらすか、又は高レベルのサイトカイン分泌を介して免疫関連毒性を誘導する、ある範囲の免疫細胞上に発現されるFc受容体に結合し得る。
【0004】
望ましくないFc媒介性エフェクター機能を回避するために、抗体は、Fc媒介性エフェクター機構の一部又は全部を抑制又は排除するFc部分に突然変異(非活性化突然変異とも呼ばれる)を有するように操作されている。
【0005】
Fc媒介性エフェクター機能を排除するためにIgG1アイソタイプ抗体の定常重鎖領域にアミノ酸置換及びその組合せを導入した広範囲の異なる非活性化抗体フォーマットが開発されている(例えば、Chiu et al.,Antibodies 2019 Dec;8(4):55;Liu et al.,Antibodies,2020 Nov 17;9(4):64;29(10):457-66;Shields et al.,J Biol Chem.,2001 Mar 2;276(9):6591-604を参照されたい)。そのような置換の例としては、N297G非活性化突然変異の導入(Tao and Morrison,J Immunol 1989;143(8):2595-601)、E233P-L234V-L235A-delG236-S267K非活性化突然変異の導入(Moore at al.,Methods 2019;154:38-50)、L234A-L235A-P329G非活性化突然変異の導入(Schlothauer et al.,Protein Eng.Design and Selection 2016;29(10):457-66)、又はL234F-L235E-D265A非活性化突然変異(本明細書ではFEA又はFEAフォーマットとも呼ばれる、Engelberts et al.,EBioMedicine 2020;52:102625;米国特許第10590206号明細書)が挙げられる。Fc媒介性エフェクター機能を更に排除するための抗体の定常重鎖領域におけるアミノ酸置換と組み合わせて、エフェクター機能が低減したIgGサブクラスの1つであるIgG4を使用して、他の非活性化フォーマットを開発した(例えば、国際公開第2015/143079号に記載されているE233P-F234V-L235A-G236del非活性化突然変異の導入、又はVafa et al.Methods 2014;65:114-126によって記載されているF234A-L235A非活性化突然変異の導入)。
【0006】
しかしながら、そのような抗体工学の結果として、治療薬としての抗体の潜在的な開発を制限し得る開発可能性及び製造可能性の問題が生じ得る。例えば、ウイルス不活性化は、潜在的な抗体治療薬の開発における重要な工程を構成する。標準的なウイルス不活化プロトコルは、低いpH保持を必要とする。しかしながら、抗体等の操作されたタンパク質は、低pH条件に異なって応答し、潜在的にタンパク質不安定性をもたらし得る。例えば、抗体の開発及び製造可能性において評価される必要がある他の条件は、凍結解凍サイクルの繰り返し及び貯蔵温度の変動である。したがって、そのような製品の製造及び流通の容易さ並びに臨床使用を可能にするので、そのような条件等に曝露された場合にタンパク質安定性を保持することを可能にする抗体治療薬の操作を提供することが望ましい。
【0007】
したがって、Fc媒介性エフェクター機能を欠き、治療的使用のために容易に開発及び製造することができる抗体に適した更なる非活性化フォーマットを提供する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第10590206号明細書
【特許文献2】国際公開第2015/143079号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kang et al.Exp.Mol.Med.2019;51(11):1-9
【非特許文献2】Chiu et al.,Antibodies 2019 Dec;8(4):55
【非特許文献3】Liu et al.,Antibodies,2020 Nov 17;9(4):64;29(10):457-66
【非特許文献4】Shields et al.,J Biol Chem.,2001 Mar 2;276(9):6591-604
【非特許文献5】Tao and Morrison,J Immunol 1989;143(8):2595-601
【非特許文献6】Moore at al.,Methods 2019;154:38-50
【非特許文献7】Schlothauer et al.,Protein Eng.Design and Selection 2016;29(10):457-66
【非特許文献8】Engelberts et al.,EBioMedicine 2020;52:102625
【非特許文献9】Vafa et al.Methods 2014;65:114-126
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
L234F-L235E-D265A非活性化変異(本明細書ではFEA又はFEAフォーマットとも呼ばれる)は、優れた安全性プロファイル及びFc媒介性エフェクター機能を強く抑制する能力を有することが示されている。それにもかかわらず、FEA変異を有する補体依存性細胞傷害(CDC)の強力な誘導物質であるIgG1抗体は、いくらかの残留CDCを示し得ることが観察された(とりわけ、実施例3及び5を参照)。更に、FEAフォーマットを有する組換え発現抗体は、それらのN-グリカンの更なるプロセシングの結果として、野生型IgG1Fc領域と比較して増加したグリコシル化不均一性を示し得ることが観察され(データは示さず、実施例14も参照されたい)、低pH条件によって誘導される凝集に対してより感受性であることも示された(例えば、実施例20を参照のこと)。
【0011】
したがって、本発明者らは、残留CDC活性を回避することができ、野生型様グリコシル化プロファイルを提供することができ、及び/又は低pH条件に対してより耐性であり得る改善された非活性化フォーマットを提供することを試みた。驚くべきことに、本発明者らがIgG1抗体において突然変異L234F、L235E及びG236R(本明細書ではFER又はFERフォーマットとも呼ばれる)を組み合わせたとき、これは潜在的な残留CDC活性を回避することができ、野生型様グリコシル化を提供し、低pH条件に対する改善された耐性を有する改善された不活性フォーマットをもたらした。それにより、本発明者らはここで、臨床開発及び臨床使用に十分に適した非常に有利な更なる非活性化抗体フォーマットを提供する。実施例の節に示されるように、この更なる非活性化フォーマットは、例えば融合タンパク質等の抗体以外の状況でも有用であり得るが、クラス最高の非活性化フォーマットであると見なすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明は、ヒトIgG1Fc領域を有するポリペプチドのための新しい不活性フォーマットを提供し、当該領域は、Euナンバリングに従って、234、235及び236の位置に置換を有し、好ましくはそれぞれ置換F、E及びRを有する。この不活性フォーマットは、単一特異性及び二重特異性抗体に特に有用である。本発明によるそのような置換を有するそのようなポリペプチド、例えば単一特異性又は二重特異性抗体は、非活性化IgG1Fc領域を有すると称され得る。
【0013】
二重特異性抗体の場合、この不活性フォーマットはまた、不活性フォーマット置換に関してヘテロ二量体フォーマットで組み合わされてもよく、例えば、二重特異性抗体は、本発明による不活性フォーマット置換を有する1つの鎖から構成されてもよく、他方の鎖は、異なる不活性フォーマット置換、例えばFEAを含んでもよい。したがって、本発明による不活性フォーマットは、例えば、臨床用途のための開発を既に受けている既存の候補抗体と、必要とされる全てのアッセイを再設計及び再実行する必要なく組み合わせるのに十分に適しており、それにより、制御されたFabアーム交換等の技術を利用して、それと共に二重特異性抗体を迅速に生成することが可能になる。
【0014】
したがって、一実施形態では、第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドを含むタンパク質であって、当該第1及び第2のポリペプチドがそれぞれ、ヒトIgG1免疫グロブリン重鎖の少なくともヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域をそれぞれ含み、当該第1及び第2のポリペプチドの少なくとも1つが修飾されており、位置L234、L235及びG236のアミノ酸に対応するアミノ酸の置換を含み、アミノ酸位置がEuナンバリングによって定義される通りである、第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドを含むタンパク質が提供される。当該のように、好ましくは、当該第1及び第2のポリペプチドの少なくとも一方のL234、L235及びG236の位置のアミノ酸は、それぞれF、E及びRで置換されている。
【0015】
別の実施形態では、本発明による当該タンパク質が提供され、第1及び第2のポリペプチドの一方は、位置L234、L235及びG236のアミノ酸に対応するアミノ酸の当該置換を含み、他方が修飾されており、位置L234、L235及びD265のアミノ酸に対応するアミノ酸の置換を含み、好ましくは、当該置換はそれぞれF、E及びAである。
【0016】
別の更なる実施形態では、本発明による当該タンパク質が提供され、第1及び第2のポリペプチドの両方は、アミノ酸L234、L235及びG236に対応するアミノ酸の当該置換を含む。
【0017】
本発明によるタンパク質は、非活性化であるFc領域を有することから利益を得ることができる任意のタンパク質であり得ることが理解される。これは、例えば機能的ドメインがFc領域と融合され、それにより、例えば改善された血漿半減期を有する機能的ドメインを提供する融合タンパク質を含み得る。
【0018】
当該のように、本発明によるタンパク質は、好ましくは、第1及び第2の結合領域を含む。第1及び第2の結合領域を有する本発明による例示的かつ好ましいタンパク質は、抗体である。
【0019】
したがって、別の更なる実施形態では、本発明によるタンパク質は抗体である。別の更なる実施形態では、タンパク質の第1及び第2のポリペプチドは、本発明によるタンパク質又は抗体において同一である。別の実施形態では、そのような抗体は、これらが典型的には同じ結合ドメインを有し得るので、単一特異性抗体である。そのような単一特異性抗体は、その後、本発明に従って二重特異性抗体を作製するために使用され得る。
【0020】
したがって、更に別の更なる実施形態では、本発明によるタンパク質は二重特異性抗体である。好ましくは、本発明による二重特異性抗体が提供され、当該第1及び第2のポリペプチドは、当該第1及び第2のポリペプチド由来のそれぞれのCH2及びCH3領域の配列が異なるように、当該それぞれのCH2及びCH3領域に更なる置換を含み、当該置換は、当該第1及び第2のポリペプチドを含む当該ポリペプチドを得ることを可能にする。そのような置換の好ましい例としては、位置F405のアミノ酸のLによる置換及び位置K409のアミノ酸のRによる置換を含む第1及び第2のポリペプチドの一方を有することが挙げられる。あるいは、ヘテロ二量体を提供することを可能にする他の置換又は方法(とりわけ、二重特異性抗体を提供するために異なる第1及び第2のポリペプチドを組み合わせること)が本発明に従って企図され得る。
【0021】
したがって、一実施形態では、本発明による二重特異性抗体を調製するための方法が提供され、当該方法は、
a)a.ヒトIgG1免疫グロブリン重鎖のそれぞれ少なくともヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖であって、位置L234、L235及びG236におけるアミノ酸の、それぞれF、E及びRによる置換を含む、免疫グロブリン重鎖と、b.免疫グロブリン軽鎖と、を含む、第1の抗体を提供することと、
b)a.ヒトIgG1免疫グロブリン重鎖のそれぞれ少なくともヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖であって、-位置L234、L235、及びD265、好ましくは当該置換はそれぞれF、E、及びAであり、又は、-位置L234、L235及びG236のアミノ酸の、それぞれF、E及びRによる置換を含む、免疫グロブリン重鎖と、b.免疫グロブリン軽鎖と、を含む、第2の抗体を提供することと、
c)ここで、当該それぞれの第1及び第2の抗体の当該第1及び第2のCH3領域の配列は異なり、当該第1及び第2のCH3領域間のヘテロ二量体相互作用が当該第1及び第2のCH3領域のホモ二量体相互作用のそれぞれよりも強くなるようなものであり、
d)当該ヒンジ領域内のシステインがジスルフィド結合異性化を受けるのを可能にするのに十分な還元条件下で、当該第1の抗体を当該第2の抗体と一緒にインキュベートすることと、
e)当該第1の抗体の当該第1の免疫グロブリン重鎖及び当該第1の免疫グロブリン軽鎖と、当該第2の抗体の当該第2の免疫グロブリン重鎖及び当該第2の免疫グロブリン軽鎖とを含む当該二重特異性抗体を得ることと、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】抗ヒトCD20抗体バリアントによる標的結合を示す図である。重鎖に非活性化変異を有するIgG1及びIgG4抗体バリアントによる、Raji細胞上に存在するCD20への結合が示されている。結合は、抗体濃度対MFI-PE中央値(データセットをA及びBに分割)として示される。データは、4回の独立した反復から得られた平均値±SEMである。
【0023】
試験したバリアントは、IgG1-FEA-K409R、IgG1-FER-K409R、IgG1-AAG-K409R、IgG1-RR-K409R、IgG1lh2-S267K-K409R、IgG1-N297G-K409R、IgG1-AEASS-K409R、IgG1、IgG1-K409R、IgG1-b12、IgG4lh2-S228P、IgG4-PAA、IgG4、IgG4-S228Pであり、ここで、FEA:L234F-L235E-D265A、FER:L234F-L235E-G236R、AAG:L234A-L235A-P329G、RR:G236R-L328R、IgG1lh2:E233P-L234V-L235A-G236del、AEASS:L234A-L235E-G237A-A330S-P331S、IgG4lh2:E233P-F234V-L235A-G236del、及びPAA:S228P-F234A-L235Aである。
【
図2】定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20抗体バリアントによるRaji細胞のCDCを示す図である。定常重鎖領域に非活性化変異を有するIgG1及びIgG4抗体バリアントによって誘導されたCD20陽性Raji細胞のCDCを、補体の供給源としてNHSを使用して評価した。細胞溶解を、フローサイトメトリーによるPI陽性細胞のパーセンテージの分析によって決定する。CDCは、非結合コントロール抗体IgG1-b12(0%)及び野生型IgG1(100%)に対して正規化された曲線下面積(AUC)として示されている。データは、3回の独立した反復から得られた平均値±SEMである。試験したバリアントは、IgG1-FEA-K409R、IgG1-FER-K409R、IgG1-AAG-K409R、IgG1-RR-K409R、IgG1lh2-S267K-K409R、IgG1-N297G-K409R、IgG1-AEASS-K409R、IgG1、IgG1-K409R、IgG1-b12、IgG4lh2-S228P、IgG4-PAA、IgG4、IgG4-S228Pであり、ここで、FEA:L234F-L235E-D265A、FER:L234F-L235E-G236R、AAG:L234A-L235A-P329G、RR:G236R-L328R、IgG1lh2:E233P-L234V-L235A-G236del、AEASS:L234A-L235E-G237A-A330S-P331S、IgG4lh2:E233P-F234V-L235A-G236del、及びPAA:S228P-F234A-L235Aである。
【
図3】定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントによるC1q結合を示す図である。結合は、抗体濃度対MFI-FITC中央値として示される。データは、1回の実験の3回の測定から得られた平均値(±SD)である。試験したバリアントは、IgG1-FEA-K409R、IgG1-FER-K409R、IgG1、IgG1-b12であり、ここで、FEA:L234F-L235E-D265A及びFER:L234F-L235E-G236Rである。
【
図4】定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトHLA-DR抗体バリアントによって誘導されたRaji細胞のCDCを示す図である。定常重鎖領域に非活性化変異を有するIgG1-HLA-DR-4(A)及びIgG1-HLA-DR-1D09C3(B)抗体バリアント、並びにHLA-DR標的化F(ab’)2断片によって誘導されたRaji細胞のCDCを、NHSを補体の供給源として使用するインビトロCDCアッセイで評価した。細胞溶解を、フローサイトメトリーによるPI陽性細胞のパーセンテージの分析によって決定する。CDCは、K409R変異を有するIgG1抗体に対して正規化された曲線下面積(AUC)として示されている(IgG1-K409R、100%)。データは、5つ(野生型及びL234F-L235E-D265A-K409Rバリアント)又は2つ(L234F-L235E-G236R-K409Rバリアント、又はF(ab’)2断片)の独立したレプリケートからの平均値±SEMである。試験したバリアントは、IgG1-FEA-K409R、IgG1-FER-K409R、IgG1-K409R、F(ab’)2であり、式中、FEA:L234F-L235E-D265A及びFER:L234F-L235E-G236Rである。
【
図5】ELISAプレートに対する抗ヒトCD20 IgG1及びIgG4抗体バリアントの捕捉を示す図である。抗ヒトIgGF(ab’)2断片による重鎖領域の非活性化変異を有するIgG1及びIgG4バリアントのELISAプレートへの固定。結合は、野生型IgG1(100%)に対して正規化された曲線下面積(AUC)として示される。データは、3回の独立した反復から得られた平均値(±SEM)である。検出は、抗ヒトIgG-Fcγ-HRP及びABTSを用いて行った。試験したバリアントは、IgG1-FEA-K409R、IgG1-FER-K409R、IgG1-AAG-K409R、IgG1-RR-K409R、IgG1lh2-S267K-K409R、IgG1-N297G-K409R、IgG1-AEASS-K409R、IgG1、IgG1-K409R、IgG4lh2-S228P、IgG4-PAA、IgG4、IgG4-S228Pであり、ここで、FEA:L234F-L235E-D265A、FER:L234F-L235E-G236R、AAG:L234A-L235A-P329G、RR:G236R-L328R、IgG1lh2:E233P-L234V-L235A-G236del、AEASS:L234A-L235E-G237A-A330S-P331S、IgG4lh2:E233P-F234V-L235A-G236del、及びPAA:S228P-F234A-L235Aである。
【
図6】FcγRIa、FcγRIIa(アロタイプ131H及び131R)、FcγRIIb及びFcγRIIIa(アロタイプ158F及び158V)に対する、定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1及びIgG4抗体バリアントの結合を示す図である。ELISAアッセイで試験したときの、FcγRIa(A)、FcγRIIaアロタイプ131H(B)、FcγRIIaアロタイプ131R(C)、FcγRIIb(D)、FcγRIIIaアロタイプ158F(E)及びFcγRIIIaアロタイプ158V(F)の単量体及び二量体のHisタグ付きビオチン化細胞外ドメイン(ECD)への、非活性化変異を有する固定化IgG1及びIgG4バリアントの結合。結合は、野生型IgG1(100%)に対して正規化された曲線下面積(AUC)として示される。データは、3回の独立した反復から得られた平均値(±SEM)である。ストレプトアビジン-polyHRP及びABTSを用いて検出を行った。試験したバリアントは、IgG1-FEA-K409R、IgG1-FER-K409R、IgG1-AAG-K409R、IgG1-RR-K409R、IgG1lh2-S267K-K409R、IgG1-N297G-K409R、IgG1-AEASS-K409R、IgG1、IgG1-K409R、IgG4lh2-S228P、IgG4-PAA、IgG4、IgG4-S228Pであり、ここで、FEA:L234F-L235E-D265A、FER:L234F-L235E-G236R、AAG:L234A-L235A-P329G、RR:G236R-L328R、IgG1lh2:E233P-L234V-L235A-G236del、AEASS:L234A-L235E-G237A-A330S-P331S、IgG4lh2:E233P-F234V-L235A-G236del、及びPAA:S228P-F234A-L235Aである。
【
図7】標的発現Raji細胞及びFcyR発現レポーター細胞を使用して測定される、重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1及びIgG4抗体バリアントによるFcγR活性化を示す図である。(A~F)発光レベル(RLU)によって測定される、(A)FcγRIa、(B)FcγRIIaアロタイプ131H、(C)FcγRIIaアロタイプ131R、(D)FcγRIIb、(E)FcγRIIIaアロタイプ158F、又は(F)FcγRIIIaアロタイプ158Vのいずれかを安定に発現するJurkatレポーター細胞株の、CD20を発現し、IgG1及びIgG4抗体バリアントの異なる濃度を発現するRaji細胞と共培養したときの活性化。活性化は、非結合対照IgG1-b12(0%)及び野生型IgG1(100%)に対して標準化された用量反応曲線下面積(AUC)として実験複製物1つ当たり示される。3回の独立した実験反復からのデータ平均値(±SEM)。試験したバリアントは、IgG1-FEA-K409R、IgG1-FER-K409R、IgG1-AAG-K409R、IgG1-RR-K409R、IgG1lh2-S267K-K409R、IgG1-N297G-K409R、IgG1-AEASS-K409R、IgG1、IgG1-K409R、IgG1-b12、IgG4lh2-S228P、IgG4-PAA、IgG4、IgG4-S228Pであり、ここで、FEA:L234F-L235E-D265A、FER:L234F-L235E-G236R、AAG:L234A-L235A-P329G、RR:G236R-L328R、IgG1lh2:E233P-L234V-L235A-G236del、AEASS:L234A-L235E-G237A-A330S-P331S、IgG4lh2:E233P-F234V-L235A-G236del、及びPAA:S228P-F234A-L235Aである。
【
図8】DELFIA(登録商標)EuTDA TRF細胞毒性アッセイを用いて測定した、重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1及びIgG4抗体バリアントによって誘導されたADCCを示す図である。(A~B)NK細胞媒介ADCCを、末梢血単核細胞(PBMC)並びに抗ヒトCD20 IgG1及びIgG4抗体バリアントとの共インキュベーション時の、BATDA標識CD20発現Raji細胞からのEuTDA試薬の放出レベルによって測定した。いくつかのバリアントについて、ADCCは、実験的複製ごとに非結合対照IgG1-b12(0%)及び野生型IgG1(100%)に対して正規化された曲線下面積(AUC)として示される(A)。データは、4つ(野生型及びK409Rバリアント)又は2つ(L234F-L235E-D265A-K409R及びL234F-L235E-G236R-K409Rバリアント)の独立した反復から得られた平均値(±SEM)である。いくつかのバリアントについて、ADCCは、実験複製物当たりの非結合対照IgG1-b12(0%)及び野生型IgG1(100%)と比較した10μg/mlの抗体濃度での(B)溶解パーセンテージとして示されている。データは、2つの独立した実験からの6人のドナーから得られた平均値(±SEM)である。試験したバリアントは、IgG1-FEA-K409R、IgG1-FER-K409R、IgG1-AAG-K409R、IgG1-RR-K409R、IgG1lh2-S267K-K409R、IgG1-N297G-K409R、IgG1-AEASS-K409R、IgG1、IgG1-K409R、IgG1-b12、IgG4lh2-S228P、IgG4-PAA、IgG4、IgG4-S228Pであり、ここで、FEA:L234F-L235E-D265A、FER:L234F-L235E-G236R、AAG:L234A-L235A-P329G、RR:G236R-L328R、IgG1lh2:E233P-L234V-L235A-G236del、AEASS:L234A-L235E-G237A-A330S-P331S、IgG4lh2:E233P-F234V-L235A-G236del、及びPAA:S228P-F234A-L235Aである。
【
図9】定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD3抗体IgG1又はIgG4-huCLB-T3/4のバリアントによるT細胞活性化を示す図である。(A~B)示された変異を有する抗ヒトCD3 IgG1及びIgG4抗体バリアントによって誘導されたPBMC共培養物中のT細胞上の初期T細胞活性化の尺度としてのCD69発現の上方制御(フローサイトメトリー分析によって測定)。CD69のアップレギュレーションは、(A)CD69
+T細胞のパーセンテージ(CD28
+)に対する用量応答として、又は(B)ドナー及び実験複製物当たりの野生型抗体バリアントIgG1-F405L(100%)に対して正規化された用量応答曲線下面積(AUC)として示される。データは、3回の独立した実験レプリケート(実験レプリケート当たり2人の独立したドナー)からの平均値(±SEM)である。試験したバリアントは、IgG1-FEA-F405L、IgG1-FER-F405L、IgG1-AAG-F405L、IgG1-RR-F405L、IgG1lh2-S267K-F405L、IgG1-N297G-F405L、IgG1-AEASS-F405L、IgG1-F405L、IgG4lh2-S228P-F405L-R409K、IgG4-PAA-F405L-R409K、IgG4-S228Pであり、ここで、FEA:L234F-L235E-D265A、FER:L234F-L235E-G236R、AAG:L234A-L235A-P329G、RR:G236R-L328R、IgG1lh2:E233P-L234V-L235A-G236del、AEASS:L234A-L235E-G237A-A330S-P331S、IgG4lh2:E233P-F234V-L235A-G236del、及びPAA:S228P-F234A-L235Aである。
【
図10】非活性化二重特異性抗体バリアントによるインビトロT細胞媒介性細胞傷害性を示す図である。(A~C)PBMC共培養物中のHER2陽性SK-OV-3細胞のT細胞媒介性細胞傷害性を、二重特異性抗体バリアント、CD3xHER2(A)、CD3xb12(B;標的細胞に結合しない)又はb12xHER2(C;T細胞への結合なし)を使用して評価し、Alamar blueを使用して定常重鎖領域に非活性化突然変異を保有した。Envisionプレートリーダーを使用して590nmでの吸光度を測定し、スタウロスポリン処理細胞が100%の細胞傷害性を表し、培地対照(抗体なし、PBMCなし)が0%の細胞傷害性を表すドナー及び実験複製物ごとに生細胞の割合を計算した。データは、用量応答曲線対生存SK-OV-3細胞%として提示される。データは、3回の独立した実験レプリケート(実験レプリケート当たり2人の独立したドナー)からの平均値(±SEM)である。試験した二重特異性抗体バリアントは、BisG1F405LxK409R、BisG1FEA-F405LxFEA-K409R、BisG1FER-F405LxFER-K409R、BisG1AAG-F405LxAAG-K409R、BisG1RR-F405LxRR-K409R、BisG1lh2S267K-F405LxS267K-K409R、BisG4lh2S228P-F405L-R409KxS228P、BisG1N297G-F405LxN297G-K409R、BisG1AEASS-F405LxAEASS-K409R、BisG4PAA-F405L-R409KxPAAであり、ここで、FEA:L234F-L235E-D265A、FER:L234F-L235E-G236R、AAG:L234A-L235A-P329G、RR:G236R-L328R、G1lh2:E233P-L234V-L235A-G236del、AEASS:L234A-L235E-G237A-A330S-P331S、G4lh2:E233P-F234V-L235A-G236del、及びPAA:S228P-F234A-L235Aである。
【
図11】抗ヒトCD20 IgG1又は抗ヒトCD3 IgG1(huCLB-T3/4)抗体バリアントを注射したマウスから採取した血液試料で測定した総ヒトIgG(hIgG)濃度を示す図である。(A)注射後の異なる時点で野生型抗ヒトCD20 IgG1、IgG1-CD20-K409R、IgG1-CD20-L234F-L235E-D265A-K409R及びIgG1-CD20-L234F-L235E-G236R-K409Rを注射したマウスから採取した血液試料中の総hIgG濃度。データは、IgG1-FER-K409R(2匹のマウス)を除いて、1群当たり3匹のマウスから得られた平均値(±SEM)である。(B)注射後の異なる時点で野生型抗ヒトCD3 IgG1、IgG1-CD3-F405L、IgG1-CD3-L234F-L235E-D265A-F405L、及びIgG1-CD3-L234F-L235E-G236R-F405Lを注射したマウスから採取した血液試料中の総hIgG濃度。データは、1群当たり3匹のマウスから得られた平均値(±SEM)である。(C)抗体投与後21日目までのクリアランスを、D、注射用量及びAUC、濃度-時間曲線の曲線下面積を用いて式D*1000/AUCに従って決定した。全ての図において、点線は、SCIDマウスにおける野生型IgG1抗体についての予測されたIgG1濃度を時間的に表している。示されるデータは、IgG1-FER-K409R(2匹のマウス)を除いて、1群当たり3匹のマウスから得られる。試験したバリアントは、IgG1-FEA-K409R、IgG1-FER-K409R、IgG1-K409R、IgG1-FEA-F405L、IgG1-FER-F405L、IgG1-F405L、IgG1であり、ここで、FEA:L234F-L235E-D265A及びFER:L234F-L235E-G236R.である。
【
図12】実施例14で試験したIgG1抗体バリアントで検出された異なるグリカン種の概略図を示す図である。
【
図13】bsAbバリアントの生成のための制御されたFabアーム交換(cFAE)の効率を示す図である。二重特異性抗体(BisG1として示される)は、1つの単一特異性抗体(IgG1-Aとして示される)がF405L変異を有し、別の単一特異性抗体(IgG1-Bとして示される)がK409R変異を有するcFAEによって作製される。bsAbバリアントの作製のためのcFAEの効率を、(A;20データポイント)両方の単一特異性抗体がF405L及びK409R変異に加えてL234F-L235E-G236R(FER)非活性化変異を保有し、(B;16データポイント)第1の単一特異性抗体がF405L変異に加えてL234F-L235E-G236R(FER)変異を保有し、第2の単一特異性抗体がK409R変異に加えてL234F-L235E-D265A(FEA)変異を保有し、(C;12データポイント)第1の単一特異性抗体がF405L変異に加えてL234F-L235E-D265A(FEA)変異を保有し、第2の単一特異性抗体がK409R変異に加えてL234F-L235E-G236R(FER)変異を保有する、バリアントについて評価した。bsAb又は残留単一特異性抗体バリアント(IgG1-A又はIgG1-B)の割合(%)を示し、Orbitrap Q-Exactive Plus質量分析計を使用して決定した。FEA:L234F-L235E-D265A及びFER:L234F-L235E-G236R。
【
図14】F405L又はK409Rのいずれかに加えて、L234F-L235E-G236R(FER)又はL234F-L235E-D265A(FEA)のいずれかの非活性化変異を定常重鎖領域に有する抗体バリアントの産生レベルを示す図である。Expi293F細胞で抗体バリアントを産生した。生産力価は、散乱ドットプロットでmg/Lとして表され、平均値(±SEM)が示されている。各ドットは、示された変異を有する特定の抗体クローンの産生収量データ(その特定のクローンについてより多くの産生データが利用可能であった場合の平均値)を表す。比較を可能にするために、L234F-L235E-D265A-F405L抗体バリアント(FEA-F405L;白い丸)及びL234F-L235E-G236R-F405L抗体バリアント(FER-F405L;黒い丸)についての適合クローンの産生力価を示す。同様に、L235E-D265A-K409R抗体バリアント(FEA-K409R、白い四角)及びL234F-L235E-G236R-K409R抗体バリアント(FER-K409R、黒い四角)についての適合クローンの産生力価を示す。
【
図15】単一特異性抗体(A)及び二重特異性抗体(B)の例示的な概略図を示す図である。(A)黒色で示される重鎖;白色で示される軽鎖。個々の抗体の重鎖ドメイン及び軽鎖ドメインは、C
H1、C
H2、C
H3及びV
H(定常重鎖ドメイン(H1、H2、H3)及び可変重鎖ドメイン(VH))、C
L及びV
L(CL、VL、定常及び可変軽鎖ドメイン)として示されている。(B)Fabアームの2つの異なる特異性を有する2つの半分子(それぞれ黒色及び白色の重鎖及び軽鎖として示される1つの半分子;重鎖及び軽鎖の縞模様で示された1つの半分子)からなる二重特異性抗体、例えば、制御されたFabアーム交換によって生成される二重特異性抗体。ヒンジ領域、Fabアーム及びFcドメインは、示される通りである。
【
図16】重鎖定常領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントによるC1q結合を示す図である。結合は、非結合コントロール抗体IgG1-b12(0%)及び野生型IgG1-CD20(100%)に対して正規化された曲線下面積(AUC)として示されている。データは、3つの独立した実験から得られた平均値±SEMである。試験した抗体バリアントは、IgG1-CD20野生型(IgG1)及びそのバリアント、IgG1-FEA-F405L、IgG1-FEA-K409R、IgG1-FER-F405L、IgG1-FER-K409R、BisG1FEA-F405LxFEA-K409R、BisG1FER-F405LxFER-K409R、BisG1FER-F405LxFEA-K409R、BisG1FEA-F405LxFER-K409Rであり、ここで、FER:L234F-L235E-G236R及びFEA:L234F-L235E-D265Aである。
【
図17】重鎖定常領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントによるRaji細胞のCDCを示す図である。重鎖定常領域に非活性化変異を有するIgG1-CD20抗体バリアントによって誘導されたCD20陽性Raji細胞のCDCを、補体の供給源としてNHSを使用して評価した。細胞溶解を、フローサイトメトリーによるPI陽性細胞のパーセンテージの分析によって決定する。CDCは、非結合コントロール抗体IgG1-b12(0%)及び野生型IgG1-CD20(100%)に対して正規化された曲線下面積(AUC)として示されている。データは、3回の独立した反復から得られた平均値±SEMである。試験した抗体バリアントは、IgG1-CD20野生型(IgG1)及びそのバリアント、IgG1-FEA-F405L、IgG1-FEA-K409R、IgG1-FER-F405L、IgG1-FER-K409R、BisG1FEA-F405LxFEA-K409R、BisG1FER-F405LxFER-K409R、BisG1FER-F405LxFEA-K409R、BisG1FEA-F405LxFER-K409Rであり、ここで、FER:L234F-L235E-G236R及びFEA:L234F-L235E-D265Aである。
【
図18】非活性化二重特異性抗体バリアントによるインビトロT細胞媒介性細胞傷害性を示す図である。(A~B)アラマーブルーを使用して、Fc領域に非対称非活性化変異を有する二重特異性抗体バリアントCD3xHER2(A)又はCD3xb12(B;標的細胞に結合しない)を使用して、PBMC共培養物中のHER2陽性SK-OV-3細胞のT細胞媒介性細胞傷害性を評価した。Envisionプレートリーダーを使用して、590nmでの吸光度を測定し、スタウロスポリン処理SK-OV-3細胞が100%の細胞傷害性を表し、培地対照(SK-OV-3細胞、抗体なし、PBMCなし)が0%の細胞傷害性を表すドナー及び実験複製物ごとに生細胞の割合を計算した。データは、生存SK-OV-3細胞のパーセンテージに対する用量応答曲線として提示される。データは、2つの独立した実験からの4人のドナーから得られた平均値±SEMである(独立した実験当たり2人のドナー)。試験したCD3xHER2及びCD3xb12二重特異性抗体バリアントは、BisG1F405LxK409R、BisG1FER-F405LxK409R、BisG1FER-F405LxFEA-K409R、BisG1FER-F405LxAAG-K409R、及びBisG1FER-F405LxN297G-K409Rであり、式中、FER:L234F-L235E-G236R、FEA:L234F-L235E-D265A、及びAAG:L234A-L235A-P329Gである。
【
図19】非活性化二重特異性CD3xHER2抗体バリアントによるT細胞活性化を示す図である。ヒトPBMC共培養物中のT細胞上の初期T細胞活性化の尺度としてのCD69発現(フローサイトメトリー分析によって測定)の上方制御を、野生型のようなCD3xHer2二重特異性抗体バリアント及びFc領域に示された対称又は非対称の非活性化変異を有するそのバリアントを使用して評価した。CD69アップレギュレーションは、ドナー及び実験複製物当たりの非結合陰性対照IgG1-b12(0%)及び野生型様IgG1二重特異性抗体バリアント(BisG1F405LxK409R、100%)について測定されたAUC値に対して正規化された用量反応曲線下面積(AUC)として示される。データは、2つの独立した実験(独立した実験当たり2人のドナー)において4人のドナーから得られた平均値(±SEM)である。試験したCD3xHER2二重特異性抗体バリアントは、BisG1F405LxK409R、BisG1FER-F405LxK409R、BisG1FER-F405LxFEA-K409R、BisG1FER-F405LxAAG-K409R、及びBisG1FER-F405LxN297G-K409Rであり、式中、FER:L234F-L235E-G236R、FEA:L234F-L235E-D265A、及びAAG:L234A-L235A-P329Gである。
【
図20】NHSを補体の供給源として使用するインビトロCDCアッセイで評価した、重鎖定常領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20抗体バリアントによって誘導されたRaji細胞のCDCを示す図である。CDCを誘導する能力を、重鎖定常領域にC末端リジンを含有するか又は欠くように産生されたバリアント間で比較した。細胞溶解を、フローサイトメトリーによるPI陽性細胞のパーセンテージの分析によって決定する。CDCは、野生型IgG1-CD20抗体(IgG1;100%)及び抗体対照試料なし(0%)に対して正規化された曲線下面積(AUC)として示されている。データは、3つの独立した実験からの平均値±SEMである。試験したバリアントは、IgG1、IgG1-delK、IgG1-FEA、IgG1-FEA-delK、IgG1-FER、IgG1-FER-delKであり、式中、FEA:L234F-L235E-D265A、FER:L234F-L235E-G236R、delK:HC C末端リジンの組換え欠失である。
【
図21】標的発現Raji細胞及びFcγR発現レポーター細胞を使用して測定した場合の、重鎖定常領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20抗体バリアントによるヒトFcγR活性化を示す図である。FcγR活性化を誘導する能力を、重鎖定常領域にC末端リジンを含有するか又は欠くように産生されたバリアント間で比較した。(A~D)CD20を発現するRaji細胞、及び様々な濃度のIgG1-CD20又はIgG1-CD20-delK抗体バリアントと共培養したときの発光レベルによって測定される、(A)FcγRIa、(B)FcγRIIaアロタイプ131H、(C)FcγRIIb、又は(D)FcγRIIIaアロタイプ158Vのいずれかを安定に発現するJurkatレポーター細胞株の活性化。活性化は、非結合対照IgG1-b12(0%)及び野生型IgG1(100%)に対して標準化された用量反応曲線下面積(AUC)として実験複製物1つ当たり示される。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SEMである。試験したバリアントは、IgG1、IgG1-delK、IgG1-FEA、IgG1-FEA-delK、IgG1-FER、IgG1-FER-delKであり、式中、FEA:L234F-L235E-D265A、FER:L234F-L235E-G236R、delK:HC C末端リジンの組換え欠失である。
【
図22】NHSを補体源として使用するインビトロCDCアッセイで評価した、野生型抗ヒトCD20 IgG1抗体のアロタイプバリアント及び重鎖定常領域に非活性化変異を有するそのバリアントによって誘導されたRaji細胞のCDCを示す図である。細胞溶解を、フローサイトメトリーによるPI陽性細胞のパーセンテージの分析によって決定する。CDCは、野生型抗ヒトCD20抗体(アロタイプIgG1(f);100%)及び抗体対照試料なし(0%)に対して正規化された曲線下面積(AUC)として示されている。データは、3つの独立した実験からの平均値±SEMである。試験したバリアントは、IgG1(fa)、IgG1(zax)、IgG1(zav)、IgG1(za)、及びIgG1(f)であり、式中、FEA:L234F-L235E-D265A、FER:L234F-L235E-G236Rである。
【
図23】標的発現Raji細胞及びFcyR発現レポーター細胞を使用して測定した場合の、異なるIgG1アロタイプバリアントの重鎖定常領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントによるヒトFcγR活性化を示す図である。(A~D)CD20を発現するRaji細胞、及び様々な濃度のIgG1-CD20抗体バリアントと共培養したときの発光レベルによって測定される、(A)FcγRIa、(B)FcγRIIaアロタイプ131H、(C)FcγRIIb、又は(D)FcγRIIIaアロタイプ158Vのいずれかを安定に発現するJurkatレポーター細胞株の活性化。活性化は、非結合対照IgG1-b12(0%)及び野生型IgG1(f)(100%)に対して標準化された用量反応曲線下面積(AUC)として実験複製物1つ当たり示される。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SEMである。試験したバリアントは、IgG1(f)、IgG1(za)、IgG1(zav)、IgG1(zax)、IgG1(fa)、及びFER又はFEA変異を有するバリアントであり、式中FER:L234F-L235E-G236R及びFEA:L234F-L235E-D265Aである。
【
図24】NHSを補体源として使用するインビトロCDCアッセイで評価した、野生型抗ヒトCD20抗体のサブクラスバリアント及び重鎖定常領域に非活性化変異を有するそのバリアントによって誘導されたRaji細胞のCDCを示す図である。(A)野生型抗ヒトCD20 IgG1及びIgG3抗体(アロタイプIGHG3*01[IgG3]及びIGHG3*04[IgG3rch2])及びその非活性化バリアントによって誘導されるCDC。(B)野生型抗ヒトCD20 IgG1及びIgG4抗体並びにその非活性化バリアントによって誘導されるCDC。細胞溶解を、フローサイトメトリーによるPI陽性細胞のパーセンテージの分析によって決定する。CDCは、野生型抗ヒトCD20 IgG1抗体(IgG1;100%)及び抗体対照試料なし(0%)に対して正規化された曲線下面積(AUC)として示されている。データは、3つの独立した実験からの平均値±SEMである。FEA:L234F-L235E-D265A、FER:L234F-L235E-G236R、EA:L235E-D265A、及びER:L235E-G236R。
【
図25】標的発現Raji細胞及びFcyR発現レポーター細胞を使用して測定した場合の、重鎖定常領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1、IgG3及びIgG4抗体バリアントによるヒトFcγR活性化を示す図である。(A~D)CD20を発現するRaji細胞、及び様々な濃度のIgG-CD20抗体バリアントと共培養したときの発光レベルによって測定される、(A)FcγRIa、(B)FcγRIIaアロタイプ131H、(C)FcγRIIb、又は(D)FcγRIIIaアロタイプ158Vのいずれかを安定に発現するJurkatレポーター細胞株の活性化。活性化は、非結合対照IgG1-b12(0%)及び野生型IgG1(100%)に対して標準化された用量反応曲線下面積(AUC)として実験複製物1つ当たり示される。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SEMである。試験したバリアントは、IgG1、IgG3(IGHG3*01)、IgG3rch2(IGHG3*04)、IgG4、及びER、EA、FER、又はFEA突然変異を内包するそのバリアントであり、ここでER:L235E-G236R、EA:L235E-D265A、FER:L234F-L235E-G236R、及びFEA:L234F-L235E-D265Aである。
【
図26】標的発現Raji細胞及びFcyR発現レポーター細胞を使用して測定した場合の、重鎖定常領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20マウスIgG2a抗体バリアントによるヒトFcγR活性化を示す図である。(A~D)CD20を発現するRaji細胞、及び様々な濃度のマウスIgG2a-CD20抗体バリアントと共培養したときの発光レベルによって測定される、(A)FcγRIa、(B)FcγRIIaアロタイプ131H、(C)FcγRIIb、又は(D)FcγRIIIaアロタイプ158Vのいずれかを安定に発現するJurkatレポーター細胞株の活性化。活性化は、実験反復1回当たり非結合対照IgG2a-b12(0%)及び野生型IgG2a-CD20(100%)に対して正規化した用量反応曲線下面積(AUC)として提示する。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SEMである。試験したバリアントは、IgG2a、IgG2a-FER、IgG2a-LALA、及びIgG2a-LALAPGであり、式中、FER:L234F-L235E-G236R、LALA:L234A-L235A、及びLALAPG:L234A-L235A-P329Gである。
【
図27】C1qの供給源として正常ヒト血清(NHS)を用いてCD20陽性Raji細胞をオプソニン化した場合の、重鎖定常領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20マウスIgG2a抗体バリアントによるC1q結合を示す図である。結合は、非結合コントロール抗体IgG2a-b12(0%)及び野生型マウスIgG2a-CD20(100%)に対して正規化された曲線下面積(AUC)として示される。データは、3つの独立した実験から得られた平均値±SEMである。試験した抗体バリアントは、野生型IgG2a、IgG2a-FER、IgG2a-LALA、及びIgG2a-LALAPGであり、式中、FER:L234F-L235E-G236R、LALA:L234A-L235A、及びLALAPG:L234A-L235A-P329Gである。
【
図28】重鎖定常領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20マウスIgG2a抗体バリアントによるRaji細胞のCDCを示す図である。重鎖定常領域に非活性化変異を有するIgG2a-CD20抗体バリアントによって誘導されたCD20陽性Raji細胞のCDCを、補体の供給源として正常ヒト血清(NHS)を使用して評価した。細胞溶解を、フローサイトメトリーによるPI陽性細胞のパーセンテージの分析によって決定する。CDCは、非結合コントロール抗体IgG2a-b12(0%)及び野生型マウスIgG2a-CD20(100%)に対して正規化された曲線下面積(AUC)として示されている。データは、3回の独立した反復から得られた平均値±SEMである。試験した抗体バリアントは、野生型IgG2a、IgG2a-FER、IgG2a-LALA、及びIgG2a-LALAPGであり、式中、FER:L234F-L235E-G236R、LALA:L234A-L235A、及びLALAPG:L234A-L235A-P329Gである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書に記載されるように、抗体のFc領域中のアミノ酸位置における特定の修飾は、タンパク質をFc機能に関して基本的に不活性にする非活性化修飾であると同時に、製造の観点から有利な特性を有することが証明されている。
【0025】
本明細書で使用される「非活性化」という用語は、補体経路を活性化するための、単球等の広範囲のエフェクター細胞上に存在するFc受容体(FcR)又はC1qとの本発明によるタンパク質の相互作用の阻害又は消失を指すことを意図している。本明細書で使用される「非活性化」には、CDC活性の低下、C1q結合の低下、ADCCの低下、ヒトFcγRIa、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)及びFcγRIIIa(V)への結合の低下又は非存在、ヒトFcγRIa、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)及びFcγRIIIa(V)を介した活性化及びシグナル伝達の低下又は非存在が含まれる。「非活性化」はまた、CD3を標的とするという観点で使用される場合(例えば、CD3を標的とする単一特異性抗体において、又は腫瘍関連抗原非依存的様式で二重特異性抗体若しくは多重特異性抗体との関連で使用される場合)、T細胞活性化を誘導しないことを含む。そのような「非活性化」特徴は、好ましくは、「非活性化」ではないタンパク質と比較して、例えば本明細書に記載されるような、野生型様機能を有する未修飾Fc領域を有する抗体を本発明による修飾Fc領域と比較して評価されるべきであることが理解される。本明細書で使用される「Fc領域」という用語は、N末端からC末端に向かう方向に、少なくともヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域を含む領域を指すことを意図している。
【0026】
本明細書で使用される「タンパク質」という用語は、互いに共有結合したアミノ酸の1又は複数の鎖を含む大きな生物学的分子を指すことを意図している。そのような結合は、ペプチド結合及び/又はジスルフィド架橋を介してもよい。アミノ酸の一本鎖は、「ポリペプチド」とも呼ばれ得る。したがって、本発明の文脈におけるタンパク質は、1又は複数のポリペプチドからなり得る。本発明によるタンパク質は、抗体又は親抗体のバリアント等の任意の種類のタンパク質、又は融合タンパク質であり得る。
【0027】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、少なくとも約30分、少なくとも約45分、少なくとも約1時間、少なくとも約2時間、少なくとも約4時間、少なくとも約8時間、少なくとも約12時間、約24時間以上、約48時間以上、約3、4、5、6、7日間以上等、又は任意の他の関連する機能的に定義された期間(例えば、抗原への抗体結合に関連する生理学的応答を誘導、促進、増強及び/又は調節するのに十分な時間並びに/あるいは抗体がエフェクター活性を動員するのに十分な時間)等の有意な期間の半減期で、典型的な生理学的条件下で抗原に特異的に結合する能力を有する免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子の断片、又はそれらのいずれかの誘導体を指すことを意図している。抗原と相互作用する結合領域(又は本明細書中で使用され得る結合ドメイン(両方とも同じ意味を有する))は、免疫グロブリン分子の重鎖及び軽鎖の両方の可変領域を含む。抗体の定常領域(Ab)は、免疫系の様々な細胞(エフェクター細胞等)及び補体活性化の古典的経路における第1の成分であるC1q等の補体系の成分を含む宿主組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0028】
上記のように、本明細書における抗体という用語は、特に明記しない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、抗原に特異的に相互作用する、例えば結合する能力を保持する抗体の断片を含む。抗体の抗原結合機能は、全長抗体の断片によって行われ得ることが示されている。「抗体」という用語に包含される結合断片の例には、(i)Fab’若しくはFab断片、VL、VH、CL及びCH1ドメインからなる一価断片、又は国際公開第2007059782号(Genmab A/S)に記載されている一価抗体;(ii)F(ab’)2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片;(iii)VHドメイン及びCH1ドメインから本質的になるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLドメイン及びVHドメインから本質的になるFv断片;(v)VHドメインから本質的になり、ドメイン抗体とも呼ばれるdAb断片(Ward et al.,Nature341,544-546(1989))(Holt et al;Trends Biotechnol.2003 Nov;21(11):484-90);(vi)ラクダ科動物又はナノボディ(Revets et al;Expert Opin Biol Ther.2005 Jan;5(1):111-24);並びに(vii)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。更に、Fv断片の2つのドメイン、VL及びVHは別個の遺伝子によってコードされるが、それらは、組換え法を使用して、VL及びVH領域が対合して一価分子を形成する単一のタンパク質鎖としてそれらを作製することを可能にする合成リンカーによって連結され得る(一本鎖抗体又は一本鎖Fv(scFv)として知られており、例えばBird et al.,Science 242,423-426(1988)and Huston et al.,PNAS USA 85,5879-5883(1988)を参照されたい)。そのような一本鎖抗体は、特に明記されない限り、又は文脈によって明確に示されない限り、抗体という用語に包含される。そのような断片は一般に抗体の意味の範囲内に含まれるが、それらは集合的に及びそれぞれ独立して本発明の固有の特徴であり、異なる生物学的特性及び有用性を示す。本発明の文脈におけるこれら及び他の有用な抗体断片は、本明細書で更に論じられる。抗体という用語は、特に明記しない限り、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、キメラ抗体及びヒト化抗体等の抗体様ポリペプチド、並びに酵素的切断、ペプチド合成、及び組換え技術等の任意の公知の技術によって提供される抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体断片(抗原結合断片)も含むことも理解されるべきである。生成された抗体は、任意のアイソタイプを有することができる。
【0029】
抗体が結合断片等の断片である場合、当該断片が本明細書に記載のFc領域に融合されることは、本発明の文脈内で理解されるべきである。それにより、抗体は、本発明の範囲内に入る融合タンパク質であり得る。したがって、一実施形態では、タンパク質は融合タンパク質である。
【0030】
抗体に関連して本明細書で使用される「ヒト化」という用語は、ヒト抗体定常ドメインと、ヒト可変ドメインに対して高レベルの配列相同性を含むように修飾された非ヒト可変ドメインとを含む、遺伝子操作された非ヒト抗体を指す。これは、一緒に抗原結合部位を形成する非ヒト抗体相補性決定領域(CDR)を相同ヒトアクセプターフレームワーク領域(FR)にグラフトすることによって達成することができる(とりわけ、国際公開第92/22653号及び欧州特許第0629240号明細書を参照されたい)。親抗体結合領域の結合親和性及び結合特異性を完全に再構成するために、親抗体(すなわち、非ヒト抗体)からヒトフレームワーク領域へのフレームワーク残基の置換(復帰突然変異)が必要とされ得る。構造相同性モデリングは、抗体結合領域の結合特性に重要なフレームワーク領域内のアミノ酸残基を同定するのに役立ち得る。したがって、ヒト化可変領域又は抗体は、非ヒトCDR配列、主に、非ヒトアミノ酸配列に対する1又は複数のアミノ酸復帰突然変異が含まれていてもよいヒトフレームワーク領域を含み得る。必ずしも復帰突然変異ではない更なるアミノ酸修飾が適用されていてもよく、例えば脱アミドを回避し、「不活性Fc領域」を提供し、ヘテロ二量体化を増強し、及び/又は製造を改善する修飾を含むように、特定の有用な親和性及び生化学的特性等の好ましい特性を有するヒト化抗体又はヒト化可変領域を得ることができる。
【0031】
「ヒト」という用語は、抗体の可変領域及び抗体に関連して本明細書で使用される場合、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域及びフレームワーク領域と、ヒト免疫グロブリン定常ドメインに由来する定常ドメインとを有する、遺伝子操作され得る抗体を含むことが意図される。本発明のヒト可変領域又はヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダム又は部位特異的突然変異誘発又はインビボでの体細胞突然変異によって導入される突然変異、挿入又は欠失)を含み得る。「ヒト抗体」は、例えばLee et al.Nature Biotech,32(4)2014 pp 355-63 and Macdonald et al.,PNAS April 8,2014 111(14)5147-52等に記載されているようなトランスジェニック動物において、ヒトのヒト生殖系列免疫グロブリン配列から生成されたVH及びVL配列を組み込むことができる。そのようなVH及びVL配列は、ヒト免疫グロブリン定常ドメインに由来する定常ドメインに融合され得るヒトVH及びVL配列と考えられる。必ずしも復帰突然変異ではない更なるアミノ酸修飾が適用されていてもよく、例えば脱アミドを回避し、「不活性Fc領域」を提供し、ヘテロ二量体化を増強し、及び/又は製造を改善する修飾を含むように、特定の有用な親和性及び生化学的特性等の好ましい特性を有するヒト抗体又はヒト可変領域を得ることができる。したがって、「ヒト抗体」は、操作された抗体を含み得る。
【0032】
本明細書で使用される「補体依存性細胞傷害」(「CDC」)という用語は、抗体が細胞又はビリオン上のその標的に結合したときにMACアセンブリによって作り出される膜の孔の結果として細胞又はビリオンの溶解をもたらす抗体媒介補体活性化のプロセスを指すことを意図している。
【0033】
本明細書で使用される「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」(「ADCC」)という用語は、結合した抗体の定常領域を認識するFc受容体を発現する細胞による、抗体でコーティングされた標的細胞又はビリオンの死滅機構を指すことを意図している。
【0034】
本明細書で使用される「免疫グロブリン重鎖」又は「免疫グロブリンの重鎖」という用語は、免疫グロブリンの重鎖の1つを指すことを意図している。重鎖は、典型的には、免疫グロブリンのアイソタイプを定義する重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)及び重鎖定常領域(本明細書ではCHと略す)から構成される。重鎖定常領域は、典型的には、3つのドメイン、CH1、CH2、及びCH3から構成される。CH1及びCH2は、典型的にはヒンジ領域を介して連結される。
【0035】
本明細書で使用される「免疫グロブリン」という用語は、2対のポリペプチド鎖、1対の軽(L)低分子量鎖及び1対の重(H)鎖からなる構造的に関連する糖タンパク質のクラスを指すことを意図しており、4つ全てがジスルフィド結合によって相互接続されている可能性がある。免疫グロブリンの構造は十分に特徴付けられている(例えば、Fundamental Immunology Ch.7(Paul,W.,ed.,2nd ed.Raven Press,N.Y.(1989)を参照されたい)。免疫グロブリンの構造内で、2つの重鎖は、いわゆる「ヒンジ領域」でジスルフィド結合を介して相互に連結されている。重鎖と同様に、各軽鎖は、典型的には、いくつかの領域:軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)及び軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、典型的には、1つのドメインCLで構成される。更に、VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる超可変領域(又は配列及び/又は構造的に定義されたループの形態で超可変であり得る超可変領域)の領域に更に細分することができる。各VH及びVLは、典型的には、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置された3つのCDR及び4つのFRで構成される(Lefranc MP et al,Dev Comp Immunol Jan:27(1):55-77(2003)も参照のこと)。
【0036】
本明細書で使用される「第1のポリペプチド」及び「第2のポリペプチド」という用語は、アミノ酸配列が同一であっても異なっていてもよい一組のポリペプチドを指す。したがって、第1及び第2のポリペプチドは、ホモ二量体又はヘテロ二量体を形成し得る。第1及び第2のポリペプチドは、更なるポリペプチドと会合し得る。
【0037】
本明細書で使用される「アイソタイプ」という用語は、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる免疫グロブリンアイソタイプ(例えば、IgG、IgD、IgA、IgE又はIgM)若しくはそのサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)又はその任意のアロタイプを指す。IgG1のアロタイプとしては、IgG1m(za)及びIgG1m(f)が挙げられる。したがって、一実施形態では、タンパク質は、IgG1クラスの免疫グロブリン又はその任意のアロタイプの重鎖を含む。更に、各重鎖アイソタイプは、カッパ(κ)及び/又はラムダ(λ)軽鎖、又はそれらの任意のアロタイプと組み合わせることができる。
【0038】
本明細書で使用される「ヒンジ領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖のヒンジ領域を指す。したがって、例えば、ヒトIgG1抗体のヒンジ領域は、Kabat(Kabat,E.A.et al.,Sequences of proteins of immunological interest.5th Edition-US Department of Health and Human Services,NIH publication No.91-3242,pp 662,680,689(1991)に記載されている)に示されるようなEuナンバリングによるアミノ酸216~230に対応する。
【0039】
VH及びVL領域は、「ヒトVH及びVL領域」又は「ヒト化VH及びVL領域」であり得る。ヒトVH及び/又はヒトVL領域に関して、そのような領域は、典型的には、ヒト生殖細胞系配列に由来する又はヒト生殖細胞系配列中に見出されるように、以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端に配置された3つのCDR及び4つのFRで構成されることが理解される。そのようなVH及びVL領域は、ヒト化動物モデル又はヒトに由来し得る。例えば、ヒトモノクローナル抗体は、不死化細胞に融合された、ヒト重鎖導入遺伝子及び軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有するトランスジェニックマウス等のトランスジェニック又はトランスクロモソーマル非ヒト動物から得られたB細胞を含むハイブリドーマによって産生され得る。ヒトモノクローナル抗体は、ヒトB細胞又は形質細胞に由来し得る。本明細書で使用される「ヒト化VH及びVL領域」という用語は、ヒト可変ドメインに対する高レベルの配列相同性を含有するように修飾された、非ヒト抗体に由来する遺伝子操作されたVH及びVL領域を指す。これは、一緒に抗原結合部位を形成する非ヒト抗体相補性決定領域(CDR)を相同ヒトアクセプターフレームワーク領域(FR)にグラフトすることによって達成することができる(とりわけ、国際公開第92/22653号及び欧州特許第0629240号明細書を参照されたい)。親抗体の結合親和性及び結合特異性を完全に再構成するために、親抗体(すなわち、非ヒト抗体)からヒトフレームワーク領域へのフレームワーク残基の置換(復帰突然変異)が必要とされ得る。構造相同性モデリングは、抗体の結合特性に重要なフレームワーク領域内のアミノ酸残基を同定するのに役立ち得る。したがって、ヒト化VH及びVL領域は、非ヒトCDR配列、主に、非ヒトアミノ酸配列に対する1又は複数のアミノ酸復帰突然変異が含まれていてもよいヒトフレームワーク領域を含み得る。必ずしも復帰突然変異ではない更なるアミノ酸修飾が適用されていてもよく、例えば脱アミドを回避するための修飾を含むため、及び/又は製造を改善するために、特定の有用な親和性及び生化学的特性等の好ましい特徴を有するヒト化又はヒトVH及びVL領域を得ることができる。
【0040】
本明細書で使用される「CH2領域」又は「CH2ドメイン」という用語は、免疫グロブリン重鎖のCH2領域を指す。したがって、例えば、ヒトIgG1抗体のCH2領域は、Euナンバリングシステムによるアミノ酸231~340に対応する。しかしながら、CH2領域はまた、本明細書中に記載されるような他のサブタイプのいずれかであり得る。
【0041】
本明細書で使用される「CH3領域」又は「CH3ドメイン」という用語は、免疫グロブリン重鎖のCH3領域を指す。したがって、例えば、ヒトIgG1抗体のCH3領域は、Euナンバリングシステムによるアミノ酸341~447に対応する。しかしながら、CH3領域はまた、本明細書中に記載されるような他のサブタイプのいずれかであり得る。
【0042】
本明細書で使用される「完全長抗体」という用語は、野生型抗体に通常見られるものに対応する全ての重鎖及び軽鎖定常ドメイン及び可変ドメインを含み、すなわち、重鎖にそれぞれVH、CH1、リンカー、CH2、CH3領域を有し、軽鎖にそれぞれVL及びCL領域を有する抗体(例えば、親抗体又はバリアント抗体)、例えばヒト(又はヒト化)IgG1重鎖等、又はヒト(又はヒト化)カッパ若しくはラムダ軽鎖を指す。二重特異性抗体はまた、完全長抗体であってもよく、すなわち、野生型抗体等に通常見られるような異なる重鎖及び/又は軽鎖を含むものであってもよいことが理解される。全長抗体は、例えば、本発明に従って本明細書で定義される置換又は修飾を含むように操作され得る。
【0043】
本明細書で使用される「位置に対応するアミノ酸」という用語は、ヒトIgG1重鎖のアミノ酸位置番号を指す。特に明記しない限り、又は文脈と矛盾しない限り、定常領域配列のアミノ酸は、本明細書ではナンバリングのEuインデックス(Kabat,E.A.et al.,Sequences of proteins of immunological interest.5th Edition-US Department of Health and Human Services,NIH publication No.91-3242,pp 662,680,689(1991)に記載されている)に従ってナンバリングされる。したがって、別の配列中のアミノ酸又はセグメント「に対応する」1つの配列中のアミノ酸又はセグメントは、典型的にはデフォルト設定で、ALIGN、ClustalW又は同様の標準的な配列アラインメントプログラムを使用して他のアミノ酸又はセグメントとアライメントするものであり、ヒトIgG1重鎖に対して少なくとも50%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%の同一性を有する。配列又は配列中のセグメントを整列させ、それによって本発明によるアミノ酸位置に対する配列中の対応する位置を決定する方法は、当技術分野で周知であると考えられる。
【0044】
本発明の文脈において、アミノ酸は、保存的又は非保存的クラスによって定義され得る。したがって、アミノ酸のクラスは、以下の表の1又は複数に反映され得る。
【表1】
【表2】
本発明の文脈において、タンパク質中の置換は、以下のように示される。
【0045】
元のアミノ酸-位置-置換アミノ酸;
アミノ酸についてよく認識されている命名法を参照すると、任意のアミノ酸残基を示すコードXaa及びXを含む3文字コード又は1文字コードが使用される。したがって、「L234F」又は「Leu234Phe」という表記は、タンパク質が、野生型タンパク質の234位のアミノ酸に対応するタンパク質アミノ酸位においてロイシンのフェニルアラニンへの置換を含むことを意味する。
【0046】
所与の位置のアミノ酸の任意の他のアミノ酸への置換は、以下のように呼ばれる。
【0047】
元のアミノ酸-位置;又は例えば「L234」である。
【0048】
(1又は複数の)元のアミノ酸及び/又は(1又は複数の)置換アミノ酸が複数のアミノ酸を含み得るが、(1又は複数の)全てのアミノ酸を含むわけではない修飾の場合、複数のアミノ酸は「、」又は「/」によって分離され得る。例えば、234番目のフェニルアラニン、アルギニン、リジン又はトリプトファンのロイシンへの置換は、「Leu234Phe、Arg、Lys、Trp」又は「L234F、R、K、W」又は「L234F/R/K/W」又は「L234からF、R、K又はW」である。
【0049】
そのような指定は、本発明の文脈において交換可能に使用され得るが、同じ意味及び目的を有する。
【0050】
更に、交換可能に使用することができる「置換」又は「変異」という用語は、他の19個の天然アミノ酸のいずれか1つへの、又は非天然アミノ酸等の他のアミノ酸への置換を包含する。例えば、位置234のアミノ酸Lの置換は、以下の置換:234A、234C、234D、234E、234F、234G、234H、234I、234K、234M、234N、234Q、234R、234S、234T、234V、234W、234P、及び234Yのそれぞれを含む。これは、例として、名称234Xに相当し、ここで、Xは、元のアミノ酸以外の任意のアミノ酸を示す。これらの置換は、L234A、L234C等、又はL234A、C等、又はL234A/C/等とも呼ばれ得る。同じことが、本明細書中で言及されるそれぞれのあらゆる位置に類推によって適用され、具体的には、そのような置換のいずれか1つを本明細書中に含む。アミノ酸配列が「X」又は「Xaa」を含む場合、当該X又はXaaが任意のアミノ酸を表すことは当技術分野で周知である。したがって、X又はXaaは、典型的には、20個の天然に存在するアミノ酸のいずれかを表し得る。本明細書で使用される「天然に存在する」という用語は、以下のアミノ酸残基のいずれか1つを指す。グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、メチオニン及びシステイン。「アミノ酸」及び「アミノ酸残基」という用語は、互換的に使用され得る。本発明の目的のために、2つのアミノ酸配列間の配列同一性は、EMBOSSパッケージ(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Rice et al.,2000,Trends Genet.16:276-277)、好ましくはバージョン5.0.0以降のNeedleプログラムで実施されるNeedleman-Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48:443-453)を使用して決定することができる。使用されるパラメータは、10のギャップオープンペナルティ、0.5のギャップ拡張ペナルティ、及びEBLOSUM62(BLOSUM62のEMBOSSバージョン)置換行列である。(-nobriefオプションを使用して得られた)「最長同一性」とラベル付けされた針の出力は、同一性パーセントとして使用され、以下のように計算される。
【0051】
(同一の残基×100)/(アライメントの長さ-アライメントにおけるギャップの総数)
同様の残基の保持はまた、又は代替的に、BLASTプログラム(例えば、標準設定BLOSUM62、Open Gap=11、及びExtended Gap=1を使用してNCBIから入手可能なBLAST2.2.8)の使用によって決定される類似性スコアによって測定されてもよい。
【0052】
一実施形態では、当該第1及び第2のポリペプチドの少なくとも1つにおいて、ヒトIgG1重鎖のL234、L235及びG236の位置に対応する位置のアミノ酸は、それぞれL、L及びGではない。第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドを含むタンパク質が提供され、当該第1及び第2のポリペプチドはそれぞれ、ヒトIgG1免疫グロブリン重鎖の少なくともヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域をそれぞれ含み、当該第1及び第2のポリペプチドの少なくとも1つが修飾されており、位置L234、L235及びG236のアミノ酸に対応するアミノ酸の置換を含み、アミノ酸位置がEUナンバリングによって定義される通りである。好ましくは、当該第1及び第2のポリペプチドの少なくとも一方のL234、L235及びG236の位置の当該アミノ酸は、それぞれF、E及びRで置換される。
【0053】
本明細書で使用されるアミノ酸位置に関して、これらはEuナンバリングに従ってナンバリングされ、これはKabat,E.A.et al.,Sequences of proteins of immunological interest.5th Edition-US Department of Health and Human Services,NIH publication No.91-3242,pp 662,680,689(1991)に記載されているようなナンバリングのEuインデックスに従う。本発明による有用なアミノ酸配列の配列もまた、太字の示されたアミノ酸修飾と共に本明細書で提供される(表1参照)。
【0054】
例えば、実施例の節に示されるように、本発明によるタンパク質の一例は、2つの同一の重鎖(第1及び第2のポリペプチドに対応する)及び2つの同一の軽鎖からなる抗体であり得る。しかしながら、第1及び第2のポリペプチドの両方が同じ置換を有することは要件ではなく、例えば、第1及び第2のポリペプチドの一方がL234、L235及びG236位に当該置換を有し得、他方が例えば異なる置換を有し得る。したがって、他の鎖は、例えば、別の不活性フォーマット、例えばFEAフォーマットの置換を有し得る。本発明の文脈において、位置L234、L235及びG236における非活性化置換の更なる利点は、他のポリペプチドが異なる不活性フォーマット、例えばFEAフォーマットを有する「非対称」様式で存在する場合でも、Fc媒介性エフェクター機能を効果的に抑制することであると考えられる。これにより、新たに開発された抗体とFER不活性フォーマットとを、FEAフォーマット等の他の非活性化置換を有する以前に製造された抗体と組み合わせることによって、多重特異性抗体を製造することが可能になる。
【0055】
したがって、更なる実施形態では、本発明によるタンパク質が提供され、第1及び第2のポリペプチドの一方は、位置L234、L235及びG236のアミノ酸に対応するアミノ酸の当該置換を含み、他方が修飾されており、位置L234、L235及びD265のアミノ酸に対応するアミノ酸の置換を含み、好ましくは、当該置換はそれぞれF、E及びAである。
【0056】
別の実施形態では、本発明によるタンパク質において、当該第1及び第2のポリペプチドの両方が、アミノ酸L234、L235及びG236に対応するアミノ酸の当該置換を含み、これは好ましくはそれぞれF、E及びRによる置換である。
【0057】
更なる実施形態では、当該第1及び第2のポリペプチドの各々は、免疫グロブリンCH1領域を含む。当該CH1領域は、好ましくはヒンジ領域に連結されており、すなわち、当該ポリペプチドにヒトIgG1免疫グロブリン重鎖のCH1領域、ヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域をそれぞれ提供する。好ましくは、CH1領域はヒトIgG1免疫グロブリン重鎖のものである。例えば、CH1領域は、配列番号4に列挙される配列を有する配列であり得る。本明細書で定義されるCH1領域、ヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域は、配列番号5に列挙される配列であり得る。そのような配列は、本明細書中に記載されるような置換を有していてもよく、例えば、本明細書中で定義されるようなFER置換及び/又は更なる置換が提供される。
【0058】
別の実施形態では、本発明によるタンパク質は、第1及び第2の結合領域を含む。任意の結合領域で十分であり得るが、結合領域は、ヒト抗体又はヒト化抗体等の免疫グロブリン結合領域に由来することが好ましい場合がある。
【0059】
本明細書で使用される「結合領域」又は「結合ドメイン」という用語は、例えば細胞、例えば癌細胞、細菌又はビリオン上に存在するポリペプチド等の抗原に結合することができるタンパク質の領域を指す。結合領域は、ポリペプチド配列、例えば、タンパク質、タンパク質リガンド、受容体、抗原結合領域、又は細胞、細菌若しくはビリオンに結合することができるリガンド結合領域であり得る。具体的には、結合領域は、抗原結合領域である。結合領域が例えば受容体である場合、タンパク質は、免疫グロブリンのFcドメインと当該受容体との融合タンパク質として調製されていてもよい。結合領域が抗原結合領域である場合、本発明によるタンパク質は、抗体、キメラ抗体、又はヒト化若しくはヒト結合領域抗体若しくは重鎖のみの抗体若しくはScFv-Fc融合を有する抗体であり得る。
【0060】
本明細書で使用される「結合」という用語は、リガンドとして抗体及び分析種として抗原を使用するバイオレイヤー干渉法によって決定された場合、KDが1E-6M以下、例えば5E-7M以下、1E-7M以下、例えば5E-8M以下、例えば1E-8M以下、例えば5E-9M以下、又は例えば1E-9M以下に対応する結合親和性で所定の抗原又は標的に抗体が結合し、KDが所定の抗原又は密接に関連する抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)への結合に対する親和性よりも少なくとも10倍低い、例えば少なくとも100倍低い、例えば少なくとも1,000倍低い、例えば少なくとも10,000倍低い、例えば少なくとも100,000倍低い親和性で所定の抗原に結合することを指す。
【0061】
したがって、更なる実施形態では、本発明によるタンパク質は、それぞれ第1の免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)及び第1の免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)を含む当該第1及び第2の結合領域を含み、当該第2の結合領域は、第2の免疫グロブリン重鎖可変領域及び第2の免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む。これらの領域は、好ましくはヒト又はヒト化VH及びVL領域であることが理解される。したがって、VH及びVL領域は、ヒト又はヒト由来のフレームワーク領域を有し、ヒト又はヒト由来又はマウス又はラット等の他の種起源のCDR1-3配列を有し得る。したがって、別の更なる実施形態では、当該免疫グロブリン重鎖及び軽鎖可変領域は、ヒト又はヒト化免疫グロブリン重鎖及び軽鎖可変領域である。
【0062】
前述のように、本発明によるタンパク質は抗体を含む。したがって、別の実施形態では、当該第1及び第2のポリペプチドは免疫グロブリン重鎖であり、当該第1及び第2のポリペプチドはそれぞれ当該第1及び第2の免疫グロブリン重鎖可変領域を含む。そのような重鎖は、ヒト又はヒト化可変領域及びヒト定常領域を含むと理解されるヒト可変領域を含む場合、ヒト重鎖又はヒト化重鎖であることが好ましい場合があることが理解される。更に、当該タンパク質は、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域及び第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み得、より好ましくは、当該タンパク質は、第1及び第2の免疫グロブリン軽鎖を含み、当該免疫グロブリン軽鎖は、当該それぞれの第1及び第2の免疫グロブリン軽鎖可変領域並びに当該それぞれの第1及び第2の免疫グロブリン定常軽鎖領域を含む。そのような軽鎖は、非ヒト由来CDR領域を含む場合、ヒト軽鎖又はヒト化軽鎖であることが非常に好ましいことが理解される。軽鎖は、軽鎖可変領域及びヒトカッパ軽鎖定常領域又はヒトラムダ軽鎖定常領域を有し得る。更なる実施形態では、ヒトκ軽鎖定常領域は、配列番号6に列挙されている通りである。別の更なる実施形態では、ヒトラムダ軽鎖定常領域は、配列番号7に列挙される通りである。そのような軽鎖は、カッパ軽鎖若しくはラムダ軽鎖、又はその両方を含み得、例えば、本発明によるタンパク質は2つの異なる軽鎖を含み得るので、タンパク質は1つのカッパ軽鎖及び1つのラムダ軽鎖を含む。したがって、そのような軽鎖は、ヒト又はヒト化カッパ軽鎖若しくはラムダ軽鎖のいずれか、又はその両方であり得、例えば、本発明によるタンパク質は2つの異なる軽鎖を含み得るので、タンパク質は1つのヒトカッパ軽鎖及び1つのヒトラムダ軽鎖を含む。
【0063】
ヒト又はヒト化重鎖及び軽鎖は、本明細書に記載の突然変異に加えて、好ましい特徴を提供するための更なる修飾、例えば脱アミドを回避する及び/又はヘテロ二量体化を増強するための修飾、製造及び分離を改善するための修飾等を含む、特定の有用な親和性及び生化学的特性を提供するための更なる修飾を含み得ることが理解される。
【0064】
したがって、好ましい実施形態では、当該第1及び第2のポリペプチドを含む本発明によるタンパク質は、第1及び第2の免疫グロブリン軽鎖、並びに第1及び第2の重鎖からなるか、又はそれらを含み、後者は第1及び第2のポリペプチドに対応する。本発明によるそのようなタンパク質は、ジスルフィド架橋を介して当該第1の免疫グロブリン重鎖と連結された第1の免疫グロブリン軽鎖と、ジスルフィド架橋を介して当該第2の免疫グロブリン重鎖と連結された当該第2の免疫グロブリン軽鎖とを有することができ、それによって当該第1の結合領域及び当該第2の結合領域をそれぞれ形成し、当該第1及び第2の免疫グロブリン重鎖も同様にジスルフィド架橋を介して連結される。本明細書で使用される「ジスルフィド架橋」という用語は、2つのシステイン残基間の共有結合を指し、すなわち当該相互作用はまた、Cys-Cys相互作用と呼ばれ得る。
【0065】
好ましい実施形態であり得る更なる実施形態では、本発明によるタンパク質は、好ましくは全長抗体である、抗体である。なおも別の更なる実施形態では、全長抗体は、ヒトIgG1アイソタイプであるか、又はヒトIgG1アイソタイプに由来する。
【0066】
本発明によれば、当該位置の置換は、例えば抗体に含まれる場合、Fc媒介性エフェクター機能の低下をもたらすことが理解される。そのようなFc媒介性エフェクター機能の低下には、CDC活性の低下(とりわけ実施例3及び5を参照)、C1q結合の低下(とりわけ実施例4)、ADCCの低下(とりわけ実施例9)、ヒトFcγRIa、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)及びFcγRIIIa(V)への検出可能な結合の非存在(とりわけ実施例6)、並びにヒトFcγRIa、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)及びFcγRIIIa(V)を介した検出可能な活性化及びシグナル伝達の非存在(実施例7)が含まれ、CD3を標的化するという観点では腫瘍関連抗原非依存性T細胞活性化を誘導せず(とりわけ実施例10)、並びに薬物動態を有し、とりわけ、ヒトFcRn結合特性が野生型ヒトIgG1と類似しており、グリコシル化が野生型ヒトIgG1抗体等と非常に類似していることに起因し、そのようなサブステーションが抗体の文脈に含まれる場合である(例えば、実施例12及び14を参照されたい)。更に、これらの置換は、低pH(とりわけ実施例20-23)での改善されたpH安定性を提供することができる。本発明によるタンパク質は、非常に好ましい実施形態であり得る抗体の文脈において有用であるだけでなく、少なくとも1つのヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域を含む本発明による当該第1及び第2のポリペプチドを有し、当該第1及び第2のポリペプチドの少なくとも1つが修飾されており、位置L234、L235及びG236のアミノ酸に対応するアミノ酸の置換を含む、融合タンパク質等の他のフォーマットのタンパク質も同様に企図され、アミノ酸位置はEUナンバリングによって定義される通りである。
【0067】
Fc媒介性エフェクター機能に言及する場合に本明細書で使用される「低減した」又は「検出不能な」という用語は、野生型IgG1領域等を有する同じタンパク質と比較して、CDC活性、ADCC、C1q結合、FcγRIa、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)、及びFcγRIIIa(V)結合を誘導し、FcγRIa、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)、及びFcγRIIIa(V)を介して活性化及びシグナル伝達し、CD3を標的化するという観点でT細胞を活性化する抗体等の本発明によるタンパク質の能力に関し、これは、例えば、実施例の節に記載されているような抗体等との関連において、当該エフェクター機能を誘導する完全な能力を有する。これらの特徴について「減少した」又は「検出不能な結合」を決定するための例示的なアッセイは当技術分野で公知であり、例えば全体を通して実施例の節に十分に記載されている。実施例の節では、完全長抗体等の抗体との関連でこれらの特徴の特性を記載する。本発明によるヒトIgG1免疫グロブリン重鎖の修飾ヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域のそれぞれの有利な特性は、融合タンパク質等の他の形式においても有用であり得るので、非常に好ましい特性は、実施例の節に記載されているような状況で決定され、これは、本発明によるタンパク質が抗体に限定されると理解されることを意味しないことが理解される。それにもかかわらず、本発明は、特に抗体との関連で適用される場合の使用を見出し、本明細書に示される。
【0068】
補体依存性細胞傷害(CDC)を誘導するタンパク質の能力は、当技術分野で公知の方法を用いて決定することができる。簡潔には、未修飾の完全に機能的なFc領域を有する参照タンパク質、例えば、強力なCDC誘導物質であるIgG1抗体を、ヒト血清の存在下で、細胞表面に標的抗原を提示する細胞と共にインビトロアッセイでインキュベートし、続いて、細胞溶解の割合を決定し、これを100%に設定する。修飾されたFc領域を有する本発明によるタンパク質、例えばFER Fc領域を有する抗体の細胞溶解の割合は、同じ条件下で、細胞を標的としない、又はFc領域を有しない対照タンパク質(例えばF(ab’)2等)を用いて生じる細胞溶解と比較される。100%に設定された未修飾参照と比較して溶解率を決定する。使用され得る適切な方法の例は、例3又は例5に記載されている通りである。本発明によるタンパク質は、代わりにFEAフォーマットを有するFc領域を有する同じタンパク質と比較した場合にCDC活性が低下しており、及び/又は例えばF(ab’)2)と比較した場合に同様のCDC活性を有する。
【0069】
タンパク質がC1q結合を低下させる能力は、当技術分野で公知の方法を用いて決定することができる。簡潔には、(未修飾の)完全に機能的なFc領域を有するタンパク質、例えば抗体を、ヒト血清の存在下で、細胞表面に標的抗原を提示する細胞を用いたインビトロアッセイでインキュベートし、その後、C1q結合のパーセンテージを、例えばポリクローナルウサギ抗ヒトC1q補体FITC抗体(Dako、カタログ番号F0254、Agilent Technologies)との結合及び製造者の説明書に従ったFACS分析によって決定する。(修飾されていない)完全に機能的なFC領域を有するタンパク質の検出されたシグナルを、修飾されたFc領域を有するタンパク質、例えば強力なCDC誘導物質であるIgG1抗体と比較する。使用され得る本発明による適切な方法の詳細な例は、実施例4に記載されている。本発明によるタンパク質は、代わりにFEAフォーマットを有するFc領域を有する同じタンパク質と比較した場合にCDC活性が低下しており、及び/又は例えば非結合コントロール抗体と比較した場合に同様のCDC活性を有する。本発明によるタンパク質は、完全長IgG1抗体とFERとの関連において、実施例4に記載されるように、同じ配列を有するがFERを含まない抗体と比較した場合、好ましくは15%以下のC1q結合活性を有する。
【0070】
抗原依存性細胞傷害性を低下させる能力は、当技術分野で公知の方法を用いて決定することができる。例えば、野生型抗体及びその非活性化バリアントのADCC能力を決定するために、DELFIA(登録商標)EuTDA TRF(時間分解蛍光)細胞傷害性キット(カタログ番号AD0116、Perkin Elmer)を製造者の説明書に従って使用することができる。簡単に記載すると、標的抗原を提示する細胞を、例えば、ビス(アセトキシメチル)2,2’:6’,2”-ターピリジン-6,6”-ジカルボキシレート試薬溶液(DELFIA BATDA試薬、カタログ番号C136-100、Perkin Elmer)を製造者の説明書に従って使用して細胞内標識する。続いて、これらの細胞を、PBMCの存在下で、その細胞表面に標的抗原を提示するPBMC細胞と共に、(未修飾の)完全に機能的なFc領域を有するタンパク質、例えば標的抗原に対する野生型抗体、及びその非活性化バリアントと共にインキュベートする。NK媒介ADCCの評価は、完全機能コントロールIgG1抗体(100%に設定)及び非結合陰性IgG1コントロール抗体(0%に設定)を参照して決定される。使用され得る適切な方法の詳細な例は、例9に記載されている。本発明によるタンパク質は、例えば完全長IgG1抗体をFERと比較した場合、実施例9に記載されているように、同じ配列を有するがFERを含まない抗体と比較した場合、好ましくは35%以下の残存ADCC活性を有する。本発明によるタンパク質は、代わりにFEAフォーマットを有するFc領域を有する同じタンパク質と比較した場合、同様に低下したADCC活性を有する。
【0071】
ヒトFcγRIa、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)及びFcγRIIIa(V)への結合については、ELISAを用いて測定することができる。本発明によるタンパク質の結合は、ELISAアッセイにおいて、Hisタグ付きC末端ビオチン化FcγR、FcγRIaのモノマーECD(配列番号15)(モノマー)、又はFcγRIIaアロタイプ131Hの二量体ECD(配列番号16)、FcγRIIaアロタイプ131R(配列番号17)、FcγRIIb(配列番号18)、FcγRIIIaアロタイプ158F(配列番号19)、及びFcγRIIIaアロタイプ158V(配列番号20)への結合を決定することによって評価することができる。簡潔には、例えば、Fc領域を有するIgG1抗体を抗ヒトF(ab’)2抗体でコーティングしたプレートに結合させ、続いてそれぞれの細胞外ドメインのそれぞれとインキュベートし、続いてストレプトアビジン-ポリHRP(CLB、カタログ番号M2032、1:10.000)を用いてその結合を定量する。使用され得る本発明による適切な方法の詳細な例は、実施例6に記載されている。本発明によるタンパク質、例えば抗体は、当該Hisタグ化C末端ビオチン化FcγRモノマーECDを利用するELISAアッセイにおいて、当該Fcγ受容体と検出可能に結合しない。本発明によるタンパク質は、例えば実施例6に示すように、IgG1抗体と、FERを含むFc領域と、例えばFEAとを比較した場合に観察される、当該Fcγ受容体に対する同様の検出不能な結合を有する。
【0072】
FcγRIa、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)及びFcγRIIIa(V)を介した活性化及びシグナル伝達に関して、これは市販のレポーターアッセイで決定することができる。例えば、レポーターアッセイを使用して、標的発現細胞及び示されたFcγRを発現するJurkatレポーター細胞株を使用して、本発明によるタンパク質の活性化及び結合を決定することができる(Promega、FcγRIa:カタログ番号CS1781C08;FcγRIIaアロタイプ131H:カタログ番号G9991;FcγRIIaアロタイプ131R:カタログ番号CS1781B08;FcγRIIb:カタログ番号CS1781E04;FcγRIIIaアロタイプ158F:カタログ番号G9790;FcγRIIIaアロタイプ158V:カタログ番号G7010)。例えば、CD20標的化抗体の場合、CD20発現Raji細胞を標的細胞として使用することができる。抗体等の本発明によるタンパク質は、例えば実施例7に示すように、例えば抗体をFER等の本発明によるFc領域とFEAと比較した場合に観察されるような、当該Fcγ受容体を介した同様の取り外し不能な活性化及びシグナル伝達を有する。
【0073】
CD3の標的化との関連におけるT細胞の活性化の低減に関して、そのようなことは、ヒトT細胞上のヒトCD3に結合する結合領域、例えば、本明細書の実施例に記載されるようなヒトCD3に結合する典型的な二価単一特異性抗体を含む本発明によるタンパク質に適用されることが理解される。T細胞の活性化の低下は、例えば、ヒトIgG1免疫グロブリン重鎖のヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域にそれぞれ、EUナンバリングでL234、L235及びG236の位置のアミノ酸に対応するアミノ酸の置換を含む抗CD3抗体の用量応答系列を、本発明による2つのポリペプチドの両方において、新たに単離されたPBMCと共にインキュベートし、続いて、当該細胞をマウス抗ヒトCD28-PE(カタログ番号130-092-921;Miltenyi Biotec;T細胞マーカー)及びマウス抗ヒトCD69-APC抗体(カタログ番号340560;BD Biosciences)で染色することによって決定することができる。これにより、T細胞活性化の尺度であるT細胞のCD69アップレギュレーションが決定される。そのようなアッセイの詳細は、実施例10に記載されている。本発明によるタンパク質、例えばヒトCD3を標的化する抗体は、野生型様Fc領域を有するヒトCD3を標的化するIgG1抗体と比較して、CD69アップレギュレーションを防止するか、又は高度に低減することができる。
【0074】
本発明によるタンパク質、すなわち、L234、L235及びG236の位置のアミノ酸に対応するアミノ酸、好ましくはそれぞれF、E及びRで少なくとも置換されたヒトIgG1免疫グロブリン重鎖のヒンジ、CH2及びCH3領域を含むタンパク質に関して、これらは、好ましくは野生型IgG1配列と非常に類似したグリコシル化を有する。より具体的には、本発明によるタンパク質のガラクトシル化及び/又は荷電グリカンの存在は、好ましくは、同じ細胞株及び同じ産生条件を用いて産生された野生型IgG1アミノ酸配列について見出されるのと同じ範囲にある。CHO細胞株を含む製造に適した哺乳動物宿主細胞は、当技術分野で周知である(とりわけ、Butler and Spearman,2014,Curr Opin Biotechno,Dec;30:107-12を参照されたい)。総ガラクトシル化率は、好ましくは、配列番号1等の野生型IgG1配列を含む同じタンパク質において観察されるガラクトシル化率の合計と比較して、プラス又はマイナス20%の範囲にある。例えば、野生型IgG1配列等のガラクトシル化率が25%であれば、合計で5%-45%の範囲とすることができる。総ガラクトシル化率は、好ましくは、FERフォーマットを含まない本発明によるタンパク質で観察される総ガラクトシル化率と比較して、プラス又はマイナス20%の範囲内である。荷電グリカンの総百分率は、好ましくは、配列番号1等の野生型IgG1配列を含むタンパク質において観察される荷電グリカンの総百分率と比較して、プラス又はマイナス3%の範囲にある。例えば、野生型IgG1配列等が1%の荷電グリカンのパーセンテージを有する場合、荷電グリカンの総パーセンテージは0%-4%の範囲内であり得る。荷電グリカンの総百分率は、好ましくは、FERフォーマットを含まない本発明によるタンパク質において観察される荷電グリカンの総百分率と比較して、プラス又はマイナス3%の範囲にある。荷電グリカンの全パーセンテージ及び/又は抗体等の本発明によるタンパク質のガラクトシル化のパーセンテージは、好ましくは、配列番号1等の野生型IgG1配列を含む同じタンパク質で観察される全ガラクトシル化パーセンテージと比較して、荷電グリカンの全パーセンテージの±3%及び±20%の範囲内である。抗体等の本発明によるタンパク質の荷電グリカン及び/又はガラクトシル化の総百分率は、好ましくは、FERフォーマットを含まない本発明によるタンパク質で観察されるガラクトシル化の総百分率と比較して、荷電グリカンの総百分率の±3%及び±20%の範囲内である。
【0075】
抗体等の本発明によるタンパク質のガラクトシル化及び/又は荷電グリカンの割合は、当技術分野で公知の方法を使用して決定することができる。そのような方法は、例えば実施例14に記載されている。適切な方法としては、2-アミノベンズアミドラベリング及びその後の実施例14に記載されるようなHPLC分析、又はOrbitrap Q-Extractive Pluss質量分析計を使用したLC-MCが挙げられる。ここで、ガラクトシル化及び荷電グリカンの割合はそれぞれ、A2Fグリカン構造を有する全てのグリカンに対するオリゴ糖中のガラクトース又は荷電グリカンの占有率として計算される。本明細書でパーセンテージと呼ばれる量は、モル量、すなわち質量ではなく分子数を表す。荷電グリカン及び/又はガラクトシル化の割合は、Expi293F細胞で産生された場合、抗体等の本発明によるタンパク質について決定することができる。例えば、実施例のセクションに示すように、野生型IgG1配列を有するExpi293F細胞で産生されるタンパク質の荷電グリカンのパーセンテージ及びガラクトシル化のパーセンテージは、それぞれ約0.5%及び約15%~25%である。したがって、本発明によるタンパク質は、Expi293F細胞で産生された場合、好ましくはそれぞれ好ましくは0~4%~5~45%である荷電グリカンのパーセンテージ及びガラクトシル化のパーセンテージを有する。
【0076】
少なくともL234、L235及びG236の位置のアミノ酸に対応するアミノ酸の、好ましくはそれぞれF、E及びRによる置換を有するヒトIgG1免疫グロブリン重鎖のヒンジ、CH2及びCH3領域を含む本発明によるタンパク質に関して、これらは好ましくは、野生型ヒトIgG1Fc領域と同様のヒトFcRn結合を有するものである。本明細書で選択される置換は、FcRn結合機能に影響を及ぼさない置換であり得ることが理解される。したがって、そのようなタンパク質の薬物動態は、野生型IgG1Fc領域を有する対応するタンパク質の薬物動態と類似しており、例えば、とりわけ、実施例のセクションで説明する。しかしながら、例えば半減期の延長又は半減期の短縮等、FcRn機能を修飾することが有用である場合、それが有用であるシナリオでは、そのための更なる置換を含むことが企図され得ることが理解される。抗体、例えば完全長単一特異性及び二重特異性抗体について、一実施形態では、ヒトFcRn結合特性は、野生型ヒトIgG1Fc領域を有する同じ抗体と異ならない。そのような結合特性は当技術分野で公知であり、本明細書の実施例の項に記載されるように決定することができる。したがって、pH6.0でのFcRn結合は、対応する野生型ヒトIgG1Fc領域で観察されるのと同様に起こり、pH7.4では検出可能な結合は起こらない。
【0077】
更なる実施形態では、当該第1及び第2のポリペプチドを含む本発明によるタンパク質は、同一のアミノ酸配列を有する。これは、宿主細胞において1つのポリペプチドをコードする単一の発現カセットから産生されるタンパク質を含み、すなわち、第1及び第2のポリペプチドは、その1つのポリペプチドのホモ二量体であり得ることが理解される。そのようなタンパク質の例としては、抗体、例えば2つの重鎖及び2つの軽鎖を有する抗体(
図15A参照)が挙げられ、2つの重鎖の両方が同一であり、軽鎖の両方も同様である。そのような抗体は二価であり、各々が同じ標的抗原、すなわち同じエピトープに結合することができる2つの結合領域を有する。したがって、更なる実施形態では、本発明のタンパク質は、第1及び第2のポリペプチドを含み、当該第1及び第2のポリペプチドは、アミノ酸配列が同一である免疫グロブリン重鎖であり、アミノ酸配列が同一である第1及び第2の免疫グロブリン軽鎖を更に含む。
【0078】
更なる実施形態では、本発明によるタンパク質は、更なる置換を含む。本発明による好ましい更なる置換には、ヘテロ二量体の形成を可能にする、すなわち第1及び第2のポリペプチドを含むタンパク質を提供することを可能にする修飾が含まれ、第1及び第2のポリペプチドは異なる。そのようなタンパク質の例としては、二重特異性抗体、例えば2つの重鎖及び2つの軽鎖を有する抗体(
図15B参照)が挙げられ、少なくとも2つの重鎖は同一ではなく、抗体中の重鎖対及び軽鎖対の各々は異なる抗原を標的とすることができる。第1及び第2のポリペプチドのIgG1配列のヒンジ、CH2及びCH3領域に分化修飾を導入することは必ずしも必要ではない場合があり、第1及び第2のポリペプチド配列のこれらの領域は同一であり得る。そのようにして、ホモ二量体及びヘテロ二量体の混合物が形成され得、これを使用することはそれ自体が有利であり得るか、又はヘテロ二量体及びホモ二量体はその混合物から容易に分離され得る(例えば、サイズ及び/又は電荷、親和性等の違いを介して)。しかしながら、二重特異性抗体等の生成を可能にするか又は駆動する更なる修飾を導入することが好ましい。したがって、本発明によるタンパク質は、第1及び第2のポリペプチドのIgG1配列のヒンジ、CH2及びCH3領域に更なる置換を含み得る。このようにして、IgG1配列のヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域に関して異なる配列を含む第1及び第2のポリペプチドを、本発明に従ってタンパク質中で有利に組み合わせることができる。そのようなタンパク質、すなわちそのような置換を有する免疫グロブリン又は免疫グロブリン様タンパク質の例としては、トリオーマブ/クアドロマ(Trion Pharma/Fresenius Biotech;Roche、国際公開第2011069104号)、Knobs-into-Holes(Genentech、国際公開第9850431号)、交差MAb(Roche、国際公開第2011117329号)及び静電気的に一致した(Amgen、欧州特許第1870459号及び国際公開第2009089004号;Chugai、米国特許出願公開第201000155133号明細書;Oncomed、国際公開第2010129304号)、LUZ-Y(Genentech)、DIGボディ及びPIGボディ(Pharmabcine)、鎖交換操作ドメインボディ(SEEDbody)(EMD Serono、国際公開第2007110205号)、Biclonics(Merus)、FcΔAdp(Regeneron、国際公開第201015792号)、二重特異性IgG1及びIgG2(Pfizer/Rinat、国際公開第11143545号)、アジメトリックスキャフォールド(Zymeworks/Merck、国際公開第2012058768号)、mAb-Fv(Xencor、国際公開第2011028952号)、二価二重特異性抗体(Roche)及びDuoBody(Genmab A/S、国際公開第2011131746号)等の相補的CH3ドメインを有するタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
特定の実施形態では、本発明によるタンパク質、当該第1及び第2のポリペプチドは、更なるアミノ酸置換、好ましくはT366、L368、K370、D399、F405、Y407、及びK409、例えばF405L又はK409Rからなる群から選択されるアミノ酸の置換を含む。タンパク質がホモ二量体、例えば同一の第1及び第2のポリペプチドを有する場合、両方とも同じ置換を有し得ることが理解される。本発明によるそのようなタンパク質、例えば単一特異性抗体は、実施例の節及び例えば国際公開第2011131746号に記載されているような二重特異性抗体の調製に非常に有利に使用することができる。
【0080】
したがって、更なる実施形態では、本発明によるタンパク質は単一特異性抗体である。本発明の文脈において、「単一特異性」は、その結合領域を有する同じエピトープに結合する、すなわち結合することができるタンパク質を指す。特に、そのような単一特異性タンパク質又は抗体は、好ましくは、標的分子、細胞標的及び病原体から選択される抗原に結合する。
【0081】
企図され得る標的分子としては、サイトカイン、成長因子、リガンド等の分子が挙げられる。例えば癌細胞、腫瘍細胞、エフェクター細胞(例えば、マクロファージ、単球、NK細胞及びT細胞)上に存在する受容体又は接着分子等の細胞表面の分子を含むと考えられ得る細胞標的。標的とされ得る病原体には、ウイルス、細菌、原虫、寄生虫等が含まれる。したがって、企図され得る本発明によるタンパク質には、サイトカイン、増殖因子、リガンド、癌細胞、腫瘍細胞、エフェクター細胞、ウイルス及び細菌の群から選択される抗原又は標的に対する結合領域を有するタンパク質、例えば単一特異性抗体が含まれる。
【0082】
しかしながら、本発明は、単一特異性抗体等の単一特異性タンパク質に限定されず、二重特異性抗体等の多重特異性タンパク質にも関する。更なる実施形態では、本発明によるタンパク質は二重特異性又は多重特異性抗体である。これは、本発明によるタンパク質の結合領域が、同じエピトープではなく、異なるエピトープに結合することを意味する。したがって、本発明によるタンパク質の第1及び第2の結合領域は、例えばアミノ酸配列に関して異なる。異なるエピトープは、同じ標的実体、例えば同じ標的分子によって提示される及び/又は同じ標的細胞によって提示される異なるエピトープに由来し得るが、異なる標的実体に由来し得る。
【0083】
本発明による非常に有利な二重特異性タンパク質、例えば二重特異性抗体は、第1及び第2の結合領域の一方がエフェクター細胞を標的とし、第1及び第2の結合領域の他方が癌抗原を標的とするタンパク質を含む。そのような多重特異性抗体を使用することによって、特定のクラスのエフェクター細胞を癌細胞と係合させ、それによって例えばエフェクター細胞による癌細胞の死滅を誘導することができる。一実施形態では、当該結合領域の1つが癌抗原に結合する、本発明による二重特異性抗体が提供される。別の実施形態では、当該結合領域の1つは、エフェクター細胞、例えばT細胞、NK細胞、マクロファージ、樹状細胞呼び出し、単球又は好中球に結合する。更に別の実施形態では、当該結合領域の一方がエフェクター細胞、例えばT細胞又はNK細胞に結合し、他方の結合領域が癌抗原に結合する。
【0084】
二重特異性抗体による受容体阻害又はT細胞動員等、エフェクター細胞又は補体への治療用抗体のFc領域のFc結合が不要であるか、又は望ましくない細胞傷害性に寄与し得るので望ましくない適用がある。したがって、ヒトT細胞受容体に対する1つの結合領域と結合する二重特異性抗体は、ヒト細胞傷害性T細胞を有利に動員することができる。したがって、ヒトCD3に対する1つの結合領域と結合し、細胞傷害性T細胞を動員することができる、本明細書中の二重特異性抗体が提供される。活性化IgG Fc領域を有する二重特異性抗体を含むCD3抗体は、FcγR発現細胞による架橋、FcγR発現細胞の不適切な活性化及びその後のサイトカインストーム及び関連する毒性作用、又は血小板凝集を介して、腫瘍細胞の非存在下で望ましくないアゴニズムを誘導することができる。したがって、非活性化Fc領域を有するCD3二重特異性抗体は、潜在的な望ましくない細胞活性化を防止するのに有利である。
【0085】
したがって、1つの実施形態では、第1及び第2の結合領域のうちの少なくとも1つは、CD3に結合する、すなわち、CD3に結合することができる。特定の実施形態では、当該第1の結合領域はCD3に結合し、当該第2の結合領域は任意の他の目的の標的に結合する、すなわち結合することができる。そのような他の標的は、癌抗原であり得る。そのような他の標的は、腫瘍特異的標的又は癌特異的標的であり得る。好ましくは、本発明による当該タンパク質は二重特異性抗体である。当該タンパク質二重特異性抗体は、好ましくは、CD3に結合することができる第1の結合領域と、癌特異的標的に結合することができる第2の結合領域とを有する。
【0086】
単一特異性、二重特異性又は多重特異性抗体を含む抗体は、本発明によるヒトIgG1抗体のヒンジ領域、CH2及びCH3領域を含むFc領域等を含み得ることが理解される。抗体フォーマット、例えば、とりわけ、以下では、そのようなIgG1Fc領域を含まないであろうが、そのような抗体は、例えば、そのような抗体のFc領域を、本発明に従ってFERを含むヒンジ領域、CH2及びCH3領域で置き換えることによって、又は、そのような抗体がFc領域を含まない場合には、例えば、融合及び/又はコンジュゲーションによって、そのような抗体をそれと共に提供することによって、それと共に提供され得る。したがって、抗体が本発明によるヒトIgG1抗体のヒンジ領域、CH2及びCH3領域を含む限り、任意の抗体フォーマットが本発明に従って企図され得る。
【0087】
本発明において使用され得る二重特異性抗体分子の例には、(i)異なる抗原結合領域を含む2つのアームを有する単一抗体、(ii)例えば、余分なペプチドリンカーによってタンデムに連結された2つのscFvを介して、2つの異なるエピトープに対する特異性を有する単鎖抗体;(iii)各軽鎖及び重鎖が短いペプチド連結を介してタンデムに2つの可変ドメインを含有する、二重可変ドメイン抗体(DVD-Ig)(Wu et al.,Generation and Characterization of a Dual Variable Domain Immunoglobulin(DVD-Ig(商標))Molecule,In:Antibody Engineering,Springer Berlin Heidelberg(2010));(iv)化学結合二重特異性(Fab’)2断片;(v)標的抗原の各々に対して2つの結合部位を有する四価二重特異性抗体をもたらす2つの一本鎖ダイアボディの融合物であるTandab;(vi)多価分子をもたらすscFvとダイアボディとの組み合わせである屈曲体;(vii)Fabに適用されると、異なるFab断片に連結された2つの同一のFab断片からなる三価二重特異性結合タンパク質を生じ得る、プロテインキナーゼAの「二量体化及びドッキングドメイン」に基づく、いわゆる「ドック及びロック」分子;(viii)例えば、ヒトFabアームの両末端に融合した2つのscFvを含む、いわゆるScorpion分子;並びに(ix)ダイアボディを含む。
【0088】
一実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、本発明に記載されるような制御されたFabアーム交換(例えば、国際公開第11/131746号に記載されるような)を介して得られるダイアボディ、クロスボディ又は二重特異性抗体である。
【0089】
異なるクラスの二重特異性抗体の例としては、限定されないが、(i)ヘテロ二量体化を強制する、相補的なCH3ドメインを有するIgG様分子;(ii)分子の両面がそれぞれ、少なくとも2つの異なる抗体のFab断片又はFab断片の一部を含有する、組換えIgG様二重標的化分子;(iii)完全長IgG抗体が余分なFab断片又はFab断片の一部に融合されているIgG融合分子;(iv)一本鎖Fv分子又は安定化ダイアボディが重鎖定常ドメイン、Fc領域又はその一部に融合されている、Fc融合分子;(v)異なるFab断片が一緒に融合され、重鎖定常ドメイン、Fc領域又はその一部に融合されたFab融合分子;(vi)異なる一本鎖Fv分子若しくは異なるダイアボディ又は異なる重鎖抗体(例えば、ドメイン抗体、ナノボディ)が互いに、又は重鎖定常ドメイン、Fc領域若しくはその一部に融合した別のタンパク質若しくは担体分子に融合したScFv及びダイアボディ系及び重鎖抗体(例えば、ドメイン抗体、ナノボディ)が挙げられる。
【0090】
相補的CH3ドメイン分子を有する二重特異性IgG様分子等の例としては、トリオーマブ/クアドロマ(Trion Pharma/Fresenius Biotech;Roche、国際公開第2011069104号)、Knobs-into-Holes(Genentech、国際公開第9850431号)、交差MAb(Roche、国際公開第2011117329号)及び静電気的に一致した(Amgen、欧州特許第1870459号及び国際公開第2009089004号;Chugai、米国特許出願公開第201000155133号明細書;Oncomed、国際公開第2010129304号)、LUZ-Y(Genentech)、DIGボディ及びPIGボディ(Pharmabcine)、鎖交換操作ドメインボディ(SEEDbody)(EMD Serono、国際公開第2007110205号)、Biclonics(Merus)、FcΔAdp(Regeneron、国際公開第201015792号)、二重特異性IgG1及びIgG2(Pfizer/Rinat、国際公開第11143545号)、アジメトリックスキャフォールド(Zymeworks/Merck、国際公開第2012058768号)、mAb-Fv(Xencor、国際公開第2011028952号)、二価二重特異性抗体(Roche)及びDuoBody(Genmab A/S、国際公開第2011131746号)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
組換えIgG様二重標的化分子の例としては、限定されないが、Dual Targeting(DT)-Ig(GSK/Domantis)、Two-in-one Antibody(Genentech)、Cross-linked Mab(Karmanos Cancer Center)、mAb2(F-Star、国際公開第2008003116号)、Zybodies(Zyngenia)、共通軽鎖を用いたアプローチ(Crucell/Merus、米国特許第7,262,028号明細書)、κλBodies(NovImmune)及びCovX-body(CovX/Pfizer)が挙げられる。
【0092】
IgG融合分子の例としては、限定されないが、二重可変ドメイン(DVD)-Ig(Abbott、米国特許第7,612,181号明細書)、二重ドメインダブルヘッド抗体(Unilever;SanofiAventis、国際公開第20100226923号)、IgG様二重特異性(ImClone/Eli Lilly)、Ts2Ab(MedImmune/AZ)及びBsAb(Zymogenetics)、HERCURES(BiogenIdec、米国特許第007951918号)、scFv融合(Novartis)、scFv融合(Changzhou Adam Biotech Inc、中国特許第102250246号)及びTvAb(Roche、国際公開第2012025525号、国際公開第2012025530号)が挙げられる。
【0093】
Fc融合分子の例としては、ScFv/Fc Fusions(Academic Institution)、SCORPION(Emergent BioSolutions/Trubion,Zymogenetics/BMS)、Dual Affinity Retargeting Technology(Fc-DART)(MacroGenics、国際公開第2008157379号、国際公開第2010/080538号)及びDual(ScFv)2-Fab(National Research Center for Antibody Medicine-China)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
Fab融合二重特異性抗体の例としては、F(ab)2(Medarex/AMGEN)、Dual-Action又はBis-Fab(Genentech)、Dock-and-Lock(DNL)(ImmunoMedics)、二価二重特異性(Biotecnol)及びFab-Fv(UCB-Celltech)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
ScFv系、ダイアボディ系及びドメイン抗体の例としては、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)(Micromet、タンデムダイアボディ(Tandab)(Affimed)、二重親和性リターゲティング技術(DART)(MacroGenics)、単鎖ダイアボディ(Academic)、TCR様抗体(AIT,ReceptorLogics)、ヒト血清アルブミンScFv融合(Merrimack)及びCOMBODY(Epigen Biotech)、二重標的化ナノボディ(Ablynx)、二重標的化重鎖のみのドメイン抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
更なる実施形態では、本発明による二重特異性抗体が提供され、当該第1及び第2のポリペプチドは、当該第1及び第2のポリペプチド由来のそれぞれのCH2及びCH3領域の配列が異なるように、当該それぞれのCH2及びCH3領域に更なる置換を含み、当該置換は、当該第1及び第2のポリペプチドを含む当該ポリペプチドを得ることを可能にする。特定の実施形態では、当該第1のポリペプチドにおいて、ヒトIgG1重鎖のT366、L368、K370、D399、F405、Y407及びK409からなる群から選択される位置に対応する位置のアミノ酸の少なくとも一つが置換されており、当該第2のポリペプチドにおいて、ヒトIgG1重鎖中のT366、L368、K370、D399、F405、Y407及びK409からなる群から選択される位置に対応する位置のアミノ酸の少なくとも一つが置換されており、当該第1及び当該第2のポリペプチドの当該置換は同じ位置にはない。これに関連して、「置換された」という用語は、別のタイプのアミノ酸で置換された特定のアミノ酸位置のアミノ酸を指す。したがって、ヒトIgG1重鎖の位置に対応する位置の「置換」アミノ酸は、特定の位置のアミノ酸がIgG1重鎖のその位置の天然に存在するアミノ酸とは異なることを意味する。
【0097】
更に、本発明による二重特異性抗体が提供され、当該第1のポリペプチドにおいて、ヒトIgG1重鎖のT366、L368、K370、D399、F405、Y407及びK409からなる群から選択される位置に対応する位置のアミノ酸の少なくとも一つが置換されており、当該第2のポリペプチドにおいて、ヒトIgG1重鎖中のT366、L368、K370、D399、F405、Y407及びK409からなる群から選択される位置に対応する位置のアミノ酸の少なくとも一つが置換されており、当該第1及び当該第2のポリペプチドの当該置換は同じ位置にはない。
【0098】
更なる実施形態では、ヒトIgG1重鎖のF405に対応する位置のアミノ酸は、当該第1のポリペプチド中のLであり、ヒトIgG1重鎖のK409に対応する位置のアミノ酸は、当該第2のポリペプチド中のRであり、又はその逆も同様である。
【0099】
別の実施形態では、本発明による二重特異性抗体が提供され、F405に対応する位置のアミノ酸は当該第1のポリペプチドにおいてLであり、K409に対応する位置のアミノ酸は当該第2のポリペプチドにおいてRであり、又はその逆も同様である。別の実施形態では、本発明による二重特異性抗体が提供され、ここで、当該第1のポリペプチドにおいて、F405及びK409に対応する位置のアミノ酸はそれぞれL及びKであり、当該第2のポリペプチドにおいて、F405及びK409に対応する位置のアミノ酸はそれぞれF及びRであり、又はその逆も同様である。
【0100】
更に別の実施形態では、本発明による二重特異性抗体が提供され、ここで、当該二重特異性抗体は、当該第1及び第2のポリペプチドの両方において、L234、L235及びG236位のアミノ酸のF、E及びRによる置換、並びにF405位のアミノ酸の当該第1のポリペプチドにおけるL及びK409における当該第2のポリペプチドにおけるRによる置換を含む修飾を有し、又はその逆も同様である。
【0101】
一実施形態では、本発明による二重特異性抗体が提供され、ここで、当該二重特異性抗体は、当該第1及び第2のポリペプチドの一方において、L234、L235及びG236位のアミノ酸のF、E及びRによる置換、並びにF405位のアミノ酸の当該第1のポリペプチドにおけるL及びK409における当該第2のポリペプチドにおけるRによる置換を含む修飾を有し、又はその逆も同様である。
【0102】
更に別の実施形態では、本発明による二重特異性抗体が提供され、ここで、当該二重特異性抗体は、当該第1及び第2のポリペプチドにおいて、第1の第2のポリペプチドにおける位置L234、L235及びG236のアミノ酸のF、E及びRによる置換、並びに当該第2のポリペプチドにおける位置L234、L235及びD265のアミノ酸のF、E及びAによる置換、並びに当該第1のポリペプチドにおける位置F405のアミノ酸のLによる置換、並びに当該第2のポリペプチドにおけるK409のRによる置換を含む修飾を有する。
【0103】
なお別の実施形態では、本発明による二重特異性抗体が提供され、ここで、当該二重特異性抗体は、当該第1及び第2のポリペプチドにおいて、第1の第2のポリペプチドにおける位置L234、L235及びG236のアミノ酸のF、E及びRによる置換、並びに当該第2のポリペプチドにおける位置L234、L235及びD265のアミノ酸のF、E及びAによる置換、並びに当該第2のポリペプチドにおける位置F405のアミノ酸のLによる置換、並びに当該第1のポリペプチドにおけるK409のRによる置換を含む修飾を有する。
【0104】
更に別の実施形態では、本発明による二重特異性抗体が提供され、ここで、当該二重特異性抗体は、当該第1及び第2のポリペプチドの両方において、L234、L235及びG236位のアミノ酸のF、E及びRによる置換、並びにF405位のアミノ酸の当該第1のポリペプチドにおけるL及びK409における当該第2のポリペプチドにおけるRによる置換を含む修飾を有し、又はその逆も同様である。
【0105】
一実施形態では、本発明による二重特異性抗体が提供され、ここで、当該二重特異性抗体は、当該第1及び第2のポリペプチドの一方において、L234、L235及びG236位のアミノ酸のF、E及びRによる置換、並びにF405位のアミノ酸の当該第1のポリペプチドにおけるL及びK409における当該第2のポリペプチドにおけるRによる置換を含む修飾を有し、又はその逆も同様である。
【0106】
更に別の実施形態では、本発明による二重特異性抗体が提供され、ここで、当該二重特異性抗体は、当該第1及び第2のポリペプチドにおいて、第1の第2のポリペプチドにおける位置L234、L235及びG236のアミノ酸のF、E及びRによる置換、並びに当該第2のポリペプチドにおける位置L234、L235及びD265のアミノ酸のF、E及びAによる置換、並びに当該第1のポリペプチドにおける位置F405のアミノ酸のLによる置換、並びに当該第2のポリペプチドにおけるK409のRによる置換を含む修飾を有する。
【0107】
なお別の実施形態では、本発明による二重特異性抗体が提供され、ここで、当該二重特異性抗体は、当該第1及び第2のポリペプチドにおいて、第1の第2のポリペプチドにおける位置L234、L235及びG236のアミノ酸のF、E及びRによる置換、並びに当該第2のポリペプチドにおける位置L234、L235及びD265のアミノ酸のF、E及びAによる置換、並びに当該第2のポリペプチドにおける位置F405のアミノ酸のLによる置換、並びに当該第1のポリペプチドにおけるK409のRによる置換を含む修飾を有する。
【0108】
本発明による当該タンパク質は、配列番号1で定義されるヒトIgG1のヒンジ、CH2及びCH3領域に基づくことができる。ヒトIgG1の当該ヒンジ、CH2及びCH3領域は、アロタイプIgG1m(f)に対応する。もちろん、IgG1免疫グロブリンクラス内の任意の他のヒトIgG1アロタイプ(例えば、IgG1m(za)、IgG1m(zax)、IgG1m(zav)又はIgG1m(fa);とりわけVidarsson et al.,2014,Front.Immunol.,20 Octを参照、及びIMGTデータベース(www.imgt.org)に提供されているように)が企図され得、等しく適している。
【0109】
Fc領域は、そのC末端にリジンを有し得る。このリジンの起源は、これらのFc領域が由来するヒトに見られる天然に存在する配列である。組換え抗体の細胞培養生産中、この末端リジンは、(1又は複数の)内因性カルボキシペプチダーゼによるタンパク質分解によって切断され、同じ配列を有するがC末端リジンを欠く定常領域をもたらすことができる。抗体の製造目的のために、この末端リジンをコードするDNAは、リジンなしで抗体が産生されるように配列から省くことができる。例えば、CHOベースの産生系で産生された抗体を使用する場合、末端リジンのプロセシングの程度が典型的には高いため、末端リジンをコードするか、又はコードしない核酸配列から産生された抗体は、配列及び機能が実質的に同一である(Dick,L.W.et al.Biotechnol.Bioeng.2008;100:1132-1143)。本明細書中に列挙される定常領域配列は、末端リジン(K)(とりわけ配列番号1を参照されたい)を列挙し、末端リジン(K)をコードする配列を本明細書中の実施例の節で使用した。したがって、抗体等の本発明によるタンパク質は、本明細書において配列番号1~3、5及び9~14に列挙されるような末端リジンをコード又は有することなく生成することができることが理解される。
【0110】
したがって、本発明によるタンパク質、又は本発明による二重特異性抗体は、配列番号1に従って本明細書で定義されるアミノ酸配列を含む第1及び第2のポリペプチドを含み得、当該第1及び第2のタンパク質は、本明細書で定義されるアミノ酸置換を有する。本発明によるタンパク質、又は本発明による二重特異性抗体であって、当該第1及び第2のポリペプチドが、好ましくは配列番号1によるアミノ酸配列を含み、当該第1及び第2のポリペプチドに含まれる当該アミノ酸配列が、本明細書で定義されるアミノ酸置換を有する、タンパク質又は二重特異性抗体。更に、本明細書で定義される置換を有する、配列番号1によって定義される当該アミノ酸配列は、末端リジンを含まなくてもよい。
【0111】
したがって、本発明による全長抗体であり得るタンパク質、又は単一特異性若しくは二重特異性抗体は、配列番号2で定義されるアミノ酸配列を含み得る。本発明によるタンパク質は、L234、L235及びG236のF、E及びRによる当該置換をヒンジ、CH2及びCH3領域配列内に含むことに加えて、その中に更なる置換を含み得る。好ましくは、更なる置換の数は、ヒトIgG1免疫グロブリン重鎖のヒンジ、CH2及びCH3領域内の最大5個の更なる置換の範囲内である。したがって、一実施形態では、配列番号2で定義される配列を含むタンパク質は、配列番号2で定義される当該配列中に更なる置換を含み、更なる置換の数は最大5個の置換からなる。別の実施形態では、配列番号2で定義される配列を含み、配列番号2で定義される当該配列中に更なる置換を含み、更なる置換の数が最大10個の置換からなる、本発明によるタンパク質が提供される。別の実施形態では、本発明によるタンパク質は、配列番号1で定義された配列、又は別のアロタイプのヒトIgG1の対応する配列を含み得、そのヒンジ、CH2及びCH3領域配列内で、L234、L235及びG236のF、E及びRによる当該置換が提供され得、置換も更に含み得、例えば最大5個の更なる置換を含み得る。本明細書で定義されるR/L置換を有する等、更なる置換を有するのに非常に適した更なる置換を有する配列番号2で定義されるポリペプチドを含むようなタンパク質の例は、配列番号11及び12で定義されるアミノ酸配列で定義される通りである。更に、本明細書で定義される任意の更なる置換を有する、配列番号2、又は11及び12によって定義される当該アミノ酸配列は、末端リジンが欠失していてもよい。
【0112】
更に、本明細書で定義される抗体又は全長抗体であり得る本発明によるタンパク質が提供され、第1及び第2のポリペプチドの両方が、配列番号2、11、又は12で定義されるアミノ酸配列を含む。
【0113】
別の実施形態では、本明細書で定義される二重特異性抗体であり得るタンパク質が提供され、第1及び第2のポリペプチドは、それぞれ配列番号2及び3で定義されるアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、本明細書で定義される二重特異性抗体であり得るタンパク質が提供され、第1及び第2のポリペプチドは、それぞれ配列番号11及び12、又は11及び14、又は12及び13で定義されるアミノ酸配列を含む。そのようなポリペプチドは、ヒンジ領域に隣接するCH1領域、例えば配列番号4によって定義されるヒトCH1領域を含み得る。
【0114】
更なる実施形態では、本発明に従って提供されるタンパク質、又は単一特異性若しくは二重特異性抗体は、配列番号2で定義された配列と少なくとも85%の配列同一性、例えば少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも97%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性を有するか、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、Euナンバリングによって定義された234、235及び236に対応する位置のアミノ酸残基は、それぞれF、E及びRである。
【0115】
更なる実施形態では、本発明に従って提供されるタンパク質、又は単一特異性若しくは二重特異性抗体は、配列番号11に定義される配列と少なくとも85%の配列同一性、例えば少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも97%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性を有するか、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、234、235及び236に対応する位置のアミノ酸残基はそれぞれF、E及びRであり、405に対応する位置のアミノ酸残基はLであり、アミノ酸番号はEuナンバリングによって定義される通りである。
【0116】
更なる実施形態では、本発明に従って提供されるタンパク質、又は単一特異性若しくは二重特異性抗体は、配列番号12に定義される配列と少なくとも85%の配列同一性、例えば少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも97%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性を有するか、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、234、235及び236に対応する位置のアミノ酸残基はそれぞれF、E及びRであり、409に対応する位置のアミノ酸残基はRであり、アミノ酸番号はEuナンバリングによって定義される通りである。
【0117】
いくつかの実施形態では、本発明に従って提供されるタンパク質又は二重特異性抗体は、第1及び第2のポリペプチドを含み、ここで、
当該第1のポリペプチドは、配列番号2で定義された配列と少なくとも85%の配列同一性、例えば少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも97%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性を有するか、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、234、235及び236に対応する位置のアミノ酸残基は、それぞれF、E及びRであり、
及び
当該第2のポリペプチドは、配列番号3で定義された配列と少なくとも85%の配列同一性、例えば、少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも97%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性を有するか、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、234、235及び265に対応する位置のアミノ酸残基は、それぞれF、E及びAであり、
アミノ酸番号はEuナンバリングによって定義される通りである。
【0118】
なお更なる実施形態では、本発明に従って提供されるタンパク質又は二重特異性抗体は、第1及び第2のポリペプチドを含み、ここで、
当該第1のポリペプチドは、配列番号11で定義される配列と少なくとも85%の配列同一性、例えば少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも97%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性を有するか、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、234、235及び236に対応する位置のアミノ酸残基はそれぞれF、E及びRであり、405に対応する位置のアミノ酸残基はLであり、
及び
当該第2のポリペプチドは、配列番号12で定義される配列と少なくとも85%の配列同一性、例えば少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも97%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性を有するか、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、234、235及び236に対応する位置のアミノ酸残基はそれぞれF、E及びRであり、409に対応する位置のアミノ酸残基はRであり、
アミノ酸番号はEuナンバリングによって定義される通りである。
【0119】
なお更なる実施形態では、本発明に従って提供されるタンパク質又は二重特異性抗体は、第1及び第2のポリペプチドを含み、ここで、
当該第1のポリペプチドは、配列番号12で定義される配列と少なくとも85%の配列同一性、例えば少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも97%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性を有するか、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、234、235及び236に対応する位置のアミノ酸残基はそれぞれF、E及びRであり、409に対応する位置のアミノ酸残基はRであり、
及び
当該第2のポリペプチドは、配列番号13で定義される配列と少なくとも85%の配列同一性、例えば少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも97%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性を有するか、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、234、235及び236に対応する位置のアミノ酸残基はそれぞれF、E及びAであり、405に対応する位置のアミノ酸残基はLであり、
アミノ酸番号はEuナンバリングによって定義される通りである。
【0120】
なお更なる実施形態では、本発明に従って提供されるタンパク質又は二重特異性抗体は、第1及び第2のポリペプチドを含み、ここで、
当該第1のポリペプチドは、配列番号11で定義される配列と少なくとも85%の配列同一性、例えば少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも97%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性を有するか、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、234、235及び236に対応する位置のアミノ酸残基はそれぞれF、E及びRであり、405に対応する位置のアミノ酸残基はLであり、
及び
当該第2のポリペプチドは、配列番号14で定義される配列と少なくとも85%の配列同一性、例えば少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも97%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性を有するか、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、234、235及び265に対応する位置のアミノ酸残基はそれぞれF、E及びAであり、409に対応する位置のアミノ酸残基はRであり、
アミノ酸番号はEuナンバリングによって定義される通りである。
【0121】
本明細書において配列番号2として特定される配列は、L234、L235及びG236がF、E及びRで置換されたヒトIgG1アロタイプG1m(f)のヒンジ、CH2及びCH3領域を含む。L234、L235及びG236のF、E及びRによる当該置換をヒンジ内で行ったヒトIgG1の他のアロタイプの定常領域(それぞれCH1領域を含む)の対応する配列、そのCH2及びCH3領域配列は、配列番号27(FER置換を有するヒトIgG1アロタイプG1m(fa)のCH1、ヒンジ、CH2及びCH3領域)、配列番号29(FER置換を有するヒトIgG1アロタイプG1m(za)のCH1、ヒンジ、CH2及びCH3領域)、配列番号31(FER置換を有するヒトIgG1アロタイプG1m(zav)のCH1、ヒンジ、CH2及びCH3領域)、配列番号33(FER置換を有するヒトIgG1アロタイプG1m(zax)のCH1、ヒンジ、CH2及びCH3領域)として提供される。別の実施形態では、本明細書で定義される当該第1又は第2のポリペプチドをコードする核酸が提供され、当該第1及び第2のポリペプチドの両方は、アミノ酸L234、L235及びG236に対応するアミノ酸の当該置換を含み、最も好ましくは、位置L234、L235及びG236の当該置換は、それぞれF、E及びRである。別の更なる実施形態では、本明細書で定義される当該第1又は第2のポリペプチドをコードする核酸が提供され、当該第1又は第2のポリペプチドは、アミノ酸L234、L235及びG236に対応するアミノ酸の当該置換を含み、好ましくは、位置L234、L235及びG236の当該置換は、それぞれF、E及びRである。
【0122】
一実施形態では、第1又は第2のポリペプチドをコードする核酸が提供され、当該第1又は第2のポリペプチドは、配列番号2、11、又は12によって定義されるアミノ酸配列を含む。そのような核酸は、ヒンジ領域に隣接するCH1領域、例えば配列番号4によって定義されるCH1領域を含むポリペプチドを更にコードし得る。好ましくは、当該核酸は免疫グロブリン重鎖をコードする。最も好ましくは、ヒト免疫グロブリン可変領域又はヒト化免疫グロブリン可変領域を含むそのような免疫グロブリン重鎖。第1又は第2のポリペプチドをコードするそのような核酸は、コード配列から末端リジンが欠失していてもよい。これらの核酸は、免疫グロブリン軽鎖をコードする核酸等と組み合わせてもよい。
【0123】
一実施形態では、非活性化Fc領域を有する本発明によるタンパク質を産生するための構築物を提供する方法であり、当該タンパク質は、配列番号1に定義されるようなヒンジ領域、CH2及びCH3領域等を含むFc領域を有する第1及び第2のポリペプチドを含み、当該方法は、
a)ヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域を含む第1及び/又は第2のポリペプチド配列をコードする核酸配列を含む、第1及び/又は第2のポリペプチドの発現のための1又は複数の構築物を提供する工程と、
b)ヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域においてアミノ酸L234、L235及びG236に対応するアミノ酸をコードする当該核酸配列を、これらがそれぞれF、E及びRをコードするように修飾する工程と、
c)それにより、非活性化Fc領域を有するタンパク質を産生するための1又は複数の構築物を提供する工程と、
を含む。
【0124】
別の実施形態では、非活性化Fc領域を有するタンパク質を産生するための構築物を提供する方法であり、当該タンパク質は、配列番号1に定義されるもの等のヒンジ領域、CH2及びCH3領域を含むFc領域を有する第1及び第2のポリペプチドを含み、当該方法は、
a)配列番号1に定義されるもの等のヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域をコードする核酸配列を提供する工程と、
b)ヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域においてアミノ酸L234、L235及びG236に対応するアミノ酸をコードする当該核酸配列を、これらがそれぞれF、E及びRをコードするように修飾する工程と、
c)本発明によるタンパク質の第1及び/又は第2のポリペプチドの発現のための工程b)で得られた修飾配列を使用して構築物を作製する工程であって、ヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域を含み、ヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域内のアミノ酸L234、L235及びG236がそれぞれF、E及びRをコードするように修飾されている、当該第1及び/又は第2のポリペプチドをコードする核酸配列を含み、それにより、非活性化Fc領域を有する本発明によるタンパク質を産生するための構築物を提供する、工程と、
を含む。
【0125】
更なる実施形態では、非活性化Fc領域を有する抗体を産生するための構築物を提供する方法が提供され、当該抗体が、配列番号1に定義されるヒンジ領域、CH2及びCH3領域等を含むFc領域を有する重鎖を含み、当該方法は、
a)ヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域を含む抗体の重鎖配列をコードする核酸配列を含む抗体の重鎖の発現のための構築物を提供する工程と、
b)ヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域のアミノ酸L234、L235及びG236に対応するアミノ酸をコードする当該核酸配列を、これらがそれぞれF、E及びRをコードするように修飾する工程と、
c)それにより、非活性化Fc領域を有する抗体を産生するための構築物を提供する工程と、
を含む。
【0126】
なお他の実施形態では、非活性化Fc領域を有する抗体を産生するための構築物を提供する方法が提供され、当該抗体が、配列番号1に定義されるヒンジ領域、CH2及びCH3領域等を含むFc領域を有する重鎖を含み、当該方法は、
a)配列番号1に定義されるようなヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域をコードする核酸配列を提供する工程と、
b)ヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域のアミノ酸L234、L235及びG236に対応するアミノ酸をコードする当該核酸配列を、これらがそれぞれF、E及びRをコードするように修飾する工程と、
c)ヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域を含む抗体の重鎖配列をコードする核酸配列を含む抗体の重鎖の発現のために工程b)で得られた修飾配列を使用して構築物を作製する工程であって、前記ヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域は、それぞれF、E及びRをコードするように修飾されたアミノ酸L234、L235及びG236を有し、それにより、非活性化Fc領域を有する抗体を作製するための構築物を提供する工程と、
を含む。
【0127】
上記の構築物を提供する方法では、ヒンジ領域、CH2及びCH3領域を含むFc領域を有するポリペプチド又は重鎖は、本発明に従って本明細書で定義されるような、ヒンジ領域、CH2及びCH3領域を含む任意のそのようなFc領域であり得ることが理解される。そのような方法は、FER置換を導入することによって抗体の安全性プロファイルを改善するため、又はFc媒介性エフェクター機能を抑制するために特に有用である。そのような方法は、当該FER置換を導入することによって、タンパク質、抗体等の安全性プロファイルを改善するために有用である。そのような方法はまた、FER置換を導入することによって、タンパク質又は抗体等のFc媒介性エフェクター機能を抑制するのに有用である。そのような方法は、FER置換を導入することによって、安全性プロファイルを改善し、タンパク質、抗体等のFc媒介性エフェクター機能を抑制するのに特に有用である。当該方法により、本発明に従って、ヒンジ領域、CH2及びCH3領域を含むFc領域を有するタンパク質を得るための核酸を提供することができる。
【0128】
そのような核酸は、本発明によるタンパク質、例えば、本明細書で定義される本発明による第1及び第2のポリペプチドを含む重鎖及び軽鎖を含む抗体を産生するのに特に有用である。そのような抗体は、単一特異性抗体又は二重特異性抗体であり得る。したがって、別の態様では、例えば抗体の配列をコードする発現ベクターに使用するための、本発明による当該第1又は第2のポリペプチドをコードする核酸が提供される。したがって、抗体を産生し得るハイブリドーマを含むそのような発現ベクターを含む宿主細胞、及びそのような宿主細胞又はハイブリドーマを適切な条件下で培養することによってそのような抗体を産生し、それによって抗体等の本発明によるタンパク質が産生され、回収されていてもよい、方法が提供される。
【0129】
したがって、宿主細胞は、本発明に従って核酸を提供され得、当該核酸は、例えば、実施例の節等に記載されるような発現ベクターに組み込まれる。本発明の文脈における発現ベクターは、染色体、非染色体及び合成核酸ベクター(適切な発現制御エレメントのセットを含む核酸配列)を含む任意の適切なベクターであり得る。そのようなベクターの例としては、SV40の誘導体、細菌プラスミド、ファージDNA、バキュロウイルス、酵母プラスミド、プラスミドとファージDNAとの組み合わせに由来するベクター、及びウイルス又は非ウイルス核酸(RNA又はDNA)ベクターが挙げられる。一実施形態では、抗体コード核酸は、例えば、線状発現エレメント(例えばSykes and Johnston,Nat Biotech 17,355-59(1997)に記載されているように)、圧縮核酸ベクター(例えば、米国特許第6,077,835号及び/又は国際公開第00/70087号に記載されているように)、pcDNA3.3(本明細書に記載)、pBR322、pUC19/18、若しくはpUC118/119等のプラスミドベクター、「中間部」最小サイズの核酸ベクター(例えばSchakowski et al.,Mol Ther 3,793-800(2001)に記載されているように)を含む裸のDNA若しくはRNAベクターに、又はCaPO4
-沈殿構築物(例えばWO00/46147,Benvenisty and Reshef,PNAS USA 83,9551-55(1986),Wigler et al.,Cell 14,725(1978),and Coraro and Pearson,Somatic Cell Genetics 7,603(1981)に記載されているように)等の沈殿核酸ベクター構築物として含まれる。そのような核酸ベクター及びその使用法は、当技術分野で周知である(例えば、米国特許第5,589,466号明細書及び米国特許第5,973,972号明細書を参照)。
【0130】
一実施形態では、ベクターは細菌細胞における発現に適している。そのようなベクターの例としては、BlueScript(Stratagene)、pINベクター(Van Heeke&Schuster,J Biol Chem 264,5503-5509(1989))、pETベクター(Novagen,Madison WI)等の発現ベクターが挙げられる。発現ベクターはまた、又は代替において、酵母系における発現に適したベクターであり得る。酵母系での発現に適した任意のベクターを使用することができる。適切なベクターとしては、例えば、α因子、アルコールオキシダーゼ及びPGH等の構成的プロモーター又は誘導性プロモーターを含むベクターが挙げられる(F.Ausubel et al.,ed.Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing and Wiley InterScience New York(1987),and Grant et al.,Methods in Enzymol 153,516-544(1987)に概説される)。
【0131】
核酸及び/又はベクターはまた、新生ポリペプチド鎖等のポリペプチドをペリプラズム空間又は細胞培養培地に標的化することができる分泌/局在化配列をコードする核酸配列を含み得る。そのような配列は当技術分野で公知であり、分泌リーダー又はシグナルペプチド、オルガネラ標的化配列(例えば、核局在化配列、ER保持シグナル、ミトコンドリア移行配列、葉緑体移行配列)、膜局在化/アンカー配列(例えば、転送配列の停止、GPIアンカー配列)等を含む。
【0132】
本発明の発現ベクターにおいて、本発明による核酸は、任意の適切なプロモーター、エンハンサー、及び他の発現促進エレメントを含むか、又はそれらと会合し得る。そのような要素の例としては、強力な発現プロモーター(例えば、ヒトCMV IEプロモーター/エンハンサー並びにRSV、SV40、SL3-3、MMTV及びHIV LTRプロモーター)、有効なポリ(A)終結配列、E.コリ(E.coli)におけるプラスミド産物の複製起点、選択マーカーとしての抗生物質耐性遺伝子、及び/又は簡便なクローニング部位(例えば、ポリリンカー)が挙げられる。核酸はまた、CMV IE等の構成的プロモーターとは対照的に、誘導性プロモーターを含み得る(当業者は、そのような用語が特定の条件下での遺伝子発現の程度の実際の記述子であることを認識するであろう)。
【0133】
したがって、本発明による抗体をコードする核酸配列を含む宿主細胞が提供され、当該抗体は、それぞれヒトIgG1免疫グロブリン重鎖の少なくともヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖であって、それぞれ位置L234、L235及びG236のアミノ酸のF、E及びRでの置換を含む免疫グロブリン重鎖と、免疫グロブリン軽鎖とを含む。そのような宿主細胞は、本明細書に記載されるような、当該第1及び第2のポリペプチドを含む2つの同一の重鎖と2つの同一の軽鎖とを有する単一特異性抗体の製造に特に有用であり得る。特に、重鎖の配列が異なり、アームの交換を可能にするそのような抗体のうちの2つが提供される場合、例えば、実施例の節において記載されるように、そのような2つの抗体は、二重特異性抗体の調製のために非常に有利に使用され得る。
【0134】
上記のように、二重特異性抗体の第1及び第2のポリペプチドの両方が、位置L234、L235及びG236においてF、E及びRで同じ置換を有することは必要とされない場合がある。例えば、異なる置換を有していてもよい。これにより、二重特異性抗体が新しい製品として生成及び/又は開発され得る抗体の異なる組み合わせをスクリーニングするために、必ずしも毎回新しい構築物及び/又は細胞株を作成する必要はなく、それにより、かなりの時間及び労力が節約されるため、例えば二重特異性抗体の便利な製造が可能になる。
【0135】
したがって、1つの実施形態では、本発明による二重特異性抗体を調製する方法が提供され、方法は、
a)
a.位置L234、L235及びG236におけるアミノ酸の、それぞれF、E及びRによる置換を含む、ヒトIgG1免疫グロブリン重鎖のそれぞれ少なくともヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖と、
b.免疫グロブリン軽鎖と、
を含む、第1の抗体を提供することと、
b)
a.ヒトIgG1免疫グロブリン重鎖のそれぞれ少なくともヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖であって、
-位置L234、L235、及びD265におけるアミノ酸の置換であって、好ましくは当該置換はそれぞれF、E、及びAである、アミノ酸の置換
又は、
-位置L234、L235及びG236のアミノ酸の、それぞれF、E及びRによる置換
を含む、免疫グロブリン重鎖と、
b.免疫グロブリン軽鎖と、
を含む、第2の抗体を提供することと、
c)ここで、当該それぞれの第1及び第2の抗体の当該第1及び第2のCH3領域の配列は異なり、当該第1及び第2のCH3領域間のヘテロ二量体相互作用が当該第1及び第2のCH3領域のホモ二量体相互作用のそれぞれよりも強くなり、
d)ヒンジ領域内のシステインがジスルフィド結合異性化を受けるのを可能にするのに十分な還元条件下で、当該第1の抗体を当該第2の抗体と一緒にインキュベートすることと、
e)当該第1の抗体の当該第1の免疫グロブリン重鎖及び当該第1の免疫グロブリン軽鎖と、当該第2の抗体の当該第2の免疫グロブリン重鎖及び当該第2の免疫グロブリン軽鎖とを含む当該二重特異性抗体を得ることと、
を含む。
【0136】
更なる実施形態では、二重特異性抗体の代わりに、多重特異性抗体を産生することができる。
【0137】
工程a)及びb)で提供される第1及び第2の抗体は、好ましくは単一特異性抗体であることが理解される。より好ましくは、当該単一特異性抗体は完全長抗体である。最も好ましくは、当該抗体は、ヒト又はヒト化可変領域を含み、本明細書で定義される置換を含むヒト定常領域を有する。上記の方法に非常に適した例示的な第1及び第2の抗体は、それぞれ配列番号11及び12、11及び14、又は12及び13で定義されるアミノ酸配列を含む第1及び第2の抗体である。二重特異性抗体を調製するそのような方法は、とりわけ本明細書の実施例に記載されており、(Labrijn et al.,2014,Nature Protocols Oct;9(10):2450-63)にも十分に記載されている。当然のことながら、本明細書に記載されるような他の適切な違いが工程c)において企図され得る。
【0138】
医薬組成物
一態様では、本発明は、本明細書に記載の態様及び実施形態のいずれかで定義される抗体等のタンパク質と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0139】
医薬組成物は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,19th Edition,Gennaro,Ed.,Mack Publishing Co.,Easton,PA,1995に開示されているもの等の従来の技術に従って、薬学的に許容される担体又は希釈剤並びに任意の他の既知のアジュバント及び賦形剤と共に製剤化され得る。
【0140】
薬学的に許容される担体又は希釈剤、並びに任意の他の既知のアジュバント及び賦形剤は、本発明のタンパク質、バリアント又は抗体及び選択された投与様式に適しているべきである。医薬組成物の担体及び他の成分の適合性は、抗原結合に対する本発明の選択された化合物又は医薬組成物(例えば、実質的な衝撃未満(10%以下の相対阻害、5%以下の相対阻害等))の所望の生物学的特性に対する有意な悪影響の欠如に基づいて決定される。
【0141】
本発明の医薬組成物はまた、希釈剤、充填剤、塩、緩衝剤、洗剤(例えば、Tween-20又はTween-80等の非イオン性洗剤)、安定剤(例えば、糖又はタンパク質を含まないアミノ酸)、保存剤、組織固定剤、可溶化剤、及び/又は医薬組成物に含めるのに適した他の材料を含み得る。
【0142】
本発明の医薬組成物中の活性成分の実際の投与量レベルは、患者に有毒になることなく、特定の患者、組成物、及び投与様式に対して所望の治療応答を達成するのに有効な活性成分の量を得るように変化させることができる。選択される投与量レベルは、使用される本発明の特定の組成物又はそのアミドの活性、投与経路、投与時間、使用される特定の化合物の排泄速度、治療期間、使用される特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物及び/又は材料、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、全身健康状態及び以前の病歴、並びに医学分野で周知の同様の因子を含む様々な薬物動態学的因子に依存する。
【0143】
医薬組成物は、任意の適切な経路及び様式によって投与され得る。本発明のタンパク質、バリアント又は抗体をインビボ及びインビトロで投与する適切な経路は、当技術分野で周知であり、当業者によって選択され得る。
【0144】
一実施形態では、本発明の医薬組成物は非経口投与される。
【0145】
本明細書で使用される「非経口投与」及び「非経口的に投与される」という語句は、通常は注射による経腸及び局所投与以外の投与様式を意味し、表皮、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、腱内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、頭蓋内、胸腔内、硬膜外及び胸骨内の注射及び注入を含む。
【0146】
一実施形態では、その医薬組成物は、静脈内又は皮下注射又は注入によって投与される。
【0147】
注射用の医薬組成物は、典型的には、製造及び貯蔵の条件下で無菌かつ安定でなければならない。組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、又は高薬物濃度に適した他の秩序構造として製剤化され得る。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、及びそれらの適切な混合物、オリーブ油等の植物油、及びオレイン酸エチル等の注射可能な有機エステルを含有する水性又は非水性溶媒又は分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングの使用、分散液の場合には必要な粒径の維持、及び界面活性剤の使用によって維持され得る。多くの場合、等張剤、例えば糖、グリセロール、マンニトール、ソルビトール、又は塩化ナトリウム等の多価アルコールを組成物に含めることが好ましい。注射可能な組成物の持続的な吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸塩及びゼラチンを組成物に含めることによってもたらされ得る。滅菌注射溶液は、必要に応じて、例えば上に列挙した成分の1つ又は組み合わせを含む適切な溶媒中に必要量の活性化合物を組み込み、続いて滅菌精密濾過することによって調製され得る。一般に、分散液は、活性化合物を、塩基性分散媒体及び例えば上に列挙したものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。滅菌注射液の調製のための滅菌粉末の場合、調製方法の例は、真空乾燥及び凍結乾燥(凍結乾燥)であり、これにより、活性成分+任意の更なる所望の成分の粉末が、以前に滅菌濾過されたその溶液から得られる。
【0148】
滅菌注射液は、必要量の活性化合物を、必要に応じて上に列挙した成分の1つ又は組合せと共に適切な溶媒に組み込み、続いて滅菌精密濾過することによって調製することができる。一般に、分散液は、活性化合物を、塩基性分散媒体及び上に列挙したものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。滅菌注射液の調製のための滅菌粉末の場合、調製方法の例は、真空乾燥及び凍結乾燥(凍結乾燥)であり、これにより、活性成分+任意の更なる所望の成分の粉末が、以前に滅菌濾過されたその溶液から得られる。
【0149】
治療用途
別の態様では、本発明は、医薬品として使用するための、本明細書に記載の任意の態様又は実施形態で定義されるタンパク質、例えば抗体、又は本発明の医薬組成物に関する。
【0150】
別の態様では、本発明は、疾患の治療に使用するための、本明細書に記載の任意の態様又は実施形態で定義されるタンパク質、例えば抗体、又は本発明の医薬組成物に関する。
【0151】
更なる態様では、疾患の当該治療は、癌、感染性疾患、炎症性疾患、又は自己免疫疾患の治療を含む。別の態様では、本発明は、疾患が癌である使用に関する。そのような使用がヒトにおける使用を含むことが非常に好ましいことが理解される。
【0152】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の任意の態様又は実施形態で定義される本発明のタンパク質、例えば抗体又は医薬組成物をヒト対象に投与することを含む治療方法に関する。
【0153】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の任意の態様又は実施形態で定義される本発明のタンパク質、例えば抗体又は医薬組成物を、疾患に罹患しているヒト対象に投与することを含む治療方法に関する。更なる態様では、当該疾患は、癌、炎症性、感染性疾患又は自己免疫疾患を含む。別の態様では、当該疾患は癌である。
【0154】
本発明のタンパク質、バリアント、抗体又は医薬組成物は、野生型抗体に見られるような抗体IgG1Fc領域の免疫エフェクター機能が望ましくない場合に治療と同様に使用することができる。例えば、タンパク質、バリアント又は抗体は、癌、感染症、炎症性又は自己免疫障害等の障害を治療又は予防するために、培養中の細胞、例えばインビトロ又はエクスビボに、又はヒト対象、例えばインビボに投与され得る。本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、典型的には、タンパク質、バリアント、抗体、又は医薬組成物に応答するヒトである。対象には、例えば、直接的又は間接的に、標的機能を調節することによって、又は細胞の死滅をもたらすことによって修正又は改善され得る障害を有するヒト患者が含まれ得る。
【0155】
別の態様では、本発明は、T細胞の動員が治療又は予防に寄与する、癌等の障害を治療又は予防する方法を提供し、この方法は、治療有効量の本発明のタンパク質、バリアント、抗体又は医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。例えば、本発明によるそのようなタンパク質は、細胞傷害性T細胞、例えばCD3及び癌抗原を標的とする二重特異性抗体と係合することができる。腫瘍特異的標的を過剰発現する細胞は、タンパク質、バリアント又は抗体の2つの結合領域のうちの1つによるT細胞の動員がT細胞の細胞傷害活性を引き起こすことができるので、本発明のそのようなタンパク質、バリアント又は抗体にとって特に良好な標的である。細胞傷害活性の誘発は癌細胞の排除において適切に機能しない可能性があるので、この機構を得ることは通常困難である。
【0156】
別の態様では、本明細書に記載されるような本発明による抗体及び二重特異性抗体を含むタンパク質は、別の分子にコンジュゲートされる。このようなタンパク質は、タンパク質又は抗体若しくはその断片のN末端側又はC末端側に他の分子を化学的に結合させることにより製造することができる(例えば、Antibody Engineering Handbook,edited by Osamu Kanemitsu,published by Chijin Shokan(1994)を参照のこと)。そのようなコンジュゲート化抗体誘導体はまた、必要に応じて、内部残基又は糖におけるコンジュゲーションによって生成され得る。好ましい態様では、本発明による抗体及び二重特異性抗体を含むタンパク質は、治療分子にコンジュゲートされる。適切な治療用分子には、例えば、アプタマー、リボザイム、アンチセンス分子、又はRNAi誘導剤等の核酸が含まれ得る。企図され得る他の治療分子としては、細胞毒、化学療法薬、免疫抑制剤又は放射性同位体が挙げられる。そのようなコンジュゲートは、免疫コンジュゲートと呼ばれ得る。1又は複数の細胞毒素を含む免疫抱合体は、免疫毒素と呼ぶことができる。
【0157】
本発明の免疫抱合体を形成するのに適した治療分子としては、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール及びピューロマイシン、代謝拮抗剤(例えば、メトトレキサート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、フルダラビン、5-フルオロウラシル、デカルバジン、ヒドロキシ尿素、アスパラギナーゼ、ゲムシタビン、クラドリビン)、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオエパ、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、ロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、ダカルバジン(DTIC)、プロカルバジン、マイトマイシンC、シスプラチン及び他の白金誘導体、例えばカルボプラチン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前はアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ダウノルビシン(以前はダウノマイシン)、ドキソルビシン、イダルビシン、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、プリカマイシン、アントラマイシン(AMC))、ジフテリア毒素及び関連分子(例えばジフテリアA鎖及びその活性断片及びハイブリッド分子)、リシン毒素(例えばリシンA又は脱グリコシル化リシンA鎖毒素)、コレラ毒素、志賀様毒素(SLT I、SLT II、SLT IIV)、LT毒素、C3毒素、志賀毒素、百日咳毒素、破傷風毒素、大豆Bowman-Birkプロテアーゼ阻害剤、シュードモナス外毒素、アロリン、サポリン、モデシン、ゼラチン、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ-サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチンタンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolacca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP S)、ツルレイシ(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サボンソウ(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、又はエノマイシン毒素が挙げられ得る。
【0158】
方法は、典型的には、障害を治療又は予防するのに有効な量のタンパク質、バリアント又は抗体を対象に投与することを含む。
【0159】
タンパク質、バリアント又は抗体の効率的な投与量及び投与レジメンは、治療される疾患又は状態に依存し、当業者によって決定され得る。
【0160】
例えば、治療的使用のための「有効量」は、疾患の進行を安定化させるその能力によって測定され得る。癌を阻害する化合物の能力は、例えば、ヒト腫瘍における有効性を予測する動物モデル系において評価され得る。あるいは、組成物のこの特性は、当業者に公知のインビトロアッセイによって、細胞増殖を阻害するか、又は細胞傷害性を誘導するタンパク質、バリアント又は抗体の能力を調べることによって評価され得る。治療化合物、すなわち本発明による治療用タンパク質、バリアント、抗体又は医薬組成物の治療有効量は、対象の腫瘍サイズを減少させるか、そうでなければ症状を改善し得る。
【0161】
一実施形態では、タンパク質、抗体又はバリアントは、維持療法によって、例えば、定義された期間にわたって一定の間隔で、又は疾患進行まで投与され得る。タンパク質、抗体又はバリアントはまた、癌を発症するリスクを低下させるため、癌の進行における事象の発生を遅延させるため、及び/又は癌が寛解状態にあるときに再発のリスクを低下させるために予防的に投与され得る。
【0162】
タンパク質、バリアント、抗体、又は抗体はまた、癌を発症するリスクを低下させるため、癌の進行における事象の発生を遅延させるため、及び/又は癌が寛解状態にあるときに再発のリスクを低下させるために予防的に投与され得る。
【0163】
診断アプリケーション
本発明の非活性化タンパク質はまた、本明細書に記載のタンパク質を含む組成物を使用して、診断目的に有用であり得る。したがって、本発明は、本明細書に記載のタンパク質を使用する診断方法及び組成物を提供する。そのような方法及び組成物は、純粋に診断目的、例えば、疾患の検出又は同定、並びに治療的治療の進行のモニタリング、疾患進行のモニタリング、治療後の状態の評価、疾患の再発のモニタリング、疾患発症のリスクの評価等に使用することができる。本発明に従ってそのようなタンパク質を使用することにより、これは、例えば、診断用途に干渉し得るFc領域によって及ぼされる任意の望ましくない効果を回避することを可能にする。
【0164】
一態様では、本発明のタンパク質は、患者から採取された試料中の細胞表面上の目的の標的又は目的の標的を発現する細胞のレベルを検出することによって、目的の特定の標的を発現し、タンパク質が結合する細胞が疾患を示すか、又は発病に関与する、疾患を診断する等、エクスビボで使用される。これは、例えば、標的へのタンパク質の結合を可能にする条件下で、試験される試料を、場合により対照試料と共に、本発明によるタンパク質と接触させることによって達成され得る。次いで、複合体形成を検出することができる(例えば、ELISAを使用すること)。試験試料と共に対照試料を使用する場合、タンパク質又はタンパク質-標的複合体のレベルは両方の試料で分析され、試験試料中の統計的に有意な高レベルのタンパク質又はタンパク質-標的複合体は、対照試料と比較して試験試料中の標的の高レベルを示す。
【0165】
本発明のタンパク質を使用することができる従来のイムノアッセイの例としては、限定されないが、ELISA、RIA、FACSアッセイ、プラズモン共鳴アッセイ、クロマトグラフィーアッセイ、組織免疫組織化学、ウエスタンブロット及び/又は免疫沈降が挙げられる。
【0166】
一実施形態では、本発明は、試料中の標的又は標的を発現する細胞の存在を検出する方法であって、
-試料中の標的へのタンパク質の結合を可能にする条件下で、試料を本発明のタンパク質と接触させることと、
-複合体が形成されているかどうかを分析することと、
を含む。典型的には、試料は生物学的試料である。
【0167】
一実施形態では、試料は、特定の標的及び/又は標的を発現する細胞を含有することが知られている又は疑われる組織試料である。例えば、標的発現のin situ検出は、患者から組織学的検体を取り出し、そのような検体に本発明のタンパク質を提供することによって達成され得る。タンパク質は、タンパク質を検体に適用することによって、又はタンパク質を検体に重ねることによって提供することができ、次いで、適切な手段を使用して検出される。次いで、標的又は標的発現細胞の存在だけでなく、試験された組織中の標的又は標的発現細胞の分布も決定することが可能である(例えば、癌細胞の広がりを評価することの関連において)。本発明を使用すると、当業者は、そのようなin situ検出を達成するために、多種多様な組織学的方法(染色手順等)のいずれかが変更され得ることを容易に認識するであろう。
【0168】
上記のアッセイでは、タンパク質を検出可能な物質で標識して、結合したタンパク質を検出することができる。あるいは、結合した(一次)特異的タンパク質は、検出可能な物質で標識され、一次特異的タンパク質に結合する抗体によって検出され得る。
【0169】
試料中の標的のレベルは、検出可能な物質及び標識されていない標的特異的タンパク質で標識された標的標準を利用する競合免疫アッセイによって推定することもできる。この種のアッセイでは、生物学的試料、(1又は複数の)標識標的標準及び標的特異的タンパク質を組み合わせ、非標識標的特異的タンパク質に結合した標識標的標準の量を決定する。生体試料中の標的の量は、標的特異的タンパク質に結合した標識標的標準物の量に反比例する。
【0170】
インビトロ診断技術で使用される標的特異的タンパク質、二次抗体及び/又は標的標準に適した標識としては、限定されないが、様々な酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質及び放射性物質が挙げられる。好適な酵素の例としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ及びアセチルコリンエステラーゼが挙げられ;適切な補欠分子族複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンが挙げられ;適切な蛍光材料の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル及びフィコエリトリンが挙げられ;発光材料としては、例えば、ルミノールが挙げられ;適切な放射性物質の例には、125I、131I、35S、及び3Hが挙げられる。
【0171】
一実施形態では、本発明は、本発明の標的特異的タンパク質を検出促進放射線不透過剤にコンジュゲートさせ、コンジュゲートさせたタンパク質を、例えば血流への注射によって宿主に投与し、宿主中の標識タンパク質の存在及び位置をアッセイするインビボイメージング方法を提供する。本明細書で提供されるこの技術及び任意の他の診断方法を通して、本発明は、ヒト患者又はヒト患者から採取された生物学的試料における疾患関連細胞の存在についてスクリーニングするための、及び/又は標的特異的ADC療法の前に標的特異的タンパク質の分布を評価するための方法を提供する。
【0172】
画像診断のために、放射性同位体は、中間官能基を使用することによって直接的又は間接的に標的-特異性タンパク質に結合され得る。有用な中間官能基としては、キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸及びジエチレントリアミン五酢酸が挙げられる(例えば、米国特許第5,057,313号明細書参照)。
【0173】
放射性同位元素及び放射線不透過剤に加えて、診断方法は、磁気共鳴画像法(MRI)(例えば、MRI技術及びMRI増強剤にコンジュゲートされたタンパク質の調製を記載している、米国特許第6,331,175号明細書を参照されたい)のための色素(ビオチン-ストレプトアビジン複合体等)、造影剤、蛍光化合物又は分子及び増強剤(例えば常磁性イオン)にコンジュゲートされた標的特異的タンパク質を使用して実施され得る。そのような診断/検出剤は、MRIで使用するための薬剤及び蛍光化合物から選択することができる。したがって、本発明は、診断標的特異的タンパク質を提供し、標的特異的タンパク質は、例えば、ガンマ、ベータ、アルファ、オージェ電子又は陽電子放出同位体であり得る造影剤(例えば、磁気共鳴画像法、コンピュータ断層撮影法、又は超音波造影剤のために)又は放射性核種にコンジュゲートされる。
【0174】
更なる態様では、本発明は、試料中の標的抗原又は標的を発現する細胞の存在を検出するためのキットであって、
-本発明の標的特異的抗体と、
-キットの使用説明書と、
を含むキットに関する。
【0175】
一実施形態では、本発明は、標的特異的タンパク質を含む容器と、標的への標的特異的タンパク質の結合を検出するための1又は複数の試薬とを含む、癌を診断するためのキットを提供する。試薬は、例えば、蛍光タグ、酵素タグ、又は他の検出可能なタグを含み得る。試薬はまた、酵素反応のための二次又は三次抗体又は試薬を含むことができ、酵素反応は可視化され得る生成物を生成する。一実施形態では、本発明は、標識の性質に応じて、適切な(1又は複数の)容器内の標識形態又は非標識形態の本発明の1又は複数の標的特異的タンパク質、間接的アッセイのためのインキュベーションのための試薬、及びそのようなアッセイにおける検出のための基質又は誘導体化剤を含む診断キットを提供する。(1又は複数の)対照試薬及び使用説明書も含まれ得る。
【0176】
診断キットはまた、組織試料又は宿主中の標的の存在を検出するために、標識された標的特異的タンパク質等の標的特異的タンパク質と共に使用するために供給され得る。そのような診断キットにおいて、同様にまた、本明細書中の他の箇所に記載される治療的使用のためのキットにおいて、標的特異的タンパク質は、典型的には、単独で、又は、標的細胞若しくはペプチドに特異的な更なる抗体と併せて、容器において凍結乾燥形態で提供される場合がある。典型的には、薬学的に許容される担体(例えば、不活性希釈剤)及び/又はその成分、例えば、トリス、ホスファート若しくはカルボナート緩衝液、安定剤、保存剤、殺生物剤、不活性タンパク質、例えば、血清アルブミン等(典型的には、混合のための別個の容器に含まれる)並びに追加の試薬(また典型的には、(1又は複数の)別個の容器において)も含まれる。特定のキットには、典型的には別個の容器に存在する標的特異的タンパク質に結合することができる二次抗体も含まれる。第2の抗体は、典型的には、標識にコンジュゲートされ、本発明の標的特異的タンパク質と同様の様式で製剤化される。上記及び本明細書の他の箇所に記載される方法を使用して、標的特異的タンパク質を使用して、癌/腫瘍細胞のサブセットを定義し、そのような細胞及び関連腫瘍組織を特徴付けることができる。
【表3】
[実施例]
序論
野生型IgG1として補体媒介性細胞傷害(CDC)の誘導に非常に効率的であるIgG1アイソタイプの抗体においてFEA不活性フォーマット(L234F-L235E-D265A)を利用すると、CDC活性が強く抑制される。しかしながら、調査実験では、FEA置換を有するIgG1抗体は、低い残留CDC活性を依然として保持することが時折示されたが、これは、想定される治療抗体の有害作用又は用量制限毒性がCDC等のFc媒介性エフェクター機能に非常に依存し得る場合には望ましくない場合がある。更に、本発明者らはまた、野生型様フォーマットと比較して、グリコシル化不均一性がFEA不活性フォーマットを有する抗体で増加し、ガラクトシル化及び荷電グリカンの存在が増加することも観察した。グリコシル化プロファイルの変化は、有効性及び薬物動態特性に影響を及ぼす可能性があり、これは製造において監視及び制御される必要がある。FEA不活性フォーマットを含む抗体のグリカンプロフィールを評価すると、グリコシル化不均一性の増加、ガラクトシル化レベルの増加、及び荷電グリカンレベルの増加をD265A置換に割り当てることができることが観察された。FEAの可能性のある残留CDC活性を考慮して、及びFEAのグリコシル化プロファイルを考慮して、本発明者らは改善された形式を提供しようと努めた。
【0177】
改善を求めて、L234F、L235E及びG236R置換を組み合わせることが企図された。しかしながら、特定の突然変異の任意の選択は言うまでもなく、任意の突然変異を組み合わせることは本質的に予測不可能である。更に、L234F、L235E及びG236R変異を組み合わせること、すなわち、多数の修飾が一緒に詰め込まれることは、そのような多数の変化の構造的及び/又は機能的影響を予測することができないので、容易ではない。したがって、本発明者らは、パイロット実験において、組合せL234F、L235E及びG236R(FER)がCDCをサイレンシングする能力並びに抗体のグリコシル化プロファイルに及ぼす影響を試験した。驚くべきことに、これらの初期実験は、FER変異の導入によるCDCをサイレンシングする能力が、個々の置換と比較して、及びFEA置換と比較して非常に改善されたことを示した。更に、グリコシル化プロファイルの評価により、現在FER不活性フォーマットを有する抗体が、対応する野生型様抗体に類似するグリカンプロファイルを有することが明らかになった。したがって、これらの初期実験は、以下の実施例に記載されるFER不活性フォーマットの臨床的適合性を完全に分析するように促した。驚くべきことに、試験した全ての特徴において、FEA不活性フォーマットと比較した場合、並びに他の不活性フォーマットと比較した場合、FER不活性フォーマットについて非常に有利な特性が観察された。これは、新しいFERフォーマットが臨床開発及び臨床使用に十分に適していることを示している。例えば融合タンパク質等の抗体以外の状況でも有用であり得るこの非活性化フォーマットは、非常に有利であり、クラス最高の非活性化フォーマットであると見なすことができる。
【0178】
[実施例1]
抗体バリアントの作製及び精製並びに二重特異性抗体バリアントの作製
抗体の発現構築物
ヒト又はヒト化結合ドメインを有する抗体の発現のために、可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖ドメインの配列を含む抗体構築物を、デノボ遺伝子合成(GeneArt Gene Synthesis;ThermoFisher Scientific,Germany)によって調製し、選択された結合ドメインに適切な、ヒトIgG1m(f)アロタイプ(本出願の実施例セクションを通してIgG1とも呼ばれる;配列番号5)、又はヒトIgG1m(fa)アロタイプ(配列番号23)、又はヒトIgG1m(za)アロタイプ(配列番号24)、又はヒトIgG1m(zax)アロタイプ(配列番号25)、又はヒトIgG1m(zav)アロタイプ(配列番号26)、又はC末端リジンの組換え欠失を有するヒトIgG1m(f)アロタイプ(IgG1-delKともいう;配列番号35)、又はそのバリアント;ヒトIgG4重鎖定常領域(ヒンジ、CH2、CH3、配列番号8;CH1、ヒンジ、CH2、CH3、配列番号46)又はそのバリアントのヒトIgG1重鎖定常領域(すなわち、CH1、ヒンジ、CH2及びCH3領域);ヒトIgG3アロタイプIGHG3*01(配列番号40)若しくはヒトIgG3アロタイプIGHG3*04(IgG3rch2とも呼ばれる;配列番号41)のヒトIgG3重鎖定常領域、又はそのバリアント;マウスIgG2a重鎖定常領域(配列番号38)又はそのバリアント;又はヒトκ軽鎖(配列番号6)、又はヒトλLC(配列番号7)、又はマウスκLC(配列番号49)の定常領域を含有するpcDNA3.3発現ベクター(ThermoFisher Scientific,US)にクローニングした。バリアントを生成するための所望の置換を遺伝子合成によって導入し、以下に記載する。本出願におけるCD20抗体バリアントは、以前に記載されたI型抗ヒトCD20抗体に由来するVH及びVL配列を有する(Engelberts et al.,2020)。本出願におけるHLA-DR抗体バリアントは、以前に記載されたHLA-DR抗体IgG1-HLA-DR-4(米国特許第6894149号明細書)及びIgG1-HLA-DR-1D09C3(米国特許第7521047号明細書)に由来するVH及びVL配列を有する。本出願におけるCD3抗体及びそのバリアントは、以前に記載されたCD3抗体(すなわち、CD3-huCLB-T3/4:Labrijn et al.,PNAS,2013 Mar 26;110(13):5145-50,and Engelberts et al.,2020)に由来するVH及びVL配列を有する。本出願におけるHER2抗体バリアントは、IgG1-HER2-1014-169(国際公開第2012143524号)に由来するVH及びVL配列を含む。b12のVH/VLを含むヒトIgG1抗体、すなわちHIV1gp120特異的抗体を、いくつかの実験において陰性対照として使用した(Barbas et al.,J Mol Biol.1993 Apr 5;230(3):812-2)。
【0179】
非活性化抗体バリアント
F405L変異(配列番号9)又はK409R変異(配列番号10)を有する野生型ヒトIgG1重鎖定常領域(すなわち、ヒンジ、CH2及びCH3領域)又はその野生型様バリアントを、示されるように、コントロール抗体において使用する。いくつかの例では、IgG4の定常領域を有する野生型抗体バリアント(配列番号8)又は配列番号8にS228P変異を有するそのIgG4バリアントを対照として使用する。
【0180】
非活性化Fcドメインは、抗体が免疫細胞上に存在するFc受容体又はC1qと相互作用して古典的補体経路を活性化するのを妨げる。以下の実施例において本明細書に記載されるように、いくつかの非活性化抗体バリアントを作製し、Fc機能をサイレンシングする能力について試験した。いくつかの例では、非活性化抗体バリアントのサブセットを薬物動態特性、免疫原性又は発生能について試験した。
【0181】
種々の非活性化抗体バリアントを、上で示され記載されるような異なるVH配列及びVL配列を用いて作製した。アミノ酸がEuナンバリングによって定義される通りである以下の置換を、二重特異性非活性化抗体バリアントの生成を可能にするために、配列番号1のIgG1m(f)HC領域に、同様にF405L又はK409R変異のいずれかと組み合わせて導入した:L234F-L235E-D265A(i.a.米国特許第10590206号明細書)単独(配列番号3)、又はF405L(配列番号13)又はK409R(配列番号14)と組み合わせて、L234F-L235E-G236R単独(配列番号2)、又はF405L(配列番号11)又はK409R(配列番号12)と組み合わせて、L234A-L235A-P329G(Schlothauer et al.,2016,Protein Eng.Design and Selection)単独、又はF405L又はK409R、G236R-L328R(US2006/0235208A1、Moore et al.,2011,MAbs)のいずれかと組み合わせて、F405L又はK409Rのいずれかと組み合わせて、F405L又はK409Rのいずれかと組み合わせたE233P-L234V-L235A-delG236-S267K(Moore at al.,2019,Methods)、F405L又はK409Rのいずれかと組み合わせたN297G(Tao and Morrison,1989,JI)、及びF405L又はK409Rのいずれかと組み合わせたL234A-L235E-G237A-A330S-P331S(US8613926k)。配列番号35のHC C末端リジン(IgG1-delKとも呼ばれる)を組換え欠失させたIgG1m(f)HC領域に以下の変異を導入した:L234F-L235E-G236R(配列番号36)及びL234F-L235E-D265A(配列番号37)。以下の変異を配列番号23のIgG1m(fa)HC領域に導入した:L234F-L235E-G236R(配列番号27)及びL234F-L235E-D265A(配列番号28)。以下の変異を配列番号24のIgG1m(za)HC領域に導入した:L234F-L235E-G236R(配列番号29)及びL234F-L235E-D265A(配列番号30)。以下の変異を配列番号25のIgG1m(zax)HC領域に導入した:L234F-L235E-G236R(配列番号33)及びL234F-L235E-D265A(配列番号34)。以下の変異を配列番号26のIgG1m(zav)HC領域に導入した:L234F-L235E-G236R(配列番号31)及びL234F-L235E-D265A(配列番号32)。以下の変異を配列番号40のIgG3(IGHG3*01)HC領域に導入した:L234F-L235E-G236R(配列番号42)及びL234F-L235E-D265A(配列番号43)。以下の変異を配列番号41のIgG3(IGHG3*04;IgG3rch2ともいう)HC領域に導入した:L234F-L235E-G236R(配列番号44)及びL234F-L235E-D265A(配列番号45)。以下の変異を、単独で、又はF405L-R409K変異と組み合わせて、配列番号8のIgG4HC領域に導入して、二重特異性非活性化抗体バリアントの生成を可能にした:S228P-E233P-F234V-L235A-delG236(WO2015/143079)、又はF405L-R409K、S228P-F234A-L235A(Allegre et al.,Transplantation,1994,Jun 15;57(11):1537-43 and Angal et al.,Mol Immunol,1993,Jan;30(1):105-8)と組み合わせて、又はF405L-R409K、L235E-G236R(配列番号47)、及びL235E-D265A(配列番号48)と組み合わせて。以下の変異を配列番号38のマウスIgG2aHC領域に導入した:配列番号38:L234F-L235E-G236R(配列番号39)、L234A-L235A(Arduin et al.,Mol Immunol,2015 Feb;63(2):456-63)、及びL234A-L235A-P329G(Lo et al.,J Biol Chem,2017 Mar 3;292(9):3900-3908)。
【0182】
一過性発現
抗体をヒトIgG1κ、IgG1λ、IgG3κ、IgG4κ、又はマウスIgG2aκとして発現させた。抗体の重鎖及び軽鎖の両方をコードするプラスミドDNA混合物を、ExpiFectamine(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号A14525)を製造者の説明書に従って使用してExpi293F(商標)細胞(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号A14527)に一過性にトランスフェクトした。要するに、DNA(1:1 HC/LC比)及びExpiFectamineの両方を、Opti-MEM I(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号51985034)でそれぞれ20μg/ml及び5.4%(v/v)に別々に希釈する。両方の溶液を5分間インキュベートし、混合し、10~20分間インキュベートした後、ペン/strep(最終DNA濃度1μg/ml)を補充した新鮮なOpti-MEM中の3×106Expi293F細胞/mlに添加する。トランスフェクションの約16~24時間後、ExpiFectamine293 Transfection Enhancer I(0.5(v/v)%)及びII(5(v/v)%)を添加する。上清を典型的にはトランスフェクションの5日後に回収する。上清中の抗体濃度を280nmでの吸光度によって測定した。抗体を以下のように精製した。
【0183】
抗体精製及び品質評価
抗体をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。培養上清を0.20μMデッドエンドフィルタで濾過し、5mLのMabSelect SuReカラム(GE Healthcare/Cytiva)に負荷し、0.02Mクエン酸ナトリウム-NaOH(pH5.0)で洗浄し、0.02Mクエン酸ナトリウム-NaOH(pH3)で溶出した。溶出液をPBS(HyClone/CytivaによってGenmab用に調製された8.65mMのNa2HPO4無水物、1.9mMのNaH2PO4一水和物、140.3mMのNaCl、pH7.4緩衝液)に対して透析した。必要に応じて、タンパク質を分取サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で更に精製して凝集体を除去した。緩衝液交換又はSECの後、試料を0.2μmのデッドエンドフィルタで滅菌濾過した。精製されたタンパク質の品質を、質量分析、キャピラリー電気泳動(非還元及び還元CE-SDS)及び高速サイズ排除クロマトグラフィー(HP-SEC)によって分析した。濃度は280nmでの吸光度によって測定した。精製した抗体を2~8℃で保存した。
【0184】
二重特異性抗体の作製
IgG1二重特異性抗体を、本質的に以前に報告されたように、上に列挙した非活性化変異に加えて、CH3ドメインにF405L変異を有する単一特異性抗体とCH3ドメインにK409R変異を有する単一特異性抗体との間の制御されたFab-Arm交換(cFAE)によって作製した(Labrijn et al.,2014,Nature Protocols Oct;9(10):2450-63)。IgG4二重特異性バリアントの場合、一方の単一特異性抗体は、位置409に天然のアルギニン(R)を有し、他方の単一特異性抗体は、抗体のCH3ドメインにF405L-R409K変異を有するものであった。簡潔には、両方の単一特異性抗体を等モル濃度で混合し、75mMの2-メルカプトエチルアミン-HCl(2-MEA)と共に31℃で5時間インキュベートした。その後、4℃で一晩、Slide-A-Lyzer Dialysis Cassettes(10K MWCO;ThermoFisher Scientific)を用いてPBSとの緩衝液交換によって2-MEAを除去した。透析緩衝液を2回交換した。生成した二重特異性抗体をカセットから回収し、濃度を280nmでの吸光度によって測定した。精製した二重特異性抗体を2~8℃で保存し、典型的にはCE-SDS及びHP-SECによって分析して、生成した二重特異性抗体の単量体状態を評価し、Orbitrap Q-Exactive Plus質量分析計(ThermoFischer Scientific)を用いた質量分析によって、cFAEの効率及び二重特異性抗体含有量を決定した。
【0185】
F(ab’)2断片の生成
HLA-DRを標的とするF(ab’)2断片を、FragITキット(Genovis AB)を使用して本質的に製造業者の推奨に従って作製した。簡潔には、アガロースビーズにカップリングされたF(ab’)2及びFc/2断片の均一なプールを生成するヒンジ領域の下の特定の部位でIgGを消化するFabRICATOR酵素を有する樹脂であるFragITを有するスピンカラムを消化緩衝液(Genovis AB)で平衡化する。続いて、E430G変異を有する抗ヒトHLA-DR抗体バリアントIgG1-HLA-DR-1D09C3をカラムに適用し、室温(RT)で15分間インキュベートした。インキュベーション後、試料を溶出し、カラムから回収する。精製されたF(ab’)2断片を、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル(CE-SDS)上でキャピラリー電気泳動によって分析した。濃度は280nmでの吸光度によって測定した。精製した抗体を2~8℃で保存した。
【0186】
[実施例2]
Raji細胞に対する抗ヒトCD20抗体及びその非活性化バリアントの標的結合
野生型Fc及びK409R、L234F-L235E-D265A-K409R、L234F-L235E-G236R-K409R、L234A-L235A-P329G-K409R、G236R-L328R-K409R、E233P-L234V-L235A-G236del-S267K-K409R、N297G-K409R、L234A-L235E-G237A-A330S-P331S-K409Rを有するバリアントを有する抗ヒトCD20 IgG1抗体と、野生型Fc及びS228P、S228P-F234A-L235A又はS228P-E233P-F234V-L235A-G236delを有するバリアントを有するIgG4抗体との標的結合を、CD20を発現するRaji細胞を用いて評価した。抗HIV1gp120 IgG1野生型抗体(IgG1-b12)を非結合対照として使用した。
【0187】
このために、FACS緩衝液(1×PBS、カタログ番号BE17-517Q、Lonza;0.1%ウシ血清アルブミン、BSA、カタログ番号10735086001、Merck;0.02%NaN3、カタログ番号41920044-3、Bio-world)中のRaji細胞(3×104細胞、カタログ番号CCL-86、ATCC)をポリスチレン丸底96ウェルプレート(カタログ番号650180、Greiner bio-on)中で、総体積50μLで30分間、CD20(0.0013~20μg/mLの最終濃度;5倍希釈)を標的とする一連の精製抗体の濃度で4℃でインキュベートした。その後、細胞を150μLのFACS緩衝液の添加によって2回洗浄し、続いて遠心分離によって細胞をペレット化し、上清を除去した。結合した抗体を、50μLのヤギF(ab’)2抗ヒトκ-PE(最終濃度2.5μg/mL、カタログ番号2062-09、Southern Biotech)を4℃で30分間添加することによって染色した。その後、細胞を150μLのFACS緩衝液の添加によって2回洗浄し、続いて遠心分離によって細胞をペレット化し、上清を除去した。ヒトCD20への抗体バリアントの結合を、Intellicyt iQue screener(Sartorius)でのフローサイトメトリーによって、蛍光強度中央値を測定することによって検出した。データを、GraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPad Software)における非線形アゴニスト用量-反応モデルを使用して分析した。データは、4つの独立した実験から得られた平均値±SEMである。
【0188】
抗ヒトCD20 IgG1及びIgG4抗体バリアントの標的結合の評価により、重鎖定常領域に変異を有する全ての抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントについて同様の標的結合が明らかになった(
図1A~B)。重鎖定常領域にS228P-F234A-L235A又はS228P-E233P-F234V-L235A-G236del非活性化変異を有するものを含む全ての抗ヒトCD20 IgG4抗体バリアントは、IgG1抗体バリアントと比較して、いくらか低下した標的結合を示した。
【0189】
要約すると、抗ヒトCD20 IgG1及びIgG4抗体の重鎖における非活性化変異の導入は、それらの標的CD20に結合するそれらの能力に影響を及ぼさなかった。
【0190】
[実施例3]
抗ヒトCD20抗体及びその非活性化バリアントによる補体依存性細胞傷害
治療効果が免疫系のエフェクター分子(補体タンパク質C1q及びFcγ受容体等)との相互作用とは無関係であり、有害作用又は用量制限毒性がこの相互作用に高度に依存する治療用モノクローナル抗体の場合、非活性化Fcドメインは治療域を増加させると考えられ得る。抗体とC1qタンパク質とのエンゲージメントは、古典的補体経路を開始させ、補体依存性細胞傷害(CDC)をもたらす。ここでは、CDCを誘導する能力を、CDC(Glennie et al.,Mol Immunology,2007,Sep;44(16):3823-37)の効率的かつ強力な誘導のために選択されたI型抗ヒトCD20抗体、並びに定常重鎖領域に非活性化変異を有するそのような抗体のバリアントについて評価した。
【0191】
野生型としての抗ヒトCD20 IgG1抗体、又はK409R変異を有する抗ヒトCD20 IgG1抗体、又はL234F-L235E-D265A-K409R、L234F-L235E-G236R-K409R、L234A-L235A-P329G-K409R、G236R-L328R-K409R、E233P-L234V-L235A-G236del-S267K-K409R、N297G-K409R、L234A-L235E-G237A-A330S-P331S-K409R変異を有するその非活性化バリアント、並びに野生型、変異S228Pを有する抗ヒトCD20 IgG4抗体、及びS228P-F234A-L235A又はS228P-E233P-F234V-L235A-G236del変異を有する抗ヒトCD20 IgG4抗体を、補体源として20%正常ヒト血清(NHS、カタログ番号M0008、Sanquin)を用いたRaji細胞に対するインビトロCDCアッセイにおいて、ある範囲の濃度(0.0024~10μg/mLの最終濃度;4倍希釈)で試験した。0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA、カタログ番号10735086001、Merck)及びペニシリン-ストレプトマイシン(Pen/Strep、最終濃度50単位/mLペニシリンカリウム及び50μg/mL硫酸ストレプトマイシン、カタログ番号DE17-603E、Lonza)を含有するRPMI-1640培地(カタログ番号BE12-115F、Lonza)中のRaji細胞(3×104細胞/ウェル)を、80μLの総体積でCD20を標的とする一連の精製抗体の濃度で室温(RT)で15分間、ポリスチレン丸底96ウェルプレート(カタログ番号650180、Greiner bio-one)中でインキュベートした。その後、20μLのNHS(最終濃度20%(v/v))を添加し、細胞を37℃で45分間インキュベートした。プレートを氷上に置いた後、遠心分離によって細胞をペレット化し、PBS(カタログ番号SH3A3830.03、GE Healthcare)中の30μLの2μg/mLヨウ化プロピジウム(PI、カタログ番号P4170、Sigma Aldrich)で上清を置き換えることによって、反応を停止させた。PI陽性細胞の数をIntellicyt iQueスクリーナー(Sartorius)でフローサイトメトリーによって決定した。細胞溶解のパーセンテージに対応するPI陽性細胞のパーセンテージを、(PI陽性細胞の数/細胞の総数)×100%として計算した。非線形アゴニスト用量-反応モデルを用いてデータを分析し、抗体コントロールをベースラインとして用いないGraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度を用いて、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算し、続いて、非結合コントロール抗体IgG1-b12について測定したAUC値(0%)及び野生型IgG1抗体バリアントについて測定したAUC値(抗ヒトCD20 IgG1、100%)に対する実験反復1回当たりの正規化を行った。データは、3つの独立した実験から得られた平均値±SEMである。
【0192】
抗ヒトCD20 IgG1及びIgG4バリアントのCDC能力の評価により、重鎖定常領域に非活性化変異を導入することによってCDCを排除する能力を2つの群に分けることができることが明らかになった。K409R変異に加えて、L234F-L235E-G236R、L234A-L235A-P329G、G236R-L328R、E233P-L234V-L235A-G236del-S267K、N297G、及びL234A-L235E-G237A-A330S-P331S非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアント、並びにS228P-F234A-L235A又はS228P-E233P-F234V-L235A-G236del非活性化変異を有するIgG4抗体バリアントについては、CDCを誘導する能力が排除された。しかしながら、野生型IgG1と比較して、変異L234F-L235E-D265A-K409Rを有する抗ヒトCD20 IgG1バリアントについて残留CDCが観察された(
図2)。
【0193】
結論として、新規バリアントL234F-L235E-G236R及びK409R変異を有するIgG1抗体は、古典的補体経路の活性化のほぼ完全な欠如を示した。新規L234F-L235E-G236R変異のみを有し、K409R変異を有さない抗体でも同様の効果が観察された。これは、とりわけ残留CDCが観察されるL234F-L235E-D265A及びK409R変異を有するIgG1抗体バリアントに対して大幅な進歩を表す。
【0194】
[実施例4]
抗ヒトCD20抗体及びその非活性化バリアントへのC1q結合の評価
実施例3では、CDCを誘導する効力が、Fc媒介性エフェクター機能を抑制する突然変異を有する抗ヒトCD20 IgG1及びIgG4抗体バリアントによって強く低下することが示された。ここで、定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントへの補体タンパク質C1qの結合を、CD20を発現するRaji細胞を用いて評価した。
【0195】
C1qの供給源として20%正常ヒト血清(NHS、M0008、Sanquin)を用いたRaji細胞に対するC1q結合アッセイを使用し、抗ヒトCD20抗体及びその非活性化バリアントを様々な濃度(0.014~10μg/mLの最終濃度;3倍希釈)で試験した。0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA、カタログ番号10735086001、Merck)及びペニシリン-ストレプトマイシン(Pen/Strep、最終濃度50単位/mLペニシリンカリウム及び50μg/mL硫酸ストレプトマイシン、カタログ番号DE17-603E、Lonza)を含有するRPMI-1640培地(カタログ番号BE12-115F、Lonza)中のRaji細胞(1×105細胞/ウェル)を、80μLの総体積でCD20を標的とする一連の精製抗体の濃度で15分間、37℃で、ポリスチレン丸底96ウェルプレート(カタログ番号650180、Greiner bio-one)中でインキュベートした。NHSの添加時のCDCの活性化を防ぐために、プレートを氷上に置くことによって細胞を冷却した。続いて、20μLのNHS(最終濃度20%(v/v))を添加し、細胞を4℃で45分間インキュベートした後、遠心分離によって細胞をペレット化し、上清を除去した。次に、150μLのFACSバッファー(1×PBS、カタログ番号BE17-517Q、Lonza;0.1%ウシ血清アルブミン、BSA;0.02%NaN3、カタログ番号41920044-3、Bio-world)を添加して細胞を2回洗浄した後、遠心分離により細胞をペレット化し、上清を除去した。結合したC1qを、50μLのポリクローナルウサギ抗ヒトC1q補体-FITC(最終濃度20μg/mL、Dako、カタログ番号F0254、Agilent Technologies)を4℃で30分間添加することによって染色した。その後、細胞を150μLのFACS緩衝液の添加によって2回洗浄し、続いて遠心分離によって細胞をペレット化し、上清を除去した。抗体バリアントへのC1q結合を、Intellicyt iQueスクリーナー(Sartorius)でのフローサイトメトリーによって、蛍光強度中央値-FITCを測定することによって検出した。データを、GraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPad Software)における非線形アゴニスト用量-反応モデルを使用して分析した。データは、1回の実験の3回の測定から得られた平均値(±SD)である。
【0196】
C1qの抗ヒトCD20 IgG1バリアントへの結合の評価により、K409R変異を有する抗ヒトCD20 IgG1は、標的Raji細胞上のCD20に結合すると補体タンパク質C1qと効率的に係合するが、抗HIV1gp120抗体(IgG1-b12;CD20非結合対照)はC1qと係合しないことが明らかになった。L234F-L235E-G236R又はL234F-L235E-D265A非活性化変異のいずれかの導入は、C1q結合を劇的に減少させた(
図3)。C1qの結合は、L234F-L235E-D265A変異を有する抗ヒトCD20 IgG1バリアントと比較して、L234F-L235E-G236R変異を有する抗ヒトCD20 IgG1バリアントに対してより強く低下する。これは、実施例3に示されるように、これらの非活性化変異のCDCの活性化に対する効果と一致している。
【0197】
結論として、L234F-L235E-G236R非活性化変異を有する非活性化抗ヒトCD20 IgG1バリアントは、CDCの観察された減少と一致して、C1q結合の大幅な減少を示す。
【0198】
[実施例5]
抗ヒトHLA-DR抗体及びその非活性化バリアントによる補体依存性細胞傷害
実施例3では、定常重鎖に非活性化変異を有する抗ヒトCD20抗体バリアントによる古典的補体経路の活性化を、インビトロCDCアッセイを使用して評価した。実施例3のデータは、新規L234F-L235E-G236R及びK409R変異を有する抗ヒトCD20 IgG1バリアントが古典的補体経路の活性化を妨げることを明らかにした。この実施例では、本発明者らは、IgG1骨格と共に使用した場合にCDCの強力な誘導物質であるヒトHLA-DRを標的とする2つの抗体を使用して、非活性化抗体バリアントのCDC能力を更に評価した。
【0199】
インビトロCDCアッセイを、本質的には実施例3に記載のように、補体源として20%NHSを含むRaji細胞に対して行った。簡潔には、K409R変異を有する抗ヒトHLA-DR抗体IgG1-HLA-DR-4及びIgG1-HLA-DR-1D09C3、又は定常重鎖領域においてK409Rと組み合わせた非活性化変異L234F-L235E-D265A若しくはL234F-L235E-G236Rを有するそのバリアント、並びにHLA-DR標的化F(ab’)2断片を、ある濃度範囲(0.014~10μg/mLの最終濃度;3倍希釈)で試験した。細胞溶解の尺度としてのPI陽性細胞の数を、Intellicyt iQueスクリーナー(Sartorius)でフローサイトメトリーによって決定した。非線形アゴニスト用量-反応モデルを使用してデータを分析し、抗体対照をベースラインとして用いないGraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度を使用して、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算し、続いて実験反復1回当たりを野生型IgG1抗体バリアントについて測定されたAUC値(100%)に正規化した。データは、5つ(野生型及びL234F-L235E-D265A-K409Rバリアント)又は2つ(L234F-L235E-G236R-K409Rバリアント、又はF(ab’)2断片)の独立した実験に基づく。
【0200】
抗ヒトHLA-DR抗体バリアントのCDC能力の評価により、K409R変異に加えてL234F-L235E-D265A変異を有する抗体バリアントは、Raji細胞のCDCを誘導する能力を保持することが明らかになった(
図4A、
図4B)。しかしながら、IgG1-HLA-DR-4-K409R及びIgG1-HLA-DR-1D09C3-K409R抗体バリアントにおけるL234F-L235E-G236R非活性化変異の導入は、CDCを誘導する効力を劇的に低下させた。更に、IgG1-HLA-DR-1D09C3について観察されるように、L234F-L235E-G236R-K409R抗体バリアントによってCDCを誘導する効力は、Fc領域を欠き、したがって補体タンパク質C1qと相互作用しないHLA-DR標的化F(ab’)2断片によって誘導されるCDCと同じレベルである(
図4B)。
【0201】
要約すると、L234F-L235E-G236R変異を有する抗体バリアントは、ヒト補体系に関与できないF(ab’)2断片によって誘導されるCDCと同様のレベルまでCDCを効率的に減少させた。
【0202】
[実施例6]
抗ヒトCD20抗体及びその非活性化バリアントによるFcγ受容体への結合
当該のように、治療効果が免疫系のエフェクター分子(補体タンパク質C1q及びFcγ受容体等)との相互作用とは無関係であり、有害作用又は用量制限毒性がこの相互作用に高度に依存する治療用モノクローナル抗体の場合、非活性化Fcドメインは治療域を増加させると考えられ得る。実施例3~5のデータは、抗体の定常重鎖領域に非活性化変異を導入すると、補体タンパク質C1qと係合する能力が低下し、CDCの誘導が低下することを示した。ここで、本発明者らは、ELISAアッセイにおいて、ヒトFcγRIa(配列番号15)の単量体細胞外ドメイン(ECD)、又はヒトFcγRIIaアロタイプ131H(配列番号16)、ヒトFcγRIIaアロタイプ131R(配列番号17)、ヒトFcγRIIb(配列番号18)、ヒトFcγRIIIaアロタイプ158F(配列番号19)及びヒトFcγRIIIaアロタイプ158V(配列番号20)の二量体ECDへの、IgG1又はIgG4抗ヒトCD20抗体及び定常重鎖領域に非活性化変異を有するその抗体バリアントの結合を評価した。
【0203】
このために、抗ヒトCD20抗体IgG1野生型、IgG1-K409R、L234F-L235E-D265A-K409R、L234F-L235E-G236R-K409R、L234A-L235A-P329G-K409R、G236R-L328R-K409R、E233P-L234V-L235A-G236del-S267K-K409R、N297G-K409R、L234A-L235E-G237A-A330S-P331S-K409R変異を有するその非活性化バリアント、並びにIgG4野生型、IgG4-S228P、及びS228P-F234A-L235A又はS228P-E233P-F234V-L235A-G236del変異を有する非活性化バリアントを、ヒトFcγ受容体への結合についてある濃度範囲(5倍希釈段階で0.0013~20μg/mL)で試験した。単量体及び二量体FcγRバリアントへの結合を検出するために、96ウェルマイクロロンELISAプレート(Greiner,Germany)を、PBS中1μg/mLヤギF(ab’)2-抗ヒトIgG-F(ab’)2(Jackson Laboratory、カタログ番号109-006-097)で4℃で一晩コーティングし、続いて洗浄し、0.2%BSA(PBS/0.2%BSA)を補充した200μL/ウェルPBSで室温(RT)で1時間ブロックした。インキュベーション間(0.05%Tween20を補充したPBS(カタログ番号P1379、Sigma);PBST;+0.2%BSA;PBST/0.2%BSA)で洗浄しながら、プレートを、PBST/0.2%BSA中の抗ヒトCD20 IgG1及びIgG4抗体バリアントの希釈系列100μl/ウェルと共に振盪しながら室温で1時間インキュベートし、続いてPBST/0.2%BSA中の単量体又は二量体のHisタグ付きC末端ビオチン化FcγR ECDバリアント(1μg/mL)100μL/ウェルと共に振盪しながら室温で1時間インキュベートした。最後に、上記のように洗浄した後、プレートを、振盪しながら室温で30分間、抗体を検出するものとして、PBST/0.2%BSA中100μL/ウェルのストレプトアビジン-ポリHRP(CLB、カタログ番号M2032、1:10.000)と共にインキュベートした。1mg/mLのABTS(カタログ番号11112422001及び11112597001、Roche)による展開を約10分間(Ia)、15分間(IIa-131H、IIa-131R、IIIa-158V、IIIa-158F)又は30分間(IIb)行った。その後、100μL/ウェルの2%シュウ酸(Riedel de Haen、カタログ番号33506)を用いて反応を停止した。マイクロプレートリーダー(BioTek、Winoosky、VT)を使用して、405nmで吸光度を測定した。
【0204】
抗体バリアントの固定化を測定し、導入された非活性化変異がELISAプレートへの捕捉に影響するかどうかを評価するために、96ウェルマイクロロンELISAプレート(カタログ番号655092、Greiner)を、PBS中の1μg/mLヤギF(ab’)2-抗ヒト-IgG-F(ab’)2(カタログ番号109-006-097、Jackson Laboratory)で4℃で一晩コーティングした。その後、ELISAプレートを洗浄し、0.2%BSA(PBS/0.2%BSA)を補充した200μL/ウェルPBSで室温(RT)で1時間ブロッキングした。異なるインキュベーション工程(0.05%Tween20(PBST)+0.2%BSAを補充したPBS;PBST/0.2%BSA)の間で洗浄しながら、プレートを、振盪しながら室温で1時間、PBST/0.2%BSA中100μl/ウェルの抗ヒトCD20 IgG1及びIgG4抗体バリアントの希釈系列(5倍希釈工程で0.0013~20μg/mL)、及び振盪しながら室温で30分間、抗体を検出しながらPBST/0.2%BSA中100μL/ウェルのHRP標識ヤギ抗ヒトIgG-Fcγ(カタログ番号109-035-098、Jackson Laboratory;1:10,000)と共に連続的にインキュベートした。1mg/mLのABTS(カタログ番号11112422001及び11112597001、Roche)による発色を約5分間行い、その後、100μL/ウェルの2%シュウ酸を用いて反応を停止させた。マイクロプレートリーダーを使用して、405nmで吸光度を測定した。
【0205】
非線形アゴニスト用量-反応モデルを使用してデータを分析し、ELISAバックグラウンドシグナル(抗体対照なし)をベースラインとして用いるGraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度を使用して、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算し、続いて実験反復1回当たりを野生型IgG1抗体バリアントについて測定されたAUC値(抗ヒトCD20 IgG1、100%)に正規化した。データは3回の独立した反復に基づく。
【0206】
全ての抗ヒトCD20 IgG1及びIgG4抗体バリアントを同様の様式でELISAプレートに固定化し、IgG4骨格を有する抗体バリアントについてわずかな減少が観察された(
図5)。したがって、抗ヒトCD20 IgG1及びIgG4抗体バリアントの重鎖領域における非活性化変異の導入は、抗ヒトIgG-F(ab’)2断片による固定化に影響を及ぼさないと結論付けられた。ELISAによるFcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIaへの抗ヒトCD20 IgG1バリアントの結合の評価により、定常重鎖領域に非活性化変異を有する全ての抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントがFcγ受容体と相互作用しないことが明らかになった(
図6A~F)。更に、非活性化IgG4バリアントはまた、FcγRIIa-131Rに対する残留結合を示したS228P-E233P-F234V-L235A-delG236変異を有するIgG4抗体バリアントを除いて、Fcγ受容体と相互作用することができなかった(
図6C)。
【0207】
要約すると、L234F-L235E-G236R非活性化変異を有するIgG1抗体バリアントは、L234F-L235E-D265A及びL234A-L235A-P329G等の以前に記載された非活性化Fcバリアントと同様に、FcγR結合を示さなかった。
【0208】
[実施例7]
抗ヒトCD20抗体及びその非活性化バリアントによるFcγ受容体を介した活性化及びシグナル伝達
実施例6では、FcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIaに対する、抗ヒトCD20 IgG1又はIgG4抗体、及び定常重鎖に非活性化変異を有するそのバリアントの結合を検討した。試験した全ての非活性化抗体バリアントは、FcγRIIa-131Rに対する残留結合を示したS228P-E233P-F234V-L235A-delG236変異を有するIgG4抗体バリアントを除いて、試験したFcγRに対する結合を示さなかった。しかしながら、ELISA結合アッセイでは、直接結合に対する効果のみが評価される。エフェクター細胞に対するFc受容体の抗原結合、標的媒介性抗体クラスター化及びその後の標的媒介性クラスター化の効果は存在しない。ここで、本発明者らは、実施例6で述べたように、抗ヒトCD20 IgG1抗体又はIgG4抗体の重鎖定常領域における非活性化変異の導入が、標的発現Raji細胞及び示されたFcγRを発現するJurkatレポーター細胞株を使用するPromegaレポーターアッセイにおいてFcγR活性化及びシグナル伝達に影響を及ぼすかどうかを研究した。
【0209】
上記の抗ヒトCD20 IgG1及びIgG4抗体バリアントによるFcγR媒介シグナル伝達の活性化を、CD20発現Raji細胞を標的細胞として用いたレポーターバイオアッセイ(Promega、FcγRIa:カタログ番号CS1781C08;FcγRIIaアロタイプ131H:カタログ番号G9991;FcγRIIaアロタイプ131R:カタログ番号CS1781B08;FcγRIIb:カタログ番号CS1781E04;FcγRIIIaアロタイプ158F:カタログ番号G9790;FcγRIIIaアロタイプ158V:カタログ番号G7010)を使用して定量した。エフェクター細胞として、レポーター細胞キットは、示されたFcγR及びホタルルシフェラーゼの発現を駆動する活性化T細胞(NFAT)応答エレメントの核因子を安定に発現するように操作されたJurkatヒトT細胞を含む。アッセイは、製造業者の推奨に従って実施される。手短に言えば、Raji細胞(5,000細胞/ウェル)を、12%低IgG血清(Promega、カタログ番号G711A)を補充したアッセイバッファー(Promega、カタログ番号G719A)中の白色OptiPlates(Perkin Elmer、カタログ番号6007290)の384ウェルに播種し、抗体濃度系列(FcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIa、5倍希釈で0.001~15μg/mLの最終濃度;FcγRIa、25倍希釈物中の最終濃度0.00000006~15μg/mL)及び解凍したPromega BioAssay Effector細胞(30,000細胞/ウェル)を含む30μLの総体積で37℃/5%CO2で5時間インキュベートした。その後、プレートを室温(RT)で15分間インキュベートし、続いて30μLのBio Glo Assay Luciferase Reagentを添加した。次いで、プレートを室温で5分間インキュベートした。ルシフェラーゼ産生を、EnVision Multilabel Reader(Perkin Elmer)での発光読み出しによって定量した。中程度の(Raji細胞なし、抗体なし、エフェクター細胞なし)試料から決定されたバックグラウンド発光シグナルを使用して、発光シグナルを正規化した。非線形アゴニスト用量-反応モデルを使用してデータを分析し、抗体対照なし(Raji細胞及びエフェクター細胞のみ)のGraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度をベースラインとして使用して、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算した。実験ごとに、AUC値を、非結合対照IgG1-b12(0%)及び野生型抗ヒトCD20 IgG1(100%)とインキュベートした細胞について観察されたレポーター活性に対して正規化した。データは3回の独立した反復に基づく。
【0210】
Promegaレポーターアッセイを使用したFcγRIa-、FcγRIIa-、FcγRIIb-及びFcγRIIIa媒介活性化の評価により、IgG1の重鎖定常領域におけるK409R変異と組み合わせたL234F-L235E-G236Rの導入は、抗ヒトCD20 IgG1非活性化バリアントL234F-L235E-D265A-K409R、L234A-L235A-P329G-K409R、G236R-L328R-K409R、及びE233P-L234V-L235A-G236del-S267K-K409Rと同様に、FcγR媒介活性化を防止することが明らかになった(
図7A~F)。N297G及びK409R変異を有する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントによるFcγRIaを介した部分的活性化(
図7A)、並びにS228P-F234A-L235A又はS228P-E233P-F234V-L235A-G236del変異を有するIgG4抗体バリアントによる部分的FcγRIIa及びFcγRIIbを介した活性化、並びにL234A-L235E-G237A-A330S-P331S-K409R変異を有する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントによる部分的FcγRIIa及びFcγRIIbを介した活性化(
図7B~D)を除いて、重鎖定常領域に非活性化変異を有する他のIgG1又はIgG4抗体バリアントについてもFcγRを介した活性化の欠如が観察された。対照として、抗体バリアント抗ヒトCD20 IgG1及び抗ヒトCD20 IgG1-K409Rは、試験した全てのFcγRの活性化を誘導したが、抗体バリアントIgG4及びIgG4-S228Pは、FcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIa媒介活性化を誘導したが、FcγRIIIa媒介活性化を欠いていた(
図7A~F)。
【0211】
いくつかのバリアントでは、Fcγ受容体の1又は複数について、部分的なFcγR媒介活性化が観察され、すなわち、N297G-K409R又はL234A-L235E-G237A-A330S-P331S-K409R変異を有するIgG1バリアント、及びS228P-F234A-L235A又はS228P-E233P-F234V-L235A-G236del変異を有するIgG4抗体バリアント、有利には、K409R変異に加えて重鎖定常領域に新規L234F-L235E-G236R非活性化変異を有するIgG1抗体バリアントによるFcγR媒介活性化を誘導する能力が効率的に抑止された。
【0212】
[実施例8]
抗ヒトCD20抗体及びその非活性化バリアントによる新生児Fc受容体への結合
新生児型Fc受容体(FcRn)は、IgGを分解から保護することによってIgGの長い血漿中半減期を担う。抗体の内部移行時に、FcRnはエンドソーム中の抗体Fc領域と係合し、この場合、相互作用は弱酸性環境で安定である(pH6.0)。環境が中性(pH7.4)である原形質膜に再循環すると、相互作用が破壊され、抗体が放出されて循環に戻る。これは、IgGの血漿中半減期に影響を及ぼす。ここでは、実施例6及び7で述べたように、定常重鎖領域に非活性化変異を含む抗ヒトCD20 IgG1抗体及びIgG4抗体並びにそれらのバリアントのヒトFcRnへの結合を評価するためにELISAを行った。
【0213】
Streptawell96ウェルプレート(Roche、カタログ番号1734776001)を、室温(RT)で振盪しながら2時間、0.05%Tween20(PBST)+0.2%BSAを補充したPBSで希釈した、β2ミクログロブリン(B2M;配列番号22)を含む二量体としてのC末端Hisタグ(FcRnECDHis;配列番号21)を有するヒトFcRnの組換え生産ビオチン化細胞外ドメイン(FcRnECDHis-B2M-BIO)、すなわちヒトFcRnの細胞外ドメイン5μg/mL(100μL/ウェル)でコーティングした。その後、プレートをPBSTで3回洗浄した。段階希釈した抗体試料(PBST/0.2%BSA、pH6.0又はpH7.4中の5倍希釈物中の0.0013~20μg/mLの最終濃度)を添加し、室温で振盪しながら1時間インキュベートした。プレートをPBST/0.2%BSA、pH6.0又はpH7.4で洗浄した。PBST/0.2%BSA、pH6.0又はpH7.4で希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ポリクローナルヤギ抗ヒトカッパ軽鎖(1:5,000;Sigma、カタログ番号A-7164)を添加し、プレートを振盪しながら室温で1時間インキュベートした。PBST/0.2%BSA、pH6.0又はpH7.4で洗浄した後、100μLの2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸(ABTS;1mg/mL;Roche、カタログ番号11112422001及び11112597001)を基質として添加し、プレートを光から保護したRTで15分間インキュベートした。100μLの2%シュウ酸(Riedel de Haen、カタログ番号33506)を用いて反応を停止させ、室温で10分間インキュベートした。マイクロプレートリーダー(BioTek、Winoosky、VT)を使用して、吸光度を405nmで読み取った。非線形アゴニスト用量-反応モデルを使用してデータを分析し、ELISAバックグラウンドシグナル(抗体対照なし)をベースラインとして、GraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度を使用して、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算した。データは3回の独立した反復に基づく。
【0214】
FcRn結合ELISAアッセイは、抗ヒトCD20 IgG1又はIgG4抗体の定常重鎖領域における非活性化変異の導入がpH6.0でFcRn結合を阻害しないことを示した。逆に、pH7.4では、抗ヒトCD20抗体IgG1及びIgG4野生型を含む全ての試験したIgG1又はIgG4抗体バリアントは、ヒトFcRnへの結合を示さなかった。
【0215】
まとめると、これらの結果は、試験した他のバリアントと同様に、新規L234F-L235E-G236R非活性化変異を有する抗体IgG1バリアントが、野生型IgG1抗体と同様のFcRn結合特性を保持したことを示す。
【0216】
[実施例9]
抗ヒトCD20抗体及びその非活性化バリアントによる抗体依存性細胞傷害性の誘導
非活性化抗ヒトCD20抗体へのFcγR結合並びに非活性化抗ヒトCD20抗体による活性化及びシグナル伝達を、それぞれ実施例6及び7で評価した。ナチュラルキラー(NK)細胞媒介抗体依存性細胞傷害(ADCC)は、FcγRIIIaとの結合に依存する。ここで、抗ヒトCD20 IgG1野生型、IgG1-K409R、L234F-L235E-D265A-K409R、L234F-L235E-G236R-K409R、L234A-L235A-P329G-K409R、G236R-L328R-K409R、E233P-L234V-L235A-G236del-S267K-K409R、N297G-K409R、L234A-L235E-G237A-A330S-P331S-K409R変異を有するその非活性化バリアント、並びにIgG4野生型、IgG4-S228P及びS228P-F234A-L235A変異を有する非活性化バリアントによってADCCを誘導する能力、又はS228P-E233P-F234V-L235A-G236del変異を、CD20発現Raji細胞及び末梢血単核細胞(PBMC)をNK細胞の供給源として用いたPerkin Elmer DELFIA(登録商標)EuTDA TRF(時間分解蛍光)細胞傷害性アッセイを用いて評価した。
【0217】
バフィーコート(Sanquin Blood Bank)は、健常志願者から採取した全血から得て、凝固活性化を防ぐためにクエン酸リン酸デキストロース(20%最終濃度(v/v))で抗凝固処理し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、カタログ番号SH3A3830.03、GE Healthcare)で3.6倍希釈した。末梢血単核細胞(PBMC)を、製造者の説明書にいくつかの修正を加えて記載されているように、リンパ球分離培地(カタログ番号25-072-Cl、Corning)を含有するLeucosep(商標)チューブ(カタログ番号227290、Greiner Bio-One)を使用する密度勾配遠心分離によってPBS希釈バフィーコートから単離した。手短に言えば、密度勾配遠心分離は、遠心分離機のブレーキを3に設定して、室温(RT)で800×gで20分間の遠心分離によって行った。その後、濃縮した細胞画分を50mLのPBSで3回洗浄し、続いて300×gで10分間遠心分離した。単離したPBMCを培養培地(2mMのL-グルタミン及び25mMのHepesを含むRPMI-1640、カタログ番号BE12-115F、Lonza;鉄を含む10%ドナーウシ血清を補足、DBSI、カタログ番号20371、Life Technologies)に再懸濁した。抗CD20野生型抗体及びその非活性化バリアントのADCC能力を決定するために、DELFIA(登録商標)EuTDA TRF(時間分解蛍光)細胞傷害性キット(カタログ番号AD0116、Perkin Elmer)を製造者の説明書に従って使用した。2つの別個の実験セットを実施した。
【0218】
第1組の実験のために、Raji細胞を培養培地中に1×106細胞/mLの濃度で再懸濁し、水浴中37℃で20分間、0.16%(v/v)ビス(アセトキシメチル)2,2’:6’,2”-テルピリジン-6,6”-ジカルボキシレート試薬溶液(DELFIA BATDA試薬、カタログ番号C136-100、Perkin Elmer)で標識した。疎水性BATDA標識は、細胞膜を自由に通過することができ、もはや細胞膜を通過しない親水性TDA標識(2,2’:6’,2”-ターピリジン-6,6”-ジカルボン酸)に細胞内で変換される。その後、標識された細胞を培養培地で3回洗浄して、過剰のBATDA試薬を除去した。続いて、細胞をある濃度範囲の野生型抗CD20抗体及びその非活性化バリアント(0.01~10000ng/mLの最終濃度;10倍希釈)と混合し、RTで15分間インキュベートし、新たに単離したPBMCを、V底96ウェルプレート(カタログ番号651101、Greiner bio-one)において200μLの総体積で培養培地中、E:T比100:1で混合物に添加した。プレートを、5%CO2の加湿(85%)空気雰囲気中、37℃で2時間インキュベートした。0%のADCCを表す標識細胞からの自発的BATDA放出をPBMC及び抗体の非存在下で決定し、100%のADCCを表す最大BATDA放出を、標識細胞をDELFIA(登録商標)溶解緩衝液(5%最終濃度(v/v)、カタログ番号4005-0010、Perkin Elmer)とインキュベートすることによって決定した。2時間後、プレートを500×gで5分間スピンダウンし、20μLの無細胞上清を平底96ウェル白色不透明OptiPlate(カタログ番号6005290、Perkin Elmer)に移した。その後、200μLのDELFIAユウロピウム溶液(カタログ番号C135-100、Perkin Elmer)を移した上清に添加し、試料を暗所でRTで15分間インキュベートした。放出されたTDA標識から形成されたEuTDAキレートの蛍光を、EnVisionマルチラベルプレートリーダー(Perkin Elmer)で測定した。ADCCの尺度としての比放出パーセントを、以下の式を使用して計算した:
%比放出=((蛍光試料-蛍光自発放出)/(蛍光最大-蛍光自発放出))×100%
非線形アゴニスト用量-反応モデルを用いてデータを分析し、ベースラインとしてのバックグラウンド株(抗体対照なし)による、GraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度を用いて、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算し、続いて、非結合陰性対照IgG1-b12について測定したAUC値(0%)及び野生型IgG1抗体バリアントについて測定したAUC値(抗ヒトCD20 IgG1、100%)に対する実験反復1回当たりの正規化を行った。データは、4つ(野生型及びK409Rバリアント)又は2つ(L234F-L235E-D265A-K409R及びL234F-L235E-G236R-K409Rバリアント)の独立したドナーから得られた平均値(±SEM)である。
【0219】
第2の組の実験を本質的に上記のように行い、分析した。しかし、濃度範囲の代わりに、定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1又はIgG4抗体及びそのバリアントによってADCCを誘導する能力を、10ug/mLの最終抗体濃度で評価した。データを実験複製物ごとに非結合陰性対照IgG1-b12(0%)及び野生型IgG1抗体バリアント(抗ヒトCD20 IgG1、100%)に対して正規化し、GraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)で可視化した。データは、2つの独立した実験からの6人のドナーから得られた平均値(±SEM)である。
【0220】
Perkin Elmer DELFIA(登録商標)EuTDA TRF細胞毒性キットを用いたNK細胞媒介ADCCの評価により、野生型抗ヒトCD20 IgG1又はK409R変異を有するバリアントがCD20発現Raji細胞のADCCを効率的に誘導することが明らかになった(
図8)。対照的に、FcγRIIIaへの結合及びそれを介した活性化及びシグナル伝達の非存在(実施例6及び7)と一致して、抗ヒトCD20野生型IgG4抗体、又はS228Pヒンジ安定化変異を有するバリアントは、NK細胞媒介ADCCを誘導しない(
図8B)。非活性化抗体バリアントによるADCC誘導能の評価により、抗ヒトCD20 IgG1の重鎖定常領域にL234F-L235E-G236R及びK409R変異を導入すると、抗ヒトCD20 IgG1非活性化バリアントL234F-L235E-D265A-K409R(
図8A、
図8B)、及び抗ヒトCD20 IgG1非活性化バリアントL234A-L235A-P329G-K409R、G236R-L328R-K409R、E233P-L234V-L235A-G236del-S267K-K409R、N297G-K409R、L234A-L235E-G237A-A330S-P331S-K409Rと同様に、CD20発現Raji細胞のADCCが約69~98%減少することが明らかになった(
図8B)。更に、野生型IgG4と同様に、IgG4非活性化抗体バリアントS228P-F234A-L235A又はS228P-E233P-F234V-L235A-G236delもADCCを誘導することができなかった(
図8B)。
【0221】
結論として、ADCCを誘導する能力は、重鎖定常領域に新規L234F-L235E-G236R非活性化変異を有する抗体バリアントによって効率的に無効にされた。
【0222】
[実施例10]
抗ヒトCD3抗体及びその非活性化バリアントによるPBMC培養におけるT細胞活性化
T細胞上のCD69のアップレギュレーションを、抗ヒトCD3huCLB-T3/4IgG1及びIgG4抗体、並びにFACS分析による定常重鎖領域に非活性化変異を有するそのバリアントによるT細胞の早期活性化の測定として評価した。
【0223】
PBMCを、実施例9に記載の密度勾配分離によってバフィーコートから単離し、PBSで洗浄し、培養培地(2mMのL-グルタミン及び25mMのHepesを含むRPMI-1640、カタログ番号BE12-115F、Lonza;鉄、DBSIを有する10%ドナーウシ血清を補足、カタログ番号20371、Life Technologies)に再懸濁した。抗ヒトCD3 IgG1-F405L及びL234F-L235E-D265A、L234F-L235E-G236R、L234A-L235A-P329G、G236R-L328R、E233P-L234V-L235A-G236del-S267K、又はL234A-L235E-G237A-A330S-P331S変異を有するその非活性化バリアントの用量応答シリーズ、F405Lに加えて並びにヒンジ安定化突然変異S228Pを有する抗ヒトCD3 IgG4、又はF405L及びR409Kに加えてS228P-E233P-F234V-L235A-G236del若しくはS228P-F234A-L235A突然変異を有する非活性化バリアントを、培地(0.001~1000ng/mlの最終濃度、10倍希釈)中で調製し、培地中にPBMC(1.5×105細胞/ウェル)を含む96ウェル丸底プレートのウェルに添加した。16~24時間のインキュベーション後、細胞を遠心分離によってペレット化した。その後、細胞をFACS緩衝液(1×PBS、カタログ番号BE17-517Q、Lonza;0.1%ウシ血清アルブミン、BSA;0.02%NaN3、カタログ番号41920044-3、Bio-world)で洗浄し、マウス抗ヒトCD28-PE(カタログ番号130-092-921;Miltenyi Biotec;T細胞マーカー)及びマウス抗ヒトCD69-APC抗体(カタログ番号340560;BD Biosciences)で4℃で30分間染色した。未結合抗体をFACS緩衝液で2回洗浄することによって除去し、続いて細胞をFACS緩衝液(150μL/ウェル)に再懸濁し、PBMC混合物中のCD28陽性細胞のCD69陽性細胞の割合をFortessaフローサイトメーター(BD)で測定した。データをCD28+細胞のCD69+に対する用量応答として可視化し、各実験複製物のPBMCドナー当たりの用量応答曲線下面積(AUC)を、ベースラインとしてバックグラウンド染色(抗体対照なし)を用いたGraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度を使用して計算し、その後、実験複製物当たりの各ドナーについて、野生型IgG1抗体バリアントについて測定されたAUC値(IgG1-F405L、100%)に対して正規化した。データは、3つの独立したレプリケートから6人のドナーから得られた平均値±SEMである。
【0224】
初期T細胞活性化の尺度としてのT細胞上のCD69アップレギュレーションの評価は、F405L変異に加えてL234F-L235E-G236R非活性化変異を有する抗ヒトCD3抗体IgG1が、試験した他のバリアント、すなわち非活性化変異L234F-L235E-D265A、L234A-L235A-P329G、G236R-L328R、E233P-L234V-L235A-G236del-S267K、又はL234A-L235E-G237A-A330S-P331Sを含む抗ヒトCD3 IgG1-F405Lバリアント、並びに非活性化変異S228P-E233P-F234V-L235A-G236delを含む抗ヒトCD3 IgG4-F405L-R409Kバリアントと同様に、PBMC共培養物中のT細胞上のCD69のアップレギュレーションを防止したことを示す(
図9A、
図9B)。対照的に、F405L変異を有するN297Gを有する抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアント及びF405L-R409K変異を有するS228P-F234A-L235Aを有する抗ヒトCD3 IgG4抗体バリアントは、PBMC共培養物中のT細胞上のCD69上方制御を防ぐことができなかった。
【0225】
要約すると、PBMC共培養物におけるCD69アップレギュレーションによって測定されるT細胞の活性化は、抗ヒトCD3 IgG1型抗体における新規L234F-L235E-G236R非活性化変異の導入によって防止することができる。
【0226】
[実施例11]
非活性化抗体バリアントによって誘導されるインビトロT細胞媒介性細胞傷害
実施例10では、CD3標的化抗体のIgG1バリアントの定常重鎖領域に非活性化変異L234F-L235E-G236Rを導入すると、T細胞活性化を効率的に防止できることが示された。ここで、T細胞媒介性細胞傷害性を、CD3xHER2、CD3xb12及びb12xHER2二重特異性野生型IgG1及びIgG4抗体並びに定常重鎖領域に非活性化変異を有するそれらのバリアントについて評価した。
【0227】
実施例1に記載されているように、制御されたFabアーム交換(cFAE)によって二重特異性分子を作製した。野生型二重特異性抗体CD3xHER2(抗ヒトCD3(huCLB-T3/4)IgG1又はIgG4及び抗ヒトHER2IgG1又はIgG4)、CD3xb12(抗ヒトCD3(huCLB-T3/4)IgG1又はIgG4及び非結合コントロール抗体抗HIV1gp120(b12)IgG1又はIgG4)、又はb12xHER2(非結合コントロール抗体抗HIV1gp120(b12)IgG1又はIgG4及び抗ヒトHER2IgG1又はIgG4)及び定常重鎖領域に非活性化変異を有するそのバリアントによるT細胞媒介性細胞傷害性を評価した。PBMCを、実施例9に記載の密度勾配分離によって健康なドナーに由来するバフィーコートから単離し、PBSで洗浄し、培養培地(2mMのL-グルタミン及び25mMのHepesを含むRPMI-1640;鉄(DBSI)を含む10%ドナーウシ血清を補充した)に再懸濁した。HER2発現SK-OV-3細胞(カタログ番号HTB-77、ATCC)を、10%(vol/vol)熱不活性化DBSI及びペニシリン-ストレプトマイシン(Pen/Strep、最終濃度50単位/mLペニシリンカリウム及び50μg/mL硫酸ストレプトマイシン(ロンザ、カタログ番号DE17-603E)を補充したMcCoyの5A培地(Lonza、カタログ番号BE12-168F)で培養し、5%(vol/vol)CO2加湿インキュベータ内で37℃で維持した。SK-OV-3細胞をコンフルエント付近まで培養した。細胞をトリプシン処理し、培養培地に再懸濁し、続いてセルストレーナーに通して、単一細胞懸濁液を得た。2.5×104個のSK-OV-3細胞を96ウェル培養プレートの各ウェルに播種し、細胞を37℃、5%CO2で4時間インキュベートしてプレートに接着させた。続いて、SK-OV-3標的細胞を含む96ウェルプレートの各ウェルに1×105個のPBMCを添加して、4:1のエフェクター対標的(E:T)比を得た。続いて、上記のような二重特異性CD3xHER2、CD3xb12及びb12xHER2野生型及びその非活性化バリアントの用量応答シリーズを培養培地(0.001~1000ng/mLの最終濃度、10倍希釈)中で調製し、SK-OV-3細胞及びPBMCを含有する96ウェル培養プレートのウェルに添加した。SK-OV-3標的細胞と2μMスタウロスポリン(カタログ番号S6942-200、Sigma)とのインキュベーションを、100%腫瘍細胞殺傷のための参照として使用した。培地対照(SK-OV-3細胞、抗体なし、PBMCなし)を0%腫瘍細胞殺傷の基準として使用した。プレートを37℃、5%CO2で3日間インキュベートした。3日後、プレートをPBSで2回洗浄し、10%のアラマーブルー(Invitrogen、カタログ番号DAL1100)を含有する150μLの培養培地を各ウェルに添加した。プレートを37℃、5%CO2で4時間インキュベートした。590nmの吸光度を測定した(Envision,Perkin Elmer,Waltham,MA)。データを、実験複製ごとに各ドナーについて計算した、生存SK-OV-3細胞のパーセンテージに対する用量応答として、GraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)で可視化した。データは、3つの独立したレプリケートから6人のドナーから得られた平均値±SEMである。
【0228】
定常重鎖領域に非活性化変異を有する全ての二重特異性CD3xHER2抗体バリアントは、野生型様機能を有するFc領域を有する、したがって非活性化変異を有さない二重特異性CD3xHER2抗体バリアントに匹敵する効率で、SK-OV-3細胞の用量依存性細胞傷害を誘導した(
図10A)。野生型様二重特異性CD3xb12抗体は、野生型様二重特異性CD3xHER2抗体バリアントよりも程度は低いが、SK-OV-3細胞の非特異的殺滅を誘導した。対照的に、L234F-L235E-G236R非活性化変異を有する二重特異性CD3xb12抗体バリアントは、試験した最高濃度でSK-OV-3細胞の部分的な非特異的細胞傷害性を依然として示したN297G変異を有するCD3xb12二重特異性抗体を除いて、試験した他の非活性化二重特異性CD3xb12バリアントと同様に、SK-OV-3細胞の細胞傷害性を示さなかった(
図10B)。これは、このバリアントについて実施例10で観察されたPBMC培養物中のT細胞の観察された活性化(CD69の上方制御)と一致している。野生型様二重特異性b12xHER2抗体バリアントでは、SK-OV-3細胞の非特異的細胞傷害性がわずかに観察された。E233P-L234V-L235A-G236del-S267K変異を有する二重特異性b12xHER2バリアントによる残留非特異的細胞傷害性を除いて、試験した他の二重特異性b12xHER2抗体バリアントでは非特異的細胞傷害性は観察されなかった(
図10C)。
【0229】
全体として、癌抗原及びT細胞を標的とする二重特異性抗体バリアントの定常重鎖領域における新規L234F-L235E-G236R変異の導入は、非特異的細胞傷害性を効率的に回避し、特異的T細胞媒介性細胞傷害性を誘導する能力を保持することを可能にする。
【0230】
[実施例12]
非活性化抗体バリアントの薬物動態(PK)分析
定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD3(huCLB-T3/4)及び抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントの薬物動態特性をマウス研究で分析した。
【0231】
この試験におけるマウスは、Central Laboratory Animal Facility(Utrecht,the Netherlands)に収容した。全てのマウスを個別に換気ケージで飼育し、食物及び水を自由に与えた。全ての実験は、指令(2010/63/EU)から翻訳されたオランダ動物保護法(WoD)に準拠しており、動物実験に関するオランダ中央委員会及び現地の倫理委員会によって承認された。SCIDマウス(C.B-17/IcrHan@Hsd-Prkdc<scid,Envigo)に、群当たり3匹のマウスを用いて500μgの抗体(野生型抗ヒトCD3 IgG1、F405L変異を単独で、又は非活性化変異L234F-L235E-D265A若しくはL234F-L235E-G236Rと組み合わせて有するそのバリアント、野生型抗ヒトCD20 IgG1、及びK409R変異を単独で、又は非活性化変異L234F-L235E-D265A若しくはL234F-L235E-G236Rと組み合わせて有するバリアント)を静脈内注射した。血液試料(50μL)を、抗体投与の10分後、4時間後、1日後、2日後、8日後、14日後及び21日後に顔面静脈から採取した。血液をヘパリンを含むバイアルに収集し、続いて10,000gで5分間遠心分離した。血漿を、抗体濃度の決定まで-20℃で保存した。
【0232】
総hIgG ELISAにより、特異的ヒトIgG濃度を決定した。96ウェルMicrolon ELISAプレート(Greiner,Germany)上に2μg/mLの濃度でコーティングされた抗ヒトIgG(カタログ番号M9105、ロット番号8000260395 Sanquin,The Netherlands)を捕捉抗体として使用した。その後、プレートを0.2%BSAを補充したPBSでブロックした後、試料を添加し、ELISA緩衝液(0.05%Tween20及び0.2%ウシ血清アルブミンを補充したPBS)で段階希釈し、プレートシェーカー上で室温(RT)で1時間インキュベートした。その後、プレートをヤギ抗ヒトIgG免疫グロブリン(カタログ番号109-035-098,Jackson)とインキュベートし、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸;ABTS;ロッシュ)で発色させた。2%シュウ酸(Riedel de Haen、カタログ番号33506)を添加することによって反応を停止させた。注入に用いた各材料を基準曲線とした。吸光度をマイクロプレートリーダー(Biotek、Winooski、VT)で405nmで測定した。
【0233】
抗ヒトCD20 IgG1抗体及びK409R、L234F-L235E-D265A-K409R、又はL234F-L235E-G236R-K409R変異を保有するそのバリアントの血清IgG濃度(
図11A)、並びに抗ヒトCD3 IgG1抗体及びF405L、L234F-L235E-D265A-F405L、又はL234F-L235E-G236R-F405L変異を保有するそのバリアントの血清IgG濃度(
図11B)は同等であった。マウスに注射した全ての抗ヒトCD20 IgG1及び抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントについて測定した血漿中IgG濃度は、SCIDマウスにおける野生型ヒトIgG1の2コンパートメントモデル薬物動態によって予測される濃度と一致していた。全ての抗ヒトCD20 IgG1及び抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントについて計算されたクリアランス値は、それらの野生型対応物と同様であった(
図11C;注射後21日目)。群間の変動は、主に、バッチ間のグリコシル化の違いによって引き起こされる可能性があり、フォーマットに関連しない可能性がある分布相の違いを反映する。t1/2ベータは、全ての突然変異について同等であると思われた。
【0234】
要約すると、新規L234F-L235E-G236R変異を含む非活性化変異の導入は、マウスにおけるIgG1抗体バリアントの薬物動態に影響を及ぼさない。
【0235】
[実施例13]
Fc領域におけるL234F-L235A-G236R非活性化変異を保有する抗体バリアントの免疫原性評価
L234F-L235E-G236R変異を有するIgG1抗体バリアント(IgG1-FER)の定常ドメインの臨床的免疫原性のリスクを、AbzenaのiTope(商標)及びTCED(商標)インシリコ技術を使用して評価した。
【0236】
iTope(商標)ソフトウェアは、試験タンパク質配列中の全ての可能な9量体ペプチドのアミノ酸側鎖と34個のヒトMHCクラスII対立遺伝子のオープンエンド結合溝との間の好ましい相互作用を予測する(Perry et al.,2008,Drugs RD 9(6),pp.385-96)。選択された対立遺伝子は、世界中で見られる最も一般的なHLA-DR対立遺伝子を表し、いかなる特定の民族集団において最も一般的に見られるものに起因する重み付けはない。これらの予測を野生型ヒトIgG1(m)f参照に存在するMHCクラスII結合配列と比較することによって、新規結合配列を同定することが可能である。50%以上のMHCクラスII対立遺伝子に中程度及び高親和性で結合すると予測されるペプチドは、T細胞エピトープの存在と相関すると考えられる(Hill et al.,2003,Arthritis Res Ther 5(1),pp.R40-8)。TCED(商標)は、様々なタンパク質、主に抗体を使用したエクスビボ免疫原性試験によって同定された既知のT細胞エピトープのデータベースである(Bryson et al.,2010,BioDrugs 24(1),pp.1-8)。データベースは、予測された乱雑な中程度又は高い親和性を有するペプチドもデータベースに存在するかどうかを確認するためにBLAST検索によって調査される。
【0237】
各9merを、潜在的な「適合」及びMHCクラスII分子との相互作用に基づいてスコア化した。ソフトウェアによって計算されたペプチドスコアは、0~1の間にある。高い平均結合スコア(iTope(商標)スコアリング関数で>0.55)を生じたペプチドを強調し、50%以上のMHCクラスII結合ペプチド(すなわち、34の対立遺伝子のうち17)が高い結合親和性(スコア>0.6)を有する場合、そのようなペプチドを、CD4+T細胞エピトープを含有する高いリスクと考えられる「無差別高親和性」MHCクラスII結合ペプチドと定義した。有望な中程度の親和性MHCクラスII結合ペプチドは、>0.55の結合スコアで≧50%の対立遺伝子に結合する(>0.6の大多数なし)。TCED(商標)を使用して配列の更なる分析を行った。これらの基準は、34個の対立遺伝子のうちの20個の開いたp1ポケットが大きな芳香族残基の結合を可能にするp1アンカー位置に存在する大きな芳香族アミノ酸(すなわち、F、W、Y)の場合に変更された。これが起こる場合、無差別ペプチドは、20個の対立遺伝子のサブセットの10個以上に結合すると定義される。配列は、以前のエクスビボ研究においてT細胞応答を刺激した無関係なタンパク質/抗体由来のペプチド(T細胞エピトープ)間の高い配列相同性を同定するために、BLAST検索によってTCED(商標)を調べるために使用した。
【0238】
iTope(商標)分析では、IgG1-FERに存在し、野生型IgG1(m)fには存在しない無差別の中程度又は高親和性MHCクラスII結合配列は同定されなかった。したがって、この分析に基づいて、IgG1-FERに基づく抗体について臨床的免疫原性のリスクの明らかな増加はない。
【0239】
[実施例14]
非活性化抗体バリアントの糖分析
IgG分子は、CH2領域に(IgG1については位置N297に)単一の保存されたAsn(N)結合グリコシル化部位を有する。このAsn結合型グリカンのコア構造は、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)及びマンノース残基から構成される。ガラクトース、シアル酸、コアフコシル化及び二切断性GlcNAc(Vidarsson et al.,2014,Front.Immunology Oct 20;5:520)を用いて更なる伸長を行うことができ、N297において不均一にグリコシル化されたIgG1分子をもたらす。グリカンは、タンパク質の立体配座、安定性及び生物学的機能において重要な役割を果たす(Costa et al.,Crit Rev Biotechnol 34(4):281-99(2014)).したがって、有効性及び薬物動態特性が影響を受ける可能性があるため、IgG1分子のグリコシル化変化は望ましくない。更に、グリカンの不均一性は、製造中に分析及び制御される必要があり、荷電グリカンは、放出試験又は特性評価に使用される画像化キャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)等の電荷に基づく分析アッセイの複雑さを更に増加させ得る。
【0240】
この実施例において、N結合型グリカンプロファイリングを、野生型抗ヒトCD20 IgG1抗体及びK409R変異に加えてL234F-L235E-D265A変異又はL234F-L235E-G236R変異を有するその非活性化バリアントに対して行った。更に、グリカンプロファイリングを、L234F-L235E-F405L変異を有する抗ヒトCD3(huCLB-T3/4)IgG1抗体、又はD265A若しくはG236R変異を更に有するそのバリアントに対して行った。
【0241】
IgG1N結合型グリコシル化の評価を、示されるような2つの異なる方法によって行った(表2)。抗ヒトCD20 IgG1野生型、L234F-L235E-D265A-K409R変異を有する抗ヒトCD20 IgG1、及びL234F-L235E-F405L又はL234F-L235E-D265A-F405L変異のいずれかを有する抗ヒトCD3 IgG1バリアントを、2-アミノベンズアミド(2-AB)標識によって分析した。N結合型グリカンプロファイリングを、2-AB標識グリカンのWaters Alliance 2695 Separations Module(Waters)を用いた順相HPLC分析によって行った。ペプチド-N-グリコシダーゼF(カタログ番号GKE-5006D、PROzyme)とのインキュベーションによって、抗体からN結合グリカンを放出させた。その後、抗体をエタノール沈殿させ(氷冷)、除去した。放出されたグリカンを含む上清を真空乾燥した。得られたグリカンを可溶化し、続いて、HPLC分析のための還元的アミノ化によって還元末端のフルオロフォア2-AB(LudgerTag 2-AB Glycan Labeling Kitから、カタログ番号LT-KAB-A2、Ludger)標識で標識した。次いで、蛍光検出と併せて勾配溶出を用いてHPLCプロファイルを得た。HPLCピーク強度の積分は、オリゴ糖の全集団に対する個々のN結合型グリカン(例えば、G0F、G1F、G2F等)のモル存在量のパーセンテージの尺度であった。ピークを、外部グリカン標準混合物(Ludger由来の別個のグリカンを混合することによって調製した:NGA2(=G0、#CN-NGA2-20U)、NGA2F(=G0F、#CN-NGA2F-20U)、NA2(=G2、#CN-NA2-20U)、NA2F(=G2F、#CN-NA2F-20U)、MAN5(#CN-MAN5-20U)、MAN6(#CN-MAN6-20U)、MAN8(#CN-MAN8-20U)、MAN9(#CN-MAN9-20U)、A1(#CN-A1-20U)、A1F(#CN-A1F-20U)、A2(#CN-A2-20U)、A2F(#CN-A2F-20U))に基づいて割り当てた。
【0242】
K409Rに加えてL234F-L235E-G236R変異を有する抗ヒトCD20 IgG1バリアント及びF405Lに加えてL234F-L235E-G236R変異を有する抗ヒトCD3 IgG1バリアントを、Orbitrap Q-Exactive Plus質量分析計(Thermo Fischer)を使用する液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)分析によって分析した。N結合型グリコシル化の同定及び相対定量を、還元型グリコシル化抗体重鎖に対して行った。重鎖の既知の一次アミノ酸配列を考慮すると、結合したN結合グリカンの質量同一性を同定することができた。簡潔には、抗体試料をPBS pH7.4(カタログ番号3623140、B.Braun)中200μg/mLに希釈して総体積を50μLにした。次に、1μLの1Mジチオスレイトール(DTT;カタログ番号D9163、Sigma)を50μLの試料に添加し、37℃で1時間インキュベートした。続いて、試料をガラスQsertバイアル(カタログ番号186001128c、Waters)に移し、LC-MSに入れた。1μLをLCカラムに注入し、移動相A(0.1%ギ酸を含むMilli-Q水、カタログ番号56302-50ml-F、Fluka)-移動相B(アセトニトリル中0.1%ギ酸、カタログ番号0001934101BS、Bio Solve)勾配を用いて0.2mL/分の流速で2分で、23%(B)から95%(B)で抗体を溶出した。得られた生のm/zスペクトルを、Protein Deconvolution 4.0(Thermo Fisher)ソフトウェアを用いてデコンボリューションした。結果として、デコンボリューションされたスペクトルは、グリコシル化重鎖質量の減少をもたらした。得られたピーク強度(スペクトルデコンボリューション後)は、オリゴ糖の全集団に対する個々のN結合型グリカン(例えば、G0F、G1F、G2F等)のモル存在量の計算されたパーセンテージの尺度であった。
図12は、検出されたグリカン種の概略図を示す。
【0243】
異なるオリゴ糖の相対的存在量を知ることは、その構造の知識と相まって(
図12参照)、A2F構造中の量に対するガラクトシル化及び荷電グリカンの総量の計算を可能にする。ここで百分率として計算される量はモル量、すなわち質量ではなく分子の数を表す。表2から、野生型IgG1配列は、それぞれ0~1%及び15~25%の荷電グリカンの存在率及びガラクトシル化率を有すると計算される。非活性化L234F-L235E-D265A変異の荷電グリカン及びガラクトシル化のパーセンテージは、約10%及び約60%であった。
【0244】
抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントのグリコシル化の評価(表2)は、K409R変異と組み合わせた非活性化L234F-L235E-D265A変異の導入が、抗ヒトCD20 IgG1野生型抗体と比較して、G1又はG2及びそのバリアントとして示されるガラクトシル化を増加させ(G:ガラクトース)、A1又はA2及びそのバリアントとして示される荷電グリカンの存在を増加させる(A:シアル酸)ことを明らかにした。F405L変異に加えて非活性化L234F-L235E-D265A変異を有する抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントについても同様のパターンが観察された。L234F-L235E-F405L変異を有する抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントは、抗ヒトCD20 IgG1野生型抗体と同様のグリコシル化パターンを示したので、増加したガラクトシル化及び荷電グリカンの存在をD265A変異の存在に割り当てることができる。これと一致して、抗ヒトCD20 IgG1-K409R又は抗ヒトCD3 IgG1-F405Lのいずれかに非活性化変異L234F-L235E-G236Rを導入しても、ガラクトシル化の増加及び荷電グリカンの存在の増加はもたらされなかった。
【0245】
要約すると、IgG1抗体の定常重鎖領域に非活性化L234F-L235E-D265A変異を導入すると抗体グリコシル化不均一性が増加し、ガラクトシル化が増加し、荷電グリカンの存在が増加するが、IgG1抗体に非活性化L234F-L235E-G236R変異を導入すると、IgG1の野生型定常領域に匹敵するグリカンプロフィールを保持することが可能になる。
【表4】
表2は、定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1及び抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントのグリコシル化の分析を示す。抗ヒトCD20 IgG1野生型(wt)又はL234F-L235E-D265A-K409R変異を有するバリアント、並びにL234F-L235E-F405L又はL234F-L235E-D265A-F405L変異を有する抗ヒトCD3 IgG1を、2-AB標識法によって分析した。L234F-L235E-G236R-K409R又はL234F-L235E-G236R-F405L変異をそれぞれ有する抗ヒトCD20 IgG1及び抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントのグリカンプロフィールを、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)によって評価した。Orbitrap LC-MS法とは対照的に、2-AB標識法は、G2及びマンノース6並びにA2F及びマンノース9(該当なし;na)を別々に割り当てることができないため、両方の合計が示されている。G0F-GN、G1F-GN、及びMan7は、2-AB法で評価されず、適用できない(na)と述べられている。試験したバリアントは、IgG1、IgG1-FER-K409R、IgG1-FEA-K409R、IgG1-FE-F405L、IgG1-FER-F405L、IgG1-FEA-F405Lであり、FER:L234F-L235A-G236R、FE:L234F-L235E、及びFEA:L234F-L235E-D265Aである。検出されたグリカン種の概略図を
図12に示す。
【0246】
[実施例15]
非活性化抗体バリアントによる制御されたFabアーム交換の効率
実施例11に示されるような標的細胞のT細胞媒介性細胞傷害性等の特定の用途は、一方のF(ab)アームが標的Aと係合し得、他方のF(ab)アームが標的Bと係合する二重特異性抗体(bsAb)バリアントの生成及び使用を必要とする。
【0247】
ここで、本発明者らは、効率的なヘテロ二量体形成に必要とされる単一特異性抗体の1つにそれぞれ存在するF405L変異又はK409R変異のいずれかに加えて、親単一特異性抗体の定常重鎖領域に非活性化変異を導入すると、実施例1に記載されるように、制御されたFabアーム交換(cFAE)によってbsAbバリアントが生成される効率を評価した。簡潔には、抗体を等モル濃度で混合し、75mM2-メルカプトエチルアミン-HCl(2-MEA;カタログ番号30078、Sigma Aldrich)と共に31℃で5時間インキュベートした。その後、PBSに対する緩衝液交換を実施例1に記載されるように達成し、濃度を、NanoDrop ND-2000-EU分光光度計(Thermo Fisher)を使用して280nmでの吸光度によって測定した。質量分析を行い、Orbitrap Q-Exactive Plus質量分析計(Thermo Fischer)を使用して二重特異性及び残留ホモ二量体含有量を決定した。
【0248】
cFAEの効率の評価により、各々が単一特異性抗体の1つに存在するF405L又はK409R変異に加えて非活性化変異L234F-L235E-G236Rを導入すると効率的なcFAEがもたらされ、集団の少なくとも95%がIgG1bsAb(BisG1)であり、残りの集団は単一特異性抗体の一方又は両方であることが明らかになった(図ではIgG1-A及びIgG1-Bとして示されている);
図13A)。更に、非活性化変異、すなわちF405L又はK409R変異に加えて1つの単一特異性抗体バリアントに存在するL234F-L235E-G236R、及びF405L又はK409R変異に加えて他の単一特異性抗体バリアントに存在するL234F-L235E-D265Aの非対称分布を有するbsAbバリアントを作製した場合に、cFAEの効率を評価した。分析により、各々が単一特異性抗体の1つに存在するF405L又はK409R変異に加えて、bsAbの両アームにL234F-L235E-G236R非活性化変異を有するバリアントについて示されるように、bsAbバリアント(
図13B、
図13C)の作製における同様の効率が明らかにされた(
図13A)。
【0249】
要約すると、IgG1定常重鎖領域に新規L234F-L235E-G236R非活性化変異を有する抗体バリアントは、単一特異性抗体の1つにそれぞれ存在するF405L及びK409R変異を使用した制御されたFabアーム交換によってbsAbバリアントを効率的に形成する能力を保持し、ヘテロ二量体化を可能にし、単一特異性ホモ二量体の形成を防止する。
【0250】
[実施例16]
非活性化抗体バリアントの産生レベル
この実施例では、F405L又はK409R変異のいずれかに加えて、定常重鎖領域にL234F-L235E-G236R又はL234F-L235E-D265A非活性化変異のいずれかを有する抗体バリアントの産生レベルを評価した。
【0251】
実施例1に記載したように、全ての抗体バリアントをExpi293F細胞で産生した。一方の非活性化抗体バリアントについては特定のクローンを使用するが他方については使用しないことによる産生力価の差を回避するため、及びL234F-L235E-D265A又はL234F-L235E-G236Rのいずれかの非活性化変異を定常重鎖領域に有する抗体バリアントの産生力価の直接比較を可能にするために、同じ抗体クローンを各群、すなわちF405L抗体バリアント又はK409R抗体バリアント内に表す。
【0252】
産生レベルの分析により、F405L変異に加えてL234F-L235E-G236R変異を有する非活性化抗体バリアント(黒い丸)が、F405L変異に加えて非活性化変異L234F-L235E-D265Aを有する抗体バリアント(白い丸;
図14)と同様のレベルで産生されることが明らかになった。K409R変異に加えてL234F-L235E-G236R非活性化変異を有する抗体バリアントの産生レベル(黒い四角)は、非活性化変異に加えてF405L変異を含む抗体バリアントと類似していたが、K409R変異に加えてL234F-L235E-D265A非活性化変異を有する抗体バリアントでは、平均産生レベルのわずかな増加が観察された(白い四角;
図14)。
【0253】
要約すると、F405L又はK409R突然変異に加えてL234F-L235E-D265A非活性化突然変異を有するバリアントと比較して、F405L又はK409R突然変異のいずれかに加えてL234F-L235E-G236R突然変異を有する非活性化抗体バリアントの産生レベルに大きな差は観察されなかった。
【0254】
[実施例17]
PEG中点、DLS及びDSF分析によるIgG1非活性化抗体バリアントの安定性及び溶解性の評価
定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗CD20及び抗CD3 IgG1抗体バリアントのタンパク質安定性及び溶解特性を、PEG誘導沈殿アッセイ、示差走査蛍光定量法(DSF)及び動的光散乱(DLS)アッセイを使用して評価した。
【0255】
抗ヒトCD20及び抗ヒトCD3 IgG1(huCLB-T3/4)抗体バリアントの試料を、およそ20mg/mL(濃度範囲18.7~21.6mg/mL;抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントに適用される濾過)の濃度でPBS pH7.4に製剤化した。PBSを非最適な製剤として使用して、タンパク質安定性のより良好な比較を可能にした。
【0256】
コンフォメーションタンパク質の安定性を評価するために、外因性色素Sypro-Orange(DMSO中5000倍濃縮物、カタログ番号S5692、Sigma-Aldrich)が変性IgGによって露出された疎水性領域に結合することによって引き起こされる蛍光強度の変化を検出することができるiQ5 Multicolor Real-Time PCR検出システム(Bio-Rad)においてDSFを行った。Sypro-OrangeをPBS(Hyclone GE Healthcare、カタログ番号SH3A383.03)pH7.4又は30mM酢酸ナトリウムpH4(カタログ番号25022-1KG-R、Sigma-Aldrich)で320倍希釈して75mMの濃度にした。熱融解曲線は、分析されたIgGの制御された段階的な熱変性中に増加する蛍光を測定することから導き出すことができる。したがって、20μLの75mMのSypro-Orange(PBS pH7.4又は30mM酢酸ナトリウムpH4のいずれかで)と混合した、K409R変異、L234F-L235E-D265A-K409R又はL234F-L235E-G236R-K409R変異のいずれかを有する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアント、又はF405L変異、L234F-L235E-D265A-F405L又はL234F-L235E-G236R-F405L変異を有する抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントの5μL試料(PBSで希釈;濃度範囲1mg/mL+/-10%)を、iCycler iQ96ウェルPCRプレートで二連で調製した。蛍光(励起485nm、発光575nm)を、25℃~95℃の範囲の上昇する温度で、0.5℃/増分及び15秒の持続時間+全ウェルの蛍光を記録するのに必要な時間の段階的な増分で記録した。Bio-Rad CFX Manager Software 3.0を使用してデータを分析し、ソフトウェアによって蛍光対温度のグラフから融点を決定した。
【0257】
コロイド安定性の尺度として、上述の抗体バリアントが溶液中で凝集する傾向を評価するためにDLS分析を行った。PBS pH7.4中の20μLの上記抗体バリアント(濃度範囲1mg/mL+/-10%)を、DynaPro Plate Reader II(Wyatt Technology)を用いて、Dynamics 7ソフトウェアを用いて分析した。試料を円形384ウェルIQ-LVプレート(Aurora Biotechnologies、カタログ番号1011-00110)に三連で適用し、2,111xgで3分間遠心分離し、パラフィン油で覆った。測定の前に、プレートを再び2,111xgで3分間遠心分離した。熱スキャン測定は、実験を通して連続的に上昇する温度(1℃の上昇/各特定の試料のデータ点)で実施した。キュムラント適合手順を使用してデータを分析し、見かけの半径を決定した。ソフトウェアアーチファクトによってしばしば引き起こされ、各取得で一貫して観察されないより低い半径を有するピークを除いて、2.1nmのカットオフ値を使用した。屈折率1.333及び粘度1.019cPを25℃のPBS緩衝液に使用した(ダイナミクスソフトウェアで提供される標準値)。Microsoft Excelでデータを処理して、凝集の開始(Tagg)を決定した。全てのウェルについて半径の平均及び標準偏差(n=10、最初の10回の測定)を計算することによって、Taggを決定した。各測定の99.99%信頼区間を個別に設定することにより、信頼区間外となる最初の連続値(25℃から80℃まで)をTaggとしてタグ付けした。5つの連続測定を実験ごとに3回実施した。
【0258】
PEG誘導沈殿アッセイを実施して、相対タンパク質溶解度を評価した。2つの緩衝液を調製した。緩衝液A:50mMリン酸緩衝液pH7.0(リン酸ナトリウム一塩基性;Fluka、カタログ番号17844+リン酸ナトリウム二水和物、Flukaカタログ番号71633);緩衝液B:50mMリン酸緩衝液pH7.0+40%(w/v)PEG8000(Sigma-Aldrich、カタログ番号P5413)。異なる量の緩衝液Bを緩衝液Aと混合して、0%~40%PEGの範囲の一連の11の異なるPEG濃度を生成した。各PEG濃度緩衝液の一定分量(80μL)を96ウェルプレート(UV Star(登録商標)96ウェルプレート、半分の面積、Greiner Bio-one、カタログ番号675801)の異なるウェルに添加した。各抗体試料(PBS中で1mg/mLに希釈)のうち、20μLを、一連のPEG含有緩衝液を含むウェルに添加する。プレートをシールで覆い、750rpmで5分間振盪した。プレートを室温で一晩放置し、続いて5分間振盪した。次いで、プレートを4000rpmで20分間遠心分離して、沈殿した抗体を除去した。各ウェルから、遠心分離した沈殿物を乱すことなく、80μLを新しいUV Star 96ウェルプレートに慎重に移した。Synergy(商標)2マルチモードマイクロプレートリーダー(Biotek Instruments,BioSPX)で280nmでの吸光度(可溶化タンパク質の量と相関するA280)を測定し、100μLの体積に再計算し(経路長補正)、ブランク値(抗体なしのPEG)を差し引いた。補正されたA280値を、Graphpad Prism 8におけるPEG濃度に対してプロットした。データを非線形回帰を用いて分析し、PEG中点(%)は、抗体の50%が沈殿した試験試料の濃度(すなわち、0%PEGと比較してA280で50%の損失)を反映する。PEG中間点は溶解度の尺度として使用され、より高いPEG中間点はより良好な溶解度に対応する。
【0259】
上記のアッセイの結果を表3、4に要約する。DSF分析により、pH7.4で68.0℃の融解温度(Tm)が明らかになり、これはpH4.0で56.0℃のTm1及び62.0℃のTm2に低下した。pH7.4での抗ヒトCD20 IgG1-L234F-L235E-G236R-K409Rについて記録されたTmは、K409R含有バリアントに匹敵した(それぞれ67.8℃対68.0℃)。pH4.0では、L234F-L235E-G236R-K409R変異を有するバリアントは、58.0℃で1つのTmを示した。対照的に、L234F-L235E-D265A-K409R変異を有する抗ヒトCD20 IgG1バリアントは、pH7.4で63.3℃のTm1及び68.5℃のTm2の減少を有し、一方、pH4.0では3つのTm、すなわち48.5℃、57.0℃及び61.0℃が記録された。抗ヒトCD3 IgG1抗体について、F405L変異のみ、又はL234F-L235E-G236R-F405L変異のいずれかを有するバリアントは、pH7.4(68.0℃)で同じTmを有し、pH4.0(F405L:53.5及び70.5℃;L234F-L235E-G236R-F405L:54.5及び70.8℃)で非常に類似したTm1及びTm2を有していた。pH7.4では、IgG1-huCLB-T3/4-L234F-L235E-D265A-F405L抗体バリアントのTmは、F405L及び234F-L235E-G236R-F405L含有バリアントと比較して減少した(63.0℃)。また、pH4.0において、バリアントIgG1-huCLB-T3/4-L234F-L235E-D265A-F405Lについて記録された第1のTmは、他のIgG1-huCLB-T3/4バリアントと比較して減少し(48.5℃)、一方、71.0℃の第2のTmが、他のIgG1-huCLB-T3/4バリアントと一致するIgG1-huCLB-T3/4-L234F-L235E-D265A-F405Lについて観察された。
【0260】
抗ヒトCD20 IgG1-K409R及び抗ヒトCD20 IgG1-L234F-L235E-D265A-K409R抗体バリアントは、最も低い凝集温度(Tagg;それぞれ57.9℃及び58.5℃)を示し、L234F-L235E-G236R-K409R含有バリアント(59.9℃)が続く。IgG1-huCLB-T3/4バリアントでは、L234F-L235E-D265A-F405L変異を有するバリアント(58.7℃)で最も低いTaggが観察され、続いてF405L含有バリアント及びL234F-L235E-G236R-F405L含有バリアントが続く(それぞれ61.7℃及び62.0℃)。
【0261】
K409R変異、L234F-L235E-D265A-K409R又はL234F-L235E-G236R-K409R変異のいずれかを有する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントは、PEG誘導沈殿アッセイによって決定されるように、同等の相対溶解度プロファイルを示した。全体として、抗ヒトCD3 IgG1バリアントは、抗ヒトCD20 IgG1バリアントと比較して低い相対溶解度を示した。L234F-L235E-D265A-F405L又はL2345F-L23E-G236R-F405L変異を有する抗ヒトCD3 IgG1バリアントは、溶解度に関して同等であった。これらのバリアントは両方とも、抗ヒトCD3 IgG1-F405Lバリアントよりも比較的わずかに可溶性が低かった。
【0262】
まとめると、非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントは、K409R含有対照バリアントと比較して、溶解性及び凝集傾向に関して同等のプロファイルを示した。しかしながら、L234F-L235E-G236R-K409R変異を有するバリアントは、K409R含有対照バリアントと同等のタンパク質安定性プロファイルを示したが、抗ヒトCD20 IgG1-L234F-L235E-D265A-K409Rバリアントは、より低いタンパク質安定性プロファイルを示した。抗ヒトCD3 IgG1バリアントについては、F405L又はL234F-L235E-G236R-F405L変異を有するバリアントは、同等の凝集傾向及びタンパク質安定性プロファイルを示した。両方の非活性化バリアントの溶解度は、F405L含有対照バリアントと比較して低下した。L234F-L235E-D265A-F405L変異を有するバリアントは、F405L又はL234F-L235E-G236R-F405L変異を有するバリアントと比較して、タンパク質安定性の低下及び凝集する傾向がわずかに高いことを示した。L234F-L235E-D265A-F405L含有バリアントの溶解度は、L234F-L235E-G236R-F405L含有バリアントに匹敵した。
【0263】
結論として、PBS中に高濃度で製剤化した場合、L234F-L235E-G236R変異を有する抗ヒトCD20及びCD3 IgG1バリアントは、L234F-L235E-D265A含有バリアントよりもロバストなタンパク質安定性プロファイルを示した。更に、L234F-L235E-G236R変異を有する抗ヒトCD3 IgG1バリアントは、L234F-L235E-D265A含有バリアントよりもわずかに低い凝集傾向を示した。
【0264】
表3は、定常重鎖領域に非活性化突然変異を有する抗ヒトCD20 IgG1及び抗CD3 IgG1(huCLB-T3/4)抗体バリアントについて、DSF分析によって決定されたタンパク質立体配座安定性を示す。DSF:示差走査蛍光測定;Tm:融解温度。
【0265】
表4は、定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1及び抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントについて、PEG中点決定アッセイによって決定されるタンパク質溶解度、及びDLS分析によって決定される凝集傾向を示す。T
agg:凝集温度;PEG:ポリエチレングリコール;DLS:動的光散乱。
【表5】
【表6】
[実施例18]
1又は4ヶ月間の異なる温度での貯蔵後のIgG1非活性化抗体バリアントのタンパク質安定性に対する影響
実施例17では、定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗CD20及び抗CD3 IgG1抗体バリアントのタンパク質安定性及び溶解度プロファイルを評価した。ここでは、このような抗体バリアントのタンパク質安定性を、異なるアッセイを使用して2~8℃又は40℃で1ヶ月又は4ヶ月間保存した後に評価した。
【0266】
抗ヒトCD20 IgG1及び抗ヒトCD3 IgG1(huCLB-T3/4)抗体バリアントの試料を、およそ20mg/mL(濃度範囲18.7~21.6mg/mL;抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントに適用される濾過)の濃度でPBS pH7.4に製剤化した。PBSを非最適な製剤として使用して、タンパク質安定性のより良好な比較を可能にした。抗ヒトCD20 IgG1バリアントは、K409R変異、L234F-L235E-D265A-K409R又はL234F-L235E-G236R-K409R変異のいずれかを有していたが、抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントは、F405L変異、L234F-L235E-D265A-F405L又はL234F-L235E-G236R-F405L変異のいずれかを有していた。試料を2~8℃で1ヶ月間、40℃で1ヶ月間、2~8℃で4ヶ月間、40℃で4ヶ月間インキュベートした。その後、全ての試料を高性能サイズ排除クロマトグラフィー(HP-SEC)、キャピラリー等電点電気泳動(cIEF)、キャピラリー電気泳動-ドデシル硫酸ナトリウム(CE-SDS)及び動的光散乱(DLS)によって分析した。
【0267】
HP-SEC分析は、TSKカラム(G3000SWxl;Tosoh Biosciences、カタログ番号6095006)及びTSK-ゲルSWxlガードカラム(Tosoh Biosciences、カタログ番号6095007)を使用して、Waters 2487二重λ吸光度検出器(Waters)を備えたWaters Alliance2795分離モジュール(Waters)を使用して行った。試料(PBS pH7.4で5mg/mLに希釈)を、移動相0.1M硫酸ナトリウム(Na2SO4、Sigma-Aldrich、カタログ番号31481)/0.1Mリン酸ナトリウムpH6.8(NaH2PO4、Sigma-Aldrichカタログ番号17844/Na2HPO4.2H2O、Sigma-Aldrichカタログ番号71633)を使用して1mL/分で運転した。結果をEmpower 3ソフトウェアを使用して処理し、ピークごとに総ピーク高さのパーセンテージとして表した。
【0268】
cIEF分析は、ICE3 Analyzer(ProteinSimple)を用いて行った。各抗ヒトCD20 IgG1バリアントを、最終的に0.3mg/mLの抗体、0.35%メチルセルロース(ProteinSimple、カタログ番号101876);2%Pharmalytes3-10(GE Healthcare、カタログ番号17-0456-01);6%Pharmalytes8-10.5(GE Healthcare,、カタログ番号17-0455-01);0.5%pIマーカー7.65及び0.5%pIマーカー10.10(ProteinSimple、カタログ番号102407及びカタログ番号102232)を含有するアッセイミックスと混合した。フォーカシングは、1500V(プレフォーカシング)で1分間、3000Vで7分間行った。抗ヒトCD3 IgG1バリアントを、最終的に0.3mg/mLの抗体;3.2Mの尿素(Sigma-Aldrich、カタログ番号33247-1kg);0.35%メチルセルロース;2%Pharmalytes3~10;6%Pharmalytes8~10.5;0.5%pIマーカー7.65及び0.5%pIマーカー10.10を含有するアッセイミックスと混合した。フォーカシングは、1500V(プレフォーカシング)で2分間、3000Vで9分間行った。全キャピラリー吸収画像を電荷結合素子カメラによって撮影した。ピークプロファイルの較正後、Empower 3ソフトウェア(Waters)によってデータをpI及び面積(%)について分析した。
【0269】
CE-SDSは、HT Protein Express試薬キット(Perkin Elmer、カタログ番号CLS960008)をほとんど修飾することなく使用して、HT Protein Express LabChip(Perkin Elmer、カタログ番号760499)上でLabChip(登録商標)GXII Touch(Perkin Elmer、カタログ番号CLS138160)を使用して行った。試料をPBS pH7.4で1mg/mLに希釈し、2μLの希釈試料+7μLの変性溶液+35μLのMilliQ水によって試料を調製した。試料を96ウェルBio-Rad HSP9601プレート(カタログ番号4TI-0960)中で調製した。分析は、非還元条件及び還元条件(DTTの添加)の両方で行った。試料を70℃で3分間インキュベートすることによって変性させた。チップを製造者の説明書に従って調製し、試料をHT抗体分析200高感度設定で実行した。タンパク質サイズ(kDa)及び純度(%)を、Labchip GXIIソフトウェアV5.3.2115.0を使用して分析した。
【0270】
動的光散乱(DLS)は、本質的に実施例17に記載されるように行ったが、ここでは、DLSを25℃の一定の温度で行って平均粒径を決定した。
【0271】
全ての結果を表5~7に要約する。HP-SECによって検出されたように、2~8℃で4ヶ月間の抗ヒトCD20 IgG1及びIgG1-huCLB-T3/4抗体バリアントの保存は、1ヶ月の曝露と比較して、試料中に検出された多量体の割合に大きな影響を及ぼさなかった。存在する多量体のパーセンテージは、40℃に4ヶ月間さらされた抗ヒトCD20及びCD3 IgG1バリアントを含有する試料において最も高く、40℃に1ヶ月間さらされたものはより低い程度であった。40℃の抗ヒトCD20 IgG1試料のうち、L234F-L235E-D265A-K409R変異を有するバリアントの試料は、K409R又はL234F-L235E-G236R-K409R変異のいずれかを有するバリアントの試料よりも高い割合の多量体を含んでいた。更に、抗ヒトCD20 IgG1バリアントを含有する試料間で分解の割合の差は観察されなかった。抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントの場合、L234F-L235E-G236R-F405L含有バリアントの試料を40℃に4ヶ月間、及びより少ない程度で40℃に1ヶ月間供した後、試料中に多量体の増強された割合が検出されたが、多量体の割合は、L234F-L235E-D265A-F405L又はF405L変異を有するバリアントの試料について同等であった。抗ヒトCD3 IgG1-L234F-L235E-G236R-F405Lバリアントを40℃に1ヶ月間曝露すると、比較的高い割合のタンパク質が分解され、4ヶ月の曝露後に次第に分解された。
【0272】
cIEF分析を使用して、異なるストレス条件に応答した抗体バリアントの酸性、中性及び塩基性ピークの割合の変化を研究した。試料中に存在する酸性タンパク質のパーセンテージの変化は、脱アミドの代用尺度として使用される。注目すべきことに、中性ピークは、いずれかの温度で1ヶ月間保存した試料について2つのピークに分割され、これを中性タンパク質のパーセンテージとして合計した。酸性タンパク質のパーセンテージの増加は、40℃で1から4ヶ月間の貯蔵の間に全ての試料で観察されたが、2~8℃で貯蔵した試料については、貯蔵の1から4ヶ月間の酸性タンパク質のパーセンテージのこのような増加は観察されなかった。酸性タンパク質のパーセンテージは、試験した全ての抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントについて同等であった。F405L変異のみ、L234F-L235E-D265A-F405L又はL234F-L235E-G236R-F405L変異のいずれかを有する抗ヒトCD3 IgG1バリアントはまた、40℃で4ヶ月の貯蔵後に最大79%の酸性タンパク質に達したF405L含有バリアントを除いて、全ての試験条件で同等の割合の酸性タンパク質を示したが、非活性化変異を有するバリアントはこの条件でそれぞれ98%及び96%に達した。
【0273】
CE-SDSによって検出されたインタクトなタンパク質のパーセンテージは、試験したストレス条件に応答したタンパク質の完全性及び分解の尺度として役立った。抗ヒトCD20 IgG1バリアントは、試料を2~8℃で1又は4ヶ月間保存した後、又は40℃で1ヶ月間保存した後、それらのインタクトな構造をほとんど保持した。しかしながら、検出されたインタクトIgGの割合は、全ての抗ヒトCD20 IgG1バリアントについて試料を40℃に4ヶ月間曝露した後に減少し、K409R含有バリアントについて最も強い分解が観察された。同様のパターンが、HC及びLCの割合を研究したときに観察されたが、K409R変異又はL234F-L235E-D265A-K409R変異を有するバリアントが同様の割合のHC及びLCを示したことを除いて、程度はより低かった。抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントは同様の分解パターンを示し、L234F-L235E-G236R-F405L含有バリアントは、40℃への曝露後にインタクトIgGタンパク質の最低パーセンテージを示した。抗ヒトCD3 IgG1バリアントのHC及びLCの割合は全体的に同様のパターンを示したが、L234F-L235E-D265A-F405L変異を有するバリアントでは、HC及びLCの最も低い割合が検出された。
【0274】
DLS分析を行って、抗体バリアント試料を、凝集レベルの代用尺度である示されたストレス条件に供した後の平均粒径(半径)を決定した。全ての抗ヒトCD20 IgG1バリアントについて、試料を40℃に4ヶ月間曝露すると、試験した他の条件と比較して平均粒子半径が実質的に増加した。全ての試験条件において、K409R及びL234F-L235E-D265A-K409Rバリアントと比較して、L234F-L235E-G236R-K409Rバリアントを有するバリアントで最も高い平均粒子半径が検出された。粒子は、L234F-L235E-G236R-K409R含有バリアントを含有する試料の出発材料中に既に存在していた。抗ヒトCD3 IgG1バリアントについては、全ての試験条件において、抗ヒトCD3 IgG1-F405Lバリアントについて比較的大きな平均粒径が検出された。これらのより大きな半径の原因は、粒子が出発材料中に既に存在していたので、印加された応力条件とはおそらく無関係である。ストレス後に平均粒径の増加は観察されない。非活性化変異L234F-L235E-D265A-F405L又はL234F-L235E-G236R-F405Lを有するバリアントについて、実質的により低い平均粒径が検出された。
【0275】
要約すると、定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20及びCD3 IgG1抗体バリアントの1~4ヶ月間の40℃でのインキュベーションは、2~8℃で保存したバリアントと比較して多量体化の増加をもたらした。L234F-L235E-D265A-K409Rを有する抗ヒトCD20 IgG1バリアントでは、L234F-L235E-G236R-K409R変異を有するバリアントよりも多くの多量体化が観察されたが、L234F-L235E-G236R-F405L変異を有する抗ヒトCD3 IgG1のバリアントは、L234F-L235E-D265A-F405L変異を有するバリアントよりも多くの多量体化を示した。一般に、脱アミド化タンパク質の代用尺度として使用される酸性タンパク質の割合の増加は、2~8℃で1又は4ヶ月間保存した場合、試験した抗体バリアントのいずれについても観察されなかった。40℃で1ヶ月間保存した試料は、2~8℃での保存と比較して比較的多くの酸性タンパク質を含有していたが、40℃で4ヶ月間保存した後、試験した全てのバリアントについて酸性タンパク質の割合の更なる増加が観察された。40℃で貯蔵した後、全ての抗体バリアントでインタクトなタンパク質がより少なく検出され、これは4ヶ月の貯蔵後に最も顕著であった。抗ヒトCD3 IgG1-L234F-L235E-G236R-F405Lバリアントは、40℃で4ヶ月間保存した後に検出されたインタクトタンパク質の割合のわずかにより強い減少を示した。最後に、40℃で4ヶ月間保存した場合、全ての抗ヒトCD20 IgG1バリアントについて、より多くの凝集が観察された。抗ヒトCD3 IgG1バリアントのうち、非活性化変異を有する両バリアントは、F405L含有バリアントよりも実質的に少ない凝集体を含有した。
【0276】
L234F-L235E-D265A又はL234F-L235E-G236R非活性化変異のいずれかを有する抗ヒトCD20及びCD3 IgG1バリアントの両方について、許容可能な安定性プロファイルが観察された。40℃で4ヶ月間保存すると、試験した全ての抗体バリアントの安定性プロファイルが低下した。
【0277】
表5は、2~8℃又は40℃で1ヶ月間又は4ヶ月間保存された定常重鎖領域に非活性化変異又は単一ヘテロ二量体化促進変異を有する抗ヒトCD20及びCD3 IgG1(huCLB-T3/4)抗体バリアントを含む試料における、HP-SEC分析によって検出される多量体、単量体及び分解されたタンパク質の割合を示す。HP-SEC:高性能サイズ排除クロマトグラフィー。
【0278】
表6は、cIEF分析によって決定された、2~8℃又は40℃で1又は4ヶ月間保存された、定常重鎖領域における非活性化変異又は単一ヘテロ二量体化促進変異を有する抗ヒトCD20及びCD3 IgG1バリアントを含有する試料中に存在する酸性、中性及び塩基性アイソフォームのパーセンテージを示す。試料中に存在する酸性アイソフォームのパーセンテージの変化は、試料脱アミドのレベルの代用である。CIEF:キャピラリー等電点電気泳動。
【0279】
表7は、2~8℃又は40℃で1ヶ月間又は4ヶ月間保存した定常重鎖領域に非活性化変異又は単一ヘテロ二量体化促進変異を有する抗ヒトCD20及びCD3 IgG1バリアントを含有する試料において検出された、非還元及び還元CE-SDS分析によって決定されるインタクトなタンパク質並びにHC及びLCの合計のパーセンテージ、並びにDLS分析によって決定される粒子の平均半径(nm)を示す。CE-SDS:ドデシル硫酸ナトリウムのキャピラリー電気泳動;DLS:動的光散乱。
【表7】
【表8】
【表9】
[実施例19]
IgG1非活性化抗体バリアントの安定性に対する凍結/融解の影響
定常重鎖領域に非活性化変異を有するIgG1抗体バリアントの安定性に対する凍結/解凍サイクルの影響を、実施例18に記載のアッセイを使用して評価した。
【0280】
抗ヒトCD20及びCD3 IgG1(huCLB-T3/4)抗体バリアントの試料を、およそ20mg/mL(濃度範囲18.7~21.6mg/mL;抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントに適用される濾過)の濃度でPBS pH7.4に製剤化した。PBSを非最適な製剤として使用して、タンパク質安定性のより良好な比較を可能にした。抗ヒトCD20 IgG1バリアントは、K409R変異、L234F-L235E-D265A-K409R又はL234F-L235E-G236R-K409R変異のいずれかを有していたが、抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントは、F405L変異、L234F-L235E-D265A-F405L又はL234F-L235E-G236R-F405L変異のいずれかを有していた。2つの独立した同一の試料を<-65℃で凍結し、3サイクルで室温(RT)に解凍した。続いて、実施例18に記載されているように、HP-SEC、cIEF、CE-SDS及びDLSを使用してタンパク質安定性を試験した。
【0281】
凍結及び解凍の3サイクル後、HP-SECによって決定されるように、抗ヒトCD20 IgG1バリアントを含有する試料において多量体の割合の増加が観察されるが、試料中に存在する多量体の割合は低い(参照試料では0.7%~1.2%、凍結融解試料では1.8%~2.8%の範囲)。抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントについては、0.2%~0.7%の範囲の検出された多量体のパーセンテージは、信頼できる結論を可能にするには低すぎると考えられた。
【0282】
cIEF分析によって決定した場合、抗ヒトCD20及びCD3 IgG1抗体バリアントの凍結及び融解時に、酸性タンパク質のパーセンテージに実質的な差は検出されなかった。全体として、K409R又はF405Lのいずれかと組み合わせてL234F-L235E-D265A変異を有するバリアントは、おそらくD265Aのシアリル化に起因して、参照試料においても酸性タンパク質の最も高いパーセンテージを示した。
【0283】
抗体バリアント試料の凍結及び解凍はまた、IgG1バリアントのいずれについてもインタクトタンパク質の割合に影響せず、インタクトタンパク質の割合は99%~100%の範囲であった。同様に、HC及びLCの割合も、試料の凍結及び解凍によって影響を受けなかった。
【0284】
DLS分析によって評価した平均粒径(半径)は、試料の凍結及び解凍による影響を受けなかった。L234F-L235E-G236R-K409R変異を有するバリアントについては、比較的より多くの抗ヒトCD20 IgG1バリアントの凝集体が検出されたが、抗ヒトCD3 IgG1バリアントについては、F405L含有バリアントについて比較的多くの凝集体が検出された。
【0285】
要約すると、K409R又はF405Lのいずれかと組み合わせた非活性化変異L234F-L235E-D265A又はL234F-L235E-G236Rを有する抗ヒトCD20及びCD3 IgG1抗体バリアントを含有する試料の凍結及び解凍は、参照試料と比較して、多量体化、脱アミド化、又はタンパク質分解の関連する増強をもたらさなかった。したがって、L234F-L235E-G236R又はL234F-L235E-D265A変異のいずれかを有する抗体バリアントは、反復凍結/解凍サイクル時にタンパク質安定性を同様に保持することができると結論付けられた。
【0286】
表8は、3回の凍結/解凍サイクルに供した定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1及び抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントを含有する試料における、HP-SEC分析によって検出される多量体及び単量体の割合を示す。示されている値は、3回の凍結/解凍サイクルに供された2つの個々の試料の平均である。HP-SEC:高性能サイズ排除クロマトグラフィー。
【0287】
表9は、cIEF分析によって決定した、1回又は2回の凍結/解凍サイクルに供した定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20及びCD3 IgG1抗体バリアントを含有する試料中に存在する酸性、中性及び塩基性アイソフォームのパーセンテージを示す。試料中に存在する酸性タンパク質のパーセンテージの変化は、脱アミドの代用尺度として使用される。示されている値は、3回の凍結/解凍サイクルに供された2つの個々の試料の平均である。CIEF:キャピラリー等電点電気泳動。
【0288】
表10は、CE-SDS分析によって決定されるインタクトなタンパク質及び総HC+LCのパーセンテージ、並びに3回の凍結/解凍サイクルに供された定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20及びCD3 IgG1抗体バリアントを含有する試料において検出されたDLS分析によって決定される平均半径(nm)を示す。示されている値は、3回の凍結/解凍サイクルに供された2つの個々の試料の平均である。CE-SDS:ドデシル硫酸ナトリウムのキャピラリー電気泳動;DLS:動的光散乱。
【表10】
【表11】
【表12】
[実施例20]
IgG1非活性化抗体バリアントの安定性に対する低pH誘導ストレスの影響
実施例18では、定常重鎖領域に非活性化変異を有するIgG1抗体バリアントの低温又は高温保存の影響を、一連のタンパク質安定性アッセイを使用して評価した。同じアッセイを実施例19に適用して、そのようなIgG1抗体バリアントの安定性に対する凍結/解凍サイクルの影響を評価した。ここで、抗体治療薬開発中のウイルス不活化は低pH条件下で行われることが多いので、低pH誘導ストレスの影響を実施例18に記載のアッセイを使用して評価する。
【0289】
抗ヒトCD20 IgG1及び抗ヒトCD3(huCLB-T3/4)IgG1抗体バリアントの試料を、およそ20mg/mL(濃度範囲18.7~21.6mg/mL;抗ヒトCD3抗体バリアントに適用される濾過)の濃度でPBS pH7.4に製剤化した。抗ヒトCD20 IgG1バリアントは、K409R変異、L234F-L235E-D265A-K409R又はL234F-L235E-G236R-K409R変異のいずれかを有していたが、抗ヒトIgG1抗体バリアントは、F405L変異、L234F-L235E-D265A-F405L又はL234F-L235E-G236R-F405L変異のいずれかを有していた。示された抗体バリアントをPBS(参照)中で製剤化し、1時間(室温で)又は24時間(2~8℃で)0.02Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0;Sigma-Aldrich、カタログ番号C1909-500G)に緩衝液交換し、続いて別の緩衝液交換をしてPBSに戻した。続いて、実施例18に記載されているように、HP-SEC、cIEF、CE-SDS及びDLSを使用してタンパク質安定性を試験した。
【0290】
HP-SEC分析によって決定されるように、抗ヒトCD20 IgG1試料中に存在する多量体の割合は、L234F-L235E-D265A-K409R変異を有するバリアントについてpH3.0で実質的に増加したが、K409R及びL234F-L235E-G236R-K409R含有バリアントは両方とも、多量体の割合のより低い増加を示した。pH3.0条件下に1時間又は24時間維持した試料で観察された多量体の割合は同様であった。抗ヒトCD3 IgG1バリアントについては、L234F-L235E-D265A-F405L又はL234F-L235E-G236R-F405L変異を有するバリアントを含む試料は両方とも、pH3.0(1時間及び24時間)で多量体の存在の増加を示した。これらの割合は、F405L含有バリアントを含有する試料で検出されたものよりも高かった。
【0291】
cIEF分析によって生成されたデータは、pH3.0で1又は24時間インキュベートした全ての抗ヒトCD20 IgG1バリアントについて、中性ピークの塩基性側でのテーリングを示した。非活性化変異L234F-L235E-D265A-F405L又はL234F-L235E-G236R-F405Lを有する抗ヒトCD3 IgG1バリアントは、pH3.0で酸性タンパク質のパーセンテージの増加を示したが、これはF405L含有バリアントでは観察されなかった。参照試料(pH7.4)と比較して、L234F-L235E-D265A-F405L-及びL234F-L235E-G236R-F405L含有バリアントの両方についてpH3.0で酸性タンパク質の増加が観察されたが、L234F-L235E-D265A-F405L含有バリアントは、おそらくD265Aのシアリル化に起因して、L234F-L235E-G236R-F405L含有バリアントよりも高い割合の酸性タンパク質をpH7.4で既に含有していた。注目すべきことに、非活性化変異を有する抗ヒトCD3 IgG1バリアントを含有する試料中の酸性タンパク質のパーセンテージの増加は、試料中に形成された凝集体の増加に起因し得る、pH3.0でこれらの試料中に観察されるスパイクの増加を反映し得る。
【0292】
CE-SDS分析は、インタクトなIgG1又は総HC+LCの割合において、PBS又はpH3.0の緩衝液のいずれかで製剤化された試料間の差を明らかにしなかった。更に、抗ヒトCD20 IgG1-L234F-L235E-D265A-K409RをpH3.0で1時間又は24時間維持すると、DLS分析を使用して検出される平均粒径の増加が観察された。抗ヒトCD20 IgG1-L234F-L235E-G236R-K409Rバリアントを含有するPBS参照試料及び抗ヒトCD3 IgG1-F405Lバリアントを含有する試料におけるより大きい平均粒径は、緩衝液交換中の凝集体の除去によって説明され得る。これらの観察結果とは別に、PBS単独又はpH3.0でのインキュベーション後にPBS中に製剤化された試料間で粒径の実質的な差は観察されなかった。
【0293】
要約すると、生理学的pHのPBS中に製剤化された試料と比較して、試料をpH3.0でインキュベートした場合、定常重鎖領域にF405L若しくはK409R変異及び/又は非活性化変異のいずれかを有する抗ヒトCD20又はCD3 IgG1抗体バリアントを含む試料において、多量体の存在の増加が検出された。L234F-L235E-D265A-K409R変異を有する抗ヒトCD20 IgG1バリアントは、L234F-L235E-G236R-K409R変異を有するバリアントよりも多量体化のより大きな増加を示した。塩基性側の中性ピークのテーリングは、pH3.0で試験した全ての抗ヒトCD20 IgG1バリアントについて観察されたが、非活性化変異を有する抗ヒトCD3 IgG1抗体バリアントについての結果は、pH3.0に保たれた試料で検出されたスパイクのために決定的ではなかった。酸性条件(pH3.0)はタンパク質の完全性に影響を及ぼさなかったが、pH3.0でのインキュベーション後に抗ヒトCD20 IgG1-L234F-L235E-D265A-K409Rについて平均粒径の相対的増加が検出された。
【0294】
したがって、低pHでインキュベートした場合、L234F-L235E-G236R変異を有する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントは、L234F-L235E-D265A変異を有するバリアントよりも低い凝集を示した。これは、低pHでのウイルス不活化手順中に、L234F-L235E-G236R含有抗体バリアントがL234F-L235E-D265A含有バリアントよりも好ましい可能性があることを示す。
【0295】
表11は、PBS中に製剤化された定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20及びCD3 IgG1(huCLB-T3/4)抗体バリアントを含有する試料、又は0.02Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)中で1時間若しくは24時間インキュベートしたときのHP-SEC分析によって検出される多量体及び単量体の割合を示す。
【0296】
表12は、cIEF分析によって決定した、PBS、又は0.02Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)中で1又は24時間製剤化された、定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1及び抗CD3 IgG1(-huCLB-T3/4)抗体バリアントを含有する試料中に存在する酸性、中性及び塩基性アイソフォームのパーセンテージを示す。
【0297】
表13は、CE-SDS分析によって決定されるインタクトIgG及び総HC+LCのパーセンテージ、並びにPBS又は0.02Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)中で1時間又は24時間製剤化された定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1及び抗CD3 IgG1-huCLB-T3/4抗体バリアントを含有する試料中で検出されたDLS分析によって決定される平均粒子半径(nm)を示す。
【表13】
【表14】
【表15】
[実施例21]
低pHでのIgG1非活性化抗体バリアントの安定性の評価
実施例20では、定常重鎖領域に非活性化変異を有するIgG1抗体バリアントの安定性に対する低pHの影響を、一連のタンパク質安定性アッセイを使用して評価した。ここで、低pH誘導ストレス(pH3.5)の影響を、実施例18に記載のアッセイを使用して、RTで0.5、1及び4時間後に評価する。
【0298】
抗ヒトCD20及びヒトCD3(huCLB-T3/4)抗体バリアントの試料を、およそ5mg/mL(濃度範囲4.98~5.3mg/mL)の濃度でPBS pH7.4に製剤化した。IgG1-CD20バリアントは、L234F-L235E-D265A-K409R又はL234F-L235E-G236R-K409R変異のいずれかを保有していたが、IgG1-CD3抗体バリアントは、L234F-L235E-D265A-F405L又はL234F-L235E-G236R-F405L変異のいずれかを保有していた。低pH(3.5)条件への曝露の影響を評価するために、抗体バリアントを含有する試料を、室温で0.5時間、1時間及び4時間、0.02Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)で緩衝液交換し、続いて別の緩衝液交換をしてPBSに戻した。実施例19に記載されているように、HP-SEC、CE-SDS及びDLSを使用してタンパク質安定性を試験した。
【0299】
HP-SEC分析によって決定した場合、試料をpH3.5でインキュベートした0.5時間、1時間及び4時間の時点で、非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントを含有する試料中の多量体の割合の増加は観察されなかった。L234F-L235E-G236R-F405L変異を有する抗ヒトCD3 IgG1バリアントの多量体の割合は、時間とともにわずかに増加した。検出された多量体の割合は、pH3.5でIgG1-huCLB-T3/4-L234F-L235E-D265A-F405Lバリアントを含有する試料において経時的に強く増加した。
【0300】
CE-SDS分析は、試料をpH7.4(PBS)又はpH3.5のいずれかでインキュベートした場合、試験した試料のいずれにおいてもインタクトIgG又は総HC+LCの割合の変化を明らかにしなかった。また、DLSによって分析されるように、pH7.4又はpH3.5のいずれかに維持された試料のいずれかの間で平均粒径の実質的な差は検出されなかった。IgG1-CD20-L234F-L235E-G236R-K409Rの参照試料について測定された増強された粒径は、緩衝液交換プロセス中に除去され、したがってpHストレスを受けた試料では検出されなかった、適用された参照バッチ中の凝集粒子の存在によって説明することができた。
【0301】
要約すると、0.5時間、1時間又は4時間pH3.5に曝露した後、定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントでは、多量体化の増加は観察されなかった。L234F-L235E-G236R-F405L変異を有する抗ヒトCD3 IgG1バリアントは、pH3.5で多量体化のわずかな増加を示したが、この増加は、L234F-L235E-D265A-F405L変異を有するバリアントでより顕著であった。したがって、実施例20に示されるデータと一致して、また、アッセイ結果におけるクローン依存的差異にもかかわらず、L234F-L235E-G236R含有抗体バリアントは、低pHでのウイルス不活化手順に関して、L234F-L235E-D265A含有バリアントを上回る利点を有し得ることが確認された。
【0302】
表14は、PBS又は0.02Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)に0.5時間、1時間又は4時間溶解した定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20及び抗ヒトCD3抗体バリアントを含む試料における、HP-SEC分析によって検出される多量体及び単量体の割合(全ての試料における分解<0.2%)、並びにCE-SDS分析によって決定されるインタクトIgG及び総HC+LCの割合を示す。
【0303】
表14はまた、PBS又は0.02Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)に0.5時間、1時間又は4時間溶解した定常重鎖領域に非活性化変異を有するIgG1-CD20及びIgG1-CD3抗体バリアントを含む試料で検出された、DLS分析によって決定された平均粒子半径(nm)を示す。
【表16】
[実施例22]
非活性化変異を有する二重特異性IgG1抗体バリアントの低pHでの安定性の評価
実施例21では、定常重鎖領域に非活性化変異を有するIgG1抗体バリアントの安定性に対する低pH誘導ストレス(pH3.5)の影響を0.5、1時間及び4時間後に評価した。ここで、非活性化変異を有する抗CD3/CD20二重特異性抗体の安定性に対する低pH誘導ストレス(pH3.5)の影響を、実施例18に記載されるアッセイを使用して0.5、1及び4時間後に評価する。
【0304】
二重特異性抗体(bsAb)を、実施例1に記載される制御されたFabアーム交換手順を使用して、制御された還元条件下でのみ相補的半分子との半分子ヘテロ二量体化を促進するK409R又はF405L変異のいずれかに加えて、非活性化変異L234F-L235E-D265A又はL234F-L235E-G236Rを有する抗ヒトCD3及び抗ヒトCD20 IgG1抗体から作製した。これにより、両方のアームにL234F-L235E-D265A、又は両方のアームにL234F-L235E-G236Rのいずれかを有するbsIgG1-CD3xCD20抗体(以下、対称骨格として示される)、又は一方のアームにL234F-L235E-D265A変異と他方のアームにL234F-L235E-G236R変異との組み合わせを有する二重特異性抗体(以下、非対称骨格として示される)が得られた。bsIgG1-CD3xCD20抗体バリアントの試料を、およそ5mg/mLの濃度(濃度範囲3.209~5.304mg/mL)でPBS(pH7.4)に製剤化した。低pH(3.5)条件への曝露の影響を評価するために、bsIgG1-CD3xCD20抗体を含有する試料を、室温で0.5時間、1時間及び4時間、0.02Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)で緩衝液交換し、続いて別の緩衝液交換をしてPBSに戻した。続いて、実施例18に記載されているように、HP-SEC、CE-SDS及びDLSを使用してタンパク質安定性を試験した。
【0305】
HP-SEC分析は、非活性化変異を有するbsIgG1-CD3xCD20抗体バリアントのいずれかを試験した時点のいずれかでpH3.5に曝露すると、それぞれの参照試料と比較して、多量体化に対する顕著な効果を示さなかった。CE-SDSを使用すると、試験したbsAbバリアントのいずれについてもpH3.5曝露の影響は観察されず、全てのbsAbがpH3.5への曝露時に無傷のままであったことを示した。DLSによる平均サイズの分析は、L234F-L235E-D265A変異を有する対称bsAb、並びにF405L含有アームにおけるL234F-L235E-G236R変異を有する非対称bsAbのpH3.5への曝露が、変化したレベルの凝集を誘導しなかったことを示した。K409R含有アームにおけるL234F-L235E-G236R突然変異を有する対称bsAb及びL234F-L235E-G236R突然変異を有する非対称bsAbについて解析した時点のいずれかでpH3.5で観察された平均サイズの小さな減少は、緩衝液交換プロセス中の凝集体の除去によるものであり得る。
【0306】
要約すると、定常重鎖領域に非活性化突然変異を有するIgG1bsAbバリアントは、それらのインタクトな構造を保持し、約5mg/mLの濃度で最大4時間低pH条件に曝露した後、多量体化に対してますます感受性ではない。これらの結果は、L234F-L235E-G236R又はL234F-L235E-D265A非活性化変異のいずれかを有する二重特異性抗体バリアントが、低pH条件への曝露時に単量体性を等しく保持することができ、これは、低pHで行われるウイルス不活性化手順における治療的開発中に好ましい特性であることを示す。
【0307】
表15は、HP-SEC分析によって検出される多量体及び単量体の割合、並びに定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1及び抗ヒトCD3抗体から生成された二重特異性抗体(bsAb)を含有する試料において検出された、CE-SDS分析によって決定されるインタクトIgG及び総HC+LCの割合を示す。両方のアームにおけるL234F-L235E-D265A非活性化変異、又は両方のアームにおけるL234F-L235E-G236R非活性化変異のいずれか、又は一方のアームにおけるL234F-L235E-D265A変異と他方のアームにおけるL234F-L235E-G236R変異との組み合わせを有するBsAbを作製した。抗体バリアントをPBS又は0.02Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)に0.5時間、1時間又は4時間溶解した後、分析した。
【0308】
表16は、定常重鎖領域に非活性化変異を有するbsIgG1-CD3xCD20抗体バリアントを含む試料で検出された、DLS分析によって決定された平均半径(nm)及びモノマー質量の割合を示す。両方のアームにおけるL234F-L235E-D265A非活性化変異、又は両方のアームにおけるL234F-L235E-G236R非活性化変異のいずれか、又は一方のアームにおけるL234F-L235E-D265A変異と他方のアームにおけるL234F-L235E-G236R変異との組み合わせを有するBsAbを作製した。抗体バリアントをPBS又は0.02Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)に0.5時間、1時間又は4時間溶解した後、分析した。
【表17】
【表18】
[実施例23]
非活性化変異を有する抗CD20及び抗gp120 IgG1抗体バリアントの低pHでの安定性の評価
実施例21では、定常重鎖領域に非活性化変異を有するIgG1抗体バリアントの安定性に対する低pH誘導ストレス(pH3.5)の影響を0.5時間、1時間及び4時間後に評価した。ここで、K409R変異と組み合わせた、定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1及び抗gp120(HIV1)IgG1-b12抗体の安定性に対する低pH誘導ストレス(pH3.5)の影響を、実施例18に記載のHP-SECアッセイを使用して0.5、1時間、2時間、4時間及び24時間後に評価する。低pH条件下での多量体化の程度を、抗体治療開発中のウイルス不活化手順に関連して重要であるタンパク質不安定性の尺度としてこれらの抗体バリアントについて分析した。
【0309】
抗ヒトCD20 IgG1及びIgG1-b12抗体バリアントの試料を、およそ0.5mg/mL(濃度範囲0.435~0.5mg/mL)の濃度でPBSに製剤化した。抗ヒトCD20 IgG1及びIgG1-b12バリアントは、L234F-L235E-D265A-K409R又はL234F-L235E-G236R-K409R変異のいずれかを保有していた。低pH(3.5)条件への曝露の影響を評価するために、PBS中に抗体バリアントを含有する試料を、2M酢酸(Fluka、カタログ番号33209)をpH3.5に滴加し、引き続いてプレートシェーカーを使用して室温で0.5時間、1時間、2時間、4時間又は24時間インキュベートすることによって酸性化した。インキュベーション後、各試料チューブからの試料を、2M Tris-HCl(pH9.0;Sigma-Aldrich、カタログ番号T6066)を含有するチューブに移して、pHを7.4に回復させた。続いて、実施例18に記載されているように、HP-SECを使用してタンパク質安定性を試験した。
【0310】
HP-SEC分析により、L234F-L235E-D265A-K409R変異を有する抗ヒトCD20 IgG1バリアントを含有する試料において生じる多量体化の急速な増加が、pH3.5でのインキュベーションに応答して明らかにされ、これは、試料において検出された多量体の35.2%とのインキュベーションの2時間後にトップに達した。対照的に、L234F-L235E-G236R-K409R変異を有する抗ヒトCD20 IgG1バリアントをpH3.5に曝露すると、多量体化が経時的に安定して比較的ゆっくりと増加し、24時間のインキュベーション後に分析した試料では多量体の最大10.8%が検出された。
【0311】
非活性化変異を有するIgG1-b12バリアントについて、非常に類似したパターンが観察された。L234F-L235E-D265A-K409R変異を有するバリアントは、多量体化の急速な増加を示し、pH3.5での2時間のインキュベーション後に最大27.6%の多量体が検出されたが、pH3.5でのL234F-L235E-G236R-K409R変異を有するバリアントでは、より遅くより低い多量体化の増加が観察され、pH3.5での24時間のインキュベーション後に最大18%の多量体が検出された。
【0312】
要約すると、HP-SEC分析により、多量体化のプロセスが、L234F-L235E-D265A-K409R変異を有する抗体バリアントにおいて、L234F-L235E-G236R-K409R変異を有するバリアントよりも迅速かつ広範囲に起こることが明らかになった。したがって、L234F-L235E-G236R非活性化変異を有する他の抗体クローンバリアントも、L234F-L235E-D265A含有バリアントよりも低pH条件で単量体性を保持する能力が高いと結論付けられた。低pHでの単量体性の保持は、低pHで行われるウイルス不活化手順中の好ましい特徴である。
【0313】
表17は、PBS又は酢酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)に0.5時間、1時間、2時間、4時間又は24時間溶解した定常重鎖領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1及び抗gp120(HIV1)IgG1-b12抗体バリアントを含有する試料における、HP-SEC分析によって検出される多量体、単量体及び分解の割合を示す。
【表19】
FERの抗体治療現像性の態様
実施例15~23では、抗体治療開発性に関連する様々な態様を評価した。第1に、L234F-L235E-D265A(FEA)変異又はL234F-L235E-G236R(FER)変異のいずれかを有する抗体バリアントを使用して二重特異性抗体を形成する能力に明らかな差は観察されなかった。また、FEA変異又はFER変異のいずれかを有する抗体バリアントの産生レベルは類似していた。FER変異を有する抗体バリアントの高度に濃縮された試料は、FEA変異を有する抗体バリアントと比較して、タンパク質安定性の改善及び凝集する傾向の減少を示した。抗体バリアントを40℃に4ヶ月間曝露すると、試験した全てのバリアントの多量体化が増加し、その程度は抗体クローン依存性であった。更に、凍結融解サイクルは、FEA変異又はFER変異のいずれかを有する抗体バリアントのタンパク質安定性に影響を及ぼさなかった。重要なことに、FER変異を有する抗体バリアントは、FEA変異を有するバリアントと比較して、低pH誘導ストレス条件に対するより高い耐性を示した。
【0314】
IgG1抗体のFc領域におけるFEA変異の導入は、容易に開発され得る抗体バリアントをもたらし、そのような抗体バリアントは、現在、臨床製品開発及び臨床使用のために広く受け入れられている。上記を考慮して、不活性フォーマットを望む場合の抗体バリアントのタンパク質安定性プロファイル及び発達性は、代わりにFER変異を導入することによって更に改善することができた。したがって、FER含有バリアントは、臨床使用のための単一特異性抗体又は多重特異性抗体の開発に好ましい可能性がある。特に、FER変異を有する抗体バリアントは、低pH条件への曝露に対する感受性が低いことが示されたが、これは、ヒト使用のための治療抗体の開発中にしばしば適用され、必要とされるウイルス不活化のための手順における有益な特性である。
【0315】
[実施例24]
各重鎖に異なるセットの非活性化変異を含む抗ヒトCD20抗体及びそのバリアントによるC1q結合及び補体依存性細胞傷害
実施例3及び5では、野生型様IgG1抗ヒトCD20及びHLA-DR抗体の重鎖(HC)定常領域にL234F-L235E-G236R(FER)変異を導入すると、CDCを誘導する能力がほぼ完全に消失することが示された。これは、実施例4に示されるように、FER変異を有する抗体バリアントによるC1q結合の減少と一致していた。ここでは、補体因子C1qに結合する能力を、L234F-L235E-D265A(FEA)又は両方のHCにおけるFER変異のいずれかを有する2つのHCを含有する抗ヒトCD20抗体について、及び一方のHCにおけるFEA変異及び他方のHCにおけるFER変異を含有するバリアントについて評価した。また、CDCを誘導する上記抗体バリアントの能力を評価した。
【0316】
K409R又はF405L変異に加えて、両方のHCにおいてFEA又はFER非活性化変異を有する野生型抗ヒトCD20抗体IgG1-CD20及びそのバリアント、又は一方のHCにおいてFEA変異を含み、他方のHCにおいてFER変異を含むバリアント(以下、「非対称バリアント」と呼ぶ)を、実施例4に記載される手順に従って、C1qの供給源として20%正常ヒト血清(NHS、M0008、Sanquin)を用いたRaji細胞に対するC1q結合アッセイにおいて試験した。抗ヒトCD20抗体の非対称バリアントを、本質的に実施例1に記載されるように、制御されたFabアーム交換によって作製した。抗体バリアントへのC1q結合を、Intellicyt iQueスクリーナー(Sartorius)でのフローサイトメトリーによって、蛍光強度中央値-FITCを測定することによって検出した。非線形アゴニスト用量-反応モデルを用いてデータを分析し、抗体コントロールをベースラインとして用いないGraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度を用いて、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算し、続いて、非結合コントロール抗体IgG1-b12について測定したAUC値(0%)及び野生型IgG1抗体バリアントについて測定したAUC値(IgG1-CD20、100%)に対する実験反復1回当たりの正規化を行った。データは、3つの独立した実験から得られた平均値±SEMである。
【0317】
C1q結合アッセイで試験したのと同じ抗体バリアントをインビトロCDCアッセイで試験した。本質的には更に実施例3に記載されるように、1ウェル当たり5×104個のRaji細胞を使用して、抗体バリアントをある範囲の濃度(0.014~10μg/mLの最終濃度;3倍希釈)で試験した。PI陽性細胞の数をIntellicyt iQueスクリーナー(Sartorius)でフローサイトメトリーによって決定した。細胞溶解のパーセンテージに対応するPI陽性細胞のパーセンテージを、(PI陽性細胞の数/細胞の総数)×100%として計算した。非線形アゴニスト用量-反応モデルを用いてデータを分析し、抗体コントロールをベースラインとして用いないGraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度を用いて、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算し、続いて、非結合コントロール抗体IgG1-b12について測定したAUC値(0%)及び野生型IgG1抗体バリアントについて測定したAUC値(IgG1-CD20、100%)に対する実験反復1回当たりの正規化を行った。データは、3つの独立した実験から得られた平均値±SEMである。
【0318】
IgG1-CD20バリアントへのC1qの結合の評価により、野生型IgG1-CD20抗体は、標的Raji細胞上のCD20に結合すると補体タンパク質C1qと効率的に係合することが明らかになった。FEA又はFER非活性化突然変異のいずれかの導入は、F405L又はK409R突然変異のいずれかと組み合わせて、C1q結合を劇的に減少させた(
図16)。C1qの結合は、両方のHCがK409R変異又はF405L変異のいずれかを含有するかどうか、又は一方のHCがK409R変異を含有し、他方のHCがF405L変異を含有するかどうかにかかわらず、FEA変異を含有するIgG1-CD20バリアントよりも、FER変異を含有するIgG1-CD20バリアントに対してより強く減少した。非対称バリアントBisG1-CD20FEA-F405LxFER-K409RについてC1q結合の完全な消失が観察されたが、他方の非対称バリアントBisG1-CD20FER-F405LxFEA-K409RについてC1q結合の強い減少が観察された(
図16)。
【0319】
同じIgG1-CD20バリアントのCDC誘導能の評価は、両方のHCがK409R又はF405L変異のいずれかを含有するかどうか、又は一方のHCがK409R変異を含有し、他方のHCがF405L変異を含有するかどうかにかかわらず、CDCを排除する能力がFER変異を導入することによって最も強く抑制されることを明らかにした(
図17)。野生型IgG1-CD20と比較して、変異FEA-K409Rを含有するIgG1-CD20バリアントについて、及びIgG1-CD20-FEA-F405Lについてより少ない程度で、残留CDCが観察された。非対称バリアントBisG1-CD20FEA-F405LxFER-K409Rについて、低い残留CDCが観察された。BisG1-CD20FER-F405LxFEA-K409RのCDC誘導能の低下は、BisG1-CD20FEA-F405LxFEA-K409Rについて観察されたものと同等であった。
【0320】
結論として、C1qへの抗ヒトCD20 IgG1抗体の結合は、両方のHCにFER変異を導入することによって、又はK409R変異を更に含む1つのHCにこれらの変異を導入し、他のHCにFEA-F405L変異を導入することによって最も強く抑制された。CDCを誘導する能力は、FEA変異よりもFER変異を導入することによってより強く抑制された。1つのHCにおけるFER変異及び他のHCにおけるFEA変異を含む非対称バリアントもまた、両方のHCにおけるFER変異又はFEA変異のいずれかを有するバリアントに対する中間レベルまでのCDC誘導能の強い低下を示した。
【0321】
[実施例25]
各重鎖に異なるセットの非活性化変異を含む抗体バリアントによって誘導されるインビトロT細胞媒介性細胞傷害
実施例11は、癌抗原及びT細胞を標的とする二重特異性抗体バリアントの重鎖(HC)定常領域におけるL234F-L235E-G236R(FER)変異の導入が、非特異的細胞傷害を効率的に回避したが、特異的T細胞媒介性細胞傷害を誘導する能力を保持したことを示した。これらの実験では、非活性化突然変異は対称的に存在し、すなわち、両方のHCは、F405L又はK409R突然変異のいずれかに加えてFER非活性化突然変異を保有していた。ここで、T細胞媒介性細胞傷害性を、Fc領域に非対称の非活性化変異を有するCD3xHER2及びCD3xb12二重特異性IgG1抗体について評価し、すなわち、一方のHCはFER変異を有し、他方のHCは代替の非活性化変異を有していた(例えば、L234F-L235E-D265A[FEA]、L234A-L235A-P329G[AAG]、又はN297G)。
【0322】
非対称の非活性化変異を有するものを含む二重特異性抗体バリアントを、実施例1に記載されているように、制御されたFabアーム交換(cFAE)によって作製した。野生型二重特異性抗体CD3xHER2(抗ヒトCD3[huCLB-T3/4]IgG1-F405L及び抗ヒトHER2IgG1-K409R)又はCD3xb12(抗ヒトCD3[huCLB-T3/4]IgG1-F405L及び非結合コントロール抗体抗HIV1gp120[b12]IgG1-K409R)及びFc領域に非対称非活性化変異を有するそのバリアントによるT細胞媒介性細胞傷害性を評価した。試験した二重特異性バリアントは、1つのHC中のF405L変異に加えて、第2のHC中のK409R変異に加えて、FEA、AAG、又はN279G非活性化変異のいずれかと組み合わせて、FER非活性化変異を有していた。更に、1つのHCにおけるF405L変異に加えて、FER非活性化変異を有する二重特異性抗体バリアントを、非活性化変異を有さないがK409R変異(二重特異性抗体バリアントの効率的な生成に必要)のみを有する第2のHCと組み合わせて試験した。コントロールとして、HCにおける非活性化変異を有さない二重特異性抗体バリアント、並びに非結合コントロール抗体IgG1-b12を試験した。PBMCを、実施例9に記載の密度勾配分離によって健康なドナーに由来するバフィーコートから単離し、PBSで洗浄し、培養培地(2mMのL-グルタミン及び25mMのHEPESを含むRPMI-1640;鉄(DBSI)を含む10%ドナーウシ血清を補充した)に再懸濁した。続いて、PBMCを、1部の培養培地(2mMのL-グルタミン及び25mMのHEPESを含むRPMI-1640;鉄(DBSI)を含む10%ドナーウシ血清を補充した)並びに80%DBSI及び20%ジメチルスルホキシドの混合物の1部(DMSO;Sigma-Aldrich、カタログ番号41644)からなる凍結保護培地にPBMCを再懸濁することによって、30~50×106細胞/mlの濃度で-150℃で凍結し、凍結保護培地中のDMSOの最終濃度は10%であった)。HER2発現SK-OV-3細胞(ATCC、カタログ番号HTB-77)を、10%(vol/vol)熱不活性化DBSI及びペニシリン-ストレプトマイシン(Pen/Strep、最終濃度50単位/mLペニシリンカリウム及び50μg/mL硫酸ストレプトマイシン[ロンザ、カタログ番号DE17-603E])を補充したMcCoyの5A培地(Lonza、カタログ番号BE12-168F)で培養し、5%(vol/vol)CO2加湿インキュベータ内で37℃で維持した。SK-OV-3細胞をコンフルエント付近まで培養した。細胞をトリプシン処理し、培養培地に再懸濁し、続いてセルストレーナーに通して、単一細胞懸濁液を得た。2.5×104個のSK-OV-3細胞を96ウェル培養プレートの各ウェルに播種し、細胞を37℃、5%CO2で4時間インキュベートしてプレートに接着させた。上記のように単離後に凍結したPBMCを解凍した。次いで、PBMCをPBSで2回洗浄し、続いて培養培地に再懸濁した。続いて、SK-OV-3標的細胞を含む96ウェルプレートの各ウェルに1×105個のPBMCを添加して、4:1のエフェクター対標的(E:T)比を得た。続いて、上記のような二重特異性CD3xHER2、及びCD3xb12野生型及びその非活性化バリアントの用量応答シリーズを培養培地(0.001~1000ng/mLの最終濃度、10倍希釈)中で調製し、SK-OV-3細胞及びPBMCを含有する96ウェル培養プレートのウェルに添加した。SK-OV-3標的細胞と2μMスタウロスポリン(Sigma-Aldrich、カタログ番号S6942-200、Sigma)とのインキュベーションを、100%腫瘍細胞殺傷のための参照として使用した。培地対照(SK-OV-3細胞、抗体なし、PBMCなし)を0%腫瘍細胞殺傷の基準として使用した。プレートを37℃、5%CO2で3日間インキュベートした。3日後、プレートをPBSで2回洗浄し、10%のアラマーブルー(Invitrogen、カタログ番号DAL1100)を含有する150μLの培養培地を各ウェルに添加した。プレートを37℃、5%CO2で4時間インキュベートした。590nmの吸光度を測定した(Envision,Perkin Elmer,Waltham,MA)。データを、実験複製ごとに各ドナーについて計算した、生存SK-OV-3細胞のパーセンテージに対する用量応答として、GraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)で可視化した。データは、2つの独立した実験からの4人のドナーから得られた平均値±SEMである。
【0323】
Fc領域に非対称の非活性化変異を有するものを含む全ての二重特異性CD3xHER2抗体バリアントは、野生型様機能を有するFc領域を有する、したがって非活性化変異を有さない二重特異性CD3xHER2抗体バリアントに匹敵する効率でSK-OV-3細胞の用量依存性細胞傷害を誘導した(
図18A)。実施例11に示されるデータと同様に、野生型様二重特異性CD3xb12抗体(BisG1F405LxK409R)は、野生型様二重特異性CD3xHER2抗体バリアントよりも程度は低いが、SK-OV-3細胞の非特異的殺傷を誘導した(
図18B)。対称的に分布したFER、FEA又はAAG変異を有する二重特異性CD3xb12バリアント(
図10B)と同様に、FEA(BisG1FER-F405LxFEA-K409R)又は他のHCのAAG(BisG1FER-F405LxAAG-K409R)変異と組み合わせた1つのHCにおけるFER非活性化変異を有する二重特異性CD3xb12抗体バリアントは、SK-OV-3細胞の細胞傷害性を示さなかった(
図18B)。対照的に、野生型様二重特異性CD3xb12抗体バリアントよりも程度は低いが、N297G非活性化変異を有する他のHCと組み合わせた1つのHCにFER非活性化変異を有する二重特異性CD3xb12抗体バリアント(BisG1FER-F405LxN297G-K409R)は、SK-OV-3細胞の非特異的殺傷を誘導した(
図18B)。この結果は、対称的なN297G非活性化変異を有する二重特異性CD3×b12抗体バリアントもSK-OV-3細胞の部分的な非特異的殺滅を誘導したという観察結果と一致している(
図10B)。更に、野生型様機能を有する他のHC領域と組み合わされた1つのHCにおけるFER非活性化変異を有する二重特異性CD3xb12抗体バリアント(BisG1FER-F405LxK409R)もまた、CD3xb12バリアントBisG1FER-F405LxN297G-K409Rと同様のレベルで非特異的殺傷を誘導した(
図18B)。
【0324】
全体として、癌抗原及びT細胞を標的とし、Fc領域に非対称の非活性化変異を有する二重特異性抗体バリアント、すなわち、1つのHCにおけるFER非活性化変異及びFEA又はAAG非活性化変異のいずれかを有する他のHCは、特異的T細胞媒介性細胞傷害を誘導する能力を保持したが、非特異的細胞傷害を効率的に回避した。
【0325】
[実施例26]
各重鎖に異なるセットの非活性化変異を含む抗体バリアントによって誘導されるPBMC培養物中のT細胞活性化
実施例10は、抗ヒトCD3 IgG1抗体の重鎖(HC)定常領域におけるL234F-L235E-G236R(FER)変異の導入が、ヒトPBMC共培養物において、CD69のアップレギュレーションによって測定されるように、T細胞の活性化を妨げたことを示した。これらの実験では、非活性化突然変異は対称的に存在し、すなわち、両方のHCは、F405L又はK409R突然変異のいずれかに加えてFER非活性化突然変異を保有していた。ここでは、Fc領域に非対称の非活性化変異を有するCD3xHER2二重特異性IgG1抗体、すなわち、FER変異を有する一方のHC及び異なる非活性化変異を有する他方のHCについて、T細胞活性化を評価した。
【0326】
Fc領域に非対称の非活性化変異を有する、実施例25に示すような、野生型二重特異性IgG1抗体CD3xHER2及びそのバリアントによるPBMC共培養物中のT細胞の活性化を評価した。コントロールとして、HCにおける対称的な非活性化FER変異を有する二重特異性抗体バリアント、HCにおける非活性化変異を有しない二重特異性抗体バリアント、並びに非結合コントロール抗体IgG1-b12を試験した。T細胞活性化の尺度として、これらの抗体バリアントによるT細胞上のCD69の上方制御を本質的に実施例10に記載の手順に従って評価した。手短に言えば、上記の二重特異性CD3xHER2及びそのCD3xb12野生型及び非活性化バリアントの用量応答シリーズを培養培地(0.001~1000ng/mLの最終濃度、10倍希釈)中で調製し、培養培地中にPBMC(1.5×105細胞/ウェル)を含む96ウェル丸底プレートのウェルに添加した。16~24時間のインキュベーション後、PBMC混合物中のCD28陽性細胞のうちのCD69陽性細胞の割合を、Fortessaフローサイトメーター(BD)で測定した。データを、CD28陽性細胞の用量応答対CD69陽性率として分析した。各実験複製物のPBMCドナー当たりの用量応答曲線下面積(AUC)を、ベースラインとしてバックグラウンド染色(抗体対照なし)を用いてGraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度を使用して計算し、その後、実験複製物当たりの各ドナーについて、非結合陰性対照IgG1-b12(0%)及び野生型様IgG1二重特異性抗体バリアント(BisG1F405LxK409R、100%)について測定されたAUC値に正規化した。データは、2回の独立した反復実験において4人のドナーから得られた平均値±SEMである。
【0327】
早期T細胞活性化の尺度としてのT細胞上のCD69アップレギュレーションの評価は、野生型様CD3xHER2二重特異性抗体バリアント(BisG1F405LxK409R)と比較して、HCにおける対称性非活性化FER変異を有する二重特異性抗体バリアントがPBMC共培養物中のT細胞上のCD69のアップレギュレーションを防止したことを示す(
図19)。これは、F405L変異に加えてFER非活性化変異を有する抗ヒトCD3 IgG1抗体について実施例10に記載されるデータと一致する。FEA(BisG1FER-F405LxFEA-K409R)又はAAG(BisG1FER-F405LxAAG-K409R)変異と組み合わされた一方のHCにおけるFER非活性化変異を有する二重特異性CD3xHER2抗体バリアントもまた、PBMC共培養物におけるT細胞上のCD69アップレギュレーションのほぼ完全な抑止を示した(
図19)。対照的に、一方のHCにFER非活性化変異を有する二重特異性CD3xHER2抗体バリアントは、N297G非活性化変異を有する他方のHCと組み合わせて(BisG1FER-F405LxN297G-K409R)、又は野生型様機能を有する別のHC領域と組み合わせて(BisG1FER-F405LxK409R)、野生型様二重特異性CD3xHER2抗体バリアントよりも程度は低いが、T細胞の残存活性化を誘導した(
図19)。
【0328】
要約すると、Fc領域に非対称の非活性化変異、すなわち、1つのHCにおけるFER非活性化変異と、FEA又はAAG非活性化変異のいずれかを有する他のHCとを有する、癌抗原及びT細胞を標的とする二重特異性抗体バリアントは、ヒトPBMC共培養物中のCD69上方制御によって測定されるT細胞の活性化を効率的に防止した。
【0329】
[実施例27]
バイオレイヤー干渉法によって測定されたヒトFcγ受容体に対する抗ヒトCD20 IgG1抗体及びその非活性化バリアントの結合親和性
実施例6のデータは、ELISAアッセイによって測定した場合、重鎖(HC)定常領域に非活性化L234F-L235E-G236R(FER)変異を導入すると、FcγRIaの単量体細胞外ドメイン(ECD)、又はヒトFcγRIIaアロタイプ131H、ヒトFcγRIIaアロタイプ131R、ヒトFcγRIIb、ヒトFcγRIIIaアロタイプ158F及びヒトFcγRIIIaアロタイプ158Vの二量体ECDへの結合が妨げられることを示した。
【0330】
ここで、本発明者らは、Octet HTX Instrument(ForteBio)でバイオレイヤー干渉法(BLI)を用いて、ヒトFcγRIa、FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vの単量体細胞外ドメイン(ECD)に対する野生型抗ヒトCD20 IgG1抗体及びその非活性化バリアントの結合親和性を定量した。試験した非活性化バリアントは、突然変異L234F-L235E-D265A、L234F-L235E-G236R、又はL234A-L235A-P329Gを有していた。全ての工程を30℃で行った。ヒトFcγRIaについては、Ni-NTAバイオセンサ(ForteBio、カタログ番号18-5101)並びにSample Diluent(ForteBio、カタログ番号18-1104)で希釈したタンパク質の順化(30℃で600秒)後、Sample Diluent中でNiNTAバイオセンサを100秒間インキュベートすることによって最初のベースライン測定を行った。続いて、Hisタグ付きヒトFcγRIa(Sino Biological、10256-H08S-B、1μg/ml)をNi-NTAバイオセンサ上に600秒間固定化した。Sample Diluentにおけるベースライン測定(100秒)の後、野生型抗ヒトCD20 IgG1抗体及びその非活性化バリアントの会合(300秒)及び解離(1000秒)を決定した。ヒトFcγRIaに対する抗体の結合を、1.56-100nM(IgG1野生型用;2倍希釈)又は15.6-1000nM(IgG1-L234F-L235E-D265A、IgG1-L234F-L235E-G236R、及びIgG1-L234A-L235A-P329Gについて;2倍希釈)の濃度範囲を使用して試験した。データ解析ソフトウェアv11.1(ForteBio)を用いてデータを解析した。要するに、データトレースを基準曲線(センサ上のFcγR、試料希釈液のみによる測定)の減算によって補正し、Y軸を測定されたベースラインの最後の10秒に位置合わせし、工程間補正並びにSavitzky-Golayフィルタリングを適用した。KD(M)並びにkon(1/Ms)及びkoff(1/s)を決定するために、グローバル(完全)フィットを使用して1:1モデルを選択した。応答値<0.05を分析から除外した。400秒の解離を、全ての抗体バリアントの分析のための目的のウインドウとして使用した。最適な適合は、>0.99の完全なR2値によって決定され、適合と実験データとが有意に相関したことを示している。更に、グローバル(完全)フィットは、>3の曲線フィット(信頼できる分析)に基づく。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SDである。
【0331】
ヒトFcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vについては、ストレプトアビジン(SA)バイオセンサ(ForteBio、カタログ番号18-5019)並びにSample Diluentで希釈したタンパク質の順化(30℃で600秒)後、Sample Diluent中でSAバイオセンサを100秒間インキュベートすることによって初期ベースライン測定を行った。続いて、Hisタグ化ビオチン化ヒトFcγRIIaアロタイプ131H(Sino Biological、10374-H27H1-B、1μg/ml)、FcγRIIb(Sino Biological、10259-H27H-B、1μg/ml)又はFcγRIIIaアロタイプ158V(Sino Biological、10389-H27H1-B、3μg/ml)を、SAバイオセンサ上に65秒間(FcγRIIa又はFcγRIIb)又は600秒間(FcγRIIIa)固定化した。Sample Diluentにおけるベースライン測定(100秒)の後、野生型抗ヒトCD20 IgG1抗体及びその非活性化バリアントの会合(50s、FcγRIIa又はFcγRIIb;300秒、FcγRIIIa)及び解離(1000秒)を決定した。FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vに対する抗体の結合を、ある濃度範囲(FcγRIIa、156.25-10000nM、2倍希釈;FcγRIIb、250~16000nM、2倍希釈;FcγRIIIa、125~8000nM、2倍希釈)を使用して試験した。データ解析ソフトウェアv11.1(ForteBio)を用いてデータを解析した。要するに、データトレースを基準曲線(センサ上のFcγR、試料希釈液のみによる測定)の減算によって補正し、Y軸を測定されたベースラインの最後の10秒に位置合わせし、工程間補正を適用した。ヒトIgG1と低親和性Fcγ受容体FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vとの間の低親和性のために、定常状態分析(SSA)を選択してKD(M)を決定した。要するに、0.05未満の応答値を分析から除外した。様々な抗体濃度についての定常状態応答(センサグラムが会合相でプラトーに達した場合)を、データ解析ソフトウェアのR平衡(Req)関数を使用して計算し、続いて定常状態応答を抗体濃度に対してプロットし、最後にラングミュアモデルを使用してKD(M)を計算した。最適な適合は、>0.99の完全なR2値によって決定され、適合と実験データとが有意に相関したことを示している。更に、SSAは、>3の会合曲線フィッティングに基づいており、各抗体濃度についてプロットされた定常状態応答はプラトーに達し、最大結合応答の適切な計算を可能にした(信頼できる分析)。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SDである。
【0332】
バイオレイヤー干渉法を用いたヒトFcγRIa、FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vに対する抗ヒトCD20ヒトIgG1抗体バリアントの結合の評価により、野生型IgG1が、試験した全てのFcγ受容体に対して、FcγRIaについては1.8nM、FcγRIIaアロタイプ131Hについては1.9μM、FcγRIIbについては7.3μM及びFcγRIIIaアロタイプ158Vについては0.6μMの結合親和性で結合を示すことが明らかになった(表18)。対照的に、重鎖定常領域にL234F-L235E-G236R、L234F-L235E-D265A又はL234A-L235A-P329G非活性化変異を有するヒトIgG1抗体バリアントは、ヒトFcγRIa、FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vに対する結合を示さなかった(表18)。
【0333】
表18:バイオレイヤー干渉法によって測定した、重鎖定常領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントによるヒトFcγR結合親和性。高親和性受容体FcγRIaについて、K
D(M)、k
on(1/Ms)及びk
off(1/s)を、グローバル(完全)フィットを使用した1:1モデルに基づいて示す。低親和性受容体FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vについて、定常状態分析に基づいてK
D(M)を示す。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SDである。試験したバリアントは、IgG1、IgG1-FER、IgG1-FEA、及びIgG1-LALAPGであり、FER:L234F-L235E-G236R、FEA:L234F-L235E-D265A、及びLALAPG:L234A-L235A-P329Gである。SSA:定常状態分析、BLI:バイオレイヤー干渉法、nb:結合なし、n/a:該当なし。
【表20】
[実施例28]
バイオレイヤー干渉法によって測定されたマウスFcγ受容体に対する抗ヒトCD20 IgG1抗体及びその非活性化バリアントの結合親和性
実施例27のデータは、バイオレイヤー干渉法によって測定した場合に、ヒトFcγRIa、FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vに対する抗ヒトCD20 IgG1抗体及びその非活性化バリアントの結合親和性又は結合欠損を示した。しかしながら、マウスモデルにおけるヒト抗体のインビボ治療効果を評価する場合、選択されたマウスモデルに応じて、ヒトFcγ受容体は存在し得ない。代わりに、ヒト抗体の治療効果の評価は、内因的に発現されるマウスFcγ受容体の存在に依存し得る。そのような場合、治療用抗体が非活性化Fcドメインから利益を得るならば、非活性化抗体バリアントによるマウスFcγ受容体への結合の非存在を確実にすることが重要である。
【0334】
ここで、本発明者らは、Octet HTX機器(ForteBio)においてバイオレイヤー干渉法(BLI)を使用して、マウスFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII及びFcγRIVの単量体細胞外ドメイン(ECD)に対する、野生型抗ヒトCD20 IgG1抗体及びL234F-L235E-D265A、L234F-L235E-G236R、L234A-L235A-P329G変異を内包するその非活性化バリアントの結合親和性を評価した。全ての工程を30℃で行った。マウスFcγRIについては、Ni-NTAバイオセンサ(ForteBio、カタログ番号18-5101)並びにSample Diluent(ForteBio、カタログ番号18-1104)で希釈したタンパク質の順化(30℃で600秒)後、Sample Diluent中でNi-NTAバイオセンサを100秒間インキュベートすることによって最初のベースライン測定を行った。続いて、Hisタグ付きマウスFcγRI(Sino Biological、カタログ番号50086-M27H-B、2μg/ml)をNi-NTAバイオセンサ上に600秒間固定化した。Sample Diluentにおけるベースライン測定(100秒)の後、野生型抗ヒトCD20 IgG1抗体及びその非活性化バリアントの会合(300秒)及び解離(1000秒)を決定した。マウスFcγRIに対する抗体の結合を、濃度範囲(15.6-1000nM;2倍希釈)を使用して試験した。データ解析ソフトウェアv11.1(ForteBio)を用いてデータを解析した。要するに、基準曲線(センサ上のFcγR、試料希釈液のみによる測定)を減算し、続いてベースラインの最後の10秒にY軸を位置合わせすることによって、データトレースを補正した。最後に、工程間補正及びSavitzky-Golayフィルタリングを適用した。KD(M)並びにkon(1/Ms)及びkoff(1/s)を決定するために、グローバル(完全)フィットを使用して1:1モデルを選択した。応答値<0.05を分析から除外した。100秒の解離を、全ての抗体バリアントの分析のための目的のウインドウとして使用した。最適な適合は、>0.98の完全なR2値によって決定され、適合と実験データとが有意に相関したことを示している。更に、グローバル(完全)フィットは、>3の曲線フィット(信頼できる分析)に基づく。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SDである。
【0335】
マウスFcγRIIb、FcγRIII及びFcγRIVについては、ストレプトアビジン(SA)バイオセンサ(ForteBio、カタログ番号18-5019)並びにSample Diluentで希釈したタンパク質の順化(30℃で600秒)後、Sample Diluent中でSAバイオセンサを100秒間インキュベートすることによって初期ベースライン測定を行った。続いて、Hisタグ化ビオチン化マウスFcγRIIb(Sino Biological、カタログ番号50030-M27H-B、1μg/ml)、FcγRIII(Sino Biological、カタログ番号50326-M27H-B、1μg/ml)又はFcγRIV(Sino Biological、カタログ番号50036-M27H-B、1μg/ml)をSAバイオセンサに90秒間(FcγRIIb)又は250秒間(FcγRIII及びFcγRIV)固定化した。Sample Diluentにおけるベースライン測定(100秒)の後、野生型抗ヒトCD20 IgG1抗体及びその非活性化バリアントの会合(50s、FcγRIIb又はFcγRIII、300秒、FcγRIV)及び解離(1000秒)を決定した。マウスFcγRIIb、FcγRIII及びFcγRIVに対する抗体の結合を、ある濃度範囲(FcγRIIb、187.5~12000nM、2倍希釈;FcγRIII、156.25~10000nM、2倍希釈;FcγRIV、78.13~5000nM、2倍希釈)を使用して試験した。データ解析ソフトウェアv11.1(ForteBio)を用いてデータを解析した。要するに、データトレースを基準曲線(センサ上のFcγR、試料希釈液のみによる測定)の減算によって補正し、Y軸をベースライン測定の最後の10秒に位置合わせし、工程間補正を適用した。ヒトIgG1と低親和性マウスFcγ受容体FcγRIIb、FcγRIII、及びFcγRIVとの間の低親和性のために、定常状態分析(SSA)を選択してKD(M)を決定した。要するに、0.05未満の応答値を分析から除外した。様々な抗体濃度についての定常状態応答(センサグラムが会合相でプラトーに達した場合)を、データ解析ソフトウェアのR平衡(Req)関数を使用して計算し、続いて定常状態応答を抗体濃度に対してプロットし、最後にラングミュアモデルを使用してKD(M)を計算した。最適な適合は、>0.98の完全なR2値によって決定され、適合と実験データとが有意に相関したことを示している。更に、SSAは、>3の会合曲線フィッティングに基づいており、各抗体濃度についてプロットされた定常状態応答はプラトーに達し、最大結合応答の適切な計算を可能にした(信頼できる分析)。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SDである。
【0336】
バイオレイヤー干渉法を用いたマウスFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII及びFcγRIVに対する抗ヒトCD20ヒトIgG1抗体バリアントの結合の評価により、野生型ヒトIgG1が、試験した全てのマウスFcγ受容体に対して、FcγRIaに対して0.12μM、FcγRIIbに対して2.8μM、FcγRIIIに対して7.5μM及びFcγRIVに対して1μMの結合親和性で結合を示すことが明らかになった(表19)。対照的に、重鎖定常領域にL234F-L235E-G236R、L234F-L235E-D265A、又はL234A-L235A-P329G非活性化変異を有するヒトIgG1抗体バリアントは、マウスFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII及びFcγRIVに対する結合を示さなかった(表19)。
【0337】
表19:バイオレイヤー干渉法によって測定した、重鎖定常領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20ヒトIgG1抗体バリアントによるマウスFcγR結合親和性。高親和性受容体FcγRIについて、K
D(M)、k
on(1/Ms)及びk
off(1/s)を、グローバル(完全)フィットを使用した1:1モデルに基づいて示す。低親和性受容体FcγRIIb、FcγRIII及びFcγRIVについて、定常状態分析に基づいてK
D(M)を示す。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SDである。試験したバリアントは、IgG1、IgG1-FER、IgG1-FEA、及びIgG1-LALAPGであり、FER:L234F-L235E-G236R、FEA:L234F-L235E-D265A、及びLALAPG:L234A-L235A-P329Gである。SSA:定常状態分析、BLI:バイオレイヤー干渉法、nb:結合なし、n/a:該当なし。
【表21】
[実施例29]
バイオレイヤー干渉法によって測定されたカニクイザルFcγ受容体に対する抗ヒトCD20 IgG1抗体及びその非活性化バリアントの結合親和性
前臨床開発中に、非ヒト霊長類(カニクイザル(Macaca fascicularis))を含む研究、又は非ヒト霊長類に由来する生物学的試料を含む実験を開始して、抗体治療候補の治療効果、並びに安全性及び薬物動態を調べることができる。実施例27のデータは、バイオレイヤー干渉法によって測定した場合に、ヒトFcγRIa、FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vに対する、非活性化L234F-L235E-G236R変異を有する抗ヒトCD20 IgG1抗体の結合親和性又はその欠如を示した。ヒトFcγ受容体とカニクイザルFcγ受容体との間の強い配列類似性にもかかわらず、ヒトFcγ受容体への結合を示さなかった特定の非活性化バリアントは、依然としてカニクイザルFcγ受容体への結合を示し得る。したがって、望ましくない有害事象及び用量制限毒性のリスクを最小限に抑えるために、本発明者らは、Octet HTX装置(ForteBio)においてバイオレイヤー干渉法(BLI)を用いて、カニクイザルFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIの単量体細胞外ドメイン(ECD)に対する、野生型抗ヒトCD20 IgG1抗体及びL234F-L235E-D265A、L234F-L235E-G236R、L234A-L235A-P329G変異を内包するその非活性化バリアントの結合親和性を評価した。
【0338】
全ての工程を30℃で行った。カニクイザルFcγRIについては、Ni-NTAバイオセンサ(ForteBio、カタログ番号18-5101)並びにSample Diluent(ForteBio、カタログ番号18-1104)で希釈したタンパク質の順化(30℃で600秒)後、Sample Diluent中でNi-NTAバイオセンサを100秒間インキュベートすることによって最初のベースライン測定を行った。続いて、Hisタグ化カニクイザルFcγRI(R&D Systems、カタログ番号CF9239-Fc、1μg/ml)をNi-NTAバイオセンサ上に600秒間固定化した。Sample Diluentにおけるベースライン測定(100秒)の後、野生型抗ヒトCD20 IgG1抗体及びその非活性化バリアントの会合(300秒)及び解離(1000秒)を決定した。カニクイザルFcγRIに対する抗体の結合を、1.56-100nM(IgG1野生型用;2倍希釈)又は15.6-1000nM(IgG1-L234F-L235E-D265A、IgG1-L234F-L235E-G236R、及びIgG1-L234A-L235A-P329Gについて;2倍希釈)の濃度範囲を使用して試験した。データ解析ソフトウェアv11.1(ForteBio)を用いてデータを解析した。要するに、基準曲線(センサ上のFcγR、試料希釈液のみによる測定)を減算し、続いてベースラインの最後の10秒にy軸を位置合わせすることによって、データトレースを補正した。最後に、工程間補正及びSavitzky-Golayフィルタリングを適用した。KD(M)並びにkon(1/Ms)及びkoff(1/s)を決定するために、グローバル(完全)フィットを使用して1:1モデルを選択した。応答値<0.05を分析から除外した。400秒の解離を、全ての抗体バリアントの分析のための目的のウインドウとして使用した。最適な適合は、>0.98の完全なR2値によって決定され、適合と実験データとが有意に相関したことを示している。更に、グローバル(完全)フィットは、特に指示しない限り、>3の濃度曲線適合(信頼できる分析)に基づく。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SDである。
【0339】
カニクイザルFcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIについては、ストレプトアビジン(SA)バイオセンサ(ForteBio、カタログ番号18-5019)並びにSample Diluentで希釈したタンパク質の順化(30℃で600秒)後、Sample Diluent中でSAバイオセンサを100秒間インキュベートすることによって初期ベースライン測定を行った。続いて、Hisタグ付きビオチン化カニクイザルFcγRIIa(Sino Biological、カタログ番号90015-C27H-B、1μg/ml)、FcγRIIb(Sino Biological、カタログ番号90014-C27H-B、1μg/ml)又はFcγRIII(ACROBiosystems、カタログ番号FC6-C82E0、1μg/ml)をSAバイオセンサに80秒間(FcγRIIa及びFcγRIIb)又は100秒間(FcγRIII)固定化した。Sample Diluentにおけるベースライン測定(100秒)の後、野生型抗ヒトCD20 IgG1抗体及びその非活性化バリアントの会合(50s、FcγRIIa又はFcγRIIb;300秒、FcγRIII)及び解離(1000秒)を決定した。カニクイザルFcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIに対する抗体の結合を、ある濃度範囲(FcγRIIa、156.25~10000nM、2倍希釈;FcγRIIb、187.5~12000nM、2倍希釈;FcγRIII、31.25~2000nM、2倍希釈)を使用して試験した。データ解析ソフトウェアv11.1(ForteBio)を用いてデータを解析した。要するに、データトレースを基準曲線(センサ上のFcγR、試料希釈液のみによる測定)の減算によって補正し、y軸をベースライン測定の最後の10秒に位置合わせし、工程間補正を適用した。ヒトIgG1と低親和性カニクイザルFcγ受容体FcγRIIa、FcγRIIb、及びFcγRIIIとの間の低親和性のために、定常状態分析(SSA)を選択してKD(M)を決定した。要するに、0.05未満の応答値を分析から除外した。様々な抗体濃度についての定常状態応答(センサグラムが会合相でプラトーに達した場合)を、データ解析ソフトウェアのR平衡(Req)関数を使用して計算し、続いて定常状態応答を抗体濃度に対してプロットし、最後にラングミュアモデルを使用してKD(M)を計算した。最適な適合は、>0.98の完全なR2値によって決定され、適合と実験データとが有意に相関したことを示している。更に、SSAは、>3の会合曲線フィッティングに基づいており、各抗体濃度についてプロットされた定常状態応答はプラトーに達し、最大結合応答の適切な計算を可能にした(信頼できる分析)。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SDである。
【0340】
バイオレイヤー干渉法を用いたカニクイザルFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIに対する抗ヒトCD20ヒトIgG1抗体バリアントの結合の評価により、野生型ヒトIgG1が、試験した全てのカニクイザルFcγ受容体に対して、FcγRIaに対して0.6nM、FcγRIIaに対して4.3μM、FcγRIIbに対して3.9μM及びFcγRIIIに対して0.4μMの結合親和性で結合を示すことが明らかになった(表20)。対照的に、重鎖定常領域にL234F-L235E-G236R又はL234F-L235E-D265A非活性化変異を有するヒトIgG1抗体バリアントは、カニクイザルFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIへの結合を示さなかった(表20)。非活性化バリアントIgG1-L234A-L235A-P329Gは、低親和性受容体FcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIへの結合を示さなかった。対照的に、グローバル(完全)フィット分析は最適ではなかったが(3つの濃度曲線フィットのみ)、分析は、約2.2μMの結合親和性で、高親和性受容体FcγRIへのIgG1-L234A-L235A-P329Gの結合が残留しているが大幅に減少した(約3500倍)ことを示す(表20)。
【0341】
要約すると、L234F-L235-G236R非活性化変異を有するヒトIgG1抗体バリアントは、以前に記載された非活性化FcバリアントL234F-L235E-D265Aと同様に、カニクイザルFcγR結合を示さなかった。対照的に、ヒト又はマウスFcγR結合を全く示さなかったL234A-L235A-P329Gは、カニクイザルFcγRIに対する残留結合を示したが、FcγRIIa、FcγRIIb又はFcγRIIIに対する残留結合は示さなかった。
【0342】
表20:バイオレイヤー干渉法によって測定した、重鎖定常領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20ヒトIgG1抗体バリアントによるカニクイザルFcγR結合親和性。高親和性受容体FcγRIについて、K
D(M)、k
on(1/Ms)及びk
off(1/s)を、グローバル(完全)フィットを使用した1:1モデルに基づいて示す。低親和性受容体FcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIについて、定常状態分析に基づいてK
D(M)を示す。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SDである。試験したバリアントは、IgG1、IgG1-FER、IgG1-FEA、及びIgG1-LALAPGであり、FER:L234F-L235E-G236R、FEA:L234F-L235E-D265A、及びLALAPG:L234A-L235A-P329Gである。SSA:定常状態分析、BLI:バイオレイヤー干渉法、nb:結合なし、n/a:該当なし。
【表22】
[実施例30]
重鎖領域に非活性化変異を含む抗ヒトCD20抗体及びそのバリアントによる補体依存性細胞傷害を誘導する能力に対するC末端リジンのコード配列を含むか又は除く遺伝子配列の影響
IgG抗体の遺伝子配列は、重鎖のC末端にリジンをコードし、これは培養培地又は循環中でカルボキシペプチダーゼによって産生されたIgG抗体から(部分的に)切断され(Van den Bremer et al.MAbs;2015;7(4):672-80)、最終生成物の治療における潜在的な不均一性をもたらす。更に、HC C末端リジンの存在は、CDCを誘導する能力に悪影響を及ぼすことが示されている。ここでは、重鎖定常領域中の非活性化L234F-L235E-D265A(FEA)又はL234F-L235E-G236R(FER)変異を含む抗ヒトCD20抗体によるCDC誘導能を評価し、HC C末端リジンをコードする遺伝子配列に基づく抗体バリアントとHC C末端リジンが組換え的に欠失した遺伝子配列に基づくバリアントとを比較した。理論的には、C末端リジンは、産生中又は産生後に前者のバリアントから切断され得る。
【0343】
インビトロCDCアッセイを、本質的には実施例3に記載のように、補体源として20%NHSを含むRaji細胞に対して行った。簡潔には、重鎖定常領域に非活性化変異FEA又はFERを有する抗ヒトCD20抗体IgG1-CD20又はそのバリアントを、50,000個/ウェルのRaji細胞を用いて、ある範囲の濃度(0.014~10μg/mLの最終濃度;3倍希釈)で試験した。細胞溶解の尺度としてのPI陽性細胞の数を、Intellicyt iQueスクリーナー(Sartorius)でフローサイトメトリーによって決定した。非線形アゴニスト用量-反応モデルを使用してデータを分析し、抗体対照をベースラインとして用いないGraphPad PRISMにおける対数変換濃度を使用して、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算し、続いて実験反復1回当たりを野生型IgG1-CD20抗体バリアントについて測定されたAUC値(100%)に正規化した。データは、3つの独立した実験から得られた平均値±SEMである。
【0344】
図20に示すように、HC C末端リジンをコードするヌクレオチド配列を含有するか又は欠くかのいずれかの遺伝子配列に基づいて産生された抗体バリアント間で、Raji細胞上のCDCを誘導する能力の差は観察されなかった。これは、野生型IgG1-CD20抗体及びFEA又はFER非活性化変異を含むバリアントの両方について示された。
【0345】
[実施例31]
HC C末端リジンの組換え欠失を伴う抗ヒトCD20抗体及びその非活性化バリアントによるFcγ受容体を介した活性化及びシグナル伝達
実施例30では、野生型抗ヒトCD20 IgG1抗体及びその非活性化バリアントの重鎖(HC)C末端リジン(delK)の組換え欠失がCDCの誘導を誘導又は阻害する能力に及ぼす影響を評価した。ここで、本発明者らは、標的発現Raji細胞及び示されたFcγRを発現するJurkatレポーター細胞株を使用して、実施例30に記載されるように、これらの抗ヒトCD20 IgG1抗体及びそのバリアントによって、PromegaレポーターアッセイにおいてヒトFcγR活性化及びシグナル伝達を評価した。
【0346】
実施例30に示す抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントによるヒトFcγR媒介シグナル伝達の活性化を、実施例7に記載の手順に従ってCD20発現Raji細胞を標的細胞として用いてレポーターバイオアッセイ(Promega、FcγRIa:カタログ番号CS1781C01;FcγRIIaアロタイプ131H:カタログ番号G988A;FcγRIIb:カタログ番号CS1781E01;FcγRIIIaアロタイプ158V:カタログ番号G701A)を使用して定量した。更なる分析の前に、培地のみの対照試料(Raji細胞なし、抗体なし、エフェクター細胞なし)によって決定されたバックグラウンド発光シグナルを全ての試料から差し引いた。非線形アゴニスト用量-反応モデルを使用してデータを分析し、抗体対照なし(Raji細胞及びエフェクター細胞のみ)のGraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度をベースラインとして使用して、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算した。実験ごとに、AUC値を、非結合対照IgG1-b12(0%)及び野生型IgG1(100%)とインキュベートした細胞について観察されたレポーター活性に対して正規化した。データは、2回の独立した反復からの平均値±SEMである。
【0347】
Promegaレポーターアッセイを使用したヒトFcγR活性化の評価では、HC C末端リジンが組換え的に欠失したバリアント(IgG1-delK)と、このC末端リジンが産生中又は産生後に切断されたバリアント(IgG1;
図21)との間で、FcγRIa-、FcγRIIa-、FcγRIIb-及びFcγRIIIa媒介活性化を誘導する効率に差はないことが明らかになった。更に、非活性化バリアントL234F-L235E-G236R(FER)及びL234F-L235E-D265A(FEA)がFcγRIa-、FcγRIIa-、FcγRIIb-及びFcγRIIIa媒介活性化を消失させる能力も影響を受けなかった(
図21)。
【0348】
要約すると、抗ヒトIgG1-CD20抗体及びその非活性化バリアントのHC C末端リジンの組換え欠失は、C末端リジンが産生中又は産生後に切断されたバリアントと比較した場合、CDCを誘導するこれらの抗体の能力又はその欠如に影響を及ぼさない。
【0349】
[実施例32]
抗ヒトCD20 IgG1抗体のアロタイプバリアント及びその非活性化バリアントによる補体依存性細胞傷害
以前の実施例では、CDCを誘導する能力を、アロタイプIgG1(f)に属する抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントについて評価した。ここで、本発明者らは、重鎖(HC)定常領域におけるL234F-L235E-G236R又はL234F-L235E-D265A非活性化変異を有する様々なアロタイプの抗ヒトCD20 IgG1抗体及びそのバリアントの能力を評価した。
【0350】
インビトロCDCアッセイを、本質的には実施例3に記載のように、補体源として20%NHSを含むRaji細胞に対して行った。IgG1(fa)、IgG1(zax)、IgG1(zav)、IgG1(za)及びIgG1(f)を含む様々なアロタイプの抗ヒトCD20 IgG1抗体バリアントを試験した。手短に言えば、抗ヒトCD20 IgG1抗体のアロタイプバリアント又は非活性化変異を有するそのバリアントを、50,000個/ウェルのRaji細胞を用いて、ある範囲の濃度(0.014~10μg/mLの最終濃度;3倍希釈)で試験した。細胞溶解の尺度としてのPI陽性細胞の数を、Intellicyt iQueスクリーナー(Sartorius)でフローサイトメトリーによって決定した。非線形アゴニスト用量-反応モデルを使用してデータを分析し、抗体対照をベースラインとして用いないGraphPad PRISMにおける対数変換濃度を使用して、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算し、続いて実験反復1回当たりを野生型IgG1(f)-CD20抗体バリアントについて測定されたAUC値(100%)に正規化した。データは、3つの独立した実験から得られた平均値±SEMである。
【0351】
図22に示すように、野生型アロタイプIgG1バリアント間で、Raji細胞上のCDCを誘導する能力の差は観察されなかった。CDCを誘導する能力は、FER又はFEA非活性化変異の導入時に全ての試験アロタイプで大幅に低下し、FER変異は、全ての試験アロタイプにおけるFEA変異よりも強いCDC抑制をもたらす。
【0352】
[実施例33]
異なるIgG1アロタイプ定常領域を有する抗ヒトCD20抗体及びその非活性化バリアントによるFcγ受容体を介した活性化及びシグナル伝達
実施例32では、CDCを誘導する能力に対する異なるIgG1アロタイプ定常領域を有する抗ヒトCD20抗体の重鎖(HC)におけるL234F-L235E-G236R非活性化変異の導入の影響を評価した。ここで、本発明者らは、標的発現Raji細胞及び示されたFcγRを発現するJurkatレポーター細胞株を使用して、重鎖定常領域にL234F-L235E-G236R又はL234F-L235E-D265A非活性化変異を有するこれらの異なるIgG1アロタイプ抗ヒトCD20抗体及びそのバリアントによって、PromegaレポーターアッセイにおいてヒトFcγR活性化及びシグナル伝達を評価した。
【0353】
実施例32に示す抗ヒトCD20抗体バリアントによるヒトFcγR媒介シグナル伝達の活性化を、実施例7に記載の手順に従ってCD20発現Raji細胞を標的細胞として用いてレポーターバイオアッセイ(Promega、FcγRIa:カタログ番号CS1781C01;FcγRIIaアロタイプ131H:カタログ番号G988A;FcγRIIb:カタログ番号CS1781E01;FcγRIIIaアロタイプ158V:カタログ番号G701A)を使用して定量した。更なる分析の前に、培地のみの対照試料(Raji細胞なし、抗体なし、エフェクター細胞なし)によって決定されたバックグラウンド発光シグナルを全ての試料から差し引いた。非線形アゴニスト用量-反応モデルを使用してデータを分析し、抗体対照なし(Raji細胞及びエフェクター細胞のみ)のGraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度をベースラインとして使用して、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算した。実験ごとに、AUC値を、非結合対照IgG1-b12(0%)及び野生型IgG1(f)(100%)とインキュベートした細胞について観察されたレポーター活性に対して正規化した。データは、2回の独立した反復からの平均値±SEMである。
【0354】
Promegaレポーターアッセイを用いたヒトFcγRIa-、FcγRIIa-、FcγRIIb-及びFcγRIIIa媒介活性化の評価により、いくらかの変動が観察されたが、試験した全ての野生型抗ヒトCD20 IgG1アロタイプ抗体バリアントが効率的なヒトFcγR活性化を示したことが明らかになった(
図23)。更に、異なるIgG1アロタイプバリアントの重鎖定常領域におけるL234F-L235E-G236R又はL234F-L235E-D265A非活性化変異のいずれかの導入は、FcγRIa-、FcγRIIa-、FcγRIIb-及びFcγRIIIa媒介活性化を効率的に抑止した(
図23)。
【0355】
要約すると、非活性化変異L234F-L235E-G236Rは、異なるIgG1アロタイプ定常領域を有する抗ヒトCD20抗体バリアントによるFcγR媒介活性化を効率的に無効化した。
【0356】
[実施例34]
IgG1、IgG3及びIgG4抗ヒトCD20抗体及びその非活性化バリアントによる補体依存性細胞傷害
ここで、本発明者らは、抗ヒトCD20 IgG1抗体又はIgG3抗体のHCにおけるL234F-L235E-G236R又はL234F-L235E-D265A非活性化変異の導入時、及び位置234にフェニルアラニン(F)を天然に有する抗ヒトCD20 IgG4抗体のHCにおけるL235E-G236R又はL235E-D265A非活性化変異の導入時に、CDCを誘導する能力を評価した。
【0357】
Raji細胞に対するインビトロCDCアッセイを、本質的には実施例3に記載のように、補体源として20%NHSを用いて行った。野生型抗ヒトCD20 IgG1、IgG3(アロタイプIGHG3*01及びIGHG3*04[IgG3rch2])及びIgG4抗体を、上記の非活性化変異を有するそのバリアントと比較した。手短に言えば、抗体バリアントを、50,000個のRaji細胞/ウェルを使用して、ある範囲の濃度(0.014~10μg/mLの最終濃度;3倍希釈)で試験した。細胞溶解の尺度としてのPI陽性細胞の数を、Intellicyt iQueスクリーナー(Sartorius)でフローサイトメトリーによって決定した。非線形アゴニスト用量-反応モデルを使用してデータを分析し、抗体対照をベースラインとして用いないGraphPad PRISMにおける対数変換濃度を使用して、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算し、続いて実験反復1回当たりを野生型IgG1-CD20抗体バリアントについて測定されたAUC値(100%)に正規化した。データは、3つの独立した実験から得られた平均値±SEMである。
【0358】
図24Aに示されるように、野生型抗ヒトCD20 IgG1抗体は、両方の野生型アロタイプのIgG3よりも強いCDCを誘導した。非活性化変異L234F-L235E-D265A及びL234F-L235E-G236Rの導入は、IgG1及びIgG3バリアントの両方においてCDCを誘導する能力を強く抑制し、L234F-L235E-G236R変異を有するバリアントで最も強いCDC活性の抑制が観察された。野生型IgG4はCDCを誘導する非常に低い固有の能力を示し、これはL235E-G236R又はL235E-D265A非活性化変異の導入によって更に抑制されなかった(
図24B)。
【0359】
要約すると、IgG1及びIgG3サブクラスの抗ヒトCD20抗体におけるL234F-L235E-G236R非活性化変異の導入は、L234F-L235E-D265A非活性化変異よりも強くRaji細胞のCDCを誘導する能力を低下させた。
【0360】
[実施例35]
IgG1、IgG3及びIgG4抗ヒトCD20抗体及びその非活性化バリアントによるFcγ受容体を介した活性化及びシグナル伝達
実施例34では、抗ヒトCD20抗体によるCDC誘導能を、IgG3の重鎖(HC)定常領域におけるL234F-L235E-G236R若しくはL234F-L235E-D265A非活性化変異の導入時、又は位置234にフェニルアラニン(F)を天然に有するIgG4のHC定常領域におけるL235E-G236R若しくはL235E-D265A非活性化変異の導入時に評価した。ここで、本発明者らは、HC定常領域に非活性化変異を有する抗ヒトCD20 IgG1、IgG3及びIgG4抗体並びにそれらのバリアントによる、標的発現Raji細胞及び示されたFcγRを発現するJurkatレポーター細胞株を使用するPromegaレポーターアッセイにおけるヒトFcγR活性化及びシグナル伝達を評価した。
【0361】
実施例34に示すように、抗ヒトCD20抗体バリアントによるヒトFcγRの活性化及びシグナル伝達を、実施例7に記載の手順に従ってCD20発現Raji細胞を標的細胞として用いてレポーターバイオアッセイ(Promega、FcγRIa:カタログ番号CS1781C01;FcγRIIaアロタイプ131H:カタログ番号G988A;FcγRIIb:カタログ番号CS1781E01;FcγRIIIaアロタイプ158V:カタログ番号G701A)を使用して定量した。更なる分析の前に、培地のみの対照試料(Raji細胞なし、抗体なし、エフェクター細胞なし)によって決定されたバックグラウンド発光シグナルを全ての試料から差し引いた。非線形アゴニスト用量-反応モデルを使用してデータを分析し、抗体対照なし(Raji細胞及びエフェクター細胞のみ)のGraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度をベースラインとして使用して、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算した。実験ごとに、AUC値を、非結合対照IgG1-b12(0%)及び野生型IgG1(100%)とインキュベートした細胞について観察されたレポーター活性に対して正規化した。データは、2回の独立した反復からの平均値±SEMである。
【0362】
Promegaレポーターアッセイを使用したヒトFcγR媒介性活性化の評価により、野生型ヒトIgG1がFcγRIa-、FcγRIIa-、FcγRIIb-、及びFcγRIIIa媒介性活性化を効率的に誘導することが明らかになった(
図25)。IgG1と比較した場合、野生型ヒトIgG4によるFcγR媒介活性化の評価により、FcγRIa及びFcγRIIb媒介活性化の増加(
図25A、
図25C)、FcγRIIa媒介活性化の減少(
図25B)、及びFcγRIIIa媒介活性化の欠如(
図25D)が明らかになった。ヒトIgG3アロタイプIGHG3*01(IgG3)野生型抗体バリアントによるFcγR媒介活性化の評価により、FcγRIIa及びFcγRIIb媒介活性化の欠如(
図25B、
図25C)並びにFcγRIa及びFcγRIIIa媒介活性化のわずかな誘導(
図25A、
図25D)が明らかになった。対照的に、ヒトIgG3アロタイプIGHG3*04(IgG3rch2)野生型抗体バリアントは、ヒトIgG3アロタイプIGHG3*01によるFcγRIa-、FcγRIIa-、FcγRIIb-及びFcγRIIIa媒介活性化と比較した場合、FcγRIa-、FcγRIIa-、FcγRIIb-及びFcγRIIIa媒介活性化の増加を示したが、FcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIaに対するFcγR媒介活性化のレベルは、野生型ヒトIgG1と比較して依然として低下していた(
図25)。抗ヒトCD20 IgG1、IgG3、又はIgG4抗体バリアントによるFcγRIa-、FcγRIIa-、FcγRIIb-、及びFcγRIIIa媒介活性化の評価により、重鎖定常領域におけるL234F-L235E-G236R若しくはL234F-L235E-D265A(IgG1、IgG3、IgG3rch2)の導入又はL235E-G236R若しくはL235E-D265A(IgG4)の非活性化変異の導入が、試験した全てのFcγRの活性化を効率的に抑止したことが明らかになった(
図25)。
【0363】
要約すると、非活性化突然変異L234F-L235E-G236R(又はIgG4についてはL235E-G236R)は、これらの非活性化突然変異がIgG1、IgG3、又はIgG4重鎖定常領域に導入されたかどうかにかかわらず、抗ヒトCD20抗体バリアントによるFcγR媒介活性化を効率的に無効化した。
【0364】
[実施例36]
バイオレイヤー干渉法によって測定したヒトFcγ受容体に対する抗ヒトCD20マウスIgG2a抗体及びその非活性化バリアントの結合親和性
免疫不全マウスを使用する前臨床異種移植片モデルは、腫瘍特異的抗体を使用する治療概念を確立するために使用されることが多い。しかしながら、より複雑な治療上の問題は、治療用抗体の生物学及び有効性を正確に捕捉する免疫担当マウスの使用を必要とする。そのような場合、代用マウス抗体は、抗体とマウスエフェクター分子との自然な相互作用を可能にするために必要である。実施例27~29では、ヒト、マウス及びカニクイザルFcγ受容体に対するヒトIgG1抗体及びその非活性化バリアントの結合親和性を評価したが、ここでは、マウスIgG2a抗体の重鎖(HC)定常領域に非活性化変異L234F-L235E-G236Rを導入するとヒトFcγRへの結合が妨げられるかどうかを調べた。マウスFcγRに対するこれらのバリアントの結合親和性を実施例37で評価する。
【0365】
ここで、本発明者らは、本質的に実施例27に記載されるように、Octet HTX機器(ForteBio)でのバイオレイヤー干渉法(BLI)を使用して、ヒトFcγRIa、FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vの単量体細胞外ドメイン(ECD)に対する、野生型マウス抗ヒトCD20 IgG2a抗体及びL234A-L235A、L234F-L235E-G236R、又はL234A-L235A-P329G変異を内包するその非活性化バリアントの結合親和性を評価した。手短に言えば、ヒトFcγRIaについて、Ni-NTAセンサにヒトFcγRIaをロードした後、Sample Diluentにおけるベースライン測定(100秒)を行った。続いて、その野生型マウス抗ヒトCD20 IgG2a抗体非活性化バリアントの会合(300秒)及び解離(1000秒)を決定した。ヒトFcγRIaに対する抗体の結合を、1.56~100nM(野生型IgG2aの場合;2倍希釈)又は15.6~1000nM(IgG2a-L234A-L235A、IgG2a-L234F-L235E-G236R及びIgG2a-L234A-L235A-P329Gについて;2倍希釈)の濃度範囲を使用して試験した。実施例27に記載されるようにデータを分析し、応答値<0.05を分析から除外した。400秒の解離を、IgG2a-L234A-L235Aを除く全ての抗体バリアントの分析のための目的のウインドウとして使用し、50秒の解離を目的のウインドウとして使用した。最適な適合は、>0.98の完全なR2値によって決定され、適合と実験データとが有意に相関したことを示している。更に、グローバル(完全)フィットは、特に指示しない限り、>3の曲線適合(信頼できる分析)に基づく。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SDである。
【0366】
ヒトFcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vへの結合の評価を、本質的に実施例27に記載のように行った。手短に言えば、ストレプトアビジン(SA)バイオセンサにヒトFcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb又はFcγRIIIaアロタイプ158Vをロードした後、Sample Diluentにおけるベースライン測定(100秒)を行った。続いて、マウス抗ヒトCD20抗体IgG2a野生型及びその非活性化バリアントの会合(50s、FcγRIIa又はFcγRIIb;300秒、FcγRIIIa)及び解離(1000秒)を決定した。FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vに対する抗体の結合を、ある濃度範囲(FcγRIIa、156.25-10000nM、2倍希釈;FcγRIIb、250~16000nM、2倍希釈;FcγRIIIa、125~8000nM、2倍希釈)を使用して試験した。実施例27に記載されるようにデータを分析した。マウスIgG2aと低親和性Fcγ受容体FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vとの間の低親和性のために、定常状態分析(SSA)を選択してKD(M)を決定した。要するに、0.05未満の応答値を分析から除外した。様々な抗体濃度についての定常状態応答(センサグラムが会合相でプラトーに達した場合)を、データ解析ソフトウェアのR平衡(Req)関数を使用して計算し、続いて定常状態応答を抗体濃度に対してプロットし、最後にラングミュアモデルを使用してKD(M)を計算した。最適な適合は、>0.98の完全なR2値によって決定され、適合と実験データとが有意に相関したことを示している。更に、SSAは、>3の会合曲線フィッティングに基づいており、各抗体濃度についてプロットされた定常状態応答はプラトーに達し、特に異なって示されない限り、最大結合応答の適切な計算を可能にした(信頼できる分析)。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SDである。
【0367】
バイオレイヤー干渉法を用いたヒトFcγRIa、FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vに対するマウス抗ヒトCD20 IgG2a抗体バリアントの結合の評価により、野生型マウスIgG2aが、試験した全てのヒトFcγ受容体に対して、FcγRIaに対して1.27nM、FcγRIIaアロタイプ131Hに対して1.85μM、FcγRIIbに対して17μM及びFcγRIIIaアロタイプ158Vに対して1.95μMの結合親和性で結合を示すことが明らかになった(表21)。対照的に、重鎖定常領域にL234F-L235E-G236R又はL234A-L235A-P329G非活性化変異を有するマウスIgG2a抗体バリアントは、ヒトFcγRIa、FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vに対する結合を示さなかった(表21)。重鎖定常領域にL234A-L235A非活性化変異を有するマウスIgG2aは、ヒトFcγRIIaアロタイプ131H及びFcγRIIbに対する結合を示さなかった。分析は、ヒトFcγRIa(KD=3.6μM;3つの濃度曲線適合のみに基づくグローバル(完全)フィット分析)及びヒトFcγRIIIaアロタイプ158V(KD=13.8μM;定常状態応答はプラトーに達しなかった)に対するIgG2a-L234A-L235Aの低い残留結合を示した(表21)。
【0368】
要約すると、マウスIgG2a抗体の重鎖定常領域にL234F-L235-G236R非活性化変異を導入すると、L234A-L235A-P329G非活性化変異を有するマウスIgG2a抗体と同様に、ヒトFcγRIa、FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vへの結合が妨げられた。
【0369】
表21:バイオレイヤー干渉法によって測定した、重鎖定常領域に非活性化変異を有するマウス抗ヒトCD20 IgG2a抗体バリアントによるヒトFcγR結合親和性。高親和性受容体FcγRIaについて、K
D(M)、k
on(1/Ms)及びk
off(1/s)を、グローバル(完全)フィットを使用した1:1モデルに基づいて示す。低親和性受容体FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vについて、定常状態分析に基づいてK
D(M)を示す。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SDである。試験したバリアントは、IgG2a、IgG2a-FER、IgG2a-LALA、及びIgG2a-LALAPGであり、式中、FER:L234F-L235E-G236R、LALA:L234A-L235A、及びLALAPG:L234A-L235A-P329Gである。SSA:定常状態分析、BLI:バイオレイヤー干渉法、nb:結合なし、n/a:該当なし。
【表23】
[実施例37]
バイオレイヤー干渉法によって測定したマウスFcγ受容体に対する抗ヒトCD20マウスIgG2a抗体及びその非活性化バリアントの結合親和性
実施例36では、ヒトFcγRに対する抗ヒトCD20マウスIgG2a非活性化抗体の親和性の結合を評価した。ここで、マウスIgG2a抗体の重鎖(HC)定常領域に非活性化変異L234F-L235E-G236Rを導入すると、マウスFcγRへの結合が妨げられるかどうかを調べた。
【0370】
マウスFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII及びFcγRIVのモノマー細胞外ドメイン(ECD)に対する実施例36に記載されるマウス抗ヒトCD20抗体の結合親和性を、本質的に実施例28に記載されるように、Octet HTX装置(ForteBio)においてバイオレイヤー干渉法(BLI)を用いて評価した。手短に言えば、マウスFcγRIについて、Ni-NTAセンサにマウスFcγRIを負荷した後、Sample Diluentにおけるベースライン測定(100秒)を行った。続いて、L234A-L235A、L234F-L235E-G236R又はL234A-L235A-P329G変異を有する野生型マウス抗ヒトCD20 IgG2a抗体及びその非活性化バリアントの会合(300秒)及び解離(1000秒)を決定した。マウスFcγRIに対する抗体の結合を、1.56~100nM(野生型IgG2aの場合;2倍希釈)又は15.6~1000nM(IgG2a-L234A-L235A、IgG2a-L234F-L235E-G236R及びIgG2a-L234A-L235A-P329Gについて;2倍希釈)の濃度範囲を使用して試験した。実施例28に記載されるようにデータを分析し、応答値<0.05を分析から除外した。400秒の解離を、全ての抗体バリアントの分析のための目的のウインドウとして使用した。最適な適合は、>0.98の完全なR2値によって決定され、適合と実験データとが有意に相関したことを示している。更に、グローバル(完全)フィットは、特に指示しない限り、>3の曲線適合(信頼できる分析)に基づく。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SDである。
【0371】
マウスFcγRIIb、FcγRIII及びFcγRIVに対する結合親和性の評価は、本質的に実施例28に記載のように行った。手短に言えば、ストレプトアビジン(SA)バイオセンサにマウスFcγRIIb、FcγRIII又はFcγRIVをロードした後、Sample Diluentにおけるベースライン測定(100秒)を行った。続いて、L234A-L235A、L234F-L235E-G236R又はL234A-L235A-P329G変異を有する野生型マウス抗ヒトCD20 IgG2a抗体及びその非活性化バリアントの会合(50s、FcγRIIb又はFcγRIII;300秒、FcγRIV)及び解離(1000秒)を決定した。マウスFcγRIIb、FcγRIII及びFcγRIVに対する抗体の結合を、ある濃度範囲(FcγRIIb、187.5~12,000nM、2倍希釈;FcγRIII、156.25~10,000nM、2倍希釈;FcγRIV、IgG2a、IgG2a-L234F-L235E-G236R及びIgG2a-L234A-L235A-P329Gについては15.63~1,000nM、又はIgG2a-L234A-L235Aについては156.3~10,000nM、2倍希釈)を使用して試験した。実施例28に記載されるようにデータを分析した。マウスIgG2aと低親和性Fcγ受容体FcγRIIb、FcγRIII及びFcγRIVとの間の低親和性のために、定常状態分析(SSA)を選択してKD(M)を決定した。要するに、0.05未満の応答値を分析から除外した。様々な抗体濃度についての定常状態応答(センサグラムが会合相でプラトーに達した場合)を、データ解析ソフトウェアのR平衡(Req)関数を使用して計算し、続いて定常状態応答を抗体濃度に対してプロットし、最後にラングミュアモデルを使用してKD(M)を計算した。最適な適合は、>0.98の完全なR2値によって決定され、適合と実験データとが有意に相関したことを示している。更に、SSAは、>3の会合曲線フィッティングに基づいており、各抗体濃度についてプロットされた定常状態応答はプラトーに達し、特に異なって示されない限り、最大結合応答の適切な計算を可能にした(信頼できる分析)。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SDである。
【0372】
バイオレイヤー干渉法を用いたマウスFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII及びFcγRIVに対するマウス抗ヒトCD20 IgG2a抗体バリアントの結合の評価により、野生型マウスIgG2aが、試験した全てのマウスFcγ受容体に対して、FcγRIに対して約3.8nM、FcγRIIbに対して6.4μM、FcγRIIIに対して6.9μM及びFcγRIVに対して0.15μMの結合親和性で結合を示すことが明らかになった(表22)。対照的に、重鎖定常領域にL234F-L235E-G236R又はL234A-L235A-P329G非活性化変異を有するマウスIgG2a抗体バリアントは、マウスFcγRIIb、FcγRIII及びFcγRIVへの結合を示さなかった(表22)。更に、マウスFcγRIに対するIgG2a-L234F-L235E-G236R又はIgG2a-L234A-L235A-P329Gの結合親和性は、野生型IgG2aと比較して大幅に低下した(100倍)が、分析は最適ではなかった(グローバル(完全)フィット分析について4フィット未満)(表22)。マウスIgG2a-L234A-L235Aは、マウスFcγRIIb及びFcγRIIIに対する結合を示さなかったが、マウスFcγRI(wt IgG2aと比較して100~150倍の減少)及びFcγRIV(wt IgG2aと比較して100倍の減少)に対する低い残留結合を示した(表22)。
【0373】
要約すると、L234F-L235-G236R非活性化変異を有するマウスIgG2a抗体バリアントは、L234A-L235A-P329G非活性化変異を有するマウスIgG2a抗体と同様に、マウスFcγR結合を示さなかった(FcγRIIb、FcγRIII、及びFcγRIV)か、又は大きく減少した(FcγRI)ことを示した。
【0374】
表22:バイオレイヤー干渉法によって測定した、重鎖定常領域に非活性化変異を有するマウス抗ヒトCD20 IgG2a抗体バリアントによるマウスFcγR結合親和性。高親和性受容体FcγRIについて、K
D(M)、k
on(1/Ms)及びk
off(1/s)を、グローバル(完全)フィットを使用した1:1モデルに基づいて示す。低親和性受容体FcγRIIb、FcγRIII及びFcγRIVについて、定常状態分析に基づいてK
D(M)を示す。示されるデータは、2回の独立した反復の平均値±SDである。試験したバリアントは、IgG2a、IgG2a-FER、IgG2a-LALA、及びIgG2a-LALAPGであり、式中、FER:L234F-L235E-G236R、LALA:L234A-L235A、及びLALAPG:L234A-L235A-P329Gである。SSA:定常状態分析、BLI:バイオレイヤー干渉法、nb:結合なし、n/a:該当なし。
【表24】
[実施例38]
抗ヒトCD20マウスIgG2a抗体及びその非活性化バリアントによるヒトFcγ受容体を介した活性化及びシグナル伝達
実施例36は、マウスIgG2a抗体の重鎖(HC)定常領域にL234F-L235E-G236R非活性化変異を導入すると、バイオレイヤー干渉法によって測定した場合、ヒトFcγRIa、FcγRIIaアロタイプ131H、FcγRIIb及びFcγRIIIaアロタイプ158Vへの結合が効率的に妨げられることを示した。しかしながら、そのようなアッセイでは、エフェクター細胞上のFc受容体の抗原結合、標的媒介性抗体クラスター化及びその後の標的媒介性クラスター化の効果はなかった。ここで、本発明者らは、野生型抗ヒトCD20マウスIgG2a抗体、及び重鎖定常領域にL234F-L235E-G236R、L234A-L235A、又はL234A-L235A-P329G非活性化変異を有するそのバリアントによる、標的発現Raji細胞及び示されたFcγRを発現するJurkatレポーター細胞株を使用するPromegaレポーターアッセイにおけるヒトFcγR活性化及びシグナル伝達を評価した。
【0375】
上記のマウスIgG2a抗ヒトCD20抗体バリアントによるヒトFcγR媒介シグナル伝達の活性化を、レポーターBioAssays Promega、FcγRIa:カタログ番号CS1781C01;FcγRIIaアロタイプ131H:カタログ番号G988A;FcγRIIb:カタログ番号CS1781E01;FcγRIIIaアロタイプ158V:カタログ番号G701A)を、実施例7に記載の手順に従って標的細胞としてCD20発現Raji細胞と共に使用して定量した。更なる分析の前に、培地のみの対照試料(Raji細胞なし、抗体なし、エフェクター細胞なし)によって決定されたバックグラウンド発光シグナルを全ての試料から差し引いた。非線形アゴニスト用量-反応モデルを使用してデータを分析し、抗体対照なし(Raji細胞及びエフェクター細胞のみ)のGraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度をベースラインとして使用して、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算した。実験ごとに、AUC値を、非結合対照IgG2a-b12とインキュベートした細胞(0%)及び野生型IgG2a-CD20の活性(100%)について観察されたレポーター活性に対して正規化した。データは、2回の独立した反復からの平均値±SEMである。
【0376】
Promegaレポーターアッセイを用いたヒトFcγRIa-、FcγRIIa-、FcγRIIb-及びFcγRIIIa媒介活性化の評価により、マウスIgG2a抗体の重鎖定常領域におけるL234F-L235E-G236R非活性化変異の導入が、IgG2a非活性化バリアントL234A-L235A-P329Gに匹敵するFcγR媒介活性化を効率的に阻害することが明らかになった(
図26)。FcγRIaを介して媒介される部分的活性化(
図26A)を除いて、IgG2a-L234A-L235AについてもFcγR媒介性活性化の欠如が観察され(
図26B~D)、これは、バイオレイヤー干渉法によって測定した場合のヒトFcγRIaに対するIgG2a-L234A-L235Aについて観察された低い残留結合と一致している(実施例36)。
【0377】
要約すると、抗ヒトCD20マウスIgG2a抗体の重鎖定常領域におけるL234F-L235E-G236R非活性化変異の導入は、非活性化抗体バリアントIgG2a-L234A-L235A-P329Gに匹敵するヒトFcγR媒介活性化を効率的に抑止した。
【0378】
[実施例39]
抗ヒトCD20マウスIgG2a抗体及びその非活性化バリアントによるC1q結合及び補体依存性細胞傷害
以前の実施例において、抗ヒトCD20ヒトIgG1抗体の重鎖(HC)定常領域におけるL234F-L235E-G236R(FER)非活性化変異の導入は、補体因子C1qと会合する能力、並びにCDCを誘導する能力のほぼ完全な消失をもたらすことが示された。ここでは、野生型抗ヒトCD20マウスIgG2a抗体及びHC中にFER、L234A-L235A又はL234A-L235A-P329G変異を有するその非活性化バリアントがヒト補体因子C1qに結合する能力、並びにCDCを誘導する能力を評価した。
【0379】
野生型抗ヒトCD20マウスIgG2a抗体及びHCに非活性化変異を有するそのバリアントを、上述のように、本質的に実施例4に記載の手順に従って、C1qの供給源として20%正常ヒト血清(NHS、カタログ番号M0008、Sanquin)を用いたある範囲の濃度(0.0024μg/mL~10μg/mLの最終濃度;4倍希釈)を用いて、Raji細胞(3×104細胞/ウェル)に対するC1q結合アッセイで試験した。抗体バリアントへのC1q結合を、Intellicyt iQueスクリーナー(Sartorius)でのフローサイトメトリーによって、蛍光強度中央値-FITCを測定することによって検出した。非線形アゴニスト用量-反応モデルを使用してデータを分析し、抗体コントロールなしのGraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度をベースラインとして使用して、実験反復1回当たりの用量-反応曲線下面積(AUC)を計算し、続いて、非結合コントロール抗体IgG2a-b12について測定したAUC値(0%)及び野生型抗ヒトCD20 IgG2a抗体バリアントについて測定したAUC値(100%)に対する実験反復1回当たりの正規化を行った。データは、3つの独立した実験から得られた平均値±SEMである。
【0380】
C1q結合アッセイで試験したのと同じ抗体バリアントをインビトロCDCアッセイで試験した。本質的には更に実施例3に記載されるように、1ウェル当たり3×104個のRaji細胞を使用して、抗体バリアントをある範囲の濃度(0.0024~10μg/mLの最終濃度;4倍希釈)で試験した。PI陽性細胞の数をIntellicyt iQueスクリーナー(Sartorius)でフローサイトメトリーによって決定した。細胞溶解のパーセンテージに対応するPI陽性細胞のパーセンテージを、(PI陽性細胞の数/細胞の総数)×100%として計算した。非線形アゴニスト用量-反応モデルを使用してデータを分析し、抗体コントロールなしのGraphPad PRISM(バージョン8.4.1、GraphPadソフトウェア)における対数変換濃度をベースラインとして使用して、実験反復1回当たりのAUCを計算し、続いて、非結合コントロール抗体IgG2a-b12について測定したAUC値(0%)及び野生型抗ヒトCD20 IgG2a抗体バリアントについて測定したAUC値(100%)に対する実験反復1回当たりの正規化を行った。データは、3つの独立した実験から得られた平均値±SEMである。
【0381】
マウスIgG2a-CD20バリアントへのC1qの結合の評価により、野生型IgG2a-CD20は、標的Raji細胞上のCD20に結合すると補体タンパク質C1qと効率的に係合することが明らかになった(
図27)。HCにおけるL234A-L235A-P329G変異を有する非活性化バリアントは、補体タンパク質C1qへの結合を効率的に無効にした(
図27)。しかし、マウスIgG2a抗体のHCにL234F-L235E-G236R又はL234A-L235A非活性化変異を導入すると、C1qへの結合は減少したが残留した(
図27)。
【0382】
同じIgG2a-CD20バリアントのCDC誘導能の評価により、C1q結合の結果と一致する結果が明らかになった。マウスIgG2a抗体のHCに非活性化L234A-L235A-P329G変異を導入すると、CDCを誘導する能力がほぼ完全に消失した(
図28)。更に、マウスIgG2a抗体のHCにおけるL234F-L235E-G236R又はL234A-L235A非活性化変異の導入はCDCの減少をもたらしたが、残留CDCは依然として観察された(
図28)。
【0383】
要約すると、マウスIgG2a抗体に非活性化変異L234F-L235E-G236Rを導入すると、補体因子C1qと係合する能力及びCDCを誘導する能力の完全阻害はもたらされなかったが、低下した。したがって、FER非活性化変異の導入は、ヒトC1qと係合し、ヒトIgG抗体及びマウスIgG抗体の両方のCDCを誘導する能力を低下させると結論付けられた。
【配列表】
【国際調査報告】