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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】アンモニア脱水素
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/02 20060101AFI20240312BHJP
   C25B 9/05 20210101ALI20240312BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240312BHJP
   C25B 15/021 20210101ALI20240312BHJP
   C25B 15/02 20210101ALI20240312BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240312BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20240312BHJP
   C25B 13/07 20210101ALI20240312BHJP
   C25B 11/067 20210101ALI20240312BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20240312BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20240312BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20240312BHJP
   C01B 3/56 20060101ALI20240312BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20240312BHJP
   B01J 23/83 20060101ALI20240312BHJP
   C25B 11/052 20210101ALN20240312BHJP
   B01D 53/32 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C25B1/02
C25B9/05
C25B9/23
C25B15/021
C25B15/02
C25B9/00 Z
C25B13/04 301
C25B13/07
C25B11/067
C25B11/077
C25B11/054
C01B3/04 B
C01B3/56 Z
C01B3/00 Z
B01J23/83 M
C25B11/052
B01D53/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555742
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(85)【翻訳文提出日】2023-10-31
(86)【国際出願番号】 EP2022056413
(87)【国際公開番号】W WO2022189664
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】2103454.1
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523346906
【氏名又は名称】クアーズテック メンブレン サイエンス エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(72)【発明者】
【氏名】パパス,ディミトリオス
(72)【発明者】
【氏名】ビョルヘイム,トール スヴェンセン
(72)【発明者】
【氏名】キョルセス,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェストレ,ペル クリスチャン
【テーマコード(参考)】
4G140
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G140AB01
4G140FA04
4G140FB06
4G140FC01
4G140FD07
4G140FE01
4G169AA03
4G169BB06B
4G169BC09A
4G169BC12A
4G169BC13A
4G169BC13B
4G169BC18A
4G169BC39A
4G169BC40A
4G169BC40B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC44A
4G169BC51A
4G169BC51B
4G169BC66A
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169CB07
4G169CB81
4G169DA05
4G169EA06
4G169EB08
4G169FA02
4G169FB07
4G169FB14
4G169FB30
4G169FB44
4G169FB67
4G169FC08
4K011AA04
4K011AA20
4K011AA48
4K011BA08
4K011DA11
4K021AA01
4K021AA09
4K021BB04
4K021BC01
4K021BC05
4K021CA08
4K021CA12
4K021CA13
4K021DB18
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
4K021DC15
(57)【要約】
圧縮された水素を膜反応器内で生成する方法であって、該膜反応器が、プロトン伝導性膜によって第2の領域から分離された第1の領域を備えており、該第1の領域が、ガス入口及び生成物出口を有しており、並びに該第2の領域が、生成物出口を有しており、該方法が、
a.アンモニアを含むガスを、該ガス入口を介して該第1の領域に供給し、そして、該第1の領域において反応を起こさせて、水素及び窒素が形成されること、
b.該プロトン伝導性膜に電場を印加すること、
c.水素を電子及びプロトンに解離して、該プロトン伝導性膜を通じて該第2の領域へと選択的に通過させること、ここで、プロトン及び電子が再び合わさって、該第2の領域において水素を形成すること
を含み、
ここで、該膜反応器が、該第2の領域からの該生成物出口で圧力調節器を備えており、従って、操作中、該第2の領域における水素の分圧が該第1の領域における水素の分圧よりも高い、該方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮された水素を膜反応器内で生成する方法であって、該膜反応器が、プロトン伝導性膜によって第2の領域から分離された第1の領域を備えており、該第1の領域が、ガス入口及び生成物出口を有しており、並びに該第2の領域が、生成物出口を有しており、該方法が、
a.アンモニアを含むガスを、該ガス入口を介して該第1の領域に供給し、そして、該第1の領域において反応を起こさせて、水素及び窒素が形成されること、
b.該プロトン伝導性膜に電場を印加すること、
c.水素を電子及びプロトンに解離して、該プロトン伝導性膜を通じて該第2の領域へと選択的に通過させること、ここで、プロトン及び電子が再び合わさって、該第2の領域において水素を形成すること
を含み、
ここで、該膜反応器が、該第2の領域からの該生成物出口で圧力調節器を備えており、従って、操作中、該第2の領域における水素の分圧が該第1の領域における水素の分圧よりも高い、該方法。
【請求項2】
水素を膜反応器内で生成する方法であって、該膜反応器が、プロトン伝導性膜によって第2の領域から分離された第1の領域を備えており、該第1の領域が、ガス入口及び生成物出口を有しており、並びに該第2の領域が、生成物出口を有しており、該方法が、
a.アンモニアを含むガスを、該第1の領域に供給し、そして、該第1の領域において反応を起こさせて、水素及び窒素が形成されること、
b.該プロトン伝導性膜に電場を印加すること、
c.水素を電子及びプロトンに解離して、該プロトン伝導性膜を通じて該第2の領域へと選択的に通過させること、ここで、プロトン及び電子が再び合わさって、該第2の領域において水素を形成すること
を含み、
ここで、該プロトン伝導性膜への該電場の印加の間に生じるジュール加熱が、該第1の領域を加熱する為に使用される、該方法。
【請求項3】
圧縮された水素を膜反応器内で生成する方法であって、該膜反応器が、プロトン伝導性膜によって第2の領域から分離された第1の領域を備えており、該第1の領域が、ガス入口及び生成物出口を有しており、並びに該第2の領域が、生成物出口を有しており、該方法が、
a.アンモニアを含むガスを、該第1の領域に供給し、そして、該第1の領域において反応を起こさせて、水素及び窒素が形成されること、
b.該プロトン伝導性膜に電場を印加すること、
c.水素を電子及びプロトンに解離して、該プロトン伝導性膜を通じて該第2の領域へと選択的に通過させること、ここで、プロトン及び電子が再び合わさって、該第2の領域において水素を形成すること
を含み、
ここで、該膜反応器が、該第2の領域からの該生成物出口において圧力調節器を備えており、従って、操作中、該第2の領域における水素の分圧が該第1の領域における水素の分圧よりも高く、及び、
該プロトン伝導性膜への該電場の印加の間に生じるジュール加熱が、該第1の領域を加熱する為に使用される、
該方法。
【請求項4】
該第1の領域における温度が400℃以上、例えば400~1000℃、である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
プロトン伝導性膜は自己支持型(self-supporting)である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該第1の領域が脱水素触媒を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
該第2の領域における水素が、圧縮され、そして、2バール以上の圧力である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
該第2の領域における水素が、圧縮され、そして、それによって発生する熱が該第1の領域を加熱する為に使用される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
該プロトン伝導性膜が、下記の式(I)の少なくとも1つの混合された金属酸化物を含み、
AZrCeAcc3-y (I)
ここで、各層は独立して、
Aは、Ba、Sr若しくはCa、又はそれらの組み合わせであり、a+b+cの合計は1に等しく、
bは、0~0.75であり、
cは、0.05~0.5であり、
Accは、Y、Yb、Gd、Pr、Sc、Fe、Eu、、In若しくはSm、又はそれらの組み合わせ、であり、及び、
yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である、
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
該膜反応器が膜電極接合体を備えており、該膜電極接合体が、下記の層を下記の順で、すなわち、
(I)下記の式 Ni-AZrCeAcc3-yのNi複合体を含む支持電極層;
(II)AZrCeAcc3-yを含むプロトン伝導性膜層;
(III)下記の式 Ni-AZrCeAcc3-yのNi複合体を含む第2の電極材料
を備えており、
ここで、各層について独立して、
Aは、Ba、Sr若しくはCa又はそれらの組み合わせであり、a+b+cの合計は1に等しく、
bは、0~0.75であり、
cは、0.05~0.5であり、
Accは、Y、Yb、Gd、Pr、Sc、Fe、Eu、、In若しくはSm、又はそれらの組み合わせであり、及び、
yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である、
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
水がアンモニアと共に該第1の領域に供給される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
該供給が水性アンモニアである、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
該プロトン伝導性膜が膜電極接合体の一部であり、該膜電極接合体が、下記の層を下記の順で、すなわち、
(I)下記の式 Ni-BaZrCe3-yのNi複合体を含む支持電極層、
(II)BaZrCe3-yを含むプロトン伝導性膜層、
(III)下記の式 Ni-BaZrCe3-yのNi複合体を含む第2の電極層
を備えており、
ここで、各層について独立して、a+b+cの合計は1に等しく、
bは、0~0.75であり、
cは、0.05~0.5であり、及び、
yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である、
請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
該プロトン伝導性膜が膜電極接合体の一部であり、該膜電極接合体が、下記の層を下記の順で、すなわち、
(I)下記の式 Ni-BaZrCeYb3-yのNi複合体を含む支持電極層、
(II)BaZrCeYb3-yを含むプロトン伝導性膜層、
(III)下記の式 Ni-BaZrCeYb3-yのNi複合体を含む第2の電極層
備えており、
ここで、a+b+c+dの合計は1に等しく、
bは、0.05~0.75であり、
cは、0.05~0.25であり、
dは、0.05~0.25であり、及び、
yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である、
請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
該プロトン伝導性膜が膜電極接合体の一部であり、該膜電極接合体が、下記の層を下記の順で、すなわち、
(I)下記の式 Ni-BaCe0.7Zr0.10.1Yb0.13-yのNi複合体を含む支持電極層、
(II)BaCe0.7Zr0.10.1Yb0.13-yを含むプロトン伝導性膜層、
(III)下記の式 Ni-BaCe0.17Zr0.10.1Yb0.13-yのNi複合体を含む第2の電極層
を備えており、
ここで、yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である、
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
水素を膜反応器内で生成する方法であって、該膜反応器が、プロトン伝導性膜によって第2の領域から分離された第1の領域を備えており、該第1の領域が、ガス入口及び生成物出口を有しており、並びに該第2の領域が生成物出口を有しており、該方法が、
a.アンモニアを含むガスを、該ガス入口を介して該第1の領域に供給し、そして、該第1の領域において反応を起こさせて、水素及び窒素が形成されること、
b.該プロトン伝導性膜に電場を印加すること、
c.水素を電子及びプロトンに解離して、該プロトン伝導性膜を通じて該第2の領域へと選択的に通過させること、ここで、プロトン及び電子が再び合わさって、該第2の領域において水素を形成すること
を含み、
ここで、該膜反応器が膜電極接合体を備えており、該膜電極接合体が、下記の層を下記の順で、すなわち、
(I)下記の式 Ni-AZrCeAcc3-yのNi複合体を含む支持電極層;
(II)AZrCeAcc3-yを含むプロトン伝導性膜層;
(III)下記の式 Ni-AZrCeAcc3-yのNi複合体を含む第2の電極材料
を備えており、
ここで、各層について独立して、
Aは、Ba、Sr若しくはCa又はそれらの組み合わせであり、a+b+cの合計は1に等しく、
bは、0~0.75であり、
cは、0.05~0.5であり、
Accは、Y、Yb、Gd、Pr、Sc、Fe、Eu、、In若しくはSm、又はそれらの組み合わせであり、及び、
yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である、
該方法。
【請求項17】
膜反応器であって、該膜反応器が、膜電極接合体によって第2の領域から分離された第1の領域と、該膜電極接合体に電場を通過させるように適合された電源とを備えており、該第1の領域がガス入口及び生成物出口を有しており、並びに該第2の領域が生成物出口を有しており、ここで、該第2の領域には、圧力調節器が提供されている、
ここで、該膜電極接合体が、下記の層を下記の順で、すなわち、
(I)下記の式 Ni-AZrCeAcc3-yのNi複合体を含む支持電極層、
(II)AZrCeAcc3-yを含むプロトン伝導性膜層、
(III)下記の式 Ni-AZrCeAcc3-yのNi複合体を含む第2の電極層
を備えており、Aは、Ba、Sr若しくはCa又はそれらの組み合わせであり、a+b+cの合計は1に等しく、
bは、0~0.75であり、
cは、0.05~0.5であり、
Accは、Y、Yb、Pr、Eu、Pr、Sc、若しくはIn、又はそれらの組み合わせであり、及び、
yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である、
該膜反応器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアから水素を得、好ましくは圧縮する為の方法に関する。特に、本発明は、アンモニアから発生した水素を分離する為のプロトン伝導性膜であって、該膜の透過物側で水素圧を生じさせる、プロトン伝導性膜を使用する。該プロトン伝導性膜にわたってプロトン輸送を促す為に、該膜に電場が印加され、吸熱性アンモニア脱水素方法の為の熱を供給する為に、該電場の印加の間にジュール加熱が使用されることができる。
【背景技術】
【0002】
水素は、例えばアンモニアの脱水素によって、水素含有分子から抽出されることができる:
2NH(ガス)=N(ガス)+3H(ガス) (1)
【0003】
反応(1)は、吸熱性であり(ΔH298K=45.94kJ mol-1)、典型的に脱水素触媒を使用して400~600℃の温度範囲で操作される。該反応は、標準圧力において>183℃の温度で自然発生的に進行するが、しかしながら、高い変換率を達成するには、熱力学的制限及び動力学的障壁の両方を克服する為に、>400℃の温度が必要である。該水素は、例えば圧力スイング吸収(PSA:pressure swing absorption)を使用して、窒素と水素の混合物から下流で分離されることができる。最後に、該水素は、入手可能な圧縮機技術、例えば、ピストン若しくはダイヤフラム機械圧縮機、を使用して、又は電気化学的/化学的圧縮機を使用して、圧縮されることができる。
【0004】
代替的には、水素の分離は、水素選択的膜を使用して、脱水素システムに含まれることができる。そのようなシステムは、2つの方法工程からなる。第1の工程は、式1に従って、>400℃の温度でアンモニアを水素及び窒素に変換する脱水素触媒を含む。次に、該水素及び窒素の混合物は、ガス分離膜に供給される。
【0005】
そのような膜の圧倒的多数は、金属製の水素選択的透過性Pd又はPdを、Ag、Cuと組み合わせて活用する。これは、依然として高い水素回収率を維持しながら、より低温での操作を可能にする。
【0006】
該Pdベースの膜の欠点は、該膜にわたって必要とされる有意な水素分圧差、すなわちpH(保持物)>pH(透過物)である。水素輸送の為の駆動力は、該膜にわたる水素の化学的ポテンシャル勾配である。該保持物側の水素分圧が低い場合、高い水素回収率は困難になる。
【0007】
該透過物における水素の最終圧力は、常に低くなり、水素の更なる加圧は、体積基準の大型圧縮機を必要とすることになる。このことは要求が厳しく、該方法全体に複雑性を加え、高エネルギー効率を阻害する。
【0008】
触媒反応器をPdベースの膜とつなぐ上での更なる困難は、該吸熱性脱水素反応と該Pdベースの膜の高温操作の両方に必要な熱が、外部から供給される必要があるので、熱管理がより複雑になるということである。
【0009】
代替的には、アンモニアの電気化学的脱水素は、ほぼ周囲条件で、高い変換率で高純度水素を生成することができる。この目的の為に、水性アルカリ電解質が実証されたが、しかしながら、エネルギー効率の低さを暗示する、高い動作電位を必要とするという困難がある。別の困難は、経時的に触媒が失活するという欠点があることであった。
【0010】
固体の酸ベースの電気化学電池(solid-acid-based electrochemical cell)と、新規なRu-Cs/CNT熱クラッキング触媒層及びPtベースの水素電解酸化触媒層を含む二層状化アノードとの組み合わせも、水素を分離する為に活用されてきた。加湿された希アンモニアが該アノードに供給され、加湿された水素がカソードに供給された。新規な熱クラッキング触媒が活用されているが、アンモニアから水素への変換は、OCV(open circuit voltage、開路電圧)では約3.5%の率にしか達せず、続いて、印加された負荷の下では<15%に増大した(Joule 4、2338-47)。アンモニアは、直接的な燃料電池(fuel cell)操作の為の水素源として使用されており、ここでアンモニアは式(1)に従って分解する。
【0011】
アンモニア脱水素触媒として、幾つかの金属が調査されており、該触媒活性は、Ru>Ni>Rh>Co>Ir>Fe>Pt>Cr>Pd>Cu>>Te、Se、Sbの順に低下する。Ruは、明らかに最も活性な金属触媒であり、大部分の報告がRuベースの触媒の使用に依存している。更に、黒鉛構造、例えば、カーボンナノチューブ、上に支持されたCe促進型Ruは、約250℃からの温度で触媒活性を示す。しかしながら、Ruの大規模な使用は、その高コスト及び希少性により実現不可能である。Niベースの触媒は、工業的用途の為により好適である。Niは、酸化物、例えばAl、Gd又はY、上に支持され、該触媒活性は、促進剤としてのCeOによって更に改善されることができる。Niベースの触媒は、>600℃で完全なアンモニア変換を達成する(例えば、Okura et al.ChemCatChem 8,(2016))。
【0012】
水素圧縮機技術が、将来的なインフラ需要を対費用効果の高い方式で満たすことができないであろうことは、一般的に認められている。今日使用されている水素圧縮機は、可動部品を用いる技術の使用法により、かなりの摩耗に直面している。ピストンポンプについて、ピストンシーリングリングが不均一な圧力分布により故障し、ピストンの故障がサーバーの衝撃によるものであるという研究が示された。
【0013】
ダイヤフラム圧縮機は、水素ガス中の汚染物質/デブリ、及び停止後に圧縮機を再開させるときの不適切なプライミング手順、により寿命がより短くなる傾向がある。その操作圧力は、捕捉された硬質粒子の周囲に局所的なプラスチックの変形を引き起こして残留応力を残すのに十分に高く、それにより該ダイヤフラムの疲労寿命が短縮する。
【0014】
以前に、国際公開第2018/069546号パンフレットは、蒸気再形成における電気化学的水素分離を記載する。しかしながら、そのような方法がアンモニアに対して効果を発揮しうることは示唆されていない。アンモニアは苛性であり、従って炭水化物よりもはるかにより困難な反応物であることが理解されるであろう。該546号パンフレットには、それに記載されている膜反応器がアンモニアを脱水素できうることは示唆されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者等は、電気化学的水素圧縮機が、いかなる可動部品も用いることなく動作するので、機械圧縮機よりも信頼性/入手可能性を増大すると理解した。これらの電気化学的圧縮機の設計においては、それらのエネルギー効率等の困難が残っている。
【0016】
本発明は、様々な化学的方法の商業展開を阻んできた3つの別個の困難を、ガルバーニ電気駆動型(galvanically driven)プロトン膜圧縮機を導入することによって同時に解決する。特に、本発明のプロトン膜は、
1.反応チャンバから水素を除去し、限られた(熱力学的及び/又は動態学的)方法を、所望の生成物へのより高い変換率にシフトし、
2.吸熱性反応プロセスに熱を提供し、
3.同時に、該膜の透過物側において水素を所望の圧力に圧縮する。
【0017】
その上、該膜の高い選択性は、水素だけが通過することを可能にする。それ故に、生成された水素は高純度のものであり、それ故に、最終的な精製段階は必要とされない。
【0018】
本発明のプロトン膜は、高含水量によりプロトン伝導性が増大し、従って該膜の性能が増大するので、蒸気が豊富な(steam-reach)環境、例えばアンモニア蒸気混合物、中での操作を可能にする。
【0019】
単一方法におけるこれらの4つの(任意的に5つの)効果の組み合わせは、高エネルギー効率をもたらす。より具体的には、これは、明白な利点をもたらす。化学的方法の変換率及び収率は、商業的に(commercial)魅力的なレベルに増大されることができ、副生成物である水素は、更なる使用法に魅力的な分圧及び純度を有する。最後に、生成されたジュール熱は、該方法全体の自己熱状態での操作を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
従って、1つの観点から見れば、本発明は、圧縮された水素を膜反応器内で生成する方法であって、該膜反応器が、プロトン伝導性膜によって第2の領域から分離された第1の領域を備えており、該第1の領域が、ガス入口及び生成物出口を有しており、並びに該第2の領域が、生成物出口を有しており、該方法が、
a.アンモニアを含むガスを、該ガス入口を介して該第1の領域に供給し、そして、該第1の領域において反応を起こさせて、水素及び窒素が形成されること、
b.該プロトン伝導性膜に電場を印加すること、
c.水素を電子及びプロトンに解離して、該プロトン伝導性膜を通じて該第2の領域へと選択的に通過させること、ここで、プロトン及び電子が再び合わさって、該第2の領域において水素を形成すること
を含み、
ここで、該膜反応器が、該第2の領域からの該生成物出口で圧力調節器を備えており、従って、操作中、該第2の領域における水素の分圧が該第1の領域における水素の分圧よりも高い、上記の方法を提供する。
【0021】
別の観点から見れば、本発明は、水素を膜反応器内で生成する方法であって、該膜反応器が、プロトン伝導性膜によって第2の領域から分離された第1の領域を備えており、該第1の領域が、ガス入口及び生成物出口を有しており、並びに該第2の領域が、生成物出口を有しており、該方法が、
a.アンモニアを含むガスを、該第1の領域に供給し、そして、該第1の領域において反応を起こさせて、水素及び窒素が形成されること、
b.該プロトン伝導性膜に電場を印加すること、
c.水素を電子及びプロトンに解離して、該プロトン伝導性膜を通じて該第2の領域へと選択的に通過させること、ここで、プロトン及び電子が再び合わさって、該第2の領域において水素を形成すること
を含み、
ここで、該プロトン伝導性膜への該電場の印加の間に生じるジュール加熱が、該第1の領域を加熱する為に使用される、上記の方法を提供する。
【0022】
別の観点から見れば、本発明は、圧縮された水素を膜反応器内で生成する方法であって、該膜反応器が、プロトン伝導性膜によって第2の領域から分離された第1の領域を備えており、該第1の領域が、ガス入口及び生成物出口を有しており、並びに該第2の領域が、生成物出口を有しており、該方法が、
a.アンモニアを含むガスを、該第1の領域に供給し、そして、該第1の領域において反応を起こさせて、水素及び窒素が形成されること、
b.該プロトン伝導性膜に電場を印加すること、
c.水素を電子及びプロトンに解離して、該プロトン伝導性膜を通じて該第2の領域へと選択的に通過させること、ここで、プロトン及び電子が再び合わさって、該第2の領域において水素を形成すること
を含み、
ここで、該膜反応器が、該第2の領域からの該生成物出口において圧力調節器を備えており、従って、操作中、該第2の領域における水素の分圧が該第1の領域における水素の分圧よりも高く、及び、
該プロトン伝導性膜への該電場の印加の間に生じるジュール加熱が、該第1の領域を加熱する為に使用される、
上記の方法を提供する。
【0023】
好ましい実施態様において、該第1の領域を反応温度に加熱する為に必要なエネルギーは、該プロトン伝導性膜への該電場の印加の間に生じるジュール加熱から排他的に誘導される。より好ましい実施態様において、該膜反応器の等温操作に必要なエネルギーは、ジュール加熱から排他的に誘導される。
【0024】
好ましい実施態様において、該第1の領域を反応温度に加熱する為に必要なエネルギーは、該プロトン伝導性膜への該電場の印加の間に生じるジュール加熱から、及び水素の圧縮中に該プロトン伝導性膜の透過物側で発生した熱から、誘導される。
【0025】
該第1の領域に添加されるガスは、アンモニアを含んでおり、例えばアンモニアからなる。更なる好ましい実施態様において、該第1の領域に添加されるガスは、アンモニアと水の混合物を含んでおり(すなわち蒸気として)、例えば、該混合物からなる。
【0026】
別の観点から見れば、本発明は、膜反応器であって、該膜反応器が、膜電極接合体(membrane electrode assembly)によって第2の領域から分離された第1の領域であって、該第1の領域がガス入口及び生成物出口を有している該第1の領域と、生成物出口を有する該第2の領域であって、該第2の領域の該生成物出口に圧力調節器が提供されている該第2の領域と、
該膜電極接合体に電場を通過させるように適合された電源と
を備えており、
ここで、該膜電極接合体が、下記の層を下記の順で、すなわち、
1)下記の式(I)の金属-酸化物複合体を含む支持電極層
Ni-AZrCeAcc3-y (I)
ここで、Niの体積又は重量分率は、該金属-酸化物複合体の重量に対して0超~0.8、例えば0.2~0.8、例えば0.4、である、
2)下記の式(II)を含むプロトン伝導性膜層
AZrCeAcc3-y (II)
3)下記の式(III)の金属-酸化物複合体を含む第2の電極層
Ni-AZrCeAcc3-y (III)
ここで、Niの体積又は重量分率は、該金属-酸化物複合体の重量に対して0超~0.8、例えば0.2~0.8、例えば0.4、であり、各層について独立して、Aは、Ba、Sr若しくはCa又はそれらの組み合わせであり、a+b+cの合計は1に等しく、
bは、0~0.75であり、
cは、0.05~0.5であり、
Accは、Y、Yb、Gd、Pr、Sc、Fe、Eu、In若しくはSm、又はそれらの組み合わせであり、及び、
yは、式(II)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である、
を備えている、上記の膜反応器を提供する。
【0027】
該第1の領域から抽出された水素は、反応平衡を生成物側にシフトする。
【0028】
好ましくは、該MEAは、(I)下記の式 Ni-BaCe0.1Zr0.70.1Yb0.13-yのNi複合体を含む支持電極層、(II)BaCe0.1Zr0.70.1Yb0.13-yを含むプロトン伝導性膜層、(III)下記の式 Ni-BaCe0.1Zr0.70.1Yb0.13-yのNi複合体を含む第2の電極材料、である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、アンモニアを脱水素して水素及び窒素を形成する為の方法に関する。特に、本発明は、プロトン伝導性膜を使用して、反応混合物、例えばアンモニア、窒素及び水素の混合物、から水素を同時に除去する。本発明はまた、除去された該水素の圧縮を可能にし、該プロトン伝導性膜においてジュール加熱を使用して、該脱水素反応が生じる該膜反応器の保持物側を加熱する。該第1の領域には好ましくは、脱水素触媒が提供され、該脱水素触媒はまた、更に好ましい実施態様において、該プロトン伝導性膜上に電極を形成する。
【0030】
アンモニアの脱水素により水素を生成する為に、本発明者等の方法は、1つの単一工程で、反応、分離、圧縮及び熱管理の問題を解決する。
【0031】
本発明の方法は、該プロトン伝導性膜が第1の領域(該膜の保持物側)と第2の領域(該膜の透過物側)とを分離しているところの膜反応器において行われる。
【0032】
好ましい実施態様において、該第1の領域には、該脱水素方法を促す為に、触媒が提供される。該第2の領域は、該プロトン伝導性膜を通過するガスの為の出口を備えている。該出口は好ましくは、該第2の領域内で水素の圧縮を可能にする圧力調節器を備えている。
【0033】
特許請求される方法において、アンモニア(又はアンモニア及び水)が、該第1の領域に導入され、該プロトン伝導性膜にわたって電場が印加される。該アンモニアは、該第1の領域内で脱水素化されるので、該プロトン伝導性膜にわたる該電場の印加は、形成される水素がプロトンに解離して該プロトン伝導性膜を通過するように促す。
【0034】
電流が該プロトン伝導性膜を通過することによって発生した熱は、該第1の領域において吸熱性再形成反応を促す為に使用される。
【0035】
反応物
アンモニアは、本発明の方法の該第1の工程において、該膜反応器に添加される。本明細書において、語「反応物」は、該膜反応器の該第1の領域において水素及び窒素に脱水素化されるアンモニアガスを云う為に使用される。アンモニアは、下記の式:
2NH=3H+N
に従って脱水素化される。
【0036】
このタイプの脱水素方法において達成される反応物の変換率は好ましくは、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、例えば80重量%以上、である。それ故に、該生成物の収率は好ましくは、少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、例えば80%以上、である。
【0037】
更に、該選択性が好ましくは、少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも90重量%、例えば少なくとも95重量%、である場合が好ましい。このことは、形成された分解された生成物が少なくとも95重量%純粋であること、すなわち不純物がほとんど全く存在しないこと、を意味する。該第1の領域に存在する化合物は、変換されていない反応物、窒素及び水素(及び場合により水)、だけである。
【0038】
別の好ましい実施態様において、該第1の領域に供給されたガスは、アンモニアと水の混合物である。水は反応物として考えられず、どちらかと云えばアンモニアが水溶液としてしばしば供給され、従って、本発明の膜反応器は、この一般的な原料を使用して操作することができることが重要であることが理解されるであろう。アンモニア又はその分解された生成物、すなわち窒素若しくは水素、は水とは全く反応せず、しかしながら、水(蒸気)は、水和により電荷キャリアの濃度を上昇させるので、該プロトン伝導性膜のプロトン伝導性を増大することになる。水の存在は、水が透過物側に存在する場合、一部の酸素輸送を電解質上のプロトンとは逆方向に導く共イオン伝導性も可能にしうる。
【0039】
該膜反応器に供給される該アンモニアと水の混合物における水の濃度は、少なくとも1体積%、好ましくは少なくとも10体積%、例えば30体積%以上、例えば70体積%又は80体積%まで、であることが好ましい。
【0040】
好ましい実施態様において、該水性アンモニア溶液は、35体積%未満のアンモニア、例えば10~35体積%のアンモニア、を含む場合が好ましい。35体積%未満のアンモニアを含むアンモニア溶液は、輸送に安全であると考えられ、国際的輸送規制に従う。それ故に、この材料は、更なる工程を必要とすることなく、本発明の膜反応器において直接使用されることができることが有利である。
【0041】
別の好ましい実施態様において、該供給ガスは、1:0.01~1:5モルの比のアンモニアと水の混合物である。
【0042】
本発明の方法が、該膜反応器への水性アンモニアの供給を伴う場合、該脱水素反応は、依然として高変換率で進行しうる。該アンモニアの少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、例えば99%以上、を窒素及び水素に変換することが可能である。このことは、該反応器に供給されたほぼ全てのアンモニアが変換されることを意味する。
【0043】
プロトン伝導性膜
該プロトン伝導性膜(水素伝導性膜又は水素輸送膜とも呼ばれうる)は、特許請求される方法の重要な特色である。該膜反応器には、プロトンの形態の水素が該膜反応器の該第1の領域から該プロトン伝導性膜を通して離れることを選択的に可能にするが、該アンモニア、水、窒素又は任意の副生成物を通過させない、プロトン伝導性膜が提供されることが、非常に重要である。
【0044】
該プロトン伝導性膜は、脱水素方法が行われる第1の領域(すなわち、そこで供給物、及び存在する場合には脱水素触媒が一緒にされる)と、該プロトン伝導性膜を通過する水素及びその水素を除去するのに望ましい任意の手段を含むことになる該第2の領域とを分離する。
【0045】
該プロトン伝導性膜は、イオン形態の水素をプロトンとして選択的に輸送することができる材料のものでなければならない。該プロトンが該プロトン伝導性膜を通過したら、該プロトン伝導性膜の透過物側で、水素が再形成される。
【0046】
該プロトン伝導性膜材料は、化学的に不活性であり、400~1000℃の温度で安定である場合が好ましい。該プロトン伝導性膜は、ガス、例えば、アンモニア、水、窒素及び水素、を含む雰囲気中で、化学的に不活性であるべきである。該プロトン伝導性膜材料は、窒化物形成を促進するべきではなく、このことは典型的には、該材料が塩基性であるべきであり、及びまた、窒化物の形成を触媒的に促進しない表面を有しているべきである、ことを意味する。
【0047】
これらの要件を満たす材料の1つのグループは、一部の混合された金属酸化物であり、該プロトン伝導性膜において使用される該プロトン伝導性膜材料は、混合された金属酸化物を含む場合が好ましい。理想的には、該輸送膜は、少なくとも1×10-3S/cmのプロトン伝導率を有することになる。本発明のプロトン伝導性膜のプロトン伝導率は好ましくは、少なくとも1.5×10-3S/cm、特に少なくとも5×10-3S/cm、である。40×10-3S/cmまでのプロトン伝導率が可能である。
【0048】
アクセプタをドープされたペロブスカイト(acceptor doped perovskites)(例えば、YをドープされたBaZrO及びY-BaCeO)を包含する、様々な混合された金属酸化物が、プロトン伝導性膜として好適でありうる。
【0049】
それ故に、好ましい膜材料は、下記の一般式(IV)に従うペロブスカイトを包含する:
A’B1-qB’3-z (IV)
ここで、A’は、La、Ba、Sr若しくはCa、又はそれらの組み合わせであり、
Bは、Ce、Zr、Hf、Ti、In、Tb、Th若しくはCr、又はそれらの組み合わせであり、
B’は、Y、Yb、Gd、Pr、Sc、Fe、Eu、In若しくはSm、又はそれらの組み合わせであり、
zは、電荷を中和するのに十分な数であり、
0.01≦q≦0.5である。B及びB’は異なる金属であることが理解されるであろう。
【0050】
1つの実施態様において、元素Bは、2種以上の元素、例えばZr及びCe、を表すことができる。
【0051】
それ故に、好ましい式は、下記の式(IV)である:
A’ZrCeB’3-z (IV)
ここで、A’は、La、Ba、Sr又はCaであり、
B’は、Y、Yb、Gd、Pr、Sc、Fe、Eu、In若しくはSm、又はそれらの組み合わせであり、
zは、電荷を中和するのに十分な数であり、
p+q+r=1であり、
0.01≦q≦0.5である。
【0052】
変数p及びrは好ましくは、0.01~0.9である。
【0053】
1つの実施態様において、元素B’はYである。
【0054】
1つの実施態様において、元素B’は、2種以上の元素、例えばY及びYb、を表すことができる。
【0055】
それ故に、好ましい式は、下記の式(V)である:
A’B1-q(Y1-wYb3-z (V)
ここで、0.01≦w≦0.99であり、他の変数は、本明細書において上述で定義されている通りである。
【0056】
好ましい式はまた、下記の式(VI)である:
AZrCe(Y1-wYb3-z (VI)
ここで、A’は、La、Ba、Sr又はCaであり、
wは、0.01≦w≦0.99であり、
zは、電荷を中和するのに十分な数であり、
p+q+r=1であり、
0.01≦q≦0.5である。
【0057】
変数p及びrは好ましくは、0.01~0.9である。
【0058】
理想的な混合された金属酸化物は、以下の構成成分:
Ln、Zr、Acc及びO、
より好ましくはLn、Zr、Ce、Acc及びOのイオン、
を含み、ここで、Lnは、Ba、Sr若しくはCa、又はそれらの組み合わせであり、Accは、三価遷移金属又は三価ランタノイド金属、例えば、Y、Yb、Gd、Pr、Sc、Fe、Eu、In若しくはSm、又はそれらの組み合わせ、である。
【0059】
より具体的には、好ましい酸化物は、下記の式(I)の混合された金属酸化物を含む:
AZrCeAcc3-y (I)
ここで、Aは、Ba、Sr若しくはCa、又はそれらの組み合わせであり、
a+b+cの合計は1に等しく、
bは、0~0.75、例えば0.1~0.75、であり、
cは、0.05~0.5である。
【0060】
Accは、三価遷移金属又はランタノイド金属、例えばY、Yb、Gd、Pr、Sc、Fe、Eu、Pr、In若しくはSm、又はそれらの組み合わせ、であり、
yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である。
【0061】
特に、AがBaである場合が好ましい。Accは、Y若しくはYb、又はそれらの組み合わせ、特にY又はY及びYb、である場合が好ましい。
【0062】
それ故に、更に好ましい実施態様において、該膜は、下記の式(II)又は式(II’)の混合された金属酸化物を含む:
BaZrCe3-y (II’)又は
SrZraCe3-y (II’’)
ここで、a+b+cの合計は1に等しく、
bは、0~0.75、例えば0.1~0.75、であり、
cは、0.05~0.5であり、
yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である。
【0063】
bが0である場合、Ceイオンは存在せず、式は、下記の式(III’)又は式(III’’)にまとめられる:
BaZr3-y (III’)又は
SrZr3-y (III’’)
ここで、a+cの合計の合計は1に等しく、
cは、0.05~0.5であり、
yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である。
【0064】
好ましいセラミックは、Ba、Ce、Zr、Y、Yb及びOからなる群から選択されるイオンを含む。非常に好ましいセラミックと混合された金属酸化物は、式BaZr0.7Ce0.20.13-δ又はBaZr0.1Ce0.70.1Yb0.13-yのものである。
【0065】
b+cは、合計で0.1~0.7、例えば0.2~0.4、である場合が好ましい。
【0066】
bは、0.1~0.75、例えば0.1~0.4、である場合が好ましい。
【0067】
cは、0.05~0.4、例えば0.1~0.2、である場合が好ましい。
【0068】
別の非常に好ましい選択肢は、下記の式(X)である:
BaZrCeYb3-y (X)
ここで、a+b+c+dの合計は1に等しく、
bは、0.05~0.75であり、
cは、0.05~0.45であり、
dは、0.05~0.45であり、
yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である。
【0069】
別の非常に好ましい選択肢は、下記の式(X)である
BaZrCeYb3-y (X)
ここで、a+b+c+dの合計は1に等しく、
bは、0.05~0.75であり、
cは、0.05~0.25であり、
dは、0.05~0.25であり、
yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である。
【0070】
該プロトン伝導性膜のセラミック材料は、ペロブスカイト結晶構造を採用する場合が好ましい。
【0071】
膜の調製
該プロトン伝導性膜を形成する、該セラミックと混合された金属酸化物を形成する為に必要な金属イオンは、当該のイオンの任意の好都合な塩として供給されることができる。該プロトン伝導性膜を形成する為に、焼結プロセスが必要とされる。該焼結プロセス中、該塩は該酸化物に変換され、従って任意の塩が使用されることができる。各構成成分の量は、標的である最終的な混合された金属酸化物に応じて、注意深く制御される。
【0072】
好適な塩は、該イオンの硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩及び酸化物を包含する。アルカリ土類金属構成成分については、硫酸塩、特にBaSO、の使用が好ましい。セリウムイオン源については、CeOの使用が好ましい。Zr源については、ZrOの使用が好ましい。Accイオン源については、酸化物の使用が好ましい。Yイオン源としては、Yが好ましい。Ybイオン源としては、Ybが好ましい。
【0073】
該前駆体材料の粒子は、粉末混合物を形成する為にミル粉砕されることができる。
【0074】
該プロトン伝導性膜層を作成する為に必要な反応物は、水性又は非水性溶媒(例えば、アルコール)中のスラリーとして調製される場合が好ましい。水の使用が好ましい。該反応物の相対量は、所望の混合された金属酸化物の化学量論量を確保する為に、注意深く測定されることができる。存在する本質的に全ての金属酸化物が、焼結された膜本体の一部になり、全ての他の構成成分は除去され、従って該所望の化学量論量を生じさせる為に必要な各構成成分の量は、当業者によって容易に計算されることができる。
【0075】
該混合された金属酸化物を作成する為に必要な金属塩と同様に、該プロトン伝導性膜を作成する為に使用されるスラリーは、該プロトン伝導性膜の形成を確保する為に存在する他の構成成分を含みうる。そのような構成成分は、当技術分野で周知であり、該プロトン伝導性膜が形成され、該焼結プロセスまで固体であり無傷のままであるよう確保する為に、バインダー、レオロジー調整剤、分散剤及び/若しくは乳化剤、又は他の添加剤を包含する。それ故に、添加剤は、該金属塩粒子を一緒に固着させて層を形成する種類の接着剤として作用する。
【0076】
好適な添加剤化合物は、アンモニウムポリアクリレート分散剤及びアクリルエマルションを包含する。添加剤、例えば乳化剤/分散剤、の含量は、該混合物全体の0~10重量%、例えば1~5重量%、でありうる。好適なバインダーは、メチルセルロース、アクリルエマルション、及びデンプンでありうる。そのようなバインダーの含量は、該混合物全体の0~10重量%、例えば1~5重量%、でありうる。
【0077】
水は、好ましい溶媒であり、該プロトン伝導性膜を形成する為に使用されるスラリーの5~20重量%を形成しうる。該複合体を形成する為に必要な該金属構成成分は、該スラリーの50~80重量%を形成しうる。
【0078】
このスラリーは、押し出され、鋳型等に適用されて、該プロトン伝導性膜を形成し、その後乾燥させられて、該プロトン伝導性膜の前駆体としての、固体であるが焼結されていないグリーン体(green body)を残すことができる。存在する任意の添加剤は好ましくは、該焼結プロセス中に分解することになるので、有機であることが理解されるであろう。本明細書において記載されるグリーン層は、実際のプロトン伝導性膜の前駆体であることが理解されるであろう。該膜は、下記に詳説される焼結時に形成される。
【0079】
該膜反応器において使用される該プロトン伝導性膜は、1~500マイクロメートル、例えば10~150マイクロメートル、の厚さを有しうる。それ故に、該プロトン伝導性膜の厚さとは、該プロトンが該プロトン伝導性膜を通過して透過する為に必要な距離である。
【0080】
一部のプロトン伝導性膜、特に該範囲の下限の方の厚さを有するプロトン伝導性膜、は構造的支持体を必要とすることになり、一方、示された厚さ範囲の上限の方の厚さを有する膜は、「自己支持型」(self-supported)でありうる。
【0081】
支持体
該プロトン伝導性膜を担持する為に、支持体を使用することが必要になりうる。該支持体は、不活性であり、多孔質であり、且つ該膜反応器内の条件に耐えることができるべきである。1つの実施態様において、該支持体は、電極を形成しうる。
【0082】
以下は、該支持体の為に重要な性質である:
多孔質であること、
該プロトン伝導性膜と化学的に適合性があること、すなわち、反応して二次絶縁相を形成しないこと、
該プロトン伝導性膜と機械的に適合性があること、すなわち、熱膨張係数が好ましくは、該プロトン伝導性膜の熱膨張係数と合致するべきであること。
【0083】
1つの実施態様において、該支持体は、不活性な金属酸化物、例えばアルカリ金属酸化物、又はシリカ若しくはアルミナである。そのような支持体は、この分野で周知である。一般に、該支持体における粒径は、該膜における粒径よりも大きい、例えば少なくとも200nm大きい、べきである。該支持体は、2~300μmから1mm以上の厚さでありうる。
【0084】
支持体材料の設計は、該膜反応器全体の設計に応じて決まる。典型的には、該プロトン伝導性膜、及び従って任意の支持体/電極は、平面状又はチューブ状である。語「チューブ状」は、本明細書において、2つの開口端を有する中空円筒であるプロトン伝導性膜を命名する為に使用され得、又は代替的には「ハニカム構造」を形成する複数のより小さい流路(channel)であり得、又は「試験管」、すなわち、一端の部分が半球状であるが他端が開口している円筒、の形状をとることができる。
【0085】
チューブ状の実施態様において、多孔質支持チューブは、押し出されることができる。次に、該支持体は、所望の機械的強度を得る為に熱処理されることができる。平面状の実施態様において、該支持体材料は、テープキャスティングされ、また続いて、所望の機械的強度を得る為に熱処理されることができる。テープキャスティングプロセスにおいて、該材料のスラリーは、典型的には、ドクターブレードを利用することによって、平坦な水平表面上に均一に広げられる。乾燥後、形成された薄いフィルムは除去され、所望の形状にカットされ、燃焼されることができる。
【0086】
支持体構造を平面状支持体又はチューブのいずれかとして製造する為に、所望の支持体材料のインクが、溶媒としての水又は有機溶媒のいずれか、及び任意的に安定化剤を使用して生成されることができる。制御された多孔度を有する為に、細孔フィラー材料、例えばカーボンブラック、がしばしば使用される。次に、該インクはテープキャスティングされるか、又は押し出されることができる。その後、該支持体は、所望の燃焼温度、例えば600~1650℃、に燃焼されて、所望の多孔度を有する機械的に(mechanical)堅牢な支持体が得られる。
【0087】
複雑な設計の実施態様において、該多孔質支持チューブ又は多孔質電極支持体は、ゲルキャスティングによって調製されることができる。所望の構造の鋳型が調製される。次に、所望の材料の溶液が調製され、該鋳型に注ぎ入れられる。該溶液がゲル化された後、該鋳型は除去される。その後、該支持体は、所望の燃焼温度、例えば600~1650℃、に燃焼されて、有機残留物が燃え尽くされ、所望の多孔度を有する機械的に堅牢な支持体が得られる。
【0088】
電極
該プロトン伝導性膜にわたって電流を印加する為に、該プロトン伝導性膜には、アノード及びカソードが提供される必要がある。好都合には、多孔質電極が、該プロトン伝導性膜のいずれかの側に形成される。従って、第1の電極層、プロトン伝導性膜層、及び第2の電極層を含む三層構造が形成されることができる。
【0089】
幾つかの実施態様において、一方又は両方の電極は、該プロトン伝導性膜の為の支持体として作用することができる。幾つかの実施態様において、該第1の領域内に存在する電極は、脱水素触媒として作用することもできる。
【0090】
該反応器の該第1の領域に曝露される好ましい電極は、以下の特徴を有しているべきである:
電子パーコレーション、
水素解離に向かう触媒活性、
窒素及び水素へのアンモニア分解に向かう触媒活性、
三重の相境界への及び該三重の相境界からの水素ガスの拡散を可能にし、より大きい窒素分子又は蒸気の蓄積による濃度分極を回避する為の、多孔質微細構造、
反応器操作下での触媒(適用される場合)との化学的適合性。
【0091】
好ましい構造は、
Niと金属-酸化物複合体を含む支持電極層、
金属-酸化物複合体を含むプロトン伝導性膜層、
Niと金属-酸化物複合体を含む第2の電極層
を備えている。
【0092】
該電極は、単相、又は多重相を含む複合体、であることができる。一部の潜在的な候補材料は、以下のグループを包含する:
金属/金属合金(例えば、Ni、Fe、Ru、Pt及びPd合金)、
混合された金属酸化物、例えば、La1-xSrCr1-yMn(ここで、x及びyは、0~1である)、
混合された金属酸化物、例えば、LaSr1-xTiO(ここで、x及びyは、0~0.5である)。
【0093】
該電極は、該アンモニア脱水素方法の為の触媒性質を有している場合が好ましい。そのような材料は、
Ni、
Fe
である。
【0094】
該第2の電極は、該膜反応器内の該第1の領域には曝露されず、好ましくは該第2の領域内に位置付けられる。該第2の電極は、当業者に知られているより幅広い材料から選択されうる。
【0095】
1つの実施態様において、該電極は好都合には、共に同じ組成である。
【0096】
好ましい実施態様において、必要とされる該電極は、2つの電極層及び該プロトン伝導性膜(本明細書において膜層又は電解質層とも呼ばれる)を備えている膜電極接合体(MEA:membrane electrode assembly)の一部を形成する。
【0097】
この実施態様における電極は、特に、アンモニア脱水素及び水素解離/会合の両方の為の活性を示す材料を使用する、同じ組成のものでありうる。そのような材料は、Niを含みうる。最も好都合には、該電極は、Ni及び該プロトン伝導性膜において使用される材料を含む、Ni複合体である。更に好都合には、Niは水素活性を増大するので、該プロトン伝導性膜がNiの為の支持体として作用する場合、アンモニア脱水素に向かう触媒活性が改善する。
【0098】
該膜電極接合体(MEA)は、燃料電池及び無機ガス分離膜の当業者に一般的に知られている技術を用いて作製されることができる。
【0099】
第1の電極
該第1の電極層は好ましくは、該MEAを支持するので、該電解質又は第2の電極層よりも厚い傾向がある。それ故に、該MEAは、別個の支持層を含有しない場合が好ましい。該MEAは、該第1の電極層によって支持されるべきである。
【0100】
該第1の電極層は、250ミクロン~2.0mm、例えば500ミクロン~1.5mm、好ましくは500ミクロン~1.2mm、の厚さを有しうる。
【0101】
該第1の電極層は好ましくは、グリーン状態で生成され、すなわち該第1の電極層は、それに該電解質層が適用される前には焼結/高密度化されない。
【0102】
該MEAは、円筒状形態又は平面状形態(又は必要に応じて任意の他の層状化構造)でありうる。しかしながら理想的には、該MEAは、平面状又は円筒状、特に円筒状、である。該円筒の中心に、アノード又はカソードのいずれかが存在することができ、該第1の電極層は、アノード又はカソードのいずれかであることができる。
【0103】
該第1の電極層の調製の為の方法は、非常に柔軟性がある。該第1の電極層を調製する為に、鋳型又は支持体が使用されうる。従って、該第1の電極層は、円筒状又は平面状の支持鋳型上に堆積されうる。該層が形成された後、該鋳型は除去され、該第1の電極層を残すことができる。代替的には、該第1の電極層は、円筒又は平面状支持体を形成するように押し出されることができる。
【0104】
該第1の電極層は、押出し、スリップキャスティング、射出成形、テープキャスティング、湿式及び乾式等方静水圧プレス成形(wet and dry bag isopressing)、並びに付加製造を包含する方法によって調製されうる。
【0105】
該第1の電極層の長さ/幅は、大して重要ではないが、10~50cmでありうる。チューブ状形態において、チューブの内径は、2.0mm~50mm、例えば、2.0~15.0mm、でありうる。チューブの内径とは、該直径が、該層の内側から測定され、実際のチューブの厚さを除外することを意味する。
【0106】
該支持電極材料を製造する為に使用される混合物は、成形プロセスを可能にする為に、セラミック粉末及び任意的な添加剤、例えば、乳化剤、細孔形成剤、バインダー、レオロジー調整剤等を含む。該第1の電極は好ましくは、セラミック構成成分、バインダー及びレオロジー調整剤を含むスラリーから生成される。
【0107】
焼結後、該第1の電極は、混合された金属酸化物を含み得、従って、それを調製する為に使用される混合物は、所望の混合された金属酸化物に対する前駆体を含んでいるはずである。好ましい混合された金属酸化物は、該プロトン伝導性膜について上で教示されたものと同じである。
【0108】
該第1の電極材料は、該セラミックと混合された金属酸化物、理想的には上述の混合された金属酸化物、がNiOと合わされている、複合材料である。500~1100℃の温度で焼結し還元ガスを通過させてNiOをNiに還元したら、これは、水素のようなものが通過することができる多孔質構造を生じさせる。それ故に、好ましい実施態様において、該第1の電極材料は、該プロトン伝導性膜に関連して上述されている通り、金属酸化物のNi複合体である。
【0109】
それ故に、該第1の電極の、標的である混合された金属酸化物を作成する為に必要な化合物は、ニッケル化合物と合わされて、複合構造を形成することができる。該Niは好ましくは、その酸化物の形態で添加される。
【0110】
焼結後のNi:混合された金属酸化物の複合体におけるNi化合物の量分率(fractional amount)は、体積基準又は重量基準で0超~0.8、好ましくは0.2~0.8、でありうる(それ故に、該混合された金属酸化物は、1未満~0.2を形成する)。焼結後の該複合体におけるNi化合物の量は、該複合体の重量に対して0超~80重量%、好ましくは20~80重量%、例えば40~80重量%又は55~80重量%、でありうる。理想的には、1以上の該ニッケル化合物が、該グリーン電極層の少なくとも50重量%、例えば少なくとも60重量%、を形成する。理想的には、該Ni構成成分は、該焼結された電極の少なくとも50重量%、例えば少なくとも60重量%、を形成する。
【0111】
該電極層を形成する、該セラミックと混合された金属酸化物を形成する為に必要な金属イオンは、該プロトン伝導性膜に関連して上述されている通り、当該のイオンの任意の好都合な塩として供給されることができる。
【0112】
反応物の前駆体材料の粒子は、ミル粉砕されて、粉末混合物を形成することができる。形成されたら、この粉末混合物は、酸化ニッケルと合わされて、粉末ミックスを形成することができる。
【0113】
該第1の電極層を作成する為に必要な該反応物及び該Ni酸化物は、水性又は非水性溶媒(例えば、アルコール)中のスラリーとして調製される場合が好ましい。水の使用が好ましい。該反応物の相対量は、焼結後の最終生成物において所望の混合された金属酸化物の化学量論量及び所望のNi含量を確保する為に、注意深く測定されることができる。存在する本質的に全ての該金属酸化物/NiOが、焼結された電極体の一部になり、全ての他の構成成分が除去され、従って、該所望の化学量論量を生じさせる為に必要な各構成成分の量は、当業者によって容易に計算されることができる。
【0114】
該混合された金属酸化物及び該酸化ニッケル複合体を作成する為に必要な金属塩と同様に、該第1の電極層を作成する為に使用されるスラリーは、電極層の形成を確保する為に存在する他の構成成分を含みうる。そのような構成成分は、当技術分野で周知であり、該電極支持体が形成され、該焼結プロセスまで固体であり無傷のままであるよう確保する為に、バインダー、レオロジー調整剤、分散剤及び/若しくは乳化剤、又は他の添加剤を包含する。それ故に、添加剤は、該金属塩粒子を一緒に固着させて層を形成する種類の接着剤として作用する。
【0115】
好適な添加剤化合物は、アンモニウムポリアクリレート分散剤及びアクリルエマルションを包含する。添加剤、例えば乳化剤/分散剤、の含量は、該混合物全体の0~10重量%、例えば1~5重量%、でありうる。好適なバインダーは、メチルセルロース、アクリルエマルション、及びデンプンでありうる。そのようなバインダーの含量は、該混合物全体の0~10重量%、例えば1~5重量%、でありうる。
【0116】
水は、好ましい溶媒であり、該支持電極層を形成する為に使用されるスラリーの5~20重量%を形成しうる。該複合体を形成する為に必要な該金属構成成分は、該スラリーの50~80重量%を形成しうる。
【0117】
該第1の電極は、焼結後、該Ni=AZrCeAcc3-y複合体におけるNi分率が、体積又は重量基準で0.2~0.8であり、該変数が、本明細書において既に定義されている通りである(式(I))、式Ni-AZrCeAcc3-yの複合体である場合が好ましい。
【0118】
代替的に見れば、該第2の電極は、焼結後、該Ni-AZrCeAcc3-y複合体におけるNi分率が、体積又は重量基準で0.2~0.8であり、該変数が、本明細書において既に定義されている通りである(式(I))、式Ni-AZrCeAcc3-yの複合体である場合が好ましい。
【0119】
該第1の電極が形成されたら、該プロトン伝導性膜前駆体材料が該第1の電極に適用されることができる。該プロトン伝導性膜を該第1の電極に適用する為に、任意の方法が使用されることができる。これらの2つの層は、任意の中間層を伴うことなく隣接するべきであることが理解されるであろう。
【0120】
幾つかの薄膜技術が、膜を支持体上に堆積させる為に使用されることができる。これらは、例えば、
スクリーン印刷、
化学蒸着技術(CVD:chemical vapour deposition techniques)、
スプレー堆積方法、例えば超音波スプレー堆積(USD:ultrasonic spray deposition)、
電気泳動堆積、
スピン及び浸漬コーティング、
スラリーコーティング、並びに
含浸
を包含する。
【0121】
スクリーン印刷、スプレー堆積及びスピン/浸漬コーティングが、好ましい技術である。スクリーン印刷は、容易にスケールアップされ(upscale)、10μmまでの薄化を容易に達成することができる。
【0122】
平面状の実施態様において、該膜は好ましくは、スクリーン印刷技術を使用して多孔質支持体上に堆積させられる。
【0123】
第2の電極
該第2の電極は典型的には、該第1の電極の構造に類似の構造を有する。それ故に、該第2の電極は、理想的には、混合された金属酸化物及びNi酸化物の複合体である。該第2の電極層を該電解質層に適用する為に、任意の方法が使用されることができる。これらの2つの層は、任意の中間層を伴うことなく隣接するべきであることが理解されるであろう。方法は、浸漬コーティング、スプレーコーティング、ハンドウォッシュ、パルスレーザー堆積、物理的気相成長法、及びスクリーン印刷を包含する。
【0124】
該第2の電極層は、10~400ミクロン、例えば30~100ミクロン、の厚さを有しうる。
【0125】
該第2の電極層は、該電解質層の全体を覆う必要がないことが理解されるであろう。該第2の電極層の寸法は、当業者によって制御されることができる。
【0126】
該第2の電極層は好ましくは、グリーンセラミックスラリーとして提供される。該第2の電極のスラリーについて、ビヒクルをスプレーする為の金属粉末の重量分率は好ましくは、30~85重量%、好ましくは40~76重量%、である。該第2の電極のスラリーの為の溶媒は、有機又は水性でありうるが、更なる処理の前に該膜の壊滅的な故障を共にもたらす恐れがある、該電解質層の再溶解及び/又は該電解質層の膨潤を最小限に抑える為に、好ましくは水性である。
【0127】
この場合も、該第2の電極層を形成する為に使用されるセラミック化合物は、理想的には、該電解質層への層の良好な適用を確保する為に、乳化剤、レオロジー調整剤、バインダー等を包含する添加剤と混合される。該スラリーの粘度は、堆積を助ける為に制御される。必要とされる粘度は、適用技術の特質の関数である。スプレーコーティングについて、スラリーは、ブルックフィールド粘度計でLV2スピンドルを60rpmで使用して測定して、10~30cPの粘度を有しうる。水性システムの場合、該粘度は、ポリイオン分散化剤の使用によって容易に調整されることができる。そのような分散剤は、ポリアクリレート及びポリメタクリレート塩及びリグノスルホネートであることができ、アンモニウムポリアクリレート(例えば、Duramax D-3005又はDarvan 821A)が好ましい。
a)75~95重量%の電極粉末、2~3重量%のメチルセルロースバインダー、2重量%までのデンプン、2重量%までの可塑剤、2重量%までの分散剤を含む、およそ50重量%の混合物、及び
b)およそ50重量%の水
を含む、浸漬コーティングスラリーが調製されることができる。
【0128】
該第2の電極は、焼結後、該Ni-AZrCeAcc3-y複合体におけるNi分率が、体積又は重量基準で0.2~0.8であり、該変数が、本明細書において既に定義されている通りである(式(I))、式Ni-AZrCeAcc3-yの複合体である場合が好ましい。
【0129】
代替的に見れば、該第2の電極は、焼結後、該Ni-AZrCeAcc3-y複合体におけるNi分率が、体積又は重量基準で0.2~0.8であり、該変数が、本明細書において既に定義されている通りである(式(I))、式Ni-AZrCeAcc3-yの複合体である場合が好ましい。
【0130】
第2の電極の多孔度は、該第1の電極と類似の方式で達成されることができる。該多孔度は、還元条件下、500~1100℃でNiOをNiに還元することによって達成される。
【0131】
1つの実施態様において、該第2の電極を堆積させる為に使用される溶媒は、該膜層を堆積させる為に使用される溶媒とは異なる。その後の電極堆積工程は、膜形成工程において使用されるバインダーのいずれかを溶解しうるので、このことは重要である。
【0132】
例えば、膜コーティングにおいて使用されるバインダーが水に可溶性である場合、該層は、水性溶媒を使用して外側電極を浸漬コーティングするならば水に溶解することになる。
【0133】
溶解が問題にならない場合であっても、該膜層は、溶媒を吸収し、膨潤することができる。従って、グリーン膜層が溶解しない場合であっても、該グリーン膜層は膨潤し、亀裂及び剥離を生じうる。
【0134】
好ましい実施態様において、水は、第2の電極の堆積の為の溶媒として利用され、エステルは、該膜のスプレーコーティングの為の溶媒として利用される。有機/水性溶媒への該膜層/電極層の溶解度の調整を確実にする為に、該コーティングプロセスにおいて使用されるスラリーに、添加剤が添加されることができる。
【0135】
電流コレクタも、該電極の一方又は両方に適用されうる。電流コレクタは、金属電流コレクタ、好都合にはNi、でありうる。
【0136】
焼結
3つの層が形成されたら、接合体全体(whole assembly)が焼結されることができる。該焼結プロセスにおいて、該接合体全体は、熱処理を受けて、最初に有機構成成分及び任意の水が除去され、次に該接合体が高密度化される。該熱処理プロセスは、段階的に行われることがありうる。
【0137】
存在する有機物を除去する為に、より低温での初期熱処理工程が使用されることができる。その工程に、該高密度化プロセスを完了する為に、より高温での焼結工程が続くことができる。
【0138】
該初期熱処理の焼結は、200~500℃、例えば250~400℃、の温度で行われうる。該プロセスは、周囲温度で開始し、温度上昇速度は、1分当たり1~5℃でありうる。該焼結は、ある期間にわたって、前述された範囲の温度で留まりうる。
【0139】
該MEAの高密度化を確保する為の焼結温度は、少なくとも1000℃、例えば1100~2000℃、例えば1200~1900℃、の温度で行われうる。理想的には、1800℃まで、例えば800~1700℃、好ましくは1000~1650℃、例えば1200℃~1600℃、の温度が使用される。この場合も、温度上昇速度は、1分当たり1~5℃でありうる。
【0140】
焼結は、幾つかの異なる雰囲気、例えば酸素、水素、不活性ガス、例えば水素、蒸気又は混合物、例えば空気又は加湿された酸素、中で行われることができる。理想的には大気、例えば空気、が使用される。NiOが、NiO-サーメット上に支持された膜の焼結中に存在し、焼結が、該NiOが該材料に保持される雰囲気下で行われる場合、第2の還元工程が必要とされる。この工程は、還元条件、例えば水素又は希釈された水素、下で行われることが勧められる。更に、これは、500~1200℃、より好ましくは700~1100℃、最も好ましくは800~1000℃、の温度で行われることが勧められる。焼結後、該MEAの各層は、任意の有機材料を本質的に含まない場合が好ましい。
【0141】
該電極層は理想的には、多孔質であり、化合物、例えば水素、を支障なく透過させる。該電解質層は理想的には、高密度である。
【0142】
代替的には、個々の層は、別個に焼結されることができ、例えば、第1の工程において該支持体が焼結され、第2の工程において該電解質層が堆積させられ、次いで第2の焼結工程が行われ、第3の工程において該第2の電極が堆積させられ、次いで第3の焼結工程が行われ、ここで、各焼結工程の温度は、所望の密度に達するように調整される。
【0143】
代替的には、該膜は、該混合された金属酸化物及び任意的な支持体から、該脱水素触媒を用いて簡単に形成され、例えば、該供給物が通過する反応器内にマトリックスを形成することができる。それ故に、該触媒は、粒子床として提供されうる。
【0144】
好ましくは、該膜反応器は、下記の層を下記の順で、すなわち、
(I)下記の式 Ni-AZrCeAcc3-yのNi複合体を含む支持電極層、
(II)AZrCeAcc3-yを含むプロトン伝導性膜層、
(III)下記の式 Ni-AZrCeAcc3-yのNi複合体を含む第2の電極層、
ここで、各層について独立して、Aは、Ba、Sr若しくはCa又はそれらの組み合わせであり、a+b+cの合計は1に等しく、
bは、0~0.75であり、
cは、0.05~0.5であり、
Accは、Y、Yb、Gd、Pr、Sc、Fe、Eu、In若しくはSm、又はそれらの組み合わせであり、及び、
yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である、
を備えている膜電極接合体を備えている。
【0145】
好ましくは、該膜反応器は、下記の層を下記の順で、すなわち、
(I)下記の式 Ni-BaZrCe3-yのNi複合体を含む支持電極層、
(II)BaZrCe3-yを含むプロトン伝導性膜層、
(III)下記の式 Ni-BaZrCe3-yのNi複合体を含む第2の電極層
ここで、各層について独立して、a+b+cの合計は1に等しく、
bは、0~0.75であり、
cは、0.05~0.5であり、及び、
yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である、
を備えている膜電極接合体を備えている。
【0146】
好ましくは、該膜反応器は、下記の層を下記の順で、すなわち、
(I)下記の式 Ni-BaZrCeYb3-yのNi複合体を含む支持電極層、
(II)BaZrCeYb3-yを含むプロトン伝導性膜層、
(III)下記の式 Ni-BaZrCeYb3-yのNi複合体を含む第2の電極層、
ここで、a+b+c+dの合計は1に等しく、
bは、0.05~0.75であり、
cは、0.05~0.25であり、
dは、0.05~0.25であり、及び、
yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である、
を備えている膜電極接合体を備えている。
【0147】
好ましくは、該膜反応器は、下記の層を下記の順で、すなわち、
(I)下記の式 Ni-BaCe0.7Zr0.10.1Yb0.13-yのNi複合体を含む支持電極層、
(II)BaCe0.7Zr0.10.1Yb0.13-yを含むプロトン伝導性膜層、
(III)下記の式 Ni-BaCe0.17Zr0.10.1Yb0.13-yのNi複合体を含む第2の電極層、
ここで、yは、式(I)が無電荷である数であり、例えば3-yが2.75~2.95である、
を備えている膜電極接合体を備えている。
【0148】
方法の条件
本発明の方法は、出発材料が該反応器に供給されることを必要とする。該供給物の温度は、該材料がガスとして供給されるような温度であるが、典型的には、該供給物は好ましくは、該反応器と同じ温度を有するように加熱されることになる。
【0149】
該第1の領域内のプロセスは、普通、300℃~1000℃、好ましくは400℃~700℃、の温度で操作される。該反応器内の圧力は、0.5~50バール、好ましくは6バール~30バール、の範囲でありうる。該第1の領域において該脱水素反応を行う為に必要な熱は、該プロトン伝導性膜において生じるジュール加熱プロセスから誘導されることが好ましい。
【0150】
1つの実施態様において、液体アンモニア及び任意的な水は、該第1の領域に入る前に、例えば5~50バールの圧力に加圧されることができる。圧縮された液体を加熱すると、出発温度においてガス性反応物の供給物が容易に得られる。
【0151】
該プロトン膜は、該第1の領域から水素を除去し、500℃もの低温でほぼ100%の変換を促進することができる。
【0152】
該脱水素反応全体は吸熱性であり、慣用的に熱は、透過された水素とスイープ空気(sweep air)との間の該膜の透過物側で起こる発熱反応由来の、該膜を介する熱伝達によって供給されることができる。このことは、有益な資源であり、且つ該方法の核心である水素が浪費されるので、魅力的でない。
【0153】
本発明において、熱は好ましくは、オーム損により、従って以下に更に論じられる通りジュールエネルギーにより、供給される。該脱水素反応の為の熱を発生させる為に、所望の水素生成物を酸素と反応させる必要はない。これにより、水素生成が最大限になる。それ故に、該プロトン伝導性膜は、該システム内の熱管理を可能にする。
【0154】
更に、従来技術の複雑な金属膜又は機械的により不安定な膜の使用と比較して、本発明のプロトン伝導性膜は、高温における化学的に厳しい条件でも安定である。利用されるBaベースのプロトン伝導体の基本的特質は、該プロトン伝導体を、アンモニア操作の為に理想的なものにする。
【0155】
該第1の領域の出口における反応生成物は、窒素、該膜を通過しなかった任意の水素、未反応のアンモニア、及び存在する場合には水を含んでいる。窒素は、該プロトン伝導性膜を通過せず、該第1の領域から抽出され、存在する任意の他の構成成分から分離されることができる。それ故に、窒素は、抽出され、加圧されることができる。この資源は、任意の有用な用途において使用されることができ、又は該窒素は、熱を回収する為に熱交換器を通過させられ得、次にその熱は、該第1の領域を加熱する為に使用されることができる。
【0156】
該プロトン伝導性膜を通過するプロトン(従って水素)は、電気化学的に圧縮され、このプロセスも熱を発生させる。それ故に、第1の領域における反応は、該プロトン伝導性膜にわたって水素圧縮中に発生した熱の為のヒートシンクとして作用するので、アンモニア脱水素は吸熱性であることが重要である。
【0157】
水素は、水素ガスの直接圧縮を可能にする外部バイアスを使用して、該プロトン膜の透過物側から抽出される。該プロセスは、化学的ネルンスト電位による電位全体の上昇以外の、該プロトン伝導性膜にわたるΔPH2には依存しない。更に、該プロトン伝導性膜の透過物側からの水素の除去は、反応を窒素に向かってシフトするので、高い水素回収率が得られることができる。
【0158】
水素は該膜を通過するので、該第2の領域における圧力は上昇する。それ故に、該プロセスが開始したら、該第2の領域における水素の分圧は、該第1の領域における水素の分圧よりも高くなる。特に、該第2の領域における水素の分圧は、該第1の領域における圧力の少なくとも2倍、例えば少なくとも5倍、例えば少なくとも15倍、である。20倍以下までの圧力が可能である。該第1の領域における水素の分圧は、1~70バール、又はより好ましくは5~30バール、又は最も好ましくは10~20バール、でありうる。
【0159】
該反応器には、該第2の領域内のガス出口において圧力調節器が提供されうる。この圧力調節器は、該膜を通過した水素が該第2の領域から逃げるのを防止することによって、該第2の領域内の圧力の制御を可能にする。該プロセスが実行されたら、該第2の領域における水素の圧力は、該第1の領域の水素の圧力よりも高くなり、該圧力調節器により制御されることができる。
【0160】
該圧力調節器は、該第2の領域内において特定の圧力が達成されることを確実にする為に使用されることができる。該第2の領域内の好適な圧力は、2~700バール、例えば10~350バール、例えば20~100バール、である。
【0161】
ジュール加熱は、オーム加熱又は抵抗加熱としても既知であり、電流が伝導体を通過することにより熱を放出するプロセスである。本発明において、該膜の操作中のオーム損は、ジュール加熱を引き起こすことになる。このプロセスにおいて発生した熱は、該脱水素に必要な熱を提供する為に使用されることができる。
【0162】
脱水素触媒
本発明の方法において使用される膜反応器は、該脱水素反応を促す為に、別個の脱水素触媒を利用しうる。所望の方法を達成することができる任意の脱水素触媒が使用されることができる。
【0163】
1つの実施態様において、該脱水素触媒は好ましくは、該膜反応器の該第1の領域内に自由に存在する多孔質触媒である。該触媒は、目的に合わせた粒径を有する粉末の形態であることができる。該触媒は、該膜に接着させられない。それ故に、この実施態様において、該触媒は、再生させられる必要がある場合には、容易に交換されることができる。
【0164】
しかしながら、該脱水素触媒は好ましくは、電極として該MEAに統合される。好ましくは本明細書において定義されるNiを含む第1の電極は、脱水素触媒としても作用する。
【0165】
幾つかの実施態様において、触媒は全く使用されない。幾つかの実施態様において、該膜において使用される材料は、それ以上の触媒が必要とされないほど十分な触媒活性を有する。
【0166】
膜反応器
原則として、いかなる反応器の設計も使用されることができるが、しかしながら好ましい反応器の設計は、フロータイプの固定床、流動床及びウォッシュコートされた設計である。それ故に、該反応器の該第1の領域の入口から出口まで流れが存在することが重要である。有利な設計の1つは、中にチューブ状輸送膜が存在する反応器を活用する。該反応器の壁部と、該チューブ状膜との間には、任意的な脱水素触媒の床が存在する。これは、該反応器における該第1の領域を形成する。この床は、該反応器の長さ全体に及ぶ必要はないが、及びうる。代替的には、該反応器の該第1の領域は、該チューブの内側にあり、そこに該触媒が好ましくは位置される。
【0167】
任意的に蒸気を伴うアンモニアが、該第1の領域に供給される。脱水素は、該反応物と任意の触媒との間の接触時に生じ、従って水素を形成する。発生した水素ガスは、該膜を通過し、該膜反応器の該第2の領域に入る。該膜を通過しないガスは、該第1の領域の出口で収集されることができる。
【0168】
該触媒から該膜までの距離は、可能な限り短い、好ましくは5cm以下、より好ましくは5mm未満、であることが好ましい。
【0169】
該触媒は、第1の領域における電極でもあることが最も好ましい。
【0170】
水素が、反応物ガスの流れとは逆流方向に除去される場合が好ましい。
【0171】
任意的に、スイープガスが、該膜の透過物側である該第2の領域に供給されることができる。該スイープガスは、水素に対して不活性である場合が好ましい。該スイープガスが蒸気である場合が最も好ましい。蒸気スイープガスは、該膜の水和に寄与し、プロトン伝導性を増大することになる。
【0172】
ここで、本発明は、以下の非限定的な実施例及び図を参照しながら定義される。
【図面の簡単な説明】
【0173】
図1図1は、該MEA構築物を生成する為の単一の同時焼結(co-sintering)工程の使用から生じた、構造を示す破砕された表面の顕微鏡写真である。カソード表面上に堆積された多孔質電流コレクタ層も含まれる。
図2図2は、水素回収率の関数としての無水アンモニアの変換率を示す。ここで、水素回収率は、第2の領域の出口で測定された水素を、該第1の領域に供給されたNHから入手可能な全水素で割ったもののパーセンテージとして定義される。水素回収率ゼロは、開路変換を生じている。上昇した水素回収率に伴ってアンモニア変換率が上昇し、約60%の水素回収率で100%に達することが観察される。
図3図3は、水素回収率の関数としての水性アンモニアの変換率を示す。ここで、水素回収率は、第2の領域の出口で測定された水素を、該第1の領域に供給されたNHから入手可能な全水素で割ったもののパーセンテージとして定義される。水素回収率ゼロは、開路変換を生じている。上昇した水素回収率に伴ってアンモニア変換率が上昇し、>95%の水素回収率で>98%に達することが観察される。
図4図4は、アンモニア脱水素の間の該膜反応器内で上昇している水素分圧を示す。
図5図5は、無水アンモニアに対する1トン/日の水素生成施設操作の為のプロセスフロー図を示す。
図6図6は、水性アンモニア(35%NH溶液)に対する1トン/日の水素生成施設操作の為のプロセスフロー図を示す。
【0174】
実施例
膜の調製:
30μmの高密度膜を含む、60重量%のNi-BaZr0.7Ce0.20.13-δ(BCZY27)のチューブ状非対称膜支持体が、反応性焼結手法を使用して合成された。
【0175】
BaSO、ZrO、Y及びCeOの前駆体が、化学量論量(金属ベース)でNalgeneボトルに一緒に入れられて、ジャーローラー(ajar roller)上で24時間混合された。該材料は、空気中で乾燥させられ、40メッシュスクリーンでふるいにかけられた。これは、最初の前駆体混合物を形成する。
【0176】
2つの部分の該前駆体混合物が、64重量%のNiOと共に更に混合された。次に、それらの部分の一方(第1の部分)が、水溶性アクリル及びセルロースエーテル可塑剤とブレンドされて、押出し用バッチが調製された。
【0177】
該押出し用バッチを使用して、Loomis押出機でグリーンチューブが押し出された。次に、該押し出されたチューブが乾燥させられ、該最初の前駆体混合物でスプレーコーティングされた。
【0178】
2回目の乾燥工程の後、該チューブは、先の第2の部分(NiOを含む)の溶液に浸漬コーティングされた。該チューブが、吊り下げ燃焼(hang-firing)によって空気中1600℃で4時間、同時燃焼された。このプロセスは、内側NiO-BCZY27層を生じさせる。次に、該焼結されたチューブは、水素混合物(安全ガス)中1000℃で処理されて、NiOがNiに還元され、アノード支持体構造及び外側カソードにおいて必要な多孔度が得られた。Ni電流コレクタが、該外側カソード上に堆積された。セル横断面の走査電極顕微鏡写真は、図1に示されている。
【0179】
触媒:
60重量%のNi-BCZY27からなる該アノード支持体構造は、アンモニア脱水素に十分な触媒活性を提供する。
【0180】
セル接合体(cell assembly):
前述されたセラミックセルは、該セル接合体の熱膨張係数と熱的に合致するように設計されたガラスセラミックシールを使用して、1/2’’の外径を有するセラミックアルミナライザーにシールされた。該セラミックライザーは、実験中、均一な温度領域における該セラミックセルの位置付けを可能にする。該チューブ状セラミックセルの他端は、類似のガラスセラミックシーラント材料を使用してキャッピングされ、防漏セル接合体(leak free cell assembly)が得られた。
【0181】
反応器及び設定(setup):
チューブ状反応器装置は、内側のセル接合体及び外側の鋼製反応器チューブ(Kanthal APMT、ID=20.93mm)からなる。該セル接合体が、316SS Swagelokベースのシステム上に組み立てられ、熱電対及びガスの為の電気的接触及びフィードスルーを提供した。複数の熱電対が、該セラミックセルの上部及び底部における、該チューブ状セルの内側及び該反応器チューブの外側に置かれた。これらの熱電対を活用することにより、該反応器炉の加熱領域は、軸方向温度差が10℃未満になるように調整された。Niチューブ(O.D.=4.6mm)は、内側の第1の領域の為のガス供給及び電流プローブとして働いた。該チューブ状セルとNiチューブとの間の接触を確実にする為に、Niウール(American Elements)が該第1の領域に挿入されて、該Niチューブと第1の電極との間の接触が確実にされた。外側の第2の電極は、該チューブ状構造の周囲に巻き付けられたAgワイヤー(直径=0.25mm)と接触させられた。ガス分析が、Agilent 7890ガスクロマトグラフを使用して実施され、生成物ライン及びスイープ出口ガスラインにおけるHe、H、N及びNHの濃度が測定された。水素除去、圧縮及び熱生成の為に、Hameg HMP4040電源が定電流モードで使用された。
【0182】
プロセス1 無水NHの脱水素
セル接合体が該反応器装置に搭載された(共に前述されている)。活性セル面積は32.4cmであった。105mL/分のN及び20mg/分のHOからなるガス流が該第2の領域に供給され、一方、26.2mL/分のHe及び20mg/分のNHからなるガス流が該第1の領域に供給され、そこで外部バイアスが印加されるときにNHの脱水素反応が生じ、水素が該膜を通して輸送される。反応温度は600℃であった。ヘリウムが内部標準として、該膜を通して起こる可能性がある漏れを特定する為に使用された。開路電圧(OCV)において得られたアンモニア変換率は、99.5%に等しかった。該膜上に3.2Aの外部電場を印加した場合、該アンモニア変換率は100%に達した。図2に示される通り、該膜を通して輸送された水素の量と共に該アンモニア変換率が上昇し、電流及び得られる水素回収率の上昇に対応していた。
【0183】
プロセス2 水性NHの脱水素
セル接合体が該反応器装置に搭載された(共に前述されている)。活性セル面積は15.39cmであった。105mL/分のN及び20mg/分のHOからなるガス流が該第2の領域に供給され、一方、15.1mL/分のHe、10mg/分のNH及び32mg/分のHO(75%HOと25%NHの水性アンモニア混合物に対応する)からなるガス流が該第1の領域に供給され、そこで外部バイアスが印加されるときにNHの脱水素反応が生じ、水素が該膜を通して輸送される。反応温度は600℃であった。ヘリウムが内部標準として使用されて、該膜を通して起こる可能性がある漏れが特定された。開路電圧(OCV)において得られたアンモニア変換率は、76%に等しかった。該膜上に3Aの外部電場を印加した場合、該アンモニア変換率は98%に達した。無水の場合と同様、図3に示される通り、該膜を通して輸送された水素の量と共に該アンモニア変換率が上昇し、電流及び得られる水素回収率の上昇に対応していた。
【0184】
電気化学的圧縮
セル接合体が該反応器装置に搭載された(共に前述されている)。活性セル面積は14.45cmであった。15.1mL/分のHe、65mg/分のNHからなるガス流が該第1の領域に供給され、そこで外部バイアスが印加されるときにNHの脱水素反応が生じ、水素が該膜を通して輸送される。該実験中、第2の領域におけるガス流は、2つの工程で105mL/分のN及び20mg/分の水から、まず10mL/分のN及び20mg/分のHOに、次に20mg/分のHOに、低減された。該膜を通る水素の連続輸送は、図4に示される通り、対応する水素分圧の上昇を可能にし、該第1の領域における水素の分圧(アノード圧力)と比較して該第2の領域における水素の分圧(カソード圧力)がより高くなることを示した。
【0185】
プロセスフロー図5 無水アンモニア
無水アンモニアからの圧縮された水素の生成についてのプロセスフロー図は、図5に示されている。
【0186】
無水アンモニアは、ライン(1)を介してポンプにより熱交換器1に供給される。この熱交換器1は、該膜反応器からライン(5)に抽出された水素により加熱されることができる。第2の熱交換器2は、アンモニアがライン(4)を介して通過して該膜反応器に入る前に使用されることができる。任意の未反応出発材料及び保持された窒素は、ライン(10)を介して熱交換器2にリサイクルされ、窒素はライン(11)を介して抽出されることができる。
【0187】
必要な場合には、水が、熱交換器3を介して該反応器の透過物側に添加されることができ、該熱交換器3は、ライン(6)を介して水素により加熱されることもできる。熱交換器3からの水素と水の混合物は、7を介して除去され、凝縮されることができる。水はリサイクルされ、水素は貯蔵の為にライン(9)を介して取って置かれることができる。必要な場合には、水はまた、ライン15及び16、並びにそれらの間にあるヒーターにより更に加熱されることができる。
【0188】
前述されたプロセスフロー図を使用して1日当たり1トンのHを生成する施設をシミュレートする為に、ASPENソフトウェアが使用される。反応条件は650℃であり、反応圧力は27.9バールである(20.9バールの水素分圧を与えて完全な変換を想定する)。生成された水素は、25.4バールに電気化学的に圧縮される。0.517A/cmの電流密度で操作する場合、214mの膜面積が必要とされる。該膜の操作によって発生した熱、すなわちジュール加熱は、吸熱性アンモニア脱水素反応に、及び供給された無水アンモニアの熱交換の為に、供給される。熱統合の利益は、92.1%の全体的エネルギー効率をもたらす。
【0189】
プロセスフロー図6 水性アンモニア
水性アンモニアからの圧縮された水素の生成についてのプロセスフロー図が、図6において示されている。
【0190】
水性アンモニアは、ライン(1)を介してポンプによりライン(2)に供給され、いわゆる熱回収ループを形成する一連の熱交換器を通過する。反応混合物を含むライン(3)は、熱交換器1に供給され、該熱交換器1は、該膜反応器の保持物からのライン(11)により加熱されることができる。第2の熱交換器2は、水性アンモニアがライン(5)を介して該膜反応器に入る前に使用されることができる。この熱交換器2は、該膜反応器の透過物からライン(6)に抽出された水素により加熱されることができる。任意の未反応出発材料、並びに保持された水及び窒素は、ライン(11)を介して熱交換器1、熱交換器3及び該熱回収ループにリサイクルされることができ、及び、残留水、窒素混合物は、ライン(15)を介して抽出される。
【0191】
必要な場合には、水が、ライン(17)を介して該膜に添加され、まず熱交換器3に供給されることができ、該熱交換器3は、ライン(11)からの保持物により加熱されることができ、該熱交換器3に熱交換器4が続き、該熱交換器4は、該透過物からの水素と水の混合物を含むライン(6)によって加熱されることができる。熱交換器4からの水素と水の混合物は、7を介して除去され、凝縮されることができる。水はリサイクルされ、水素は貯蔵の為にライン(9)を介して取って置かれることができる。必要な場合には、水は、ライン(19)及び(20)、並びにそれらの間にあるヒーターにより更に加熱されることもできる。
【0192】
前述されたプロセスフロー図を使用して1日当たり1トンのHを生成する施設をシミュレートする為に、ASPENソフトウェアが使用される。反応条件は650℃であり、反応圧力は27.9バールである(7.3バールの水素分圧を与えて完全な変換を想定する)。生成された水素は、25.4バールに電気化学的に圧縮される。0.664A/cmの電流密度で操作する場合、167mの膜面積が必要とされる。該膜の操作によって発生した熱、すなわちジュール加熱は、吸熱性アンモニア脱水素反応に、及び供給された水性アンモニア(35%NH溶液)の熱交換の為に、供給される。熱統合の利益は、82.7%の全体的エネルギー効率をもたらす。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】