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▶ ザ、クイーンズ、ユニバーシティー、オブ、ベルファーストの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】縫合糸
(51)【国際特許分類】
   A61L 17/10 20060101AFI20240312BHJP
   A61L 17/12 20060101ALI20240312BHJP
   A61L 17/06 20060101ALI20240312BHJP
   A61L 17/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61L 17/04 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 31/245 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 23/02 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240312BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240312BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 31/085 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 31/4164 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
A61L17/10
A61L17/12
A61L17/10 100
A61L17/06
A61L17/00 100
A61L17/04
A61K45/00
A61K45/06
A61K31/167
A61K31/245
A61P31/04
A61P31/10
A61P31/12
A61P29/00
A61P23/02
A61P33/00
A61K9/14
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/10
A61K31/192
A61K31/405
A61K31/196
A61K31/085
A61K31/4164
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557344
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(85)【翻訳文提出日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 EP2022056758
(87)【国際公開番号】W WO2022194900
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】2103567.0
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503133922
【氏名又は名称】ザ、クイーンズ、ユニバーシティー、オブ、ベルファースト
【氏名又は名称原語表記】THE QUEEN’S UNIVERSITY OF BELFAST
【住所又は居所原語表記】University Road, Belfast BT7 1NN GB
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】リ,シュウ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリューズ,ギャビン ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ,デイビッド エス.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076BB16
4C076CC01
4C076CC04
4C076CC32
4C076CC34
4C076CC35
4C076DD37
4C076DD41
4C076DD42
4C076DD49
4C081AC02
4C081BA16
4C081CA021
4C081CA161
4C081CA171
4C081CA191
4C081CA231
4C081CE02
4C084AA17
4C084AA20
4C084NA10
4C084ZA211
4C084ZB111
4C084ZB331
4C084ZB351
4C084ZB371
4C086AA01
4C086BC15
4C086BC38
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA65
4C086NA10
4C086ZB11
4C086ZB35
4C206AA01
4C206CA28
4C206DA18
4C206DA24
4C206FA31
4C206FA33
4C206FA36
4C206FA37
4C206FA38
4C206GA19
4C206GA31
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA05
4C206MA63
4C206MA85
4C206NA10
4C206ZA21
4C206ZB11
4C206ZB35
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのポリマー及び少なくとも1つの共晶混合物を含む縫合糸材料に関する。ポリマーは、ポリカプロラクトンまたはPLGAなどの生体適合性ポリマーであることができる。共晶混合物は、マレイン酸、及びメトロニダゾールなどの抗生物質を含んでもよい。他の共晶混合物は、SSiを減少させるために、及び/または痛みを減少させるために、及び/または縫合糸の潤滑性を増加させるために、縫合糸材料に使用されることができる。本発明はまた、薬物充填による縫合糸の製造方法を提供する。本発明は、薬物を充填している縫合糸の製造方法も提供し、この方法は、縫合糸マトリクス内の薬物含量を著しく増加させる治療用深共晶溶媒(THEDES)技術の使用を含む。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸、脂肪酸、脂肪族アミン、脂肪族アルコール、またはそれらの2つ以上のいずれかの組み合わせから選択される2つ以上の共晶形成成分を含む縫合糸であって、前記2つ以上の共晶形成成分は、少なくとも1つのポリマー内またはその上に少なくとも1つの共晶混合物を原位置で形成することができる、前記縫合糸。
【請求項2】
前記共晶形成成分のうちの前記1つ以上は、1つ以上の活性剤を含む、請求項1に記載の縫合糸。
【請求項3】
前記共晶形成成分のうちの前記1つ以上は、ルイスまたはブレンステッド・ローリーの酸及び塩基を含む、請求項1または2に記載の縫合糸。
【請求項4】
前記少なくとも1つのポリマーは少なくとも1つの生体適合性ポリマーであり、
任意選択で、前記少なくとも1つの生体適合性ポリマーは、少なくとも1つの加熱溶融押出成形可能な生体適合性ポリマーである、請求項1または2に記載の縫合糸。
【請求項5】
前記2つ以上の共晶形成成分は、第一活性剤、及び前記第一活性剤と共晶混合物を形成することができる第二群からの1つ以上の成分を含み、
前記第二群は、
i)1つ以上の第二活性剤、または
ii)1つ以上の酸、または
iii)1つ以上の脂肪酸、または
iv)1つ以上の脂肪族アルコール、または
v)1つ以上の脂肪族アミン、または
上記のi)からiv)の任意の組み合わせであって、i)からv)のうちの2つ以上の任意の組み合わせを含む、前記任意の組み合わせ、
を含む、先行請求項のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項6】
前記第一活性剤は、ルイスまたはブレンステッド・ローリーの酸または塩基であり、前記第二群からの前記成分は、前記ルイスまたはブレンステッド・ローリーの酸及び塩基対の他方である、請求項5に記載の縫合糸。
【請求項7】
前記第一活性剤及び/または前記第二活性剤は、抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬、または局所麻酔薬のうちの少なくとも1つである、請求項5または6に記載の縫合糸。
【請求項8】
前記局所麻酔薬は、リドカイン、プリロカイン、及びブピバカインから選択されるアミド、またはプロカイン、ベンゾカイン、及びテトラカインから選択されるエステルである、基電気陰性度が強い官能基を含む、請求項7に記載の縫合糸。
【請求項9】
前記抗菌薬、前記抗真菌薬、前記抗ウイルス薬、または前記抗炎症薬は、抗生物質類、非抗生物質系抗菌薬、抗ウイルス薬類、抗真菌薬類、及びイミダゾールまたはニトロイミダゾールを含む抗寄生虫薬類から選択される、請求項7に記載の縫合糸。
【請求項10】
前記ポリマーは、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリジオキサノン、ポリグレカプロン(グリコリド及びイプシロン-カプロラクトンのコポリマー)、ポリ-(トリメチレンカルボネート)系ポリマー、ポリプロピレン、ポリエステル、及びナイロンを含む群から選択される、先行請求項のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項11】
前記ポリマーは、生分解性である、先行請求項のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項12】
前記ポリマーは、ポリカプロラクトンである、先行請求項のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項13】
前記ポリマーは、実質的に非生分解性である、請求項1から10のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項14】
前記ポリマーは、PLGAである、請求項1から10または13のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項15】
前記共晶混合物は、マレイン酸及び抗生物質を含む、先行請求項のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項16】
前記共晶混合物は、マレイン酸及び非抗生物質抗菌薬(NAAM)を含む、請求項1から14のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項17】
前記共晶混合物は、非抗生物質抗菌薬(NAAM)及び非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を含む、請求項1から14のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項18】
前記2つ以上の共晶形成成分は、原位置でポリマーデバイス内に共晶油を生成する、先行請求項のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項19】
前記共晶混合物は、少なくとも1つの脂肪酸を含む、請求項1から16のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項20】
前記共晶混合物は、4から20個の炭素原子を含むモノまたはジカルボキシルの、飽和または不飽和の、脂肪酸である少なくとも1つの脂肪酸を含む、請求項1から16及び19のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項21】
前記脂肪酸は、マレイン酸、ヘキサン酸、ヘキサン二酸、カプリン酸、デカン二酸、ラウリン酸(C12)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ミリスチン酸、及びオレイン酸からなる群から選択される、請求項1から16、19及び20のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項22】
前記共晶混合物は、カルボン酸官能基を含有する少なくとも1つのNSAIDsを含む、請求項1から14のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項23】
前記カルボン酸官能基を含有する前記少なくとも1つのNSAIDsは、プロピオン酸の誘導体、酢酸の誘導体及びアントラニル酸の誘導体から選択される、請求項22に記載の縫合糸。
【請求項24】
前記カルボン酸官能基を含有する前記少なくとも1つのNSAIDsは、イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、ジクロフェナク、メフェナム酸、メクロフェナム酸からなる群から選択される、請求項22または23に記載の縫合糸。
【請求項25】
前記共晶混合物は、脂肪酸及び第二脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族アミンまたは活性剤もしくは他の薬剤を含む、先行請求項のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項26】
前記共晶混合物は、抗生物質を含む、請求項1から14のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項27】
前記共晶混合物は、メトロニダゾールを含む、請求項1から14のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項28】
前記共晶混合物は、非抗生物質抗菌薬を含む、請求項1から14のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項29】
前記共晶混合物は、トリクロサンを含む、請求項1から14のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項30】
前記共晶混合物は、メトロニダゾール及びイブプロフェンを含む、請求項1から14のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項31】
前記共晶混合物は、トリクロサン及びイブプロフェンを含む、請求項1から14のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項32】
前記ポリマーはポリカプロラクトンであり、前記共晶混合物はマレイン酸及びメトロニダゾールを含む、請求項1から14のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項33】
前記ポリマーはPLGAであり、前記共晶混合物はマレイン酸及びメトロニダゾールを含む、請求項1から14のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項34】
前記ポリマーはポリカプロラクトンであり、前記共晶混合物はメトロニダゾール及びイブプロフェンを含む、請求項1から14のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項35】
前記ポリマーはポリカプロラクトンであり、前記共晶混合物はトリクロサン及びイブプロフェンを含む、請求項1から14のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項36】
前記ポリマーはPLGAであり、前記共晶混合物はメトロニダゾール及びイブプロフェンを含む、請求項1から14のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項37】
前記ポリマーはPLGAであり、前記共晶混合物はトリクロサン及びイブプロフェンを含む、請求項1から14のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項38】
前記糸のサイズ(直径)は、USP規格に従って#4-0から#4までの範囲である、先行請求項のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項39】
前記生分解プロファイルは、7~30日間の範囲である、先行請求項のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項40】
前記共晶混合物は、脂肪族アルコールを含む、請求項1から16のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項41】
前記脂肪族アルコールは、炭素数4~6から炭素数26~30までの範囲である、直鎖または分岐鎖の、飽和または不飽和の第一級アルコールである、請求項40に記載の縫合糸。
【請求項42】
前記脂肪族アルコールは、3-メチル-3-ペンタノール;1-ドデカノール、ヘンエイコサノール、エライジルアルコール、ペトロセリニル(Petroselinyl)アルコール、1-テトラデカノール、1-ドコサノール、1-トリデカノール、1-ノナデカノール、1-トリアコンタノール、1-ペンタデカノール、1-ノナノール、1-トリコサノール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、1-デカノール、またはイソオクチルアルコールから選択される、請求項40または41に記載の縫合糸。
【請求項43】
前記共晶混合物は、脂肪族アミンを含む、請求項1から16のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項44】
前記共晶混合物は、脂肪族アミンを含む、請求項1から16のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項45】
前記脂肪族アミンは、直鎖または分岐鎖の、飽和または不飽和のアミンである、請求項44に記載の縫合糸。
【請求項46】
前記脂肪族アミンは、前記アミノ基で短鎖アルキルと任意選択で置換される、一置換または二置換アミンから選択される、請求項44または45に記載の縫合糸。
【請求項47】
前記脂肪族アミンは、炭素数4~6から炭素数22~26までを含む、請求項44から46のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項48】
前記脂肪族アミンは、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ドセシルアミン(Docecylamine)、デシルアミン、トリデシルアミン、オクタデシルアミン、ウンデシルアミン、N,N-ジメチルテトラデシルアミン、ドデシルアミン、またはオクタデシルアミンから選択される、請求項44から47のいずれかに記載の縫合糸。
【請求項49】
手術部位感染(SSi)を減少させるために、及び/または痛みを減少させるために、及び/または縫合糸の潤滑性を増加させるために縫合糸での使用のための共晶混合物。
【請求項50】
酸、脂肪酸、脂肪族アミン、脂肪族アルコール、またはそれらの2つ以上のいずれかの組み合わせから選択された2つ以上の共晶形成成分は、前記共晶混合物を原位置で形成する、請求項49の使用のための共晶混合物。
【請求項51】
前記2つ以上の共晶形成成分は、少なくとも1つのポリマー内またはその上に前記少なくとも1つの共晶混合物を原位置で形成する、請求項50の使用のための共晶混合物。
【請求項52】
薬物充填による請求項1から51のいずれかの縫合糸の製造方法。
【請求項53】
前記方法は治療用深共晶溶媒(THEDES)技術の使用を含む、薬物充填による縫合糸の製造方法。
【請求項54】
少なくとも1つの共晶混合物を原位置で形成することができる、酸、脂肪酸、脂肪族アミン、脂肪族アルコール、またはそれらの2つ以上のいずれかの組み合わせから選択された2つ以上の共晶形成成分は、少なくとも1つのポリマーと共に、前記ポリマーの融点より上の温度で押出成形される、請求項52または53に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は縫合糸に関する。さらに特に本発明は、深共晶反応性押出成形技術を使用した抗感染縫合糸に関する。
【背景技術】
【0002】
縫合糸は創傷閉鎖装置として重要な役割を果たしており、2017年の市場価値は36億8000万ドルと推定されており、2023年までに50億2000万ドルに成長すると見積もられている。しかしながら、縫合糸の欠点として認識されているのは、ほとんどの埋め込み型医療機器と同様に、縫合糸が細菌の付着及び定着を起こしやすいため、最終的には細菌が創面内に広がり、手術部位感染(SSI)を発症することになることである。この結果、創傷離開及び深部創傷組織膿瘍が原因で創傷治癒が妨げられることになる。創傷の感染後、免疫応答の上昇が誘発されることにより、縫合部位のすぐ近くで炎症及び組織損傷が引き起され、治癒が遅れる。創傷治癒の延長には、再入院、外来受診の数が増加するだけでなく、抗菌包帯、または抗菌薬及び/または抗炎症薬による治療の代替コースが必要になるため、創傷ケア/管理にかかる全体的なコストも増加することにより、既に限られた病院のリソースが利用される。
【0003】
手術部位感染(SSI)は深刻な問題を引き起こし、特にCDC手術創傷分類(SWCクラスIV)に従って「汚染されている」とみなされる切開部位では、依然として術後死亡率の主な原因となっている。クラスIVの創傷部位におけるSSIの発生率は、一般に27%超であると報告されており、腹腔の開腹術及び消化器系の手技、特に人工肛門造設術などの極端な場合には40%にもなる可能性がある。SSIが発生すると、再手術、抗生物質の全身使用、及び入院期間の延長が発生し、医療費がさらに増加し、患者1人あたり最高60,000ドルになる可能性がある。
【0004】
未治癒の創傷の病因となる原因は数多くあるが、手術切開部位における感染とその後の炎症が最も重要で予防可能な原因とみなされている。外科手技の前に抗菌剤を短期間投与することは、予防的抗菌薬の投与として知られており、SSIを発症する尤度を低下させるための一般的な技法である。経口送達はこれらの抗菌薬の最も広範な投与経路の1つであるため、薬物は通常この方法で患者に投与されるが、経口での生物学的利用能が低いために高用量になるだけでなく、全身の薬物レベルが高いために不快な副作用が発生することが多い。これを最小にするために、抗菌薬または様々な特性を有する薬物の併用を、選択した薬物(複数可)を創傷被覆材、縫合糸などの創傷ケアデバイスに埋め込むことによって、手術部位に局所的に送達することができる。
【0005】
結腸直腸領域及び虫垂切除術など、深部組織または内臓に外科手技が行われた場合、薬物送達はますます困難になる。これらの深部組織手術の場合、その部位へのアクセスは物理的に困難であるため、SSIの発症は重大な結果をもたらす可能性がある。これらの深部組織のSSIは患者にとって死亡リスクが高くなる可能性があり、患者が冠動脈バイパス手術を受けると、感染がない場合の死亡率が0.6%であるのに対し、深部SSIを発症した場合の死亡率が22%であることがわかっている。死亡率が高いだけでなく、これらの患者には莫大な経済的影響があり、SSIを発症した患者には平均でさらに20日の入院が必要であり、深部SSIの結果死亡した患者には平均で60,000ドル以上の費用がかかり、生存した患者(11)よりも多かった。その結果、抗菌活性を有する化合物などの1つ以上の活性剤(API)を縫合材料に組み込むことがますます重要になっている。縫合糸へのAPIの組み込みによる創傷部位への抗菌薬及び/または抗生物質を含む薬物の直接送達は、局所的な薬物送達のための非常に効率的な方法を提供する。したがって、抗菌特性を持つ縫合糸を使用することにより、SSIのリスクが低下する。この結果、創傷部位で局所的に薬物の濃度が高くなり、全身の薬物レベルが高くなることに起因する不快な副作用がなくなる。
【0006】
最初の抗菌コーティングされた外科用縫合糸(Ethicon Inc.のVICRYL(登録商標)Plus抗菌薬)が承認されて(2002年)以来、機能性縫合糸がSSIの予防を支援する有望な手段として浮上してきた。Royal College of Surgeons of Englandは、特にSSIの比率が高いSWクラスII~IVの創傷(手術創傷分類)につながる外科手技(すなわち、結腸直腸手術、帝王切開、胃手術、肝臓/腎臓移植、腹部への銃創)に、または発生率が低くてもSSIが生命を危うくする可能性がある場合に(すなわち、心臓手術などに)、抗菌縫合糸の使用を支持している(2016年6月21日)。施設レベルでのSSIの予防を支援するためのWHO実施マニュアル(2018)では、術中感染の発生率を低下させるためにトリクロサンでコーティングされた縫合糸の使用が推奨されている。また、NICEガイドライン(2019)では、「縫合糸を使用する場合、特に小児手術を行う場合には手術部位の感染リスクを低下させるために、抗菌のトリクロサンでコーティングする必要がある」と推奨されている。
【0007】
現在までに、コーティングもしくはグラフトなどの表面改質によって既存の縫合糸の表面上にある薬物、溶融もしくはエレクトロスピニングによって作られた縫合糸上にある薬物、または薬物含有溶媒もしくはその他の高度な液体(超臨界CO)中に浸漬させることによって予成形された縫合糸のマトリックスに含浸した薬物のいずれかを含むための方法が多くの研究で実証されている。これらの確立された方法の大部分は溶媒の使用を必要とするため、溶媒滞留を受けやすい。さらに、溶媒を除去する必要があるため、製品の乾燥が必然的に発生し、その結果、複数の段階的で、かつ労働集約的なプロセスになる。さらに重要なことには、これらの方法の特有の欠点の1つは、縫合糸の特性(機械的強度、結び目の安全性、摩擦係数など)に悪影響を与えることなく達成できる薬物充填量(通常、<20%w/w)が限られていることである。このような限られた薬物含量と、このタイプの創傷閉鎖装置の独特の小型の性質とが相まって、特にSSIの重症例では、薬物を充填した縫合糸の有効性が意図したよりも低くなる。実際、既存の消毒薬でコーティングされた縫合糸は、活性剤を放出して、縫合された手術部位の周囲に細菌のないゾーンを確保するというよりも、むしろ縫合糸の表面上でのバイオフィルムの形成を防ぐに過ぎない。さらに、感染部位にある抗菌薬が不十分であると、遺伝子変異した細菌が増殖し、その後、抗菌薬耐性(AMR)が急速に発達する可能性がある。
【0008】
薬物溶出縫合糸の最近の開発は、創傷治癒を改善するために局所的な薬物送達を提供する潜在的な解決策を提示している。それにもかかわらず、糸の機械的特性に悪影響を与えることなく最適な薬物充填を達成することに関連して、重大な制限がある。効果的な薬物送達装置として抗菌縫合糸を利用するには、このような薬物充填の制限が課題となっている。
【0009】
単剤療法と比較して、2つ以上の抗菌剤を同時に使用する併用療法の相乗効果には、AMRを予防し、通常は異なる相補的な機序を提供することにより、多剤耐性(MDR)病原菌に対して優れたアウトカムをもたらすことが報告されている。抗感染治療のための併用療法の概念は、依然として議論の余地があるものの、単剤に対する耐性が急速に発達する場合、または併用がいずれかの親剤と比較して大幅に改善された抗菌効果をもたらす場合、有利である可能性がある。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、ポリマー系縫合糸での共晶混合物の使用に関する。
【0011】
本発明は、少なくとも1つのポリマー及び少なくとも1つの共晶混合物を含む縫合糸を提供する。
【0012】
共晶混合物は、1つ以上の薬剤と、脂肪酸、脂肪族アミン、脂肪族アルコール、またはそれらの2つ以上の任意の組み合わせから選択される群のうちの1つ以上とを含み得る。
【0013】
本発明は、
a) 少なくとも1つの生体適合性ポリマー、及び
b) 少なくとも1つの原薬を含有する共晶混合物、
を含む縫合糸を提供することができる。
【0014】
共晶混合物は、第一薬剤、及び
i)第一薬剤と共晶組成物を形成することができる1つ以上の活性剤、または
ii)1つ以上の脂肪酸、または
iii)1つ以上の脂肪族アルコール、または
iv)1つ以上の脂肪族アミン、または
v)上記のi)からiv)の任意の組み合わせであって、i)からv)のうちの2つ以上の任意の組み合わせを含む、任意の組み合わせ、
を有する群のうちの1つ以上を含むことができる。
【0015】
好ましくは、ポリマーは生分解性の生体適合性ポリマーである。
【0016】
好ましいポリマーは、ポリカプロラクトンである、またはそれを含む。
【0017】
好ましい実施形態では、生体適合性ポリマーは生分解性である。ポリマーは、押出加工中に、ポリマー内またはその上の共晶混合物の原位置形成に適応することができてもよい。
【0018】
抗生物質を充填した縫合糸を手術部位に適用するために、規制上の及び実際的な観点から潜在的な回復力を考慮すると、生分解性ポリマーが好ましい場合がある。抗感染性縫合糸などの縫合糸は、SSIになりやすいが、代替の非全身治療による管理がより難しい手術部位に適用される必要がある場合がある。それらの部位には深部組織及び臓器腔が含まれ、手術後に、創面が再び開口されない限りアクセスするのは不可能である。
【0019】
ポリカプロラクトンの生分解プロファイルは、予備研究でポリカプロラクトンを使用した主な理由であった。その他の理由としては、コスト、ラボでの入手可能性があった。PLGAは別の好ましい生分解性の生体適合性ポリマーである。
【0020】
代替の実施形態では、生体適合性ポリマーは実質的に非生分解性である。ポリマーは、押出加工中に、ポリマー内またはその上の共晶混合物の原位置形成に適応することができてもよい。
【0021】
様々な実施形態では、少なくとも1つの生体適合性ポリマーは、ポリエチレン酢酸ビニル(EVA)、酢酸ビニル、シリコーン、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリジオキサノン、ポリグレカプロン(グリコリド及びイプシロン-カプロラクトンのコポリマー)、ポリ-(トリメチレンカルボネート)系ポリマー、ポリプロピレン(非生分解性)、ポリエステル(非生分解性)、ナイロン(非生分解性)を含む群から選択される。特異的な例では、ポリマーはポリカプロラクトンである。
【0022】
好ましい実施形態では、共晶形成成分の1つはマレイン酸である。
【0023】
好ましい実施形態では、共晶形成成分の1つはメトロニダゾールを含むものである。
【0024】
好ましい実施形態では、共晶形成成分の2つはマレイン酸及びメトロニダゾールである。
【0025】
特定の実施形態では、共晶混合物は、原位置でポリマー装置内に液体共晶系を生成するために、少なくとも1つの脂肪酸、脂肪族アルコール及び/または脂肪族アミンを含む。
【0026】
共晶形成成分の1つは、少なくとも1つの脂肪酸を含んでもよい。
【0027】
脂肪酸は、飽和もしくは不飽和である4~20個の炭素原子(任意選択で4~18個の炭素原子)を含むモノもしくはジカルボン酸脂肪酸、またはそれらの混合物であり得る。脂肪酸は、マレイン酸(C4;不飽和)、ヘキサン酸(C6)、ヘキサン二酸(C6)、カプリン酸(C10)、デカン二酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ドデカン二酸(C12;不飽和)、テトラデカン二酸(C14;不飽和)、ミリスチン酸(C14)またはオレイン酸(C18)から選択されてもよい。
【0028】
脂肪酸の混合物は、カプリン酸及びラウリン酸の混合物;カプリン酸及びミリスチン酸の混合物;オレイン酸及びラウリン酸の混合物;ならびにオレイン酸及びカプリン酸の混合物を含むと想定される。
【0029】
共晶混合物は、脂肪酸及び第二脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族アミンまたは薬物もしくはその他の薬剤を含んでもよい。
【0030】
本発明は、手術部位感染(SSI)を減少させるための抗感染性液体共晶混合物の使用を提供する。
【0031】
本発明は、縫合糸の潤滑性を高めるために共晶混合物の使用を提供する。
【0032】
摩擦係数の高い材料(例えば、ポリグラクチン-90%のグリコリド及び10%のL-ラクチドで作られたコポリマー)で作られた縫合糸の場合、一定レベルの潤滑剤の追加は、塗布中の組織の抵抗を軽減し、微小外傷を回避するのに有用であり得る。
【0033】
縫合糸は原位置で縫合糸内に共晶油を生成し、それが材料から滲出することで、表面を潤滑にすることができる。
【0034】
本発明は、抗感染性液体共晶混合物を使用して、手術部位感染(SSI)を減少させ、縫合糸の潤滑性を高めることを提供する。
【0035】
共晶混合物は、脂肪酸、脂肪族アルコールまたは脂肪族アミンと共晶混合物を形成することができる薬物(活性剤)を含むことができる。
【0036】
脂肪族アルコールは、炭素数4~6だけから炭素数26~30までもの範囲である、直鎖または分岐鎖の、飽和または不飽和の第一級アルコールであってもよい。脂肪族アルコールは、3-メチル-3-ペンタノール(C6);1-ドデカノール(C12)、ヘンエイコサノール(C21)、エライジルアルコール(C18;一価不飽和)、ペトロセリニル(Petroselinyl)アルコール(C18;一価不飽和)、1-テトラデカノール(C14)、1-ドコサノール(C22;飽和)、1-トリデカノール(C13)、1-ノナデカノール(C19)、1-トリアコンタノール(C30)、1-ペンタデカノール(C15)、1-ノナノール(C9)、1-トリコサノール(C23)、セチルアルコール(C16)、ステアリルアルコール(C18)、1-デカノール(C10)、またはイソオクチルアルコール(C8)であってもよい。
【0037】
脂肪族アミンは、アミノ基で短鎖アルキル(任意選択で、メチル)と任意選択で一または二置換される、直鎖または分岐鎖の、飽和または不飽和のアミンであってもよい。脂肪族アミンは、炭素数4~6だけから炭素数22~26までも有し得る。脂肪族アミンは、ペンタデシルアミン(C15)、ヘキサデシルアミン(C16)、ドセシルアミン(Docecylamine)(C14)、デシルアミン(C10)、トリデシルアミン(C13)、オクタデシルアミン(C18)、ウンデシルアミン(C11)、N,N-ジメチルテトラデシルアミン(C16)、ドデシルアミン(C12)、またはオクタデシルアミン(C18)であってもよい。
【0038】
一実施形態では、薬物(活性剤)はメトロニダゾールである。
【0039】
実施形態では、薬物は以下のものであってもよい:
(1)メトロニダゾール、チニダゾール、ニモラゾールなど、ニトロイミダゾール骨格を有する抗菌薬、
(2)ケトコナゾール、エコナゾール、クロトリマゾール、チオコナゾールを含む、イミダゾール骨格を有する抗真菌薬、
(3)イミダゾールかニトロイミダゾールかいずれかの誘導体である抗ウイルス薬、
(4)プロピオン酸の誘導体(イブプロフェン、ナプロキセン)、酢酸の誘導体(インドメタシン、ジクロフェナク)、アントラニル酸の誘導体(メフェナム酸、メクロフェナム酸)など、カルボン酸官能基からなる抗炎症薬、または
(5)アミド(リドカイン、プリロカイン、ブピバカインなど)、エステル(プロカイン、ベンゾカイン、テトラカインなど)など、基電気陰性度が強い官能基を含む局所麻酔薬。
【0040】
選択した抗菌薬と、相加効果か異なる作用機序かいずれかによって抗菌活性の相乗効果を示す共形成剤との共晶形態を使用することにより、抗感染能力が向上する。
【0041】
ポリマー担体内で薬物の共晶形態を使用することにより、薬物の充填及び送達の能力が向上する。
【0042】
共晶形態でポリマー担体中に薬物が存在することにより、縫合糸の機械的特性に対する悪影響を少なくしながら、より高い薬物充填が可能になる。
【0043】
縫合糸を介した薬物の制御された送達により、術後の痛み、炎症、及び感染症の管理が改善され、術後の回復が早くなることができる。
【0044】
縫合糸による局所麻酔薬または鎮痛剤の制御された送達により、アヘン剤の消費を減少することができる。
【0045】
抗菌薬(抗生物質、非抗生物質抗菌薬、または天然の抗菌活性を有する物質)の局所的で、かつ制御された送達により、抗菌創傷被覆材及び/または全身(通常は経口投与)抗生物質コースのような、術後のさらなる抗感染治療の必要性を減少することができる。
【0046】
一実施形態では、本発明は、共晶混合物中に抗生物質及び脂肪酸を充填した縫合糸を提供する。
【0047】
特定の一実施形態では、本発明は、加熱溶融押出成形を使用して製造されたポリカプロラクトン中に、マレイン酸との共晶1:1混合物中のメトロニダゾールを充填した縫合糸を提供する。
【0048】
その他の特定の組み合わせには以下のものが含まれる:
・メトロニダゾール-脂肪酸
・メトロニダゾール-ヘキサン酸(C6);メトロニダゾール-ヘキサン二酸(C6):注:ジカルボン酸脂肪酸。
・メトロニダゾール-非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
・メトロニダゾール-イブプロフェン;メトロニダゾール-ナプロキセン。
・トリクロサン(エーテル及びフェノールの両方を表す官能基を有する)-脂肪酸
・トリクロサン-マレイン酸(C4:ジカルボン酸脂肪酸)。
・トリクロサン-NSAIDs
・トリクロサン-イブプロフェン
・リドカイン-NSAIDs
・リドカイン-イブプロフェン;リドカイン-ナプロキセン
・リドカイン-脂肪酸
・リドカイン-カプリン酸(C10);リドカイン-デカン二酸(C10);リドカイン-ラウリン酸(C12);リドカイン-ドデカン二酸(C12;ジカルボン酸脂肪酸:
・リドカイン-テトラデカン二酸(C14:ジカルボン酸脂肪酸:
・リドカイン-脂肪族アルコール
・リドカイン-3-メチル-3-ペンタノール(C6);リドカイン-1-デカノール(C10);リドカイン-1-ドデカノール(C12);リドカイン-1-テトラデカノール(C14)。
・プリロカイン-脂肪酸
・プリロカイン-ヘキサン二酸(C6):ジカルボン酸脂肪酸;プリロカイン-デカン二酸(C6):注:ジカルボン酸脂肪酸;プリロカイン-ドデカン酸(C12、ラウリン酸)
・ロピバカイン-脂肪酸
・ロピバカイン-デカン酸(C10);ロピバカイン-デカン二酸(C10):注:ジカルボン酸脂肪酸。
・ロピバカイン-ドデカン酸(C12)。
・ロピバカイン-脂肪族アルコール
・ロピバカイン-1-デカノール(C10);ロピバカイン-1-テトラデカノール(C14)
・脂肪酸-脂肪酸
・カプリン酸(65%w/w)及びラウリン酸(35%w/w);カプリン酸(75%w/w)及びミリスチン酸(25%w/w);オレイン酸(80%w/w)及びラウリン酸(20%w/w);オレイン酸(80%w/w)及びカプリン酸(20%w/w)。
【0049】
以下の表は、共晶形成二成分を、それぞれの共晶形成組成範囲と共に要約したものである。
【表1】
【0050】
縫合糸の特定の実施形態の特徴には、以下のいずれか1つ以上が含まれる:
・薬物含量はポリマーマトリックスの本体の長さに沿って均一に広がっている。これにより、必要に応じて縫合糸を切断することが可能になる。
・いくつかの実施形態では、装置は、生分解性ポリマーもしくは非生分解性ポリマー、または生分解性ポリマー及び非生分解性ポリマーの混合物で作られている。
・異なる活性剤を含む、及び/または異なる放出プロファイルを有する異なる層を備えた縫合糸を使用して、差動放出プロファイルが可能になる。
・本発明は、術後の創傷ケア及び管理を改善するための生物活性薬物送達プラットフォームとして機能する縫合糸を提供することができ、この縫合糸は、縫合糸中の薬物含量を増加させるための治療用深共晶溶媒(THEDES)技術を含む。
【0051】
本発明はまた、併用抗菌薬の充填量が多い縫合糸の製造方法を提供し、この方法は、縫合糸マトリクス内の薬物含量を著しく増加させる治療用深共晶溶媒(THEDES)技術の使用を含む。
【0052】
THEDESにより、H結合または電荷支援型H結合のような非共有結合力を通じて、薬物と対イオン成分との間、または一次pKa値に差異を示す2つの薬物間で液体を室温で形成することが可能になる。
【0053】
データは、いずれの親剤と比較しても優れた抗菌活性を示している。
【0054】
したがって、本発明は、術後の創傷ケア及び管理を改善するための生物活性薬物送達プラットフォームとして使用するための縫合糸を提供する。
【0055】
本発明は、SSI及びAMRの両方の問題に対処する試みの中で、負荷の上昇時に縫合糸のマトリックスに組み込んだ併用薬物の使用について説明する。
【0056】
消毒薬(トリクロサン、クロルヘキシジンなど)、抗菌脂質(短鎖または中鎖脂肪酸など)及び/またはコリン系深共晶溶媒(DES)を含む活性剤は、無溶剤で連続的かつ工業的に拡張可能な技術である、反応性加熱溶融押出成形(RHME)を使用して、高負荷で縫合糸に組み込まれる。
【0057】
本発明者らは、直径が100~400ミクロンの間(USP縫合糸サイズ5-0~1に相当)の範囲にある、薬物を充填した細いフィラメントの内製化の実行可能性を証明することに成功した。
【0058】
さらに重要なことには、THEDES技術を使用すると、押出成形された糸の物理的及び機械的特性を大幅に損なうことなく、かなり増加した薬物充填量(>30%w/w)を組み込むことが可能であることが証明された。
【0059】
さらに、より高い充填量が必要な場合、同軸多層押出成形を使用して、極度な薬物充填量と優れた機械的強度との双面性を示す、芯鞘層状縫合糸を製造する。
【0060】
本発明は、以下の図面を参照してより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】MET-MA1:1、(MET-MA1:1)-PCL物理混合物及び押出成形物(10%及び20%w/w METを含有)及び純粋なPCLについて、1800~1500cm-1及び3600~2400cm-1の領域におけるFT-IRスペクトルを重ねて示す。上から下に、トレースはPCL、20%押出成形物、20%混合物、10%押出成形物、10%混合物及びMET-MA1:1である。特に明記しない限り、比率はモルである。
図2】MET-MA2:1、(MET-MA2:1)-PCL物理混合物及び押出成形物(40%及び50%w/w MET)及び純粋なPCLについて、1800~1500cm-1及び3600~2400cm-1の領域におけるFT-IRスペクトルを重ねて示す。上から下に、トレースはPCL、50%押出成形物、50%混合物、40%押出成形物、40%混合物及びMET-MA2:1である。
図3】この研究で使用した二軸スクリュRondol Microlabベンチトップ押出機の写真である。
図4】本明細書で使用されるスクリュ要素、(a)フル輸送部(FC)、(b)90°及び(c)60°混合要素(MIX)の幾何学的形状の写真である。
図5】文書内に指定されたスタイルのテキストがない。HAAKE Minilab(非かみ合い型スクリュ)及びRondol Microlab押出機(FC及びMIX要素)を使用した押出成形後のMET-MA(2:1)-PCL40%w/w MET製剤の含量の均一性を回収率(%)で示している。
図6】寒天プレート上であらかじめ増殖させたPseudomonas aeruginosaに対して、選択した抗生剤及びSCFAの抗菌効果を、単剤と二剤併用(THEDES)との両方として確認するためのディスク拡散法を使用した阻止帯(ZOI)試験を示している。試験はそれぞれ陰性対照(PBS)及び陽性対照(ゲンタマイシン)と比較された。
図7】PBS、ニートMET-MA THEDES、及び硫酸ゲンタマイシン(10mg/mL)、ならびにPBSの溶液中のMET及びMA(6mg/mL)をそれぞれ陽性対照及び陰性対照として充填したブランクメンブレンディスクを使用した、Staphylococcus aureusNCTC10788培養物上での代表的な阻止帯アッセイを示している。
図8】PBS、ニートMET-MA THEDES、及び硫酸ゲンタマイシン(10mg/mL)ならびにPBSの溶液中のMET及びMA(6mg/mL)をそれぞれ陽性対照及び陰性対照として充填したブランクメンブレンディスクを使用した、肺炎桿菌ATCC700603培養物上での代表的な阻止帯アッセイを示している。
図9】ブランクPCL、Vicryl(登録商標)Plus、10%w/w及び20%w/w METのMET-PCL、10%w/w及び20%w/w METの(MET-MA1:1)-PCL、ならびに40%w/w及び50%w/w METの(MET-MA2:1)-PCLによって形成された緑膿菌に対するZOIを示す代表的なプレート切片を示している。
図10】ブランクPCL、Vicryl(登録商標)Plus、10%w/w及び20%w/w METのMET-PCL、10%w/w及び20%w/w METの(MET-MA1:1)-PCL、ならびに40%w/w及び50%w/w METの(MET-MA2:1)-PCLによって形成された肺炎桿菌に対するZOIを示す代表的なプレート切片を示している。
図11】METまたはMET-MA THEDESを充填して、HMEによって製造された縫合糸(USP3-0)の引張破壊力(N)を示している。示されているデータは平均±S.D.であり、n=3である。
図12】pH7.4及び37±0.5℃のPBS中にPCLを含む溶融押出成形されたMET、MET-MA1:1及びMET-MA2:1の製剤の溶解プロファイルを示す。各点は平均±S.D.を表し、n=3である。MET10%及びMET20%は群化され、すべて約40%の累積MET放出量を下回る。
図13】メトロニダゾール-マレイン酸二成分系の温度-モル比状態図を示し、液相線を白丸で示し、二成分混合物のTgを黒丸で示す。各プロットは3回の反復の平均(平均±S.D.)である。
図14】(a)リドカイン-ヘキサン酸、(b)リドカイン-カプリン酸、(c)リドカイン-ラウリン酸、及び(d)リドカイン-ミリスチン酸という様々な組成における二成分混合物のDSC状態図を示し、液相線を黒四角で示し、二成分混合物のTgを黒丸で示す。
図15】(a)リドカイン-アジピン酸(ヘキサン二酸)、(b)リドカイン-セバシン酸(1,8-オクタンジカルボン酸)、(c)リドカイン-ドデカン二酸、及び(d)リドカイン-テトラデカン二酸という様々な組成における二成分混合物のDSC状態図を示す。液相線を黒四角で示し、二成分混合物のTgを黒丸で示す。
図16】(a)リドカイン-3MetPen(3-メチル-3-ペンタノール)、(b)リドカイン-1-デカノール、(c)リドカイン-1-ドデカノール、及び(d)リドカイン-1-テトラデカノールという様々な組成における二成分混合物のDSC状態図を示す。液相線を黒菱形で示し、二成分混合物のTgを黒四角で示す。
図17】トリクロサン(TRC)、イブプロフェン(IBU)、及びTRC-IBUの等モル(1:1)物理混合物の加熱-冷却-加熱サイクルの第二加熱曲線上の-65~50℃の領域内のDSCサーモグラムを示す。上のトレースはTRC、中央のトレースはIBU、下のトレースはTRC-IBUである。等モル二成分混合物は、2つの親成分の個々のガラス転移事象間の第二加熱曲線上の単一ガラス転移(Tg)によって特徴付けられた混和系を形成した。この形成された等モル混合物は、透明なRT液体であることが観察された。
図18】(上から下に)トリクロサン及びイブプロフェン、TRC-IBU χTRC=0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2及び0.1、物理混合物(右側の図)、ならびに10℃/min~200℃で加熱後(左側の図)のDSCサーモグラムを示す。
図19】TRC-IBU系の状態図を示し、赤のドットは浅い「V」字型を形成して液相線を表し、黒のドットは直線を形成して固相線を表し、青のドット(下)も直線を形成してコアモルファス系のガラス転移を示す。灰色の線(ドットなし)は、シュレーダー・ファンラールの式を使用して計算された、理論上の液相線を表す。灰色の線は、経験的に決定された液相線とほぼ一貫性がある。
図20】リドカイン-イブプロフェン(LID-IBU)二成分系の温度-モル比状態図を示し、各プロットは3回の反復の平均である(平均±S.D.)。
図21】(左)LID-IBU等モル混合物をポリマーなしで、60℃で押出成形し、透明なRT液体(深)共晶の形成を示す。(右)押出成形されたLID-IBU等モルTHEDESは、IBUからのカルボン酸基とLIDからのアミド基との間に特徴的な電荷支援型H結合を示す。
図22】等モルのリドカイン及びケトプロフェンを示す。THEDESの形成は、DSC(溶融事象の完全な消失)及びFTIR(LIDアミドとケトプロフェンカルボン酸との間の特徴的な電荷支援型H結合パターン)によって示される。左側の図では、トレースは上から、リドカイン、Keto:Lido(1:1)THEDES、及びケトプロフェンである。右側の図では、トレースは上から、ケトプロフェン、Keto_Lido(1:1)THEDES、及びリドカインである。
【発明を実施するための形態】
【0062】
定義
外科用縫合糸は、身体組織を合わせて保持することによって開放創の治癒を促進する、創閉鎖医療装置の一種である。使用される材料に応じて、縫合糸は非吸収性縫合糸及び吸収性縫合糸に大別されることができる。様々な用途要件(組織抵抗に対する許容性、可撓性、結び目の安全性、引張強度、サイズなど)に合わせて、縫合糸を単糸モノフィラメントまたは編組糸を用いたマルチフィラメントとして製造することができる。
【0063】
本明細書で使用される「外科用縫合糸」、「縫合糸」、及び「縫合用糸」という用語は互換性がある。
【0064】
縫合糸は単一の糸もしくはモノフィラメントであることができ、または縫合糸は複数の糸、もしくはフィラメントを合わせて編組しているマルチフィラメントであることができる。本明細書で使用される「縫合糸」という用語は、単一の糸及び複数の糸の両方を含むことを意図したものである。
【0065】
「共晶」という用語は、「液化温度が他のいずれかの比率で与えられる液化温度よりも低い」、つまり個々の成分と比較してより低い温度で溶融する、二成分系(または多成分系)を表すために1884年に作られた。共晶系の各成分は、本明細書では共晶形成成分と呼ばれる。
【0066】
深共晶(DES)は上記の「共晶」の定義に含まれるが、通常はルイスまたはブレンステッド・ローリー酸及び塩基対(カルボン酸/コリンビカルボナート対、カルボン酸/ニトロイミダゾール対、カルボン酸/アミド対など)からなり、強い相互作用を示す。天然深共晶(NADES)は生物由来であり、2つ以上の共晶形成成分、つまり、有機酸、糖、アルコール、アミン及びアミノ酸から構成される。深共晶は融点(液化点)が深く下がっていることを特徴とし、そのため、深という用語が付けられている。したがって、得られる系は通常、室温では揮発性の低い粘性液体となる。
【0067】
DESの形成成分のうちの少なくとも1つが原薬(API)である場合、DESは治療用DES(THEDES)と呼ばれる。
【0068】
本明細書で使用される場合、状態図上の液相線は、図上の単一液相と二相(液体+固体)ゾーンとの間の境界を表す、すべての系状態の軌跡である。
【0069】
方法:原位置反応性押出成形によるTHEDES充填縫合糸の調製
加熱溶融押出成形法は1930年代初頭に確立された。押出成形を使用して、制御された温度及び圧力の上昇を受けて、原材料を所望の断面のダイに押し込むことによって、原材料の物性を変化させる。加熱溶融押出成形には、複数の圧縮ステップと、成分の粉末を均一な密度及び形状の製品に変えることが含まれる。回転スクリュ(複数可)は、制御された温度、圧力、供給レート、及びスクリュ速度を受けて、ポリマー及び共晶形成成分をダイの方に押し進める。
【0070】
押出機は、静止した円筒形バレル内で単軸または二軸回転スクリュ(同方向回転または異方向回転)からなってもよい。押出成形される材料の所望の形状に基づいて設計された円筒形バレルの端部にプレートダイが連結される。
【0071】
単軸スクリュ押出機は、機械的に単純な装置であるため、加熱溶融押出機として広く使用されている。単軸スクリュ押出機は、静止したバレル内に位置決めされた1つの回転スクリュからなるため、良質な溶融した材料が得られ、安定した高い圧力が発生し、一貫した生産が行われる。一般に、単軸スクリュ押出機には、供給ゾーン、圧縮ゾーン、及び計量ゾーンが含まれる。単軸スクリュ押出機は、ホッパーからの一貫した供給と、ポリマー及び共晶形成成分の穏やかな混合とを可能にするために、他のゾーンよりもスクリュピッチ及び/またはスクリュフライト深さを増大させることにより、非常に低い圧力で原材料を供給ゾーンに受け入れる。圧縮ゾーンでは、ポリマー及び共晶形成成分の高度な混合及び圧縮を効果的に与えるために、スクリュピッチ及び/またはフライト深さを減少させることにより、圧力が上昇する。最後に、計量ゾーンでは、溶融押出成形物は、最終製品の冷却、切断、及び回収を含むさらなる下流工程のために定型を与えるダイを通してポンピングされる。
【0072】
二軸スクリュ押出機は、押出機バレル内に密着して整合した2本のスクリュからなる。2本のスクリュを使用することで、異なるタイプの構成が可能になり、供給ゾーンから圧縮ゾーン内の回転スクリュ、そして最終的に材料を計量ゾーンに輸送するまでのすべての押出機ゾーンに異なる条件が課される。二軸スクリュでのスクリュの回転は、同方向回転(同じ方向)か異方向回転(反対方向)かいずれかであってもよい。2種類の二軸スクリュ押出機はさらに、(1)全かみ合い型、及び(2)非かみ合い型に分類されることができる。全かみ合い型は、セルフクリーニング特徴により使用頻度が高く、押出機による原材料の局所的な過熱を防ぐことで非動作を減少させる。非かみ合い型は、そのスクリュの相互作用が弱く、セルフクリーニング機能が低いため、混合用途ではあまり普及していない。どちらの型も高粘度材料の加工処理によく使用される。ただし、非かみ合い型は、これらのスクリュが互いから離れて位置決めされているため、高粘度材料の加工処理中に高トルクが発生しにくい。
【0073】
以下のデータはこの方法を使用して生成された。
【0074】
反応性押出成形は、十分な輸送/混練/排出のための事前構成されたスクリュ要素と、所望の直径のフィラメントダイ、例えば直径2mmのフィラメントダイとを備えた二軸スクリュかみ合い型同方向回転コンパウンダを使用して実行された。個々の共晶形成成分及びポリマーを含む三成分物理混合物を押出機に供給し、30rpmの固定スクリュ回転速度及びそれぞれのポリマーに適した押出機ゾーン温度で処理した(ポリマー担体の例としてPCLについては表1に詳述)。共晶形成は押出機バレル内の原位置で起こり、形成されたTHEDESは溶融ポリマーマトリックス全体に即時に散布された。押し出されたフィラメントは、ダイを通って出た後、様々なレートで引かれてから空冷されることで、様々なサイズの縫合糸が製造された。
【0075】
図に示されているDES包埋縫合糸は、かみ合い型押出機を使用して加工された。非かみ合い型押出成形も試した。試されたDESは、非かみ合い型押出成形中に形成されることができた。しかしながら、含量の均一性評価中に、これらの押出成形物から回収された活性含量はやや不良であった(ただし、処理時間を延長すると改善が見られた)。
【0076】
【表2】
【0077】
以下の表は、共晶形成二成分を、それぞれの共晶形成組成範囲と共に要約したものである。
【表3】
【0078】
実験結果
1.薬物取り込み/溶出手術用縫合糸は、エンドツーエンドの連続反応性押出成形技術を使用して製造可能であり、手術部位の創傷管理を改善するための治療用深共晶系(THEDES)を含む。
2.開発された縫合糸のマトリックス内に埋め込まれたTHEDESは、次のものから構成される可能性がある:
a)すべての分子の完全反応を促進するモル比での抗生物質(すなわち、メトロニダゾール)と脂肪酸(すなわち、マレイン酸)との間のH結合(電荷支援型)分子複合体(活性官能基の数に応じて場合によって異なり、メトロニダゾール及びマレイン酸は等モル)。
b)すべての分子の完全反応を促進するモル比での非抗生物質抗菌薬(NAAM、すなわちトリクロサン)とカルボン酸非ステロイド性抗炎症薬(NSAID、すなわちイブプロフェン) との間のH結合(電荷支援型)分子複合体(活性官能基の数に応じて場合によって異なり、トリクロサン及びイブプロフェンは等モル)。
3.開発された縫合糸のマトリックス内に埋め込まれたTHEDESは、個々の親化合物と比較して、一般的に見られる細菌種(グラム陽性及びグラム陰性の両方)に対する抗菌効果が大幅に向上したことを示した。
4.THEDESを埋め込んで押出成形された縫合糸は、約200~249ミクロンのサイズ範囲内であり、USP#3-0縫合糸のものと同等であった。
5.THEDESを埋め込んだ縫合糸は、文献または市販の薬物溶出縫合糸(通常の薬物充填量は20wt%以下)のいずれかと比較した場合、大幅に増加した活性化合物含量(最大50wt%押出成形可能)を収容することができた。
6.THEDESを埋め込んだ縫合糸は、同じ薬物充填量でそれぞれの親化合物を充填した縫合糸と比較した場合、顕著に増強された抗菌効果を示した(阻止帯調査から測定可能な面積が大きい)。
7.THEDESを埋め込んだ縫合糸は、同じ薬物充填量でそれぞれの親化合物を充填した縫合糸と比較した場合、機械的特性(引張破壊力)に対する悪影響が大幅に少ないことを示した。
8.THEDESを埋め込んだ縫合糸は、同じ薬物充填量でそれぞれの親化合物を充填した縫合糸と比較した場合、薬物放出のレート及び程度が大幅に増加したことを示した。
9.THEDESを埋め込んだ縫合糸は、急速な放出開始とその後の意図された作用持続時間全体を通じて継続的な補充によって制御された薬物放出プロファイルを示した(生分解プロファイルの調整により、適用する標的部位に応じて7~14日と異なった)。
【0079】
技術的な詳細
この研究では、術前の予防及び術後の創傷管理の両方に第一次選択の抗菌剤(メトロニダゾール)を、抗菌活性が報告されている短鎖脂肪酸(SCFA)と併用した。メトロニダゾール(MET)とマレイン酸(MA)との間の等モルTHEDESの形成は、ポリマー担体ポリカプロラクトンの存在下での反応性押出成形加工中に成功したことが確認されている。押出成形された縫合糸に対してATR-FTIRを実行し、押出成形された縫合糸内でTHEDES複合体の形成が成功したかどうか、及びTHEDES親化合物とPCLとの間で何らかの相互作用が生じてTHEDESの形成を妨げているかどうかを確認した。
【0080】
図1に示されるように、純粋な等モルMET-MA THEDESの特徴的なピークは、それぞれ3427、1712及び1580cm-1に存在する。遊離MET O-Hに起因したニートTHEDES中の3427cm-1のバンドは、押出成形物中に3446cm-1の小さいバンドとして現れる。1712cm-1にシフトするMA C=Oは、PCLからの非常に強いC=Oバンドによってマスクされているが、イオン化COO伸縮を示す1580cm-1バンドは、MET-MA-PCL押出成形物では1577cm-1の小さいバンドとして観察されることができる。
【0081】
これらの結果から、PCLではTHEDES形成が実際に成功し、親成分であるTHEDESと担体との間の相互作用の妨げが検出できなかったことが確認された。
【0082】
同様の結果は、MET-MA2:1混合物を含む押出成形されたPCLマトリックスでも観察され、THEDES及び過剰なMETの両方を表すピークが観察された(図2)。
【0083】
THEDESの特徴的なバンドが3444cm-1及び1581cm-1の波数で再び観察され、1712cm-1のピークは再びPCL C=Oバンドによってマスクされた。3210cm-1の分子内H結合O-H伸縮、3100cm-1の芳香族C-H伸縮、ならびに1534cm-1及び1485cm-1のN-O非対称伸縮など、純粋なMETに特徴的なバンドも観察された。
【0084】
反応性押出成形は、十分な輸送/混練/排出のための様々なスクリュ要素(図4)を備えた、Rondol Microlab(L/D20:1)かみ合い型二軸スクリュ同方向回転コンパウンダ(図3)を使用して実行された。
【0085】
製剤は、押出バレル内での滞留時間を増やすために2回加工処理すると、偏差が小さくなり、改善された含量均一性を示すことがわかった(図5)。
【0086】
ディスク拡散阻止帯アッセイでは、等モルのメトロニダゾール-マレイン酸THEDESが、手術創傷部位で最も一般的に見られる病原体の1つであるPseudomonas aeruginosaに対して優れた有効性を示し、阻止帯の面積が硫酸ゲンタマイシン陽性対照によって生成されたものと同等であったことがわかった(図6)。一方、両方の親剤は、ブランクPBS陰性対照と同じ陰性アウトカムを示した。
【0087】
THEDESの抗菌効果をより包括的な理解を達成するために、その後の研究で多種多様なさらなる菌株、すなわち、創傷感染における有病率を理由に選択されたEscherichia coli、Enterococcus faecalis、Klebsiella pneumoniae、Staphylococcus epidermidis、及びStaphylococcus aureusが調査された。P.aeruginosaを含むSSI患者は、一般に抗生物質による治療を長期間受け、患者全体でアウトカムが悪化することが観察されたため、P.aeruginosaに関するTHEDESの抗菌活性には特に注意が払われた。さらに、K.pneumoniaeは、虫垂切除術後のSSIに存在する細菌として最も頻繁に確認されるものの1つである。結腸直腸手術後のSSIに関する調査では、S.aureus、E.faecalis、E.Coli、及びK.pneumoniaeを含む様々な生物の存在がこの研究では検出された。
【0088】
ディスク拡散アッセイは、Staphylococcus aureus(図7、グラム陽性、上気道内及び皮膚上によく見られる)及びKlebsiella pneumoniae(図8、グラム陰性、通性嫌気性、通常はヒトの腸及び糞便内に存在)に実行された。一般に、硫酸ゲンタマイシン(10mg/mL)及びニートTHEDESの計算された阻止帯は非常に類似していたことにより、グラム陽性菌及びグラム陰性菌の両方に対するTHEDESの抗菌活性が確認された(表3)。メトロニダゾールがグラム陰性菌に対して非常に活性が高いのに対し、脂肪酸及びそれらの誘導体がグラム陽性菌に対して作用することが知られているため、それらのような結果は極めて重要である。THEDESの形態では、両方を併用すると、グラム陰性菌種及びグラム陽性菌種の両方に対して二重の相乗的な抗菌活性が実証され、その潜在的な適用性が広がった。
【0089】
【表4】
【0090】
THEDESの抗菌活性も、MET、MA及び等モルTHEDESの最小発育阻止濃度(MIC)及び最小殺菌濃度(MBC)をそれぞれ決定することによって評価された。6mg/mLのMET、MA及びMET-MA1:1の濃度を使用して、グラム陽性菌であるE.faecalis、S.epidermidis及びS.aureus、ならびにグラム陰性菌であるP.aeruginosa、E.coli及びK.pneumoniaeに対するMIC及びMBC値を決定し、結果を表4に示している。すべての場合に、陽性対照は微生物の増殖を示したが、陰性対照は示さなかった。
【0091】
【表5】
【0092】
注意すべき主な点は、THEDESの場合、取得したMIC及びMBC値がどちらかの親成分からの最低値に適合するか、実際にそれぞれよりも低かったかいずれかであったということである。これは、THEDESとして提供された場合にMETの抗菌活性が保持されたことと、そのうえMAとのこの複合体形成の結果として活性が強化されたこととを意味している。これは、E.faecalis、いくつかのS.aureus株、P.aeruginosa及びE.Coliの両方など、いくつかの菌株で起こった。S.aureusのメチシリン耐性株(MRSA)は、純粋なMETの抗菌活性に対してより大きな回復力を示すことが見られ、MICは非メチシリン耐性株両方で6mg/mL、及びメチシリン耐性株で>6mg/mLであった。
【0093】
上記のディスク拡散アッセイと同様に、THEDESを充填した縫合糸が、純粋なMETを含む縫合糸と比較して抗菌活性が増強されているかどうかをさらに評価するために、縫合糸の長さを使用して阻止帯(ZOI)調査を実行した。図9は、MET、MET-MA THEDES、及び過剰なMETを含有したTHEDESを含んだ2:1の割合のMET-MAによって、P.aeruginosaに対して形成されたZOIを示す。
【0094】
グラム陰性菌であるP.aeruginosaは、世界中で医療関連感染症の主な原因の4番目であるため、この調査での調査対象として選ばれた。この細菌は基礎疾患のある患者に頻繁に見られるため、予後が遅いことにより、高い死亡率と常に関連している。対照ではゾーンは観察されなかったが、これは抗菌剤が含まれていないため予想されていた。トリクロサン(TRC)を含む市販の縫合糸Vicryl(登録商標)Plusにもゾーンは観察されなかった。ゾーンのサイズはMETの濃度が増加するにつれて増加することが観察され、濃度依存性の効果を示した。これは、METが微生物細胞を殺すために縫合糸から出て拡散する能力を有したことも示した。再度、THEDESは、得られたより大きいZOIによって実証されるように、METよりもP.aeruginosaに対する抗菌活性が増強されたことを示した(表5)。
【0095】
【表6】
【0096】
同様の結果がK.pneumoniaeについても観察された。24hのインキュベーション後、THEDES及び過剰なMETを含む2本の縫合糸、すなわち、40%及び50%w/w METを含む(MET-MA2:1)-PCLマトリックスでZOIが観察された(図10及び表6)。P.aeruginosaについて得られたゾーンと比較して、縫合糸からこの細菌に対する殺菌効果を引き出すには、より高濃度のMETが必要であった。
【0097】
【表7】
【0098】
縫合糸の使用は材料の機械的強度に大きく依存しており、それ自体が縫合糸の最も広く報告されている特性の1つであり、縫合糸の強度と、縫合糸を埋め込む組織の強度との間に適切な相関関係があることが不可欠である。ここでは、METを充填した縫合糸、THEDESを充填した縫合糸、及びMETとTHEDESとの混合物を充填した縫合糸の破壊時の力を比較するために、引張強度分析を実施した。従来、HME及びエレクトロスピニングを使用して縫合糸に充填できる固体APIの最大量は、ポリマーマトリックス全体の固体含量が増加するにつれて機械的特性が失われるため、20%w/wAPIである。そのため、ここでは、液体THEDES、及びTHEDESと固体METとの混合物を縫合糸に取り込むことによる引張強度の影響を調査した。
【0099】
THEDESの取り込みは、10%及び20%w/w METの薬物充填では縫合糸の強度に著しく影響しなかったが、30%w/w METというより高い充填では機械的強度を大幅に向上させることに成功し、より大きい引張破壊力(N)を示した(図11)。最も高い平均引張破壊力は、(MET-MA1:1)-PCL 10%w/w MET縫合糸の6.8±1.4Nであった。
【0100】
縫合糸材料としてPCLに埋め込まれた場合のMETの放出プロファイルを決定するために、PBS(pH7.4)を37±0.5℃で溶解媒体として使用し、生理学的条件をシミュレートした。
【0101】
薬物放出プロファイル(図12)は、MET、THEDES、及びMET-THEDES混合物をそれぞれ含む押出成形縫合糸の放出挙動を比較した。液体状態で存在する場合(THEDESまたはMET-THEDESの混合物として)、MET放出の迅速な開始と完了が示されたことがわかる。固体METを含む押出成形マトリックスから、はるかに遅いMET放出が観察され、14日後、10%及び20%w/w METマトリックスから、それぞれMETの35.6±6.7%及び38.3±4.6%のみが放出された(表7)。
【0102】
【表8】
【0103】
ここでは上記の表2を参照して、様々な共晶形成二成分に関するさらなる情報を提供する。
【0104】
図13は、メトロニダゾール-マレイン酸二成分系の温度-モル比状態図であり、液相線を白丸で示し、二成分混合物のTgを黒丸で示す。各プロットは3回の反復の平均である(平均±S.D.)。実線は、理論上の共晶組成を特定するために使用される線形外挿を示す。溶融事象が存在しない組成で、形成されるのは室温の液体共晶系である。
【0105】
図14は、(a)リドカイン-ヘキサン酸、(b)リドカイン-カプリン酸、(c)リドカイン-ラウリン酸、及び(d)リドカイン-ミリスチン酸という様々な組成での二成分混合物のDSC状態図を示し、液相線が欠落している組成か、交差した共晶組成が室温を下回る共晶融点を示す組成かいずれかにおける室温液体(深)共晶系の形成を示す。
【0106】
図15は、(a)リドカイン-アジピン酸、(b)リドカイン-セバシン酸、(c)リドカイン-ドデカン二酸、及び(d)リドカイン-テトラデカン二酸という様々な組成での二成分混合物のDSC状態図を示し、液相線が欠落している組成か、交差した共晶組成が室温を下回る共晶融点を示す組成かいずれかにおける室温液体(深)共晶系の形成を示す。
【0107】
図16は、(a)リドカイン-3MetPen、(b)リドカイン-1-デカノール、(c)リドカイン-1-ドデカノール、及び(d)リドカイン-1-テトラデカノールという様々な組成での二成分混合物のDSC状態図を示し、共晶融点が室温を下回る共晶系の形成を示す。
【0108】
図17は、トリクロサン(TRC)、イブプロフェン(IBU)、及びTRC-IBUの等モル(1:1)物理混合物の加熱-冷却-加熱サイクルの第二加熱曲線上の-65~50℃の領域内のDSCサーモグラムを示す。等モルの二成分混合物(図17の一番下のトレース)は、2つの親成分の個々のガラス転移事象間の第二加熱曲線上の単一ガラス転移(Tg)によって特徴付けられた混和系を形成した。この形成された等モル混合物は、透明なRT液体であることが観察された。
【0109】
図18は、(上から下に)トリクロサン及びイブプロフェン、TRC-IBU χTRC=0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2及び0.1、物理混合物(右側の図)、ならびに10℃/min~200℃で加熱後(左側の図)のDSCサーモグラムを示す。各TRC-IBU混合物のTgは第二加熱でも見られる。TRC及びIBUの物理混合物を加熱すると、組成範囲全体にわたって混合物中に液体部分を検出することができることがわかる。
【0110】
図19は、TRC-IBU系の状態図を示し、赤のドットは液相線を表し、黒のドットは固相線を表し、青のドットはコアモルファス系のガラス転移を示す。灰色の線は、シュレーダー・ファンラールの式を使用して計算された、理論上の液相線を表す。47.75±2.13℃の共晶温度(溶融事象のピーク)を示しているが、これらの共晶系は熱調製から室温まで冷却した後、透明な液体であることが観察された。
【0111】
図20は、リドカイン-イブプロフェン(LID-IBU)二成分系の温度-モル比状態図を示し、各プロットは3回の反復の平均である(平均±S.D.)。溶融事象が存在しない組成(0.3~0.7)で、形成されるのは室温の液体共晶系である。
【0112】
図21は、LID-IBU等モル混合物をポリマーなしで、60℃で押出成形し、透明なRT液体(深)共晶の形成を示す(左)。押出成形されたLID-IBU等モルTHEDESは、IBUからのカルボン酸基とLIDからのアミド基との間に特徴的な電荷支援型H結合を示す(右)。
【0113】
図22は、等モルのリドカイン及びケトプロフェンを示す。THEDESの形成は、DSC(溶融事象の完全な消失)及びFTIR(LIDアミドとケトプロフェンカルボン酸との間の特徴的な電荷支援型H結合パターン)によって示される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図15-1】
図15-2】
図16-1】
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図17
図18
図19
図20
図21
図22
【国際調査報告】